UC:GundamOnline 脳内βテストスタート

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580小僧 ◆FQlCcY9.X6
 北東より敵部隊進行中との報を受け男はいささか困惑気味であった。
「間違いないのか?」
「はい。真っ直ぐそちらへ向かうものだと思われます」
「…分かった。そのまま気づかれない様に監視してくれ。俺は急いで
迎撃部隊を招集する」
「了解。監視を続けます」
 参ったな何だってこんな時に…。男はそう呟きながらチャットの送信
先を部下へと切り換えた。
「ケイン。見ているか?すぐに応答してくれ」

 ロサンゼルス郊外。念願のマイホームを手に入れた彼はいそいそと
パーティーの準備を進めていた。家は一階建ての大きなログハウス。
玄関を入るとすぐに広々としたリビングがあり、ロングテーブルが部屋
の中央に置かれ周りには背もたれのない丸椅子が並べられている。全て
木製だ。
 テーブルの上には人数分の食器が並べられ、皿の上には果物やパンが
乗せられていた。食肉や魚介類はこれから調理するところだ。
「さってと、ここからは俺の調理スキルの腕の見せ所だな。…ん?」
コックはチャットウィンドウの新しいメッセージの受信に気がついた。
「ケイン見ているか?すぐに応答してくれ」
「おう。何だよボス、料理の準備はこれからだぜ?」
「パーティーは中止だ」
「え?おいおい。そりゃねえだろ。今日は皆で俺の新築を祝ってくれる
んじゃなかったのかよ」
「…文句なら連邦の奴らに言ってくれ」
「何?敵襲か!?被害は…!」
「落ち着け。まだ攻撃は受けてない。周辺警戒中のルッグンからの報告
だ。北東から敵の部隊が真っ直ぐこちらへ向かってきているそうだ。
部隊規模も相当なもんらしい」
「北東?南東の間違いじゃないのか?北米は俺達、ジオンがキッチリ抑
えてるハズだろ」
「大気圏外からの降下、輸送機を使った強行突破…。不可能じゃないさ」
「おいおいおいおい。勘弁してくれよぉ!下手すりゃ俺のマイホームが
踏み潰されちまうぜ」
「だからそうなる前に迎撃する。急いで格納庫に集まってくれ。迎えに
ヒロシを向かわせた。急げよ。いいな」
 話が終わるころにはもう既に家の前の道路にブルーのエレカが止まっ
ていた。ドライバーがケインに話しかける。
「おまっとうさーん!ホゥラ、乗った、乗った」
「…お前はいいよな。ヒロシ。能天気で」
「久しぶりの戦闘だぜぇい?ワクワクするぜ?俺の愛機が駆け巡るぜーっ!?」
581小僧 ◆FQlCcY9.X6 :03/09/25 10:34 ID:cfHI63O8
 一本の長い道路を一台の青いエレカが颯爽と駆け抜けていく。
「何がいいのかねぇ?こんな不便な郊外に家立ててさ。俺みたいにマンション
借りりゃいいのに」
「前にも話しただろ。都市の中心部は敵に狙われやすいから、俺はあえて遠い
ところに建ててもらったの」
「その上一番安全だと思われる北東側にしたのに今回敵さんはそっちから
やってくると。不幸なケインちゃん…」
「う、うるせーっ」
しばしの沈黙。
「大体なんで主力のAチームが出払ってる時に仕掛けてくるんだよ。
おかしいだろ」
ケイン達が所属する部隊は人数増加に合わせて3つのチームに分かれている。
部隊員の過半数を占める主力部隊Aチーム。任務は激戦地に駆け付けること。
ケインがチームリーダーを努める10人程で構成される少数精鋭Bチーム。
任務はAチームが出撃している際の防衛。別名お留守番チーム。
数人程の生産活動や建設を専門に行うCチーム。
AチームとBチームは日によってメンバーを変えることで飽きないように工夫している。
「…やっぱり、スパイ?」
「そ、そりゃ仲間を疑いたくはないけどよ」
また沈黙。流れる景色。
「ま、さっさと返り討ちにしちゃいましょ」
「っけ」

 「おそーい。もう皆待ってるよー。早くしてー」
部隊長が搭乗する陸上戦艦ダブデの近くにはBチームのMSが続々と
集結していた。
MSの胸部には隊員の証であるエンブレムが飾りつけられていた。
白枠で縁取られた可愛らしい黒い翼。「ブラックウィング」。彼等の部隊名。
ブルーのエレカに乗った二人組はどうやら最後らしかった。
「悪いな皆。遅くなった」
「ようノリカ!これ終わったら俺とデートしようぜぃ」
「…戦場に着いたら真っ先にあんたに一発くれてやるわ!」
「ヒェー、おっかない、おっかない」
582小僧 ◆FQlCcY9.X6 :03/09/25 10:35 ID:cfHI63O8
 「集まったな?知っての通り現在北東より敵の部隊が接近中だ。
お前達Bチームはこれの迎撃にあたってくれ」
「Bが全員出ちまうとここがガラ空きになっちまうけどいいのか?」
「ここは俺のダブデとCチームの別キャラで対応する。爆撃されてもたまらんしな」
「分かった」
「よし。出来るだけ都市部に近づけさせるなよ。味方の家にもだ」
俺の家をむざむざ潰させたりはしない!そう心に刻むケインだった。

 Bチームはケインの角付ザク2以外は皆同じザク2に乗っていたが
その性能差はノーマル機の数倍以上だった。
これは部隊に所属することで資金面、カスタマイズ専門のキャラによる
バックアップの賜物である。動力機関、装甲をザク2で付けられるもの
の中でも高級品だけをセレクトしてカスタマイズしてある。個人でこれ
をやろうとするとなかなかスムースに事が進まない。まず資金面。
個人と集団で稼げる金額には雲泥の差がある。次にカスタマイズ職人、
カスタマイズする為のパーツ入手。職人の取り付け工賃もパーツ代も
馬鹿にならない。しかし部隊に所属していれば工賃もタダだし、
パーツも簡単に手に入る。(部隊に職人がいないところもしばしばあるが)
 無論戦闘行為だけでそんな大金を稼いでいるのではない。フリーのパイロット
の機体修理や改造を取り扱うことで副収入を得ていた。ここロサンゼルス基地は
MS生産拠点というよりも専ら機体修理や整備を生業としている。
ブラックウィングのCチームを含めこの辺りの生産者、開発者による話し合いが
以前行われた。その際、主な兵器の量産は後ろのサンフランシスコ基地に一任し、
我々は生産は程々にしメンテナンス業務に専念するということで合意に達した。
主な顧客はパナマ戦線で腕等のパーツ、武器をなくしたり補給に訪れる機体だった。
修理の済んだ機体がまた前線へと足を運ぶ。そして客となって帰ってくる。
 ブラックウィングはその豊富な資金力で多種多様な工場を持つことで顧客の
ニーズに応え更に利益を伸ばしていった。又、新参者の生産者にも格安で工場を
利用させることで規模の拡大を図る。悪い言い方をすればこの辺りの利益を
牛耳っているのだ。
 敵、つまり連邦側もこの基地の重要性を知っており今まで何度となく
生産施設の破壊を試みたが防衛隊によってその全てが阻まれている。
583小僧 ◆FQlCcY9.X6 :03/09/25 10:36 ID:cfHI63O8
 「お、見えた見えた。敵さんが見えて来ましたよ〜」
「うわ。何あれウジャウジャいるじゃん」
遥か前方に敵の部隊が見える。数はざっと20を数える。まだいるかもしれない。
敵部隊からやや離れて味方の偵察機を確認出来る。
「こちらブラックウィング。ご苦労さん。帰って羽を休めてくれ。後は俺達に任せてくれ。
落ち着いたらウチのボスが情報料を出すと言っていた。補給も満足に受けれるはずだ」
「了解。幸運を」
機体を加速させ高速で去っていくルッグン。
「あい。どうも。…さてと」
「しっかしまぁ、なんであれだけの数に安々と突破されるかねぇ。前線は何やってんだか」
「知るか。それより仕掛けるぞ。俺の家が危ないんだ」
ケイン邸まで約10キロ。
「よし。まずは距離を詰めるぞ」
爆発。
「イテッ!」
「何っ。大丈夫か、ケイン!」
「野郎ぉ…。この距離で撃ってきやがった」
「ノリカ、ガンカメラだ。敵の編成を調べてくれ」
「了解」
ノリカと呼ばれる女性PCが搭乗する機体は『MS06−E ザク強行偵察型』。
今ガンカメラを取り出し敵に向けて狙いを定めている。ガンカメラは望遠鏡のよう
なもので通常では豆粒大にしか捉えることが出来ない敵を機種、武装をハッキリと
確認できるほどズーム出来る。
「ほとんどがジムだね。戦車はいないみたい。…あれは、…ジムキャノン」
「ジムキャノン?砲戦タイプを混ぜてやがったか」
「どおりでこの距離から撃ってくる訳ね」
ジムキャノン単独での戦力は大したことはない。ノーマルのジムに比べて機動面
で劣る分、懐にさえもぐり込めればあとは楽勝である。が護衛がいる場合は話が別だ。
「中距離でちんたらしてたらキャノン砲に狙い撃ち。接近すればビームスプレーの雨あられか…」
「考えてもしょうがないぜ。ケイン。一気に突っ込もうぜ」
「よし、ヒットアンドアウェイで一機ずつ集中して片づけるぞ。最初から高威力の武器を使っていけ。
ノリカはロケットバーニアを多用して囮役をやってくれ」
「了解」
「ようし、各機散開!」
ケイン邸まであと5キロ。
強行偵察型が味方の数倍の速さで敵に接近し敵の初撃を引きつける。持ち前の回避スキルで難なく
避けていく。その間に他の機体がターゲットに対し距離を詰めていく。
「まずは左から!」
ザクマシンガン、バズーカ、クラッカー、脚部ミサイルのフルコースをもろに受け、たまらず爆発
するジムキャノン。まずは一機。
「よし!一度下がって。下がれ!」
後ろへジャンプし距離を離す。そしてもう一度。
 一機、二機、三機と好調に沈めていく。しかし三機目を仕留めた後でヒロシが異変に気付く。
「なぁケイン。妙じゃないか?さっきから馬鹿正直にノリカの機体に攻撃が集中してる。
しかも反撃が中途半端だ。射程距離に入ったら真っ先に撃ってくるくせに後が続かない。
おまけに連中歩いてばかりでちっとも陣形を崩さねえぞ?」
「さぁな。寄せ集めのパイロットなんじゃねえの?ほれ、行くぞ!」
ダッシュで再び敵へ突撃するケイン機。
「っち」
続くヒロシ機。
584小僧 ◆FQlCcY9.X6 :03/09/25 10:37 ID:cfHI63O8
 ケイン邸まであと1キロ。
「よし。大分減らしたな。そろそろ頃合いか。全機、次ので乱戦に持ち込むぞ。
うぉおおおおおりゃあああああああああーーーっ!!」
「あーあ、張り切っちゃってまぁ」
「何アレ」
「自分の家が踏まれないように頑張ってんのさ」
「フーン」
敵の集団の中で鬼神のごとくヒートホークを振り回す角付ザク。
「おら!そこの二人!余裕こいてないで手伝え!」
角付のモノアイがギラリと光る。
「へーい」

 いくつものジムの亡骸をあとに我が物顔で悠々と帰還するBチーム。
「ハハハ。勝った。勝ったぞ!家を守ったぞー!」
一人はしゃぐチームリーダー。隊員達は呆れ顔だ。
ここでボスから連絡が入る。
「Bチーム。ケイン!」
「おうよボス!全部仕留めたぜ!被撃墜数ゼロ。俺達の圧勝さ。
おまけに俺の家も無事さ。これで気兼ねなくパーティーが出来るぜ!」
「…俺達の負けだ」
「んもう!またまた冗談がうまいんだから。俺達は勝ったの」
少し間を置いてから
「…生産施設が全滅した」
「な、なんだってー!!…マジかよ。どういう事か説明してくれよ。空爆か?」
「いや空からじゃない。水中からだ」
「す、水中だと?」
「あぁ。どうやってこちらの防衛ラインをくぐり抜けたかしらんが、突如沖に
連邦のU型潜水艦が出現。中からガンダム一機とガンキャノン二機を射出。
俺達守備隊には目もくれず工業地帯で暴れまくった後、早々と潜水艦に戻り
船ごと消えちまった」
「なんてこった」
「水中艦隊は何をやっていたんだ!普段敵らしい敵を相手にしていないから!
不意を突かれるとこれだ!」
「…すると俺達が相手をしていたのは」
「…囮だな。まんまと一杯喰わされたよ」
「やっぱりNPCだったか」
それまでボスとケインのやりとりを見ていたヒロシが加わる。
「やたら動きがぎこちないからそうだとは思ってたんだ。今核心に変わった。
NPCなら気兼ねなく突っ込ませられるからな」
「NPCって…、そんなこと出来るのか?」
「なにも突っ立てるだけがNPCじゃない。恐らく今回のは移動目標にロサンゼルス市内の
座標を設定していたんだろ」
「くそ…!」
「あー、とにかく一度戻ってきてくれ。メキシコのAチームも呼び戻す。また忙しくなるぞ」

 「…へへ、ボス。やられたってのに嬉しそうなのは気のせいかい?」
「っは、オメーだって似たようなもんだろうが」
「っへ、違ぇねぇ。今度はこっちの番だぜ!」
昼下がり。ハイウェイを南下するザクが10機。その胸には漆黒の翼が描かれている。