【是空も】萌えキャラ『日本鬼子』製作29 【萌え】

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655ついなのクリスマス 1/2
  ◇ ◇ ◇
 クリスマス。街中はイルミネーションできらびやかに飾られ、肌を刺すような寒気にもかかわらず、道行く人々も
どこか楽しげに往来する季節。

「いーむーなーやーにーむーやー」
そんな中、少女の甲高い声が響きわたっていた。道行く人らは奇異な目を向けながら通り過ぎてゆく。そんな好奇の
視線にさらされている少女が三人。
その中の一人は、特に目を引く格好をしている。
 頭には四方を睥睨するような四つ目の怪人を模した仮面をつけ、和風とも中華風ともつかない着物を纏い、
背中には巨大な巻物のようなものを背負っていた。
 そして手には矛を持ち、その手にした矛が揺れるたび、螺旋状に巻いたお下げが頭の横でユラユラと動く。
先ほどから甲高い声で呪文らしきものを唱えているのも彼女だ。正面をキッと睨み、付きだした矛の先には不安げな
面もちをした少女が二人。

 一人は気の強そうなツリ目にポニーテールの少女。もう一方の少女を気づかわしげに眺めていた。もう一方の少女は
おかっぱ頭でメガネをかけている。メガネの奥では黒く大きい瞳が矛先を心細げに眺めている。矛の切っ先はこの
おかっぱの少女に向けられていた。二人ともクリスマスにふさわしくお洒落をしている。ごく一般的な少女たちだ。

「ふるえーゆらゆらとーふるえーゆらゆらとー」
右手で矛を突き出し、左手で印を結びながら呪文を唱えている少女。彼女の名は如月ついなという。方相氏の血筋で
あることを自認し、「鬼祓い」を使命としている少女だ。
今も、おかっぱの少女に鬼の気配を感じ『鬼祓い』を半ば強引に行っている所だ。
 周囲の奇異な視線も気にとめず、目の前のおかっぱの少女を親の仇のようにキッと睨み付け呪文を唱えてる。

「ターーーーッ!!」
 やがて、裂帛の気合いを込めた矛先がおかっぱ少女の目の先をかすめ振りおろされた。
すると矛先から、ついなの霊力が不可視の斬撃として彼女の体を突き抜けた。

「ギギーーーーーーーッ!!」
途端、彼女に憑いていた心の鬼が引き
はがされ、虚空に溶けるように滅ぼされた。

「ふーーーーー……っ」
一仕事終えた少女は寒いにもかかわらずヒタイに浮かびあがった汗をぬぐった。
「心の鬼は祓ったで。もうこれで大丈夫や──」
目の前の少女らにそういいかけたが──

「ちょっと!危ないじゃないっ!」
 ツリ目のポニーテールの少女がおかっぱの少女を庇うように抱き寄せ、噛みつかんばかりに叫んだ。

「な、なぬっ?!」
せっかく娘の心の鬼を祓ったのに感謝の言葉どころか激しく非難され、ついなは目を白黒させた。

「なによ!この娘がヘンなのに取り憑かれているからお祓いするとかいっときながら何よ今の!危うく怪我するとこ
 だったじゃないっ!」
おかっぱの娘を庇いながら、ついなを激しく非難する。おかっぱの娘は武器が目の前をかすめたショックで硬直し、
大きな瞳に大粒の涙を浮かべていた。

「え、せ、せやけど、今、心の鬼をやな……」
つい、ツリ目の少女の勢いにおされ、普段の気の強さを発揮できず、ついなはモゴモゴといいつのった。

「何にもなかったじゃないっ!このコが怪我しそうだった事以外!」
普通の人には心の鬼は見えない。ついなの霊力によって心の鬼が引きはがされ、滅された所など、二人は
認識しなかったのだ。

「もういいわ!あんまりにもしつこかったからつきあってあげたけど、もうこれ以上私たちにかかわらないで!
 いこ、ゆっこ!」
そういうと、ツリ目の少女はおかっぱの娘の手を引き、人混みに紛れ消えていった……

「あ……」
656ついなのクリスマス 2/3:2012/12/24(月) 19:37:12.15 ID:XZOhyhzK
ついなはつい、呼び止めようとした手を挙げたまま、人混みの中に一人とり残された──

  ◇ ◇ ◇
「なんや、なんや、せっかくうちが助けたったのにあないな物言いは!けったくそわるい!」

 ──あれから、数分後、ついなは憤慨しながら街中を歩いていた。
「せっかくうちが助けたったのになんやあれ!」
 折角、街中で心の鬼に憑かれているところを察知し『鬼祓い』をしたのに、返ってきたのは感謝の言葉どころか
激しい非難だった。

「もう、今度鬼に憑かれても助けたらん!」
ダンダンと悔しさに足を踏みならし怒りをまき散らす。周囲の人らはついなの珍妙な格好に奇異な目を向けるものの、
かかわり合わないようについなを避けて歩きいてゆく。

「……ふ、ふん!どーせうちの使命の高尚さが理解でけへん一般人や!
  そないな凡人なぞに感謝されたいとも思わへんわ!」
 最後は一人強がった。
「…………」
 あたりはクリスマスムード、明るいイルミネーションが咲き誇り、ネオンの明かりが周囲を華やかに演出する。
どこからともなく、クリスマスソングが楽しげな雰囲気に拍車をかけ、街ゆく人々はみんな誰かしら連れだって街に
繰り出している。

 ・・・・ついなはその中を一人で歩いていた。

 結局、ついなは楽しげな街の中を明るい大通りを一人でとぼとぼと歩き続けていた。いつもは気にならない奇異な
ものを見る視線がついなにつきささる。

ついなの家はまがりなりにも仏門であるし、唯一の肉親、ついなの祖父は発明一辺倒でクリスマスとは無縁だ。
今までクリスマスを祝った事などない。

「──街なんぞ、出てくるんやなかったわ……」
ぽつりと、誰にともなく呟く。

 ついな自身、最初は街中で鬼狩りをする予定ではなかった。だが、いつもどおり、ひのもと鬼子に勝負を挑みに
山に向かったが、誰もあの家にはいなかったのだ。
 次に、最近友だちになった田中匠の家にいってみたが、そちらにも人の気配がしなかった。仕方なく街中に出てきたが、
街中の人ごみは余計についなの孤独感をいや増すだけだった。
まるで、一人病院に取り残された時のような寂しさを思い出していた。

「なんや、どいつもこいつもノー天気に笑いよって。心の鬼が間近にいるかもしれヘんのにいい気なもんやな」
へっ、と嘲けるも、その嘲笑もむなしく虚空に消える。

 ごそ、と懐に手を入れて赤いリボンでラッピングされた紙袋を取り出す。
(ま、まあ、うちはクリスマスはどうでもええんやけどな。匠は友達やさかい。メリークリスマスや)
 そんな台詞まで考えてわざわざ用意したクリスマスプレゼントだが、このままだと出番がないようだ。
 ついなは手の中の物が急に灰の固まりにでもなったような錯覚を覚えた。
「ふん、こないなもん!」
手近のゴミ箱に放り込んでさっさと帰ろうとする。

「〜〜〜〜──っ!」
……だが結局、買ったペンダントを捨てる事はできなかった。ついなにとって500円は決して安くない買い物
だったのだ。結局、どこかに目的があるでもなく、家に帰るでもなく、ついなは夜になりつつある街の中を一人
さまよい歩きはじめた。

 ──どのくらい歩いただろう。気がつけば周囲はきらびやかでオシャレな表通りから商店街にさしかかっていた。
ここもクリスマス需要を見込んでいろいろなものがセールに出されている。
ここでも自分とは全く無縁な空気についなは場違い感にいたたまれなくなり、きびすを返した。その時だ。

「あれ?君は──」
 聞きなれた声が耳朶を打った。
657ついなのクリスマス 3/3:2012/12/24(月) 19:37:48.82 ID:XZOhyhzK
「ふぇっ?!な、……っなん……っ」
マサカと思いつつ、ついなは振り返った。いや、確かに彼はこの場所にふさわしいといえばふさわしいが、でも、
まさかそんな。

 そこに居たのは買い物袋を抱えた田中 巧だった。ついなの友人、田中 匠の兄であり、ついなの想い人である。
 といっても、ほとんど会話をしたことはない。ついなは彼の前に出るとどうしても緊張してしまって、言葉が喉の
奥に詰まったように出なくなってしまう。なので今まで会話といえるやりとりはしたことがなかったのだ。

「あれ、また迷子?匠の奴がメールでクリスマス会に誘ったのに、返事がないって心配してたけど……?」

「え……?」
ついなはあわてて懐をさぐった。だが、そこにあるはずの携帯はなかった。どうやら家に忘れてきてしまったようだ。
「えーと、ちょっと待ってて……」
巧はそうい言うと、ゴソゴソと携帯を取り出した。

「おー妹か。買い物?ああ、ちゃんと買ってるって。ん?あ、シマッタ。それ忘れてた。買わないとな。それとな。
 さっき言ってた例の友達。そう、ぐるぐる髪の毛の……うん。今、偶然会ってさ。ん、ああ、わかった」
そう言うと、ついなに向き直った。

「で、えーと、うちでクリスマス会やるんだけど、聞いてない?
  あ、きいてない。それで、どう?他に用とかなかったらさ」

ついなは必死でどちらにも首を縦にふった。どうしても彼の前では普段の元気が出ない。首を縦にふるか横に
振る事でしか意志を伝えられないのがとても歯がゆかった……

「携帯忘れたんだと、で……うん。参加するって。ん、わかった。じゃ、ああ、後でな」
そういって携帯を切ると、ついなに手を差し出した。

「匠の奴、ちゃんとキミの分も用意してあるからつれて来いってさ」
「う、うん……」
ついなは匠の前ではどうしても言葉少なになってしまう。
差し出された手をおそるおそる握る。柔らかく、暖かな手が
ついなの手を優しく包み込む。カァァッとついなの頬に血が上る。自然、顔がうつむいてしまう。
が、巧はそれには気がつかない。ついなは彼の前ではいつもこんな感じだからだ。

「じゃ、行こうか。それにしても、今から仮装しているなんて、よっぽど楽しみにしてたんだねえ。クリスマス」
 妹の友達はコスプレってやつ?みんな好きだよなあ〜などと、若干マト外れな事をいいながら、巧は歩きだした。
 ついなは無言で手を引かれながら巧の後をついてゆく。二人は街の中をしばらく歩いているとやがて、
二人の頭上からひらひらと白いものが舞い降りてきた。

「……あ」
「はは。こりゃいい。雪が降ってきた。ホワイトクリスマスってやつだね」
ひらひらと空から舞い始めた雪を見上げ巧はほほえんだ。
「あ……は、はい……そうです……ね」
 二人は降り始めた雪の中、手をつないでクリスマス会場である田中の自宅へと向かった。

                                       ──おわり──
658創る名無しに見る名無し:2012/12/24(月) 19:41:32.62 ID:XZOhyhzK
>>655-657
え〜というわけで、クリスマスSS「ついなのクリスマス」でした。確か恵方巻き巻きさんの誕生日だったとかぢゃなかったかなと記憶してますが…
あってましたっけ?

そんな訳で、いつもオチ担当でガンバってるついなちゃんがちょっとダケ報われるSSを描いてみました。
普段中二病なついなちゃんだからこんなかんじで頑張っているんだろうなあ〜と、思ってくれれば幸いです。それでわ。

PS
 2レスで終わると思ってたら、思いの外場所とっちゃったヨっ!
マイルール「3レス以上はSSスレ」を破りそうで冷や汗かいたヨっ!(ドキドキ)