【松井秀喜世界一までの2486日】(5)
数日前に降った雪がようやく溶け始め、歩道をぬらしていた。
2003年4月8日、ニューヨークの夜は真冬のようにいてついていたが、
デーゲームで“本拠地デビュー戦満塁弾”という離れ業を演じた松井秀喜の興奮は、
数時間たってもまだ冷めてはいなかった。
FA宣言した2002年のオフからキャンプ、オープン戦と続いていた緊張から一時、
解放されたのだろう。夕食をとった韓国料理店では、いつになく冗舌だった。
その席には食事後に両親に見せようと、メジャー初アーチを生んだ記念のバットを持参していた。
手に取った私の指に、変な感触があった。目をこらすとグリップ付近の異変に気づいた。
10センチほど縦に亀裂が走っていたのだ。「ここが…」と指をさしながら渡すと、
苦笑いしながらゴジラも打った瞬間の違和感をこう明かした。
「そういえば、あの(本塁打の)後、セカンドゴロを打ったときも、とらえた割には感触が
おかしかったんだよ。もしかしたら、ホームランのときに折れていたのかもしれないな」
球場には日米合わせて100人を超す報道陣が詰めかけていた。
プレスルームに入れなかった私は、その記念すべき瞬間を、地下の食堂の、
やたらとチラチラするテレビで目撃した。とらえた瞬間のバットの鈍い音は、
スピーカーから聞こえなかった。
最高の地元デビューを飾ったものの、1年目の本塁打数は16本と伸びなかった。
だが、バットを折りながらもヤンキースタジアムの右中間席にまで球を運べたという事実は
「決して力負けしない」という自信の裏付けにもなったはずだ。
大リーグ1本目の本塁打を記録した「ひびの入ったバット」は今も、
米ニューヨーク州クーパーズタウンにある野球殿堂博物館の一角に飾られている。
ソース:SANSPO.COM(12/01 05:30)
http://www.sanspo.com/mlb/news/091203/mla0912031925012-n1.htm バットに起きていた“異変”にも気づかなかったほど、松井秀も最高の本拠地デビューに興奮していた
http://www.sanspo.com/mlb/images/091203/mla0912031925012-p1.jpg