長靴少女の不思議な冒険
ある冬の日の朝。前日からの雨も上がって、天気は回復に向かっているようだ。
黄色い長袖ブラウスに、緑色のニットのベストに、焦げ茶色の膝下丈スカートに、赤いハイソックス姿の甕川良子は部屋の窓から空を見上げて、大きく背伸びをした。
「うーん、やっと雨が上がったわ。いい天気になりそうね。よし。冒険だ♪」
良子は紺色のピーコートを着て、白いショルダーバッグを担いで、赤い長靴を履いて、家の玄関から外に出た。
時々小さい「キュイキュブキュル・・」という音を混ぜながら、「ポクポク・・」と長靴を鳴らして、良子は冬晴れの雑木林の道を歩く。
「お嬢ちゃん、お嬢ちゃん。」
どこから声がする。
良子が後ろを向くと、黄土色の壺を持った男の老人がいた。
「お嬢ちゃん、この壺、このメモに書いた所へ持って行ってくれないか?」
「うん、わかったわ。」
男の老人は良子に壺とメモを渡すと、何処に立ち去った。
「坂上さんねぇ。この壺、この人へ持っていくのか。でも持っていくのが大変なので、被っちゃおうかしら。」
良子はメモをショルダーバッグに入れると、ズボッと壺を頭から被った。
『あーあー。声が響くわ♪ダンスしてみたくなったわ♪』
『シャラララー♪シャラララー♪』
『ランラランラン♪ランラランラン♪』
良子は、用事をすっかり忘れて、壺を被ったまま、歌を歌いながら、長靴をカポカポ鳴らしてダンスをしていた。
『いけない!!壺を持って坂上さんに行かなくちゃ!!』
良子は壺を脱ごうとした。が、壺の窪みの所に良子の顎が挟まって抜けない。
『抜けない!!壺を被ったら抜けなくなっちゃったわ!!』
壺を被った良子は、必死に頭から壺を抜こうと、壺を引っ張ったり、壺を抜こうと首を大きく振ったが、抜ける気配は全くない。
『どうにかして壺を抜かないと…。』
良子は、壺を木にぶつけるなどして叩き割ろうとしたが、なぜか容易には割れない。
それもその筈、良子が被っている壺は、割れない壺なのである。
『頭の壺を何とかしないと…。真っ暗で何も見えない。でも坂上さんの家へ行かないと…。』
良子は、手探りしながら、雑木林の道を歩き始めた。
ガコッ!! ガコッ!!
木や電柱に頭をぶつけながら、雑木林の道を抜けると、雑木林の外れにある古い家に着いた。
コンコンコン。
良子は玄関のドアをノックする。
『もしもし!!坂上さんですね!!』
すると、玄関のドアが開いて、男の老人が現れた。
「もしかして、先程雑木林でお会いしたお嬢ちゃんじゃね。」
『あの声、もしかして、雑木林のお爺さんね…。』
「壺を被って取れなくなったんじゃね。」
『はい、壺を被って抜けなくなってしまったんです。壺を叩き割ろうともしたんですが、全然割れないのです…。』
「その壺は、壁にぶつけるなどしても、割れない壺じゃよ。取ってしんぜよう。」
男の老人は、良子の頭の壺を引っ張った。
するとスポンと心地良い音を立てて、良子の頭から壺から抜けた。
「あ、取れた。壺を取ってくださって、ありがとうございます。」
「例には及ばんよ。これが私が依頼した、お嬢ちゃんの任務じゃったからね。いやっ、ご苦労じゃった!!ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ!!」
男の老人はそう言うと、壺を持って家の中の入って行った。
「えっ、そんなー…。」
良子はガッカリした表情で、家路についた。
(訂正)
>>203 を削除
数日後、良子は再びあの男の老人に会おうと、グレーのハイネックセーターに、紺色のピーコートに、黒い膝下丈スカートに、ベージュ色のチェック柄マフラーに、
赤いハイソックスに、赤い長靴姿で、白いショルダーバッグを担いで、カポカポと長靴を鳴らしながら、曇り空の雑木林の道を走った。
しかし、雑木林の道を抜けると、雑木林の外れにあった筈の古い家は、後方もなく消えていた。
その代わりに、人の頭が入る程の大きさの、焦げ茶色の壺とメモが置かれていた。
メモにはこう書いてあった。
[甕川良子へ。先般の任務依頼のお礼に、この壺を差し上げよう。何かの役に立つかも知れない割れない壺なので、大切に扱うのじゃよ。爺より。]
「あのお爺さんたら、私が頭に物を被る癖があるのを知ってたのかしら…。」
良子は苦笑いしながらメモを読むと、メモをショルダーバッグに入れて、壺を手に取って、ズボッと壺を頭から被った。
『壺を被ると真っ暗で何も見えないので、気分が落ち着くわ。』
ところが、良子が数回瞬きを行うと、なんと一気に視界が広がり、外の風景が見えるようになった。
『すごいわ!!壺の外の様子が見えるわ。よし。壺を被ったまんまで冒険だ♪』
良子が向かったのは、雑木林の中にある洞穴だった。
『どうも、この洞穴の中が気になるのよ。さっそく洞穴の中を冒険だ♪』
良子はショルダーバッグから懐中電灯を出して、洞穴に入った。
「ポクポク・・」「キュイキュブキュル・・」と長靴が鳴る音が、洞穴の内に響き渡る。
10分ほど歩いた先で、洞穴は行き止まりになっていた。
懐中電灯を充てると、そこには扉があった。
『この扉の先は何だろうか?』
良子は扉を開けて、懐中電灯を照らしながら、扉の中に入っていく。
そこは倉庫のようだった。
『何か宝でもあるのかな?』
良子は、懐中電灯を照らしながら、倉庫の中を丹念に調べた。
するとそこには、かつて各地の遊園地で見られたような汽車があった。
『こんなところに汽車があったなんて…。走るかな?』
良子が汽車に乗った途端、汽車が動き出した。
『凄い!!凄い!!この汽車走ってるわ♪』
良子を乗せた汽車は、やがて何かの乗り物の中に着いた。
すると誰かが声をかける。
「着きましたよ。」
『ここどこ?あなた誰?』
そこには宇宙人がいた。
「はじめまして。私は宇宙人。今は宇宙にいます。」
『宇宙?もしかして、ここは宇宙船?』
「そうです。ここは宇宙船です。あなたが被っている壺を渡したください。」
『わかりました。』
良子は宇宙人の言いなりにになって、脱ぎ辛そうに頭から壺を抜いた。
「そのかわり、あなたにある許可をいただきたいのです。」
「許可?」
「はい。我々は地球の人類を滅亡させ、私達の住処にしたいのです。」
「バッカじゃないの?許可するわけないじゃない!!第一、あなたたちに地球を明け渡すつもりはないわよ!!」
「なら、映像に出しましょうか?」
ブゥゥゥーン。
コクピットのスクリーンに、赤く焼けただれた地球が映し出される。
「見えますか?私たちに従わないと、こうなりますよ。」
「これって、よく考えても、あなたたちが住めそうにないじゃん。」
「人類が滅ばなくても、あなたの人生は終わっているようなもの。もし、許可してくれるなら、あなたを私の星に連れて行ってよいでしょう。」
「その要求は一切受け入れられないわ1!お断わりよ!!」
良子は手に持っていた壺を、再び頭からすっぽり被って、汽車に飛び乗った。
『宇宙船を滅茶苦茶に壊して、脱出するわよ!!』
汽車は猛スピードで走り始めた。
「壺少女が乗った汽車を止めて、壺少女を捕えろ!!」
宇宙人は良子が乗った汽車を止めようと、レーザービームガンを発射するなどした。
だが、汽車は良子の指示に従うかのように、宇宙船の至る所を破壊しながら暴走しているため、もう誰にも止められない。
『汽車さん、もっとやれ!!』
ドーン!! ドーン!!
ドガッ!!ドガッ!!
「このままでは壺少女を止められません!! もう逃げられます!!ウァーッ!!グフッ。」
「壺少女よ、そろそろ宇宙船から脱出じゃよ!!つかまってるのじゃ!!」
『イエス、サー!!』
良子は汽車にしっかりつかまった。
良子を乗せた汽車は、宇宙船のコクピットを突き破って、宇宙船から脱出した。
宇宙船は良子を乗せた汽車に内部をほぼ破壊された挙句、汽車が宇宙船から脱出して間もなく爆発して、粉微塵に砕け散った。
『汽車さん、ありがとう!!地球のみんなが助かったわ!!』
良子は宇宙船が爆発して、粉微塵に砕け散ったのを見届けてから、汽車にお礼をした。
「壺少女よ、例には及ばんわよ。ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ!!」
『汽車さん、またぁその決め台詞ですかぁ?フフフ♪』
やがて、良子を乗せた汽車は、雑木林の洞穴の前に着いた。
空は相変わらずの曇り空だが、雲の切れ間から西日が差していた。
「ありがとう、壺少女よ、そなたのお蔭で、宇宙人の地球侵略が阻止されたのじゃ。」
『その声、あの時のお爺さん、いや、坂上さんなの?』
「そうじゃ、坂上じゃ。だがそなたの目の前の汽車が、ワシの本当の姿で、老人は仮の姿だったのじゃよ。」
『ヘェ、凄いわ♪格好良かったわよ♪』
「そうそう、壺少女よ、そなたの名前は甕川良子じゃったな。黒髪のショートヘアが本当の姿じゃっな?。」
『はい、そうです♪名前♪あだ名はヨッピー♪あっ、ヨッピーっと呼んでね♪○○県○○市○○町の、○○小学校6年生の、ラブリーな女の子でーす♪』
「ほう、ヨッピーか、いい名前じゃな。」
『ありがとう♪坂上さん、じゃ、あなたにダンスをお披露目するわ♪』
『シャラララー♪シャラララー♪』
『ランラランラン♪ランラランラン♪』
良子は、壺をすっぽり被った姿のままで、歌を歌いながら、長靴をカポカポ鳴らして、雲の切れ間から差している
西日を浴びながら、汽車の前でダンスを披露した。
「おお、素敵なダンスじゃな、ヨッピー。楽しかった。でも、そろそろ、ワシは次の任務を遂行しなければならない。
それじゃ、これで失礼するぞ。さらばじゃ、ヨッピーよ!!」
『坂上さんもいつまでもお元気で!!ありがとう!!バイバイ!!』
良子は、手を振りながら、汽車が空に飛んでいくのを見届けた。
『さあ、うちに帰らないと。ママとパパが待ってるわ♪』
良子は、壺をすっぽりと被ったままの姿で、楽しそうに「カポッカポッ・・」と長靴を鳴らしてスキップをしながら、家路
についたのだった。
だが、長靴を履いた壺少女に、世界は救われたことを知る人は誰もいない…。
(完)
(訂正)
>>209 × 「その要求は一切受け入れられないわ1!お断わりよ!!」
○ 「その要求は一切受け入れられないわ!!お断わりよ!!」
(訂正)
>>208 × 「そうです。ここは宇宙船です。あなたが被っている壺を渡したください。」
○ 「そうです。ここは宇宙船です。あなたが被っている壺を渡してください。」