多田野にスキャンダルといってもいい「あの出来事」について尋ねたのは、セインツ戦に
登板する2日前、彼が宿泊している徳島市内のホテルで向き合った時だった。
「もう、終わったことですから」
曲折を経た26歳はそう言うと、唇を結んだまま、まっすぐこちらの目を見つめた。
あからさまな拒絶。だが、それは逃避ではなかった。
野球人生が暗転したのはドラフト会議の1ヶ月前だった。
一部のメディアが、多田野が同性愛のビデオに出演していたことを報じたのだ。
この報道で周囲の態度は一変する。
多田野の獲得を公言していた球団は指名を回避することを報道陣に伝えた。
翌日の記事は微妙なオブラートに包まれていた。
メジャーのトライアウトを受けるため、多田野が成田発のカンタス航空に乗り込んだのは
03年2月3日。
失意と不安を抱えながら未知の世界へ足を踏み入れる六大学のヒーローを見送って
くれたのは母親と、友人二人だけだった。
多田野が「あの出来事」について口を開いたのは、渡米2年目、1年目の実績が認められ、
メジャーのキャンプに招待選手として招かれたときだ。
「僕が未熟だったんです」と、多田野はクラブハウスに集まったチームメイトに事実関係を
説明し、現在の心情を訴えた。
「誰でも一生に一度は過ちを犯すことがあるかもしれません。もし、許されるのなら、
その過ちから学び、過去においておきたい」
2時間のインタビューで何度か「あの出来事」にふれたが、多田野は口を閉ざし続けた。
「もう、終わったことですから」と。
――では、どうやって「あの出来事」を乗り越えましたか。
そう聞いたときだけ、多田野は「自分にそんな力はなかったですが、多くの人たちに
教えてもらったことが大きかったと思います」と、言葉を残した。
過去と現在、未来はつながっている。過去に残した染みは永遠に消すことはできないが、
新しい絵筆で塗りつぶすことはできる。
Number666号より抜粋
http://www.bunshun.co.jp/mag/number/index.htm 前スレ
http://news18.2ch.net/test/read.cgi/mnewsplus/1163768261/l50 ★1が立った時間・2006/11/16(木) 22:16:13