産経新聞 2014年06月08日22時00分
女子サッカー日本代表「なでしこジャパン」が初優勝した女子アジア・カップ。
ベトナムで繰り広げられた熱戦を取材して感じたのは、「なでしこ」の立ち位置についての選手たちの真剣な思いだった。
それぞれの胸には、プレーの質や成績といった結果だけではない、サッカー界に対する使命感も満ちていた。
(吉原知也)
「ここで自分たちが結果を残さないと、女子サッカーの人気がなくなるというか、さびしくなるという気がする」
1次リーグを2勝1分で終え、来年にカナダで開催されるワールドカップ(W杯)出場権を得た日本。
中国との準決勝を控えた5月20日の練習後、FW高瀬愛実(めぐみ)(INAC神戸)が口にした言葉だ。
今回、海外組は所属チームの意向があり、主力の多くがアジア杯に参加できなかった。
チェルシーに所属するエース大儀見優季が1次リーグでチームを離れたこともあり、国内組のFW陣にはさらなる奮起が求められていた。
高瀬は大会を通じて無得点に終わったものの、この日は「口だけじゃなくて、ピッチで表現して結果を出さないといけない」と自身の課題を何度も繰り返した。
その中に、女子サッカー全体を見据えた発言があった。
スポーツの人気は、国際大会での成績に影響される面が大きい。
日本の女子サッカーそんな浮き沈みをまさに経験してきた。
「なでしこリーグ」の観客数でみると、8万2054人だった2010年から、W杯ドイツ大会で初優勝した11年は約2・4倍の20万1290人に急増。
ロンドン五輪で銀メダルを獲得した12年は23万1504人に膨れあがった。
ところが、全試合での有料化に踏み切った13年は、16万7809人と大きく減少した。
23歳ながら所属クラブの主将を務める高瀬はリーグの“今”を感じ取っているからこそ、
危機感とも取れる言葉が口をついたのであろう。
高瀬だけではない。延長にまでもつれ込み、劇的な勝利を収めた準決勝後、
宇津木瑠美(モンペリエ)は日本サッカー協会の関係者に「ひたむきさが伝わっているのかな」と話し、日本でどう受け止められたかを気にかけていたという。
05年に代表デビューし、10年に日テレから仏リーグに移籍した宇津木。
勝敗以上に、「なでしこ」らしさを突き詰める姿勢は日本代表としての品格を感じさせた。
また、5月26日夜にベトナムから帰国し、羽田空港で取材に対応した主将の宮間あや(岡山湯郷)も「男子のW杯も近い。サッカーを盛り上げるというひとつの責任を果たせた」と話した。
宮間のはっきりとした口調、引き締まった表情が強く印象に残った。
今回のアジア杯では、猶本光(浦和)ら若手がフル代表でプレーする機会を得た。日本サッカー協会の上田栄治・女子委員会副委員長は
「若手がベトナムでの経験を持ち帰り、結果を出せば、また代表に呼ばれることになる。
国内リーグのレベルアップになり、集客にもつながる」と若手の飛躍による相乗効果に期待を込める。
連覇の重圧がのしかかる来年のW杯は女子サッカーの発展にとっても正念場となる。
個々の選手が胸に秘めるサッカーへの情熱は、きっと力になるはずだ。
http://news.livedoor.com/article/detail/8915998/