2009年4月19日
恐れていた日がついにやってきました。
それはある店にて、僕が寛のお願い事をお店の人に
伝えようとした時のこと。寛が、
「パパ、やっぱり、いい‥‥」と、しょんぼりするのです。
「んー、どうした?いいよ、パパが言ってあげるよ」
「だって」
「だって?」
「・・・パパ英語ヘタだから、いいです」
その瞬間、ヨメはそろーっと視線を外しました。
寛は申し訳なさそうに下を向いています。
僕は悲しいのと恥ずかしいのとみっともないのと悔しいので、
たぶんこれまでの人生で、一度もしたことのないような表情を
見せていたことでしょう。
ああ、下手ですとも!
と、5歳の子供相手に開き直ってみるのもなんだか情けないし、
下手なりに、通訳なしでここまでやってきた俺の過去7年は
なんだったんや、と叫びたくもなる。
子供の表現力ですから、「うまい」と「ヘタ」しかないはずで、
ならばヘタの中でもちょっとは上の方かもしれないし、と、自分を
慰めるしかありませんでした。
伝え、聞くのが何よりもの優先事項で、
発音は二の次。とりあえず単純な日常生活と野球ができるんやから、
勘弁してほしい。しかし生後1ヶ月からアメリカで暮らし、
日本でも英語で学校生活を送る彼からすると、僕はいつまでたっても
「ヘンな英語を話すパパ」なのです。
「パパ、そんなに英語ヘタか?」
「うん」
「すごくヘタ?」
「すごくヘタ」
「ママは?」
「ママとかんくんはオーケー」
「パパだけダメ?」
「パパだけダメ」
まっすぐ目を見て律儀に繰り返すなっ!
寛が生まれたその時に、
「いつかは二人とも、英語のことで馬鹿にされるんやろうなあ」と
ヨメと話していたものでした。しかし、気がつけば一人。
家庭内に、国境線が透けて見えます。
アイオワ州デモインにて 田口壮