2006年5月14日
母の日。ルイスビル・スラッガーというメーカーと契約している何人かの選手は、淡いピンク色のバットで試合に出場しました。
ピンクはこの日毎年催される、乳がん撲滅募金のテーマカラー。カージナルスの奥さんたちにとっては、これからシーズン終了
まで頻繁に 行われるチャリティー活動の幕開けです。うちのヨメもピンク色のユニフォーム姿で、乳がん患者さんたちと一緒に
球場を回りました。
通路、入場ゲート、パーティールームや客席の間などを、寄付を募りながら歩くのですが、同時に選手がサインした野球カード、
自分が着ているピンクのユニフォームもオークションの対象として呼びかけます。セントルイスのお客さんは毎年非常に好意的で、
この募金活動による乳がん撲滅基金への寄付金は、一日だけで数百万円に上るとのこと。
と、ここまでは笑顔だった彼女。
「嬉しいことばっかりじゃないけど、やりがいのある活動だと思う」という言葉に、
「じゃあ、嬉しくないことってなんやねん?」
「うーん・・・」
金額を問わず、寄付をしてくれた人にはピンク色のリボンが渡されるそうですが、野球カード、こちらは全選手の分が袋にバラバラに
入っており、「20ドル以上の寄付をした人は、一枚引ける(誰のがもらえるかは運次第)」「50ドル以上の寄付をすれば、好きな選手の
カードを指定できる」という決まりがあるそうです。そして、「誰のがもらえるかは運次第」というところがミソ。
たとえばA選手の奥さんがこの袋を担当しており、20ドル以上寄付したファンが「運試し」で無造作に手を入れて、カードを一枚引きます。
そして、「なんだ〜!Aかよ〜!」とがっかり。それをA選手夫人は、目の前で見ていなければならないわけです。それはそれは傷つくし、
つらいけれど本人は笑っているしかできない、とヨメは言います。
同じ経験をしたことがあるので、気持ちは痛いほどよくわかるのでしょう。
>>2以降に続く
さらに、ピンクのユニフォームは限定品のため、一枚300ドル以上の寄付が対象なのですが、奥さんたちはそれを、自分で呼びかけ
なければなりません。
「その選手じゃなあ・・・」と何度も断られながら、
「私の夫のサイン入りユニフォームと引き換えに、寄付をしていただけませんか?」とファンの間を回り続けるのです。中には最後まで
「買い手」がないことも。体力的にもハードでしょうが、どちらかといえば心が辛そうやなあ、と、今日初めて聞いた「真実」に、愕然と
してしまいました。
うちのユニフォームは幸いにして、すぐに行き先が決まったそうですが、実はそのほかの部分で苦労をかけていました。
3−3の同点で迎えた2アウト満塁のチャンス。盛り上がる勝ち越しの場面。代打田口壮がコールされたその時、ヨメはパーティールームで
寄付を募っていたそうです。室内のお客さんは皆、彼女がどこの誰であるかわかっています。
「ほら、もっと前に来て見たら?」
「一打勝ち越しだ!」
「ソウ、がんばれ!」
気を遣ってか、いつもより余計に盛り上がってくれるお客さんたち。
さんし〜ん!
しーん。
しかし個人的な感情で、「次の部屋に行きたくない」とは言えません。そこで次のパーティールームに入るなり、
「こんにちは〜!主人のかわりにお詫びに参りました〜」
と頭を下げて回り、なんとか笑いと寄付を勝ち取ったそうです。
ああ、実に、きつそうです。
「スマンなー」
「でもね、去年も募金活動中、同じこと(どチャンスで凡退)があった。でもそれからどんどん成績がよくなったの。今年も同じことが
起こるといいねえ」
泣けちゃいましたよ。
ミズーリ州セントルイスにて 田口壮
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