>>301 ●フェミ系文芸評論家・斎藤美奈子 もののけ姫評 Pink/11月号(マガジンハウス)
これらのアニメの特徴は、子どもではなく、
むしろ大人(の男)が熱狂しているということです。
問題はこの「荒らぶる神々」のチンケさです。
身体じゅうから無数のヘビが湧き出している。
「ほーら気持ち悪いでしょ。ね、ね、虫酸がはしるでしょ」といわんばかりの様相で。
それはそれは先生の毛穴から噴き出すヘビをたっぷりと見せていただいてありがとうございます。
〈人を寄せつけない深い森〉〈荒ぶる神々の森〉というわりに、この森は貧乏ったらしいのです。
たぶん宮崎監督は、自然観察よりも、想像力を優先するタイプなのでしょう。
せっかく森に赴いても、宮崎さんの虫眼鏡は、自然そのものではなく、
ご自身の大脳の中にむいているにちがいありません。
『もののけ姫』には文科系の半端なインテリおじさんを喜ばせるアイテム、
具体的には考古学・歴史学・民俗学などの新しめの知見が仕込まれているのです。
ちょっとインテリなおじさまたちが、ここ十年ばかりの間に勉強して
「えっへん」という気持ちになれた知識の片鱗が、うまいこと取り入れられているわけですね。
そこにあるのは、「おやじの妄想を大画面で見るおぞましさ」です。