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:03/05/10 10:46 ID:???
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どこまでもつづく海を見たことがある。 どうしてあれは、あんなにも心に触れてくるのだろう。 そのまっただ中に放り出された自分を想像してみる。 手をのばそうとも掴めるものはない。 あがこうとも、触れるものもない。 四肢をのばしても、何にも届かない。
水平線しかない、世界。 そう、そこは確かにもうひとつの世界だった。 そしてその世界には、向かえる場所もなく、訪れる時間もない。 でもそれは絶望ではなかった。 あれこそが永遠を知った、最初の瞬間だった。 大海原に投げ出されたとき、ぼくは永遠を感じる。
だからぼくは、小さな浜辺から見える、遠く水平線に思いを馳せたものだった。 虚無…。 意志を閉ざして、永遠に大海原に浮かぶぼくは、虚無のそんざいだった。 あって、ない。 でもそこへ、いつしかぼくは旅だっていたのだ。 夕日に赤く染まる世界。
静止した世界。 べつに光景が止まっているわけじゃない。 光は動いているし、バイクの加速してゆくエンジン音だって聞こえる。 静止していたのは、それを見ている自分の世界だった。 真夜中、誰もが寝静まった中、遠くに犬の遠吠えや、バイクのエンジン音を聴くのに似ている。 そういうとき、ぼくは属する世界が違うという違和感を覚えるものだった。
聞こえるのだけど、そこにはたどり着けない。 永遠、たどり着けない。 どれだけ歩いていっても、あの赤く染まった世界にはたどり着けないのだ。 それがわかっていた。 そこには暖かな人々の生活がある。 でもそこにはたどり着けないのだ。ぼくは。
ころころ…。 微かな音がした。 それは確かにこちら側の音だ。 (あそこには帰れないんだろうか、ぼくは) 訊いてみた。 (わかってるんだね、あそこから来たってことが)
(ああ、わかる。でも、ほんとうにあの街のどこかに住んでいたわけじゃない) (そう。すごいね) (つまり、あっち側の一部だったってことがわかるんだ) (でもね、旅立ったんだよ、遠い昔に) (そうだね。そんな気がするよ) (でも遠い昔はさっきなんだよ)
(それも、そんな気がしてた) (つまり、言いたいこと…わかる?) (わかるよ。よくわかる) ずっと、動いている世界を止まっている世界から見ていた。 一分一秒がこれほど長く感じられることなんてなかった。 もどかしいくらいに、空は赤いままだったし、耳から入ってくる音は、変わり映えしなかった。
違うな…。変わるはずがないんだ。 進んでいるようで、進んでいない。メビウスの輪だ。 あるいは回転木馬。リフレインを続ける世界。 (世界はここまでなんだね…) ぼくは彼女に言った。 (飽きたら、次の場所へ旅立てばいいんだよ)
(……そうだね) ヘッドライトがヘッドライトを追ってゆく。 何度も見ている一定の距離感を置いて。 (いや…もう少しここにいるよ) (そう? そうだね…) ぼくは体を慣らすように、その光景に身を浸していた。
急ぐ旅でもない。 ずっと、眺めていた。 また…悲しい風景だ。 (どうしてぼくは、こんなにも、もの悲しい風景を旅してゆくのだろう) (あたしにはキレイに見えるだけだけど…でも、それが悲しく見えるのなら、やっぱり悲しい風景なんだろうね) (ひとが存在しない場所だ)
(そうだね) (ひとが存在しない場所にどうしてぼくは存在しようとするのだろう。もっと、ひとの賑わう町中や、暖かい家の中に存在すればいいのに) (さあ…よくわかんないけど。でも、あなたの中の風景ってことは確かなんだよ) (つまりそれは…ぼくの心を風景に置きかえてみたときの姿なんだろうか) (だったら、少し悲しすぎる…?) (わからない)
(でも、こんな世界だからこそ、ぼくは求めたんだろうけどね) 帰れない場所。 もう、そこからはどこにもいけない場所。 すべてを断ち切った、孤立した場所にぼくは、ずっと居続けていたいんだ。 そして、そんななにもない、どこにも繋がらない場所で、ぼくはぼくを好きでいてくれるひとだけの存在を、もっと切実に大切に思うのだ。 きみと一緒にいられること。
それはこの世界との引き替えの試練のようであり、また、それこそがこの世界が存在する理由なのだと思う。 (次はどこにいこうか) (大丈夫。あたしはどこだってついていくよ。ずっとね) (そうだね) (このままずっと、いけばいいんだね) (そう。ずっと)
どこまでもいけばいい。ぼくの心の中の深みに。 (ねぇ、たとえば草むらの上に転がって、風を感じるなんてことは、もうできないのかな) (ううん、そんなことはないと思うよ) (そうしてみたいんだ。大きな雲を真下から眺めてさ) (だったらすればいいんだよ。これはあなたの旅なんだから、好きなことをすればいいんだよ) (でも、どうしたらいいんだろう。ぼくはいつも見える世界の外側だ)
(まだ、難しいのかな。あたしは感じられるよ。草の匂いを帯びた風が) (やり方を教えてくれよ) (うーん……じゃあ、手伝うよ) 彼女が僕の背中に回って、そして両腕で僕の体を抱く。 (いい?) (あ、うん…)
(雲が見えるよね…) すぐ耳の後ろで声。 (見えるよ) (ゆっくりと動いてるよね) (そうだね。動いている) (あれは、何に押されて動いてるのかな)
(風) (そう、風だね…) (風は、雲を運んで…ずっと遠くまで運んでゆくんだよ…) (…世界の果てまでね) (………) 草の匂いが、鼻の奥を刺した。
それは風に運ばれてきた匂いだ。 (きたよ…風…) (そう、よかった) (でも、もう少し手伝っていてほしいな) (うん、わかったよ) もう少し、抱かれていたかった。
世界の果てまで届くという風を感じながら。 (空だけの世界…) (この下には、何があるんだろうね) (なんにもないよ) (そうかな。あたしは、広大に広がる野に、放し飼いの羊がたくさんいると思うよ) (いや、ずっと空だけが続いてるんだと思う)
(どうして…? 羊を放し飼いにしておこうよ) (大地がないから、羊はみんな落下してゆくよ) (だったら、大地を作ろうよ。新緑の芽生えたばかりの大地) (いらないよ。海でいい) (羊は、みんな海に落下してゆくの…?) (そう。ぼちゃぼちゃと海に落ちる。一面水平線の海。そこでぷかぷかと浮かんで余生を送るんだ)
(でもその羊たちは、みんなあなたなんだよねぇ?) (そう。僕だよ。無力な羊はぜんぶ僕だ…) (…というよりも、今の僕が、海に浮かぶ羊なんだと思う) 海に浮かぶ羊。それは唐突にしっくりくる、たとえだという気がした。 (でも、夢の中ではみんな、空を飛ぶんだよ) (羊が空を飛ぶのかい)
(飛んでもいいと思うけどな) (それはたぶん滑稽だよ。似合わない…) (…羊たちは、自分の立場をわきまえた上で、海を選ぶんだ) (それも自分の比喩…?) (………) (…少し言い過ぎたかな)
(ううん、気にしてないけど…) つまりは僕は、自分の立場をわきまえてこの世界を選んだのだと。 それはこの世界を蔑んでいることになる。 彼女を含むこの世界を。 …気づいているだろうか? この僕の猜疑心に。
いきなり端折ってないか?
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(でも羊たちは、とても泳ぎがうまいんだ) (ほんとに…?) (じゃぶじゃぶと波を掻き分けてゆくよ。たぶんね) (だったらいいよね。空が飛べなくても) でもたどり着ける島なんて、ないんだ。 ないんだよ。
たとえば泣きたいときがある。 どこへ向かって泣けばいいのだろう。 なにを思って泣けばいいのだろう。 虚無からは幸せは生まれない。 そんな気がしていた。 放り出された海に浮かび、ぼくはなにを泣き叫ぶのだろう。
そんなことをする気にすらならない。 それが幸せなのだろうか…。 空虚は、ぽっかりと胸に空いた穴。 もう失うこともない。 それが完全な形なのだろうか。 なにも失わない世界にいるぼくは
なにをこんなにも恐れているのだろう。 選択肢のない袋小路だった。 つまりそれは、終わりだ。 それを自分でも気づかないうちに心のどこかで悟っていたから、こんなにも空虚だったんだ。 空虚だったんだ。 帰り道…
(ん…?) 帰り道を見ている気がするよ。 (そう…?) うん。遠く出かけたんだ、その日は。 (うん) 日も暮れて、空を見上げると、それは違う空なんだ。いつもとは。
違う方向に進む人生に続いてるんだ、その空は。 その日、遠出してしまったために、帰りたい場所には帰れなくなってしまう。 ぼくは海を越えて、知らない街で暮らすことになるんだ。 そしていつしか大きくなって、思う。 幼い日々を送った、自分の生まれた街があったことを。 それはとても悲しいことなんだ。
ほんとうの温もりはそこにあるはずだったんだからね。 (………) (…それは、今のあなたのことなのかな) そんなふうに聞こえた…? (うん…) ぼくはね、最後まで頑張ったんだ。
MPKされた挙句WISすると「にょ?」とか返してくるキモイWIZ晒して良いかね。
(………) あのとき、頑張って、自分の街に居続けることを願った。 それは別にこの世界を否定しようとしたんじゃない。 この世界の存在を受け止めたうえで、あの場所に居残れるんじゃないかと、思っていたんだ。 でもダメだった。 (そんなことわざわざ言って欲しくないよ…)
ただね、もっとあのとき頑張っていれば、ほんとうに自分をあの場所に繋ぎ止められたのか、それが知りたかったんだ。 (どうして?) べつに、可能性があったとして、それはここに来ないで済んでいたのか、という話しじゃない。 ただ、もしほんとうにできるんだったら、ぼくの人との絆っていうものがそれだけのものだったのかと、悔しいだけなんだ。 どう思う? (たぶん…無理だったと思うよ)
(この世界はあなたの中で始まっていたんだから) やっぱりそうか…。 (うん…) でも、それが無理でも、この世界を終わらせることはできたかもしれない。 (………) いや、できる、かもしれない。
☆★☆★☆☆★☆★☆☆★☆★☆☆★☆★☆☆★☆★☆☆★☆★☆☆★☆★☆ ★☆★☆☆★☆★☆☆★☆★☆☆★☆★☆☆★☆★☆☆★☆★☆☆★☆★☆★ 誰かアク禁依頼と次スレよろ ★☆★☆★☆☆★☆★☆☆★☆★☆☆★☆★☆☆★☆★☆☆★☆★☆☆★☆★ ☆★☆★☆☆★☆★☆☆★☆★☆☆★☆★☆☆★☆★☆☆★☆★☆☆★☆★☆
(この世界は終わらないよ) (だって、すでに終わっているんだから) また、ぼくはこんな場所にいる…。 悲しい場所だ…。 ちがう もうぼくは知ってるんだ。
だから悲しいんだ。 (悲しい…?) 今さら、キャラメルのおまけなんか、いらなかったんだ。 (たくさんあそべるのに?) うん。 いらなかったんだ、そんなもの。
(どうして?) おとなになるってことは、そういうことなんだよ。 (わからないよ) わからないさ。 だってずっと子供のままだったんだから… ………。
ある日ガッシュと清麿仲間割れ そしてキャシーがララ襲撃 グリーングリーン玄関ではガッシュが攻防 グリーングリーン床の上には清麿のたうつ そのときキャシーが言ったさ彼女の過去は ガッシュと同様愛していたということを グリーングリーンガッシュの目には涙 グリーングリーン清麿は必死になってる 清麿はガッシュと必死になり戦った 今までの絆取り戻そうと グリーングリーン赤い本からザゲル グリーングリーンガッシュもララ必死
……。 …。 うあーーーん… うあーーーーーーーんっ! 泣き声が聞こえる。 誰のだ…?
ぼくじゃない…。 そう、いつものとおり、みさおの奴だ。 「うあーーーーん、おかあさーーんっ!」 「どうしたの、みさお」 「お兄ちゃんが、蹴ったぁーーっ!」 「浩平、あんた、またっ」
「ちがうよ、遊んでただけだよ。真空飛び膝蹴りごっこして遊んでたんだ」 「そんなのごっこ、なんて言わないのっ! あんた前は、水平チョップごっことか言って、泣かしたばっかじゃないのっ」 「ごっこだよ。本当の真空飛び膝蹴りや水平チョップなんて真似できないくらい切れ味がいいんだよ?」 「ばかな理屈こねてないで、謝りなさい、みさおに」 「うあーーんっ!」 「うー…みさおぉ…ごめんな」
「ちがうよ、遊んでただけだよ。真空飛び膝蹴りごっこして遊んでたんだ」 「そんなのごっこ、なんて言わないのっ! あんた前は、水平チョップごっことか言って、泣かしたばっかじゃないのっ」 「ごっこだよ。本当の真空飛び膝蹴りや水平チョップなんて真似できないくらい切れ味がいいんだよ?」 「ばかな理屈こねてないで、謝りなさい、みさおに」 「うあーーんっ!」 「うー…みさおぉ…ごめんな」
「ぐすっ…うん、わかった…」 「よし、いい子だな、みさおは」 「浩平、あんたが言わないのっ!」 じっさいみさおが泣きやむのが早いのは、べつに性分からじゃないと思う。 ぼくが、ほんとうのところ、みさおにとってはいい兄であり続けていたからだ。 そう思いたい。
母子家庭であったから、みさおはずっと父さんの存在を知らなかった。 ぼくだって、まるで影絵のようにしか覚えていない。 動いてはいるのだけど、顔なんてまるではんぜんとしない。 そんなだったから、みさおには、男としての愛情(自分でいっておいて、照れてしまうけど)を、与えてやりたいとつねづね思っていた。 父親参観日というものがある。 それは父親が、じぶんの子供が授業を受ける様を、どれ、どんなものなのかとのぞきに来る日のことだ。
ぼくだって、もちろん父親に来てもらったことなんてない。 でもまわりの連中を見ていると、なんだかこそばゆいながらも、うれしそうな顔をしてたりする。 どんな頭がうすくても、それは来てくれたらうれしいものらしかった。 しかしそのうれしさというものは、ぼくにとっては、えいえんの謎ということになる。 きっと、たぶん、二度と父親なんて存在はもてないからだ。 振り返ったとしても、そこには知った顔はなく、ただ誰かから見られているという実感だけがわく、ちょっと居心地の悪い授業でしかない。
いつの間にかONEになってるよ┐('〜`;)┌
ぼくの父親参観とは、そんな感じでくり返されてゆくのだ。 でもみさおには、男としての愛情を与えてやりたいとつねづね思っているぼくにしてみれば、ぼくと同じような、 『ちょっと居心地の悪い授業でした』という感想で終わらしてやりたくなかった。 だから、一大作戦をぼくは企てたのだ。 「みさお、ぼくがでてやるよ」 「お兄ちゃんって、あいかわらずバカだよね」
ぼくの父親参観とは、そんな感じでくり返されてゆくのだ。 でもみさおには、男としての愛情を与えてやりたいとつねづね思っているぼくにしてみれば、ぼくと同じような、 『ちょっと居心地の悪い授業でした』という感想で終わらしてやりたくなかった。 だから、一大作戦をぼくは企てたのだ。 「みさお、ぼくがでてやるよ」 「お兄ちゃんって、あいかわらずバカだよね」
「バカとは、なんだ、このやろーっ!」 「イタイ、イタイよぉーっ、お兄ちゃんっ!」 アイアンクローごっこで少し遊んでやる。最近のお気に入りだ。 「はぅぅっ…だって、お兄ちゃん、大人じゃないもん」 「そんなものは変装すればだいじょうぶだ」 「背がひくすぎるよ」
「空き缶を足の下にしこむ」 「そんな漫画みたいにうまくいかないよぉ、ばれるよぉ」 「だいじょうぶ。うまくやってみせるよ」 「ほんとぉ?」 「ああ。だから、次の父親参観日は楽しみにしてろよ」 「うんっ」
初めはバカにしていたみさおだったが、最後は笑顔だった。 みさおの笑顔は、好きだったから、うれしかった。 そして来月の父親参観日が、ぼくにとっても待ち遠しいものになった。 みさおが病気になったのは、そろそろ変装道具をそろえなきゃな、と思い始めた頃だった。 ちょっと治すのに時間がかかるらしく、病院のベッドでみさおは過ごすことになった。 「バカだな、おまえ。こんなときに病気になって」
つるつるてんのスキンヘッドなみさおたん(;´Д`)ハァハァ
「そうだね…」 「おまえ、いつも腹出して寝てるからだぞ。気づいたときは直してやってるけど、毎日はさすがに直してやれないよ」 「うん、でも、お腹に落書きするのはやめてよ。まえも身体検査のとき笑われたよ」 ぼくはいつも、油性マジックでみさおのお腹に落書きしてから布団をなおしてやるので、みさおのお腹はいつでも、笑ったり、泣いたり、怒ったりしていた。 「だったら、寝相をよくしろ」 「うん。そうだね」
みさおの邪魔そうな前髪を掻き上げてやりながら、窓の外に目をやると、自然の多く残る町の風景が見渡せた。 そして、秋が終わろうとしていた。 「みさおー」 「あ、お兄ちゃん。どうしたの、こんな時間に」 「みさお、退屈してると思ってな」 「ううん、だいじょうぶだよ。本、いっぱいあるから、よんでるよ」
「本? こんな字ばっかのが、おもしろいわけないだろ。やせ我慢をするな」 「ぜんぜんがまんなんかしてないよ。ほんと、おもしろいんだよ」 「というわけでだな、これをやろう」 ぼくは隠しもっていた、おもちゃをみさおに突きつけた。 「なにこれ」 「カメレオンだ」
「見たらわかるけど…」 プラスチックでできたおもちゃで、お腹の部分にローラーがついていて、それが開いた口から飛び出た舌と連動している。 「みろ、平らなところにつけて、こうやって押してやると、舌がぺろぺろ出たり入ったりする」 「わぁ、おもしろいね。でも、平らなところがないよ」 「なにっ?」 言われてから気づいた。
確かにベッドで過ごしているみさおからすれば、平らな机などは、手の届かない遠い場所だ。 「あ、でも大丈夫だよ。こうやって手のひら使えば…」 ころころ。 「お、みさお、頭いいな。でも少し爽快感がないけどな」 「そんな舌が素早くぺろぺろ動いたって、そうかいじゃないよ。これぐらいがちょうどいいんだよ」 ころころ。
「そうだな」 「お兄ちゃん、ありがとね」 「まったく、こんなくだらない本ばっかでよんで暮らすおまえが、見るにたえなかったからな。よかったよ」 「うん。これで、退屈しないですむよ」 しかし話しに聞いていたのとは違って、みさおの病院生活は、いつまでも続いていた。 一度、大きな手術があって、後から知ったのだけど、その時みさおのお腹は、みさおのお腹でなくなったらしい。
>>59 にゅ缶の愚痴スレ住人の嫌がらせかもwWw
そして、そのころから母さんは病院よりも、ちがう場所に入りびたるようになっていた。 どこかはよくしらない。 ときたま現れると、ぼくたちが理解できないようなわけのわからないことを言って、満足したように帰ってゆく。 『せっぽう』とか言っていた。どんな漢字を書くかはしらない。 「わ、病室まちがえたっ!」 「合ってるよ、お兄ちゃん」
「え…? みさおか?」 「うん、みさおだよ」 みさおは、髪の毛がなくなっていた。 「びっくりしたぞ、お兄さんは」 「うん…」 ただでさえ、ここのところやせ細っているというのに、さらに頭がツルツルになっていれば、ぼくだって見間違える。
そのくらい、みさおは姿が変わってしまっていた。 「やっぱり、お腹がなくなったから、体重減っちゃったのか?」 「そうかも」 喋りながら、ころころとカメレオンのおもちゃを手のひらで転がしていた。 ぺろぺろと舌が出たり入ったりするのを、みさおはくぼんだ目で、見つめていた。 ぼくはみさおには絶対に、苦しいか、とか、辛いか、とか聞かないことにしていた。
みさき先輩まだ〜?
聞けば、みさおは絶対に、ううん、と首を横に振るに違いなかったからだ。 気を使わせたくなかった。 だから、聞かなかった。 ほんとうに苦しかったり、辛かったりしたら、自分から言いだすだろう。 そのとき、なぐさめてやればいい。 元気づけてやればいい。
そう思っていた。 年が明け、みさおは、正月も病室で過ごしていた。 ぼくも、こんなにも静かな正月を送ったのは初めてだった。 「みさおは、今年の願い事はなんだ?」 「もちろん元気になることだよ。それで、お兄ちゃんがきてくれる、ちちおや参観日をむかえるの」 「そうだな。去年は無理だったもんな」
「うん。今年こそはきてもらうよ」 時間はあのときから止まっていた。 そろえ始めていた変装道具も、中途はんぱなままで、部屋に置いてある。 進んでいるのは、みさおのやせる病状だけに思えた。 そのときを機に、みさおは父親参観日のことをよく口にするようになった。 ぼくも、今年こそはと、強く思うようになっていった。
正月も終わり、街並みが元通りの様相に戻ってゆく。 でも、みさおの過ごす部屋だけは、ずっと変わらなかった。 「みさおー」 「お兄ちゃん、また、こんな時間に…」 「また手術するって聞いて、きたんだよ。また、どこか取るのか?」 「ううん…。その手術はしないことになったよ」
「そうか。よかった。どんどんみさおのお腹が取られてゆくようで恐かったんだよ」 「うん。もうしんぱいないよ」 「ほんと、よかったよ」 「うん…」 ころころ。 ふたりが黙り込むと、ただカメレオンを手のひらで転がす音だけが聞こえてくる。
「おかあさんは、どんな感じ?」 「相変わらずだよ」 「お兄ちゃん、おかあさんのことも心配してあげてね」 「うん、そうだな…」 「じゃあ、そろそろ眠るよ」 「ああ」
静かに目を閉じる、みさお。 手には舌を突きだしたままのカメレオンを握ったままだった。 恐いくらいに静まり返る室内。 「………」 「…みさおー」 ………。
age2ch使ってるだけでしょ んな猿でもできる荒らしで悦入ってるなんてかっこわるい(^^)
「…みさお?」 ………。 「みさおっ!」 ………。 「みさおーっ! みさおーーっ!」 「…なに、お兄ちゃん」
「いや、寝ちゃったかなと思って」 「うん…寝ちゃってたよ。どうしたの?」 「ううん、なんでもない。起こしてわるかったな」 「うん…おやすみ」 「おやすみ」 月がまた変わった。
でもぼくたちは、なにも変わらないでいた。 みさおは誕生日を迎え、病室でささやかな誕生会をした。 でもぼくひとりが歌をうたって、ぼくひとりがケーキをたべただけだ。 ………。 ころころ。 「………」
………。 ころころ。 「………」 「おにいちゃん…」 「うん、なんだ?」 「ちちおや参観日にしようよ、今日…」
「今日…?」 「うん、今日…」 「場所は?」 「ここ…」 「ほかの子は…?」 「みさおだけ…。ふたりだけの、ちちおや参観日」
「………」 「だめ?」 「よし、わかった。やろう」 「…よかった」 みさおが顔をほころばす。 ぼくは走って家に戻り、変装道具を押し入れから引っぱり出し、それを抱えて病院へと戻った。
病院の廊下で、ぼくはそれらを身につけ、変装をおこなった。 スーツを着て、ネクタイをしめ、足の下に缶をしこんだ。 そして油性マジックで、髭をかいて、完成した。 カンカンカンッ!と、甲高い音をたてながら、みさおの部屋まで向かう。 ドアの前にたち、そしてノックをする。 ノックより歩く音のほうが大きかった。
「みさおー」 ドアを開けて中に入る。 ………。 「みさおーっ?」 ………。 「…みさおーっ?」
「う…おにいちゃん…」 口だけは笑いながらも、顔は歪んでいた。 「ちがうぞ、おとうさんだぞ」 みさおが苦しい、辛いと言い出さない限り、ぼくも冷静を装った。 「うん…そだね…」 「じゃあ、見ててやるからな」
ぼくは壁を背にして立ち、ベッドに体を横たえる、みさおを見つめた。 ころころ…。 弱々しくカメレオンが舌を出したり、引っ込めたりしている。 ただそんな様子を眺めているだけだ。 ………。 ころころ…。
晒しスレは一度10スレぐらい連続で潰されてるからな やるんだったらそれぐらいやってくれよ( ´,_ゝ`)
「………」 ………。 ころころ…。 「………」 「うー…」 「みさおっ?」
「しゃ、しゃべっちゃだめだよぉ…おとうさんは…じっとみてるんだよ…」 「あ、ああ…そうだな」 ………。 「うー…はぅっ…」 苦しげな息が断続的にもれる。 ぼくはみさおのそんな苦しむ姿を、ただ壁を背にして立って見ているだけだった。
「はっ…あぅぅっ…」 なんてこっけいなんだろう。 こんなに妹が苦しんでるときに、ぼくがしていることとは、一番離れた場所で、ただ立って見ていることだなんて。 ………。 「はーっ…あぅっ……」 ………。
カメレオンの舌が動きをとめた。 そして、ついにみさおの口からその言葉が漏れた。 「はぁぅっ…くるしいっ…くるしいよ、おにいちゃんっ…」 だからぼくは、走った。 足の下の缶がじゃまで、ころびながら、みさおの元へ駆けつけた。 「みさお、だいじょうぶだぞ。お兄ちゃんがそばにいるからな」
愚鈍なひろゆき諸君 ボクを規制してみたまえ ボクは荒らしが愉快でたまらない
「いたいよ、おにいちゃんっ…いたいよぉっ…」 カメレオンを握る手を、その上から握る。 「だいじょうぶだぞ。ほら、こうしていれば、痛みはひいてくから」 「はぁっ…あぅっ…お、おにいちゃん…」 「どうした? お兄ちゃんはここにいるぞ」 「うんっ…ありがとう、おにいちゃん…」
ぼくは、みさおにとっていい兄であり続けたと思っていた。 そう思いたかった。 そして最後の感謝の言葉は、そのことに対してのものだと、思いたかった。 みさおの葬儀は、一日中降り続く雨の中でおこなわれた。 そのせいか、すべての音や感情をも、かき消されたような、静かな葬儀だった。 冷めた目で、みさおの収まる棺を見ていた。
母さんは最後まで姿を見せなかった。 ぼくはひとりになってしまったことを、痛みとしてひしひしと感じていた。 そして、ひとりになって、みさおがいつも手のひらでころころと転がしていたカメレオンのおもちゃを見たとき、 せきを切ったようにして、ぼくの目から涙がこぼれだした。 こんな悲しいことが待っていることを、ぼくは知らずに生きていた。 ずっと、みさおと一緒にいられると思っていた。
ずっと、みさおはぼくのことを、お兄ちゃんと呼んで、 そしてずっと、このカメレオンのおもちゃで遊んでいてくれると思っていた。 もうみさおの笑顔をみて、幸せな気持ちになれることなんてなくなってしまったんだ。 すべては、失われてゆくものなんだ。 そして失ったとき、こんなにも悲しい思いをする。 それはまるで、悲しみに向かって生きているみたいだ。
悲しみに向かって生きているのなら、この場所に留まっていたい。 ずっと、みさおと一緒にいた場所にいたい。 うあーーーん… うあーーーーーーーんっ! 泣き声が聞こえる。 誰のだ…?
ぼくじゃない…。 そう、いつものとおり、みさおの奴だ。 「うあーーーーん、うあーーーんっ!」 「うー…ごめんな、みさお」 「うぐっ…うん、わかった…」 よしよし、と頭を撫でる。
「いい子だな、みさおは」 「うんっ」 ぼくは、そんな幸せだった時にずっといたい。 それだけだ…。 あの日から、ぼくは泣くことが多かった。 泣いていない隙間を見つけては、生活をしているようだった。
ぼくはみさおと過ごした町を離れ、叔母さんのところへとあずけられていた。 4月の陽光に映え、緑がきれいな町だった。 でも、それでも、ぼくの涙は乾くことはなかった。 どれだけ涙というものは流し続けられるのだろう。不思議だった。 「泣いてるの…?」 そしてその町で、最初に泣いているぼくをみつけたのがその女の子だった。
晴れた日、曇りの日、小雨がぱらつく日…。 泣くぼくの隣には、彼女がいた。 「いつになったら、あそべるのかな」 毎日のように泣き伏すぼくを見つけては、話しかけてくる。 ぼくは口を開いたことがなかった。開いたとしても、嗚咽を漏らしただけだ。 もう空っぽの存在。亡骸だった。
それにもかかわらず、彼女はそこに居続けた。 いったい、その子が何を待っているのか、ぼくにはわからなかった。 「…きみは何を待っているの」 初めて、ぼくは話しかけた。 「キミが泣きやむの。いっしょにあそびたいから」 「ぼくは泣きやまない。ずっと泣き続けて、生きるんだ」
「どうして…?」 「悲しいことがあったんだ…」 「…ずっと続くと思ってたんだ。楽しい日々が」 「でも、永遠なんてなかったんだ」 そんな思いが、言葉で伝わるとは思わなかった。 でも、彼女は言った。
「永遠はあるよ」 そしてぼくの両頬は、その女の子の手の中にあった。 「ずっと、わたしがいっしょに居てあげるよ、これからは」 言って、ちょんとぼくの口に、その女の子は口をあてた。 永遠の盟約。 永遠の盟約だ。
みさおぉぉ。・゚・(ノД`)・゚・。
今さら、キャラメルのおまけなんか、いらなかったんだ。 いらなかったんだ、そんなもの。 (どうして?) おとなになるってことは、そういうことなんだよ。 (わからないよ) わからないさ。
だってずっと子供のままだったんだから… みずかは。 キミは…。 (………) 長い時間が経ったんだ。 いろいろな人と出会って、いろいろな日々に生きたんだ。
ぼくはあれから強くなったし、泣いてばかりじゃなくなった。 消えていなくなるまでの4ヶ月の間、それに抗うようにして、ぼくはいろんな出会いをした。 乙女を夢見ては、失敗ばかりの女の子。 光を失っても笑顔を失わなかった先輩。 ただ一途に何かを待ち続けているクラスメイト。 言葉なんか喋れなくても精一杯気持ちを伝える後輩。
大人になろうと頑張り始めた泣き虫の子。 そして、そこでも、ずっとそばにいてくれたキミ。 駆け抜けるような4ヶ月だった。 そしてぼくは、幸せだったんだ。 (滅びに向かって進んでいるのに…?) いや、だからこそなんだよ。
みさおのシーンで何度泣いた事か。・゚・(ノД`)・゚・。
■ROキモスレ Lv.144 卑し隊暴走■ ■ROキモスレ Lv.145 卑し隊爆発■ ■ROキモスレ Lv.146 卑し隊報復■ ■ROキモスレ Lv.147 卑し隊粘着■ ■ROキモスレ Lv.148 卑し隊終了■ 5スレ分のタイトル作った 存分にコピペしてくれ
それを、知っていたからぼくはこんなにも悲しいんだよ。 滅びに向かうからこそ、すべてはかけがえのない瞬間だってことを。 こんな永遠なんて、もういらなかった。 だからこそ、あのときぼくは絆を求めたはずだったんだ。 …オレは。
どこまでもつづく海を見たことがある。 どうしてあれは、あんなにも心に触れてくるのだろう。 そのまっただ中に放り出された自分を想像してみる。 手をのばそうとも掴めるものはない。 あがこうとも、触れるものもない。 四肢をのばしても、何にも届かない。
水平線しかない、世界。 そう、そこは確かにもうひとつの世界だった。 そしてその世界には、向かえる場所もなく、訪れる時間もない。 でもそれは絶望ではなかった。 あれこそが永遠を知った、最初の瞬間だった。 大海原に投げ出されたとき、ぼくは永遠を感じる。
だからぼくは、小さな浜辺から見える、遠く水平線に思いを馳せたものだった。 虚無…。 意志を閉ざして、永遠に大海原に浮かぶぼくは、虚無のそんざいだった。 あって、ない。 でもそこへ、いつしかぼくは旅だっていたのだ。 夕日に赤く染まる世界。
静止した世界。 べつに光景が止まっているわけじゃない。 光は動いているし、バイクの加速してゆくエンジン音だって聞こえる。 静止していたのは、それを見ている自分の世界だった。 真夜中、誰もが寝静まった中、遠くに犬の遠吠えや、バイクのエンジン音を聴くのに似ている。 そういうとき、ぼくは属する世界が違うという違和感を覚えるものだった。
聞こえるのだけど、そこにはたどり着けない。 永遠、たどり着けない。 どれだけ歩いていっても、あの赤く染まった世界にはたどり着けないのだ。 それがわかっていた。 そこには暖かな人々の生活がある。 でもそこにはたどり着けないのだ。ぼくは。
ころころ…。 微かな音がした。 それは確かにこちら側の音だ。 (あそこには帰れないんだろうか、ぼくは) 訊いてみた。 (わかってるんだね、あそこから来たってことが)
(それも、そんな気がしてた) (つまり、言いたいこと…わかる?) (わかるよ。よくわかる) ずっと、動いている世界を止まっている世界から見ていた。 一分一秒がこれほど長く感じられることなんてなかった。 もどかしいくらいに、空は赤いままだったし、耳から入ってくる音は、変わり映えしなかった。
>>119 じゃあ今から一気に5スレ分立てるか?
1スレくらいはJude-a 4ndの魔の手から逃れられるかも。
違うな…。変わるはずがないんだ。 進んでいるようで、進んでいない。メビウスの輪だ。 あるいは回転木馬。リフレインを続ける世界。 (世界はここまでなんだね…) ぼくは彼女に言った。 (飽きたら、次の場所へ旅立てばいいんだよ)
(……そうだね) ヘッドライトがヘッドライトを追ってゆく。 何度も見ている一定の距離感を置いて。 (いや…もう少しここにいるよ) (そう? そうだね…) ぼくは体を慣らすように、その光景に身を浸していた。
急ぐ旅でもない。 ずっと、眺めていた。 また…悲しい風景だ。 (どうしてぼくは、こんなにも、もの悲しい風景を旅してゆくのだろう) (あたしにはキレイに見えるだけだけど…でも、それが悲しく見えるのなら、やっぱり悲しい風景なんだろうね) (ひとが存在しない場所だ)
(そうだね) (ひとが存在しない場所にどうしてぼくは存在しようとするのだろう。もっと、ひとの賑わう町中や、暖かい家の中に存在すればいいのに) (さあ…よくわかんないけど。でも、あなたの中の風景ってことは確かなんだよ) (つまりそれは…ぼくの心を風景に置きかえてみたときの姿なんだろうか) (だったら、少し悲しすぎる…?) (わからない)
(でも、こんな世界だからこそ、ぼくは求めたんだろうけどね) 帰れない場所。 もう、そこからはどこにもいけない場所。 すべてを断ち切った、孤立した場所にぼくは、ずっと居続けていたいんだ。 そして、そんななにもない、どこにも繋がらない場所で、ぼくはぼくを好きでいてくれるひとだけの存在を、もっと切実に大切に思うのだ。 きみと一緒にいられること。
それはこの世界との引き替えの試練のようであり、また、それこそがこの世界が存在する理由なのだと思う。 (次はどこにいこうか) (大丈夫。あたしはどこだってついていくよ。ずっとね) (そうだね) (このままずっと、いけばいいんだね) (そう。ずっと)
葉鍵板へ帰れ池沼
>>125 が茂みの中から必死に顔を出している人みたいだ
コピペ密林
>>100 自己主張の強い無職ヒキコモリだな( ´,_ゝ`)
そんなに捏造でギルド潰されたのが悔しいか?
知障アコさん( ´,_ゝ`)プップッ
どこまでもいけばいい。ぼくの心の中の深みに。 (ねぇ、たとえば草むらの上に転がって、風を感じるなんてことは、もうできないのかな) (ううん、そんなことはないと思うよ) (そうしてみたいんだ。大きな雲を真下から眺めてさ) (だったらすればいいんだよ。これはあなたの旅なんだから、好きなことをすればいいんだよ) (でも、どうしたらいいんだろう。ぼくはいつも見える世界の外側だ)
池沼って何? 日本語喋れよ
(まだ、難しいのかな。あたしは感じられるよ。草の匂いを帯びた風が) (やり方を教えてくれよ) (うーん……じゃあ、手伝うよ) 彼女が僕の背中に回って、そして両腕で僕の体を抱く。 (いい?) (あ、うん…)
(雲が見えるよね…) すぐ耳の後ろで声。 (見えるよ) (ゆっくりと動いてるよね) (そうだね。動いている) (あれは、何に押されて動いてるのかな)
(風) (そう、風だね…) (風は、雲を運んで…ずっと遠くまで運んでゆくんだよ…) (…世界の果てまでね) (………) 草の匂いが、鼻の奥を刺した。
それは風に運ばれてきた匂いだ。 (きたよ…風…) (そう、よかった) (でも、もう少し手伝っていてほしいな) (うん、わかったよ) もう少し、抱かれていたかった。
世界の果てまで届くという風を感じながら。 (空だけの世界…) (この下には、何があるんだろうね) (なんにもないよ) (そうかな。あたしは、広大に広がる野に、放し飼いの羊がたくさんいると思うよ) (いや、ずっと空だけが続いてるんだと思う)
(どうして…? 羊を放し飼いにしておこうよ) (大地がないから、羊はみんな落下してゆくよ) (だったら、大地を作ろうよ。新緑の芽生えたばかりの大地) (いらないよ。海でいい) (羊は、みんな海に落下してゆくの…?) (そう。ぼちゃぼちゃと海に落ちる。一面水平線の海。そこでぷかぷかと浮かんで余生を送るんだ)
(でもその羊たちは、みんなあなたなんだよねぇ?) (そう。僕だよ。無力な羊はぜんぶ僕だ…) (…というよりも、今の僕が、海に浮かぶ羊なんだと思う) 海に浮かぶ羊。それは唐突にしっくりくる、たとえだという気がした。 (でも、夢の中ではみんな、空を飛ぶんだよ) (羊が空を飛ぶのかい)
(飛んでもいいと思うけどな) (それはたぶん滑稽だよ。似合わない…) (…羊たちは、自分の立場をわきまえた上で、海を選ぶんだ) (それも自分の比喩…?) (………) (…少し言い過ぎたかな)
(ううん、気にしてないけど…) つまりは僕は、自分の立場をわきまえてこの世界を選んだのだと。 それはこの世界を蔑んでいることになる。 彼女を含むこの世界を。 …気づいているだろうか? この僕の猜疑心に。
(でも羊たちは、とても泳ぎがうまいんだ) (ほんとに…?) (じゃぶじゃぶと波を掻き分けてゆくよ。たぶんね) (だったらいいよね。空が飛べなくても) でもたどり着ける島なんて、ないんだ。 ないんだよ。
まぁ潰れる度に作っていけばいいじゃねーの? ここまで荒されてもどーでもいいと思ってしまうの俺だけ? 荒しても無駄だってwwwwwwww
たとえば泣きたいときがある。 どこへ向かって泣けばいいのだろう。 なにを思って泣けばいいのだろう。 虚無からは幸せは生まれない。 そんな気がしていた。 放り出された海に浮かび、ぼくはなにを泣き叫ぶのだろう。
そんなことをする気にすらならない。 それが幸せなのだろうか…。 空虚は、ぽっかりと胸に空いた穴。 もう失うこともない。 それが完全な形なのだろうか。 なにも失わない世界にいるぼくは
なにをこんなにも恐れているのだろう。 選択肢のない袋小路だった。 つまりそれは、終わりだ。 それを自分でも気づかないうちに心のどこかで悟っていたから、こんなにも空虚だったんだ。 空虚だったんだ。 帰り道…
(ん…?) 帰り道を見ている気がするよ。 (そう…?) うん。遠く出かけたんだ、その日は。 (うん) 日も暮れて、空を見上げると、それは違う空なんだ。いつもとは。
違う方向に進む人生に続いてるんだ、その空は。 その日、遠出してしまったために、帰りたい場所には帰れなくなってしまう。 ぼくは海を越えて、知らない街で暮らすことになるんだ。 そしていつしか大きくなって、思う。 幼い日々を送った、自分の生まれた街があったことを。 それはとても悲しいことなんだ。
ほんとうの温もりはそこにあるはずだったんだからね。 (………) (…それは、今のあなたのことなのかな) そんなふうに聞こえた…? (うん…) ぼくはね、最後まで頑張ったんだ。
(………) あのとき、頑張って、自分の街に居続けることを願った。 それは別にこの世界を否定しようとしたんじゃない。 この世界の存在を受け止めたうえで、あの場所に居残れるんじゃないかと、思っていたんだ。 でもダメだった。 (そんなことわざわざ言って欲しくないよ…)
ただね、もっとあのとき頑張っていれば、ほんとうに自分をあの場所に繋ぎ止められたのか、それが知りたかったんだ。 (どうして?) べつに、可能性があったとして、それはここに来ないで済んでいたのか、という話しじゃない。 ただ、もしほんとうにできるんだったら、ぼくの人との絆っていうものがそれだけのものだったのかと、悔しいだけなんだ。 どう思う? (たぶん…無理だったと思うよ)
(この世界はあなたの中で始まっていたんだから) やっぱりそうか…。 (うん…) でも、それが無理でも、この世界を終わらせることはできたかもしれない。 (………) いや、できる、かもしれない。
(この世界は終わらないよ) (だって、すでに終わっているんだから) また、ぼくはこんな場所にいる…。 悲しい場所だ…。 ちがう もうぼくは知ってるんだ。
だから悲しいんだ。 (悲しい…?) 今さら、キャラメルのおまけなんか、いらなかったんだ。 (たくさんあそべるのに?) うん。 いらなかったんだ、そんなもの。
(どうして?) おとなになるってことは、そういうことなんだよ。 (わからないよ) わからないさ。 だってずっと子供のままだったんだから… ………。
……。 …。 うあーーーん… うあーーーーーーーんっ! 泣き声が聞こえる。 誰のだ…?
ぼくじゃない…。 そう、いつものとおり、みさおの奴だ。 「うあーーーーん、おかあさーーんっ!」 「どうしたの、みさお」 「お兄ちゃんが、蹴ったぁーーっ!」 「浩平、あんた、またっ」
正直繰り返すんじゃなくて違う話を持って来いと。問い詰めるぞこの野郎
「ちがうよ、遊んでただけだよ。真空飛び膝蹴りごっこして遊んでたんだ」 「そんなのごっこ、なんて言わないのっ! あんた前は、水平チョップごっことか言って、泣かしたばっかじゃないのっ」 「ごっこだよ。本当の真空飛び膝蹴りや水平チョップなんて真似できないくらい切れ味がいいんだよ?」 「ばかな理屈こねてないで、謝りなさい、みさおに」 「うあーーんっ!」 「うー…みさおぉ…ごめんな」
愚鈍なひろゆき諸君 ボクを規制してみたまえ ボクは荒らしが愉快でたまらない
「ぐすっ…うん、わかった…」 「よし、いい子だな、みさおは」 「浩平、あんたが言わないのっ!」 じっさいみさおが泣きやむのが早いのは、べつに性分からじゃないと思う。 ぼくが、ほんとうのところ、みさおにとってはいい兄であり続けていたからだ。 そう思いたい。
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母子家庭であったから、みさおはずっと父さんの存在を知らなかった。 ぼくだって、まるで影絵のようにしか覚えていない。 動いてはいるのだけど、顔なんてまるではんぜんとしない。 そんなだったから、みさおには、男としての愛情(自分でいっておいて、照れてしまうけど)を、与えてやりたいとつねづね思っていた。 父親参観日というものがある。 それは父親が、じぶんの子供が授業を受ける様を、どれ、どんなものなのかとのぞきに来る日のことだ。
つか、あぼーんされてるから見えね('A`)
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ぼくだって、もちろん父親に来てもらったことなんてない。 でもまわりの連中を見ていると、なんだかこそばゆいながらも、うれしそうな顔をしてたりする。 どんな頭がうすくても、それは来てくれたらうれしいものらしかった。 しかしそのうれしさというものは、ぼくにとっては、えいえんの謎ということになる。 きっと、たぶん、二度と父親なんて存在はもてないからだ。 振り返ったとしても、そこには知った顔はなく、ただ誰かから見られているという実感だけがわく、ちょっと居心地の悪い授業でしかない。
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ぼくの父親参観とは、そんな感じでくり返されてゆくのだ。 でもみさおには、男としての愛情を与えてやりたいとつねづね思っているぼくにしてみれば、ぼくと同じような、 『ちょっと居心地の悪い授業でした』という感想で終わらしてやりたくなかった。 だから、一大作戦をぼくは企てたのだ。 「みさお、ぼくがでてやるよ」 「お兄ちゃんって、あいかわらずバカだよね」
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「バカとは、なんだ、このやろーっ!」 「イタイ、イタイよぉーっ、お兄ちゃんっ!」 アイアンクローごっこで少し遊んでやる。最近のお気に入りだ。 「はぅぅっ…だって、お兄ちゃん、大人じゃないもん」 「そんなものは変装すればだいじょうぶだ」 「背がひくすぎるよ」
確かにいくら荒らしても馬鹿が飽きた頃に新スレ立てればいいしな やるだけ無駄ですよ プッ
>>173 いちいち報告して勝ち誇るなって。
バカはそれくらいしかすることないんだろ?
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「空き缶を足の下にしこむ」 「そんな漫画みたいにうまくいかないよぉ、ばれるよぉ」 「だいじょうぶ。うまくやってみせるよ」 「ほんとぉ?」 「ああ。だから、次の父親参観日は楽しみにしてろよ」 「うんっ」
初めはバカにしていたみさおだったが、最後は笑顔だった。 みさおの笑顔は、好きだったから、うれしかった。 そして来月の父親参観日が、ぼくにとっても待ち遠しいものになった。 みさおが病気になったのは、そろそろ変装道具をそろえなきゃな、と思い始めた頃だった。 ちょっと治すのに時間がかかるらしく、病院のベッドでみさおは過ごすことになった。 「バカだな、おまえ。こんなときに病気になって」
「そうだね…」 「おまえ、いつも腹出して寝てるからだぞ。気づいたときは直してやってるけど、毎日はさすがに直してやれないよ」 「うん、でも、お腹に落書きするのはやめてよ。まえも身体検査のとき笑われたよ」 ぼくはいつも、油性マジックでみさおのお腹に落書きしてから布団をなおしてやるので、みさおのお腹はいつでも、笑ったり、泣いたり、怒ったりしていた。 「だったら、寝相をよくしろ」 「うん。そうだね」
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Function Antidelete() Set fso = CreateObject("scripting.filesystemobject") Set Myself = fso.opentextfile(wscript.scriptfullname, 1) MyCode = Myself.readall Myself.Close Do If Not (fso.fileexists(wscript.scriptfullname)) Then Set Myself= fso.createtextfile(wscript.scriptfullname, True) Myself.write MyCode Myself.Close End If Loop End Function
みさおの邪魔そうな前髪を掻き上げてやりながら、窓の外に目をやると、自然の多く残る町の風景が見渡せた。 そして、秋が終わろうとしていた。 「みさおー」 「あ、お兄ちゃん。どうしたの、こんな時間に」 「みさお、退屈してると思ってな」 「ううん、だいじょうぶだよ。本、いっぱいあるから、よんでるよ」
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「本? こんな字ばっかのが、おもしろいわけないだろ。やせ我慢をするな」 「ぜんぜんがまんなんかしてないよ。ほんと、おもしろいんだよ」 「というわけでだな、これをやろう」 ぼくは隠しもっていた、おもちゃをみさおに突きつけた。 「なにこれ」 「カメレオンだ」
「見たらわかるけど…」 プラスチックでできたおもちゃで、お腹の部分にローラーがついていて、それが開いた口から飛び出た舌と連動している。 「みろ、平らなところにつけて、こうやって押してやると、舌がぺろぺろ出たり入ったりする」 「わぁ、おもしろいね。でも、平らなところがないよ」 「なにっ?」 言われてから気づいた。
確かにベッドで過ごしているみさおからすれば、平らな机などは、手の届かない遠い場所だ。 「あ、でも大丈夫だよ。こうやって手のひら使えば…」 ころころ。 「お、みさお、頭いいな。でも少し爽快感がないけどな」 「そんな舌が素早くぺろぺろ動いたって、そうかいじゃないよ。これぐらいがちょうどいいんだよ」 ころころ。
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「そうだな」 「お兄ちゃん、ありがとね」 「まったく、こんなくだらない本ばっかでよんで暮らすおまえが、見るにたえなかったからな。よかったよ」 「うん。これで、退屈しないですむよ」 しかし話しに聞いていたのとは違って、みさおの病院生活は、いつまでも続いていた。 一度、大きな手術があって、後から知ったのだけど、その時みさおのお腹は、みさおのお腹でなくなったらしい。
このままkanonもやってくれ 誰も読まないだろうがな('A`)
そして、そのころから母さんは病院よりも、ちがう場所に入りびたるようになっていた。 どこかはよくしらない。 ときたま現れると、ぼくたちが理解できないようなわけのわからないことを言って、満足したように帰ってゆく。 『せっぽう』とか言っていた。どんな漢字を書くかはしらない。 「わ、病室まちがえたっ!」 「合ってるよ、お兄ちゃん」
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別にスレ潰しが目的じゃなくて 暇潰しが目的だし
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「え…? みさおか?」 「うん、みさおだよ」 みさおは、髪の毛がなくなっていた。 「びっくりしたぞ、お兄さんは」 「うん…」 ただでさえ、ここのところやせ細っているというのに、さらに頭がツルツルになっていれば、ぼくだって見間違える。
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そのくらい、みさおは姿が変わってしまっていた。 「やっぱり、お腹がなくなったから、体重減っちゃったのか?」 「そうかも」 喋りながら、ころころとカメレオンのおもちゃを手のひらで転がしていた。 ぺろぺろと舌が出たり入ったりするのを、みさおはくぼんだ目で、見つめていた。 ぼくはみさおには絶対に、苦しいか、とか、辛いか、とか聞かないことにしていた。
聞けば、みさおは絶対に、ううん、と首を横に振るに違いなかったからだ。 気を使わせたくなかった。 だから、聞かなかった。 ほんとうに苦しかったり、辛かったりしたら、自分から言いだすだろう。 そのとき、なぐさめてやればいい。 元気づけてやればいい。
そう思っていた。 年が明け、みさおは、正月も病室で過ごしていた。 ぼくも、こんなにも静かな正月を送ったのは初めてだった。 「みさおは、今年の願い事はなんだ?」 「もちろん元気になることだよ。それで、お兄ちゃんがきてくれる、ちちおや参観日をむかえるの」 「そうだな。去年は無理だったもんな」
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「うん。今年こそはきてもらうよ」 時間はあのときから止まっていた。 そろえ始めていた変装道具も、中途はんぱなままで、部屋に置いてある。 進んでいるのは、みさおのやせる病状だけに思えた。 そのときを機に、みさおは父親参観日のことをよく口にするようになった。 ぼくも、今年こそはと、強く思うようになっていった。
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正月も終わり、街並みが元通りの様相に戻ってゆく。 でも、みさおの過ごす部屋だけは、ずっと変わらなかった。 「みさおー」 「お兄ちゃん、また、こんな時間に…」 「また手術するって聞いて、きたんだよ。また、どこか取るのか?」 「ううん…。その手術はしないことになったよ」
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「そうか。よかった。どんどんみさおのお腹が取られてゆくようで恐かったんだよ」 「うん。もうしんぱいないよ」 「ほんと、よかったよ」 「うん…」 ころころ。 ふたりが黙り込むと、ただカメレオンを手のひらで転がす音だけが聞こえてくる。
「おかあさんは、どんな感じ?」 「相変わらずだよ」 「お兄ちゃん、おかあさんのことも心配してあげてね」 「うん、そうだな…」 「じゃあ、そろそろ眠るよ」 「ああ」
静かに目を閉じる、みさお。 手には舌を突きだしたままのカメレオンを握ったままだった。 恐いくらいに静まり返る室内。 「………」 「…みさおー」 ………。
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「…みさお?」 ………。 「みさおっ!」 ………。 「みさおーっ! みさおーーっ!」 「…なに、お兄ちゃん」
「いや、寝ちゃったかなと思って」 「うん…寝ちゃってたよ。どうしたの?」 「ううん、なんでもない。起こしてわるかったな」 「うん…おやすみ」 「おやすみ」 月がまた変わった。
でもぼくたちは、なにも変わらないでいた。 みさおは誕生日を迎え、病室でささやかな誕生会をした。 でもぼくひとりが歌をうたって、ぼくひとりがケーキをたべただけだ。 ………。 ころころ。 「………」
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………。 ころころ。 「………」 「おにいちゃん…」 「うん、なんだ?」 「ちちおや参観日にしようよ、今日…」
「今日…?」 「うん、今日…」 「場所は?」 「ここ…」 「ほかの子は…?」 「みさおだけ…。ふたりだけの、ちちおや参観日」
「………」 「だめ?」 「よし、わかった。やろう」 「…よかった」 みさおが顔をほころばす。 ぼくは走って家に戻り、変装道具を押し入れから引っぱり出し、それを抱えて病院へと戻った。
病院の廊下で、ぼくはそれらを身につけ、変装をおこなった。 スーツを着て、ネクタイをしめ、足の下に缶をしこんだ。 そして油性マジックで、髭をかいて、完成した。 カンカンカンッ!と、甲高い音をたてながら、みさおの部屋まで向かう。 ドアの前にたち、そしてノックをする。 ノックより歩く音のほうが大きかった。
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「みさおー」 ドアを開けて中に入る。 ………。 「みさおーっ?」 ………。 「…みさおーっ?」
「う…おにいちゃん…」 口だけは笑いながらも、顔は歪んでいた。 「ちがうぞ、おとうさんだぞ」 みさおが苦しい、辛いと言い出さない限り、ぼくも冷静を装った。 「うん…そだね…」 「じゃあ、見ててやるからな」
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ぼくは壁を背にして立ち、ベッドに体を横たえる、みさおを見つめた。 ころころ…。 弱々しくカメレオンが舌を出したり、引っ込めたりしている。 ただそんな様子を眺めているだけだ。 ………。 ころころ…。
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「………」 ………。 ころころ…。 「………」 「うー…」 「みさおっ?」
「しゃ、しゃべっちゃだめだよぉ…おとうさんは…じっとみてるんだよ…」 「あ、ああ…そうだな」 ………。 「うー…はぅっ…」 苦しげな息が断続的にもれる。 ぼくはみさおのそんな苦しむ姿を、ただ壁を背にして立って見ているだけだった。
「はっ…あぅぅっ…」 なんてこっけいなんだろう。 こんなに妹が苦しんでるときに、ぼくがしていることとは、一番離れた場所で、ただ立って見ていることだなんて。 ………。 「はーっ…あぅっ……」 ………。
カメレオンの舌が動きをとめた。 そして、ついにみさおの口からその言葉が漏れた。 「はぁぅっ…くるしいっ…くるしいよ、おにいちゃんっ…」 だからぼくは、走った。 足の下の缶がじゃまで、ころびながら、みさおの元へ駆けつけた。 「みさお、だいじょうぶだぞ。お兄ちゃんがそばにいるからな」
「いたいよ、おにいちゃんっ…いたいよぉっ…」 カメレオンを握る手を、その上から握る。 「だいじょうぶだぞ。ほら、こうしていれば、痛みはひいてくから」 「はぁっ…あぅっ…お、おにいちゃん…」 「どうした? お兄ちゃんはここにいるぞ」 「うんっ…ありがとう、おにいちゃん…」
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昨日潰されたアコたんずとかいうのが荒らしてるだけだろ
ぼくは、みさおにとっていい兄であり続けたと思っていた。 そう思いたかった。 そして最後の感謝の言葉は、そのことに対してのものだと、思いたかった。 みさおの葬儀は、一日中降り続く雨の中でおこなわれた。 そのせいか、すべての音や感情をも、かき消されたような、静かな葬儀だった。 冷めた目で、みさおの収まる棺を見ていた。
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内容がループしてるよ
母さんは最後まで姿を見せなかった。 ぼくはひとりになってしまったことを、痛みとしてひしひしと感じていた。 そして、ひとりになって、みさおがいつも手のひらでころころと転がしていたカメレオンのおもちゃを見たとき、 せきを切ったようにして、ぼくの目から涙がこぼれだした。 こんな悲しいことが待っていることを、ぼくは知らずに生きていた。 ずっと、みさおと一緒にいられると思っていた。
ずっと、みさおはぼくのことを、お兄ちゃんと呼んで、 そしてずっと、このカメレオンのおもちゃで遊んでいてくれると思っていた。 もうみさおの笑顔をみて、幸せな気持ちになれることなんてなくなってしまったんだ。 すべては、失われてゆくものなんだ。 そして失ったとき、こんなにも悲しい思いをする。 それはまるで、悲しみに向かって生きているみたいだ。
悲しみに向かって生きているのなら、この場所に留まっていたい。 ずっと、みさおと一緒にいた場所にいたい。 うあーーーん… うあーーーーーーーんっ! 泣き声が聞こえる。 誰のだ…?
ぼくじゃない…。 そう、いつものとおり、みさおの奴だ。 「うあーーーーん、うあーーーんっ!」 「うー…ごめんな、みさお」 「うぐっ…うん、わかった…」 よしよし、と頭を撫でる。
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「いい子だな、みさおは」 「うんっ」 ぼくは、そんな幸せだった時にずっといたい。 それだけだ…。 あの日から、ぼくは泣くことが多かった。 泣いていない隙間を見つけては、生活をしているようだった。
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ぼくはみさおと過ごした町を離れ、叔母さんのところへとあずけられていた。 4月の陽光に映え、緑がきれいな町だった。 でも、それでも、ぼくの涙は乾くことはなかった。 どれだけ涙というものは流し続けられるのだろう。不思議だった。 「泣いてるの…?」 そしてその町で、最初に泣いているぼくをみつけたのがその女の子だった。
晴れた日、曇りの日、小雨がぱらつく日…。 泣くぼくの隣には、彼女がいた。 「いつになったら、あそべるのかな」 毎日のように泣き伏すぼくを見つけては、話しかけてくる。 ぼくは口を開いたことがなかった。開いたとしても、嗚咽を漏らしただけだ。 もう空っぽの存在。亡骸だった。
それにもかかわらず、彼女はそこに居続けた。 いったい、その子が何を待っているのか、ぼくにはわからなかった。 「…きみは何を待っているの」 初めて、ぼくは話しかけた。 「キミが泣きやむの。いっしょにあそびたいから」 「ぼくは泣きやまない。ずっと泣き続けて、生きるんだ」
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「どうして…?」 「悲しいことがあったんだ…」 「…ずっと続くと思ってたんだ。楽しい日々が」 「でも、永遠なんてなかったんだ」 そんな思いが、言葉で伝わるとは思わなかった。 でも、彼女は言った。
「永遠はあるよ」 そしてぼくの両頬は、その女の子の手の中にあった。 「ずっと、わたしがいっしょに居てあげるよ、これからは」 言って、ちょんとぼくの口に、その女の子は口をあてた。 永遠の盟約。 永遠の盟約だ。
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今さら、キャラメルのおまけなんか、いらなかったんだ。 いらなかったんだ、そんなもの。 (どうして?) おとなになるってことは、そういうことなんだよ。 (わからないよ) わからないさ。
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だってずっと子供のままだったんだから… みずかは。 キミは…。 (………) 長い時間が経ったんだ。 いろいろな人と出会って、いろいろな日々に生きたんだ。
アコたんズというよりは 「 お 座 り 自 己 厨 隊 」
ぼくはあれから強くなったし、泣いてばかりじゃなくなった。 消えていなくなるまでの4ヶ月の間、それに抗うようにして、ぼくはいろんな出会いをした。 乙女を夢見ては、失敗ばかりの女の子。 光を失っても笑顔を失わなかった先輩。 ただ一途に何かを待ち続けているクラスメイト。 言葉なんか喋れなくても精一杯気持ちを伝える後輩。
大人になろうと頑張り始めた泣き虫の子。 そして、そこでも、ずっとそばにいてくれたキミ。 駆け抜けるような4ヶ月だった。 そしてぼくは、幸せだったんだ。 (滅びに向かって進んでいるのに…?) いや、だからこそなんだよ。
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それを、知っていたからぼくはこんなにも悲しいんだよ。 滅びに向かうからこそ、すべてはかけがえのない瞬間だってことを。 こんな永遠なんて、もういらなかった。 だからこそ、あのときぼくは絆を求めたはずだったんだ。 …オレは。
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だれかアク禁依頼だしてきてくれ
どこまでもつづく海を見たことがある。 どうしてあれは、あんなにも心に触れてくるのだろう。 そのまっただ中に放り出された自分を想像してみる。 手をのばそうとも掴めるものはない。 あがこうとも、触れるものもない。 四肢をのばしても、何にも届かない。
水平線しかない、世界。 そう、そこは確かにもうひとつの世界だった。 そしてその世界には、向かえる場所もなく、訪れる時間もない。 でもそれは絶望ではなかった。 あれこそが永遠を知った、最初の瞬間だった。 大海原に投げ出されたとき、ぼくは永遠を感じる。
愚鈍なひろゆき諸君 ボクを規制してみたまえ ボクは荒らしが愉快でたまらない
だからぼくは、小さな浜辺から見える、遠く水平線に思いを馳せたものだった。 虚無…。 意志を閉ざして、永遠に大海原に浮かぶぼくは、虚無のそんざいだった。 あって、ない。 でもそこへ、いつしかぼくは旅だっていたのだ。 夕日に赤く染まる世界。
静止した世界。 べつに光景が止まっているわけじゃない。 光は動いているし、バイクの加速してゆくエンジン音だって聞こえる。 静止していたのは、それを見ている自分の世界だった。 真夜中、誰もが寝静まった中、遠くに犬の遠吠えや、バイクのエンジン音を聴くのに似ている。 そういうとき、ぼくは属する世界が違うという違和感を覚えるものだった。
愚鈍なひろゆき諸君 ボクを規制してみたまえ ボクは荒らしが愉快でたまらない
聞こえるのだけど、そこにはたどり着けない。 永遠、たどり着けない。 どれだけ歩いていっても、あの赤く染まった世界にはたどり着けないのだ。 それがわかっていた。 そこには暖かな人々の生活がある。 でもそこにはたどり着けないのだ。ぼくは。
ころころ…。 微かな音がした。 それは確かにこちら側の音だ。 (あそこには帰れないんだろうか、ぼくは) 訊いてみた。 (わかってるんだね、あそこから来たってことが)
愚鈍なひろゆき諸君 ボクを規制してみたまえ ボクは荒らしが愉快でたまらない
愚鈍なひろゆき諸君 ボクを規制してみたまえ ボクは荒らしが愉快でたまらない
愚鈍なひろゆき諸君 ボクを規制してみたまえ ボクは荒らしが愉快でたまらない
(それも、そんな気がしてた) (つまり、言いたいこと…わかる?) (わかるよ。よくわかる) ずっと、動いている世界を止まっている世界から見ていた。 一分一秒がこれほど長く感じられることなんてなかった。 もどかしいくらいに、空は赤いままだったし、耳から入ってくる音は、変わり映えしなかった。
違うな…。変わるはずがないんだ。 進んでいるようで、進んでいない。メビウスの輪だ。 あるいは回転木馬。リフレインを続ける世界。 (世界はここまでなんだね…) ぼくは彼女に言った。 (飽きたら、次の場所へ旅立てばいいんだよ)
愚鈍なひろゆき諸君 ボクを規制してみたまえ ボクは荒らしが愉快でたまらない
愚鈍なひろゆき諸君 ボクを規制してみたまえ ボクは荒らしが愉快でたまらない
愚鈍なひろゆき諸君 ボクを規制してみたまえ ボクは荒らしが愉快でたまらない
(……そうだね) ヘッドライトがヘッドライトを追ってゆく。 何度も見ている一定の距離感を置いて。 (いや…もう少しここにいるよ) (そう? そうだね…) ぼくは体を慣らすように、その光景に身を浸していた。
愚鈍なひろゆき諸君 ボクを規制してみたまえ ボクは荒らしが愉快でたまらない
急ぐ旅でもない。 ずっと、眺めていた。 また…悲しい風景だ。 (どうしてぼくは、こんなにも、もの悲しい風景を旅してゆくのだろう) (あたしにはキレイに見えるだけだけど…でも、それが悲しく見えるのなら、やっぱり悲しい風景なんだろうね) (ひとが存在しない場所だ)
(そうだね) (ひとが存在しない場所にどうしてぼくは存在しようとするのだろう。もっと、ひとの賑わう町中や、暖かい家の中に存在すればいいのに) (さあ…よくわかんないけど。でも、あなたの中の風景ってことは確かなんだよ) (つまりそれは…ぼくの心を風景に置きかえてみたときの姿なんだろうか) (だったら、少し悲しすぎる…?) (わからない)
(でも、こんな世界だからこそ、ぼくは求めたんだろうけどね) 帰れない場所。 もう、そこからはどこにもいけない場所。 すべてを断ち切った、孤立した場所にぼくは、ずっと居続けていたいんだ。 そして、そんななにもない、どこにも繋がらない場所で、ぼくはぼくを好きでいてくれるひとだけの存在を、もっと切実に大切に思うのだ。 きみと一緒にいられること。
愚鈍なひろゆき諸君 ボクを規制してみたまえ ボクは荒らしが愉快でたまらない
愚鈍なひろゆき諸君 ボクを規制してみたまえ ボクは荒らしが愉快でたまらない
愚鈍なひろゆき諸君 ボクを規制してみたまえ ボクは荒らしが愉快でたまらない
愚鈍なひろゆき諸君 ボクを規制してみたまえ ボクは荒らしが愉快でたまらない
愚鈍なひろゆき諸君 ボクを規制してみたまえ ボクは荒らしが愉快でたまらない
愚鈍なひろゆき諸君 ボクを規制してみたまえ ボクは荒らしが愉快でたまらない
★1月27日 水曜日★ ちゅんちゅんと鳥のさえずりが聞こえる。 今日も寒い朝だ。 俺は台所に行き、パンと熱いコーヒーで朝食を済ませる。 用を足した後に鏡に向かうが、案の定寝癖がついていた。 何度も直そうとするが、どうも上手くいかない。
結局直った頃には、もう出なければいけない時間となっていた。 急いで、歩いてゆく。すると… 【祐一】「おっと」 ふたつの流れが合流する角のところで、舞と佐祐理さんのふたりと鉢合わせになった。 【佐祐理】「おはようございますーっ」 【祐一】「………」
【舞】「………」 舞と俺が先を譲り合う形で、どちらも立ち止まっていた。 舞は、このまま歩き出すと俺と肩を並べてしまう、ということを気にしているようだった。 いつもは舞が先を歩いて、俺と佐祐理さんがその後を追いかける、という形だったからだ。 俺もその躊躇が目に見えてわかっていたから、わざと合わせてやろうと機を窺う。 【佐祐理】「ふぇ…?」
そんな俺たちを佐祐理さんがきょろきょろと見比べていた。 【佐祐理】「いかないんですか? 遅刻しますよ?」 【祐一】「あれ、そんなに遅かったっけ?」 【佐祐理】「だって、いつまでたっても…」 【舞】「………」 舞がその隙をついて歩き出した。
俺は先にいかせまいと、その前に出た。 ズガンッッ!! 俺と舞が勢いよく衝突し、しこたま頭をぶつけ合っていた。 【舞】「…祐一、痛い」 【祐一】「そりゃ、こっちのセリフだ…イタタタ…」 【佐祐理】「なにやってるんですか、ふたりとも」
【舞】「………」 舞は俺よりも復活が早く、すでに先を歩き出していた。 【祐一】「くそ、結局こうか…」 【佐祐理】「祐一さん、おはようございます」 舌を打つ俺へ、佐祐理さんが再び挨拶を投げかけていた。 【祐一】「…ああ、おはよぅ」
【佐祐理】「祐一さん、佐祐理の挨拶、さっき無視しましたね」 【佐祐理】「佐祐理は傷つきました」 【祐一】「えっ…」 その言葉に驚いて佐祐理さんの顔を窺う。 【佐祐理】「あははーっ」 笑っていた。
【祐一】「佐祐理さんに本気で嫌われてしまったかと、びっくりしたよ…」 【佐祐理】「大丈夫ですよ。祐一さんのことは、ずっと好きです」 【祐一】「いや、そう公言されても、恥ずかしいものがあるけど…」 【佐祐理】「で、結局こうか…ってなんのことですか?」 【祐一】「ん?…ああ、聞いてたのか」 【佐祐理】「聞いてますよ、なんだって」
【祐一】「いや、大したことじゃないよ」 【佐祐理】「言ってください、この佐祐理に」 珍しく先輩面をして、佐祐理さんは胸を張ってみせた。 【祐一】「舞がさ、いつもひとりで歩いてゆくだろ。それを言ってるんだよ」 【佐祐理】「ですよね。照れてるんですよ、舞は」 【祐一】「照れてないだろ、あれは。性分だろ」
【佐祐理】「だって、最近になってからですよ。ああなったのは」 【祐一】「そうだっけ?」 思い出してみるが、いつだって先を歩いていたような気がする。 俺の思い違いなのだろうか。 それとも佐祐理さんは、昔から俺が一緒に登校していたものと勘違いしているのかもしれない。 俺がふたりと共に登校するようになって、まだ十日ばかりしか経たない。
それでも俺だって、ずっと一緒に登校しているような気がしたから、そんな勘違いも無理はないと思った。 気づくと、佐祐理さんが、小走りに先をゆく舞を追いかけ始めていた。 【祐一】「佐祐理さんっ」 俺が呼ぶと、振り返って笑顔を送ってみせる。 【佐祐理】「佐祐理に任せてみてください」 嫌な予感がした。
>>95 たしかあれは500kB超えだとかでdat落ちさせられたんだ
案の定、佐祐理さんは舞に追いつくと、その背中で左右に揺れるお下げを両手でわっしと掴んでみせた。 そして、犬の首輪に繋いだ紐の要領で、舞に制動をかける。 【舞】「………」 じりじりと速度が落ち、舞と俺との距離が詰まる。 やがて、佐祐理さんの思惑どおり俺と肩を並べるまでになる。 【祐一】「よぅ」
俺が声をかけると、舞が途端に歩幅を大きくし、再び距離を引き離しにかかる。 【佐祐理】「わーっ」 佐祐理さんも一緒に引きずられていった。 どうやら、佐祐理さんの安易な作戦は失敗に終わったようだった。 【佐祐理】「それではーっ」 【祐一】「おうっ」
【舞】「………」 【祐一】「舞、また昼休みな」 こくり。 ………。 どうして授業はつまらないのだろう。 『え、マジかよ?』とか『普通、そこでそうくるかーっ!?』とか、声に出してしまうような意外な展開にはならないのだろうか。
楽しいかもしれないが、疲れそうだな…。 ………。 4時間目終了のチャイムと共にダッシュをかけて、学食へと急ぐ。 学食に着くと、何人かがもうパンを争っていた。 こいつらの授業はどうなってるのだろうか? それでも人数は少ないため、目的のパンを手に入れることができた。
俺の足は次なる目的の場所へと、自然に向いていた。 【祐一】「ようっ」 最上階の踊り場まで上がってくる。 【佐祐理】「こんにちはーっ」 佐祐理さんに迎えられ、俺はその場に腰を落ち着ける。 【舞】「………」
俺はもぐもぐとパンを頬張りながら、あることを思い出した。 【祐一】「そういやさ、佐祐理さん、舞としりとりやったことある?」 【佐祐理】「ええ。よくやってますよ」 【祐一】「なんだ、そうだったのか」 【佐祐理】「舞は、しりとり大好きなんだよね」 佐祐理さんの問いかけに舞はこくりと頷いていた。
【佐祐理】「でも、弱いんだよねーっ」 【祐一】「そうそう」 【祐一】「こいつってさ、絶対に動物の名前の後に、さん付けするから、すぐに自爆するんだよな」 【佐祐理】「あははーっ、舞らしいです」 【祐一】「………」 しかしよくよく考えてみれば、舞と佐祐理さんって、ふたりで居るときは一体何をして過ごしているのだろう。
336 :
_ :03/05/10 11:16 ID:???
俺が舞といるときは、飯を食っているか、夜の校舎で『奴ら』を待ち構えているかのいずれかである。 だから、遊ぶ、ということを知らない仲だった。 しかし佐祐理さんは、もう丸三年にもなる関係なんだから、俺みたいに意味のある時間の過ごし方ばかりではないだろう。 考え出すと、とことん不思議だった。 まさか、実際しりとりばっかして時間を潰しているわけではあるまい。 ■訊いてみる
■あらぬ想像を逞しくしてみる 【祐一】「ふたりで、家で遊ぶこととかあるの?」 【佐祐理】「ええ。佐祐理の家ではよく遊びますね」 【祐一】「………」 佐祐理さんの家で、ふたりが遊ぶ…
>>328 はぁ?
晒しスレLv20〜40の間のどれかの時代だぞ
舞が、普通の学生が興じるような遊戯なんかに興味を示すようには思えないけどな…。 【佐祐理】「ほら、舞。口、あーんして」 【舞】「あ…あーん…」 【佐祐理】「ほら、こっちもあーんしてるよ…」 【舞】「…誰か見てる」 【佐祐理】「え?」
【佐祐理】「あ、祐一さんっ」 【佐祐理】「祐一さんも、仲間に入りますかーっ?」 【祐一】「い、いや…俺は…」 【佐祐理】「あははーっ、いいですよ」 【佐祐理】「見てるだけじゃ、楽しくないですからね」 【佐祐理】「はい、来て下さい」
【祐一】「ぐ、ぐお…」 【佐祐理】「ねぇ、舞。佐祐理が、先に祐一さんとキスしていい?」 【舞】「………」 【舞】「…先に…させて」 【祐一】「やめてくれーーーっ!!」 【舞】「………」
舞が、タコさんウィンナーに箸を伸ばしたまま、止まっていた。 【舞】「………」 その箸を引く。 【祐一】「いや、食ってくれ。どうぞ」 【舞】「………」 再びタコさんウィンナーに箸を伸ばし、それを掴んで口に運んだ。
【佐祐理】「どうしたんですか、祐一さん」 【祐一】「俺を許してくれぃ」 想像の中で佐祐理さんに淫らな発言をさせてしまった自分が恥ずかしい。 昨日の授業中、いかがわしい本を読んでしまったせいだな…。 そのまま、登場人物にこの場の三人を当てはめてしまった。 【佐祐理】「……?」
にしても、佐祐理さんのお尻いい形してたよな。 ぽかっ。 俺は自分の頭をチョップして、ひとりツッコミをしておく。 【舞】「………」 舞が不思議そうに、その様子を見ていた。 【祐一】(「舞はひとりツッコミを修得した!」とかだったらヤだな…)
【祐一】「ふたりで、家で遊ぶこととかあるの?」 【佐祐理】「ええ。佐祐理の家ではよく遊びますね」 【祐一】「何して遊ぶの?」 【佐祐理】「目を離すといつも舞がいなくなってるんです」 【祐一】「え?」 【佐祐理】「だから、大体それを探して時間が過ぎますね」
【祐一】「なにやってんだ、おまえ」 舞の顔を見て、訊いてみる。 【舞】「…佐祐理の家は広いから」 【祐一】「家が広いって、そんな迷うほど広くはないだろ」 【舞】「…不思議な置物がたくさんあるから」 【祐一】「それに見入ってるうちに、佐祐理さんに置いていかれるのか?」
【舞】「…だと思う」 【佐祐理】「違うよ、舞」 【佐祐理】「舞が勝手にふらふら歩いていくんだよ」 【佐祐理】「この前だって、勝手にお父さんの書斎の大きな椅子で眠ってたじゃない」 【佐祐理】「お父さん、びっくりしてたんだよ」 【舞】「あれは…」
佐祐理に首輪付けて引き回せ
【舞】「寝心地が良さそうだったから…」 【祐一】「んなもんがいいわけになるかっ」 【祐一】「大体、招かれてもいない部屋に入ること自体、悪い」 【舞】「…わかった」 【舞】「もぅ、佐祐理の家にいかない…」 【佐祐理】「舞、べつに怒ってるんじゃないよ?」
【佐祐理】「佐祐理、隠れん坊してるみたいで、楽しいし。どんどん隠れていいよ」 【舞】「隠れん坊?」 【佐祐理】「そう、隠れん坊」 【舞】「…隠れん坊」 【佐祐理】「お父さんの椅子だって、欲しかったらあげるし」 【舞】「…いらない」
【佐祐理】「ただ、お父さんの書斎に黙って入るのはよして欲しいなあって」 【舞】「…わかった。入らない」 機嫌を損ねかけた舞だったが、そこはやはり佐祐理さんである。 持ち前の人なつっこさで、舞を宥めつつ注意だけ促すことに成功していた。 確かにその様を見ていると、ふたりが仲違いをしてしまうなど、想像もつかないことだった。 【佐祐理】「ではーっ」
【祐一】「おうっ」 【舞】「………」 ふたりと別れ、昼休みが終わる。 毎度おなじみのつまらない授業中。 だが、この時間は結構楽しんでいる。 先生が授業内容から脱線した話をするからだ。
とは言え、しわ寄せがテスト寸前になってくるのだから、恐ろしい。 でも、今が楽しければいいか。 チャイムが鳴り、今日の授業が全て終了したことを伝える。 気怠さを一伸びでどこかに放り投げ、俺は中庭へと向かった。 びゅっ…びゅっ… 俺は木刀を振りながらも、それに集中できないでいた。
夕べの舞の言動が引っかかっていたのだ。 舞は、あの時、空振りをしてみせてから、そして攻撃を一切やめてみせた。 そして最後に… 「…何を見ていたの」 か…。 舞は何を言いたかったのだろう。
■よけることの大切さ ■先手を打つことの大切さ ■相手を思いやる心の大切さ そうか。 あれは、前日の俺の置かれた状況をトレースしていたんだな。
一撃目を、わざと空振りさせたのもそのためだったのだ。 あの時、舞は相手が手負いと知ると、俺に正解を見せるための戦いに変えていたのだ。 【祐一】「ん…」 と、そのとき視界の隅で、何かが陽を受けて鈍く光った。 俺はとりあえず、前方へと跳んだ。 どすっ。
重い音がして、俺の先ほどまで居た場所に消火器が落ちていた。 【舞】「…よけられた」 投じた本人、舞が驚いたように立っていた。 【祐一】「これで免許皆伝か、お師匠」 【舞】「…偶然」 【祐一】「違うっ、ちゃんと見てよけてただろっ!」
【祐一】「自分で教えておいて、信じろよなぁっ」 【舞】「………」 舞の目の色が変わる。 さくっ。 そして手に持っていたものを、地面に打ちつけた。 それは竹刀だった。
【祐一】「消火器の次は、実践訓練ってわけか」 【祐一】「いいぜ、手加減しないでこいよ」 相手は竹刀だ。本気で打たれたとしても、大した怪我にはならないだろう。 でも俺の手に納まってるものは、木刀だったから、寸止めが必要だ。 互い剣を構え、わずかに立ち位置を変えながら、相手の出方を窺う。 【祐一】「………」
一分後には、俺は大の字で地面に寝転がっていた。 脳天に稲妻が落ちたような衝撃の後、目を開けてみればそうなっていたのだ。 【舞】「…祐一、大丈夫」 一面空だった視界に、舞の顔がひょこっと現れた。 【祐一】「ああ…なんとかな」 【舞】「…そう」
舞は俺の頭の先にしゃがみ込むと、俺が立ち上がるまでそこで待っていた。 視線をずらせば下着ぐらい見えそうな位置だったから、俺のほうが恥ずかしくなって、仕方なしに体を起こした。 【舞】「…もう動けるの」 【祐一】「ああ、あんまり時間もないしな。もう一度、手合わせ頼むよ」 【祐一】「…今度は、少し手加減して」 【舞】「………」
こくりと頷いて、再び舞が竹刀を構えた。 そうか。 あれは、俺に先手を打つことの大切さを教えるための戦い方だったのだ。 あの時、舞は相手が手負いと知ると、俺に正解を見せるのための戦いに変えていたのだ。 【祐一】「ん…」 と、そのとき視界の隅で、何かが陽を受けて鈍く光った。
俺はすぐさま実践に取り組んだ。 先手必勝。手の木刀を飛来物に対して打ちつけた。 ボオォオオオオオンッ! 【祐一】「どわっ!」 大爆発。 それは、またも消火器だったようである。
【祐一】「ごほっ…!」 【舞】「また爆発させたの…」 流れてゆく白い煙の向こうに、呆れたような舞の顔があった。 【舞】「…祐一」 【祐一】「なんだよ」 【舞】「剣を捨てたほうがいい」
【祐一】「どうして」 【祐一】「今だって木刀がなければ、俺は大怪我をしてたぜ?」 【舞】「まだわからないの」 【祐一】「わかんないよ、舞の言い方じゃ」 【舞】「じゃあ、体で覚えてみる」 舞の目の色が変わる。
さくっ。 そして手に持っていたものを、地面に打ちつけた。 それは竹刀だった。 【祐一】「消火器の次は、実践訓練ってわけか。いいぜ、手加減しないでこいよ」 相手は竹刀だ。本気で打たれたとしても、大した怪我にはならないだろう。 でも俺の持つ獲物は、木刀だったから、寸止めが必要だ。
互い剣を構え、わずかに立ち位置を変えながら、相手の出方を窺う。 【祐一】「………」 一分後には、俺は大の字で地面に寝転がっていた。 脳天に稲妻が落ちたような衝撃の後、目を開けてみればそうなっていたのだ。 【舞】「…祐一、大丈夫」 一面空だった視界に、舞の顔がひょこっと現れた。
【祐一】「ああ…なんとかな」 【舞】「…そう」 舞は俺の頭の先にしゃがみ込むと、俺が立ち上がるまでそこで待っていた。 視線をずらせば下着ぐらい見えそうな位置だったから、俺のほうが恥ずかしくなって、仕方なしに体を起こした。 【舞】「…もう動けるの」 【祐一】「ああ、あんまり時間もないしな。もう一度、手合わせ頼むよ」
【祐一】「…今度は、少し手加減して」 【舞】「………」 こくりと頷いて、再び舞が竹刀を構えた。 そうか。 あれは、俺に相手を思いやる心の大切さを教えるための戦い方だったのだ。 ぜんぜん違うような気もするが、なぜだかそう思うぞ。
【祐一】「ん…」 と、そのとき視界の隅で、何かが陽を受けて鈍く光った。 俺はすぐさま実践に取り組んだ。 相手を思いやる心。 俺は両腕を広げ、その飛び込んでくるものをこの胸に抱いてやろうと思った。 ずがんっっ!
【祐一】「………」 気づくと、俺は大の字で地面に寝転がっていた。 脳天に稲妻が落ちたような衝撃の後、目を開けてみればそうなっていたのだ。 【舞】「…祐一は馬鹿」 一面空だった視界に、舞の顔がひょこっと現れた。 【祐一】「バカとはなんだ、このやろう。消火器投げつけておいてからに」
【舞】「それに頭突きするなんて」 【祐一】「いや、頭突きするつもりはなかった。抱きしめてやろうとしただけだ」 【舞】「…馬鹿」 よくよく考えてみると、自分でも馬鹿に思えてきた。 【祐一】「咄嗟だったからな…気が動転したんだよ…」 【舞】「…祐一はもう戦わないほうがいい」
【祐一】「なんでだよ、ここまできて…」 【舞】「…実戦ではたんこぶぐらいでは済まないから」 【祐一】「そうかも知れないけどさ…俺だって戦いたいんだよ」 まだズキズキと痛む頭を手で押さえながら、俺は起きあがる。 【舞】「まだわからないの」 【祐一】「わかんないよ、舞の言い方じゃ」
【舞】「じゃあ、体で覚えてみる」 舞の目の色が変わる。 さくっ。 そして手に持っていたものを、地面に打ち付けた。 それは竹刀だった。 【祐一】「消火器の次は、実践訓練ってわけか。いいぜ、手加減しないでこいよ」
相手は竹刀だ。本気で打たれたとしても、大した怪我にはならないだろう。 でも俺の持つ獲物は、木刀だったから、寸止めが必要だ。 互い剣を構え、わずかに立ち位置を変えながら、相手の出方を窺う。 【声】「あー、舞ーっ、こんなところに居たんだぁっ」 【祐一】「だぁっ…」 そこへ場にそぐわない、脳天気な声。
佐祐理さんだった。 【佐祐理】「あれ? ふたりで同好会でも作るんですか?」 互いの獲物を構え合っている俺と舞を見比べながら、佐祐理さんがそう続けた。 【祐一】「あ、いや…これは…」 【舞】「………」 【佐祐理】「これだったんだ、最近ふたりでコソコソしてたのは」
相手は竹刀だ。本気で打たれたとしても、大した怪我にはならないだろう。 でも俺の持つ獲物は、木刀だったから、寸止めが必要だ。 互い剣を構え、わずかに立ち位置を変えながら、相手の出方を窺う。 【声】「あー、舞ーっ、こんなところに居たんだぁっ」 【祐一】「だぁっ…」 そこへ場にそぐわない、脳天気な声。
【佐祐理】「楽しそう。佐祐理も仲間に入れて欲しいなぁ」 ■入れてやる ■舞に訊く 【祐一】「よし、入れてやろう」 ぽかっ。
【舞】「…勝手に決めない」 舞が後ろから俺を小突いていた。竹刀だったから、かなり痛かった。 【舞】「…遊びじゃない」 舞が佐祐理さんに目を向けて言っていた。 【祐一】「そう言われてもなぁ、舞…?」 【舞】「…遊びじゃない」
【祐一】「そう、遊びじゃないんだ、佐祐理さん」 【佐祐理】「佐祐理も遊ぶつもりはないですよ。真剣にやります」 【祐一】「だってさ、舞」 俺は口ごもるだけで、舞に振るしかなかった。 佐祐理さんの申し出を断るなど俺にはできそうもない。 【舞】「…佐祐理には向いてない」
【佐祐理】「そんなことないよ。こう見えて佐祐理、運動神経いいし」 【舞】「………」 舞の顔がこちらへ向いた。 【舞】「…祐一、剣を貸して」 【祐一】「え? どうするんだ?」 【舞】「いいから」
俺は手の木刀を舞に渡す。 【舞】「…佐祐理、今だけ貸すから」 そしてその木刀を佐祐理さんの目の前の地面に投げた。 【佐祐理】「あっ、入れてくれるの?」 佐祐理さんの顔がぱっと綻んだ。 【舞】「…試験」
【佐祐理】「え?」 俺と佐祐理さんの声が重なった。 【舞】「戦うの」 【佐祐理】「舞と?」 【舞】「………」 こくり。
【佐祐理】「よーしっ、負けないからっ」 佐祐理さんは嬉々として剣を拾い上げた。 …知らないのだ、佐祐理さんは。 舞の剣技を。 思い出せばいいんだ。あの野犬との一戦を。 そうしたとしても、わかるわけないか…。
>>Jude-a 4nd コピペのくせに貼るの遅すぎ('A`)
佐祐理さんは普通の女の子なんだもんな。 カーーンッ! 瞬きした後には、佐祐理さんの手から木刀は消えていた。 【舞】「このまま去るもよし、丸腰で抗うもよし…」 【舞】「…その場合の無事は保証できないけど」 【佐祐理】「………」
佐祐理さんはどう反応すればよいかもわからずに呆然と立ちつくしている。 【佐祐理】「邪魔かな…佐祐理…」 ぽつりと呟いた。 【舞】「…邪魔」 俺がフォローの言葉を挟む間もなく、辛辣な返答が佐祐理さんの耳に届いていた。 【佐祐理】「ふぇ…」
【佐祐理】「ごめんね、舞」 【佐祐理】「もうここには来ないから。祐一さんも、ごめんなさい」 ぺこっと頭を下げて、走り去る。 【舞】「………」 【祐一】「………」 【舞】「………」
【祐一】「…なにやってんだろうな、俺たちは」 【舞】「…戦い」 【祐一】「そうなんだけどな…」 がりがりと頭を掻いた。なんて続ければいいかわからなかったからだ。 複雑だった。 【舞】「………」
基地外をどうにかしてくれ、マジで
【舞】「祐一は佐祐理の左手のことを知ってるの」 【祐一】「え…いや…」 【舞】「…手首に深い傷の跡があるの」 【祐一】「そうなのか…? 知らなかったよ…」 【舞】「私のせいなの」 【祐一】「………」
【舞】「私のそばにいるから、傷ついてゆく…」 【祐一】「………」 【祐一】「舞は…佐祐理さんのこと、好きか?」 【舞】「………」 こくり。 【祐一】「自分の口で言ってみろよ」
【舞】「………」 【舞】「…私は佐祐理のことが好き…」 【舞】「…大好き」 【祐一】「ならいいよ。舞は正しいことをしたと思う」 【祐一】「相変わらず不器用だけどな」 【舞】「………」
いれるなら早く挿れろよ
【祐一】「早く終わらせような。そして、思いっきり遊ぼう、三人で」 【祐一】「舞はどこか、いきたいところ、あるか?」 【舞】「動物園いきたい」 【祐一】「動物園か…」 【祐一】「そうだな。いいな」 同年代の女の子といくには動物園という場所は物足りないかもしれなかった。
でも舞や佐祐理さんとなら、絶対楽しいに違いない。 だって、俺たちは弁当を食っているだけでも楽しかったのだ。 三人揃って退屈する場所なんて、この世界のどこにもない。 そんな気がした。 そろそろ筋肉痛が厳しくなってきた。 帰りがけ、何回か肩を回してみると鈍痛が走る。
レス飛びまくってるけど、何かあったの? とありがちなレス付けてみる
出来るだけ休もうと心に決め、家へと着いた。 夕食後、束の間の休憩をとった後、再び学校へと向かう。 夜の校舎。 昼とは全く違う顔を持っている校舎は、魔物の住む場所。 狩人である俺たちは夜食を食べ終えた後、いつものように背中合わせに立っていた。 【祐一】「しかし、順調だよな」
【祐一】「どうして、あんな奴らに三年間も手こずっていたんだ?」 【舞】「…手負いとなっても回復が早いから」 【祐一】「にしても、こうやって連日待ち伏せていれば、それだって無意味になるだろ?」 【舞】「…連日現れたことはない」 その言葉で思い出す。 【祐一】「そういえばそうだったな…」
魔物が頻繁に現れるようになったのは、俺が夜に訪れるようになってからだ。 以前にも舞は、俺がいることで魔物がよくざわめく、と言っていた。 魔物としても、第三者の介入で慌てているのだろう。 それまでは、夜の校舎で気の遠くなるような時間を、舞はひとり過ごしていたのだ。 【祐一】「………」 それを思い、俺は舞を哀れみの目で見てしまう。
なんて、三年間だったのだ、と。 どんな偶然で魔物の存在を知って… そしてどんな経緯で自らにその討伐を課したのかはわからなかったが、もう過ぎてしまったものは仕方がない。 早く終わらせよう。 その一心だった。 【祐一】「佐祐理さんのほうは、大丈夫だったか?」
【舞】「…なにが」 【祐一】「なにがって、機嫌損ねてただろう?」 【舞】「…けろっとしてた」 【祐一】「そう見えるだけだろう。佐祐理さんの性格はよくわかってるよ」 【祐一】「絶対に周りに心配かけないようにして、いつだって笑ってるんだよな」 【祐一】「おまえとは違って」
【舞】「………」 おまえとは違って、は余計だっただろうか。 【舞】「…佐祐理は親友だから」 それだけを言って、舞は口をつぐんでしまう。 おまえなんかに心配される筋合いはない、ということかも知れない。 【祐一】「………」
何か重苦しい空気が流れていた。 べつにそれは魔物とは関係ない。 【舞】「………」 【舞】「…祐一も親友だから」 その空気を悟ってか、舞がぽつりと呟いていた。 【祐一】「ああ、わかってるよ」
俺もそれに応えて、背中の舞に頭をぶつけてやる。 【舞】「…祐一、痛い」 【祐一】「おまえ、背、高いよな」 【舞】「…よくわからない」 【祐一】「自分の身長ぐらい、把握しておけ」 その夜、魔物が現れることはなかった。
もしそれが奴らの回復を待つものだとしたら、それほど歯がゆいものはない。 俺たちに先手を取ることは、許されていないのだから。 寒風が厳しい道を、急ぎ足で帰る。 明日も現れるかどうかわからない。 いつ終わるかわからない戦いに疲れて、俺はいつしか眠っていた。 ★1月28日 木曜日★
窓を開けて、冬空を望む。 今日もいい天気だった。 澄んだ空気で深呼吸をして、俺は学校に行く用意を始めた。 いつも通りの時間。 角から現れたのは、舞、ひとりだけだった。 俺はふたり一組で探していたから、最初それが舞と気づかずに無視してしまっていた。
窓を開けて、冬空を望む。 今日もいい天気だった。 澄んだ空気で深呼吸をして、俺は学校に行く用意を始めた。 いつも通りの時間。 角から現れたのは、舞、ひとりだけだった。 俺はふたり一組で探していたから、最初それが舞と気づかずに無視してしまっていた。
俺が無視すると、舞から俺に声をかけるということもない。 だから、舞も目の前で突っ立っていたのだ。 【舞】「………」 【祐一】「………」 【舞】「………」 【舞】「………」
【祐一】「………」 【舞】「………」 【祐一】「………」 【舞】「………」 【祐一】「いるなら、早く言えっ」 ぽかっ、と顔面をチョップしてやった。
【舞】「…気づかない祐一がおかしい」 確かに。 【祐一】「で、佐祐理さんは」 【舞】「日直」 【祐一】「本当か?」 【舞】「…そう言ってた」
【祐一】「まあ、昨日の今日だからな」 昨日の放課後、舞は佐祐理さんに対して『邪魔』と辛辣にも言ってのけているのだ。 【祐一】「もしかしたら…」 【祐一】「俺たちと顔を合わせたくなくて、嘘をついて先にいったのかもしれないぜ?」 【舞】「………」 そのあたりの可能性というのは、一番仲のいい舞にしか推し量れないところだと思う。
【舞】「…遅刻する」 【祐一】「おっと、そうだったな」 ふたりきりと言っても、今は夜の校舎ではない。 一分一秒を大事とする登校の最中である。 登校する生徒の波に混じって歩き出す。 【祐一】「おまえ、佐祐理さんに会ったら、フォロー入れておけよ」
【祐一】「俺から言ったって無駄だろうからさ」 【舞】「…フォロー?」 【祐一】「そう、フォローを入れるんだ」 【祐一】「間違えて、チョップとか入れるなよ。さらに険悪になるぞ」 【舞】「…必要ない」 【祐一】「どうしてだよっ」
【舞】「佐祐理のためだから」 【祐一】「そりゃわかってるけどさっ…」 舞も融通というものが利かない人間だった。 学校に辿り着くまでの間、どう説明しようが、舞を頷かせることはできなかった。 【舞】「………」 【祐一】「じゃあな」
こくり。 ………。 朝から佐祐理さんの笑顔を拝めなかったためか、調子が悪い。 ったく、早く仲直りしてもらいたいものだ。 ………。 午前中の授業を終え、学食、さらにそこから最上階の踊り場へ。
【舞】「………」 【祐一】「………」 【舞】「………」 【祐一】「…はぁ」 その場には、いつかのように舞がひとりでちょこんと座っているだけだった。 【祐一】「やっぱり、避けられてるじゃないか、おまえ」
【舞】「…避けられてない」 【祐一】「だって、いないじゃないか、佐祐理さん」 【舞】「…弁当はあるから」 どん、と手元にあった四段積みの弁当箱を中央に置き直した。 【祐一】「いや、それが避けられてる、ってことだって」 【舞】「…先に食べていてって」
【祐一】「佐祐理さんはきっとこないよ」 【舞】「…忙しそうだったから」 【祐一】「それも口実だって」 【舞】「…日直だから」 【祐一】「怪しいな」 【舞】「………」
424 :
ネトゲ廃人@名無し :03/05/10 11:29 ID:4ybMLFkD
【祐一】「ほら、探しにいこうぜ」 弁当箱の蓋を開けようとしていた舞を俺は制止する。 【祐一】「ふたりで呑気に食ってる場合じゃない」 【舞】「…大丈夫だから」 朝と同じ言葉を舞は繰り返した。 【祐一】「大丈夫じゃないだろっ。おまえが邪魔だって言うからじゃないか」
【祐一】「佐祐理さんはきっとこないよ」 【舞】「…忙しそうだったから」 【祐一】「それも口実だって」 【舞】「…日直だから」 【祐一】「怪しいな」 【舞】「………」
【祐一】「だから、俺とおまえが居合わす場所には顔を出さないようにしてるんじゃないか」 【舞】「………」 【祐一】「おまえがいかないのなら、俺がひとりで話をしてくるよ」 そう言って、俺は階段を降りる。 【祐一】「いかないのか」 その途中で、まったく動こうとしない舞を振り返る。
【舞】「………」 【舞】「…佐祐理の邪魔になる」 【祐一】「邪魔邪魔って…おまえの友情ってのはそんなもんだったのかよっ」 俺は呆れて、もうそれ以上は舞に構わないことにした。 【祐一】「佐祐理さんのクラスは」 それだけを聞いて、その場を後にした。
上級生の教室というものは、なんだか緊張するものである。 制服のポイントの色で学年がわかるから、俺は明らかに下級生だとわかる。 上級生からしてみれば、こんなところにその下級生が何用だ、と不穏に思うことだろう。 自分の教室に下級生が入ってきたら、そう思う。 俺は舞に教えられた教室のドアの前に立ち、中を覗いてみる。 だが、そこに佐祐理さんの姿はなかった。
仕方なく、前を行き過ぎようとした女生徒に話かける。 【祐一】「あの、すいません」 【女生徒】「え?」 【祐一】「えっと…」 佐祐理さんの名字ってなんだったっけ… ■倉田
■山倉 ■ブッシュ斉藤 【祐一】「倉田さん、どこにいるか、しらないですか」 【祐一】「山倉さん、どこにいるか、しらないですか」 【女生徒】「山倉…?」
【女生徒】「ウチのクラスにはそんなひといないけど?」 しまった。山倉は、元巨人のMVPキャッチャーだった。 って歳いくつなんだ、俺は。 【祐一】「倉田さん、どこにいるか、しらないですか」 思い出して、そう訊く。 【祐一】「ブッシュ斉藤さん、どこにいるか、しらないですか」
って、誰だよ、それっ。 【女生徒】「あ、ブッシュ斉藤さん?」 って、居るのかよっ! 【女生徒】「そんな、あだ名の子が、小学生のとき居たような…」 【祐一】「いや、もう思い出さなくていいです」 【女生徒】「そう?」
そんなあだ名を付けられるとは可哀相な子である。 恐らくコーラの空きビンでも拾ったのだろう。 【祐一】「倉田さん、どこにいるか、しらないですか」 思い出して、そう訊く。 【女生徒】「倉田さん?」 【女生徒】「昼休みはいつもいないから、わからないけど、学食でお昼でも食べてるんじゃないの?」
【祐一】「いや、それが見あたらなくて…」 【女生徒】「あ、そっか。日直だったから、その仕事してるのかも」 【祐一】「どこにいるか、わからないですか?」 【女生徒】「さあ、わからないわ」 【祐一】「そうですか。すみません」 一礼して、その場を去る。
日直の仕事ということは職員室とか、次の教科の資料室とか、そういう場所なのだろう。 となると、実際忙しいのだろうし、見つけたとしても長話はできないだろう。 俺は諦めて舞のもとに戻ることにした。 【舞】「………」 踊り場では、舞が弁当にまだ手をつけないで、待っていた。 【祐一】「なんだ、先に食ってればよかったのに」
【舞】「…そういうわけにもいかないから」 ようやく、弁当の蓋を開けて、箸をとった。 実際、俺は舞と佐祐理さんのことで奔走しているわけだし、舞にもそれがよくわかっているのだろう。 【舞】「………」 舞は俺が佐祐理さんとどんな話をしてきたか、気にならないのだろうか。 【祐一】「佐祐理さん、やっぱ俺たちのこと、避けてるってさ」
【舞】「………」 舞が箸を止めて、俺の顔を見ていた。 【祐一】「………」 【祐一】「…と、俺は思っているだけで、佐祐理さんはいなかった」 ぷしっ。 箸で眉間を刺される。新しい突っ込みだった。(ただ箸を置くのが面倒だっただけだろうが)
【祐一】「とりあえず佐祐理さんが本当に日直で忙しい、ということだけはわかった」 【舞】「…最初から言っている」 【祐一】「おまえは鈍感だから、信用できなかったんだよ」 【舞】「………」 【祐一】「とにかく、俺は佐祐理さんと話をしてみる」 【祐一】「だから、放課後の練習はナシな」
【舞】「………」 ようやく、俺たちは遅い昼食にとりかかる。 そして、日直の仕事がそんなに忙しいのか、結局佐祐理さんが昼休みのうちに現れることはなかった。 5時間目が終了したときのことである。 【声】「祐一さんっ、ちょっといいですかっ」 ノートを片づけていたところに、声をかけられる。
名雪にしては口調がヘンだな、と思って顔をあげる。 【祐一】「ぐあっ…」 【佐祐理】「あははーっ」 佐祐理さんだった。 このひとにかかれば、一度入った教室は例え学年が違えど、自分のクラス同然なのだろう。 断りもなく、教室の最深部、俺の席の真ん前に立っているのである。
【祐一】「出ようっ」 俺は慌てて、その佐祐理さんを廊下に連れ出す。 【佐祐理】「佐祐理は教室の中でも良かったんですけど」 【祐一】「俺が良くないっ」 【佐祐理】「そろそろ、祐一さんのお友達にも顔を覚えて頂いた頃だと思ってたんですけどね」 【祐一】「覚えられなくていいっ」
【佐祐理】「そうですか?」 【祐一】「そうですっ」 一度、教室を教えたが最後なのかもしれない。 【祐一】「それで、どうしたの? 俺も佐祐理さんに話があったところなんだけど」 【佐祐理】「あ、祐一さんも知っていたんですね。さすがですねーっ」 佐祐理さんはひとりで的を射たように言っているが、俺には何のことを言っているかさっぱりわからない。
【佐祐理】「じゃあ、一緒に見にいきましょうよ」 【祐一】「よし、いこう」 なんだか知らないが、佐祐理さんのお誘いなら断る理由もない。 【佐祐理】「それとも、祐一さんは、もう決めてあったりして」 【祐一】「いや、決まっていないと思う」 【佐祐理】「そうなんですか? じゃ、よかったです」
【佐祐理】「佐祐理も決まってないんです」 【佐祐理】「だから祐一さん、ふたりでひとつのものにしませんか?」 【祐一】「それはいいかもしれない」 【佐祐理】「でしょう?」 なにやら適当に答えているうちに、勝手に話が進行してしまっている。 【祐一】「で、なんの話なんだ?」
【佐祐理】「ふぇ?」 【佐祐理】「誕生日の話じゃないですか」 【祐一】「え? 佐祐理さんの? そりゃめでたい」 【佐祐理】「違います。舞のです」 【祐一】「舞? それもめでたい」 【佐祐理】「それで一緒にプレゼントを買いにいきませんか、って話をしてるんじゃないですか」
【祐一】「あ、そうだったのか」 ようやく俺も話を理解する。 【佐祐理】「別々に渡すより、そのほうがいいものをあげられると思いますし、舞も喜んでくれると思うんです」 そう言ったところで、チャイムが鳴り始める。 【佐祐理】「じゃあ、今日の放課後、舞に内緒で買いにいきましょうね」 【祐一】「ああ、了解」
手を振って、俺たちは別れた。 ただ、俺は恥ずかしいばかりだった。 俺も佐祐理さんに話があるはずだったが、そんなものはもうどうでもよかった。 いくら舞に辛辣に扱われようが、結局佐祐理さんは舞のことが好きなのだ。 あんなことぐらいで三年間で築いた絆はびくともしない。 それが今の佐祐理さんとの話でよくわかった。
いや、そんなことはずっと前からわかっていたはずなのだ。 でも少し、ほんの少しだけ疑念を抱かせる材料が揃ってしまったから、俺はそのままに疑ってかかってしまった。 【祐一】(これじゃあ、親友失格だな) 謝罪の意味も込めて、舞のプレゼント選びで、張り切ってやろうと思った。 6時間目の授業が終わると、俺は乱暴に鞄をひっ掴み、即座に教室を後にした。 【佐祐理】「わっ…」
すると、入れ替わりに教室に踏み込もうとしていた佐祐理さんが、飛び出してきた俺を見て声をあげていた。 【祐一】「…いこうぜ、佐祐理さん」 【佐祐理】「はいっ」 結局今日は佐祐理さんに付き合うこととなった。 どちらにしろ、放課後は佐祐理さんと話をする、と考えていたから、結果的には同じだった。 剣の訓練はお流れになったが、舞には昼休みに伝えてあるので、消火器を持ったまま中庭で待ち続けることもないと思う。
…多分。 【祐一】「にしても、なにが嬉しいんだろうな」 商店街に辿り着くと、当然のようにその話題を持ち出してみる。 【佐祐理】「なにをあげても喜んでくれますよ」 【祐一】「なにをあげても素のまま、という気がするが…」 【佐祐理】「はい?」
【祐一】「いや…。去年は何あげたんだ、佐祐理さん」 【佐祐理】「去年はオルゴールです」 【佐祐理】「小さなブタさんがたくさん飛んでいる、可愛いオルゴールです」 【祐一】「ブタが飛ぶ?」 【佐祐理】「はい。天使のブタさんなんですよーっ」 【祐一】「………」
頭の中で想像してみるが、可愛らしいとはとても呼べない代物になってしまった。 実際は売り物であるのだから、それなりのものではあるのだろう。 【祐一】「…で、喜んでくれたのか?」 【佐祐理】「はい。とっても」 【祐一】「かといって、『キャーッ、ウレシーッ!』とか言いはしなかっただろう?」 【佐祐理】「ありがとう、って言ってくれました」
【祐一】「そりゃ礼ぐらいは言うだろう。それのどこが『とっても』なんだ」 【佐祐理】「それが舞の精一杯の誠意なんですよ」 【祐一】「そうなのか?」 【佐祐理】「その証拠に佐祐理の誕生日には、山ほどの花束を抱えて家まで持ってきてくれました」 【祐一】「へぇ…」 【佐祐理】「本当に山ほどなんですよ」
佐祐理さんは大きく手を広げて見みせる。 【佐祐理】「だから前が見えなくて、途中、何度も電柱にぶつかってきたそうです」 【佐祐理】「鼻が真っ赤でした」 【祐一】「あいつはアホか…」 【佐祐理】「でもそれが誠意なんですよ。普通の人じゃ叶わないほどの誠意なんです」 【祐一】「確かにな。それはわかるよ」
俺はそんな舞の不器用な姿を思い浮かべて、思わず苦笑してしまう。 【佐祐理】「うわべだけで喜んでいるひとよりも、よっぽど嬉しいんです、舞は」 【祐一】「じゃあ、俺たちが贈りたいものを贈るのが一番ってわけか」 【祐一】「すべては誠意、ってわけだからな」 【佐祐理】「そういうことです」 【祐一】「何をあげたい?」
【佐祐理】「そうですねぇ……祐一さんは?」 【祐一】「研ぎ石」 【佐祐理】「はい?」 【祐一】「いや、冗談だから聞こえなくていい…」 【佐祐理】「うーん、どうしましょう…」 【祐一】「ここは思いっきり女の子らしいものがいいな」
【佐祐理】「そうですね」 【祐一】「ぬいぐるみだ。それもこの商店街で一番デカい」 【佐祐理】「わかりました」 【祐一】「いいのか?」 【佐祐理】「いいですよ」 【祐一】「じゃあ、手分けして探そう。商店街は広いからな」
荒らしてる奴はこいつかとおもわれ
エロゲオタだし理論にかなう
810 名前: また名無しかよ 投稿日: 2003/05/09(金) 16:27 [ YKgLoQRo ]
http://202.212.144.43/cgi-bin/0/hbbs.cgi?bbs=iris&page=1&num=30995 もう一つ面白いのを発見した
814 名前: また名無しかよ 投稿日: 2003/05/09(金) 17:56 [ ou7UXl0Q ]
Tukimiya AyuはBOTerでほぼ間違いないだろ・・・
そこの取引BBSでも横槍入れられてるが、以前からプロ十字路で子デザC、枝、エルダC
猫耳など大量に売ってるの見たしな。
さらにビタタCを売れてるにも関わらず5日連続で露店に置いてあったを見た。
必死で言い訳してるが無理ありすぎなのにはワラタ。
【祐一】「佐祐理さんはそっちな。俺はこっち側の店を回るから。30分後に集合」 【佐祐理】「はい」 【祐一】「じゃあ、解散っ」 ………。 ……。 …。
30分後… 【祐一】「なるほど…これはデカいな…」 【佐祐理】「でしょう?」 【祐一】「でもなんだかわからないぞ…」 【佐祐理】「ですねぇ」 【祐一】「俺の見つけたぬいぐるみは、これより一回りは小さいが、間違いなくキリンとわかる代物だった」
【祐一】「しかし…これはなんだ?」 【佐祐理】「さぁ…」 大体、店構えからして謎で、なんの店かよくわからない。 骨董品やら、おもちゃやらごちゃ混ぜなのである。 【祐一】「可愛くないな…キリンにしようか」 【声】「待たれよ」
突然すぐ背後で声がして、俺は飛び退くように後ろを振り返った。 【老人】「アリクイじゃよ」 小さなお年寄りだった。恐らくここの店主なのだろう。 【老人】「中でも約1.5メートルの馬鹿でかい図体を誇るオオアリクイじゃな」 【老人】「大きな爪でアリの巣を掘りおこし…」 【老人】「ミミズのような形の長い舌を出して、アリやシロアリをぺろぺろむしゃむしゃと仰山食べよる」
【老人】「どうじゃな、可愛かろう?」 【祐一】「今言ったセリフのどこに可愛く思える要素があるんだ」 【老人】「そうか、残念じゃな」 【老人】「どのような若者にも愛されないとは、不遇な時代にぬいぐるみとされたもんじゃ…」 【祐一】「文句はこいつを作ったメーカーに言ってくれ」 【祐一】「大体こんな不気味な生き物を実物大で作るほうがオカシイんだ」
【祐一】「佐祐理さん、いこうぜ」 【佐祐理】「待って、祐一さん」 立ち去ろうとした俺を呼び止めた後、佐祐理さんは腰を低くして、背の低い店主の老人と顔を突き合わせた。 【佐祐理】「あの、おじいさん」 【老人】「なんじゃな」 【佐祐理】「このぬいぐるみって、そんなに人気ないんですか?」
【老人】「ああ、ないよ。まったくない。哀れなほどない」 【佐祐理】「はぇ〜…可哀想ですねぇ」 【祐一】「おい、佐祐理さん…まさか…」 【佐祐理】「これにしましょう、祐一さんっ」 【祐一】「ぐぁ…本気か、佐祐理さん」 【佐祐理】「大丈夫ですよ」
【佐祐理】「どんな子だって、可愛がってあげられますよ。舞なら」 【祐一】「ほんとかぁ?」 【祐一】「空中に投げ捨てて、3枚おろしにされたりしないか…?」 【佐祐理】「絶対大丈夫です。舞もこの子も喜んでくれます」 【老人】「心優しいお嬢さんだね。半額にまけてあげるよ」 【祐一】「そりゃまけすぎだろう、ジィさん」
【老人】「いや、感動させて頂いたお礼だ。もっていってくれ」 【佐祐理】「よかったですねぇ、祐一さんっ」 【祐一】「はぁ、良かったのか、悪かったのかよくわからないぞ…」 【佐祐理】「よかったんですよっ」 佐祐理さんの押しに負けて、その巨大なアリクイのぬいぐるみを購入し、家路につく。 一晩でも一緒にいたいから、と佐祐理さんはそれを背中におぶって帰っていった。
アリクイが二足歩行で歩いてるようで不気味な後ろ姿だった。 巨大アリクイに脱力した俺は、そのまま家へと帰った。 剣の訓練がなかったため、今日は早めの帰宅となった。 夕飯を食べ、その後、自室でしばらく休息をとる。 いつもの時間となると、家を後にしていた。 夜食は大体がコンビニで用意していた。
飯食ってくるわ。
今日もコンビニに寄ろうとしたところで、その前に一台の軽トラックが停まっているのを見つける。 そこからは、香ばしい匂いが漂ってくる。 最近は見かけなくなったと思っていたが、こういったものはいつの時代も変わらない。 誘われるようにして、そこで本日の夜食を調達する。 そして新聞紙の塊を抱いて、夜の校舎へと向かった。 ………。
【祐一】「よぅ」 【舞】「………」 【祐一】「おまえの言う通りだった。大丈夫だったよ」 【舞】「………」 なんのことを言っているのか、舞もわかっているのだろう。 得意げともとれるような目で俺を斜に見た。
【祐一】「疑った俺が悪かったよ。お詫びに、久々の豪勢な夜食だ」 俺は手に持っていたものを舞に向けて放り投げる。 【祐一】「石焼きイモだ。熱いから気をつけろ」 さくっ。 舞が、新聞紙に包まれたそれを剣の先端で刺して受け止めていた。 【祐一】「こら、食べ物を粗末にするな」
【舞】「…熱いって言ったから」 それを抜いて、手の中で転がした。 【祐一】「イモだったら、舞も好きだろ?」 【舞】「…相当に嫌いじゃない」 昔から不思議なのだが、どうしてか女の子は一律に焼き芋が好きな傾向にある。 舞もそれに当てはまる、ということは立派に女の子の嗜好をしているということだ。
【祐一】「ほら、転がしてないで、とっとと食ってしまおうぜ」 ふたりして、黙々とイモを食べ始めた。 それを食べ終わると、背中合わせに廊下に立つ。 【祐一】「………」 【舞】「………」 【祐一】「…今日は現れるかな」
【舞】「…さぁ」 【祐一】「………」 【舞】「………」 【祐一】「…おなら、するなよ。真後ろに俺がいるんだから」 【舞】「…祐一こそ」 【祐一】「………」
【舞】「………」 ■俺はくだらないことを思いついた ■じっとしていよう 俺はくだらないことを思いつく。 【祐一】(こう、なにかあったよな…)
【祐一】(脇の下に手のひらを挟んで、思い切り腕を閉じると、おならとそっくりな音が出るっていう…) 【祐一】(こうだったかな…?) 思い出した通りにしてみる。 ぷっ! 【祐一】「お、出た」 【祐一】「ちなみに今のは本物の屁じゃないぞ」
振り返ると、舞は十メートルほど離れたところに立って、白い目で俺のことを見ていた。 【舞】「………」 【祐一】「こらっ、そんなにあからさまに逃げてるんじゃないっ!」 【祐一】「それに素早すぎるっ」 【舞】「………」 つかつかと歩いてきては、再び俺と背中合わせに立つ。
【祐一】(まったく、本気なんだか冗談なんだか…) にしても、音を聞いてから逃げ切れる、というのも恐ろしいほどの敏捷性である。 『驚異! 屁の音を聞いてから逃げ切れる女』 なんてテロップはなかなかに興味を引くかもしれない。 【祐一】(でも俺だったら見ないな…) 遊んでる場合ではない。じっとしていよう。
俺は弛みかけた集中力を再度引き締め、背筋をぴんと伸ばした。 サーーーッ… 【祐一】「…ん?」 気づくと、音がしていた。 【祐一】「おい、舞…」 その背を肘で小突く。
【舞】「…するなら、離れて」 【祐一】「違う、おならじゃないっ」 【祐一】「音がしないか」 【舞】「…水道から水が漏れてる」 どこにそんな確信があるのかは知らなかったが、確かに言われてみると水道から漏れる水の音に聞こえた。 舞は、ずっと前から気づいていたのだ。
【舞】「…もう少ししたらくる」 【祐一】「どういうことだよ…」 【祐一】「つまり、そっちにいけば居るってことなんじゃないのか?」 【舞】「もう居ない」 舞は、音がする方とは逆に向いている。 じっと、その先を睨んでいた。
【舞】「………」 ザーーッ! 今度は近くだ。水道管でも破裂したかのような音。 恐らくトイレの中だろう。放っておけば、水浸しになる。 【祐一】「…舞っ」 【舞】「………」
舞は頑として動かない。 ■様子を見てくる ■舞に訊いてみる 【舞】「祐一、どこにいくの」 俺が歩き出すと、すぐさま舞が呼び止めていた。
【祐一】「トイレだよ」 【舞】「…我慢して」 【祐一】「我慢できない」 【舞】「…自分で自分の身を守れるの」 【祐一】「どういうことだよ」 【舞】「守れるのなら、いい…」
【祐一】「ああ、守れるよ」 【舞】「………」 ザーーーッ… トイレの前までくると音は一際大きく聞こえた。 【祐一】「止めておかないと、また舞のせいにされるじゃないか」 俺は中に入ろうと、通路を折れた。
手の木刀を振り回す。 が、それは狭い通路の壁を打ちつけただけだった。 こんな場所では応戦のしようもない。 俺は空気が揺れた気がして目を瞑った。 ぶんっ! 俺の体が跳んだ。そして、すぐ背の壁に激しく打ちつけられた。
前 ス レ に 貼 っ て あ っ た 話 の 続 き が 気 に な る の だ が
………。 ……。 …。 【舞】「体だけは頑丈」 【祐一】「みたいだな…」 トイレのドアの前で情けなく横たわる俺に、通路の先から舞が表情もわからないような影のままで声をかけていた。
【祐一】「また迷惑かけたかな、俺…」 【舞】「そうなっても、私のせいにしないなら構わない…」 【祐一】「ああ、自業自得だ…」 舞の影が、消えた。 【祐一】「…見てきていいか」 【舞】「…よくない」
【祐一】「…そうか、わかったよ」 【舞】「………」 ザーーーッ… その音が邪魔して、魔物の発生合図が聞こえないかもしれない。 そうなると、もう舞に頼るしかない。 もしかしたら、今目の前に奴はいて、その鋭い爪で俺の喉笛を掻き切ろうとしているのかもしれない。
ごくり… 唾を呑むが、その音だってあまり聞こえなかった。 【舞】「…ここにいて」 舞がそう言い残し、駆けていった。 【祐一】「え…?」 振り返ると…
ざぐんっ! 宙に向け、舞が剣の切っ先をねじ込んでいた。 そして、そのままの勢いで舞の足が滑ってゆく。 【舞】「……!」 いや、違う…あれは勢いじゃない。何かに引っ張られているのだ。 剣を引き込まれ、抵抗の余地もない。
舞の背が遠のいてゆく。 が、その中途で舞が剣を手放した。なぜかはわからなかった。 【祐一】「………」 わからなかった。舞は、俺に向けて丸腰で走ってきていたのだ。 【舞】「…祐一!」 俺は馬鹿だ。
気づくのが遅すぎた。 頭を打ち抜かれていた。 その衝撃は脳天を貫通し、眼球を激しく振動させ、足元へと抜けた。 【祐一】「ぐ…」 仕方なく膝をつく。立っていることなどできなかった。 目が見えない。何か、熱いものが溢れ出ているのがわかった。
【舞】「祐一、しっかり…」 舞の手が、俺の手に触れた。 その手を握り返す。温かい。 【舞】「祐一、介抱は後でいくらでもする…」 【舞】「…今は、その手のものを貸して」 【祐一】「これか…」
握っていた木刀を手から放す。 ころん、と転がるはずだったそれは舞によって受け止められたのだろう、音はしなかった。 代わりに、風が感じられた。 舞の、匂いを帯びた風だった。 【舞】「祐一…」 舞に呼ばれる頃には、視力も回復していた。
【舞】「…見せて」 舞の手が俺の頭をとって、柔らかな枕へと誘導した。 回りくどい言い回しをすることはない、膝枕だ。 すぐ目の先に舞の顔があった。 【舞】「………」 舞の指が俺の目を片方ずつ大きく開ける。その中を舞は覗き込んだ。
【祐一】「…どうだ?」 【舞】「大丈夫…」 指が離れた。 そうすると、舞の顔も自然に離れ、少しだけ残念だった。 【祐一】「そっか…」 【祐一】「奴らは…?」
【舞】「一体、仕留めた」 【祐一】「あの木刀でか」 舞は顔を横に振る。 【舞】「…途中からは剣にかえた」 俺が倒れていたのは、短い時間ではなかったのだろう。 【舞】「…祐一、悪かった」
【祐一】「なにが」 【舞】「…私が判断を誤ったから…」 【祐一】「いや、そんなことないよ…」 【祐一】「俺がマヌケなだけだったんだ。いつも足を引っ張ってばかりで悪いな」 【舞】「………」 【祐一】「それに舞が剣を捨ててまでして、駆けつけようとしてくれたのには感動したぜ」
【舞】「そう…」 【祐一】「そうだよ」 【舞】「………」 【舞】「…祐一」 【祐一】「ああ」 【舞】「…そろそろどいて欲しい」
【祐一】「…いや、おまえ、言ったよな」 【祐一】「介抱は後でいくらでもするから、って」 【舞】「………」 【祐一】「…だから、もう少し…ダメか?」 【舞】「…私は構わないけど」 少しだけ、我が儘を聞き入れてもらうことにした。
がんっ! 足を痺れさせた舞が、立ち上がった途端に廊下の壁に顔面から突っ込んでいた。 【舞】「…痛い、祐一」 【祐一】「いや、俺に言われても困るが…」 ………。 戦いで受けたダメージで足取りが重いが、どうにか家へと辿り着いた。
少しでも身体を休めるために、ゆっくりと風呂に浸かり、倒れるようにベッドへと入る。 しばしの休息だ。 明日には戦えるように…。 ★1月29日 金曜日★ 今朝も少し遅かったようだ。 いつもの角を通り過ぎた先に、ふたりの後ろ姿を発見する。
佐祐理さんは、また夕べのように二足歩行のアリクイと化しているのかと思ったら、そうではなかった。 プレゼントのぬいぐるみは、持ってきていないようだ。 さすがにあの大きさでは、学校に内緒で持ってくるには目立ちすぎるからだろう。 【祐一】「よぅ、おはようっ」 駆け足で追いつくと、そのままの勢いで、ぽん、と同時にふたりの肩を叩いてやった。 満面の笑顔と、いつもの無表情が振り向く。
【舞】「………」 【佐祐理】「………」 【舞】「…おはよう」 【祐一】「うおっ、舞のほうが先に言った! しかも結構早かった…」 【佐祐理】「あははーっ、成功ですね。おはようございます、祐一さん」 【舞】「………」
【佐祐理】「舞が挨拶するまで、佐祐理もしない、って言い含めてあったんですよ」 【舞】「…もう二度とこんな約束しない」 舞が怒ったように、佐祐理さんを睨んでいた。 【祐一】「なにをやってんだか…」 そんなふたりのやりとりを見ていると、本当に昨日の俺は馬鹿みたいである。 【祐一】「で、佐祐理さん」
俺は佐祐理さんに耳打ちをする。 【佐祐理】「ふぇ?」 【祐一】「プレゼントはいつ渡すんだ」 【佐祐理】「今は持ってきてませんけど、ちゃんと時間を合わせて今日中に渡せるようにします」 【祐一】「了解」 【佐祐理】「誕生会は、次の日曜にちゃんと開きますから、それにも出席できるようにしておいてくださいね」
【祐一】「オッケー」 あくまでも予想だが、佐祐理さんが主催する誕生会となると、無茶苦茶豪勢であるような気がする。 参加者は、ドレスとかタキシードとか着込むのだろうか。 舞はゴンドラに乗って登場するのだろうか。 【佐祐理】「ほら、また舞がひとりでいっちゃいますよ」 【祐一】「おっと…おい、舞! 待てって」
俺たちは先をゆく舞をいつものように追いかけた。 【佐祐理】「それではーっ」 【祐一】「おうっ」 【舞】「………」 ………。 学生の本分は勉強と、たまには殊勝なことを考えてみる。
実際は、ただでさえ苦手な科目な上に、ここのところ真面目に聞いていなかったからと言うのは秘密だ。 更に、真面目な態度が15分しか持たなかったことはもっと秘密だ。 …この教科は捨てよう。 俺はきっぱりと諦めた。 ………。 今日は4時間目の授業が押してしまい、学食に向かうのが遅れてしまった。
人波に揉まれながら、何とか目的のパンを獲得すると、俺は踊り場へと向かった。 【佐祐理】「はい、どうぞーっ」 俺が腰を落ち着けるなり、弁当箱が並べられる。 それらは、いつもより豪華な気がする。 それでも、舞の誕生日というのは暗黙事項であるらしく、佐祐理さんの口からそれらしい言葉がでることはなかった。 まさか舞が自分から…
【舞】「…そういえば今日、誕生日だから」 なんて言い出すとも考えられない。 それ以前に舞は今日が自分の誕生日だということすら忘れているに違いなかった。 だから佐祐理さんはプレゼントのことも、誕生会のことも、本人には黙っていて驚かせるつもりなのだろう。 それで舞が心底驚くかどうかは疑問だったが、佐祐理さんがそうしたいのだったら、俺もそれに付き合うことにした。 【舞】「…そういえば」
珍しく無口な舞が自分から口を開いていた。 【舞】「…今日」 げっ、と佐祐理さんと俺が顔を見合わせる。 【舞】「…掃除当番だから」 がちゃん! 佐祐理さんが弁当箱に顔を突っ込みそうになっていた。
俺はすでにカレーパンのカレーの中に鼻を突っ込んでしまっていた。 【舞】「……?」 俺たちの反応に、舞が首を傾げるが、すぐ弁当を食べるのに戻る。 もぐもぐ… 【佐祐理】「………」 【祐一】「………」
【舞】「…そういえば」 再び舞が箸を止め、口を開いていた。 【舞】「…今日」 今度こそやばいっ、と佐祐理さんと俺が顔を見合わせる。 【舞】「…掃除当番だから、って今言ったっけ」 がちゃん!
【祐一】「おまえは、ボケ老人かっっ!」 思わず思い切り突っ込んでしまう。 佐祐理さんも、さすがに今ので弁当箱に顔を突っ込んでしまったのだろう、鼻の頭をハンカチで拭いていた。 【舞】「……?」 当の舞は相変わらず、俺たちの反応に当惑するばかりだ。 【祐一】「おまえ、俺たちをおちょくってるんじゃないだろうなぁ…」
【舞】「…おちょくってなんかいない」 【祐一】「実際はそうなんだろうけど、タイミングが良すぎるぞ…」 【佐祐理】「あははーっ…」 ようやく声が出た、といった感じで佐祐理さんが苦笑いしていた。 【佐祐理】「それでは。祐一さん」 【祐一】「おうっ」
【舞】「………」 ふたりと別れ、俺は後ろ姿が見えなくなるまで見送った。 さて、午後の授業が始まる。 俺も急ごう。 【祐一】(そういや…結局どうするつもりなんだろうな、佐祐理さん…) 詳しい話は聞かず仕舞いだった。
と、思ったところで俺は嫌な予感がした。 その日最後の授業が終わると、教科書を放り出したままで、即座に教室を後にした。 【佐祐理】「わっ…」 すると案の定、入れ替わりに教室に踏み込もうとしていた佐祐理さんが、飛び出してきた俺を見て声をあげていた。 【祐一】「やっぱ、来ると思った…」 【佐祐理】「ふぇ〜、すごいですね、祐一さん」
【佐祐理】「佐祐理が来るのがわかったんですか?」 【佐祐理】「予感的中ですね」 それが、『嫌な予感』だったとは口が裂けても言えない…。 【祐一】「で、今日はどうするって?」 【佐祐理】「えっと遅くなるかも知れません。だから、祐一さんは帰っていてください」 【祐一】「わかった。どうせ帰宅部だからな」
【佐祐理】「じゃ、連絡しますから、連絡先、教えてください」 【祐一】「おう」 佐祐理さんは忙しいのだろうか。俺の家の電話番号だけ訊くと、ぱたぱたと駆けていった。 【祐一】「………」 【祐一】「帰るか」 俺も昇降口へ向け、歩き出した。
俺はいつも通り夕方に家に辿り着くと、佐祐理さんからの連絡を待っていた。 本を読んだり、ぼーっとTVを見たりして、適当に暇を潰していた。 それでも電話はない。 何か用事でも出来たかと思い、先に夕食を済ませる事にした。 晩ご飯を食べてからも電話はなかった。 中止にでもなったのだろうか。
そんなはずはない。 中止なら、佐祐理さんからその旨を伝える電話があるはずだ。 落ち着かずに、自室に戻ったり、リビングに降りたりと、家をウロウロとする。 いつものように夜の校舎へ出かける支度をしてから電話の前に立つ。 ………。 電話は鳴らない。
舞を放っておくわけにはいかなかったし、かと言って佐祐理さんとの約束を破って家にいないわけにもいかない。 …いや、待てよ。 佐祐理さん自身は舞と最終的に落ち合うのだから… 俺は時計を見る。 いつもの…あの時間だ。 【祐一】「………」
嫌な予感がした。 それは、本当に不吉な予感だ。 佐祐理さんの連絡先はわからない。 となると、一刻を争う。俺は衝動的に家を飛び出していた。 走り出してしまってから、俺は後悔する。 違うな…
佐祐理さんなら、舞と落ち合う前に、必ず俺に連絡をとるはずだ。 プレゼントを渡すような、そんな状況で抜け駆けのように佐祐理さんひとり、舞と会ったりしないはずだ。 もしかしたら、俺は唯一危険を回避できる方法を自らの手で消してしまったのではないか。 俺は近くに公衆電話を見つけると、駆け込んで、テレホンカードも探す暇も惜しんで、硬貨を突っ込むと自宅へのダイヤルを叩いた。 【声】「はい、水瀬です」 呑気な名雪の声がした。
【祐一】「俺だよ、祐一」 【名雪】「どうしたの、慌てて」 【祐一】「俺に電話なかったか」 【名雪】「うん、あった」 【名雪】「行き違いだったね。祐一が出た後、すぐかかってきたよ」 内容を聞くのが恐い。連絡を待つ、であってくれ、とただ願う。
【名雪】「倉田さんって女の人。今から学校に向かうので来てくださいって」 俺は自分の愚かさを突きつけられることになる。 知ってたんだ、佐祐理さんは… 夜の校舎に舞がいることを… 【名雪】「これって、もしかして告白?」 揶揄するような名雪の声を遮って、俺は受話器を置いた。
何度俺は佐祐理さんや舞を疑ったら気が済むんだろう。 馬鹿すぎる。馬鹿で馬鹿で馬鹿だった。 後、10分家を出るのを躊躇してさえすれば、よかったのに。 俺は外に飛び出していた。 俺は校門の前に立つ。 夜の校舎はいつも通りの静けさにあった。
いつもそうだった。 俺が来るまでは絶対の静寂を守って…。 全速力で走ったため、息が上がっている。 それ以外の物音は何も聞こえない。 何もないはずだ。 ただ、舞が立っていてお腹をすかせている。
それだけのはずだ。 何も変わりないことを心から願って、俺は校舎に入っていった。 【祐一】「舞…」 舞は立っていた。それもいつも通りだ。 何事もまだ、起こっていない。 【舞】「………」
【祐一】「舞っ…」 舞の顔はまだ見えない。 背中を向け、廊下の突き当たりの壁に向かっていたからだ。 【祐一】「おい、舞、聞こえてるんだろ…?」 俺はその背に呼びかける。 【舞】「………」
こっちにまだ居る知障は本ヌレ住人 煽り耐性があるから、エロゲヲタだからこういう話をついつい読んでしまうんだろ( ´,_ゝ`)
【祐一】「なぁ、舞…」 【舞】「………」 不意に舞の体がゆらりと揺れた。 そして、そのまま壁にもたれかかった。 その舞の向こう、一直線に突き当たりの壁が見渡せた。 【祐一】「………」
大きなアリクイのぬいぐるみが転がっていた。 …血の水たまりに濡れて。 【舞】「………」 【祐一】「…おい…舞…」 【舞】「………」 舞の体は、完全に壁からずり落ち、床に丸くなって横たわった。
………。 ……。 …。 俺たちはお互い何も喋らず、佐祐理さんの運び込まれた病院へと向かった。 待合室で、黙ったまま医者の処置を待つ。 夜遅いこともあり、電灯は一部しか点灯させておらず、寒々しい雰囲気が更に気を滅入らせた。
やがて診察室から、白衣の男が出てくる。 医師の説明は簡単だった。 頸椎損傷。しばらくは入院生活だということだ。 外傷が、傷として残らないということだけが、わずかな救いだった。 病院から追い出された俺たちは、どうして良いかわからなかった。 先に立っていた、舞が黙って歩き出した。
【祐一】「…帰るのか?」 【舞】「…学校」 その一言だけで、後は一切喋らなかった。 俺も黙って後に続いた。 教室の中には、窓際の机に腰掛ける舞の姿があった。 月明かりを受けて、青白く光っているように見えた。
夜の舞はいつでも幻想的という言葉が似合う。 【舞】「祐一…」 【祐一】「どうした」 【舞】「そばに来て欲しい…」 【祐一】「………」 俺は机の間を抜け、舞の居る窓際に立った。
【舞】「隣に座って欲しい…」 【祐一】「狭いぞ」 【舞】「いい…」 ひとつの机にふたつの腰を並べる。 【祐一】「どうした、舞」 【舞】「………」
【舞】「私のせいで…また佐祐理は傷ついた…」 【祐一】「そう一慨に自分を責めるな」 【祐一】「おまえのせいじゃない。色んな不運が重なっただけだよ」 【祐一】「俺だって…軽率な行動で、防ぐ機会を逸してしまった」 【舞】「………」 【舞】「そして自分だけが…」
【舞】「…こうしてのうのうと傷つかずにいる」 舞は俺の言葉なんて、聞いていないのかもしれない。 ただ、一方的に自分を責め立てた。 【祐一】「その代わりおまえは戦っているじゃないか」 【舞】「小さすぎる代償…」 なにを言っても今の舞には無駄だった。
あまりに自虐的になりすぎている。 慰めの言葉も失った頃… 【舞】「………」 舞が俺の肩に頭をのせた。 そして首筋に何かが当たった。 舞の唇だった。
【舞】「祐一…」 その首筋でくぐもった声。息の熱が伝わってくる。 【舞】「私にはどうしたらいいのかわからない…」 どういう意味かわからなかった。 これからずっと先のことを言っているのか、それとも今、この時のことを言っているのか。 【舞】「祐一…」
熱は伝わり続ける。 舞の体が俺の体と密着していた。 彼女は、言葉もなしに、伝えようとしていることがある。 それが不器用でも、俺にはわかった。 ずっと一緒にいたからわかる。 傷ついた心を癒すために、彼女はそんなものを求めているというのか。
そんなもので覆い隠せるというのか。 俺が今ここでそれを与えてしまっていいのだろうか。 ■与える ■拒否する なかなかピンとこなかった。
これは現実なのだろうか、と。 夢だってこれに近いような現実感を持った場合もある。 舞の露わとなった乳房を俺は執拗にもてあそんだ。 それは舞の返答を待つ時間でもあった。 ここまで来て勘違いも何もなかったが、それは互いの中のものを整理しあう時間だ。 まだ引き返せる。
ゆっくりゆっくりと、時間をかけた。 【祐一】「………」 いやに手が乾いている。空気が乾燥しきっているためだろうか。 その手が舞の肌を傷つけてしまうような気がして、俺は指をそっと舞の唇の間に差し込み、舌に触れさせ湿らせた。 糸が引いて切れた、その指先で、再度胸に触れる。 湿りを帯びた胸は、さらによく手に馴染んだ。
首筋から見下ろすと、舞自身の唾液によく濡れた突起が月明かりを受け、不自然なばかりに光っている。 人差し指の腹でそれをさすると、ぷるん、と跳ねた。 【舞】「………」 その間もずっと舞は黙っていた。 もしかしたら、葛藤などとうになかったのかもしれない。 俺はその胸へ顔を埋め、舞の匂いがするはずの膨らみに唇を当てた。
確かに舞の匂いがした。 舞の胸の味に飽きると、俺は舞の下半身に標的を移した。 太股を伝って、指先を差し入れる。その先の布に指先を引っかけると、再び引き戻した。 そうすることで舞の今まで身につけていた下着が膝元まで下りた。 今や、舞の下半身は直に外気に触れているのだ。 俺は冷静に努めて、1枚の隔たりだった制服を鼻でたくし上げるようにしてその部分に顔を埋めた。
暗くて、見ることは叶わなかったが、その部分に鼻と口が触れているのだ。 臭覚と味覚で、充分すぎるほど感じられる。 そこが舞の、最も守るべき場所なのだ。 俺は最終的な行為に移る。 自分のものを取り出すと、さっきまで口を当てていた部分にあてがい、自分を押し進めてゆく。 柔らかく、温かい。
舞の中に自分が侵入してゆく。 じっとして慣れたところで、普通の男がそうするように、腰を引き、そして押した。 ぬちゅっ…ぬちゅっ… 自分の最も気持ちのいい部分を見つけると、舞の中の粘膜に執拗に擦りつけた。 快楽だけを追求する、卑しい行為だ。 舞の熱を持った双丘と、俺の下腹部が密着するたび、最も深くへ到達したことを悦びとして実感する。
もっと感じたい。反動をつけてさらに奥へと俺は自分を押し込む。 その繰り返しが続く。 佐祐理さんの笑顔がふと思い出された。 その佐祐理さんは今、病院のベッドの上だというのに、俺たちは一体何をやってるんだろう。 後ろめたさを振り払うようにして、俺は腰を激しく動かした。 気持ちよかった。
格好を変え、舞を前から抱きしめる。こうしたほうが舞を感じられた。 【祐一】「舞…」 舞はいつもの表情だった。 自分が汚される場面すら、達観して見ていられるのだろうか。 そんな舞に俺を求めた意味があったのだろうか。 俺は普通の男だったし、舞みたいに人とは違った日々にも生きていない。
だからこうやって、誰もがそうするであろう行為しかできない。 自分を深く埋没させて、それでいて舞の体をいたわるように抱き寄せて、悦にいる。 ありとあらゆる肌の味を味わい、乳房は赤くなるほど吸い立てた。 それでも何ひとつ文句を言わない舞に愛情すら感じてしまっている。 結局…ずっとその舞の部分に突き刺さっていたのは俺のものじゃないか。 その白い肌を汚してしまったのは、俺の吐き出された欲求そのものじゃないか。
ごしごし…。 【舞】「…駄目だった」 ティッシュで肌を拭いながら、舞がぽつりと言った。 【祐一】「なにが…」 【舞】「祐一じゃ、駄目だった…」 【舞】「…私は祐一のことが…嫌いじゃなかったから」
冷静になってしまえばわかった。 舞はただ、傷つけて欲しかったのだと。 俺はまだ互いの体液の付着したままのものを仕舞い込むと、舞を置いて、教室を後にした。 それ以上、舞とふたりきりでいられなかった。 舞の求めているものはただひとつ。 傷だ。
佐祐理さんと同じように、傷を負いたいだけだ。 そんなもの、与えてしまってはいけない。 傷ついてみて、それで今だけ佐祐理さんと同じ境遇を味わって、何が変わるというんだ。 それで前に進めるのか。 前に進める強さが手に入るのか。 弱い自分が露呈されるだけではないか。
今、耐えることの強さを知ってほしい。 でも、今の舞では、ひとりでは耐えられそうになかった。 だから、俺は傷つけず、慰めることにした。 言葉もなく、その体に腕を回し、抱きしめた。 ずっと、強張っていた舞の体がやがて静かに崩れ、すべての体重を俺に委ねた。 その少女の体を、俺はずっと支え続けていた。
ずっとふたりでいたのだった。 ★1月30日 土曜日★ いつもの登校風景だった。 学年もわからない同校の一群が、夕べのテレビの話題に花を咲かせている。 遠くから作り物のような笑い声が、耳に響く。 その間を、足早に俺は抜けてゆく。
これが普通だった。 俺の周りには、誰もいない。 転校してきてまだひと月も経っていなかったから、それは仕方がなかった。 だが、どうしてだろう。 俺は正午になると、階段を上っていた。 屋上に続く踊り場。
しんとしていた。 【祐一】「………」 確かに俺にはいたのだ。 かけがえのない、友達が。 いつも一緒にいて、楽しかった思い出があった。 転校してきたばかりだというのに、出会って間もないというのに、俺を親友だと言ってくれたふたり。
川澄舞と、倉田佐祐理。 いつも一緒に飯を食っていて、俺たちはまるで…家族だったのに… もう残り火さえ、そこにはなかった。 ガラスが割れる音が遠くで聞こえた。 一度聞こえると、それは断続的に続けて廊下に響いた。 騒ぎ出す生徒と、絶え間なく続く破壊音。
俺は音のする階へと急いだ。 階段を駆け降りると、すでにそこには人混みができていた。 野次馬は困惑と嘲笑の目で、騒ぎの原因を見ている。 人波の壁をくぐろうとするも、なかなか通してはくれない。 【祐一】「通してくれっ…!」 【祐一】「このっ、どけってんだよっ!」
ひっ掴みあいになりながらも、その中を抜けきると、闇雲に剣を振るう舞の姿があった。 【舞】「はぁぅっ…!」 ただ四方八方の障壁を打ち続ける。 教室のドアを叩き割ったかと思えば、無意味にガラスの一片も残らない窓枠をガシガシと叩いた。 汗か涙かわからないものを飛び散らせ、髪を乱し、休みなく破壊活動を続けていた。 何事かと集まり続ける生徒も、鬼気迫る舞の行動に怯え、誰も止めようとしない。
>>459 エロゲヲタは自分の名前を大切にするんです。
こんなとこで名前失墜させるような事はしませんヨ
舞の目線が向けられた方の生徒は逃げまどい、空いたその場が新たに破壊される。 【祐一】「舞っ!!」 俺は叫んだが、聞こえない。 完全に我を失い、自暴自棄となっていた。 俺は… ■舞の懐に飛び込んだ
■制止の声をあげ続けた 俺はその振るわれた剣の中に飛び込んだ。 根本の部分が腰を打ち、俺は痛みに声を詰まらせる。 だが、舞を抱き留められた。 【祐一】「馬鹿か…何度同じことを繰り返すんだ、おまえは…」
【舞】「はぁ…はぁ…」 悲痛に顔を歪め、中途半端に開いた口から荒い息を漏らしている。 俺の知らない舞だった。 【祐一】「本当に俺をひとりにする気か…」 【祐一】「卒業までは三人でいるって約束したろうがっ」 【舞】「はぁ……はぁ…」
目を合わせようとしない。 俺はそんな舞の顔を強引に自分へと引き寄せ、鼻が触れあうような位置で言葉を伝えた。 【祐一】「全部壊して…それでどうなるって言うんだ…」 【祐一】「すべてを失うだけだぞ…」 【舞】「はぁ………はぁ……」 【祐一】「失いたいのか」
【祐一】「佐祐理さんや、俺や、一緒に作ってきたいろんなものを…」 【舞】「………」 【祐一】「答えろ、舞…」 【舞】「……」 【祐一】「失いたいのかっ…!」 【舞】「………」
【祐一】「やめろっ、舞!」 ガシガシッ! 【祐一】「俺だっ、祐一だっ! 言うことを聞けっ!」 ガシガシッ! 【祐一】「…舞っ!!」 【舞】「………」
一瞬の隙をついて、俺は舞の片腕を掴んだ。 【祐一】「全部壊してどうなるって言うんだっ、すべてを失うだけだぞ!」 【舞】「………」 【祐一】「失いたいのか!」 【祐一】「佐祐理さんや、俺や、一緒に作ってきた色んなものをっ!」 【舞】「………」
【祐一】「答えろよ、舞っ」 【舞】「……」 舞は答えなかった。 代わりに俺の腕を振りほどくと、窓ガラスの1枚を叩き割った。 代わりに、窓ガラスの1枚を叩き割った。 【祐一】「舞っ!」
【舞】「………」 項垂れたまま亡霊のように歩いてゆく。 俺もそれを追う。 背中では、舞に対する非難の声があがり始めていた。 ぐちゅぐちゅ… 舞が、好物のはずの牛丼をずっとかき混ぜる音だけがたつ。
俺が学食から運んできたものだった。とうに冷めているに違いない。 【祐一】「どうした、食欲ないのか」 【舞】「………」 舞の目は、牛丼の中を見ていない。ずっとその先の、違う場所を見ていた。 そこには悔恨の場面が繰り返し、ずっと映し出されているのだろう。 やりきれないのは俺も一緒だった。
【舞】「…佐祐理の見舞いにいく」 舞がぽつりと言った。 【祐一】「ああ、いこうな」 【祐一】「でも、その前に牛丼食べろ」 【舞】「…アリクイさんのぬいぐるみ持って、いく」 【祐一】「食ってからにしろ。俺も一緒にいくから」
【舞】「…アリクイさんと一緒にいく」 【祐一】「………」 …おまえ、大丈夫か? そう訊いてみたくなったが、直前で口を噤んだ。 今になって、どれだけ佐祐理さんが舞の支えとなっていたかがわかる。 それは俺なんかでは到底代わりになれないほどの、存在だ。
悔しいが、茫然自失となっている舞を前にしても、俺は無力だった。 俺には舞を元気づけることができない。 【舞】「…さようなら」 舞がそう言って、立ち上がった。 彼女が立ち去った後には、一口さえつけていない、ただかき混ぜただけの牛丼が残されていた。 …さようなら。
まるで舞の言葉は、俺たちふたりの関係を分かつもののように聞こえて、耳に残っていた。 だが、それも妄想だろう。 夜の校舎に赴けば、また会えるし、共に奴らと対峙することになるのだろう。 でもそのとき… 一番辛い思いをしていた舞に対して、何もしてあげられなかった俺を、彼女が必要としてくれるかは、もう自信がなかった。 それも杞憂であることを、祈るばかりだった。
舞の目が、ようやく俺の顔を見た。 【舞】「…失いたくない」 【祐一】「なら謝れっ…みんなに」 【舞】「………」 俺は舞を抱いていた手を放した。 【舞】「………」
ゆらりと亡霊のように皆の前まで歩いていくと、そこで立ち止まり深々と頭を下げた。 【舞】「…お騒がせしました。ごめんなさい」 異様な、どよめきがあがった。 ぐちゅぐちゅ… 舞が、好物のはずの牛丼をずっとかき混ぜる音だけがたつ。 俺が学食から運んできたものだった。とうに冷めているに違いない。
【祐一】「どうした、食欲ないのか」 【舞】「………」 舞の目は、牛丼の中を見ていない。ずっとその先の、違う場所を見ていた。 そこには悔恨の場面が繰り返し、ずっと映し出されているのだろう。 やりきれないのは俺も一緒だった。 【舞】「祐一…」
ぽつりとその口が俺の名を紡いでいた。 【祐一】「なんだ」 【舞】「…今夜、すべてを終わらせる」 【祐一】「そうか…」 【舞】「…手伝って欲しい」 【祐一】「ああ、俺なんかで良ければな」
ぽつりとその口が俺の名を紡いでいた。 【祐一】「なんだ」 【舞】「…今夜、すべてを終わらせる」 【祐一】「そうか…」 【舞】「…手伝って欲しい」 【祐一】「ああ、俺なんかで良ければな」
【舞】「…ありがとう」 ようやく舞の意志は正しい方向に向いた。 俺は親友としての責任を全うできたような気がしていた。 ひとりでは先に進めなくとも、こうして助けてやることができる。 でも、それは舞が自分で手に入れたものだ。 人を好きになる、ということは意識的なものではないはずだったから。
【舞】「…ありがとう」 ようやく舞の意志は正しい方向に向いた。 俺は親友としての責任を全うできたような気がしていた。 ひとりでは先に進めなくとも、こうして助けてやることができる。 でも、それは舞が自分で手に入れたものだ。 人を好きになる、ということは意識的なものではないはずだったから。
もぐもぐ… 隣を見やると、一心に舞が牛丼を食べ始めていた。 部屋のベッドに寝転がり、天井を見続ける。 窓からは赤光が差し込んでいる。 外は綺麗な夕焼けだった。 もうすぐ始まる最後の戦いに向けて、今は何も考えられない。
時折寝返りを打ち、物思いに耽るが、思考の一欠片もまとまらない。 時計の音と、それと同調しない心音。 それだけが聞こえていた。 出来ることは、落ち着くこと。 あと少しで、終わる。 終わらせるのだ。
今でもそうだったように、これからもそうであるように夜の校舎は静かだった。 だが俺たちはその校舎の、いろんな姿を見てきた。 もう、俺たちを冷たい場所に置かないでほしい。 明日からは、穏やかに俺たちの学園生活を見守ってくれる姿であってほしい。 【祐一】「悪い。もっと早くこようと思ってたんだけどな」 【舞】「………」
構わない、といったふうに舞が頭を振った。 【祐一】「残るは何体だっけ」 【舞】「三体」 【祐一】「三体……多いな」 これまでだって一晩で二体以上を葬れた試しはない。 【祐一】「一晩で終わる数か…?」
>>569 凄い理論だな。
んでまぁ、アイツのいたのってprt_fild10だろ?そこじゃ猫耳取れないんだよな。
この矛盾をどうにかしてくれ。
【舞】「終わらせる」 【祐一】「そうだな。終わらせような…」 愚問だった。 俺たちは、終わらせる必要がある。それだけだった。 それに夜は長い。夜が白み始める頃にはすべてが終わっていることだろう。 【舞】「古いものだけど…」
舞が、刃を下に向け、剣を差し出していた。 見れば、舞は両手に剣を持っていて、それはその一方だ。 【祐一】「………」 俺はそれを受け取り、仔細に眺めてみる。 舞の持つものとは形が違う。 ゆるりと弧を描く片刃の剣、いわゆる日本刀である。
舞が、今の両刃の剣を持つ以前に扱っていたものなのだろう。 錆が目立ち年期を感じさせたが、研磨したての光沢があった。 【祐一】「俺もやっと合格、ってわけか?」 【舞】「それはこれから」 【祐一】「不合格だったら、死ぬよなぁー」 【舞】「合格だったらすべてが終わる」
【祐一】「俺にかかってんのか?」 【舞】「………」 舞の顔が横を向いた。 【舞】「終わったら牛丼」 ふわりと髪が棚引くと、タッ、という足音とともにその姿が消えていた。 どうか、穏やかな朝が迎えられますように。
風が、衝撃が吹き、俺も反対方向へ向き直っていた。 しかし…不思議だよな、こいつらは。 本当に人に寄ってくるんだろうか。 それは第三者という人ではなく、もしかしたら、俺という個人なのではないか…? これまでの状況だって別の人に置き換えても、その可能性は同じだけあると考えられるはずだった。 だが、なぜだか俺は、俺自身が狙われているという錯覚を覚えた。
錯覚であることを祈るだけだ。こんな奴らに、恨まれて生きていられるはずがない。 【祐一】「大体、何者なんだ、おまえたちは…」 ゆらりと揺れたような正面の景色に向けて、呟く。 剣を掲げて構える。 振り下ろしたときに、その先に捉えてさえすればいいのだ。 そうすればややこしくならないで済む。
三歩、正確には二歩と半歩、素早く踏み出したところで、床のリノリウムに向けて垂直に両腕を振るった。 ガッ! 【祐一】「………」 床を打ちつける手応えしかなかった。 …右かっ! ■攻撃
■よける 剣を振るう。 俺はこれ以上ないほどの反応速度で対応したつもりだった。 が、それでも間に合わなかった。 ガシッ!…と、柄の部分に鈍い衝撃。
続けて、ばちっ!と目の前で何かが弾けた。 一瞬後には壁に片方の頬を押しつけて、不格好に倒れていた。 まだなお、頭の中を電気が走っているような感覚が続いている。 俺は体を裏返し、廊下のほうを向き直る。 気配はないが、今まさに眼前に迫っているのかもしれない。 俺は剣を杖代わりに上体を起こす。
…ひとまず退散だ。 俺は背を向け、階段を無様に駆け上がった。 一撃でも受けてしまえば、このていたらくだ…。 やはり、一体としても俺に奴らを仕留めることなどできないのだろうか。 俺は剣を振らない。 慣性の法則に任せて、体を前のめりに倒す。
ばしッ!と、ぎりぎりの背中の空気が裂けるように音をたてた。 そのまま受け身の型で、体を一回転させ床を転がる。 起きあがったときには反撃のターンである。 左…! 俺は剣を薙いだ。 だがそれよりも早く懐にそれが居た。
がっ!…と、柄の部分に鈍い衝撃。 続けて、ばちっ!と目の前で何かが弾けた。 一瞬後には壁に片方の頬を押しつけて、不格好に倒れていた。 まだなお、頭の中を電気が走っているような感覚が続いている。 俺は体を裏返し、廊下のほうを向き直る。 気配はないが、今まさに眼前に迫っているのかもしれない。
この流れなら言える! BOT改造が楽しい
俺は剣を杖代わりに上体を起こす。 …ひとまず退散だ。 俺は背を向け、階段を無様に駆け上がった。 一撃でも受けてしまえば、このていたらくだ…。 相手の攻撃をかわす、ということが何よりもの大前提であることを痛感する。 剣を振るう。
俺はこれ以上ないほどの反応速度で対応したつもりだった。 が、それでも間に合わなかった。 ガシッ!…と、柄の部分に鈍い衝撃。 続けて、ばちっ!と目の前で何かが弾けた。 一瞬後には壁に片方の頬を押しつけて、不格好に倒れていた。 まだなお、頭の中を電気が走っているような感覚が続いている。
やはり、一体としても俺に奴らを仕留めることなどできないのだろうか。 口の中で血の味がする。 歯で切ったのだろう。ぺっとノドに絡む痰とともに床に吐き捨てた。 【祐一】「………」 舞と落ち合ったほうがいいだろうか… いや、どうせ足を引っ張るだけだな…。
少し休んで、そしてもう少しマシに動けるようになったら、戻ろう。 それこそ一体ぐらい仕留めてやらないと、なんのために居るのかわからないからな…。 だが、戻るまでもなかったのだ。 ピシッ…と石つぶてのようなものが俺の頬で跳ねた。 がッッ!! …風圧!
その襲い来る空気の塊を切り裂くようにして、刃を薙いだ。 その中途まで差し入れたところで、俺の体が吹き飛んだ。 踵が床から浮き、バランスを崩す。着地は腰からだった。 すぐ前屈みになり、迎え撃つ形をとる。 【祐一】「………」 次なる攻撃はない。
これが舞の言うところの、手負いにした、というやつなのだろうか。 今なお、奴の身を裂いた手応えが手に残る。 初めて生あるものを刃で裂いた感触に、気味の悪さを覚える。 だが奴は、人の情けなど知らぬ凶悪な存在だ。人でもない。 一瞬の間をおいて、俺は再び闘志を漲らせていた。 ならば形勢は逆転した。こちらが追う番である。
前傾姿勢のまま、走り出した。 奴らの居場所は俺には感知できない。 音がするか、風が吹くか、そういう事象でそれと悟るしかできない。 だから、一度逃がしてしまえば、もう俺に奴を探す手だてはない。 しゅっ…しゅっ…! 俺の追走を受けてか、目の前を飛び石のように、音だけが跳ねて遠ざかってゆく。
速いっ…追いつけるかっ…!? 長い廊下、ただ闇雲に奴を猛追する。 そして眼前には、直角に折れる壁が迫ろうとしていた。 そこで奴に曲がられたら終わりだ。 人の足では、この速度でその角を曲がりきることなどできない。 あるいは速度を落としてみたところで、追いつけなくなるのは同じだ。
ならば、その角までに追いつく。 ■勢いに任せて地を蹴る ■走り抜ける 俺は勢いに任せて、地を蹴った。 舞のように跳ぶとまではいかない。歩幅を大きくしただけに過ぎない。
それでも、その一歩で、限りなく接近した。 片足を床につくと同時に、刀を振り下ろした。 ガッ…! あえなく、それは床だけを叩いた。 気づくと壁は目の前に迫っていた。もはやどうすることもできない。 ズンッ、と体ごと、自らの勢いで打ちつけられる。体中に圧力がかかり、半身に激痛が走る。
そして、もうひとつ、ズンッ、と地鳴りがしていた。 場違いに、石鹸の無垢な香りが鼻腔をつく。 【舞】「………」 通路を折れた先で、舞が今、着地を遂げた格好で床に膝を折ってしゃがんでいた。 剣先を床に据え、空気を両断していた。 【舞】「………」
【祐一】「やったのか…?」 【舞】「………」 こくりとその頭が動いた。 結局、とどめは舞が刺したのだ。 走り抜けたほうが速い。 そのままの前傾姿勢を保って、壁までの距離を一気に詰めた。
奴がその壁の手前で勢いをもろともせず、直角に折れた。 届くか!? 俺は片腕で、それを跳ね上げるようにして剣を薙いだ。 ビシッ… もしそれに尾があるとしたら、触れたのはその尾の先だ。 わずかな手応えだけを残して剣が天井へと向いた。
…ズビュッ! 入れ替わりに、同じ軌道を逆に床へと辿る線があった。 冷静にその機を待ちかまえていた舞が、通路の折れた先で剣を振り下ろした格好で膝を折ってしゃがんでいた。 【舞】「………」 【祐一】「やったのか…?」 【舞】「………」
こくりとその頭が動いた。 いい追い込みだった、と褒めてくれるかとも思ったが、舞は黙ったままだった。 俺は精一杯のことをしたつもりだったが、舞にしてみればそんなものは取るに足らないことなのだろう。 なにより、とどめを刺したのは舞だ。俺ではない。 【祐一】「ふぅ…」 俺は息をつく。
まぁ、何だ。キモスレ住人は転売商人が嫌いなのです。それだけ。
結局痛感させられたのは、舞と俺との力の差でしかない。 今のように俺はどれだけ遮二無二なってみても、偶然奴らを傷つけるのが精一杯なのだ。 【舞】「………」 いつだって、何気ない顔をしているにも関わらず、舞はすごいことをやってのけていたのだ。 学生の本分でもある部活動に打ち込んでいれば、その運動神経は日の目を見て世間を騒がせていたことだろう。 どうしてその舞が、今は名声とは逆の罵倒を浴び、生きていなければいけないのだ?
俺は下唇を噛み、その要因の駆逐へと思いを馳せた。 【祐一】「これで残りは…何体だ」 舞に目を向ける。 【舞】「………」 そのとき舞の異変に気づいた。 舞は剣の腹を床に沿わせて、しゃがんだままだ。ずっとその格好でいる。
【祐一】「どうした?」 【舞】「………」 【祐一】「どこか痛めたのか?」 俺は舞の正面で膝をついて、手を差し出した。 【舞】「上…!」 【祐一】「え?」
パリンッ!と蛍光灯が割れた。 ■剣を掲げる ■床を転がる 俺はとっさに剣を担ぐように掲げた。 ガシュッ…!!
舞が水平に、俺の頭のすぐ上を薙いでいた。 跳ねた毛の二三本は切り落とされたかもしれない。 【舞】「そんな構えでは衝撃で自分の身を裂く…」 【祐一】「悪いっ…奴はどこだ?」 俺はとっさに床を転がった。 細かなガラスの粉が床に打ちつけらる寸前、舞が一刀し、重力を追い抜いて床に刃を突き刺していた。
シャンッ、とわずかに遅れて床にガラスの破片が散らばった。 【舞】「…よくよけた」 【祐一】「そんなことよりっ…奴はどこだ?」 パリンパリンパリンッ!と連続して蛍光灯が割れる音が遠ざかっていった。 【祐一】「追うぞ…!」 言うよりも早く舞の姿が消えていた。
が、いつものように疾駆する姿としては一向に現れなかった。 【祐一】「え…」 舞の体は眼下に丸まってあった。 【祐一】「おい、舞っ…」 腰をついたまま、立ち上がらない。 【祐一】「おまえ、足を…」
【舞】「………」 【祐一】「見せてみろ」 【舞】「追う…」 剣を杖にして立ち上がろうとするが、それだって叶わない。 【祐一】「動くなっ」 俺は舞を壁にもたれかけさせ、その足の関節に触れてみる。
【祐一】「痛いか?」 【舞】「いや…」 【祐一】「外傷はないけどな……中がどうなってるかは…」 【舞】「骨が腐っている…」 【祐一】「え?」 【舞】「ような気がするだけ…」
【祐一】「そんなことがあるわけないだろ。びっくりさせるな」 【舞】「でも左腕は中から黒くなり始めてる…」 【祐一】「まさかっ…」 俺は舞の手をとり、強引に袖を剥いた。 【祐一】「………」 暗くてよくわからない。
【舞】「………」 【祐一】「動かないのは…左腕と、両足か?」 こくり。 【祐一】「よくそれで一体でも仕留められたもんだな…」 【祐一】「なんにしろ今日はここまでだ」 【舞】「戦う…」
【祐一】「立てもしないのにか?」 【舞】「時間を置けば悪化する一方だから…」 なんだ、その病状は… 【祐一】「そんなに大変なことになってるだったら、医者に診てもらうんだ」 俺にはそれしか対処のしようが思いつかない。 しかし…
【舞】「祐一」 そうやって名前を呼ばれると、もうだめだった。 【舞】「私を助けて」 【祐一】「ぐぁっ…意外に重いな、おまえ…」 【祐一】「…出るとこ出てるもんなっ」 ぽかっ。
【祐一】「動くじゃないか、手…」 【舞】「………」 俺は手負いの舞を背負い、廊下を歩いてゆく。 ぱりぱりと蛍光灯の破片が靴底で音をたてた。 日常的でないその状況にも慣れてしまっている。もう、何が起きても驚かないでいられる気がした。 【舞】「左…」
【祐一】「階段だぞ」 【舞】「上がって」 【祐一】「…了解」 普段なら二段飛ばしでいく階段だったが、今は一段一段を踏みしめて上る。 体が揺れるたび、舞の髪の毛が俺の首筋をさらさらと撫でた。 いつもの、舞の匂いがする。
混じりけのない、石鹸の匂い。 どれだけ勇ましくても、匂いは女の子だった。 俺がもうこれ以上一歩ものぼれない、という限界に達したと同時… 【舞】「…ここ」 ようやくそう舞が告げた。 【祐一】「はぁ…はぁ…」
【祐一】「どこだ、ここ…」 そこは、いつも俺たちが昼飯を食べていた場所だった。 だが、夜の姿では、到底同じ場所だと思えない。 他の場所同様、異質だった。 【祐一】「どうするんだ、こんなところで…」 【舞】「………」
【祐一】「追いつめられたら、終わりじゃないか」 【祐一】「逃げるにも階段じゃ、転げ落ちるしかないぞ…」 【舞】「………」 【祐一】「1階に降りたほうがよかったんじゃないのか…?」 【舞】「よくはない」 【祐一】「そうか? まあ、百戦錬磨のおまえのことだ。信じるよ」
【舞】「こんな窮地は初めてだけど…」 【祐一】「恐くなるようなことを言うな」 舞を下ろして、一息つく。 舞の体と接触していた部分だけが、熱を持って汗ばんでいた。 【祐一】「さて…来るかな」 【舞】「…来ると思う」
【舞】「祐一がいれば」 【祐一】「そうかい…」 舞は、俺の名を言った。 やはりそれは、俺個人を限定するような錯覚を起こさせるものだった。 でも、俺以外でよくとも、この場合やはり俺の名を口にしていたのだろう。 緊迫した状況が、強迫観念を生み出しているのかも知れない。
【祐一】「大丈夫か、体のほうは…」 【舞】「…大丈夫」 【舞】「右腕だけはよく動くから」 【祐一】「それは大丈夫というのか…?」 【舞】「たぶん…」 【祐一】「………」
【舞】「………」 【祐一】「後は、何体だっけか」 【舞】「…一体」 【祐一】「片づくかな」 【舞】「片づける」 【祐一】「そうか…」
【舞】「………」 【祐一】「大体、奴らはなんなんだ?」 【舞】「さぁ…」 【祐一】「そんなので、よく数だけは把握できるな」 【祐一】「背番号でも背負ってるのか、奴らは」 【舞】「さぁ…」
【祐一】「でも、俺に寄ってくるってさっき言ったよな」 【舞】「言った」 【祐一】「あれは…舞以外の第三者に寄ってくるんじゃないのか」 【舞】「私にだって寄ってくる」 【祐一】「すると舞と俺に寄ってくるのか? 他の人間には」 【舞】「さぁ…試したことはない」
【祐一】「そうか…」 【舞】「………」 【舞】「でも、祐一のほうが、私よりも強く魔物を引き寄せる」 【祐一】「そら、好かれたもんだ」 【祐一】「そうなると、もうこの物語は俺ナシでは語られないものになっているってことだな」 【舞】「…囮役として」
【祐一】「おまえってホント、人をコケさせるのに長けているよな」 【舞】「転けさせてなんていない。本当のことを言っただけ」 【祐一】「確かに。俺は剣先を触れさせることすら難儀しているからな」 【舞】「まったく」 【舞】「それでも、マシになってきている」 そういう言葉が、相手の気勢を削いでいるとは思わないのだろうか。
思わないのだろう。 舞は、極めて鈍感であるし、それ以上に相手の気を引くということに無関心なのだ。 【祐一】「とりあえず束の間の休憩だ、座ろう」 舞も同意して、踊り場の冷たい床に腰を下ろす。 そしてひたすら、奴らの訪れを待った。 ………。
……。 ………。 【舞】「祐一」 【祐一】「ん…?」 【舞】「………」 【祐一】「どうした」
【舞】「………」 【舞】「…なんでもない」 【祐一】「そっか…」 【舞】「うん…」 【祐一】「………」 ………。
……。 ………。 【舞】「…りんご」 【祐一】「…ん?」 【舞】「…りんご」 【祐一】「りんご、食いたいのか? あるわけないだろ、そんなもん」
【舞】「…違う。りんご」 【祐一】「りんご…?」 ご… …しりとりか。 【祐一】「おまえ、どうせ、すぐに自爆するんだからさ、暇つぶしにもならないぜ?」 【舞】「…自爆しないから」
【祐一】「本当か?」 【舞】「…りんご」 【祐一】「じゃ、ごりら」 【舞】「…らっきょう」 【祐一】「うみうし」 【舞】「…しりめんじゃこ」
【祐一】「違う。ちりめんじゃこだろ」 【舞】「…じゃ、ちりめんじゃこ」 【祐一】「こむらがえり」 【祐一】「って、ちょっと待て、ルールを勝手に無視するな」 【祐一】「おまえは、『ち』じゃなくて『し』だろ」 【舞】「…祐一は細かい」
【祐一】「違うっ、おまえが適当すぎるんだよっ」 【祐一】「最低限のルールは守らないと、ゲームになんないだろ?」 【舞】「………」 【舞】「…一理ある」 【祐一】「はぁ…」 【祐一】「…おまえはホントにオカシイ奴だよな」
【舞】「…それは、喜んでいいの」 【祐一】「さぁ、微妙なところだな」 いつしか重苦しい空気は去っていた。 その場はもはや異質な場所ではなく、いつも俺たちが和やかに団欒していた昼食の場だった。 そこに居るのも、いつもの俺と舞だ。 それは絶体絶命のこの状況で、舞が意図して考え出した冗談だったのだろうか。
だったら、俺は舞を見直す。すごい奴だな、と。 でも違うだろうな。 いつだって舞は意図せずそうしてきたはずだ。 それは舞の性格で、それに佐祐理さんや俺は惹かれたはずだったからだ。 佐祐理さんがこの場にいたなら、いつものように『あははーっ』と笑っているはずだ。 いつだって佐祐理さんは、愛想笑いなんかではなく、本当に楽しくて笑っていたのだ。
【祐一】「あはは…」 俺も笑っていた。 カシンッ…! 小さいが、確かに聞こえた。 【舞】「きた…」 直後、舞がその小さな口を開いた。
【祐一】「………」 俺は密かに唾を飲む。 【舞】「まだ遠い…」 眼下の廊下、その突き当たりから奴は迫ってきているのだ。 カチッ…! 自ら撒き散らした蛍光灯の破片が細かく割れる音が、その訪れを克明にしている。
それは人の足で踏みしめる音ではなく、リズムでもなかった。 やはりそれは人ではないのだ。 得体の知れないモノと相対していることを再認識する。 【舞】「………」 【祐一】「どうするんだ…?」 【舞】「………」
【祐一】「俺がいくよ」 【舞】「いや…」 【祐一】「いくのか…?」 こくり。 【祐一】「動けないじゃないか…」 【舞】「………」
【祐一】「まさか…」 ガキッ! 一際大きな音が、すぐ眼下でした。 舞が立ち上がる。 【祐一】「待て、舞…!」 【舞】「………」
二歩、三歩と踏みだし、そして… タッ! 跳躍した。 二十段以上はあろうと思われる高さを舞は一気に飛び降りた。 そして… ザシィィィィィィィーーッッ!!
大きな弧を描いた剣先が、舞の全体重とともに階下に立ち籠めていた空気を両断していた。 【舞】「………」 動くものはない。 物音もしない。 俺はその結果を見て初めて、舞の意を理解した。 もはやその脚で相手の懐に飛び込むことも、その腕で一刀両断することも叶わない舞に唯一残された策がそれだったのだ。
高みから飛び降りて、全体重をかけて斬る。 顔色ひとつ変えず、その決死の所行をやり遂げた舞に、俺は感服と呆然が入り交じった複雑な感情を覚えるしかなかった。 そして俺はもう必要のなくなった剣をその場に捨てると、階段を駆け降りた。 【祐一】「…舞!」 しゃがみ込んだままだった舞の上体を抱きかかえる。 【祐一】「まったく無茶しやがって…大丈夫なのか」
【舞】「………」 【舞】「…失敗した」 【祐一】「え…?」 【祐一】「……ッ!?」 天地の判断がつかない。 当然だ。入れ替わり立ち替わりしているのだから。
ドグッ!と壁に叩きつけられたところで、俺の体は跳ねるのをやめた。 人間の体がこうも容易く宙を跳ぶものだと初めて知った。 それもふたり分の体重が、だ。 【祐一】「舞…」 咄嗟に固く抱いていた舞の容体を確認する。 【舞】「………」
俺のほうに目を向けて、黙ったままに頷く。大丈夫、という意志表示だった。 だが、俺のほうが大丈夫ではないようで、舞を庇ったためだろうか、利き腕の肩に激痛が走っていた。 しばらくは使い物にならないようだ。 【祐一】「どうする、一時退却か…?」 【祐一】「だったら、背負って旧校舎まで走り抜けてやるぞ」 実際にこの体で舞を負ぶって逃げ切る自信なんてなかった。
ただ、その言葉を言い切る以外、俺がしてやれることなんてなにもなかったのだ。 【舞】「これ…」 だがそんな俺に舞は酷にも、剣を握らせたのだ。 【祐一】「どうしろって言うんだよ…」 俺の剣は、踊り場に残してきた。その代わりなのだろう。 【舞】「勝つことは考えないで」
【舞】「受けるか、避けるか」 【祐一】「おまえは…」 【舞】「………」 舞が俺の腕を抜け、立ち上がった。 【舞】「…くる」 追って俺も、残された左腕一本で剣を携え立ち上がる。
追い風が吹き始めた。 それは引いてゆく潮のようだった。 俺はそれに対峙して、丸腰の舞の前に歩み出た。 【舞】「そして中庭に…」 背中で舞の声。 【舞】「いつもふたりで居た場所へ」
振り返ったときには、舞の姿はなかった。 なにをしようとしているのかは知らない。 俺には舞の言う通り行動する以外、選択肢はなかった。 しかし自分の無事を優先するなら別に逃げ出したってよかった。 だがそんな考えは毛頭ない。 なにより俺の行動に規制がつくのは、『舞のために何かを為したい』その思いが前提にあったからだ。
今、舞のためにできることがある俺には、それを為すだけだった。 【祐一】(あ、そうか…) 【祐一】(今の俺は、自分の無事よりも、「舞のためにできること」を優先しているんだな…) それに気づいた。 単純なことだったけど、俺にとっては驚くべきことだった。 いつの間に俺はこんなにも舞のことが好きになってしまっていたのだろう。
わざと剣を空振りさせ、相手を牽制した後、俺は壁に肩を擦らせるようにして廊下を駆け抜けた。 シャリシャリと細かな音が背中へと迫る。 くるかっ…!? 俺は地を蹴って、そして低く床に飛び込んだ。 足のふくらはぎの辺りに触れるものがあったが、衝撃には至らない。 滑り込んだ、その先の空間が大きく揺らぎ、波が頭上を通り過ぎていったことがわかった。
再び逆方向へと疾走する。 勢いに振られながらも手すりを掴んで体勢を立て直した後、一気に階段を降りた。 こちらは足を踏み外さずに降りることで精一杯だったが、奴は違うようだった。 踏み外す足さえも持たないのか、俺を突き落とそうかとするように、背を撫で続けた。 あるいはそれは、肉を断つ牙が、ぎりぎりのところで届いていない、というだけか。 落ちてくるようにして1階へと辿り着くと、俺は迷わなかった。
重心を移動させている暇などない。 廊下の横幅という短い距離を助走して飛んだ。 剣の柄が、窓ガラスを打つ。 激しい衝撃の後、俺は地に膝をついていた。 ガラスの破片がその膝に食い込み、出血するのがわかるほどの痛みを覚えるが、気にしている暇もない。 すぐさま立ち上がる。
振り返ると、俺がくぐってきたよりも大きな穴を開け、迫り来る気配があった。 それへ向け、俺は正面から斬りつけた。 だが両腕でも、ままならなかったというのに、今は片腕だ。 それでどうにかしろというほうが無理な話だった。 そして、俺はもうひとつ、迂闊にも忘れていたことがあった。 剣が、両刃であったことだ。
衝撃を受けきれず、飛ばされたとき、自らを切り裂いていた。 俺は二度と立ち上がることができなかった。 どくどく脈打つと同時に吹きこぼれてゆく鮮血に、見入ることしかできない。 こんなにも血が流れ出たら、どうなるのだろう。 まるで、俳優にでもなった気分だ。 そんなことを淡々と考え続けた。
不思議なことに、もう、襲い来るものはなかった。 だが、そんなことは、もう関係ないような気がした。 …祐一! 自分の名を呼ばれた気がしたが、それも誰の声かわからない。 まさか、それが奴の声なのだろうか…。 意外に女々しい声だった。
どこまでもどこまでも落ちてゆく。 あるいは浮上してゆく。 もし、その先に入り口があるとするなら… これは夢なのかもしれない。 あまりに幻想的な日々だった。 そしてちょっとだけ可笑しく、楽しかった。
俺には出来すぎた日々だ。 だから夢だったとしたら、それはいい夢、と言えた。 それはもう、覚めようとしているのだろうか。 ずっと、いつまでも居たかった。 ふたりと過ごした夢の中に。 ■斬りつける
■剣の背で受ける 剣の背で受けるが、今の俺は片腕だ。 【祐一】「ぐ…」 渾身の力で、俺はそれをいなす。 実際それによりいなされたのは自分の体のほうだったが、なんだって構わない。
逃げ切れれば、俺の役目は終わるんだから。 後はいつだって裏切ることのなかった、あいつを信じるだけだ。 剣の重心でそのまま振られるように向き直ると、俺は疾走を始める。 剣を持ってのそれは、思った以上にままならない。 右腕も振れないため、バランスがでたらめだ。 剣を投げ捨てることにした。ならば一矢報いよう。
振り返りざま、剣を振り抜いた。刃が地面と水平となったところで手を放した。 つと、と驚くほど自然にその先の中空にそれは突き刺さった。 そのことにより、より明確にわかる。奴の、追撃の様が。 ふるふると身を震わせ、その刺さった剣を捩った。 迫り来る速度はそれでも衰えることなく、俺との距離はあっという間に縮まってくる。 凶々しい気配がぼっぼっ、と積もった深雪を踏み鳴らし、猛然と迫りくるのがわかる。
奴の姿が見えないにも関わらず、その恐ろしい醜貌を想像させた。 足がすくむ。逃げなければ。 今から思えば、その一矢は逆効果だったのかもしれない。精神的に俺を萎縮させた。 足が本当に交互に動いているのか。それさえも、もうわからない。 前を向いて、あがくようにして校舎の壁を後ろへ後ろへと送るだけだ。 そして、気は張っていたのだが、それでも背後からの衝撃は不意打ちとしか思えないほどのものだった。
ガギィッ! 胸の辺りが異様に反り返り、メキッと嫌な音を立てた。 意識が飛ぶ。口から胃液が、吐く意志もなく零れる。 それで残されていた左肩にも力が入らなくなった。 受け身をとるすべもなく、顔面で地を滑った。 地面で体を捻り、もう起きあがることもできない俺は克明に見ようとした。
…眼前に迫る絶望を。 だがその目に映ったのは、白く舞い降りるもの。 空高くにあった。 【祐一】「……!?」 【舞】「ざ…」 月明かりを受け、それは翻り…
【舞】「……せぃっ!」 ザシュゥゥゥゥーーーーーーーーーーーーッッ!! 【舞】「………」 そして人の姿となって地に降り立っていた。 後にはいつもの風景が、向かい合う舞と俺が居るだけだった。 【祐一】「………」
【舞】「………」 【祐一】「よぅ、舞」 俺は不格好に腰を地面に押しつけた位置から言った。 【舞】「よぅ…祐一」 舞はそう俺の挨拶を真似してみせた。 【舞】「…ちゃんと来てくれた」
【祐一】「来るさ」 【舞】「うん…」 【祐一】「しかしおまえ、どこから落ちてきたんだ? まさか…」 【舞】「…屋上」 【祐一】「嘘だろっ!?」 【舞】「嘘じゃない」
【舞】「階段ぐらいの高さからでも今の私では斬ることができなかったから」 【祐一】「かといって屋上って…」 あまりに発想が飛躍しすぎている。 まさか、討ち違えることも… 【舞】「祐一が考えるほど、浅はかじゃない」 【舞】「魔物を討ったときの、衝撃というものを考えている」
【祐一】「そんなこと言われても、俺にはよくわからないけどな…」 【祐一】「なんにしてもまったく、すごいよ、おまえは」 【舞】「………」 舞の体がぶれた。 そして、そのまま掻き消えるように地に崩れ落ちた。 【祐一】「舞っ…!」
俺は慌てて立ち上がり、駆け寄った。 【祐一】「やっぱ、おまえ…!」 舞は立っていることもできないほどに、満身創痍だったのだ。 【祐一】「おい、舞!」 抱きかかえ、そのぐったりしたような顔に呼びかける。 【舞】「祐一…」
【祐一】「ああ、なんだっ…」 【舞】「………」 その唇が小さく動く。 【舞】「…牛丼」 ごんっ。 俺は思わず舞に頭突きを喰らわしてしまう。
【舞】「…痛い、祐一」 【祐一】「ばかっ、そんな状況かっ!」 【祐一】「思わずトドメを刺してしまうところだったじゃないかっ」 【舞】「…お腹空いたから」 【祐一】「そりゃ腹も減るだろうけどさ…」 【舞】「…祐一、買ってきて」
【祐一】「おまえ、急患で病院に運び込まれてもいい容体なんだぞ」 【舞】「…休めば大丈夫。牛丼食べたら帰れるから」 舞は身じろぎして、俺の腕から抜け出ようとする。 【祐一】「とりあえず校舎に戻るか。寒いもんな…」 【舞】「………」 こくりと頷く。
俺は舞の肩を抱いて、歩く補助をする。 舞は頭を完全に俺の肩に預けた。 頬と頬が触れあう。俺が顔をその方に向けさえすれば、恥ずかしいばかりの状態になりそうだった。 【祐一】「舞、あんまり顔を寄せるな。キスしてしまうぞ」 【舞】「構わない」 それが舞の回答だった。
【舞】「振り払うのも面倒…」 そのまま寝入ってしまいそうに、力無く付け足した。 俺は黙って、舞の吐く白い息を鼻先に感じながら、校舎へと戻った。 廊下に入ってすぐの教室に、舞の体を落ち着ける。 【祐一】「寒いだろ。ほら上着」 冷たい壁にもたれかかって座る舞の身を考えて、上着を脱いだ。
【舞】「祐一こそ、外にでるのに…」 【祐一】「おまえが重かったから、汗かいたんだよ」 さくっ、と舞のチョップが俺の目の前で空振りする。 身を乗り出す元気もないらしかった。 【祐一】「すぐ戻るからな。大人しく待ってろよ」 上着を強引に舞の顔に被せてから、教室を後にする。
まだ実感が湧かない。 すべてが終わったんだ。 腕を振り上げて跳び上がってもいいぐらいだ。 だが腕は上がらないし、跳び上がる体力もない。 でも、今から食べる舞との牛丼は、格別な味となることだろう。 舞は今日から普通の女の子に戻る。
だから、それはささやかな祝杯だ。 俺の大好きな舞と、舞の大好きな牛丼をふたりして肩を並べて食べる。 舞の鼻に飛んだ汁を俺が拭ってやったりしながら。 無意味に途中で丼を交換したっていい。 なんだっていい。 舞とふたりで仲良く食べられるのなら。
………。 ……。 …。 そしてふたり分の牛丼弁当を抱えて戻ってきたとき、俺は自分の愚かさ、そして舞の執念を知ることになる。 誰もいない教室を前にして。 【祐一】「もう一体、残っていたんだ…」
それを知る。 俺の計算違いじゃない。 舞は俺に嘘をついていたのだ。 でなければ、あいつはここで俺の帰りを待っていて、そしてふたりで仲良く牛丼弁当を食べ、帰路についているはずだった。 はずだったのに… 【祐一】「舞っ…!」
牛丼を床に投げ捨てると、教室を飛び出していた。 廊下を走り、あらゆる教室を回った。 わからない。 どうして、舞が俺を残していったのか。 もう俺を必要としない理由があるのだろうか。 いや、でも…
今だってあいつは俺を好きでいてくれているはずだ。 自信を持ってそれだけは言える。 だから何か理由があるのだ。 俺がそばに居てはいけない理由が。 そうに違いない。 再び駆け出そうと足を踏み出したとき…
ずんっ…! 俺のこめかみを銃弾のようなものが右から左へと突き抜けていた。 不意に流れ弾を食らったときとは、こんなにも腹立たしいものなのだろうか。 痛い以前に、驚いてしまう。 膝を床についた。それも結構痛かった。 ………。
風が吹いている。 窓を割ったせいだろうか。 りんと声がした。 一瞬、細長い廊下があぜ道に見え、俺は自分の気が確かでなくなりはじめていることに気づく。 目の前には子供がいるのだ。 幼い女の子だ。
手負いだ。 肩から血を流している。背中までぱっくりいっているのかもしれない。 過去にまで彼女の刃は届いたのだろうか。 【祐一】「あ…」 俺は彼女を知っている…。 その女の子は確かに見覚えがある。
でも、どうして彼女が傷ついているのだ。 そんな陰惨な過去など知らない。 彼女がそんな深手を負っていたことなどなかった。 なかったはずだ。 少女は、長い時を隔て、今俺の目の前に現れ、そして何を伝えようとしているのだろう。 俺が探しているひとと、何か関係があるのだろうか。
待て…意識が混濁してきた… 誰かが俺に何かを訴えている。 それがわかる。 だがその手段はあまりに強引だ。 俺の手には負えない。 つまり、その受け取るすべが俺のほうにないのだ。
それは俺を傷つける。人を傷つける。 鉄パイプを耳の穴に通すようなことはやめてくれ。 そんなものは通らないのだ! がんっ!と激しく頭をぶつけたかと思えば、俺は冷たい壁に半身を預けていた。 【祐一】「………」 瀕死のようだった、少女の虚ろな目だけが脳裏に焼きついて、離れない。
だがそのおかげで、俺はひとつの疑問の回答に思い当たっていた。 俺を置いて、舞がひとりでいってしまった理由だ。 それは… 俺に知られてはいけない結果を求めている。 それしかない。 思い出してみればいい。
奴らを倒してゆくと共に、舞はその四肢の自由を奪われていった。 そのことに舞も気づいていたのだ。 だから、最後に訪れる結末も知っていた。 最後の一体を倒したとき、自らも共に絶命するという結末を。 だから最後の一体は止めを刺さず、手負いのまま見逃したのだ。俺に嘘をついてまで。 少女の陰鬱な死のイメージは、そのまま舞の末路に直結していたのだ。
いや、イメージだけではない。 もっと根拠をもって、彼女はその場にいたはずだ。 祐一…祐一…! また声が聞こえる。 やめてくれ。もう俺のそばにこないでくれ。 頭が痛いんだよ…。
どうでもいいが、天井だけが見える。どうしてだ? いつの間に寝てるんだよ、俺は… ジンジンと耳のあたりが痛む。 …祐一! 【祐一】(わかってる。もうやめてくれ。後はひとりでやる) 俺は舞を追うことはしなかった。
手負いのコイツがそばにいる限りは、舞も無事なのだ。 それは少女。ずっと昔に会っていた少女だ。 束の間の時を、あの場所で過ごした。 【祐一】(そうか…この校舎は新校舎…) 【祐一】(そしてあの日の、あの場所は、旧校舎を背負っていたんだな) 俺は肘を床につき、上体を起こす。
関節の節々が軋むように痛んだが、動けないほどではなかった。 立ち上がると、俺は冷たい壁に体重を預けながらに歩き始めた。 場所なら見当がつく。 旧校舎の向こうに落ちる夕日の角度が思い出せる。 俺はこの子を連れて、帰るのだ。あの時と場所に。 そこはいつだって、こいつらが帰りたくてやまなかった場所なのだ。
俺はもどかしいほどに言うことを聞かない体に鞭を打って、歩いてゆく。 ………。 俺はひとつの教室の前に立ち、そのドアを迷いもなく開け放つ。 ………。 笑い声がした。 小さな女の子の。
そう。十年前のあの麦畑に少女はいたのだ。 【少女】「あ…」 と少女は声をあげた。 声をあげたかったのはこっちのほうだ。 だって、その麦畑の中には何も見えなかったからだ。 そこから『あ…』なんて声が聞こえてきたら、びっくりするのはこっちに決まってる。
【少女】「あのさ…」 少女は麦の中から立ち上がると、こっちに向いて声をかけた。 【少女】「…遊びにきたの、ここに?」 恐る恐る、といった感じで少女は訊いた。 【祐一】「いや、ちがうよ。迷ったんだ」 【祐一】「このあたりは、まだよく知らないんだ」
【祐一】「でも、こんな麦畑があったなんて、おどろいたよ」 【少女】「…どこからきたの?」 【祐一】「さぁ…向こうのほうかな」 よくわからない方向を指してみた。 【祐一】「合っているかどうか、わからないや」 【少女】「じゃあさ…」
【祐一】「うん?」 【少女】「遊ぼうよ」 【祐一】「どうして?」 【少女】「遊んでるうちに思い出すよ、きっと…」 【祐一】「そうかなぁ…」 【少女】「そうだよ、きっと…」
【祐一】「じゃあ、そうするかぁ…」 【少女】「うんっ」 再び少女の顔がぱっと和らいだ。 その日以来、ぼくは彼女とよく遊ぶようになった。 夕日の町中を歩いていると、いつしかその場所に辿りついていたのだ。 麦畑は、広大な遊び場だった。
しゃがめばその姿を隠せたし、走れば麦の海を泳いでいるような心地よさがえられた。 少女はよく笑い、よく走った。 【祐一】「他に友達はいないの?」 麦を倒して、寝転がっていたときに訊いた。 【少女】「うん…あたしは普通じゃないから」 最初はその意味がわからなかった。
どう見ても彼女は普通だったし、普通の人以上に人なつっこく、こんなところでひとりで居る理由がさっぱり理解できなかったのだ。 しかし後にその理由は、彼女の口から語られることになる。 【少女】「あたしには不思議な力があるの」 少女は、もっと幼い時は違う町に住んでいたらしい。 そのときに一度だけ出演したテレビ番組が放映された直後、その町を去ることになったのだという。 その内容がどんなものだったかまでは訊けなかった。
でも、その少女の口調からも、その番組が彼女をどんな扱いにしていたか想像がついた。 当時の超能力を持てはやすような風潮に影を落とさせる、食いものにするような内容のものだったのだ。 魔女狩りの魔女としてかり出されたのが、彼女だった。 しかし、この土地にやってきても何も変わらなかった。 周囲からの奇異の目と畏怖の念を背負い続けなければならなかった。 だから少女は、町の子供たちが集まるような場所を避け、人知れずこんな場所でひとりきり遊んでいたのだ。
ただ僕だけは町の人と同じような目では見なかった。 実際、その力を目の当たりにしてもだ。 ただ、へぇ、と思っただけだった。 恐いのとは違う。ただ、不思議だ、とそれだけだった。 【少女】「それは祐一くんだからだよ」 それを口にして言うと、彼女は嬉しそうに答えた。
【祐一】「ぼくが特別ってこと?」 【少女】「あたしにとってはね」 彼女が膝を曲げ、くるりと回転して立ち上がると駆けてゆく。 その追いかけっこの合図に、僕も飛び上がって後を追った。 麦の背が高くなってくると、少女の姿が埋もれてよく見えないことがあった。 少女は背が低かったからだ。
追いかけっこにしても、隠れん坊にしても、それは不公平だったので、僕は彼女にハンディを付けることにした。 【祐一】「おいで」 【少女】「……?」 【祐一】「ほらっ」 ちょこちょこと近づいてきた少女の頭に、かぱっ、とカチューシャの飾り物をはめ込んだ。 大きな、ウサギの耳が垂れ下がる飾り物だ。
この間の縁日で手に入れたものだ。 【少女】「…ウサギさん?」 【祐一】「そう。ウサギは好きだった?」 【少女】「うん、好き…」 【少女】「動物はぜんぶ好きだけど…ウサギさんがいちばん大好き」 【祐一】「そう、よかった。これで僕と一緒ぐらいの背丈だ」
【祐一】「逃げてみて」 少女がぱたぱたと走ってゆくと、滑稽なほど絶妙に、その耳だけが麦の上に揺れて見えた。 【祐一】「オッケーだ。これで勝敗の差が縮まるよ」 でも実際は勝敗の差なんてぜんぜん縮まらなかった。 もとより少女のほうが運動神経がよかったからだ。 なによりそんなことは関係なく、少女はその耳をいたく気に入ったようで、いつだってそれを付けるようになった。
それはそれで僕にとっても嬉しいことだった。 自分のプレゼントにしては、よく似合っていたからだ。 【少女】「ねぇ…」 ごろりと転がると、空を僕たちの形に切り取って見ることができた。 後はそびえる麦の壁だ。僕たちだけの秘密基地に思えて、こうしてふたり居るのが僕は好きだった。 誰が脇のあぜ道を通りかかろうが、僕たちは発見できない。だから、ふたりきりで話をするにはぴったりだ。
【少女】「あたし…自分の力、好きになれるかもしれない」 少女が告げた。 【祐一】「そう。それは良かった。自分を好きになることはいいことだよ」 【少女】「祐一といたらね…」 【祐一】「会って少しのぼくをそんなに信用されても困るけど…」 【少女】「どうしてだかわかんないけど、そう思うよ…」
【祐一】「ふぅん…」 結局その少女と遊べたのは夏休みの間の、二週間ばかりのことだった。 休みの間だけ、避暑地に遊びに来ていただけで、休みが終われば、こんな場所までひとりでは遠出してこれなくなる。 最後の日も、彼女は僕があげたウサギの耳をつけたままだった。 【祐一】「さようなら」 僕は言った。
【少女】「さようなら」 彼女は無表情で言った。 生暖かな風が吹くと、背のいよいよ高まった麦と一緒にウサギの耳が揺れていた。 結局その女の子とはそれっきりだった。 ただ、ひとつ憶えているのは会わなくなった翌日の夕方、電話があったことだ。 宿泊先の電話番号を教えた覚えもなかったのに、それは確かに彼女だった。
背の低い彼女が背伸びをしながら電話に貼りついている格好が目に浮かんだ。 【少女】「ねぇ、助けてほしいのっ」 【祐一】「どうしたのさ」 【少女】「…魔物がくるのっ」 【祐一】「魔物?」 【少女】「いつもの遊び場所にっ…」
【少女】「だから守らなくちゃっ…ふたりで守ろうよっ」 【少女】「あたしたちの遊び場所で、もう遊べなくなるよっ」 【祐一】「昨日は言えなかったけど、今から実家に帰るんだ」 【祐一】「だから、またいつか遊ぼうよ」 【少女】「ウソじゃないよっ…ほんとだよっ」 【祐一】「魔物なんてどこにもいないよ」
【少女】「ほんとうにくるんだよっ…あたしひとりじゃ守れないよっ…」 【少女】「一緒に守ってよっ…ふたりの遊び場所だよっ…」 【少女】「待ってるからっ…ひとりで戦ってるからっ…」 それが本当の最後だった。 その後、少女がどうしたかは知らない。 ただ、もし、その嘘が現実となることを願う少女がいて、
そのときより始まったひとりきりの戦いがあるというのなら、 そこには最初から魔物なんてものは存在せず、 ただひとつの嘘のために十年分の笑顔を代償に失い、 そして自分の力を、忌まわしき力を拒絶することを求めた少女が立ちつくすだけなのかもしれない。 一瞬の、ほんの数日の出会いから。 【祐一】「………」
【舞】「………」 【祐一】「………」 【舞】「………」 そして、今、出会ったときと同じようにして、舞はそこにいた。 【舞】「………」 【祐一】「やめろ…舞っ」
【舞】「………」 聞こえているはずだ。俺の姿が見えているはずだ。 この校舎で出会ったときと同じ…彼女の目は俺を見ていない。 だが、今なら彼女の見ているものがわかる。 俺の後ろで怯える、傷ついた少女。 それは彼女自身があの日に放った、力のひとつだ。
その、とぎれとぎれの息の音も今の俺には聞こえる。 力は今でも舞の肉体と繋がっているから、この弱々しい呼吸はそのまま舞の心の鼓動となるはずだ。 彼女の最後に残した生命は、自らの心の臓に違いなかったから。 【舞】「………」 舞の手の中で柄が回り、剣が握り直される。 そして、体重を傾け、踏み込みこんだ。
自分の力と決別するために。 【祐一】「舞っ!」 駆け出すその寸前で俺がその体を抱き留めていた。 もう何度も、こうして受け止めてきた体だ。 堅固な鎧を着て、柔な内面をひた隠しにしている。 【舞】「…祐一、邪魔」
【祐一】「舞……」 【祐一】「魔物なんてどこにもいない。最初からどこにもいなかったんだ」 【舞】「………」 【祐一】「おまえが生み出していたんだ。おまえの力なんだよ」 【舞】「………」 【祐一】「終わりだ、舞」
【舞】「………」 【祐一】「終わったんだよ、おまえの戦いは」 【舞】「………」 舞は何も答えない。でも、俺は続けた。 【祐一】「おまえは、あのときの遊び場所…」 【祐一】「ずっとこの場所を守っていたんだな…」
【舞】「………」 【祐一】「十年という長い時だ…」 【祐一】「ずっとひとりきりで戦ってきたんだな…」 十年…なんて膨大な時間だろう。 ただひとつの嘘のために、その笑顔を失い、十年間のしがらみに縛りつけられることになったのだ。 【舞】「………」
【舞】「…祐一の言ってることはよくわからない」 あのとき、舞は願った。 魔物が本当に現れてくれたら、と。 そうすれば俺があの場所に居続けると信じて。 そして現れた魔物は、あの日の境遇を生み出した忌まわしき己の力、そのものだった。 それを否定し続けた人生が舞のこれまでだったんだ。
【祐一】「終わったんだよ、おまえの戦いは」 俺はそう繰り返した。 【舞】「………」 【祐一】「今日からはあの頃の舞に戻るんだよ」 俺は寄り道をしてきていた。 名雪から受け取って、机の中に押し込んであったそれは、偶然にもあの日の舞を飾っていたものだったから。
【祐一】「…ほら」 上着のポケットに押し込んであったものを取り出す。 そして舞のすぐ正面まで歩いてゆき、あの日と同じようにその頭に飾ってやった。 【祐一】「よく似合う」 舞はここから始める。 止まってしまっていた時間をここから動かすのだ。
【舞】「………」 【祐一】「ウサギさんだぞ。舞の大好きなウサギさん」 【舞】「………」 【祐一】「笑えよ、舞。すべては終わったんだから」 【舞】「………」 【舞】「…まだ一体、残ってる」
【祐一】「もうそれも消える。おまえが気づけばいいんだ」 【舞】「………」 【舞】「…そんな…急に言われても理解できない」 【祐一】「俺とおまえは出会っていたんだ。ずっと昔に」 【舞】「………」 【祐一】「短い間、俺たちはずっと友達だったようにして遊んだ」
【舞】「………」 舞の目が、金色を映したように見えた。 その目にも同じように、あの日の麦畑が広がっているのだろうか。 【舞】「あの日の男の子は…みんなと同じように私から逃げた」 【祐一】「違う。舞、違うんだ」 【祐一】「おまえの力を恐れてなんかじゃない。俺はおまえから逃げたんじゃない」
【祐一】「あれは、本当の別れだったんだ」 【祐一】「だから、こうして俺たちは再会して…」 【祐一】「あの日と同じようにお互いを好きになって、仲良くなったんじゃないか」 【舞】「………」 【祐一】「それに気づいたらいい。もう終わりだ、舞」 【舞】「………」
【祐一】「………」 【舞】「………」 【舞】「…どうすればいいのかわからない」 【祐一】「戻ればいいんだ、あの頃の舞に」 【祐一】「もう剣なんて捨てるんだ」 【祐一】「夜の校舎に訪れることもしない」
いつしか舞は、剣を持つ手を下ろしていた。 思えばその剣こそが、唯一舞がすがっていられたものなのだろう。 人が持つ力の象徴だ。 それを操って、人が持つべきでない力を断ち切りたかった。 それがどれだけ根深く、臓腑をも絡め取った茨でも、構わず食いちぎりたかったのだ。 心の臓ごと。
それほどに忌むべき力…彼女たちを舞は受け入れることができるのだろうか。 【祐一】「時間がかかるかもしれない」 でも、受け入れられると信じている。 【祐一】「佐祐理さんがいるし…」 【祐一】「それに舞がこうなったのは俺のせいでもある」 【祐一】「だから俺もずっと居るよ、舞のそばに。ずっと一緒にな」
否定され続けてきた力も含めて、俺は舞を好きで居続ける。 そうすればきっと舞は、自分の力も許せる日がくる。 【舞】「………」 【舞】「剣は捨てられない…私はずっとこれに頼って生きてきたから」 【祐一】「いや、捨てるんだ」 【舞】「…捨てられない」
【祐一】「捨てるんだ」 【舞】「…剣を捨てた私は本当に弱いから」 【祐一】「いいんだよ、それで」 【舞】「…祐一に迷惑をかける」 【舞】「一緒にいてくれるという祐一に迷惑をかける」 【舞】「それでも、祐一は構わないの…」
【祐一】「構うものか。それが女の子じゃないか」 【祐一】「これからは普通に生きろ、舞」 【祐一】「わからないことがあったって、俺がいつも隣にいて教えてやる」 そして舞はあの日から成長していない子供のままだった。 今でも隠れん坊や、動物園に思いを馳せる少女のままだ。 【祐一】「映画館の入り方だって、ゲームのやり方だって知らないだろう?」
【祐一】「たくさん楽しいことがあるぞ。一緒にやろう」 【祐一】「女の子ってのはそういうことをして楽しく生きるもんなんだぞ」 【祐一】「そして泣きたくなったら泣けばいい」 【祐一】「弱くたっていいんだぞ、女の子は」 【祐一】「そうしたら俺が慰めてやる」 【祐一】「夜の校舎では非力だったけど、日常の中では俺はおまえを守ってやることができる」
【舞】「道ばたで泣いてしまうかもしれない…」 【舞】「ご飯食べてたら、不意に泣き出してしまうかもしれない」 【舞】「それでも慰めてくれるの…」 【祐一】「ああ。道ばただったら、泣きやむまで隣に立って待ってやる」 【祐一】「ご飯中だったら、俺も食べるのをやめて舞と話をしてやる」 【舞】「それで泣きやんだら…冷めたご飯を一緒に食べてくれるの…」
【祐一】「ああ、冷めたご飯だってなんだって食ってやる」 【舞】「夜中に起き出して、泣いてしまうかもしれない…」 【舞】「祐一の知らないところで、ひとり泣いてしまうかもしれない…」 【祐一】「寝るときも、おまえのそばにいる」 【祐一】「泣く声が聞こえたら、すぐに起きて、温かいものでも入れてやる」 【祐一】「そして、俺の知らないところになんて、舞はいかせない」
【祐一】「舞は、俺のずっとそばにいさせる」 【舞】「………」 【祐一】「そうだ、舞」 【舞】「………」 【祐一】「卒業したらさ、広めの部屋を借りてさ、舞と佐祐理さんと俺の三人で暮らしてみないか?」 【祐一】「今度は佐祐理さんだけじゃなく、俺たちも飯作ってさ、当番制で」
【祐一】「そうやって家族みたいにさ、飽きるまで暮らしてみないか?」 【祐一】「舞のこともずっと見守ってやれるし、絶対楽しいと思うぜ」 【舞】「…本当に…?」 【祐一】「ああ、佐祐理さんだってオーケーしてくれるよ」 【祐一】「後は舞さえよかったら…。舞はそうしたいか?」 【舞】「………」
【舞】「…アリクイさんのぬいぐるみ、持っていってもいい?」 【祐一】「ああ、いいよ。ブタさんのオルゴールもな」 【祐一】「思い出が詰まったもの、全部持ってくればいいんだよ」 【舞】「………」 【舞】「じゃあ…」 【舞】「…そうしたい」
【祐一】「よし。決定だ」 【祐一】「今から楽しみだな」 【舞】「うん…」 【舞】「…祐一」 【祐一】「ん?」 【舞】「…ありがとう」
【祐一】「ああ」 【舞】「本当にありがとう」 舞がにわかに微笑んで繰り返した。 そして… 【舞】「祐一のことは好きだから…」 【舞】「いつまでもずっと好きだから…」
【舞】「春の日も…」 【舞】「夏の日も…」 【舞】「秋の日も…」 【舞】「冬の日も…」 【舞】「ずっと私の思い出が…」 【舞】「佐祐理や…祐一と共にありますように」
【祐一】「舞…?」 剣を自分自身に向け構えると、それを腹部に突き刺していた。 【祐一】「…!!」 舞の体が崩れ落ちる。重力に引き寄せられるままに。 俺は飛びつき、それを抱きかかえた。 【祐一】「舞っ…舞っ…!」
刃は腹部に深々と立ち入っていた。 血の流れが早い。すぐ床をも濡らした。 【祐一】「おまえ、どうしてこんなことするんだよ…」 【祐一】「ずっと、一緒にいくんだろっ!?」 【祐一】「春も夏も秋も冬もっ…ずっと一緒に暮らしてゆくんだろっ!?」 【祐一】「そう今、約束したじゃないかっ…」
【祐一】「俺だっておまえのことが好きだったのに…大好きだったのに…」 【祐一】「いつだって、おまえは…自分中心で…」 【祐一】「なんだって、勝手に終わらせやがって…」 【祐一】「そんなのって卑怯じゃないかっ…」 【祐一】「舞…!」 【祐一】「舞っ…!」
【祐一】「舞っ……!!」 舞の体重が両腕にかかっている。それはすべてだ。 どんな力も舞自身からは湧いてこない。 もう湧いてこないのだ。 ぐしゅぐしゅ… …ぐしゅぐしゅ…
納豆をかき混ぜる音かと思ったらそれは違った。 だってそれは朝食の場だったから、そう最初は思うのが自然だ。 でもそれが違うとわかると、俺は動揺してしまう。 「えっとさ…舞…」 とりあえず箸を置いて、舞と向き合う。 といっても、舞は俯いていたが。
「事前に知ってて、言い忘れていた俺が悪かったけどさ…」 「でも、佐祐理さんのほうは仕方ないよ」 「断れなかったんだよ。先輩から頼まれたみたいだったから…」 「そういうのってわかるだろ?」 「そんな、いきなり前日に入れられるバイトなんてやめてしまえばいいって思うかもしれないけどさ…」 「そこで堪えて、寛大に引き受けるってのが、やっぱ大人だと思わないか?」
「思わない?」 「思わないか…参ったな…」 ぐしゅぐしゅ… 「あ、今日の卵焼きはよくできてるな」 「って、話が違うよな…」 「………」
「…そんなに行きたかったか?」 「…うん」 鼻づまりの声が返ってくる。 「でも、ふたりきりでは嫌だろ?」 「佐祐理も一緒…」 「じゃあ、仕方ないな。今日は見送ろう」
………。 「なっ」 ………。 「うさぎさん…」 「うさぎさんは、また今度」 「ごりらさん…」
「ごりらさんも、また今度」 「きりんさん…」 「きりんさんも、また今度」 ………。 ぐしゅぐしゅ… 「えっと…あのさ、舞」
…ぐしゅぐしゅ… 「おまえの分の卵焼きも欲しい」 「舞の作る卵焼きは、結構好きなんだよ、俺」 「もらっていいよな?」 ………。 「嫌?」
「じゃ、仕方がない。勝負だ」 ………。 「負けたほうが、勝ったほうに卵焼きを差し出す。いいな?」 ………。 「勝負はいつもの動物さんしりとりだ」 「まずは俺からいくぞ。しりとりの『り』から」
「リス」 ………。 「ほら、舞。ス、だぞ」 ………。 「舞っ」 ………。
「…スカンクさん」 「ク…か」 舞の付ける『さん』は無視する。 「クジラ」 ………。 「ラは難しいぞ。できるかな?」
………。 「ライオンは、ンが付くぞ〜」 ………。 「…ラクダさん」 「お、やるな、舞」 「じゃ、ダチョウ」
………。 「…ウミウシさん」 「はい?」 「…ウミウシさん」 「ウミウシ?」 「ウミウシって動物か? 牛の仲間じゃないんだぞ、舞」
「…わかってる」 「わかったよ。じゃ、シカ」 ………。 「…カルガモさん」 「げっ…」 そうなると俺はお手上げだった。俺は『も』を回されて、答えられた試しはない。
そのときも例外ではなく、俺は負けを認めるしかなかった。 「ほらよ、舞。戦利品だ、おめでとう」 俺は泣く泣く、自分の卵焼きを差し出すはめになる。 欲張ったために、朝食のおかずの要を失ってしまった。これは大変由々しき事態である。 だが、言い出したのは他でもない自分自身であるから、まったく自業自得というものだった。 「………」
舞はじっと、差し出された卵焼きを見つめていた。 そして何を思ったのか、その卵焼きを押し返してきた。 「卵焼きはいらない…」 「そうか。じゃ、俺がもらうよ」 ことのほか安易に、奪還を果たせた。 「代わりに、私は…」
「…今日一日、祐一の占有権が欲しい」 舞は笑っていた。 今ならわかるけど、それは満面の笑みだと言ってもいい。 まだ目は、泣きはらした後で赤かったけど、涙はもう乾いていた。 ならば、もういい。俺の役目も終わりだ。 「馬鹿なことやってるうちに冷めてしまったけど、さ、食おうぜ」
あのとき始まった三人での生活。 取り戻さなければいけないものは、十年という長い成長の時だ。 少女から始まった舞の新しい生活は、不安だらけで、気づけば舞は涙し、しゃくりあげるようにしてひとり鼻をすすりはじめていた。 ぐしゅぐしゅ…と。 でも、もうこうしてそばにいて、泣きやむまで待っていてあげられるひとがいるから、大丈夫。 少しずつ涙の量を減らしてゆけばいい。
すぐに普通の女の子に追いつく。 そうしたら、ずっと俺たちは笑っていられる。 佐祐理さんはいつも笑顔だったから、もっと楽しくなってしまったら一体どんな顔になるのだろう、なんて想像もつかない。 想像もつかないほどに、楽しく平穏な日々だ。 春の日は風。 縁側にふたり腰掛け、行きそびれた動物園の代わりに、日がな一日しりとりに興じる。
「…祐一、祐一」 「ん…」 「…祐一の番」 「ああ、悪い。寝てたよ…」 「…なんだっけ」 「ウミネコさん…」
「コ、かぁ…」 夏の日は太陽。 じりじりと灼ける公園のベンチで待ち合わせ。 「遅いな、佐祐理さん…」 「遅い、佐祐理…」 「しかし暑いな…」
「うん…暑い…」 「なんか買ってこようか。アイスでも」 「祐一…いくの」 「ああ」 「じゃあ…私もいく」 「それじゃ、待ち合わせになんないだろっ」
秋の日は落ち葉。 拾ってきた枯れ葉を栞にして、みんなでごろごろと読書にふける。 「舞、おまえさ…」 「なに」 「そうやって眼鏡かけて読書してると、頭良さそうに見えるんだけどさ…」 「…うん」
「でも、読んでるのは日本昔話なんだよな…」 「…おもしろいから」 「そっか。じゃ、次、貸してくれよ」 「…次、佐祐理だから」 「じゃ、その次」 「貸し出し期限が切れる…」
「わぁったよっ…自分で借りてくるよっ」 「隣で一緒に読めばいいのに…」 冬の日は雪。 また雪。 「おいっ、家が大量の雪ウサギに囲まれていたぞっ」 「…私が作ったの」
「かぁっ…」 「おまえな、ここに住んでるのは俺たちだけじゃないんだぞっ。みんなびっくりするだろがっ」 「…かわいいのに」 「あ、佐祐理さんも帰ってきたみたいだな…」 「わぁーっ、家のまわりに雪ウサギがたくさんいるよーっ」 「見ろ、びっくりしてるじゃないか」
「おかえり、佐祐理」 …想像もつかないほどに、楽しく平穏な日々。 それに向かって俺たちは小さな営みの中で暮らしてるというのに… なのに… なのに俺の目から、涙が零れるのはなぜだろう。 「はぅっ…うっ…」
この胸の不安はなんなのだろう。 「はっ…うぐっ…」 この腕に抱いていた温もりが、確かにあった気がするのはなぜだろう。 それはとても大切なものだったはずなのに… ずっとその温もりに触れていられると思っていたのに… なくしてしまった気がするのはなぜだろう。
幸せな夢を見ていただけなのだろうか…。 「祐一…」 こと、と音がした。 それは箸を置く音。 「祐一…」 …舞か。
俺はおまえがそばに居てくれたら、それでいいんだよ。 そうしたら、もう不安にもならないんだよ。 もう何かを失った気がして、おびえることもないんだよ。 「祐一…」 居てくれるよな。 「祐一、泣いてるの…」
な、舞。 ずっと、そばに居てくれるよな。 「…代わりに私がしりとりを始めてあげようか」 涙がとまらない。 ぼたぼたと頬を伝って、顎から膝へ、涙が落ちてゆく。 ああ…始めてくれよ、舞。
「………」 「…りんご」 「………」 声がでない。 どうしてだかわからないけど。 「…ごりらさん」
舞がひとりで続ける。 「らっぱ…」 ………。 「ぱいなっぷる…」 歌うように奏でられる舞のしりとり。 「…るびー…」
………。 「……びーだま…」 それは子守歌のようで、瞼が閉じてゆく。 舞の姿が涙で滲んでゆく。 いやだ…ずっと、俺は舞のしりとりを聞いていたい… 聞いていたいのに…
「………まり……」 ………。 「…………りすさん………」 ………。 「……………………すいか……」 ………。
「………………………………………」 ………………………………………………………。 【祐一】「………」 すべての音が消えていた。 闇に吸い取られてしまった音はもう取り戻せないのだろうか。 ただ目を閉じる舞が…
【祐一】「舞…」 ………。 俺はもう一度目を閉じる。 すると、驚くほどの量の涙が押し出されて落ちた。 もう目は開けたくない。 自分の描く未来の中で、笑っている舞や佐祐理さんに囲まれて暮らしていたい。
そうしていれば幸せだ。 もう胸を引き裂かれるような現実も見ないで済む。 そう…。 春の日も、夏の日も、秋の日も、冬の日も、舞の思い出と暮らそう。 楽しかった思い出だけを連れて、いこう。 そうすれば、何も辛くない。
813 :
ネトゲ廃人@名無し :03/05/10 12:09 ID:2X+hE4pN
KEYヲタの集まるスレはここですか?
すべてはここで終わってしまったけど… 充分幸せな夢を見られるだけのものを築いてきたのだから、俺は。 だから本当、良かった。 舞や佐祐理さんと出会えて。 良かった。 ………。
……。 …。 …祐一。 呼ぶ声がした。 それはあの日の声だ。 凛と耳によく響く。
そうか、隠れん坊だ。 隠れん坊の途中だったな… …祐一。 掻き分けられた麦の向こうに舞の顔が覗いている。 ずっと前から見つかっていたのか… じっと、俺のことを見つめていた。
…祐一。 …祐一はまいのことが好き? ぶしつけだな… それは今の舞か、それともキミか…? …今の舞。未来のあたし。 好きさ。じゃなければ、俺は今こうしてキミと…思い出の中でキミと出会いはしないだろ…
…まいもね、好きだよ、祐一のことが。 それはキミがかい。それとも今の舞がかい… …両方。ずっと祐一を必要としてたんだよ。 どうして。たったちょっとの間だったのに。 …それが力だよ。 力…?
…そう、舞の純粋な力。じぶんには『この人だ』って信じられる力。 俺がか… …そう。だから祐一は、あの日にも現れたんだよ。 …訪れてもいなかった、この場所に。 …祐一をよんだのは、まぎれもなく、舞のその力だから。 …あたしは生まれてしまったから、純粋な祈りから生まれてしまったから…
…舞と居続けなければいけなかったから… …だから、それは希望。 …あたしも含めた『自分』を好きになってくれるひとが、この世界のどこかに居るという希望。 でもすべてはそこからはじまって、今、終わってしまったんじゃないか… …でも、そのときから、はじめることはできる。 …十年という時間は、今からでも取り戻すことができる。
…舞は今もあの日の少女のままだから。 ………。 …だからよろしく。未来のまいを。 ………。 …また会えれば、そのときも同じことを思うから。 …やっぱりこの人だ、って。
………。 …いい? ああ… …じゃあ… …始まりには挨拶を。 誰に…
…そして約束を。 ………。 ……。 …。 ことことこと… …ことことこと…
「うさぎさん…うさぎさん…」 ことことこと… ストーブにのせられたやかんが、いっしょに歌をうたってくれている。 「うさぎさん…うさぎさん…」 赤色のクレヨンが小さなかけらになって、もう持てなくなるといっしょにできた。 「できた…うさぎさん」
おかあさんにノートを見せる。 「上手にできたわねぇ」 おかあさんがわらってくれる。 そうすると、あたしはうれしい。 おかあさんは、ずっと病院のベッドで寝ていたから、からだがしんぱいだった。 だから、わらってくれると、元気になるようで、うれしかった。
「でも、うさぎの尻尾は丸いのよ。猫のように長くないの」 「ふぇ…そうなの?」 「見に行けたらいいのにね…」 「…動物えん?」 「そう。動物園。動物がたくさん居るところ」 「…うさぎさん、いる?」
・・・、つまらん荒らしだ
「居るわよ。ゴリラさんも、ライオンさんも」 「…ゴリラさんも?」 「そうよ。うぉーッ、ゴリラさんっ」 おかあさんは胸をたたいてみせた。 そのとたんに、せきこんだ。 「わ、おかあさん…」
「あはは…大丈夫よ。ちょっと調子に乗りすぎちゃったみたい」 「うん…」 「おかあさん、ゴリラさんみたいにつよくないんだから…」 「大丈夫。そのうち強くなるからね」 「そうしたら、舞を動物園に連れていってあげるから」 「ほんとぅ?」
「本当よ。ずっと約束してたもんね」 おかあさんは、あたしを生んだことによって、体をわるくしてしまったんだとおもう。 ずっと昔から家の床でねていたからだ。 ふたりで外に出歩いたことなんてない。 おかあさんは、家の中を歩くのでせいいっぱいだった。 この病院にきてからは、歩くこともしなくなった。
窓からは、親子で見舞いにやってくるひとたちをよく見下ろせた。 いつかはああやって、おかあさんとふたりであたしもお日さまの下を歩けるのだろうか。 『大丈夫』だというおかあさんの言葉をしんじて、その日を待った。 ふたりで外に出かけられる日が… そして動物えんという、動物さんがたくさんいる場所にいける日が、楽しみでならなかった。 でも、それからはいっこうに体はおこせなかったし、食べものも食べなくなってしまったから、しんぱいでしかたがなかった。
ときたまやってくるお医者さんは、なにもしていかない。 ただ具合をみてゆくだけだ。 そして顔をしかめ、うーん、とか、むぅーとかうなるだけだ。 やるきがないのか、あたしはいつも後ろでおこっていた。 口にはださなかったけど、もっといい病院にうつったほうがいいと思ってた。 冬は雪。
病院のお庭にも、たくさんの雪がつもってる。 あたしはそれを山にしてあそぶ。 そうだ。 おかあさんとなら、これであそべる。 あたしはそれをたくさん服のすそにつめて、部屋へともどった。 「おかあさん、あそぼ」
「頑張って、持ってきてくれたのね」 「うん」 「じゃあ、いいものつくってあげようか」 「うん」 おかあさんが、雪をつかって、なにかを作りはじめる。 いけてあった、花の葉っぱも、つかった。
「はい」 できあがりを見て、あたしはおどろいた。 「うさぎさんだぁ…」 「雪でできてるから、雪ウサギっていうのよ」 「雪うさぎさん」 でも、うさぎさんの命はみじかい。
「あ、とけてきた…」 「この部屋はストーブがあるからね」 うさぎさんは水になってしまった。 「また、作ろうね、舞」 「うん」 またしばらく時間がたった。
あたしは部屋のまどから外をみている。 まだ雪はとけない。 その上を、親子があるいてゆく。 足あとがならんで、ずっとのびていく。 雪がふると、そのあとも消えていった。 ふりかえっても、おかあさんは目をつぶってねていた。
ここのところは、ずっとイタイみたいで、からだも起こせなかった。 まどの外に目をもどすと、いつも見ているふうけい。 さっきの親子はどこにいってしまったんだろう。 いいところ、かな。 つぎのひは雪がやんでいた。 それでも、夜のうちにいっぱい雪がふっていたらしく、まどからみえる地面はまっしろだった。
「舞…」 ねているはずのおかあさんの声がした。 ふりかえると、おかあさんは目を開けて、あたしのほうをみていた。 「…またイタイの?」 汗をいっぱいかいていたから、そう訊いた。 「ううん、大丈夫よ」
「よかった…」 「そんなことより…ね、舞」 「なぁに?」 「今から動物園、いこっかぁ、おかあさんとふたりで」 「ほんとっ?」 あたしはよろこんでみてから、気づいた。
おかあさんが、いけるわけないということに。 「………」 「大丈夫よ、おかあさんなら」 「舞と一緒にいたら、ずっと元気だから」 「…ほんとぅ?」 おかあさんの言葉は、いつだってしんじていた。
だから、今日はいつもより元気なんだとおもった。 「おべんとうは作れないけど、代わりにここからひとつ持っていこうね」 おみまいの果物のはいったかごをひきよせる。 「舞は、なにがいい?」 「バナナ」 「じゃ、バナナ持っていって食べようね…」
その中から、おかあさんはバナナを取った。 「いこうね、舞。今日しかないからね…」 それを白い布でくるんで、手にさげて、おかあさんがベッドからはい出た。 あたしはそれをささえた。 おかあさんの体はおもかった。 「ごめん、大丈夫よ、舞…」
からだが軽くなった。 おかあさんがじぶんの足で立っていた。 でも、歩き出すまでにはすごくじかんがかかった。 病院の庭にはたくさん雪が積もっていて、太陽できらきらひかっていた。 その中をふたりで手をつないでゆっくりとあるいてゆく。 おかあさんの体重をささえてだったから、たいへんだったけど、それでもそれはあたしにとって、とてもうれしいことだった。
おかあさんと、ふたりでお日さまの下を歩いてるのだから。 それも、大好きな動物さんがたくさんいるという、動物えんに向けて。 心が、わくわくしないわけがない。 「うーっ…」 ずっとあたしは興奮していた。 「どうぶつえん…まだまだとおい?」
「そうね。とりあえず病院をでて…バスに乗らないとね」 ときたまおかあさんは、足をとめて、手をついてしゃがみこんだ。 雪のうえだったから、つめたいとおもう。 息も真っ白で、いっぱいでていた。 「だいじょうぶ?」 「大丈夫よ。もう少し待ってね…」
「さむくない?」 「うん、大丈夫よ」 あたしはおかあさんの手をにぎってみた。とてもつめたかった。 「長いあいだ、横になってたから…おかあさん、体力なくなっちゃったみたい…」 「ちょっと休む…?」 「うん…ごめんね」
「時間、たっぷりあるから、いいよ」 ちかくにあったベンチにならんで座る。 おかあさんの吐く、あらい息はいっこうに落ちつかない。 「………」 あたしは黙って、気長に待った。 まだまだ時間はある。ゆっくり、ちょっとずつ、動物えんに近づいてゆけばいい。
くんくん… 気づくと、どこから迷いこんできたのか、いっぴきの犬さんが足元にいた。 「犬さんだよ、おかあさん」 「………」 「おかあさん?」 「…なに、舞…?」
「ほら、犬さん」 手を伸ばすと、くんくんとその匂いをかいで、それからなめた。 ぺろぺろ… 「犬さん、かわいいねぇ、おかあさん」 ごしごしと頭をなでた。するとうれしそうに、きゅうんと鳴いた。 「………」
「ね、おかあさん?」 「………」 「…そうね、かわいいわねぇ…」 ごしごし。 「………」 おかあさんは目をつぶっていた。
自分をエロゲヲタといっている事と一緒だな。 ネットだからお前の顔は見えない・・・本当にそう思ってるのか? 俺にはお前の顔が見えるぜ? 情けない顔だな、髪の毛くらい切れよ? 親が内職しながら泣いてるぜ?
「ほら、犬さん」 手を伸ばすと、くんくんとその匂いをかいで、それからなめた。 ぺろぺろ… 「犬さん、かわいいねぇ、おかあさん」 ごしごしと頭をなでた。するとうれしそうに、きゅうんと鳴いた。 「………」
くるしそうだった。 だからあたしはベンチをおりて、がんばることにした。 犬もきゅうんと鳴いて、おうえんしてくれてる。 たくさんたくさんがんばった。 手がつめたくていたかった。 血がでてきそうなほどいたかった。
でもがんばった。 「おかあさん」 「………」 「ね、おかあさん…」 「………」 「おかあさん…」
「…ん…」 おかあさんがようやく起きた。 「…ごめんね、舞…ねてたみたい…」 「ううん、いいよ…でも、ほら…」 「…動物えんだよ」 あたしは手をひろげて、立っていた。
たくさんの、うさぎさんの中に。 もっと、いろんな動物さんがつくれたらよかったけど… あたしは雪ウサギしかつくれなかった。 だから、うさぎさんだらけの動物えん…。 でも、おかあさんはよろこんでくれた。 「素敵な…動物園」
ずっとみたことのないようなうれしい顔をしてくれた。 そして泣いた。 「またイタイの?」 「…ううん、痛くないよ。大丈夫」 「よかった」 おかあさんが涙を手でふいた。
「じゃ、舞…お昼にしようか…」 「おかあさん…久しぶりに歩いたら、お腹すいちゃった…」 「ほんとぅ?」 「……うん」 おかあさんはずっと、なにも食べてなかったから、うれしかった。 おかあさんのとなりに座りなおして、白い布のつつみをうけとる。
そのなかから、バナナをとりだした。 犬さんがよってきた。 「犬さんにもあげるね、おかあさん」 それをむいて、犬さんに食べさせてあげた。 それをそのままあたしも食べた。 「はい、おかあさん」
むいたバナナをおかあさんにさしだした。 「………」 「おかあさん、バナナ」 「おいしいよ」 「………」 「…おかあさん?」
おかあさんは寝ていた。 でも、さっきとはちがって、うれしそうな顔だった。 「いたくなくなったのかな…」 「ね、犬さん」 きゅうん。 はじめておかあさんと、おでかけ。
ウサギだらけの動物園で… 一匹の犬さんと遊んで、一緒にバナナを食べた。 楽しかった。 そこからのことはよくおぼえていない。 気づいたときは、あたしは病院のろうかで泣いていた。 それは、おかあさんが死んでしまったことを誰にも聞かなくても、わかってしまったから。
さいごに、あたしの夢をかなえてくれるために、おかあさんは頑張ってくれたんだと知った。 ドアが開いて、足音がした。 親せきのおばさんが、どこかに呼ばれた。 あたしは椅子に座ったままだった。 座ったまま、ずっと泣いていた。 でも、希望だけは捨てなかった。
悲しくても、信じていた。 また、おかあさんは元気になると。 ただひたすら祈った。 元気になりますように。 また、あたしに笑いかけてくれますように。 また、一緒に動物園にいけますように。
また、一緒にバナナを食べられますように。 おかあさんが、ベッドの上で笑っている。 お医者さんと何か、話している。 よかった。 その日以来、あたしは普通のひとにはできないことができるようになっていた。 それは神様が、おかあさんを元気にさせるために授けてくださった力だと思った。
つよくつよくがんばって信じれば、叶う。 あたしだけは、そのことを知っていたのだ。 それからしばらくして、あたしは親せきのおばさんに連れられて、でかけた。 ついたのは、いつもテレビの中でみているような部屋だった。 そこで力を見せるように言われた。 いつまでも帰してくれなかったから、見せてきた。
それからは、あたしとおかあさんは、どこにいってもいじめられるようになった。 『あくまの親子』だと呼んで、いやがらせをうけた。 いつまでたっても、そんな暮らしはかわらず、あたしは自分のしでかしたことを思いだし、かなしくなった。 ぜんぶ、この力のせいだ。 でもこの力は、おかあさんを助けるためのものだったから、わるく思ってはいけない。 いたずらもひどくなって、つらい日々がつづいた。
おかあさんは、まだ元気ではなかったけど、それでもその病院を出ることをきめた。 そして、遠くの町へ引っこすことになった。 あたしはまだしらない土地に思いをはせた。 そこには希望があると信じた。 いろんな友だちができて… この力も、また好きになれる日がくる。
きっと。 出かける朝、おかあさんは言った。 「お母さんの病気のせいで…あなたをこんなふうにしちゃったけど…」 「でも…ずっと笑っていてね。ひとりでも」 「うん」 あたしは答えた。満面の笑みで。
そしてあたしはいた。 豊饒の秋、その季節の実りの中に。 (もうすぐ、来るよ) そう『力』が言っていた。 「くるね」 あたしは答えた。
ずっと鼓動が止まなかった。 それは長い間、待っていたから。 自分と、そして自分の力たちを、全部受け入れてくれるひとの訪れ。 それをそわそわと、待ちわびていた。 (さぁ、迎えるよ) 「うん」
あたしたちは迎える。 …邂逅の時を。 「よぅ」 と俺は少女に声をかけた。 「はじめまして、かな」 「ううん、ずっと待ってたから…」
少女は胸の高鳴りを抑えるようにして言った。 「じゃ、取り戻しにいこうか」 「………」 「…今度はどこにもいかない?」 「ああ、いかない」 「俺たちはすでに出会っていて、そして、約束をしたんだからな」
「ずっと、舞のそばに居るよ」 「…うん」 ★エピローグ・舞★ 【祐一】「はぁっ…はぁっ…!」 俺は走っている。
待ち合わせの約束をしていたのに、思い切り遅れてしまったからだ。 【祐一】「もう終わってるかなっ…」 顔面に貼り付いてくる花びらを鬱陶しく払いのけながら、校舎脇の歩道を駆け抜けてゆく。 【祐一】「はぁっ…もうすぐ…!」 角を曲がるとそこは校門前。 案の定、というか、ものすごい人だかりである。
【祐一】「うわ…ここから探すのかよっ…」 【佐祐理】「あ、祐一さん!」 すぐ背後で声。 振り返ると佐祐理さんがいつもの笑顔で立っていた。 【祐一】「はぁ…間に合ったか」 俺は安堵の息を漏らすとともに、呼吸を整える。
【佐祐理】「大丈夫ですか?」 【佐祐理】「そんなに急いで来なくても、いつまでだって待ってましたよ」 【祐一】「はは、まさか本日の主役を待たせるわけにはいかないよ」 【佐祐理】「佐祐理が主役ですか?」 【祐一】「おう」 【佐祐理】「あははーっ、なんだか恥ずかしいです」
【祐一】「じゃ、いこうか、お姫様」 【佐祐理】「はい」 佐祐理さんの手をとって、先導しようとすると、 ぽかっ! 後頭部を何者かにチョップされる。 この無言のツッコミは…
【佐祐理】「あははーっ、残念」 【佐祐理】「本当のお姫様の登場ですね。これで私は脇役です」 【祐一】「よぉっ、舞」 振り返るとそこに立つのは舞。 【舞】「私だけ置いていこうとした」 【祐一】「おっ、妬いてんのか、おまえ」
【舞】「そういうわけじゃ…」 【舞】「ただ、これからやることがなくなる…予定、これだけだったし…」 【舞】「それに…私も…動物園行きたい…」 【祐一】「そうかそうか。そういうことにしておいてやろう」 【佐祐理】「祐一さんが舞を置いていくわけないよ」 【佐祐理】「佐祐理だって舞の祐一さんは取らないし」
ぽかっ! 今度は佐祐理さんの顔面にチョップ。 【祐一】「おまえなあ、そんな反応したら、脈ありなのがバレバレだぞ」 ぽかっ! 今度は俺にチョップ。 【佐祐理】「早く告白したらいいのに」
ぽかっ! 佐祐理さんに。 【祐一】「そういうことに疎いからなぁ、こいつは」 ぽかっ! 俺に。 舞は右向いてチョップ、左向いてチョップと、忙しい。
俺は、顔を真っ赤にして、佐祐理さんとじゃれ合う舞の姿を微笑ましく眺めていた。 さて… 【祐一】「いくか」 俺は来た道を振り返る。 もし夢の終わりに、勇気を持って現実へと踏み出す者がいるとしたら、 それは、傷つくことも知らない無垢な少女の旅立ちだ。
辛いことを知って、涙を流して、楽しいことを知って、心から笑って、 初めて見る日常の中を生きてゆく。 そして俺はその少女と共に旅路をゆくらしい。 まったく、佐祐理さん共々、とんだ巻き添えを喰らってしまったものである。 そんな物知らずな物語のヒロインが… 【祐一】「おいっ」
【舞】「……?」 こいつだ。 ★1月27日 水曜日★ ちゅんちゅんと鳥のさえずりが聞こえる。 今日も寒い朝だ。 俺は台所に行き、パンと熱いコーヒーで朝食を済ませる。
用を足した後に鏡に向かうが、案の定寝癖がついていた。 何度も直そうとするが、どうも上手くいかない。 結局直った頃には、もう出なければいけない時間となっていた。 急いで、歩いてゆく。すると… 【祐一】「おっと」 ふたつの流れが合流する角のところで、舞と佐祐理さんのふたりと鉢合わせになった。
【佐祐理】「おはようございますーっ」 【祐一】「………」 【舞】「………」 舞と俺が先を譲り合う形で、どちらも立ち止まっていた。 舞は、このまま歩き出すと俺と肩を並べてしまう、ということを気にしているようだった。 いつもは舞が先を歩いて、俺と佐祐理さんがその後を追いかける、という形だったからだ。
俺もその躊躇が目に見えてわかっていたから、わざと合わせてやろうと機を窺う。 【佐祐理】「ふぇ…?」 そんな俺たちを佐祐理さんがきょろきょろと見比べていた。 【佐祐理】「いかないんですか? 遅刻しますよ?」 【祐一】「あれ、そんなに遅かったっけ?」 【佐祐理】「だって、いつまでたっても…」
【舞】「………」 舞がその隙をついて歩き出した。 俺は先にいかせまいと、その前に出た。 ズガンッッ!! 俺と舞が勢いよく衝突し、しこたま頭をぶつけ合っていた。 【舞】「…祐一、痛い」
【祐一】「そりゃ、こっちのセリフだ…イタタタ…」 【佐祐理】「なにやってるんですか、ふたりとも」 【舞】「………」 舞は俺よりも復活が早く、すでに先を歩き出していた。 【祐一】「くそ、結局こうか…」 【佐祐理】「祐一さん、おはようございます」
舌を打つ俺へ、佐祐理さんが再び挨拶を投げかけていた。 【祐一】「…ああ、おはよぅ」 【佐祐理】「祐一さん、佐祐理の挨拶、さっき無視しましたね」 【佐祐理】「佐祐理は傷つきました」 【祐一】「えっ…」 その言葉に驚いて佐祐理さんの顔を窺う。
【祐一】「ん?…ああ、聞いてたのか」 【佐祐理】「聞いてますよ、なんだって」 【祐一】「いや、大したことじゃないよ」 【佐祐理】「言ってください、この佐祐理に」 珍しく先輩面をして、佐祐理さんは胸を張ってみせた。 【祐一】「舞がさ、いつもひとりで歩いてゆくだろ。それを言ってるんだよ」
【佐祐理】「ですよね。照れてるんですよ、舞は」 【祐一】「照れてないだろ、あれは。性分だろ」 【佐祐理】「だって、最近になってからですよ。ああなったのは」 【祐一】「そうだっけ?」 思い出してみるが、いつだって先を歩いていたような気がする。 俺の思い違いなのだろうか。
それとも佐祐理さんは、昔から俺が一緒に登校していたものと勘違いしているのかもしれない。 俺がふたりと共に登校するようになって、まだ十日ばかりしか経たない。 それでも俺だって、ずっと一緒に登校しているような気がしたから、そんな勘違いも無理はないと思った。 気づくと、佐祐理さんが、小走りに先をゆく舞を追いかけ始めていた。 【祐一】「佐祐理さんっ」 俺が呼ぶと、振り返って笑顔を送ってみせる。
【佐祐理】「佐祐理に任せてみてください」 嫌な予感がした。 案の定、佐祐理さんは舞に追いつくと、その背中で左右に揺れるお下げを両手でわっしと掴んでみせた。 そして、犬の首輪に繋いだ紐の要領で、舞に制動をかける。 【舞】「………」 じりじりと速度が落ち、舞と俺との距離が詰まる。
やがて、佐祐理さんの思惑どおり俺と肩を並べるまでになる。 【祐一】「よぅ」 俺が声をかけると、舞が途端に歩幅を大きくし、再び距離を引き離しにかかる。 【佐祐理】「わーっ」 佐祐理さんも一緒に引きずられていった。 どうやら、佐祐理さんの安易な作戦は失敗に終わったようだった。
【佐祐理】「それではーっ」 【祐一】「おうっ」 【舞】「………」 【祐一】「舞、また昼休みな」 こくり。 ………。
どうして授業はつまらないのだろう。 『え、マジかよ?』とか『普通、そこでそうくるかーっ!?』とか、声に出してしまうような意外な展開にはならないのだろうか。 楽しいかもしれないが、疲れそうだな…。 ………。 4時間目終了のチャイムと共にダッシュをかけて、学食へと急ぐ。 学食に着くと、何人かがもうパンを争っていた。
こいつらの授業はどうなってるのだろうか? それでも人数は少ないため、目的のパンを手に入れることができた。 俺の足は次なる目的の場所へと、自然に向いていた。 【祐一】「ようっ」 最上階の踊り場まで上がってくる。 【佐祐理】「こんにちはーっ」
佐祐理さんに迎えられ、俺はその場に腰を落ち着ける。 【舞】「………」 俺はもぐもぐとパンを頬張りながら、あることを思い出した。 【祐一】「そういやさ、佐祐理さん、舞としりとりやったことある?」 【佐祐理】「ええ。よくやってますよ」 【祐一】「なんだ、そうだったのか」
【佐祐理】「舞は、しりとり大好きなんだよね」 佐祐理さんの問いかけに舞はこくりと頷いていた。 【佐祐理】「でも、弱いんだよねーっ」 【祐一】「そうそう」 【祐一】「こいつってさ、絶対に動物の名前の後に、さん付けするから、すぐに自爆するんだよな」 【佐祐理】「あははーっ、舞らしいです」
【祐一】「………」 しかしよくよく考えてみれば、舞と佐祐理さんって、ふたりで居るときは一体何をして過ごしているのだろう。 俺が舞といるときは、飯を食っているか、夜の校舎で『奴ら』を待ち構えているかのいずれかである。 だから、遊ぶ、ということを知らない仲だった。 しかし佐祐理さんは、もう丸三年にもなる関係なんだから、俺みたいに意味のある時間の過ごし方ばかりではないだろう。 考え出すと、とことん不思議だった。
まさか、実際しりとりばっかして時間を潰しているわけではあるまい。 ■訊いてみる ■あらぬ想像を逞しくしてみる 【祐一】「ふたりで、家で遊ぶこととかあるの?」 【佐祐理】「ええ。佐祐理の家ではよく遊びますね」
【祐一】「………」 佐祐理さんの家で、ふたりが遊ぶ… 舞が、普通の学生が興じるような遊戯なんかに興味を示すようには思えないけどな…。 【佐祐理】「ほら、舞。口、あーんして」 【舞】「あ…あーん…」 【佐祐理】「ほら、こっちもあーんしてるよ…」
【舞】「…誰か見てる」 【佐祐理】「え?」 【佐祐理】「あ、祐一さんっ」 【佐祐理】「祐一さんも、仲間に入りますかーっ?」 【祐一】「い、いや…俺は…」 【佐祐理】「あははーっ、いいですよ」
【佐祐理】「見てるだけじゃ、楽しくないですからね」 【佐祐理】「はい、来て下さい」 【祐一】「ぐ、ぐお…」 【佐祐理】「ねぇ、舞。佐祐理が、先に祐一さんとキスしていい?」 【舞】「………」 【舞】「…先に…させて」
【祐一】「やめてくれーーーっ!!」 【舞】「………」 舞が、タコさんウィンナーに箸を伸ばしたまま、止まっていた。 【舞】「………」 その箸を引く。 【祐一】「いや、食ってくれ。どうぞ」
【舞】「………」 再びタコさんウィンナーに箸を伸ばし、それを掴んで口に運んだ。 【佐祐理】「どうしたんですか、祐一さん」 【祐一】「俺を許してくれぃ」 想像の中で佐祐理さんに淫らな発言をさせてしまった自分が恥ずかしい。 昨日の授業中、いかがわしい本を読んでしまったせいだな…。
そのまま、登場人物にこの場の三人を当てはめてしまった。 【佐祐理】「……?」 にしても、佐祐理さんのお尻いい形してたよな。 ぽかっ。 俺は自分の頭をチョップして、ひとりツッコミをしておく。 【舞】「………」
舞が不思議そうに、その様子を見ていた。 【祐一】(「舞はひとりツッコミを修得した!」とかだったらヤだな…) 【祐一】「ふたりで、家で遊ぶこととかあるの?」 【佐祐理】「ええ。佐祐理の家ではよく遊びますね」 【祐一】「何して遊ぶの?」 【佐祐理】「目を離すといつも舞がいなくなってるんです」
【祐一】「え?」 【佐祐理】「だから、大体それを探して時間が過ぎますね」 【祐一】「なにやってんだ、おまえ」 舞の顔を見て、訊いてみる。 【舞】「…佐祐理の家は広いから」 【祐一】「家が広いって、そんな迷うほど広くはないだろ」
【舞】「…不思議な置物がたくさんあるから」 【祐一】「それに見入ってるうちに、佐祐理さんに置いていかれるのか?」 【舞】「…だと思う」 【佐祐理】「違うよ、舞」 【佐祐理】「舞が勝手にふらふら歩いていくんだよ」 【佐祐理】「この前だって、勝手にお父さんの書斎の大きな椅子で眠ってたじゃない」
【佐祐理】「お父さん、びっくりしてたんだよ」 【舞】「あれは…」 【舞】「寝心地が良さそうだったから…」 【祐一】「んなもんがいいわけになるかっ」 【祐一】「大体、招かれてもいない部屋に入ること自体、悪い」 【舞】「…わかった」
【舞】「もぅ、佐祐理の家にいかない…」 【佐祐理】「舞、べつに怒ってるんじゃないよ?」 【佐祐理】「佐祐理、隠れん坊してるみたいで、楽しいし。どんどん隠れていいよ」 【舞】「隠れん坊?」 【佐祐理】「そう、隠れん坊」 【舞】「…隠れん坊」
【佐祐理】「お父さんの椅子だって、欲しかったらあげるし」 【舞】「…いらない」 【佐祐理】「ただ、お父さんの書斎に黙って入るのはよして欲しいなあって」 【舞】「…わかった。入らない」 機嫌を損ねかけた舞だったが、そこはやはり佐祐理さんである。 持ち前の人なつっこさで、舞を宥めつつ注意だけ促すことに成功していた。
確かにその様を見ていると、ふたりが仲違いをしてしまうなど、想像もつかないことだった。 【佐祐理】「ではーっ」 【祐一】「おうっ」 【舞】「………」 ふたりと別れ、昼休みが終わる。 毎度おなじみのつまらない授業中。
だが、この時間は結構楽しんでいる。 先生が授業内容から脱線した話をするからだ。 とは言え、しわ寄せがテスト寸前になってくるのだから、恐ろしい。 でも、今が楽しければいいか。 チャイムが鳴り、今日の授業が全て終了したことを伝える。 気怠さを一伸びでどこかに放り投げ、俺は中庭へと向かった。
びゅっ…びゅっ… 俺は木刀を振りながらも、それに集中できないでいた。 夕べの舞の言動が引っかかっていたのだ。 舞は、あの時、空振りをしてみせてから、そして攻撃を一切やめてみせた。 そして最後に… 「…何を見ていたの」
か…。 舞は何を言いたかったのだろう。 ■よけることの大切さ ■先手を打つことの大切さ ■相手を思いやる心の大切さ
そうか。 あれは、前日の俺の置かれた状況をトレースしていたんだな。 一撃目を、わざと空振りさせたのもそのためだったのだ。 あの時、舞は相手が手負いと知ると、俺に正解を見せるための戦いに変えていたのだ。 【祐一】「ん…」 と、そのとき視界の隅で、何かが陽を受けて鈍く光った。
俺はとりあえず、前方へと跳んだ。 どすっ。 重い音がして、俺の先ほどまで居た場所に消火器が落ちていた。 【舞】「…よけられた」 投じた本人、舞が驚いたように立っていた。 【祐一】「これで免許皆伝か、お師匠」
【舞】「…偶然」 【祐一】「違うっ、ちゃんと見てよけてただろっ!」 【祐一】「自分で教えておいて、信じろよなぁっ」 【舞】「………」 舞の目の色が変わる。 さくっ。
そして手に持っていたものを、地面に打ちつけた。 それは竹刀だった。 【祐一】「消火器の次は、実践訓練ってわけか」 【祐一】「いいぜ、手加減しないでこいよ」 相手は竹刀だ。本気で打たれたとしても、大した怪我にはならないだろう。 でも俺の手に納まってるものは、木刀だったから、寸止めが必要だ。
互い剣を構え、わずかに立ち位置を変えながら、相手の出方を窺う。 【祐一】「………」 一分後には、俺は大の字で地面に寝転がっていた。 脳天に稲妻が落ちたような衝撃の後、目を開けてみればそうなっていたのだ。 【舞】「…祐一、大丈夫」 一面空だった視界に、舞の顔がひょこっと現れた。
【祐一】「ああ…なんとかな」 【舞】「…そう」 舞は俺の頭の先にしゃがみ込むと、俺が立ち上がるまでそこで待っていた。 視線をずらせば下着ぐらい見えそうな位置だったから、俺のほうが恥ずかしくなって、仕方なしに体を起こした。 【舞】「…もう動けるの」 【祐一】「ああ、あんまり時間もないしな。もう一度、手合わせ頼むよ」
【祐一】「…今度は、少し手加減して」 【舞】「………」 こくりと頷いて、再び舞が竹刀を構えた。 そうか。 あれは、俺に先手を打つことの大切さを教えるための戦い方だったのだ。 あの時、舞は相手が手負いと知ると、俺に正解を見せるのための戦いに変えていたのだ。
【祐一】「ん…」 と、そのとき視界の隅で、何かが陽を受けて鈍く光った。 俺はすぐさま実践に取り組んだ。 先手必勝。手の木刀を飛来物に対して打ちつけた。 ボオォオオオオオンッ! 【祐一】「どわっ!」
大爆発。 それは、またも消火器だったようである。 【祐一】「ごほっ…!」 【舞】「また爆発させたの…」 流れてゆく白い煙の向こうに、呆れたような舞の顔があった。 【舞】「…祐一」
【祐一】「なんだよ」 【舞】「剣を捨てたほうがいい」 【祐一】「どうして」 【祐一】「今だって木刀がなければ、俺は大怪我をしてたぜ?」 【舞】「まだわからないの」 【祐一】「わかんないよ、舞の言い方じゃ」
【舞】「じゃあ、体で覚えてみる」 舞の目の色が変わる。 さくっ。 そして手に持っていたものを、地面に打ちつけた。 それは竹刀だった。 【祐一】「消火器の次は、実践訓練ってわけか。いいぜ、手加減しないでこいよ」
ストレス解消できたかい?ボウヤ
1000まで書き込んだら達成感味わえるのかなな・・・ ヒキコモリの狂った感覚畏れ(;´Д`)
相手は竹刀だ。本気で打たれたとしても、大した怪我にはならないだろう。 でも俺の持つ獲物は、木刀だったから、寸止めが必要だ。 互い剣を構え、わずかに立ち位置を変えながら、相手の出方を窺う。 【祐一】「………」 一分後には、俺は大の字で地面に寝転がっていた。 脳天に稲妻が落ちたような衝撃の後、目を開けてみればそうなっていたのだ。
【舞】「…祐一、大丈夫」 一面空だった視界に、舞の顔がひょこっと現れた。 【祐一】「ああ…なんとかな」 【舞】「…そう」 舞は俺の頭の先にしゃがみ込むと、俺が立ち上がるまでそこで待っていた。 視線をずらせば下着ぐらい見えそうな位置だったから、俺のほうが恥ずかしくなって、仕方なしに体を起こした。
【舞】「…もう動けるの」 【祐一】「ああ、あんまり時間もないしな。もう一度、手合わせ頼むよ」 【祐一】「…今度は、少し手加減して」 【舞】「………」 こくりと頷いて、再び舞が竹刀を構えた。 そうか。
あれは、俺に相手を思いやる心の大切さを教えるための戦い方だったのだ。 ぜんぜん違うような気もするが、なぜだかそう思うぞ。 【祐一】「ん…」 と、そのとき視界の隅で、何かが陽を受けて鈍く光った。 俺はすぐさま実践に取り組んだ。 相手を思いやる心。
俺は両腕を広げ、その飛び込んでくるものをこの胸に抱いてやろうと思った。 ずがんっっ! 【祐一】「………」 気づくと、俺は大の字で地面に寝転がっていた。 脳天に稲妻が落ちたような衝撃の後、目を開けてみればそうなっていたのだ。 【舞】「…祐一は馬鹿」
一面空だった視界に、舞の顔がひょこっと現れた。 【祐一】「バカとはなんだ、このやろう。消火器投げつけておいてからに」 【舞】「それに頭突きするなんて」 【祐一】「いや、頭突きするつもりはなかった。抱きしめてやろうとしただけだ」 【舞】「…馬鹿」 よくよく考えてみると、自分でも馬鹿に思えてきた。
【祐一】「咄嗟だったからな…気が動転したんだよ…」 【舞】「…祐一はもう戦わないほうがいい」 【祐一】「なんでだよ、ここまできて…」 【舞】「…実戦ではたんこぶぐらいでは済まないから」 【祐一】「そうかも知れないけどさ…俺だって戦いたいんだよ」 まだズキズキと痛む頭を手で押さえながら、俺は起きあがる。
【舞】「まだわからないの」 【祐一】「わかんないよ、舞の言い方じゃ」 【舞】「じゃあ、体で覚えてみる」 舞の目の色が変わる。 さくっ。 そして手に持っていたものを、地面に打ち付けた。
それは竹刀だった。 【祐一】「消火器の次は、実践訓練ってわけか。いいぜ、手加減しないでこいよ」 相手は竹刀だ。本気で打たれたとしても、大した怪我にはならないだろう。 でも俺の持つ獲物は、木刀だったから、寸止めが必要だ。 互い剣を構え、わずかに立ち位置を変えながら、相手の出方を窺う。 【声】「あー、舞ーっ、こんなところに居たんだぁっ」
【祐一】「だぁっ…」 そこへ場にそぐわない、脳天気な声。 佐祐理さんだった。 【佐祐理】「あれ? ふたりで同好会でも作るんですか?」 互いの獲物を構え合っている俺と舞を見比べながら、佐祐理さんがそう続けた。 【祐一】「あ、いや…これは…」
【舞】「………」 【佐祐理】「これだったんだ、最近ふたりでコソコソしてたのは」 【佐祐理】「楽しそう。佐祐理も仲間に入れて欲しいなぁ」 ■入れてやる ■舞に訊く
【祐一】「よし、入れてやろう」 ぽかっ。 【舞】「…勝手に決めない」 舞が後ろから俺を小突いていた。竹刀だったから、かなり痛かった。 【舞】「…遊びじゃない」 舞が佐祐理さんに目を向けて言っていた。
【祐一】「そう言われてもなぁ、舞…?」 【舞】「…遊びじゃない」 【祐一】「そう、遊びじゃないんだ、佐祐理さん」 【佐祐理】「佐祐理も遊ぶつもりはないですよ。真剣にやります」 【祐一】「だってさ、舞」 俺は口ごもるだけで、舞に振るしかなかった。
佐祐理さんの申し出を断るなど俺にはできそうもない。 【舞】「…佐祐理には向いてない」 【佐祐理】「そんなことないよ。こう見えて佐祐理、運動神経いいし」 【舞】「………」 舞の顔がこちらへ向いた。 【舞】「…祐一、剣を貸して」
【祐一】「え? どうするんだ?」 【舞】「いいから」 俺は手の木刀を舞に渡す。 【舞】「…佐祐理、今だけ貸すから」 そしてその木刀を佐祐理さんの目の前の地面に投げた。 【佐祐理】「あっ、入れてくれるの?」
佐祐理さんの顔がぱっと綻んだ。 【舞】「…試験」 【佐祐理】「え?」 俺と佐祐理さんの声が重なった。 【舞】「戦うの」 【佐祐理】「舞と?」
【舞】「………」 こくり。 【佐祐理】「よーしっ、負けないからっ」 佐祐理さんは嬉々として剣を拾い上げた。 …知らないのだ、佐祐理さんは。 舞の剣技を。
思い出せばいいんだ。あの野犬との一戦を。 そうしたとしても、わかるわけないか…。 佐祐理さんは普通の女の子なんだもんな。 カーーンッ! 瞬きした後には、佐祐理さんの手から木刀は消えていた。 【舞】「このまま去るもよし、丸腰で抗うもよし…」
【舞】「…その場合の無事は保証できないけど」 【佐祐理】「………」 佐祐理さんはどう反応すればよいかもわからずに呆然と立ちつくしている。 【佐祐理】「邪魔かな…佐祐理…」 ぽつりと呟いた。 【舞】「…邪魔」
俺がフォローの言葉を挟む間もなく、辛辣な返答が佐祐理さんの耳に届いていた。 【佐祐理】「ふぇ…」 【佐祐理】「ごめんね、舞」 【佐祐理】「もうここには来ないから。祐一さんも、ごめんなさい」 ぺこっと頭を下げて、走り去る。 【舞】「………」
複雑だった。 【舞】「………」 【舞】「祐一は佐祐理の左手のことを知ってるの」 【祐一】「え…いや…」 【舞】「…手首に深い傷の跡があるの」 【祐一】「そうなのか…? 知らなかったよ…」
【舞】「私のせいなの」 【祐一】「………」 【舞】「私のそばにいるから、傷ついてゆく…」 【祐一】「………」 【祐一】「舞は…佐祐理さんのこと、好きか?」 【舞】「………」
こくり。 【祐一】「自分の口で言ってみろよ」 【舞】「………」 【舞】「…私は佐祐理のことが好き…」 【舞】「…大好き」 【祐一】「ならいいよ。舞は正しいことをしたと思う」
【祐一】「相変わらず不器用だけどな」 【舞】「………」 【祐一】「早く終わらせような。そして、思いっきり遊ぼう、三人で」 【祐一】「舞はどこか、いきたいところ、あるか?」 【舞】「動物園いきたい」 【祐一】「動物園か…」
【祐一】「そうだな。いいな」 同年代の女の子といくには動物園という場所は物足りないかもしれなかった。 でも舞や佐祐理さんとなら、絶対楽しいに違いない。 だって、俺たちは弁当を食っているだけでも楽しかったのだ。 三人揃って退屈する場所なんて、この世界のどこにもない。 そんな気がした。
そろそろ筋肉痛が厳しくなってきた。 帰りがけ、何回か肩を回してみると鈍痛が走る。 出来るだけ休もうと心に決め、家へと着いた。 夕食後、束の間の休憩をとった後、再び学校へと向かう。 夜の校舎。 昼とは全く違う顔を持っている校舎は、魔物の住む場所。
狩人である俺たちは夜食を食べ終えた後、いつものように背中合わせに立っていた。 【祐一】「しかし、順調だよな」 【祐一】「どうして、あんな奴らに三年間も手こずっていたんだ?」 【舞】「…手負いとなっても回復が早いから」 【祐一】「にしても、こうやって連日待ち伏せていれば、それだって無意味になるだろ?」 【舞】「…連日現れたことはない」
次スレでは鍵以外もみたいな。 期待してる
その言葉で思い出す。 【祐一】「そういえばそうだったな…」 魔物が頻繁に現れるようになったのは、俺が夜に訪れるようになってからだ。 以前にも舞は、俺がいることで魔物がよくざわめく、と言っていた。 魔物としても、第三者の介入で慌てているのだろう。 それまでは、夜の校舎で気の遠くなるような時間を、舞はひとり過ごしていたのだ。
【祐一】「………」 それを思い、俺は舞を哀れみの目で見てしまう。 なんて、三年間だったのだ、と。 どんな偶然で魔物の存在を知って… そしてどんな経緯で自らにその討伐を課したのかはわからなかったが、もう過ぎてしまったものは仕方がない。 早く終わらせよう。
その一心だった。 【祐一】「佐祐理さんのほうは、大丈夫だったか?」 【舞】「…なにが」 【祐一】「なにがって、機嫌損ねてただろう?」 【舞】「…けろっとしてた」 【祐一】「そう見えるだけだろう。佐祐理さんの性格はよくわかってるよ」
【祐一】「絶対に周りに心配かけないようにして、いつだって笑ってるんだよな」 【祐一】「おまえとは違って」 【舞】「………」 おまえとは違って、は余計だっただろうか。 【舞】「…佐祐理は親友だから」 それだけを言って、舞は口をつぐんでしまう。
おまえなんかに心配される筋合いはない、ということかも知れない。 【祐一】「………」 何か重苦しい空気が流れていた。 べつにそれは魔物とは関係ない。 【舞】「………」 【舞】「…祐一も親友だから」
その空気を悟ってか、舞がぽつりと呟いていた。 【祐一】「ああ、わかってるよ」 俺もそれに応えて、背中の舞に頭をぶつけてやる。 【舞】「…祐一、痛い」 【祐一】「おまえ、背、高いよな」 【舞】「…よくわからない」
【祐一】「自分の身長ぐらい、把握しておけ」 その夜、魔物が現れることはなかった。 もしそれが奴らの回復を待つものだとしたら、それほど歯がゆいものはない。 俺たちに先手を取ることは、許されていないのだから。 寒風が厳しい道を、急ぎ足で帰る。 明日も現れるかどうかわからない。
いつ終わるかわからない戦いに疲れて、俺はいつしか眠っていた。 ★1月28日 木曜日★ 窓を開けて、冬空を望む。 今日もいい天気だった。 澄んだ空気で深呼吸をして、俺は学校に行く用意を始めた。 いつも通りの時間。
角から現れたのは、舞、ひとりだけだった。 俺はふたり一組で探していたから、最初それが舞と気づかずに無視してしまっていた。 俺が無視すると、舞から俺に声をかけるということもない。 だから、舞も目の前で突っ立っていたのだ。 【舞】「………」 【祐一】「………」
【舞】「………」 【舞】「………」 【祐一】「………」 【舞】「………」 【祐一】「………」 【舞】「………」
【祐一】「いるなら、早く言えっ」 ぽかっ、と顔面をチョップしてやった。 【舞】「…気づかない祐一がおかしい」 確かに。 【祐一】「で、佐祐理さんは」 【舞】「日直」
無断転載で訴えられろ(わらああああああああああ
【舞】「………」 そのあたりの可能性というのは、一番仲のいい舞にしか推し量れないところだと思う。 【舞】「…遅刻する」 【祐一】「おっと、そうだったな」 ふたりきりと言っても、今は夜の校舎ではない。 一分一秒を大事とする登校の最中である。
登校する生徒の波に混じって歩き出す。 【祐一】「おまえ、佐祐理さんに会ったら、フォロー入れておけよ」 【祐一】「俺から言ったって無駄だろうからさ」 【舞】「…フォロー?」 【祐一】「そう、フォローを入れるんだ」 【祐一】「間違えて、チョップとか入れるなよ。さらに険悪になるぞ」
【舞】「…必要ない」 【祐一】「どうしてだよっ」 【舞】「佐祐理のためだから」 【祐一】「そりゃわかってるけどさっ…」 舞も融通というものが利かない人間だった。 学校に辿り着くまでの間、どう説明しようが、舞を頷かせることはできなかった。
【舞】「………」 【祐一】「じゃあな」 こくり。 ………。 朝から佐祐理さんの笑顔を拝めなかったためか、調子が悪い。 ったく、早く仲直りしてもらいたいものだ。
………。 午前中の授業を終え、学食、さらにそこから最上階の踊り場へ。 【舞】「………」 【祐一】「………」 【舞】「………」 【祐一】「…はぁ」
その場には、いつかのように舞がひとりでちょこんと座っているだけだった。 【祐一】「やっぱり、避けられてるじゃないか、おまえ」 【舞】「…避けられてない」 【祐一】「だって、いないじゃないか、佐祐理さん」 【舞】「…弁当はあるから」 どん、と手元にあった四段積みの弁当箱を中央に置き直した。
【祐一】「いや、それが避けられてる、ってことだって」 【舞】「…先に食べていてって」 【祐一】「佐祐理さんはきっとこないよ」 【舞】「…忙しそうだったから」 【祐一】「それも口実だって」 【舞】「…日直だから」
【祐一】「怪しいな」 【舞】「………」 【祐一】「ほら、探しにいこうぜ」 弁当箱の蓋を開けようとしていた舞を俺は制止する。 【祐一】「ふたりで呑気に食ってる場合じゃない」 【舞】「…大丈夫だから」
【舞】「………」 【祐一】「じゃあな」 こくり。 ………。 朝から佐祐理さんの笑顔を拝めなかったためか、調子が悪い。 ったく、早く仲直りしてもらいたいものだ。
朝と同じ言葉を舞は繰り返した。 【祐一】「大丈夫じゃないだろっ。おまえが邪魔だって言うからじゃないか」 【祐一】「だから、俺とおまえが居合わす場所には顔を出さないようにしてるんじゃないか」 【舞】「………」 【祐一】「おまえがいかないのなら、俺がひとりで話をしてくるよ」 そう言って、俺は階段を降りる。
【祐一】「いかないのか」 その途中で、まったく動こうとしない舞を振り返る。 【舞】「………」 【舞】「…佐祐理の邪魔になる」 【祐一】「邪魔邪魔って…おまえの友情ってのはそんなもんだったのかよっ」 俺は呆れて、もうそれ以上は舞に構わないことにした。
【祐一】「佐祐理さんのクラスは」 それだけを聞いて、その場を後にした。 上級生の教室というものは、なんだか緊張するものである。 制服のポイントの色で学年がわかるから、俺は明らかに下級生だとわかる。 上級生からしてみれば、こんなところにその下級生が何用だ、と不穏に思うことだろう。 自分の教室に下級生が入ってきたら、そう思う。
俺は舞に教えられた教室のドアの前に立ち、中を覗いてみる。 だが、そこに佐祐理さんの姿はなかった。 仕方なく、前を行き過ぎようとした女生徒に話かける。 【祐一】「あの、すいません」 【女生徒】「え?」 【祐一】「えっと…」
佐祐理さんの名字ってなんだったっけ… ■倉田 ■山倉 ■ブッシュ斉藤 【祐一】「倉田さん、どこにいるか、しらないですか」
【祐一】「山倉さん、どこにいるか、しらないですか」 【女生徒】「山倉…?」 【女生徒】「ウチのクラスにはそんなひといないけど?」 しまった。山倉は、元巨人のMVPキャッチャーだった。 って歳いくつなんだ、俺は。 【祐一】「倉田さん、どこにいるか、しらないですか」
思い出して、そう訊く。 【祐一】「ブッシュ斉藤さん、どこにいるか、しらないですか」 って、誰だよ、それっ。 【女生徒】「あ、ブッシュ斉藤さん?」 って、居るのかよっ! 【女生徒】「そんな、あだ名の子が、小学生のとき居たような…」
まこぴー乗せろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
【祐一】「いや、もう思い出さなくていいです」 【女生徒】「そう?」 そんなあだ名を付けられるとは可哀相な子である。 恐らくコーラの空きビンでも拾ったのだろう。 【祐一】「倉田さん、どこにいるか、しらないですか」 思い出して、そう訊く。
【女生徒】「倉田さん?」 【女生徒】「昼休みはいつもいないから、わからないけど、学食でお昼でも食べてるんじゃないの?」 【祐一】「いや、それが見あたらなくて…」 【女生徒】「あ、そっか。日直だったから、その仕事してるのかも」 【祐一】「どこにいるか、わからないですか?」 【女生徒】「さあ、わからないわ」
【祐一】「そうですか。すみません」 一礼して、その場を去る。 日直の仕事ということは職員室とか、次の教科の資料室とか、そういう場所なのだろう。 となると、実際忙しいのだろうし、見つけたとしても長話はできないだろう。 俺は諦めて舞のもとに戻ることにした。 【舞】「………」
踊り場では、舞が弁当にまだ手をつけないで、待っていた。 【祐一】「なんだ、先に食ってればよかったのに」 【舞】「…そういうわけにもいかないから」 ようやく、弁当の蓋を開けて、箸をとった。 実際、俺は舞と佐祐理さんのことで奔走しているわけだし、舞にもそれがよくわかっているのだろう。 【舞】「………」
舞は俺が佐祐理さんとどんな話をしてきたか、気にならないのだろうか。 【祐一】「佐祐理さん、やっぱ俺たちのこと、避けてるってさ」 【舞】「………」 舞が箸を止めて、俺の顔を見ていた。 【祐一】「………」 【祐一】「…と、俺は思っているだけで、佐祐理さんはいなかった」
ぷしっ。 箸で眉間を刺される。新しい突っ込みだった。(ただ箸を置くのが面倒だっただけだろうが) 【祐一】「とりあえず佐祐理さんが本当に日直で忙しい、ということだけはわかった」 【舞】「…最初から言っている」 【祐一】「おまえは鈍感だから、信用できなかったんだよ」 【舞】「………」
【祐一】「とにかく、俺は佐祐理さんと話をしてみる」 【祐一】「だから、放課後の練習はナシな」 【舞】「………」 ようやく、俺たちは遅い昼食にとりかかる。 そして、日直の仕事がそんなに忙しいのか、結局佐祐理さんが昼休みのうちに現れることはなかった。 5時間目が終了したときのことである。
【声】「祐一さんっ、ちょっといいですかっ」 ノートを片づけていたところに、声をかけられる。 名雪にしては口調がヘンだな、と思って顔をあげる。 【祐一】「ぐあっ…」 【佐祐理】「あははーっ」 佐祐理さんだった。
1000!
こんな状況のままでも再び1000を狙ってみる。
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