ここは様々な作品のキャラを使ってバトルロワイアルの企画をリレー小説で行おうというスレです。
みんなでワイワイSSをつないで楽しみましょう。一見さんも、SSを書いたことのない人も大歓迎。
初投下で空気が読めないかもしれない? SS自体あまり書いたことがなくて不安?
気にせずにどうぞ! 投下しなくちゃ始まりません。
キン肉マンのラーメンマン先生曰く「最後に勝負を決めるのは技(SSの質)ではない! 精神力だ! 心だ!」
リレー小説バトルロワイアル企画とは……
原作バトルロワイアル同様にルールなし、特定会場で最後の一人が生き残るまで続くという企画です。
キャラをみんなでリレーし、交わらせ、最後の一人になるまでリレーを行う、みんなで物語を作るスレです。
ここしか書けない、このキャラしか書けないという人も分かる範囲で書けるし、
次どうなるかを期待して次の人にバトンを渡すこともできます。
全ての作品を知りつくてしなければ参加できない企画ではないので、興味が沸いたらぜひ参加を!
詳細ルールに関してはこちらを
ttp://www44.atwiki.jp/tarowa/pages/13.html 〜予約、トリップについて〜
予約する際はトリップをつけてしたらばの予約スレに書き込んでおいてください。
トリップのつけかたは、名前欄に #の後に半角8文字以下、全角4文字以下の好きな言葉を打ち込んで書きこんで。
したらばに予約するのは、「他の人が書いてるから避けよう」という心理を利用し、予約だけして放置することで
企画を妨げる「予約荒らし」という行為を防ぐためです。予約期間は5日(120時間)ですが、
間に合わないからもうちょっと伸ばして!という報告があればさらに2日予約期間を追加(48時間)できます。
したらば(予約などいろいろな時にご利用を)
http://jbbs.livedoor.jp/otaku/11918/ wiki(まとめサイトです)
http://www44.atwiki.jp/tarowa
★キャラクター能力制限★
・シャナ@灼眼のシャナ、C.C.@コードギアスは再生能力を落とす&急所(頭)をぶち抜かれたら即死。
・ルルーシュ・ランペルージ@コードギアスのギアス能力は、「死ね」「殺せ」など、 直接相手や自分の生死に関わる命令は無効。(「死ぬ気で頑張れ」などはあり)
・らき☆すたキャラのオタ知識、ラノベ知識は制限。
・仮面ライダー龍騎キャラのミラーワールドへの侵入禁止。
・ローゼンメイデンキャラのnのフィールドへの侵入は禁止。
・泉新一@寄生獣はミギー付き。
・COMP@真女神転生は禁止。
・シャナ@灼眼のシャナの封絶は禁止。
・雛見沢症候群@ひぐらしのなく頃には、まあ、空気読む方向で。
★支給品としてのアイテム制限★
・KMF@コードギアスなどのロボ系は禁止。
・仮面ライダー龍騎キャラには、自分のカードデッキを支給品枠2つ分としてカウントして支給。それ以外のキャラに支給される場合は支給品1つの扱い。
・デスノート@DEATH NOTEは禁止。
・サタンサーベル@仮面ライダーBLACKはシャドームーンから没収&世紀王の呼び寄せ禁止。
・カードデッキの変身は10分で解除。
・カードデッキは変身すれば1時間、ファイナルベントを使えば更に1時間使用不可となる。
3/6【コードギアス 反逆のルルーシュ@アニメ】
● ルルーシュ・ランペルージ/○枢木スザク/○C.C./ ● ロロ・ランペルージ/ ● 篠崎咲世子/○ジェレミア・ゴットバルト
1/6【ひぐらしのなく頃に@ゲーム】
● 前原圭一/○竜宮レナ/ ● 園崎魅音/ ● 北条沙都子/ ● 園崎詩音/ ● 北条悟史
2/5【スクライド@アニメ】
○カズマ/ ● 劉鳳/ ● 由詑かなみ/○ストレイト・クーガー/ ● 橘あすか
2/5【らき☆すた@漫画】
● 泉こなた/○柊つかさ/ ● 柊かがみ/ ● 高良みゆき/○岩崎みなみ
2/5【るろうに剣心-明治剣客浪漫譚-@漫画】
● 緋村剣心/ ● 斎藤一/○志々雄真実/ ● 瀬田宗次郎/○雪代縁
3/4【仮面ライダー龍騎@実写】
○城戸真司/○北岡秀一/○浅倉威/ ● 東條悟
0/4【ルパン三世@アニメ】
● ルパン三世/ ● 次元大介/ ● 石川五ェ門/ ● 銭形警部
2/4【ローゼンメイデン@アニメ】
● 真紅/○水銀燈/○翠星石/ ● 蒼星石
1/3【ガン×ソード@アニメ】
○ヴァン/ ● レイ・ラングレン/ ● ミハエル・ギャレット
2/3【寄生獣@漫画】
● 泉新一/○田村玲子/○後藤
0/3【ゼロの使い魔@小説】
● ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール/ ● 平賀才人/ ● タバサ(シャルロット・エレーヌ・オルレアン)
1/3【バトルロワイアル@小説】
● 稲田瑞穂/ ● 千草貴子/○三村信史
0/2【相棒@実写】
● 杉下右京/ ● 亀山薫
1/2【仮面ライダーBLACK@実写】
● 南光太郎/○シャドームーン
1/2【真・女神転生if...@ゲーム】
● 男主人公/○狭間偉出夫
2/2【DEATH NOTE@漫画】
○夜神月/○L
1/2【TRICK@実写】
● 山田奈緒子/○上田次郎
1/2【バトルロワイアル@漫画】
● 織田敏憲/○桐山和雄
0/1【ヴィオラートのアトリエ@ゲーム】
● アイゼル・ワイマール
1/1【灼眼のシャナ@小説】
○シャナ
26/65
私は、どんな困難もたちどころに吹き飛ばしてしまう
秘密の呪文を知っている。
鏡の前に立ち、自分自身に向かって
こう唱えるんだ。
乙!!!
立て乙
スレ立て乙です
後藤、シャナ、田村玲子を投下します
支援
いいよ、来いよ!
支援
【side:炎髪灼眼の討ち手】
この世の『歩いて行けない隣』から現れた異形の者たち、『紅世の徒』。
はるか昔から人の側に居た、だが人ではない『紅世の徒』は世界そのものを歪めて生きる存在だった。
『紅世の徒』はこの世の根源的な力である『存在の力』を食らって生きる者たちだったのだ。
本来ならば世界そのものに還元されるはずの『存在の力』が消失することで、世界には大きな歪みが生じてしまう。
それを重大な問題として捉えた者と軽視した者に『紅世の徒』は別れ、やがてそれは対立することとなった。
同じ世界に生きる者が対立し、その間には深い溝が生まれ、やがて両者の関係は明確な敵対のそれへと変化してしまった。
『フレイムヘイズ』は、その敵対戦争のための道具であった。
傍若無人の限りを尽くした『紅世の徒』の被害に遭い、激しい憎悪を抱いた人間と契約する。
その結果、人は『紅世の徒』だけを殺し尽くす『フレイムヘイズ』へと変わってしまうのだ。
そして四百年ほど前、大きな戦争があった。
この世に在らざる存在である『紅世の徒』が、この世に在ろうとした戦争だった。
多くの紅世の徒が死に、同時に多くの『フレイムヘイズ』が討ち死にしていった。
新鮮な憎悪に溺れた新兵も、復讐を冷ました歴戦の勇士も、同じく死んでいった。
最強の勇者であった『炎髪灼眼の討ち手』もまた、その中の一人だった。
シャナという少女は、幼児の頃からその『炎髪灼眼の討ち手』を継ぐ者として育てられた。
『炎髪灼眼の討ち手』とは、その称号自体が力を持つ勇者の証だった。
この世の全てを圧倒し、ありとあらゆる事象を解へと導く天下無敵の存在。
その『炎髪灼眼の討ち手』であれと言われ、育てられた。
そんな『炎髪灼眼の討ち手』でありたいと思い、育ってきた。
「……」
その二代目・『炎髪灼眼の討ち手』は二匹の異常な生命が戦う姿を眺めていた。
歪な生命体であった、シャナの眼には存在そのものがぐにゃぐにゃな曖昧なように見えた。
その異常な外見から行われる動きもまた、この世の存在とは思えない奇抜な動きだった。
田村玲子は頭部を、後藤はその右腕と両の脚を変化させているのだ。
皮膚を変質させた刃で二合、三合と撃ちあう姿が見える。
物質的でひどく泥臭い、紅世の徒とは違う戦闘手段だ。
まさしく未知の存在だった。
紅世の徒とは違う、だがしかしシャナを殺し得る存在。
己の中にいる魔神とも呼ばれる強力な『紅世の王』、アラストールの力に振り回されるシャナでは万が一が起こるかもしれなかった。
「……行くに、決まってるじゃない」
この日初めて、シャナが理屈の外から動いた。
勝てると判断したわけではない、田村玲子を守ろうとしたわけでもない。
――――僅かにでも、一瞬だけだとしても、シャナは後藤に怖気づいてしまった。
支援
支援
その自分自身を否定するために、最強の存在としてあろうとするために動いたのだ。
『シャナ』という個人の本能が導き出した行動ではない。
『フレイムヘイズ』という存在の意義から導き出された行動だった。
怯えという感情は弱い心が生み出すものではなく、直感で気づいた力量の差を知らせるものだと知っていた。
それでも、シャナは『炎髪灼眼の討ち手』が引くことを許せなかったのだ。
「ハッ!」
裂帛の気合と共に人の常識を大きく超える跳躍みせると、シャナは自身の髪と瞳を炎で灼いていく。
紅に染まった炎髪灼眼。
それこそが彼女のトレードマークであり、同時に彼女の全てである。
「……誰だ」
「お前は……あの時の娘か」
一瞬の跳躍で二匹のパラサイトの中心へと現れたシャナへ、二匹のパラサイトから無機質な声と鋭い視線が浴びせられる。
それでいい、とシャナは心中で呟いた。
他者がシャナに浴びせられる感情など敵意だけでいい。
シャナが他者に向ける感情もまた敵意だけでいい。
シャナは短く息を吸い、自身の心を奮わせるとその名を口にした。
「私は、炎髪灼眼の討ち手。最強のフレイムヘイズ」
『贄殿遮那のフレイムヘイズ』も『シャナ』も、どちらも便宜上の名前だ。
彼女の本質は炎髪灼眼の討ち手であり、前の二つは先代との区別をつけるためだけの名に過ぎない。
彼女は炎髪灼眼の討ち手でなければならないのだ。
天下無敵の、存在に。
「お前たちを狩る者だ」
支援
【side:田村玲子】
「お前たちを狩る者だ」
防戦一方の中で全てを焼きつくす炎髪灼眼の少女が目の前に現れたことに対し、田村玲子は大きな動揺はなかった。
あのまま力押しされているよりはマシな状況だと判断したのだ。
それに、三つ巴なら三つ巴で、一対一の対決とはまた違う解答を導きだせばいい。
ケース・バイ・ケース。
むしろシャナという後藤の把握しきれていない存在が田村玲子にとってプラスに働くかもしれない。
さらに、シャナに関しても後藤という存在を知りえないだろう。
この場から『逃げる』ことに関しては、田村玲子はここで最も大きなアドバンテージを握っていた。
「炎髪、灼眼……」
火の粉を散らすシャナの姿を見つめた後藤の口が動いた。
炎を連想させるその姿に、僅かに全身の筋肉が波打っているように見える。
その姿はまさしく動揺した人間そのものであり、田村玲子にとっては意外の何者でもなかった。
「どうした、炎に思い入れでもあるのか?」
「なに?」
頭部を変換させた二股の刃を収めながら、田村玲子は後藤へと語りかける。
一部を除き、戦闘状態の頭部から普段の頭部へと姿を戻す。
シャナは口を閉ざし、田村玲子の言葉に耳を傾けた。
戦闘を有利に導く要素は、何気ないやりとりから導き出される。
後藤や田村玲子の在り方というものを、僅かな会話から嗅ぎ付けようとしていた。
本質というものは僅かな会話でも十分に察することができ、さらにその者の本質とは戦闘においても大きな影響を与えるものだった。
それは田村玲子も承知している。
後藤とシャナ、両者の単純な戦闘能力や交渉の容易さなどの様々な方面から思考をした上での選択だった。
田村玲子はシャナに後藤打倒のヒントを与えることが最善であると判断したのだ。
シャナと後藤の両者を視界に収めながら、田村玲子はさらに言葉を続けた。
「島田の事件を覚えているか、泉新一の通う高校で暴走した同胞の事件だ」
「……」
「我々は非常に繊細な生き物だ……予想外の刺激には過敏に反応してしまう。劇物を浴びた島田のように、な」
刺激物となる薬剤一つで、人の顔を維持することを難しくなる。
それどころか、自らの意思と行動を一致させることすら叶わないこともあるのだ。
パラサイトは皮膚そのものが思考の核となる、いわば全ての細胞がむき出しの脳細胞であるからこその弱点だった。
「劇薬ほどではないが……火傷でも我々には思考と運動の間に齟齬が生じてしまう」
ピクピクと後藤が持つ四つの目の周囲が青筋だつ。
その反応は心を持つ人間と同様に思え、田村玲子はどこか愉快な気持ちになった。
「火を使う相手に負けたか、後藤」
これはシャナに後藤を倒す手段を伝えると同時に、田村玲子の心に浮かんだ疑問を確かめるための問いかけであった。
それは田村玲子が常から抱いていた、パラサイトという種の根幹ともなる考えだった。
――――五体のパラサイトの意思が混ざり合う後藤でさえも、人間の感情に芽生え始めているのかもしれない。
支援
「……そうだ。俺は、火に炙られ、三木を切り取られ、為す術もなく敗走した」
田村玲子の言葉に全身を強ばらせた後藤は、ふと身体の力を抜きゆっくりと答えた。
シャナにとってはパラサイト特有の生気を感じない無機質な声ではある。
だが、同種である田村玲子は後藤の心に芽生え始めた『怒り』というものを感じとっていた。
そして、後藤はその怒りを抑えることすらも覚え始めている。
――――やはり、人に近づいているのだ。
「だからこそ、俺はもう一度手に入れる……勝利を、最強という座を。
……お前の領分である言葉のやり取りは終わりだ、これからは戦いで決めさせてもらう」
会話を打ち切り、後藤はその全身を波打たせる。
左腕、右脚、左脚。
その全てが脈動して弾けるような動きと共にシャナと田村玲子との距離を詰めた。
単純な体当たりだが、後藤のそれは十分に必殺に値する『技』であった。
体勢を低くしたその体当たりは、足元を掬うのではなく刃となった左腕で切り裂くためのもの。
後藤が最初に狙ったのは、小柄なシャナだった。
「ハッ!」
その後藤のタックルにシャナは前方へと駆け出すようにして膝蹴りを合わせた。
綺麗に入ったその膝蹴りは、しかし後藤を倒すには至らなかった。
脳を揺さぶることで十分にダメージを与えられる攻撃だが、脳を持たない後藤には通じない。
「……強いな」
シャナの膝蹴りに関し、後藤は誰に言うでもなくポツリと呟いた。
そして、シャナが視線を下ろし後藤の笑みを見た瞬間、背中へ悪寒が走った。
「ッ!?」
「気をつけろ」
シャナが回避行動を取るよりも早く、凄まじい強さで後ろへと吹き飛んだ。
後藤の攻撃による後退ではない。
頭部を腕のような形に変化させた田村玲子が、シャナの襟元を掴んでを強引に引っ張ったのだ。
「後藤に対して頭部と四肢へのダメージはあまり意味がない。
首を切り落とすか、内臓器を潰すなければ一撃で仕留められんぞ」
後藤の左腕がシャナの元いた場所に襲いかかるのは、そのすぐ後だった。
一撃一撃が死に至らしめる攻撃だった。
「何も考えずに動いたわけじゃないッ!」
シャナが余計なお世話だと言わんばかりに声を荒げた。
現にシャナは回避行動への準備が出来ていたのだが、田村玲子はそれに気づかなかった。
それは余計なことをしてすまなかった、と田村玲子は抑揚のない声で言い放った。
支援
支援
「さて……どうする? やはり、私と後藤の二人を相手にするというか?」
「そうだ、お前たちは危険すぎる。
私がここから脱出するためには、何も考えずに殺人を繰り返す奴は不穏分子以外の何者でもないわ」
本来ならば、シャナは田村玲子の排除は最優先ではなかった。
だが、それを伝えようとはしなかった。
そして、殺人を繰り返さなければ手は結べるということを仄めかす発言を続けた。
「そうか……なら、手を組もうじゃないか」
「……」
「これから私が人を殺さないのならば、私とお前が敵対する必要はないだろう?」
そのシャナの言葉の意味を汲み取った上での返答だった。
最優先とすべき事項は後藤の排除、それは初めから一致しているのだ。
そうわかった上で、シャナも田村玲子へと言葉を返した。
「私は別に人を殺すなと言っているんじゃない……!」
「ほう?」
その言葉を口にした瞬間のシャナの脳裏に泉新一たちの顔がよぎる。
泉新一も、城戸真司も、杉下右京も、誰も彼もが人を殺すなと言っていた。
彼らと同じ事を言うことに、妙な反発を覚えているからこその言葉だった。
「脱出したいから、人を『無作為に』殺すなと言っているの……!
そうよ、使える人間だけを生かしておけばいいのよッ!」
彼らを見下しながらも、泉新一の死に動揺した自分。
そんな感情を吹き飛ばすように、シャナは半ば叫ぶようにして言い放った。
だが、田村玲子は涼しい顔をしたまま、茜色に染まりつつある空を眺めた。
「まあいい……むっ、上から来るぞ、気をつけろ」
「ッ!?」
田村玲子がテレパシーで感じ取ったのは、木から木を飛び移る後藤の気配だった。
刃に変えた両脚を登山家がピッケルを埋め込むようにして、木と木の間を飛び移っているのだ。
ただのパラサイトではない、頭部だけでなく四肢すらもパラサイトである後藤だからこそ出来る移動方法だった。
「クッ!?」
上空から降り立ってくる後藤の攻撃をシャナは盾、ビルテクターを使って防いだ。
ただ受け止めるのではなく、僅かに角度をつけて受け流す。
刃と変化させていた後藤の脚部による攻撃は、ビルテクターによって防ぐことができた。
砕かれもせず、切り裂かれもしないビルテクターに驚愕の念を覚える。
自由落下に木々を蹴る加速をつけた後藤の攻撃を、砕かれることもなく切り裂かれることもなく耐えきったことに驚いたのだ。
「我々が会話している間に後藤は周囲の様子をうかがっていたようだ……三次元的な動きをしてくるぞ」
田村玲子とシャナが共闘相手というメリットを手に入れている間に、後藤は地の利というメリットを手に入れていた。
シャナはそのこと自体に驚きは抱いてないようだった。
そのぐらいのことは承知の上で長々と会話したいようだ。
メリットにデメリットはつきものであり、その都度の取捨選択こそが戦いなのだから。
支援
「私が前に出るわ、お前は援護をしなさい……アイツはお前を追ってるんだから、逃げようだなんて考えないでよ」
シャナはその言葉とともに弾けるような速さで後藤へと向かっていた。
了解した、とだけ答えると田村玲子は後藤へと向かって刃の触手を伸ばす。
二又のその刃は後藤へと襲いかかった。
だが、一瞬の隙を狙ったはずの攻撃はあっさりと防がれる。
続いてシャナがゲイボルグによる鋭い突きを放つが、それもまた後藤の左腕に防がられる。
しかし、防戦一方にしたことに意味があった。
シャナはゲイボルグから手を離すと、片手に持っていたビルテクターで思い切り殴りつけた。
左脚で田村玲子の攻撃を、左腕でシャナの突きを。
この二つを同時に防御せざるを得なかった後藤は、シャナのビルテクターを使った打撃によって地面へと引きずり降ろされる。
「中々やるな」
地へと引きずり下ろすことに成功したが、後藤は対して驚いていないように見える。
確かにこれで勝利したわけではない。
後藤と同じ目線に立ったとしても、隙を見せればすぐに元のように木々を移動していくだろう。
「援護を忘れないでよ!」
シャナはゲイボルグを拾い直すと、田村玲子にそう言い放つ。
そして、くるりくるりとゲイボルグの穂先が揺らしながら後藤と向きあった。
単調なゆったりとした動きを数秒繰り返されると、瞬時にゲイボルグの穂先が後藤の喉を襲う。
緩やかな円の動きから、急な線の動きを取る突き。
緩急の差によるこの不意打ちは回避不能の必殺の一突きだ。
それを後藤は、紙一重ではあるが、首を捻ることで回避した。
「……ほう」
硬化されているはずの後藤の皮膚が容易く切り裂かれた。
それはゲイボルグの武器としての性能もそうだが、シャナ個人のスペックもまた優れている証だった。
シャナは突きの早さもそうだが戻しもまた早い、そのため隙がない。
やはり、後藤もシャナも田村玲子よりも強い。
田村玲子は強さになど関心は持っていない。
田村玲子が感嘆の声を上げたのは、シャナが人の姿をしたまま後藤と渡り合っているからだ。
人間は十分にパラサイトと渡り合える。
そのことに大きな意味があったのだ。
人とパラサイト、田村玲子の中でこの二つが徐々に重なりつつ合った。
そう考えながらも、シャナへの援護を忘れない。
二対一であるが相手は油断ならない相手なのだから。
「……ふむ」
シャナも後藤の両者は一瞬の隙を逃さない強者だった。
田村玲子は二パターンの刃をひとつは攻撃、ひとつは防御と使い分けながら考えを深める。
彼女の一合目を撃ちあった瞬間から、ある考えがよぎっていた。
後藤は棒立ちのまま、左腕と左脚を巧みに操ってシャナと田村玲子の攻撃をしのいでいる。
それも、ある程度の余裕を持ったまま、だ。
ギリギリまで攻撃を引き付けることで僅かな動きだけで回避を可能としているのだ。
「……やはり、あの動き」
――――後藤もまた、変化している。
支援
人に近づくだけでなく、人のように成長しているのだ。
最適な四肢の使い方を学習し、かつ、その四肢の動きですら流れるような見事なものへと変わっていた。
脚の有効な使い方を覚えたように見える。
「フンッ!」
そう田村玲子が見抜いた瞬間、後藤は急激な伸縮運動でジャンプした。
そのような動きを感じ取られなかった。
あらゆる行動にはその前の準備行動が存在する。
後藤の先ほどの動きには、それが感じ取れなかった。
「皮膚の動きを偽って表面上の身体の動きを誤魔化したか……工夫を覚えたようだな」
人間に近づいているじゃないか、と嘲りに似た笑いとともに吐き捨てた。
どれもが極端に後藤の戦闘能力を飛躍させたわけではない。
現に先ほどの跳躍は、後藤の身体能力を考えると小さな跳躍だった。
言い捨ててしまえば、相手を翻弄するだけのただの小細工だ。
後藤本人も有効に活用していると言うよりも、それがどれほどの効果を持つか試しているように見えた。
しかし、そんな風に言ってみても、撃退に成功したわけではあるまい。
もう一度地面に引きずり降ろすことも出来ないわけではない。
だからこそ、こちらの精神的な疲労、プラス後の先を取るための潜伏行動だ。
決定打に欠ける戦いだった。
そのことを重々承知していた田村玲子はシャナに近づくなり声をかけた。
「火を持っていないか」
「何を、いきなりっ……」
火という言葉にシャナは動揺する。
田村玲子は揺れたシャナの語調に違和感を覚えながらも、言葉を続けた。
「火傷の経験はあるか」
「……あるわよ」
「先ほども言ったが我々は皮膚ひとつひとつが非常に繊細なのだ。
個々の細胞それぞれが独立して生きていると言っても過言ではない。
だからこそ、表面を炙り幾つかの細胞を死滅させるだけで後藤の動きを一時的に静止させることができる」
ライターでも何でもいい、火を起こすことが出来るものを持っていればそれだけで戦力になる。
田村玲子のように同時に複数の変化を起こせるパラサイトならば、一定量の分身を切り分ける事ができる。
顔半分ほどの大きさのそれは、田村玲子の分身であり自由自在に動かせるのだ。
だが、決め手が足りない。
そこに炎、もしくは刺激物があれば後藤の隙を作れると考えたのだ。
「私は、炎を扱えない……」
シャナの食いしばった歯から漏れた言葉は苦渋の色に塗れていた。
『紅世の徒』や『フレイムヘイズ』にとっての炎とは、『存在の力』の具現化である。
この世の根幹である『存在の力』は炎として現れる。
『自在法』と呼ばれる紅世に関係する人間が扱う、一種の魔法はその炎を利用して行われるのだ。
その中にはもちろん『存在の力』である炎を物質世界の炎として扱うものもある。
支援
――――だが、シャナは『フレイムヘイズ』ならば扱えるはずのその『自在法』が類を見ないほど下手くそだった。
契約を交わした魔神の強大さ故の扱いづらさ、フレイムヘイズとしての経歴の短さ、そもそもとしての自在師としての適性の低さ。
シャナが自在法と呼ばれる魔法のごとき技を扱えない理由は多く挙げられる。
仕方ない、と言ってしまえばそれまでだが、シャナはそのことは大きなコンプレックスともなっていた。
シャナが戦闘に用いる事ができるのは五体による肉弾戦のみ、異端の『フレイムヘイズ』とも言えた。
「そうか」
そんなシャナの、恥部とも呼べるコンプレックスの告白を聞きながらも、田村玲子は冷静に言葉を返した。
もとより、シャナが炎や薬物を持っていることに期待していたわけでもない。
シャナが協力的になっているだけでも十分すぎるほど状況が変わっているのだから。
「ならば、不確かではあるが私が後藤の脚を止めてみせる。その槍で後藤を殺せ」
「……簡単に言うわね」
「出来なければ逃げても構わん……後藤の狙いは一にも二にも私を取り込むことだからな。
とにかく、ひとまずは後藤を引きつけてくれ」
「……簡単に、言うわね」
シャナは田村玲子への不満と自らへの鬱憤を吐き捨てるように同じ言葉を繰り返した。
『炎髪灼眼の討ち手』が逃げることなど出来るはずがない。
力量差に怖気づいて逃げた瞬間、それは『炎髪灼眼の討ち手』でなくなってしまう。
だが、それでもシャナの中には不安があった。
ゲイボルグとビルテクターは十分に強力な武器といえる。
だが、この二つはシャナが普段から使い慣れた武器ではない。
そここそが、シャナの不安の根源だった。
「これを使え」
「……?」
そんなシャナに田村玲子が差し出したものは窓ガラスの切れ端と一つのカードデッキだった。
窓ガラスの破片は展望台に水銀燈が現れた際に破壊した窓ガラスの残骸。
カードデッキを扱う際に必要になるだろうと思い、拝借してきたものだった。
「カードを鏡に移せばモンスターが現れる。
本来ならば変身をして身体能力を向上させるのが一番だが、その僅かな隙も後藤は見逃さないだろう」
「……なぜ今まで使わなかったの?」
「後藤がその隙を見せなかったし、勝ちきる自信もなければ逃げ切れる保証もない……
それに、変身して仮面をつけては私の最大のメリットが無くなる」
田村玲子は説明書とカードデッキを押し付けた。
その強引な行動にムッと顔をしかめるシャナは、しかし顔を暗くさせた。
今まで堂々としていたシャナとは思えない、沈んだ言葉が漏れだした。
「お前たちには、私をどう見える?」
炎髪灼眼の討ち手とは、それ自体が力のある称号『だった』。
ありとあらゆる敵と華麗に、壮絶に打ち砕く勇者の名前。
シャナはそうあれと育てられた。
なるのだと、育ってきたのだ。
だが、その自信が泉新一の死や後藤との苦戦を前にして揺るぎつつあった。
「……か弱いな」
「なっ……!」
田村玲子の言葉に、シャナは瞬時に頬を紅く染める。
だが、そんなシャナの様子を気にかけることもなく、田村玲子は言葉を続けた。
「腕をもがれただけで獣へと落ちる後藤も。
たったひとつの意義に揺れるお前も。
答えの出ない問いに固執し続ける私も」
――――なにもかもが、か弱い。
その言葉は自らに対する自嘲のようにも、『どこかの誰か』に対する羨望のようにも聞こえた。
「さて、強引に行くしかあるまい……私と後藤がパラサイトである限り、逃げられんからな」
そう言いながら、田村玲子は黙りこくったシャナを無視してかけ出した。
パラサイトはお互いが常にテレパシーのような物で引き合っている。
睡眠などの意識が沈んでいる例外でなければ、彼らは無意識的に呼び合っているのだ。
後藤が田村玲子をピンポイントで発見したのも、そのテレパシーに惹かれて訪れたからに過ぎない。
「そこだッ!」
田村玲子が動いた瞬間、後藤は左腕を伸ばして攻撃を仕掛けてきた。
単純な攻撃だが、速い。
田村玲子は苦心しながらも、自らの頭部を刃に変化させてなんとか防御をする。
「早くしろ!」
その悲鳴に似た言葉と同時に、シャナと同時に巨大な白鳥が現れた。
沈みつつある太陽を覆う、巨大な白鳥だった。
「ムッ……!?」
その白鳥の名は閃光の翼・ブランウイング。
怪鳥と呼ぶにはあまりにも美しく、美鳥と呼ぶにはあまりにも雄々しい鳥だった。
ブランウイングの姿を確認したと同時に、田村玲子は自らの後頭部を大幅に変化させる。
ボーリングの球ほどの大きさのそれは、意思を持った生き物として後藤へとゆっくりと近づいていく。
気付かれないように、ゆっくりと。
ブランウイングが大きく翼をはためかす。
木々が生い茂ったこの地では巨大なブランウイングに出来ることはそれぐらいだった。
だが、それだけで十分すぎるほどの突風が起きる。
後藤の素早い動きを封じることができる、効果的な攻撃だ。
「ハァッ!」
「ちィ!」
後藤はブランウイングの突風に踏ん張りながらシャナと刃を合わせる。
後藤の左腕とシャナのゲイボルグが何合も撃ちあうが、結果は出ない。
一進一退の攻防、どちらが倒れても不思議ではない。
支援
――――まだだ……隙が出来るまで……
ただ闇雲に突っ込めば、後藤は反応する。
自由自在に四肢を操り、獣の如く鋭敏になった後藤に生半可な不意打ちは危険だ。
「ぐっ……」
後藤はブランウイングの突風を耐えながら、瞬時にシャナとの距離を詰める。
そして、左脚の膝を刃に変えて膝蹴りを行う。
鋭さを持ったその膝蹴りは、ビルテクター越しにも関わらずシャナの小柄な身体を吹き飛ばした。
そして、シャナとの距離を詰めて追撃を行う。
シャナは後ずさるが、大きな回避行動を見せない。
出来ない、のであろうか?
「粘ったが、ここまでだ」
違う、田村玲子にはこのシャナの行動が演技のように見えた。
シャナは田村玲子の策のために、自身が死なない程度に後藤の隙を作ろうとしているのだ。
後藤に隙が生まれる瞬間は田村玲子は理解しているのだ。
そして、シャナもまたそれを感じ取っていたようだ。
生き物の本能と後藤の性格を考えると、大きく分けて二つだ。
後藤が槍の直撃を受けた瞬間、もしくは――――
「死ね」
――――シャナを殺す瞬間。
「今だ!」
田村玲子の言葉と共に、ブランウイングの突風が止む。
シャナが田村玲子の行動を嗅ぎ取り、その行動を束縛をせまいと判断したのだ。
弾けるような動きで田村玲子の分身である肉片が後藤の背中へと飛び乗った。
「これで……ッ!?」
己以外の三体のパラサイトを支配する後藤の頭部は非常に繊細な働きをしている。
そこに隙がある。
田村玲子としての意思を持った肉片が飛び込めば、後藤の動きを邪魔することができる。
その隙を、シャナに突かせるという作戦だった。
支援
「……!?」
だが、それは瞬時に間違いであったと気づいた。
後藤の体内へと侵入した瞬間に、あまりにも強大な意思に田村玲子は飲み込まれた。
それは、あまりにも大きな強さへの渇望。
「はっ!」
その瞬間、後藤は田村玲子の右脚へと向かって刃が飛ぶ。
虚を疲れた田村玲子は防御できずに、綺麗に切り取られた。
血が勢い良く溢れ出る中で、田村玲子はようやく理解した。
――――田村玲子であった肉片は、後藤という生き物の肉と変化してしまった。
そう、後藤自身が選んで『取り込んだ』のではなく田村玲子に『取り込まされた』ものを支配しきった。
それは予想だにしないことであった。
体内に忍び込み内側から破壊しようとした田村玲子の分身を、逆に支配してしまったのだ。
あるいは、全身に火傷を負うなどして共生するパラサイト支配が困難であったならば結果は違ったかもしれない。
「……やはり決め手は搦め手か。『お前らしい』な、田村玲子」
田村玲子の刃は後藤に取り込まれ、右腕が再生された。
二の腕ほどしかない右腕であるが、確かに後藤の身体となっていた。
田村玲子の肉体ではなく、後藤の肉体となったのだ。
田村玲子だけでなくシャナもまた策を潰されたことを知り、一瞬ではあるが動揺が走る。
その僅かな動揺を後藤は見逃さなかった。
後藤の左腕が鞭のようにしなり、シャナへと襲いかかる。
ハッとした様子でシャナはゲイボルグを捨てて両手で構える。
重いその攻撃をなんとか耐えたシャナは、同時にその鞭が盾の内側へと回りこんでくることに気づいた。
打撃ではなく斬撃、それも巻きつくようにしてビルテクターを持つ手を狙った攻撃だった。
固く握りしめた両手から瞬時に力を抜き、ゲイボルグと同じようにビルテクターが地面に転がる。
皮一枚を切り捨てたその攻撃は、不発に終わった。
「終わりだ」
だが、それはあくまで『繋ぎ』の攻撃だ。
シャナから頑強な盾を外させるための攻撃にすぎない。
――――本命はその後に来る膝蹴り。
水月に向かって、鋭い打撃が突き刺さる。
トラックに衝突した子猫のように、空中でを二転三転して吹き飛ばされる。
そのシャナの肉体を受け止めたのは木々の群れだった。
「ガアアッ!」
一際大きな大木に打ち付けられたシャナは肺の中の空気を吐き出し、地面に這いつくばる。
生まれたての子鹿のごとく、手足をプルプルと震わせていた。
「ッ……クゥ……!」
「逃げろッ!」
うずくまるシャナに向かって出た言葉は、とてもパラサイトとは思えない言葉だった。
相手をかばう、思いやりの言葉だ。
「逃げ、る……?」
「いいぞ」
シャナが田村玲子から投げかけられたその言葉を反芻すると、後藤はなんでもないように言い放った。
「見逃してやる、お前に固執する理由は今はない。
……田村玲子が出血過多で死んでしまう前に、全てを取り込む必要があるからな」
格付けの言葉だった。
後藤が見逃しシャナが見逃される、すなわち後藤が上でシャナが下であった。
シャナは、地面に転がったゲイボルグとビルテクターを拾うと背中を向けていった。
敗走する『炎髪灼眼の討ち手』の背中を眺めながら、後藤は右脚を切り落とされた田村玲子へと視線を落とした。
「俺の想像通りお前は強かった……だが、お前も終わりだな」
この生物の頭の中には戦闘だけしかないようだった。
同種である田村玲子を殺したことも、戦いに勝ったという感想しか抱いてないようだ。
「……お前が探し続けていた、我々の存在意義とやらはわからん。
だが、それでも俺にはやはり戦いこそがその意義なのだろう。
戦いを求めるからこそ、俺はお前の言うとおり強くなったのだ」
「だろうな」
淡々とした言葉のやり取りだったが、そこには確かに会話があった。
田村玲子にはそれが妙におかしかった。
「……だがな、後藤。やはり、私もお前も……何もかも全てがか弱いよ。
吹けば飛ぶような、呆気ない存在だ……」
「ほう」
後藤が声を上げたのは田村玲子の言葉に動揺したからではなく、田村玲子が自然な笑みを浮かべたからであった。
その表情はまさしく、人間そのものだった。
「後藤……排他的なお前ですら、弱者という他者を必要としている……強さを渇望し変化している。
……我々と、人間……どこが違う」
人が何かを求めるように、田村玲子は答えを求めて後藤は強さを求めた。
そして、この場で田村玲子はその鍵となるものを見つけたような気がした。
――――お前さん達の頭が良いのは、人間とこうして話をする為……って思いてぇじゃねぇか。
人に寄生することで、人に死を教えるために生まれてきた。
パラサイトは死を理解するために、存在の意味を理解するために生きている。
人もパラサイトも、誰もがか弱く他者を必要としていた。
シャナを逃げろと言い放ったのもまた、依存の形の一つなのかもしれない。
支援
「これが、死か……なぜ、気づかなかったのだろうな……」
四肢が切り取られ、寄生先である篠崎咲世子の身体からの血液が失われていく。
死とともに襲い掛かる圧倒的な孤独に、田村玲子は一つのことがわかった。
田村玲子の側には常に生命があったことを。
この世の全てが生きていることを、細胞のひとつひとつが鼓動していたことを。
この世に、一つのものなどなにもないことを。
言葉だけの理論ではなく、その意味を理解できた。
「だが、それでも……わからないことはある……」
田村玲子の疑問が晴れることはなかった。
会話をするために、人と生きるために生まれてきた。
それはあまりにもおおまかな答えだ。
細部には、多くの疑問が残っているし、同時に多くの疑問も新たに生まれてしまった。
命の脈動を感じたからこそ、その命の必然性を知りたかった。
――――命はどこから現れ、どこへ消えて行くのか。
彼女の頭に響く命令と、それは関係があるのか。
「俺にはお前の考えることが分からん……だが、分かる必要もない。
それは戦いには必要のないものだ」
左腕が硬質化されていき、日本刀を思わせる薄く鋭い刃へと姿を変えていく。
その刀で彼女の首を切り取ると同時に右腕に接合を行う。
難しい工程ではあるが、それを可能と出来る力が後藤にはあった。
その姿を見て、田村玲子は自然と頬を緩んでいた。
「……夕焼けか」
後藤の背中の奥に、夕焼けが見えた。
田村玲子にはついぞ理解できなかった、咲世子の脳裏に過ぎった滅びた日本の夕焼けを思い出した。
今ならば、少しはわかるかもしれない。
夕焼けは夕焼けにすぎない。
だが、この瞬間の夕焼けはこの瞬間にしかないものなのだ。
咲世子にとってあの夕焼けこそが、重大な意味を持つものだった。
彼女が生まれた国が死んだ瞬間に見た、最後の夕焼けだった。
彼女を支えていた、彼女が支えていたものが壊れた瞬間だったのだ。
「やはり、我々は……寄り添い、生きる獣……」
後藤の刃が田村玲子の首を跳ね飛ばした。
【田村玲子@寄生獣 死亡】
支援
【side:五頭】
強烈な自我を持って、田村玲子の意思を握りつぶす。
後藤の身体は後藤の支配力を持って、成り立ってている
田村玲子と言えども、死の淵を体験した後に取り込まれては為す術もなかった。
「……」
後藤はゆっくりとした挙動で右腕を振り回す。
一本一本指を動かしながら、命令と動作の間に齟齬がないかを確認しているのだ。
動くことを確認すると、次は変化の確認を行う。
まずは日本刀のような薄く鋭い刃へと変化させ、次はハンマーのように厚く硬い腕へと変化させる。
――――全て、問題ない。
そのことを気づくと、後藤の顔には自然と笑みが張り付いていた。
「これで俺は戻れる……最強に……」
後藤は志々雄真実に勝つその瞬間まで、永遠に敗者のままだ。
どれだけ戦闘を行なっても、どれだけ強いと認めたものを負かしても同じだった。
後藤は敗者のままなのだ。
「俺は力を取り戻した……もう、誰にも負けはしない!」
獣の咆哮が夜を呼ぼうとしていた。
人の言葉によく似た、獣の咆哮だった。
【一日目夕方/D−6 森林部】
【後藤@寄生獣】
[装備]無し
[支給品]支給品一式×3(食料以外)、前原圭一のメモ@ひぐらしのなく頃に、不明支給品0〜1、カツラ@TRICK、カードキー、知り合い順名簿
三村信史特性爆弾セット(滑車、タコ糸、ガムテープ、ゴミ袋、ボイスコンバーター、ロープ三百メートル)@バトルロワイアル
[状態]疲労(中)、左腕(三木)欠損、ダメージ(小)
[思考・行動]
1:会場内を徘徊し、志々雄真実を殺す。
2:強い奴とは戦いたい。
[備考]
※後藤は腕を振るう速度が若干、足を硬質化させて走った際の速度が大幅に制限されています。
支援
【side:?】
合理的な判断の末の撤退ではなかった。
確かに、田村玲子が死に右腕を取り戻した後藤と戦っても勝ちの目は薄かった。
致死ではないとはいえ、ダメージを負ったこの身で戦うのは愚策だ。
だからこその仕切り直し、そう言えば聞こえがいいかもしれない。
だが、そうではなかった。
「逃げ……逃げちゃ……!」
その言葉を口にすることは、シャナにとって血を流すようなものだった。
後藤への、死への恐怖を前にして、田村玲子の逃げろという言葉にすがってしまった。
自らの意思ではない言葉に寄りすがってしまった。
田村玲子の荷物を持っていることもまた、シャナを一層に惨めな想いにさせた。
「逃げ……ゥッ!」
生命を燃やして生きていた。
なににでもなれる可能性を捨ててでも、その存在に成りたかった。
何もなかった己に意味を持たせてくれた人たち。
彼らが求めていたものに彼女はなりたかった。
――――大好きな人たちが求めていた、炎髪灼眼の討ち手に。
「私は……『炎髪灼眼の討ち手』じゃない……」
初めての敗走の中で突きつけられたものは、むき出しとなった自分だった。
【一日目夕方/D−6 森林部】
【シャナ@灼眼のシャナ】
[装備]:ゲイボルグ@真・女神転生if...、ビルテクター@仮面ライダーBLACK
[支給品]:基本支給品(水を一本消費)、首輪(剣心)、カードキー、ファムのデッキ
[状態]:ダメージ(大)、力と運が上昇、激しい苛立ち、敗北への惨めな想い
[思考・行動]
0:とにかくこの場から離れる。
1:首輪を解除できる人間とコキュートスを探す。首輪解除が無理なら殺し合いに乗る。
2:首輪解除の邪魔になるような危険人物には容赦しない。
3:市街部に行く。
4:真司に対する苛立ち。彼が戦いを望まなくなった時に殺す。
5:主催者について知っている参加者がいれば情報を集める。
※ファムのデッキを除く田村玲子の所持していた支給品が放置されています。
投下終了です
タイトルは 寄り添い生きる獣たち です
矛盾、誤字脱字等があればご指摘お願いします。
投下乙です。やべえよ……後藤が五頭にもどっちまったよ……
そして玲子さんに合掌……シャナとのやり取りが何かお姉さんみたいで和ませてもらった
シャナはここにきて一気に人間臭くなったな、これは今後に期待できるかも
とりあえず投下乙!
もう一回しっかりと読んでから書きたいので、感想は明日に書きます
51 :
”募梱益男”:2012/06/01(金) 18:58:30.81 ID:kR/LkWcA
投下乙!!
玲子おおおおおおおおおおおお!!!!
うわあ、喪失感が半端なくて言葉にならない…ルパンを追うかたちになっちゃったな…
咲世子の夕焼けの話、まさか夕方パートのここでくるとは…!!
夕焼けにしろルパンとの会話にしろ、今までの積み重ねの集大成になったなー
玲子さんって実はロワ開始から死亡までで一番成長した参加者なんじゃないだろうか
最後はどこに行き着くんだろう、ってずっと気になってたけど、凄く綺麗な最後でよかった
対するシャナはこれからだなー
後藤はクーガーとのフラグがあるけど、これもどうなるか楽しみだ
しかし対主催に傾いてた玲子が死亡、シャナは精神フルボッコ、後藤は完全体って…対主催ェ…wwww
戦闘も読み応えがあって凄く面白かったです、改めて乙!!!
それからミスかな、と思う点をいくつか
>>10 >田村玲子は頭部を、後藤はその右腕と両の脚を変化させているのだ。
この時点では左腕では
>>24 >シャナも後藤の両者は一瞬の隙を逃さない強者だった。
シャナ「と」?
>>31 >その悲鳴に似た言葉と同時に、シャナと同時に巨大な白鳥が現れた。
同時にの重複
>>35 >その瞬間、後藤は田村玲子の右脚へと向かって刃が飛ぶ。
刃を飛ばす、でしょうか
>>42 後藤の身体は後藤の支配力を持って、成り立ってている
「て」が二つに
>>52 ご指摘ありがとうございます
すでにwiki収録されていただいているようなので、編集で修正させて頂きます
収録して下さった方もありがとうございます
おう、AAでも狭間いじめるのやめたれ
明日の10時からファミリー劇場で龍騎の49話〜最終話やるから、映る人は見て、どうぞ
ここまで真司が生きてるのが少し意外
狭間といいシャナといい精神ボッコだね
ボスクラスのマーダーが元気なのが厳しいね
対主催w
投下乙!
読みなおしてきた、明日と言ったのに明後日になってしまって申し訳ない!
ルパンに続いて、田村さんも死んじゃったか……
後藤相手にかなり善戦してたけど、最後の最後で策に溺れたっていうのかな
最後の「これが、死か」って原作もミギーが死ぬ時の台詞だけど、今度は田村さんが言う形になったか
>>52の人も言ってるけど、参加者の中で一番成長した気がする
やっぱり◆EboujAWlRA氏の書く後藤は恐ろしい、投下乙でした
四月と五月に起きたこと
・ルパン・月チーム解散
・警察署崩壊、蒼星石・こなた・右京・かなみ死亡
・ラプラスの魔登場、主催陣営の目的の一端が見えた?
・ロワ公式HPの発見、首輪の解除方法が判明
・光太郎死亡
・ルパン死亡
・五ェ門・詩音・蒼嶋死亡、北岡がデッキを取り戻す
・参加者の拉致方法判明、狭間の対主催化フラグ
・玲子死亡、後藤完全体復活
濃い二ヶ月だった…
光太郎をはじめとした
有力対主催が次々に死亡して後藤復活ってw
60 :
創る名無しに見る名無し:2012/06/04(月) 00:44:24.19 ID:L7rBtdC5
っていうかひょっとしてもうすぐ放送行けたりする?
第二回放送があってから半年も経ってないよね?
ageてしまった、ごめんなさいorz
全員を夕方まで進めるならあと5〜7話ぐらいで放送に行けるな
★多ジャンルバトルロワイアルの書き手氏に御連絡
したらば議論スレに、御連絡事項を書き込ませて戴きました。
今後書き手として参加される御予定をお持ちの方は御返事をお願い致します。
>>58 一年分くらいの密度あったよな、二ヶ月で10人死亡とかぱねぇ
銀様は外僕を探してるけど
マーダーだらけで利用できそうな参加者いないw
それでも頭脳、戦闘共にそれなりの奴が配下にいるし、割りと順風満帆な気もするけどねぇ
影月や縁や後籐だと問答無用で
襲い掛かってくるだろうな
予約キタ━━━━(゚∀゚)━━━━ッ!!
狭間の対主催って
そんなに影響でかいか
マーダーになってたかもしれない奴が対主催になったってのは大きいんじゃね?
狭間と織田様は死亡者スレで仲良くなりそうな気がする
全然本気シーンがないからわからないけど、
シャドームーンにはボコボコにされたとはいえそれなりの強マーダーと渡り合う蒼嶋よりかなり強いはずだからなあ
自由の女神スタイルになれればかなりの戦力にはなるはず
この狭間はレイコルートだから一番強い
狭間なのか
数時間前にアニロワ2の死者スレを途中まで読んだんだけど、つかさとジェレミアが会話してるシーン見てたらここのロワ思い出して変な気分になった
>>74 バルサミコスー
ここのロワでこうなったのは主にルルーシュのせい
浅倉「これも全部ルルーシュ・ランペルージって奴のせいなんだ」
北岡「なんだって、それは本当かい!?」
レナとつかさが会話してるシーンはニコロワをおもいだしたなw
この2人、ニコじゃ最終決戦まで一緒に生存してたから
…あのロワは2人とも途中でぶっ壊れてたけど
ふと思ったけど、もう今回の予約が投下されたら放送かな?
もう無理に夕方までもっていかなきゃならないほど状況逼迫したキャラいないし
夕方まで行ってないのは銀と月、ヴァンとC.C.、桐山、シャドームーン、縁かな
動きがないまま放送に入ると話の流れがどうしてもおかしくなるってメンツじゃないね
あ、もちろん予約入れるなって言ってるわけじゃなく、むしろ新規さん既存の書き手氏でも予約を入れてもいいんですよ……?(チラッ
>>75 つかさの学習能力の無さにもうんざりしたがな…しかもコイツこんなKYなのかよ…
まあまだ盾になるヤツが残ってるみたいだけど
狭間ってツンデレキャラになりそう
らきすたの高校って割りといい人ばっかりだね
狭間も善人が多い高校に入学すれば良かったのに
つかさが鬱陶しいって意見が出るとは思わなかったな……
>>82 狭間の問題は高校以前からじゃないかな
軽子坂高校に隠れファン多かったし、純粋に凄いって言ってる奴もいたから、狭間の付き合い方次第では普通に友達できたと思う
中学以前からもいじめられてたっぽいし、とっくに狭間が人付き合いを諦めてたから無理だとは思うけど……
CCО様と遭遇した場合の狭間のメンタルが心配w
CCО様は狭間を部下に欲しがるだろうけど
能力的には欲しいだろうけど狭間は組織を乱す孤高の存在だろうし部下にはいらないんじゃね?
悟史って気軽に頭撫でる癖があるけど
おっとり王子様タイプのイケメンだから許されるよね
織田様が同じことやったらスタンガンで気絶させられそう
87 :
創る名無しに見る名無し:2012/06/10(日) 13:21:16.35 ID:aK+ijjip
どうせなら天才でイケメンでいろんな器が大きい上田先生に頭を撫でられたい
公式でイケメン設定のある悟史と公式でブサメン設定のある織田様を比べるのはやめてやれよ
>>87 邪魔です、上田さん
89 :
代理投下:2012/06/10(日) 20:44:55.36 ID:5Yu5Tmwy
◆KKid85tGwY氏が規制中とのことなので、代理投下します
支援
森の中を脇目も振らずに走り抜けていく。
周囲への警戒は怠らないが、最も優先すべきは速度を落とさないこと。
足が泥で汚れるのも、服が小枝で傷つくのも厭わない。
何しろ今のシャナは逃走しているのだから。
如何なる困難をも克服する『フレイムヘイズ』だったはずだ。
何者をも恐れぬ『炎髪灼眼の討ち手』だったはずだ。
それが今やたった一体の敵、後藤に為す術も無く敗走している。
そのことがシャナを苛んでいた。
扱い慣れた得物である贄殿遮那が在れば事情も違っていた。
しかし今のシャナが有する武器は、未だに慣れぬ長槍。
ダメージを負った状態で後藤を相手にするには、余りに不相応だった。
田村玲子から渡された、変身することがカードデッキも在るには在る。
シャナは森の中を逃げながら、共に渡された説明書を読んでいた。
強固な装甲。身体能力の向上。多彩な特殊能力。変身をすればそれだけの物を得られるそうだ。
あるいはそれを使えば、今からでも後藤を倒すことが可能かもしれない。
しかしあくまでそれは説明書に拠る知識。
実際にどれほどの効果を発揮するかは判断できない。
そんな不確かな物に頼って、後藤と戦うのはリスクが大き過ぎた。
(……そう言えば、あいつも同じようなカードデッキで変身していた)
思い出されるのは先刻に戦った城戸真司の姿。
確か真司も色違いだったが同じようなカードデッキを使って変身していた。
おそらく真司は只の人間に過ぎない。
それが変身に拠ってフレイムヘイズに匹敵するほどの力を得ていた。
しかし問題になるのは、それがライダーの力が“付加”されるのか、それともライダーの力へ“更新”されるのかだ。
シャナにライダーの力が“付加”されて上乗せされるのなら、これほど心強いことは無い。
しかしライダーの力へ“更新”されて上書きされるだけなら、シャナにとって利はほとんど存在しないと考えられる。
いずれにしろリスクが大きいことに変わりは無かった。
シャナはそこまで思考して、自分の計算の矮小さに嫌気が差す。
この世の全てを圧倒し、ありとあらゆる事象を解へと導く天下無敵の存在。
自分はそんな『炎髪灼眼の討ち手』ではなかったのか?
しかしそんな『炎髪灼眼の討ち手』は、実はどこにも居なかった。
居たのは存在の力すら使用できない只の生物にも敵わなかった『シャナ』。
『炎髪灼眼の討ち手』と比べて、なんと矮小な存在だろう。
(……………………参加者の減り方から見ても、後藤並に強い敵が他にも存在する可能性がある。
実戦でカードデッキの性能を試して、必要ならもっと強力な武器を調達する必要があるわね……)
しかしそれでシャナの何が変わる訳でもない。
使命を果たすため合理的に知恵を尽くし、その身体が動く限り力を尽くすように教育された『フレイムヘイズ』。
『炎髪灼眼の討ち手』としての自信を失った、
否、『炎髪灼眼の討ち手』としての自信など実は砂上の楼閣に過ぎなかったと思い知ったところで、
そうあるために教育されて、そうあるために生きてきた過去が無くなる訳でもない。
一刻も早く討滅の使命を果たすために力を尽くす。
それが変わらないシャナの在り方だ。
シャナは相変わらず力強く走り抜けていく。
その瞳に冷たい闇が宿る。
最早シャナの中に『炎髪灼眼の討ち手』の自負は無い。
それでも幼い頃から身に付けた使命だけで突き動く。
そんなシャナの赤々と灼に輝くはずの瞳には、機械のような冷たさが宿っていた。
(……市街部に出たわね)
フレイムヘイズの脚力で走っていたシャナは、いつの間にか建造物とコンクリートで囲まれた市街地にたどり着いていた。
ここまで来れば、後藤を撒けたと見て良いだろう。
速度を落として市街地を進むシャナ。
歩きながら自分の身体の調子を窺う。
フレイムヘイズは生物の常識を超えた回復力を持っている。
それは全力疾走中でも発揮され、後藤から受けたダメージは既に大方を回復していた。
元々衝撃が内臓まで届いていたため、ダメージとしては大きかったが、
回復が困難な負傷をしていた訳ではない。
これならば戦闘になっても、対応は可能だ。
それを確認すると同時にエンジン音が聞こえて来た。
無人の街にエンジン音が鳴っているのだから、音の主は当然殺し合いの参加者である。
しかし聞こえてくるのは、フレイムヘイズの聴覚にもやっと届くほどの遠距離から。
そう考えていたらエンジン音が急激に大きくなって来た。
接近して来る。
シャナがそう認識した時には、スクーターに跨った男が姿を現した。
シャナの意表をすら衝く、凄まじい速さで急接近して来たスクーターは、
目前でターンして急停止を行った。
ゲイボルグを握る手に僅かだが力を込める。
しかしスクーターの男は、シャナの威圧感や緊張感などお構いなしに、
にこやかな――しかしどこかぎこちない――笑顔を浮かべ話しかけて来た。
「オー! ジャマジャマー!」
シャナの重厚な沈黙と凍るような冷たい視線。
震え上がりそうなシャナの険を前に対して、それでもスクーターの男はにこやかな表情を崩さない。
「これ今、市街で流行ってるんですよ! つまらないですか? 寒いですか? 引きましたか? 痛かったですか?
おっと、申し遅れましたお嬢さん! 私の名前はストレイト・クーガー!! 最速の……」
「首輪の解除方法に心当たりは無い?」
畳み掛けるようなクーガーの言葉を、鋭い語気で早急に遮る。
クーガーの目的をシャナは掴みかねていた。
ただ、油断を誘っている可能性も在る。
警戒の念を緩めないまま、クーガーの調子に付き合わず、
自分の用件を端的に伝える。
支援
「いやいや、つれないお嬢さんだなぁ。私は名乗ったんですから、まずお嬢さんの名前から教えていただきませんか?」
「シャナ」
「これは可愛らしいお嬢さんにぴったりな可愛らしい名前だ! いや、シャアさんがつれなくするのも仕方ないことかも知れません。
何しろ私とシャアさんでは些か年齢が離れている。お付き合いをするには勇気が出ないのも無理は無い。
しかし私は年齢・人種・国籍その他あらゆる個人情報の如何に関わらずあらゆる女性に対して紳士的に……」
「名前はシャナよ。早く質問に答えて」
「本当につれないなぁ……。残念ながら私の速さでも、首輪を外す方法にはまだ辿り着けていません。
しかーし!! それは俺の速さが足りないのか!? 俺がスロウリィなのか!!?
いいや、違うね! 私がそれを目的地と定めれば、地球上の誰より速くそこへ辿り着く!!
何故なら俺は最速の男…………おーっと、一人歩きは危ないですよシャアさん」
「うるさい!!」
独りで喋り続けるクーガーを放置して、シャナは立ち去ろうとする。
クーガーは尋常ではない俊足で、即座にシャナの隣まで追い縋った。
口うるさく、名前も間違えるクーガーのお陰で、シャナは後藤との敗戦のために忘れていた苛立ちがぶり返して来ていた。
それでも後藤との戦いの影響で精神的に消耗していたことと、
無闇に敵を作りたくないと言う思考から、クーガーになるべく構わないように心掛けていた。
そうでなければ、とっくに手を出していただろう。
しかしその忍耐は早くも限界を迎えた。
クーガーの顔面に裏拳を打ち出す。
しかし拳はあえなく空を切った。
「!?」
「ハッハッハ!! シャアさんは鋭いツッコミをするなぁ。でも私には構いませんが、他の方にする時は加減をした方が良い」
目標を外した。と、シャナが錯覚しそうな程の速さでクーガーが回避していた。
クーガーの異常な速度に驚きながらも、それを押し隠し、
冷たい視線とゲイボルグの切っ先をクーガーに向ける。
「……次に名前を間違えたら、殺すから」
「それは失礼。ところで今度はこちらから質問しますが、後藤とか言う化け物に心当たりはありませんか?」
「…………さっき会った所よ」
今度はクーガーの目が鋭く光る。
後藤と何か因縁が有ったのだろう。
あの後藤のことだから、誰から恨まれてもおかしくは無い。
「そいつは何処に居るんですか!?」と、ごちゃごちゃと口うるさく聞いて来るクーガーに目もくれず、
シャナは自分が来た方向、背後の北西を指した。
後藤に敗北した経緯にはなるべく触れたくは無かったので、無言で教えたのだ。
「それでは、名残惜しいですがここで失礼します! なぁに、寂しがることはありません!
俺の速さなら後藤を倒した後に幾らでもデートをする時間を作れます! それではまた、お会いしましょ……」
「後藤と戦うつもりなの?」
「話を最後まで聞かない人だ……」
「お前が余計な話が多いのよ。質問に答えて」
「…………あいつとは、付けなきゃならない決着があるんでね」
クーガーは柄にも無く神妙に語る。
そこからは、並ならぬ意思で後藤に立ち向かおうとしているのが伺えた。
クーガーはかなりの強さを持っているのも伺える。
それでも、後藤相手にどれだけ戦えるかというと些か心許ない。
何故ならクーガーは明らかに不調であった。
「お前は手負いみたいだけど」
「なるほど。確かにシャアさんの仰るとおり、俺は怪我をしている! それも一つや二つでは無い! 文字通り満身創痍といっていいでしょう!!
しかし、But、その代わり! それを補って余りある速さが有る!! 速さは万能!! 速さはいかなる不利も補って……」
「だからうるさい!!」
クーガーの言動や様子から察して、おそらく後藤の強さを知っている。
その上で後藤を語る時は余裕が見られなかったことからも、勝算が薄いと考えているのだろう。
このままクーガー一人に後藤と戦わせれば、返り討ちに遭う公算のほうが大きい。
シャナにとってはクーガーが死のうが構わない。
しかしシャナも共に戦えば、あるいは危険な存在である後藤を排除できるかも知れない。
(駄目だ。まだリスクが大きすぎる)
一瞬脳裏に浮かんだ戦術を、やはり否定する。
クーガーの戦力は未知数の部分が多い上に、そもそもそこまで信用に置けるかどうかも不明。
カードデッキの性能も試していない状態で後藤に挑むのは、やはりリスクが大き過ぎた。
しかし問題はクーガーが一人後藤に殺されれば、その首輪も支給品も回収できなくなる。
更に今の状況は考えように拠っては、今の状況はカードデッキの性能試験には最適と言えた。
ついでに言えば、クーガーは警告を無視して――
「名前を間違えたら殺す――そういった筈」
――故意にシャナの名前を間違えていた。
シャナの髪が炎のごとく紅く染まる。
瞳にも紅き炎が――そしてその奥には更に冷たい闇が――が宿る。
フレイムヘイズたるシャナが、クーガーを殺し首輪と支給品を回収するための戦闘態勢。
さすがのクーガーも、シャナの変化を前にして驚きを隠せない。
戦闘巧者であろうクーガーが僅かに見せた隙。
その間にシャナはデイパックからカードデッキを取り出そうとする。
しかしその手は聞き覚えの有る声に拠って止められた。
この地において、因縁の糸はシャナをも絡め取る。
「おめーはチビ人間!! こんな所に居やがったですか!」
シャナとクーガーはお互いを警戒しながら、声の方を見る。
そこには独りでに動く人形と、青年が居た。
「シャナ……」
「翠星石と……ライダー」
人形はかつてシャナが殺そうとした翠星石。
青年はシャナにとって因縁の相手――城戸真司。
「シャナ、お前何をやっていたんだ!?」
睨み付ける翠星石と、威嚇するように詰問してくる真司。
新一は死んだと言うのに、どうやら二人とも相変わらずらしい。
ならばシャナの出方も当然変わらない。
シャナはあくまで合理的に行動している。
理屈が通じないのは真司や翠星石の方なのだ。
「首輪のサンプル」
いつか新一にしたのと同じ返答。
必要以上に険の有る語気になったのは、真司を見て苛立ちが更に増していたため。
「シャナ……お前はまだそんなことを言ってるのか」
怒り心頭かと思ったが、真司は意外なほど落ち着いた様子だ。
そして赤いカードデッキを取り出した。
どうやら、これまでの経緯から真司にも変化があったらしい。
だから下手に血気に逸ることも無いのだろう。
最も、それでシャナとの戦いを望まなくなった訳では無い。
むしろシャナに敵意を向けカードデッキを取り出した今の真司からは、
先ほどのクーガーのごとく強い決意を感じる。
シャナとしては真司が戦いを望むのなら、戦いを避ける手筈だった。
しかし今となっては、何故か真司を避ける気分にはなれなかった。
あるいは後藤から逃げ出したことが引っ掛かっていて、もうこれ以上敵前逃亡はしたくないのかも知れない。
真司を避けることは、恐怖から逃げ出すこととは事情が違う。
それでも、これ以上他者に影響を受けて自分の行動を左右されるのは厭だった。
特に真司を避けるのは。
支援
シャナと真司の敵意がぶつかり合う。
人の命を路傍の石のごとく無碍にするフレイムヘイズと、
人の命を何よりも貴きとする仮面ライダーは、
互いに相容れぬ存在であると、最早何よりも互いが理解していた。
「おいおーい、人を無視するんじゃねぇー」
「お前は空気を呼んで黙ってやがれです!!」
そこへ忘れられた二人の声が割って入る。
特にクーガーにしてみれば、自分の方が先にシャナと接触したと言うのに、
後から現れた者に話を持っていかれた格好だ。
元々自己顕示欲の強いこの男が、気に入る筈もなかった。
「……あんた、もしかして劉鳳の知り合いか?」
真司はそんなクーガーを見て、酷く動揺しているようだった。
翠星石は真司のそんな様子と、劉鳳の名前が出てきたことを怪訝に思う。
しかしすぐに気付く。
クーガーの服装が、劉鳳のそれと同じだということを。
「……ああ、俺と劉鳳は同僚だ。で、お前は劉鳳を知ってるのか?」
真司の只ならぬ様子を察してか、クーガーも落ち着いた調子で対応する。
何かを逡巡しているように沈黙していた真司だが、やがて意を決するように口を開いた。
「…………俺が、殺したんだ」
場の空気が、先ほどまでとは違う意味で凍り付く。
真司もクーガーもその言葉で押し黙ってしまう。
「ななな、何を急に言いやがるですか!!?」
翠星石だけが驚きを素直に表す。
真司が殺人を告白すること自体を問題にするつもりは無い。
それは既に杉下右京に対して行っている。
しかし今は状況が不味い。
シャナが居るも関わらず、クーガーまで敵に回すかも知れなくなるからだ。
「……翠星石、ちょっと黙っててくれよ」
しかし真司としては、後回しにはしたくなかった。
絶影と共に、再び劉鳳の意志を継いだ。
その死を通じて、右京の意志も継いだ。
だからこそ、これ以上は自分の罪から逃れたくはなかった。
何しろシャナと戦えば、死ぬ可能性は充分ある。
だから先に自分の罪を告白したのだ。
クーガーは厳しい顔つきで真司を見つめていた。
周囲の道路に穴が開き、粒子がクーガーの足下に集まっていく。
物質を原子レベルで分解し再構成する能力『アルター』の発動を示すサイン。
やがて徐にクーガーが口を開く。
「……そうか、お前が劉鳳を殺したんだな」
突如、クーガーの足下が爆発を起こす。
それは凄まじい勢いの踏み込みによるものだった。
弾け飛ぶようにクーガーは真司に向けて走る。
余りの速さに、真司も翠星石も何の反応もできない。
そしてその勢いを利用したクーガーの蹴りが炸裂。
蹴りに拠って、市街地に甲高い金属音が鳴り響く。
「……なぜ、邪魔をする?」
真司へ向けて伸ばしていたゲイボルグをクーガーに蹴り飛ばされ、シャナは不審げに真意を問う。
クーガーに気を取られていた真司を、シャナはゲイボルグで攻撃しようとしていた。
それをクーガーが止めたのだ
取り落としたゲイボルグを拾い、シャナはクーガーと距離を取る。
「いやあ、これは失礼しましたシャアさん。でも、まだ話を聞き終わっていないんでねぇ……。
おい、俺はロストグラウンド治安維持武装警察組織『Hold』の対アルター能力者用特殊部隊『Holy』で劉鳳の同僚をしていたストレイト・クーガーだ。
お前、名前は?」
「真司……城戸真司」
「じゃあ、聞かせて貰おうか。何で劉鳳を殺すことになったかを。そしてシャアさんと何があったかもな。
シャアさんもそこで一緒に聞いていて貰いましょうか?」
「お前に命令をされる筋合いは無いわ。それとも、人の名前も覚えられない頭にはそんなことも分からない?」
「ご謙遜を。貴女はどうやら普通の“人”では無いでしょう?」
支援
シャナはクーガーを前に動きが取れない状態になった。
話をする真司も、聞くクーガーもシャナへの注意を怠っていないことが分かる。
クーガーは尋常ならざる速さのみならず、洞察力にも優れている。
下手に手を出したら真司たちと同時に、クーガーまで敵に回しかねない。
元々はクーガーも殺す予定だったが、三人を同時に敵に回す形になると、
流石のシャナも分が悪かった。
あるいは『炎髪灼眼の討ち手』ならば怖じることもなかったかも知れないが、
今のシャナにその自負は無い。
さりとて、逃げると言う訳にも行かない。
クーガーの速さからは容易には逃げられないだろうし、
それどころか下手に真司に背を見せたら、それだけで命取りになりかねない。
シャナは進むことも退くこともできず、自らは何も状況を動かせず、
ただ、真司の愚劣な独白を聞きながら状況が好転するのを待つ。
益々苛立ちを募らせて。
そうしていく内に気付いたことがある。
苛立ちはある程度までなら、怒りのように内に溜まり落ち着かなくなるが、
ある臨界点を超えると、静かで落ち着いた、純粋な殺意に近い状態に変わると。
まるで炎が一定の温度を超えると、赤から青に変わるが如く。
真司は、殺し合いが始まってからこれまでの経緯、
殺し合いに乗ったこと、
劉鳳を殺したこと、
シャナとの対立、
必要の有無をも判別せず、シャドームーンとの戦いの中で劉鳳に再び出会うまでの、
自分の動向の全てを包み隠さず話した。
真司としては、話すことで少しでも気を楽にしたかったのかも知れない。
事実、黙って耳を傾けるクーガーに話すと、少し肩の荷が下りる心持ちがあった。
出会ったばかりで軽薄そうな雰囲気も有るが、こうしているとクーガーにはどこか懐の深い印象が有った。
「……これで、俺の話は終わりだ。…………聞いた通り、劉鳳は俺が殺した。…………俺の責任だ」
「そうだな。お前の話が本当なら……劉鳳の死はお前の責任だ」
「……!」
クーガーの言葉を聞いて、真司は思わず全身を震わせてクーガーを見る。
話を聞いて、もし償いを求められたなら応える覚悟はある。そう思っていた。
それでも動揺を抑え切れない。
刹那、真司を頭上から影が覆った。
それは美麗にして雄雄しい白鳥の影。
巨大な白鳥が、真司の背後に有る民家のガラス“面”から姿を現していた。
そして白鳥のくちばしが真司に襲い掛かる。
「ぼさっとすんなです!! このへっぽこぽこの助!!」
それより一瞬早く、翠星石が庭師の如雨露を振るう。
大地から急速に伸びた植物の蔦が、白鳥の攻撃を防いだ。
(このミラーモンスターは、あの時の!?)
真司はその巨大な白鳥=ブランウイングと、
そして、それを使役する仮面ライダー=ファムに覚えがあった。
即ちファムのデッキを持つ者がこの近くに居ると言うこと。
そこまで気付いて失念していたシャナに視線を戻す。
そこにはアドベントカードを左手に、ゲイボルグを右手に持ったシャナが、
翠星石へゲイボルグを向けて駆け出していた。
翠星石はブランウイングに意識を取られていて、シャナに対応できない。
真司が龍騎のデッキを使う間も無い。
刹那の判断が要求された状況で、真司が導き出した答えは一つ。
それは自分の身体をシャナと翠星石の間に割り込ませて盾になること。
一抹の躊躇も無く、真司はシャナと翠星石を結ぶ線上に飛び込んだ。
シャナは全く気にした様子も無く、ゲイボルグを構え真司に突貫して行く。
おそらく想定の範囲内だったのだろう。
シャナにとっては、以前に真司が翠星石を庇った状況を考慮して、
それを利用したのだろう。
敵ながら大した戦術眼だと、むしろ感心すら覚える。
(それでもな……シャナ。何もかもお前の思い通りにはならねえよ!)
翠星石を守る。劉鳳との約束を守るため。
それが唯一の方法なら、
自らの命を捨てる方法であろうと、
真司はそれを全うする。
胸を抉るような衝撃が走る。
衝撃は全身に波及して、身体ごとを交通事故を起こしたかのごとくに吹き飛ばした。
ブランウイングに気を取られていた翠星石は、ようやく事態を察知して振り返り、
信じ難い物を見るように、眼を見開いていた。
支援
支援
C
支援
支援
真司もまた事態を呑み込めず、呆然とした表情で、
吹き飛んだシャナと、蹴り飛ばしたクーガーを見つめる。
「……クーガー、なんで俺を守ったんだ? …………俺は劉鳳の仇じゃないのかよ!?」
クーガーは真司には目もくれず、蹴り飛ばしたシャナを睨み付けていた。
「別にお前を守ったわけじゃない。お前は確かに劉鳳を殺した。あいつとは特に仲が良かった訳じゃない。
糞真面目な奴で俺と話が合うってタイプじゃないしな。そもそも男と馴れ合うのは趣味じゃねぇな。それでも……あいつは俺の同僚だった」
それでも背中越しに、真司に返答する。
「だがな、生きた人間が死んだ人間に対してできることなんてのは、本当は何も無い。
弔いや復讐を否定するわけじゃない。文化的な秩序を守るためには、殺人を罰する法律も権力も必要だろう。
でも、それらは結局全て生きた人間のための物だ。俺は劉鳳の死に間に合わなかったんだ、今更あいつにしてやれることは無いさ……」
「……んなことはねーですぅ」
更にこれまで黙っていた翠星石も、彼女としては珍しく落ち着いた調子で語り出した。
人間は例え死んでも、そこで終わる存在ではないことを。
かつて蒼星石のマスターである柴崎元治とその妻柴崎マツは、息子一樹を亡くした。
そのためマツは昏睡状態に陥り、元治も精神状態に異常をきたしたのだ。
しかし死後も尚、マツの夢の中に留まっていた一樹の尽力により、
元治とマツは窮状より救われている。
そして死んだ筈の劉鳳もまた、自らのアルター能力『絶影』で真司を助けている。
「人は死んでも、心の樹によって繋がっているんですよ……」
「……なるほど。まあ、本当に絶影が力を貸したなら、劉鳳はお前を恨んではいないってことだ。
何よりお前は自分の生き方を見付けて、それで償いをしようとしている。今更、俺が落とし前を付ける道理はねぇな」
「なら、尚の事私の邪魔をされる道理は無いわ。劉鳳を殺したのはそいつ。それは本人が認めたことよ」
「おめーはまだ、そんなことを言ってやがりますか!!」
クーガーに蹴り飛ばされたシャナは、ゲイボルグをデイパックに直しながらゆっくりと起き上がる。
シャナもまた、自分でも意外なほどに落ち着いた心理状態だった。
あるいはそれは、落ち着いていると言うより、
苛立ちが臨界点を完全に超えて、感情が失せてしまったような心持だった。
「それでもねシャアさん……罪も無い女性を殺しておいて、そして俺の同僚を死なしておいて、
自分の罪を認識しながら反省どころか自覚も無いような奴には、例え女性であっても落とし前を付けなければならないでしょう」
真司の告白を聞き、その罪を認めながら、
尚もクーガーが劉鳳の死に対して落とし前を求めるのはシャナ。
こなたのような、平和に暮らしていたのに殺し合いに連れて来られた一般人なら、平和的な解決法も有り得ただろう。
それはかがみの望みでも有る。
しかしシャナは、一般人ではない。
恐らくはシャナは自らに使命を課し、相応しき力を持つ生粋の戦士。
それが事故でもなく、殺し合いに錯乱したわけでもなく、
自らの力を駆使して罪も無い女性を殺し、その結果劉鳳を死に追いやった。
例えシャナが女性であることを考慮しても、許し難いことだった。
それは理屈ではない。
只の感情論でもない。
あえて理由を求めるなら、クーガーの生き方が、
シャナを許せないと判断した。
「……話にならないわね」
真司。クーガー。翠星石。
自分に敵意を向ける三人を前にしても、シャナに一遍の動揺も無かった。
最早、苛立ちはとっくに通り越している。
後藤への敗北感すら消え失せていた。
只そこのあるのは純粋な殺意。
目前の理屈の通じない、救いようも無い愚者を殺すために。
真司がカードデッキを取り出して、背後の民家のガラスに映す。
同時にシャナもカードデッキを取り出して、共に取り出したガラス辺に映す。
龍騎に変身する真司に迷いは無い。
しかし懸念はあった。
真司は一度戦ったことが有るため、シャナの強さをよく知っている。
それ以上に、誰よりも仮面ライダーの脅威をよく知っている。
そしてその二つが合わさった時のどれほどの脅威となるかは、真司にも予想が付かなかった。
(それでも、翠星石だけは守り切ってやるぜ。約束だもんな、劉鳳)
シャナの全身を白い装甲が覆い、仮面ライダーファムへと姿を変える。
急激に力が湧き上がってくる。
シャナは賭けに勝った。
仮面ライダーへの変身は力の“付加”。
仮面ライダーへと変身を遂げた『フレイムヘイズ』。
今のシャナは、あるいは彼女の知る『炎髪灼眼の討ち手』以上の力を手にしていた。
その内にもまた、彼女も覚えのないほどの殺意を秘めて。
とっくに覚悟を決めていた筈の仮面ライダーとアルター能力者とローゼンメイデンに、かつてない緊張が襲う。
誰もが目前のシャナが、途轍もない怪物に変身を遂げたと予感していた。
【一日目夕方/F−8 市街地】
【シャナ@灼眼のシャナ】
[装備]:ブランバイザー
[支給品]:基本支給品(水を一本消費)、首輪(剣心)、カードキー、ゲイボルグ@真・女神転生if...、ビルテクター@仮面ライダーBLACK
[状態]:仮面ライダーファムに変身中、ダメージ(小)、力と運が上昇、強烈な殺意
[思考・行動]
0:真司と翠星石とクーガーを殺す。
1:首輪を解除できる人間とコキュートスを探す。首輪解除が無理なら殺し合いに乗る。
2:首輪解除の邪魔になるような危険人物には容赦しない。
3:主催者について知っている参加者がいれば情報を集める。
【ストレイト・クーガー@スクライド】
[装備]:葛西のサングラス@ひぐらしのなく頃に、
[所持品]:基本支給品一式、不明支給品(確認済み)0〜1
[状態]:身体中に鈍い痛み、両脚に激痛、疲労(中)
[思考・行動]
1:シャナを倒す。
2:こなたを正気に戻す。
3:かがみと詩音の知り合い(みなみ、レナ)を探す。
4:詩音が暴走した場合、最速で阻止する。
5:後藤を最速で倒す。約束は守る。
※総合病院にて情報交換をしました。
※ギアスとコードについて情報を得ました。ただし情報源がつかさなので、漠然としています。
※城戸真司のズーマーデラックス@仮面ライダー龍騎は付近に放置さてあります。
【翠星石@ローゼンメイデン(アニメ)】
[装備]庭師の如雨露@ローゼンメイデン、真紅と蒼星石のローザミスティカ@ローゼンメイデン
[支給品]支給品一式(朝食分を消費)、真紅のステッキ@ローゼンメイデン、情報が記されたメモ、確認済支給品(0〜1)
[状態]疲労(小)
[思考・行動]
1:シャナを倒す
2:真司と同行し、殺し合いを止める。
3:真紅が最後に護り抜いた人間に会い、彼女の遺志を聞く。
4:水銀燈を含む危険人物を警戒。
5:桐山はカズマに任せる。
[備考]
※スイドリームが居ない事を疑問に思っています。
※真紅のローザミスティカを取り込んだことで、薔薇の花弁を繰り出す能力を会得しました。
【城戸真司@仮面ライダー龍騎(実写)】
[装備]無し
[所持品]支給品一式×3(朝食分を消費)、確認済み支給品(0〜3) 、劉鳳の不明支給品(1〜3)、発信機の受信機@DEATH NOTE
[状態]仮面ライダー龍騎に変身中、ダメージ(小)、疲労(中)、劉鳳を殺してしまったことに対する深い罪悪感
[思考・行動]
1:右京の言葉に強い共感。
2:翠星石と同行し、殺し合いを止める。
3:シャナを倒し、彼女の罪をわからせる。
※絶影を会得しました、使用条件などは後の書き手の方にお任せします。
支援
代理投下終了です
途中、止まってしまい申し訳ありませんでした
久々の投下、代理投下乙です!
まるで成長していない…(シャナに対して)
投下&代理投下乙です!
おお、第一回放送前の衝突が再び…!
全員対主催なのにどうして戦闘になるんだ!
真司や翠星石がロワ内で少しずつ変化して、クーガーが加わって、シャナ自身も変わってきてるはずなのに…!
やっぱこの戦いを経ないと根本的な成長はできないんだろうなぁ、シャナ…
今まで蓄積された因縁が絡まりまくって、スゲー面白かったです!
それにしてもクーガーがイケメンすぎて困る
118 :
代理投下:2012/06/10(日) 21:15:40.88 ID:5Yu5Tmwy
普通に感想を忘れてた
シャナ変わんねえぜ……!w
クーガーはいいねぇ、ギャグとシリアスの切り替えができてる
これからどうなるのか楽しみだ
投下乙です
シャナは本当にもうw
この現在位置だと、下手したら近くに居る参加者まで加わって大乱戦もあるぞw
危険人物の中でも狭間が一番良心的に見えるw
対主催には攻撃してないし
久々の投下乙です!
クーガーは相変わらず戦いから逃れられない宿命なんだなぁ
真司に報復するかと思ったら、逆にシャナから庇ったというのはやっぱりカッコいい
つかさもそうだけど、真司もやっぱり人を殺した罪に悩まされるんだな
そしてシャナはこの戦いの後にどうなるのか
勝負の結果はどうあれ、この戦いでシャナの最終的なスタンスが決まる気がする
★御連絡
したらば議論スレに、先日の話し合いで採用が決まった制度に関する書き込みをさせて戴きました。
書き手氏・読み手氏問わず御確認戴きたく思います。
また話し合いに参加されました書き手氏につきましては、この内容で齟齬がないか御一報戴けますようお願い致します。
内容に問題ない事が確認出来ましたら、制度について改めてこちらの本スレにて御報告させて戴き、@Wikiにも記載する予定です。
よく見たらシャナのスタンス、黄色→橙に変わってたんだな
いったいこれからどういうスタンスになってくのやら…
女性マーダーは銀様だけか
周辺が強豪ぞろいでw
対主催者が強マーダーをやっと撃破した
ところに影月がやってくるんだなw
しかも希望の星が志々雄様なのがもうねw
そう考えると、影月って滅茶苦茶いい位置にいるんだなぁ
主役は遅れてやってくるっていうし
縁って志々雄様より強いって話もあるんだけどね
宗を上回る超スピード・時間制限なし
痛みを感じないなど
wikiにある「tarowa参加者の動向」って何だ?
133話でCCOたちが確認したページの再現だろ。
>>128 時間制限はあるんじゃね? ウルトラマンやウォーズマンみたいな明確な設定がないだけで。
EXAMしかりトランザムしかり、リミッター解除系って時間制限があるのが定番じゃん。
ちょうど昨日買ってきた文庫版が人誅編中盤だったけど、左之助とかに縁は志々雄以下ってはっきり言われてる
ただそれはまだ倭刀術披露してない時だし、途中で志々雄とは違う嫌な何かを感じるとも言われてる
縁って何気に日本語も中国語も話せるし
英語もいけるのかな
狭間って自由の女神になれたっけ?
制限の欄には書いてないから、なろうと思えばなれるんじゃない?
なれるとしたら最強装備の志々雄と肩を並べる程
強いね。
銭形警部と水銀燈が結婚だと……
まさかの組み合わせだなw
そういえば、あの人の前の奥さんは沙都子の中の人だったな
このロワのハザマはまだ穏健な方だね
ロワ開始前は自由の女神化で無双マーダーって話もあったから
結局放送いかないのか
ここ最近投下が連続してたし、ちょっと小休止してるんじゃないかな
先週投下あったばっかのとこ見てそんな事言いだすのは早漏れが過ぎるだろw
結局対主催は詰んでるのだろうか
危険人物除けば残りマーダー七人だけで、カズマとクーガーが健在
狭間は今さらマーダー化して対主催殺して回るとは考えにくいし、志々雄だって対主催も殺すかもしれないけど基本的には多分マーダー狙い
対主催同士の団結も進んでるし、詰んでるのはマーダーの方に見えるんだが
カズマとクーガーはどれだけボロボロの状態からでも相打ちには持っていってくれそうな謎の信頼感がある
逆にこの二人が後藤、影月のどちらも落とせずに死んでしまったらマーダー大勝利の流れが見えてくる
カズマはどっちかというと桐山なんじゃないかな
影月や後藤ばかり注目されてるけど、オルタナティブ・ゼロ+縮地+αの桐山も相当ヤバイだろ
マーダー同士で出会っても潰し合い上等、が多いのがどう転ぶかだなぁ
武闘派マーダー多すぎ問題
銀様や縁なんか潰しあいはしなさそう
前は後藤VS影月とか聞いてもマップの端と端だしwwwと思ってたが、今は影月が東に戻ってきてて後藤が中央に鎮座してるのな
夢の共演(という名の潰し合い)はあり得る
単純な戦闘力だけならマーダー同士の潰し合いもあるからどちらに転んでもおかしくないと思うわ
対主催の問題はマーダーを殲滅できるかどうかより、主催打破まで辿り着けるのかってことなんだよな……
最終的な勝利条件が対主催側とマーダー側で違うから
右京さん脱落は対主催にとっても良かったのか
絶対揉めそうだものw
>>153 少なくとも、みなみが光太郎を殺したときは絶対にもっと揉めてただろうなw
右京さん、基本的に罪を認めた人には優しい(実際に真司とも上手くいってたし)とはいえ、
「緊張」の時点でみなみに「絶対に許さない」発言してたから、みなみの側で勝手に罪悪感を大きくしそうだし
あと強マーダーを始末できるチャンスを潰し
味方をピンチにしそうだしね
右京さん
右京さんは一般人よりは強いぞ
犯人取り押さえとかには積極的、説得はひたすら粘る
身体能力も問題ない(これはLもだからあてにならないか、映画じゃないし)
みなみの時もすんでのところで止められた可能性はある
マーダーの殺害は、右京さんへの前フリなしにマーダーを襲撃すればなんとかなった
右京さんは一般人よりは強いぞ=右京さんはらきすた勢よりは強いぞ
弱い順にマーダーが脱落するとしたら
次は銀様かな縁かな
右京さんは寄生生物も人間と断定しちゃったからなー
田村さんならともかく、さすがに後藤を隣人として認める勇気はない
そういえば去年の今頃あたりに
各話の感想が投下されてたよね
志々雄はどこまでいっても悪人だろうし
光太郎に代わって上田先生や狭間に期待している
上田は無理だろと思ったけど、前に散々ネタにされてた社長は最後の最後で頑張ったからなぁ
もしかしたら上田が大活躍するようなことがあるかもしれない
上田先生ってなんだかんだで人間相手だと強い部類からな
作中でもかなり強いであろうSP三人相手に余裕勝ちできるレベルだし
詩音ってそこまで悟史と深い交流があったわけではないのに
あの盲目的な愛はすごい・・
でも賽殺し編の世界ではてんで興味がなかったりする
上田は少なくとも頭脳と体力はかなり高いはず…
問題は精神面だ
狭間も精神面が・・・
上田は気絶しやすい&ビビリやすいだけで、マーダー化は絶対にしない強靭にして健全な精神の持ち主
上田先生は高身長高学歴高収入の上に中身も博学で格闘技にも精通していて外見は阿部寛というかなりの高スペック
唯一の欠点は上田次郎であるということだけ
縁だって超高スペックだよね
性格以外は
上田先生のマーダー化を想像しようとしたが、自分の想像力の限界を超えていたw
もしマーダー化したらその話のうちに死にそうな気がするな
正義感はまあ、それなりに強いからな
ボケが山田でツッコミが上田になることもあるから、たまに常識人だし
マーダーというか、相手が怖くて人を見捨てて、その結果間接的に人を死なせてしまいそう
劇場版3とかでも山田を見捨ててたし
正義がどうとか悪がどうとかじゃなくて結局自分を大事にするのが上田なんだよな
保護優先順位で言えば自分>美女>>>>>>>一般人>>>山田>>>>>美女を除く悪人みたいな感じだろうし
狭間の行動は端から見れば蒼嶋大好きに見えるよねw
必死で回復呪文かけたり
蒼嶋の遺体の前で跪いて大泣きしたり
上田が遠因で死んだ奴って居るんかねぇ
どいつもこいつも不可抗力な気がする
上田が逃げずに立ち向かったところで、倒せるようなマーダーほとんどいなかったしな
K1は上田ががんばればあの場で死なずに済んだんじゃないかとは思う
まあ、あの状態じゃ生き延びても長生きできなかっただろうけど
仮に病気を治療できたところで、あの時期のKは上田先生よりはるかに劣る役立たずだしな
下手すれば同じ話でレナと共に退場しかねない
それも対主催全員の足を引っ張る形で
漫画板のひぐらしってアニメ板よりも
結構きつい描写が多いんだね
鷹野の過去での養護施設の話とか怖すぎw
顔芸のレベルだよな
織田様がもっと長生きしていれば上田が目立てる程の勝負を繰り広げられたかもしれん
桐山が影月と後藤に並ぶ被害を出すなんて
やっぱりステルスマーダーは強いのか
桐山のスコア増やしてるのは無防備な人間や弱った人ばかり
つまり実は雑魚専
ステルスだから自分に全く被害ないけど、
してなくても同じくらいスコア伸ばした気がする
狭間が自由の女神化したら後籐ぐらい
強いのかな
>>179 ボットン便所に沈められるやつは勘弁してほしかった
織田様はロワでリア充なれるのが想像できないw
狭間はこれから可能性があるかもだけど・・
織田の敗因は過信だからねぇ
中学生でありながら拳銃が扱えて、さらに知識が豊富っていうのは絶大なアドバンテージだと思う
人殺しにも躊躇はないし、普通の中学3年生だけがいたクラスなら優勝も狙えたんじゃないかな
三村がこんなに活躍するなんて
やっぱり志々雄と一緒だからかw
月って凶悪マーダーに包囲されてる上に
同行しているやつもマーダーってww
他の対主催は団結しているのに
月はLとの誤解フラグを期待されてる時点で詰んでる
親身になってくれたルパンは脱落したしw
悟史って生き残ってたとしても
他の参加者の女の子と仲良くなってたら
別の意味で修羅場になりそうw
この悟史は詩音のこと知らないし
ひぐらし勢自体が問題児だよなぁ
まともな対主催一人出すだけでも結構な生け贄が出てしまう
北条兄妹は許してやったれ
ルパンってvs縁戦見るとこんなに強かったんだな
戦闘がそこまで強いってイメージがなかったから
結局やられちゃったけどw
アニメであれだけ超人的な動きしてればなぁ
縁はまだ誰にも名前認識されてないよね
ステルスもやろうと思えばできそう
白い髪の奴が危険人物って情報が散々流れてるんだよなぁ
銀様あたりとならw
ロワをあまり知らないからそうでもないかもしれないけど、ここのロワって復讐に関するキャラクターが多くない?
ガンソ勢に縁、詩音、狭間、ジェレミア、ロロとか
狭間は復讐ってより仕返しとか八つ当たりとか癇癪って感じ、未遂ではあるけど翠星石の方がそれっぽい
65人中の1割はすごく多いとは思わないけど、少なくもないな
>>200は狭間以外は対象が殺された時に復讐を考える程度に依存度が高くて、かつ人を殺すのに躊躇しないっていう二点を満たした連中だけど、普通はどっちかの条件で引っかかる
浅倉も復讐ってか逆恨みだな
途中からお気に入りの標的に変わったっぽいけど
最近色んなロワあるし探せば復讐関係がなんかしら関わってるのばっかのロワとかもあるのかもなぁw
ニコニコ動画でるろ剣の人気投票やってるけど
巴ってかなり上位だね
なんでロワには参戦しなかったのか
ロワに参加したら面白そうに感じる人材と人気は別物だからじゃね
巴と役割が近かった悟史がすぐに脱落したからなぁ……
巴は性格的には無口無表情だから
このロワでは、戦闘力がないタバサが一番近い感じかね
おそらく第一回放送前に殺されて縁がブチ切れるという黄金パターン
いや、待てよ
巴程の美女なら強くて賢い上田先生が守り続けて恋仲になるかも……
志々雄あたりと出くわして殺されそうな・・・
>>208 それ最終的に巴が連行されるオチだよね絶対
狭間って友達できたら大切にしそうな
タイプかな
少なくとも友達を無碍にするタイプには見えない
狭間は天才美少年で性格も根っから悪い訳でなく
コミュ力に難ありか・・
上田先生に弟子入りすれば問題ないな
山田奈緒子の上位互換ポジションになりそうな気がする
上田先生は対主催の希望の星
蒼嶋の方は縁にぼこられてたけど
狭間の方は自由の女神化すれば大丈夫そう
ここには狭間以上に濃い連中多いからなぁ
狭間なんか常識人ポジションになりそう
るろ剣勢のキャラの立ち方は異様
今の対主催に常識人なんていたっけか…
月とか?
北岡とかつかさとか割りとたくさんいるのは気のせいなんですかね……
景気づけに用語集を更新してこようと思う
なんかこれ追加して欲しいみたいのあったら列挙して、どうぞ
気が向いたら書くかも
対主催ェ……な感じのレスの数の多さは用語集入りしてもいい気がする。
上手いことまとめられないから言うだけ言ってぶん投げてお願いするだけだけど。
あ、資料室内の『多ジャンルバトルロワイアル』のページに軽く触れておいてもいいかも。
>>129みたいにSS追っててもわけわからんくなる人もいるみたいだし。
「杉下右京の正義」
右京さんもういないけど、一時期かなり雑談ね話題になってたし
死亡者名鑑止まってるけど、手伝っていいのかな
称号とかはセンスないから他の人にやってもらいたい
思ったよりも項目づくりに時間掛かった……
残りの二つはまた後日ということにさせてください
そういえば縁も一時期ネタキャラとして
人気あったな
とりあえず二つほど更新してきた
228 :
創る名無しに見る名無し:2012/07/06(金) 20:38:47.12 ID:yPt4Lbip
乙っす
最有力の対主催が志々雄さんなのがもうねw
志々雄って結構運で勝ち進んできた感じもあるよね
もし剣心か斉藤が生き残っていたら、志々雄が悪人だって情報が広まって確実にやりづらくなってただろうし
と、ここまで考えて、志々雄がのさばる原因を作ったのが両方とも寄生獣勢だったのに気付いた
狭間は友達ができればそれだけで満足しそうw
織田様との違いはここだな
>>230 志々雄台頭のきっかけも後藤だったしな
他が激戦区で消耗していく中、過疎地にいて体力温存できたのも大きい
縁の方は精神凌駕のおかげで結構
無茶な戦いしちゃうな
>>224 死亡者名鑑は更新したい人がしてもいいんじゃないかな
支給品の食料ってみんなコッペパンだったんだな
あれは確かにおいしくないわw
クロワッサンとかだったらまだおいしいのに
かなり不親切だよな
バターロールとかクロワッサンならまだ美味しいと思う
人死んだ後にあれ食うのはきつい
そんなこという子にはランダム枠1つ削ってジャム支給しちゃうぞ
シャドームーン(……口が開かなくて食べれない)
狭間って人間形態らしいけど
耐久力とかほとんど人間じゃないんだよな
殺し合いの最中にスク水とか上田の本みたいなガチでどうしようもないもん支給されるよりは、ジャムの方がまだマシ
上田の本は暇な時に読んだり燃料にもできるけど、スク水だけはどうやっても擁護できない
むしろ危険人物だと思われそう
でもロワでスク水配布された例ってここが始めてじゃないんだよなぁ。
殺し合いに乗ってるって意味の危険人物だと思われるのは嫌だが、変質者的な意味の危険人物だと思われるのもかなり嫌だ
このロワの一般人は誰も失禁したりしないなw
エライエライw
そりゃお前上田先生の失禁シーンなぞ見たくないよ
一番最初に上田が漏らしそうになってたの思い出した
>>243 マイナスを生む分、本の方がスク水よりよっぽどマシ
支給品ですら対主催を引っ掻き回すこなた……
上田先生の本を読む→ベストを尽くすことの大切さを知る→(中略)→主催者打倒完了
つまり上田先生は間接的対主催筆頭なんだ、分かるかね、ユー
対主催で医者的なポジのキャラいないね
もしかして上田先生か
>>247 誰にも読まれないうちに詩音の自爆で燃え尽きたぞ
先生自演乙
ただしスク水は健在
何のために図書館があると思っているんだ。もしかしたらあまりの素晴らしさに感動したブックオフが寄贈しているかもしれないぞ
そして予約ktkr
主催陣にも予約が入ったか
主催陣営を投下します
鷹野三四は"彼女"と一緒にモニターに視線を注いでいた。
薄暗い部屋に設置された多数のモニターは、全てが同じ映像を流している。
そこに映されているのは、白い制服の少年が必死に叫んでいる場面。
彼の傍にはスーツの青年とセーラー服の少女がいて、足下には青いブレザーの少年の遺体が転がっていた。
「……なんで……ッ!」
鷹野はギリギリと歯軋りをしている。
額には青筋が浮かび、握り締める拳はわなわなと震えていた。
一方で”彼女”は悲しそうな顔している。
だが、ほんの僅かではあるが、希望を抱いているかのようにも見えた。
「ッ!」
乱暴に椅子を引いて立ち上がる鷹野。
そのまま椅子を戻さず、かつかつとハイヒールを鳴らしながら薄暗い部屋を出ていく。
細長い廊下を歩く彼女に、かつて入江診療所でナースを務めていた頃の面影はない。
そこにいるのは、激情と妄執に囚われた鬼だった。
「V.V.!」
V.V.の名を叫びながら、鷹野は彼の君臨する部屋へと足を踏み入れる。
彼は椅子に腰掛け、目の前に飾られたいくつものモニターに視線を注いでいた。
モニターには病院や警察署といった参加者が集中している箇所を映しており、その中には先程まで彼女が見ていた教会前の映像もある。
「そろそろ来る頃だと思っていたよ」
長過ぎる白髪を引き摺らせながら、彼は気怠そうに振り返る。
猫を被ったかのような明るい声を聞き、鷹野は不愉快そうに眉を顰めた。
「さっきのはどういうことかしら、V.V.!?」
「何のことかな」
「とぼけないで、約束が違うじゃない!
どうして園崎詩音の首輪の爆破を止めなかったの!?」
部屋中に響き渡るような大声で、V.V.に言葉を叩き付ける鷹野。
一方でV.V.は、余裕綽々といった様子で笑っている。
「ああ、そのことか、それなら竜宮レナは生き残ったから問題ないと思うんだけどな」
「そういう問題じゃないわ!
もし蒼嶋駿朔が庇わなかったら、二人と死んでいたじゃない!?」
「でも実際は庇ったじゃないか、竜宮レナはは生き残っている、君の目的も果たされるだろう?」
「だから、そういう問題じゃ――――」
「鷹野、この世に『もし』なんてものは存在しないんだよ?」
鷹野の言葉に被せるように、V.V.は長々と語りだす。
「全ての人間が一度くらいは『もし』を考えたことがあるんだろうけど、世界中の何処にも『もし』は転がっていないんだ
全ては過ぎ去った過去であって、『もし』が入り込む余地なんてない
そこにあるのは事実だけでなければならないんだよ
君ならその事がよく分かるよね?」
子供の姿をしたV.V.に、子供を諭すような口調で宥められる。
あまりに屈辱的な行いに、彼女は額に青筋を立てていた。
そもそもこれは論点のすり替えであり、彼女が指摘していることとはまるで別問題だ。
しかしそれを指摘しようとして、鷹野は言葉を飲み込む。
V.V.の見下すような面を見て、これ以上の問答が無駄だと悟ったのだ。
「……こういうことが続くようなら、私にも考えがあるわよ」
「そう、でももう君の世界からの参加者は一人しかいないね」
踵を返そうとして、寸前で嘲るように笑うV.V.の顔を視界に入れてしまう。
憎々しげにその顔を睨みつけ、鷹野はV.V.の部屋を後にした。
(V.V.……やはり信用できない!)
V.V.の部屋から自分の部屋に繋がる廊下を歩きながら、鷹野はV.V.への不信感を募らせていた。
確かにV.V.は牢獄から自分を救い出し、目的の下地を整えてくれた恩人だ。
利害が一致したこともあり、彼の開催するバトルロワイアルの強力するのもやぶさかではなかった。
だが、そこまでである。
崇拝する程の恩義を感じているわけでもなく、祖父のような親しみも感じない。
バトルロワイアルを運営する面子は対等な関係に見えるが、自分は格下のように扱われている。
ラプラスの魔は分からないが、少なくともV.V.は自分を格下と捉えているだろう。
それでもV.V.に強力しているのは、あくまで自らの目的のためだ。
その目的を達成するためには、部活メンバーの生存が必須である。
にも関わらず、V.V.は部活メンバーの全滅を見逃そうとした。
もはや、これは裏切りに近い。
(…………)
思い出すのは牢獄の中での光景。
終末作戦の首謀者として収監され、同時に雛見沢症候群の治療を受ける毎日。
苦しい日々ではあったが、富竹がずっと傍にいてくれた。
決して口に出さなかったが、悪くない日々だったと思っていた。
だからこそ、後ろ髪を引かれるようなしこりが残る。
もし、あの場にV.V.が現れなければ。
もし、あの事実を知らされることがなければ――――
(くだらないわね)
先ほどV.V.が言ったように、世界中の何処にも『もし』は転がっていない。
数奇な運命を体験した自分だからこそ、彼女はそれをよく理解していた。
☆ ☆ ☆
「はぁ……」
ベッドに腰掛けながら、鷹野は湿った溜め息を吐く。
全てが終わった後、雛見沢症候群に感染していた彼女は医療刑務所に収監されていた。
重犯罪者な上に未知の病気に感染しているため、彼女に与えられた自由は少ない。
しかし彼女の収監されている部屋は窓があって、机もあって、ベッドもあって、水道もあって、トイレもある。
鉄格子こそ嵌められているが、一つの村を壊滅させようとした犯罪者の扱いとしては破格だろう。
富竹や入江などの多くの人物が彼女を気にしているため、彼女の待遇は確保されているのだ。
特に富竹は毎日のように面会に来てくれるし、雛見沢症候群も少しずつではあるが快方に向かっている。
祖父の研究も無駄になることはなくなり、彼女としては肩の荷が下りた気分だった。
「……」
だからこそ、空虚感を覚える。
富竹との面会が終わった直後は、それがより顕著だった。
激動といっても過言ではない人生だったが、今の彼女には何も背負うものがない。
それは悪いことではないが、いきなり生きる目的を失ったのだ。
この空虚感を埋めるには、長い年月を要するのだろう。
富竹の少し困ったような笑顔が、瞼の裏に焼き付いて離れない。
それは幻のようであり、触れようとすると霧散してしまう。
空を触れた手を見て、鷹野は呆然としていた。
「やぁ、こんにちは、君が鷹野三四だね?」
そんな孤独感に苛まれている時に、あの少年は現れた。
華美な衣装に身を包み、長過ぎる白髪を地面に引き摺らせながら。
「――――ッ!?」
少年の姿を見た時、鷹野は思わず言葉に詰まってしまう。
少年の格好が奇抜だったというのもあるが、ここは犯罪者を収容する牢獄である。
自由に出入りできる入り口などあるわけもなく、少年がここに入る手段などあるわけがない。
何の前触れもなく、気が付いたら少年は牢獄の中にいたのだ。
「そんなに慌てないでほしいな、僕は怪しい者じゃないよ、V.V.って言うんだ」
V.V.と名乗った少年は怪しい者じゃないというが、到底信じることなどできない。
髪型や衣服も奇抜だし、名前も本名とは思えない。
何より目の前の少年は、見た目からは想像もつかない程の嫌な何かを感じさせた。
例えるならば、古手梨花と似たような何かだ。
「誰か――――」
「無駄だよ、この世界にはもう僕と君しかいないんだ」
「あ、あなた、何を言って……」
「ほら、窓から外を見てごらんよ」
V.V.に促され、鷹野は窓の外に視線を移す。
そして、絶句した。
広がっていたのは夜の星空はなく、絵の具をぶち撒けたかのような奇妙な色をした空間だったからだ。
「何が……目的なの」
V.V.に視線を戻し、鷹野は問い掛ける。
相手は未知の存在ではあったが、だからこそ対話に臨んだ。
並大抵の人間ならば怯えてしまうかもしれないが、彼女には幾度も修羅場をくぐり抜けて備わった度胸がある。
「話が早くて助かるよ、どうしても君に話したいことがあって来たんだ」
「話したいこと……?」
「うん、君がどうして終末作戦に失敗してしまったかを教えたくてね」
こいつの話を聞いてはいけない。
そんな直感が、頭を過る。
だが、V.V.の放った終末作戦の失敗という単語は、鷹野は興味を掴んで離さない。
僅かに逡巡した彼女だが、やがてゆっくりと首肯した
「分かった、じゃあ話すよ」
辿々しい声色で言葉を紡ぎ始めるV.V.。
冗長で回りくどい喋り方ではあったが、鷹野は黙ってそれを聴き続ける。
だが彼の語る内容はあまりにも荒唐無稽であり、到底信じられるものではなかった。
「何度も何度も時間が繰り返されていた……?」
「そうだよ」
V.V.曰く雛見沢の時間は何度も繰り返されていて、終末作戦が成功するたびにリセットされていたらしい。
何を言っているのだ、と鷹野は目の前にいる少年の頭を疑う。
――――だが、もしこれが本当だったとしたら。
「……許せない……ッ!」
何度も実現していたはずの成功は無かったことにされ、たった一度だけの失敗が正史として存在している。
それは鷹野にとって、これ以上にないほど屈辱的な事実だった。
「証拠は……あるのかしら……」
「もちろんあるさ、僕に着いてきてくれるかな」
V.V.の顔がにやりと歪むが、怒り心頭の彼女が気付くことはない。
彼に言われるがままに目を瞑り、気が付いた時には牢獄ではない別の何処かへと移動していた。
「ここは……?」
「僕”たち”のアジトさ、カッコいいだろう?」
二人がいるのはいくつものモニターが用意された部屋。
外壁は黒塗りになっており、まさに秘密基地といった風貌である。
後で知った話だが、ここはV.V.の個室であったようだ。
「しばらくこの部屋を貸すよ、君の見たい映像は勝手に流れるから大丈夫さ」
そう言って踵を返し、V.V.は部屋から立ち去ってしまう。
突然の出来事に戸惑いを隠すことができない鷹野だが、やがて観念したようにモニター前の椅子へと腰掛けた。
「ッ!」
腰掛けた瞬間、目の前に設置された全てのモニターが一瞬で立ち上がる。
その光景に気圧されながらも、彼女は流れ始めた映像をゆっくりと鑑賞し始めた。
そして――――
「なによこれ……なんなのよこれ……」
モニターに映されている映像は、どれもこれも終末作戦に成功している自分の姿。
古手梨花の殺害に成功し、やっとの思いで祖父の夢を叶えた自分の姿。
V.V.の言うことは本当だった。
何度も成功していたはずの事実は無かったことにされ、たった一度の失敗が正史として歴史に刻まれていたのだ。
「信じてもらえたかな?」
「ええ……はっきりと分かったわよ……」
暗く、重苦しい声で返事をする。
そこにいたのは、祖父の研究成果を知らしめようと躍起になっていたかつての鬼だった。
「それで……私は何をすればいいのかしら?」
「話が早くて助かるよ、やっぱり君は頭がいいね」
「お世辞はいいわ、要件だけ言いなさい」
鷹野が言葉を叩きつけると、V.V.は満足そうに笑う。
そのまま心底楽しそうな口調で、鷹野にとっては到底受け入れ難い事実や目的を語り始めた。
ギアス、コード、異世界、パラレルワールド、バトルロワイアル、そして――――
「頭が痛くなってきたわ……」
「大丈夫かい? いきなり色々なことを言い過ぎたかな?」
「いいえ、大丈夫よ、それで結局私は何をすればいいのかしら?」
「うん、君には僕の手伝いをしてほしいんだ、バトルロワイアルは一人でやっていくには骨が折れるからね」
V.V.の言葉に、鷹野は拍子抜けしてしまう。
もっと仰々しい仕事を押し付けられることを覚悟していたからだ。
「……私に貴方の手伝いをする利点はあるのかしら?」
しかし、あえて快諾はしなかった。
V.V.という人間の人物像はまだ輪郭を保っておらず、まるで液体のように掴みどころがない。
おそらくは全てを語ったわけではないのだろう。
だが、目の前にある幸せは自らの手で掴み取らなければならない。
V.V.が全てを語らないのなら、自らの手で引きずり出す。
この行動を選択させたのは、彼女が今まで培ってきた人生経験によるものだった。
「やっぱり君は頭がいいね、こんな状況下でも決して自分を見失わない、だからこそ君を選んだんだ」
「それはありがとう、それで――――」
「復讐したくないかい?」
鷹野の言葉を遮るように、V.V.は言葉を挟み込む。
「君の人生を嘲笑いながら否定した彼らに、復讐したくないかい?」
☆ ☆ ☆
V.V.の掲げた報酬は二つあった。
一つ目は全てが終わった後、彼女の人生を全力でサポートすること。
高野一二三の研究が世に認められるよう、あらゆる手段を尽くすと約束させた。
そして二つ目は、部活メンバーへの復讐の機会だ。
彼が開催しようとしているバトルロワイアルは、復讐の舞台として最高の条件が整っていた。
前原圭一、竜宮礼奈、園崎魅音、園崎詩音、北条沙都子、北条悟史の六名は、それぞれ別の時間軸から参加させた。
他にも様々な苦難を与えている。
例えば北条悟史には拡声器を支給し、それを使うことで危険人物が集まることを誘発した。
彼が死亡することで園崎詩音が暴走することも、当然のように見越してある。
仮に生き延びたとしても、この悟史は詩音のことを知らない。
彼らが再会したとして、園崎詩音が理想とする関係は結べなかっただろう。
そして、最も許せない”彼女”は――――
「……」
自動扉をくぐり抜けると、そこにあるのは鷹野に与えられた部屋。
V.V.の部屋と同様に大量のモニターが設置されている機械的な部屋だが、中央に設置された木製の机と二つの椅子が何処かアンバランスさを醸し出していた。
机の上は書類が散乱しているが、椅子の目の前には書類を避けるようにティーセットが置いてある。
鷹野はそこに腰掛けると、小洒落たティーカップに紅茶を注ぎ込んだ。
(さっきのよりはマシね……)
先程の茶会で飲んだものよりはマシだが、お世辞にも美味しいと言える味ではない。
ずっと昔に雛見沢で飲んだ紅茶を思い出し、鷹野は乾いた溜息を吐いた。
「優れない顔ね」
隣の椅子に座る”彼女”から、皮肉交じりの声が聞こえる。
鷹野は忌々しげにそちらを向くと、フッと口端を吊り上げた。
「ええ、せっかく仲間が死んだっていうのに、貴女の反応が面白くないんだもの、つまらないわ」
「何時までもお前の思い通りにしてたら癪だもの」
「……ッ、そうね……貴女はそういう人間だったわね――――古手梨花」
”彼女”――――古手梨花に向けて、鷹野は口火を切った。
彼らの中で、最も許せなかったのは古手梨花だった。
存在してはいけない『もし』を、卑怯な手段で存在させた少女。
本来ならば正史として刻まれていた終末作戦を、自らの都合で勝手に捻じ曲げ続けた少女。
それは例えるなら、勝つまでじゃんけんを続けるようなものである。
とっくの昔に掴んでいたはずの幸せを、知らず知らずの内にこの少女に奪われていたのだ。
古手梨花はただ殺すだけでは飽き足らない。
徹底的に無力感を噛み締めさせ、その末に孤独の人生を歩ませてやるのだ。
彼女にはV.V.の直属の部下である少年から、『鷹野三四に従え』というギアスを刻まれている。
故に彼女は逃げることもできず、抵抗することもできない。
そして、鷹野は彼女に向けて『仲間の死に様を見続けろ』と命令を下した。
だから古手梨花は物理的な拘束は一切無いまま、仲間の死にゆく様を見せられているのである。
東條悟の裏切りによって北条沙都子が死んだ時、泣き叫びながら鷹野を罵倒した。
園崎詩音がレイ・ラングレンを殺害した時は、心底悔しそうに顔を伏せていた。
その姿を見て、鷹野は復讐を完遂する。
「……」
完遂するはずだった。
(何故かしら……何も感じない)
彼らが無残な方法で死に絶えようと、梨花が涙を流しながら発狂しようと。
鷹野は何も感じない。
軍隊を差し向けても死ななかった彼らは、鷹野の予想を越える速度で呆気なく死んでしまった。
小此木以上に格闘技に精通していた園崎魅音は、抵抗する暇もなくこの世を去った。
大勢の軍人を欺いた北条沙都子は、一人の陰気な青年によって死んだ。
これが終末作戦を打ち破った者たちの末路かと、思わず目を疑ってしまう。
しぶとく生き残るだろうと思っていた彼らは、全体の人数が半分になる前に残り二人となっていた。
「それに」
鷹野が物思いに更けていると、梨花が唐突に言葉を紡ぎだす。
この場に不釣り合いな程に得意げな顔で、思わず額に皺が寄ってしまう。
「私はレナから教えてもらったもの」
「……何をかしら?」
「どんなことがあっても、やっぱり私たちは仲間なんだって」
ギリッ、と奥歯を噛み締めた。
竜宮礼奈と園崎詩音が邂逅した時、ようやく溜飲を下げることができると思った。
だが、彼女たちが罵り合っても何の感慨も浮かばない。
むしろ竜宮礼奈の並べる綺麗事に、余計苛立ちが溜まるだけである。
園崎詩音の復讐を否定する彼女の言葉は、モニターを通して己を否定してくるかのようでどうしようもなく不快な気分にさせられたのだ。
「お困りのようですね」
不意に背後から声が響いた。
ハッとして後ろを向くと、そこにいるのはラプラスの魔。
二足歩行する長身の兎がタキシードを着ている姿は、いつ見ても酷く不気味だった。
「何の用かしら? 女性の部屋にノックもせずに入ってくるなんて」
「これは手厳しい。ですが許していただきたい、なにせ兎は寂しいと死んでしまう生物なのですから」
「あら、それはデマじゃなかったかしら?」
嫌いというわけではないが、鷹野はラプラスの魔が苦手だった。
その容貌もさることながら、彼特有の言葉遊びの意図を解釈するのに頭を悩ませることが多い。
V.V.以上に何を考えているか分からないのだ。
「これはこれは……先ほどは随分と大きな剣幕でお話されてましたね」
聞かれていたのかと、鷹野は面倒くさそうに思考する。
底意地の悪さが目立つV.V.と違い、ラプラスの魔は一向にその考えを掴むことができない。
これでは、相手にするのも一苦労というものである。
「先程も申し上げた通り、道化師という生き物は気紛れです」
かつかつと足音を立てながら、ラプラスの魔が近づいてくる。
「その気紛れで全てが台無しになる前に、”貴女自身の手で幸せを掴み取る”ことをお勧めしますよ」
思わず後退ってしまう。
今まで平静を保っていた梨花も、ラプラスの魔の放つ異様な雰囲気に気圧されているようだった。
かつん、とテーブルの脚にかかとが着く。
ラプラスの魔の顔が、すぐ傍にまで来ていた。
「そのための力は、既に貴女の手の内にあるのですから」
一寸の光も灯っていない真っ赤な目に、あからさまに狼狽した自分の顔が映っている。
悲鳴を上げてしまいそうになるが、寸前のところで押し留めた。
「少し驚かせ過ぎたようですね」
ラプラスの魔の顔が離れていく。
全身が氷のように冷えている中、心臓だけが人事のようにドクンドクンと脈動していた。
「兎と鷹、狩られる側と狩る側、それを踏み越えてしまうのが種としての領分を越える行いです、私はここで御暇しましょう」
踵を返し、来た時と同じようにかつかつと足音を立てながらラプラスの魔は去っていく。
タキシードの裾がひらひらと揺れるのを、鷹野は指一つ動かすことなく見続けていた。
「……」
自動扉が閉まったのを確認し、鷹野はようやく息を吐く。
やはりラプラスの魔の相手をするのは疲れると、改めて実感した瞬間だった。
一分程度しか会話をしていないのに、額にはびっしりと脂汗が浮かんでいる。
それを拭おうとハンカチを取り出すため、鷹野はポケットの中に手を入れた。
「ッ!?」
ハンカチの他にもう一つ、覚えのない角ばった感触が手を伝う。
急いでそれを取り出すと、鷹野は目を疑った。
話は逸れるが、このバトルロワイアルには数多くの支給品が登場した。
銃器や刀剣類などの武器から、詳細名簿や探知機のように便利なもの、本や水着のように殆ど役に立たないもの。
だがその中で、日の目を見ることなく封印された支給品もいくつかあった。
KMFやヨロイ、デスノートやCOMPなどがそれに当たる。
それの有無により、著しく戦力バランスが変わってしまうからだ。
鷹野にとってはどうでもよかったが、V.V.曰くゲームバランスは重要ということらしい。
そして、その中の一つにある道具があった。
死んだ妹を生き返らせるため、狂った兄が作り上げた道具。
最後に生き残った戦士を屠るため、他の物よりも圧倒的に強力に仕上がった一品。
それを誰でも使用できるというのはまずいと判断され、他の物と一緒に封印されてたはずの物。
「オーディン……」
金色の背景に不死鳥が刻まれたケース――――オーディンのデッキ。
それが今、鷹野の手の内にあった。
――――すべからく、成すべき事は急いだ方が良い……道化師の気紛れが、全てを台無しにしてしまわぬうちに。
茶会の時にラプラスの魔が放った言葉を脳裏で反芻させる。
生き残ったのも竜宮礼奈一人になり、彼女も何時死ぬか分かったものではない。
彼女の死でも何も得るものがなかったら、何のためにV.V.に協力したのか分からない。
その状態でV.V.に協力し続けるのは、御免被りたかった。
(ならば、いっそ)
何時死ぬか分からないのなら、いっそのこと自分の手でとどめを刺す。
最後の一人なのだから、そういったサプライズがあってもいいだろう。
そうすることで、復讐は完遂するのかもしれない。
道化師が気紛れを起こす前に、自らの手で幸せを掴み取るのだ。
「ふふ……」
笑いが漏れる。
それは自然に出てきた笑いなのか、それとも無理をして作った作り笑いなのか。
彼女には判断することができなかった。
だが、たった一つだけ言えることがある。
一度裏切ったにも関わらず親身になってくれた富竹を、自分はまた裏切った。
二度も裏切った以上、彼の前に姿を現す訳にはいかないだろう。
後戻りは、もう出来ない
支援
【一日目夕方/???】
【鷹野三四@ひぐらしのなく頃に】
[装備]無し
[支給品]オーディンのデッキ@仮面ライダー龍騎
[状態]健康
[思考・行動]
1:竜宮礼奈を殺す。
※他にも何か所持している可能性があります。
【古手梨花@ひぐらしのなく頃に】
[装備]無し
[支給品]無し
[状態]健康
[思考・行動]
1:???
※銀髪の少年により『鷹野三四に従え』というギアスをかけられています。
支援
以上で投下終了です。
誤字脱字などがありましたら、ご指摘いただけるとありがたいです。
すいません、一つ言い忘れていたことがありました。
以前決定した仮予約について意見があり、議論スレの方で提起させていただいてます。
読み手や書き手という括りは関係なく、一度ご覧いただけますようお願いします。
投下乙です
詩音大暴れの裏で主催が動く動く…
この状況で鷹野が会場に乱入って、対主催大丈夫なのか
投下乙です
鷹野さんはやる気になっているけど、オーディンのデッキの入手ですらV.V.の手の平の上のような気がするな
乙ー
パラレルワールドの存在を知っているのに別の世界での成功を”無かったことにされた”って解釈に行く辺り上手いこと誘導されてるなぁ
ラプラス含めて他の主催陣に踊らされてる感じで参加者ともある意味対等なんじゃないかと錯覚する
投下乙です
しかし回想描写のみとはいえ、ロワでこんなに富竹が持ち上げられたのは初めてじゃないか?
オーディンのデッキがマーダーに渡ったら
対主催がほんとに詰んでしまうw
欲しいけど高いなぁ
つかさとレナはいろんな人に守られてるね
まだ盾になりそうな人いるし
>>273 盾と言えるほど犠牲者は出してないけどね
つかさを守る為に犠牲になったのってアイゼルぐらいだし
五ヱ衛門はどっちかというと死に様も含めて北岡の盾になった感じだし
蒼嶋は、あの場でもし彼の方が生き残ってたら
直後に狭間が到着した時に間違いなく殺し合いになってただろうし
むしろレナを庇って死亡したことで結果的に犠牲者は少なくなったとも言える
狭間の参戦時期がラストバトルの途中ってのもおいしいよね
少し前だとマーダー寄りになりそうだし
強マーダーが多いおかげで
銀様がイマイチ目立ってないね
アニロワでは大活躍だったのに
スザクのせいで死んでるんだか生きてるんだかわからなくなった時期が俺にもありました
アニロワはマーダー少ない分補正が高かったから
こっちでもスザクをあんな感じにして影響はでかいんだけどなぁw」
目立つ人物ってのはどうしてもキャラの動かしやすさで決まってしまうもんだからな
例えば、頭がいいとか、お茶目で可愛いとか、知的な眼鏡をかけているとか、大学教授だとか、本を五冊だしてるとか
銀様は知略系マーダーだろうだけど
桐山が大暴れでw
縁も一応知略計マーダーになったのか
水銀燈がローザミスティカを熱望している傍で、翠星石が二人分のローザミスティカを掻っ攫ってるという
つーか銀様って知略家っぽいことしようとしてるだけで、すぐ癇癪起こして台無しにしちゃうあたり脳筋なんじゃないの
でも、いつ退場してもおかしくない状況!
果たして拾えるか?
影月や後籐や縁や志々雄が周りにいるんじゃなw
同行者は一般人だし
そう言えば志々雄様より危険な対主催シャナはどうなるんだろう?
仮に戦闘中の三人の皆殺しに成功したとして、状況は良くなるかな
もしシャナがクーガー真司翠星石を全滅させたとしたら、それこそ本当に対主催終了だろうな……
その後のシャナが何かできるとも思えないし
殺る気満々だもんな
行動だけ見ればそこらのマーダーよりよっぽどかマーダーしてるw
宗次郎といい玲子さんといい
対主催者化したら脱落ってw
狭間「…」
>>288 つっても、今のマーダーでキルスコア稼いでないの銀様だけだぜ?
>>291 288は銀様ではなく、シャナのこと言ってたんだけど?
>>291 いやそれはわかってる
「そこらのマーダーより」って言ってもキルスコア出してないようなマーダーは銀様だけだよね、って意味
シャナと比べて遜色するようなマーダーそんなにいたっけ?って思った
>>289 狭間は本編ではまだ人殺してないから許される
本編では狭間は全然非情に見えないね
スザク見逃したり、蒼嶋に回復呪文かけたり
前にここで誰かが言ってたけど、狭間は悪役だけど悪人じゃないって感じだな
>>293 圭一「……」
織田「……」
才人「……」
イデオは自由の女神化したら強い強いってよく聞くけど
何がそんなに強くなるの?
上田先生の本に仮面ライダーについての言及があったな
らきすたと同じでその辺りは知識制限か
上田の本が発売されてるのを初めて知った
上田先生の本の存在を知らなかっただなんて人生の8割を損していると言っても過言ではないな。
だが君は幸運な事にここでその存在を知ることができた。
なあに誰にだって初めてはある、なにも恥じる事は無い、
さっそく明日にでも布教用・保存用・観賞用と三冊買いに行くんだ。
誰だよ上田にPC支給した奴
縁はネタキャラだった頃の方が人気あったのか
今では空気に・・
>>303 もともと約1人頻繁に話題にしてた人がいただけで
そこまで目立ってたわけじゃなかったと思うが
>>303 オートマーダーならぬ
嘔吐マーダーだったし
不殺の剣心は生き残ってたら
後籐とか影月とかは普通に倒そうとしたのかね
三村って原作でもドライなの
志々雄に心酔しちゃってるからお人よしって訳でもなさそうだけど
合理主義で、信用できない人間は仲間に絶対入れなかったね
そのやり方のせいで一人殺したときには、かなり動揺してたけど
基本的には優しいけど、いざという時には他人を見捨てる覚悟がある
こう書くとなんかすごい強い人に見えるな
ただあそこで自分の力を過信して銃をぶっ放しちゃったのは完全にミスだよね
織田様と狭間は非リア充だけど
二人に共通しているのはコミュ力かな?
織田様はそれ以前の問題が(ry
ハザマに病院って似合うだろうな
白い制服で医者っぽいし
実際回復呪文使えるのハザマだけだし
L達に何気に戦力的にピンチか
カズマや真司達と離れちゃったし
Lかみなみが、「何故ベストを尽くさないのか!」って言ってやれば、巨根がチームを勝利に導いてくれるんだけど
強マーダーならサクッと無傷で殲滅できそう
残ってるマーダー:シャドームーン、後藤、縁、水銀燈、桐山、浅倉、スザク
先頭二人は論外、後ろ三人はデッキ持ち
手負いの縁か対主催抱えてる銀様ぐらいじゃないの、L達がかろうじて対抗できるのって
手負いの縁って上田より弱いのかww
ちょっと待て、今のL達グループの最大戦力って上田なのか?
冗談抜きで上田、鍛えられた常人の枠ギリギリ超える唯一の人w
うっわぁ、そっか、L自身も結構身体的に強いと思ってたからそんな心配してなかったけど、上田のが強いのか……
対主催いじめがwikiのページ入りするわけだw
一応十数人相手に互角で戦えるくらい強いしねぇ>上田
Lも実写版だと運動駄目設定だけど、原作だとカポエラーの使い手で月との喧嘩の時にすげーキック見せてる
みなみんも同年代の中ではかなり運動神経いい方だし、一般人として見るならこの三人組はかなり高スペックなはず
>>318 あくまでギリギリ勝てるとしたらって感じじゃないかな
縁もかなり筋骨隆々としてるし、普通に戦ったら余裕で負けると思う
上田ってるろ剣でいえば
左之よりはずっと弱そうだけどなw
マーダーとテニスで勝負することになってもLなら勝てるし、浅倉や縁なら大きい根っこ作戦が…
やっぱこいつら無理かも
>>322 対処できるっていうのは「何とか隙を作って逃げられる」程度で考えてたなぁ、勝てるかって言われるとちょっと…
この三人が一般人の中で高スペックでも、勝てそうな相手が見つからない
前なら一般人マーダーが残ってたから、まだ対等に戦える目もあったんだけど
支給品が量や質ともに充実してるから、それを駆使すれば行けるんじゃないかなぁ
マーダー同士で組んでるの銀様とこだけか
他は組みそうにないな
場合によってはまた桐山が・・
現時点で生き残ってるマーダーは全員本質的に孤高だな
と思ったけど、スザクはそうでもないか
このマーダー連中に銃とかちょっと身体能力を上げる程度の剣じゃそうそう通用しないし、Lの頭脳の見せ所だな
影月後藤に関しては努力も工夫もへったくれもないが
>>328 スザクだけ明らかに他の連中とは別種だよね
そもそも順当に行ってれば対主催筆頭のキャラのはずなのにどうしてこうなった
もう散々語られてるけどスザクはなぁ……
サイトが似たようなポジションで最期が悲惨だったけど、退場が早かった分まだマシなように思える
水銀燈自身もたまたま成功したって言ってたし一番の原因は運の悪さだよな……
ハザマがパトラを使ってくれていれば、こんなことには……
マーダーに期待することではないけどさぁw
ハザマが味方になれば大抵のケースはなんとかなってしまうよね
チートキャラなのに目立たないw
残ってるマーダーが強豪揃いだから大抵とはいかないだろ
狭間はラスボスだし能力も攻撃一辺倒って訳じゃないから、大抵とはいかなくとも確実に対主催側の主力になってくれる
まだまだ地雷あるから対主催になると思えない面もあるけどなー
>ハザマ
最大の地雷ってなんだろう
レイコに救われる直前から参戦って際どいよねw
ぶっちゃけ人格面は最高に扱いづらいからなあw
ほめてもけなしても駄目だけど、向こうから踏み込んでくれるまで何もしないのに踏み込んでも切れるというw
レナと北岡は参加者のなかで、かなりコミュ力高い方だよね
あと特に高いのは脱落したルパンか・・
ここでコミュ力ある奴というと一般人に多い気がする
特にこなたなんか持ち前のコミュ力があったからこそ、あそこまで暗躍できたんじゃね
「私は魔神皇、狭間偉出夫。魔界を支配するものだ。人ならざる者よ、私の力を体現したはずだ。
私と契約を結び力を貸すというのなら、さらなる奇跡をもってその傷を癒してやる。私に従え」
↑精一杯のコミュニケーション
それをこなたかかがみにやったら厨二病乙って言われて逆ギレしそう>狭間
このロワのこなたに限れば、ああ、これってやっぱりゲームなんだ、って確信を深めただろうなぁw
縁さんよりはマシだろうw
ハザマさん
志々雄さんの部下になりそうな対主催は
いないな
少なくとも三村みたいに心酔しそうなのは
このロワで一番エグかった描写というか展開ってなんだろう?
俺はやっぱりサイトが捕食されてるシーンだと思う
こなたあたりも悲惨・・・
同じ話で死んだ参加者も割りと苦しまず死んだからw
玲子か後藤が関われば大体エグい
鉈で頭かち割られたレイ兄さんも結構えげつない
マーダーほとんどラスボスが多いだけあって
実力も作中でトップだね
対抗するはずの主人公がほとんど死んでるし
対主催者w
弱い奴から順番に脱落していったからなぁ
>>344 ロロがつかさを一方的に嬲ってるシーンは結構辛かったな……
あの話は後藤ジェレミア戦もあったしキツめだった
グロくはないんだけどちょっとエグい
あの後の志々雄の台詞も後味悪かったな……
無駄な努力をご苦労さんって……
物理攻撃しかできない対主催には
後籐相手はきついだろうね。
スザク関連はエグくはないがえげつない
織田様って殺人躊躇しないところを見ると
やっぱり悪人かな?
たぶん、どんな奇麗事を言われてもブレないだろうな
ほとんど周囲を一方的に見下してるし、どう見ても悪人
川田とか杉村並の身体能力あったら、もっと悪人っぽく見えるんじゃね?
織田は龍騎でいうならまさにガイだよなぁ
ウザくてゲスい
友達とかもあっさり見捨てそうタイプか
見捨てた挙句に、その死に様を見てほくそえんでても違和感ない
というか、漫画版はマジでそんな感じだったような
そもそも織田は友達いなさそう、というか多分いない
漫画版でバス乗ってる時、隣にいたのが委員長だった気がする
他人を見下してたせいで友達いない織田
コミュ障で友達いないせいで他人を見下す形でしか満たされなかった狭間
ボッチって点は共通だけど似て非なる
スペックに至っては比べるのも可哀想な勢い
縁も姉が殺されて前から
悪人というか危険人物ぽかったなあ
姉の婚約者が殺される前から多少なりともアレだったみたいだな
>>361 狭間のコミュ障は少なからず後天的なものがあるけど、織田のコミュ障はほとんど先天的だからなぁ
同情する要素が欠片もねぇ
レナが狭間にお願いするシーン好きだな
最強クラスなだけに簡単に仲間にできないのがなんともw
366 :
創る名無しに見る名無し:2012/07/28(土) 10:14:25.83 ID:arxmrcsz
シャドームーンのキングストーンでRXとして復活!とかあったらいいなぁ・・・
このロワで恋愛ぽいのないなあ・・
北岡とつかさは保護者みたいなものだし
上田は論外だし
シャナと新一や蒼嶋とちーちゃんの関係も恋愛って感じじゃなかったし、たしかにそういう要素はないなー。
シャドームーンは何かの表紙で信彦に戻ることが…
あっても、それは死ぬ時だな
ルパンが有力対主催だから始末されたけど
縁は次は、Lや上田を優先して始末するべきだなw
銀様は対主催チームにほとんど
危険人物って認識されてるんだよね・・
ステルスは無理そうか
銀様の情報無い対主催ってヴァンとC.C.くらいか?
志々雄三村も知らないはず
銀様の立場も危ういよな
他の現存マーダーの中では見劣りしてるように見える
自由に空を飛べるのはマーダーどころか他の参加者ですら持ち得ない能力なんだけどな
というか、空飛べるキャラって誰がいたっけ?
ぱっと思い付いたのは後藤とナイトのデッキ持ってるヴァンなんだが
翠星石とカズマ。あとやろうと思えば後藤もできるはず
マーダー勢と対主催の実力って拮抗してるの?
そうでもないのかな
他のロワでもそうだがカズマが死ぬ時が来たら強マーダーも道連れにされそう
逆にいつも強マーダー道連れパターンだから、勝たせて生還させてやりたいわ
>>376 後藤はしんどそうだけどな
ミギーや田村が生きてたら、脳筋とダメ出しくらいそうだ。
----
新地図のデータが消えマスタ……orz
今のデータは読めるけど、新しいSSは反映されませんだ。
レナもかなり人間関係濃くなってるよね
狭間と接触したり鷹野さんに狙われたり、つかさばかりが目立ってけど
マジすか……
俺もこういうの詳しいわけじゃないし、ちょっと手が出せないな……
ルパン勢とスクライド勢はぶれないなあ
誰もマーダーにはならなかったし
そういやもうルパン勢は全滅したのか……
スクライド勢もなんか燃え尽きちゃいそうな勢いだし、終盤に差し掛かってるのかもな
狭間って一応後藤とタイマン張れるぐらい
強いんだよね?
この活躍の薄さw
シャナはこんなことやってる場合じゃないのにw
結構めんどくさい主人公なんだなw
魅音を殺った時点で路線はほぼ確定したようなw
生きていればそこそこ役には立っただろうにね、みおん
空気は読めないけど魅音はリーダーシップあるからな
あの個性的な面子をまとめあげるには一筋縄じゃいかないし、軍人を圧倒するほど格闘技にも精通してる
今の対主催に足りないものを持ってた気がする
空気は読めないけど
魅音が切羽詰ってる人間を茶化して逆ギレされて殺され、それが引き金でマーダー増えるとかやらかしたらどうするんだよ…
今の個性的な面子を、魅音だったらまとめられるのかって言ったら結構微妙なところだと思うなぁ
いくらリーダーシップあっても女子中学生だろ
そもそも誰の言うことも聞かないようなやつも混じってるんだから、そう上手くはいかないような
魅音ならまだルパンの方がまとめられるんじゃないかね
空気読めないけど他のひぐらし勢同様、ハマればかなりの人間力発揮するからなぁ。
空気読めないけどここのロワだと何もできなかった分、もしもって想像を始めるとその分あんなことができたんじゃ、って期待も無駄に膨らむし。
空気読めないけど。
冷静に考えたら中学生の魅音が北岡やジェレミアをまとめてる姿は想像できなかった
北岡も原作と比べると、つかさとか五ェ門に感化されてかなり他人に協力的だから平気じゃね
ジェレミアはどうだろう…何だかんだでちゃんと話せば分かってくれるタイプだと思うけど
問題なのはそもそも話を聞いてないカズマとかヴァンとか
論外なところだと志々雄とか狭間とかシャナとか
自分がもしこのロワに参加していたら、魅音に感化されたとは思えない
自分がものすごい強者だったら言葉だけでも感化されるかもしれないけど
あいにく凡人なので、実力をもって「俺に付いて来たらここから脱出できるぜ」みたいなのを見せてもらわない事には…
>>397 それ逆に言うと志々雄さんには感化されちゃう感じか
志々雄だと役立たずと判断されて処刑されそうな恐怖があるな
剣心って生き残ってたら活躍できたかね
実力者で口も上手いし空気も読めない訳じゃないから
いい線いくと思ったけど
魅音よりは役に立っていただろう
口が上手いっつっても、不殺精神はロワだとマイナスに働きかねない
剣心は作中で「人間以外のものは斬れる」って言ってるから、後藤や銀様は普通に殺せるんじゃないかな
原作で人間以外の知能生命体と戦った経験がないから何とも言えないか
後藤はともかく水銀燈となると剣心には殺せない気がする
縁って銀様の近くにいるけど
銀様は攻撃できるか・・
容姿は大人びてるような気がするけど
そういえば縁の配下に精巧な人形を作れる爺がいたな
外印の仮面取れてからの小物っぷりがヤバかった
さすがに雷十太先生には及ばないが
外印より黒星の方が・・
縁も裏社会で上にのし上がったきたぐらいだから
狭間よりは社交性はあるんだろうな
斎藤に内心暴露された後の宇水さんの話はやめろ
他の対主催者に比べて
今のところ北岡のグループが安定してのかね
確かに精神的には一番安定してる気がする
北岡はやっとデッキ手に入れたし
つかさは一回落ちて復活したからもう落ちないだろうし
五右衛門死んじゃったのは痛いけど
影月 水銀燈&月 後藤
縁 ヴァン&CC 三村&志々雄 クーガー、真司 浅倉 狭間
シャナ、翠星石
スザク 北岡、ジェレミア
つかさ、レナ 桐山
カズマ
L、上田、みなみ
こうやって見ると対主催もマーダーも残り少ないな…
対主催の中で現在進行形で揉めてるのってシャナのとこだけだよね
Lのところもこれ以上問題起こらないだろうから、どこもそこまで不安定ではない
戦力的な意味も含めると一番安定してるのはイメージ的には三村志々雄ペア
ヴァンとC.C.は独自路線
対主催グループのどこかに狭間が入る可能性も
あるしね・・
シャナはマーダーになる可能性はあるかな?
参加者もだいぶ減ってるし
優勝した方が早いと判断するかも
この期に及んでマーダー化したら、玲子さんの頑張りは何だったんだってなっちゃうな……
数少なくなってる有力対主催勢に戦闘ふっかけてる時点で十分酷いけどな…
つかさもみなみも成長が見られたし
あとは狭間と上田先生の成長に期待してる
反面、シャナは最後まで成長を期待できそうにないな
主人公()
上田先生には成長の余地なんてあるのだろうか?
既にあそこまでビッグだというのに……
上田先生は大きい根っこ作戦を
縁あたりにしたら某ロワのシンジ君みたいな最後になりそう
>>418 さすがに何らかの成長というか変化はあると思う
胸の成長は絶望的です
シャナの場合、魅音を殺した時から問題になってる(と言うか周囲との摩擦の原因になってる)のは人命を軽視している点だが
今更そこを反省するとも思えないのが
>>421 大きい根っこ作戦が制限により使用できなかったら…
上田先生不能になっちゃったかー
志々雄が狭間を仲間に引き入れたら
三村の立場がなくなっちゃう
蒼紫の時と似たように接すると思う
シャナはもう無理だろ
スタンスも性格もダメダメだし、もう影響を与えるような人間がいない
Lも殺人行為を肯定してくれないだろうから
シャナは志々雄側に付く以外に身の振り場所が無いな
シャナは銀様に利用されるなんてことはあるかな
SQ連載のるろ剣キネマ版、斎藤が絵柄も中身も別人になっとった…
ちょっとガッカリかも知れん…
豆知識
斎藤は沖田より年下
微妙に関係ない話題だけど前々から気になってたから調べてみた
ローゼン勢>C.C.>右京、亀山>35(上田)>34(斎藤)>30(北岡)>29(ジェレミア、志々雄)>28(剣心)
>25(咲世子、浅倉、東條、L)>23(縁、真司、奈緒子)>22(アイゼル)>21(クーガー)>19(てつを、影月)
>18(ルルーシュ、スザク、こなた、かがみ、つかさ、みゆき、宗次郎、新一)
>17(劉鳳、みなみ、サイト)>16(カズマ、社長、ミギャー、ルイズ、蒼嶋、狭間、月)
>15(ロロ、魅音、悟史、タバサ、瑞穂、千草、三村、織田、桐山)>14(K1)>13(レナ)>沙都子≧8(かなみ)
年齢のはっきりしない連中は適当、参戦時期によって変動する連中も適当
多分間違いありあり
作ってから「ローゼンとCCってどっちが先だっけ?」ってなり始めた
学生(らき勢とか)は学年で年齢を一括りにしたりしなかったり
どうにも入れられなかった人たち→ヴァン、レイ、シャナ、ルパン勢
ローゼン勢とCC以外の参加者の平均年齢(相棒勢とルパン勢は暫定的に全員40歳、ヴァンとレイは30歳、シャナは15歳、沙都子は9歳で計算)は約20.6歳になった
ローゼン勢をロリとして換算すればもう少し低くなるはず
>>434 龍騎勢の年齢が中の人になってね?
東條は大学生で北岡と浅倉はそんなに歳が離れてないはず
北岡は忘れたけど浅倉と東條は同い年で間違いないよ
東條は大学院生だし
>>435 マジで?
Wikipedia見ながらやってたんだけど
東條は院生だと思ってたわ
>>436 そうなのか、記憶が風化してたせいで間違って覚えてたかも
じゃあ北岡は年齢的におっさんなのか
おっさんってどのラインから?
斎藤(上田)さんくらいからじゃないかねえ
★放送前のSSを執筆されている書き手氏に御連絡
書き手間での話し合いから丁度二ヶ月が経ちました為、進捗状況を確認させて戴きたく思います。
したらば議論スレへの書き込み、@Wiki管理者問い合わせフォームからの直接の御連絡、どのような形式でも構いませんので現状を御報告下さい。
御手数をお掛けして誠に申し訳ございませんが、何卒よろしくお願い致します。
確認してみたけどどっちとも取れる感じだった >東條
でも成績優秀な感じだったし、多分院生じゃないかねぇ
狭間のランダマイザって聖剣3でいうと
ブラックカースみたいなもの?
あっちはゲームバランスを崩す程のチートだったけど
何か数が合わないと思ったら後藤と玲子抜かしてたわ…
上田>>>志々雄>後藤>北岡>クーガー>オレンジ>縁>シャドームーン
浅倉>ヴァン>三村>月>L>スザク>桐山>狭間>カズマ
個人的イメージで生存者の男の大きさを並べてみた
後藤は伸縮自在だから人間時のサイズ限定で
カズマェ…
人気投票とかって放送後にやるのがお約束だっけ?
浅倉とスザクが意外と小さい
あと真司が抜けてるな
>>447 お約束というか、今のところそういう流れになってる
まだ二回しかやってないけど
>>445 カズマはビッグ・マグナムと男の太さを競って勝ったじゃないですかー!
少なくない頻度で雑談の内容が下ネタに走るのは何故なんだ
上田が悪い
先生は殺し合いの話題ばっかで殺伐としないようにバランスをとってくれてるんだよ
452 :
創る名無しに見る名無し:2012/08/17(金) 21:10:52.53 ID:DFXYTlFi
狭間って誰と組んでも強そう
レナやつかさと組んでも上田と組んでも強そう
ただ誰と組んでも次の話では決裂してそう。
コミュ能力と地雷が致命的
Lが狭間を見たら仲間にしようと説得するだろうし
人材としては引っぱりだこだろうにw
志々雄って勧誘できそうな相手が
シャナぐらいしかいないね
右京さんこのまま生き残ってたとしても
対主催の悩みの種を増やすのしか想像できない
影月ですら保護するなんてw
>>455 ある意味後藤もありだな。
弱肉強食の世界に生きてるし、首根っこひっ捕まえて『俺様に従うか死ぬか選べやゴルァ』ってやれば、服従する気がする。
三村がとんでもないやつらに囲まれるなwwww
>>453 狭間は能力じゃなくて人間性をきちんと見てやれば上手く行く気がする
レナやつかさ、上田辺りとなら上手くやっていけるんじゃないかな
何だかんだで東條や織田や縁よりはまだ意思の疎通は可能だからな
ということは、東條とも共に叫び合った上田先生なら狭間くらい余裕だな
上田ってミスターサタンみたいなキャラ付け?
実力は戦闘要員と比べれば雑魚だが人柄が評価されてたり
サタンほど人間は出来ていないと思うよ
出来てないんじゃあ、仕方ないな( ´∀`)
上田もいい年なんだからある程度の大人としてのわびさびはあると思うんだ
でも魔人ブウを見たら対話とか媚び売る前に気絶するよなぁ上田
魔人ブウ見て対話しようなんて思えるサタンと比べてやるなww
北岡先生がアドベントカードアーカイブスの販促をするようです
www.youtube.com/watch?v=tVwr8D5R3Cc
縁「抜刀斎を殺そうとしていたら死んでいた」
後藤「泉新一を殺そうとしていたら死んでいた」
狭間「蒼嶋を殺そうとしていたら死んでいた」
シャドームーン「ブラックサンを殺そうとしていたら死んでいた」
マーダー連中は順風満帆に見えるけど、なんだかんだで本懐は果たせてないんだな……
他作品同士の主人公とラスボス同士で戦っていたらまだ希望もあったが
現在生き残っている主人公もボロボロでマーダーは余裕というのが痛い
ハザマは主人公死亡で逆に対主催化フラグが立ったが
シャドームーンは第三回放送をきいたら怒り狂って暴れそう
ラスボス同士の潰しあいが待ってるよ!
後藤としては得意なフィールドである森に留まりたいだろうがD-7の森林火災が広がってるんだっけ
加えて禁止区域発表でD-1の島を結ぶ道路が寸断されたら影月が東へ向かうとなると、
二大マーダー同士の衝突もありうるかも
後藤では影月に勝てないだろうからなんとかダメージを与えてそのままvs志々雄に持ち込むか、
先に志々雄vs後藤で後藤を倒し龍に食わせてパワーアップしてからの志々雄vs影月、ならなんとか・・・
志々雄も体温上昇という爆弾を抱えてるのがネックか
後藤→志々雄
カズマ→桐山
影月→真司
浅倉→北岡
ラスボス格は一通り因縁の相手が出来てるね
一般人でも強化される&シャドームーンへの対抗手段ということで
生き残り組にライダーデッキ所持者が多いな
非デッキ所持者もまじがんばれ
瀕死だけど
デッキといえば、ライアとガイのデッキは契約モンスターの問題で出なかったけど
ブランク体は可能なんだよな
防弾チョッキとどっちが役に立つかな?
龍騎のライドセイバーもAP300(=1.5t)の威力はあるし、防弾チョッキよりはずっと役立つんじゃないかな
オーディンも出たし、残りも出したら龍騎ライダーバトルの形式が完成するな
恋愛ってほどじゃないけどいい感じになったのってルパン&田村玲子だよな
某ロワのルルとスザクが格好良すぎて満身創痍だがジェレミア卿には頑張ってもらいたい
参戦時期って大事だなぁ
参戦時期といえば月とLはそれぞれ初登場・死亡時と開きが大きいけど
今後それがどんな結果をもたらすやら
「Lが言う程月は凶悪には見えない」と思われたらLの立場の方が不利になるかもしれない
狭間ってここでは人気あるの?
if主もそうだけど良い感じにキャラ付けされてたのもそうだし、上田先生同様雑談でオチがつけやすいのもあると思うw
俺は好きだよ
悪人ってよりただのコミュ障だし、親しみが持てる
東條とかと違って物事の善悪は理解してるからな
もっとも、だからこそゲーム本編でああいう行動に出たんだが
もしDS型探知機の支給相手がボッチ皇狭間でなかったら
参加者の運命も多少は変わっていたのかもな・・・
レナや北岡先生との合流で脱ボッチなるか!?
影月や後藤は健在
志々雄さんは志々雄さんでしかないし
光太郎は脱落だし
一応期待されてるのかな狭間って
レナが絶体絶命のピンチになった時に格好良く登場する狭間を妄想してる
自由の女神スタイルで戦う狭間の後で
ふんぞり返る上田先生を妄想してる
予約きてた!
予約キタ――――!!!!
ヴァン達ってなにかと縁と縁あるねw
代理投下をします。
「じゃあ、ちょっと眠らせてもらう」
無骨な声でそう告げると、ヴァンは目を閉じてしまう。
そうして数秒。
気が付いた時には、彼は眠りこけていた。
「全く……こんな時に……」
大きな図体でベッドを占領している男を見て、大きく溜め息を吐いたのはC.C.。
脈絡もなく彼が「疲れた」と告げたのは十分ほど前だった。
呆然としながらも説得はしたが、彼は一切聞く耳を持たない。
C.C.としては早いうちに竜宮レナと合流したかったが、結局傍にあった民家で休憩を摂ることとした。
「だが……まぁ……仕方ないか」
三回目の放送を迎えてから、彼はずっとバトルホッパーを運転していた。
シャドームーンとの戦闘後も睡眠を取っておらず、身体が限界を迎えたのだろう。
戦闘を熟せる彼が潰れてしまっては元も子もない。
「しかし……レナの奴、何処に……」
市街部に辿り着いた当初、彼らは進行先を決めかねていた。
目的はレナとの合流であるが、彼女が何処にいるのか分からない。
市街部は会場の四分の一を占めており、闇雲に探してもまず見つからないだろう。
どうするか悩んでいると、遠くの方で大きな爆発が起きた。
それ以外の道標もなく、半ば当てずっぽうではあるが爆心地に向かうことにしたのである。
少なくとも誰かいるというのが、ヴァンの見解であった。
「はぁ……」
バトルロワイアルに巻き込まれてから、もうすぐ十八時間が経過しようとしている。
C.C.が不老不死と言えど、食事や睡眠は欠かすことができない。
死ぬことはないが、とても苦しいのである。
何もせずにいると眠気が襲ってくるが、それに身を任すわけにもいかない。
今の彼女はいわば見張り役であり、少なくともヴァンが寝ている間は起きている必要がある。
彼は途中で交代すると言っていたものの、できることならしばらくは眠らせてやりたかった。
――――俺は……このくだらねぇ殺し合いの間だけだがよ。あんたの護衛を、続けてやってもいい
二回目の放送を迎える直前、彼が口走った言葉だ。
あれから戦闘を行うことはなかったが、それでも護衛を続けていることには変わりない。
だから、今だけは自分が護衛を変わってやってもいい。
寝ている間も帽子を脱がない男を見て、彼女は自嘲気味に笑った。
「……一時間か」
ふと、壁に立て掛けてある時計に視線を移す。
ヴァンが眠り始めてから、およそ一時間が経過していた。
彼女は不死であるためか、時間の流れに関してややずぼらなところがある。
今まで集まった情報を整理していたというのもあるだろうが、一時間程度なら一瞬と変わりなかった。
太陽は沈みつつあり、空は綺麗な紅色に染まっている。
彼女たちがいるのは民家の二階にある寝室であり、窓から美しい夕焼けを一望することができた。
「なんだ……?」
夕焼けに、影が差す。
太陽を遮るように、窓の外に何かが現れたのだ。
「覇亜亜亜亜亜亜亜亜!」
影の正体が人間であると気付くが、その時にはもう遅い。
怒声とともに、パリンっと音が鳴る。
向こうにいた人間が拳骨を繰り出し、窓ガラスを打ち破ってきたのだ。
驚いたのも束の間、そこに空いた穴から影が侵入してきた。
「嘲笑フフ……」
部屋に侵入されたことで、その全身が顕になる。
その姿に、彼女は見覚えがあった。
シャドームーンと戦う際、一時的ではあるが共闘した男。
しかし友好的な関係ではなく、シャドームーンの乱入がなければ間違いなく交戦していた。
白髪の男――――雪代縁だ。
「外にお前達の乗り物があったから覗いてみたが……まさか本当に居るとはナ」
縁の話を聞き、思わずC.C.は舌打ちをする。
周囲にバトルホッパーを隠す場所がなかったため、目立たない場所に停車させるしかなかったのだ。
「お前たちに怨みはない……だが姉さんのために死んでもらう」
腰に差していた刀を抜き、C.C.を見据える縁。
サングラス越しに光るその瞳は、あらゆる負の感情を煮詰めたかのような暗く沈んでいた。
C.C.は腕に巻き付けていた布を三節棍に変化させて構えるが、彼女に杖術の心得はない。
本格的な戦闘になれば、あっという間に押し負けてしまうだろう。
縁の視線とC.C.の視線が、空中で交錯する。
一触即発と呼ぶに相応しい事態だ。
「ふあぁぁ〜……」
そんな空気をぶち壊すかのように、間延びした声が響く。
誰の声かなど、今更問うまでもない。
「ったくよぉ……人がせっかく気持ちよく寝てたってのに……」
ガラスの割れる音で目を覚ましたのか。
ベッドに寝そべっていたヴァンが、寝ぼけ眼を擦りながら伸びをしていた。
「フン、そのままずっと眠っていればいいものヲ」
怠そうに首を回し、ベッドから降りるヴァン。
そのままC.C.を庇うように前へ出て、西日を背に立つ縁へと対峙する。
「またテメエか、人のお昼寝を邪魔しやがって」
「それはこっちのセリフだ」
「はぁ? なんのことだ」
「ッ……何でもない」
ヴァンの問い詰められ、縁は苦虫を噛み潰したような表情をしながら顔を逸らす。
その行動を見て、ヴァンは余計に首を傾げていた。
「そういえば……あいつはどうした」
「あいつ……ああ、あの猿顔のことカ」
猿顔――――数時間前に会話したルパン三世のことだろう。
何故その名前がここで出てくるのか、彼女にはいまいち分からない。
「殺したヨ」
ニヤリと口端を吊り上げる縁。
そのあまりに邪悪な笑みに、C.C.は背筋の凍るような感触を覚える。
「まさかヴァン! あの時のあれは……」
別れる直前、ヴァンとルパンは奇妙なやり取りを行なっていた。
あの時はその意図が分からなかったが、今なら理解することができた。
あれは傍に危険人物がいるという、ルパンへの警告だったのだ。
「そうかよ」
胸糞悪そうに顔を歪めると、ヴァンは傍に置いてあったデイパックに手を伸ばす。
武器を取り出すのかと思ったが、口も開けずに彼はそのまま背負う。
そして、部屋の出口へと向かった。
「は?」
思わず間の抜けた声が出てしまう。
これほどの危険人物を前にして、ヴァンはこの場を去ろうとしているのだ。
「おい」
怒気を孕んだ低い声で、ヴァンを呼び掛ける縁。
「なんだよ」
「まさかこのまま出て行くつもりか?」
「そうだよ」
「俺が許すと思うのカ?」
「うるせぇ、俺はテメエの顔なんか見たくねぇんだよ……今は特にな」
苛立ちながら言葉を叩き付ける縁と、呆れ混じりでそれを躱すヴァン。
互いに相手を見てはいるが、まるで意思の疎通はできていない。
「コノッ!」
C.C.の側を、突風が過ぎ去る。
腰の刀を抜いた縁が、彼女の横を通ってヴァンに攻め寄ったのだ。
「ぐっ……!」
だが、その動きは突然制止した。
いや、制止させられたと言った方が正しいだろう。
ヴァンの傍に設置されていた姿見から巨大な蝙蝠が現れ、縁の動きを阻害したのだ。
「本当に出てくるんだな……」
手に持ったカードを興味深そうに眺めるヴァン。
彼が手にしているのは契約モンスターである巨大な蝙蝠――――ダークウイングを呼び出すカードだ。
ダークウイングの姿を見て、縁は憎々しげに顔を歪める。
もしここが屋内でなければ、ヴァンがカードを掲げるよりも縁の斬撃の方が速かったかもしれない。
しかしこの部屋には数多くの家具があり、それが障害物となって縁の速度を落としたのだ。
「あんたは馬鹿じゃない、だから分かるだろ、これの強さが」
ヴァンが掲げているのはナイトのデッキ。
C.C.も縁も一度しか目撃していないが、その道具の強さは理解している。
ただの青年であった東條悟が、及ばなかったとはいえシャドームーンと戦えるほどの強さを得ていたのだから。
「俺は……姉さんのために……」
「はぁ……だいたいアンタ、何のために殺し合いなんかしてるんだ」
「決まっている! 姉さんを……死んだ姉さんを生き返らせるためダ!」
死んだ家族を生き返らせる。
願いとしてはありがちだが、この男からは妄執と呼べるほどの執念を感じた。
「あの着物の女か」
「ッ……貴様も見ていたか」
シャドームーンとの戦闘で、C.C.は彼にショックイメージを与えて動きを止めようとした。
結局通じなかったものの、その際にヴァンと縁を巻き込んでしまった。
その時に彼らは、互いの記憶を覗き見たのだろう。
「人の過去を覗き見るとは感心しないな」
「けっ、お互い様だろ」
軽口を叩き合い、同時に視線を逸らすヴァンと縁。
「緋村剣心、そいつが仇の名前か」
「そうだ、あの男が姉さんを殺したんだ」
「だから……復讐しようとしたのか?」
「そうだ、だが、あの男は……あの男はッ!」
緋村剣心は最初の放送で名前を呼ばれていた。
目の前の男はこの会場で、心の底から渇望していた復讐相手を失ったのだ。
「なあ、教えてくれ、俺はどうすればいい、俺は……こんな殺し合いなんかで死ぬ弱い男から姉さんを守れなかった
たった一人の大切な人を守れない、仇を取ることもできない、ならどうすればいい! どうすれば姉さんは……」
握り拳を震わせながら、地団駄を踏む縁。
C.C.は目を疑っていた。
目の前にいる男の印象が、最初に出会った時とはあまりにも違っていたからだ。
最初に出会った時は心を失った幽鬼のように思えたが、今の彼はまるで泣きじゃくる子供のようである。
「知るか」
縁の悲痛な叫びを、ヴァンはたった一言で一蹴する。
「アンタがどうすればいいかなんて、俺が知るわけないだろ」
心底面倒臭いといった様子で、ヴァンは言葉を投げかける。
そのまま身体を翻し、思い出したように一度だけ振り返った。
「けど、一つだけ言わせろ」
俯いていた縁の顔が、ゆっくりと上がる。
「死んだ奴はな、絶対に生き返らないんだ」
最後にそう言い残し、ヴァンは目の前の扉を開けた。
☆ ☆ ☆
「良かったのか?」
「何が?」
「あの男をあのままにして」
背後に抱きついているC.C.が問い掛けてくる。
民家を出た後、彼らはすぐにバトルホッパーに跨った。
まだ休まなくていいのかと尋ねられたが、とてもではないが今は眠れそうにない。
「邪魔してこないのなら俺はどうでもいい」
ヴァンが去った後、縁が追ってくることはなかった。
C.C.が扉を潜るのも邪魔することなく、最後まで呆然としたように立ち尽くしていたのだ。
「しかし、あの男はルパンを殺したんだぞ」
「あいつもそれを承知で残ったんだ、俺がとやかく言うことじゃない」
助けを求めなかったということは、ルパンも殺されるのを覚悟して残ったのだろう。
ルパンとは友人でもなく、僅かな間会話したに過ぎない。
仇討ちをする程の間柄ではなかった。
「それに……今はあいつの顔を見たくない」
眠っている最中、ヴァンは夢を見ていた。
夢の中の自分は小さな子供で、隣には慈しむように笑う姉がいた。
自分には姉さえいればいい、そう思えるほど大事な人だった。
だが、姉は死んだ。
鬱蒼と生い茂った森、薄暗い空から降り続ける雪、一面の銀世界。
その中に、姉が倒れる。
赤い髪の男が、日本刀で姉を刺し殺したのだ。
「……」
無言のままバトルホッパーを走らせる。
休憩を摂っていた民家はもう見ることができず、ある程度の距離は通過したのだと分かった。
もし侵入してきたのがあの男でなければ、自分は攻撃を加えていたかもしれない。
だが、出来なかった。
縁を通して自分自身を見ているようで、攻撃することができなかったのだ。
「けっ……」
背後を振り返ろうとして、やめる。
不愉快な気分になり、ヴァンは舌打ちをした。
【一日目夕方/F−7 東】
【ヴァン@ガン×ソード】
[装備]:薄刃乃太刀@るろうに剣心-明治剣客浪漫譚-、バトルホッパー@仮面ライダーBLACK
[所持品]:支給品一式、調味料一式@ガン×ソード、ナイトのデッキ@仮面ライダー龍騎、サバイブ(疾風)@仮面ライダー龍騎
[状態]:疲労(小)、右肩に銃創、右上腕部に刀傷、各部に裂傷、全身打撲
[思考・行動]
0:とりあえず前に進む。
1:カギ爪の男に復讐を果たすためさっさと脱出する。
2:緑髪の女(C.C.)の護衛をする。
3:次にシャドームーンに会ったらバトルホッパー返す。
[備考]
※ヴァンはまだC.C.、竜宮レナの名前を覚えていません。
【C.C.@コードギアス 反逆のルルーシュ R2】
[装備]:ファサリナの三節棍@ガン×ソード
[所持品]:支給品一式×4、エアドロップ×2@ヴィオラートのアトリエ、ピザ@コードギアス 反逆のルルーシュ R2
カギ爪@ガン×ソード、レイ・ラングレンの中の予備弾倉(60/60)@ガン×ソード、確認済み支給品(0〜2)
[状態]:健康
[思考・行動]
0:東に行き、レナ達と合流したい。
1:利用出来る者は利用するが、積極的に殺し合いに乗るつもりはない。
2:後藤、シャドームーン、縁、緑のスーツの人物(ゾルダ)と紫のスーツの人物(王蛇)は警戒する。
[備考]
※不死でなくなっていることに気付いていませんが、回復が遅い事に違和感を覚えています。
※右京と情報交換をしました。
※ルパンと情報交換をしました。
☆ ☆ ☆
眠っている最中、縁は夢を見ていた。
夢の中の自分は結婚式の新郎で、隣には幸せそうに笑う新婦がいた。
自分の一生を通して守って行きたい、そう思えるほど大事な人だった。
だが、新婦は死んだ。
呆然とする人々、鳴り続ける鐘、壇上へと敷かれる絨毯。
その中に、新婦が倒れる。
片腕がカギ爪の男が、そのカギ爪で新婦を刺し殺したのだ。
支援
支援
うっわ、こう持ってくるか……
支援
支援ー
支援
支援
支援
支援
「……」
ルパン三世を殺した後、縁は深い眠りについた。
今まで休憩すらろくに摂っていなかったため、しばらくは眠り続けるのだと思った。
だが、予想に反して随分と早く起きた。
夢を見てしまったのだ。
その夢があの男の過去であることは、すぐに察することができた。
「俺は……」
疲労は残っていたが、寝直す気分にはなれなかった。
立ち止まっている時間も惜しく、目的地も定まらないまま歩き続ける。
そしてしばらく経った後、あの二人組が利用していた乗り物を見つけた。
意気揚々と乗り込んでみたはいいが、戦果は目も当てられないほど悲惨だった。
そもそも今の自分は、女を殺せない弱点を克服しているのか。
ヴァンに飛び掛った時、無意識にC.C.を無視したのではないか。
殺そうと思えば、いくらでも機会はあったのではないか。
「……どうすればいい」
ルパンを殺した時、姉は笑ってくれると思った。
再会の瞬間に一歩踏み出したのだから、昔のように褒めてくれると思った。
しかし、姉は笑わなかった。
顔に落ちた影はより一層濃くなり、伏せられた目が開くこともない。
――――死んだ奴はな、絶対に生き返らないんだ
窓の外を眺める。
去っていった彼らの姿はもう見ることができず、ある程度の時間は経過したのだと分かった。
もし言ったのがあの男で無ければ、自分は殺していたかもしれない。
だが、出来なかった。
ヴァンを通して自分自身に告げられているようで、殺すことができなかったのだ。
「…………」
たった一言告げられただけで足が止まってしまう。
大切な人を守れない、仇を取ることもできない、言い返すことすらできない。
支援
「俺は……」
今更後戻りすることなどできない。
きっとこの後も、自分は刀を振り回しているのだろう。
僅かでも希望でもあるのなら、それに縋る以外の道はない。
死者蘇生が夢物語だとしても構わないと、あの時に決意したはずだった。
しかし、本当にそれで姉は喜んでくれるのか。
現世に戻ることなど、本当は望んでいないのではないのか。
「っ……」
痛みを忘れたはずの左腕が、じわりと痛んだ気がした。
【一日目 午後/F−7 民家】
【雪代縁@るろうに剣心】
[装備]:菊一文字則宗@るろうに剣心
[所持品]:レイ・ラングレンの銃@ガン×ソード、逆刃刀・真打@るろうに剣心、玉×5@TRICK、紐とゴム@現実(現地調達)、夜神月が書いたメモ
ルパンの不明支給品(0〜1)、支給品一式
[状態]:左肩に銃創、左腕に刺し傷、両拳に軽症、全身打撲、各部に裂傷、疲労(大)
[思考・行動]
1:参加者を皆殺しにし、可能なら姉と抜刀斎を生き返らせる。
[備考]
※殺し合いを認識しました。
※第一回放送における『緋村剣心』以外の死者の名前、及び禁止エリアの放送を聞き逃しました。
※ギアス、コード等に関する情報を得ました。
568 : ◆ew5bR2RQj.:2012/09/07(金) 20:16:20 ID:jb7u7bFY0
以上です。
お手数おかけしますが、どなたか代理投下をお願いします。
支援
代理投下乙です
予約時は面白い組み合わせだとは思ったけどそれでも絶対バトルになると思ってた。
まさかこんなふうに切ない感じになってくるとは……
乙です
二人を巻き込んだショックイメージがここで生きてくるとは!
しかしマジキチ脱却に死亡フラグを感じてしまう件・・・
投下乙です
縁はまさか改心したりしないよね・・
投下乙です
ヴァンと縁の繋がりが濃くなってるなー
ヴァンとC.C.は影月とも戦闘無しで会話してるし、実は参加者の中でも特殊な位置にいるのかも知れない
今はレナとしか関わってないけど、他の対主催の中にどう入っていくのか楽しみだ
改心したらしたで、強マーダーと刺し違えるくらいは出来そうだな
死者蘇生が目的なのって
スザクと縁か・・
投下乙です
二人とも同時期に睡眠をとって、同じように夢を見てお互いを意識したのか
なんというか面白い関係になってきたな
猿顔で吹いてしまったww
狭間ってルルーシュや志々雄とかだと
相性悪いだろうな
久々のラジオツアーキタ――――!!!!
是非お願いします!
ラジオ…だと…!?
楽しみにしてますー
528 :
創る名無しに見る名無し:2012/09/11(火) 00:13:54.72 ID:q747f7Gg
ラジオキタ━━━━(゚∀゚)━━━━ッ!!
と思ったら予約もキタ━━━━(゚∀゚)━━━━ッ!!
予約きたああああああああ何この朗報二連弾!
参加者のほとんどが市街地にいるねw
ルパン勢とスクライド勢はぶれないね
狭間がマーダー化してたら影月と後藤とあわせて
三大マーダーになってたかな?
延長かー
これより投下を開始します。
支援
――この世は腐ってる……。
殺し合いに参加する以前から、夜神月はずっとそう感じて生きて来た。
月の生きる現代社会に蔓延する犯罪や腐敗。
月には社会への不満が常に存在していたのだ。
それだけ月の中には、強い正義感が有り、明確な理想を持っていると言うこと。
しかし現実の月は――“日本一優秀な”と言う形容詞は付くが――只の高校生。
社会を変えるような力は持っていない。
社会の腐敗を知りながら、自分の生活を只淡々と送っていくだけの退屈な日々を過ごしてきた。
その日を迎えるまでは。
その日、月が偶然拾ったのは、名前を書くだけで人を殺すことができるノート。
人間の世界の条理を超えた死神の世界の産物、デスノート。
月はそれに拠って得たのだ。世界を変える力を。
月はデスノートを使い、犯罪者を次々と殺していった。
やがて世界から――月の基準による――悪人を一掃するために。
そして月の理想が実現した新世界を作り上げる。
それを夢見て動き始めた。
月の正義と理想はある意味実現した。
彼はキラとして世界中から畏怖され、そして崇拝され、
例え一時的な物であっても、世界から犯罪が激減させるのに成功する。
そして月の正義と理想は、最終的にある意味の失敗をする。
キラの正体が月であることが露見し、新世界を完全な物に形作る前に、
月は無残な最期を遂げた。
しかしそれは訪れなかった未来。
時空の摂理を超えた殺し合いの招聘に拠って、月は彼が迎える筈だった未来、
“新世界の神”を志していた未来とは、別の道を辿り始めた。
今から語られるのは、そんな在り得た未来とは別の未来の物語。
“新世界の神”を志していた筈の、しかし違う形の正義を抱いた男の物語である。
◇
「……貴方って本当に良い度胸してるわ」
現在、月と水銀燈が居るのは、展望台近くの山深い森の中。
月と水銀燈は現在同盟関係にあるので、当然同行する形になっている。
支援
支援
同盟関係と言っても、実際は水銀燈が月の生殺与奪の権を握っている、完全に不平等な物。
即ち今の月は水銀燈に従属させられている状況にある。
「何がだい、水銀燈?」
しかし今の月は水銀燈から呆れの混じった視線を送られながら、
木陰に腰を下ろして、支給されたパンを食べていた。
「良く今の状況で食事ができるってことよぉ」
「今だからこそだよ。君も食事が必要なら、今の内に取っておいた方が良い」
月と水銀燈は、先ほどルパンと田村玲子から書置きを置いて逃げ出してきたばかりである。
そして二人が居る場所は、書置きから100メートルも離れていない木陰だった。
しかも月の提案で、木陰に隠れながらルパンと玲子を無事にやり過ごせたかを見張ると言うのだ。
これではすぐに見付かりかねない。
しかしその心配は要らないと、月は説明していた。
月は書置きで、水銀燈には自分の意思で付いて行っていることを伝えてあった。
ならばルパンの立場としては、月と水銀燈には遭いたくない筈である。
何故なら下手に水銀燈を刺激すれば、月に危険が及びかねないからだ。
そしてルパンと玲子は接触しただけで水銀燈を刺激しかねない。
従ってルパンの方も出来れば水銀燈をやり過ごしたいのだ。
玲子の方は月にとって思考を読みづらい相手だが、それでも無用な戦いは避けたい筈だ。
無闇に水銀燈と接触しようとはしない筈である。
「下手に動き回ると、逆にあの二人と鉢合わせになる可能性が有る。
今のような状況ならあの二人がどちらへ向かうかを確認してから、動いた方が良いのさ。
そしてじっとしている時間で食事を済ませば、一石二鳥だろ?」
月が指し示すあの二人とは、月と水銀燈が見つめる先に居るルパンと玲子の二人。
二人は書置きを見て何かを話していたが、やがて一人ずつに別れて立ち去っていった。
「そんなことを聞いているんじゃない。仲間と別れて私と二人きりなのに、良く食欲が沸くってことよ」
「今は君が僕の仲間だろう?」
「哀れな下僕は仲間とご主人様の区別も付かないのかしら、お馬鹿さん」
「呼び方はどうあれ、お互いにメリットのある関係なことは違いないよ。
君は僕の頭脳を利用できるし、僕は君を戦力にできる」
「……私を戦力扱いにするなんて、本当に良い度胸してるわ」
突如、水銀燈の手に両刃の西洋剣が形成されて握られる。
そして刃の切っ先を月に向けて来た。
水銀燈の刃と殺気を向けられても、月は表情を変えずに返答する。
「それ位の割り切りが出来た方が、君にとっても頼りになると思ってね。失礼な言い方だったら謝るよ」
しばしの間、月を睨んでいた水銀燈だが、
やがて剣を仕舞い、つまらなそうにそっぽを向いた。
月はそんな水銀燈の様子に頓着することも無く、食事を済ませて立ち上がる。
「それじゃあ、展望台に戻ろうか」
「展望台ね……確かにそこが、一番あの二人と鉢合わせない場所よねぇ」
「分かってくれているなら何よりだ」
異論が出ないと分かると、月は水銀燈に先がけて展望台に向かい始める。
端的に言って、月の態度は水銀燈にとって気に入らない物だった。
本来二人の関係は、生殺与奪の権を持つ水銀燈が有利な筈である。
しかし実際の二人の動向は、月が主導している。
(やり難い奴ね……只の人間の癖に)
月の提案は全て合理的な物で、水銀燈がどれだけ異論を挟んでも適切な応答をするため、
自然と月の提案通りに、事が運んでいく形になってしまう。
先ほどなど剣を向けて挑発したにも関わらず、あっさりと流されてしまった。
今に到っては完全に水銀燈を先導する形になっていた。
月の背中を睨みながら、水銀燈も展望台に向かい始める。
水銀燈と月は山頂に存在する展望台、と名付けられた総合宿泊施設に着く。
展望台としての機能の他に浴場や食堂など、多種多様な施設が凝縮したその建物は、
全高にして15メートルほどにまで達する、巨大な円柱型の建造物だった。
外の監視に特化して、中には食料なども蓄えてあるその施設は、篭城するには打って付けと言えよう。
しかし水銀燈は積極的に殺し合いに乗っていく方針なのだ。
情報収集が有益であることは間違いないが、ここに長居をする訳にはいかない。
その後の展開を考えて早急に情報収集を終えたかった。
しかし展望台の入り口に入った月は、何かを物色している様子だった。
「……何をこそこそしてるのかしら?」
「君が言っていた“不細工なイタズラ”の材料を回収しているんだよ」
月は入り口付近に張ってある、視認出来ないほど細い糸を巻き取っていた。
水銀燈は自分が“不細工なイタズラ”と呼んだ、手作りの警報装置を思い出す。
「警報を解いちゃって良いの?」
「……もう粗方は、ルパンさんに回収されていたからね」
月の説明に拠ると、どうやらルパンが出発の際に警報装置を解いて、材料の糸などは回収していたらしい。
只、ルパンの遊び心ゆえか、警報装置は不必要に思えるほど大仕掛けで複雑な物となっていた。
従って急いで出発したルパンは、警報装置の材料の全てを完全に回収していた訳では無かったようである。
「それに警報を置かない訳じゃないよ」
月は回収した糸から一部を一階から二階に上がる階段の前に、ちょうど足首ほど高さで張り、
糸を非常用ベルの前に立て掛けたガイドポールに繋いでいた。
水銀燈には詳細は把握できないが、どうやら糸に引っ掛かるとガイドポールが倒れて非常用ベルを押す仕掛けらしい。
水銀燈が感心したのは階段の前に警報装置を置いたこと。
あれなら一階の何処から侵入しても、二階へ上がる際に警報に掛かる形になる。
月が作業を終えると、水銀燈はそちらへ目もくれずに四階の展望台へ先導する。
月も特に異論を挟むことも無く、水銀燈に付いて行った。
支援
展望台に着いた月は淀みなく望遠鏡で周囲の観察を始める。
そして望遠鏡を覗いたまま水銀燈に話し掛ける。
「僕は南を観るから、水銀燈は東を頼む」
やはりここでも指示を出すのは月の方。
月に無闇に反発しても無意味であることは、既に学習している。
水銀燈は黙って東へ向けて望遠鏡を覗いた。
月と出会って間もないが、自身も聡明である水銀燈は、その優秀さを嫌と言うほど思い知らされている。
卓抜した頭脳を持ち、その判断を即座に実行できる実務能力と行動力を有している。
下僕としてはこれほど頼もしい存在もそうは居ないだろう。
下僕で在ればの話のだが。
「…………退屈。よくこんな面倒なことをずっと続けられるわねぇ」
展望台から望遠鏡で遠距離まで観れると言っても、望遠鏡で観れるのは極僅かな範囲。
地図上に点在する施設などをピンポイントに狙っても、中々参加者を捉えることは出来ない。
実にならない観察を続けるのは水銀燈にとって、性に合わない物だった。
そろそろ切り上げて、移動しようと考えた時に、
月の異変に気づいた。
「…………そんな、ルパンさん……」
そう呟いて望遠鏡から目を離す月。
漠然とでも事情を察した水銀燈は、月が観ていた方向へ自分の望遠鏡を向ける。
そこで水面に浮かぶルパン三世の死体を見つけることが出来た。
月は沈んだ様子で項垂れている。
「どうしたの? 大事なルパンを助けに行った方が良いんじゃない?」
水銀燈にはルパンの死に大した興味は無い。参加者の一人が減った以上の意味は無いからだ。
月に話し掛けたのは、単にからかいたかったからだ。
案の定、月は概ね水銀燈が予想したような返答をする。
「…………ルパンさんの傷は致命傷だ……今から行ってもどうにもならない……」
「うふふっ。随分冷たいのねぇ、ずっと一緒に居た仲間なのに。
それとも、ずっと一緒に居たのに結局は邪魔になった人のことだから、本当は死んで欲しかったとか?」
「……………………すまない、ちょっとトイレに行って来るよ」
月は顔を伏せたまま立ち上がり、ゆっくりと展望台から下る階段へ向かって行く。
「早く帰って来なさい。私はいつまでもトイレに引き篭もってるような役立たずは嫌いなの。殺したくなるくらい」
水銀燈も一応釘だけは刺しておいて、月を見送る。
観察を切り上げた水銀燈は、望遠鏡の上に腰掛けて、
今しがた展望台から去っていった下僕について考える。
今は消沈しているが、月は凄まじく回転の速い人間だ。
すぐに気を取り直してくるだろう。
月の優秀さついては、もう疑う余地は無い。
そしてそれ故に、月は下僕としては不適格とも言えるのだ。
水銀燈にとっては、月は好きに利用できる下僕だった筈だ。
しかし月ほど知略に長けた人間では、いかに水銀燈と言えど制御し切ることは出来まい。
実際に先ほどから月に主導権を握られている。
何より問題なのは、水銀燈と月では行動方針が決定的に違うと言うことだ。
水銀燈の目的は殺し合いに優勝することだが、月の目的は殺し合いを阻止することにある。
月は水銀燈が人を殺そうとすれば止めると明言している。
あるいは、そのような場面にまで到らないかもしれない。
水銀燈も気付かない内に、殺し合いを有利に進められないように誘導させられる可能性も有る。
月の知略ならばそれ位のことでさえ可能なように思える。
いずれにしても根本的に行動方針がぶつかる者は、最終的には邪魔にしかならないのだ。
月は有能だが使い道は精々が情報収集程度。
いや、それすら水銀燈が殺し合いを進めないよう情報を操作する公算すら有り得る。
ある意味下僕として、これほど信用に置けない相手も居まい。
そこまで行き着いて、水銀燈の思考はもっと根本的な部分に突き当たる。
そもそも、そうまでして下僕が必要だったのだろうか?
情報収集などの面では役に立つかも知れないが、それが殺し合いに役に立たなければ意味が無い。
さりとて戦力になるような相手では、水銀燈が主導権を握るのは難しい。
誰かと組むのが悪いと言う訳では無い。
しかし下僕に逆に引っ張られているような今の状態は、水銀燈としては余りにも温いと言わざるを得なかった。
有能かつしっかりと手綱を握れる者と組むか、
あるいは一人でも、もっと積極的に殺し合いを進めていくか、
いずれしても、今のような中途半端な真似を繰り返していては埒が明かないのは確かだった。
「切り捨てることも考えて置いた方が良いかも知れないわねぇ……」
しかし、流石に今すぐ月を切ると言うのは早計過ぎる。
nのフィールド侵入方法の解明を依頼した件も有る。
月を始末するにしても、明確に邪魔になると判断してからだろう。
思考を終えて手持ち無沙汰になった水銀燈は、もう真面目に観察を続けるつもりは無かったが、
戯れに再び望遠鏡を覗く。
そこに“それ”は居た。
超常の人形である水銀燈の、想像を絶する存在が。
◇
三階にある男子トイレの個室。
月はそこに鍵を掛けて篭っていた。
そこに用が有った訳ではない。
ただ、外界からの情報を遮断して一人になりたかっただけだ。
ルパンが死んだ。
月とは出会って一日も経っていない間柄だった。
しかし未だかつて味わったことの無い喪失感が、月の中に渦巻いている。
ルパンはかつて月が出会ったことも無いような人物だった。
月に比肩し得るかも知れない聡明な頭脳。
軽妙洒脱でありながら、嫌味の無い人柄。
清濁併せ持つ深い器量。
その何れか、あるいはその全てか、
亡くなった今だからこそ、ルパンの姿を鮮烈に思い起こされた。
日本一優秀な頭脳を持ちながら、それほどルパンに惹かれていたと今更気付かされる。
これでは笑い話だと、どこか自嘲的に月は思った。
月は哀しいと言うより、ルパンを失った大きさに呆然としていた。
そう、自らルパンを失ったのだ。
成り行きとは言え、月は自らの意思でルパンと袂を分かっている。
過去の仮定の話など意味が無い。
頭ではそう分かっていても、考えずにはいられなかった。
もし、ルパンと別れなければ、彼は死なずに済んだのではないか?
そこまで行き着いて、月の思考はもっと根本的な部分に突き当たる。
そもそも、ルパンと別れたことは余りにも短慮な決断ではなかっただろうか?
確かに、あの時の月にはそうすべき理由があった。
自分の中にキラの可能性を抱えながら、あれ以上ルパンと向き合うことは耐えられなかっただろう。
それでも、無理を押してでもルパンから離れるべきではなかったのではないか?
それは月らしからぬ、確固とした根拠も無い漠然とした思い。
しかし月の中には哀しみを超えるほどの喪失感として、確実に存在した。
何か致命的な判断の誤りをしたのではないかと言う懸念と共に。
だが、何故かそれ以上はどうしても上手く思考を進めることが出来なかった。
(…………いい加減、戻らないとな。これ以上は下手に水銀燈を刺激するのは拙い)
月は思考を切り上げて、トイレの個室から出る。
漠然とした思考に浸っていられるほど、月の現在の状況は安穏としていない。
水銀燈と組んで以来、月はあえて積極的に主導権を握るよう努めて来た。
それは水銀燈がどこまで月のコントロールが効く相手かを計るためでもある。
余裕を持って先導してきたように見えても、実際には月にとってかなり危険な綱渡りだった。
何しろ水銀燈は殺し合いに乗っている。一つ判断を間違えれば、月は殺されてもおかしくない。
しかしそれだからこそ必要な実験であった。
水銀燈は月のどんな言動にいかなる反応を示し、そしてどうすれば上手く制御が出来るのかを。
殺し合いを進めさせないために。
しかし水銀燈とて馬鹿ではない。既に月の目論見にも、ある程度まで感付いているだろう。
ここからは更に難しい駆け引きになる。
だからいつまでもルパンに関する思考に拘泥していてはいけないのだ。
月は水道の水で手を洗う。
そのついでに、乱雑に顔に水を掛けて、乱暴な手つきで顔を洗った。
そうすることでルパンを失った喪失感を洗い流せるかのように自分に言い聞かせて。
(……大丈夫だ。ルパンさんが居なくても僕には出来る!
殺し合いを止めて、その枠から脱出する。僕にはそれが可能な筈だ!)
ルパンの死にも月は決して折れることは無い。
何故なら月には己の頭脳に、能力に、才覚に自信が有った。
この不測に埋め尽くされた殺し合いでは絶対とは言い切れない、
それでも、如何なる困難の渦中からでも、必ず解決策を見出せると言う明確な自信が。
「……水銀燈、どうしたんだ?」
支援
「付いて来なさい」
月がトイレのドアから出た直後だった。
どこか切迫した様子を秘めた水銀燈が、階段から降りてくるのに出くわしたのは。
只ならぬ雰囲気を感じ取った月は事情を聞くが、
水銀燈は極めて簡潔に、しかし有無を言わさぬ調子で命令を返す。
そうなれば月に有無を言う余地は無い。
やはり厳として力の差は存在するのだ。
展望台から北西の方角に位置する森の中。
月と水銀燈の二人は、先ほどルパンと玲子を監視していたように、藪の中に身を潜める。
月にとっては、まず水銀燈が率先してこの状態を取っているのが意外だった。
水銀燈はルパンと玲子を監視する際、
ローゼンメイデンである彼女のプライドの問題か、それとも単純に身体を汚すのを嫌ったのか、
森に身を隠すことを嫌がっていた。
その時は最終的には月に説得されたが、今は自分から藪に身を潜めている。
それだけで異常な事態であると、容易に察せられた。
やがて断続的な得体の知れない音が、遠くから聞こえる。
カシャ カシャ カシャ カシャ
月は根拠の無い予感や直感の類は信じない人間だった。
しかし、その音が近づいてくるにつれて、
何か嫌な予感に支配されて行く。
水銀燈も恐らく同じような予感が有るらしく、今も緊張を隠しきれない様子だ。
音の主が姿を現し、断続的な音の正体が足音だと判明する。
シルエットは人間のそれ。
しかし“それ”は月にとって初めての体験だった。
全身を覆う白銀の装甲。
エメラルドのごとく輝く大きな双眸。
何より足音の主が持つ、圧倒的な存在感。威圧感。
どんな根拠も必要無い。只そこに存在しているだけで、生物としての原初的な本能に訴えてくるような異常な気配を有していた。
一目見ただけで危険と本能が察知する存在。
それは月にとって初めての“体験”だった。
「……あれが何か知ってる?」
「さあ……僕にはあれが、恐らく人間では無いと言うことしか判らないよ」
「じゃあ……私があれを殺すと言ったら、やっぱり邪魔をするのかしら?」
藪に深く身を潜めながら、展望台に向かって歩き続ける“それ”から二人は目を離せない。
異様な緊張感。
水銀燈の口調にも、何時もの人を小馬鹿にするような余裕は無い。
「それは君が殺し合いに乗っているからかい?」
「質問しているのはこっちよ」
「……あれに手を出すのは危険過ぎる。君にもそれは判っているだろう?」
「私が何を判っているって言うの?」
「そうでなければ、君がこそこそ隠れて様子を伺うような真似をする筈が無い」
「…………」
水銀燈は月の言葉に返事を返さず、只食い入るように“それ”を睨み続ける。
月がした体験を、展望台の望遠鏡越しに水銀燈も経験していた。
しかし闇雲に逃げ出すと言う選択肢を選ぶのは、彼女自身の矜持が許さない。
だからこそ展望台に向かって来る“それ”を見付けた時、接近してその危険性を確認することにしたのだ。
水銀燈のアリスゲームにおける長い戦闘経験で培われた勘が、接近して確認した“それ”が極めて危険だと告げる。
あの狭間偉出夫も強力な相手だったが、
目前の存在も強力かつ、それ以上に“危険”だと水銀燈の勘が告げていた。
支援
今の水銀燈の戦力では恐らく勝算は薄い。
月の進言に従うようで逃げるのは癪だが、やはりこの場は退くべきだと水銀燈は判断する。
幸い今は“それ”から見えない位置に姿を隠している。撤退するのは容易な筈だ。
「私はゴルゴムの次期創世王・シャドームーン」
沈着だが冷徹な威厳に満ちた声が響く。
月も水銀燈も最初は“それ”=シャドームーンが発した声だとは気が付かなかった。
いつの間にか足を止めていたシャドームーンは顔を傾けて、
エメラルドのごとき双眸を、月と水銀燈が潜む藪に向けていた。
「隠れて様子を伺う程度の者では期待は出来ぬが……ゴルゴムの次期創世王の礎となれることを、精々光栄に思え」
シャドームーンはゴルゴムに世紀王として改造された存在である。
同じ立場としてブラックサンが存在するが、
ブラックサンは改造手術のほとんどを終えていても、それでも未完成の状態であった。
そしてシャドームーンは、その後もしばらくの改造期間を経て完成した世紀王なのである。
そのためか、実はブラックサンよりも細かい改良点が幾つか見受けられる。
一つがマイティアイ。
これは広視界・望遠・暗視などの能力を有する、ブラックサンのマルチアイに、
更に透視能力が加えられた物だ。
広視界と透視、この二つの能力を兼ね備えているマイティアイならば、
深い森の中に身を隠す者でも容易に見つけることが出来た。
自分たちの存在に気付かれている。
それに気付いた月と水銀燈は、弾けるように逃げ出した。
そこに何の策略を込める余裕も無く、月は森の中を駆け抜ける。
何の舗装もされていない山道に何度も転びそうになりながら、
シャドームーンに捉まれば死ぬと言う、一念で必死に駆け抜ける。
しかし慣れない山道を走り続けると言うのは、流石の月にも無理があった。
不意に地面から浮き出た木の根に躓いて、月の身体が地面に投げ出された。
次の瞬間、月の身体が宙に浮く。
自分が水銀燈の背中から伸びた黒い龍の顎に咥えられた。
そう認識した、更に次の瞬間。
天から飛来したシャドームーンが、月が転んだ地点に拳を打ち込んだ。
大地の上で、爆発を起こしたがごとくエネルギーが炸裂する。
地面にクレーターが作られた。
月は、シャドームーンの拳の威力、
そして一瞬でも水銀燈に助けられるのが遅れれば、自分は原形も留めない躯と化していた事実に驚愕する。
水銀燈は龍と化した翼で月を抱えながら、シャドームーンから飛行能力で逃げる。
軽口を叩く余裕も無いらしい。無理も無い。
支援
しかしこの山道での逃亡には、飛行能力は極めて有用と言えた。
足場の悪さに捉われること無く、高速で移動できる。
背後から豪と音が鳴った。
振り向くと白銀の巨弾が飛来して来る。
(シャドームーンも飛行できる!?)
水銀燈以上の速度で宙を飛ぶシャドームーン。
その姿を見て月は、シャドームーンが飛行していると認識する。
しかしそれは誤りだ。シャドームーンが行っているのは飛行ではなく跳躍。
大地を蹴って、地面とは水平方向に跳躍しているに過ぎない。
問題はシャドームーンが地面と垂直方向へ40メートルもの跳躍を可能とする脚力、瞬発力を有すること。
その瞬発力は飛行と紛う距離を、一足飛びで縮めることが出来、
更に、飛行する水銀燈へ容易く追いつくほどの速度を発揮した。
「……!!」
水銀燈が身体を捻る。
しかし回避には間に合わず、シャドームーンが繰り出す拳が水銀燈に直撃。
水銀燈の身体が、まるでフィギュアスケートのごとく錐揉み回転。
同時に弾丸のごとく地面に叩きつけられる。
水銀燈は何度も地面の上を跳ね、転がって伏せた。
龍の顎から放された月も地面を転がる。
それでも攻撃を直接受けた訳では無いせいもあって、予想外にダメージは少ない。
身体を起こして水銀燈を見ると、彼女も大きなダメージは受けていないらしい。
水銀燈はシャドームーンのパンチの打点を、図ってか図らずか体軸からずらしていた。
人形である水銀燈の体重は軽い。
それによって強力な打撃を受けても、威力を身体の回転や飛行の運動エネルギーに変換させて逃がしていたのだ。
何よりローゼンメイデンは、一般的な人形より遥かに頑丈なのだ。
「フッ、只のガラクタ人形では無いらしいな」
「……ジャンクになるのは、そっちよ!!!」
シャドームーンの言葉に水銀燈は怒りを露にする。
水銀燈の数え切れない黒羽が刃のごとく鋭く切っ先をシャドームーンに向け、弾丸のごとく発射された。
人間が一つでもそれを受ければ命を落とすであろう威力の黒羽。
黒羽の弾幕が、シャドームーンの真っ向から雨霰のように叩きつけられる。
シャドームーンは何事も無きかのごとく、その中を平然と歩いていった。
全身を覆う白銀の装甲・シルバーガードには掠り傷一つ付かない。
水銀燈は黒羽を撃ち出すのを止め、背中からの翼として伸ばした。
伸ばした双翼の先端は龍と化し、大きく顎を開けてシャドームーンへ向けて牙を剥く。
双龍がシャドームーンを左右から挟み込むように襲い掛かる。
しかし双龍の牙はシャドームーンの両手に掴み取られる。
人を容易く丸呑みに出来る龍が、シャドームーンの手の力に捉まれて微動だに出来ない。
シャドームーンの腰部分、シャドーチャージャーから緑色の光が漏れた。
内蔵された出力機関、キングストーンのエネルギーがチャージされている証。
エネルギーはシャドーチャージャーから両手へ送り込まれる。
そして両手から放電のごとく拡散しながら放出。
一瞬で双龍を焼き尽くし霧散させた。
(なんて出力なんだ……!!)
双龍を破壊した一撃に月は戦慄する。
人間と同じ体格であるにも拘らず、異常なエネルギーを事も無げに放出するシャドームーン。
月の持つ科学常識から完全に逸脱した存在。
あれだけの力の持ち主との戦いでは、余波に巻き込まれただけでも、
肉体的には普通の人間である月は死にかねない。
これでは水銀燈の殺害を止めるどころではない。
シャドームーンが水銀燈と対峙している隙に、月は再び逃走を開始する。
しかし如何に月が卓越した頭脳の持ち主でも知りようが無い。
シャドームーンがブラックサン以上の五感の持ち主であるということなど。
現在の月とシャドームーンの距離は15メートルほどしか離れていない。
その程度の距離ならば、月がどれほどシャドームーンの隙を見て、気配を隠して逃げようとしても、
容易にその動向を察知できる。
走り去ろうとする月に、シャドームーンは指先を向ける。
指先にシャドーチャージャーからのエネルギーが送られる。
直線発射されるゆえに、先ほどの放電状の物より威力が凝縮されたシャドービーム。
それが発射された。
「私を前に余所見なんて、随分余裕じゃない。お馬鹿さぁん!」
月へシャドービームを発射すると同時に、水銀燈がシャドームーンへ向けて飛び掛ってくる。
大上段に振りかぶった手には、いつの間にか剣が握られていた。
客観的に観れば、それは水銀燈が月を攻撃するシャドームーンの隙を突いた形になるだろう。
しかしシャドームーンのマイティアイは水銀燈への注意を一時たりとも逸らしてはいなかった。
シャドームーンは、自身の右手に握った世紀王の剣・サタンサーベルを振るう。
サタンサーベルは隙だらけの水銀燈の腹を真一文字に切り裂いた。
シャドームーンに腹を切り裂かれた水銀燈は、笑みを浮かべた。
水銀燈にとって、自分の腹部の空虚はコンプレックス以外の何物でも無い。
その腹部の空白を、戦術上の要請とはいえ利用するのはかなりの抵抗がある。
逆に言えばそれを行うほど水銀燈は、シャドームーンを脅威と感じて追い詰められていた。
だからこそ自分の誘いにシャドームーンが乗った瞬間、笑みが零れた。
支援
腹部の空白への攻撃によって隙が出来たシャドームーンの頭部へ、今度は水銀燈の剣が振り下ろされた。
狙いはエメラルドのごとく輝く、シャドームーンの双眸。
明らかに白銀の装甲とは異なる材質の、人間で言えば眼に当たると推測される部分。
恐らくは白銀の装甲部分より強度に劣るであろう。
水銀燈の推測は当たっていた。
シャドームーンの翠の双眸こそ、眼に当たる器官であるマイティアイその物。
それは全身を覆う白銀の装甲・シルバーガードより強度で劣っていた。
剣を受けた翠の双眸は、甲高い破壊音を上げる。
散乱する金属片は日光を反射して不規則な輝きを放つ。
水銀燈は眼を大きく開き、傷一つ無いマイティアイと砕け散った自分の剣を交互に見やった。
マイティアイは確かに、シルバーガードと比較すれば強度で劣る。
しかしシャドームーンの耐久力は、既存の生物のそれとは根本的に隔絶している。
シャドームーンはこれまでも、そしてこれから迎える筈だった――しかしもう永遠に迎えることの無い――未来において、
あのブラックサン=仮面ライダーブラックと、幾度も戦っている。
数多のゴルゴムの怪人と戦い勝ち抜いてきた仮面ライダーブラックの強さは疑うべくも無い。
更に未来での戦いにおいては太陽の力を借りて、仮面ライダーブラックRXへと進化を遂げていた。
その激闘の中でもシャドームーンは、例えばバトルホッパーの自爆などの例外的な事態を除いて、
実はほとんど大きな負傷を受けていないのだ。
シルバーガードに守られていないマイティアイや関節部分であろうとだ。
シャドームーンの耐久力は、それほどまでに総体として高いのである。
水銀燈の剣戟と言えど、仮面ライダーブラックの攻撃には威力は及ばない。
全力の斬撃は自身を破壊する結果となった。
斬撃が失敗して、今度は水銀燈に再び生じる隙。
それを見逃すほどシャドームーンは甘くは無い。
シャドームーンは左肘から伸びるエルボートリガーを、水銀燈の頭部へ向けて振るう。
しかしエルボートリガーの刃先が空中で止まる。
エルボートリガーの刃先の空間上で、紫色の純粋光による波紋が浮かんでいる。
水銀燈が空中に発生させた不可視の防御壁。
ローゼンメイデンの攻撃をすら防ぎきる障壁が、エルボートリガーの軌道を遮ったのだ。
一瞬だけは。
エルボートリガーは武器であると同時に、超振動の発生装置でもある。
その超振動は接触しただけで、巨大な岩石を瞬時にして粉微塵に粉砕できる威力。
発生した絶大なエネルギーは、水銀燈の防御壁をも瞬時に破壊した。
阻む物が無くなりエルボートリガーはそのまま水銀燈の頭部へ向かう。
しかし水銀燈はスゥエーを使い、皮一枚ほどでかろうじてそれを避けた。
水銀燈が張った防御壁は、エルボートリガーを防ぐためではなく回避するための物。
防御壁によって僅かに生まれたタイムラグが無ければ、回避は不可能だっただろう。
しかしシャドームーンの攻撃はまだ終わっては居ない。
シャドームーンは左肘を伸ばし、返しの裏拳を水銀燈に向けて放つ。
凄まじい衝撃で意識がホワイトアウトしながら、水銀燈の身体は吹き飛んだ。
全身に土埃を被ったらしい身体が痛む。
すぐに起き上がることは出来ないが、どうやら五体は無事であるらしい。
大地にうつ伏せで倒れている月は、
混濁した意識からじょじょに覚醒していく頭で、自分の身に何が起きたかを思い出していた。
月を狙って放たれたシャドービームは、放つ瞬間にシャドームーンが水銀燈の急襲を受けたため、僅かに狙いがずれていた。
シャドービームは月の手前の巨木に着弾。月は悪運により直撃を避けることが出来た。
しかしシャドービームの有する莫大なエネルギーは、爆発を起こす。
その余波は、それだけで月の身体は地面へ強烈に叩き付けられた。
意識がそこで途切れていた。
あれからどれほどの時間が経っているかは判断出来ないが、
自分がまだシャドームーンに殺されていないことから、意識を失ってからほとんど間が無いと推測出来る。
問題は水銀燈とシャドームーンがその後どうなったかだ。
月はようやく痛みの抜けた身体を起こしながら、周囲を観察する。
その眼に飛び込んできたのは身体ごと飛来する水銀燈だった。
水銀燈は月の目前で転がり落ちた。
シャドームーンの姿は見えないが、状況は大よそ推測出来る。
どうやら切迫した状況はいまだに続いているようだ。
しかし月には最早打つ手は無い。
逃走してもビームで狙い撃ちされてはどうしようもないのだ。
月には一つだけ策が有るには有ったが、水銀燈が時間稼ぎも出来ない状況では、
成功以前にそれを実行することも叶わないだろう。
「……………………手を出しなさい」
気が付けば水銀燈が身を起こして、月に命令してきていた。
展望台の時より、更に切羽詰って有無を言わせぬ口調。
水銀燈もまた起死回生の手段に出ようとしているのだろう。
そして恐らくそれは、月に犠牲を強いる物だ。
しかし最早手段を選んでいられる状況ではない。
支援
月もまた起死回生の賭けに出る覚悟を決める。
月が水銀燈へ向けて手を伸ばす。
水銀燈がその指の口づける。
眩い光が水銀燈を包み込んだ。
◇
二度目の放送を終えてからのシャドームーンが取った進路は、大よそ次のような物だった。
当初は地図上の西端に居たシャドームーンは東の市街地へ向けて進路を取る。
その際、道路を使わずに森を進んでいったのだ。
別段、深い考えがあった訳ではない。
シャドームーンの能力ならば、道路を行こうが森を行こうが労力は変わらない。
ならば元より急ぐ必要も無かったシャドームーンは、
森の中に有る廃洋館等に寄り道をしながら市街地へ向かうことにした。
そして廃洋館の次に寄ろうとした展望台へ向かう途中に参加者が居たことは、
多少の退屈をしていたシャドームーンにとって幸運と言えた。
森の中に潜んでいたのは二人。一人は人間ではない。
全く得体の知れない二人だが、シャドームーンにとってはどうでもいいこと。
出会う全てが殺す対象なのだから。
そしてそれは殺し合いに乗っているからでは無い。
シャドームーンはゴルゴムの世紀王であり、
ゴルゴムは敵対する如何なる存在も絶対に許さない。
それは、只隠れて様子を伺う程度の反意でも例外ではない。
何故ならゴルゴムは、世界の全てを支配し蹂躙する存在。
人類がその歴史を紡ぎ出すより遥かに太古から存在し、世界を裏より支配した暗黒結社ゴルゴム。
シャドームーンが世紀王に即位した現在、遂に歴史の表舞台に姿を現し、
圧倒的な戦力で日本と言う国家その物の征服を果たした。
そしてゴルゴムの最終的な目的は世界の全てを支配すること。
その世界にはゴルゴムに抗う者はおろか、屈服し従わぬ者の存在すら絶対に許さない。
一辺の例外も無く、世界の全てがゴルゴムに膝まずく。それがゴルゴムの野望。
その頭脳までがゴルゴムに改造され、自我を完全に世紀王の物に塗り変えられたシャドームーンは、
最早ゴルゴムその物とさえ言える存在となっていた。
当然、シャドームーンもまた自らに僅かでも反抗する可能性を持つ者を絶対に許さない。
それが只の高校生であろうと、生命を宿した人形であろうと関係無い。
自らに屈服せぬ者は全てを打ち倒す。
彼がゴルゴムの世紀王であるが故に。
カシャ カシャ カシャ カシャ
月と水銀燈に確実な止めを刺すべくシャドームーンは歩を進める。
月も水銀燈もシャドームーンの相手では無い。
当然だとシャドームーンは考える。
自分は世紀王。世界の全てを支配する者。
同じく世紀王か創世王で無い限り、シャドームーンに敵う者など存在しないのだ。
不意に水銀燈から光が放たれる。
そして水銀燈は再び黒龍を伸ばした。
しかし黒龍はシャドームーンへ攻撃せず、森の中を縦横無尽に飛び回っている。
目暗ましのつもりかとマイティアイで透視してみるが、月と水銀燈はその場から動いている様子は無い。
二人は何かを話しているようだが、龍が森の中を暴れ回っているせいで、
シャドームーンの聴力でも内容は聞き取れない。
突如、黒龍が大顎を開けてシャドームーンに襲い掛かる。
無論、その程度で不意を衝かれるシャドームーンではない。
シャドームーンの腕力なら軽々と振り払える。
筈が、予想以上の衝撃を受け止めてシャドームーンの足が止まった。
更にもう一頭の黒龍がシャドームーンを掬い上げるように襲い掛かる。
改造はされていても人間と大きく体重が変わらないシャドームーンは高々と宙を舞った。
シャドームーンにダメージは無く軽々と足から着地できたが、意表を衝かれたと言う思いを拭えない。
黒龍は明らかに威力を上げていた。
「うふふ、簡単に吹っ飛んじゃった」
シャドームーンの眼前に、水銀燈が悠々と降りて来る。
只単に態度が違うと言うだけではない。
水銀燈の気配その物が先ほどまでと違っていた。
原理は判らないが、おそらく水銀燈自身が力を増している。
水銀燈が背後へ飛び退きながら、黒羽の弾丸を飛ばす。
やはり黒羽はシルバーガードを傷つけることは叶わない。
しかし、水銀燈は黒羽を発射しながらシャドームーンの背後から黒龍を仕掛けた。
「図に乗るな」
広視界と透視を兼ね備えたマイティアイを有するシャドームーンに死角は無い。
黒龍へ光線状のシャドービームを放つ。
シャドービームとその余波は一撃で黒龍を霧散させた。
その一撃でシャドームーンは確信する。
水銀燈がどれほど力を得ても、キングストーンを持つ自分の方が出力は上であると。
シャドームーンは更に水銀燈へ向けてシャドービームを放つ。
水銀燈は高速飛行でビームを回避する。
高速飛行のまま森の草木の間を潜り抜けて行く。あれではシャドービームで狙うのは難しい。
マイティアイによる解析より速度が上がっている。
体重は同じまま出力が上昇したために、加速度も上昇したのだろう。
それでもシャドームーンの五感と身体能力を超える物ではない。
マイティアイは瞬時に水銀燈を捕捉。
森の草木を苦もせずに、水銀燈との距離を詰めるシャドームーン。
次の瞬間、黒羽の弾幕がシャドームーンを覆った。
支援
支援
支援
支援
支援
支援
支援
さるさんかな
それでもやはり弾幕は、シャドームーンに傷一つ付けられず足止めにもならない。
その足が不可視の壁に当たって止まる。
水銀燈の発した防御壁がシャドームーンの足先で波紋を作っていた。
シャドームーンは眼前の防御壁に対してサタンサーベルを振るう。
その一閃は空中の波紋を真っ二つに切り裂き、防御壁を消滅させた。
しかしその時には水銀燈は距離を離していた。
戦闘能力の高さを活かして追うシャドームーンと、小柄な体格と森と言う地形を利して逃げる水銀燈の構図が続く。
水銀燈は明らかにヒットアンドアウェイの戦術を取っていた。
影の名を冠する白銀の魔王が、猛打攻勢に出るのを、
銀の名を冠する漆黒の人形が、刹那の間合いで避け続ける。
しかしその追跡劇も、徐々にシャドームーンの側に天秤が傾き始めていた。
「フッ。何のつもりで時間を稼いでいるかは知らんが、それももう終わりだな」
「……自然は大切になさい。お馬鹿さん」
呆れた様子の水銀燈の周囲では、森を構成していた木々が横倒しに転がっている。
あるいはサタンサーベルで切り落とされ、あるいは根こそぎに殴り倒され、
シャドームーンの手によって、全て倒されていた。
身を隠す森が無くなれば、水銀燈とてシャドームーンを相手にヒットアンドアウェイを続けることができない。
邪魔となる障害が無くなり、シャドームーンは悠々と水銀燈へと歩を進める。
その視界を黒龍が埋め尽くした。
シャドーチャージャーからチャージしたエネルギーを拳に込めて撃ち出す。
キングストーンのエネルギーとエルボートリガーより発生する超振動のエネルギーを併せて放つ拳、シャドーパンチ。
シャドーパンチの威力は、一撃で黒龍の巨大な頭を爆散。
爆散した黒龍は無数の黒羽と化す。
そしてシャドームーンの周囲を舞い散る黒羽は、蒼い炎を発した。
シャドームーンは大儀そうにサタンサーベルを横薙ぎに振るう。
一閃で炎は払い飛ばされた。
今の隙に姿を消した水銀燈をマイティアイで探るシャドームーン。
高速飛行する水銀燈が飛び込んだ先は、巨大な展望台だった。
(あの建物には、人間も逃げ込んでいたな……)
シャドームーンは水銀燈と戦いながらもマイティアイの広視界で随時、月の動向も把握している。
月は重そうな身体を引きずるように、展望台に逃げ込んでいた。
マイティアイで展望台の内部を透視する。
やはり水銀燈と月が居て、何かを話している。
恐らく先ほどから、何か作戦があっての行動だろう。
だが展望台の中なら水銀燈の動きも制限される。展望台の外からの攻撃で倒すことも可能だ。
しかしそれなら中に入って倒した方が早く確実である。
ゴルゴムの王は世界を制する者。
中で如何なる策が張り巡らされていても、阻む物は全て蹂躙し尽くしてこそ世紀王。
一抹の躊躇も逡巡も無く、シャドームーンは展望台に正面玄関から入っていく。
カシャ カシャ カシャ カシャ
展望台の内部は各階層毎に幾つもの部屋で仕切られていて、更に一階は正面玄関からホールに続いている。
招かれざる客、シャドームーンは堂々と足音を鳴らしながらホールへ進んで行く。
その先には水銀燈が宙に浮いて待ち受けていた。
「どうした? ようやく逃げ隠れをしても時間の無駄だと判ったか?」
「芸の無い挑発ねぇ。もう少し気の利いたことが言えないのかしら」
シャドームーンがサタンサーベルで斬り掛かる。
水銀燈はそれを避ける、と言うより偶々同じタイミングで背後の部屋へと窓から飛び込んだ。
「芸が無いのはどっちだ」
状況から考えて何らかの戦術の変化を予想していたが、水銀燈は相変わらず逃げの手を取る。
どれほど逃げても、シャドームーンの手からは逃れられないことを、まだ判っていないらしい。
マイティアイの透視の前には、部屋を仕切る壁など存在しないも同然。
即座に水銀燈の位置を捉える。
『シャドームーン、僕の名前は夜神月。今戦っている彼女は水銀燈だ』
水銀燈へシャドービームの狙いを付けた瞬間、不意に男の声が“周囲から響いた”。
ブラックサンと同じく聴覚も強化されたシャドームーンは、容易に声の発生源を把握する。
宿泊施設も兼ねているこの展望台には、施設内全体に放送を行うための設備が整っている。
そのために設置された幾つものスピーカーから、シャドームーンへ向けて語り掛けてきたのだ。
シャドームーンは透視で、一階に居る月を見付ける。
太い柱に如何にも身体が重そうに寄り掛かっていた月は、ハンドマイクを手にしていた。
恐らく、それを通して放送を行っているのだろう。
『君がどんな事情で殺し合いに乗っているのかは知らない。だが僕たちは殺し合いの阻止を目的としている』
月が建物内に居ることを確認できたので、シャドームーンはまず水銀燈に狙いを絞ることにした。
水銀燈はその機先を制するように、窓越しに羽を飛ばしてきた。
窓ガラスを割りながら、弾道にも弾速にも全く影響が無いことから見ても、
水銀燈の羽弾の威力の程が伺える。
それでもシャドームーンは小揺るぎもしない。
水銀燈の如何なる攻撃をどれほど積み重ねても、シャドームーンに傷を付けることも叶わないのは明白。
そしてシャドームーンの攻撃は一つでもまともに当たれば、恐らく水銀燈の命は無い。
勝敗は既に決まっている。後は時間の問題なのだ。
『具体的な方法としては参加者で結託し、首輪を解除するなどして殺し合いそのものが維持できない状況にすることを指針としている』
月が放送で世迷言を続けているが、シャドームーンにとっては無意味な話だ。
そう、“不愉快”や“不可解”と言うことではない。シャドームーンにとっては“無意味”な話なのだ。
シャドームーンは月に構わず水銀燈を狙い、シャドービームを撃つ。
しかし眼前に有る壁が炸裂した水銀燈は、寸前で急発進に飛行してシャドービームを避ける。
外れたシャドービームは壁を無きがごとくに貫通していき、展望台の外まで飛び出した。
水銀燈は部屋の密集している建物内を、シャドームーンと一定の距離を保ちながら飛び回る。
どうやら付かず離れずにヒットアンドアウェイの戦術を取り続けるのが水銀燈の作戦のようだ。
幾ら透視ができると言っても、実際に攻撃をする際には障害物の存在を無視することはできない。
水銀燈は自らの小柄と加速能力を駆使して回避に専念。
その上建物の中を高速飛行しているため、様々な雑物も避けながら飛行している。
しかし邪魔となる雑物があるので、慣れた調子で高速飛行をすることができないため、
それがかえってシャドームーンの解析から外れた動きとなっていた。
高速飛行中に肩を強くぶつけて、水銀燈の飛行軌道が揺れる。
再び放たれたシャドービームもこれによって狙いを外れ、展望台の外まで飛び出していく。
こうなればシャドームーンとて水銀燈の動きを捉えることは容易ではない。
やはり時間稼ぎにしかならないが。
幾ら時間稼ぎしても、水銀燈にはシャドームーンに対して有効な攻撃手段は存在しない以上、
いずれ回避は失敗して攻撃を喰らう。そうなれば水銀燈は一撃で終わりだ。
まさか月の説得に応じるとでも思っているのだろうか。
『勿論、主催者側もそれなりの対応をしてくるだろう』
何度目かのシャドービームを回避した後、不安定な高速飛行を維持しながら水銀燈が反撃に出る。
背中から黒龍。
それも大きさこそ先刻より小さいが、頭が幾つにも枝分かれしている。
数にして十頭を超える顎が側面の窓を破り、天井を削り、床のタイルを削ぎ、シャドームーンを囲むように全周囲から襲い掛かる。
シャドームーンの両手が発光。
無数の雷と化したシャドービームを、自分の全周囲へ無差別に放出。
あまりに急激かつ莫大なエネルギーの放出に、大気が雷鳴のごとき雄叫びを上げる。
そして直後に巻き起こるは、破壊の狂騒。
黒龍を破砕し、空気を切り裂き、天井を砕き、壁を貫き、柱を折る。
シャドービームが巻き起こした破壊の狂乱は、一階だけに留まらず展望台の全体を揺るがした。
『くっ! …………しかし参加者の戦力を結集して主催者自身を逮捕、拘束すれば事態は収拾する』
「……フフフ、人間の戯言もそこまでいけば笑えるな」
月の話が余りに荒唐無稽なため、シャドームーンは思わず笑いを漏らす。
月は判っているのだろうか?
主催者とは一体、誰なのかを。
『可笑しいかい? だが決して不可能な話ではない。そしてそうなれば君が何を望んでいても、殺し合いの続行こそ不可能となる』
「不可能な話だ。貴様らは世紀王である私にも敵わぬ無力な存在。まして、この殺し合いを主催する者を倒すなどな……」
やはり月は知らないようだ。
この殺し合いを真に主催する者。
それは即ちシャドームーンとブラックサンの命運をも握る者。
それほどまでに強大な存在は世界に只一つ。
ゴルゴムを統括する唯一絶対の真の王、創世王のみ。
只の人間が、いや何者であろうと創世王に抗うことは不可能。
キングストーンを持つシャドームーンとブラックサン以外は。
『では証明して見せよう。僕たちが、無力ではないと』
ブツンと言う、月のマイクが切れる音が放送を通じて響く。
支援
支援
様子を見ると既にそこには月の姿が無い。
月が寄り掛かっていた柱には、黒い物体が二つ添えられている。
マイティアイで細部まで観察して見た結果、それは手榴弾であると判断。
更に手榴弾の上からは金属製の椅子が覆い被せるように倒していた。
その手榴弾のピンには細い糸が巻き付けられている。
何かの罠、のつもりだろうか?
あんな物がシャドームーンに通用しないこと位は承知している筈だ。
手榴弾から伸びる糸の先を辿って行くと、壁に開いた穴を通って外に出ている。
そして糸の先は、展望台の外に出ていた月が握っていた。
月は体力の消耗で憔悴しきったように地に倒れ付している。
しかしその眼には、未だに折れない意志の光が宿っていた。
◇
「――――貴方の言った通り、シャドームーンを展望台まで誘き寄せられそうだけど、これからどうするって言うの?」
「僕には君に隠し持っていた支給品、手榴弾が有る」
「そんな物、あいつに通じる訳無いじゃないお馬鹿さん。……もっとも、あいつには何を持ってきても通用しそうに無いけど…………」
「通用する武器なら有る。この手榴弾じゃないけどね」
「何処にそんな武器が有るって言うの!?」
「“ここ”にだよ。別に隠してる訳じゃないけど、多分シャドームーンもそれには気付かない。気付かれたら、今度こそアウトだけどね――――」
◇
突如、水銀燈が身を翻してシャドームーンに背を向けて逃げようとする。
シャドームーンの目論見通りに。
今まで際どい綱渡りとは言え、水銀燈がシャドームーンの攻撃から致命傷を回避できたのは、
攻撃も交えながら、一定の間合いを保ちシャドームーンの攻撃の回避に専念して来たからである。
しかしここまで展望台の損傷が激しくなれば、水銀燈も回避に利用し難くなる。
そうなれば水銀燈は終わりだ。
だから水銀燈は遅かれ早かれここから逃げ出す必要があった。
しかしそのタイミングこそシャドームーンが狙っていた物。
攻撃も出来ない、建物の雑物も利用出来ない、この瞬間なら確実に攻撃を当てられる。
エネルギーをチャージした左手が光る。
その左手に黒羽が“直下”から飛び掛った。
黒羽はシャドームーンの左手を覆うように纏わり付く。
その時になってシャドームーンは初めて気付いた。
自分の周囲一体に、水銀燈の黒羽が散乱して落ちていることを。
そして水銀燈は、遠隔からでも自分の羽を操作できることを。
支援
シャドームーンは左手に溜まったエネルギーで、爆発を起こすようにシャドービームを発射。
纏わり付く黒羽を一瞬で焼却する。
――――更にシャドームーンに拠るものではない爆発音が響いた。
音の発生源は、先刻確認した手榴弾だとすぐに判った。
しかし疑問が残る。
おそらく爆発は月が起こした物。
何故、自身と全く関係のない所で爆発起こすのか?
――――爆発音に続いて、硬く重量のある物体が軋む音が聞こえて来る。
そしてシャドームーンの戦略眼は、すぐに疑問の答えに辿り着く。
シャドームーンは水銀燈を追うべく歩を進め――られない。
両足首に大量の黒羽が極度に密集して絡みつき、更に両足首を繋げていた。
――――軋む音が急激に大きくなり、そして広がって行く。
それでもシャドームーンの脚力なら容易に黒羽を引き千切ることが出来た。
しかし足首には黒羽が纏わり付いたまま。そして黒羽は青い炎を発する。
炎ではシャドームーンを焼くことは出来ない。
それでも歩を進めようとする足首の関節で突如炎が上がり、シャドームーンはバランスを崩しそうになる。
――――軋む音は展望台全体に広がり、そして建物自体が揺れ出した。
シャドービームを自分の足首へ放つ。
黒羽は全て燃え尽きる。
しかし、それも遅かった――――
――――展望台全体が内側へ崩れ出した。
宿泊施設も兼ねた四階建ての展望台。
巨大な建築物であるその展望台を構成する、コンクリートや鉄筋などの雑物の総体は膨大な質量になる。
その膨大な質量それ自体が柱や壁となって、建物を構成して自重を支えることによって、
展望台は成立していたのだ。
しかし展望台は内部からの度重なる破壊のため、自重を支え切れなくなり、
巨大な建築物全体が一挙に崩壊したのだ。
そして破壊した膨大な質量は重力に導かれて、内側へ崩れる要領で落下していく。
それは建物のちょうど中央付近に居たシャドームーンへ、強大な武器と化して襲い掛かった。
◇
轟音が鳴り響き、粉塵が舞う。
目前で展望台が崩落するのを、地面に座り込んだ水銀燈は憔悴した様子で眺めていた。
あまりにも呆気無く展望台が崩れ落ち、
それ以上にあまりにも的確に月の作戦通り、事が運んだのに対して
水銀燈は未だにどこか現実感の無い状態だった。
「…………ありがとう水銀燈、助かったよ……」
水銀燈が伸ばしていた羽を戻すと、そこに姿を隠していた月が表れて礼を言う。
展望台崩壊により飛散する残骸から守ってやったのは、今や月が水銀燈と契約したミーディアムとなったため、
これからも利用価値が有る糧だと判断したからだが、
シャドームーンとの戦いで消耗し切った水銀燈には、最早気の利いた返事を返す余裕も残っていない。
シャドームーンを展望台まで誘き寄せて、展望台を崩落させてそれで倒す。
よくこんな無謀な計画を思い付いて、成功した物だ。
「…………まさか本当にこんな作戦が成功するなんて……つくづく貴方には呆れたわ」
「……………………多分、僕の方が驚いてるよ。この作戦の成功にね…………」
月自身、何らかの勝算があってこの作戦を立てた訳ではない。
ただ単純にシャドームーンを倒す方法は、それしか思い付かなかっただけだ。
水銀燈がシャドームーンに追い詰められて、否応なくミーディアムの契約を月に迫った時、
月もまたシャドームーンを倒すための作戦を立てていた。
そして水銀燈に、まずシャドームーンに作戦の内容を聞こえないように龍を出させてから、
展望台まで誘き出す手段を指示した。
水銀燈が素直に指示に従ったのは、彼女にも月の策に乗る以外にシャドームーンを倒す方法が無かったからだろう。
そして展望台で、シャドームーンを足止めする方法を指示。
月の正直な感想としては既にこの段階までで、不可能に近い公算だった。
シャドームーンの猛攻を掻い潜るだけでも困難を極めるのに、更に誘導まで行うのである。
幸運が幾つも重なった、針の穴を潜るような奇跡的な成果だった。
そして更にシャドームーンに通用する唯一最大の武器、展望台の破壊。
月に建造物を想定通りに倒壊させるような、建築学の知識は無いが、
“日本一優秀な”高校生である月は、建築学の基礎となる数学、物理学、力学、化学などの知識を有している。
そして雑学としてではあるが、ビルの解体などの要領の知識もあった。
故に月の頭脳を持ってすれば、展望台を内部へ倒壊させるための計算も可能。
それでもシャドームーンに展望台を狙い通りに破壊させるよう、水銀燈に誘導させ、
更に展望台内の放送施設を使って、シャドームーンに呼び掛ける振りをして水銀燈にタイミングを指示して建物から脱出させて、
手榴弾で柱を破壊して建物ごと内側に倒壊させてシャドームーンを倒すと言うのは、
やはり無謀極まりない作戦ではあった。
何よりミーディアムである月は、それらの作業を水銀燈にエネルギーを供給しながら行ったのだ。
只の人間であることを思慮に入れれば、月の体力と精神力は瞠目に値すると言えよう。
しかしその無謀は成功した。そしてその効果は絶大だ。
シャドームーンの装甲がどれだけ強固であろうと、金属である以上耐久力には限度がある。
そしてシャドームーンが生物であれロボットのような存在であれ、あれだけの出力と運動能力を兼ね備えた存在だ。
それ相応の出力機関や駆動機関が内蔵されている筈だ。
必然、装甲の厚さにも限界が出来る。
展望台の倒壊に巻き込まれて無事で済む筈が無いのだ。
ここからの問題は作戦結果の確認だ。
支援
シャドームーンの生死は確認する必要がある。
死んでいる場合は問題ない。
生きている場合は――――
「「!?」」
月と水銀燈の表情に一瞬で緊張が戻る。
不意に瓦礫の崩れる音がしたからだ。
そして展望台のあった場所は瓦礫が山のように積もっているため、月の居る位置からは視認出来ないが、
音のした位置は、大よそシャドームーンの居た地点。
水銀燈が空中に飛び上がり音のした方向を見る。
その険しい視線からすぐに察知することが出来た。
シャドームーンが生存していることを。
瓦礫の山の中に白銀の身体の大半を埋め、頭と左腕だけを天に突き出し、
シャドームーンはその存在を白日の下に示していた。
しかし白銀の輝きは煤に塗れ、弱弱しい印象さえ受ける体勢は、
以前のような威厳は感じ取れない。
シャドームーンを倒すなら今を置いて他には無い。
水銀燈はシャドームーンの下へ降りていく。
「うふふ、無様ねぇ」
悠々とシャドームーンを見下ろす水銀燈。
強者と弱者。
追い詰める者と追い詰められる者が逆転した様は、水銀燈に強烈な快感を与える。
あの傲岸だったシャドームーンの命は最早、水銀燈の手の中にある。
そして今、それを終わらせることが出来るのだ。
「約束通り、ジャンクにしてあげる!」
水銀燈はシャドームーンへ向けて剣を振るう。
剣の切っ先が喉元に当たる
水銀燈は、剣の主を睨みつける。
「……どういうつもりかしら?」
「言った筈だ。君が誰かを殺そうとするなら、僕が止めると」
水銀燈の喉元に突きつけられた剣の正体は、月の支給武器。
二本の刃が平行に延びたその異様な造詣の剣は、新井赤空作の初期型殺人奇剣・連刃刀。
息も絶え絶えに刀を構え、月は水銀燈と対峙する。
水銀燈は心底呆れたと言う様子を隠すこともなく吐き捨てた。
「……こんなのを生かして置いて、一体どうするつもりなのぉ? 私から庇った後、こいつに殺されれば満足?」
「僕の理想はあくまで誰も死なせないことだ。そして僕の方からそれを妥協するつもりは無い。
君もシャドームーンも僕自身も殺し合いの犠牲にはしない」
「貴方、状況が判ってるの? 貴方がどう頑張った所で、私を止められる訳ないじゃない。
それにそもそも、私は貴方から力を貰ってるのよ? あんまり無理したら、力を使い果たして死んじゃうかも」
「君こそ状況が判っているのか? 二対一だと言うことが」
月を小馬鹿にしていた調子から一転、急に全身が総毛立つような寒気を覚え水銀燈はシャドームーンを見る。
シャドームーンは相変わらず無言のまま、瓦礫の中に埋まっている。
もう喋ることも出来ないのだろうか?
シャドームーンの状態を窺い知ることは出来ない。
しかしシャドームーンの恐ろしさは、水銀燈の骨身に染みていた。
「エネルギー源の僕を敵に回してまでシャドームーンと戦う方が、君にとってはリスクが大きいと思うけどね。
仮にこの場で僕とシャドームーンを殺すことが出来たとして、その後が続くとも思えないけどな」
水銀燈にとっては最も痛い指摘である。
今の水銀燈はミーディアムによってエネルギーの供給が保たれているとは言え、
先刻までのシャドームーンとの死と隣り合わせの戦いで、精神的な消耗が大き過ぎた。
この上シャドームーンと月の二人と戦って、両方を始末するなど考えるだけで気が重くなる。
水銀燈も口を閉ざしたため、場を沈黙が支配する。
ややあってようやく口を開いたのは月だった。
「これは僕達全員の生存率を上げるための提案でもある。僕と水銀燈とシャドームーンで組めば、全員の生存率が大きく上がる計算になる」
「そいつが大人しく私たちと組むと思ってるの?」
「シャドームーンは大人しくしているしかない筈だ。大きなダメージを負っているからね。そしてそのダメージを負わせたのは僕たちだ。
一度勝利した相手である今の手負いのシャドームーンなら、僕たちで管理することが出来る」
「…………」
「水銀燈、必要以上に弱気になっても大局的な利益や合理性を見失うだけだ」
「私に下らない説教をしないで頂戴……」
それ以上何も言わなくなった様子を見て、月は水銀燈を思い留めることが出来たと確信する。
多少は強弁も含んだが、それでもシャドームーンを殺させる訳には行かなかった。
月の安全のためにも。
同盟を組んでミーディアムとなっているとは言え、月は水銀燈に生殺与奪の権を一方的に握られている関係であることは変わりない。
しかしここにシャドームーンが介入すれば、一挙に関係性が変わるのだ。
月と水銀燈とシャドームーンの三人で同盟を組んだ場合、
水銀燈が月を殺せば、当然同盟はご破算になる。
そうなればシャドームーンとの関係も悪化し、再び殺し合いになることも充分考えられる。
一度勝った相手とは言え水銀燈にとってシャドームーンは恐ろしい相手。
敵対することには、かなり精神的な抵抗がある筈だ。
そしてシャドームーンにとっても月と水銀燈は一度敗北した相手である。
再び敵対することの精神的抵抗は大きい筈。
同盟を組んでも水銀燈とシャドームーンは牽制し合う状況になる。
そしてどちらも容易に手が出せないその状況が月を安全にするのだ。
支援
支援
支援
月ならば牽制し合う二人を煽ってコントロールすることも可能である。
「…………最終的な判断は君が下すんだシャドームーン。僕たちと組むか、組まないか」
月はシャドームーンへ向けて質問する。
勝利者から敗北者への最後通牒。
即ち生きるか、それとも死か。命の選択を突きつける。
その選択に対しシャドームーンは――――
「……………………フフフ、フフフフフハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!」
――――嘲るような笑いで答えた。
地に伏した敗者がそこに僅かな気負いもなく、傲岸に。不遜に。
シャドームーンの反応が完全に予想外であったため、月も水銀燈も驚くと言うより呆気に取られていた。
「…………フフフ。茶番もここまで来ればな、中々愉快だったぞ」
「……状況は理解出来ているよね? 建物の倒壊に巻き込まれた君がどんな虚勢を張った所で無意味だ。
君の命は水銀燈の機嫌次第なんだ。無意味に挑発するような真似はしない方が良い」
「茶番のついでに質問してやろう。ブラックサン……南光太郎を知っているか?」
月はここに来てシャドームーンの心理が読めなくなって来た。
シャドームーンの様子に虚勢や挑発の色は一切無い。
突如として月に悪寒が走る。
それはルパンと別れたことを悔いた時と同じように、
自分の思考に何か根本的な欠落を見つけたような感覚があった。
「……答えないか。ならば茶番も、お終いだ」
シャドームーンの左腕に緑色の光が宿る。
と同時に、シャドームーンへの警戒を怠っていなかった水銀燈が黒羽を飛ばす。
瓦礫をその重量など無きも同然に吹き飛ばしながら、シャドームーン緑の電撃を纏った左腕を横に薙ぐ。
それだけで黒羽は全て焼き払われた。
そして緑の電撃は急激に膨張。
周囲の大気も焼かれて同じく急激に膨張。
膨張する大気を叩きつけられる感覚と同時に月の意識も激しく揺れる。
混濁する意識。
酩酊する視界。
月はそれでも必死に状況を把握するよう勤める。
微塵に粉砕されて舞い散る瓦礫と粉塵。
水銀燈はどうやら瓦礫に強く叩き付けられたようだ。
そして月もまた瓦礫に背を預けて座った状態で動けないでいる。
身体の至る所で、骨の折れた痛みがある。
シャドームーンに水銀燈ごと、周囲の瓦礫ごと、吹き飛ばされたのだと理解する。
まだそんな力が残っていたとは、驚愕に値する。
しかし真の驚きはその後に訪れた。
粉塵が晴れてシャドームーンの姿が見える。
白銀に輝く五体。
そこには傷一つ無い。
そして何よりシャドームーンは先ほどまでの有様など嘘のように、
既にその圧倒的な威圧感、威厳を取り戻していた。
シャドームーンの姿を見て月は直感的に思い知った。
しかし理性はその直感を否定する。
まさかそんな筈は無い。
そんなことは物理的にありえないだろう。
シャドームーンは展望台の倒壊の只中に居たのだ。
そのシャドームーンが無傷だなんてありえない。
月は“日本一優秀な”高校生であることは間違いない。
特にその知性。
知識も応用力も、日本や高校生に限定しなくとも比肩し得る人間など、
俄かに思い浮かぶのは“世界一の探偵”Lくらいの物だろう。
しかし、それでも月は殺し合いに参加するまで、
死神もデスノートも、超常的なことは何も知らない、平凡に生活していた高校生であることに違いない。
だからその判断は月の知る常識的な、あるいは科学的な知識を基準とした物となる。
他に判断基準を持ちようが無いのだから。
自分が知る世界を超える知性は持ちようも無い。どんな天才も超えられない限界がそこに有る。
それゆえ月は、シャドームーンに対し二つのある根本的な誤解を犯していた。
そしてその代償を、今払う時が来る。
カシャ
シャドームーンが一歩、近付いて来る。
月の身体が突如震え出す。
絶望が、死が、近付いて来ていた。
カシャ
月の震えが止まらない。
身体が震える理由は自分で判っている。
絶対に逃れられない恐怖。
絶対の死が近付く恐怖だ。
カシャ
それでも月は、必死に対策を考える。
その卓越した頭脳を駆使して。
この場を生存する方法を。
あらゆる可能性を考慮して。
カシャ
そして考慮したあらゆる手段が自分の頭脳によって否定されていく。
月の卓越した知性は、この場を切り抜ける方法がないことを証明していく。
カシャ
シャドームーンが立ち止まる。
月の名を関する絶望が見下ろし、
月の名を関する知者がそれを見上げた。
月は自らの能力に絶大な自信があった。
知性は勿論のこと、中学時代にテニスの全国大会で二度優勝するほどの体力と運動能力。
そして精神力。自分はいかなる事態にも冷静に、的確な判断を下すことが可能だ。
月は自分がそうであると認識していた。
しかしそれもまた月の誤解だったと言えよう。
月は未だかつて絶対の恐怖と対峙した経験が無かった。
自らがどれほど知と力を尽くしても、決して逃れられない死と言う絶対の恐怖と。
「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!」
月はまるで堰を切ったように叫びを上げる。
体面も何も無く、耐え切れなくなった物を全て吐き出すがごとく。
そして座った体勢のまま、手に持った連刃刀でシャドームーンの脚を切り付ける。
一度だけではなく、二度も三度も。
いや、それは切り付けるなどと言えるような整然とした行為ではない。
叫びを上げながら、力任せに刀身を叩き付けているのだ。
何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も。
刃が零れ、刀身に歪みが生じようとひたすら力任せに叩く。
シャドームーンの脚には擦れ一つ付かないがひたすら力任せに叩く。
そこに常の月らしい理性的な思考は存在しない。
恐怖からの逃避行動があるだけだった。
月は今や完全な恐慌状態にあった。
「…………愚かな。フッ、どうやら私は人間を少し過大に評価していたのかも知れん」
シャドームーンは邪魔臭そうに脚で連刃刀を払う。
連刃刀は刀身が折れながら月の手から吹き飛んで行った。
支援
月にはもう抵抗の手段は残されていない。
声が枯れて、もう叫ぶことすら出来ない。
月の講じるあらゆる手段を、想像を絶する能力で叩き潰すシャドームーン。
月の根本的な誤解の一つが、このシャドームーンの能力である。
人類史より遥かに長い歴史を持つ暗黒結社・ゴルゴム。
シャドームーンはそのゴルゴムの最新技術の粋を尽くして改造された世紀王の一人である。
そして前述の通り、先にブラックサンと言う実戦投入されたモデルケースが存在し、
そのブラックサンより改造期間が長いシャドームーンには、細かい改良点が幾つも存在する。
パンチ力とキック力は基本的にブラックサンと変わらない。
しかしシャドームーンにはエルボートリガーとレッグトリガーを装備している。
超振動発生装置であるそれらは、自体を武器にすることも可能だが、
シャドームーンのパンチ力とキック力を強化する効果も兼ね備えている。
更にブラックサン以上の跳躍を可能にする瞬発力。
全身を覆う装甲はリプラスフォーム以上の硬度を誇る強化皮膚・シルバーガード。
そしてマイティアイ。
シャドームーンの基本的な性能は、ブラックサンをも上回っているのだ。
その無類の高性能を駆使すれば、展望台の倒壊の中でも無傷で居ることは可能だった。
しかしその高性能は月にとって完全に想像の埒外。
理解を超えた怪物が今、真紅の剣を振り上げた。
既に声を枯らした月は叫び声を上げることも出来なかった。
(馬鹿な!! 僕が……こんな何も出来ないまま…………死ぬなんて!
水銀燈とシャドームーンをコントロールして、殺し合いを脱出する筈が……一体どこで判断を間違えた!?)
月のシャドームーンに関するもう一つの誤解。
それはシャドームーンが説得可能だと考えたこと。
シャドームーンはブラックサンと違い、その頭脳まで改造された世紀王。
人間の精神は完全に破壊されて、そこにあるのはゴルゴムの王としての自我のみ。
その価値観もまた完璧にゴルゴムの物となっている。
そしてゴルゴムとは世界の全てを支配して、逆らう一切を蹂躙し尽くす存在。
人間もその種の全体が、ゴルゴムにとっては服従か滅亡かを突きつける存在。
シャドームーンはその内面までも、只の人間である月にとって完全に想像の埒外なのだ。
そもそも殺し合いの脱出のために協力するよう説得されるなど、絶対にありえない。
ゴルゴムは自らに歯向かう者や従う者は勿論、一片でも自らの支配を拒む余地の有る存在は絶対に許さない。
ゴルゴムの王は並ぶ者の存在を決して許さぬ絶対者なのだ。
月には二重の意味で理解を超えた怪物が今、真紅の一閃が奔らせた。
「無力だったな、世紀王の前では」
サタンサーベルが月の胸を、薄紙のごとく容易に貫いた。
傷口から大量に噴出する血液は、月の知識で無くともそれが致命傷であると理解させられるだろう。
薄れゆく意識が、逆に死を自覚させた。
(僕は…………どこで判断を間違えて……………………ルパンさん…………あなたならどうしてましたか?)
薄れゆく意識の中、月は何故かルパンのことを思い出していた。
支援
幾らルパンと言えど、戦闘能力ではシャドームーンには敵わないだろう。
それでも、月には無い柔軟な発想と、危機にもその柔軟さを損なわないあの精神力なら、
あるいは月にも思いもよらなかったシャドームーンへの対処法を考え付いたのでは無いだろうか。
ルパンはそんな期待感さえ抱いてしまうほど、底知れない人物だった。
そして月はやっと気付いた。
ルパンと別れる判断が誤りだと感じた理由を。
それは『戦力が分断される』からだ。
気付いてしまえば子供でも判る単純極まりない理由。
しかし“キラ”などと言うどれほど実態があるか判らない観念に振り回され、
自分の内面の問題に拘泥して、ルパンと別れてしまう。
その結果、自分のリスクを増してしまった。
自分の中にキラの可能性が有るかどうかなど、この場を生き残ってからの話だった筈なのに。
殺し合いは、只生き残るだけでも容易なことではない。
しかし月は殺し合いそのものを甘く見てしまった。
殺し合いを生き残るための最善の方策を採れば、月にも違った可能性が有り得たであろうが。
自分の内面の問題に拘り、大局的な優先順位を見誤る。
聡明な月らしくない、あるいは月らしい失敗ゆえか、
“新世界の神”となる筈だった男は無念の最期を遂げた。
【夜神月@DEATH NOTE 死亡】
真紅の刃に貫かれた月が、力無く伏せていく。
それを見ていた水銀燈は、同時に自分の身から力が失せていくのを感じる。
ミーディアムを失う。即ち、月が死んだ。
力の供給源と参謀役を同時に失った水銀燈は、シャドームーンに対する勝算も失ったのだ。
先刻までの月と同じく決して逃れられない死を間近にして、水銀燈も恐怖に震える。
長くアリスゲームを戦い抜いてきた水銀燈も、これほど絶対的な恐怖は初めて体験する。
「フッ。どうやらこの人間が死ぬことで、貴様も力を落としたようだな」
恐怖の源泉、シャドームーンが水銀燈を見る。
次の瞬間、水銀燈は弾けるようにその場から飛び出した。
精神の許容量を超える恐怖に直面すれば、人は直視することもかなわず逃避する。
それは人間も人形も変わらない。
最早、今の水銀燈にローゼンメイデンとしての自負は無かった。
捕まったら確実な死が待っている。
だから後先も考えずに、力の限り逃げる。
今の水銀燈には只それだけしか無かった。
無我夢中で逃げる水銀燈は、いつの間にか森の深くまで入っていた。
どの方向へどのくらいの距離を飛んだのかすら判らないから、現在位置すら判別出来ない。
シャドームーンを完全に振り切ったと思える距離までいかなければ、今の水銀燈は振り向く余裕すらないのだ。
脇目も振らずに飛び続ける水銀燈。
その視界が突如として激しく揺れる。
どうやら頭上からの衝撃が原因のようだが、水銀燈も上手く事態を把握出来ない。
そして今度は視界全体が――――赤く染まった。
濁った、何か不吉な予感を孕んだ赤に視界が塗り潰されて行く。
続いて鼻を衝いたのは強烈な異臭。
得体の知れない、生臭さで満たされる。
水銀燈を囲む世界が突然、異常な物に変貌した。
動転した水銀燈は目前を手当たり次第に弄る。
何か軟らかい物が顔を覆っていたので、水銀燈はそれを手繰った。
視界の端でようやく確認出来たそれは、細長く伸びた動物の内臓。
そしてようやく視界を塗りつぶす赤が血の色。異臭が血と臓物の臭いだと判った。
なぜそんな物が? 疑問に駆られ、水銀燈は内臓を更に手繰る。
内臓は水銀燈を覆うほど、巨大な肉塊から伸びていた。
今度は肉塊を手繰る。
血に塗れて全容が明らかにならない肉塊の先についていた物は、人間の頭だった。
しかもその頭を水銀燈は見覚えが有る。
端正な顔は苦痛と恐怖で歪み、光を宿さぬ眼も空ろだが、
それは間違いなく夜神月の頭部だった。
流石の水銀燈も恐怖のあまり、ヒッと短い悲鳴を漏らす。
なぜ月の身体が自分に乗り掛かっているのか、全く理解出来ない。
自分は“これ”の存在する場所から逃げていた筈だ。
自分は既に死んで地獄に来ており、そこで月と再開したのではないか?
そんな突拍子も無い思考をするほど、水銀燈は混乱していた。
カシャ カシャ カシャ カシャ
混乱する水銀燈の耳に、更に恐怖を煽る足音が聞こえて来る。
振り向くのにすら恐怖を伴う。
水銀燈に絶対の死を与える存在がそこに居るのだから。
「一時でも逃れられると思ったか?」
血に塗れたサタンサーベルをこちらに向けるシャドームーンを見て、水銀燈はようやく状況が理解出来た。
自分を追いかけて来たシャドームーンが、サタンサーベルに刺さったままだった月の死体を投げ付けて来たのだ。
水銀燈とシャドームーンでは余力がまるで違う。逃げ切れる筈が無い。
本当は最初から判っていたことだ。
それでも異常な恐怖に駆られた水銀燈は逃げずには居られなかった。
「一抹でも交渉の余地が有ると思ったか?」
「イヤ!! イヤッ!! イヤよおおおおおおおっ!!!!」
先ほどの月と同じく恐慌状態になった水銀燈は、黒羽を闇雲に飛ばしてシャドームーンを攻撃する。
そこに戦術的な判断は無い。それどころか戦う意思すらないと言えよう。
只の現実からの逃避を動機とした行動なのだから。
そして水銀燈はその間もひたすらに叫び続けていた。
既に薔薇乙女の体面も失くしていたのだ。
「一片でも勝算が有ると思ったか? この次期創世王を相手にして」
シャドービームが放たれる。
ビームは月の死体に直撃。月の死体も背負っていたデイパックも、爆発四散させた。
その余波で水銀燈も身体毎吹き飛ばされて、地面を転がっていく。
支援
全身の痛みがいつまでも残る。
水銀燈は仰向けに倒れたまま動くことも出来ない。
自分の身体の、精神の、全ての力を使い果たしてしまったように思えた。
カシャ カシャ カシャ カシャ
歩み寄るシャドームーンから、水銀燈は這うようにして逃げる。
その左脚の上に何か重い物が圧し掛かった。
見てみるとシャドームーンの足が踏みつけている。
水銀燈がどう外そうとしても、万力のごときシャドームーンの足の力から逃れることは出来ない。
しかも踏みつける力が更に強くなっていく。
水銀燈が苦悶に喘ぐが、シャドームーンはお構いなしに力を込め続ける。
水銀燈の左脚が加重に耐え切れなくなり軋みを上げ、やがて粉々に吹き飛んだ。
「脚が!! 私の脚がっ!!!」
「フッ、少し本気を出せば脆い物だ。この分では全身をバラバラにするのも容易いな」
自分の身体の一部を破壊されて、更に侮辱される。
常の水銀燈ならばどれほど怒り狂っただろう。
しかし今や水銀燈はもうシャドームーンへの怒りを表すことも出来ない。
只、シャドームーンが純粋に恐ろしかっただけだ。
人間に手向かいも出来ず殺される虫になった気分だった。
「……イヤ…………助けて」
恥も外聞も無い、命乞いの言葉が水銀燈の口をつく。
そんな物をシャドームーンが聞くなどと考えた訳ではない。
誰に対して言ったのかも定かでは無い呻き声。
「助けて欲しいか?」
だからシャドームーンが返答したのは水銀燈にとって、全く予想外のこと。
まるで信じられないと言った表情で、水銀燈は呆然と見上げる。
次の言葉が浮かばない水銀燈に、シャドームーンが話を続けた。
「見逃してやっても良いぞ。……但し、私に従うと誓えばな」
屈従か死か、今度は水銀燈が選択を迫られる。
無論、水銀燈ならば屈従を選ぶ筈が無い。
ローゼンメイデンの矜持は命よりも重いのだ。
水銀燈は自らの想いのまま、シャドームーンの選択に答える。
◇
森の中を暗い影が進む。
闇のごとく黒い羽がはためく。
暗黒の人形、水銀燈は森の中を低く飛んでいた。
支援
支援
まるで幽鬼のごとく、生気の無い表情でふらふらと浮遊するように飛ぶ水銀燈。
その異様な状態は、エネルギーの消耗が激しいと言うのも理由の一つだが、
それ以上に精神的な要因が大きかった。
結局は屈従してしまったのだ。シャドームーンに。
本来の水銀燈なら選ぶ筈の無い選択。
しかし今の水銀燈に、シャドームーンに逆らうほどの気概は残されていなかった。
そのお陰で水銀燈は今生きてはいる。
恐らく、従わなければシャドームーンは躊躇無く水銀燈を殺していただろう。
月の時と同じように、虫を踏み潰すような気安さで。
水銀燈は自らの選択で、その命を守ることが出来たと言える。
しかし、そんな理屈で自分を納得させられる筈も無い。
屈伏したのだ。自分を追い詰め、傷つけて敗北させた者に。
シャドームーンを許すことは出来ない。
しかしそれ以上に、水銀燈は自分が許せなかった。
アリスとなる筈である大事な自分の身体を、致命的に傷付けられて、
そのシャドームーンに怒りをぶつけるどころか、恐怖に屈して命乞いをした自分に。
闇人形はより深い闇を心に抱えながら、森の中を進んで行く。
どこへ進もうとしているのか、それは自分でも判らなかった。
【一日目夕方/E−5 山中】
【水銀燈@ローゼンメイデン(アニメ)】
[装備]無し
[所持品]支給品一式×3(食料を一つ譲渡)、メロンパン×4@灼眼のシャナ、板チョコレート×11@DEATH NOTE
農作業用の鎌@バトルロワイアル、不明支給品0〜2(橘のもの、確認済)
[状態]疲労極大、右目にヒビ割れ、右眼周辺に傷、、左脚欠損、強い恐怖
[思考・行動]
1:???????
[備考]
※ゾルダの正体を北岡という人物だと思っています。
※nのフィールドに入ろうとすると「入ろうとする意思そのものが消されてしまう」ようです。
森の中へ飛んでいく水銀燈をシャドームーンは只黙って見送る。
シャドームーンが水銀燈に生き残るチャンスを与えたのは、
ゴルゴムの王だから、とも言えよう。
世界の支配を目的とするゴルゴムは、従わぬ者の存在を決して許さない。
シャドームーンがヴァンやC.C.を見逃したのは、あくまで一時的な措置。
歯向かう者には絶対の死を与えるのがゴルゴムであり、シャドームーンなのだ。
しかし恐怖で屈伏する者は違う。
実際にゴルゴムは黒岩博士などの人間も自分達の傘下として利用している。
その偉大さに畏れ、心服する。それこそがゴルゴムを相手にして生き残る唯一の道。
水銀燈を生かしておいたのも、彼女が心からシャドームーンを恐れ従ったからだ。
だからこそシャドームーンは水銀燈に命令を与えて解き放った。
命令は『他の参加者を見付け出して、シャドームーンの危険性を喧伝すること』。
そうすれば殺し合いの参加者たちは、結託してシャドームーンへの対策に乗り出すだろう。
それを一網打尽にすれば、一々各個撃破して行くより手間が省ける。
しかもこの命令ならば、水銀燈も大人しく従う公算が大きい。
何しろ他の参加者結託することは、水銀燈にとってもシャドームーンに打ち勝ち生き残るための唯一と言って良い方策だからだ。
例えそれが万に一つの可能性であっても。
仮に水銀燈が従わなくとも、それはそれで構わない。
従おうが従うまいが、何れにしろ次に会った時は殺すつもりだからだ。
水銀燈を生かしておいたのも、また一時的な措置に過ぎない。
恐怖に駆られた者を走狗として利用する。それもまたゴルゴムの在り方と言えよう。
シャドームーン自身も、やがて徐に出発する。
シャドームーンは王者では有るが、座して走狗の成果を待つ為政者ではない。
自らの力でゴルゴムの世界を築く戦士でも在るのだ。
絶対の王者は、再び孤独な戦場に身を投じる。
しかし彼はまだ知らない。
自らの運命の片割れ、ブラックサンが既にこの世に居ないことを。
【一日目夕方/D−5 山中】
【シャドームーン@仮面ライダーBLACK(実写)】
[装備]:サタンサーベル@仮面ライダーBLACK
[支給品]:支給品一式、不明支給品0〜2(確認済み)
[状態]:疲労(小)
[思考・行動]
0:東の市街地へ向かう。
1:殺し合いに優勝する。
2:元の世界に帰り、創世王を殺す。
3:かなみは絶望させてから殺す。
4:殺し損ねた連中は次に会ったら殺す。
【備考】
※本編50話途中からの参戦です。
※殺し合いの主催者の裏に、創世王が居ると考えています。
※シャドービームの威力が落ちています。
※会場の端には空間の歪みがあると考えています。
投下完了しました。
多くの支援を頂いてどうもありがとうございました。
問題点があれば指摘をお願いします。
投下乙です
ら、月……原作同様に悲惨な最期だったけれど、これは相手が悪すぎたとしか言いようがない
銀様も生き残ったのはいいが心身共に粉砕されたし、もうダメかもしれないな
というよりもシャドームーンが後藤や桐山などと比べても圧倒的すぎる
光太郎亡きいま、こいつをどうにかできる奴はいるのか?
投下乙です
うわぁ・・・
L側にとっては月=キラだから
「キラが死んだ」事に思うことがあるにしろ
「キラにならなかったかもしれない存在が死ぬ遠因になった」ことには気づかぬままかな
危険人物&扇動がなくなったってところか
月君いろんな意味で悲惨だわ
投下乙!
しばらく影月の戦闘なかったから、少し影月への認識が甘くなってたかも知れない…
「建物を内側に向かって倒壊させる」とか、月も高校生としては十分チートなんだけど…銀様も十分強いんだけど…
この二人のすごさが伝わってくるだけに、それを簡単に潰す影月が怖すぎる…!
正直二人が影月の様子を見に行っちゃった時点で、「終わったwwww」って思ったわ
相手が悪かったとしか…
Wikiに収録する際に分割(三分割?)になりそうなので、分割点を教えてください。
投下乙!
展望台を崩壊させた時はすげぇって思ったけど、あそこで水銀燈と論争しちゃったのはなぁ……
原作の最後もそうだったけど油断だよね、すぐ逃げてたら助かったかもしれないのに
水銀燈とシャドームーンをコントロールして〜って台詞もあったし、心のどこかで自分ならやれるって過信があったんだろうな
月らしい最期だったと思う
そしてシャドームーンは自分の危険性を広めろって言ったけど、ここにいる連中のほとんどが既に知ってるようなww
あと展望台にいた月、ルパン、玲子は別れた瞬間に全滅か……
死に方も似てるし、フライングボードに続く新たな呪いスポットになった気がする
◆KKid85tGwY氏、投下御疲れ様でした。
今回の◆KKid85tGwY氏の投下をもちまして、第三回放送に入ろうと考えております。
放送前に投下するSSを構想中の書き手氏がいらっしゃいましたら御申し出下さい、対応致します。
いらっしゃらなければ★19日(木)20時に放送を投下、★20日(金)0時に予約解禁を予定。
他に放送を執筆されたい方、この予定に対し「性急過ぎる」等の御意見をお持ちの方がいらっしゃいましたら御申し出下さい、対応致します。
以上、よろしくお願い致します。
これで展望台組は全滅か…
あそこで水銀燈が来なければ不安定ながら有望な対主催グループとして動いてくれたんだろうな…
そういや桐山のステルス化もこいつが元凶だった。水銀燈マジ疫病神
投下乙です
シャドームーンが圧倒的すぎる、月がシャドームーンをコントロールするっていうところだけ間違えただけなのに簡単に殺される
月もあるいはキラとして非情な状態だったら殺害はともかく別の道があったかもしれんが……綺麗な月よ、南無
そして叫ぶ銀様が可愛かった
>>613 分割点は
>>557の
>眩い光が水銀燈を包み込んだ。
までを1P目とと、
>>585の
>シャドームーンが生存していることを。
までを2P目でお願いします。
>>615 私は放送前に投下するSSの構想は無いので、氏の予定に異論はありません。
反対意見がないようですので、これより第三回放送を投下します。
こんばんは、みんな。
六時間経って、またこうして声を聴いて貰えて嬉しいよ。
とても……ね。
それにしても、みんなそろそろ疲れてきたみたいだね。
焦る事はないよ、休む事も大切さ。
疲れていたら最後まで戦えないんだから。
だけど、ここまで生き残った君達は自信を持っていい。
忘れないでね、この会場にいる誰にでも優勝のチャンスはあるんだって事を。
ほら、隣にいる人の顔を良く見て御覧。
「守りたい」と思った相手、「守る」と言ってくれた相手、「信じたい」と願う相手……。
でも「相手が油断している今なら殺せる」って、思わないかい?
逆に向こうから、そう思われているかも知れないよね?
本当に大切なものは、『自分』なんじゃないか?
…………ふふ……冗談だよ。
そんなに怖い顔をしなくても平気さ。
まずは禁止エリアを発表するよ。
今まで通り一度しか言わないから気を付けてね。
19:00から、【−】
21:00から、【−】
23:00から、【−】
ちゃんと聞き取れたかな?
次は死者を発表するよ。
アイゼル・ワイマール
蒼嶋俊朔
石川五ェ門
泉こなた
杉下右京
蒼星石
園崎詩音
田村玲子
南光太郎
由詑かなみ
夜神月
ルパン三世
ロロ・ランペルージ
生存者が随分少なくなってしまったね。
寂しいけど、生き残っているみんなにはこれからも頑張って欲しい。
そうそう、今は市街地にいる人が多いよね。
これから夜になるけど、明かりの事は街頭が点くから心配しなくていいよ。
これで君達の選択肢が増えた……君達がこれからどうするのか、楽しみだ。
それじゃあ、次の放送でまた会おう。
優勝者が決まるまでにあと何回放送があるのか、分からないけどね。
▽
放送を終えたV.V.は古時計の置かれた放送室を出る。
何十というモニターを配置した個室に戻り、手元のリモコンを操作してモニターのうちの一つの画面を切り替えた。
映し出されたのは会場のどこでもない、この『アジト』の中の一室。
鷹野三四が自身にあてがわれた部屋に篭り、古手梨花の存在さえ忘れたかのように一心不乱にパソコンに向かっていた。
「オーディンのデッキが鷹野によって持ち出された」と、既に聞き及んでいる。
竜宮レナへの対処に不満を抱いていた鷹野は、会場にいる参加者に対して何らかの介入をしようとしているのかも知れない。
「ふふ……鷹野は本当に面白いよ。
ねぇ、ラプラス」
V.V.が振り返らずに、背後に向かって声を掛ける。
するとクツクツと嗤うような、息の漏れる音が聴こえた。
「その先が出口のない迷いの森としても、踏み込まずにはいられない……。
風の前の木の葉のように、舞い散り消え行くのがその定め」
兎顔の道化師――ラプラスの魔がそこにいる事を、V.V.が知っていた訳ではない。
ただ『いる』と思えば『いる』。
『いない』と思えば『いない』。
ラプラスとはそういう相手なのだと、V.V.はそう理解していた。
「鷹野に何か悪戯をしたのかい?」
ゲームバランスを壊す支給品を封印した部屋に、鷹野が出入りした形跡がなかった。
それどころか、監視カメラには人の出入りすら映っていなかった。
そんな真似が出来るのはラプラスだけだ。
焦る鷹野の背中を押したのだろう、『オーディンのデッキについて報告したその口で』。
ラプラスの返事は、そのV.V.の予想を裏切らないものだった。
「戯れと気紛れあっての道化師。
お気に召しませんか?」
「ふふ……困ったものだね」
言葉とは裏腹に、V.V.は何ら困っていない。
ゲームバランスを壊す可能性を秘めてはいるが、ここまで順調に進行してきたバトルロワイアルは今更その程度で壊れない。
むしろそれによって参加者達の前に新たな選択肢が現れ、決断が成されるのなら。
ラプラスの行動は『目的』に矛盾しない。
鷹野が如何に足掻こうと、未だV.V.の手のひらの上にいる。
そもそも鷹野には一握りの真実しか伝えていないのだ。
例えば「古手梨花が、鷹野の作戦の成功の度に世界をリセットしている」と教えてあるが、それは偽り。
実際には作戦に成功した世界一つ一つが独立して存在している。
また、このバトルロワイアルの開催目的も告げていない。
主催者の一人として協力させてはいても、V.V.にとって鷹野は何も知らずに殺し合う参加者達とほぼ同列と言っていい。
「さぁ鷹野……君の『選択』を見せておくれ」
残る参加者は二十四人――ではなく、鷹野を含め二十五人。
水面に投じられたこの一石が参加者達に何をもたらすのか、V.V.は笑みを湛えながら見守る。
振り返った時には、道化師の姿はなくなっていた。
▽
鷹野は梨花の前にあるテーブルとは別に机を出し、パソコンを開いた。
バトルロワイアルのホームページからログイン画面に移り、ユーザ名とパスワードを入力。
限定情報を閲覧していた鷹野はふと、後ろを振り返る。
そこには想像通りの姿――ラプラスの魔。
そしてラプラスが一歩、ゆっくりと横に移動する。
ラプラスの背に隠れていたのは人の背丈程の古びた鏡だった。
それは鷹野の部屋に初めから配置されていた、何の変哲もないもの。
しかし今、その中に映るのは鷹野の姿ではない。
絵の具をぶち撒けたようなあの色が、鏡の中で蠢いている。
「……そこを通れば会場の中の好きな場所に出られる……という事かしら」
「兎は道化師にして案内人。
旅人の望む土地へ導くのがその役目」
「そう」と敢えて素っ気なくいいながら鷹野はパソコンに視線を戻す。
ラプラスと長時間向き合う気にはならなかった。
ラプラスはV.V.以上に得体の知れない存在だ。
鷹野がV.V.と初めて会った時、鷹野の部屋が他の空間と断絶され、その後一瞬にしてこのアジトに連れて来られた。
当時はそれがV.V.の能力だと思っていたが、今となっては全てラプラスの仕業だったのだと分かる。
V.V.は確かに不死で、鷹野の倍以上の年月を生きている――しかしそれ以上特異な点は、鷹野に見せていない。
今の段階では、ラプラスの方が余程不気味だった。
(でも今は、これしかないわ……)
ラプラスが用意したオーディンのデッキ。
ラプラスが用意した会場への道。
踊らされている自覚はある。
しかし今更、止まれない。
机の脇には、万一の時の為に用意していた予備の支給品を詰めたデイパックを置いている。
いつでも出発は出来るが、こうした鷹野の勝手も予測の内なのかも知れない。
それでもこのままでは終われなかった。
富竹を裏切り、六十五人の参加者を殺し合わせている自分は、既にその時点で救いの道を蹴っているのだ。
――……そうだね。君の罪は、ひょっとすると軽いものはないかもしれない。
――でも、大丈夫。…僕が一緒だから。…だから一緒に償おう。鷹野三四の罪を償おう。…そして、僕と一緒に田無美代子を、取り戻そう。
――その日まで、僕は決して君の側を離れない…!
そう言ってくれた富竹から、自ら離れたのだから。
――……世界は君を許さないかもしれない。でも、それが何だってんだい! 僕が、君を許すよ。だから生きよう。
――死ぬことは罪の償いにはならない。生きて償い、世界に許しを乞おう。そしてやり直すんだ。
――そうしたらきっと思い出せる。君が本当はどんな人で、……どんな風な笑顔を浮かべていたかをね!
終末作戦の度に富竹を殺した。
雛見沢を滅ぼした。
殺し合いに協力している今の自分は、その頃と何も変わっていない。
鷹野三四だろうと、田無美代子だろうと、同じなのだ。
両親が死に、で虐待を受け、祖父と出会い、研究に没頭し、努力の全てを否定される前から。
田無美代子は初めからこういう人間だった。
鷹野は自分自身に、諦めがついていた。
道化師よりもなお道化じみた様に自嘲しながら、意識をパソコン画面へ戻す。
V.V.の世界から持ち込まれたそれには鷹野にとって余りに進んだ技術が詰め込まれていたが、最初の数時間で慣れた。
そこから生存する二十四人の参加者の情報の詳細を読み取っていく。
ラプラスは確かに会場までの案内をするだろうが、それは一方通行。
レナを殺した後、鷹野は会場に置き去りにされる。
その時の事を思えば、情報は幾らあっても困らないだろう。
鷹野はひたすらに、ホームページ上の情報を追い掛ける。
その後ろ姿を、兎顔の道化師と囚われの少女がいつまでも見詰めていた。
【一日目第三回放送/???】
【鷹野三四@ひぐらしのなく頃に】
[装備]無し
[支給品]オーディンのデッキ@仮面ライダー龍騎、不明支給品
[状態]健康
[思考・行動]
1:竜宮礼奈を殺す。
【古手梨花@ひぐらしのなく頃に】
[装備]無し
[支給品]無し
[状態]健康
[思考・行動]
1:???
※銀髪の少年により『鷹野三四に従え』というギアスをかけられています。
投下終了です。
誤字脱字、問題点等がございましたら御指摘下さい。
また、禁止エリアについてはまだ決めておりません。
御意見を頂戴出来れば幸いです。
>>622 >両親が死に、で虐待を受け、祖父と出会い、研究に没頭し、努力の全てを否定される前から。
は
>両親が死に、施設で虐待を受け、祖父と出会い、研究に没頭し、努力の全てを否定される前から。
に修正致します。失礼しました。
したらばにて◆ew5bR2RQj.氏が御提案下さったC-2、D-7、H-10で問題ないと考えております。
反対意見がなければこの三箇所に決定し、日付変更と共に予約解禁と致します。
岩崎みなみ、上田次郎、L、カズマ、桐山和雄を投下します。
支援
青かった空は橙に、そして濃い藍色へと移り変わる。
暗くなっていく景色の中で、照らされた雲の下部と家々の窓にだけ陽の色が取り残されていた。
日が沈み切るまでにまだ猶予はありそうだが、この会場は数時間と待たずに闇に覆われるだろう。
夜が近付く午後六時、三度目の放送が行われた。
そこで知らされた死者は十三名、生き残ったのは二十四名。
その事実にL、岩崎みなみ、上田次郎の三人は愕然とした。
殺し合いは加速している。
そしてLにとって更に衝撃的だったのは、一人の男の名だった。
(夜神月が、死んだ……)
カズマによれば、ルパン三世と行動を共にしていたという。
そのルパンも、死んだ。
(夜神月に殺された……?)
協力する素振りを見せながら信用を得、油断したところを殺害。
それはLがかつて経験した事であり、桐山が数時間前に行った事だ。
月が具体的にどのように行動していたのか知らなくても、想像してしまう。
ルパンに限らず、月によって多くの人が死に至らしめられたのではないか。
Lの行動が、遅過ぎたが為に。
守れるはずだった命を、取り零してしまったのではないか。
キラの死によって死の連鎖が断ち切られたとしても、失われたものは戻らない。
「Lさん、大丈夫ですか……?」
「……ええ、行きましょう」
みなみに促されてLは思考を中断する。
宿敵と言える相手の死に、自身の無力さに、思うところはある。
しかし今、それに囚われている時間はない。
放送で知らされた通り、道に等間隔に配置された街頭が次々と灯る。
オレンジ色の陽光と白色の電光が混ざる中、三人は歩き出した。
▽
霊安室からロビーに移動する途中……なんつったっけ、あいつ。
そうだ、城戸ってヤツに話しかけられた。
劉鳳を殺した、ってよ。
説明は下手くそだし、なに言ってんのかさっぱりわからなかったぜ。
ま……あの野郎が分かりやすい死に方をしやがった、そんだけの話だろ。
「託された」、だってよ……どーせそんなこったろうと思ってたぜ。
目に浮かぶんだよ、あの野郎のスカした顔が。
劉鳳の代わりに城戸を殴る……なんて気にはならねぇし。
殺したって聞かされたって、どうしようとも思わなかった。
「そうかよ」って返して、それで終わりだ。
慣れちまったんだよ。
痛ぇのも、裏切りも、別れも。
――カズ君は悲しい、凄く悲しいよ!
――私泣くから、カズ君の分まで泣くから!
そう言ってくれたヤツももういねぇしよ。
桐山にムカついて、腹の中が煮えくり返って――そのどっかで、冷めきってやがる。
あいつが……あいつらが死んで、もういろんなもんがどうでもよくなっちまったみてぇだ。
前にあいつが連れてかれた時はまわりにあるもんを殴って、壊して、叫んでたってのによ。
金を出せば何でもやるアルター使い、カズマ……それがこのザマだ、なっさけねぇ。
支援
足が重てぇ。
腕が痛ぇ。
ソウジロウに斬られたせいだな……あー、痛ぇ。
痛ぇ痛ぇ……。
疲れちまって、ふらふらだ。
けどよ。
だからって、俺の生き方が変わるわけじゃねぇ。
今までとなにも変わらねぇ。
気に入らねぇ野郎を、どうでもいいからって放って置くわけがねぇ。
「……いつまで見てんだよ」
どっからかは知らねぇが、見られてる。
気持ち悪ぃ眼だ。
暫く待ってみるが、何も言ってこねぇ。
それでも『いる』のははっきり分かったぜ……俺に喧嘩を売ろうとしてるヤツが、な。
「そっちが来ねぇんなら、こっちからやらせて貰うぜ」
辺りのもんをアルター化させる。
いつもの拳。
いつもの羽根。
これで兄貴譲りの技はいつでも撃てる。
まわりを手当たり次第に殴りゃ、嫌でも出てくるだろ。
そうして腕を振りかぶって……止まる。
眼の端に、いつの間にか刀を持った桐山が立ってやがった。
「会いたかったぜ……桐山ぁ……!!」
すぐさま背中を見せて走り出したヤツを追って、走る。
「逃がすかよ!」
桐山が逃げ込んだ建物に向かって突き進む。
誘われてることぐらい俺だってわかる。
それでも――正面から、打ち砕く。
ドアが勝手に開こうとしたが、それを待たずに拳で叩き割ってこじ開けた。
「行くぜ……!」
そうして俺は、中へ乗り込んだ。
▽
桐山和雄はG−9での乱戦を終えてすぐ、積極的に参加者を殺していく道を選択した。
それは合理的な選択ではある。
桐山が殺し合いに乗った、その事を知っているのは警察署で生き残った岩崎みなみ、上田次郎、L、カズマ、城戸真司、翠星石、浅倉威の七人。
そして前回のプログラムで殺害した三村信史。
情報を広められた分を考えれば、十人以上に知られていると見ていいだろう。
生存者の二人に一人が桐山の危険人物と認識している事になり、集団に紛れ込むというこれまでの手法は容易ではない。
しかし桐山の決断は、合理的な思考に基づいていた訳ではない。
コイントスでスタンスを決定する。
最初に出会った参加者のスタンスを真似る。
生きるか死ぬか、殺すか殺されるか、その状況下でどう動くかを偶然に任せる。
桐山はそれが出来てしまう程度に、感情を持たない。
自発的な願望や固有の価値基準を持たない。
『自分』を持たない。
だから今回の桐山の選択は結果的に合理的だっただけで、実際にはただの気紛れに近かった。
今までは集団に紛れて動いてきた。
だから今度は積極的に殺す。
それだけだった。
そして最初の標的も、偶然発見した相手に定めた。
G−9の民家に身を隠しながら外を観察し、やがて通り掛かった少年――カズマ。
カズマは桐山にとって戦いやすい相手だ。
浅倉威との小競り合い。
瀬田宗次郎との戦闘。
目撃した二つの戦いで、カズマのおおよその手の内は知っている。
しかし同時に厄介なのは、カズマが桐山の知る参加者の中で最も強い部類に入る事だ。
更に、カズマは由詑かなみに執着している。
その目の前でかなみを殺したのだから、今頃憎悪で身を焦がしている事だろう。
今のカズマには桐山しか見えていない。
桐山が他の参加者と戦っている最中に乱入される可能性がある。
桐山は周囲に他の参加者がいない事を確認した上で、カズマの尾行を開始する。
夢想正宗を納めた鞘を左手で支え、右手で柄を握る。
奇襲の機会を窺うが、状況はすぐには動かなかった。
何せ、縮地は奇襲には向かない。
縮地は確かに『速い』ものの、決して『静か』ではないからだ。
踏み出す足は強く、地面を叩くどころか抉っていく。
常人なら音が届いた時には死んでいるので問題ないが、相手はカズマだ。
瀬田宗次郎の瞬天殺を破っている。
仇を求め、神経を尖らせている。
変身していない状態でカズマに勝てるかと問われれば、桐山とて確証はない。
タイミングを誤れば、殺し損ねるだけならまだしもカウンターを受ける可能性さえある。
その拳を一撃でも生身の体で受ければひとたまりもない。
手負いとは言え危険性は高く見ておいた方がいい。
元より慢心と縁のない桐山は、更に警戒を強めた。
「……いつまで見てんだよ」
カズマが口を開いた。
はったりの可能性もある――桐山は動かない。
時間だけが過ぎていくが、先に痺れを切らしたのはカズマの方だった。
「そっちが来ねぇんなら、こっちからやらせて貰うぜ」
カズマの周囲の物体が抉れる。
カズマの右腕が金の装甲に覆われ、背中に赤い三枚の羽根が現れた。
それを振りかぶり、すぐ横の民家の壁を殴り付けようとした――そこで桐山は、カズマの前に出る。
殴ってからでも良かったが、これも気紛れだ。
カズマの方から打って出ようと言うのなら、付き合うのも悪くはない。
「会いたかったぜ……桐山ぁ……!!」
ただし正面から戦うつもりはない。
制限時間のあるカードデッキをすぐに使うつもりもない。
姿を見せた上で、カズマに背を向けて走り出した。
G−9での戦いの後に見繕っておいた、自身が優位に立てる地形へ誘導する。
そこは大型ドラッグストアだった。
特に変わった物が置いてあるわけでも罠が仕掛けてあるわけでもない。
ただ二メートル程の間隔で商品棚が十列並んでいるだけの、普通の店だ。
支援
桐山は店内の中央に位置する棚と棚の間の通路を駆け、カズマがそれを追う。
「衝撃のファーストブリットぉおおおおおおおおおおおッ!!!!!」
カズマの背の羽根のうちの一枚が消失し、爆発的な推進力をもって突っ込んでくる。
風が巻き起こり、左右の棚が道を開くようにしてぐらりと倒れ掛かる。
カズマが通路の中程に達するのを振り返って視認した桐山は、刀を鞘に収めたまま跳躍した。
「なッ……」
驚きの声を上げたのはカズマだ。
初撃が空振りに終わったせい、だけではない。
カズマの目に桐山の姿は映らず、周りの物体に次々と刻まれる足跡だけが見えているはずだ。
縮地の真価はこうした狭く足場の充実した場所でこそ発揮される。
桐山はそれによって、傾いた両脇の棚を蹴りながら天井まで上がった。
更に天井を蹴って隣の通路へ移動。
そして倒れてくる棚を一際強く蹴り、反対方向――カズマがいる方へ向かって倒す。
「うっとうしいマネしやがって……撃滅の、セカンドブリットオオォオオ――――!!!」
倒れて来る棚にカズマの拳が命中し、弾けるように飛ばされて桐山が立っていた通路を押し潰した。
それでも勢いは止まらず、次の棚へ、次の棚へと衝突を繰り返す。
同時にカズマの背の羽根から巻き起こった爆風で、反対側の棚も将棋倒しになっていく。
全ての棚が吹き飛び倒れる轟音。
店内の左右の壁が棚の残骸に埋まり、拓けた中央にカズマが一人残された。
しかし桐山もまた健在である。
天井を足場にして駆け抜ける事で棚同士の間に挟まるのを逃れ、床へと着地した。
「ちょこまか逃げてんじゃねーよ、抹殺の――」
カズマの背の最後の羽根が消失する。
桐山に向けて拳を振り上げ、叫ぶ。
「ラストブリットォォオオォオオオオオオオオオオオオ!!!!」
カズマ自身が回転する勢いをも乗せたその拳圧だけで、最初の二撃で亀裂の入っていた床と天井の一部が崩れた。
しかし桐山はやはり刀を抜く事なく、縮地によって回避する。
カズマの拳は空を切り、桐山はそのまま距離を取った。
羽根を全て失ったカズマは息を整えながら桐山を睨む。
ギラギラとした獣のような瞳を見ても、桐山は何も感じない。
「かなみ……ソウセイセキ、おっさん、それにソウジロウ。
全員てめーが殺ったんだな」
「そうだ」
「弱ぇヤツばっか殺しやがって……気分はどうだよ」
「特に何も」
「……気に入らねぇ」
カズマが拳を握り、高く掲げる。
「冷めた目で、こっち見てんじゃねぇ……!!!」
床が抉れ、カズマの右腕が消えた。
代わって光と共に橙と朱の腕が生成され、カズマは閉じていた右目を開く。
背中の一枚の大きな羽根が回転してカズマの体を浮かせ、風が辺りの粉塵を巻き上げる。
「許せねぇんだよ、てめぇみてーなヤツが――――ッ!!!!!」
カズマが激昂し、桐山に向かって突進する。
対する桐山は横への縮地でそれを躱し、カズマの拳は床に叩き付けられた。
火薬が炸裂したかのような衝撃が床を走る。
破壊の波が拳の振り抜かれた方向へ押し寄せ、天井も壁も構わず突き崩した。
店の一角が砕け、暗くなり始めた空が見えた。
「……やる気ねぇのか」
支援
未だにカードデッキを出す気配を見せず、刀すら抜かない。
そんな桐山に対し、カズマは歯を軋ませて怒りを露わにした。
だがどれ程にカズマが叫んでも、桐山には何も届かない。
負傷し疲労したカズマの攻撃を確実に避け、少しずつ弱らせていくだけだ。
優勝する為に今後も戦い続けなければならない現状で、正面からカズマと殴り合わなければならない理由はない。
「チビどもを殺しても何も感じねぇ、俺とまともに戦う気もねぇ、やってるこたぁソウジロウの猿真似。
……てめーの中身はどこにあるってんだ」
カズマが挑発じみた文言を並べようと、桐山は眉一つ動かさない。
「意地を見せてみろっつってんだよ、男の子ならよぉッ!!!」
桐山の中身は既に、失われて久しい。
「おぉおらああぁぁぁああああああああああああああああッ!!!!!!!」
羽根が更に回転の速度を上げ、風を生む。
そしてカズマ自身も回転しながら、桐山に向かって突っ込んだ。
「!!?」
カズマが息を飲む音が聴こえた。
カズマが拳を振り抜くよりも早く桐山が動き、拳の向かう前に桐山がいないと気付いたからだろう。
どんな威力の攻撃も当たらなければ無意味だ。
初速から最高の速さを発揮するその足運びで瞬く間にカズマの間合いを侵略。
拳の勢いを止められずに無防備を晒したカズマの背後に回る。
そして桐山はこの戦いで初めて、刀を抜いた。
「ぐぁあッ……」
カズマの背に一閃の傷が刻まれて血が零れる。
カズマは桐山に触れる事すら出来ないまま崩れ落ちた。
▽
「起きてよカズくん」
声がする。
「とっとと起きろよ、カーズマくーん」
懐かしい声が響いてくる。
「ほら、行きましょカズマ」
目を開ければすぐそこにいるような、とても近い場所から聴こえる。
「おら、いつまで寝てんだカーズヤぁ」
目を開ければ、今ではもう手に入らないはずの景色が――
カズマは目を見開く。
これは夢だと、ただの夢だと知っている。
ドシン、と拳を地面に押し当て、体を支える。
床を砕く勢いで出されたその拳で、倒れかけていたカズマは踏み止まった。
意識を失ったのは一瞬。
それが痛みや失血によってではなく、夢想正宗が持つ「相手を睡眠状態にする」という効果によって起きた事を、カズマは知らない。
制限によって弱まっていた効果がカズマの意思で破られた。
たったそれだけの事に、カズマは頓着しない。
ただ桐山を殴る為に前を睨む。
カズマが一度も桐山を殴らないまま、終わるはずがない。
「オラァッ!!!」
二撃目を見舞おうとしていた桐山に、カズマは拳を横薙ぎに振るう。
桐山は後方に向かって跳んでそれを避け、距離を取った。
「調子くれてんじゃねーよ……今のだってソウジロウの真似だろ」
肩で息をし、失くさないようにと左腕に結び付けていたかなみのリボンを揺らす。
血が足りない、体力が残っていない。
しかし足も腕も、まだ動く。
「本気でかかって来いよ……正面からぶっ飛ばされるのが怖ぇのか!!?」
カズマの言葉に、桐山は黙ったままだった。
答えの代わりにデッキを取り出し、刀身にそれを翳す。
「へっ、やっとその気になったかよ」
桐山が腰に出現したバックルにデッキを挿入し、変身する。
無表情な顔は黒い仮面に隠された。
桐山は夢想正宗を鞘に収め、カズマと向かい合う。
変身した桐山と相対しながら、カズマは気付いていた。
あの宿敵とは違う。
心底気に入らなかった、にも関わらず共闘するとなると頼もしく思えた、名を刻み合った相手。
劉鳳との戦いの中で感じた高揚感はここにはない。
桐山が変身したのも、単にカズマの攻撃が生身の肉体には一撃必殺に成り得るからだろう。
ただの保険としての変身。
カズマの宿敵である劉鳳がカズマの力に呼応して、共鳴するように絶影の真価を発揮させたのとは別なのだ。
胸を熱くさせる興奮はなく、ただただ虚しいだけだった。
これは喧嘩ではなく殺し合いだ。
それをカズマは改めて思い知った。
桐山が刀の収まった鞘を右手に持ち、左手でデッキからカードを抜く。
そして、右腕に装着した召喚器にカードを通した。
――ACCEL VENT――
女性の機械音声がカズマの耳に届いた時には、桐山の姿は消えていた。
高速移動を可能にするアクセルベントと縮地が組み合わさり、その姿はカズマの目には映らない。
カズマが如何に速さを武器とする相手との戦闘に慣れていようと、宗次郎の縮地よりも更に速い。
高速化した桐山が鞘を再び左手に持ち替え、カズマの間合いに踏み込むと共に抜刀する。
瞬天殺。
カズマの首に熱が走り、血が噴き出す。
「っつぅ!!」
それでも首を飛ばされずに済んだのは、カズマが反射的に振り上げた拳で刃を弾いたからだ。
刀身が中程で折れる。
しかし桐山は即座に両手で振っていた柄を捨て、折れた刀身を右手で掴み取った。
更にアクセルベントの速度を保ったまま一度距離を取り、正面からカズマの胸を狙う。
「う、ぉおおおお!!!」
カズマが拳を振るう。
桐山は刀身を持たない左手でカズマの右腕を払った。
カズマの拳は最小限の動きと力で受け流され、軌道が逸れてしまう。
そして桐山が切っ先をカズマの心臓に向けるが、カズマは左腕で胸を庇っていた。
読んでいたと言うより、夢想正宗を折った一撃と同様の本能的な防御。
宗次郎が刺突によって一度狙われた箇所だからこそ、反応が間に合った。
桐山は防御を避けて切っ先を逸らし、カズマの腹に刀身を突き立てる。
支援
「が……ッ」
刀は貫通し、カズマが血を吐いた。
全身から力が抜けて体が傾く。
しかし腹から刀を抜こうとした桐山の手首を、掴む。
「逃がす、かよ……」
カズマの右手が、桐山の刀を握る手に食い込んだ。
使っていなかった左腕がかなみのリボンごと消失し、地面が抉れ、代わりに右腕と同じ装甲に包まれた腕が出現する。
「これで、やっと……てめーを殴れるってもんだ……」
桐山が空いた手でカズマの顔面を殴る。
額が割れて血を流し、それでも怯まずに桐山の拳を押し返した。
「効かねーよ……てめーの軽い拳なんざ……!!」
カズマが左の拳を握り、後方に向かって腕を弓のように引き絞る。
次の一撃の為の力を籠める。
かなみの遺した品をアルター化させた左の拳。
更に強く握り締め、狙いを定める。
桐山が繰り返し殴ろうと、カズマは一歩も退きはしない。
――かなみ、もしお前に何かあれば駆け付ける。
――世界中のどこからでもお前を助けに行く。
そう強く思っていた。
それなのに守れなかった、まだ幼かった少女への思いを拳に乗せる。
――負けないで、夢の中の貴方……私の貴方。
――貴方の決意が鈍ると、私も負けてしまいそうになります。
――だから負けないで下さい。
――私の貴方……負けないで!!
分かっている。
かなみの叫ぶような思いは、確かに胸に届いていた。
負けるわけねーだろと、独りごちる。
「行くぜ一発目――これが……」
かなみが復讐を、他人が傷付く事を望むはずがない。
けれどそれ以上に、かなみがカズマが負ける姿を望むはずがない。
ならばカズマは今まで通り、気に入らない相手を全力で殴るだけだ。
「かなみの分だぁああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ああアアアアアアアアアアアアッ!!!!」
桐山が振るおうとしていた左腕さえ弾き、弾丸のように突き進んだ拳が顔面を殴り抜く。
桐山の仮面に亀裂が走り、よろめいた。
それでもカズマは休む事なく左の拳を引いて振りかぶり、再び殴る。
腕で防御されても、カズマは防御ごと殴る。
蒼星石の分、右京の分、宗次郎の分――初めこそ殴った回数を数えていたが、そのうちにやめた。
「オラオラオラオラァアアアアアアアアアアアアっ!!!!!」
岩をも容易く砕く拳の連撃が桐山に降り掛かる。
途中から桐山の手を離し、両手で殴る。
既にアクセルベントの効果が切れた桐山に、反撃の隙を与えない。
桐山の装甲全体に罅が入っていく。
カズマの息が切れて勢いが弱まると、桐山は防ぐ事をやめて反撃に移った。
夢想正宗の刺さった腹を穿つ一撃――しかしそこに、あるはずの刀身はない。
刀身は分解されて消失し、カズマの胴体を覆う装甲と化していた。
周囲の地面も、カズマが背負っていたデイパックも、次々に消えて行く。
装甲が脚を包み、羽根が尾のように長くたなびき、赤い髪が無造作に伸びる。
眼と口を除く顔までも装甲に覆われた、シェルブリットの最終形態。
しえんぬ
「俺の自慢の拳……てめーの度肝を抜いてやるよ!!」
カズマの拳が振るわれるよりも早く、桐山は跳び退きながら一枚のカードをデッキから抜いた。
カズマはそれを止めようとしない。
桐山を正面から潰す為に、敢えてその動きを見逃した。
――SWORD VENT――
桐山が剣を振るう。
横薙ぎに襲い来る刃を、カズマは拳で受け止めた。
超振動波で相手を切り裂くはずの剣であっても、カズマの拳を切断する事は叶わない。
逆に刃に亀裂が走る。
桐山が一歩退いて剣の崩壊を防ぎ、代わりにカズマが前進した。
「おおおおおぉぉおぉ!!!!」
カズマが連打する拳は剣で受け流されるが、剣の亀裂は広がる一方。
桐山が縮地でカズマの背中を取って斬り掛っても、装甲は突破出来ない。
再び正面から振るわれた斬撃を、カズマは両拳で白刃取りをするようにして受け止めた。
カズマがそのまま力を加えると刀身が折れる。
残った柄も砕け散り、カズマは丸腰になった桐山の腹に拳を打ち込んだ。
殴られた勢いで桐山は地面に叩き付けられたが、平然と起き上がる様子からダメージは見て取れない。
しかし桐山は大きく後方に向かって跳んだ。
逃げようとしているのかと訝しむ、それ程の距離になってから桐山がカードをもう一枚抜く。
「……それがてめーの奥の手か」
それまでと空気が変わったのを感じ取り、カズマも跳びすさる。
「何が来ようと、正面からぶち抜く……俺の自慢の拳で!!!」
――FINAL VENT――
召還機から女性の機械音声が漏れると、コオロギ型のモンスターが変形する。
二輪の乗り物に姿を変え、桐山が乗り込むとスピンを始めた。
カズマもそれを迎え撃つ為に走り出し、跳ぶ。
上空へ逃れて桐山の攻撃を避ける事も出来たが、カズマはそれをしない。
両の拳を前へと突き出す。
回転しながら進む桐山に、カズマが突進していく。
その勢いは、さながら隕石の如く。
「きぃいいりいいいやまああぁあああああああああああああッ!!!!!」
両者の衝突の瞬間、辺りの景色は一変した。
支援
地殻変動が起きたかのような振動が大地に広がった。
ドラッグストアの面影は既に残っていない。
付近の家屋も巻き込まれ、爆風に煽られて倒壊して崩れ去った。
瓦礫さえ残らず吹き飛ばされて更地となったその中心地に、桐山和雄は立っていた。
あちこちの骨が折れ、流血し、それでもまだ動ける。
衝突の瞬間、桐山はサイコローダーから飛び降りたのだ。
サイコローダーは粉々に砕かれ、ブランク体となったオルタナティブ・ゼロは地面に叩き付けられた。
更に衝撃の煽りを受け、デッキが壊れ、デイパックも消滅した。
変身が解けて生身の状態で地面を転がり――それでも生きている。
最小限の怪我で済んだ。
もし正面からまともにカズマとぶつかり合っていれば、桐山の命はなかったかも知れない。
「楽しいのかよ」
低く唸るような声が桐山の耳に届く。
そちらを向けば、カズマがいた。
しかしぼろぼろと装甲が崩れて消え、血塗れの少年の姿が露わになる。
サイコローダーを破ったものの自らの攻撃の反動の大きさに耐え切れず、アルターが維持出来なくなったようだ。
カズマは足を引きずりながら、桐山に向かって歩み出す。
「そうやって、上手くズルく生きてよ……!!」
勝ち残る為に勝負から降りた。
それは逃げと同じだ。
桐山はその事を誤魔化すつもりはない。
恥じるべき事だとも思わない。
だがカズマにとってはそうではなく、歯ぎしりしながら桐山を睨み付けている。
コンクリートの剥がされた剥き出しの地面に血の跡を残しながら、歩いてくる。
そして桐山の眼前、一メートルもない地点で止まった。
「……まさか、これで勝ったと思っちゃいねぇよな……?」
その問いに、桐山は沈黙をもって答えとする。
数秒の無音が二人の間を通り過ぎ、やがて互いに拳を振り上げた。
「ッらぁああああああ!!!!!」
カズマが雄叫びを上げる。
どちらも全ての支給品を無くした丸腰の状態で、最後に残った自らの武器を相手に叩き付けにいく。
腕が折れていようと、腹に穴が空いていようと、関係なく戦い続ける。
カズマが桐山の髪を掴み、投げ飛ばす。
地面を転がった桐山はすぐに体勢を立て直し、追い打ちを掛けようとしていたカズマの腹に蹴りを入れた。
血を吐いて呻くも、カズマは桐山から目を離さない。
更に踏み込み、桐山の額に頭突きを食らわせる。
桐山の体がぐらついたところで、顔面に拳を叩き込んだ。
しかし桐山は倒れながらカズマの腕を捕らえ、引きずり込むようにして共に地面に倒れる。
起き上がろうとする相手を互いに地面に押し付け、泥で全身を汚した。
「こんな、もんで……今の俺を、どうにか出来ると思うな……っ!」
カズマが手首から先にアルターを纏わせて拳を握る。
桐山は左腕でその拳を受け止めるが、骨が砕けてひしゃげた。
それでもなお勢いは殺されず、桐山は地面を削りながら数メートル押し退けられた。
障害を遠ざけたカズマが立ち上がる。
倒れた桐山に最後の一撃を叩き込むべく足を前へ押し出す。
踏み出した足は、地面に着くと同時に崩折れる。
カズマは前のめりに倒れ、代わりに桐山がゆっくりと立ち上がった。
支援
支援
支援
支援
支援
支援
支援
万全の体勢で臨み、序盤にペースを作った桐山。
初めから宗次郎との戦いで負った傷と疲労を引きずっていたカズマ。
その二人の差は、互いの命を削った最後の肉弾戦の中で明確に表れてしまった。
▽
ああ、チクショウ。
あとちょっとだってのによ。
足は動かねぇ、腕も動かねぇ。
指で地面をかきむしって、それでも体が持ち上がらねぇ。
目がかすんじまって桐山の顔もはっきり見えやしねぇ。
くそ、あの野郎まだ動いてやがる。
こっちに、来てやがる。
動けよ……こいつさえぶっ飛ばせりゃ、後は何もいらねぇ……!
何もいらねぇんだよ……!!
地面にはいつくばって、泥まみれになって。
いくら拳に力をこめても、届か――
「カズマさん」
あぁ……?
……誰だったっけな、こいつら。
桐山と俺の間に、一人。
俺のまわりに、二人。
えーと……思い出せねぇな。
何つったっけな……頭がボーっとして、よけい思い出せねぇ。
誰でもいい……邪魔すんじゃねぇ……!!
「私が届かせます」
「ざけんな……そいつは、俺が……ッ!!!」
起き上がろうとしてもがいてた手を、となりにいた女に掴まれる。
ボヤけてて顔が見えねぇ……――あぁ、みなみか。
止めんなよ。
あと一発、殴るだけだ。
そんだけなんだよ。
「私にやらせて下さい。
お願いします」
猫背で、妙に落ち着いててムカつく……あーそうだ、Lだ。
てめーに言われて、退くわけねーだろ……!!
そいつはかなみを、殺しやがったんだぞ……!!!
「カズマさん、やめて……動かないで」
だから止めんなって――……お前、その血、どうしたんだよ。
手にケガでもしたのかよ、誰にやられたんだ。
……ああ。
俺の血か。
よく見りゃ俺のまわり、どこもかしこも血だらけじゃねぇか。
何もいらねぇ、っつっても……もう、何もねぇんだな。
「……くそ」
支援
支援
支援
支援
ここに来て、いろんなやつに会って。
そいつらのこと全部振り切って、かなみの事を探し回って。
かなみが死んでからだって、他のこたぁほったらかし。
それで……しまいにゃこれかよ。
生き急いでばっかで、なんも掴めなかったじゃねーか。
ほんと俺、甲斐性なしのろくでなしだ。
人間のクズだ。
「しょうがねぇ、よなぁ……俺は、そんな生き方しか知らねぇんだからよ」
「カズマさん。
それでも……私はあなたを尊敬しています」
「……へっ」
えらそーな事言いやがって。
桐山の前に立つぐれーには、ちったぁマシな覚悟が出来たのかも知れねぇけどよ。
……立とうとすんのは、やめだ。
疲れた。
眠ぃ。
代わりに俺は腕を振り上げる。
アルターもなくなった、それでも自慢の拳。
それを握ってLに向ける。
「おまえらに、譲ってやるよ……今回だけな……」
やるからには、しくじるんじゃねーぞ。
このシェルブリットのカズマの邪魔するからにはよ!
「その野郎を、一発ぶん殴れ……!!」
【カズマ@スクライド 死亡】
▽
放送を聞いた後、L達三人はカズマを探していた。
翠星石と真司なら互いに支え合える。
しかし一人で桐山を探しに行ったカズマには、もう支えがない。
一般人三人ではカズマの戦いの役に立たなくても、彼を諫める事は出来る。
光太郎を失った三人に、警察署に留まるという選択肢はなかった。
カズマと合流して、正面から話をする。
今度こそ理解し合って、それから翠星石と真司を探す。
そうして順に共に戦う仲間を集め直し、最後は主催者V.V.を打倒して脱出へ。
死んでいった者達の為にも、Lにはそれを果たす責務がある。
土煙と共に倒壊する建物が目印となって、カズマがいる方角はすぐに分かった。
辿り着いて目に入ったのは桐山と、倒れ伏すカズマ。
間に合ったとは言えない。
それでもLは自分の役目を果たす為に、桐山の前に立ち塞がる。
「……分かってますよ、カズマさん」
銃を両手で支え、桐山の額に向けて構える。
殺し合いが始まった時点で、夜神月を殺す覚悟は出来ていた。
支援
この場で桐山を殺す事も、躊躇しない。
殺人への躊躇と忌避感こそが杉下右京を殺したのだから。
桐山の左腕や頬骨は折れ、不自然な方向に曲がっていた。
顔や右腕からは血が絶え間なく滴る。
普通の人間なら痛みでショック死していてもおかしくない怪我だが、桐山はまだ戦おうとしている。
武器を持っていない満身創痍の姿だが、まるで油断出来なかった。
何が彼をそこまで駆り立てるのか、Lには分からない。
はっきりしているのは、ここで終わらせなければ更に犠牲者が出るという事だけだ。
桐山は僅かに体重を前に移動させる。
その動きに反応したLは即座に発砲したが、当たらなかった。
桐山が消えた。
(縮地……!?)
知識としては頭に入っていたものの、実際に戦う羽目になるのは初めてだった。
桐山の姿を視認出来ないまま、Lは膝を曲げてしゃがむ。
突き刺すように鋭く繰り出された桐山の指が、Lの喉元があった場所を通過する。
桐山はデイパックを持たずに蒼星石を殺害した時、鉛筆で喉を刺していた。
武器がない状態なら一撃で仕留めに来る可能性が高い、というLの読み通りだった。
Lはしゃがんだ状態で、銃を片手に握ったまま地に両手を着けた。
逆立ちの要領で両足を振り上げ、両手で体重を支えながら桐山に蹴りを入れる。
その一撃は桐山の腕に防がれるが、これで終わりではない。
「すみませんカズマさん、ぶん殴れません――ですが」
地に両手を着けたまま腕を捻って全身を回転させ、自由の利くもう一方の足で桐山の首を蹴り抜いた。
「一発は一発です」
骨の折れる感触が、足裏から伝わってくる。
人を殺す感覚。
蹴られた勢いのまま倒れる桐山を見ながら、Lはその不快感を噛み締めた。
▽
必死の呼び掛けも空しく、カズマは息を引き取った。
泣き伏せるみなみを横目に、上田はLと桐山の攻防を見ていた。
目で追う事も出来ない一瞬のうちに決着した戦い。
上田が知るだけでも五人もの参加者を屠ってきた桐山が崩れ落ちる。
流石Lさん、私が見込んだだけの事は、と賞賛しようとして、上田は動きを止めた。
「上田さん、みなみさん、カズマさんは――」
支援
支援
支援
支援
カズマの容態を確かめようとして立ち上がり、振り返ったLに対して上田が叫ぶ。
「Lさんっ!!」
上田の視線の先にあるのはLではなく、Lの向こうの――
Lはハッとして逸れてしまった注意を戻す。
そこでは首の骨が折れ曲がった状態で、桐山が立ち上がっていた。
仮面ライダーに変身していない。
パラサイトでもフレイムヘイズでもアルター使いでもない生身の人間、ただの中学生。
その桐山が、首を真横に傾けたままLの方を見ていた。
桐山の姿が上田の視界から消え、次の瞬間にはLの傍らにいた。
上田が桐山を視認したのと、Lが吹き飛ばされたのは同時。
僅かに遅れて「Lが蹴られた」と理解出来た。
桐山がLに向かって歩き出す。
それを見て、上田は思わず身を乗り出してしまった。
「よ、よさないか!!」
自分で自分の出した声に驚く。
やめておけば良かった、と後悔しても遅い。
桐山の視線は上田に向けられていた。
「き、き、き君は何故、こここんな事をっ、」
全身がガタガタと震え、声が上手く出て来ない。
真横に傾いた視線が怖い。
血塗れの姿とプレッシャーが怖い。
逃げだそうにも膝が笑っていた。
視界の端でLが立ち上がろうとしているが、表情は苦悶に満ち、脇腹を押さえたまま動けずにいる。
人類の英知の結晶である私もこれまでかと泣き出しそうになった時、上田の横を風が通り過ぎた。
「え」と声を出した時には、女神の剣を手にしたみなみが桐山に立ち向かっていた。
「み、みなみちゃ」
桐山がみなみの剣を避け、代わりに手をみなみの首に向ける。
夕陽に反射し、上田は桐山が金属片を持っているのに気付いた。
Lに倒された際、地面に刺さっていたのを拾っていたのだろう。
過たず頸動脈の上を通った金属片は みなみの薄い皮膚を容易く切り裂いて血を撒き散らす。
目の前に広がる光景に気絶しそうになった。
Lも何か叫んでいるが、上田には聞こえなかった。
みなみは血を流しながらも倒れなかった。
剣を地面に突き刺してそれを支えにする、弱々しく肩を上下させるみなみに更に桐山の手が伸びる。
だが、桐山の手刃は届かない。
桐山の背後からLが羽交い締めにし、歩を阻んでいる。
みなみが地面から剣を抜き、力任せに振るった。
何の技術も持たない、しかし女神の剣の効果で底上げされた身体能力による斬撃。
その剣は桐山の腹を斬り裂いた。
Lが拘束を解くと、桐山が血を吐いて仰向けに倒れ込む。
数秒遅れてみなみがその場にしゃがみ込み、上田は震える足で駆け寄ろうとした。
その上田の手に、背後から何かがベタリと触れた。
▽
支援
私は、何の為に生き残ってるんだろう。
ずっとそれで悩んでいて……光太郎さんを、死なせた。
殺してしまった。
光太郎さんは私を責めなかった……Lさんも上田さんも、誰も責めなかった。
だから頑張ろうと思えた。
……でも。
何を頑張ればいいのかは、分からないままだった。
――皆で頑張れば、きっとこの戦いを乗り越えられる。
私は何を、頑張ればいいんだろう……?
放送を聞いてからもずっと、考えてた。
上田さんが桐山君を呼び止めたのを見て、私は剣を握って走り出した。
戦うのは怖いし、また人を傷付けるのも怖かった。
でもLさんや上田さんが殺されるのは、もっと怖い。
首を切られて、熱い。
痛くて、力が抜けそうになる。
だけど私は力任せに剣を振って、……桐山君を……。
桐山君、ごめん。
痛かったよね、死にたくなかったよね……もしかしたら叶えたい夢があったのかも、知れない。
私は……恨まれてもいい。
桐山君を傷付けた事に、後悔してない。
Lさんと上田さんを守れて……Lさんが、人殺しにならずに済んだから……。
自己満足だって、分かってる。
でもLさんが桐山君を殺さなくて良かった。
だってLさんは、世界一の名探偵だから。
誰かが桐山君を殺さないと、他の誰かが死んでしまうなら……誰かが桐山君を殺さないといけないなら……私が。
光太郎さんを殺した私が……やらなきゃいけない事だったんだって。
カズマさんが「お前ら」って……私にも、託してくれたんだから。
しゃがみ込んで、辺りが暗くなってきた。
名前を何度も呼ばれるけど、水の底にいるみたいに声が遠い。
光太郎さんを殺した私は、幸せにはなれない。
忘れていいって、幸せになって欲しいって、光太郎さんは言ってくれたけど……。
忘れるなんて、無理。
死んでも、ゆたかや光太郎さんと同じ所には行かれない。
二度とゆたかや先輩達には会えない。
Lさんにも上田さんにも、会えない。
だけど――そう思える人達に会えた私は、幸せだった。
Lさんならきっと、この殺し合いを打ち破れる。
ここから出て、これからもたくさんの人を助ける。
それを、信じられた。
「Lさんなら……きっと……」
目を閉じようとして、頬に温かいものが当たった。
すぐにそれが何か、分かった。
(チェリー……?)
チェリーが舐めてくる。
どうしてここに、なんて思うより先に――嬉しかった。
夢でも良かった。
すり寄られて、チェリーの匂いがする。
チェリーがいる、日常の香り。
先輩達がいて、ゆたかがいる日常。
支援
帰りたかった、戻って欲しくて返して欲しくて、どうしようもなくなるような平和な日々。
それを一瞬だけ、もう一度味わえた。
それはとても、贅沢な夢。
【岩崎みなみ@らき☆すた 死亡】
▽
桐山は虚ろな目で空を見ていた。
しかし何も感じない。
カズマとみなみを殺した高揚感や達成感も、優勝を逃した事への悔しさも、二度目の死への感慨も、何もない。
全身を包む痛みと呼ぶ事すら微温い痛みであっても、桐山の心は揺らされない。
「……」
二度目のバトルロワイアルにあっても何の感情も得ないまま、桐山和雄は再びその生涯を閉じた。
【桐山和雄@漫画版バトルロワイアル 死亡】
▽
上田の背後に現れたのは、全身に酷い火傷を負った大型のシベリアンハスキーだった。
北の山火事に巻き込まれたか、誰かに襲われたのかは定かではない。
Lはみなみに初めて会った段階で、制服に付着していた犬の体毛から彼女が犬を飼っていると気付いていた。
その体毛と一致する品種――この犬がそうなのだろう。
何故かこの会場に連れて来られ、飼い主であるみなみを探していた。
そして、力尽きた。
今はみなみの横で安らかに眠っている。
「Lさん、怪我は……」
「肋が折れました。
……いえ。
そんな事はどうでもいいです」
カズマと桐山。
そして犬に寄り添われて眠るみなみ。
横たわる者達から、Lは目を逸らす。
「どうでもいい……」
――私が興味があるのは、正義だけですから。
美空ナオミと共に捜査をした時、そう言った。
正義以外どうでもいいとは言わないが、優先順位は低い。
悪はどんなものでも許せないとは言わないが、優先順位は低い。
正義では救えない人達もたくさんいる。
悪で救われる人達もたくさんいる。
しかし、それでもなお。
正義は他の何よりも、力を持っている。
正義は他の何よりも、優しさを持っている。
支援
そう信じてきた。
そう信じて戦い続け、命を落とした事さえある。
そうした生き方を、光太郎の死を前に固めた決意さえもあざ笑うように、人の命が消えていく。
ほんの数時間前に光太郎に託されたものすら守れない。
最後までLを信じ続けた光太郎は、最期の時までみなみの幸福を願っていたのに。
誰一人、守れなかった。
「Lさん」
「……どうしました、上田さん」
呆然と佇むLに対し、上田が話しにくそうにまごつきながら言う。
「その、私としては……皆を、運びたい。
霊安室とまではいかないが、屋内に」
「……桐山もですか」
確認すると上田はますます言葉をどもらせた。
「それは……」だの「その……」だの、幾つも関係ない音を並べた上で、彼は改めてLに向き合った。
そして彼の言葉に、Lは丸い目を更に丸くする。
「私は……沙都子ちゃんも亀山君も、瑞穂君も、……置き去りにしてしまった」
上田は臆病で、怖がりで、根性なしだ。
だからこそ出会った人々が次々と命を落としていく事に、無感情でいられるような図太さを持ち合わせていない。
自分の命の方が大事だから逃げるというだけで、人の死に対して敏感なのだ。
それはLが信じていた、正義が持つ優しさに通じている。
優しさを内包する正義だけでは救えない人々がいる――知っていたし、この場でも思い知った。
だがそれは正義が無力である事の証明にはならない。
これまでずっと、正義を信じて事件を解決してきた。
多くの人間を救ってきた。
今更正義の存在意義を疑ったところで、救える人間の数は増えはしない。
みなみの死を突き付けられて忘れそうになっていた――鈍くなっていた。
桐山とて人間であり、ここで皆と同じく殺し合いに加えられて命を落とした。
悪であろうと被害者だ。
他を弔い桐山を野晒しにする事は、人として許されない。
その選択をしてしまえば、Lは今度こそ「人の気持ちが分からない人間」になってしまう。
正義を信じながら、正義が持つ優しさから外れようとしていた。
「……そうですね、上田さん。貴方は正しい。
桐山和雄の遺体も、どこかに運び込みましょう。
しかし――」
こうして突っ立っていては誰に襲われるか分からない。
しかも残る参加者はたったの二十一人。
急ぐ理由は幾らでもある。
それでも、足が前に進まない。
「すみません、もう少しだけ……」
死刑囚を囮に使い、死なせた事がある。
様々な形で人の死に関わってきた。
しかしこの数時間で失った、自ら死なせた人々の事を想う。
蒼星石。こなた。右京。かなみ。光太郎。カズマ。みなみ。桐山。
正義で救えなかった人々の存在が、枷となって足を重くする。
「もう少しだけ、このまま……」
空を見上げる。
澄み渡った青は見る影もなく、橙すらも僅かとなって濃い藍色が空に広がる。
夜の帳が下りていく。
暗い闇色がやがて空の全てを侵食するのを、Lは為す術なく見ている事しか出来なかった。
支援
【一日目 夜/G−9】
【L@デスノート(漫画)】
[装備]ゼロの剣@コードギアス
[支給品]支給品一式×4(水と食事を一つずつ消費)、ニンテンドーDS型詳細名簿、アズュール@灼眼のシャナ、ゼロの仮面@コードギアス、
角砂糖@デスノート、確認済み支給品0〜2、情報が記されたメモ、S&W M10(5/6)、S&W M10の弾薬(18/24)@バトル・ロワイアル、
首輪(魅音)、シアン化カリウム@バトルロワイアル、イングラムM10(0/32)@バトルロワイアル、おはぎ×3@ひぐらしのなく頃に
[状態]肋骨折、疲労(中)
[思考・行動]
1:協力者を集めてこの殺し合いを止め、V.V.を逮捕する。
2:大量の死者を出してしまったことに対する深い罪悪感。
【上田次郎@TRICK(実写)】
[装備]無し
[支給品]支給品一式×4(水を一本紛失)、富竹のポラロイド@ひぐらしのなく頃に、デスノート(偽物)@DEATH NOTE、不明支給品0〜1
ベレッタM92F(10/15)@バトルロワイアル(小説)、予備マガジン3本(45発)、雛見沢症候群治療薬C120@ひぐらしのなく頃に、
情報が記されたメモ、浅倉のデイパックから散乱した確認済み支給品1〜3、瑞穂の不明支給品0〜1
[状態]額部に軽い裂傷(処置済み)、全身打撲
[思考・行動]
1:Lに協力する。
2:カズマ達の遺体を弔う。
※東條が一度死んだことを信用していません。
※桐山とカズマのデイパックは消滅しました。
※みなみのデイパック、女神の剣@ヴィオラートのアトリエは付近に放置されています。
※チェリー@らき☆すたは死亡しました。
投下終了です。御支援ありがとうございます。
誤字脱字、問題点等ございましたら御指摘戴ければ幸いです。
支援
投下乙です!
桐山強え……みなみとカズマが落ちて、対主催は更なる打撃か
…………影月も後藤もまだ健在なんですけど…………
投下乙です!
とうとうカズマまで逝ったか…。このままじゃ主催に攻め込む前に有力対主催がマーダーとの相打ちで全滅しそうなんですけど…
ぶっちゃけここの書き手対主催に勝たす気ないでしょ?
うわあ、うわああ、うわああ!
カズマがあ! みなみがああ!
けど死んだ奴らだけじゃなくて遺された奴らも悲しい
Lがすげえ哀愁さそうし、桐山さえも弔いたいと思う上田の優しさに泣いた
677 :
創る名無しに見る名無し:2012/09/20(木) 09:23:15.45 ID:LQfK+IOu
投下乙
あかんなー、Lさん絶不調すぎる
桐山を打倒したとはいえダメージでかい・・・
上田先生が疫病神じみているなー
ついでに濡れ衣着せられた月君カワイソス
誤字、
>>636でなんかよその人が混じってます
カズヤのことなら誤字じゃないからね
そしてageるなw
>>678 台詞のでなんか変な連想して間違えたんだ、すまない
投稿後に下げ入れ忘れも気づいたんだけど、自重しちゃった
投下乙です!
おう……放送明け早々にカズマとみなみと桐山の三人が……
熱い死に様だったが寂しい死に様もであった……Lは空回りとまでは行かないが上手く立ち回れなくて悔み気味なのが悲しい
しかし有力な対主催がどんどん減っていく
対主催に勝ち目無いとか、上田先生舐めんな!
投下乙です。
カズマ安定の相討ち、って最終形態で影月連れて行くんじゃないのかよ! どうすんだよこれ!?
光太郎がせっかく命を引換に説得したのにみなみまで……何てこったい
一発は一発でカズマとの約束を半分果たしたL、できることを頑張って、桐山のことも思いやるみなみ
そして同じく、桐山の死さえ悼む上田……放送明けから気分が重いや……
……ただ一点だけ気になるんですが、首の骨が折れた後も普通に戦闘続行、というのはいくら桐山でも人体的に無理がある気がします。
首折りって即死のイメージですし、もし即死でなくとも精髄がやられるわけですからさすがに動けないような……
桐山やべぇ、と強烈に感じる一方で、やっぱりどうしても引っかかってしまうので、個人的には首の骨折はなし、という展開の方が望ましいかと思いました。
書き手氏乙です!
みなみ死亡かよ…一般人によるマーダー殺害という快挙だが切ない
シャドームーンからすれば光太郎も死んだ上
優先して殺すべき相手のかなみもみなみも死んでいるという…
全員で首輪攻撃か禁止エリアに誘導なら倒せるかと思ってたが倒せる気がしねえ
乙でした、放送明けから壮絶な戦いが起きたな……
有力対主催死にすぎて泣きそうだけど、そ、それでも上田先生がいれば(震え声)
御感想ありがとうございます。
>>682 御指摘ありがとうございます。
一応こちらでも気に掛けていた部分ですので修正させて戴きます。
Lの蹴りは首ではなく腹に命中した事にし、その近辺の描写を変更します。
Wikiにて修正が終わり次第、本スレにて御報告致します。
修正致しました。御確認戴ければ幸いです。
予約キター!今月更新ペースが早いな!
投下乙!
カズマアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァッ!!!!
後編のサブタイの時点で既に嫌な予感はしてたけど……やっぱりか
でも頑張ったよ、デッキ破壊まで追い込んだのは凄い
ところどころで宗次郎の名前が出てきたり、かなみや右京の分までしっかり殴ったってのはホントにカズマらしい
スカッとした
そしてみなみんも逝ったか……
最期にチェリーが頬を舐めたシーンで泣いた、動物で責めてくるのは卑怯だろ
対主催最強のてつをとキルスコアトップの桐山を殺すとか、みなみんの大物喰らいっぷりが凄い
マーダー四天王の一人がようやく落ちたか……
最期の描写がちょっとしかなかったけど、それが逆に桐山らしい
特に目的があったわけでもないし、ホントにこいつ何なんだよ
一本目から激戦乙でした!
そしてダブル予約キター!
何気にカズマに弱者扱いされてるな宗次郎w
カズマとの喧嘩で弱ってた後を狙ってたしそういうことじゃないの?
代理投下をします
三度目となる死者を告げる放送が終わり、彼らに訪れたのは静寂だった。
アイゼル・ワイマール、石川五ェ門、園崎詩音。
彼らの死は既に知っていたが、それを改めて突き付けられる痛みは大きい。
それに加えてこなたの名を呼ばれたつかさの動揺は特に大きく、呆然としたように虚空を眺めていた。
「ふぅ……」
湿った雰囲気の中、深呼吸を始める北岡。
そうして心を落ち着かせ、真っ先に抱いたのはV.V.への嫌悪感だった。
バトルロワイアルが中盤になれば、自ずと参加者同士の関係も深まってくる。
実際にそうなっているし、過去の自分がそうだった。
このような場所に放り込まれなければ、五ェ門やつかさと知り合うことはなかっただろう。
だが、これは殺し合いだ。
どれだけ拒否しても、命を落とす者は出てくる。
そうして仲間を失った時、残された者が抱くのは悲しみだ。
つかさや、ジェレミアや、レナや、そして北岡自身が抱いてるのと同じように。
もしV.V.がそこまで考えていたとしたら、今まで出会ってきた人間の中でも最悪と断言できるだろう。
「よいしょっと」
だからこそ、立ち上がらなければならない。
「何処へ行く?」
「決まってるじゃない、浅倉を倒しにだよ」
不意に立ち上がった北岡に問うたのはジェレミア。
アイゼルの死を悲しんでいたように見えたが、さすがに切り替えは早いようだ。
「なら、私も同行しよう、あやつには私も因縁が――――」
「悪いけど、お断りさせてもらうよ」
当然のように同行しようとするジェレミアを、北岡はたった一言で一蹴する。
「どういう了見だ、北岡」
「どういう了見も何も、とてもじゃないけど今のアンタを連れてくわけにはいかないよ」
「浅倉威はルルーシュ様の仇、貴様も知っているだろう
だから私の忠義に賭けて、あの男を討たなければならない!」
乱暴に立ち上がり、語気を荒げながら捲し立てるジェレミア。
奥の方でつかさとレナが怯えているのが見える。
しかし北岡はそれを意に介することなく、まるで暴れる子供を見るかのように溜め息を吐いた。
「はぁ、おたくさ、今の自分がどんな状態か分かってる?」
「なに……?」
「誰がどう見ても分かる、アンタはボロボロだ」
北岡に指摘され、ジェレミアはゆっくりと自分の身体を見回す。
高貴さを醸し出していた衣服は今や見る影もなく、ところどころに血が滲んでいる。
両腕に装備されていた長剣は折れ、生身の右半身は回復していても生々しい傷跡が散見していた。
だが、一番酷いのは顔だ。
主に先立たれ、仲間を失い、生き残ってしまった男。
おそらくは残された忠義だけを糧にして、彼は立ち続けているのだろう。
彼自身は決して見ることはできないが、その表情は今にも消えてしまいそうな程に憔悴しきっていた。
「だが、私はルルーシュ様の仇を――――ぐぅっ……!」
北岡に掴みかかろうとするが、その前にジェレミアは膝を屈してしまう。
「そんなんじゃハッキリ言って足手まといなのよ」
「なん……だとぉ!」
「ジェレミアさん!」
必死で立ち上がろうとするが、ジェレミアの身体は持ち上がらない。
ここに来て、連戦による疲労が現れたのだ。
やがて近寄ってきたつかさとレナに竦められ、ジェレミアはその場に蹲る。
しかしその双眸は、訴えかけるように北岡を見続けていた。
「俺なりに少し考えてみたんだけどさ」
「……?」
ジェレミアが蹲ってから一分が経った頃か、唐突に北岡が言葉を紡ぎ出す。
「多分だけどさ、アンタのギアスキャンセラーはこの殺し合いを抜け出す鍵になる
つまりアンタは脱出の鍵になるかもしれないんだ、だからここで無駄死にさせる訳にはいかない」
V.V.はギアスに関わりのある人間で、人々を誘拐するのにもギアスが用いられている。
その唯一の対抗策がギアスキャンセラーであるなら、何が何でも守り抜かなければならない。
「それにさ、あいつがライダーになったのは実は俺に原因があるんだ」
連続殺人犯である浅倉の弁護士が選ばれる際、自分が売名目的で立候補した。
あらゆる手段を尽くして、死刑になるはずだった彼を懲役十年まで減刑させた。
それだけでも勲章ものだと思っていたが、無罪にできなかった自分を彼は逆恨みした。
そして獄中で神崎士郎に見込まれ、浅倉は仮面ライダーの一人となった。
もし自分が弁護していなかったら、とっくの昔に死刑が執行されていたかもしれない。
されていなかったとしても、自分を経由して神崎士郎が目をつけることはなかっただろう。
「だからさ、ルルーシュが死んだのも、つかさちゃんがあんなことしちゃったのも、元を辿れば俺に原因があるんだ」
「そんなことないです! そんな……そんなの滅茶苦茶です!」
真っ先に否定したのはつかさだった。
殺人者という重い枷を背負わされたにも関わらず、だ。
「確かに滅茶苦茶なこと言ってるかもしれない、でも俺に全く責任が無いわけでもないんだ」
「それは……でも……」
「だからさ、俺に責任を取らせてよ」
頼み込むように言葉を紡いでいく北岡。
しどろもどろになるつかさだが、やがて観念したように口を結んだ。
「浅倉との決着はつけて、必ず帰ってくる」
ジェレミアの目を見据えながら、凛とした声で北岡は宣言する。
「だから、こっちは任せてほしい」
北岡がそう言うと、ジェレミアは血塗れの右腕を見ながら逡巡し始める。
そうして数十秒が経過した後、深い溜め息を吐きながら。
「分かった」
と、一言だけ告げた。
「本当は男を守るみたいでちょっと気に入らないんだけどね」
「開口一番にそれか、口の減らない男だ」
今度は呆れたように溜め息を吐くと、自身のデイパックからいくつかの支給品を取り出す。
「役に立つかは分からんが持っていけ」
それらを強引に押し付けると、ジェレミアはサッと背中を向けてしまう。
不器用なその背中に苦笑を浮かべつつ、北岡は受け取った品々をデイパックに仕舞いこむ。
「あの、北岡さん」
そんな北岡に、今度はつかさが話し掛けてくる。
「あの……えっと……」
「……どうしたのよ?」
訝しげに彼女の表情を伺うと、居た堪れなくなったのか目を逸らしてしまう。
それでもしつこく追い続けると、不意に顔を近づけてきた。
「わ、私も連れてってください!」
とてつもなく大きな声で、訳の分からないことを言い放った。
「つかさちゃん……さっきの話聞いてた?」
「聞いてましたけど……」
「足手まといは連れて行きたくないって言ったよね?」
王蛇のデッキは複数のモンスターとの契約で強力に仕上がっている上、浅倉自身にも類稀な戦闘センスがある。
とてもではないが、足手まといを連れていては勝つことのできない相手だ。
「でも……」
言葉に詰まっているが、譲る気はない様子である。
基本的に物腰柔らかいつかさだが、こういうところでは頑固なのだ。
常識で考えれば、彼女を連れて行く選択肢は有り得ない。
しかし、考慮すべき点が無いわけでもない。
自分が出ていってしまったら、ジェレミア一人にレナとつかさを押し付けることになる。
彼自身も疲弊しているため、危険人物の襲撃で全滅も有り得なくはない。
(それに、万が一――――)
「あの!」
二人の間に割って入ってきたのはレナだった。
その手には、妙に柄の長い竹箒が握られている。
「これ、持ってってください」
「はぁ? 何でこんなボロ臭いホウキを……」
「この箒は、空飛ぶホウキなんです」
何を馬鹿なことを言ってるのよ。
そう言おうとして、北岡は言葉を呑み込む。
常識を越えた技術や道具が存在するこの世界ならば、空飛ぶホウキが存在していたとしても不思議ではない。
「この箒なら歩くよりも速いですから、その浅倉って人のところに早く着けるはずです」
「そうなんだ……でもそれに三十の男が跨るのはなぁ……」
いくら便利とはいえ、三十路を迎えた男が箒に跨って空を飛ぶ姿は見苦しい。
桃井令子にでも見られたら、一生相手にされなくなるだろう。
「じゃあ柊さんに乗せてもらえばいいんじゃないですか?」
わざとらしく微笑みながら、レナはつかさの方を見た。
「え、わ、私が……!?」
「大丈夫です、初めての私でもすぐに運転できましたから」
押し付けるように箒を差し出すレナ。
「ちょっ、待ってよ! そうするくらいなら俺が運転するよ!」
「それは止めた方がいいかな。この箒、運転はとっても簡単だけど、結構体力使うんです
北岡さんって弁護士でしたよね? あんまり体力あるようには見えないけどなぁ……」
閉口するしかなかった。
体力不足であることは北岡本人も自覚している。
箒を使用しないということも考えたが、これだけ便利な道具を使わない理由はない。
浅倉が移動している可能性もあるし、行き帰りの時間を短縮できるのは非常に大きいだろう。
しかし体力を消費した状態で勝てるほど、浅倉は簡単な相手ではない。
「つかさちゃん」
「は、はい!」
「つかさちゃんは、どうして付いて来たいの?」
質問を投げた後、訪れたのは数秒の静寂。
つかさは辺りを見渡し、覚悟を決めたように北岡の目をすっと見据える。
「私……こっちに来てから何度もあの人に会ってるんです」
山小屋で一回、下山中に二回、病院で一回。
浅倉とは合計で四度も巡り合い、その度に様々な物を奪われていた。
「もし決着を着けるなら、私も見届けたいんです
足手まといには絶対になりません、この箒で北岡さんをちゃんと送り届けます
だから、私も連れて行ってください」
頭を下げるつかさ。
その仕草には可愛らしさが残っているものの、同時に清涼感のある張り詰めた気迫があった。
最初に出会った時の、ただ泣いていた少女とは違う。
様々な人の遺志を継ぎ、自らの為すべきことを見出した戦士の姿がそこにはあった。
「分かった、むしろこっちからもお願いするよ、俺をあいつのところまで送り届けて欲しい」
「はい!」
凛とした顔から一転、つかさはこれ以上にないほど顔を綻ばせる。
余程嬉しかったのだろう。
これから浅倉と戦いに行くというのに、気が付いたら北岡も笑っていた。
「ジェレミアさん」
「……なんだ」
身体を反転させ、ソファーに腰掛けていたジェレミアの方を向くつかさ。
その手には、赤い液体の入った透明の容器が二つ握られていた。
「予備のリフュールポットです、持っててください」
つかさがそれらを差し出すと、ジェレミアは無言で受け取る。
そして、たった一言だけ言葉を返した。
「行ってこい」
「……行ってきます」
再び身体を返し、つかさは北岡の方へと向き直る。
その表情は、やはり覚悟を決めた戦士のものだった。
「じゃあ、行ってくるよ」
目の前の扉を開け、北岡とつかさは一歩踏み出した。
☆ ☆ ☆
(思ってたよりも、ずっと便利かな)
空中から地上を見下ろしながら、北岡は思考に耽っていた。
最初は拒否感があったものの、いざ乗ってみるとこれほど便利なものはない。
歩いて行くよりもずっと速く、さらに他の人物と接触することもない。
乗り心地も悪くないため、初めての空中旅行はそれなりに快適なものだった。
しかし、女子高生に背後から抱きつく格好を取らざるをえないのはあまりにも情けない。
振り落とされないためには仕方がないのだが、三十路の男がそれをしている犯罪寸前だろう。
「あの、北岡さん……」
北岡の悩みを他所に、前にいるつかさが話し掛けてくる。
背中を向けているため、表情を伺うことは叶わない。
だが、寂しげな声であった。
「どうしたの?」
「はい、その……ロロさんのことなんですけど……」
ロロ・ランペルージ。
病院で一悶着あったことは、情報交換の際に聞いている。
だが、結末までは聞いていない。
ロロがアイゼルを爆殺した後、逃亡したところで話は終わっていた。
「やっぱり、ジェレミアさんが……ロロさんを……」
そこまで言って、つかさは言い淀む。
その先の言葉を想像するのは、あまりにも容易かった。
「……多分そうだと思うよ、ジェレミアがロロを”殺した”」
独白のように、北岡は呟く。
言い終わった瞬間、怯えるようにつかさが震えた。
支援
支援
目の前にある背中がビクッと硬直する。
それでも怖気づくことなく、北岡は言葉を続けた。
「あいつを生かしておくことで多くの命が奪われる、だから俺が責任をもって殺すんだ」
沈黙が訪れる。
覚悟していたことではあったが、やはり居心地が悪い。
しかし、これだけは絶対に言っておかなければならなかった。
浅倉を生きていることで、他の誰かの命が奪われる。
だから、誰かが殺さなければならない。
その役目を請け負うのは、かつてあの男を野放しにした自分である。
「つかさちゃん、お願いがあるんだ」
「……なんですか?」
「浅倉の近くに来たら、つかさちゃんは遠くに逃げてほしい」
「え、でも……」
「ずっと遠くに逃げろってわけじゃないよ、あいつに見つからないように俺たちの戦いを見ていてほしいんだ
そしてもし俺が負けたら、すぐに逃げてジェレミア達にそれを知らせてほしい」
あからさまに動揺するつかさ。
これこそが北岡が想定した万が一の際、彼女に頼みたいことだった。
「俺だって負けるつもりはないよ、
でもあいつは強い、だから万が一の可能性も考えなきゃいけない」
自分が敗れた場合、浅倉は再び野放しになってしまう。
それを阻止するためには、誰かが自分たちの戦闘を見届けてそれを伝える必要があった。
「やってくれるね?」
しばらく待つが、つかさからの返事はない。
顔を上げると、そこには数時間前に詩音と戦った教会の跡地が見えた。
あれから狭間がどうしたのか気になるが、空から確認するのは反則だろう。
それにあそこには、五ェ門の遺体がある。
「この辺でいいよ」
そう言うと、つかさはゆっくりと下降していく。
先程のやり取りが尾を引いているのか、やはり彼女が口を開くことはない。
「ありがとね」
「……はい」
箒から降りる北岡。
地面を踏み締める感触を得て、やはり空よりも陸の方が性に合っていると思った。
「さてと、それじゃああいつを探しますか――――ッ!?」
ふと横を見ると、玄関扉が開いたままの民家が目に映った。
民家自体は珍しくないが、玄関扉が開きっぱなしの民家というのは有り得ない。
中に人が居ますよ、と告げているようなものだ。
襲撃者を気にしていないのか、それとも誘っているのか。
目を凝らしてみると、扉には蹴破ったような跡がある。
そして、廊下には泥と煤でできた足跡があった。
「……つかさちゃん逃げて、多分あいつはこの家にいる」
不思議と確信が持てた。
狭間から借りた探知機の情報とも矛盾はなく、今までずっと動き続けていたのならそろそろ休息が必要になるだろう。
スーツのポケットに手を入れ、その中にあるゾルダのデッキを強く握る。
「……」
無言のまま立ち去っていくつかさ。
酷なことを言った自覚はあるが、これは必要な覚悟だ。
彼女の姿が見えなくなるまで待ち、目の前の民家に足を踏み入れる。
泥と煤でできた足跡は、民家の奥にある部屋まで伸びている。
雰囲気から察するに、どうやら台所のようだ。
「……やっぱりお前か」
これは偶然なのか、はたまた運命なのか。
半開きになっていた扉を開けると、そこはまるで生活感のない部屋だった。
純白のテーブルクロスが掛けられた大きな食卓に、汚れが一切見当たらない冷蔵庫やキッチン。
その光景を例えるならば、見学会を開いている新居のようである。
だが、それを塗り潰すように泥と煤でできた足跡が乱れていた。
床にはいくつもの卵の殻が散乱し、大きなジョッキが転がっている。
そして、その中心に一人の男がいた。
蛇柄のジャケットを直接着込み、ボサボサの金髪を提げた男が。
元の世界で何度も殺し合い、この地でも二度の戦闘を行った男が。
「ハハッ……まさかとは思ったが、やはり貴様か」
浅倉威だ。
直前まで寝転がっていたのか、浅倉は硬いフローリングの床に座り込んでいる。
だが、その双眼は肉食動物のようにギラギラと輝いていた。
「会いたかったぜぇ、北岡」
「できることなら、俺は会いたくなかったよ」
喉を鳴らす浅倉に対し、嫌味を叩き付ける北岡。
だが浅倉は意に介さぬといった様子で、けたけたと笑い続けている。
「どうした、戦いに来たのか」
気怠そうに起き上がり、ギロッと傍に設置されている窓を睨み付ける。
一切使用感のないその窓は、まるで鏡のように彼らの姿を映し出していた。
「ああ、そうだよ」
そう言い放ち、北岡はゾルダのデッキを取り出す。
「……お前」
「なんていうかさ、お前との付き合いも長かったよな」
最初の出会いは、浅倉を弁護するために赴いた拘置所の中。
その後も何度か裁判のために顔を合わせたが、この男とは生涯分かり合えないと悟った。
やがて弁護人を降りたが、次に出会う日はそう遠くなかった。
カードデッキを手にした浅倉は、恨み辛みを掲げながら自分の前に立ちはだかったのだ。
それから幾度となく鏡の向こうで戦ったが、一度としてその決着が着いたことはない。
支援
支援
支援
支援
支援
支援
しえんぬ
支援
「いや、長過ぎたんだ」
独白のように語りかける北岡。
浅倉の顔から、既に笑みは失せている。
「終わりにしよう」
窓に向けて、デッキを掲げる北岡。
すると鏡に映った自分の腰回りにVバックルが出現し、合わせるように現実世界の自分にもVバックルが巻かれる。
「クク……ハハハハハハハハハハハハッ!」
変身の構えを取る北岡を見て、浅倉は心底愉快であると言いたげに高笑いをする。
「やってみろ」
そして、突き刺すように懐からデッキを取り出して掲げた。
「「変身!!」」
二つの声が交差する。
デッキがバックルの窪みに差し込まれ、鏡が割れるような音とともに二人の姿が光に包まれる。
次の瞬間、二人の戦士が対峙していた。
仮面ライダーゾルダと仮面ライダー王蛇。
弁護士と殺人鬼。
何処か似ているようで、根本的に異なる二人。
彼らの最終決戦が、今始まる。
「フンッ!」
最初に動いたのは北岡だった。
馴れた手つきで腰のマグナバイザーを抜き、浅倉に銃口を向ける。
王蛇の最大のアドバンテージは、複数の契約から生み出される膨大な数のカード。
長期戦に持ち込まれた場合、確実に手札の差が現れる。
故に初手に選ぶ一手は、カードを装填させない程の猛攻。
ここでゾルダのアドバンテージが役に立つ。
このデッキはナイトやタイガのように、バイザー自体を武器として運用することができる。
つまり王蛇よりも一手早く動くことができるのだ。
「チィッ!」
ベノバイザーを振り回し、発射された弾丸を防ぐ浅倉。
だが、マグナバイザーは一分間で百二十発もの弾丸を放出する。
決定打には成り得ないが、無視できるダメージでもない。
狭い屋内では自由に逃げ回ることもできず、地の利はこちらにあった。
万が一突破された際の予備として、ギガランチャーのカードを用意してある。
完璧とはいえないが、それなりの上策を用意したつもりだった。
「ッ!?」
だが、その思惑はすぐに崩される。
北岡の視界を、白い巨大な布が埋め尽くしたのだ。
一瞬混乱するが、すぐに正体がテーブルクロスであると気付く。
浅倉が投げ付けたのだろうが、気付いた時にはテーブルクロスは北岡の身体に覆い被さっていた。
(まずい!)
これでは照準をつけることができず、浅倉の妨害ができない。
テーブルクロスを退けるよりも、カードの装填の方が早いだろう。
それを防ぐため、北岡は目の前にあった食卓を蹴り上げる。
だが、手応えがなかった。
重いものを蹴り上げたかのように、ピクリとも動かなかったのだ。
「ッ!」
テーブルクロスを剥ぎ取り、ようやくその理由を理解する。
ベノサーベルを構えた浅倉が、食卓の上に陣取っていたのだ。
「アアァァッ!!」
横薙ぎに繰り出された斬撃が、北岡の脇腹を直撃する。
斬ることよりも殴ることに特化したその一撃に、北岡は踏み止まることができない。
窓を突き破り、たった一撃で外にまで放り出されてしまった。
「ガッ……!」
地面と激突し、短い悲鳴を漏らす北岡。
だが、マグナバイザーとカードだけは手放さなかった。
近づいてくる浅倉を見据えつつ、痛みの抜け切らない身体を立ち上げる。
そして、カードを装填した。
――――SHOOT VENT――――
マグナギガの両腕を模した巨大な一門砲が現れる。
両手でそれを支えながら、迫ってくる浅倉に砲口を向けた。
「……」
一方で浅倉はベノサーベルを放り捨て、一枚のカードを取り出す。
その行動を訝しむ北岡だが、今はギガランチャーを発射する以外の手はない。
外さないように標的を見据え、引き金を引いた。
――――STRIKE VENT――――
発射された砲弾は浅倉に命中し、一メートルほど後退させる。
だが、それだけだった。
浅倉の両腕に装着された巨大な篭手が、その衝撃をほとんど吸収していたのだ。
「何でお前がそれを……!?」
その篭手は見覚えのあるものだった。
肘まで覆い尽くすような銀色に、刃のように鋭利な五本の爪。
それはかつて東條が愛用していた武器――――デストクローだった。
「ああ、これか?」
「まさかお前があいつを……」
「さぁな、そんなことはどうでもいい、戦え!」
デストクローを振り上げ、浅倉は突進してくる。
その様相を例えるなら、さながら大口を開けた肉食獣のようだ。
支援
(……)
迫ってくる浅倉を冷静に見据えながら、両手に力を込める北岡。
近場まで肉薄した浅倉は、思い切り右腕を振り被った。
「ぐぅっ!?」
悲鳴が漏れる。
ただし、北岡ではなく浅倉のものだ。
呆然とした様子で、浅倉は脇腹の方に視線を移す。
そこにはギガランチャーの砲身が叩きこまれていた。
「動きが大振り過ぎる、そんなんじゃ甘いよ」
浅倉がデストクローを装備した時は面食らったが、見慣れてしまえば恐るるに足らない。
東條に比べて大振りであり、使い慣れていないのが一目瞭然であった。
呻きながら、たたらを踏む浅倉。
その腹に、ギガランチャーの砲口を合わせる。
「ぐおおおあああぁぁぁぁッ!!」
至近距離から砲撃を受け、堪らず浅倉は吹き飛ばされる。
地面に落ちても勢いは収まらず、先程の民家に激突したことでようやく停止した。
(二発目を……)
――――ADVENT――――
間髪入れずに二発目を狙おうとして、認証音に足を止める。
それと同時に、背後から風切り音が切り裂いた。
「キイイイィィィィィ――――ッ!」
エビルダイバーだった。
背後の民家にある窓から飛来し、目にも留まらぬ速度で体当たりを仕掛けてきたのだ。
重量のあるギガランチャーを持っているため初動が遅れ、それを避けることは適わない。
体当たりにより転倒し、ギガランチャーを手放してしまった。
「クハハハハハハハハハハッ!」
投げ捨てたベノサーベルを拾い上げ、エビルダイバーと共に浅倉は走り出す。
先程の傷など無かったかのように、その走り方に淀みはない。
マグナバイザーで銃撃するが、ベノサーベルに呆気なく叩き落されてしまう。
新たな武器を出現させようと手を伸ばすが、急発進してきたエビルダイバーに妨害されてしまった。
そして、目の前に現れる浅倉。
叩きつけられるベノサーベルを横に躱し、再びマグナバイザーを構えようとする。
だが、そこには既に浅倉の左脚が迫っていた。
「ぐっ……」
咄嗟に左腕で防ぐが、鈍い痛みが全身を駆け抜ける。
ベノサーベルの斬撃は囮で、本命は左脚による回し蹴りだったのだ。
蠢くように後退りながら、北岡は辛うじて距離を取り出す。
支援
――――FINAL VENT――――
エビルダイバーが金切り声を上げる。
北岡が後退している隙に、浅倉は追撃用のファイナルベントを発動したのだ。
本来は各ライダーに一枚しか存在しないものだが、王蛇はそれを複数所持している。
故にこうして積極的に使用することができるのだ。
「ハハハハッ! 向こうに着いたら絵葉書でも送ってくれよ!」
高らかに叫ぶ浅倉。
エビルダイバーのファイナルベント――――ハイドベノンの本来のAPは5000だ。
しかし、先の戦いで仮面ライダーシザースの契約モンスターであったボルキャンサーを吸収している。
ボルキャンサーは大量の人間を捕食して能力を上昇させており、それを吸収したエビルダイバーも当然その恩恵を得ることができる。
つまり今のエビルダイバーは、以前とは比べ物にならない程の力を得ているのだ。
「はぁっ!」
背後から急旋回してきたエビルダイバーに飛び乗り、浅倉は北岡の元へと向かう。
その速度は、一撃で北岡を葬り得るほどのものだった。
――――CONFINE VENT――――
「がっ!」
認証音が鳴り響き、忽然と姿を消すエビルダイバー。
その背に乗っていたため、浅倉は地面へと投げ出される。
エビルダイバーは超高速で突進していたため、浅倉の受ける衝撃は決して小さくない。
「助かったよ、ここはお礼を言っておくべきかな」
彼が使用したのはコンファインベントのカード。
コンファインベントは相手が使用したカードを無効化する効力を持つ。
これによりファイナルベントが無効化され、エビルダイバーは姿を消したのだ。
非常に強力なカードだが、本来のゾルダのデッキには含まれていない。
これはジェレミアから渡された一品であり、元々はアイゼルに支給されていた物だ。
――――SHOOT VENT――――
「悪いな」
間髪入れずにギガキャノンを装備する。
二つの砲門から繰り出される砲撃は、起き上がったばかりの浅倉を再び宙へと吹き飛ばした。
ギガランチャーと比べ、ギガキャノンは威力が高い。
二十メートル以上も放物線を描いた後、バスケットボールのように地面に叩きつけられた。
「俺はメール派なんだ、それに地獄の住所なんか知らないよ」
支援
両肩の砲門から煙が漏れる。
視線の先にあるのは、右手を支えに片膝を着く浅倉の姿。
その背中は今にも朽ち果てそうで、手足は小刻みに震えている。
いくら浅倉と言えども、二度で負傷しないわけがないのだ。
だが、とどめを刺しておくに越したことはない。
ギガキャノンは連射が効かないのが欠点ため、外した場合は大きな隙を生んでしまう。
だからこそ慎重に狙いをつけ、傷だらけのその背中を北岡は見据える。
――――ADVENT――――
その一手は間違いであった。
発射しようとした瞬間、背後から巨大な大蛇――――ベノスネーカーが大口を開けて襲いかかってきたのだ。
「やっぱりテメェは間抜けだ、底抜けのな」
何事もなかったかのように立ち上がる浅倉。
彼は瀕死になどなっておらず、芝居を打って北岡を騙したのだ。
重症を負った振りをしながら、右手でベノバイザーを召喚。
背中で死角を作り、左手でデッキからカードを抜く。
単純ではあるものの、瀕死と誤解している相手には効果的な一手。
確かにギガキャノンは直撃したが、浅倉にとって多少の傷みはもはや起爆剤にしかならない。
相手に痛みつけられることで、より深く殺意や執念を燃やすのだ。
「くっ……」
もし即座に二発目を発射していれば、この事態は無かったかもしれない。
千載一遇の好機を逃したことを痛感する。
身体を反転させ、ベノスネーカーを砲撃しようとする北岡。
だがその脚を切り裂くような痛みが襲い掛かり、北岡は倒れ込んでしまった。
前を見ると、浅倉の手には赤紫色の鞭・エビルウィップが握られている。
先程の一撃はそれによるものだと気付くが、その時にはもう遅い。
背後にいるベノスネーカーの口から、猛毒の溶解液を吐き掛けられていた。
「ああああぁぁぁぁぁッ!」
焼け付くような激痛に悲鳴が漏れる。
溶解液は両肩のギガキャノンは一瞬で溶解し、さらに北岡の背中にまで降りかかる。
背中を守る鎧は溶け、スーツ越しに肉体を焼いた。
――――ADVENT――――
咆哮が空気を震わす。
白銀の猛虎――――デストワイルダーが増援に呼び出されたのだ。
ベノスネーカー、デストワイルダー、そして浅倉自身。
三体の猛獣が、同時に北岡へと牙を向く。
激痛に堪えながらガードベントを発動し、ギガアーマーを装備して守勢に回る。
これで凌げるとは思わないが、何もないよりはずっとマシだろう。
真っ先に迫ってきたのは、デストワイルダーの豪腕。
肉厚の盾を掲げ、払うように押し退ける。
次の攻撃は、ベノスネーカーによる二発目の溶解液。
先程の威力を鑑みるに、ギガアーマーでも防ぐことはできない。
大きく右に飛び、毒液を回避する。
じゅわりと嫌な音が鳴り、数秒前までいた地面が抉れた。
支援
支援
「ッ!」
エビルウィップの先端が目前まで伸びている。
北岡の動きを予知していたかのような、そんな攻撃だ。
咄嗟にギガアーマーをかち上げ、上底でエビルウィップを弾く。
そうして安堵した一瞬、腹部から背中にかけて重い衝撃が駆け抜けた。
仮面の下で、大量の血液を吐く。
浅倉の回し蹴りが、守りの薄くなった腹部に突き刺さったのだ。
「おおおぉぉぉッ!」
持ち上げていたギガアーマーを、まだ引き戻していなかった浅倉の脚目掛けて力任せに叩き落す。
くぐもった悲鳴を上げ、僅かによろめく浅倉。
すかさずギガアーマーを押し出し、よろめく浅倉をさらに押し飛ばす。
「ハハハハハハハハハハハハハハハ!!」
だが、浅倉から出たのは笑い声だった。
呼応するように、背後に控えた二体のモンスターが雄叫びを上げる。
ベノスネーカーが突進を仕掛け、頭部の横にある刃でギガアーマーに亀裂を入れていく。
その影から現れたデストワイルダーが爪を差し込み、ついにギガアーマーは破壊されてしまった。
「この!」
腕を振り上げるデストワイルダーに、マグナバイザーの連射を叩き込む。
堪らず後退していくが、今度はベノスネーカーが襲い掛かろうとする。
だが、銃口を向けるとぴたりと停止した。
「ハァ……ハァ……」
均衡が訪れる。
一旦戦いが止まると、思い出すように全身が痛み出した。
全身を蝕んでいる激痛は、過去に経験したことがない程のものだ。
今までの自分なら退散を考えていただろう。
そんな自嘲気味の思考が、北岡の心中を渦巻く。
しかし、この戦いだけは何があっても逃げる訳にはいかない。
次元、デルフリンガー、五ェ門、蒼嶋、ジェレミア、アイゼル、レナ、つかさ。
多くの者たちの手助けを受け、今の自分はここに立っている。
それに浅倉を倒すと約束したのだ。
命を賭してデッキを取り返してくれた五ェ門と、戦いの場を譲ってくれたジェレミアと、この場所まで送ってくれたつかさと。
これで尻尾を撒いて逃げるようなら、二度と彼らに顔向けすることはできない。
「最高だ、お前がそこまで本気で戦ってくれるとはなぁ、嬉しいぜぇ!」
空を仰ぎながら、浅倉は笑い声を上げる。
受けた傷は決して小さくないのに、まるでそれを感じさせないほど溌剌としていた。
「そういえばお前と一緒にいたあの女……あのウザかった女だ」
「……つかさちゃんのことか?」
「そう、そいつだ」
「つかさちゃんがどうかしたのか?」
突然の独白に対し、北岡は訝しげに問う。
すると浅倉は、思い出したようにけたけたと笑い出した。
「あの女と同じ服を着た女を殺した、俺が殺した! ハハハハハハハハハハハハハハハ!!」
「つかさちゃんと同じ服を着た女……まさか!?」
一人だけ心当たりがあった。
先程の放送で名前を呼ばれたつかさの友人・泉こなた。
絶対的な確証があるわけではないが、可能性は高いだろう。
「俺を仲間だと勘違いして自分から殺されに来やがったんだ、心底愉快だったぜ……!」
下卑た笑いを浮かべながら、醜悪な言葉を口にする。
過去に腐るほど他者の悪事を耳にしてきたが、それでも燻るような不快感を覚えた。
――――ADVENT――――
デッキからカードを抜き、バイザーに装填する北岡。
すると浅倉の足下から轟音が鳴り響き、マグナギガが押し上がってくる。
それに巻き込まれないよう、二体のミラーモンスターと浅倉は後退していった。
「やっぱりお前は最低で最悪だよ」
目前にいる三体の敵に狙いを定め、両腕と両脚の兵器を起動するマグナギガ。
確かにマグナギガは非常に鈍足だが、決して動けないという訳ではない。
ファイナルベントを発動せずとも、自身の力のみで攻撃を行うことができるのだ。
――――FREEZE VENT――――
だが、その動きは不意に停止した。
「フンッ……だから甘いんだよ、お前」
まるで氷像のように微動だにしないマグナギガ。
北岡の手を読んでいたと言うかのように、仮面の下でせせら笑う浅倉。
フリーズベントは絶対零度の冷気を放ち、ミラーモンスターを瞬時に凍結させるカード。
凍結したモンスターは一切の行動を封じられ、格好の的になってしまう。
「行け! 奴を食い殺せ!」
目の前に餌をぶら下げられ、二体のミラーモンスターは唸り声を上げる。
いくらマグナギガの装甲が硬くても、無抵抗のままではすぐに食い殺されてしまうだろう。
「なんだこれは……!?」
――――無抵抗のままではの話だが。
北岡とマグナギガの周辺が白煙に包まれる。
フリーズベントが発動された瞬間、北岡はジェレミアから受け取った煙玉を投げたのだ。
「何をしている……行け」
狼狽するモンスター達に、底冷えするような低い声で命令する浅倉。
一瞬だけ戸惑うような素振りを見せるが、意を決したのか突入を開始するモンスター達。
「ギャアアアアァァァッ!!」
白煙の中から砲撃が発射される。。
二体のモンスターはその砲撃を全身に浴び、堪らず退散した。
「どういう……ことだぁ!?」
目の前で起きた光景が理解できずに地団駄を踏む浅倉。
そんな彼を嘲笑うかのように、白煙が引いて砲口から煙を噴くマグナギガが姿を現した。
「やっぱりフリーズベントか、読んでたよ」
浅倉がデストワイルダーと契約したことを知った時、真っ先に警戒したのはフリーズベントだった。
過去の戦いで東條にこれを使われ、窮地に陥ったことがある。
浅倉を倒すにはファイナルベントが必須であり、それを封じるフリーズベントの攻略は避け切れない課題だった。
そうして思考を巡らせていた際、唐突に浅倉が挑発を始める。
狡猾な浅倉のことだから必ずこの行動にも意味があると考え、辿り着いた答えがマグナギガの召喚だ。
既に二枚のシュートベントは消費し、残された飛び道具はマグナギガを介する物しかない。
浅倉の狙いが自分にマグナギガを召喚させ、フリーズベントを発動することだと気付いたのだ。
「生憎だけど、同じ手は二度も通用しない」
だから、逆にそれを利用してやることにした。
北岡の所持品の中には、味方の状態異常を回復する茶色の小瓶があったのだ。
元々は五ェ門の支給品であったが、密かに回収しておいたのである。
煙玉で隙を作り、茶色の小瓶でマグナギガの凍結を回復。
そして、油断している連中に砲撃を行う。
綱渡りな面があったのも否定はできないが、不思議と上手くいく自信はあった。
「北岡あああああああああああああああああああああああああッ!!!!」
ミラーモンスターのように咆哮を上げる浅倉。
手に持ったエビルウィップを、力任せに投げつける。
――――FINAL VENT――――
北岡がそれを躱すと同時に、ファイナルベントの発動を告げる電子音が鳴り響く。
真横に設置されたカーブミラーから出現するデストワイルダー。
豪腕を振り上げ、北岡に飛び掛る。
背後に飛んで避けようとするが、それよりもデストワイルダーの爪が腹部に突き刺さる方が速い。
力任せに北岡を押し倒し、そのままデストクローを構える王蛇の下へと引き摺り出す。
激痛が突き抜けるが、北岡は同時に安堵していた。
デストクローの時もそうだったが、浅倉はまだこの技を使い慣れていない。
うつ伏せに引き摺られていれば詰みだったが、今の自分は仰向けに引き摺られている。
つまり前回と同様、マグナバイザーでこの場を抜け出すことができる。
「グウゥッ!」
腹部に銃撃を受け、デストワイルダーは転倒する。
素早く立ち上がった北岡は、全速力でその場を離れた。
――――FINAL VENT――――
三度目の認証音。
両腕を広げて助走をつける浅倉と、併せるように背後を這うベノスネーカー。
何人ものライダーを葬った必殺技――――ベノクラッシュだ。
身体を仰け反らせるベノスネーカーに併せ、勢いよく跳び上がる浅倉。
そのまま宙返りを行い、ベノスネーカーが毒液を発射する。
それで加速をつけた浅倉は、地上にいる北岡へと飛び掛った。
支援
(間に合った!)
全速力で逃げたものの、やはりファイナルベントには敵わない。
ベノクラッシュの落下点は、確実に今の自分がいる場所だ。
だからこそ、この場所に逃げたのである。
北岡が立っている場所は、最初に攻防を行った民家の前。
エビルダイバーの突進を受け、ギガランチャーを落としてしまった場所。
落ちていたギガランチャーを拾い上げ、盾のように掲げる。
砲撃できるのが最善だったが、それには間に合いそうにもなかった。
「ぐぅっ!」
ギガランチャー越しに襲い掛かる衝撃。
たった一発の蹴りだというのに、ダンプカーと衝突したと錯覚するような威力だ。
踏み止まろうとする北岡を、嘲笑うかのように押し戻していく。
盾代わりに利用したギガランチャーに、いくつもの亀裂が入っているのが見えた。
「ハハハハハハハハハハッ!」
二発目の蹴りが襲う。
強引に押し戻されたことで身体の軸が逸れ、足腰に力が入らなくなる。
ギガランチャーの亀裂は幾重にも重なり、次の瞬間には崩壊しそうなほどだ。
「死ね!」
三発目の蹴りでついに決壊した。
バランスを崩した北岡は大きく仰け反り、ギガランチャーは音を立てて崩れ落ちる。
次の蹴りが入れば、死は免れないだろう。
だが――――
「なに……ぐあああぁぁぁ!」
中に入っていた砲弾が暴発した。
爆炎と爆風が周辺を覆い、北岡と浅倉は同時に吹き飛ばされる。
ギガランチャーは広範囲攻撃に特化しているため、二人が吹き飛ばされる距離も小さくない。
互いに地面を転がりながら、悠に五十メートルは超える間合いを作り上げた。
――――FINAL VENT――――
立ち上がると同時にカードを装填する北岡。
爆発による激痛が身体を苛むが、ファイナルベントの直撃に比べれば大したことはない。
再び彼の前に姿を現すマグナギガ。
五十メートル以上もの距離があり、今の浅倉には隙がある。
エンド・オブ・ワールドを放つのに、これ以上の好機は無いだろう。
両腕を掲げながら、膝、胸、額と各所にある砲門を開いていくマグナギガ。
後はその背中にマグナバイザーを装填すれば全てが終わり――――
――――UNITE VENT――――
背後で悲鳴のような奇声が鳴り響いた。
振り返ると、そこに居たのは北岡の倍以上の大きさを持つ化け物。
王蛇と契約する三体のモンスターを分解し、歪に組み替えたような怪物。
融合のカードで生誕する最強の下僕。
獣帝・ジェノサイダーだ。
支援
「ぐあぁ……ッ!」
ジェノサイダーは口内に液体を溜めながら、鎌首をもたげる。
回避を試みようとするが、それはもう間に合わない。
ジェノサイダーの口からエネルギー波が発射され、北岡の身体に降りかかる。
エネルギー波は瞬時に爆発し、北岡の身体は地面に叩き付けられた。
――――FINAL VENT――――
「クハハハハハハハハハッ! これで終わりだ!」
走りながらベノバイザーの蓋を閉じ、四枚目のファイナルベントを発動させる浅倉。
背後にいたジェノサイダーの腹部が脈動し、大口を開くかのように巨大な穴が出現する。
その穴は小型のブラックホールであり、一度吸い込まれたら二度と戻ってくることはできない。
ジェノサイダーのファイナルベント――――ドゥームズデイ。
王蛇が回転蹴りを繰り出し、その穴に相手を叩き込む技だ。
「くっ……あっ……」
急いで立ち上がるが、マグナバイザーが手元にない。
先程の爆撃で、遠くに飛んでいってしまったのだろう。
薄れゆく視界には、浅倉が錐揉み回転しながら蹴りを繰り出す姿が映る。
マグナバイザーが無ければ、エンド・オブ・ワールドを発動させることはできない。
もはや、打つ手はなかった。
☆ ☆ ☆
もしも彼らがバトルロワイアルに巻き込まれず、本来の歴史が進んでいた場合の話をしよう。
1月19日――――神崎優衣が二十回目の誕生日を迎える日。
タイムリミットであるその日、ゾルダと王蛇は戦っていた。
しかし、ゾルダの変身者は北岡ではない。
彼は最後に浅倉と決着を着けようとして、病魔に力尽きた。
代わりに浅倉と戦ったのは、彼の秘書を務めていた由良吾郎。
北岡の遺志を継いだ彼がゾルダに変身し、北岡が果たすことのできなかった決着を付けようとした。
だが、彼は負けた。
エンド・オブ・ワールドを放とうとするが、ジェノサイダーの妨害で失敗。
逆にドゥームズデイを発動され、マグナギガを失って敗北した。
本来の歴史で行われたはずの戦い。
たった今行われている戦い。
まるで鏡に映しているかのように、この二つの戦いは酷似していた。
「…………!」
だが、一つだけ違うことがあった。
今の北岡には、彼を支える仲間が大勢いる。
「……! ……!」
薄れゆく視界に、見覚えのある黄色のリボンが揺れる。
彼女の手には、マグナバイザーが握られていた。
支援
「……ッ!」
蹴り込んでくる浅倉の姿が、すぐ傍にまで迫ってきている。
だが、それよりもマグナバイザーが装填される方が早かった。
ビーム砲、ミサイル、バズーカ、バルカン砲、レーザー、ロケット弾。
耳を劈くような駆動音と共に、それらが一斉に発射される。
蹴り込んできていた浅倉が避けれるはずもなく、この世に存在するありとあらゆる重火器の洗礼を浴びていく。
爆風により押し戻され、爆炎がその身体を焼き尽くす。
凄まじい衝撃にデッキは砕け散り、仮面ライダー王蛇は浅倉威の姿へと戻る。
それでも爆発は収まらず、爆炎と爆風は容赦なく生身の彼を呑み込む。
悲鳴すらも砲撃音に掻き消され、浅倉威という人間はこの世から跡形もなく消滅した。
☆ ☆ ☆
爆発の余波は収まり、その跡地が視界を埋める。
周辺にあった民家は全壊し、その残骸すらも残っていない。
まるで隕石でも落ちたかのように、焦げ付いた地面だけが広がっていた。
「つかさちゃん……」
立ち尽くすつかさ。
背を向けているため、彼女の表情を伺うことはできない。
だが、その手にはマグナバイザーが握られている。
最後の瞬間、エンド・オブ・ワールドを発動したのは彼女だった。
彼女の助力があったから、浅倉に勝つことができたのだ。
「ごめん……」
だが、それを喜ぶことなど出来るはずもない。
故意ではないといえ、彼女は他者の命を奪っている。
それを散々後悔していたことも、必死で償おうとしていたことも知っている。
誰かの命を奪うということを、彼女は誰よりも理解している。
その彼女に、浅倉を殺させた。
自分が負うはずだった責任を、年端もいかない少女に擦り付けたのだ。
「……謝らないで……ください」
震えるような声。
あまりにも弱々しく、そよ風でも掻き消えてしまいそうなほどに小さい。
「確かに誰かの命を奪うのはとっても怖いけど……でも……北岡さんが死んじゃう方がもっと怖かったから……だから!」
振り返ったつかさが、叫ぶように言葉を紡いでいく。
だが、その瞳は揺れていた。
ずっと、揺れ続けていた。
支援
支援!
「……ごめん」
北岡は、ただ謝るしかなかった。
「グオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォッ!!」
背後で咆哮が轟く。
振り向くと、そこにはジェノサイダーの姿があった。
契約者を失ったため、暴走を始めようとしているのだ。
「……」
項垂れるように前方を伺うと、そこには焦げ付いたデイパックが落ちている。
浅倉のデイパックだろう。
本来ならば消滅していてもおかしくないが、奇跡的に中身は無事だった。
拾い上げて、中身を確認する北岡。
すると見覚えのある一枚のカードが目に飛び込んできた。
「契約のカード……」
モンスターを強制的に従えさせることのできるカード。
これさえあれば、ジェノサイダーと契約を結ぶことができる。
北岡はそれを掲げようとして――――
――――あの女と同じ服を着た女を殺した、俺が殺した! ハハハハハハハハハハハハハハハ!
「そのカードって……」
様子を伺うように覗き込んでくるつかさ。
仮面に覆われているため表情を見られることはないが、それでも顔を逸らしてしまった。
ジェノサイダーは多くの人間を喰い殺している。
彼女の友人である泉こなたを始め、数え切れないほどの人間を殺しているのだろう。
「うん、これを使えばあいつと契約することができる」
そう言うと、北岡はふぅと息を吐く。
「でも、やめとくよ」
そして、手を降ろした。
「え、でも……」
「確かにあいつと契約すれば一気に強くなる、でもマグナギガだけでも手一杯なのに他の奴まで面倒見切れないよ」
ミラーモンスターは契約の見返りに餌を要求する。
もし一定期間以上それが無かった場合、モンスター達は契約者の牙を向く。
四体ものモンスターを維持するには、莫大な量の餌が必要になるだろう。
そもそも餌になるのがミラーモンスターか人間だけであり、この場で調達することは難しい。
いくらジェノサイダーが規格外の強さでも、いつ爆発するか分からない爆弾を抱える気はなかった。
(それにつかさちゃんの前で、こいつを使いたくない)
浅倉はこなたを殺したと言っていた。
どういった手段で殺したかは分からないが、最終的にはモンスターの餌にしたのだろう。
そんな怪物を親友だった彼女の前で使い続けることに、北岡は強い忌避感を覚えた。
支援
「だから、あいつは倒す」
浅倉のデイパックから筒のように細長いものを取り出す、
先端が膨張するように膨らんでいて、手に取るとずっしりとした金属特有の重みが伝わってきた。
対戦車榴弾砲――――RPG-7。
射程は数百メートルにも及び、戦車すらも一撃で葬る強力な武器だ。
いくらミラーモンスターと言えど、これが直撃すれば一溜まりもないだろう。
「つかさちゃん、下がってて」
咆哮するジェノサイダーを見据えながらRPG-7を構える北岡。
変身していなければ持て余しそうな重さだと、仮面の下で自嘲した。
(これで……本当に終わりだ)
引き金を引く。
爆音と共に発射機の底から炎が噴射し、装填された弾頭が発射される。
迷うことなく前方へと推進していく弾頭。
鈍重なジェノサイダーに、それを避ける術はない。
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!」
弾頭が着弾し、爆発が起こる。
衝撃でジェノサイダーの身体に亀裂が走り、剥がれるように少しずつ欠けていく。
炎に包まれる巨躯、悲鳴に変わる咆哮。
白銀の両腕は砕け散り、赤紫の翼も崩壊する。
藻掻くように前進するが、すぐにその両脚も折れた。
そして――――
「――――ッ!!」
主人の後を追うかのように、ジェノサイダーは爆散した。
「……これでいいんだ」
ジェノサイダーの残骸から発生した三つの光球を吸収するマグナギガ。
それで満腹になったのか、満足層に雄叫びを上げる。
(これで……終わったんだ)
激戦が終わり、目の前に広がっていたのは荒廃した市街。
民家も、道路も、標識も、街灯も、何もかもが破壊し尽くされた世界。
北岡はそれを目に焼き付けながら、ゆっくりと踵を返した。
【浅倉威@仮面ライダー龍騎 死亡】
【仮面ライダー王蛇&ジェノサイダー 破壊】
支援
支援
支援
支援
支援
支援
【一日目 夜/Fー9 西】
【北岡秀一@仮面ライダー龍騎(実写)】
[装備]:レイの靴@ガン×ソード、ゾルダのデッキ@仮面ライダー龍騎@二時間変身不可
[所持品]:支給品一式×3(水×2とランタンを消費)、CONTRACTのカード@仮面ライダー龍騎、CONFINE VENTのカード@仮面ライダー龍騎
FNブローニング・ハイパワー@現実(12/13) 、贄殿遮那@灼眼のシャナ、、RPG-7(0/1)@ひぐらしのなく頃に、榴弾×1
デルフリンガーの残骸@ゼロの使い魔、発信機@DEATH NOTE、ルイズの眼球、背骨(一個ずつ)、確認済み支給品(0〜2)(刀剣類がある場合は一つだけ)
[状態]疲労(大)、重症
[思考・行動]
0:元の民家に戻る。
1:つかさに対する罪悪感。
2:ギアスキャンセラーに興味。
※龍騎勢が、それぞれのカードデッキを持っていると確信。
※一部の支給品に制限が掛けられていることに気付きました。
※病院にて情報交換をしました。
※レナと情報交換をしました。
※ルイズの眼球、背骨と発振器@DEATH NOTEの二つは捨てた可能性があります。
【柊つかさ@らき☆すた】
[装備]なし
[支給品]支給品一式×2(水のみ三つ)、確認済み支給品(0〜2) 、空飛ぶホウキ@ヴィオラートのアトリエ
レシピ『錬金術メモ』、陵桜学園の制服、かがみの下着、リフュールポット×2
[状態]疲労(小)
[思考・行動]
0:元の民家に戻る。
1:リフュールポットを完成させる。
2:錬金術でみんなに協力したい。
3:もっと錬金術で色々できるようになりたい。
4:みなみに会いたい。
[備考]
※錬金術の基本を習得しました。他にも発想と素材次第で何か作れるかもしれません。
※アイゼルがレシピに何か書き足しました。内容は後続の書き手氏にお任せします。
※会場に連れ去られた際の記憶が戻りました。
【一日目 夜/Gー9 民家】
【ジェレミア・ゴットバルト@コードギアス 反逆のルルーシュ】
[装備]無限刃@るろうに剣心
[所持品]支給品一式×2(鉛筆一本と食糧の1/3を消費)、咲世子の煙球×1@コードギアス 反逆のルルーシュ、こなたのスク水@らき☆すた、
ミニクーパー@ルパン三世、ヴァンの蛮刀@ガン×ソード、琥珀湯×1、フラム×1、リフュールポット×2、不明支給品(0〜1)
薬材料(買い物袋一つ分程度)、エンドオブワールドの不発弾(小型ミサイル数個分)、メタルゲラスの装甲板、メタルゲラスの角と爪、
[状態]右半身に小ダメージ、疲労(大)、精神磨耗、両腕の剣が折れたため使用不能
[思考・行動]
0:休憩する。
1:V.V.を殺す。
2:他の参加者に協力する。クーガーとの約束は守る。
3:全て終えてからルルーシュの後を追う。
4:スザクを止めたい。水銀燈を特に警戒。
[備考]
※病院にて情報交換をしました。
※制限により、ギアスキャンセラーを使用すると疲労が増大します。他にも制限があるかも知れません。
※ロロ殺害について、この場にいる三人には伏せています。
※ジェレミアとC.C.以外の参加者は、銀髪の少年のギアスによって会場に集められたようです。他にも例外はあるかも知れません。
支援
支援
【竜宮レナ@ひぐらしのなく頃に(ゲーム)】
[装備]:鉈@ひぐらしのなく頃に
[所持品]:支給品一式、インスタントカメラ(数枚消費)@現実、真紅の下半身@ローゼンメイデン、
Kフロストマント@真・女神転生if…、ブラフマーストラ@真・女神転生if…、庭師の鋏@ローゼンメイデン
[状態]:疲労(中)、悲しみ
[思考・行動]
0:休憩する。
1:C.C.、ヴァンと合流する。
2:翠星石を探す。
3:水銀燈、後藤、シャドームーン、白髪の男(縁)、浅倉、スザク、を警戒。
[備考]
※ギアス、コードについて一定の理解を得ました。
※北岡達と情報交換をしました。
【CONFINE VENTのカード@仮面ライダー龍騎】
アイゼル・ワイマールに支給。
後出しであらゆるアドベントカードの効果を無効にできる。
原作では仮面ライダーガイが二枚使用しているが、強すぎるので一枚だけ支給。
【茶色の小瓶@真・女神転生if...×2】
石川五ェ門に支給。
味方1体のDEAD(死亡)・DYING(瀕死)・PALYZE(マヒ)・STONE(石化)以外の異常状態を回復させる。
【RPG-7@ひぐらしのなく頃に】
蒼星石に支給。
射程は数百メートルにも及び、戦車すらも一撃で葬る強力な武器。
単発式であるため、一度発射するごとに榴弾を装填しなおす必要がある。
元から装填されてる一発の他に、予備の榴弾が一発分だけ支給された。
原作では山狗部隊が用意したものの、葛西&詩音の妨害で発射されることはなかった。
593 : ◆ew5bR2RQj.:2012/09/21(金) 20:41:12 ID:VB919H7M0
以上で投下終了です。
誤字脱字、問題点等がありましたらご指摘ください。
またお手数おかけしますが、どなたか本スレへの代理投下をお願いします。
今回のタイトルですが前半は仮面ライダー龍騎のキャッチコピー、後半は龍騎の最終話で挿入歌として使用されたルイ・アームストロング氏の名曲「What a wonderful world」から取りました。
あと以前この曲の詳細を尋ねた際、答えて下さった方には改めてお礼を申し上げます。
ありがとうございました。
おおおお、さらば浅倉
北岡頑張った、超頑張った!
投下乙です
今までのロワで北岡と浅倉の衝突はあったけど因縁がこんなに強いロワは初めてだったな
先生の成長も描かれてて良い決着であった
後味のいいものではなかったし皆辛いことばかりだけど乗り越えていってほしい
しかしレナとジェレミア卿がマズイのではないのか…
鷹野さんが動き出すし
対主催には頑張ってもらいたい GJ
投下乙!!
北岡さん…勝ったあああああああ!!!
おめでとう!ほんとによく頑張った!よく生き残った!
そしてつかさもがんばったなあ!
改めて、乙です!
投下乙、北岡先生乙
対主催脱落することなく撃破・・・よかったよかった
らきすた勢のキルスコアがやべぇw
投下乙でした。
北岡さんが勝利するとは思わず、始終ハラハラさせられたw
これまでの仲間達から受け継いだ想いや支給品があればこその勝利だね。
投下乙です!
浅倉と北岡の決着、長かったなぁ…!
このロワの中で仲間を作ってきたかどうか、が勝敗を分けたのに今までの積み重ねを感じる
ジェノサイダー撃破も、「面倒見切れない」って合理的な理由に「つかさの前で使いたくない」って感情論が入ってて、このロワの北岡らしかった
つかさは同時刻のみなみと同じことしてるんだよな、すごいシンクロだ
これから浅倉殺したってので精神的に揺れるだろうし、鷹野来るしで安心はできないんだけど
素直に応援したくなる、やっぱこのグループ好きだわ
誤字の指摘は
>>736 それで満腹になったのか、満足層に雄叫びを上げる。
あと、日曜夜はロワラジオだからみんな聞こうぜ!
そういえば放送迎えたわけだけど、人気投票ってやるの?
今ある予約の投下が終わってからでいいんじゃないかな?かな?
ごめん、ぶっちゃけ北岡負けると思ってた
城戸真司、シャナ、翠星石、ストレイト・クーガー、志々雄真実、三村信史
投下します
【1】
熱く揺るがす強さ、儚く揺れる弱さ。
所詮、同じ結末。
.
【2】
翼を広げた白鳥のモチーフを象った仮面を身につけた戦士がそこに立っていた。
仮面ライダーファムへと変身したシャナは手のひらを握っては開くといった簡単な動作を繰り返す。
身体の芯から溢れ出る力を確認すると、バックルに装着されたカードデッキから一枚カードを抜き取った。
細いサーベルである召喚器、羽召剣ブランバイザーへとそのカードを読み込ませる。
―――― AD VENT ――――
機械音声が響き渡った瞬間、窓ガラスの中から雄々しき白鳥であるブランウイングが空を舞う。
シャナは自身の背後に羽ばたくブランウイングの姿を確認すると、もう一枚カードを抜き取る。
―――― SWORD VENT ――――
二枚のカードを立て続けに使い、上下に刃のついた薙刀が上空から降り落ちるように現れる。
シャナはウイングスラッシャーを掴み、同時にビルテクターをデイパックへと戻しブランバイザーを腰元へとおさめる。
右手に薙刀のウィングスラッシャーを、左手にケルトの英雄が持つ神槍ゲイボルグを構える。
その二槍流とも呼ぶべき異様な姿は、まさしく非常識そのものだった。
だが、ライダーに変身することで強化されたシャナの膂力ならば二つの槍を同時に扱うことも可能となる。
相対するは仮面ライダー龍騎へと変身を済ませた城戸真司、翠星石、ストレイト・クーガーの三人。
「そのデッキ……誰かから奪ったのか!?」
ファムへと変身したシャナの姿を見て、真司は大きく叫んだ。
シャナの姿は劉鳳を誤殺してしまった際に現れたライダーの姿と同じだったからだ。
ライダーデッキを扱えば誰でもライダーに変身できる。
ライダーとしての姿が同じだからといって、シャナがあの時のライダーだったとは限らない。
なにより、真司自身がシャナを劉鳳との戦いの時に居た同じライダーとは思えないのだ。
それならば、はじめの出会いの際に翠星石や龍騎へと変身した真司になにかしらの反応を示したはず。
シャナは冷徹で決して相容れることのできない思考の持ち主だが、騙し討ちにするような人物ではない。
「……そうね、お前たちと別れてから手に入れたものよ」
シャナのその声からは苦々しい色を感じさせた。
仮面ライダーファムとなることはシャナ自身に敗北を思い知らせることだ。
力を手に入れたことから湧き出る高揚と、自身の弱さに対する僅かな苛立ちを原動力に行動を開始する。
シャナは手始めに左手に握りしめたゲイボルグを大きく振りかぶった。
「……ッ、避けろ!」
「ハァッ!」
クーガーがその行動の意味に気づき真司と翠星石へ指示を行うと同時だった。
シャナは裂帛の気合とともに、ゲイボルグを投擲した。
それは普通の槍投げとは程遠い投擲攻撃だった。
放物線を描くように投げ込む槍投げではなく、まるでゲイボルグは銃弾のように放たれたのだ。
「ッ、蔓を盾に……!」
その弾丸と化したゲイボルグの標的、それは翠星石だった。
大気を裂く槍のスピードは、槍の重量差を感じさせないものだ。
「間に合わないッ!」
759 :
創る名無しに見る名無し:2012/09/23(日) 13:53:50.11 ID:JCHnzkUJ
支援
翠星石が如雨露を操り植物を生み出す前に、クーガーがトップスピードで翠星石を抱える。
その言葉の通り、ゲイボルグのスピードは翠星石の生み出した巨大な蔓が伸びるスピードよりも速い。
植物が盾と呼べる頃には、すでにゲイボルグは翠星石の立っていた場所に突き刺さっていた。
コンクリートの道路を深く抉り取り突き刺さっているゲイボルグ。
それが直撃したならば死は免れなかっただろう。
「うお!」
だが、そのゲイボルグの投擲だけでは攻撃は終わらない。
クーガーの回避行動の先に居たものは巨大な白鳥、ブランウイングだった。
ゲイボルグで翠星石を殺すのが最善だが、避けられた後にもブランウイングという次の手を用意していたのだ。
「クーガーさん!」
「余所見とは余裕ね」
一人取り残された真司が翠星石とクーガーへ歩み寄ろうとした瞬間、シャナがその進路に待ち構えていた。
そして、シャナは大きく振りかぶったウイングスラッシャーを龍騎へと振り落とした。
そこにある空気そのものを裂くような鋭い一撃を龍騎は紙一重で避けきる。
「くっ……!」
「まだ終わってないわよ……とは言え、もう終わっちゃうかもしれないけどね」
突き刺さっていたゲイボルグを引き抜き、長く重い二つの槍を使い攻撃をはじめる。
真司へとリーチの長い槍が休むことなく襲い掛かる。
「翠星石とクーガーが……だけど、これじゃ……!」
ブランウイングと交戦する翠星石とクーガーの姿を確認する。
だが、それとは逆方向にバックステップしながら移動しなければシャナの攻撃を避けれない。
二槍の素早いコンビネーション攻撃を前にして龍騎は一枚のカードを引き抜き、手甲型の召喚器にセットする。
―― GUARD VENT ――
機械音が響き渡ると同時に、空から龍の背をモチーフにした二つの赤い盾、ドラグシールドが現れる。
シャナの攻撃はたしかに速いが、強化された眼ならばその動きにも対応できる。
シャナが二つの槍を扱うのならば、と真司は二つの盾を召喚したのだ。
「これなら防げる!」
「甘いわねッ!」
しかし、シャナはそれこそがチャンスと言わんばかりに二つの槍を振るう両腕にさらに力を込める。
二つの盾を構える真司の姿は防御に徹することを意味し、攻撃は行わないと言っているようなものだ。
ならば強化された身体能力を存分に活かして猛ラッシュをかける。
かなりの強度を持つ盾ではあるが、隙は確かに存在するのだ。
「ッ……なんてパワーだ……!」
現に真司は手も足も出ない、背を曲げて身体を小さくした、いわゆる亀のような姿になっていた。
真司とて状況を打開しようとパンチやキックを繰り出そうとは試みていた。
だが、それを実行しようとした瞬間に攻撃が来るのだ。
単純なスピードもそうだが、こちらが次に行おうとする攻撃が読まれているのだ。
そこに牽制代わりの攻撃を行えば、真司は攻撃をやめて防御するしかない。
シャナはそれを続けることで、真司が隙を生み出すのを待っているのだ。
シャナの見立て通りならば一分もしないうちに龍騎は隙を見せる。
そこに痛恨の一撃を与えて、次はクーガーと翠星石をブランウイングとともに打ち倒せす。
それがシャナの立てたプランだった。
C
「衝撃のぉぉぉぉぉぉ!」
だが、シャナのプランから外れたものがあった。
それはライダーへと変身したシャナのトップスピードすらも超える最速の男、クーガーだった。
クーガーは決してブランウイングを倒したわけではない。
現に今も翠星石が植物を生み出してブランウイングと交戦している。
だが、それも足止めにもならない。
ブランウイングは空を飛べる、翼を振るうことで巻き起こす突風そのものが武器となる。
翠星石にとっては相性の悪い相手であり、足止めすることすら難しい相手なのだ。
つまり、クーガーは純粋なスピードだけで交戦の意思を見せていたブランウイングから離脱してきたのだ。
「ファーストブリットォ!」
それはクーガーが行おうと思えば、ブランウイングからはいつでも逃走できることの証明だった。
シャナはくるりと振り返り、全身を錐揉み回転しながら向かってくるクーガーを迎撃する。
急な迎撃を行ったシャナと、全力の攻撃を行ったクーガー。
当然、シャナの握ったゲイボルグは衝撃に耐えられず吹き飛ばされ、クーガーの攻撃が右腕に直撃する。
「ッ……ブランウイング!」
鈍痛に仮面の下の表情を歪め、地面に落としていたゲイボルグを回収に向かう。
クーガーは追撃は行わない。
何故ならば、シャナの言葉に呼ばれた残されたブランウイングが待ち構えているからだ。
ブランウイングは翠星石が創りあげた植物たちを避けながら、クーガーと真司へと向き治る。
「簡単に死ぬんじゃねえぞ、劉鳳が力を貸してんだろ?」
クーガーは蹴り飛ばしたシャナへと注意を向けながら、倒れこんだ真司へと檄を飛ばす。
口ぶりこそ余裕があるが、クーガーはわずかに息が切れていた。
連戦に次ぐ連戦でクーガーの身体が悲鳴を上げているのだ。
「スピード勝負なら任せときな……お前は、あのお嬢ちゃんと鳥をやれ」
だが、そんな様子を微塵も見せずに真司をブランウイングとの戦いに促す。
そして、両手に持ったドラグシールドを両肩に装備し、別のカードを召喚器に読み込ませる。
―― SWORD VENT ――
再び機械音が響き渡り、今度は空から一本の剣が降りてきた。
その剣を掴むと、真司はクーガーに一言だけ投げかけた。
「わかってる……アンタも死なないでくれよ、クーガー」
「心配するな、俺もお前に話したいことならまだあるんだからな。
お互い、死なねえようにしようぜ」
真司はクーガーが疲労困憊であることを察しながらも、小さく頷くとブランウイングへと向かって走りだした。
翠星石とともに戦うためだ。
「召喚したモンスターとはある程度の意思疎通ができるのね」
一方でシャナは手放したゲイボルグを握り直すと、なんでもないようにつぶやく。
そして、真司を追いかけるようなことはせず、クーガーへと向き直る。
シャナもまたクーガーのスピードにはブランウイングでは対応しきれないと読んだのだ。
だからこそ、シャナ自身がクーガーを確実に仕留めようと考えたのだ。
「さーて、シャアさん」
「シャナよ」
「わかってますよ、シャアさん」
「だからシャナ……もういいわ」
「ハハッ、お互い時間をかけたくないだろうし……さっさと、終わらせちまいますか」
シャナは名前を間違い続けるクーガーの言葉に眉をひそめる。
しかし、それ以上は訂正の言葉を口にせずにウイングスラッシャーとゲイボルグの二槍を構えた。
クーガーはと言うと、ゆっくりとシャナの周囲に円を描くように歩き出す。
そして数秒の間だけ、じっと二人のにらみ合いが続いた。
「……っ!?」
次の瞬間、シャナの目からクーガーの姿が消えたように見えた。
ゆったりとした歩行のスピードから一気にトップスピードへの変化。
この急激なスピード差にシャナはクーガーの姿が消えたように見えたのだ。
クーガーの能力にも制限が加えられているが、工夫を加えれば知覚を超えるスピードも出せる。
同時に、そのような無茶をすれば今までに負った傷口が開きかねないことも理解していた。
だからこそ、クーガーはシャナを最速で仕留めようとしているのだ。
「シュッ!」
シャナはクーガーの気配を察知し、背後へと向かってゲイボルグを突き出す。
迎え撃つシャナもまた単純な物理的なスピードはひけを取らない。
だが、それ以上に技術に左右される面が恐ろしく上手いのだ。
単純なスピードで劣っていようと、動きを小さくし相手の動きに合わせる。
そして、相手のスピードにカウンターをあわせる。
この戦闘技術こそがこの世あらざるものを狩る戦士として鍛えられたものなのだ。
「うおっ!?」
「チィッ……!」
決定打のつもりで放った一撃を避けられる。
シャナは苛立ったように舌打ちすると、次はウイングスラッシャーの切っ先が鋭く走る。
ここで攻撃を止めるつもりはない。
どちらが早くゴールへと辿り着けるかという勝負ならばクーガーはシャナを上回るだろう。
だが、このスピード勝負は単純な徒競走ではない。
どちらがより早く相手を無力化できるのか、という勝負なのだ。
その勝負において、シャナはこの中の四人の誰よりも上回っている。
支援
紫煙
「遅いィ!」
「!?」
だが、その全ての技術を上回る速度でクーガーが動き始める。
その速さはシャナのスピードよりも、反応速度よりも早い。
「ッ……!」
蹴りが次々にシャナへと襲いかかる。
このままでは、先ほどの真司のように防戦一方となってしまうだろう。
シャナは蹴りを捌きながらゲイボルグを地面に突き刺す。
そして、バックルから一枚のカードを引きぬいた。
―― GUARD VENT ――
デイパックからビルテクターを引き出すよりも、ウイングシールドを召喚したほうが速い。
なによりも、ウイングシールドは召喚した瞬間にブランウイングの羽を周囲に撒き散らす。
つまり、目隠しの効果も発揮するのだ。
「チィッ!」
舌打ちするクーガーは、ブランウイングの方角へと目を向ける。
シャナが目隠しを行なって、ブランウイングと戦う真司たちに向かったのではないか、と考えたのだ。
「……速いわね」
だが、シャナが移動したのは真司と翠星石とブランウイングの戦場ではない。
目隠しの隙に向かった先は、クーガーの背後だ。
ぎりぎりまで近づき、ゲイボルグを思い切り横薙ぎに振るう。
槍の根元に斬撃と言うよりも打撃と呼ぶべき攻撃が直撃する。
「カァッ……ハ……」
その攻撃はクーガーを殺しこそしなかったものの、絶大なダメージを与えた。
人の反応すら惑わす超スピードで動き回れば、当然身体にかかる負担は大きい。
そこにあらゆる連戦の末に受けていたダメージも決して小さくはない。
クーガーが抑えていたその身体に溜まった負担が、シャナの攻撃で襲いかかったのだ。
身体の限界を迎えつつあった最速の男は、そこで脚を止め膝を折ってしまった。
「限界のようね」
「なーに、まだま……ッァ!?」
最後まで言い切れることなく、シャナは強烈な前蹴りをボロボロのクーダーに浴びせる。
クーガーが前のめりに倒れこむ。
幾度もの戦闘がなければ、シャナの打倒も可能としたかもしれない。
だが、最速で戦い続け、ろくな休息も取ることのなかった身体はついに悲鳴を上げたのだ。
【3】
「大丈夫か、翠星石!」
植物を生み出して応戦する翠星石は、致命傷を受けてこそいないものの相当なダメージを負っていた。
低空飛行でこそあれ、空を自由に飛ぶブランウイングと翠星石は相性が悪かった。
『こんばんは、みんな。
六時間経って、またこうして声を聴いて貰えて嬉しいよ』
「ッ、放送か!」
どこからか響き渡るV.V.の声に真司と翠星石は思わず動きを止めてしまう。
その隙をブランウイングは逃さない。
「放送が始まったからって戦闘を止めるほど甘くはない……か。
ミラーモンスターは楽でいいな……!」
真司は襲いかかるブランウイングへと向かってドラグセイバーを振るう。
ブランウイングと戦いを行いながらも、V.V.の声変わりを迎えていない高い声を懸命に聞き取る。
特に禁止エリアを聞き逃すことだけは避けたい。
そんな中で、翠星石が注意散漫に突っ立っている姿が視界に入った。
「翠星石、危ない!」
翠星石もまた放送に耳を傾けていたのだろう。
ブランウイングの突進攻撃の標的にされていたというのに、ブランウイングへと集中していない。
「きゃっ……!」
普段の小憎らしい口調とは裏腹に、可愛らしい悲鳴が漏れる。
翠星石はブランウイングの脚に掴まれ、思い切り建物へと叩きつけられる。
「きゃあああ!」
「翠星石!」
真司はブランウイングに背を向け、翠星石の叩きつけられた建物へと駆け出す。
翠星石が召喚した巨大な植物によって進行を妨害されながら、真司は翠星石の側へとたどり着いた。
「大丈夫か、翠星石!」
真司は自身の腰ほども小さな体を抱え上げる。
華奢な身体は僅かに震えながら、真司の手を握り返す。
まず翠星石が生きていることにホッとし、次にブランウイングへの敵意が強まる。
ドラグセイバーを強く握り、ブランウイングの撃破を行おうとした瞬間。
C
支援
C
支援
772 :
創る名無しに見る名無し:2012/09/23(日) 14:06:35.13 ID:JCHnzkUJ
C
四円
しえーん
「二度目になるけど、余所見とは余裕があるわね」
「シャ、シャナか!?」
真司は耳元で響いたブランウイングの雄叫びではない、シャナの高い声に慌てて振り向いた。
そのくるりと振り返る動きの隙に、シャナは素早く懐に入る。
「くっ……!」
虚をつかれた真司はドラグセイバーを無闇矢鱈に振り回す。
だが、シャナはそのドラグセイバーを振るった腕を掴むと、背負い投げの要領で地面に叩きつける。
コンクリートに思い切り叩きつけられた真司は、衝撃のあまり肺の中から空気が全部抜ける。
そして、鈍痛が全身を襲った。
「アッ……カァ……」
「ブランウイング!」
そこに追撃と言わんばかりに、ブランウイングが大空から急降下を始める。
標的は地面へと倒れこんだ真司。
ミラーモンスターの重量をフルに活かした大空からの体当たり攻撃だった。
「グアアアアアアア!」
真司の口から耳を覆うような悲鳴が響き渡る。
わずかに身体をぴくぴくと震わせた後、息絶えたように動きを止めた。
『それじゃあ、次の放送でまた会おう。
優勝者が決まるまでにあと何回放送があるのか、分からないけどね』
それは戦闘開始から数分、そして、放送がちょうど終わった瞬間。
シャナは城戸真司、翠星石、ストレイト・クーガーの制圧を完了した。
当然、シャナは放送の内容を把握している。
そして、ウイングスラッシャーを握ると地面に倒れ込んだ三人へと向かって言葉を投げつけた。
「まさか、五分だとでも思っていたの?」
今の状況は決して互角などではない。
今までの戦闘で抱えた大きなダメージでついに限界を迎えつつあるクーガー。
巨大な植物を操るがこの圧倒的な暴力の波に突入することの出来ない翠星石。
そして、制限時間という大きな枷が定められている龍騎。
いや、制限時間という意味ならば、シャナの仮面ライダーファムも定められている。
だが、シャナはその素体自体が大きな能力にもなっている。
それは身体的な面でも頭脳的な面でも、おそらくは全参加者のトップクラスに入るだろう優れたものだ。
だからこそ、今の状況はシャナの絶対的な優位であった。
「私はこの強化スーツ……ライダーの力を知りたかった。
そして、この能力が十分に価値があるものだとわかったわ」
どこか気分の良いような言葉だった。
だが、そこから殺意が消えた気配はない。
「……杉下右京も死んだみたいね」
「……ッ」
その言葉に反応したのは真司。
自身を諭した、自身の倍以上は生きている人物も死んでしまった。
それだけじゃない。
南光太郎という不思議なライダーもまた、真司の素知らぬ場所で死んでしまったのだ。
真司があそこに残っていれば、ひょっとしたら光太郎は死ななかった可能性もあったのかもしれない。
「蒼星石というのはそっちの人形と同種なのでしょう?」
これは翠星石へと向けた言葉。
翠星石は痛みのために身体を動かせないが、シャナを強く睨みつけた。
死んでしまったのは事実だ、それを変えることは悲しいが出来ない。
だが、敬愛する父と問題こそあれど同じ父に作られて愛しい姉妹。
その全てを軽んじるようなシャナの物言いに激しい怒りを覚えたのだ。
「そんな傷だらけの姿になったのに、守れなかった」
これはクーガーへの罵倒。
シャナは知る由もないが、クーガーもまた多くのものを取りこぼしている。
――――泉こなた、園崎詩音、由詑かなみ。
誰も彼も、クーガーがもっと速ければ助かったかもしれない知り合いだ。
「目的もなく殺し続ける輩が居るから、この戦いは終わらない。
目的を妨げようとする輩が居ても、同じことよ」
そして、最後の言葉は真司たちへのモノというよりも、自身を肯定しようとしている口ぶりだった。
「もう、楽に殺してあげるわ。
その後、私がこの力でV.V.を排除する。
……だから、もうお前たちが抗う意味なんてないわ」
それはシャナにとって真司たちへ向けた慈悲の言葉だった。
相対的に命を軽んじているシャナと真司たちは分かり合えない。
だが、シャナがもたらす未来は決して最悪の事態ではないことを伝える言葉なのだ。
「意味は……ある!」
しかし、真司はうつ伏せの体勢から立ち上がろうとしながら、叫ぶようにシャナの言葉に応えた。
「お前を放っておいたら、きっと人を殺す!」
ぎゅっとコンクリートを握りしめ、拳をつくる。
ライダーとして強化されたその力は、落下の衝撃で崩れかけていたコンクリートを容易く破壊した。
常軌を逸した恐ろしい膂力だ。
こんな力を他人へと向ければ人なんて簡単に殺すことができる。
それこそ、劉鳳のように正義という想いを持ち、その力の扱い方を選ばなければいけない。
「真っ赤か人間……」
翠星石のつけた奇妙な呼び名が、真司の耳にも届く。
真司は痛む身体に鞭を打ち、翠星石の方へと視線を向ける。
翠星石は人間ではない、真司の常識の外にいる不可思議な人形だ。
だが、劉鳳の死に涙し、姉妹の死に涙し、それでもここに立っている。
今にも倒れそうな翠星石をつくった原因は自分だ。
この殺し合いの場で翠星石を守ってみせると言った劉鳳を殺した、真司がつくったのだ。
「心配すんなよ、翠星石。
お前は死んだりなんかしない、俺が守ってみせる」
目を閉じれば翠星石の泣き顔が瞼の裏に映り、それを皮切りに様々な顔が浮かんでは消えていく。
杉下右京、泉新一、ミギー、劉鳳、神崎優衣。
そして、真司にライダーとなる決心をつけた、ただ泣き続けるしかなかった名も知らない少女。
明確な共通点はない、誰もが違う人間だった。
そこに価値の比重を見つけ出すことなど、出来なかった。
『親、兄弟、子供……人一人消えたことで、どれだけ影響があると思ってるの!』
幸いにもこの場には居ない、真司の先輩ジャーナリストである桃井令子の言葉が蘇る。
真司は神崎優衣という友人を消したくないからこそ、ライダーを……その『人一人』を消そうとした。
だが、そうじゃない。
目を閉じれば浮かんでくる中の人は、誰も真司が個人の意思で消していい人間など居ない。
「誰も死なせない、誰も殺させない……誰も、泣かせたりなんかしない!
お前がこのままだったら、きっとここから人がまた消えてしまう!
もうここから消えてしまう人なんて出さない!」
立ち上がる身体は満身創痍ながら、しかし闘志は決して枯れてはいなかった。
「絶影!」
真司が叫んだ言葉は、劉鳳の魂の名。
劉鳳の魂をドラグレッダーが取り込んだことで扱うことの出来る劉鳳の正義そのものだ。
真司の叫びに応えるように現れた絶影は、槍のように鋭い姿でシャナへと向かっていく。
その絶影の鋭い姿から叫びが聞こえてきたがした。
その衝動を抑えることなく、宣言するように口から解き放った。
「それが俺の『正義』だ!」
狙いは急所である頭蓋でもなければ、心臓の位置でもない。
シャナは敵ではあるが、決して殺害の対象などではない。
戦闘不能へと陥れるためだけの攻撃で狙ったものは、ライダーデッキを装着したベルトのバックルだ。
「それは違うわ」
しかし、真司が持つ最速の攻撃はウィングスラッシャーによって容易く弾かれた。
こんな簡単に防がれたのは、決して絶影というアルター能力が弱いだからではない。
アルター能力を使い慣れたわけでもない、真司の付け焼刃の攻撃だから容易く防がれたのだ。
シャナは仮面の内側から冷徹な瞳を向けながらゆっくりと口を開く。
「決して欠けてはいけないものは命じゃなく、存在の力そのものよ。
一欠片の力も失うことなく、こちら側の世界で循環されることこそがこの世のルール。
V.V.の狙いが『存在の力』の巨大な喪失に繋がるとすれば、私はなんとしても阻止しなければいけない。
どのような手を使っても、どんな命を消してもね」
シャナはウィングスラッシャーを振りかぶる。
その切っ先が狙うのは、龍騎のベルトのバックルなどではない。
真司の首先、そこを斬りつければ死に至るという確かな急所だ。
「善悪の問答をするつもりはないけど、この世に生きる存在にとってはそれこそが『正義』なのよ」
シャナがウイングスラッシャーを鋭く振り下ろす。
間違いなくその一撃は真司の息の根を止めるものだった。
「そろ、そろ……やめときな」
だが、その攻撃は淡い色合いの装甲に阻まれた。
龍騎の燃えるような鎧ではない、銀と青で彩られた装甲だった。
「……まだ動けたとは意外ね」
ラディカル・グッドスピードを脚部限定に装着したクーガーが止めたのだ。
今にも倒れ込みそうな身体だが、やはりクーガーの顔には余裕のある笑みが浮かんでいた。
「正義……か。悪くないな、胸を張って言えるのならそいつは良いもんだ」
命を捨ててでも守りたいものはある。
自らの命を捨てることを否定する人間も居るだろうが、それでも守りたいものはあるのだ。
どうせ先のない命だとすれば、クーガーはせめて納得できるものに命を張りたかった。
愛する女でも、信頼の置ける友でも、出会ったばかりの甘っちょろい若者でも。
納得の出来るモノにならば、命を預けても良かった。
「色々と身を削ったが、確かに俺はなんにも守れちゃいない。それでも、俺は最速でやってやるよ」
周囲の物体が原子レベルまで崩壊し、粒子となりクーガーの身体へと集まりだす。
負担の大きい技を、ボロボロの身体でやればどうなるか。
それはクーガー自身がよくわかっている。
それでもストレイト・クーガーの誇る最速のアルター能力を用いようとしているのだ。
アルター能力という別の世界の理屈を用いてこちらの世界を歪める能力。
脚部限定ではない、本物のラディカル・グッドスピードを。
「面白そうなことやってんじゃねえか、クーガー」
【4】
その男はおぞましい姿をした男だった。
全身に重度の火傷を負い、今ここに生きていることが奇跡のような存在だった。
顔面も首も腕も脚も胴体も、全てが炎に焼かれている。
それでも、精気に満ち溢れたその男の姿に、クーガーのアルター能力は動きを止めた。
「アンタは……志々雄、だったな」
その男の名を間違うような真似はしない。
それは男を信頼しているからではない。
むしろ、その逆。
この剥き出しの刃のような男が全く信用に置けないからこそだ。
自らの心を研ぎ澄ませるために、クーガーは男の正しい名前を口にしたのだ。
「覚えておいてくれて何よりだ、助かるぜ。
さて……そこの白い『らいだー』よ」
志々雄はクーガーのそれとは全く違う笑みをシャナに向けた。
もはや笑みというよりも、獣が牙を向けた時に形作る表情によく似ていた。
「悪いが、そいつらをほいほいと殺されちゃ困るんだよ。剣を納めてもらおうか」
「……断るわ、こいつらは私と合わない。これ以上ないほどに、ね」
シャナは冷たい声でにべもなく断る。
そして、志々雄と三村へと仮面の奥から鋭い視線を向ける。
「邪魔をするというなら、お前たちも斬る」
明確な敵対の言葉。
だが、シャナがこの殺し合いに否定的で主催者を打破しようとするのならば協力が取り付ける可能性は高い。
ならば、と三村が首輪解除の方法を告げようと言葉を返す。
「待て、それはこっちの話を聞いてから――――」
「邪魔をするなら、斬る」
だが、シャナは取り付く島もなく、三村の話を打ち切る形で同じ言葉を二度繰り返す。
三村は背筋に冷たい感覚が走った。
明確な殺気を向けられたことから生まれる、本能的な恐怖だった。
「フ……なら、こっちも殺しあうしかねえなぁ。
三村、お前は下がってな」
「い、いや、待てって……っ!?」
そのシャナの殺気を感じているはずだろうに、志々雄は笑みすら浮かべながらシャナと対峙する。
志々雄の背中からは闘気が溢れている。
戦いを始めようとしていることは、ただの中学生に過ぎない三村にも理解が出来た。
しかし、戦う必要はあるのだろうか。
三村としては解体した首輪を見せれば協力を取り付けるのは楽だろうと考えていた。
首輪の構造と解除方法は志々雄と三村にとって最大のジョーカー。
それだけで殺し合いを成り立たせる理屈の打破を成功させかねないシロモノだ。
「三村」
そう告げようとする三村に、志々雄の底冷えのする声が投げかけられた。
シャナの声が意図的に感情を抑えた声ならば、志々雄の声は人間味にあふれたものだった。
だからこそ、志々雄の内面を把握しつつある三村にはよほど恐ろしく感じたのだ。
「下がってろ、三度も言わすんじゃねえぞ」
三村は志々雄の思考を読むように頭を働かせる。
サングラスの男、ストレイト・クーガーは先ほど総合病院で出会った男だ。
そのクーガーを含めて目の前に三人が居る。
さらに先ほどクーガーと同じく病院で出会った二人、正確にはジェレミアの存在は言伝だが。
合わせて五人。
そこに志々雄と三村を含めば、それだけで七人となる。
二十余名しか残っていないであろう現状ならば、その七人という人数は大きい。
『半径二メートル以内に四個以上の停止していない首輪』という条件をクリアできる。
三村と志々雄―――いや、『志々雄』の首輪を解除するには十分な人数だ。
恐らく、これが志々雄の思考のはず。
そして、その予想は見事に的中していた。
志々雄は一筋縄ではいかないと判断した。
だからこそ、余計な人員は要らない。
最終的に志々雄自身が全てを手に入れればそれでいいのだ。
七人もいれば、それでいい。
「十分だけ遊んでやるよ」
志々雄は懐からライダーデッキを取り出す。
そのライダーデッキを見て、もっとも大きな反応を見せたのは城戸真司だった。
「龍騎のデッキと、同じ紋章……?」
真司の言葉通り、リュウガのデッキは龍騎のデッキと色違いのものだった。
志々雄はその真司の言葉には応えず、鏡へと向かってデッキをかざす。
鏡の中の志々雄がベルトを装着すると、同時に現実世界の志々雄に腰にもベルトが巻かれる。
「させない!」
シャナはその動きを封じるために弾けるように走りだした。
「おっと行かせませんよ、シャナさん!」
「ッ……お前!」
だが、そのシャナの動きをクーガーは一瞬の逡巡の末に止めた。
身体が悲鳴を上げ、今にも耐えそうになるが数秒だけシャナを止めることに成功した。
「退けッ!」
仮面ライダーとなり強化されたシャナに容易く振りほどかれる。
クーガーの身体はそれほど限界を迎えつつあったのだ。
「ハッ……」
その姿を見て、志々雄は小さく笑い声を漏らしていた。
志々雄は確かに警戒に値する人物だ。
しかし、シャナが志々雄を殺せば、クーガー、真司、翠星石、そして三村信史も殺されかねない。
ラディカル・グッドスピードを全解放すればシャナを打倒することも可能だろう。
だが、それはあくまで可能性にすぎない。
この傷ついた身体でどこまで戦えるか、どこまで生き延びられるか。
メリット・デメリットを天秤にかける
そこで、導き出した答えはシャナの志々雄への攻撃を止めることだった。
だからこそ、シャアと呼ぶこともなくシャナという名前が口からこぼれたのだ。
「変身ッ!」
ベルトのバックルへとリュウガのデッキを差し込む。
鏡の中から現れる漆黒の鎧は痛々しい志々雄の火傷痕を隠していく。
黒と銀を貴重としたその鎧を纏う戦士の名は、仮面ライダーリュウガ。
志々雄は暗色の龍騎とでも言うべきライダーへと変身していた。
「……そいつと似てるわね」
シャナはポツリと漏らした後、志々雄へ向かって低い体勢のまま走りだす。
志々雄はなにも答えずに、バックルに装着されたカードデッキから一枚のカードを取り出す。
―― SWORD VENT ――
龍騎やファムのそれとは違う、濁った機械音が響き渡る。
龍騎と似たこのライダーは、やはり龍騎のドラグセイバーと同じドラグセイバーを召喚した。
ドラグセイバーに限らず、召喚された全ての武器防具は空から現れる。
そして、その空から現れたドラグセイバーはシャナの背後から襲いかかる。
「ッ……!?」
シャナは素早く横に転がることで回避し、ドラグセイバーはそのまま地面へと突き刺さった。
攻撃ではない、偶然から生まれたドラグセイバーの急襲。
変身の制限時間が迫りつつあるシャナにとっては不運以外の何物でもなかった。
「良い反応だ……悪くないぜ、お前」
ドラグセイバーを持たせる前に攻撃して置きたかったが、過ぎたことは仕方がない。
地面に突き刺さったドラグセイバーを引きぬく。
志々雄は一度二度、そのドラグセイバーを振り回すとシャナを睨みつけた。
志々雄は激動の幕末を人斬りとして生きてきた。
そして人斬り業とは、抗う術を持たない弱者だけを対象とした任務ではない。
弱者ならば志々雄や緋村抜刀斎のような強者でなくても成り立つ任務だ。
人斬り任務の真の目的は、あらゆる流派の免許皆伝を持った強者を一刀に伏すことだ。
故に、志々雄は相手の構えを見ればその腕前のほどは察することができる。
――――強い。
目の前の白いライダーは相当な腕前の戦士だ。
だからこそ、仮面の中の顔には自然と笑みが浮かんでいた。
「羅ァ!」
笑みを消しもせずに、気合いの一声と同時にドラグセイバーが振り下ろされる。
日本刀が相手の身体にそって滑らせるように斬るものだが、青龍刀は重量を活かして叩くように斬る。
シャナはその斬撃をデイパックから取り出していたビルテクターで受け止める。
強度だけならばウイングシールドよりも、ビルテクターのほうが優れているからだ。
C
支援
test
「……ッ!」
一撃一撃が重い。
地面にのめり込みそうな重みを盾越しに感じながら、シャナはウイングスラッシャーを振るう。
志々雄はシャナの一撃をスウェーで避ける。
もともと、シャナは優れた戦士ではあるが武器を扱う術に長けているわけではない。
鍛錬の最中は主に体術を徒手空拳が主であった。
フレイムヘイズとなった後も贄殿遮那と呼ばれる常軌を逸した長刀一本で戦ってきた。
どちらも決定的な一打は出ない。
シャナはその膠着状態に苛立ち、舌打ちを鳴らしながら距離を取り直す。
「おっと、隙ができてるぜ」
志々雄の言葉にシャナは反射的に防御を固める。
だが、志々雄の言った隙とは単純な攻防の隙ではない。
ライダーバトルにおいて隙とは、なによりも相手にカードの使用させてしまうことを言うのだ。
――― AD VENT ―――
鏡面から暗黒龍ドラグブラッカーが現れる。
全長六メートルを超える巨大な暗黒の龍は、静かに敵であるシャナを睨みつける。
「どうなってんだよ……黒い、ドラグレッダー……!?」
暗黒龍に反応を示したのは、やはり同種の龍を知る真司だった。
次から次へと繰り出される、仮面ライダー龍騎のデッキと同じ装備やモンスターの数々。
見知らぬライダーという点ではファムと同じだ。
だが、リュウガはもはや『見知らぬライダー』という括りではない。
まさしく、龍騎の対となる存在だった。
「ッ……ブランウイング!」
一方でシャナは舌打ちを鳴らすと同時に、ブランウイングへと命令を下す。
シャナは理解しているのだ。
ミラーモンスターを召喚されたということは、数の面での有利不利が変わっただけではない。
ブランウイングは翼を羽ばたかせることによって突風を起こせる。
それと同じように、暗黒竜もまた特殊な能力を持っているかもしれないのだ。
「やれ」
志々雄は暗黒竜を睨みつけると、短く命令を下した。
暗黒竜は咆哮を上げることすらせず、口から球状の炎を吐き出した。
C
支援
C
支援
C
「炎!」
シャナはわずかに苛立ちを覚えるが、同時に安堵をしていた。
ブランウイングは的こそ大きいが鈍重な鳥ではない。
炎のスピードそれ自体は速くない、十分に回避できるスピードだ。
だが、炎弾は一撃だけでは終わらない。
ニ撃、三撃と雨のようにシャナたちへと振りかかる。
ブランウイングは一撃目の炎こそ回避したものの、追撃の炎の直撃を受ける。
また、シャナも足元に炎が直撃した。
ライダースーツ越しではそこまでのダメージではない。
「くっ……でも、この程度!」
「この程度、で終わりゃいいんだけどな」
志々雄の言葉通り、ドラグブラッカーの炎の真価は単なる高熱だけではない。
それに付加する、また別の能力を持っているのだ。
ドラグブラッカーの炎は石化能力があり、シャナとブランウイングの動きが完全に封じられる。
その瞬間、シャナのスーツが空気中に溶けるように霧散していく。
「……ッ、タイムリミットが!」
「どうやら、幕だな」
志々雄はそう言うと一枚のカードをデッキから抜き取る。
そして、シャナと同じく変身が解けかけている真司へと向き直る。
「おい、そこの赤いの!」
「……お、俺か?」
志々雄はデッキから抜き取ったカードをヒラヒラと振りながら真司へ見せつけた。
真司の目がそのカードを捉える。
そのカードは、龍騎と同じく龍をモチーフした紋章が描かれたカードだった。
「油断禁物……相手の得物は壊せるときに壊しとかねえとな」
志々雄の言葉で真司は志々雄のやろうとすることを理解した。
真司は痛む身体に鞭を打って立ち上がる。
そして、ゆっくりとバックルのデッキからカードを抜き取る。
その姿を見て志々雄は仮面の奥でニッと笑みを深める。
志々雄と真司が同時に手甲のドラグバイザーにカードを読みこませる。
―――― FINAL VENT ――――
―――― FINAL VENT ――――
澄んだ機械音とくぐもった機械音が茜色に染まった空間に響き渡る。
高層建ての建築物に添えられていた鏡面からは赤龍――――無双龍ドラグレッダーが。
地面に接していた外れた窓ガラスの鏡面からは黒竜――――暗黒竜ドラグブラッカーが現れる。
赤龍は空を割るように高く舞い、黒竜は地を舐めるように低く這いずる。
「ハアァァァ!」
「フゥー……」
全身の筋肉を強ばらせるように力む龍騎と、気怠そうに深く息を吐き全身を脱力させるリュウガ。
次に来るのが最大の攻撃だとシャナは判断し、ビルテクターを構える。
空中で無双龍と暗黒竜。
本来交わるはずのない、衝突することが定められている二匹の龍が交差する。
真司――龍騎は高く跳躍し、志々雄――リュウガは重力に逆らいゆっくりと宙に浮き上がる。
灼熱の龍と暗黒の龍、激しさと静けさ。
些細な違いこそあれど、その威力に大きな違いはない。
ドラゴンライダーキック。
同じ名を冠する龍騎とリュウガの必殺の技だ。
「ハアアアアアアアアアア!」
「アァ……」
――――次の瞬間、龍の炎を纏った仮面の戦士の蹴りがシャナを襲った。
「ガ、アアアアアアア!?」
龍騎のドラゴンライダーキックは襲いかかり
ビルテクターを持った腕に激しい負荷がかかる。
同時に背中合わせに立っていたブランウイングがのしかかって来る。
シャナはビルテクターを持っているが、ブランウイングは盾となるものを持っていない。
リュウガのドラゴンライダーキックをまともに受けたのだ。
ブランウイングは、恐らく殺されただろう。
「ク、ア、ツッ……!」
ビルテクターが弾かれ、シャナのベルトのバックルに直撃する。
当然、バックルに装着されたデッキは破壊された。
デッキの破壊により霧散していくライダースーツ。
そのスーツと同じく手放しそうな意識を必死に繋ぎ止め、シャナは素早く動き始めた。
【5】
爆炎が周囲に立ち込め、双竜の炎は周囲の大気という大気を燃やし尽くす。
そこに立っていることこそが苦痛であるほどの熱量だった。
「熱ッ……」
「これは……痛む身体にはキツイな」
立ち込める炎は空気を薄くし、視界を狭める。
炎に焼かれた煤が喉と目に入り、翠星石とクーガーはコホコホと軽い咳をしながら目をこする。
「……ちょうど、十分か」
一方で龍騎の変身は制限時間を迎え、ライダーの証であるスーツが霧散していく。
仮面が外れ、痛みに顔をしかめる真司の顔が現れた。
そして、真司の変身が解けたということはシャナの変身もまた解けたということだ。
「……シャナは、どこに居るんだ?」
そう思い、爆炎の中心地へと目を向けるがそこにはシャナの気配がしない。
居るのは美しい白翼を焼かれ、焼け焦げたブランウイングの姿だけだ。
「ああ、アイツか……盾を使って生き延びたかもしれねえな。
そうなると、爆炎に紛れて逃げたか、それとも近くに居るか……
っと、もらうぜ。あのミラーモンスターの魂はよ」
一方で途中から参戦した志々雄はまだ変身可能時間を残している。
そう言いながら、志々雄はドラグブッカーへブランウイングの魂を喰うことを指示をする。
そして、ドラグセイバーを手放し、志々雄はデイパックの中から一本の剣を取り出した。
なぜドラグセイバーを手放すのか、シャナが消えたのになぜ変身を解かないのか。
様々な疑問が湧き上がる。
だが、真司はその剣を見た瞬間、ゾクリと背筋に冷たい恐ろしさが湧き上がった。
「そ、それ……」
「いい剣だろう?」
志々雄の言葉に、思わず真司は押し黙る。
だが、いつまでも黙っているわけにはいかない。
そう考え、真司は真っ先に頭に浮かんだ疑問を口に出した。
「アンタ……その、あんな怪我で動けるんだな……」
真司は全身火傷で歩行すらままならないように見えるその姿に感嘆の意を込めて話しかける。
見た目こそ恐ろしいものだが、殺されそうな真司たちに助力した人物だ。
少なくとも、信頼しても良い人物かもしれないと真司は判断した。
「なに、複数の世界があるらしいじゃねえか。
そんな世の中にゃいろんな奴が居るってことだ、俺みたいな全身火傷もいれば……」
志々雄はそこで言葉を切り、ガッ、っと勢い良くヒノカグツチを両手で握りしめる。
「炎に紛れて首を狙う奴とかなッ!」
その言葉の後に、炎の中から炎髪灼眼の少女が現れた。
そう、仮面ライダーファムの変身が解けローティーンの少女の姿へと戻っていたシャナその人だ。
志々雄はこの炎の壁が奇襲にうってつけのものだとわかっていた。
またドラゴンライダーキックをビルテクターで防いでいたことも目撃している。
シャナは生きていると判断し、シャナは強者だとも感じていた。
ならば、この炎を目眩ましにして背後から襲いかかってくることは想像に難くない。
だからこそ、変身を解除せずに、より火力の高いヒノカグツチを取り出したのだ。
「ッ!」
自身の奇襲に感づかれていたことに驚愕を覚えながらも、シャナはゲイボルグの突きを繰り出す。
最初はぎこちなかった、それでも必殺の威力を持っていたが、槍の扱いにも慣れを覚えていた。
なにより、この単純な突きは単純だからこそ必殺の威力を持つ。
「ハァ!」
気合の一声とともに、だらりと下段に構えていたヒノカグツチが凄まじい速度で振り上げられる。
下段から上段へと振り上げられたその魔剣は、ゲイボルグの切っ先を切り落としてた。
ヒノカグツチが魔剣ならば、ゲイボルグもまた神槍。
影の国の女王が最高の英雄に捧げた無双の槍なのだ。
「なっ……!?」
そのゲイボルグが切っ先を切り落とされたことに、シャナの口から驚きの言葉が漏れる。
シャナはダブルドラゴンライダーキックを直撃した痛みが今も身体中に襲いかかっている。
それこそ戦闘不能に陥りかねないダメージだ。
避けられるかもしれない、という可能性は考慮していた。
それでも、ここで志々雄を殺せば残りの人員からして、この場の主導権は握ったも同然だ。
だが、突きが当たるよりも早く武器自体を破壊されることは想像すらしていなかった。
一方で志々雄は下段から振り上げたヒノカグツチを両手で握ると薄い唇を歪めた。
ヒノカグツチへと双竜のつくりあげた炎がうねりを上げて纏わりつき始める。
炎の壁となり、周囲を地獄に変えていた炎の全てがヒノカグツチへと集まる。
志々雄の燃え盛る剣気にヒノカグツチが歓喜の叫びを上げて呼応しているのだ。
「どうした、その程度の痛みで鈍ってんじゃねえぞ!」
「ッ……!」
志々雄の嘲りのような叫びとともに、炎はその熱を抑えることなく螺旋状に燃え上がっていく。
シャナは既に槍としての意義を失ったゲイボルグを投げ捨てる。
そして、ドラゴンライダーキックにすら耐えたビルテクターを両手持ちに構え直す。
シャナに逃げる選択肢はなかった。
それは誇りによる戦意でもなければ、強がりでもない。
ドラゴンライダーキックが直撃したシャナの身体は、すでに逃げる力すらも満足に残っていないのだ。
「フ………」
盾を構えるシャナの姿を見て志々雄は小さな笑みを漏らした。
しかし、シャナは防御の構えを辞めはしない。
ビルテクターはただの盾ではない、剣聖ビルゲニアの持つ最硬の盾である。
仮面ライダーBLACKのライダーキック、ライダーパンチにも耐え続けたビルテクター。
この殺し合いの場に来てもあらゆる攻撃に耐え続けてきたのだ。
「 終 の 秘 剣 」
しかし、どんな盾であろうと大地母神を殺した炎神の力を封じられた剣の前には意味を持ちはしない。
空間存在する霊も肉も区別なく燃やさんとする魔剣ヒノカグツチ。
そう、ゴルゴムの世紀王だけが持つことを許されるサタンサーベルを前にしたように。
「 火 産 霊 神 !!!!」
――――魔剣ヒノカグツチもビルテクターを斬り落とした。
【6】
「カッ……ハッ……!?」
シャナの視界はビルテクターで防がれていた。
そのビルテクターが真っ二つに切り裂かれ、代わりに無骨な太刀が視界に映るのだ。
ビルテクターという盾が視界から消えていき、炎を巻き上げるヒノカグツチが映る。
志々雄の振るう魔剣はビルテクターを斬り落とすだけでは止まらない。
ビルテクターのさらに奥、構えていたシャナもまた袈裟懸けに斬りつけられる。
あらゆる骨肉はもちろん、人体を生命として成り立たせる臓器もまた炎の魔剣が破壊していく。
だが、志々雄の秘剣である『火産霊神(カグツチ)』は単純な斬撃だけで終わらない。
内側から燃やされていく恐怖。
ヒノカグツチの纏った炎は、その全てがシャナを焼きつくすための炎へと移り変わる。
シャナの身体が炎に包まれていない、いや、炎となっていない箇所は存在しなかった。
肉を斬り骨を砕いた斬撃と、今も血を蒸発させる炎熱。
それはどんな叫びを上げても耐えられない未知の痛みだ。
しかし、魔剣が繰り出した秘剣は喉を瞬時に焼きつくし、標的にあらゆる言葉を許しはしない。
戦士の誇りを守る強がりも、助けを呼ぶ悲鳴も許されない。
許されるものは、人とは思えない言葉にならぬ哀れな叫びの音だけだ。
皮膚はぐにゃりと不気味に溶け出し、神をも焼きつくす熱に沸騰した血肉はその皮膚を突き破る。
熱く燃ゆる炎髪は濁った塵へと姿を変え、煌めく灼眼はどす黒い消し炭へと堕ちていく。
そんな中でシャナの心を痛めたものは内から現れた紅蓮の炎が夜空を焦がしていくことだった。
――――ごめんなさい、アラストール。
火焔に焼かれているシャナの心中にあるものは謝罪の想いだった。
炎髪は鮮やかな色を濁った炭へと変え、灼眼の透き通った瞳は見る影もない。
火焔に焼かれる今のシャナは『炎髪灼眼の討ち手』などとても呼べない姿だ。
そのシャナの上空に輝く夜空が紅蓮の炎に照らされる。
紅蓮の炎とは、シャナが幼少の頃から見続けてきた魔神アラストールの存在の力そのもの。
その紅蓮の炎が空へと昇って行く。
アラストールが『こちら側』から『歩いて行けない隣』へと帰ってしまったということだ。
ここに来てから、なにも話せなかった大好きな人。
自らの敗北によって目的も果たせずに帰って行ってしまう。
それがシャナには悲しくて、なによりも惨めで仕方がなかった。
流す涙も蒸発してしまったシャナは炎に焼かれた唇を動かす。
喉の焼け焦げたシャナの発する音は言葉とはとうてい呼べない不恰好な音の集まりだ。
それでも、シャナは唇を動かした。
紅塵を撒き上げ、夕日を背にして。
――――弱くて、ごめんなさい。
炎に溶けたシャナもまた、太陽が眠ろうとする緋色の空に消えていった。
【シャナ@灼眼のシャナ 死亡】
【7】
魔剣ヒノカグツチが志々雄の剣気に応えて大気中の塵を炎へと変えた。
その生み出した炎が、志々雄の身体に大きな影響を受けていた。
志々雄は全身火傷の影響で体温の調節が出来ない。
手元のヒノカグツチが高温の熱を発すれば、志々雄の体温もまた上昇する。
炎とは志々雄の最大の武器であるが、それは同時に志々雄を破滅へと導くものでもあるのだ。
だが、その炎が熱したものは体温だけではない。
志々雄の心もまた炎の熱によって高揚していた。
本来、志々雄の操る秘剣とは、愛刀・無限刃の発火能力を使って始めて成り立つ剣技だ。
その中でも火産霊神は簡単に出来る剣技ではない。
人間の血肉を吸い取り油にまみれたノコギリ状の刀身を鍔元から切っ先まで鞘口に走らせて炎を上げる。
そして、標的へと向かってその舞い上がった炎を叩きつけ、標的そのものを炎へと変えていく技なのだ。
志々雄はこれこそが炎の剣技の終着点だと信じていた。
しかし、まだ先があることに志々雄は気づいた。
炎に焼かれる――――いや、炎そのものへと変化していくシャナを見つめながら志々雄は昂揚していた。
さきほどの秘剣は、志々雄の言葉通り『終の秘剣・火産霊神』そのものと大きな違いはなかった。
一部を炎で焼くのではなく、相手を炎そのものに突き落とすことが火産霊神という技の本質だ。
それは志々雄が裏切りに合い、全身を炎で焼き焦がされたことと同じ状況に遭うことだ。
天才刀鍛冶である新井赤空の殺人奇剣シリーズを超える剣などない。
だが、存在するとすれば、それはまさしく人を超えた神が生み出したものでしかあり得ない。
そう、古事記に伝わる神の一柱である火之迦具土神の力を宿した魔剣しかあり得ないのだ。
この魔剣こそが、無限刃の発火能力では足りなかった真の秘剣の完成させる。
まさしく人智を超えた力だからこそ生まれる、終わりのさらなる奥。
まさしく限界を超えた秘剣の予感を感じ取っていた。
この剣ならば、神の力を宿した魔剣ならば。
――――焔玉の究極が火産霊神であるように、火産霊神を超えた究極の秘剣を生み出せる。
「クッ……クックク……」
志々雄はこのバトルロワイアルに来てから感謝の念というものを初めて覚えた。
なにせ、小さな世界に押し込められていた志々雄が世界の広さを知る要員となったのだから。
神、魔法、仮面ライダー、悪魔、アルター能力、ローゼンメイデン、錬金術。
この場にはありとあらゆる、超常の力が眠っている。
「ハハッハァハハッハッ!」
志々雄はリュウガからの変身を解き、火に焼かれた罪人の姿へと戻る。
バトルロワイアル会場にその志々雄の狂笑が木霊する。
そして、その狂笑にハッとしたように城戸真司は金縛りから解けた。
「お、おい!」
「……あん?」
水をさされた志々雄は機嫌の悪さを隠そうともせずに真司を睨みつける。
うっ、と気圧されるがそれでも真司は志々雄へ言葉を投げつけた。
「こ、殺したのか……!?」
「見りゃわかるだろ、こいつが生きているように見えるか?」
消し炭となったシャナを指さしながら、唇を歪めて志々雄は逆に真司へと問いかけた。
「な、なにも殺す必要なんてないだろ!
あそこで槍を壊したんだから、その、動きを止めるだけでも……!」
「甘いな」
志々雄は真司の言葉を一笑に付す。
そして、その笑みをさらに深め、興奮を隠さずに言葉を続ける。
「こいつは俺を殺そうとしたんだ。だから、俺もこいつを殺してやったんだよ」
「なっ……!?
こ、殺そうとしたから殺してやったって……そんな簡単に言っていいのかよ!
アンタなら、殺さずになんとかする方法もあったんじゃないのか!?」
志々雄の腕前は優れている。
それはシャナを一刀に斬り落としたことや、変身したシャナと互角に戦ったことからもわかる。
なによりもシャナはダブルドラゴンライダーキックで大きなダメージを受けていたのだ。
捕縛するのも難しくはなかったはずだ。
「アイツはまだ会話の成り立つ相手だったし、V.V.に従っているわけじゃなかった!
会話次第じゃ正しい方向に、俺達と一緒に行動できたんじゃないのか!?」
「俺達と一緒に、か」
志々雄は真司の言葉を鼻で笑い、激高する真司の言葉をなんでもないように受け流す。
「つまり……命は奪うなってことか?
ハッ……お笑い種だな」
「いいか、よく聞け」、そう前置きして志々雄は言葉を続けた。
この世の理を知らない幼児へと向かって、現実を突きつける。
「この世は所詮弱肉強食、強い奴が弱いやつを食らう世界なんだよ。
こいつは俺より弱いのに俺を食おうとした……だから、俺が殺してやったんだ」
全身の火傷の影響で薄くなった唇を歪めながら、己の、世界の真理を口にした。
「なっ……!?」
だが、真司は納得しなかったのだろう。
志々雄の襟を掴んだ手に力がこもったようだ。
志々雄はそんな真司の剣幕がひどくおかしく、くっくっ、と喉を鳴らして笑い声をこぼす。
「何が可笑しいんだよッ!」
その声に反応した真司が、志々雄にはおかしくて仕方がなかった。
薩長が幕府へと刃を向けたのは決して正義を信じたからでも、倫理に則ったわけでもない。
幕府転覆を成せば己に利があると見たからこそだ。
変えた世界とは正しい世界ではなく、変えたもの達にとって生きやすい世界なのだから。
だが、この真司を見ると、思っているよりもそんな馬鹿は多かったのかもしれないと思った。
正義を信じて戦えばこの世が正しくなるだろうと、本気で信じていた馬鹿が。
「まあ、なんだ。そう気張るなよ」
「お、お前……馬鹿にしてんのか!?」
まともな会話を行おうとしない志々雄に、真司は怒りを覚え始める。
そして、その沸騰した頭に決定的な言葉を投げかけた。
「所詮、コイツは弱かったのさ。俺が殺さなくても誰かが殺したさ」
「お前ぇ……!」
真司は血が滲みかねないほど思い切り拳を握りこみ、思い切り振りかぶる。
しかし、志々雄は一向に嘲笑をやめようとはしない。
「とと、お、落ち着けって!」
その拳を止めたのは三村だった。
繰り返し言うことになってしまうが、三村としては協力できる参加者を集めることが目的だ。
首輪解除のためにはそれが必要条件なのだから。
そしてまた、志々雄も三村が仲裁に入ることを読んでいたのだろう。
「とにかく、どこかで落ち着つける場所に行かないか?
アンタ達……いや、この会場に居る全員にとっても重要な話があるんだ。
それに、アンタ達は放送を聞けたのか、さっきのライダーと戦ってたんだろ?
俺達は聞き取れてるから、そこら辺も確認したほうがいいだろ」
挑発じみた言動の志々雄に変わり、三村が言葉をつなげる。
現在、優先されるべき事項は首輪の解除方法が参加者を集めることだ。
真司たちと三村たちは全員の殺害ではなくこの場からの脱出という共通の目的がある。
真司が志々雄に強い嫌悪感を抱いているが、それでも脱出という目的があれば手を組める可能性がある。
だからこそ、三村は志々雄の言葉をカバーするようになるべく相手を尊重した言葉を使って協力を求めた。
「君も……君も、あんな奴と一緒に居たら死んじまうぞ!?」
だが、真司の激情はまだおさまっていない。
拳を強く握り険しい表情のまま、真司は三村へと言葉を投げかける。
「え、ああ、そうだな……確かにそうかもしれないな」
三村はそんな真司の言葉に、少し困ったように笑みを浮かべた。
真司としては賛同してくれるだろうと思っていた。
なにせ、命がかかっているのだ。
だからこそ、一向に賛同の意を示そうとしない三村に対して真司は妙な焦燥を覚えてしまった。
「ど、どうしたんだよ……」
「いや、アンタの言葉は感動的だしいい言葉だと思うから、あんまり言いたくないけど……」
やはりどこか困ったように、それでも意思の変わらない瞳を向けながら三村は言葉を返した。
「結局、人は死んでるだろ?」
三村信史の発した言葉はわかりやすく単純なものだった。
目の前の少年、三村は志々雄のように明確な信念を持っているわけではない。
大人びた雰囲気こそあるが、三村はまだ少年なのだ。
志々雄に惚れ込みながらも、三村の口調には真司の主張への理解があった。
だからこそ、真司はその言葉に対してなにも言い返せなかった。
「……ッ!」
「真っ赤か人間……」
真司は言葉に出来ない想いのまま、拳を地面に叩きつける。
翠星石はその姿を心配そうに見つめる。
クーガーはと言うと、志々雄を冷めた目で見つめポツリと呟いた。
「……怖いねぇ」
クーガーは全身に包帯を巻いた志々雄を眺めて舌打ちをする。
火傷であらゆる機能が停止した半ば死体同然の志々雄。
だが、その志々雄はこの場の五人の中でもっとも精気に満ち溢れていた。
『強さ』という基準になによりも純粋な志々雄。
だからこそ、力の未熟な三村は肯定するのだろう。
志々雄は禍々しいが、同時に人を引きつけてやまない。
「気にしなさんな。
パッと見たところアイツは俺達とは……いや、多くの人間とは価値観が違う」
とは言え、志々雄の話だけでも聞くことになりそうだ。
どれだけ気に食わない相手であろうと、こちらにメリットがあるのならば話をする価値はあるのだ。
もちろん、クーガーは真司がどうしても嫌だというのならば強制しないが。
真司と志々雄が分かり合うことは難しいだろう。
なにせ志々雄の根源的な思考の核は弱肉強食、それを揺るがすことが出来ない。
強弱こそが物の指針である志々雄を善悪で問うこと自体が滑稽なことなのだ。
だから、真司がどれだけ言葉を尽くそうと志々雄を変えることなど出来はしない。
「正義かもしれないが愛ではない……まあ、文化的じゃないってことだ」
ストレイト・クーガーは息も絶え絶えながら、シャナの消し炭を握り締める真司に深い笑みを見せた。
【一日目夜/F−8】
【志々雄真実@るろうに剣心-明治剣客浪漫譚-(漫画)】
[装備]:サバイバルナイフ@現実、ヒノカグツチ@真・女神転生if...
[所持品]:支給品一式×2、リュウガのデッキ@仮面ライダー龍騎、不明支給品0〜1、林檎×8@DEATH NOTE、鉄の棒@寄生獣
マハブフストーン@真・女神転生if…、本を数冊(種類はお任せ)
[状態]:各部に軽度の裂傷、疲労(中)、昂揚
[思考・行動]
1:自分の束ねる軍団を作り、ぶいつぅを倒す。
2:戦力になる者を捜し、自分の支配下に置く。
3:気が向いたらガリア王国のジョゼフを持て成す。
4:雑魚であっても利用する。
[備考]
※首輪に盗聴器が仕掛けられている可能性を知りました。
※クーガーから情報を得ました。クーガーがどの程度まで伝えたのかは後続の書き手氏にお任せします。
※ギアスとコードについて情報を得ました。ただし情報源がつかさなので、漠然としています。
※ファイナルベントを使用したため、二時間変身不可能です。
【三村信史@バトルロワイアル(小説)】
[装備]:金属バット(現地調達)
[所持品]:支給品一式、確認済み支給品0〜2(武器ではない)、ノートパソコン@現実、工具@現実(現地調達)、首輪の残骸(銭形のもの)、
首輪解除に関するメモ、マハブフストーン×3
[状態]:左耳裂傷
[思考・行動]
0:このまま志々雄についていく。
1:真司たちに首輪解除の協力を求める。
2:主催のパソコンをハッキングするか、IDとパスを探すか……。
3:緑色の髪の女に接触し、V.V.の情報を聞き出す。
4:今回のプログラムに関する情報を集め、志々雄の判断に従う。
5:二十一時に、HPを確認する?
[備考]
※首輪の解除方法を知りました。
※パソコンを端末に接続して検索ページを開くと、『多ジャンルバトルロワイアル』の公式HPに繋がります。大まかなイメージはこちらで。
※首輪について
爆発物質は流体サクラダイト、その他はコード数本とブラックボックスが確認出来ます。爆破条件・解除条件等はSS内で提示した通りです。
外装カバーは、篠崎咲世子がルルーシュ・ランペルージに変装する際に用いたフェイスカバーと同じ構造をしています。
※A−10研究所にはゲフィオンディスターバーが設置されており、カードキーによって使用出来るようになります。
【ストレイト・クーガー@スクライド】
[装備]:葛西のサングラス@ひぐらしのなく頃に、
[所持品]:基本支給品一式、不明支給品(確認済み)0〜1
[状態]:身体中に鈍い痛み、両脚に激痛、激しい疲労
[思考・行動]
1:志々雄と三村の『話』というのを聞く。
2:かがみと詩音の知り合い(みなみ、レナ)を探す。
3:後藤を最速で倒す。約束は守る。
※総合病院にて情報交換をしました。
※ギアスとコードについて情報を得ました。ただし情報源がつかさなので、漠然としています。
※城戸真司のズーマーデラックス@仮面ライダー龍騎は付近に放置さてあります。
C
支援
しえんぬ
【翠星石@ローゼンメイデン(アニメ)】
[装備]庭師の如雨露@ローゼンメイデン、真紅と蒼星石のローザミスティカ@ローゼンメイデン
[支給品]支給品一式(朝食分を消費)、真紅のステッキ@ローゼンメイデン、情報が記されたメモ、確認済支給品(0〜1)
[状態]身体中に強い鈍痛、大きな疲労
[思考・行動]
0:真っ赤か人間……
1:志々雄と三村の話を聞くかどうか決める。
2:真司と同行し、殺し合いを止める。
3:真紅が最後に護り抜いた人間に会い、彼女の遺志を聞く。
4:水銀燈を含む危険人物を警戒。
5:桐山はカズマに任せる。
[備考]
※スイドリームが居ない事を疑問に思っています。
※真紅のローザミスティカを取り込んだことで、薔薇の花弁を繰り出す能力を会得しました。
【城戸真司@仮面ライダー龍騎(実写)】
[装備]無し
[所持品]支給品一式×3(朝食分を消費)、確認済み支給品(0〜3) 、劉鳳の不明支給品(1〜3)、発信機の受信機@DEATH NOTE
[状態]身体中に激しい鈍痛、激しい疲労、劉鳳を殺してしまったことに対する深い罪悪感、志々雄への嫌悪
[思考・行動]
0:ッ……!
1:志々雄と三村の話を聞くかどうか決める。
2:右京の言葉に強い共感。
3:翠星石と同行し、殺し合いを止める。
※絶影を会得しました、使用条件などは後の書き手の方にお任せします。
※ファイナルベントを使用したため、二時間変身不可能です。
※シャナの遺体は燃えました。
※支給品はゲイボルグ、仮面ライダーファムのデッキ、ビルテクターが破壊されました。
デイパックに入っていた残りの支給品は後続の書き手に任せます。
617 名前: ◆EboujAWlRA[] 投稿日:2012/09/23(日) 14:20:25 ID:GcL6nbCc0 [22/23]
投下終了です
誤字、脱字、展開の矛盾がありましたら指摘お願いします
代理投下終了です。投下乙でした。
投下乙!!
三対一にも関わらず余裕で勝利するシャナに絶望……からの志々雄すげえええええ!!!
まさしくおいしいとこ取り…!!
シャナは炎に焼かれるっていう皮肉な死に方だったけど、緋色の空の描写が美しかった
とはいえ惚れた女に命を懸けるのに文化の真髄を見出すクーガーとか、原作でもロワでも殺人のことで苦悩し続けた真司とは根本的に相容れないよなぁ
逆に三村はすっかり志々雄の補佐が板についてて、馴染み方がすごい
首輪解除は大きな一歩になるけど、一筋縄でいくのかなぁこの集団…
誤字の指摘は
>>766 最後まで言い切れることなく、シャナは強烈な前蹴りをボロボロのクーダーに浴びせる。
>>785 鍛錬の最中は主に体術を徒手空拳が主であった。
>>797 なにせ、小さな世界に押し込められていた志々雄が世界の広さを知る要員となったのだから。
809 :
創る名無しに見る名無し:2012/09/23(日) 20:54:10.42 ID:UQ3fqPEE
投下乙!
クーガーか真司が落ちると思ってたけど、まさかまさかのシャナ脱落
真司クーガー翠星石の三人を制圧したシャナを簡単に殺す志々雄が恐ろしすぎる
ヒノカグツチで撃つ火産霊神が何ともエグいな
燃やすんじゃなくて、相手を炎に変えるとか……
その被害者第一号がフレイムヘイズだったシャナってのがすごい皮肉だ
そしてシャナはなぁ……
最後の最後まで迷走していた感じがする
やっぱり魅音を殺した時点で、既に命運尽きてたのか
せっかく田村さんがデッキを託したのに、ほとんどマーダーと変わらんかったな……
真司クーガー翠星石を一人も殺さなかっただけマシか
前の話や今回の話で少しずつ対主催が盛り返してきた感はあるし、ここから少しずつ逆転していくのかな
指摘なのですが、真司の状態表に龍騎のデッキがありません
投下乙です
短期間で、主要な4人の書き手の戦闘回が続くとは・・・!
EboujAWlRA氏の志々雄無双がヤバい
ロワラジでも書き手2人の話もきけて良かった
実況スレでew5bR2RQj.氏と.WX8NmkbZ6 氏がそれぞれ「喜びさん」「殺しさん」と呼ばれていたのに噴いた
おつかれさまです
>>808 >>811 ご指摘ありがとうございます
収録の際に直させていただきます
そして、代理投下ありがとうございました
実況スレの
>>945に音源うpされたから、聞けなかった人はここからダウンロードするといいよ!
殺しさんのキャラが濃かった(小並感)
投下・ラジオお疲れ様です。
シャナも時間制限というデメリットがあるのに
三村の話を聞かず戦闘を続行したりと判断を間違えたとしか…
自分一人が首輪を解除できればよくて
他人の首輪を解除してやるつもりがないというのが志々雄らしい
ただ、他の面子の方が現状から飛躍的向上はしそうなんだよな
ゲフィオンディスターバーのカードキーは現在
シャナと後藤の二人が所有してるというのがどう転ぶか気になる
DS用の追加デバイス?そんなものは存在しなかったぜ!
桐山のキルスコア7人でトップマーダー、二大マーダーは共に5人か・・・
漫画桐山は15人も殺してるとはいえ改造人間コンビを抜くってのもすげえなぁ
特に後藤は玲子殺害まで半日近く殺せてないしどう巻き返すか気になる所
でも桐山の殺した連中ってカズマ以外はまともに戦えなかった奴ばかりだからなぁ……
そこが桐山らしいって感じもするけど
桐山はまさに殺せる時にしっかり殺した殺人マッシーンだよな
真正面からだけじゃなく人知れず密かに殺したりとか
そういえば二大マーダーは結構見逃してやったりしてたな
そうでもしないともっと死人が出ていただろうし
このロワで桐山がステルスしながら本性を表す、という流れになったのは痺れた
強豪は既に負傷してる所を仕留めるという汚さ、
乱戦状態で他の相手と戦いながらどさくさに紛れて一般人を殺すという狡猾さは
「そんな状態でそこまでする余裕あんのかよ!」と思った
あれ、予約時刻杉田?
>>820 09/20(木)に予約で延長が入ってる、5日+2日で一週間だから明日が期限だね
俺もあれ?と思って予約スレ見たら、延長申請したのが09/24(月)だから勘違いしてたみたいだ
スザクの惚れ薬って1日程度じゃ切れそうにもないけどユーフェミアの名前は知ったし、
他の参加者から水銀燈の生存を教えられるなり解除してもらうなりしてもらえば
まだ可能性はある…のか?のか?
投下します。
錬投機性に引っかからないようゆっくり生きますので、ご容赦下さい。
黄金の輝きを放ち続ける海。
無限に広がる色とりどりの花畑。
そして、どこかへ突き進んでいく浮遊感。
これを味わうのは、初めてではない。
むしろ何度も何度も味わっていて、久方ぶりの光景に懐かしさすら覚えるほどである。
ほんの少し前まで全く信用していなかった、死後の世界に足を踏み入れる感覚。
無限の広がりを見せるこの空間に、突如として現れるのは一人の老人の姿である。
もちろん、その老人の姿も彼は覚えている。
片手に杖を持った老人の姿をし、黄泉の国の門の前に立ち続ける存在、カロン。
「……今回は、突っぱねてくれねえのか」
ポツリと、独り言をこぼす。
いつもならば、ここで突き返されるはずなのだ。
そのときに吐かれる台詞は決まっていた。
「お前はまだ次なる生を受ける魂ではない」
その一言が、今回はないということは。
「ま、だろうな……」
この最悪な殺し合いに巻き込まれ、こうして死に絶えることが自分の運命だったということ。
今までと違い、だんまりを決め込んでいる老人がその証である。
受け入れるべき、いや受け入れなくてはならない運命なのだ。
「……まだ悔いがあるようだな」
「悪ぃかよ、まだ神戸牛のシャトーブリアンだって食ってねーんだぞ」
「そういうことではない」
わざとおどけてみせたが、老人の目つきは依然として変わらないままである。
「チッ、お見通しかよ……」
そう、そんなことではない。
「そーだよ、気になってしょうがねえんだよ」
人間が死ぬとき、最後に失うのは聴覚だとされている。
逆に言えば、死んだ後少しだけは聴覚が残っているという事。
その残されたわずかな時間に、彼は一つの声を捕らえていた。
回復魔法の名を叫び続ける、宿敵の声を。
互いに憎みあっていたはずの存在が、なぜ相手の傷を癒すような行動を取ったのか?
それが、彼の心に引っかかり続けていたのだ。
気にしたところで何がどう変わる、というわけでもないのだが。
「転生を迎えるべき魂を、現世に送り返す事は出来ぬ」
表情一つ動かさずにそう告げるカロンに、思わず落胆の溜息をこぼす。
なぜ、それが残念だと感じるのか。しばらくは、分からなかった。
ゆっくりと、ゆっくりと思考の海へと入り込んでいく。
疑問という毛玉から、真実の赤い糸を探すように。
支援
泣いた。
ガラス玉のような大粒の涙を流し、頬が引き裂けんばかりの力を両手に込め、赤子のような声で叫びながら。
泣いた。
思考能力も行動能力も全て投げ捨て、耳に入ってこようとする放送の声を弾きとばすように。
泣いた。
いつ、どこで、誰が襲ってくるかわからないこの状況下で。
泣いて、泣いて、泣いて。
とどまることを知らない感情が溢れだし、狭間偉出夫という一人の人間を支配していく。
本来あるはずの「憎しみ」や「解放感」ではなく、「悲しみ」と「閉塞感」が彼を締め付ける。
「違う、違う、違う、違う、違う!」
その現実を、狭間は否定し続ける。
「私は、貴様を殺したいと思っていた」
「悲しみ」など抱くわけがない、目の前で息絶えているのは憎むべき相手なのだから。
「そして、貴様は死んだ。貴様が弱く、この場で生き残れなかった。簡単な話だ」
必ず殺すと誓った人間が死んでいるのだから、むしろ喜びすら見せるべきである。
「だが何だ! さっきから私を支配するのは! 私はこんなもの知らぬ!
蒼嶋、貴様が憎い、憎い、憎い! そのはずなのに、なぜ私は喜べないのだ!」
涙は止まらない。
憎むどころかその逆の感情を抱いてしまっている自分を繰り返し否定し続ける。
「答えろ、蒼嶋ァ! この魔神皇の時間をどこまで奪うつもりだッ!
答えろ、答えろ、答えろォォォォ!!」
死人に口無し、当然返事など返ってくるはずもない。
わかっているはずなのに、彼は遺体を繰り返し叩き続ける。
それがフェイクであることを、祈り続けるように。
「何故だあ、何故なんだあ、何故死んだァアアアア!!」
声が掠れそうになっても、彼は泣き叫ぶことをやめない。
いや、やめることなど出来はしなかった。
抗うことの出来ない何かに従わされるように、自分の意志とは全く違う行動を取り続けている。
「うあ、あ……あ、ああ、あああああああああ!!!!」
魔神皇の叫びが空に轟く。
踊る。
悶える。
振り払う。
地面を叩く。
髪を掻き毟る。
頭を打ちつける。
虚空を蹴りあげる。
目に映るモノを殴る。
大暴れと呼ぶにふさわしい、破壊を生まない数々の破壊行動。
悲痛な叫びと、止めどなく流れる涙と共に。
螺旋が、巻き起こる。
空虚。
それが彼の胸に残り続ける一つの感覚。
憎むべき相手がいた、この場で必ず殺すと思った。
ようやく出会った相手は、物言わぬ屍だった。
手段は違うが目的は達成した、そのはずなのに。
彼の気持ちは「終わった」ことにさせてくれない。
その場で高笑いを決め込み、悦に浸りたいほど喜ばしい出来事なのに。
なぜか、素直に喜べない。
挙げ句の果てには効きもしない回復魔法を唱えるなど、まるで「死んでほしくなかった」と言わんばかりの行動を繰り返している。
自己矛盾。
思考と行動が等号で結ばれていない。
受け入れ拒否。
起こした行動が自らの行動であると言うことを認めたくはない。
「違う。私は、私は!」
憎むべき相手を、憎めないどころか救いたかったとすら思っている自分の心を否定する。
そうしていつの間にか迷い込んでいた暗闇の中で、ひたすら自己と闘い続けていた。
そんな彼の元に、一つの声が届く。
「いつまでやってんだよ」
それは、ずっと追い続けていた声。
聞き間違えることもない、聞き間違えるはずがない。
「蒼……嶋」
それは、ずっと追い求めていた姿。
見間違えることもない、見間違えるはずがない。
この世でたった一人の宿敵、蒼嶋駿朔。
「蒼嶋ァァァァァァアアアア!!!」
涙が残るその顔に笑みと怒りを浮かべ、握り拳を作って殴りかかる。
全身のバネを生かした渾身の右ストレートが、現れた影の左頬へと突き刺さる。
その一発を、影は。
「……効かねえなあ」
笑って受け止めていた。
その様子に怒りを示し、もう一本の腕を伸ばす。
だが、突き進む拳へと変化する前に、その手は押さえられる。
「全く、さっきまでメソメソ泣いてたのはどこのどいつだったんだろうな?」
「うるさいっ! 黙れっ!」
顔に怒りを浮かべ、狭間は蒼嶋に止められながらも殴りかかろうとする。
蒼嶋は苦笑いしながら、まるで子供をあやすように狭間を宥めようとする。
「そんなにぶっ殺したいと思ってるんだったら、俺が死んで満足だろうに。
どうしてさっきまでビースカ泣いてたんだよ?」
「な、泣いてなどいない!」
「ほぉ〜、そんなにおめめをぷっくり腫らしてる人間の言う台詞じゃ無いと思うけど〜?」
顔を真っ赤にしながら反論していた狭間が、急に押し黙っていく。
ニヤニヤと意地悪な笑みを浮かべつつ、蒼嶋は狭間へと問いかける。
「なあ狭間、お前は何を守ろうとしてるんだ?」
質問の意味が理解できない、といった表情をしている狭間を見つめながら、蒼嶋は問いかけを続けていく。
「自分の本当の気持ちを偽って、否定して、受け入れる事を拒み続けて、それで何が生まれるんだ?」
「拒んでなどいない! 私の気持ちは私の気持ちのままだ!」
「じゃ、なんでブチ殺したいほど憎んでる相手の傷を治そうとしたりしたのさ」
反論しようにもうまく言葉に出来ず、狭間は唸るばかりである。
意地悪そうな顔をしながらも、蒼嶋の問いは狭間の芯へ迫ろうとしている。
「本当の気持ちを否定してまで、お前が演じているモノは何なんだ?」
狭間は答えない、答えられない。
ただ、ただ、狼が何かを警戒するように喉を鳴らすだけである。
「ったくよぉ〜、始めっからそうだったよなぁ〜」
蒼嶋が顔にペチりと手を当てながら、呆れ返るような態度を取る。
そして溜息を一つ零してから、きっぱりと言い放っていく。
「お前はさ、自分の立場を守ろうとしてるんだよ」
「なっ……!? この私が、保身に走っているだと!?」
思わず声を荒げて返答する狭間に対し、蒼嶋はまあ落ち着けよと言わんばかりの態度を保ったままである。
口を開いて今にも怒鳴り散らさんとする狭間を押さえつけるように、蒼嶋は言葉を被せていく。
「ま、初めとはちょーっと意味合いが変わってるけどな」
蒼嶋が何を言おうとしているのか、狭間には全く予想もつかなかった。
ただの一人の男の戯言だろうと、頭の中では決め付けようともしていた。
だがその戯言から耳を離そうとしない自分も、確かにそこにいた。
「初めは……ま、あの世界に対しての復讐の意味合いが大きかった。
対話どころか、狭間偉出夫っていう一人の人間に向き合ってももらえない世界に対して」
ある事ない事を作り上げ、一人の人間像を勝手に染めていく人間達。
対話を試みようとしても、向き合うどころか一方的に突き放していく人間達。
挙句、狭間偉出夫という一人の人間に関わることを拒もうとする人間達。
誰も彼に構わない。
誰も彼と話をしない。
誰も彼へ寄り添わない。
誰も彼を愛してくれない。
誰も、誰も、誰も、誰も、誰も。
狭間偉出夫にとって、現世とは暗い暗い牢獄のような場所だった。
「そんで、お前はそんなクソったれた世界の上に立つ方法を身につけた……まー方法はこの際いいだろ。努力は努力だし。
ごく狭い世界とはいえ、誰しもがお前の存在を認識して、恐れるようになった」
狭間は一つのことを決めた。
誰も応じてくれないのならば、応じてくれるような力を持てばいいと。
圧力を以って、対話に応じさせればいいと。
そして彼は人間を恨み、世界を恨み、魔界を統べる力へと手を伸ばしていった。
「お前はさ、話を聞いてくれる人間が欲しかったんだよ。
でも、普通にしてたら誰も話を聞いてくれない。
だから、人より上の立場に立つための力を手に入れて、話を聞いてもらってたんだよ」
その計画は成功した。
狭間偉出夫は魔界を統べる皇、魔神皇として世界の一部を魔界へと飲み込んだ。
圧倒的恐怖と絶対的権力を以て、今まで自分のことを見下していた人間や、対話に応じようとすらしなかった人間と"対話"した。
会話のようなキャッチボールではなく、狭間側からの一方的な銃撃に近いものだったが。
巻き込まれた人間達は、魔神皇の言うことを聞くしかなかった。
そう呼んでいいのかどうかは疑問が残るが、彼にとっては擬似的に会話という物は成立していた。
交流が成り立たないのならば、成り立つような環境を作ればいい。
彼が長く続いた苦痛の末に、はじき出した答えは学校の支配だった。
「逆に言えば、それがないと誰も話を聞いてくれない。
狭間偉出夫に逆戻りしたら、誰もお前と向き合ってくれない。
だから、お前は魔神皇である必要があった。」
逆の考えをすれば、あの魔界で人々は狭間偉出夫と会話していたのではない。
魔神皇という、一つの恐怖と会話していたのだ。
もし、相手が魔神皇でなく狭間偉出夫という一人の人間だったら?
普段どおりの、どこにでもいる一人の人間に戻ってしまったら?
その結果は考えるまでもない、狭間自身が容易に察することが出来る。
"誰も相手にしてくれない"へ逆戻り。
一人の惨めな人間が、そこにいるだけになってしまう。
「お前が魔神皇でなくなることは、存在の消滅を意味するようなもんだしな。
だから魔神皇の地位を脅かす存在を、抹消しようとしてたわけだよ」
そこで「ま〜っ、俺の方が強かったけどなー!」と蒼嶋はおどけてみせる。
蒼嶋の言うとおり、狭間は力を失い魔神皇でなくなることを恐れた。
それと同時に、自身の作り上げた魔界を乗り越えられる人間などいる訳がないとも思っていた。
だが、蒼嶋駿朔と赤根沢玲子は魔界を乗り越え、狭間を打ち倒し、精神世界へと入り込んできていた。
敗北は考えてはいなかったが、彼らにそれ相応の実力があるのは明らかだ。
万が一、己が魔神皇で無くなり、また無視される存在へと逆戻りすることが、彼はたまらなく怖かったのだ。
「ここに来てもそうさ、お前は魔神皇としての立場を使って人と対話しようとした。
怖いからな、他人が話を聞いてくれないことを。
どうせそーなんだろぉ〜? 言わなくったってわかるっつの」
すべてお見通しといわんばかりに、蒼嶋は意地悪な笑みを浮かべる。
反論しようと思っても、頭によぎった水銀燈とのやり取りを振り返るだけでも、自分の口から言葉は何一つ浮かんでこない。
「……自分と向き合ってもらえないことが怖い、だから魔神皇として高圧的な態度をとらなくちゃいけない。
どんな他人に対してもお前が高圧的だったのはそれで全部理由がつくんだよ」
喉を鳴らすことしか出来ないほど、的確な指摘。
何かを言い返そうとしても、空虚の薄っぺらい言葉しか出てこない。
押し黙るだけ、押し黙るだけ。
そんな狭間を見据え、蒼嶋の表情が途端に厳しくなる。
「じゃ、もう分かるよな? 俺が死んで、お前が思ってるはずもない感情をむき出しにして、ビースカ泣いてた理由がよ。
……え? ……まっさか、まだ分かんねえのか!? かーっ、ニブチンも大魔王クラスかよ」
もう一度、手を顔にピシャリと当て、落胆の溜息を零す。
確かに蒼嶋の語る魔神皇生誕の理由の大筋は合っている。
しかし、何故それが自分の先ほどの行動が思念とかみ合わない理由を解説できるのか。
狭間には幾ら考えても理解できなかった。
支援
「心のどっかで思ってたんだろ? 俺なら話聞いてくれるかもしれないって。
魔神皇としてじゃなく、狭間偉出夫って言う一人の人間と向き合ってくれる奴だって」
「ふざけたことを!」
飛び出した蒼嶋の発言に、今まで以上に怒りを露わにして飛びかかる。
ギリギリと歯を鳴らし、襟元を全力で掴みにかかる。
何を言い出すと思えば、蒼嶋は自分が「蒼嶋を頼りにしていた」などと言う。
魔神皇へ反逆の意を示し、魔界の数々を打ち破り、最後には自分の精神世界へと入り込んで過去を洗いざらい探ってきた。
狭間にとって、これ以上なく許せず、これ以上なく憎むべき存在。
その蒼嶋駿朔を、なぜ頼らなければいけないのか?
なぜ、話を聞いてもらえるなどと浮ついた願望を抱かねばならないのか?
あり得ない、与太話にも程がある。
その鬱陶しい口を閉ざすために、襟元から喉元へと手を伸ばそうとしたとき、蒼嶋が話を続けた。
「一人の人間として話を聞いてもらえるかもしれない、だから俺に会いたかった。
でも、魔神皇の立場を失えば他人はまともに話に取り合ってもらえ無い。
だから、魔神皇としての威厳を保つための行動とともに、俺に会いに行こうと考えたんだ」
「うるさい! 黙れ、黙れ、黙れぇぇぇ!!」
何度も何度も、蒼嶋の襟元を掴んで揺する。
手を引いて、伸ばして、引いて、伸ばして。
体が前後に大きくブレながらも、蒼嶋の目は狭間をしっかりと見つめていた。
「でも、俺は死んでいた。だから、本当の気持ちを押さえきれなくなって、ああいう行動に出た。
抑えきれなくなった本心が爆発して、もうどうにも出来なくなったんだよ」
「馬鹿げたことを! 寝言は寝ていえ! それともここで永遠に眠らせてやろうか!!」
狭間はその言霊を受け入れようとしない。
テトラカーンや、マカラカーンや、どんな防具の力よりも分厚く強大な盾をつくってその全てを弾こうとする。
だが蒼嶋の言葉はその盾のわずかな穴をすり抜けるように、狭間の心の中へと入り込もうとする。
「だけど、魔神皇としての立場も守らなきゃいけないから、その気持ちが偽りであることを言い聞かせ続けた。
体裁を保つように、誰もそんなことを気にはしていないのに。魔神皇で有り続けた」
「違う、違う、違ああああああああう!! この私が、魔神皇が! 下等な人間に媚びるような姿勢をとるなど! あり得るはずがない!」
心の中に入り込んでくる言霊の一つ一つを、弾こうと必死にあがく。
むき出しの心へ迫ってくる真実という刃たちを、血を流しながら素手で弾き落としていく。
受け入れたくない、受け入れたくない、その一心で拒否していく。
その言葉を受け入れることは、それまでの自分の否定になるから。
自分が正しいと思ってきたモノが、ガラガラと崩れ落ちそうだから。
「んなことしなくったって、話聞いてくれる人間はいるぜ?
あとはテメー次第だ、そこで普通に話しかけることさえできりゃ、話を聞いてくれる人間なんて幾らでもいる。
元の世界にだって、この殺し合いの世界にだってな」
「黙れ黙れ黙れ黙れ黙れェェェ!! 」
支援
支援
支援
普段なら「くだらない一人の人間が戯言を言っている」と一蹴できるはずの、一人の男の話。
聞く必要なんて微塵もあるわけが無い男の話。
心の中で耳を塞いでも、震えた空気が鼓膜を揺らす。
その鬱陶しい口を閉ざすために、音の源を断とうと試みる。
首を掴む、力が入らない。
魔法を唱える、魔力が溜められない。
手下を呼ぼうとする、誰も来ない。
それどころか「この声を聞き、この話に応じたい」と考えている自分がいる。
ありえない、ありえないことのはずなのに。
うまく、否定が出来ない。
「もう、いい加減やめたらいいじゃねえか。テメーが繕ってるその姿は、テメーの願いをかなえてくれはしない。
他にやるべきことがたくさんある、テメーがやんのはそれを全部済ませることだろ?
……あーあ、これに気づくのが早けりゃ、あんなことも起こらなかっただろうけどな。
まあ、今更起こってしまったことにガタガタいうつもりはねーけど」
叫びつかれて喉もガラガラになり、黙り込んだ狭間を蒼嶋は優しく見つめる。
掴んでいた襟元から、ゆっくりと力を緩め、崩れ落ちるように倒れこんでいく。
漏れるのは嗚咽と涙、自身の考えが分からないという感情。
自分は魔神皇だ、全ての物の上に君臨すべき存在だ。
だから、こんな話を聞く必要はない。力を持って全てを支配すればいい。
それだけの簡単なこと、分かっているはずなのに。
否定をする理論が立たない、ただそれを拒否することしか出来ない。
心の中に響き渡る何かを、弾き出す事が出来ずにいる。
一種の無力感、それをひしひしと感じながら、狭間は蹲っていく。
「……まっ、昔は俺もそんなんだったしな」
「なっ!?」
突然飛び出した単語。
あの蒼嶋駿朔も、自身と同じ経験をしていたというのか?
ふざけた話にも程があると思っていても、狭間はどうしてもそれについて聞きたくてたまらなかった。
「っと、時間か。まあせいぜい頑張れよ。
まだ間に合う。取り戻せるんだったら、テメーの両足が動くうち動け」
「ま、待て! 貴様だけ言いたいことを言って逃げるつもりか!」
蒼嶋の体が突然光を纏う。
同時に、真っ暗闇だった二人の空間に光があふれ出していく。
瞬間的に蒼嶋の体がどこか遠くへと向かっていく。
手を伸ばしても手を伸ばしても、その体には届かない。
「私は、まだ、まだ、貴様を殺していないんだぞ! 待て! 待てェ! 蒼嶋ァ!!」
何度目か分からない怒声が響き、狭間一人だけが光の中に残され。
そして、彼も光へ溶けていった。
「ん……あ……」
腫れ上がった目を擦りながら開く。
それから体を瞬間的に跳ね上がらせ、まるで遅刻寸前の学生のように飛び起きる。
「私としたことが……眠りに落ちていたのか」
震える両手を見つめ、辺りを見渡していく。
一振りの刀、崩れ落ちた瓦礫たち、そして変わらずそこに居る蒼嶋の死体。
そう、蒼嶋駿朔は死んだ。
この殺し合いの場で、如何なることがあったのかは知らないが。
蒼嶋駿朔という一人の人間はこの地で、たった一つしかない命を落とした。
"死んだ人間は蘇らない"という、幼稚園児でも知っているようなことを欠如していたのは、いつからだったか。
魔神皇として人ならざる力を手にし、魔界をも手に入れたときからだったか。
蒼嶋の死体は満足げな顔を浮かべたまま、焼け焦げた姿でそこに倒れている。
口を開くことも、その腕が振り回されることは、もう二度とない。
「……夢を見るのは、何時ぶりだ」
いつの間にか眠りに落ち、そして夢を見た。
夢にしてはやけに現実味を帯びた夢だったが、時にはそんな夢もある。
「くだらん……実に、くだらん……」
夢の中で見た蒼嶋の行動を頭の中で振り返る。
一人の男のくだらない話だと、片付けてしまえばそれで終わりの話だ。
所詮夢は夢でしかない、人がまどろみの中に見出す幻想でしかないのだ。
夢の中でどんな人物が現れ、どんなことを言われようと、それは現実ではない。
現実ではない現象に諭され、心を動かすなど、愚の骨頂である。
そうだ、何も気にすることはない。
無防備な体制で睡眠をとってしまったにもかかわらず、誰にも襲われずに済んだことを幸運に思いながら、また生き続ければいい。
ここは殺し合いの場、生き残るのはこの唯一絶対の存在である魔神皇ただ一人でいい。
立ちふさがる下賎な人間など、皆殺しにしてしまえばよいのだ。
目障りな蒼嶋駿朔は死んだ、ならばあとはこの場の人間を殺しつくし、あのV.V.と名乗る少年を恐怖の底へ叩き込めばよい。
魔神皇として、絶対的な力と権力を持つものとして、人間達を支配すればよい。
迷うことはない、やるべきことなど決まっている。
傍に落ちていた刀を拾い上げ、服についた埃を払う。
そして彼はゆっくりと、その一歩を踏み出していく。
夢の中の、自分の行動を振り返ることなく。
決めた道を、進んでいく。
人間は、いつか死ぬ。
死後、人は黄金の輝きを放ち続ける海と無限に広がる色とりどりの花畑の先にある川を渡る。
それを経て次の新たな命へと転生していく。
輪廻を繰り返し、繰り返し、終わることなく続けていく。
ずっと、ずっと、人の一生から人の一生へと繋がっていく。
しかし、その人間の輪廻には例外がある。
強烈な思念、それは時として姿を持ち、黄泉の国にある川を渡ることを拒み、自ら輪廻の外へと向かっていく。
たった一度しか訪れない死の機会を拒み、この世を彷徨い力となることを選ぶ存在がいくつか存在している。
有名な例を挙げてみれば、平将門がそれに該当する。
彼はその強烈な思念を持ち、この世に幽霊の体となったとしても残ることを選び、東京という一つの世界を守ることを決めた。
何年、何十年、何百年も彷徨い続け、己の存在を受け入れる者の力となり、東京を守護し、見守り続けた。
それは「死ねなくなる」ということを受け入れるほどの強烈な思念を持つことで実現する。
永久の時が過ぎようと、彷徨い続けて成し遂げたいと思う何かがあってこそ、川を拒むことが出来るのだ。
支援
支援
「……案外上手く行くもんだな」
青いブレザー、緑と白と青のボーダーのズボン。
光でも闇でもないその空間に一人佇むのは、蒼嶋駿朔その人だった。
「皆が、皆、卓を囲って肉でも食えるような日常。
当たり前の日常、それだけでいいんだよ。"もし"……なんていらない。
"もし"を打ち砕けるならば、俺はその"もし"をぶっ壊す力になりたい」
蒼嶋は、気がつけばカロンの目の前でこう呟いていた。
狭間の手によって奪われた、幾多もの日常。
そして、この殺し合いによって奪われた六十余名の日常。
何の罪もない人間の日常、ただ平然と過ごしていただけの日常。
誰にも侵す事のできないその領域に立ち入り、平然と奪い去っていくもの達。
蒼嶋は、どうしてもその存在を許すことは出来なかった。
志半ばで倒れてしまったが、叶うことならその存在を打ち砕く牙となりたい。
人々の日常、それを守るため。力無き人の力となる存在になりたい。
ずっと思い続けたことが彼の心の中に納まりきらず、溢れ返るように零れ出して耐え切れなくなった。
「そうだな、こういうときはカッコいい名前でも名乗るもんだよな。
魔人、イフブレイカーとか……? かーっ、だせーっ! 江戸時代の奴でも言わねーよ! ダサすぎて鼻が曲がるぜ!」
そうして彼は川を渡ることを拒み、常世を彷徨う存在へとなった。
輪廻を外れ、永遠の時を駆ける苦しみをも受け入れ、力なき者へと力を差し伸べる。
どんな存在よりも硬いその意志は、決して曲がることはなかった。
日常を奪うものを倒し、罪無き人の日常を取り戻すたった一つの力となるために。
「狭間よう、頼んだぜ? その殺し合いとか言う、ふざけた"もし"をぶっ潰してやれ」
まずは、目の前にある破壊行動。
幾多もの人から日常を奪い去った、バトル・ロワイアルというふざけた遊戯。
それを打ち砕くために、彼は魔神皇へと手を差し伸べていく。
嘗ては敵であり、憎むことしかできない存在だった。
だがどうだ? 自分の死体を見つめ、あの傲慢の極みに立っていたはずの魔神皇は、大粒の涙をぼろぼろ零しながら泣き崩れたではないか。
川へと辿り着くまでのわずかな時間で、彼は考え、考え、思考に思考を繰返して一つの結論を立てた。
自分が知りえなかったこと、もしの可能性をまで思考を張り巡らせた。
そして、辿り着いた。
彼も日常が欲しかったのではないかという結論へ。
狭間偉出夫という一人の人間もまた、日常を奪われた一人なのではないかと。
一つの結論を手にし、夢という媒体を用いて狭間の精神に話しかけた。
結局、彼本人からのはっきりとした返答は無かったが、返答に近い反応を得ることはできた。
そして、蒼嶋は確信した。
彼も、日常を奪われた人間なのだと。
「俺も、力を貸してやるからさ」
かつて彼は憎むべき敵だった。
人々の、友の、自分の日常を奪い去った憎むべき敵だった。
だが、それは彼が日常を手にするための手段だった。
もちろん、それも褒められたことではない。
人々の日常を奪い、自分だけが日常を手にすることなど、あってはならないのだから。
しかし、今の彼は重要な岐路に立っている。
自分の死によって、ずっと押さえ込んできた本当の気持ちと、向き合う時が来ている。
本当の気持ちと向き合えれば、きっとこれからでも普通の日常を手にすることができる。
だから、これからがんばって彼の日常を手にすればいい。
彼が手にしようと思っても手にすることのできなかった、なんてことはない日常を手に入れればいい。
それを手に入れるため、やり直す時間はこれからたくさんある。
そのために、まずは目の前の非日常をぶちこわす必要がある。
幾多もの人の日常を奪い去った要因を壊し、なんてことはない日常を取り戻す。
そして、彼があの世界で得ることができなかった日常を手に入れるため。
日常の過ごし方を知らない、少し不器用な彼のために。
一筋の光となって、一直線に伸びていった。
足が、止まる。
たった今、全てを破壊し尽くすと決めたはずの足が、ぴくりとも動かなくなる。
何者の手によるモノでもない、彼自身がそうしているのだ。
心の奥底で引っかかり続けている、夢のやりとりが何よりも重い足枷としてその歩みを止める。
夢で見た男の戯言なんて気にする必要など全くないはずなのに、心にずっしりと重くのしかかっている。
人間など、話を聞く価値すらない下等な生物である。
誰一人としてまともな対話を望もうとしない、ありもしない話を種に盛り上がり、自分の独断で相手の価値を判断していく。
そこで自分より下だと判断すれば、徹底的に卑下していくし、自分より立場が上の者に対しては驚くほど簡単にひれ伏してみせる。
己の身が第一、自分が危険にならなければよいと考えているのだ。
そんな愚かしい人間たち、その存在すら認めてはいけない者たち。
分かっている、分かっているはずなのに。
「ふん……小賢しい真似を」
ふと、言葉を漏らす。
まるで、背後にある蒼嶋の死体が狭間の足を掴んでいるかのように感じられたからか。
「まあいい、かつてこの魔神皇に刃を衝き立てた者の言葉として。
この私の時間を与え、貴様の言葉について考えてやろう」
思ってもいないはずのことを頭に置き、思考を張り巡らせていく。
一つ。
蒼嶋の言うとおり、あの世界の人間は存在価値のない人間達だった。
誰も向き合ってくれはしないし、勝手な偏見を押し付けてくる。
それがどれだけ一人の人間を傷つけるのか、彼らは全く考えることはない。
自分の気分がいいなら、自分が傷つかないのならばそれでいいのだから。
だから、自分は力を手にした。
自分が味わった痛みを、苦しみを、辛さを、彼らに思い知らせるために。
そして、力を手にした自分は彼らにその痛みを何倍にもして返すことに成功した。
七つの大罪をなぞらえる様に、彼らの罪を自覚させてやった。
だが、イレギュラーがあった。
その痛みにも負けずに魔神皇へ逆らう存在、蒼嶋駿朔が現れたのだ。
数々の苦しみを乗り越えた先で、この魔神皇の体に剣を突き刺した。
「ふ……恐れ、か」
始めはなんてことはなかった。
ただ、少し調子に乗った人間が現れた程度にしか思っていなかった。
だが、彼が数々の難題を解き明かしていくうちにそれは違う気持ちへと変わって行った。
「確かに、私はお前を恐れていたのかもしれんな」
蒼嶋の言うとおり、怖かった。
魔神皇としての力を失い、ただの人間に戻り、また普段どおりの生活になってしまうことが。
これ以上なくたまらなく怖く、恐れ続けていた。
だから、それ以上の、それ以上の難題を次々に与え。
いつかどこかで心折れ、朽ち果てることを望んでいた。
だから、蒼嶋が自分の目の前に現れた時。
たまらなく怖くて、怖くて、仕方がなかった。
「もし、あの時私がお前と対話していれば……」
だがあの時を思い返してみれば、心のどこか奥底で嬉しがっている自分もいた。
これだけの痛みを乗り越え、これだけの苦しみを味わい、これだけの辛さを背負ってきたこの人間なら。
ひょっとしたら、自分の心と対話してくれるのではないかと。
砂粒ほどの大きさの希望を、確かにその胸に抱いていた。
だが、それは果て無き砂漠ほどの恐怖の前では、無力だった。
魔神皇としての自分を、守らなくてはいけない。
この立場がなければ、また無力な自分に逆戻りである。
ありもしない烙印を押され、一人の人間を簡単に追い詰め、嘲笑う連中の中に、また放り込まれてしまうから。
だから、狭間は蒼嶋と戦った。
もし、あの時恐怖ではなく希望を多く抱いていれば。
もし、全てを打ち明け、蒼嶋と対話することが出来れば。
彼は、自分の心中を理解してくれたのだろうか。
自分は、彼と上手く対話することが出来たのだろうか。
「……フフッ、我ながら馬鹿馬鹿しい、馬鹿馬鹿しすぎるな」
思考の先のもしもの可能性、そこに辿り着いて頭を振るう。
そう、"もし"なんて考える必要はない。
蒼嶋駿朔は死に、狭間偉出夫は生きている。
たったそれだけの事実は、揺るぎようがないのだから。
「お前が生きていれば、こんなことを考えることもなく、あの時のようにその胸に刃を突きたててやったというのに。
全く……本当に最後の最後まで私を苦しめてくれるな」
そう、すべては蒼嶋駿朔の死が招いた出来事だ。
蒼嶋駿朔が死なずに、狭間偉出夫と出会うことが出来たならば。
何も考えずに、互いの刃を交えることが出来たのならば。
そして、どちらかの命を奪い去ることが出来たのならば。
こんなことを考えることもなかったし、あのような無様な姿を晒すこともなかった。
それも、考える必要のない"もし"の世界ではあるのだが。
「対話か……この場所にいる、異世界の人間なら。
お前の言うとおりかもしれないな」
自分のいた世界、あの忌まわしき世界に自分と対話する人間がいるとは到底思えない。
だが、この殺し合いの世界に招かれし者たちなら。
あの世界とは違う、異次元の世界の住人なら。
力を用いなくても、妙なレッテルを貼られずに会話が出来るかもしれない。
互いに何も知らないし、何も通用しない。
自分が魔界に巻き込んだ人間ならともかく、何の面識もない人間に魔神皇の名を使って強請った所で結果は知れている。
ここにいる人間達は、魔神皇ではなく狭間偉出夫として、自分を見つめているのだから。
蒼嶋の言うとおり、魔神皇としての力を見せて会話を無理やり試みなくてもいい。
あの世界で望み続けた、狭間偉出夫という一人の人間として対話できる可能性は確かにある。
「まるで貴様に乗せられているようで気に食わんが……その言葉は受け止めよう」
夢に諭されたなど馬鹿馬鹿しい話ではあるが、夢の中での出来事も一理ある話だった。
この自分が恐れなどを抱いていたとは思わないが、もしも人間が歩み寄ろうとしているとするならば。
人と人として対話し、向き合ってくれるかどうかを確かめる時間はいくらでもある。
「物は試しだ、寛大な私がもう一度だけ人間にチャンスをやろう。
魔神皇としてではなく、軽子坂高校2年E組の狭間偉出夫として、人間と向き合ってやるというこの上ないチャンスをな……」
この場にいる人間に絶望を叩き込むのは、蒼嶋亡き今その気になれば何時でもできる。
別に殺してもかまわない存在たちに、彼は一つの課題を与えることを決めたのだ。
蒼嶋のようにその課題を乗り越えられるかどうか、人間に蒼嶋の言うような存在がいるのか。
それを、確かめるために。
「竜宮レナと言ったな、蒼嶋に感謝することだな。
この全知全能の魔神皇が、対等な立場で力を貸そうとしているのだからな。
くれぐれも失望させてくれるな。有事の時には即刻斬り捨てるぞ」
彼の手に握りしめられたニンテンドーDSが光り輝く。
その画面に映り込むのは、数点の光の印。
数と方角を確認し、目的の方向を見据えた後、もう一度蒼嶋の死体へと振り返った。
「さらばだ、蒼嶋。せめてもの手向けに、受け取れ」
別れの言葉と共に打ち出された小さな火球。
まっすぐに蒼嶋の体へと突き進み、もう動かない体に触れた瞬間に巨大な火柱へと変化していく。
火柱は蒼嶋の肉体を飲み込み、パチパチという音と共に燃え上がり続ける。
肉の焼ける臭いが少し続いた後、火柱から顔を出したのは真っ黒な炭へと変化した遺体。
突けば崩れ落ちそうなそれに、刀を一気に降り抜いていく。
遺体はその太刀筋に斬られる、というより砕けると言った方が正しいか。
黒い炭と白い骨の粉がさらさらと空に舞い、混じりあうこと無く風と共に過ぎていく。
涙は、流さない。
堂々とした顔持ちで、狭間はその光景を見送っていた。
「地獄の煮え湯に浸かりながら指でもくわえて見ていることだな、この私の姿を」
そう言い残した、彼はその場を後にした。
足取りは軽く、どこかにまっすぐに突き進むようにも思える。
そして、新しい何かへ向かおうと進む彼の後ろから。
一筋の光が彼を見守るように、ゆっくりと近づいていく。
狭間は近づいてくる光に気がつく素振りを全く見せない。
やれやれ、という聞いたことのあるような声が聞こえるように。
一筋の光は、静かに狭間へと入り込んでいった。
新しいスタート、新しい可能性。
気がつくことの出来なかった感情、気がつくことの出来なかった方法。
それをしっかりと握りしめるように手にし、見据えた先に待つ場所へ向かっていく。
慣れないことに対して初めは不器用で、どうしようもなくて上手くいかないことも沢山あるかもしれない。
だがゆっくりと、確実に彼は進もうとしている。
いつか掴むことの出来なかった、自分の人生へ。
もう一つの"もし"は、これから始まっていく。
【一日目夕方/F−9教会跡地】
【狭間偉出夫@真・女神転生if…】
[装備]:斬鉄剣@ルパン三世
[所持品]:支給品一式、ニンテンドーDS型探知機
[状態]:人間形態
[思考・行動]
1:人間と触れ合ってみる。滅ぼすかどうかはそれから考える。
[備考]
※参加時期はレイコ編ラストバトル中。
投下終了です。
何かありましたら、お気軽にどうぞ。
すみません
>>856の状態欄ですが
【一日目夕方/F−9教会跡地】
ではなく、
【一日目夜/F−9教会跡地】
です、申し訳ございませんでした。
投下乙です。
これでハザマと蒼嶋のお話はお終いでハザマだけの女神転生ifが始まるか。
ハザマはホント頭の良いバカでじれったいけど、その分応援したくなるなー。
そしてもう一人のバカ、自分では魔人を名乗ってたけど現世にしがみ付くあり方はそれだけじゃない、
ガーディアンの一人としてザ・ヒーローが存在してたみたいに、無自覚だけどちーちゃんが言ってたような”英雄”でもあったんじゃないかなと思ったりもした。
投下乙!
ついに狭間が動いた…!
今まで「狭間が蒼嶋を殺そうとしてた理由」「蒼嶋が死んでて泣き叫んだ理由」は個人的に「何となく分かる気がする!」って感じだったんだけど、今回書き抉られたなー
このロワの中でも最強クラスの強さだけど、自分を守りたいって自己保身に尽きちゃう狭間ってすごく高校生やってるよね
狭間が協力するって決めた他者、レナのグループって人間関係だけ見たらかなり安定してるし、上手くいくんじゃないだろうか。いって欲しい。
この狭間やたら応援したくなるなー、蒼嶋の分まで頑張れ!!ってとこもあるし!
投下乙です!
狭間がついに積極的に動き始めるかー……!
今度は男主人公殺せればどっちでもいいやみたいな後ろ向きな奴じゃなくて、前向きな意味でのスタンス:不明だw
しかしこう綺麗に立ち直っても一寸先は闇というもの……スザクや銀様と言った恨みを買ってるキャラも居るし
これからの狭間が実に楽しみだ
突然ですが第三回放送明けの怒涛の予約ラッシュを終えたので、人気投票をやりたいなーと考えてます
対象SSは123話の『追うもの、追われるもの』から145話の『第三回放送』までのSS
放送明けなので、146話の『はぐれ者 / 夢』から今回投下された149話の『真・女神転生if...{break;}』は除外されています
やるなら09/29(土)と09/30(日)を読み返しの期間にして10/01(月)と10/02(火)
もしくは、もっとしっかりと読み返して来週の10/06(土)10/07(日)に始めることになるかなっと考えているのですが……
意見をくださると嬉しいです
もう一度読み直したい大作揃いなので来週を希望します
投下乙!
一度読んだだけで感想書くのは忍びないと思って、三回くらい読み直してしまった
狭間一人でこれだけ書き込むってすげぇなぁ(蒼嶋もいるっちゃいるけど)
メガテンifをもう一回やり直そうか考えさせるくらい惹き込まれた
作中にもあったけど、もし二人とも生きてたらこのやり取りは有り得なかったんだろうなぁ
蒼嶋が死んで、狭間だけが生き残った
だからこそ起こり得た、まさにifな展開だと思う
途中で全員殺すって狭間が思考してドキッとしたけど、最後にはまた人間に目を向けてみようってなって本当に良かった
狭間が対主催側につけば、一気に戦況は変わるだろうな
タイトルが気になって調べてみたけど{break}文ってループを打ち切るものなんだな、本当に胸熱だわ
終盤になってすごい人が来た、投下乙でした!
>>862 平日だと忙しいかたもいるでしょうし、来週の土日を投票日に据えた方がいいのではないでしょうか
865 :
創る名無しに見る名無し:2012/09/29(土) 08:14:22.91 ID:3fDSmMX3
自分も来週の土日に一票
それでは来週の10/06(土)と10/07(日)に、
第二回放送明けから第三回放送までのSSの人気投票をやるということで
もうスレの容量が484kbだから新スレ立てた方がいいかも、立ててきちゃってもいい?
>>867 このスレも大作揃いだったなぁ
新スレ立てよろしくお願いします
規制されててスレ立てできんかった……
生存者表を更新したのだけ貼っとく
3/6【コードギアス 反逆のルルーシュ@アニメ】
● ルルーシュ・ランペルージ/○枢木スザク/○C.C./ ● ロロ・ランペルージ/ ● 篠崎咲世子/○ジェレミア・ゴットバルト
1/6【ひぐらしのなく頃に@ゲーム】
● 前原圭一/○竜宮レナ/ ● 園崎魅音/ ● 北条沙都子/ ● 園崎詩音/ ● 北条悟史
1/5【スクライド@アニメ】
●カズマ/ ● 劉鳳/ ● 由詑かなみ/○ストレイト・クーガー/ ● 橘あすか
1/5【らき☆すた@漫画】
● 泉こなた/○柊つかさ/ ● 柊かがみ/ ● 高良みゆき/●岩崎みなみ
2/5【るろうに剣心-明治剣客浪漫譚-@漫画】
● 緋村剣心/ ● 斎藤一/○志々雄真実/ ● 瀬田宗次郎/○雪代縁
2/4【仮面ライダー龍騎@実写】
○城戸真司/○北岡秀一/●浅倉威/ ● 東條悟
0/4【ルパン三世@アニメ】
● ルパン三世/ ● 次元大介/ ● 石川五ェ門/ ● 銭形警部
2/4【ローゼンメイデン@アニメ】
● 真紅/○水銀燈/○翠星石/ ● 蒼星石
1/3【ガン×ソード@アニメ】
○ヴァン/ ● レイ・ラングレン/ ● ミハエル・ギャレット
1/3【寄生獣@漫画】
● 泉新一/●田村玲子/○後藤
0/3【ゼロの使い魔@小説】
● ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール/ ● 平賀才人/ ● タバサ(シャルロット・エレーヌ・オルレアン)
1/3【バトルロワイアル@小説】
● 稲田瑞穂/ ● 千草貴子/○三村信史
0/2【相棒@実写】
● 杉下右京/ ● 亀山薫
1/2【仮面ライダーBLACK@実写】
● 南光太郎/○シャドームーン
1/2【真・女神転生if...@ゲーム】
● 男主人公/○狭間偉出夫
1/2【DEATH NOTE@漫画】
●夜神月/○L
1/2【TRICK@実写】
● 山田奈緒子/○上田次郎
1/2【バトルロワイアル@漫画】
● 織田敏憲/○桐山和雄
0/1【ヴィオラートのアトリエ@ゲーム】
● アイゼル・ワイマール
0/1【灼眼のシャナ@小説】
●シャナ
19/65
桐山も死んでるからそこだけ訂正必要かな?
代理投下試みてみる
>>870の桐山の所も修正しとく
考えてみればひぐらし唯一の生き残りのレナって、原作でも相当悪運強いんだよな
本人にとってはつらいだろうが(祭囃し除く)
後、詩音について思ったことだが、DS版の目明し→異本・昼壊しの流れは地味に読んでて嬉しくなる
乙ー
埋まったらそっち移動かー。
昼壊し編ってどんな話だったっけか
こっちは埋めちゃった方がいいのか
新スレ乙ー
_,.. -‐―‐-- .. __
/´ . `ヽ 、
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