全国高校サッカー選手権は5日、浦和駒場スタジアムで準々決勝が開催され、
日大藤沢(神奈川)が静岡学園(静岡)に2−1と競り勝ち、ベスト4進出を決めた。
後半38分に決勝ゴールを決めた日大藤沢の今井裕太は、シュートを放つその瞬間も「緊張はしなかったです」と口にする。
そして「決めたらどうしようかな」と思うだけの余裕があったと付け加えた。
決定機をゴールに結びつけるために必要な素質の一つとして、“シュートの瞬間の冷静さ”が挙げられるが、今井はまさにそれを持ち合わせていた。
佐藤輝勝監督によると「実は今井は12月に本当に調子が良くて、点数も今井か(田場)ディエゴかというくらい取っていた」と言うほど好調を維持していたという。
しかし、今井はインフルエンザに罹患(りかん)し、チームを離れざるを得なかった。
12月29日の検査でインフルエンザウイルスが検出された今井が復帰に近づいたのは3日に行われた3回戦でのこと。
佐藤監督によると「ロッカーの中にまで入った」という。しかし、扁桃腺が腫れており熱も37.3度あったため「やりたいと言っていたのですが、教育者としてノーだと」プレーさせなかった。
監督としては喉から手が出るほど欲しいはずの得点源を、教育者の立場で放棄した佐藤監督の判断は、今井の奮起につながった。
「(ロッカーから応援に回された)その思いが昨日(4日)の練習に現れていたと思います。誰よりもハードワークしてましたし、目つきが違ってました。
一発のシュートに思いを込めるというのかな。そういうのがひしひしと感じられた」と佐藤監督。
療養させた今井が結果を出したことで、佐藤監督の判断の正しさが証明されたと言っていい。
この今井の例と同列に語られてしかるべきなのが、すでに報じられている田場ディエゴをサッカーに引き戻したノートでのやりとりである。
「ディエゴくんを見捨てないというか、普通だと、反抗的な態度を取ったら『お前はいい』となると思いますが、
監督が見捨てなかった」と話すのはセンターバックの小野寺健也。
そういう人間臭いやりとりは小野寺自身の心にも響いていると話す。
今井が決めた決勝ゴールの場面は、ディエゴからのパスを受けたもの。
このシーンについて小野寺は「今までだったらディエゴくんがドリブルして取られたり外していたと思います。
でもパスしたという部分で成長したなと思いました。上からですが(笑)」と笑う。
目の前の試合に勝つことだけを考えれば、機嫌を損ねないよう能力のある選手を王様に仕立て上げればいい。
しかし佐藤監督はそうせず、ダメなものはダメだと諭し、反発するディエゴとノートで対話した。
決勝ゴールをアシストしたディエゴについて佐藤監督は「今までは自分の世界しかない子だったのが、チームの事を考え始めて、
キャプテンを任せていいかなという成長が12月にあった」と話すと、相好を崩しながら「(ディエゴ自身が)試合に出たいということ以上に
『みんなで勝ちたい』という思いからよく会話するようになった」と振り返る。みんなで勝ちたい選手が、より可能性のある選択肢を選ぶのは自然な行いであろう。
強敵・静岡学園を下した日大藤沢の快進撃の陰に、サッカーだけを教える事を良しとせず、
高校生と向き合う教育者としての立場を優先させる佐藤監督の指導方針があるのは間違いない。
創部初となるベスト4入りを決めた日大藤沢は、10日の準決勝で星稜(石川)と対戦する。
(取材・文/江藤高志)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150105-00000107-spnavi-socc スポーツナビ 1月5日(月)20時45分配信
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150105-00000107-spnavi-socc.view-000 接戦を制した日大藤沢が静岡学園を破り、初のベスト4に進出した