■誰でも自分の物語の中に
ある意味、凄惨な物語である。そのため万人受けはしないだろうが、自分は支持すると
思っていた。それが今や35万部突破。ネットのレビューでも「好き嫌いは分かれそうだが
自分は好き」という声が多い。どうやら読み手が特別な思い入れを抱く作品のようだ。
設定は非常に奇妙。主人公は母親に虐待されている小学生の男の子である。彼が
探偵役となり、友人の縊死体が消えた謎を、なんと3歳の妹と追う。しかも死んだ
友人の生まれ変わりと称する存在まで登場するのである。
著者は今年、直木賞や吉川英治文学新人賞の候補になった注目株。書店の棚に
「このミステリーがすごい! 2009年度版 作家別投票第1位」というパネルを置いた
店舗で売れ行きがよく、同フレーズをオビに入れたところ一気にブレーク。読者は
女性が半数強、年齢層は均等に広がる。
「1位」と入れれば何でも売れるわけではない。著者の文庫作品がまだ2点しかないことも
大きいが、パネルや帯を仕掛けた営業部の河井嘉史さんは「違和感を抱きながら読み
進めると、後半はどんでん返しの波、波、波。遅かれ早かれ人気作家になる人だと
思っていました」と言う。
胸を締め付ける感情を湧き起こさせるのも特徴。「僕自身、ゲラを読み終えた後も
この作品世界が白昼の残像のように脳裏に焼きついて離れなかった。たとえトリックを
使わなくても読ませる力量が著者にはある。それは技巧と同時に、ソウルがあるからだ
と思う」と、担当編集者の青木大輔さん。
確かに「人は嫌いでも自分は好き」と思わせるのは、読み手の感情を揺さぶる何かが
あるからだろう。それは登場人物への共感かもしれない、この不気味な世界像に感じる
嗜好かもしれない。個人的には「誰だって、自分の物語の中にいるじゃないか」という
叫びが、心に残って消えなかった。
[評者]瀧井朝世(ライター)
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12刷35万部 [掲載]2009年4月19日
http://book.asahi.com/bestseller/TKY200904220150.html