【悶々と】萌えキャラ『日本鬼子』製作30 【萌え】
庭先のすっかり枯れた梅の木にかろうじて咲いた冬の氷柱の花をボゥっと縁台で眺めていた老人は、
突如聞こえた玄関口の大声に、興を害されたのか口元を渋く歪めて舌打ちすると、全く面倒この上ないとの思いも隠さずに、やおら返事の大声を上げた。
「やかましいわ!
頼もう、たのもうと大声で。
いくら儂が年寄りでも、そこまで耳は遠くなっておらん!」
老人の発した声は、裏寂れた屋敷の雰囲気に相反して、腹底丹田から気勢の息吹を吹き出すように周りの障子紙を震わせた。
よっこいしょと小さく呟いて、億劫ながらも仕方なしと立ち上がった老人は、其の侭足取りに怒りの気持ちを込めたのか、足音も荒く玄関へと歩んでいった。
「また貴様か…。
何度も言ったが、儂に付き纏ってもお主に得るものは無い!
儂の研究は儂の道楽のようなもの。
ここらの住人は、儂の事を気違いジジイと陰口を言っているのは知っているだろう?
おまえさんが何を求めて儂の所に来るのかは知らんが、教えられる事など何もない。
とっとと帰れ!」
玄関口で訪ねてきた若者を一瞥するや、老人は挨拶の言葉も聞かぬうちに、そっけなく言い捨てた。
その様子は、長年、煙管を嗜んでいるのか、ヤニに黄色くなった歯を歪めた唇からちらりと見せて、誠に迷惑千万な心の裡を示していた。
「この宝庵、師匠から如月の姓と共に一名を授かりココの住持と暮らしてはいるが、今や生臭坊主か放蕩験者の見本と蔑まれ、大したものでも何でもない!
道楽に精魂込めて研鑽したが、世人には気違いと笑われる始末と相成った。
貴様もいまだ若い身ならば、もうちょっとウダツが上がりそうな者のところに教えを請うて行けば良かろうが…」
宝庵と名乗った老人の言葉に、玄関口でいきなり怒られた尋ね人は頭を深く下げて、それでも逃げ出す素振りも見せずに、
「我が国に、著名妙覚の学者は大勢いると、浮世の者どもは口を大にして言い立てますが…
それらは全て表向きの方便にしか私には思えません。
私が求めるのは、本当の知識だからこそ隠された、影の流れの陰密行で有りますれば!
その心を今に伝え保ちて秘めたるは、如月之宝庵の名を次ぐ御役目の方のみと聞いています。
なにとぞ、なにとぞ!」
その身を乗り出すように、一気呵成に願いいでた若者は瞳に強く映る覚悟の思いも揺るがずに、宝庵と名乗った老人にズサリ、ズサリと僅かながらも
近付こうとした行動には、決して引かぬ思いがにじみ出ている様子が見て取れた。
「孺子!笑うべきかな!!
貴様、何を得んとしてココに来た!!」
老人は、一気に今までの気勢も興味も無くした、言葉だけは荒々しい返答を言い捨てると、
そのまま背を向けて奥に立ち去る仕草で、拒絶の心を表した。
奥に歩む前に、ふいとおいて残すように言った言葉が、若者の耳に伝わったか残ったか…
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
荒々しく床板を踏む足音に、その言葉は若者には定かに伝わり言い置くには、あまりに秘めた言葉を匂わせて、老人はその姿を屋敷の奥の闇へと消えて行った。