【長編SS】鬼子SSスレ6【巨大AA】

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6チリチリおにこ
>>1乙! これで安心して続きを投下できる。アリガタイ! そんな訳で「チリチリおにこ」続きを投下しますっ
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  ◇ ◇ ◇
 結界の向こうは今までと大して変わらない光景が広がっていた。溶岩の流れや赤熱した岩の光に照らし出され、
ぼんやりと浮き上がるごつごつとした岩々。
相変わらずな地獄のような景色を見回しながら、嘘月鬼はたずねた。

「……で、そのでけー式鬼はドコにいやがんだ?話からすっと結界の真ン中にいンだろーがよ」
 だが、嘘月鬼の気楽な様子に反して紅葉の様子がおかしかった。今までにない緊張感を漂わせている。

「なんて……なんて事っ、これは……っ!」
今までの冷静な様子とは打って変わって尋常ではない雰囲気だ。
そして、やにわにヘルメットのバイザーを慌ただしく操作しだした──

  ◇ ◇ ◇
 紅葉は結界を抜けた途端、背筋を走り抜けるおぞけ……いや戦慄を感じた。
 空間を満たす気配が尋常ではなかったからだ。この空間に居座る敵の強大さが肌で感じられた。
 ──これはレベルBどころの強さではない!──
 気の迷いかと念のためバイザーを操作し、呪力濃度を測定する──
 ──間違いない。尋常ではない呪力と障気だ。最低でもレベルA、下手するとそれ以上の難敵だ。
 自分一人ではいかようにもなる。が、ただでさえ苦戦する相手に足手まといまで引き連れている状態で挑むのは
自滅行為だ。

 紅葉の決断は早かった。手元の自在符に結界から脱出するための手形データを転送し、脱出用の結界手形に
変更させる。これでこの符を持てば結界を抜け出せるはずだ。

「……状況が変わったわ。アナタ達は今すぐここから脱出なさい」

「あン?いってぇ、どういう事だ?」
浮月鬼が状況が読めないとばかりに聞き返してきた。
「事前情報が間違ってたわ。敵の強さが想定外よ。あなた達には荷が重い」
 このコ達には追跡符の仕込んだ財布を渡してある。今も持っているはずだ。この前のように追跡して
合流するのは難しくない。

「とりあえず、私は忍務を済ませてくる。アナタ達は帰って休みなさい」
 そう言うと、データを変更して手形にした自在符を浮月鬼に投げて渡す。岩の式鬼は投げてよこされた自在符を
いつものように器用に尻尾でキャッチした。
「その自在符を使えばこの結界から脱出できるはずよ」

「そらあ、オレっちらはそれでいーけどよ。姉ぇちゃんはどーすンだ?予想よか、厄介なヤツなンだろ?」
「……私一人くらいどうとでもなるわ。そんな事より、アナタこそ、その子をしっかり守りなさい」
「あ、あぁ」

おにこはキョトンとした顔で紅葉と嘘月鬼のやりとりを見守っている。
「へっ、オレっちの逃げ足は姉ちゃんも知ってンだろ。ソの心配は無用さ」

「……そう、なら行きなさい──」
 紅葉は二人に背を向て、瞬動術で飛び出した──

  ◇ ◇ ◇
──紅葉は崖の上から結界の中央に居座る式鬼の繭を見下ろしていた。周囲は切り立った崖で囲われている。
眼下は無数に流れる溶岩流があった。アチコチに地面が顔を覗かせているものの、崖の下の地面は煮えたった溶岩が
幾重モノすじとなって常にドロドロと流動している。

 その中央に孤島のような溶岩の切れ目があり、そこに5メートルはあろうかという巨大な繭が鎮座している。
その繭は周囲の溶岩に根を張るように触手を伸ばしていて、まるで溶岩から栄養を得ているようだ。
そして繭自身は鼓動するように蠢動を繰り返していた。半透明の薄い膜の向こう側では式鬼の本体が蠢いている。
羽化は間近のようだ。
7チリチリおにこ:2012/10/17(水) 21:24:37.18 ID:Yme6J3bG
「──あれね。あれさえ潰せば脱出の道は開ける──」
これだけの質量の式鬼は消滅の際には膨大な『気』を放出する。式鬼を駆動するのに使われてた『気』が暴走して
外部に放出されるのだ。
その『気』を束ね直し結界の要にぶつける事で結界を破れる。
 その仕込みは既に済ませていて、式鬼を処理した瞬間にコマンド印を結ぶ事で結界破りは機能を発揮する。
 かつて、彼女が何度も忍務で行った手口だ。もっとも、この式鬼を封じ込める為の結界だ、これだけ大規模な結界、
この式鬼を処理すれば遠からず自動解除されるだろうが、必ずそうなるとも限らない。念には念を入れて、だ。
自在符をおにこ達に渡してしまったため、紅葉にはそれ以外、脱出する術がないが、いつものことだ。

 繭の周囲には『眷属』だろう。羽虫のような怪物が繭を囲むように地面に止まって羽を休めている。
 あの『眷属』を刀の「贄」にすれば、本体を簡単に処理できるだろうか。奇襲には最適な距離まで近づけば──

その時だ──
「あった!もみじだ〜〜」
 唐突に頭上から明るい声が響きわたった。途端、『眷属』たちが外敵を察したのか一斉に飛び立った。

「! あなたたち!帰りなさいと言ったでしょう。ここで何をしてるの!」
 いきなり頭ごなしに怒鳴りつけられたおにこがビクッと怯えた。

「ふぇ……」
その途端、明るい笑顔が曇り、一転、つぶらな瞳に涙がみるみる溜まっていく。

「やいやいやい、まちゃがれ、そいツぁ幾ら何ンでも不条理だ。不手際はそっちにあンだかンよ」
おにこに代わって、おにこを頭に乗せている嘘月鬼が抗議をした。
「……なんですって?」
怪訝そうに尋ね返す紅葉に嘘月鬼はまくし立てる。

「あぁ、そうさ。ねぇちゃんのフダが効果なかったンだよ。このまんまじゃ、結界を抜ける事ができネってんで、
 ねーちゃんを捜しにきたっつー寸法よ」
 そういって、今まで尻尾に持っていた自在符を紅葉に向けて叩きつけるように投げて寄越した。

 紅葉は右手でキャッチして、自在符のディスプレイを確認する。
『認証不可──通行は認められません』の表示が目に入った。嘘月鬼の言うとおり、結界を抜けられなかったらしい。
 自在符に転送するデータを間違えたか?だが、今回の忍務データにもうこれ以外のデータはないはずだ。

 だが、話はここで途絶えた。『眷属』達が襲いかかってきたのだ──
『眷属』達は半透明な羽根を持ち、不快な音で空気を振動させながら、腹から幾つもの鋭い針を伸ばし突撃してきた。
 だが、この程度なら紅葉の敵ではない。紅葉は難なく回避する。だが問題はおにこ達だ。
弱いとみて、おにこ達に式鬼は殺到した。

「おにこ!早く『変化』してっ!」
紅葉は『呪縛』のクナイで式鬼を次々打ち落としながら指示を飛ばす。
 嘘月鬼はおにこを頭に乗せたまま、囲まれないよう、必死に逃げまどっている。
 おにこは、べそをかく直前だったが、紅葉の指示に一転、表情を引き締めると目を閉じ集中した。ほんの数瞬後、
まぶたを上げると開いた瞳は赤く紅潮し、おにこの着物の裾からは赤い紅葉が散り始めた。変化した証だ。
どんな状態でも変化できるようになったのも何度も繰り返し訓練した賜物だろう。

「もえちれ!」
不安定な嘘月鬼の上に立ち、ナギナタをブン回す。危なげなく振り回された得物は一鬼、また一鬼と、羽虫のような
式鬼は次々と撃退していく。
 おにこ達が危なげなくなってきたのを確認すると紅葉も叩き落とした眷属にとどめを刺しにかかった──
8チリチリおにこ:2012/10/17(水) 21:25:21.40 ID:Yme6J3bG
 ◇ ◇ ◇
三人が動きを止めたのは空に舞う眷属がいなくなってからだ。
「──さて、とりあえず、当初は凌げたわね。まだ次があるわ。いい、まだ変化を解いては駄目よ」
 おにこに釘を刺して、紅葉はマグマ溜まりの中央に鎮座している親玉の繭を観察した。
子分──分身というべきか──が滅されたのを察したのか、表面に白くて大きい「あぶく」のようなものが
幾つも浮き上がっている。『眷属』の卵だろう。
 成長してから生み出される『眷属』は先ほどのよりも手強くなっているはずだ。さらに言うと本体自身もいつ
『羽化』するかわからない状況だ。早くおにこ達をこの結界内から退避させなければ。

(全く、あのいいかげんな男、転送する脱出データを間違えるなんて)
 そういった事はよくあるので、あのいいかげんなエージェントの手違いだと思ったのだが──

「……本部、応答せよ」
紅葉は本部を呼び出す。
「──なんだい?」
 応答はすぐあった。紅葉は少し苛ついた声でデータの転送を要請する。

「手形データのエラーよ。もう一度脱出用データを転送して頂戴。あの手形データでは結界を離脱できなかった」

 彼の不備は毎度の事だ。再度正しいデータを送ってもらい、再度手形を作れば問題ない。そう考えていたが……

「あ、ダメダメ。データ転送はできないね。やっと君が逃げ出したいほどの相手が出てきたんだもん。
 そのまま死んで頂戴な」
「…………何?」
あまりに軽く言われたため、一瞬何を言われたのか分からなかった。

「いやあ、紅葉ちゃんもなかなか悪いコだねぇ。機密の持ち逃げだって?デッカイ賞金がかかっているよん。
 このまま死んでくれると、ボクちんもーかっちゃってウハウハなんだ。あ、モチロン、例の『機密』とやらを
残しててくれると助かるナ〜後で回収して、それを取引先に高く売りつけられるからさ〜」

いつもの軽薄な調子で軽快に裏切りを告白してくる。
「……」
「いやぁ、いちお、ウチの稼ぎ頭だったからさ。そーそー紅葉ちゃんを向こうの企業に売るのはどーかな〜
 ……って思ってたんだけどサ。最近、ホントご無沙汰じゃん、オシゴトとか色々。あ、これはもーダメかな〜〜ってネ。
 だからサ、悪く思わないでね!こっちもビジネスなんだからさっ、君の尊い犠牲はムダにしないで有意義に稼がせて
 貰うからさっ!そこで死んでネ!」

 軽薄とも言える軽やかさが今では不気味だった。この男は今までもこうやって、仕事仲間を裏切ってきたのだろうか。

「……そう、最初から分かってたのね」
 紅葉は内心舌打ちしたい気分だった。この、のらりくらりした男の表面にいいように騙されていたとは……
不覚以外の何者でもない。こうも勘が鈍っていたとは。

「今まではイイ稼ぎ手だったし、無理めの依頼もいっぱいお願いしてきたけどね〜紅葉ちゃん、へーきで突破
 しちゃうんだもん。
  でも、最近陰ってきたようだし、そろそろ潮時かな〜ってさ。ま、隠すのも限界っぽかったから、露見する前に
 売り込んだ方がお客さんとの今後のお付き合いにも有利だからねっ。だから、紅葉ちゃんも最後のおシゴトせーぜー
 ガンバってね〜。あ、そうだ。最後に何か言う事とかある?」
 最後まで飄々とした様子で聞いてくる。その様子だけ聞けばいつもの仕事の通信と変わりがない。

「……そう。せいぜい高い賞金を貰う事ね。お金を数え終わったら振り向いてご覧なさい──そこに私がいるわ」

 そう言い捨てるとヘルメットを脱ぎ、内蔵されている通信機をクナイで破壊した。

 自分以外信用しない生き方をしてきたのだ。この程度の裏切りなど、珍しいことではない。自分一人の事ならば
いかようにもなる。が、問題は今、自分一人ではない事だ。
9チリチリおにこ:2012/10/17(水) 21:26:00.03 ID:Yme6J3bG
 紅葉は自分の突発的な行動で目を丸くしている二人の鬼を横目で見た。状況は最悪だ。厄介な敵に足手まとい。
未熟な生徒は自分の身は守れるかもしれないが、この戦場で生き残ることは困難かもしれない。

──自分の見通しの甘さでこのコ達が巻き添えにされるかもしれない──今まで経験したことのない慄きが全身を
かけ巡った。冗談ではない。そんな結末、受け入れられるものか。まがりなりにも自分が教えを説いたこのコを
みすみす死なせることなどできるものか。たった今、向こうとは切れたばかりだ。なら、思うようにさせて貰う。
通信機能の死んだヘルメットを再びかぶり直し、二人に向きなおる。

「状況が変わったわ。あなた達にも手伝って貰うことになる」
 紅葉は今までにない気迫をにじませ静かに呟いた。
10チリチリおにこ:2012/10/17(水) 21:32:13.95 ID:Yme6J3bG
という訳で、「チリチリおにこ」第13話>>6-9を投下したっ

【専門用語解説】
屍体回収業者:したいかいしゅうぎょうしゃ
 リサイクル業の一環。名の通り、死体を回収し、再利用できるように処理する業者。
 『死者』の中には、生前、悪霊に身体を憑依されるのを嫌って「聖別」したり「対悪鬼術式」等を身体に埋め込んで
いたりする為、処理の大半を人力で行う事も多い。
術者が簡易式鬼を呼び出し処理を行うが、屍体に触れ、式鬼が消滅すると、その屍体は「聖別」化されているので、
後の処理は人力でしか行えない。
 そういった事情で、不法投棄された遺体に関しては式鬼で回収を行う訳にもいかず、仮に出したとしても回収率は低い。

回収された遺体はニーズに合わせて処理され、各臓器は培養層にストックされる。骨組みや筋肉等も式鬼のヨリシロの
材料として利用され、脳組織も『呪言補助プロセッサ』として、フォーマットされ保存される。
特に心臓に関しては人格が残留している可能性が高いため、特に綿密に処理される。

【専門用語解説】2
防霊処置:ぼうれいしょち
 基本的な建築物の殆どにこの処理が施されている。霊的な非実体存在が通り抜けられないよう処理されたモノ。
ただし、完全ではない。完全を求めるなら、さらに厳重に処置が必要である為、値段も相応にかかるようになってくる。
高レベルの式鬼程、こういうものをすり抜ける事に長けている為、政府高官などは乗り物や建物には信じられない程

防霊処置に金をかけている。
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今確認したら、ゼンブで15話なので、残すところあと2話だっ!