【なりきりリレー小説】ローファンタジー世界で冒険!2
街に出る。
可及的速やかに必要なのは、リベンジマッチだ。
そしてその為の軍資金。
幸いな事にこの街で、金儲けの手段には困らない。
(……それも、路上パフォーマンスのパスを買う元手があれば、だがな)
なにせここは交響都市艦、あらゆる芸能の集う都だ。
右を見れば道化師姿の男が水晶球とダンスを踊っている。
左を見れば――万能包丁を目の前にしたマンドレイクが恐怖の悲鳴を上げようとしている。
誰か一人くらい失神しないものかと赤髪は観客を遠巻きに見守る。
無論、倒れた後で財布を漁る為だ。
――非常に遺憾な事に、被害者は誰も出なかった。
>「嫌ぁああああああああああああああ!! 絶対食べたくねーーーーー!!
飯はフツーにしよう。ケッタイなもの食べさせられたらかなわん!」
―――だが金づるは見つかったようだ。
見るからにお上りの団体様。即座に目をつけて、後をつける。
>「日替わり定食をお願いします!」
「やめておけよ。流石のこの街も、病院の天井には何の絵も描いてない。つまらんだけだ。
おい店主、さっきのオーダーはキャンセルだ。
……そうしょげた顔をするな。そう美味くない飯が余計不味くなったらどうする」
声高に注文を叫んだ女――? の肩に手を置き、頭越しに店主を呼び止める。
それから視線を落とし、お上り達と目を合わせた。
「この街のメニューは少し特殊でな。
『日替わり定食』と書いて『どうにでもして』と読むんだ。
自家製ホムンクルスの塩漬けなんて出された日には、暫くダイエットが捗る事を保証する」
友好的な微笑み――あのいけ好かないディーラーを思い出し、やや引き攣る。
「アンタ達、フェネクスは初めてか?覚えておくといい。
この街の奴らには常識ってモンがない。油断してると、えらい目に遭うぞ。
俺ぐらいだな。アンタ達みたいなお上りに、親切にも声をかけてやるのは」
嘆かわしいと言いたげな身振り手振り。
機を見計らい、右手に隠した銅貨を取り落とす。
小気味いい音が響き、刹那、赤髪の眼に鋭い光が宿った。
――――欲深き者を思わせる、既視感を誘う蒼眼に。
「……あぁ、そうだ。野宿をするならカリスト広場がイチオシだ。
あそこの植物園は寝床に困らないし……天井を見上げれば女神像が慰めてくれるさ」
不可解な助言を残し、赤髪は立ち去る。
恵まれない料理人の鍋に銅貨を放り込んでやった。
賭け金にもならない端金の用途はもう終わった。
男の懐には、リベンジマッチへのチケットがあった。
銅貨を落とした一瞬の隙に掠め盗った、お上り達の財布だ。
>「今ッ! 食材が解き放たれました! マンドレイク、奇声を発するが……動じない!
>見事な包丁さばきだあ! 筋に沿って着実に捌かれていきます!! まさに芸術ッ!」
連れられてきたのは、生体のマンドレイクだ。
人間の子供よりも一回りほど大きいそれは、確かに植物版ゴブリンにも思える。
実際の所、それほど強くはないものの、立派なモンスターの一種であるため、危険な一種だ。
とは言ってもヤマゴエシェフも超一級の冒険者であり料理人であり歌手でありダンサーだ、問題ない。
数度の剣閃のぶつかり合いを経て、ヤマゴエが一閃でマンドレイクを開きにしてしまった。
>「嫌ぁああああああああああああああ!! 絶対食べたくねーーーーー!!
>飯はフツーにしよう。ケッタイなもの食べさせられたらかなわん!」
「うっわあ、マンドレイクか……、ここんところ喰ってねぇな、懐かしい。
鍋とかやんのかねェ……、ってなんだお前喰ったことねぇの?」
ゲッツはといえば、普通に涎を垂らしそうな感じで視線を開きにされながら断末魔の声を響かせるマンドレイクを鑑賞中。
何を隠そう、ゲッツの出生地である高山地帯では、マンドレイクは貴重な食料の一つなのである。
珍味でもなんでもなく、日常的に鍋にしたり、天日干しにして炒めものにしたり、ご飯のお供に漬物にしたりする。
あまりの僻地の為にそれほど広まっては居ないが、糠に数年漬ける事で毒性を弱めたマンドレイクの糠漬けは知る人ぞ知る食材でもある。
要するに、周りの人々がゲテモノとしてマンドレイクに目線を奪われているなか、こいつだけ普通に食材として思考を巡らせていたのだ。
解体を終えて販売に移りつつ有ったが、全力でフォルテがその場から動き出したため、ため息を突きながら追いかけていくゲッツ。
歩幅に決定的な差が有るため、程なくして追いついて、すぐ近くの冒険者の店に転がり込む。
>「日替わり定食をお願いします!」
>「やめておけよ。流石のこの街も、病院の天井には何の絵も描いてない。つまらんだけだ。
> おい店主、さっきのオーダーはキャンセルだ。
> ……そうしょげた顔をするな。そう美味くない飯が余計不味くなったらどうする」
注文をしたフォルテを制するように、後ろから男が割り込んで肩を置いた。
僅かに目線をずらして、にぃ、とゲッツは笑みを浮かべる。
戦士だ。少なくとも、欲と向きあい戦い合うだけの気概が有る男は、嫌いではない。
友好的な笑顔を浮かべる相手だが、ゲッツは経験上こういう相手こそ最警戒すべきであると知っていた。
>「この街のメニューは少し特殊でな。
> 『日替わり定食』と書いて『どうにでもして』と読むんだ。
> 自家製ホムンクルスの塩漬けなんて出された日には、暫くダイエットが捗る事を保証する」
>「アンタ達、フェネクスは初めてか?覚えておくといい。
> この街の奴らには常識ってモンがない。油断してると、えらい目に遭うぞ。
> 俺ぐらいだな。アンタ達みたいなお上りに、親切にも声をかけてやるのは」
それはそれでスリルが有って面白そうだし、出てくるならホムンクルスだろうがマンドレイクだろうが食べる積りであった。
それでも、相手なりに何らかの意図がありながらもの助言には感謝をしておく。
相手の目線に僅かに宿った蒼い光に、ゲッツは反応を覚える。胸元のfを象った傷が僅かに赫く光った。
>「……あぁ、そうだ。野宿をするならカリスト広場がイチオシだ。
> あそこの植物園は寝床に困らないし……天井を見上げれば女神像が慰めてくれるさ」
結びの言葉を告げつつ、立ち去っていく赤髪の男。続いて聞こえたのは風切り音。
その男の目の前を銅色が翔けた。真横の壁でとん、と小さな音がする。
壁にびぃん、と突き立っていたのは銅貨。相手が料理人の鍋へと放り込んだそれだ。
「――へェ、あんた。割りと出来るタチだろ?
ま、いい。お得な情報感謝するぜ? 礼だ――俺の財布、金ねェからな」
財布を確認してみれば分かる。竜人のボロボロの財布には一銭たりとも金が入っていないのを。
そもそも、ローファンタジアであの戦いに参加した理由が喰い詰めていたから。
あれ以降、まともな金銭的報酬が与えられる仕事をしていないのだ、金が入っていると思うほうが間違えだ。
自分の財布に言及し、礼に硬貨を相手によこす。その行動から理解できるかもしれない。
この竜人、赤髪が財布を盗んだことをとうに看破しているということが。
>「やめておけよ。流石のこの街も、病院の天井には何の絵も描いてない。つまらんだけだ。
おい店主、さっきのオーダーはキャンセルだ。
……そうしょげた顔をするな。そう美味くない飯が余計不味くなったらどうする」
いきなり現れた赤髪の青年が日替わり定食のオーダーを阻止する。
知らず知らずのうちに物凄くチャレンジャーなものを注文していたらしかった。
>「アンタ達、フェネクスは初めてか?覚えておくといい。
この街の奴らには常識ってモンがない。油断してると、えらい目に遭うぞ。
俺ぐらいだな。アンタ達みたいなお上りに、親切にも声をかけてやるのは」
やたら大袈裟な身振り手振り。金属音が響いた場所を見てみると、銅貨が落ちている。
それを拾いあげて渡しながらお礼を言う。
「ありがとう、危ない所だったよ〜。どうするゲッツ? ハンバーガーでも食べる?
……どうした?」
この前ドナルドやらハッピーセットやらで大騒ぎしたのにハンバーガー食べる気がするのかって?
あれだけ色々あればもう時効だ。喉元過ぎれば――ってな!
それはそうと、ゲッツが何やら警戒している。
>「……あぁ、そうだ。野宿をするならカリスト広場がイチオシだ。
> あそこの植物園は寝床に困らないし……天井を見上げれば女神像が慰めてくれるさ」
「植物園で野宿? それも楽しそうかもね。この都市は空に近い分星が綺麗に見えるんだろうなぁ」
半分妖精にオレにとっては植物の寝床で野宿はアリだ。
いい情報を教えてくれた赤い髪の男を見送ろうとした時だった。
銅貨が赤髪の男の前を横切り壁に突き刺さる。
>「――へェ、あんた。割りと出来るタチだろ?
ま、いい。お得な情報感謝するぜ? 礼だ――俺の財布、金ねェからな」
「何? もしかして情報料ってやつ!? それぐらい払うよ」
レッグポケットに手を入れる。――無い。マジックテープ式のスタイリッシュな財布が無いぞ!
ゲッツが警戒していた理由がようやくわかった。
財布を掏られる隙があったとすれば一瞬だけ。銅貨に気を取られたあの時だ――!
何も気付いてない風を装ってモナーをキーボードに変化させる。
「……財布落としちゃったみたい。歌でお礼させてもらうね」
無関係の所に気を引いて注目させておいてその隙に目的を遂げる、その手捌きが出来る職業は限られてくる。
マジシャン? いや、財布を掏るような奴だ。多分そんないいもんじゃない。だとすれば残るは――
「一攫千金宝くじ 当たれば人生舐めプレイ テレビのCM真に受けて 億万長者さ
買っても買っても当たらない 増えてく増えてく紙屑が 当選番号39組×××××××破産寸前です
一二の三で喜んで 四五六で泣きだした 全財産をぶち込んで すべて水の泡
死にたくなるような喪失感 諦めきれない衝動が 心の底からパンクして 発狂しますか?
熱いの熱いよシングルボーナス 寒いの寒いよワンペアツーペア
祭りだ祭りだもっと騒いでよ らたたそいやさっさ 壊して壊してぐちゃぐちゃにして 鳴らして鳴らしてもっと鳴らして
言葉になれない単語の羅列を 並べりゃりんろ バイバイ バイバイ 人生バイバイ」
“ギャンブルシンドローム”――歌詞を見れば分かる通り、ギャンブルする気が凄まじく萎える呪歌である。
人の足取りの軽さは懐の重さに正比例する。
賭博師の人生哲学の一つだ。
つまり今、赤髪の歩調は街中で謡い、奏で、踊る楽団よりもなお軽やかだ。
『やぁ友よ! 随分と幸多そうな顔をしているね!
どうだい。君も僕らと一緒に踊って、
ついでに少しばかりのお金を落としていく気はないかな?』
「――正直なのは良い事だが、頼み方がなってないな。
金を落として欲しけりゃ、こうするんだ。
コインを入れて、レバーを引いて、ボタンを三つ押す。分かったか?」
店を出てすぐに絡んできた、金に敏感な楽師を軽くあしらい、先の収穫を取り出す。
まずは一つ目、見るからに貧相な襤褸の財布。
中身の程はというと、見た目以上に最悪だった。
「……アイツ、何の為にこの街に来たんだ?」
少なくとも賭博に溺れる為でない事だけは確かだ。
が、ともあれこの財布は最早、身分証明くらいにしか用途がない。
――無論、証明される身分とはスリの事だ。
「ツイてないな。俺も、アイツも」
赤髪は屑籠を探すべく首を左右に回す。
――切れ長の蒼眼のすぐ横を、赤銅色の閃きが突き抜けた。
一瞬遅れて視線が赤の軌跡をなぞる。
先ほど放った筈の銅貨が石壁に突き刺さっていた。
>「――へェ、あんた。割りと出来るタチだろ?
ま、いい。お得な情報感謝するぜ? 礼だ――俺の財布、金ねェからな」
>「何? もしかして情報料ってやつ!? それぐらい払うよ」
振り返れば突き刺さるお上り二人の眼光。
使用されている染料は闘争心と猜疑心といった風情。
「……もしかして、ツイてないのは俺だけだったか――!」
>「……財布落としちゃったみたい。歌でお礼させてもらうね」
魔力の揺らぎに赤髪が後退り、しかし歌声は苦もなく彼我の距離を渡り切る。
"響き渡る博徒殺しの呪歌"
――瞬間、歌声が、音律が、爆ぜた。
歌い損ねたのではない。お上り改め精霊楽師の唇が紡いだ音色に乱れはなかった。
呪歌は赤髪に触れてから、悲鳴へと変質したのだ。
灼熱の鉄板に落ちた一滴の水か、聖界に迷い込んだ惰弱な悪霊のように。
「――悪くない歌声だが、シンガー・ソングライターになるにはセンスが足りないな。
ギャンブルってのは嫉妬を楽しむモンだ。
運命の女神と踊りながら、その肩越しに見える破滅のお嬢様の眼光をな」
――後悔も喪失感も、慣れれば皆いい女だ。
「そして――分かっていないようだから教えてやるぜ。
ギャンブルに溺れれば人生が破滅する? いいや違うね。
破滅もまた、人生の一つなのさ」
歌声に呼応して赤髪から零れる蒼の燐光。
前髪を指で摘み、その事に気付き、溜息を一つ。
「まぁ、その歌声があれば宿代くらいはどうにかなるんじゃないか。
……開演パスを買う金さえあれば、だがな」
赤髪が踵を返し、石畳を蹴る。
疾駆、疾駆、疾駆。人混みをすり抜けて逃走する。
路傍に置かれたペンキ缶が蹴っ飛ばされて、また一つ街に新たなアートを刻んだ。
『オイ!ちょっと待てアンタ!―――この落書きのタイトルを記すのを忘れてるぞ!』
「――勝手に決めておけ!著作権法に違反しないなら何でもいい!」
駆け抜ける先は森だ。ただし立ち並ぶのは樹木ではなく無数の彫刻郡。
筋骨逞しい戦士像の陰を走り、象牙色の貴婦人とワルツを交わし、広場の中央へ。
『なぁ、悪いけどそこの彼女をもう少しこちらに近づけてくれないか。
――ギリギリで胸に手が届かないんだ』
『ねぇ貴方。もしよろしければ、そこのアホをもう少しこちらに寄せて下さいな。
――辛うじて、横面に手が届きませんの』
「揉んでも硬いだけだし、張っても手が痛いだけだろうな!
どうしてもって言うなら後から来る二人に頼め!」
逆立ちした巨神像、製作者曰くこの交響都市艦を支える守り神の元へ。
人差し指から手首へ、手首から肘へ、軽やかに巨体を登っていく。
そこから通り脇のビルの屋上へ飛び移り、隣の通りに降りた。
「――まったく、随分と寄り道をさせてくれたな。
だがまぁ……いい観光ツアーになっただろう。
この財布は料金代わりって事にしといてくれ」
フォルテにちらと目配せをしてみると、どうやらフォルテも状況を察した模様だ。
こいつは強かだ。そうゲッツは理解している。
気づかないならまだしも、気づいた上で何もしないほど悪戯心が無いやつではない。
>「何? もしかして情報料ってやつ!? それぐらい払うよ」
>「……財布落としちゃったみたい。歌でお礼させてもらうね」
モナーをキーボードに変形させ、なんて事無しに曲を弾き、歌い出すフォルテ。
一音が空間を震わせ、肺から送り出される空気は、口という楽器を通ることで魔力を含んだ呪歌を生み出していく。
>「一攫千金宝くじ 当たれば人生舐めプレイ テレビのCM真に受けて 億万長者さ
略
>言葉になれない単語の羅列を 並べりゃりんろ バイバイ バイバイ 人生バイバイ」
賑やかな旋律は、如何にもフォルテが歌いそうな歌。
だがしかし、その歌詞の内容に思考を巡らせてみれば、フォルテの選曲は悪意にまみれていたと言えただろう。
曲名、ギャンブルシンドローム。如何にもその手の雰囲気を漂わせるヘッジホッグにとっては、余りいい印象を与えるものではないだろう。
その横で、ゲッツは静かに目を瞑って意識を集中させていた。
フォルテの紡ぐ音律に合わせて胸元の傷からは力が漏れつつあって、それの制御に意識を向ける。
この手の輩ならば、ギャンブルに負けることすら恐らく――。
>「――悪くない歌声だが、シンガー・ソングライターになるにはセンスが足りないな。
> ギャンブルってのは嫉妬を楽しむモンだ。
> 運命の女神と踊りながら、その肩越しに見える破滅のお嬢様の眼光をな」
>「そして――分かっていないようだから教えてやるぜ。
> ギャンブルに溺れれば人生が破滅する? いいや違うね。
> 破滅もまた、人生の一つなのさ」
予想通り。この手の馬鹿野郎は嫌いではない。
ゲッツは小さく口元で呟くと、犬歯をむき出しにして額を抑えて含み笑いを漏らし始めた。
馬鹿騒ぎだけの詰まらない街かと思えば、こんな輩も居るものか。
さり気なくゲッツは、フォルテの傍らに摺り足で移動しておく。
無頼は相手だけではない。ゲッツもまた、無頼の輩。ジャンルは違えど社会不適合者。
ならば、この手の輩がしでかす行動は、ダメ人間(竜人)としてある程度予測できるものだ。
>「まぁ、その歌声があれば宿代くらいはどうにかなるんじゃないか。
> ……開演パスを買う金さえあれば、だがな」
「ひハッ……! わかってたぜそう来るのはよォ!
いいなァ、最ッ高のアトラクションをご提供してくれるじゃねぇか! 行くぜフォルテ!」
破裂するような笑い声と同時、ゲッツもまた石畳を陥没させながら初動を開始。
後にその足あとが恐竜の足あとという名のアートとして街の彩りとなってしまうのは今は誰も知らない。
傍らのフォルテをひっ掴んで肩に担ぎ上げると同時に、ゲッツも相手の動作を追っていく。
『プロデューサーさん! フェネクスですよ! フェネクス!』
『フェネクスでライブ……、まあ、なんでも、いいですけど――――きゃ!?』
『マンドレイク……まこと面妖なものもあるものですね』
『うぎゃー! ハム蔵がホムンクルスと一緒に塩漬けにされそうになってるぞー!』
最近話題の新人アイドルグループ――――恐らく今回の音楽祭に出るのだろう。
彼女らの内数人は、全力疾走するヘッジホッグ達に驚きの声を投げかけて。
しかしその音の尾を引きちぎる速さで、ゲッツ達は加速を続け、街を巡り廻っていく。
>『オイ!ちょっと待てアンタ!―――この落書きのタイトルを記すのを忘れてるぞ!』
ヘッジホッグがペンキを蹴飛ばし、壁に染料で自己表現を刻み込み。
そのタイトルとばかりにゲッツが右手の爪を一閃。
深々と己の爪あとを壁に残して、犬歯をむき出しに笑顔を見せて。
「スリと楽師と超イケメン竜人戦士で頼むわ!」
と言い残して、森の中へと駆けていく。
石の森の土の感覚は、ゲッツの足には馴染み深いもの。
石畳よりも、やはりこの手の自然の感覚がゲッツにとっては好ましいものだ。
喋る二つの石像を見れば、尻尾で二つの石像をぶっ叩いておく。
ずおん、と滑りながら二つの石像はフォーリンラブ、衝撃音と一緒に両方倒れこんでしまう。
ぐるりぐるりとこの街の中を駆けて駆けて、森の出口――巨神像をするりと登っていく相手を見て、口笛を吹いた。
「だが、まあ――相手が悪かったな、翔べんだよこっちはヨォ!
ヒィイヒャハヒャハハハハハハハハハハハハハッハハ――――!!」
加速のままに地面を蹴れば、ゲッツはフォルテを担いだままに高笑いを引き連れて天空へ。
背中から吹き出す赤い光で出来た翼が空を叩き、天からヘッジホッグを負う。
重力の軛に逆らわず、ゲッツは空から一気に通りへと垂直落下。膝というサスペンションを最大活用して地面へと着地した。
>「――まったく、随分と寄り道をさせてくれたな。
> だがまぁ……いい観光ツアーになっただろう。
> この財布は料金代わりって事にしといてくれ」
「――俺の財布を持ってくってのも奇特な奴だなァ?
まあ、良い。どうせリーフが財布持ってるだろうし……、
それに俺の懐は財布取られたくらいで痛むわけでもねぇし……、元から金なんて無ぇからな?
フォルテが良いって言うかどうかだな。俺はどうでも良いし? 野宿には慣れてるしよ。
どっちかっつーと、俺もアンタの考えに賛成だ。酸いも甘いも噛み分けてこその人生よ、なあ?
一文無しの財布で楽しめるアトラクションにしちゃ、大分気が効いてたんじゃねぇかね」
案外にも、この強面竜人は相手を無理やり追求するようなことはしなかった。
相手の度胸の座りっぷりと行動力を前に、多少ながらも機嫌を良くしたのだろう。
強者との試し合いというものは、竜人種――それもハイランダーならば、もはや習性といっても良いもの。
単純な娯楽よりも、この手の物事の方がゲッツの心は強く震わせられるのだ。
「――悪くない歌声だが、シンガー・ソングライターになるにはセンスが足りないな。
ギャンブルってのは嫉妬を楽しむモンだ。
運命の女神と踊りながら、その肩越しに見える破滅のお嬢様の眼光をな」
ギャンブル依存症の治療に絶大な効果を発揮する呪歌が効かない――だと!?
末期も末期、残念ですが手の施しようがありませんってやつだ!
>「そして――分かっていないようだから教えてやるぜ。
ギャンブルに溺れれば人生が破滅する? いいや違うね。
破滅もまた、人生の一つなのさ」
「恰好良さげな事言っても駄目なもんは駄目―――ッ!! 諦めてさっさと返せよ!」
返せと言って返す奴はいないわけで、駄目ギャンブラーは逃走を始めた。
>「ひハッ……! わかってたぜそう来るのはよォ!
いいなァ、最ッ高のアトラクションをご提供してくれるじゃねぇか! 行くぜフォルテ!」
ひょいっと肩に担ぎ上げられて文字通りアトラクション状態に。
財布盗られたというのに無駄に楽しそうだなこいつ! つられて歌いたくなってしまった。
“デッドラインサーカス”――楽しくて賑やかでそれでいてちょっぴり危険なこの街にぴったりの歌。
「どうかしてんだ火遊びショータイム おどけたピエロ燃やせ
導火線に火をつけろ 偽りの笑みは有罪だ(Guilty) 『今日盛況!』って強制しちゃってんだ
空虚に十字切ったら さぁ、いくぜ? stand up! Ready? デッドラインで踊れ!」
>『プロデューサーさん! フェネクスですよ! フェネクス!』
「そこのキミもステージに立ってみないかい?
ちょうどさっきピエロ役が灰になった・・・・・・じゃないや いなくなったところだ さあ、ようこそ!」
アイドルグループのような集団が騒いでいる横を駆け抜ける。
さっきからやたらお上り音楽ユニットみたいな一団が多いような気がするんだけど、何かイベントでもあるのだろうか。
ゲッツはそんな事は気にも留めず、壁に爪痕を刻み、石像をぶっ倒しながら爆走する。
やがて駄目ギャンブラーが巨大な石像を上っていくのが見えた。勝負あり!
>「だが、まあ――相手が悪かったな、翔べんだよこっちはヨォ!
ヒィイヒャハヒャハハハハハハハハハハハハハッハハ――――!!」
「キャハハハ! ざーんねーんでーしたーーーー!!」
高笑いを響かせながら駄目ギャンブラーの目の前に着地。
追いつめられたギャンブラーはすみませんでしたー!となる……と思いきや……
>「――まったく、随分と寄り道をさせてくれたな。
> だがまぁ……いい観光ツアーになっただろう。
> この財布は料金代わりって事にしといてくれ」
この期に及んでその言い草!? やべーよ、ゲッツにぶっ飛ばされるぞ!?
そう思って恐る恐るゲッツの顔色をうかがう。
「――俺の財布を持ってくってのも奇特な奴だなァ?
まあ、良い。どうせリーフが財布持ってるだろうし……、
それに俺の懐は財布取られたくらいで痛むわけでもねぇし……、元から金なんて無ぇからな?
フォルテが良いって言うかどうかだな。俺はどうでも良いし? 野宿には慣れてるしよ。
どっちかっつーと、俺もアンタの考えに賛成だ。酸いも甘いも噛み分けてこその人生よ、なあ?
一文無しの財布で楽しめるアトラクションにしちゃ、大分気が効いてたんじゃねぇかね」
何故か通じ合ってるしこいつら! アンタら一応窃盗犯と被害者だからね!?
なんかもうどうでもよくなってきた。歌の一節で応える。
「愉快なデッドラインサーカス ふざけた夢に耽溺(たんでき)しようか デタラメな夜を歌え!」
――そんなはした金ぐらいくれてやる、お望み通り破滅しやがれ!
通帳やカードがリーフに完全管理されている事を今ばかりは感謝した。
一文無しで飯代とか器物破損の弁償代とかがどこから出ているかというとリーフが出しているのだ。
それがどこから来ているかというと多分オレの年金のような……。仲間の年金で旅する勇者! これって前代未聞かも!?
「良かったな、ゲッツが一文無しで。お小遣い程度しか入ってないけどあげるよ。 その代わりその財布は是非使ってほしいな!
ついでにもうちょっと観光ガイドしてくれるかな。この街はもう長いんでしょ?
音楽グループがたくさん来てるみたいだけど何かイベントでもあるのかい?」
赤髪は危なげなく着地を果たした。
軽く息を吐き、視界を侵食する乱れた赤髪を一動作で纏め上げる。
全方位から射出される精神攻撃魔術、通称『白い目』を意にも介さず歩き出した。
『――俺の財布を持ってくってのも奇特な奴だなァ?』
――直後、眼前に先のお上り二人組が降ってきた。
「……人聞きの悪い事を言うな。これだけを返しにいくタイミングがなかっただけだ」
『まあ、良い。どうせリーフが財布持ってるだろうし……、
それに俺の懐は財布取られたくらいで痛むわけでもねぇし……、元から金なんて無ぇからな?
フォルテが良いって言うかどうかだな。俺はどうでも良いし? 野宿には慣れてるしよ。』
「あぁ、なるほど。アンタも同じ穴の狢って訳だ。
優秀な財布(ツレ)を持っているようで、羨ましいぜ」
『どっちかっつーと、俺もアンタの考えに賛成だ。酸いも甘いも噛み分けてこその人生よ、なあ?
一文無しの財布で楽しめるアトラクションにしちゃ、大分気が効いてたんじゃねぇかね』
「そう思うなら、次からは中身のある財布を持ち歩いてくれ」
懐からシガーケースを取り出し、煙草を咥える。
揺れる紫煙の中、煙草の匂いに紛れて仄かな蜂蜜の香りが漂う。
“儚い希望”の銘に相応しいインセンスだ。
『愉快なデッドラインサーカス ふざけた夢に耽溺(たんでき)しようか デタラメな夜を歌え!』
「なるほど――で、『いつの』夜を歌えばいいんだ?
全て合わせると覚えている限りでも、
ちょっとしたオペラを演じる羽目になるんだが――」
『良かったな、ゲッツが一文無しで。お小遣い程度しか入ってないけどあげるよ。 その代わりその財布は是非使ってほしいな!』
「……あぁ、有難く有効活用させてもらうさ。
―――灰皿が見当たらない時には重宝しそうだ」
『ついでにもうちょっと観光ガイドしてくれるかな。この街はもう長いんでしょ?』
「……構わないぜ――ただし無料お試しコースはさっきので終了だ。
今後は別料金の追加オプションが随時、無断で加算されていく。
頼りの財布と話を付けておいてくれ」
>『音楽グループがたくさん来てるみたいだけど何かイベントでもあるのかい?』
「イベント……?そう言えば、あのいけ好かないディーラーが何か言ってたな。
確か――――――なんだったかな、忘れちまった。
まぁ、少し歩けば案内板がある。そこまでガイドしてやるよ」
模範的な観光ガイドに相応しい言動。赤髪は歩き出す。
賭博師の降り立った『人筆通り』にはオブジェも落書きも無かった。
あるのはただ一枚のキャンバスだけ。
「おっと忘れてた。
お客様、足元にご注意下さい―――当艦最高級の絵画が御座います。
間違ってもお踏みになりませんようお願い致します」
通行者が地面を靴裏で叩く度に彩りが踊る。
ある者は抜けるような空色、ある者は落ち着いた新緑、ある者は目が眩むほどの金色。
――人の足跡、歩み方、生き方を絵画化する魔法のキャンバス。
とある凄腕の絵描きが施した、人物画の極致だ。
「なんてな。このキャンバスは――――詳しい説明が道端にボードが立ってる。それを見てくれ。
出来る事ならここはあまり通りたくなかったって事なら、覚えてるんだがな」
赤髪が可能な限り足元を見ないように歩き出す。
その足跡は蒼を主軸に金や灰、黒に桃、幾多の色が滲み、混じり合っている。
一つの存在に数多の色―――あり得ない色調だった。
「……あったぞ。今回の音楽祭、テーマは――――『星の巫女』だそうだ」
赤髪の手が案内板から一枚のビラを破り取る。
【君のアイドルを星の巫女にしよう!
交響都市艦フェネクス主催・星誕祭・まもなく開催!
本祭は先日ローファンタジアで起きた大厄災の復興支援チャリティコンサートであり、
また同件にて大怪我を負われた星の巫女の代役を選出する為のオーディションです。
審査は会場に施陣された魔法陣により、
各参加者がパフォーマンスを行った際に生じる観客の高揚や一体感を観測し、
それを基準に行います。
また、その強い感情こそがアイドル達を星の巫女へと押し上げる為の鍵となります。
彼らは皆様のご声援を何よりも必要としております。奮ってご参加下さい
なお、本祭で得られた収益は全てローファンタジア復興推進委員会へ寄付されます】
「なるほどな――偶像崇拝もここまで来れば立派なモンだ。
……なんだ、興味ありげな顔だな。
まさかお前も、出来合いの神様に祈りを捧げに行きたいってクチか?」
>>204 「ピザにあって」「お好み焼きにないもの」「「な〜んだ?」」
デートを楽しんでいるアサキムとアヤカに、どこからか突然の謎掛け。俗に言うあるなしクイズというものである。
答える答えざるにかかわらず、両側の建物の屋上から降り立つ二つの影。
アサキムが飛び退った次の瞬間、その場所に金属音と共に石畳に巨大な鋏が突き立てられ、石片が飛び散る。
降り立ったのは道化師をモチーフとした服装をした男女二人組。
巨大な鋏を携えているのは、道化師風の服を着た少年。
もう一人は、同じく道化師風の服に身を包み巨大なクレヨンを携えた少女だ。
「異界からのエンターティナー」「ナイト」「「あーんど」」「アルト」「「見☆参」」
「どうしっさま〜」「あっそびっましょう〜♪」
服装等この街においては何ら違和感は無く、どう見てもコスプレイヤーが過激にふざけているようにしか見えない。
しかしアサキム達には分かるだろう。彼らが人で非ざる存在である事が。
「遊んでくれなきゃ」「この街」「落とそっかな〜」
無邪気に言葉を続ける彼らは、どこまでも透き通った瞳で笑っていた。
>>「ピザにあって」「お好み焼きに無いもの」「「な〜んだ?」」
「っ?空耳か?」(ゼロなりきり継続中)
立ち去ろうとしたら
「な〜んだ人外か」(こちらも、C.C.モード継続中)
あっさりと、見抜く二人
>>「異界からのエンターテイナー」「ナイト」「あ〜んど」「アルト」「「見☆参」」
>>「どうしっさまー」「あっそびっましょ〜」
「良いが、ちょっとたんま」
アサキムは、ゼロの格好じゃあんまりだが、戦えないので
アサキムの姿へ戻った。
「さて、なにして遊ぼうか、鬼ごっこする?」
そう言うと、アサキムとアヤカは、反対の方向へ、向かった
(左の感覚が、失せ始めてる。不味いな。)
これは、分散もあるが、もう一つ目的があり、
(いま、天のアインソフオウルは使えない、強制屈服という手はない)
(なら、思いっきりやるには、もっと広いところへ行くしかない。)
今の、アサキムには、二人を、纏めて相手にする余裕が無かった。
故に、アヤカに、向こうの敵を一任してしまう羽目になった
(心配はしてないがな)
アサキムは、銃の召還用意をしながら、広いところへ向かっていた
>「あぁ、なるほど。アンタも同じ穴の狢って訳だ。
> 優秀な財布(ツレ)を持っているようで、羨ましいぜ」
「昔から運だけはやたらといいんだよなァ。
あと、俺の懐の財布は呉れてやってもいいが、俺の肩の上の財布[ダチ]はくれてやる訳には行かねぇわな。
って事で、こいつは俺のもんだから、ダメな。おーけぃ?」
楽しそうに竜人は談笑しつつ、犬歯をむき出しにしていい笑顔を相手に向けた。
ちろりと口の端から肉の舌と火の舌が飛び出している当たり、笑顔の本質もその中には多分に含んでいただろう。
相手が加えたタバコの煙に鼻先が反応し、鬱陶しげに腕を振るえば、煙が吹き飛ぶ。
竜人の嗅覚は敏感だ。鼻孔を塞げば煙を遮断する事は出来るが、煙ごときに屈服する積りはない。
フォルテと軽口を叩き合うヘッジホッグの様子を見て、なかなかに強かな野郎だ、と再評価。
その上で、相手から感じられる胡散臭さ以上の何かに、また見定めるように竜人は目を細めるのであった。
>「良かったな、ゲッツが一文無しで。お小遣い程度しか入ってないけどあげるよ。 その代わりその財布は是非使ってほしいな!
>ついでにもうちょっと観光ガイドしてくれるかな。この街はもう長いんでしょ?
>音楽グループがたくさん来てるみたいだけど何かイベントでもあるのかい?」
>「……構わないぜ――ただし無料お試しコースはさっきので終了だ。
> 今後は別料金の追加オプションが随時、無断で加算されていく。
> 頼りの財布と話を付けておいてくれ」
「ま、俺達みてーなおのぼりから巻き上げる積りだってんなら止めやしねぇさ。
ただ、俺の肩の上のお調子者は別として俺の方は守銭奴でヨ。相応に交渉くらいはさせてくれよ?」
鋭い爪をしゃりん、とこすり合わせつつ、いつの間にか手元には酒瓶が。
ニガヨモギの風味が強いそれを一口喉に流しこんで、幸せそうに酒臭い吐息を吐き出した。
竜人の肝臓は強い。成分に向精神作用があろうが、知ったこっちゃない。
>「イベント……?そう言えば、あのいけ好かないディーラーが何か言ってたな。
> 確か――――――なんだったかな、忘れちまった。
> まぁ、少し歩けば案内板がある。そこまでガイドしてやるよ」
「あいつは、音楽祭、とか言ってたっけか。思えば、もうちょい詳しいとこ聞き出しときゃよかったなぁ」
そう言いつつ、歩き出した赤髪を追うように、2mを越す巨体は悠々と歩いて行く。
人混みはいつも通りに開けていき、きょろきょろと周囲を興味深げに見回す様はまさにお上り。
辿り着いた『人筆通り』の足元を見ると、にたりと笑顔を浮かべるのだった。
「良い魂が聞こえるじゃあねえか、なあ」
ゲッツの足元を彩る色は、目にしたものを焼きつくさんばかりに鮮烈な真紅。
肩に担いだフォルテのそれも混ざっているのか、時折違う色もそれに食い込んでいた。
道行く人々の足元を見比べて、同時にヘッジホッグの足元を見る。
何でもかんでも、沢山の色が混ざり合う光景は、ありえない色調であると同時に、どこか歪で、醜くも見えた。
だが、その有様はゲッツにとっては生々しい欲を感じさせるもので、そう嫌いなものでもなかった。
「――そんなに沢山ってのも、欲張りすぎねえかなァ。
強欲≠セろ、お前さん。まあ、ギャンブラーってのは得てしてそういうもんかも知んねぇけどさ」
>「……あったぞ。今回の音楽祭、テーマは――――『星の巫女』だそうだ」
見せられたビラに視線を動かして、ほぉ、と声を漏らすゲッツ。
代役。あの戦場に居た、あの女の代役が、そう簡単に務まるのだろうか。
ゲッツは、あの戦いの顛末を見ることが出来なかったが、そう思わざるを得なかった。
>「なるほどな――偶像崇拝もここまで来れば立派なモンだ。
> ……なんだ、興味ありげな顔だな。
> まさかお前も、出来合いの神様に祈りを捧げに行きたいってクチか?」
「――代役ってのが気に食わねぇよなあ、そうだろ、フォルテよォ。
なあオイ、賭博師。これ、まだ出れるか? いや、出れねぇにしろ受付会場とか、事務局は有るよなあ?
案内しな。金ならこいつの年金から出るからよ」
肩の上の妖精と人間のハーフを指差しつつ、ゲッツはいい笑顔を浮かべて。
この祭りに、観客としてではなく出場者としてあろうことか参加しようとゲッツは言いたかったのだ。
ただ……この男も出るつもりまんまんなのだろうが、鱗ピカピカのプロレスラー体型の竜人の需要は有るのだろうか。
まあ、あろうがなかろうが出ると決めれば出るのが、この竜人なのだが――。
>「イベント……?そう言えば、あのいけ好かないディーラーが何か言ってたな。
確か――――――なんだったかな、忘れちまった。
まぁ、少し歩けば案内板がある。そこまでガイドしてやるよ」
赤髪の男は案外乗り気で、追加観光ガイドが始まった。
それにしても担がれているだけでいいとはナイスな観光ツアーである。
やがて、この街にしては珍しく落書きもオブジェも無い通りに出る。
>「なんてな。このキャンバスは――――詳しい説明が道端にボードが立ってる。それを見てくれ。
出来る事ならここはあまり通りたくなかったって事なら、覚えてるんだがな」
ゲッツの足元を見てみると、炎のような強烈な真紅。
その中に時折違う色も混ざりこんでくる。
オレが直接歩いたら顕れるのは妖精の色、虹のプリズムだろうか。
一方の赤髪の男は、統一感も法則性も無く様々な色を描き出していた。
それを見て、赤髪の男に直感的に興味を覚える。本当に只の駄目ギャンブラーなのだろうか。
>「――そんなに沢山ってのも、欲張りすぎねえかなァ。
強欲≠セろ、お前さん。まあ、ギャンブラーってのは得てしてそういうもんかも知んねぇけどさ」
「ふふっ、君只者じゃないでしょ?」
意味も無く意味深に笑ってハッタリをかましてみる。
>「……あったぞ。今回の音楽祭、テーマは――――『星の巫女』だそうだ」
赤髪の男が手に取ったチラシを見る。
「なんだっこれ!」
この街の人達は星の巫女をただのアイドル歌手と勘違いしてるのではないだろうか。
確かに親衛隊は相当ふざけた服装をしていたが――思想面で世界を統べる団体の頂点のはずである、一応。
第一、星の巫"女”である。ジャニーズ系なら百歩譲ってどうにかなるとして、マッチョな漢が優勝してしまったらどうするのだろうか。
そもそもマッチョは参加自体想定していないのだろうか。まさか何も考えずにノリでやってしまったのか。疑問は尽きない。
>「――代役ってのが気に食わねぇよなあ、そうだろ、フォルテよォ。
なあオイ、賭博師。これ、まだ出れるか? いや、出れねぇにしろ受付会場とか、事務局は有るよなあ?
案内しな。金ならこいつの年金から出るからよ」
オレが何か言うより先に、ゲッツが口を開く。
そうだ、このマッチョを無理矢理投入したら最高に面白そうだ。
そしてオレの歌でいい線まで引っ張り上げて「こっちがリーダーです」と言い張る。
やべーよ、こいつら優勝しちゃったらどうしよう!と主催者側の狼狽える様が目に浮かぶぜ!
口の端から思わず笑いが漏れる。
「くくくっ、そうこなくっちゃ! ――ユニット名、メッシー&アッシーでどうだっ!
いや、三人ぐらいいた方がいいか? この際メッシーアッシーミツグにしてもいいかもな」
ゲッツの年金発言に乗っかって、赤髪の男をチラッチラッと見ながらお前何歳なんだというツッコミ待ちの発言。我ながらこのユニット名はアウトだ!
メッシーアッシーとは飯をおごる人と移動手段の事。数十年前に存在した空前の好景気の時代の専門用語である。
何か勘違いしてオラさローファンタジアに行くだ!なんてお上りしちゃった時代。
いやあ、あの頃はイケイケどんどん、とりあえず都会に行けば芸能界デビューできる、なんて風潮が蔓延しておりました。
そしてミツグとはその言葉通り金品を貢いでスッカラカンになる人の事。
もっともこの人の場合は貢ぐまでもなく全てギャンブルに消えているのかもしれないが飽くまでもイメージである。
>>219 >「さて、なにして遊ぼうか、鬼ごっこする?」
「さっすが導師様」「そうこなくっちゃ!」
少年の姿を象った人外ナイトと少女の姿を象った人外アルト――二人組は無邪気且つ邪悪に笑って頷く。
反対の方向に向かって走るアサキムとアヤカだったが
程なくしてアサキムは、二人のどちらも自分を追いかけてきていない事に気付くだろう。
ナイトとアルトは二人分の姿をとって顕現しているだけで、二人で一組の同一存在。
自ら別行動を取る事は有り得ないのだ。
一方、ナイトから逃げるアヤカの前にひらりと跳んだアルトが降りたつ。
「あーあ、捕まっちゃったわね」
と悔しがってみせるアヤカだが、もっともアヤカがこれ程あっさりと挟み撃ちになるはずはない。
逃げるのは無駄と考え迎撃する体勢に入ったのだろう。
「つ〜かま〜えた!」「まずは」「キミからだよ」
ナイトは巨大な鋏を両手で持って頭上で鳴らす。
「楽しい図画工作の時間の始まり始まり〜 ――切断《カットオフ》」
アヤカは気付いたであろう、小気味いい金属音が鳴り響いたその刹那。
何も変わっていないが何かが変わった事に。
先程まで行き交っていた大勢の人々が忽然と消えている。
「驚いた?」「知らない人は」「興味が無い人は」「自分の世界にはいないって事」
「そう」「世界を」「分断した」「ここは」「アナタとワタシ」「キミとボク」「だけの世界」
「お次は」「描画《ドロウアウト》!」
アルトがまるで落書きするかのようにクレヨン型のステッキを空間に躍らせ、魔法陣を描く。
「まずは小手調べから」「星に願いを」「ただし」「願ってる暇があればね!」
「――隕石招来《メテオストライク》!」
天空から無数の流星群が降り注ぐ。
しかしこれ程の大規模な事をしてもアサキムとアヤカ以外はこの戦いを感知すらしていない
何も起こっていないのと同じなのだ。
「っ?、追ってこない?」
アサキムは、この手を予測できてなかった。
「一人を一点狙いか」
まぁ、良いか、そう思い、元の道を戻ることにした。
一方、アヤカは
>>「切断(カットオフ)」
「時空切断、なかなか面白い技ね。」
余裕を、ブッコいていた。
>>「隕石招来《メテオストライク》」
「まぁ、その数じゃね。私を倒すことは、無理よ。ハウリングランチャー」西洋の銃が、変化した魔銃ハウリングランチャーを用意し
「超分身☆」
その名の通り超分身しながら、撃ちまくり、隕石を落とす。
余裕が、あったので当たりそうなのは、周り蹴りを入れ、二人にぶつける。
その隙に、二人を絶望に引き入れる魔法が発動される。
「パラウス・アキエース」
二人の足下が凍り始め、やがて完全に凍り付く
「ウィリテ・グラディウス」
アサキムの凍れる刃が、二人の魂を切り裂きにかかる
『――そんなに沢山ってのも、欲張りすぎねえかなァ。
強欲≠セろ、お前さん。まあ、ギャンブラーってのは得てしてそういうもんかも知んねぇけどさ』
『ふふっ、君只者じゃないでしょ?』
「……いいや違うな。俺は―――ただの俺だ。それ以外の事は、どうでもいい」
楽師の問いを、紫煙と一纏めにして風の中に追い遣る。
靴底が描き出す色彩が揺らぎ、移ろいだ。
全てを覆うような強欲(あお)色から、邪悪な闇と偽りの高貴を示す虚飾(むらさき)色へと。
『なんだっこれ!』
「――昔、カジノでお守りのコインを見せびらかしてる奴がいたんだ。
“コイツのお陰で昨日のポーカーは大勝ちさ”ってな。
だから俺はソイツを掠め盗ってやったんだが――まるでご利益がなくてな。
持ち主ごとドブに放り捨ててやったさ。誰だってそうはなりたくないんだろうよ」
信仰心の維持には偶像と奇跡が必要だ。
人々に救いを齎さない神の名を覚えていられるほど人間は上手く出来ちゃいない。
例えハリボテだろうと新たな女神像が必要なのだろう。
『――代役ってのが気に食わねぇよなあ、そうだろ、フォルテよォ。
なあオイ、賭博師。これ、まだ出れるか? いや、出れねぇにしろ受付会場とか、事務局は有るよなあ?
案内しな。金ならこいつの年金から出るからよ』
「お安い御用……いや、お高い御用だが、お前達まさか―――」
『くくくっ、そうこなくっちゃ! ――ユニット名、メッシー&アッシーでどうだっ!
いや、三人ぐらいいた方がいいか? この際メッシーアッシーミツグにしてもいいかもな』
「――なあ、こういう時、俺はまず何をすればいいと思う?
相変わらず壊滅的なそのセンスを突っ込めばいいのか、
それともナチュラルに俺を引き込んでやがる理由を問い詰めればいいのか、どちらも捨て難くてな」
赤髪が煙色の溜息を吐く。
答えを模索するように彷徨う視線が見つけたのは『艦内禁煙』の看板のみ。
傍を通った絵描きの画材を無断で拝借し、忌々しい四文字を塗り潰した。
「とにかくだ―――コイツはただのコンサートやオーディションじゃないぜ。
これの主催者達は、自分達の手で神様を作りたいのさ。
つまりフェネクス史上最大規模のアートであり―――間違いなく、陰謀のパレットだ」
優勝者は代理とは言え星霊教団の顔となる。
世の悪人共からすればキング、クイーン、ジャック、10と手札が揃っている時の、
エースくらいに喉から手が出るほど欲しい特典に違いない。
「少なくとも俺は神様もどきになるつもりもなけりゃ、
純度100%の厄介事に首を突っ込む趣味もない。
……そう、ないんだが―――」
賭博師の勘が告げている。この祭りは何か“匂う”と。
その正体は、悪党共の気配と、ソイツらが招く涙の気配。
それも、女の涙だ。
「―――まぁ、なんだ。金になりそうな気配はするしな。
少しくらいなら付き合ってやる。ユニット名は―――なんて言ってた?
確か――『Messiah“See me to GOD”』(救世主曰く“神よ、俺を見ていろ”)か。
なんだ、改めて口に出してみれば悪くない名前じゃないか」
煙草を足元に落とし、靴底で躙る。
ポイ捨て禁止の看板は、どこにも無かった筈だ。
「さあ行こうぜ。受付は―――多分、中央区だろう」
中央区。
そこにはまず、大勢の人がいた。
次に人がいて――更にまた人がいた。
「……どうなってやがる。この街に来る連中が見たいのは芸術であって、
見渡す限りの人混みじゃあない筈だぜ」
中央区、暁広場。
娯楽と芸術の街フェネクスの行政機関を束ねた場所であり、唯一“常識人が住まう場所”。
目に映る物と言えば機能性一辺倒の高層ビルと、その奥にある巨大ドーム。
観光客共をどうにか整列させようと悪戦苦闘するスーツ着用、眼鏡装備の男達。
路上開演パスの販売、コンサート時のホールの予約、滞在や移住の手続き、
この街のありとあらゆる芸術はここから生まれる。
故に夜明け―――暁広場。
赤髪もまた人混みを掻き分け、
ついでに不特定多数の人物から寄付金を一方的に募りつつ、行政ビルへ。
「――音楽祭に参加したい。受付はここで出来るのか?」
『えぇ、“ここ”で出来ますよ。ですが“今”は無理ですね』
「いつなら出来るんだ?」
『“おととい”です。では次の方』
「生憎だが後ろの二人も同じ要件だ。なんとかならないのか?」
『なりませんね。新規のご参加はもう受け付けておりません』
「新規のご参加“は”だと?じゃあどんなご参加ならまだ受け付けているんだ?」
『そりゃあ、既にエントリー済みのチームのご参加ですよ。
アクシデントがあってメンバーの一部が入れ替わるなんて事は、たまにありますからね。
今からでも頼んで回ってみたらどうです?どこかに混ぜてもらえるかも―――』
「オーケー、もう分かった。十分だ―――行くぞ」
受付カウンターに背を向け、早足でビルを出た。
表では相変わらず見るからにインドア派のスーツ眼鏡達が交通整理に勤しんでいる。
その光景を見るだけで気温が三度ほど上昇したような錯覚を覚える。
「話は聞いていたな?どうしても神様ごっこがしたいなら、
心の広いお友達を見つけなくちゃならないらしい。
もっとも俺は、お前達の為に頭を下げて回るつもりは毛頭ないが――」
視線は前に向けたまま、後ろのお上り二人に声をかける。
「アドバイスくらいならしてやるぜ。
今回のコンサート、審査基準に不正は差し込めないと来た。
だったら、発想を逆転させてみろ――どこになら不正を挟む余地があると思う?」
都市中央の巨大ドームが人工太陽の光を浴びて、
稜線から現る朝日のように淡く輝いていた。
>「くくくっ、そうこなくっちゃ! ――ユニット名、メッシー&アッシーでどうだっ!
>いや、三人ぐらいいた方がいいか? この際メッシーアッシーミツグにしてもいいかもな」
「……あー、なンだ。てめェ、歌も楽器も達者な癖して、センスだきゃからっきしだわなあ。
もっとこう……なんだ、感じとか使って強そうな感じにしようぜ、夜露死苦ぅ! みたいな感じでよ!」
フォルテのユニット名発言にどよんとした瞳で呟きを返すゲッツ。
しかしながら、こいつのセンスもまた大分酷い、前時代的ヤンキーセンスである。これは酷い。
こいつら二人に任せていたら今後人生の汚点になりかねないユニット名を創りだしてしまう。
そんな展開になりかけた直後、ゲッツ達に割りこむようにヘッジホッグが口を開き。
>「――なあ、こういう時、俺はまず何をすればいいと思う?
> 相変わらず壊滅的なそのセンスを突っ込めばいいのか、
> それともナチュラルに俺を引き込んでやがる理由を問い詰めればいいのか、どちらも捨て難くてな」
>「とにかくだ―――コイツはただのコンサートやオーディションじゃないぜ。
> これの主催者達は、自分達の手で神様を作りたいのさ。
> つまりフェネクス史上最大規模のアートであり―――間違いなく、陰謀のパレットだ」
「細かいことは良く知らねぇがよ、要するに勝ちゃいいんだろ?
だったら問題ねぇよ。俺が居る以上勝つし、俺が負けそうになりゃこのちっこい喧し屋が何とかするしよ。
ついでに暇だったんでお前も追加。何にも変な事ァありゃしねぇし、陰謀とかはどうでもいいわな。
俺もフォルテも、ガチの神様見たことあンだぜ? 冗談と思うならそれでもいーけどよ」
にたり、と到底正義の味方や、良い人が浮かべるとは思えない笑顔を浮かべる竜人。
肉を食いちぎるために存在している鋭い犬歯は金属光沢を孕んでネオンの明かりに照らされた。
かちかちしゃりしゃり、歯がぶつかり合い擦れ合う音は、刀を砥ぐ剣士のそれにも近い。
>「―――まぁ、なんだ。金になりそうな気配はするしな。
> 少しくらいなら付き合ってやる。ユニット名は―――なんて言ってた?
> 確か――『Messiah“See me to GOD”』(救世主曰く“神よ、俺を見ていろ”)か。
> なんだ、改めて口に出してみれば悪くない名前じゃないか」
「おう、それそれ。それでいいわ。名は体を表すと言うけどよ、名前なんざテキトーで結構。
ま、ぱっぱと行っちまうかね、おうよ」
そう言って、ゲッツは背から翼を生やして、二人を担ぎあげて中央広場へ。
人混みに苛ついたゲッツは、闘気を当たりに解き放ち、モーゼをしながらビルへと辿り着いた。
そして、受付でのヘッジホッグと係の会話を聞きつつ、うんうん、とわかったように頭を何度か縦に振って。
実際問題この男に細かい話は分かるわけもなく、したり顔でよく事情を理解しないまま、ビルの外へと引かれていった。
>「話は聞いていたな?どうしても神様ごっこがしたいなら、
> 心の広いお友達を見つけなくちゃならないらしい。
> もっとも俺は、お前達の為に頭を下げて回るつもりは毛頭ないが――」
>「アドバイスくらいならしてやるぜ。
> 今回のコンサート、審査基準に不正は差し込めないと来た。
> だったら、発想を逆転させてみろ――どこになら不正を挟む余地があると思う?」
「……不正を挟む余地、か。だとしたら――、成る程。
開催前に適当な奴ブチのめして、入れ替わればいいってことだな!
だったら早速強そうな奴見つけ次第片っ端からボコってくっきゃねぇか! うししし……!」
この竜人に頭脳プレーを期待してはいけない。そも、ダンジョンアタックも男探知で突破するのだ。
このような日常パートで知能を働かせようとしても役に立たないのは自明の理。
拳をぽきぽき鳴らしながらドヤ顔を浮かべる竜人は、傍らの半妖吟遊詩人の視線を受けて、目を眇めた。
「小学校中退にまともな回答期待すんじゃねーっての。はい、フォルテ君、回答さっさとなー、あと10秒って所で」
ぶすっとした顔をしつつ、フォルテの首根っこを掴んで肩に担ぎ上げるゲッツ。
10秒後には肩に担がれたままぐるぐると回転させられることだろう。
罰ゲームのためダメージはないが乗り物酔い必至である。
>「アドバイスくらいならしてやるぜ。
今回のコンサート、審査基準に不正は差し込めないと来た。
だったら、発想を逆転させてみろ――どこになら不正を挟む余地があると思う?」
>「……不正を挟む余地、か。だとしたら――、成る程。
開催前に適当な奴ブチのめして、入れ替わればいいってことだな!
だったら早速強そうな奴見つけ次第片っ端からボコってくっきゃねぇか! うししし……!」
……ですよねー!
いや、ぶっちゃけRPGで敵地に潜入する時だったらスバラシイ一般的模範解答だと思う。
見るからにヒョロい奴ではなくわざわざ強そうな奴を狙うのがとってもコイツらしいけど!
でも今回ばかりは駄目だ。
ここに来た当初の目的がすでに忘れられていそうだが、荒事抜きで事を進めなければ父さんに顔向けできない。
何も言わずとも視線に気付いたらしいゲッツが、オレを肩に担ぎ上げた。
>「小学校中退にまともな回答期待すんじゃねーっての。はい、フォルテ君、回答さっさとなー、あと10秒って所で」
「何それ、タイムショック!? ……あ」
視線が高くなって、一際目立つ人物が視界に入った。
長い黒髪のゴシックドレスを着た少女に、思わず目が釘付けになる。
確かに人目を惹くような妖艶な美女だが、問題はそこではない。
左目の精霊力視覚が、彼女が従える数多の精霊を映し出したのだ。
そうこうしてるうちに10秒経過し、罰ゲーム敢行。
「ひぃいいいいいいいい!? 申し訳ございません、美女に見とれておりましたぁあああああああああ!!」
罰ゲーム終了し、ようやく知性派の様相を取り戻したオレは作戦を展開。
改めて周囲を見てみると、「星の巫女LOVE」と書かれたTシャツを着た集団(コミケと間違えて来たらしい)や
か○はめ波出しそうな胴着を着た集団(天下一武闘会と間違えて来たらしい)など、およそ音楽グループとは思えない一団も結構いる。
近くにあった艦内禁煙の看板を引っこ抜いて、裏に『出場権こうか買取中』と書いて掲げる。
もちろんこうかは”硬貨”ね!
「不正とはすなわち買収!
期間中誰でもエントリー出来たなら音楽出来ないけどとりあえずエントリーしてみた的な記念エントリーグループが必ず存在するはずだ!
そこを狙えば二束三文で落とせるはず!」
>>225 >「超分身☆」
無数に分身したアヤカに蹴り返された隕石を、踊るような動作で避ける二人。
「キャハハ」「なかなかやるね!」
>「パラウス・アキエース」
ケラケラ笑っていた二人だったが、到着したアサキムが放った技により、足元が凍り始める。
「なっ――!」
>「ウィリテ・グラディウス」
言い渡される死刑宣告、アサキムの絶対零度の刃に切り裂かれる魂。
「ぐ……ぎゃあああああああ!!」
しかしアサキムは気付いただろう。二人には魂が存在しない事に。
彼らは魂も意思も無くただ世界を喰らうだけの存在なのだ。
「なーんちゃって」「魂も」「心も」「無いんだよ」
何の感情も宿らない澄み切った瞳で笑う二人。
ナイトが鋏を一閃し足元の氷に叩きつけると、氷は粉々に砕け散った。
ぞっとするような無邪気で冷酷な笑みを浮かべながら、アルトがステッキを空間に走らせる。
「お返しだよ」「この技にかかった者は」「氷に閉じ込められて死ぬ!」
「久遠絶対氷結【エターナルフォースブリザード】!」
黒歴史ノートそのまんまな呪文と共に、隔離空間内の全てが凍りついていく。
『……不正を挟む余地、か。だとしたら――、成る程。
開催前に適当な奴ブチのめして、入れ替わればいいってことだな!
だったら早速強そうな奴見つけ次第片っ端からボコってくっきゃねぇか! うししし……!』
「――だったら丁度いい。さっき、お前のお気に召しそうな奴を見かけたんだ。
あれは何処だったかな……。確か―――そうだ、カリスト広場だ。
あそこの湖を覗き込んでみろ。殴り易そうなアホ面がそこにいる筈だ」
背後から漂う凄まじアホ臭さを緩和すべく、懐のシガーケースに手を伸ばす。
瞬間、人混みの中で数十の眼鏡が一斉にこちらを振り向いた。
流石にこれだけの衆人環視を煙に巻く事は出来そうにない。
諦めて、シガーケースを仕舞い直した。
『小学校中退にまともな回答期待すんじゃねーっての。はい、フォルテ君、回答さっさとなー、あと10秒って所で』
『何それ、タイムショック!? ……あ』
余命幾許もない哀れなお上りが呆けた声を零す。
色違いの瞳の向こうに走馬灯でも見かけたのだろうか。
青い視線の先を追う。
『ひぃいいいいいいいい!? 申し訳ございません、美女に見とれておりましたぁあああああああああ!!』
「あぁ……確かに美女だった。どうも人間より、それ以外に――
――主に半透明の非生物共にモテそうなタイプだったが」
あの手のタイプは苦手だった。
人ならざる者と触れ合う連中は、人特有の欲や雑念を毛嫌いする傾向がある。
欲の雑念の塊である賭博師は、生物学的なレベルで奴らと反りが合わなかった。
『不正とはすなわち買収!
期間中誰でもエントリー出来たなら音楽出来ないけどとりあえずエントリーしてみた的な記念エントリーグループが必ず存在するはずだ!
そこを狙えば二束三文で落とせるはず!』
「なるほど、悪くないアンサーだが……
その『こうか」とやらは一体誰の懐から出てくる予定なんだ?」
先程掠め盗った財布、随分と薄っぺらくなったそれでお上りの額を叩く。
悪いが、俺は手品師じゃないんだ。
客から盗った物は全てカジノと質に消えていくし、
スロットが無けりゃ金貨を生み出す事も出来やしないんだぜ――」
『なぁアンタ達、音楽祭の出場権が欲しいのか?』
金の出所を決める暇もなく声がかかった。
若い男達だ。頭髪と服飾がちょっとした前衛芸術と化している。
何処かの展示物が逃げ出してきたに違いない。
「――あぁ、そうだ。売ってくれるのか?幾らで?」
模範的なフェネクス都民である赤髪は即座に通報の必要性を認識したが、今は状況が状況だ。
ひとまずは目を瞑り、応対する。
対する若者は笑みを浮かべた。千の言葉よりも雄弁な、欲に満ちた笑みだ。
『幾ら出せる?』
「そうだな――」
音もなく閃いた賭博師の腕。
極度の雑踏により高温多湿と化した中央広場に、極めて局所的な風が生まれた。
若者達の芸術的頭髪が微かにそよぐ。
「――ざっとこんなモンでどうだろう」
差し出すのはマジックテープ式の最新携帯灰皿。
ただしその厚みは楽師を叩いた時よりも遥かに増している。
若者達が瞳を歳相応に輝かせた。
『マジで!?こんなにくれんのかよ!すげえ!』
「お気に召したか?だったら――」
『オッケーオッケー!ほら、これが出場登録証だよ!じゃあな!
今更気が変わったとか言っても返してやんないぜ!』
「ちょっと待て、まだ一つ言っておく事が―――行っちまったか。
可哀想に。石畳の上で一晩過ごすのは堪えるだろうな」
人混みの中に消えていく彼らを興味無さげに見送った。
振り返り、行政ビルへと引き返す。
「――そら、これで満足か」
無愛想な受付嬢が待つカウンターに登録証を放り投げる。
『――ようこそいらっしゃいませ。ご用件はなんでしょうか?』
返ってきたのは見違えるような笑顔。
あまりにも模範的な接客態度に赤髪の口端が引き攣る。
「……メンバーとユニット名の変更手続きをしてくれ。
名前は―――自分の分は自分で書くんだな」
今更ながら、お上り二人の名前を聞いていなかった事を思い出す。
もっとも、わざわざ聞かねばならない理由もない。
二人に代わってエントリーシートを書いてやらねばならない理由は、尚更だ。
「――ところで、さっきの答え合わせでもしてやろうか。
不正を挟み込む余地……買収もその一つだな。
ただ、星の巫女代理の名誉と、それに伴う利益に勝る交換条件は、そうそうないだろう」
登録を終えて、中央ドームへ向かう道中、赤髪は語る。
端から優勝など目指していない連中になら兎に角、勝ち上がる為の手段としては今一つだ。
「じゃあ、どうしても優勝したい奴らはどんな不正をやらかすのか――」
赤髪の言葉を断ち切るように響く電子音。
都内の各地に設置された通達用スピーカーの起動音だ。
『――ハイハイ皆さん聞こえますかー?こちらは『星誕祭』実行運営委員会でーす!
突然なんですが今回の音楽祭、一般からも参加募集を行った結果、
参加チームが増えすぎちゃったんですよね!ですので――!』
一瞬の静寂。
大音声の残響が消えた頃合いで、スピーカーが次の声を紡ぐ。
『急遽!えぇ急遽です!決して事前に計画されていた訳ではないのですが――
――予選を!行いたいと思います!競技は極めて単純です!
皆さん、出場登録証をお持ちですよね?ちょっとそれを見て下さい!』
赤髪が登録証をお上り楽師に投げ渡す。
パールゴールドの薄い菱形の登録証。
『実はその登録証、五枚集めると星の形になるんですよ!
午後六時までに、その星形になった登録証を中央ドームに持って来て下さい!
それらのチームだけが、本選へと進出出来るのです!』
回りくどい説明。
その癖――『五枚集める手段』に関する言及は一切なし。
『――じゃ、頑張ってくださーい』
即ち、ルール無用のバトルロワイアル。
凡そアイドル達に行えるような競技ではない。
「……こういう事だな。審査基準が変えられないなら――
それ以外を変えてやろうってクチか。
で――どうするんだ?」
至る所で上がる悲鳴、怒声。
満ちていく熱気、闘争の気配。
「五枚集めるだけなら簡単だろうが――今なら探し易いんじゃないか?
――『強そうな奴』」
>>「ぐ………ぎゃああああああああ」
「チェックメイト?いや、きりさいたかんじがしない。」
まぁ、お察しのとうり、復活しました。
「まいったな。こりゃあ。」
>>「エターナルフォースブリザード」
「あっ、」
アサキムさんはログアウトしました。
「おのれぇぇぇぇぇ、許さん!」
アヤカは夫を瞬殺され、もはや悪役の発言が、板に付いてきそうだ。
実は、アヤカさんは、アインソフオウルの一人
「しばらく、外さないと思ってたけど、今外さないとね。」
腕の両方の飾りを外す。
「ふふ、見せてあげる。私のアインソフオウルを」
その名は、『破滅の』アインソフオウル
攻撃するときに、黒いオーラを放ち、危険だと解るが
気がついた所で、もう遅い。
そのスキルの能力は、殴ったものを消滅させる事
「いっくぜぇぇぇ。」
二人をおもっいっきりぶん殴る。
視界の端に入るゴシックドレスの少女。そして、それに付き従う一匹の竜人
他にも何人かが集団を構成し、その場を通り過ぎていった。
ゲッツの野生の勘、戦闘者としての嗅覚が明らかにその存在が今この場に居る中でも別格だという事を理解する。
その集中の内に10秒立ったことに気がついたゲッツは、律儀にしっかりフォルテを空中でぶん回し始めた。
>「ひぃいいいいいいいい!? 申し訳ございません、美女に見とれておりましたぁあああああああああ!!」
「ッギャハハハハハハッハハハハハハッハア――――ヒャッハァ――!」
とっても楽しそうに吟遊詩人『で』遊ぶ竜人が一匹。
タイムショーック! とばかりにぐりんぐりんともうフォルテがオクラホマ・ミキサーで大変な有様。
その間3秒の圧倒的なアトラクションの後、ひょい、とゲッツは肩に担いだフォルテを地面に下ろす。
>「不正とはすなわち買収!
> 期間中誰でもエントリー出来たなら音楽出来ないけどとりあえずエントリーしてみた的な記念エントリーグループが必ず存在するはずだ!
> そこを狙えば二束三文で落とせるはず!」
>「なるほど、悪くないアンサーだが……
> その『こうか」とやらは一体誰の懐から出てくる予定なんだ?」
「……よし、やっぱり物理でなんとかするっきゃないわな。
冒険者として悪人何人かとっ捕まえりゃ謝礼も結構貰えんだろうよ」
ゲッツの思考はやはりというかなんというか、暴力に特化していた。
まあ実際問題、犯罪者を捕まえるのは非合法でもなんでもない為、金を稼ぐ手段としては問題はない。
と言っても、そう簡単に犯罪者が居るとも限らないのだが。
悪そうな奴いねェかなあ、と当たりをゲッツが見回している内に、ヘッジホッグが他の参加者と会話を始めた。
(器用な手先してやがんのな、まあ良い。
その手のえっぐい手口もアリっちゃありだしな、見逃してる時点であの兄ちゃんの負けってもんだ)
にやり、とヘッジホッグに鋼色の瞳を向けて、笑い声を僅かに漏らす。
何かに特化したモノ、素晴らしい技量を見た時にゲッツの心は確実に踊る。
今の動作は、ゲッツに取っては一度爪牙を交わしてみたいと思う程度には魅力的なものだった。
なんだかんだ行って登録証を手に入れた一行は、ビルへと出戻り。
カウンターにた登録証を放り出せば、打って変わって完璧な態度を取る客。
>「……メンバーとユニット名の変更手続きをしてくれ。
> 名前は―――自分の分は自分で書くんだな」
「……名前か……、ちょっとまて思い出すから。
スペルが……えーっと、なんだけ、ちょっと待てよ、待てよ――」
書けと言われて、ゲッツは途端に頭を抱え始めた。
そう、この竜人読み書きが怪しいのだ。自分の名前のスペルがどうにも怪しいゲッツは数分首を傾げて。
ふとひらめいたように冒険者カードを取り出すと、そこに書いてある名前と睨めっこして。
「Gotz Disaster Behrendorf……、っと。枠はみ出したけどまあ良いだろ」
小学生が鉛筆で書いたような、良く言えば奔放、悪く言えば馬鹿っぽい大きな文字がシートで踊る。
筆圧が高いため文字がやたらめったら濃く、存在感は人一倍だ。
登録を済ませれば、外に出て中央ドームを目指していく、が。
その最中スピーカーから声が発せられる。
内容を聞いていけば、分かりやすい程にゲッツ向けの内容だ、犬歯をむき出しにしながら俯き加減になってプルプルと震え出す竜人。
>「五枚集めるだけなら簡単だろうが――今なら探し易いんじゃないか?
> ――『強そうな奴』」
「そうだなァ――とりあえずどっかで一息つこうや。
広場が良く見えるところでな。真っ先に五枚カード集めたチーム見つけ次第そいつブチのめして全部持ってこうぜ?
ちまちま羽虫ぶっ潰すのもだりーしよ、どーせならでっけーの一発でぶっ潰す方が楽しいじゃねぇのよ」
ゲッツの提案はシンプル。5枚分集めた奴を潰して全部奪い取るというもの。
4チーム潰すよりも一チーム潰す方が楽であるというゲッツのシンプルな思考と、もう一つ。
少なくとも他のチームを潰せるだけの実力が有る相手のほうが楽しそうだというゲッツの趣味だ。
「っし――、荒事くらいしか役に立たねぇが、荒事だけは得意なもんでよォ。
まあ、精々全方位殲滅師の本領でも発揮させてもらうとするかね――って、良い獲物発見したんだけど」
ゲッツが当たりに目線を向けながらどこからか取り出した酒をかっ食らっている最中。
唐突にゲッツの視線の先にある一団が崩れ落ちる。皆恐怖に心を砕かれ、意識を失うものや恐慌する者が多く見られた。
周囲の電灯が唐突に明かりを弱め始めて、天井のスクリーンから覗く夕焼け空は暗雲に覆われた。
当たりに乱舞するのは闇と呪いを司る精霊たち。死霊すら当たりに湧き始めた。
「Say your prayers little one (祈れ、幼子よ)
Don`t forget my son To include everyone(我が息子よ皆の事を祈るのを忘れてはいけない)
I tuck you in walk within(暖かな中に体を押し込んでしまえ)
Keep you free from sin(お前が良い子だろうが悪い子だろうが)
'til the sandman he comes (サンドマンはやって来るのだから)
Sleep with one eye open(眠る時も片目を閉じずに)
Gripping your pillow tight(しっかりと枕を抱えて)
Exit light(出でるのは光で)
Enter night(入り込むのは闇だ)
Take my hand (この手を取るんだ)
We're off to never never-land(私達はネヴァー・ネヴァー・ランドへ行くのだから)」
朗々と張り上げられるのは、男の声だろうか。
しかしながら、その声には女性的な色も感じられる。
本来ならば暴力的なまでのリフと共に響くであろうその歌のもたらす効果は――眠り。
魂を削りとり、命を吸い取る、死へと近づいていく眠りの歌。Enter sandman。
その音の出処には、ゴシックドレスを着た中性的な外見の精霊楽師が1人。
そして、脇を固めるように背丈の高い神官服の竜人――種族は恐らく、ハイランダーが1人。
「キシャァッ!」「グルァッ!」
ゲッツは襲い来る眠気に竜種の叫びで拮抗するものの、傍らの竜人によってそれを同時に相殺される。
ゲッツは異様に強制力が強いその眠気に次第に襲われつつ有るが、爪を腕に突き刺し痛みで強制的に意識を覚醒させた。
その直後に響くのは、男にも聞こえるし女にも聞こえるし、子供にも聞こえるし大人にも聞こえる声。
不思議な魅力を持つその声は、大凡人間が持ちうる声ではない、魔的なそれだ。
声の主の名は、ディミヌエンド・レガート。昨今人気のバンドReverse A Sunのリーダーだった。
「私の歌を聞いても倒れないなんて、素晴らしい適性ですね。
流石ハイランダーと言ったほうがいいのでしょうか、まあ此方も貴方と同じだけの実力は有るようですけれど。
――初めまして、フォルテ・スタッカート。私はディミヌエンド・レガート、よろしく。
さて、五枚のチケットを集めれば進出できるとは言われてたけれど、それ以上奪ってはいけないとも言われてない。
要するに、ここで出来るだけ多くチームを減らすことが出来れば、私達の進出も確固たるものとなるという事だね?」
そう、ディミヌエンド達の目的は、この予選で自分たち以外の大半を全滅させること。
そうすれば本戦での敵は少ない上に、卓越した精霊楽師である己に負ける理由はないという算段。
だが、それの障害になる存在が今この地に居た。そう、ゲッツ、フォルテ、ヘッジホッグ、アサキム達だ。
淀んだ色を感じさせるオッドアイをフォルテ達に向けるディミヌエンドの傍らの竜人が、一歩を踏み出した。
「悪竜の血が如何にも濃そうな顔をしているな、貴様は。
不愉快だ、ハイランダーとは気高き種。貴様のような暴力の権化では決して無い。
――祖に祈れ、そして滅びろ。この俺が今から貴様らを折伏してくれるわ!
我が名はジャック・カンヘル・チャーチル! ハイランダーの近接僧武師(モンク・フォーサー)だ!」
精霊に語りかけディミヌエンドが周囲に倒れこむ人々から登録証を奪い去っていく最中。
竜人は闇の精霊の力を身に宿しながら、地面を蹴った。
全身から吹き上がるのは、聖者の静謐な気。白いそれは闇と混ざり合うことで相剋するはずが混ざり合って力を爆発的に増加させる。
精霊協奏(マナ・シンフォニー)。
霊的な波長のシンクロする者同士が、霊的な力を組み合わせる事によって魂を同調させる技法だ。
闇と光の相反する属性ながら、波長が噛み合うディミヌエンドとジャックだからこそ出来る術。
その力によって身体能力を異様なまでに向上させたジャックは、数歩で距離を詰めると拳をゲッツに向けて振りぬいた。
「ぬぅん!」「き、ヒハッ!」
明らかに素の状態のゲッツよりはるかに強い相手の拳を、ゲッツは顔で受け止めた。
地面に赤い液体が溢れる。血だ――ジャックの。
皮膚を突き破って生えた鋼色の棘が拳を貫通していたのだ。
だが、直後にゲッツは吹き飛び、フォルテやヘッジホッグを巻き込んで転がっていく。
「……確かに強い、鍛錬も認めよう。だが、貴様は戦いの為に戦っている獣に過ぎん。
神官崩れが真の神官に勝てると思うなよ――正道こそが常道であり最強なのだから」
他のハイランダーに見られる野性的な戦闘法とは一線を画する動き。
ハイランダーの神官ならば皆学ぶクレイモアの中でも特に上位の武僧しか学ばぬ技法――正道。
その技法は謎に包まれていると云われるが、それを収めているのが、この竜人の様だ。
拳の傷も精霊たちによって向上した回復力に依って即座に治っていく。
当たりには満ちる闇の精霊達と、倒れていく参加チーム達。――この状況、乗り越えなければならない状況だ。
逃げた所で、相手にとってはライバルが減るだけの事。
いますべきことは、単純だろう。そう――
「――――ぶちのめすぞ、フォルテ。すっげー眠いからよォ。
なァんか、目ぇ覚めて元気出そうな歌でも歌ってくれや。
んでもって、ヘッジホッグ。戦えるなら協力してくれ、無理なら下がっといてくれていいけど」
鼻の骨が折れたのか、ちん、手鼻をかまして地面に血を垂れ流すゲッツ。
曲がった鼻筋を無理やり指で掴み直せば、並のハイランダーよりも濃い竜種の血が傷を直していく。
ふらつきながら立ち上がり、ゲッツはフォルテとヘッジホッグの手を取って立ち上がった。
邪魔そうに上半身の服を脱ぎ捨て、傷だらけの体を晒す。胸元のfの傷からはうっすらと異質な力が漏れだしつつ有った。
>「悪いが、俺は手品師じゃないんだ。
客から盗った物は全てカジノと質に消えていくし、
スロットが無けりゃ金貨を生み出す事も出来やしないんだぜ――」
「やろうと思えばすぐにでも手品師に転職できると思うんだけどな……」
いや、逆か? あれはどっちかというと手品師の技だ。
手品師からスリ師に転職(?)したのか?
結局ヘッジホッグはなんだかんだで素晴らしい手腕を発揮して出場登録証をゲットした。
嗚呼、才能の無駄遣い。今この時に限っては無駄どころかとても有難いけど。
>「……メンバーとユニット名の変更手続きをしてくれ。
名前は―――自分の分は自分で書くんだな」
エントリーシートに書かれた赤髪の男の名を覗き見る。
丁度そろそろ”赤髪の男”は面倒臭くなってきたところだ。
「ヘッジホッグ・ザ・ゲーマー!? 明らかに偽名じゃん!」
自分の名前を書けと言われたゲッツが何故か頭を抱え始めた。
>「……名前か……、ちょっとまて思い出すから。
スペルが……えーっと、なんだけ、ちょっと待てよ、待てよ――」
>「Gotz Disaster Behrendorf……、っと。枠はみ出したけどまあ良いだろ」
「小学校低学年かよ!」
まあ駄目ギャンブラーと小学校中退だから仕方がない。
しかしオレは一味違う。さらさらとエントリーシートにペンを走らせる。
トップアイドルたるもの、超スタイリッシュなサインを書く。
もうスタイリッシュ過ぎてaもoもcも区別がつかなくなってるけど気にしない。
>「――ところで、さっきの答え合わせでもしてやろうか。
不正を挟み込む余地……買収もその一つだな。
ただ、星の巫女代理の名誉と、それに伴う利益に勝る交換条件は、そうそうないだろう」
>「じゃあ、どうしても優勝したい奴らはどんな不正をやらかすのか――」
「どうしても優勝したい奴ら……?」
星の巫女代理、といってもどうせこの街らしい冗談半分の遊び心だろうし
優勝までいかなくてもそこそこ目立って父さんに見つけてもらえればいいな、と思っていたのだけど。
首をかしげていると、町内放送が流れた。
放送内容を要約すると、出場権を巡って出場登録証を奪い合えという事だ。
「なんでのど自慢大会の予選が天下一武闘会なんだよ!」
ここにきてようやく気付く。明らかに異常だ。少なくとも純粋に音楽を愛する者のする所業ではない。
星の巫女代理の地位を本気で悪用しようとしている奴がいる……!
>「五枚集めるだけなら簡単だろうが――今なら探し易いんじゃないか?
――『強そうな奴』」
>「そうだなァ――とりあえずどっかで一息つこうや。
広場が良く見えるところでな。真っ先に五枚カード集めたチーム見つけ次第そいつブチのめして全部持ってこうぜ?
ちまちま羽虫ぶっ潰すのもだりーしよ、どーせならでっけーの一発でぶっ潰す方が楽しいじゃねぇのよ」
楽しそうだなこいつら! ノリノリのゲッツ達を余所に、オレは頭を抱えた。
まともな音楽ユニットは全員出場前に脱落して、出場者が筋肉ムキムキの武闘派だらけになる絵がありありと思い浮かぶ。
>「っし――、荒事くらいしか役に立たねぇが、荒事だけは得意なもんでよォ。
まあ、精々全方位殲滅師の本領でも発揮させてもらうとするかね――って、良い獲物発見したんだけど」
聞こえてくるのは魔性の歌声。左目が映し出すは闇の精霊。
周囲の人々が次々と意識を失って倒れていく。
眠りの歌といっても優しい子守歌では無く、死に至る昏睡に引き込む呪詛の歌。
オレの基準では間違いなく歌ってはならぬ禁断の呪歌のうちの一つに入る。
「随分な子守歌だな! そんなん歌ってると紅白歌合戦に出して貰えなくなるぞ!」
歌っていたのは、先程のゴシックドレスの少女だった。
いや、少女にしては歌声に男声の重厚感がありすぎる。
この声、聞いた事がある。ラジオでしか聞いた事がないから見ただけでは気付かなかった。
Reverse A Sunのリーダー、性別非公開で名前は確か……。
>「私の歌を聞いても倒れないなんて、素晴らしい適性ですね。
流石ハイランダーと言ったほうがいいのでしょうか、まあ此方も貴方と同じだけの実力は有るようですけれど。
――初めまして、フォルテ・スタッカート。私はディミヌエンド・レガート、よろしく。
さて、五枚のチケットを集めれば進出できるとは言われてたけれど、それ以上奪ってはいけないとも言われてない。
要するに、ここで出来るだけ多くチームを減らすことが出来れば、私達の進出も確固たるものとなるという事だね?」
Reverse A Sunの歌はあんまり好きじゃなかったけど、その勘は当たっていたというわけだ。
悔しさのあまり奥歯をギリリ、と噛みしめる。いかにも悪役的な発言それ自体に対してではない。
呪歌士は必ずと言っていい程楽器演奏をするのだが、今のはアカペラだ。
だけど楽器演奏が無い事なんてきっとオレ以外の誰も気付いていない。それ程までに完璧な歌声。
そう、こいつは歌だけで全てを表現する事が出来る域に達してるのだ。
それ程の素晴らしい歌声を持つ者が純粋に歌を愛していない、その事が悔しくてならなかった。
それはそうとこいつ……何故オレの名前を知っている!? まだ有名になってないぞ!
「成程……ライバルになりそうな奴はデビュー前からぬかり無くチェック済みというわけか!
オレに目を付けるとはいい勘してるじゃねーか! それでは未来のトップアイドルから二つ言わせてもらう!
ひとつ、楽師なら正々堂々とステージで勝負しろ! ふたつ、寝る時は布団位敷かせろやぁあああああああ!!」
「はいどうぞ」
リーフが一瞬で敷いた布団に潜りこんでツッコミ待ち。
呪歌には精神の動揺がダイレクトに影響する。そこで予想外の行動によって相手を狼狽えさせる作戦だ。
そんな呪歌布団に入ったって効かねーよ!という煽り半分、がっつり寝てらっしゃる!というズッコケ狙い半分で。
>「悪竜の血が如何にも濃そうな顔をしているな、貴様は。
不愉快だ、ハイランダーとは気高き種。貴様のような暴力の権化では決して無い。
――祖に祈れ、そして滅びろ。この俺が今から貴様らを折伏してくれるわ!
我が名はジャック・カンヘル・チャーチル! ハイランダーの近接僧武師(モンク・フォーサー)だ!」
が、オレの奇行はガンスルーでゲッツとジャックの戦いが始まった。
やっべーすっげー気まずい、このまま出るタイミングを失ったらどうしよう!
と思っている間に本気で眠たくなってきた。昨日も夜遅くまでDSしてたしなあ。
そこに丁度よくゲッツが飛んできて、巻き込まれてごろごろ転がる。その勢いで布団はどっかに吹っ飛んだ。
>「――――ぶちのめすぞ、フォルテ。すっげー眠いからよォ。
なァんか、目ぇ覚めて元気出そうな歌でも歌ってくれや。
んでもって、ヘッジホッグ。戦えるなら協力してくれ、無理なら下がっといてくれていいけど」
ゲッツに手を取られて何事も無かったかのようにキメ立ちし、モナーをドラムセットに変身させる。
向こうがメタルならこっちはロックだ!
「よしきた、最高に元気が出る歌を歌ってやる! ツッコミどころ満載で寝てる場合じゃないぜッ! テイルママのおはロック!
その昔某ジャニーズ系アイドル歌手が勇敢にも女装して歌った歌の替え歌だ! おっはー☆」
つまり一言で言ってしまうとオカマの歌! 両声類であるオレには親和性が高い!
ちなみにおっはーとは当時流行したとされる死語《エルダーエンシェント・スペル》である(?)
「テイルママです みんな今日も 元気に挨拶したよね
やんちゃ坊主 やんちゃガール お日様よりも早起き
朝ごはん ちゃんと食べた? みんなで食べると美味しい
テイルママは 料理上手 美味しいご飯を作ろう
ママもパパもお兄さんお姉さんおじいちゃんおばあちゃんお隣さんも
おっはー! おっはー! おっはー! おっはー!
いーたーだーきーまーす おっはーでマヨちゅちゅ!」
死へと誘う重厚なメタルから一変、軽快なドラムのリズムに乗って、死語を連呼するポップなロックが響き渡る。
名前を挿げ替えただけで一気に隠された裏の意味があるように聞こえてしまうのは何故だろう!
やがて倒れていた人がもぞもぞと起きはじめ、出場登録証が無い事に気付く。
その様子を見たオレは妖の残酷さを顕わにしてニヤリと笑い、周囲に声をかける。
「危ない所だったな。昏睡の歌で出場登録証を奪ったのはアイツだ!
身を持って実感しただろう? はっきり言って歌唱力は桁違い、優勝狙うなら盤外で潰しておかないと勝ち目ないぜ!」
こうして、お兄さんお姉さんおじいちゃんおばあちゃん問わない多数のバックコーラス&バックダンサーが集まった!
明らかに突出して強い奴を最初に大勢でボコるのはバトルロワイヤルの常套手段だという。
楽師ならステージで勝負しろと言った舌の根もかわかぬうちになんというブーメラン。
オレの超素晴らしい演奏技術を伴った弾き語りをもってして、相手のアカペラと互角。
相手が楽器を弾けないならまだ希望はあるが、もしもこの上楽器なんてひかれたら勝ち目はない。
相手が手段を選ばず星の巫女代理の座を狙っているのなら、こちらもどんな手段を使ってでもその座は渡すものか!
>>235 >「あっ」
効果:相手は死ぬ の攻撃を受けたアサキムは、その場から掻き消えた。
そう、まるでネトゲでキャラがログアウトするようにだ。
>「おのれぇぇぇぇぇ、許さん!」
「あーあ、逃げられたね」「そうだね」
夫を瞬殺されたアヤカが激怒する一方、ナイトとアルトは顔を見合わせて苦笑い。
>「しばらく、外さないと思ってたけど、今外さないとね。」
>「ふふ、見せてあげる。私のアインソフオウルを」
「あれ? 気付いてないの?」「アサキム様は避難しただけさ」
「ま、信じる信じないは」「君の自由だけどね」
二人の戯言になど構うはずも無く、アヤカのパンチが炸裂する。
その効果は殴ったもの全てを消滅させる事!
>「いっくぜぇぇぇ。」
そして、”殴られた二人”はあっさりと消滅した。
辺りを警戒しているアヤカの背後からクスクス笑う声が聞こえた。
様々な場所に現れては消えながら、語り出す。
「知ってる?」「この世界の構成」「ネバーアースは」「個々人の持つ世界が重なり合って出来ているのさ」
「ワタシの能力は」「相手の世界を隔離し」「ボク達の世界に取り込むコト」
「だからね」「いかにアインソフオウルであっても」「君”一人”なんて敵じゃないんだよ」
「おっと危ない」「ちょっと語り過ぎたかな」
アヤカは気付くだろうか。
アサキムと二人で戦っていた時よりも相手が強くなっている――つまり隔離空間を統べる力が格段に上がっていることに。
アルトがクレヨン型ステッキを空間に走らせ描くは、相手を消滅させる魔法陣。
「消滅なんて」「触れずとも出来る」「分解消去《ディスインテグレート》!」
『そうだなァ――とりあえずどっかで一息つこうや。
広場が良く見えるところでな。真っ先に五枚カード集めたチーム見つけ次第そいつブチのめして全部持ってこうぜ?
ちまちま羽虫ぶっ潰すのもだりーしよ、どーせならでっけーの一発でぶっ潰す方が楽しいじゃねぇのよ』
「あぁ、よく分かるぜ。一攫千金はギャンブルの華だ。
……勿論、勝てればの話だけどな」
皮肉に混じる僅かな共感の発露。
リスク度外視の一発勝負は、賭博師にとっても甘美な麻薬だ。
竜人と賭博師は、何処か似通う所があった――本人は決して認めはしないだろうが。
『っし――、荒事くらいしか役に立たねぇが、荒事だけは得意なもんでよォ。
まあ、精々全方位殲滅師の本領でも発揮させてもらうとするかね――って、良い獲物発見したんだけど』
竜人の視線の先――波打つ魔力、揺れる呪い、踊る闇、乱れ舞う精霊と死霊。
忽ち苦味を帯びる賭博師の表情。
何処かに都合のいい急用が転がっていないか周囲へ眼を泳がせる。
幸いな事に周囲は騒乱に満ちていた。
今話題のアイドルグループが追い回されている。
追手の連中はどう贔屓目に見てもファンやパパラッチの類には見えなかった。
「――悪いが急用が出来た。
実は俺は、あそこで追い回されてる子達の大ファンでな。
こんなチャンスは他にないぜ。サインを貰って来なきゃあな」
速やかに竜人の傍から退避する。
賭博師にとって欲とは手慰みにする物、人生を彩る為の優れた玩具だ。
「――破滅が怖い訳じゃない。だが、欲の為に生きたり死んだり……それだけは駄目だ。
そんなに馬鹿馬鹿しい事はないぜ。俺は――『アイツ』とは違うんだ」
人混みの中で一度立ち止まり、背後を振り返る。
あの精霊楽師と僧武師は、相当な手練だった。
その上、何よりも容赦がない。あの微温いお上り二人で勝てるだろうか。
「――ま、料金分の働きはしたさ。これ以上はガイドの業務外だ……ぜ……」
前に向き直る――不意に足が縺れた。膝を突き、辛うじて転倒は免れる。
だが立ち上がれない。先程から響いている歌声が脳味噌を舞台に暴れ回っている。
不味い。思ったよりも効果範囲と即効性が優れていた。
『ぬぅん!』『き、ヒハッ!』
直後に横合いから迫る鮮烈な赤の巨体。
避ける間もなく巻き添えにされ、吹っ飛び、下敷きにされた。
――眼の前を熱烈な追っかけ共が走っていく。咄嗟にその足を掴んだ。
不幸の道連れが出来て、少しだけ溜飲が下がる。
『――――ぶちのめすぞ、フォルテ。すっげー眠いからよォ。
なァんか、目ぇ覚めて元気出そうな歌でも歌ってくれや。
んでもって、ヘッジホッグ。戦えるなら協力してくれ、無理なら下がっといてくれていいけど』
「不味いな――頭を強く打ったせいか、耳がおかしくなったらしい。幻聴が聞こえるんだ。
でなけりゃ人を巻き込んで下敷きにしておきながら、この上、協力しろだとか――」
手を取られ、立ち上がり、砂塵塗れになったスーツを払う。
右手を懐へ。シガーケースから煙草を取り出し、咥え、指を鳴らした。
魔力を伴う点火音、紫煙が揺れる。ダンスパーティーのお相手としては、悪霊共よりかは幾分マシだ。
「――無理だとか、聞こえる訳がないからな」
煙草の煙が色づく。
賭博師の体から漏れる、蒼を基調とした寒色群の燐光によって。
「こう見えて、俺は頼まれたら断れないタチなんだ。
それに――人殺しも大嫌いだ。やってやるよ」
同時に溢れ返る異様な気配。世界が塗り替わる前兆。
「――Welcome to the jungle(クソッタレな現実へようこそ)」
賭博師が紫煙混じりに口遊む。
「We got fun and games(ここは快楽と賭博だらけ)」
戦術的効果などまるで無い、ただの意趣返し。
「We got everything you want honey(欲しい物はなんだってあるぜ)
We know the names(お前の名前だって分かってるさ)
We are the people that can find(お望みのモンは何でも見つけられる)
Whatever you may need(俺達はそう言う人種だ)
And if you got the money, honey(お前が金さえ持ってりゃあ)
We got your disease(病気だって貰ってやるぜ)」
薄皮一枚で身に纏った異世界。
現世から浮き彫りになった賭博師の姿。
紛れも無いアイン・ソフ・オウル特有の現象。
「……駄目だな。あんな歌声を聞かされた後じゃ、俺の歌なんざ霞んじまうぜ。
飯の種にも苦労しないだろう。こちとら運命の女神様に恵んでもらわなきゃ、明日も知れぬ身でな。
まったく素質に恵まれているようで、羨ましい限りだ」
蒼の眼光と左手を虚空へ。
見据え、掴むのは歌と呪いと魔力の残滓、悪霊共。
不意にそれらが、一枚のカードの姿を強いられた。
「――だからその手札、俺に寄越せよ」
賭博師の世界観――人生さえもが一つのゲーム。
即ち『賭博』のアイン・ソフ・オウル。
この世の万象を賭博として捉えたのなら、技能も素質も才能も全て手札。
そして手が届くのなら、それを抜き取り、すり替えるのは賭博師の専売特許だ。
「残念ながら、アンタ達から金は毟り取れそうにない。
――だったら、病気を貰ってやる訳にはいかないな。返してやるよ」
抜き取ったカードを精霊楽師と僧武師に向ける。
これも意趣返し――ただし今度は、戦術的効果を十分に伴った、だ。
>「随分な子守歌だな! そんなん歌ってると紅白歌合戦に出して貰えなくなるぞ!」
「お生憎、私にとって歌は只の道具ですから。
道具を有意義に使って何が悪いのか、私には分からないんですよね」
死を与える眠りの呪歌を歌うディミヌエンド。
そして、そんな異様なまでに強力な歌を謳うディミヌエンドは、あろうことか歌を道具と定義した。
歌手であっても、ディミヌエンドは歌を音楽を――愛してはいない。
魂無き歌で人の心を揺さぶる様は、己の歌を聞く全てを嘲笑う様なものだろう。
だが、そうだとしてもディミヌエンドの心には響かない
至高の芸術たる己の歌ですら心が揺らがないのだから、この世の大概の事で心を揺さぶられるはずがない。
冷徹なまでに道具として歌を使い潰すそのスタンスは、フォルテの在り方とは対照的なものだった。
冷ややかにオッドアイを細めて、人妖は半妖に向けて笑みを浮かべた。
精緻な芸術品の様な顔の作りは、しかしながら何処と無く能面じみた不気味さも感じさせるものだ。
そして、能面がなぜ不気味かといえば――喜怒哀楽、その全てを見方によっては感じ取れるから。
喜怒哀楽、人の感情全てを嘲りながらその全てを完璧に表現し、歌唱として解き放つことが出来る半妖の力。
しかしながら、それに相対する吟遊詩人が一人居た。
異様なまでにノリの良い、ポップでライトなロック調の曲。
ふざけているのかと一瞬ディミヌエンドは思ったが、その歌にこもる力を聞けば分かる。
目の前のおちゃらけた、如何にも適当そうな妖精が、至高の声を持つ人妖の声を打ち破る力を持つことが。
人々が次第に立ち上がりつつ有る中で、賭博師が異様な存在感を放ち始める。
理解した。
こいつらは――私程ではない。断じて私以上ではないが強力だという事≠。
能面が歪む。山のように高いそびえ立つプライドに挑まれた心に、吹雪が吹き渡る。
立ち上がり、此方を見据えてくる敗北者共に対して、人妖はため息を持って返答と成した。
>「危ない所だったな。昏睡の歌で出場登録証を奪ったのはアイツだ!
>身を持って実感しただろう? はっきり言って歌唱力は桁違い、優勝狙うなら盤外で潰しておかないと勝ち目ないぜ!」
>「……駄目だな。あんな歌声を聞かされた後じゃ、俺の歌なんざ霞んじまうぜ。
> 飯の種にも苦労しないだろう。こちとら運命の女神様に恵んでもらわなきゃ、明日も知れぬ身でな。
> まったく素質に恵まれているようで、羨ましい限りだ」
「――そのまま眠っていれば幸せな眠りと共に終わりを迎えられたというのに。
称賛しましょう。伝説を騙る者[フォルテ]と、伝説を壊す者[ゲッツ]、伝説を騙す者[ヘッジホッグ]――そして、理の外の者[アサキム]も。
月並みな言葉ですが。母、グリムが星の巫女と戦った歳の名台詞で称賛をしましょうか」
くすり、と柔らかい表情で、今にも折れそうなほどに細い体を一歩前へと駆動させて。
空気を吸うことで肺に闇のマナを貯めこみ、吐き出し声帯を通すことで力となす。
>「残念ながら、アンタ達から金は毟り取れそうにない。
> ――だったら、病気を貰ってやる訳にはいかないな。返してやるよ」
「――よくもやってくれたなクソ虫が、死に腐れ。骨の一片も残してくれぬわ」
死霊が空間を駆け抜ける。創りだされた暴力的な感情に従って死神たちが暴れだす。
人の形を失った化け物が嗤う。人妖の背後に幻影が映り込む。
自己の感情を歌で表現せぬ精霊楽師は、変わりに他の者の歌をその者以上に歌い上げる事を身につけた。
今表す感情は、今表す情動は……破壊、暴力的感情。
「Hard Rock Hallelujah(反逆者たちを誉め賛えよ!)
Hard Rock Hallelujah(反逆者たちを誉め賛えよ!)
Hard Rock Hallelujah(反逆者たちを誉め賛えよ!)
Hard Rock Hallelujah(反逆者たちを誉め賛えよ!)」
幻影が叫ぶ。人ならざる形をした者達が、轟々と叫びを響かせる。
反逆者に対し、鬼気とした怒りを込めて、壮絶なる称賛をこの空間に響かせて居る。
そう、『よくやった』ではない――『よくもやってくれたな』である。
「The saints are crippled on this sinners’night(この罪人の夜に聖人達は為す術もない)
Lost are the lambs with no guiding light(導きの光もなく、子羊は失われた)」
妖魔王の娘――息子?は、歌を通して死霊達を運用する事が出来る。
実体を持たぬ死霊の鎌が空間を駆け巡り、カードで返された眠りの力を斬り殺す。
ディミヌエンドは物理的な攻撃力を歌で発揮することは出来ない。
だがしかし、この者の歌は心と魂を侵し、冒し、犯す。文字通りの呪いの歌だ。
「The walls come down like thunder The rocks about to roll(雷鳴のように壁が倒れ 秩序が崩れようとしている)
It's The Arockalypse Now bare your soul(それが黙示だ お前の魂を曝け出せ)
All we need is lightning with power and might(俺達に必要なのは力と権勢の雷光)
Stiking down the prophets of false(偽りの預言者たちを打ち倒せ)
As the moon is rising Give up the sigh(月が昇り始めたら合図してくれ)
Now let us rise up in awe(さあ畏怖を胸に舞い上がろう)」
次々に人々の魂が削り取られ、心が折られ片っ端から膝を付いて倒れていく。
強力な情動が生み出す凶悪な歌唱は、暴力となってこの空間に満ちていた。
「Rook'n roll angels bring thyn Hard Rock Hallelujah(外道の天使が汝にもたらす反逆の賛歌)
Demons and angels all one have arrived(悪魔と天使が共にやってきた)
Rook'n roll angels bring thyn Hard Rock Hallelujah(外道の天使が汝にもたらす反逆の賛歌)
In god's creation supernatural high(神がつくりたもうた素晴らしき世界よ!)」
「――悪魔を湛える歌は俺にとっては好ましくないが。
……貴様の闇と俺の光の相性は知っている、文句はない。
貴様らがそうであるように――俺も又、アイン・ソフ・オウルだ。
七大罪に加担するなど俺は望んでは居ないが――大義の為だ、仕方あるまい」
立ち上がったゲッツに対して拳を構えて跳びかかるジャック。
翼を広げて天から加速し拳を振り下ろす姿は、伝説に歌われる聖騎士のように気高いそれ。
そして、空中に陣取ったジャックの口から、世界を変える言葉が放たれる。
「我のアイン・ソフ・オウル――反転、諸法無我」
その瞬間、ジャックはこの世界から消滅した。
否、本来アイン・ソフ・オウルとは世界との隔たりを作り、己の領地を主張する我の極み。
その逆であるのが、無我だとするならば――ジャックの力は世界に溶けこむこと、無常の境地へ至ること。
そして、素直に力の影響を受けるようになったジャックの魂に、心に。
ディミヌエンドのメロディで塗りつぶされた世界が流れ込み、膨大な力を生み出していくのだ。
光と闇が組み合わさって最強に見えるとはまさに文字通りで、相反する力は細かい均衡の元に凄まじい力を生み出しつつ有った。
混沌の拳が、ゲッツに迫る。そして、歌唱が産む形なき死神の鎌が空間に満ち満ち、フォルテの歌とぶつかり合っていた。
>「テイルママです みんな今日も 元気に挨拶したよね
>略
>いーたーだーきーまーす おっはーでマヨちゅちゅ!」
>「不味いな――頭を強く打ったせいか、耳がおかしくなったらしい。幻聴が聞こえるんだ。
> でなけりゃ人を巻き込んで下敷きにしておきながら、この上、協力しろだとか――」
>「――無理だとか、聞こえる訳がないからな」
「――っは、テメェのノリは軽くていいなァ、乗ってきたァ!
もっとノリノリな奴でぶちかましてくれや、よろしくなァ!
んで持ってヘッジホッグ。俺の超かっけぇ鱗に免じて許してくれや。
その分俺は――全力で、あの俺ほどじゃないけど大分イケメン度高い糞野郎のめしにいくからよォ――――!」
拳をごきりごきりと鳴らしてゲッツは全身の傷から赤い光を噴出し始めた。
四肢に光を纏わせた後に、背から力を吹き出して翼を生み出す。
翼を爆発させる事で超人的な加速を生み出したゲッツは、即座にジャックとの距離を詰めて殴り合いを始めた。
残像を残しながら真紅の鱗と碧玉の鱗の色彩は交錯し、衝撃波をあたりに振りまきつつあった。
そうしている内にフォルテがいつもどおり糞汚い手を使い、立ち上がった人々を炊きつけていた。
>「危ない所だったな。昏睡の歌で出場登録証を奪ったのはアイツだ!
>身を持って実感しただろう? はっきり言って歌唱力は桁違い、優勝狙うなら盤外で潰しておかないと勝ち目ないぜ!」
>「――そのまま眠っていれば幸せな眠りと共に終わりを迎えられたというのに。
>称賛しましょう。伝説を騙る者[フォルテ]と、伝説を壊す者[ゲッツ]、伝説を騙す者[ヘッジホッグ]――そして、理の外の者[アサキム]も。
>月並みな言葉ですが。母、グリムが星の巫女と戦った歳の名台詞で称賛をしましょうか」
拳を交わしていたゲッツが、即座に下がる。
フォルテとヘッジホッグ、ディミヌエンドの間に入り込むような、庇う体勢。
何が来るかを、竜人は野生の勘で理解したのである。
>「――よくもやってくれたなクソ虫が、死に腐れ。骨の一片も残してくれぬわ」
「ギャッシャァ――――!」「グルゥギャァッ――――!」
響き渡る力ある魔声を打ち破るための竜種の咆哮が、竜種の咆哮で打ち消される。
死神が駆け巡り、不可視の刃でゲッツの心と魂を幾度と無く切り刻んでいく。
魂に刻み込まれる激痛は到底正気を保てるものではないが――ゲッツは笑っていた。
「ヒィ――――ヒャヒャハハハハハッハハハハハハハハハハァ!!」
諦める様子など微塵もなく、その苦痛すらも試練として受け止め、挑む気概を携えて。
痛みの中で己を保つために、ゲッツはいつもどおりの豪胆な笑い声を響かせ、意識を保ち続けた。
そして、ディミヌエンドとジャックを睨みつけながら、犬歯をむき出しにして拳で近くの死霊を引き千切りながら言葉を紡ぐ。
「今、ここで俺が倒されなかったらよォ――それは、最悪≠セよなァ?
それって、テメェらにとっちゃ、災いに他ならねぇよなァ?
――嫌だもんなァ、俺みたいな超マッチョでイケメンな上にチョー強い奴残しときたかねぇもんなァ。
だからよォ――テメェ等に災いを見せてやる。盤面返しだ、この野郎が。
堕ちろ……ッ、災厄=I」
ゲッツの全身の傷から膨大な力――ファフニールのそれと近いが異なる力が吹き出した。
その力は、ゲッツの周囲に球形に広がっていき、死霊達をかき消し吹き飛ばす。
十数秒の間はゲッツの体からそれは吹き荒れ、少なくともフォルテとヘッジホッグの安全は確保されるだろう。
赤黒い災いの力で己の領域を染め上げるゲッツの力は強力だが、極めて消費の大きいもの。
その間にも周りの人々は魂を狩られ、地面に倒れ伏していくのだから、早く何とかしなければならないハズである。
拮抗もそう長くは続かない。
>「我のアイン・ソフ・オウル――反転、諸法無我」
人位のアイン・ソフ・オウルと化したジャックが、ゲッツと戦闘を再開したのだ。
最低位とはいえどアイン・ソフ・オウル同士の戦いだ。
その余波で区画の地面に罅が入り、人々は吹き飛ばされていく。
周囲は阿鼻叫喚の地獄絵図と化していた。
『起こさなければ良かったのに』
まさにその通りの惨状がそこにあった。
それでもゲッツは拳を振るい、尾で敵を貫き戦い続ける。
全ては、友を友の望む場に導くためだけに。
「――ヘッジホッグ……ッ! 5つだ! 5つありゃ予選は突破だ!
俺がここでこいつを止める、あと1分……! 耐えてる間に何とかしろやてめェらァ!
延長は残念だが受け付けられねぇぜ……ッ、ヒヒャッハハハハッハア――――ッ!!」
>「お生憎、私にとって歌は只の道具ですから。
道具を有意義に使って何が悪いのか、私には分からないんですよね」
「そうだよ、歌は素晴らしい道具だ……
宴会を盛り上げたりコミュ障の非モテが女神にアタックしたりあの半裸野郎を伝説に刻むためのな!
“有意義”に使ってんじゃねーよ!」
胸が締め付けられるように苦しい。何故だろう、こいつ理屈抜きでムカつく。
何がムカつくって澄ました能面みたいな顔も人を見下したような敬語も素晴らし過ぎる歌唱力も全部!
この怒りの正体はきっと――嫉妬。
何故オレじゃなくてアイツなんだ!? 歌を欠片も愛していない癖に何故森羅万象を表現できる!?
許せない、ぜってー潰す!
>「――そのまま眠っていれば幸せな眠りと共に終わりを迎えられたというのに。
称賛しましょう。伝説を騙る者[フォルテ]と、伝説を壊す者[ゲッツ]、伝説を騙す者[ヘッジホッグ]――そして、理の外の者[アサキム]も。
月並みな言葉ですが。母、グリムが星の巫女と戦った歳の名台詞で称賛をしましょうか」
母親同士お知り合いだったのか!
何かを感じたのだろう、ジャックを戦っていたゲッツが即座に引き、オレ達を庇うような体勢を取る。
>「――よくもやってくれたなクソ虫が、死に腐れ。骨の一片も残してくれぬわ」
>「Hard Rock Hallelujah(反逆者たちを誉め賛えよ!)
>Hard Rock Hallelujah(反逆者たちを誉め賛えよ!)
>Hard Rock Hallelujah(反逆者たちを誉め賛えよ!)
>Hard Rock Hallelujah(反逆者たちを誉め賛えよ!)」
――ついに本性を現しやがった! 人気歌手のこの醜態を電波に乗せて全世界に流してやりたい!
だけどこいつはファンに幻滅されたところで何とも思わないのだろう。
歌うは禁断の呪いの歌。使役するは死霊。普通はこの類の存在は人間の目には見えないが、濃密過ぎて幻影が見える程だ。
「きっとママもきみのことが 誰よりいちばんすきだよ
きみのママに だからきょうは 朝寝坊させてあげよう
ママとパパ お兄さん お姉さん おじいちゃんおばあちゃんお隣さんも」
ゲッツが死霊を物理的に(!)引きちぎりながら拮抗状態を作り出している後ろで
オレは歌っていた曲をそのまま続行し、2番に突入してさりげなく嫌がらせを敢行する。
オレの勘ではこいつ確実に母親に愛されてない! だって性根歪みきってるし!
>「――悪魔を湛える歌は俺にとっては好ましくないが。
……貴様の闇と俺の光の相性は知っている、文句はない。
貴様らがそうであるように――俺も又、アイン・ソフ・オウルだ。
七大罪に加担するなど俺は望んでは居ないが――大義の為だ、仕方あるまい」
天から拳を振り下ろすジャックの姿は、この期に及んでみみっちい嫌がらせを敢行するオレとは違って、聖者のように気高く神々しい。
吟遊詩人の勘が告げる、彼はきっと”正義の味方”なのだろう。でも――その正義は氷の刃のようにとても冷たい。
世間一般では理想的なフォルムの英雄なのかもしれないが、オレの謳う英雄譚の主人公としては願い下げだ!
そして彼の言葉から理解する。
ジャックとディミヌエンドは、仲間や増して友達ではなく、目的のために互いに利用しあう関係だという事。
そんな関係でありながら、何故互いの力をあそこまで引き出せる!? その答えは思いのほかすぐに示させる事となる。
>「我のアイン・ソフ・オウル――反転、諸法無我」
瞬間、ジャックがその場から消えた。
正確にはいるんだけど、この世界において自分の持つ領域が無くなるという事は消えたにも等しい事ではないのか。
……深く考えるのはやめよう、訳が分からなくなる。
無我の境地に至ったジャックの領域を、ディミヌエンドの領域が塗りつぶしていく。
彼らの一糸乱れぬ連携は、ジャックが我を消す事で成り立っているとしたら……一糸乱れなくて当然だ。
からくりが分かったところでオレ達に同じ事が出来るかと言われたら……1000%無理! だってお互い一歩も譲らないもの!
「なー、これさ……」
このまま行ったら確実に死にイベントだろ、逃げようぜ! そう言おうとしたのだが。
>「――ヘッジホッグ……ッ! 5つだ! 5つありゃ予選は突破だ!
俺がここでこいつを止める、あと1分……! 耐えてる間に何とかしろやてめェらァ!
延長は残念だが受け付けられねぇぜ……ッ、ヒヒャッハハハハッハア――――ッ!!」
作戦が「ガンガンいこうぜ」に固定されて動かせない人が約一名! 馬鹿だろこいつ!
でもただでさえ馬鹿な奴がここまで馬鹿になってるのはオレのせいでもあるのだ。
先程まで胸を焦していた腹立ちやら嫉妬やらが一気にどうでもよく感じられてきた。
いや、馬鹿は……オレの方だ。負の感情は歌を鈍らせる、分かりきっていたはずなのに。
確かに負の感情を力に転化できる者もいるのだろう、でもオレは違う。
その証拠に嫌がらせで歌った呪歌がまともに効いた試しがない。
考えろ、オレが最も力を発揮できる感情は――
瞬時に選曲が決まり、モナーをキーボードに変化させながらヘッジホッグに言い放つ。
「ヘッジホッグ、アイツの弱点を教えてやる! 接近戦はからっきしってことだ!
歌さえ封じればお前の手捌きなら登録証掠め取るぐらい楽勝だぜ!」
あの歌を封じられる保証も無い。もちろんディミヌエンドの詳しいスペックなど知らない。
吟遊詩人はかなりの確率でヘタレという統計的事実と見るからにヒョロヒョロな外見からの推測である。
その上での、オレが歌を封じるからその間に出場登録証をスリ取ってくれという無茶振りだ。
選曲――『アスピダ』。その意味は『盾』。普通ならこんな時は相手の妨害を狙うのがセオリーなのだろう。
だけど敢えて、暴虐の歌の死神の鎌を真っ向から迎え撃つ純然たる護りの歌を選んだ。
これで勝てれば、相手にとってはどんなにエグい呪いの歌よりも最悪の負け方になるはずだ。
キーボードをかき鳴らし、大きく息を吸って歌い始める。
「光を抱いて飛んでゆくの 無慈悲な海溝から宙を指して
死せる大地に蒔かれた息吹 凍りつく指先を融かす愛の焔よ
この澄んだ瞳は誰も冒せはしないさ 手なずけられない情熱を携え飛び出して行け
はるか時を越え 地を馳せて君を護るアスピダ 眼差しの先何があるのか分からないけれど
今動き出した運命を切り拓くその力を 血潮に霞む戦場にも猛き女神はもたらすの」
死神の鎌と精霊の守護は奇蹟的に拮抗していた。ここで一気に押し切る!
ヘッドギアを外し、神格化――外見に変化が現れ、三対六枚の虹色の翼を広げた女神格の妖精の姿となる。
強敵に立ち向かうための切り札としてアサキム導師から受け継いだ力。
しかし果たして外見が変わる事に意味はあるのか。導師様を問い詰めたい、小一時間問い詰めたい!
でも今回は女神の盾の歌だから、まあいいか――
「歴史に刻まれた神の剣より 名も無き青銅の盾として私は――
はるか時を越え地を馳せて君を護るアスピダ 重なる世界 歌はいざなう 忘られし地へ
闇を怖れずに突き進む 朱の星のしるべに 願いよ届け宙の彼方へ 早緑の未来勝ち取るために
猛き心よ どこまでもゆけ!」
ところでオレが最も力を発揮できる感情が何か、だって? ……分かんねーよ、そんなもの!
>>242 「引っかかった。アサキム!」
「時は満ちた。今、アサキム・タグラスが奥義を見せよう。」
どこからともなく、声がした。
ナイトとアルトが『誰だ!』とか言う前に
二人は闇の空間へと、墜ちていく。
「驚いたかい?これが俺の奥義『闇獄、無減の間』なれば」
「まぁ、何をしようとも無駄だけどな。」
ナイトとアルトは、同時に術式を仕掛けたり。
空間を引き裂こうと、無駄の一言
「だから、言ったろ何をしようが無駄なんだ。その中では、出る手段は特になし。」
「そのまま、永遠の闇に消えるがいい。滅」
そういい、自分が入れる。扉を閉じる。
「まぁ、俺の方が、空間を統べる能力が高かったって事だ。」
賭博師がカードを切った。
微睡みの悪霊共が主従を見失い、闇の楽師に襲い掛かる。
歌い手本人への効果は期待出来ずとも、碧の竜人にならば話は別だ。
「それにしても、まぁ……随分と誉めそやしてくれるんだな。
このカード、ただ返すんじゃなくてサインでも書いてやれば良かった――」
『――よくもやってくれたなクソ虫が、死に腐れ。骨の一片も残してくれぬわ』
瞬間、賭博師の軽口がはたと途絶えた。
響き渡る絶唱、轟く絶叫、荒れ狂う破壊と暴力の化身。
眠りの悪霊が風に吹かれた煙草の煙の様に、容易く斬殺されていく。
「――ちょっと待ってくれ。実は、俺はアンタの大ファンなんだ。
このカードはただサインが欲しくて……ちょっと苦しいか!」
役立たずとなったカードを放り捨て、賭博師は立ち所に死神の刃圏から飛び退いた。
同時に自分の前へと踊り出た真紅の竜人――遠慮なくその背に逃げ込む。
それでも尚、襲い掛かる凶暴な破壊の余波に、火を点けて間もない煙草が消し飛んだ。
『我のアイン・ソフ・オウル――反転、諸法無我』
「――とんだロイヤルストレートフラッシュをキメられちまったな!
小銭とイカれた携帯灰皿が対価じゃあ全く割に合わないぜ!
追加料金の方は覚悟して――」
『――ヘッジホッグ……ッ! 5つだ! 5つありゃ予選は突破だ!
俺がここでこいつを止める、あと1分……! 耐えてる間に何とかしろやてめェらァ!
延長は残念だが受け付けられねぇぜ……ッ、ヒヒャッハハハハッハア――――ッ!!』
「――お前、本当にいい面の皮してやがるな!
ちょっとやそっと殴られたくらいじゃ、堪えない訳だ!」
憎まれ口を叩いた所で状況は好転しない。
無差別に振り撒かれる死は、やがて“厄災”による相殺が切れれば、広場を完全に満たすだろう。
可及的速やかにこの場を離れ、尚且つ後味の悪い結末を招かない為には――
「――やるしかないってのか。本当、今日はとことん厄日だ……!」
『ヘッジホッグ、アイツの弱点を教えてやる! 接近戦はからっきしってことだ!
歌さえ封じればお前の手捌きなら登録証掠め取るぐらい楽勝だぜ!』
「成程な!なんの保証もないアドバイスありがとうよ!
そこまでポジティブだと人生楽しいだろう!羨ましいぜ!」
意を決し、楽器を展開する妖精楽師。
その背を賭博師の手が軽く叩く。
「――だからその『感情』(カード)、少し借りていくぜ。
なに、安心しろよ。才も愛も、それを絶やせるのは時の流れだけだ。
俺が少しばかり拝借した所で枯れやしないさ」
妖精楽師から抜き出したカードを手に、賭博師は死神共の主を見据える。
彼我の間にあるのは破壊と厄災と呪いと死神の嵐。
まともに挑めば、闇の楽師の元に辿り着けるのは精々、血飛沫くらいだ。
「……コイツは出来れば、使いたくなかったんだがな」
言葉と同時――賭博師の纏う燐光、その質が変貌した。
蒼へ――限りなく純粋な蒼色が賭博師を包む。
「まぁ、仕方ない――」
脱力、軽い跳躍を二、三度行う。
「――精々、さっさと終わらせよう」
その声が届く頃には、賭博師は既に闇の楽師を間合いに捉えていた。
異様なまでに迅速な踏み込み――精霊楽師から抜き取ったカードが閃く。
「抜き取るばかりがイカサマじゃない――そら、くれてやるよ。
お前にとっちゃあ、ブタもいいトコだろうけどな」
前向きの『感情』(カード)を強引に挟み込んだ。
死霊を操る歌の源泉が負の感情であるならば、名画にクレヨンで落書きを施すが如き行為。
「そして……眠らせた奴らの懐を逐一弄ってた所を想像すると、
アンタにもちったあ可愛げってモンが見えてくるが――
――それでも独り占めはよくないな。少し分けてくれよ」
欲深き蒼の眼光が、隠された星の欠片の在処を見抜く。
賭博師の両肩から先が消える――これまでとは比にならない程の手捌き。
闇の楽師の懐から参加証を四つ抜き取ると、即座にその場を離脱した。
「――っ、はぁ……やれやれ。また染め直さないとな」
汗を拭い、頭髪を一束、指で摘んで眼前に引っ張りながら、賭博師が呟く。
赤髪の一部から塗装が剥げた様に、蒼い髪が姿を現していた。
「――で?頼まれ事はこなしてやったぜ、無頼漢。
ここまでさせておいて、まさか負けたりしないだろうな」
髪を手放し、二匹の竜人を振り返る。
真紅と碧玉の決着を見届けるべく――
『――ストーップ!!そこまで!そこまでです!
まだ午後六時には程遠いですが、そんなの知ったこっちゃありません!
これ以上広場を壊されたら堪りません!今この瞬間をもって予選は終了です!』
不意に広場に響き渡る大音響。
周囲を見渡せば、確かに止めたくもなる惨状が広がっていた。
『それでは現時点で参加証を五つ持っていないユニットは――
――え?なんですって?変更?また?……分かりました』
途中に混じった幾つかの不穏な単語。
少なくとも音響装置の不調が原因では無さそうだった。
『あー……実はですね!一つ説明していなかったルールがあるんです!
敢えて、ですよ!決して忘れていたとか、後から追加されたなんて事はないんです!
で、そのルールなんですが――』
一拍の間――どんな状況下でも演出を忘れない、模範的な職業意識。
――或いは単に、言い辛かっただけか。
『参加証を集める際に歌や踊り、パフォーマンスを用いなかったユニットは、
星を完成させている、いないに関わらず、本選への出場を認めない――だそうです』
明らかに困惑気味な口調の司会役――忽ち広場が付和雷同の怒号で沸いた。
だが、長くは続かないだろう。
此処には、この手の喚くばかりの手合いを嫌う連中が多すぎる。
「まぁ……とりあえずは本選進出おめでとうって所か。
だが――ステージの上じゃあ、助けを呼ぶのはもう少し控えてくれよ。
格好が付かないし……そう何度も染め直してたんじゃ、俺の髪が傷んじまう」
蒼髪が露出した部分を、魔力を帯びた右手で掻き上げる。
ただそれだけで赤髪は元通り――少なくとも、表面上は。