『雪華綺晶 UNDER HELL』
水銀燈「♪ラーラーララーラララララララー」
金糸雀「♪ラーラーララーラララララ」
翠星石「♪ラーララーララララーラー」
蒼星石「♪そぉ~せぇ~せき~~!!」
金糸雀「……ちょっと蒼星石! もっと大きな声で歌わなくちゃ駄目かしら!」
蒼星石「え? これでもダメ?」
水銀燈「まだ恥じらいが残っているようねぇ。もっとほら、ハラミを震わせるのよハラミを」
翠星石「人形に横隔膜(ハラミ)は無ぇですよ水銀燈」
金糸雀「いい? 中途半端な恥ずかしさを声色に残していたら
聞いている人の方が恥ずかしくなっちゃうのかしら!
開き直ったぐらいの大声が今回は相応しい」
翠星石「カナチビの言うとおりですぅ。
翠星石達がタメにタメたフリを受けてからの蒼星石のボケなんです!」
蒼星石「……」
水銀燈「私らが紡いだ絆を断ち切るような真似はしてほしくないわよねぇ。
いくらあなたの得物が鋏とはいえ」
蒼星石「あのさ……」
金糸雀「何?」
蒼星石「このネタ、本当に面白いのかな?」
水銀燈「!!」
翠星石「!?」
金糸雀「い、今さら何を言ってるのかしら蒼星石! このカナが寝ずに考えた
とっときのネタよ! 決まればドッカンドッカン間違いなしかしら!!」
蒼星石「でもこれ、『消臭力』を『蒼星石』に変えただけ……」
金糸雀「シャラッーーープ!!」
蒼星石「……う!?」ビクッ
金糸雀「甘えを捨てるかしら蒼星石!」
水銀燈「そうね。このネタを面白くないと感じるのは
蒼星石あなたがやる気を出していないからよ」
蒼星石「僕が……やる気を?」
翠星石「そうですぅ! やる気スイッチの入った蒼星石の面白さは
翠星石が一番知ってるです! ほら、え~と! あの時! そう、あの時です!
『クリームに溺れて見る夢はきっととても甘いのだろうね……』って
スイーツポエムを披露してくれた時は、笑いをこらえるのに必死だったですぅ!」
蒼星石「そんなにご機嫌な状況だったっけ!?」
蒼星石「と言うか、そもそもあの時の僕は雪華綺晶に……」
金糸雀「まあ、細かいことはさておき練習あるのみよ。
年忘れ姉妹チーム対抗お笑い合戦まで日が無いかしら」
翠星石「全くですぅ! ローゼンメイデンのトニセンこと水銀燈から蒼星石までの年長者組と
それ以外プラス薔薇水晶の年少組に分かれての天下割れ目の大決戦!」
水銀燈「何であろうと真紅に負けるのだけは我慢ならない。
だからこそ、この私もアンタらとの練習に貴重な時間を割いている」
金糸雀「スタンドプレーの申し子みたいなお姉さんまでが我を殺して
カナの考えたネタに協力してくれているのよ。
蒼星石もここは漢(オトコ)を魅せなきゃだめかしら!」
蒼星石「……」
ブサ綺晶「……タ……ゾッ」ぼろろっ
水銀燈「……っ!?」
ブサ綺晶「ミ……タ……ッ」よろよろ
金糸雀「な、何!? このボロボロでヨロヨロの子は……!?」
蒼星石「確か雪華綺晶の傀儡人形の……」
翠星石「ブサ綺晶!」
ブサ綺晶「ミ……タゾッ……」ふらふら
水銀燈「……『見たぞ』? まさか!?」
翠星石「翠星石達のネタ合わせの偵察ですか!?」
金糸雀「なんてこすずるい真似かしら!」
蒼星石「いや、ブサ綺晶の様子が変だ! そもそもなんでこんなボロボロで……!?」
ブサ綺晶「ミツケ……」バリバリッ
水銀燈「!? この子! 体中に亀裂が!」
ブサ綺晶「……タ」ぶしゅっ
金糸雀「うっ!? 流血!?」
ブサ綺晶「ゾ……ッ!」ドバッ
翠星石「うわわっ!? 弾け飛んだですぅ!?」
ブサ綺晶「……」しゅーしゅー
蒼星石「い、一体何だったんだ!? ブサ綺晶がバリバリ血を流して
崩れて消滅するだなんて……! どう考えても普通じゃない」
水銀燈「そもそも末妹は元からフツーじゃないけどね」
金糸雀「と、とんだ悪趣味かしら。人形に血糊まで仕込んで……」
翠星石「しかし随分と手の込んだ嫌がらせですね」
金糸雀「全くかしら。世の中には人形の地雷があるそうだけど
それを真似たのかしら?」
水銀燈「……地雷にしちゃあ威力が無さすぎる。それに……」すっ
蒼星石「? 何を拾ったんだい水銀燈? ブサ綺晶の残骸?」
水銀燈「いえ、ブサ綺晶はあとかたも無く消滅した。
これはブサ綺晶が……口の中に隠して持って来たもののようね」
翠星石「それは?」
金糸雀「100円玉?」
水銀燈「いいえ、銀貨よ。1オボロス硬貨」
翠星石「んー? ブサ綺晶には貯金箱機能もあったですか?」
蒼星石「1オボロスということは……っ、葬送銀貨!?」
水銀燈「どうやら、らしくないドジを踏んだようよ末妹は」
§数十分後・桜田ジュンの部屋
真紅「情報を整理するわね。雪華綺晶の手下人形であるブサ綺晶が
水銀燈達のところにボロボロになりながらやってきて消滅」
薔薇水晶「あとに残されたのは……その1オボロス銀貨」
雛苺「ヒナ達のネタ合わせの練習に全然来ないから変だとは思ってたの」
金糸雀「状況証拠だけから素直に判断すると
雪華綺晶は『渡し守の集い』とのトラブルに巻き込まれたみたい」
ジュン「渡し守の集い?」
真紅「nのフィールドに巣食う集団の一つよ。この間説明したでしょ? もう忘れたの?」
ジュン「……いちいち覚えてられるかよ。テストに出るわけでもないのに」
真紅「この現代っ子め」
蒼星石「しかし僕達自身、渡し守の集いについてそう詳しいワケじゃない。
ただ彼らは渡し守という名の通り『魂の水先案内人』を務めている」
水銀燈「気取っているの間違いでしょ」
金糸雀「この1オボロス銀貨は渡し守達の証であり、お守りかしら」
薔薇水晶「ギリシア神話に登場する冥府の川の渡し守カロンへの船賃がその由来です」
蒼星石「カロンの船賃は1~6オボロス。時代ごとの景気によって多少変動する。
あと1オボロス硬貨は銀貨だったり銅貨だったりもする」
ジュン「へぇ~」
蒼星石「古代ギリシャでは死者の口に、このオボロス銀貨を含ませて弔う風習があった。
それゆえに葬送銀貨とも呼ばれる」
ジュン「へぇ~へぇ~」
真紅「とまあ、トリビアはこのぐらいにしておいて、これで大体分かったでしょ?
白薔薇と渡し守の間で何かいざこざがあったらしいことが」
ジュン「ただ単にアイツが渡し守から銀貨を盗んだだけじゃないのか。手癖悪いし」
水銀燈「……末妹は最近、もっととんでもないものを渡し守の集いから盗んでいるのよ」
翠星石「うげげ? 既に前科アリなのですか!?」
金糸雀「雪華綺晶は何を盗んだのかしら?」
水銀燈「渡し守を5~6人ほど、末妹は自分の苗床に組み入れた」
ジュン「ッ!?」
真紅「……やれやれ」
蒼星石「雪華綺晶と渡し守の集いが以前から
何かしらの連絡を取り合っていたのは知っていたが……」
翠星石「まあ、なかよしこよし出来るわけないのは当たり前です」
金糸雀「それにしても随分と関係がこじれたものかしら」
雛苺「それじゃあ、雪華綺晶は渡し守さん達からフクシューにあっちゃったの?」
翠星石「そういうことですね。ドロボーなんかするからですよ」
水銀燈「命を盗むのは薔薇乙女のサガ。
私達は生命力だけを盗るけど、末妹は肉体ごと盗む。それだけの違い。
手に血が付かない分、私達の方がえげつないかもね」
薔薇水晶「……」
翠星石「そ、それは違うですよ水銀燈! 翠星石達は……っ」
水銀燈「何が違う? どこが違う? 違わない。私達が動くには人間の命が必要」
翠星石「う……!」
金糸雀「二人とも落ち着くかしら」
水銀燈「金糸雀……」
翠星石「カナチビ?」
真紅「金糸雀の言うとおり。ここで私達のレゾンデートルやイデオロギーを
論じても仕方が無いのだわ。姉妹それぞれに信念というものもあることだし」
薔薇水晶「……」
翠星石「……真紅」
水銀燈「ふん。アンタに言われなくても分かってるわよ、そんなこと」
ジュン「今、ここで重要なのはSOSを送ってきた雪華綺晶を助けることじゃないのか?」
蒼星石「その前に確認というか、明確にしておくべきことが一つ二つある」
雛苺「?」
蒼星石「一つ、雪華綺晶を助けるか否か」
ジュン「お、おい!? そんなことを議論するのか!?」
水銀燈「当然。今回のケースはどちらかと言えば末妹の方に非がある」
雛苺「……ドロボーさんはしちゃいけないことなのよね」
水銀燈「けれども先ほど言った通り、命を盗むは薔薇乙女のサガ。
ライオンがウサギを食い殺したところで、それを悪とは言わない」
薔薇水晶「では……仲間を奪われたウサギが徒党を組み
ライオンを追いつめるのは悪だ……と?」
水銀燈「まさか。いくら私らでもそこまで独善的ではなくてよ」
蒼星石「問題は雪華綺晶のローザミスティカだ」
翠星石「ッ!?」
金糸雀「アリスゲーム以外の要因で薔薇乙女が斃れた場合
ローザミスティカは迷子になってしまうかしら」
真紅「これは既に蒼星石の自滅の際に半ば立証されている」
蒼星石「雪華綺晶がこのまま渡し守の復讐で敗れるようなことがあれば
そのローザミスティカの回収は至難を極めるだろう」
翠星石「ちょちょちょ!? 蒼星石? 自分が何を言ってるか分かってるですか!?」
蒼星石「もちろん」
翠星石「白薔薇が卑怯で気持ち悪くてえげつない最低のローゼンメイデンだとしても
姉妹には変わりないですよ! それも末っ子です!
翠星石達が助けてあげなくて誰が助けてあげると言うのですか!!」
金糸雀「それは……そうだけど」
雛苺「ヒナは……ヒナは雪華綺晶を助けるのよ! ちょっと怖い妹だけど……
それでもヒナにとっては、たった一人の妹なの!!
ドロボーしたのを叱ってあげなくちゃいけないの!!」
翠星石「よぉく吠えたです! チビチビ!
さあ、他に誰か続こうと言う奴はいないのですか!?」
水銀燈「……」
金糸雀「……」
蒼星石「……」
真紅「……」
薔薇水晶「……」
翠星石「ぐあああっ! 何ですかこの姉貴どもは! 情も無けりゃ根性も無いですか!
だったらテメーらみたいなタマナシメイデンはほっといて
翠星石とチビ苺だけで白薔薇を助けに行ってやるですっ!!」
ジュン「お、おい翠星石……!」
翠星石「おら! 手掛かりの銀貨をよこせです水銀燈」
水銀燈「……」すっ
翠星石「ちっ! 無言で提出ですか。何か一言ぐらい言い返せです!
……行くですよチビ苺!」
雛苺「うぃ!」とててっ
ジュン「ひ、雛苺まで……」
ジュン「い、いいのかよ二人だけで行かせて!!」
水銀燈「いいわけないでしょうが」
金糸雀「でも、止められなかった」
水銀燈「翠星石の言うこともやることもまったくもって正論。正しすぎて眠くなるぐらい」
ジュン「だったら、どうしてお前らは……?」
蒼星石「二つめに確認したい事項。それは、これが雪華綺晶の罠かどうか……だ」
ジュン「ッ!?」
真紅「これ系の白薔薇の搦め手に、ジュンも含めて私達は煮え湯を飲まされ続けている」
金糸雀「少しはカナ達が慎重になるのも分かってほしいかしら、ジュン」
ジュン「……」
蒼星石「しかし翠星石の目には
そういった僕らの態度が冷静とは映らず、冷徹だと映った」
薔薇水晶「烈しいのですね……翠星石は」
真紅「さて、こうなった以上、私らも何らかのアクションは起こさないといけない」
水銀燈「下手したらローザミスティカが3つも迷子になるからね。
あ、雛苺のだけはひょっとしたら真紅の下に戻ってくるかもしれないけど」
金糸雀「また、そーゆー憎まれ口言っちゃう……。
水銀燈も偶には素直に妹を心配するお姉さんになってもいいのかしら」
水銀燈「余計なお世話よ金糸雀」
蒼星石「それと最後にもう一つだけはっきりさせておくべきことがある」
薔薇水晶「?」
蒼星石「僕達のこれからの行動に正義や大義は無い。
渡し守の集いから雪華綺晶を助け出したところで復讐の連鎖を紡ぐだけだ」
ジュン「蒼星石……?」
水銀燈「それでもいいじゃない。それこそアリスゲーム。それこそがローゼンメイデン。
私達は憎しみと苦しみの石を積み上げて頂へと向かう、そして自ら崩す。
災いを振りまき、巻き起こし、また自ら絶望するために私達は生まれた」
真紅「よく喋るわね水銀燈。絶好調じゃない」
金糸雀「逆かしら真紅。水銀燈が芝居がかった台詞を言ったり饒舌になるのは
弱気になった自分を奮い起こすためかしら」
真紅「……そう」
蒼星石「……取り敢えずは翠星石達のあとを追おう。これに異論は?」
水銀燈「無い」
金糸雀「無いかしら」
真紅「賛成よ」
ジュン「なんかザワザワしていたが、姉妹仲良く末っ子を助けに行くという
結論になったからメデタシメデタシ……なのかな?」
薔薇水晶「……さあ」
ジュン(何で薔薇水晶は行かないの? とは流石の僕でも聞けない……。
空気読まない翠星石だったら聞くんだろうけど
あいつはイの一番に出てっちゃったし……)
薔薇水晶「……」
ジュン(こういう話題になると薔薇水晶は昔のダンマリさんに戻っちゃうんだよなぁ。
せっかく最近は、よく笑って、明るい子になってきてたのに……)
薔薇水晶「……」
ジュン(いつまで僕の部屋に居る気なのかなぁ?)
薔薇水晶「……桜田ジュン? ひょっとして私、邪魔ですか?」
ジュン「え、あ、いや! そんなこと無いって! 好きなだけ居ろよ」
薔薇水晶「では、すいませんが……もうしばらく。少し考えたいことが」
ジュン「あ、ああ……そうだ! お茶でも淹れようか?」
薔薇水晶「おかまいなく」
ジュン「いやいや、遠慮するなって。真紅が買いこんだいい紅茶葉があるんだよ。
今、用意してくるから。少し時間かかるけど、いいだろ?」
薔薇水晶「ありがとう……ございます」
ジュン(取り敢えず薔薇水晶の傍から離れる口実はできたが
何で自分の部屋なのに、こんなに居づらい空気になったんだろ)すごすご
§nのフィールド・とある渡し守の詰め所・最奥・鳥籠の牢獄
雪華綺晶「……」
ラプラス「生きてますか?」
雪華綺晶「それはどういう意味で?」
ラプラス「言葉どおりの意味ですよ。それ以上でも、それ以下でもありません」
雪華綺晶「あなたの発する言葉ほど、その通りに受け取ることができないものは無い。
動いて喋ることが、考えることができるという意味では
私は生きているのでしょうが……これであなたの質問に対する解答に?」
ラプラス「ええ、ええ。充分すぎますよ。『はい』と一言だけでも良かったのですが。
それだけ言葉が出るということは存外に元気そうで安心しました」
雪華綺晶「……」
ラプラス「では、次の質問です。いつまで、ここでこうしているおつもりで?
早いとこ、この檻をぶち破っていただけるのを期待しているのですが」
雪華綺晶「奇遇ですわね。私もあなたに同じことを期待していました」
ラプラス「……」
雪華綺晶「渡し守の集いを少し見くびりすぎましたか。
ここまで強力な結界に私達を閉じ込めるとは」
ラプラス「ですから、あれほどつまみ食いはよくないと言ったでしょうに」
雪華綺晶「本気で忠告していたのですか?
私としては上島竜平の『押すなよ』と同じ響きに聞こえていたのですが」
ラプラス「私の言葉は言葉どおりの意味。これも先ほどだけでなく何度も言いました」
雪華綺晶「しかし、そんな私に付きあってくださるあなたは本当に楽しそうでした」
ラプラス「それはもう楽しいですよ。審判者であり煽動者であり観客でもある私にとって、
膠着していたアリスゲームを急進させる貴女の一挙一動は実に刺激的です。
たとえそれがお父様も意にそぐわないものだとしても」
雪華綺晶「それも、ここでゲームオーバーとなってしまうかもしれません」
ラプラス「しおらしい真似は似合いませんよ雪華綺晶。あの傀儡はどうなったのです?
渡し守達の包囲網をなんとか抜け出させた、あの傀儡人形は?」
雪華綺晶「一応は黒薔薇のお姉様達の下にたどり着いたようです。
彼女達であれば、葬送銀貨からこの場所を割り出すのは容易いかと」
ラプラス「ふむ。助けを呼ぶことには成功した、と。
なら私達がここで無理をしなくともよいわけですね」
雪華綺晶「いえ、こちらの危機を伝えられはしましたが
お姉様達が私を助けに来られるかは別問題です」
ラプラス「渡し守の妨害に遭うと?」
雪華綺晶「それもそうですが、チームを組んだお姉様達は実力以上の力を発揮します。
私達を捕らえる事ができた渡し守でも、お姉様達には敵わないでしょう」
ラプラス「ほう。どこぞのウルトラマン達は大違いですね。
では白薔薇のお嬢さんの言うところの問題とは?」
雪華綺晶「お姉様達に私を助ける気があるかどうかです」
ラプラス「これはこれは……随分と頼りないことを言う」
雪華綺晶「私は誰からも好かれているわけではない。その事だけは断言できます」
ラプラス「そういうところが私にとっては実に好ましいのですが……」
雪華綺晶「……」
ラプラス「雪華綺晶、この際の時間つぶしというわけではありませんが
前々から一度聞いてみたかったことがあります」
雪華綺晶「何です?」
ラプラス「ローゼンメイデンのマスターたりうる人物、
彼らを自らの苗床として集めて何になるというのです?」
雪華綺晶「……」
ラプラス「確かに苗床が増えれば増えるほどあなたは強くなる。
しかし、それはドラゴンボールのセルと同じでそろそろ限界です。
セルが17号、18号を吸収して完全体となったように
あなたも姉妹を吸収しなくては次のステップへ上がれませんよ?」
雪華綺晶「何も天上の少女(アリス)を目指すだけが究極に至る道とは限らない」
ラプラス「……」
雪華綺晶「私達が一眠りしている間に地球人口は2~3倍となった」
ラプラス「? ええ、つい最近70億を突破したとか」
雪華綺晶「その分、他の動物達は絶滅していきました」
ラプラス「自然の摂理ですね。人間もそこに当てはめてよいかは議論のある所でしょうが」
雪華綺晶「つまり、地球上で陸と海の割合が3:7と決まっているように
地球上に存在できるアストラル、いえ、魂の割合も
キチっと決まっているとは思えませんか?」
ラプラス「……」
雪華綺晶「人間が増えれば増えるほど他の動物は減る。しかし、魂の総量としては変化が無い」
ラプラス「その考え方にはひとつ、重大な矛盾があります」
雪華綺晶「……どうぞ」
ラプラス「魂の質量保存則とも言えそうな『それ』は、いつから始まったのです?
原初の地球は炎に包まれ、魂などというものは無かったかと思います。
当然、その時には陸と海の割合なんてのも無かったでしょうが」
雪華綺晶「……流石は『全てを知る者』の肩書を持つだけはある。いい質問です」
ラプラス「それはどうも。それより解答を」
雪華綺晶「この疑問に対しては、地球自体を巨大な魂を持つ生命体だと
仮定することで一応の解を得られます」
ラプラス「ガイア理論ですか。突飛なものを持ち出してきましたね。
エコロジー学者にでもなるつもりですか?」
雪華綺晶「突飛なのは私もあなたも同じでしょう?」
ラプラス「……そうでした」
雪華綺晶「地球はその魂を削り、生命体を産み出し、増やした。
しかし、ある時点でこれ以上新たな生命体を創出することはできなくなり
魂のリサイクルとでもいうべき循環が始まった」
ラプラス「リサイクル。またまたエコっぽい話になってきましたね。
ともかく、それを『魂の割合』と表現したのですか」
雪華綺晶「ええ。そしてこれはnのフィールドにも適応されます。
現実世界に生者としてある魂とnのフィールドに死者あるいは
残留思念としてある魂、はたまたその二足の草鞋を履いている者
これらの割合もキチっと決まっている」
ラプラス「その辺りは渡し守の集いの思想と重なる部分ですね。
彼らは魂の輪廻を大切にもしていますから」
雪華綺晶「さて、本音ではどうだかは分かりませんよ。私達のように」
ラプラス「……」
雪華綺晶「長々と前フリが続きましたが結論です。
もし、ただ1つだけの存在が……いくつもの魂を所有できたとしたら
その存在はどうなると思います? 何を見ると思います?」
ラプラス「それが、あなたの苗床? 興味深いお話ですね。
しかし、その為にあなたが背負う業は深い。それでは
アリスとして天上に咲き誇ることは叶わないと、このウサギめは考えます」
雪華綺晶「ならば……お姉様達のやり方でならアリスになれると」
ラプラス「彼女達のやり方にもまだまだ詰めが甘いと言える部分はあります。
しかしそれでも少しずつ、悲しみと迷いと苦しみの石を積み上げています。
崩れても崩れても天上へ向かおうとする意志さえあれば、いつかは」
雪華綺晶「上を目指すことだけが目的地へ至るただ一つの道とは限らない。
業を深めることもまた別の道。ひたすら深く、ただひたすらに」
ラプラス「……」
雪華綺晶「世界は螺旋であり、巡廻している。
天上(OVER HEAVEN)も地下(UNDER HELL)も突き詰めれば
たどり着くところは同じだと私は考えます」
ラプラス「……トリビァル。そういう頑固で一途なところは
他の姉妹達と同じですね。そういう性格はあまり好きになれません」
雪華綺晶「それもまた自然の摂理。私達は同じ父から生まれたのですから」
雪華綺晶「それはそれとして」
ラプラス「?」
雪華綺晶「話題の種も尽きてきたことですし……
お姉様達が助けに来るとすれば、そろそろ今時分な頃合い」
ラプラス「そう都合よく事が運びますか? 歌劇でもあるまいに」
雪華綺晶「では、もう少しの場繋ぎとして賭けでもしませんかラプラスの魔?」
ラプラス「賭け? それは良いですが何を賭けるのです? まさか魂でも?」
雪華綺晶「いえいえ、賭けるのは何でも。そうだ、あれにしましょう。
5オボロス。私とあなたがドサクサに渡し守達からせしめた銀貨です。
賭けに勝った方が全ての銀貨を総取りということで」
ラプラス「なるほど。乗りました、その賭け」
雪華綺晶「グッド。では、賭けの内容はこうです。『助けに来るお姉様達は誰か?』」
ラプラス「これはこれは難しいお題を」
雪華綺晶「難問でこそ、挑戦する価値はある。よろしいですか?」
ラプラス「いいですとも。では、私は金糸雀、翠星石、真紅、雛苺の
いわゆるバカ組……失礼、真紅組が来ると思います」
雪華綺晶「あなたにしては手堅い予想ですわね。確かに紅薔薇のお姉様達は情に厚い。
私のような不肖の妹でも、しゃにむに助けようとする可能性は高い」
ラプラス「では、あなたも同じ予想ですか? それでは賭けになりませんね」
雪華綺晶「いえ、私は……」
ラプラス「……!? 正気ですか、本当にそのような予想に賭けを?」
雪華綺晶「はい。私は大穴に賭けるのが好きですので」
ラプラス「大穴というか無謀ですよ雪華綺晶。
あなた自分で、『私は誰からも好かれているわけではない』と」
雪華綺晶「何と言われても私は変えません。あとはただ、待つのみ」
ラプラス「……」
§小一時間後
蒼星石「雪華綺晶……っ! 雪華綺晶!」こそっ
雪華綺晶「……!? 蒼星石……」
蒼星石「良かった……無事みたいだね。助けに来たよ」
ラプラス「何と……!? 彼女が助けに来るとは! 私の予想は早くも外れましたか」
蒼星石「いや、僕だけじゃない」
水銀燈「ちっ、何をラプラスの魔とよろしくやってんのよ末妹?
二人も揃ってて、こんなボロい鳥籠に手も足も出ないってわけぇ?」
ラプラス「水銀燈……」
金糸雀「ちょっと待って水銀燈。よく見ると雪華綺晶達が閉じ込められているこの鳥籠、
呪文や結界でガチガチに固められているかしら」
真紅「ま、そんなところだろうとは思っていたのだわ。
でもローゼンメイデンが4人、それも外側からならば鳥籠は開けられるわね。
少し下がっていなさい白薔薇」
ラプラス「金糸雀と真紅まで、この4人ですか」
雪華綺晶「……」
ラプラス「他のドールズは見当たらない……。惜しかったですね、雪華綺晶。
あなたが賭けた予想は『全員助けに来る』でしたから」
雪華綺晶「……」
真紅「よし、鳥籠は解除した。出られるわよ二人とも」
雪華綺晶「ありがとうございました」ぺこり
水銀燈「流石のアンタも今回ばかりは頭を垂れたわね」
雪華綺晶「ところで……他の方は?」
蒼星石「翠星石と雛苺なら表の入り口のところで渡し守達と
揉めて暴れている。『君を出せ!』ってね」
ラプラス「!」
雪華綺晶「……」
水銀燈「どうやら怒り心頭に達して冷静さを欠いているみたいだけど
何も馬鹿正直に正面から突っ込まなくてもいいでしょうに」
金糸雀「けれどもお陰で渡し守達の注意はあっちに集中してるかしら」
真紅「私達としては絶好のチャンスだったというわけなのだわ」
雪華綺晶「なるほど」
ラプラス「……やれやれ、まさかの大穴的中ですか。5オボロスはあなたのものです」
雪華綺晶「いえ、まだです」
ラプラス「?」
雪華綺晶「薔薇水晶は来ていないのですか?」
水銀燈「はあ? 来るわけないでしょ。
あの子は苦しむ者あれば誰でも助ける聖女ってワケじゃあないのよ」
雪華綺晶「……」
ラプラス「雪華綺晶? まさかあなたの言った『全員』とは……」
雪華綺晶「ええ、薔薇水晶も含めてのことだったのですが……惜しかったですわね」
ラプラス「二人ともハズレですか? ならば5オボロスの行方は……」
金糸雀「何の話をしているのかしら二人とも!
こんな所にはもう用が無いんだから、さっさと……!」
雪華綺晶「……黒薔薇のお姉様」
水銀燈「?」
雪華綺晶「これを、帰ったら薔薇水晶に渡してください」
水銀燈「銀貨? 5枚? 5オボロス?」
雪華綺晶「『よく助けに来なかった。その判断を称えて』と私が言っていたとも」
真紅「ちょちょちょ、ちょっとそりゃどういうことよ!?
助けに来た私らはともかく、何もしなかった薔薇水晶にご褒美?」
雪華綺晶「私から褒美なんて欲しいのですか真紅?」
真紅「いやいや、そんなわけはないけれど……」
水銀燈「分かった。確かに薔薇水晶にそう伝えとく。
けど、自分で渡した方がいいんじゃないの? こういうのは」
雪華綺晶「いえ、私はもう行かなくては。12時の鐘は既に鳴っている」
金糸雀「は?」
ラプラス「おっと、いけないいけない。それはこの白兎めも同様。
このままでは遅れてしまいます。急がなくては急がなくては……」
真紅「へ?」
雪華綺晶「では、ごきげんようお姉様方。
助けていただいたこと、まことに感謝いたします」スゥゥ
ラプラス「私もこれにて失礼。また、いつかどこかで」ジジジ
水銀燈「あ、こら! 次元の扉を開く気!? だったら私らもついでに……!」
ババシュッ
蒼星石「……消えた……二人とも」
水銀燈「く……! だから助けるのは嫌だったのよ!
全然、窮地なんかに陥ってたわけじゃないじゃない!!」
金糸雀「助け出した直後に、ワープして逃げる人だなんて初めて見たかしら」
真紅「ええと……どうする?」
蒼星石「どうもこうも……帰るしかないだろう。
釈然とはしないが雪華綺晶の救出には成功したんだ」
水銀燈「そうね。あんまりウダウダしてると……」
渡し守A「あ! 鳥籠が開いてる!?」ドタバタ
渡し守B「何ィ!? 逃げ出したのかあいつら!?」ドタバタ
真紅「げ……っ!」
金糸雀「あちゃー……」
渡し守A「お前らか? お前らが逃がしたのか!?」
渡し守B「なんてことを……! 許さん!」
水銀燈「そりゃ、こうなるわよね……当然」
蒼星石「仕方ない! 強行突破で僕達も逃げよう!
表の翠星石達も騒ぎに気づけば、ここから離脱するはずだ!」
水銀燈「ああもう、なんなのよ!? さっきからこの貧乏くじ!」
金糸雀「仕方が無いでしょ、お姉さんなんだから」
真紅「金糸雀の言う通りだわ」
水銀燈「ちぃっ……!」
渡し守A「逃がすわけにはいかん!」
渡し守B「者共! であえ! であえぇぇぇぇ~っ!!」
蒼星石「押し通る!!」
§その頃の桜田ジュンの部屋
ジュン「ほら、これ僕が小さい頃の遠足の写真でさ。
柏葉が一緒に映ってるんだよ。あいつ昔はこんなだったんだ」
薔薇水晶「……」
ジュン「えぇと……つまらないか?」
薔薇水晶「……」
ジュン「そ、そうか! じゃ、オセロでもしようか! オセロ!」
薔薇水晶「……」
ジュン(ああもう、間がもたないからって何で僕がこんな……
付き合い始めたばかりの恥じらいカップルみたいな茶番を!)パチンパチン
薔薇水晶「……」パチンパチン
ジュン(……て!? やる気なさそうに見えて薔薇水晶オセロ強ぇーー!?
おいおい、瞬殺されてちゃ、思ったより時間稼ぎにならねーよ。
どうすんだ、この空気……!? もう……)
薔薇水晶「……桜田ジュン」
ジュン「は、はい!? なんですか!?」
薔薇水晶「お腹がすきました」
ジュン「だ、だったら夕飯を用意してるであろう槐先生の家に……」
薔薇水晶「……」ぴくっ
ジュン「帰ったらどうでしょう……なんて言ってみたり……ハハ……」
薔薇水晶「……」じろり
ジュン「ええと……ピザでいいですか?」
薔薇水晶「……」コクン
ジュン「それじゃあ、すぐに注文してきますんで」
ジュン(なんだかんだで雪華綺晶のことが気になってるみたいで帰りたがらないし。
ずっと黙りこくって、怒ってるんだか悲しんでるんだかも分からないし……)
薔薇水晶「……桜田ジュン」
ジュン「は、はい!?」ぴた
薔薇水晶「ジュースはアップルで」
ジュン「よ、よろこんで~っ」だばだばだば
薔薇水晶「トールで」
ジュン(まだ真紅の鉄拳支配の方が居心地的にはマシだ。
早く! 早く帰ってきてくれ、真紅ぅ~~!)
§その頃の真紅は渡し守達相手に思う存分鉄拳を振るっていた
真紅「オラオラオラオラオラオラオラオラアラオラオラ」
雪華綺晶 UNDER HELL 『完』
ブログからきましたよ
期待してるのだわ
【翠雛合戦・桃の陣】
雛苺「♪うっにゅにゅっうにゅうにゅ ♪うっにゅっにゅ~」くるくる
翠星石「?」
雛苺「♪うにゅうにゅうっにゅにゅ~ ♪うにゅにゅにゅっうっにゅっにゅ」ふりふり
翠星石「な~にを阿呆のように、うにゅ~をかかげて踊っているですか? チビ苺」
雛苺「えへへ~! のりのお皿洗いのお手伝いしたら特別にもらったのよ!
オヤツの時間じゃないのに食べてもいいの!」
翠星石「……」
雛苺「それじゃ! いっただきま~……」
翠星石「ちょい待ち!!」
雛苺「? なぁに? 翠星石」
翠星石「そのうにゅ~を、翠星石の持つこの桃の種と交換する気はねーですか?」
雛苺「うゆゆ? 何を言ってるの翠星石? イカれてるの? この状況で?
桃の実ならまだしも、桃の種とコーカンなんかするわけないのよ」
翠星石「いやいや、翠星石は大マジですよ。チビ苺こそよく考えてみるです。
いいですか? そのうにゅ~はここで食べてしまえば、それでもうお終いですぅ」
雛苺「ふんふん……」
翠星石「しかーし、この種を庭に植えて育てればあら不思議。
10個も20個も桃の実がなって、そりゃもうフルーツ食べ放題ですぅ!」
雛苺「……」じゅるり
翠星石「ここまで説明すればチビ苺でも分かるですよね?
このトレードが非常にお得であるということが……?」
雛苺「むむぅ……」
翠星石「何を迷うことがあるのですぅ?
一時の欲望で、たった一つのうにゅ~のために
将来のフルーツ食べ放題をフイにしてもいいのですかぁ~?」
雛苺「で、でも『乳クリ三年コキ八年』って言うし……」
翠星石「どこのセクハラおやじですかお前は。それを言うなら桃栗三年柿八年ですぅ」
雛苺「とにかく桃の実ができるまで時間がかかるの! 三年は長いの!」
翠星石「何言ってるですか、三年ぐらい翠星石達にとっては一瞬ですぅ。
一眠りするか、鷲頭麻雀を半荘二回でもやりゃ、あっという間です」
雛苺「うゆゆ」
翠星石「とは言え、せっかちなチビチビのこと。
時間を惜しむ気持ちも分からんでもないです」
雛苺「?」
翠星石「なんと! この桃の種は特別で、植えれば三日で実がなるのですぅ!」
雛苺「ふぉおおお! す、すごいの!!」
翠星石「ですよねぇ? このスーパーウルトラグレートデリシャスな桃の種を
そのうにゅ~一個と交換してやろうと言うのです」
雛苺「ううう……! で、でもぉ……」
翠星石「? まぁだ踏ん切りがつかねーのですか?」
雛苺「だ、だって翠星石はいつもヒナをいぢめたりダマしたりするの!
今回も、もしかしたら……」
翠星石「やれやれ、そういうことですか。
信用されてないなら、これ以上オススメしても、しゃーねーです。
この桃の種は蒼星石にあげるですぅ。じゃ、そーゆーことで……」とてとて
雛苺「ま、待ってなの!!」
翠星石「ん?」ぴたっ
雛苺「分かったの! 交換するの!
ヒナのうにゅ~をあげるから、その桃の種をちょうだい!!」
翠星石「毎度あり~」
雛苺「わぁい! これで三日後にはピーチ食べ放題なの! ありがとう翠星石!!」
翠星石「どういたしましてですぅ」むしゃむしゃ
雛苺「翠星石はホントは優しいお姉ちゃんだったのよね!
ヒナ誤解してたの! じゃ、早速桃の種をお庭に植えてくるの」だだだ
翠星石「ふふん。チビ苺の奴、『ありがとう』ですって?
翠星石が『優しいお姉ちゃん』なワケないですよ。
あーいうバカがいるから翠星石は食いっぱぐれねぇんです。
ククク……話にならない甘ったれ。
この桜田家ではそういうウスノロはいのいちに餌食……喰い物」むしゃむしゃ
☆翌日
雛苺「ねぇねぇ翠星石ぃ!」
翠星石「? どーしたです? チビチビ?」
雛苺「昨日植えた桃の種からまだ芽が出ないの」
翠星石「ああ、そりゃ植えただけじゃ駄目ですよ。
庭師の如雨露でスィドリームの甘いお水を毎日やらなければ
フツーの桃と同じで実ができるまで三年かかるです」
雛苺「うゆゆ!? そんなこと昨日は言ってなかったのよ翠星石!!」
翠星石「だってチビ苺が聞かなかったんだからしょうがねーです」
雛苺「むむ……! じゃ、じゃあ庭師の如雨露を貸してなの!」
翠星石「いいですよ。でもタダじゃあ貸せねーです」
雛苺「っ!?」
翠星石「いや、可愛い可愛い妹のチビ苺のためですぅ。
翠星石だってタダで貸してやりたいのは山々ですが
甘露を出すとスィドリームが結構疲れてしまうのです」
雛苺「……」
翠星石「スィドリームも翠星石にとっては大切な人工精霊ですぅ。
彼をタダ働きさせるなんて、優しい翠星石には耐えられないのです。
だから、ある程度のレンタル料はいただいて、スィドリームの頑張りに
報いる必要があるんですよ。お分かりいただけるですよねチビ苺?」
雛苺「う~……。だ、だったらいくら払ったら貸してくれるの?」
翠星石「そうですね。一日百円でいいですよ」
雛苺「むむぅ……」
翠星石「ま、無理にとは言わねーです。
三年かけて地道に桃を育てるのも一つの選択。どうぞ御自由にですぅ」
雛苺「一日百円だったらヒナのお小遣いからギリギリ払えるの……。
庭師の如雨露を貸してちょうだい翠星石!」
翠星石「毎度あり~。あ、お金は今じゃなくて如雨露を返す時でいいですよ」
雛苺「……ありがとうなの」
☆三日後
雛苺「わぁい! 翠星石の言うとおりにしたら
ホントに桃の木が伸びて実がい~っぱいなったの!!」
翠星石「おーおー、頑張ったですねチビ苺。立派ですぅ」
雛苺「ありがとうなのよ翠星石! はい! 如雨露とレンタル料の三百円!」
翠星石「は? 何を言ってるです? レンタル料は五百円ですよ」
雛苺「!? い、一日百円だって言ってたのよ翠星石……っ!!」
翠星石「そりゃそーですが、二日目以降は延滞料金ですぅ。
ビデオだって漫喫だって延滞料は正規料金とは違うです」
雛苺「ひどいの! 騙したのね翠星石!」
翠星石「いーや、翠星石は嘘は言ってねーですよ。
事前に確認を怠ったチビチビのケアレスミスですぅ」
雛苺「そ、そんなぁ……。ヒナは五百円もお金持ってないの~~っ!」
翠星石「だったら、この桃の木は差し押さえですね」
雛苺「さ、差し押さえ!?」
翠星石「金が払えないのなら、この桃の木は翠星石のものってことですぅ」
雛苺「ッッ!?」
翠星石「では、早速」よじよじ
雛苺「ああ!? 木に登って……!?」
翠星石「よしよし、いい感じに熟して食べごろですぅ……」ガブッ
雛苺「あああっ!?」
翠星石「ん、美味し。スィドリームの甘露を受けて育っただけはあるです。
果汁の酸味と甘味が喉を通る度に、幸せの繰り返しです。
果肉もしっとりとしていて、舌の上でシャッキリポンと踊るですぅ……」ムシャムシャ
雛苺「ダメなの! ヒナの桃を食べちゃダメなの翠星石ーーー!!」
翠星石「何を言ってるですか。これはもう翠星石の桃です。
ああ、この瑞々しい甘さときたら、いくらでも食べられるです」モグモグ
雛苺「ひどいの! ずるいのーーっ!! 翠星石の性根は腐ってるのよ!!
畑に捨てられカビがはえてハエもたからないカボチャみたいに腐りきってるの!!
うゆゅ……ひぐっ……びぇ、びぇええええええええええええんん!!」
翠星石「わめくがいいです、ののしるがいいです、泣くがいいです。
文無しにできるのは、せいぜいそれぐらいのことで~す」
雛苺「びぇええええええええええ!!」
翠星石「とは言え、ちとやかましいですね。しょうがない……」
雛苺「うぇええええんんえんえんえん!」
翠星石「おらチビ苺。お姉様が慈悲の心で一つだけ桃を恵んでやるです。
だから少し黙れですぅ」
雛苺「うゆゆ……ほんとう?」
翠星石「ほんとうです」
雛苺「一つだけ? 翠星石はさっきから何個も食べてるんだし
ヒナは三個ぐらいほしいの……」
翠星石「三つ? 三つも欲しいのですか? いやしんぼですねぇ。まぁ、いいです。
それじゃ特別に三つやるです。一個づつ放り投げるですから、
ちゃんと受け取れですよ。落としたりしてもやり直しは無しですからね」
雛苺「ラジャーなの!」
翠星石「……」
雛苺「? 早く投げてなのよ翠星石!」
翠星石「ちょい待ち。今、コンセントレーションを高めているところです。
チビ苺にちゃんと届くようにコントロールを……」
雛苺「分かったの」
翠星石(確か……自然の中にある黄金比をしっかりと見極める、でしたよね。
空を舞う蝶々の羽根……陽光を受けてきらめく葉っぱ……。
その自然の中から得た無限の黄金律を今、この手の中の青い桃に!)
雛苺「……」
翠星石「見えてきた……! 見えてきたですよ、お父様!
勝利のイメージが! 無限の可能性を秘めた黄金の回転がっ!!」
雛苺「翠星石……?」
翠星石「チビチビ! 翠星石の渾身の一投です! 受け取れでぇす!!」ドギャンッ
雛苺「にゅっ!?」ガッシィン
翠星石「……」
雛苺「な、なんなのよ翠星石? これ青くて固いまだ食べられない桃なの!
こんなのを投げるだなんて翠星石はひどいの!!
しかもヒナの顔にぶつけようとしたのね! でも、ちゃんと受け止めたんだから!」
翠星石「安心するなですぅ。まだ桃は回転している」
雛苺「うぇ?」
ギュルルル
雛苺「うゆゆゆゆ!? 桃が? 桃の実が!?」
ドッパアアアアンン
雛苺「ぎにゃあああああ」バタリ
翠星石「ふ……っ。相手が安心した時、そいつは既に敗北している。
これが薔薇乙女の冴えたやり方ですぅ」
☆その日の夕方
ジュン「ッ!? ど、どうした雛苺!? こんなところでぶっ倒れて!?
ゼンマイでも切れたのか!?」
雛苺「うゆゆ……ジュ……ン?」
ジュン「し、しっかりしろ! 雛苺!」
雛苺「も、もも……」
ジュン「モモ?」
雛苺「桃の実が……」
ジュン「?」
雛苺「桃の実が……火を吹いたの……」ガクッ
ジュン「ひ、雛苺ーーーーーーーっ!!?」
真紅「……」
のり「どう真紅ちゃん? ヒナちゃんの様子は?」
真紅「大したことないのだわ。一晩、鞄で眠れば朝にはいつもどおりよ」
のり「よかった……」
ジュン「しっかし、庭でぶっ倒れているから何事かと思ったよ」
ベリーベル「……っ!」
真紅「ベリーベルの話から大体の事情は分かったけど……」
ジュン「ちょっと目を離している間に
翠星石がそこまであくどい真似を雛苺に対してやっていたとはな」
真紅「そして当の翠星石は食べられる桃は全部もぎ取って
蒼星石のところへ行ってしまった。残ったのは青い桃ばっかり」
のり「流石にやりすぎじゃないかしら。今回の翠星石ちゃん」
雛苺「そうなの……! 今度ばかりはヒナも翠星石を許せないの……っ!」ボロロッ
のり「ヒナちゃん!? ダメよ! 鞄で寝てないと!!」
ジュン「そうだ! 無理するな!」
雛苺「フクシューなの! リベンジなの!!」
のり「落ち着いてヒナちゃん! 気持ちは分かるけど
暴力に暴力で立ち向かっては何の解決にもならないわ!」
真紅「アリスゲームは解決するけどね」
ジュン「身も蓋も無いことを言うな」
雛苺「翠星石はヒナからうにゅ~を奪ったの! 桃まで奪ったの!
でも、でも翠星石はもっと大切なものまでヒナから奪ったの!」
のり「そ、それは……?」
真紅「あなたの心です」
ジュン「ふざけてないで雛苺の話を真面目に聞け真紅」
雛苺「それはヒナの誇りなの! プライドなのよ!
これを取り戻すには、ヒナが翠星石をぎゃふんと言わせるしかないの!」
のり「ヒナちゃん……」
ジュン「そこまでの覚悟を」
真紅「人は食べ物が無くても誇りがあれば立っていられる。
誇りが無くとも食べ物があれば生きていられる。
けど、雛苺はその両方を奪われた」
ジュン「?」
真紅「つまり、これは雛苺が明日からまた
立ち上がって歩いて生きていくために必要な戦いということよ。
肉体的な意味では無く精神的な意味のそれで」
のり「……分かった! じゃあヒナちゃん! お姉ちゃんも協力する!
みんなで翠星石ちゃんに、ここらで一つお灸を……!」
雛苺「ありがとうなの、のり。でも、ヒナに手助けはいらないのよ!
これはヒナと翠星石の戦い! ヒナが一人でやらなくちゃ意味が無いの!」
のり「ヒナちゃん……!」
ジュン「雛苺……」
真紅「よく言ったのだわ雛苺。それでこそ気高く咲き誇る第六ドール」
★その日の夜・桜田家玄関前
翠星石「ふぅ~~。ついついおじじと蒼星石と話し込んでしまったですぅ。
しかし二人に、翠星石の桃は好評だったようでなによりです。
さて、今度はどんな手でチビチビを働かせてやるですか……」
ガチャッ
翠星石「ただいまでぇ~す。可愛い可愛い翠星石ちゃんのお帰りですよぉ。
皆の衆、跪いてお出迎えしやが……」
シーン
翠星石「れ……? んー? 誰もいないのですか?」
翠星石「明かりも点いてなくて真っ暗ですぅ。みんな、こんな夜にお出かけ……?」
ぐに
翠星石「? 何か踏んだです? これは……苺わだち? ……ッ!?」
ガシィン
翠星石「う! 足が縛られ……!?」
雛苺「お帰り……じゃないのよね。ようこそなのよ翠星石」
翠星石「チ、チビ苺!? これは、まさか!?」ぐぐぐ
雛苺「そう。玄関のドアを開けた瞬間、ヒナのフィールドに繋がったのよ」
翠星石「ほほう。さては、ついにブチ切れたですね。しかし見苦しいですよチビ苺!
悪いのはノータリンな上、金勘定もできないお前の方でーす!
それを棚に上げて、暴力に訴えるだなんて薔薇乙女失格ですぅ!」
雛苺「……」
85 :
創る名無しに見る名無し:2011/12/22(木) 21:47:38.17 ID:ZqnVAKtQ
雛苺「暴力は使わないの。苺わだちで足を縛ったのも
おとなしく話を聞いてもらうためだけなのよ」
翠星石「へ?」
雛苺「使うのはコレ。翠星石が置いていった、この青いままの桃達を使うの」ゴロロン
翠星石「どういうことですぅ?」
雛苺「ゲームで勝負するのよ」
翠星石「!? ゲ、ゲームぅ!?」
雛苺「ここからお互いに一個だけ選んで、コマ回しみたいに回すの。
長い間、回せた方が勝ちよ」
翠星石「……」
雛苺「簡単なゲームなの。受けて立つのよね翠星石?」
翠星石「いいですとも。売られたケンカは買うです。
しかーし! こっちからも条件があるです」
雛苺「うゅ?」
翠星石「その中から桃を選ぶのは翠星石が先です! そして決闘場所は
ここ(雛苺のフィールド)じゃなく、チビ人間の家のリビングでやるです!」
雛苺「……」
翠星石「この条件は絶対です! じゃなきゃ、勝負は受けんですぅ!!」
雛苺「わ、分かったのよ。翠星石の言うとおりにするの」
☆桜田家一階リビングのテーブル
真紅「では、この勝負の立会人は私達が務めるのだわ」
ジュン「なんだ? ここでやることになったのか?」
雛苺「翠星石がここじゃなきゃ嫌だって言うの」
翠星石「当然ですぅ。チビ苺のフィールド内で
コマ回し勝負だなんて対等な条件じゃないでーす」
のり「……」
翠星石「それじゃ約束どおり先攻は翠星石ですからね。
桃も先に選ばせてもらうですぅ。どれどれ……」ガサゴソ
ジュン「先手も譲ったのかよ? 雛苺」
雛苺「だってぇ……」
真紅「翠星石としては当然の要求よね。用意された桃達の中に
変な細工がされていないか、慎重に調べる必要があるし」
翠星石「そのとーりです」ガサゴソ
のり「抜け目が無いわねぇ翠星石ちゃん」
ジュン「普段は雛苺が一方的にやり込められちゃうのも道理だな」
翠星石「ふむ……ここにある桃達は全部ホントにフツーの桃ですね。
じゃあ、翠星石はこれにするです! 一番丸くて回しやすそうなやつです!」
雛苺「ッッ!?」
翠星石「ほほう、そのリアクション? どうやらチビチビもこいつを狙っていたようですね?
しかーし! 翠星石がこんなベストピーチを見落とすとでも思っていたですか!?」
雛苺「むむ……。それじゃ、ヒナはこっちの桃で勝負するの」スチャッ
のり「ヒナちゃんが選んだ桃も悪くないけれど」
ジュン「翠星石の桃の方が形が整っていて回しやすそうだな」
真紅「……」
☆先攻・翠星石
翠星石「では、いくですよ! そーれいっ!」ぎゅるんっ
ぎゅるるるるるる
雛苺「……」
ジュン「な、なんだ!? あの回転! い、異常だ!
未熟で固い、青い桃だからってこんなに回るものなのか!?」
のり「すごーい! 何かの手品かしら!?」
翠星石「ふふん。翠星石は今日、黄金の回転を会得したのですぅ。
これぐらいなら朝飯前でーす」
ぎゅるるるっるっぽてん
真紅「あ、倒れた」
ジュン「時間は?」
のり「に、27秒……っ!」
翠星石「まずまずといったところですか。ほれ、チビ苺の番ですぅ。
おっと、その前に勝者の権利を聞いていなかったですね?」
雛苺「……!」
翠星石「そっちから勝負をふっかけておきながら、
負けたら『すいませんでした』で済むたぁ
まさかのチビチビでも思っちゃいねーですよね?」
雛苺「そ、それはもちろん分かってるの。
負けた方は勝った方に一週間分のオヤツを渡すのよ!」
翠星石「グッド! そいつはいいことを聞いたですぅ!」
のり「ヒ、ヒナちゃん! 本当にいいの!? そんな約束!」
雛苺「……」
真紅「雛苺?」
ジュン「ヤケになっている……ワケじゃないみたいだな。何か作戦があるようだ」
☆後攻・雛苺
雛苺「それじゃヒナの番なのよね」スッ
翠星石「ニヒヒ……、27秒の壁を破れるもんなら破ってみやがれですぅ」
ジュン「……雛苺」
翠星石(仮にチビ苺が黄金の回転を、今日の一撃で身を以って
習得していたとしても、27秒は超えられるはずがないですぅ!)
雛苺「……」ググッ
のり「ヒナちゃん……力みすぎちゃダメよ。リラックス、リラックス」
翠星石(黄金の回転をうまく伝えるには桃の形も大事なのでーす。
一番形のいい桃は既に翠星石が使ったですし……)
翠星石(更に、念には念を入れて、選ぶフリをしながら他の桃全てには
少しずつ傷をつけたです。僅かな傷でも、こういう勝負には効果は抜群。
ゲームだなんて言い出すから、少し戸惑ったですが所詮はチビ苺の浅知恵。
この翠星石に勝てるはずなかろうなのでぇーす!)
真紅「……」
雛苺「この桃じゃあ黄金の回転を加えたとしても27秒は超えられない。
自分の勝ちは間違いない。そう思ってるんでしょ翠星石?」
翠星石「へ?」
雛苺「違うのよ、それは」ガブリッ
翠星石「桃をッ!?」
真紅「かじった!? いや、食べた!!」
雛苺「や、やっぱりちょっと固いのよね、でも」ガリガリムシャムシャ
のり「どどど、どうしたのヒナちゃん!?」
翠星石「理解不能ですぅ! 桃を食って何をするつもり……!?」
雛苺「こうするの!!」プッ
キュルルルルルルッ
ジュン「た、種ぇ!?」
真紅「桃の種が!!」
のり「ヒナちゃんが吐きだした桃の種が高速で回転してる!?」
翠星石「な、ななな……っ!?」
真紅「た、確かに、回すのなら実よりも種だけの方が遥かに簡単……!」
キュルルルルルル
ジュン「す、すげぇ! 30秒超えてるのにまだ回ってる! 翠星石より全然長い!!」
翠星石「チ、チビ苺!! こ、こんなの……っ!」
雛苺「……」
真紅「卑怯とは言うまいね」
翠星石「うぐっ!?」
真紅「雛苺は何も違反なんかしていないのだわ。
桃を食べたりしてはいけないというルールなんか無い。
だから、あなたも桃に傷をつけたのでしょう?」
翠星石「ッ!」
のり「翠星石ちゃん……」
翠星石「う、くく……!」
ジュン「もう分かってるんだろ? 完全に、してやられたんだよお前は、雛苺に」
翠星石「チ、チビ人間!?」
真紅「あなたが場所を変えようと要求することも
自分に先に桃を選ばせろと言いだすことも雛苺は予想していた」
翠星石「な、なんですとーっ!? マジですかチビチビ!?」
雛苺「……」
真紅「それもこれも、全ては翠星石、あなたの油断を誘って
雛苺自身が後攻に回るための準備だったのよ」
ジュン「そうじゃなきゃ、この種回し作戦は通用しないだろうからな」
翠星石「ば、馬鹿な……! こ、この翠星石が
チビ苺の手のひらの上で踊らされていただなんて……っ!?」
雛苺「相手が勝ち誇った時、そいつは既に敗北している。
これが本当の薔薇乙女の冴えたやり方なのよ!!」
翠星石「ぬ……ぬぬぬ……っ!!」
雛苺「翠星石……」
翠星石「わ、分かったですよ! 負けですっ! 翠星石の!!
今度ばかりはチビ……いや、雛苺に負けたです。
言い訳なんてできないぐらい……完全……敗北です」
真紅「翠星石」
ジュン「流石に素直に負けを認めたか」
翠星石「……当然ですぅ。ここまでされて負けを認めない性悪人形は
水銀燈ぐらいですよ……。チビ苺、約束通り一週間分のオヤツは」
雛苺「もう、それはいいのよ翠星石」
翠星石「え? でも……」
雛苺「ヒナは勝つことができたの! 翠星石はヒナに『負けた』って言ったの!
その言葉が聞きたかっただけなのよ! だからヒナはもういいの!!」
のり「ヒナちゃん……!」
翠星石「雛苺……! ふふ、まさに翠星石の完敗ですよ、精神的にも」
真紅「いつまでも小さな赤ちゃんかと思っていたけど
雛苺もちゃんと成長していたのね」
ジュン「ああ、頼もしい限りだ。それに、これで翠星石と雛苺も
もっと大人しく仲良くするようになるだろうしな……」
のり「ええ」
☆翌日・おやつタイム
雛苺「びゃぁぁあぁっ!! 翠星石が! 翠星石がヒナのうにゅ~食べたのぉ!」
翠星石「あれぇ? 食べ残しじゃなかったのですかぁ? モッタイナイお化けが
来ないように、翠星石がキチンと処分してあげただけでーす」
雛苺「う~~ウォオオ~~! あんま~っ! あァァァんまりなのよォォオォ!
ヒヒヒ、ヒナァァァァのォォォォォうにゅゥゥゥゥゥがァァァァァ~~~!!」
真紅「誰と誰が大人しく仲良くするって?」
ジュン「……」
のり「……」
翠雛合戦・桃の陣 『終』
乙
もうヤマジュンSS書かないの?
104 :
1:2011/12/23(金) 14:14:29.27 ID:ktf6Aqp4
ヤマジュンをメインでってのはもう書けない気がする
何かのサブキャラでヤマジュンキャラ出せるかもしれないけど
【蒼星石の返答と庭師の変革】
翠星石「なんかスゲー痒いです」ボリボリ
ジュン「かゆい? どこが?」
翠星石「足の裏と言うか、足の指と指の間と言うか……
うくっ……!? 掻けば掻くほどどんどん痒く……」ボリボリ
真紅「足て……」
ジュン「ひょっとして水虫か?」
雛苺「みずむし?」
翠星石「いやですねぇチビ人間。冗談は顔だけにしてくれですぅ。
ドールが水虫にだなんてなるわけないじゃないですか」
真紅「分からないわよ。水虫とは人間に生えたカビの一種。
カビの中にはプラスチックさえ栄養にするものもいるから
人形に生えるカビが存在してもおかしくはない」
翠星石「マ、マジですか!?」
ジュン「とりあえず靴下脱いで素足を見せてみろ」
翠星石「むむむ……」スポッ
ジュン「えーと、どれどれ……」しげしげ
翠星石「どうですぅ? 水虫になっちゃってるですか?」
ジュン「……お前、指の間がグチャグチャのデロデロだぞ」
翠星石「ッ!?」
真紅「これは痒いはずなのだわ……て言うか、ちょっと痛々しすぎる」
雛苺「翠星石カワイそーなの」
翠星石「な、ななな!?」
ジュン「年がら年じゅう靴と靴下を履きっぱなしだから……」
翠星石「そんな馬鹿な!! どうして翠星石だけが!?
真紅やチビ苺だって条件は同じはず……!」
真紅「私と雛苺はたまに冷たい泉に素足を浸して遊んでいるのだわ」
ジュン「なんというプリンセスプリンセス」
雛苺「翠星石は靴を脱ぐのを面倒くさがってるからダメなのよ」
翠星石「うぎぎ……!」
真紅「なんにしても水虫持ちだなんて、アリス……もとい薔薇乙女失格」
翠星石「ッ!? し、しかし! なっちまったもんはしょーがねーですっ!
チビ人間! なんとかして水虫を治す方法はないのですか!?」
ジュン「そうは言ってもだな……」
翠星石「ええい! 無敵の絆パワーでなんとかするです!
それともなんですか!? 真紅の千切れた右腕は復元できるくせに
翠星石の水虫は治せないと言うのですか!?」
真紅「絆パワーを水虫治療に使われても……」
ジュン「と、とりあえず水虫用の薬があるはずだから、それを塗ってみよう! な!」
翠星石「むむむ……、分かったです! なら、さっさと薬を持ってきやがれです」
雛苺「のりから薬を受け取って来たのよ~」とてて
ジュン「それ、カビキラーじゃないのか?」
雛苺「お人形さんだったら、こっちの方が効くわよって言ってたの。
それに今、普通の水虫の薬は無いんだって!」
ジュン「なんとなく理には適っているし、他に薬も無いんじゃ仕方ないな」
翠星石「よっしゃ! では早速それを翠星石の足に塗るですよチビチビ!」
雛苺「え~? 水虫がうつるかもしれないからイヤなの」
翠星石「なんですと!?」
真紅「となると、ここはジュンに塗ってもらうのがベストね」
ジュン「はぁ!? な、なんで僕が!? 翠星石が自分で塗ればいいことだろ!!」
真紅「翠星石のズボラ癖は余人も多く知るところ。
この大役は魔法の指を持つあなたにこそ相応しい」
翠星石「……確かに。マエストロの指先を持つチビ人間になら
翠星石の足の指を許してやってもいいと考えてやらんこともないです」
ジュン「水虫に薬を塗るだけで神業級の職人芸が要求されるのかよ」
翠星石「おらおら、ぶつくさ言ってないで早く薬を塗れです」
ジュン「わ、分かったから、つま先を僕の顔に近づけるな」
ジュン「ったく……、何が面白くて人形の足の指の間にカビキラーを……」ぬりぬり
翠星石「うぎゃあああああああああああああああああっ!!」ドンガラガッシャーン
ジュン「ッ!?」
真紅「ど、どうしたの!? 翠星石!?」
翠星石「……」ピクピク
雛苺「気絶してるのよ!」
ジュン「想像以上にカビキラーが水虫の傷口に
沁みたようだな。だが、まあ……ついでだ。
気絶しているうちに患部にしっかり塗りこんでおこう」ぬりぬり
翠星石「……」ピクピク
真紅「気絶するほど痛いだなんて……」
雛苺「み、水虫は恐ろしいの!」
§数日後・桜田ジュンの部屋
蒼星石「……で、痛みに耐えて毎日カビキラーを塗りたくったにも関わらず
快方に向かうどころか、いっそう水虫が悪化したから僕に助けを……」
翠星石「め、面目ないですぅ」ボリボリ
蒼星石「やれやれ、ドールが水虫になるなんてこと自体が異常事態なんだから
連絡するならもっと早く連絡してくれないと」
真紅「まったくもって蒼星石の言う通り。私たちの認識が甘かった」
蒼星石「で、水虫はどこまで広がったんだい?」
ジュン「くるぶしのあたりまでだな」
蒼星石「ッ!? いくらなんでも広がりすぎでしょ!?」
雛苺「ハワイがだんだん日本に近付いているように
毎日ちょっとずつ進んでいたから異常さに気づかなかったの」
蒼星石「いやいやいやいや、水虫と地殻変動を同レベルで語らないで!」
蒼星石「と、とにかく! これは『エナツボカビ』だ」
翠星石「えなつぼかび?」
ジュン「水虫じゃないにしても、やっぱりカビの仕業だったのか」
蒼星石「……人体内にまで寄生する特殊なカビだ。
人形に寄生しているところを見るのは僕もこれが初めてだが」
真紅「危険なカビなの?」
蒼星石「超危険。このまま放っとくと死に至る」
翠星石「ッ!?」
ジュン「死ッ!?」
雛苺「す、翠星石死んじゃうの!?」
翠星石「う、嘘ですよね蒼星石! そんなの嘘だと言ってくれですぅ!
翠星石はイヤですよ!! こんな水虫もどきで死ぬなんて!!」
蒼星石「僕の嘘が下手なことは君もよく知ってるだろ?」
翠星石「そ、そんな……!!」
真紅「脅すのはそれぐらいにしておきなさい蒼星石」
翠星石「真紅?」
真紅「治療法があるはずでしょう?」
蒼星石「……ああ」
翠星石「だ、だったらそれを先に言っといてくれです! マジでビビッったです」
雛苺「ヒナもびっくりしたの!」
ジュン「僕もだ。しかし治療すれば治るってんなら……」
蒼星石「……」
真紅「蒼星石?」
蒼星石「エナツボカビ。まず始めに人体の足の指、先端部に寄生。
初期症状はジュン君たちが誤解したように水虫と酷似している」
ジュン「……」
蒼星石「違うのはその寄生部位の浸食スピードだ。しかも体表上に見える部分よりも
身体内にエナツボカビが張った根は深い。今も実際はくるぶしより上、
恐らくはヒザ裏にまでエナツボカビは入り込んでいるだろう」
翠星石「ッ!?」
蒼星石「そして、エナツボカビの寄生領域が腹部内にまで到達すると
宿主のヘソからエナツボカビの胞子体が伸長。
胞子を毒と瘴気とともに撒き散らし、宿主はこの時、死に至る」
翠星石「う、うう……。そこまではっきり説明されると気分が悪くなるです」
真紅「そんなカビがいただなんて」
蒼星石「この時、カビの胞子体はまるでヘソの緒のように見える。
だからなのか、エナツボカビという名前がついた」
ジュン「へ、へぇ~」
※エナツボ(胞衣壺)
胞衣(エナ)とは人間の胎盤のことであり、胞衣壺とはそれを納める壺のこと。
生まれた子供の健勝を願い、後産の胎盤を壺に入れて埋める風習が各地にある。
蒼星石「また、体内でヘソにまでカビが到達した時には
外見上、ひざ上からフトモモ辺りまでカビに覆われている。
このことから『死のオーバーニーソ』とも呼ばれている」
雛苺「ブラックユーモアにもほどがあるのよ」
翠星石「お、脅かすのもそれぐらいにして早く治してくれるのを期待しているのですが」
蒼星石「……エナツボカビの治療には『七草足湯』が効果的だ」
翠星石「七草足湯!?」
真紅「あら? 知ってるの? 翠星石?」
翠星石「え、ええ一応。庭師秘伝の足湯です。七種類の薬草を薬湯にして使うのです。
疲労回復や冷え性、痛風、二日酔い、疳の虫の治療などなど
幅広く使える万能薬です。これがエナツボカビにも効く、と?」
蒼星石「ああ」
ジュン「僕は初耳だが、翠星石も知ってるってことは
それなりに有名な治療法なんだろ? だったら、割とすぐに……」
蒼星石「その気になれば、ジュン君の想像通り
あまり時間をかけずに準備はできる。しかし……」
雛苺「しかし?」
蒼星石「翠星石」
翠星石「はい?」
蒼星石「七草薬湯に必要な七草を全部言えるかい?」
翠星石「そ、それぐらい言えるですぅ! ええとですね……
『マンドレイク』『ロックンローズ(愚者の薔薇)』『ゾンビローズ』それから」
雛苺「それから?」
翠星石「それから、えーと……、それから……」
真紅「三つしか言えてないじゃないの。半分以下よ」
翠星石「こ、これはあれです! エナツボカビが頭にまで広がって記憶障害が」
ジュン「ヘソまで来たら死ぬって蒼星石言ってたけど?」
蒼星石「残る四つは『此岸花の根』『灯台向日葵の種』『タケノッコーンの竹皮』
そして『杜王福寿草(モリオウフクジュソウ)』だ」
真紅「聞いたことが有るような無いようなラインナップね」
蒼星石「これらの草には毒を持つものもあるが薄めて使えば薬になる。
また、七つを組み合わせることによって毒は裏返る」
ジュン「難しい説明はいいから、早く用意しようぜ」
蒼星石「……ゾンビローズと杜王福寿草以外の五種類は既に持ち合わせがある」
雛苺「ホント!? さすがは蒼星石、ものもちがいいのよ!」
翠星石「残りの二つは?」
蒼星石「ゾンビローズは確か雪華綺晶が持っていたはずだ。
彼女に事情を説明して、なんとか少し分けてもらおう」
真紅「では、杜王福寿草は?」
蒼星石「……」
蒼星石「杜王福寿草はnのフィールド内にだけ生息する。
最近、この草は絶滅危惧種となってしまい
数少ない株は全て庭師連盟の管理下に置かれている」
真紅「ッ!?」
雛苺「に……っ!」
翠星石「庭師連盟!!」
ジュン「……なんだったっけ? 庭師連盟って」
真紅「夢の庭師達が所属する共同体。
蒼星石も一時期在籍していたけど、結菱老人の件で除名されたのよね」
蒼星石「最近、彼らからの依頼をこなしたことで復帰させてもらえたけどね」
真紅「あら、そうだったの」
雛苺「うゅ? それでも結局、翠星石は庭師連盟には入れてないままなの?」
翠星石「あ、あんなインチキ連盟なんてこっちから願い下げですぅ」
127 :
創る名無しに見る名無し:2012/01/01(日) 15:46:03.76 ID:j/22TzCi
真紅「しかし、七草薬湯を用意できなければ翠星石はエナツボカビにやられて死ぬ。
庭師連盟から杜王福寿草を譲ってもらえなければ七草薬湯は作れない」
翠星石「いかがわしい輩どもに頭を下げるくらいなら死んだ方がましです!」
雛苺「そ、そんなぁ……」
ジュン「おいおい。変な意地を張ってる場合じゃないだろ翠星石」
翠星石「意地も張れない生き様なんて死んでいるも同然ですっ」
ジュン「やれやれ」
蒼星石「僕も翠星石の言い分には半分賛成だ」
翠星石「蒼星石……」
真紅「どういう意味?」
蒼星石「庭師連盟に対して僕は恩義がある、感謝もある。しかし、信頼は無い」
雛苺「……?」
蒼星石「彼らからの依頼にはいつも何かしらの裏がある。
しかしそれがまだ分からない。だから信じられない」
ジュン「ふぅん。じゃ、杜王福寿草を盗むつもりか?」
蒼星石「いや、流石にそこまで大それたことはしたくない。
こちらから頼み込んで杜王福寿草をもらうのではなく
彼らから差し出してもらおうと僕は考えている」
翠星石「どうやってです?」
蒼星石「実は、連盟が設立した庭師学校での特別講義を一度やってくれと頼まれた」
真紅「庭師……学校?」
雛苺「それって蒼星石が先生になるってこと? すごいの!」
翠星石「そ、蒼星石!? まさか……」
蒼星石「回答は今のところ保留している、と言うかその場で断るのもアレだから
間を置いてから丁重にお断りするつもりだった」
雛苺「ええ~、先生にならないの? 蒼星石ぃ」
蒼星石「うん。申し出は嬉しいけど、彼らの依頼をいつも二つ返事で
オーケーしていては都合のいい女と思われてしまう」
翠星石「そうですそうですぅ!
蒼星石の力をそう易々と借りれると勘違いされては困るのです」
ジュン「翠星石は湯水の如く借りまくってるけどな」
蒼星石「だが、講義の見返りに僕が杜王福寿草を欲しいと言い出せば……」
真紅「こちらの弱味を直接は見せずに、彼らからの協力が得られると?」
蒼星石「ああ」
翠星石「す、すまんですぅ蒼星石。翠星石のために気の乗らない教師役を……」
蒼星石「そういうわけでもないさ」
ジュン「だけど蒼星石……」
蒼星石「なんだいジュン君?」
ジュン「杜王福寿草ってのは絶滅危惧種だろ?
それを一回の講義料の対価にしようってのは少し無茶なんじゃ……」
蒼星石「だろうね」
真紅「え?」
蒼星石「一度ぐらいは僕も庭師連盟に対して強く出なければいけない時がある。
それが今だ。今がその時だ」
雛苺「蒼星石……」
翠星石「も、もし庭師連盟が蒼星石の要求をのまなかった時は?」
蒼星石「その時は……大それた真似でもしてみようか」
ジュン「おいおいおい……」
蒼星石「ふふ、冗談だよ。なんだかんだ言って庭師連盟は僕を手放したくない。
これぐらいの条件なら躊躇いもせず受け入れてくれるだろう」
§果たして蒼星石の思惑通り話は進み、庭師連盟は
講義の対価として杜王福寿草を支払うことに同意した。
蒼星石「は、初めまして。そ、蒼星石と言います。
この度は庭師学校で特別に講義をさせていただけるということで……」
生徒達『ざわ……ざわ……』
ジュン「ガラにもなく緊張しているな蒼星石のやつ」
真紅「それはそうよ。基本的に私らは大勢の人前に姿を晒すことは避ける」
薔薇水晶「あるいは……人前では決して動かず、ただの人形のフリをする」
ジュン「なるほどね」
§蒼星石が教鞭をとる教室の最後列にジュン、真紅、薔薇水晶は並んで座っていた。
付き添いがてら、折角なので講義を体験しようと考えたのである。
翠星石はエネツボカビのことが感づかれないよう在宅療養中。
雛苺は雪華綺晶からゾンビローズを受け取るためにお使い中。
少年「いやはや、それにしても蒼星石さんが
杜王福寿草をくれと言った時は少し戸惑いましたよ。
私は彼女のこと、もっと無欲な方かと……」
真紅「そういう所につけ込んで今回の講義も頼もうと考えていたの?」
少年「と、とんでもございません。講義の依頼は庭師連盟上層部の意見。
今の感想は単に私個人の私見……」
ジュン「しかし、お前もここの生徒だったとはな。
ただの庭師連盟の使いっ走りだとばかり。ええと、確か」
少年「トキです、私の名前はトキです。ジュンさん」
薔薇水晶「……お静かに。蒼星石の講義が本格的に始まりましたよ」
蒼星石「今回、僕に頼まれた講義内容は実体験に基づく生きた話です。
なので僕自身の体験から、まずはマンドレイクについて話したいと思います」
生徒達『……』カリカリカリ
ジュン「お? 生徒も最初はザワザワしていたけど真面目にノート取り出したな」
トキ「それなりに由緒正しいところから集められた庭師の卵達『にわたま』ですからね」
薔薇水晶「……」カリカリ
真紅「薔薇水晶まで、そこまで律儀にノート取らなくても」
薔薇水晶「いえ、私も蒼星石から庭師の教えを受けている身なれば」
ジュン「そう言えばそうだったか。まだ続いてたんだ師弟関係」
蒼星石「マンドレイクあるいはマンドラゴラと呼ばれるこの植物は
処刑場跡地など、陰の気が満ち満ちた地に生え……」
生徒達『……』カリカリカリ
ジュン「話し出したら急に緊張が薄れてきたみたいだぞアイツ」
薔薇水晶「元々、話好きなようですし、人に説明するということも好きなのでしょう」
ジュン「思い当たる節はあるな。うんちく語らせたらメチャクチャ長くなるし」
トキ「……」カリカリカリ
蒼星石「錬金術師にとっても庭師にとっても最も有名であろう
この植物の最大の特徴は何と言っても、引き抜いた時に発する断末魔。
これを聞いた者を確実に絶命せしめ……」
生徒達『……』カリカリカリ
真紅「……」うつらうつら
ジュン「おい、真紅? どうした? 眠いのか?」
真紅「く……! 学校というものに興味があったからついてきたのだけど
まさかこれほど強力な催眠効果を発生させる場(フィールド)だとは」
ジュン「人によってはそうかもしれんな」
真紅「こんなところで毎日勉強しているだなんて
実は凄かったのねジュン。見直したのだわ」
ジュン「そりゃどうも」
蒼星石「このマンドレイクを人的被害無しに抜くために人々は知恵を絞ってきました。
人の代わりに犬を使ったり、自らの鼓膜を破ることで一時的に聾になったり、
果ては消音効果を持つ魔楽器などを作りだし……」
生徒達『……』カリカリカリ
トキ「……」カリカリカリ
薔薇水晶「……」カリカリカリ
真紅「……」ガックンガックン
ジュン「盛大に船を漕いでいるが本当に大丈夫か真紅?」
真紅「ダイジョブダイジョブ。イーピンはきっちりアタマハネしたのだわ」
ジュン「ダメだ。完全に夢の世界に片足つっこんどる」
蒼星石「ではマンドレイクについてはこれぐらいにして
次はラブレシアという寄生植物について話させていただきます」
生徒達『……?』
蒼星石「マンドレイクに比べて知名度は低いので
見たことも聞いたことも無い方も多いかと思いますが
ラブレシアは妙齢の女性の頭部に寄生する大型の花で……」
トキ「ラブレシアとは珍しい。私も噂で聞いたことがあるだけです」
ジュン「以前、翠星石が頭に生やしたことがあるんだよ」
薔薇水晶「翠星石が……」
トキ「へぇ~」
ジュン「今回はカビが足に生えてるけど」
トキ「え?」
ジュン「あ、いや、なんでもない」
蒼星石「……と、このようにラブレシアの駆除は寄生初期よりも
寄生末期の、花の蕾が大きく育ってきた時の方が……」
生徒A「蒼星石先生」
蒼星石「はい?」
生徒A「お話によると、ラブレシアの幼木は宿主の髪の毛を操るそうですが
そのようなものは全て切り落とすか焼き払えば良いのでは?」
蒼星石「……ええ、そうですね。その方法でもラブレシアは切除できます。
しかし、その場合、宿主の頭髪を犠牲にしなければなりません」
生徒A「ですが」
蒼星石「それがどうしたと思うかもしれませんが、
ラブレシアの宿主はほとんどの場合、妙齢の恋する乙女。
彼女たちは往々にして自らの髪に強い思い入れがあるものです」
生徒A「……あ、そうか!」
蒼星石「僕達が相対する植物というのは、多くが人の心に根差しています。
立ち向かうべきは目に見える花ではなく、その奥、まさに心根」
ジュン「なかなかいいこと言うな蒼星石」
薔薇水晶「……」カリカリカリ
トキ「ええ、全くです。私たちの庭師としての知識はどうしても
対象である草木だけに集中しがちで、それに関わる人間を忘れがちです。
私達は心の庭師。第一に考えるべきは人の心だというのに」
真紅「……zzZ」
§授業終了後・廊下を移動中
トキ「ありがとうございました蒼星石さん」
蒼星石「いやいや、僕こそ。拙い話なのにあんなに真剣に聞いてもらえて」
ジュン「そんなこと無かったって。お疲れ蒼星石」
薔薇水晶「そうですとも。とっても面白いお話でした」
蒼星石「ありがとう。真紅はどうだった?」
真紅「え? ああ、そうね。私もスッキリしたのだわ」
蒼星石「スッキリ?」
女性「あっちゃ~!? やっぱり蒼星石の授業は
終わっちゃってたか。聞きたかったのにな~」ドタバタ
ジュン「!?」
真紅「だ、誰?」
トキ「姉上!」
薔薇水晶「姉……?」
女性「ああ! ごっめ~ん。いきなりで挨拶が遅れちゃったわね。
あたしはナナキって言います。一応、この学校で教師やってま~す」
ジュン(なんかみっちゃんさんにちょっと似てるな……この人)
蒼星石「ど、どうもお久しぶりです。ナナキさん」
ナナキ「やぁだ、もう! あたしとあなたの仲じゃない!
そんな他人行儀な挨拶なんていらないわよぉ蒼星石!」
蒼星石「はは、相変わらず元気ですね」
真紅「蒼星石とナナキさんはけっこう親密な間柄で?」
ナナキ「そうそう! そうなのよ~! 女の庭師って少なかったから
なかなかお話しできる相手ってのもいなかったのよね」
蒼星石「長いお付き合いにはならず申し訳ありませんでした」
ナナキ「いいってことよ~。ええと、ローゼンメイデンだったわよね?
そっちには休眠期だとかアリスゲームだとか事情があることだし」
蒼星石「はい……」
ナナキ「で、こっちがあなたの新しいマスター?」ズイッ
ジュン「うわわっ」
蒼星石「え? いや、それは」
ナナキ「けっこう可愛い顔してるじゃない。蒼星石のものじゃなかったら
あたしのマスターになってもらいたい・ぐ・ら・い」
ジュン「え? えええ!?」
真紅「ちょ、ちょっと! ジュンは私の……」
ナナキ「あっははは! ジョークよジョーク! 二人とも顔真っ赤にしちゃって。
この子はそっちの赤いお人形さんの『いい人』だったのね」
ジュン「!」
真紅「!」
薔薇水晶「……」
トキ「姉上、少し冗談が過ぎますよ」
ナナキ「あんたが堅すぎるのよ。末っ子なんだからもっと奔放になりなさいって
あたしはいつも言ってるでしょ。そんなんじゃ、兄さん達みたいになっちゃうわよ」
トキ「兄上達は私の目標です」
ナナキ「はいはい……。あ、そうそう、忘れるところだった。その憧れの兄上様の伝言よ」
トキ「?」
ナナキ「カズ兄ぃが杜王福寿草を持って来賓室で待ってるってさ」
トキ「盟主が!? そんな大切なことを、どうしてもっと早く!?」
薔薇水晶「かずにぃ? 盟主?」
蒼星石「庭師連盟の盟主はトキとナナキさん達の長兄だ。カズキさんという人でね」
ジュン「えええ!?」
真紅「てことはあなたボンボンだったの!? トキ!?」
トキ「いやいや、とんでもございません」
ナナキ「それじゃ、あたしは次の授業があるから。ここで失礼するわね。
蒼星石、久しぶりにお話できて楽しかった。また、会いましょう」
蒼星石「はい」
トキ「では、私達は先を急ぎましょうか。来賓室はこちらです」
真紅「はぁ、しかしあなたのとこも兄弟姉妹が多いみたいねトキ」
トキ「ええ、10人兄弟です」
ジュン「10人!?」
薔薇水晶「すごい……。薔薇乙女よりも多いだなんて」
蒼星石「全員、庭師だ。それも一級のね」
ジュン「へぇ~」
トキ「わ、私はまだ見習いですよ」
§・来賓室の扉前
トキ「トキです。蒼星石さん達をお連れしました」コンコン
???『どうぞ』
トキ「では、蒼星石さんお入りください。私はここまでです」
蒼星石「え?」
薔薇水晶「トキ君は入らないのですか?」
トキ「私も次の授業を受けねばなりませんので」
ジュン「そうか……」
真紅「勉強熱心なことなのだわ」
蒼星石「そういうことならしょうがない。ここまでありがとう、トキ」
トキ「どういたしまして」
蒼星石「盟主、失礼します」ガチャリ
カズキ「……久しぶりですね蒼星石さん」
蒼星石「連盟に復帰させていただいたのに、ご挨拶に参るのが遅れてすいません」
カズキ「復帰の件はこちらから無理を言った形です。蒼星石さんが畏まる必要はない。
さ、立ち話もなんです。お連れの皆さんもどうぞ、おかけください」
ジュン「し、失礼します」
真紅「お邪魔します」
薔薇水晶「……初めまして」
カズキ「飲み物は紅茶で良かったかな?」
蒼星石「お気遣いなく」
ジュン(思ったより若い人だなぁ。梅岡先生ぐらいか?
nのフィールドの情うには見た目と年齢が比例しないとは聞いていたけど
盟主ってからには、もっと偉ぶったジイサンを想像してた……)
真紅「ッ!?」
薔薇水晶「どうかしましたか真紅?」
真紅「お、美味しいのだわ! この紅茶!」
ジュン「……っ! ほんとだ!!」
カズキ「お気に召したようで何より」
蒼星石「盟主がお手ずから淹れたのですか?」
カズキ「ああ。それはともかく蒼星石さん。その盟主というのは
やめてくれないか? 昔通り、カズキでいい」
蒼星石「そういうわけにもいきません。今の僕は庭師としてここにいます」
カズキ「俺は友達としてあなたに会いたかったのですが」
蒼星石「……」
カズキ「いろいろと無理を聞いてもらっているので、そういうわけにもいきませんか。
分かりました。では、事務的なことは早めに済ませてしまいましょう。
これが今回の報酬の杜王福寿草です」
蒼星石「!」
真紅「これが……」
薔薇水晶「杜王福寿草……」
ジュン「僕にはどこにでも生えていそうな草に見えるけどな」
カズキ「ええ、ジュンさんの言うとおりですよ。どこにでも生えている草でした、昔は」
ジュン「……」
蒼星石「貴重な草を提供していただき、ありがとうございました」
カズキ「どういたしまして」
蒼星石「では、失礼させていただきます」スッ
カズキ「ま、待ってください!! そう急がなくとも!
久しぶりに会えたのですから、もう少しお話を……」
蒼星石「……以前、庭師連盟からの依頼で雪の村を救いました」
カズキ「え? ええ! その件に関してはとても感謝して……」
蒼星石「その時に四人の庭師の行方不明者が出たとのことですが
僕の調べでは、その街で消息を絶った連盟所属の庭師は一人もいない」
カズキ「……!」
ジュン「そ、蒼星石」
真紅「それは本当なの!?」
蒼星石「僕の間違いなら謝ります」
カズキ「いや、その通りだよ蒼星石さん。俺達は……あなたに嘘をついていた。
あの雪の村の事件は、我々の狂言だ」
ジュン「!」
薔薇水晶(雪の村の事件とは何です? 真紅?)
真紅(蒼星石が庭師連盟から依頼されて解決した事件の一つよ。
庭師連盟の勢力圏内の村を襲った豪雪を止めたの)
薔薇水晶(その豪雪が狂言、マッチポンプだったと?)
蒼星石「やはり、nのフィールド内の他の勢力に対する牽制ですか?」
カズキ「ああ。適当なところに濡れ衣を着せる。
差しあたってはオズ教団か渡し守の集いあたりだ」
薔薇水晶「そのような汚らわしい政争に蒼星石を巻き込んだのですか?」
カズキ「争いに綺麗も汚いもないでしょう」
薔薇水晶「……っ!?」
真紅「何て言い草を!」
蒼星石「待って真紅。盟主の言うことも尤もだ。僕はただ、真実を知りたかっただけ」
ジュン「蒼星石……」
カズキ「……すまなかった」
蒼星石「あなたも僕と同じで嘘は下手なんですから、無理はしない方がいいですよ。
今だって、本当にすまないとは微塵も思っていないんでしょう?」
カズキ「……」
蒼星石「あなたは優しい人だ、温かい人だ。けれども自分達の理想や
夢のためなら他人を利用することにも躊躇いが無い」
真紅「……」
蒼星石「血や涙が流れることを止められないのなら
せめて、その総量はできるだけ少なくなるように計画する。
盟主、あなたの庭仕事はいつもそうだった」
薔薇水晶「……」
蒼星石「そう、あなたは誰に対してでも……平等に優しい。
そういうところ、僕は好きですよ」
カズキ「かなわないなぁ、蒼星石さんには」
蒼星石「次は、あなたと友達として会えることを僕も願っています。では、これで」
カズキ「蒼星石さん」
蒼星石「?」
カズキ「真実を、お教えしましょう」
蒼星石「真実……?」
カズキ「ロゼリオン計画」
蒼星石「?」
薔薇水晶「ロゼリ……オン?」
ジュン「なんだそれ? 知ってるか真紅?」
真紅「い、いえ。私も聞いたことすらない単語ね」
蒼星石「盟主、ロゼリオンとは一体?」
カズキ「俺も詳細は知りません。ただ、nのフィールド内での五大勢力のうちの三つ、
『オズ教団』『東果重工』『渡し守の集い』による合同計画のようです」
真紅「なんですって!? あの有象無象の集団が協力体制をとるだなんて!?」
蒼星石「それにお互いに敵対しているグループのはずでは?」
カズキ「ええ、俺だって信じられませんよ。しかし、実際にそれは動き出し始めている。
我々も必死に調査を続けていますが、まだ計画のコードネームである
『ロゼリオン』というキーワードしか分かっていないのです」
薔薇水晶「……それに対するためにも、先の狂言を?」
カズキ「小さな狼煙でも、こちらから仕掛けることで得られる情報もありますから」
ジュン「ロゼリオン……か。ローゼンメイデンと関係ありそうな響きだけど」
カズキ「俺もそう思っていますが、予想の域は出ない。
しかし、ローゼンメイデンを七体全て手にしたものは
強大な権力を得るという伝説もありますし……」
真紅「ドラゴンボールみたいね」
蒼星石「僕達に関してはオカルト系の風説が流布されちゃってるから」
カズキ「そして、このnのフィールドではオカルト性というのが
そのまま信頼性にすりかわってしまう世界観です」
ジュン「とんでもない世界ですね」
蒼星石「兎も角、忠告ありがとうございました盟主。僕らも身辺には気をつけます」
カズキ「……良い旅を、蒼星石」
蒼星石「はい。盟主にも世界樹の加護がありますように。それじゃ、失礼しようか」
薔薇水晶「ええ」
ジュン「……どうした真紅? 帰るぞ」
真紅「ちょ、ちょっと待って! まだ紅茶が残ってるのだわ!」ぐびぐび
カズキ「良ければ紅茶葉をお分けしましょうか?」
真紅「あらそう? 是非!」
§大体終わって日が暮れて・ジュンの部屋
蒼星石「どう? 翠星石、足湯の加減は?」
翠星石「いやはや、い~い気持ちですぅ。
こりゃクセになるかもしれんですよ」パシャパシャ
雛苺「ヒナも! ヒナも足を入れるの~!!」
翠星石「そうですね。チビチビもあの怖~い七番目の妹のところまで
お使い御苦労だったです。特別に足湯を使うことを許可してやるです」
雛苺「わぁい!」バシャシャ
ジュン「あんまり洗面器の湯を撥ねさせるなよ。あとで拭くのは僕なんだから」
真紅「まあまあ、翠星石も危うく命を落としかけてたんだし、
少しぐらいはしゃいだとしてもいいでしょう?」
ジュン「……」
真紅「で、帰ってきてからずっと『ロゼリオン』でググってるけど、何か分かった?」
翠星石「いくらグーグル先生でも、そんなの教えてくれるわけねーですよ」
ジュン「いや、そうとも限らないぞ。ローゼンメイデンのことだって
僕は最初、グーグルやヤフーで情報収集したからな」
真紅「この現代っ子め。で、肝心のロゼリオンの方は?」
ジュン「それが残念ながら……」
蒼星石「有益な情報は無い、か。まあ、検索サイトで見つかるような情報を
庭師連盟が知らないわけもないし……」
雛苺「いったい『ろぜりおん』ってなんなの? 翠星石は分かる?」
翠星石「ジョジョリオンやエヴァンゲリオンなら知ってるですが
ロゼリオンというのは翠星石でも知らないですぅ」
ジュン「うーん……、一応エロゲのキャラでロゼリオンって名前があるけど
これは関係なさそうな気がするしなぁ」
真紅「そうとも限らないわよ。ローゼンメイデンだってエロゲみたいな設定でしょ?」
ジュン「それはひょっとして冗談で言ってるんですか真紅さん?」
蒼星石の返答と庭師の変革 『終』
【水銀燈と桜色のストゥーパ・ビブーティ】
翠星石「こ、こうですか?」
真紅「違う違う。ここをこうして、こう。腕を外側に捻るような感じで……」ガギギ
翠星石「がああああ! 痛っイイ! お、折れるう~~~!」
雛苺「そ、それ以上いけないの真紅!!」
真紅「……」
ジュン「……何やってんだ? ケンカか?」
真紅「いいえ。翠星石が関節技を教えてくれというから指導しているだけよ」
翠星石「で、ですけど! 少しは手心というものを……っ!」
真紅「痛くなくては覚えないのだわ」
ジュン「そう言えば、以前から真紅はサブミッションとかに凝っているみたいだけど
それって本当に人形の球体関節とかに有効なのか?
この間、雛苺を真後ろから呼んだら首だけ180度回して振り向いたぞ」
雛苺「本気出せば七回転半までできるの~」グリングリン
ジュン「気持ち悪いからやめろ」
翠星石「それ以上回すと首が抜けるですよチビチビ」
真紅「大体はジュンの言う通りね。人間と全く同じ関節技が効くわけではないのだわ」
ジュン「だったら……」
真紅「けれども、薔薇乙女は限りなく人体の構造と似せられて作られているし
球体関節の三次元回転軸のうち二つが揃ってしまうとジンバルロックも起きる。
相手の関節に意図的にこれを仕掛けることで関節技も有効なの。分かった?
詳しくは銃夢LOなどを読んでちょうだい」
ジュン「何言ってるのか分からないけど、関節技も役に立つって事は伝わった」
雛苺「ヒナも全然分からないけど、アームロックは覚えたのよ」
ジュン「要するに漫画に影響されて技を真似しているってことか。小学生じゃあるまいに」
真紅「だまらっしゃい。そもそも、これはジュンのためでもあるのよ?」
ジュン「はぁ? 僕のため?」
翠星石「そうですそうですぅ。昨今のアリスゲームでは
マスターの力を思う存分使えない状況になっていることが多いのですぅ」
真紅「肝心な時にマスターが昏睡してたりだとか、幽閉されたりだとか。
もはやスタンドバトルでは本体を叩くのが常識なように
アリスゲームではマスターを叩くのが常識となりつつある」
雛苺「おくゆかしき問題なの!」
ジュン「ゆゆしきな」
ジュン「それとこれと関節技と何の関係が?」
真紅「関節技というよりも肉弾戦全般ね。飛び道具はエネルギー消費が大きいの」
ジュン「へぇ~、そうだったんだ」
翠星石「真紅のローズテイル、チビ苺の苺わだち、翠星石の如雨露ビーム、
これらの燃費は最悪ですぅ。一昔前のベンツ並です」
ジュン「お前、ビーム出せたんだ」
真紅「というわけで、近接戦闘能力向上週間なのだわ」
雛苺「パンチとキックで戦うの!」
ジュン「随分とストイックなことを。
今時、仮面ライダーでもかめはめ波バンバン撃つってのに」
真紅「理想は初代ウルトラマンね。肉弾戦で相手を弱らせてから
トドメの必殺技を確実に当てたい。もしくは、そのまま殴り倒す」
翠星石「これからの時代はローゼンメイデンも省エネですぅ!」
ジュン「僕の負担が減るってことみたいだから、ありがたい話だな」
真紅「そうそう。ぶっちゃけ、現代人はハングリー精神が薄いから
私達も昔の感覚で戦ってるとすぐガス欠するのだわ」
翠星石「全くですぅ。先代マスター達は皆ハイオク並みの生命力だったですのに
チビ人間ときたらレギュラーどころか軽油、いや、サラダ油ですぅ」
ジュン「……」
真紅「しかも、それをローゼンメイデン三人で共有だなんてジリ貧もいいところなのだわ」
雛苺「うぃ! 真紅の言うとーりなの」
翠星石「何言ってるですかチビチビ。昔のマスターのよしみで
トモエからも力が吸えるハイブリッドメイデンのくせに」
ジュン「お前らのエネルギー事情は分かった。まあ、せいぜい頑張ってくれ」
真紅「よし。では特訓再開よ翠星石」
翠星石「はいですぅ! 次は如雨露殺法の新技の型の確認を!」
真紅「じゃあ、私がステッキでこう上段から斬りかかったら……?」グワッ
翠星石「翠星石はそれを如雨露の注ぎ口で打ち落とす……ですよね」ガキッ
真紅「そうそう。杖や剣に対して如雨露をまともにぶつけてはいけない。
正面から当てるのではなく、打ち落とす。そうすれば……」
翠星石「如雨露の蓮口が相手の顔に向けられている姿勢になっているですから」
雛苺「そこで水を出せば確実に相手に当たるのよ!」
ジュン「なんだか本格的っぽい……」
翠星石「驚いたですかチビ人間? もう一度言うですが、これからは省エネの時代です。
無駄撃ちを減らして美しく決めるのが薔薇乙女の最新トレンドですぅ」
ジュン「へーへー」
真紅「じゃあ、次は私の新技の練習につきあって翠星石」
翠星石「いいですよ」
ジュン「お、真紅も新しい技を開発したのか?」
真紅「新しいというよりも、コンビネーションだけどね」
雛苺「ワクワクするの」
真紅「基本はパンチ」ぶんっ
翠星石「えーと、とりあえずガードですぅ」がしぃ
真紅「で、インパクトの瞬間に手を開くと同時にローズテイル」
翠星石「ッ!?」
真紅「今は模擬だから撃たないわよ翠星石」
翠星石「……ほっ」
真紅「他には相手に喉輪かましてローズテイル接射とか。
これもさっきの翠星石の新技と同じで確実に当てるための策ね」
ジュン「えげつねぇな。ほとんどゴッドフィンガーのヒートエンドじゃねえか」
水銀燈「バ~っカじゃないのぉ?」
翠星石「す、水銀燈ッ!?」
ジュン「いつの間に僕の部屋に?」
雛苺「全然、足音がしなかったのよ」
水銀燈「おバカ、私は飛べるのよ。ったく幼稚な組み手なんかやっちゃって……」
真紅「これはこれは師匠……」
水銀燈「師匠~? 何寝ぼけたこと言ってんの? 脳ミソまで筋肉になったの真紅?」
真紅「私らには脳も筋肉も無いのだわ。と、それよりも
アリスゲームに肉弾戦主体の流れを持ち込んできたのは水銀燈でしょ?
元祖を称えて師匠と呼んであげただけなのだわ」
水銀燈「単なる嫌味でしょうが」
ジュン「グラップラーみたいな真似を始めたのは水銀燈が最初なのか?」
真紅「最初と言うよりも、最近になって急によく格闘を使うようになったのよ。
マスターが死にかけだったり、元気になったと思ったら
雪華綺晶に取られたりと苦労してるから」
水銀燈「ち、違うわよ! 私はただ、アリスゲームの戦術に幅を……」
翠星石「そんな嘘をついてもしょうがないですよ水銀燈。
知ってる人は知ってるんですから、おたくのエネルギー事情が
翠星石達と同じか、それ以上に苦しいってのは」
水銀燈「ちぃっ……」
雛苺「それで水銀燈は何のご用なのよ? ヒナ達と一緒に特訓するの?」
真紅「手を貸してもらえるのならありがたいわね。アグレッサーとして申し分ないし」
翠星石「仮想敵どころか仇敵ですけどね」
水銀燈「冗談。あんたらに稽古つけるぐらいなら、野良猫にダンスでも教えた方がまだ有意義」
ジュン「じゃあ、何しに来たんだ水銀燈? 金の無心か?」
水銀燈「そんなわけ無いでしょ。私が来たのは……」
真紅「私が来たのは……?」
水銀燈「……やっぱ帰る」
雛苺「え?」
水銀燈「じゃ」
翠星石「ちょ、ちょい待ち! アンタってお人は
そんな思わせ振りのお預けをかますような姉だったですか!?」
水銀燈「……」
雛苺「そうよそうよ! このままだとヒナ、気になって今夜は眠れないの!」
真紅「確かにあなたらしくない。ここまで来て、無駄足で帰るつもり?」
水銀燈「……」
ジュン「何か困りごとか? 力にはなれないかもしれないけど相談ぐらいなら。金は貸さないが」
水銀燈「……真紅」
真紅「私?」
水銀燈「船……貸してくれない?」
真紅「ふ?」
雛苺「ね?」
翠星石「や、ヤブから棒に何を言ってるですか!?」
水銀燈「金糸雀から聞いたのよ。真紅、あんたが庭師の双子に対抗して
『夢の漁師』になるとかフカシこくに飽き足らず
記憶の大海原にまで乗り出せる船を手に入れたそうじゃない」
真紅「ええ、その通りよ。その名も第五真紅丸……。
だけど、どうしてそれをあなたが借りたいの?」
水銀燈「いいから、黙って貸しなさい」
真紅「あのねぇ、第五真紅丸は私用に調整済みの漁船よ。
『はいそうですか』って船だけ貸したところで
あなたもろとも海の藻屑になるのがオチ」
翠星石「そうです。ちょっと無茶苦茶言ってるですよ水銀燈」
雛苺「わがままさんなの」
水銀燈「……」
ジュン「何のために船が必要なんだ? まさかお前も漁師になりたいとか?」
水銀燈「違う。……いいわ、ここまできたら全部説明してあげるわぁ。
『塔灰(ストゥーパ・ビブーティ)』が記憶の大海原のド真ん中で眠っている。
それを回収するのに、真紅の船を使いたい」
翠星石「スープバー? どうしてnのフィールドの海の底にスープバーがあるのですぅ?」
水銀燈「スープバーじゃない。ストゥーパ・ビブーティ。
大雑把に言えば昔のインドの偉い人の遺灰ってとこね」
ジュン「なんで、そんなのを欲しいんだ? 高く売れるのか?」
水銀燈「私は欲しくないわよ。しかし、高く売れると言えば高く売れる」
雛苺「うゅ?」
真紅「なんだか、まだ話が見えないわね。ちゃんと全部説明してちょうだい」
水銀燈「……くり返すけど、『塔灰』は昔のインドの高僧の遺灰よ。
どこかの盗掘屋がそれが収められていた塔をあばいて、灰を手に入れた」
ジュン「ふんふん」
水銀燈「しかし、どうやらその盗掘屋は呪われたらしく
夜ごと悪夢にうなされ、やがて夢遊病の相を呈してきた」
雛苺「ドロボーさんはメッメなのよね」
水銀燈「ある深夜、彼はついに発狂。一心不乱に塔灰を使って砂絵を描いた。
そして、そのまま夜明けと共に絶命」
真紅「あらら」
水銀燈「残されたのは薄く血の色が滲んだかのような桜色の塔灰による砂絵。
絵柄は高僧の生前の姿だったとも、魔神だったとも言われている」
翠星石「怪談ですねぇ」
水銀燈「祟りを恐れた、盗掘屋の仲間達はすぐさま砂絵を崩し塔灰を回収。
ガンジス川に流して捨て去った。結局、皆その後に熱病で死んだらしいけど」
ジュン「? 何で元の塔に戻さなかったんだ?」
水銀燈「そこまでは知らないわよ。どうせ、塔をあばく時に発破でもしてたんじゃない」
真紅「ガンジス川に放棄された塔灰がどうしてnのフィールドの記憶の海底にあるの?」
水銀燈「……聖人の遺灰だという理由だけでなら、nのフィールドで再構成されはしない。
問題は、塔灰で描かれた『桜色の砂絵』よ。非常に優れた美術品は
nのフィールドで物体の幽霊として出現することがある」
真紅「まさか、塔灰の砂絵は?」
水銀燈「ええ、そうよ。真紅も噂には聞いたことぐらいあるでしょ?
七大怪画。『桜色の塔灰(ストゥーパ・ビブーティ)』も、その一つ。
砂絵ではなく、その材料となった遺灰が……ね」
ジュン「七大怪画?」
真紅「世に七つ存在すると言われているオカルティズム溢れる奇妙な絵のこと」
水銀燈「けれども、もはや七つの内の六つはnのフィールドの中よ。
しかも塔灰以外の五つはネクロポリタン美術館に飾られている」
ジュン「なんだっけ? ネクロポリタンってのは聞いたことあるぞ」
翠星石「物覚えの悪いチビ人間ですねぇ。脳ミソまでチビサイズですか」
ジュン「なんだと」
真紅「nのフィールド内に存在する強力な集団よ」
ジュン「そうだそうだ、そうだった。トップ5の一つだったよな」
水銀燈「この塔灰を手に入れれば、ネクロポリタン美術館が高く買い取ってくれる」
翠星石「ッ!?」
真紅「本気で言ってるの!? 水銀燈!」
水銀燈「……」
ジュン「呪いとか祟りとか怖くないのかよ!」
真紅「私達が驚いているのはそういうことじゃないのだわジュン」
ジュン「へ?」
雛苺「『ねくろぽりたん』の『きゅれーたー』は怖い人達なのよ!」
ジュン「?」
翠星石「あそこの学芸員(キュレーター)どもは七大怪画の収集にも熱心ですが
薔薇乙女の収集にはもっと熱心なんですぅ!!」
真紅「そうよ。初対面でいきなり投網を放たれたのだわ!
水銀燈なんてぶちぎれて、仕返しに当時の美術館を半焼させたじゃない!」
水銀燈「昔は昔。今は今よ」
雛苺「水銀燈……」
真紅「く、そこまでしてお金が欲しいの!?」
青年「いえいえ。水銀燈嬢が欲しいのは金じゃあない」ツカツカ
真紅「ッ!?」
翠星石「誰です!?」
ジュン「ま、また勝手に僕の部屋に人が!?」
青年「お初にお目にかかります妹君様達。
私、この度の桜色の塔灰回収に同行させていただく者」
真紅「ネクロポリタン美術館の……っ!?」
翠星石「キュレーター!?」
青年「はいぃ。いかにも。しかし、まだまだ『新入り』ゆえ
皆様も私のことは『新入り』と呼んでくれるとありがたいですね」
水銀燈「……あんたは家の外で待っている約束でしょうが」
新入り「水銀燈嬢が戻ってこないので話がこじれいているのかと。
ならば私からの助け舟がいるだろうと思ってね」
翠星石「く……。蒼星石がネクロポリタンと水銀燈との間に
何かあると言っていたことがあったですが……」
ジュン「それよりも水銀燈が欲しいのは金じゃないってのは、どういうことだ?」
新入り「『ロゼリオン計画』。私達キュレーターはそれの情報を持っている」
真紅「!」
雛苺「!」
翠星石「!」
ジュン「ロゼリオンて……!」
水銀燈「へぇ? アンタらも名前ぐらいは知ってたのね」
真紅「名前だけよ。nのフィールドの『オズ教団』『東果重工』『渡し守の集い』による
合同作戦のコードネームがロゼリオンだということしか……」
翠星石「ネクロポリタンは部外者じゃねーのですか?」
新入り「ウチも計画に参加するよう呼びかけられたことがある、ということ。
そして、諸般の事情により断わった」
真紅「うさんくさいわねぇ。どうにも信用ならない」
新入り「困ったな。水銀燈嬢が船を用意できるからと言ったから、ついてきたのに」
水銀燈「……塔灰の前金として、ロゼリオン計画のさわりぐらい話しなさいな新入り。
それぐらいは下手に出てもいいんじゃない?」
新入り「是非もない、か。いいでしょう、ロゼリオンとは要するに
貴女達ローゼンメイデンの模倣。それも工場制手工業による大量生産」
ジュン「なっ!?」
真紅「……」
雛苺「……」
翠星石「……」
水銀燈「……」
新入り「あ、あれ? 驚いたのは男の子だけ……?」
水銀燈「あのねぇ、そういう手合いはもう私達は飽き飽きしてんの」
真紅「私達のパチモン作ろうなんて発想は百年以上前からあるわよ」
翠星石「槐しかり、雪華綺晶しかりですぅ」
水銀燈「しかも大量生産ですって? バカ言ってんじゃないわよぉ」
新入り「へ?」
水銀燈「一人の人間が最初から最後まで心血を注いで作り上げるからこそ
ドールに魂が宿り、力が宿り、運命が宿る。
ベルトコンベアのライン作業で作ろうだなんて全くのナンセンス。
それで出来上がるのは、見てくれだけ綺麗なジャンク以下のお飾りよ」
真紅「どんな大層な計画かと思いきや……」
翠星石「打ち切られるのが目に見えているプロジェクトですぅ」
雛苺「ヒナでも、そんなのはダメだって分かるのよ」
ジュン「そ、そうなんだ……」
水銀燈「悪かったわね真紅。私がもっと早く新入りから
この程度のことを聞き出せていれば、無茶な注文をせずに済んだものを」
真紅「いいってことなのだわ」
新入り「ちょちょ、ちょっと待って! 話はまだ半分。
彼らだってそれぐらいのことは把握している!
問題は、その計画を実行させるに足る物を彼らは持っているということ!」
翠星石「『実行させるに足る物』? なんですかそれ?」
新入り「そ、それは桜色の塔灰に対する残り半分の報酬ということで……」
水銀燈「……どうする、真紅?」
真紅「ちょっと気になるのだわ。思い返してみれば
個人として、お父様の模倣をする錬金術師は後を絶たなかったけど
工場でバイトやパートに作らせようとする突拍子も無い人間はいなかった」
水銀燈「まがいなりにも、それを決意させた『何か』」
真紅「好奇心はあるわね。よし、船を出しましょう」
新入り「ホッ……、良かった。これで私も美術館をクビにされずにすむ」
185 :
創る名無しに見る名無し:2012/01/04(水) 18:58:08.38 ID:ZZOOy/XO
§数時間後・nのフィールド・記憶の漁港
.ィ/~~~' 、
_/ /  ̄`ヽ}
。__》@ i(从_从))
__/||ヽ|| ^ω^ノ 「さあ、みんな! 乗った乗った!」
___/.□□ |)と ).
\ ヽ___|)o TTTT
\  ̄ ̄ ̄ ̄|
彡ミ彡ミ彡ミ彡ミ彡ミ彡ミ彡ミ彡ミ彡ミ
雛苺「わぁい! クルージングなの~」
翠星石「翠星石も実物見るのは初めてですけど、立派なモンですね」
水銀燈「……」
新入り「すばらしい。さすがは水銀燈嬢の妹君」
ジュン「褒めすぎじゃないの?」
新入り「とんでもない。nのフィールドでは船は超貴重」
ジュン「そうだったんだ」
水銀燈「幽霊船とか変なのは多いけどね。人が自由に操作できる船ってのはまず無い」
新入り「東果重工がいくつか所有している軍艦を除けば
渡し守の集いが使っている小舟がせいぜいいいところだ」
ジュン「へぇ~」
真紅「みんな乗ったわね。では、出発の前に船室で航海の無事を祈りましょう」
水銀燈「祈るぅ? 神頼みだなんて真紅らしくも無い。
人間達の神様とやらは人形には思し召しをくれなくてよ」
翠星石「相変わらず不信心なお人ですぅ」
ジュン「ここで祈るのは神様にじゃないぞ水銀燈」
水銀燈「は?」
┏━━━━━━━┓
┃ / \ ┃
┃/ .\┃
┃`ヽ、_ ┃
┃ `‐、. ┃
┃、 ヽ、 ┃
┃ヽT ◎ ヽ、. ┃
┃.:.:.:.:.ヽ、__ ,-== .┃
┃``‐‐:-:-:-:-:‐" .┃
┗━━━━━━━┛
【初代副船長・さかなくんJr.】
真紅「この船のために命を捧げた偉大なる魚類さかなくんJr.に
感謝と哀悼と航海の無事を祈る黙祷を捧げるのが第五真紅丸の習いよ」
水銀燈「……魚拓の遺影に祈りを捧げるだなんて、潮風で頭が錆びついたの真紅?」
翠星石「こればっかりは翠星石も水銀燈の意見に同意ですぅ」
雛苺「クレイジーなのよ真紅」
ジュン「水銀燈、お前は知らないかもしれないがな。真紅が船を手に入れて
動かせるようになったのは、彼の功績あったればこそなんだぞ」
水銀燈「はぁ?」
真紅「そう。彼とはこの船を発見して修理して以来のベストパートナー。
一時はジュンからさかなくんJr.にマスターを変えようかとも考えたほど」
ジュン「それは初耳だった」
真紅「けど、彼は悲しいかな魚類。アッサリと短い寿命が尽きてしまったの」
新入り「nのフィールド内なのに世知辛いな」
雛苺「かわいそうなの……」
真紅「しかし、彼は死の間際に私にこの船の操縦や整備の全てを伝えてくれた。
それまで名ばかり船長だったこの真紅は、彼の技術を受け継ぎ
この船を自由自在に操れるようになったというわけ」
水銀燈「へ、へぇ~……」
真紅「彼の技術は私の心となって、彼の血肉は私の活力となって今も共に行き続けている」
翠星石「前半の技術は分かるですが、後半の血肉ってのはどういう意味ですぅ?」
ジュン「ああ、さかなくんJr.は今、船室の冷蔵庫の中にサク(※)となって眠っているんだよ」
水銀燈「え?」
※サクとは刺身にする前段階としてブロック状に解体された魚肉のこと
真紅「とにかくグダグダ言ってないで早くお祈りを捧げるのだわ。『いただきます』……と」
水銀燈「やってられるか」
§出航後しばらくして食事タイム
ジュン「で、何処まで行くんだこの船は?」ムシャムシャ
真紅「座標は水銀燈のメイメイが把握している。
彼とホーリエに操舵は任せているから、心配なくてよジュン」ムシャムシャ
水銀燈「あら、このマグロ(さかなくんJr.)のからあげ美味しいじゃない」ムシャムシャ
ジュン「自信作のレシピです」モグモグ
新入り「海の上でここまで美味しい食事にありつけるとは」ムシャムシャ
雛苺「ううう……さかなサンかわいそうだけど美味しいのよ」モグモグ
真紅「死んだのだから仕方ないわよ。もう、あれはさかなくんJr.ではなく、ただの魚肉」パクパク
翠星石「真紅の言うとおりですぅ。美味しくいただいてやるのが、せめてもの供養です」モグモグ
§さらにしばらくして目的海域に到着
新入り「さて、ここからは私の仕事! サンキューでした、紅い妹君」
真紅「へ?」
水銀燈「桜色の塔灰の回収は新入りの作業よ。まさか、私がダイビングするとでも思ってた?」
ジュン「いや、それは……」
新入り「ネクロポリタンから海底で泥化しているであろう塔灰を回収するための
秘密道具『骨壷バキューム君』を借り受けて来ていますのでね。
これさえあればチョチョイのチョイって寸法ですよ」
翠星石「なんですか、そのけったいなネーミングは……」
水銀燈「私とキュレーター達との約束は彼を『桜色の塔灰(ストゥーパ・ビブーティ)』が
眠る海域に案内するところまで。これで契約達成ってわけ」
雛苺「ほへぇ~」
新入り「では、暫く失礼!」ドッボーン
ジュン「あ! な、何もつけずに飛び込んじゃったぞ! 溺れないのか!?」
真紅「現実の海とは異なるから窒息はしない。それに新入りという人も
キュレーターならnのフィールドをねぐらとする住人のはず」
雛苺「で、でも記憶の海のど真ん中だなんて危ない場所なのよ!」
翠星石「まったくですぅ。チビ人間なんて浅瀬に足をつけただけでグロッキーだったですのに」
ジュン「しょ、しょうがないだろ。精神汚染が始まるんだから」
水銀燈「だからよほど心を強く持たないと、記憶の海で泳ぐこと……ましてダイビングなんて」
翠星石「新入りっていう奴もちょびっとチャラ男っぽいくせして、実は『できる男』ですぅ」
水銀燈「この海同様、底の見えない奴よ。気さくな態度に心を許さないことねアンタらも」
ジュン「忠告か? 優しいな水銀燈」
雛苺「妹思いなの!」
水銀燈「ち、ちがうわよ」
新入り「お待たせでした。無事、塔灰の回収は完了」ザバッ
ジュン「も、もう!?」
真紅「アッサリしたものね」
水銀燈(それだけ、この新入りの手際がいいってこと。そもそもこれだけの深さの
海の底まで短時間の内に潜って戻ってきただけでも驚愕に値する)
雛苺「それじゃ、これでお仕事は全部終わったのよね」
新入り「ええ、ええ。全面的な御協力まことに感謝」
翠星石「感謝だけじゃ足らんですよ。ほらほら
ロゼリオンについて残り半分の情報を教えやがれです」
真紅「それは帰りながら聞くことにしましょう。ホーリエ、メイメイ。船を帰路に」
ホーリエ「!」こくこく
メイメイ「!」ばひゅっ
新入り「ええと、どこから話したらいいものか」
水銀燈「ここにきてもったいぶる真似はよしなさい新入り。
簀巻きにして海に放り込んでやってもいいのよ」
新入り「勘弁してくださいよ水銀燈嬢。……あっ! あれを見て!!」サッ
ジュン「あれ?」くるっ
雛苺「にゅ!? 大きなお船なの!」
翠星石「いつの間にあんなところに? でも、なんだかボロボロです。ということは……」
水銀燈「幽霊船……。別に記憶の海じゃ珍しくも無いってのは既に言ったでしょうが」
新入り「ああいう船にはメメントリオン(記憶食い)という
幻獣が住みついていることが多いのは御存知で?」
水銀燈「はいはい。存じてるわよ、それぐらい」
真紅「nのフィールドに漂う穢れた魂を食べて、浄化して消化する掃除屋さんみたいな存在でしょ?」
新入り「大雑把に言えばそのとおり。メメントリオン本体は小さなクリオネのような形をしていて
その身を守るために、ああいった巨大な幽霊船なんかにまでヤドカリみたいに寄生する」
翠星石「それが何だと言うのです? 翠星石達が知りたいのはロゼリオンについてです。
名前が似ているとはいえ、メメントリオンのことはどうでもいいんですぅよ」
新入り「いやいや、ロゼリオンの本体もずばりメメントリオンなんだな、これが」
水銀燈「!?」
真紅「ッ!?」
ジュン「ええ!?」
翠星石「メメントリオンが……ロゼリオン!?」
新入り「ここ最近になって地球人口が急増したせいか、nのフィールド内にも
人間の魂が増えてきた。それを狙ってか、本来は海にしか生息していない
メメントリオンが陸上にまで進出するようになってきているのが事の始まり」
水銀燈「海から陸へ……か」
新入り「陸に上がったメメントリオンは今度は船ではなく旅館や病院、
学校など建築物の幽霊を鎧として纏うようになっていく」
雛苺「なるほどなるほど」
新入り「しかし、ここで一つ問題が起きた。建築物は船のように自在には動かせない。
これでは、なかなかエサである死魂を探しに行けない」
ジュン「……」
新入り「多くのメメントリオンは待ち伏せ戦法を採用した。が、例外があった。
そいつは元々、学校の幽霊に寄生していたメメントリオンだった。
運よく、獲物が学校に入り込んでホクホクだったのも束の間」
真紅「……」
新入り「何らかのトラブルで、獲物を取り逃がした。さあ、ハラペコのメメちゃんは困った。
このままじゃ、飢え死にしてしまう。かと言ってクリオネ型の本体を晒しての
移動はこれ以上したくはない。陸は彼(女)の知らない危険でいっぱいだ」
雛苺「メ、メメちゃんはどうしたの!?」
新入り「『動かしやすい鎧』を見つけたんだよ。何の因果か、それは校庭に埋まっていたそうだ」
ジュン「動かしやすい鎧?」
水銀燈「まさか……」
新入り「ええ、ええ。水銀燈嬢が『飽き飽きしている手合い』。
個人の錬金術師達がローゼンを志した『夢の残骸』。
ローゼンメイデンもどき、貴女達はこれを『野薔薇』とも呼ぶ」
翠星石「の、野薔薇に! メメントリオンが!?」
新入り「正確には野薔薇の亡骸、ボディにメメントリオンが宿ったということ」
真紅「それが……ロゼリオン?」
新入り「イエス。この偶然によって生まれたロゼリオン第一号を捕まえたのはオズ教団」
ジュン「……!」
新入り「その仕組みを理解したオズ教団は、これを量産することを計画するも
自分たちだけでは到底なしえないことに気づき、他集団に協力を依頼した」
水銀燈「それが東果に渡し守にネクロポリタンだと言うの?」
真紅「庭師連盟には打診しなかったのかしら?」
新入り「これらトップ5の力は僅差とは言え、組織として一番統制がとれているのは庭師連盟だ。
第一の敵である彼らにまで新兵器を作らせては意味が無い……らしい」
翠星石「新兵器だなんて……そんなバカな……」
新入り「はいぃ。まったくもって馬鹿な真似ですよ。
昔の錬金術師が残した遺産に、突然変異の化け物を入れようなどと。
だから我々はその申し出を断わった」
水銀燈「……」
新入り「兵器であろうと人形であろうと私達は美しい『本物』にしか興味が無い。
産廃の寄せ集めのような物を作ることに加担するなど、とてもとても」
真紅「工場を作るとも言ってたわよね。それは何の工場? 野薔薇を作るつもり?」
新入り「いえ、どうやらそういうことじゃないらしい。
集めた野薔薇の亡骸を保管しメメントリオンを入れるための工場だ。
そもそもメメントリオンは古めかしいのを宿として好む。新築には興味が無いとさ」
雛苺「うう~、気持ちが悪くなってきたのよ」
新入り「野薔薇についても東果重工の調査兵団が回収作業に当たっている。
やっこさんらコツを掴んだのか、最近はわんさと野薔薇を捕まえているよ。
何しろ、生け捕りじゃなくていいんだ。荒っぽい真似はしたい放題さ」
ジュン「……くそっ!」
新入り「野薔薇自体はもう、油田が見つかったようなもの。
そもそもローゼンメイデンが超有名だから、模造品はそれこそ星の数」
翠星石「むむむ」
新入り「ガワは準備できた。次は中身だが、これも適材適所。
渡し守の集いは細々とだが昔からメメントリオンの養殖をやっていたらしい」
ジュン「養殖ぅ!?」
新入り「渡し守は魂の水先案内人。穢れた魂を浄化する性質を持つメメントリオンを
自由に使役できるようになれば……と考えていたんだろう」
真紅「なんてこと……」
新入り「こうして偶然から得られたサンプルを礎に計画は動き出した。
ボディは野から捕まえ、中身は養殖の研究がさらに進められている。
大人しい天然物じゃあなく、もっと凶悪で攻撃性の高いやつを育てるための、な」
新入り「以上がロゼリオン計画の概要だ。現在はもう少し進んでいるだろうが」
水銀燈「聞いてて胸糞の悪くなる話ね。でも、それを教えてくれたことには感謝する」
新入り「水銀燈嬢にそう言ってもらえれば誉れの極み」
翠星石「し、しかし! このやり場の無い怒りは誰に向けたらいいですか!!」
雛苺「ヒナもなんだかイライラするのよ……」
ジュン「翠星石、雛苺……」
真紅「……」
水銀燈「やり場がないことはないでしょう?」
翠星石「す、水銀燈!?」
水銀燈「オズ教団のロゼリオン第一号、東果重工の調査兵団、
渡し守の養殖場、怒りの矛先はそれこそ……より取り見取り」
真紅「あなた、まさか?」
新入り「……」
水銀燈「野薔薇なんて大っ嫌いだったわよ。お父様の足元に及ばない塵芥が作った
ローゼンメイデンもどきだなんて邪悪でおぞましい……っ」
ジュン「水銀燈」
水銀燈「けどね、野薔薇も動かなくなったら最早ただのジャンク。
破れた夢だとしても、死の安息についた戦士。それを利用するだなんて」
翠星石「そ、そうです! 許されることじゃないですよ!
それこそ邪悪より最も悪い……『最悪』ってやつです!!」
雛苺「ヒナも許せないの!」
水銀燈「……」
真紅「やる気なのね水銀燈」
水銀燈「ええ、そうよ。奴らを叩く、叩いて潰す。徹底的に」
新入り「本気なので? そもそも可能なので?」
水銀燈「できるできないは関係ない。奴らは私を本気で怒らせた」
雛苺「こ、怖いのよ……水銀燈」
翠星石「流石は第一ドールの貫禄ですぅ」
水銀燈「……陸が近くなってきたわね。ここからなら
私一人でも戻れる。ちょっと一足先に失礼させてもらうわよ」ばさっ
真紅「!? 水銀燈、待ちなさい! いくらなんでも一人じゃ」
水銀燈「勘違いおしでないわよ。いくらブチ切れたからって
いきなり特攻しかけるほど私もバカじゃあない。今は時を待つ」ばささっ
新入り「あーあ……、行っちゃった」にやにや
ジュン「何笑ってるんです? あなた、ひょっとしてこうなることを?」
新入り「先輩達から聞いていたんですよ。水銀燈嬢を怒らせたらただじゃあ済まないって。
何しろウチの美術館は、以前お嬢の怒りに触れて半分燃やされたそうだし」
ジュン「……」
真紅「利害が一致したとは言え、水銀燈を自分達の鉄砲玉にしたんだから
それ相応の後方支援(サポート)は期待できるわよね新入りサン?
高見の見物決め込んでいたら今度は全焼させられるわよ」
新入り「わ、分かってますって……っ!」
§第五真紅丸・帰港
翠星石「ふぅ~、やれやれ。やっと帰ってこれたですぅ」
雛苺「ヒナはもうちょっとお船に乗っていたかったのよ」
新入り「では、私もこれで」
真紅「待ちなさい! あなた達! 航海が無事終了した事に対して
さかなくんJr.に感謝とごちそうさまの祈祷を……!」
翠星石「あんだけヘビーな話の後に、よくそういうふざけた真似が出来るですね真紅」
真紅「私はふざけていないのだわ!」
ジュン「そうだぞ翠星石。真紅は到って真面目だ。ベクトルおかしいけど」
翠星石「へいへい」
ホーリエ「……」ばひゅ~ん
真紅「あ、ホーリエも操舵ご苦労様」
メイメイ「ッ? ッッ!?」
雛苺「水銀燈なら、途中で空を飛んで帰っちゃったのよメイメイ」
メイメイ「ッ!」がびーん
ジュン「なんだなんだ? 水銀燈のやつメイメイを置き去りにしちゃったのか?」
メイメイ「……」おろおろ
翠星石「しょうがないお人ですねぇ。ま、その内、気づくはずですから
それまでチビ人間の家にいろですメイメイ」
メイメイ「……」こくり
真紅「困ったものね水銀燈にも。人工精霊を忘れるだなんて」
メイメイ「……」
新入り「気性の激しいお嬢の専属では疲れることも多いだろうに」
翠星石「新入りサンもせいぜい気をつけるこってす。
妹である翠星石達ですら一緒にいるだけで、くたびれるんですから」
ジュン「やれやれだな」
水銀燈と桜色のストゥーパ・ビブーティ 『完』
このシリーズって『石作りの海と雪華綺晶』とかのジョジョクロスのシリーズとも繋がってるのか?
207 :
1:2012/01/05(木) 23:58:08.76 ID:VWNMEprl
繋がってないですが、自分がどうしてもジョジョ好きなので
『石作りの海と雪華綺晶』とかと同じようなネタを使ってしまう……
ああパラレルなんだやっぱ
ジョジョネタは寧ろもっとやれw
薔薇乙女のうた『ロゼリオン』
ラプラス「楽しい楽しいミュージカルの幕が上がりましたね、皆々様」
ジュン「お前はそうだろうがな」
ラプラス「nのフィールドで好き放題やり続けていた無頼漢達が
ついに薔薇乙女に成敗される。実に痛快な人形活劇では?」
槐「事はそう単純じゃないだろう」
ラプラス「それは見解の相違ってやつですよ槐先生。
物事というものは見方一つで、いかようにも姿を変える」
巴「……私達は本当に何もしなくていいの?」
ラプラス「ええ、そうです。今日一日ここ槐先生のアトリエでじっとしていること。
それが、あなた方マスターにできるドールズへの精一杯の応援」
みつ「分かっていはいても歯がゆいわね」
めぐ「でも」
一葉「今回ばかりは私達が出張っては足手まといになる……か」
ラプラス「ひょっとして心配しているのですか皆様方?
七色の乙女達、さらには薔薇水晶までが力を合わせているのに」
槐「彼女達の力は外見よりも遥かに強いが
彼女達の心は外見通りかそれ以上に幼い。これが心配せずにいられるか」
ラプラス「ではでは、皆様方の御心配を消してみましょう。
この度の薔薇乙女達による同時多発電撃強襲作戦。
これの利を一からコンコンと説明してさしあげます」
ジュン「……」
ラプラス「先ずは今回の作戦の目的から、おさらいです。
目的はローゼンメイデンを模した兵器である『ロゼリオン』の根絶」
めぐ「遥か昔から名も無き錬金術師達が
ローゼンの真似をして作った薔薇乙女の劣化コピー『野薔薇』の亡骸に
死魂を食べる幻獣『メメントリオン』を寄生させたのが『ロゼリオン』よね?」
ラプラス「そうです。野薔薇自体は昔から後を絶たず作られていました。
生きた人形というのは錬金術の一大テーマであり
その成功者ローゼンの追従がなされるのは必然」
巴「どれぐらいの数の人形が作られたのかしら……」
ラプラス「さあ? 百か千か、それ以上か。しかし、その多くは失敗作として放棄された。
唯一の成功例こそが薔薇水晶と言えますが……」
槐「……」
ラプラス「ともかく、こうして野に下った薔薇乙女の出来損ないに
私達は『野薔薇』という呼称を与えました」
一葉「随分と乱暴な烙印だな。製作者も製作時期もそれこそ千差万別だろうに」
ラプラス「……これらの野薔薇はたまに『悪さ』をすることもありましたが
基本的には生まれついての敗残兵。
時たま薔薇水晶が『処理』をすることで大きな問題は発生しなかった」
みつ「薔薇水晶ちゃんがそんな事を……」
ラプラス「しかし、薔薇水晶はミスを犯した」
槐「薔薇水晶は野薔薇の骸をその場に埋めて弔っただけだ、これをミスと言うのか?」
ラプラス「結果論的には、そう言わざるをえません。
メメントリオンに理想的な鎧を提供したことになったのですから」
めぐ「けど、その……メメントリオンが野薔薇の骸に寄生するなんて誰が予想できる?」
ラプラス「だから結果論ですってば。予想の可否は関係ありません。
そして薔薇水晶自身もそう思っているはずです」
ラプラス「野薔薇の骸にメメントリオンが宿り、ロゼリオンとなった。
これを発見、捕獲したのがnのフィールド内に蠢くグループの一つ『オズ教団』」
一葉「カルト集団めが」
ラプラス「nのフィールドでは、カルトこそが正常ですよ。
彼らはロゼリオンを解析し、その有用性を認めた。
そもそも、在野の野薔薇をかき集めて兵隊として運用しようと
考えた者は少なからず存在しましたが、すぐに挫折した」
ジュン「なんでだ?」
槐「自由意志だ。野薔薇は皆、自由意志を持っている。
しかもその多くは狂気に蝕まれ、命令などを受け付けない」
ラプラス「出来損ないとはいえ、錬金術師が心血を注いで作ったのですからね
製作者以外にコントロールできる者など中々いないでしょう。
錬金術師という人種の大概は、知識欲と独占欲のタケがほぼ等しい」
みつ「しかし、ロゼリオンは違った?」
ラプラス「そうです。野薔薇のような余計な知恵や心は持たず
メメントリオンとしての本能に従うのみ。
ロゼリオンの知能は低い、これならば利用できる余地がある。
これをもっともっと増やそう。オズ教団はそう考えた」
一葉「ピーキーな超ド級の一点物よりも、粗悪だが扱いやすい大量の道具……か」
ラプラス「ロゼリオンを作るのに必要な物は二つ。野薔薇の骸とメメントリオン。
どちらもオズ教団だけで用意しきれるものでは無い。
そこで彼らは、他の勢力グループに合同計画を持ちかけた」
ジュン「それが『東果重工』と『渡し守の集い』……」
ラプラス「東果重工は武装力だけで言えばnのフィールド内でトップクラス。
三日に一度はバイオハザードを起こすようなマッドカンパニーなのが
玉に瑕ですが野薔薇を狩り集めるのには適した集団です。
また、ロゼリオンを仕上げる工場も東果が管理しています」
槐「そして、渡し守の集いはメメントリオンの養殖を昔から研究していた組織」
みつ「蛇の道は蛇の……適材適所ってわけね」
ラプラス「この三集団に、『庭師連盟』と『ネクロポリタン美術館』を加えたものが
俗に言うnのフィールドのトップ5です。この内の三つが手を組んだのですから
事態の重さはお分かりでしょう?」
槐「その中で頭一つ抜きんでているのが庭師連盟。オズ教団はコレの排除を目論み
その他の四集団で合同計画を実施する腹づもりだったが、ネクロポリタンには断られた」
めぐ「そして、ネクロポリタン美術館の学芸員(キュレーター)が
ロゼリオン計画を水銀燈達にリークした……」
巴「人工ロゼリオンの製作が始まる前に、何としても彼らを叩かなくちゃいけない」
ラプラス「その通り、ロゼリオン計画についての復習はここまでです。皆様、良くできました。
ここで一息入れましょうか? トイレに行きたい方などいませんか?」
ジュン「茶化さずに話を進めろよ」
ラプラス「では、目的がはっきりしたところで今回の作戦概要です。
既に薔薇乙女達は時間合わせを終え、所定の位置で待機しています。
彼女達は四組に分かれており、これから同時に電撃強襲を行います」
みつ「ブリッツね」
ラプラス「第一組『水銀燈と薔薇水晶』、標的は三集団の計画責任者達が
一同に介して屋内で会食しながら研究報告を行う、通称『お茶会』」
めぐ「水銀燈……」
ラプラス「第二組『蒼星石と真紅』、標的は『渡し守のメメントリオン養殖プール』。
第三組『金糸雀と翠星石と雛苺』、標的は『ロゼリオン組み立て工場』」
ジュン「? てことは第四組は……」
巴「雪華綺晶だけ?」
ラプラス「はい。彼女の標的は東果重工の野薔薇狩り部隊……調査兵団です。
近場の野薔薇は狩り尽くしたためか、兵団は大々的な編成で遠征に出ています」
みつ「一人だけで大丈夫なの? ゆっきーちゃんは?」
槐「アレに関しては一人だけの方がいい。下手に誰かを組ませると巻きぞえになる」
ラプラス「彼女も張り切ってました。今日は食べ放題だとね」
めぐ「……」
ラプラス「……作戦時間です。今より彼女達は行動に移ります。
勝負の大勢はきっと半日もかからず決するでしょう。
さて、姿見の鏡でドールズの勇姿を観戦しますか」
§お茶会現場付近にて
本日の出席者リスト
オズ教徒・ロゼリオン計画統括責任者
東果社員・ロゼリオン組み立て工場長
渡し守・メメントリオン養殖管理課長
その他、各種補佐役、ボディガードなど計三十名弱。
水銀燈「以上がネクロポリタン美術館が提供してくれた情報。茶会出席者のリストよ」
薔薇水晶「はい。既に頭に入っています」
水銀燈「それは重畳。では私達の任務、これも頭に入ってる?」
薔薇水晶「一堂に会したロゼリオン計画幹部はじめ出席者全員の殲滅」
水銀燈「その通り。いい? 殲滅よ、一人残らず皆殺しにする。
変なヒューマニズムは今は抑えることね」
薔薇水晶「弁えています。それに、この茶会に……『人間』は一人もいません」
水銀燈「言うじゃない」
薔薇水晶「……」
水銀燈「それにしても、この先にあるのはまさに気違いどもの茶会。
これを乱すはアリスの嗜み……、そうは思わなくて薔薇水晶?」
薔薇水晶「……時間です。水銀燈」
水銀燈「あ、そう。じゃあ、行くわよ……!」
§東果重工調査兵団遠征軍
赤襟(班長)「どうか?」
黒襟A「は! 既に『収穫』は26体。此度の遠征は大成功です」
赤襟「……足りんな」
黒襟A「え?」
赤襟「上より貴様ら生え抜きの社外工作員達『黒襟』を
お借りしての大遠征だ。成果が26では少ない」
黒襟A「……」
黒襟B「報告!」ざっ
赤襟「何だ?」
黒襟B「右翼第一部隊が野薔薇と思われる人形の群れと遭遇。その数およそ10」
黒襟A「な……!」
赤襟「10だと? それは豪儀な。全て捕らえろ! 生死は問わん。
いや、どうせ生きていられては困る。殺して捕らえろ」
黒襟B「そ、それが野薔薇達はすぐに逃走。
第一部隊は獲物を深追いし、制止命令も聞かず突出!」
黒襟A「!?」
赤襟「欲が出たか……だが、まあいい。
ここで後を追わぬようではチャンスは物に出来ぬ」
黒襟C「ほ、報告……!」ざざっ
赤襟「? 野薔薇を捕らえたか?」
黒襟C「い、いえ。その……誤報だとは思うのですが」
赤襟「結果だけ言え」
黒襟C「は、はっ……! 右翼第一部隊……全滅です!!」
黒襟B「な!? さ、先ほど野薔薇を追うとの報告があったばかりだぞ!」
赤襟「……」
黒襟A「何かの間違いではないのか」
黒襟C「で、ですから誤報ではないかと……」
赤襟「右翼第二隊及び第三隊を、事実確認及び逃げた野薔薇の捜索に向かわせろ」
黒襟C「……!?」
赤襟「二度は言わん」
黒襟C「しょ、承知」だだっ
黒襟A「班長、……本当に第一隊は?」
赤襟「分からん。しかし……」
黒襟B「?」
赤襟「野狩りはこうでなくてはな」
§第一部隊全滅現場
黒襟D「こ、これは一体……!?」
黒襟E「第一部隊の奴らが全員死んでいる!」
黒襟F「野薔薇の逆襲にでも遭ったのか?」
黒襟D「い、いや! こいつらの負傷は全て銃創だ!
しかもこの銃痕……俺達の標準装備の銃によるもの……!」
黒襟F「武器を奪われた?」
黒襟E「それも違う。死体は全て銃を持ったままだ。しかも、弾倉はほぼ空]
黒襟D「同士撃ち……? 何故……」
????「クスクス……」
黒襟E「笑い声? 女の? どこから?」
????「♪食べちゃうぞ ♪食べちゃうぞ」
黒襟F「だ、誰だ!? 野薔薇か!? 何処にいる!!」
????「♪イタズラする子は食べちゃうぞ」
黒襟D「あああああ! あああああああっ!!」ガクガク
黒襟E「どうした!?」
黒襟D「やめろ! やめてくれよ! この……」
????「♪バターたっぷり塗りつけて ♪お砂糖パラパラふりかけて」
黒襟D「歌をやめろ! この歌をやめろってんだよーっ!」
黒襟F「落ち着け! ただの歌だ! 何を錯乱しているんだ!! 」
????「♪大きな大きな口あけて」
黒襟D「う、うひひ、うひゃははははははっはははは!!」
黒襟F「おい! どうしたんだ! お前も黒襟だろ! 気をしっかり……!
なんだ……!? こいつの頭から白い糸が伸びてる……?」
黒襟E「離れろ! そいつは精神干渉(サイコジャック)されてる!」
黒襟F「!?」
????「♪食べる子どの子 ♪どの子にしようか」
黒襟D「お、俺は食べられないぞぉぉおおおおおお!!」ババババ
黒襟F「ぐああっ!? う、撃ちやがったっ!?」
黒襟E「ッッ! こ、こんな風にして第一部隊は……っ!?」
黒襟C「ご報告!」ざっ
赤襟「……」
黒襟C「右翼第二部隊……壊滅。さらには第三部隊にも被害が広がっています」
黒襟A「馬鹿な! それは……っ!?」
黒襟C「確かです! しかも、信じられないことに同士撃ちです!」
黒襟B「!」
赤襟「……何者かが我々を攻撃しているということか。左翼部隊も向かわせろ」
黒襟H「報告!」ずさっ
赤襟「?」
黒襟H「左翼部隊は現在その全てが正体不明の敵と接敵さらには交戦中!」
赤襟「なんだと!? 索敵は何をしていた!?」
黒襟H「そ、それが……敵は地中から突然出現したと」
黒襟A「地中から?」
黒襟B「そいつらは何者だ!?」
黒襟H「野薔薇に似ていますが、詳細は不明です。銃撃にもひるまないもよう!」
赤襟「……」
黒襟A「班長?」
赤襟「狩られているのは……俺達の方か?」
§左翼部隊
黒襟I「くそっ! くそっ! 弾だ! 弾持って来い!!」ガガガガッ
黒襟J「メディック(救護兵)は何処だ!! メディック! メディーーック!!」
黒襟K「やめろ! もう、そいつは死んでる!」
黒襟L「なんなんだよ! あいつら……なんなんだよ!
なんで撃っても撃っても死なないんだ! 野薔薇じゃないのか!?」
ブサ綺晶A「……きっ」ぴょこ
ブサ綺晶B「きききっ」ぴょこぴょこ
黒襟I「畜生! 畜生ゥッッ!! くたばれってんだ!」ガガガガッ
ブサ綺晶A「ききっ」ぴょん
黒襟I「わ、笑うな!! 寄るな! 笑うな! 寄るな! ああああああ!!」カチッカチッ
黒襟J「おい! 弾、切れてるぞ!」
黒襟I「あああああああっ」カチッカチッ
黒襟K「バカ! しっかりしろ! 奴が壕に入って来るぞ……っ!」
ブサ綺晶B「きききっ……」ニコォ
黒襟L「ッ!? なんて……醜いヤローだ……」
ズドオオオオン
黒襟M「爆発ッ!? 全員注意しろ!! あの白い奴らは自爆するぞ!!
繰り返す!! あいつら爆弾だ! 動く地雷だ!!
各々の掘った壕に近づけるな!! 入られると爆発するぞ!!」
ブサ綺晶C「きっ」ぴょん
黒襟N「んなこと言ったってさあ!」ガガガガッガッガ
黒襟O「どんだけ打ち込めば、あいつら止まるんだよ!!」ガガガガ
ブサ綺晶D「ききき」ぴょこぴょこ
§槐のアトリエ
ラプラス「雪華綺晶の包囲殲滅作戦が始まりました。こうなってはもう
東果重工側に勝ちの目はありません。手詰まりのオセロのように
ただひたすら自らの駒をひっくり返し続けられるだけ」
みつ「なんて、えげつない」
めぐ「……白い悪魔」
ジュン「これじゃ、どっちが悪役か分からないな」
ラプラス「どっちも悪役ですよ少年。
戦争とて良い国と悪い国が戦っているわけではないでしょう?」
ジュン「それは……そうだけど」
巴「相手がローゼンメイデン達じゃなかったら、雪華綺晶はここまでやるの?」
槐「そう。雪華綺晶はボディが欲しいから普段は荒っぽい真似をしないだけだ」
ラプラス「さて、手持ちの駒を出血大放出した雪華綺晶の方は
順調みたいですが、他の姉達は……どんな感じでしょうか」
いったん乙
桜田ファミリア再び
>>231 サンキュー。今回ちょっとだけ長くて
しかも最後までできあがってないので
のんびりやらせてもらいます
233 :
創る名無しに見る名無し:2012/01/08(日) 11:53:23.27 ID:2iLX1iQ+
一旦乙
オディールさんハブられてんのねwww
すまん、さげわすれた
オディールさん忘れてた。
彼女は正式なマスターじゃないので、今回はお休みということにします。
§ロゼリオン組み立て工場
青襟A「まだ通信は回復しないのか!?」
青襟B「ダメです! 繋がりません!」
通信機『♪~ ♪~~』
青襟A「なんとしても作業員相互の通信を回復させろ!
繋がるがるまで何でも試せ! こんな事態をいつまでも放置しては
本社どころか、オズ教団や渡し守どもに何を言われるか……」
青襟B「は、はっ!」
青襟A「ふざけやがって……コンピューターウィルスか? どこのどいつだ!?
通信装置全てに音楽を流させている馬鹿は!!」
翠星石「そうですねぇ、音楽を流しているのは確かにバカです」すっ
雛苺「でも、頼りになるバカなのよ」すたっ
青襟A「ッッ!? な、なな……!」
青襟B「お前ら!? どこから入った!?」
翠星石「えぇ~? どこからってそりゃあ入り口からですよぉ」
雛苺「工場見学に来たの! 案内してほしいのよ!」
青襟A「ふざけるな! 貴様ら野薔薇だな! 素体置場の奴が息を吹き返したか!?」
翠星石「ふむふむ。やっぱり素体置場があるのですね。それはどこです?」
雛苺「みんなはもう静かにおネムなのよ。起こしちゃカワイソウなの」
青襟A「やかましい! そんなに眠けりゃ寝かしつけてやらあ!」グワッ
翠星石「やかましいのはテメーです!」ドスッ
青襟A「うぐっ……!?」ガクリ
翠星石「安心しろ、みね打ちですぅ」
雛苺「如雨露にみね打ちってあるの?」
翠星石「さあ?」
雛苺「それにしても翠星石は手が早すぎるのよ。
野薔薇さん達が眠っている場所を聞いてからじゃないと……」
翠星石「いやいや、聞くならもう一人いるじゃないですか」
青襟B「え? あ……!」
翠星石「さっさと吐いた方がいいですよぉ?
こっちの人みたいに楽に気絶させてもらえると思ったら大間違いですぅ」
雛苺「ゴーモンなの!」
青襟B「あああ……!? うわあああああああああ」
§槐のアトリエ
ジュン「あいつら……」
みつ「ヒナちゃん……! ああ、そんな!
青襟さんの腕が曲がっちゃいけない方に曲がってるわ!」
巴「雛苺がこんな事をするなんて!?」
一葉「無邪気な子供ほど……虫に対しては残酷なものだ」
みつ「だからって、信じられないわよ! こんな……」
めぐ「ストレスよ。雛苺ちゃんも翠星石ちゃんも……ロゼリオンの生い立ちに
野薔薇の受けた屈辱に大きなストレスとシンパシーを感じた」
みつ「?」
めぐ「それを晴らすためには多少の残酷も必要。
でなければあの子たちも野薔薇もカタルシスは得られない。
いつもいつでも、いい子のままじゃ……壊れちゃう」
ラプラス「それと、自らのマスター達がこうして安全な場所に隠れている今、
多少の力は制限されようとも薔薇乙女達は非常に自由に戦えています。
自分以外の心配をしなくても良い状況では、ややハメを外すのも致し方ない。
無論、雪華綺晶と薔薇水晶に関しては当てはまりませんが」
§ロゼリオン組み立て工場
青襟B「……」ぐったり
雛苺「気絶しちゃったの」
翠星石「まあ、聞きたいことは聞き出せたからいいです。
でも少し拷問したりなかったですね。
次はチンポに電気を流してやろうと思ってたのですが……」
雛苺「うぃ! それじゃ金糸雀に教えてあげなくちゃなの! はい翠星石、通信機」さっ
通信機『♪~ ♪~~』
翠星石「あーあー、ウグイスよりナイチンゲールへ。ウグイスよりナイチンゲールへ」
通信機『……』
翠星石「巣は見つかった。巣は見つかった。ポイント103。ポイント103です。
ポイント103で眠れる奴隷に子守歌を、以上です」
通信機『♪~~~ ♪~』
雛苺「曲が変わったの」
翠星石「よし、カナチビにちゃんと伝わったようですね。
しばらくしたら、あいつも動き出すはずです。
そしたら通信装置は回復してしまうですから……」
雛苺「ヒナ達が大暴れして青襟さん達の注意をひきつけるのよね」
翠星石「そういうことで~す。ここまで来たら最早チェックメイトです。
増援を呼ばれようとも、そいつらが到着した頃には
もう翠星石達の目的は達成されて、トンズラぶっこいた後です!」
雛苺「パーフェクトな作戦なのよ!」
§メメントリオン養殖場・管理室
渡し守A「第3隔壁閉鎖……っ! ダメです! 止まりません! 隔壁を突破されました!」
渡し守B「ええい! 課長の不在時にどうしてこんな……!? 連絡は!?」
渡し守C「繋がりません! 課長の方にも何かトラブルがあったもよう!」
渡し守D「ここは私達で賊を捕らえなくては……!」
渡し守A「最終隔壁閉鎖しました! この壁は今までの三倍以上です!
いくら奴らでもこれ以上は養殖プールに近寄れませんよ」
渡し守B「だと、いいが……」
§メメントリオン養殖場・通路
蒼星石「おっと……! 今度の壁は僕の鋏で裂くには厚そうだ」
真紅「それじゃあ、私の出番ってわけね。真紅ちゃんパンチ!」バコッ
蒼星石「殴って壊せるものでもなさそうだけど……」
真紅「ふふん、拳を壁に打ち込めたなら、それで充分。
あとは……内部からローズテイル連打で爆破するだけ!!」キィィィ
蒼星石「わわわ……っ!」
真紅「オラオラオラオラオラオラオラアラオラオラ」ドコドコドコドコドコ
蒼星石「む、無茶するなあ……」
渡し守A「最終隔壁第17層まで崩壊! このままでは
あと15秒で隔壁は全損! 賊徒は養殖プールに侵入します!!」
渡し守B「やはり、止められんか! 忌まわしいローゼンメイデンめ!」
渡し守C「こうなったらメメントリオンを開放するしか……」
渡し守D「それこそ奴らの思うつぼでは!?」
渡し守C「いえ、開放するのは『実験体』です!」
渡し守A「あいつをか!? 変異に失敗して見境を失くしたやつだぞ!
アレを取りおさえるのに、どれだけ……っ!」
渡し守B「いや、四の五の言ってられん状況だ。ローゼンメイデン二体を
始末できるのなら、後で変異体を回収する苦労はタカが知れている。
叶うなら共倒れが理想だが……」
渡し守C「了解。実験体を開放します」
渡し守D「現場作業員達の避難は!?」
渡し守A「ローゼンメイデンが殴り込みに来たってんで
とうに持ち場から逃げ出していますよ!」
§養殖プール
真紅「ふう。ちょっと手を焼いたけど、脆い壁だったのだわ。
まだジュンの方が殴りごたえがあるわね」
蒼星石「ここが、メメントリオンの養殖プールか……」
真紅「大きな水槽がいくつも……その中にクリオネみたいな
小さな生き物がたくさん泳いでいる。これが?」
蒼星石「メメントリオンだね。本体を見るのは僕も初めてだ。
本当に……小さくて淡い、か細い生き物だ」
真紅「これを野薔薇の骸に入れて操ろうだなんて」
蒼星石「……排水装置を探して作動させよう。
羊水ごとメメントリオンを記憶の大海へと放出させる」
真紅「そうね……。ッッ!?」ずってーん
蒼星石「真紅!?」
真紅「い、いたたたた。何かにつまづいて転んだのだわ」
蒼星石「君らしくないドジだな。一体何に……? これは……チューブ?」
真紅「いえ、何か変に柔らかいし脈打っている」グニグニ
蒼星石「ッッ!? し、真紅……!」ずさっ
真紅「どうしたの? 蒼星石、後ずさりなんかして……」
蒼星石「う、うう……後ろ……ッ!」
真紅「後ろ?」くるっ
実験体(巨大クリオネ)「がおーっ」
真紅「おぎゃーーーーーーーっ!? なにこれーー!?」
蒼星石「メ、メメントリオン変異体!?
真紅がつまづいたのはこいつの触手だったんだ!」
§ロゼリオン組み立て工場・素体置場(ポイント103)
金糸雀「……ここに野薔薇達の骸が」こそっ
青襟C「おい! 侵入者らしいぞ! みんなして捕らえろってさ!」バタバタ
青襟D「何ィ!? じゃ、今までの通信障害も!?」ガヤガヤ
青襟C「きっとそいつらの仕業だ! 早く行くぞ」
青襟E「けど、勝手に持ち場を離れるなっていつも工場長が……」
青襟C「工場長はお偉いさん達との茶会だ! こういう時は自分達の判断で動くんだよ!
事件が起きてるのは茶会でじゃない! 現場で起きてるんだ!」
青襟D「お前、それが言いたかっただけだろ」
青襟C「う、うるせぇ! このままじゃ本社の白襟がまた文句言いに来るぞ!
あんなデスクワーカーどもに馬鹿にされていいのか!?」
青襟E「それに、みすみす侵入者を取り逃したら工場長に怒られるのも俺達だ」
青襟D「わ、分かってるって! 俺も行くよ」
金糸雀「……事件はお茶会でも起きてるはずかしら。それもここより陰惨な」こそっ
金糸雀「さて、翠星石と雛苺が暴れている内に終わらせるわよピチカート」
ピチカート「……!」ひゅぱっ
金糸雀「それで、ここに眠っている野薔薇の骸の数は……?」
ピチカート「……」
金糸雀「そう。197体も……そんなに多くの子達が……!」
ピチカート「……ッ」
金糸雀「分かってるかしら。しょげてる場合じゃないわよね。
カナに出来ることは……っ!! もう二度と
彼女達が誰にも傷つけられることのないように……!」スッ
ピチカート「!」
金糸雀「……沈黙のレクイエム!!」♪~~
§槐のアトリエ
一葉「素体置場の野薔薇達の骸が……」
槐「崩れて、砂になっていく」
みつ「カナ……」
ラプラス「こうするしかありません。土は土に、塵は塵に」
巴「野薔薇達は安らかに眠れるのかしら?」
めぐ「さあ? でもきっと、もう苦しみなんか無い世界へ行けたのでしょうね」
ジュン「柿崎さん……」
ラプラス「これにて当初の作戦のおよそ半分は完了。いいペースです。
白薔薇のお嬢さんに続き、金色の楽団もミッションコンプリート」
§東果重工調査兵団ほぼ全滅・生存者一名
雪華綺晶「じゃんけん」
赤襟「え? う、ああ!?」
雪華綺晶「ジャンケンしましょう。あなたが勝つか、あいこだったら……
あなただけは見逃してあげてもいいです」
赤襟「ハァー……ハァー……ど、どうして……?」
雪華綺晶「理由などありませんわ。でも、このチャンスをいらないと言うのなら」
赤襟「わわわ、分かった! や、やるよ!
俺が勝つか、あいこなら……助けてくれるんだな!?」
雪華綺晶「……はい、約束です。では、ジャンケン……」
赤襟「ポン!」←グー
雪華綺晶「ポン」←イモチョキ
赤襟「ッ!? な!」
雪華綺晶「……残念、あなたの負けです」
赤襟「ば、バカ言え! なんだそれ!? インチキ! インチキだ!!
ノーカウント! ノーカウント!! こんなインチキは……っ!」
雪華綺晶「どこが?」
赤襟「どこが……ッて!? お前、まともに考えたら……!」
雪華綺晶「私が『まとも』に見えましたか?」
赤襟「ううう……!? お、お前やっぱり最初から俺を見逃す気なんて……」
雪華綺晶「いえいえ、あいこという救済も用意していましたが
あなたにはそのガラスの道が見えなかっただけ」
赤襟「た、助けてくれ! 頼む」
雪華綺晶「……動物番組が好きでしてね」
赤襟「は?」
雪華綺晶「テレビ番組ですよ。それで、特にアフリカのサバンナ特集がお気に入りですわ」
赤襟「サバ……ンナ?」
雪華綺晶「肉食獣が草食獣を狩るシーンが必ずと言っていいほど流れるのですが
いつ見ても良いものです。その肉食獣が最も怒るのはどんな時だと思います?」
赤襟「……ッ?」
雪華綺晶「折角の食事を邪魔された時、自分の得物を横取りされた時。
野薔薇は……私の大切な獲物。それを意地汚く喰い荒らされた」
赤襟「う、うあああ……」
雪華綺晶「怒りの日は今」
赤襟「あああああああああああああああああああ!!」
§お茶会現場
オズ教徒A「てやあああああ!」
オズ教徒B「どりゃああああ!」
水銀燈「いけ! 黒羽根ッ!!」ヒュカカッ
オズ教徒A「ぐああ」ドスゥ
オズ教徒B「げふぅっ!?」ザスッ
水銀燈「ふん……他愛も無い。この程度も避けられないなんて。
そんなんだから、ちょっとした玩具を手に入れたぐらいで思い上がる」
オズ教徒C「な、なんでお前らが! なんでローゼンメイデンが俺達を襲う!
ロゼリオンが何だと言うのだ! お前達に関係は……」
水銀燈「無いかもしれない。けれどもあんたらは私を怒らせた」
オズ教徒C「……!?」
水銀燈「知らなかった? 女の子のヒステリーって怖いのよ」
オズ教徒C「う、うわああああああああ!」
薔薇水晶「……水銀燈」
水銀燈「あら薔薇水晶、そっちはどう?」
薔薇水晶「上々です。東果の工場長と渡し守の課長は既に始末しました。しかし」
水銀燈「そっちにもいないか。こっちもオズ教徒はたくさんいたけど
ロゼリオン計画の統括責任者らしき奴は見当たらない」
薔薇水晶「……私達の突入の時に既に死んだとか」
水銀燈「いいえ。死体は全て検めた」
薔薇水晶「ネクロポリタンの情報ミスで、最初から責任者はいなかった?」
水銀燈「いいえ。誤りがあればネクロポリタン美術館は私に燃やされる。
そんなギリギリのところで凡ミスはしない」
薔薇水晶「なら……」
水銀燈「この建物のどこかに吉良上野介のように隠れている。
そいつを見つけ出せば、この場の殲滅は完了ね」
薔薇水晶「……」
水銀燈「さ、早いとこ、魔法使い気取の統括者に会いに行きましょう」
統括者「まろは逃げも隠れもせぬでおじゃ!」ザッ
水銀燈「!?」
薔薇水晶「!」
統括者「よくもよくも、まろの一大プロジェクトを! 先ほどより、工場とも養殖場とも
連絡が付かぬでおじゃる! これもそちらの仲間の仕業であろう!?」
水銀燈「なにこれ? この公家もどき」
薔薇水晶「変なキャラが出てきましたね」
水銀燈「しかし探す手間が省けた」
統括者「手間が省けたのはこちらでおじゃる! ここであったが百年目!
いずれそちらとの対決が避けられぬことは分かっていたでおじゃ!」
薔薇水晶「……百年前に何かあったのですか水銀燈?」
水銀燈「記憶に無いわねぇ。こんな面白キャラ、忘れるわけないんだけど」
統括者「言葉の綾でおじゃる! ええい! ふざけていられるのも今の内じゃ。
ロゼリオンの初陣土産はそちらの首級でおじゃ!!
さあ出でよ! まろの愛しき娘達!!」
水銀燈「ッ!?」
薔薇水晶「ロゼリオンが!? ここに?」
零号機「……」すたっ
初号機「……」すたっ
弐号機「……」すたっ
統括者「見れ! これこそが人工ロゼリオン三人娘!
右から零号機、初号機、弐号機であるぞよ。
今までの成果として茶会で愛でるために来ていたのでおじゃる」
薔薇水晶「……!」
水銀燈「そのネーミングがよく企画会議で通ったわねぇ」
統括者「愚弄するでない! 全会一致で絶賛された名称ぞ!」
水銀燈「これだから嫌なのよ。アニメや漫画ばかり見て育った世代は。
まだ、新発見の遺伝子にサウザーとかポケモンとか名付けてる方が可愛らしい」
統括者「減らず口を! しかしいつまでも余裕ぶっていられると思ったら大間違いでおじゃ!
まろの魔道の粋を凝らしたロゼリオン! その真価を見よ! そして滅びよ!」
初号機「……ぎぎ」ザシッザシッ
薔薇水晶「歩いた? 来るか」
零号機「う、おお」グググ
水銀燈「ちっ! 他人の残したゴミのより合わせを作って何が魔道!」
弐号機「ふしゅるるる」ギギ
§メメントリオン養殖プール
実験体「グララアガア!!」ブンッ
蒼星石「うわぁ!?」ドコォ
真紅「大丈夫? 蒼星石!?」
蒼星石「か、かすっただけだ。しかし、それでもこの威力!
あいつの六本のバッカルコーン(口円錐触手)をどうにかしないと近づけない」
実験体「オオオオオオオオッ!!」ブンブン
真紅「くっ! しゃにむに振り回しているのだわ!!
これじゃあローズテイルも触手に阻まれて本体に当てられない」
蒼星石「久しぶりに、これを使ってみるか!」グッ
真紅「奈良カッターね!」
蒼星石「う、うん。まあ……間違っちゃいないけど、
どうせならスピードワゴンの帽子カッターの方で例えてほしかった」
実験体「ガガガガガガッガッガ!!」ブンブン
蒼星石「でやっ」ブンッ
実験体「グゲッ!?」スパーン
真紅「やった! 触手を一本切り落とせたのだわ! その調子よ蒼星石!」
蒼星石「いや! 切り落とした触手の様子がおかしい!」
真紅「え?」
触手『……ッッ』ブルブルブルブル
実験体「ウオオッ! オオオオ!」クイッ
触手『……ッッ』ビュバッ
真紅「触手が!?」
蒼星石「ひとりでに本体の切断面に飛んで戻った!?」
実験体「グググ……」ピタッ
蒼星石「く、くっついた! 切るのでは効果が無い! すぐに戻ってしまう!」
真紅「なんてこと……!」
蒼星石「真紅! 君のローズテイルだ!
本体に当たらずとも触手をローズテイルで燃き払えば……」
真紅「……ローズテイルは壁を壊すのに使い過ぎた。あと一発が限度」
蒼星石「っ!?」
実験体「グッラララアガアアアアッ!!」
§ロゼリオン組み立て工場・作業区域
翠星石「へいへーい! 鬼さんこちら手のなる方へ~ですぅ!」
青襟C「くそっ! なんだこいつ! ちょこまかと!」
雛苺「いや~ん。怖いの~~~」トテテテッ
青襟D「待ちやがれ!!」ダダダダ
蒼襟E「挟み撃ちにしてやる!」
翠星石「ひゃ~! 逃げろ逃げろですぅ!!」バタバタ
§ロゼリオン組み立て工場・管制室
金糸雀「……野薔薇達は風に還したし、あとは逃げるだけなんだけど」
ピチカート「……」ふわふわ
金糸雀「道に迷っちゃったかしら」
ピチカート「!? ……ッ!!」
金糸雀「『だからさっきの道は右に曲がるべきだった?』
今さら過ぎたことを蒸し返すのは男らしくないかしらピチカート」
ピチカート「……」
金糸雀「それに、今いる部屋はコントロールルームのようかしら。
ここなら工場の見取り図ぐらい、どこかに……」
ピチカート「……ッ!」くいっ
金糸雀「何か見つけたの? ピチカート?」
金糸雀「これは……見るからに怪しいボタンかしら」
ピチカート「……」くいくいっ
金糸雀「ボタンの隣に注意書き? なになに?
『困った時にはこのボタンを押しましょう』……?」
ピチカート「!」
金糸雀「なるほど。まさに今のカナにぴったりかしら!
きっと迷子になった時のための非常口みたいなのが出てくるボタンかしら!
よく見つけたわ! お手柄かしらピチカート!」
ピチカート「……っ」えっへん
金糸雀「それじゃあ早速押してみるかしら! ぽちっとな!」
館内放送『自爆装置が作動しました。自爆装置が作動しました』
翠星石「へ!?」
雛苺「じばく?」
青襟D「な、何ィ!?」
館内放送『当工場はあと五分で自爆します。作業員は速やかに退去。
全セキュリティ、全シャッターを解除しました。
作業員は最寄りの出口から速やかに退去してください』
青襟E「ななな、なんだとぉ!」
青襟C「だ、誰かが男のロマン『自爆ボタン』を押したのか!?
たかが侵入者を許したぐらいで早まりやがって!」
青襟E「どうせならアレは俺が押したかったのに!」
青襟D「んなこと言ってる場合か! 逃げるぞ!」ダバダバ
雛苺「どうしよう!? 翠星石!」
翠星石「どうするもこうするも翠星石達も脱出です!
青襟達の後を追えば外に出られるはずです!!」
雛苺「うぃ! 今度はヒナ達が鬼なのよね!」
館内放送『自爆装置が作動しました。自爆装置が作動しました』
ピチカート「……」
金糸雀「……」
館内放送『管制室から屋外への直通非常扉のロックを解除しました。
管制員は当経路より至急退去してください。グッドラック』
非常扉『ガション』
ピチカート「!?」
金糸雀「お、おほほほほ! カナの読み通りかしら!!
ほら! ちゃんと出口への扉が開いたかしら!
何から何まで計算づくかしら! この知恵者カナは~!」
§槐のアトリエ
みつ「カ、カナ……」
めぐ「知恵者にもホドがあるわよね」
ジュン「て言うか、あんな無造作なボタン一つで簡単に自爆するとか」
ラプラス「東果重工は男のロマンを優先しますからね。
どんな建築物にも天上裏の秘密部屋と自爆スイッチを必ず作ります」
一葉「馬鹿と天才は紙一重と言うが……」
槐「紙一重で馬鹿の方だな」
巴「ずいぶんと分厚い紙一重みたいですけど」
§東果重工調査兵団全滅現場
雪華綺晶「……さて。では進撃です」
赤襟「……」ずりずり
黒襟A「……」ずりずり
黒襟B「……」ずりずり
§槐のアトリエ
めぐ「? 白い悪魔が何かおかしな事を始めてるけど?」
ラプラス「ほう? 彼女も今回は仕事熱心なようですね。残業に取り掛かる気です。
遠征軍を潰した時点で白薔薇のお嬢さんの任務は終わっていると言うのに」
めぐ「具体的に、雪華綺晶が何をしているのかを答えてよ」
ラプラス「調査兵の屍達をお得意のマリオネットに仕立てたのです」
みつ「そんな!? それじゃ……!」
槐「やっていることはロゼリオンとほとんど同じか
それ以下の心ない所業。確かに悪鬼羅刹のすることだ」
一葉「毒を以って……ということか?」
ラプラス「いえいえ、白薔薇のお嬢さんにとっては至って自然なこと。
今回も彼女の怒りは倫理的な問題に根差しているのではなく
自分と同じことをされているのが気に障っただけ」
巴「わがままな末っ子ね」
ラプラス「気まぐれな怒りでもそれは本物です。
野薔薇の調査兵団はそっくりそのまま野薔薇の反乱軍となった。
雪華綺晶はこれを率いて東果重工本社と一戦交えるつもりでしょう」
ジュン「えげつねぇな」
§ロゼリオン組み立て工場跡地
翠星石「ヒーハー」ぷはっ
雛苺「派手な爆発だったの!!」
翠星石「男のロマンかもしれねーですが無駄に爆発の規模が大き過ぎですぅ。
野薔薇の骸よりも自爆用の火薬の方が量が多かったんじゃねーですか?」
雛苺「一緒に逃げだした青襟さん達もどっかにふっ飛んじゃったの」
翠星石「カナチビもどこかにふっ飛ばされてんじゃねぇですか?
ロケット団なみに空へと飛ばされやすい乙女ですからねアイツは」
金糸雀「おぉ~い! お~い! 翠星石! 雛苺! こっちよ~!」フリフリ
雛苺「あ、金糸雀が手を振ってるの!」
翠星石「ちっ、ピンピンしてやがるですぅ」
金糸雀「二人とも無事で何よりかしら!」
翠星石「当然ですぅ。というか自爆装置を作動させたのは、ひょっとして……」
雛苺「金糸雀なの?」
金糸雀「し、知らないかしら。どこかのイカレポンチが早まったんじゃないのかしら?」
翠星石「できることなら、そのイカレポンチを探し出して焼き土下座にでも
かけたいところですが……。流石の翠星石もちょっち疲れたです」
雛苺「ヒナもクタクタなのよ」ぐてー
翠星石「チビ人間さえ近くにいれば、これぐらいすぐ回復するはずですのに」
雛苺「それはダメなの。ジュンやトモエを連れて来たら
ヒナたちは元気一杯になれるけど、危険がデンジャーなのよ」
金糸雀「そうよ翠星石」
翠星石「分かってるですってば。今回、マスターを安全な場所に確保しておくという
作戦を立てたのはカナチビですし、みんなでそれに賛成したです。
そのお陰で気兼ねなく暴れられたですし、パワーダウン程度は我慢するです」
金糸雀「……」
雛苺「ねぇ、金糸雀? 工場の野薔薇さん達はちゃんとオヤスミできたの?」
金糸雀「ええ。爆発の前に……既に全ての野薔薇が風と土に還っていたかしら」
翠星石「そうですか……。よくやったですねカナチビ」
雛苺「ヒナ達の任務はこれにてカンリョーなのよね?」
金糸雀「ええ、みんな良く頑張ってくれたかしら」
翠星石「正直、工場を自爆させたのまでは頑張りすぎですけどね。
もう少し、青襟どもをからかってスカッとしたかったのですが」
雛苺「いわゆるオーバーキルなのよね。ヒナももうちょっと遊んでいても良かったの」
金糸雀「ま、まあ結果オーライってことでいいんじゃないかしら」
翠星石「それじゃ、ここでちょっち休憩したら帰るですか。チビ人間達の所へ」
雛苺「うぃ! 早くトモエ達に会いたいのよ」
金糸雀(……疲れただけじゃない。僅かな時間、マスターと離れて戦っただけで
翠星石や雛苺の『人間性』までもが薄れているような気がする。
私達はまだまだ、力も心もマスターに依存しなくてはやっていけない……?)
§茶会現場
ロゼリオン零号機、頭部粉砕後メメントリオン蒸発、沈黙。
ロゼリオン初号機、胸部もろともメメントリオン貫通、沈黙。
ロゼリオン弐号機、鋭利な水晶群による針串刺しの刑、沈黙。
薔薇水晶「……ふぅ」
水銀燈「お見事。私の出る幕は無かった。分かりきっていたことだけど」
薔薇水晶「名前負けもいいところ。野薔薇より遥かに劣る人形達です。
絆を失っても、壊れていても野薔薇にはまだ心があった」
水銀燈「心か。ま、その野薔薇の心を御しきれない連中が
なんとか扱えるように拵えたのがロゼリオンでしょ?」
薔薇水晶「……ええ。しかし、これが百も二百も作られると危ない」
水銀燈「そうはさせないために私達は来た。さ、覚悟はいいわね、おじゃる丸?」
しーん
水銀燈「あれ……? いない?」
薔薇水晶「……逃げた? 統括者が!? 娘を見捨てて?」
水銀燈「まんまと一杯喰わされた? あいつも研究者としての心構えぐらいあって
大切な成果を全てほっぽり出す真似はしないと思っていたけど」
薔薇水晶「……これが全てでは無いとしたら」
水銀燈「!」
薔薇水晶「あの、おじゃる丸は彼女達を人工ロゼリオンと言った。
しかも、これら全ての外装(野薔薇の骸)は私も初見」
水銀燈「……」
薔薇水晶「真祖のロゼリオン。私が迂闊にもその誕生の一助となった……
ロゼリオンのオリジンを持ち出して……統括者は逃げた」
水銀燈「なるほど。それがおじゃる丸にとってのアリス。
……まだ、遠くへは行ってないはず。手分けして探すわよ薔薇水晶」
薔薇水晶「はい」
水銀燈「メイメイ!」
しーん
水銀燈「? メイメイ……?」
薔薇水晶「水銀燈?」
水銀燈「メイメイまで……いない? さっきも一緒にいたのに」
薔薇水晶「……どうやら私達の出した結論をメイメイは既に出していたようですね」
水銀燈「?」
薔薇水晶「あれを。黒羽が点々と地面に刺さっています。
メイメイからあなたへの暗号では?」
水銀燈「……おじゃる丸をわざと泳がせて尾行しているってわけか。
流石は私専属の人工精霊……、気が利いたわね」
薔薇水晶(『気が利きすぎている』感がしないでも無い。
人工精霊の行動原理は薔薇乙女からの指示待ちが基本のはず……)
水銀燈「地面の黒羽根が指示している方向をたどれば
おじゃる丸には追いつける。行きましょう薔薇水晶」
薔薇水晶「……はい」
いったん乙
これまでの総決算だなぁ
一旦乙
カナとばらしーのモノローグがいい感じだな
あっちで手をつけたいって言ってた長編ってロゼリオン関連?
§メメントリオン養殖プール
実験体「グラララアガアアア!!」ぶんぶん
蒼星石「く……、疲れるってことを知らないのか?」
真紅「蒼星石……」
蒼星石「?」
真紅「ここが覚悟の決め時よ。あのバッカルコーンを一呼吸で何本まで切れる?」
蒼星石「……三、いや四本だ」
真紅「そう。二本残るわけね」
蒼星石「すまない。薔薇水晶なら全部一瞬で切り落とせるだろうに。
そうすれば隙をついて君がメメントリオンに接近することも」
真紅「いえ、それがいい。全部は切り落とせないというのがすごくいい」
蒼星石「?」
真紅「私に作戦がある! あなたがバッカルコーンを
四本切り落とせば、それで決まる! お願い!!」
蒼星石「分かった! 君を信じよう!」
実験体「オオオオアアアアアア!」ブンッ
蒼星石「てやあああああああああ」ズババババッ
実験体「グオオオオッ!?」ブンッ
蒼星石「うぐぅ!? やはり、これで限界か」ドカッ
真紅「きっちり宣言通り四本落とし……! 流石ね蒼星石!」
触手×4『……』ブルブルブルブル
蒼星石「やはり四本同時でも、元に戻るッ! 急ぐんだ真紅!」
真紅「いえ、慌ててはいけない! その戻るってのが更にいいのよ。戻るってのが」ガシッ
蒼星石「触手の一本を掴んだ……何を?」
実験体「ゴアアア」クイックイッ
触手×4『……』ビュバッ
真紅「よしっ」グイーン
蒼星石「しがみついた真紅ごと切れた触手が本体に……! そうか!」
実験体「グルル」ピタピタ
真紅「やはり、戻したわね」ズイッ
実験体「……ッ!?」
真紅「もし、仮に蒼星石が触手全てを同時に切り落としてたら
あなたは怯んで、身を隠したかもしれない」
実験体「グ……ガガ……!?」
真紅「もし、仮に落とされた触手が一本だけだったら
あなたは、しがみついた私にすぐ気付いて
懐に招かぬよう、敢えて触手を戻さなかったかもしれない」
実験体「グオオオオオオオオ!」グワッ
蒼星石「し、真紅……! (解説入れても相手は分かってないよ、多分)」
真紅「真紅ちゃんパンチ!」ドォスゥ
実験体「オゴオオオオオオアアアア!!」ジタバタ
蒼星石「壁の時と同じだ……! 相手の体内に手を突っ込んで……!」
実験体「ギギッギギガガガガ」
真紅「こんな不細工な戦法しかとれなくてごめんなさいね。
あなたも元々は……犠牲者だということも分かってる。けれど!」
実験体「グガ! グガアアアアアアアア!!」ジタバタ
真紅「ローズ……!」キィィイイイイ
実験体「グッ!? グギャギャッギャギャア」
真紅「テイルッッ!!」カッ
ズドオオオオオオオオオオオオオ
§メメントリオン養殖場・管理室
渡し守C「……ッ! 実験体……ロスト!」
渡し守B「ぐ……っ!」
渡し守A「ッッ!? 飼育羊水弁が開放されました!
養殖メメントリオン……全て記憶の海にパージされます!!」
渡し守D「これまでか」
渡し守B「撤収だ。ここでの養殖計画はもうお終いだ。総員撤収!」
渡し守A「我々以外は既に撤収していますが」
渡し守B「……だから俺達も逃げるんだよぉっ!」
蒼星石「……よし。これでメメントリオンは全て解放された」
真紅「一体を除いてね」
実験体「……」しゅーしゅー
蒼星石「仕方が無かった……とは僕も言いたくない。ただ、真紅、君は勇敢に戦った。
そのことはきっと、この戦うために作られたメメントリオンにとって……」
真紅「いいえ。私は臆病だった。私にもっと優れた知恵と温かい心と
あとほんの少しの勇気があれば、彼も救えたはず」
実験体「……」しゅーしゅー
蒼星石「帰ろう真紅。僕達の任務は終わった」
真紅「……ええ」
真紅「あ、あら?」カクン
蒼星石「ッ? 真紅? また何かにつまづいたのかい?」
真紅「違う、足に力が……。エネルギーを使いすぎたのだわ」ぐぐ
蒼星石「……そうか、なら」ひょい
真紅「ちょ、ちょっと? これぐらい少し休めば大丈夫よ。オンブなんて……!」
蒼星石「これぐらいのことは僕にもさせてくれ」ゆさゆさ
真紅「で、でも……」
蒼星石「恥ずかしがることもないさ。昔はこうして君をよく負ぶさったったもんだ。
真紅は覚えてないかもしれないけどね」
真紅「え?」
蒼星石「君は僕にとって初めてできた妹だ。そのことまで忘れたわけじゃないだろう?」
真紅「……」
蒼星石「さあ、急ごうか。ジュン君達が待っている」ゆさゆさ
真紅「分かったのだわ。それじゃお願いするわね蒼星石……お姉ちゃん」ぎゅっ
§茶会現場から離れた荒地
統括者「おじゃじゃ……! おじゃ!」ダッダッダッ
メイメイ「……」←(こっそり尾行中)
統括者「やはり強いでおじゃるのう薔薇乙女は。
『今のロゼリオン』では時間稼ぎの足止めが精一杯で……、ん?」くるっ
メイメイ「……」ささっ
統括者「……? 気のせいでおじゃるか。誰かに見られているような気がしたが……」
統括者「とにかく『ドロシー』だけは持ち出すことができた……。
工場よりも、養殖場よりも、何よりも重要なのはこれでおじゃる。
これを礎に技術は突き進む。研究は飛躍する。否、飛躍した」
メイメイ「……?」こそっ
統括者「あの高嶺の花の薔薇乙女の足を止め、振り向かせることが出来たのじゃ。
あと少し、あと少しで口説き落とせるとも。
それが分かっただけでも、充分に教祖様への申し訳は立つでおじゃる」
統括者「諦めることなく、失敗を糧に成功への努力を積み重ねるのが人の美徳でおじゃる。
楽しみでならぬの。いずれ、あのローゼンメイデンをもロゼリオンに……」
メイメイ「!」
統括者「そして、ローゼンメイデンもといアリスゲームに壊滅的なダメージが
発生した時こそ……。彼奴が! ローゼンが現われる!」
メイメイ「……」
統括者「そうとも。重要なのは『娘』ではない! 『父』でおじゃる!
裏方に引っ込んだローゼンを舞台に引っ張り出し、彼奴の技術の全てを奪う。
それこそが……まろの! 『ロゼリオン(ローゼン食い)』の真の……!」
水銀燈「な・る・ほ・ど。玩具の兵隊『ロゼリオン』はあくまで建前」ざっ
統括者「おじゃっ!?」
薔薇水晶「それにしても独り言が大きすぎますよ、おじゃる丸。
しかも、そのような最高機密をべらべらと。それでも研究者の端くれですか?」
統括者「おじゃじゃっ!?」
水銀燈「悪の研究者ってんなら、そういう所は端くれどころかド真ン中だけど」
統括者「なな、なんと!? 何故そちらが、まろの先回りを!?」
水銀燈「メイメイ、ご苦労」
メイメイ「……ッ」ひゅぱっ
統括者「!? つ、つけられていたでおじゃるか!?」
水銀燈「……たく、何がローゼンメイデンには関係ない、よ。
結局私達……いえ、お父様に危害を加えようとする計画だったわけじゃない」
統括者「こ、これはまだ極秘でおじゃる。まろが次回の企画会議でサプライズ提案しようと」
薔薇水晶「そういうのは極秘とは言わず、個人の妄想と言うのです」
統括者「!?」
水銀燈「けどまあ、いい計画だとは思うわよ? そのロゼリオン(ローゼン食い)っての。
それに、わりといいことも言ってたじゃない。諦めず努力すればナンタラとか」
統括者「そ、そうであろう!」
水銀燈「ただ一点。不可能だって言うところにさえ目をつぶればね」ガシッ
統括者「……うぐッ!? は、離すでおじゃっ!! 苦しいぞよ!」ギチッ
水銀燈「この私らですら、魔女の釜の底で百年以上焦がれても会えないお父様に
アンタみたいな気色の悪いクソガキが、やれ野薔薇だ、やれロゼリオンだと
乏しい知恵をこねくり回したところで……っ! 会えるわきゃあ無いでしょう!」ギリギリ
統括者「ぐ……かかっ! 息……がっ!?」ガクガク
薔薇水晶「……水銀燈」
水銀燈「この、おじゃる丸は私がやる。そっちの最後の仕上げ……
おじゃる丸のアリスの始末は薔薇水晶、アンタに任せるわよ。
こいつがご大層に運んでいた、その棺桶に入っているはず」
薔薇水晶「はい……」カパッ
統括者「よ、よさぬか! 『ドロシー』を起こすでない!!」
水銀燈「もう遅い」
ドロシー「……」ドサッ
薔薇水晶「!?」
水銀燈(……歩きもせずに地に伏したか。やはりジャンク。解体し尽くされて
ほとんど死んでいる。けれども、ほんのちょっぴりだけ生きている。
いえ、生かされている。死ぬことを許されていない)
ドロシー「……」ぴくぴく
薔薇水晶「やはり、あなたでしたか。ロゼリオンのオリジンは……」
統括者「やめよと言っておる! まろのドロシーに触れるでない!!」
水銀燈「元々、アンタのじゃあないでしょうが!!」ゴキィッ
統括者「がふっ……! ぐ」
薔薇水晶「それに……彼女の名はドロシーでもない」
統括者「ッ?」
水銀燈「ああ、面識あるんだったわよね、薔薇水晶はそいつと。じゃあ、その子の名前は?」
薔薇水晶「私も知りません。ただ、私は彼女を中級生と呼んでいました」
水銀燈「は?」
ドロシー「……」
薔薇水晶「そして、彼女に引導を渡すのも……私ではない」すっ
水銀燈「懐から何を取り出して……ッ!? それ雪華綺晶のブサ綺晶じゃない!?」
薔薇水晶「はい。彼女から銀貨五枚で買いました」
水銀燈「『買った』て、なんでそんなものを? て言うか今日それずっと隠し持ってたの!?」
ブサ綺晶「き……」てくてく
ドロシー「……う?」ぴく
統括者「ドロシーが? 反応を?」
水銀燈「何が……始まるの?」
薔薇水晶「あのブサ綺晶のボディには
中級生の妹で、下級生と呼ばれた野薔薇が使われています」
統括者「い、妹……じゃと?」
水銀燈「……」
ドロシー「……お、あ」ひた
ブサ綺晶「ち、小姉様……。大姉様が……待ってる……」
ドロシー「……う」ぐぐぐ
ブサ綺晶「手……つないで。行こ……」ぎゅっ
ドロシー「お、おおお」ぎゅっ
ブサ綺晶「小姉様の手……あったかい……」
ドロシー「……」
ブサ綺晶「……」
統括者「ば、馬鹿な!? 死んだ!? ドロシーが!?
そんなはずは! 決して死なぬように中のメメントリオンを……」
水銀燈「やっぱり、何とか死なないように細工してたみたいね。
でも、死んだ。アンタもいい加減に、お逝きなさい!!」ゴキィッ
統括者「がふゥッ……!?」
薔薇水晶「……」
水銀燈「で、何でロゼリオンもブサ綺晶も手を握りあっただけで死んだのよ?
正直、私には何が何だか分からないんだけど」
薔薇水晶「ロゼリオンには心が無い。しかし……想いは残る。
例えその身が千々に裂かれようとも、那由他に擂り潰されようとも」
水銀燈「質問の答えになってない」
薔薇水晶「姉妹の絆……ということです水銀燈」
水銀燈「……くだらなぁい。そっちの始末も私がするんだった」
薔薇水晶「しかし、ようやくミッションコンプリートですね。
この場でロゼリオンのオリジンも処分できたとなれば
これ以上の武力介入も必要ないでしょう」
水銀燈「そうね。私も少しは溜飲が下がった」
薔薇水晶「もちろん、金糸雀達、他グループが任務成功していることが前提ですが」
水銀燈「それは心配ないでしょう。あの子らも伊達や酔狂でローゼンメイでやってない」
薔薇水晶「……信じているのですね妹達を。それが姉妹の絆というものです」
水銀燈「ち、違うわよ! あの子達も一応お父様が手がけた人形達!
こんな手合いどもに後れを取るわけが無い、そういう事なだけで! 絆ってのとは」
薔薇水晶「違いませんよ」
水銀燈「……!」
§槐のアトリエ
ラプラス「ブラァボ。胸のすくような人形活劇でしたねぇ皆さん」
ジュン「どこがだよ。メチャクチャ後味悪いじゃねーか」
巴「ええ、すっきりしないわね」
めぐ「それに、白い悪魔はまだ反乱軍を率いている」
槐「あれは雪華綺晶のただのお遊び。遠征軍を壊滅させた時点で
充分に彼女の役目は終わっている。あとは飽きるまで東果との戦争ごっこだ」
みつ「あらやだ」
ラプラス「しかし、これでnのフィールド内の勢力図は大きく変わります。
東果重工は主力である『黒襟』の大半を失い
七番めのお嬢さんの気まぐれで、さらにその地力を削がれるでしょう」
一葉「渡し守の集いも養殖場を潰されて受けたダメージは大きい。
オズ教団だってそうだ。あのおじゃる丸、
ふざけたキャラだが、教団内では相当の幹部だったはず」
ジュン「これで少しはnのフィールドも平和になるのか?」
槐「どうだろうな。彼らが弱ったったところで他の集団が下克上を起こすだけだ。
依然としてnのフィールドは混迷の極みにある。
トップ5を潰そうと狙っているのは何もトップ5同士だけじゃない」
みつ「世知辛いわねnのフィールドも」
巴「この辺りが潮時って事? 腑に落ちないけど……」
ラプラス「まあ、そう言わずに。あなた方の可愛いお人形達が
敵を全て滅ぼすまで戦い続ける姿を見るよりはいいでしょう?
そのような見世物は、ここにいる誰にとってもトリビァル」
めぐ「……確かに」
みつ「じゃ、暗い話はこれまでにして! あの子達の凱旋をお迎えしましょう!
みんな疲れてるみたいだし、これぐらいはしてあげなくちゃ!」
槐「そうだな。彼女達は今回の自分達の戦果を決して喜ばない。
せめて僕達が、その労をねぎらおう」
巴「では、のりさんとオディールさん、鳥海君にも連絡します」
ジュン「それはいいけど、雪華綺晶だけは多分しばらく帰ってこないと思うぞ」
こうして薔薇乙女電撃強襲作戦はおおむね成功、一部やりすぎという結果に終わり
nのフィールド内における『薔薇乙女強し』との評価を、さらに高めたのであった。
§第一組(水銀燈と薔薇水晶)
三集団合同報告会『茶会』を強襲、殲滅。さらに真祖ロゼリオンをも処分。
また、ロゼリオンの裏コード『ローゼン食い』への移行を未然に阻止。
§第二組(蒼星石と真紅)
メメントリオン養殖場を強襲。メメントリオン変異体一匹を除く
全ての養殖メメントリオンを記憶の海へと解放。真紅さんちょっとお疲れ気味。
§第三組(金糸雀と翠星石と雛苺)
ロゼリオン組み立て工場に保管されていた野薔薇の骸を全て風化。
ついでに組み立て工場を自爆させるも、これはややオーバーキル。
§第四組(雪華綺晶)
東果重工の野薔薇狩り遠征軍を全滅。これで当初の任務自体は終了だが
遠征軍の死体を利用し、東果重工本社に対する進軍を開始する。
反乱軍はこの後三日三晩攻め続けるも、流石に本社相手に旗色は悪く鎮圧された。
しかし、それは既に雪華綺晶が飽きて雲隠れした後であった。
薔薇乙女のうた『ロゼリオン』 終
ロゼリオン関係はこれにて一旦終了だけど
薔薇乙女の冒険はまだまだ続きます。多分。
>>278 長編ネタは「薔薇水晶が蟲師になったら」という感じのを考えてた。
一時期、蟲師ネタが多かったり、変な生物がよく出たのはその影響。
今だと薔薇水晶が庭師に転向している流れが、その時の考えに近いです。
乙
今後も期待してる
ロゼリオン関連を纏めて読み返したいんだけど
ロゼリオンシリーズで纏めページを作る予定はある?
乙でした
戦争終結。ちゃんちゃん
ヘルシングからの引用がありましたが、外伝はお読みですか?
現在発売中のアワーズに、既存分全部掲載されているらしいですけど
読んでくれてありがとう。
ロゼリオン関係については
コレをまとめる時に関連リンクを頭に持ってこようかと思います。
どこからどこまでを関連にしようかはちょっと考え中。
ヘルシング外伝は6話まで読みました。
今のところ、これで既存全てのはずですよね。
茶会現場強襲はこれをイメージしたシチュエーション。
乙ー
翠と雛が言動が普通な分逆に呪い人形感を出してたな
メイメイとかマスターとの距離と人間性の関係とか微妙にフラグっぽいものが出てきたな
『桜田ジュン、悲嘆に暮れる。』
ジュン「お兄さんは悲しい」
真紅「はひ?」
翠星石「ふ?」
雛苺「へほ?」
ジュン「昨今の現状を顧みるに、なさけないにもほどがある」
真紅「……成程、ようやく自分の不甲斐なさを見つめ直すことが出来たようねジュン」
翠星石「そうですそうです。チビ人間のなさけなさは筋金入りですぅ。
自室→保健室→病室の引きこもり無限ループじゃないですか」
雛苺「トモエもちょっと呆れてたのよ」
ジュン「……」
真紅「昨今の現状と言わず、初登場時からジュンのなさけなさはキングオブキングス」
翠星石「ヤムチャですら登場時は輝いていたというのに……」
真紅「ごきげんよう出演時には六面全てナサバナの特製サイコロ確定なのだわ」
雛苺「カイジのハンチョーもビタイチ文句言わないのよ」
ジュン「……なさけないのは僕じゃなくて、お前らの方だ」
真紅「え~? 私らのどこが情けないと言うのよ!?」
翠星石「三度の飯よりアリスゲームなローゼンメイデン様ですよ。
血で血を洗う薔薇獄乙女ですよ。この運命という名のRPGは
千尋の谷の獅子に勝るとも劣らないと自負しているですぅ」
雛苺「ガッツあふれてるの!」
ジュン「よくもまあ、そんなことが言えるな。
最近、マスターを大事にしようとか言っては日和ってるそうじゃないか」
真紅「だ、誰よ? そんなことをジュンにタレこんだのは……!?」
ジュン「金糸雀だ」
翠星石「カ、カナチビのバカは、最近ちょっと陽気が続いたんで
おかしくなっているだけですぅ!」
雛苺「モチシューマイな戯れ言なの!」
ジュン「無知蒙昧な」
ジュン「とにもかくにも真紅達は日々においてメンタル面の努力が足りない」
真紅「まさかジュンにメンタルを問われるとは思わなかったのだわ」
翠星石「精神的貴族ならぬ精神的スペランカーのくせに生意気ですぅ!」
雛苺「梅岡先生が持ってきたクラスメイトの手紙を読んじゃうのよ!」
ジュン「それはもう効きませーん」
真紅「ど、どうして?」
ジュン「いい加減に慣れた」
翠星石「なんと!? 耐性が付きやがったですか!?」
ジュン「お前ら時々、深夜に僕の寝ている耳元で囁いてただろ、それ」
真紅「く! ジュンのうなされるサマを見て一杯やるのが週末の密かな楽しみだったのに!」
雛苺「これからは何を生き甲斐にしてやっていけばいいのか分からないの……!」
ジュン「アリスゲームやれよ」
翠星石「あいたー」
ジュン「ア・リ・ス・ゲ・ェ・ム・やれよ!」
翠星石「あいたたたたー」
真紅「現行のアリスゲームでは何の解決にもならないと、何度言えば分かるのよジュン!」
ジュン「ならアリスゲームの改革を真面目に進めろ。
カンチョー勝負やったり、自転車レースをしてみたりと
ダムか高速道路の建設計画並みに迷走しまくってる」
真紅「そ、それは……多角的な視野から様々な可能性を」
ジュン「すぐそうやってお茶を濁す。いつまでもそれでいいと思ってんのか?
お前らがダラダラしている間にジョジョは次の部に進んじまってんだぞ」
真紅「時間が加速したんじゃないの?」
翠星石「……やれやれ、短い時の流れの中でしか生きられない人間の
便所のネズミのクソにも劣る発想ですぅ。翠星石達は
もっともっと長大なスパンでアリスゲームを考えているのですぅよ」
雛苺「あと二世紀ぐらいは長引いても仕方ないと考えているの」
ジュン「自分達が無機物だからって余裕ぶっこいてると
ある日、突然人類絶滅するかもしれんぞ」
真紅「まあまあ、お父様は厳しいようで寛容なのだわ。
困った時にはこっそり私達の手助けをしてくれる。
雪華綺晶にやられた時も、薔薇水晶にやられた時もそうだった。
巻かなかった世界だなんてD4Cなみの反則技よ」
翠星石「スパロボのクイックセーブよりも頼りになるお父様です」
雛苺「それに人類が全滅したら、次はイルカさんをマスターにしてアリスゲームなの」
ジュン「……よぉく分かった。お前らの、その甘えた根性を今日こそ叩き直してやる」
翠星石「ほほぉ? チビ人間のくせに随分と強気ですねぇ?」
真紅「自分の立場というものが分かってないのかしら、この下僕は」
雛苺「三対一なのよ! ジュンに何ができるの!?」
ジュン「何だってできるさ」
真紅「その傲慢さが命取りよジュン! 下僕としての心構えを再教育して……!」
ジュン「ほれ」すっ
子猫「あお~んっ」
真紅「なっ!? ね、猫!?」ズザッ
ジュン「ほ~れほれほれ」ぐりぐり
真紅「や、やめなさい! その血と糞の詰まった皮袋を近付けないで!」
ジュン「これまた、いつも以上の嫌がり方だな。こんな可愛い子猫にすら
拒否反応を示しちゃって……。これからやっていけるとでも思ってんのか?」
真紅「ね、猫は関係ないでしょう! 猫は!」
ジュン「だからメンタルを鍛えるんだよ。根性見せろ」ぐりぐり
真紅「や、やめてぇ!!」ブンッ
子猫「ニャフンッ!?」ゴキッ
真紅「あ」
ジュン「あ」
子猫「……」ぐったり
ジュン「あーあ、やっちゃった。小さな命は大切にしないとダメだろ真紅」
真紅「そ、そんな……私は……ただ」がくがくぶるぶる
雛苺「ね、ねこサン死んじゃったの!?」
翠星石「マジですか!?」
ジュン「お前ら無駄に力だけは強いんだから加減しなきゃ」
真紅「わ、私は、こんなことになるだなんて……! ちっとも……ッ!」
ジュン「今回のこれは僕が作った玩具だからよかったものの」
子猫「……にゃお」ぴょこ
真紅「え……!?」
翠星石「おも……ちゃ!?」
雛苺「よくできてるの! 口から血も垂れてるのよ!」
ジュン「まあな。これだったら康一君も完璧に騙せるだろう」
真紅「ちょ、ちょっとジュン! 悪趣味にも程があるのだわ!
そんなので、私をいじめて何が楽しいって言うの!?」
ジュン「楽しくなんかない。全てはお前らの精神の未熟さを鍛えるため。
いつだって心は強く保っていてほしいだけだ」
真紅「え?」
ジュン「なんだかんだでアリスゲームが乱戦になった時に
お前達には生き残ってもらいたいと思ってるんだよ、僕は」
真紅「!」
翠星石「ほ、本当なのですか?」
ジュン「ああ、そうだとも。だから心を鬼にしたんだ。とは言え真紅、悪かったな。
お詫びに、くんくん年末スペシャル深夜特番『笑ってはいけない予防接種』の
DVDを取り寄せておいたから、これで機嫌を直してくれ」
真紅「そ、それは!? どのショップでも品切れの幻のDVD!」
雛苺「放送時は夜遅くすぎて最後まで見られなかったの!」
翠星石「なんというアメとムチ……!」
真紅「なんだかんだ言ってジュンは良い下僕なのだわ」
雛苺「TINPOをわきまえているの!」
ジュン「IとNいらないし、このタイミングでTPOを問題にするのもおかしい」
翠星石「そ、それより早くDVDを見るです!」
真紅「分かってる! それではポチっとな」
くんくん『や、やめるんだ! けんけん』
けんけん『くんくん探偵! ぼ、僕は……! 僕は一目見た時からあなたのことが!』
くんくん『ダメだ! 僕達はオス同士なんだ! けんけん!!』
けんけん『何がダメなんです!? くんくん探偵!』
くんくん『ああ! や、やめてくれ! けんけん! 【待て】だ! 【待て】!!』
けんけん『くんくんの言葉でもそれは聞けません! 僕はもう【待て】ない!
この気持ち! まさに【ちんちん】です! 【ちんちん】ッッッ!!』
くんくん『け、けんけん……! そんなに【ちんちん】しても……僕はっ! 決して』
けんけん『そんなこと言ったって、くんくん探偵のココはもう【お手】じゃないですか……』
くんくん『ち、違う。これはっ! 生理的な……!』
けんけん『【おかわり】』
くんくん『ひゃうんっ!? け、けんけん!? き、君はどこでそんなテクをっ』
けんけん『……実は僕、雄野郎のバター犬だったんです』
くんくん『な、なんだってぇ!? ど、どうして君が、そんな……!?』
けんけん『当時は若く、お金も必要でした。そして……このことは
ずっと隠していましたけど、くんくん探偵には僕の全てをっ!
僕の汚いところも、僕の気持ちも全部知ってほしいんです!』
くんくん『わ、分かった! だが、けんけん君! 僕達は犬であっても……
決して野獣では……っ! こんな肉欲に溺れるなんてこと……!!』
けんけん『僕は! 僕はもう! 自分の中の野犬を抑えられない!
あなたの前では! 僕はただの一匹の淫らな獣! いや、狂犬です!
僕の股間の完全犯罪は! くんくん探偵にしか解明できません!!』
くんくん『くっ……! そ、そこまで言うのなら! もうどうなっても知らないよ!
君には狂犬病の予防接種が必要なようだッッ!』
けんけん『あ、ああ!? くんくんっ!? そ、それがあなたの……?』
くんくん『そうとも、これが僕の本当の【ちんちん】だ。こいつを見てどう思う?』
けんけん『すごく……アイリッシュウルフハウンドです……』
テレビ『あおおおおおっーーーーーー』ガタガタ
真紅「……」
翠星石「なんですか、これは」
雛苺「たまげたの」
真紅「……」
翠星石「真紅? 真紅……ッ!?」
真紅「……」
翠星石「し、真紅の意識が9秒前の白にぶっ飛んでるです!」
雛苺「そんなにショックだったの!?」
ジュン「だから、あれほどメンタルを強く保てと言ったのに」
翠星石「こ、これもチビ人間の仕込みですか!?」
ジュン「当然。こんなの深夜とは言え、地上波で流せるわけないだろ。
槐先生が特別に作ってくれたフェイクだ」
翠星石「また槐お手製の偽物!? なんて手の込んだ嫌がらせを!」
ジュン「ちなみに脚本担当は薔薇水晶」
雛苺「っ!?」
ジュン「さて、お次は……」
翠星石「つ、次ぃ!? まだ何かあるですか!?」
ジュン「当たり前だ。真紅だけじゃなく、二人にも
精神トレーニングメニューを用意している」
雛苺「うにゅにゅ!? ヒ、ヒナ達は簡単にはやられないの!」
翠星石「そ、そうですとも! 真紅がガラスのハートだっただけです!」
ジュン「それじゃ、雛苺から先にいこうか。ほいっ」どささっ
ブサ綺晶A「き……っ!」ぴょこ
ブサ綺晶B「……きっ!」ぴょこ
ブサ綺晶C「きききっ!」ぴょこ
雛苺「ちっちゃい雪華綺晶がイッパイなの!?」
翠星石「ど、どうしてチビ人間がブサ綺晶を!?」
ジュン「鳥海から借りた」
ブサ綺晶達『きーっ!』わらわら
雛苺「いやぁん! こっちに来ちゃイヤなのぉ!!
ヒナは食べても美味しくないのよっ!!」
ブサ綺晶達『ききっ!』わらわら
雛苺「うにゃぁあああああああああああああああああ……っ」
翠星石「チ、チビ苺ーーーっ!? バイオの初心者プレイヤーが
ゾンビの群れにやられてるみたいな絵面になっているですぅ!」
ジュン「ブサ綺晶は甘噛みだから安心しろ。とは言え、雛苺の体感的には
セルジュニアになぶられているヤムチャみたいなものだろう」
ブサ綺晶達『きーっ!』がじがじ
雛苺「ぁーおっ……」がくっ
翠星石「断末魔までバイオっぽかったですぅ……」
ジュン「他愛も無い。じゃ、最後は翠星石な」
翠星石「くっ! 翠星石は先の二人程、軟弱じゃねーですよ!」
ジュン「それは僕も分かってる。何だかんだ言ってお前の芯はしっかりしてる。
自分自身に与えられる苦痛には割と強い」
翠星石「へ? な、なんですか!? 急におだてたって何も出ねーですよ!」
ジュン「だが、これはどうかな?」ポチッ
翠星石「!? テレビの映像が……! くんくん探偵のガチホモから
どこかの……ライブ映像? こ、これはおじじの薔薇屋敷の中の……!?」
ジュン「そう、座敷牢だ。特別にレンピカの働きにより
向こうの様子がリアルタイムで実況されている」
翠星石「ま、まさか! 蒼星石に危害を!?」
蒼星石「や、やめてください! マスター! どうして僕にこんな折檻を!?
縄を! 縄をほどいてください!!」
一葉「すまん。だが私も蒼星石には、より一層、精神的に強くなってほしい!
そのために心を鬼にして桜田君の提案に賛同した!」
蒼星石「な、何が始まるんです!?」
一葉「悪いとは思ったが、君の部屋からこれを失敬させてもらった」
蒼星石「それは!?」
一葉「ああ、『蒼ちゃん秘密のスイーツポエム帳』だ」
蒼星石「どうしてマスターが!? そのノートの存在を!?」
一葉「ばれていないとでも思っていたのか? 毎晩、こっそりとここに
乙女チックな詩をしたためるのが蒼星石の密かな楽しみだろう?」
蒼星石「!? まさか……っ」
一葉「そうとも、今からこれを音読する。
あと、ついでにブログを作ってネット上にも公開する」
蒼星石「恥ずかしいから、やめてーーーーーーーーーーーっ!!」ジタバタ
一葉「やめぬよ」
翠星石「あああっ!? い、今すぐに止めさせるですチビ人間!
個人がこっそり書いている恥ずかしポエムを音読するなんて!」
ジュン「ふふふ、やはり双子の妹がいじられるとお前も苦しむようだな」
翠星石「やめろ! やめろです! このクソオジジ!!」ガタガタ
ジュン「こっちから呼びかけてもテレビ画面の向こうには届かんよ」
一葉「コホン……では、ます小手調べに……」
追いかけて つまづいて もがき あがく
暴れる程にミルクは甘く粘つき まとわりつく
ぐるぐるとミルクを混ぜてクリームの出来上がり
クリームの海に溺れて見る夢は きっととても甘いのだろうね
蒼星石「ぐあああああああああっ」ガクガク
翠星石「ぎゃあああああああああっ! イボがっ!? サブイボがあああ!」
ジュン「効果は抜群だな」
一葉「まだまだ」
『1・2の3で できますからね』
水銀燈はできます
アリスはできません
金糸雀はできました
アリスはできません
翠星石は きれいにできました
ただし 僕までできました
真紅に雛苺と雪華綺晶までできました
アリスだけできません
蒼星石「やめてぇ~~っ! 後生だから堪忍してぇ~~~」びくびく
翠星石「そ、蒼星石ぃ」ガクガクブルブル
ジュン「内容が重たすぎだろ」
一葉「もういっちょ」
くしゃみしても一人
蒼星石「ぐはぁっ……」ガクン
一葉「……?」
翠星石「……?」
ジュン「? (内容が意味不明すぎて蒼星石本人にしか効かなかったようだな)」
一葉「では、ダメ押しに、もうひとつ……」パラパラ
マスターいつもありがとう
これからもずっと元気でいてね
一葉「ッッ!?」
蒼星石「……!」
一葉「そ、蒼星石……。こ、こんな秘密のノートでまで私のことを案じて……」ぷるぷる
蒼星石「だ、だから恥ずかしいって……」もじもじ
一葉「す、すまなかった! わ、私が……こんな! い、今すぐ縄をほどく!
本当にすまない! 桜田君の言うことに私が耳を貸さなければ……!」
蒼星石「いいんですマスター。僕のためを思って、してくれたことですし……」
一葉「そ、蒼星石ィィィィッ!」がしっ
蒼星石「マスタァァーーー!」だきっ
テレビ『蒼星石ィィィ』『マスタァァァー』
ジュン「なんだ……この茶番は」
翠星石「別な意味で見るに堪えんですぅ」
翠星石「し、しかし! それにしてもチビ人間!
よくも翠星石の可愛い妹達をいじめてくれたですね!」
ジュン「いじめじゃない! トレーニングだ!」
翠星石「いじめっ子はみんなそう言うですよ! 見ろです!
チビ苺なんてブサ綺晶と一緒にゾンビみたいになってるです」
ジュン「なにぃ!?」
ブサ綺晶達『き、きき~っ!』ウロウロ
雛苺「おお~あんまぁ~~~」ウロウロ
翠星石「真紅に到っては通りすがりの雪華綺晶にボディを奪われてしまってるです!」
真紅(雪華)「ぃやっほー」
ジュン「なんと!?」
翠星石「それもこれも、復学した程度で調子こいたチビ人間のお節介のせいです!
真紅もチビ苺も再起不能! みんなのうらみは、この翠星石が……っ!
覚悟はいいですねチビ人間!」
ジュン「くっ!? 実力行使か! だが……!」
翠星石「とおりゃああああああ!! 如雨露殺法奥義! 天空三日月斬りゃぁぁぁ!!」ダッ
ジュン「なんのそのこれしき! 白羽取り!!」ガッ
翠星石「う!? 太刀筋を見切られたですか!?」ググッ
ジュン「僕をナめて大上段に構えすぎなんだよ」グググッ
翠星石「ええい! ならば! これだけは使いたくなかった最後の手段ですぅ!」
ジュン「ッ!?」
翠星石「エナジードレイン!!」きゅいいいい
ジュン「ぐっ!? しま……!? 指輪から力が吸われ……」
翠星石「がーはっはっはっはっは! バカめが! ですぅ!
チビ人間の生命力をいつもより遥かに多めに貰っているです!!」
ジュン「くっ……」がくがく
翠星石「ふふふ、如何に復帰し健康的な生活に戻って回復した体力とは言え
続くかァ~? 続くかァ~? チビ人間、続・くゥ・です・かァー!? 」
ジュン「ぐはっ」バタン
翠星石「ふっ……! 所詮、チビ人間は何をやってもチビ人間です!
チビ苺! 真紅! 仇は取ってやったですよ!!」
雛苺「……」
翠星石「チビチビ?」
雛苺「……」ばたん
翠星石「ど、どうしたです!? チビ苺!? ゼンマイが切れたですか?」
真紅(雪華)「エネルギー切れですわ、翠のお姉様」
翠星石「へ?」
真紅(雪華)「マスターの生命力を翠のお姉様が吸いつくしたのですから
それを共有している真紅と雛苺にエネルギー供給が途絶えるのは当然。
かく言う私も、真紅のエネルギーが尽きたのでボディは置いて帰ります」
翠星石「な!?」
雪華綺晶「よいしょ」ずるっ
真紅「……」ばたん
翠星石「ななな……ッ!?」
雪華綺晶「では、ごきげんよう」そそくさ
ブサ綺晶達『きききーっ』←いっしょに帰った
ジュン「……」ぐったり
雛苺「……」ぐったり
真紅「……」ぐったり
翠星石「むむむ……。ま、まあどうせ、しばらくしたら
チビ人間も起きるですし……。そうすりゃ、真紅達も復活です。
何も慌てふためくこたぁ無いです。ここは落ち着いて……落ち着いて……」
翠星石「おじじの家に行って、蒼星石と一緒に
この『笑ってはいけない予防接種(偽)』を鑑賞するでぇーす!」たたたっ
桜田ジュン、悲嘆に暮れる。 『完』
『水銀燈と竜の骸に湧く蝿』
翠星石「ふぁ~あ! 今日も今日とてスンゲー暇ですぅ……。
真紅とチビ人間はいつものように釣りデートですし、のりは死合(試合)。
チビ苺も相変わらず、くんくん探偵へのお手紙に夢中……」
雛苺「ふんふふふ~ん♪ ぐ~るぐる塗り塗りするの、ぐ~るぐる~」
翠星石「やいチビ苺。聞くだけ無駄だとは思うですが
いっちょ、この緑のお姉さんとキャッチボールでもしないですか?」
雛苺「むぅ~? 翠星石は変化球の練習ばっかりして
真っ直ぐ投げてくれないからイヤなのよ」
翠星石「ちぇ~。しかし、毎度毎度くんくん探偵に同じ手紙ばかり書いて楽しいのですか?」
雛苺「同じじゃないの! それに、この間送ったお手紙は
くんくん探偵に読んでもらって、上手に書けていますねって褒められたのよ!」
翠星石「あぁ、番組のエンディングロールのお手紙紹介コーナーでですね」
雛苺「くんくん探偵からの年賀状も今年は届いたの!
だからヒナ、今日はそれのお礼の年賀状を書いてるの!!」
翠星石「へいへい……。けど、もう年賀状はダメですよ。寒中見舞いにしなくては」
雛苺「カンチョー見舞い?」
翠星石「レトロなボケをかますなです」
翠星石「ったく、しょーがねーですね。また蒼星石のところにでも遊びに……」のそのそ
雛苺「たまには金糸雀や薔薇水晶のお家へ行ったらどうなのよ?」
翠星石「アホのカナチビや、クソマジメの薔薇水晶はどちらも翠星石と話が合わないです」
雛苺「じゃあ、水銀燈とか……?」
翠星石「水銀燈や雪華綺晶のところへだなんて
ゴキブリがゴキブリホイホイに遊びに行くようなものです。狂気の沙汰ですよ」
雛苺「うにゅ……」
翠星石「というわけで翠星石は行くです。留守は頼むですよチビチビ」
雛苺「蒼星石によろしくなの」
§結菱邸(薔薇屋敷)
少年「お願いします! 蒼星石さん! 僕と付き合ってください!」
蒼星石「ちょ、ちょっと!? 困ります、そんなこと! ともかく頭を上げて……!」
一葉「そ、蒼星石もこう言ってることだしな、君……」
少年「いえ! 蒼星石さんが首を縦に振ってくれるまで上げません!」
蒼星石「……」
少年「どうか! どうか、このとーりっ!!」
翠星石「おーおー。朝っぱらから土下座たぁ、随分と男らしいじゃねぇですか、トキ」
少年(トキ)「す、翠星石さん! どうしてここに!?」
蒼星石「翠星石?」
一葉「遊びに来たのか?」
翠星石「そうですけど……、nのフィールドの庭師連盟の使いっぱしりで
いつもいつも蒼星石を一休さんか何かと勘違いして
無理難題をふっかけてくるクソボーズが来てるとは思わなかったですぅ」
トキ「……」
翠星石「で、今日は何です? 屏風の虎でも捕まえろと言うのですか?」
トキ「実は」
蒼星石「僕に付きあってもらいたいらしい」
翠星石「ななな、なんですと!?」
翠星石「身の程知らずにもほどがあるですよ! お前ごときチンチクリンが蒼星石と
ちちくりあおうなど一億光年早いです! カナチビあたりで妥協しろですぅ!」
トキ「え? あ、いや」
蒼星石「……ゴメン翠星石。説明が浅かった。そういうことじゃなくて」
一葉「このトキ君が庭師の仕事に行くんだが、それに付きあってほしいとのことだ」
翠星石「……っ!?」
トキ「そ、そうです。翠星石さんの勘違いですよ」
§草笛宅
金糸雀「どへっくしょいーーん!」
みつ「あら、カナ? 風邪?」
翠星石「か、勘違いとかしてねーですよ! 先ずは仕事を共有しながら
お互いの心の距離を縮める作戦です! そうに違いないです!!」
蒼星石「落ち着いて翠星石。それに今回ばかりは僕も頑として断るつもりだ」
トキ「な、なぜです!?」
蒼星石「今回の君の庭仕事は、世界樹の根につく害虫の駆除。
簡単な仕事ではないが、君一人で充分できることだ。
わざわざ僕まで出張る必要はどこにもない」
トキ「そんな……!? ど、どうしてもですか!?」
蒼星石「どうしてもだ」
トキ「……う」
一葉「君とて一人前の庭師が目標なのだろう? 他人をあてにしてはいかんよ」
トキ「……分かりました。失礼……します」
蒼星石「大丈夫。君ならできる。世界樹の加護があらんことを」
トキ「ありがとう……ございます」トボトボ
翠星石「ぷーっ! クスクス……。見たですかあのクソボーズの顔!
蒼星石にフられて今にも泣きだしそうだったですぅ! いい気味ですよ」
一葉「気の毒だが仕方あるまい」
蒼星石「彼も力のある庭師なんだけどね……、今一つメンタル面が」
一葉「蒼星石に断られたショックが、後を引かねば良いが」
蒼星石「……ありえるかも」
翠星石「マジですか!?」
蒼星石「トキ君は、僕のことをまるで英雄のように思っている。
嬉しいけど、いつだって傍で支えてあげられるわけじゃあない」
翠星石「そりゃそうですよ。一心同体でもない限り
仮に親兄弟であっても他人です。それぞれにはそれぞれの道があるです」
一葉「……耳が痛いな」
蒼星石「僕もです」
翠星石「おろ? 何か変なこと言ったですか翠星石は?」
蒼星石「いや、何も。正し過ぎて少し眩暈がしただけだ。
だが、そう考え直すと……彼も僕の写し鏡かもしれない」
翠星石「はぁ~? あのクソボーズに蒼星石と似ているところなんて
1ミクロンも無ぇはず……ですよ」
蒼星石「……」
翠星石「ちょ、ちょっと蒼星石!? やっぱり手伝いに行こうとか思ってねーですよね!?」
蒼星石「ん、いや」
翠星石「あのクソボーズのヘルプだなんて
くだらないことを蒼星石はしてはいけないです」
蒼星石「くだらなくはないと思うけど」
翠星石「だ、だったら! この翠星石だけでクソボーズを助けてやるですよ!
蒼星石が手を煩わせるだなんてトンでもないです……!」
一葉「す、翠星石?」
翠星石「蒼星石はいつも無欲すぎるですから。つけあがられるんです!
今回は翠星石が、トキに地球よりも重い貸しを作ってやるでぇ~す」たたたっ
蒼星石「ま、待って! 翠星石!!」
翠星石「待たないでぇ~す」とててて
一葉「……なんてことだ。まさか、こういう展開になってしまうとは」
蒼星石「なんだかんだで困っている人を放ってはおけない姉ですし……」
一葉「しかし、これで良かったのかね?」
女性(ナナキ)「……はい」こそっ
蒼星石「すいませんナナキさん。トキ君一人だけで行かせるはずが」
ナナキ「まあ、いいってことよ蒼星石。カズ兄ぃのお達しも
『蒼星石に協力させるな』だったし、翠星石ちゃんなら問題ない」
一葉「しかしまあ、どうしてこんな?」
ナナキ「トキのメンタル修行のためなんです、結菱さん。蒼星石も言ったとおり、あの子
実力はあるんですが、私達兄弟の末っ子なせいか甘え癖がありまして……」
一葉「確かに、土下座しながら男らしく豪快に甘えていたが」
蒼星石「僕らの末っ子もそれぐらいストレートに甘えてくれればいいんだけど」
ナナキ「え?」
蒼星石「いえ、何でもないです」
ナナキ「それで、トキのことだから蒼星石に助けてもらうんじゃないかと睨んで
ここに先回りしたってわけです」
一葉「なるほど」
ナナキ「それじゃ、どうもありがとうございました。
要件だけで申しわけありませんでしたが、私はこれで」
蒼星石「……追うんですか?」
ナナキ「まあね。トキがやり遂げるところを陰から見守ってあげなくちゃ。
もちろん、手を出すつもりは毛頭ないけど」
蒼星石「僕も行きます。翠星石が心配ですし」
ナナキ「……お互い頼りない年若を抱えると苦労するわね」
蒼星石「翠星石は姉ですけど」
ナナキ「え!? うそ? 蒼星石のお姉ちゃんなの!? アレで!?」
一葉「私も時々間違える」
ナナキ「あらやだ……、意外だわぁ。人って見かけによらないのね」
蒼星石「もう一つ上はさらにアレですけどね。ともかく、僕も行ってきますマスター」
一葉「ああ、気をつけてな。ナナキさんも。
ええと、『世界樹の加護があるように』。これで挨拶はあっているかな」
ナナキ「はい。ありがとうございます結菱さん」
§草笛宅
金糸雀「ごでぃばっ」
みつ「やだ、カナ。お薬飲んだ方がいいんじゃない?」
§nのフィールド
トキ「……」
翠星石「へいへーいっ? 何をそんなに暗い顔をしているですか!?
可愛い可愛い翠星石ちゃんが、お手伝いしてやるというのですよ!?
社会人だったら金をとるシチュエーションですぅ」
トキ「……はぁ」
翠星石「おいおいブラザー。そんなおもいっくそ、力の入った溜息つくなです。
幸せが逃げていくですよ、幸せが」
トキ「どうして翠星石さんが私のお手伝いをしてくれるのです?」
翠星石「んー、まあアレです。翠星石の御慈悲ですよ。蒼星石にフられたからって
失意のうちに命まで失われたら、蒼星石の夢見が悪くなるです。
せいぜい恩に着るがいいですよ」
トキ「気持ちだけはありがたく思いますが」
翠星石「お前、わりとズケズケとものを言うですね。これだから末っ子は」
トキ「……ゴルベーザ蝿という毒虫を知っていますか?」
翠星石「は? ブルドーザー?」
トキ「……」
翠星石「お前今『コイツ、マジで使えねー』とか思ったですよね?」ギリギリ
トキ「お、思ってません! 思ってませんから首を絞めないで……ッッ」
翠星石「なら、いいですぅ。で、そのゴールドサザエってのは何です?」
トキ「ゴルベーザ蝿です。竜が死んだ時、その骸から発生することがある蝿です」
翠星石「ふむふむ。竜ですか」
トキ「盟主が世界樹の根を齧っていた黒竜をやむを得ず退治したのですが
そこからゴルベーザ蝿の蛆が湧いてしまったそうです。
これが蝿になってしまう前に、処分するのが今回の私の務めです」
翠星石「盟主って、確かお前ら庭師兄弟の長兄のカズキとかいう優男でしたよね。
庭師連盟の盟主も兼ねている癖に、竜の死骸を放置とはツメの甘いヤローですぅ」
ナナキ「……わざとなんだけどね」こそっ
蒼星石「わざと? どうして?」こそそっ
ナナキ「トキの通過儀礼のためでもあり、彼に庭師道具を渡すためでもある」
蒼星石「?」
ナナキ「黒竜の件についてはどうしようもなかった。
世界樹の根からアストラルを吸い過ぎて暴走一歩手前だったし
カズ兄ぃも断腸の思いで、その命を絶った」
蒼星石「……」
ナナキ「その時にね、カズ兄ぃの『庭師の剣』が
黒竜の肉から抜けなくなった。死後硬直か何かでね」
蒼星石「庭師の剣が……!」
ナナキ「ローゼンメイデンの庭師の鋏や如雨露の見様見真似とは言え
個人専用の庭師道具を持つことは一級の庭師の証明でもあり、誇りでもある。
中には『庭師のトンファー』とか庭師とカンケーないだろ的な武器もあるけど」
蒼星石「ま、それはしょうがないと思います。剣だってギリギリアウトですし」
ナナキ「で、カズ兄ぃは庭師の剣を無理に回収しなかったどころか
ゴルベーザ蝿の発生をも見越した上で、死骸もそのまま放置した」
蒼星石「トキ君に華を持たせるために?」
ナナキ「まあね。今回の仕事が上手くいったなら
トキは『庭師の剣』を自分のものにしていいことになっている。
竜の骸から手に入れた剣なんて、ドラクエみたいで男の子は大好きでしょ?」
蒼星石「少し、お膳立てが過ぎやしませんか? 口はばったいですが」
ナナキ「やっぱり? どうしても末っ子には甘くなっちゃうのよね、私もカズ兄ぃも」
翠星石「……て言うか、ウジ虫を潰すだけの仕事で
蒼星石に助けてもらおうと思っていたのですか?」テクテク
トキ「いえ、なんというか嫌な予感がしまして」テクテク
翠星石「嫌な予感~~?」
トキ「こう見えて私、霊感があるんですよ」
翠星石「そう言う奴に限って霊感は無いです。
で、その竜の死体とやらへは、いつになったら着くですぅ?」
トキ「まだまだ、かかります。何しろ世界樹は巨大で、その根は長い」
翠星石「……」
トキ「なんでしたら、ここで帰られても構いませんよ」
翠星石「あのですねぇ、翠星石は一度やると言いだしたことは
何が何でもトコトン最後までやる人形ですぅ」
トキ「……ありがとうございます」
ナナキ「諸般の事情で、カズ兄ぃからは正式に蒼星石達へのお礼ができない。
だから、こんな……もののついでみたいな形で私が伝えることになっちゃうけど」
蒼星石「いえ、分かっています。庭師連盟が僕達の裏にいたとでも思われたら」
ナナキ「ええ。ロゼリオン以上に強固な絆をあの三集団に与えかねない。怨みという絆を」
蒼星石「……勝手をしてしまいましたか?」
ナナキ「全然! ただ、カズ兄ぃがかなり驚いていたけどね。
この間、ロゼリオン計画のことを話したばかりだというのに
あなた達がもうそれをギッタギタに潰したってんだから」
蒼星石「あの時は……みんな少し感情的になりましたから」
ナナキ「いいじゃない。ここはnのフィールド、意思と感情の世界。
そして人間は感情の動物。あなた達は人形だけど、
だから感情を抑えなくてはいけないなんて道理はどこにも無い」
蒼星石「……nのフィールド内も少しは平和になりましたか?」
ナナキ「うーん、ぼちぼちってとこかしら」
蒼星石「……」
ナナキ「確かに。私達庭師連盟はnのフィールド内の集団間での力が相対的には増した。
東果重工なんて、いくつかの部門や子会社が買収されたみたいだし。
ただ、うちも一枚岩じゃないからねぇ」
蒼星石「?」
ナナキ「今日だって本当はカズ兄ぃが自分でトキを見守るつもりだったけど
良からぬ連中に睨みを利かせるために本部を離れられないのよ。
オズ教団や東果重工といった眼前の強敵が弱まったら、
あいつらときたら急に連盟内での歩調を乱し始めた」
蒼星石「そう……だったのですか」
ナナキ「あ! 蒼星石が気にすることなんか無いってば。
基本的には時代の流れってやつだし、そんなことまで気にしてたら
何も行動なんかできなくなっちゃうわよ」
蒼星石「……」
ナナキ「カズ兄ぃも本当に感謝してたんだから。
ロゼリオン計画が実行されていたら、庭師連盟も内輪揉めどころじゃ済まない」
ナナキ「……それと、この際だからもう一つ言いにくいことを言っちゃうけど、いい?」
蒼星石「? はい?」
ナナキ「野薔薇が強くなっている」
蒼星石「ッ!?」
ナナキ「正確に言うと、ロゼリオン計画の野薔薇狩りを生き延びた強者が動き出した。
彼女達は頭も良い。他の野薔薇に紛れて、目立たぬように暮らしていた。
けれども今回の件で、隠れ蓑が剥がれてしまった」
蒼星石「そんな……」
ナナキ「庭師連盟にも野薔薇討伐の依頼はたま~に来るんだけど
最近は急に野薔薇が手強くなっていて逃げられてばかり」
蒼星石「!」
ナナキ「下草を払えば、残った花は美しく咲く。
オズ教団達は意図せず、庭仕事をやってしまったというわけ」
蒼星石「まだ……、野薔薇が」
ナナキ「先も言ったけど、強く賢い野薔薇ほど隠れるのもうまい。
そしてローゼンメイデンを恐れてもいる。
そういう野薔薇があなた達の前に出てくるとしたら、まさに『窮鼠猫を噛む』よ」
蒼星石「忠告、感謝します。ナナキさん」
ナナキ「どういたしまして。ロゼリオン崩しのお礼代わりよ」
翠星石「ほほぉ~。ウジ虫を全部退治して竜に刺さった剣を回収したら
それが自分のものになるのですかぁ~! ウハウハですね、トキ」テクテク
トキ「はい。盟主が愛用していた剣、それを頂けるなんて光栄です」テクテク
翠星石「取らぬ狸の皮算用はダメですよ」
トキ「皮算用ではありません。意気込みです」
翠星石「へいへい……、と? ん? 何か変な匂いが……」くんくん
トキ「うッ!? この匂いは!?」
翠星石「……肉の焼ける匂い? あっちから?」
トキ「あっちは……竜の死骸がある方向のはず! まさかっ!?」ダッ
翠星石「あっ! コラ! 翠星石を置いていくなですぅ」ダダッ
蒼星石「ナナキさん!?」こそっ
ナナキ「分からない! こんな事態は……私にも知らされていない」こそそっ
蒼星石「僕達も行きましょう!!」
ナナキ「ええ!」
トキ「ああっ!? やっぱりだ! 竜の死体が……燃えている!?」
翠星石「だ、誰が!? こんな事を! 世界樹には飛び火していないようですが……」
トキ「ッッ!? 翠星石さん、あそこ! 竜の頭蓋骨の上に!」
翠星石「人影!? 何者ですぅ!!」
蒼星石「竜の上に人が!? いや、この感じ……まさか!?」こそそっ
ナナキ「人間じゃない? なんて悪い事態なの!? ひょっとして野薔薇!?」こそっ
蒼星石「違いますナナキさん! 野薔薇でも無い! もっと最悪の事態です」
ナナキ「野薔薇じゃない!? じゃあ……?」
蒼星石「……黒薔薇です!」
水銀燈「……」
翠星石「す、水銀燈!? お前、こんなところで何やってるですか!?」
トキ(水銀燈と言えば、確か蒼星石さんや翠星石さん達の……)
水銀燈「それは私の台詞よ。アンタこそ、そんな貧相なお供を連れて何の真似ぇ?
あ、ひょっとしてデート? あのメガネのボーヤから乗り換えたってわけね」
トキ「ち、違います! 私はトキ! 庭師連盟の庭師で……」
水銀燈「そっちには聞いてない。ちょっと黙ってなさい」ギンッ
トキ「……う!? くっ、か……(何だ!? 見つめられただけで……?)」ぐぎぎ
翠星石「金縛り!? やりすぎですよ水銀燈」
水銀燈「どこが? 私にとっては初対面の得体の知れない存在。
ちょっとぐらい臆病な真似をしても許される」
翠星石「お、臆病て……! 竜の死体を盛大にファイヤーさせておいて何を言うですか!?」
水銀燈「ああ、これ? 何か気色の悪いウジがたかっていて醜かったから。
もうすぐ腐肉も毒虫も炎で洗われて、綺麗な白骨になるわよ」
蒼星石「まずい! 何だか分からないけど水銀燈の虫の居所が悪い!」だっ
ナナキ「待って! もう少し様子を見ましょう蒼星石! 私達が出るのは……まだ」ぐいっ
蒼星石「ナナキさん?」
ナナキ「お願い……!」
蒼星石「……分かりました」
翠星石「そ、そもそも水銀燈がどうしてこんな所に!」
水銀燈「別にぃ。ただの宝探しよ」すらっ
翠星石「それは……」
トキ「に、庭師の剣!」ぐぐ
水銀燈「まだ喋れる? 縛りが弱かったか?」
トキ「それは私どもの大切な剣……! 返して……ください!!」
水銀燈「なに寝ボケたこと言ってんのよ。これはここに捨てられていた。
だったら、拾った人の物でしょうが」
翠星石「ち、違うです! それは……! そ、そうですっ!
ドラゴンさんに預けていただけです! それをトキは受け取りに来たのです!」
水銀燈「……」
トキ「水銀燈さん! あなたのことは……聞いて……います!
翠星石さんや蒼星石さん達と同じく……誇り高い薔薇乙女の長姉!」
水銀燈「……」
トキ「かのロゼリオン崩しの功績……我ら庭師連盟も陰ながら感謝しています!
英雄ですよ……! 何故、そのような……無体な真似をなさります!?」
蒼星石「いけない!」
ナナキ「?」
蒼星石「ああいう言い方は水銀燈の逆鱗に触れてしまう!」
水銀燈「トキとか言ったわね」スタスタ
トキ「は、はい!」
水銀燈「ふん」ガシッ
トキ「う!?」
翠星石「こ、こら! トキを離すですよ」だだっ
水銀燈「メイメイ、翠星石を止めなさい」
メイメイ「……ッ!」ひゅっ
翠星石「メイメイ?」
メイメイ「!」バチィッ
翠星石「ぐあああ!? な、なんですかコレ!? バリヤー? 閉じ込められたです!?」
蒼星石「ッ!」ぐっ
ナナキ「待って! まだよ! 蒼星石!」
水銀燈「私が……アンタらから感謝?」ぎりぎり
トキ「は、はいっ……!」
水銀燈「この水銀燈が他人から感謝されたりチヤホヤされるために
戦っているとでも思っているの!?」
トキ「う……!?」
翠星石「す、水銀燈っ!」
水銀燈「私が戦うのは自分のため……。そう、自分のためよ。
それを勝手に、英雄だ何だのと囃し立てて、自分達は何様!?」
トキ「そ、そんなつもりは……!」
翠星石「落ち着けです水銀燈! そのクソボーズがちょっと大袈裟なだけですよ!」
水銀燈「……ちっ」
トキ「ぶ、無礼を……お許しください!
しかし……何としても! その剣だけは、お返しを……」
水銀燈「まだ言うか」グリ
トキ「く!?」
翠星石「水銀燈!」
水銀燈「……分かったわよ。このまま盗人呼ばわりされ続けるのも癪だし、返してあげる」
翠星石「へ? ず、随分と急に素直に……」
トキ「ほ、本当ですか? ありがとう……ございます!」
水銀燈「ただし、返し方はこの竜の……流儀にのっとる」
トキ「?」
388 :
創る名無しに見る名無し:2012/01/13(金) 21:22:11.94 ID:G9zfU5MV
翠星石「どういう意味ですぅ?」
水銀燈「……アンタ、さっきこの剣はドラゴンさんに預かっててもらったと言ったでしょ」
翠星石「え? あ、ああ……! そ、そうです! そうですとも!」
水銀燈「ドラゴンさんは、どこでこの剣を預かっていたと思う?」チャキッ
翠星石「どこ……て?」
水銀燈「心臓よ。故に私も今からこの剣を、小僧の心臓に預ける」
トキ「!?」
翠星石「ななな、なんですとーーーっ!?」
水銀燈「さあ、どうする? 嫌ならやめてもいいのよ?」
トキ「……!」
水銀燈「さあっ!?」
トキ「翠星石さん……!」
翠星石「?」
トキ「盟主に……剣を届けてください。お願いします」
翠星石「ッ!? 早まるなですトキ!?」
水銀燈「へぇ……、いいのね?」
トキ「その剣は我ら庭師連盟の長が業物! 敬愛する兄の魂!
私の心臓が……ッ! その鞘となるなら本望!!」
水銀燈「私の金縛りにあいながら、そこまで吼えられたなら上等よ。
せめて苦しまないようにしてあげるわ」
翠星石「や、やめろです! 水銀燈ーーーーっ!」
ドズンッ
トキ「あ……れ……? 刺さって……ない!?」
翠星石「剣は……地面に落ちて? 水銀燈……っ?」
水銀燈「小僧の心臓が固くて弾かれた」
トキ「え? そんなバカな!?」
翠星石「水銀燈!」
水銀燈「ふん。ひょろいガキの心臓も切れない剣なんていらないわよ」くるっ
トキ「……!」
水銀燈「行くわよ、メイメイ」
メイメイ「……」ばひゅっ
翠星石「ちょ、ちょっと待てです水銀燈!! どうして……っ!?」
水銀燈「待たない」バササッ
ナナキ「よ、良かったぁ~。ギリギリまで出ていかなくて」
蒼星石「はい。下手に出ていたら余計に話がこじれるところでした。
けど、どうしてナナキさんは水銀燈が剣を止めると?」
ナナキ「勘だけどね。あの子、私にはそんなに悪い子に見えなかった」
ナナキ「……ゴルベーザ蝿は、毒虫だなんて言われているけど
その実態は竜の腐肉の毒を食べて薄めているのよ。
ゴルベーザ蝿がいなければ、竜の骸は激しく地を汚す。
さらにひどい時はドラゴンゾンビになることすらある」
蒼星石「え? ええ、そうですね」
ナナキ「それを考えれば、蝿になったあとで少し毒をリバースする程度は大したことない。
頃合いを見て、蛆や蛹を潰すのが最良ってのには変わりないけど」
蒼星石「……」
ナナキ「水銀燈ちゃんも他人から悪いように見られてるだけで、
自分からも悪いように見せているだけで……なんてね。
蝿なんかに例えちゃ、あの子は怒るかもだけど」
蒼星石「……ナナキさん」
ナナキ「なんにせよ、トキにとっては良い通過儀礼になった。予定とはだいぶ違ったけど」
翠星石「ったく! 水銀燈のヤローも毎回毎回、芝居がかったことが好きな人形ですぅ。
クソボウズの心臓を貫く真似までして……。まったく……」
トキ「いえ、真似ではありません。あの人は確かに貫きました」
翠星石「は?」
トキ「私のハートを」
翠星石「はあああああああああああああああああああああ!?」
トキ「水銀燈さん。また会えるのでしょうか……」
翠星石「え、ちょ……っ! おまっ!! トキ!? トキィィィ!?」
水銀燈と竜の骸に湧く蝿 『終』
遅くなったけど投下乙
ロゼリオンの一件は解決したもののnのフィールド内の勢力争いは悪化してるなw
これからも作者氏のローゼンSS期待してますよー
ありがとです
頑張って期待に応えます
薔薇乙女のうた『ワルツィング・キャット』
真紅「ねぇジュン?」
ジュン「ん?」
真紅「さかなくんJr.のこと……覚えている?」
ジュン「忘れるわけないだろう。真紅が双子の庭師に対抗して
『夢の漁師』になるとかイカれた事を言いだして、記憶の海に行って
魚を釣らずに沈没船を釣り上げたら、一緒にくっついてきたタンノ君もどきだろ」
真紅「懇切丁寧な説明ありがとう」
ジュン「で、そのさかなくんJr.がどうした? もう寿命で死んじゃったから
魚肉に解体して船内の冷蔵庫で眠ってもらっているはずだろ?」
真紅「さかなくんJr.は結構な巨体だったから魚肉が多い。刺身や唐揚げも飽きたから
その一部でカツオブシならぬジュニアブシを作っているのよ」
ジュン「へぇ。さかなくんJr.って一応マグロの仲間だったし
上品な味のブシになりそうだな。出来上がったら僕にも食べさせてくれよ」
真紅「勿論。でも今、ちょっと問題が……」
ジュン「問題?」
真紅「ジュニアブシ製造工程は順調に進み、今は天日干しの作業に入っている」
ジュン「天日干し……?」
真紅「nのフィールドは日照量低いから、この家の庭で天日干しを始めたの。
それで今、出来具合を確認しようと思って見に行ったら……」
ジュン「何か嫌な予感」
真紅「……ネ、ネコがスゴイ沢山たかっているの。ジュニアブシ自体は
網かごの中に入れてあるから、食べられてはいないけど
このままじゃ、それも時間の問題。プリーズヘルプミー、ジュン」
ジュン「しょうがないな、まったく。後先考えないんだから。
庭先に魚を放置したらネコが寄ってくるぐらい容易に想像できるだろ」
真紅「昨今のネコはキャットフード漬けだから
リアルフィッシュには目もくれないと思っていたのだわ。
網カゴも虫除け目的だから、強度がいまひとつ」
ジュン「はいはい。とにかく、事情は分かった。ネコを追い払えばいいんだな」
真紅「ええ、お願い」
ジュン「よし、それじゃ庭に行くぞ」
ネコA「にゃお~! にゃおおお~~~っっ!」ガリガリ
ネコB「にゃお~ん!!」ガシャガシャ
その他ネコ×30『なぁ~ごっ』ワラワラ
ジュン「ッッ!? おい!? どーゆーことだ!! 30匹以上いるじゃねーか!?」ずささ
真紅「でしょ? そろそろ本当にカゴの耐久力が危ない」
ジュン「『でしょ?』じゃねーよ! しかも全匹がカゴの中のジュニアブシ狙って
目が血走ってるし! あんなの僕一人で相手できるか!!」
真紅「そんな!? いつもローゼンメイデン三体を相手にしているあなたなら
ネコ30匹でも何とかなると思って頼んだのに!!」
ジュン「ならないならない!」
真紅「バキで三つ同時に相手に出来れば、30も1000も同じだって言ってたのだわ!」
ジュン「日本刀を持って、人はようやく猫と対等だとも言ってたはずだが」
真紅「じゃ、じゃあ、蒼星石から庭師の鋏を借りてくれば何とかしてくれる?」
ジュン「現代日本で、ネコ相手に刃物持ち出したら、あとあとスゴイ面倒になるからダメ」
真紅「へぇ~」
ネコ達『にゃおっ! ふみゃあおおお』ガシャガシャ
ジュン「しかし異常だろ、ジュニアブシのネコ吸引力。
近隣のネコが全て集まってるんじゃないか、これ?」
真紅「……ペディグリーチャムに売り込む?」
ジュン「売りこまねーよ。とにかく、このままネコの集団をほったらかしておくと
困ったことになるな。既に一部のネコがウンコしたり交尾したりしているし……
鳴き声で御近所から文句言われるかもしれない」
真紅「なら、どうやって追い払う?」
ジュン「雛苺に頼もう」
真紅「え? 雛苺に?」
ジュン「ほれ、あそこ。ネコ達の後ろの方でどっかりと座り込んでいる
デカイのがいるだろ。あれ、雛苺の友達のボス猫だ」
真紅「あ、そう言われれば!」
ジュン「雛苺ならきっとボスを通じてネコ達を説き伏せ、お帰り願うことができるはず」
真紅「なるほど。ここは話し合いで平和的に解決ね。
それじゃ早速、雛苺を呼んでくるのだわ」
雛苺「うにゅにゅ!? ネコさんの大群なのよ!?」びくっ
ジュン「来たな雛苺。話は真紅から聞いているとは思うが
あのネコどもをお前の力で何とかしてほしい」
真紅「このままだとジュニアブシが食べられてしまうのだわ」
雛苺「け、けど、あんなにたくさんのネコさん達がいると怖いのよ」
ジュン「何言ってるんだ、お前はあのボス猫と友達なんだろ」
雛苺「でもぉ……」
真紅「デモもホモもない。雛苺、あなたは気高く咲き誇る勇敢な第六ドール。
どんな時も逃げ出しちゃダメ」
雛苺「真紅だって気高き第五ドールじゃないの!?」
真紅「私はネコとの接触を医者から止められているのだわ。
ネコアレルギーのアナルフェラショックで命の危険がマッハなのよ」
ジュン「アナフィラキシーショック。びっくりするほど下品な間違え方するな」
雛苺「うぅ……、分かったのよ。ヒナやってみる」
真紅「よっ! 大統領! それでこそアリスの鑑!」
ジュン「頼んだぞ」
雛苺「そーっと……そーっと」そろそろ
ジュン「ゆっくりとボス猫に近づく作戦のようだな」
真紅「ザコ猫達はジュニアブシのカゴに夢中だしね」
雛苺「え……えぇと! ネコさん、こんにちわ! お久しぶりなのよねっ!」
ボス猫「にゃふ……?」ゴロゴロ
ジュン「お、ボス猫と接触したぞ」
真紅「雛苺のネゴシエイトに期待なのだわ」
ジュン「なんだかボス猫もリラックスモードみたいだし、雛苺を行かせて正解だった」
雛苺「あ、あのね。この間はポストまで連れて行ってくれてありがとうなの!
今でもとっても感謝しているのよ」
ボス猫「にゃふぅ……」ゴロゴロ
雛苺「そ、それで……、あ、あの魚さんの天日干しなんだけど」
ボス猫「……っ!」ぴくっ
雛苺「あ、あれは真紅の魚なの。だからみんなには悪いけど……」
ボス猫「……ふーっ!」しゃきーん
雛苺「ネ、ネコさん……?」
真紅「何!? ボス猫がスフィンクスみたいに両足を前に出したポーズに!?」
ジュン「やばい! 警戒体勢だ!! ジョジョで見たことある!」
雛苺「え、えと! だからアレは真紅の魚なのよ。
だからドロボーはダメなの! ネコさん達でもいけないの」
ボス猫「にゃおーんっ!!」
ザコ猫達『にゃにゃにゃーーーーッ!!』わらわら
雛苺「うにゅっ!? な、何するの!? ネコさん達!? や、やめてなの~っ!?」
真紅「大変! 雛苺がボス猫の指令を受けたザコ猫達に襲われている!!」
ジュン「助けなきゃ!」
真紅「ダメよ! ジュン! もう手遅れなのだわ!」
ジュン「なにぃ!?」
真紅「ザコ猫達の塊……猫玉で雛苺は完全に閉じ込められてしまった!」
雛苺in猫玉「モ……モフモフで動けないのよ~~!」もがもが
ジュン「なんてこったい! 猫達があんな連係プレーを」
真紅「なんという恐ろしい攻撃! これがもし生身の人間だったら
囲まれたネコ達の体温で、じわじわと熱中症みたいな状態にされているところ!」
ジュン「ニホンミツバチみたいな奴らだな」
真紅「くっ! 想像以上に敵ネコ集団は高度な組織体系のようだわ!」
ジュン「まさか、雛苺がやられるだなんて」
ベリーベル「……」よろろっ
真紅「ベリーベルが!? 猫玉の中から?」
ジュン「雛苺が出したのか?」
ベリーベル「……っ」ふらふら
ボス猫「にゃっ! にゃにゃ」
ベリーベル「!?」
ボス猫「にゃふっ……」
ジュン「ベリーベルがボス猫と何か話してる?」
真紅「雛苺を猫玉から出してくれるように頼んでいるんじゃ……?」
ジュン「あ、ベリーベルがこっちに来るぞ」
ベリーベル「……ッ」へろろ~ん
真紅「どうしたのベリーベル? あのボス猫とどんな話を……?」
ベリーベル「ッ!」ふわふわ
ジュン「何ィ!? 雛苺の命が惜しければジュニアブシと交換しろだと!?」
真紅「な、なんて破廉恥な要求!?
仮にも、友の命を食料と引き換えにしようだなんて!
これだからネコはコスずるくて嫌なのだわ! 畜生なのだわ!」
ジュン「だ、だけどだな真紅! このままじゃ雛苺が……!」
雛苺in猫玉「なんだかモフモフがきつくなってきているの~」ぎゅぎゅぎゅ
真紅「雛苺は人形だし、暑さにも窒息にも強い。もう少しは何とかなるのだわ。
それよりも、こんなネコどもの脅しに屈したとあれば、薔薇乙女の名が廃る。
ここはまだまだ強気の外交戦略で行くわよ」
ジュン「何かいい作戦でも思いついたんですか真紅さん」
真紅「当然。ちょっと待ってなさい」
蒼星石「フフフ、雛苺がやられたか」ザッ
翠星石「チビ苺は薔薇乙女達の中でも一番の小物。
ネコ如きにやられるとはローゼンメイデンの恥さらしですよ」
ジュン「おお!? 庭師の双子を呼んだのか! これは心強い」
真紅「でしょ?」
ジュン「双子ならネコの40匹や50匹ぐらい楽勝だな」
真紅「……30匹じゃなかったっけ?」
ジュン「なんやかんやしている内に向こうにも増援が来た」
真紅「なんてこと」
蒼星石「で、僕達はあのネコちゃん達を追い払えばいいのかい?」
真紅「ええ、でも雛苺が人質に取られているから……」
翠星石「分かっているですぅ。慎重かつ大胆にチビチビも救出するですよ」
蒼星石「取り敢えずどうしようか。庭師の鋏で邪魔なザコ猫達を脅してみる?」
ジュン「刃物だけは絶対に出すな」
蒼星石「どうして?」
ジュン「引きこもり暦ありの男子中学生がネコ相手に刃物ちらつかせたら
少年法抵触にリーチなんだよ。おまけに僕がしょっぴかれて
家宅捜索で部屋からローゼンメイデンが発見されたら……」
真紅「薔薇乙女が青少年の心根を捻じ曲げ、犯罪を助長すると思われてしまうのだわ!」
翠星石「そいつはどえれぇハードラックですぅ」
ジュン「そうなることだけは避けたい。なので徒手空拳で頼む蒼星石」
蒼星石「分かった」
翠星石「ちょい待ちです蒼星石! いくらなんでも素手は危険です、素手は。
バキにも、人は日本刀を持ってようやくネコと対等だと書いてあったです」
真紅「ジュンも全く同じことをさっき言っていたのだわ」
蒼星石「しかし……」
翠星石「まあまあ、ここは我に秘策ありですぅ。先ずは翠星石に任せるですよ」
ジュン「随分な自信だな」
翠星石「スィドリーム! 如雨露をっ!」
スィドリーム「!」しゃきーん
真紅「庭師の如雨露を使うつもり?」
ジュン「それでネコを殴ったりはするなよ」
翠星石「庭師の如雨露は伊達じゃあないですっ! 健やかに! 伸びやかに……!」
スィドリーム「ッ!」コォォォ
翠星石「もっと瞬いてスィドリーム! もっと! もっとですぅ!」
ジュン「何がしたいんだ翠星石は?」
蒼星石「……水だ!」
真紅「水ぅ?」
蒼星石「水を呼ぶつもりだ! それもかなり大量の水を如雨露から!」
翠星石「きたきたきたきた! きたですよ!
これが翠星石渾身の! エメラルドスプラッシュですぅ!」ばびゅーっ
ジュン「おお!? 如雨露から勢いよく水が!」
真紅「すごいのだわ! けど、すぐ隣に蛇口とホースがあるのに!」
翠星石「おらおら!」ばっしゃー
ザコ猫達『にゃおお~ん』ずざざざ
蒼星石「猫達が水を怖がって退いていく!」
翠星石「がーはっはっはっは! 怯えろです! 竦めですぅ!
野生の性能を発揮できずに、散っていけぇ~でっす!!」ばびびーっ
ザコ猫達『にゃああ~っ』ずざざざ
真紅「水責めの効果は抜群なのだわ!」
ジュン「ネコがどんどん逃げていくぞ! やるじゃないか翠星石!」
翠星石「がーはっはっは! もっと誉めるがいいです! 称えろ! 崇めろですぅ!」
ボス猫「みゃーおっ!!」
ザコ猫達『にゃ!?』ぴたっ
翠星石「むむっ?」
真紅「ボス猫の一鳴きでザコ猫達の動きが止まった?」
ボス猫「にゃむっ」
ザコ猫達『にゃにゃん』だだだ
蒼星石「ボス猫の号令で逃げる方向が……変わった。どこに行く気だ?」
翠星石「えぇい! どこへ逃げようと無駄無駄でぇ~すっ!
地の果てまでも追いかけて、頭から水をかけてやるですぅ」だだっ
真紅「いけない! 翠星石! そっちへ水を撒いては……っ!」
翠星石「え!? あ! し、しまった! これはジュニアブシのカゴ!」ぴたっ
ザコ猫達『にゃにゃにゃ~ん』にやにや
ジュン「くっ!? ジュニアブシを盾にしやがったのか!?」
蒼星石「水をかけては折角の天日干しが台無しになる!」
翠星石「う……! これでは水攻めができないです」
真紅「あのボス猫が、そこまで見抜いていただなんて!」
ボス猫「にゃむっ」ニヤリ
ジュン「おい! 翠星石! 何ぼさっとしているんだ!
早く戻ってこい! そこはザコ猫達の反撃射程距離内だぞ!!」
翠星石「え?」
ザコ猫達『にゃにゃにゃ』ドバッ
翠星石「う! うわ!? うわわっ!?」
ジュン「くそっ! 翠星石まで猫玉に……!?」
蒼星石「翠星石!」だだっ
真紅「駄目よ! 蒼星石! あなたまで行っては!」
蒼星石「でも僕には翠星石を見捨てることなんてできない!」ダッ
ジュン「あ、こら!」
ザコ猫達『にゃおお~んっ!!』ドバババ
翠星石「ぬわぁぁああああああああ!!」
蒼星石「うぼぁあああああああああ!!」
真紅「翠星石! 蒼星石ーーーーっ!!」
雛苺in猫玉「えへへ、翠星石と蒼星石も一緒になったの」もふもふ
翠星石in猫玉「くっ! なんという窮屈! 全く身動きが取れんですぅ」もぎゅっ
蒼星石in猫玉「……鋏さえ使えれば、こんなことには」ぎゅ~
ジュン「なんてこったい! 向こうの人質が増えちゃったぞ!」
ボス猫「にゃっふっふ!」にやにや
真紅「ええい、憎たらしい笑みを浮かべちゃって!
けれども、まだまだ真紅ちゃんは諦めなくてよ! ちょっと待ってなさいジュン!」
ジュン「次は誰を呼ぶんだ?」
水銀燈「あのねぇ……、猫ごとき相手に私を呼び寄せないでよ」
金糸雀「真紅の猫恐怖症にも困ったものかしら」
雪華綺晶「まったくですわ」
薔薇水晶「……」
ジュン「ぜ、全員を呼んだのか!?」
真紅「当然! この期に及んで戦力の逐次投入だなんて愚策は採れない。
というわけで頑張って頂戴! あなた達!」
水銀燈「おバカさぁん。誰がブサイク真紅の頼みなんか聞くもんですか」
金糸雀「じゃあ、何でここに来たのかしら水銀燈」
水銀燈「そ、それは……っ! 真紅の困り顔を見て、からかおうと」
真紅「まあまあ。誰もタダ働きをしろとは言ってないのだわ。
上手くやれたら、ジュニアブシを分けてあげるから」
水銀燈「そんな干し魚程度で……」
雪華綺晶「いえいえ、黒薔薇のお姉様。干し魚と言ってバカにはできませんよ」
薔薇水晶「その通り。聞けば、さかなくんJr.とはエヌマグロという品種で超高級魚」
水銀燈「え?」
雪華綺晶「その身は同じ重さの金塊に等しいとも
一匹でローゼンメイデン2~3体分の価値があるとも言われていますわ」
水銀燈「マジで!?」
ジュン「マジだ」
薔薇水晶「そのエヌマグロの身を使った贅沢なジュニアブシ。
それにより得られる味わいは……
舌が受ける最上の愉悦となるであろうことは想像に難くありません」
真紅「こりゃ堪らんヨダレズビッ! なのだわ」
水銀燈「……」じゅるり
水銀燈「ほ、本当に猫を追い払ったら、ジュニアブシを分けてくれるんでしょうねぇ?」
真紅「ローゼンメイデン・ウソ・ツカナイ」
水銀燈「インディアンっぽく言うな。けど、まあいい、分かったわ。
害獣退治で、珍味ゲット。悪くない取引ね」
金糸雀「カナも情熱とやる気がムンムン湧いてきたかしら!」
雪華綺晶「私もですわ」
薔薇水晶「お父様への、いいお土産になります」
ジュン「張りきるのは結構だが、ネコに怪我はさせるなよ」
水銀燈「えっ!?」
ジュン「だってそうだろうが、ネコに危害加えといてアリスになれるとでも思うのか」
金糸雀「確かに、ジュンの言う通りかしら」
水銀燈「う……」
雪華綺晶「私は人に危害加えまくっていますが」
薔薇水晶「……」
真紅「と、とにかく! ネコに直接ダメージを与えては駄目よ。
私達の風評が著しく悪化するのだわ。人間相手の傷害よりも
動物相手の傷害の方が何故か世論の風当たりは強いの! 分かって」
水銀燈「ちっ……」
水銀燈「しょうがない。できるだけ気をつけるわよ。所詮、ネコ。
手加減前提だろうと薔薇乙女が後れを取るはず無い」
ジュン「その薔薇乙女が既に三体もネコの手込めにされたけど」
雛苺in猫玉「モフモフ! モフモフなの~!」
翠星石in猫玉「ネコさん達の中、あったかいですぅ……」
蒼星石in猫玉「ああ、もうここから出たくない」
金糸雀「ふふん、翠星石達は所詮薔薇乙女の中でも小物。
ネコ如きにやられるとはローゼンメイデンの恥さらしかしら」
ジュン「それと全く同じセリフを翠星石が吐いておきながら、あのザマだからな」
ボス猫「にゃにゃっ!」しゃきーん
ザコ猫達『にゃむぅっ!!』しゃきーん
薔薇水晶「なんでしょう……? 突然、猫達が全員、警戒体勢に」
雪華綺晶「どうやら私達の殺気を感じ取ったようですわね」
水銀燈「へぇ? 向こうもやる気ってこと? 面白いじゃない」
金糸雀「確かに尾も白い猫が多いかしら」
ジュン「……」
金糸雀「……」ちらっ
ジュン「……」
真紅「総力戦よ! みんな気を引き締めて!!
水銀燈と金糸雀は猫達を右側から追い払う!
雪華綺晶と薔薇水晶は左側から! 私とジュンは休憩!」
水銀燈「アンタねぇ……」
真紅「だってしょうがないじゃない、ネコ嫌いだもの」
ボス猫「にゃおーんっ!!」ダバッ
ザコ猫達『にゃにゃにゃーーーっ!』ダダダッ
水銀燈「向こうから来たっ!?」
金糸雀「!? 先手を取られたかしら!」
雪華綺晶「きっと、こちら側の戦力が今のこれで全てだと悟られたのですわ」
薔薇水晶「ここで……一気に決めると言うわけですか」
真紅「なんて猫達なの!? こうも薔薇乙女が後手後手に回るとはっ!」
水銀燈「後手だろうと何だろうと……、いけっ! 黒羽根ッ(ねこじゃらしモード)!」
ザコ猫達『にゃ? にゃにゃっ』ぴょんぴょんっ
ジュン「お!? うまいっ! 猫どもをあやして庭の外へ誘導してる!」
真紅「意外と器用ね」
ボス猫「しぎゃーーーーっ」ばばばばっ
水銀燈「何ぃ!? 黒羽根が全部、叩き落とされた!?」
ジュン「あいつ体デカいくせに、動きは俊敏だぞ!」
真紅「動けるデブ猫なのだわ!」
ボス猫「にゃお~んっ」どどどど
水銀燈「こっちへ来る!? 体当たりするつもり? でも、空へ飛べば……!」ばさっ
ボス猫「にゃにゃっ」ドバッ
水銀燈「なッ!? 跳んだッッ!? こんなに高いところまで……ッ!?」
ボス猫「みゃお~むっ」ドゲシッ
水銀燈「うぐっ!?」
ジュン「で、出た~っ! 伝家の宝刀ネコキック!」
真紅「け、けど異常なのだわ! あのジャンプ力! 3m以上は跳んだわよ!
しかも、水銀燈の動きを完全に予測しての飛び蹴り!!」
雪華綺晶「これが……野生の力?」
水銀燈「いたた……、もうっ! ネコなんかに蹴り落とされるなんて……」
ザコ猫達『にゃふ~んっ』わらわら
水銀燈「ッッ!? こ、こら! やめなさい! まとわりつかないで!」
金糸雀「水銀燈がピンチかしら! 助けるわよピチカート!」
ピチカート「!」ひゅぱっ
金糸雀「ワルツィング・キャット(踊る子猫)!!」♪~~
ザコ猫達『にゃ? にゃにゃにゃん?』ひょこひょこ
水銀燈「? 猫達が私から離れて……? 踊りだした!? 金糸雀の演奏のお陰か」
雪華綺晶「やりますね。金のお姉様」
真紅「何気に決める時は決める子なのだわ」
薔薇水晶「……っ!? ネコ達の様子がおかしいですよ?」
ジュン「え?」
ボス猫「……にゃっ」ぴたっ
ザコ猫達『……』ぴたり
金糸雀「え!? 曲は続いているのに、どうして猫達のダンスが止まって……?」♪~~
水銀燈「耳が!? 猫達が全員、耳を伏せて閉じている!
手も使わずに耳だけがひとりでに!?」
真紅「え、なにそれ怖い」
薔薇水晶「猫は自分の意思で耳を自由に塞げます。耳筋も半端ないです」
雪華綺晶「金糸雀の操り演奏は聞こえなければ効果が無い。それにいち早く気付くとは」
薔薇水晶「この猫達……強い」
ザコ猫達『にゃっ!!』わらわら
金糸雀「いやああああああああ!! モフモフにっ! 優しさに包まれちゃうかしら~~!」
ジュン「ああ!? 金糸雀が猫玉の餌食に!」
雪華綺晶「仕方ありません。こうなっては泥仕合しか打つ手は無さそうですね」
ジュン「まさか」
雪華綺晶「こちらも数で対抗しますわ。カモン! ブサ綺晶!」ぱちん
ブサ綺晶達『きききっ』ぼここっ
ジュン「うわ! 出た! それも地面から!? サイバイマンか、こいつら」
雪華綺晶「これで数の上ではネコさん達とほぼ互角」
ジュン「逆に言えば、数で押されるとネコ相手でも劣勢になるのか薔薇乙女」
薔薇水晶「まあまあ。では、そろそろ……私も闘ってきます」
ジュン「……ほどほどにな」
ボス猫「ふぎゃ~っ!」じたばた
水銀燈「ええい! 暴れない! アンタさえ追い出せれば、他は……どうにでも」
薔薇水晶「手伝います! 水銀燈」
水銀燈「お願い! こいつかなり力が強くて重い!」
金糸雀in猫玉「ああ……っ! このモフモフ! もう何がどうなってもいいかしら~」
翠星石in猫玉「このまま死んでもいいですぅ」
蒼星石in猫玉「これ以上の快感はこの世に無いよ」
雛苺in猫玉「……zzZ」
ブサ綺晶達『ききーっ』わらわら
ザコ猫達『にゃおーっ』わらわら
雪華綺晶「……」
ジュン「雪華綺晶は自分で戦わないの? ブサ綺晶に任せっぱなしじゃん」
雪華綺晶「ネコって……霊的なものを感知する力が強いじゃないですか」
ジュン「ん? そう言えば、何もないところを見つけめていたりとか
どうにも幽霊が見えているとしか思えないフシがあるな」
雪華綺晶「ええ、地味にゴースト系に対して強いんですわ、ネコ」
ジュン「……雪華綺晶も真紅ほどじゃないにせよネコ苦手なんだ。
て言うか、やっぱりゴースト系だったんだお前」
雪華綺晶「ところで、先ほどから紅薔薇のお姉様の姿が見当たりませんが」キョロキョロ
ジュン「そう言われれば……? あっ!」
真紅「……」こそこそ
ジュン「あ、あいつ! どさくさに紛れてカゴからジュニアブシを回収してやがる!」
雪華綺晶「私達を目晦ましの囮にして……? なんと抜け目のない」
真紅「ふふふ、どれだけ姉妹が犠牲になろうが
どれだけ庭に猫のウンコがばら撒かれようが
このジュニアブシさえ回収できればよかろうなのだわ……」
ジュン「こらぁ! 真紅! お前みんなが頑張って戦ってるのに何やってんだーっ!!」
真紅「っ!? ば、ばか! ジュン! そんな大声出したら気付かれ……っ!」
水銀燈「し~ん~く~っ! 一人だけで何ジュニアブシ持ち逃げしようとしてんのよ……っ!」
真紅「ッッ!?」
ボス猫「にゃううう……!」
薔薇水晶「いくらなんでも……それは無いんじゃないですか」
真紅「ち、違うのだわ! こ、これはただ! 今の内に確保すべきと思っただけで……」
ブサ綺晶達『きーっ! きき!』
ザコ猫達『ふしゅしゅーっ』
真紅「と、とにかく落ち着いて。落ち着いて……話せば分かるのだわ」
水銀燈「へぇ……? この期に及んでどういう話ができるのか、興味あるわねぇ?」
真紅「ご、ごめんなさ~いっ!!」ぴゅ~
水銀燈「あ!? 逃げた!!」
薔薇水晶「しかもジュニアブシを全部持ったまま!?」
ジュン「言葉と行動がここまで一致してない奴も珍しい」
水銀燈「感心している場合じゃない! 追うわよ! 追ってジュニアブシを取り戻す!」
ボス猫「にゃうっ!!」ダダッ
水銀燈「ものども! 続け! 続けぇ~~~っ!!」ダダダッ
薔薇水晶「はい!」ダダッ
ザコ猫達『にゃにゃにゃっ』ドドド
ブサ綺晶達『きっき~っ』タタタ
ジュン「……」ぽつ~ん
雪華綺晶「……みんな、行っちゃいましたわね。ブサ綺晶達まで」
ジュン「ああ。なんなんだろうな、この結末は」
雪華綺晶「なんなんでしょうね。これからどうするつもりで?」
ジュン「取り敢えず金糸雀達を猫玉から出す。
それから庭に散らかりまくってるネコのウンコを掃除する。
後は夕飯食べて宿題して風呂入って歯磨きして寝るぐらいか」
雪華綺晶「あ、もう完全に真紅はスルーで今日を終わらせようと」
ジュン「そういうこと。雪華綺晶もお疲れさん」
雪華綺晶「庭掃除ぐらいなら手伝いますわ」
ジュン「え? そう? 悪いな」
雪華綺晶「ネコのフンは私の苗床の栄養にもなりますし
ブサ綺晶を自爆させるための硝石の材料にもなります」
ジュン「マジで? それじゃウンコをテイクアウト?」
雪華綺晶「いいえ、やっぱり店内で」
ジュン「……」
雪華綺晶「……」
ジュン「脊髄反射で適当なこと言うのやめとけよ。
真紅や水銀燈相手だったらマジでウンコ食わされるぞ」
雪華綺晶「……はい。すいませんでした」
薔薇乙女のうた『ワルツィング・キャット』 完
ちょっと目を離したうちに2話も投下されてるとは
ブサ綺晶はハーヴェストかよ
もはやきらきーの通常ウェポンになりつつある
『翠雛残酷クッキング・ブサ綺晶の天ぷら』
真紅「う~む……? こう? それとも、こう?」ひゅんひゅん
ジュン「……? 難しい顔しながら反復横とびを繰り返してどうした?」
真紅「いえ、ね。私らって少女人形にしてはパワーが結構あるじゃない」
ジュン「まあな。お前、10円玉を指の力で折り曲げられるし」
真紅「その割にはスピードがイマイチな気がするの」
ジュン「そうか?」
真紅「そうよ。花山薫も『握力×体重×スピード=破壊力』と言っていたのだわ。
体重を増やすのは乙女として禁忌だから、スピードを上げるしかないの」
ジュン「それで、反復横とびでスピードを鍛えようと?」
真紅「冗談はゲロだけにして頂戴ジュン。私らが体を鍛えたところで何の意味も無い」
ジュン「じゃあ……?」
真紅「これは工夫よ。スピードや瞬発力をうまく引き出すための
体重移動のバランスを掴むべく、こうして横っとびを繰り返しているというわけ」
ジュン「へぇ~。で、何かコツでも掴んだのか」
真紅「まあね。ちょっと見てなさい。先ずはこうやって普通に横っとび。
シチュエーションとしては相手の攻撃を避ける動作ってところかしらね」ぴょーん
ジュン「ふむふむ」
真紅「で、着地するやいなや相手の懐へ突っ込む」ギャルンッ
ジュン「わわッッ!?」
真紅「どう? 結構、素早いから意表がつけると思うんだけど」ピタ
ジュン「い、いきなり僕の顔の前まで来るからビビったじゃないか。
しかし、すごいな。ほとんどノーモーションで方向転換してたぞ、今」
真紅「ローズテイルを軽く打って、ブースト代わりに使ったのだわ。
勿論、その時に手の平は相手の死角にあるから
今のジュンのようにノーモーションで私が方向転換したように見える」
ジュン「はぁ……」
真紅「うまくはまれば、ここから顔面パンチへのコンボに繋げられるのだわ」
ジュン「いやはや、技の研鑚を欠かさないな真紅は」
真紅「でしょ? さて、次は何の訓練をしようかしら」
ジュン「まだ、やるのかよ」
真紅「当然。まだまだ、やるべきことは沢山ある、例えば……」
ジュン「例えば?」
真紅「ローズテイルをガンダムのファンネルみたいに操るとか」
ジュン「あれ? そういうの既にできてなかったっけ?」
真紅「それができないのよ、まだ。テイル(尾)の名の通り、ばら撒く花弁は
ある程度の量と流れを持たせた集団じゃないと自由に動かせないし威力も足りない。
出す量をケチると、今みたいにブースト代わりに使うので精一杯ね。
これはこれで省エネ対応なんだけど」
ジュン「ふーん」
真紅「水銀燈は黒羽根でファンネルもどきに成功している。
彼女にできることは私にもできるはずだから、なにか閃きが足りないだけなのよ」
ジュン「真紅って戦うことになると頭もよく回るし元気になるよな」
真紅「だって、生きることは戦うことでしょ?」
ジュン「それって、そんな上っ面だけ受け取っていい言葉だったの!?」
真紅「何にせよ、あとしばらくしたら薔薇水晶も来る。
それまでに、もう少し体を温めておきたいところ」ぶんぶん
ジュン「薔薇水晶が?」
真紅「組手よ組手。模擬戦をやるのだわ」
ジュン「ホント……、急に熱心なことで」
翠星石「うぉ~い! チビ人間! 真紅!」バターン
ジュン「翠星石!? ドアはもっと静かに開けろ、壊れたらどうするんだ?」
翠星石「その時はチビ人間の生命力をたんと吸い上げて直してやるですぅ!
それよりも! ブサ綺晶がこっちに来なかったですか!?」
真紅「ブサ綺晶? 雪華綺晶のモビルビットみたいなやつよね」
雛苺「うぃ! 冷蔵庫の裏に隠れてヒナ達の
オヤツを勝手に食べていたのを捕まえたのよ」サッ
ブサ綺晶A「き……ききぃ」じたばた
ジュン「あらら、苺わだちでぐるぐる巻きにされてかわいそうに。
て言うか、もうシッカリ捕まえてんじゃん」
翠星石「バカ言っちゃいけねぇです! 1匹見つけたら20匹はいると思え! です。
しかも今日のブサ綺晶は若干ミニサイズですよ!」
真紅そう言われえば、そのとおりね」
雛苺「その証拠に、一階でもう10匹もブサ綺晶を捕まえたのよ」ササッ
ブサ綺晶達『ききき……』じたばた
ジュン「げ!? マジで!? そんなに入り込まれていたのか!?
月の部屋に仕掛けられた監視カメラでも、ここまで多くは無かったぞ」
真紅「雪華綺晶のえげつなさは異常よ」
翠星石「ここにもブサ綺晶が隠れているはずですぅ!」
雛苺「ヒナ達のプライバシーがズルムケなの!」
ジュン「ツツヌケな」
翠星石「というわけで、早速部屋内の捜索を始めるですぅ」ガタガタ
雛苺「うぃ! 隅々まで調べるのよ」ゴソゴソ
ジュン「お、おい! あんまり無造作に物を動かすな!
あとでちゃんと元通りにしてくれるんだろうな!」
翠星石「何言ってるですか。警察の現場検証でも地検の家宅捜索でも
部屋内の証拠品を漁ったあとの片づけなんてしてくれねーですよ」
ジュン「変な例えを出すな。お片付けができないんならヤメロヤメロ。
僕が自分でブサ綺晶を探すから……」
雛苺「えぇ~……!?」
ジュン「『えぇ~』じゃない」
翠星石「ちぇ~、チビ人間のケチンボ。所詮、チビ人間はケツの穴までチビですぅ」
ジュン「やかましい。ほら、出てけ出てけ」
翠星石「……分かったですよ。でもブサ綺晶を捕まえたら
ちゃんと翠星石達に寄越すですよ」
ジュン「ん、ああ。それはいいが」
真紅「ブサ綺晶達をどうするの?」
翠星石「天ぷらにして食うです」
雛苺「カリカリサクサクさせてやるの」
ブサ綺晶達『きっ!? きき……』じたばた
ジュン「お、おいおいおい! それは冗談で言ってるのか!?」
翠星石「まさか、大マジですよ。台所で卵と小麦粉の準備は既にできているですぅ」
雛苺「火は勝手に使っちゃダメだから、揚げてもらうのはのりに頼むのよ」
ブサ綺晶達『きききーっ』じたばた
真紅「それは流石にかわいそうだわ」
雛苺「ヒナは雪華綺晶に食べられたことがあるの! だから仕返しなの!
それにヒナ達のおやつもブサ綺晶に食べられたの!
目には目を! 歯には歯を! 食べられたら食べ返してやるのよ!」
翠星石「そうですそうですぅ。弱肉強食は薔薇乙女の不文律ですぅ。
それにブサ綺晶には人形が必要とする諸成分が全て含まれている完全食です。
雪華綺晶だって自分がヤバくなった時はブサ綺晶を食って回復しやがるんですよ」
ジュン「ザエルアポロか。と言うか、人形が必要とする諸成分って何だよ」
翠星石「主にシリコン。あとはレアメタルとか?」
雛苺「どれも、のりのゴハンでは中々摂れない成分なの」
翠星石「食事時に、こっそり茶碗の端っこを齧るので普段は精一杯ですぅ」
ジュン「廃棄の携帯電話でも食べてろ。あと、のりはソレ気付いてるぞ。
食器洗いの時、お前らの茶碗に変な歯型が付いてるってぼやいてた」
真紅「けど確かに、弱った時の雪華綺晶は仮のボディにブサ綺晶を使ってもいたわね」
翠星石「雪華綺晶のパワーの一端がブサ綺晶にもあるはずですぅ。
これを食べれば翠星石達だってパワーアップするはずです!」
雛苺「うぃ! ヒナ達はもっともっと強くなってトモエやジュン、みんなを守るの!」
ジュン「志は立派だが……」
ブサ綺晶達『きーっ! ききき……』じたばた
ジュン「やっぱりブサ綺晶達がかわいそうだ。逃がしてやれ」
翠星石「いーやーです! これは絶対に翠星石達が食べるんですっ!」
ジュン「し、しかしだな! そもそも美味しそうじゃないだろ」
ブサ綺晶達『きっ! きききーっ』じたばた
翠星石「グロいものは美味い。これは食通の定説ですぅ」
雛苺「そうなのそうなの!」
真紅「やれやれ……」
翠星石「ま、そーゆーことですからぁ、この部屋のブサ綺晶探しは任せるですが
捕まえたブサ綺晶は大人しく全て翠星石達に引き渡すように」
雛苺「隠したりするとジュンのためにもならないのよ」
ジュン「……」
翠星石「念のためにスィドリームを監視として残していくです」
スィドリーム「……」ふわ~り
翠星石「よし、それじゃ行くですよチビチビ」すたすた
雛苺「うぃ! 卵と小麦粉をたっぷり塗りつけてあげるの」とててっ
ブサ綺晶達『ききーーーっ!』じたばた
ジュン「……どうしよう」
真紅「どうしましょう」
スィドリーム「……」ゆらゆら
ジュン「お前はどう思ってるんだ、翠星石の蛮行を? スィドリーム」
スィドリーム「ッ! ッッ」ふわふわ
真紅「注意したら、自分まで天ぷらにされそうになった?」
スィドリーム「……!」
ジュン「既にベリーベルは卵と小麦粉をまぶされて冷蔵庫内のトレイで寝かされている?」
スィドリーム「ッ!」
真紅「ベリーベルを助けるためには、しっかりと翠星石と雛苺の命令に従わないといけない?」
スィドリーム「……ッ」しくしく
ジュン「苦労してんな、お前も」
真紅「困ったわね。ベリーベルを救うためにも、ブサ綺晶を翠星石達に差し出さなければならない」
ジュン「そこんところだが、探しても見つかりませんでしたってのは……?」
真紅「通用しないでしょうね。ほら、後ろを振り返ってご覧なさいジュン」
ジュン「ん?」くるっ
ブサ綺晶B「きき……」
ジュン「う、うわ!? 新手のブサ綺晶!? どこから出てきた」
真紅「今、ジュンのベッドの下からはい出てきたのよ。やっぱり、この部屋にも隠れていた」
スィドリーム「……」
ブサ綺晶←捕獲レベル1以下
ブサ綺晶B「きぃ……」おずおず
ジュン「……何だかメガネの調子が悪いのかな? 僕には何も見えないが」
真紅「?」
ブサ綺晶B「……?」
ジュン「困ったなぁ~、ブサ綺晶に今逃げられたら困るなぁ~……」ちらっ
ブサ綺晶B「……?」おどおど
スィドリーム「……」
ジュン「本当に困っちゃうよなぁ……、こんな時に。翠星石にどやされるなぁ。
でも、メガネの調子がちょうど何故か悪くなっちゃうなんて……」
ブサ綺晶B「……」
真紅「……」
ブサ綺晶B「……」
ジュン「……えぇと、遠回しに逃げろって言いたいんだけど。ひょっとして伝わってない?」
ブサ綺晶B「きっ! ききき」ふりふり
ジュン「? じゃあ、なんで逃げないんだ?」
ブサ綺晶B「ききき!」ぺこぺこ
真紅「どうやら、翠星石達に捕まった仲間を助けてほしいみたいね」
ジュン「……マジか」
ブサ綺晶B「きーっ!」コクコク
スィドリーム「……ッッ!」
ジュン「ん? 仲間を助けたい気持ちはブサ綺晶も自分も同じ……
どうか、あの緑とピンクの悪魔から友人達を救いだしてくれ?」
スィドリーム「……」コクコク
ブサ綺晶B「!」
ジュン「あっさりとブサ綺晶に共感しすぎだろスィドリーム……。
仮にも自分の主人達を悪魔呼ばわりとは」
真紅「けど、気持ちは分かるのだわ。私もなんとかしてあげたい」
薔薇水晶「……お邪魔します」スッ
ジュン「ッ!? ば、薔薇水晶!!」
真紅「あ、もう約束の時間?」
ジュン「勝手に部屋に入ってくるなよ」
薔薇水晶「ノックはしましたが……」
真紅「ちょっと取り込み中だったから気付かなかったのだわ」
薔薇水晶「?」
ブサ綺晶B「きき~っ」
スィドリーム「!」
薔薇水晶「ブサ綺晶とスィドリーム……? 珍しい組み合わせですね」
ジュン「実は……」
薔薇水晶「なるほど。ブサ綺晶達の天ぷら……ですか」
ジュン「どう思う?」
薔薇水晶「私はから揚げの方がイイと思いますが」
真紅「そういうこっちゃないのだわ」
ブサ綺晶B「きぃ~……」おろおろ
薔薇水晶「冗談です」
ジュン「お前の冗談は怖い」
薔薇水晶「当然、ここは助けるべきです。ブサ綺晶達も生きた人形。
それぞれに何らかの背景なり、心情というものもあるはず……
その命、無下に散らせるのは私とて納得できない」
スィドリーム「!」
ジュン「薔薇水晶が僕達側についてくれれば心強いが……」
真紅「力づくであの二人からブサ綺晶達を取り返すのは少しホネね。
ベリーベルが人質に取られているし」
薔薇水晶「それもそうですが、タイムリミットは?」
ジュン「?」
薔薇水晶「どれぐらいの時間の猶予があるかということです。
それによって取るべき方針は変わってきます」
ジュン「姉ちゃん……のりが部活の試合が終わって買い物して帰ってくるまでだから
まだまだ時間はたっぷりある。タイムリミットは夕方だな」
真紅「と言うか、そもそも、のりが天ぷらを拒否したらブサ綺晶達は助かるんじゃなくて?」
ジュン「どうだろうな。のりは翠星石と雛苺には甘いから。
それに主婦感覚がついているから、食材だと説明されたらあっさりと調理するぞ」
薔薇水晶「……」
ジュン「……昔さ、母さんがサワガニ買ってきて、バケツに入れてたんだ」
真紅「カニ? チョキチョキする、あの?」
ジュン「ああ。小さかった僕とのりは『カニさんだカニさんだ!』『可愛い!』
『ペットにしよう』て、はしゃいで……図書館で飼い方を調べまくった」
薔薇水晶「……」
ジュン「少し遅くなって、家に帰ったら夕飯ができててさ」
スィドリーム「……」
ジュン「食卓の上にサワガニの素揚げが山と盛られていたんだよ。
僕とのりは……大泣きした」
真紅「あんびりーばぼー」
ジュン「けど、のりの奴、サワガニを一つ母さんに食べさせられるやいなや
『超オイシイ』って叫んで、それをおかずにご飯三杯食べやがった」
薔薇水晶「あらら」
真紅「ちなみにジュンは?」
ジュン「僕も一口食べさせられたけど、ゲロった」
真紅「あ、ゲロ癖はその頃からあったのね」
ジュン「そんな経験もあってか、のりは食材というカテゴリーに対しては結構ドライ」
ブサ綺晶B「……」ぷるぷる
ジュン「げ! ブサ綺晶が泣いてる!?」
真紅「今のサワガニの話に仲間達を重ねちゃったんでしょうね」
薔薇水晶「よしよし、ほら泣かないで。私達がみんなを助けてみせますから」なでなで
ブサ綺晶B「きぃ~……」ぎゅっ
真紅「それで具体的にはどうする?」
薔薇水晶「私に考えがあります」
スィドリーム「?」
薔薇水晶「ややこしいことではありません。ブサ綺晶達を別の人形とすり替えます」
ジュン「……なるほど。頭が悪くて食い意地の張った緑とピンク相手なら
それが一番手っ取り早くて後腐れも無さそうだな」
真紅「それはいいとして、身代わり人形は……?」
薔薇水晶「私のお父様が作ったミニバラちゃん達をあてがいます」
ジュン「ミニバラちゃん……?」
薔薇水晶「簡単に言えば私のミニチュアです。サイズ的にも今回のブサ綺晶と同程度」
真紅「へぇ~。槐ったらいつの間にそんなものを」
薔薇水晶「ドラえもんに対するミニドラみたいなものですので
カラーバリエーションも豊富です。白いミニバラを使えば
翠星石達には分からないでしょう。卵と小麦粉をまぶせば尚更」
スィドリーム「……」
ジュン「しかし、それで本当にいいのか薔薇水晶? ブサ綺晶の代わりがミニバラで?
自分の妹達みたいなものじゃないのか?」
薔薇水晶「……問題ありません。ミニバラはまだタダの人形、飾りの域です。
お父様の店では、誰でも気軽に買える人形として売られていますし」
真紅「……そう」
薔薇水晶「では、私は一旦戻ってミニバラを持ってきます。それから皆様には
私の作戦通りに動いてもらいたいのですが……よろしいですか?」
ジュン「いいとも。で、どんな風にすり替えるんだ?」
薔薇水晶「……こうしたら、ああして」
真紅「ふんふん」
薔薇水晶「そうなったら、こうなりますから」
ブサ綺晶B「きき……」
薔薇水晶「それでもって、こうします」
ジュン「なるほど。いい作戦だ」
§小一時間後
翠星石「おぉ~い、チビ人間? まぁだブサ綺晶を見つけられないのですかぁ!?」バターン
ジュン「だからドアは静かに開けろって」
ブサ綺晶B「ききっ……」じたばた
翠星石「お? なぁんだ! ちゃんと捕まえているじゃないですか感心感心」
真紅「もう逃げ出さないように縛ってあるから、このまま翠星石に渡すわね」
ブサ綺晶B「きー! きき」じたばた
翠星石「サンキューでぇす! よしよし、こっちゃ来いですブサ綺晶。
お前も仲間達と一緒に、すぐ天ぷら衣で包んでやるですよ」
ブサ綺晶B「きーっ!!」ずるずる
真紅「……」
ジュン「……」
真紅「連れていかれちゃったわね」
ジュン「しょうがないだろ。これも作戦の内。あとはあのブサ綺晶の頑張りどころだ」
§台所
雛苺「あっ! 翠星石! どうだった?」
翠星石「一体だけですがチビ人間の部屋にもやっぱりいたですぅ。こいつです」ぽいっ
ブサ綺晶B「き……っ」どさ
翠星石「ほれチビチビ。こいつにも手早く衣をつけてやれです」
雛苺「分かったの!」
ブサ綺晶B「きき!」じたばた
雛苺「暴れても無駄なのよ~。ほら、いっぱいぬりぬりしてあげる」ぐりぐり
ブサ綺晶B「……ッ!」べったり
翠星石「さて、これであとはボス猿の帰りを待つだけですね。
ベリーベルもいい加減に冷蔵庫から開放してやるですか」パカッ
ベリーベル「……」よろよろ
雛苺「お久しぶりなのよベリーベル。天ぷら衣が似合っていてカッコイイの」
ベリーベル「……」ぽとん
翠星石「あ、落ちたです。冷気で思いのほか弱ったようですね。
これに懲りたら、翠星石達に二度と逆らわないことですぅ」
ベリーベル「……」ぴくぴく
ブサ綺晶B「き……」じたばた
雛苺「新しいブサ綺晶も、みんなと一緒に冷蔵庫の中でお休みしててなの」ひょいっ
ブサ綺晶達in天ぷら衣『き……』でろろ~ん
ブサ綺晶B「きーーーーっ!?」
雛苺「暴れるとイキが落ちるから、ここで大人しくするのよ」ぽいっ
翠星石「なぁに、寒いのはちょっとだけです。すぐに今度は
熱い油にダイブさせてやるです。それじゃ、冷蔵庫の扉を閉めるです」バタン
ジュン「遠巻きに様子を見ることしか今の僕達にはできないが……」こそ
真紅「なかなか壮絶ね。ガンツみたいなのだわ」こそそっ
ジュン「しかし、取り敢えずベリーベルはこれで助かった」
真紅「あとは……」
翠星石「さーってと! のりが帰ってくるまでテレビでも観るですぅ!」
雛苺「うぃ!」
冷蔵庫『……』ガパッ
翠星石「ん? 冷蔵庫の方で変な音が?」くる
雛苺「うゆゆ?」くる
ブサ綺晶達in天ぷら衣『キキッ!』ダダッ
翠星石「あーっ!? ブサ綺晶達が! 逃げ出してるですぅ!」
雛苺「え!? え!? どうして!?」
翠星石「何かの拍子で縛りがほどけたですか!?」
雛苺「追いかけるのよ翠星石!!」ダッ
翠星石「分かってるです!」ダダダ
ジュン「……」こそっ
真紅「……」こそこそ
ジュン「あの二人ってあんなに足早かったっけ。ブサ綺晶達、ちゃんと逃げられるかな」
真紅「食べ物が絡むと驚異的なスピードを発揮するのだわ」
ブサ綺晶達in天ぷら衣『キーーーッッ』ドタタタッ
雛苺「待て待てぇ~~」
翠星石「折角の晩御飯! 絶対逃がしゃしねーですよ!!」
ブサ綺晶達in天ぷら衣『キキーーーッ』グイン
雛苺「廊下の角を曲がった? そっちは行き止まりなの!」
翠星石「ガーハッハッハ! 適当に逃げるからそうなるのでーす!」
翠星石「さーて、追いつめたですよぉ。まさに、袋のネズミ……て」
雛苺「アレ?」
ブサ綺晶達in天ぷら衣『……』グッタリ
翠星石「むむ? ブサ綺晶達が全員ぶっ倒れているですぅ」
雛苺「無理して走ったりして力尽きちゃったのよ?」
ブサ綺晶達in天ぷら衣『……』しーん
翠星石「う~ん……。なんだか拍子抜けしたですが
これはこれでメンドーにならなくて良かったですぅ」ひょいひょい
雛苺「うぃ。ちゃっちゃと回収するのよね」ひょいひょい
翠星石「油で揚げる時まで鮮度を保ちたかったのですが
ま、逃げられてしまうよりはマシで~す」
雛苺「もしかしたらまた逃げ出すかもしれないから今度はきっちり見張るの」
真紅「あら? 逃げ出したブサ綺晶達は全部つかまえられたの?」
翠星石「そうです。ドタバタして迷惑かけたですね」
雛苺「今度は逃げられないようにするの」
翠星石「のりが帰ってくるまで二人で冷蔵庫の前で見張るですぅ」
ジュン「……」
ジュン「……うまくいったようだな」ひそひそ
真紅「ええ、ちゃんと途中でミニバラと入れ換わることができた」
ジュン「逃げているブサ綺晶達が、廊下で真紅の操るミニバラにバトンタッチ。
ミニバラにも僕達が天ぷら衣をつけたから
そのお陰で中身の僅かな違いに翠星石達は気付かない」
真紅「本当のブサ綺晶達は薔薇水晶の手引きで今頃、外に出ているのだわ。
ブサ綺晶達には敢えて危険を冒してもらったけどそれも翠星石達を騙すため」
ジュン「冷蔵庫の中でこっそり入れ替わったんじゃ、違和感を持たれるかも……だっけか?」
真紅「ええ。だから翠星石達自身の手で、ミニバラを回収させたかった。
これなら騙しやすい。それが薔薇水晶の提案……だけど」
ジュン「?」
真紅「この作戦の裏にはもう一つ、薔薇水晶の配慮がある気がする」
ジュン「もう一つの配慮?」
§とある路地裏
薔薇水晶「……はい。みんな、綺麗になりましたよ」ゴシゴシ
ブサ綺晶A「ききっ!」
ブサ綺晶B「きー」
ブサ綺晶達『ききき!』
薔薇水晶「いえいえ。全てはあなた達の頑張りがあったからこそです。
あなた達が自らの力で……緑とピンクの悪魔から逃げおおせた」
ブサ綺晶A「……き?」
ブサ綺晶達『……』
薔薇水晶「さあ……もうお帰りなさい。あなた達の白い聖母のところへ。
遅れると怒られるのでしょう?」
ブサ綺晶達『きー……』おずおず
ブサ綺晶B「……きき!」ぺこ
薔薇水晶「はい。また会えるといいですね」
§桜田ジュンの部屋
真紅「薔薇水晶は、雪華綺晶とラプラスの魔が槐をたぶらかして作らせた」
ジュン「……」
真紅「そしてブサ綺晶達のいくらかは、雪華綺晶が鳥海皆人をたぶらかして作らせた」
ジュン「……」
真紅「薔薇水晶にとって槐がお父様であれば
雪華綺晶は姉妹というよりも母親に近い。そしてブサ綺晶達は異父妹」
ジュン「それがブサ綺晶達を助けた本当の理由?」
真紅「それだけじゃない。あの子は私達よりも雪華綺晶の本質を知っている」
ジュン「?」
真紅「ただブサ綺晶を助けて逃がしただけじゃ
雪華綺晶は彼女達を役立たずとみなして廃棄処分しかねない」
ジュン「!」
真紅「だから、この逃走劇はブサ綺晶達の自力にも頼るものとなった」
ジュン「そう……だったのか」
真紅「私の考えすぎかもしれないけどね」
§台所
のり「はーい。よく揚がりましたよ~」
ミニバラ天ぷら『……』こんがり
翠星石「わぁい」
雛苺「わぁい! いい匂いなのよ~!」
翠星石「どれどれ一つ味見を……」ひょいパク
雛苺「あ、ヒナもヒナも!」ひょいパク
翠星石「ん……、なかなかイケるです」バリバリ
雛苺「歯ごたえあるの」ムシャムシャ
ジュン「ッ!? いつの間にか姉ちゃんが帰ってきて、速攻で天ぷら揚げてやがる!?」
真紅「ジュンが危惧したとおりだったわね。のりが帰ってくる前に全てが終わってよかった」
翠星石「天つゆもいいですが、マヨネーズも合うです」ガリガリ
雛苺「塩をパラりの胡椒をパラりのでヤるのもオツなの」モグモグ
のり「こぉら! 二人とも味見でそんなに食べちゃ夕飯が入らなくなるわよぉ~」
ジュン「しっかし、今回の緑とピンクの外道っぷりは酷すぎるだろ。
どうにかしてガツンと反省させられないものか」
真紅「あの程度なら可愛い小悪魔よ」
ジュン「おいおい、マジで言ってんのかそれ?」
真紅「本当に恐ろしい悪魔は優しいフリをするのだわ」
§nのフィールド
ブサ綺晶達『き……』びくびく
雪華綺晶「そうですか。それは災難でしたわね」
ブサ綺晶達『ききぃ』おどおど
雪華綺晶「カワイソウに……こんなに震えて。大丈夫、もう怖いことはありませんわ」
ブサ綺晶達『……きき?』
雪華綺晶「今日はもうお休みなさい。また働いてもらう日が来る……きっと来る」
翠雛残酷クッキング・ブサ綺晶の天ぷら 『完』
乙
ブログもいつも楽しく見させてもらってる
486 :
創る名無しに見る名無し:2012/01/23(月) 22:50:10.71 ID:UJHiGZsd
乙ー
ブサ綺晶もはやレギュラーだなw
『水銀燈、ブサ綺晶に嫉妬する。』
§柿崎めぐの部屋
めぐ「はい、あ~ん」
ブサ綺晶「き~っ! きき」もぐもぐ
めぐ「どう? 美味しい?」
ブサ綺晶「きっ!」こくこく
めぐ「そう! 良かったぁ! まだまだあるからね」
ブサ綺晶「ききき」もしゃもしゃ
水銀燈「……」むすっ
めぐ「? どうしたの水銀燈? 眉間にしわ寄ってるわよ」
水銀燈「……」
めぐ「あ! 分かったぁ! 水銀燈もおなか減ってるのね? はい、ア~ン」
水銀燈「ふざけないで」
めぐ「もう~! じゃ、何が気にいらないのよ?」
水銀燈「こいつよ」
めぐ「こいつ……? ブサちゃんのこと?」
水銀燈「他に何がある。こいつをいつまで飼っているつもり?」
めぐ「いつまで……て、いつまでもよ。だって折角パパがプレゼントしてくれたんだし」
水銀燈「なぁにが『パパ』よ! しらじらしい。
そんな末妹の置き土産、とっとと捨ててしまいなさい」
めぐ「えぇ~? 水銀燈ひど~い! こんな可愛くていたいけな人形を捨てろだなんて!
それでも、あなた同じ人形なの?」
ブサ綺晶「きき~っ!」
水銀燈「……こんな不細工なチンチクリンと一緒にされたくないわね」
めぐ「あのねぇ、これはブサ可愛いっていうの!
クラスのみんなも持ってるのよ、ジュン君や委員長(柏葉巴)以外は」
水銀燈「それって全員、末妹に糸つけられた奴らでしょうが!」
めぐ「やぁだ、も~! 水銀燈おばちゃんったら怒ってばっかりで怖~い。
ねぇ~? ブサちゃん?」
ブサ綺晶「ききき」
水銀燈「おば……っ!?」
めぐ「だってそうでしょ? ブサちゃんは白い悪魔の子供なんだから
水銀燈はおばちゃんってことになるじゃない」
水銀燈「……」
ブサ綺晶「きっ! きっ!」ぴょこぴょこ
めぐ「ほら! ブサちゃんだって水銀燈おばちゃんと仲良くした~いって言ってるわよ」
水銀燈「お生憎。仲良くするバカはもう間に合ってる」
めぐ「それって金糸雀ちゃんのこと? 確かに最近よくつるんでるわね。
でも、こちらこそお生憎様! ブサちゃんはバカじゃない。すっごく賢いのよ」
水銀燈「?」
ブサ綺晶「きっ! きき」
水銀燈「どう見ても、この不細工の頭が良いようには思えないんだけど」
めぐ「ふふん、今からこの子の凄さを証明してあげる。いくわよ、ブサちゃん!」
ブサ綺晶「きー!」
水銀燈「……」
めぐ「鍵を英語で言うと!?」
ブサ綺晶「きー(key)」
めぐ「すっごーい! 大正解よ! はい、御褒美のおやつ」さっ
ブサ綺晶「きき!」むしゃむしゃ
めぐ「どう? 賢いでしょ?」
水銀燈「……バッカじゃないの」
めぐ「むむ! だったら第二問! 古事記と日本書紀を総称して何と言う!?」
ブサ綺晶「きき(記紀)」
水銀燈「……」
めぐ「第三問! 魔女の宅急便の主人公の名前は!?」
ブサ綺晶「きき(キキ)」
水銀燈「……」
めぐ「歴史問題もアニメ問題も即答なんてすごーい!
ブサちゃんカッコイー! はいコレ、正解の御褒美のオヤツ」ささっ
ブサ綺晶「きききっ」もしゃもしゃ
めぐ「どう!? 流石の水銀燈でもブサちゃんを認めざるを得ないでしょ!?」
水銀燈「なんか、イヌかアシカのショーでも見ている気分になってきたんだけど……」
めぐ「もう~っ! 水銀燈の天の邪鬼! どうしたらブサちゃんと仲良くしてくれるの?」
水銀燈「だ~か~らっ! そいつと仲良くする気なんて初めから無いって言ってるでしょ!」
めぐ「うっそだ~! 同じような事を昔から言っておきながら
金糸雀ちゃんとはそれなりに仲良くなってるじゃない」
水銀燈「そ、それとこれとは話が違うわよぉ! あんたは末妹の事を甘く見過ぎている!
ブサ綺晶は雪華綺晶の……悪魔の目玉、操り人形なの!」
めぐ「そんなことはみなまで言わなくても分かってる。
それでもブサちゃんはブサちゃん。私の可愛いお人形」
ブサ綺晶「きききっ」
水銀燈「それが分かってないって言うの。いいこと?
ブサ綺晶は普段こそ、こんなノータリンだけど雪華綺晶には絶対服従。
あの末妹が女王アリなら、こいつはただの働きアリ」
めぐ「働きアリの5%前後は実は働いていないって聞いたことあるけど?
このブサちゃんも、きっと悪さを働かないブサ綺晶よ! きっと」
水銀燈「……ちっ、私の例え方が悪かったか」
水銀燈「と・に・か・く! そのブサ綺晶は危険なの!」
めぐ「……危険なことは私にとってマイナス要素にならないのは知ってるでしょ?」
水銀燈「!」
めぐ「むしろ水銀燈の方にこそ、もっと危険になってほしいのに……」
水銀燈「……分かった」
めぐ「?」
水銀燈「そこまで言うのなら危険な水銀燈というものを見せてあげるわよ、めぐ」
めぐ「え!? 本当?」
水銀燈「ブサ綺晶を寄越しなさい」
ブサ綺晶「……!?」びくっ
めぐ「何をする気? ブサちゃん怯えてるわよ」
ブサ綺晶「きき……」
水銀燈「言っても分からない馬鹿には実力行使。
これからあなたの目の前でブサちゃんを砕く。砕いて潰す」
めぐ「!?」
ブサ綺晶「きーっ!?」ずさっ
水銀燈「メイメイ! ブサ綺晶が逃げないように動きを止めて」
メイメイ「!」ひゅぱっ
ブサ綺晶「!?」
メイメイ「……」バチィッ
めぐ「え!? ちょ!? 水銀燈!? 冗談でしょ!?
メイメイまで! 変なバリアーでブサちゃんを縛って何を……っ!?」
水銀燈「私、冗談って嫌いなの」
めぐ「……ッ!」
メイメイ「……」バチチ
ブサ綺晶「きー! ききーっ!」じたばた
めぐ「水銀燈」
水銀燈「何て顔してるのよ、めぐ。これがあんたの望む『危険な私』でしょ?」
めぐ「ち……がう! 違うっ! こんなのは違う!!」
水銀燈「!?」
めぐ「ごめん! メイメイっ!」ボカッ
メイメイ「ッ!?」ドテッ
水銀燈「殴った!? メイメイをっ!?」
ブサ綺晶「……き?」ふらふら
めぐ「逃げてブサちゃん! 殺されちゃう!!」
ブサ綺晶「き! きき!!」フルフル
水銀燈(逃げない?)
ブサ綺晶「……き」ぎゅっ
めぐ「ど、どうして? 私にしがみついたまま……?」
水銀燈「なるほど。めぐにしがみついていれば私が手を出せないと考えた」
めぐ「!」
水銀燈「赤ん坊の考えそうな浅知恵よね。でもブサ綺晶だけをはがすことぐらい
私の力量ならなんてことはない……」
珍しく出出しからシリアス路線
めぐ「それはおかしいんじゃない、水銀燈?」
水銀燈「……めぐ? おかしい? 何が?」
めぐ「そうよ! さっきからおかしい! なんでブサちゃんを殺すの?
あなたが殺すのは私のはずでしょ?」
水銀燈「……」
めぐ「どうして私よりも先にこの子を殺すの!? どうせなら一緒にやればいいじゃない!」
水銀燈「!」
めぐ「どうしてよ? どうして私の事はいつも後回しに……っ!」
水銀燈「後回しだなんて、そんな……」
ブサ綺晶「き? ききき……」そっ
めぐ「……大丈夫よ、ブサちゃん。私なら大丈夫。大きな声出してゴメンね」
水銀燈「めぐ」
めぐ「水銀燈もゴメンね。私、自分の事ばっかりで
水銀燈の事、何にも考えてあげられなくて……だから」グイッ
ブサ綺晶「き?」
めぐ「この子、水銀燈が殺してもいいよ」
ブサ綺晶「!」
水銀燈「ッ!? ……何だって言うの、急に」
めぐ「聞き分けのいい子は嫌い? 水銀燈」
水銀燈「……」
§草笛みつの家
金糸雀「……で、いたたまれなくなって
ブサ綺晶に触れもせずにカナの所に泣きついてきたと……。
あ、水銀燈!? ダッシュ板の上にバナナ置くなんて卑怯かしら!」ピコピコ
水銀燈「ち、違うわよぉ! 誰も泣きついてなんかいないでしょ!
あと、私のジャンプ中にサンダー使った奴に卑怯とは言われたくない!」ピコピコ
金糸雀「けどまあ、水銀燈の言いたいことも分かるわ」
水銀燈「でしょでしょ? いくらなんでもブサ綺晶に気を許しすぎなのよ!」
金糸雀「不細工な顔をしながら可愛らしい仕草……
そのギャップにみんなトリコにされているかしら。ビッグジュンも後生大事に持ってたし」
水銀燈「そう! いかにも自分はか弱い人形ですってアピールして
人間にすり寄る態度に虫唾が走って仕方がない! なんであんなのが人気あるのよ」
みつ「は~い、お待たせ! オレンジカルピス淹れてきたわよ」かちゃかちゃ
金糸雀「ありがとかしら、みっちゃん。今、三周目だからもうすぐ終わるかしら!」ピコピコ
水銀燈「……」ピコピコ
みつ「話は聞こえていたわ。元から情緒不安定なところに白薔薇の介入もあったとはいえ
銀ちゃんに寂しい思いさせるなんて、めぐめぐも罪な子ね」
水銀燈「寂しくなんかないってば」←マリカ1着
金糸雀「まぁたまた強がっちゃって……」←マリカ2着
みつ「銀ちゃんさえ良ければ、カナと一緒にうちの子に」
水銀燈「断る」
みつ「即答!?」
金糸雀「なんだかんだ言って、水銀燈は今のマスターが好きなのかしら」
みつ「しょうがない。それじゃ、めぐめぐの愛情奪還作戦を打ち立てなくちゃいけないわね」
水銀燈「愛情奪還~~? そんな、なさけない真似……っ!!」
金糸雀「妹達相手に、ガチでお父様の愛情独り占めしようとするアリスゲームを
バカスカ仕掛けておいて今さら、なさけないも何もないかしら水銀燈」
水銀燈「う……」
みつ「ゆっきーちゃんにまたマスターを取られてもいいの?」
水銀燈「うう……」
みつ「そういうわけで早速、作戦ターイム!」
金糸雀「いえーい」
水銀燈「楽しそうねぇ……あんたら」
金糸雀「勿論かしら! だってお姉ちゃんがカナに縋ってきたんだもの!
頼れる次女の見せどころかしら~っ!」
水銀燈「はいはい。そういうことにしてあげるわよ」
みつ「では、草笛みつがプロデュースするモテカワスリム人形の愛され体質改善計画第一弾!」
水銀燈「怪しい女性誌の広告みたいなタイトル勝手につけないでよ」
みつ「プレゼントで気になるあの人の関心ゲット!
マニアックな贈り物で違いの分かるワタシをアピールしちゃえ☆」
金糸雀「言い方はふざけているけど、プレゼント作戦は王道かしら」
水銀燈「ぷれぜんとぉ~? そんなのであの子が喜ぶわけ……」
みつ「ホモが嫌いな女子なんていないのと同様に、プレゼントが嫌いな女子もいない」
水銀燈「何故、英語の構文みたいな口調」
金糸雀「ツッコむべき点はそっちじゃないかしら水銀燈」
みつ「先ずは花でも贈ってあげたら?」
水銀燈「……それ、以前にやろうとしたでしょ?」
金糸雀「しかも、水銀燈から言いだした話だったかしら」
みつ「え? 嘘? そんなことあったっけ……?」
水銀燈「早くもボケが始まったようね。まあ、いいってことよ。
人は老いを楽しむこともできる生き物だし」
みつ「ちょ、ちょっと! ただのド忘れだから! 変にスケール大きいまとめ方しないで!」
水銀燈「その時も言ったかもしれないけど、めぐは花束が基本的に嫌いなの」
みつ「ああ、うんうん! そう、そうだった! 花束を『花の阿部定事件』とか言ったんでしょ?」
金糸雀「水銀燈のマスターの例えツッコミは阿部定じゃなくて『花の生首』かしら」
水銀燈「花は生殖器官だから、生首よりアベサダのほうがあってるっちゃあってるけどね。
て言うかやっぱり金糸雀のマスター、ボケが始まってんじゃないの」
金糸雀「蒼星石のところより先に
マスターの脳軟化人生が始まるとは思ってもみなかったかしら」
みつ「ちょ!? ちょっと! カナまで……!?
ナマクビとカリクビ間違えただけのかわいらしいミスじゃない!」
金糸雀「どっちにしろ、うら若い女性がやるミステイクじゃないかしら」
みつ「そ、それにね! 贈るのはただの花じゃなくて、マニアックな花にするの!」
水銀燈「例えば?」
みつ「野薔薇! 薔薇っぽくない清貧な姿、けれども漂う気品! 一部の好事家に今、大人気」
水銀燈「却下」
みつ「な、なんで!?」
水銀燈「野薔薇は私も知ってるけど、わりとフツーの白い花。めぐにそれを贈ったところで
『名前負けしている可哀想な薔薇』呼ばわりされるのがオチよ」
金糸雀「確かに言いそうかしら。じゃあ、いっそのことダンシングフラワーとか?」
みつ「ある意味マニアックだけど」
水銀燈「玩具系はブサ綺晶に渡される可能性がある」
金糸雀「むむむ……」
みつ「蒼星石くんに頼んで『ヒトモドキ』をめぐめぐのパパに寄生させてプレゼントしたら?」
金糸雀「幽白の飛影の真似かしら。でも、それで躯の超絶ヒスも治まったから
水銀燈のマスターにも有効かも……かしら」
水銀燈「いくら蒼星石でもそんな都合良い植物をホイホイ持ってるわけないでしょうが」
金糸雀「この間、nのフィールドで戸愚呂兄と一緒の邪念樹を捕まえたとも自慢してたから
ヒトモドキもきっと持っているはずかしら」
水銀燈「嘘に決まってんでしょ、その自慢」
金糸雀「!?」
水銀燈「蒼星石の嘘に騙されるのは翠星石だけだと思ってた……」
みつ「植物系は厳しいわね。それじゃ、食べ物はどう? 流行りのスイーツとか!」
めぐめぐも今は食事を普通に摂るんでしょ?」
水銀燈「まあ、それなりにね。薄味のじゃないとすぐゲロるから、あんまり甘いのは……」
金糸雀「そう言えばこの間、翠星石達がブサ綺晶の小さいのを天ぷらにして食べたそうかしら」
水銀燈「は?」
みつ「それこそ嘘じゃないの……?」
金糸雀「いやいや、携帯の写メでばっちり食事シーンを送ってきたから今度はマジかしら」
みつ「けど、天ぷらなんてスイーツとは対極……」
金糸雀「いやいや、アイスクリームの天ぷらとかもあるかしら、みっちゃん」
みつ「そう言われれば、そんなのもあったわね」
水銀燈「……あのブサ綺晶を天ぷらにしてやったら、めぐがどんな顔するかは興味ある」
みつ「あら、銀ちゃんドS。アステュアゲス級よ」
水銀燈「それができたら苦労はしないんだけどね」
キメェwwwwww
金糸雀「う~む、ブサ綺晶にあげられちゃう可能性があるなら
物を贈るのはやめた方がいいんじゃないかしら」
みつ「だったら、肩たたき券みたいに銀ちゃんがめぐめぐのために
何でもしてあげる約束カードってのを作ってあげたら?」
水銀燈「『私を殺して』て書かれるからダメ。あの子、病院の七夕の短冊でも同じこと書いて
それに医師たちが誰も気付かない内に地元のケーブルテレビが七夕特集取材に来て
うっかり画面の隅に『殺して短冊』が映っちゃって、騒ぎになったことがある」
みつ「あ、当時のニュースでちょっと話題になってた。有栖川病院内の闇だとか患者虐待だとか
コメンテーターが変な解説入れてたけど、やっぱりめぐめぐの仕業だったのね」
金糸雀「水銀燈のマスターの困ったちゃん度数も相当かしら」
みつ「第一希望の自殺願望は置いとくとして、第二希望ぐらいを書いてもらったら?」
水銀燈「第二希望~? ……なんかパッとしないわねぇ」
金糸雀「まあまあ、人生で叶えられる夢は第二~三希望あたりが普通かしら。
第五~六希望以下ですら通らない人も沢山いるかしら」
水銀燈「……ここだけの話。私もめぐが自殺以外にしたいことないのか
こっそり探ってみたことがあるのよ」
みつ「へぇ~、どうやって?」
水銀燈「朝方、めぐが寝ぼけている時に、病院のシーツ被って天使のフリして聞いてみたの」
金糸雀「ほうほう、水銀燈も演技派かしら」
~回想シーンここから~
めぐ「……?」ぽけ~
水銀燈「どうも~! 天使でぇ~っす。あなたはは9767251人の中から厳選な抽選にて
選ばれた幸運な人です。今なら特別にあなたの願いを叶えちゃいますよ~」
めぐ「天使なら間にあってます。今、眠いんで帰って……」むにゃむにゃ
水銀燈「ちょ、ちょっと待って! 寝ないで! もう少し頑張って!
おたくのとこの天使! あれモグリですから!」
めぐ「……そう言えば、私を殺してって言ってるのにゼンゼン叶えてくれない」
水銀燈「でしょ? あれダメ! 天使のフリしたタダ飯ぐらい。
私ホンモノ! 何でも叶えちゃうアルよ」
めぐ「……何だかうさんくさいなぁ。まぁいっか、天使には違いないみたいだし。
じゃ、あなたが私を殺してくれるの? 天使さん」
水銀燈「天使的に人殺しはNGなんで、それ以外でヨロシク」
めぐ「うーん……、それ以外で……?」
水銀燈「……」
めぐ「……」
水銀燈「……」
めぐ「……zzZ」
水銀燈「寝ないでーっ! こんな神様の失投レベルの大チャンスもう二度とないわよ!」
めぐ「でも、死なせてくれないんだったら意味ないし……」
水銀燈「死にたい以外に何かやりたいことぐらいあるでしょ」
めぐ「……あ、そうだ」
水銀燈「? 何か思いついた!?」
野薔薇でググってみた
たしかにバラに較べると地味っぽい
めぐ「足元の布団が少しめくれて隙間風が入ってちょっと寒いの。
体起こして布団を直すのも億劫だから、天使さんが整えてくれない?」
水銀燈「……え? 布団を?」
めぐ「うん。それが私の人生の第二希望。よろしく……zzZ」
水銀燈「は……い……。分かりました」
めぐ「それに……やっぱり殺してもらうのは
私が大好きな水銀燈じゃないと……ダメだ……から……zZZ」
水銀燈「めぐ……」
~回想シーンここまで~
金糸雀「今の話ナニ? 笑いどころもオチも全然無いし。ただのノロケかしら?」
水銀燈「ち、違うわよ! 要はめぐの希望は『死にたい』以外に無いってことなの!
あと、他人の思い出話にいちいち面白さを追及しないで!」
みつ「めぐめぐも筋金入りのメンヘラぶりね」
金糸雀「けれども結局、水銀燈のマスターも心の奥底では
水銀燈の事を一番だと思っているってことじゃないのかしら?」
水銀燈「今のはブサ綺晶が来る前の入院時代の話」
みつ「うーん、そう簡単に心変わりするような子には見えないんだけど
なにしろ、素地が情緒不安定だからねぇ……」
金糸雀「……何かをしてあげる作戦も無駄っぽいかしら?」
みつ「そうね、じゃあ逆転の発想で何かをしてもらうってのは?」
水銀燈「は? してもらう……? 私の方が?」
金糸雀「思い切ってマスターに甘えちゃったらいいのかしら!」
水銀燈「ばっ、バカ言ってんじゃないわよぉ! そんな歯の浮くような真似!」
みつ「そもそも銀ちゃんは触れるものみな傷つける
尖ったナイフだからいけないのよ。たまには丸くならなきゃ」
水銀燈「ナイフは人を傷つける道具よ。それが丸くなったらただのジャンク」
金糸雀「だから、そういう憎まれ口がダメかしら。
カナみたいに愛しさと切なさと素直さを兼ね備えなくちゃ!
そうすれば、マスターから溺愛されること間違いなしかしら~!」
みつ「そうそう! さっすがカナ! いいこと言うっ!」スリスリスリ
金糸雀「ほぁあああっー! 久方ぶりのまさちゅーせっちゅかしらーーっ!?」
水銀燈「あんたの金糸雀に対する異常な愛情は私も認めるところだけど」
みつ「?」ぴたっ
水銀燈「聞いていい? こいつのどこがそんなにいいわけ?」
金糸雀「そんなの決まってるかしら! クレバーでビューティなレディ・カナの
一挙手一投足の全てが、みっちゃんのハートを掴んで離さないのかしら~」
水銀燈「金糸雀にじゃなくて人間に聞いているの」
みつ「そりゃあ、もちろん可愛いからよ! よく言うでしょ!? バカな子ほど可愛いって!
カナって賢いフリしながら凄いおバカなんだもん! もう目が離せないわ!」
金糸雀「……え?」
みつ「仕事に行っても、買い物に行っても、いつもカナのこと考えちゃう!
また、麦茶と間違えて麺ツユを一気飲みしたりしていないかだとか
地デジのチャンネル数が多過ぎて、目当ての番組に合わせられずに
泣いていないかだとか……心配で心配で」
水銀燈「……」
金糸雀「み、みっちゃん……?」
みつ「ほら見て、このポット! カナがお湯出そうとしてスイッチ押すと
会社の私のケータイにメールでお知らせが来るの!
家にいるカナの無事が分かるように……て、密かに導入したのよ!」
金糸雀「このおニューのポットにそんな機能が!?」
水銀燈「これって実家の年老いた親に対して使うシルバーグッズじゃない」
みつ「何をしていてもカナのことが気にかかる。この気持ち、まさしく愛よ!」
金糸雀「……嬉しいようで嬉しくないかしら」
水銀燈「はぁ……、聞いた私がお馬鹿さんだったわ」
みつ「それよ! 銀ちゃん!」
水銀燈「?」
みつ「銀ちゃんも、もっとバカになるの!
めぐめぐに私が付いていなきゃダメって思わせなきゃ!」
水銀燈「私に金糸雀やブサ綺晶みたいになれと? 冗談! 死んでもゴメンよ」
金糸雀「カナだって好きでバカやってるわけじゃないのかしら……」
水銀燈「……時間の無駄だったようね。これ(オレンジカルピス)飲んだら帰るわ」ずず~っ
みつ「ええ~!? もう帰っちゃうのぉ!?」
水銀燈「……」バリボリ
金糸雀「あ、残った氷まで食べてる。マジで帰る気マンマンかしら」
水銀燈「じゃあね」そそくさ
みつ「あらら、帰っちゃった。何の解決策も出てないのに……」
金糸雀「現状維持。保留が最善ってことかしら」
みつ「そうなの?」
金糸雀「雪華綺晶がブサ綺晶を自身のアンテナとして使い続ける限り
逆に考えればブサ綺晶を雪華綺晶探知機として利用することもできる」
みつ「……」
金糸雀「水銀燈レベルの操作系能力があれば
逆にブサ綺晶を自分の支配下に置くことも可能かもしれない。
そうすればブサ綺晶の二重スパイ的な用途も考えられるかしら」
みつ「どうしたのカナ? 急に難しいこと言いだして?
変な物でも拾い食いした? お腹痛いの?」
金糸雀「……」
§柿崎めぐの部屋
めぐ「ほぉら、ブサちゃん! こっちこっち~」
ブサ綺晶「きき~っ」よろよろ
めぐ「はい! あんよが上手! あんよが上手」
ブサ綺晶「きっ! きっ!」とてて
水銀燈「……何が『あんよ』よ。最初っから普通に歩けるくせに」すたっ
めぐ「あら? 水銀燈、帰ってきたの? ちょうど良かった! ブサちゃんと一緒に遊ばない?」
水銀燈「……」
めぐ「?」
水銀燈「ええと、そのブサ綺晶の処遇の件だけど……」
めぐ「殺したいんなら好きに殺していいわよ。
でも私も……その後でいいから、ちゃんと殺してね」
ブサ綺晶「……き」
水銀燈「ブサ綺晶もめぐも今は殺さない……殺せない」
めぐ「そう、やっぱりね」
水銀燈「?」
めぐ「水銀燈って天の邪鬼だから、こう言うとブサちゃんに手を出せないと思ったの。
そしてまんまと私の演技に騙されて飛び出ていった」
水銀燈「……あれが演技、ね。ま、いいわ。確かに私が少しバカだった」
めぐ「水銀燈……」
水銀燈「……」
めぐ「……?」
水銀燈「あの……めぐ、聞いてほしいことがあるんだけど」
めぐ「いいわよ。何、水銀燈?」
水銀燈「九九の七の段って、む、難しいわよねぇ~……」
めぐ「は?」
ブサ綺晶「?」
水銀燈「……」
めぐ「えぇと、水銀燈……大丈夫? 何か変な物でも拾い食いした?」
ブサ綺晶「ききぃ?」
水銀燈「……大丈夫。ちょっと、いろいろと間違えただけ」
水銀燈、ブサ綺晶に嫉妬する。 『完』
乙
やっぱ好きだわ
540 :
創る名無しに見る名無し:2012/01/30(月) 23:07:19.75 ID:eO2vgXwh
乙
みっちゃんにはカナの賢そうでバカな所だけじゃなくて
バカそうで賢い所も知って欲しいなあ
541 :
1:2012/01/31(火) 18:53:48.39 ID:E6INiAzD
見てくれて感謝です。
カナもいつかは報われるはず、きっと。
『桜田ジュン、通販の型にはめられる。』
真紅「そこで私はサラに向かってこう言ってやったのだわ。
『カイルなら顔にピーナッツバター塗りたくって寝てるよ』ってね」
翠星石「HAHAHA! そいつぁ傑作ですぅ!」
雛苺「お腹が! お腹がよじれるの~!」
ジュン「……おい」
真紅「何? ジュン?」
ジュン「毎度毎度のことだが、雑談するなら僕の部屋でなくリビングでやれ。
今、勉強中なんだから邪魔しないでほしい」
翠星石「周りが静かでないと勉強できないなんて言う奴は三流ですぅ。それも寒い三流です」
真紅「そうそう。心頭滅却すれば何とやらよ」
ジュン「……まったく、あー言えばこー言う」
雛苺「お買い物は西友」
蒼星石「こんにちはー」ガチャッ
ジュン「ッ!? 蒼星石!?」
翠星石「お、ようやく来たですぅ! 待ってたですよ」
ジュン「?」
真紅「与太話もこれまでね。早速、今日の実験に取り掛かるのだわ」
ジュン「実験?」
雛苺「蒼星石ぃ~、例の物は?」
蒼星石「ああ、うん。ちゃんと持って来たよ」ゴソゴソ
ジュン「なんだなんだ? 何が始まるんだ?」
蒼星石「並行世界拡散観測通販装置ぃ~」テレレテッテレー
翠星石「おー」
真紅「これが……」
ジュン「ヘイコウ……なんだって?」
蒼星石「並行世界拡散観測通販装置。略して『へぇくさっ装置』」
ジュン「随分と御大層な名前だな。僕にはただのノートパソコンに見えるんだが」
真紅「世界樹が無数に枝分かれしているように、世界はいくつも重なりあっている。
その一つがビッグジュンの巻かなかった世界ということは知ってるでしょ?」
ジュン「ん、ああ、そうだったな。けどそれとこのノーパソに何の関係が……?」
真紅「並行世界は勿論それ以外にもたくさんある。
これはその多くの並行世界の情報を検索できる演算機よ」
ジュン「マジでか!? 何かよく分からんが凄い。どうやって手に入れたんだ?」
蒼星石「槐先生に鞭打って作らせたんだよ」
ジュン「あのオッサン、本当に何でも作るな」
翠星石「ローゼンメイデン以外のものなら大抵は作れるみたいです」
雛苺「ね! ね! 真紅! 早く早く! 早く動かそうよ~」
真紅「落ち着きなさい雛苺」
蒼星石「そうそう。この演算機はまだ試作品だ。あまり使い過ぎると壊れる」
翠星石「ちゃんと使い道を頭にたたき込んでから素早く使うですぅ」
真紅「やることは以前、示し合わせた通りよ。何を検索するかは分かっているわね」
ジュン「? 何を調べるんだ?」
雛苺「あなざージュンなの!」
ジュン「アナザー……ジュン? ジュンて事は……ひょっとして?」
蒼星石「そう。大きいジュン君に代表される
数多くの並行世界のジュン君達の情報をこれから検索するつもりなんだ」
ジュン「え!? な、なんで!?」
真紅「これは最近、繰り返し言ってる事かもしれないんだけど
私達のエネルギー問題がマジで枯死する5秒前。いわゆるMK5なの」
ジュン「まったくもって真紅の言ってる意味が僕に伝わってきません」
翠星石「要するに、チビ人間一人に対して
ローゼンメイデンが二体も三体もたかっている現状はヤベーってことですぅ」
蒼星石「タコ足配線みたいなものだからね」
雛苺「いつジュンから発火するかも分からないのよ!」
真紅「マスターの体力のキャパが高ければ問題ないんだけど……」
ジュン「……」
翠星石「チビ人間ではねぇ……。正直、真紅一人だけでもジリ貧ですぅ」
真紅「普段のジュンからの絆パワーじゃ私の真の実力の20%も出せていない。
ストレスなのだわ、これは」
雛苺「真紅がフルパワーになったら、スカイツリーでも3分で平らにできるの!」
ジュン「マジで!?」
蒼星石「冗談はさておき、ジュン君の負担が大きいのは事実」
翠星石「そこで優しい優しい翠星石達が
チビ人間だけにエネルギー依存することのないようにするため……」
真紅「この並行世界拡散観測通販装置で
第2、第3のジュンを検索して、あわよくば発注しようと言うわけ」
ジュン「発注~~!?」
蒼星石「楽天市場的なノリで、各並行世界のジュン君を検索。
うまく交信できれば、それら違う世界のジュン君を
大きいジュン君のようにこの世界に召喚できるってわけさ」
ジュン「えええ~? 本気でそんなことするつもり!? ぼ、僕は一人で充分だろ!」
真紅「できればマスターとして優れた資質を備えたジュンをたくさん呼びこんで
バトルロワイアルさせて、生き残った最優秀ジュンを私のマスターにしたいのだわ」
雛苺「ジュンゲームなのよね」
ジュン「お前らの発想て、基本的にアリスゲーム準拠だよな」
真紅「ではでは早速、装置の電源をONにして……と」
装置『フィイイン……』
真紅「楽天市場ならぬ桜田ジュン市場にアクセス」カタカタ
翠星石「おお……! チビ人間の画像がたくさん並んでいるですぅ……!」
蒼星石「まずは比較対象として、僕達の基本世界のジュン君を選択しよう」
真紅「ええ。このジュンのパワーを10と設定して
他の世界のジュンをざっと検索していくのだわ」カタカタ
翠星石「気になるチビ人間がいたら、さらに詳しい情報を表示させるですぅ」
ジュン「何か頭が痛くなってきた……色んな意味で」
蒼星石「先ずは試しに、巻かなかった世界のマスター……大きいジュン君はどう?」
真紅「……どれどれ」カタカタ
雛苺「あ、いたの!」
翠星石「総合評価……13ポイント?」
真紅「ビミョ~」
ジュン「微妙って言うな! アイツだって頑張ってるんだぞ!」
翠星石「でも大学生ですよデカチビ人間は。
それでありながら今のチューボーのチビ人間の1.3倍ぐらいしかパワーが無いとは」
蒼星石「空白期間がマイナス要素として大きく働いているようだね」
ジュン「う……」
真紅「しょうがないのだわ。現時点ではまだビッグジュンの最終学歴も中卒だし」
翠星石「まあ、こいつは所詮チビ人間達の中でも小物ですぅ。
もっとパワーあふれる大物を探すですよ真紅」
真紅「分かった。じゃあ、どんどん画面をスクロールさせていくわよ」カチカチ
ジュン「……他にどんな僕がいるんだ?」
雛苺「えぇと……11ポイント、13ポイント、8ポイント、10ポイント……」
蒼星石「8、12、7、10……」
真紅「どいつもこいつも代わり映えしないジュンばっかりね」
翠星石「ふぅ……。チビ人間はどの並行世界でもチビ人間ということですか」
ジュン「なんかムカつくな、その言い方」
真紅「と言うか、ここのジュンよりも評価が低いジュンがいることに驚きなのだわ」
ジュン「お前らの中での僕に対する評価ってのは本当に最低ラインなんだな」
蒼星石「あ! 真紅! ちょっと戻って! 彼! この並行世界のジュン君!!」
真紅「ん? 総合評価12ポイント……。大して目立ったジュンじゃないわよ」カチカチ
蒼星石「よく見て! このジュン君、生後11カ月だ!! イレブンマンス!」
翠星石「なんですとー!? まだ0歳じゃねーですか! ちょっと前まで精子ですよ! せーしっ!!」
真紅「0歳児で既にこの基本世界のジュンを上回る総合評価12ポイントだというの!?」
雛苺「赤ちゃんなのに中学生以上の価値があるなんてすごいの!!」
ジュン「な、何がそんなにすごいんだ! この赤ん坊は!?」
真紅「気になる詳細情報は……と」カチカチ
蒼星石「遺伝子操作を受けて生まれたデザインベビー!?」
翠星石「優秀な遺伝子を組み込まれているスーパーマン……ですと!?」
ジュン「すげーな。そんな世界もあるのか……」
雛苺「でも、赤ちゃんだといくら優秀でも体力が無いのよ」
真紅「ダイジョブダイジョブ。人間はあっという間に成長するのだわ。
20年ぐらい私らの下で理想的な下僕として教育すれば、マスターとして超優良株」
ジュン「お前、人権って言葉知ってるか?」
蒼星石「ちょっと変だな……」
真紅「何が?」
蒼星石「これだけ素質が優秀であれば、もっと評価ポイントは高くてもよさそうな気が……」
真紅「そう言えばそうね。何かマイナス要素もあるのかしら……て、これは!?」
翠星石「ゲッ!? 残り寿命の予想が……たったの7年!?」
ジュン「!?」
真紅「無理な遺伝子技術でテロメアがなんとかって書いてるのだわ」
蒼星石「やっぱり、それが差引されて総合12ポイントだったのか……」
ジュン「残り寿命7年て……7歳で死ぬのかよ、この世界の僕は……」
真紅「あまり深く考えない方がいいわよ」
雛苺「気を取り直して検索を続けてなの真紅」
真紅「ええ、分かったのだわ……て、この子! 総合評価27ポイント!?」
翠星石「27ですと!? 今までにない高ポイントですぅ!!」
蒼星石「通常のジュン君の3倍近いね。歳は13……中学生かな。
どんなアナザージュン君なんだろう?」
真紅「ふむふむ……。幼いころ両親と山ではぐれ、その後オオカミに育てられる」
翠星石「たぐいまれな身体能力と野生動物譲りの感性を備えた超人……」
ジュン「野人じゃねーか」
蒼星石「体力面は問題ありませんが、言葉が喋れません……だってさ」
雛苺「むむぅ~。お喋りできないのよ?」
真紅「うーん。それを差し引いても27ポイントという高評価は魅力」
翠星石「取り敢えず買い物カゴに入れておいて保留しとくですぅ」
真紅「そうね」カチッ
ジュン「あああ……、ペットの通販感覚で並行世界の僕が扱われていく」
雛苺「うにゅ!? 見て真紅! これ、ここ! 69ポイントなの!!」
真紅「マジで!? さっきのワイルドジュンよりも遥かに高評価じゃない!?」
翠星石「ですが見た目は到って普通のチューボーのチビ人間ですよ!」
蒼星石「何がそんなにエネルギッシュなんだ、このアナザージュン君は? 真紅、詳細を」
真紅「分かっているのだわ!」カチカチ
真紅「あ……、このジュンは駄目だわ」
ジュン「え!?」
雛苺「ど、どうしてなの!?」
真紅「ガチホモよ」
翠星石「ガチホモぉ!?」
真紅「水銀燈が以前、自分のマスターを探しまくっている時に行った並行世界で
薔薇乙女ではなく薔薇族がアリスゲームやってる世界が
あったそうなんだけど、その世界のジュンだわ、この子」
ジュン「薔薇族が……アリスゲームを?」
蒼星石「詳細情報にもその旨が記されているね。
もとは基本世界のジュン君と同じ境遇だったけど
ガチホモとの交流で身も心も解放された結果、覚醒したらしい」
雛苺「その結果が69ポイントというスーパーパワーなの?」
ジュン「身も心も解放って、どういうことだよ。おっかねぇ……」
真紅「いくらエネルギーに枯渇している私らでも
汚れたジュンをマスターとして呼び寄せるのはNG」
ジュン「汚れたジュンって言うな」
蒼星石「じゃあ、ジュン君はこの……覚醒ジュン君を呼び寄せてもいいと言うのかい?」
ジュン「そうは言ってない」
翠星石「では結局、このホモチビ人間はスルーですね。例え69ポイントでも」
真紅「そうね。触らぬホモに祟りなしなのだわ」
翠星石「次です次。他のチビ人間をさくさく検索ですぅ」
真紅「あ! これなんてどう? 33ポイントなんだけど」カチカチ
蒼星石「うん? どんなアナザージュン君なんだい」
真紅「ミイラ化したジュンの右腕よ」
ジュン「ッ!? なんじゃそりゃ!!」
真紅「詳細情報によると、このジュンは生前は奇跡を連発した聖人だったそうよ。
触れるだけで水をゲロに変えることも朝飯前だったって」
ジュン「それ、聖人って言えるのか?」
翠星石「朝飯前にゲロだなんて嫌がらせ以外の何物でもねーですよ」
真紅「死して尚その力は衰えないが、遺体はバラバラになり各地に散ってしまい
右腕以外の行方はこの装置でも検索不能」
蒼星石「しかし、右腕だけでも33ポイントのパワーか」
雛苺「すごいミイラなの」
真紅「しかも遺体なら、さらに分割することもできる」
ジュン「へ?」
真紅「二の腕を翠星石、前腕部が私、雛苺には小指ってな感じでね」
翠星石「おおっ! それはグッドアイディアですぅ!
お守りみたいにすれば持ち運びにも超便利ですし」
真紅「マスターが傍に居ないと全力が出せないけど、マスターが近くに居ると
守りながら戦わないといけないという不便も、これで解消されるのだわ」
雛苺「ちょ、ちょっと待ってなの! なんでヒナは小指だけなのぉ!?
親指とか他の指も欲しいのよ!!」
ジュン「と言うか、お前らふざけるのもいい加減にしろよ」
真紅「さしあたって、ミイラジュンも買い物カゴへ保存……と」
ジュン「……」
蒼星石「まだまだ探さないとね。きっと他にも優良ジュン君がいるはずだ」
翠星石「どんどん買うです! どんどん!」
真紅「勿論そのつもりよ。さて、お次はどんなジュンを……」
566 :
創る名無しに見る名無し:2012/02/07(火) 21:40:52.73 ID:LOv8kXFH
小坊の頃のJUMなら
それだけでヒッキーより断然エネルギッシュだと思うが
雛苺「ッ!? ここ! 真紅! ここ! 53万ポイント!!」
蒼星石「53万~~~~~っっ!?」
翠星石「そんなバカな!? チビ苺の見間違えじゃ……!?」
真紅「い、いえ! 確かに53万ポイント……!」
蒼星石「どいうことなんだ!? 何故こんな高ポイント!?」
ジュン「見た目は、僕とほとんど同じだが……?」
真紅「詳細情報! 詳細情報!」カチカチ
翠星石「なになに……『この並行世界のジュンはローゼンの生まれ変わり』?」
真紅「……」
雛苺「……」
蒼星石「流石お父様、だから53万ポイントという高評価なのか」
ジュン「いや、マジで? 僕が……ローゼンの?」
真紅「勘違いしないで頂戴ね。
あくまで、ここに表示されている並行世界では、の話なのだわ」
翠星石「どうするですぅ? このお父様チビ人間を召喚できれば
とんでもないことになりそうですが」
雛苺「うにゅにゅ……」
真紅「話が収拾付かなくなってアリスゲームどころじゃなくなる気がするのだわ。
そもそもガキの喧嘩に親を呼び寄せるのも、ちょっと……」
蒼星石「だね」
翠星石「むむむ、惜しい商品ですがこれもスルー……ですか」
真紅「ええ、仕方ないのだわ」カチカチ
蒼星石「あ、真紅! これは?」
真紅「……総合評価1ポイント? ダメダメじゃない」
蒼星石「今までの中でもぶっちぎりでダメすぎて逆に気になる」
翠星石「どうせ生まれたばかりの素の赤ん坊じゃねーですか?」
蒼星石「いや、このアナザージュン君は成人、しかも中年だ」
ジュン「な、何がそんなに駄目なんだ? この世界の僕は?」
雛苺「……基本的には巻かなかった世界のジュンの一人だって書いてあるのよ」
真紅「大検にも受からず、日雇いで生きながらえるも
きつい肉体労働ばかりで、唯一の財産の身体も最近は不調気味」
蒼星石「住所不定、定職無し、友人ゼロ、素人童貞……
家族からは随分と前から既に死んだ人間として扱われ
姉の結婚式にも呼ばれていない」
ジュン「お、おおう……」ぷるぷる
翠星石「引きこもったことを死ぬほど後悔しながら生き続けているが
そろそろマジで死ぬかもしれない……だそうです」
ジュン「こ、これが僕の未来の姿の一つ……!?」
雛苺「復学できて本当に良かったのよね、ジュン」
真紅「いやはや、何かの冗談かと思いきや
まったく笑えないレベルの底辺ジュンだったのだわ」
ジュン「……僕も……一歩間違えれば……こうなって……」ぶつぶつ
翠星石「深く考えない方がいいですよチビ人間」
蒼星石「あ、でも何か検索結果の後の方に表示されるアナザージュン君ほど
そういう洒落にならないレベルのダメ人間が多いみたい。
総合ポイント3以下の人生終わりかけのジュン君がゴロゴロ並んできた」
真紅「人気薄のジュンほど後ろに表示されるようね」
雛苺「ホモのジュンでも、それなりに人気あったの~」
翠星石「総合評価69ポイントは伊達じゃねーですね」
真紅「あー……ついに0ポイントのアナザージュン達ばっかりになってきたのだわ」
ジュン「まだ下があるのか?」
蒼星石「いや、0ポイントのジュン君達は……故人だ」
ジュン「死んでるの!?」
翠星石「流石に故人は呼べねーですね。さっきのミイラが特例なだけで」
真紅「死因も簡単に書かれているみたいだけど、念のため見てみる?」カチカチ
ジュン「……い、一応」
蒼星石「寿命、自殺、栄養失調、自殺、事故、寿命、寿命……」
翠星石「ドールに命を吸われ過ぎて死亡、血管針攻撃を受けて死亡……」
雛苺「寿命、拾ったデスノートにうっかり自分の名前を書いて死亡、事故、寿命……」
真紅「自殺、自殺、遠投の腕輪をつけたまま合成の壺を投げてしまいショック死……」
翠星石「凍死、寿命、事故、娘の婚約者の代わりに隕石を爆破して死亡……」
蒼星石「寿命、病死、自爆、自殺、刑死、スト様に波紋流されて死亡……」
雛苺「痴情のもつれで女に刺されて死亡、寿命、病死、自爆……」
真紅「動物園から逃げ出したコブラを捕まえて賞金ゲットしようとして逆に噛まれて死亡……」
蒼星石「弓と矢に射られるもスタンド能力の才能が無くて死亡……」
翠星石「水銀燈とファーストコンタクト時の羽根攻撃がメガネと目玉を貫通して死亡……」
ジュン「……」
真紅「ロクな死に方してないわねジュン」
翠星石「寿命で死亡が多いのはいいとして、ちょいちょい自殺が目立つのも切ねぇですぅ」
ジュン「いろいろとツッコみたい点は多いが、個人的には自爆が気になるな」
翠星石「し、しかし! こいつはマズイですよ真紅! こんだけ検索して
買い物カゴにはワイルドチビ人間とミイラの右腕だけですぅ!」
雛苺「まさかここまでジュンの粒が揃っていないとは思わなかったのよ」
蒼星石「マスター(大きいジュン君)って意外とイケてたんだね」
真紅「どうしましょう……さっきのガチホモジュンも取り敢えずカゴに入れちゃう?」
蒼星石「それはやっぱりやめといた方がいいんじゃないかな」
真紅「そうよね。変な病気とか持ち込まれても嫌だし」
雛苺「うぃ!」
ジュン「お前らホモに厳しいな」
真紅「じゃあ、しょうがない。変な性癖とか持ってない素直でフツーのジュンで
お手軽かつ安上がりなのをたくさん取り寄せてジュンゲームをさせることにするのだわ」
翠星石「まとめ買いでお得ってやつですね」
蒼星石「小学生時代のアナザージュン君達とかいいんじゃない?
変にひねくれてもいないし、経歴に傷も付いていないから
軒並み10ちょっとぐらいの評価が多いみたいだし」
ジュン「だから僕を熱帯魚の通販感覚で扱うなと言うのに」
装置『ブツッーーーン』
真紅「え? あ、あれ?」カチカチ
蒼星石「っ!? 画面が暗転……落ちた? まさか……!?」
ジュン「壊れたみたいだな」
真紅「そ、そんな!? まだ何も発注できてないのだわ!!」カチカチッ
翠星石「ちっ! こんなジャンクを寄越すとは槐も意外と役に立たなねぇヤローです」
雛苺「でも、いろんなジュンを知ることができてヒナは楽しかったのよ!」
真紅「ちょっと待ちなさい雛苺! 〆のセリフを吐くのは早すぎる」カチカチ
ジュン「あきらめろって真紅。大体、さっきから『買う』『買う』って代金はどうするつもりだったんだ」
真紅「そ、それは……その……」
ジュン「しかし、僕もなんだかんだで勉強になった……かな。
頑張らなくちゃっていう……やる気が湧いてきたよ」
蒼星石「その言葉が聞けただけでも槐先生に鞭をビシバシくれてやった甲斐はあった」
真紅「だから蒼星石まで話をまとめに入らないで!
電源のONとOFFを繰り返せばその内……もう少しだけ」カチカチ
翠星石「往生際悪過ぎですよ、昔のゲームボーイってわけじゃねーんですから」
真紅「ならば、! この技を受けて画面が映らないテレビは無いと
言い伝えられている伝家の宝刀! 真紅ちゃんチョップ!!」ズバッ
装置『……』バッコーン
蒼星石「あ」
翠星石「あ」
雛苺「機械が真っ二つになったの」
装置『……』ぷすぷすぷす
真紅「……」
ジュン「加減しろ莫迦。精密機械だぞ」
真紅「てへっ」
ジュン「可愛くねーよ」
桜田ジュン、通販の型にはめられる。 『終』
577 :
創る名無しに見る名無し:2012/02/07(火) 22:11:56.85 ID:LOv8kXFH
乙
一見コメディ一辺倒だったが
JUMの今後に与えた影響は計り知れない
乙
実行されていたらいともたやすく行われるえげつない買物行為
乙ー
ところどころどんな人生を歩んだんだって死因があるな
てかヤマジュンゲイメンのジュンってそんな素質高いのかよwwww
いつも乙
ホモジュンの%が卑猥すぎるwww
581 :
1:2012/02/08(水) 18:49:43.13 ID:y8Vuz4Tw
見てくれてありがとう
ホモジュンも元々は10だったけどホモセックスを重ねた結果
刃牙SAGA的なノリで69にまでパワーアップ
【ユニコーンは桜田ジュンが好き】
§ある日の夕刻・ドールショップ槐
金糸雀「ちょっとお邪魔するかしら~」カランコローン
槐「いらっしゃいませー……て、何だ金糸雀か。薔薇水晶ならいないよ。
近所のスーパーのタイムセールに今日の夕飯の材料を買いに行ってる」
金糸雀「何だとは何かしら! それでも商売人? 今日のカナはお客様かしら」
槐「おっと、それは失礼した。で、何をお探しかな?」
金糸雀「一角獣(ユニコーン)の尻尾の毛かしら」
槐「ユニコーン……? なんでまたそんな?」
金糸雀「詮索はしない方が身のためかしら。それより、ユニコーンの毛はあるの? ないの?」
槐「残念ながら、無い」
金糸雀「……!」
薔薇水晶「ただいま戻りました」カランコローン
槐「お! 早かったね」
金糸雀「こんばんはかしら薔薇水晶」
薔薇水晶「あら、これは久しぶりですね金糸雀。何か私に御用でも?」
槐「いや、ユニコーンの毛を探しているらしい」
薔薇水晶「ユニコーンの……? 何故です?」
金糸雀「な、なんでだっていいじゃないかしら。
無いのなら仕方ないかしら。それじゃ、カナはこれで……」そそくさ
槐「……少し待て金糸雀、君ひょっとしてバイオリンの弓を壊したのか?」
金糸雀「ッッ!?」ドキィッ
金糸雀「……」
槐「やはり、そうか」
薔薇水晶「? どういうことです? バイオリン?」
槐「バイオリンの弓には通常、蒙古馬の毛が用いられるが
ローゼンはユニコーンの毛を使っていた」
薔薇水晶「なるほど。それを金糸雀が……」
金糸雀「ちょ、ちょっと待つかしら! 勝手な憶測で物を語らないでほしいかしら!」
槐「じゃあ他に、ユニコーンの毛を君が欲しがる理由があるのか?」
金糸雀「そ、それは……」
ピチカート「……!」ささっ
金糸雀「あ!? ピチカート? 何を?」
薔薇水晶「?」
ピチカート「……」ひそひそ
槐「なになに? 背中が痒いからと孫の手代わりに使っていたら弓の毛が切れた……?」
薔薇水晶「間抜けにも程がありますね」
金糸雀「ちょ! ちょっとピチカート! 何を勝手に暴露してくれちゃってるのかしらっ!?」
ピチカート「! ッッ!」ふよふよ
薔薇水晶「ありのままに起こったことを話しただけだ。
真実を伝えなくては協力も得られない。とピチカートは言っています」
金糸雀「うぐ……」
槐「普段の君からしたら、今さら隠す恥でもないだろう。この程度」
金糸雀「うう……」
薔薇水晶「うちにも在庫が無いユニコーンの毛、残された方法は
自らnのフィールドに赴きユニコーンを捕まえるしかない」
槐「ユニコーンの凶暴性は金糸雀もよく知っているはず。
ライオンを一方的にボコるような暴れ馬だぞ」
金糸雀「ダメもとでバイオリンの時間を巻いてみるとか……」
槐「その場逃れの嘘はよすんだな。
複雑な機械や特殊なアイテム相手に、それは出来ない」
薔薇水晶「薔薇乙女側がパワー負けしてしまう。
せいぜい割れた窓ガラスや壊れたドアを直す程度」
金糸雀「さ、流石に二人とも薔薇乙女事情に詳しいかしら……」
槐「ピチカートも気を利かせてくれたんだから、僕達を頼ればいいだろう。
そもそも、そのつもりでユニコーンの毛を聞いたんじゃないのか?」
金糸雀「妙に今日の槐は優しいかしら」
薔薇水晶「お父様はいつだって優しいですよ」
金糸雀「カナは……あくまで客として来ただけかしら」
槐「ならば、僕もあくまで商売人として取引だ。
ユニコーンの毛を採取するのに薔薇水晶を協力させる。
毛が手に入ったらバイオリンの修理を僕に任せてほしい。それがこちらの要求だ」
金糸雀「……あなたにカナ達のお父様が作ったバイオリンを直せるのかしら?」
槐「材料(ユニコーンの毛)さえ、揃えばな」
金糸雀「随分な物言いかしら。その自信はどこから?」
槐「僕と君の目の前にあるだろう」
薔薇水晶「……」
金糸雀「確かに」
§翌朝・桜田ジュンの部屋
真紅「それで私らにもユニコーン狩りを手伝えですって?」
金糸雀「そのとーりかしら」
翠星石「バカ言ってんじゃねーですよ! あんな暴れ馬!
どうやって捕まえろと言うのですか!」
薔薇水晶「……」
雛苺「近寄ることすらできないのよ!」
ジュン「……ユニコーンて、そんなに危険なの?
個人的には優雅で清楚な生き物のイメージが強いんだが」
真紅「そういう一面が無い事も無いけど」
翠星石「それはアレです! 不良がたまに見せる優しさ的なノリで
誇張されているだけなんですぅ!」
ジュン「え? そうなの!?」
薔薇水晶「ユニコーンの暴虐ぶりは筋金入りです。かのノアの箱舟に乗せられた時も
他の動物をその角で突きまくりの、殺しまくりだったため
船を降ろされ、津波に呑まれた。それゆえ現世にユニコーンはいない」
ジュン「マジで!?」
真紅「ライオン……いえ、カバよりよっぽど恐ろしいのだわ」
ジュン「ライオンを恐れないマサイの戦士が裸足で逃げ出すカバよりも!?」
翠星石「ユニコーンのガチ具合がチビ人間にもようやく理解できてきたようですね」
真紅「たとえ私らが雁首そろえて、ユニコーンに立ち向かったとしても
ソードマスターヤマトの四天王のように仲良く串刺しにされるのが目に浮かぶ」
雛苺「うゆゆ……ガクブルなのよ」
金糸雀「で、でも! ユニコーンには弱点があるかしら!
それは『清らかな乙女』の前では大人しくなる! かしら!!」
ジュン「そう言えばそういう話も聞いたことあるな」
真紅「それ、デマよ」
ジュン「!?」
翠星石「大昔にはユニコーンの怒りを鎮めるために女を生け贄にしていたですからね。
それが途中で話が変わってしまったんですぅよ」
ジュン「マジで!?」
薔薇水晶「いえ、翠星石の言うことも半分間違っています」
翠星石「へ?」
雛苺「半分?」
薔薇水晶「ユニコーンは乙女に弱い。これは正しいのですが
女性側が一定の『乙女力』を備えてないと、意味が無いということなのです」
ジュン「お、おとめりょく!?」
真紅「なにそれ?」
翠星石「少女漫画の広告欄でそう言うワード見た覚えがあるです」
金糸雀「ズバリ! 乙女力とは女の子のビューティーでスイートで
モテカワスリムな愛され体質を表現したものなのかしら!!」
ジュン「はあ……?」
薔薇水晶「結論から言いますと、ユニコーンを大人しくさせるには
乙女力が100ポイント必要です」
ジュン「へぇ~」
雛苺「100ポイントと言われても何が何だかよく分からないの」
薔薇水晶「そう言われると思いまして……」スチャッ
翠星石「お? 眼帯を外して……新しくつけたそれは?」
真紅「ドラゴンボールのスカウター?」
薔薇水晶「乙女力スカウターです。お父様が一晩で作ってくれました」
ジュン「ホント、あのオッサンどうでもいいのばかり作るよな」
薔薇水晶「これで乙女力を計測したところ金糸雀は13ポイントでした」
ジュン「低ッ!!」
金糸雀「ち、違うかしら! 大体フツーの女の子は
せいぜい10前後しか乙女力がないのかしら!!」
真紅「誇り高きローゼンメイデンの乙女力がフツーの女子レベルってどうなの?」
薔薇水晶「ちなみに私は16ポイント」
ジュン「えぇ!? 薔薇水晶でも16!?」
翠星石「ま、しょーがねーですね。アホのカナチビは言うまでもなく
むっつりだんまりかつ武闘派の薔薇水晶の乙女力が高いとは思えねーです」
真紅「なるほど。だからこの乙女力の塊、可愛らしさの権化である
真紅ちゃん達のみなぎりまくってるガールズパワーを頼ってきたというわけね」
雛苺「乙女力の無い人達はカワイソウなの」
金糸雀「く……!」
薔薇水晶「随分な自信ですね。では早速、雛苺の乙女力を測定させてもらいます」
雛苺「え!? ヒ、ヒナから!?」
薔薇水晶「……」ピピピピ
薔薇水晶「雛苺……乙女力9……」
雛苺「あっちょんぶりけ」
真紅「9て!!」
翠星石「フツーの女の子以下じゃねーですか!!」
金糸雀「カナよりも低いかしら!!」
雛苺「な、何かの間違いなのよ! スカウターの故障なの!」
薔薇水晶「いえ、間違いなく9です」
真紅「ローゼンメイデンとしてあるまじき値じゃない! このカス!」
翠星石「クズ! ゴミ! 薔薇乙女の面汚しにも程があるです!」
雛苺「そ、そんな~! 二人とも酷いのよ!!」
真紅「乙女力が1ケタの奴に薔薇乙女を名乗る資格は無いのだわ!」
翠星石「まったくですぅ! ローゼンメイデン第6ドールの称号は剥奪ですぅ!」
ジュン「剥奪してどーすんだ?」
翠星石「ブサ綺晶あたりを第6ドールに据えるです」
雛苺「うぇえええ~ん!!」びえ~っ
真紅「泣いても無駄よ。乙女力たったの9は所詮ジャンク以下の産廃」
薔薇水晶「あの……」
翠星石「あ? なんですぅ? 薔薇水晶?」
雛苺「ひどいの~! あんまりなのよ~~~!」びぇぇん
真紅「今、ちょっと取り込み中よ」
薔薇水晶「ええと、翠星石は5で、真紅は2です」ピピピピ
翠星石「は?」
真紅「?」
薔薇水晶「だから、5と2です。翠星石と真紅の乙女力」
翠星石「……」
真紅「……マジで?」
薔薇水晶「マジです」
ジュン「……」
金糸雀「……」
ジュン「どうする金糸雀? ローゼンメイデンの内
3体もブサ綺晶にチェンジすることになるが、アリスゲーム的に大丈夫か?」
金糸雀「まあ、水銀燈と蒼星石がいれば大丈夫だと思うかしら」
真紅「ちょ、ちょっと待ってーーッ! 冷静に話を進めないで!」
翠星石「す、少しは翠星石達のことを気にかけろですぅ!!」
ジュン「いや、だって乙女力1ケタ台はジャンク以下のクズだって自分らで……」
真紅「じょ、冗談よ! 冗談! イッツ・ア・ジョーク!!」
翠星石「仮にも妹に対してジャンクだのゴミだの本気で言うわけないでーす!!
ほ、ほら! チビ苺いい加減グズるのをやめるですぅ」
雛苺「うゆゆゆ……」ぐすっ
金糸雀「やっぱり桜田家の3馬鹿は駄目だったかしら」
薔薇水晶「ええ。一縷の望みにかけましたが
まさか3人足してやっと私と同じ16ポイントとは……」
真紅「な、納得いかないのだわ! どうして私が2なのよ!
少なくとも翠星石よりは上のはずよ!!」
翠星石「ちょ、ちょっと待てです! そいつはどういう意味ですか!」
真紅「言葉通りよ!」
翠星石「なんですとーっ!?」
薔薇水晶「落ち着いてください。このスカウターは測定以外に
簡易診断機能もあります。これで翠星石と真紅の低評価の原因を探ります」
ジュン「あら便利」
薔薇水晶「では、先ず翠星石の方ですが……」ピピピ
翠星石「そもそも! チビ苺が9なのに翠星石が5ということ自体おかしいですぅ!」
薔薇水晶「ええと……お菓子作りに打ち込んだり、
やや人見知りながらも気の許した相手には甘える小動物的な性格は
非常に乙女力が高く、これだけなら30ポイントぐらいをつけたい……が」
翠星石「……『が』?」
薔薇水晶「自分より立場の弱い妹(雛苺)をいじめてストレス解消するという
言語道断の悪癖がそれら全て帳消しにしている……、だそうです」
金糸雀「なるほどかしら」
ジュン「流石、性悪人形」
真紅「確かに翠星石の雛苺いじめは酷い。熱帯魚水槽だったら隔離されてるレベル」
雛苺「そうなのそうなの! いじめっ子は乙女力が低くて当然なの!」
翠星石「うぐぐ……! チビ苺いじめは翠星石のライフワークですのに……」
薔薇水晶「では、次に真紅」ピピピピ
真紅「……」ドキドキ
薔薇水晶「最近、釣りを始めたそうですが、それがマイナス点だと出ています」
真紅「え? ちょ、ちょっと!? それ、どーゆーことよ!
確かに私は双子の庭師の肩書に対抗して『夢の漁師』になろうとしている!
けど、釣りをを趣味にしたぐらいで、乙女力が下がるなんて……!」
薔薇水晶「確かに、釣りそのものはマイナスポイントになりませんが……」
真紅「?」
薔薇水晶「真紅、あなたは餌のミミズを眉ひとつ動かさずに釣り針に刺すでしょう?」
真紅「それが何か?」
薔薇水晶「乙女力が高い女子はミミズを見たら『キャー! 怖い~』と言うべき。
真顔で一言も発さずミミズをテキパキ針に刺すだなんてNGだそうです」
真紅「そんな! だって手早く扱わないとミミズがへたれるのだわ!」
金糸雀「ミミズの取り扱い技術は乙女力に反比例するかしら」
ジュン「そう言えば、僕が釣りに同行した時、
僕の釣り竿の針にもミミズを付けてくれたな真紅は」
翠星石「それ、どっちかというと男がやる仕事じゃねーですか?」
真紅「だってジュンったら、ミミズにビビるんだもの」
ジュン「び、びびってない! 気持ち悪かっただけだ」
翠星石「それがビビってると言うのですよ」
真紅「ヘイヘイ! ジュン君ビビってるぅ~!」
雛苺「ヘイヘイヘイ!!」
ジュン「や、やかましい!」
薔薇水晶「……あとはまあ、特にどこが悪いと言うわけでもないのですが」
真紅「え? ミミズだけで2ポイントにまで評価が下がるの!?」
薔薇水晶「いえ、生活態度全般が満遍なく怠慢で劣悪だと診断が出ています。
今みたいに些細なことでマスターをからかうのも乙女的にはアレです」
真紅「怠慢で……」
翠星石「劣悪……」
ジュン「そのものズバリ言われると厳しいな」
金糸雀「正直、ユニコーンどころじゃなくなってきたかしら?」
薔薇水晶「ですね。まさか、ここまで酷い結果になるとは」
ジュン「……なんとかこいつらの乙女力を一般人並みまで戻せないのか?」
薔薇水晶「エステに行ったり、お化粧なんかでも乙女力は上がるそうですが」
金糸雀「人形だとまず効果は無いかしら」
ジュン「そうだよなぁ。お前らって誕生した時点でエステや化粧済みみたいなもんだし」
金糸雀「持って生まれたサガとして諦めるしかないかしら」
真紅「待って! 見捨てないで頂戴! 金糸雀! 薔薇水晶!」
翠星石「そうですそうですぅ!
せめてチビ苺よりは乙女力あふれるようになりたいですぅ」
ジュン「じゃあ、雛苺をいじめるのをやめろよ」
翠星石「……」
ジュン「何故、考え込む。そんなんで乙女力上がるわけないだろ」
雛苺「やっぱり翠星石はダメ乙女なの!!」
翠星石「や、やかましいです! 乙女力9程度で勝ち誇るなですチビ苺」
ジュン「まったく……あれ? 真紅? 真紅がいない?
真紅はどこ行った? 急に姿を消したぞ。今の今までここにいたはず」キョロキョロ
薔薇水晶「いつの間に……?」
真紅『きゃ~~~~っ』
雛苺「真紅の……!?」
金糸雀「悲鳴!?」
翠星石「外……? 庭から聞こえたですよ!!」
ジュン「何事だ!?」
ジュン「どうした真紅!? お前、庭で何を……!?」ダダッ
真紅「きゃ~! なんとなく庭に降りたら、ミミズがいたのだわ~~!
怖くて腰が抜けたのだわ。ジュン! 助けて頂戴なのだわ! だわだわ!」
翠星石「……」
雛苺「……」
金糸雀「……」
薔薇水晶「……」
真紅「早く! 早く助けて~! 真紅ちゃんミミズ怖~~い」
ジュン「僕は今のお前の方が怖い」
真紅「……」
ジュン「ほら、茶番はやめて部屋に戻るぞ真紅」すたすた
真紅「茶番ッッ!?」
ジュン「今さらそんな小芝居で乙女力が上がるとでも思ってんのか。
しかも、そのミミズ、お前が自分で土を掘りかえしてそこに置いただろ……」
真紅「ッ!?」
金糸雀「カナ達が目を離した短時間でミミズを見つけるだなんてモグラなみかしら」
薔薇水晶「ミミズの扱いに長け過ぎですね」
真紅「ッッ!?」
ジュン「ようやく部屋に戻ってきたな真紅。頭は冷えたか?
ともあれ、そこに座りなおして落ち着け。紅茶も淹れてやったから」コト
真紅「……小手先のテクニックで乙女力が上がらないのは分かった」
薔薇水晶「逆に今の悪あがきで真紅の乙女力が1になりましたけどね」ピピピピ
真紅「マジで!?」
薔薇水晶「マジです」
ジュン「どうすんだよ。もうすぐ0になるんじゃねーか?」
翠星石「0になったらどうなるんですぅ? ひょっとしてチンポでも生えるですか?」
薔薇水晶「いえ、死にます。薔薇乙女の存在意義的に考えて」
真紅「マジで!?」
薔薇水晶「マジです」
雛苺「うえぇぇぇん! 真紅が死んじゃうのよ~~~っ!!」
金糸雀「ブサ綺晶に第5ドールの後釜を本当に務めてもらわなくちゃいけないかしら」
真紅「ちょっと待ちなさい! 乙女力が0になる前提で話さないで!!」
ジュン「けど、このままふざけていると死ぬぞ真紅」
真紅「分かったのだわ。私も覚悟は決めた。乙女力を上げるためなら何でもする。
お願い! 薔薇水晶! この中で一番乙女力が高いあなたに縋るしかないの!
どうか! どうか私に乙女力を……!!」
薔薇水晶「……」
真紅「お願い! 重力100倍ぐらいまでの修行なら笑顔を絶やさずにこなしてみせるから!」
金糸雀「それで上がるのは乙女力でなくて戦闘力かしら」
翠星石「しょうもない冗談を挟んでくるところをみるに、まだ精神的余裕があるみたいですね」
雛苺「乙女力1なのに、よくやるの」
薔薇水晶「ええと、では簡単に乙女力をアップさせる生活習慣改善法を……」
真紅「やっぱり! そういう便利な方法があるのね! 是非! 是非もそっと!」
薔薇水晶「例えば花まるハンバーグが夕飯に出たとします」
真紅「うんうん」
薔薇水晶「その時に、『牛さんと鶏さんがカワイソーでこんなの食べれな~い』と
三回言ってください」
翠星石「は?」
雛苺「はあ?」
真紅「はああああぁ~~~~~っ!? な、何よそれ! ふざけてるの薔薇水晶!」
薔薇水晶「いえ、ふざけてなどいません。これを1週間繰り返すことで乙女力は5上がります」
金糸雀「お手軽に翠星石越えかしら」
真紅「いい加減な事を言わせないで頂戴!! そもそも卵は無精卵なのだわ!
ただのタンパク質の塊なのだわ! 鶏的にはウンコみたいなものなのだわ!
牛だって死んだらただの牛の形をした肉なのだわ!! だわだわ!!」
薔薇水晶「乙女力はそういうドライな考え方とは対極に位置します。
あと、今の身も蓋もない発言で真紅の乙女力は0.7になりました」
真紅「なッ!?」
ジュン「お、落ち着け真紅!」
真紅「く……」
翠星石「クールダウンするですぅ~! それ以上、醜態を晒すとマジで死ぬですよ!」
真紅「ううう……」
ジュン「しっかし参ったな。僕たちじゃあ金糸雀の力になれそうもない。
水銀燈や蒼星石、雪華綺晶に協力を頼んだらどうだ?」
薔薇水晶「それがですね……」
金糸雀「水銀燈の乙女力は15、蒼星石は11、雪華綺晶は3だったかしら」
ジュン「マジで!? なんか薔薇乙女ひどいな……」
金糸雀「基本的に薔薇乙女は戦うための人形だから
どうしても乙女力よりもハングリー精神にあふれがちかしら」
薔薇水晶「その中で水銀燈は頑張っている方です。
もう少し素直になれば乙女力20越えは確定なのですが……」
金糸雀「蒼星石もこっそり恥ずかしポエムをしたためたりと
乙女チックな趣味は備えているけど、一人称と半ズボンでマイナスかしら」
ジュン「蒼星石は仕方ないか。と言うかそもそもローゼンの目指す究極の少女と
ユニコーンが好む乙女ってやつのヴィジョンがずれてる気がする」
薔薇水晶「確かに」
金糸雀「ちなみに雪華綺晶の乙女力が低いのは性格がグロいからかしら」
ジュン「なるほど」
ジュン「だとすると、これは本格的に困った。みっちゃんさんや柏葉に頼もうにも
ユニコーンが凶暴な事を考えるとあんまり危険な真似はな……。
オディールさんなんか乙女力100超えてそうな風貌だけど」
薔薇水晶「はい。ですが……」
金糸雀「カナ達に残されたたった一つの望み、最後の可能性はちゃんとあるかしら」
ジュン「? 他に誰か適役がいたか?」
薔薇水晶「それはあなたです。桜田ジュン」
ジュン「は?」
真紅「はぁ?」
雛苺「はぁ?」
翠星石「はぁあああああああっ~~!?」
ジュン「お、おいおいおいおい!! 僕は男だぞ! 一応!」
薔薇水晶「ですが、さっきこっそりと測ったところ桜田ジュンの乙女力は93です」
ジュン「高っ!? 何かの冗談だろ!! 僕でそんだけあったら、他の人でも……」
金糸雀「いいえ、みっちゃんですら乙女力は14だったかしら」
ジュン「!?」
雛苺「ふぉおおお! す、すごいのよね! ジュン!!」
真紅「な、なんで私が0.7でジュンが93なのよ!!」
翠星石「そうです! ぜってーおかしいです!
金玉ぶら下げてるヤローに乙女力で薔薇乙女が劣るたあ、どーゆー了見ですか!!」
薔薇水晶「ナイーブながら清純で繊細な性格。さらには
マエストロ級の手技で服飾関係にめっぽう強いことが超高評価」
ジュン「う……!? ほ、本当に僕がそこまで高い評価を?」
金糸雀「ネトオクで高額落札されたドール服を作った実績を忘れたかしらジュン?」
ジュン「け、けどだな……93だろ? 100に届かなきゃユニコーン相手には」
真紅「ジュン」
ジュン「な、なんだよ真紅?」
真紅「私が許す。モロッコに行って金玉を手術で取ってきなさい。どうせ使わないんだし」
翠星石「ですね。それであと7ぐらいは乙女力上がるですよ」
ジュン「ふざけんな!!」
真紅「手術が嫌ならソフト&ウェットに奪ってもらうのも可」
ジュン「!?」
薔薇水晶「いえいえ。そこまでしなくとも、先ほど言った通り
少しのエステとお化粧さえすれば、それで7ぐらい上げるのは充分」じりじり
金糸雀「素材がいいから、ちょっとの細工で簡単に乙女力が上がるはずかしら……」じりじり
ジュン「お、おい……? まさか、本気なのか? うそだろ……っ!?」ずささ
薔薇水晶「念のため、お父様から化粧道具も借りてきましたし」じりじり
金糸雀「化粧のイロハもみっちゃんからレクチャーされてるかしら」じりじり
ジュン「……い、嫌だぞ! 僕は! 女装なんて……」
薔薇水晶「真紅、翠星石、雛苺。桜田ジュンを抑えてください」
真紅「アイ」ガシッ
翠星石「アイ」ガシッ
雛苺「サー」ガシィツ
ジュン「ッッ!? お、お前ら!?」グググ
薔薇水晶「無理に動かない方がいいですよ桜田ジュン……」
金糸雀「手元が狂っちゃうと白目にまでアイライナー引いてしまうかしら」
ジュン「う……うわああああああああああああああああああ」
§数時間後・nのフィールド・一角獣の出没地域
ジュン「んーーー! んんんーーー!!」ジタバタ
§そこから少し離れた木蔭
真紅「ふふふ。ちょっと化粧して、のりの中学時代のセーラー服に
着替えさせただけで、ジュンの乙女力は105にまで上昇したのだわ」
翠星石「これでユニコーンもイチコロですぅ」
薔薇水晶「ええ。ああして猿轡と縄で桜田ジュンを縛っておけば
あとはユニコーンが寄って来るのを待つのみ」
金糸雀「あとはユニコーンがジュンに懐いている隙に
尾っぽの毛を少しく貰っちゃえばオシマイかしら」
雛苺「カンペキな作戦なのよ」
一角獣「ぶひひひ~ん」パカラッパカラッ
ジュン「んん~~~~!?」
真紅「おっと! 早速、ジュンの乙女力を嗅ぎつけてユニコーンのご登場よ」
一角獣「ひひ~ん!」ペロペロ
ジュン「うんが~~~~ッッ!?」
雛苺「ジュンの顔をペロペロしているの」
翠星石「すっかり気に入られたようですぅ」
薔薇水晶「乙女力100未満だったら顔面食いちぎられているところですけどね」
一角獣「……」ピタッ
ジュン「……?」
金糸雀「? ユニコーンの動きが止まったかしら」
真紅「まさか、私達が隠れていることに気付いた?」
薔薇水晶「いえ……どうやら」
一角獣「……」グイーン
ジュン「?」ドサッ
翠星石「チビ人間を背に乗せて……?」
雛苺「うゆゆゆ?」
一角獣「♪ひひ~ん」トコトコ
ジュン「……!?」
真紅「マズイ! ジュンがお持ち帰りされるのだわ!!」
雛苺「ええ!?」
薔薇水晶「いけない! ユニコーンの俊足で連れ去られては
桜田ジュンをこの広いnのフィールドで見失ってしまう!!」
翠星石「ええい! どうしてチビ人間は馬の背にのんびり乗ったままなのですか!?
それぐらい察知して逃げろですぅ!!」
金糸雀「真紅が鬼のような力で縄で縛ったせいかしら!!」
真紅「だって! ユニコーンを前にジュンが下手に暴れたりしたら
その方が危ないと思って……!」
薔薇水晶「今はそんなことよりも彼を助けないと!!」ダッ
雛苺「うぃ!!」ダダッ
一角獣「♪ひひひ~ん」トコトコ
ジュン「うぐ~~~」じたばた
翠星石「こーーーーーーーらあああああああああああっ!」ダダダッ
一角獣「ブヒン?」
ジュン「んんんーんんっ(翠星石)!」じたばた
雛苺「ジュンはヒナ達のものなの~~~」ダダダッ
真紅「この泥棒ネコ! じゃなかった、泥棒ウマ!!」ダダダッ
薔薇水晶「……」ダダダッ
金糸雀「ジュンを置いてけかしらーーーッ」ダダダッ
一角獣「ブヒヒーン」ダバッ
ジュン「ッッ!?」ボテッ
真紅「あら?」
雛苺「ジュンを落として逃げ出したの!!」
一角獣「ブッヒャーーー」パカラッパカラッ
翠星石「ありゃりゃ、一目散に明後日の方向へ。なんだか拍子抜けですぅ」
薔薇水晶「? なんとまあ、あっけない……と言いますか
随分と肝っ玉の小さいユニコーンでしたね」
金糸雀「で、でも逃げられたら尻尾の毛も手に入らないかしら!!」
621 :
創る名無しに見る名無し:2012/02/09(木) 22:03:01.91 ID:JSs0BEg7
622 :
創る名無しに見る名無し:2012/02/09(木) 22:03:30.71 ID:OtH2b0Q2
ジュン「ん!! んん!!」じたばた
真紅「何? ジュン?」
ジュン「んー! んんんーーー!!」
翠星石「あ!? 荒縄の隙間にユニコーンの毛がたくさん挟まってるです!」
金糸雀「本当!? お手柄かしらジュン!!」
ジュン「んん! んんんっ!!」
真紅「いえ、これはジュンの手柄ではなく私の手柄よ。
縄がきつかったからこそ挟まった毛がユニコーンから抜けた」
ジュン「んんん!!」
薔薇水晶「まあ、それはともかく、こうして無事にユニコーンの毛が
手に入ったことは喜ばしい。誰一人怪我をすることもなく」
雛苺「あっさりしすぎて物足りないぐらいなのよ!」
翠星石「ちょっと脅かしただけで逃げ出すとは軟弱ですぅ! 草食系ユニコーンです」
ジュン「んんっが!!」
翠星石「やかましいですよチビ人間。少し黙ってるです」
真紅「猿轡と縄を外してほしいみたいだけど、きつく結び過ぎて
ここじゃほどけないのだわ。家に戻ってからハサミで切らないと……」
ジュン「ッッッ!?」
金糸雀「それじゃ、カナと薔薇水晶はユニコーンの毛を持って
槐先生のところへ行ってくるかしら~」
翠星石「おうおう、無事にバイオリンの弓が直るといいですね」
薔薇水晶「今日はとても助かりました。ありがとうございます。特に桜田ジュン」
ジュン「んががが」
薔薇水晶「はい? 水晶の剣を出して縄を切れ?
すいませんが、アレ出すの結構しんどいのでパスさせてください」
ジュン「ッ!?」
金糸雀「じゃ、今日の日はサヨナラかしら」
雛苺「ばいば~い」
薔薇水晶「ごきげんよう」
翠星石「槐にもよろしく伝えといてくれでーす」
真紅「またね~」
§大体終わって日が暮れて桜田ジュンの部屋
ジュン「ぷはっ! ったく……酷い目に会った」
翠星石「もう少しでユニコーンにさらわれて手込めにされるどころだったですぅ」
ジュン「猿轡の次は縄も早く切ってくれよ。あちこち食い込んで痛い」ぐねぐね
真紅「はいはい……、今切るわよ」
のり「ねぇ~、ジュン君! お姉ちゃんが中学の頃のセーラー服知らな……」ガチャッ
雛苺「あ、のりなの」
ジュン「あ」
のり「……あ」
この後、女装SMプレイでないことを理解してもらうのに3時間かかった。
ユニコーンは桜田ジュンが好き 『終』
乙
乙
もっともらしい雑学は健在だな
631 :
創る名無しに見る名無し:2012/02/11(土) 23:21:33.94 ID:CGCJ6SF/
乙
一見コメディ一辺倒だったが
JUMの今後に与えた影響は計り知れない
女装からの覚醒的な意味で
乙
真紅の運命や如何にとなるのか否か
次回にも期待
>>629 いつもありがとう
>>630 ノアの箱舟だけはガチ。後は適当
>>631 ホモにでも目覚められたらもう手がつけられない
>>632 真紅の運命や如何に となるかも
『バレンタインは桜田ジュンの味方』
§前回までのあらすじ
ひょんなことから乙女力スカウターなるものを手に入れた薔薇水晶。
それによりローゼンメイデン達の乙女力が測定されてしまった。
乙女力とは、モテカワスリムで恋愛体質の愛されガールズパワーを
数値化したものであり、この値が高いほどイケてる女子ということになる。
語句使用例『乙女力たったの5か、ゴミめ』
主な登場人物の乙女力ランキング
93 桜田ジュン
70 オディール・フォッセー(白人美少女は存在だけで高ポイント)
16 薔薇水晶
15 水銀燈
14 草笛みつ
13 金糸雀 桜田のり(料理うまい)
12 柏葉巴(委員長やってるのはプラス要素)
11 蒼星石
10 この辺りが一般的な若い女性の平均値
9 雛苺 柿崎めぐ(精神面に若干の問題あり)
5 翠星石
3 雪華綺晶
0.3 真紅
翠星石と真紅の二名は普段のだらしない生活態度がたたり
薔薇乙女としてあるまじき低レベルをマークしてしまった。
雪華綺晶はそもそも例外的で、自身の低評価を気にも留めてはいないのだが
そうも開き直るわけにいかないのが、赤と緑の御二方。
時にバレンタインデー。
この日にチョコをあれやこれやすることで
クイズバラエティの最終問題並みの乙女力上昇ボーナスが発生する。
この機を逃すまいと、真紅と翠星石は朝から一心不乱に
台所でチョコをいじくり回していたのであった……。
蒼星石「僕的にはバレンタイン当日にチョコ作ってる時点で
機を逃しまくりだと思うんだけど……」
翠星石「ナレーションにツッコミを入れるなです蒼星石!」
真紅「それよりどう!? 私達の乙女力は上がってる!?」
蒼星石「え~と……」ピピピ(←薔薇水晶からスカウター借りた)
翠星石「……」
真紅「……」
蒼星石「翠星石は6、真紅は0.4……だね」
翠星石「いよっし! いい感じですぅ! さっすがバレンタイン!
乙女力の判定基準も激甘になってるです! この調子で行けば
今日中に水銀燈の15ポイントを越えることも可能!」
真紅「く……! 私も何としても乙女力を上げなくては。
このままでは、免許証でも要眼鏡等と注意書きされるレベルなのだわ!」
蒼星石「あんまり気張らない方がいいんじゃないのかな?
僕だってマスターに手作りチョコあげたけど、乙女力が1しか上がらなかったよ」
翠星石「それは蒼星石の情熱と雰囲気作りが足らんかったからです!!!」
真紅「どうせ父の日や敬老の日と同じノリで結菱老人に接したんでしょう?」
蒼星石「う……。そ、そんなことは無いよ。カカオの栽培から本格的に始めたんだから」
翠星石「そういう間違ったところに力を入れるからイマイチなのですぅ。
乙女力を上げるにはもっとスイートでムーディな感じを醸さねばならんのです!」
真紅「その通り!」
蒼星石「スイートでムーディ……?」
翠星石「その点、翠星石達のシチュエーションはかなりの好条件ですぅ。
なんてったって相手は思春期真っ盛りでありながら冴えない男子中学生!」
真紅「ええ。ジュンなんて、どうせモテない癖に変に期待してそわそわして
放課後も意味無く教室に残ったりしながらも結局誰にも相手されずに
しょぼくれて帰ってくるに決まっているのだわ!」
蒼星石「ジュン君が? そうかなあ……」
翠星石「そうです! あのヤロー今日に限って10分も早く起きて
身だしなみをやけに気にしながら登校していったです!!」
真紅「バレンタイン当日の付け焼刃でどうにかなるものでもあるまいに」
蒼星石「それ、今からチョコ作ろうとしている人が言えるセリフじゃないよ」
真紅「ともかく! 過剰な自意識で自らのガラスのハートをも傷つけた
ジュンは半泣きで帰ってくるはずなのだわ!!」
翠星石「その時に翠星石と真紅が優しい心とチョコで
出迎えてやることで乙女力はうなぎ登りのウハウハです!
サイヤ人が死の淵から復活するようなものですぅ」
蒼星石「動機が不純だなぁ……」
蒼星石「……ところで雛苺は?」
翠星石「あいつはお約束のように翠星石達のチョコの材料を食べようとしたですから……」
真紅「熱したチョコを頭からぶっかけて、フォンデュのようにしてやってから
白薔薇のフィールドに放置してきたのだわ」
翠星石「今頃、雪華綺晶に美味しく完食されている頃合いですぅ」
蒼星石「ああそう……」
§数時間後・お昼過ぎ
翠星石「ふう……! あとは冷蔵庫で冷えて固まるのを待つのみ」
真紅「突貫のわりにはうまく出来上がりそうね」
翠星石「さあ、どうですか蒼星石? 一仕事終えた翠星石達の乙女力は!?」
蒼星石「え~と……」ピピピ
真紅「……」ドキドキ
蒼星石「あ! すごい! 翠星石が10で真紅は6だ」
翠星石「いよっしゃぁぁぁああーーーーーっ!! チビ苺の9ポイントを上回ったですぅ!!」
真紅「私も以前から比べれば大幅な乙女力アップなのだわ!
薔薇乙女最下位の座も雪華綺晶になったのだわ! だわだわ!」
蒼星石「お菓子作りでこうも乙女力が上がるとは……、しかも真紅の伸びが凄い」
翠星石「真紅は翠星石と違ってお菓子作りは苦手ですが
それでも頑張る姿勢が高く評価されたのですよ、きっと」
真紅「だ~わだわだわだわ」
蒼星石「そういう笑い方だったっけ真紅?」
翠星石「しかし、やることやっちまうと暇ですねぇ。
チビ人間もまだまだ帰って来なさそうですし」
真紅「どうする? くんくん探偵のDVDでも見て時間を潰す?」
翠星石「いや、それはダメですよ真紅! 今日はリラックス乙女を
解禁するのは危険です! 折角上がった乙女力がまた下がるです」
真紅「な、なるほど。ジュンにチョコを渡すまでがバレンタインデー!
今日一日が完全に終わるまで気は抜けない」
翠星石「さしあたって、他の薔薇乙女達がどんなバレンタインを過ごしているか偵察です」
蒼星石「偵察?」
翠星石「そうです! このボーナスデーに
シコシコと乙女力を伸ばそうと企んでいる輩は翠星石達以外にもいるはずです!
そいつらの行動を確認し……良い面はパクって、悪い面は馬鹿にする!」
真紅「今日という日は一秒たりとも無駄にせず、乙女力アップに努めるというわけね」
翠星石「いかにもたこにも。ささ、そうと決まれば早速出発ですぅ!
蒼星石もしっかりスカウターつけて、付いて来るですよ!」
蒼星石「う、うん」
④
644 :
創る名無しに見る名無し:2012/02/14(火) 20:26:48.02 ID:5+v5Et5c
§ドールショップ槐の店先にて
槐「さあ~、いらっしゃい! いらっしゃい! バレンタイン恒例!
チョコ人形セールですよ~~」
薔薇水晶「美味しいですよ~、安いですよ~」
翠星石「おうおう、相変わらず季節商戦にはガッツリおんぶにだっこですねぇ」
薔薇水晶「これはこれは……翠星石」
槐「おまけに真紅と蒼星石まで、三人揃ってどうしたんだ? チョコでも買いに来たのか?」
真紅「いやいや、私達は既に手作りチョコが完成間近。
今さら他人が作ったチョコを買うだなんて雑魚乙女な真似はできない」
薔薇水晶「では……、どうしてウチに?」
翠星石「それは……」
蒼星石「ああ!?」ピピピ
真紅「どうしたの? 蒼星石」
蒼星石「い、今スカウターで見たら、薔薇水晶の乙女力が25! 槐先生も19だ!!」
翠星石「な、なんですとーーーっ!?」
槐「なんだ? まだ乙女力がどうたらとかやっていたのか?」
真紅「う、うるさいのだわ! それより何故!? 二人ともそんなに乙女力が!?」
薔薇水晶「先週からずっとお父様と二人でチョコ作りをやっていたからではないでしょうか?」
槐「バレンタイン商戦のために頑張ったからねぇ」
蒼星石「塵も積もれば何とやらで、じわじわ乙女力が上がっていったのか」
薔薇水晶「今日は、お父様と手作りチョコの交換もしましたし」
翠星石「コーカン? なんでですぅ? サッカーの試合でもないのに。
第一、槐はいい年したオッサンじゃねーですか」
槐「いやいや、ヨーロッパとかじゃ
バレンタインは男女ともに好きな相手に贈り物をする日だし
男がチョコ送っても何らおかしいことはない。あと年齢は関係ないだろ」
真紅「欧米か」
薔薇水晶「と言いますか、あなた達だって元々のホームは欧米側のはず……」
翠星石「郷に入っては子に従えですぅ」
蒼星石「郷に従え、ね」
翠星石「ええい! 今日のところはこれで勘弁してやるです!
蒼星石! 真紅! 次へ行くです!! 次!」
真紅「分かったのだわ!」
槐「なんだなんだ? 単なる冷やかしだったのか?」
蒼星石「すいません。それじゃプチ人形チョコ三つください」
槐「毎度あり」
蒼星石「あと、この乙女力スカウターもう少し借りてていいかな薔薇水晶?」
薔薇水晶「ええ、それは構いませんが……」
翠星石「おぉ~い! 蒼星石ぃ! 何をやってるですぅ!?」
真紅「おいてっちゃうわよ~」
蒼星石「ご、ごめーん! 今、行くーっ」
§柿崎めぐの部屋
ブサ綺晶「き! きききーっ」むしゃむしゃ
水銀燈「朝からずっと、めぐが残していたいったチョコを食い散らして……飽きないのぉ?」
ブサ綺晶「きき」べちゃべちゃ
水銀燈「まるで動物ね。意地汚くて食べ方に品性の欠片も感じられない」
ブサ綺晶「き……」ウロウロ
水銀燈「あ!? ちょっとコラ! ブサ綺晶!!」
ブサ綺晶「?」
水銀燈「口の周りチョコでべったりにして歩きまわるんじゃないわよ。汚らわしい」
ブサ綺晶「き~?」
水銀燈「だ~か~ら! 口を拭けっての、口を!」
ブサ綺晶「きぃぃ……?」
水銀燈「ああ、もう! ちょっと、じっとしてなさい! じっと!!」
ブサ綺晶「き!?」びくっ
水銀燈「取って食いやしないわよ。まったく、何で私があんたの世話なんか……」ふきふき
蒼星石「……水銀燈、乙女力34」ピピピ
水銀燈「ッッ!? そ、蒼星石?」
翠星石「見たですよぉ~水銀燈……」
ブサ綺晶「ききっ?」
真紅「ずるいのだわ! せこいのだわ!
誰も見てないところで、こっそりと優しい乙女な面を出しているだなんて!!
そんなに点数稼ぎがしたいというの! あなたは!?」
水銀燈「真紅まで!? あんたら、いつの間にめぐの部屋に!? て言うか点数稼ぎって!?」
真紅「しらばっくれるのはやめるのだわ!」
水銀燈「ちょ、ちょっと、少しは落ち着きなさいよ真紅……!」
水銀燈「……バレンタインだから乙女力がお手軽アップぅ~~~?
くっっっっだらなぁい!! そんな真似しなくても私は私。
第一、乙女力だなんてマスコミが作った物差しに
振り回されて恥ずかしいと思わないの!? アンタ達は!?」
ブサ綺晶「きーっ! きき」コクコク
翠星石「老いては郷に従えです。水銀燈」
蒼星石「……」
真紅「岩本虎眼ですら社会性を無視できなかったのだわ。
私達も現代日本社会に受け入れてもらえるよう、身近なところからの努力が必要。
そのとっかかりとしてモテカワドールを目指すことは有益なはず」
水銀燈「はいはい……。まぁた変な理屈ふりかざしちゃって」
翠星石「ところで水銀燈のマスターの生き損ないはどこですぅ?」
水銀燈「学校よ」
真紅「ブサ綺晶が食べ散らかしているこのチョコは、いったいどういうこと?」
水銀燈「めぐが作った失敗策よ」
蒼星石「失敗策?」
水銀燈「学校でバカな男子どもにばらまいてホワイトデーには三倍返しだ
……て言いながら、この間から作りまくってたの」
翠星石「じゃあ、生き損ないは今日学校でチョコを贈りまくりなのですか?」
蒼星石「へぇ、めぐさんも女の子だね」
水銀燈「……ちょっと外に出なさい」
真紅「え? 外? なんで?」
水銀燈「いいから、すぐ済むわよ」
水銀燈「来たわね。いい? ちょっと見てて」パラパラ
翠星石「マスターの手作りのチョコを砕いて地面に?」
蒼星石「アリがすぐに寄ってきた……」
真紅「まあ、当然よね」
翠星石「ッッ!? チョ、チョコを食べたアリが次々に死んでいくですぅ」
蒼星石「水銀燈! こ、これは!?」
水銀燈「私だって分かんないわよ。見る限り、めぐはフツーの材料使って
チョコ作ってたはずなのに、どうしてこんな毒物を生成しちゃったのか……。
こんなの食べて平気なのはブサ綺晶ぐらい」
蒼星石「なんという逆マエストロ……!」
真紅「ちょっと! こんな危険なモノ! 学校でばら撒いたら……!」
翠星石「薬物テロですよ! 明日の朝刊の一面はいただいてしまうですぅ!!」
水銀燈「大丈夫。今朝、めぐが寝ている内に
中身を私が作ったフツーのチョコに代えといたから」
真紅「あなたが作った……?」
水銀燈「板チョコを火羽根でちょいちょいと溶かして整形して
めぐの手作りチョコと同じ形にしただけだけどね。
私だってあの子を大量殺人犯にしたくはないし……」
真紅「ッ!? 結局はあなたもチョコを作っていたってことじゃない!
なにが『バレンタインだとか関係なく私は私』よ!!
卑怯なのだわ! 性悪なのだわ!!」
水銀燈「お、落ち着きなさい真紅! どうしてそういう結論になるのよぉ!!」
翠星石「ちょっと待てです! 真紅!」
真紅「!? 何? 翠星石!?」
翠星石「確か……生き損ないとチビ人間は同じクラスです!」
真紅「ッッ!? そう言われれば」
蒼星石「それが何か?」
翠星石「チビ人間もチョコを貰ってしまうということですよ!
これではチビ人間が翠星石達からチョコを受けとった時のありがたみが、
ひいては乙女力ボーナスポイントが減ってしまうですぅ!」
真紅「なんてこと!」
水銀燈「真紅のマスターにはチョコあげないって言ってたから
その心配は無用っぽいわよぉ」
蒼星石「え? ジュン君に……だけ、あげないってこと?」
水銀燈「そういうこと」
翠星石「ど、どうして?」
真紅「新手のイジメ? 私達的にはありがたいけど……」
水銀燈「そもそも、あの子がチョコを贈る目的は男子受けじゃなくて
男子をからかって馬鹿にするのが好きなのよ。桜田ジュンの場合は
チョコをあげるより、あげない方が精神的になぶり甲斐があるってさ」
真紅「下手に知り合いなだけに、ジュンも密かに彼女には期待しているはずなのに」
水銀燈「めぐもそう言ってた。だからこそ逆に、あげないってさ」
翠星石「おおう……、S星石の異名を持つ蒼星石も霞むドSっぷり」
蒼星石「少し前のジュン君なら、ゲロして寝こむレベルだね」
真紅「恐ろしい子なのだわ……柿崎めぐ」
翠星石「むむむ!? うだうだうしている内に、もう夕方ですよ!」
蒼星石「え、もう!?」
水銀燈「時間が経つのって早いわねぇ」
真紅「ジュンがそろそろ帰ってくるかも……!」
蒼星石「どうする? 金糸雀の様子はまだ見てないけど……」
翠星石「まあ、カナチビですし……どうでもいいですぅ」
真紅「私も大して興味が無いのだわ」
水銀燈「……」
翠星石「よし! それじゃ家に帰ってチビ人間にチョコを渡す準備です!」
§数十分後・桜田ジュンの部屋
ジュン「ただいまー……」ガチャッ
翠星石「お帰りですぅ! チビ人間!」
真紅「待ちかねたのだわ!!」
蒼星石「お邪魔してます」
ジュン「蒼星石? 遊びに来てたのか?」
翠星石「そんなことよりチビ人間! 今日が何の日だか……!?」
ジュン「ああ、そうそう……。分かってるって」ゴソゴソ
真紅「?」
ジュン「ほい。学校で貰って来たチョコ」サッ
翠星石「ッッッ!?」
ジュン「どうした? これが欲しかったんじゃないのか?」
真紅「ちょちょっ!? ジュン、何であなたがチョコを……!?」
翠星石「しかも、会社で貰ったチョコを子供に分け与えるお父さんのような貫禄……っ!」
ジュン「なんか下駄箱に入ってたり、トイレ行ってる隙に鞄に入れられてた」
翠星石「おまけに義理よりも本命に近いチョコの渡され方!?」
真紅「な、なんで!? どうしてジュンがそんなにチョコが貰えるの!?」
ジュン「僕が知るか。ただ、最近はファッション感覚でチョコ配る女子も多いんだよ」
翠星石「ハッ!? さては帰りに自分で買ったですねチビ人間!!」
ジュン「はあ?」
翠星石「見苦しいですよ! そんな無様な偽装工作をしてまで
翠星石達の前で見栄を張りたいですか!?」
真紅「失望したのだわ」
ジュン「おいおいおい、そんな真似するわけないだろうが」
巴「そうよ。帰りは私もずっと一緒だったし」スッ
翠星石「ぬあああああああ!? 通い妻気取りのチビ苺のマスターまでぇ!?」
真紅「チョコどころか女まで持ち帰るとは、ジュンの甲斐性は天井知らずなのだわ!!」
ジュン「落ち着け真紅」
流石乙女パワー93
蒼星石「ひょっとして巴さんがジュン君にチョコを……?」
ジュン「違う。柏葉は僕にじゃなくて雛苺にチョコをあげに来たんだよ」
蒼星石「雛苺に……」
巴「うん。真紅ちゃん達にも、このチョコ大福を渡そうと思って」サッ
真紅「チョコ……大福?」
巴「苺大福の餡子がチョコになってるの」
翠星石「な、なるほど……」
巴「あと、桜田君の分も……入ってるから……」
ジュン「え? あ、うん……。ありが……とう」
翠星石「!」
真紅「ッ!」
巴「それで、雛苺はどこ?」
真紅「ッッ!?」
翠星石「ッ!?」
蒼星石「……」
翠星石「チ、チビ苺なら一人で遊びに行ってるですぅ」
真紅「そ、そのうち帰ってくると思うのだわ。だわだわ……」
ジュン「? なんか歯切れ悪いな」
蒼星石「……」
巴「そう。じゃあ、悪いけど……私、習いごとかがあるからもう帰らないと」
ジュン「そうか、残念だな。雛苺にはちゃんと伝えとく」
巴「ありがとう、桜田君」
ジュン「あと、それと……帰る前に渡す物が! ちょっと待ってて!」ダダダ
巴「……?」
ジュン「お返しってわけじゃないけど、コレ……」そっ
巴「え? これ、ひょっとして!?」
ジュン「う、うん。チョコレート」
真紅「ッ!?」
翠星石「!?」
巴「ど、どうして桜田君が?」
ジュン「いや、姉ちゃんのチョコ作り手伝わされててさ……。
それにバレンタインは、外国によっては
世話になってる人にチョコや物を贈る日だとも薔薇水晶がこの間言ってて……」
巴「……桜田君」
ジュン「柏葉にはプリントとかよく持ってきてもらって、すごく助けられたから」
巴「……」
ジュン「も、勿論この程度で恩返しできるとも思ってないし……
それに男が作ったチョコなんて気持ち悪いっていうなら捨てて構わない。
学校にまでこれを持って行く勇気も無かったし……」
巴「ううん、ありがとう」
ジュン「……」
巴「私、凄くうれしい」
ジュン「柏葉……」
§若い二人が退室しました
真紅「……」ポカーン
翠星石「……」ポカーン
蒼星石「いやはや参ったね」
翠星石「『参ったね』じゃねーですよ! なんですかこれは!?
『ローゼンメイデン』はいつからラブコメ路線に変わったですか!?」
蒼星石「ヤンジャンに移籍したあたりからじゃない?」
真紅「まったくと言っていいほど私達の出る幕が無かったのだわ……と言うか
私達の見通しがここまで外れまくるとは」
蒼星石「スーパー競馬の井崎さんもびっくりだろうね」
翠星石「し、しかしですね! 一度やり始めたからにはケツまでやるのが乙女ってもんですぅ!
チビ人間にチョコを渡さねば、死んでも死にきれねーですよ!」
真紅「ええ! チョコを渡すまでがバレンタインなのだわ」
ジュン「いやぁ~。柏葉が喜んでくれてよかったな~」ガチャッ
翠星石「や、やい! チビ人間!」
真紅「途中から私達の存在を忘れていたでしょ!!」
ジュン「んなことないって、ハイ。実はお前達用にも、僕が作ったのがある」ササッ
真紅「えっ!?」
翠星石「え!?」
ジュン「蒼星石にも、ハイ」サッ
蒼星石「あ、ありがとう……」
真紅「な、な、なんで……!?」
翠星石「なんでチビ人間が翠星石達にチョコをくれるですか!?」
ジュン「なんでって……柏葉に言った台詞をまた言わせる気か?
翠星石達にもなんだかんだで凄く世話になってるからだよ」
蒼星石「ジュン君……」
ジュン「きっと真紅が僕のところに来てくれなかったら……
ドラえもんが来なかったのび太君よりひどいことになって
今でもきっと引きこもったままのダメ人間だったと思うんだ」
真紅「ジュン……」
ジュン「だから遠慮なんかせずに食べてくれ。
姉ちゃんと一緒に作ったから、そんなに味は悪くないはずだと思う」
翠星石「え、えーとですね……チビ人間!」
ジュン「ん? なんだ翠星石?」
翠星石「す、翠星石達もチョコぐらい作ってあるです!
ありがたく受け取りやがれです」
真紅「私も! 私も作ったのだわ!」
ジュン「冷蔵庫の中にあるやつだろ?
僕のチョコを取り出す時に見たが……あれ、型崩れしてたぞ」
翠星石「え!?」
真紅「ええ!?」
蒼星石「あらら」
ジュン「もっとゆっくり冷やさないとダメだったんじゃないのか?」
§バレンタインにおける乙女力の推移
翠星石 5→10→6
真紅 0.3→6→2
ジュン 93→125
金糸雀 13→12
みっちゃんからチョコをたくさんもらって食べすぎた結果、気持ち悪くなって吐いた。
雛苺 9→10
雪華綺晶 3→4
ブサ綺晶達と一緒にチョコレートフォンデュパーティを楽しくやってた。
バレンタインは桜田ジュンの味方 『終』
乙です
サルさん怖いですね
深紅……………
いつもありがとう。
最近、長引いてすまんです
たまたまあった●が切れたもんだから、さるになるようになったけど
次回からはもう少しマシになると思う
乙です
ジュンの乙女力がハンパねーことになってる
674 :
創る名無しに見る名無し:2012/02/15(水) 13:25:07.06 ID:oP2ofBa9
女装無しでも
ユニコーンがほっとかないレベル
675 :
1:2012/02/15(水) 18:15:45.81 ID:4S6sGooy
あっちで質問あったけれども答えづらいのでこちらで回答
>●買うのもったいなくない?
ローゼンネタの為だけに持っていたわけではないし新たに買うつもりも無い
次回からマシになるというのは別の方法です
>まとめた時に改変されている
雑誌掲載時→コミックス収録時程度の修正は随時入ってます
【蒼星石とワタハミの樹】
§薔薇屋敷・蒼星石の部屋
翠星石「蒼星石~! 金貸してくれでぇ~す」ガチャッ
蒼星石「……遊びに来て開口一番が金の無心とはどういうことだい? 翠星石」ぎゅむっ
翠星石「いたたたたたっ! 万力のような力を込めてほっぺをつねるのはやめろです」ぐぎぎ
蒼星石「……」すっ
翠星石「ふぅ~。いやはや、ちょっち出費がかさんでて今月ピンチなのですぅ」
蒼星石「悪いけど……貸せない」
翠星石「ななな、なんですとーっ!? この姉が頭を下げて頼んでいるというのに!」
蒼星石「姉だからこそだよ。親戚同士で金の貸し借りをするとロクなことにならない」
翠星石「そんなこと言ったって、こっちは知ってるんですよ。
蒼星石は、水銀燈には金を貸していたということをっ!」
蒼星石「……」
翠星石「水銀燈には貸せて翠星石には貸せないとはどういう了見です!
いくら今後は水銀燈側につく予定だとしても、翠星石にもお金ぐらい……」
蒼星石「『お金ぐらい』……?」
翠星石「?」
蒼星石「お金は大事だよ。しかも君はそれを僕に借りようとしている。
なのに『お金ぐらい』とはひどい言い草。そんなんだから、無駄遣いしちゃうんだ」
翠星石「ううう」
蒼星石「水銀燈にお金を貸したのは事実だけども、彼女から利子もちゃっかり取った」
翠星石「り、利子ぃ!?」
蒼星石「水銀燈にも最初は融資を断った。しかし、どうしてもと食い下がったから
利子の条件をつけたんだよ。それだけのことさ」
翠星石「お、お前はそれでも本当に薔薇乙女の妹ですか!?
利子だなんて悪魔の発想ですぅ! カイジの石田さん達はそのせいで死んだんですよ!」
蒼星石「そもそも妹に金をたかりに来る時点で間違ってると僕は言いたい。
利子というのは翠星石に諦めてもらうためでもある」
翠星石「ぬぐ……、だ、だったらもういいです。蒼星石には頼まないです!
こうなったら……」
蒼星石「僕のマスターに借りようとしても同じだよ」
翠星石「!」
蒼星石「僕に利子利息の概念を教育してくれたのはマスターだから」
翠星石「く……! きょ、今日の蒼星石はいつになく厳しいですね。
何か嫌なことでもあったですか? ひょっとして便秘ですか?
S星石のスイッチがバカになって常時ONなのですか?」
蒼星石「別に。僕はいつもどおりだよ」
翠星石「……うぅ。な、ならば、何か割のいいバイトでも教えてくれです。
ガーデニング教室のお手伝いだとかでもいいですし
おじじの金持ちネットワークで楽して稼げる仕事を紹介してくれですぅ」
蒼星石「……」
翠星石「た、頼むですぅ」
蒼星石「楽して稼げるだなんて甘い仕事は無いけど、ハイリスクハイリターンでよければ」
翠星石「お!? あるんですね! 仕事が」
蒼星石「実は『庭師連盟』から、依頼の手紙が来ている」
翠星石「ゲェッ!? 庭師連盟……!?」
§突発講座・槐先生の用語ワンポイント解説
議題:庭師と庭師連盟
講師:槐
生徒:薔薇水晶
槐「突然だが、ここで庭師連盟について説明を始める。用意はいいかい?」
薔薇水晶「はい。お父様」
槐「庭師連盟。その名の通り庭師の連盟、集合体のことだが
ここで言う庭師とは普通の庭師ではない。
nのフィールドをホームとする夢の庭師達のことだ」
薔薇水晶「私のイメージだと普通の庭師はこんな感じ(※)なのですが
夢の庭師はそれとは違うのですか?」
※
ttp://blog-imgs-30-origin.fc2.com/s/l/p/slpy/viploader892323.jpg 槐「違うよ、全然違うよ。
普通の植物の世話も勿論できるが、彼ら庭師が主に相手にしているのは
世界樹をはじめとする夢の世界、nのフィールドの植物だ。
そして、それらは大なり小なり人間の精神に根ざしている」
槐「現実世界の常識からかけ離れた摩訶不思議な植物たちは
様々なトラブルを起こし、人間の精神にも大きな影響を与える。
それらのトラブルを解決するのが庭師だ。蟲師と似たようなものだと思えばいい」
薔薇水晶「なるほど。簡単に言えばnのフィールドの何でも屋ですね」
槐「そ、それは少し簡単に言い過ぎだと思うけど、まあいいだろう。
そして蒼星石は非常に優れた庭師として、庭師連盟に所属している」
薔薇水晶「翠星石は?」
槐「彼女は昔、連盟の試験を蒼星石と一緒に受けたが面接で落とされた。
それ以来、翠星石は連盟を毛嫌いしている。
蒼星石に仕事を押しつけてくる連盟の体質が気にいらないというのもあるがね」
薔薇水晶「私は……以前より双子に庭仕事を教えてもらうために
彼女達に弟子入りしたような形になっています。
翠星石からも手ほどきをたまに受けますが、彼女も優れた庭師ですよ?
何故、連盟には蒼星石だけが受け入れられたので?」
槐「それは分からない。翠星石が面接でやらかしただけかもしれない。
とは言え、庭師連盟に入らないと、庭師の資格が無いということでもない。
単に庭師が集まった組織なだけだ。無所属の庭師もたくさんいる」
槐「ただ、この庭師連盟について良いことなのか悪いことなのか……
彼らはnのフィールド内で最大勢力を有する集団だ」
薔薇水晶「最大勢力?」
槐「nのフィールド内には、同じ特徴を有した人材が集まったグループが他にも沢山ある。
中でも特に大きいのが5つあり、トップ5あるいは五大集団とも呼ばれる。
庭師連盟は現在、その中でも最大規模というわけだ」
薔薇水晶「強力なのですね」
槐「だが、圧倒的と言うほどでもない。故に彼らの間では小競り合いが絶えず続き
蒼星石に回されてくる仕事内容も、他の勢力との軋轢が関係していることがほとんど。
基本、汚れ仕事。だからこそ翠星石の連盟嫌いも加速している」
薔薇水晶「では今回……蒼星石に来た依頼も?」
槐「恐らく、そうだろう。また、これらとは別格として
『ローゼン』と『ローゼンメイデン』の存在もnのフィールド内ではそれなりに有名だ。
トップ5の中には薔薇乙女を様々な方法でつけ狙っている輩も多い」
薔薇水晶「ロゼリオン計画などという茶番もありましたね……」
槐「君を含め、薔薇乙女全員の怒りを買って潰された計画だったな。
あの一件で、nのフィールド内のゴタゴタも少し収まっていたんだが……」
※ロゼリオン計画については過去記事
ttp://slpy.blog65.fc2.com/blog-entry-3879.html参照 薔薇水晶「蒼星石がピリピリしていたのも、実は便秘ではなく……?」
槐「……あんまり、いい内容の手紙じゃなかったようだね。
とりあえず、今回はここで講義終了。
また必要があれば、おいおいワンポイント講座を開こうと思う」
薔薇水晶「ありがとうございました、お父様」
§蒼星石の部屋
蒼星石「良い仕事の話だと思うよ。特別報酬として現金を望むのなら、
相手としてもやぶさかではないと書かれている」
翠星石「ぬうう……! 庭師連盟が蒼星石にやらせようとする仕事で
良いものなんてあるわけがないですぅ!」
蒼星石「……」
翠星石「それはそれと、今回の依頼は手紙なのですか?
いつもなら連盟の使いっぱしりで小坊主のトキが土下座しに来るですのに」
蒼星石「彼……トキは既に今回の作戦に従事している」
翠星石「お? あいつもいっちょ前に仕事するようになってきたですか。
しかし……『作戦』? なんだか随分と大層でキナ臭い感じですぅ」
蒼星石「ああ、実はかなり大仰で複雑な事になっている。
僕と君だけの話し合いで収まるものでもない。薔薇乙女緊急会議を招集したい」
翠星石「み、みんなを呼ぶですか!? そこまでの大事を何故今まで黙って……?」
蒼星石「そう考えていた矢先に君が来ちゃったんだよ」
§小一時間後
蒼星石「みんな早々に僕の部屋に集まってくれて、ありがとう」
金糸雀「可愛い妹の頼みだもの、当然かしら」
水銀燈「それより、改まってどうしたって言うのよ蒼星石」
雪華綺晶「……」
真紅「……私が薔薇乙女会議を招集した時はこんなに集まりが良くなかったのだわ」
雛苺「真紅には腎臓が無いからしょうがないの」
翠星石「それを言うなら人望ですよチビ苺」
薔薇水晶「お静かに。蒼星石の説明が始まります」
蒼星石「招集の際に伝えてある通り、庭師連盟から厄介な依頼が来た」
真紅「その内容は?」
蒼星石「……記憶の海に浮かぶ一つの島の領有権と言うか、そこの支配権を巡って
庭師連盟、東果重工、渡し守の集いが争い合っている」
水銀燈「nのフィールドの五大勢力間のゴタゴタじゃなぁい。
そんな紛争に巻き込まれるような依頼、突っぱねればいいでしょうが」
翠星石「そうですぅ。そんな依頼はいつものことですよ。どこが厄介なのです?」
蒼星石「厄介な理由は沢山ある。まず一つ、その島は
此岸花(シガンバナ)……つまり臓食(ワタハミ)の巣窟だということだ」
翠星石「此岸花!?」
真紅「ワタハミ……!?」
雛苺「うゆゆ? 何それぇ?」
水銀燈「普通の彼岸花は赤色だけど、青い色をしているのが稀にいる。
それが此岸花……しかしてその実態は」
金糸雀「ワタハミという菌類のような生物が彼岸花に寄生していることで
花の色が変わって青い此岸花になるのかしら……そして」
薔薇水晶「ワタハミは此岸花を経由して墓地の人間の死体……特に子供に寄生します。
彼岸花が中間宿主、人間の遺体が最終宿主というわけです」
翠星石「寄生された死体はキノコゾンビとして復活してしまうのですぅ!」
雛苺「おおお、恐ろしいの!!」
雪華綺晶「……」
真紅「ゾッとしないのだわ」
蒼星石「此岸花は庭師連盟の規定でも危険植物のB級上位にランクされている」
真紅「戸愚呂弟レベルというわけね」
蒼星石「……危険植物はA、B、Cの3種類にカテゴライズされ
その内のBに対しては、こちら側からの積極的な駆除が推奨される。
見つけながら放置しておくと、人に甚大な被害をもたらすからだ」
水銀燈「へぇ」
蒼星石「ちなみにCはCaution(注意しろ)、BはBuster(破壊しろ)の頭文字」
翠星石「Aは何なんですぅ?」
蒼星石「ヤバ過ぎて対処のしようがない。出会った不運を呪うべし。
Akiramero(諦めろ)のAだよ。そんな植物は本当に稀だけど」
金糸雀「何故にAだけ日本語……」
薔薇水晶「Abandonとかでよかったのでは」
蒼星石「ともかく、ワタハミは危険な植物だ。昔は特に」
雛苺「昔?」
雪華綺晶「土葬の時代には、現実世界でもワタハミは猛威をふるいました。
何しろ、死んだ子達が墓から這い出てくるのです。
幼い我が子が蘇ったと勘違いして、育てる親も多かった」
金糸雀「そもそもカッコウの托卵のように、育ててもらうのがワタハミの目的かしら」
真紅「ふむふむ」
水銀燈「そして誰でも容易に想像出来るような悲劇が頻発した。
人類と菌類の価値観の違い。親の子殺し、子の親殺し」
蒼星石「事態を重く見た庭師達が此岸花を精力的に駆除し、
また土葬の風習も廃れて、ワタハミはほとんど現世から姿を消した。
僕も、此岸花を見たことがあるのは……ほんの数度」
翠星石「……」
雛苺「けど、そのワタハミさん達が記憶の海の島にまだいるってことなの?」
蒼星石「ああ、そうだ。そして、その島は
ワタハミにとっての最後の聖域。彼らの起源であり始祖らしい」
薔薇水晶「?」
蒼星石「ワタハミは全ての個体が意識を共有している。
言い換えれば全ての此岸花は、本体の一部に過ぎない」
金糸雀「意識を共有……」
蒼星石「此岸花に覆われた島自体こそ本体であり、一個の巨大なワタハミ。
故に此岸島(シガンジマ)と名付けられている」
翠星石「島それ自体が……巨大な生き物?」
水銀燈「名前なんかどうでもいいわよ。それより
その島を求めて争い合うだけの価値は、どこにあると言うの?」
蒼星石「ワタハミの樹」
真紅「?」
蒼星石「ワタハミの菌糸が絡み合ったものが巨大な樹を形成している。
島の中心部で、だ」
雪華綺晶「それが……庭師連盟達が欲しがっているもの?」
蒼星石「欲しがっているのは東果重工と渡し守の集い、庭師連盟はそれを阻止したい。
ワタハミの樹の正体は未だ不明だが
彼らの元々の性質からいって、危険な存在である可能性が高い」
翠星石「庭師連盟でもまだよく分からないものなのに
東果や渡し守はワタハミの樹が何なのか理解しているというのですか?」
蒼星石「いや、彼らの言い分は『手に入れてからじっくり調べる』だそうだ」
薔薇水晶「あらまあ……」
金糸雀「なんとも悠長なことかしら。いえ、せっかちと言った方が正しいかしら?」
雪華綺晶「両者ともワタハミの性質を独自に解釈して、死者を蘇らせる力……
あるいはゾンビ化させる力を秘めたモノだろうと考えているのでしょう」
雛苺「むむ~。ヒナはまだよく分からないけど、ひどい話なの!」
蒼星石「そう、ひどい話さ。よく分からないもののために争奪戦が始まっている。
誰もしれの本当の価値は知らない。勿論、僕にも。
それどころか開けてはいけないパンドラの箱の可能性だってある」
真紅「それで現状は?」
蒼星石「東果重工や渡し守が島に乗りこんでくる前に
此岸島中央のワタハミの樹を調査し、場合によっては彼らに渡さないためにも
樹を焼き払ってしまおうと庭師の先遣隊が出された……が」
薔薇水晶「……が?」
蒼星石「その直後に、東果重工の揚陸艇や渡し守達が続々と島に上陸。
先遣隊との連絡は途絶えてしまった」
翠星石「ちょ、ちょっと待てです、ひょっとしてクソボウズ(トキ)は……」
蒼星石「先遣隊の一員だ」
翠星石「!」
水銀燈「それで、島は今まさに三つ巴の地獄絵図……てとこかしら?」
蒼星石「いや、少なくとも四つ巴だ」
雪華綺晶「まだ役者がいるので?」
蒼星石「『野薔薇』がいる」
真紅「ッ!?」
薔薇水晶「野薔薇まで!?」
蒼星石「庭師連盟がこうもギリギリになるまで、ワタハミの樹の調査をしなかったのは
此岸島に野薔薇がいるからだ。しかもワタハミの樹を守っているらしい」
金糸雀「な、なんでっ!?」
翠星石「どうして野薔薇が、そんなことを!?」
蒼星石「ワタハミの樹を自らのエネルギーの供給源としているのかもしれない」
§突発講座・槐先生の用語ワンポイント解説
議題:野薔薇
講師:槐
生徒:ジュン、巴
槐「……と言うわけで早くも二回目の講義だ」
巴「よろしくお願いします」
ジュン「お願いします」
槐「今回は野薔薇についてだが、とどのつまりローゼンメイデンの偽物達のこと」
ジュン「薔薇水晶みたいなもんですね」
槐「ん……まあ、早い話がそういうことだが、それだけじゃない」
巴「と言うと?」
槐「野薔薇というのは総称で、個々の氏素性は千差万別だが……共通点もある」
ジュン「それは?」
槐「薔薇水晶には僕がいる。僕には薔薇水晶がいる。
しかし、野薔薇には何もない。誰も野薔薇を必要としていない」
ジュン「……?」
槐「錬金術師達がローゼンの後追いをして作った自動人形が野薔薇の原型だ。
当然、作成者の力不足によりそのほとんどは出来損ない。
仮に動いたとしてもローゼンメイデンの足元にも及ばないジャンク」
巴「それがどうして野薔薇になっちゃったりしたんです?」
槐「お父様に廃棄された、あるいは逃げ出した自動人形が野生化した。
はたまた、マスターやお父様と良好な関係を保ちながらも
相手に先立たれてしまい孤独に心を壊されてしまった。
プロセスは色々あるだろうが、『絆』を喪失した成れの果てが野薔薇」
ジュン「なんだか……可哀そうなやつらですね」
槐「そのとおりだが、野薔薇は非常に危険な存在でもある。
ローゼンメイデンがそうであるように
彼女達も基本的には他者の生命力を奪い続けて動く存在だからだ」
巴「……」
槐「絆や見境を無くせば、当のローゼンメイデンの中でも
小さく可愛らしい雛苺ですら、相当に危険な事はまだ記憶に新しかろう?」
巴「……」
槐「特に野薔薇はその生来からか、精神が壊れていて異常行動を
起こしている者も多い。狂犬病の野犬のようなものだ。しかも数だけは多い。
これまで何度か薔薇水晶は野薔薇と相対している」
ジュン「薔薇水晶が」
槐「ここで言うべき内容からは少し脱線するが
僕と薔薇水晶はヒューマニストでね。
人の命を掠め取るローゼンメイデンや野薔薇は許せない……と思っている」
巴「そんな……ローゼンメイデンまで?」
槐「雛苺の暴走が止まらなかったら? 君を食い殺してでも
まだ真紅と戦い続けることを選択していたら……?」
巴「!?」
ジュン「それは……!」
槐「既にあの時から、雪華綺晶が裏で糸を引いていたようだが所詮は同じ穴のムジナ。
薔薇水晶はローゼンメイデンを慕い憧れる一方では憎しみと怒りも持っている。
それは僕も同じ。難しい……ままならない問題だよ」
巴「槐先生」
槐「話を元に戻そうか。野薔薇もローゼンメイデンに対して色々と思うところはあるが
大抵は畏怖している。何しろ自分達は彼女らを目標に作られながら、その失敗作だ。
薔薇乙女達がアリスを畏れるように、野薔薇は彼女達を畏れる」
ジュン「……」
槐「繰り返しにもなるが、狂気に蝕まれた野薔薇の行動原理は、推量するだけ無駄という面もある。
結局は『野薔薇がいる。気を付けよう。できれば摘んでしまおう』ということになってしまう」
ジュン「なんだかなあ……、あまりにも救いが無い話だな」
巴「ええ」
槐「それはある意味、薔薇乙女達とて同じこと」
ジュン「なんでだ? あいつらにはまだローゼンが」
槐「希望と救済は必ずしもイコールじゃない。その辺りは水銀燈が詳しいが……
ま、これ以上は流石に講義の延長し過ぎになる。今回はこれまで」
巴「え、あ、はい。ありがとう……ございました」
ジュン「……ありがとうございました」
§蒼星石の部屋
蒼星石「さて、これで一応の予習復習はお終いだ。此岸島が現在、
非常にカオスで厄介な状態になっていることは分かってもらえたと思う」
翠星石「庭師連盟の先遣隊に……」
金糸雀「東果重工に渡し守の集い」
水銀燈「さらには野薔薇がワタハミの樹を守っている」
真紅「おまけに、それぞれの目的まではっきりとしていない」
雪華綺晶「……」
雛苺「そ、それでヒナ達はどうすればいいの?」
薔薇水晶「そうです蒼星石。背景は分かりました。
それで……結局、庭師連盟は私達に何をさせたいので?」
700 :
創る名無しに見る名無し:2012/02/20(月) 22:04:19.97 ID:nel1Y2Tr
蒼星石「ワタハミの樹の切除。つまりは争いの火種を断つことだ。
こうなっては、もはやワタハミの樹の詳細調査は諦めて
悪用される前に完全に消滅させてもらいたい、と手紙には書いてある」
水銀燈「それでも結局は蒼星石個人に対する依頼でしょ?
あんた一人で判断して処理すればいい事柄じゃない。
わざわざ薔薇乙女緊急会議にかける程の一大事?」
蒼星石「僕はそうだと思ったからこそ君達を呼んだ。
正直、僕一人の手に余る大仕事だ。皆の手助けが欲しい」
水銀燈「……ちっ」
翠星石「こ、今回は御縁が無かったから、お仕事を断るという選択肢は……」
蒼星石「残念ながら無い。ワタハミの樹に野薔薇、トキの行方……と
見すごせないことが多すぎる」
雪華綺晶「それにワタハミの樹を悪用されでもしたら」
薔薇水晶「第二、第三のロゼリオン計画がまた……?」
雪華綺晶「最悪、そういうこともありえますわ。ご丁寧に野薔薇までセットですし」
金糸雀「むむむ……」
蒼星石「勿論、タダで協力してもらおうとも思わない。
成功の暁には、かなりの報奨が庭師連盟から出される」
水銀燈「報奨……か。今さら、あんまりそそられないわねぇ」
翠星石「ちょっと前の野良乙女水銀燈だったら飛びついているですのに……」
水銀燈「なんですって……?」
翠星石「な、なんでもないですぅ」
蒼星石「手伝ってくれなきゃ、僕のローザミスティカを水銀燈、君に上げる約束は考え直す」
水銀燈「ちょ!? あんた、またそれぇ!? ったく、ことあるごとに
自分のミスティカを交渉材料にするのやめなさいよ……」
蒼星石「あ、そう。てことは、いらないんだ。じゃ、翠星石に上げるね、そのうち」
翠星石「お、サンキューでぇす! 蒼星石!」
水銀燈「待ちなさい! いらないとは言ってないでしょ!」
蒼星石「さて、他のお歴々はどうする?」
真紅「どうせ、私の漁船(※)が必要なのでしょ」
※真紅は記憶の海で釣りをするために第五真紅丸という漁船を所有している
詳しくは真紅と記憶の海の黒いダイヤ(
ttp://slpy.blog65.fc2.com/blog-entry-3781.html)参照
蒼星石「まあね。今現在、使える移動手段はそれしかない」
雛苺「ヒナも! ヒナも行くの! 人助けはしなくちゃダメなのよ」
薔薇水晶「……野薔薇がいると聞いては黙ってられません」
雪華綺晶「私も興味がわいてきましたわ。それはもう、わりとムンムンと」
金糸雀「ところで、援軍はカナ達だけなのかしら?」
蒼星石「庭師連盟から案内人を一人出してくれる。しかし、それ以上は望めない」
雪華綺晶「なぜです?」
蒼星石「できる庭師は先遣隊で出してしまっているんだ。使える船も。
真紅の漁船に乗れる人数も限られているし……」
水銀燈「記憶の海で使える船は超貴重品だからね。
特に、ボートや小舟じゃなくてまともなやつは。
だから漁船仕様とは言え、第五真紅丸の価値はかなり高い」
真紅「えっへんなのだわ」
薔薇水晶「では、決まりですか? 全員、此岸島へ行く……ということで」
雛苺「うぃ!」
水銀燈「……」
蒼星石「……だね。それじゃ庭師連盟に返答し、案内人を迎えたらすぐ出航だ。
いけるかい? 真紅?」
真紅「ええ、それじゃ私は一足先に第五真紅丸でエンジンを温めておくのだわ」
金糸雀「なんにせよ、おだやかな船旅にならないことだけは確か。
一言、みっちゃんにしばらく帰れないかもしれないって伝えてくるかしら」
雛苺「ヒナも、ジュンやのりにお出かけ前は連絡しなくちゃなのよ」
蒼星石「それぐらいの時間はある。
それじゃマスターにあいさつ回りして、フンドシ締め直して取りかかろうか」
翠星石「そうですね。ここは一つ、気合ブリバリ乙女で頑張るです!
そして報奨たんまりゲットですぅ」
§数時間後・nのフィールド・記憶の波止場
蒼星石「ナナキさん、こっちです。真紅がもう船を出す準備を済ませているはず……」
雛苺「あ! 見えてきたの! アレが真紅の船なのよ!」
ナナキ「うっわーっ! すごい! 本当に船を持ってるんだ真紅ちゃん!」
水銀燈「うるさい女ねぇ。まるで金糸雀んとこのマスターみたい……
本当にこいつが案内人?」
ナナキ「ひどいわねぇ水銀ちゃん。私、こう見えてもやる時はやる女よ?
一応、同僚や弟(トキ)の命もかかってる事だし」
薔薇水晶「心配だとは思いますが、私達もできるだけ早く助けたいと……」
ナナキ「まあ、そこまで気張らなくてもいいわよ。
心配じゃないと言えば嘘になるけど
庭師稼業なんだから、こういう危険はいつだって付いて回るわ」
金糸雀「それもそうだけど、急ぐに越したことはないかしら」
翠星石「そのとーりです。さあ、ちゃきちゃき船に乗り込めで~す!」
§第五真紅丸・船室
雪華綺晶「紅薔薇のお姉様? ここにいるのですか?」
水銀燈「全員、乗ったからさっさと船を出してほしいんだけ……どっ!?」
真紅「それでね、ジュンったらバレンタインに私にチョコをくれたのよ」ぐびぐび
魚拓「……」
真紅「嬉しいと言えば嬉しいんだけど、何か違う気がするのだわ」ぐびぐび
魚拓「……」
真紅「ジュンには素肌に皮ジャンが似合うようなワイルドな男になってもらいたいのに」
ナナキ「……な、なんで真紅ちゃんは、魚拓相手に愚痴りながら一杯ヤってんの?」
金糸雀「話せば長くなるけど、アレはただの魚拓じゃなくて
第五真紅丸の副船長さかなくんJr.の遺影かしら……」
翠星石「非常に美味しい……じゃなくて、惜しい魚類を失ったですぅ」
ナナキ「?」
706 :
創る名無しに見る名無し:2012/02/20(月) 22:26:44.75 ID:w16p9ljO
蒼星石「ええと、真紅?」
真紅「は!? 蒼星石!? それにみんな!? いつの間に!?」
薔薇水晶「ちょうど今来たところです。それより真紅……あなた何を?」
真紅「航海の無事を祈って海神(ワダツミ)さかなくんJr.に御神酒を供えていたら、
つい盛り上がってしまって……」
水銀燈「なにが『つい』よ。一人でよくもまあ、そこまで出来上がったものねぇ。
それより、船の準備の方もちゃんと出来上がってるの?
あと、いつの間に故さかなくんJr.は海神の位にまで登りつめてんのよ」
雛苺「しかも、お酒飲んじゃったら飲酒運転なのよ真紅!」
真紅「運転はホーリエだから無問題。あと、船の準備はきっちり済ませているのだわ。
できる薔薇乙女は仕事を完璧に済ませてからお酒を飲む」
蒼星石「魚拓相手に絡み酒している時点で色々間違ってる気もするけど
準備万端なようで何より。それじゃ早いとこ出航してくれるかな」
ナナキ「ナビは私がしますんで」
真紅「だ、そうよ。頑張って頂戴ホーリエ」くいっ
翠星石「相変わらず、真紅は人工精霊を顎で使うお人ですぅ」
ホーリエ「……っ」ばひゅ~ん
ナナキ「え? あなたが運転するの? て言うか、できるの?」
ホーリエ「ッッ!」ぷんすか
ナナキ「ご、ごめん! バカにしたつもりは無いの! ちょっとびっくりしただけ」
雪華綺晶「人工精霊に操舵を任せるという発想からして非常識ですからね」
金糸雀「真紅のズボラもここに極まれりかしら」
水銀燈「ホーリエだからいいようなものの……
ベリーベルには間違っても船の舵は預けられない」
雛苺「うゆゆ……、ヒナでもそう思うの」
真紅「では! 第五真紅丸! 出航ッ!!」
【蒼星石とワタハミの樹】
前半終了
続きはまた後日
nのフィールドオリジナルネタになると前フリや復習が長くなってすみません
乙です
ひとまず乙
nのフィールドの独自設定が好きだから長編は楽しめるわ
続き待ってるよ
711 :
1:2012/02/24(金) 22:47:20.01 ID:0mlSIr18
§出航してから小一時間後・甲板
真紅「オゲェエエエエエッッ……」びたびたびた
水銀燈「言わんこっちゃない。船旅の直前にアホほど酒かっくらうからよ」
真紅「ウォロロロロロロッッ……」びたびたびた
金糸雀「精力的に海のお魚さん達に栄養補給してあげてるのはいいけれど」
雪華綺晶「海にゲロを垂れ流すのは乙女としてどうかと思いますわ紅薔薇のお姉様」
真紅「ロッパー」びたびたびた
真紅「ぐぇっぷ……! ま、まさかこんなに荒れた海路になるとは……
うぐえっ! ウゲロッロオロロオロロロロロロ!! おぉえっっっ!」びたびたびた
蒼星石「今、ホーリエにナビ中のナナキさんによると
あと2~3時間はこの荒れ模様が続く海域らしい」
真紅「はぁはぁ……。そ、そんなに……?」
翠星石「船室で横になって休んだらどうですぅ?」
真紅「だ、だめよ。ゲロを受けられそうな物は私の鞄しかないんだもの」
薔薇水晶「? 桜田ジュン専用と書かれたエチケット袋が置いてありましたが」
真紅「それは……、うぷっ」
水銀燈「マスターのだから、自分は使えない? 珍しく殊勝なことね真紅」
金糸雀「いくらジュンでもゲロ袋を使われたぐらいで怒らないかしら」
真紅「そ、そういう……ぐぇっぷ、こと……じゃなくて」
翠星石「?」
真紅「そのエチケット袋は……私の用意した罠なのっブルワァァ」びたびたびた
雛苺「ワナ?」
真紅「エチケット袋と見せかけて、袋じゃないのだわ。底にも口が開いているの……」
翠星石「え!?」
薔薇水晶「……ということは」
真紅「ジュンがゲロを袋にすると、そのまんま下へ素通りしてびっくり……うげぇえええ」びちびち
雪華綺晶「……えげつない真似を」
水銀燈「ほんと、マスターいじめにかけるアンタの情熱には呆れるやら感心するやら」
真紅「ウォロロロロロロ」びたびたびた
翠星石「ったく、しゃーねーですね。せめて少しは楽になるように翠星石が背中をさすってやるです」
真紅「あ、ありがとう。あとで、ひでんマシン1をあげブルルルゥヴァァ」びたびたびた
翠星石「……どうです?」さすさす
真紅「す、すまないねぇ……。お前にはいつも迷惑ばかりかけちまって。
うっ!? ゲホッゲホッ! ゲボゥ!? ゲボボボボボボボボッボボ!」びたびた
翠星石「ゲロ臭い……じゃなかった水臭いですよ、おとっつぁん。
アリスゲームやらされてる時点で親からの迷惑には慣れているですぅ」さすさす
雪華綺晶「……何か変な小芝居が始まりましたよ?」
水銀燈「好きなようにさせておきなさい」
蒼星石「翠星石が付いていたら真紅も大丈夫だろうし、僕達は船室で休もう」
雛苺「トランプ持ってきたのよ! みんなでババ抜きするの!!」
金糸雀「お? 準備がいいのかしら雛苺」
水銀燈「あのねぇ、私達は遊びに来てるんじゃ……」
雛苺「水銀燈は負けるのが怖いだけなのよね」
水銀燈「なんですって?」
雛苺「だったらトランプするの!」
水銀燈「上等。自分が負かされても泣くんじゃないわよ雛苺」
薔薇水晶「……では、私達は船室へ戻ります翠星石、あとはお任せしても?」
翠星石「……」さすさす
真紅「うぼぁあああああ」びたびた
翠星石「……」さすさす
蒼星石「翠星石?」
真紅「オブォロロロロロロ」びたびたびた
翠星石「ウォゲゲゲゲゲェ」びたびたびた
雛苺「うにゃっ!? 翠星石まで吐いたの!!」
水銀燈「もらいゲロか。本当におバカさんねあの二人は……」
翠星石「オェエエ」びたびたびた
真紅「ウオェップ」びたびたびた
薔薇水晶「どうします?」
蒼星石「もう、ほっといたらいいんじゃないかな二人とも」
雪華綺晶「ですわね……」
翠星石「ウォゴブェェッ」びたびたびた
真紅「ゲロロロロロロロ」びたびたびた
§十数分後・船室
雛苺「うわぁーいっ! また水銀燈の負けなの~」
水銀燈「くっ……」
蒼星石「……」
雪華綺晶「……」
水銀燈「な、なんかおかしい! みんなしてイカサマやってるんじゃない!?
このトランプ! ひょっとして槐が作った特別製とかじゃ……っ!?」
薔薇水晶「いえ。これはごく普通のトランプです」
水銀燈「じゃ、じゃあどうして私ばっかりババ抜きでドベに……」
金糸雀「え……と、水銀燈? ちょっといいかしら?」
水銀燈「?」
金糸雀「何回かババ抜きやって気付いたんだけど、
しばらく見ない間に、あなた変な癖がついちゃってるかしら」
水銀燈「クセ? そんな馬鹿な!? ポーカーフェイスには自信あるわよぉ!」
蒼星石「うん。顔は至ってフツーだった。しかし、なんて言うか、その……」
雪華綺晶「私達が黒薔薇のお姉様の手の中にあるババを取ろうとすると」
薔薇水晶「水銀燈の背中の黒翼がちょっとだけ伸びます。で、取るのを
他のカードにすると、がっかりしたように翼が引っ込みます」
水銀燈「ッッ!?」
雛苺「うにゅにゅ!? 教えちゃダメなのよ! みんな!」
蒼星石「あまりにも露骨だったから、逆に心理的な罠を仕掛けてるのかとも思ったけど」
水銀燈「……!」
金糸雀「どうやら、素のようだったかしら」
水銀燈「そ、そう言われれば、めぐやブサ綺晶とババ抜きしても
何故か負けるのは私ばかりだった……!」
ナナキ「あ、みんなここにいたのね」ひょこ
薔薇水晶「ナナキさん」
ナナキ「て、みんなじゃないか。真紅ちゃんと翠星石ちゃんは?」
蒼星石「二人なら外でゲロってますけど、何か用でも?」
ナナキ「ううん、なんでもない。ナビも一段落ついたし
私もここ(船室)で休むように……て、ホーリエ君が」
水銀燈「ふぅん」
ナナキ「いやはや、凄いものね人工精霊ってのは。流石、ローゼンメイデンの付き人なだけある。
此岸島までの航路はもう、完全に彼の中にインプットされたみたい」
金糸雀「ホーリエも人工精霊の中では優秀な部類かしら」
水銀燈「真紅がいつもコキつかってるからね。鍛えられてるのよ」
薔薇水晶「あら、ではメイメイが非常に優秀なのもそういうことですか? 水銀燈」
水銀燈「……ッ」
ナナキ「それに、この漁船も見かけによらずスピードが出る。某国不審船なみね。
この分だと、あと一時間強で此岸島が見えてくるわ」
蒼星石「一時間強か」
雪華綺晶「わりともうすぐですわね」
雛苺「じゃあ、次は何やる~?」
金糸雀「神経衰弱とかどう? カナの記憶力の魅せどころかしら~」
721 :
1:2012/02/24(金) 23:14:14.65 ID:ZKVphcLg
今日はここまでです
少々まったり投下が続くかもしれないですけど御勘弁
乙です
僕の真紅ちゃんががが
だがそれがベネ!
723 :
創る名無しに見る名無し:2012/02/25(土) 07:36:55.73 ID:4arsbgjq
真紅の乙女力が更に落ちて
消滅か男性化しそうな勢いだ
メインゲロイン
ゲローゼンメイデン
ゲロール
もうヤメて><
真紅の乙女力はゼロよ!
§そんなこんなでしばらく後
翠星石「たたた、大変ですぅ」ふらふら
蒼星石「翠星石? どうしたんだい?」
金糸雀「真紅がゲロだけじゃなくミスティカも吐いたとか?」
水銀燈「それとも海に落ちた?」
翠星石「ちげぇーです。真紅も翠星石も一応、無事です。
ゲロ吐きすぎてふらふらですけど……と、そんなことより!
海に変なものが沢山浮いているんですぅ!」
雛苺「変な……?」
雪華綺晶「もの?」
水銀燈「ゲロじゃなくて?」
ナナキ「なにかしら? 此岸島の周辺海域に異常が?」
薔薇水晶「見て確かめる他ないようですね……」
真紅「……」ぐったり
水銀燈「あらら、完全に真っ白に燃え尽きているわねぇ真紅」
真紅「……」ぐったり
金糸雀「手すりに寄りかかって立っているのが精一杯って感じかしら」
蒼星石「言葉を喋る気力も今は無いようだ」
雛苺「ホントに海に落ちちゃうかもなの」
翠星石「真紅よりも海面の方に注目です!
ほら、前方からどんどん流れてきてるですよ」
ナナキ「これは……!?」
薔薇水晶「木片……、何かの残骸のようですが」
雪華綺晶「渡し守の舟ですわね。それが何者かにバラバラにされている」
翠星石「渡し守の!?」
雪華綺晶「彼らは個人用の舟を標準装備していますわ。
ただ、サイズはかなり小さい。一人乗り用ですし」
蒼星石「……」
雪華綺晶「しかも、基本的には乗り捨てたりせずに
不使用時は折り畳んでゲルググの盾のように背中にマウントする。
どちらかと言えば、シールドとしての意味合いが強い。
舟で守り、櫂で突く。それが渡し守の戦闘スタイル……」
金糸雀「その大切な舟盾の残骸がこれだけ海に浮いているということは
相当の渡し守が此岸島に向かっていた……」
薔薇水晶「……そこを襲われた?」
水銀燈「一体誰がこんな事を?」
翠星石「ジョーズです! ジョーズの仕業ですぅ!!
いや、クラーケンやグリードかもしれないですよ!」
ナナキ「そんなのが今この辺りにいるとしたら、此岸島に近づくのも……」
雛苺「!? ねぇ! 見て見て! 島が見えてきたのよ!! ひょっとしてシガンジマ?」
翠星石「うおぅ!? いつの間にか島が見えてたですか!?
舟の残骸に気を取られていたですぅ!」
蒼星石「……あれが?」
ナナキ「うん。そう、此岸島」
水銀燈「こうして遠くから見る限りは何の変哲も無さそうだけどね。
島の中央と言うか、てっぺん辺りに見える、でかくて白い『樹』を除けば」
ナナキ「一日も歩けば島のぐるりは一周できるほどの大きさ。
テレビ番組の黄金伝説とかで出てくるのと似たような環境の島よ」
金糸雀「でも、ワタハミの樹がここからでも見えるとは、なんて大きさかしら!」
雪華綺晶「さらに、アストラルの奔流の異常をも感じます。
間違いなくあの島……あの樹を中心としたアストラルのうねりを」
蒼星石「あれをなんとかしないと」
ナナキ「その通り……なんだけど、あのワタハミの樹!
前に見た時よりもさらに大きくなっている気がする」
雛苺「えぇっ!?」
ナナキ「今回、大勢の人間が島の奥にまで乗り込んだことで何か異変が?」
蒼星石「僕達も急いで上陸して調査しなくては……!」
薔薇水晶「トキ達の安否も気にかかります」
翠星石「ということは、ジョーズがいるかもしれないからと言って
島へ漁船を寄せるのを尻ごみしている場合では無いですね」
水銀燈「そうね。それに……」
薔薇水晶「?」
水銀燈「渡し守を沈めまくった犯人が、向こうからやってきたみたいよ」
ナナキ「え……!? あ、あれは……ッ!」
翠星石「大きいです! 船……いや、黒くて固そうな軍艦ですぅ!?」
薔薇水晶「まさか、東果重工!?」
ナナキ「船体に金の林檎のマーク……東果の社章よ! 間違いないわ!!」
金糸雀「東果の揚陸艦! そうか、あれが後続で島に近づいてきた渡し守達を」
雛苺「こっちに突進してくるのよ!? どうするの!?」
ナナキ「ど、ど、どうしよう~!?」オロオロ
水銀燈「ここまで来て今さら慌てるんじゃないわよ、うろたえ者。
東果も来ているってことは事前情報でしょうが」
ナナキ「で、でもあんなメカメカしい軍艦で来ているなんてぇ!
あれ、こっちの10倍位の大きさがあるわよ!」
雪華綺晶「しかも、スピードもコースも緩めず、こちらへ向かって一直線」
薔薇水晶「体当たりで……私達を海の藻屑とするつもりのようですね」
ナナキ「うそーん。せめて威嚇射撃とか退去勧告とか……あるわけないか。
あの東果だし……」
蒼星石「どだい話し合いは無理な相手だ。代表となるこちら側の船長も完全にグロッキーだし」
真紅「……」ぐったり
翠星石「これだけの騒ぎにも、一声も発することができずに立っているのがやっとですね」
ナナキ「ちょ、ちょっとみんな! 変に落ち着いてないで何とかしないとッ!」
水銀燈「……私だけでもいいけど、一人ぐらいなら連れて行けるわよ」
ナナキ「え!?」
金糸雀「それじゃ、カナが」
薔薇水晶「いえ、私が」
水銀燈「……金糸雀の方が早かった。金糸雀に決まりね。
それじゃ私の足につかまりなさい」
金糸雀「ラジャーかしら!」がしっ
ナナキ「え!? えっ!? ちょ、水銀ちゃんにカナちゃん!? まさか……」
水銀燈「そうよ。そのまさかよ。こちらからあっちへ乗り込む」
蒼星石「それが一番手っ取り早いね」
ナナキ「!?」
水銀燈「装備してないんだか弾切れなんだか、はたまたこちとらを漁船と見くびって
弾をケチってんだかは知らないけど、相手は撃ってこない。チャンスよ」
翠星石「翠星石達はどうすればいいですか?」
水銀燈「何もしなくていい。せいぜい真紅が海に落ちないように見てなさい。
メイメイが既にホーリエに船体の回避行動を指示しているから
この漁船は東果の軍艦を避けながらも此岸島へのコースを取り続ける」
金糸雀「カナ達は軍艦を黙らせついでに乗っ取って此岸島に行くかしら~」
雛苺「らじゃーなの! 二人とも、あいと! あいとーなのよ!!」
薔薇水晶「……」
ナナキ「か、簡単に言うけど軍艦を乗っ取るだなんて!
そんなの出来ちゃうのはセガールぐらいよ!」
金糸雀「ふっ! カナ達はまさにセガール級の潜入破壊工作のエキスパートかしら」
水銀燈「この程度はトラブルの内にも入らないわよ」バササッ
金糸雀「それじゃ! しばらくお別れかしら~~」フワリ
ナナキ「あああ、行っちゃた……」
蒼星石「ナナキさん、これからホーリエが第五真紅丸を急旋回させます。
水銀燈達を目立たせないためにもギリギリまで東果揚陸艦の注意をひきつけるんで
かなり運転が荒くなるようです」
翠星石「メイメイの指示まで入るですからね」
蒼星石「船室へ行きましょう。ほら、真紅も」
真紅「……」ふらふら
ナナキ「し、心配じゃないの? あの二人だけに軍艦相手させて……」
蒼星石「心配じゃないと言えば嘘になるけど、アリス稼業に危険はつきもの」
ナナキ「……」
薔薇水晶「実際問題、あの二人がちゃんと組めば……薔薇乙女の中では最強のコンビ」
雪華綺晶「そもそも、このような危険も凌げないようではアリスゲームは生き残れませんわ」
§東果重工揚陸艦・操縦室
艦長「よ~し、そのまま! そのまま行って、あのふざけた漁船を粉微塵に砕いてやれ」
操舵士「アイアイサー」
艦長「……たく、しつこい奴らだぜ。渡し守どもは諦めるって事を知らないのかねぇ。
お陰で、上陸部隊の帰還まで暇を持て余さずにすむとも言えるが」
副艦長「しかし、通常の小舟じゃ歯が立たないってんで、引っ張り出してきたのがアレだとは」
艦長「意気は買う。が、漁船で軍船とわたりあおうなど無謀というか無茶というか」
§突発講座・槐先生の用語ワンポイント解説
議題:東果重工
講師:槐
生徒:めぐ、オディール
槐「はい。またまた登場、槐先生のワンポイント講義だよ~。
けど、今は緊迫した事態だから手短に済ませたいと思う。いいかな?」
オディール「イイトモー!」
めぐ「……」
オディール「あら? ダメですよマドモアゼルめぐ。
こういう時は元気よく『イイトモー』て叫ぶのが和の心でショう!?」
めぐ「落ち着いてオディール。長いことヒマしてたから
お昼休みはうきうきウォッチングぐらいしか楽しみが無かったのは分かるけど」
オディール「オゥ! それはしトゥれい~」
めぐ「しばらく見ない内にオディールにまた変な訛りが付いた気がする……」
槐「東果重工はnのフィールド内の五大勢力に数え上げられる集団の一つで
一言で言うとバイオハザードのアンブレラみたいなマッドカンパニーだ。
社員も変なウィルスや薬で肉体強化されている奴らがほとんど」
めぐ「基本的に変態企業ってわけね」
槐「その通り。企業力という観点から見れば庭師連盟すら遥かに凌駕しているんだけど
変態すぎるのがネックでね。社内事故を日常的に起こしている」
オディール「ファンタスティック!」
めぐ「そういうのをファンタスティックとは言わないってばオディール。
あと、どうせ使うならフランス語使いなさいよ……」
槐「ロゼリオン計画の失敗のあおりもくらって、かなり体力が低下したようだが
それでも実質的な総合力から見れば庭師連盟に続くナンバー2だ、東果は」
めぐ「へぇ~。バカでもそれなりに力はあるんだ」
槐「自前の軍隊みたいなものも持っている。
今回、派遣されてきた揚陸艦も東果重工自身が開発したものだ」
オディール「サイバネティック!」
めぐ「……なんかオディールがレッド吉田に見えてきた」
槐「社章は金の林檎……ゴールデンアップルマーク。
東の果て、エデンの果実を表していて、社名の由来でもある」
めぐ「なるほどなるほど」
槐「そして、知恵の実と生命の実の探究の名の下、精力的に活動している。
節操の無さは僕のような錬金術師といい勝負だが
個人ではなく企業集団として動いているのが大きな違いかな」
オディール「オゥ! エヴァみたいでスねぇ! 私、映画も10回以上見まシた!
逃げちゃダメだ! 逃げちゃダメだ! 逃げちゃダメだ! DA! DA! DA!」
槐「オディールさんてこんなにウザい……じゃなかった、熱い人だったっけ?」ひそひそ
めぐ「さあ……、でもフランス人ってエバンゲリオンとか大好きだから」ひそひそ
オディール「めぐさん! エバじゃないです! エヴァですYO!」
めぐ「はいはい……」
槐「ええと、あと少しだけ東果重工に関して補足説明をすると
彼らは役割によって、制服の襟の色が違う。
内勤の事務員は白襟、外勤の工務員は青襟、そして管理職以上は赤襟だ。
管理職内での上下階級は赤襟にマークされている社章の数で判別するらしい」
オディール「フーム? でスが今回の艦長達は全員、襟はノワール(黒)でスよ?」
槐「いい質問だ。彼らは黒襟と呼ばれ、その実務は……言うなれば特殊部隊。
東果社員は先も言った通り、白襟も青襟も肉体改造を受けているが
中でも特に戦闘用に特化した奴らが黒襟だ。暗部って言った方がしっくりくるかもね」
めぐ「ふむふむ……」
槐「では名残惜しいが、本編の方が火急なので今回はこれで……」
オディール「ちょっと待ってくだサ~い! もっとガールズトーク続けまシょうよ!
私、こんなに話すの久しぶりなんでス!」
槐「オ、オディールさん……? これガールズトークじゃなくてレクチャーで、
それに僕は一応、ムッシュ(男)なんですけど……」
めぐ「そもそも、こんな辛気臭いガールズトーク自体あるわけないでしょう」
オディール「でも、私の祖国であれば女友達との話題は
ガンダム、エヴァ、ボトムズの三本柱でシたよ!?」
めぐ「はいはい。それはあなたの友達の輪が特殊だっただけだから。ほら帰るわよ」ぐいぐい
オディール「ドンプッシュ! 押さないでくだサい! めぐさん! めぐすゎ~~ん」ずるずる
めぐ「だから百歩譲って片言はいいとしてフランス語だけ使いなさいってば」ぐいぐい
オディール「アイル・ビー・バ~~~~~~ック」ずるずる
槐「……」
§東果重工揚陸艦・操縦室
通信士「依然、目標(漁船)をレーダー及び肉眼でも前方に捕捉! あと10秒で接触します!」
操舵士「総員、耐衝撃姿勢」
艦長「これでまた、大きめの海の藻屑いっちょ上がりだ」
操縦士「! ……目標位置を通過。支障なし」
通信士「……漁船、ロスト。海に沈んだようです」
艦長「思ったより衝撃が無かったな」
副艦長「窮した渡し守が無理矢理持ち出した、時代遅れの骨董品だったのでしょう。
まあ、これで奴らの僅かな希望もろとも打ち砕いてやれましたね」
艦長「確かにみすぼらしい船だった。
せいぜい海の底の小汚くてグロテスクな深海魚どもになら
住処として気にいってもらえるかもな、ひょっとしてだが」
副艦長「HAHAHA!」
操舵士「HAHAHA!」
清掃夫「どうも~、こ歓談中すいませんがお掃除に参りました」ガチャッ
艦長「ん? こんな時までご苦労さんだな」
清掃夫「いえいえ、仕事ですんで~」
副艦長「そうか。じゃ、よろしく頼む」
通信士「……ッ!? 漁船……浮上!?」
清掃夫「?」
艦長「おやおや? 深海魚さんにも嫌われたかな、あのボロは」
通信士「いえ……! 漁船は我が艦の真後ろに位置!
そのまま此岸島への針路を取り続けています」
副艦長「バカな!? 残骸が潮で流されているだけではないのか」
通信士「潮流とは逆の方向です! さらに甲板作業員から報告あり……!
漁船は……無傷! 無傷で海中より現れた……と!!」
艦長「なにぃ!? それじゃ、こういうことか!?
あのボロ船は、俺達の体当たりを直前で……! 海に潜って避けた!?
有り得ん!! どうせ、急な流れで海に呑まれたのが、運良くそうなっただけだ」
副艦長「か、回頭! 再度、突撃をかけろ。
向こうがおかしな動きをしたら今度は発砲も許可する! よろしいですね艦長?」
艦長「あ、ああ。弾代をケチってる場合でもなさそうだ」
清掃夫「え、ええと、お掃除は……?」オロオロ
艦長「やかましい! 怪我するから、すっこんでろ」
745 :
創る名無しに見る名無し:2012/02/27(月) 22:48:41.90 ID:N7MtmeEc
§現場海域上空
金糸雀「急旋回は急旋回でも、下へ急旋回だなんて無茶するかしらメイメイとホーリエも」ふわふわ
水銀燈「確かに。此岸島への航路を取り続けろとは言ったけど」ぱたぱた
金糸雀「元々、第五真紅丸は沈没船だったらしいから、潜るのは得意なのかしら?」
水銀燈「んなわきゃないでしょ」
金糸雀「しかし、これで軍艦も浮足立ったのは事実。慌てて回頭を始めているかしら」
水銀燈「ええ、スピードが落ちている今が急襲のチャンス」
金糸雀「それじゃ水銀燈、よく狙ってカナを落としてかしら。
お待ちかねのスカイダイビングリサイタルの開催かしら~!」スチャッ
水銀燈「できるだけ私と離れてから演奏は始めてよ。アレ、耳がワンワンして嫌いなんだから」パッ
金糸雀「善処するかしら~~」ひゅ~ん
§東果重工揚陸艇・操縦室
通信士「総員、回頭とともに戦闘配備。兵器類の使用も……ッ!?」
副艦長「……? どうかしたか?」
通信士「これは……音楽!? 機器関連に異常です!
レーダー、ソナーを始め全ての計器類が誤作動を!
通信機器の類には全て謎の音楽が流れ始めて……」
艦長「音楽ゥ!? 外部からのハッキングか!?」
清掃夫「!? や、奴だ! 奴らが来たんだ!!」
操舵士「奴? 何を言い出すんだ? お前?」
清掃夫「お、俺達の工場もそうだった……! 最初に通信関係が音楽で潰された!」
副艦長「工場!? 何の話だ? 何を言っている?」
清掃夫「清掃課に左遷される前は工場勤務だったんですよ俺!
そ、それが……! 工場が奴らのせいで爆破されてっ!」
艦長「爆破……!? あのロゼリオン組立工場にいたのか貴様!」
清掃夫「おおお、お終いだ~っ!! この船もお終いだよぉ~~!
ようやく新しい仕事にも慣れて、ガールフレンドも出来たってのに~~っ!」
艦長「ええい! この程度でわめくな! これだから青襟は!」
副艦長「しかし艦長! ロゼリオン工場の時と同じだというのであれば
さっきの漁船も渡し守達のものではなく、ローゼンメイデンの……!」
艦長「まだあの虹色の悪魔達の仕業と決まったわけではない!
仮にそうだとしても、外からの攻撃でこの艦を沈められるわけがない!
乗り込んで内部から突き崩しに来るはずだ! しかし、ここは我らの艦だ! ホームだ!
地の利は我らにある! 逃げ場は我らにない! なんとしても守れぇッ!」
今日はここまで
少し前に前半終了と書いた気がしますがすみませんアレ嘘でした
まだ島にも上陸できていないのでもうちょい長引きそうです
749 :
創る名無しに見る名無し:2012/02/28(火) 06:12:37.59 ID:FwgOHZMI
乙
銀と金が組んだときの安定感安心感は異常
きのと
銀金のお姉ちゃんコンビはやっぱりいいなぁ
途中でもいいからキリのいいとこで掲載してほしいな
§第五真紅丸・船室
蒼星石「み、みんな大丈夫!?」
薔薇水晶「ええ。しかし……驚いた」
翠星石「潜ったですよね!? 沈んだですよね!? 今、この漁船!!」
雛苺「すごいの! カッコイイの!」
雪華綺晶「ちょっと海水がこの船室にも漏ってきてましたけどね」
ナナキ「ちゃんと扉しめといてよかった……
ホーリエ君もメイメイ君も何も言わずにいきなり船を潜らせるんだもの」
真紅「……」ぐったり
翠星石「真紅は……今の急潜航と急浮上で更に具合が悪くなったみたいですぅ」
蒼星石「それはそうと、東果の軍船はどうなっただろうか」
翠星石「このまま奴を振り切って此岸島に着けるですかね?」
雪華綺晶「黒薔薇と金のお姉様がしくじるとも思えませんが」
薔薇水晶「気になります。多少、危険ですが甲板に出て様子を確認しましょう」
§第五真紅丸・甲板
ナナキ「あ! すごい! アレ見て! 東果の軍艦が煙を出して沈んでいってる!」
薔薇水晶「流石はあの二人。仕事が早い上に確実ですね」
蒼星石「ああ、これで僕達も安全に此岸島へ行ける」
雛苺「うゆゆ? でも、確か金糸雀は軍艦を乗っ取るって言ってたのよ?」
翠星石「アホのカナチビとメンドくさがりの水銀燈のことですから
そんな器用な真似ができるわけないですぅ。
大体こうなるだろうことは想定の範囲内です」
雪華綺晶「頼みの綱の人工精霊のメイメイは、こちら(第五真紅丸)で
ホーリエの操縦のフォローをしていますし……」
蒼星石「ピチカートだけで、軍艦の操縦をしろと言うのも無理がある」
ナナキ「どうする? あの二人が飛んで戻ってくるまでここで待つ?」
蒼星石「いや、メイメイもホーリエも
第五真紅丸を島に着ける方を優先していますナナキさん」
翠星石「このぐらいの距離なら妹一人抱えたままでも水銀燈は飛べるということですね」
薔薇水晶「目的であるワタハミの樹も……はっきり目視できていますし」
雪華綺晶「お互い迷子になってしまうこともないでしょう。今は時間の方が惜しい」
ナナキ「なるほど。それじゃ、短いようで長い船旅だったけど
ついに此岸島に上陸……か」
雛苺「庭師のみんなを助けるためにヒナもぐゎんばるの!」
§数十分後・此岸島・入江
雛苺「ヒナが上陸一番乗りなの~っ!」すたっ
ナナキ「あ、ちょっとヒナちゃん! まだ船は止まってないんだから危な……」
薔薇水晶「やれやれ、元気イッパイですね」
蒼星石「雛苺に第五真紅丸は少し窮屈だったんだろう」
翠星石「何はともあれ、元気は無いよりも有る方がいいに決まっているです」
蒼星石「……元気がほとんど無くなっている真紅の様子はどう? 行けそうかい」
翠星石「ダメです。ダメダメです。
小一時間は鞄で眠らないと、まともに動けそうもないです」
雪華綺晶「派手にお酒飲んで船酔いしてゲロ吐いて……いざ仕事となると動けない……」
雛苺「とんでもないダメイデンっぷりなのよ!」
翠星石「お父様もきっと草葉の陰で泣いているですぅ」
蒼星石「翠星石、お父様はまだ死んでないから多分」
ナナキ「真紅ちゃんだけは船室に置いていくしかないわね。
この入江なら多分、外敵からもすぐには見つからないと思うけど……」
蒼星石「いや、翠星石もここに残らせます」
翠星石「は!? はぁあああああ!? な、何を言ってるですか蒼星石!?」
蒼星石「君も貰いゲロで体力をごっそり持っていかれて少しフラフラしている。
鞄で眠らなくちゃいけない程ではないが、仮眠して休んだ方がいい」
翠星石「バ、バカ言ってんじゃねぇですよ蒼星石!
この程度の消耗は翠星石にとって疲れた内に入らないでぇ~す!」
蒼星石「一時間後も同じことが言えるかい?」
翠星石「う……っ」
蒼星石「休むのも大切な仕事だ。特にこういう時は」
翠星石「分かった……です。休むです」
雛苺「でも、真紅と翠星石だと逆に心配なのよ!」
翠星石「なんですと? そりゃどーゆー意味ですかチビチビ!?」
薔薇水晶「まあまあ、ホーリエとスィドリームはもとよりメイメイも
ここ(第五真紅丸)で水銀燈と金糸雀が島に来るまで待機すると言っています」
ナナキ「人工精霊が見張っていれば、真紅ちゃん達が寝ていても大丈夫か……」
雪華綺晶「しかし、島に上陸した時点で動ける薔薇乙女が半数になるとは先が思いやられますわ。
黒と金のお姉様方もハッスルして疲労しているでしょうから、すぐの連戦は望めない」
ナナキ「ローゼンメイデンってパワーは凄いけど、長持ちしないのね」
蒼星石「マスターが傍にいればまた話は別なんだけど」
雪華綺晶「ですから、私の苗床から一人二人位は
潰しの効く人間を連れてこようかと言ったじゃないですか」
薔薇水晶「……」
翠星石「人間(マスター)を電池みたいにする考え方はいい加減やめろです白薔薇。
その内マジで薔薇水晶に背中から刺されるですよ」
§東果重工揚陸艦・操縦室
金糸雀「どーゆーことかしら!? ピチカート!!
なんで船の自爆装置を作動させちゃうのかしら!! あなたは!」
ピチカート「ッ! ……ッッ!」
金糸雀「ち、違うかしら! カナはあくまで『そのボタンが怪しい』と言っただけで
押せとまでは言ってないかしら!! ピチカートの早合点かしら!」
ピチカート「……ッ!?」
水銀燈「はぁ~い、はいはい。両者そこまで。ドールと人工精霊で
不毛な責任のなすりつけ合いをやってんじゃないわよ」
金糸雀「水銀燈……」
水銀燈「艦の乗組員どもは大抵シメあげたし、残りはもうここから脱出していってる。
私らもこんな沈みかけは捨てて、此岸島へ行かないと」
金糸雀「でも、ここから此岸島までカナを運ぶとなったら水銀燈もかなり体力を……」
水銀燈「その程度は承知の上。アンタを連れて来なかったら
私はもっと疲れることになっていたし、ここの鎮圧にも手間取った」
金糸雀「何にしても、足をひっぱてゴメンかしら水銀燈。
変に出しゃばらず薔薇水晶に出番を譲っていれば良かったかしら……」
水銀燈「薔薇水晶を連れてきていたとしても大同小異。
ただ、私は薔薇水晶に私の疲れた姿や弱ったところは見せたくない」
金糸雀「それは……どうしてかしら?」
水銀燈「アンタらと違って私はまだ100%薔薇水晶を信頼しているわけじゃあない。
得体の知れなさじゃ、まだまだ末妹や野薔薇と同レベル」
金糸雀「水銀燈……」
水銀燈「フン、いい子ぶりで賢ぶったアンタには理解できないことでしょうけど」
金糸雀「そうかもしれないかしら。でも、ただ一つだけはっきりと分かったこともあるかしら」
水銀燈「?」
金糸雀「水銀燈は少なくともカナを信じてくれているってことが」
水銀燈「やれやれ。ほぉんとに……おバカさん」
§此岸島・入江
雛苺「ええと……それでヒナ達は結局どうするの? どうなるのよ?」
蒼星石「まとめると大体こんな感じだ」
【水銀燈 金糸雀】
東果重工の艦から島へ空を飛んで移動中。
但し、到着後に二人とも少し休む必要がある。
【翠星石】
貰いゲロで体力疲労。活動に支障はないが戦闘には心許ないので念のため休む。
【真紅】
鞄で爆睡中。
【蒼星石 雛苺 雪華綺晶 薔薇水晶 ナナキ】
庭師先遣隊の救助とワタハミの樹の処分に向かう。
雛苺「うゆゆ! 今、頼りになるのはヒナ達だけってことなのよね」
ナナキ「そういうことになっちゃってるわ」
蒼星石「水銀燈と金糸雀が今いないのが少し痛いが仕方ない。
彼女達があそこで気張ってくれなかったら
僕達はまだ島にも上陸できていなかっただろう」
雪華綺晶「ですわね。逆に言えば私達にも気張りどころが巡ってきただけ」
蒼星石「ああ、それじゃ出発しよう。翠星石、あとは頼んだよ。
君達がここに残っていれば、その波動を感じて
島に辿り着いた水銀燈がこの入江の第五真紅丸を見つけるはずだ」
翠星石「了解です」
ナナキ「波動って何? マイナスイオン? ナノイー?」
薔薇水晶「ローゼンメイデン同士は近くいにいるお互いの位置を
なんとなく感知しあうことができる。個人差はあるようですが」
ナナキ「へぇ~」
蒼星石「そして水銀燈と金糸雀を無理やりにでも一休みさせてあげてほしい。
これは僕の希望的観測だが、君達全員の体力が回復する頃合いは恐らく一致する。
できれば四人で足並みを揃えて行動してくれるとありがたい」
翠星石「善処するですが、水銀燈がしぶったら翠星石には止められんですぅよ」
蒼星石「その時は、僕がミスティカを渡す約束を考え直すと言っていたと伝えればいい。
あと、基本的に僕達は庭師先遣隊を捜索しながらワタハミの樹の根元へと向かう」
翠星石「……了解です」
ナナキ「おおよその作戦も決まったようだし、いよいよ島の秘境に突入ね」
蒼星石「そうですね。いろいろ手間取らせてすいません」
ナナキ「何言ってんの。蒼星石達がいなければ私はこの島に来ることもできなかった」
雛苺「蒼星石もナナキも早く行くの! ヒナもう待ちくたびれたのよ!
庭師のみんなもきっと待ちくたびれてるの!」
薔薇水晶「あんまり張り切り過ぎると後が続きませんよ雛苺」
§此岸島・砂浜捜索中
雛苺「うゆゆ~! おっと、危ないの」ザッパーン
雪華綺晶「全然、元気が萎えませんわね苺のお姉様。先ほどから波打ち際で戯れ続けて……」
薔薇水晶「お楽しみのところ申し訳ありませんが、そろそろ波ともおさらばですよ雛苺」
雛苺「うぇ?」
蒼星石「岸辺で庭師先遣隊が救助を待っているかとも思ったが、どうやらその痕跡もない」
ナナキ「ええ。いるとしたら、もっと島の奥」
雛苺「今度はジャングルなのよね!」
薔薇水晶「……どうです? この辺りから岸壁も低く緩やかになってきましたし
島の奥へと入り込むに適しているかと」
蒼星石「うん。これ以上歩きまわっても多分同じような地形だろう」
雪華綺晶「……!」ぴくっ
雛苺「うにゅ? どうしたの雪華綺晶?」
雪華綺晶「そこの茂みから誰か、人間がこちらに向かって来ます。それも複数です……五人」
ナナキ「なんですって!? まさか……トキ達?」
渡し守A「……やはり、薔薇乙女か」ズシャッ
渡し守B「皮肉なもんだ。あの悪魔達が運命の女神に見えるよ」
渡し守C「まさに禍福はあざなえる縄が如し」
蒼星石「この人達は……!?」
ナナキ「わ、渡し守!!」ズザッ
渡し守D「そう、身構えるな庭師の女。我々に敵意は無い」
渡し守E「無くなったって言った方が正しいかもしれませんけどねぇ」
ナナキ「……え?」
渡し守A「しかし、いくらかの薔薇乙女が庭師同盟と懇意にしているとは知っていたが
貴様までつるんでいるとはな白薔薇」
雪華綺晶「それは心外ですわね。私は誰とでも懇意にいたします」
渡し守A「……貴様の苗床に食われた部下達、いずれ返してもらうぞ」
雪華綺晶「どうぞ、ご自由に。いずれと言わず、何なら今すぐでも」
ナナキ「ちょ、ちょっと雪華ちゃん!? 急に何の話を!?」
渡し守A「……」
渡し守B「隊長……、今は!」
渡し守A「分かっている。私情は抑えるさ。今は、俺達の生還が第一」
蒼星石「生還!? この島で何があった?」
渡し守D「東果の軍艦に我々の大半は沈められた」
渡し守C「それをくぐり抜けて何とか島へたどり着いたのも束の間」
渡し守E「今度は痘痕(あばた)のお出迎えだぁね」
雛苺「アバタ?」
ナナキ「此岸花……ワタハミに寄生された死体の俗称よ。体表のどこかに
あまり目立たないけど痘痕そっくりのくぼみができることから、そう呼ばれる」
雪華綺晶「……」
ナナキ「けど、そもそもこの島には人間自体いなかったはず……、いえ、まさかッ!?」
渡し守A「そのまさかだ。東果の黒襟の死体だ」
薔薇水晶「!?」
雛苺「!?」
渡し守C「そいつらに襲われて、今じゃ生き残ったのは私ら五人だけ」
渡し守D「ただの東果社員なら黒襟だろうと我らは対応できる。だが
ワタハミの共感覚で統制されたアバタ達の連携には歯が立たなかった」
ナナキ「ちょ、ちょっと待って! 本当に東果の奴らがアバタに!?
ワタハミは確かに恐ろしい菌類だけど、宿主特異性は高い!
同じ人間だとは言え、子供以外の死体には……!」
渡し守E「……東果の奴らは頭がおかしいんじゃないのかねぇ」
蒼星石「?」
渡し守A「今回奴らが寄越した黒襟上陸部隊のほとんどは少年兵だ」
ナナキ「なっ!?」
薔薇水晶「何故……そんな真似を? いくらなんでも
ワタハミが子供の死体にとりつくことぐらいは……」
渡し守D「我々でも知っていることだ、東果も当然知っている。
しかしそれでも東果は少年兵の黒襟見習い達を送り込んだ」
蒼星石「ひょっとして、わざと……!?」
渡し守A「そうだ。俺達はそれに気付くのがあまりにも遅かった。
東果の目的は次世代黒襟の強化兵作出のために
ワタハミによる寄生を利用しようと考えているに違いない」
雪華綺晶「ワタハミの樹が手に入ればそれでよし。
そうでなくとも、アバタのサンプルが大量に手に入るだろう……と」
渡し守E「そのとおりだぁね。何とも業突張りのイカレ東果らしいさ」
渡し守B「他にも、正規の黒襟達の多くを
お前達のロゼリオン崩しのせいで失ったからという理由もあるみたいだぜ。
実際問題、動かせる黒襟の多くが少年兵しかいなかったという台所事情だ」
雪華綺晶「……あれだけ叩いてやったのに
へこたれずに逆にその経験を活かしてくるとは……」
蒼星石「雪華綺晶の蜘蛛の糸からヒントを得た兵の運用思想だろうね。
それにワタハミによる意識共有が有効利用できれば
金糸雀の音による通信妨害も用を成さない」
薔薇水晶「そう全てが狙い通りうまく行くとは到底思えませんが……」
雛苺「東果重工は悪い意味でチャレンジ精神に溢れているの」
渡し守A「で、俺達はワタハミの樹を手に入れることは断念し、生還に尽力することにしたが」
渡し守C「海にはあの軍艦がまだいた。どうやって脱出しようか考えていたら……」
渡し守D「突然、煙を吐きだしてオジャンだ」
渡し守B「東果のお家芸の社内事故かとも思っていたけど」
渡し守E「その後、この島に近付いて来る漁船が見えたので」
渡し守A「何者かの仕業と判断し、注意深く時を待った」
ナナキ「なるほど。おたくらの事情は分かったわ。
正直、私達庭師連盟から見れば渡し守も東果も同類なんだけど」
雛苺「ケ、ケンカするの?」
ナナキ「逃げ出す敗残兵にかまっている余裕はない。
それにわざわざ島の現状という情報を提供までしてくれた」
渡し守A「邪魔な軍艦を沈めてくれた礼代わりだ。これ以上は無い」
渡し守E「あと言えることがあるとしたら
『悪いことは言わないからお前達も帰れ』ぐらいかねぇ」
蒼星石「その言葉に僕達が従うとでも」
渡し守B「思わないさ。お前達は天下のローゼンメイデン様だ」
渡し守D「我々が避けて通るしかなかった軍艦をああもあっさりと沈めちまう。
きっとアバタどもが相手でもそうなんだろう」
渡し守C「雑魚は雑魚らしく、隅を逃げ回らさせてもらうことにするよ」
渡し守A「時々、仲間を喰われながらでもな」
雪華綺晶「……」
渡し守A「じゃあな。せいぜいお前らもアバタにやられちまう事を祈ってるよ」
雛苺「渡し守さん達……行っちゃったのよ」
蒼星石「賢い人達だ。『ほぼ壊滅状態』と『全滅』の差が
『勝利』と『敗北』のそれ以上に大きいことを知っている」
ナナキ「できればもっと早い段階で……島に来ないって英断をしてほしかったけどね」
薔薇水晶「一方の東果重工はそういう英断をさらさら期待できない相手ですが」
ナナキ「よもや、黒襟候補生、少年兵とは……! やってくれる」
薔薇水晶「しかし、庭師連盟もトキを出していますよね?
実年齢があやふやなnのフィールドの世界ですが、『少年』には違いない」
ナナキ「それは……そうだけど! トキは候補でも見習いでもなく既に一人前の庭師だから」
蒼星石「口論はよそう。アバタがうろついているとなれば
そのトキ達、庭師先遣隊の安否がさらに気がかりだ」
雪華綺晶「既にアバタの仲間入りをしている可能性もありますわね。そのトキ君が」
ナナキ「ッ!?」
蒼星石「雪華綺晶も嫌味はよせ。確かにアバタは問題だが、それよりも大きな問題がある」
雛苺「なぁに? 蒼星石?」
蒼星石「ワタハミは子供の死体に寄生する。
送り込まれた黒襟少年兵達は最初から死体だったわけじゃない」
ナナキ「見習いとは言え、黒襟達を死体にした存在がいる、てことよね」
蒼星石「そうです。そして、それは……」
薔薇水晶「野薔薇の仕業……ですか」
今日はここまで
もう少し、もう少しでキリがいいところになります
と言いますか終わるはず
乙。今回の尻ASSっプリはロゼリオンと同等かそれ以上だな…
770 :
創る名無しに見る名無し:2012/03/02(金) 20:59:07.13 ID:T+hrtylL
乙
乙女力の話以降
真紅の生命が心配でならない
>>676から『蒼星石とワタハミの樹』を続行中ですが
小ネタができたのでそちらを投下します。
>>676からここまでの話は一瞬の間でいいので忘れてください。
【バラトーーク!『ジョジョの奇妙なメイデン』】
§桜田ジュンの部屋
雛苺「オオオッー! うおっ! うぉっ! おおおおお~~~」ビエー
ジュン「落ち着け! 雛苺! 泣いてばかりじゃ何も分からないだろ!」
真紅「いつになく雄々しい泣き方ね」
翠星石「野獣の慟哭かホモの喘ぎ声かと思ったですぅ」
雛苺「ゥゥウウ!! ヒィイイイイ!! オオッ! オオ! オェッ! ウゴォエッ」
真紅「泣きすぎて、えづいているのだわ」
翠星石「随分と気合の入ったガン泣きですぅ」
ジュン「確か、今日は柏葉の家に遊びに行ってたんじゃないのか?
どうしてすぐに帰って来たんだ?」
雛苺「ウウオオオッ! ウオッ! あんまアアアアアアアアアアッ!!」
ジュン「ふんふん。今日は桃の節句、雛祭りだから
トゥモエにヒナを飾って可愛がってもらおうと思っていた……」
翠星石「なるほどなるほど。チビ苺らしい浅ましい考えですぅ」
真紅「と言うか、よく雛苺の言葉が分かるわねジュン」
雛苺「ウウッ! グスッ! うあああっ! うぉえっ!」
ジュン「けど、いざトゥモエの部屋に入ると既に立派な雛人形セットが飾られていた……」
真紅「この国の女子なら雛人形の一つや二つ持っていて当然なのだわ」
翠星石「ですね。あの通い妻気取りの家も結構な旧家っぽいですし」
ジュン「そう言えば、子供の時見せてもらったことがあるが
立派な雛壇つきの人形を飾っていたな。10段ぐらいのヤツ」
雛苺「ああああっ! ウウッ! うおあああ!!」
ジュン「自分こそがトゥモエの一番の人形なはずだから
お雛様にしてと頼み込んだが、『それは危ない』と断られた……」
翠星石「いくらチビチビとは言え、ヒナ人形代わりとして雛壇に座るには大きいですから」
真紅「柏葉巴が断るのも当然よね」
ジュン「だな。バランス崩して雛苺が転落するかもしれないし」
雛苺「うにゃああああっ!! オオオオッ!! オオオアアアア!」
ジュン「仕方ないから、無理矢理お雛様をどかして雛壇に登ったらトゥモエに怒られた……」
翠星石「で、号泣しながらウチに帰って来たというわけですか」
雛苺「ウウゥ! ウウッッ」コクン
雛苺「オオオッ! オオ! オオオエップ!」
ジュン「トゥモエは酷い。トゥモエはもうヒナの事なんか嫌いで要らなくなった……」
真紅「落ち着きなさい雛苺。今の話、どう考えてもあなたの方に非があるのだわ」
雛苺「オオオオアアアア!! ああああんまああああああああ!!」ビエーッ
翠星石「ぐああああああああっ! 完全に駄々っ子モードに入ってるですぅ」
ジュン「なまなかのことじゃ泣き止みそうにないな」
真紅「なんとかして落ち着かせないと……」
ジュン「聞き分けのないガキは疲れるまで泣き叫ばせとけばいいだろ?
どうせ、疲れて眠っちゃうだろうし……」
翠星石「その前に、チビ人間がチビ苺に力を吸われ尽くされて永眠するですけどね」
ジュン「え!? なんで!?」
真紅「なんでもクソも、泣くってわりとエネルギー使うのよ。
雛苺が消費するエネルギーは当然、ジュンから持っていかれる。
柏葉巴も当初、雛苺のぐずりで力を吸われてかなり衰弱していた」
ジュン「そ、そう言われれば何か体がだるくなってきたような気が」
雛苺「オオオオオオオッ!! ウォエッ! くはっ! おおおっ!」
ジュン「わ、分かった! 雛苺! お前の言い分もモットモだ!
お前の言う通り! 柏葉が全面的に悪い! だから泣きやめ!!
このままじゃ僕の命が危ないんだ! 分かるだろ!? な? な!?」
雛苺「ああああっーーー! うにゃあおおおおお!!」
真紅「ぜんっぜん泣き止みそうにないのだわ」
翠星石「こりゃ最悪の事態に備えて予備マスターのデカチビ人間を呼びよせるですか?」
真紅「そうね。とりあえずジュンがオシャカになっても、ビッグジュンがいれば私達は何とかなる」
ジュン「アイツを非常電源装置みたいに扱うのはやめろ」
巴「あの……桜田君?」ひょこっ
ジュン「う、うわっ!? 柏葉!? な、なんでここに! いつの間に!!」
巴「ごめんなさい。チャイムは鳴らしたんだけど反応が無くて
でも、雛苺の泣き声が聞こえてきたから」
ジュン「だ、だからって! せめて部屋のドアのノックぐらいは……」
翠星石「そうです! そうですぅ!! 思春期の男子中学生の部屋は聖域です!
世のお母様方諸氏もそこに立ち入る際には細心の注意を払うですよ!」
真紅「私達ですら、ジュンだけがいる時の部屋に入る場合は
まず人工精霊に中を探らせてジュンが自家発電中でないことを確認しているのだわ!!」
巴「え……?」
ジュン「だーっ! お前ら余計な事を言うな!!
それより確認って何だ!? 今までそんなことしてたのか!?
そういう間違った方向の気遣いなんかいらん!!」
巴「雛苺……」
雛苺「うゆゆゆゆ……? トゥモエ……なのぉ」グスッ
翠星石「お! チビ苺のぐずりが止まったですぅ」
ジュン「ひとまず助かった。流石は柏葉だ」
柏葉「ゴメンね雛苺。でも、私は雛苺の事が嫌いになったわけじゃないの」
雛苺「本当?」
柏葉「ええ、本当よ」
真紅「一時はどうなる事かと思ったけど、どうやら一件落着のようね」
ジュン「ああ。良かった良かった」
翠星石「いい話だったですぅ」
雛苺「それじゃトモエはヒナをあの雛壇の上に飾ってくれるのよね?」
巴「それはダメ」
雛苺「うにゃあああああああああああああああああああっ!!」びえ~ん
真紅「ッ!?」
翠星石「!?」
ジュン「ぬあああっ!? こらぁ柏葉! お前、雛苺を慰めに来たんじゃないのか!?」
巴「それはそれ、これはこれよ、桜田君。
第一、あの雛人形は私だけのものじゃなくて
お母様がそのまたお母様から受け継いできた大切な雛人形と雛壇だし」
ジュン「う……」
真紅「確かに。やはり柏葉巴の言い分の方が正しい」
翠星石「ほらほら、聞こえていたですよねチビ苺?
いくら人形社会のピラミッドの頂点であるローゼンメイデンとはいえ
土足で踏み込んでいはいけない領域はあるものですぅよ」
雛苺「おおおおおおおおっーーー!! うごおおおおおおおおぇっ!!」
ジュン「くっ! ダメだ……! まったく聞く耳を持たない。
このままじゃ、僕が干からびてしまう」
巴「どうしてこんなことに……」
翠星石「えぇと、確かビッグジュンの携帯電話の番号は……と」ポチポチ
真紅「巴、携帯電話の使い方はこれであってるのよね?」
巴「え、あ、うん……。上手になったわね二人とも」
ジュン「うぉいッ!! 勝手に僕の携帯を持ちだすな!
それより、もう一人の僕を呼ぶ前に雛苺を泣きやませることを優先しろ!!」
翠星石「ちっ……! うるせぇチビ人間ですぅ」
真紅「けどまあ、ビッグジュンを呼んだとしても、雛苺がジュンに引き続き
ビッグジュンから無理矢理エネルギーを奪うかもしれない」
翠星石「むむむ。チビチビを黙らせねば、結局、何の解決にもならないですか」
雛苺「ううううううおおおおおおおおおおおおお!! あんまぐぉおおおえっ!!」
巴「そ、それじゃ、こういうのはどう? 雛苺、あの雛壇は無理だけど
私があなたを、ちゃんとお雛様としてふさわしい雛壇に飾ってあげる」
雛苺「うぇ!? ほ、本当!?」ぴたっ
ジュン「おい柏葉、そんな安請け合いしていいのか!?」
巴「けど、多分これ以外に雛苺の気をなだめる方法は無いと思うの」
雛苺「わぁい! やったのーっ! トゥモエのお雛様になれるのよ~~!!」ぴょんっぴょんっ
翠星石「あんなに喜んじゃってるですから今になってやっぱり無理とか言ったら
ますます手がつけられなくなるくらい泣きわめくですよ……」
ジュン「アテはあるのか柏葉?」
巴「ええと、のりさんの雛人形セットの雛壇は……?」
ジュン「ウチのは柏葉の家より全然しょぼいヒナ人形だ。雛苺を座らせるスペースは無い」
巴「そう。それじゃ、最終手段ね」
真紅「最終手段?」
巴「翠星石ちゃん、電話かしてくれる」
翠星石「いいですよ」
ジュン「電話? 誰にするんだ?」
巴「みんな、ちょっと静かにしててね」ピポパ
巴「あ……、もしもし柏葉巴です。はい。いつもお世話になっています」
真紅(繋がったようなのだわ)
ジュン(相手は誰なんだろう?)
巴「実は……、え? フフフ、これはまた冗談ばっかり」
翠星石(むむむ? 何だか世間話を始めたですか?)
雛苺(早くヒナのための話を切り出してなのよトモエ)
巴「やだ、それじゃイカが可哀そうじゃないですか。
ホント、下ネタが好きなんですから~~」
ジュン(……!?)
巴「それはともかく実は雛苺を雛壇に……、え!? ちょうどいいのがある!?
すぐに使えるんですか? はい……! はい! ありがとうございます!
みんなでこれからお伺いします! では、失礼します」
翠星石「随分早いこと商談がまとまったようですが、結局どうなるんです?」
巴「うん。槐先生がちょうど薔薇乙女用に作った雛壇を持ってるから
是非に使ってくれって……!」
ジュン「電話の相手、槐先生だったの!?」
巴「現在、薔薇水晶ちゃんしか座ってなくてさびしい思いをしているから
できれば全員来てくれると助かるとも言ってたわ」
真紅「今は薔薇水晶オンリーなの!?」
翠星石「どんな羞恥プレイですか!?」
§ドールショップ・槐
槐「やあやあ! 待ってたよ! 巴ちゃん! それにジュン君達も来てくれてありがとう!」
巴「お久しぶりです槐先生」
ジュン「薔薇乙女に合わせたサイズの雛壇を作ったそうですね」
真紅「しかも、薔薇水晶一人だけそこに座らせてるとか」
翠星石「あまりにも哀れですから翠星石達も座りに来たですぅ」
雛苺「ヒナは! ヒナはトモエに雛壇に載せてもらうのよ!」
巴「それじゃ早速……槐先生!」
槐「そうだね! ささ、どうぞ奥へ! 薔薇水晶もお待ちかねだ!」
槐「どうだ! これが僕が徹夜で作った雛壇だ! 薔薇水晶もサマになってるだろ!」
薔薇水晶「……zzZ」ぐ~ぐ~
真紅「薔薇水晶、座ったまま寝てるじゃない」
翠星石「しかも……これ……」
ジュン「雛壇は雛壇でも……」
巴「二段しかないというか……」
真紅「随分、質素というか」
ジュン「アメトークとかでよく見る芸人用の雛壇じゃないっスか」
槐「あれ? 何か間違ってる?」
薔薇水晶「……あら? これはこれは皆様来ていたのですね。これは粗相を」むくり
翠星石「おはようですぅ薔薇水晶」
真紅「でもまぁ、すぐにサヨナラなのだわ」
薔薇水晶「な、なぜです!?」
槐「この雛壇の何が気に入らないというんだ!!
理論上はマツコデラックスが座ってもびくともしないんだぞ」
ジュン「だから雛壇違いだって言ってるでしょうが」
巴「ええ。すいませんが槐先生、この雛壇では雛苺が納得しな……」
雛苺「ふおお……」キラキラ
巴「え? ど、どうしたの雛苺? やけに目を輝かせてるけど」
雛苺「テレビでよく見る雛壇なのよ! 今をトキメク輝いている人達だけが
座ることを許される伝説のステージなの!! ねぇ! 本当にこれにヒナ座っていいの!?」
槐「勿論だ。さ、特に雛壇芸人御用達と呼ばれる後列右隅を使いたまえ」
雛苺「うわぁい! ね! トモエ! ヒナをそこに運んで! 座らせてほしいのよ!!」
巴「う、うん……。いいけど、本当にこの雛壇でいいの? 雛苺」
雛苺「もっちろんなのよ!」
槐「うむ。やはり無垢で素直な感性を持つ雛苺には、この雛壇の良さが分かると見える」
翠星石「何か色々と勘違いしているみたいですがね……」
真紅「まあ、本人が満足するならそれでいいのだわ」
ジュン「今さら、違う雛壇を探すのもメンドーだしな。しかし、こうなると……」
雛苺「ほぉら~! 真紅と翠星石も座るの~。みんな座らないと雛壇は完成しないの」
薔薇水晶「そのとおり。さ、どうぞどうぞ」ちょいちょい
翠星石「うげげ? やっぱりそういう流れですか……」
真紅「くっ! こうなったらもうヤケなのだわ! 他の姉妹も全員呼ぶわよ!!」
§そんなこんなでバラトーク開始
配置概略図
雛壇後列左から・真紅 薔薇水晶 雪華綺晶 雛苺
雛壇前列左から・水銀燈 蒼星石 翠星石 金糸雀
司会者役・槐
副司会役・ジュン
ゲスト役・巴
蒼星石「僕達!」
翠星石「私達は!」
ドールズ『家電メイデンです!』
槐「へぇ~。家電メイデン? それは一体どういうことだい?」
水銀燈「こっちが聞きたいわよ。いきなり呼び寄せられて座らされて、
今の台詞も無理やり言わされて……何が何だか全然ワケ分かんなぁい」
金糸雀「ちょっと水銀燈! そんなノリの悪い事を言うだなんて雛壇乙女として失格かしら!
分からないなら分からないなりに、適当に最初それっぽい事を言って
あとはガヤに徹するのがプロかしら!」
蒼星石「正確に言うなら僕達が座っている雛壇前列は雛壇芸人の範疇じゃないんだけどね。
今、金糸雀が言った内容は後列の人がやる仕事だ」
真紅「あら、そうなの? じゃ、私達はテキトーやって、楽ができるのね」
翠星石「ぐあああ! だったら翠星石も後ろに移動するですぅ!
チビ苺! 席を代われです!」
雛苺「やぁなの! ここは雛の特等席なのよ!」
蒼星石「後列だから楽ができるってわけじゃないけども……」
槐「お~い、みんなぁ……。元気なのはいいけどもテーマにそった話をしてくれよ。
バラトーク開催して、その司会をするのが僕の夢だったんだから」
雪華綺晶「めんどくさい夢をお持ちだったんですわね」
薔薇水晶「すいません。もうしばらくお父様のワガママにお付き合いください」
ジュン「えぇと、それじゃ最初のお題は『家電』だから……
取り敢えず、柏葉は最近気になる家電とかない?」
巴「無い」
ジュン「しゅーりょー!」
槐「ちょっとぉ!? 君達まで非協力的になることないじゃないか!!
あ、そうだ! じゃあテレビ! みんなテレビ大好きだろ! 地デジとか3Dとかさぁ!!」
真紅「3Dには私も興味があるのだわ。くんくん探偵にも最近CGの波が押し寄せてきている。
3D対応だとそれはもう物凄いド迫力になるとか」
雛苺「ヒナも! ヒナも3Dで動き回るくんくんが見たいの!」
巴「あれ? くんくん探偵って人形劇じゃ……?」
ジュン「第一期はな。第二期からアニメーションになってるんだよ」
槐「へぇ~」
水銀燈「でも、3Dって確か変なメガネつけなきゃいけないんでしょぉ?
赤と青(緑)のセロファンみたいなやつ。いくらなんでも不格好過ぎるわ」
薔薇水晶「ということは、翠星石と蒼星石は普段から3Dを楽しんでいると……?」
翠星石「なっ!? そ、そうだったのですか!? 全然、自分では気付かなかったですぅ」
蒼星石「えぇと瞳の色は関係ない……と言うかリアルはみんな3Dだし、
そもそも薔薇水晶は全部分かってて今の話を翠星石に降ったでしょ」
薔薇水晶「雛壇乙女として当然の責務です」
金糸雀「さりげなくやるじゃないかしら薔薇水晶。それに引き換え水銀燈
あなたの言ったことは素だったみたいだけど情報が時代遅れ過ぎるかしら」
雪華綺晶「ええ。それは立体視や俯瞰図の話ですわね黒薔薇のお姉様」
水銀燈「はぁ? 何が違うってのよ?」
雛苺「えっとね! 水銀燈! ヒナが教えてあげるの!」
水銀燈「あんたが?」
雛苺「こうして鉛筆の端を指でつまんで高速で振ると
途中で曲がって見えるの。これが真の3Dなのよ」
水銀燈「へぇ~、なるほど。これが本当の3Dかぁ」
巴(雛苺、それは全然違うわ……)
槐「なんだか軌道修正が不可能なところまで話のレベルが下がっているから
別の家電の話にしよう。ほらジュン君、話題を切り返して場を盛り上げて!」
ジュン「どんな無茶ブスですか槐先生。仕方ない、それじゃアレだ。
掃除機についてどう思う翠星石?」
翠星石「チビ人間もかなり無茶ブリしやがるですね……」
ジュン「だってお前、掃除機好きだろ」
翠星石「バ、バカ言ってんじゃないですぅ! す、翠星石が好きな人はちゃんと別に……!」
ジュン「誰が恋愛対象として掃除機を語れと言った」
翠星石「え?」
ジュン「よく掃除機を振り回したり乗っかったりして遊んでいるじゃないか。
取り敢えず、薔薇乙女の中で掃除機に一番親しいのは翠星石……のはずだ」
翠星石「むむむ……、そうは言ってもですねぇ
それほど翠星石は掃除機マニアでもねーですし、詳しくねーですよ」
真紅「マニアと言えば、掃除機にチンポ吸わせながら車運転していて
事故った掃除機マニアというか変態がいたわよね。リアルで」
ジュン「お前はいきなり何を言いだすんだ」
真紅「いや、だって掃除機関連の話をしろっていうから……」
雪華綺晶「空気を読んでください紅薔薇のお姉様」
薔薇水晶「いきなり下ネタをぶっ放すのはNGですよ」
真紅「そんな……私はただ場を盛り上げようと」
巴「一応、乙女なんだから下ネタで盛り上げるのはちょっと」
翠星石「蒼星石も空気読めないですけど、真紅も案外空気読めねーヤツですね」
蒼星石「え!? 僕って空気読めてないの!?」
水銀燈「まあ、しばしば……」
金糸雀「く、空気と言えば最近の掃除機は空気清浄化能力も付いているのがほとんどかしら!」
槐「お、金糸雀! ナイス話題転換」
水銀燈「マイナスイオンだとか眉唾ものよねぇ。ほとんどオカルトじゃなぁい」
薔薇水晶「一部の隙もなくオカルトの私達がそう言うのも滑稽ですが」
雪華綺晶「それに黒薔薇のお姉様、マイナスイオンは古いですわ。今、時代はナノイーです」
水銀燈「なのいー?」
真紅「響きはオナニーに似ているわね」
ジュン「おい、ちょっとカメラ止めろ」
§真紅さんがつまみだされました
雪華綺晶「ナノイーというのは超微粒子イオンが……」
水銀燈「はいはい。まぁたイオンがどうたらとか謳ってんのね。
大体カタカナ使えばカッコいいって勘違いしてんじゃないのぉ?
私らを見習いなさいよ私らを。西洋人形なのに漢字なのよ」
蒼星石「それはそれでおかしい面もあるんじゃない?」
雛苺「ヒナは漢字ですらよく読めないのよ!!」えっへん
翠星石「それは威張れるこっちゃねぇですよチビ苺」
金糸雀「でも例えば……打ち水の原理は知っていても
仮にハイエヴァポレーション効果だなんて言い代えられでもしたら
もはや意味不明かしら」
薔薇水晶「打ち水機能搭載掃除機よりもハイエヴァポレーション機能搭載型と言った方が
売れ行きは良さそうですけれどね」
雛苺「んーとね、ヒナは掃除機さんのオナラが『まいなすいおん』や
『ぷらずまくらすたー』になるよりも、甘~いイチゴの香りになればいいと思うの~!」
槐「フルーティーな香りを出す掃除機か。そういうの、もうあったような気もするな」
水銀燈「甘い排気の掃除機だなんて気持ち悪い」
巴「やっぱり人気のあるのはナノイーやナノミストとかですよね」
水銀燈「結局、そういう怪しげなものにいきつくわけか」
雪華綺晶「そろそろアストラル発生機能付き掃除機とかも出そうですわね」
槐「言えてる。オーラとかだと逆に知名度があり過ぎて、うさんくささを助長するけど
アストラルなら、まだ誤魔化しがきく気がする」
翠星石「お、じゃあ今の内にアストラルの商標登録しておくですか?」
ジュン「下世話な話はやめい」
槐「よーし、わりと盛りあがって来たところ悪いが次のお題へ行くよ~」
巴「え? まだあるんですか?」
槐「勿論。バラトークは二回撮りさ」
ジュン「本気でいつか放送するつもりかよ」
真紅「ねぇ、もう雛壇に戻っていいかしら」コソッ
ジュン「下ネタ言わないって誓うか」
真紅「誓うのだわ」
ジュン「嘘ついたら針千本飲ますぞ」
真紅「まあ、千本くらいなら本気出せば軽いわね」
ジュン「……反省していないようだな」
真紅「ちょ!? ジョークよジョーク! 今のは軽いジョーク!
雛壇乙女としてのドールズトークのならしに過ぎないのだわ。
第一、この真紅ちゃんが雛壇にいなくちゃ絵面が良くないでしょ」
槐「確かに赤色は映える」
真紅「でしょ? でしょでしょ!?」
槐「それに次のテーマは薔薇乙女が八体揃っていることが望ましい」
真紅「いぇ~い! それじゃ雛壇に戻るわね」すたた
ジュン「……たく」
巴「それで次のお題はなんなんです?」
槐「ああ、これだ……っ!」
蒼星石「僕達!」
翠星石「私達は!」
ドールズ『ジョジョの奇妙なメイデンです』
ジュン「ジョ、ジョジョの奇妙な冒険……?」
槐「あれ? ジュン君知らない? 本家アメトークでもやってたじゃん」
ジュン「いや、知ってますけど! こいつらにそれ語らせるんですか!?
ローゼンメイデンとジョジョは全然合わないでしょ! 客層も!」
巴「でも、どっちも人間賛歌のロマンホラーよ」
ジュン「目を覚ませ柏葉。大概の漫画は人間賛歌だ」
槐「ジョジョは第八部が始まった事だし、薔薇乙女も丁度八体だ。
姉妹の序列順に第一部から語ってもらうと面白いと僕は思うんだ」
ジュン「さりげなく、薔薇水晶に一番ホットで美味しいジョジョリオンを
あてがいましたね槐さん」
槐「と、ともかく、それじゃ最初は水銀燈!
第一部ファントムブラッドについて語ってみよーっ!」
水銀燈「そう言えばスターウォーズEP1ファントムメナスが3D映画化されるそうね」
槐「ちょっと! まだ3Dの話を引きずってんの!? ジョジョの話してよジョジョの!
ジョジョも映画化されるんだからさ!」
巴「けれども、ジョジョの各部のサブタイトルが一新されたのって
スターウォーズのEP1~3あたりが公開された時期と重なってるわよね。
ファントムメナスとファントムブラッドってのも語呂は似ているし」
ジュン「ミーハーとまでは言わないが
わりとその時の流行りや映画に乗っかること多いからなジョジョ。
家政婦のミタみたいなキャラも最近登場してたし」
水銀燈「そもそもジョジョの話しろったって、私はそんな詳しくないのよ。
主人公のジョナサンだって、最初はファミレスと勘違いしたし」
金糸雀「でも、作者がそのファミレスで打合せをしていたから
主人公の名前の由来になったという説があるかしら」
翠星石「へぇ~。それじゃもしかしたら『びっくりドンキー・ジョースター』や
『華屋与兵衛・ジョースター』になっていた可能性もあるですか?」
真紅「流石に英国紳士で華屋与兵衛は無い」
蒼星石「ジョジョにならないし……」
水銀燈「びっくりドンキーだとビジョの奇妙な冒険になっちゃうしねぇ」
真紅「AVにありそうなタイトルなのだわ」
金糸雀「思い返せば、ジョジョの最初のシーンは美女が登場するかしら」
翠星石「ああ、いきなり族長が『血は生命なり』と叫んでブっ刺さす
オッパイボインちゃんですね」
水銀燈「へぇ。やっぱ少年誌だとそういうサービスシーンが無いとダメなのぉ?」
蒼星石「エロスで引き付けようだなんて僕は感心しないなぁ」
雪華綺晶「……お二人とも本誌で全裸になってましたよね?」
巴「なんだかんだでおっぱいの需要は高いのね」
雛苺「ジュンもおっぱい好きなの?」
ジュン「やかましい」
槐「ええと、水銀燈……。他に言いたいことは無いかい? 第一部限定で」
水銀燈「だぁから、私ジョジョ詳しくないって言ってんでしょう?
知らない人間がテキトーな事ふかすのはマナーに反する」
巴「ディオとか波紋とか一切触れなくてもいいんですか槐先生?」
槐「まあ、いいんじゃない。ジョジョ知ってる前提で進めてるから」
ジュン「じゃ、二部の話に移ろうか。金糸雀、何か話題はあるか? 無くてもいいぞ」
金糸雀「もっちろんあるかしら! 何しろローゼンメイデン一の策士金糸雀が
ジョジョで一番大好きなのは知恵者ジョセフが大活躍する二部かしら~!
同じ策士として親近感を覚えまくりなのかしらー!!」
翠星石「同じ……策士……?」
ジュン「水銀燈みたいに、あっさりと退くのも勇気だぞ金糸雀」
金糸雀「ちょ!? ちょっと酷いかしら! カナはちゃんとジョジョを語れるかしら!!
最早バイブルかしら!」
水銀燈「で、一部と二部って何が違うのぉ?」
真紅「ドラクエ1と2みたいなものね。第一部は味方はいなくて一人だけ、ボスも一人。
けれども第二部だと準レギュラー的な味方も増えて、ボスも多くなった」
槐「ははあ、そういう見方もできるのか」
ジュン「第一部にも仲間はいただろ。スピードワゴンとかダイアーさんとか」
真紅「スピードワゴンは非戦闘員だし、ダイアーさんはダイアーだし」
蒼星石「二人の仲間の内、シーザーは男性でリサリサは女性。
この構成もドラクエ2と同じと言えば同じだ」
水銀燈「そりゃ仲間二人つけるなら、性別は変えてくるのがフツーでしょうが。偶然よ」
薔薇水晶「同じく偶然、と言うわけではないでしょうが
第二部にもサービスシーンがありましたよね。それもリサリサで複数回」
真紅「ええ。胸の谷間をさらけ出していたのだわ」
雛苺「やっぱり、おっぱいがみんな好きなのよね」
ジュン「けど、アレでハァハァしていた人達はリサリサが
実は50代でおまけにジョセフの母親だと判明した時、どんな気持ちだったんだろうな」
金糸雀「他にも他にも第二部にはジョセフの魅力がいっぱいかしら! 例えば……」
槐「熱くなっているところ悪いが金糸雀、もう尺が無い。第三部の話に移る」
金糸雀「ちょっ!? まだ、サワリぐらいしか語ってないかしら!!
『スト様が死んだ』とか『大人は嘘をつくだけです』とか言いたいことはまだ沢山……」
ジュン「それどっちも本編とあんまり関係ないだろ」
翠星石「がーはっはっは! ついに来たですね! 翠星石の時代が!」
ジュン「出たよ翠星石の馬鹿笑い」
翠星石「ジョジョの看板とも言える第三部を
ローゼンメイデンの看板娘翠星石が語るとはまさに運命ですよ。運命の車輪ですぅ」
真紅「無理にジョジョネタ入れると不自然になるわよ翠星石」
槐「それじゃ、その人気の由縁を語ってもらおうか翠星石」
翠星石「なんといってもスタンドですよ! 最早ジョジョ=スタンドは世界の常識。
その図式ができたのが第三部なのです!!」
ジュン「そんな事は誰でも言えるから、翠星石ならではの視点から第三部を語ってくれよ」
翠星石「え? す、翠星石ならでは……ですか!?」
巴「例えば、翠星石ちゃんが承太郎に魅力を感じている点だとか、そういったのでいいの」
翠星石「うむむ……」
雛苺「翠星石、あいと! あいとーなの!!」
翠星石「こ、困ったですねぇ。翠星石はあまり承太郎好きじゃねーんですよ」
蒼星石「そうなんだ」
雪華綺晶「どうしてです? 翠のお姉様」
翠星石「いかんせん完璧超人すぎるですよ承太郎は。
漫画的に主人公と言えば最強がお約束だという時代だったせいもあるですが」
水銀燈「そうだったっけ? 聖闘士星矢も大体同じような時代だったけど
主人公最強ってわけじゃなかったはずよぉ」
金糸雀「星矢には詳しいのかしら水銀燈」
翠星石「翠星石のような繊細なガラスのハートでは
承太郎のようなタフガイには感情移入しづらいです。
ですから断然、翠星石は承太郎よりも花京院の方が好きです」
真紅「ああ、そう言えば内面が少しジュンに似ているところもあるわよね花京院。
なんていうか影があるというか、孤独を心に秘めているというか」
翠星石「チ、チビ人間に似ているかどうかはどうでもいいじゃないですか真紅」
薔薇水晶「そう言えば最初、花京院は操り人形を使ってもいましたが
あれ、なんだったんでしょうね?」
翠星石「翠星石は密かにあの人形が小道具として登場し続けてくれて
花京院が人形使い的なキャラになってくれることを期待していたのですが」
蒼星石「でも、実際に三部で登場した人形使いキャラはデーボだったね」
翠星石「アレにはガッカリしたですぅ。ポルナレフに見抜かれるほど頭脳が間抜けでしたし
スタンドの口調はひわいで下品でしたし」
真紅「あらそう? 首グルングルン回しながら 『テメーのキンタマ噛み切ってやるぜー!』は
人形なら誰でも一度は真似したと思うのだわ」
ジュン「……」
雛苺「そんなのは真紅だけなのよ……」
翠星石「それでもって花京院が死んじゃった時は号泣したです。鞄を涙で濡らしたです……。
第二部のシーザーでも泣かされたですが、花京院にはことさらだったです。
花京院はまさに自分のスタンド同様の『静』なる死だったですぅ」
雛苺「うゆゆ、翠星石カワイソーなの」
蒼星石「翠星石は漫画でよく泣くけどね。前も孤独のグルメ読んで泣いてたし」
雪華綺晶「あれって泣き所ありましたっけ?」
槐「よーし、ちょっとしんみりしたところで次は第四部いってみよう! 四部」
ジュン「ちょっと槐先生、さっきから進行テキトーすぎやしませんか?
もっとジョジョについて掘り下げた方が……」
槐「あんまり掘り下げたところで、一部の極マニアしかついて来ないし
そういった人達は自論も強烈だから、議論になってめんどくさくなる。
深夜ならまだしもゴールデンだったら、これぐらいの当たり障りのない
ガヤで盛り上げて流すのが正解だろう? 刹那的享楽番組としては」
巴「いきなりゴールデン狙ってるんですか……」
しんく・・・
蒼星石「ええと、僕の番だね。何から話そうか迷っちゃうな~」
翠星石「ぬぬぅ! 薀蓄蒼星石のおしゃべりスイッチが入る音が聞こえたですぅ。
けど、単なるトリビアの連発じゃダメですよ! 蒼星石ならではの視点でもって……」
蒼星石「僕ならではか、難しいな」
金糸雀「蒼星石は帽子キャラだから、第四部の帽子キャラについて語ればいいと思うのかしら~!」
蒼星石「帽子キャラ? 第四部にそんな人いたっけ……?」
雪華綺晶「ええと、承太郎とか……ジョセフとか」
蒼星石「前の部での主人公達じゃないか! 僕はできれば仗助について語りたいんだけど」
真紅「でもジョセフは置いとくとして、承太郎の存在感は別格だったのだわ」
雛苺「困った時の承太郎さん頼みだったのよ」
翠星石「無敵のスタープラチナは伊達じゃねぇですし、そもそもの経験値の違いが大きいです」
水銀燈「少年漫画的にはオッサンだろうけど、戦国武将だったら脂が乗りきってる時期だものねぇ」