・・・・・・これは始まりにすぎない。
いちど線を踏み越えれば、もう後戻りはできない。
地獄の釜が開く。
我々はひとり残らず、重い荷物を背負わされる。
腹は満たされても、魂は永遠に飢え続ける宿業をもたされる。
その飢えを慰めるために、残りの一生を全て費やすことになる。
辛いぞ。修羅の道だ。
あの時、死んでおけばよかったと後悔するかもしれん。
だが我々は生きて日本に帰らねばならない。
どんな理想も大義も、飢えの前には無力。
人としての尊厳など、ひと粒の米の重さほどの価値もないと知ったいまは、石にかじりついてでも帰らねばならない。
この地獄が内地に押し寄せる前に。
一億の民が残らず餓鬼と化し、互いの肉を貪りあう前に。
我々は帰り、そして見つけねばならない。
空前の飢餓に耐え、なお人であり続けられる尊厳の在り処を。
日本民族を百年先まで生き長らえさせる方法を。
[浅倉良橘]