31 :
「帰還」「忘れ物」「流星群」 ◆91wbDksrrE :
「あ、ながれぼしだー」
娘の声に空を見あげれば、そこには彼女の言葉通り、数多の流れ星が煌めいていた。
まるで流星群のようなそれは、そのひとつひとつが有人の大気圏突入カプセルだ。
「そうか……もうそういう時期なんだな」
「そういうじき?」
「ああ、今の時期は皆戻ってくるんだよ」
舌っ足らずな娘の反問に、私は微笑みを浮かべながら答えた。
「帰還者の流星(メテオリターナ)」と呼ばれるその現象は、いつも決まってこの時期、
ちょうど暑さが盛りを迎え、入道雲が最も大きく自らの存在を主張する時期に起こる。
ようは、形を変えた帰省ラッシュだ。
――そう言ってしまうと途端に情緒がなくなってしまうような気がして、私の唇は苦笑の
形に歪む。訝しんでいるのか、首をかしげる娘に、私は
「皆、宇宙で暮らすようになったけど、毎年夏のこの時期になるとね、この星に帰ってくるんだ」
科学万能のこの時代、最早人はこの星を必要としない。コロニー技術が発達し、人の寿命に
等しい期間の宇宙滞在が可能になった。さらには、宇宙塵からのコロニー補修・製作資材の
自己生産が可能になった昨今、この星――地球に人々が戻らなければならない理由は
どこにも無い。
無いはず、なのだが――
「どうしてかえってくるのー?」
それでも、人はこの星に、宇宙での生活を一時中断してまでして戻ってくる。
なぜなのだろうか。
「……皆、忘れ物をしているのかもしれないな」
そして、それを探しに来て、でも見つからなくて……なんとなく、そんなイメージが
私の頭の中に浮かぶ。
「うっかりさんだねー」
「そうだね」
娘の笑顔に、私も笑顔を返す。
昔の習慣、その名残り。まあ、そういう情緒の無い考え方の方が、現実的なのかもしれない。
でも、星に残した忘れ物を探しに、流星群が降り注ぐ――そんな風に考えた方が、なんだか
浪漫があっていいんじゃないかと、そんな風に私は思った。
「ほら」
「うわー、たかいー」
「よく見えるだろ?」
「うん! あ、また」
今日から数日、この流星群は降り続ける。
この星に忘れた大切な物を取り戻すために。
――うん、やっぱりこの方がいいな。
肩車した娘とともに空を見上げながら、私は再度そう思うのだった。
おわり