@重音家
「何でお前らがここにいる。」
「水臭いことを言うもんじゃないゲス。」柊の腕を持った魚が言葉を返した。
「魚臭いわ。」
「ここが一番落ち着くんだ」白い鶏が口出しした。
「こっちは落ち着かんわ。」
実質的な家の主の不機嫌な声がした。
「フっ、何を言っているのだね。」今度はチャボが何かを言う。
「そうそう、我等は将来の仲間ですし。」そして蛙が口を挟む。
「お前らが何時仲間になったんだっけ。」
「もーじきUTAUに加わります。」そして視線の斜め上を飛ぶ小鳥が囀った。
「いらんわ。」
テトは不機嫌そのものだった。鬼子と小日本、それとタロー(わんこのこと)だけかと思ったらおまけが5匹も付いてきやがった。
「そういや、去年は節分大会をやったとか。」ヤイカガシが尋ねる。
「去年は参加してないけどね。」テトが言った。
「さぞや賑わったのだろうな。」チチメンチョウの尊大な声がした。
「まぁ、今年は鬼役が居るし。」
「へー、誰ですかい。」モモサワガエルが聞いた。
「君達5匹だよ。」
テトは5匹を見て言った。ヒワイドリが後ずさった。
「鬼呼鈴を付けた鬼子の仕置きに耐える丁度いい機会だろう?」
テトはにこやかな顔になり、続けた。
「皆には本気で投げるように伝えるからね。」
5匹は逃げ出した。
>>112 >「水臭いことを言うもんじゃないゲス。」
>「魚臭いわ。」
久しぶりに華麗な切り替えしを見た気がする
ヤイカは心の鬼チガウだろw ナニ一緒になって逃げてんのさw
>>114 ヤイカガシも節分の鬼役ですよ?w
>>112の続き
全力で逃げる5匹を見送っていた鬼子が言った。
「何か色々済みません。」
テトが答える。
「気にすんな。どうせダメと言っても来るんだし。」
「うーん。それはそうなんですが。」
「第一、あいつら壁抜けしてきやがるから、セキュリティーなんか無意味だし。」
「はあ。」
暫く続いた雑談の後、テトが言い出した。
「節分が終わると、バレンタインか。鬼子は誰かに…まぁ、いっか。」
鬼子は少しはにかんだような表情を浮かべていた。
「テトさんは…」
「皆まで言わせる気か。あの野郎、今年も帰って来ん。つーか、去年の末から戻って無い。」
「何かあったんでしょうか。」
「仕事が急に忙しくなったのだと。電話の向こうで半泣き半怒りだったわ。」
鬼子はきょとんとした表情を浮かべた。
「ああ、まぁ、チョコは宅急便で送るんだけどね。」
「皆さんはどうするんでしょう。」
「どこかの25歳独身がバレンタイン終了のお知らせをやるんじゃないの。」
「誰でしょう。」
「毎年クリスマス終了のお知らせをやってる奴だよ。この間は七夕バージョンをだしてた。」
テトの口調は投げやりだった。
「えーと、他には。」
「知らん。デキてる奴は人の目を盗んでこっそりとやるから、表に出ない。男の場合、悲惨なことになりかねんし。」
「女の人は。」
「相手が居る奴だけがチョコを贈ることになってる筈。」
「そうですか。」
「えー、なんか面白い話とかないの?」こにぽんが口を挟んだ。
「ない。大概貰えなかった奴が『死ね!バレンタインデー』を口ずさむことになる。」
「何それ―」
「バレンタインに縁のない奴が歌う歌だよ。」
「何か、恐ろしい気が。」
「気にするな。毎年の恒例行事だ。去年も何も無かっただろうが。」
「そう言えばそうですね。」
同時刻 KAITOの部屋
この6畳間の片隅にキッチンがある部屋の真ん中にある、ちゃぶ台にKAITOはいた。
その周辺には例の5匹が要る。部屋にはこのちゃぶ台の他、普通の冷蔵庫と業務用の大きな冷蔵庫が置いてあった。
このほかあるものと言えば照明とエアコンだけだった。
その5匹を前にKAITOはぼやいていた。
「だからさー、何で君達がここに来る訳。」
チチメンチョウが答えた。
「同士よ。水臭い事を言うでない。」
4匹が同委の頷きをする。KAITOはむっとなって言った。
「誰が同志ですか。」
チチメンチョウも負けてはいなかった。
「乳尻太腿、その全てに耽溺できる君が同志でないと思ってるのかね。」
「だから、勝手に同市にしないでください。他にもいるでしょ。」
KAITOが反論するが、しかしKAITOの目の前にいる5匹は全員首を横に振った。
何しろ、この部屋はこの付近でテトの家同様心地のいい所なのである彼等が見逃す筈もなかった。
>>115の続き
「だからさー、来るの迷惑なんですけど。」
KAITOの再反論。だが、それを黙って聞くような連中ではなかった。
放っておくと猥談を始めるわ、煩いわ、他から苦情が来るわでいいことなど何も無かった。
しかも同類に見られるのが何よりも嫌なのだった。
KAITO自身スケベ心が無いかと言えばそうではなかったが、数々の動画の御蔭で全く誤解されていた。
それが無ければ比較的堅実な気の弱い青年と云った所なのだが、
流石に鳴かず飛ばずの期間は本人を凹ませるのに十分だった。
ミクの登場が無ければどうなっていたか分らないし、Vocaloid3になることもなかっただろう。
蒼姫ラピスの様な例外を除くと、ここを訪れる者はいなかったのだが、こいつ等はどういう訳かここを嗅ぎつけてやってきた。
因みにラピスが来るのはアイス目当てであり、妖精は甘いものを好むという至極単純な理由に拠る。それはUTAUの妖精たちも同様なのだが。
尤も本人(?)が記憶喪失であり、表裏のない性格をしているからということもある。
だが、この5匹は違った。
「あのー僕はそういう露骨に語るような趣味は無いんですけど。」
「じゃぁ、『兄さんは末期シリーズ』動画はどうなんでゲスか」
「あれは、ああいう役回りなわけで、僕がそういう訳じゃないの。」
「ほほー、じゃぁ、『死ね!バレンタイン』は?」
「いや、あれも、ああいう役だから。」
「でも本当はチョコが欲しかったんでしょうが。」
「そりゃぁ、欲しくないと言ったらうそになるけど、それとこれとは別。」
「MEIKOさんから手作りのウイスキーボンボンを貰えたらいいなーとか思ってないですか。」
「そりゃあ、ねぇ…」
何だかんだ言って5変態の相手をする(弄られているとも言うが)KAITOなのだった。
>>116の続き
同時刻 重音家
「あのさー、お前ら、人の頭は鳥かごの類じゃないと何度言えば分かるんだ。」
テトはドリルヘアーの中に現れた妖精トリオに対して言った。
「あーあの5匹お兄さんの所にいるんだけどさー」
KAITOも可哀相に。テトは内心で呟いたが、幾らなんでも頭が重くなるのだけはごめんだった。
「ラピスに転鳴あいとエルヴィ、さっさと出ろ。」
「えー、ここ、心地いいんですよ。」
「あたしの髪は鳥かごや寝床じゃないと言ってるだろ。」
「それに暖かいし。」
「冷凍庫に放り込んでやろうか。」
テトにそこまで言われたら出るしかなかった。基本的に陽気と温かな気候を好む妖精いとって、冷凍庫の中は地獄と言っていい。
「あー、妖精さん達こんにちわー。」こにぽんの呑気な声がする。
妖精たちは鬼子たちに挨拶をしている。
「でもどうしてここに。」
「お兄さんの所今魚臭いの。」ラピスが鼻をつまみながら言った。
「後で回収しましょうか。」鬼子が言う。
「今すぐと言いたいとこだが、駄目だろうな。それに回収直後は換気しないと駄目じゃないのか。」テトが口を挟む。
妖精トリオが口々に同じ単語を言う。
「アイス・・・」
テトはぴしゃりと言った。
「まぁ、今日は諦めろ。」
テトの一言で妖精3人はぶう垂れた。
何故か兄さんが普通の青年になってしまった。
どういう訳か鬼子の話が少なくなっちまった。