【サッカー】うどんでイルハンとコミュニケーション?【カズ主将が食事会】

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701金子達人「決戦前夜」より
1997年11月16日・ジョホールバル

 異変が起きたのは、1−1の同点で迎えた後半7分のことだった。
 名波の頑張りでボールを奪った日本は、イラン・ゴール前25メートルの地点でのフリーキックを得ていた。
一度はクリアされたボールを中田が拾い、強引なドリブルで相手の反則を誘ったのである。
つかつかと歩み寄ったカズはボールを拾い上げると、自らが蹴りやすいようにセットした。
 いつも通りのシーンだった。
 ただ、何かがおかしかった。
 日本のベンチでは何人かの選手が「おや」といった風情で立ち上がっていた。
得点を期待して総立ちになったという様子ではない。
何か意外なことが起きようとし、思わず腰を浮かせてしまったという感じだった。
そのベンチに向けて、中田が厳しい表情で何かを訴えている。
 「A U? A U?」
 ビデオを見返してみると、中田が口にしているのは二文字の単語、
一言目がア段、二言目はウ段で終わる単語であることがわかる。
二つの文字を連呼しながら、彼は「これでいいのか、本当にこれでいいのか」と問いかけているようだった。
 名波が一度ボールに寄っていき、すぐに離れた。
 短い助走から、カズが蹴った。
 右足の甲の内側に引っ掛けられたシュートは、高々とバーを超えた。
 名波は一瞬、その場に立ち尽くした。中田はすぐに踵を返した。
日本のベンチでは何人かの選手が頭を抱え、はるか後方では、GK川口が何やら厳しい口調で叫んでいた。
 日本に、異変が起きていた。
702金子達人「決戦前夜」より:04/02/25 09:30 ID:6Olur25i
 何人かの証言によれば、試合前日のミーティングで、岡田監督は選手達にある簡単な約束事を指示していたという。
 ”フリーキックを得た際は、中田か名波がキッカーになること”
 極めてシンプルではあったが、しかし、この指示が持つ意味はなかなかに重要だった。
というのも、フランス・ワールドカップへ向けての戦いが始まってからというもの、
フリーキックのキッカーは常にカズだったからである。
もちろん、位置によっては名波が蹴ることもあった。
ただ、キッカーを指名するのはカズだった。
もし証言が事実だったとすれば、岡田監督はカズを試合から外すことはできなかったものの、
実質的なエースの称号はすでに剥奪していたことになる。
 ところが、そうした約束事など存在したかったように、
カズはフリーキックをプレースし、自らが蹴るという意思を示した。
 日本のベンチでは何人かの選手が立ち上がっていた。
中田は岡田監督に向けて二つの文字からなる単語を発していた。
はるか後方では、同点ゴールにすら感情を乱す事のなかった川口が、
極めて厳しい口調で何かを叫んでいた。
 明らかに異変が起きていた。
 カズにとって、この試合初めてとなったシュートは、
得点の気配を得点微塵も感じさせないまま高々とバーを超えた。
 果たしてフリーキックについての指示がどういうものだったのか、
真実が明らかになる日はこの先も訪れないのかもしれない。
しかし、ボールが力なくゴールのはるか後方に落ちた瞬間、
私はフィールドから恐ろしく冷たい何かが伝わってきたことを覚えている。
それまでのいいリズムを、チームに芽生えつつあった一体感を、
すべてを打ち消すような冷たい何かだった。
 5分後、日本はダエイにヘディング・シュートを許し、1−2と逆転された。
 その4分後、ついに岡田監督が動いた