「出る」と評判の廃屋で、おれたちグループの中でもいちばん気が強く、
心霊現象完全否定派である竹田が夜に一人で肝試しをすることになった。
他愛ない雑談から、いつのまにかそういう話になってしまったのだ。
「やめといた方がいいって」とおれたち四人は引き留めたが、竹田は鼻で笑い、
「じゃあ、必ず約束守れよ。おれが一人きりで朝まであそこで過ごせたら、
おまえらはおれに二千円ずつ払う。もしおれが逃げ出したりズルをしたら、おれが
おまえら全員に二千円ずつ払う。証拠のハンディカムはちゃんと回しとくから」
『……っと、位置はこのへんでいいか。映ってるよな?
つーわけで、一人肝試しのはじまりはじまり。拍手〜。
ハァ、朝までヒマだねしかしこれ。携帯もノートパソコンも駄目とは、自分で
言いだしたもののチト厳しい縛りだったかな。まあいいや。
さて、と。
このままボーッとしてるのもなんだからさ、ひとつおれが、そう霊なんか一切
信じてないこのおれが、とっておきの「怖い話」をしてやるよ。
おまえらのこと。おまえたち「四人」の話。
……おまえたち、まだ気づいていないのか?
違うだろ、本当はとっくに気づいてて、なのに知らないふりをしてるだけなんだよな。
……なあ、正直に言うよ。おれはいま、怖くてたまらない。
この廃屋がじゃない。おまえたちが、だ。おまえたちの視線が。
いま、こうして、おまえたち「四人」におれを見られていることが。
怖くて怖くて死にそうだ。ずっと前から。
…………
どうやら賭けはおれの負けだな。ちゃんと払うよ、六千円は』
結局、竹田はおれたちに金を払うことはなかった。ハンディカムの映像だけを
残し、あの夜に廃屋から出たあと、突然失踪したから。行方はいまだに知れない。
いまでもたまに、おれたち四人は竹田の残した映像を見る。そのたびに不可解な
気分にとらわれる。
いったい竹田は、おれたちの何がそんなに怖いのだろう。