なんで…。なんで、試合に出れないんだろう――。
松井大輔はこの言葉を、何度も何度も心の中で繰り返した。7月15日に名門サンテティエンヌに
舞いおりてから、夏が過ぎ、秋が来て、やがて枯葉が落ち始め、冬の足音まで聞こえていたけれど、
にがい心の問いかけは果てるともなく続いていた。
フランスには「ベンチを磨く」という表現があるが、この間の松井の仕事が、それだった。
14節(11月15日)までのリーグアン先発はたった3回、途中出場を含めたリーグアンのプレー
時間は、わずか293分。リーグカップは一度だけ先発したが、楽しみにしていたUEFAカップは、
この日まで、0分。
ベンチ磨き…。初めてだった。
妻や両親は何も言わず見守ってくれたし、愛犬シエルも慰めだったけれど、さすがに鬱屈した
感情はつもり、気づくと買い物が増えていた。ショッピングすると、少しだけ憂さが、晴れた。
だが、「なんで…」の答えは、出てこない。
一般に移籍した選手には、2つの道がある。1つはしょっぱなから大活躍して認めさせる道、もう1つは
徐々に環境に慣れて活躍し始める道だ。松井の場合は、あえて後者を選択していた。
「フランスで初めての移籍だったから、選手やチームやプレースタイルをよく理解しながら、ゆっくり
準備したいと思ったんです。3年契約していたこともあったし」
上滑りして潰れるより、大事にじっくり、という判断だった。
しかし現実は、厳しかった。
出場機会が回ってきて、いい動きをつくっても、すぐベンチに逆戻り。かと思うと、先発チーム全体が
うまくいかなくなったときに限って、松井を出す。そして救世主になれないと、制裁するかのようにまた
ベンチ。正直、「しんどかった」
(つづく)
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