【長編SS】鬼子SSスレ6【巨大AA】

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22チリチリおにこ
それでは、「チリチリおにこ」最終話>>15-19の続きを投下しまス。
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 ◇ ◇ ◇
 今にも火を吐こうとしていたデカブツの動きが一瞬とまったよーに見えた。いざとなったらアチぃの覚悟で
オレっちが身を盾にしておにこを火炎から守ってやろうかと思っていたが、こりゃぁチャンスだ。

「よっしゃっ!今だ!おにこ!いっちめぇ!!」
オレっちはおもいっきり、おにこをすっ飛ばした。

「たぁぁぁぁぁああああああああっーーーー!!!」

気合い一閃!!
 デカブツは頭のてっぺんから下まで真っ二つに斬り裂かれた。おぉ、相変わらずおっとろしー威力だぜ。

 デカブツは雄叫びをあげるヒマもなく、身体ン中に溜め込んだ炎をまき散らしながら、自分で自分の身体を
焼き焦がして崩れ落ちやがった。
 んで、次の瞬間、デカブツから吹き出した膨大な『気』がどこかに吸い上げられ、運び去られた。そンで、
パキャァァァンっと、ガラスが砕けるみてーな音がして、この周囲一帯を覆っていた結界が砕け散るのを感じ取った。
おぉ、なンか圧迫感ンがなくなったナ。

「おし、紅葉のねーちゃんもうまくやったよーだな」
「! もみじっ!?」
オレっちの頭の上に着地したおにこが思い出したように叫んだ。
 おっと、そういや、まだ崖にぶら下がってンかな。あのねーちゃん。あの結界破りは印を結んで起動させるとか
いってたが、あの状態でどうやったんだ。

──が、結論から言うと紅葉のねーちゃんは居なかった。その場所にはクナイが一本、ぶっ刺さっているだけだった。

「もみじっ!もみじーーーーーーーーっ!!」
おにこの悲痛な声が響きわたる。そんでおにこのヤツぁ取り乱してメッチャ泣いた。オレっちらは限界ギリギリまで、
辺りを探しまくったが、紅葉のねーちゃんはどーやってもクナイ以外、何ンも見つかンなかった。

「で、でーじょーぶだって。何ンで、オレっちらの前から姿を消したかわかんねーケド、あのねーちゃんが簡単に
 死ぬわきゃねーって。そンうち、フラリと顔を見せるって!なっ?」
 ホントにどーしよーもなくなって、オレっちはエリアを離れながら、そー言っておにこをなだめたが、おにこは
長いこと泣きじゃくってた。
 だが、これ以上居続けたら人間どもが調査用の式鬼を寄越してくる可能性が出てくる。見つかるのぁヤバい。
何ンかが近づいてくる気配を察知したンで、オレっちらは逃げるよーにソコを離れるしかなかった。

……しかし、ホントの所、どーしちまったンかね。
状況からして、溶岩の河ン中にドボンしちまったとしてもオカしかねーんだが、あのねーちゃんがそーそー
簡単に死ぬたぁ考えづれぇ。かといって、オレっちらを追っかけるのをヤメちまうってのも変といやぁ変だ。
いってぇ、どういった心境の変化だ?なンともモヤモヤする結末になっちまったもンだ。

「ま、なンだ。あンだけしつこかったんだ。いつかまたフラリと姿現すにちげーねーって。あン時みたくよ」
 オレっちは振り切ったと思ったのにアッサリ見つかっちまった時の事で、おにこを慰めた。
「……うん」
おにこは例のクナイを握りしめ、涙声でぽつりとうなづいた。今となっちゃ、そのクナイがあのねーちゃんの
居た証しだな。

「あ、そーだ。なンならよ。紅葉のねーちゃんと同じ事してみっか?そしたら、そのウチ見っかるかもしんねーしよ?」
 オレっちはおにこのヤツを元気づけたいあまり、何を口走ったかあんま深く考えなかった。

「おなじこと?」
おにこはさんざっぱら泣きはらした目で問いかけてきた。
「おぅよ、鬼退治」
オレっちは適当な事をいった。まー紅葉のねーちゃんに会った時にねーちゃんのやってたシゴトだから間違いねーだろ。
「それで、もみじ、みつかる?」
ここがオレっち、嘘月鬼の本領発揮よ。
23チリチリおにこ:2012/10/19(金) 20:42:21.66 ID:vnB6Hmh6
「同じ業界に居たら、同業者として会うこともあンじゃねーの?今の状態よか、ダンゼン会いやすいたぁ思うぞ?」

「おにこ、もみじのおしごとの事、よくわかんない……」
そらぁそうだろうな。オレっちだって人間のこたぁ、大してわかんねぇしよ。

「なぁに、オレっちに任せときナ。何ンとかなるって。マネジメントしてやっからよ」
ま、口から出任せなンだがよ。今までも何ンとかなってきてたンだ。これからも何ンとかなンだろ。

「おにこ、もみじにもう一度会いたい。だったら、何でもする」
静かに、決意に満ちた声でおにこは宣言した。ま、だったらオレっちはできることでサポートするしかねーよな。
 煽りたてといてなンだが、おにこの強情さはヤんなる程、分かりきってる。

「おっし、ンじゃあ、キマリだな。これからは街を拠点にすることになンぞ。覚悟はいいな?」
「うん!」
 よっしゃ、街での過ごし方もちったぁ、紅葉のねーちゃんに教わったし、暫くはなンとかなンだろ。
オレっちはおにこを頭にのっけたまま、街に向け、飛ぶ進路を決定した。オレっちの飛ぶそン先には街の明かりが
ウゼぇくれーにキラメいていた。
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 ◇ ◇ ◇
「か〜えっでちゃーん、ごっくろーさん♪どう?何か見つかった〜?」
 オフィスの一角。軽薄な声が響きわたった。オフィスといっても、この時代、畳三畳程もあれば個人的なオフィスなど
いくらでも開くことはできる。
 彼も多少手狭ながら、こじんまりとした個人経営のオフィスを持っている。フリーエージェントの一人だ。
もっとも、あまり有名ではない。半ばモグリ。

 手狭な空間に書類や認証符が乱雑に積み上げられ、まばらにある木製の机の上にはガラクタが散らかっている。
頻繁に書類を持った小型の式鬼が出入りして情報を交換していく。これが紅葉が今まで「本部」と呼んでいた場所の姿だ。

「……えー?ゼッタイ、見つかるって。溶岩の底に沈んだんじゃないかって?ないない。例え溶岩に沈んでいようとも、
 そんなんでどうこうなるモンじゃないって。ホントに送ったセンサーに引っかからない?おっかし〜なー?」

 男がいくつもの情報端末で情報収集しながら、熱心に通信向こうに話しかけている。今、オペレーションの真っ最中なのだ。
紅葉と名乗るくのいちが死んだであろう場所に人を送り、遺留品を走査させている。だが今の所、何も見つかっていない。
──ひょっとして、あの程度の難物では無理だったか──
そんな嫌な予感がチラリと脳裏をよぎる。

 彼はひょんな事からとある企業が賞金をかけている、くのいちの情報を入手した。そして、そのくのいちが身を
隠し、自分の下で働いている事を偶然、知った。

 彼女の仕事ぶりは他者よりも優れていたため、企業に売り渡すのは惜しかったが、近頃は事情が変わってきていた。
彼女の業績がふるわなくなってきたのだ。おまけに、おそらくは企業が欲しているだろうモノに追加の賞金が
かけられた。その金額は尋常ではない額で、男はその値に目が眩んだ。

 最近、彼女のシゴトが低迷ぎみだったこともあり、彼は彼女を謀殺することにしたのだ。彼女を罠にハメた後、
彼女の情報をその企業に売った。それだけで、かなりの金を得ることができた。
(もっとも、多少無理めの任務も彼女は易々とこなしてしまう為、そこまで持っていくまでが大変だったのだが)
 また、その企業と重ねて契約し、彼女の遺留品を回収する契約を取り付けた。成功すれば、一生金に困らないだろう。

「ま〜もーちょっと探してみてよ。ひょっとして、溶岩にまぎれて流されちゃったかもしれないからさ♪」
 積み上げられた書類に囲まれながら、手早く空中に投影された情報をクリックし、人員の配置情報を次々と指示を出し、
陣型を再配置しては、処理する。
 事が済んだら、この件にかかわった人員も謀殺せねばならないだろう。企業とはそういう契約になっている。

 だがその前に、結界の崩壊が報告されている。予定に反して、彼女が「勝利」してしまった可能性もある。
 その場合も想定して、それなりの人数の精鋭部隊を派遣してある。
いかな彼女であれ、あれだけの敵と戦った直後の消耗した状態では凌ぎきれないだろう。

 表向きには軽薄に振る舞いながらも男は頭の片隅で冷酷に計算を組み立てる。
 そうまでして探さねばならないもの。それは一振りの刀だった。紅葉というくのいちは、企業の技術の粋を結集して
製造した妖刀を持ち逃げしたらしいのだ──
24チリチリおにこ:2012/10/19(金) 20:43:31.76 ID:vnB6Hmh6
 内心、目的の物が見つからない苛立ちを隠しながら、軽薄な声で通信向こうの相手に次の指示を飛ばす──

「あー、そんじゃね〜次に探すべきエリアは──」
 そういいかけて男の言葉が止まった。

「お探しのものは──」
 凛とした冷ややかな女の声が男の耳朶を打つ。
 「──この刀かしら?」
首筋にヒタリと冷たいものが押し当てられていた。一瞬、男の意識が空転する。
馬鹿なっ!ここが突き止められる訳がないのにっ何故だ?!どういうことだっ?!
……だが事実、彼女はここに居る。ここにいて、男に刀を突きつけている。

男のヒタイからだらだらと嫌な汗が流れ出し、声が詰った。震える肘が積み上げられた書類の束を崩す。
書類がバサバサと床に散らばった。

「言ったはずよね?『全てがすんだら振り返ってみなさい』と」

「ま、まま、待って──」
いつも軽妙に回る舌は男を裏切り、口の裏に張り付いて動かなかった。
「た、助け──」
女は頓着せず、冷たく言い放った。
「今がその時よ──」
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 ◇ ◇ ◇
──都市伝説──
電子によるネットワークが寸断され、代わりに脳波ネットが普及した現代でも口コミを媒体に虚実入り乱れて
囁き続けられるお話がある──
 最近とある街の片隅で、恐れとも好奇心ともつかない感情とともに囁かれる噂話があった……

「ねぇねぇ、知ってる?この前、となりのクラスの子が暴走した式鬼に襲われたとき『チリチリさん』に助けられた

 ですって?」
「えー?政府の人じゃないのー?鬼害対策……とかの」
「それだって噂話じゃん」
「いや、それがさ。ちっさい着物姿の女の子だったらしいよ?そんな子がそんなアブナい仕事してないっしょ。ふつー?」

「えっ『チリチリさん』ってアレでしょ?鬼を食う鬼で、真っ赤な鬼のような目をしてて、鬼を食ってる所に出くわしたら、
 目撃者まで頭からかじられちゃうってゆー……」
「聞いた聞いた。でもアタシが聞いたのは小さい身体なのにでっかい岩を投げられるくらい怪力だって。
 で、目をあわせちゃいけないんでしょ。目をあわせたら襲われるから……逃げようとしても、自分で投げた岩石に
 乗っておっかけてくるって……」
「あれ、でもさっきチリチリさんに助けられたって……」
「もー、どれが正しいのよー」
「あ……そういえばさ、親戚の知り合いのコがこの前、満月の夜にさ……
 まぁるい岩の塊に乗って空飛ぶ女の子をみたって──」

「へー……でも何で『チリチリさん』なの?」
「それがね、チリチリさんが現れる直前や現れたあとって、散ってるんだって──」

 ──街の片隅で囁かれる噂は人の畏れが見た、ただの幻影なのか……それとも真実なのか……
『チリチリさん』は一体どういう存在なのか……
                                それを正しく知るものはいない──
                                                       ── チリチリおにこ 完 ──
25チリチリおにこ:2012/10/19(金) 20:47:29.88 ID:vnB6Hmh6
という訳で、「チリチリおにこ」最終話>>22-24を投下しましタっ!

【専門用語解説】
DNA編集技術:でぃーえぬえーへんしゅうぎじゅつ
 作中で「手軽にDNA編集が可能」といった記述があるが、『人権』を持つ生体へのDNA編集は実の所様々な法規制や煩雑な
手続きがあり、それなりの金額と手間を要する。
逆に屍体からの臓器移植は比較的規制が緩い為、一般ではこちらの方が頻繁に行われている。
 その際に臓器は蘇生処理が施され、方式としては薬物を用いた「薬物蘇生」と式鬼を憑依させる「式鬼蘇生」などが存在する。 
それぞれ、メリット・デメリットがあり、状況に合わせて選択するのが一般的である。

【専門用語解説】
鬼子の分身/クローン:おにこのぶんしん/くろーん
 かつて、ひのもと鬼子はクローン培養され、「制御された傀儡の鬼」として活動していた。しかし、色々あって制御を
振り切り、イチの存在に戻った……ハズであった。その群体から何かのエラーにより「ひのもと鬼子」から株分け
されたのがチリチリという存在である。
 もとは「鬼子」であったため、不完全とはいえ、ある程度の記憶を有する。そのため、かつて共闘したことのある紅葉に
対して不自然な程、信頼を寄せている。
(実際は背中を任せあう程信頼しあった共闘ではなかったが)
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 長かったこの物語もこれで終幕となりまス。
いままで、お付き合いくださった方、どうもアリガトウございましたっ!

>>21
紅葉の援護射撃がなければ、嘘月鬼は火炎が直撃して半壊になってたかもっ …そんなルートもあったかもしれない……