【なりきりリレー小説】ローファンタジー世界で冒険!2
天地海の神々を祀った三主教の中心地、エヴァンジェル。
ローファンタジア壊滅で全土に広がる不安を払うかのように、この聖都は新教皇の即位に沸いていた。
即位の儀が執り行われる大広場。
教皇はエヴァンジェルに奇跡が具象する事を高らかに述べ、災いの黒き種子を砕く。
波紋のように広がる静寂。動揺。恐怖。
そして、地上は三主の降臨を許す。
伝承に描かれる姿ではなく、恐るべき破壊の権化として。
人々の崇める三神は懼れが創り出した偶像であり、破壊者こそが真なる神の本質だったのだ。
教皇の真意は彼らを召喚し、それを討たせる為に人類の力と思想を一つにする事。
例え、悪の誹りを受けようとも。
世界を守る為に悪たらんとする者。街を守る為に戦う者。
この世界の人々。外界からの来訪者。
様々な思惑が交錯する中、戦端は開かれた――――。
>「si! yara tufary tereya 《謳え 創世の詩を》
>cety durtia lofida 《与えられた命》
>shenna sado passe rosaty ya! 《熱き想いと共に燃やして》
>tir asce tu arreta sutyfan amole 《我等を包む全てに愛を奏でよう》
>aa- miseley oh- san affara ha- 《嗚呼 祈れよ 光あれ》」
響き渡る創世の歌、その音はエヴァンジェルの外まで朗々と響き渡っていく。
地に倒れ伏すゲッツは、友の声を聞き、砕けていく肉体に力を込め、圧力に反逆する事を選択した。
爪を地面に突き立て、罅の入っていく鱗に、骨格に炉心からの魔力を込めて、立ち上がる。
「……っは、ははは――、やってくれるぜこの野郎。
てめぇも最ッ高に馬鹿野郎だなァ、ああオイ! くっそ、畜生、マジかよ、おいおいおい――!
こんなん見せられたらヨォ、俺も全力出すっきゃねぇじゃねえか、逝くぜオラァ!」
肺から空気を叩きだし、咆哮のようなクワイアをフォルテの歌に合わせて。
金髪銀腕赤鱗の竜人は、翼を生やして天に舞い上がった。
胸元に刻まれた、fの字の様な十字の傷跡からは、紅い光が漏れ出している。
>だからもう一回、信じてみよう? あなた達が信じた神を!」
歌声により、市民達は彼らの持っていた、敬虔な信仰心を取り戻し始めた。
そう、幾ら醜悪な姿を目の前にさらされようとも、宗教画が存在せずとも。
彼らの心には、神の御姿がきっと描かれていて。その姿を思い浮かべ信じることが出来たなら――。
きっと、こんな絶望など、希望の前には意味を成さない。
「――俺たちの神は、俺の故郷の地に恵みを与えて下さった!」
「生まれは海だったけどヨォ、魚取らせてくれたのは、神様のおかげだったんだよ!」
「俺たちの生きる土地を作ったのは――お前らバケモンじゃない! 俺たちの神は、三主様だ!」
「我らが主、天空の描き手たるイウムよ! 空を晴らし、我らと共に今一度お歩みください――」
「おでは、土から生まれて土へ帰るんだな。おでは、おでのかみさまは、ギイル様なんだな!」
「恵みの雨を。荒廃した世界に、愛を。――もう、これ以上命を失わせないで、海神ツルア様――――」
>「ラサ・アピシアト・ディ・ツルア(聖なる海の主、穏やかな海を司るツルアよ)。
> レザ・イディウス・ディ・ツルア(邪なる海の主、荒らぶる海を司るツルアよ)。
> セイラーン・アヴ・イーニュ(我が祈りに応え、どうか怒りを鎮めたまえ)。
> セイル・アヴィシーム・エルタウ・エルタウ・エルタウ(我らを嘆きの海へ連れて行くのは、思い止まって下さい)」
人々の叫び、祈り。
性別、種族、年齢。それらを調節した、無心の思い、熱心の思い、献身の思い。
それらが、荒ぶる神の魂を鎮め、そして抑えこみ始めた。
とある東方の国では、邪神すらも神殿を作り、祀り上げる習慣があると聞く。
それは、荒ぶる神を奉る事で、神の脅威を沈めようとする所から生まれた習慣だ。
祈り。
これ以上暴れないでくれ、貴方は本当は優しい者だろう。
祈りを捧げます、貴方を讃えます、貴方を鎮めます。
祈りの声を認識する、脳髄という器官をドローンは持っていなかったが、徐々に彼らは動きが鈍り始めた。
そして、都市区画の端。特に地上を歩むドローンが多い所。そこでエスペラントが戦っていたのだが、戦況は大きく変わりつつ有った。
>『<ヴォルテックス>イグジストッ!』
「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!」
エスペラントの唱えた呪文によって生まれた圧力によって、動きを一瞬止める三柱の神の化身達。
だが、彼らの体から無色のマナが吹き出し、直後に叫びと同時に解き放たれた。
轟音、そして彼らの周囲の空間が、ごっそりと削り取られ彼らによって捕食され、術の拘束も粉砕される。
――滅殺。
それが、バイトの持つ最強の力。
肉体の一部をマナへ変換する事で、あらゆる物体、事象を対消滅させると言う絶対攻撃と絶対防御の技。
だが、この技は使用する度にこの世界に現出しているバイトの本体が弱体化していくという諸刃の剣でもある。
ディラックの海に何体かのバイトは帰って行き、その勢力は、本当に僅かにだが、減らされていた。
>「任された―此処で奮闘せねば僕が来た意味はない
>宇理炎・鉄の火!!」
そして、そこに追加で叩きこまれた絶対の焔。
地上のドローンに燃え移ったその焔は、一気に燃え広がり彼らを焼却。
滅殺によって相殺しあうも、永遠に燃え続ける火炎と、祈りに因る弱体化の前には、彼らも溜まったものではない。
次第に彼らは、本来居た次元にその体を溶かし込み、逃げ出し始めていた。地上に残るドローンはあと僅か。
しかし、そのドローンは地面に沈み込むと同時に、周囲の空間を侵食。だがしかし、エスペラントの火炎はそれを逃すこと無く、止めを刺した。
一方、エヴァンジェル上空のアサキムはと言えば、単純な飽和火力による殲滅をしていた。
>「乱れ撃つ!」
単純だが強力な攻撃に、滅殺による対処も次第に効かなくなっていき、何体かがディラックの海に押し返されていく。
触手を引きちぎられ、網目の隙を塗ってコアを打ち砕かれる。
そして、僅かな間を置いて、統括する機能を持っていたドローンが、ロンギヌスの槍に貫かれた。
声にならない雄叫びを響かせ、統括級ドローンは空に溶けこみ消えていき、彼らの従えるドローンも消えて行く。
残るのは、水路に満ちるギェリムのドローン。
彼らもまた、力を弱めていき、徐々に動きが停滞しつつあった。
それでも、彼らは知らぬ世界に現れ、肉体を維持するためには存在を喰らい、飲み込まなければ存続していられない。
逃げ惑う人々に対して襲いかかる触手。だが、そこに真紅の刃が突き立ち触手を引きちぎった。
「……あいつらみてぇに、すっげー事を余裕でできる生きもんじゃあねえけどよォ。
今の状態なら、俺だってなんとかなるさ。あいつの歌が聞こえて、俺の誇りが胸にあって、そしてここに戦う理由がある!
だったら、今の俺は、闘う俺の信仰は、神になりてえ俺の思いは! ――届くッ!」
天空からドローンを見下ろしていたのは、ゲッツ=ベーレンドルフ。
背中から伸びるのは、鋼の羽ではなく、真紅の光によって形作られる剣の翼。
胸元に刻まれたfの文字を象る傷からは、真紅の血にも酷似した色の光が漏れだし、ゲッツはそこに右手を伸ばし、光を強く握り締める。
「偽神だがな――一瞬なら、てめえらに届く必殺を見せてやる。
見逃すなよ吟遊詩人! こっから叩きこむ奴見逃したら、一生損するっつーか、語る山場消えっからな!」
空中で声を張り上げて、直後ゲッツは胸元の光を引きぬいた。
溢れだしたのは、文字通り、力と呼称する以外にありえない暴力的な光の奔流だった。
それを手の元に集め、圧縮し、掌握し、そして握縮する。
「――竜刃昇華、滅咆」
息を大きく吸い込み、空中から異形を睥睨する。
そして、口を開き、次の瞬間。水路にあふれる異形たちは粉々に粉砕され、消え去っていく。
何が起きたのか。言うなれば、それは竜の咆哮、竜の吐息。――そう、ブレスだ。
赤い光を伴った衝撃は、次々と水路や通路にあふれる異形の化身達に叩きこまれ、不思議なことに滅殺を受けずに粉砕されていく。
数秒。ほんの1,2秒の咆哮の後に、ゲッツはその翼を消して、地上に落下し、気絶するのであった。
そう、強すぎる力の反動で、体と精神が耐え切れなかったようだ。いくらでも強く慣れるとはいえど、生命としての限界値は有る。
その限界値が、今のゲッツの越えるべき壁であり、修行で立ち向かうべき事象なのだろう。
神の化身。人々が認められず、人々が向き合うことを恐れた真の神の姿。
それを再度認め、そして祈り、そして向かい。今ここに、人は一つの絶望を乗り越えた。
ローファンタジアの再現は、起きなかったのである。
しかし、一陣の風が吹く。静寂と、一時の平和を乱すような、不穏な風が。
……まだ、総ては終わっていない。いや、ここから全てが始まるのだ。そんな予感が、この地には満ちていた。
そして、一方。
中央広場でフォルテと退治する教皇は、表情を動かすこと無く、ただそこに佇みその光景を観察していた。
人々が己の試練を乗り越え、絶望と対峙し、滅びを退治した光景を見て。男は一言。美しいとだけ、呟く。
その一言に、どれだけの感慨が有ったのかは、きっと彼以外には分からない。
「――フォルテ・スタッカート。
言ったな、貴様は。ずっと孤独のままだと、それでいいのかと。
……ああ、良い。それで構わん、少なくとも、こうして人の可能性を見られただけ、私が命をここで掛けた甲斐が有ったものだ」
教皇は、神の化身を無数に召喚し、大量の滅びの種の力を使い潰して尚正気を保った代償に、肉体がその場で朽ちつつ有った。
初めて、教皇は口元に笑みを浮かべ、フォルテの歌を鼻歌でトレースした。
いい歌だ、と一言呟き。空を見上げる。己の信じていた神の真の姿を知り、絶望の未来に立ち向かう人々をまとめ上げるために、悪を背負おうとした己の人生を、振り返る。
「かつて滅ぼされた、絶対の力を持つ海竜。黄昏の全竜の名を覚えておけ。
魔王が、この世界にまた現れる。頂天魔のそれとは異なる意志によって。
……組織の名は、レヴィアタ――――――」
何かを言い残して、教皇は消えていった。
残ったのは、幾つかの黒い球と、真裏派のロザリオだけ。
淀んだ空は、いつの間にか晴れ渡り、雲の裂け目からは、陽の光が差し込み聖都エヴァンジェルを照らしていた。
あなた達は、勝ったのだ。不穏の気配は残っているものの、今はその勝利に酔い、今後の困難を忘れて喜ぶべきだろう。
――世界の滅びは、ひとまず収束したのである!
広場に、街道に、民家に、孤児院に、教会に、聖堂に。
人々の雄叫びが、喜びの声が。賛美歌として鳴り響く、響き広がっていく。
生きているという喜び、明日が有るという喜び、絶望を吹き払う奇跡を知った喜び。
人々の叫びは、次第に歌詞も無き歌となって、聖都に響きわたっていた――。
遥か昔、国々が戦争によって領土を奪い合っていた時代――国に仕える精霊楽師の紡ぐ歌が勝敗の鍵を握っていたという。
勇気付け、団結させ、勝利への希望を与える。洗脳し、扇動し、絶望的な戦いに駆り立てる。どちらも同じ事だ。
そして今、歌は予想以上の効果を発揮し、人々の持っていた信仰心を呼び覚ました。
その影響は波紋のように広がり、人々は三主神に一心に祈りを捧げはじめる。
不意に昔父さんに言われた言葉が思い出された。
―― 呪歌は使い方によっては直接的な暴力よりもずっと多くの人を死に至らしめる危険な力だ。その事を忘れてはいけないよ。
ああ、こういう事か。
今初めてその意味を分かった気がする。でも、これでいいんだよね? 正しく使えてるよね? 父さん――
「響きあい谺する 遥かな神々の詩 導く天啓よ 我等 照らしたまえ
溶けては重なりゆく 優しき光の波動 授かりし命を 喜びで満たさん
謳え 創世の詩 神の御手に身を委ね 太陽と大地に 此の詩を捧げん」
>「偽神だがな――一瞬なら、てめえらに届く必殺を見せてやる。
見逃すなよ吟遊詩人! こっから叩きこむ奴見逃したら、一生損するっつーか、語る山場消えっからな!」
「いいからさっさとやれ―――ッ!! 何のために歌ってると思ってんだ。
オレはお前が絶望を打ち砕く瞬間を見るのが大好きなのさ!」
>「――竜刃昇華、滅咆」
赤い光の奔流が、絶望を打ち砕く。
かくして、オレの勇者様は――異界の神の使いをぶっとばしたのでした。
それを見届けたオレは、ウザいドヤ顔で教皇の方を見た。
すっかり忘れられてたけど教皇自体も結構強かったような気がする。何気にピンチじゃ……
>「――フォルテ・スタッカート。
言ったな、貴様は。ずっと孤独のままだと、それでいいのかと。
……ああ、良い。それで構わん、少なくとも、こうして人の可能性を見られただけ、私が命をここで掛けた甲斐が有ったものだ」
「お前……!」
感慨深げにそう言う教皇の体は風化しつつあった。
>「かつて滅ぼされた、絶対の力を持つ海竜。黄昏の全竜の名を覚えておけ。
魔王が、この世界にまた現れる。頂天魔のそれとは異なる意志によって。
……組織の名は、レヴィアタ――――――」
「どういう意味だ!? 待って! まだ消えては……」
伸ばした手は、虚空を掻いた。教皇は、吹き抜けた一陣の風に消えた。
手段はどうあれ、世界を救おうとした気持ちだけは本物だった。
「確かにお前は悪だ。とてつもない悪だ。でも……絶対悪になんてしてやるものか。
絶対悪を名乗っていいのは死んだら気持ちが晴れ晴れするような奴だけなんだよ」
壇上から飛び降り、気絶しているゲッツの元に虹色の羽を震わせて降り立つ。
「教皇の馬鹿野郎は死んだよ。本当にどうしようもない馬鹿だった。
なあゲッツ、オレ達勝ったんだよ。寝てないで早くボルツさんに報告してやろうぜ!」
新しい時代の始まりを告げるかのように、陽光が降り注ぐ。
気が付いたら歌っていた。
人々を団結させるために命を散らした第309代教皇と、それに応えて見せた人々に捧ぐ歌を――。
「Ding dong ding dong おなじこと 共に祈る喜び
Ding dong ding dong dang ding dong 終わらない夢を見よう
君といる不思議を 手探りの未来を 哀しみや歓びが 彩るのなら
僕が伝えられるモノは どれくらいだろう 押し込めた せつなさが胸をゆらすよ
Ding dong ding dong信じ合い 生まれてくる奇跡を
Ding dong ding dong dang ding dong終わらない夢を見よう」
「……あら?」
周囲の異様な状況に気付いて歌を止める。
信徒達が周りを取り囲んで跪いているではないか。
「新教皇様に万歳!」
「第310代教皇にはあなた達こそがふさわしい!」
「ささ、就任の挨拶を!」
信心深い人は、プラスに作用する魔法の恩恵を受けやすい傾向がある。
敬虔な信仰心を持つこの街の人々には、呪歌が効きすぎたようだ。
「いやいやいや、思いっきり異教の関係者ですから! ゲッツ、起きろよ!」
「いえ、もうこの際寝たままでも」
「サイン下さい!」
聞く耳持たない人々によってもみくちゃにされる。
「たっ助けてーーーーーーーーーー!!」
異界の神に打ち勝っても、結局いつも通り情けない叫び声が響き渡るのであった。
9 :
アキサム:2012/12/04(火) 21:58:56.54 ID:GrkGIT3v
「終わった。か、」
ひと、災難終えた、そう思うとなんだか落ち着く。しかし、この現実を見ると。
「あれ、アヤカがいない。」
近くを探すと
「うっ、う。うわぁぁぁぁ。」
アヤカが、発狂しながら、アサキムに襲いかかってくる。
アサキムは、こういう突撃は何度も見たので、スルーした。
が、その突撃先は、フォルテとゲッツのいる場所だった。
どうなる!
街の通りという通り、路地の狭隘と清閑な公園、まだ賑わいの気配を残した市場、信仰の結晶たる大聖堂。
至る所で守勢に立たされていた人類が反攻に転じ、神造の生物兵器であるドローン・トークンを駆逐する。
蠢く触手が斬られ、灰色の肉塊は散弾で吹き飛ばされ、這い寄る粘液は火炎で焼かれ、その全ては消滅の途に。
烈しい戦いが終われば、たちまち陽性の喧騒が広がって行く。
往来には歓喜と安堵が溢れ、酒場からは打ち鳴らされる祝杯の音が。
「街を守った英雄たちに栄誉の杯を! 今日はうちの葡萄酒の樽を全部開けてやるぞ!」
「おー、いつもケチなマスターにしては珍しいな。雪でも降るんじゃねーか」
宴の中にはパン屋の少女の姿もあった。
逸早く日常の中に戻ったリンセルは、いつものようにパンを運ぶ。
焼き立てのブレッドにクロワッサン、果物と粉砂糖で飾り付けた菓子パンの数々を。
「世界で一番美味しいロルサンジュのパンもどうぞ!
さっき焼き上げたばかりのものを運んで来ましたから、まだ温かいですよ〜」
リンセルはあちこちの宴の席にパンを届けつつ、何かを探すようにして人の集まりを目で追う。
そして、人の集まりから目を切る度に、目当てのものが見つからなかったのか小さく溜息を吐く。
(さっきの村のパン屋はどこにもいないわね。別に……競合相手の心配なんてしてないけど)
教皇や神裏派、三神顕現の近くに居合わせた民衆。
壁を溶かされて内部を露わにした建物や、朱に濁った水路や、積み木のように崩された城壁。
街が受けた人的・経済的被害は決して少なくない。
新しい教皇の選出にも、また時間が掛かるだろう。
リンセルに待っているのは新しいパンのアイデアに試行錯誤して、小麦粉を練り、焼き上げ、出来あがったものを売る日々。
今回、エヴァンジェルが失ったものを取り戻す戦いが始まるのだ。
命賭けの死闘は終る
それはこの都市の全ての住人達の祈り、そして人々を守ろうとした派閥を超えて戦った聖堂騎士団の奮闘
その身を省みずに神だろうと刃向かい戦ったゲッツ、アサキム
皆の思いと共に呪い歌を謳ったフォルテ
この場に居る誰かが欠けていればもしかすればこの都市は愚か他の領域にも被害は及んでいたかもしれない
恒久戦士としては最低限の被害にする事が出来たと言っても良い。エスペラント個人の感情としても神の欠片とは言え
この都市が丸ごと全てが吹き飛んでもおかしくなかったことに大いに安堵する。
「大勢の人間が死ななくて良かった、もう泣き叫ぶ子供や親の姿は見たくないから
―本来ならばこの程度で済む筈がない、やはりフォルテとゲッツはこの世界にとって―――」
その先からは口にはしなかった最早口にするまでもなくそれはこの結果を見れば明らかであるからだ
やはりあの二人はこの世界に置ける重要な立ち位置にいる事に間違いない
そう感じられずに居られないのだ。
だが物思いに耽っている時間は無く、ある事を思い出す
「ッ!大聖堂に向かわせた静葉は大変な事になっているかもしれん!」
あの神の声を聞いて普通の状態で居られる事は例え突然変異した人間でも耐えられる訳が無く
大聖堂の内部に大急ぎで入り、常人では考えられない速さで大聖堂内部を隅々まで調べていく
そんな中、まるで道案内をするが如く明らかに聖堂騎士団とは思えないほどの私服を着た連中が倒れていた。
それは間違いなく淫夢ファミリーの構成員に違いなかった。
どうも嫌な予感がすると急ぎ足で後を辿ると奥まったある小部屋で死体が止まっていた
次の瞬間、小部屋の部屋からいきなり扉を吹き飛ばされる勢いのまま何かがエスペラントにぶつかりそうになり
距離を取って回避をすると一人の男が出てくる。それは圧倒的に普通の人間でも強者とも格が違う
神の如きオーラを纏う黒すぎる肌の青年が居た。それは先ほどの神の言葉には微塵も影響は受けていないようで
それはエスペラントも知っているような、本来ならば伝説クラスの実在すら疑われていた者だった。
「はい、パパパっと終わり!うん?まだこんな所に誰か居たの?
まっいっか、目的の物とうちのTNOKも回収できたし」
「貴様はGO…淫夢ファミリーの信奉する神…」
突然現れた淫夢ファミリーを統率するボス以上の存在が出て来た事に関して緊張が走る
あんな状態でも未だに平然とした様子を見せられるのはGOのような神に等しい者等だろう
「ああ君ね、最近チョロチョロ回って俺達の邪魔している連中ってのは
でも俺も案外やること多くてさだから此処でお別れって事でハイ、ヨロシクゥ!」
「ま、待て!!」
だがそんな事を言っている内に片手には谷岡、もう片方には何やらケースらしき物を持って忽然と姿を消す
此処で本来であればまずは見える事すらありえない存在が来なければならないことがあったのだろうか。
「……一体何があったんだ?」
そんな呟きを口にすると首に向かって八方手裏剣が向かってくるので避けると
其処にはまるで快楽殺人鬼のような笑みを浮かべた鬼のような静葉が立っていた
神の言葉により彼女はもがき苦しむ内に発狂という形で血筋的に脈々と続いてきた
忍者いや人外問わず抹殺してきた暗殺者と異能者の力や殺人DNAの血が本来の形で目覚めたのだろう
其処に意識は無く、目に入る全てを無意識的に殺すという自己防衛本能によって動く殺人人形と化していた。
そして今目には行ったエスペラントも例外ではない、感じた気配が強大だからこそ
尚その動きは既に常人の域では出しえぬ速度で、片手にはクナイをありえない速さでけん制するように投げて
もう片手には切れ味の鋭い呪殺の力が込められた小太刀を鼻先まで静葉は近づけて来る。
しかし其処に一歩も動じず動こうともしないエスペラントに対して刃の接触直前で止まる。
「…………」
「もう良いんだ、僕が来たから…だからもう良いんだよ静葉」
ゆっくりと優しく包み込むように静葉の身体を抱きしめるエスペラント。
彼に取っては所詮は偽りの肉体の温もりだったが、彼女にとっては不思議な物で
エスペラント―ビャク・ネイムレイスという個人の想いを感じ取れる手段の一つであった。
目が爛々と鬼のように真っ赤に輝いていた光は次第に薄れていき、突き立てようとしていた小太刀を
床に落として愛しい主の肉体に手を廻した。自身を闇から救ってくれたあの伸ばした手で感じた
とても暖かい温もりと一緒だった
「(また…闇から救い出してくれましたね主様)」
無意識的な防衛本能により殺戮を繰り返すために一族からは半ば危険な存在と見られていた
そのためにくの一としての性の技術は何一つ教えてもらえなかった、なぜならば抱かれるその瞬間に好きでもない
相手の男を危機意識が働き殺してしまうからだった。故に戦闘の才は類稀でも例え恋愛を経て結婚したとしても
子を残すことでさえ出来ないだろうとさえ言われていた彼女であったが
一族が全滅した後でも不思議な事に心の底から愛する人と出会い、沢山の子供を生むことが出来た彼女は
とても幸せになることが出来た。彼女にとっては何物にも変えがたい物をくれた主は奇跡の存在であり
天から賜った運命の相手だと更に確信し、感謝していた。
そこから崇拝に近い感情も一人の女として深く愛する感情来ているのであった。
それから二人は何かが倒れる音を聞いて反応するが
物音の正体は気絶し倒れたリーフであり、とりあえずは目標の物を発見した事により
エスペラントは彼女を抱き抱えて大聖堂から静葉と共に出るのであった。
>「教皇の馬鹿野郎は死んだよ。本当にどうしようもない馬鹿だった。
>なあゲッツ、オレ達勝ったんだよ。寝てないで早くボルツさんに報告してやろうぜ!」
「流石に、糞疲れたァ。
ちょいと、寝かせろよ……ォ」
自分の咆哮で引き裂いた地面の隙間にめり込むようにした異常な体勢ですやすやと寝始めるゲッツ。
この男、先程まで化物と本気で殺し合いをした上で、微妙に神域にたどり着いたというのに数秒後にはこれである。
シリアスを長時間維持すると死んでしまう病気にでもかかっているのだろうか。
だが、周りの歓喜の声と、耳朶を叩くフォルテの歌の前で、ゲッツは珍しく口元を緩めて、穏やかな表情を浮かべていた。
ゲッツが血みどろの戦いを続け、英雄を目指すのは、ひとえに戦いの先にこの様な光景を作るためでもある。
欲しいのは、喜びと称賛であって、怨嗟や憎しみの為に戦っているわけではない。
この戦いの結果は、ある意味ゲッツが望んでいた戦いだった、と言えるだろうか。
>「いやいやいや、思いっきり異教の関係者ですから! ゲッツ、起きろよ!」
フォルテの声もいざ知らず、そのまま眠りの深きに飲まれていたゲッツだが、状況が変わる。
溢れだす殺気、怒気、覇気を感じたのである。
半ばまで地面に埋まっているゲッツが、突如地面を粉砕しながら起き上がり、フォルテを空中にぶん投げた。
>「たっ助けてーーーーーーーーーー!!」
>「うっ、う。うわぁぁぁぁ。」
周りの民衆たちを轢きながら迫っていく、アヤカ。
それを見て、なんとも言えない表情を浮かべる寝起きのゲッツ。
だが、この戦いで身につけた経験は、ゲッツを確実に成長させていた。
「い、い、加減に、しろやァ――!」
ゲッツの咆哮に魔力が加わり、ついでに凄まじい勢いのアヤカが迫る相乗効果で、誰一人怪我はしないが人々が次々と吹き飛ばされていく。
吹き飛ばされていく人々を他の人々が受け止めれば、そこで笑い話と酒を酌み交わす宴会が始まる。
積み重なる無数の現実の壁が有っても、この瞬間だけは人々も全てを忘れて楽しみたかったのである。
そして、アヤカのパンチをまたゲッツは受ける。
ずどん、と砲撃音の様な轟音が周囲に響き渡るも、直後。
ゲッツはその勢いを真正面から受け止めることなく、おとなしく後ろに吹き飛ばされた。
同時に、背中から鋼の翼を呼び出して空中で宙返りして、飛翔。
天高く放り投げたフォルテの首根っこを掴んで、肩に担ぎあげた。
頭上でなにやら騒いでいるフォルテを見上げて、いい笑顔を浮かべたゲッツは。
「な、助けてやったろ?」
と、寝起きで生あくびをしながら言うのであった。
そして、悪ィ、ちょいと一人で行きたい所が有ると一言言うゲッツ。
一旦フォルテを静かな所に下ろすとウ・ボイに向かって飛び去っていくのだった。
己の師と、己の守った街を見るために、天高くから、街を見下ろして――。
静かにボルツの店の前に舞い降りた、ゲッツ。
店の周囲が閑散としているのは、中央に人々が集まっているからか。
店の戸を無言で開ければ、カウンターにはいつも通りにバーコートを着たダンディな店主が居る。
「……よ、ボルツのおっさん。帰ってきたぜ」
「ああ、ゲッツ君。
私の依頼を達成してくれて、感謝しているとも。
――駆けつけ一杯、飲んでいくと良い」
作っていたのは、ゲッツのアースクエイク。
最初からここに来ると分かっていたのか、ボルツは作りたてのそれをカウンターに置く。
近づけば、隠し切れない血の匂いがして、ボルツの息が荒い事も分かる。
「死ぬのか、隊長」
「死ぬねえ、部下」
互いに、互いのことを理解している故の、静かな会話。
ゲッツは、それ以上何も言わずにアースクエイクを一息に飲み干し、立ち上がる。
にぃ、と犬歯をむき出しに獣の笑みを浮かべて、皺だらけの老兵と鱗だらけの新兵は拳を合わせる。
無言でゲッツは背を向けて、店の外へと歩き去っていくのだった。最後に一言。
「――ウ・ボイ、ウ・ボイ」
戦へ、戦へ。
師の教えを背負って、己は己の力を発揮する場所へ行く。
それこそが、死にゆく師の為の手向けである。そうゲッツは決めて、振り返らないこととした。
>「街を守った英雄たちに栄誉の杯を! 今日はうちの葡萄酒の樽を全部開けてやるぞ!」
「戦へ、戦へ!
兄弟よ、剣を抜け
われらの死に様を敵に知らしめよ」
>「おー、いつもケチなマスターにしては珍しいな。雪でも降るんじゃねーか」
唯一、ゲッツがまともに覚えた歌。
師が日々口ずさんでいた、勇壮なメロディと歌詞が、下手ながらも豪壮な声によって響いていく。
賑やかさの前でも、どこか荘厳なその声は、その気高い意志は人々の心に聞こえていくだろう。
ゲッツの胸の鼓動が、フォルテの持つモナーを鼓動させているだろうか。
「われらの街は既に火の中
その熱はここまで伝わりくる
敵の咆哮が響き
彼らの怒りは絶頂に達す!」
>「世界で一番美味しいロルサンジュのパンもどうぞ!
> さっき焼き上げたばかりのものを運んで来ましたから、まだ温かいですよ〜」
師とともに歩んだ戦場と、ここから歩き出す戦場。
それを心に描いて、只々歓喜の輪の中へと歩みを進めていく。
歌いながら、哭くことはなく、只々笑って、そして笑いながら。
「われらの胸はその炎のごとく燃え盛り
敵の咆哮は剣の音に打ち消される!
諸君、ズリンスキにキスを
兄弟たちが交わすキスのように!
ズリンスキの門へ
真の英雄たちよ!」
(――ま、気障だが偶にァ悪くねェ、か)
己の知る真の英雄の証は、己の懐の中の剣がそれだ。
師を背負い、ゲッツは歩き。
歩いて歩いて、フォルテの元へとたどり着き。
「なァんかよ、楽しそうな歌とか、ねぇか。
死人も怪我人も、そんなの忘れて踊りだしちまうような、よ」
にかり、といつもの様に竜人は笑う。そして、求めていた。
己には謳えぬ、心を踊らせるような歓喜のメロディを、そう――歓喜の歌を歌おうと。
歌が下手な竜人は、あろうことか吟遊詩人にデュエットのお誘いをするのであった。
「こーらー! ナマモノにつき取扱い注意だと……」
>「な、助けてやったろ?」
宙を舞っていたオレは、気が付くと定位置におさまっていた。
実にいい笑顔を向けてくるゲッツにいい笑顔を返す。
一人で行きたいところがあるという。
「……そっか」
敢えて聞かない、こいつがこんな事を言いだすという事は、何かを予感しているのだろう。
空を見上げると、白いものが舞い落ちて来ていた。
「二人歩く速度少し落としながらいくつものきらめきを瞳に移すと
君は僕の指に冷えた指をからめ この街に降り出した雪を知らせる〜♪」
自然と足が大聖堂の方へ向かっていた。
この戦いで命を落とした人々に、何もできないけれどせめて祈りを捧げよう。
「Ding dong ding dong 同じ時 感じあえる奇跡を
Ding dong ding dong dang ding dong終わらない夢を見よう」
「珍しくあっちも歌ってるモナ」
確かに遠くからアイツの声が聞こえる。モナーが、共に謳うように共鳴している。
モナーがオレ以外の声に反応している。何故だ!?
大聖堂まで行くと、リーフを抱いたエスペラントさんと静葉さんに出くわした。
「ありがとう! あいつボルツさんとの約束守れたよ!」
何かがあったのか、静葉さんがエスペラントさんを見る目はいつもに増して只の主従関係ではなく……
思わず静葉さんに前から思っていた事を聞いてみる。
「ねえねえ、ぶっちゃけ好きなんでしょ!?」
そこでタイミングよくリーフが目を覚まし、立ち上がる。
「今更何を言ってるんですかフォルテさん。そこは公式設定ですよ公式設定!
……はっ、これはいけませんお邪魔してしまいました。助けて戴いてありがとうございます。
是非お礼をと思うのですが……。
……そうだ! 折角大聖堂なんだからこのアツアツカップルのために結婚式をあげましょう!」
そう言ってリーフは適当に鐘を鳴らす。
「あはははは! そんな無茶な! ……その話乗ったぁあああああああああああ!!
パン屋さんパン屋さん、パンケーキ一丁お願い!」
残された者が前を向いて生きていく事こそが最大の弔いかもしれない――
と言えば聞こえはいいが、ただ歌って騒ぎたいだけだろと言われればそうかもしれない。
向こうでパンを売っている少女に、初めての共同作業用のパンをオーダーする。
ケーキがなければパンを切ればいいじゃない。
そこにこれまたタイミング良くゲッツが到着する。
>「なァんかよ、楽しそうな歌とか、ねぇか。
死人も怪我人も、そんなの忘れて踊りだしちまうような、よ」
「丁度いいところに来たゲッツ!
二人の新たな門出を祝福する最高に幸せな歌を歌おうか!」
モナーが分裂し、片方がエレキギター、片方がキーボードになる。
ギターの方をゲッツに押し付ける。
「お前ビジュアル的にこっちな。ひけない? 適当にひく振りしときゃいいんだよ、形だ形!」
自分で言うのも何だけどかなりこうするとかなりビジュアル系バンドっぽくね!?
鳴り響く鐘の音に被せるように歌い始める。
「おめでとう 笑顔がゆれて ゆるやかに流れる奏鳴曲(ソナタ) ふたりとも ずいぶん大人に見えるよ
長いこと 友だち同士 何回も ケンカしてたね 気がつけば ふたり想い出が重なる」
「男とか 女とかじゃなく 何でも話せる ふたりだったね
短いようで 長い道を 旅してふたり ここに立ってる」
「高らかに鳴り響く 鐘の音は 晴れやかな今日が ゴールじゃなくて
お互いの胸の奥 響きあう これからも続く 長い旅をつげる 勇気の鐘」
“勇気の鐘”――世界を救う旅の果てに結ばれたとある勇者と魔法使いの伝説を題材にした歌。
しかし超人捕まえて”ずいぶん大人に見えるよ”はないわな! ゴメンよ!
「夢をみる ふたりいっしょに ひとりでは たどりつけない 邪魔なのは 後悔とうすいプライド
彼の目に 汗がにじんで うつむいて 弱音吐くなら その頬を 泣いてでもたたいてあげて
瞬間だけの なぐさめなんて 中途半端な 優しさに似てる はるか彼方に 昇る太陽 顔をあげてなきゃ 瞳がくもる」
「いつまでも鐘の音が 響くように 深呼吸で心に 風送ろう
だけどもしふたり めげたりしたら 一番乗りで 待っていてあげたい 勇気の丘」
「なだらかなレンガの 階段を 腕を組みふたり 登りはじめる
お互いに夢を かかえあえたら 夢に近づくたび クレッシェンドする 勇気の鐘」
ライスシャワーが降り注ぎ、二人の前途を祝福する人々の歓声が響き渡る。
これからどんな困難が待ち受けているか分からないけど、こいつらとなら何だって乗り越えられる、そんな気がした。
「ふい、良かった。」
少し安心し、アヤカにボディーブローをかまし、大人しくさせ。
ウ ホイに向かう。
そこには、テンションハイになる二人がいて。
「明日か、明後日、行くからね。天と、人間界の狭間。」
そういうと、大人しく酒を飲むことにした
後、此処で、代理投稿してもらった人 感謝します
大聖堂から出た二人は間も無くフォルテ達と遭遇する
そんな中、静葉のエスペラントに対する明らかな普段とは違う目に対して
目敏く反応し
>「ありがとう! あいつボルツさんとの約束守れたよ!」
>「ねえねえ、ぶっちゃけ好きなんでしょ!?」
>「今更何を言ってるんですかフォルテさん。そこは公式設定ですよ公式設定!
……はっ、これはいけませんお邪魔してしまいました。助けて戴いてありがとうございます。
是非お礼をと思うのですが……。
……そうだ! 折角大聖堂なんだからこのアツアツカップルのために結婚式をあげましょう!」
そこで見計らったが如く途中で起き上がるリーフは何をトチ狂ったのか結婚式を挙げようとまで
言い始めるのであった。
だがエスペラントは明らかに先ほどとは様子が変わり、元気なく二人に対して
何かを言おうとするもいろいろとその場である物で用意を始める
>「あはははは! そんな無茶な! ……その話乗ったぁあああああああああああ!!
パン屋さんパン屋さん、パンケーキ一丁お願い!」
>「丁度いいところに来たゲッツ!
二人の新たな門出を祝福する最高に幸せな歌を歌おうか!」
「(僕はこんな歓迎を受けるほどの全うな人間じゃない…
寧ろ最低な人間だ、幾ら受け入れてもらったとはいえ本来ならば選ばなければない
そうでありながらも二人の女性の内一人も選べず、二人の大切な人を持つことなど許されるはずなど…)」
エスペラントはかつては今の姿には考えられないほど、恒久戦士として人では無い者、世界を維持するだけの奴隷にされ
愛する女性すらも救えなかった事により荒れていた時期があった。
酒、女etc…なんでもやった、だがそれでも何をしても収まらず満たされなかった。
その時、彼がそれから立ち直るのがある女性との出会いが切っ掛けなのはまた別の話である。
彼が立ち直り、その後はただただ多世界を守るために戦い続けた事により後の戦友となるテイル達や
その世界ではただの不審者に違いない自身を家族同然に想ってくれた第二の家族の人達により世界を守る意義を見つけ
エスペラントはこの時点で本来の性格を取り戻す。
負けられぬ理由と例え化け物だと言われても自身を救ってくれた大切な人達の世界を守りたいという
信念を持った多元円環世界での組み換えの際に、救えなかった最愛の人と再会する。
その姿は本来の彼女の面影など何処にもない、その黒い災厄その物に成り果てたとしても
エスペラント=ビャク・ネイムレイスへの愛は決して失われていなかった
極限の状況でありながら、其処で彼は真実の愛を見ることが出来たのだ。
その後でもう一人の最愛の人である静葉とも再会し、その愛情は本物なのだと理解している。
だが人の暗黒面を余りにも戦い続けた過程で見すぎたのだ。
その心の片隅では真実の愛はあるのだと理解もしているその目でも見た
だがそれでも同じような人の暗黒面を見続けた故にこう思うのだ
一人の女性も愛せないような不誠実な男には何時かは心が離れていくのだろう
そんな最低な自分よりも愛する男が出来ればきっと付いて行くのだろうと。
自身とて当初などはこのような立場になり、好意を持つ他の女性に甘え利用してきた報いとして
静葉が他の男に走ろうとそれも致し方がないと考えていたのだ。
>「お前ビジュアル的にこっちな。ひけない? 適当にひく振りしときゃいいんだよ、形だ形!」
そんな事を考えている自分がこのような場で祝福される事が許されるのか?
祝おうとしている者達の純粋な好意を無碍にも出来ず、最愛の女性とは言え
心の底から信じる事が出来ない自分が最低であることを自分に向けて皮肉と自嘲を込めた
少し悲しげな笑顔をエスペラントはするのであった。
>「おめでとう 笑顔がゆれて ゆるやかに流れる奏鳴曲(ソナタ) ふたりとも ずいぶん大人に見えるよ
長いこと 友だち同士 何回も ケンカしてたね 気がつけば ふたり想い出が重なる」
「………」
フォルテは歌っている最中に少し悲しげに笑うエスペラントを見つめていた静葉もまた
そんな愛する主の顔を見ていられずに目線をずらしてしまう。
静葉もエスペラントに向ける愛情は間違いなく彼の愛する<災厄の聖女>には間違いなく
負けず劣らず、ただの忠誠心だけではなく一人の女性として心から愛していると口には出さずと言える。
その心に他の誰かが入る余地は無い、だが逆に彼女もエスペラントに対して心に入る余地は無いと思っていた。
それは間違いなく<災厄の聖女>のこと彼の最愛の人がエスペラント自身の心に深く深くに住んでいるからだ
子供の頃から共に居た人に対して勝てる訳も無く、もっと早くに出会っていれば彼女の代わりに自分がその中に居たのかもしれない
とどう足掻いても叶う訳が無い事を後悔していた。
そしてエスペラントが静葉の愛情を理解し応えている事
彼女に対する想いも彼の最愛の人同じくらい愛している事もよく分かっていた
故にそれを口にして、彼の自分に対しての思いも分かった上で慕っていると言った所で
向けている少し悲しげな笑顔と同じ物を彼女自身に向けてありがとう、と返すのだ
そう心の中でも言っているにも関わらず、頭と心の片隅の何処かにある
彼女が何時かは離れていくだろうという思いを持つ事自体を静葉を貶める行為だと自身を責めながら
言う姿を見て、彼女は自身の感情を抑えられなくなり彼を抱きしめたことがあった。
>「男とか 女とかじゃなく 何でも話せる ふたりだったね
短いようで 長い道を 旅してふたり ここに立ってる」
歌を聴き続けながら、それ以来自分は愛する主に簡単にお慕い申し上げていますと
簡単には口に出さなくなっていた事を思い出していた。
自身をとても愛してくれているにも関わらず、今までの己の役目として
人の負の側面を見てきたことによりほんの少しでも相手を信じる事が出来ない事に
自分自身を責め続けるエスペラントを見るのがとても辛いのだ。
とても抱きしめたくなる衝動にも駆られるが誰も悪いわけでもなく、人間誰しもが無意識には思う事かもしれない考えすらも
自分が原因という事で背負い込んでしまう姿を見ても何も出来ない自分が悔しく歯痒い思いをするのが腹立たしかった。
愛する者が悩み苦しんでいるのに何も出来ない己が伴侶になる資格はないという静葉
負の側面や暗黒面を見てきた事により身近にそして自身を誰よりも愛してくれる女性すら
信じる事が出来きずそして二人の女性を愛することが不誠実だと思う己を許せないエスペラント―ビャク=ネイムレイス
この二人が幾ら心底愛し合っていても結婚という物を神聖で侵し難い存在という事でする事が無い
唯一にして最大の理由であった。
普通の世界では妾などは世間から良い目では見られていないし場合によっては許されるわけも無く
だが静葉は世間がなんと言おうとしても傍にいたかった
そしてエスペラントも同じ思いでありそれを受け入れたから今のよう形になった。
それがかつての戦友であるテイルの子供と様々な人達に祝われている
この事がある意味では皮肉なのか、それとも許されたという思し召しの幸運なのか
それが二人には分からなかったようだ。
>「なだらかなレンガの 階段を 腕を組みふたり 登りはじめる
お互いに夢を かかえあえたら 夢に近づくたび クレッシェンドする 勇気の鐘」
歌も終わり、周囲には歓声と共に祝福してくれる人々がライスシャワーが二人に降り注ぐ
本来ならば結婚式をしないと決めた以前にするやっている暇が無いのだが
このような場所でするとは思っても見なかったのだろう。
エスペラントは純粋な好意でやってくれた全員に対して、
自らの感情を抑えつけながら話しかける
「……見ず知らずの私達二人のために集いわざわざ祝ってくれた事に関して礼を述べる
ありがとう、お返しはしようにも仕切れないが、…私たちには血の繋がった家族は居ないし
家族に等しい者もこの場には来れない、その代わりに参加してくれた事はとても感謝している
もう一度ありがとうと言わせて欲しい」
この場に居る全員にお礼を言うと静葉は耳元まで寄って
「とりあえずパンケーキが来たら参加者全員に分けましょう
お礼はそれくらいしかできませんから、それまでには」
その言葉に対してエスペラント頷いた後、彼の手を力強く握る静葉は
少しだけ幸せそうな顔をして、パンケーキが来てもずっとずっと繋いでいた。
>「丁度いいところに来たゲッツ!
>二人の新たな門出を祝福する最高に幸せな歌を歌おうか!」
「――っは、いいじゃねェの。
静葉さんとエス平についちゃァ、俺も結構やきもきしてたんでな。
ここで、強引かつ陽気に一発ぶちかますのも上等ってわけよォ!」
少しだけ、いつもより柔らかい笑顔を浮かべて。
ゲッツはフォルテの提案する案に即座に乗ってみせる。
ここで変に慰められたりするよりは、こうした方がずっと良い。
きっと、ウ・ボイで長い眠りに着くことになっただろうボルツにも届くように。
>「お前ビジュアル的にこっちな。ひけない? 適当にひく振りしときゃいいんだよ、形だ形!」
「っへへ、やってやらァ。
ハイランダー一のイケメン戦士は万能だってことを見せてやるよ!
さっさと貸しなァ!」
根拠の無い自信と無駄なノリはゲッツの強み。
フォルテの差し出すギターを受け取ると、ストラップを肩に掛けてギターを構えた。
弦を適当に押さえてピックで弦を弾くも、上手く行かず。
フレットを押さえるんだってー、とフォルテに基本を教えてもらいながら、拙いながらも多少姿だけは様になった。
ガタイが良い為、こういう物をもたせると妙に似合うのは、性質だろう。
きっとドラムとかも似合う。でかいし。
そして、フォルテの美声が響き、それに乗せてゲッツもギターを見よう見まねで弾いてみる。
心臓の鼓動は、フォルテの刻むリズムに合わせて強く刻まれ。
メロディに乗って行く内に、気がつけばゲッツは簡単ながらも一部のフレーズを弾くようになっていた。
おそらく、心臓を通して霊的なラインが構築されている為、少しだけ同調している、のかもしれない。
>「……見ず知らずの私達二人のために集いわざわざ祝ってくれた事に関して礼を述べる
>ありがとう、お返しはしようにも仕切れないが、…私たちには血の繋がった家族は居ないし
>家族に等しい者もこの場には来れない、その代わりに参加してくれた事はとても感謝している
>もう一度ありがとうと言わせて欲しい」
「好きなら好きって言えば良いんだってのォ。
お前さんはよォ、確かに超強ェし、長生きしてるし、何考えてるか分かんねぇし、悩み事もたくさんあるだろうけどよ。
そういう細かいこととかよ、そんなン気にする位ならまず一言お前が言う事があンだろォが。
まずエス平! 静葉さんに愛してるって言ってやンなァ。世の中、口に出したほうが良い事だってあんだからなァ。
あと、静葉さんも。こんなご時世、愛する人の半歩後ろを歩くなんざ古いぜ? きっちり、女房やってやんねェと、この手の輩はふらふら彷徨っちまう。
好きならがっつり、捕まえちまいな。――ま、てめぇ等おめでとうってこったな!」
珍しく、静かな口調で語りかけるように2人に向けて若造が偉そうなことを口にする。
遠い昔に勘当されているとはいえどこれでも神官系の家系だ。
この手の祭事には首を突っ込みたくなるのがゲッツの性格である。
そして、2人の背中を痛過ぎない程度にばんばんと叩いて、向かい合わせた後には、邪魔者は退散とばかりに走り去っていく。
宴の輪は広がり、吊り橋効果か何なのか、そこらじゅうでブーケトスが始まり、ライスシャワーが撒き散らされる。
神官は聖術で花の大盤振る舞い。今日ばかりはあらゆる店も商人も儲けなど気にせず馬鹿騒ぎ。
宴の中で幸せそうに笑う2人を遠目で見つつ、ゲッツは取り分けられたパンケーキを頬張りながら、地べたに座っていた。
「――勇気の鐘、ね」
ックク、と喉元で笑い声を零して。
どこからか手に入れてきたのか傍らに積み上げた酒樽にジョッキを突っ込みぶどう酒を掬い上げる。
それを一息にぐい、と飲み干すと。珍しく静かな様子で酒を飲んでいるのだった。
偶には騒がず一人で飲みたい時もあるのである。
オレは驚愕と感動に打ち震えていた。
全くの初心者とは思えない程すぐにフレーズを奏で始めたが、最も驚くべきはそこではなく。
断言しよう、完璧にシンクロした合奏なんてこの世に存在しない。
複数で演奏する限りどんなに綺麗な合奏も、一般人が聞いたら分からない程度に僅かにずれているものである。
が、その存在しないはずのものが今ここにあった。シンクロ率400%じゃねーか!
隣で得意げに弾いてる奴はそんな事に気付いてないけど。
そうか、これが心臓に名を刻んだことの意味――オレは大変な事をしでかしてしまったのかもしれない。
>「……見ず知らずの私達二人のために集いわざわざ祝ってくれた事に関して礼を述べる
ありがとう、お返しはしようにも仕切れないが、…私たちには血の繋がった家族は居ないし
家族に等しい者もこの場には来れない、その代わりに参加してくれた事はとても感謝している
もう一度ありがとうと言わせて欲しい」
「……」
複雑げなエスペラントさんと、それでも少しだけ幸せそうな静葉さん
多元世界を守るという宿命を背負い何百年も生きているのだ。
オレには想像もつかないような過去を背負っているのだろう。
ゲッツは、そんな事は気にせずか承知のうえでかは分からないが、お構いなしに言ってのける。
>「好きなら好きって言えば良いんだってのォ。
お前さんはよォ、確かに超強ェし、長生きしてるし、何考えてるか分かんねぇし、悩み事もたくさんあるだろうけどよ。
そういう細かいこととかよ、そんなン気にする位ならまず一言お前が言う事があンだろォが。
まずエス平! 静葉さんに愛してるって言ってやンなァ。世の中、口に出したほうが良い事だってあんだからなァ。
あと、静葉さんも。こんなご時世、愛する人の半歩後ろを歩くなんざ古いぜ? きっちり、女房やってやんねェと、この手の輩はふらふら彷徨っちまう。
好きならがっつり、捕まえちまいな。――ま、てめぇ等おめでとうってこったな!」
ゲッツが走り去った後、向かい合わされた二人に謝るオレ。
「なんかゴメンね。強引にお祭り騒ぎのダシにしちゃって……。オレって刹那主義だからさ。
今更どうしようもない過去の事や考えたって分かりっこない未来の事ばっかり気にしてたら
目の前の素敵な事が見えなくなっちゃうから。
それってオレみたいなげーじゅつかにとっては死活問題、みたいな?
だって音楽って感情を直接伝えるものなんだよ。オレの歌、ちゃんと届いてたらいいな」
笑いかけて、二人を残して走り去る。
意味の無い音の高低に何で人は心動かされるのか。
それは、音楽は、論理の産物である言葉を介さずにダイレクトに感情を伝達する物だからだと思う。
だから謳い手は心を曇らせては駄目。難しい事を考えずに前の前の感動を真っ直ぐに受け止めて今を全力で楽しまなきゃ駄目。
それがオレの生き方だ。軽薄と思われたって構わない。
パンケーキを受け取り、段差に腰かけてパクつく。周囲の喧騒が妙に遠く聞こえてきた。
一仕事終えた安堵で疲労が一気に押し寄せてきたようだ。
「ふぁ〜あ、疲れた……な……」
そのままうつらうつらと目を閉じて浅い眠りに落ちたのであった。
――夢を見た。
何故かタキシードに身を包んだオレは、教会で誰かを待っている。
こりゃ夢だな、と即座に理解した。だって未来永劫200%有り得ない状況だろコレ!
それにしても一体誰を待っているのだろう。どうせ夢だ、可憐な美少女が出てきてもバチは当たらないだろう。
やがて扉が開き、光の中から待ち人が現れる。
「……」
ボルツさんが縄で簀巻きにしたなんかでかいのを引きずって来たんですけど……。
「ぬわーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!? いっそ全裸の方がましだよ!」
断末魔の悲鳴をあげながら飛び起きた。何か物凄い精神的ブラクラな光景を見たような気がする!
「落ち着いてくださいフォルテさん! とう!」
リーフが後ろからヘッドギアをはめた。そういえば、今まで外したままだったのか。
ならばさっきの夢は誰かの強い想いの影響を受けている可能性が高いのだけど……。
ただの意味不明な夢と流しそうになったが、少し前の何かを予感したようなゲッツの様子が思い出された。
――ああ、そういう事か。
「――リーフ、ばっさり切っちゃって。あといつもの服」
「修行への決意を現すために断髪ですね分かります!」
と言うよりやめどきを失ってた女装がようやく元に戻るだけですからーっ、残念!
という訳で通常グラフィックに戻ったオレは、一人で飲んだくれているゲッツを見つけた。
「こんな所にいたのかゲッツ」
敢えて慰めの言葉はかけずに笑いかけ、手を差し出す。
「そろそろ行こうぜ! オレ達の戦いはまだまだこれからなんだからさ!」
「起きたか?二人とも。」
二人が、起きたのを確認し声をかける。
「俺も、若干気持ち悪いけど頑張って、おまえ等、転送するよ。」
アサキムも昨日の宴は、ハイになっていたらしい、目に隈ができている。
「うーんじゃ、地獄にーGO!」
光が収束、二人の周りにまとわりつき、そのまま仙界に飛ぶ。
しかし、肝心のアサキムは。
飛ばされていなかった。
というより飛ばなかった。
「さてと、」
アサキムは、バイタルに向かい。有ることを調べ始めた。
それは、
魔王レヴィヤタン。
かつて、別次元で、フォルテの親、テイルや俺と戦っていた。やつ。
「もし、死骸が、ありそれに、あれがついたら」
考えるだけで、ゾクッとする。
「あいつに確認とるか。」
そう言うと、ケータイで、ある奴に連絡を取る。
「もしもし、士?ああ、ライダー大戦以来か。それで頼みごとがある。」
一方、仙界では、二人が王宮に転送されていた。
「予定より、早いご到着なによりです。」
起きた、二人に声をかけたのはアヤカであった。
「さぁ、素戔嗚さまが、お待ちです。」
二人は、王宮の中央部に案内される。
「汝が、テイルの子と、その守護者か?」
二人を、筋肉ムキムキ爺が見る。
「よう、来た。我が素戔嗚尊じゃ。」
その、笑った、筋肉ムキムキ爺こそが素戔嗚尊である。
>「好きなら好きって言えば良いんだってのォ。
お前さんはよォ、確かに超強ェし、長生きしてるし、何考えてるか分かんねぇし、悩み事もたくさんあるだろうけどよ。
そういう細かいこととかよ、そんなン気にする位ならまず一言お前が言う事があンだろォが。
まずエス平! 静葉さんに愛してるって言ってやンなァ。世の中、口に出したほうが良い事だってあんだからなァ。
礼の言葉を述べていた時、静葉とエスペラントの背後にて間に入り
彼に対してのそうシンブルだが一番大事な言葉を告げること
>あと、静葉さんも。こんなご時世、愛する人の半歩後ろを歩くなんざ古いぜ? きっちり、女房やってやんねェと、この手の輩はふらふら彷徨っちまう。
好きならがっつり、捕まえちまいな。――ま、てめぇ等おめでとうってこったな!」
彼女に対してはその気持ちを当たり前のようにその傍に絶対に離れずいる事を
お互いの気持ちの擦れ違いを正すように普通ならば明確な答えを告げながら
二人を向き合わせて、立ち去ってしまう。
その後に続きフォルテもやってくると
>「なんかゴメンね。強引にお祭り騒ぎのダシにしちゃって……。オレって刹那主義だからさ。
今更どうしようもない過去の事や考えたって分かりっこない未来の事ばっかり気にしてたら
目の前の素敵な事が見えなくなっちゃうから。
それってオレみたいなげーじゅつかにとっては死活問題、みたいな?
だって音楽って感情を直接伝えるものなんだよ。オレの歌、ちゃんと届いてたらいいな」
そんな事を言いながらさっさと立ち去ってしまう
こんな二人に対してエスペラントはやれやれと首を振りながら
だがその表情は笑っていた
「まったく言いたい事を言って立ち去るとはな…
贅沢を言えば本当ならば静葉に合わせて和装の結納の方が
私達では似合っていたのかもしれないな」
今では殆どいないと言って良いほどのエスペラントの最愛の人が聖女ならば
静葉は間違いなく大和撫子と言われる負けず劣らずな可憐な乙女である
そんな彼女もクスっと笑う
「でも第三者から見れば正しい事なのだと思います、だから
彼らの言うとおりに再度誓います、私は二度と離れません例え行き先が最終的に地獄であっても
貴方について行きます、でも絶対にそうならないように私は貴方のお傍に居続けます
この魂魄が燃え尽きるその日まで、貴方を愛し続けます」
それは出会ったときから変わっていない永遠の誓い、最早畳の上では付き添う限りは死ねない事も
子供達の顔も見れなくなるかもしれないことも、地獄を延々と見せ付けられる事もある定めに付いてしまった
愛する人の目の前で再び交わす。
「…僕はね、やっぱり最悪の状態になってでも忘れないでくれていたイリューシャは絶対に見捨てないし
永遠に愛し続けると決めた、けど静葉もそれと同じくらい君が愛してるんだ
どちらかを選べと言われれば僕は自分の死を選ぶ、それくらい僕には欠かせない存在なんだ
だから…そんな僕でも好きなままで―」
その先は言えなかった、なぜならば静葉は唇を己の唇で塞いだからだ
例え愛する人がもう一人居ても構わないという意思表示で
丁度その時に鐘が鳴り響くと近くに居た鳩のような鳥達がバサバサと飛び立つ
偶然だろうが、いやコレには彼の友人であり
この世界のことを覗いていたヤハウェの祝いたいという気持ちで些細なほんの僅かな干渉があったものの
二人を歓迎していた、その愛がこの世界をいや全ての世界に共通する最も強き力で何物をも救える基本元素であった。
この世界に置いても重要な物に違いない
結婚式という宴は終わり、人々はまた一人と去っていく
辺りも暗くなっていく最中、二人は手を繋いでいた。
やはりそのまま何処かの宿に泊まるのもいいかもしれない
身体は幾度も重ねてきたが、まさか今日が新婚初夜になるとは夢にも思っていなかったため
とても二人は初々しい気持ちになりそれが無言と言う雰囲気で出ていた。
そんな状態で宿に入るまでのあと少しという所で脆くも崩れ去る。
「ッ!!」
エスペラントの全身は悪寒と共に彼の片目にはすぐに自我の色が一瞬で消えて
半永久闘争存在化している事にすぐに気づき悪意が込められている視線にすぐさま振り向くと
それは一人の少女否―その姿をした最強最悪の怨霊がニタニタと笑っていた。
その存在は並の魔王以上の力を持った、余りにも邪悪すぎる故に世界守護者委員会以外にも目を付けられた存在だった。
「静葉―すまないがアサキムの知り合いの所に送る、済まない!!」
「主様!!」
余りにも性質が悪すぎる相手に対して、お互いを強化していないこの状況は危険すぎるため
すぐさまにフォルテとゲッツより最初に静葉を仙界に送るように飛ばし、アサキム達に保護してもらえるようにしながら
最悪の怨霊―少女へと転生した佐伯伽椰子に視線を向けるが最初から居なかったように姿が消えていた。
「…最悪の展開―アイツが出てきたという事は本気でこの世界が滅ぶかもしれん」
事実佐伯伽椰子は世界を一つ滅ぼしている、この苦しみを他人に味わわせてやりたいと思う奴が
世界一つ滅ぼした程度で収まるわけがなく、例え平行世界の同一人物でも最重要危険人物だから
発見次第即時抹殺する事を出来る許可が与えられている。
そんな奴が種子を手に入れる前に始末を付けねばならぬと真っ先にその後を追うのであった。
騒ぎを見下ろしながら酒をかっ食らう竜人一人。
輪の外で目を細めて座り込んでいたが、目の前に見知った顔の両声類が立って、笑う。
よぉ、と声を掛け、駆けつけ一杯でぶどう酒を強引に押し付け飲ませて。
>「こんな所にいたのかゲッツ」
>「そろそろ行こうぜ! オレ達の戦いはまだまだこれからなんだからさ!」
「――っへ、なんだその打ち切りっぽいセリフ。
とォぜんよォ、この俺様の敵をやるにはあんな神様ぽっちじゃ役不足だってのォ。
喧嘩するためにも、ちょいと本気で行きますかねぇ」
差し出された手を取って、竜人は立ち上がる。
いつもの通りに、差し出された手を取ったかと思えば、肩にフォルテを担ぎ上げて。
師の遺志を引き連れてゲッツは歩き、店主無き店で一夜を明かした。
そして、朝起きて目をこすっている内に、ゲッツもフォルテもアサキムに話しかけられた。
かなーり一方的な畳み掛けの後に、アサキムは何かの術を発動する。
>「うーんじゃ、地獄にーGO!」
収束する光、飛翔する肉体、意識。
異界の果てを駆け抜けて、気が付けば居たのは仙界。
当然、ゲッツもフォルテもたどり着いたことなど有るわけがない。
「うっわ、オイオイ、なんかスゲー綺麗な建物あンだけどぶっ壊していいのかおい?」
修行と聞いていたゲッツは当然の様に、なにかを壊したり殺したり倒したりすると思っている。
その為、誰が聞いているとも知れないというのに、鋼の左腕をぐるぐると回していい笑顔を浮かべているのである。
現れたアヤカを見て、壊していいのかー?と壁をごすごす叩くゲッツ。土下座するフォルテ。いつもの光景だった。
なんやかんやありつつ、中央部までたどり着き、視界に収まったのはとても良い体をしたご老体、素戔嗚尊だ。
こいつと殴りあうのか、ともう既にゲッツはスイッチが入った万全状態。
だがしかし、その前にアンデットとやらとの戦いである。全くもってどんな物かは分からないが、何とかするしか無いだろう。
(――修行は苦手なんだがなァ。どーにも、お膳立てされると本気で行きづれぇ。
ま、頑張るっきゃねーんだが。俺の実力の再確認も兼ねて――な)
腕を組んで、おう、と素戔嗚尊に挨拶をしつつ思考を巡らせて。
首をごきりと回し、全身に魔力を巡らせることで筋をほぐし、体温を上昇させて準備を万端にさせた。
今直ぐにでも修行を開始できそうな状態である。
なんか駆けつけ一杯飲まされた。
最近何故か昼間っから酒ばっか飲んでるような気がする!
10代(エセでは無く)の少年少女の加入はもはや想定していないのか、大変教育によろしくないパーティーである。
いつも通りにゲッツに運搬されて店に行ってみると、店主の姿は無かった。
やっぱりそうなんだ、という感じ。
その事には触れずに当然のごとく2階にあがって一室を占拠して。
普段ならここで枕投げが始まりそうな所だがそんな元気はなく、モナーを抱いてベッドにダイブする。
「おやすみっ! うるさいからいびきとかかくなよ!」
――どれぐらいたっただろうか。オレはモナーを抱いたまま悶々としていた。
遠足の前日じゃないんだからさっさと寝ろ自分。
隣から大いびきは聞こえてこないが、とうに深い眠りに落ちているのだろう。
そう思って一方的に語りかける。
「なーゲッツ、この歌覚えてる……?」
子守歌のようにそっと歌う。
「積み上げた石は置き去りにして見つけ出せ 次なる星の欠片 淡い葉陰にゆらめく水晶
一夜の夢織り上げる宵に安息の繭はほどかれていく 清められた夜の遠い物語に蒼月の翅は舞い降りぬ――」
歌っている間に全身の緊張が心地良く解けて、寝る体制に移行する。
次第に意識に帳が降りて、今度は夢も見ずに、ぐっすりと眠った。
――次の日
>「起きたか?二人とも。」
「むにゃ……父さん……? ねえ聞いて。すっごい夢を見たんだ!
世界が危機になって、世界を救う英雄に出会うんだ! だけどそいつがひっどい奴でさー」
「だぁれが酷い奴だってェ!?」
突っ込まれて我に返り、悶えながらベッドの上を転げまわる。
「うわー恥ずかしー!」
洗面所に駆け込んで冷水で顔を洗う。
そのまま超スピードで身繕いをし、いつも通りキマったV系吟遊詩人の様相を取り戻した。
>「俺も、若干気持ち悪いけど頑張って、おまえ等、転送するよ。」
>「うーんじゃ、地獄にーGO!」
何はともあれ――こうして、修行編が始まった!
次元を超え、気が付いた時に目の前に広がっていた光景は、地獄とは正反対、天国ともいうべき場所だった。
「うわあ、なんて――」
綺麗なんだろう、と言おうとした時、ゲッツの第一声。
>「うっわ、オイオイ、なんかスゲー綺麗な建物あンだけどぶっ壊していいのかおい?」
「なぜに壊すし!? いや、普通の場所ならもう今更何も言わない。でもここ仙界。超人のすくつ。
その気になればオレ達なんて虫けらみたいに捻りつぶされちまう! どぅーゆーあんだーすたん?」
と、滾々と言い聞かせるもそんなの関係ねえとばかりに結局いつものパターンが踏襲されるのであった。
そんな感じで、アヤカさんによって筋肉ムキムキの爺さんの元に案内される。
>「汝が、テイルの子と、その守護者か?」
>「よう、来た。我が素戔嗚尊じゃ。」
「あれ、母さんが天照……。あなたは素戔嗚、という事は……」
「うむ、神の世界は色々あって複雑なのだが叔父と言って言えない事はない」
「マジかよ……!」
ゲッツの方を見ると、すでに準備万端いつでもどうぞという感じである。
「楽しそうで何より。たまには後ろを気にせずに好きなだけドンパチしてくれ!」
マッチョ達が繰り広げる超絶肉弾戦に巻き込まれないように後ずさる。
オレはセイレーンに呪歌を教えてもらう予定だったはずだ。
「あっ、もしもし?どうなった?」
アサキムは、そろそろ、着いた頃かと思い先に、いってるアヤカに連絡した。
「二人とも、ついてますよ。あと」
「静葉さんが、転送されました。」
「なんだと!?」
付き添い人が、急に転送された、しかも主が、
「解った、二人には伝えるな、その件は、俺が処理する。」
「御意。」
久しぶりに聞いたな、とか思いつつ。
急いで、布陣を書き、バイタルを起ち、ヱヴァンジェルに向かうことにした
一方、仙界では
「ほう、勢いは、ありそうだな。じゃが」
素戔嗚は、ある動作をした。
それは、正拳づき。ただの
その風圧で、敵を滅するというものである。
勿論、周りの仙人は、しれっと決解を貼り防御
アヤカは、転送付で、フォルテを別の場所に送る。なぜか静葉さんもいる
本人曰く
「いや、暇だから」
夫がピンチなのにこんなぐわいである。
「ほんとは、速攻、行くつもりなんだっけど、あの人まだ目覚めないというし。」
「しょうがないから、前の宮殿で肩慣らししましょう」
そう言うと、アヤカは、フォルテを持ち上げる、お姫様だっこで
「あれ?、あなた鎧きた、ジャンヌダルクより軽いわよ?」
そのまま、宮殿に駆け出す。
「やっほーきたきた。」
宮殿の前で、待っていたのは、弓よう姫のなで知られている。孫尚香である
>「楽しそうで何より。たまには後ろを気にせずに好きなだけドンパチしてくれ!」
「は――ッ、てめェも楽しんで歌って奏でてきな。
ソッコー終わらせてまだグダグダしてるお前をにやつきながら眺めてやるさ」
犬歯をむき出しにして、右手の指をびしりと立てて笑う。
敵に対応して強くなっていくとゲッツの性質は、エスペラントの永久闘争存在化とよく似ている。
だが、ゲッツのそれはエスペラントのそれとは異なる起源を持って生まれた力で、その最大値はこのままなら¢蛯オたことではない。
瞬間的に神域に足を踏み入れることはできても、一瞬のみの神域であるし、辿り着ける高みも大したものではない。
それでも良いと思う。最初から最強で、総てを知って、何にでも勝てる存在だったのならば、今の己のように戦いに敬意を抱いていなかっただろうから。
>「ほう、勢いは、ありそうだな。じゃが」
「ヒ、ヒャハッ! 上等よォ――――!
砕けるかよ、吹き飛ぶかよ――、竜がそんなそよ風でやられると思ったら大間違いだぞこの野郎が。
力一辺倒でやられてたまるほど、今の俺は弱かねぇよ!」
素盞鳴が放つ正拳は確かに強力で、そして範囲も非常識に広い。
だがしかし、ゲッツはそのレベルを知らないわけではない。
これまでの戦いの経験は、確実にゲッツに経験値を与え、同時にレベルアップさせていた。
鋼の左腕に意識を向け、体内に溶け込んだ魔術炉心に火を入れるイメージを固める。
義手に組み込まれた魔術回路に電流の様に魔力が走り、術式が起動する。
真正面から剣圧に拳でぶつかり合うと同時に、その風に裂け目を作って弾き飛ばした。
一瞬生まれた空隙に吹きこむ風を背に受けてゲッツは地面を蹴り、間合いを詰める。
「――ヒャハハハッ! こんくらいで潰れてくれるなよマッチョ爺!」
魔術回路から膨大な魔力を吹き出し、拳に圧縮した状態で叩きこむだけのシンプルな技。
しかしながら、小手先の技術等を抜きにした、実践で鍛えられた体捌きから放たれる左拳は異様な威力を誇る。
中級クラスの竜種並の膂力と破壊力を発揮する左拳のフックを、躊躇うこと無く素盞鳴尊の腹部に叩き込んだ。
(……アンデットとやらも有るようだが、喧嘩売られたならヨォ……)
「買ってやるっきゃねぇわなァ、んで持って勝つッ!」
買われた喧嘩は買うのがゲッツのスタンスだ。
真紅の軌跡を残し、ゲッツの足元の地面に放射状にヒビが入る。
軌跡は数条へと増えていき、一息で5発の打撃が一斉に素盞鳴の正中線に叩き込まれる。
轟音を立てて素盞鳴を吹き飛ばしたゲッツは、しかし油断をする事無く追加で口から魔力ビームを叩き込んだ。
土煙の向こうから、まだ倒しきれていない相手が出てくるのを予測して、ゲッツは腰を落として構えを取っていた。
>「は――ッ、てめェも楽しんで歌って奏でてきな。
ソッコー終わらせてまだグダグダしてるお前をにやつきながら眺めてやるさ」
「お前ってどこまでも自信家だな、さっさと終わらせてオレの美声を聞きにこい!」
指を立てて笑い返した時、周囲の風景が変わる。
アヤカさんによって転送されたようだ。そこには意外な人物がいた。
「静葉さん? エスペラントさんは一緒じゃないの?」
>「いや、暇だから」
その不自然な態度を見て何か変だな、と思いつつも、それ以上問い詰める事はしなかった。
>「ほんとは、速攻、行くつもりなんだっけど、あの人まだ目覚めないというし。」
>「しょうがないから、前の宮殿で肩慣らししましょう」
アヤカさんにひょいっと持ちあげられる。
運搬される事自体は慣れているのだが、一ついつもと決定的に違う事があった。
これは俗に言う所の……
「お、お姫様だっこ――!?」
>「あれ?、あなた鎧きた、ジャンヌダルクより軽いわよ?」
「そりゃ鎧着た人より軽いのは当たり前だから! 降ろせよー!」
オレの抗議なんてお構いなしにアヤカさんは足取り軽く走り、宮殿の前まで辿りつく。
>「やっほーきたきた。」
入り口で出迎えたのは、弓を持った女性武将のような人物だった。弓……?
まさかと思って聞いてみる。
「えーと……呪歌士クラスだって報告はあがってるよな?
まさか普通に戦闘訓練されるわけじゃないよな!?」
「ふっ、まだまだ青いなぁ。」
全ての、攻撃を受けても、なお平然としている。素戔嗚
「じゃが。」
周りのアンデットカテゴリー2〜10は全滅している。
「なら。」
素戔嗚尊の剣が青く煌めく。
「ぬん!」
仙気が一気に解放され、無限の斬撃がゲッツに襲う。
「あとは、お主たちに暫く任せる。」
放った後に、残りのA J Q Kが一気に襲う
その頃、フォルテたち、は
>>「まさか、普通に戦闘訓練するわけじゃ」
「っ?そだよ。」
あっさり言う、アヤカ
「でも、普通の武器じゃないよ。」
意味深な発言をする尚香
「えっと、これ」
そう渡すのは、本多忠勝の娘稲姫
「これは、三國志の時代の扇降ると」
忽ち突風が吹く。
「ね?使えるでしょ。」
どや顔する尚香。
「だから、これぐらい使えなきゃいけないの。自己防衛程度に」
「だから、私たちの弓を跳ね返す練習をするわよ。」
「アヤカは、甲斐姫たち押さえるのやってね。」
これまた変わりヱヴァンジェルに、
「ビャクと、全次元で抹殺許可が出てる。奴か」
「危険だな。さて……!?」
相対していた、怨霊は、こっちを向き
襲いかかってきた
だが、
「世界の理は俺に味方する故に」
「貴様の、攻撃は利かない」
さっと、一撃を食らわし、吹き飛ばす。
「こっちも、本気で行く 天地仙魔転生降臨」
全身が、オーラに包まれ一気に変わる
それは、四つの翼と、二つの魔の羽
「さて、ここで待機でも、これにはなっとかないとな」
これが、アサキムの本気 「天魔覆滅」
「ほんとは、町ごと吹き飛ばしたいが、しゃあない」
天と地を表す剣、ラクネルとエターナルを持ち構える
>「ぬん!」
目の前に襲いかかる、無数の斬撃。
それらを前にして、ゲッツは慌てること無く、息を吸い込み目を細める。
普段のゲッツには見られない落ち着いた様子は、師であった故ボルツのそれに似ている。
数こそ無数とは言えど、目の前の斬撃自体は直線を描き、交錯していた。
「――この程度の物理ゴリ押しなら、案外なんとかなるわな」
時折腕で弾き、同時に健脚で斬撃を飛び越え、咆哮で斬撃を打ち消した。
そして、一気に襲い掛かる各スートのエース、ジャック、クィーン、キングの化け物たち。
それらを見て、ゲッツが選んだ行動は、一つ。
全体の攻撃をギリギリまで引きつけた上で、全てをすれすれで回避してみせる。
ゲッツの首筋やえらの汗腺から冷や汗が漏れだすも、かろうじて16体の化物の相手は可能であった。
迫るJのアンデット達を前にして、ゲッツは牙を剥き生身の右手を振りぬいた。
(――折角の修行だ、体術一個一個確認してくか。
腰を捻って、爪の先端まで気合を入れて、後は全力で――ぶち込むっと」
天から襲いかかるイーグルアンデッドの心臓を真芯を捉えて爪で貫くゲッツ。
その威力は強力極まりなく、一撃でイーグルアンデッドは上半身と下半身を別れさせた。
多種多様な敵が居て、数も多いこの状況はゲッツにとって不利でもなんでもない。なぜなら、多対一こそが全方位殲滅師の本領。
戦場における一騎当千の二つ名は伊達ではない。どんな敵が出てこようと、ゲッツはそれに対応する策を見つけようとするし、取れる手段は実際に多い。
Jのアンデッドの残りは3体。
哺乳類や鳥などの恒温動物が多そうであるが、その分虫系などに比べて強度はそう高くはない。
一斉に襲いかかってきた残りの三体を見て、鈍色の瞳を細めて犬歯をむき出しにした。
左腕に魔力を込めると同時に、前方の空間を叩くように左腕を叩き込み、魔力の篭る衝撃を三体のアンデッドに打ち込んだ。
周囲の空気は竜の咆哮が駆け抜けたかのように微細な振動を続けているが、三体のアンデッドはそれを気にすること無く牙を突き立て、打撃を放つ。
しかし、次の瞬間だ。全体を睨みつけるゲッツが息を吸い込み、雄叫びを解き放つ。
「キシャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
その叫びを呼び水として、三体のアンデッドの体内に残っていた振動が増幅されていき、数秒後には粉々に砕け散る。
破片を振り払いながら、ゲッツは残るQ,J,Aのアンデッド、そして素盞鳴を見て口元を弓状に歪めた。
両手を強く、強く握りしめて全身に魔力を巡らせながら、さっさとかかって来いと、そう叫ぶような視線を向けた。
次に進み出たのは4体のアンデッド、カテゴリーはQ。
オーキッドアンデッドによってゲッツの周囲の空間は幻惑されかけるが、先程の竜種の咆哮によって周囲の空間には魔力が散っている。
即座に幻惑空間の完成はならず、その隙を狙うようにゲッツは鋼の腕を刃に組換え、真上から一刀両断に引き裂いた。
(腰が全ての軸。足の動作、重心の動きを意識しながら――相手の筋を断つんじゃなくて、裂くように。
抵抗のない動きが一番美しい型で、一番有効な力の振るい方だ)
返す刃で背後から襲いかかるサーペントアンデッドの蛇骨の刃を受け止めた。
一瞬の拮抗の後に、滑りこむように懐に潜り込んだゲッツはサーペントの腹部を貫き、真横に振りぬいて横に両断。
そのまま死に別れしたサーペントを蹴り飛ばしながら一歩前に動き、その奥から蹴りを放とうとしていたカプリコーンアンデッドに切っ先を叩きこみ吹き飛ばす。
「フォォォォウ!」
変幻自在な動きからカプリコーンアンデッドは衝撃並を放つも、ゲッツの咆哮によって真正面から打ち消された。
その隙を狙うようにしてゲッツは翼を展開し空を叩く無作法な飛び方で距離を詰め、そして心臓を貫いたまま天空に持ち上げ、地面にカプリコーンをたたき落とす。
致命傷ながらも、三日月状のブーメランを展開するが、発車する前に翼をたたんだゲッツの空中からのストンピングキックによって頭蓋を砕かれる。
これで、残るQのアンデッドは一体。タイガーアンデッドのみとなる。文字通りに獅子奮迅の大活躍である。
武器を持たず、素手でゲッツの前に立ちはだかるタイガーアンデッドを見て、こいつは戦士であるとゲッツは判断。
同じような素手のスタイル――但し生身の部位は少ないが――で、相対することとした。
タイガーアンデッドが距離を詰め、打撃を放ちゲッツのみぞおちに攻撃を叩き込むも、ゲッツは口の端から唾を吹き出したのみで踏みとどまる。
ゲッツが取った手段は――頭突き。ねじれた角を相手の頭蓋に叩きこむような豪快極まりない攻撃で、相手の額に大穴を開けて絶命させた。
飛び散る鮮血を振り払いながら、凄然とした様子でゲッツは静かに笑みを浮かべて、残り八体へと減ってしまったアンデッドを見据えている。
アンデッド達も、並大抵の敵ではないとようやっと気がついたのか警戒の様子を見せ始める。
ゲッツは決して弱くはないのだ。この修業が戦闘経験をつませるためのものであったならば、ゲッツに戦闘経験は十二分だったと言える。
なにせ、物心ついた頃から一歩間違えれば死に瀕する戦場で、捨て駒の人生を送ってきたのがこの僧兵系男子のゲッツ=ベーレンドルフだ。
殴ったりブレスを吐いて倒せる相手ならば、ゲッツにとって怖いものは存在しない。太刀打ち出来るかできないかではなく、戦えるかどうかがゲッツの判断基準だ。
次に足を踏み出したのは、Aのアンデッドだ。
虫系のアンデッドであるAのアンデッドは、どうやら様子見をしていた様で、一気にゲッツとの距離を詰める。
どうやら、一対一ではなく一斉攻撃に持ち込めば倒せると思ったようであり、たしかにそれは普通ならば間違った判断ではない。
スパイダーアンデッドが粘着性の糸を吐き出し、ゲッツの皮膚に牙を突き立て溶解させようとして。
スタッグビートルアンデッドが大顎を開きゲッツの四肢を両断しようとする。
その状態から一気に止めを刺そうと、マンティスアンデッドとビートルアンデッドが同時攻撃を放ち、絶命させようとする。
が、しかし。マンティスのカマキリの刃はゲッツの牙によって受け止められ、牙を突き立てたスパイダーは傷から飛び出した流体金属の穂先に頭蓋を潰された。
スタッグビートルの大顎と、ビートルの大剣はいつの間にか皮膚から浸潤し現れた外骨格装甲によって防がれ、押し返されている。
「――、舐めんなよォ?
数が多いのは認めるしよ、個性豊かなのも理解した。
だがよォ――この程度じゃ全然びりびりバチバチこねェってんだよ! たりねェぞォ!」
ゲッツの怒号と同時に、体から吹き上がる赤黒い竜種の魔力が装甲を進化させていく。
膨れ上がる装甲は瞬間的に炸裂し、無数の破片を周囲にばらまき一撃で4体のアンデッドを細切れにした。
皮膚からは即座に追加の装甲となる生体金属が展開されていき、全身を覆う白銀と真紅を基調とした生体的なフルアーマーを作り出す。
確かにアンデッドも化物であるが、きっと多くの人間がアンデッドの破片を浴びながら笑うゲッツを見れば、化物と彼の事も罵るだろう。
だが、知ったことではない。それでも戦いに生き、戦いに信仰を求めるのが、ゲッツの生まれた意義であって、誇りの根幹だからだ。
残ったKを前に、ゲッツは中指を立ててちょいちょいと誘うような動作を取る。
お前らで最後だ。そう口元で小さく呟き、気合入れてこいよ、と更に付け足す。
最後のアンデッドグループとの衝突が――始まる。
ギラファノコギリクワガタアンデッドが一歩を踏み出し、両腕の双剣を振りかぶり距離を詰める。
Kのアンデッドだけ有ってその戦闘力は極めて高く、ゲッツと互角に切り結ぶ。
だが、徐々にゲッツが速度と虫の膂力に追い詰められていき、鋼の義手が切り落とされる。
このまま止めとばかりに双剣を振り上げたギラファノコギリクワガタアンデッドは、ゲッツの剣によって首を切り落とされて絶命。
――切り落とされた鋼の右腕を口で捉え、刃に変形させた状態で首の力で叩ききったのである。
戦いを進めていくごとに、ゲッツの動きからは無駄が消え、本来の竜種の在り方に近い本能的な戦闘法が目立ち始める。
好戦的なものが多いものの、ここまで戦闘に特化して生まれてきたハイランダーは間違い無くゲッツ位のもの。忌み子と言われた理由もここにその一端が有るのだろう。
タランチュラアンデッドは、左腕からネットを飛ばし、毒の爪でゲッツを殺そうと地面を蹴った。
ネットに腕を囚われるも、距離を詰めたタランチュラアンデッドに向けて火炎のブレスを吐きつける。
怯んだその瞬間に向けて、再度火炎のブレス。そして、最後に魔力を込めた咆哮の光線を叩きこんで絶命させる。
赤い鱗の竜人は、胸元に刻まれたfの文字状の傷を輝かせながら、邪悪極まりない笑みを浮かべていた。
時折顔を歪め、正気に戻りかけるも、戦闘の狂熱とはまた別の狂気に囚われた気配がゲッツからは感じられる。
パラドキサアンデッドとコーカサスビートルアンデッドを前に、両腕を構えて笑い声を響かせる。
瞳に赤い光を宿らせ、全身から平時のものとは質を異ならせる魔力を吹き上がらせる。
暴虐という言葉がこれ以上ないほど濃密な魔力は触れるだけで周囲の物体を侵し、罅を入れていく。
それを抑えるように、鮮烈ながらもどこか穏やかな光がゲッツの歴戦の古傷から漏れだし、拮抗しあっている。
暴れる鼓動は、遠く離れたフォルテの耳にも聞こえたかもしれない。ゲッツの持つ、祖竜の狂気の精神が、霊的なラインで伝わってもおかしくはない。
「どうだ、かかって来いよ。あとはお前らだけだ。直ぐに原型を留めないスクラップにしてやる。
ドラゴンって存在の強さをテメェらに刻み込んでやる。誰が最強か戦いで決める?
そんなもん、ドラゴンに決まってんだろうが。だから見せてやる、教えてやる――ッ!」
一斉に飛びかかる二体の強力なアンデッドを前に、不敵な態度を崩さないゲッツ。
装甲が変化していき、全身の装甲が刺々しい装飾を纏い、赤黒く発光し始める。
にやり、と口元を歪め、両手を胸の前で合わせ、吹き上がる魔力に胸の傷から漏れだす赤い光を混合する。
「ティラノドライブ・エナジー!」
真紅が世界を染め上げた。
時間にしては一秒に満たない瞬間の後、既にそこにアンデッドは居ない。
荒く息を吐き、憔悴した様子のゲッツの翳した両手の先にある宮殿は――その一角を文字通りに蒸発させていた。
異様な高熱を圧縮した熱線を解き放ち、アンデッドの群れに全力で叩き込んだだけでこの威力。
規模は小さいものの、最大火力自体はかなりのものを誇っており。そのままゲッツは頭を押さえるようにしてうめき声を漏らして、地面に崩れ落ちた。
>「っ?そだよ。」
「おんぎょおおおおおおおおおおお!? 帰る! 今すぐ帰る!」
不思議生物 は 逃げ出した! しかし 回り込まれた! ……リーフに。
「逃げちゃ駄目だ、逃げちゃ駄目だ、モナーちゃんは預かっておきますから頑張って下さいね〜」
「お前いたんかい!」
>「でも、普通の武器じゃないよ。」
>「えっと、これ」
渡された物は、二つ一組の扇。
>「これは、三國志の時代の扇降ると」
試しに上から下に振ってみる。
すると突風が巻き起こり、向こうに置いてあった置物が倒れた。
うわーやっべー!
「うを!? す、すみませんそんなつもりじゃ……!」
>「ね?使えるでしょ。」
>「だから、これぐらい使えなきゃいけないの。自己防衛程度に」
>「だから、私たちの弓を跳ね返す練習をするわよ。」
「うわ、たたみかけ三段論法! しかも女性武将っぽい人わらわら出て来たし!――ちょわっ!」
鼻先を矢が掠めていき、斜め後ろに突き刺さる。問答無用で戦闘訓練が始まってしまったようだ。
しかも稲姫と尚香が二人掛かりで撃ってくるときた!
「えっ、次どっち!? ひぃ!?」
いつの間にか飛んできた脇腹を掠っていく。やべーぞ、運動神経云々以前にまず矢が見えない!
正直に白状すると超人達(ゲッツ含む)が戦ってるのを見てても何が起こってるのか分かんなかったもんね……。
戦った、そして勝った! みたいな感じ。
「ぎゃあああああああああああああ!! 本気で無理っす!」
派手に転んだ頭上を矢が掠めていく。
「あら、わざと外した矢しか撃ってないのに勝手にヘタレてるわ」
「予想以上にどうしようもないわね」
「あなた、体育2だったでしょう」
「うるせーよ!! 格ゲーですら始まった瞬間に負けるよ吟遊詩人が運動音痴で悪いか!!」
見かねたリーフが、ヘッドギアを外すと言う提案をしてくる。
「フォルテさん、これ外してみたらどうですか?」
「呪歌の訓練ならともかくこれには関係無いだろ!」
思わず声を荒げてしまった。
精霊の声が聞こえ過ぎて心身に異常をきたすのは、地上ならどこでも多かれ少なかれ悪い精霊力の影響を受けるからだ。
ここ仙界なら悪い精霊力にあたる事はないだろう。
それでも、自分の普段は出ていない部分が出てくるのは怖い物がある。
「関係大アリモナよ? フォルテが真の精霊楽師なら。
忘れたモナ? 音楽とは森羅万象、全てのものにはリズムがある」
呪歌――最も原初の魔法にして、遠い昔に忘れ去られた神の御業の名残。
音楽を極めた者は、宇宙の全てと繋がる事が出来るという。
精霊を操ったり、人の心に作用したりするのは、そのほんの一端らしい。
「……忘れるものか。きっと父さんには森羅万象を手に入れた瞬間がある、だからオレがここにいるんだ。でも……」
精神崩壊寸前まで追い込まれて危うく破滅の歌を歌いかけた時の事がフラッシュバックする。
まだほんの昨日の事だ。
「……?」
不意に、不思議な感覚を覚えた。何だろう、体が熱い。狂気的なまでの情動を感じる。
こんな感じは、以前にも覚えた事がある。ゲッツと初めて対峙した時。
よく覚えてないけど、何故かは分からないけど、あの時嘘みたいに戦えたんだよな――。
どこまでも高みにいけるような、届くはずのない星に手が届くような、そんな気がした。
だったら、この情動に身を委ねてみようか。ゆっくりと頭に手をやり、ヘッドギアを外した。
抑えられていた髪がふわりと風になびく。それを合図にしたように、表情が豹変するのが自分でも分かる。
妖精が元来持つ無邪気故の残酷な部分を増幅したような笑み。
「くくっ、さっきのは冗談だ。遠慮なく当ててみろよ」
「やっと本気になったようね」
相変わらず矢の姿は見えないが、そんな事は関係ない。
オレが頼るべき感覚は? あの時何を頼りに戦った? そう――音。
弓をつがえる音。引く音。飛んでくる風切音。全て筒抜けだ。
「そこっ!」
まず一つ、楽勝で矢をはたき落とす。
音を頼りに、飛んでくる矢をはたき落としていく。
そうしながら、次にどうする? 鍵は――リズムだ。
リズムとはすなわち規則性と周期性。完全な不規則など、意思を持つ者にとっては不可能だ。
たとえ本人が意識していないとしても、たとえ意識的に隠そうとしても、そこには必ず何らかのリズムが発生する。
それを読みとってやればいい。後はそれが単純か複雑かだけの違いだけだ。
矢を叩き落とす毎に、矢が飛んでくる間隔が早くなっていく。
が、一度リズムを読んでしまえば、どんなに速い曲だって怖くない。
なーんだ、要はドラムを叩くのと一緒じゃん、朝飯前!
「そーおれ!」
さては矢が尽きたか――最後の矢を叩き落とし、ポーズをキメる。
「これ以上やっても当たらないぜ! お前達の”リズム”、読み切った!」
それの周囲には異常なまでに集っている様に見えた犬のような原形質の肉塊
ティンダロスの猟犬が最早確実に千を超える数が伽椰子の前に突如現れる
理由は簡単、獲物として認識された事そして時空を捩じ曲げる最悪の存在に対して送られる
執念深き不死身の追跡者として使役されているからである。
そんな存在に目を付けられた以上唯で済むはずもなく、全てのティンダロスの猟犬が伽椰子に襲い掛かる
しかし――
「…………やはりまた遭い見えたか佐伯伽椰子」
半ば自我が無くなり、無機質な考えに支配されていく中恐ろしい数の猟犬たちは
伽椰子の腕の一振りであっけなく粉砕されるがその度に数が増えていき彼女の周囲を覆い
隙を与えぬように矢継ぎ早に襲い掛かるののそれも時間稼ぎにしかならないだろう。
しかし、そんな状況でもニヤニヤと嫌らしく吐き気のする粘っこい笑みを浮かべて
意思が無くなりつつある街中に指を指すと、阿鼻叫喚の坩堝と化していた。
そこは正に地獄と言っても良い、街の人々に憑依した伽椰子が殺し合いを始めたのだ。
奴はエスペラント=ビャク・ミキストリとの出会いは出身世界を滅ぼした最初の時期から殺し殺される関係であり
彼が最早世界を守るためだけの殺戮機械として取り込まれた事により既に遡り過去の彼を殺しても別の彼が誕生し
同じ役割を継ぐという事を理解しているため、どう足掻いても倒せない事として認識しているからこそ
彼に対しての嫌がらせとして無辜の人々が殺し合うという事を仕向けているのであった。
「…貴様――!」
此方も残っている自我により激昂と共に腕を振り上げてティンダロスの猟犬により纏わりつかれ
身動きが完全に取れない伽椰子に対して黒き魔力で作られた十字の剣―無想剣が尋常ではない数で出現し
例え霊体だろうと干渉し、当れば唯では済まないように全身を串刺しにする。
「くそ…街の人を止めねばならないが―奴は何を仕出かすか分からん故に目を離せない
それにこのまま放置する訳にはいかない、ボルツ氏との約束のためにも!」
このヱヴァンジェルを守るとボルツとの約束をした以上は自分の出来る全てを持って
せめて果たしたいと考えているが、相手は全生命の敵と化した存在ゆえに意識を保っていられるのも奇跡なのだ
下手をすればこの場所すらも滅ぼさねばならない、奴にはそれが分かっていて出てきたのかもしれない。
だが、そんな時に伽椰子は全身に纏わりついていた猟犬を全て自身の怨念の力で吹き飛ばし
串刺しの状態であろうとも気にもせずにしていたが、そんな時にアサキムが来ている事に気づくと伽椰子が襲い掛かる
「これは好機か…?ならばこの街全域に力を行き渡らせる
あの世に行け、全力でな!!」
ヱヴァンジェルに対して瞬時にバクルス状の詠唱端末杖形態にすると
この都全体を対象にした壮大な破魔系攻撃魔法マハンマオンを発動させると
憑依されて殺し合いを始めていた者達は一斉に凄まじい苦しみと共に昇天し倒れていく
だがそれも伽椰子も例外ではなく、今持てる供給される全ての力も注ぎ込んだため
尋常ではない苦しみと怨嗟の声を上げて蒸発する。
「奴がこの程度で終らせるとはとてもじゃないが――ッ!!」
この先を言おうとした瞬間、一気に意識が失われると其処には無慈悲な殺戮機械である永久闘争存在が現れる
それは大勢のティンダロスの猟犬たちと共に何処かと一瞬で消える。
着実にこの世界での呪怨が広まりつつあった。
>>43 「ふふふ、後で、修理費用はもらうからな。」
ニヤニヤしながらも、崩壊した宮殿から出てくる、素戔嗚
「だが、その程度じゃ無意味じゃよ。」
すると、ミンチになっていた、A〜Kの全てのアンデットが復活!
「ほれ、もう一度、戯れろい。」
一斉に、アンデットが襲いかかる。
【エンド〜レス】
>>46 「まぁ、この程度じゃ終わらないよね。」
完全に、不完全闘志化した、ビャクは、倒さない限り止まらない。
「さて、」
【キャモナブラストシェイクハンド エクソシスト プリーズ】
ウィザーソードガンに特殊なリングを使い、発動される。
「もっと、苦しんでもらおうか?」
乱れ撃つ。
だいぶ弱ってきたのか、もう一度襲ってくる。
「ビャクも解ってねぇな 力だけじゃ、どうにもならねぇときもあるんだ」
その、怨霊にとってもデカい釘を打ち込む。
「どうにもならねぇときは封印すればいいんだよ」
蒸発しようが、まだ生きてる怨霊は、とてつもなく、生命力が高い。
なら、封印すればいい、永遠に
「まぁ、中でも力は異常消費される。諦めろ」
そして、その怨霊は、消える。
「とりあえず。町を元に戻すか。タイムベント」
町と、人を怨霊がくる以前に戻してやる。
「さて、仙界に戻ろうかねぇ。」
瞬転の術で仙界に向かう
>>45 「凄い、これが、フォルテ。」
「つーか、もうそれで生活しちゃえよ。」
「無理だよ。その弱点を克服するために安心院に会いに行くんだから。」
そんな話をしていると、
「次は、私たちが相手だ。」
という、雑賀孫市【BASARA】
武器は、鉄砲、ミサイルランチャー
「なんで、わらわまで。」
と、愚痴を言う。ガラシャ【無双】
武器は、火の玉とか使う腕輪
「文句言わない、アサキムの命令なんだから。」
宥める、練師【無双】
「さぁ、いざ!!!」
第二試合開始である。
「ちょっと、落ち着きなさいよ。修行の邪魔でしょ」
「うるさい、すっごい美形なんでしょ。見たいに決まってるじゃない。」
「機会は、アサキムが何とかしてくるから」
「ウルサい、今みたいの今」
宮殿の中では、熊姫っ、もとい甲斐姫と、アヤカが取っ組み合いになりながら。
必死に甲斐姫を止めている
>「ほれ、もう一度、戯れろい。」
一度完膚なきまでに粉砕したはずのアンデッドが、即座に復活する。
目の前に雲霞と立ちはだかる16体の異形たち。戦闘力自体はゲッツにとって大した脅威ではない。
確かに膂力は強く、その性質は多彩かつ強力なのだが、ゲッツの異様な耐久力と攻撃力の前では、それらは大した障害には成り得ない。
だがしかし、不死という性質それのみが、ゲッツにとって与し易い相手を最も厄介な敵へと変貌させた。
術師であればアンデッドを祓い昇天させられるだろう、吟遊詩人であれば呪歌によってそも戦闘自体を回避できるかもしれない。
パーティの他の2人にとっては、不死程度どうってこと無いのだろう。だがしかし、ゲッツは違う。
ゲッツに出来るのは、壊すことと殺すことだけで。そんな面倒な絡め手など使用できるはずがないのだ。
「――ち、ィ」
舌打ち。それでもゲッツは瞳の奥に、祖竜の一面――狂熱をチラつかせながら、立ち上がる。
展開されている装甲はこれまでの形態で最も攻撃的で凶悪なデザインとなり、周囲の空間を熱量を持った魔力でじりじりと焼き付かせ始めていた。
強大な力を内に秘めているが、身体構造自体は通常のハイランダー種の竜人と変わらないゲッツは、その強大な力に耐え切れない。
骨格がごきりと軋みを上げ、その激痛に眉根を寄せるが即座に体内に溶け込んだ生体金属が骨格と同化し補強、修繕。
アンデッドが襲いかかる瞬間に、右腕に力を込めて真横に振りぬけば眼前のアンデッドの全てが数mは吹き飛んだ。
それでも殺しきれず、ゲッツに何度も飛びかかっていくアンデッド、粉砕するゲッツ。
砕き、砕かれ、殺し、死にかける。焼いて焼かれて裂いて裂かれて。
それが何度も、何度も何度も続く。無限とも言える無駄な戦いが、数時間は続いていただろうか、
もう何度目か分からない復活を遂げたアンデッドの前には、ピンチからの強化復活を幾度も続けた、5m級の竜が立ちはだかっていた。
ゲッツの外見は竜人種の中でも割りと人の比率が高かったが、現在の外見はどう見ても人の因子を欠片に持つ竜そのもの。
祖竜ファフニールの再臨と言っても過言ではない程の禍々しく、しかしながらどこまでも力強い竜人の姿がそこには有る。
「グルルル……」
口の端から赤黒い焔を散らしながら、飛びかかってくるアンデッドの喉笛を牙で捉え、口の中でブレスを発射。
炸裂するブレスに粉々に体を粉砕され地面に叩きつけられるアンデッドを見て、黄金の瞳をぎらつかせた。
(――もう、この際だ。
制御できるかできないかは、問題じゃねぇな。
一回、限界まで挑戦してやるしかねェか。……殺しきれなきゃ、俺はこの先役立たずの馬鹿野郎でしかねェ。
……なァ、祖竜ファフニール様。きっと、俺ァアンタの血が濃いんだろうな、なんでもぶっ壊して、ぶっ殺して。
壊すしか能が無いのは、きっと祖竜様、アンタの血を引いちまったからだ。
でもよ、だったらよ。せめて意地として、ファフニール様。俺ァアンタよりももっと強い竜神になってやンよ。
殺せない奴をぶっ殺して、壊せない奴をぶち壊す。そんな――絶対無敵の、災厄染みた竜人に――!)
ゲッツ・ディザスター=Eベーレンドルフ。
ミドルネームはゲッツの魂に刻みつけられた、忌み子としての忌み名だ。
それには、どういう意味があるのか。厄災の子である定めを背負わされた竜人の本領は――。
「Fortes fortuna adjuvat.(運命は、強い者を助ける)」
ゲッツが、口元で魔力を含んだ呟きを口にした。
祖竜信書、第一章一節。
運命が味方をするのは何時だって強者であり、良い定めを待つ者にはいつまでも運命の助けは訪れない。
運すらも引き寄せるほどの強い武力と意志こそが、戦場での全ての流れを支配し、力を持って運命すらも従える者が神となれる。
分かりやすい理論だとゲッツは思う。そして、己はそれが出来る者だとも、ゲッツは確信していた。
(――アイツが、俺を勇者に仕立て上げてくれンならヨォ。
俺も、アイツの作る勇者様なんかより遥かに強くて気高くて格好良くなんねェと――ダセェよなァ。
………………行くぜ)
息を吸い込み、人の形質を失いつつ有る竜人は、鋼の腕を刃へと変じ、右胸に腕を伸ばす。
刻まれた傷に腕が沈み込み、不思議なことに血をこぼすこと無く、沈み込んだ腕は引き抜かれる。
引きぬかれた腕に握られていたのは――鋼の心臓。友の名を刻み、戦場での経験を刻み込んできた、ゲッツの核と言える部位。
それを左腕で握るゲッツは目を細めてアンデッド達を睨みつける。
アンデッドが一歩引いた。これまでに引くことなど見せなかった、あのアンデッドが、一歩後ろへと。
「――竜刃昇華[シェイプシフト]、完全竜化[ドラグトランス]」
竜人種特有の変身能力、竜化。
本来ならば、肉体の一部の部位を完全に竜種のそれへと変貌させる程度の物であるが、ゲッツの竜化は別物だ。
完全竜化。己の中に存在している祖竜と祖人の性質を強く認識した上で、魔術炉の支援を受けて発動する竜化は、全身の完全な竜種化を可能とさせる。
真紅の閃光が宮殿を染め上げ、光が止んだ宮殿には、暴虐の化身が君臨していた。
煌々と輝く黄金の瞳、血よりも尚鮮やかに光り輝く鱗、その上に装着された聖性すらも感じさせる白銀の鎧。
ずらりと並んだ牙の隙間からは、赤黒い焔と青白い焔が混ざり合う独特の火炎がチラついている。
「――――ホロビロ、雑魚ドモガァ!」
人とは異なる声帯で人のような声を発する以上、どこかぎこちなくなるのは必然。
だがしかし、その虚仮にされた怒りを含んだ雄叫びは、古代から人と戦い続けていた竜種の恐怖を呼び覚ます。
アンデッドに恐怖など無いのかも知れぬが、今この瞬間に於いて、アンデッドは距離を取るものと恐慌に陥り跳びかかる者に二分された。
だが、刃も衝撃波も網も蹴りも拳も、竜種の強固な肉体と、暴力的な魔力、強大な装甲の前には無為になり得た。
この竜種程、力という言葉が相応しい存在もそう存在しないだろう。
跳びかかるアンデッドの群れ、逃げ出すアンデッドの群れ。それらを見て、ふん、と鼻を鳴らす。
「カァッ!」
体内の魔力炉で魔力を生み出し、体内で練り上げた魔力を口から放射するだけの技、咆哮。
真紅の衝撃はアンデッドに命中し――、灰へと還して消滅させる。
不思議なことに、これまでに見せた通常のブレスと外見は変わらないのにも関わらず、アンデッドは蘇生しない。
10m級のドラゴンは、白銀と真紅の翼をはためかせて高速で移動し、腕をなぎ払い爪でアンデッドを両断する。
両断され、引きちぎられたアンデッドもまた、蘇生しない。
「ギシャッ! ギシャシャシャシャシャシャ――――――ッ!!」
16体のアンデッドの無残な死体の上に浮かぶのは、災厄の竜。ゲッツ・ディザスター・ベーレンドルフ。
宮殿全てに響き渡るような豪放な竜の雄叫びが開放され、魔力が仙界を揺るがした。
暴威を従える竜王は、黄金の双眸を素盞鳴尊に向けて、念話を送る。
『おい、素盞鳴。
コレでとりあえずアンデッドとやらはぶち殺したわけでよォ。
――次は、てめェをぶち壊せばいいのかァ?』
普段と変わらないように見えるゲッツの態度。
だがしかし、破壊の衝動は隠しきれず、威圧感は周囲の空間を歪めている。
一歩を踏み出せば、足元のアンデッドは粉微塵に粉砕され、もう二度と復活しない。
第一の関門を超え、第二の修行が始まろうとしていた。
>「次は、私たちが相手だ。」
>「なんで、わらわまで。」
>「文句言わない、アサキムの命令なんだから。」
並び立つ銃使いと魔法少女と弓使い。
まだ呪歌の修行にはいかせてくれないという事か。まあいいや、やってやる!
「深い深い森奥に迷い込んだ村の娘、色あせた手紙を持って夜の館にたどりつく
Bad∞End∞Night――ダンスパーティーの始まりだ!」
それは、不思議の館で繰り広げられる狂乱の宴の歌。
>「ちょっと、落ち着きなさいよ。修行の邪魔でしょ」
>「うるさい、すっごい美形なんでしょ。見たいに決まってるじゃない。」
>「機会は、アサキムが何とかしてくるから」
>「ウルサい、今みたいの今」
「見ていいぜ。折角のショータイムだ。観客は多い方がいい!」
背に妖精の翼を顕現し、足を地面から僅かに浮かす。
今なら出来る、歌いながら踊る反則技が。
たとえ起こる物事は自分のあずかり知らぬ所で決まっても、それにどんな意味を与えるかは全てが自分の手の内、それが吟遊詩人だ。
戦いが苦手なら戦いと思わなければいい。 リズムに乗って歌って踊ってやれ。
声を使い分けて一人八役のミュージカルの始まりだ。
「不気味な洋館の 壊れた扉を叩く」「誰かいませんか」「おやおや、お困りですか?」
「ヨウコソ・・・」右手で矢をはたき落とし、「不思議ノ館ヘ・・・」左手で鉄砲玉をかわし、
「お茶を召し上がれ♪」両手で扇を一閃し火の玉を吹き散らす。
「あ、あれは古事記に記された神楽舞《カグラマイ》――呪歌による加護を自分自身にかけて戦う神代の技!
加護を自分にかけると他人にかける時とは桁違いの効力を発揮する……が動悸息切れで普通は不可能!
若者の体力低下が叫ばれ口パクライブが常識となった現代では忘れ去られた禁じ手です!」
リーフが解説を始めた。そうだったのか! 解説ありがとう!
そりゃ吟遊詩人がここまで戦えるようになるんだから桁違い、だよな。
「皆々集まって 客人は「値踏み」をされる」
普通ならこの辺で相手の戦力分析とか入るんだろうな。
でも知らん! バトルもの的なノリはよく分かんねー。とりあえず派手にやればいいんじゃね!?
「でも、こうして会うのも何かの縁」「ナラ、パーティー、パーティー!!」
「歓迎しよう!」「Hurry、HurrY!!」「ワインをついで」「どんちゃん どんちゃん♪」
「乾杯しましょう」「Are you readY??」「準備はいい?」―――「さあ始めよう!」
舞い踊りながら、矢を弾き返し、弾頭を逸らし、火炎球を叩き散らす。
「君が主役のcrazy night ワイン片手に洒落こんで ほどよく酔いが回ったら 楽しくなってきちゃった?
謳え踊れ騒ごうぜ 酸いも甘いも忘れてさ 気が狂っちゃうほどに楽しんじゃえHappy nighT」
オレは遊びに夢中な子どものように心の底から笑っていた。
一緒に遊ぼうとでも言う様に甲斐姫を手招きする。
解放された甲斐姫は、鞭のような剣を振り下ろしてきた。飛び退って避けてウィンク。
そのままじゃれ合うように舞い踊る。
歌の歌詞は、狂乱の宴から少女を襲う不穏な予感へと移る。
明けない夜、止まった時間、逃げ込んだ部屋で見たのは無数の棺。
でも大丈夫、これはBad Endの筋書をブチ壊す歌だ。
「君が主役の Crazy nighT 台本どおりに進むのかい? 今宵はどうなる? EndinG 全てはそう、君次第さ
探せ 探せ Happy enD 順番間違えたら終・わ・り True enD は棺行き? さあ、今夜も Bad ∞ End ∞ Night?」
そして歌の中の少女は、”ハッピーエンドの鍵”を拾う。
オレはモナーを呼び寄せ、二本の光の短剣に変化させて武器をそれに持ち替える。
「私が主役の Crazy nighT ナイフ片手にしゃれこうべ ほどよく振り回したら・・・ 楽しくなってきちゃった
逃げろ!逃げろ!一目散に! 舞台、台詞も忘れてさ 気が狂っちゃうほどに 壊しちゃえ Bad ∞ End ∞ Night」
甲斐姫と何度も切り結び、剣戟の音が響く。
これってあの3人との勝負だったよね。ま、いっか! 脚本? 筋書? ンなもん改変するためにあるのさ!
「君が主役の Crazy nighT キャストも舞台も無くなって物語が終わったら さあ、みんなで帰りましょうか
歌え 踊れ 騒ごうぜ 酸いも甘いも忘れてさ 気が狂っちゃうほどに 楽しんじゃえ Bad ∞ End ∞ Night」
光の剣を甲斐姫の喉元に突き付けてぴたっと止める。
その時、膨大な魔力の波動を感じ、竜の咆哮が聞こえた。思わず笑みが零れる。
「ふふっやってるやってる。
――安心しろよ。どんな残酷な運命も、どんなに完璧なBad-Endの舞台も、オレの手にかかればぶち壊れだ。
なぜならオレはハッピーエンドしか語れないんだよ! 頭の中がびっくりするほどユートピアだからなあ!」
狂気的なまでに楽しげな笑い声を響かせながら、アヤカ導師を振り返る。
「今の聞いた? あれの手綱を握ろうと思ったら生半可な呪歌じゃ通用しないぜ?
そろそろメインディッシュ、いいだろ?」
「はぁ、滅茶苦茶だ。」
アサキムは、呆れはて、コード天魔覆滅を解除
「ゲッツ、次は俺が相手になろう。」
すぐに、ゲッツを探し、相手になる
(ふーん、不死身殺しか。やるねぇ)
そう思うと、勢いよく、攻撃を始める
「パワーファイターは、お前だけじゃないってことを教えてやる。」
羽を使い勢いよく、突撃
回転しながらのキック
左足で、ゲッツの体を音速で突き上げ
さらに、追撃一気に、追いつめる。
「しまいだ。ソニックパニッシャー!」
アサキムから、ゲッツに向け音速の破壊光線が向けられる。
「うーん、メインディッシュって行きたいんだけど。」
「セイレーン。アサキムが大のお気に入りで、ベタベタ触られんのがやで、来ないんだけど」
「強制で、来させる………だめだ」
そこで、一同が、見たのは、ゲッツに一方的なダメージを与えているアサキム
「介入する勇気ないわ。まつ?」
「いや?。マギがいるし大丈夫か。」
そう言うと、フォルテにヘットホンをつけ。そのまま抱え、セイレーンの所に向かう。
「さて、ついたよ。」
というが、いかにもセイレーンがいる洞窟とはかけ離れた。一戸建て
「さっ、行ってらっしゃい。」
ドアを上げ、フォルテを突き飛ばす。
そうすると、フォルテくんは落ちて、死亡しました。
fin.
「まっ、終わらないんだぜ。」
そう言うのは、セイレーンこと安心院なじみである
>「パワーファイターは、お前だけじゃないってことを教えてやる。」
「パワーファイタァ? ザケンナッテノ、コノ屑ガヨォ。
――滅竜ファフニール様に、吹イタもんだなァ!? 神仙風情が甘くみてんじゃ、ねェぞオオオオオオオオオオオオオ!!」
アサキムと攻撃を交わすドラゴンの意識は、いつしか祖竜のそれと入れ替わっていた。
真紅の瞳をギラつかせた、狂熱の竜の威圧は、先程までの狂っていたとはいえどゲッツのままだった状態の比ではない。
羽の一振で宮殿の一角が灰燼と化し、爪の一薙で大地が砕け散る。もはや、パワーファイターという言葉はふさわしくない存在。
文字通りの殲滅者。全方位の全存在に対する絶対無敵の天敵、滅ぼす王、灰燼の主。
神話において、彼の名はこう伝えられる――滅びの使者、滅竜ファフニールと。
相手の蹴りを喰らい、音速で叩き上げられながらも、反撃で爪を叩き込むファフニール。
障壁で防がれるも、アサキムの障壁を瞬時に飲み込み粉砕し、本体に一撃を食らわせ吹き飛ばした。
強い。概念がどうこうとかそういう小難しい話を抜きにして、力≠ニいうものの存在を強く感じさせる、孤高の強さの一つだ。
その力の質は――もしかするとアサキムは知っていてもおかしくない。
「峻厳のアイン・ソフ・オウル、滅竜ファフニールに――こんな攻撃が効くかよ、アホかァ!? 馬鹿なのか直ぐ死ねやァ!」
ローファンタジア崩壊時に戦った存在と、滅竜の力は極めて酷似しているのだ。
蘇生不可の死を与え、世界に歪みを齎すほどの大きな力を持つ存在、すなわちアイン・ソフ・オウル。
あの時彼は、頂天魔アイン・ソフ・オウルと名乗っていたのだが、この竜もアイン・ソフ・オウルと名乗る。
一体これはどういうことか。謎は膨らむばかりだが、今はそこに思考を巡らせている暇はない、あり得ない。
>「しまいだ。ソニックパニッシャー!」
放たれた音速の破壊光線、たしかに極めて強力だ。ゲッツならばそのまま終わってもおかしくはない。
そう、ゲッツであればの話だが。
今ここに居るのは、ゲッツ・ディザスター・ベーレンドルフではなく、滅竜ファフニール。
だとすれば、ここで終わるはずはない、終わることがありえない。
「しゃらくせェ――!」
破壊光線に対して、右の爪を揃えて爪を叩き込むファフニール。
あろうことか、その破壊光線と強大な爪は拮抗し、そして数秒の間の後に、砕かれる。
弾かれるでも耐えられるでも吸収されるでもなく、砕かれた。
滅竜の伝承には、全てを滅ぼすと書かれていたが、それは文字通りの意味で、全てを滅ぼす存在である事を示していた。
メタ的な視点で言ってしまえば、倒せない設定のボスだろうが、壊されることを考慮していないオブジェクトだろうが問答無用。
壊すと決めてしまえば攻撃は通り、通ればそれを破壊する。それだけの力。だからこそ、隙が存在しない、故に強い。
「……チッ、うるせーな。
わーってるよ、あいあい、ちょっと暴れてぇくらい容赦してくれや。
な、ちょっとだけ。あと半世紀暴れる位だからよォ――。へ? 暴れ終わる前に更地になるゥ?」
悠々と空に浮かびながら、何かと会話をするファフニール。
ゲッツに酷似しているが、正直な話ゲッツよりも2倍くらい粗暴だ。流石ご先祖。
半世紀暴れるやら、世界が更地になるとか物騒な話題が展開されているようだが、会話が終わったようで少ししゅんとなった様子で地面を見下ろし。
「千年とちょっとぶりか、寝すぎたかねェ。
……まあいい、我様に歯向かうたァ良い度胸だ。
気に入ったぜ神仙。今から殺してやらァ」
怒気と殺意と戦意と壊意、あらゆる攻撃的な感情を携えて竜はアサキムを睨みつけた。
両の腕を揃え、何かを開くように腕を開き、胸を張る。
空間をひしゃげさせるほどの魔力を用いて、魔術と呼ぶには余りにも強引すぎる行程を持ってして、業を発動させる。
「憎悪と怒りの獄門[エターナル・ゲート]」
魔力と存在力で創りだした空間の歪みに、赤黒い獄炎を吹き付けるだけの技。
何百年も修行したでもなく、神の力を用いたでもない、絶対的な力が有れば出来るだけの簡単な技だ。
だが、それをこの竜が用いたのならば、それ一発が全てを終わらせる終末の呼び声と化す。
創りだされた空間の歪みが、ファフニールの火炎によって文字通りに粉砕される。
粉砕されることによって周囲に生まれた時空の空隙に火炎が飲み込まれると同時に、周囲の空間に罅を広げるようにして火炎が空間を焼き尽くしていく。
アサキムの周囲半径一キロ程度の空間を覆った空間の裂け目から火炎が漏れだしていき――炸裂。
360度全ての方向から、空間を引き裂く獄炎が襲いかかる。
そして、勝ち誇ったように高笑いを響かせるファフニール。ローファンタジア崩壊時もかくやという大惨事が起こりつつ有った。
「おうおう、ファフニールってあんなに強いのか?素戔嗚尊?」
「奴め、活性化しておるわ。我と戦ったより。」
素戔嗚覚えろよ。と完全にプッツンいってる。アサキムがいた。
>>「憎悪と怒りの獄門」
確かに、一瞬だが、範囲一キロが燃えた。かと思ったが。
「収束、倍加、反転、滅殺。」
その言葉のとうりに、その火を収束、魔力で倍加、向きをファフニールに反転、ぶつける。
「オマケって事で、コイツも」
召喚魔法で、この前使った、全体用ではなく、実物大の50mのロンヌギヌノ槍を何十本も刺す。
「まだまだ、四面楚歌」
天地右左様々の方向から、重力と彼のイヤな音をぶつける。
「god only knows 死に神ちゃん頼むよ。」
ファフニールの魂を慎重に回収する。
ちなみに、強引なので、かなり痛いです。
「はぁ、これじゃあ安心院の所にはいけんだろうな。まぁ、大丈夫だろ。」
>「強制で、来させる………だめだ」
>「介入する勇気ないわ。まつ?」
>「いや?。マギがいるし大丈夫か。」
アヤカさん達は一端どこかに転移したが、すぐにそのまま戻ってきた。
何か尋常ならぬ事があったようだ。
「何があった……? 答えろ!」
詰め寄るも、ヘッドホンを付けられた瞬間に疲労感に襲われ座り込みそうになった。
そこをすかさず抱き上げられて運搬される。
>「さて、ついたよ。」
「ここが……?」
どう見ても庭付き一戸建てだった。
狼狽えていると、ドアを開けて中に突き飛ばされた。
>「さっ、行ってらっしゃい。」
「うわぁッ!?」
踏み出した場所に床は無く、そのまままやかしに吸い込まれるように意識が途絶えた。
♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪
「ほらほら、そんな所でうたた寝して〜、紅白歌合戦始まっちゃうよ!」
「ん…?」
オレを覗き込んでいるのは誰だ? なんだ、母さんか。
もぞもぞと起き上がる。コタツの上には蕎麦を食べた痕跡と、蜜柑の山。
父さんが蜜柑の皮をむきながらこんな事を言う。
「お前もいつか出れるといいなあ。やっぱ出るとしたらピンク組かな」
「ピンク組は謹んでお断りいたします!」
ピンク組は赤と白の間という意味で何百年か前に諸事情につき追加されたらしいが
今やアニキやオネエに席巻され、専ら兄ソンで勝負するウケ狙いチームと化している。
いや、そんな事よりも何か大事な事を忘れている気がするんだけど……。
「はいこれ」
「タンバリン……だと!?」
母さんがタンバリンを差し出す。そうか忘れている物はこれだったのか。
父さんと母さんは当然のごとくタンバリンを鳴らしながら歌い始めた。
「ここはカラオケ屋かっ! やめろよ近所迷惑じゃん!」
馬鹿両親から玩具を取り上げようとする。部屋の中を逃げ回るバカップル。
「お前は小さい事を気にしすぎなんだ。そんなんじゃスターになれないぞ」
「そうそう、大物なら何が起こってもどーん!と構えてなきゃ!」
「うっせーそれ渡せよ!」
騒いで笑って、他愛のない日常の一コマが過ぎていく。
はずなのだが。――おかしい。いつまでたっても紅白歌合戦が終わらない。
ヤバイじゃん、紅白歌合戦が終わらなかったら年が明けないよ!?
そういえばさっきからずっとピンク組が兄ソンを歌い続けている。エターナル兄ソンだ。
時計の針を見てみると、午後11時半で止まっていた。――そういう事か。
「父さん、母さん、オレ行かなきゃ……! 友達との大事な約束があるんだ」
「ハハハ、こんな夜中にどこに行くんだ」
立ち上がって、ソファーの上に置いてあった猫のぬいぐるみを手に取る。
猫のぬいぐるみ……モナーはキーボードへ姿を変える。
そして歌い始める。まやかしの安息を打ち破る破幻の歌を。
「拡散する静寂の時 掴んだ手 この目に写すもの描く視界が 徒に僕の心臓を突き刺すように 痛みをただウツして光る」
記憶が次第に戻って来る。アイツと消えない傷を刻み合い、心臓に名を刻んだ事。
母さんに自分がいない間の世界を頼まれた事。
「拡散する 絶望の声 離した手この目に浮かぶものかき消す言葉は約束を 僕の体に刻み付ける今 感覚は 虚空に消える」
決めたんだ。アイツを伝説の勇者にするって。たとえ悪の竜王の化身だったとしても――
「覚醒する 再誕の時 握った手この目に光るもの 輝く世界は色あせる僕は新たに踏み出していく
たとえこの僕の心に意味はなくとも今この命 零に 変わる」
――世界が、ガラスが割れるように砕け散った。
♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪
目を開けると、黒髪ヘアバンドのセイレーンがいた。
「安心院さん…ですか?」
「早速試させてもらったが幻術を見事打ち破ったな。第一段階合格だ。
次は呪歌の基礎理論からみっちり……と行く予定だったが事情が変わった。早速実践にいってもらう。」
「ひぇえええええええええええええええええ!?」
セイレーンの脚で捕まれ、猛スピードで飛ぶ。そこでは巨大な竜が暴れているのだった。
>「憎悪と怒りの獄門[エターナル・ゲート]」
>「収束、倍加、反転、滅殺。」
安心院さんから捕まれたまま、遥か上空から下の光景を唖然としながら見下ろす。
なんか燃えてるね。えーっと、うん。もうオレの語りで表現できる範囲を超えてるわ。
と思ってたら何を考えているのか地面に降ろされた。
何かとどめを刺し切れなかったらしく例の美少女死神が必死で頑張ってるんだけど。カオス。
>「はぁ、これじゃあ安心院の所にはいけんだろうな。まぁ、大丈夫だろ。」
「噂をすれば来てやったぜ? それより今のロンギヌスの槍じゃなくてロンヌギヌの槍になってたぞ
こんな時にふざけたパロディ技使いやがって」
と、安心院さん。今の槍が降る技は失敗だったらしい。
成程、エクスカリバーならぬエクスカリパーと同じような類ね。1ダメージしか通りませんってやつ。
って納得している場合ではない。
「こんな所にオレ連れて来てどーすんだよ! こんなんお前らでどーにかしろよ!」
安心院さんはやれやれ、といった調子で応える。
「気付かないか? お前の勇者様だよ」
「えっ、だって気配が……」
ゲッツなら姿が変わっても何となく分かる。でも、今目の前にいる竜は気配が別人ならぬ別竜だ。
「乗っ取られちまったんだよ。 制御できないと分かっていながら、自分の中に潜む悪竜の力に手を出した」
「あの馬鹿、どうして……!」
理由なんて分かりきっている。アイツはそういう奴なのだ。意を決してヘッドホンを首まで引き下ろす。
発狂するのではないかという不安も無いでは無かったが、異界の神に対峙した時には決定的に違う事がある。
得体の知れない物に対する怖さではなく、純粋な力に対する恐ろしさ。
もっと分かりやすく言えば、あれキショい、こっちは格好いい。SAN値直葬になるかならないかにおいてそこは超重要。
この際だ、ゲッツのご先祖様がどんな奴なのか見極めてやる! 力技の真っ向勝負が通用しない時こそオレの出番だ。
「お前はどこまで常に全力なんだよ!
普通こんな美味しいイベントは雰囲気を盛り上げてクライマックスで、だろーっ!?
序盤の修行イベントでいきなり繰り出されても困るわ! モナー! フォーム《タクト》!」
――精霊指揮《レゾナンス》。音楽の本質とされる森羅万象との呼応、その一端を顕現して見せる奥義。
それは精霊の奏でる音色として一般の人にも知覚し得るものとなる。
宙空に佇み、見えない存在達の注目を集めるかのように指揮棒を掲げる。周囲の空間に膨大な精霊力が集まり弾ける。
早速もう正気を失いかけているのか、恐怖は消え奇妙な昂揚感に支配されつつあった。不敵な笑みを作って見せる。
「初めまして――でいいのかな? ようこそ出ておいでくださいました。
精霊の奏者フォルテ=スタッカートが歓迎の印として星の奏でる音達を祖竜様に捧げましょう。
――どう解釈するかはあなた様次第」
鳴り響く弦楽器の荘厳なメロディ。
禍々しさと壮麗さ、流れるようなスピード感と力強い重厚さを見事に併せ持つ神曲。その名も“龍神”。
相手次第で、崇め奉り鎮める方向に作用する事もあれば、苦痛を与え動きを封じる呪詛として働く事もある。
魔法の世界において祝いと呪いは紙一重なのだ。
どちらにしても、対ドラゴン戦を決する最強の切り札である事には変わりない。
飽くまでも常識の範囲内のドラゴンであればの話だが。
「フォルテ! 僕達が攻撃を引きつけるからお前は首のあたりにある逆鱗を狙え!
霊的な繋がりがあるお前ならゲッツを引き戻せるかもしれない!」
安心院さんの声が飛ぶ。それに分かったと返し、祖竜に向き直る。この際だから聞いておきたい事がある。
ゲッツが気にしていた、自分が悪竜の化身なんじゃないかって事。
悪神と善神の二神教自体は何も不自然な事はないが、そういうのは大抵世界の終わりの時に善神が勝利する事になっているものだ。
でも彼等は不思議な事にその両方を祖として信仰しているのだ。
一族の祖となった二柱のうちの一つが、本当に破壊の化身でしかなかったのだろうか。
「祖竜様にいくつか聞きたい事がある。祖竜信書の伝説はどこまで本当なんだ?
……と言っても分かんないか。お前は本当に悪い奴なのか!?
いや、暴れまわってる時点で悪い奴なのは分かるんだけどなんていうか……本当にぶっ壊す事以外に興味無いのかっていうか……」
一番聞きたい事を聞き出すって案外難しいものだ。なんて言えばいいんだろう。
ゲッツが祖竜の影響を受けているとしたら、ゲッツの言動に何かヒントがあるかもしれない。
――傷ってのはわかりやすいつながりだぜ。俺はテメェのハートに俺を刻んでやる。
だから、テメェも俺にテメェを刻みなァ! 全部全部、真っ向から受け止めてやるからよォ!
――俺に消えない傷を刻んだ奴は決して忘れねー事にしてあんだ。 んで持って、傷は必ず残す、ってな
それだ! いるじゃないか! 祖竜ファフニールに消えない傷を刻んだ伝説の聖者が。
「大事な事だから正直に答えてくれ。祖人ゲオルギウスのこと、どう思ってる?」
言った瞬間、味方側から気まずい視線が突き刺さったような気がした。やっべー、オレ何か変な事言った!?
それはこの世界に現れた突然変異をした悪性の病原菌―伽椰子を排除するため
その存在が確認された場所全てに一瞬で出現し、それは当たり前のように
誰の目にもとまらず、誰にも意識される事はない形で至る所に現れた。
相手はその気になれば着ている服の中や口の中に現れ、いかに恐怖を与えながら殺すかを考える
力を持ちすぎた生粋の下衆・外道故にその力には際限が無い上に彼のような存在には一切の干渉が出来ないほど
圧倒的な狩人として、徹底的に排除しこの世界の何処にも居る事を許さぬように追い立てた。
その姿はまさに地獄の猟犬に相応しく、誰にも意識出来ず干渉出来ず黙々と処刑を繰り返す。
相手は本来ならば彼の友人や知り合い全てを今もこうしている間に恐怖を与えながら殺そうとしているだろうが
世界を滅ぼした時点でその存在は世界を守る者達に目を付けられた以上は運の尽きであり
いかに存在の力を誤魔化そうにも世界の意思を完全に誤魔化す事は不可能である、その身は多世界間に置いては指名手配になり
その存在が少しでも察知されればティンダロスの猟犬やエスペラントのような者が飛んでくる以上、もはや佐伯伽椰子には何処にも逃げ場は無い
それがあの世だろうと天国だろうと、その強大な力を持ち一つの世界を滅ぼした代償として怨霊として死んでからも永遠に追われる羽目になった。
世界の力を侮り目を付けられてほぼそれから戦い続けて行く内に予想以上にこの世界にばら撒いている無限に作れる分身とは言えこのネバーアースに来てからは
追い詰められている佐伯伽椰子は、討伐されゆく意識の中であることを思い至り
その笑みも理解できない世界を守るためだけの殺戮機械に対して憑依した者の体内から引き摺り出され強制的に浄化されながら
思いついた事を実行するために使役できる今まで殺してきた亡霊たちをほんの少しにしかならない時間稼ぎとして利用する
その目的は分身を今目の前に居る者の大切な女の居る仙界に向けられる
成功して嘆き苦しむ様を想像しながら、佐伯伽椰子は浄化されていった。
その事にはとっくに気づいていたそれは、ほんの一瞬でこの世界に居る佐伯伽椰子の分身の排除を確認した後
飛ばされた分身を排除すべく仙界へと向かう。
それ自体が佐伯伽椰子の邪悪極まりない目的だとも気づかずに。
数に物を言わせ仙界に出入りする者達に憑依をし、この世界にやってきたり
あるいは直接霊体のままでの分身を多数送り込んだ佐伯伽椰子は
まず表立って行動する事は性格上やってきたばかりの場所ではあり得ない
虎視眈々と様子を見ながら、静かに日常などから追い詰める恐怖、
逃げ場が無い絶望を与えて殺し自らの使い魔にするために忍び寄る中
永久闘争存在は此方も静かに降り立つ。
ただ本格的に多世界の脅威を排除するために破壊するために共に派遣される意思無き狂戦士達は居らず
あくまでも獲物に目を付けた以上は絶対に見逃さない事実上の不死の存在に等しいティンダロスの猟犬を大量に引き連れて現れる。
理由としてはまだこの世界には自浄存在や世界個人の抑止力が働いているため
この世界を完全に犠牲にしなくても良い可能性があること
そして単にまだ多世界に向けて破滅が具体的にこの世界で確認されていない以上は
この仙界との全面戦争をしてでも佐伯伽椰子を絶対に滅ぼすというのもリスクが大きすぎると判断されたからだと思われる。
多世界の意思はあくまでもその個々で一つ一つの世界が持つ意思が介在している
其処には多くの人間の意志などは段階的には優先度は同じだが、それより人より一つ上の領域から超常的な大いなる存在による意識・考え等が主に求める声が優先されている
彼があくまでも人々を守るために現れるという事はその超常的な大いなる存在と多くの世界すらも超えるほどの助けを求める声と
無意識的な危機意識と意思の量と力が上回るという
ことでエスペラントことビャク=ミキストリが守護者的概念存在としての召喚され人々を守るために現れた者として本当の意義を発揮する。
ということでこの世界では何者にでも縋るほど絶望した者達で溢れている訳ではなく
ここにいるのは危機意識を持ち、絶対に排除しなければならないと決めた多世界の意思が優先されて
災厄を狩る限定的大災害である永久闘争存在としてこの場に居る理由である。
下手な事で多世界対仙界という構図はいろいろな面で好ましくない
だが必要とあればこの世界を排除してまで佐伯伽椰子を抹消しなければならない可能性を
あくまでも彼の意思ではなく、永久闘争存在としての必要最低限の犠牲という合理的な考えを最後の最終プランとし
目的の全世界の災厄と化した怨霊をその姿は最早誰も意識出来ず干渉出来ない現象という概念と同じ形態で
ティンダロスの猟犬と共に追跡を開始した。
>「収束、倍加、反転、滅殺。」
「ホォ……、中々やる。っつーか超つえェな。
だけどよォ、我を斃したアイツに比べりゃ、痛くもねぇ!」
反転し己に襲いかかる火炎は、放った力の数倍で戻ってくる。
だが、それがどうした。火を統べる火竜が、倍加されたとは言えど己の焔で焼かれて傷つく道理は無い。
己に飛び込む大量の火炎を、ファフニールは大口を開けて迎え入れ、体の中に飲み込んだ。
ごくり、と焔を体内で掻き回し、体の中に再度迎え入れたファフニールは満足気に吐息を吐き出し、足元の宮殿の一部を溶解させた。
理屈は無い。強いものは強いのだから仕方がない。質と量を兼ね備えていれば、理論等を抜きにして強いのは当然。
これを倒すのに必要な物は、至極単純な物だ。
ファフニールより強い奴を持ってくれば勝てる、だがファフニール以上に強い者等、例えるならばゲオルギウス等同じく神話に語られる勝者≠フみだ。
もし、アサキムがその神話に語られる英雄達と同格か、それ以上の強さを持っていれば、この滅竜を倒すことも可能だったろう。
>「オマケって事で、コイツも」
「聖者の血は啜り慣れてる、今更聖遺物程度で俺に届くと思うなよ?
それに――残念だが、そいつはパチもんだ。まあ、我様相手でも確実に微妙なダメージ通すのは逆にすげぇがなァ!」
一ダメージしか与えられないRPGお約束の伝説の武器シリーズの偽物シリーズ。
それもアサキムの手によれば、一発100ダメージは行くだろう。
そしてそれが数十本。数千ダメージは硬い。確かに食らっているし、槍は体に突き立っている。
しかしながら、竜の口から吹き出す火炎で槍は撫ぜられ、そのまま溶解していく。
所詮の所、偽物は偽物でしか無い。本物であれば、多少以上には効いていただろうが。
>「まだまだ、四面楚歌」
>「god only knows 死に神ちゃん頼むよ。」
「――その程度でよ、我を倒せると。
……思い上がるなよ? お前は強い、お前以外にも強い奴は沢山居る。
だがな――強いのはお前だけじゃねぇ。俺だって強いんだ、舐め腐ってるといつか足元掬われるぞ。
ゴリ押しで勝つなら、勝つだけの容赦の無さでかかって来い。そんな腑抜けの魂も篭ってねぇ作業で殺される程、俺の命は安くねぇんだ!」
重力で竜の体は確かに拘束される。骨が軋み、鱗に罅が入り、肉体が締めあげられた。
だが――竜の体から吹き上がる真紅の光、時折力を発揮した歳のゲッツと同じそれが発露。
その真紅の光によって、力場が『粉砕』された。
音に対しては、此方も竜の魔力を込めた雄叫び――ゲッツの咆哮の上位互換を放つことで、相殺。
力で力を押しのけるような強引さは、文字通りにゴリ押しとしか言い様のない物。
そこには戦略も知略も洗練も欠片も無い。只、本能に従って力を振るえばそれが攻撃となるからそうしているだけ。
力のバリエーションでも、戦略でも、技の豊富さでもファフニールに対してアサキムの大半はたしかに優っている。
だがしかし、力の総量。その一点のみについては、ファフニールは隔絶した領域に立っている。
言うなれば、世界を相手にしているような圧倒的な存在感と言えようか。
エスペラントなどに見られる、多次元世界から力をバックアップされているそれに近い存在感がファフニールからは発露している。
>「初めまして――でいいのかな? ようこそ出ておいでくださいました。
>精霊の奏者フォルテ=スタッカートが歓迎の印として星の奏でる音達を祖竜様に捧げましょう。
>――どう解釈するかはあなた様次第」
「ほォ……楽師か。そんなちっせえ力で我の前に来るたァ、度胸あんな。
騒がしいのは嫌いじゃねぇ、それにお前――ちょいと変わった気配を感じるな。
細っちょろくて食いではよくなさそうだが、まあ我様を楽しませて見せな。その切り札でよ」
相手の決死の名乗りと、荘厳なメロディを奏でるフォルテ。
開放状態であっても、竜の暴力的な熱気はフォルテを翻弄するだろう。
確かに、凄まじい破壊の気を帯びては居るが、この竜から発される魔力は誇りという色を多分に帯びている。
只の暴虐の破壊者ではないという事が、今のフォルテならば理解できてもおかしくはない。
奏でられるメロディを前に、竜は比較的落ち着いた様子を見せる。
と言っても、粗暴な様子も破壊的な所作も何もかも殆ど大差はないのだが。
もとより神として崇められていた身であるが故、メロディは鎮める方向へと作用したようだ。
>「祖竜様にいくつか聞きたい事がある。祖竜信書の伝説はどこまで本当なんだ?
>……と言っても分かんないか。お前は本当に悪い奴なのか!?
>いや、暴れまわってる時点で悪い奴なのは分かるんだけどなんていうか……本当にぶっ壊す事以外に興味無いのかっていうか……」
「――てめェ、ちぃとアイツに似てやがる。癪だが、本気で癪だが――竜ってのァ気まぐれだ。
お前の問答にちょっとだけ付き合ってやるよ。我の機嫌を損ねたらお前はそこで踊り食いだけどヨ。
我の役割≠ヘ、壊すことだ。壊される奴からしたら溜まったもんでもねぇだろォからよ、そいつらから見れば我は悪だろう。
壊す為の力で、壊した後がどうなるかは知らねぇ。そこから先は、他のアイン・ソフ・オウル≠フ役割だしな。
……色々壊してきたぜ? 暴走した歴代のアイン・ソフ・オウルも、他の次元からやってきた敵とかもよォ。
間引きで人を数万焼いたこともあったし、大陸の一角を削ったこともある。……なぜかは、自分で考えなァ」
神代の竜の語る話は、異様にスケールが大きい。
だが、話を聞けば、破壊の役割を与えられ、それに従って力を振るっていることが分かる。
破壊しているのは、罪もない人や文明だけではなく、世界の危機も破壊している。
悪にも善にも寄らず、破壊という役割を只貫き続けているだけの存在が、ファフニールだった。
>「大事な事だから正直に答えてくれ。祖人ゲオルギウスのこと、どう思ってる?」
「我を止めてくれる奴で、我の最愛の――嫁だ。
我もよ、誇りも無い奴を潰し続けるのにうんざりしててよ。
そこで俺を潰しに来てくれたのがあの輩だ。悪い竜を倒すのは何時だって勇者だろ?
半年くらいだっけか――――アイツと切り結んだのは超楽しかった、んで持って俺を殺しておきながら、アイツ泣いてんだよ。
もう、貴方はその力を貴方の誇りの為に使ってもいい、ってよ。世界の奴隷にならなくてもいいって。
……んで持って、俺はアイツの魂と一緒に封印されてたわけだが……ま、惚気話はここらにしようぜ」
唐突に、血なまぐさい惚気話を始める破壊の祖竜。
気恥ずかしそうに爪で角をごりごりとしているが、その爪は一振で集落を滅ぼしかねない一撃を放てる物だ。
この竜は、聖人に救われた存在で、文字通りの夫婦関係だったようだ。
要するに、ハイランダー種は特に血が濃いが、竜人のルーツ本当の本当に、神代の英雄と悪竜の間からのものであったようだ。
そして、話し終えれば竜は目をすがめ、口の端から焔を散らす。
光り輝く、白さを含んだ、二色の焔は何処か聖性すらを感じさせる代物。
「――ここに居るのは破壊の悪竜だ。
……偶にはよ、吟遊詩人とか、そういう輩が英雄になってみてもいいんじゃねぇか。
引き立て役だってのも、中々辛いもんだろ。派手に来な、潰してやる」
そう言うと、口の中で火炎を圧縮し、フォルテに向かって光線めいたブレスを吹き出した。
速度は異様に早く、貫通力もかなりのものだが、点の攻撃は必死に回避すれば、回避できなくもないだろう。
……此処から先は、竜を倒す以外には、恐らく自体の解決は無いと見ていい。
「よし、天魔震撼、転身」
アサキムが、新たな、姿へ
それは、白き衣に、羽を左右4つ、ついた。
「これが、毘沙門天たる、証だ。」
準備運動程度に、武器の七支霊刀を軽く振る。
すると、山の山の先までまっふたつに割れた。
「七支霊刀、最破」
最大まで、力をためる
「消え失せろ!」
勢いよく、刀を振る。
すると、
半径500mの全ての町が、消えた。
物理的に、
しかも、この技、近ければ近いほど、威力が増す。
近かった、あの魔竜は、相当のダメージを食らっているはず。
巻き添え、いや、そんなの知らんし。
>「――てめェ、ちぃとアイツに似てやがる。癪だが、本気で癪だが――竜ってのァ気まぐれだ。
お前の問答にちょっとだけ付き合ってやるよ。我の機嫌を損ねたらお前はそこで踊り食いだけどヨ。」
万が一音を外しでもしたらパクッと食べられかねないと思うと緊張半端ないわけで。
額から汗が流れてくるのはきっと熱さのためだけではない。
あーあ、必死の形相で戦うなんてガラじゃないんだよなあ。
V系吟遊詩人は一歩引いた位置で澄ました顔で妄言を垂れ流しておくのが丁度いい。
何はともあれオレの演奏は読み通り、暴虐の竜を鎮める方向に作用した。
一見何も起こっているようには見えないが、会話に乗ってくれているのがその何よりの証拠だ。
>「我の役割≠ヘ、壊すことだ。壊される奴からしたら溜まったもんでもねぇだろォからよ、そいつらから見れば我は悪だろう。
壊す為の力で、壊した後がどうなるかは知らねぇ。そこから先は、他のアイン・ソフ・オウル≠フ役割だしな。
……色々壊してきたぜ? 暴走した歴代のアイン・ソフ・オウルも、他の次元からやってきた敵とかもよォ。
間引きで人を数万焼いたこともあったし、大陸の一角を削ったこともある。……なぜかは、自分で考えなァ」
「凄い……凄い凄い凄いよ!! あなたって本当の本当に神様なんだ!」
この震えは何だろう。まかり間違えて次元が違う存在と逢い見えてしまった事への恐怖?
圧倒的なスケールの存在と対峙出来た事への歓喜?
人間の尺度を超越した神の論理。世界の理のようなものと相対しているかのような感覚。
竜人達が破壊の悪竜を神として崇めている事をなんとなく受け入れられた。
そして話は核心へ。祖人ゲオルギウスとの関係やいかに。
宿命のライバルとか強敵と書いてともと読むとか言ってくれればいいなぁ、と思ってたのだが……。
ご先祖様は期待の遥か上を行ってくれた。
>「我を止めてくれる奴で、我の最愛の――嫁だ。」
「――よ、よ…め!?」
ああ、竜退治にいったはずの英雄がうっかり…ってギャグ漫画じゃないんだから! ってか祖人ゲオルギウスって女の人だったの!?
一瞬、耳を疑った。いや、念話なのでついに発狂して頭がおかしくなったのではないかと思った。
が、それを聞いたのはオレだけではなかったようで、周囲の仙人達も微妙に「マジで!?」な雰囲気を醸し出している。
>「我もよ、誇りも無い奴を潰し続けるのにうんざりしててよ。
そこで俺を潰しに来てくれたのがあの輩だ。悪い竜を倒すのは何時だって勇者だろ?
半年くらいだっけか――――アイツと切り結んだのは超楽しかった、んで持って俺を殺しておきながら、アイツ泣いてんだよ。
もう、貴方はその力を貴方の誇りの為に使ってもいい、ってよ。世界の奴隷にならなくてもいいって。
……んで持って、俺はアイツの魂と一緒に封印されてたわけだが……ま、惚気話はここらにしようぜ」
無敵のドラゴンスレイヤーが実は慈愛の聖女で。
破壊しか知らなかった孤高の竜が、聖女に出会い愛を知った――か。悪くない、というかすごくいいんじゃない!?
愛が古今東西数えきれない程の歌の題材になってきて未だにネタ切れしないのは、愛に決まった形なんて無いからだと思う。
彼等は殺し合う事で愛し合い命を刈り取る事で結ばれたのだ。この上なく倒錯していて、同時に何よりも純粋な愛の形。
「碌でもないオチばっかの邪神にしてはすげー幸せ者だな。最後の最後に死ぬ程人を愛せたんだから」
自分はきっと死ぬ程人を好きになる事なんて出来ない、むしろなってたまるか。オレは何者にも縛られたくない。
好きにならなければ、置いて行かれた時に嘆いたり恨んだりせずにすむから。
でも少しだけ羨ましいような気分になるのは何故だろう。
>「――ここに居るのは破壊の悪竜だ。
……偶にはよ、吟遊詩人とか、そういう輩が英雄になってみてもいいんじゃねぇか。
引き立て役だってのも、中々辛いもんだろ。派手に来な、潰してやる」
凝縮されたブレスが放たれる。
流星のごとく飛んできた安心院さんにはたかれ、ぐるぐる回りながら吹っ飛ぶ。
「潰されてやるもんか! お前の惚気話を新説として世界中の人に知らしめてやるから覚悟するこったな!」
>「よし、天魔震撼、転身」
>「これが、毘沙門天たる、証だ。」
アサキム導師が山をも切断する斬撃を放つ。
それを見ながら、安心院がしれっとレクチャーを始めた。
「よし、今のうちに授業だ。”共振”は分かるか?」
もちろん知っている。音とは微細な振動。
あらゆる物体は固有の音――つまり振動数を持ち、通常はそれが外部から来た振動と打ち消し合っている。
しかし、固有振動数と全く同じ振動数の音を当てるとその物体は震えはじめ、ついには破壊する事ができる。
この原理を利用すると、声だけでグラスを割る手品が出来る。だからどうしたという話だが。
「知ってるけど今そんな事言ってる場合かよ!?」
「屈辱的だが僕達の力をもってしてもあいつに敵わない。
でも霊的な超絶聴力を持つお前なら……あの竜の振動数にモナーをチューニングすれば装甲を突破する事が可能だ。
――やれるな?」
言われてみれば理論的には可能だ。
音を共振破壊が出来る程寸分の狂いも無く合わせるのは至難の技だが、オレの霊的な聴力とモナーをもってすれば不可能ではない。
一番の問題は、振動数を合わせるには多少の間あの魔竜と切り結ぶ形を作らないといけないという事!
「――いいよ、やってやるよ! モナー、フォーム《キーブレイド》!」
モナーが、刃の部分が鍵盤を象ったような不思議な形の剣の姿と化す。選ぶ余地がないのに聞くとは人が悪い。
やらなければその時点で世界終了のお知らせになるのは目に見えている。
だって、この超絶な力を持つ人達が力では敵わないと言って戦力外お荷物キャラを担ぎ出すぐらいだから
本当に正攻法のゴリ押しではどうしようもない相手なのだ。
もちろん、あんなのにマジで一人で挑むほど無謀ではない。
「さくせん――“オレに任せろ”!」
この作戦、威勢のいい字面に騙されてはいけない。
言葉通りとはある意味真逆の、どうか力を貸してください、死なせないように全力でサポートしてくださいという懇願だ。
でも超人連中が寄ってたかってお荷物を引き立ててくれる状況ってよく考えると凄くね!?
>「消え失せろ!」
アサキム導師が超絶爆発を放つ。恰好のタイミングだ。
今だと言われるまでもなく、剣を掲げて滑空するように一気に距離を詰め、斬りかかる。
「さあ君の音を……声を聞かせて――。いざ――勝負ッ!」
戦いの舞に選んだ歌は、ゲッツと切り結んだあの時と同じ歌。
何故かは分からないが、気が付いたらそうしていた。
「月陰る闇に咲く華 底知れぬ深淵を見つめた
時を漂い続けた君は 星屑の掃き溜めにて目覚めた
水を蹴って翅広げ 青年の日に別れを告げて今飛び立とう 黄金の粒散らして」
無駄のない洗練された動作なんてどうせ不可能だ。
戦いのセオリーとは逆であろう、わざと自分の存在を顕示するかのような派手な動作で剣を振るう。
オレはここにいるよ。君の声が聴きたい――!
【
>>67訂正版、ごめんなさい、最初の部分が切れてました】
「あーあ、火は、火を持って制す。まぁ、無理か。」
そう思いながら、力を溜め始めるアサキム
>>「俺の命は安くはねぇんだ」
「上等、その命、抉りとる」
そう言うとき、フォルテは、ブレスにおそわれるが、安心院にしれっと、防御される。
「よし、天魔震撼、転身」
アサキムが、新たな、姿へ
それは、白き衣に、羽を左右4つ、ついた。
「これが、毘沙門天たる、証だ。」
準備運動程度に、武器の七支霊刀を軽く振る。
すると、山の山の先までまっふたつに割れた。
「七支霊刀、最破」
最大まで、力をためる
「消え失せろ!」
勢いよく、刀を振る。
すると、
半径500mの全ての町が、消えた。
物理的に、
しかも、この技、近ければ近いほど、威力が増す。
近かった、あの魔竜は、相当のダメージを食らっているはず。
巻き添え、いや、そんなの知らんし。
追跡と同時に佐伯伽椰子及びその分身等の使役される者達含めながら
強制的に聖なる力による成仏という名の見敵必殺(サーチアンドデストロイ)を
やはり誰にも認識出来ない状態で繰り返していたその時
自分と同行していたティンダロスの猟犬がそれなりに消された事と大規模な強大な力を感じ取る。
その方向に視線を向ければ広範囲の街が消え、その余波に巻き込まれそうになるかと思えばそうではなく
向かってくれば無敵結界にて全てが遮られるので元々無傷なままなのだが。
「―――」
エスペラントの意思が微塵にも感じられない無機質且つ温もりの感じない冷たい刃その物の指すような視線
冷酷非情な雰囲気を纏ったソレは合理的且つ冷静な判断で見つめる
この世界での知識が頭に流れ込んでくる中で、この世界の日常茶飯事レベルにして聊か放出される力のレベルよりはかなり上だと思われる。
そしてこの力が多世界に向けられる可能性はそれなりにあるとも判断できる。
理由としては与えられるこの技を放つ者の主義思想と力量についての全情報によるためだ。
そして対峙している強大な存在の情報も含めて、ある決断が浮かぶ
「………要注意危険・脅威度測定不能…」
消されたティンダロスの猟犬達が再び無限補充の如く周囲に出現し
この世界の佐伯伽椰子討伐に関しては相手が相手であるため
油断も隙もないのだが、場合によっては此方も多世界の脅威になる可能性がある以上
データ収集に向かうべくこの世界に置いての激戦の地にティンダロスの猟犬達と赴く。
>「潰されてやるもんか! お前の惚気話を新説として世界中の人に知らしめてやるから覚悟するこったな!」
>「よし、天魔震撼、転身」
>「これが、毘沙門天たる、証だ。」
滅竜の放つブレスは安心院が当然の様に防ぐ、が。
そこでファフニールが峻厳のアイン・ソフ・オウルとしての力を発現。
安心院の持つ1京2858兆0519億6763万3867個のスキルの内の9328兆0399億6763万8600個を破壊しその数を3530兆0119億9999万5267個まで減らしてみせた。
ファフニールがアイン・ソフ・オウルとして持っている力はその火力ではない。
それらの火力は、ファフニールがアイン・ソフ・オウルとしての役割を課せられる前から持っていたもの。
アイン・ソフ・オウルとして得た力の本性は、あらゆる存在の破壊、という能力である。
故にブレスだけで空間を引き裂き、能力を破壊し、不可逆の死を与えてみせる。
アイン・ソフ・オウルに届く力があるからこそ、ファフニールは歴代の暴走したアイン・ソフ・オウルを殺し続けることが出来た。
>「――いいよ、やってやるよ! モナー、フォーム《キーブレイド》!」
「おォ……それだそれ。 悪い竜は――正義の味方に退治されねぇとよォ。
誰か持ち上げるだけじゃなくてよ。偶には自分で何かしてみな、吟遊詩人」
鍵盤を象ったような剣を構えたフォルテを見て、からりと笑い。
爪をじゃりぃん、と甲高い音を立ててこすり合わせて、フォルテとアサキムを睨みつけた。
>「消え失せろ!」
「ティラノ・リンク・ノヴァ!」
アサキムの放った余りにも強力で、余りにも大規模な攻撃を前に、ファフニールの取った行動は単純だ。
右腕に深々と刻まれた刀傷から、真紅の光を吹き出させてそのまま凝縮させて前方へと撃ち放つ。
莫大な衝撃波とぶつかり合う真紅の光は、ファフニールに襲いかかる部分だけを綺麗にこそげとり、破壊≠オた。
力の上では、アサキムは決してファフニールに見劣りしているわけではない、神代の竜と互角という時点で、そもそも伝説に語られてもおかしくない次元の強さだ。
だがしかし、それでもファフニールと力と力で争うのは得策ではないのだ。なにせ、力と力であれば、ぶつかり合えば破壊してしまう。
形のあるもの、確として認識できるもの、概念として確実な物。
能力や、攻撃や、物質や生命であれば、ファフニールはその総てを破壊することが出来る。
もし、それでも破壊できないものが有ったとすれば、それは――心とか、絆とか、そんな朧気で不確かで不安げな物に限られてしまうのだろう。
>「さあ君の音を……声を聞かせて――。いざ――勝負ッ!」
>「月陰る闇に咲く華 底知れぬ深淵を見つめた
>時を漂い続けた君は 星屑の掃き溜めにて目覚めた
>水を蹴って翅広げ 青年の日に別れを告げて今飛び立とう 黄金の粒散らして」
「ヒャハッ! ヒャハハハッハハハ――――――!
良いなァ、悪くねぇ。俺の嫁ほどじゃねェが、テメェも面白ェ!」
振りぬかれるフォルテの剣を受け止めるように、爪を振るいそのまま存在毎抹消しようとする。
だがしかし、内側から襲い来る強い意志と、激痛に僅かに――ほんの僅かに気を取られ、そこに隙を産んでしまう。
まだ消え去っていなかったアサキムの衝撃波の反動が、緩んだ体には良く聞いた。
体勢をわずかに崩し腕は空振り。それでも衝撃波でフォルテにダメージは与えるも、己の右の腕から鮮血が舞って散る。
腕を引き裂かれながら、胸に傷を刻めば、その傷を中心に罅が広がっていき、音楽記号のフォルテを思わせる裂け目が生まれ、そこから真紅の光が漏れだした。
ゲッツの光だ。滅竜のそれ程には強くないが、それでも確固とした意志を持って成る、精一杯の閃光だ。
『――ヒャハ、ヒャヒャヒャヒャハハハハハハッハハハッ!!!
悪ィな、神様よ! 俺のダチ潰すってンなら、幾らご先祖様でも神様でもよォ……!
俺が許さねぇ。んで持って、こええ奴らが二人ほどテメェを殺しに来るし、いつかオレはファフニール様、あんたを超える。
……超えた暁にはよ、もう一度コイツら連れて本気のあんたを潰しに行くから――此処でそろそろ牙をひいてくれねェか?』
「――やだねェ! ヒャヒャハ!!
せっかく燃えてきてんだ、ここで茶々入れられると我様キレるぜェ?
それでも止めてぇならよォ、力で来い。テメェ、我様の子だろォが、なァ?」
胸元の傷から声が漏れ、ファフニールを止めようとするもファフニールには豪放に笑うのみ。
懐に入り込んでいたフォルテを睨みつけると、ずらりと並んだ牙を魅せつけるようにして、口から火炎を吹き出した。
安心院が残った3530兆0119億9999万5267個のスキルを駆使してフォルテを守るも、その都度に防御に使ったスキルが消滅させられていく。
そう長く持つ状況ではないし、このまま戦っていればファフニールだけでなく、容赦を知らないアサキムの攻撃によってこの仙界が滅びてしまうことだろう。
『ギャハハハハハハ――――ッ!
いいなァ、殴っても引き裂いても火ィ吹いても壊れねぇ壁かァ、厄介だなァオイ。
だがよォ、それをぶっ壊すからこその、全方位殲滅師な訳だ。
――悪ィなフォルテ、あと数分生きろ、こいつに殺されたら生き返らねぇぞ』
ごうん。
赤い光の漏れるファフニールの胸元から、打撃音が響く。
最初は弱く、小さかった打撃音は次第に連続していき、かつ音量が爆発的に増えていく。
胸元から漏れだす光は強まっていき、徐々に胸元の罅は大きく広がっていった。
それを感じたのか、ファフニールはげらげらと下品に笑い声を響かせて、アサキムやフォルテ、安心院、他の神々を睨みつける。
「どォやら時間がねぇか。
遊ぶのはこれで最後、ってわけだなァ?
精々死に様で我を楽しませな。
それでも挑むってンなら――、吟遊詩人。テメェの母親はアマテラスだっけか、中々いい性格してやがったが。
アイツは、逃げなかったぜ。確かに割りとおもしれェ性格だったが、やる時はやる性格だ。――来な、フォ……なんだっけ。
んで、そこの仙人。テメェは強ェなァ。本気で強いが、テメェの弱点は一つだ。
なんでも自分でやろうとするからテメェには芯が無ぇ。芯を決めな、それが出来なきゃテメェは何時か壁にぶち当たる。
ま、知ったこっちゃねぇがな。今から叩きこむのは我様の取って置きだからなァ! ヒャヒヒヒッヒ――――――!!」
両の手を合わせてそこに黒紅と白蒼の混ざる光を生み出していくファフニール。
先程までの攻撃の全てが、児戯に等しいとすら思わせんとする程の密度と物量を持った純粋な力。
破壊を役割とされた旧き竜神のその本性を形としたかの如くに、その力は発動を前にしてすら周囲の空間を歪ませ建造物を砕いていた。。
手元を離れ、ファフニールの目の前に浮かぶ大きな光の球体。
そこにファフニールは己の全力のブレスを吹き込み、ファフニールが峻厳のアイン・ソフ・オウルと呼ばれる所以を解き放った。
ギャラクシーショット
「――――超銀河弾HELL」
超物量、超密度、超サイズ、超速度、超威力。
大凡強いと言われうる要素を詰め込んだから強いのではなく、力を注ぎ込んで解き放った結果そうなっただけという非常識極まりない力。
当たればどうなるとかそういうレベルではない力だが、それでも当たればどうなるかを表現すれば、死ぬとしか言い様が無い。
どんな防護であろうとその力は打ち砕き、魂の根っこから総てを粉砕し、焼却する。
それでも尚、立ち向かうというならば。
神の力を携えるか、意志を持って向かうしか無いだろう。
そして、何よりも、先程からの竜の発言を考えてみるといい。
どこか、本気ではない様子、試している様子を竜は見せている。
となると、これは決して超えられない試練ではないという事だ。そう、失敗すれば不可逆の死を得るし、成功率は無いに等しいが。
この竜を倒すすべは、どこかにある。と言っても、正面から竜を倒すには、破壊を超えなければならない。
力で拮抗できるのは、この世界においてはアサキムか、此の場には居ないエスペラント、または他のアイン・ソフ・オウルくらい。
それ以外の手が、ココにはある。力によって破壊されない、朧気なのに何よりも確かな存在を知るものが、この場には存在している。
それを知り、それを振るう事がこの死を超える鍵となり、クリアの条件と成るだろう。
「純粋な、仙力で、力任せ。でもダメか。」
鍵となるのは、やっぱ
「アヤカ。素戔嗚尊たちは」
「周りの、被害を防ぐ為に、尽力しているわ。」
「おまえも、消えろ巻き込まれる」
「うん、死なないでね。」
アヤカが失せたのを見計らい。
【無限決解、神楽】
初戦で使ったのを使用して、周りを防ぐ。
「時間は、稼げる。フォルテ、来い」攻撃を止め、毘沙門天を解く。
「ちょっとくすぐったいぞ。」
【アサキムダグラスが命ずる。毘沙門天よ、姿を変え、彼女を守護せよ。】
白きオーラが、アサキムから、フォルテへ、受け継がれていく。
「フォルテ、君に、俺の力を託す。七福神は、知ってるな。」
「その能力は、受け継ぐときに変わる。君の場合は、弁財天、君には、打ってつけの能力だ。」
「それに、仙力も受け継がれる。俺の力が、すべて受け継がれる」
「畜生、こんなに、思い道理にならないのか」
「アヤカに、宜しくなっ。」
全ての力を、受け継がせ、アサキムは、光となりて消えた。
安心院には、こっそり仙術をかけ、
スキルを取り戻させ、さらに絶対守護のスキルを貸した。
「はぁ、気持ちいいな。」
ここは、仙界よりも、さらに上の治療所。
ここでは、仙人の、治療
事故死、殺害などから成仏した人の、治療。
ここでは、争いは、御法度であり
世界守護委員と、仙界の合同で、守られている。
「入っていい?」
「ああ、どうぞ………ブゥゥゥゥー」
勢いよく、鼻血と、唾がでた。
「なによ、混浴だし、良いじゃない。それに私の体、そんなに好み?」
「女が、タオルもせず、混浴に入ってくんな。テイル。」
「大体な。おまえは、天照大神としての自覚がない。」
「いやー最近暇だからねぇ。子も成長したし、私とがった」
「殺すぞ、あとタオル巻いてこい」
テイルに、右のボディブローと、左の地獄突きをくらわす。
「分かったから、虐めないで。」
いそいそと、タオルを巻くテイル。
「まぁ、そんなんなら。復帰もちかいな。」
「まぁ、ね。早期治療のおかげだよ、アサキムこそ、なんで来たんだい?」
「まぁ、仙力使い果たしたし。」
アサキムは、消滅したのではなく粒子化し、上に飛んだ。
「ふーん。ねぇ、私の娘どう?」
「まぁ、やんちゃが過ぎるが、良いんじゃねぇの」
「でしょでしょ、」
【親ばかか。】
「まぁ、下でヒドい事になってきたし降りようかな。」
「大丈夫だよ、全部受け継いできた」
「???アサキム?どういう事」
「だから、受け継いできた。」
「ええ!!!なんで」
「武器召還は、魔法だし、霊刀は、リンク再登録するし。」
「そうなんだ。………逆上せてきたね」
「そうだな、上がるか。」
「その後は、少しつき合ってね。」
「解った。なにすんだ?」
「下に降りる準備。」
「ならいい。」
風呂から、出る
魔竜が爪を振り抜く。精密なコントロールも何も無い、ただ振るうだけの脅威の広範囲攻撃。
小さい方が当たり判定で有利、なんて理屈は当然のごとく通用しなかった!
間一髪の位置を薙いでいった竜の右腕に、音を乗せた刃で斬りつける。なるほど――ね。もう少しこっち方面か。
飛び散った返り血を浴び、竜も赤い血をしているんだな、なんて場違いな事を思った。
いや――返り血だけじゃないな、こりゃ。当たってないにも関わらず、服ボロボロだし全身に無数の切り傷が刻まれている。
V系っつってもこういう血塗れ路線じゃないんだけど!?
「一夜の夢織り上げる宵に 安息の繭は解かれていく
浅葱の翅の女神の唄に狂わされた 獣の魂が踊り燃ゆ」
血塗れになりながらも歌ってるのは我ながら流石プロの吟遊詩人って感じ!?
二撃目は―― 一気に懐に飛びこむ! 半分自由落下任せの刺突で胸に傷を刻む。
だけどまだだ――まだ合わない。分かりそうで分からない。
そもそもこんな人知を超えた神様と共鳴する事なんて可能なのだろうか。
胸に刻んだ傷から閃光が漏れ出し、声が聞こえてきた。
>『――ヒャハ、ヒャヒャヒャヒャハハハハハハッハハハッ!!!』
この馬鹿笑いは……聞き間違うはずもない。
「ゲッツ! 一体どうなってんだよ!? マトリョーシカ方式!?」
そこは多分深く考えたら負けである。
ゲッツが制止しようとするも、当然のごとく聞き入れないご先祖様。
容赦なく火炎の息を吐いてきた。
「あ、やばっ――」
そう思った時には安心院さんがオレを逃がしていた。
水の壁を作り、時間を操作し、空間を歪ませ、あるいはもっとたくさんの能力を使って、だ。
>『ギャハハハハハハ――――ッ!
いいなァ、殴っても引き裂いても火ィ吹いても壊れねぇ壁かァ、厄介だなァオイ。
だがよォ、それをぶっ壊すからこその、全方位殲滅師な訳だ。
――悪ィなフォルテ、あと数分生きろ、こいつに殺されたら生き返らねぇぞ』
「笑いながら言う事か――ッ!
人騒がせ野郎はオレの美声でも聞きながらそこで大人しく待っとけ!」
破滅の閃光を練り上げはじめる魔竜。
母さんの名前を出してどこか挑発するような態度を取る魔竜だが
今までの攻撃も非常識な次元だったのに、その更に段違いである事がはっきりと分かる。
「母さんを知ってるの……!?」
ああ終わったな、と今までのオレなら諦めの境地に達して辞世の句でも読んでいた事だろう。
でも今のオレは自分でもびっくりするほどとびっきり諦めが悪くなっていた。
生き残りたい、生き残りたい、まだ生きていたい。
オレ達の伝説はまだ始まったばかりなんだ。こんなところで終わってたまるか。
オレは瞬時にその優秀な頭脳でもって最善の行動を弾き出した!
「導師様! オレを生かしてくれ! そのためなら何だってする!
アイツを伝説の勇者にするのは……オレしかいないんだッ!」
何の事はない、結局いつもの導師えもんに泣きつくフォル太君の構図であった。
導師様は、言われずとも何かを決意したような面持ちだった。
>【無限決解、神楽】
>「時間は、稼げる。フォルテ、来い」
アサキム導師は魔竜の周囲に結界を張り、時間稼ぎをする。
>「ちょっとくすぐったいぞ。」
>【アサキムダグラスが命ずる。毘沙門天よ、姿を変え、彼女を守護せよ。】
「あ……」
純白のオーラが流れ込んでくる。力強くて、それでいて優しい光。
確かにくすぐったいような、不思議な感覚を覚える。
今まで普通に男扱いだったくせになんでいきなり三人称代名詞が彼女になってんだ!?
と、莫大な力を受け継ぎながらこの期に及んでどうでもいい事を心の中で突っ込んでしまう。
>「フォルテ、君に、俺の力を託す。七福神は、知ってるな。」
>「その能力は、受け継ぐときに変わる。君の場合は、弁財天、君には、打ってつけの能力だ。」
弁財天、またの名をサラスヴァティー。音楽神にして水の女神、そして流れゆく物全てを司る女神だ。
なるほど、吟遊詩人にはぴったりの能力だろう。
と思っていると、アサキム導師が信じられない事を言い始めた。
>「それに、仙力も受け継がれる。俺の力が、すべて受け継がれる」
>「畜生、こんなに、思い道理にならないのか」
「ちょっと待て、どういう事だ!?
何でもするとは言ったけど……自分を犠牲にしていいなんて一言も言ってないぞ!」
>「アヤカに、宜しくなっ。」
「そんなの自分で言えよ……おいっ!」
伸ばした手は何者にも触れる事はなく。次の瞬間、アサキム導師はもうそこにはいなかった。
彼は自らを犠牲に、オレに全ての力を受け継がせたのだ。
だけど悲しんでいる暇はない。今はあの魔竜の攻撃を迎え撃つ方法を考えなければ。
導師様自身であの魔竜に打ち勝てる力を持ってるならわざわざこんな事をせずに自分でやればいい。
オレに力を受け継がせた、オレじゃなければいけない意味が何かあるはずだ。
考えろ――絶対の破壊を前にしても壊れない物は何だ? あるのかないのかも曖昧なもの。嘘か真実かも分からない物。
流れゆくもの、たゆとうもの、時代によって形を変えていく物。――それは受け継がれゆく情報。例えば神話、例えば伝説。
音楽を極めた者は森羅万象と繋がる事が出来るという。今のオレなら、一瞬だけなら繋がる事が出来るだろうか。
集合的無意識の海――星の記憶のデータベース、全ての生命の精神が繋がっている場所に。
「モナー、――フォーム《ストリングス》」
竪琴を爪弾き謳うは、異界の言語で紡がれる、星の海の歌。海精の女王――Queen Nereid。
常識的に考えれば歌っている場合ではない。
超強い盾を出したり超凄い攻撃で迎撃しなければいけないところだが、オレには歌しかないのだ。
だけどもしも、伝説が息づく場に瞬間だけでもアクセスする事が出来たなら――
「――wesura rijumishe sateraicha yumyuje wesura rijumishe sateraicha yumyuje」
acha radid yo acha radid yo acha radid yo acha radid yo」
歌いながらふと思い出す。
その昔母さんと共にガイアという世界を救った仲間は、エスペラントさんとアサキム導師以外にもう一人いたらしい。
聖なる竪琴を携えた呪歌士、”海精の歌姫ルーチカ”。
それだけの事をやれば、神々の世界に迎え入れられ永遠を手に入れる事だってできただろう。
だけど敢えて彼女は普通の少女として生きる事を選んだらしい。
手の届く永遠を自発的に拒み人間として生きる事を選ぶ、それって何気に凄い事だと思う。
もしかしたら彼女は知っていたのかもしれない。決して壊れない確かな物を――
「sos ras kyube letari oreti a so renda rina lobelu beji mesekase dio solobe lachea
ru dzes mela lokori asisdze o somedzeleo ibela lozina speriste lusina」
結界を破った魔竜が、技の準備を完了したようだ。
来るなら来い、そう視線で訴えかける。
「guradia sho zea soruma bie rito guradia sho zea」
>「――――超銀河弾HELL」
果たして、その時は来た。超絶絶対の破壊が顕現される。
全てが、白い光に包まれた――
♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪
「Draco in fabula《伝説の中の竜》 In deocone hora《竜の中の時間》In dracone spes《竜の中の望み》
In dracone error 《竜の中の迷い》In dracone veritas《竜の中の真実》In dracone somnium《竜の中の幻》
In dracone fatum《竜の中の宿命》In dracone causa《竜の中の理由》In dracone amor《竜の中の恋》」
次の瞬間――オレは風奔る草原に立っていた。風に乗って、謳が聞こえてくる。
「音のない大地に 恋の歌 響けば 狂い出す歯車 とめられぬ宿命(さだめ)がはじけた
蘇る 今 いにしえより 寂寞の恋 目覚めた
絆を求めて 炎はほとばしる 破壊と再生 気高き君の呪縛」
謳っているのは印象としては少女、でももしかしたら20代半ばぐらいかもしれないとも思う。
そこは深く突っ込まないほうがいいだろう。ご自慢の聖剣でずんばらりされても困るからな!
そんな事より、歌の内容だ。竜に捧ぐ恋歌。祖竜ファフニールの事を歌っているのだろうか。
とすれば……
「聖女、様……?」
「それが竜に恋した竜殺しの英雄の事なら。
君が見ている私は全ての生命の記憶の中の祖人ゲオルギウスの最大公約数的なもの、かな」
察するに、どうやらオレは集合的無意識の世界への退避に成功したようだ。
もしかしてこれって死んでるんじゃね!? という一抹の不安が残るわけだが。
せっかく運よくこの人が出て来たのだ。攻略方法を聞かない手は無い。
「なあ、どうやってアレに勝ったんだ!? 教えてくれよ!」
「君はもう知っているはず。ただ気付いていないだけ。
竜はね――伝説を望む存在。物語《ロマン》に生きる存在」
「わっけ分かんね」
流石最大公約数だけあってざっくりし過ぎて意味が分からなかった。
もういいや、さっさと帰ろう。
そう思って、はたと気づいた。帰り方が分かんないんだけど!
「えーっと、どうやったら帰れる?」
最大公約数な聖女様に聞いてみた。聖女様は悪戯っぽく笑う。
「そうだね、少し話に付き合ってくれたら」
「いいけど……出来るだけ早くしてくれよ。何?」
「君――恋してるね」
「!!!!!!???????」
絶句した。いきなり何を言い出すんだこの聖女様は。平静を装って言う。
「残念! オレは音楽にしか興味無いんだ」
「音楽が森羅万象だとしたら……君が歌を歌うのは世界の全てと繋がりたいから。
だからこそ一歩引いた位置で何事にも他人事であろうとする」
「そりゃそうだろ。だってオレは伝説を謳う者だぜ?
一歩引いた位置からでないと伝説の勇者様がよく見えないだろ?
決めたんだ、アイツを史上最高にかっこいい勇者にしてやるってな!」
「そうかな? 肩を並べないと見えない物もあると思うけどな。
でも君は本当はもう気付いてるね。きっと大丈夫」
世界が揺らいでいく――やっと帰してくれる気になったらしい。
おぼろげな意識の中で、聖女様の声を確かに聞いた気がした。
「いい事を教えてあげようか。
恋をすると、ひとりがふたりになっただけなのに、世界中の人とつながったような、世界をすべて手に入れたような夢を見る――」
♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪
突然意識が戻ってきたような感覚。情報体の粒子が結集し、再び実体化する。
導師様から受け継いだ力が、姿に変化を及ぼしていた。
背に広げるは、三対六枚の羽――神格の妖精の証。そこまではいいのだが……
露出が多い割にいらんところでひらひらしている白を基調とした衣。
相変わらず細身ながらも、柔らかな曲線を帯びた体。胸にはあるわけ無いはずの膨らみがある。
どういう事だこれ!? 公式が病気、そんな素敵ワードが思い浮かんだ! きっと導師様の仕業に違いない!
でも全ては魔竜を倒すためだ、今だけは、まあいいか――
「待たせたな祖竜! お前の持つ”音”は……これだ!
音型展開《シンセサイズ》――アスカロン!」
チューニングを完了したモナーを巨大な弓矢の形へ変化させる。
それは遥か古、孤高の竜のハートを見事射抜いた聖女様へのオマージュ。
もう一度言う、全ては竜を倒すためだ! 弓を引き絞り、祖竜の胸に向かって光の矢を放つ。
「これで終わりだ! オレの勇者様を返しやがれぇええええええええ!!」
ポン。ポン。ポン。ポン。
なんみょうほうれんげえいきょうおおお…
やくざの家は葬式。
正座して位牌を見ている男は若頭。
名前はリュジー・タライノ。
彼は遺影を見て思う。死体になったヤスのことを。
ヤスは孤児。がんばってヤクザしてたのに
お守りを口に詰められて死んでた。
それもリュジーがあげたお守りを口につめてた。
ひでえいことをしやがる…。
こんなことをするやつは人間じゃねえ……
握りこぶしを作って膝でぎゅっとする。みんなでぎゅっとする。
むなしくお経が響く。そのときを見計らうように
「てやんでい!」
怒ってリュジーは立つ。
そうしたら突然、遺影が砕け散った!
「ぎゃあ!!?」
お坊さんは絶句。みんな絶句。
しーんとなる家の中。わなわなしながら組長がつぶやく。
「のろわれてる」
外を見たら白い顔が窓びっちりと張り付いていた。
そのなかにはヤスもいた。
「…るわ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
錯乱した組長が窓ガラスを鉄砲で撃つ。
それに従いヤクザみんなで撃つ。
そして窓ガラスは粉々に砕け散る。
でも窓の外には誰もいない。
組長は興奮しながら
「でてこい!ばけもの!」
と叫んだら、隣の部屋から出てきた。
無数の白い手が現れてはどこか不思議な場所へと生きている人たちをひっぱってゆく。
リュジーは絶叫しながら消えてゆくヤクザたちを見ていた。
そしてとうとうリュジーの足も掴まれてしまう。
無念…
リュジーは短刀で自分の首を刺して死のうと思った。
そのときだった。リュジーを咥えて大きな犬が持っていった。
それはなんと、ティンダロスの猟犬だった!
気が付けば見たこともない世界が目の前に広がっている。
猟犬たちの集まる中心には見たこともない者がいた。
それは神か悪魔か。否、もはや人智では理解不能な存在。
そう、あれは人でも神でも悪魔でもない。
大宇宙唯一の永久。絶対的勝利の守護者。『永久闘争存在』なのだ!!
「おめー、もしかして神様か?バケモノ退治なら、俺も同行する」
ティンダロスの背中にまたがったリュジーは永久闘争存在と一緒にゆくのだった。
「ギャハハハハハ――、ヒィ――――ヒャヒャハハハハハハッハハハハハッハハハハハハッハハァッ!!
壊れな、全部ッ! 世界の再編が来る前に、この我様が総てを壊すッ!!
それが嫌なら破壊してみなァ……運命をよォ――!」
伝説となり、神話に語れる竜は己の破壊によって滅びていく仙界を見て高笑いを上げる。
目覚めてしまった以上、ファフニールは本能に従って総てを破壊してしまう。
赤子に触れようとすれども、その肌に爪で触れれば赤子は死んだ。
触れるもの見るもの総てを壊して殺し続けた結果、数千年前のこのドラゴンは、一度狂気に飲み込まれた。
自分以外の何者も己に触れることが出来ず、己の声一つで即死するならば声を交わすことすら叶わない。
究極の孤独は、次第に狂気をもたらし、ファフニールを文字通りの悪竜へと至らしめた。
山を消し、城を呑み、天蓋を砕き、大地を削る。
三主とすら爪で斬り合い、一度は無為の地平まで吹き飛ばしてみせた。
だが、それでもファフニールは一人で、ずっと一人で、総てを破壊し続けて、何もない誰もいない地平に一匹佇んでいて。
最強の竜となった先にあった虚無感に打ちひしがれそうな時に出会ったのが――――
>「待たせたな祖竜! お前の持つ”音”は……これだ!
>音型展開《シンセサイズ》――アスカロン!」
「な、に――ィ」
豪壮な声は、しかしどこか寂しがりの子供の様な弱々しさを含んでいた。
この竜を倒す方法は、悪意でも敵意でもなく、真っ直ぐな光の方向へと向かう心。
あの時ならば、この一人ぼっちの竜を愛してしまった一人の聖人の一閃がこの竜を救った。
>「これで終わりだ! オレの勇者様を返しやがれぇええええええええ!!」
「ゲオル……ギウス…………?」
祖竜の放った絶対の破壊を、その光がすり抜けたのは奇跡だったろう。
奇跡を起こし、運命を変えうる存在、それこそが勇者。
そしてきっと己の勇者の為に勇気を振り絞って戦ったフォルテは間違いなく勇者だった。
駆け抜ける矢、視界を埋め尽くす光が、ファフニールの脳裏に過去の幻影を映しだした。
† † † † † † †
ぐつりぐつりと煮えたぎる溶岩の中に有る、岩のプレート。
空は黒い煙に覆われ、周囲の空気は熱気でゆらりゆらりと歪んでいた。
そこで、一人の竜人が目を覚ました。
「ン――ぁ?」
胸が、ぎしりと軋みを上げた。
視線を落とせば、胸元の音楽記号で言うフォルテ状の傷跡が発光していた。
それを抉るように爪で触れ、ゲッツは理解する。
フォルテが、大真面目に戦っているという事を理解し、ゲッツは正直な所面食らっていた。
肝心な所で茶化したり、一歩引きたがるアイツが、ここまで頑張るとは、と。
そして、その頑張った理由が恐らく己なのだと思うと、口元に笑みが浮かんだ。
そんな最中、ゲッツの背後から、ゲッツに良く似た声が聞こえてくる。
「よォ我の末裔。
……どォにも、テメェのダチがお前をお呼び出し中らしィぜ?
まさか、我の封印解いた馬鹿と、そんな馬鹿を助けようとする奴が現れるたァ予想してなかったわ。
――テメェもあの吟遊詩人も、いい度胸してやがンぜ。ま、テメェはなんにもしてねェけどな」
立っていたのは、一匹のドラゴンだ。
真紅の鱗を持ち、鋼色の瞳を持つドラゴンは、神話に語られる悪竜ファフニールそのものだ。
ゲッツが胸元に傷を残しているように、ファフニールも胸元に横一文字の大きな刀傷を持つ。
次第に、その刀傷が広がっていき、ゲッツの周囲の空間にも罅が入り始めた。
そろそろか、そう理解したゲッツは、口元の笑みを強くした。
「なァ――ご先祖様よ。
どォも、あんたと俺は似ているっぽいが、あんたの出会った運命はどういう奴だったんだ?
強かったか? んでもって、ギラギラ輝いてよ、すげぇ奴だったんだろどォせ」
「ああ、そうよ。
当然、地上で俺の次に″ナ強で、俺の次に<Mラギラした、最ッ高の存在だぜ?
一人じゃ変えられなかった定めも、アイツが変えてくれた、そしてアイツの運命は俺が変えた。
末裔、いやゲッツか。てめェの運命も、そうやって誰かと交われば変わるかもなァ、災厄のアイン・ソフ・オウルから変われるかもしれねェ。
大切にしな、ああいうダチはそう手に入るもんじゃねェ」
「わァってるよ、ファフニール様。
ってか、あんたもあんたで神様っぽくねェよなァ、信仰心は捨ててねぇけど。
どーせなら、絶世の美女のゲオルギウス様の方が良かった――ハイハイハイ悪かったからここで火ィ吹くなっての俺が死ぬ。
ま、なんだ。あんたを俺は超えるぜ? きっと俺もアイツも、祖竜信仰なんてメじゃねェ伝説作るさ。
……って訳で、耳かっぽじって目ェ見開いて、夫婦仲良く世界でも見守ってな、きっちり世界は俺らが救ってやるから」
どんな神だろうと、子供の時から憧れ続けてきた祖竜様は、案外にも己とよく似ていたと思うゲッツ。
悪竜がこんなやつなら、別に俺が悪竜の子孫でも悪くないと、ゲッツはそう思えた。
だから、最後に一発。ちょっとばかし気合を入れて、ゲッツは拳を握りしめて一歩を踏み出した。
爪が振り上げられる。拳を振り上げた。
鋼と鋼が交錯して、何かが砕ける音が響いて、世界は赤い光に包まれていき――――――
† † † † † † †
「あれ、イメチェンしたのかよォ? フォルテ。
ちょいとマブいんだが、これはとりあえず乳揉んどけって事か、乳な、乳! 今から揉むぞ!」
光が止んで、矢を放った後緊張で力が抜けていたフォルテの前には、一人の竜人が立っていた。
神官を思わせる衣服は、どことなく祖人ゲオルギウスの時代の聖騎士の装束にも酷似している。
大きく開かれた胸元には、薄っすらと光を漏らす、fの文字を象った傷。
わきわきと手を伸ばし、女性化したフォルテの乳を揉もうとしたが、目の前でぼふんと音を立てて何時ものフォルテになった。
スカッ、虚しい風切り音を立てて指は空振りして、ゲッツはきょとんとした顔で、次の瞬間には高笑いを響かせていた。
「ヒヒャ……ッ、ヒヒャハッ! ヒヒッヒャヒャヒャヒャハハハハハハハ――――ッ!!
なんだそれ、エアおっぱいかよ!? 修行で身につけた新技かァ?
俺もちょいと新技使えそうな気はするが――その前に」
馬鹿笑い高笑い阿呆笑い。
暫くそんないつもどおりの発言を繰り返していたが、ゲッツは珍しく真面目な態度へと移る。
真っ直ぐにフォルテの目を見据えた上で、その場で土下座を敢行した。
角が地面にめり込み石畳を粉砕したが、それほどまでに申し訳ない気分で一杯だったのだ。
「悪ィな、迷惑かけた。
……ボルツのおっさん死んだりよ、色々有ってちょいと焦ってたんだわ。
んで、こんな無茶しちまった。お前も殺しかけたし、10回位お前の頼みなんでも聞くから、ガチで済まんかった!!」
もう一度、額を石畳にたたきつける勢いで――というか、叩きつけて石畳を吹き飛ばしたが――セカンド土下座。
フォルテが何か言うまで、ゲッツは謝り倒すだろう。
自分の勝手で皆に迷惑を掛けたことは間違いないし、親友を殺しかけた。
己の責任でそれを成したことが何よりも許せず、だからこそゲッツは自分の筋を通すために頭を地面に叩きつけ続けていた。
しかしながら、このまま謝罪をさせ続けていると、次第に仙界に穴が開いて地上までの直通通路ができかねなかったろう。
光の矢は竜の胸をあやまたず打ち抜き、眩い閃光が炸裂する――
それを認識した瞬間、脱力感に襲われて地上に降り立つ。
そこには、神官のような衣をまとったゲッツがいた。
「ゲッツ……」
何て声をかければいいんだろう。感情の波が押し寄せて言葉にならない。
この気持ちはきっと、吟遊詩人が自らの勇者に向けるもの。それ以上でもそれ以下でもない。
無言で駆け寄ってよじのぼって定位置におさまってやろうか。
そうこうしているうちにゲッツが先に口を開く。
>「あれ、イメチェンしたのかよォ? フォルテ。
ちょいとマブいんだが、これはとりあえず乳揉んどけって事か、乳な、乳! 今から揉むぞ!」
「はあ!? お前を喜ばせるためにこうなってる訳じゃねーよこのおっぱい星人が!」
いきなりのセクハラ発言をかまし、あろうことか胸に手を伸ばしてきた!
こいつに惚れる女は古今東西全宇宙探しても1000%存在しないな。間違いない!
サービスでこのまま抱きつくぐらいしてやっても良かったのに完全にアウトだ!
オレはえいやっと通常グラフィックに戻り、おっぱいは虚数空間の彼方に消えた。これこそまさに虚乳。
「ヒヒャ……ッ、ヒヒャハッ! ヒヒッヒャヒャヒャヒャハハハハハハハ――――ッ!!
なんだそれ、エアおっぱいかよ!? 修行で身につけた新技かァ?
俺もちょいと新技使えそうな気はするが――その前に」
満更間違いではないけどおっぱいがメインではなく飽くまでも能力発動の副産物である。
おっぱいなんて飾りです、エロい人にはそれが分からんのです。
と、ゲッツがいきなり真面目な目でこちらを見据えたかと思うと、物凄い勢いで土下座をした。
>「悪ィな、迷惑かけた。
……ボルツのおっさん死んだりよ、色々有ってちょいと焦ってたんだわ。
んで、こんな無茶しちまった。お前も殺しかけたし、10回位お前の頼みなんでも聞くから、ガチで済まんかった!!」
「本当だよ。普通こういう盛り上がるイベントはクライマックスなのに序盤でやっちまってどーすんだ。お仕置きだっ」
そこまで言って、かがんでゲッツにデコピンをくらわせた。そして肩を掴んで目を合わせて微笑む。
「でも……仕方ないか。
オレがそんじょそこらの伝説と同じじゃ駄目って言ったんだもんな。
強さを求めるのは否定しない。いや、強いに越したことはないさ。
でもこれだけは覚えとけ。オレがお前を選んだのは一番強いからじゃないんだぜ?
言っただろ? 唯一無二のテーマ、誰も見た事のない伝説ってな!
柄でもなく戦ったのはお前のためじゃない、オレ自身のため、いつかオレが謳う伝説のためさ!
だから謝らなくていい、そういう時は”ありがとう”って言うんだよ」
そこまで言って、導師様がもうこの場にいない事にはっと気づく。
「……お礼はアサキム導師に言ってやってくれ。導師はオレに全ての力を受け継がせて……」
「導師は今上で風呂に入ってるそうだ」
安心院さんがしれっといい、思わずずっこけそうになった。
いや、あの超強い導師様の事だから多分そんなところだろうとは思ってたけどさ!
「――だってさ! とにかく導師様にエアおっぱいの感謝でもしとくんだな! 触らせてやんねーけど!」
もう一度言う。おっぱいはメインではなく飽くまでも付録である。
しかし世の中には付録目当てでお菓子や雑誌を購入する人も存在してしまうのだ。恐ろしい事である。
一方、上の診療所では、アサキムは、20年に一度の全身検査を受けて、結果を貰っている。
「はい、これでおしまいです。あと、これ結果ね。」
「どうも、……げっ」
「えっとね、頑張りすぎ」
「しょうがねぇだろ。厄がおおすぎんだよ。」
「あと、脳検査は、異常なし」
「そうか、あれは」
「うん、もう大丈夫。」
ふい、そうため息をつき
帰ることにした。なぜかテイルがいるので
ヘッドホンをつけて降りることにした。
jam projectの「rocks」を全力で流す。
「ねぇアサキム」
【superRobo スーパーロボ!】
「ねぇ」
【張りつめーた瞬間ににらみ合った】
完全スルーでありんす。
何度かスルーし、ようやく外し
「んじゃ、帰る。」
「うん、アサキム。また僕と×××して、×××しよ。」
いった瞬間に鼻血を吹き倒れた。
めんど、そう思い、降りることにした。
>>「導師様は、今上で風呂に入ってるそうだ。」
「もう、終わったから。」
安心院の後ろからアサキムが顔を出す。
そして、
「お前は、空気を読むことを知らんのか」
ハンマーを召還し、勢いよく、攻撃する。
「痛いから、痛いの」
安心院は、ミンチよりひどいことになりました♪
「まずは、フォルテ弁財天の守護覚醒成功おめでとう。」
「ある意味、賭けだったが、成功してなりよりだ。」
「お前の、親も喜んでたぞ。上から見てて」
「神格化を継続させる修行は、今度やる必要があるが、良しとしておく」
「そして、ゲッツお前は後で説教だ。」
「大体な、制御不能の奴を解放して、得なんかしねぇだろ。」
「破壊ばっかり考えているからこうなる。」
「罰として、ゲオルギウスからの説教五時間な。」
「プラス素戔嗚等、からの説教10時間コースな。」
そう、言いつける。
「俺は、アヤカ、安心院と、少し出るから。」
「復活っと」
安心院さん復活☆
「いくぞ。」
三人は、勢いよく走り出し、二人の眼前から消える。
>「でも……仕方ないか。
>オレがそんじょそこらの伝説と同じじゃ駄目って言ったんだもんな。
>強さを求めるのは否定しない。いや、強いに越したことはないさ。
>でもこれだけは覚えとけ。オレがお前を選んだのは一番強いからじゃないんだぜ?
>言っただろ? 唯一無二のテーマ、誰も見た事のない伝説ってな!
>柄でもなく戦ったのはお前のためじゃない、オレ自身のため、いつかオレが謳う伝説のためさ!
>だから謝らなくていい、そういう時は”ありがとう”って言うんだよ」
「――力を求めンのは俺の業よォ。だがまあ、力に振り回されンのは本意じゃァねえわな。
精々、あの力も完全にモノにして、全く知らねェ新しい伝説を世界に刻んでやるさ。
まあ、なんだ。……ありがとよォ、フォルテ。結構いい筋してたじゃねェか、心臓がバチバチしてたぜ俺ァ!」
力を求めるのは、もはや生まれ持った業であると言いつつ。
しかしながら、ゲッツはその業を突き詰めはしても、その業に引きずられる気はさんさらない。
力に振り回されるなど、ハイランダーの名折れであり、力を支配する事こそがハイランダーの戦士としての誉れだった。
フォルテの健闘を湛えるように、いつもどおりにデリカシー一つ無い腕力でフォルテの背をばすんばすんとひっぱたく。
ビンタと言うものは鈍い音の方が痛いと言うが、文字通りそれだ。一挙一動が迷惑なのは、まるで規模違いのファフニールの様だ。
>「導師は今上で風呂に入ってるそうだ」
>「――だってさ! とにかく導師様にエアおっぱいの感謝でもしとくんだな! 触らせてやんねーけど!」
「ち……ッ、結局乳触れなかったしィ!? いいぜ、いいもんなァ!
娼館にでも――って、よく考えるとローファンタジア以降俺一文無しじゃね……?
やべェ、こっから旅するにしろ、なんにも俺ねェぞ? 服だけなんか綺麗なねーちゃんに貰ったけど」
今更すぎるが、この竜人一文無しだ。
ローファンタジア以降、移動手段に車は貰い、お礼に寝床と食事と酒と風呂。
エヴァンジェルにおいても、移動手段は自力であったし、食事も寝床もボルツの奢りだった。
そして、ゲッツは大抵において身一つで生きていたため、ローファンタジア以降全財産を失っていた。
それに気がついたゲッツは、ぎしり、と犬歯をむき出しにして。
「……ムカツクなァ、アイン・ソフ・オウルとやらも。
こりゃ、あの変な黒いの片っ端から――『うんうん、そういうふうに熱心なのは嬉しいね』
財布とかクレジットカードの恨みで、世界を滅ぼす力に殺意を向ける当たりさすがだった竜人。
その呟きに被さるように、歳若い女の声が聞こえてきた。
声の主の姿は、紛うことなき聖人ゲオルギウス、剣の聖女だ。
外見こそ、フォルテの見た聖人のそれに近いが、もう少しフレンドリーで、わかりやすく言うと俗っぽい。
ニコニコと笑顔を浮かべて、フォルテにぱたぱたと小さく手を振っている当たり、あの精神世界のやり取りは知っている様だ。
『やほ。
まあ、見ればわかると思うんだけど、ゲッツ君達ハイランダーのご先祖様、なのかな?
数千年ぶりに起きたらなんか子沢山になってた気分でちょっと現実味ないんだけど。
とりあえず、私はゲオルギウス。竜殺しの聖人で、救世のアイン・ソフ・オウル。よろしくね、二人共』
そう言って、乳に手を延そうとして手をわきゃわきゃさせていたゲッツを地面に埋め込みつつ、フォルテの手を取って握手をする。
ゲッツが神霊クラスのご先祖様に果敢にセクハラを行おうとするも、私人妻なんだけど、との言葉と同時に空中に高く蹴り上げられる。
まだ若く見えるのかなー、とくねくねとしている当たり、どこか天然入っているのだろう。しかしながら、実力は有るためたちが悪い。
ハイランダー種のご先祖は、なんだかんだで親しみやすい神霊であるようだ。
かーわーいーいー、とフォルテを背後から抱きしめてなでなでぐりぐりしているが、本当にモノホンの聖女である。
>「まずは、フォルテ弁財天の守護覚醒成功おめでとう。」
>「ある意味、賭けだったが、成功してなりよりだ。」
>「お前の、親も喜んでたぞ。上から見てて」
>「神格化を継続させる修行は、今度やる必要があるが、良しとしておく」
>「そして、ゲッツお前は後で説教だ。」
>「大体な、制御不能の奴を解放して、得なんかしねぇだろ。」
>「破壊ばっかり考えているからこうなる。」
>「罰として、ゲオルギウスからの説教五時間な。」
>「プラス素戔嗚等、からの説教10時間コースな。」
「制御不能を不能のままにしてちゃいつまでも不能だろうに……!
……ま、あんたにもすっげー迷惑かけたから、しっかり説教は聞くことにする。
悪かったな、アサキム」
地面に体を半ばほど埋めたまま、頭を下げるゲッツ。
いつもどおりの乱暴さだが、それでも申し訳ないという気持ちはあるようだ。
そして、この暴走を通して、どことなく気配が変わったようにも思えるだろう。
具体的には、あのローファンタジアのアイン・ソフ・オウルと質量は異なるが同種の力をゲッツは持っていた。
『やあ、アサキムさん。
私達の子孫と、ウチの旦那がどうやら面倒を掛けたみたいで、悪かったね。
今度菓子折りでも持ってくから、ゲッツ君についてはちょっと目を瞑ってくれると嬉しいかなって。
全く、ファフ君に良く似て粗暴で乱暴で粗野で馬鹿だけど、多分悪い子じゃないんじゃないかと思うからさ。
信じてあげてくれる? アサキムさんも、フォルテちゃんも』
なんというか、悪ガキの面倒を見るお姉さんかお母さんと言った調子の聖女。
ぺこり、と頭を下げて、ついでにゲッツの頭も下げさせる。
穏やかな雰囲気は、本当にあの世紀末戦闘民族ハイランダーの祖とは思えないが、芯の強さはこの時代にも受け継がれているようだ。
『……さて。
私は、そろそろファフ君とイチャラブ封印夫婦生活を送んなきゃならないんだよね。
そうしないと、さっきの戦いより物騒な事になっちゃうから。
あとファフ君も叱っとくから、フォルテちゃんもアサキムさんもこれで御免、って事で』
ゲオルギウスは、次第に体から感じられる存在感を薄めていく。
徐々に封印の式に引っ張られていき、そのまま異世界の封印空間に二人で封印されるのだろう。
残された時間はそうない為、ゲオルギウスは去っていったアサキムを見送り、ゲッツとフォルテに向き直って。
『ローファンタジア以降、世界の歪みはどんどん大きくなってきているの。
多分、近い内にこの世界は再編されちゃうと思う。
それが、良い方向か悪い方向かは別として、この世界の大意がそう語っている。
それを変えられるのは、アイン・ソフ・オウルの力。
ゲッツ君は私達から生まれた、アイン・ソフ・オウル。
フォルテちゃんも多分、弁財天の加護とかを得る以前の時点で、アイン・ソフ・オウルの素質を持っているかもしれない。
アイン・ソフ・オウルは、奇跡の力。……詳しい事は私からは語れないけど。
それを知りたいなら、そして世界の危機を知りたいなら。バニブルの地下迷宮に行くといいよ。
あそこの奥に、この世界の隠された真実が有るはずだから。欲し求めれば、与えられん。
あの地の知の迷宮は奥深いし嫌らしいけど、それでもと言うなら私から少しだけヒントを教えておくよ。
勇気を抱えて、誰かを信じ抜くこと。それが、この世界に挑む鍵。
ご先祖の人妻さんから言えることは、これくらいかな。……また何時か。再編された世界で会えると、嬉しいな――――』
言うだけ言って、微笑みを浮かべてゲオルギウスは消えていく。
ファフニールや、ゲオルギウスが語り、ローファンタジアを滅ぼしたアイン・ソフ・オウルとは何か。
この世界に訪れるとされている、再編≠ニは何なのか。
それを知りたいなら、図書国家バニブルへ行け。
それがゲオルギウスの言い残したことだ。それを真面目顔で聴いていたゲッツは――。
「ZZZ……、ファッ!?
あぶねー……、長話とかはやっぱし苦手だけどよ。
よ〜するに、バニブル行っときゃ良いのかねェ? ってか、アサキム達もエス平も居ねぇけどどーしたもんか。
先に現地入りでもしとくか? 仙界の飯、肉すくねぇから好みじゃなかったしよ」
いつも通りの態度を見せつつ、フォルテを肩に担いで仙界の様子を見て回ろうとする。
歩きながら、この先のプランについて話しあおうとするも、超人組は既にこの場に居ない。
先に行って情報収集でもするか? との提案が、ゲッツからは為されていた。
>「――力を求めンのは俺の業よォ。だがまあ、力に振り回されンのは本意じゃァねえわな。
精々、あの力も完全にモノにして、全く知らねェ新しい伝説を世界に刻んでやるさ。
まあ、なんだ。……ありがとよォ、フォルテ。結構いい筋してたじゃねェか、心臓がバチバチしてたぜ俺ァ!」
「いってー! お前とは作りが違うんだぞ!」
手加減一つない実質張り手に抗議しながらも、口元には笑みが浮かぶ。
いい筋してた、と言われて悪い気はしない。
「分かったよ、そうだと思った。いざとなったら引き留めてやるからお前は思う存分一番を目指せ!
ナンバーワンでオンリーワンの伝説を謳ってやるよ!」
と、ゲッツと会話をしていると、綺麗なお姉さんが現れた。というか救世の聖女様だ!
>『やほ。
まあ、見ればわかると思うんだけど、ゲッツ君達ハイランダーのご先祖様、なのかな?
数千年ぶりに起きたらなんか子沢山になってた気分でちょっと現実味ないんだけど。
とりあえず、私はゲオルギウス。竜殺しの聖人で、救世のアイン・ソフ・オウル。よろしくね、二人共』
伝説の聖者相手にゲッツが果敢にセクハラに挑み、あえなく撃沈する。
そのチャレンジ精神には感服するが、世の中にはチャレンジしなくて良い事もある。そのうちの一つがこれだ。
まだ若く見えるのかなーって……享年何歳なのかますます不詳になってきた。まさかの美魔女!?
でも改めて見るとものすっごい美女だ。
その美女が背後から抱きついてなでなでしてくるのだから「お姉さまー!」と戯れざるを得ない。
ゲッツの方をウザいドヤ顔で見る。羨ましい? 羨ましい? 入れてやんなーい!
>「もう、終わったから。」
「早ッ! 烏の行水かよ!」
噂をすればアサキム導師が現れた!
>「まずは、フォルテ弁財天の守護覚醒成功おめでとう。」
>「ある意味、賭けだったが、成功してなりよりだ。」
>「お前の、親も喜んでたぞ。上から見てて」
>「神格化を継続させる修行は、今度やる必要があるが、良しとしておく」
「母さんが!?
一つ聞きたいんだけど……女神の神格を受け継ぐと見た目も女性化するもんなのか?
だったら神格化を継続したらずっとあのままじゃねーか!」
そんな事をしたらおっぱい大好き竜人がいる限りずっとおっぱいネタで話が進まないじゃん!
それともずっとあのままなら慣れて耐性が出来るのだろうか。
>『やあ、アサキムさん。
私達の子孫と、ウチの旦那がどうやら面倒を掛けたみたいで、悪かったね。
今度菓子折りでも持ってくから、ゲッツ君についてはちょっと目を瞑ってくれると嬉しいかなって。
全く、ファフ君に良く似て粗暴で乱暴で粗野で馬鹿だけど、多分悪い子じゃないんじゃないかと思うからさ。
信じてあげてくれる? アサキムさんも、フォルテちゃんも』
力強く頷いて言う。
「安心して、聖女様。もはや信じる信じないじゃない。伝説を謳う者に選ばれてしまったのが運の尽きさ」
それに……オレの見込んだ勇者様はいざとなったら我が身を省みずに仲間を助けてくれるような奴だよ!
そう伝えてあげたかったけどやめておいた。だって本人が聞いてるのに言えるか!
>『ローファンタジア以降、世界の歪みはどんどん大きくなってきているの。
(中略)
ご先祖の人妻さんから言えることは、これくらいかな。……また何時か。再編された世界で会えると、嬉しいな――――』
聖女様は謎めいた言葉を言い残して消えていった。ちょっと待てよ!
世界の再編!? オレもアイン・ソフ・オウルの素質を持っているかもしれない、だって!?
>「ZZZ……、ファッ!? 」
「お前寝てただろ!? 目ぇ開けたまま寝てただろ!」
全くこいつは、油断も隙も無い! 定位置におさまって、仙界を見て回る。
そういえば――ゲッツに伝えるために祖竜ファフニールから命懸けで聞き出した事を思いだしたが、もはやオレの口から言う必要は無いな!
>「あぶねー……、長話とかはやっぱし苦手だけどよ。
よ〜するに、バニブル行っときゃ良いのかねェ? ってか、アサキム達もエス平も居ねぇけどどーしたもんか。
先に現地入りでもしとくか? 仙界の飯、肉すくねぇから好みじゃなかったしよ」
「でも……どうやって地上に帰るの?」
アサキム導師たちはさっきそそくさとどこかに行ってしまったし、どことなく仙界が慌ただしいような気がする。
「お前達、こんなところをうろついていたのか。早く地上に帰れ」
うろうろしている所を、素戔嗚さんに捕まえられた。何故か不自然に早く帰らせたそうに見える。
彼に連れられて入った小部屋には、ぐるぐる回っている時空の歪み?のようなものがあった。
ご丁寧に「たびのとびら」って立札が立ってるし。胡散臭い事この上ない。
「ここに飛び込めば地上に帰れる。今すぐここに飛び込みなさい、さあ、さあ!」
「本当かよ!」
うわー、どこ行くか分かんないしめっちゃ怖いんですけど!
ここは図書国家、バニブルのとある庭園。
木立の奥、古木の後ろから、寄り添う二つの影がはみだしていた。
一人は男で一人は女。互いの背にためらいながら手を伸ばす。
女の腕は男の肩へ、男の腕は女の腰へ回され、女が軽くつま先立った。
顔と顔が近寄ってゆき、鼻先をずらして、唇が重なる。影がひとつになる。
「きゃわぁーっ!!」
口づけを目撃してしまった。
気づいたときにはヴァルンの腰は抜けていた。
しかも他人ならいざ知らず、最愛の夫と、ヴェルザンディ国家司書との
――口づけだ。
「うそよー!これは何かのまちがいよ。どうしよう。
ハー君と国家司書があんなことする仲だったなんて…」
ぐっと拳を握ったとたん、胸が妬けヴァルンは泣きそうになった。
ハー君ことハーラルは近衛兵の長。かたやウェルザンディは国家司書。
例えたら警視庁長官と、なんてら大臣のような関係なのだ。
たぶん。そう思う。ヴァルンには詳しいことはよくわからなかったが
でも、ふらふらになりながらもう一度古木に視線を移す。
しかし、すでに影はなかった。二人は立ち去ったあとのようだった。
(…どうしよう。……どうしよう)
疑念が頭から離れない。ヴァルンは魔法で動く魔導車に乗って庭園をあとにする。
そしてしばらくすると、クラクションの音が街中に鳴り響く。
振り返れば後ろは大渋滞。それはヴァルンが超安全運転だから。
おまけに右折ができず、狭い場所にとめるのも苦手。
だから公園の駐車スペースにひん曲げながら車をとめる。
――公園のベンチ。
「…はあ」
しょんぼりしながらヴァルンは盛大なため息を吐いた。
まさかハーラルが浮気していたなんて…。
(いえ、ちょっとまって)
ヴァルンは立ち上がる。そして恋愛小説を思い出す。
悪い女から騙されるおろかな男のことを。
「きっと、ハー君はあの女に騙されてるんだわ!
あの女狐め!尻尾を掴んで地獄の業火に叩き込んでやるわ!!」
こうしてヴァルンは、私立探偵の事務所の門を叩くのであった。
「だが断る!!」
「え?どうしてなの!?」
私立探偵の事務所の客室で、ヴァルンは探偵に怒鳴られていた。
「そんなん調査したらこっちの命がなくなるわ!」
私立探偵「スパイダー・マサトシ」は関西弁でまくし立ててくる。
「じゃあ、自分で調査するので私を探偵にしてください!」
「なんでやねん!!」
マサトシの怖い顔。まるで野犬。ブルドッグ。
ぶ厚い下くちびるを突き出してまるでヤクザ。
ヴァルンは負けじと頬を膨らませてみせた。
そのあと、部屋に押し入って、勝手に掃除を始める。
「ちょ、おま、なにしてんねん!!」
「みたらわかるでしょ。掃除です。もう私は今から探偵みならいです」
「ああ!?誰がええっていったんやこのクソアマ〜!!」
マサトシがバナナを振り上げ迫ってくる。
きゃーたすけて!そう思ったその時だった。
扉が開いて、お客様がハイって来た!
「いらっしゃいませーっ!」
ヴァルンは元気な声で挨拶をした。
佐伯伽椰子は突如消えた半数の使役する亡霊たちに対して仙界で起きている事に
只ならぬ物を感じ、最早そこ等の魔王よりも力を持ち下手をすれば神に等しい怨霊は
所詮はその力による自身と他者を恐怖に陥れる常に自分が上位の存在だと言う
弱い物しか嬲らず、それにより自分より上位の存在とは直接戦わない
井の中の蛙である怖い物知らずだった
世界守護者委員会や世界を守る存在など敵では無いと思っていたが
今は奴の本能が告げているのだ、この場所は危険すぎると
投入したのは彼女からすればほんの些細な数ではあるがその半数が瞬く間に憑依対象と共に消えたのだ
それは突然の事であるため、当初はなぜ起こったのかも理解出来なかった
分かったのはアサキムと峻厳のアイン・ソフ・オウル 滅竜ファフニールとの戦いによるのが原因であること
この規模の戦いなどはそうは無いとされてるようだが問題は似たような戦いが被害お構い無しで行われているのなら
何れは送った分身達と亡霊も何が起こるか分からない場所ゆえに全て消される可能性が高い
佐伯伽椰子はアサキムと分身が戦ったことがあるが個体としての戦闘能力は厄介極まりないのも事実である
もっとも手の届かない親族郎党はじっくり時間をかけて殺すことで仕返しをするつもりである。
世界守護者委員会と言った世界を守る者達や世界の意思達に只でさえ追跡されている
それらすら平然と叩き潰す力を得るために、アインソフオウルの種子を手に入れるのに力を費やす事を決め
今現在でも追い詰められる中、佐伯伽椰子はネバーアースに再び降臨し
仙界には今後の失った亡霊たちの補充も含めた自身と変わらない本気の力を持った分身を送ったのであった。
そんな佐伯伽椰子を見逃すはずが無く、その瞬間すぐに数千頭のティンダロスの猟犬が襲撃を仕掛けられている頃
アサキムとゲッツ達の激闘地跡にティンダロスの猟犬達と共に向かっている永久闘争存在は
突如何処からか現れ、その背に一人の男を乗せていた猟犬に視線を向ける。
本来ならば敵意を持つか目の前に立ち塞がれば問答無用で反応し、全てを無に返すのだが
その男からは殺意や敵意、そしてそれが自分の目的に対して障害や邪魔になる要素が見当たらない
>「おめー、もしかして神様か?バケモノ退治なら、俺も同行する」
「…………違うな、多世界に影響をもたらす者は排除するのみ
それ以上でもそれ以下でもない……」
無機質かつ冷酷非情な機械的な声音と雰囲気でリュジーに一瞥してそれだけを言うと
一切言葉を発しなくなるこの男との会話は何の利益も無い上永久闘争存在にはまったく不要な物である。
そんな中、そんな彼に続いて突如一匹の不思議な生物―淫夢君がひょっこりと現れ
何やら挨拶をする動作をしてリュジーの肩に乗る
そうこうしている内に激闘地跡に降り立ち周囲を確認する。
其処には何もないまっさらの大地が広がる正確には大地すら抉れているのだが
「…………」
既にこの戦いでアサキムとゲッツそしてフォルテは居ないようだが
彼らもその力により多世界にとっては影響をもたらす者として要注意の警戒レベルに入っている
場合によってはその強大な力と影響力を考えれば排除も視野に入れねばならない
あの激闘で感知された力はそういった域に達しているのだから
もってきます!
>「…………違うな、多世界に影響をもたらす者は排除するのみ
それ以上でもそれ以下でもない……」
リュジーは永久闘争存在の言葉を聞き、ふと思う。
多世界に影響をもたらす者とは、きっとあの悪霊のことだと。
たしかに、心当たりはある。
かつて除霊を相談した霊能力者は、恐怖におののきこう語った。
この一件は人の手にはおえないものだと。
蓄積した呪いが、怨念が、時と空間を越え拡大してゆくのだと。
そしてその忌まわしき怨念の名は――
「……佐伯伽椰子」
思い出すたびに背筋が凍りつく。
あの不吉な女の名前。
呪怨の家で起こった凄惨な事件。
たしかに佐伯には同情はする。
しかし、今のリュジーにはそんな気持ちなどさらさらない。
佐伯が己を不幸にした世界に復讐するつもりなら
リュジーも仲間を呪い殺した佐伯に復讐するのだ。
かならずや仇を討つ。佐伯の首を討ち取り、友の墓前に供えるのだ。
そう、それが男の生き様。任侠道なのだから!
「このまま尻尾まいて逃げれねーぜ」
眼光鋭くリュジーはひとりごちる。
そんな中、突如一匹の不思議な生物―淫夢君がひょっこりと現れ
何やら挨拶をする動作をしてリュジーの肩に乗る。
「おまえも行くか?ならしっかり捕まってろ」
そうこうして、淫夢君を肩に乗せたリュジーを乗せた猟犬は激闘地跡に降りた。
>「…………」
「…………」
リュジーは大気に残った微かな波動を感じていた。
たしかにここでは何かがあったらしい。
「ちっ、逃げたか…」
リュジーはあたりを見渡していた。
無数の猟犬と排除する者。
現世ではあれほどの威勢を放っていた伽椰子も
この世界では追われる立場なのだろう。
「こりゃあ、いたちごっこだぜ」
リュジーも呪怨の能力の片鱗を現世で体験している。
永久闘争存在も、これだけの猟犬をひきつけているということは全能ではないのだろう。
彼をもってしても、伽椰子の探索には骨を折っているのかもしれぬ。
「どうする?」
戦いにおいては先をとることが勝利に繋がるものだ。
相手の行動の先を読むことだ。
それなら伽椰子の目的は?
ただ逃走しながら、殺戮を繰り返しているだけなのだろうか?
――わからない。
今のリュジーには知ることが必要なようだ。
「いったい伽椰子は、何が目的なのだ?」
淫夢君の頭を撫でながらリュジーは呟くのだった。
>「ここに飛び込めば地上に帰れる。今すぐここに飛び込みなさい、さあ、さあ!」
>「本当かよ!」
素盞鳴に連れて行かれ、たどり着いたのは旅の扉。
時空の歪みが普通にそんなところにある時点で色々可笑しいが、そもそも可笑しいことなど日常茶飯事だ。
おもむろに、まだうだうだ言っているフォルテの首根っこをむんず、と掴みあげるゲッツ。
「お、おいゲッ――「ヒャッハァ! ちょっとしたアトラクションみたいなもんじゃねーか! 行くぜさっさと!」
フォルテを旅の扉に向けてトルネード投法でピッチング、高速で旅の扉に不思議妖精を放り込むと同時に、ゲッツも迷いなく飛び込んだ。
その数秒後だ。
「まにあ……ッヒ……ィ!? な、ん……ッ!?
ひ、ヒァ……、ギィァアアアァァアアァッァアァァアァァアアッァッ!?」
唐突に現れた佐伯によって、問答無用で素盞鳴が殺害されたのは。
あと判断が少し遅れていたら、フォルテがゴネるのを放置していたら。
きっと、これからの冒険は終了していたかもしれない、案外大丈夫かもしれないが。
「悪ィな、フォルテ。
……流石の俺もまだ<Aレにゃあ勝てそうにねぇ。いや、負けねぇけどよ。
なにがなんだか分かんねぇが、仙界にエス平の気配来てたから、多分超強ぇ奴と戦ってるっぽいわ。
つーわけでぶん投げた。文句は聞いてやる、3秒間な」
ドラえもんのタイムマシン的謎空間を、浮かぶでもなく普通に歩いているゲッツ。
空中でもがいているフォルテの首根っこをひっつかんで、いつも通りの定位置に持ち上げた。
珍しく真面目な表情をしている当たり、冗談抜きで危険な存在が相手だったようだ。
エスペラントが本気を出すほどの相手であれば、それを今の己達が倒せるはずは、無い。
それこそ奇跡を起こす力でも手に入れない限り、絶対にだ。
「さって、アレが出口かね――ファッ!?」
ごうん、と空間の裂け目を見つけて、そこに蹴りを入れてこじ開けて飛び出すゲッツ。
飛び出した先は――空の上だった。
フォルテを肩車している状態で、上空に投げ出されたゲッツは、鋼の翼を即時に展開するも体勢を崩してしまう。
きりもみ回転をしながら、真っ逆さまに上空数百mから落ちていくゲッツ達。
「あー、なんだ。
ビビんな、あとなんかぶっ壊したら弁償頼むぜ?」
はぁ、と溜息を突きながら、表皮に金属装甲を展開していき。
肩からフォルテを下ろすと、懐に抱え込むようにして、地面に轟音を響かせて着地した。
幸いなことに、ゲッツの耐久力は非常識であったし、ある程度の体勢の修正は可能だった。
木の板やらコンクリートやら、瓦礫の山をかき分けるようにして、2mの馬鹿が現れて。
ずぼり、と埃まみれのV系吟遊詩人を瓦礫を蹴っ飛ばしてどかしながら引っ張りだした。
「ヒューッ!
これがバニブルなァ、俺が来た時と殆ど変わってねぇじゃねェのよ。
あいっ変わらず埃くせぇし、ガリヒョロばっかだし――ま、森多いのはいいけどなア」
どうやら、旅の扉の神殿の上空に現れてしまったようだ。
周囲から何事かと神官が集まりつつ有って、完全防御体制のゲッツを見て、僧兵達が集まり始めた。
また宗教団体と事を構えるのか、と溜息を着くゲッツ。
瓦礫の山から収穫したばかりの採れたて吟遊詩人の肩をがっくんがっくんと揺らしながら、大丈夫か?と聞く。
この手の折衝は、己よりもフォルテのほうが向いているということは、さすがのこの馬鹿でも理解できていたようだ。
なお、フォルテはほぼ無傷である。ダメージの大半はゲッツが請け負った、TRPGで言う所のかばうである、落下ダメージには適用できないはずだが気にしたら負ける。
>「悪ィな、フォルテ。
……流石の俺もまだ<Aレにゃあ勝てそうにねぇ。いや、負けねぇけどよ。
なにがなんだか分かんねぇが、仙界にエス平の気配来てたから、多分超強ぇ奴と戦ってるっぽいわ。
つーわけでぶん投げた。文句は聞いてやる、3秒間な」
どうやらオレはまた助けられたようだった。
エスさんやアサキム導師は無事だろうか……。
そんな思考は、出口から飛び出した途端に吹き飛んだ。
>「さって、アレが出口かね――ファッ!?」
「ん゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁああああああ!!」
ローマ字入力ではとても表現できない絶叫を響かせながらフリーフォール。
お前飛べるだろ! だって? ゴモットモデス。でも羽ってどうやって出すんだっけ。
♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪
>「ヒューッ!
これがバニブルなァ、俺が来た時と殆ど変わってねぇじゃねェのよ。
あいっ変わらず埃くせぇし、ガリヒョロばっかだし――ま、森多いのはいいけどなア」
「かゆ……うま……」
ほぼ意識が無い状態で瓦礫に埋まっていた所を、ゲッツに揺り起こされる。
全身埃だらけ、顔からは涙と鼻水を垂れ流し酷い有様だが、殆ど無傷。
ゲッツの方を見ると、全身生体鎧の完全防御形態。そういう事か。
胸をなで下ろしたのも束の間、何故か僧兵達に取り囲まれつつあった。
建物一つぶっ壊れてその爆心地に全身生体鎧がいたら当然と言えば当然か。
「曲者め! よくも姉妹都市バイタルと繋がる貴重なルートを埋めてくれたな!
とっ捕まえて警察司書に付き出してやろうぞ!」
「わーーーーーっ! 怪しい者ではありません! ほらゲッツ、元に戻って!
地階層の目録作りのアルバイトに来ました!」
ここは適当な呪歌で切り抜けるか。
そう思い、モナーをキーボード化させて構えた瞬間。
「馬鹿者! ここは図書国家だぞ、騒音禁止だ!」
「えーーーーーっ!?」
国全部が図書館ともいえるこの国において、V系吟遊詩人は招かれざる客だった!
「警察司書に引き渡す……じゃなくて私立探偵事務所に引き渡す!
敏腕探偵スパイダー・マサトシが貴様らの正体暴いてくれるわ!」
「私立探偵事務所……?」
スパイダー・マサトシに興味をそそられたので、大人しく連行される事にした。
後から聞くによるとこの国の官権は全て司書で、図書館の建物外での事件は司書の管轄外だから私立探偵に引き渡すらしい。
周囲の建物は全て図書館だろうか――
建物同士が漏れなく渡り廊下でつながっており、街の中に図書館があるというより
巨大な図書館の中に道路が敷かれていて街があるといった感じだ。
そんな中に、珍しく独立している建物があり、「スパイダー・マサトシ探偵事務所」と看板が出ている。
そこにドアを開けて放り入れられた。
>「いらっしゃいませーっ!」
見習い探偵だろうか、若い娘が明るく出迎えた。
「旅の扉の神殿ぶっ壊れたと思ったら爆心地にこいつらがいまして。ではあとはお任せします」
「なんや、また面白い奴らしょっぴいたなあ、まあ適当にやっとくわ!」
僧兵と敏腕探偵?との間でアバウトなやりとりが交わされ、僧兵達は帰っていくのであった。
>「旅の扉の神殿ぶっ壊れたと思ったら爆心地にこいつらがいまして。ではあとはお任せします」
>「なんや、また面白い奴らしょっぴいたなあ、まあ適当にやっとくわ!」
僧兵たちと探偵のやりとりをみていたヴァルンは彼らたちが異常に仲の良いことに気付く。
僧兵たちの一部にはマサトシに対して敬愛の念さえ感じ取れた。皆めっちゃ笑っている。
でも、図書施設に入ったとたん無の顔。そう図書館の中では笑ってはいけないのだ。
ヴァルンはそんな僧兵たちの様子に気付くわけもない。
「マサトシったら尊敬されてるの?ゴリラみたいな顔なのに?」
「やかましわ!」
そう言いながらソファーにどっかりと腰を下ろすマサトシ。
「で、おまえら何者や!?パスポートあるんか?
ここに来たんは何が目的や?職業は?滞在日数は?はよゆえや」
「私の名前はヴァルン。目的は立派な探偵になってハー君を悪い司書から守ること…」
「おまえには聞いとらんわ!
あ、そうや。もたもたしとらんとお前は茶でもわかさんかい!!」
マサトシがフォルテたちに質問している間にヴァルンは給湯室でお茶を沸かすことになった。
そしてゲッツとフォルテの前にお茶を置く。お茶はいい香りを放っている。
続けてマサトシの前にもお茶を置くとヴァルンはフォルテとゲッツに顔を向ける。
「あの、旅の扉を壊して現れたってことは、もしかしてあなたたちはテロリスト?
だとしたら、ハー君の敵だわ!はやく教えてあげなきゃ!ハー君は私の大切な旦那さまなの。
それも警察司書長官なの。とっても偉くてかっこいいの!」
「あ〜うるさいのお!おまえはしゃべんなやーっ!」
とつぜん怒ったマサトシは、お茶をヴァルンの足元に叩きつけ
続けて目の前のテーブルを蹴り上げる。
同時にフォルテとゲッツの足はソファーとテーブルの間にガンっと挟まれる。
「ヤバいな。この気この前のとは段違いだ。竜との戦いで、気付かなかったけど。」
「アサキム、メール素戔嗚が、死亡。」
「解った、適当に、蘇生場に送れ。」
そんな事を気にしている場合ではなかった。
「止めるぞ。あの怨霊。」
「そう言えば、あの二人大丈夫かな。」
「途中まで、素戔嗚が同行したはず、ぎりぎりセーフだろ。」
そう言うことを話しながら進んでいくと
「あれか、既に戦闘中。」
「しかも、この気は、」
「本物とソックリだぜ。」
「死ぬ気でいかんと、まずいな」
アヤカは、スフィンクス、ドラグーンなどの獣を召喚。
アサキムは、毘沙門天の能力を解放。
「消え失せろ。」
天武の矛での、一撃浄化「震撼天性」
を発動。
佐伯に、突撃する。
安心院は、後ろよりサポートする。
>「警察司書に引き渡す……じゃなくて私立探偵事務所に引き渡す!
>敏腕探偵スパイダー・マサトシが貴様らの正体暴いてくれるわ!」
「探偵、ねェ……。ま、俺たちゃ喧嘩し来たわけでもねェしよォ。
大人しく付いて行ってやるよ。ほれほれ、武装解除な」
皮膚に張り付く形で展開されていた装甲を、その場で地面に叩き落として。
神官服のようだった衣服はいつの間にか、普段のワイルド系衣服に戻っていた。
まあ、表面上の武装を捨て去った所で、全身が兵器といっても過言ではないため、飛行機に乗る前の検査などで引っかかることうけあいだ。
公共交通機関は、旅の扉以外にはサクッと使うには難儀する、全身テロリストだ。
そうしながらも、フォルテと共に僧兵に引っ張られていく竜人一匹。
やたらと整った図書館の国に、妙な息苦しさを感じる。
うっかり更地にしたく成るのは、広大な土地に住んでいたからか、それとも厄災の性なのか。
ともかく、ぱっぱと開放されて飯でも食おう。そう思いつつ、探偵事務所の鴨居を越えた。
>「マサトシったら尊敬されてるの?ゴリラみたいな顔なのに?」
>「やかましわ!」
中では、歳若い女とやたらごつい男が漫才を繰り広げていて。
突っ込みの切れ味がいいなおい、と場違いなことを思いながらも、ぼさっ、と一人突っ立っていた。
茶とかねェの?と聞くと、その直後にお茶が来た、のどが渇いてたため熱々のお茶を一気飲みだ。
>「で、おまえら何者や!?パスポートあるんか?
>ここに来たんは何が目的や?職業は?滞在日数は?はよゆえや」
>「私の名前はヴァルン。目的は立派な探偵になってハー君を悪い司書から守ること…」
>「おまえには聞いとらんわ!
>あ、そうや。もたもたしとらんとお前は茶でもわかさんかい!!」
「パスポートは無ぇけど、冒険者カードは有るぜ?
フォルテもあンだろ、アレ確かパスポートとか、電車にぴってやるアレとかになるし。
って……、そうだ、俺また服脱げてたか「ありますよー!」うぉッ!? って、お前いつの間にいンのリーフ!?」
ゴソゴソとカーゴパンツを漁るゲッツだが、この服は破れた痕の代替品だ。
要するに、一文無しで何にもない、という事なのだがそこはご都合主義。
唐突に背後に現れた超職人級ふくろ係、リーフ・ウィステリアが参上した。
この便利屋度、最早ふくろのアイン・ソフ・オウルといっても過言ではない。
使いっ走りという概念、頂天に座する魔的なまでのパシリ――頂天魔アイン・ソフ・ふくろこと、リーフが都合よく二人分の冒険者カードを差し出していた。
「いい仕事しやがるな……、プロ根性って奴?」
「影に徹するのが私の仕事ですから!」
びし、といい笑顔を浮かべながら、ゲッツのサムズアップにサムズアップを返すリーフ。
一歩後ろに下がれば既に背景。ゲッツはリーフに尊敬の念を抱き、リーフはゲッツに感謝を返す。ユウジョウ!
「ゲッツ・D・ベーレンドルフ、職業は冒険者。つっても、傭兵みたいなもんだがよ。
目的は、えーっと、アイン・ソフ・オウル?だかについて調べる事で、とりあえずなんか見つかるまでは滞在すっぞ。
ってか、腹減ったんだけど美味い飯屋とか知らね? 結構ガッツリ食える所だったらいいんだけどよ」
いつも通りの、どこか凄みのある笑みを浮かべて、口を動かすゲッツ。
相手の恫喝めいた態度を前にしても、此方は態度を変えることもない。
と言うよりは、この程度でビビっていては傭兵などやっていられなかっただろうから、当然といえば当然だ。
>「あ〜うるさいのお!おまえはしゃべんなやーっ!」
「うォッ、いい筋してんじゃねェの」
目の前で蹴り上げられたテーブルを、あろうことか蹴り返すゲッツ。
ごすぅ、と鈍い音を立ててテーブルに確りと足が貫通していた。
ごん、と足が貫通したテーブルの側面が床にぶつかり、がしゃりばしゃばしゃと茶器を床に落として、陶器の砕ける音と茶がぶちまけられる音がそれに続いた。
茶は最初ゲッツ達の方に振りかかるはずだったのだが、ゲッツのカウンター気味の蹴りのお陰で逆方向に吹き飛ばされ、マサトシにぶちまけられる事となる。
要するに――心証が最悪レベルになってもおかしくない、という事だった。まあ、状況のトリガーを引いたのはマサトシだが。
「やっべ、抜けねェんだけど!?」
中々いい木を使って作られたテーブルはそこそこに重厚。
足を抜くのが困難だったゲッツは、段々苛ついて義手を変形させ銃弾を打ち込もうと画策し始めた。
先ほど武装解除したのだが、もう忘れている。色々とマッポーな感じだった。
マサトシの質問に、何故か見習い探偵が答える。
>「私の名前はヴァルン。目的は立派な探偵になってハー君を悪い司書から守ること…」
「悪い司書? 何か息苦しい雰囲気だと思ったら……この街は今悪い司書に支配されているの!?」
>「おまえには聞いとらんわ!
あ、そうや。もたもたしとらんとお前は茶でもわかさんかい!!」
見習い探偵が給湯室行きになっている間に、取り調べは進められる。
>「ゲッツ・D・ベーレンドルフ、職業は冒険者。つっても、傭兵みたいなもんだがよ。
目的は、えーっと、アイン・ソフ・オウル?だかについて調べる事で、とりあえずなんか見つかるまでは滞在すっぞ。
ってか、腹減ったんだけど美味い飯屋とか知らね? 結構ガッツリ食える所だったらいいんだけどよ」
リーフから受け取った各種身分証明書を提示しながら言う。
「自分の置かれてる立場分かってる!? 今一応容疑者でこれ取り調べだから!
フォルテ・スタッカート、職業は見ての通りのV系吟遊詩人で見かけによらず年金受給者です!
連れが失礼な態度をとりまして申し訳ありません!
こいつが本気で暴れれば私でも手におえるとは言い切れませんのでなにとぞ賢明なご判断を!」
と、下手に出ながらさりげなく脅しをかけておいた。だって本当の事だし。
戻ってきた探偵見習が詰め寄ってくる。
>「あの、旅の扉を壊して現れたってことは、もしかしてあなたたちはテロリスト?
だとしたら、ハー君の敵だわ!はやく教えてあげなきゃ!ハー君は私の大切な旦那さまなの。
それも警察司書長官なの。とっても偉くてかっこいいの!」
>「あ〜うるさいのお!おまえはしゃべんなやーっ!」
>「うォッ、いい筋してんじゃねェの」
>「やっべ、抜けねェんだけど!?」
「そもそも穴開けちゃらめぇえええええええ!!」
あっという間に机に穴が開いて、穴から足が抜けなくなったゲッツが机を破壊して脱出しようと画策していた。
口ではツッコみながら、内心ではやっぱこうなるか、という感じである。
前にも同じようなパターンを見た事があるような……。OHマッポー。弁償だなこりゃ。
現実逃避を兼ねて、見習い探偵と会話する事にする。
彼女の今までの発言から状況を想像して、交換条件を持ちかける。
「要する今この街は悪い司書が暗躍していて、警察司書長官である君の夫が危険に曝されているという事か。
オレ達ちょっと調べたい事があって立ち入り禁止の階層の本も見たいんだけど警察司書長官夫人特権で手引きできないかな?
そうしてくれたら悪い司書の正体暴くのに協力してもいい。どうだろう?」
「あっつぅ!」
入れたてのお茶を顔面にかけられたマサトシはさらに激怒。
「ええ根性してるやないけ!肛門潰したろかワレぇ!?」
怒声と同時に跳躍。高速回転しながらゲッツの後ろに飛び降りると
そのまま部屋の隅においてあるカバンからタオルを取り出して顔を拭く。
これはとても理にかなっている常識的な行動だ。さすがにスパイダーマサトシは冷静だった。
だがしかし、タオルの下の顔は悪鬼へと変わっているのだ。
はたして、ゲッツには見えるだろうか。マサトシの顔ではない。
そうテーブルに突き刺さり抜けなくなった足とテーブルの隙間に白い糸がくっついているのが。
それが足とテーブルを強く粘着させていた。もっとよく見るとわかる。小さい蜘蛛が部屋中にいるのだ。
これがスパイダーマサトシの名前の所以。呪術で生み出された影蜘蛛を操るのが彼の隠れた才能。
「ゲッツ言うたなあ。傭兵に必要なもんはいったいなんや?
ワシら探偵には三つある。観察力。行動力。決断力や。
自分の足を良く見てみいや。どないなっとる?うひゃひゃひゃひゃ!」
小さい蜘蛛はゲッツの足をテーブルに固定せんがために糸を吐き続けていた。
一方のフォルテ。
>「要する今この街は悪い司書が暗躍していて、警察司書長官である君の夫が危険に曝されているという事か。
オレ達ちょっと調べたい事があって立ち入り禁止の階層の本も見たいんだけど警察司書長官夫人特権で手引きできないかな?
そうしてくれたら悪い司書の正体暴くのに協力してもいい。どうだろう?」
「うーんっとね…わかったわ。なんとか手引きしてみる。どこまで出来るかはわからないけど」
とても不安そうな声でヴァルンは言う。
そしてゲッツを見つめて
「あの、ゲッツさん。でいいんですよね。えっと美味しいご飯屋さんでしたら私がご案内しますが。
あ、ついでにスパイダーさんもいかがですか?」
「わしはええわ。おまえらのことはようわかったから、もうどこにでもいけや」
マサトシは厄介者のヴァルンをフォルテたちに押し付けるつもりなのだろうか。
手をひらひら振っている。
「あ、ちょい待ちや!」
扉を開けて出て行こうとしたときマサトシは蜘蛛のブローチをヴァルンの襟元につけた。
そのご耳元で囁く。
「よし、今からおまえは探偵見習いや。ほんでこれはおまえの最初の仕事や。ええか、よく聞くんやで。
こいつらな、何か臭うねん。アイン・ソフ・オウルのことを調べにきたなんて怪しすぎるやろ。
もしも何か悪いことしでかしたら、わしにこのブローチで報告するんや。ええか、わかったか?」
「…え〜?あ、あの〜。うん、わかったわ、マサトシ」
よくわからないままヴァルンは返事を返し、事務所の前に駐車してある魔動車に乗り込んだ。
魔動車はワイパーをキューキューと動かしたりしてフォルテとゲッツが乗り込んで来るのを待っている。
行き先はゲッツとフォルテしだい。ただしヴァルンは対向車が怖くて右折が出来ないのだった。
>「そもそも穴開けちゃらめぇえええええええ!!」
「机飛んできたからふっ飛ばしただけだろうによ。
んー? なんだこりゃ」
机に足を貫通させたまま、ごすごす床に机を叩きつけて。
なんとなくの違和感を感じると同時に、その正体をゲッツは看破した。
そう、糸だ。
「ほォ」
感心したような声。
ハイレベルな呪術により創りだされた、蜘蛛の糸は確りとゲッツを拘束している。
大量の蜘蛛がゲッツに群がり、ゲッツを拘束しているが、なんでこうなっているのか納得がいかない。
はァ、と溜息をつきつつ、鬼の形相のマサトシと視線を合わせて。
>「ゲッツ言うたなあ。傭兵に必要なもんはいったいなんや?
>ワシら探偵には三つある。観察力。行動力。決断力や。
>自分の足を良く見てみいや。どないなっとる?うひゃひゃひゃひゃ!」
「そーだなァ、気合、根性、胆力ってとこかねェ。
よいしょ、っと」
ごしゃ。
足の皮膚を突き破って大量の鋼の棘が生まれ、机を粉々に粉砕した。
それでも蜘蛛の糸による拘束を受けていたのだが、そのまま意に介すこと無く、立ち上がって粉々の机を部屋の隅に蹴り飛ばしておく。
ゲッツ自身、勝手に人の事務所の備品を粉砕したのは申し訳ないと思っているのだが。
来客が来たというのに、目の前で喧嘩を繰り広げあまつさえ客に向けて机を蹴っ飛ばし、防げば文句を言う在り方を前にして、少し苛ついていた。
邪魔にならないように退かしたつもりだが、つい乱暴になって、机の破片の幾つかは壁に付き刺さる。
「……なァ。ハイランダー種の郷土料理でよォ、イナゴの佃煮とかあんだけど。
蜘蛛も天麩羅にすりゃ普通に食えるって話しでよォ、なァ、俺今腹減ってんだけど、どうするよ」
今尚ゲッツに群がるクモたちに、静かな口調で脅しを掛けて。
竜種特有の威圧――かつてより更に拍車がかかったそれ――を放てば、文字通り蜘蛛の子を散らすように小さな蜘蛛は離れていった。
全身を拘束する糸は、竜種の魔力で引き千切れば、いつも通り。
確かに厄介だったが、単体ならば只の拘束。コンビネーションで来られれば危なかったかもしれない。
>「あの、ゲッツさん。でいいんですよね。えっと美味しいご飯屋さんでしたら私がご案内しますが。
>あ、ついでにスパイダーさんもいかがですか?」
「おー、サンキュな、ヴァルン、さん? でいいのか。
酒場系とか、ついでに情報収集出来る店が有ったらそこで」
という事で、ゲッツとフォルテを載せ運転する、ヴァルンの車。
右手に、見慣れた冒険者企業の経営する酒場の支店を発見。
しかしながら、右折が出来ないとのことで、助手席に座るゲッツは、嘆息。
「よっ、と」
何を思ったのか、ダッシュボードに義手を叩きこみ、貫通させる。
唐突に、車の運転が奪取され、右手に右折すると、そのままバックで駐車した。
腕を引き抜けば、何事もなかったかのようにダッシュボードには傷ひとつ無い。なんとも不思議な光景だ。
特段大したことはしていない、と言うよりはこれまでの旅の中でやってきたことや、見てきた事だと本当に大したことをしていないのだが。
ともかく、いつも通りの態度で車から降りると、冒険者の店にフォルテを担いで入っていく。
「――ちゃーっす、飯と酒と飯な。
酒飲むのは多分俺だけだから、他の三人にゃ飯だけで。
俺のは三人前でいい、がっつりめのもんで頼むわ」
手慣れた様子で、カウンターに行き注文をするゲッツ。
さすがバニブルか。店内の壁の全てが、本棚でできていた。
なんとも不思議な光景だが、壁面の全てを本棚にするのは、昔からの伝統的なバニブルの建築物に見られる図だ。
今でこそ、巨大図書館に蔵書を寄付する事で、全ての本を一点に集約しているが。
昔のバニブル人は、ほぼ皆が小さな図書館に住んでいるようなものだった。
皆確りと本を管理してこそいたが、あくまで個人的な管理だったため、現在の国家図書管理システムになって以来、本の保存状態は極めて良いものとなっていた。
「でよォ、マスターよ。
地下書庫について、なんか情報知らね?
リーフ、ちょいと財布。バーボン、ショットで」
ショットグラス一杯分のバーボンにしては、嫌に高い値段を払い。
ゲッツは、ニコニコと笑顔を浮かべて、マスターを話をする。
数分後、皆の分の食事を以て、ゲッツはテーブル席に戻ってきた。
「たっだいまー、とりあえず全員サンドイッチで好かったか?
ついでに情報も買ってきたけど、どーやら地下書庫に化物湧いてるっぽいわ。
んで持って、入った冒険者とか、司書が何人か帰ってきてないから立入禁止にサれてる、ってよ」
地下書庫についての情報自体は、封鎖されているわけではない為、調べれば直ぐに分かるだろう。
食事をした後、中央図書館に出向いてみてもいいだろう。
いつの間にかゲッツとマサトシがガチバトルを始めたがスルーしておく。
戦闘民族にいちいちツッコんでいては身が持たない。
ヴァルンさんもそれを心得ているようで、普通に会話を進める穏健派達。
>「うーんっとね…わかったわ。なんとか手引きしてみる。どこまで出来るかはわからないけど」
ヴァルンさんは、とても不安そうながら、協力してくれると言ってくれた。
「ありがとう!」
>「あの、ゲッツさん。でいいんですよね。えっと美味しいご飯屋さんでしたら私がご案内しますが。
あ、ついでにスパイダーさんもいかがですか?」
>「わしはええわ。おまえらのことはようわかったから、もうどこにでもいけや」
そりゃどこにでも行けといいたくなるわな。
ゲッツが暴れたのが結果的に功を奏し、とりあえず解放される事となった。
そしてマサトシはヴァルンに、オレ達と同行して見張るように初の任務を与える。
「なんかすいません。後で疑いが晴れたら弁償しますので……」
一番最後に残ったオレはぺこりと頭を下げてそそくさと事務所を出て、ヴァルンさんの車に乗り込む。
誰かさんと違って超安全運転だ。
安全運転というよりただ運転が下手なだけな気もするが、右折が出来ないなら左折を3回すればいいじゃない!
が、誰かさんはそんな悠長な事を黙って見ていられないだろう。
>「よっ、と」
ですよねー! まるで心霊手術。驚いているヴァルンちゃんに声をかける。
「すごいでしょ、ゲッツの義手は超高性能なんだ!」
もはや義手というカテゴリーを軽く超越している気がするが。
真っ先にゲッツがカウンターに行き、注文兼情報収集を行う。
ここはゲッツに任せて座っておくとしよう。
暇つぶしに、本棚に少しだけ残っている本を手に取る。
何の事はない待合室の雑誌と同じような趣旨だろう、と思ったが
開けた瞬間に何故寄付せずに個人所有として残してあるのかを理解したオレは、ニラニラしながらヴァルンちゃんをつつく。
「ねえ、見て見て。こんな本置いてやがる」
――いわゆるマスター秘蔵の有害図書だ! どんな方向に有害かはご想像にお任せする。
>「たっだいまー、とりあえず全員サンドイッチで好かったか?
ついでに情報も買ってきたけど、どーやら地下書庫に化物湧いてるっぽいわ。
んで持って、入った冒険者とか、司書が何人か帰ってきてないから立入禁止にサれてる、ってよ」
ゲッツが戻ってきた瞬間、さりげない動作で有害図書を本棚に戻し、真面目な顔になる。
「なんだって!? ヴァルンちゃん、悪い司書の仕業かもしれないよ。
ところでそいつってどんな奴なの……?」
ヴァルンちゃんが言うには、要するにとにかく悪い奴らしい。
オレは今までの情報を基に、サンドイッチを頬張りながら名推理を披露する。
「まず最初にだ、悪い司書が厄災の種を拾ったとしよう。
そこで彼は地下書庫の支配者として君臨しようと思い立つ。
分かりやすく言うと地下書庫の全てをプライベートビーチならぬプライベート図書館にしようと思った!
方法は簡単だ。地下に引きこもり化物を召喚して侵入者を食い殺せば地下は立ち入り禁止にされてプライベート図書館の完成だ!」
オレンジジュースを飲み干し、立ち上がる。
「悩んでいても仕方がない。とりあえず中央図書館に行ってみようか」
「必要な部分はそこだけで迷推理の長台詞は不要だったモナ」
久々にモナーのツッコミが入った。
しかし、このパーティーが図書館に行くにあたっていくつか問題がある。まず、文献調査技能を持っている者がいない点。
そういえば、この国の国民は辞退者以外全員が司書になるんだったな――
という事は辞退していなければヴァルンちゃんも司書。文献調査技能持ってるじゃん! やったね!
まあぶっちゃけこれは大した問題ではない。
一番のネックは、果たして摘まみだされずに済む程度に静かに出来るのかという事だ!
そこは着いてから考えるとして……
「んじゃヴァルンちゃん、引き続き安全運転でよろしく! 多分運転席に座っとくだけになるけど!」
飲酒運転を阻止するべく、ヴァルンちゃんを運転席に送り込んだ。
運転席に座っている人が飲酒していなければ飲酒運転にはならないのだ。
アキサムが佐伯に突撃しているころ。
>「よっ、と」
ゲッツは義手で魔動車を操りつつバックで駐車。
「きゃ!」
すごい速さで後ろに行くからヴァルンは思わずゲッツを見る。それも二度見。その恐ろしい義手を。
ハー君は綺麗な手で巧みにハンドルを操作して、とてもやさしくバックするのにこの男は違った。
あろうことか手と車をくっつけてバックしていた。
>「すごいでしょ、ゲッツの義手は超高性能なんだ!」
「…も〜怖かったよ〜。もっと優しい運転はできないの?」
薄桃色に火照らせた頬を、ヴァルンは不機嫌そうに膨らます。
でもそのまま、ゲッツはフォルテを担いで店の中へ。
――そこは書棚を壁とした昔懐かしいつくりのお店だった。
ヴァルンはフォルテと一緒に近くのテーブルに座る。
>「ねえ、見て見て。こんな本置いてやがる」
ニラニラしたフォルテがヴァルンに有害図書を見せ付ける。
それもわかりやすいBL。ヴァルンはどきりと顔を強張らせたがすぐに
フォルテの頭を小突く。
数分後、サンドイッチと情報をもって帰ってくるゲッツ。
彼が言うには地下書庫にバケモノが現れたため、
冒険者や司書たちを取り残したまま書庫が封鎖されたらしい。
その事件を推理したフォルテの話では悪い司書がプライベート図書館をつくるためだという。
(プライベート図書館…怪しすぎ)
悪い司書に騙されたハー君がそこで大変な目にあわせられてるかもしれない。
>「んじゃヴァルンちゃん、引き続き安全運転でよろしく! 多分運転席に座っとくだけになるけど!」
「はい!」
みんなを乗せた車は中央図書館へと走る。ほんのりとスピードアップして。
「早く行かなきゃ!私のハー君が悪い司書に襲われてるかもしれないもん!!」
中央図書館は物々しい感じになっていた。
ヴァルンはお店でもらったサンドイッチを持って旦那に差し入れを持ってきたと警備に話す。
おまけにフォルテとゲッツは自分のボディガードと説明して建物内へ。
守衛たちの説明によると、ヴェルザンディ国家司書とハーラル近衛兵長も地下に降りているらしい。
「くれぐれもお気をつけくださいヴァルン様。ここから先は我々にも責任はもてないでありますから!」
「だいじょうぶよ。そのためのボディガードなんだから。ね?」
そうゲッツに言ってエレベーターを使って地下10階ほどまで降りる。
地下書庫まではもっと深いようだったが施設の構造上、途中のフロアを歩いて進まなくてはいけないようだ。
探せば書庫直通のエレベーターもあるかも知れない。
でもヴァルンが知っているのは誰もが良く知っている表向きの構造だけ。
館内の案内図を見ると北西に向かったところにエレベーターがあるのがわかる。
林立する書棚は無数の影という死角を生み出し、それを包むかのような不気味な静けさ。
おまけに下に下りる階段には分厚い隔壁が降りていて封鎖されていた。
「ハー君だいじょうぶかな…。すごく心配。
でもどうして国家図書管理システムは作動しなかったのかしら。
簡単に化け物の侵入を許してしまうなんて…あっ!」
エレベーターがあると思われた通路の奥は壁だった。
否、正確には隔壁が降りて行き先を封じていた。
「困っちゃったよぉ…どうしよう〜」
ヴァルンは泣きそうな声をあげて、隔壁をぺたぺたと手のひらで叩いている。
中央図書館は物々しい感じになっていた。
ヴァルンはお店でもらったサンドイッチを持って旦那に差し入れを持ってきたと警備に話す。
おまけにフォルテとゲッツは自分のボディガードと説明して建物内へ。
守衛たちの説明によると、ヴェルザンディ国家司書とハーラル近衛兵長も地下に降りているらしい。
「くれぐれもお気をつけくださいヴァルン様。ここから先は我々にも責任はもてないでありますから!」
ゲートにいる結界師たちは深刻な顔。
「だいじょうぶよ。そのためのボディガードなんだから。ね?」
そうゲッツに言って扉をくぐる。
現在地下書庫は地下19階まで探索済みらしい。 ヴァルンの胸に不安がよぎる。
ヴァルンが知っているのは誰もが良く知っている地下三階までの構造だけなのだ。
林立する書棚は無数の影という死角を生み出し、それを包むかのような不気味な静けさを生み出している。
「ハー君だいじょうぶかな…。すごく心配」
ヴァルンは泣きそうな声をあげていた。
【ほんとうにすみません。119は訂正していただいて120で続きをお願いします】
>「ちっ、逃げたか…」
こちらと同じく周囲を見渡していたのか吐き捨てる。
それは彼が追っている者なのかは知らないし知る必要はない
あくまでもリュジーに対しては無関心なのだ塵芥や埃同然に等しい
邪魔をしないから何もしないだけであるため
だがそれにしては全身から妙な力を感じるのも事実であり
合理的な判断の元簡単な観察対象として捉えていた
>「こりゃあ、いたちごっこだぜ」
ただ周囲を見渡しながらリュジーの言葉に対しては合理的な考え方であれば
それに同意せざるを得ない。
奴は何処にでも存在できて無数に分身を放てる最凶最悪の怨霊だった
今まで存在したのは女神転生的に言えば分霊という存在に近い事は確かで
本体の時点で恐ろしく強いのは明白―分身を倒すのは簡単だが
それでは延々と無駄な同じ事を繰り返すだけなのも確かである
>「どうする?」
知れたことを
それは答えとしては一つしかない
「…………多世界に影響をもたらす者は排除するのみ
奴の使役する亡霊を全て浄化させる」
その一言だけを告げてから
>「いったい伽椰子は、何が目的なのだ?」
リュジーの呟きに対して此処は利用できる物は利用しようと判断したのか
せいぜい壁避けにしかならない上に憑依されれば問答無用で殺す存在に
冥土の土産のつもりなのかやはり気にも掛けてない無機質で冷たい声で告げる
「殺した者達を亡霊として使役し自らの力を増強…
負の力の連鎖により奴は力を強くする―人の恨み辛みの権化」
必要最低限の事を話すと、一瞬で背後に出現した霊の気配に対して
自らの手に召喚したバクルス状の杖を握り無詠唱で汚れ無き威光を発動
リュジーとティンダロス、淫夢君には恐らくは喰らっても問題ないだろう
激戦区跡全体に凄まじい浄化の光でその場に現れようとした佐伯の配下の亡霊達を先に察知
現れたとほぼ同時に強制昇天される。
この出来事は端から見れば姿を見るどころか遣わされて転移設定されたほぼ同時期
何も起こっていない激戦区全体の場所に汚れ無き威光を発しただけにしか見えないだろう
それはほぼ未来を予測したというのと同等に等しい状況判断能力と標的に連ねる障害対象による無駄の無い対処能力
この二つが合わさったからこその出来る御業
「…………」
そして近づいてきているそれが同じくティンダロスの猟犬に守られていると同時に引き連れている
エスペラントの最愛の者にして自らの影である静葉に対してこの場で待つような真似はせず
素戔嗚が殺害されたと同時期にその気配を探知と同時に一瞬で移動する
リュジー達の事もどうやら置いていったようだが、そんなに大差ない速さで
ティンダロスの猟犬たちが連れてくるのでそれが幸か不幸は分からなかったが
素戔嗚が殺害された旅の扉付近ではその周辺では早速アサキムと安心院による
まるで被害など考えていない戦いぶりとさすがに相手が悪すぎたのか
だがそれでも力は最早本物と遜色無く、近くには亡霊を大量に使役して攻撃しながら
佐伯はアサキムの攻撃に対してはなんとアヤカの召喚したドラグーンの瞳の中に瞬間移動し
肉体が無い亡霊である事を利用したのだ。
だがそんな光景を見ても永久闘争存在には関係ない
標的の周りにはあの力の残滓の片方であるアサキムという多世界の敵である予備軍に等しい力を持つ存在も居る
そして同じくらいに危険な存在である安心院
この場には余りにも力を持つ者が現れすぎている
「…………」
近くには旅の扉という時空に連ねる物があるこれを媒介にして
力を持ちすぎる者達の力と力のぶつかり合いにより
何か良く無い事が起きる可能性もかなりの高い確率で確認できる
この場合は佐伯のみを排除するべきなのかそれともこの場に居る全ての連中ごと全て問答無用で消し飛ばすのか
合理的且つ今後の事に関わる重要な決断をその頭の中でどちらが多世界の影響をもっとも悪い影響をもたらすのか
「………汚れ無き威光」
それは完全にその場に居る全員に対して配慮はしていない
かと言って敵対する意思は込められていない
ただあるのはその破魔属性スキルの耐性や吸収が出来なければそのまま死んでくれれば都合が良い
とりあえずは佐伯だけは最優先で排除するという姿勢を最優先し、他の者達からすれば意図的に昇天しないための意思を込められていない
ランダム無差別攻撃として放たれた浄化の光が放たれた
この光により次にスフィンクスを乗り移ろうとしていた瞬間に真っ先に昇天、この場を直視すれば失明するような眩い聖なる光が
一帯を包み込んだ。
>「…………多世界に影響をもたらす者は排除するのみ
奴の使役する亡霊を全て浄化させる」
「ばかな!?そんなことが可能なのか?」
リュジーは言葉を失ってしまう。
永久闘争存在の淡々とした口調で言い切った様がかえって不気味で、
リュジーは驚愕してしまったのだ。
(失礼だが、こいつは佐伯以上の化け物だぜ…)
思わず凄愴な微笑がこぼれる。
これはとんでもない世界に来てしまった。
リュジーの体は総毛立ち、武者震いが止まらない。
猟犬の背に蹲るリュジーは恐怖を隠しながら更に質問をする。
それに闘争存在はまたしても無機質の声で答える。
>「殺した者達を亡霊として使役し自らの力を増強…
負の力の連鎖により奴は力を強くする―人の恨み辛みの権化」
「……な、なんだと!じゃあヤスたちは佐伯が強くなるための
エサにされちまったってことじゃねえか!?
ちくしょう許せねえ!今すぐぶっ殺してやる!出てきやがれ伽椰子ぉ!!」
怒号。その刹那――
佐伯配下の怨霊が複数、瞬間的に目の前に現れたのだ。
「うおお!?」
だが辺りは一瞬で光に包まれる。と同時に強制昇天される怨霊の群れ。
そう、リュジーは知覚するまでもなく永久闘争存在の浄化の光によって救われたのだ。
リュジーの乗った猟犬は旅の扉付近で止まる。
「…!?」
視線の先ではアサキムたちと佐伯の壮絶な戦いが繰り広げられていた。
呪怨の群れが白蟻のように怪物に群がり、それを神話の力で蹴散らす怪物たち。
ということは怪物たちは敵ではないのだろう。
「俺の名前はリュジー。あんたたちに助太刀するぜ!」
瞬時に悟ったリュジーは佐伯に一太刀浴びせるべく、戦場を駆け抜ける。
凄まじい破壊音と震撼する世界にその身を投じる。
>一撃浄化「震撼天性」
「おお!?なんだありゃあ!」
偶然にもアサキムがリュジーの視界に入った。その先には佐伯がいた。
彼は佐伯の敵なのだろうか。ということは怪物と同じくリュジーの味方とも考えられる。
良く見るとアサキムは不思議な力を宿した矛で佐伯に突撃している。
少し霊感があるだけのヤクザのリュジーにもそれが恐ろしく凄まじい技ということは理解できた。
「よし、誰かしらんがやっちまえー!!」
リュジーが叫んだその直後だった。佐伯が視界から消えた。
なんと佐伯は、アサキムの攻撃に対してアヤカの召喚したドラグーンの瞳の中に瞬間移動し
アサキムの攻撃を回避したのである。
「き、消えちまったぜ!やっぱりだけどよ」
周辺を見渡して探すもリュジーには佐伯がドラグーンの瞳の中にいることなど夢にも思わない。
でもすぐに淫夢君がドラグーンの瞳を指をさしていることに気が付く。
だからリュジーは思いっきり叫ぶ。
「おい!佐伯はドラグーンの目の中にいるぞー!」
>「………汚れ無き威光」
「おお!?」
永久闘争存在が呟くのとリュジーを乗せた猟犬が疾駆するのは同時だった。
猟犬は永久闘争存在の能力を知っている。それゆえにいち早くリュジーとともに大岩の影に隠れたのだ。
「やばっ、アヤカ!」
「えっ、そんなのあり?」
ドラグーンに、乗り移ったかと、思ったが。
突然、消えた。
「ビャグの奴、派手にやりやがったな。」
直ぐに、サングラスをかけ、目を保護
耐性は、有るが問題は、安心院だ。
「ふう、存在を少し消したぜ。」
存在消せば、どうとなるって問題じゃない。
アサキムは、呆れながら、周囲の警戒を行った。。
>「まず最初にだ、悪い司書が厄災の種を拾ったとしよう。
>そこで彼は地下書庫の支配者として君臨しようと思い立つ。
>分かりやすく言うと地下書庫の全てをプライベートビーチならぬプライベート図書館にしようと思った!
>方法は簡単だ。地下に引きこもり化物を召喚して侵入者を食い殺せば地下は立ち入り禁止にされてプライベート図書館の完成だ!」
「――んあ?
あー、なるほどなァ、とりあえず全部ぶっ壊しゃいいんだろ? りょーかいりょーかい」
いつも通り話を聞きやしない竜人は、フォルテ達の三倍の量を口にポイポイを放り込んで咀嚼する。
鋭い牙が生え揃う口で、一瞬で大きなサンドイッチは噛み砕かれ胃の中に収まっていく。
そして、ショットグラスに入ったバーボンを飲み干したが、この時点で既に5,6杯。
暴飲暴食という言葉がこれほど当てはまる図もそうあるまい。当然払いはゲッツではない。
総計10杯程飲み干して、漸く景気付いてきたのか、満足気な表情を浮かべる竜人は最後の一口を飲み下して、息を深く吐き出した。
>「悩んでいても仕方がない。とりあえず中央図書館に行ってみようか」
「中央図書館なら場所わかるぜー。
ってか、昔地下書庫ならバイトで……何階だったっけな、まあそこそこ潜ってた筈だなァ。
ま、ちょいと記憶を頼りにがんばりますかねー、っと」
この男、一応ながらも元傭兵だ。
戦場以外にも、戦力が求められる場所ならば何処にでも出向いていた。
史上最強の捨て駒部隊、ジャンクス。此処もまた、ゲッツやボルツが戦っていた場所だった。
なっついなー、と呟きつつ店を後にしていくゲッツ達。払いはリーフだ。
>「んじゃヴァルンちゃん、引き続き安全運転でよろしく! 多分運転席に座っとくだけになるけど!」
>「はい!」
助手席にまた載せられて、ゲッツはどっか、と座り込んでおとなしくしようとした。
が、隣から聞こえてくる気合の入った声と、やたらと安全運転な相手に、少々やきもきして。
>「早く行かなきゃ!私のハー君が悪い司書に襲われてるかもしれないもん!!」
「……速く行きてぇんだなァ?
うっしゃ、了解任せときなァ! ヒィ――ヒャヒャハハハハハッハハハハハッ!! ギャハハハッハハハハハッ!!」
スピード感が足りないと丁度思っていた所に、速度が欲しいとの要望だ。
そりゃあもう速度を出してしかるべきだし、この竜人が躊躇うはずが有るだろうか? いや無い(反語)。
またダッシュボードに義手を付き入れてコントロールを奪取。
ドリフトを盛大にかましつつ、高笑いを上げて車と車の間を縫いながら、元のスペックとは別レベルの性能を叩きだして車は加速していく。
地元の農道では、断崖絶壁の横をこれを超える速度で駆け抜けていたし、ゲッツもまたそんな地域で運転を学んだ男だ。
要するに――農道最速レース、地域王者であるゲッツは、こんな街乗り如きでは誰にも追いつけない存在と成るのだ。
――そう、警察司書すらも、だ。
後ろからふぁんふぁん、とサイレンの音が鳴るがいとも容易く巻き、華麗にドリフトしながら中央図書館の駐車場に車は滑り込んだ。
腕を引き抜けば、車には本当に何の別状もない。冗談抜きで便利な義手であった。
「っしゃー、コラ!
お望み通り音速で目的地までお届けってなァ! ヒャッハ!」
いつも通りの乱暴運転で殺られかけているフォルテを肩に担いで、ヴァルンの後ろをついていくゲッツ。
うっわ、本だらけだなァ、と呟くゲッツだが、下に潜る前に下準備が必要だと思う。
幸いなことに、地階周辺の書棚を探していけば、地下書庫について書かれた文献がいくつか見つかるはずだ。
ただし、ゲッツは探さない。活字を見るのは好きではない、と言うよりは、正直な話文字の読み書きが少々怪しいのだ。
ハイランダー族の伝承については、そもそも信書が編纂されたのが近世であり、ゲッツの場合はその全てを口伝で覚えていた。
その為、文字に頼ること無く物心つくまで育ってきたし、初等教育を受けぬままに戦場に飛び出したしまった。要するに、調べ物についてゲッツはアウェイ。
ヴァルンやフォルテなどの、人並み以上の頭脳、知識を持つ者が、ここで地下に潜る前の準備をするべきだろう。
>「ハー君だいじょうぶかな…。すごく心配」
「てめェの旦那だろォ?
信じてやんなくてどーするヨ、心配するくらいなら戻ってきたらどんな美味い飯喰わせてやるかでも考えておきな。
悪い方向に考えてるとロクな事がねぇ。悪いコトなんざ起こってから考えりゃいいんだっての」
近くの売店で購入した、名産品のワインをらっぱ飲みしながらそうぼやくゲッツ。
言葉尻は乱暴だが、相手を元気づけようとしている事はわかるだろう。
と言っても、本人はうだうだ言っているのがうるさい、程度の理由だったが。
「……なァんか、地下からファフニールと似た気配すンのなァ」
小さな声で、そうつぶやいて。
何かが見つかるまで、ゲッツは一人目を瞑って瞑想をするのだった。
三人が周囲を探していけば、文献はいくつか見つかる。
幸いなことに、地下のモンスターの図鑑や、罠の種類をまとめたガイドブックのようなものだ。
これがあれば、少なくとも想定外の事態にはある程度対応できるだろう。全て網羅しているとは限らないが。
因みに、著者には、ダアト。と書かれていた。何者かは、分からないが随分と古い本だ。
そして本からは僅かに、アイン・ソフ・オウル――ファフニールや頂天魔、ゲオルギウスなどのそれらに酷似した気配が有る。
アイン・ソフ・オウルとは何なのか、それを知るには此処に行けとゲオルギウスは行った。
ここの地下に、もしかするとなにかがあるのかも、しれない。
>「早く行かなきゃ!私のハー君が悪い司書に襲われてるかもしれないもん!!」
>「……速く行きてぇんだなァ?
うっしゃ、了解任せときなァ! ヒィ――ヒャヒャハハハハハッハハハハハッ!! ギャハハハッハハハハハッ!!」
「時間的な”早く”とスピード的な”速く”は微妙に意味が違うよ!?」
なんて高度なツッコミが通じるはずも無く、カーチェイスと相成った。思いっきり市街地なのに。
>「っしゃー、コラ!
お望み通り音速で目的地までお届けってなァ! ヒャッハ!」
「かゆ…うま…」
目を回している所をゲッツに担がれて図書館内に運び込まれる。
意識が戻ってきて、目をぱちくりする。辺りは見渡す限りの本、本、本。
「うわー、すっげーーーーーー!! バニブル人はいっつもこんな所で働いてるのか!」
神話・伝承のコーナーなんてもうワクテカが止まらないね!
『ライト・ファンタジー〜光の勇者の伝説〜』って……大昔にさりげなく出発されてたのかよ!
『ETERNAL FANTASIA』……この題名、某大作RPGの逆をいってみたのか!?
『変態異能戦記』……なんだっこれ。絶対自費出版だろこりゃ
「見てみろよコレ! 色々美化しすぎだろwwwしかも著者がノダメ・カンタービレってwww某音楽漫画かよwww」
と、ゲッツのところに光の勇者の伝説を持って行ってみるも、ゲッツは全く興味無さそうだった。
興味なさそうというより反応の無さが異常だ。
かなり昔から戦闘に明け暮れてるらしいし逆算すると……いやまさかそんなはずは、でももしかして……
「つかぬ事をお伺いしますがもしかして字ぃ読めない?」
♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪
>「……なァんか、地下からファフニールと似た気配すンのなァ」
文献調査に参加出来ないゲッツは、そう呟くと瞑想を始めてしまった。
困った事に、ゲッツのこういう呟きは当たるものなのだ。
真面目な顔をしてヴァルンちゃんに告げる。
ゲッツの呟きが当たっていれば、一般市民を連れて行くなどもってのほかだ。
「一緒に来たらもしかしたら本当に危ない事に巻き込んでしまうかもしれない。
なんというか一連の大きな事件があって……ハー君もそれに巻き込まれている気がするんだ。
ハー君は助けて来るからオレ達だけで行ってもいいんだよ……何してるの?」
ヴァルンちゃんは真剣な表情で本を次々とパラパラ漫画のようにめくっていた。
著者はどの本も『ダアト。』となっている。
めくり終ると真顔で言う。
「この本の内容を全て記憶しました。
地下迷宮に出現するモンスターや罠の知識はお任せあれです」
「マジかよ!?」
そんな馬鹿なと思うが、右脳が超発達した人は見た物を一瞬で映像として焼き付ける事ができるらしい。
バニブル人が幼少時から本を最大限に生かせるように教育を受けているとしたら、満更ありえないともいいきれない。
オレも適当に本を手に取る。題名は『Reverse Helix』。
分かるのはここまでで、中身は他の本とは違って見た事の無い文字で書かれていて、解読不能だった。
突如、頭の中に声が響く。
『光持つ者よ、汝運命を変える事を望むならば、迷宮の最奥まで辿り着け』
「ヴァルンちゃん、これ……! 何か聞こえない!?」
「そんなに血相を変えてどうしたの? 特に何も聞こえないけど……。でもその本使えそうね」
ヴァルンちゃんはその本を大事そうに鞄にしまう。
「使えそうって……?」
「お守りです。バニブル人は……本に込められた想いを引き出す事が出来るんです」
バニブル人って一体――!?
ただの国籍を現す言葉だと思っていたが、そうではなく種族の名前なのかもしれない。
見る限りでは普通の人間にしか見えないが、原初より存在する知の迷宮の上に住まう人々だ。
一般の人間とは異なるルーツを持っていても不思議ではない。
立ち入り禁止区域に入るには色々面倒な手続きとかあるのかなーと思いつつとりあえず地下四階への入り口に向かったオレ達。
しかし、そこにあるはずの結界が無く、結界を管理する結界師が倒れている。
――と思ったらいびきをかきながら寝ていた。先行したハーラル近衛兵帳達の仕業だろうか。
なにはともあれダレモイナイ、トツニュウスルナライマノウチ――!
>「てめェの旦那だろォ?
信じてやんなくてどーするヨ、心配するくらいなら戻ってきたらどんな美味い飯喰わせてやるかでも考えておきな。
悪い方向に考えてるとロクな事がねぇ。悪いコトなんざ起こってから考えりゃいいんだっての」
「信じてるょ〜!信じてるけど心配なものは心配なんだよ〜。
ハー君は誰にも負けない剣士なんだけどとっても優しいから、
ヴェルザンディ国家司書に騙されてよくないことをやらされてるんだよ。
それに悪いことはもう起きちゃってるの!」
のん兵衛のゲッツに怒ってから、ヴァルンは『ダアト』という著者の本を丸暗記。
地下迷宮に出現するモンスターや罠の知識をある程度マスターした。
その後、地下四階への入り口に進めば結界師たちが寝ている。
「きっとヴェルザンディ国家司書の仕業よ!気をつけて」
ヴァルンは注意して先に進む。
でも、モンスターや罠の説明が出来ても、それを上手く使いこなせるかはまた別物。
カチッ
さっそくヴァルンは隠されたボタンを踏んでしまう。
「あっあの…罠にかかってしまいました。これって踏んでるボタンから
私が足を離してしまうと、罠が作動してしまうんです」
ヴァルンは歩いた姿のまま固まっている。
>「この本の内容を全て記憶しました。
>地下迷宮に出現するモンスターや罠の知識はお任せあれです」
>「マジかよ!?」
うるっせぇな、図書館では静かにだったろうが、と瞑想しながら小さく呟くゲッツ。
意識を深くに沈めて、地下にある大きな存在感へとその意識を埋没させていく。
僅かに見えたのは、無限の光。武力や、滅びとは違う、異質な――しかし質、量共に異様な力。
そして、それと同時にフォルテ達の方向から、声が聞こえてきた
>『光持つ者よ、汝運命を変える事を望むならば、迷宮の最奥まで辿り着け』
「へェ……、面白そうじゃァねェか。
変えるなんて生易しいことは言わねぇけどよ……、ちィとこの声の主には会ってみてぇもんだなァ」
ギシャシャ、と高笑いを響かせながら、ゲッツはのそりと立ち上がった。
あふぅ、そんな気の抜けるあくびを漏らした後に、首や関節をごきりごきりと鳴らしていく。
全身に魔力を巡らせて行き、深く息を吸い、先に行き。
>「信じてるょ〜!信じてるけど心配なものは心配なんだよ〜。
>ハー君は誰にも負けない剣士なんだけどとっても優しいから、
>ヴェルザンディ国家司書に騙されてよくないことをやらされてるんだよ。
>それに悪いことはもう起きちゃってるの!」
「だったら、悪いもんをぶちのめしに行くこったな。
お前さんの行動力は嫌いじゃねぇぜ? どォも、この国の連中は頭ァ良いが、それだけでなァ。
自分から旦那の為に危険地帯に踏み込もうなんざ、良い覚悟してんじゃねェの。キャヒャヒャヒャッ!!」
ま、荒事は任せておきな、と一言言い残して。
ヴァルンの一歩後ろをついていくゲッツ。いざという時両腕を動かせなければ危険なため、珍しくフォルテは担いでいない。
そして、なんだかんだ順調に地下四回までに辿り着き、寝ている警備を尻目に先に進んでいく、が――。
かちり、と言う罠を踏みましたよー! とこれ見よがしにアピールする音が響き、ゲッツが顔をひきつらせる。
「おい、まず落ち着け、息を深く吸うんだ。
んでもって、今踏んだ罠が何なのかはわかるか?
わかるなら、それを教えてから足を離せ。無理ならちょっと俺とフォルテに深呼吸させな。
なんだかんだで大概の物騒ごとには対応してンだ、それほどビビることでもない――、まだ低層だしな、ここまでなら入った覚えも有る。
この階層なら、モンスター呼び寄せか、地下への落とし穴って所が相場だろ。まあ、タチの悪ィところで致死毒だろォが……、まあ大丈夫だろ」
かつて、地下9階層までは、依頼を受けて潜った経験があるゲッツ。
当時の経験上では、この階層にはそれほどひどい罠はなかったように思える。
下の階層になって行けば行くほど、罠の致死率や、現れるモンスターの癖が増していき命の危険も増していくのだが。
この階層クラスの敵や罠なら、文字通りに次元違いの旅を続けてきた二人の力があればそれほど危険というわけではないだろう。
>「あっあの…罠にかかってしまいました。これって踏んでるボタンから
私が足を離してしまうと、罠が作動してしまうんです」
>「おい、まず落ち着け、息を深く吸うんだ。
んでもって、今踏んだ罠が何なのかはわかるか?
わかるなら、それを教えてから足を離せ。無理ならちょっと俺とフォルテに深呼吸させな。
なんだかんだで大概の物騒ごとには対応してンだ、それほどビビることでもない――、まだ低層だしな、ここまでなら入った覚えも有る。
この階層なら、モンスター呼び寄せか、地下への落とし穴って所が相場だろ。まあ、タチの悪ィところで致死毒だろォが……、まあ大丈夫だろ」
「離したら作動するなら足の代わりに何か重いものを置けばいいんじゃない?」
我ながらなんという発想のコペルニクス的転回! オレって天才じゃね!?
リーフに重しになるような物は無いか聞くと、ふくろからクイズ番組で使われてそうな人形が都合よく出て来た。
ぶっちゃけ“金のスーパーひとし君人形”だ。
ヴァルンちゃんに足をスライドしてもらって入れ替わりに金の人形を置く。
置いた瞬間、残念不正解!的な効果音が聞こえた気がして、ひとし君人形が床に吸い込まれていく。
流石知の迷宮、都合よく出してきた物を使う邪道な攻略法は駄目らしい。
と、感心している場合ではない。
通路の両側、つまり本棚から一斉に本が飛び出して落ちてきた。
「うわー!」
右往左往している間に、一冊の本が宙空に浮かび立ちはだかる。
「”悪魔の書”!?」
悪魔の書は本型モンスターの総称。
本に擬態したモンスターもいれば書物が意思を持ちモンスター化したものもあるという。
その開いたページには、こう書かれていた。
□肉□食
そして気付けば、地面に落ちたはずの諸々の本が文字が書かれたパネルと化している。
一体どうなってんだこの迷宮。
「分かった! 四字熟語を完成させればいいんだな!」
しかし、地面に散らばるパネルの中を目を皿のようにして探すも、弱も強も見つからない。
どういう事だ!?
>「だったら、悪いもんをぶちのめしに行くこったな。
お前さんの行動力は嫌いじゃねぇぜ? どォも、この国の連中は頭ァ良いが、それだけでなァ。
自分から旦那の為に危険地帯に踏み込もうなんざ、良い覚悟してんじゃねェの。キャヒャヒャヒャッ!!」
「そんなこと言われたの初めてだよ〜。初めて物語だよ〜」
とゲッツに返したことも今は昔。
すっと歩いたままの姿でヴァルンは停止。罠にかかってしまったのだ。
ゲッツは悪くても致死毒が作動するかもと言っている。
でも、そんなのはまっぴらごめん。きっと頭のいいフォルテならなんとかしてくれる。
そう信じていたのが間違いだった。
>「離したら作動するなら足の代わりに何か重いものを置けばいいんじゃない?」
「うん、それいい!ナイスアイデアよ!フォルテくん!」
ヴァルンは足をスライドさせると、代わりのスーパーひとしを置いてもらう。
でも無情にもスーパーひとしは床に吸い込まれていった。
>「うわー!」
「ぼっしゅーとーっ!?」
そもそもひとしに頼ったことが間違いだったのだ。
右往左往している間に、一冊の本が宙空に浮かび立ちはだかる。
□肉□食
>「分かった! 四字熟語を完成させればいいんだな!」
「もしかして、人肉完食?」
そんな猟奇的なわけがない。
「あ、これよ!きっとこれだよゲッツ!」
パネルを次々とはめるヴァルン。そこには焼肉定食の文字が出来上がる。
すると悪魔の書はページを閉じて書棚に戻る。
おまけに地面に落ちた諸々の本も書棚に戻ってゆく。
「弱肉強食よりも焼肉定食がいいってことなのね?」
そしてヴァルンは階段を降りて恐る恐る地下五階へと降りる。
すると通路の奥に金色に光る人形。そう、先ほど使ったスーパーひとし君だ。
「もう、びっくりしちゃったよ〜!」
ヴァルンは人形を拾い上げてフォルテに手渡す。
「これってお父さんの形見の人形?もっと大切にしなきゃダメでしょ」
優しそうな人形の顔に、ヴァルンはフォルテの父親の顔を重ねてみた。
そのときだった。再び悪魔の書が現れた。
※口から水を吐く動物は何でしょう〜?
「またクイズ?うんっとねー。それはライオンよ。お風呂にあるやつ!」
ヴァルンの足元の床が沈んでゆく。答えは間違いらしい。
ゴゴゴゴと振動してヴァルンは地下六階に沈んでゆく。
なんとヴァルンがボッシュートされてしまったのだ!
>「分かった! 四字熟語を完成させればいいんだな!」
>「もしかして、人肉完食?」
「んー……、人肉屍食……?
わかんねェなァ、俺ァ学ねぇから、こりゃお前さん達に任せるしかねぇわなぁ」
ため息を吐きつつ、足元のパネルをぼんやりと見据える。
そう、このダンジョン。知力が求められる罠が極めて多い。
前回の突入時は、それらの罠を総て武力でぶっちぎって来たため、罠の場所が分かっても解除法までは分からない。
知恵の輪の解き方は身体能力に任せて全力で引きちぎること、と即答するゲッツに攻略できる罠のはずがない。
レンジャー技能は持っていても、スカウト技能やセージ技能等は欠片も持ち合わせていないのがこの男だった、屋外ならまだ役立つのだが……。
屋内では本当に戦闘以外には役に立たない、もはやデカイだけのでくのぼうだった。
そうしながらも、後ろでがんばれー、とか適当に応援して。
気がつけば、適当な四文字熟語を完成させて、先に進むこととなった。
「物騒ごとがありゃ、俺に任せろ――って、おいおい、又かよ」
先に進みつつ、暗にやることがないから喧嘩は俺に全部やらせろと言うゲッツ。
そういった矢先に、またゲッツが役立たない現象が来た。
次は、クイズ。四文字熟語を完成させるそれとは違う内容で。
>※口から水を吐く動物は何でしょう〜?
>「またクイズ?うんっとねー。それはライオンよ。お風呂にあるやつ!」
即答したヴァルンが足元に落下していくのを見て、顔をひきつらせて。
ふと、脳内によぎった光景と、己の知識がかちりと音を立てる。
ピースのはまった音だ。
「ケルピー。またの名を河馬だったか。
水に飛び込んで、自在に泳ぎまわる化物で……そうだ、確かファフニールが喧嘩売った神様の1人か。
女神マーディトが、ケルピーだった……かもしんねェ? かもなァ」
と、一応ながら神官のゲッツが、神話知識、民族伝承から回答を引き出していく。
悪魔の書は、暫くの間を置いてから。
『ほウ 案外 するドい のだ ナ。
待つ ゾ アマテらス の 子。 そし テ ファフニール げおルギウす ノ 子。
来た レば 我 汝ら ニ 与え ン。 知 を 叡智 ヲ 真 ジツ を』
そんな、壊れたラジオのような調子外れの途切れた音声を響かせて。
どろり、とヘドロのような材質に悪魔の書は変化し、地面に落下すると吸い込まれるように消えていった。
何が起きたのかはわからないが、このダンジョンの下に間違い無く何かが要ることは間違いない。
下を覗きこみ、問題がないかどうかを確認すると、ゲッツはフォルテを担ぎ上げる。
「今の、アイン・ソフ・オウルじゃね?
いや、さっきよ、俺居るかもつったろ? あの書、濃かったんだよなァ、気配。
気をつけとけ、また訳の分かんねぇレベルの戦いが来るかもしんねェから、気ィ貼っとかねぇと伝説残せねぇからよ」
そう言って、フォルテに警戒を呼びかけて、ゲッツは穴に飛び込んだ。
背中から光の翼を生み出して、即座に減速して無音で地面に着陸。
六階層に辿り着いたゲッツは、ヴァルンの影を探して辺りを見回した。
>「弱肉強食よりも焼肉定食がいいってことなのね?」
「なるほど、型にはまらない柔軟な発想力を試す問題か……!」
現代では焼肉定食はすでに定番ネタと化しているのは秘密である。
地下五階に下りると、さっきボッシュートされたスーパーひとし君人形があった。
この迷宮、こういうところは案外律儀。
>「もう、びっくりしちゃったよ〜!」
>「これってお父さんの形見の人形?もっと大切にしなきゃダメでしょ」
「なんでそーなる! 実はひとし君は父さんが自分を象って作らせた人形、とかいう裏設定ないからね」
そもそも父さんはひとしって名前じゃないしこんな顔してねーし。
もっとかなーりオサレなかっこいい名前だ。知りたい? 知りたい?
…………何故だ!? 思い出せない。そんなはずはない。顔だってはっきりと……どんな顔だったっけ。
おいおいおいおい、ヤバイぜこりゃ! マジでひとしだっけ。ひとし・スタッカートwwwねーよwww
オレってこう見えて普通の人間だったらボケてもおかしくない歳だし……。
と、自らの認知症疑惑に焦っている間に、ヴァルンちゃんがクイズを間違えてボッシュートされていった。
>「ケルピー。またの名を河馬だったか。
水に飛び込んで、自在に泳ぎまわる化物で……そうだ、確かファフニールが喧嘩売った神様の1人か。
女神マーディトが、ケルピーだった……かもしんねェ? かもなァ」
まさかのゲッツがクイズに答えた! こっちはこっちで頭でも打ったのか!?
>『ほウ 案外 するドい のだ ナ。
待つ ゾ アマテらス の 子。 そし テ ファフニール げおルギウす ノ 子。
来た レば 我 汝ら ニ 与え ン。 知 を 叡智 ヲ 真 ジツ を』
「アンタ誰だよ! オレ達の事知ってんの!?」
>「今の、アイン・ソフ・オウルじゃね?
いや、さっきよ、俺居るかもつったろ? あの書、濃かったんだよなァ、気配。
気をつけとけ、また訳の分かんねぇレベルの戦いが来るかもしんねェから、気ィ貼っとかねぇと伝説残せねぇからよ」
マジ勘弁! そもそもここで訳の分かんないレベルの戦いやったら建物倒壊して生き埋めである。
ゲッツはオレを担ぎ上げて問答無用で穴に飛びこんだ!
どうなる事やらと思ったが、ヴァルンちゃんが普通に駆け寄ってくる。
「フォルテ君、ここよ〜」
と思いきや、反対側からも駆け寄ってきた!
「騙されないで。そいつはモンスターが化けた偽物よ!」
形態模写モンスターか! これは厄介な事になった。
普通に真面目に焼肉定食って答えたのって超はずかしい。
ふと思い出したヴァルンは六階で顔から火を吹いていた。
すべるってわかってて悪魔の書はパスしたのだ。
「きー!くやしい!」
地団駄を踏んでいると声が聞こえる。
>『ほウ 案外 するドい のだ ナ。
待つ ゾ アマテらス の 子。 そし テ ファフニール げおルギウす ノ 子。
来た レば 我 汝ら ニ 与え ン。 知 を 叡智 ヲ 真 ジツ を』
「え?親知らずの子。ファブリーズで雄牛の子?
なによそれ〜。私には関係ないよっ。耳を澄まして損しちゃったよ〜!」
ヴァルンは損した気持ちになる。
すると上からさっそくゲッツとフォルテが降りてくる。
「もー!おそいよ〜!なにしてたの!?」
>「フォルテ君、ここよ〜」
>「騙されないで。そいつはモンスターが化けた偽物よ!」
「ええ!?私が本物のヴァルンだよ!」
ヴァルンの偽者に気付いたヴァルンは驚愕する。
偽者の顔のクオリティーが低すぎるのだ。はっきり言ってブス。
それなのにフォルテが普通に騙されていることにも腹が立った。
「フォルテ君!それは私の偽者よ!わからないの?明らかにブスじゃないの!!」
指をさして怒鳴りつけた先には三人のフォルテがいた。
それにあろうことかゲッツも三人いる。
そこへ現れるのはまた悪魔の書。
『見つヶ出せ!!真実ノ扉ヲッ!!』
カーテンが開くと目の前に無数の扉が現れる。
小さい扉。大きな扉。金の扉。銀の扉。心の扉。偽りの扉。真実の扉。
人生の扉。社会の扉。はねるの扉。どこでも扉。アイン祖父の扉。などなど。
扉にそう書いてある。
「あれ?この扉には七階への扉って書いてあるよ〜。たぶんこれじゃないのかなぁ?
ねー、ゲッツはどう思う?フォルテ君はどの扉かわかる?」
ヴァルンは、近くにいたフォルテに話しかけた。
彼はばら色のほっぺに天使の笑みをうかべてかわいらしい。
バニラの香りをふりまいているし、花のつぼみももっている。
ヴァルンはあまりのフォルテの可愛らしさにほっぺをつんつんした。
すると彼は…
「オレの名前は正直フォルテ。こっちのフォルテは嘘吐きフォルテさ。
ねえ、良くできてるだろ?オレたち本物そっくりなんだぜ。見てみるか?オレの出来栄えをさ!!」
偽者のフォルテたちは本物のフォルテにしがみ付くと床をゴロゴロ転がった。
そしてそのままフォルテ団子は独楽のように上昇して歌いだしたのだった!
>「………汚れ無き威光」
永久逃走存在――世界の防衛システムの圧倒的にして絶対的な光の前に、佐伯伽椰子は敗北を悟る。
彼女が取った方策は、ネバーアースからの撤退。
もうしばらくは、もしかしたら永久にこの世界に舞い戻ることはないだろう。
しかしそこは怨霊、ただで撤退してなるものか――彼女が最後に取ったのは、最も単純にして強力な攻撃。
その場にいる全員の隣に同時に現れ、暗黒空間に共に引きずり込まんとする――!
「動きが単調すぎる。つーか。ビャクがチートなだけかも。」
アサキムが取った行動は一つ。
「超重獄、昇天の間」
超重獄を発動させ、怨霊を、強制昇天させる技だ。
もちろん、マルチロックオン使用だ。
「おしまい。さて、バニブル行こうか。」
アサキムとアヤカは、瞬転の術でバニブルに向かった。
「ついた、けど囲まれた。ねぇ早くだぜよ。」
結局、フォルテと同じ目にあった。
「あったあった、これこれ。」
それは、名誉バニブル人の証明カード。
「確認取れました………失礼しました。」
近衛兵を、適当にさがらせ、中央図書館に向かう。
その光はまさにこの場全ての処かこの世界に存在していた
佐伯の使役する亡霊は全て蒸発するように強制的に昇天していった
今やこの場に残っているのは佐伯伽椰子の分霊のみに限っていた
怨霊というカテゴリーで存在している限りは成仏や昇天という
肉体と言う防護はなく魂の剥き出しのままであるため魂の直接攻撃には耐えられないのだ
例え耐えられても力の大半は持っていかれる―それが世界の防衛システムとして絶対的な力を持ったそれに
刃向かい只で済むはずもない
しかしそれでも死に物狂いの執念による悪足掻きか、それは恐らく分身としても残った己の全ての力を振り絞り
この場の全員に向けてお得意の暗黒空間に向けて引きずり込もうと魔の手が迫る
>「超重獄、昇天の間」
それと同時にそれは何者でも理解できない意識という生成過程において
個々人や種族あらゆる存在に置いて異なるが、それですら共通で把握出来ないくらい
まさに時間が制止したという表現に近い反応速度にて
引きずり込もうと佐伯の手が自動反応する無敵結界により阻まれたのと同時に
永久闘争存在の持っている武器は禍々しい和弓になり、其処には光の矢の切っ先が
が引くための弦の既に射出準備が完了していた。
躊躇う事も無く放たれた光の矢は暗黒空間ごと佐伯伽椰子とこの場に居る全ての分身と
根本で繋がっている魂の線を通り、
その全てが目と口からもはみ出るほどの全身から眩い光と共に暗黒空間を強引に空間ごと
消滅させる爆発により消滅していった。
この時、本体である別世界におり自らは絶対に安全な場所で高みの見物をしていた
佐伯伽椰子も自らの魂にヒビを入れられ想像を絶する激痛と力の流出を感じた時点で
完全に魂の線を遮断する事で事なきをを得ていたが、そのままでは確実に魂ごと滅され
二度と輪廻転生のシステムには加われない完全消滅させられていた事には間違いない
しかし魂のヒビが空いたその状態は絶対に治せない傷と化しており
そう長くない内に消える事は最早逃れ得ないだろう
瞬間、世界は光に埋もれた。
リュジーは眩む目を微かに開きながら、目の前の光景に声を失う。
浄化の光。神域の世界。
光に呑まれた呪怨の大群は一瞬にしてその身を蒸発させ欠片すら残さない。
これが多重世界を駆け抜ける永久闘争存在の武器の一つ、
――穢れなき威光!
凄まじい威力だ。それは大量の呪怨を呑みこんだのち
徐々に姿を細め、幻のように音もなく消えた。
「…すげーぜ。あいつ」
放心状態で闘争存在を見つめる。
これで終わったのだと胸を撫で下ろすリュジー。
しかし――
佐伯伽椰子の分霊が縋るようにリュジーの腰にしがみ付いてくる。
爪を立てて、腰に食い込む細い指。
伽椰子は最後の悪あがきでその場にいる者を暗黒空間にに引きずり込もうとしているのだ。
「てめーこらー!しつこい女はうぜーんだよ!!」
リュジーは彼女の喉を掻き切ろうと短剣をふりあげる。
同時に目を瞠る。短剣を持つ右手が停止する。
大きく見開いたリュジーの目に映るは血の涙を流す佐伯伽椰子。
>「超重獄、昇天の間」
さらに伽椰子の霊体を押しつぶすかのような攻撃が加わる。
同時に永久闘争存在の攻撃。伽椰子本体へと逆流する光の奔流。
伽椰子は呻き声をあげながら悶絶している。
「…あああぁ。た、たすけてぇ」
「ば、ばかやろう!てめーは今まで何人もの人間を殺してきたってんだよ!!
今さら命乞いかよ。潔くあの世にいきやがれ!!」
「…あああああああああ!!」
「ちっきしょう!!」
短刀を振り下ろす。――斬断。
二つの影は押し倒されるように地面へ。
「くぅん」
猟犬が短く啼く。
仰向けに倒れたリュジーの腹の上には一人の女。
長く美しい黒髪。紅い唇。白い肌。女が生まれ持つ美しい生の色。
――佐伯伽椰子。
彼女は無言でリュジーの顔を見つめていた。
分霊であった彼女と本体とを繋ぐ魂の通路は
リュジーの短刀によって切断されていた。
「おい糞娘。たすけてやったぜ。どうだい今の気分はよ。
おめーが今まで問答無用でやってきたことを、闘争存在はやったまでなんだよ。
因果応報なんだぜ。わかるか?理由もなく殺されちまう気分をよ」
「………」
リュジーの体の上で佐伯伽椰子は目を虚ろにしていた。
そして倒れこむようにして、抱きつくのだった。
でもその体はいつの間にか縮んでいる。そう、まるで幼女のように。
「ちょ、やめやがれ。くすぐってえ!」
起き上がって離そうとするが幼女はその手を離さない。
しまった。あのまま成仏させておけばよかった。そう思ったのも後の祭り。
さて、どうしようか。リュジーは幼女を前に座らせ猟犬に跨った。
と、キーと変な声がして肩に淫夢くんが飛び乗ってくる。
かくして猟犬と幼女、おまけに淫夢くんをひきつれたヤクザの冒険が今、幕を開けるのだ。
【いったんリュジーは、表舞台からはけます】
>「フォルテ君、ここよ〜」
>「騙されないで。そいつはモンスターが化けた偽物よ!」
>「ええ!?私が本物のヴァルンだよ!」
「――ちィ厄介だなァ、アァおいィ!?」
気がつけば、ゲッツもフォルテもヴァルンも三人ずつ。
なんともシュールな絵面だった。
だが、この手の罠はゲッツには通用しづらい、なぜならば――。
>『見つヶ出せ!!真実ノ扉ヲッ!!』
すんすん、と唐突にゲッツは鼻を動かし始める。
んー? と一瞬首を傾げて、もう一回鼻を鳴らして。
次の瞬間だ。
「ミリオン・スピア――!」
ゲッツは身体を駆動させ、鋼の義手を振りぬいて、無数の槍を左腕から射出する。
それらの槍は、本物のヴァルンには当たらないようにしながら、その他のヴァルンを総て肉塊にしてみせた。
荒事に慣れていない一般人の前でも割と容赦しないゲッツだ、次は空中に舞い上がったフォルテ団子に目線を動かす。
あの中にいるフォルテの本体が、分からないはずがない。体の芯の心の腑が知っている、相手の魂の輝きを、熱を。
ミリオン・スピアが空を賭け、偽物のフォルテの服を引っ掛けるようにして命中。
空中で団子から偽物のフォルテは引き剥がされ、天井に服ごとぶら下げられていた。
へ、と中指を立ててどんなもんだい、とどや顔をして、残りの自分に視線を動かせた。
「ディスガイズ――トロールか、てめェら。
悪ィが、テメェら位じゃァ俺らには叶わねェ訳だ、わかるよなァ? なァ、オイ?
わかるよな、つってんだよ、オイ。ここに居ンだから、本当の入り口くらい、わかるよな?」
自分の偽者に詰め寄って、片腕一本で自分の偽物を釣り上げて脅しを駆けるゲッツ。
数分後、泣きはらした顔でその場で土下座するトロールが二匹。
そして、そのトロールの頭を小突いてケツを蹴っ飛ばせば、涙ながらにトロールが、扉を指さした。
「神智の扉――ねェ、胡散くせぇ。
こいつらいわく、これがガチの地下への入り口らしぃぜ?
つっても、コイツら脅して言わせただけだから嘘かも知んねぇんだけど、こういうの調べられる奴とか居ねぇの?」
ゲッツは、あくまでも戦闘要員で探索要因ではない。
今回は、聞き込み(物理)によって扉の情報を手に入れたが、真偽判定は出来ないのだ。
その為、他の二人に何とか出来ないものかと相談するのであった。
「さてと、行きますか。」
ゲッツ達が、戦闘している頃、
アサキムは、アヤカとともに、中央図書館の、裏口に来ていた。
「えっと、まずパスワードを入れて。」
適当に、パスワードを入れて、
「っと、あれ、流さないと。」
(BGM シド S)
「!!!!」
白い衣を着た、少女(通称貞子)がアサキムの見ている。画面からでてくる。
「やっと、出てきたか。サビの直後に出てくるとk」
「アサキム!愛してる。アサキム愛してるアサキム愛してるアサキム愛してるアサキム愛してるアサキム愛してる」
しばらくお待ちください。
「落ち着いたか?」
「うん、で、用は?」
「えっと、神知の扉まで、案内しろ。」
「分かったわ。」
そういうと、アサキム、アヤカ、貞子はその画面から、瞬転の技で、
一気に、フォルテ達がいる場まで、跳ぶ。
>「フォルテ君!それは私の偽者よ!わからないの?明らかにブスじゃないの!!」
「まあ落ち着けって。こんな時は本人にしか答えが分からない問答をして本物を見抜くと相場が……」
>「オレの名前は正直フォルテ。こっちのフォルテは嘘吐きフォルテさ。
ねえ、良くできてるだろ?オレたち本物そっくりなんだぜ。見てみるか?オレの出来栄えをさ!!」
二人の偽物がしがみついてきて団子になった!
「うわなにするやめろー!」
さて、顔のクオリティはというと――綺麗といえば綺麗には違いないのだが
ウケ狙いのわざとらしい少女漫画絵柄と言った感じだった。
さて、本物のヴァルンちゃんしか知らない事と言えば……
「冒険者の店のマスターの秘蔵図書はな〜ん「ミリオン・スピア――!」」
問答する暇もなく、偽物二人は一瞬にして鋼の槍に貫かれミンチと化した。
「知の迷宮なのに問答無用っすかーーーーー!!」
団子になって転がりながらツッコむ。
続いてこちらにも鋼の槍が飛んできた!
なんというか頭にリンゴを乗せた弓矢の的になった気分だ。
あっと言う間もなく団子からひきはがされ落下。偽物二匹は槍でえりくびを天井に縫い付けられ猫のようにプラプラしていた。
>「ディスガイズ――トロールか、てめェら。
悪ィが、テメェら位じゃァ俺らには叶わねェ訳だ、わかるよなァ? なァ、オイ?
わかるよな、つってんだよ、オイ。ここに居ンだから、本当の入り口くらい、わかるよな?」
ゲッツが偽物に、巧みな話術をもって本物の扉を聞き出そうとしていた。この竜人、歪みねえ!
しかし一つ問題がある。どう見てもこいつらは下っ端だから本当の扉がどれか知らない可能性もある。
これでは本当に扉がどれか知らなくても、恐怖のあまり適当に答えてしまうだろう。
>「神智の扉――ねェ、胡散くせぇ。
こいつらいわく、これがガチの地下への入り口らしぃぜ?
つっても、コイツら脅して言わせただけだから嘘かも知んねぇんだけど、こういうの調べられる奴とか居ねぇの?」
やはり聞き込み(物理)では限界があるらしく、センス・ライを御所望だ。
生憎ここには正義の神に愛された神官はいないが、同じような用途に使える呪歌ならある。
Truth――本当の事を言うまで聞く者に苦痛を与え続ける、文字通りの呪い歌。
「ゆらりゆれる光ひとつ 痛み癒すことなく消える “I take your life forever, you taka my life forever”
ひらり落ちる涙ひとつ 思い届く事無く消える “I take your life forever, you taka my life”
止まらない時に潜む 愛はきっと降り注ぐ雨のように 戻れない記憶巡る 全て奪われたこの世の果てに
悲しみ――
たとえどんな終わりを描いても心は謎めいて それはまるで闇のように迫る真実
たとえどんな世界を描いても明日はみえなくて それはまるで百合のように穢れを知らない
願いは透明なままで」
1番を歌ったところで歌をやめる。トロール達は特に苦しみだす様子はない。
ここまで歌って効果が出ないという事は、多分嘘ではないのだろう。
それにこの呪歌はとてもオレには最後まで歌えそうにない。
「……多分本当みたいだ」
そう言うのが精一杯で、壁にもたれかかる。胸がしめつけられるように痛む。
あろうことか自分の呪歌に自分でかかってしまった。オレはそんなに嘘つきだったのか!?
――そりゃあ確かに滅多に本心を言わないし時々地の文の思考描写と行動が正反対の時があるけど……。
慌てて呼吸を整えて平静を装う。
「な……なんでもない。ギャグ漫画じゃあるまいし自分の呪歌にかかる訳ないだろ!」
そう言って神智の扉を開けると――扉の向こうから、かの有名なSADAKOが這い出てきた!
「ぎゃああああああああああああああ!?」
その世界では最早佐伯伽椰子の分身や使役していた被害者にして操られていた亡霊は
消え去った否―この世界では存在する事は困難となった
残るべき障害はリュジーがわざと切り離した分霊佐伯伽椰子のみである。
その姿が幼子だろうと関係なく、本来ならば文句なしで排除処分だろう
だが合理的な判断としては此処で完膚無きまでに滅するのも此処では惜しいと考えていた。
何れ時間が経てば本体は消え去るのも時間の問題である
しかし念には念を入れ、今後に本体に辿る際やなんらかに使えるカードの一部として生かしておくという考えがあった。
そのままでは当然危険なリスクは多大である、故にどうするか一瞬で何億何万の思考の逡巡を繰り返した結果
永久闘争存在は分霊の佐伯に対して両手両足そして首にも魔法陣型の拘束の法を発生させると
まるで首輪や拘束具のようにそのまま永久の枷となるようにその部位に固着させる。
それはある種のその力の制限及び極端な減衰措置と居場所や動向などを知るための多世界とその存在する世界が常日頃から監視する
位置を示す完全にプライベート等の個人の自由が無いマーカーが込められていた物だった。
これでも本来は全生命体と世界の天敵に対して甘すぎる判断であるが、これに関しては温情でもなんでもない
本体を辿る道具に過ぎない、その道具の管理は永久闘争存在とエスペラントに一任される事が決定した
今度はネバーアースに降り立った本体の討伐の要請が来た事から無理矢理にでも分霊佐伯を引きずって行こうと近づくが
突如本体の存在と反応が消えた事により、永久闘争存在は緊急の脅威が消えたという事で急に意識が戻り始める
「……此処は……」
「見つけましたよ、主様!」
意識を戻した直後に背後からはエスペラントの愛する自らの影がやってくる
今まで自分がなにをしていたのかは今後の分霊の保護観察のために頭に情報が流れ込んできていたため
しばし周囲を見渡しながら事態の把握をいち早く理解できるように勤めていた
>「ミリオン・スピア――!」
「いやああああ!!」
目の前でミンチになるヴァルンの偽者たち。
え〜、この世界ってそんな残酷なこともあり?ヴァルンの顔は恐怖に引きつる。
あーあ…こんなこと、○○さんは絶対しなかったのになぁー(棒)
そう思いながら盛大なため息…
「それに偽者を見つけるときゲッツったらおもいっきり匂いを嗅いでたし…。
きゃあ〜私、人妻なのにー。ちなみに香水はエンジェルハート。ちょっと子どもっぽいんだよ〜」
>「知の迷宮なのに問答無用っすかーーーーー!!」
「ああ!フォルテくん!」
ヴァルンと違い、フォルテの偽物二匹は槍でえりくびを天井に縫い付けられ猫のようにプラプラ。
「これってモブキャラの格差社会じゃ…」
そしてゲッツはトロールを脅して真実の扉を探しだそうとしていた。
いっぽうのフォルテは歌い、真偽を確かめはじめる。
>「……多分本当みたいだ」
>「な……なんでもない。ギャグ漫画じゃあるまいし自分の呪歌にかかる訳ないだろ!」
>「ぎゃああああああああああああああ!?」
扉の向こうには貞子。
「きゃああああ!!おばけーーー!!」
尻餅をついて震えながらアサキムたちを指差す。
「こ、これってどういうことなのよ?ハズレってこと?
それに、あなたたち、いったいなにものなの!?」
恐る恐る質問。そのときだった。偽ヴァルンの肉塊から染み出している血液に床が反応。
すべての書棚が床に沈んでゆき、室内は無数の扉を残したままの広大な空間となる。
『ぺナルティレベルS。ここでの戦闘行為は許されない。
書籍の保存活動を優先し、この場にいるものすべてを排除する』
前方の大きな扉から金属で出来た巨大な掃除婦が現れる。
それは胸についた大きな二つの球体の突起から液を噴射。
ぬるぬるの洗剤を床に撒き散らし、巨大モップを構えて突進。
すべてのキャラを神知の扉に押しのけ外にほっぽり出す。
「いったぁい。痛かったよ〜。ってここはどこ?
今さら思うんだけど真実の扉を探せって言われたんだから、
真実の扉って書かれた扉でよかったんじゃないのかなぁ?」
ヴァルンはそう言うけど、色々と大人の事情もあるのだろう。
一同は神智の扉の向こうにいる。はたして、ここはいったい……
その場所は最早草木も含めたどんな生命も死滅してしまうような死闘により
完全な荒野と化していた場所ではティンダロスの猟犬とそして本体である佐伯伽椰子が
立ち尽くしていたが、力を使い過ぎたのか地面に倒れる。
永久闘争存在の攻撃を分霊という経路を通して自らの魂にはヒビが入り穴が開いてしまった
例えるとするなら水の入ったコップに元々入っていた水が佐伯という存在と構成していた自我といった個を証明する
様々な物が元々入っていたとする、それが自らの力を使用すると共に余計な力と構成している情報が漏れ出てしまう
能力を使用するときに失う力が見合っていない支出という面ではバランスが崩れ始めていた
何をしてもそれ以上のエネルギーが魂のヒビから消耗してしまう―生きているだけでもエネルギーを消耗するというのに
これは最早一刻も争う事態であったため、死に物狂いで厄災の種を求めていたが
以前よりも追撃が確実に激しくなってきており、移動しようにも力の消耗を考えれば自然と範囲も限られてくる
そんなことにもとっくに気づいているため確実に範囲網は迫ってきている
詰んでいる状況では厄災の種探しは更に厳しい物になったと言わざるを得ない
今こうして倒れているだけでも普段では絶対にありえない意識が揺らいでるのが分かる
佐伯伽椰子は恐怖し怯えていたこのまま消えていくのかと
圧倒的な力と喧嘩を売ってはいけない敵に絶対に回してはいけない者達を怒らせた事の代償に
今更ながら気づいたのだ
消えたくない、消えたくない―最早死んでいる時点で生物ではないのだが
まるで生物の本能のように心の底から生きる事を望んでいた
思った以上に力を使い過ぎたためか、最早居って来る猟犬から逃げられても
戦うために使う力まで行使すればその分存在していられる時間が減る。
そんな事を考えているうちにまたも先ほどとは相当数が跳ね上がったティンダロスの猟犬が
完全に取り囲む
死にたくない死にたくないという恐怖が尚更強くなる
その霊体を猟犬たちが食い尽くすのかと思われたその時
この場に居た全員の視覚が暗黒に包み、暗闇が晴れた時
猟犬たちは全てその場に倒れつくし、
一人の小さな子供が立っておりの背には天という時が現れていた
子供は背を向けたまま尋ねてくる
「おばさんは厄災の種が欲しいんですか?」
最初は呆気に取られていたが、その子供からは異常なまでの力を感じていた
それは周囲がまるで蜃気楼のように歪んで見えるのがその子供の周りで起きている
今の状態であの子供を殺す事も不可能だろうとそんな光景を見ていたが、我に返り肯定する
「なら、取引をしましょうかおばさん?」
この取引は力を使わずに生きるとしても取引に乗り佐伯伽椰子という人格が消滅する結果になろうとも
彼女には選択肢は無い、その上で選んだ決断は―――
「さて、ビビってる奴らが多いが。とりあえず、貞子だ。」
「貞子でぇす。キラッ」
ランカちゃんの、キラッ☆のマークを、見せる。
いかに、髪を少し切って、仲間由紀恵みたいでも、
白装束着ている+水を思いっきり被っている時点で、アウト
ちなみに、アサキムとアヤカは、しれっとバリア張り済み
「で、何で、こいつを連れてきたかというと。」
というと、突然アサキムは、貞子の頭を掴み。
「こうやって、こいつの頭を壁にぶつけて、」
アサキムは、貞子を扉に叩きつけた。当然、バカ力で、やったので、貞子は、若干ミンチに
「俺が、手を翳すと。」
忽ち、扉が開く。
「もともと、アインオブソウルの封印場だった。が」
「中央図書館と言う場からして、進入してしまい行方をくらます奴らが多くなった。」
「故に、ここをプライベート場みたいにした。」
「こんな説明で分かるか?お三方」
>「知の迷宮なのに問答無用っすかーーーーー!!」
「今更俺に知性求めんなっての!
そういう面倒事とかはおめーに任せっからよ、荒事は俺担当ってことで。
役割分担っていい言葉だなァ、うン」
耳をかっぽじりながら、げはは、と馬鹿っぽい笑いをするゲッツ。
頭が悪いが、頭が悪い事を自覚しており、向き不向きを理解しているのがこの竜人だ。
要するに、俺は戦闘しか出来ねーから、それ以外任せたわ、という事だ。
実際問題、全方位殲滅師という戦闘区分とは本当に戦闘以外には何も向いていない奴らの区分。
と言っても、パーティの中では恐らく上に二人ほど絶対強者が居るため、その強みすらカスとなっているのだが。
それでも、今時点でのこのパーティ無いで、戦闘だけ≠見れば最大戦力はこのゲッツだったろう。それ以外は何も出来ないのだが。
>「それに偽者を見つけるときゲッツったらおもいっきり匂いを嗅いでたし…。
>きゃあ〜私、人妻なのにー。ちなみに香水はエンジェルハート。ちょっと子どもっぽいんだよ〜」
「鼻ァ良いからよ、手っ取り早いだろォが。
あと、暴力は振るうし、物ぶっ壊すけど盗みはしねェ主義でな。
お前さんに手を出すつもりはさんさらねェよ。人妻とか興味さんさらねェし」
顎を爪でごりごりと描きながら、なんとも言えない表情をするゲッツ。
とりあえず、人妻趣味ではないようで、NTR趣味も無い。強いて言えば強いこと位が他者に求める要素であるゲッツ。
言ってしまえば、ヴァルンはゲッツのストライクゾーンに欠片一つも引っかかりはしない。貞操の危機は存在しないと思って良い。
なんだかんだで状況を解決した後に、フォルテに頼んで、真偽判定をしてもらう。
この竜人前回一度このダンジョンに潜っているようだが、前回はこのダンジョンをどうしたのだろうと疑問に思わざるをえない。
恐らく、壁や床をぶちぬいて罠を粉砕しながら高笑いして攻略していたことは想像に難くはないだろう。
>「ゆらりゆれる光ひとつ 痛み癒すことなく消える “I take your life forever, you taka my life forever”
>ひらり落ちる涙ひとつ 思い届く事無く消える “I take your life forever, you taka my life”
>止まらない時に潜む 愛はきっと降り注ぐ雨のように 戻れない記憶巡る 全て奪われたこの世の果てに
>悲しみ――
>たとえどんな終わりを描いても心は謎めいて それはまるで闇のように迫る真実
>たとえどんな世界を描いても明日はみえなくて それはまるで百合のように穢れを知らない
>願いは透明なままで」
ゲッツは、フォルテの歌を聞いても、何一つ調子を変える様子はない。
そもこの男が、嘘をつける生き物ではなかろうし、そも嘘をつく事が可能な程思慮深いとは思えない。
それは強みでも有るのだが……逆に言えばトロールと同レベルの知能とも言える。あながち間違いではない。
歌うのを辞めたフォルテの姿を見れば、どうやら疲弊しているようで。ああ、なるほどなあ、と何となく納得。
何も言わずフォルテの首根っこを掴んで、方に担ぎ上げて扉を開けた。その瞬間に。
>「ぎゃああああああああああああああ!?」
>「きゃああああ!!おばけーーー!!」
「りゃっしゃァ!」
全力で顔面に前蹴りを叩きこみ、ゲッツは貞子を撃退。
地面をゴロゴロ転がりながら十数m吹き飛んで貞子は停止。
いつも通りの容赦の無さだが、それよりも問題が一つ。
>『ぺナルティレベルS。ここでの戦闘行為は許されない。
>書籍の保存活動を優先し、この場にいるものすべてを排除する』
扉の中に一撃で叩きこまれたご一行。
その一行の前には、いつの間にかあの神仙が居る、そして唐突に話を初めて。
>「もともと、アインオブソウルの封印場だった。が」
>「中央図書館と言う場からして、進入してしまい行方をくらます奴らが多くなった。」
>「故に、ここをプライベート場みたいにした。」
>「こんな説明で分かるか?お三方」
「よっくワカンネ――『久しブりだ』
『ソうだナ』『ここニ』『来た』『生物』『ハ我ら』『ノ』『観測ノ』『上でハ』
『百ト』『五十七』『年ぶリ?』『否』『先ほド』『こノ』『階層ニ』『接近』
『スる命』『反応』『感覚』『気配』『我ラ』『感じた』『感じる』『来る』『目覚メ?』
『起こシニ』『来ル』『奴ラ』『災厄』『ノ』『種ガ』『世界をこワ』『す』『力?』『ファフニール』
『アマテラス』『アイン・ソフ』『オウル』『久シブり』『懐』『かし』『イ』『滅び』『ヲ』『防ぐ』『力必要』『ナ』『のだ』
『この世界』『滅ビ』『近イ』『アイン・ソフ・オウル』『目覚めルノ』『ハ』『予兆』『気配』『神託』『予言』『未来』
『確率』『ほボ』『間違いナく』『確実』『来ル』『終末ノ』『日ガ』『来る』『ノ』『ダ』『知が』『教える』
『我』『知識の座』『ダアトのセフィラー』『知識のアイン・ソフ・オウル』『我が名』『ハ』『ダアと』
『お前たチ』『ガ』『なゼ』『ここ』『来タ』『ご来場』『カミング』『した』『のハ』『理解』『でキ』『てイル』
『ダ』『がしかし』『問題』『一つ』
ゲッツの言葉に割り込んで、無機質な声が響き渡った。
四方八方から、無数の同じ声が重なりあって響き渡っていく。
暗黒に包まれていた空間は、次第に静かな魔力光に照らされてその空間の形を顕にしていった。
神智の扉の向こうにあった空間は、不思議な空間であった。
石造りの神殿の様な空間だ。天井ははるか高く、真上から青白い不思議な光が降り注いでいる。
足元はコールタールのようなどろどろとした液体で満たされ、壁や床からは漆黒の結晶体が無数にそびえ立っていた。
そして、より謎なのは、その液体や結晶の表面をまるで虫か何かのように文字≠ェ這いまわっている、という事だ。
声はこの空間のあらゆるところからして、その声の主は己をアイン・ソフ・オウルだと語る。名は、ダアト。
上の書棚に有った本の執筆者である。
『我』『この』『空間』『封印シ』『てイル』『化物』『居るガ』
『そレ』『解き放チ』『に』『来ル』『者』『ガ』『強い』
『我』『アイン・ソフ・オウル』『しカシ』『我』『武力』『弱イ』
『排除』『申請ス』『るかラ』『排除』『すレ』『ば』『我』
『教授』『スル』『こノ』『世界』『真実』『トゥルールート』『完全』『情報』
『大丈夫?ファミ通の攻略ぼ』『混線』『バグ』『気ニシ』『ない』『事』『おーけイ』『?』
どうやら、アイン・ソフ・オウルのイメージからして戦闘力は高そうだが、それほど強くは無いようで。
ここに向かって蹴撃をかけている者を倒すように、ダアトは皆に依頼をした。
直後だ。神殿が揺れて、轟音が響き渡る。戦闘音だ。
音のする方に走っていけば、そこそこの広さがある空間に出ることだろう。
そこには、二人の人間がいる。ヴェルザンディ国家司書と、ハー君だった。
何やら憔悴している様子だが、間違いない。ヴェルザンディの手に握られている杖に嵌る宝玉は――厄災の種だった。
不穏な気配、雰囲気。直後、背後からコールタールの様な液体が漏れ出してきて、声を掛ける。
『我』『バックアップ』『支援』『すル』
『存分』『戦エ』『此処』『我ガ』『国』『領地』
『好きに』『さセる』『積リ』『無し』『無い』『不可能』『あり得ン』
『戦エ』『厄災ノアイン・ソフ・オウル』『無限光の寵児』『ゲッツ・ディザスター・ベーレンドルフ』
『戦え』『妖幻のアイン・ソフ・オウル』『奇跡の子ヨ』『フォルテ・スタッカート』
『戦エ』『神仙』『世界保護』『世界意志』『アサキム』『導師』
『戦え』『我が』『領地ノ』『民』『ヴァルン』『夫』『ヲ』『救エ』
それは突然この世界―ネバーアースに現れた亜空間―宇宙線を多量に含む有害な波動が飛び交う
人類だけでは無く通常の生物では生存できない宇宙にも等しい極限の世界シェオル
存在するだけでもその場に居る事を選別するその地はまさしく地獄とも宇宙とも呼ぶ者が居た
そんな適者以外の淘汰が当たり前の地にてサングラスをかけた一人の男がイスに寝転がり
暢気にビーチで肌を焼くように寝転がっていた。その男の周りには何も無い、まるでその身から発する力と畏怖によるためか
この地には数多の悪魔と呼ばれる生物が存在しているが、その強力無比な力でも飛び抜けている存在はそうはいない
そんな男の近くに一人の青年―エスペラントが近づいてくると同時に声を掛けてくる
「こんな所で寝ているとはな、今度はそのどこぞの俳優のような姿にしたのか?」
寝転がっていた男はいつものような余裕で微笑みを浮かべたまま
そのままの状態で切り返す
「まぁね、前に映画で私の役を二度も演じている彼を見てね、暫くはこの姿を通そうと思ってね
彼にもし会ったら君の演じた役の本物の方は君と瓜二つの姿形をして、1ファンとして応援していると伝えてくれたまえ」
上半身だけ起き上がるその―アル・パチーノに似た―男はかけていたサングラスを取り
エスペラントに視線を合わせる
やってきたエスペラントもその男の近くに立ち止まる
「君が来るとは珍しいな、まさかカオス勢に入ってくれるという事で来てくれたのかな?」
「本当に強き者しか生き残れない世界になる事を俺が望むわけが無いだろう?
それを己の都合とルールを人に押し付けてくる神の連中ともいざとなれば戦う者が
そんな訳があるまい、別の話だルイ・サイファー」
エスペラントがいるこの世界でのお互いの目的とは言え例えかなり前からの友人でも
どちらも多大な犠牲を払う戦闘をしない等の約束を結んでいる以上
自然と出張ってくるような行為をしていないルイ・サイファー―もといジョン・ミルトンは
わざわざ出向いてくるほどの用件なのかと首を傾げていた
「とりあえずこの領域は精々南極があった場所と同じ位置・大きさで侵食を止めているし
戦闘になる理由はないだろうけどそれで用件に入ろうじゃないか」
「そもそも他世界に層状に位相の違う時空に重なるように存在その時点でアウトだがな
―いろいろと力を貸してほしい」
二人は今この世界での現状や起こって居る事を話し合った
時間にすればそれは一時間以上のことであり
粗方方向と答えが決まるとエスペラントはルイ・サイファーのいるこの地域から足早に居なくなった
>「鼻ァ良いからよ、手っ取り早いだろォが。
あと、暴力は振るうし、物ぶっ壊すけど盗みはしねェ主義でな。
お前さんに手を出すつもりはさんさらねェよ。人妻とか興味さんさらねェし」
「自慢げにいう事じゃねえよ!?
ってかおっぱいあれば何でもいいんじゃなかったのかよ!」
こいつ絶対前に来た時、漢開けや漢解除で攻略したんだろうな……。
(漢開け……小手先の技術に頼らず漢らしく宝箱などを開ける事。
漢解除…小手先の技術に頼らず漢らしく罠を以下略)
むしろ今はシーフ技能持ちが欲しい、切実に! 盗みは別にしなくていいけどダンジョン探索技能的な意味で!
何はともあれゲッツに担がれて神智の扉の中へ。
ゲッツがSADAKOを吹っ飛ばしてみると、しれっと毎度おなじみ導師様がいるし。
>「もともと、アインオブソウルの封印場だった。が」
>「中央図書館と言う場からして、進入してしまい行方をくらます奴らが多くなった。」
>「故に、ここをプライベート場みたいにした。」
>「こんな説明で分かるか?お三方」
「ちょい待て、マジでプライベート図書館なの!?」
>『ソうだナ』『ここニ』『来た』『生物』『ハ我ら』『ノ』『観測ノ』『上でハ』
プライベート図書館の主が喋り始めちゃったよ!
足元黒い液体だらけだし黒い結晶が突き出てるし……キショいんだけど!?
よく見ると文字が這いまわっている。もしかしてこれがプライベート図書館の主……!?
彼の言った事を要約すると、ここで捕まえている狂暴なペットがいてそれを野に放たんとする者が現れたから
排除してほしい、という依頼だった。
「んで誰だよ、好き好んでわざわざパンドラの箱を開けるような真似をする奴は……うわっ!?
早速お出ましか……!」
振動と、響き渡る轟音。音のした方に急行する。
魔術的な封印が施された石造りの巨大な扉の前に、二人の人影があった。
女の方が手に持った杖を振るうと、火炎球が放たれ扉にぶつかって爆ぜる。再び轟音。
よく見るとその杖についた宝玉は……
「厄災の種……!」
悪い予感が的中してしまった。こちらに気付いた女が、一緒にいた男に命じる。
「とんだ邪魔者が入り込んだようね……ハーラル、排除して」
「はっ、ヴェルサンディ様の仰せとあらば――」
男の方がこちらに振り向くと、何かの呪文を詠唱、手の中に魔力で出来た剣を作り出す。
その瞳は何かにとりつかれているように、どこか虚ろだ。
「今ハーラルって言った……ハー君!? それであれが悪い国家司書!?」
完全に操られてるじゃん、厄介な事になったなあ!
いきなり黒い液体が背後に現れて声をかけてきた。
>『我』『バックアップ』『支援』『すル』
>『存分』『戦エ』『此処』『我ガ』『国』『領地』
>『好きに』『さセる』『積リ』『無し』『無い』『不可能』『あり得ン』
>『戦エ』『厄災ノアイン・ソフ・オウル』『無限光の寵児』『ゲッツ・ディザスター・ベーレンドルフ』
>『戦え』『妖幻のアイン・ソフ・オウル』『奇跡の子ヨ』『フォルテ・スタッカート』
>『戦エ』『神仙』『世界保護』『世界意志』『アサキム』『導師』
>『戦え』『我が』『領地ノ』『民』『ヴァルン』『夫』『ヲ』『救エ』
ついにオレ達にもアインソフオウルの二つ名が付いてしまったのか!
でも厄災とか妖幻とか危なっかしいなおい! 特に厄災って酷くね!?
「ハー君……! 目を覚まして!」
「駄目だ!!」
ハーラルに駆け寄ろうとするヴァルンちゃんを後ろから羽交い絞めにする。
「そいつに何をやった……!?」
「何って、ちょっとした術をかけたのよ。――私の大人の魅力でね」
そう言って、ヴェルサンディは妖艶に笑った。それを見てなんとなく分かった。
最も古い魔法の一つ――愛を交わす手段であるそれは、時に強力な呪法として使われる。
こいつ、奪ったのか……唇を!
「ヴァルンちゃん、ハー君は必ず引き戻してやる。でも最後の決め手は君自身だ。頼んだよ!
導師様、ゲッツ! オレの呪歌が効くまで時間をかせいでくれ! くれぐれも殺すな!」
ヴェルサンディのかけた呪いを解くために謳うは、Purification――浄化と解呪の歌。
「世界の弥終 無くした翼探して 霧深い道 彷徨い続けるの
撒かれた時の捻子 薄暮の月に溶かし込む 水面から透明な朝へ
悲しみの向うへ 風を連れてゆくのさ いつか夢見た銀の波 輝く音色の波に乗って翔け出せ
Purification舞い上がれ 空の海を越えて Purification純化する愛は永久に神秘の歌奏でるの――」
最初はハーラル捜索への協力は単にここに来るための交換条件のはずだったのに。
今この時は、ハー君をヴァルンちゃんの元に連れ戻してあげたい一心で謳っていた。
「ああ、確かに、俺の上がってた時期だな。思い出したくもない。」
取りあえず、話を聞いている。
そして、更に進むと、
ボスっぽいやつきたぁ、はい操られてるぅ☆
「予想どうりで、本当に安心した。」
「さて、ウェルサンディ殿しばしの間。お付き合い願おうか」
「ええ、勿論。地獄でね。」
その時アサキムの周りには、東西南北に、魔法陣が形成されていた。
「ちっ、コイツは」
「そう、闇の死生魔法陣よ。」
用は、死と、生を司る技。
「しゃらくせぇ」
近づく、瞬間に一つその魔法陣を、破壊する。
「何て奴なの、魔法陣を破壊するなんて」
「悪いが、魔法陣を壊すのは大好きなんだ。」
「今度は、こっちから行くぜ」
そう言うと、アサキムは、継承魔法天満降伏を発動
さらに、
「龍虎王移山法 神酬霊山」
札を召還し、それを飛ばす。
「義山、召還」
忽ち、デカい山が召還される。
「急々如律令」
それは、封印と永遠の苦しみを司る山
「それが、おまえの地獄だ。」
それは、落とされ、その図書司書は潰される
>「鼻ァ良いからよ、手っ取り早いだろォが。
あと、暴力は振るうし、物ぶっ壊すけど盗みはしねェ主義でな。
お前さんに手を出すつもりはさんさらねェよ。人妻とか興味さんさらねェし」
「うん。それはよかったよ。だって私はハー君だけのもの。
でもね。ゲッツはずっとお友達だから、心配しないで」
>「自慢げにいう事じゃねえよ!?
ってかおっぱいあれば何でもいいんじゃなかったのかよ!」
「えー…。じゃあ、おっぱいがついてたら掃除機や冷蔵庫でもいいってこと?それって超へんたいじゃん」
>「もともと、アインオブソウルの封印場だった。が」
>「中央図書館と言う場からして、進入してしまい行方をくらます奴らが多くなった。」
>「故に、ここをプライベート場みたいにした。」
>「こんな説明で分かるか?お三方」
>「ちょい待て、マジでプライベート図書館なの!?」
>『ソうだナ』『ここニ』『来た』『生物』『ハ我ら』『ノ』『観測ノ』『上でハ』
「うそよ!ハー君は騙されてるだけなんだから!!」
そう思わないと、ヴァルンの胸は張り裂けてしまいそうだった。
そして振動。轟音。それに焦燥の色を隠せないヴァルン。
音のした方角に駆け、目を瞠る。
行き着いた先には国家司書とハーラルがいた。
「ハー君……! 目を覚まして!」
祈るような気持ち。
どうやらハーラルは操られているらしい。
>「ヴァルンちゃん、ハー君は必ず引き戻してやる。でも最後の決め手は君自身だ。頼んだよ!
導師様、ゲッツ! オレの呪歌が効くまで時間をかせいでくれ! くれぐれも殺すな!」
「フォルテくん……。ありがとう…」
>「世界の弥終 無くした翼探して 霧深い道 彷徨い続けるの
撒かれた時の捻子 薄暮の月に溶かし込む 水面から透明な朝へ
悲しみの向うへ 風を連れてゆくのさ いつか夢見た銀の波 輝く音色の波に乗って翔け出せ
Purification舞い上がれ 空の海を越えて Purification純化する愛は永久に神秘の歌奏でるの――」
綺麗な歌声が耳朶を震わせる。まるで天使の歌声だ。
響く浄化と解呪の歌にハーラルの槍が一瞬止まる。
しかし――
その穂先が天に向いた。
それは力をかければ折れそうな細い槍だが、見かけどおりの武器ではない。
「ヴェルザンディ国家司書を……崇めよ…。図書国家バニブルに忠誠を誓え……」
青い閃光が迸る。天井から降り注ぐ一条の光。
ヴァルンは床に転がった。なんとか直撃は免れたが、
左手を掠めた雷撃によって左半身に痺れが走る。
と、視線の先ではアサキムと国家司書が対峙。
床に浮かび上がる無数の死生魔法陣。ヴェルザンディが先に仕掛けたのだろう。
だが、すぐにアサキムに魔法陣を破壊されてしまう。そして次の瞬間――
>「それが、おまえの地獄だ。」
巨大な山が召喚され、国家司書を押しつぶす。
潰された血液が床を染め上げる。
「ふえっ!!」驚くヴァルン。フォルテも殺すなと言っていたのに…。
でも、おかしい。術者が死んでいるというのに幾つかの魔法陣が床を滑るように動いている。
その不気味に光輝くさまはまるで生きているかのようだ。
それはヴァルンの目の前で動きを止めると徐々に人影を生み出す。
その正体は……
「無粋なものよ。歓迎の挨拶もすまぬうちに…」
ヴェルザンディ国家司書。彼女はアサキムを鼻白んだ表情で見据えていた。
どうやら潰された者は偽者。 本物そっくりのクグツだったようだ。
「…ヴァルン。あなたには夢があったのでしょう。国家司書となる夢が。
でも頭が足りないからそれは無理だったのよね。だから家庭に入った。まるで逃げるように。
……あなたの夫、ハーラル近衛隊長。なぜあなたがこの男と結婚したのか言ってやりましょうか?
抱いてもらえたら楽になるって、計算ずくだったからよ。
人に甘えて、寄りかかって、国を支える立派な夫に尽くすことによって
いっぱしの国家司書になったつもりだったのでしょう?」
ヴェルザンディは目を細めニヤっと笑った。背筋の凍るような残酷な微笑だった。
対照的にヴァルンは悲しげな顔。震えながらゆっくりと体を起こす。
「…ええ。私はずっと迷ってた。夢を諦めたまま中途半端に生きていっていいのかなって思ってたの。
だからハー君にずっと寄りかかって楽になりたかった。だけどそのハー君が教えてくれたんだよ。
転んだっていい、迷ったっていい、だめな自分をまっすぐに受け止めればいいって。
だからそんな優しいハー君をあんな怖い悪魔に変えちゃったあなたはゆるせないんだよ!」
立ち上がり、まっすぐに国家司書をにらみつけるヴァルン。
足元から震えがくる。恐怖が込み上げてくる。
すると突然、ヴェルザンディの嘲笑が響きわたる。
「ぷっ、あはははははは!だめな自分をまっすぐに受け止めるですってぇ?
とてつもなく面白いじょうだんですこと!!」
白い喉を仰け反らせ笑うヴェルザンディは、笑いを堪えながら両の手を動かし魔法陣を操作。
操作された魔法陣はフォルテ、アサキム、ヴァルン、最後にゲッツの足元にものすごい速さで移動する。
「…うううう。笑うなんてぇ。私が笑われるのはぜんぜん構わないよぉ。
でも、私のかっこいいハー君のありがたいお言葉まで笑うなんて……ほんとにゆるせない!!」
怒ったヴァルンは詠唱を始める。その足元には魔法陣。
ヴェルザンディと似たような魔方陣を複数展開させると、
オセロゲームのように死生魔方陣を次々と消滅させてゆく。
だが、能力に差がありすぎた。どんどんヴァルンの魔方陣は潰されてゆく。
続けて間近まで迫った魔法陣から飛び出すアンデッド系の魔物たち。それはヴァルンを引き裂かんと爪を出す。
が、次の瞬間、真っ二つに切り裂かれた。ヴァルンの瞳にうつるのは苦笑する戦士。
その男の懐かしい眼差し。彼女は彼に微笑み返す。
「おかえりなさい」と。
「ただいま」
照れくさそうなハーラル。その槍は優雅に弧を描くと国家司書に穂先を向けた。
その背にヴァルンを隠して。
「君はバカだ。こんな危険なところまで、俺を追いかけて来るなんて」
「大丈夫。とっても優しい近衛隊長さんが、私を守ってくれるもの」
【ハーラル正気にもどりました】
【魔法陣に生み出されたアンデッド系のモンスターが全員に攻撃開始しました】
「――ッフフ、まさかこのダンジョンの深層にたどり着いている冒険者が居るとは思っていなかったけれど。
でも、この宝玉が有る限り、私が負けることはないわ! レヴァイアサンの導きと共に、この世界に黄昏を……」
杖を構える女は、宝玉の力に飲まれていなかった。
そう、エヴァンジェルに居たあの男と同じように、理性を携えて狂気の力を振るう存在。
それがこの女、国家司書ヴェルサンディ。魔術師としては並程度、冒険者としても二流の女。
だがしかし、強い意志力で動くこの女を司書たら占めているのは、それらの分かりやすい要素ではない。
文字通りに、鉄の女なのだ。決して折れず、決して曲がらず。一度決めれば己の意志をひたすらに押し通す。
意志を貫くためならば、己を含み何を傷つけようともためらわず、突き通してしまう。その強引なやり方で、この女は今の地位に居る。
ここにいるのは一体なぜか。保身には見えない、少なくとも保身をするのならば邪魔者の全てを全力で排除しに行くのがこの女のやり方だ。
このような分かりづらい方法、暗躍をしたのはそうせざるを得ない理由があったから≠ニは思えないだろうか。
つぶやいた一言は、あの聖都にてあの男が散り際に残した言葉と合致するもの。この世の裏で、何が動いているのか。
謎は深まるばかりだが、今すべきことは、此処を守ること。そして、それが出来る人材が此処には居る。
>「ヴァルンちゃん、ハー君は必ず引き戻してやる。でも最後の決め手は君自身だ。頼んだよ!
>導師様、ゲッツ! オレの呪歌が効くまで時間をかせいでくれ! くれぐれも殺すな!」
>「さて、ウェルサンディ殿しばしの間。お付き合い願おうか」
「おうよ、りょーかいッ!」
そう言って、導師と竜人は動き出す。
生み出された魔法陣、その群れに対してアサキムが魔法陣の破壊をする。
動きも呪文もよく分からないが、気がつけば破壊されている。わけがわからないし、納得もいかないかもしれない。
だがしかし、強者とはそういうものだ。余人の発想の斜め上を行く行動、結果をもたらしていくのだ。
もうあいつ一人でいいんじゃないかなあ、というヴァルンとフォルテの心の中での感想を置いておいて、ゲッツは駆け出した。
「ふん……、男だからって、ちょっとできるからって、舐めてんじゃないわよ。
女を甘く見てると痛い目見るわ。死になさい。
この国の司書を相手取ることがどういうことか、教えてあげる」
「ヒ、ヒャハッ、ギャヒャヒャヒャヒャ――ヒャーッハッハッハッハ――――――!!
良いねェ、その目付き、その鋭さ、その気概――惚れちまいそうだぶっ殺すァ!!」
何方が悪人かわからない構図だが、地面を蹴って、壁を踏みしめて。
竜人は遥か数十mの高みへと一瞬で駆け登って、右腕を地上へと突きつけた。
鋼の腕が一気に形を変える。竜の魔力の溶けこむ血が無機質に飲み込まれ、魔道心臓が唸りをあげる。
砲塔が生まれ、そこに圧縮された竜種の魔力と、赫い光が混ざり合い、圧縮されていった。
同時に、国家司書もまたアサキムと拮抗しつつも杖を手に呪文を詠唱する。
古き言葉だ。語られる呪文の構成言語は、既に失われた都市の言語でできている。
魔術とは神秘である。そして、神秘が神秘足りえるのは、秘密であること。
同じ火でもマイナー、失われている等の要素の有る術を使う程、魔術というものは効率的かつ強力な性能へと変化していくのだ。
そして、その中でも特に難度が高く、使用者が少ないのが高位古代語呪文[エルダーエンシェント・スペル]。
魔術師としての才能の無さを、圧倒的な知識量で補うその戦い方は、この国の民らしいと言えただろう。
「ボルカニック・アロー!」/「ダイヤモンド・カッター!」
ゲッツの腕から解き放たれたのは、真紅の矢。
光芒の線を引きながら千の紅が大地を蹂躙せんと迫りくる。
威力は一級、速度も一級、範囲も一級。この暴虐こそが全包囲殲滅師の在り方だ。
対するウェルサンディが杖の石突を大地に叩きこめば大地が隆起して変質。
超圧縮された岩の刃が、上空に向けて槍衾として解き放たれる。
極めて高い戦闘力を誇るその呪文こそが、高位古代語呪文の一つ、ダイヤモンド・カッターだ。
拮抗。
幾らゲッツが強力な竜種の血を引く竜人であれども、厄災の種のバックアップを得た高位魔術師が相手なのだ。
徐々にゲッツが押しているとはいえ、この拮抗が崩れるまでには後数秒はかかったことだろう。
だが、それで十分だったのだ。なぜならば――
「な――、東洋の……ッ。
く……ッ、認めん! 私は、認めない! 知性無き者の暴虐に、私が蹂躙されるなんて――!」
そういった瞬間に、ヴェルザンディが岩に潰されて死ぬ。
一瞬だった。そう、まるで予定調和かのように、当然のように――。
「なんて、ねぇ?
いい筋してるし、私より強いし、私より長く生きているのでしょうね、あなた方は。
でもねえ……、必死な人間舐めてんじゃないわよ。そう簡単に、一瞬でやられて溜まると思ってるの?
ここに封じられているアイン・ソフ・オウルを、混沌のアイン・ソフ・オウル『サーペント』を目覚めさせるまでは。
私は負ける訳にはいかないのよ。この世界の再編を、求める形で終わらせるにはね。アイン・ソフ・オウルの力が要るのよ。
だから――死になさい。私の求める世界を、新たに、真なる知の世界を作るために、ね」
そう言うと同時に、小さくヴェルザンディは呪文を紡ぐ。
正気に戻ったハーラルとヴァルンに、まるでゴミ虫を見るかのような視線を向けながら。
茶番ね、と小さくこぼし。女は術を完全に組み上げた。
「――天使と悪魔の墳墓」
死生魔法。天界の法と地獄の法を弄ぶ、人ならざる者の法。
明らかな禁忌たるその術の中でも最も禁忌とされる術を、ヴェルザンディは唱えたのだ。
負荷によって宝玉が砕け散るが、その直後最も恐ろしい正念場が襲い来る。
瞬間。
天井と床の全面≠ノ魔法陣が展開されたのだ。
地の魔法陣からは、高笑いを響かせ腐臭を漂わせる悪魔と、悪魔に汚された天使たちが。
天の魔法陣からは、引きずり降ろされる天使と、天使を引きずり下ろす堕天使達が。
あらゆる聖性と呼ばれるものを侮辱し、呪う地獄絵図が展開される。
これらの一つ一つが、悪魔であり、天使であり、堕天使。
皆、ヴェルザンディの術により魂を縛り付けられた傀儡であり、並のアンデッドなど比肩しない強者達。
その数、数百から千。
もはや戦闘ではない、戦争だった。
これを成したのが、アイン・ソフ・オウルではなく、アイン・ソフ・オウルの欠片を使用した只の人間であるということ。
それが、何よりも恐ろしいことだ。何処に散らばっているか分からない欠片。
そんなものを偶々手に入れただけでこのような戦いが起こるならば、この世界の滅びも遠くはない。
それが分かっているのかわかっていないのか、ヴェルザンディは杖を地面に投げ捨てて、額を抑えつつ、目を細めて。
「……あと、一歩。
世界を、正しい方向にする為に――私は、死んでもいいのよ。
そこの色ボケ夫婦も、そこの超人も、そこのバカっぽいのも、そこの性別不明も。
私の意志の邪魔だけは、させてなるものですか。だから、――死になさい、早急に。命令よ
だから、殺しなさい。迅速に、早急に、至急に、早く、速く、疾く……ッ」
掲げた手を、前にかざせば、悪魔と天使と堕天使の群れが一気に飛びかかってくる。
天からは魔法が降り注ぎ、矢が降り注ぎ。
地からは鎧を着込んだ悪魔の騎士達が我先にと首級を獲りに襲い掛かってくるのだ。
だが、ヴェルザンディはもう既に宝玉を失っている。ここを乗り切れば、勝利するのは不可能ではないだろう。
>>「っ、東洋の」
「そうだよ、悪いけど、いろんな、術を知ってるんだよね。」
と、ドヤ顔していたが、
「まじか。」
案の定、ぐぐつだった。
「ははは、どうよ。この軍勢。」
「ちっ、黒き宝玉。の力か。」
流石に、これほどの軍勢を出されると滅入る。
(待てよ?、これって黒き宝玉の、力なんだよな。なら。あれも)
ふとおもいつき、ある言葉を唱えた。
「我、力を求めしもの、我、力在りしもの、我、この世界に光を差すもの。いま、百邪を討つため。ここに力を授けよ!」
その、言葉を発した瞬間
ゲッツや、フォルテとかのアインオブソウル保持者とは似ているが、明らかな力の違いを感じただろう。
「さてと、この力が有ればもう、どんな死亡プラグが有っても、壊せるな」
「手始めに、『我に、従え。』」
その、言葉を放った瞬間。
堕天使、天使が、攻撃を止め、悪魔に襲いかかり始めた。
「!!何なの?これ」
「何を、言ってんだ?俺は命令しただけだ。」
「命令など、私が操ってんのよ!」
「宝玉は、本物には、勝てないってことさ。」
「まさか、貴方も 保持者」
「そうさ、古のアインオブソウル 天のアインオブソウルさ。」
天(あまつ)のアインオブソウル
そのスキルは、自分の持つ力、自分の魔法、武器を昇華させる能力である。
ファフニールとの戦闘で、パチモンで、ダメージ与えてたのも、
アインオブソウルをここに置いていたものの。
力の余韻は、まだ残っていたからである。
「とは、いえ百邪認定受けてる悪魔は、流石に操れんか。」
「ゲッツ、フォルテあと、のろけ夫婦。悪魔払いの時間だ。天使たち倒すなよ。」
そういうと、お決まりの、ウィザーソードガンを持ち戦闘を開始する。
>「――ッフフ、まさかこのダンジョンの深層にたどり着いている冒険者が居るとは思っていなかったけれど。
でも、この宝玉が有る限り、私が負けることはないわ! レヴァイアサンの導きと共に、この世界に黄昏を……」
ああ、またこの手のタイプか。
オレに言わせりゃ厄災の宝玉の前に正気を失う大部分の一般人より余程クレイジーだぜ!
>「さて、ウェルサンディ殿しばしの間。お付き合い願おうか」
>「おうよ、りょーかいッ!」
ヴェルザンディに向かっていく導師様とゲッツ。例によって繰り広げられる認識不能の超人バトル。
――ちょっと待て、あっちに二人がかりで行った、という事は……
>「ヴェルザンディ国家司書を……崇めよ…。図書国家バニブルに忠誠を誓え……」
ハーラルがヴァルンちゃん目がけて雷撃を落としてきた。
幸い直撃は免れたようだが……やっぱりこうなるよな! ちょっとは人員配分とか考えようぜ!?
ヴェルザンディがでかい山に潰されて死んだかと思えば、ヴァルンちゃんの目の前に現れる。
>「無粋なものよ。歓迎の挨拶もすまぬうちに…」
誰かはよ助けにいけ。と思ったら相変わらずゲッツ達の方にもいて何やら大技の準備をしている。
もうわけ分かんねーよ!
ヴァルンちゃんを言葉巧みに容赦なく追いつめるヴェルザンディ。
「やめろよ…もうやめろ!!」
「他人の心配をしている場合か?」
思わず叫んだオレの目の前にハーラル近衛隊長が立ちはだかる。
それでも間奏を弾く手を止めることは無い。ここでやめるわけにはいかない。
「何が他人だ。お前の最愛の人じゃないのかよ。だから結婚したんだろ?」
ハーラルは僅かに戸惑うような表情を覗かせる。呪歌が効き始めている。もう一息だ!
「……笑わせるな、取り立てて頭がいいわけでも強い意思があるわけでもない何の取り柄も無い女だ。
私が忠誠を誓うのは只一人、この国の偉大なる国家司書ヴェルザンディ様――逆らう者には死を!」
ハーラルの振るった槍が弧を描いて閃く。しかしその動作には迷いがある。これなら……
両手のふさがった状態でとっさに振り上げたのは――足だった。
モナーの一部が瞬時にまとわりついて脚甲と化し、刃を受け止める。
そのままの体勢でハーラルを睨み付けて啖呵を切る。
「一国の騎士様が悪い魔女の色気にホイホイッとたぶらかされてんじゃねえ!
見ろよあれ! ヴァルンちゃんが誰のためにあんなに頑張ってると思う!? お前のためだよ!!
意志が弱いやつがあんな事出来ると思うか!?」
ヴェルザンディとヴァルンちゃんが繰り広げる、火花散る女の戦いを指さす。
それを見たハーラルは、明らかな動揺を見せた。
「何故そこまでムキになる? 放っておけばいいだろう」
相手の力が抜けた隙に足を振り抜いて蹴り飛ばし、キーボードを構えなおす。
言われてみればそうだ、会ったばかりなのに何でこんなにムキになってるんだろう。
「勘違いするな……オレはライブの邪魔をされるのが一番嫌いなんだ!
お前みたいな奴はなあ、耳かっぽじって正座して真剣に最後まで拝聴しやがれ!」
一言一言言い聞かせるように、一気に最後まで謳いあげる。
「君の声がいま 光と共に降りそそぐ 浄福の神餞浴びて
きれいな瞳で見つめる碧き星の粒 柔らかな瞬き触れて 祈るから」
ハーラルが立ち上がり、ヴァルンちゃんの元へ駆け出すのが見えた。
「Purification舞い上がれ 空の海を越えて Purification純化する愛は永久に神秘の歌奏でるの――」
魔法陣から現れた魔物がヴァルンちゃんに襲い掛からんとした刹那――騎士の槍が魔物を切り裂いた。
>「おかえりなさい」
>「ただいま」
こうして、悪い魔女にたぶらかされた騎士様は姫様の元に帰ってきたのであった。
「はっは〜ん、どうだ!!」
オレはガッツポーズをしながらウザいドヤ顔をヴェルザンディに向けた。
しかしヴェルザンディが動じる様子はない。
>「――天使と悪魔の墳墓」
ヴェルザンディは宝玉の力を使い果たし、最恐最大の攻撃に打って出た。
言い方を変えれば最後の悪あがきだ。
魔法陣から、堕天使と悪魔の軍勢が現れる。
ヴェルザンディの命に応え、一声に襲い掛かってくる。オレは全力で――助けを求めた!
「助けてー導師えもーん!」
>「我、力を求めしもの、我、力在りしもの、我、この世界に光を差すもの。いま、百邪を討つため。ここに力を授けよ!」
導師様がいかにもそれらしい呪文を唱え、なんか凄そうな力を発する――!
>「さてと、この力が有ればもう、どんな死亡プラグが有っても、壊せるな」
「ここでプラグ壊す能力得てどうすんだよ!」
※プラグ……コンセントに差すアレのこと
盛大にずっこけそうになった。
「 “インフレ値システム”に引っかかってしまったようですね。
インフレ値が高くなりすぎるとボケた言動をしてしまう事があるという大宇宙の法則です!
その原因については諸説ありますが強力すぎる存在は世界の容量を食うから、等と言われています」
リーフが突然登場して解説する。そんな法則あったのか――!
>「とは、いえ百邪認定受けてる悪魔は、流石に操れんか。」
>「ゲッツ、フォルテあと、のろけ夫婦。悪魔払いの時間だ。天使たち倒すなよ。」
「いや、操れてねーよ!?」
ヴェルザンディの方を見ると、口元に侮蔑するような笑みを僅かに浮かべていた。
ボケた隙につけこんで幻術にかけやがったな――! やっべーぞこりゃ!
そうしている間にも、悪魔の騎士の刃が首を刈らんと迫る! 刹那、アサキム導師ウィザーソードガンの一閃がそれを退けた。
そうか、盾役に回ればよく分からない世界法則につけいられる事もない! 攻撃できる(攻撃しか出来ない)奴なら他にいるしな!
一か八か―― 一気に決着を付けるしかない!
「導師様――今から謳うから全力でオレを守れ! いいな!?
ゲッツ! そこのラブラブ夫婦! お前らの力100倍引き出してやるから……オレが発狂する前に決着つけろ! 絶対こっち見んなよ!?」
こっち見んなは後ろを振り向いている暇はない、という意味で断じて他意はない!
ヘッドギアを外し、燐光と共に三対六枚の翼持つ女神格の妖精に変身を遂げる。
神格化した状態での呪歌による補助は、もはや呪歌とかいう次元ではない文字通りの神の加護に等しい物。
この地獄絵図で霊的聴力を解放してどこまで精神が耐えられるかは――分からない。でもこうなりゃもう信じるしかないだろ!?
「Every day side by side with the death The forest died, and animal was dead,
and it was a scene as a Hell. Will thie be the world that God hoped for?
The moon hides, and I don’t see the sun, too. In this situation we will die, too.
But, does God understand our pains?」
謳いあげるは”メサイア”――運命に抗い残酷な神に戦いを挑む者達の歌。
>「――天使と悪魔の墳墓」
見渡す限りの天使と悪魔。でもその正体は国家司書が生み出した傀儡。
それを見上げていたハーラルのコメカミにふつふつと血管が浮かび上がる。
これだけの数、凌ぎきれるだろうか。最愛の妻の命を守りきれるだろうかと。
どう考えてもそれは不可能だ。心が絶望で支配される。しかしハーラルは覚悟を決めた。
ヴェルザンディを睨み付ける。すると彼女は…
>「……あと、一歩。
世界を、正しい方向にする為に――私は、死んでもいいのよ。
そこの色ボケ夫婦も、そこの超人も、そこのバカっぽいのも、そこの性別不明も。
私の意志の邪魔だけは、させてなるものですか。だから、――死になさい、早急に。命令よ
だから、殺しなさい。迅速に、早急に、至急に、早く、速く、疾く……ッ」
狂言を吐いた。その言葉にハーラルは怒りを通り越し絶句。
と同時にあの聡明な国家司書をここまで狂わせたアイン・ソフ・オウルの力に驚愕するのだった。
そして絶句している夫の変わりにヴァルンが叫ぶ。
「私は死ぬのはいや!ハー君といっしょにずっと生きてゆくの!
そしておばあちゃんになって沢山の孫たちに囲まれて、
おじいちゃんになったハー君の後を追うように死んでいきたいの!!」
言い終えるとともに天から矢が降り注いできた。
ヴァルンは生き抜こうと必死だった。彼女ながらまっすぐ前を見続けている。
天使たちの放つ矢をハーラルの後ろで必死にかわし続けていた。
それに答えるように槍を旋回させ応戦するハーラル。
だが地上からは悪魔の大群。まさに地獄。もうチェックメイトだ。
ハーラルは咆哮をあげ絶望を抗わんとする。が、そのときだった。
>「ゲッツ、フォルテあと、のろけ夫婦。悪魔払いの時間だ。天使たち倒すなよ。」
>「いや、操れてねーよ!?」
アサキム導師のウィザーソードガンが悪魔の軍勢を薙ぎ払い
一部の天使が操られているかの如く同士討ちを始めた。
>「導師様――今から謳うから全力でオレを守れ! いいな!?
ゲッツ! そこのラブラブ夫婦! お前らの力100倍引き出してやるから……オレが発狂する前に決着つけろ! 絶対こっち見んなよ!?」
「フォルテ君!それに導師さま?ありがとう!!」
ヴァルンは笑顔。それに力を100倍に引き出すという言葉にフォルテを二度見。
ハーラルに抱きつき耳打ち。100倍の魔力があったらあれが出来るかもしれない。
そっとハーラルから離れるとフォルテを背に詠唱を始める。
ハーラルはヴァルンを見送ると迫り来る悪魔を槍で薙ぎ払う。
なるほど、体の奥から闘気が漲ってくる。
だが敵の数は数千。悪魔たちはハーラルに狙いを定め超極大火炎魔法を繰り出してきた。
同時に放たれる無数の火球をただの人間が回避できるものだろうか。
否。それは否である。
それ故に直撃。その場を轟音が支配する。
しかしさすが100倍の力。バニブル一の戦士。
黒々とした爆煙を切り裂き闘気を漲らせ、ハーラルは堂々と現れた。
「うおおお!!」
その姿はまさに咆哮する獅子が如く。槍の穂先を天に掲げる。
と同時にヴァルンが召喚魔法を使用。
「バルドルさん、来てください!夫のハーラルに光の加護を与えてください」
天から煌く光。光は凝縮し人の顔となる。そう、優しそうな神様の顔に…。
そして、ヴァルンとハーラルは同時に叫ぶのだった。
『フォトン・レイ。ロード――クリーヴ!!』
――切り開け!!光の加護を受けたハーラルが槍を一振り。
瞬間、世界は光に埋もれた。悪魔たちは眩む目を僅かに開きながら声を失った。
悪魔たちの目の前にあったもの、それは道だった。光の道である。
神のみぞ進むことを許された神域の道が 悪魔の大群を割るようにどこまでも続いていた。
道に呑みこまれた悪魔たちは一瞬にしてその身を蒸発させ肉片すら残さない。
「ヴェルザンディ国家司書よ。あなたの意志がどういうものか、戦士の俺にはわかりませぬが、
俺はこの世界が、愛しのヴァルンの住むこの世界が好きなんです。だから守りたい。
おわかりか?貴女の絶望しているこの世界に、俺はまだ、希望を抱いているのです……」
ハーラルは国家司書の片割れで仁王立ち。彼女を睨み付け凄んだ顔。
だがそれはハッタリのようなものだった。ハーラルとヴァルンの二人は力を使い果たしていた。
堕天使や残存した悪魔たちが怯むことなく押し寄せてきたとしたら
あっという間に敗北してしまうことだろう。
>>「いや、操れてねぇし。」
「えっと、何があった?」
唇を奪われた、までは覚えてる。
その後、天使と意識上の対話をし、
「参ったな。これを、アヤカに知られるとめんどくさいな。」
「めんどくさいって何?」
アサキムの後ろに現れたのは、アヤカ(超、黒笑)
「えっと、取りあえずゴメン。」
「解ってる。不可抗力みたいなもんでしょ?」
「だったら、あの婆潰す。良いよね?」
「どうぞどうぞ、お好きになさってください。」
さすがに、マジギレしてるアヤカには逆らえないのだろうか?
大人しく、アサキムは、フォルテ、のろけ夫婦に最大級の防御結解を発動する。
「四天の長よ、我の元へ来たれ。」
アヤカは護符を空へと、放ち、有るものを召還する。
「出たか、アヤカの究極的な、使い魔いや、使い獣の方が良いかな?」
その名は、真.龍王機
その名のとうり、龍の、半機械生命体だ。
「あーあ、図書司書の人、お疲れ」
取りあえず、アサキムは、合掌する。
「龍王豪雷槍!」
この技を、表す言葉はないので、
例にたとえるなら、原爆の何倍もの力が、降り注ぐのだ。
あっと言う間に、約9/10の敵が消える。さらに、アヤカのバーサーカーモードにより
残らず、物理的に破壊される。
「さーて、どこから壊されたい?」
「相変わらず、怖いな。家の嫁さんは」
アヤカ・タグラス 異名は破滅への使者
>「四天の長よ、我の元へ来たれ。」
マジギレしたアヤカさんが護符のようなものを空へ放ちます。
その瞬間、天井を突き抜けてどこかに飛んでいきました。
うっかり投げる物を間違えてしまったのでしょう。
彼女が投げたものはなんと、キ○ラの翼の屋内でも使える上位互換版のようなものだったのです。
何故か私も巻き込まれ、一瞬にして周囲の光景が塗り替わります。
そこには世にも恐ろしい化け物がうじゃうじゃと……
後から分かった事なのですが、そこは世界守護委員の訓練所にしてS級以上の犯罪者がぶち込まれるという魔境中の魔境
天地天魔の間――以前修行場の候補としてあがったところでした。
>「龍王豪雷槍!」
気配を消して背景に溶け込んだ私は、怒り狂いながら暴れまわるアヤカさんを生暖かく見守りながら呟きました。
「だから言ったじゃないですか、インフレ値システムに引っかからない様にって……」
>「さてと、この力が有ればもう、どんな死亡プラグが有っても、壊せるな」
>「ここでプラグ壊す能力得てどうすんだよ!」
「――はん。この世界は意地悪なのよ。
何もかも、都合よく回ると思っていたら大間違い。どんな強者でも、ね。
ご都合主義でどうにかなるほど、この世界は綺麗なものじゃないのよッ!!
だから、変えてやるのよ。私の手で――、この世界を、ご都合主義でどうにかなる、世界へッ!!」
>「私は死ぬのはいや!ハー君といっしょにずっと生きてゆくの!
>そしておばあちゃんになって沢山の孫たちに囲まれて、
>おじいちゃんになったハー君の後を追うように死んでいきたいの!!」
その時、聞こえたヴァルンのその声を聞いて、ヴェルザンディは眉間に深々と皺を寄せる。
唾棄すべきものを目の前で見せられたからなのか、その表情は憎しみすら感じられるもの。
強い意志力を感じさせる深紫色の瞳に魔力が煌々と巡り、ヴェルザンディは叫びを上げた。
「世迷い事をッ! 再編の迫る世界で、そんな悠長なこと、言ってられると思ってんの!?
いいわ。あなた方みたいな甘ちゃんを相手にまともに議論する事事態、無意味だったものね。
――私の道を進むために。あなた達は邪魔なのよ。だから死になさい。これは、国家司書としての命令。
……この国を、この国の知識を、この土地を守るためなら。私は何億人だろうと殺してみせる。私が死ねば良いなら、死んでみせるわ。
死にたくない? 一緒に生きたい? ……笑わせないで。そんな奴に、私が負ける筈が無いわ」
異様なほどの意志力で培われる、その狂気じみた正気。
理性を以て力を振るい、異様な行動を取ってなお、微塵も精神が狂っていない、それこそが狂気。
何があろうと、一度決めたことは曲げない鉄の女に、いまさらどの言葉が届こうか。
それでも止めるというならば――、力で叩き潰す以外には、無い。
>「導師様――今から謳うから全力でオレを守れ! いいな!?
>ゲッツ! そこのラブラブ夫婦! お前らの力100倍引き出してやるから……オレが発狂する前に決着つけろ! 絶対こっち見んなよ!?」
>「Every day side by side with the death The forest died, and animal was dead,
>and it was a scene as a Hell. Will thie be the world that God hoped for?
>The moon hides, and I don’t see the sun, too. In this situation we will die, too.
>But, does God understand our pains?」
「任せな、相方さんよぉ」
吟遊詩人の声が響く。魂を絞りだすような鬼気迫る歌声。
それが、ゲッツの背を叩き――、胸の傷に光を生み出させた。
一歩を踏み出し、右の拳をおもむろに胸の傷に伸ばし、光を握りしめながら腕を振りぬく。
「ギャオラァ――――ッ!!」
光を纏った拳は悪魔の脳天を突き破り、粉微塵に粉砕。
次の一歩で眼前の悪魔が数体消滅し、徐々にでは有るがヴェルザンディに近づいていく。
それでもその一歩は遅々たる物であり、敵の数が徐々に減って行きはしても、まだ道は開かれない。
次第に押されつつ有るゲッツ。だが、その瞬間――ハーラルの槍が、奔る。
>『フォトン・レイ。ロード――クリーヴ!!』
一直線にヴェルザンディへの道を創りだしたハーラルの行動の直後、その道に滑りこむようにゲッツが入り込む。
光を背に受けながら、全力で加速して、ゲッツは数百m程のヴェルザンディへの道を、一気に詰めていく。
鋼の腕を肥大化させ、巨大な刃を突き出させながら首を刈り取るように腕を振りぬくが、すんでのところで杖で一撃を受け止めた。
一撃で粉微塵となった杖を手放し、衝撃で吹き飛ぶヴェルザンディ。そんなヴェルザンディに、ハーラルの声が投げかけられる。
>「ヴェルザンディ国家司書よ。あなたの意志がどういうものか、戦士の俺にはわかりませぬが、
>俺はこの世界が、愛しのヴァルンの住むこの世界が好きなんです。だから守りたい。
>おわかりか?貴女の絶望しているこの世界に、俺はまだ、希望を抱いているのです……」
「……ッ、知るか。知ったこっちゃないのよ……ッ!
あんたらが、この世界を好きだからって……ッ、私は、私は――ッ!!
く、そ……ッ。本物のアイン・ソフ・オウルになれれば、この世界、だって……」
意味を成さない言葉を漏らしながら、ふらふらと国家司書は立ち上がり、口から血を吐いた。
強すぎる力を振るった代償か、鮮やかな黒髪は色彩を失い、艶のない白髪へと変わっていて。
肌の張りも失われ、徐々に美しい国家司書は、醜い老婆へとその姿を変えていった。
最後のあがきとばかりに、腰に隠していた短刀を引きぬき、ゲッツに飛びかかっていく、が――ゲッツの刃が首を落と――さない。
――異様に白い剣が、ゲッツの一閃を受け止めていた。
立っていたのは、神々しいまでに禍々しい気配を持つ男。
蒼い瞳、蒼い長髪を後ろで括った、20代後半くらいの外見の男だろうか。
豪奢な印象を与えるシルクのローブに、全身に大量の宝飾品を身につけた、アクセサリーまみれの男だ。
そんな歩く宝物庫のような印象の男だが、持っている剣は何の装飾もない、異様に白い剣。
その剣の異質さが、また異様な威圧感を与えていた。――存在の格だけで言えば、ファフニールにも匹敵しうる。
「ヴェルザンディ。お前は、役を果たした。
我ら世界再編組織レヴァイアサンの末席に、お前を加えることを宣言しよう。
――そして、お初にお目にかかるな。新世代のアイン・ソフ・オウルが二人、旧世代のアイン・ソフ・オウルが一人。
果ては始祖級のアイン・ソフ・オウルまで居るとは――奇跡の大盤振る舞いだな。これもまた、大いなる厄災≠フ無せる業、か。
名乗っておこう。何れお前らともぶつかることになる。強欲のアイン・ソフ・オウル。マモン。覚えておくといい」
老婆と化したヴェルザンディを肩に担ぎ、一振でゲッツを壁まで吹き飛ばすアモン。
そして、ふとフォルテの方に視線を向け、っく、と喉を鳴らして笑い声を響かせる。
「――あの男とあの女神の嫡子か。この世界も粋で残酷なものだな。
……俺の軍門に下るというならば、いつでも受け付けてやろう。
俺の所有物にしてやっても良いと思う程度にはいい声で鳴くようだしなァ?」
そうフォルテに対して言い残し、アモンは踵を返して歩き出す。
徐々にその存在感は薄くなり、数歩歩く内に、消えてしまった。
そして、ゲッツは――、壁に半ばまで埋まり、血塗れの状態で壁から飛び出して、その消えた地点に拳を叩きこんだ。
が――やはり間に合わず、無駄な一撃となってしまう。
「……ちィ、し損ねたか。
頭ぐらんぐらんする……ッ、役立たずじゃねーか、俺」
結局大した仕事をしていない竜人一匹。
苛立たしげに地面を蹴って、地面にクレーターを作っていた。
兎にも角にも、不完全燃焼ながらも戦闘は終了のようだ。先程まで空間に充満していた異様な気配は無い。
背後からずるりと触手のような液体が伸びてきて、ちょいちょいと皆に手招きをして。
『我ら』『汝らの』『行動』『感謝』『謝謝』『する』『ありがとう』
『怪我』『治癒』『魔力』『復活』『完全』『回復』『ベホマ』『超回復』
『ポーション』『飲む』『飲め』『直ぐに』『元気に』『なる』『から』
『ヤク?』『ドラッグ』『違う』『お薬』『ポーション』『魔法薬』『合法』
『法』『触れてない』『セーフ』『平気』『バレなきゃ』『犯罪』『違う』
『ぐいっと』『飲め』『飲んでー』『飲んで』『飲んで』『一気』『一気』
『人類の』『ちょっと』『いいトコ』『見てみたい』『ほいー』『わっしょい』
よく分かんないノリで、泥水のような色のポーションを人数分差し出す黒い液体。
飲むも飲まないも自由だが、飲んだのならば名状しがたい味と感覚を感じた末に、気がつけば傷が全回復していた。
皆が治るまでの間は、ダアトは触手状に伸ばした液体部位をくねくねさせている事だろう。
>「私は死ぬのはいや!ハー君といっしょにずっと生きてゆくの!
そしておばあちゃんになって沢山の孫たちに囲まれて、
おじいちゃんになったハー君の後を追うように死んでいきたいの!!」
>「世迷い事をッ! 再編の迫る世界で、そんな悠長なこと、言ってられると思ってんの!?
いいわ。あなた方みたいな甘ちゃんを相手にまともに議論する事事態、無意味だったものね。
――私の道を進むために。あなた達は邪魔なのよ。だから死になさい。これは、国家司書としての命令。
……この国を、この国の知識を、この土地を守るためなら。私は何億人だろうと殺してみせる。私が死ねば良いなら、死んでみせるわ。
死にたくない? 一緒に生きたい? ……笑わせないで。そんな奴に、私が負ける筈が無いわ」
平凡でささやかだけど何よりも純粋な願いと、国のためを思う鋼鉄の意思がぶつかり合う。
ヴェルザンディは夢を諦めたヴァルンちゃんを馬鹿にしたけれど、彼女は別の夢を見つけたんだと思う。
この人は国家司書という最高の地位に上り詰めながら、自分の夢を叶えた事なんてないんだな――
国のために、自分の全てを犠牲にして捧げてきたのだ。
>「フォルテ君!それに導師さま?ありがとう!!」
見るなと言ったそばからガン見してきたヴァルンちゃんに微笑んで頷く。
こんな所で死なせはしないから、夢叶えやがれ!
「God, you drank muddy water and have got over starvation?
Did a pearent and sisters look at the scene died in front of eyes?」
悪魔の怨嗟の声が、堕天使達の苦悶の声が、容赦なくオレの正気を突き崩さんとする。それでもただ歌い続けた。
普通にしているだけですぐに狂気に堕ちてしまう不安定な精神。オレは出来損ないの存在なのだ。
しかし皮肉な事に、オレとは正反対に決して揺らがず狂気に支配される事もない心を持つ女の末路があれだった――。
ヴァルンちゃんが高位召喚魔法の詠唱を始める。行け、高慢な神気取りの女を力付くで止めてやれ!
「The thigs which we have is not justice!《 我らが掲げるのは正義ではない》
Besides, we do not intend to destroy God only for hatred!《ましてや、憎悪だけで神を滅ぼそうとしているのではない》
It is the future that I'm necessary for us. 《今必要なのは、我々にとっての未来》
In the made world, we can't do breath freely. 《作られた世界の中では、自由に息をすることも出来ないのです》」
>『フォトン・レイ。ロード――クリーヴ!!』
ヴァルンちゃんとハー君が作り出した光の道を駆け抜けたゲッツの一撃が、ヴェルザンディの杖を粉砕する。
>「……ッ、知るか。知ったこっちゃないのよ……ッ!
あんたらが、この世界を好きだからって……ッ、私は、私は――ッ!!
く、そ……ッ。本物のアイン・ソフ・オウルになれれば、この世界、だって……」
信じられない光景を目の当たりにした。ヴェルザンディが一瞬にして老婆へと変わっていく。
人の身で過ぎたる魔力を行使した反動か――!
それでもまだ諦めないヴェルザンディにゲッツがとどめを刺そうと――これ、とどめを刺す必要あるか?
こんなになった彼女にこれ以上何が出来る?
「もういい、もういいよ……!」
それだけ叫び、地面にへたりこむ。
歌の歌詞が、相手の気持ちこそ代弁しているようにも思えてきたのだ。
彼女は鋼の信念のもとに残酷な世界を変革しようとしているのだ――
「はいそこまで―――!」
突然背後に現れたリーフが後ろからヘッドギアをはめる。
神格化タイム終了。いつもの姿に戻るまたすんでのところで狂気に堕ちかけていたのかもしれない。
荒い息を吐きながら顔を上げると、異様な存在感を持つ男がゲッツの刃を受け止めていた。
>「ヴェルザンディ。お前は、役を果たした。
我ら世界再編組織レヴァイアサンの末席に、お前を加えることを宣言しよう。
――そして、お初にお目にかかるな。新世代のアイン・ソフ・オウルが二人、旧世代のアイン・ソフ・オウルが一人。
果ては始祖級のアイン・ソフ・オウルまで居るとは――奇跡の大盤振る舞いだな。これもまた、大いなる厄災≠フ無せる業、か。
名乗っておこう。何れお前らともぶつかることになる。強欲のアイン・ソフ・オウル。マモン。覚えておくといい」
剣を軽く一振しただけで、ゲッツを軽々と吹き飛ばす。
世界再編組織!? 胡散くせー! といつもなら憎まれ口の一つも叩くところだが、今はそんな元気はない。
男は、そんなオレを見下ろして言う。
「……なんだよ」
>「――あの男とあの女神の嫡子か。この世界も粋で残酷なものだな。
……俺の軍門に下るというならば、いつでも受け付けてやろう。
俺の所有物にしてやっても良いと思う程度にはいい声で鳴くようだしなァ?」
「父さんのこと……知ってるの……?」
それには答えず男は立ち去るような動作を見せ、さも当然のようにその場からフェードアウトする。
ゲッツが追いかけて仕留めそこねている間、オレは座ったまま見ていた。
困ったな、立ち上がる気力すら出ない。
そこに黒い液体がポーションを差し出して来たのだが、どう見ても泥水だった。
バレなきゃ平気ってバレたら駄目って事じゃね!?
普段なら飲まなかっただろうが、今は尋常ではない摩耗を一刻も早くどうにかしたかった。
意を決して一気飲み。次の瞬間。名状しがたい味が舌を直撃した。
「うえええええええええええええええ!? まっずーーーーーーーーーーーーー!!」
あまりのまずさに悶えながら床を転げまわる。それを見たリーフが呑気に言う。
「あっ、元気になったじゃないですか! 皆さん、飲んでも大丈夫みたいですよ」
――そりゃそうだけど! これを飲んでも大丈夫と解釈するか普通!?
ひとしきり転げまわって落ち着いた後。ダアトに問いかける。
依頼の”報酬”をもらわなければ。
「ヴェルザンディはなんか変なのが連れて行ったけど……とりあえず、封印されたペットが出てくる事ななくなった。
教えてくれる? 世界の真実とやらを」
>「世迷い事をッ! 再編の迫る世界で、そんな悠長なこと、言ってられると思ってんの!?
いいわ。あなた方みたいな甘ちゃんを相手にまともに議論する事事態、無意味だったものね。
――私の道を進むために。あなた達は邪魔なのよ。だから死になさい。これは、国家司書としての命令。
……この国を、この国の知識を、この土地を守るためなら。私は何億人だろうと殺してみせる。私が死ねば良いなら、死んでみせるわ。
死にたくない? 一緒に生きたい? ……笑わせないで。そんな奴に、私が負ける筈が無いわ」
ヴェルザンディの狂気じみた正気。鋼鉄の意志。
でもヴァルンはその心の裏に、悲痛な、今にも粉々に砕け散ってしまいそうな純粋な願いを感じた。
このままでは彼女は本当に壊れてしまうことだろう。だから大声で叫ばずにはいられなかった。
「もうーこのわからずやー!あなたは負けたっていいんだよ!
そうやって甘い考えを持った私たちを死んじゃえって言ってるってことは
他人に甘えたい自分も殺しちゃってることになるんだよぉ!?
世界を変えることができなくったって、あなたは生きていたっていいんだよ!
何にも独りで背負わなくったっていいんだよ。
だって、だってあなたは…私の憧れた人なんだから!」
ヴァルンの声は届いただろうか。轟く悪魔の咆哮。戦場の音。
フォルテの歌。目を閉じてヴァルンは祈る。祈り続ける。
そのごフォトン・レイ。切り開かれた熱の停滞する神道を疾駆するゲッツ。
続けて鋼の拳で砕け散る杖。吹き飛ばされる国家司書。
>「……ッ、知るか。知ったこっちゃないのよ……ッ!
あんたらが、この世界を好きだからって……ッ、私は、私は――ッ!!
く、そ……ッ。本物のアイン・ソフ・オウルになれれば、この世界、だって……」
「この世界だって…変えられるとでも?それはちがう。それこそ世迷言だ。
人は自ずから変わることができる。世代を重ね、時をこえて…。
それは可能性でもある。アイン・ソフ・オウルによる世界改変はこの世界に対する冒涜だ。
現実の中の苦難を乗り越えた者にだけ、いつの日にか真実の詩は届くはずだ!」
ハーラルは拳を握り締めた。血が滲むほどに。
その潤んだ瞳には白髪に変わるヴェルザンディの姿。
彼の胸には彼女を止められなかったことへの後悔の念が押し寄せていた。
いっぽうでゲッツは彼女にとどめをさそうとする。
>「もういい、もういいよ……!」
とフォルテ。ヴァルンも「だめだよゲッツー!!」と叫んだ。
だが異様に白い剣が、ゲッツの一閃を受け止める。
突如、現れたのは強欲のアイン・ソフ・オウル。マモン。
剣を軽く一振しただけで、ゲッツを軽々と吹き飛ばす。この男、只者ではない。
彼はフォルテに言葉を残すと、そうそうとこの場から立ち去る。幾つかの謎を残したまま。
>「あっ、元気になったじゃないですか! 皆さん、飲んでも大丈夫みたいですよ」
とリーフ。フォルテは元気になったというかあまりの不味さに暴れまわっているようにも見えたが
夫婦は顔を見合わせながら恐る恐るポーションらしきものを飲んでみた。
するとヴァルンとハーラルは回復した。ヴァルンはへろへろの顔で…
「はあーたすかったよ。ありがとうフォルテ君。でもゲッツはハシャギ過ぎだったよ?とっても怖かった…」
と言って無言。ヴェルザンディのことを考えているらしく、とても悲しい顔をしていた。
その妻を優しく抱きしめながらハーラルはゲッツに話しかける。
「あの男、マモンは新旧のアイン・ソフ・オウルが二人とかどうとか言っていたな。
やはりそれは君たちのことか?俺はアイン・ソフ・オウルをただの現象と思っていたのだが。
世界創造によるインフレーションエネルギーのようなものだ。
だが、君たちはその名を持っている。いったい君たちはなにものなのだ?」
そう言って、こんどはダアトに顔をむけ
「大いなる厄災≠ニはなんだ?アイン・ソフ・オウル・マモンは何を企んでいる?」
「俺は遠慮しておこう。」
変な、危険物質をほっといてみる
気合いで回復し、なんとかする。
「ここまで、来たら言うしかないか。」
ヴァルン夫婦を術で眠らせ、マモンが来てからの記憶を消す。
「マモンは、いや強欲のアインオブソウルは、墜ちたアインオブソウルだ。」
「旧時代のアインオブソウルは、創世のアインオブソウルを初めとし」
「そして、天と地のアインオブソウルが産まれ」
「そして、沢山のアインオブソウルが、生まれた。」
「アインオブソウルは、主を、見つけると、それに勝手に、入っていく」
「または、契約。俺がいい例だ。」
「しかし、禁術でその儀式を強制的に選び、吸収させる術もある。」
「その代表的で、レヴィアサンのリーダーがアイツだ。」
「強欲のアインオブソウルは不明だが、危険だ。」
「故に、世界守護委員会と、仙界で、追っていたんだ。」
「彼奴ついに行動を動かしたか。」
「お前等二人を、強制的に、修行に行かせるのもそれが理由だ。」
「彼奴は、未知数見れば解るが、相当なレベルだ。」
「だから、」
毘沙門天を発動する。
「此処で、貴様等を拘束する。」
ヴァルンたちを、家まで、転送する。
「悪く思うなよ?、これも大いなる災難を止めるためだ。」
皆の非難を浴びつつも、血まみれのゲッツは後頭部をごりごりと書きながら立ち上がる。
地面に血反吐を吐き捨てながら、ごきりと首を回して、ため息を吐いた。
鋼色の瞳は、透徹した意志を感じさせる。時折ゲッツが見せる、激情ではない光の宿る目だ。
>「はあーたすかったよ。ありがとうフォルテ君。でもゲッツはハシャギ過ぎだったよ?とっても怖かった…」
「――殺してやンのが筋ってもんだろが。
あいつ、多分どうしようもねぇぜ? あのままの状態で生きながらえるくらいなら引導渡したほうが良い。
あの女自身も死ぬ覚悟は出来てたようだしな。なら殺すのにためらう必要はねェよ。……分かんねぇかもしんねえけど。
アレは術師だがそんなもん関係なく、ガチの戦士だ。心の構え的な意味で、だぜ?
……だとしたらよ。俺は戦士として筋を通すさ。それが俺にとっての情だ。安い同情で殺さないのとは違ってな」
ゲッツが語ったのは、己の持論。
戦士として死ぬことを覚悟して戦いに望んでいる者を見逃すのは、それこそ偽善。
殺してやるのが筋である、とゲッツは語るのだ。分からなくても良いが、そういう考えがある事だけは知っていて欲しい。
そうゲッツは最後に呟いて、地面に座り込んで目を閉じた。差し出されたポーションを受け取って、口に流しこんで嚥下。
うめき声の如き唸りを漏らしつつ、精神を徐々に落ち着かせていった。
そして、落ち着いた頃にゲッツはハーラルに言葉を投げかけられた。
>「あの男、マモンは新旧のアイン・ソフ・オウルが二人とかどうとか言っていたな。
>やはりそれは君たちのことか?俺はアイン・ソフ・オウルをただの現象と思っていたのだが。
>世界創造によるインフレーションエネルギーのようなものだ。
>だが、君たちはその名を持っている。いったい君たちはなにものなのだ?」
「俺はご先祖様が両方共アイン・ソフ・オウルってくらいしかよく知らねぇな。
――ってか、よく知らねぇからここに知りに来たってのが本当のところさ。
まあ、そこん所は仕事をきっちりやった訳だし、あの変な奴……ダアトとやらが教えてくれるだろうさ」
>「ヴェルザンディはなんか変なのが連れて行ったけど……とりあえず、封印されたペットが出てくる事ななくなった。
>教えてくれる? 世界の真実とやらを」
>「大いなる厄災≠ニはなんだ?アイン・ソフ・オウル・マモンは何を企んでいる?」
そうして、皆がダアトに向けて視線を向け、報酬としてのこの世界についての真実を教えてもらおうとした瞬間。
皆のドラえもん、なんでも知っているアサキムえもんが一歩を踏み出し、話に割り込んだ。
ヴァルン夫妻を一瞬で眠らせて、記憶を消去したアサキムは朗々と演説を始めた。
>「ここまで、来たら言うしかないか。」
中略
>「悪く思うなよ?、これも大いなる災難を止めるためだ。」
そこまで言って、ヴァルン達は転送されたかと思ったその瞬間。
それらの術式は全て発動時点で霧散し、用を成さなかった。
ファフニールなどとは異なる、極めて繊細且つ微細な技法は、知らず知らずのうちにアサキムの術に干渉していた。
何が有ったのかと起き上がるヴァルン達にダアトはひらひらと触手を振った。
『――その内容は、ある視点では正しいが、全てを語っているわけではないよ。
所々、間違っていない点は有るが、アサキム。君も全てを知っているわけではないんだ。
しばし、私の話を聞いてはくれないかな? アサキム。君の実力が有れば、私が話した後に彼らを拘束する事も難しくはない。
なぁに、老人のちょっとした長話に付き合ってくれるだけで良い。その後どうするかは、君たちに任せるがね』
そして、唐突に響き渡るのは、理知的な意志を感じさせるバリトンの声。
先程までの泡立つ細切れの声ではない、確固とした理性を感じさせ、人間性の有る会話。
黒い液体は膨れ上がり、擬似的に人体を構成。白髪白眉白髭の老人が、全裸で水の上に現れた。
全裸の体には即座に空間を満たす黒い水が集まっていき、ローブのようにその肢体を覆い隠す。
閉じていた瞳を開けば、その瞳は黒い水晶で出来ておりやはりこの存在がまともな生命ではないことを示唆していた。
『まず自己紹介。私は元中央魔導学院術式開発院院長、知[ダアト]の座[セフィラー]のフラター・エメト。
もう一つの肩書きは――そうだね、この国家、バニブルの建国者であり、初代国王でもある。
私の知識欲を容易に満たすための本の集積場が此処でね。本を集めている内に私の書斎に人が集まってきて国になったわけだ。
故に、この国家は私の書斎でね。当然今現在も、この国に入って来る総ての本には目を通させてもらっているよ。
ヴァルン君もハーラル君も……残念だったがヴェルザンディ君も。皆有能に私の書斎を運営してくれていたね。
その事を心の底から感謝させてもらおう。……そして、彼女を救う為にも。君たちにはこの世界の事を語らねばならないだろうね。
……久しぶりに教鞭を取る故、ぎこちなくとも甘く見てもらえるとありがたい。――ではまず最初に、この世界の成り立ちから、語ろうか』
フラター・エメト。歴史に名を残す大魔導師であり、魔術を発見した$l間だとされている人間だ。
また、多くの歴史書を書いてきた存在でも有り、今でもこの世界の教科書にはダアトの書いた歴史書の内容がほぼそのまま描かれている。
数万冊の本を書き綴り、幾つものおまじないから禁術、大魔術まで様々な呪文を作り上げた生きた知識と呼ばれる存在。
それが目の前に居る白い体毛の老人、知識のアイン・ソフ・オウル、ダアトでありフラター・エメトだった。
フラター・エメトは、指先を渦巻かせるように動かして、口元でワンセンテンス分の呪文を唱えた。
直後、黒い水は空間に浮き上がり透き通り大きな水の球体を創りだした。
薄暗かった洞窟の空間は目にやさしい程度の明かりに照らされる。
足元の水は形を変え、人数分の座れるような台を形作り、固定化した。
もはやこの空間自体がフラターの支配している場所であり、プライベートスペースなのだろう。
他の場所ならばいざ知れず、此処であれば大概の荒事には対処可能であり、何も困ることはない。
それらも有ってこの老人は数千年の間地下の空間に引きこもり続けていたのだろうと思える。
水の珠の大きさを5m位として、水の波打ちを安定させた後に、フラターはゆっくりと皆を見回し、口を開いた。
『この世界は、多くの奇跡に満ちあふれている。――君たちも見てきたことだろう。
一人の男がその欲望に任せ世界を飲み込もうとし、世界に呪いの種をばら撒いたのを。
エヴァンジェルに於いて一人の男が世界の為に邪神の欠片を降ろし大惨事を起こしたのを。
逆に多くの人々の意志が邪神を元の世界へ押し返したのを。
本来子を成せぬ筈の異種同士が愛を育み、後の世に命を残すのを。
――なぜ、それが可能なのかと聞かれれば、それは奇跡である、と君たちは言うだろうね?
そして、間違い用もなく、それらは奇跡である。だが、奇跡とは祈られるから生まれるものでも有る。
ならば何故、一人の願いで奇跡が起こるのか。気にならないかね?』
そこまで語って、フラターはふぅ、と溜息をついた。
数千年の間喋って来なかったため、久々に喋るのはやはり疲れるのだ。
手元に結晶で出来たグラスを顕現させると、足元の黒い液体を救い上げフラターはそれをごくりと喉に流し込んだ。
僅かに一息ついた後に、フラターは目をしばたたかせてまた話を継続した。
『結論から言うとこの世界は、幾つもの小さな世界によって構成された世界である。
そして、それがアイン・ソフ・オウルという存在がどのようなものかを説明する材料ともなる。
簡単に言えば、この世界に存在しているあらゆる思考能力を持った生命体、存在は皆自分の世界≠持っているんだ。
私も自分の世界を持っているし、当然ゲッツ、フォルテ、アサキム、エスペラント、ヴァルン、ハーラル、ヴェルザンディ
ボルツ、リンセル、マモン。その他過去のアイン・ソフ・オウル、普通の人、王様、魔術師、異族、人間、妖精、悪魔、
仙人、神――それら総て、自分の世界を持っている存在だ。
その無数の生命が持っている自分の世界が重なり、つながり合って存在し、存続しているのがこの世界――《ネバーアース》。
極論を言ってしまえば、この世界に住む生命を総て根絶したとすれば、この世界は消滅する。
当然だね? 世界を構成しているのはこの世界に住む存在たち。彼らが居なくなればこの世界が消滅するのは必然といえる』
フラターは全体に目線を動かし、まずここで一区切り、とばかりに言葉を切った。
飲むかね? とそれぞれの目の前にテーブルを生み出し、いつの間にかティーカップが置かれている。
その中にはなぜか温かい紅茶が入っているのだが――どこから出したのだろうか、少々不気味だ。
皆が飲むにしろ飲まないにしろフラターはひげを弄りながら水晶の瞳をごろごろと転がして口を開き。
『ここまでで質問は有るかね?
ここから、アイン・ソフ・オウルについての講義を始めようと思うのだけれどね。
その前に君たちの疑問を拾って置きたい所だ。――はい、ゲッツ君』
「はァいはい先生ー! 俺たちが世界を作ってんならよ、俺達はどこから来たんだ?」
皆に質問が無いか投げかけた結果、ゲッツがノリ良く手を上げて質問を投じた。
まるで卵が先か鶏が先か、と言わんばかりの矛盾の指摘。たしかにそうだ。
この世界がこの世界の生命体で構成されているならば、そもそもこの世界の生物はどこから来たのか。
そのような疑問を持つのは当然といっても良い事柄だろう。
それについては予想していたのか、フラターはにやりと口元を歪め、水晶の瞳を高速回転させた。
『良い質問ですねえ! ――この世界を作った神が居てね。
この世界の雛形となる最初の命は、神が作って神が投じた。
そこで神は手を出すのは辞めたようでね。最初の一手以降は、その投げ込まれた最初の命から連鎖的に広がったものだ。
――その生命の事を、創世のアイン・ソフ・オウル。またの名を一つのアイン・ソフ・オウル、と言う。
彼であり彼女であり人であり人でなく物であり物でなく生きていて生きていない存在であるそれ≠ヘ今もこの世界を見ているとされるね。
……さて、こんな所でいいかね?』
「よく分かんねぇけど分かったわ、了解!」
『はい、まあ君は後でフォルテ君やアサキムさん達に教えてもらいなさい。
多分ハーラル君やヴァルン君に任せればある程度かいつまんで教えてくれると思うがね。
あゝ見えても彼らは司書としての実力は折り紙つきでね。情報の収集と解釈に関しては並の人間をはるかに超える実力がある。
まあ、気が向いたらでいい。おそらく彼に教えるのは酷く骨だろうからね。ファフニール君よりは楽かもしれないが。
……うむ。他に質問はあるかね。無いようならば、次に進ませてもらうが』
解説を終えたフラターと、よく分かっていない様子のゲッツ。
要するに、なにもない所に一石を投じた存在が居て、最初の一石以降は勝手に栄えていったもの。
そして、神様が直接この世界に手を下すことが無いことさえわかれば十分だろう。
他に質問が無いかどうか、フラターは皆を見回して、じっくりと意見を待っている様子だった。
地下某階層にて
「やはり此処に居る事を突き止められたか―さすがは世界守護者委員会と言ったところだね」
周囲には近寄る魔物などは存在しないなぜならば其処に居る目の前に居る白い獣を含めた全てが
全身黒い十字剣無想剣にて全身串刺し或いは魔力を込められて爆裂した後で死んでいる者達が多数であるから。
灰色の外套を翻し仮面の男は朱色の槍を突き付ける
「貴様の魂胆は見え見えなんだよ、インキュベーター
この世界に来た事もこの都市で何を調べ何をしようとしているのかも」
「なら分かるだろう?多くの世界を維持する為に戦う君ならば僕達の行いが
多元宇宙を救うことに繋がっている事に」
この一言に対して冷静にそして理知的な言葉ではあるが
その胸に秘める熱情と怒りが秘められていた
「エントロピー問題に一番危惧し、それを実行している貴様等は宇宙全体見れば
未来の事を重んじているのだろう」
「だったら―」
白い獣はその男を仲間に加えようと誘いを掛ける言葉を向けた
その瞬間顔に向かって槍の刃が真っ先に刺し貫く
「だがその為に悪辣な手で少女達を理詰めで詐欺紛いの事を仕出かす貴様等を
一個人として許しておくかは別問題だ…」
「そうかそれが君の…世界守護者委員会の選択か別にいいけどね
だけどもう僕達は動いている、あの種子と魔法少女を組み合わせれば
エントロピー増大の問題なんて目じゃない永久機関ができるからね
君達が今更どう抗おうが動き出したらもう止められないよ」
「少女の涙と共に成り立つ世界で生きなければならないなど
御免被る、貴様等の考えなど理解できなくも結構だ
貴様等を生み出した神も直に送る、あの世で宇宙について語り合って居ろ」
「安心しなさい、女の敵の貴方は私が必ず滅してあげる
冥府への道案内が待っているはずよ、逝ってらっしゃい」
静葉が最後に切り裂き、真っ二つに分断されるインキュベーターを確認する
此処にはフォルテやゲッツそしてアサキム達が居るのだが
顔を出そうにも事態は事態だけに一刻を争う状態である
せめて挨拶をしようかとも考えていたが、今はインキュベーター達が調べた文献や情報を吟味しながら
早々に次の行動をするための準備も含めてしなければならなかったので確認次第にすぐに立ち去るつもりで留まっていた
>>180 「やれやれ……。
自分の任務とはまったく関わりのない生命体を個人的な感情で殺害する。
世界守護者委員会は、構成員のこんな暴挙を許すのかい?
抗議のメールを送りたいんで、世界守護者委員会のアドレスを教えて欲しい所だね」
子供のように高い声が響く。
分断されたインキュベーターの肉塊に目をやれば、その傍には全く同じ容姿を持つ別の個体がいた。
ソレは同胞の肉を食み、ゴクリと嚥下すると、無感情な真紅の瞳をエスペラントに向ける。
「他人の家に巣食う大鼠が自分の家に入り込んで、柱や壁を齧って壊してしまうかも知れない。
そんな理由で、他人の家を住人ごと焼き払うキミたちが、自分を棚に上げて僕を糾弾するとはね。
さっきの言葉、不幸にもキミの攻撃の巻き添えになって死んだ人たちが聞いたら、いったいどう思うのかな?
僕より永久闘争存在の方が、量的にも質的にも大勢の生命体を犠牲にしているのは、間違いないと思うんだけど。
さらに言えば、永久闘争存在は僕たちと違って交渉の余地すら無いよね」
インキュベーターは首を傾げ、尻尾をフルリと可愛らしく振った。
非難しているような言葉を吐いているにも関わらず、その口調は実に坦々している。
「……例えば、森に蜘蛛と蝶がいるとしようか。
蜘蛛は巣で捕らえた蝶を食べる。これは正統な捕食行為だよね。
でも、この蝶を助けるために森に分け行って蜘蛛を殺す……これはどうだろう?
蝶の愛好家なら褒められた行動だけど、森林警備のレンジャーなら失格ものじゃないかな。
森の生態系に恣意的な干渉をして、己の望む生態系に変えてしまったんだからね。
こんな風にレンジャーたちが高い意識を持たず、自分勝手に命の選別を行う森の未来は果たしてどうなるんだろう?」
白い獣は兎のように跳ねて書架の上に乗ると、小さな通風孔の近くに陣取った。
「最後に一つだけ聞かせて欲しいんだけど、いいかい?
多次元崩壊とは直接の関わりがない、正統な環境維持活動をしている僕たちをキミは妨害したよね。
これを世界守護者委員会が知ったら、キミには何らかの処分が下るのかな?」
聞き終わると、インキュベーターはモゾモゾと通風孔に潜り込もうとする。
ちなみにこれを攻撃しても、逃がしても、結果はたいして変わらない。
インキュベーターは知識を共有する群体で、個々の個体は端末に過ぎないからだ。
>「――殺してやンのが筋ってもんだろが。
あいつ、多分どうしようもねぇぜ? あのままの状態で生きながらえるくらいなら引導渡したほうが良い。
あの女自身も死ぬ覚悟は出来てたようだしな。なら殺すのにためらう必要はねェよ。……分かんねぇかもしんねえけど。
アレは術師だがそんなもん関係なく、ガチの戦士だ。心の構え的な意味で、だぜ?
……だとしたらよ。俺は戦士として筋を通すさ。それが俺にとっての情だ。安い同情で殺さないのとは違ってな」
ゲッツの持論に耳を傾け、彼とは生きてきた世界が違う事を改めて感じた。
科学技術は戦乱の時代に発展するが、文化は平和な時代に発展するという。
ゲッツは年端もいかぬころから血潮飛び散る戦場を駆け抜けて来たのだ。
オレが生きてきたのは謳い奏でる、斬った張ったとは無縁の世界。
「でも……オレは歌を人殺しの道具にはしたくない……」
歌は誰かを傷付けるためのものじゃない、父さんがいつも言っていた事。
我ながら何を今更、といった感じだ。
そんな悠長な事を言っている状況ではない、というのは分かりきっているはずなのに。
それでも、オレの心は師の教えから未だに逃れられないのだ。
ダアトこと魔術師の祖フラター・エメトはアサキム導師の術を事もなげに解除した後、講義をはじめた。
>『結論から言うとこの世界は、幾つもの小さな世界によって構成された世界である。
(中略)
当然だね? 世界を構成しているのはこの世界に住む存在たち。彼らが居なくなればこの世界が消滅するのは必然といえる』
「いやいやいや、そんな世界収拾つかんだろ!
個々人のしょうもない妄想がいちいち世界に影響を与えているとしたら大変だ!」
>「はァいはい先生ー! 俺たちが世界を作ってんならよ、俺達はどこから来たんだ?」
流石ゲッツ、馬鹿…じゃなくて余計な先入観を持っていないだけあって適応しちゃった!
>『良い質問ですねえ! ――この世界を作った神が居てね。
この世界の雛形となる最初の命は、神が作って神が投じた。
そこで神は手を出すのは辞めたようでね。最初の一手以降は、その投げ込まれた最初の命から連鎖的に広がったものだ。
――その生命の事を、創世のアイン・ソフ・オウル。またの名を一つのアイン・ソフ・オウル、と言う。
彼であり彼女であり人であり人でなく物であり物でなく生きていて生きていない存在であるそれ≠ヘ今もこの世界を見ているとされるね。
……さて、こんな所でいいかね?』
>「よく分かんねぇけど分かったわ、了解!」
「分かってんのかコイツ!?」
>『はい、まあ君は後でフォルテ君やアサキムさん達に教えてもらいなさい。
多分ハーラル君やヴァルン君に任せればある程度かいつまんで教えてくれると思うがね。
あゝ見えても彼らは司書としての実力は折り紙つきでね。情報の収集と解釈に関しては並の人間をはるかに超える実力がある。
まあ、気が向いたらでいい。おそらく彼に教えるのは酷く骨だろうからね。ファフニール君よりは楽かもしれないが。
……うむ。他に質問はあるかね。無いようならば、次に進ませてもらうが』
フラター・エメトが解説を終え、生徒の質問を待つ様子を見せる。
と言われてもあまりにもスケールがデカい話をすぐには消化できず、暫し静寂が流れる。
「静まり返り 眠る街を駆けゆく 吹き抜け踊る 風に乗り夜の淵へ
輝く月が その横顔を捉える 冷たく光る 左手は何を掴む
解れゆく世界の 欠片をひとひら 意思の火を片手に 縢り歩く
終わりなど見えない 仕組みなのだから 問う事は諦め 一つ一つ」
質問の代わりに、BGMのように静かな声で謳う。
それは世界を管理する事のない神と、神が世界に遣わした世界を篝縫う存在”カガリビト”の歌。
「絓糸途切れ 気付けば唯一の針 縋る事さえ 許されずに膝を折る
水面に映る ツギハギだらけの身体 空蝉に問う これは夢か幻か
くたびれては眠り 赤い夢を見る 篝火は倒れて 空を焦がす
急き立てられるように ゆらり歩き出す 孤独な太陽の様に 繰り返して」
加速度的に広がっていく世界。しかし管理者――神無き世界は、次第に歪みが生じはじめる。
このままではすぐに世界は崩壊してしまう。そう悟った”カガリビト”は、全ての力と引き換えに最後の魔法を使う。
「繋ぎ止める 全ての火を
澄み切った青空 岩陰にもたれて
頬撫でゆく風は 「おやすみ」と呟いた
解れ 解れ 欠片に戻る現世の記憶は 霧散の瀬戸際を未だ見ず
辛うじて留める 形を繋ぐ敢え無い魔法は 掛け替えの無い命の影
動かぬその右手にはクチナシの花束を 地に返る魂に捧ぐ餞
残された世界には縁なしの絶望と 願わくば暫くの永遠を」
そして役目を終えた”カガリビト”は自らの篝り繋いできた世界に包まれながら永い眠りにつく。
“僕の役目はここまでだ、運命は君達と共にある――”
不完全なる世界に暫くの永遠を――いつかそれが本当の永遠になる事を願いながら――
「……!?」
謳い終わってはっとする。皆がこちらに注目しているのだった。
もしかして真面目に聞いてました!? BGMとして聞き流してくれてよかったのに!
「別に大した意味なんてねーよ、ただ最初に世界を作った”神”の立ち位置が一緒だな、と思って」
>「――殺してやンのが筋ってもんだろが。 (略)
ゲッツが今まで生きてきて見つけた哲学。それはヴァルンとは真逆の哲学にも思えた。
でも相反する考え方だからと言って、それが同じ世界に同居できないわけでもなく
現に私たちはここにいる。広大な世界はそれを許容している。
「でもさゲッツ。それって完璧にヴェルザンディ国家司書のことを惨めって思ってる失礼なことだよ。
生きていたらもしかして変われることもできるんだよ?私とちがってあの人は頭がいいもの。
まー私みたいに自分を受け入れてあきらめたまま生きることだって人はできるんだから」
ヴァルンの言っていることは偽善かも知れない。
でも生きて答えを見つけ出すことも一つの答え。そう信じてヴァルンは疑わないのだ。
>「でも……オレは歌を人殺しの道具にはしたくない……」
フォルテの悲しそうな顔にヴァルンも悲しくなる。
そしてダアトこと魔術師の祖フラター・エメトは
アサキム導師の術を事もなげに解除した後、講義をはじめた。
>『結論から言うとこの世界は、幾つもの小さな世界によって構成された世界である。
(中略)
当然だね? 世界を構成しているのはこの世界に住む存在たち。彼らが居なくなればこの世界が消滅するのは必然といえる』
>「いやいやいや、そんな世界収拾つかんだろ!
個々人のしょうもない妄想がいちいち世界に影響を与えているとしたら大変だ!」
「しかし、実際に今、我々は存在しているのだからこの世界の安定は今は保たれているということになる。
だが逆を辿ればフォルテ君の言っている通りに個人の妄想がこの世界を滅ばすということにもなるわけだ」
ハーラルは沈考している。この世界に幾つもの世界が存在するように、
ハーラルのアイン・ソフ・オウルに対する解釈も少し間違っていたようだ。
彼はそれらを現象としてとらえていた。
だが実際にはすべての現象とアイン・ソフ・オウルは切っては切れないものらしい。
つまり観測しているのは意識をもったものたち。
小石が一つ転がるのさえそれを観測している者が見ている世界、ということになるのだろう。
「あれ?どうしたのハーラル?難しい顔しちゃって」
「マモンの狙いは、創生のアイン・ソフ・オウルか?」
ひとりごちるハーラル。するとフォルテが歌いだす。
それは世界を管理する事のない神と、神が世界に遣わした世界を篝縫う存在”カガリビト”の歌。
>「別に大した意味なんてねーよ、ただ最初に世界を作った”神”の立ち位置が一緒だな、と思って」
「フォルテ君、すごいよ聞き惚れちゃったよ!
その歌ってもしかして創生のアイン・ソフ・オウルのことを歌ってるんだよね?」
興奮したヴァルンはダアトに喰ってかかるように近づくと
「孤独な太陽。すべてを繋ぎとめる火。そしてカガリビト。
つまりそれって一つのアイン・ソフ・オウルのことなんだよね?
今もこの世界を見ているとされる『それ』。
そうなんだー。なんだそういうことだったんだ!」
本の知識と自分の思考が頭のなかで結びついたらしくヴァルンは一人喜んでいた。
でもヴァルンよりも戦闘脳のハーラルはよくわからずに怪訝な顔。
自分より先に妻のほうが理解したらしいことを、ちょっとだけ良く思っていない。
「ヴァルン。早合点はよくないぞ。ダアトの返答をしっかり聞くんだ!」
ハーラルの顔は真っ赤になっていた。
>>「マモンの、目的はアインソフオウルか?」
「違う、アインソフオウルの複数所持は不可能だ。」
その、はーラルの意見を真っ向否定した。
「まぁ、俺自身が試したんだ。間違えない。」
「更に言うが、創世のアインソフオウルは、確か生きてる。」
「正確な生存は不明だが、俺の部下の報告だから、間違えはない。」
「……………たぶん。」
そう、意味深な、発言をしてみせる。
「マモンの目的は、恐らく神位につくことだ。」
「あいつが神位に付けば世界は地獄へ、変わる。」
「ですよね?ダアト。」
そう、確認する。
(仙人になって、暫くするが、こんなに知らないことがあるとは、学ぶ良い機会だな。)
(マモンについては、アヤカの情報次第だな。あとビャグ)
そう思いながら、珍しくマトモに聞いていた。
BGMも含めて
一方、アヤカは、バーサーカーモードを解いて、適当にアサキムを探していた。
「アサキム?フォルテくん?どこー?」
そう迷っていると、突然
変な生き物が現れた。
「やぁ、僕と契約してma」
「生憎、契約済みなのごめんね」
そう言うと、その変な生き物を蹴っ飛ばし、吹っ飛ばさせる。
すると、それはたまたま近くにいた、静葉に当たった。
「ごめんなっ………静葉ちゃん?」
「なんでここに、あっ、ビャグさんもどうも。」
取りあえず、挨拶し
「良かった、ここで会えて、聞きたいことがあるの」
「マモンって、知ってる?強欲のアインソフオウル」
そういい、いきなり質問する。
>「でもさゲッツ。それって完璧にヴェルザンディ国家司書のことを惨めって思ってる失礼なことだよ。
>生きていたらもしかして変われることもできるんだよ?私とちがってあの人は頭がいいもの。
>まー私みたいに自分を受け入れてあきらめたまま生きることだって人はできるんだから」
「一つだけ言わせてもらうが、俺は奴を惨めとは微塵も思ってねぇ。だからこそ、本気で奴に剣を振るおうとした。
まあ、考え方は人それぞれだ。俺ぁ人じゃあ無いが、ヴァルンの言い分にも筋が有るのは理解できるさ。
だから、考えを間違ってるって言う積りは無ェが、俺はそれでも剣を振ったさ。多分な」
戦士と戦士でないもの、それによって出てくる意見はきっと違う。
死に対する価値観が、決定的に違うのだろう。
殺しに来て、覚悟が出来ていて、全力でぶつかってきた相手だ。
ならば、あの時点で、死を覚悟していた、終わりを覚悟していた瞳の女を前に、死を取り上げるのが正しいのか。
何方も恐らく正しく、何方も間違っている。違うのは、殺すか殺さないか、それだけだ。
>「でも……オレは歌を人殺しの道具にはしたくない……」
「……お前は吟遊詩人で、俺は戦士だからよ。
確かに俺は人もそうじゃ無い奴もぶっ殺すが、お前が進んで人をぶっ殺さなきゃなんねぇ理由はねぇよ。
そういう汚れ役は、物心ついた頃から俺の仕事だったしな。気に病むことァ無い。
ただ、一つだけ頼みてぇのはよ。俺らの背中を全力で押すことが出来るのは、多分こん中でお前だ、って話よ。
そこだけ覚えとけ。気の利いたことァ言えやしねぇがな。言いたいこと、汲んでくれや」
絞りだすような声と同時にうつむくフォルテの頭に、ゴツゴツした手を置くゲッツ。
歌いたくもない歌を歌われるくらいなら、人殺しなどする必要はない。
その手の事は己が担当する。だからお前は俺の背を押してくれ。それがゲッツの言いたいこと。
いつだってこの男は、一番命が危険な場所に身を置きたがる、そして突撃する。
昔からずっと、今よりもっと汚い戦場に居たことも有る。捨て駒として、だ。
だからこそ、皆のその反応は慣れっこの事でもあり、ゲッツはいつもより少しだけ悲しい顔で、笑うだけだった。
>「いやいやいや、そんな世界収拾つかんだろ!
>個々人のしょうもない妄想がいちいち世界に影響を与えているとしたら大変だ!」
『良い質問だね。そう、個々人の妄想や感情が簡単に世界に影響を与えられるわけではない。
――それが出来るのはごく一部だ。それが可能な存在については、次の説明で明かそうじゃあないか』
ちっちっ、と指を振りながら気さくにウィンクをするフラター。
意外とお茶目だが、瞳に入っているのが結晶であるため、幾分か不気味にしか見えない。
つかの間の沈黙の中で響き渡る歌。その歌の内容は、老人にとっても馴染み深いものであった。
『……ほぉ、見事な歌だな。――うむうむ、あの女神の神位を支えていて良かったものだ。
確かに、その唄は大分古いものだったろう。過去の伝承が取り入れられていても可笑しくは無いね』
「いんや、久々に落ち着いた場でお前の歌聞けたからなあ」
ダアトとゲッツも、詩に対する感想を述べて、笑顔をフォルテに向けていた
その最中に、一気にダアトに詰め寄ってくるぽやぽや気味な奥さんが居た。
>「孤独な太陽。すべてを繋ぎとめる火。そしてカガリビト。
>つまりそれって一つのアイン・ソフ・オウルのことなんだよね?
>今もこの世界を見ているとされる『それ』。
>そうなんだー。なんだそういうことだったんだ!」
『一つのアイン・ソフ・オウルは、嘗ては二つ≠セったよ。
――悪性のアイン・ソフ・オウルが出てくるまでは、の話だったが。
彼と彼女は、今は一つとなってこの世界の奥底に眠りに付いているらしい。
……と言っても、私が生まれる遥か昔の話だ。私自身それについては知識がないのだ。知識のアイン・ソフ・オウルが聞いて呆れるがね』
苦笑を零しつつも、此方に詰め寄ってくるヴァルンを制しながら、言葉に答えていく。
創世のアイン・ソフ・オウルは、二人で一人のアイン・ソフ・オウル。二人だったのは、今は一つになって眠っている、との事。
フラターとはいえど、全てを理解しているわけではない模様だ。
>「マモンの目的は、恐らく神位につくことだ。」
>「あいつが神位に付けば世界は地獄へ、変わる。」
>「ですよね?ダアト。」
『まず、君の認識を正しておこうか、アサキム。
そもそも、アイン・ソフ・オウルとは所持できるものではない。
なぜならば私達の魂、存在自信と密接に関わるものであるからね。
他のアイン・ソフ・オウルとしての力を手に入れるという事は、その者自身となる事と同義といっていいだろう。
まあ、それが出来るアイン・ソフ・オウルも、居ないわけではないだろうが――極めて貴重だろうね。
なにせ、他者の色で自己を塗りつぶされても自分自身であり続けられる世界を持っているということだから』
よく通る声を響かせ、アイン・ソフ・オウルについての認識を穏やかな口調で正していくダアト。
そして、再度アサキムの問いかけを聞いて、ああ、と声を漏らしながら口を開く。
重々しい様子は、冗談や何かのたぐいではないことを思わせただろう。
『では、ここから講義の続きをしていこうか。
次の内容は、アイン・ソフ・オウルについてだ。
――そこで纏めてフォルテとアサキムの質問に答えることができるはずだよ』
講義は第二陣へと進んでいく。
浮かんでいた水の球体の中には、幾つもの小さな泡が存在していた。
恐らく、これが大きな世界を沢山の小さな世界が構成しているというイメージなのだろう。
『この世界が、幾つもの『自分だけの世界』が混ざり合うことで成り立っていることは先ほど話したがね。
アイン・ソフ・オウルとは、この世界に置いて『自分だけの世界の規模、質が高い存在』の総称なんだ』
まず最初に、アイン・ソフ・オウルの定義、概念を口にする。
その直後に、浮かぶ球体の中の泡が形を変えていき、異様に大きい泡や小さい泡、変な形の泡など様々なものに変化した。
恐らく、その中でも異彩を見せている泡が、アイン・ソフ・オウルという事なのだろう。
『フォルテが言っていたとおり、個々人の妄想が簡単に世界に影響を与えているなら大変だね?
普通≠ナあれば、世界の一部を構成しているとはいえ、世界全部に影響なんて与えられない。
例えば魔術等特殊な技法を使うことによって、一時的に世界にはたらきかけて影響を与えることはできるがね。
だが、普通でない存在。世界に対する割合の高い存在ならば、感情や意志でこの世界に十二分に影響を与えることが出来る。
普通の人間でも数百、数千人が一斉に同じ方向に意志、感情を向ければ世界に影響を起こすことは可能だが――。
――――人は、そういった世界に影響を与えた結果を、奇跡≠ニ呼ぶんだ』
奇跡。それは、人の心が起こすものだという。
実際に見ただろう。フォルテの歌によって心動かされた人々の祈りで、異界の神が消えていくのを。
あれもまた、人の心が祈りという形でまとまり、この世界を作り替えた現象。
また、実際に経験したものもいるだろう。中型程度の竜が、爪一つで空間を引き裂き、ブレスで概念すら破壊するのを。
あれは、ただ一つの存在の絶対性、抱く世界の大きさ、質によって世界に影響を与えていた結果。
一言で言うなれば、アイン・ソフ・オウルとは一人で奇跡を起こせる存在≠ニ言えただろう。
『そして、当然。アイン・ソフ・オウルにも差は大きく有ってね。
例えばフォルテやゲッツ。君たちは、アイン・ソフ・オウルとしては最下層レベルの存在だ。
歴史に名を残す英雄達になれる程度の世界の大きさ、質を持っているが、それは大きく世界を組み替えるほどではないね。
ただ、それでも同種の生物達とは明らかに異質な存在であるのは間違いないのだがね』
アイン・ソフ・オウルの位階に置いて、ゲッツやフォルテは最下層であるという。
それでも、歴史に名を残す英雄レベルというのだから、その上の非常識さが見て取れる。
『そして、その上には天位と地位という位階が有るが――割愛しておこう。
一つだけ言えるのは、これらは国や都市を一人で滅ぼす事が可能であるレベル、という点だ。
私、フラター・エメトことダアトもまた、天位に属するアイン・ソフ・オウルだね?』
そこまで説明して、ダアトは一息ついて黒い液体を啜り込んだ。
浮かび上がる球体の中の泡は、ゆらりゆらりと揺れていて。
直後に、その泡の一つが破裂して、球体の中を掻き回し、色を変え、泡の形と数と大きさを変えていった。
『――そして、アイン・ソフ・オウルとしての最上位。それを神位、と呼ぶ。
嘗てこの位階に居たアイン・ソフ・オウルの名は、フェアリー・テイル=アマテラス=ガイア。
調和のアイン・ソフ・オウルとして、この世界に平穏を齎していた、善きアイン・ソフ・オウルと言えるだろう。
神位の力は、この世界すべてに影響を与える力。感情一つ、意志一つでこの世界のすべてに影響を与えられる。
穏やかな者であればこの座につけばこの世界は平穏となり、安定して進むだろうがね。
――もし、悪意を持った者が神位についたとすれば。この世界が地獄に変わるという事になる』
ここからが、アサキムの質問に対する答えとなる。
そう前置きをしてから、皆の注意が此方に向くのを待って、言葉を紡ぐ。
『強欲のアイン・ソフ・オウル、マモンは恐らくこの座を狙って暗躍しているだろう。
彼もまた、天位に属する者。その中でも別格の『枢要罪』と呼ばれる存在だ。
私の全盛期の頃に彼は一度滅されたはずなんだが――。目覚めてしまったようだね。
恐らく彼以外の7体の『枢要罪』も目覚めているなり、蘇っていても可笑しくはない。
もし彼ら8体の内のどれか一人でも神位に付けば、この世界は間違いなく災いに満ちた世界と鳴る。
例として、マモンならば。皆が欲望のままに奪い合い、殺しあう世界、と言ったように』
語り終えて、ダアトは人の形を半ばまで崩して知識の沼に沈む。
上半身を沼から飛び出させながら、口を動かし。
『この都市の地下に私が封じているのも、またその『枢要罪』の一柱。
憤怒を司るアイン・ソフ・オウルだ。……そろそろまた暴れ始めたようだ。
ヴァルン、ハーラル。君たちには、この層に転移する符を授けておこう。この都市に何かあれば、直ぐに報告か相談に来ると良い。
ゲッツ。その短絡性が原因で、ファフニールはゲオルギウスに負けたんだ。気をつけないと君もいつか寝首を掻かれかねない。
アサキム。君は先達の者として、パーティの皆を先導し、見守ってやって欲しい。力に任せて独断専行するのは、悪い癖だ。
フォルテ。君の母とは懇意にさせてもらっていた。いい歌を歌う君に、耳寄りな情報だ。
君の父について知りたいのならば、交響都市艦フェネクスの音楽祭に行くと良い。あそこならば、もしかすると――――』
皆に別れの言葉のような事を投げかけると同時に、ダアトは形を崩して水の中に飲み込まれていく。
直後、洞窟が振動し、足元からは雄叫びが響き渡った。
衝撃音と、異様なまでの魔力の波動。ダアトが闘うことが出来なかったのは、これを押さえ込んでいたから。
だが、この争いは極めて危うい拮抗の元にある。いつかこの均衡が崩れた時。
それがこの都市の真の終わりの時だろう。
『……任せた。ここは私に任せて、先に行け。
あと数十年はもつからな。それまでに、この大いなる厄災を終わらせて――』
先程までダアトが居た場所には、魔法陣が。
陣を読み解いてみれば、それは上層までの転移魔法陣であったと分かるだろう。
振動も雄叫びも止み、静寂に包まれた洞窟の中。沈黙が場を満たしていた――。
>「……お前は吟遊詩人で、俺は戦士だからよ。
確かに俺は人もそうじゃ無い奴もぶっ殺すが、お前が進んで人をぶっ殺さなきゃなんねぇ理由はねぇよ。
そういう汚れ役は、物心ついた頃から俺の仕事だったしな。気に病むことァ無い。
ただ、一つだけ頼みてぇのはよ。俺らの背中を全力で押すことが出来るのは、多分こん中でお前だ、って話よ。
そこだけ覚えとけ。気の利いたことァ言えやしねぇがな。言いたいこと、汲んでくれや」
ゲッツが励ますようにオレの頭に手を置く。
いけない――歌は正直だ。ほんの少しの心の陰りですぐに歌が鈍る。
どんな絶望の淵に叩き落とされた時だって皆を勇気付け背中を押す役回り、それが妖精の吟遊詩人だ。
それに生粋の戦士には、戦士同士で通じ合う何かがあるのかもしれない。
ならばそこに吟遊詩人の自分が口出しするのは野暮というものだ。
でも歌を捧ぐ相手と決めた以上、一人で背負わせる事はしない。
ゲッツを見上げて冗談めかして言う。
「自分の手を汚さずに後ろに控えてる奴の方が大抵悪い奴なんだぜ〜?
オレ達共犯だろ? 痛みは一緒に背負うよ」
後先考えずに危ない場所に突撃する。何でも一人で背負おうとする。こいつはそんな奴だ。
だったらオレはこの歌で全てのものから守ってみせよう。密かにそう決意するのであった。
♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪
そして講義はアイン・ソフ・オウルの話へ。
君達はアイン・ソフ・オウルの中では最下級の存在だ、とかナチュラルに言ってるし。
すでにアイン・ソフ・オウルである事前提!? ここで一つ気になる事がある。
アイン・ソフ・オウルには善性と悪性があるらしいが……『厄災』とかネーミング的にどう考えても(ry
「ま、まあ歴史に名を残す英雄になれる程度って事は悪い方ではないんだよな、うん」
そして、母さんが少し前まで神位のアイン・ソフ・オウルだったらしい。
一瞬しか話した事はないけれど……あの食い逃げ女神が神位!?
その間世界が平和だったという事は母さんのパシリ係だったリーフがどんだけ凄いかって話だ。
うっかりご主人様の機嫌を損ねたら大災害って事じゃん!
思わず背景に溶け込んでいるリーフの方を見る。
案外母さん自身はそれに無自覚で神話版涼○ハルヒのような日常が繰り広げられていたのではないだろうか……。
講義を終えたフラター・エメトは、皆に別れの言葉を残し再び液体と化していく。
>『 フォルテ。君の母とは懇意にさせてもらっていた。いい歌を歌う君に、耳寄りな情報だ。
君の父について知りたいのならば、交響都市艦フェネクスの音楽祭に行くと良い。あそこならば、もしかすると――――』
「――!!」
普通に考えて、ずっと育てられた親について知りたいのならば、というのはおかしい。
まるでオレの父さんに関する記憶が混線しているのを知っているかのような言葉。
「ちょっと待て、父さんは生きてるのか!?」
>『……任せた。ここは私に任せて、先に行け。
あと数十年はもつからな。それまでに、この大いなる厄災を終わらせて――』
詰め寄るが、すでにダアトの姿はそこにはなく。一つの魔法陣だけが残されていた。
ヴァルンちゃんによると、上層への転移魔法陣だそうだ。
「……行こう」
一瞬だけ真面目な顔をしてシリアスモード、と見せかけて――
「交響都市艦! 音楽祭! 超楽しそうじゃ〜ん!」
ぴょんっと魔法陣に飛び込んだ。
やはり排除したインキュベーターの残骸を回収しに来たもう新たな一体は
対した感情も込めずに淡々と抗議を始め、自分達の行いと半ば脅すように言ってくる
それは至極真っ当であり筋も通り正論である
しかし、エスペラントはそれでも狂ったように笑わずには居られなかった
それを無表情で動向を見守る静葉を前にして、口を開く
「ハッハッハッ!お前達が言って居る事は当然の事だ
お前達のいう事は極めてまともで教えてやってもいいし抗議メールを送ると良い。
―まぁそれが通るのは正規構成員と名の知られている連中だけだろうが
だが、一つ聞きたいな証拠もないのに"存在しない物"と言われるのは」
皮肉めいた笑みを浮かべるエスペラント。
確かにインキュベーターのいう事は正しいがまず永久闘争存在の前提条件が違う
永久闘争存在は世界守護者委員会が操っていると思われているのだろうがそれは違う
文字通り多数の世界の意思により決定し、執行機関として発現する多世界の操り人形に過ぎない
世界守護者委員会はその主立った一端に過ぎず、権限は多世界の意思・理・真理がその物が優先される為
多世界が圧倒的で世界守護者委員会では逆らえない
世界一つは我々が生きている環境・下地・空間であり生きている存在である
それが意思を持つのは不思議ではないし、人間と同じようで把握していない多数の無意識下がある
天罰か或いは自然の意思と取るかは人の勝手だが、意図的に間引きや何者の思い通りにならない脅威の証として
台風や落雷、火山噴火などの人の手ではどうにもならない自然現象が天災である
永久闘争存在は多世界が作り出した自然の意思によって生まれた天災に等しい存在である
インキュベーターの例えである他人の家という時点でその建てた場所がなければ成り立たない条件であり
その地は正しく世界の構成している一部である、だからたかだか家程度は世界などは気に留めず
家自体に人が居て世界を滅ぼす細菌兵器や核兵器を隠し持って使おうとしたり、或いはこれか行動を起こそうとする時点で
世界と言う地は死にたくがないがために、滅ぼされたくがないために永久闘争存在と言う名の落雷や台風の天災が
偶然という形でやって来る―ということである。その際に出る犠牲などは世界からすれば微々たる物でありまた作り出せばいいという感覚である。
その辺は人である世界守護者委員会やエスペラントではどうしようもない
相手は自分達の構成している強力な力が重なり合う土台その物なのだから
神でもない限りは逆らう事などは通常は出来ないのだから
例えるとしたら台風が近づいてきて、そのままでは何もかも破壊されるため
人が辞めてくれる様に対話の席を求めるたり人柱を建ててお願いしたり
するがそんな意思を持たず意思疎通が出来るわけがないため
そのまま諸共破壊されるという当たり前の例えかもしれない
幾らインキュベーターや誰かが論理的に正しく正当な言葉だろうと
天災の前では何を言おうが無意味である、交渉できる余地などは無い
奪われた命が天災ならば恨む事は出来ても裁く事は余程高位の存在でもなければ出来ないし
これが正しいのかは是非は問える存在がいるのかは分からないが
少なくてもエスペラント自身は望んで出来るわけもなく、その事に関しては
彼自身は許されざる罪を背負って居る事を人一倍自覚しているわけだが
それを自嘲の意味を言葉の中に込め、
「そうだな、少なくても私たちは許されざる事をしている
救った命も犠牲にした命も弄ぶように―やって居る事が偽善や自己満足であることも
自覚しているさ、そんな事は」
少し悲しげに静葉はそんな事を呟くエスペラントに対して見つめていた
そして森に例えた世界干渉の話しに関してもそれは至極正しい事を言っている
しかしそれはあくまでも世界守護者委員会に
正式に存在し、明らかにしている者達に向けて言える言葉である
エスペラントもといビャク=ミキストリは表状は存在しない事になっているEXナンバーである
その任務は多岐に渡り、其処には綺麗な物から表面上では明かせない出来ない汚い物まである仕事を任される者達
彼らは縛る枷や鎖付きとは言え公開されていない実力者達の不正規特殊部隊とも言える、もっともビャクの立ち居地は若干特殊であり
EXナンバーではある程度の独自の行動を取れる権利があるが、完全な独立権限を持つ遊撃独立部隊と化している
そんな立場上彼らは世界守護者委員会とは関係のある物は持っておらずまた証拠も残さない徹底している
任務で死んだとしても知らぬ存ぜぬが通されるだけである
インキュベーターのいう事は世界に対する接触や干渉に対しては正しい例えでの表現ではあるが
その言った通りに守り続けるだけでは世界は守れない
世界に対する恣意的な干渉は本来ならば許されないが為にそれを直接ではなく人が見ていない裏舞台から介入してでも
成し遂げなければならない事があるという事で、実行手段としてエスペラントやEXナンバーが存在するのだ
綺麗事だけではどうにもならないことがあるために彼らは結成されて居る事から
多世界を守るという事は綺麗事だけが通らないのだ時には手を汚しリスクを侵してでも守らなければならないこともある
それ故にエスペラントはレンジャー等と高尚な物ではない、一歩間違えれば生態系を破壊する者としてだからこそ
存在しない者として常に切り捨てられる位置にいるのだから
ただ、エスペラント自身は余りにも有名になったというのもあるがさる事情により
その顔を隠して偽名を名乗らなければならない任務上とも私情とも取れる理由でそうしている為
エスペラント=ゲシュペンストイェーガーは公式にも構成員にも存在しないのである
「ウルトラ警備隊やウルティメイトフォースに目を付けられている
悪質宇宙人から出る言葉とは思えんな…あの正義の使者達とは敵対したくない物だが。
生憎と私達は世界に干渉する権限は持っているのでね、それが例え正統な環境維持活動している
そんな存在が任務上立ち塞がったら、任務の優先度の大きさから止む無しに戦いに巻き込まれて犠牲者になったりな」
わざとらしくそして宇宙の平和を守りし正義の使者達にマークされている皮肉を言うようにその言葉を向ける
与えられた指令<オーダー>はこの世界を含めた多世界の影響が凄く大きいため
その前に立ち塞がる邪魔に存在を排除し根絶しても誰にも咎められない其処に私情が篭ろうが無かろうが
インキュベーターのような環境維持活動をしている存在は世界守護者委員会や多世界と多元宇宙には数え切れないほど居る
そんな彼らが全宇宙から消えようと塵のように瑣末の事である
また新たな存在を見繕えばいい
>「最後に一つだけ聞かせて欲しいんだけど、いいかい?
多次元崩壊とは直接の関わりがない、正統な環境維持活動をしている僕たちをキミは妨害したよね。
これを世界守護者委員会が知ったら、キミには何らかの処分が下るのかな?」
「"居ない存在"に抗議するのはそちらの勝手だが、君達に関してはそうは行かないと思うが?
君達はあの種子に関わり、尚且つそれを利用している―アレは世界守護者委員会そして多世界の意思を持ってしても
世界に悪影響する物で最重要危険物もしく封印指定と判断された、そんな物を利用したお前達はどうなるんだろう?
今現在使用者及び関係者は強く悪影響が出ている場合は根絶、排除を命じられている
お前達の種族とは長いお付き合いになるのかもな」
立ち去るインキュベーターを表情こそは仮面に遮られている為分からないが
口元は微笑を浮かべていた。
そんな合間にいつの間にか静葉は其処に居たアヤカ=ダグラスが居た
>「ごめんなっ………静葉ちゃん?」
>「なんでここに、あっ、ビャグさんもどうも。」
「いえ、こちらこ…アヤカ殿がどうして此処に?」
「此処ではエスペラントと呼んで欲しいのですが…、どうもこんにちはアヤカ・ダグラスさん」
一応事前情報でこの場所に入ったという情報は得ていたが
まさか此処で遭遇するとは思っていなかった
なんとなく予感はしていたが
>「良かった、ここで会えて、聞きたいことがあるの」
>「マモンって、知ってる?強欲のアインソフオウル」
彼女―アヤカ・ダグラスは出会い頭に質問をしてきた内容がこれだった
エスペラント静葉いや世界守護者委員会が追っている者達の首魁の名であった
「……どうされますか?主様」
「一応は協力関係にあるのだ、話しておくべきなのだろうが
如何せんこれは出来るだけ秘匿すべきことであり情報漏洩は好ましくない
だからこの場で言える事は、我々が奴の組織世界再編組織レヴァイアサンを追っている
という事だろうか」
今明かせる情報をアヤカに向けて話したが誰が聞いているかは分からないため
耳元で小声で話し、エスペラントと静葉はインキュベーターが探していたあるいは見ていた文献を見て
静葉がある事に気づく
「主様…これを見てください」
差し出された項目とインキュベーターの見ていた文献を照らし合わせると
あることが浮き彫りになるそれは―
「神を作り出す呼び出す、あるいはそれをエネルギーに変換・抽出、
世界法則の書き換え、世界のエネルギーによる創作…人工的な神の誕生…
等価交換の代償の低下…結果・確率の内容確定率の操作・閲覧・上昇…」
この世界にて何か大掛かりな出来事が起こそうとしているのは確実である
エスペラントはこれだけを見て頭の中ではとんでもない事が浮かぶ
「……行くぞ静葉、どうも嫌な予感がする
すいませんが我々もやらねばならない事がありますゆえ」
「失礼しますアヤカ殿、これにて御免」
二人はパニブルの地下ダンジョンから足早に脱出を目指す。
インキュベーターが何をしようとしているのか
彼の予想が正しいとすればそれは
第二の鹿目まどかを人工的に作ろうとして居る事
即ち女神となった彼女と同じ力或いはそれ以上を持ったもう一人の女神を
人為的に作ろうとしている自分達の思い通りに制御し、利用できる者として
>ヴァルン、ハーラル。君たちには、この層に転移する符を授けておこう。この都市に何かあれば、直ぐに報告か相談に来ると良い。
「うん、わかったよ。知識のアイン・ソフ・オウル、ダアト、
いえフラター王。お会いできて光栄でした。
この国は私たちが守ってゆきますので、どうかご安心ください。」
ヴァルンは笑顔。ハーラルは深々と一礼。
>「……行こう」
「いってらっしゃいフォルテ君。そしてありがとね。
あなたの歌がなかったらハーラルは死んじゃってたよ。
お父さんに、会えるといいね」
手をふってフォルテを見送る。
そしてゲッツを見つめて
「ゲッツの言ってたことって、もしかして武士道とかいうもの?
だからって私には殺人を認めることなんてできないよ?
でもね、ゲッツ。私、ゲッツのことは嫌いじゃないよ。うん、それだけは言いたかったの」
微笑するヴァルン。
フォルテとゲッツ、アサキム導師。みんなの心と触れて、
みんなが必死になって闘う姿をみて、ヴァルンは少しだけ、心が強くなれたような気がした。
きっと彼らのことは忘れない。いつまでも。たとえ歳をとっておばあちゃんになったとしても。
ハーラルは彼らを見送ったあと、思い出したかのように呟いた。
「そうだ。彼らが交響都市艦フェネクスに行くのであれば彼女に手紙を出そう。
きっと彼女なら彼らの力になってくれるはずだ。そう、パラケルスス13世ならば」
「…………まさかとは思ったが。フラターエメトが、サーバントを封じていたとは。」
(そして、アインソフオウルは、所持ものではない。俺の場合は特例か。)
彼が言いたいこと、全てを思い返す。アサキム。
「とはいえ、」
(>>力にものを言わせて独断専行するのは、君の悪い癖だ。)
「面目次第も、ございません。」
素直に反省しているアサキム。
(まぁ、とりあえず、マモンを止めるのが最優先項目だ。)
>>「行こう。」
「ちょっと待て。こいつを持ってけ」
フォルテを掴み、腰にある者を、マウンドさせる。
「そいつは、お前の母からの贈り物だ。俺が持ってると宝の持ち腐れだ。」
「後、一つ覚えとけ、八罪の奴に逢ったら、直ぐに逃げろ」
「とてもじゃないが、新世代のお前等が、天位の奴らにかなうとは思えん」
ちなみに、フォルテに持たせたのは、お馴染み、テイルが使ってた杖だったきがする。
「ハーラル、そいつに手紙を出すなら、俺名義で出せ、彼奴には何度か、恩を売っといた。二つ返事でやってくれるだろう」
「俺は、ちょっと用あるから、もう少し、此処にいるね。じゃ」
そういうと、アサキムは、何回か転送魔法を繰り返し、特定のルートを通り
「久しぶりだな、此処に来るのは」
そこには、一本の剣が置いてあった。
「神の剣、いや人の作りし、神剣龍王破山剣」
「ほう、それは興味深いな。」
「マモン、どうして入れた。」
直ぐに気づいたアサキムが、後ろにいた、マモンと取っ組み合いを始める
「なんでって、それは普通に追ったから?」
「初めからこれが目的か」
ウェルサンディを第一なら、この剣は第二か。
「貴様には、これは使えん」
すると、破山剣が抜ける
「ふふふ、来たれ、マモンの元へ」
一瞬、マモンの元へ来たかと思ったが?
「ふっ、いい子だ」
ブーメランの用に戻ってきだ。
「悪いが、俺はこの手の武器に愛されてんだ。」
アサキムが、その剣を手にした瞬間、周りに突風、雷激が走る
「ふん、此方が不利か。今日のところは帰るか。」
「逃がすか!」
だが、黒い光に、周りを包まれ、動けない
「それではな、天のアインソフオウルよ。」
「ちっ、」
珍しく、敵を逃がした。ただ其れだけで、屈辱だった。
取りあえず、黒き光は、破山剣で潰す。
「早々に、止めなければ」
「とわいえ、アヤカ?」
あの狭い部屋から、出てアヤカを探し始める
>「……行こう」
「応」
一言でゲッツはフォルテの声に答えて、一歩先に歩き出すフォルテの次に歩き出した。
まあ、脳天気なこいつなりに考えることも有るんだろうな、と本気で何も詰まってない脳味噌竜人は思考しつつ。
上に戻ったら酒でも飲むか、と思考を巡らせて
>「交響都市艦! 音楽祭! 超楽しそうじゃ〜ん!」
「……おいおいおい、そのノリでアリかよオイ。
ま、その方がらしいっちゃらしいけどヨォ」
シリアスモードが一秒と持たなかった吟遊詩人に肩を落としつつ、ゲッツは嘆息。
フォルテの後に、ひょい、とその巨体を飛び上がらせて中に飛び込んでいくのだった。
僅かの間の光に呑まれて、飛び出してみれば図書館の屋上で。空は青く澄み切っていた。
上に上がってゲッツは深く深呼吸をする。元々山岳などに居たゲッツは低酸素には慣れている。
だがしかし、あのような狭苦しい場所は、本来ゲッツのような種族に向いた場所ではない。
要するに、微妙にゲッツは閉所恐怖症気味だった。故に、数度深呼吸をしてから、ぐぐ、とゲッツは背伸びして。
「やァっと人心地つきやがったなァ。
――交響都市艦フェネクスだったら、旅の扉から行けたっけかな?」
「うん、旅の扉の場所はわかってるだろうけど、一応あっちまっすぐ行って、突き当りを右にまっすぐね」
「応、サンキュな」
と、フェネクスへのルートをヴァルン達と詰めていくゲッツ。
しばし道を5回ぐらい聞き直した上で、ようやくルートをインプットしたゲッツ。
背中から鋼色の翼を伸ばしつつ、ぐぐ、と背筋に力を入れていた最中に、ヴァルンから別れの言葉。
>「ゲッツの言ってたことって、もしかして武士道とかいうもの?
>だからって私には殺人を認めることなんてできないよ?
>でもね、ゲッツ。私、ゲッツのことは嫌いじゃないよ。うん、それだけは言いたかったの」
「っへ、俺もお前さんは嫌いじゃねぇよ。人妻じゃなかったら惚れてたかもなァ?
強い女だ、お前さんはよ。きっちり旦那の手綱握っときな。次は逃がさないように、な。
――あと、なんだ。ヴェルザンディについては任せとけ。殺すかどうかは分かんねぇが、筋を通しとく。
もし奴が死にたくないとか、助けてくれとか気合の入ってねぇ事宣うなら、ここまで首根っこ引っ張って連れてきてやっからよ」
ゲッツなりの譲歩。死を覚悟したもの、殺す覚悟を抱えたものならば容赦をしないのがゲッツ。
だからこそ、死にたくないと言われれば殺さずにここまで連れ帰ってやると言ってのけた。
彼なりに考えた結果の言葉だろう。普段ではあり得ないくらいに、平和的な発言なのだから。
そして、じゃあな、と拳をヴァルン達に向けて、ごつん、と軽くぶつけると手を振って歩き出す。
歩き出して、その一歩を加速させて屋上から飛び降りるように一直線。
途中でフォルテを肩に担ぎ上げて飛び降りれば、背中の翼が空を叩いて天へと飛翔。
高笑いを響き渡らせながら、ゲッツは上空から旅の扉の神殿へと飛んでいくのだった。
「ヒィヒャヒャヒャハハハハハハッハハハハ――――ッ!
辛気臭い地下はイケねェなあ! やっぱり高いとこの方が性に合ってるぜ、ヒャッハ――――!!
さあさあ、次は交響都市艦か、あそこ飯美味いって評判だしな! ついたらまず飯と情報収集としようぜ!」
地下の閉塞感から開放されたゲッツは、この世のなんだかかんだかも何のその。
もう何も気にしない勢いで高笑いを響かせながら神殿へと一直線。
暴風を従えながら地面に一筋の鋼色の線を引いて着地。響くのは轟音、炸裂音。
フォルテを空中に放り投げつつ、ゲッツは地面に触れるなり五点着地、そして天から落ちてくるフォルテを受け止めた。
なにやら派手な着地だが何ら問題はない、日常だ。ちなみにリーフはいつの間にか到着している。ニンジャスゴイ。
と、そんなノリでダイナミック旅立ちをしたゲッツ達は、旅の扉へと歩いて行く。
僧兵たちは、この土地に入ってくる時にゲッツ達を捕縛した者達だ。
引きつった表情でゲッツ達を迎えるが、ゲッツはにやにやしつつその間を抜けていくだけ。
いらつきと同時にゲッツの尻に槍の石突が突き出されるが尻尾で振り払われた。
プールに飛び込むように空間の歪み渦巻く旅の扉に飛び出してみれば、一気に空間を飛び越える不思議な感覚に飲み込まれて。
――次の瞬間現れたのは、如何にもサイバーな一室だった。
試験管のような、旅の扉の出口を出てみれば、盛大なファンファーレにゲッツ達は出迎えられる。
きぐるみを着た子供や、何かのキャラクターのコスプレのような女性男性、楽器を背負って歩くミュージシャンたち。
道路ではストリートパフォーマー達がパフォーマンスをして人々を楽しませている。
本来壁は白出会ったのだろうが、無軌道に描かれる落書きとは全く違う、グラフィティで壁達は彩られていた。
ここが、交響都市艦フェネクス。音と色彩が怒涛に響きあう、都市全てがエンターテイメントの世界である。
「う、ォっ!? なんだなんだ、やンのかオイ!?」
当のゲッツはといえば、フォルテを取り落としつつ腕を変形させて喧嘩か何かかと思って体制を整えていた。
常にどこかしこで問題を起こそうとする男であるが、無意識な上田舎者のため仕方がない。
引きつった笑みでコンシェルジュの女性とリーフがゲッツをなだめて、数分後にはチュロスを10本程もらってご満悦だった。
「にしてもすンげぇなあ、オイ。
どこもかしこも歌ってたり踊ってたり絵書いてたりで、遊園地みたいじゃねぇか。
こりゃ、飯にも期待できそうだな!」
と、いつも通りの風情もなにも糞も無い発言で、芸術の都でお上りは馬鹿笑いを響かせていた。
「アヤカ!」
「アサキム?良かったぁ」
再会を過剰反応するアヤカ
それを、いつものことだと感じるアサキム
「どこ行ってたの?」
「破山剣をとりにいってた。」
「そう。あっ、ビャクにあって」
事の全てを話す。インベキューダーも、
「ふぅん、また地獄耳か。ビャクにどやされないか?」
「分かんないや。」
「まぁ、そいつは彼奴等に任せるか。それより」
「腕に呪いをかけられた。」
「?!?!?!………そんな」
「解除できるか?」
「ごめん、複雑すぎて、分かんない」
「そうか、此処があいつんちの近くで良かった。」
「行くの?フェネクス」
「ああ、行こう。」
>「いってらっしゃいフォルテ君。そしてありがとね。
あなたの歌がなかったらハーラルは死んじゃってたよ。
お父さんに、会えるといいね」
「ヴァルンちゃん、ハー君……いつか君達の子どもにオレ達の事、話してくれると嬉しいな。
そうそうこれ机代、マサトシさんに渡しといてね。君って案外探偵に向いてるかも!
ハー君、もうフラフラしたら駄目! 敏腕探偵に一瞬でバレちゃうぞ!」
そう言ってヴァルンちゃんにお金を少し渡す。
>「っへ、俺もお前さんは嫌いじゃねぇよ。人妻じゃなかったら惚れてたかもなァ?
強い女だ、お前さんはよ。きっちり旦那の手綱握っときな。次は逃がさないように、な。
――あと、なんだ。ヴェルザンディについては任せとけ。殺すかどうかは分かんねぇが、筋を通しとく。
もし奴が死にたくないとか、助けてくれとか気合の入ってねぇ事宣うなら、ここまで首根っこ引っ張って連れてきてやっからよ」
「ゲッツ……変わったね」
梯子に向かって歩きながら呟く。
少し前は恐怖に震えあがってようが命乞いしようが問答無用でぶっ殺してたコイツがこんな事を言うとは、ね。
と思ったとたんにひょいっと担ぎ上げられて空中遊泳にご招待されていた。そういえば空路がデフォだったね!
>「ヒィヒャヒャヒャハハハハハハッハハハハ――――ッ!
辛気臭い地下はイケねェなあ! やっぱり高いとこの方が性に合ってるぜ、ヒャッハ――――!!
さあさあ、次は交響都市艦か、あそこ飯美味いって評判だしな! ついたらまず飯と情報収集としようぜ!」
「やっぱり何も変わってねーーーーー!! “交響”都市艦だよ! 飯以外にあるでしょ!」
アクロバティックに着地した後、目を回しながら旅の扉に担ぎ込まれる。
鳴り響くファンファーレに、半ば朦朧としていた意識が覚醒する。
面白い恰好の人達が歩いてるし。
なんだっこれ! 遊園地かな? おめでとう、100万人目の来訪者です!ってやつ!?
>「う、ォっ!? なんだなんだ、やンのかオイ!?」
「うわっ!」
ゲッツ は 不思議生物 を 取り落とした! それを 取り落とすなんて とんでもない!(ド○クエ風)
と思ったら何故か臨戦態勢になってるし! 例によって例のごとく頭を下げる。
「すいません、脳筋の馬鹿なので許してやってください!」
>「にしてもすンげぇなあ、オイ。
どこもかしこも歌ってたり踊ってたり絵書いてたりで、遊園地みたいじゃねぇか。
こりゃ、飯にも期待できそうだな!」
と言ったそばから、横のステージで何かが始まりつつあった。
ステージの上にいるのは、巨大な包丁をたずさえたイケメン料理人。
「お待たせ致しました、歌って踊る料理人ヤマゴエシェフによる解体ショーの始まりです!
本日解体するのはお馴染みマンドレイクッ
食べればこの上ない多幸感が味わえ病みつきになるという究極の高級食材です!」
確かマンドレイクの幼生は致死毒だったような……それって完全アウトじゃねーか!
そして、黒子達が運んできた檻から食材が解き放たれる。
二股に沸かれた根を足の様にして歩く植物版ゴブリンのようなもの――マンドレイクの成体が現れた!
まさか解体ショーって生きたまま解体すんの!?
「今ッ! 食材が解き放たれました! マンドレイク、奇声を発するが……動じない!
見事な包丁さばきだあ! 筋に沿って着実に捌かれていきます!! まさに芸術ッ!」
「嫌ぁああああああああああああああ!! 絶対食べたくねーーーーー!!
飯はフツーにしよう。ケッタイなもの食べさせられたらかなわん!」
そう言って、目についたチェーン店の冒険者の店に入っていく。
ここなら変な物が出てくる事はないだろうと何も考えずに注文する。
「日替わり定食をお願いします!」
【すみません、
>>201の前になります】
>「ちょっと待て。こいつを持ってけ」
>「そいつは、お前の母からの贈り物だ。俺が持ってると宝の持ち腐れだ。」
アサキム導師がオレを呼び止めて、ある物を渡す。
それは虹色に輝く宝珠が付いた美しい杖。
「母さんから……!?」
>「後、一つ覚えとけ、八罪の奴に逢ったら、直ぐに逃げろ」
>「とてもじゃないが、新世代のお前等が、天位の奴らにかなうとは思えん」
「分かった。もしも会ったらゲッツを引きずってでも逃げる。今はまだ……ね。敵う様になる時まで頼んだよ?」
「ふぅ、いい息抜きだ。感動的だ」
「だが、無意味だ。」
「無意味ではない、流石に。」
アヤカのぼけに軽く突っ込み、市内観光をしている。
実は、この都市コスプレイヤーの多い事で有名だ(時代おかしいとか言うな。)
「わざわざ、声変えて体も変化させるな。CVゆかなとか」
「そう言う、お前も、CV小野D(そっくり)→福山ってどんだけ贅沢なんだ。」
「話し方までC,○,に似せるなよ。」
「お前こそ。」
見た感じ、コー○ギ○スの○ルー○ュ(ゼロの服装)
そして、アヤカは○,C,の服装(原作のまんま)
実際、ここで、コスプレイヤーの方々と、会って写真も撮っている
(テ○フ○とか、カ○ミとか)
「しかし、驚いたな。さっきは」
「ああ、まさかの声似+スタイルそっくり」
「「無○のフロ○ン○ィ○のア○ェンと神夜」」
もう一度言うが、ここで時代背景とか求めてはいけない、突っ込んでもいけない。
「魔法で、改造してるかと思ったら」
「声以外、改造してないって」
「実声聞いたけど凄い、○ニーだったな。」
「うん、凄いミ○ーだった。」
「ところで、」
アヤカは、耳元で
「腕は、どうなんだ?」
「今んところは、天のアインソフオウルで押さえてる。でももって一週間かな。」
「そうか、所で」
「なんだ?」
「ピザが、食べたい」
「良いぞべつに、」
「マンドレイクの」
「一人で食ってろ。」
二人も、純粋に楽しんでいるようである。
――銀星が廻る。
正円の軌跡を描き巡る星には、強い魔力が宿っていた。
幾人もの心を惹き付け、その人生すらも左右するほどに。
男達が星を凝視する。
だが彼らは決して占星術師では――ましてや敬虔な信徒などではなかった。
星が落ちる――そして0番のポケットに落ち込んだ。
―――賭博師共の歓声と、嘆きが湧き起こる。
「残念でしたね、ヘッジホッグ様。またの挑戦をお待ちしております」
ディーラーが憎らしいほど爽やかな笑みを浮かべた。
器用な事に、右手は淀みない所作でテーブル上のコインを寄せ集めている。
「……金貨十枚が野郎の微笑みと引き換えじゃあ、あまりに残酷だと思わないか?」
テーブルを挟んでディーラーの前に立つ男が皮肉を零した。
赤髪蒼眼、収斂された流麗な体躯、身に纏うのは高級感漂うストライプスーツ。
名は――自称、ヘッジホッグ・ザ・ゲーマー。
そのふざけた名を誰一人として信じてはいない。
が、本人含め、それで誰かが困る事もなかった。
手のひらの上には賭け金にもならない銅貨が一枚。
ディーラーはその微笑みがよほど改心の出来だったのだろう。
客との、より正確には“元”客とのコミュニケーションを図ろうともしない。
赤髪は黙ってテーブルに背を向けた。
名前:ヘッジホッグ・ザ・ゲーマー
種族:非人
性別:男
年齢:外見的には二十代後半
技能:賭博師の手捌き/金の気配を探る感性
非体系的な体術と魔術/とある一つの非魔術的現象の喚起
外見:赤髪蒼眼、高級スーツ、引き締まった肉体
装備:錠前を模した指輪
操作許可指定:応相談
設定操作許可指定:応相談
街に出る。
可及的速やかに必要なのは、リベンジマッチだ。
そしてその為の軍資金。
幸いな事にこの街で、金儲けの手段には困らない。
(……それも、路上パフォーマンスのパスを買う元手があれば、だがな)
なにせここは交響都市艦、あらゆる芸能の集う都だ。
右を見れば道化師姿の男が水晶球とダンスを踊っている。
左を見れば――万能包丁を目の前にしたマンドレイクが恐怖の悲鳴を上げようとしている。
誰か一人くらい失神しないものかと赤髪は観客を遠巻きに見守る。
無論、倒れた後で財布を漁る為だ。
――非常に遺憾な事に、被害者は誰も出なかった。
>「嫌ぁああああああああああああああ!! 絶対食べたくねーーーーー!!
飯はフツーにしよう。ケッタイなもの食べさせられたらかなわん!」
―――だが金づるは見つかったようだ。
見るからにお上りの団体様。即座に目をつけて、後をつける。
>「日替わり定食をお願いします!」
「やめておけよ。流石のこの街も、病院の天井には何の絵も描いてない。つまらんだけだ。
おい店主、さっきのオーダーはキャンセルだ。
……そうしょげた顔をするな。そう美味くない飯が余計不味くなったらどうする」
声高に注文を叫んだ女――? の肩に手を置き、頭越しに店主を呼び止める。
それから視線を落とし、お上り達と目を合わせた。
「この街のメニューは少し特殊でな。
『日替わり定食』と書いて『どうにでもして』と読むんだ。
自家製ホムンクルスの塩漬けなんて出された日には、暫くダイエットが捗る事を保証する」
友好的な微笑み――あのいけ好かないディーラーを思い出し、やや引き攣る。
「アンタ達、フェネクスは初めてか?覚えておくといい。
この街の奴らには常識ってモンがない。油断してると、えらい目に遭うぞ。
俺ぐらいだな。アンタ達みたいなお上りに、親切にも声をかけてやるのは」
嘆かわしいと言いたげな身振り手振り。
機を見計らい、右手に隠した銅貨を取り落とす。
小気味いい音が響き、刹那、赤髪の眼に鋭い光が宿った。
――――欲深き者を思わせる、既視感を誘う蒼眼に。
「……あぁ、そうだ。野宿をするならカリスト広場がイチオシだ。
あそこの植物園は寝床に困らないし……天井を見上げれば女神像が慰めてくれるさ」
不可解な助言を残し、赤髪は立ち去る。
恵まれない料理人の鍋に銅貨を放り込んでやった。
賭け金にもならない端金の用途はもう終わった。
男の懐には、リベンジマッチへのチケットがあった。
銅貨を落とした一瞬の隙に掠め盗った、お上り達の財布だ。
>「今ッ! 食材が解き放たれました! マンドレイク、奇声を発するが……動じない!
>見事な包丁さばきだあ! 筋に沿って着実に捌かれていきます!! まさに芸術ッ!」
連れられてきたのは、生体のマンドレイクだ。
人間の子供よりも一回りほど大きいそれは、確かに植物版ゴブリンにも思える。
実際の所、それほど強くはないものの、立派なモンスターの一種であるため、危険な一種だ。
とは言ってもヤマゴエシェフも超一級の冒険者であり料理人であり歌手でありダンサーだ、問題ない。
数度の剣閃のぶつかり合いを経て、ヤマゴエが一閃でマンドレイクを開きにしてしまった。
>「嫌ぁああああああああああああああ!! 絶対食べたくねーーーーー!!
>飯はフツーにしよう。ケッタイなもの食べさせられたらかなわん!」
「うっわあ、マンドレイクか……、ここんところ喰ってねぇな、懐かしい。
鍋とかやんのかねェ……、ってなんだお前喰ったことねぇの?」
ゲッツはといえば、普通に涎を垂らしそうな感じで視線を開きにされながら断末魔の声を響かせるマンドレイクを鑑賞中。
何を隠そう、ゲッツの出生地である高山地帯では、マンドレイクは貴重な食料の一つなのである。
珍味でもなんでもなく、日常的に鍋にしたり、天日干しにして炒めものにしたり、ご飯のお供に漬物にしたりする。
あまりの僻地の為にそれほど広まっては居ないが、糠に数年漬ける事で毒性を弱めたマンドレイクの糠漬けは知る人ぞ知る食材でもある。
要するに、周りの人々がゲテモノとしてマンドレイクに目線を奪われているなか、こいつだけ普通に食材として思考を巡らせていたのだ。
解体を終えて販売に移りつつ有ったが、全力でフォルテがその場から動き出したため、ため息を突きながら追いかけていくゲッツ。
歩幅に決定的な差が有るため、程なくして追いついて、すぐ近くの冒険者の店に転がり込む。
>「日替わり定食をお願いします!」
>「やめておけよ。流石のこの街も、病院の天井には何の絵も描いてない。つまらんだけだ。
> おい店主、さっきのオーダーはキャンセルだ。
> ……そうしょげた顔をするな。そう美味くない飯が余計不味くなったらどうする」
注文をしたフォルテを制するように、後ろから男が割り込んで肩を置いた。
僅かに目線をずらして、にぃ、とゲッツは笑みを浮かべる。
戦士だ。少なくとも、欲と向きあい戦い合うだけの気概が有る男は、嫌いではない。
友好的な笑顔を浮かべる相手だが、ゲッツは経験上こういう相手こそ最警戒すべきであると知っていた。
>「この街のメニューは少し特殊でな。
> 『日替わり定食』と書いて『どうにでもして』と読むんだ。
> 自家製ホムンクルスの塩漬けなんて出された日には、暫くダイエットが捗る事を保証する」
>「アンタ達、フェネクスは初めてか?覚えておくといい。
> この街の奴らには常識ってモンがない。油断してると、えらい目に遭うぞ。
> 俺ぐらいだな。アンタ達みたいなお上りに、親切にも声をかけてやるのは」
それはそれでスリルが有って面白そうだし、出てくるならホムンクルスだろうがマンドレイクだろうが食べる積りであった。
それでも、相手なりに何らかの意図がありながらもの助言には感謝をしておく。
相手の目線に僅かに宿った蒼い光に、ゲッツは反応を覚える。胸元のfを象った傷が僅かに赫く光った。
>「……あぁ、そうだ。野宿をするならカリスト広場がイチオシだ。
> あそこの植物園は寝床に困らないし……天井を見上げれば女神像が慰めてくれるさ」
結びの言葉を告げつつ、立ち去っていく赤髪の男。続いて聞こえたのは風切り音。
その男の目の前を銅色が翔けた。真横の壁でとん、と小さな音がする。
壁にびぃん、と突き立っていたのは銅貨。相手が料理人の鍋へと放り込んだそれだ。
「――へェ、あんた。割りと出来るタチだろ?
ま、いい。お得な情報感謝するぜ? 礼だ――俺の財布、金ねェからな」
財布を確認してみれば分かる。竜人のボロボロの財布には一銭たりとも金が入っていないのを。
そもそも、ローファンタジアであの戦いに参加した理由が喰い詰めていたから。
あれ以降、まともな金銭的報酬が与えられる仕事をしていないのだ、金が入っていると思うほうが間違えだ。
自分の財布に言及し、礼に硬貨を相手によこす。その行動から理解できるかもしれない。
この竜人、赤髪が財布を盗んだことをとうに看破しているということが。
>「やめておけよ。流石のこの街も、病院の天井には何の絵も描いてない。つまらんだけだ。
おい店主、さっきのオーダーはキャンセルだ。
……そうしょげた顔をするな。そう美味くない飯が余計不味くなったらどうする」
いきなり現れた赤髪の青年が日替わり定食のオーダーを阻止する。
知らず知らずのうちに物凄くチャレンジャーなものを注文していたらしかった。
>「アンタ達、フェネクスは初めてか?覚えておくといい。
この街の奴らには常識ってモンがない。油断してると、えらい目に遭うぞ。
俺ぐらいだな。アンタ達みたいなお上りに、親切にも声をかけてやるのは」
やたら大袈裟な身振り手振り。金属音が響いた場所を見てみると、銅貨が落ちている。
それを拾いあげて渡しながらお礼を言う。
「ありがとう、危ない所だったよ〜。どうするゲッツ? ハンバーガーでも食べる?
……どうした?」
この前ドナルドやらハッピーセットやらで大騒ぎしたのにハンバーガー食べる気がするのかって?
あれだけ色々あればもう時効だ。喉元過ぎれば――ってな!
それはそうと、ゲッツが何やら警戒している。
>「……あぁ、そうだ。野宿をするならカリスト広場がイチオシだ。
> あそこの植物園は寝床に困らないし……天井を見上げれば女神像が慰めてくれるさ」
「植物園で野宿? それも楽しそうかもね。この都市は空に近い分星が綺麗に見えるんだろうなぁ」
半分妖精にオレにとっては植物の寝床で野宿はアリだ。
いい情報を教えてくれた赤い髪の男を見送ろうとした時だった。
銅貨が赤髪の男の前を横切り壁に突き刺さる。
>「――へェ、あんた。割りと出来るタチだろ?
ま、いい。お得な情報感謝するぜ? 礼だ――俺の財布、金ねェからな」
「何? もしかして情報料ってやつ!? それぐらい払うよ」
レッグポケットに手を入れる。――無い。マジックテープ式のスタイリッシュな財布が無いぞ!
ゲッツが警戒していた理由がようやくわかった。
財布を掏られる隙があったとすれば一瞬だけ。銅貨に気を取られたあの時だ――!
何も気付いてない風を装ってモナーをキーボードに変化させる。
「……財布落としちゃったみたい。歌でお礼させてもらうね」
無関係の所に気を引いて注目させておいてその隙に目的を遂げる、その手捌きが出来る職業は限られてくる。
マジシャン? いや、財布を掏るような奴だ。多分そんないいもんじゃない。だとすれば残るは――
「一攫千金宝くじ 当たれば人生舐めプレイ テレビのCM真に受けて 億万長者さ
買っても買っても当たらない 増えてく増えてく紙屑が 当選番号39組×××××××破産寸前です
一二の三で喜んで 四五六で泣きだした 全財産をぶち込んで すべて水の泡
死にたくなるような喪失感 諦めきれない衝動が 心の底からパンクして 発狂しますか?
熱いの熱いよシングルボーナス 寒いの寒いよワンペアツーペア
祭りだ祭りだもっと騒いでよ らたたそいやさっさ 壊して壊してぐちゃぐちゃにして 鳴らして鳴らしてもっと鳴らして
言葉になれない単語の羅列を 並べりゃりんろ バイバイ バイバイ 人生バイバイ」
“ギャンブルシンドローム”――歌詞を見れば分かる通り、ギャンブルする気が凄まじく萎える呪歌である。
人の足取りの軽さは懐の重さに正比例する。
賭博師の人生哲学の一つだ。
つまり今、赤髪の歩調は街中で謡い、奏で、踊る楽団よりもなお軽やかだ。
『やぁ友よ! 随分と幸多そうな顔をしているね!
どうだい。君も僕らと一緒に踊って、
ついでに少しばかりのお金を落としていく気はないかな?』
「――正直なのは良い事だが、頼み方がなってないな。
金を落として欲しけりゃ、こうするんだ。
コインを入れて、レバーを引いて、ボタンを三つ押す。分かったか?」
店を出てすぐに絡んできた、金に敏感な楽師を軽くあしらい、先の収穫を取り出す。
まずは一つ目、見るからに貧相な襤褸の財布。
中身の程はというと、見た目以上に最悪だった。
「……アイツ、何の為にこの街に来たんだ?」
少なくとも賭博に溺れる為でない事だけは確かだ。
が、ともあれこの財布は最早、身分証明くらいにしか用途がない。
――無論、証明される身分とはスリの事だ。
「ツイてないな。俺も、アイツも」
赤髪は屑籠を探すべく首を左右に回す。
――切れ長の蒼眼のすぐ横を、赤銅色の閃きが突き抜けた。
一瞬遅れて視線が赤の軌跡をなぞる。
先ほど放った筈の銅貨が石壁に突き刺さっていた。
>「――へェ、あんた。割りと出来るタチだろ?
ま、いい。お得な情報感謝するぜ? 礼だ――俺の財布、金ねェからな」
>「何? もしかして情報料ってやつ!? それぐらい払うよ」
振り返れば突き刺さるお上り二人の眼光。
使用されている染料は闘争心と猜疑心といった風情。
「……もしかして、ツイてないのは俺だけだったか――!」
>「……財布落としちゃったみたい。歌でお礼させてもらうね」
魔力の揺らぎに赤髪が後退り、しかし歌声は苦もなく彼我の距離を渡り切る。
"響き渡る博徒殺しの呪歌"
――瞬間、歌声が、音律が、爆ぜた。
歌い損ねたのではない。お上り改め精霊楽師の唇が紡いだ音色に乱れはなかった。
呪歌は赤髪に触れてから、悲鳴へと変質したのだ。
灼熱の鉄板に落ちた一滴の水か、聖界に迷い込んだ惰弱な悪霊のように。
「――悪くない歌声だが、シンガー・ソングライターになるにはセンスが足りないな。
ギャンブルってのは嫉妬を楽しむモンだ。
運命の女神と踊りながら、その肩越しに見える破滅のお嬢様の眼光をな」
――後悔も喪失感も、慣れれば皆いい女だ。
「そして――分かっていないようだから教えてやるぜ。
ギャンブルに溺れれば人生が破滅する? いいや違うね。
破滅もまた、人生の一つなのさ」
歌声に呼応して赤髪から零れる蒼の燐光。
前髪を指で摘み、その事に気付き、溜息を一つ。
「まぁ、その歌声があれば宿代くらいはどうにかなるんじゃないか。
……開演パスを買う金さえあれば、だがな」
赤髪が踵を返し、石畳を蹴る。
疾駆、疾駆、疾駆。人混みをすり抜けて逃走する。
路傍に置かれたペンキ缶が蹴っ飛ばされて、また一つ街に新たなアートを刻んだ。
『オイ!ちょっと待てアンタ!―――この落書きのタイトルを記すのを忘れてるぞ!』
「――勝手に決めておけ!著作権法に違反しないなら何でもいい!」
駆け抜ける先は森だ。ただし立ち並ぶのは樹木ではなく無数の彫刻郡。
筋骨逞しい戦士像の陰を走り、象牙色の貴婦人とワルツを交わし、広場の中央へ。
『なぁ、悪いけどそこの彼女をもう少しこちらに近づけてくれないか。
――ギリギリで胸に手が届かないんだ』
『ねぇ貴方。もしよろしければ、そこのアホをもう少しこちらに寄せて下さいな。
――辛うじて、横面に手が届きませんの』
「揉んでも硬いだけだし、張っても手が痛いだけだろうな!
どうしてもって言うなら後から来る二人に頼め!」
逆立ちした巨神像、製作者曰くこの交響都市艦を支える守り神の元へ。
人差し指から手首へ、手首から肘へ、軽やかに巨体を登っていく。
そこから通り脇のビルの屋上へ飛び移り、隣の通りに降りた。
「――まったく、随分と寄り道をさせてくれたな。
だがまぁ……いい観光ツアーになっただろう。
この財布は料金代わりって事にしといてくれ」
フォルテにちらと目配せをしてみると、どうやらフォルテも状況を察した模様だ。
こいつは強かだ。そうゲッツは理解している。
気づかないならまだしも、気づいた上で何もしないほど悪戯心が無いやつではない。
>「何? もしかして情報料ってやつ!? それぐらい払うよ」
>「……財布落としちゃったみたい。歌でお礼させてもらうね」
モナーをキーボードに変形させ、なんて事無しに曲を弾き、歌い出すフォルテ。
一音が空間を震わせ、肺から送り出される空気は、口という楽器を通ることで魔力を含んだ呪歌を生み出していく。
>「一攫千金宝くじ 当たれば人生舐めプレイ テレビのCM真に受けて 億万長者さ
略
>言葉になれない単語の羅列を 並べりゃりんろ バイバイ バイバイ 人生バイバイ」
賑やかな旋律は、如何にもフォルテが歌いそうな歌。
だがしかし、その歌詞の内容に思考を巡らせてみれば、フォルテの選曲は悪意にまみれていたと言えただろう。
曲名、ギャンブルシンドローム。如何にもその手の雰囲気を漂わせるヘッジホッグにとっては、余りいい印象を与えるものではないだろう。
その横で、ゲッツは静かに目を瞑って意識を集中させていた。
フォルテの紡ぐ音律に合わせて胸元の傷からは力が漏れつつあって、それの制御に意識を向ける。
この手の輩ならば、ギャンブルに負けることすら恐らく――。
>「――悪くない歌声だが、シンガー・ソングライターになるにはセンスが足りないな。
> ギャンブルってのは嫉妬を楽しむモンだ。
> 運命の女神と踊りながら、その肩越しに見える破滅のお嬢様の眼光をな」
>「そして――分かっていないようだから教えてやるぜ。
> ギャンブルに溺れれば人生が破滅する? いいや違うね。
> 破滅もまた、人生の一つなのさ」
予想通り。この手の馬鹿野郎は嫌いではない。
ゲッツは小さく口元で呟くと、犬歯をむき出しにして額を抑えて含み笑いを漏らし始めた。
馬鹿騒ぎだけの詰まらない街かと思えば、こんな輩も居るものか。
さり気なくゲッツは、フォルテの傍らに摺り足で移動しておく。
無頼は相手だけではない。ゲッツもまた、無頼の輩。ジャンルは違えど社会不適合者。
ならば、この手の輩がしでかす行動は、ダメ人間(竜人)としてある程度予測できるものだ。
>「まぁ、その歌声があれば宿代くらいはどうにかなるんじゃないか。
> ……開演パスを買う金さえあれば、だがな」
「ひハッ……! わかってたぜそう来るのはよォ!
いいなァ、最ッ高のアトラクションをご提供してくれるじゃねぇか! 行くぜフォルテ!」
破裂するような笑い声と同時、ゲッツもまた石畳を陥没させながら初動を開始。
後にその足あとが恐竜の足あとという名のアートとして街の彩りとなってしまうのは今は誰も知らない。
傍らのフォルテをひっ掴んで肩に担ぎ上げると同時に、ゲッツも相手の動作を追っていく。
『プロデューサーさん! フェネクスですよ! フェネクス!』
『フェネクスでライブ……、まあ、なんでも、いいですけど――――きゃ!?』
『マンドレイク……まこと面妖なものもあるものですね』
『うぎゃー! ハム蔵がホムンクルスと一緒に塩漬けにされそうになってるぞー!』
最近話題の新人アイドルグループ――――恐らく今回の音楽祭に出るのだろう。
彼女らの内数人は、全力疾走するヘッジホッグ達に驚きの声を投げかけて。
しかしその音の尾を引きちぎる速さで、ゲッツ達は加速を続け、街を巡り廻っていく。
>『オイ!ちょっと待てアンタ!―――この落書きのタイトルを記すのを忘れてるぞ!』
ヘッジホッグがペンキを蹴飛ばし、壁に染料で自己表現を刻み込み。
そのタイトルとばかりにゲッツが右手の爪を一閃。
深々と己の爪あとを壁に残して、犬歯をむき出しに笑顔を見せて。
「スリと楽師と超イケメン竜人戦士で頼むわ!」
と言い残して、森の中へと駆けていく。
石の森の土の感覚は、ゲッツの足には馴染み深いもの。
石畳よりも、やはりこの手の自然の感覚がゲッツにとっては好ましいものだ。
喋る二つの石像を見れば、尻尾で二つの石像をぶっ叩いておく。
ずおん、と滑りながら二つの石像はフォーリンラブ、衝撃音と一緒に両方倒れこんでしまう。
ぐるりぐるりとこの街の中を駆けて駆けて、森の出口――巨神像をするりと登っていく相手を見て、口笛を吹いた。
「だが、まあ――相手が悪かったな、翔べんだよこっちはヨォ!
ヒィイヒャハヒャハハハハハハハハハハハハハッハハ――――!!」
加速のままに地面を蹴れば、ゲッツはフォルテを担いだままに高笑いを引き連れて天空へ。
背中から吹き出す赤い光で出来た翼が空を叩き、天からヘッジホッグを負う。
重力の軛に逆らわず、ゲッツは空から一気に通りへと垂直落下。膝というサスペンションを最大活用して地面へと着地した。
>「――まったく、随分と寄り道をさせてくれたな。
> だがまぁ……いい観光ツアーになっただろう。
> この財布は料金代わりって事にしといてくれ」
「――俺の財布を持ってくってのも奇特な奴だなァ?
まあ、良い。どうせリーフが財布持ってるだろうし……、
それに俺の懐は財布取られたくらいで痛むわけでもねぇし……、元から金なんて無ぇからな?
フォルテが良いって言うかどうかだな。俺はどうでも良いし? 野宿には慣れてるしよ。
どっちかっつーと、俺もアンタの考えに賛成だ。酸いも甘いも噛み分けてこその人生よ、なあ?
一文無しの財布で楽しめるアトラクションにしちゃ、大分気が効いてたんじゃねぇかね」
案外にも、この強面竜人は相手を無理やり追求するようなことはしなかった。
相手の度胸の座りっぷりと行動力を前に、多少ながらも機嫌を良くしたのだろう。
強者との試し合いというものは、竜人種――それもハイランダーならば、もはや習性といっても良いもの。
単純な娯楽よりも、この手の物事の方がゲッツの心は強く震わせられるのだ。
「――悪くない歌声だが、シンガー・ソングライターになるにはセンスが足りないな。
ギャンブルってのは嫉妬を楽しむモンだ。
運命の女神と踊りながら、その肩越しに見える破滅のお嬢様の眼光をな」
ギャンブル依存症の治療に絶大な効果を発揮する呪歌が効かない――だと!?
末期も末期、残念ですが手の施しようがありませんってやつだ!
>「そして――分かっていないようだから教えてやるぜ。
ギャンブルに溺れれば人生が破滅する? いいや違うね。
破滅もまた、人生の一つなのさ」
「恰好良さげな事言っても駄目なもんは駄目―――ッ!! 諦めてさっさと返せよ!」
返せと言って返す奴はいないわけで、駄目ギャンブラーは逃走を始めた。
>「ひハッ……! わかってたぜそう来るのはよォ!
いいなァ、最ッ高のアトラクションをご提供してくれるじゃねぇか! 行くぜフォルテ!」
ひょいっと肩に担ぎ上げられて文字通りアトラクション状態に。
財布盗られたというのに無駄に楽しそうだなこいつ! つられて歌いたくなってしまった。
“デッドラインサーカス”――楽しくて賑やかでそれでいてちょっぴり危険なこの街にぴったりの歌。
「どうかしてんだ火遊びショータイム おどけたピエロ燃やせ
導火線に火をつけろ 偽りの笑みは有罪だ(Guilty) 『今日盛況!』って強制しちゃってんだ
空虚に十字切ったら さぁ、いくぜ? stand up! Ready? デッドラインで踊れ!」
>『プロデューサーさん! フェネクスですよ! フェネクス!』
「そこのキミもステージに立ってみないかい?
ちょうどさっきピエロ役が灰になった・・・・・・じゃないや いなくなったところだ さあ、ようこそ!」
アイドルグループのような集団が騒いでいる横を駆け抜ける。
さっきからやたらお上り音楽ユニットみたいな一団が多いような気がするんだけど、何かイベントでもあるのだろうか。
ゲッツはそんな事は気にも留めず、壁に爪痕を刻み、石像をぶっ倒しながら爆走する。
やがて駄目ギャンブラーが巨大な石像を上っていくのが見えた。勝負あり!
>「だが、まあ――相手が悪かったな、翔べんだよこっちはヨォ!
ヒィイヒャハヒャハハハハハハハハハハハハハッハハ――――!!」
「キャハハハ! ざーんねーんでーしたーーーー!!」
高笑いを響かせながら駄目ギャンブラーの目の前に着地。
追いつめられたギャンブラーはすみませんでしたー!となる……と思いきや……
>「――まったく、随分と寄り道をさせてくれたな。
> だがまぁ……いい観光ツアーになっただろう。
> この財布は料金代わりって事にしといてくれ」
この期に及んでその言い草!? やべーよ、ゲッツにぶっ飛ばされるぞ!?
そう思って恐る恐るゲッツの顔色をうかがう。
「――俺の財布を持ってくってのも奇特な奴だなァ?
まあ、良い。どうせリーフが財布持ってるだろうし……、
それに俺の懐は財布取られたくらいで痛むわけでもねぇし……、元から金なんて無ぇからな?
フォルテが良いって言うかどうかだな。俺はどうでも良いし? 野宿には慣れてるしよ。
どっちかっつーと、俺もアンタの考えに賛成だ。酸いも甘いも噛み分けてこその人生よ、なあ?
一文無しの財布で楽しめるアトラクションにしちゃ、大分気が効いてたんじゃねぇかね」
何故か通じ合ってるしこいつら! アンタら一応窃盗犯と被害者だからね!?
なんかもうどうでもよくなってきた。歌の一節で応える。
「愉快なデッドラインサーカス ふざけた夢に耽溺(たんでき)しようか デタラメな夜を歌え!」
――そんなはした金ぐらいくれてやる、お望み通り破滅しやがれ!
通帳やカードがリーフに完全管理されている事を今ばかりは感謝した。
一文無しで飯代とか器物破損の弁償代とかがどこから出ているかというとリーフが出しているのだ。
それがどこから来ているかというと多分オレの年金のような……。仲間の年金で旅する勇者! これって前代未聞かも!?
「良かったな、ゲッツが一文無しで。お小遣い程度しか入ってないけどあげるよ。 その代わりその財布は是非使ってほしいな!
ついでにもうちょっと観光ガイドしてくれるかな。この街はもう長いんでしょ?
音楽グループがたくさん来てるみたいだけど何かイベントでもあるのかい?」
赤髪は危なげなく着地を果たした。
軽く息を吐き、視界を侵食する乱れた赤髪を一動作で纏め上げる。
全方位から射出される精神攻撃魔術、通称『白い目』を意にも介さず歩き出した。
『――俺の財布を持ってくってのも奇特な奴だなァ?』
――直後、眼前に先のお上り二人組が降ってきた。
「……人聞きの悪い事を言うな。これだけを返しにいくタイミングがなかっただけだ」
『まあ、良い。どうせリーフが財布持ってるだろうし……、
それに俺の懐は財布取られたくらいで痛むわけでもねぇし……、元から金なんて無ぇからな?
フォルテが良いって言うかどうかだな。俺はどうでも良いし? 野宿には慣れてるしよ。』
「あぁ、なるほど。アンタも同じ穴の狢って訳だ。
優秀な財布(ツレ)を持っているようで、羨ましいぜ」
『どっちかっつーと、俺もアンタの考えに賛成だ。酸いも甘いも噛み分けてこその人生よ、なあ?
一文無しの財布で楽しめるアトラクションにしちゃ、大分気が効いてたんじゃねぇかね』
「そう思うなら、次からは中身のある財布を持ち歩いてくれ」
懐からシガーケースを取り出し、煙草を咥える。
揺れる紫煙の中、煙草の匂いに紛れて仄かな蜂蜜の香りが漂う。
“儚い希望”の銘に相応しいインセンスだ。
『愉快なデッドラインサーカス ふざけた夢に耽溺(たんでき)しようか デタラメな夜を歌え!』
「なるほど――で、『いつの』夜を歌えばいいんだ?
全て合わせると覚えている限りでも、
ちょっとしたオペラを演じる羽目になるんだが――」
『良かったな、ゲッツが一文無しで。お小遣い程度しか入ってないけどあげるよ。 その代わりその財布は是非使ってほしいな!』
「……あぁ、有難く有効活用させてもらうさ。
―――灰皿が見当たらない時には重宝しそうだ」
『ついでにもうちょっと観光ガイドしてくれるかな。この街はもう長いんでしょ?』
「……構わないぜ――ただし無料お試しコースはさっきので終了だ。
今後は別料金の追加オプションが随時、無断で加算されていく。
頼りの財布と話を付けておいてくれ」
>『音楽グループがたくさん来てるみたいだけど何かイベントでもあるのかい?』
「イベント……?そう言えば、あのいけ好かないディーラーが何か言ってたな。
確か――――――なんだったかな、忘れちまった。
まぁ、少し歩けば案内板がある。そこまでガイドしてやるよ」
模範的な観光ガイドに相応しい言動。赤髪は歩き出す。
賭博師の降り立った『人筆通り』にはオブジェも落書きも無かった。
あるのはただ一枚のキャンバスだけ。
「おっと忘れてた。
お客様、足元にご注意下さい―――当艦最高級の絵画が御座います。
間違ってもお踏みになりませんようお願い致します」
通行者が地面を靴裏で叩く度に彩りが踊る。
ある者は抜けるような空色、ある者は落ち着いた新緑、ある者は目が眩むほどの金色。
――人の足跡、歩み方、生き方を絵画化する魔法のキャンバス。
とある凄腕の絵描きが施した、人物画の極致だ。
「なんてな。このキャンバスは――――詳しい説明が道端にボードが立ってる。それを見てくれ。
出来る事ならここはあまり通りたくなかったって事なら、覚えてるんだがな」
赤髪が可能な限り足元を見ないように歩き出す。
その足跡は蒼を主軸に金や灰、黒に桃、幾多の色が滲み、混じり合っている。
一つの存在に数多の色―――あり得ない色調だった。
「……あったぞ。今回の音楽祭、テーマは――――『星の巫女』だそうだ」
赤髪の手が案内板から一枚のビラを破り取る。
【君のアイドルを星の巫女にしよう!
交響都市艦フェネクス主催・星誕祭・まもなく開催!
本祭は先日ローファンタジアで起きた大厄災の復興支援チャリティコンサートであり、
また同件にて大怪我を負われた星の巫女の代役を選出する為のオーディションです。
審査は会場に施陣された魔法陣により、
各参加者がパフォーマンスを行った際に生じる観客の高揚や一体感を観測し、
それを基準に行います。
また、その強い感情こそがアイドル達を星の巫女へと押し上げる為の鍵となります。
彼らは皆様のご声援を何よりも必要としております。奮ってご参加下さい
なお、本祭で得られた収益は全てローファンタジア復興推進委員会へ寄付されます】
「なるほどな――偶像崇拝もここまで来れば立派なモンだ。
……なんだ、興味ありげな顔だな。
まさかお前も、出来合いの神様に祈りを捧げに行きたいってクチか?」
>>204 「ピザにあって」「お好み焼きにないもの」「「な〜んだ?」」
デートを楽しんでいるアサキムとアヤカに、どこからか突然の謎掛け。俗に言うあるなしクイズというものである。
答える答えざるにかかわらず、両側の建物の屋上から降り立つ二つの影。
アサキムが飛び退った次の瞬間、その場所に金属音と共に石畳に巨大な鋏が突き立てられ、石片が飛び散る。
降り立ったのは道化師をモチーフとした服装をした男女二人組。
巨大な鋏を携えているのは、道化師風の服を着た少年。
もう一人は、同じく道化師風の服に身を包み巨大なクレヨンを携えた少女だ。
「異界からのエンターティナー」「ナイト」「「あーんど」」「アルト」「「見☆参」」
「どうしっさま〜」「あっそびっましょう〜♪」
服装等この街においては何ら違和感は無く、どう見てもコスプレイヤーが過激にふざけているようにしか見えない。
しかしアサキム達には分かるだろう。彼らが人で非ざる存在である事が。
「遊んでくれなきゃ」「この街」「落とそっかな〜」
無邪気に言葉を続ける彼らは、どこまでも透き通った瞳で笑っていた。
>>「ピザにあって」「お好み焼きに無いもの」「「な〜んだ?」」
「っ?空耳か?」(ゼロなりきり継続中)
立ち去ろうとしたら
「な〜んだ人外か」(こちらも、C.C.モード継続中)
あっさりと、見抜く二人
>>「異界からのエンターテイナー」「ナイト」「あ〜んど」「アルト」「「見☆参」」
>>「どうしっさまー」「あっそびっましょ〜」
「良いが、ちょっとたんま」
アサキムは、ゼロの格好じゃあんまりだが、戦えないので
アサキムの姿へ戻った。
「さて、なにして遊ぼうか、鬼ごっこする?」
そう言うと、アサキムとアヤカは、反対の方向へ、向かった
(左の感覚が、失せ始めてる。不味いな。)
これは、分散もあるが、もう一つ目的があり、
(いま、天のアインソフオウルは使えない、強制屈服という手はない)
(なら、思いっきりやるには、もっと広いところへ行くしかない。)
今の、アサキムには、二人を、纏めて相手にする余裕が無かった。
故に、アヤカに、向こうの敵を一任してしまう羽目になった
(心配はしてないがな)
アサキムは、銃の召還用意をしながら、広いところへ向かっていた
>「あぁ、なるほど。アンタも同じ穴の狢って訳だ。
> 優秀な財布(ツレ)を持っているようで、羨ましいぜ」
「昔から運だけはやたらといいんだよなァ。
あと、俺の懐の財布は呉れてやってもいいが、俺の肩の上の財布[ダチ]はくれてやる訳には行かねぇわな。
って事で、こいつは俺のもんだから、ダメな。おーけぃ?」
楽しそうに竜人は談笑しつつ、犬歯をむき出しにしていい笑顔を相手に向けた。
ちろりと口の端から肉の舌と火の舌が飛び出している当たり、笑顔の本質もその中には多分に含んでいただろう。
相手が加えたタバコの煙に鼻先が反応し、鬱陶しげに腕を振るえば、煙が吹き飛ぶ。
竜人の嗅覚は敏感だ。鼻孔を塞げば煙を遮断する事は出来るが、煙ごときに屈服する積りはない。
フォルテと軽口を叩き合うヘッジホッグの様子を見て、なかなかに強かな野郎だ、と再評価。
その上で、相手から感じられる胡散臭さ以上の何かに、また見定めるように竜人は目を細めるのであった。
>「良かったな、ゲッツが一文無しで。お小遣い程度しか入ってないけどあげるよ。 その代わりその財布は是非使ってほしいな!
>ついでにもうちょっと観光ガイドしてくれるかな。この街はもう長いんでしょ?
>音楽グループがたくさん来てるみたいだけど何かイベントでもあるのかい?」
>「……構わないぜ――ただし無料お試しコースはさっきので終了だ。
> 今後は別料金の追加オプションが随時、無断で加算されていく。
> 頼りの財布と話を付けておいてくれ」
「ま、俺達みてーなおのぼりから巻き上げる積りだってんなら止めやしねぇさ。
ただ、俺の肩の上のお調子者は別として俺の方は守銭奴でヨ。相応に交渉くらいはさせてくれよ?」
鋭い爪をしゃりん、とこすり合わせつつ、いつの間にか手元には酒瓶が。
ニガヨモギの風味が強いそれを一口喉に流しこんで、幸せそうに酒臭い吐息を吐き出した。
竜人の肝臓は強い。成分に向精神作用があろうが、知ったこっちゃない。
>「イベント……?そう言えば、あのいけ好かないディーラーが何か言ってたな。
> 確か――――――なんだったかな、忘れちまった。
> まぁ、少し歩けば案内板がある。そこまでガイドしてやるよ」
「あいつは、音楽祭、とか言ってたっけか。思えば、もうちょい詳しいとこ聞き出しときゃよかったなぁ」
そう言いつつ、歩き出した赤髪を追うように、2mを越す巨体は悠々と歩いて行く。
人混みはいつも通りに開けていき、きょろきょろと周囲を興味深げに見回す様はまさにお上り。
辿り着いた『人筆通り』の足元を見ると、にたりと笑顔を浮かべるのだった。
「良い魂が聞こえるじゃあねえか、なあ」
ゲッツの足元を彩る色は、目にしたものを焼きつくさんばかりに鮮烈な真紅。
肩に担いだフォルテのそれも混ざっているのか、時折違う色もそれに食い込んでいた。
道行く人々の足元を見比べて、同時にヘッジホッグの足元を見る。
何でもかんでも、沢山の色が混ざり合う光景は、ありえない色調であると同時に、どこか歪で、醜くも見えた。
だが、その有様はゲッツにとっては生々しい欲を感じさせるもので、そう嫌いなものでもなかった。
「――そんなに沢山ってのも、欲張りすぎねえかなァ。
強欲≠セろ、お前さん。まあ、ギャンブラーってのは得てしてそういうもんかも知んねぇけどさ」
>「……あったぞ。今回の音楽祭、テーマは――――『星の巫女』だそうだ」
見せられたビラに視線を動かして、ほぉ、と声を漏らすゲッツ。
代役。あの戦場に居た、あの女の代役が、そう簡単に務まるのだろうか。
ゲッツは、あの戦いの顛末を見ることが出来なかったが、そう思わざるを得なかった。
>「なるほどな――偶像崇拝もここまで来れば立派なモンだ。
> ……なんだ、興味ありげな顔だな。
> まさかお前も、出来合いの神様に祈りを捧げに行きたいってクチか?」
「――代役ってのが気に食わねぇよなあ、そうだろ、フォルテよォ。
なあオイ、賭博師。これ、まだ出れるか? いや、出れねぇにしろ受付会場とか、事務局は有るよなあ?
案内しな。金ならこいつの年金から出るからよ」
肩の上の妖精と人間のハーフを指差しつつ、ゲッツはいい笑顔を浮かべて。
この祭りに、観客としてではなく出場者としてあろうことか参加しようとゲッツは言いたかったのだ。
ただ……この男も出るつもりまんまんなのだろうが、鱗ピカピカのプロレスラー体型の竜人の需要は有るのだろうか。
まあ、あろうがなかろうが出ると決めれば出るのが、この竜人なのだが――。
>「イベント……?そう言えば、あのいけ好かないディーラーが何か言ってたな。
確か――――――なんだったかな、忘れちまった。
まぁ、少し歩けば案内板がある。そこまでガイドしてやるよ」
赤髪の男は案外乗り気で、追加観光ガイドが始まった。
それにしても担がれているだけでいいとはナイスな観光ツアーである。
やがて、この街にしては珍しく落書きもオブジェも無い通りに出る。
>「なんてな。このキャンバスは――――詳しい説明が道端にボードが立ってる。それを見てくれ。
出来る事ならここはあまり通りたくなかったって事なら、覚えてるんだがな」
ゲッツの足元を見てみると、炎のような強烈な真紅。
その中に時折違う色も混ざりこんでくる。
オレが直接歩いたら顕れるのは妖精の色、虹のプリズムだろうか。
一方の赤髪の男は、統一感も法則性も無く様々な色を描き出していた。
それを見て、赤髪の男に直感的に興味を覚える。本当に只の駄目ギャンブラーなのだろうか。
>「――そんなに沢山ってのも、欲張りすぎねえかなァ。
強欲≠セろ、お前さん。まあ、ギャンブラーってのは得てしてそういうもんかも知んねぇけどさ」
「ふふっ、君只者じゃないでしょ?」
意味も無く意味深に笑ってハッタリをかましてみる。
>「……あったぞ。今回の音楽祭、テーマは――――『星の巫女』だそうだ」
赤髪の男が手に取ったチラシを見る。
「なんだっこれ!」
この街の人達は星の巫女をただのアイドル歌手と勘違いしてるのではないだろうか。
確かに親衛隊は相当ふざけた服装をしていたが――思想面で世界を統べる団体の頂点のはずである、一応。
第一、星の巫"女”である。ジャニーズ系なら百歩譲ってどうにかなるとして、マッチョな漢が優勝してしまったらどうするのだろうか。
そもそもマッチョは参加自体想定していないのだろうか。まさか何も考えずにノリでやってしまったのか。疑問は尽きない。
>「――代役ってのが気に食わねぇよなあ、そうだろ、フォルテよォ。
なあオイ、賭博師。これ、まだ出れるか? いや、出れねぇにしろ受付会場とか、事務局は有るよなあ?
案内しな。金ならこいつの年金から出るからよ」
オレが何か言うより先に、ゲッツが口を開く。
そうだ、このマッチョを無理矢理投入したら最高に面白そうだ。
そしてオレの歌でいい線まで引っ張り上げて「こっちがリーダーです」と言い張る。
やべーよ、こいつら優勝しちゃったらどうしよう!と主催者側の狼狽える様が目に浮かぶぜ!
口の端から思わず笑いが漏れる。
「くくくっ、そうこなくっちゃ! ――ユニット名、メッシー&アッシーでどうだっ!
いや、三人ぐらいいた方がいいか? この際メッシーアッシーミツグにしてもいいかもな」
ゲッツの年金発言に乗っかって、赤髪の男をチラッチラッと見ながらお前何歳なんだというツッコミ待ちの発言。我ながらこのユニット名はアウトだ!
メッシーアッシーとは飯をおごる人と移動手段の事。数十年前に存在した空前の好景気の時代の専門用語である。
何か勘違いしてオラさローファンタジアに行くだ!なんてお上りしちゃった時代。
いやあ、あの頃はイケイケどんどん、とりあえず都会に行けば芸能界デビューできる、なんて風潮が蔓延しておりました。
そしてミツグとはその言葉通り金品を貢いでスッカラカンになる人の事。
もっともこの人の場合は貢ぐまでもなく全てギャンブルに消えているのかもしれないが飽くまでもイメージである。
>>219 >「さて、なにして遊ぼうか、鬼ごっこする?」
「さっすが導師様」「そうこなくっちゃ!」
少年の姿を象った人外ナイトと少女の姿を象った人外アルト――二人組は無邪気且つ邪悪に笑って頷く。
反対の方向に向かって走るアサキムとアヤカだったが
程なくしてアサキムは、二人のどちらも自分を追いかけてきていない事に気付くだろう。
ナイトとアルトは二人分の姿をとって顕現しているだけで、二人で一組の同一存在。
自ら別行動を取る事は有り得ないのだ。
一方、ナイトから逃げるアヤカの前にひらりと跳んだアルトが降りたつ。
「あーあ、捕まっちゃったわね」
と悔しがってみせるアヤカだが、もっともアヤカがこれ程あっさりと挟み撃ちになるはずはない。
逃げるのは無駄と考え迎撃する体勢に入ったのだろう。
「つ〜かま〜えた!」「まずは」「キミからだよ」
ナイトは巨大な鋏を両手で持って頭上で鳴らす。
「楽しい図画工作の時間の始まり始まり〜 ――切断《カットオフ》」
アヤカは気付いたであろう、小気味いい金属音が鳴り響いたその刹那。
何も変わっていないが何かが変わった事に。
先程まで行き交っていた大勢の人々が忽然と消えている。
「驚いた?」「知らない人は」「興味が無い人は」「自分の世界にはいないって事」
「そう」「世界を」「分断した」「ここは」「アナタとワタシ」「キミとボク」「だけの世界」
「お次は」「描画《ドロウアウト》!」
アルトがまるで落書きするかのようにクレヨン型のステッキを空間に躍らせ、魔法陣を描く。
「まずは小手調べから」「星に願いを」「ただし」「願ってる暇があればね!」
「――隕石招来《メテオストライク》!」
天空から無数の流星群が降り注ぐ。
しかしこれ程の大規模な事をしてもアサキムとアヤカ以外はこの戦いを感知すらしていない
何も起こっていないのと同じなのだ。
「っ?、追ってこない?」
アサキムは、この手を予測できてなかった。
「一人を一点狙いか」
まぁ、良いか、そう思い、元の道を戻ることにした。
一方、アヤカは
>>「切断(カットオフ)」
「時空切断、なかなか面白い技ね。」
余裕を、ブッコいていた。
>>「隕石招来《メテオストライク》」
「まぁ、その数じゃね。私を倒すことは、無理よ。ハウリングランチャー」西洋の銃が、変化した魔銃ハウリングランチャーを用意し
「超分身☆」
その名の通り超分身しながら、撃ちまくり、隕石を落とす。
余裕が、あったので当たりそうなのは、周り蹴りを入れ、二人にぶつける。
その隙に、二人を絶望に引き入れる魔法が発動される。
「パラウス・アキエース」
二人の足下が凍り始め、やがて完全に凍り付く
「ウィリテ・グラディウス」
アサキムの凍れる刃が、二人の魂を切り裂きにかかる
『――そんなに沢山ってのも、欲張りすぎねえかなァ。
強欲≠セろ、お前さん。まあ、ギャンブラーってのは得てしてそういうもんかも知んねぇけどさ』
『ふふっ、君只者じゃないでしょ?』
「……いいや違うな。俺は―――ただの俺だ。それ以外の事は、どうでもいい」
楽師の問いを、紫煙と一纏めにして風の中に追い遣る。
靴底が描き出す色彩が揺らぎ、移ろいだ。
全てを覆うような強欲(あお)色から、邪悪な闇と偽りの高貴を示す虚飾(むらさき)色へと。
『なんだっこれ!』
「――昔、カジノでお守りのコインを見せびらかしてる奴がいたんだ。
“コイツのお陰で昨日のポーカーは大勝ちさ”ってな。
だから俺はソイツを掠め盗ってやったんだが――まるでご利益がなくてな。
持ち主ごとドブに放り捨ててやったさ。誰だってそうはなりたくないんだろうよ」
信仰心の維持には偶像と奇跡が必要だ。
人々に救いを齎さない神の名を覚えていられるほど人間は上手く出来ちゃいない。
例えハリボテだろうと新たな女神像が必要なのだろう。
『――代役ってのが気に食わねぇよなあ、そうだろ、フォルテよォ。
なあオイ、賭博師。これ、まだ出れるか? いや、出れねぇにしろ受付会場とか、事務局は有るよなあ?
案内しな。金ならこいつの年金から出るからよ』
「お安い御用……いや、お高い御用だが、お前達まさか―――」
『くくくっ、そうこなくっちゃ! ――ユニット名、メッシー&アッシーでどうだっ!
いや、三人ぐらいいた方がいいか? この際メッシーアッシーミツグにしてもいいかもな』
「――なあ、こういう時、俺はまず何をすればいいと思う?
相変わらず壊滅的なそのセンスを突っ込めばいいのか、
それともナチュラルに俺を引き込んでやがる理由を問い詰めればいいのか、どちらも捨て難くてな」
赤髪が煙色の溜息を吐く。
答えを模索するように彷徨う視線が見つけたのは『艦内禁煙』の看板のみ。
傍を通った絵描きの画材を無断で拝借し、忌々しい四文字を塗り潰した。
「とにかくだ―――コイツはただのコンサートやオーディションじゃないぜ。
これの主催者達は、自分達の手で神様を作りたいのさ。
つまりフェネクス史上最大規模のアートであり―――間違いなく、陰謀のパレットだ」
優勝者は代理とは言え星霊教団の顔となる。
世の悪人共からすればキング、クイーン、ジャック、10と手札が揃っている時の、
エースくらいに喉から手が出るほど欲しい特典に違いない。
「少なくとも俺は神様もどきになるつもりもなけりゃ、
純度100%の厄介事に首を突っ込む趣味もない。
……そう、ないんだが―――」
賭博師の勘が告げている。この祭りは何か“匂う”と。
その正体は、悪党共の気配と、ソイツらが招く涙の気配。
それも、女の涙だ。
「―――まぁ、なんだ。金になりそうな気配はするしな。
少しくらいなら付き合ってやる。ユニット名は―――なんて言ってた?
確か――『Messiah“See me to GOD”』(救世主曰く“神よ、俺を見ていろ”)か。
なんだ、改めて口に出してみれば悪くない名前じゃないか」
煙草を足元に落とし、靴底で躙る。
ポイ捨て禁止の看板は、どこにも無かった筈だ。
「さあ行こうぜ。受付は―――多分、中央区だろう」
中央区。
そこにはまず、大勢の人がいた。
次に人がいて――更にまた人がいた。
「……どうなってやがる。この街に来る連中が見たいのは芸術であって、
見渡す限りの人混みじゃあない筈だぜ」
中央区、暁広場。
娯楽と芸術の街フェネクスの行政機関を束ねた場所であり、唯一“常識人が住まう場所”。
目に映る物と言えば機能性一辺倒の高層ビルと、その奥にある巨大ドーム。
観光客共をどうにか整列させようと悪戦苦闘するスーツ着用、眼鏡装備の男達。
路上開演パスの販売、コンサート時のホールの予約、滞在や移住の手続き、
この街のありとあらゆる芸術はここから生まれる。
故に夜明け―――暁広場。
赤髪もまた人混みを掻き分け、
ついでに不特定多数の人物から寄付金を一方的に募りつつ、行政ビルへ。
「――音楽祭に参加したい。受付はここで出来るのか?」
『えぇ、“ここ”で出来ますよ。ですが“今”は無理ですね』
「いつなら出来るんだ?」
『“おととい”です。では次の方』
「生憎だが後ろの二人も同じ要件だ。なんとかならないのか?」
『なりませんね。新規のご参加はもう受け付けておりません』
「新規のご参加“は”だと?じゃあどんなご参加ならまだ受け付けているんだ?」
『そりゃあ、既にエントリー済みのチームのご参加ですよ。
アクシデントがあってメンバーの一部が入れ替わるなんて事は、たまにありますからね。
今からでも頼んで回ってみたらどうです?どこかに混ぜてもらえるかも―――』
「オーケー、もう分かった。十分だ―――行くぞ」
受付カウンターに背を向け、早足でビルを出た。
表では相変わらず見るからにインドア派のスーツ眼鏡達が交通整理に勤しんでいる。
その光景を見るだけで気温が三度ほど上昇したような錯覚を覚える。
「話は聞いていたな?どうしても神様ごっこがしたいなら、
心の広いお友達を見つけなくちゃならないらしい。
もっとも俺は、お前達の為に頭を下げて回るつもりは毛頭ないが――」
視線は前に向けたまま、後ろのお上り二人に声をかける。
「アドバイスくらいならしてやるぜ。
今回のコンサート、審査基準に不正は差し込めないと来た。
だったら、発想を逆転させてみろ――どこになら不正を挟む余地があると思う?」
都市中央の巨大ドームが人工太陽の光を浴びて、
稜線から現る朝日のように淡く輝いていた。
>「くくくっ、そうこなくっちゃ! ――ユニット名、メッシー&アッシーでどうだっ!
>いや、三人ぐらいいた方がいいか? この際メッシーアッシーミツグにしてもいいかもな」
「……あー、なンだ。てめェ、歌も楽器も達者な癖して、センスだきゃからっきしだわなあ。
もっとこう……なんだ、感じとか使って強そうな感じにしようぜ、夜露死苦ぅ! みたいな感じでよ!」
フォルテのユニット名発言にどよんとした瞳で呟きを返すゲッツ。
しかしながら、こいつのセンスもまた大分酷い、前時代的ヤンキーセンスである。これは酷い。
こいつら二人に任せていたら今後人生の汚点になりかねないユニット名を創りだしてしまう。
そんな展開になりかけた直後、ゲッツ達に割りこむようにヘッジホッグが口を開き。
>「――なあ、こういう時、俺はまず何をすればいいと思う?
> 相変わらず壊滅的なそのセンスを突っ込めばいいのか、
> それともナチュラルに俺を引き込んでやがる理由を問い詰めればいいのか、どちらも捨て難くてな」
>「とにかくだ―――コイツはただのコンサートやオーディションじゃないぜ。
> これの主催者達は、自分達の手で神様を作りたいのさ。
> つまりフェネクス史上最大規模のアートであり―――間違いなく、陰謀のパレットだ」
「細かいことは良く知らねぇがよ、要するに勝ちゃいいんだろ?
だったら問題ねぇよ。俺が居る以上勝つし、俺が負けそうになりゃこのちっこい喧し屋が何とかするしよ。
ついでに暇だったんでお前も追加。何にも変な事ァありゃしねぇし、陰謀とかはどうでもいいわな。
俺もフォルテも、ガチの神様見たことあンだぜ? 冗談と思うならそれでもいーけどよ」
にたり、と到底正義の味方や、良い人が浮かべるとは思えない笑顔を浮かべる竜人。
肉を食いちぎるために存在している鋭い犬歯は金属光沢を孕んでネオンの明かりに照らされた。
かちかちしゃりしゃり、歯がぶつかり合い擦れ合う音は、刀を砥ぐ剣士のそれにも近い。
>「―――まぁ、なんだ。金になりそうな気配はするしな。
> 少しくらいなら付き合ってやる。ユニット名は―――なんて言ってた?
> 確か――『Messiah“See me to GOD”』(救世主曰く“神よ、俺を見ていろ”)か。
> なんだ、改めて口に出してみれば悪くない名前じゃないか」
「おう、それそれ。それでいいわ。名は体を表すと言うけどよ、名前なんざテキトーで結構。
ま、ぱっぱと行っちまうかね、おうよ」
そう言って、ゲッツは背から翼を生やして、二人を担ぎあげて中央広場へ。
人混みに苛ついたゲッツは、闘気を当たりに解き放ち、モーゼをしながらビルへと辿り着いた。
そして、受付でのヘッジホッグと係の会話を聞きつつ、うんうん、とわかったように頭を何度か縦に振って。
実際問題この男に細かい話は分かるわけもなく、したり顔でよく事情を理解しないまま、ビルの外へと引かれていった。
>「話は聞いていたな?どうしても神様ごっこがしたいなら、
> 心の広いお友達を見つけなくちゃならないらしい。
> もっとも俺は、お前達の為に頭を下げて回るつもりは毛頭ないが――」
>「アドバイスくらいならしてやるぜ。
> 今回のコンサート、審査基準に不正は差し込めないと来た。
> だったら、発想を逆転させてみろ――どこになら不正を挟む余地があると思う?」
「……不正を挟む余地、か。だとしたら――、成る程。
開催前に適当な奴ブチのめして、入れ替わればいいってことだな!
だったら早速強そうな奴見つけ次第片っ端からボコってくっきゃねぇか! うししし……!」
この竜人に頭脳プレーを期待してはいけない。そも、ダンジョンアタックも男探知で突破するのだ。
このような日常パートで知能を働かせようとしても役に立たないのは自明の理。
拳をぽきぽき鳴らしながらドヤ顔を浮かべる竜人は、傍らの半妖吟遊詩人の視線を受けて、目を眇めた。
「小学校中退にまともな回答期待すんじゃねーっての。はい、フォルテ君、回答さっさとなー、あと10秒って所で」
ぶすっとした顔をしつつ、フォルテの首根っこを掴んで肩に担ぎ上げるゲッツ。
10秒後には肩に担がれたままぐるぐると回転させられることだろう。
罰ゲームのためダメージはないが乗り物酔い必至である。
>「アドバイスくらいならしてやるぜ。
今回のコンサート、審査基準に不正は差し込めないと来た。
だったら、発想を逆転させてみろ――どこになら不正を挟む余地があると思う?」
>「……不正を挟む余地、か。だとしたら――、成る程。
開催前に適当な奴ブチのめして、入れ替わればいいってことだな!
だったら早速強そうな奴見つけ次第片っ端からボコってくっきゃねぇか! うししし……!」
……ですよねー!
いや、ぶっちゃけRPGで敵地に潜入する時だったらスバラシイ一般的模範解答だと思う。
見るからにヒョロい奴ではなくわざわざ強そうな奴を狙うのがとってもコイツらしいけど!
でも今回ばかりは駄目だ。
ここに来た当初の目的がすでに忘れられていそうだが、荒事抜きで事を進めなければ父さんに顔向けできない。
何も言わずとも視線に気付いたらしいゲッツが、オレを肩に担ぎ上げた。
>「小学校中退にまともな回答期待すんじゃねーっての。はい、フォルテ君、回答さっさとなー、あと10秒って所で」
「何それ、タイムショック!? ……あ」
視線が高くなって、一際目立つ人物が視界に入った。
長い黒髪のゴシックドレスを着た少女に、思わず目が釘付けになる。
確かに人目を惹くような妖艶な美女だが、問題はそこではない。
左目の精霊力視覚が、彼女が従える数多の精霊を映し出したのだ。
そうこうしてるうちに10秒経過し、罰ゲーム敢行。
「ひぃいいいいいいいい!? 申し訳ございません、美女に見とれておりましたぁあああああああああ!!」
罰ゲーム終了し、ようやく知性派の様相を取り戻したオレは作戦を展開。
改めて周囲を見てみると、「星の巫女LOVE」と書かれたTシャツを着た集団(コミケと間違えて来たらしい)や
か○はめ波出しそうな胴着を着た集団(天下一武闘会と間違えて来たらしい)など、およそ音楽グループとは思えない一団も結構いる。
近くにあった艦内禁煙の看板を引っこ抜いて、裏に『出場権こうか買取中』と書いて掲げる。
もちろんこうかは”硬貨”ね!
「不正とはすなわち買収!
期間中誰でもエントリー出来たなら音楽出来ないけどとりあえずエントリーしてみた的な記念エントリーグループが必ず存在するはずだ!
そこを狙えば二束三文で落とせるはず!」
>>225 >「超分身☆」
無数に分身したアヤカに蹴り返された隕石を、踊るような動作で避ける二人。
「キャハハ」「なかなかやるね!」
>「パラウス・アキエース」
ケラケラ笑っていた二人だったが、到着したアサキムが放った技により、足元が凍り始める。
「なっ――!」
>「ウィリテ・グラディウス」
言い渡される死刑宣告、アサキムの絶対零度の刃に切り裂かれる魂。
「ぐ……ぎゃあああああああ!!」
しかしアサキムは気付いただろう。二人には魂が存在しない事に。
彼らは魂も意思も無くただ世界を喰らうだけの存在なのだ。
「なーんちゃって」「魂も」「心も」「無いんだよ」
何の感情も宿らない澄み切った瞳で笑う二人。
ナイトが鋏を一閃し足元の氷に叩きつけると、氷は粉々に砕け散った。
ぞっとするような無邪気で冷酷な笑みを浮かべながら、アルトがステッキを空間に走らせる。
「お返しだよ」「この技にかかった者は」「氷に閉じ込められて死ぬ!」
「久遠絶対氷結【エターナルフォースブリザード】!」
黒歴史ノートそのまんまな呪文と共に、隔離空間内の全てが凍りついていく。
『……不正を挟む余地、か。だとしたら――、成る程。
開催前に適当な奴ブチのめして、入れ替わればいいってことだな!
だったら早速強そうな奴見つけ次第片っ端からボコってくっきゃねぇか! うししし……!』
「――だったら丁度いい。さっき、お前のお気に召しそうな奴を見かけたんだ。
あれは何処だったかな……。確か―――そうだ、カリスト広場だ。
あそこの湖を覗き込んでみろ。殴り易そうなアホ面がそこにいる筈だ」
背後から漂う凄まじアホ臭さを緩和すべく、懐のシガーケースに手を伸ばす。
瞬間、人混みの中で数十の眼鏡が一斉にこちらを振り向いた。
流石にこれだけの衆人環視を煙に巻く事は出来そうにない。
諦めて、シガーケースを仕舞い直した。
『小学校中退にまともな回答期待すんじゃねーっての。はい、フォルテ君、回答さっさとなー、あと10秒って所で』
『何それ、タイムショック!? ……あ』
余命幾許もない哀れなお上りが呆けた声を零す。
色違いの瞳の向こうに走馬灯でも見かけたのだろうか。
青い視線の先を追う。
『ひぃいいいいいいいい!? 申し訳ございません、美女に見とれておりましたぁあああああああああ!!』
「あぁ……確かに美女だった。どうも人間より、それ以外に――
――主に半透明の非生物共にモテそうなタイプだったが」
あの手のタイプは苦手だった。
人ならざる者と触れ合う連中は、人特有の欲や雑念を毛嫌いする傾向がある。
欲の雑念の塊である賭博師は、生物学的なレベルで奴らと反りが合わなかった。
『不正とはすなわち買収!
期間中誰でもエントリー出来たなら音楽出来ないけどとりあえずエントリーしてみた的な記念エントリーグループが必ず存在するはずだ!
そこを狙えば二束三文で落とせるはず!』
「なるほど、悪くないアンサーだが……
その『こうか」とやらは一体誰の懐から出てくる予定なんだ?」
先程掠め盗った財布、随分と薄っぺらくなったそれでお上りの額を叩く。
悪いが、俺は手品師じゃないんだ。
客から盗った物は全てカジノと質に消えていくし、
スロットが無けりゃ金貨を生み出す事も出来やしないんだぜ――」
『なぁアンタ達、音楽祭の出場権が欲しいのか?』
金の出所を決める暇もなく声がかかった。
若い男達だ。頭髪と服飾がちょっとした前衛芸術と化している。
何処かの展示物が逃げ出してきたに違いない。
「――あぁ、そうだ。売ってくれるのか?幾らで?」
模範的なフェネクス都民である赤髪は即座に通報の必要性を認識したが、今は状況が状況だ。
ひとまずは目を瞑り、応対する。
対する若者は笑みを浮かべた。千の言葉よりも雄弁な、欲に満ちた笑みだ。
『幾ら出せる?』
「そうだな――」
音もなく閃いた賭博師の腕。
極度の雑踏により高温多湿と化した中央広場に、極めて局所的な風が生まれた。
若者達の芸術的頭髪が微かにそよぐ。
「――ざっとこんなモンでどうだろう」
差し出すのはマジックテープ式の最新携帯灰皿。
ただしその厚みは楽師を叩いた時よりも遥かに増している。
若者達が瞳を歳相応に輝かせた。
『マジで!?こんなにくれんのかよ!すげえ!』
「お気に召したか?だったら――」
『オッケーオッケー!ほら、これが出場登録証だよ!じゃあな!
今更気が変わったとか言っても返してやんないぜ!』
「ちょっと待て、まだ一つ言っておく事が―――行っちまったか。
可哀想に。石畳の上で一晩過ごすのは堪えるだろうな」
人混みの中に消えていく彼らを興味無さげに見送った。
振り返り、行政ビルへと引き返す。
「――そら、これで満足か」
無愛想な受付嬢が待つカウンターに登録証を放り投げる。
『――ようこそいらっしゃいませ。ご用件はなんでしょうか?』
返ってきたのは見違えるような笑顔。
あまりにも模範的な接客態度に赤髪の口端が引き攣る。
「……メンバーとユニット名の変更手続きをしてくれ。
名前は―――自分の分は自分で書くんだな」
今更ながら、お上り二人の名前を聞いていなかった事を思い出す。
もっとも、わざわざ聞かねばならない理由もない。
二人に代わってエントリーシートを書いてやらねばならない理由は、尚更だ。
「――ところで、さっきの答え合わせでもしてやろうか。
不正を挟み込む余地……買収もその一つだな。
ただ、星の巫女代理の名誉と、それに伴う利益に勝る交換条件は、そうそうないだろう」
登録を終えて、中央ドームへ向かう道中、赤髪は語る。
端から優勝など目指していない連中になら兎に角、勝ち上がる為の手段としては今一つだ。
「じゃあ、どうしても優勝したい奴らはどんな不正をやらかすのか――」
赤髪の言葉を断ち切るように響く電子音。
都内の各地に設置された通達用スピーカーの起動音だ。
『――ハイハイ皆さん聞こえますかー?こちらは『星誕祭』実行運営委員会でーす!
突然なんですが今回の音楽祭、一般からも参加募集を行った結果、
参加チームが増えすぎちゃったんですよね!ですので――!』
一瞬の静寂。
大音声の残響が消えた頃合いで、スピーカーが次の声を紡ぐ。
『急遽!えぇ急遽です!決して事前に計画されていた訳ではないのですが――
――予選を!行いたいと思います!競技は極めて単純です!
皆さん、出場登録証をお持ちですよね?ちょっとそれを見て下さい!』
赤髪が登録証をお上り楽師に投げ渡す。
パールゴールドの薄い菱形の登録証。
『実はその登録証、五枚集めると星の形になるんですよ!
午後六時までに、その星形になった登録証を中央ドームに持って来て下さい!
それらのチームだけが、本選へと進出出来るのです!』
回りくどい説明。
その癖――『五枚集める手段』に関する言及は一切なし。
『――じゃ、頑張ってくださーい』
即ち、ルール無用のバトルロワイアル。
凡そアイドル達に行えるような競技ではない。
「……こういう事だな。審査基準が変えられないなら――
それ以外を変えてやろうってクチか。
で――どうするんだ?」
至る所で上がる悲鳴、怒声。
満ちていく熱気、闘争の気配。
「五枚集めるだけなら簡単だろうが――今なら探し易いんじゃないか?
――『強そうな奴』」
>>「ぐ………ぎゃああああああああ」
「チェックメイト?いや、きりさいたかんじがしない。」
まぁ、お察しのとうり、復活しました。
「まいったな。こりゃあ。」
>>「エターナルフォースブリザード」
「あっ、」
アサキムさんはログアウトしました。
「おのれぇぇぇぇぇ、許さん!」
アヤカは夫を瞬殺され、もはや悪役の発言が、板に付いてきそうだ。
実は、アヤカさんは、アインソフオウルの一人
「しばらく、外さないと思ってたけど、今外さないとね。」
腕の両方の飾りを外す。
「ふふ、見せてあげる。私のアインソフオウルを」
その名は、『破滅の』アインソフオウル
攻撃するときに、黒いオーラを放ち、危険だと解るが
気がついた所で、もう遅い。
そのスキルの能力は、殴ったものを消滅させる事
「いっくぜぇぇぇ。」
二人をおもっいっきりぶん殴る。
視界の端に入るゴシックドレスの少女。そして、それに付き従う一匹の竜人
他にも何人かが集団を構成し、その場を通り過ぎていった。
ゲッツの野生の勘、戦闘者としての嗅覚が明らかにその存在が今この場に居る中でも別格だという事を理解する。
その集中の内に10秒立ったことに気がついたゲッツは、律儀にしっかりフォルテを空中でぶん回し始めた。
>「ひぃいいいいいいいい!? 申し訳ございません、美女に見とれておりましたぁあああああああああ!!」
「ッギャハハハハハハッハハハハハハッハア――――ヒャッハァ――!」
とっても楽しそうに吟遊詩人『で』遊ぶ竜人が一匹。
タイムショーック! とばかりにぐりんぐりんともうフォルテがオクラホマ・ミキサーで大変な有様。
その間3秒の圧倒的なアトラクションの後、ひょい、とゲッツは肩に担いだフォルテを地面に下ろす。
>「不正とはすなわち買収!
> 期間中誰でもエントリー出来たなら音楽出来ないけどとりあえずエントリーしてみた的な記念エントリーグループが必ず存在するはずだ!
> そこを狙えば二束三文で落とせるはず!」
>「なるほど、悪くないアンサーだが……
> その『こうか」とやらは一体誰の懐から出てくる予定なんだ?」
「……よし、やっぱり物理でなんとかするっきゃないわな。
冒険者として悪人何人かとっ捕まえりゃ謝礼も結構貰えんだろうよ」
ゲッツの思考はやはりというかなんというか、暴力に特化していた。
まあ実際問題、犯罪者を捕まえるのは非合法でもなんでもない為、金を稼ぐ手段としては問題はない。
と言っても、そう簡単に犯罪者が居るとも限らないのだが。
悪そうな奴いねェかなあ、と当たりをゲッツが見回している内に、ヘッジホッグが他の参加者と会話を始めた。
(器用な手先してやがんのな、まあ良い。
その手のえっぐい手口もアリっちゃありだしな、見逃してる時点であの兄ちゃんの負けってもんだ)
にやり、とヘッジホッグに鋼色の瞳を向けて、笑い声を僅かに漏らす。
何かに特化したモノ、素晴らしい技量を見た時にゲッツの心は確実に踊る。
今の動作は、ゲッツに取っては一度爪牙を交わしてみたいと思う程度には魅力的なものだった。
なんだかんだ行って登録証を手に入れた一行は、ビルへと出戻り。
カウンターにた登録証を放り出せば、打って変わって完璧な態度を取る客。
>「……メンバーとユニット名の変更手続きをしてくれ。
> 名前は―――自分の分は自分で書くんだな」
「……名前か……、ちょっとまて思い出すから。
スペルが……えーっと、なんだけ、ちょっと待てよ、待てよ――」
書けと言われて、ゲッツは途端に頭を抱え始めた。
そう、この竜人読み書きが怪しいのだ。自分の名前のスペルがどうにも怪しいゲッツは数分首を傾げて。
ふとひらめいたように冒険者カードを取り出すと、そこに書いてある名前と睨めっこして。
「Gotz Disaster Behrendorf……、っと。枠はみ出したけどまあ良いだろ」
小学生が鉛筆で書いたような、良く言えば奔放、悪く言えば馬鹿っぽい大きな文字がシートで踊る。
筆圧が高いため文字がやたらめったら濃く、存在感は人一倍だ。
登録を済ませれば、外に出て中央ドームを目指していく、が。
その最中スピーカーから声が発せられる。
内容を聞いていけば、分かりやすい程にゲッツ向けの内容だ、犬歯をむき出しにしながら俯き加減になってプルプルと震え出す竜人。
>「五枚集めるだけなら簡単だろうが――今なら探し易いんじゃないか?
> ――『強そうな奴』」
「そうだなァ――とりあえずどっかで一息つこうや。
広場が良く見えるところでな。真っ先に五枚カード集めたチーム見つけ次第そいつブチのめして全部持ってこうぜ?
ちまちま羽虫ぶっ潰すのもだりーしよ、どーせならでっけーの一発でぶっ潰す方が楽しいじゃねぇのよ」
ゲッツの提案はシンプル。5枚分集めた奴を潰して全部奪い取るというもの。
4チーム潰すよりも一チーム潰す方が楽であるというゲッツのシンプルな思考と、もう一つ。
少なくとも他のチームを潰せるだけの実力が有る相手のほうが楽しそうだというゲッツの趣味だ。
「っし――、荒事くらいしか役に立たねぇが、荒事だけは得意なもんでよォ。
まあ、精々全方位殲滅師の本領でも発揮させてもらうとするかね――って、良い獲物発見したんだけど」
ゲッツが当たりに目線を向けながらどこからか取り出した酒をかっ食らっている最中。
唐突にゲッツの視線の先にある一団が崩れ落ちる。皆恐怖に心を砕かれ、意識を失うものや恐慌する者が多く見られた。
周囲の電灯が唐突に明かりを弱め始めて、天井のスクリーンから覗く夕焼け空は暗雲に覆われた。
当たりに乱舞するのは闇と呪いを司る精霊たち。死霊すら当たりに湧き始めた。
「Say your prayers little one (祈れ、幼子よ)
Don`t forget my son To include everyone(我が息子よ皆の事を祈るのを忘れてはいけない)
I tuck you in walk within(暖かな中に体を押し込んでしまえ)
Keep you free from sin(お前が良い子だろうが悪い子だろうが)
'til the sandman he comes (サンドマンはやって来るのだから)
Sleep with one eye open(眠る時も片目を閉じずに)
Gripping your pillow tight(しっかりと枕を抱えて)
Exit light(出でるのは光で)
Enter night(入り込むのは闇だ)
Take my hand (この手を取るんだ)
We're off to never never-land(私達はネヴァー・ネヴァー・ランドへ行くのだから)」
朗々と張り上げられるのは、男の声だろうか。
しかしながら、その声には女性的な色も感じられる。
本来ならば暴力的なまでのリフと共に響くであろうその歌のもたらす効果は――眠り。
魂を削りとり、命を吸い取る、死へと近づいていく眠りの歌。Enter sandman。
その音の出処には、ゴシックドレスを着た中性的な外見の精霊楽師が1人。
そして、脇を固めるように背丈の高い神官服の竜人――種族は恐らく、ハイランダーが1人。
「キシャァッ!」「グルァッ!」
ゲッツは襲い来る眠気に竜種の叫びで拮抗するものの、傍らの竜人によってそれを同時に相殺される。
ゲッツは異様に強制力が強いその眠気に次第に襲われつつ有るが、爪を腕に突き刺し痛みで強制的に意識を覚醒させた。
その直後に響くのは、男にも聞こえるし女にも聞こえるし、子供にも聞こえるし大人にも聞こえる声。
不思議な魅力を持つその声は、大凡人間が持ちうる声ではない、魔的なそれだ。
声の主の名は、ディミヌエンド・レガート。昨今人気のバンドReverse A Sunのリーダーだった。
「私の歌を聞いても倒れないなんて、素晴らしい適性ですね。
流石ハイランダーと言ったほうがいいのでしょうか、まあ此方も貴方と同じだけの実力は有るようですけれど。
――初めまして、フォルテ・スタッカート。私はディミヌエンド・レガート、よろしく。
さて、五枚のチケットを集めれば進出できるとは言われてたけれど、それ以上奪ってはいけないとも言われてない。
要するに、ここで出来るだけ多くチームを減らすことが出来れば、私達の進出も確固たるものとなるという事だね?」
そう、ディミヌエンド達の目的は、この予選で自分たち以外の大半を全滅させること。
そうすれば本戦での敵は少ない上に、卓越した精霊楽師である己に負ける理由はないという算段。
だが、それの障害になる存在が今この地に居た。そう、ゲッツ、フォルテ、ヘッジホッグ、アサキム達だ。
淀んだ色を感じさせるオッドアイをフォルテ達に向けるディミヌエンドの傍らの竜人が、一歩を踏み出した。
「悪竜の血が如何にも濃そうな顔をしているな、貴様は。
不愉快だ、ハイランダーとは気高き種。貴様のような暴力の権化では決して無い。
――祖に祈れ、そして滅びろ。この俺が今から貴様らを折伏してくれるわ!
我が名はジャック・カンヘル・チャーチル! ハイランダーの近接僧武師(モンク・フォーサー)だ!」
精霊に語りかけディミヌエンドが周囲に倒れこむ人々から登録証を奪い去っていく最中。
竜人は闇の精霊の力を身に宿しながら、地面を蹴った。
全身から吹き上がるのは、聖者の静謐な気。白いそれは闇と混ざり合うことで相剋するはずが混ざり合って力を爆発的に増加させる。
精霊協奏(マナ・シンフォニー)。
霊的な波長のシンクロする者同士が、霊的な力を組み合わせる事によって魂を同調させる技法だ。
闇と光の相反する属性ながら、波長が噛み合うディミヌエンドとジャックだからこそ出来る術。
その力によって身体能力を異様なまでに向上させたジャックは、数歩で距離を詰めると拳をゲッツに向けて振りぬいた。
「ぬぅん!」「き、ヒハッ!」
明らかに素の状態のゲッツよりはるかに強い相手の拳を、ゲッツは顔で受け止めた。
地面に赤い液体が溢れる。血だ――ジャックの。
皮膚を突き破って生えた鋼色の棘が拳を貫通していたのだ。
だが、直後にゲッツは吹き飛び、フォルテやヘッジホッグを巻き込んで転がっていく。
「……確かに強い、鍛錬も認めよう。だが、貴様は戦いの為に戦っている獣に過ぎん。
神官崩れが真の神官に勝てると思うなよ――正道こそが常道であり最強なのだから」
他のハイランダーに見られる野性的な戦闘法とは一線を画する動き。
ハイランダーの神官ならば皆学ぶクレイモアの中でも特に上位の武僧しか学ばぬ技法――正道。
その技法は謎に包まれていると云われるが、それを収めているのが、この竜人の様だ。
拳の傷も精霊たちによって向上した回復力に依って即座に治っていく。
当たりには満ちる闇の精霊達と、倒れていく参加チーム達。――この状況、乗り越えなければならない状況だ。
逃げた所で、相手にとってはライバルが減るだけの事。
いますべきことは、単純だろう。そう――
「――――ぶちのめすぞ、フォルテ。すっげー眠いからよォ。
なァんか、目ぇ覚めて元気出そうな歌でも歌ってくれや。
んでもって、ヘッジホッグ。戦えるなら協力してくれ、無理なら下がっといてくれていいけど」
鼻の骨が折れたのか、ちん、手鼻をかまして地面に血を垂れ流すゲッツ。
曲がった鼻筋を無理やり指で掴み直せば、並のハイランダーよりも濃い竜種の血が傷を直していく。
ふらつきながら立ち上がり、ゲッツはフォルテとヘッジホッグの手を取って立ち上がった。
邪魔そうに上半身の服を脱ぎ捨て、傷だらけの体を晒す。胸元のfの傷からはうっすらと異質な力が漏れだしつつ有った。
>「悪いが、俺は手品師じゃないんだ。
客から盗った物は全てカジノと質に消えていくし、
スロットが無けりゃ金貨を生み出す事も出来やしないんだぜ――」
「やろうと思えばすぐにでも手品師に転職できると思うんだけどな……」
いや、逆か? あれはどっちかというと手品師の技だ。
手品師からスリ師に転職(?)したのか?
結局ヘッジホッグはなんだかんだで素晴らしい手腕を発揮して出場登録証をゲットした。
嗚呼、才能の無駄遣い。今この時に限っては無駄どころかとても有難いけど。
>「……メンバーとユニット名の変更手続きをしてくれ。
名前は―――自分の分は自分で書くんだな」
エントリーシートに書かれた赤髪の男の名を覗き見る。
丁度そろそろ”赤髪の男”は面倒臭くなってきたところだ。
「ヘッジホッグ・ザ・ゲーマー!? 明らかに偽名じゃん!」
自分の名前を書けと言われたゲッツが何故か頭を抱え始めた。
>「……名前か……、ちょっとまて思い出すから。
スペルが……えーっと、なんだけ、ちょっと待てよ、待てよ――」
>「Gotz Disaster Behrendorf……、っと。枠はみ出したけどまあ良いだろ」
「小学校低学年かよ!」
まあ駄目ギャンブラーと小学校中退だから仕方がない。
しかしオレは一味違う。さらさらとエントリーシートにペンを走らせる。
トップアイドルたるもの、超スタイリッシュなサインを書く。
もうスタイリッシュ過ぎてaもoもcも区別がつかなくなってるけど気にしない。
>「――ところで、さっきの答え合わせでもしてやろうか。
不正を挟み込む余地……買収もその一つだな。
ただ、星の巫女代理の名誉と、それに伴う利益に勝る交換条件は、そうそうないだろう」
>「じゃあ、どうしても優勝したい奴らはどんな不正をやらかすのか――」
「どうしても優勝したい奴ら……?」
星の巫女代理、といってもどうせこの街らしい冗談半分の遊び心だろうし
優勝までいかなくてもそこそこ目立って父さんに見つけてもらえればいいな、と思っていたのだけど。
首をかしげていると、町内放送が流れた。
放送内容を要約すると、出場権を巡って出場登録証を奪い合えという事だ。
「なんでのど自慢大会の予選が天下一武闘会なんだよ!」
ここにきてようやく気付く。明らかに異常だ。少なくとも純粋に音楽を愛する者のする所業ではない。
星の巫女代理の地位を本気で悪用しようとしている奴がいる……!
>「五枚集めるだけなら簡単だろうが――今なら探し易いんじゃないか?
――『強そうな奴』」
>「そうだなァ――とりあえずどっかで一息つこうや。
広場が良く見えるところでな。真っ先に五枚カード集めたチーム見つけ次第そいつブチのめして全部持ってこうぜ?
ちまちま羽虫ぶっ潰すのもだりーしよ、どーせならでっけーの一発でぶっ潰す方が楽しいじゃねぇのよ」
楽しそうだなこいつら! ノリノリのゲッツ達を余所に、オレは頭を抱えた。
まともな音楽ユニットは全員出場前に脱落して、出場者が筋肉ムキムキの武闘派だらけになる絵がありありと思い浮かぶ。
>「っし――、荒事くらいしか役に立たねぇが、荒事だけは得意なもんでよォ。
まあ、精々全方位殲滅師の本領でも発揮させてもらうとするかね――って、良い獲物発見したんだけど」
聞こえてくるのは魔性の歌声。左目が映し出すは闇の精霊。
周囲の人々が次々と意識を失って倒れていく。
眠りの歌といっても優しい子守歌では無く、死に至る昏睡に引き込む呪詛の歌。
オレの基準では間違いなく歌ってはならぬ禁断の呪歌のうちの一つに入る。
「随分な子守歌だな! そんなん歌ってると紅白歌合戦に出して貰えなくなるぞ!」
歌っていたのは、先程のゴシックドレスの少女だった。
いや、少女にしては歌声に男声の重厚感がありすぎる。
この声、聞いた事がある。ラジオでしか聞いた事がないから見ただけでは気付かなかった。
Reverse A Sunのリーダー、性別非公開で名前は確か……。
>「私の歌を聞いても倒れないなんて、素晴らしい適性ですね。
流石ハイランダーと言ったほうがいいのでしょうか、まあ此方も貴方と同じだけの実力は有るようですけれど。
――初めまして、フォルテ・スタッカート。私はディミヌエンド・レガート、よろしく。
さて、五枚のチケットを集めれば進出できるとは言われてたけれど、それ以上奪ってはいけないとも言われてない。
要するに、ここで出来るだけ多くチームを減らすことが出来れば、私達の進出も確固たるものとなるという事だね?」
Reverse A Sunの歌はあんまり好きじゃなかったけど、その勘は当たっていたというわけだ。
悔しさのあまり奥歯をギリリ、と噛みしめる。いかにも悪役的な発言それ自体に対してではない。
呪歌士は必ずと言っていい程楽器演奏をするのだが、今のはアカペラだ。
だけど楽器演奏が無い事なんてきっとオレ以外の誰も気付いていない。それ程までに完璧な歌声。
そう、こいつは歌だけで全てを表現する事が出来る域に達してるのだ。
それ程の素晴らしい歌声を持つ者が純粋に歌を愛していない、その事が悔しくてならなかった。
それはそうとこいつ……何故オレの名前を知っている!? まだ有名になってないぞ!
「成程……ライバルになりそうな奴はデビュー前からぬかり無くチェック済みというわけか!
オレに目を付けるとはいい勘してるじゃねーか! それでは未来のトップアイドルから二つ言わせてもらう!
ひとつ、楽師なら正々堂々とステージで勝負しろ! ふたつ、寝る時は布団位敷かせろやぁあああああああ!!」
「はいどうぞ」
リーフが一瞬で敷いた布団に潜りこんでツッコミ待ち。
呪歌には精神の動揺がダイレクトに影響する。そこで予想外の行動によって相手を狼狽えさせる作戦だ。
そんな呪歌布団に入ったって効かねーよ!という煽り半分、がっつり寝てらっしゃる!というズッコケ狙い半分で。
>「悪竜の血が如何にも濃そうな顔をしているな、貴様は。
不愉快だ、ハイランダーとは気高き種。貴様のような暴力の権化では決して無い。
――祖に祈れ、そして滅びろ。この俺が今から貴様らを折伏してくれるわ!
我が名はジャック・カンヘル・チャーチル! ハイランダーの近接僧武師(モンク・フォーサー)だ!」
が、オレの奇行はガンスルーでゲッツとジャックの戦いが始まった。
やっべーすっげー気まずい、このまま出るタイミングを失ったらどうしよう!
と思っている間に本気で眠たくなってきた。昨日も夜遅くまでDSしてたしなあ。
そこに丁度よくゲッツが飛んできて、巻き込まれてごろごろ転がる。その勢いで布団はどっかに吹っ飛んだ。
>「――――ぶちのめすぞ、フォルテ。すっげー眠いからよォ。
なァんか、目ぇ覚めて元気出そうな歌でも歌ってくれや。
んでもって、ヘッジホッグ。戦えるなら協力してくれ、無理なら下がっといてくれていいけど」
ゲッツに手を取られて何事も無かったかのようにキメ立ちし、モナーをドラムセットに変身させる。
向こうがメタルならこっちはロックだ!
「よしきた、最高に元気が出る歌を歌ってやる! ツッコミどころ満載で寝てる場合じゃないぜッ! テイルママのおはロック!
その昔某ジャニーズ系アイドル歌手が勇敢にも女装して歌った歌の替え歌だ! おっはー☆」
つまり一言で言ってしまうとオカマの歌! 両声類であるオレには親和性が高い!
ちなみにおっはーとは当時流行したとされる死語《エルダーエンシェント・スペル》である(?)
「テイルママです みんな今日も 元気に挨拶したよね
やんちゃ坊主 やんちゃガール お日様よりも早起き
朝ごはん ちゃんと食べた? みんなで食べると美味しい
テイルママは 料理上手 美味しいご飯を作ろう
ママもパパもお兄さんお姉さんおじいちゃんおばあちゃんお隣さんも
おっはー! おっはー! おっはー! おっはー!
いーたーだーきーまーす おっはーでマヨちゅちゅ!」
死へと誘う重厚なメタルから一変、軽快なドラムのリズムに乗って、死語を連呼するポップなロックが響き渡る。
名前を挿げ替えただけで一気に隠された裏の意味があるように聞こえてしまうのは何故だろう!
やがて倒れていた人がもぞもぞと起きはじめ、出場登録証が無い事に気付く。
その様子を見たオレは妖の残酷さを顕わにしてニヤリと笑い、周囲に声をかける。
「危ない所だったな。昏睡の歌で出場登録証を奪ったのはアイツだ!
身を持って実感しただろう? はっきり言って歌唱力は桁違い、優勝狙うなら盤外で潰しておかないと勝ち目ないぜ!」
こうして、お兄さんお姉さんおじいちゃんおばあちゃん問わない多数のバックコーラス&バックダンサーが集まった!
明らかに突出して強い奴を最初に大勢でボコるのはバトルロワイヤルの常套手段だという。
楽師ならステージで勝負しろと言った舌の根もかわかぬうちになんというブーメラン。
オレの超素晴らしい演奏技術を伴った弾き語りをもってして、相手のアカペラと互角。
相手が楽器を弾けないならまだ希望はあるが、もしもこの上楽器なんてひかれたら勝ち目はない。
相手が手段を選ばず星の巫女代理の座を狙っているのなら、こちらもどんな手段を使ってでもその座は渡すものか!
>>235 >「あっ」
効果:相手は死ぬ の攻撃を受けたアサキムは、その場から掻き消えた。
そう、まるでネトゲでキャラがログアウトするようにだ。
>「おのれぇぇぇぇぇ、許さん!」
「あーあ、逃げられたね」「そうだね」
夫を瞬殺されたアヤカが激怒する一方、ナイトとアルトは顔を見合わせて苦笑い。
>「しばらく、外さないと思ってたけど、今外さないとね。」
>「ふふ、見せてあげる。私のアインソフオウルを」
「あれ? 気付いてないの?」「アサキム様は避難しただけさ」
「ま、信じる信じないは」「君の自由だけどね」
二人の戯言になど構うはずも無く、アヤカのパンチが炸裂する。
その効果は殴ったもの全てを消滅させる事!
>「いっくぜぇぇぇ。」
そして、”殴られた二人”はあっさりと消滅した。
辺りを警戒しているアヤカの背後からクスクス笑う声が聞こえた。
様々な場所に現れては消えながら、語り出す。
「知ってる?」「この世界の構成」「ネバーアースは」「個々人の持つ世界が重なり合って出来ているのさ」
「ワタシの能力は」「相手の世界を隔離し」「ボク達の世界に取り込むコト」
「だからね」「いかにアインソフオウルであっても」「君”一人”なんて敵じゃないんだよ」
「おっと危ない」「ちょっと語り過ぎたかな」
アヤカは気付くだろうか。
アサキムと二人で戦っていた時よりも相手が強くなっている――つまり隔離空間を統べる力が格段に上がっていることに。
アルトがクレヨン型ステッキを空間に走らせ描くは、相手を消滅させる魔法陣。
「消滅なんて」「触れずとも出来る」「分解消去《ディスインテグレート》!」
『そうだなァ――とりあえずどっかで一息つこうや。
広場が良く見えるところでな。真っ先に五枚カード集めたチーム見つけ次第そいつブチのめして全部持ってこうぜ?
ちまちま羽虫ぶっ潰すのもだりーしよ、どーせならでっけーの一発でぶっ潰す方が楽しいじゃねぇのよ』
「あぁ、よく分かるぜ。一攫千金はギャンブルの華だ。
……勿論、勝てればの話だけどな」
皮肉に混じる僅かな共感の発露。
リスク度外視の一発勝負は、賭博師にとっても甘美な麻薬だ。
竜人と賭博師は、何処か似通う所があった――本人は決して認めはしないだろうが。
『っし――、荒事くらいしか役に立たねぇが、荒事だけは得意なもんでよォ。
まあ、精々全方位殲滅師の本領でも発揮させてもらうとするかね――って、良い獲物発見したんだけど』
竜人の視線の先――波打つ魔力、揺れる呪い、踊る闇、乱れ舞う精霊と死霊。
忽ち苦味を帯びる賭博師の表情。
何処かに都合のいい急用が転がっていないか周囲へ眼を泳がせる。
幸いな事に周囲は騒乱に満ちていた。
今話題のアイドルグループが追い回されている。
追手の連中はどう贔屓目に見てもファンやパパラッチの類には見えなかった。
「――悪いが急用が出来た。
実は俺は、あそこで追い回されてる子達の大ファンでな。
こんなチャンスは他にないぜ。サインを貰って来なきゃあな」
速やかに竜人の傍から退避する。
賭博師にとって欲とは手慰みにする物、人生を彩る為の優れた玩具だ。
「――破滅が怖い訳じゃない。だが、欲の為に生きたり死んだり……それだけは駄目だ。
そんなに馬鹿馬鹿しい事はないぜ。俺は――『アイツ』とは違うんだ」
人混みの中で一度立ち止まり、背後を振り返る。
あの精霊楽師と僧武師は、相当な手練だった。
その上、何よりも容赦がない。あの微温いお上り二人で勝てるだろうか。
「――ま、料金分の働きはしたさ。これ以上はガイドの業務外だ……ぜ……」
前に向き直る――不意に足が縺れた。膝を突き、辛うじて転倒は免れる。
だが立ち上がれない。先程から響いている歌声が脳味噌を舞台に暴れ回っている。
不味い。思ったよりも効果範囲と即効性が優れていた。
『ぬぅん!』『き、ヒハッ!』
直後に横合いから迫る鮮烈な赤の巨体。
避ける間もなく巻き添えにされ、吹っ飛び、下敷きにされた。
――眼の前を熱烈な追っかけ共が走っていく。咄嗟にその足を掴んだ。
不幸の道連れが出来て、少しだけ溜飲が下がる。
『――――ぶちのめすぞ、フォルテ。すっげー眠いからよォ。
なァんか、目ぇ覚めて元気出そうな歌でも歌ってくれや。
んでもって、ヘッジホッグ。戦えるなら協力してくれ、無理なら下がっといてくれていいけど』
「不味いな――頭を強く打ったせいか、耳がおかしくなったらしい。幻聴が聞こえるんだ。
でなけりゃ人を巻き込んで下敷きにしておきながら、この上、協力しろだとか――」
手を取られ、立ち上がり、砂塵塗れになったスーツを払う。
右手を懐へ。シガーケースから煙草を取り出し、咥え、指を鳴らした。
魔力を伴う点火音、紫煙が揺れる。ダンスパーティーのお相手としては、悪霊共よりかは幾分マシだ。
「――無理だとか、聞こえる訳がないからな」
煙草の煙が色づく。
賭博師の体から漏れる、蒼を基調とした寒色群の燐光によって。
「こう見えて、俺は頼まれたら断れないタチなんだ。
それに――人殺しも大嫌いだ。やってやるよ」
同時に溢れ返る異様な気配。世界が塗り替わる前兆。
「――Welcome to the jungle(クソッタレな現実へようこそ)」
賭博師が紫煙混じりに口遊む。
「We got fun and games(ここは快楽と賭博だらけ)」
戦術的効果などまるで無い、ただの意趣返し。
「We got everything you want honey(欲しい物はなんだってあるぜ)
We know the names(お前の名前だって分かってるさ)
We are the people that can find(お望みのモンは何でも見つけられる)
Whatever you may need(俺達はそう言う人種だ)
And if you got the money, honey(お前が金さえ持ってりゃあ)
We got your disease(病気だって貰ってやるぜ)」
薄皮一枚で身に纏った異世界。
現世から浮き彫りになった賭博師の姿。
紛れも無いアイン・ソフ・オウル特有の現象。
「……駄目だな。あんな歌声を聞かされた後じゃ、俺の歌なんざ霞んじまうぜ。
飯の種にも苦労しないだろう。こちとら運命の女神様に恵んでもらわなきゃ、明日も知れぬ身でな。
まったく素質に恵まれているようで、羨ましい限りだ」
蒼の眼光と左手を虚空へ。
見据え、掴むのは歌と呪いと魔力の残滓、悪霊共。
不意にそれらが、一枚のカードの姿を強いられた。
「――だからその手札、俺に寄越せよ」
賭博師の世界観――人生さえもが一つのゲーム。
即ち『賭博』のアイン・ソフ・オウル。
この世の万象を賭博として捉えたのなら、技能も素質も才能も全て手札。
そして手が届くのなら、それを抜き取り、すり替えるのは賭博師の専売特許だ。
「残念ながら、アンタ達から金は毟り取れそうにない。
――だったら、病気を貰ってやる訳にはいかないな。返してやるよ」
抜き取ったカードを精霊楽師と僧武師に向ける。
これも意趣返し――ただし今度は、戦術的効果を十分に伴った、だ。
>「随分な子守歌だな! そんなん歌ってると紅白歌合戦に出して貰えなくなるぞ!」
「お生憎、私にとって歌は只の道具ですから。
道具を有意義に使って何が悪いのか、私には分からないんですよね」
死を与える眠りの呪歌を歌うディミヌエンド。
そして、そんな異様なまでに強力な歌を謳うディミヌエンドは、あろうことか歌を道具と定義した。
歌手であっても、ディミヌエンドは歌を音楽を――愛してはいない。
魂無き歌で人の心を揺さぶる様は、己の歌を聞く全てを嘲笑う様なものだろう。
だが、そうだとしてもディミヌエンドの心には響かない
至高の芸術たる己の歌ですら心が揺らがないのだから、この世の大概の事で心を揺さぶられるはずがない。
冷徹なまでに道具として歌を使い潰すそのスタンスは、フォルテの在り方とは対照的なものだった。
冷ややかにオッドアイを細めて、人妖は半妖に向けて笑みを浮かべた。
精緻な芸術品の様な顔の作りは、しかしながら何処と無く能面じみた不気味さも感じさせるものだ。
そして、能面がなぜ不気味かといえば――喜怒哀楽、その全てを見方によっては感じ取れるから。
喜怒哀楽、人の感情全てを嘲りながらその全てを完璧に表現し、歌唱として解き放つことが出来る半妖の力。
しかしながら、それに相対する吟遊詩人が一人居た。
異様なまでにノリの良い、ポップでライトなロック調の曲。
ふざけているのかと一瞬ディミヌエンドは思ったが、その歌にこもる力を聞けば分かる。
目の前のおちゃらけた、如何にも適当そうな妖精が、至高の声を持つ人妖の声を打ち破る力を持つことが。
人々が次第に立ち上がりつつ有る中で、賭博師が異様な存在感を放ち始める。
理解した。
こいつらは――私程ではない。断じて私以上ではないが強力だという事≠。
能面が歪む。山のように高いそびえ立つプライドに挑まれた心に、吹雪が吹き渡る。
立ち上がり、此方を見据えてくる敗北者共に対して、人妖はため息を持って返答と成した。
>「危ない所だったな。昏睡の歌で出場登録証を奪ったのはアイツだ!
>身を持って実感しただろう? はっきり言って歌唱力は桁違い、優勝狙うなら盤外で潰しておかないと勝ち目ないぜ!」
>「……駄目だな。あんな歌声を聞かされた後じゃ、俺の歌なんざ霞んじまうぜ。
> 飯の種にも苦労しないだろう。こちとら運命の女神様に恵んでもらわなきゃ、明日も知れぬ身でな。
> まったく素質に恵まれているようで、羨ましい限りだ」
「――そのまま眠っていれば幸せな眠りと共に終わりを迎えられたというのに。
称賛しましょう。伝説を騙る者[フォルテ]と、伝説を壊す者[ゲッツ]、伝説を騙す者[ヘッジホッグ]――そして、理の外の者[アサキム]も。
月並みな言葉ですが。母、グリムが星の巫女と戦った歳の名台詞で称賛をしましょうか」
くすり、と柔らかい表情で、今にも折れそうなほどに細い体を一歩前へと駆動させて。
空気を吸うことで肺に闇のマナを貯めこみ、吐き出し声帯を通すことで力となす。
>「残念ながら、アンタ達から金は毟り取れそうにない。
> ――だったら、病気を貰ってやる訳にはいかないな。返してやるよ」
「――よくもやってくれたなクソ虫が、死に腐れ。骨の一片も残してくれぬわ」
死霊が空間を駆け抜ける。創りだされた暴力的な感情に従って死神たちが暴れだす。
人の形を失った化け物が嗤う。人妖の背後に幻影が映り込む。
自己の感情を歌で表現せぬ精霊楽師は、変わりに他の者の歌をその者以上に歌い上げる事を身につけた。
今表す感情は、今表す情動は……破壊、暴力的感情。
「Hard Rock Hallelujah(反逆者たちを誉め賛えよ!)
Hard Rock Hallelujah(反逆者たちを誉め賛えよ!)
Hard Rock Hallelujah(反逆者たちを誉め賛えよ!)
Hard Rock Hallelujah(反逆者たちを誉め賛えよ!)」
幻影が叫ぶ。人ならざる形をした者達が、轟々と叫びを響かせる。
反逆者に対し、鬼気とした怒りを込めて、壮絶なる称賛をこの空間に響かせて居る。
そう、『よくやった』ではない――『よくもやってくれたな』である。
「The saints are crippled on this sinners’night(この罪人の夜に聖人達は為す術もない)
Lost are the lambs with no guiding light(導きの光もなく、子羊は失われた)」
妖魔王の娘――息子?は、歌を通して死霊達を運用する事が出来る。
実体を持たぬ死霊の鎌が空間を駆け巡り、カードで返された眠りの力を斬り殺す。
ディミヌエンドは物理的な攻撃力を歌で発揮することは出来ない。
だがしかし、この者の歌は心と魂を侵し、冒し、犯す。文字通りの呪いの歌だ。
「The walls come down like thunder The rocks about to roll(雷鳴のように壁が倒れ 秩序が崩れようとしている)
It's The Arockalypse Now bare your soul(それが黙示だ お前の魂を曝け出せ)
All we need is lightning with power and might(俺達に必要なのは力と権勢の雷光)
Stiking down the prophets of false(偽りの預言者たちを打ち倒せ)
As the moon is rising Give up the sigh(月が昇り始めたら合図してくれ)
Now let us rise up in awe(さあ畏怖を胸に舞い上がろう)」
次々に人々の魂が削り取られ、心が折られ片っ端から膝を付いて倒れていく。
強力な情動が生み出す凶悪な歌唱は、暴力となってこの空間に満ちていた。
「Rook'n roll angels bring thyn Hard Rock Hallelujah(外道の天使が汝にもたらす反逆の賛歌)
Demons and angels all one have arrived(悪魔と天使が共にやってきた)
Rook'n roll angels bring thyn Hard Rock Hallelujah(外道の天使が汝にもたらす反逆の賛歌)
In god's creation supernatural high(神がつくりたもうた素晴らしき世界よ!)」
「――悪魔を湛える歌は俺にとっては好ましくないが。
……貴様の闇と俺の光の相性は知っている、文句はない。
貴様らがそうであるように――俺も又、アイン・ソフ・オウルだ。
七大罪に加担するなど俺は望んでは居ないが――大義の為だ、仕方あるまい」
立ち上がったゲッツに対して拳を構えて跳びかかるジャック。
翼を広げて天から加速し拳を振り下ろす姿は、伝説に歌われる聖騎士のように気高いそれ。
そして、空中に陣取ったジャックの口から、世界を変える言葉が放たれる。
「我のアイン・ソフ・オウル――反転、諸法無我」
その瞬間、ジャックはこの世界から消滅した。
否、本来アイン・ソフ・オウルとは世界との隔たりを作り、己の領地を主張する我の極み。
その逆であるのが、無我だとするならば――ジャックの力は世界に溶けこむこと、無常の境地へ至ること。
そして、素直に力の影響を受けるようになったジャックの魂に、心に。
ディミヌエンドのメロディで塗りつぶされた世界が流れ込み、膨大な力を生み出していくのだ。
光と闇が組み合わさって最強に見えるとはまさに文字通りで、相反する力は細かい均衡の元に凄まじい力を生み出しつつ有った。
混沌の拳が、ゲッツに迫る。そして、歌唱が産む形なき死神の鎌が空間に満ち満ち、フォルテの歌とぶつかり合っていた。
>「テイルママです みんな今日も 元気に挨拶したよね
>略
>いーたーだーきーまーす おっはーでマヨちゅちゅ!」
>「不味いな――頭を強く打ったせいか、耳がおかしくなったらしい。幻聴が聞こえるんだ。
> でなけりゃ人を巻き込んで下敷きにしておきながら、この上、協力しろだとか――」
>「――無理だとか、聞こえる訳がないからな」
「――っは、テメェのノリは軽くていいなァ、乗ってきたァ!
もっとノリノリな奴でぶちかましてくれや、よろしくなァ!
んで持ってヘッジホッグ。俺の超かっけぇ鱗に免じて許してくれや。
その分俺は――全力で、あの俺ほどじゃないけど大分イケメン度高い糞野郎のめしにいくからよォ――――!」
拳をごきりごきりと鳴らしてゲッツは全身の傷から赤い光を噴出し始めた。
四肢に光を纏わせた後に、背から力を吹き出して翼を生み出す。
翼を爆発させる事で超人的な加速を生み出したゲッツは、即座にジャックとの距離を詰めて殴り合いを始めた。
残像を残しながら真紅の鱗と碧玉の鱗の色彩は交錯し、衝撃波をあたりに振りまきつつあった。
そうしている内にフォルテがいつもどおり糞汚い手を使い、立ち上がった人々を炊きつけていた。
>「危ない所だったな。昏睡の歌で出場登録証を奪ったのはアイツだ!
>身を持って実感しただろう? はっきり言って歌唱力は桁違い、優勝狙うなら盤外で潰しておかないと勝ち目ないぜ!」
>「――そのまま眠っていれば幸せな眠りと共に終わりを迎えられたというのに。
>称賛しましょう。伝説を騙る者[フォルテ]と、伝説を壊す者[ゲッツ]、伝説を騙す者[ヘッジホッグ]――そして、理の外の者[アサキム]も。
>月並みな言葉ですが。母、グリムが星の巫女と戦った歳の名台詞で称賛をしましょうか」
拳を交わしていたゲッツが、即座に下がる。
フォルテとヘッジホッグ、ディミヌエンドの間に入り込むような、庇う体勢。
何が来るかを、竜人は野生の勘で理解したのである。
>「――よくもやってくれたなクソ虫が、死に腐れ。骨の一片も残してくれぬわ」
「ギャッシャァ――――!」「グルゥギャァッ――――!」
響き渡る力ある魔声を打ち破るための竜種の咆哮が、竜種の咆哮で打ち消される。
死神が駆け巡り、不可視の刃でゲッツの心と魂を幾度と無く切り刻んでいく。
魂に刻み込まれる激痛は到底正気を保てるものではないが――ゲッツは笑っていた。
「ヒィ――――ヒャヒャハハハハハッハハハハハハハハハハァ!!」
諦める様子など微塵もなく、その苦痛すらも試練として受け止め、挑む気概を携えて。
痛みの中で己を保つために、ゲッツはいつもどおりの豪胆な笑い声を響かせ、意識を保ち続けた。
そして、ディミヌエンドとジャックを睨みつけながら、犬歯をむき出しにして拳で近くの死霊を引き千切りながら言葉を紡ぐ。
「今、ここで俺が倒されなかったらよォ――それは、最悪≠セよなァ?
それって、テメェらにとっちゃ、災いに他ならねぇよなァ?
――嫌だもんなァ、俺みたいな超マッチョでイケメンな上にチョー強い奴残しときたかねぇもんなァ。
だからよォ――テメェ等に災いを見せてやる。盤面返しだ、この野郎が。
堕ちろ……ッ、災厄=I」
ゲッツの全身の傷から膨大な力――ファフニールのそれと近いが異なる力が吹き出した。
その力は、ゲッツの周囲に球形に広がっていき、死霊達をかき消し吹き飛ばす。
十数秒の間はゲッツの体からそれは吹き荒れ、少なくともフォルテとヘッジホッグの安全は確保されるだろう。
赤黒い災いの力で己の領域を染め上げるゲッツの力は強力だが、極めて消費の大きいもの。
その間にも周りの人々は魂を狩られ、地面に倒れ伏していくのだから、早く何とかしなければならないハズである。
拮抗もそう長くは続かない。
>「我のアイン・ソフ・オウル――反転、諸法無我」
人位のアイン・ソフ・オウルと化したジャックが、ゲッツと戦闘を再開したのだ。
最低位とはいえどアイン・ソフ・オウル同士の戦いだ。
その余波で区画の地面に罅が入り、人々は吹き飛ばされていく。
周囲は阿鼻叫喚の地獄絵図と化していた。
『起こさなければ良かったのに』
まさにその通りの惨状がそこにあった。
それでもゲッツは拳を振るい、尾で敵を貫き戦い続ける。
全ては、友を友の望む場に導くためだけに。
「――ヘッジホッグ……ッ! 5つだ! 5つありゃ予選は突破だ!
俺がここでこいつを止める、あと1分……! 耐えてる間に何とかしろやてめェらァ!
延長は残念だが受け付けられねぇぜ……ッ、ヒヒャッハハハハッハア――――ッ!!」
>「お生憎、私にとって歌は只の道具ですから。
道具を有意義に使って何が悪いのか、私には分からないんですよね」
「そうだよ、歌は素晴らしい道具だ……
宴会を盛り上げたりコミュ障の非モテが女神にアタックしたりあの半裸野郎を伝説に刻むためのな!
“有意義”に使ってんじゃねーよ!」
胸が締め付けられるように苦しい。何故だろう、こいつ理屈抜きでムカつく。
何がムカつくって澄ました能面みたいな顔も人を見下したような敬語も素晴らし過ぎる歌唱力も全部!
この怒りの正体はきっと――嫉妬。
何故オレじゃなくてアイツなんだ!? 歌を欠片も愛していない癖に何故森羅万象を表現できる!?
許せない、ぜってー潰す!
>「――そのまま眠っていれば幸せな眠りと共に終わりを迎えられたというのに。
称賛しましょう。伝説を騙る者[フォルテ]と、伝説を壊す者[ゲッツ]、伝説を騙す者[ヘッジホッグ]――そして、理の外の者[アサキム]も。
月並みな言葉ですが。母、グリムが星の巫女と戦った歳の名台詞で称賛をしましょうか」
母親同士お知り合いだったのか!
何かを感じたのだろう、ジャックを戦っていたゲッツが即座に引き、オレ達を庇うような体勢を取る。
>「――よくもやってくれたなクソ虫が、死に腐れ。骨の一片も残してくれぬわ」
>「Hard Rock Hallelujah(反逆者たちを誉め賛えよ!)
>Hard Rock Hallelujah(反逆者たちを誉め賛えよ!)
>Hard Rock Hallelujah(反逆者たちを誉め賛えよ!)
>Hard Rock Hallelujah(反逆者たちを誉め賛えよ!)」
――ついに本性を現しやがった! 人気歌手のこの醜態を電波に乗せて全世界に流してやりたい!
だけどこいつはファンに幻滅されたところで何とも思わないのだろう。
歌うは禁断の呪いの歌。使役するは死霊。普通はこの類の存在は人間の目には見えないが、濃密過ぎて幻影が見える程だ。
「きっとママもきみのことが 誰よりいちばんすきだよ
きみのママに だからきょうは 朝寝坊させてあげよう
ママとパパ お兄さん お姉さん おじいちゃんおばあちゃんお隣さんも」
ゲッツが死霊を物理的に(!)引きちぎりながら拮抗状態を作り出している後ろで
オレは歌っていた曲をそのまま続行し、2番に突入してさりげなく嫌がらせを敢行する。
オレの勘ではこいつ確実に母親に愛されてない! だって性根歪みきってるし!
>「――悪魔を湛える歌は俺にとっては好ましくないが。
……貴様の闇と俺の光の相性は知っている、文句はない。
貴様らがそうであるように――俺も又、アイン・ソフ・オウルだ。
七大罪に加担するなど俺は望んでは居ないが――大義の為だ、仕方あるまい」
天から拳を振り下ろすジャックの姿は、この期に及んでみみっちい嫌がらせを敢行するオレとは違って、聖者のように気高く神々しい。
吟遊詩人の勘が告げる、彼はきっと”正義の味方”なのだろう。でも――その正義は氷の刃のようにとても冷たい。
世間一般では理想的なフォルムの英雄なのかもしれないが、オレの謳う英雄譚の主人公としては願い下げだ!
そして彼の言葉から理解する。
ジャックとディミヌエンドは、仲間や増して友達ではなく、目的のために互いに利用しあう関係だという事。
そんな関係でありながら、何故互いの力をあそこまで引き出せる!? その答えは思いのほかすぐに示させる事となる。
>「我のアイン・ソフ・オウル――反転、諸法無我」
瞬間、ジャックがその場から消えた。
正確にはいるんだけど、この世界において自分の持つ領域が無くなるという事は消えたにも等しい事ではないのか。
……深く考えるのはやめよう、訳が分からなくなる。
無我の境地に至ったジャックの領域を、ディミヌエンドの領域が塗りつぶしていく。
彼らの一糸乱れぬ連携は、ジャックが我を消す事で成り立っているとしたら……一糸乱れなくて当然だ。
からくりが分かったところでオレ達に同じ事が出来るかと言われたら……1000%無理! だってお互い一歩も譲らないもの!
「なー、これさ……」
このまま行ったら確実に死にイベントだろ、逃げようぜ! そう言おうとしたのだが。
>「――ヘッジホッグ……ッ! 5つだ! 5つありゃ予選は突破だ!
俺がここでこいつを止める、あと1分……! 耐えてる間に何とかしろやてめェらァ!
延長は残念だが受け付けられねぇぜ……ッ、ヒヒャッハハハハッハア――――ッ!!」
作戦が「ガンガンいこうぜ」に固定されて動かせない人が約一名! 馬鹿だろこいつ!
でもただでさえ馬鹿な奴がここまで馬鹿になってるのはオレのせいでもあるのだ。
先程まで胸を焦していた腹立ちやら嫉妬やらが一気にどうでもよく感じられてきた。
いや、馬鹿は……オレの方だ。負の感情は歌を鈍らせる、分かりきっていたはずなのに。
確かに負の感情を力に転化できる者もいるのだろう、でもオレは違う。
その証拠に嫌がらせで歌った呪歌がまともに効いた試しがない。
考えろ、オレが最も力を発揮できる感情は――
瞬時に選曲が決まり、モナーをキーボードに変化させながらヘッジホッグに言い放つ。
「ヘッジホッグ、アイツの弱点を教えてやる! 接近戦はからっきしってことだ!
歌さえ封じればお前の手捌きなら登録証掠め取るぐらい楽勝だぜ!」
あの歌を封じられる保証も無い。もちろんディミヌエンドの詳しいスペックなど知らない。
吟遊詩人はかなりの確率でヘタレという統計的事実と見るからにヒョロヒョロな外見からの推測である。
その上での、オレが歌を封じるからその間に出場登録証をスリ取ってくれという無茶振りだ。
選曲――『アスピダ』。その意味は『盾』。普通ならこんな時は相手の妨害を狙うのがセオリーなのだろう。
だけど敢えて、暴虐の歌の死神の鎌を真っ向から迎え撃つ純然たる護りの歌を選んだ。
これで勝てれば、相手にとってはどんなにエグい呪いの歌よりも最悪の負け方になるはずだ。
キーボードをかき鳴らし、大きく息を吸って歌い始める。
「光を抱いて飛んでゆくの 無慈悲な海溝から宙を指して
死せる大地に蒔かれた息吹 凍りつく指先を融かす愛の焔よ
この澄んだ瞳は誰も冒せはしないさ 手なずけられない情熱を携え飛び出して行け
はるか時を越え 地を馳せて君を護るアスピダ 眼差しの先何があるのか分からないけれど
今動き出した運命を切り拓くその力を 血潮に霞む戦場にも猛き女神はもたらすの」
死神の鎌と精霊の守護は奇蹟的に拮抗していた。ここで一気に押し切る!
ヘッドギアを外し、神格化――外見に変化が現れ、三対六枚の虹色の翼を広げた女神格の妖精の姿となる。
強敵に立ち向かうための切り札としてアサキム導師から受け継いだ力。
しかし果たして外見が変わる事に意味はあるのか。導師様を問い詰めたい、小一時間問い詰めたい!
でも今回は女神の盾の歌だから、まあいいか――
「歴史に刻まれた神の剣より 名も無き青銅の盾として私は――
はるか時を越え地を馳せて君を護るアスピダ 重なる世界 歌はいざなう 忘られし地へ
闇を怖れずに突き進む 朱の星のしるべに 願いよ届け宙の彼方へ 早緑の未来勝ち取るために
猛き心よ どこまでもゆけ!」
ところでオレが最も力を発揮できる感情が何か、だって? ……分かんねーよ、そんなもの!
>>242 「引っかかった。アサキム!」
「時は満ちた。今、アサキム・タグラスが奥義を見せよう。」
どこからともなく、声がした。
ナイトとアルトが『誰だ!』とか言う前に
二人は闇の空間へと、墜ちていく。
「驚いたかい?これが俺の奥義『闇獄、無減の間』なれば」
「まぁ、何をしようとも無駄だけどな。」
ナイトとアルトは、同時に術式を仕掛けたり。
空間を引き裂こうと、無駄の一言
「だから、言ったろ何をしようが無駄なんだ。その中では、出る手段は特になし。」
「そのまま、永遠の闇に消えるがいい。滅」
そういい、自分が入れる。扉を閉じる。
「まぁ、俺の方が、空間を統べる能力が高かったって事だ。」
賭博師がカードを切った。
微睡みの悪霊共が主従を見失い、闇の楽師に襲い掛かる。
歌い手本人への効果は期待出来ずとも、碧の竜人にならば話は別だ。
「それにしても、まぁ……随分と誉めそやしてくれるんだな。
このカード、ただ返すんじゃなくてサインでも書いてやれば良かった――」
『――よくもやってくれたなクソ虫が、死に腐れ。骨の一片も残してくれぬわ』
瞬間、賭博師の軽口がはたと途絶えた。
響き渡る絶唱、轟く絶叫、荒れ狂う破壊と暴力の化身。
眠りの悪霊が風に吹かれた煙草の煙の様に、容易く斬殺されていく。
「――ちょっと待ってくれ。実は、俺はアンタの大ファンなんだ。
このカードはただサインが欲しくて……ちょっと苦しいか!」
役立たずとなったカードを放り捨て、賭博師は立ち所に死神の刃圏から飛び退いた。
同時に自分の前へと踊り出た真紅の竜人――遠慮なくその背に逃げ込む。
それでも尚、襲い掛かる凶暴な破壊の余波に、火を点けて間もない煙草が消し飛んだ。
『我のアイン・ソフ・オウル――反転、諸法無我』
「――とんだロイヤルストレートフラッシュをキメられちまったな!
小銭とイカれた携帯灰皿が対価じゃあ全く割に合わないぜ!
追加料金の方は覚悟して――」
『――ヘッジホッグ……ッ! 5つだ! 5つありゃ予選は突破だ!
俺がここでこいつを止める、あと1分……! 耐えてる間に何とかしろやてめェらァ!
延長は残念だが受け付けられねぇぜ……ッ、ヒヒャッハハハハッハア――――ッ!!』
「――お前、本当にいい面の皮してやがるな!
ちょっとやそっと殴られたくらいじゃ、堪えない訳だ!」
憎まれ口を叩いた所で状況は好転しない。
無差別に振り撒かれる死は、やがて“厄災”による相殺が切れれば、広場を完全に満たすだろう。
可及的速やかにこの場を離れ、尚且つ後味の悪い結末を招かない為には――
「――やるしかないってのか。本当、今日はとことん厄日だ……!」
『ヘッジホッグ、アイツの弱点を教えてやる! 接近戦はからっきしってことだ!
歌さえ封じればお前の手捌きなら登録証掠め取るぐらい楽勝だぜ!』
「成程な!なんの保証もないアドバイスありがとうよ!
そこまでポジティブだと人生楽しいだろう!羨ましいぜ!」
意を決し、楽器を展開する妖精楽師。
その背を賭博師の手が軽く叩く。
「――だからその『感情』(カード)、少し借りていくぜ。
なに、安心しろよ。才も愛も、それを絶やせるのは時の流れだけだ。
俺が少しばかり拝借した所で枯れやしないさ」
妖精楽師から抜き出したカードを手に、賭博師は死神共の主を見据える。
彼我の間にあるのは破壊と厄災と呪いと死神の嵐。
まともに挑めば、闇の楽師の元に辿り着けるのは精々、血飛沫くらいだ。
「……コイツは出来れば、使いたくなかったんだがな」
言葉と同時――賭博師の纏う燐光、その質が変貌した。
蒼へ――限りなく純粋な蒼色が賭博師を包む。
「まぁ、仕方ない――」
脱力、軽い跳躍を二、三度行う。
「――精々、さっさと終わらせよう」
その声が届く頃には、賭博師は既に闇の楽師を間合いに捉えていた。
異様なまでに迅速な踏み込み――精霊楽師から抜き取ったカードが閃く。
「抜き取るばかりがイカサマじゃない――そら、くれてやるよ。
お前にとっちゃあ、ブタもいいトコだろうけどな」
前向きの『感情』(カード)を強引に挟み込んだ。
死霊を操る歌の源泉が負の感情であるならば、名画にクレヨンで落書きを施すが如き行為。
「そして……眠らせた奴らの懐を逐一弄ってた所を想像すると、
アンタにもちったあ可愛げってモンが見えてくるが――
――それでも独り占めはよくないな。少し分けてくれよ」
欲深き蒼の眼光が、隠された星の欠片の在処を見抜く。
賭博師の両肩から先が消える――これまでとは比にならない程の手捌き。
闇の楽師の懐から参加証を四つ抜き取ると、即座にその場を離脱した。
「――っ、はぁ……やれやれ。また染め直さないとな」
汗を拭い、頭髪を一束、指で摘んで眼前に引っ張りながら、賭博師が呟く。
赤髪の一部から塗装が剥げた様に、蒼い髪が姿を現していた。
「――で?頼まれ事はこなしてやったぜ、無頼漢。
ここまでさせておいて、まさか負けたりしないだろうな」
髪を手放し、二匹の竜人を振り返る。
真紅と碧玉の決着を見届けるべく――
『――ストーップ!!そこまで!そこまでです!
まだ午後六時には程遠いですが、そんなの知ったこっちゃありません!
これ以上広場を壊されたら堪りません!今この瞬間をもって予選は終了です!』
不意に広場に響き渡る大音響。
周囲を見渡せば、確かに止めたくもなる惨状が広がっていた。
『それでは現時点で参加証を五つ持っていないユニットは――
――え?なんですって?変更?また?……分かりました』
途中に混じった幾つかの不穏な単語。
少なくとも音響装置の不調が原因では無さそうだった。
『あー……実はですね!一つ説明していなかったルールがあるんです!
敢えて、ですよ!決して忘れていたとか、後から追加されたなんて事はないんです!
で、そのルールなんですが――』
一拍の間――どんな状況下でも演出を忘れない、模範的な職業意識。
――或いは単に、言い辛かっただけか。
『参加証を集める際に歌や踊り、パフォーマンスを用いなかったユニットは、
星を完成させている、いないに関わらず、本選への出場を認めない――だそうです』
明らかに困惑気味な口調の司会役――忽ち広場が付和雷同の怒号で沸いた。
だが、長くは続かないだろう。
此処には、この手の喚くばかりの手合いを嫌う連中が多すぎる。
「まぁ……とりあえずは本選進出おめでとうって所か。
だが――ステージの上じゃあ、助けを呼ぶのはもう少し控えてくれよ。
格好が付かないし……そう何度も染め直してたんじゃ、俺の髪が傷んじまう」
蒼髪が露出した部分を、魔力を帯びた右手で掻き上げる。
ただそれだけで赤髪は元通り――少なくとも、表面上は。