【長編SS】鬼子SSスレ6【巨大AA】

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188鬼子黙示録・脱法ハーブの章1/5
「ひのもとさ〜ん、こんにちわ〜!アレ?何この香り?お香?」
私の名前は田中匠。
オタクである事を除けば、ごく普通の女子高校生だった。
今は少し特別。私の友人の「日本鬼子(ひのもと おにこ)」は人ではなく鬼なのだ。

「いらっしゃい田中さん♪」
山奥から通じる、人間界とは少し離れた空間。
一年中紅葉に囲まれた、古い日本家屋が彼女の住処だった。
何か良い事があったのだろう。いつもよりちょっと明るく、彼女は出迎えてくれた。

「これ、最近知り合った『良い鬼』さんからもらったお香なんですよ」
彼女の「仕事」は、人間に取り憑いてその心を穢れさせる「心の鬼」を「萌え散らす」事。
退治するのではなく、簡単に言うと「悪い鬼」を「良い鬼」に変換してしまうのだ。
萌え散らされて「良い鬼」になった心の鬼を、鬼子さんはたいてい友達にしてしまう。
「人間界のものだって言ってましたから、田中さんも知ってるんじゃないでしょうか」
「へー、なんていうアロマ?」
「たしか『だっぽうはーぶ』って言ってました♪」

一瞬、私は固まった。
189鬼子黙示録・脱法ハーブの章2/5:2013/03/09(土) 14:26:41.98 ID:OXD3DUpP
そんな私を見て、日本さんは小首を傾げながら、それでもその微笑みには一点の曇りもない。
「え、と、ひのもとさん?それ、体に良くないって事知ってる?」
どう説明したらいいのか分からず、ようやく言葉を搾り出す。
「え?そんなはずないですよ♪このお香を嗅いでると体が軽いし、
とっても楽しい気分になるんですよ?ほら!」
やおら立ち上がると、日本さんはくるくると踊りだす。
「あはは、うふふ、ウェーイwwwウェーイwww」
滅多に見られないが、テンションが上がりきった時の日本さんはこんな感じだ。
私はどうしていいのか分からず、しかし楽しそうに踊る日本さんを見ているうちに
「まあいいか」と思うようになった。
鬼は人間より丈夫なはずだし、無理に止めようとして抵抗されでもしたら私の身にも危険が及ぶ。
もし薬物中毒になってしまうとしても、廃人になるのは日本さんで、私ではない。

190鬼子黙示録・脱法ハーブの章3/5:2013/03/09(土) 14:27:25.53 ID:OXD3DUpP
そんな事があって日本さんと距離を置くようになって後、
日本さんが「ついなちゃん」に滅ぼされたと聞いた。
「ついなちゃん」は方相氏と呼ばれる、一種の陰陽師の少女なのだが、
断片的な情報によると、なんでも彼女が「本物の日本鬼子」だったらしい。
そのために「偽者」である日本さんは滅ぼされたという。

正直、意味がわからなかったが、世の中何が起こっても不思議ではないのだし、
いちいち気にしていても仕方がないので、とりあえず日本さんの事は忘れてしまう事にした。
友達というものは、いや、家族でさえ、
いつかは別れの時が来るし、時間とともに記憶から薄れていくものなのだから。

191鬼子黙示録・脱法ハーブの章4/5:2013/03/09(土) 14:28:19.06 ID:OXD3DUpP
「田中ぁ、かんにんな…」
眠りの中で、関西なまりのついなちゃんの声が聞こえた。
それが夢の中だというのが自分でも分かった。
ついなちゃんは、私の知っているついなちゃんじゃなかった。
ああそうか。今の彼女は「日本鬼子(ひのもと おにこ)」なのだ。
彼女は泣いていた。
「鬼を『萌え散らす』…生まれ変わらせる言うんは、本当はな。
その鬼を一度『殺す』ちゅー事なんねん…」
日本さんの事を言っているのだと、私は思った。
それを謝りに、私の夢枕に立ったのだろう。
唇を噛んで涙を流す彼女の姿を見れば、それをどんなにか悔やんでいるかが分かった。

いいんだよ、ついなちゃん。キミは悪くないよ。
それが日本さんと、あなたの運命だったんだよ。仕方なかったんだよ。

声に出す事は出来なかったが、私は彼女に微笑みかけた。
私はキミを、責めたりしない。
192鬼子黙示録・脱法ハーブの章5/5:2013/03/09(土) 14:29:12.47 ID:OXD3DUpP
「田中ぁ、かんにんな…かんにんな…」

ああ、いいんだよ、ついなちゃん。
そんなに自分を責めないで。
日本さんは鬼なんだもの。いつか誰かに殺されていたさ。
それに、私に謝る必要なんかない。
キミが殺したのは日本さんで、私ではないのだから。

「堪忍!!」
次の瞬間、ついなちゃん…「日本鬼子」の手にした槍が、私を貫いていた。
「田中、かんにん、かんにんな!!」
ついなちゃんは号泣していた。

ちょ、ついなちゃん、何してくれてるのよ。
私は鬼でも、鬼の友達でもない普通の女子高校だよ?
そりゃオタクかも知れないけど。
ああ、なんか体崩れてきた…

「田中ぁ、たなかぁぁぁぁぁ!!堪忍してや!!堪忍してや!!」
泣きたいのはこっちだよ。
謝るくらいならやるなよ。泣くくらいならやるなよ。
、てゆーか



「田中」って、誰だ。

最期に私の目に映ったのは、紫煙となって消えていく「鬼の手」だった。
それは、「ひのもと おにこ」のものではなかった。