面接官1「マオ…さんですね?
年齢は31歳。
ええと、最終学歴はアニメ専門学校卒……じゃなくて中退。職歴無し」
面接官2「(少し困った顔で)あの、マオさん。
今まで仕事に就かなかったのは、どうしてなのでしょうか?」
マオ「……私は巫女によってこの世界に召喚された魔王なんです!
魔王は下衆な人間どもが行うような卑賤な仕事は行いません!」
面接官1「(マオの履歴書に目を落としながら)そうですか、そうですか。
では、どのような理由で当社の中途採用試験をお受けになられたのでしょうか?」
面接官2「(面接官1に続けて)当社はですね、原則として採用は大学新卒、
中途採用者の場合は大学既卒の実務経験者のみ、とさせていただいているんですが、
マオさんには、実務経験はおありなのでしょうか?」
マオ「実務経験などあるわけがない。私は魔王なのだ。
魔王を雇っておくと色々便利だぞ。
なにせ私には多くの力があるのだから」
面接官2「力がおありなのですか…。
それは一体どのような力なのでしょうか?」
面接官1「(相変らず履歴書に目を落としながら)
当社は今のところ新規販路開拓のための営業販売促進営業担当者、
それとそのエリアマネージャーを……こちらは特に5年以上の経験者に限定しておりますが、
そういった人材を必要としています」
マオ「魔王の力といったら魔力に決まっているだろう!
私は今までドラゴンクエストの上位置換のような素晴らしいファンタジーで主役を張っていたのだぞ!
このスレの
>>1からずっと読んで見ればよかろう!
この私のファンタジックかつヒロイックな活躍ぶりに、諸兄らは胸を踊らすに違いあるまい!」
面接官2「……つまりマオさんは、ファンタジー小説の作家だということですか?」
(顔に明らかに呆れたような表情を浮かべながら)
では、ままでどのような作品を書かれてきたのでしょうか?
今まで出版なされたものがあれば、それについてお聞かせ願いたいのですが」
マオ「ファンタジー作家などではない!私は魔王だ!
魔王として冒険の旅を続けている、異界の勇者さまなのだ!」
面接官1「(相変らずマオに一瞥もくれぬまま)
では、そのご立派な魔王さまが、何ゆえ当社の中途採用試験を受けることにしたのですか?
何か壮大な目的を持って旅をなさっているのなら、
我々のような下衆な人間たちが働く卑賤な仕事などやっているヒマなどないのではないですか?」
面接官2「それとわが社はですね、出版社ではございませんが。
マオさんのその能力を活かせるようなポストは、ちょっと思い当たりません。
今お書きのそのファンタジー小説の原稿を出版社にでも持ち込まれてはいかがですか?」
マオ「だから違うといっているではないか!
私はここで正社員として働きたいのだ!
期間契約社員でもなく、派遣社員でもなく、個人請負契約でもなく、
福利厚生があってちゃんとした雇用保障のある正規雇用の正社員になりたいのだ!」
面接官2「だからですねマオさん。我が社といたしましては、
マオさんのこの学歴、職歴、資格では採用はできかねます。
普通自動車免許でもおありなら、路線配送ドライバーの期間契約はあるのですが、
契約期間は二年十ヶ月、優先的な雇用延長有。
マオさんには8トンの中型トラックを運転できる免許は……無いみたいですね」
面接官1「それと鎌田と桜台、それに山科に配送センターがありまして、
そちらでは仕分け作業員を随時募集してます。
日雇いで、たしか給与は取っ払いですから、結構人気が高いんですよ」
マオ「俺に奴隷の仕事をしろと言うのか?俺は魔王だぞ」
面接官2「(ちょっとムッとし)ドライバーや軽作業の作業員を奴隷呼ばわりするのは、
ちょっと失礼ではありませんか?」
面接官1「魔王なら魔力があると思うのですが、
その魔力で何かなさってみてはいかがです?
最もわが社では、そのような魔力よりもですね、地域営業のノウハウの方がありがたいのですが」
面接官2「(少し意地悪い笑顔をつくり)
マオさん、何か魔力はございますか?
あれば是非見てみたいのですが」
面接官1「これから新規市場を開拓するのにふさわしい魔力ならば、
こちらとしても是非そのお力をお借りしたいですね。
とりあえず現在は鎌田地区から桜台地区の中規模事業主の方々の顧客拡大を狙っております。
できればあの地域の商工会議所や組合関係者の方へ向けて、
本社のサービス内容のプロパガンドをこなせれば文句なないのですが、
マオさんの魔力でそういうことは可能なのでしょうか……」
……十分後、マオはビルから出てきた。
魔王である自分をその場で不採用と通告する無礼に、マオの両肩は震えていた。
マオはふと考えた。
確か自分は巫女によってご都合主義の劣化ファンタジー世界に召喚されたはず。
だが、いつのまにか、さらにファンタジーな世界に飛ばされている。
ここではあのご都合主義の劣化ドラクエファンタジー世界で使えたはずの魔力が全く使えなくなっていた。
呪文を唱えたら、属性魔法やら回復魔法やら、そういった便利な魔法がたくさん使えたのだ。
なのになぜかこの世界では、マオはただの失業者に成り果てていた。
31歳という、もはや若いとはとてもいえない年齢の、職歴学歴甲斐性無しの、
脳味噌がファンタジーな一人の冴えない男に。
果たして今まで自分がいた世界は、幻だったのではないだろうか?
この世界には国王も巫女もどこにもいない。
教会より神授された王権ではなく、ここにあるのは立憲民主制に基づく統治体制だった。
魔法の代わりにあるのは、電気を基にした様々なテクノロジー。
そしてこの世界を支配しているのは、魔王でも神でもなく、法秩序と資本主義。
そんな世界でマオは、最底辺の弱者として生まれ変わったのだった。
……いや、と、マオは思った。
よく考えてみれば、自分は
>>1そのものじゃないかと。
>>1である自分はキモヲタで女にモテず、学生時代からゲームやラノベのファンタジーに逃げ込んでいたじゃないか。
二次元キャラの美少女を想像しながら、貧弱なちんぽをしごいて情欲を処理していたじゃないか。
現実社会では、とるに足らない存在だったマオこと
>>1は、
そんな卑小で冴えない自分から目を背けるために、自らを魔王と称し、
>>1から書き連ねたような青臭いファンタジー世界に現実逃避し続けてきたではないか。
そうやって自分をごまかし、やり過ごし、でも現実の自分は全く成長することなく、
ドラクエのレベルアップとオナニーにふける時間だけが増してゆき、
強大な力を持つ魔王どころか、相変らず女にモテない、つまらない無職のキモヲタ男のままではないか。
マオは涙した。
自分の将来を思うと、不安と恐怖で涙があふれ出てきた。
この先、どんなに生きても、あの妄想の中で己が描き続けてきたファンタジーな世界など、決して来ない。
そのことを思うと泣かずにはいられなかった。
そして現実逃避し続けられたあの日々は、本当に幸せだったんだな、とマオは悟った。
今日も日が暮れてゆく。