同じ左投手でも、大阪桐蔭の辻内が「剛」なら、宇部商の好永(よしなが)は「柔」だ。
辻内は前日、150キロを超す直球で19奪三振の大会記録に並んだ。一方、好永はこの日、
130キロそこそこの直球を巧みに使い、奪三振ゼロで、辻内のできなかった完封をやってのけた。
1回戦の新潟明訓戦は被安打9で4失点。得意とする右打者の内角への直球に力がなかった。
この日は一転、内をえぐる直球がさえ、打球を詰まらせた。27アウトのうち、16が内野ゴロだ。
6、8回の2死三塁でも、ともに後続を二塁ゴロに打ちとった。
「僕に三振はいらない。みんなを信じて、打たせてとる。自分らしい投球で完封できてうれしい」。
マウンドでは変わることのない表情が、思いっきり緩んだ。
この男、時代に逆行するエースでもある。今や高校野球でも継投が当たり前。今回の49代表校
のうち、地方大会を1人で投げ抜いてきたのは好永に、藤代の湯本と鳥取西の浜本の3人。勝ち
残っているのは好永だけだ。
夏に向け、選抜で負けてから徹底して走り込んだ。早朝の5キロ走、練習中は外野フェンス沿いに、
ポールからポールまでダッシュ。そして夜空を見ながら、学校前の「登校坂」を駆け上がった。
「スタミナは誰にも負けない。最後まで投げ抜くため、甲子園に来たんです」。投球は「柔」でも、
心は「剛」だ。
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