【サッカー】「ユース大国アルゼンチン。世界最強のチーム作りは方針も手法も、日本とは大違い」 後藤健生

このエントリーをはてなブックマークに追加
1アフリカンフラグフィッシュφ ★
http://www.jsports.co.jp/press/column/article/N2010080613073202.html

豊田国際ユース大会の初戦で、U-16日本代表がU-16UAE(アラブ首長国連邦)代表を1-0で破った。今年11月にウズベキスタンで開かれるアジア予選。
そして、来年メキシコで開かれるU-17ワールドカップを目指すチームである。

日本は、立ち上がりから完全にゲームを支配。シュート数でも21本対3本と圧倒したものの決勝点が生まれたのは後半のロスタイム。「攻めても攻めても点が取れない」。
そんな印象の試合だった。

もっとも、ポストに当たったシュートが1本、バーに嫌われたシュートが1本あり、相手のGKも驚異的な守備を見せたので、点がなかなか入らないのも仕方のないことではあったが、
もう少し攻撃に変化をつけるなりの工夫が必要だったろう。

また、前半の給水タイムまでの20分間はボールを持ってはいても、選手の動きが少なく、攻撃の圧力も足りなかった。
吉武博文監督は「まだ16歳。コンバートされていつもと違うポジションでプレーしている選手もいる。慣れるのに時間がかかる」と言うが、この時間帯に先制でもされていたら一大事。
本番(アジア予選)までには、改善しておかなければならない部分である。

目を引いたのは、ワントップとしてプレーした鈴木武蔵(桐生第一高校)。
父親がジャマイカ人というだけあって、スピードやジャンプ力は群を抜いている。ダイナミックな動きでパスを引き出し、シュートに対する積極性も目を引いた。

早生まれの1994年生まれで高校2年生だが、ようやく高校でもレギュラーを取ったばかりで、今年の春に発掘されるまでは無名だった選手だという。
もっとも、動きはすばらしいのだが、ボール扱いには難があるし、後半になると動きが少なくなり目立たなくなってしまった。
だが、まだ荒削りな選手ではあるが、あの身体能力は大きな武器となる。気長に育てていきたい素材である。

(つづく)
2アフリカンフラグフィッシュφ ★:2010/08/09(月) 13:57:19 ID:???0
「育てる」と言えば、センターバックの2人(岩波拓也と植田直通)も、180センチを超える大型選手。「大きなセンターバックを育てる」という意識を持って起用されている選手たちである。
世界と勝負するために、そうした身体能力の高い選手を意図的に起用して育てていかなければならない。それが、日本の状況なのである。

ところで、今年の豊田国際ユース大会には日本、UAE、「名古屋グランパス・愛知県・豊田市選抜」と並んで、アルゼンチンのU-16代表も参加している。
アルゼンチンも、「名古屋グランパス・愛知県・豊田市選抜」相手に前半はなかなか点が決まらず苦しんだが、後半立ち上がりにCKから先制すると、
その後は圧倒的な攻撃力で3-0と快勝した。

こちらは「意識的に選手を育てる」必要などないようなサッカー大国だ。身体能力の高い素材などは、自然と生まれてくるのだ。その逸材をどうやってフル代表に送り込むのか。
それが、アルゼンチンにとってのユース年代の目的である。

ツートップの一角のレアンドロ・パレデスとボランチのガスペル・イニゲスの2人がアルゼンチンの中心選手だった。
パレデスは長身で柔軟なボールタッチができるFWで、スピードもあるし、ミドルシュートも持っているオールラウンドなFW。

一方のイニゲスは、相手のパス回しを読んでパスをカットし、しかもワンタッチで前線にパスを供給できる戦術眼の持ち主だ。
2人とも、試合の流れを読む能力も高く、落ち着き払っていて、まるでオーバーエイジの選手が入っているようだった。

面白かったのは、アルゼンチンの他の選手たちは完全にこの2人を意識し、つねに彼らを使おうという意識を持ってプレーしていたことだ。
パレデスはメンバーチェンジによってトップだけでなく、サイドのポジションに入ったり、トップ下をやったりしていたが、

結局はどのポジションにいてもフリーマンとしてプレーする特権も与えられていた。CKのときなどは、ゴール前の密集に入らず、ペナルティーエリアの外に位置している。
CKを蹴る選手たちがそのパレデスに直接渡して、遠めからシュートを打たせる場面も何度もあった。

(つづく)
3アフリカンフラグフィッシュφ ★:2010/08/09(月) 13:57:53 ID:???0
南アフリカ・ワールドカップに出場したアルゼンチンは、攻撃面では明らかにメッシが中心で、他の選手はメッシをどうやってサポートするかを意識して戦っていた
(それがうまく機能せずにドイツに完敗した)。そして、U-16代表も同じなのだ。中心選手のパレデスを意識して、彼の能力をいかに引き出すかを考えてプレーしている。

そういえば、いつの時代のアルゼンチンの年代別の代表にも、中心選手ははっきりしていた。マラドーナのチーム、サビオラのチーム、テベスのチーム、メッシのチーム……といったように。
U-17代表といえば、僕はかつて1995年にエクアドルで開かれたU-17世界選手権(現U-17ワールドカップ)で3位になったアルゼンチンを思い出す。

1995年というと、小野伸二や稲本潤一らの日本の黄金世代が初めてこのカテゴリーでの世界大会に出場した大会だ。この大会で3位になったアルゼンチンにも明らかな中心選手がいた。
攻撃ではパブロ・アイマール、そして守備ではエステバン・カンビアッソである。

この2人、その後もU-20代表としては世界チャンピオンとなり、その後クラブレベルでも、代表レベルでも大きな活躍をすることになる。
各年代に明らかな中心選手がおり、その選手を意図的に特別枠で強化し、その各年代の特別な選手たちを並べたのが、アルゼンチンのフル代表なのである。

日本ではとにかく「若い年代では、特定の選手を特別視しない」「1人の中心選手に頼るチームは良くない」と思われている。
日本は、ユース代表での活動を通じて選手を育てようとしているのだから、それも当然だろう。

アルゼンチンの場合は選手はストリートサッカーの中から、あるいはクラブの下部組織の中から、育ってきており、それを組み合わせるのが代表の仕事ということになる。
しかも、そのレベルのユース代表が毎週必ず集まってゲームを行って強化しているのだという。3日は代表で活動し、他の日はクラブで活動。

アルゼンチンではクラブのユースチームも各年代別で全国リーグを行っているから、レベルの高い試合をクラブと代表で週2試合もこなしているのだ。日本とは、あまりに環境も違いすぎる。
羨ましそうな表情をして、吉武監督が言った。「日本はこんな環境で世界のベスト16に行ったんだから、すごいことですよ」と。まったくその通りである。