【スポーツメディア】総発行部数が激減のスポーツ新聞、「どれも同じでつまらない」と言われるのはプロ野球の取材現場での『合わせ』が原因

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2ブリーフ仮面φ ★
>>1からの続き)

 すると、どうだ。先ほどまで微動だにしなかった記者たちが急に
動きだし、一斉に近寄ってこの両者の周りを取り囲んだ。
人の輪はあっという間に大きくなる。見れば、輪の外側にいる記者は、
人の隙間にボイスレコーダーを持った手を差し入れていた。

 しばらくして監督が、ベテラン記者との会話を終えて輪を抜けた。
すると自然に、今度は場所を移して、記者たちだけが輪になった。
中心になって話をする記者の声に耳を傾け、しきりにメモを取っている。
その後3分ほど経っただろうか。

「ありがとうございます」
 記者たちは口々に礼をいい、輪が解け、再びベンチ前に戻っていった――。
監督に最初に声をかけたベテラン記者に話を聞いた。

「ああ、球場じゃいつもの光景ですよ。彼らスポーツ新聞の記者は、
誰かが声をかけるまでは動かない。そのくせ動きがあると
ゾロゾロ寄ってきて、その後でああやって“レクチャー集会”をやり、
情報を摺り合わせて記事を作る。『合わせ』といわれる作業です。
だから同じ記事ばかりになる。この前ある選手が、
“明日から3日間、翌日の新聞にどんな記事が載るか当ててあげるよ”
といって、本当に当てたことがあった。あれには笑いましたよ」

 本来、ライバル同士であるはずの記者たち。
そこに“抜きつ、抜かれつ”の取材合戦はないのだろうか。
「言いたいことはわかります。でも、ああしないと後の仕事に差し障るんです」
 そう語ったのは、ある社の記者だ。匿名を条件に打ち明けた。

「『合わせ』は必要不可欠なんです。広いグラウンドを取材していると、
取材が行なわれている場に居合わせていないこともある。その時に
助けてもらうために、お互いに協力するんです。すでに取材自体が
終わっている時は、“チャンシ、いいすか?”と他社の記者に聞く。
これは“取材の内容を教えてもらっていいですか”の意で、
チャンシは“ごっつぁんです”から来た業界用語です。

 スポーツ紙は全紙同じだという指摘があるのは知っています。
でも、そうしなきゃ今はやっていけない。色々大変なんですよ」

 そういって、記者はため息をついた。