1 :
創る名無しに見る名無し:
前のスレが容量オーバーになってたので建てました。
まあ、ほぼおれのせい……だな(汗
さてさて。
では、早速行きましょうか。
3 :
GPB:2011/11/28(月) 23:43:04.68 ID:ckmi6Mb6
ガンプラビルダーズVS・A(ヴァーサス・アサルト) 外伝・月光の歌姫01
真っ白い大地の上空を、二機の飛行物体が駆け抜ける。
派手に飛び回り、時に二機が上空で交叉して、まるで星空に絵でも描く様な動きを見せた。
その二機は、現用の航空機などではない。
翼の無い、その推進力で半ば強引に飛翔する力を得ている、白いパール塗装の歪な機械。
可変MS・リゼル。
「機動戦士ガンダムUC(ユニコーン)」に登場する機体だ。
地球連邦軍のリガズィの後継機で、メタスの可変機構を取り入れて完全変形を実現した機体である。
なにしろリガズィは、フライトユニットは別パーツだったのだから。
ゴツゴツした箱の様な鋼の塊に、申し訳程度の機首と翼。
航空力学に照らし合わせたならとても、これが飛ぶとは思えない。
それが、ただ飛ぶばかりか曲技飛行まで見せるのは、ここが現実の空間では無いからだ。
ついでに言えば、地球上でも無い。
そして。
『……Yeah――――っ!!』
甲高いシャウトと共に、どこかから飛んで来た空間を乱舞する小さな機械から、次々と強力な光が放たれた。
円錐形に似たフォルムを持ち、遠隔操作だからこその機動性を見せる。
それはファンネル。
色とりどりのビームを放射し、大地を無茶苦茶に切り刻みながら飛び回る。
視界を遮る程の煙が立ち昇るが、この場においてはこれは、スモーク自体を人工的に発生させているのだろう。
何故ならばここには、砂を舞わせる風を起こす為に必要な、大気が存在しない。
ここは、月面だ。
バーチャルな空間に形作られた、3DCGで構成された地球の衛星の地表部分。
そして、ビームのカラフルな光に染まるスモークが晴れた場所に立っていたのは――
一機の白いMS。
身長よりも広い横幅を持った、だが華麗とも思えるフォルムを有する、シリーズ屈指の美しさを誇る機体。
「機動戦士Zガンダム」に登場した、ネオジオン軍のニュータイプ専用MS・キュベレイ。
パール塗装を施されたボディにカラービームの照り返しを反射させ、右手を手元に、左手は高々と天を指差し――
このMSの出自を考えると、およそ戦闘時には考えられない姿である。
4 :
GPB:2011/11/28(月) 23:44:39.46 ID:ckmi6Mb6
『みんな――っ! 元気してるぅ――っ!?』
手元に寄せた右手が握るのは、ビームガン/サーベルを改造したマイクだ。
ヘッド部分がクラシカルな形に見えるのは、ワザと大きく見せるためか。
それとも、それがかわいい形だと使い手が思っているからなのか。
『それじゃあ――いっくよぉ――っ!』
カメラがある位置がわかるのか、完全に真っ直ぐ目線を向け、ビシッと長い左人差し指を差し向ける。
『“ハートにっ……シューティング☆スタ――――”っ!!』
ダンっ! ダダダンっ!!
ドラムが告げる曲の始まりと共に、上空を舞うリゼルがフォーメーションを変えて高々と上昇した。
続くギターのソロに、ファンネルの動きが激しくなる。
そして、それらの中心であるキュベレイも、その場でクルクルと舞い踊った。
まるで音のうねりに乗って、全てが連動しているかの様だ。
そして、ドラムが刻む腹を蹴り付ける様なリズムと共に、あの特徴的な大きな両肩が振動している。
中にスピーカーが仕込まれているのだ。
♪ 星屑が このハートに降り注ぎ
胸に キラキラ 輝くの
ちょっと あなた 気付いてる?
この輝きは 全部 あなたのものよ
You are my only one !!
「……えーっと……」
大音量で鳴り響くポップロック調のアイドルソングに、少し引き気味なウエハラ・ユイトである。
模型工作同好会結成以来、普段はその隠れた活動の場をホビーショップ・ノアに限定していたが、
今日は久し振りに違う所に行ってみようと、
親友にして相棒のホシナ・ケンヤと共に駅前のゲーセンに足を踏み入れた途端に、この歓迎振りだ。
もちろん、その場で歌っている訳ではない。
これは、ネット配信されているPV(プロモーションビデオ)の映像だ。
しかし、いつの間に。
ガンプラバトルのフィールドで、MSに乗って歌を歌うアイドルなんかが出てきたのか。
「おおー! こりゃガンプラバトル界の歌姫、シノザワ・マイナじゃねえかよ!」
興奮気味にそう言うところを見ると、どうやらケンヤは彼女のファンらしいが。
「これって……良くあるバーチャルアイドル……とかって奴?」
CGのMSがマイクを持って歌っているなんて、そうとしか思えない。
「へえっ!? ユイお前、シノザワ・マイナ知らねえのかよ?」
信じられない、と言う顔で親友は心底驚いている。
5 :
GPB:2011/11/28(月) 23:46:06.79 ID:ckmi6Mb6
すると丁度、リズムに乗って月面で踊るキュベレイの姿が、同じ色の衣装に身を包んだ女の子の姿にパッと変わった。
ワイプで次々と、実写映像とMSのCGが入れ替わる。
振り付けが完全にシンクロしていた。
月面に宇宙服無しで立つ生身の女の子は、見れば一瞬ギョッとするが、考えればバーチャル映像なのだから何も不思議は無い。
背中まで伸びる栗色の髪。
両側で結わえた長いツインテール。
これがどうやら、シノザワ・マイナ本人らしい。
キュベレイが手にするのと同じデザインのマイクを持って、フワフワのスカートを揺らしながら一定の範囲内で踊り、歌っていた。
「このキュベレイは、マイナの愛機さ。これは音楽ライブ用のスペシャルチューニングモデルらしいけどな」
上空を駆けるリゼルも間奏のタイミングで人型に転じ、キュベレイの両脇に降り立って一緒に踊る。
見た目は変わらず、GMっぽいMSのままだ。
どうやらこの姿でバックダンサーと言う事らしい。
こちらはパイロットの素顔を出さない代わりに、機体各所に刻まれたスリットから効果用のレーザーを煌かせている。
「……ん???」
ジッとモニターを見上げていたユイトが、怪訝そうな表情を浮かべた。
「なんだユイ? どした???」
その変化に気付いたケンヤが、訊ねて来るが――
「――いや」
ユイトは、すぐにその表情を戻した。
「なんだか、どこかで見た事がある気がする子だと思ったんだけど……思い違いだよ、きっと!」
♪ あなたの ハートに シューティーング☆スタ――――っ!!
モニターで顔がアップになるそのアイドルが、ウインクしてCGの星を目蓋から散らしてみせるが、
その数秒前には、もうユイトとケンヤはそっちを見ていない。
「それより、久し振りにこっちに来たんだ。早くエントリーしちゃおうよ」
「そうだな。マイたんはいつでも見れるしな〜」
「そんな呼び方なんだ? でもそういうの、きっとユウリにキモがられるよ」
「あいつ、アイドルとか興味ないみたいだしなあ」
「……いや、そういう事じゃなくて……」
なんだかんだ言いながら、ケンヤもアイドルよりバトルの方が大事なのだろう。
まったくモニターに頓着する事は無い。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「ああっ! もう全っ然ダメっ!! てんでなってないわっ!!」
今しがた新作のPV撮影のリハーサルで撮影された画像を一通り見終え、いきなり少女は喚く。
件の歌姫、シノザワ・マイナその人であった。
現在配信されているPVで見せる表情が、まるでウソだとでも言う様に、怒りを顔の全面に表している。
6 :
GPB:2011/11/28(月) 23:47:19.10 ID:ckmi6Mb6
「あんた達、何の為にわたしのバック固めてんのっ!? しっかりやんないと即刻クビよクビっ!!」
明らかに年上の女性二人に、上から目線で怒鳴り散らした。
二人はガンプラバトルプレイヤー用のパイロットスーツを着ている。
ヘルメットは被ってないが、代わりにマイク付きヘッドセットを装着していた。
あの映像のバックで踊る、二機のリゼルのパイロットだ。
こちらは素顔が出たりしないため、衣装の必要は無いのだろう。
それでも、一応スーツのカラーリングは機体に合わせた特注の物だったが。
そして見えないその中身にも、実は特殊な仕掛けが施してある。
「今日はもうやめやめっ! 帰るから車出してっ!!」
「でもマイナちゃ〜ん! これはこれで、決して出来は悪くないと思うんだけどなあ」
中年のディレクターらしき男が、両手を揉みながら恐る恐るやってくる。
「アレのっ? ドコがっ!? あんまりふざけてるとアンタもクビよっ!?」
ディレクターよりも、この少女の方が立場は上らしい。
ここにいるスタッフは、ガンプラバトルフィールド上でのPVを撮影するための、事務所お抱えスタッフだ。
だから実質、マイナ自身が主導権を握っている。
その場がシーンとしてしまったのが更に気持ちを逆撫でしてしまったか、
「――ふんっ!!」
大袈裟に鼻を鳴らして、少女はスタジオから出て行ってしまった。
今日の撮影は本当に中止らしい。
衣装も着替える事無く地下で黒い大型車に乗り込んだマイナは、後席に備えられたモニターに画像を表示させる。
モニターが映し出したのは――
今年の夏に開催された、ガンプラバトル全国大会本選の記録画像だ。
「……まったく……」
ブツブツと文句を言いながら、その目はモニターから離さない。
瞬きも許されないと思い込んでるかの様に、端から見れば怖いと思われる程の鋭い視線を注ぐ。
「一体何がそんなに不満なんだマイナ?」
車を走らせながら運転席から話掛けて来たのは、中年の男だ。
「パパ……いえ社長。もうあの連中じゃダメよ!」
イライラしながらも、怒鳴る相手は選んでいるのか、訴える様に言葉を吐いた。
その間も、画面はしっかり見続けながら。
「ネットでも有名なガンプラダンスユニットだって言うから、一度は使ってみたけど……アレじゃあいない方がマシ」
「そうかい? 私にはその理由がわからないがな」
娘――マイナに言われて彼女達を探し出してきたのは、父であり事務所社長でもある彼だ。
良し悪しもわからないまま採用した為、今のこの事態は想定していない。
「やっぱりね、MSは戦闘機動じゃないと生き生きと見えないのよ。あんな魅せるためだけの曲芸じゃあ、絶対リスナーには伝わんない!」
ガンプラバトルをやる者は、全員がバトル目的でエントリーすると思われがちだが、
実際には、実に様々な目的でエントリーする者達がいる。
チームでエントリーしてきて、延々二人で漫才をやったり、コントを繰り広げる者。
機体のギミックを使って、街角の大道芸人よろしく、いろんな芸を見せる者。
なぜか、戦闘をよそに宇宙の果てを目指してどこまでも真っ直ぐに飛んで行く者。
そして、あの彼女達の様に、MSの機動性を生かして曲技飛行を極めようとする者
ある意味、マイナもMSで歌を歌っている以上彼女達とは近しい仲間である筈だが――
マイナは、自分では違うと思っている。
なぜなら、彼女自身良くわかっている。
歌を歌うという行為に、本来MSという物は必須ではない。
今自分がやっているのは、端から見れば単なる演出だ。
だが。
これを本気でやって行けば、誰も文句は言わなくなるだろう。
7 :
GPB:2011/11/28(月) 23:48:31.30 ID:ckmi6Mb6
シノザワ・マイナの歌には、MSが無いと物足りない。
世間にそこまで言わせて初めて、彼女は目標を達成できる事になる。
一時的に、PVのためだけにやっていたのでは、他のタレントなんかとまるっきり一緒だ。
人気アイドルグループ・SGOC(スゴック)のリーダー、コウジ・マツモトなどはガンプラ好きを公言して憚らないが――
自分は、ただ好きだけで終わらせるつもりは無い。
そして、このままカワイイだけのアイドルで終わるつもりも、無い。
ガンプラバトルのフィールドで、自分だけが歌う事を許される。
そして、ライブもフィールド上に、客を集めて開催する。
そうなれば、世界でも初のバーチャルフィールドでの音楽ライブ実現と言う事になるだろう。
そこまで突き詰めるつもりで、やる。
認められるのはMSだけでも、自分だけでもダメ。
そうしたいなら、自分自身の歌にももっと磨きを掛けないといけないが。
そこまでやって、やっと自分はオンリーワンになれる。
その為には。
あんなぬるいダンスなど、無い方がマシだとさえ思う。
本気の高機動ダンスをバックに、自分が渾身の歌を歌う。
それが、今の自分の欲する全てだ。
だから、ただ好きだけで大会画像を眺めたりはしない。
全ては、次へと進む自分のため。
妥協はしない。
そんな彼女の目に止まったのは――
一機のMS。
本来の機体を若干形状変更したのに加えて、さらにサブウイングまである。
ハッキリと機動性向上を目指して施されたカスタムなのは明らかだ。
重力下での高機動実現には、多少パーツが邪魔でも空力を味方に付けなければいけないという事を良く理解している。
バーニアで強引に軌道を捻じ曲げるなど、本来は邪道だ。
そのためか。
本来ベースとなったウイングゼロカスタムの設定には無い、バードモードへの可変機能が追加されている。
この変形自体はそう難しい物ではないが、
わざわざアーリータイプではなく、TV版と同じパターンの変形をさせている辺りに、このパイロットの機体への強いこだわりを感じさせた。
そして、それを操る腕前も実に機体特性に適っている。
変形と言う行為ですら、その速度をコントロールする為に活用していると思えた。
本来、機動性自体はそう高くないウイングガンダムだが、それを理解した上で、テクニックでその欠点を埋めている。
そして。
強力すぎる武装は、時に自分の首を絞める事になるという事も良くわかっているのだろう。
元々ある武装に、見た目でわかる出力調整を加え、さらに使い勝手の良い武装を別に追加している。
そして、成功例をあまり耳にしない、GNドライヴの搭載と起動。
本体から武装まで、隅々まで血の通った、見事な機体だと思えた。
ここまでやれば、GNドライヴも動いて不思議ではない気がして来る。
このパイロットは、とことん本気だ。
決して、単なる遊びでバトルに臨んではいない。
もちろん、楽しいからやっているのは間違いないが、それも本気だからこそ感じる楽しさだろう。
歌と戦闘。
一見違う事ではあるが、ガンプラを介して見ると、こんなにも通じるものなのか。
8 :
GPB:2011/11/28(月) 23:49:29.85 ID:ckmi6Mb6
自分だってMSを駆ってあのフィールドに立つ以上は、戦闘の事も良く理解しているつもりである。
だからこそ、勝利の喜びも、愛機を失った悲しみも、良く理解できる。
マイナは、目の前に光を見た気がした。
後席に持ち込んだバッグの中から、愛用のタブレットPCを取り出す。
ただ笑顔を強要されて歌わされているアイドルならともかく、
自分の様に未来へのビジョンを持つ者にとって、情報は必要不可欠かつ貴重だ。
ガンプラバトル全国大会の関連サイトにアクセスして、今のウイングガンダムの情報を検索する。
目当ての機体は、すぐに見つかった。
と言うより、他にウイングでエントリーしているプレイヤーがいなかったのだ。
当然の様に、本名および顔写真は無く、あるのはエントリー時の登録名と、機体のスキャンデータ画像のみ。
「エントリーはW地区……エントリーネーム……???」
一瞬、読み方に迷う名前だ。
二つのアルファベット二文字の間にハイフン。
これは果たして、単なるイニシャルなのか、それともネタか?
「ゆーわい?……うーい?……ゆーい……」
そこまで口にして、ふと画面を操作する指が止まった。
眉根を寄せて考え込む。
「マイナ、車の中でパソコンなんかいじってると目に良くない」
父が声を掛けるが、聞いてはいない。
「ユーイ……ユイ!?」
ふと口を突いた言葉で、何かにハッと気付いた。
その顔は、何かの決意を秘めていた。
「――停めてっ!」
反射的に叫んでいた。
「うわわっ!?」
運転中に不意を突かれた父は、突然の声に驚きながら、急ブレーキで減速を掛けて路肩に車を寄せる。
「突然危ないじゃないか。一体どうした!?」
怒りと呆れを半々にした様な表情で、後席に顔を向ける。
その鼻先に、PCの画面を突き付けた。
「このウイングガンダムのパイロット、探すわ! すぐに!!」
前回の様に、“探してくれ”とは言わない。
「まさか、お前自ら動くのか? 撮影はどうする!?」
「そんなの、今のまんまじゃ何回リハやったって一緒よ!」
躊躇無くそう答える。
こうなると、もう親の言う事など聞きはしない。
「W地区……多分、場所は変わって無いと思う。一旦マンションに帰って、支度を整えたらすぐに出るわ!」
「ちょっと待て! じゃあ明日からのスケジュールはどうするんだ!?」
一応、一般的にはまだそれほどメジャーではないとは言え、ここ数日スケジュールは埋まっている。
今が一番大事な時期。
一つでも穴を開けたら、今後それがどう影響するか。
だが。
「このまま普通にスケジュールをこなしていったって、ただのアイドル。十年後には元アイドルって呼ばれるだけで終わるのよ!!」
シノザワ・マイナは、自分自身の才能を信じている訳ではない。
常に危機感を感じている。
だが、だからこそ。
今このチャンスを、逃す訳には行かないと思う。
たとえ一般的なメディアから干される事になったって、ガンプラバトルのフィールドがあれば、自分は続けて行ける。
続けていれば、また実力で元のポジション――いや、それ以上のところまで上がる事も。
信じているのは、その部分だけだ。
9 :
GPB:2011/11/28(月) 23:50:44.33 ID:ckmi6Mb6
「パパっ! 今しかないの! だから……お願いっ!!」
ここぞと言う時に、親として頼って来る。
しかも、大切なカワイイ娘が。
これに逆らえる男親がいるだろうか。
「わかった……ただし、今からすぐはダメだ」
逆らえないながらも、締める所はしっかり締めて、父親は言った。
「スケジュールの事もあるが……学校はキャンセルできないだろう?」
まだ中学二年生。
学校は、一応マジメに通っている。
「とりあえず、週末の二日だ。学校にはちゃんと行け。スケジュールは……なんとかする」
「金曜日の放課後から! 一刻も早く動きたいの!!」
「……わかった」
なんとか妥協はさせたと思える娘の言葉に、父親兼事務所社長は渋々頷いた。
今後どのくらい時間が掛かるかわからないが、ともかく足掛かりは必要だ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
放課後の技術実習室で、四人の会員達はそれぞれの作業準備に没頭している。
先日、例の大作を披露した文化祭は無事に終了。
製作を指揮したユイトからすれば、まだまだ問題のある完成品だったが、そこは初めてのジオラマ。
物見高い一般客や他の生徒達からは、非常に好評を博した。
ジオラマとなると、さすがにケンヤでも経験は不足しているし、ユイト自身もあそこまで大きい物は初めてだ。
だから、ユイトは作って良かったと思っている。
文化祭終了後、保管場所の問題もあってこの作品は廃棄の予定だったが、
学校がそれを止めた。
出来がなかなか良いので、保存の方向で考えたいと言う。
従って今は、この実習室の片隅で、繋いで大きくした新聞紙を掛けられている。
「これは勝利よ! 自力で勝ち取った、我々の完全勝利っ!!」
時々作業を手伝ってくれた、顧問のクルカワ・アオイは、学校側のこの対応に興奮していた。
この作品一つで、模型工作同好会は学校側からも認められた、と言う事にはなるが……
そうなると、次の大作はもっと良い物を求められる事になるし、
それ以上に、入会希望者が来る可能性が高くなるのも、彼ら自身としては問題だ。
事実、文化祭が終わってから、入会テストバトルはすでに二回ほどやった。
最近は覆面プレイヤーとして、アオイが一人で多人数を相手に叩き伏せる事が多くなっていたが。
相手が子供だろうが素人だろうが、敵として戦う以上一切手は抜かないのがこの猛者のポリシーだ。
という訳で。
あれからしばらくは少し忙しかったが、このところのんびりとした日々が続いている。
学校の勉強以外は。
彼らは今、会の活動として個別の作品を作っている。
顧問からの課題は出ていないため、いっそガンプラ以外で何かやろうとみんなで相談して――
ユイトは、何やら牛乳パックを大量に集めてきて、それを紙粘土状に加工してから何か作るつもりだ。
ケンヤは、百円ショップで買って来た割り箸を削って、なにやらチマチマと作っている。
ミスノは、ジオラマ作りでミニチュアの魅力に目覚めたか、ドールハウスを作ろうとしている。
10 :
GPB:2011/11/28(月) 23:52:04.89 ID:ckmi6Mb6
そんな中、ユウリは……
「うーん……これなんかおいしそうに見えるよねー」
見ているのは、なぜか料理のレシピ本だ。
どうやら、リアルな食品サンプルを作ろうとしているらしい。
最近は携帯ストラップなどもあったりして、そういうリアルなミニチュアが人気だが――
「ユウリ。自分の今の実力は、ちゃんと見極めて選びなよ」
ユイトは、どこか心配そうに言う。
不当に高望みするのは、素人にありがちな傾向だ。
食品サンプルを作る事自体は誰も反対しないが、あまりにレベルの高い所を目指して挫折すると、一番辛いのは本人なのだから。
それよりなにより。
今のところ、ユウリはレシピ本を見ているだけで、肝心のサンプルの作り方はチェックしていない。
そこが一番問題だったりする。
「ユイ、お前何作るつもりなんだ?」
まだ素材準備の段階なので、全貌が見えない。
「うん、とりあえず日本の城でも。安土城なんか良いね!」
牛乳パック粘土だと、市販されている紙粘土よりも軽く出来る為、少し大きめの作品でも作る事が可能だろう。
「そんなの、キット売ってるじゃん」
「いや、あれは安いと小さいし、大きいのは高いから。それに出来るだけ、内部も作ってみたいからさ」
こだわるポイントは、個人でそれぞれ違う。
そういう意味では、ミスノのこだわりはユイトに近い様だ。
悩むのにも飽きたのか、ユウリは隣を見やった。
「ミスノは……よくそれだけチマチマと……」
なにしろ、木工工具の他に裁縫道具まで用意して気合が入っている。
裁縫の技術まで必要なドールハウスは、事実上女子の独擅場だ。
「そういうの、ユイも好きそうだよなー」
何気に言うケンヤ。
その言葉に、
「ホントっ? ユイト君こういうの、好きっ!?」
何故か過剰に反応するミスノ。
「うん。内部まで精巧に作られたドールハウスって、本当に見事だよね」
あまり深く考える様子も無くユイトは返すが、
「わっ……わたしがんばるっ! とことん作り込むっ!!」
いきなり、テンションがMAXにまで高まってしまった。
「なんかこういうの、悪くないよな」
ケンヤはしみじみと言った。
この会は、ガンプラバトルの為にアオイが強引に立ち上げた同好会だが、
逆にこの会が無ければ、ケンヤ自身ガンプラ以外の物を作ろうなどとは考えなかっただろう。
おかげで、ガンプラにもそれで培った技術がフィードバックされていくはずだ。
それはとても良い事だと思えたが――
ガラガラガラッ!
「はーい! 今日もやってるわねゴブリン達っ!!」
いきなり引き戸が開いて、顧問の声が響いた。
そしてあろう事か、
「何? 何みんなしてチマチマやってんの〜?」
ジロリと作業途中のみんなを見渡した。
物言いまで弟子と似ている師匠である。
「いや、最近あんたが課題出さないから、こっちで独自に個別のスキルアップを図ってんじゃねえか」
呆れた様にケンヤが返す。
「そんなのよりもっとガンプラ作んなさいよ。退屈なだけじゃない」
せっかく自主的に真面目な活動をしようとしているのに、ぶち壊しだ。
「あのなぁ。中学生にそんなホイホイキット買える財力ないだろが」
「別にモナカキットでも良いじゃない。あれなら安いわよ」
「あれは素組みだと、そのまんまバトルには使えないだろが。確かに塗装やら接着やらで、練習にはなるけどさ」
余程の腕があってカスタムにも手馴れて無いと、旧キットで今のガンプラバトルに挑むのは難しい。
11 :
GPB:2011/11/28(月) 23:53:47.61 ID:ckmi6Mb6
「まあ何でも良いわ。それよりバトルに行きましょ!」
みんなの作業の進捗にはまったく気を使う事無く、アオイは急かす様に言った。
「せっかくの金曜日じゃない。明日明後日は休みなんだから、今日は多少ハメ外したって構やしないわ!!」
そう言って、返答も聞かずにさっさと部屋から出る。
「とにかく、先にノアに行ってるわ!」
ガラガラピシャッ!
開いた時同様、扉は乱暴に閉められた。
「……なんかイラついてんな、アオイ先生」
「一刻も早く、ストレス解消したいって感じ?」
「嫌な事があったみたいだね」
「クルカワ先生……とってもわかりやすい……」
四人はヒソヒソと噂しあう。
ともかく、ああ言われた以上無視は出来ない。
今日の作業はここまでにして、一旦帰宅する事にする。
そして二時間後。
「――遅いっ!!」
待ちきれずに店の前で、仁王立ちで腕組みするクルカワ・アオイが、四人を出迎えた。
「いや。制服のまんまで来れりゃ、もっと早いんだけどな」
「まったくもう! やっぱり問題は学校(あそこ)か!!」
どうやら、イライラの原因も職場である学校らしい。
即座に頭の中で結びつけたか、言葉を吐き捨てた。
「もっと学校内での立場を強化しないといけないわね!」
「……いや、それより店入ろうぜ」
ただでさえ、来店客を拒む様に店先に陣取っていたのだ。
これ以上ここにいたら、本当に営業妨害になってしまう。
「みんな、新作持って来たんでしょうね?」
「師匠、あたしそんなに早いペースで作れません!!」
「えーっと……わたしも同じく……」
「オレは新作だぜ! 結構自信作だ!!」
「でもザクだろ? ボクは一応完全新作……かな?」
「なによー! ウエハラ君はウイングカスタムでも良かったのに!!」
アオイはあのウイングの活躍を間近で見たかった様だが、
「あれはそうそう出せませんって! 大丈夫。期待は裏切らないと思います!!」
ユイトもその言葉に自信を窺わせた。
五人揃って入店する。
12 :
GPB:2011/11/28(月) 23:55:25.64 ID:ckmi6Mb6
『バトルフィールドは“ソロモン周辺宙域”です』
戦後連邦では“コンペイ島”とも呼ばれた、旧ジオン軍の宇宙要塞だ。
周囲は宇宙空間が広がっているが――
実は度重なる戦闘で、周辺には大小様々なデブリが散らばっている。
それを利用して罠を張ったり、待ち伏せしたり、色々な作戦を考えられるのがこのフィールドの魅力だろう。
こうなると、意外なMSが活躍したりする。
『ふっふふーん! これは良いわ!!』
コクピットで声を上げるのはユウリだ。
そしてその愛機は――
全国大会本選でも使った、ガイアガンダムだ。
四足獣のMA形態で、デブリが集まる暗礁宙域を、隕石から隕石へ飛び移りながら高速で移動してゆく。
上下が無いので、足場さえあればどこでも走れるのが強みである。
それから遅れて、おっかなびっくりと言う感じで隕石の間を抜けて行くのは――
ミスノのティエレン・タオツーだ。
『ユウリちゃん……すっごい張り切ってるなあ……きゃっ!?』
結構隕石同士の間隔が狭かったりする為、こういう場に慣れていない彼女には、通り抜けるだけで一苦労だろう。
今も接触しそうになって、慌てて操作レバーを動かしたりしているのだから。
そんな彼女の元に、
『おいおい。やっぱこういうところはミスノには危ないぜ』
派手にバーニアを吹かして傍にやって来たのは、ケンヤだ。
だが。
『――ええっ!? ケンヤ君、それって???』
いつもと同じザクだと思っていたが、今日は少し違う。
確かに、ベースになっているのはザクというか、ハイザックだ。
ただし。
その全体を覆うと言うか、装着されている大型ユニットが、そのシルエットを全くの別物に変えていた。
『ハハン! びっくりしたか? ハイザックにはこういう装備もあるんだぜ!! 本体以外はフルスクラッチだけど』
モノアイを輝かせて得意そうなのは――
バイザック・TR−2“ビグウィグ”
「Zガンダム」のハイザックをコントロールユニット及びジェネレーターとして活用する為に丸ごと流用した、移動式ビームキャノン砲台の試作機だ。
MS右側に長大なメガ粒子砲のバレルを持ち、そのユニット自体が自力で移動できる機能を持っている。
コアになっているハイザック自体も、大幅に改造が加わっていて、なかなかの力作だ。
ノーマルのハイザックと違う部分もしっかり造り込まれている。
ケンヤが自信作と言うのも頷ける。
どこがどう違うのか、ミスノにはさっぱりわからないが。
13 :
GPB:2011/11/28(月) 23:56:37.81 ID:ckmi6Mb6
ティターンズのテストMSと言う事で、今回は本体のカラーリングもティターンズカラー。
僅かに自己主張のつもりか、頭頂部に前から後ろへズバッと、白いラインが一本太く走っていた。
『あの課題の時、徹底的にいじれって言われたのが、こういう答えになったのさ』
『へぇ〜! じゃあこれ、あの時のハイザックを使ってるのね!!』
『あと他に出来るとすれば、“ダンディライアン”くらいかあ。いや、あっちはベースがマラサイか!?』
アニメ本編ではネタが足りなくて、ついに模型雑誌連載オリジナルモデルの方まで眼を向けるしかないザクマニアである。
ザクの方が数え切れない程のバリエーションがあるのに対して、ハイザックは正直、カラーリングくらいしか変更点が無いのだ。
『それより、掴まれよ。こっから出るぞ!』
『でも……ユウリちゃんが……』
『アイツは走り回ってご機嫌なんだから、放っといても大丈夫さ』
薦めに従って、巨大な機動砲台に取り付くティエレン。
『行くぜ!』『う……うん』
危険がいっぱいの暗礁の中を進みだすと、隕石の陰に隠れていたらしいMSが数機飛び出して来た。
リックドムやゲルググなど、まさにこういう場所に特化した様な機体ばかりだ。
『囲まれるっ!?』『そうはさせねえ! 一発かましてやるぜっ!!』
だがこうなると、さすがにケンヤのバイザックも不利となる。
推力は上がっているし、火力も高いが、
このサイズになるとさすがに、宇宙用MS単体の方が機動性では勝る。
そんな局面で、ケンヤに出来る事はただ一つ。
『――よし! ぶっ放すぜいっ!!』
キュウゥゥゥゥゥゥ…………バオッ!
バイザックのビームキャノンが、躊躇いも無く放たれた。
粒子砲のエネルギーは敵MSに命中する事無く、彼らの後方に陣取っていた隕石に命中する。
ドゴアッ!
真っ赤に焼けた岩石が周囲に散り、そこにあった岩石が消失した。
『――今だっ!』
敵MSが避け、障害物が消えた間隙を縫って、TR−2が急加速しつつ通り抜ける。
それを追って敵MSが動き出した。
『追ってくるよっ!?』
『とりあえず、真っ直ぐ飛んで出来るだけ振り切るしかないよなあ』
直進スピードだけは、こっちも負けてない。
だが。
まっすぐ進むだけしか逃げる手段が無いというのは、やはり非常に分が悪い。
ビームライフルが、バズーカが、そしてミサイルが。
大きくて狙いやすい標的を、我先にとばかり狙ってくる。
後ろに向かって反撃するための武装はTR−2には無く、事実上ひっついているティエレンが反撃するしかない。
『追いつかれるっ!?』
ミスノが絶望の声を上げ、
『――くっそおおおおおおっ!!』
ケンヤが、悔しさに絶叫する――
その時。
14 :
GPB:2011/11/28(月) 23:57:35.44 ID:ckmi6Mb6
――バシュウウウウウッ!!
遠距離からの高出力ビームが、追跡する敵MS達の行方を遮った。
『――なんだっ!?』『新手かっ!?』
ビームの光跡を目で追い――
彼らは見た。
遥か彼方で輝く月を背に――
大きな翼を広げてそこに静止する、人型らしきMSのシルエットを。
その姿――まさに死を招く天使。
『――あ……あれはっ!?』
『まさか――ウイングゼ……』
驚きの声を上げるミスノとケンヤ。
思わずその姿から連想するMSの名前をケンヤの口から最後まで言わせる様な事はせず、
ブワッと大きく羽ばたいた謎のMSは、この空気の存在しない空間で、まるで風を孕む様にグルリと大きくロールすると、
こちらに向かって真っ直ぐに飛んできた。
見かけ上は、ゆるりと飛んでいる様に見えるが――
その速度、恐ろしく速い。
真正面から放たれる攻撃を、これも一見緩やかで大きな動きで回避し、
あっという間に、一機のリックドムの射程内に到達した。
『――このっ!?』
ジャイアントバズを構えて、今にも撃とうとした瞬間。
その左脇を、超高速で飛び抜けた。
その黒い重装甲の機体は、腹部で真っ二つになり――
やや遅れて、リックドムは爆発する。
『ああっ!?』『す……すげえ!?』
圧倒的な性能差に、ミスノとケンヤも言葉を失った。
そして、その爆発の輝きで――
そのMSの姿が露わになる。
機体全体を包み込めそうなほどに巨大な翼の中心になっていた機体は、全身が白い――が。
おそらく、ケンヤが言う様にウイングガンダムゼロカスタムの物らしき翼を有したその機体、
ガンダム……ではない。
15 :
GPB:2011/11/28(月) 23:58:34.58 ID:ckmi6Mb6
「ガンダムW」のMSの中では、全てのMSの起源と言われている。
プロトタイプリーオーとも呼ばれる、アフターコロニー世界でのMSの始祖だ。
それが、翼を持っている――と、言う事は。
『まさか――トールギス……ヘブンっ!?』
ケンヤの驚愕の叫びにミスノは、
『へっ……ヘブンっ!?』
訳のわからなさに絶句するしかない。
トールギスヘブン。
ガンダムWの外伝的小説「フローズン・ティアドロップ」に登場する、作品世界では五番機にあたるトールギスだ。
ついでに言えば作中には、TV本編に登場する事の無かった、トールギス始龍(シロン)も回想シーンで登場する。
「ケンヤ……大正解っ!」
その白い機体のコクピットで声を上げたのは、ユイトだ。
「……と言っても、設定画とか無いから想像で作るしかないんだけどね!」
バイザックの隣について速度を合わせる機体は、美しいの一言だった。
登場した経緯を考えて、ベースはトールギスV。
ユイトの勝手な考察では、
エンドレスワルツ最後の決戦の地・ルクセンブルグで、ツインバスターライフルの連続発射により自壊したウイングゼロの残った翼を、
密かに“火消しのプリベンター”が回収。
戦後火星に移住したゼクス・マーキスが、一緒に持ち込んだトールギスVの機体にこの翼を流用および調整。
それにより完成したのが、トールギスヘブンだろうという説だ。
もっとも、全貌が見えないのでほぼ妄想だが。
せめてイラストでもあれば良いが、現在の所、登場時に使った殲滅兵器の正体もわからない。
従って武装は――
右にVのメガキャノン。
左にVのシールド……は装着しているが、先端に付いている突起は、ヒートロッドとは少し違う。
だが。
あの文章で判断する限り、トールギスヘブンは一切武装してはいないはずだ。
翼が攻撃と防御を兼用しているのは間違いないだろうが、今のままでは再現のしようが無い。
従って、正確にはあの“トールギスヘブン”の、姿を写した贋物と言う事になる。
16 :
GPB:2011/11/28(月) 23:59:51.13 ID:ckmi6Mb6
「だから、これは正確には“ヘブン”じゃなくて……“飛天”って、ところかな?」
新作を披露できた嬉しさに、ユイトの声も弾んでいる。
“飛天”――東洋風の天使と言う事だ。
『まったく……いつの間に作ってたんだぁ?』
ケンヤは呆れ、
『ホントにキレイ……』
ミスノは見とれている。
「いや、全国大会のウイングカスタム作った時に、翼が丸々余っちゃってさ。それで、ちょうどトールギスVのキットも手に入ったから」
良く見ると、全体的にはトールギスVそのままの本体だが、フェイス部分だけはガンダム顔だ。
目元を覆うクリアカバー越しに、二つの輝く眼が見える。
ガンダム顔にしたのは、単なるこだわりだろう。
本体の、Vで青だった部分は、シルバーグレーに塗装され、全体の白を部分的に引き締めていた。
突進する為の推力を補う為か、両方の腰に、オリジナルの追加ブースターが装着されている。
これだけが少しだけ美観を損ねているが、不要になれば排除出来る様になっている。
「――じゃあ、後ろは任せてよ。早くここから出よう!」
そう言って、トールギス飛天は翼を羽ばたくように動かして後方を向いた。
左のシールド先端から、ズイっと長いブレードが飛び出す。
『わかった! ミスノ行くぞっ!!』
『ああっ! ユイト君の戦う姿〜!!』
ミスノはもっとトールギスの活躍を間近で見たいのだろう。
だが。
今はのんびりと見物と言う状況ではない。
「――さあっ! ここから先はボクが相手だ!!」
左のシールドから伸びるブレードを真正面に突き付け、ユイトのトールギス飛天は宣言した。
元より、殲滅戦は望んでいない。
あくまでも、ケンヤ達が暗礁宙域を抜けるまでの時間稼ぎだ。
『……あれっ? ミスノがいない???』
隕石の中を散々走り回った後に、ようやくユウリは気付いた。
ふと気付くと、後から追ってきていたはずの親友のMSの姿が見えない。
自分は労せずここまで抜けてきたので、ミスノがどれだけ苦労していたかに思い至っていなかったのだ。
『あっちゃー! ミスノを迷子にしちゃったか。しょうがないなああの子も』
実際には、自分の方が迷子に近いのだが。
それでも、走る速度は緩めない。
どこまでも、無限に続くかに思われるデブリ群の中を、ひたすら走りぬける。
17 :
GPB:2011/11/29(火) 00:01:00.73 ID:wJwT2JDM
その行く手に飛び出し立ちはだかるのは――MS−18E・ケンプファー。
「0080・ポケットの中の戦争」で初登場した、ジオン軍の試作MSだ。
両肩にバズーカを装着し、左腕には十基余りの機雷を繋げた“チェーンマイン”という武器を装備している。
その凶悪な武器で、獣を捕らえようとでも言うのか。
頭上でグルグルと投げ縄よろしく振り回すと、いきなり前に振り下ろしてきた。
『――おっとぉ! 知ってるわよぉその武器はっ!!』
横っ飛びに回避して、それが手元に戻るまでの間を見計らって突進を仕掛ける。
間に合わないと悟ったか、ケンプファーの方も左手の武器を投げ捨てて、二門のバズを構えた。
だが。
『それも間に合わないわよっ!』
MA形態のガイアが、背中に装備された二門のビームキャノンを迷う事無くぶっ放す。
腹部のコクピットにその攻撃をモロに食らい、青いMSは大爆発を起こした。
『――よっと!』
そこから宇宙空間に身を躍らせ、一瞬の内にMS形態へと転ずる。
作る方はまだまだ不得手だが、ユウリは確実に操縦の腕を上げている。
そして、兄のガンダムDVDコレクションで、出来る限り過去の作品を予習してきた。
だから、MSの名前はわからなくても、その形状と、搭載する武装は一通り頭に入っている。
相手がよほど特殊なカスタムでもしてこない限り、対応出来る自信がついていた。
原作を忠実にリスペクトしようとする相手ほど、ユウリにとってはやりやすい相手となるに違いない。
陸戦における優位性の向上を目指して開発されたとされるガイアガンダムだが、
その開発陣営は、元々宇宙を拠点とするザフト軍。
宇宙での戦闘も、充分に考慮されている。
右肩にマウントされたビームライフルを右手に持ち替え、油断無く構えた。
そこに襲い掛かるのは、やはり宇宙での主流か。
リックドム三機で編制されたチームが、フォーメーションを組んでやってくる。
こちらは原作と違い、主武装をジャイアントバズとしながらもサイドアームにザクマシンガンを装備している。
次々と撃ち込まれる砲弾を避けながら、たった一機でビームライフルを撃ちまくった。
機動性で勝るリックドムも、散開してそれを回避。
何度かの砲撃で砲弾が尽きると、今度はマシンガンを撃ってきた。
どちらかと言うと、強力だが避けるのは容易いバズーカに比べ、
威力は弱くても隙無く撃ち込まれるマシンガン攻撃の方がユウリは苦手だ。
バーニアとAMBACを併用して、雨の様に撃ち込まれる攻撃を回避し、
右手のライフルと、両肩から伸びるビームキャノンを正面に向け――
『――行っくわよぉ〜……当れぇっ!!』
ビウッ!
バフォッ!!
一斉に発射し、一機を仕留めた。
だが他の二機が、大きく散開して再び挟撃を仕掛けてくる。
『わわわわわっ!? これはヤバイわっ!!』
スラスターを吹かして離脱を図るが、いかにガイアガンダムと言えど、空間戦ではリックドムの方が上だ。
18 :
GPB:2011/11/29(火) 00:02:49.81 ID:wJwT2JDM
ヒートサーベルを抜き放って迫るリックドムに対抗して、ユウリの機体もビームサーベルを抜いた。
前と後ろから挟まれる形になるので、どちらにも同時に反撃とはいかない。
『ええ〜いっ! なるようになれっ!!』
一瞬だけ考えて、前から来る方に仕掛ける事に決めたユウリだったが――
後ろからも確実に攻撃は来る。
だが。
ゴアッ!
突然高速で接近して来た何かが、ガイアガンダムを後ろから斬り付けようとしていたリックドムを弾き飛ばす。
いや。
接触と同時に、縦に真っ二つに切り裂いていた。
ドゴァッ!!
その爆発に驚いたか、前から来るリックドムの動きが僅かに鈍る。
そんな動きの変化を、ユウリは見逃さない。
『――いただきっ!』
ビームサーベルを横に一閃。
ドドーン!
真っ二つに分断された黒いボディが、大爆発を起こして至近距離にいるガイアをも巻き込んだ。
その爆発の炎の中から――
黄色と黒のツートンボディが飛び出す。
ユウリの機体だ。
多少爆発の巻き添えは食ったが、自分のやった結果なので文句は言えない。
そして。
『やっぱり……師匠〜〜〜!』
ピンチを救ってくれたMSに振り向くと、情けない声を上げた。
『フッ……ソウミさん! 一人でも結構やる様になったじゃない!!』
声を上げるのは、クルカワ・アオイ。
そして今回の機体は――
夏の大会前にユイトのウイングゼロと死闘を繰り広げた、リーオーヘッドのトールギスだ。
あれからアオイは、この機体を“始龍”ならぬ“武龍(ウーロン)”と名付けている。
これを選んだと言う事は、今日はお遊び無しのガチバトル。
それというのも――
19 :
GPB:2011/11/29(火) 00:03:42.34 ID:wJwT2JDM
『あーあ。せっかくウエハラ君があのウイング持って来ると思って、これ持ってきたのになー』
どうやら対ウイングカスタムの為のチョイスだった様だ。
『リターンマッチじゃないけど、やっぱりアレに対抗しようと思ったら、この機体じゃないと』
そう言いながら、今リックドムを切り裂いたヒートロッドをプラプラと揺らす。
『師匠……新作じゃないんだ……』
店に入る前、みんなには新作を持って来たか聞いていた本人が、以前の作品を再登場させるとは。
『私だってねえ、それほど裕福な訳じゃないわよ。あなた達はお年玉とか、これから色々貰う機会あるじゃない?』
なんだかんだ言っても地方公務員。
食いっぱぐれは無いが、大儲けも望めないという微妙な職業だ。
『でも今日は、本気をビンビン感じます! 師匠っ!!』
『本気でやんないと、太刀打ち出来ないのよね。本当にエースになったわ、彼は』
身近で育った強敵に、嬉しそうな声を上げた。
『さあ弟子よ、みんなの所に案内せよ!』
合流を果たしたら、今度はユイトを相手に戦うつもりなのだろうか?
『はい師匠! こちらです!!』
その辺りをあまり深く考えない弟子は、進んで道案内を買って出る。
デブリ群に沿って、元来たルートを遡る様に進みだした二機。
程なく前方に見えたのは――
長大な砲身を備えた移動砲台ユニットに、その上に乗って右手のマシンガンを構えるピンクっぽい機体。
『ホシナ君……それに、マナサキさんも!?』
『――おっ? ソウミにアオイ先生か!?』
丁度暗礁宙域を抜けて来たところで、合流を果たす。
『ウエハラ君はどこよっ!?』
カメラアイ部分を点灯させて、トールギル武龍がいきり立つが、
『……あ〜、今日はその機体かあ。じゃあどうなのかなあ?』
ケンヤの声が、何故か冴えない。
『それってどういう意味?』
疑問を呈したアオイの言葉に、TR−2はその方向を転じて、
『百聞は一見にしかず。まあ、見て判断してくれよ』
『キレイな機体でしたよ〜!』
すでに間近で堪能したケンヤとミスノは、そうコメントしながら元来た先を示す。
示した先に、爆発の光が見えた。
そしてそこから飛び出したのは、白い殻で包まれた様な、一機のMS。
20 :
GPB:2011/11/29(火) 00:04:45.77 ID:wJwT2JDM
「――やっと抜けたっ!」
ユイトのトールギス飛天だ。
ハルートやウイングなどのいつもの機体ならば、デブリで狭められた限定空間でもそう苦労はしないが、
なんと言っても、真っ直ぐ飛んで一撃離脱戦法、と言うのが持ち味のこの機体。
やはり、広い場所の方がその力は発揮しやすい。
その特徴的な翼をバサリと広げ、その動きが生み出す反作用に機体を揺らしながら、ゆらりとその場に留まった。
『――なんじゃありゃあ〜〜〜〜っ!?』
いきなり叫んだのは、クルカワ・アオイだ。
『おお、その反応は予想外!』
ケンヤはその思わぬ反応に、どこか喜びを滲ませている。
『トールギスに……ウイングゼロの翼っ!?』
どうやら、さすがに小説までチェックの目が及んでなかったらしい。
自分が今乗っている機体も、同じ小説に出てきているが、アオイ本人はTV本編のヒイロ・ユイのセリフを手掛かりに作ったし、
今は仕事とガンプラ作りが忙しくて、アニメと漫画に目を通すだけで精一杯だ。
『――アレは……あの機体の強さは……ちゃんと検証しないといけないわねっ!!』
ゴアッ!
友軍登録しているにもかかわらず、訳の判らない事を呟いて、いきなりブースター全開で飛び出すトールギス武龍。
『――ああっ!?』『おお! やっぱり我慢できなくなったか!?』
突然の過剰反応に、ミスノとケンヤは驚きの声を上げた。
『ふふふっ……師匠の武人の血が……騒いだっ!?』
ユウリは、なんだか武術家の弟子っぽい事を呟くが――
クルカワ・アオイは、ただの中学英語教諭だ。
「さて敵は――って!?」
何気にユイトが呟いたところに。
思わぬ攻撃が迫る。
ドヒュンっ!
背後から放たれたドーバーガンの砲撃を、飛天が間一髪避けた。
その一撃は、精々呼び止める為に背中を軽く叩いたのだ、とでも言う様に――
接近しつつ武龍が振り上げたのは、左のヒートロッド。
大きく翼を動かして、クルリとその場でターンする様に回避行動を取ると、
その動きの延長で、飛天が左のブレードを下から跳ね上げる様に振るった。
今度はそれを、武龍の方が避ける番だ。
切っ先が触れるギリギリの位置で急停止し、機体全体でスウェーバックの様に後方に縦回転。
回転運動を維持したまま、素早く全体を後方に移動させた。
『――ふふん。私の知らない機体があるなんて、やるじゃないっ!?』
「期待は裏切らない……って、言ったでしょ? まさか知らないとは思わなかったけど!!」
本人達でさえも予想だにしなかった、まさかのトールギス対決。
ただでさえウイング系のMSはエントリーが少ないのに、ここでバッタリ鉢合わせだ。
仲間内同士ではあったが。
21 :
GPB:2011/11/29(火) 00:05:39.49 ID:ckmi6Mb6
『そうね! オッケー、じゃあ今日はトコトン戦りましょうか!!』
アオイはもう他のMSはそっちのけで、仲間内同士の頂上決戦に挑むつもりだ。
「……それで良いのかなあ? でも、このまま許してくれそうも無いしね」
ユイトも渋々応じながら、言葉の端では嬉しさを覗かせる。
息が合うのか、飛び退くタイミングも同時。
そこから武龍のドーバーガンの一撃を上に飛び退いて、飛天がメガキャノンを撃ち込む。
それを回避しつつ距離を詰めると、間合いに入るタイミングに合わせて、振り被られたヒートロッドが唸った。
その一閃が首を捕らえようとした瞬間。
フレキシブルな無数に連なる刃が巻き付いたのは、長いブレードだ。
『ふふん。せっかく同じ武器が付いてるのに、ワザワザただの刃物にしちゃったの? わかんないわね』
「――先生らしくないなあ。見た目だけで判断するのは……間違いだよっ!」
ユイトの言葉と共に、
トールギス飛天の左シールドから伸びるブレードが、
バラリと解けた。
『その剣――まさかっ!?』
斬れ味抜群の小さなブレードが幾つも集まって、一振りの剣を形成している。
これは――蛇腹剣。
左腕の動きで、仕返しとばかりに巻き付き返した。
今、二機のタイプ違いのトールギスが、宇宙空間で互いの左腕を拘束し合いながらその場をグルグルと回っている。
どちらが主導権を握っているのかは、この後の展開次第だが。
『つまり……ヒートロッドの機能を残しつつ、斬撃力を追求した……って、事!?』
「まあ、そう言う事。一応半端なカスタムはしていないつもり――ですよっ!」
言い終わると同時に動いたのは飛天の方だ。
手元にグイッと引き寄せ、同時にシールドから抜いたビームサーベルを振り被る。
それに対して武龍の方も、ビームサーベルでその攻撃を受け止めた。
互いに引っ張り合う事で、双方のシールドから伸びる武装が、ギリギリと音を立てた。
だが。
「わかってるよね、先生? このまま無理すれば、どっちが壊れるか」
『そうね……悔しいけど、その点に関しては私の負けね!』
武龍が引く力を抜くのに合わせて、飛天も左腕の力を緩める。
互いに巻き付き合った武装は、双方が後ろに飛び退いた事で完全に離れる。
22 :
GPB:2011/11/29(火) 00:06:31.68 ID:wJwT2JDM
一振りで、蛇腹の状態から一振りの刃へと復帰する飛天のブレード。
『それ、ボールチェーンで繋いでるんだもの。さすがにROBOT魂から流用したヒートロッドでも負けちゃうわよね』
「耐久性を追及したんだ。それに、それだけじゃなくて――」
伸びたままのブレードはそのままの形状で射出され、
さらに、その後ろからも蛇腹刃が続々と出てきた。
それらがさらに繋がって――
最終的には、刃渡りだけで右のメガキャノンの全長に匹敵する長さになった。
『自在に間合いも変化する……フレキシブルブレードってところ……か』
「出し惜しみしてもしょうがない。先生には、全てを見せた上で全力でぶつからないと!」
前方への突進と共に跳ね上がる左の凶刃を、武龍が後方に移動して紙一重で避けた。
その刃、真っ赤に加熱している。
動きは止まらず、さらに一歩踏み込んで振り下ろされる刃を、下への移動で避けた。
『その攻撃……防げるとわかってても食らいたく無いわね!』
苦々しい言葉を吐くが、どこか嬉しさも帯びている。
「珍しい――いつも正面から受け止めるのが、先生の流儀だと思ってた……よっ!」
今度は上から迫りつつ、真っ直ぐに突き。
ユイトも、容赦はしない。
手加減されるのが、アオイが一番嫌う事だと判っているからだ。
『そうねっ! 判ってるんだけど、意外とやりづらいわ同じ機体同士の戦いって!!』
今度は肩口で、機体表面で相手の刃を摺らせる様に。
まさにギリギリの避け方で決定打を逸らしながら、間合いを詰める飛天の頭部に向かってドーバーガンの砲口を向けた。
その射程――ほぼゼロ距離。
『接近戦で分が悪いなら――砲撃戦しかないじゃない!』
「ちょっ――これ立派な接近戦ですって!!」
バオッ!
至近距離からの砲撃を、ユイトの機体もギリギリで避ける。
少しだけ頭部左側面を持っていかれたが、内部の可動部まで影響は無い。
だが、二つのカメラアイを保護していたクリアパーツが砕けて、左半分だけガンダムフェイスが露わになる。
『――チッ! 勘の良い子っ!!』
「――おわっと!?」
すかさず放たれた武龍の左正面蹴りを、飛天の右主翼が、まさに攻防一体のアーマーとしての機能を発揮させて防いだ。
その衝突の反作用で、再び二機の間合いが離れる。
23 :
GPB:2011/11/29(火) 00:07:24.40 ID:wJwT2JDM
「ズルイな先生……ボクは先生の事、蹴ったり出来ないじゃないか」
言いながらユイトがニヤリと笑みを浮かべると、
『別に良いわよぉ。こんな場で教師だ生徒だってのも無粋だしね。無礼講よ!』
アオイは、なんて事も無いと言う様に応じる。
再び衝突しようと二機のトールギスが突進を開始しようとした――その瞬間。
パビュビュビュビュビュッ!
小さいが、土砂降りの雨の様に激しいビーム砲火が、飛天と武龍の間に次々と降り注ぐ。
『――なにっ!? 邪魔な奴ねっ!!』
「ビーム攻撃――こんな時に一体誰がっ!?」
二機のトールギスが見上げた先に佇んでいたのは――白く美しいフォルムの、一機のMS。
『あれは……キュベレイ? でもなんで!?』
「あれは……あの機体は確か……?」
今、ユイト達の戦いに割って入る様に攻撃を仕掛けて来ていたファンネルは、
まるで主の命に従う従僕の様に、グルリとキュベレイを取り囲み、円の外にその砲口を向けてゆっくりと回る。
間違いない。
ユイトの記憶に残っている。
これはあの、つい先日音楽PVで観た、あの歌って踊るキュベレイだ。
そしてパイロットの名前は確か――シノザワ・マイナ。
それが何故、こんなW地区限定のバトルロイヤルのフィールドに?
その突然の登場に驚いていたのは、ユイト達だけでは無い。
今、この戦場で戦闘を繰り広げているすべてのMSが。
その手を、動きを止めて、このMSに見入っている。
そしてみんなが、戸惑っていた。
突然降って湧いた、この事態に。
おわり
24 :
GPB:2011/11/29(火) 00:10:29.63 ID:wJwT2JDM
投下終了。
お楽しみいただければと思います。
今回、ミスノの恋バナを先に進めるために、これ以上無い程の強力な新兵器を投入してしまいましたが。
この先どうなるのか。
結構作者的にも不安です。
でわ〜☆
・・・くだらない
シーマ様救済のSSがあると聞いて
>>24 投下乙。
…………そうきたかW
これで進めるって事は、三角関係的なことなのか? 三角関係、歌とくれば、あとはサーカスが揃えば
……いや、揃っちゃダメだなW
結論とまではいかなくても、ミスノが多少なりと報われればと思います。
>>26 やってるけど、まだ一話しか書けてない。シーマ様は二話から。
二話も半分くらい書けてるから、もうちょい
救済できてるかどうかは微妙だけど、見せ場は超有る
NTに覚醒したコッセルがリリー・マルレーンで無双する展開に期待
役に立つかどうかは分からないけど、シーマ様は処女という設定があるそうです
>>27 感想ありがとう。
まあ、歌がどうとかやった時点で、あの作品が引き合いに出されることは必然だったんだけどねw
ただ、こういう形にしようと思ったのは、完全に無関係だね。
ただ、むしろMSに乗って歌うってところに食いつくかと思ってたので、そこは少し予想外。
元々話の始まりがミスノの事からだし、良い形で決着は付けねばと思ってますよ。
まあ、GPBにおいては、明確なヒロインっちゅー奴が設定されて無かったりする訳ですが。
あと、自分を追い込む話として。
今回の作者的ノルマは、「最低一話一曲」
でわ。
>>28 ねーよw コッセルは出すけど
やるとしても中年の底力パワーとかだろw
>>29 ありがとう。頂きました。使いどころ無さそうだけどw
>>30 了解。期待しつつ待ちます
……で、何かやる気出たので二話書き終わりました。
とりあえず書けたところまで投下していいのかな?
あんまり待たせるのも悪いし
>>31 あれ? 投下されてない?
待ってる人もいますから、やっちゃってくださいよ。
了解。じゃあぱっとやっちゃいます
宇宙世紀0079。スペースコロニー・サイド3はジオン公国を名乗り、地球連邦政府に対し宣戦を布告した。
同年1月15日、ドズル・ザビ中将率いる公国軍機動艦隊がサイド5に侵攻。地球連邦軍はこれに対しレビル中将率いる第一連合艦隊を差し向け、後に言
う『ルウム戦役』の戦端がここに開かれる。
数で勝る連邦艦隊に対し、公国軍は『新兵器』を投入し対抗。必勝を期して人類史上初の宇宙艦隊決戦に臨む。
しかし、その『新兵器』の存在は、すでに連邦軍に察知されていた――
*
公国軍の新兵器は『二つ』存在した。
一つは、結果としてそれまでの宇宙戦闘の定型を根本から覆した20メートル級汎用人型機動兵器『モビルスーツ』。そしてもう一つは全長230メート
ル超の超大型核融合プラズマ・ビーム砲『ヨルムンガンド』である。
公国軍側が企図していたルウム戦役のシナリオは、作戦としては至ってシンプルなものだった。まずはセオリー通り艦隊同士による砲雷撃戦から始めるが、
数で劣るこの戦は捨てる。多少の損害には目を瞑る。第一フェイズであるこの艦隊戦の最大の目的は、敵艦を沈めることではなく、敵艦の弾薬、推進剤を使
い切らせることである。それによってこの後のMSによる敵艦攻撃の際の弾幕を薄くしてMS部隊の負担を減らすことができ、また初弾以降にヨルムンガン
ドの存在を認識した敵艦に、それでも満足な回避行動を取らせず安定した命中率及び戦果を確保することができるのである。
35 :
創る名無しに見る名無し:2011/12/02(金) 00:13:15.64 ID:r7WWcKfU
よって公国軍艦隊は防御を捨てる。敵艦隊の眼前まで踏み込み、一歩も引かずに零距離砲戦を挑む。連邦軍は田舎の猪武者が飛び込んできたと、戦果を挙
げるべくこれまた一歩も引かずに応戦するだろう。目の前に的がいるのに撃たない馬鹿はいない。政治的状況から考えても、ここで敵が消極策を取ることは
あり得ない。地球にコロニーを落とされた連邦軍に求められているのは、クレバーな判定勝利ではなく、痛快なる完全撃砕なのだ。敵は必ずこの誘いに乗る。
充分な『戦果』を挙げたと判断したら、公国軍艦隊は一旦引いて陣形を立て直す。敵がそれを見てさらに止めを打とうと踏み込んでくるか、その場に留ま
ってクールダウンを入れようとするかは分からない。
それは別に、どちらでもいい。
本当の地獄は、そこから始まるのだ。
そして実際に、歴史はそう推移した。連邦軍第一連合艦隊は公国軍のそれに勝る圧倒的大打撃を受けて壊滅し、艦隊司令のレビル中将までもが捕虜に取ら
れ、完全に戦線は瓦解した。
――ただし。
36 :
創る名無しに見る名無し:2011/12/02(金) 00:15:03.73 ID:r7WWcKfU
1月15日、2156時。
ヴィロード・カミヤ伍長の所属する公国軍機動艦隊所属第11MS小隊は、定刻4分前に目標のルウムN3宙域に到着した。「見えたぞ。あ
れだ」隊長のジェシー・リン少尉から通信が入る。
まだ点のようにしか見えなかったが、ヴィロードにも『それ』は視認できた。ヴィロード達小隊の今日の作戦の要、ひいてはこれから始まる
大決戦の趨勢を決する船。試験支援艦ヨーツンヘイム。巨大な二つのカーゴ・ベイに主となる船体が小さくなって挟まれている、といった風情
の輸送艦であり、全体に暗緑色系の迷彩塗装が施されている。宇宙空間でははっきり言って無意味な迷彩だ。それでもあえてそれを施している
のは、それによってこの船の『役目』を明確にしようという意図なのだろう。
そして、そのヨーツンヘイムの傍らに浮かんでいる、ヨーツンヘイムと同じくらいの全長を有する長大な――「…あれが」
「あれが、砲だっていうんですか?」
「らしいな」
「発射の余波で、僕達まで吹っ飛ばされませんかね」
「砲自体は反動を殺すように設計されてるらしいが――考えてみりゃ、そりゃ砲手に対しての話だよな。超高出力のビームは、掠めただけでも
宇宙戦艦に充分な損傷を与えられる。俺達の木っ端ザクなんかひとたまりも無えな。唐揚げにされるか、吹っ飛ばされて宇宙の藻屑と消えるか、
だな」
「帰っていいすか、隊長」
「駄目だ。こいつと母艦のヨーツンヘイムを護衛するのが今日の俺達の任務だ。唐揚げにされても持ち場を離れるな。吹っ飛ばされたら戻って
来い」
「きつい仕事だぜ」
「唐揚げにされたら労災下りますよ、軍曹殿」
「付け合せにポテトサラダでもつけてくれんのか、ああ?」
37 :
創る名無しに見る名無し:2011/12/02(金) 00:16:27.95 ID:r7WWcKfU
軽口を叩きながら、三機のMS‐06Cザクで構成されるリン小隊はヨーツンヘイムに接近した。2158時。隊長のジェシーが通信回線を
開く。
「こちら機動艦隊第11MS小隊、隊長のジェシー・リン少尉だ。定刻通り、本日2200時より貴艦及び艦隊決戦砲の護衛任務に就く。よろ
しく頼む」
「ヨーツンヘイムより第11MS小隊へ。艦長のマルティン・プロホノウだ。本艦及び決戦兵器は近接した敵に対しての防空能力を備えておら
ん。我らの命運、貴官ら小隊に預けようと思う。貴官らの健闘に期待する」
「了解です、艦長。最善を尽くします」
リン少尉のザクは脚を大きく振って逆さまになり、バックパックを再噴射してその場に静止した。眼下には細部まで視認できるようになった
ヨーツンヘイムとヨルムンガンドがある。「リン小隊、−《ライン》隊形! 二番機は右翼、三番機は左翼を警戒! 俺がセンターで指揮を執
る!」
「「了解!」」
二機から同時に応答があり、二機のザクがリン機の両翼に、先程のリン機と全く同じ挙動で静止した。さらにAMBACで各機が90度旋回
し、左右を警戒する。「…始まりますね」ヴィロードが呟く。
「さすがに緊張するか?」
「そりゃあ、正直。初飛行でなくてよかったですけど、まさか初陣が、こんな大規模な艦隊決戦になるなんて――」
38 :
創る名無しに見る名無し:2011/12/02(金) 00:18:00.18 ID:r7WWcKfU
「分からんではないな。俺も正直、不謹慎だが、ちょっとわくわくしてる。何しろ人類初の宇宙での艦隊決戦だからな。命のやり取り、戦争を
してるって自覚はあるつもりだが――何が起こるか、興味深い一戦だと思う」
「しかし、その暢気な台詞が出てくるのも、要は俺達が『居残り組』だからでしょう。あーあ、俺も前線で派手に暴れたかったぜ」
軍曹のぼやきに、ヴィロードは口を引き結んだ。――他のMS小隊は作戦の第2フェイズで、勇躍敵陣に突入して敵艦隊を撃滅する手筈にな
っている。対艦攻撃シミュレーションにはヴィロード達も何度も参加した。やれる。自信ではなく、事実としてそう思った。このMSという兵
器にはそれだけの能力がある。第2フェイズの艦隊攻撃は必ずや成功するだろう。第1フェイズはその成功率を高めるための準備砲撃でしかな
い。
居残り組にされた、とは思いたくなかった。隊長のジェシー・リン少尉、ナンバー2のゼン・カストラ軍曹、そして自分。確かにシャア・ア
ズナブルやランバ・ラルなどという連中と比べられると何も言えないが、自分の目で見た二人の実力が、他のパイロットと比べて明らかに劣っ
ているとは思わない。しいて言うなら――ヴィロード自身はMSでの飛行経験もそれほど無く、実戦もこれが初めてだ。しかしそれでも、この
二人の指導に歯を食い縛ってついてきたという自負はある。
単に役割分担の問題だ、と思う。このヨーツンヘイムとヨルムンガンドもまた、この決戦の一翼を担うものだ。第1フェイズに味方艦隊より
送られてきた敵艦隊の座標データを元に最終照準調整を行い、第2フェイズ開始と同時に砲撃する。弾速の速いビームの方がMSより先に敵艦
隊へ到達し、第一射で泡を食った敵にMS部隊が襲い掛かるという段取りだ。しかし万一、敵が事前にそれを察知しないとも限らない。その時
のために自分達がいるのだ、と思う。確かに重要な役回りではないが、かといって無くてもいい役目とは思わない。むしろ誰かがやらなければ
ならない。ヴィロードはそう思っていた。
「同感です」
でも、同感だった。
同感なんて暢気な口を利けるのは、『それ』がやって来るまでだった。
39 :
創る名無しに見る名無し:2011/12/02(金) 00:19:25.66 ID:r7WWcKfU
2214時。
それまで星の瞬きしか見えなかった虚空に、ちかちかと明滅する光が生まれ始めた。光と光の間で行き交う細い光条――火線。「始まった…
!」
「隊長! 僕らは」
「騒ぐな! 俺達は何もしない。全機現ポイントを死守。何かするのは下にいる蛇だ」
「第一、ここからじゃどの道前線からの座標データが無いと当たりゃしねえ。まだ俺達の出番じゃねえよ、ヴィロード」
「…しかし、皆は戦っています…!」
「はいはい。いい子だから静かにしてな、坊や」
それきり、会話は止まった。作戦中に余計な私語をする馬鹿はいない。静寂と緊張を孕みながら、刻一刻と時は過ぎていく。
――2245時。「遅い…!」
「…確かに遅えな。ヨルムンガンドの攻撃はMSの出撃に先行するはずだ。そろそろ第一射を仕掛けてもいい時間だ」
「問題発生、ですかね」
「…聞いてみるか」
リン機がヨーツンヘイムに回線を開く。「リン小隊一番機よりヨーツンヘイム。状況を確認したい。本隊からの最終攻撃指令はまだか?」
応答まで、しばらく間があった。
「――こちらヨーツンヘイム。当方も現在状況を確認中。本隊からの座標測距データが来ない。リン小隊は現状を維持されたし」
40 :
創る名無しに見る名無し:2011/12/02(金) 00:20:58.44 ID:r7WWcKfU
答える声の後ろで、まだか、とどなる男の声が聞こえた。どうやら艦内もだいぶ慌てているらしい。「…データが来ない…?」
「本隊の馬鹿がデータ送んのを忘れてるか、あるいは、作戦変更か――」
「変更なら通達があるはずです。やはり何かのトラブルじゃ」
「…本隊は苦戦するのも覚悟の上のはずだ。押され気味だったんで送信できませんでした、じゃあるまい。別の理由があると思えるが――」
「うわ!?」
ヴィロードは思わず声を上げた。「どうしたヴィロード!」「三番機、状況を伝えろ! 敵か!?」二人から続けざまに通信が飛ぶ。「い、
いえ大丈夫です。敵襲ではありません」言いながら、ヴィロードは正面に向き直った。接触状態ならこちらの声は伝わるはずだ。そのまま声を
上げた。
「何やってんだお前! 作戦行動中だ! 離脱してヨーツンヘイムへ退避しろ!」
ノーマルスーツの人影が一つ、ザクの目の前――つまりメインカメラに張り付いていた。
「申し訳無い! 私は第603技術試験中隊、オリヴァー・マイ技術中尉だ! そちらの官姓名を教えてもらいたい!」
それ以前に何の用か、と思ったが、中尉――上官の言う事では仕方が無い。「機動艦隊第11MS小隊三番機、ヴィロード・カミヤ伍長であ
ります!」
「カミヤ伍長、仕事の邪魔をして申し訳無い。本官及びヨルムンガンドの任務を遂行するため、貴官の助力を請いたい」
「…助力?」
41 :
創る名無しに見る名無し:2011/12/02(金) 00:22:49.74 ID:r7WWcKfU
「現在ヨルムンガンドは、敵艦隊の精確な座標データが届かないために、攻撃が出来ない状態だ。このままでは戦局に何の貢献もできずに終わ
ってしまう。砲術長はここからの観測データのみで撃つと言っている。時間が無い。残る方法は一つ――誰かが前線まで行って、敵座標を特定
するしかない」
――中尉の言わんとしている事を理解するのに、しばらく時間が必要だった。「…つまり」
「僕のザクを、ターゲット・スコープにしようってんですか?」
「そういうことになる。私と一緒に前線まで行って、座標データ収集に協力して欲しい」
「…本気かよ、そんな作戦…」
「本気だと示すために、私がノーマルスーツでここまで来た」
「しかし、それは本来の作戦とは」
「いや、行けヴィロード。もう時間が無い」
二人の会話に、リン少尉が割り込んだ。「隊長、ですが」「時計を見ろ。時間だ」言われて時計を見た。2300時。第2フェイズ開始時刻。
「艦隊も引き揚げ始めている。MS部隊もじきに発進するだろう。支援砲撃をかけるなら今しかない。行ってこい。このまま観客で終わりたく
なければな」
「しかし、もし作戦変更だとしたら、こちらの判断で砲撃をかけるのは」
「だからそれも行って聞いてこい。目の前まで行ってまともな答えが聞けなければこっちで勝手にやるさ。それで何か言われても結局責任を取
るのは本隊の総司令だ。俺らの知ったことじゃないさ」
…いざとなったら、ドズル・ザビ中将に責任をふっかけてこいと言うのか。「いや、それはさすがに――」
「という解釈でよければ、当小隊の要員をお貸ししますが、いかがですかな? 中尉殿」
42 :
創る名無しに見る名無し:2011/12/02(金) 00:24:29.36 ID:r7WWcKfU
唐突に話を振られたマイ中尉は、しかし逡巡するのも一瞬、すぐさま答えを返した。「感謝します、リン少尉。カミヤ伍長は必ずや無事にお
返しします」
「それは伍長本人の責任と思いますが、結構でしょう。――というわけでヴィロード、作戦変更だ。貴様は直ちに現戦域を離脱、以後はマイ技
術中尉の指揮下に入れ。折角の初陣だ。こんなところでくすぶってないで、一丁前に出て皆さんのお役に立ってこい」
「そうだぜヴィロード。行って来いよ。ここは俺達が守ってやる」
「…」
ヴィロードはため息を一つ吐き、コクピット・ハッチを開いた。中尉のノーマルスーツが滑り込んでくる。「僕の運転は隊長ほど上手くあり
ませんよ」「覚悟の上だ」またしても即答。どうやら本当に本気らしい。
「確認ですけど、ヨーツンヘイムに許可は取ったんでしょうね」
「勿論だ。急ごう。ぐずぐずしてると砲術長のダミ声が飛んで来るぞ」
「…これも、誰かがやらなきゃいけない事、か」
呟き、正面を見据えた。漆黒の宇宙《そら》。その向こうに小さな星のように、無数の光が明滅する。「隊長、行ってきます」「自衛目的を
超える戦闘行為は許可しない。必ず原隊へ復帰せよ。以上」
無理はするな。必ず帰って来い。
「了解。――ヴィロード・カミヤ、行きます!」
宣言し、スロットルを押し込んだ。周囲の星が流星となり、ザクの加速を伝える。「ぐっ――速い…!」後ろでマイ中尉が呟いた。
「最大戦速で行きます。身体をどこかに固定してください」
「りょ、了解!」
一瞬どもったが、またしても即答だった。技術屋さんにしては肝が据わっている。小さく笑い、ヴィロードはさらに加速した。
警告音が耳に届いたのは、その瞬間だった。「え?」
43 :
創る名無しに見る名無し:2011/12/02(金) 00:25:52.25 ID:r7WWcKfU
そして、その意味を認識するより速く、ヴィロードの目は正面から飛来した『それ』を捉えた。「な!?」一瞬で通り過ぎる。凄まじいスピ
ードですれ違った。AMBACで宙返りし、減速する。
「今のは!?」
「どうした伍長! どうして止まるんだ!」
マイ中尉には見えなかったらしい。無理も無い。パイロットの目でも影を追うのがやっとの相対速度だった。集中もしていない内勤の中尉に
見えるとは思わない。
しかし、あれは、確かに――
「二番機、撃て!」
「しかし、ありゃMSですぜ!」
「しかし敵だ! 状況を認識しろ! 母艦と決戦砲を護れ!」
「畜生――何だってんだテメエはコラァァァ!」
隊長と軍曹の怒号。かろうじて聞こえたのはそれだけだった。ヨーツンヘイムの声はミノフスキー粒子の影響で届かない。しかし状況を把握
するには充分だった。
あれは、確かに、『MS』だった。「中尉、後退します」
「ま、待て! しかし我々は!」
「砲がやられちゃ意味無いでしょう! 敵が来ているんです!」
「そんな――あり得ない! 主戦場からどれだけ距離があると思ってるんだ!? どう考えても捕捉されるはずが無い! しかも砲撃を始める
前にだと…!?」
議論の時間が勿体無かった。ヴィロードはスロットルを押し込み、もと来た航路を最大戦速で引き返す。一度止んでいた警報が再び鳴り始め
た。会敵《エンゲージ》。照星が先に敵を捕捉し、やがてヴィロードの目にも見えた。二機のザクから十字砲火を受け、しかし凄まじいスピー
ドでそれを回避するMS。「白い…?」思わず呟いた。そのMSは、目にも眩しい白亜のカラーリングが施されていた。白いMS。
44 :
創る名無しに見る名無し:2011/12/02(金) 00:27:32.19 ID:r7WWcKfU
「ご親切なMSだな!」
トリガーを引いた。ザク・マシンガンから放たれた火線が白いMSに襲い掛かる。タイミングも完璧。隊長と軍曹の銃撃をかわし、速度がわ
ずかに落ちた瞬間を狙った。命中。ありったけの弾をフルオートで敵の白い躯に叩き込みながら、ヴィロードはそのMSとすれ違った。「イヤ
ッホー!」撃破を確信し、快哉を挙げる。
「ヴィロード! チェック・シックス! ユニフォーム!」
後方に注意。回避せよ。「え!?」
反射的に機を側転させた瞬間、凄まじい衝撃がコクピットを襲った。「ぐああああっ!?」「馬鹿な!?」マイ中尉の悲鳴と、ヴィロードの
驚愕の声と、一斉に鳴り出した警報音が重なった。被弾。機体温度危険域。計器動作に異常発生。右腕部及び脚部信号途絶。メイン・ウェポン
信号途絶。プロペラント・タンクに損傷発生。爆発の危険あり。直ちにエンジンをカットせよ。「そんな――どこを、どこをやられたんだ!?」
警告の意味は理解できても、ヴィロードの意識は追いついていなかった。右腕と脚を持っていかれた。それも一撃で。計器や機関部にまで異常
が発生している。戦艦の主砲でも食らわなければあり得ない。
ヴィロードは残った腕を振ってザクを反転させた。「うわ――!?」瞬間、光がヴィロードの網膜を焼く。ビーム。嘘だ。叫んだ。自分の見
たものが信じられない。光が奔る一瞬前、白いMSが手にしたライフルをこちらに向けるのが見えた。
ビーム砲を装備した、MS――!
45 :
創る名無しに見る名無し:2011/12/02(金) 00:29:02.33 ID:r7WWcKfU
「あり得ねえ――! 隊長、何ですアイツは! まさか連邦軍ってんじゃないでしょうね!」
「そんなわけあるか! 連邦がMSだと――ビーム・ライフルを装備しているだと!? 冗談じゃない! そんなことがあってたまるか!」
叫び、リン機がヒート・ホークを装備した。片手でマシンガンを撃ちながら白いMSに接近する。「隊長! 無茶です!」思わず叫んだ。し
かし応答は無い。通信機までやられたらしい。白いMSが火線をかわし、予測したようにその位置へリン機が飛び込み、斬りかかった。白いM
Sは片手でその腕を掴んで押し留める。
「隊長、止せ! 無茶だ!」
「いや、こうだ! こいつにはマシンガンは効かない! しかもビーム砲を装備しているとすれば、射撃戦でこちらに勝ち目は無い! 回りこ
めゼン! 俺が押さえている間に」
そこまでだった。リン機が真っ二つになり、爆発する。爆光は一瞬で消え、白いMSが現れた。「何だよ、あれ…」ヴィロードは思わず呟い
た。白いMSはビーム・ライフルを腰のラックにマウントし、それを持っていた右手に細い光の束を握っていた。よく見ると、その手にグリッ
プを握りこんでいるのが見える。大昔のSF映画でしか見たことの無い、光の剣――。
「ち――畜生ォォォォ!」
ゼン軍曹が叫ぶ。白いMSは左腕に持っていたリン機の腕の残骸を放り棄て、その手にビーム・ライフルを構えた。殺意を乗せた光が宇宙を
照らす。ゼンは全速機動でそれをかわし、そのまま白いMSの死角へ回り込もうとする。白いMSはそれを追尾し、即座に背後を取った。白い
MSが再びライフルを構えた瞬間、ゼン機は宙返りしてその場で減速する。フルオート斉射。白いMSの腕が跳ね上がり、ビームは明後日の方
向へ発射された。そのままの速度で接近する敵に、ゼンはヒート・ホークを抜き放つ。「殺ったああああ!」二機の距離が零になり、ゼン機が
ヒート・ホークを振り抜き、
46 :
創る名無しに見る名無し:2011/12/02(金) 00:31:38.04 ID:r7WWcKfU
「!!」
白いMSは回し蹴りの要領でゼン機に左脚の踵を食らわせた。きりもみしながら吹っ飛ぶゼン機にビームを撃ち込む。二機目のザクが火球と
なり、それを背にして白いMSは振り返り、ビーム・ライフルを下に向けて構えた。
ヨルムンガンド。「止せ――止めろ! 有人管制なんだ! 人が乗っているんだぞ!」
一際大きな爆光が、ヨルムンガンドから上がった。「――」
「うう――な、何が起きた…?」
後ろで声が上がり、マイ中尉がシートの後ろから身を乗り出す。「!? 駄目だ中尉、見ない方がいい!」
ヴィロードが叫んだ時にはもう、中尉はその光を見てしまっていた。「――馬鹿な――」
「ヨルムンガンドが――我々の決戦兵器が――!」
「くっ…!」
ヴィロードは憎悪を込めた眼で、白いMSを睨んだ。一人なら、たとえ半壊のザクでも、一命を賭してでもあいつに一矢を報いたい。でも、
中尉がいた。彼まで付き合わせるわけにはいかない。
無理はするな。必ず帰って来い。「クソッ…!」
「隊長……畜生……!」
拳を壁に叩きつける。
それしか、できなかった。
47 :
創る名無しに見る名無し:2011/12/02(金) 00:33:01.71 ID:r7WWcKfU
ヨルムンガンドを破壊し、往多翼は息を整えた。護衛がいるとは予想外だった。いないはずなのに。自分の存在が徐々に確定されていた歴史
に干渉し始めたのかも知れない。しかしそれは自分の存在がこちらの世界に同化を始めているということだ。タイムスリップの場合と同じだ。
もたもたしていると修正が効かなくなり、完全に『揺り戻し』が終われば自分はこの世界の時間軸に組み込まれ、元の世界には戻れない。
――という二流SF的な解釈も出来るし、単にこのガンダムの存在がジオンに知られた結果、護衛が配備されたというもう少し現実的な解釈
も出来る。
「どっちでもいいけどな」
呟いた。元の世界へ戻る方法が見つからない以上、無駄な考察だ。ガンダムを正面に向き直らせる。試験支援艦ヨーツンヘイム。ミッション
もいよいよ大詰めだ。ビーム・ライフルの照準を合わせ、回線を開く。「ジオン公国軍機動艦隊所属、試験支援艦ヨーツンヘイムに告ぐ」
「貴艦に交戦能力が無いのは分かっている。よって降伏を宣言して頂く必要は無い。こちらの要求を伝える。貴艦が今回従事していた作戦の責
任者を引き渡せ。その一人を引き渡せば、当方は直ちにこの宙域より撤収する。残りの乗員の安全は保証する」
返答はすぐには無かった。おそらく相当に混乱しているだろう。何しろ正体不明の敵に、いきなり自分の所属から艦名まで言い当てられたの
だから。
「――こちら、ヨーツンヘイム」
しばらくしてから答えたのは、渋みがかった老人の声だった。
「艦長のマルティン・プロホノウだ。本艦の責任者というと、私ということになる。私が投降すれば、艦の安全は保証するというのか?」
「保証する」
48 :
創る名無しに見る名無し:2011/12/02(金) 00:34:20.76 ID:r7WWcKfU
「問答無用で仕掛けてきた敵に言われても信用はできん。すでに我々は仲間を君に殺されている」
「信用して欲しいとは思わない。要求に従わないなら、艦を撃沈して生き残りを連れて帰る。全員を危険に曝して決死の反撃を挑むのが貴方に
とって最善の選択なら、好きにすればいい」
「目的は何だ? 何故責任者の身柄を欲するのだ?」
「それは俺の事情だ。教える義理は無い。――ただし、それを教えれば貴方が投降することを確約するというのなら、その限りではない」
返答まで、しばらく間があった。翼は何も言わずに待った。答えは分かっている。相手にはこのガンダムに抗し得る武装も、頼むべき援護も
いない。本隊は遥か前線だ。「分かった」
「投降しよう。今からそちらへ向かう」
「しかし、艦長!」
「もういい、特務大尉。確かに打つ手は無い。――我々は、負けたのだ」
女の声をやんわりと制し、その後「ノーマルスーツでそちらへ向かう。受け入れ準備を頼む」と艦長は続けた。翼は「了解」とだけ応えた。
やがてヨーツンヘイムから星よりも小さな光が飛び出した。カメラを拡大する。緊急用の発炎筒《ペンライト》を持ったノーマルスーツ。背中
に背負ったバーニアを噴かして向かってくるそれを、翼はガンダムの手で掴み取った。「――コクピットには、入れてくれんのかな?」相手の
声が聞こえるようになる。
49 :
創る名無しに見る名無し:2011/12/02(金) 00:35:45.23 ID:r7WWcKfU
「当たり前だ。貴方が自爆しないとも限らない。しばらく我慢してもらうぞ」
「君は、連邦軍なのか?」
違う、と叫びたかった。あんな奴等と一緒にするな。俺は戦争なんかを仕事にはしないし、する気も無い。
――でも、言えなかった。言ったところで無意味だった。何も変わりはしない。
「そうだ」
「…ジオンは、意外と早く負けるかも知れんな。秘密兵器であるMSが、すでに連邦にコピーされているとは。しかも、我々が持たないMSサ
イズのビーム砲まで搭載しているとあっては…」
それも違う。連邦はまだMSを持ってはいない。少なくともこれから半年の間は、公国軍は破竹の快進撃を続けるのだ。
しかし、たとえそれを言ったとしても、この老人の落胆と敗北感を鎮めることはできないだろう。根拠の無い陳腐な気休めで終わるだけだ。
真実など、今の翼にはクソ程の価値も無かった。このふざけた運命も変えられず、この老人を慰めることもできない真実など――!
だから、翼は別の言葉を探した。「かもな」
50 :
創る名無しに見る名無し:2011/12/02(金) 00:36:57.01 ID:r7WWcKfU
「でも、貴方はいい部下を持った。見ろよ。もう行っていいのに、まだ宙域に留まっている」
「…そうか」
ガンダムの手の中のマルティン・プロホノウが、振り返ってヨーツンヘイムを見た。敬礼する。何を思っていたかなど翼には分からない。―
―ただ、彼にとっては長年連れ添った船《いえ》であることは知っていた。
ビーム・ライフルをラックに戻し、ガンダムに敬礼させる。「君は…」気づいた艦長が、驚いた声を上げた。
「確かに、ジオンは負けるかもしれない。――でも、彼らは生き残るよ。保証する」
「…気休めだな」
「本当だ。今あの船に乗っている乗員は、誰一人欠ける事無く終戦まで生き残る。そうなることになっているんだ」
「…?」
「さあ、行こう、艦長。悪いがきつい旅になるぞ。何しろこれから、ルウム戦役のど真ん中で単騎駆けをやらなきゃならないんでな」
言って、翼はガンダムを回頭させた。バックパックを噴かし、加速する。艦長が呻くのが聞こえた。しかし速度を緩めることは出来ない。気
にかけることも難しいだろう。ただ最大戦速で駆け抜け、生きて母艦に辿り着く。今はそれしか考えない。
何しろあそこには、歴代のジオンのトップエースが勢揃いしているのだ。
51 :
創る名無しに見る名無し:2011/12/02(金) 00:38:07.61 ID:r7WWcKfU
「艦長」
呼ばれて、サラミス級巡洋艦《イケイル》艦長、カーク・ヤクネイン少佐はそちらを振り返った。「何か」
「《2.5》の識別信号を確認。戻ったようです」
「――ふん」
受け入れ準備をしろとも、着艦指示を出せとも言わなかった。この艦には宇宙戦闘機他の機動兵器を運用する機能は無い。ましてや『あんな
もの』など。自力で何とかしろと思う。
やがて、視界の彼方で光っては消える閃光の中から、一つがこちらへと近づいてきた。その小さな光はやがて白い人型を成し、減速して、サ
ラミスの甲板、主砲塔群の間に着艦した。
「回線を繋げ」
言って、艦長席横の受話器を取る。「どうぞ」通信士が言うのを聞いて、口を開いた。
「イクタ・ツバサか」
「見りゃ分かんだろ」
反抗的な小僧《ガキ》だ。
「首尾は?」
52 :
創る名無しに見る名無し:2011/12/02(金) 00:39:39.92 ID:r7WWcKfU
往多翼は答えず、ガンダムが片手を挙げた。舌打ちし、「モニター拡大」指示を出す。その手の中に、ジオンのノーマルスーツが握られてい
るのが見えた。「回収班を回してくれ」計ったようなタイミングで、翼の声が要請する。
「除装はさせてるんだろうな」
「させられるわけないだろうが。身体検査はそっちでやってくれ。――最も、ここに来るまでに体力を殆ど使い切ってるだろうけどな」
「役立たずめ。――ランチを向かわせる。妙な真似はするなよ」
言って、受話器を置いた。「陸戦隊発進準備。捕虜を回収させろ」
「待ってください艦長。本隊より入電。緊急です」
「読め」
「発、《ネレイド》、宛、《イケイル》。《アナンケ》轟沈。レビル中将以下、乗員の安否は不明。以降の指揮は本艦が引き継ぐ。敵の人型機
動兵器により本隊は潰走。本艦はこれより残存艦と合流し、ルナツー宙域まで後退する。貴艦も直ちに任務を中止し、合流されたし。以上です」
誰も、何も言わなかった。《アナンケ》が――旗艦が沈んだ。レビル将軍は生死不明――いや、宇宙戦闘でのそれは、討ち死にと同じだ。本
隊は潰走。ルナツーまで後退。負けたのだ。地球連邦軍が。宇宙のテロリストを倒すために立ち上がった正義の軍隊が、敗北した。それも旗艦
を落とされ、本隊を叩き潰されるという、無様で手痛い惨敗。
「…ふざけやがって…!」
艦長のカークは吐き捨てた。敗北という事実に対してではなかった。それよりももっと不可解で不条理な事実――『この大敗を予言した者が
いる』という、その事実に対して反吐を吐いた。全て決まっていたとでも言うのか。この敗北が。ここで負けて、失意と無念の中で死ぬ人間の
数が。
「艦長――ご指示を」
53 :
創る名無しに見る名無し:2011/12/02(金) 00:41:05.41 ID:r7WWcKfU
「分かっている! 本艦は直ちに作戦を中止、本隊に合流しルナツーへ後退する! 回頭180度! 機関全速!」
「艦長、ランチは」
「中止だと言ったろうが! さっさと逃げないとここにも敵が来るぞ! 《2.5》は自力でついて来させろ! 遅れるようなら置いていく!」
「待ってくれ!」
翼の声が割り込んだ。受話器を取る。「黙れ! 作戦は中止だ! 本艦は撤退戦に移行する! 貴様も死にたくなければ走れ!」
「待ってくれ! その前に捕虜を回収してくれ! 老いぼれで、ここに来るまでに衰弱しきってるんだ! 艦でもランチでもいいから中に入れ
てやってくれ! これ以上無理をさせたら死んでしまう!」
「本艦の安全が最優先だ! 却下する!」
「頼むよ! この人は自分の船を棄ててここに来たんだ! これじゃ犬死にじゃないか!」
「お前にとってはな! お前にとっては自分の言葉が真実だと示すための身の証だから、そりゃ大事だろうさ! 人の命で自分の保身を図ろう
とするクソガキめ!」
「――何だと…!!」
怒気を孕んだ声が艦橋に響く。慌しくなりかけたそこが、また静まり返った。「か、艦長、あまり刺激しない方が…」一人がおずおずと声を
上げる。「逆らえるものかよ…!」口の中で言い返す。どうせあの小僧はジオンのスパイだ。そう考えるのが一番現実的でしっくり来る。しか
し、現実的なスパイがこんなバカみたいな道化を演じるだろうか? 自分はこの戦争の未来を知っているなどと。しかもその予言は、今回に関
しては的中した。連邦軍が最大最強の戦力を投入し、万全以上の万全を期して挑んだ一大決戦において、『それでも連邦は負ける』と言い切っ
たのだ。――そして、その通りになった。当てずっぽうがたまたま当たっただけとしても、うすら寒いものを感じる。常識と理解を超えた状況
に、カーク・ヤクネインは冷静さを失っていた。
「分かったよ」
通信機が、静かな声でそう答えた。
54 :
創る名無しに見る名無し:2011/12/02(金) 00:42:35.80 ID:r7WWcKfU
「艦の安全を確保すればいいんだな? 了解した。これから前線に行ってこの宙域に向かう敵MSを迎撃する。この艦には一機も近づかせない。
捕虜はここに置いていく。回収してから撤退してくれ。俺は自力で追いつく。待たなくていい」
「…作戦は中止だといったはずだ」
「それでも聞いてもらう為に、戦ってくる。俺の命を賭けて頼む。あとは聞いてくれると信じるだけだ。――お願いします、カーク・ヤクネイ
ン少佐。俺もこの爺さんも、無駄死にはさせないでやってください」
言って、翼の乗るガンダムが踵を返した。捕虜を放し、空いた手にビーム・ライフルを構える。
「往多翼、2.5《ツー・ポイント・ファイヴ》、行くぞ!」
バックパックを噴かし、飛び立つ。
「…やつめ」
見送り、カークは吐き捨てた。「…艦長、どうします?」クルーが訊いてくる。
「回収してやれ。ただし作業は迅速にな。すでに撤退命令は出ているんだ。ぼやぼやしてると置いてかれるぞ」
「了解」
そのやり取りで、艦橋は緊迫した静寂から任務中の慌しい喧騒に戻った。各ブリッジクルーからそれぞれの部署へ指示が飛び、捕虜の回収と
艦の機関始動及び回頭が行われる。カークはそれを見ながら一人、艦長席で安堵のため息を吐いた。
55 :
創る名無しに見る名無し:2011/12/02(金) 00:45:05.16 ID:r7WWcKfU
地獄のような戦場へと舞い戻るガンダムの中で、翼はなるべく呼吸を長く、深くして、平静を保とうとしていた。すでに本隊は潰走した。と
いうことはもはや正対しての砲雷撃戦ではなく、追撃戦、あるいは掃討戦が行われているということだ。逃げる敵を追いかけて仕留める戦なわ
けだが、それはつまり、翼がいる方向へ逃げてくる連邦艦がいなければ、敵には出会わないということになる。
あるいは、追撃部隊に引っかからず、いきなり本陣にぶつかってしまうか。
「…来た」
さらに神経を落ち着けるため、独り言を言ってみる。センサーに反応。一機。周囲に敵影は無し。ゆっくりとこちらに近づいてくる。こちら
に逃げてくる連邦艦は無かった。念のために哨戒に来た、というところだろう。それなら一機で行動しているのも説明はつく。今の連邦の手ひ
どい負け方では、最悪会敵してもMS一機でも問題無い、という考えがジオン側に生まれてもおかしくない。
ガンダムを宙返りさせて減速し、さらに半回転して正面に向き直る。「よし…」さして意味は無い独り言を繰り返し、神経を落ち着かせる。
敵は依然、ゆっくりとこちらに近づいている。ガンダムとザクならガンダムの方がセンサー範囲は広い。まだこちらに気づいていないと考える
のが妥当だ。ならば取るべき戦法は一つ――即ち、先制攻撃。
ビーム・ライフルを構え、狙いを定める。実体弾よりも遥かに速い弾速で奔る重粒子弾は、発射されて警報が鳴ってから回避することはまず
不可能だ。すでにロックオンされていることを認識した上で、敵の発射タイミングを予測して回避運動を起こすしかない。そして、地上での零
距離砲戦でならともかく、宇宙の空間機動戦闘でそれを実践するのはほぼ不可能だ。狙われているのも知らないのに、方角も分からない位置か
ら光となって迫る弾丸はかわせない。
56 :
創る名無しに見る名無し:2011/12/02(金) 00:47:36.07 ID:r7WWcKfU
「まずは一機――!」
生き延びるために、迷いはとうに棄てた。そのためなら老人を捕虜にもするし、人だって殺す。非難するなら代わってくれ。口の中だけで叫
び、トリガーを引く。
「――え――!?」
漆黒の宇宙を奔った光は、しかしそれ以上の何も生む事無く通り過ぎた。爆発は無い。敵影は先程までとは少しずれた位置で、同じような速
度で航行していた。だから一瞬、何が起きたのか分からなかった。
理解したのは、それまで穏やかな速度で動いていた敵影が、明らかな戦闘速度でこちらに接近し始めてからだった。「かわされた……!?」
あり得ない。そう思い、すぐにいや、と打ち消した。あり得るとしたらどうなるのか。発射を認識してからかわすのが不可能なのだから、敵
はこちらの発射タイミングを予測していたことになる。そんなことができるのか。相手が銃を構えていることすら認識できないような距離で。
それは予測ではなく、予知だ。翼の脳裏に、恐るべき一つの単語がよぎる。
「違う!」
叫び、翼は敵の銃撃を側方回転機動《サイド・ロール》で回避した。戦闘速度で敵機が迫る。ビーム・ライフルは――まだ砲冷却が終わって
いない。翼は舌打ちし、頭部バルカンの斉射で牽制しつつ、猛スピードで通過する敵機を見送った。こういう時に、「盾は絶対要るだろ……!」
毒づく。翼が搭乗するガンダムは外見こそRX‐78‐2に酷似していたが、細部が違っていた。まず盾が無い。そしてバックパックのビーム
・サーベル・コネクターも無かった。ビーム・サーベルは使用時に腕部格納ラックより飛び出し、それをガンダムが腕に握り、ビームを発振し
て抜刀完了となる。
そして左肩に、白地に映える黒く大きな文字で《2.5》とマーキングされていた。2.5ガンダム。RX-78-2.5という事だろう。
そんなガンダム、翼は知らない。「MS、か…?」
57 :
創る名無しに見る名無し:2011/12/02(金) 00:48:58.17 ID:r7WWcKfU
「しかし、撃ってきたのなら味方ではあるまい。しかも連邦の識別信号を使っている。敵機と認定。交戦に入る」
「ニュータイプじゃ、ない…!」
敵はこちらの動きを予知したのではない。おそらく敵は、こちらが狙いを定めた時にはすでにこちらの存在に気づいていたのだ。そして気づ
かない振りをしていた。こちらに先に一発撃たせ、二射目までのタイムラグで安全に射程内へ踏み込むために。
その証拠に、翼の視界で鮮やかに宙返りし、こちらへマシンガンの銃口を向けるザクの片腕は、鮮やかな白で染められていた。翼はそのカラ
ーリングのザクを知っている。『赤い稲妻』と並び称されるジオン最強のパイロットの一人。『白狼』、シン・マツナガ。
警報《アラート》と同時に回避運動を取った。火線がガンダムの脇を掠めていく。翼はビーム・ライフルを正面に構え直し、「うわ!?」そ
の腕が跳ね上がった。片腕を白く塗り固めたザクが、目の前でモノアイを閃かせる。踏み込まれた。「もらったぞ!」ザクの振り上げた手がヒ
ート・ホークを振り下ろす。「くそ!」翼はザクに前蹴りを食らわせ、紙一重でヒート・ホークの刃を避けた。ライフルを向ける。零距離。
「むぅん!」
「ぐああああっ!?」
激しい衝撃と共に、翼のガンダムは吹き飛ばされた。ショルダー・タックル。「くそおおお!」回転しながら吹き飛ぶガンダムの姿勢制御を
しつつ、翼は敵をロックオンしようとする。ロックサイトが視界の端を右往左往する。ガンダムが高速で回転しているせいで、照星が視界に入
ってこない。「どうやら」
58 :
創る名無しに見る名無し:2011/12/02(金) 00:50:07.69 ID:r7WWcKfU
「私も対MS戦は初めてだが、案ずるより生むが易し、だな。君にはまだ、戦場で『白』を纏う資格は無いようだ」
「好きでやってるわけじゃ――!?」
回転が収まる直前、全く違うベクトルにガンダムは弾き飛ばされた。しまった――その言葉さえ声に出せず、翼は操縦席の中でシェイクされ
る。何のことは無い。冷静さを失わなければ分かることだった。ガンダムにタックルをかけたマツナガ機は、そのままガンダムと一緒に飛んで
いたのだ。ガンダムの視界に映らぬように姿勢を低くし、そしてさらに回し蹴りの要領でガンダムを別方向へ弾き飛ばした。「さあ、終わりだ
!」
敵弾警報と同時に、無数の衝撃がコクピットを襲う。ザク・マシンガンのフルオート斉射。翼は悲鳴を上げ、死を覚悟した。殺される。瞬間、
吹き上がる爆炎より速く生への執着が目を醒ます。「うああああああ! 畜生ォォォォォ!」スロットルを思い切り押し込んだ。ガンダムが最
大戦速で飛翔し、マシンガンの銃火から脱出する。「まだ動く……!?」宙返りしてマツナガ機を視界に収め、さらに加速する。ビーム・ライ
フル・ロックオン。「なめんな! なめんな! なめてんじゃねえぞクソオヤジがあああ!」トリガーを連打した。撃ち続ける。砲身未冷却警
告をトリガーボタンで黙らせ、撃ち続ける。
「無茶苦茶な……!」
「ブッ殺してやる! 俺を殺すならテメエが死ね!」
59 :
創る名無しに見る名無し:2011/12/02(金) 00:52:10.82 ID:r7WWcKfU
零距離。回避したザクにビーム・サーベルを投げつける。「何と!?」命中。すぐにビームは消えて無くなるが、その刃はその一瞬の間に、
ザクの白い右肩口に深い刀傷をつけていた。「行けええええ!」さらにライフルを一発。避けたマツナガ機に踏み込み、拳を繰り出す。一度
AMBACを挟む蹴りよりも、推進力をそのまま利用できるストレートの方が宇宙戦では威力が出る。マツナガ機はこれを破損した右腕で受
け、そのまま一回転して左腕のヒート・ホークを振り下ろした。翼はビーム・ライフルを捨てて右腕にサーベルを構え、迫るザクの左腕を斬
り飛ばす。「死ね!」「させん!」返す刀で振り下ろされたサーベルをマツナガは後方宙返りでかわし、そこから急加速してガンダムの腹に
蹴りを食らわせた。翼の悲鳴と共にガンダムはまたも吹き飛ばされ、「――畜生がッ!」翼はバックパックを吹かして制動をかけて踏み止ま
り、
マツナガ機は、その時すでに後退を始めていた。「ま、待ちやがれ!」「追いたければ、追うがいい」
「しかし、私に追いつこうと思ったら、ライフルを拾っている時間は無いぞ。そして追いついたとしても、その時はすでに我々の本陣が目の
前だ。その上で、追いたければそうするがいい」
「逃げるのか! ジオンの『白狼』ともあろうものが!」
「チャチな挑発には乗らんよ。また会おう、少年。君は生き残れれば、いいパイロットになるかもしれん」
言い残し、マツナガ機はみるみる遠ざかっていった。センサー・ロスト。視界からも消え、翼とガンダムだけが虚空に取り残される。「……」
「……あ……?」
放心するうちに、気がついた。
手が、震えている。
震えはみるみる全身に回り、翼は思わず自分の身を抱いた。「……はは」
「は、はは……あははははははは……!」
笑った。自分の身体を駆け巡る何かを、吐き出すように笑った。
空しい高揚と笑いが去った後、涙が出た。
60 :
創る名無しに見る名無し:2011/12/02(金) 00:53:59.53 ID:r7WWcKfU
「さて、早速尋問を始めようか」
カーク・ヤクネインは、事務的な口調でそう宣言した。手元の事前調書と目の前の老人を見比べる。「マルティン・プロホノウ中佐相当官殿、
か」
「私は当艦、サラミス級巡洋艦《イケイル》艦長、カーク・ヤクネイン少佐だ。貴官の尋問は私が直接担当する。貴官の身柄は南極条約に則っ
て丁重に扱われる。拷問をする気は無いから安心しろ」
「――ノーマルスーツで戦場を突っ切らされた老体をそのまま取調室に呼ぶのが、丁重な扱いかね?」
老人の返答に、カークはふん、と鼻を鳴らした。どいつもこいつも――口の中だけで呟き、次の言葉を紡ぐ。
「ハードな取調べをするつもりは無い。貴方が私の質問に正確かつ誠実に回答すれば、この場はその数点の確認事項だけで終わる。時間も体力
も使わせる気は無い。――ただし、貴方の回答にその二つが認められなかった場合、ルナツーに戻って以降は専門の取調官がつきっきりで貴方
の調書作成を行う。貴方の最低限の人権は条約によって保証されるが、それはあくまで最低限だと思っておくことだ」
「脅迫に聞こえるな」
「警告だ。何度も言うが私はそこまでする気は無い。――お前達ジオンの隠し玉のおかげで、本艦までルナツーに逃げ込む羽目になった。がっ
くり来たよ。もう疲れた。さっさと終わらせたい。貴方だってここで黙秘だの偽証だの余計なことをしなければ、ルナツーに入ってからはしば
らくゆっくりできるんだ。ここは大人しく従った方が身のためだぞ」
「……ふん」
61 :
創る名無しに見る名無し:2011/12/02(金) 00:55:21.71 ID:r7WWcKfU
「前置きは終わりだ。始めよう。――まずは、貴官の指揮していた艦の名前だ」
「……ヨーツンヘイム」
プロホノウの答えに、カークは片眉を上げて「ふむ」と小さく唸った。
「よかろう。では次だ。貴官が今回の戦闘で従事していた作戦の内容を、可能な限り詳細に答えてもらおう」
「……」
「……? どうした? 喋っていいぞ」
「たとえ虜囚の辱めを受けても、同じジオンの人間を売るような真似はできん」
「……最初に言ったな? 貴方がここで黙秘を続けるなら、私も余計な体力を使って追求する気は無い。ただルナツーに入港してからの貴方の
睡眠時間がクソ面白くも無い連中との回りくどい押し問答で削られるだけのことだ。最終確認だ。これ以上の質疑に応じる気は無いんだな?」
「……」
「結構。ならこれで終わりにしよう。ルナツーに入るまでほんの僅かだが、せいぜいその老体を休めておくがいい」
そう言って、カークは資料一式を持ってさっさと席を立った。踵を返し、ドアへと歩く。
そのドアが、開いた。「……」
「……貴様が何故ここにいる」
「取調べはどうしたんだよ」
62 :
創る名無しに見る名無し:2011/12/02(金) 00:56:53.35 ID:r7WWcKfU
「応じる気は無いそうだ。続きはルナツーだな。貴様の処遇も先送りだ」
「……冗談じゃない」
吐き捨て、往多翼はカークを押しのけて取調室に入った。「おい」カークの声を無視し、マルティン・プロホノウの傍らに立つ。
老人が、目だけで翼を見上げた。「……あのMSに乗っていた小僧か」
「話した方がいい。いや、話してください。拷問でもされたらどうするんです?」
「条約違反だな。そう思うほか無い」
「話せば、そんなことは無くなります。貴方だって、義理立てするほどジオンに肩入れしてるわけでも無いんでしょう?」
「くだらんな」
「――え?」
プロホノウの眼が、正面から翼と、カークを見据えた。「調子に乗るなよ小僧共。確かにワシは軍なんぞにこれっぽっちも義理も情も無いが、
仲間を撃った人殺しのクソガキと、そのガキを使いっぱしりにして喜んでる若造なんぞは最早同じ人間とは思わん。負けて尻尾を振る男がどこ
におるか。拷問でも何でも好きにせい。ワシはお前らには従わん」
がたん、と椅子が倒れる音がした。
翼がプロホノウを殴った音は、その音にかき消された。「おい、イクタ! やめろ!」
「喋れよ」
「……早速実践か。思い切りのいい小僧だな」
63 :
創る名無しに見る名無し:2011/12/02(金) 00:59:11.87 ID:r7WWcKfU
「ああそうさ。どうせ俺はこいつらと同じ、戦争で自分の身を守ってるクソ野郎だよ。それがどうした? それの何が悪い? 他にどうすりゃ
よかったんだよ。途中でやめときゃよかったのか? 最初から尻尾巻いて逃げりゃよかった? それができりゃ苦労しねえよ。やりもしないで
偉そうに言うなよ。俺と同じ立場に立って、本当に殺されるかもしれないと肌で感じたら、俺みたいにならないって誰が断言できんだよ! そ
んな奴のことぁ知らねえよ!
さあ喋れよ! 俺の身を守る為に、俺の言葉が真実だと証明する為に、お前が知ってることを洗いざらい喋れ!」
言葉を吐き出す間も、翼はプロホノウを殴り、蹴り、圧し掛かってまた殴りつけた。「おい、やめろ! 誰かいないか! 畜生、飯になんか
行かせるんじゃなかった!」
「言えよ、オラ! お前は本当は軍人でも何でもないただの船乗りで、乗っていたのは第603技術試験中隊の連中だったって言えよ! 今回
の作戦はヨルムンガンドを使用しての超長距離砲撃作戦で、でも本隊からデータが届かなくて攻撃開始時刻に間に合わず、フタ開けてみたらそ
の作戦自体がそもそも当て馬で、ジオンの本命の秘密兵器はMSで、その存在を秘匿するためにヨルムンガンドは偽情報に利用されただけだっ
て、洗いざらい喋っちまえよ!」
翼の言葉に、カークと、殴られているプロホノウさえ目を見開いた。
翼の拳が止まり、プロホノウの上で崩れ落ちる。
「喋れよ……喋ってくれよ……あんたが喋ってくれないと、俺は殺されるんだよ……俺の言ってることが真実だって、価値があるんだってこの
世界の人間に認めさせないと、俺はこの世界じゃ生きていけないんだよ……頼むよ、艦長……あんたのプライドなんてどうでもいいから、俺を
助けると思って喋ってくれよ……俺にはこうするしかないんだよ……!」
嗚咽と言葉を吐き出し、「うう、うああ、あああああああ――!」それでも足りず、翼は号泣した。
初動加速と軌道修正を終えた《イケイル》は、魂が抜けて川を流れる流木のように、音も無くルナツーへと流れていった――
機動戦士ガンダム ‐翼の往先−
第三話 『蛇と少年』
64 :
創る名無しに見る名無し:2011/12/02(金) 01:02:13.88 ID:r7WWcKfU
次回予告
死肉と血の臭いを嗅ぎつけてやって来たのなら、それは野獣である。
人の呪いと憎しみの声を聞きつけてやって来たのなら、それは悪魔である。
――ならば、神や救世主は、何に呼ばれてやってくるのだろう。
そんな事は、誰も知らない。
なぜなら、そんなものが現実に現れたことなど一度も無いから。
野獣と悪魔が跋扈する地獄の島。死んだ眼をした獣達が、人を腐らす臭い息を吐きつける。
でも、君は力を持っているから、その歴史を否定することができる。
否定せよ。拒絶せよ。間違った歴史を修正せよ。
もっと分かりやすく言ってやろうか?
殺セ。殺セ。ブッ殺セ!
もう一度だけ言おう。
アノ人デナシノクソ野郎共ヲ、一人残ラズブッ殺セ!
次回、機動戦士ガンダム −翼の往先−
第一話 『悪魔召喚』
間違ッタ歴史ヲ修正シロ。
俺達ガコンナ死ニ方ヲスルナンテ、間違ッタ歴史ハ修正シロ!
>>33-64 投下乙です。
シン・マツナガは好きなので、登場は嬉しかったですよ。
まあ、名前だけで実際の登場は少ないキャラですけどね。
翼ってのが主人公ですよね?
漢字表記なのはワザとかな?
ガンダムは日本人でもカタカナ表記というイメージがあったので、
そこは設定上差別化しているのかな? という理解も出来るのですが。
次は、ファンの人待望のシーマ・ガラハウ登場だったですね。
続き楽しみにしてます。
>>65 レスありがとうございます。
翼の名前はもちろんわざとです。
主人公ですよね? という疑問ももっともです。あんまり主人公に見えないと思います。
翼に対してはヴィロードがライバルキャラになります。こいつの成長というか、圧倒的な
差のある2.5ガンダムを倒そうと苦闘する姿も見てやってください。ある意味ダブル主人公です。
四話まで出る予定がありませんがw
で。
67 :
創る名無しに見る名無し:2011/12/03(土) 00:24:42.55 ID:gt4LtYra
宇宙世紀0079。スペースコロニー・サイド3はジオン公国を名乗り、地球連邦政府に対し宣戦を布告した。
同年1月3日、公国軍機動艦隊はスペースコロニー・サイド1、2、4を襲撃、無差別攻撃によってこれを瞬く間に征圧した。連邦軍パトロール艦隊は公
国軍MS部隊によって壊滅し、各スペースコロニーには直接攻撃よりもさらに効率の良い殺人兵器――G3神経ガスが注入され、あまりにも多くの人命が、
筆舌に尽くし難い苦痛と共に喪われた。
物語は、ここから始まる。
苦悶と絶望、憎悪と怨嗟の声が宇宙に満ちる時、時空と次元の境を歪めて、その歴史を破壊するための『力』が呼び醒まされる――
*
1月3日、0704時。サイド2近海。
「コロニー・アイランド・ロータス、及び停泊中の連邦軍パトロール艦隊を視認。マゼラン級1、サラミス級3。300秒以内に射程圏内に入ります」
68 :
創る名無しに見る名無し:2011/12/03(土) 00:26:00.51 ID:gt4LtYra
レーダー手の声が静かな艦橋にそう告げる。予定通りだ。敵艦の数も戦術予報から外れていない。準備は万端。現時刻まで異状無し。
ムサイ級巡洋艦《リリー・マルレーン》副長のデトローフ・コッセルは、その声を聞いても何の反応も示さない上司――艦長にしてこの艦隊
の司令である『彼女』を見やった。
「シーマ様。そろそろです」
「……仕事だね」
シーマと呼ばれた女性は煙草の煙をゆっくりと吐き出し、虎の毛皮を敷いた艦長席で物憂げに脚を組みながら、それだけ応えた。長い黒髪が
無重力の空中に広がり、片手を挙げてそれを自分の視界から避ける。
「こちらも四隻。しかも向こうはまだこちらを敵と認識していない。普通に艦隊戦を挑んでも負けやしません。最初の一斉射でマゼラン一つは
潰せる。その後はMSを発進させ、喉元まで踏み込みましょう。引っ掻き回してやりますよ」
「私も出るよ」
「……どうしても、ですかい」
「当たり前だろう。艦隊の指揮はあんたが執りな。だいたい、MS戦は私がこの船で一番上手いんだから、引っ込んでる手は無いだろう」
69 :
創る名無しに見る名無し:2011/12/03(土) 00:27:03.34 ID:gt4LtYra
「……シーマ様。不敬を覚悟で申しやすが、気遣いは無用ですぜ。軍に入った時から、汚れ仕事をやる覚悟はしてたんだ。ここにいる野郎は皆
そのはずだ」
「ものには限度がある。私の図々しさにもね」
言って、シーマは艦長席を離れた。流れる黒髪と憂いを帯びた瞳が、艦橋のドアを抜けて去っていく。この女《ひと》だからここまでついて
きた。ジオン公国軍宇宙突撃機動軍海兵隊司令、シーマ・ガラハウ少佐。その肩書きと決して輝かしいなどとは言えない戦歴は、彼女の美貌に
昏い影を落とす。しかしそれは、彼女が男と同じ戦場で――海兵という過酷で陰惨な部署で、他の兵士と労苦を共にしてきた証だ。その上で司
令になった。そして今も、部下を守ろうとしている。だから誰も文句は言わない。どんなに過酷な戦場で、どんなに非人道的な任務であっても、
ただそれを遂行し、帰還する。シーマ艦隊が精強といわれるのは、決して技量や戦術のことではない。
コッセルは通信士を振り返った。「シーマ様のMSを! ザク・マシンガンの準備! 全艦戦闘態勢!」
「了解《アイ・サー》!」
野郎達が豪気な声を返した。地獄へ行け、などと言われたぐらいでビビる連中ではない。そんなものは何度も見てきた。今度も同じことをや
るだけだ。
70 :
創る名無しに見る名無し:2011/12/03(土) 00:28:19.23 ID:gt4LtYra
《リリー・マルレーン》から飛び立ったシーマのザクは、総勢十二機のMS部隊の先陣を切ってコロニーへと飛んだ。艦隊の相手はこちらも艦
隊に任せる。MS隊の任務はコロニー攻撃班と護衛班に分かれ、コロニーへ到達してこれを占拠、護衛班は攻撃班の『作業』が終わるまでこれ
を護衛することだ。敵が戦艦と巡洋艦なら、艦載機の存在はあり得ない。楽な仕事だ。過剰投入じゃないのかい、とも思う。しかし、隊の連中
にMSでの実戦訓練をさせられると思えば、一々反駁する気も無かった。そんなことで上にお伺いなど立てない。どんなバカな作戦でも拝命し、
遂行するのが海兵だ。
ふざけんなよ、と思う。「シーマ様」
「0713。そろそろ始まりますぜ」
「各機、自分の機が所定の航路《コース》から外れてないか確認しな。味方の弾に当たって死ぬようなバカに、シーマ艦隊は名乗らせないよ」
了解、と野郎達が応える。所定の航路を飛んでれば、最初の砲撃には当たらないし敵にも見つからない。仮に見つかったとしても、そもそも
連中は自分達が『何』なのかも分からないはずだ。
0715時。
定刻通り、シーマ艦隊からの一斉砲撃が出航直後のマゼラン級を直撃した。瞬く間に蜂の巣になった艦体が爆散する。大小の破片が周囲に飛
び散り、寝ぼけた馬鹿を叩き起こすように周囲のサラミス級を叩く。「ヒャッホー! 見たか連邦のバカ共! これが俺達の挨拶だ!」
71 :
創る名無しに見る名無し:2011/12/03(土) 00:29:41.28 ID:gt4LtYra
「騒ぐんじゃないよ。全機速度そのままで進攻。護衛班は敵艦隊の動きも警戒。場合によっちゃ側面から仕掛ける」
「了解!」
応える声を確認し、シーマは速度を維持して飛ぶ。味方艦隊の砲撃は間断無く続き、連邦艦も陣形を立て直して応射を始める。といっても、
すでに戦力差は四対三だ。先制で得た流れを切らずに攻め続ければ、仮に大勝とはいかなくても敗北はしないはずだ。少なくとも、攻撃班がコ
ロニーにとりつく時間は稼げる。あんまり手間取るようなら加勢してやればいい。「シーマ様!」
「敵サラミス級1、陣を離れて動きます! こちらの進攻ルートへ接近! 来ますぜ!」
「ほう――気づいた事は誉めてやろうか。でも、一隻じゃ無理だねえ」
おそらくこちらを宇宙攻撃機か何かと思ったのだろう。牽制のつもりかも知れない。しかし、連邦はMSという兵器を知らない。たった一隻
で十二機のMSに挑むなど、乗っているのがどんな名将でも無理だ。――そもそも、名将ならそんなことしないか。
勝った。シーマはほくそ笑んだ。しかも一隻が離れたことで、艦隊同士の戦力差は四対二にまでなった。もはや負ける要素が無い。後の問題
は一つ、一隻残ったサラミス級をどう始末するかだ。
――後ろを取られても面白くない。今始末するかね。
決断し、シーマはMS隊に通信を飛ばす。
「攻撃班は増速しつつコロニーへ進攻。相対速度もあるんだ、正面に立たれなきゃ火砲は当たらない。駆け抜けな。護衛班は接近する敵艦に対
し∧《アロー》隊形で進攻。トップは私が取る。一合で仕留めるよ。攻撃終了次第すぐ攻撃班と合流する」
72 :
創る名無しに見る名無し:2011/12/03(土) 00:31:04.30 ID:gt4LtYra
「了解!」
通信機が応えると同時に、シーマは操縦桿を切った。護衛班、MS二個小隊もこれに続く。FCSセイフティ・オフ。有視界戦闘モードへ切
替。オート・ターゲット・ホーミング・オフ。マシンガン・ツーハンデッド・スタンバイ。
接敵警報。直後に敵艦発砲警報。AMBACを使うまでも無いし、むしろそれで速度を殺したくも無い。シーマは桿を僅かに動かし、ジグザ
グよりは緩やかな蛇行機動で敵艦に進攻した。射程内。まだだ。桿を引き、敵の甲板の上を滑るように飛ぶ。周囲の砲塔がメガ粒子の火線を迸
らせ、その脇をすり抜けて『目標』へ飛ぶ。
「――そら!」
宙返りし、ザクの両脚を進行方向に向けて敵艦橋の正面に『着地』した。衝撃でサラミスの船体が傾ぐ。そのまま『真下』へザク・マシンガ
ンを構えた。一斉射。無数の砲弾に貫かれ、サラミスの艦橋が弾け飛ぶ。シーマは即座に艦体を蹴って離脱した。続いて襲来したMS隊が次々
にサラミスの砲塔やミサイル発射管、機関部やレーダー・アンテナに銃撃を加え、艦を完全に無力化する。サラミスはいくつかの小爆発と共に
蜂の巣になり、そのまま魂の抜けた残骸と化した。「シーマ様! 敵艦沈黙! 攻撃能力の無力化を確認!」
「見りゃ分かる。全機回頭。直ちに所定のコースへ戻る。攻撃班と合流するよ」
「ヒャッハー!」
「ご機嫌だぜ、このMSって奴は!」
「どんどん来やがれ連邦め! 片っ端から蜂の巣にしてやるぜ!」
「騒ぐな。行くよ。まだ仕事は終わっちゃいないんだ」
73 :
創る名無しに見る名無し:2011/12/03(土) 00:32:31.45 ID:gt4LtYra
窘め、コロニーの方向へ旋回する。他の機体もそれに続いた。「攻撃班。こっちは片付いた。塩梅はどうだい?」
「まもなくコロニーに取り付きます。その後は二機ずつ三個に散って所定のポイントに配置、エア・ロックの開放作業にかかります」
「準備が終わった奴から知らせな。私が合図するまで、トリガーは引くんじゃないよ」
「――イエス・マム」
通信が切れる。攻撃班が分散を始めた。コロニーの三つのエア・ロックを開放し、そこからG3神経ガスを注入する。コロニーは宇宙に浮か
ぶ巨大な密室だ。そしてそれを満たすに充分な量のガスをシーマ達は準備して来ている。最も迅速かつ効率的な形で、このコロニーは全滅する。
そして、その後は――
「よし。全機減速して周辺を警戒。以降は攻撃班を護衛だ。敵がこっちに来るようなら知らせな。――来やしないだろうがね」
「了解」
命じ、シーマは小さくため息を吐いた。艦隊の方を見やる。すでに砲火は殆ど収まっていた。おそらく敵艦に接舷し、白兵戦に移行したのだ。
勝った。百戦錬磨のシーマ海兵隊に白兵で敵う軍隊など、地球圏には存在しない。これでこの作戦も終わり――そう思い、しかしシーマはすぐ
頭を振った。まだだ。最後にまだ一つ、厄介で憂鬱な仕事が残っている。
「シーマ様」
74 :
創る名無しに見る名無し:2011/12/03(土) 00:34:07.32 ID:gt4LtYra
「……何だい」
憂鬱が、なるべく声に出ないように応えた。「攻撃班、全機準備完了しました。――定刻通りです」
「……時間は、守らなきゃいけないねえ」
一瞬だけ、間を置いた。――最後に何か考えようと思ったが、何も思いつかなかった。
口を開く。
「よし。やりな。攻撃班全機、G3ガス注入開始」
「了解」
部下達の声は淀み無かった。かけるべき言葉なんて無かった。かけられたいとも思わなかった。百の言葉より、一本の煙草が欲しい。重くて、
バカバカしくて、イライラした。
「――シーマ様」
「何だい」
かけられたいとも思わなかった。そのイライラは素直に声に出てしまった。「――何ですかね、ありゃあ」
「――あ? 何がだい。分かるように言いな」
「すぃません。――二時方向に熱源反応有り。大きさからして艦じゃない。戦闘機か――あるいは、MS」
「――ああ?」
言われて、計器を確認した。数を数える。――自分達十二機の他に、少し離れた場所に点のように小さな影が停滞している。
75 :
創る名無しに見る名無し:2011/12/03(土) 00:35:18.87 ID:gt4LtYra
見ている――シーマは何故かそう感じた。私らを見ている。殺気は感じなかった。MSも何の警報も発していない。識別は不明。連邦軍では
ない。しかしジオンでもない。
微かに、肌がぴりつくのを感じた。女の勘。海兵の勘。何か、人間の五感には属さない器官が、ほんの僅かに警告を発する。いいだろう。来
るなら来い――シーマはその直感を受け入れた。そうして生きてきた。やるってんなら、やってやるだけだ。他の野郎も、勘のいい奴はもう覚
悟ができてるはずだ。
――しかし、シーマのその覚悟は、今回に関しては裏切られた。
『――ぐぅぅぅううぅわアアアアアアアアああああアアアアアアあああ嗚呼ああああああああああああああああああああああああアアああアア
アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアああああああああ
ぁぁぁぁぁぁぁ――――――ッッッッッ!!!!』
「――!?」
シーマの身体を、咆哮と共に凍りついた稲妻が突き抜ける。
宇宙に木霊したその咆哮は、人間の発するものとはとても思えなかった。
本当の地獄が、始まる。
76 :
創る名無しに見る名無し:2011/12/03(土) 00:36:40.50 ID:gt4LtYra
往多翼は、まだ状況を把握していなかった。
「なんでだ……? 俺、なんでこんなところに……」
見たことも無い場所だった。狭くて、暗い。寒くて、身体の芯が落ち着かない。
――いや、違う。
見たことは、ある。
TVの画面で。
「……嘘つけよ……」
正面の暗闇に、いくつか星が流れた。夜――違う。宇宙だと分かった。それなら身体の浮遊感も説明がつく。そして自分の周囲で点々と灯る
コンソールの光。足に当たるフットペダルの感覚。両手に握るスロットル・レバー。
夢だ。翼は結論づけた。いい年してガキみたいな夢を見るもんだ。MSで宇宙を飛ぶ夢なんて。恥ずかしいから早く醒めて欲しい。
警告音。「……?」
音につられてそちらを見る。レーダーに機影。十近くいる。ああはいはい敵ね、と投げやりに思った。どうせ夢だ。
『殺セ』
「……!?」
悪寒が、背筋を走った。『殺セ』
77 :
創る名無しに見る名無し:2011/12/03(土) 00:37:41.57 ID:gt4LtYra
『殺セ』
『殺セ』
『全員殺セ』
『ブッ殺セ』
『痛メツケロ』
『切リ刻メ』
『引キ千切レ』
『目玉抉リ出セ』
『手足モギ取レ』
『タマ握リ潰セ』
『女ハ犯セ』
『爪剥ギ取レ』
『骨全部折レ』
『歯モダ』
『生皮剥ゲ』
『内蔵掻キ出セ』
『生カシテ帰スナ』
『殺セ』
『殺セ』
『殺セ』
『殺セ!』
「……な……何だよ……一体……!?」
78 :
創る名無しに見る名無し:2011/12/03(土) 00:39:00.66 ID:gt4LtYra
湧き出すように響くその声に、翼は狼狽してそう呟くのが精一杯だった。どこから聞こえてくるのか――いや、周り中の空間から声が染み出
してくる気配がする。憎悪と怨嗟の声は耳から翼の臓腑と脳を侵し、そしてたった一つのことを要求する。
『殺セ』
『殺セ』
『殺セ!』
「やめろ……やめろよ……静かにしろよ……!」
耳を塞ぎ、自分でも何を言っているのか分からないまま声を上げる。身体を駆け巡る恐怖が噴出し、翼の身体を震わせ、声となって漏れ出る。
警告音。翼は急に響いた冷たく現実的な音に、思わずそちらを見る。照準波警報。ロックオンされた。十二の光点が微かに動き始める。迎撃
態勢。レディ・フォー・コンバット。
『――ぐぅぅぅううぅわアアアアアアアアああああアアアアアアあああ嗚呼ああああああああああああああああああああああああアアああアア
アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアああああああああ
ぁぁぁぁぁぁぁ――――――ッッッッッ!!!!』
「――ぅあああああああああああっ!」
79 :
創る名無しに見る名無し:2011/12/03(土) 00:40:27.22 ID:gt4LtYra
周囲に渦巻く『何か』が一斉に咆哮を上げるのと、翼の理性が壊れて悲鳴を上げたのは、ほぼ同時だった。
スロットルを押し込み、尾を引く流星のように宇宙空間を飛翔する。なぜ動かせる、という疑問は浮かばなかった。恐怖と狂気が翼の身体を
支配していた。「――来やがった!? 何者だテメエ! 止まれ!」
「撃ちなカイン! 総員迎撃! あれは敵だ! 攻撃班に近づかせるな!」
「しかしシーマ様! あれは」
声は途中で途切れた。ライフルから放たれた光に撃ち抜かれ、ザクが火球に変わる。「ビーム……! ビーム・ライフルだと……!?」「―
―生かしちゃおけないね! ゲオとザックスついてきな! 残りは進行ルートに布陣! 死んでも通すんじゃないよ!」
三機のザクがガンダムに迫る。ヘッドオン。翼は中央の一機を狙い、トリガーを引く。ザクは散開し、そのままガンダムとザクはすれ違い、
三方からのザク・マシンガンの銃火がガンダムを捕らえた。「ぐぅあああああああああああああああ!」翼の悲鳴はもはや恐怖ではなく、恐
慌だった。これは夢だ。酷い夢だ。意味も脈絡も無いのに、死ぬほど怖い夢というのは存在する。早く醒めてくれ。
「来やがれ、クソ野郎!」
「何処の誰だか知らねえが、やるってんなら蜂の巣にしてやるぜ!」
残った二機のザクが正面に立ち塞がり、マシンガンを構える。真っ直ぐ突っ込んでくる白いMS。インフォメーション・メッセージ。ターゲ
ット・インサイト。「撃て!」
80 :
創る名無しに見る名無し:2011/12/03(土) 00:41:52.97 ID:gt4LtYra
一斉射撃。さらに追撃する三機のザクの銃火も加わり、十字砲火に切り刻まれて白いMSは小爆発を起こし、軌道を逸れて力無く流れ始めた。
「やった……!」「ざまあ見やがれクソ野郎が! その程度で俺らシーマ艦隊に食って掛かろうなんざ笑わせるぜ!」「シーマ様。済みました。
仕事に戻りましょう」
『殺セ!』
『殺セ!』
『早ク殺セ!』
『全員殺セ!』
『皆殺シダ!』
『殺シテ殺シテ殺シテ殺シテ殺シテ殺シテ殺シテ殺シテ殺シテ殺シテ殺シテ殺シテ殺シテ殺シテ殺シテ殺シテ殺シテ殺シテ殺シテ殺シテ殺シテ
殺シテ殺シテ殺シテ殺シテ殺シテ殺シテ早ク殺シテエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!』
「――気を抜くな! まだだよ!」
「何!?」
シーマは見た。流れていくMSが纏う残り火が、視界の彼方でくるりと一回転するのを。
『うぅああああああああああ――!』
「な――あれだけ食らってまだやる気かよ!?」
「来るぞ!」
白いMSが加速する。五機のザクは合流し、敵の進行方向に対して径の小さい半円陣を敷いた。敵が陣の何処を狙って来ても、他の僚機が側
面から狙い撃てる陣形だ。
――しかし、白いMSはその動きが終わるより早く、全く別の方向へと転進した。「あ――?」「なんでそっちに――」
81 :
創る名無しに見る名無し:2011/12/03(土) 00:43:21.74 ID:gt4LtYra
「――抜かった! 攻撃班! 作業中断、全機撤収! 作戦は放棄する!」
「し、しかし! まだ10%も終わってませんぜ! これじゃ循環浄化機構《エアコン》で全部ろ過されちまう!」
「放棄するっつってんだろが! 命あっての物種さね!」
「しかし」
その声も途中で消えた。爆光がコロニーの壁を照らす。二つ、三つ、四つ。光条と爆光が続けざまに閃き、死者の悲鳴や怒号は殆ど聞こえな
い。攻撃班はろくな武装を持っていない。もう間に合わない。全滅する。
『そうか!』
声が響いた。男の――いや、小僧の声だった。
『お前らが、毒ガス攻撃をやったんだな! この人でなしのクズ野郎どもめ! だったらお望み通り、皆殺しにしてやるよ!』
「――ほざいてろ!」
吐き捨て、シーマは考えた。勝てるか、あれに? こちらの戦力は残った護衛班のザクが五機。負けるわけ無いだろバカ、と言える頭はすで
にシーマには無い。さっきまでは微かだった悪寒が、今はほぼ確信となって身体を駆け巡っている。あれには勝てない。殺される。逃げるべき
だ。
あれは――化け物だ――「コッセル」
「作戦放棄。総員撤退。MS隊を収容し、全速力で宙域を離脱しな」
「了解。しかし、あれはどうします?」
「始末するさ。――私がやる」
「……!? お一人で、とでも言う気ですかい!?」
「馬鹿な!」
「そりゃ無えぜシーマ様! 一緒に逃げましょう! いくらなんでもありゃ無理だ!」
「黙れ!」
腹から怒鳴った。全員が黙る。「行きな。時間が無い。こうして喋ってる時間も、攻撃班を見捨てて作ってるってのを忘れるな」
82 :
創る名無しに見る名無し:2011/12/03(土) 00:44:37.26 ID:gt4LtYra
「――らしくないですぜシーマ様。こんな時、誰を放っといても真っ先に逃げ出すのが俺らのやり方じゃないすか。何で今日に限ってカッコつ
けてんです?」
そんなこと、シーマ自身が聞きたかった。なんでこんな気分になったんだろう。宇宙に渦巻くこの憎悪の声に、自分まで頭をやられたのだろ
うか。しかし、軍人としてはさほど不合理な決断じゃない。全員が背を向ければ狙い撃ちにされる。誰かが殿をやらなければならない。そして
その役に最も適しているのは、自分だ。はあ、とため息を吐き、髪をかき上げようとしてヘルメットに手をぶつけた。舌打ちし、メットを外す。
黒髪が宙に踊る。どうせ死ぬんだ。暑苦しくて汗臭いヘルメットに閉じ込められたままなんてうんざりだ。――なんでやんのかだって?
言えば代わってくれんのかよバカが。
「行ってくる。気をつけて帰りなよ」
ザクを加速させ、コロニーへ飛ぶ。「シーマ様!」無視する。立て続けに上がる爆炎に向かって突っ込んだ。炎の中に白い悪魔が浮かび上が
る。最後のザクに手にした光の束――いや、光の剣を振りかざし、
間一髪、ザクが白いMSの腕を両手で掴んで食い止めた。競り合う。押し斬ろうとする白いMS。「そうだ、いいよ、ハッシュ――」呟いた。
そのまま押さえてろ。無線は飛ばさない。コロニーの壁に沿って飛び、マシンガンの狙いを定める。
83 :
創る名無しに見る名無し:2011/12/03(土) 00:46:03.56 ID:gt4LtYra
白いMSが、こちらへ振り向いた。「チッ――!」舌打ちすると同時に引き金を引く。
「ぐああああっ!」
悲鳴はハッシュの声だった。火線が通ったそこに白いMSの姿は無い。ハッシュを蹴ってコロニーに叩きつけ、その反動でかわしたのだ。
「ハッシュ! 生きてるかい!?」ハッシュ機がめり込んだコロニー外壁に『着地』する。
「シーマ様――畜生、駄目だ、パワーが上がらない。バックパックのどこかがイカれたらしい。離脱不能です」
「――だったら、もういい。機を棄ててコロニーに避難しな。気密区画まで入ってノーマルスーツを棄てれば、何とか紛れ込めるはずだ」
「シーマ様は――?」
「決まってんだろ」
『殺セ!』
『殺セ!』
『アト二人ダ!』
『アノ人デナシノクソ野郎共ヲ、一人残ラズブッ殺セ!』
『いぃぃぃいいぃくっぅぅぅぅぅぅううぅうぅうぅぅうぞぉっぉぉおぉおおぉぉぉォォォォォォォオォオォ!』
悪魔が叫び、飛翔する。「奴の目を引きつける。流れ弾が来る前に逃げな」
「駄目だ! 止めてくれシーマ様! あんたはこんなところで死ぬ人じゃない!」
「男がぐちぐち女々しいんだよ。命令はしたからね」
84 :
創る名無しに見る名無し:2011/12/03(土) 00:47:23.48 ID:gt4LtYra
言い残し、飛ぶ。敵弾警報よりも早く機を上下左右に振り、敵が放ったビーム弾をかわす。彼我の距離が瞬く間に零になる。シーマは敵MS
の顔を見た。人間を模したようなツイン・アイ。角のような二本のブレード・アンテナ。ご丁寧に口のような意匠まである。
しかし。
「遅い!」
真っ向勝負なら、敵のパイロットの技量はシーマには遠く及ばなかった。光の剣――ビーム・サーベルを振り上げる腕を右腕で受け止め、左
に構えたヒート・ホークを一閃する。
「があっ――!」
敵が獣のような呻きを漏らし、ヒート・ホークは敵の胸部右上方――人間で言う鎖骨の辺りに食い込んだ。しかし斬れない。超硬チタン装甲
でさえ易々と切り裂くヒート・ホークが、止まる。「だったら――」装甲を抜けないなら、方法は一つ。装甲以外を破壊するしかない。
「――何故だ!」
「何――!?」
シーマは急に聞こえたその言葉に反射的に応えながら、敵MSの右腕を見た。もう一本、光が伸びる。しまった、と思い反応しようとしたが、
敵はその剣を振り抜こうとしない。
「何故こんなことをするんだ! 俺がどうしてここに現れたか、分かっているんだろう! 憎まれると分かっていて、それでも同じスペースノ
イドを、どうして殺せるんだ!?」
「あ――?」
悪魔が、人語を喋った。シーマにはそんな感想しかなかった。後は――
85 :
創る名無しに見る名無し:2011/12/03(土) 00:48:42.75 ID:gt4LtYra
「馬鹿か! 戦争で軍人が人を殺すのは当たり前だろうが! 憎まれたからどうだってんだい!? 世の中の殆どの人間は、自分が憎まれてん
のを自覚して生きてんだよ! それでも生きてたいからさ! 違うってんなら、尚更そんな奴のこたぁ知ったこっちゃ無いね! 勝手に生きて
勝手に死にやがれ!」
「それでもやり方というのがあるだろ! 銃後の人間を毒ガスで殺して、あんたの良心は痛まないのか!」
「銃後もクソも関係あるかい! 戦争になりゃ全員死ぬんだ! 安全なところに自分だけ逃げ込んで怪我した殺されたっつって文句言い出す人
間、私はヘドが出るほど嫌いだよ! むしろそいつらこそ先に死ねばいい!」
「そうかよ――! 全員死ねばいいってんなら、まずあんたが死ねって話だな!」
ガンダムの右手のサーベルが横薙ぎに一閃する。「笑わせんな!」シーマはそれを両脚を大きく振って、ガンダムの上で逆立ちになるような
姿勢でかわした。「あ、うぁ――!?」サーベルを振った力とシーマ機の急な機動で翼はバランスを失う。すかさずシーマはヒート・ホークを
引き抜き、そのまま右腕を軸に一回転した。瞬間、ガンダムとザクが背中合わせの姿勢になり、
「そら!」
「な!?」
シーマ機の左脚が跳ね上がり、ガンダムの背中――バックパックを蹴り上げた。首尾よくノズルに入っていれば、敵はもうスラスターを使え
ない。「うわあああ――!?」悲鳴を上げ、くるくると回転しながらガンダムが吹き飛ぶ。シーマはマシンガンを取り出し、引き金を引いた。
フルオート斉射。全弾命中。
『――畜生ォォォォォ!』
「何!?」
86 :
創る名無しに見る名無し:2011/12/03(土) 00:50:37.79 ID:gt4LtYra
叫び、ガンダムは体勢を立て直して加速した。割れた装甲を弾けさせ、シーマ機に肉薄する。ビーム・サーベルを振りかざし、また掴んで止
めようとしたシーマ機にそのまま体当たりした。二機が流星となって宇宙を翔ぶ。ガンダムは左回転し、サーベルでシーマ機の首を斬り飛ばし
た。しかしシーマ機は怯まず、身体を開けたガンダムの腹を狙って横薙ぎのヒート・ホークを叩き込む。ガンダムの右足が跳ね上がり、首を失
ったシーマ機を蹴り飛ばした。「クソ――!」シーマは思い切りフットペダルを踏み込み、明後日の方向へと全速で飛び退った。刹那、シーマ
機が一瞬前までいた場所をビームが駆け抜ける。
「オラァァ!」
「くっ――!」
追ってきたガンダムの拳を食らい、シーマ機はまた吹っ飛ばされる。「がっ――!?」食らった。そう思ったが、シーマはまだ生きていた。
ビーム・ライフルを食らったのではない。コロニーの外壁に叩きつけられたのだ。
「!」
しまった。そう思って正面を見た時には、ガンダムがビーム・ライフルを構えていた。やられる――そう思った。それだけだった。死ぬとか
そんな意識を持つ間も無かった。
――だが、一秒を通り過ぎた頃になっても、殺意の光がシーマを包むことは無かった。
「…?」
訝しみ、ガンダムから小さな舌打ちが聞こえる。
二秒にもならない時間で、シーマは全てを理解した。
「は――アハハ! アッハハハハハハハハ! バァァカ!」
87 :
創る名無しに見る名無し:2011/12/03(土) 00:52:02.91 ID:gt4LtYra
コロニー外壁を蹴り、加速する。回避パターンなど組み込まず、一直線に踏み込む。哄笑と共にヒート・ホークを振り抜く。ガンダムの反応
はやはり遅く、防御しようと持ち上げた腕が半ばまで切断された。
「コロニーを撃つのが怖かったかい!? 笑かしてくれるにも程があるよ! それで怨念返しだって!? 寝言は寝て言えクソガキが!」
「黙れ! あんたこそ何故分からない! ただの怨念返しなら、俺はここに呼ばれるはずが無いんだ!」
「何度も言わせんな――寝言は寝て言え!」
左回し蹴りでガンダムの頭を蹴り飛ばす。「クソ――!」ガンダムはそのまま回転し、ビーム・ライフルの銃口をシーマに向ける。しかしそ
の腕はシーマ機の左腕に打ち払われた。右のザク・マシンガンが吼える。ガンダムは半身を開いてかわし、破損した右腕を叩きつけてザク・マ
シンガンを持つ手を打ち落とした。上体を崩したザクの腹に膝を叩き込む。
「ぐっ――!?」
「殺った!」
コクピットを直撃され、シーマの反応が一瞬鈍る。その隙を逃さず、ガンダムは両腕を振り上げた。フルパワーで殴りつける。一度で駄目な
ら二度でも三度でも。死ぬか失神するまで痛めつけてやる。
ドゥッ――!
激しい衝撃がザクのコクピットを襲った。上下左右に揺さぶられ、壁かどこかに頭をぶつけてたまらずシーマは失神した。
片腕片脚をもがれたザクと光の残照に灼かれるガンダムが、別々の方向に吹き飛ばされていった。
88 :
創る名無しに見る名無し:2011/12/03(土) 00:53:17.74 ID:gt4LtYra
シーマはベッドの上で目を醒ました。
見慣れない場所だが、知っている。船の――リリー・マルレーンの医務室だ。「…」
「…!?」
「シーマ様!」
動こうとして激痛に呻いた。傍にいたコッセルが椅子から立ち上がる。「気がつきやしたかい!?」
「――船、か」
「ええ。苦労しましたぜ、吹っ飛んじまったザクを探して回収するのは」
「吹っ飛んだ――?」
「危険とは思いましたが、見てられませんでね。シーマ様とあの野郎がやりあってるところに、一発ぶち込んじまいました。敵はあれから戻っ
てきませんでしたから、おそらく仕留めたでしょう」
「――」
零距離戦闘中のMSに、戦艦の主砲を撃ち込んだと言うのか。とんでもないバカだ。普段なら怒鳴り散らして平手を食らわせるところだが―
―命を救われた以上、強くは言えない。
「――二度は、無いよ」
「申し訳ありません」
「謝るこたぁ無い。支援が無きゃどのみちやられてたんだ。助かったよ。――探してくれたんだって? よくそんな時間があったね」
89 :
創る名無しに見る名無し:2011/12/03(土) 00:55:09.39 ID:gt4LtYra
「損害が大きすぎやしたからね。次の作戦からは外されちまいましたよ。――ま、好都合だったわけですが」
「――次? そういや、結局作戦はどうなったんだい。失敗かい?」
「別の部隊がイフィッシュとかいうコロニーを征圧できたんで、そっちを使うそうです。今頃は護衛艦隊と一緒に」
「――そうかい」
「……シーマ様。一回だけ、よろしいですかい」
「?」
「失礼しやす」
軽く、殴られた。「……何だい」
「ヘルメットを着けてないとは、どういう了見ですかね」
「……気をつけるよ」
「二度は、ありませんぜ」
言って、コッセルは笑った。シーマも笑う。「おお、シーマ様!」「何!? もう起きておられるじゃねえか!」「ずるいぜ副長! 起きた
んならとっとと教えてくれねえとよ!」「うるせえ馬鹿共! 出て行け! ここは病室だ!」「だったらテメエがまず出て行けって話じゃねえ
か!」「だいたいあんたのダミ声が一番でけえよ!」「シーマ様! 俺ですぜ! シーマ様のザクを見つけてリリー・マルレーンまでお送りし
たのは!」「しれっと嘘吐くんじゃねえよ! 操舵のお前が何で回収できんだコラ!」
どたどたと押しかけてくる部下達。思わずシーマは吹き出した。こんないい連中を、今日は七人も殺してしまった。次は何人死ぬだろう。何
人死なせずに済むだろう。
――とりあえず、この馬鹿共が帰ってから考えようと思う。
機動戦士ガンダム −翼の往先−
第一話 『悪魔召喚』
90 :
創る名無しに見る名無し:2011/12/03(土) 00:56:34.72 ID:gt4LtYra
次回予告
もう嫌だ。もう止めてくれ。早くこの悪夢から醒ましてくれ。
恐ろしい夢から醒めた少年を待っていたのは、悪夢よりも無惨な悲劇が続く終末の世界だった。
預言者を気取る男の声が宇宙に響く。
『神の放ったメギドの火に、連邦は必ずや灼き尽くされるであろう』
堕ちていく空。蒼く輝き、紅く燃える地球。
満身創痍のガンダムと共に、少年は再び戦場に立つ。
酷薄な神は少年に宣告する。
『ここで還るならそれでよし。しかし、もし君が人の身で翼を求めるならば――』
少年は答える。愚問であると。還りたいに決まっていると。
「……でも、還れねえだろ」
戦いの道を選んだ少年に、神は狼との決闘を言い渡す。
生きる権利と確率を削り取られ、少年の心が軋み始める――
次回、機動戦士ガンダム −翼の往先−
第二話 『メギドの火』
その火を人間にもたらしたのが神だとするなら、
神は、無能である。
せっかくのシーマ様ご出陣でも静かなので……
>>67-90 投下乙です。
かなり激しい戦闘で。
なんとなくガンダムカタナを思い浮かべてしまいましたw
シーマの乗機がザクとありましたが、一年戦争当初だと、ひょっとしてザクTですかね?
後のエースパイロットは、搭乗経験がある事が多そうなので。
主人公・翼がいかにガンダムに飲み込まれないで戦い続けるか。
この先期待するやら不安やらです。
ま、そこは大人しく続きを待つって事で。
>>91 レスありがとうございます。
僕のSSにレスが少ないのはガーベラの頃からの伝統なので、もう慣れっこですw
ネタ的に絡み辛いのかも知れませんが。今回は特にw
三話以降はまだ全然です。遥か未来に投下予定。
予告
今夜GPB外伝の続き投下予定。
現在最後の読み直し中なので、しばしお待ち下さい。
94 :
GPB:2011/12/08(木) 23:48:09.10 ID:pEc36lNo
ガンプラビルダーズVS・A(ヴァーサス・アサルト) 外伝・月光の歌姫02
「なんでないてるの?」
不意に声を掛けられて、小さな女の子は顔を上げた。
真っ赤に腫らした目で見上げると、傍に立っていたのは自分と同様に小さな、男の子だ。
一生懸命砂場で遊んでいたらしく、スモックを身につけた全身は砂まみれ。
顔も汚したまま、不思議そうに見下ろしていた。
そして右手には、何やら人型のロボットを手にしている。
小さな物だが、小さい子が持っているとそこそこ良いサイズだ。
すでに長い間遊び倒されているらしく、四肢と背中の羽根らしきパーツの関節がプラプラしていた。
ソフビの人形だったら、こんな風にはならない。
これは、プラモデルだ。
父親に作ってもらったらしく、遊んでボロボロになっても良い様に、素組みだけで済まされている。
それでも、組んだだけで設定に近い配色になるのだから、この頃からのプラモデルは侮れない。
見るのも珍しいのか、少女の視線はそのプラモデルに注がれていた。
それはそうだろう。
女の子にとって、プラモデルは男の子、それも少し大きい子が作る物という印象が強いだろうから。
「これ? これねー、おとーさんにつくってもらったー! すなばであそぶせんよう!!」
どこか得意気に、男の子が手にしたプラモデルのロボットを差し出した。
「ういんぐがんだむ! かっこいー! ゆいはこれがいちばんすきー!!」
ウイングガンダム。
少女の記憶に、一番最初に刻まれたガンダムの名前だ。
「これにのってるのも、ゆいってひとなんだよー!!」
まるでそれが好きな理由だとでも言う様に、何故か得意気な男の子だ。
「きぃーん!」と声を上げながら手に持って飛ばす様に走り回ると、関節のヘタリまくった四肢と羽根がカチャカチャと揺れた。
見た目にはとてもカッコイイロボットとは思えなかったが、男の子は気にする様子も無い。
そして、なぜだかとても微笑ましかった。
95 :
GPB:2011/12/08(木) 23:49:02.29 ID:pEc36lNo
「ね! あそぼーよ!!」
ここでやっと、話掛けた目的を思い出したか。
やっと用向きを告げて、男の子は満足そうに笑う。
「ゆいはねー、ゆいってゆーの!!」
「……あたし……まい……」
「まいちゃん? ねえ、あそぼ!」
他の女の子達は、なぜか遊んでくれない。
このゆいと名乗る男の子が、初めて自分に声を掛けてくれた。
「いこ! すなあそびしよう!!」
男の子は左手にプラモデルを持ち替えて、右手を差し出した。
その手を、右手でそっと握り返す。
温かい。
「いこ!」「うん!」
涙をぬぐって立ち上がる。
他に、一緒に遊ぼうとする子供の姿は見られない。
だが、その二人の姿は微笑ましかった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「――ねえ。ここにウイングガンダムを使う人、来る?」
電子音とBGMが耳に響いて邪魔な、ゲームセンターの店内で、
栗色の髪の少女が、カウンターにいるアルバイトスタッフに声を掛けた。
顔には大きな黒縁のメガネを掛けている。
ここはW地区の、それほど大きくは無い街の駅前にある、全国チェーンのアミューズメントスポットだ。
ほんの数年前に出来たので、少女にとっては初めての場所だったが。
「ウイング? バトルには珍しいMSだね」
あまり考える様子も無く、そう答えるスタッフに、
「来た事が無いんなら良いわ。他を当るから」
即答を望んでいたのにアテが外れたか、アッサリその場を離れようとする。
「あ〜、待って待って! そういやついこないだ、確か一回来たよ! その時はウイングじゃなくてハルートだったけど」
引き止めようと言うつもりか、慌ててそう言った。
「――本当に?」
聞き返す少女の方は疑わしげだ。
「この辺じゃちょっと有名な子だから。何ヶ月か前までは週に何度か来てたけどね。最近はそんなに来ないよ」
「――じゃあ、他の場所をメインにやってるって事ね」
「いや、こっちにもまた来るんじゃないかなあ? それより君、カワイイね。シノザワ・マイナに似てるって言われない?」
「ありがとう。そうね、たまに言われるわ」
なんとか相手の気を引こうと、褒める様な事を言うが、
言われた本人は、まるっきり興味が無さそうだ。
視線を逸らして、高い位置に設置された大型モニターに眼を向ける。
96 :
GPB:2011/12/08(木) 23:50:08.74 ID:pEc36lNo
画面に表示されているのは、今行われている地区限定バトルロイヤルのリアルタイム中継だ。
多数の宇宙用MSが所狭しと飛び回り、フィールドのそこここで激しいバトルを展開している。
今大映しになったのは、ティターンズカラーのハイザックに大型移動砲台ユニットが合体した物だが――
少女に、これが探し求める相手の仲間だと言う知識は無い。
「おー! そういや電ホビに載ってたなあ。ああいう改造MS!」
そのスタッフもガンプラが好きなのだろう。
画像を見て、喜びの声を上げる。
「お仕事中に邪魔してごめんなさい。用があればまた来るわ」
そう言って、カウンターを去ろうとする少女。
「あ! ちょっと待って君。あれ……」
呼び止めたスタッフが、少女に対して画面を指で示す。
モニターには、大きな羽根を持つ白いMSが大写しになっていた。
「――何なの? あれはガンダムじゃないわよ」
「いや、でも」
尚も離れない指先に、もう一度モニターを見た。
そのMSに関してリアルタイム表示された、今行われている対戦カードと、そのプレイヤーのエントリーネーム。
BATTLE:U−Y VS KuruKuru
「――っ!?」
「たしかその子って、あんなエントリーネームだったと思……って!?」
名前を確認した瞬間、少女は駆け出していた。
向かう先は――店に設置された、ガンプラバトル専用の筐体。
「エントリーするわっ! 何番が空いてるのっ!?」
「いや、今からエントリーすると、残り時間十分切っちゃうよ!?」
「――大丈夫! これを使うから!!」
走りながら少女がポケットから取り出したのは、普通のプレイヤーが目にする事は無いカード。
「ぶ……ブラックカードっ!?」
「何番!? 早くっ!!」
「えーっと……さっ……三番が空いてるよ。スーツはっ!?」
「要らないっ!!」
慌しく指定された筐体に潜り込み、バッグを探る。
取り出したのは、自前のヘッドセットと白いMS。
いつもPV撮影で使っているキュベレイ……だが、
実はこれは、ガンプラでは無い。
1/100マスターグレード(MG)を原型にして、映画関係のプロップを専門に製作する造形会社に依頼して仕立てた特注品だ。
見た目はガンプラだが、内部には小型スピーカーや音楽プレイヤーその他、必要なギミックを仕込んである。
普通のカードでは、スキャナーに掛けた時点でレギュレーションチェックに引っ掛かってしまうので、エントリー自体出来ないが――
マイナは、特殊なカードを持っている。
97 :
GPB:2011/12/08(木) 23:51:09.78 ID:pEc36lNo
フリーアクセスカード。
システム管理用カードとも開発用カードとも言われるが、知っている者にはブラックカードの方が通りが良い。
PV撮影の為にスタジオに筐体を置いている関係上、彼女も当たり前の様に持っている。
今マイナが乗り込むのは、指定された筐体では無いので、システム内部に直接干渉する事はできないが、
それでも、いくつかの特殊な操作が可能になる。
どんな物でも、スキャンしてフィールド上に3DCGで再現できる、というのもその一つだ。
完全に、ガンプラバトルシステムそのものを、ひとつのシミュレータとして利用する為の機能だったりする。
ただし通常のフィールドでは、たとえ攻撃しても相手にダメージは無いが。
しかしそれは、マイナにとっては好都合となる。
ビームを撃っても相手のMSに影響が無いならば、それはライブ用の視覚効果として利用出来るからだ。
もちろんフィールドの方には効果が現れるため、PVでも派手な演出として使っている。
ハロを模したガンプラスキャナーにキュベレイを入れて蓋を閉じ、カードをスロットに挿入。
手にしたヘッドセットの右側に筐体のシートから伸びるコードを、左側には自前の小さな機械から伸びるコードを接続。
その機械をクリップで胸元に付ければ、準備は完了だ。
プレイ時間残り十分を切れば普通はエントリー不可能だが、今の彼女には関係ない。
ポイントの加減算も無いが、ポイントなんてどうでも良い。
今シノザワ・マイナがやろうとしているのは――
あのウイングガンダムのパイロットを捕まえる。
そして――こちらの用向きを伝える。
今はそれで充分だ。
『アクセス完了、エントリー開始します。ガンプラスキャナー起動』
システムボイスが告げる。
己が写し身たるガンプラを駆る者だけに許された、もう一つの現実世界への突入を。
こうして、本来ならエントリーすら不可能なはずの特殊なキュベレイが、戦場に降臨した。
98 :
GPB:2011/12/08(木) 23:52:04.55 ID:pEc36lNo
『……いきなり何? あのキュベレイは!?』
トールギス武龍を駆るクルカワ・アオイが迎撃に動こうとするが、
「――待った! 先生落ち着いて!!」
傍らのトールギス飛天、ウエハラ・ユイトがそれを制した。
こうしている間にも、
本来ならありえない非常事態に、周囲で戦闘を行っていたMSが続々と集結してくる。
突然現れたキュベレイの方は、モノアイをグリグリと動かして周囲を覗うだけで、そこから移動する気配は無い。
端から見える動きと言えば――
あの特徴的な、前後に開く大きな両肩を解放し、両腕をパアッと左右に広げる。
そして一度収納した右手が、大きなヘッドのマイクを手に再び現れると――
それを口元(?)に構えた。
『何? 一体何が始まるの???』
『こんな所で……ゲリラライブかぁ?』
ソウミ・ユウリとホシナ・ケンヤも、疑問しか湧いてこない。
やがて、カッカッカッとドラムスティックが打ち鳴らされる音が響き――
♪ ねえ わたしをみてよ
あなたが好きだって 言ってくれた
白い装甲(ドレス)をまとって
ここに……いるからっ!
音無しで始まったスローな歌に戸惑っていると、
ワンフレーズアカペラ歌唱終了と同時に、ギターとベースとキーボードとドラムが、いきなり大音量で鳴り出した。
『こっ……これはっ! マイたんのデビュー曲“オトメの決心”っ!?』
『なんであんた、そんなに詳しいのよホシナっ!?』
思わず説明的なセリフを吐いてしまったケンヤに、ユウリは驚愕する。
傍にいるマナサキ・ミスノは、この異常事態に何も言えない状態だ。
そして、この歌が歌い始められてしまった影響は――すぐに出た。
『おい……この歌……?』『ああ。歌いだし前に微かに聞こえたブレス……』『いかにも録音ですという整った感じがしないライブ感!』
『これは正真正銘――シノザワ・マイナの生歌かっ!?』
それを同時に理解した連中が、
周囲で、狂った様に飛び回り始める。
99 :
GPB:2011/12/08(木) 23:52:59.85 ID:pEc36lNo
「これは……一体!?」
いつもと違う熱気に、ユイトも戸惑い気味だ。
♪ 雨上がりの 星空に
手を合わせて祈るの
流れ星に お願い
この想いを 届けて
そんな弱気じゃ 伝わらないわ
切ない 恋心
ねえ わたしをみてよ
あなたが好きだって 言ってくれた
白い装甲をまとって
ここにいるから
スローからアップテンポへと変調し、アイドルらしく変化した歌が、その場を支配した。
歌を知っている者は、フレーズに合わせて合いの手を入れる。
そして抜き放たれたビームサーベルやヒートサーベルが、ペンライトの様に振られた。
こうなると、もはやバトルどころの騒ぎではない。
ここは、にわか音楽ライブ会場と化してしまった。
リックドムが、ゲルググが、06-RザクUが、
ギラドーガが、ギラズールが、さらにはリガズィやジェガン、ジェスタといった連邦系MSまでも。
シノザワ・マイナのファンらしき連中の駆る宇宙用高機動MSが、エキサイトして舞い狂う。
『――歌の力って……スゴイっ!!』
心底感嘆したミスノが呟くが、
『いや、それって違うアニメっぽくない???』
ユウリはそれに対して、冷静にツッコミを入れた。
『あのキュベレイ、どうやら1/100スケールみたいね。でもなんかおかしいわ』
「いや、先生。こんな時も冷静に分析って」
MSである以上、友軍以外は全て敵、とでも言う様に。
言葉を絞り出す女教師の物言いに、ユイトは苦笑いする。
100 :
GPB:2011/12/08(木) 23:54:17.18 ID:pEc36lNo
♪ ねえ わたしをみてよ
あなたが好きだって 言ってくれた
白い装甲をまとって
会いに行くから
素直なままで
一曲最後まで歌い終わったところで、フィールドは歓喜に包まれる。
『マイたんっ! 一体どこからエントリーしてるんだっ!?』
『すぐ行く! 今行くっ!! どこへでも行くっ!!』
『ちくしょー! うちは田舎だから、来てる可能性は絶対無いなっ!!』
口々に叫ぶファン達の声に、
(――はっ!?)
コクピットシートに着いたまま、マイナは我に返る。
(しまった……つい調子に乗って、フルコーラス歌っちゃったっ!?)
目の前の戦闘を威嚇射撃で止めるだけだと、他からやってくるMSの攻撃が始まる可能性がある。
そう思って、歌でフィールド全体を戦闘停止状態に持って行った……はずだったが。
どうやら、やりすぎた。
そして無情にも、
『ガンプラバトル、タイムアップです。フィールドに残ったMSのパイロットは――』
バトルの終了を告げる音声案内。
さすがのブラックカードも、全アクセス権限の無いシステムに対して、プレイ時間にまで干渉する事は出来ない。
だから。
『――ねえっ! あなたユイ君でしょうっ!?』
ビシッと指を指す相手は、大きな翼を持つカスタムトールギスだ。
「……ええっ!?」
驚いたのは、名指しで声を掛けられた当の本人。
『お願い! 大事な話があるのっ!! これが終わったら、どこか近くで会――』
最後まで言わせずに、スクリーンはブラックアウトした。
101 :
GPB:2011/12/08(木) 23:55:38.97 ID:pEc36lNo
バトルロイヤルが終了するのを待ちきれない、とでも言う様に、
大急ぎでカードを抜き、ヘッドセットと愛機と、そしてバッグを抱えてマイナは筐体から飛び出す。
まだ同じ店からエントリーしているプレイヤーは、カードの更新手続きが継続しているので、出ては来れない。
脱兎の如くカウンターへと走り寄ると、
勢い良く千円札を叩き付けた。
「――これっ、プレイ料金! 確かに支払ったわよっ!!」
それだけを言って、出口へと走る。
「あ……ちょっとお釣り!?」
「要らないっ!!」
そもそも、直接現金で支払うシステムでは無いのだが。
それでも、対応しようとしたスタッフは健気だ。
通常のエントリーカードなら、課金さえしてあれば現金自体不要だが、フリーアクセスカードはそういうカードでは無い。
スタッフ自身はあまりの怒涛の展開に、まだシノザワ・マイナ本人だと気付いてはいないが。
店から出たところで、それを待ち構えていた様に黒い大型車が店の正面に停車した。
迷う事無く乗り込む。
ドアが閉じると同時に、車は走り出した。
「どうやら無茶したみたいだな、マイナ」
運転席の社長=父親が話し掛ける。
「それは良いんだけど、目的がちゃんと果たせなかったわね」
「いや、良くは無いだろう」
どうにも噛み合わない会話の親子。
「それで……見つけられなかったのか、その相手は?」
目的が果たせなかったと聞いて、そうだろうと見当をつけた様だが、
「見つけたわ。でも、こちらの用事を伝える前に時間切れ。やんなっちゃう!」
探し求めた相手かどうか、本当はちゃんと確認できた訳ではない。
だが、マイナは確信している。
今のガンプラバトルの状況で、たった一人で頑固にウイング系を使い続けている辺り、相当のこだわりだ。
今日は対戦相手も同じ機体を使っていた様だが、いつもという訳ではないだろう。
あれだけの腕前ならば、当然全国大会にも出ているだろうし、もしいつもウイング系を選ぶなら、その時もそうするはずだ。
全国大会本選にエントリーしていた中で、ウイング系はたった一人。
自分たった一人でも、信じているなら、頼りにしているなら、迷わず選ぶ。
昔と同じだ。
本当に幼かったあの日と。
今日は、それが確認できただけでも良しとしようと、マイナは思う。
102 :
GPB:2011/12/08(木) 23:57:12.54 ID:pEc36lNo
「それでパパ。頼んでいた物は手に入れてくれた?」
「ああ、何軒か回ってようやくな。そこにある」
マイナが座るリアシートの足元に、ビニール袋が転がっていた。
ホビーショップ・ノアと店のロゴが印刷されている。
「品揃えに関しては良く判らないが、店は小さいけど店員の対応は良かったな。ゲームの筐体もあったぞ」
まさかそこが、娘の探している相手がいた所だとは知らずに、父は言った。
暗い車内で袋の中身を確認していたマイナは、袋をとじて自分の横に置く。
「ありがとうパパ。これでなんとかなるわ」
「でも何故今更? しかもワザワザ自分の手で? いつものではダメなのか?」
このゲーム自体に明るくない父は、素直な疑問を寄せるが、
「自分の手で用意したいの。だから今夜から明日一日は、ホテルに籠もるからね」
「はあ!?」
「さすがに今日の明日で、連続出撃は無いでしょ。きっとみんな、明日はお休みよ」
「たかが遊びと思っていたが――そんなものなのかねえ?」
その言葉に、娘は片眉をピクリと動かした。
「パパ。今やガンプラバトルは、スポーツと一緒……ううん、それ以上ね」
怒ってはいないが、静かにコンコンと諭す様に言う。
「製作技術と操縦技術、そして戦術。どれが欠けても勝ちは無いシビアな世界、それがガンプラバトル」
傍らのビニール袋に添えた手に、力が籠もった。
「これからわたしがプロの歌手として生きようとしている世界。彼らにとってはただの遊びでは済まない、もう一つの生きる場所よ」
あそこまで真剣に取り組んでいる者がいる以上、遊びと割り切ってしまうのは失礼だろう。
自分だって、歌に関してたかがなどと言われると、きっと怒るに違いないのだから。
「とりあえず今回は、自力で彼と同じステージに立つわ。後の事は――上手くいく様に、祈ってて」
今残された時間は、あと二日。
今後さらに時間は必要になるかもしれないが。
「あー。なんだか最後は、変な事になっちゃったわね〜」
店から出て開口一番、クルカワ・アオイが口を開く。
「それにしても、あのキュベレイはなんだったんだか」
まだ気になるのか、そんな事を呟く。
「ユイ、お前シノザワ・マイナと知り合いだったのか?」
ホシナ・ケンヤは、仏頂面でそう訊いて来た。
自分が好きな歌手の口から出た名前が、自分では無く、よりによってその歌手の事を知らないと言う親友の物。
落胆は大きいだろう。
「いや……確かにどこかで見た気はしてたんだけど……」
ウエハラ・ユイトは、真剣に思い出そうとするが――やはり思い出せない。
だが。
「かなり昔の事だから、思い出せって言うのは難しいかもね」
何を思ったか、ソウミ・ユウリが口を開いた。
「ソウミお前、なんか知ってんのか?」
ケンヤは少しでも聞き出そうと言う様に、矛先を変えた。
「知ってると言うか、今思い出したの」
ユウリは重い口を開く。
「あの子、あたし達と同じ保育所に行ってたのよ。その時ユイトは、随分仲良くしてたわね」
。
103 :
GPB:2011/12/08(木) 23:58:38.75 ID:pEc36lNo
「……え!?」
今度はユイトが驚く番だ。
「生まれがこっちの方だってのは知ってたけど……まさか、そんなに近い所にいたとはっ!?」
ケンヤも、自分の出会い運の悪さに頭を抱える。
「あの時ユイトは、子供なりに女の子からの人気があったから、随分やっかまれてたわね、あの子」
当時を思い出しながら、ユイトの過去を知る唯一の女がその頃の事を暴露しはじめた。
「ユウリ〜! やめようよそんな話」
「いや〜、おれはマイたんに関する話だったら何でも聞きたいな!」
恥ずかしがるユイトを制して、ケンヤは尚も話の続きを求めるが、
「昔の話だもん、そんなに覚えてないわよ。それよりユイトあんた、あの子と軽はずみに結婚の約束とかしてないでしょうね?」
話を打ち切られた上に、妙な心配をされた。
「けっ……ケッコンっ!?」「子供同士の約束だ……そんなもん無効だ無効っ!」
特定のキーワードに過敏に反応するミスノと、他人の事なのに妙に否定したがるケンヤ。
「ほら、そんな話良くあるじゃない。だからちょっと心配になっちゃった訳」
「いや、そんな覚えはないよ。大丈夫!」
「ハン! どーだか!! 今でもまだ思い出せないクセに」
ユイトは自信ありげに言うが、ユウリは今ひとつ信用していない。
「しかしそっか。幼稚園と違って保育所なら、年齢で組が分かれてるとかって事もそんなにないし。接点はあるか」
向こうは一つ歳上なのに、なぜそういう話になるのか。
その点を無理に納得しようとするケンヤである。
「結婚……もし約束してたら……」
虚ろな表情でブツブツと呟くミスノに、
「あー、大丈夫だってミスノ。子供の約束なんていい加減なもんよ?」
慰めの言葉をそっと囁くユウリ。
「……でも……」
どんな小さな事でも気になってしまうお年頃。
取り越し苦労と言われても、色々と考え込んでしまう。
「本人が忘れてるんだから大丈夫よ。もし約束してても、無かった事にすれば良いの!」
ユウリはあくまでもそう言い切った。
「それよりもウエハラ君!」
ガンプラバトル以外の事には言及する気が無いのか、
話が落ち着いた頃合を見計らって、アオイが口を開く。
「今度こそウイングカスタムと戦りたいわ! 明日持って来てっ!!」
タイトなスケジュールでの対戦を要求してくる。
だが。
「いやー、明日は家の用事があるんだよ先生」
「関係ないかもしれないけど、明日はオレもダメだ」
男子二人、揃って不都合を告げる。
「なによー! そんなのブッチしちゃいなさいよー!!」
教師にあるまじき問題発言を遠慮なく吐くアオイ。
「いや先生。普通逆だよね? 大人なら尚更、遊びより用事優先だよね普通?」
「どんだけガンプラ馬鹿なんだよ先生」
馬鹿と言われても、その前にガンプラと付けば、それが脳内で賞賛に自動変換されてしまう女教師は、
「私達にとってガンプラバトルは、遊びじゃあないでしょう? だったら当然、どんな用事より大事よ!」
迷い無く断言する。
「そうかもしれないけど、とにかく明日はダメなんだよ」
「連日はキツイってのもあるしな。明後日じゃダメか?」
話が通じないので、代替案を出すしかない。
「日曜……しょうがないわね。じゃあ明後日、必ずアレを持って来る事! 絶対よ!?」
「わかりました。明日暇見て調整しときます」
「オレは作りかけのを仕上げるか。マイたんの歌聴きながら〜」
「ホシナ、やっぱあんたキモイわ」
最後は大袈裟に身震いしてみせるユウリの一言で、その場は終わった。
104 :
GPB:2011/12/08(木) 23:59:42.94 ID:pEc36lNo
そして、一日置いて日曜日。
「ふっふーん! 昨日機体も少し調整できたし、考えようによっては一日空けるって言うのは良いのかもね!」
朝からご機嫌な女教師が、スーツに着替えてほくそ笑んでいる。
結果次第で機嫌がコロコロ変わるのは、いつもの事か。
「だから連日はツライって言ったじゃねえか。そりゃ毎日プレイ出来りゃ楽しいけどさ」
「先生本気だねえ。今日もトールギスか」
「そう! ウエハラ君と戦る時はこれ!! っていうか、これ以外はキツイ」
「ノーベルは? 本当はあっちが愛機なんだろが」
「アレはスピード重視で攻撃が軽いしねえ。空も飛べないし」
意外な事を言う。
「アレだけ一度にたくさんブッ倒しておいて、攻撃が軽いだとぉ? ふざけてるよ先生」
「本当よ。格闘戦重視で動きが良いけど軽量な機体を、手持ち武装でカバーしてるの。アレでも結構、負けない努力してるのよ」
話を続けるケンヤとアオイのやり取りが途切れた所で、
「先生、ミスノとユウリがまだ来てないよ。どうする?」
ユイトが訊いた。
一昨日の別れ際には、日曜日も出てくるという話だったのだが。
「欠席の連絡は無いしね。バトルロイヤルのエントリー開始時間まで、もう少し待ちましょうか」
機嫌が良いせいか、
今日はノンビリと待つ構えの同好会顧問であった。
そこに。
「やあ、みんな。今からバトルかい?」
現れたのは、ユウリの兄のカツキだ。
「あれ、カツ兄ちゃん? ユウリは???」
待ち人本人ではなく近親者が現れたので、思わずユイトが声を上げるが、
「妹はもうとっくに家出たけど――まだ着いてないのかい?」
辺りを見渡して返答する。
「兄ちゃんもバトルにしに来たのか?」
今度はケンヤが訊く。
「今こっちのエリアは大騒ぎらしいからなあ。祭りには乗らないと」
そう言って、ガンプラの箱が入ったバッグを掲げて見せた。
「良いけど、私達の足引っ張らないでよ?」
あからさまに迷惑そうなアオイ。
「はっはっは! 相変わらずキッツイなあ先生は」
そう言われてもビクともしないカツキである。
105 :
GPB:2011/12/09(金) 00:00:46.02 ID:IDpxXMiN
その頃、件の二人は――
「どうしたの? 行かないの?」
店の近くの、小さな児童公園のベンチで。
傍に立って見下ろすユウリと、座ったままうな垂れているミスノの姿が。
「行くけど……あまりその気にならなくて……」
どうにもテンションが上がらない様だ。
少しの間、親友の様子を見つめていたユウリだったが、
「……はっは〜ん!?」と、意味ありげに呟いた。
ミスノはそれに、過敏に反応するが、
「ミスノあんた、あの女アイドルの事を気にしてんのね?」
そう言われて、肩がビクッと動いた。
どうやら図星だったらしい。
「ゆ……ユウリちゃん……あのっ!」
慌てて動揺を隠そうとするが、
慌てれば慌てるほど、それは逆効果だ。
だが。
「気にする事無いわよ。あのユイトが、あんなアイドルなんかになびくと思う?」
ユイトがガンプラしか眼中に無いと見ての発言だが、
それは同時に、ミスノがどう見られているのかという事にも関わって来る。
「でも……あの人、キレイだし……」
男なら、見た目で判断してもおかしくない。
ミスノはそう思っている。
「あのねえ、ミスノは充分カワイイよ。あの女にも負けてないって!」
「え〜! ウソだよぉ」
ユウリとしては本気で言ってるが、言われた本人はとても信じられない。
「あのね。ユイトはあれで、結構ちゃんと考えてる奴よ」
ユウリが何を伝えようとしているのか。
ミスノにはそれがわからない。
「いままで、ユイトの方からあんたに声を掛けて、コンビ組んだりしてたのよ。その関係を、ユイトが自分から壊すと思う?」
そう主張する言葉は、自信に満ちている。
「ユイトはガンプラバトルの事しか頭に無いし、女心もわかんないニブチンだけど、相棒を裏切る事だけは無いわ」
自分は一番、ユイトの事をわかっている。
そう言いたげだ。
「相棒……わたし……ユイト君の……?」
「今まであのウイング馬鹿が、あんたとのコンビを解消したいって言った事、一度も無いでしょ?」
「……うん……」
「だったら、もっと信じなよ。自分の力と、もちろんユイトの事も」
言いたい事は全て言ったか、背中を向けて歩き出す。
「今日行く行かないは、ミスノに任せる。あたしは時間が無いから、もう行くわ」
「待って。……行く、わたしも……行く!」
ミスノも、顔を上げて立ち上がった。
「そう来なくっちゃ! さあ、きっとみんな待ってるよ」
「うん。がんばる!」
まだ、あのシノザワ・マイナがどんな用向きでユイトを探しているのかもわからない。
今から思い悩んでも仕方が無い事だ。
ガンプラバトルで接触してきたと言う事は、単にゲーム絡みの用件なだけなのかもしれないし。
106 :
GPB:2011/12/09(金) 00:01:42.97 ID:IDpxXMiN
『バトルフィールドは“地球圏・アクシズ周辺宙域”です』
元々小惑星帯にあった宇宙要塞が、地球の傍に戻って来た光景。
「機動戦士Zガンダム」の途中から作中でお馴染みになったが――
今このフィールドに参戦するプレイヤー達の想いは違う。
『――おおっ? これはまさに、キュベレイにピッタリのっ!?』
『出ておいでマイたんっ! 君のためのステージだよっ!!』
『今日はあるかなあ突発ライブ!?』
つい先日の騒ぎは、すでにネットで話題になっていた。
あるプレイヤーなどは、
『おおおおおっ! なんであの時エントリーしてなかったのかなあオレはっ!?』
『落ち着けスナイパー。狙撃する奴が目立っちゃダメだろうがっ!!』
自分のタイミングの悪さに、今にも頭を掻きむしりたい思いで唸り、相棒に窘められていた。
加えて言えばこのステージ、シノザワ・マイナ登場とはまったく無関係で偶然だ。
そんな落ち着かない中を、
「――なんか今日は、調子狂うなあ」
バードモードで戦場を駆け回るユイトは、コクピットで呟いた。
今日は最初から、白旗を揚げているMSが多い。
エントリーはしているが、戦うつもり一切無しのプレイヤーばかりだ。
『マイたんを探そうって奴が、昨日から増えてるみたいだなあ』
ウイングカスタムに懸架される形で同行するザクVが、今の状況をそう分析した。
「ケンヤは混ざんなくて良いの?」
『エントリーしといてバトルしないなんて邪道だ。それはオレはしない』
この場に出る以上は、戦うつもりで臨む。
そこはキッチリ線を引いている相棒である――と、ユイトは思っていたが。
『それにこうしてれば、いつか本人に会えるかもしれないしなあ。なあユイ君?』
「――感心しかけたけど損した。このボクの想いを返してよケンヤ」
オチに結局ガッカリなユイトである。
『ユイト君と合流! 一刻も早くっ!!』
珍しく眉を逆八の字に吊り上げて、乗っているMSのスピードを目一杯上げるミスノ。
『おーおー! 本日は一段と気合入ってますなあ!!』
それにくっついているユウリは、ちょっと面白い物でも見つけた様にほくそ笑む。
107 :
GPB:2011/12/09(金) 00:02:33.23 ID:IDpxXMiN
今日のミスノが選んだのは新作。
ガンダムキュリオスである。
「ガンダム00」シリーズに登場するMSの中では、初期に登場したガンダムの一つで、
ある意味一番現用航空機に近いフォルムの飛行形態を持つ機種だ。
最近飛行型を多用する事が多いユイトに追いつくためにコツコツと作っていたが、
今のこの状況に至って、大急ぎで仕上げた物である。
その上で四足を踏ん張ってしがみついているのは、お馴染みのガイアガンダム……ではない。
MSバクゥ。
「ガンダムSEED」で登場した、陸戦用の獣型MSである。
「いやあ。一度基本に返ってみようと思って」
ユウリが言うのが何の基本かはわからないが、要は四足だけでどこまでやれるか試してみたいと言うのもあるのだろう。
通常は青い機体も、ユウリの愛機になるとイエローに全面塗装されていた。
そんなコンビに付いて飛ぶのは、
『今日は本当におかしな事になってるなあ』
ノンビリとそんな事を言うカツキだ。
今回のMSは、リゼル。
変形してMS形態にならないと判らないが、本体はGMに準じたカラーリングになっている。
これを見たケンヤは、「どんだけGM好きなんだよこの兄ちゃんはっ!?」と呆れていた。
選んだMSだけを見れば、カツキもシノザワ・マイナのファンなのかと思われそうだが、
「いや、おれは今回先生がトールギスって聞いたから、出来るだけ追って行ける様なのを、ってね」
それでもデルタプラスなどの高性能MSは選ばない、頑固なGMマニアである。
何を選んでも、あの爆発的な加速を誇るMSには追いつけないのも事実なので、ある意味割り切っているとも言えるが。
遠くに丸く青い地球と、歪な形状の岩塊を一枚絵に収めた様に見える場所で、
一機の白いMSが、ジッと静止していた。
トールギス武龍。
量産型MSリーオーのヘッドを持ち、背中にはパイロット殺しの強烈なGを生み出すな大型ブースターを装備したMSだ。
搭乗しているのは当然、クルカワ・アオイ。
ずっと望む形での対戦を求めていた相手を、この場で静かに待つ。
『――来た!』
閉じていた眼を静かに開けて、コントロールレバーを握る。
それに合わせてか、
モニター正面に囲みが現れ、遠くから接近する機影を拡大映像で表示した。
108 :
GPB:2011/12/09(金) 00:03:49.14 ID:IDpxXMiN
ザクVを懸架した状態で真っ直ぐやってくる飛行物体。
そんなプレイヤーは、フィールド広しと言えども、たった一人しかいない。
その映像の中で音も無く、
ザクVをパージして速度を上げたウイングカスタム・バードモードは、
試合開始の合図だとでも言う様に、機首の下に取り付けていたバスターライフルから、一発放った。
――キュウウウウウウウ……ンっ
それはトールギス武龍のすぐ左横を通り抜け、残響を残して消える。
『オッケー! それじゃあガンプラバトルっ! レディーィィィ……ゴォーッ!!』
番組違いの出撃決め台詞を叫び、白い機体が飛び出した。
「――来たね! 先生っ!!」
歓喜の声を上げて、ユイトがレバーを操作する。
飛行形態のウイングカスタムは一瞬でMS形態に変形し、ライフルはシールドにマウントしたまま、
ビームサーベルを右手で抜き放ち、さらに速度を上げた。
対するトールギスも、ビームサーベルを右手に持って、高速で迫る。
いつもと違う静かな戦場で、激しい戦闘が始まった。
互いに振りかぶった光の刃がまともにぶつかり、
そのスパークが激しいプラズマをバチバチと撒き散らす。
「先生……お望み通りのウイングカスタム……だよっ!」
『感謝するわウエハラ君! これで私も、やっと望みが叶うっ!』
しばらく鍔迫り合いをしていた二機が、バチッと一際大きな閃光と共に間合いを離す。
後方へと退きながら右のドーバーガンをトールギスが放つと、
それを右に避けながら、ウイングカスタムも改造バスターライフルをショットモードで放つ。
射程範囲が広いので、トールギスは反撃も出来ずに大きく避けるしかない。
『でもウエハラ君、これはまだ、半分も実力を発揮して無いでしょう? 本気でいらっしゃいっ!!』
自信たっぷりに、アオイは今以上を求める。
「これ以上の本気か……後悔してもしらないよ。先生っ!!」
キュウウウウウウウ……ブオッ!
ビームサーベルをその場に投げ捨てたウイングカスタムの機体から、甲高い音が響く。
そして。
その背面からは、プラズマで構成された光のリングが発生し始めた。
ウイングカスタムに装備されたGNドライヴが、ここで起動したのだ。
動きは止めないまま、光の尾を引いて――
背中に追加装備されたサブウイングを刃の様に両手に持つと、
大きな横方向のループ機動を中断し、まっすぐに武龍へと迫った。
109 :
GPB:2011/12/09(金) 00:04:42.29 ID:IDpxXMiN
それに対して、左のシールドを胸元に構える武龍。
その先端に付いているのは、凶悪な近接戦闘装備、ヒートロッドだ。
右のブレードと左のヒートロッドが、真正面からぶつかり合う。
だが。
いつもならそのまま相手の武器に巻きつくはずのヒートロッドは、そうはならず、
即座に互いの機体を離す。
何故ならば、
ウイングカスタムの方が、左のブレードをガンモードに切り替えて構えていたからだ。
いつもの様にやると、逆に自分の方をその場に固定する事になってしまう。
その動きを逃さず、
今度はウイングの方が、右手のブレードをもガンモードに切り替え、次々とビーム攻撃を放つ。
その強くは無いが休ませてくれない攻撃に、武龍はさらに機体を後退させるしかない。
『――ふふふっ! 思った以上に……やるわねっ!!』
アオイはコクピットで声を上げながら、苦し紛れにドーバーガンを放つ。
そこでやっと、ウイングは攻撃を中止して回避行動を取った。
『――ああっ! もう始まってるっ!?』
やっと駆けつけた時には、もうすでに戦闘は激しい。
ミスノは少し残念そうな声を上げる。
『うわあ、こりゃ次元が違うわ』
その戦闘の様子を見て、カツキは諦めにも似たコメントを吐いた。
『よう、お三人さん。随分遅かったな!』
接近して来たザクVのケンヤが、ノンビリと声を掛ける。
『今の師匠とユイトの機体に追いつけるMSなんて、そうそう無いんでしょ? しょうがないわよ』
ユウリはそれに対して、開き直って返す。
『それよりケンヤあんた。そこらの連中に混じってアイドル探し、しなくていいの?』
てっきりそっちに行くかと思っていたユウリは、そう訊くが。
『オレはここで、釣り糸を垂らしているつもりだ! 特上の餌を付けて!!』
臆面も無くそう言い切ったザクVは、何故かそこで偉そうに胸を張った。
『……馬鹿……』
ユウリはヘルメットの中で、口を尖らせて小さく呟いた。
『ん? なんか言ったか???』
『……べーつにー!!』
それに対する反応へ、とぼけて返す。
『――おいっ! 移動するぞっ!!』
カツキが二人に叫んだ。
見れば、ウイングカスタムがバードモードへと姿を変え、ほとんど静止状態に見えるアクシズに機首を向けて、
GNドライヴを含めた推進力の全てを後方へと集中させ、今にも急加速しようとしている。
それを追ってトールギス武龍も、背面の大型ブースターのノズルを解放し、加速の体勢に入っていた。
『ユウリちゃん! 早く乗って!!』
『ケンヤ君! 君はおれの機体につかまれっ!!』
すでにガンダムキュリオスとリゼルの二機が、飛行形態に変形していつでも飛び出せる様に準備している。
キュリオスはともかくリゼルの方は、元々サブフライトシステム(SFS)としても運用する事を前提にしているため、
機体の上部にはMSが掴めるグリップが付いている。
『ミスノっ! 出してっ!!』『兄ちゃん! 頼んだっ!!』
四機のMSが、戦い続ける二機を追って飛び出す。
110 :
GPB:2011/12/09(金) 00:05:33.49 ID:IDpxXMiN
「あれがアクシズ……近くに来ると随分……速いなっ!?」
思わずユイトが呟いた。
この巨大な岩塊、見かけ上は静かに同じ場所に固定されている様に見える。
だが。
接近してみれば、誰もがそれは大きな間違いだと思い知らされるだろう。
地球を基準にその位置を定めているこの宇宙要塞は、地球の公転に合わせて動いているのだ。
しかも、結構な速度で。
そんな事実も、ガンプラバトルのシミュレーションプログラムは、正確に再現している。
そして。
『そんな事気にしてるなんて――余裕よねっ!!』
後を追ってきたトールギス武龍が、ドーバーガンを一発放ってきた。
バードモードのまま、それを避けたウイングカスタムは、追跡を続けさせたままさらにアクシズへと接近する。
『そんなもの……大きすぎて盾にもならないわよっ!?』
第一、普通に戦っていれば優勢なのはユイトの方だ。
わざわざ移動して、盾となる障害物を求める必要も無い。
「ただひたすら空間戦も良いけどさ! それだと前回と同じになっちゃうから、少し変化が欲しかったんだよっ!!」
そう言い返すと、ウイングカスタムは巨大な岩塊を背に、MS形態へと変形した。
『フッ……あのままやってれば自分の勝ちだったのに……あなたもつくづく損な性分ね!』
追いすがる武龍が、さらに速度を増して迫る。
追われる方は、まともにぶつかる事無く岩肌に沿って距離を取る様に飛行する。
「戦いにはリングがあった方が良いって事――あるでしょうがっ!」
ウイングカスタムは、武龍に正面を向け――背面方向に向かって飛びながら、両手のブレードガンを連続で撃った。
その攻撃は武龍の白い機体をかすめ――時にすぐ横を高速で流れる岩肌に命中して、激しく爆発を起こし、砕く。
まともに向かってくる攻撃は避けても、砕けて飛び散る細かい岩の残骸は、そうそう避けられる物ではない。
『くっ――そっか! これも狙いかっ!!』
アオイは高速で機動する自機を操作しながら、唇をペロリと舐める。
ウイングカスタムはブレードを背中に戻して、今度はシールドにマウントしたままのバスターライフルを正面に向けた。
「こっちでやった方が――派手で良いかなっ!?」
キュウウウウウウウ……バオッ!
最大出力で放たれた粒子ビームの一撃が、表面から大きく突き出た突起を砕いて、閃光と瓦礫を撒き散らした。
その、まだ視界が晴れていない中から、
ドオッ!
ドーバーガンが反撃に撃ち返される。
その一撃が瓦礫をほとんど吹き飛ばし、障害物が無くなった中から、白い機体が飛び出した。
モニターを一面染める光の中で、カメラアイの輝きがやけに明るく見える。
111 :
GPB:2011/12/09(金) 00:06:23.30 ID:IDpxXMiN
『悪くない……楽しいわよウエハラ君っ!』
一気に間合いを詰めて、左腕を振りかぶるトールギス武龍。
赤熱化するヒートロッドが、大きくうねって唸りを上げる。
目一杯振り下ろされるが、その攻撃は空を切り、岩肌を砕いた。
ギリギリまでひきつけておいてから、絶妙のタイミングでGNドライヴを一吹かしし、一瞬だけ速度を上げたのだ。
アオイの目には、ウイングカスタムが一瞬残像を残して消えた様に見えた。
『残像っ!? そんな事まで出来るなんてっ!!』
「いや、それはボクにはわかんないよ先生!」
ユイトは動いている方なので、相手の目には自分の機体がどう映るのか確認できない。
速度はそのままに、ウイングカスタムがクルクルと、
アクシズ表面に対して足を向ける様に姿勢を制御し、岩肌に一発蹴りを入れて、垂直方向へと方向を変えた。
『何ですってっ!?』
自由に飛べる機体が、その翼を使うのではなく、傍の障害物を利用して方向を急激に変える。
航空機では出来っこない、手足を持つMSだからこそ可能な機動だ。
「先生っ――そろそろ決着だ!!」
シールドから外して右手に保持したバスターライフルの銃身を折り――最大出力の荷電粒子をショットモードで、放つ。
『これは――やられたっ!?』
広角で発射された粒子ビームが、岩塊表面ごとトールギス武龍の機体を捉える。
『あああああああ――――っ!?』
回避行動は間に合わない。
その白い機体の右半分近くを粉々に吹き飛ばされ、
砕けたアクシズ表層部に叩きつけられた武龍は、弾かれてそのまま宇宙空間へと飛び出した。
衝突の際に背面のブースターも破損している。
翼ももがれた形だ、
完全に勝負はついた。
右手足を持っていかれ、その最大の武装、ドーバーガンも失ったトールギス武龍に、最早反撃するだけの余力は無い。
コクピットは無傷で左の手足とヒートロッドは残っているが、
ブースターは破損、片方の手足がまとめて失われているという状況では、AMBACによる機動もままなるまい。
満身創痍で力無く浮遊する白い機体を、ウイングカスタムがガッシリと受け止めた。
112 :
GPB:2011/12/09(金) 00:07:40.94 ID:IDpxXMiN
『――やってくれちゃったわね〜ウエハラ君!』
コクピットの中でヘルメットを脱ぎ、クルカワ・アオイは呼びかけた。
悔しさは表に出さない。
『コクピットを直接狙うんじゃなくて、こういう形で戦闘力だけを奪うなんてね。これはもうMSの性能だけじゃなくって、腕の差だわ』
「はあ。ごめんなさい先生」
『なんで謝んのよ。正々堂々と戦って勝ったんでしょ? もっと胸を張りなさい!』
口元をニヤリ笑いで歪めて、恐縮する生徒を逆に鼓舞する教師。
戦いの後に禍根を残さない。
まさに、スポーツの様だ。
『……遅かったか!』
リゼルの機上で、ザクVのケンヤが呟いた。
結局その速度に追いつけず、肝心なところは見逃してしまった残りメンバーである。
『師匠っ! 大丈夫っ!?』
バクゥのユウリが声を張り上げるが、
『大丈夫! 別にMSだってキット自体が破壊される訳じゃないし、コクピットが破壊されても、現実にやられる訳じゃないから!』
アオイも声を張り上げて応えた。
『――ユイト君! 勝ったのね!!』
ミスノはキュリオスのコクピットで、勝者に対して喜びの声を上げる。
『あれだけの戦いをやって……すごいなあ』
カツキも感心しきりだ。
「先生の実力から言えば、接戦だよ。次はわかんないな」
ユイトは少し遠慮がちに言うが、
『相手を潰さずに戦闘力だけ奪われたのよ。差は歴然だわ』
アオイは今日の戦闘をそうコメントする。
「じゃあ次は、ボクがヘビーアームズかなんかで、先生のノーベルに挑戦しないとね」
アオイが本来の愛機じゃないと言う事でか、今度はユイトがそう言った。
『そうね。次はシチュエーションを変えて……って言うのも、良いわね!』
珍しく、戦闘の少ないバトルフィールドで、六機のMSはこれからの活動に想いを馳せた。
――そこに。
バオッ!
バーニアを吹かして突然現れる、白いMS。
『――敵っ!?』
『なんなのいきなりっ!?』
ミスノとユウリが反応するが、
その突然の登場に、一同は動けなかった。
いつもなら即座に反撃するユイトも、今日はアオイの機体を抱えているからだが。
大きく翼を広げた様なその機体の正体は――キュベレイ。
明らかに1/144HGUCのキットを素組みして、マーカーでポイント塗装しただけの簡素な仕上がりの物だ。
だが、それでも。
キッチリとゲート処理され表面に磨きが掛かった、無改造なりに見事な出来だと思える。
大きな両肩に腕を収納した飛行形態で、真っ直ぐに向かって来た。
現れたそのキュベレイは、攻撃を仕掛けて来る事も無い。
ただただ一直線に接近しつつ、引き出した両腕を前に伸ばして捉える相手は――
トールギスを抱きとめたまま動けないでいる、ユイトのウイングカスタム。
113 :
GPB:2011/12/09(金) 00:08:57.38 ID:IDpxXMiN
「――いいっ!?」
速度を緩める様子も全く無く、特攻を仕掛けてくるその相手に対して。
ユイトが出来るのは、抱きとめたトールギスの機体を、
「――ケンヤっ!」
傍にいる相棒に、半ば乱暴に投げ渡す事のみ。
『おおおおっ!?』『ちょっ……ウエハラ君もうちょっと優しくっ!!』
慣性をまともに受けて吹っ飛ばされるザクVとトールギス武龍を間一髪のタイミングで手離した、ちょうどその時。
――ガシャッ!
ウイングカスタムとキュベレイが、まともに衝突した。
すぐ横にあったアクシズ表面の岩肌に、二機揃って激突する。
「……ううっ……これは一体っ!?」
事態が把握できずに、ユイトも疑問を口にする事しか出来ない。
衝撃を受けて、反射的に機体ダメージを確認するが――
『――捕まえたっ!』
接触回線で、耳元に声が響いた。
「えっ!?」
まるで、勝手に鬼ごっこのメンバーに入れられて、知らない間にオニに捕まってしまった様な違和感。
『間違いないわ! ユイ君! あなたユイ君でしょっ!?』
キュベレイの、二つ開いた頭部モノアイレールに、二つの丸いカメラアイが光る。
それは正面スクリーン一杯に表示され、有無を言わさぬ雰囲気を、容赦なく叩きつけてきた。
『お願い! 時間が無いのっ!! 今日これから、会えない?』
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「――――ユイくーんっ!!」
遠くから手を振って、女の子が走ってくる。
背中まで伸びる茶色の髪を、両サイドで一部結わえ、
赤いキャミソールと黒いホットパンツにレギンスを合わせ、何故かその上からアーミージャケットを羽織った少女。
「あれは正真正銘本物の……シノザワ・マイナっっ!!」
ユイトの後ろで、ケンヤが喚いた。
「ふん……成長はしたけど、変わんないわねあの女っ!」
ユウリは幼い頃からウマが合わなかったのだろう。
今にもカウンター攻撃でも仕掛けんばかりのムクレ振りだ。
見た目は確実に成長しているので、どこが変わらないのかわからないが。
(……ユイト君……)
ミスノは少し離れた後ろの方で、ジッと見守っている。
114 :
GPB:2011/12/09(金) 00:10:07.82 ID:IDpxXMiN
周りの目を憚る事無く、全速力で走り寄って来た少女は、
勢いはそのままに、ガバッとユイトに抱きついた。
「!?」
「うおおっ! 羨ましいぞ相棒っ!!」
中学生にしてはあまりに大胆なその振る舞いにミスノが絶句し、
親友が味わう幸運に、ケンヤが声を上げる。
「ユイ君! 会いたかったよユイ君っ!!」
体全体で喜びを表す、久し振りに会う少女に、
「え……えーっと、久し振りマイちゃん。そろそろ離して……」
困惑するしかないユイトである。
「あ、ゴメン! つい……ね!」
ユイトが迷惑したと思ったか、少しバツが悪そうに、マイナはようやくユイトを解放した。
一つ年上だからか、やはりマイナの方が少しだけユイトより背が高い。
「悪いんだけど……ボクは君の事、ついこの間まで忘れてたよ」
「ちっちゃい時にお別れしちゃったんだもんね。それは仕方ないわよ」
その正直さが逆に好感を呼んだか。
マイナは少しも気にする様子は無く、ジッと顔を覗き込んだ。
「やっぱり……大きくなっても、面影くらいは残ってるもんだね」
懐かしそうに、そう呟く。
「感動の再会に水を差す様で悪いんだけど――」
そこに口を挟んだのは、アオイだ。
この場は大人として、同好会顧問として、キッチリ仕切るべきだと判断したのだろう。
「話がある……って、言ってたわよね? 時間が無いなら、そっちを先に済ませてよ」
あくまでもドライに。
第三者として、言うべき事を言った。
「そうね――積もる話は、これから時間を掛けてするとして」
顔を上げたシノザワ・マイナが、改めてユイトに向き直る。
115 :
GPB:2011/12/09(金) 00:10:46.59 ID:IDpxXMiN
「――ユイ君……いえ、ウエハラ・ユイト君!」
前もって調べていたのだろう。
小さい時には知らなかった筈のフルネームで呼びかけてくる。
「はっ……はいっ!」
その雰囲気に気圧されて、ユイトは緊張した様に返す。
言葉を選ぶ様に、しばし逡巡するアイドルだったが――
意を決して、ズバッと言った。
「お願い……付き合って!」
「は……はいいっ!?」
唐突なその申し出に、ユイトは素っ頓狂な声を上げるしかない。
「付き合うっ!? それはやっぱり、男と女のあんな感じやこんな感じって意味なんでしょうかねっ!?」
「ホシナ! あんたうるさいよっ!!」
慌てまくるケンヤに、ユウリが鬱陶しそうにツッコんだ。
「……ユイト……君……」
小さな呟きを漏らすしかないミスノは、その胸元を、右手でギュッと握り締める。
顔には僅かに、苦悶の表情が浮かんだ。
「やっぱり、わたしにはユイ君しかいない! お願いよ!!」
唐突な出来事に、一同は言葉を失っていた。
おわり
116 :
GPB:2011/12/09(金) 00:13:15.20 ID:IDpxXMiN
投下終了。
今更なんだけど、あんまり目新しさが出なかった回だなあと。
主人公が、すでに行くとこまで行っちゃってるから、これ以上強く出来ないのが悩みどころ。
お楽しみいただければ幸いです。
>>116 投下乙です。
目新しさが出なかったってのは、戦闘面の話ですよね? シナリオ面はいかにもラブコメっぽい急転直下の引きだったしw
でもまあ、そっち重視で行くなら戦闘は通常営業でもいいのかもしれません。両方やろうとして消化不良になるよりは。
期待しつつ次回を待ちます
118 :
GPB:2011/12/23(金) 00:01:23.98 ID:m1xb0UD+
ガンプラビルダーズVS・A(ヴァーサス・アサルト) 外伝・月光の歌姫03
「うわぁ! これは話に聞いてたよりスゴイね!!」
ウエハラ・ユイトは、歓喜と驚愕の入り混じった声を上げた。
彼が立っていたのは、少し広めのスペースを取った室内に並んだ、四つのカプセル型の機械だ。
ガンプラバトル筐体。
人によっては単に「コクピット」だったり「ポッド」だったり、呼び方は様々だが。
内部に操作の為のコントロールシステムとシート、
そしてプレイ開始の為の登録システムと、愛機をバーチャル空間に出現させる為のスキャンシステムを備えるマシンだ。
この場にあるのは、市場に出回っている一般仕様の筐体とは少し違う。
外見上だけでも、まず筐体自体の高さが違い、土台部分が全体的に大きい。
それだけで、特別仕様なのだなあというのが判るのだが。
「中はもっと凄いわよ。ね、覗いてみて?」
後ろから囁く様に声を掛けて来たのは、このスタジオの管理資格者の一人にして、実質上独占的な使用者。
ガンプラバトル界の歌姫、シノザワ・マイナだ。
ここはE地区の郊外にある、マイナの所属事務所が保有するPV(プロモーションビデオ)撮影専用のスタジオだ。
場所が街の真ん中ではないというのには理由がある。
これだけの筐体を扱うのに、広い土地で、出来るだけ騒音の少ない所が必要だったと言う事。
その後ろで、ちょっと不安そうな顔で遠巻きに見ているのは――
マナサキ・ミスノだ。
今日はこのスタジオに、ユイトと二人だけでやって来た。
他に、いつもの模型工作同好会もといガンプラバトルチーム・ゴブリンズのメンバーはいない。
それというのも、話は前回の日曜日に遡る。
119 :
GPB:2011/12/23(金) 00:02:11.70 ID:m1xb0UD+
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「とにかく、一度わたしのところのスタジオを見て欲しいの。ユイ君に!」
なんとか相手を説き伏せようと、熱心に弁舌を振るうマイナ。
「絶対気に入るから! うちで持ってる筐体はスゴイわよ!!」
「でもなあ……明日からまた学校、始まるし……」
シノザワ・マイナとゴブリンズの五人プラス一人が、声を潜めて話をしているのは、近所のファミレスだ。
とりあえず、立ち話もなんなのでと言う事で、マイナ持ちでやって来た。
もちろん、正体はバレない様に気をつけているが。
「学校なんて、風邪ひいたとかなんとか言って、休んじゃえば良いのよ!」
学業優先とはいえ、時にはどうしても休まなければいけない場合もあるせいか、マイナは普通にそう言うが、
「いや……一応その学校の先生がここにいるんで……堂々とそういうのは……」
背もたれに背中を預けて胸を張る顧問、クルカワ・アオイの顔色を窺いながら、ユイトは囁いた。
当の本人は明らかに聞こえているはずだが、腕組みをしてふんぞり返ってるだけで、黙り込んだままだ。
そこに。
「いや、マイナ……ちゃんとスケジュール調整して、決めた方が良いぞ」
割り込んで来たのは、マイナの父=事務所社長だ。
「だってパパ……じゃなくて、社長っ!」
人前では出来るだけ、親子じゃない振りをしようと決めているのか、そう抗議する。
「お互い中学生だろう? どちらにしても学校は大事だ。週末に来てもらえる様に調整するから、少し待て。ねえ先生?」
父親として発されたその言葉に、キラリとメガネを光らせながら顔を動かした女教師は――
「いや、学校よりもガンプラバトルの方がだい――モガッ!?」
教師にあるまじきセリフを全部言いそうになったが、それは阻止された。
「そーですよねー! それに、突然こんな大人数で押しかけてもご迷惑でしょうしー!!」
強引に口を塞いだのは、ソウミ・ユウリだ。
「ふがーっ! ふががーっ!!」
強く押さえ過ぎて呼吸が苦しいのか、顔を青くしながらアオイがもがいているが、
「先生っ! 今の発言は立場上マズイですって!!」
そう囁きながら、ユウリの兄・カツキが抑え込んでいる。
呼吸が苦しそうなのには気付いていない。
120 :
GPB:2011/12/23(金) 00:03:10.13 ID:m1xb0UD+
「でも……」
納得できない顔のマイナだったが、
「そうだね。そちらのお嬢さんの言う通りだ。さすがに全員ご招待という訳にも行かないし、色々と準備の時間は必要だよ」
「はいはいっ! じゃあオレ、行きま――ガッ!?」
素早くアオイから手を離したユウリが、今度はマイナファンとしての欲望を叶えようとするケンヤの顔面を掴んだ。
「……ただでさえあんたは下心アリアリなんだから、行かせる訳には行かないわっ!」
耳元でそう囁くと、
「行くのは、直接招待されているユイトと、こちらのマナサキ・ミスノの二人でお願いします!」
ケンヤの顔を鷲掴みにした指に力を込めながら、何事も無いかの様ににこやかに言った。
「――ええっ!?」
なぜそういう話になるのか。
ミスノは戸惑うしかないが。
「……ちょっとミスノ。あんた、わかってんの今の状況?」
ケンヤを乗り越えて素早く動いたユウリは、ミスノにそう囁いた。
「状……況……?」
言われた方は、その言葉の意味するところがわからない。
「あのアイドル女は……あんたのライバルなのよ?」
「……っ!?」
ハッキリとそう宣言した訳ではないが、その可能性はある。
そして。
いろんな意味で、おそらくミスノよりも向こうの方が有利だ。
「だから……ガンプラバトルプレイヤーとして、出来たら一発カマして来なさいよ」
静かに、だが物騒な事を囁いた。
師匠譲りの悪魔の囁きだ。
当の師匠は、酸素欠乏症寸前になってしまっていたが。
「う……うんっ! わたしがんばるっ!!」
声のトーンを落として、ミスノが気合を入れた。
親友の言葉にまんまと乗せられている。
121 :
GPB:2011/12/23(金) 00:04:11.03 ID:m1xb0UD+
「来週……そこまで待てないわ!」
「とにかく、今のメンバーで予定通り撮影だけはしよう。彼が協力してくれるなら、次からでも良いじゃないか」
マイナと社長は、ユウリとミスノのやり取りをよそに、今後の事でヒソヒソと協議をしていた。
「……あのー???」
今日は珍しく、ユイトが一人取り残されて戸惑う形になっている。
「あ……ゴメンねユイ君!」
それに気付き、マイナが慌てて向き直った。
「とりあえず、こっちから連絡するわ。出来たら週末は空けといて」
「申し訳ないね。移動の手配はこちらで済ませておくから、旅費の事などは気にしなくて良いよ」
娘をフォローする様に、社長も今は父として言葉を加える。
「……あの」
ミスノが不安そうな声を出すが、
「うん。ユイト君とミスノさんが二人で来るって事だね。了解しました」
聞いていない様でもちゃんと聞いている。
これが“デキる大人”なのだと、ユウリは改めて思い知らされた。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
そんな訳で。
金曜日の授業が終了して早々にE地区へとやって来た、ウエハラ・ユイトとマナサキ・ミスノの二人である。
新幹線の、初めて座るグリーン車の席で。
ユイトは物珍しそうに外を眺めたり、隣のミスノに話し掛けたりしていたが――
ミスノは緊張し過ぎて、思う様に会話が弾んでない。
突然実現した、念願の二人っきりの旅行だと言うのに。
到着した時にはもう夜だったので、その日はマイナの事務所が手配したホテルに二人別々の部屋に宿泊し、
次の朝早くから、迎えの車に乗ってやって来たのが、都心部から離れた郊外、という訳である。
出迎えられて早速通されたのが、まさにシノザワ・マイナの音楽活動の最前線にして秘密の中心。
ただマイナのファンが喜ぶだけではない。
ガンプラバトルプレイヤーにとっては、ガンプラバトル筐体を数台抱え込んだ、マニア精髄の現場である。
「この筐体は、市場に出回っていない特別製よ。多分試作だけで、今後出て来る事は無いと思うわ」
マイナにそう促されて、ユイトは解放されたスライド式ドアから中を覗く。
そこに見えたのは、通常型の筐体同様球体状にプレイヤーを包み込む投影型スクリーン。
そして、その中心で存在を主張する、プレイヤー用コクピットシートである。
122 :
GPB:2011/12/23(金) 00:05:08.26 ID:m1xb0UD+
ただし。
通常型のシートが床から伸びるアームで下から支えられているのに対し、このシートは……
シート後方の床から突き出したアームに、後ろから保持されている。
見た目は、シートが空中に浮いた様な形だ。
感覚的には、本当に「Zガンダム」以降に登場したリニアシートの、ほとんどの型に近い。
「うわ……なんだかお金掛かってそうだね……」
そのアーム部分を一目見ただけで、ユイトはそう判断した。
それはそうだろう。
上からそのまま載せただけの状態に近い通常型よりも、複雑な機構が使われているはずだ。
そして、筐体自体の大きさが大きいのも、それが原因だと言うのが良く判った。
「ああ、こういう形になってるからって事ね。そうだと思うわ。細かい事はわかんないけど」
マイナも肩を密着させる様に横から身を寄せて、狭い入り口から半ば無理矢理に中を覗き込む。
その様子を後ろから見ていたミスノが、
「……っ!」
ビクッと身体を震わせて言葉を失う。
「どう? この筐体、体験してみたくない?」
「ええっ? 良いの!?」
「もちろん。そのためにワザワザ来てもらったんだし、ガンプラも持ってきてるんでしょ?」
言葉を交わす二人は、そんなやり取りをしていたが――
ふと気付く。
マイナとユイトの二人の顔が、ほとんど接触しそうな程に接近していた事に。
「――きゃっ!」「わわっ!?」
気付いて即身を引いたのは、マイナの方だ。
ユイトは彼女の体が入り口から引っこ抜かれたと同時に、引き出されている。
思わず後ろに倒れそうになった彼を支えたのは、マイナの父だ。
「ご……ゴメンなさい。ちょっとビックリしちゃって」
「マイナ。狭いんだから動く時は気をつけないとダメだぞ」
ユイトの事を信用しているのか、窘めるのは娘の方だ。
そして、後ろで身を引いているミスノに振り向き、
「マナサキさん……だったね。君も遠慮しないで、色々見て行ってください」
そう言ってニッコリ笑いかけた。
「は……はい」
ミスノはぎこちなく笑顔を返す事しか出来ない。
元々誰とでも打ち解けやすい性格ではないのに、知らない土地で知らない場所で、周りは知らない人ばかり。
ユイトと一緒にいたい一心で、良くここまで来れたと、自分で自分に感心する。
123 :
GPB:2011/12/23(金) 00:06:02.17 ID:m1xb0UD+
「ミスノ! ガンプラ持ってきてるよね? 折角だから体験させてもらおうよ」
ユイトはワクワクを抑え切れないと言いたげに、声を上げた。
「……う……うん。じゃあ、準備するね」
正直、自分はユイトほど浮かれられない。
大事なのは、ガンプラバトルより――
シノザワ・マイナの、ユイトに対する気持ちだ。
「じゃあ、わたしもキュベレイを用意して――」
マイナも、ガイドのつもりでエントリーするつもりの様だ。
だが。
「マイナちゃん……どういう事?」
スタジオの中に、一人の女性が飛び込んできた。
パンツルックで派手さを抑えた、活発そうな人物だ。
長い髪を後ろでまとめて結い上げている。
「タカノさん……あなた今日はオフのはずだけど?」
ここにいるのが意外、とでも言いたげに、マイナは言った。
「わたし達が本当にクビになっちゃうかもしれないって言うのに……悠長に休んでられないわよ!」
見ると、そのタカノと呼ばれた女性が開けているドアの向こうにも、もう一人ショートカットの女性が見えた。
「……アイダさんまで……今日はお客様がいるから、遠慮して欲しかったのに」
「次のダンサーの候補って、そこの二人ですか? だったら是非、腕試しさせて欲しいな」
後ろにいたアイダが、タカノを室内に押し出して入室し、声を上げる。
「わたし達も、ガンプラバトルのフィールドで踊り続けて、一度は実力でマイナちゃんの後ろで踊る権利を得たという誇りがあるもの」
どうやら、自分達の意思とは無関係に色々と決まってしまうのが、面白くない様だ。
「あなた達の後釜候補は一人だけなんだけど――二人共大切なお客様なのは変わりないわ」
マイナは動じる事無くそう返す。
「これから筐体を使うんでしょう? だったらわたし達と、バトルで勝負させて!」
今度はタカノが吼えた。
「ちょっと! この子達はまだこの筐体を使った事無いのよ。いきなりバトルなんて出来る訳無いじゃない!!」
「通常のモードなら、普通に使えるじゃない。関係ないわ!」
「それよりも、わたし達には今日しかチャンスが無いのよ。お願い! やらせて!!」
なんとかユイト達を庇おうとするマイナに、尚も食いつくタカノとアイダ。
そこに。
「……あのー……」
恐る恐る声を掛けたのは、ユイトだ。
その隣では、ミスノがあわあわとうろたえているが。
「細かい事情がわからないので、こんなタイミングで口を出すのは間違っているかもですけど……」
少し間を置いて。
「やりたいんなら、やりましょう! ガンプラバトルっ!!」
一息にそう言った。
これには、マイナやミスノはもちろん、乱入してきた二人も眼を見張る。
124 :
GPB:2011/12/23(金) 00:07:03.76 ID:m1xb0UD+
「別に、お姉さん達の仕事を奪おうとか、そういうつもりは無いです。ただボクは、バトルがしたいだけだから!」
言いたい事を一息に言って、ニコリと笑った。
中学生らしい、屈託の無い笑顔だ。
元々、バトルロイヤルという不特定多数の敵を相手に戦って来たのだ。
今更顔の見える相手が挑んできたところで、どうという事は無い。
勝負である以上、どちらかが勝ち、それと引き換えにその相手が負ける。
ただ、それだけの話だ。
ふう、と溜息をついたマイナは、
「しょうが無いわね。君、本っ当にバトルの事しか頭に無いんだ」
そう言って、チラリと傍らのミスノに眼を向ける。
ミスノはその視線に気付かず、不安そうにユイトを見つめているだけだ。
「じゃあ……ユイ君とは、わたしが組もうかな?」
何を思ったか、マイナはそう口にする。
その言葉にビクッと肩を震わせたミスノは、
「――わたしっ! ユイト君の相棒はわたしですっ!!」
反射的に、思わず叫んでいた。
マイナはそれを見て、何故か口だけで笑顔を見せ、
「そう。じゃあ、あなたとユイ君でこの二人と勝負。これでいいわね?」
そう言い放つ声は、何故か満足そうだ。
「ええ〜っ!? 今日ウイングじゃないのぉ???」
ユイトが持参した愛機を見て、マイナはとても残念そうだ。
「だったら、この前直接見せてもらうんだった〜」
どうやら、その目で直に見たかったらしい。
その声を聞いて、なぜかビクッと反応するダンサー二人。
「……ねえ、今……ウイングって言ってた?」
「あの子がウイングガンダムを使う……まさか……ねえ?」
今年の全国大会で、成績は振るわなかったものの、大活躍したウイングガンダムの事は、二人も噂ぐらい耳にしている。
ダンス専門の彼女達にしてみれば、間違っても挑んではいけない相手だ。
ガンプラバトルは、顔を出したがらないプレイヤーも結構要るので、操縦する本人よりその機体の方が有名だったりする事が多いが、
まさか、こんな子供が。
あの強力なMSのパイロットだなんて。
「ウイングはこの前出したばっかりなんで、直しの最中なんだよね。これは今出せる一番の自信作だから」
少年がマイナの前で、バッグからキットの箱を取り出して中身を披露している。
それは見た目だけで言えば、飛行型には違いないが、ウイングに比べれば強力とは言い難い機体。
ただし、それは無改造の場合、だが。
遠目でチラ見だけでは、そのキットの詳細はわからない。
「空戦特化型って感じの機体ね」
「ウイングが出せない時は、これかヘビーアームズってところなんだけど、今日はこっちを大改造して来た」
「この前トールギス使ってたけど、あっちは?」
「こういう時は応用が効かないよ。あれはウイング以上に扱い難いから」
話している内容からは、この少年の強さが読めない。
確かに強力且つ扱いにくい機体の名前が並ぶが、それだけに素人が選びそうな機体でもある。
強そうな機体なら、楽に勝てるだろうと考えるのが普通だからだ。
そして、扱いに困ってバトルを辞めてしまうか、扱いやすい機体に逃げるかの二択という事になる。
125 :
GPB:2011/12/23(金) 00:08:00.62 ID:m1xb0UD+
どう判断して良いか困ったタカノ&アイダのダンスコンビは、
「ねえ、折角だから普通のバトルとはルール、変えない?」
「ほら、あたし達はダンスメインだから、殺伐とした雰囲気、苦手なのよね」
普通にバトルをやるとなると不利になる可能性があると考えてか、そう提案してきた。
「ルール変更?」
ユイトは怪訝そうな表情を浮かべるが、
「ほら、そっちの子もなんだか緊張しちゃってるし」
タカノが指で指し示すのは、ユイトの隣にいるミスノだ。
「……今日は二人だけ……二人だけでバトル……」
いつもなら、ゴブリンズの他のメンバーもいるので、例えユイトに引き離されても何とかやって来た。
だが、今日は本当にユイトと二人だけ。
他に頼れるのは、自分自身の腕だけだ。
「うん。その方が良さそうよユイ君」
その様子を見て取り、マイナもそう促した。
「そうだね……どんなルールにしますか?」
相手の思惑に頓着する事無く、ユイトは顔を上げてそう返した。
《バトルフィールドは“トーキョー湾一帯からトーキョー23区周辺地域”です》
音声ではなく案内表示の形で、そのステージの名が示された。
マイナの事務所が保有する筐体の集中制御コンピュータには、かなりの数のフィールドがデータ化されてライブラリーに記録されている。
現実の街並みをデータ化したものが多いが。
それも本来は、マイナのPV撮影の素材とするためだ。
だが今回は、戦いの場となる。
「――うわあ。本当にリアルに出来てるなあ」
ユイトが愛機を旋回させているのは、ビルが立ち並ぶ海岸沿い。
地名で言えば“オダイバ”と呼ばれている辺りだ。
昔はここに、外敵を迎え撃つ為の砲台が設置されていたと知っているのは、一体どの位の人なのか。
今はそんな面影も無く、眼下には特徴的な外観の大きなテレビ局の建物が佇んでいた。
そして、あの1/1RX−78ガンダムも、その姿を誇る様に立っている。
現実ではもう撤去されているが、バーチャルなこのフィールドでは今でも健在である。
いっそ横に並んで記念撮影でもしてみたいが、今はそんな場合ではない。
「――ミスノ、調子はどう?」
ユイトから見て十時方向に位置したオレンジ色の機体に向かって、ユイトは呼びかける。
ガンダムキュリオスだ。
前回初めて出してから、慣熟を兼ねて持って来た。
まさか、こんなバトルになるとは思ってはいなかったみたいだが。
『う……うん。大丈夫!』
同じ様に、このリアルなステージの迫力に圧倒されていたのだろう。
戸惑いながら、返答を寄越してくる。
126 :
GPB:2011/12/23(金) 00:08:52.73 ID:m1xb0UD+
そこにゆっくりと接近してくるのは、二機の白いリゼル。
ベースは隊長機仕様なのだろう。
大気圏突入能力と重力下飛行能力を有するウイングユニットを付けた、彼女達の為の機体だ。
一般量産型よりも、機動性は高い。
もちろん、この二機もマイナの撮影用キュベレイ同様特別仕様である。
従って、スケールも1/100。
ユイト達は1/144なので、機体の大きさ自体が違う。
『準備は良い? じゃあルールとコースを再確認するわよ』
その場を仕切るのは、筐体の外で全ての状況をモニターするシノザワ・マイナだ。
『今あなた達が飛んでいるオダイバから、トーキョースカイツリーを第一中継地点。
そこから海に戻って海ほたるが第二中継地点。
一番最初にこのオダイバのガンダムの所に戻って来た機体が、今回の勝者よ』
ダンサー二人が提案してきたのは、MSで行うレース。
幸い、ユイトとミスノの二人が飛行型を持ってきていたので、コースに海を含める事が出来た。
『中継地点を通過さえすれば、コースは自由で妨害も有り。
ただし、相手を撃破してしまう様な直接攻撃はNG。オッケー?』
あらかじめ決めたルールを読み上げながら、マイナは感心している。
もちろん、このルールを提案してきたダンサー二人の強かさと、
それをあっさり受けたユイトの度胸にだ。
タカノとアイダは、出来るだけ自分達に有利なルールを設定したかっただろうが、
マイナはそれを許さない。
あくまでも、勝負と言うなら公平にしなければ。
『スケールの大きな機体の方が推力が大きいから、スタートはユイ君とマナサキさんから。
十秒後に、タカノさんとアイダさんがスタートよ』
『大きい機体は重いんだけど?』
アイダがそう返してくる。
ハンデを負わされる方が、自分の不利な部分を主張するのは当然だ。
だが。
『その分、機体の全長が長いでしょ? 一度噴射した時に稼げる距離は有利になるわ。
それに、このコースは地理的にあなた達は良く知っている筈。
それだけでも、ハンデをつける充分な理由になるわね』
あくまでも公平に話を進めているつもりだが、
『アイダ、いまさら言っても無駄。マイナちゃんはあっちの味方よ』
タカノは、どうしても穿って見てしまっている。
それに対して、マイナは言い訳するつもりは無い。
言えば言うほど、それは誤解を深めるだけだろう。
彼女自身は、あくまでも公平に仕切るつもりだ。
そうでなければ、みんなの本当の実力が見えないと思っている。
127 :
GPB:2011/12/23(金) 00:10:16.60 ID:m1xb0UD+
『じゃあ、準備は良い? スタートの合図はいつでも良いわ!』
気を取り直して、マイナが告げる。
「こっちはいつでも!」
『わたしも……いつでもどうぞ』
明快なユイトと、少し遠慮がちなミスノ。
ユイトはその場に静止しやすい様に、MS形態に変形してホバリング操作した。
他の三機もそれに続く。
『じゃあカウントダウン、スタート……テン……ナイン……』
聞き間違いが少ない様、英語でカウントを始める。
『スリー……ツー……ワン……ゴーッ!』
――ゴウッ!
全スラスターを吹かして、二機のMSが発進する。
ユイトの機体は、いつものガンダムハルートだ。
ただし。
今回の機体には、かなり手が入っている。
それは、スタート直後に変形して見せた飛行形態を見ただけで、一目瞭然だ。
本体背面、腰の部分にマウントされたミサイルコンテナの両サイドにさらに接続されたサイドコンテナ。
そこにはいつもの様に、主翼である前進翼は付いている――が。
それは本来のハルートが主翼としている筈の、GNソードライフルではない。
代わりに付いているのは、可変翼として機能する取り外し不可能な翼だ。
そして、メイン武装であるソードライフルは――
MS本体の両腰にマウントされ、飛行形態ではカナード(補助翼)として機能する。
今は機体下面から下に真っ直ぐ伸びて、揚力を稼ぐ為に働いていた。
これはマウントする場所を変更すれば、違う役割を持つ補助翼にする事が自在だ。
以前、M.A.Tの駆るガンダムエピオンΧと戦闘した折、戦闘中にソードライフルを失って変形不可能になると言うトラブルがあった。
元々武装と主翼を兼ねているので、当然洗い出されるべき問題点ではあるのだが。
ガンプラバトルにおいては、そこが一番の問題だと判断したユイトは、思い切って武装と主翼を分けた。
補助翼ならば、失ったところで飛行に影響は無い。
やはり、飛行できてこそのハルートだ。
ユイトの新たな機体。
ガンダムハルートプラスの誕生である。
128 :
GPB:2011/12/23(金) 00:11:45.94 ID:m1xb0UD+
「ミスノ! せっかくのハンデだ。今の内に出来るだけ距離を稼ごう!!」
ミスノが駆るキュリオスを追う様に後方に付きながら、スピードを上げた。
『うん……でも……』
ユイトが後ろにいて動かないのが、どうも落ち着かないらしい。
「ボクの事は気にしないで。ミスノはまっすぐ目標に向かって飛べば良いんだよ」
今回、ユイトはミスノの盾になるつもりだ。
ルール上、妨害あり、間接的にでも攻撃あり――となれば、
経験が少ないミスノを、後ろに置いておく訳には行かない。
『うん……わかった!』
一言呟いて、オレンジ色の機体がグンと速度を増す。
スピードで言えば、キュリオスだってハルートに引けを取る事は無い。
むしろカスタムした事で、ユイトのハルートプラスは重量が増し、スピードより機動性を重視した事で、
まともにレース勝負をしたなら、勝てる保証は無いのだ。
後は、ハンデとして与えられた十秒の間に、どこまで距離を稼げるか。
一番の問題は、そこだ。
『さて……追っかけっこの始まり……か』
カウントダウンが続く中、リゼル一番機に搭乗するタカノが呟く。
『でも……大丈夫かなあ?』
二番機・アイダは、少々自身無さげだ。
『こっちはスケールが大きい分パワーがあるわ。あっという間に追いつけるわよ』
ハンデが付くのは計算の内。
それでも文句を付けて見せたのは、相手に対する心理戦の部分が大きい。
それに。
『攻撃も可能……追われる方は、恐怖を味わう事になるわね』
全て織り込み済み。
タカノの声は、自信に満ちていた。
『……スリー……ツー……ワン……ゴーッ!』
ゴアッ!
二機のリゼルが、ピッタリと息を合わせてほぼ同時にバーニアを噴射する。
MS形態のまま、斜め上に向かって飛び出した。
129 :
GPB:2011/12/23(金) 00:13:06.60 ID:m1xb0UD+
『――上昇っ!? なんでまた?』
マイナの声が、ヘッドセットから漏れ聞こえた。
(確かにこっちはスケールが大きい分、機体も重い……でもっ!)
機体を上空に押し上げながら、タカノは内心ほくそ笑む。
(その重さ――目一杯利用しないと……ねっ!)
見た目は緩やかに飛び上がりながら、高度のピークに達した辺りで飛行形態に変形した。
高度を取った位置から、重力と空気抵抗を利用して、バーニアで得られる以上の速度を捻り出す。
航空機にしてはやや大柄な機体が、急激な増速で白いヴェイパーを長々と引いてゆく。
『さあっ! この仮想のトーキョー上空は、わたし達の庭みたいなもんよっ!!』
『どこまで逃げ切れるかしら――ねえっ!!』
半ば墜ちて行く様に、機首を斜め下に向けながら、
それでも決して墜ちる事は無く、ひたすら真っ直ぐに、白い機体が飛んでゆく。
二機のリゼルが、ユイト達を追って飛び出すさまをスタジオのモニターで見つめながら。
「……ユイ君……この二人は素人じゃないわ……がんばって!」
マイナは激励する様に呟いた。
「さあ、十秒は経った……あっちはどう出るかな?」
注意深く後方を窺いながら、ユイトのハルートプラスはミスノのキュリオスに追随する。
高速で飛翔する飛行型MSにとって、十秒と言う時間は相手の視界から消えるのに充分な時間だ。
だが。
それは、相手の機体も同じ。
さらに、地の利は向こうにある。
追いつかれるのは必至だ。
そんな彼らの遥か後方から。
まるで、追いついたぞとでも言わんばかりに。
長距離からのビーム攻撃が、高速で飛行するMSを次々と追い越してゆく。
当りはしない。
直接攻撃は禁止と言うルールがあるからではあるが。
それでも、これが続けば、飛行するコースが限定される。
特に回避機動が得意とは言えないミスノは、真っ直ぐ飛ぶしか無くなるだろう。
130 :
GPB:2011/12/23(金) 00:13:59.41 ID:m1xb0UD+
なんと言っても、同じ攻撃でもMSのスケールが違えば、ビーム兵器の口径自体が変わってくる。
こうなったら、たかがGM系と言っても侮れない。
『ふふん! ハンデの意味、無かったわねえ』
『もう追いついちゃったわよ』
ワザと明るく、からかう様な物言いで迫る二機のリゼル。
ゴウッと風を鳴らして、巨体が迫る。
「やっぱ十秒程度じゃ……ダメかっ!」
『えええっ!? もう来ちゃった!!』
当然の事と受け止めるユイトと、慌てるミスノ。
『レースって言っても、使うのはMS……』
『ただ飛ぶだけで済ます訳、無いじゃない?』
言うが早いか。
二番機の機首右側にマウントされたメガビームランチャーが火を吹いた。
先程放たれたのも、この攻撃だろう。
大出力で長距離攻撃向き。
相手の足止めに、これ以上の武装は無いと思われた。
速度は落とさず、リゼル二番機の上にサッと動いた一番機は、
そこで素早くMS形態に変形し、二番機の機体上面に起き上がったグリップを左手で握る。
速度を殺さない様に、上に乗った方もバーニアを噴射したままだ。
『お互いがサブフライトシステムになれるって、こういう時便利よね!』
『どっちも飛べるから、スピードはほぼ落ちないし、片一方だけ負担になるって事も無いわ』
空中では、これ以上の連携もそうそう無いだろう。
タカノの一番機は、二番機の上でガッチリと機体を固定しながら、ビームライフルを構えた。
『そして、地の利はこっちにあるのは判ってると思うけど……』
『それは何も、地形を知り尽くしてるってだけじゃあないわ!』
そう言って、二機が一斉に攻撃を放つ。
周囲は高層ビルが立ち並ぶ一角。
飛行型MSでも、そうそう越えない高さの建築物が、まるで山岳地帯の様にそびえ立っている。
そんな中で。
キュリオスの左右に谷間を作っていたビルが、ビームを受けて爆発した。
『――きゃああっ!?』
「――しまった!」
ミスノ&ユイトの真上から、攻撃で崩れた残骸が降り注ごうとしている。
「くっ!!」
素早くMS形態に変形したハルートプラスが、さらにスピードを上げて前方のキュリオスに接近すると――
少々乱暴に、後ろから蹴り飛ばした。
『きゃあああああっ!?』
いきなり前に飛び出す形になるが、それが幸いして――
瓦礫の直撃は免れた。
131 :
GPB:2011/12/23(金) 00:14:54.11 ID:m1xb0UD+
しかし。
大きく舞い上がる土埃に隠れて、ハルートプラスの機影が見えない。
『ふふん。ここはわたし達の機体に合わせてサイズ設定されたステージ!』
『建物だけを見ても、あなた達からすれば巨大な物になるわよね』
つまり。
普通に降ってくる建材でさえ、1/144スケールのMSからすれば、凶悪なトラップとなりうる。
埃が晴れ始めて、見える地上には――
ほとんど真っ二つに折れて、大地に横たわる二つのビルだった物。
『――ユイト君っっ!?』
ミスノは機体をMSに変形させて、眼下を必死に探る。
そこにユイトの機体の姿は見えない。
上空に逃げた様子も無い――と、なれば。
ハルートプラスは、この瓦礫の山の下に。
『いやあああああああっ!』
ミスノが絶叫するが、
「――大丈夫。別に本当に死んじゃう訳じゃあないし」
ヘルメットの中で、聞こえてくるのはユイトの声。
『潰れてないっ!?』『一体どこにっ!?』
タカノとアイダも、ユイトの姿を探して周囲を飛び回る。
「お姉さん達……一つ思い違いしてるよ」
姿は見えないまま、言葉は続いた。
「確かに……普通より大きな瓦礫って、当れば痛いんだけど……」
そこで。
隙間から漏れ出るビームの光と共に――
いきなり瓦礫の山が、弾けた。
「積み重なって山になった瓦礫って、意外と隙間が多いんだ。それに――」
再び舞い上がる土埃の中に、輝く二つの双眸が見えた。
「機体が小さいと言う事は……その隙間も大きくなる……って、事だよね!」
視界が晴れたその場に空中停止していたのは、
両の手に刃を持った、一機のMS。
ガンダムハルートプラス。
132 :
GPB:2011/12/23(金) 00:15:53.97 ID:m1xb0UD+
『ほとんど無傷っ!?』
『なんて運の良い子っ!?』
タカノとアイダは、悔しそうな声を上げるが、
「いやあ、運だけでも無くってね」
答える方は、どこか愉快そうだ。
「別に仮想のビルって言っても、中身はギッシリ詰まってる訳じゃないし」
頂点に大きな穴を開けた瓦礫の山は、ハルートプラスの足元で崩れ、そこでペシャンコになった。
「瓦礫のそこそこ大きなのを選んで、ソードを突き刺して受け止めれば、それが結構丈夫な支えになってくれるもんだよ?」
つまり、計算してワザと下敷きになったと言う事だ。
「避け切れないなら、出来るだけダメージが少ない状態で受けるしかないでしょ。そこは必死になるしかなかったけど」
ユイトの言葉には、安堵の色が滲んでいる。
『ユイト君っ!』
ミスノは嬉しさに声を上げた。
「ミスノ、心配させてゴメンね!」
にこやかに応じるユイト。
『やっぱりこの子……』『あのウイングガンダムの……パイロットっ!?』
二機のリゼルが機体を離し、それぞれビームライフルとメガビームランチャーを構える。
直接攻撃禁止ルールを無視して、今にも撃ってきそうな気配だ。
「――どうするお姉さん達? ここから直接攻撃ありルールに変更する?」
ユイトは口調だけ快活に、そんな物騒な提案をしてみる。
『――くうっ!?』『どうするのタカノっ!?』
思わず反射的に呑んでしまいそうな提案だ。
『ここでルール変更するなら、今受け付けるわよ』
マイナもどこか愉快そうに、通信でそう伝えてきた。
彼女からすれば、本気で戦うユイトが見たいのだから、願ったり適ったりだろう。
コンビのリード役であるタカノからすれば、ここでハルートプラスを潰しておけば、後は楽になったはずだ。
だが、事はそうは進まなかった。
そうなると、もうただのレースで済ませていたのでは、沽券に関わる。
『――いいわ。そこまで自信があるなら、ここから先は普通に空中戦ありの追いかけっこね!』
そう言いながら、ビームライフルを撃った。
即座に二番機もランチャーを撃ち出すが、
「そう来なくっちゃ!」
すぐに反応したユイトの機体が、真っ直ぐ上昇して行く。
ミスノもすぐに、それに続いた。
133 :
GPB:2011/12/23(金) 00:17:21.58 ID:m1xb0UD+
「ミスノ! 君はレースを続けて!!」
相手から眼を離す事無く、次々と撃ち込まれるビームを回避しながら、ユイトは叫ぶ。
『ユイト君はっ!?』
ミスノは心配そうな声を上げるが、
「ボクはあのお姉さん達の相手をしなきゃならない。大丈夫、ミスノなら一人で飛べるよ!」
そう言うと、空中で身を翻した機体を、真っ直ぐ相手に突っ込ませてゆく。
『う……うん、じゃあ気をつけてユイト君!』
飛行形態に変形したキュリオスは、再び中継地点へ向けて飛び去ろうとする。
『行かせるもんですかっ!』
あくまでも、ここですべて終わらせようというつもりか。
アイダの二番機が、ミスノの機体にその大きな砲口を向ける。
だが。
「――させないよ!」
左のGNソードライフルをライフルモードに持ち替え、即座に放つ。
直接攻撃が可能になったのだから、もう遠慮は要らない。
当てられない攻撃を放つのはなかなかにツライものだが、
当てて良いならば、何も考えずに本気で攻撃出来るのだから。
撃ち込まれるビームライフルの攻撃を、少しだけ後方に退いて避けたアイダの機体。
さすがに普段、MSでアクロバティックなダンスを行っているだけの事はある。
見切りと機体操作は完璧と思えた。
そしてさらに、
『アイダ。こうなったらアレ、やるわよ!』
『そうだね。本気出すしかないなら、やるしか!』
タカノ&アイダがコクピットで操作するのは、入力モードの変更。
操作レバーで、表示されたモードを選択・決定すると――
椅子の形になっていたシートは着座状態から立ち上がり、
一見一枚板の様に見える、スタンドアップ状態へと形態を変えた。
両手が握る操作レバーも、腰辺りの高さに下がり、その動きを邪魔しない。
モーショントレースシステム。
これが、通常のシートと異なる取り付け方になっていた理由。
そして、通常より大きな外観を必要とした理由だ。
シートベルトで身体をガッチリ固定されたまま、フットレストに全体重を預ける形で、
専用のパイロットスーツに仕込まれたセンサーが、確実に体の動きを数値化し、MSの動きに変換してゆく。
『MS形態なら、体の動きを直接再現できるこっちの方が有利!』
『わたし達のこの動きに、果たして付いてこれるかしらっ!?』
ここから本気のバトルダンスを見せる。
リゼルを駆る二人のダンサーは、そう宣言していた。
134 :
GPB:2011/12/23(金) 00:18:16.43 ID:m1xb0UD+
その為に、自分の身体以上に操れる仮想の機体との一体感を、ここでさらに増したのだ。
『――ちょっ……あなた達卑怯よっ!?』
マイナはヘッドセットのマイクに思わず叫んでいた。
だが。
「大丈夫だよマイちゃん。その方があっちも本気、出せるんでしょ?」
ユイトはどこかノンビリとそう言うが。
『気をつけてユイ君! こうなったら彼女達は、常識を超えた機動で襲い掛かってくるわっ!!』
マイナが一度はダメだと言ってのけた彼女達のダンス。
だが。
ユイトはまだ、その実力を知らないのだ。
「どっちにしろこっちは、いつも通りやるしかない。それよりミスノのナビゲート、頼むよ!」
話している間も動きは止める事無く、
ユイトは力強い言葉を返した。
先行するキュリオスと同じ方向へと移動しながら、
ハルートプラスは、リゼルの動きを見張る様に、後ろを向く。
『何? そんなに警戒してくれちゃってる訳?』
『こっちの子は、レースよりバトルがお望みの様ね――だったら!』
MS形態のまま、二機の白い機体が散開、左右から挟撃しようとでもいう様に迫る。
「――動きが変わったっ!?」
その変化を素早く見て取り、ハルートプラスが弾ける様に上昇。
囲みから逃れる為に、速度優先で真っ直ぐ上に飛び上がる。
それは予想の範囲内だったか。
それとも、そう動く様に仕向けられていたのか。
リゼル一番機が即座に上昇。
ハルートプラスを牽制する様に、後を追う二番機がメガビームランチャーを放つ。
恐らく、ハルートに命中しないのはワザとだ。
本命は――タカノが駆る一番機。
二番機の攻撃に回避機動を制限されたユイトに、真っ直ぐ正面からビームライフルを構える。
「二機の――連携っ!?」
ユイトは呻く。
自分自身に言い聞かせるかの様なその言葉と共に、ハルートの周囲に光の粒子が目立ち始めた。
GN粒子の放出量を増加させたのだ。
この戦いの場において絶対的有利になるとは言えないが、それでも。
大気の壁だけに頼るよりは、確実にビーム兵器に対しては有効だ。
『あの子を先に行かせちゃったのはまずかったわよね……でもっ!』
ビームライフルが攻撃を放つ。
『いてもいなくても、一緒だけれどもねっ!!』
真っ直ぐ向かってくる一番機に対して、ハルートは速度を上げて距離を離そうと務めるしかない。
それを見越してか、二番機は大きくループして、側面からハルートを狙う。
『こうなったら、もう終わり! 一対二で、敵う訳が無いでしょうっ!?』
ハルートに到達するビーム攻撃は、GN粒子で減衰されるが――
全く影響が無い訳ではないのだ。
『――くっ! さすがにダブルオーのガンダムは、ビームに対して強いわねっ!!』
思った様に事が運ばないイライラを、タカノは吐き捨てた。
135 :
GPB:2011/12/23(金) 00:19:18.89 ID:m1xb0UD+
攻撃が続く以上、飛行形態に転じて逃げを打つ訳にもいかないユイトである。
スピードで振り切る事は可能だが、それは相手に対して全ての推進器を晒す事になる。
後方に対して攻撃する手段も限られているため、今ここで変形するのは博打だ。
二機から攻撃されている――ならば。
出来るだけ攻撃の手数を、一機で同等近くまで持って行くしかない。
背面に装着された大きなサイズを誇るサイドコンテナを、
グルリと回して、両の腰から前方に先端を向けた。
サイドコンテナ先端部には、GNビームキャノンが砲口を覗かせている。
『――あれはっ!?』
『そう言えば――ソードライフル以外に武器がっ!?』
普段ユイトは、飛行型のMSではあまり大火力に頼らない。
だが。
今この状況に至っては、使わざるを得ないだろう。
「――いけっ!」
二門のキャノンが火を吹いた。
そして、そのキャノンをマウントしている武装コンテナからも、GNミサイルを一斉に放つ。
『くうっ!?』『――タカノっ!?』
集中する攻撃に思わず機体を回避させるリゼル一番機。
それを見て、脇から援護射撃を試みる二番機だったが――
これで突破口が、無理矢理にだがこじ開けられた。
今こそが、ユイトの機体の本領発揮だ。
スラスターの噴射を停止して、自由落下に入るのも待たずに、再度の噴射で墜ちる。
その動きを取りながら、素早く飛行形態に変形。
リゼル一番機もそれに続いて変形するが――
地面に激突する危険があるからか、下へと向かおうとするスピードは遅い。
『なんてスピード!?』『怖くないのあの子っ!?』
二番機はMS形態のままビームランチャーをハルートプラスに向けて次々と撃ちまくるが、
スピードの乗った飛行体に、そうそう当る訳も無い。
「――クソ度胸……って、奴かなっ!?」
ユイトはヘルメットの中で口元を綻ばせながら、ビルの隙間を縫う様に上空へと飛び出した。
飛び出した時には、もうMS形態に変形を終えている。
そのまま飛行する事は可能だが――
ハルートは、高層ビルの屋上に立ち、正面にGNビームキャノンを向けた状態で、ビルからビルへと飛び移り始めた。
『何なのあの子っ!?』
飛行形態で上空から追尾するタカノには、その行動が理解出来ない。
136 :
GPB:2011/12/23(金) 00:20:11.11 ID:m1xb0UD+
「別に、何が何でも空中戦やんなきゃいけないルールなんて、無いからね!」
ソードライフルからビームを撃ちながら、ビルの屋上から屋上へと高速で移動する。
屋上の給水塔やクーラーの室外機、避雷針などを踏み潰し、蹴散らしながら。
『チョロチョロとっ!』
リゼル二番機が放ったランチャーの攻撃を避けて、ビルから飛び降りたハルートは。
そのビルを盾にしながら飛行形態へと素早く変形し、直上へと飛び出した。
そのまま空中戦へと移行するかと思われたが――
スピードを上げて、その場を飛び去る。
『――逃げる!?』『ちょっ……なんで!?』
呆気に取られるダンサーズ二人だが、
「お姉さん達、忘れてるよっ!」
ユイトはさらにスピードを上げながら、声を上げる。
「今回のバトルは、レースで決着を着けるんでしょ? だったらゴール目指さなきゃ!!」
攻撃に夢中にさせといて、タイミングを見計らって振り切る。
ユイトのその狙いは、見事に的中した。
『あああっ!? そーだったぁ!!』『追うわよアイダっ!!』
さっきはミスノの盾になるつもりで、スピードを落としていたユイトだ。
だが、今は。
自分一人なのだから、何も遠慮する必要は無い。
「本気で行くよっ!」
全てのスラスターを全開にして、ほぼ一瞬の内に点になる。
『何っ? 今のスピードは!?』『あの子、いままで力を隠してたのね!?』
ユイトとしては、別に隠していた訳ではないのだが。
飛行形態の形状からして、空力特性の面で、リゼルよりもハルートの方が大気圏内飛行に有利なのは明らかだ。
137 :
GPB:2011/12/23(金) 00:21:02.20 ID:m1xb0UD+
すでにスカイツリーからコースを折り返し、
キュリオスのコクピットから眼下に海を望むミスノである。
『そう。そのまま真っ直ぐ飛べば、海ほたる上空に差し掛かるわ』
マイナの案内で、滞りなくここまで飛行出来た。
『それと――ユイ君、無事にレースを再開したわよ』
安心させるためか、そんな情報も付け加えて。
『――ユイト君……よかったぁ!』
ヘルメットの中でニッコリ笑顔になるミスノ。
『……ふぅ〜ん……』
その様子を見てか、ふと意味深な声を上げるマイナ。
しばし沈黙の後――
『ねえ、マナサキさん……だっけ?』
口調を少し砕けた物に変え、話掛けて来た。
『あなた――ユイ君の事、好きでしょ?』
『――えええっ!?』
突然投げ込まれた言葉に、思わず操作が狂う。
クルクルと機体を回転させて急激に高度が下がるが、
『あああっ! レバー! レバー引いてっ!!』
慌てたマイナの叫びに、何とか反応して機体を安定させた。
『――ふう』
ミスノは一息ついて、シートに背中を預けた。
『ゴメンね。ビックリさせちゃって』
マイナもこれで、ミスノの性格みたいなものが理解出来たのか、まずは謝罪を入れる。
『いえ。でも……なんで?』
会って間もない人にそう指摘されるほど、自分は判りやすくないと思っているらしいが、
『だって……誰が見てもわかるでしょ?』
アッサリと言われた。
『じゃあ……ひょっとしてユイト君……』
気付かれているかもしれない。
そう思うと、背中に冷汗が流れる思いだ。
だが。
『あー、それはどうかしら?』
まるで人生相談にでも乗る様に、マイナの声が続く。
『あの年頃の男の子って、男友達といた方が楽しいって感じだもんね。だから大丈夫じゃない?』
その言葉に、少し安心を覚えたミスノ。
だが。
『でもマイナさん……ユイト君の事……』
一番聞きたかったのはここだ。
どう切り出そうか迷っていたが、この機会を利用する。
『ユイ君の事? そうね……』
どう言ったものか。
そんな感じで少し沈黙するアイドルだったが、
138 :
GPB:2011/12/23(金) 00:21:58.03 ID:m1xb0UD+
『うん。わたし好きよ、彼の事』
その言葉を聞いた瞬間。
再びキュリオスの機体が大きく揺れるが、
『ああっ!? レバーレバーっ!!』
慌てて声を上げるマイナの声に反応して、反射的に引いたレバーが、その姿勢を再び安定させた。
『ふう。あなた他人の言う事が、なんでも気になっちゃう子なのねえ』
あまりの過剰な反応に、今度はマイナがホッとする番だった。
『やっぱり……マイナさん……』
もしユイトの方もマイナの方が好きなら、自分はとても敵わない。
そう感じて、絶望した様な声を上げるが。
『ちょっと。落ち着いて考えてよ』
マイナは呆れた様な声を上げた。
『ついこの間再会したばかりなのよ? お互いに恋愛感情なんてある訳無いじゃない!』
ユイトがマイナのファンであるならまだしも。
そのアイドル活動すら知らなかったばかりか、PVで顔を見ても思い出せなかったくらいである。
マイナ自身にしたって、ついこの前ガンプラバトル全国大会の記録映像で登録名を見て、ふと思い出したのだ。
とても両思いと言うには程遠い。
『だからまあ、わたしに関しては、今のところ安心してくれて良いわ。彼がどう思っているのかまでは保証しないけど』
ミスノの疑問には、そういう形で答えた。
『今の……ところ?』
そこに少し引っ掛かりを覚えたらしい。
『だって、これから何度か会ううちに、お互い気持ちが変わるって事もあるんじゃない?』
要は今後油断するなと言いたいらしいが。
『今は弟みたいでカワイイって感じにしか思ってないけど、彼も将来があるからね』
やはり、芸能界と言う大人の世界にいるせいか、マイナの考え方は大人びている。
『あなたとユイ君との関係もそう。この先どう転ぶかわかんないから』
無責任に煽る様な事は口にせず、今わかる事だけで判断して、そう言った。
『わたしと……ユイト君の……関係……』
そう。
ミスノにとってはそこが大事だ。
『それでね……少し思ったんだけど』
マイナが、何を思ったか言葉を続けた。
『あなた……ひょっとして、ユイ君に合わせて飛行型乗ったりしてない?』
ビクリと体が反応するミスノ。
図星だ。
『え……えっと、あのっあのっ!』
『あ〜〜〜〜……わかったから。今のでわかったから、ちょっと落ち着いて!』
今のところ機体はなんとか真っ直ぐに飛んでいるが、放っておくといつ墜ちるかわからない。
『ちょっと気になったのよ。あなたみたいな子が、そんなあちこちに神経使わなきゃいけない機体を選んでるなんて……ね』
飛行型MSは格好は良いが、乗りこなすのはなかなか骨だ。
ストレス解消目的でプレイするなら、大火力MSで全弾ぶっ放せば結構スッキリするし、
肉弾戦が好きなら、地上用のMSの方が機体も丈夫だし、多彩な武装で安心して戦う事が出来る。
どちらかと言うと、熱中すると一つのところに目が行ってしまう様なミスノには、飛行型は向いていない。
ミスノ自身も、実は気付いている。
GNアーチャーやキュリオスよりも、ティエレンの方がしっくりくると。
だが。
『ユイト君、空を飛ぶ機体が多いから……わたし、お荷物になっちゃう……』
ミスノは、ユイトと長い時間一緒にいたくてガンプラバトルを始めた。
そして、一緒に戦いたくて飛行型に乗り続けている。
無理をしていると言われれば、確かにその通りだ。
“相棒”であり続ける為に、相手と同じ立場であろうと努力する事が大事だと思ってきた。
それでも先日、あのM.A.Tに「余計な荷物」とまで言われてしまったが、
今は少し経験も積んで、実力も上がっては来ていると思う。
139 :
GPB:2011/12/23(金) 00:22:45.63 ID:m1xb0UD+
『あのね……ちょっと勘違いしてると思うの』
マイナの言葉が続く。
『ペアを組むって、何も“同じ事が出来なければいけない”って事は無いと思うわ』
少し考える様な間が開いて――
『例えば……わたしはキュベレイが愛機だけど、ユイ君とペアを組めって言われたら、機体はそのままで普通に組むわ』
ズバリと言った。
『知っての通り、キュベレイは飛行型でもなんでもない。飛べるのは飛べるけど、飛行型の“飛ぶ”とは意味合いが違うわね』
特に感情を込める訳でもなく、事実を淡々と述べる。
『要はね、ペアを組むからって、同じ性格の機体を無理に選ぶ必要は無いって事よ』
『わたしの機体選びは……間違ってるって事ですか?』
不安を覚えたか、恐る恐る聞いてみる。
『間違ってるかどうかはわかんないわ。最終的には、好きな機体に乗るのが一番って話もあるし』
マイナも、答えには窮している。
『ただ、向き不向きで言えば。わたしはもっと、あなたに相応しい機体があると思うの』
一番言いたい事はこれだと言わんばかりに、そう告げた。
『わたしは、あなたが一つ事に対してすごく集中できる人だと思ったの。でも飛行型でそれは、時に危機を呼ぶ事になるわ』
お荷物になる事を気にするより、そこを気にしろという事なのだろう。
『――ほら、もう見えるわ海ほたる。もうじき折り返しよ』
考え込んでいたミスノは、その言葉にハッと顔を上げた。
神奈川県側から伸びる海上の高速道路と、その先に繋がった一見フェリーの様なパーキングエリアが眼下に見える。
この上空を旋回して元来た方向へ戻れば、ミスノがこのレースのゴールへ一番乗りだ。
だが。
実力で勝ち取った勝利では無い事も理解している。
これはユイトが、相手二機を全て引き受けてくれたからこその勝利だ。
『さあ、最後に気を引き締めて。一番にオダイバに到着するのが、今のあなたの役目よ』
黙りこんでしまったミスノの様子をどう受け取ったか、念を押す様にマイナが言う。
ここで変にユイトの力に〜などと言い出してしまったら、全てが台無しなのだから。
大きく弧を描いて飛ぶガンダムキュリオスのコクピットで、
前を真っ直ぐ見据えながら、何かを考え込む少女であった。
「――いやあ。お姉さん達手強い手強い!」
言葉とは裏腹な、嬉しそうな声を上げて、ウエハラ・ユイトがコクピットから這い出てきた。
続いて、後の二つの筐体からも、タカノ&アイダが出てくる。
「ふん……なかなかやるじゃない少年!」
「やっぱりダンスと戦闘では、動きの質が違うのよね〜」
結局最後まで、墜とされた機体は無い。
ミスノが一番にゴールして、その時点で決着は付いた形だ。
後を追う三機は、所どころで空中戦を繰り広げながら、大幅に遅れてゴールした形だ。
最終的に、追われる立場のユイトが二着でゴールしている。
140 :
GPB:2011/12/23(金) 00:23:41.07 ID:m1xb0UD+
「どうユイ君? 気に入ってくれたこの筐体?」
マイナは、ユイトがこのシステムを気に入ってさえくれれば、後はPV出演をオファーする事にしている。
だが。
「うーん。モーショントレースは要らないなって感じだよね」
その返事は当然だと言えた。
使い方も説明してもらってないし、ユイトにしてみれば、二本のレバーと二つのペダルが、自分の機体を操る全てだ。
それ以上操作が煩雑になってしまっても困る。
「やっぱりダンスは、専門の人が良いと思うよ」
ここまで言われてしまっては、それ以上口説く事は出来ない。
「マイナちゃん。わたし達もっとがんばるから!」
「お願い! これからも、あなたの後ろで踊らせて!!」
ダンサー二人も、この戦闘で全てを出し切ったのか。
顔に疲れを滲ませながら、これが最後とばかりに説得に掛かった。
「あなた達――やれば出来るじゃない!」
マイナは、あの戦闘を見て尚も「クビだ」とは言えない。
「ただ、必要に応じてユイ君には協力してもらいたいわ」
そして、希望も述べた。
「何もダンスを覚えろとは言わないわ。
演出上戦闘シーンの画が欲しくなった時に、他の子と一緒に協力して。
もちろんお礼はするわ」
妥協ではある。
だが、なにもかも突っぱねていては先に進まない。
そんな事を今回学んだマイナである。
先に筐体から出て、ユイト達を出迎えたミスノは、
「ユイト君、おつかれさま」
缶ジュースを手に、相棒に近付いた。
「ありがとう、ミスノもお疲れ様。楽しかった?」
ユイトも労いの言葉を返す。
「うん。マイナさんともお話できたし、楽しかったよ」
とりあえず、このところの懸念が晴れたからか。
ミスノの声は晴れやかだ。
「ふーん……話って、どんな?」
軽い調子で訊ねるが、
「女の子同士の秘密――よねえ?」
横から割り込んだマイナが、そう言って口を開きかけたミスノに抱きついた。
どうやら、ユイトが戦闘中にかなり仲良くなったらしい。
「なんかズルイなあ。まあ良いや」
女の子同士の秘密と言われてしまうと、それ以上は聞き辛い。
ユイトもさほど頓着せずに引き下がった。
141 :
GPB:2011/12/23(金) 00:24:42.54 ID:m1xb0UD+
少しホッとしながら、ミスノは思う。
自分が本当に選ぶべき、真の愛機。
これからそれを探す。
そして、本当の意味で、ユイトの役に立ちたい。
真剣にそう考える少女であった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「なんですとっ! モーショントレースシステムですとっ!?」
翌日の昼頃に帰還を果たし、
自宅よりも先に、ホビーショップ・ノアに立ち寄ったユイトとミスノ。
遠征の報告を受けて大声を上げたのは、同好会顧問のクルカワ・アオイだ。
「そのシステムがあれば、私のノーベルガンダムは真の実力を発揮出来るのにっ!
いや、場合によっては東方師匠の機体を用意しても……ああ、風雲再起っ!!」
スタジオにあった筐体の話をすると、急にソワソワしだした。
Gガンダムに登場するガンダムをこよなく愛する彼女からすれば、その操縦システムがグッと近くなるのは理想だろう。
だが。
「あー、でも使い心地とかはわかんないですよ。ボク達使ってないし」
「そんな勿体無いっ! 新しいシステムがそこにあったら、何があってもまず体験するのが普通でしょっ!?」
「いやあ、でもまだ市販のキットには対応してないって言ってましたよ」
普通の人間の動きを正確にトレースする代わりに、その動きを確実に再現できる機体が必要なのだ。
残念ながら、千円から二千円そこそこで買えてしまうガンプラに、そこまでの精度は無い。
自分の生徒達の、思った以上に薄い好奇心に、教師は嘆きの声を上げた。
一方。
ホシナ・ケンヤは、ユイト達がマイナから持たされた土産に見入ってニヤニヤと笑みを浮かべている。
今度発売される、マイナのセカンドアルバム(直筆サイン入り)だ。
ユイト達も含めて人数分持たされたが、喜んでいるのはケンヤ一人。
アオイは土産話の段階で興奮しているし、もう一人のソウミ・ユウリに至っては――
「ええ〜? いくら兄貴の分もあるからって、同じCD二枚貰ってもねえ〜」
今日は兄のカツキがいないため、彼女に二枚渡す事になってしまったが、
元々興味が無い為、迷惑そうだ。
カツキの方も、別にマイナファンという訳では無いし。
それにサイン入りCDと言うのは、果たして高値が付くのか。
それとも、落書きと思われて値段を下げてしまうのか。
それ以前にディスクのレーベル面にはしっかり“SAMPLE”の刻印があるので、転売は不可だったりするが。
「とりあえず渡すだけ渡しといてよ。あと、こっちはボク達が買って来たお土産。みんなで食べようよ」
この場で喜ばれるのは、とりあえず買って来たひよこ饅頭くらいか。
「このお菓子は美味しいから、お土産はこれだけで良いわ」
ユウリはそう言うが、やはり渡してもらわなければ困る。
「ユウリ。別に聴かなくて良いから、持って帰るだけでも頼むよ〜」
預けられた手前、ユイトはそう懇願するしかない。
マイナの事を嫌っているのは知っているので、無理に聴けとは言えないのが辛いところだ。
142 :
GPB:2011/12/23(金) 00:25:41.80 ID:m1xb0UD+
「んで、ミスノ?」
一通り表向きの土産話も落ち着いて、男子二人がガンプラ売り場に移動し、
アオイもレジにいる店長の仕事を邪魔しに行ってから、
ユウリは待ってましたと言わんばかりに、ミスノに話しかけた。
「あの女にしっかり、ガツーンと一発かまして来たんでしょうね?」
恋のライバルが出会ったなら、衝突は必至。
そう決め付けての言葉である。
「う〜ん。思ったより良い人だったよマイナさん」
親切にしてもらった記憶しかないミスノとしては、そう答えるしかないが。
「あー! もう何にもわかって無いわよあんた。それ絶対騙されてる!!」
ユウリが言っているのは、まだ分別が付かない幼少の頃の記憶が元になっているのだが。
「わたしはユウリちゃんの方が誤解してると思うなあ」
ミスノにしてみれば、分かりあえたと思うだけに賛同できない。
「良い人が芸能人なんかやっていける訳無いでしょうが。騙されてる騙されてる!」
ユウリの方が偏見に満ちている様に見えた。
ミスノは、マイナに言われた事を思い返す。
『自分の、本当の愛機を探す』という事を。
ユイトの為では無く、自分の為に。
それが最終的に、ユイトの為にもなると。
要は自分が、何をしてあげられるのかと言う問題だ。
ふと、そこで。
有線放送から、どこかで聴いたメロディーが流れ始める。
今日もらったばかりの、マイナのアルバムに収録されている曲だ。
「おお! マイたんの曲だ!! 最近良く掛かるなあ」
「そうなの?」
「お前、知り合いなんだからもうちょっと関心持てよ。この“超音速のダーリン”は、貰ってきたアルバムに入ってんだぞ」
前奏が流れ始めると同時に声を上げるケンヤと、
それに反応するユイトの声が遠くから聞こえた。
143 :
GPB:2011/12/23(金) 00:26:37.96 ID:m1xb0UD+
♪ 超音速のダーリン☆
駆け抜けてゆくダーリン☆
まるでサーキットを 駆けるみたいに
誰よりも速く 飛んで行った
今狙うのは 誰の事?
あの子? その子?
それとも わたし?
以前にシングルでリリースされていたのだろうが、
なんだかミスノには、掛かるのにタイミングが良い曲に思えた。
そう。
今までミスノは、その気持ちを自分からユイトに言おうとして、言えてない。
あわよくば、気付いてもらえた方が楽だとでも思っているのかもしれない。
だが、それではダメだ。
他の曲の歌詞になるが、やはり「そんな事では伝わらない」のだ。
ミスノにとって、マイナとの出会いは必然だったのだろう。
自分が、一歩前へと進む為に。
♪ どんなに速く 駆け抜けても
わたしは あなた 逃がさない
どんなに遠くへ 離れても
きっと そのハート 撃ち抜くわ
「おーおー! なんだかライバル宣言っぽい歌ですなあ」
冷やかす様にささやくユウリだったが、そんな訳は無い。
これは確か、数ヶ月前にリリースされている筈だ。
むしろミスノには、自分に対する応援歌に思えた。
144 :
GPB:2011/12/23(金) 00:27:29.34 ID:m1xb0UD+
「――うわぁ!?」
街中で、ミスノが思わず声を上げる。
旅からの帰宅途中という事で、みんなより一足先に店を出たミスノ&ユイトは、
ユイトの「家まで送るよ」という一言で、連れ立って歩いていた。
街はすでに、クリスマスムード一色だ。
まだ明るい時間だが、色とりどりのイルミネーションに彩られ、華やかに輝いている。
これでせめて片一方が高校生くらいだったら、少しは気の効いたデートにもなるのかもしれないが、
生憎二人は、揃って中学一年生。
まだまだ子供だ。
「この時期は、街全体が毎年綺麗だね」
ユイトもこういう雰囲気は嫌いではないのか、ミスノの声にそう応じる。
ささやかだが、なんとなく幸せな気分だ。
肝心のユイトが、どう思っているのかはわからないけれど。
「クリスマスかあ。ミスノの家は、家族でパーティーとか、するの?」
クリスマスパーティー。
ユイトは単なる世間話のつもりで口に出した単語だろうが、
ミスノにしてみれば、見果てぬ夢に等しい言葉だ。
「あ……う、うん。毎年そんな感じ。お姉ちゃんと弟もいるし」
「へえ、ミスノは三人姉弟なんだ。良いなあ」
「ユイト君は……兄弟とか、いないの?」
「うん。うちはボク一人だよ」
「……一人っ子かあ」
姉弟がいる身としては、一人だけと言うのもうらやましい。
なんだか自由な感じがする。
「いつか……今のチームのメンバーで、クリスマスパーティーとか出来たら、良いね!」
そう言って振り向いたユイトが、ニッコリと笑った。
そこは「ミスノと二人で」と本当は言って欲しいところだが、今は仕方ないだろう。
「うん……そうだね」
ミスノも、その言葉に笑顔を返した。
来年のクリスマスこそは、先に進もう。
強くそう思う。
気分を盛り上げるBGMが大勢の人と共に流れる中、
二人は家路につく。
ほんの少しだけ、ユイトに近付いた実感を得るミスノであった。
おわり
えー、まずは。
バトル大好きな向きには、あまり激しく出来なくてごめんなさいと言う事で。
とりあえず今シリーズには、前シリーズのウイングカスタムみたいなMSは出る予定ありませんので〜(汗
ハルートプラスはそこまで気合の入ったカスタムガンプラではありませんので。
本当はクリスマスまでに全話終わらせたかった……
>>145 投下乙です。順調にラブ路線ですねw
ガンダムでこんな風にまったりしてる作品は、実はけっこう新しいんじゃないかとも思います。
クリスマスに合わせられなかったのは――確かに残念の一言ですw でも一足遅いクリスマス、というのも悪くないのでは?
次の投下に期待します
で。
147 :
創る名無しに見る名無し:2011/12/30(金) 01:29:33.48 ID:vYNTjxm+
自分の汗で肌に張り付くシャツの不快さで、目が醒めた。
「…」
目が醒めた後も、しばらく動けなかった。死ぬほど怖かった。見知らぬ宇宙に放り出され、無数の怨念の声に追い立てられ、恐怖と狂気に苛まれながら戦
う――しかも、最後は本当に『殺された』。今まで知らなかった領域の高熱と激痛が全身を襲う前、警報が鳴ったのを聞いた。横方向から襲い掛かる光の波
を見た。あれはきっと、かなり大型の――艦砲クラスのメガ粒子砲だ。
――真面目に考えてもしょうがない、と思った。所詮夢だ。
そう。夢だったのだ。
「……ふ、ふふ……ふふふふふ……」
布団の中でうずくまり、低く笑う。耳に聞こえるほどの激しい心音も、今となっては心地いい。夢だったのだ。もう終わったのだ。びっくりさせやがって。
久々にちょっとビビッたぜ。何だよ夢かよ。そりゃそうか――
「お兄ちゃん」
「うわああ!?」
突然かけられた声に、翼は跳ねるようにベッドの端まで後ずさった。ベッドの傍らに、目を丸くした往多瞳が立っている。「……どしたの?」
「……あ、いや……悪い。寝ぼけてた」
「ダッさーい」
「るせえよ」
「ご飯できてるよ。早く食べないと学校遅れるよ。余計な面倒かけんなこのクズ。ってお母さんが言ってた」
「最後のはお前だろが」
「だって面倒だもん。いい加減に自分で起きてもらわないと」
言葉を切り、義妹の瞳はベッドに片膝を突いた。
唇が重なる。「…」「…毎朝こんなことしてるわけにもいかないでしょ?」
「今後の生活にも関わるんだから、自分で起きる癖つけてよ」
148 :
創る名無しに見る名無し:2011/12/30(金) 01:30:56.27 ID:vYNTjxm+
それだけ言って、瞳は部屋から出て行った。「…」唇を拭おうとして、止めた。そんな事より。ベッドから起き出し、クローゼットを開ける。
「お兄ちゃん」
今度は驚かない。「まだいたのか、お前――」
義妹の顔が、融けていた。「え…!?」皮膚が緑色に変色しながら融け落ち、赤い肉の端から頭蓋骨が覗く。眼球が転げ落ち、ぴしゃりと床
で一度跳ね、翼の裸の足に乗った。「ひ!?」
反射的に足を払う。「酷い」
「拾ってくれれば、イイジャナイ」
瞳だったものが倒れるように屈み込み、目玉を拾う。それを自分の眼窩に押し込み、翼を見上げる。『ネエ、チャント入ッテル?』
入っていた。
逆向きに、入っていた。眼球の白と、神経と思しき赤い糸――
轟音と共に、翼は尻餅をつく。「!?」
身体を起こすと、自室の瞳がいた側の半分が、無くなっていた。頭上を見上げる。銃を構える一つ目の巨人。MS‐06。
モノアイが、翼を見下ろして光る。「い――嫌だ――嫌だ!」
逃げようとする翼の足を、何かが掴んだ。翼はまたその場に倒れこむ。自分の足を振り向く。
『サア、続キヲシヨウジャナイサ』
あの女の、声だった。毒ガス作戦の指揮官。シーマ・ガラハウ。手もあった。翼の足首を掴んでいる。
緑色に腐り、融けかけた腕が床から生えていた。翼が倒れている床全体が、破壊された人体の寄せ集めで出来ていた。赤い肉の床に無数の死
に顔があり、全ての眼球が翼を凝視している。
『『『『『サア、戻ッテオイデ』』』』』
無数の声と同時に、床から一斉に血塗れの手が生えた。翼の身体に群がってくる。
翼は叫んだ。狂う、と最期に思った。
149 :
創る名無しに見る名無し:2011/12/30(金) 01:32:14.42 ID:vYNTjxm+
見知らぬ男の顔が目の前にあった。両肩が痛む。
「目が開いた……! おい、大丈夫か? 私が分かるか?」
「――あ――あ、が――か――っ」
声がまともに出なかった。酷く喉が痛い。無理に声を出そうとして吐くように咳き込む。叫んでいたのだ、と分かった。夢と同じように。
――夢――?
「ほら、水だ」
医者が水差しを持ってきて、傾ける。奪い取るように飲み干した。「……どうだ、喋れるか?」
「……喉が、痛い」
「そりゃそうだろう。酷いうなされ方だったぞ。ちょっと普通じゃなかったな。精神科か神経科にかかったことはあるか」
首を横に振る。「ふむ。何があったかは知らんが、宇宙を漂流する羽目になって、余程神経に負担が掛かったのかも知れんな。本来ならしば
らく安静にして、カウンセラーにでもかかるべきなんだが」
「……本来とかべきなんだがとか、嫌な予感のする言い方は止めてくださいよ」
「冗談だ、と言いたいが――察しがよくて助かる、と言わせて貰おう」
言いながら医者は水差しに水を注ぎ、逆の手で電話の受話器を取り、ボタンを押す。「もう一杯飲んでおけ。少し喋る羽目になるだろうから
な」
「尋問ですか」
「そこまできつくは無いだろうが、色々と聞かれるのは確かだろう。私だって聞きたいぐらいだ。『あんなもの』に乗って宇宙を漂流していて、
しかも調べでは戦闘をした形跡まであるそうじゃないか。――本当に、君は何者なんだ?」
「……」
分からない。こっちが聞きたい。黙ってろ。そんなことを言おうとした瞬間、内戦が繋がったらしかった。「医務室だ。艦長に繋いでくれ。
漂流者が目を醒ました」
150 :
創る名無しに見る名無し:2011/12/30(金) 01:33:41.71 ID:vYNTjxm+
宇宙世紀0079。スペースコロニー・サイド3はジオン公国を名乗り、地球連邦政府に対し宣戦を布告した。
同年1月4日、スペース・コロニー、アイランド・イフッシュが安定軌道を外れ地球への自由落下を開始。これにジオン公国軍の艦隊が随行
しているのを確認し、地球連邦軍はこれをサイド3・ジオン公国の地球に対するテロ行為と断定、ティアンム中将率いる地球低軌道防衛艦隊を
コロニー落下阻止の為に差し向けた。
『神が放ったメギドの火に、必ずや連邦は灼き尽くされるであろう』
コロニー落下作戦に先立って、公国軍総帥ギレン・ザビが全将兵に対し行った訓示の一節である。
自分のしたことの責任を神に転嫁した男がその後どういう末路を辿ったか――それは歴史の示す通りである。
しかし、往多翼はこの戦いの中で、確かにそれと対峙することになる。
自分の運命を捻じ曲げようとする、『神』とも形容できるほどの強大な力と――。
*
嘘を吐くべき必然も嘘を吐いて得る利も無かったので、質問には全て正直に答えた。
一通り質問が終わり、その艦――地球連邦軍地球低軌道防衛艦隊サラミス級巡洋艦《イケイル》の艦長、カーク・ヤクネインは不服そうに鼻
を鳴らした。「西暦2011年、日本在住の高校生、か」
「はい」
「で、それが気がついたらこの宇宙世紀0079年の世界にいて、どうやってここに来たかは憶えていない、と」
「はい」
「『あれ』の入手経路も当然憶えていない、と」
「はい」
「それだけなら、前後不覚の分裂病患者が、ジオンの施設から『あれ』を盗んで脱走した、と考えるのが一番妥当だったんだがな」
「――そうはならない――って、事ですか?」
「お前の持ち物から、これが出てきちまったからな」
151 :
創る名無しに見る名無し:2011/12/30(金) 01:35:22.64 ID:vYNTjxm+
言って、カークは翼の財布を出した。翼の方へ投げる。緩やかに回転しながら飛んできたそれを、翼は受け取って中身を確認した。――ちゃ
んと入っている。通っている学校の学生証、日付の入った電器屋のポイントカード、何となく取っておいたレシートが数枚。日本銀行券と描か
れた紙幣――自分の生きていた世界とその時間軸を証明するには充分に思えた。
「お前が目を醒ます確証が無かったからな。治安維持活動の一環として改めさせてもらった。――百歩譲ってレシートやカードは不採用として
も、ICチップの入った学生証なんぞを分裂病患者が偽造できるわきゃ無いからな。そいつは本物だと判断せざるを得ない。そしてそいつが本
物なら、お前の証言もまた真ということになる」
「そうか――まさか財布まで飛んできてたとはな。これを仕組んだ奴も、義理堅いとこがあるんだな」
「ああ。これでとりあえず、お前の精神が異常だって線と、お前が単独犯だって線は消えた」
その言葉に、翼は財布からカークへ目を戻す。「あと何の線が残ってるんだよ」
「お前がIDカードを偽造できる規模の組織の人間だって線だよ。ちょうどお前が乗ってきた『あれ』や、そういうのを作れる規模のテロ国家
が一つあるんでな」
「俺がジオンのスパイだっていうのかよ。馬鹿なことを」
「ああ、全く馬鹿なことだ。まともなスパイならこんな馬鹿げた手で潜り込もうとしたりしない。お前だってバカバカしいと思うだろ? 本気
でやってるなら今すぐ止めてもらいたいね。頭が痛くなる。しかし」
カークは言葉を切り、窓外を指差した。「お前が乗ってた『あれ』がジオンの兵器である以上、そこに納得のいく説明が無い限り、このバカ
バカしい線は消えないんだよ」
翼も窓外を見た。《イケイル》の狭い甲板の上、いくつものアレスティング・ワイヤーに拘束されて、一機のMSが立っている。もちろん翼
は知っていた。白い躯に青い胸。二つの角と金晴眼。右手に握るビーム・ライフル。「あれは、ジオンの兵器じゃない」
「だったら何なんだ」
「名前はガンダム。型式番号RX‐78。トリコロール・カラーに塗られてるから2番機だろう。RX‐78‐2だ。ジオンのMS・ザクに対
抗するために、あんた達連邦軍が」
半年ほど未来に開発するMSだ。
そう続けようとして、翼は否定した。「……違う」
152 :
創る名無しに見る名無し:2011/12/30(金) 01:37:25.05 ID:vYNTjxm+
「? 何だ?」
「艦長。あのMSの左肩を見てくれ。数字が書いてある。見えるか?」
「別に目は悪くないんでな。――25、いや、点があるな。2.5《ツー・ポイント・ファイヴ》か?」
「あんなマーキングは、俺が知ってるガンダムには無かった。――よく見たら、細かいところが少しづつ違う。盾が無いし、背中のビーム・サ
ーベル・コネクターも無い。ランドセルも少し大きいみたいだ」
「――つまり、お前が知ってるRX‐78‐2とやらの、マイナーチェンジ機か何かとでも?」
「そうかも知れない。マーキングと合わせて考えるなら、RX‐78‐2.5ということかもしれない。――ちゃんと調べないと分からないけ
どな」
「で? 色々と喋ってくれたのはありがたいが、そろそろあれはジオンの兵器じゃない、の根拠が欲しいな?」
「だから」
その時、内線が鳴った。カークが受話器を取る。「俺だ」
「――分かった。艦橋《ブリッジ》へ上がる」
受話器を置き、翼を振り返った。「一旦休憩だ。お前は部屋へ戻れ」
「どうしたんだよ」
「本隊と合流する。本来の仕事に戻るんだよ」
「コロニーを、止めるのか」
部屋から出て行こうとしたカークが、その言葉に振り返る。「……ちょっと待て。何故知ってる。俺はお前に本艦の作戦内容まで教えた覚え
は無いぞ」
「……」
一瞬迷った。言うべきではないのかもしれない。もし信用されなければ、本当に病院か、もっとまずいところに放り込まれるかもしれない。
でも――信じさせれば、自分の価値を認めさせられる。不安だった。関係無いと目と耳を塞ぎ、嵐が過ぎ去るのを待っても、何も変わらない
気がした。何も変わらないということは、この世界で飼い殺しにされるということだ。冗談じゃなかった。立ち止まるのが怖かった。
そして、信じさせることは間違い無く出来る。何しろ――全て事実なのだ。『未来』を予知するのではなく、起こってしまった『過去』をた
だ語ればいいのだから。
153 :
創る名無しに見る名無し:2011/12/30(金) 01:39:13.29 ID:vYNTjxm+
決断して、口を開いた。「俺は、この戦争の顛末と結果を知っている。コロニーは落ちる。ジオンの攻勢はその後も続き、地球へ大量のMS
が送り込まれ、地球連邦軍は向こう半年で壊滅的な打撃を受ける」
「――何言ってんだ、お前」
「今は信じなくてもいい。そのうち分かる。でも信じてくれたほうがいい。俺はコロニーを止める方法も知ってる。阻止限界点までにコロニー
に取り付いて、姿勢制御バーニアで軌道を変えればいいんだ。衝突を回避できる」
「――そんな事はお前に言われなくても分かってる。だが却下だ。どうやって侵入する気だ? コロニーの周囲はジオンの艦隊が取り囲んでい
るんだぞ。戦闘機か何かでのこのこ突っ込んでいく気か?」
「――そのための、ガンダムだ」
そんな気がした。翼をこの世界に突き落とした――神とか運命とか言う奴が、そんなシナリオを望んでいる気がした。いいだろう。乗ってや
る。
何かしたから失敗した、と言われるよりも、何もしないから還れなくなった、と言われるほうが辛い気がした。「あのMSが本物のガンダム
なら、この時代のザクなんかは問題にならない。単騎で突破できる。俺も作戦に参加させてくれ。役に立てる」
「民間人を作戦に参加させろってのか? 却下だ。そんなことをしたら俺の軍人というか、人間としてのモラルが問われるだろうが。断固却下
だ。さっさと部屋に戻れ」
「頼むよ。あんたにだって都合があるだろうけど、俺にだって都合はあるんだ。もしここでコロニーを止められれば、それで還れるかもしれな
いんだ。俺が邪魔だと思ったら後ろからでも撃てばいい。誓約書があるならサインしたっていいんだ。たとえ怪我したり死んだりしても、軍に
一切の責任を追及しません、ってさ」
「そんな誓約書は無いし、あったとしても俺の一存で出したり書かせたりは出来ん。お前に頼らなくてもコロニーを止める作戦はすでにある。
余計なお世話だ」
「……駄目なんだよ、それじゃ……万全に思えても、同じ手で戦ったら結果は同じなんだ……史実と同じ作戦なら、コロニーは落ちる……!」
「それを決めるのはお前じゃない。ジオンの連中でもない。――俺達だ。まあ大人しく見ていろ」
それだけ言って、カークはドアを閉めた。部屋に翼一人が残される。「……それでも、落ちるんだ……何もしなかったら、それでも落ちた時
に、自分を許せない……!」
翼は窓外のガンダムを振り返る。
人の姿を模した戦闘機械は、翼の視線に何も応えなかった。
154 :
創る名無しに見る名無し:2011/12/30(金) 01:40:45.68 ID:vYNTjxm+
1月5日、0452時。
「艦長。旗艦《ウヅキ》、ティアンム艦隊司令より全艦へ入電。作戦宙域への全艦集結、所定ポイントへの配置完了確認。コロニー及び敵艦隊
を捕捉すると同時に作戦を開始する。開始予定時刻は0545時。全艦第一戦闘配備にて待機せよ。以上です」
「了解だ」
短く応え、カーク・ヤクネインは艦長席に腰を下ろした。「聞いたなお前ら! 全艦第一戦闘配備だ! いつ始まっても動けるようにしてお
け! 機関室、砲術班は各部最終チェック! まだ時間はある、不備や不足があるなら今のうちに知らせろ!」
「了解!」
クルーの答えと共に、艦橋全体が動き始める。地球連邦軍低軌道防衛艦隊は、全軍を以ってアイランド・イフッシュの落下コースと地球の間、
阻止限界点の前面に布陣していた。ジオン護衛艦隊との彼我兵力差は7対3。民間人の漂流者に心配されるような戦力差ではなかった。ジオン
もそれは承知しているだろう。よってジオン側が取るであろう戦術もすでに予想はついている。――玉砕覚悟の強行突破。全滅も辞さずに中央
で戦って血路を開き、たとえ艦隊は全滅してもコロニーは通す。つまりは壮大な自爆テロだ。対する連邦軍の取るべき戦術も決まっている。あ
まり陣を広げずに密集隊形でぶつかり、正面突破を狙う敵をご希望通り正面から迎え撃つ。血路など開かせない。コロニーどころか一隻たりと
も青い地球を拝ませない。
――というのは偽計《うそ》だ。
155 :
創る名無しに見る名無し:2011/12/30(金) 01:42:03.50 ID:vYNTjxm+
「付き合ってられるか」
呟く。スペースノイドの自己満足の英雄的自爆テロなんぞに誰が真面目に取り合うか。ジオンの連中は密集隊形で迎え撃つ連邦艦隊を見て、
これ幸いと突撃をかけるだろう。死力を尽くした激戦になるに違いない。どこまでジオンが持ち堪えるか見物でもある。そしてジオンの艦隊に
すっかり気を取られた連邦をスルーするように、コロニーの軌道を変更するだろう。
そこで初めて、ジオンは自分達の失策を――いや、そもそもこんな作戦が成功するはずは無かったと知ることになる。
――そして、0527時。「艦長!」
「応!」
「AWACSより全艦へ! 敵艦隊及びその後方にコロニーを捕捉! 約十分後に第一陣艦隊の最大射程圏内へ入る!」
「艦長、《ウヅキ》からも入電! 全艦密集隊形のまま前進! 射程圏内に入り次第攻撃を許可する! 移動は第一戦闘速度! 単独での突出
は認めない!」
「――よし! 始めるぞ! 全艦第一戦闘速度で前進! 各兵装最終安全装置解除! オール・ガンズ・レディ!」
「了解!」
艦隊が動き始める。無数のサラミス級、マゼラン級宇宙艦艇が津波のようにコロニーへ押し寄せる。勇壮かつ壮大な行軍。名将ティアンム中
将を司令に頂く地球低軌道艦隊。圧倒的な戦力差の中に、さらに隠された必勝の切り札。戦力、戦術、足りないものなど何も無い。
そう。誰もこの時は、この精強の艦隊が壊滅寸前まで追い込まれるなど――コロニーが落ちるなど、誰も信じてはいなかった。
156 :
創る名無しに見る名無し:2011/12/30(金) 01:43:57.45 ID:vYNTjxm+
別に犯罪者という扱いではないので、独房には入れられなかった。
往多翼は与えられた小部屋のベッド――ではなく、そのすぐ傍らの床に座り込んでいた。柔らかい布団の上だと、緊張感が鈍る気がした。
「……出たいな」
呟いた。率直な気持ちだった。シニカルとかリアリストとかを気取る気は無い。コロニーが落ちる。億単位の人間が死ぬ。それが分かってて
関係無いとぐうたら昼寝が出来るほど、翼は肝の強い人間ではなかった。それに――
「(何故動かせたのか、まだ分かってない)」
あのガンダムを、原付の免許も持ってない翼が何故動かせたのか。そして何故あそこまでの戦闘技術を発揮して、正規のジオン軍人と互角以
上に戦えたのか。それがまだ分かっていなかった。火事場の馬鹿力、で説明できるものではない。ニュータイプ? もっと無い。もう一度乗れ
ば――いや、もう一度乗らなければ、この謎の答えは出ない気がした。
「……」
ドアを見る。犯罪者ではないので、もちろん施錠はされてない。監視もいない。そしてこれからこの艦は戦闘に入るのだから、どさくさで抜
け出すのは簡単な気がした。ノーマルスーツさえ見つければ、ガンダムのところまで行くことも可能だろう。
行かなければならない、と思った。翼がこの世界に来てしまったことの手がかりは、あのガンダムだけだ。あれだけが翼の知るガンダムの歴
史には存在しない。いわば自分と同じ異邦の存在だ。あのガンダムの謎を解けば、元の世界へ還る方法も見つかるかもしれない。「お兄ちゃん」
そう。還らなければならない。翼には待っている女《ひと》がいるのだ。「……よし」
意を決し、翼は立ち上がった。ドアへ向かう。「……っと」トイレに行きたくなった。周囲を見回し、W.C.とプレートの掛かったドアへ
向かう。どんなトイレなんだろう、と一瞬思い、ドアを開ける。
「――」
言葉を失った。
そこにあるのはトイレではなかった。ベッドがあった。机があって、本棚があって、テレビとゲーム機があった。
ドアを閉め、後ずさる。「……ど、どうなってんだ……俺、本当におかしくなったのか……?」幻覚などではなかった。はっきり見えた。
自分の、部屋だった。
157 :
創る名無しに見る名無し:2011/12/30(金) 01:46:48.02 ID:vYNTjxm+
もう一度開けよう。幻覚にせよ何にせよ、それではっきりする――そう思い、もう一度ドアノブに手を掛ける。
がたん
「!?」
突然聞こえた音に、翼はそちらを振り返る。
サイドボードに置かれていたデジタル時計が、宙に浮いていた。浮いているのは無重力だから当たり前だ。おそらくマグネットか何かで備え
付けになっていたのだろう。それが外れたのだ。
「何でだよ」
思わず呟く。どうして軍艦の備品のマグネットがそんな突然外れるのか。
だいいち、さっき聞こえた音は、絶対にマグネットが外れた音ではなかった。
デジタル時計がゆっくりと回転しながら、翼の方へ流れてくる。翼はそれを受け止めようとして――文字盤を見て、目を見開いた。
そこには本来、現在の時刻である0532時が表示されていなければならなかった。翼もさっき、一瞬横目で見た。
その文字盤が、0001を表示していた。
それが、翼が時計を受け取った瞬間、0000になった。そして、その脇に小さく表示されている秒数が、59から58、57、56――と
カウントダウンを始めた。翼は時計を握り締めた。ただ握り締めた。
――1分やる。ドアをくぐるか否か、自分で決めろ。
そう言われた気がした。誰に?
「……0を過ぎたら、どうなるんだよ」
158 :
創る名無しに見る名無し:2011/12/30(金) 01:48:08.64 ID:vYNTjxm+
薄く笑いながら、呟く。もちろん誰も答えない。当然だ。部屋には翼一人しかいない。いないはずだった。
しかし、翼には答えが分かっていた。「……戻れなく、なるのか」
宇宙やその歴史、あるいはすでに定められた運命にはある種の修正力がある――と、さして有名でもないSF小説で読んだことがある。すで
に決定した過去が何らかの事故であらぬ方向に歪められようとした場合、宇宙はその歪みの原因を、歴史に最低限以上の影響を及ぼさない手段
で排除しようとする、という話だ。今の翼の場合なら、最も歴史に及ぼす影響の小さい手段と言えば、つまり『翼以外の誰にも認識できない場
所に元の世界への扉が開き、翼がそれを自発的にくぐる』ことだろう。つまり今だ。具体的にどういう理屈で『扉』が開いたのか、そもそもこ
の扉は本物なのか、この扉を開いたのは何者なのか――それを考えている時間は無い。あと三十秒足らずしか無い。
――考える余地も無い気がした。還りたいなら答えは決まっている。もし翼がこの扉をくぐれば、全ては翼の白昼夢で終わるのだろう。ガン
ダムの歴史は何一つ変わらず、翼の戦いがそれ以降どこかで語られることも無く、いずれ翼自身の記憶も風化していくのだろう。それがどうし
た。それでいいじゃないか。どうせコロニーが落ちるのは決まってるんだ。還れるんならそうすればいい。どうせ俺にとってはこの世界の連中
は全て架空の人間なんだから、何人死のうが知ったことじゃない――
「……」
翼の心の中で、何かが爆ぜた。何かは翼にも分からなかった。残り二十秒を切る。
時計を投げ棄て、ドアを開けた。
159 :
創る名無しに見る名無し:2011/12/30(金) 01:49:20.49 ID:vYNTjxm+
「《エルロン》、機関爆発! 轟沈を確認!」
「《オルドース》、艦橋に直撃弾! 制御不能! 戦列を離れます!」
「《カーディナル》より入電! 我、すでに戦闘力を喪失せり! これより敵の進行ルートを妨害する! その間に体勢を立て直し、反撃され
たし!」
「《カーディナル》に返電! ふざけるなこの馬鹿野郎! 死にたくなかったらさっさと退がれ! そのまま伝えろ!」
光が、また一つ宇宙に咲いた。「……!」
「――艦長、《カーディナル》よりさらに入電。戦友達よ。コロニー落下を断固阻止せよ。地球を頼む。以上です」
「――畜生ォッ!」
カーク・ヤクネインはコンソールを殴りつけた。ブリッジクルーが一瞬振り返り、また作業に戻っていく。そんなもの頼まれても困る。戦線
はすでに崩壊していた。敵の人型機動兵器――MSによって密集隊形の外殻を突き崩され、それを外から援護する敵艦隊と陣中で遊撃をかける
MS部隊に挟撃される形になった。《イケイル》は第一陣の最左翼にいたため間一髪難を逃れたが、それでも二度のMSの攻撃を受けて戦闘力
をほぼ失い、後退しつつあるところだった。
当初の戦力比など忘れた。味方が何隻残っているかも分からない。メインモニターの向こうで、コロニーが徐々に大きくなっている。軌道変
更などしない。所定のコースを堂々と、総崩れになった連邦艦隊をあざ笑い、蹴散らすように進んでくる。射程圏内に侵入したコロニーに、そ
れでも砲を撃ち込んだり、前進して取り付こうとする艦は無い。たちまち敵が飛んできて蜂の巣にされるだけだ。制空権などすでに無かった。
「艦長! 敵機動兵器、二時上方より接近! 数は二!」
「……来やがった……!」
160 :
創る名無しに見る名無し:2011/12/30(金) 01:50:44.33 ID:vYNTjxm+
腹を決める。「二番三番、右舷三番副砲照準! 対空砲火用意!」残っている砲はそれだけだった。サラミスの船体が左に傾き、砲を敵に向
ける。二機のザクがマシンガンを構え、右上方から急降下してくる。射程内。「撃て!」全砲斉射。しかし、明らかに少ない火線は機動力に長
けるMSを落とすには不足だった。二機のザクはそれぞれが不規則な回避パターンを織り交ぜた機動を取り、《イケイル》をマシンガンの射程
に収めようと肉薄する。「敵機接近! 艦長!」「砲術班何やってる! 当てろ! どうせ逃げても無駄なんだ、死にたくなかったら当てろ!」
それしか言えなかった。ザクがみるみる近づいてくる。ついに副砲のビームが片方のザクを掠めた。ザクは片腕を失い、回転しながら軌道を外
れる。「よし!」思わず叫んだ。しかしそのザクは体勢を立て直し、片腕だけでザク・マシンガンのトリガーを引いた。銃火がサラミスの甲板
を撫で、二番・三番副砲が吹き飛ぶ。メインモニターが爆光で染まり、艦橋が大きく揺さぶられる。「うわああああっ!」「騒ぐな! 体勢を
立て直」そこまでだった。艦橋の正面をもう一機のザクが横切ったのをカークは見た。モノアイがこちらを見ていた。笑っているように見えた。
やられる。直感した。そのザクは艦橋を通り過ぎてから一度宙返りし、ザク・マシンガンを艦橋めがけて構え、
ビシュキューン!
一条のビームに貫かれ、爆発した。「……?」艦橋にいたカークにはその銃声は聞こえなかった。まだ死んでない――? そんな疑問が浮か
ぶだけだった。「艦長!」ブリッジクルーの声で我に返る。
「どうした!」
「か、甲板に!」
「何だ! 分からん! 具体的に報告しろ!」
「あ、『あれ』が動いてます! アレスティング・ワイヤーが外れて!」
「――何だと!?」
カークは前方に飛び、窓に張りついて甲板を見た。――サラミスの甲板に、白いMSが立っている。その巨体を拘束していたワイヤーはすで
に振りほどかれていた。白いMSは後ろ――サラミスの右舷側を振り返り、手にしたライフルを構え、
ビシュキューン!
「え……!?」
「び、ビーム砲なのか、あの銃は……!?」
「か、艦長! 今の攻撃で右舷の敵機動兵器が沈黙! もう一機も確認できません! ――周辺に敵影無し!」
「……!」
161 :
創る名無しに見る名無し:2011/12/30(金) 01:53:47.57 ID:vYNTjxm+
カークはコンソールに手をつき、隣の通信士に呟いた。「…回線を開け」「しゅ、周波数は――?」「どれでもいい。接触状態なら聞こえる
だろ」しばらくして通信士がどうぞ、と言った。マイクを手に取る。
「――イクタ・ツバサか」
「――艦長」
少年の声が答えた。「そこで何やってる」
「――分からない」
「分からない?」
「俺にもよく分からないんだ。還ろうと思えば勝手に還れたのに、何故だかムチャクチャ腹が立って、気がついたらここにいた」
「――ああ?」
「艦長。こうなってしまった以上、俺は俺に出来ることをやろうと思う。コロニーまで行って姿勢制御バーニアを点けてくる。今ならまだ間に
合うはずだ」
「――馬鹿な真似は止めろ。たとえお前の『それ』がビーム兵器を装備しているといっても、前回の戦闘で消耗しているんだ。そんなポンコツ
で敵陣に飛び込むなんざ自殺行為だ。コロニーへなんか行けるものか」
「それでも、俺は行かなきゃならないんだ。ここでじっとしてても状況は変わらない。――あるいは、ここで俺が歴史を変えるか、どうやって
も抹消できないほどの爪痕を残せば、あるいはそれで『扉』を開かせられるかもしれない」
「――扉?」
「たぶん、俺は勝ちたいんだ。答えを与えられるんじゃなくて、自分で答えを掴みたいんだ」
「何を言ってる。もう一度だけ言うぞ。馬鹿な真似はやめて艦内に戻れ。これは戦争なんだ。素人なんて簡単に殺されるし、殺されたって見向
きもされないんだぞ」
「分かってる。それで死ぬなら、俺も所詮そこまでの男だったってことさ」
ガンダムが前方へ向き直る。全天を覆うように迫るコロニー。その周辺に光る無数の星。――敵影。
「往多翼、ガンダム、行くぞ!」
「よせ!」
声と同時に、ガンダムが甲板を蹴った。サラミスが大きく傾ぎ、ガンダムは推進剤の尾を引いて虚空を駆けた。「……馬鹿が……!」カーク
は吐き捨て、その直後に『それ』に気づいて目を見開いた。
「おい! 止まれ! すぐ帰って来い! 死にたくなかったらコロニーに近づくな!」
忘れていた。連邦軍はまだ負けてはいない。まだ最後の切り札が残っている。
メギドの火で灼かれたくなかったら、コロニーに近づいてはならない。
機動戦士ガンダム −翼の往先−
第二話『メギドの火』(1)
162 :
創る名無しに見る名無し:2011/12/31(土) 01:08:06.42 ID:LFWCOUgC
それでも時間は無いと思った。翼はランドセルを全開で吹かし、ガンダムと共に流星となってコロニーへ飛んだ。みるみるコロニーが大きくなり、翼の視
界を覆い尽くす。「改めて見ると、でかい……これが地球に落ちるってのか」空が落ちる、というのは秀逸な表現だと思った。今の翼には、コロニーは金属
で出来た空にしか見えない。銀色の空を目指して飛び続ける。
その時、コロニーから一筋の光が翼へ向かってきた。「今度は……!」コロニーに人はいない。撃てる。そう思った。照星が敵を捉え、すかさず引き金を
引く。
しかしその敵は、跳ねるような機動で放たれたビームをかわした。「な――!?」
「ビームに、反応した……!?」
違う、と思った。おそらくこちらの攻撃を予測し、最初から回避パターンを組み込んでいたのだ。敵と高速ですれ違う。MS‐06ザク。
片腕が、白く染められていた。「あ――あいつは!」分かっていた。翼も、その男がコロニー落とし、ブリティッシュ作戦に参加していたことは知ってい
た。忘れていたわけではない。出てこなければいいと思っていたわけでもない。
それでも、こうして出会った時の戦慄と恐怖は、かつて無いほどに翼の神経を締め上げた。「MS、か……?」
「しかし、撃ってきたのなら味方ではあるまい。しかも連邦の識別信号を使っている。敵機と認定。交戦に入る」
「《白狼》、シン・マツナガ……!」
マツナガの方が戦場での判断は速かった。ザクは宙返りして、ガンダムがまだ攻撃態勢に入ってないと一瞬で見て取り、マシンガンを斉射しつつガンダム
に肉薄した。「くそ――っ!」弾雨を受けながらそれでもガンダムは宙返りし、ビーム・ライフルをザクに撃ち込む。しかしそれもザクはAMBACでかわ
し、流れるような動きでヒート・ホークを抜き放ち、振り下ろした。「っ!」翼は間一髪それを受け止め、逆の手にビーム・サーベルを抜刀し、斬りつけた。
「そこか」マシンガンをラックに戻したザクの右腕が伸びて、ガンダムのサーベルを持つ手を押し留めた。
「動きが、読まれてる――!?」
163 :
創る名無しに見る名無し:2011/12/31(土) 01:10:34.26 ID:LFWCOUgC
「悪くは無いが、正直すぎるな。分かりやすい。正直な戦いをする男は嫌いではないが、それはつまり、自分より強い男にはどうあがいても勝
てんという事だ」
「――しかし!」
叫び、翼はガンダムの身を撓ませ、ザクの腹を蹴りつけた。「ふん!」「うお!?」マツナガは逆立ちするような機動でそれをかわし、同時
にガンダムの左腕を放し、マシンガンを片手で構える。「くそぉぉっ!」照準警報が鳴り響き、翼はガンダムを宙返りさせた。
「何!?」
ガンダムの踵がザクの頭部を打つ。吹っ飛んでいくザクにビーム・ライフルの銃口を向ける。「もらった!」「やるな、小僧!」必殺のタイ
ミングで放たれたビームをそれでもマツナガは宙返りでかわす。その手に握られていたマシンガンの銃口が光る。応射。「く――っ!」数発が
掠めるが、ガンダムは身をかわしてマツナガ機へ飛ぶ。「今度こそ!」ロックオン。トリガー。「それでは勝てんと言った!」マツナガはやは
り華麗に身をかわす。
ビシュキューン!
「――何!?」
「今度こそ、と言った!」
照準警報を受けてマツナガがかわしたのは、ビームではなく機銃――ガンダムの頭部バルカン砲だった。それに気づいた時には、すかさず放
たれたビーム・ライフルの光条がザクの白い片腕をもぎ取っていた。
「――見事――!」
「自分より強い奴には勝てないと言ったな! その言葉そっくり返してやる! あんたのザクなんかで、このガンダムが倒せるものか!」
スロットルを押し込み、ザクへ肉薄する。ザクは姿勢を立て直してヒート・ホークを構えるが、遅い。片腕を失った直後で機体バランスが戻
っていないのだ。ビーム・サーベルを振りかざす。「止めを刺す!」「やらせん!」マツナガもそのガンダムの動きに反応するが、僅かに遅い。
ビームの刃がヒート・ホークをすり抜け、ザクの頭部へ振り下ろされる。
『――調子に乗るなよ、小僧』
「――え!?」
斬った、と確信した瞬間、ビーム・サーベルが急制動をかけて止まった。止められた、と思った直後にその腕が思いっきり跳ね上げられ、ガ
ンダムは回転しながら吹っ飛ぶ。機体を制御し、翼はガンダムをマツナガ機へ向き直らせる。
「――は――!?」
164 :
創る名無しに見る名無し:2011/12/31(土) 01:12:31.96 ID:LFWCOUgC
信じられないことが起こっていた。マツナガ機の周囲を血のように紅い光が包んでいる。その中でマツナガ機が、変形していた。腕が、足が、
身体が次々と亀裂を走らせ、引き裂け、中から新たな身体が現れる。鋭角的なシルエットの手足。巨大な翼にも見える二基のバーニア・ユニッ
トが飛び出し、展開される。腕の下、脇腹の辺りから第三、第四の腕が伸びる。脱皮にも見える変形を終えた機体は、元のザクの約1.5倍ほ
どの大きさがあった。紅い光が薄まり、消える。単眼がぎらりと輝く。
「な――何だよ、そりゃ――ふざけんのもたいがいにしろよ――」
『往多翼。俺の指示は伝わらなかったようだな』
「――!」
その機体からの声だと分かった。どうして分かったのかは分からない。
シン・マツナガとは違う声だった。「誰だ――誰だ! マツナガはどうした!」
『シン・マツナガがここにいたという事実は改変した。今頃は全く別の場所で、引き続き作戦に従事しているだろう。お前と会った記憶も全て
失っている』
「そんな――そんな、バカなことが――」
『往多翼。お前のこの世界での役目はもう終わっている。還りたいのなら還してやる。遊んでないでさっさと還れ。――さあ、バカなお前にも
ちゃんと伝わるようにここまではっきり言ってやったぞ。これでもうよく分からなかった、気のせいだと思ったなどという言い訳は通用せんぞ』
「お前は、誰なんだ――!? 何故俺をこの世界に呼んだんだ!? 役目だと!?」
『お前をこの世界に呼んだのは、ちょっとしたバグの修正のためさ。本来標的になるはずの無いアイランド・ロータスにまで毒ガス部隊が派遣
されてしまった。あのコロニーの住人は死ぬ予定には入っていない。だから緊急に、この世界へ来る力のあるそのガンダムと、お前の魂を呼び
寄せたのだ。お前のおかげでロータスの被害は最小限で済んだ。お勤めご苦労。分かったらさっさと還れ』
「死ぬ予定、だと――? だったら、他のコロニーの人間は、死ぬ予定だったってのか?」
『そうだ。お前だって知ってるだろう?』
「お前が作ったシナリオに沿って、あの毒ガス作戦は行われた。しかし、余計な人間が死亡リストに入ってたから、俺を呼んで修正させた、っ
てわけか?」
『そうそう。なんだ頭いいじゃないか』
「ふざけんなこのクソ野郎ォォォォ!」
叫び、ビーム・ライフルの引き金を引いた。感情に任せて連射する。無数のビームが目の前の機体に飛び込んだ。
165 :
創る名無しに見る名無し:2011/12/31(土) 01:14:30.29 ID:LFWCOUgC
『馬鹿な真似は止めろ』
単眼の機体は四つあるうちの上部右腕を前に差し出し、全てのビームを跳ね返した。「な……!?」『お前がさほどバカでないのはもう分か
った。最初の質問、俺が誰か。それはここまでの俺の言動で推測ができるだろう。お前のくだらない倫理観で、俺に刃向かおうなどと馬鹿な真
似は止めろ。誰に向かって引き金を引いているのか分かっているのか』
「黙れ! お前が神だって言うなら、どうして戦争を起こしたり、それを放っておいたりするんだ! そういうのを何とかするのがお前の仕事
じゃないのか!」
『そんなことまでお前に話す義理は無い。――最後通告だ。還れ。俺の仕事の邪魔をするな』
「断る! 誰がお前の言いなりになるか! せめて還ってほしいなら、人にものを頼む態度を弁えろ!」
『――お前こそ態度を弁えろ、人間』
「!?」
声は、ガンダムのすぐ背後から聞こえた。何故それが分かったかは分からない。殺気のようなものが、翼のすぐ後ろに瞬時に移動していた。
指一本も動かせなかった。戦うとか身をかわすとか、そういう発想を脳が持つ前にガンダムはバラバラに分解された。両脚が吹き飛び、右腕
が砕け、頭をもぎ取られ、左腕が消し飛び、正面に回った単眼の機体がコクピットに鋭いクローが備わった腕を突き立てた。ガンダムの胸部が
ひしゃげ、引き抜いた腕が破片と内臓をばら撒く。
「が――っ!」
『これでも神罰としては生温い方だ。この程度で許してもらえることを俺に感謝しろ。感謝と懺悔と贖罪の意思を言葉にして表すなら、お前に
もう一度チャンスをやろう』
「――」
ひしゃげ、捻じ曲がったコクピットに埋もれ、吐いた血を拭って翼は顔を上げる。あまりの激痛に感覚が麻痺し、その代わり身体はほとんど
言うことを聞かなくなっていた。長い時間をかけてコクピットの隙間から抜け出し、割れたハッチから外に出る。
単眼の機体と、ノーマルスーツのバイザー越しに向き合った。「……」似ているのはモノアイだけだ。他は何もかも違う。あまりにも刺々し
い。殺気をそのまま、辛うじて人型に見える程度に変形させただけの代物。
翼は確信した。こいつは、MSじゃない。『その眼が答えか』
『俺は常にお前達に。こうしたほうがいい、こうするべきではないと語りかけている。お前達はほとんどの場合気のせいだ、と言ってごまかし
てしまうがな。まあ別にそれはいいんだが――どうしても都合が悪い場合は、俺だって強硬策を採ることもある』
166 :
創る名無しに見る名無し:2011/12/31(土) 01:16:41.29 ID:LFWCOUgC
そいつが喋る間に翼は考えた。こいつは、マツナガがここにいた事実は改変した、と言った。そしてこいつは――あるいはこいつの機体は―
―マツナガ機を内から破るようにして現れた。マツナガがまだ生きているなら、そしてその乗機も無事であるなら、こいつが出てきた時点でそ
こにあるザクはある種の虚像となっていたと考えられる。虚像となっていた? それは具体的にどういうことだ? それが分かればこいつの正
体の一端に迫れる。
『よし。お前が望むならそうしてやろう。もう少しこの世界で修行を積むがいい。そのうち俺の偉大さが分かるだろう』
「俺は、自分の力で、還る。――お前は、糞食って、死んでろ」
『しかし、その前に、お前の数々の不敬な発言と態度に罰を与えなければな』
「――?」
気がつくと、翼は元通りシートに座っていた。周囲を見回す。コクピットにも損傷は無い。自分の身体も元通りだ。「……」幻覚だとはもう
思わなかった。念のために計器を確認する。まさかいるとは思わないが。
「……あ」
敵よりももっと重大なものが、目の前にあった。コロニー・アイランド・イフッシュ。もうあと一息飛べば接触できる。「まだ間に合うか―
―いや!」間に合うに決まっていた。時計はマツナガと遭遇した時刻から一分も経っていない。翼はスロットルを押し込んだ。
「飛べ、ガンダム! 俺とお前で、あれを止めるぞ!」
推進剤の尾を引き、ガンダムが駆ける。姿勢制御用の推進剤を全て点火して軌道を変える。それでも駄目ならガンダムを核爆発させてやる。
取り付いてしまえば、方法はいくらでもあるはずだった。
立て続けの警報が、コクピットに鳴り響いた。「!?」思わず周囲を見回す。敵か。だとしたらおそらく単体の敵じゃない。ここは敵陣の中
央なのだ。だが足を止めるわけにはいかない。翼は覚悟を決めた。止まるわけにはいかない。来るなら来い。全員殺す。
翼の視界を、一筋の流星が横切った。「え――?」
167 :
創る名無しに見る名無し:2011/12/31(土) 01:17:56.54 ID:LFWCOUgC
流星はコロニーに突き刺さり、爆発した。周囲の外壁が炎と共に吹き飛んでいく。「う、うわあああああ!?」
あまりの光と爆発に、翼にはその光景が見えなかった。流星は次々にコロニーへ突き刺さり、爆発する。突き刺さらずに周囲で爆発するもの
もあった。翼とガンダムは周囲に荒れ狂う光と炎に巻き込まれ、押し流された。鳴り止まない警報。上下左右に翼を弄ぶ暴力的な衝撃。宇宙が
壊れる。そう思った。
「そんな――そんな! 地上からの核攻撃だって!? そんな事実は歴史に無いはずだ!」
違う。実際にはあった。1月9日1630。地球連邦軍はコロニー落下を阻止するため、アイランド・イフッシュに対して地球上のミサイル
基地から核攻撃を敢行した。ただしこの攻撃はコロニー破片の拡散を恐れた連邦政府により、コロニーを完全に破壊する事無く中断されている。
それを知らない翼は、核の炎に巻き込まれる恐怖と激痛の他に、たとえようの無い戦慄を覚えていた。「あいつが――あいつが、俺を殺すた
めに、歴史を変えた……!?」
『お前の数々の不敬な発言と態度に罰を与えなければな』
敵の言葉が脳裏をよぎる。翼にはどうすることもできなかった。宇宙すら破壊するような爆風の渦に、ガンダムもけたたましく警報を鳴らす
だけで、翼の思うようには動かない。翼はコクピットで滅茶苦茶に翻弄されながら、恐怖と戦慄に悲鳴を上げ続けた。
168 :
創る名無しに見る名無し:2011/12/31(土) 01:19:42.08 ID:LFWCOUgC
「――攻撃中止だ!?」
電文の内容を聞き、カーク・ヤクネインは思わず艦長席から立ち上がった。「馬鹿な!? もう少しで砕けるだろうが! 俺達も壊滅したが、
ジオンだってもうどうにもできずに撤退してる! あとはあのクソペットボトルを細切れにして、それを記録してジオンの連中にビデオレター
で送りつけてやるだけだろうが!」
「――砕けるから、中止なんだそうです。砕けた破片が全地球に降り注げば、地球全土が壊滅します。でも、外装を燃やして質量を落としたも
のが、どこか一箇所に落ちるだけなら」
「そもそも落ちないようにやってたんじゃないのか! この期に及んで馬鹿か下のクソ代議士《センセイ》共は! 砕ける目が無くなったって
ことは要するに、誰かがミサイルを出し渋りやがったって事だ! 統一地球連邦政府が聞いて呆れる!」
カークは乱暴に席に座り直した。正面では、落ちようとするコロニーが大気との摩擦で紅く燃えていた。すぐ真下には青い地球。「……畜生
が……!」この期に及んで砕けないとは何事なのか。一体何人の軍人がこの作戦に命を懸けたと思っているのか。負けるのは構わない。いやそ
れも構わなくはないが、本懐を遂げられるならボコボコにやられてカッコ悪く逃げ回るのだって構わない。試合には負けたが勝負には勝った。
少なくともそういう結果の出る作戦だと思った。他の連中だってそう思ったから命を惜しまず戦ったのだ。――それが、砕くのやめます、だ?
「艦長」
169 :
創る名無しに見る名無し:2011/12/31(土) 01:22:23.30 ID:LFWCOUgC
「追撃命令ならシカトしとけ。本艦には戦闘能力無し。作戦終了を待って撤収する」
「いえ、それが――友軍機の、救難信号です」
「――」
カークは気持ち身を乗り出す。「近くで生き残りがいるのか。機、だって? 初手で突っ込んでいったセイバーフィッシュ隊の誰かか」
「いえ、それが――」
「――」
予感がして、カークは艦長席を降りた。「冗談だろ…」呟きながら、索敵手の脇から計器を覗き込む。
「――馬鹿な――あれだけの核攻撃に巻き込まれたんだぞ? 補足できるほど原型が残ってて、しかも救難信号まで出せるのか? 一体何で出
来てんだあの人形は」
「回収、しますか? ――というか、さすがにこれ本部に報告しないとまずいですよね」
「言われなくても分かってる。――こうなったらもう、洗いざらい正直にご報告せざるを得ないだろうな」
呟くカークの頭上、アイランド・イフッシュの方角から、装甲の端々が融けた以外は五体満足なガンダムが、ゆっくりと《イケイル》の方へ
流れてきていた。
機動戦士ガンダム −翼の往先−
第二話 『メギドの火』(2)
170 :
創る名無しに見る名無し:2011/12/31(土) 01:24:31.30 ID:LFWCOUgC
次回予告
捕虜への暴行容疑で投獄され、特例恩赦で出所した翼に与えられた任務は、新造艦ホワイト・ベースの護衛であった。
サイド7の外周で警戒に当たる翼に、復讐に燃える悪魔達が襲い掛かる。
ヴィロード・カミヤ、オリヴァー・マイ、シーマ・ガラハウ、そして――シャア・アズナブル。
史実を超える圧倒的な戦力差を前に、2.5ガンダムのオート・セーフティ・システムは、その真の力を発揮する。
そしてコロニー内部では、後に最強のニュータイプと恐れられる少年が目を醒まそうとしていた――
次回、機動戦士ガンダム −翼の往先−
第四話、『架空の大地』
二匹の悪魔が、大地に立つ。
>>147 投下乙です。
2.5って事はマスターグレー(ry
しかし今になって思うと、ガンダム世界の兵器開発ペースってムッチャ早いですよね〜www
評価試験云々言ってますが、時間的にはほぼロールアウト即実戦じゃないですか。
まあ、一年って放送スパンがあるから仕方ないんでしょうが。
元々その世界に無いはずの物に二号機もクソもないだろうとか、
艦長理解早すぎとかそういう無粋なツッコミは置いといて……
(2011年の)現代人が一年戦争時のガンダム世界に乱入となると、色々と齟齬は出てくるんだろうなあ。
携帯電話すらない時代のアニメですもんね。
もっとも携帯電話は、ミノフスキー粒子のおかげで使えない状態になるんでしょうけど。
インターネットも、確かそのせいで衰退したのでは? みたいな論説を、どこかで読んだような気がします。
さてさて。
2011年も今日で最後ですね。
拙作GPBはクリスマスに間に合わせるどころか年まで越しちゃいますが、
読み手の皆さんそして各作品の作者の皆さん。
来年もよろしくお願いいたします。
>>171 レスありがとうございます。
携帯のネタはいつかやろうと思いつつ、できずに終わるかもw
本年中は数々の投下お疲れ様でした。また来年もよろしくお願いします。
よいお年を。あと一時間ですがw
Gジェネにボリスさん出てきたけど
クワトロを単機で追い返し
ガトーを退け
ブシドーを落とし
リボンズに機体を爆破されても
「ガンプラ愛があれば平気だ」って言って復活してた
いいのかそれ
175 :
創る名無しに見る名無し:2012/01/07(土) 01:42:14.18 ID:1oDJ3031
あけおめ
176 :
創る名無しに見る名無し:2012/01/07(土) 07:38:29.59 ID:TvNCfC9o
どこからどこまでがガンダムなんだろうな
おはようからおやすみまで
おはようからおやすみまで全部ガンダムとか
なんというダメ人間w
てすつ
待つ身はつらい
何を待つ?
>181 投下された作品の続き&新作。
ロシアのスナイパーの話とか、カークはどうなるの???
今年のクリスマスまで待たなきゃいけないのかな、てきな?
鋭意製作中。です
別のスレで予告打ったやつもやってるから、もうちょい先になるかも
184 :
創る名無しに見る名無し:2012/02/17(金) 06:01:54.74 ID:uwyHh/K4
シーマ様の話はまだですか
あんまり待たせるのも悪いんで、前に書き溜めてた分を投下しておきます。
これでも読んで暇を潰してください。
コツ、コツ、コツ――ガチャ。
「――逃がしたというのか」
「総勢十二機、ジムU、ケンプファー共に全滅。目標の撃墜は確認できず。――状況から考えると、残念ながらそうなります」
「けしからん。勝てる数字で送り込んでやったというのにか。指揮官は誰だ」
「いや、相手が非凡だったということだろう。情報不足による部隊編成ミスだ。あれに乗っているパイロットが誰か知っていれば、大尉ももう少し念入りに
部隊を組んだはずだ」
「パイロット? 何の事だ。こちらにもそんな情報は無いぞ」
「通常回線でレイジス・スプリンターと名乗ったそうだ――憶えてないか? 二年前に30バンチでやらかした小僧だよ」
「――わしが前回、提督に戦時特例措置報告書を出してやった奴か? あれが何故そんなところにおる。人事を組んだのは誰だ」
「本部人事課だが――いや、すまん。人事課に連絡したのは俺だ。どこか適当な辺境基地に左遷しとけってな。時期が来たら前線に戻そうと思ってたんだが、
どこに異動したかまでは確認できてなかった。まさかキャリフォルニアだったとはな。知ってりゃすぐ再配転にさせたんだが、エゥーゴとかのせいで最近忙
しくてな」
「――言い訳になるか。経緯は分かるが、これはそれどころの問題ではないぞ。どう責任を取るつもりだ。いやそれより、この事態をどう収拾するつもりだ」
「よろしいでしょうか」
「――何だ」
「ガンダム4号機が強奪されたと聞きまして」
「――!?」
「誰だ貴様! 誰から聞いた! 部外者は出て行け! 今は会議中だ!」
「お困りだろうと思って、解決策をお持ちしたのですが」
「だったら上長を通して作戦書を上げろ! あと、所属と階級を申告して帰れ!」
「待て。――貴様、見た顔だな」
「本部直轄機動群ロンドリーナ開発局、アルローザ・リベラです」
「ロンドリーナ…? 中将、貴方の管轄ですか?」
「そうだ。これの上長というと私だ。不束な部下で申し訳無い。――局長。お前が解決策というと、どうやら私が心配していた問題も解決したということか?」
「はい、中将。ティターンズの強化人間とその専用MS、エゥーゴにいるという未確認のニュータイプ、そしてガンダム4号機――これらの問題を解決する
ために好適の素材、新型MSとそのシステムの完成報告に上がりました」
「新型MSだと? そう言われて上手くいった試しが無いな。鳴り物入りで入ってくるものにろくなものは無い」
「いいえ。この兵器の主体は、あくまでハード面ではなくソフト面――つまり、量産型MSよりも遥かに安いコストで生産できるシステムを現行機に組み込
むことで、新型MSに比肩する性能を発揮させるシステムです」
「…何?」
188 :
創る名無しに見る名無し:2012/02/19(日) 00:23:42.71 ID:eI9IV4p3
「…私は兼ねてより、地球連邦軍にニュータイプの研究・開発ノウハウが無いのを憂いていた。軒並みティターンズに吸収されたからな。いつかティターン
ズを粛清する際に、最大の障害となるのは奴等の持つ強化人間だと考えた。国力も、兵力も、個々の兵士の戦闘力ですら、容易に覆せる。しかし、進化した
人類が持つ不確定的、超常的とも言える力――これに対する備えはまだ無いと思ったのだ」
「…つまり、その新兵器とは、対ニュータイプ用システム?」
「厳密には、一般の兵士でもニュータイプと同様の戦闘能力を発揮できるシステムということだ。局長、説明を」
「はい、中将。元々は戦時中、連邦軍のある部隊で運用試験が行われていたシステムから材を取ったものです」
「材を取った? そのシステムの発展改良型ではないのか?」
「以前のシステムは運用試験途中の戦闘で機能不全を起こし、以後再起動することはできませんでした。結果として連邦軍は当該プロジェクトを失敗と判断、
システム搭載機の戦闘データごとシステムを破棄、プロジェクトも無期限凍結となったのです。今回我がロンドリーナ開発局で開発したシステムは、骨子と
なる理論を応用し、現在の技術で再構築した新バージョンです」
189 :
創る名無しに見る名無し:2012/02/19(日) 00:24:50.65 ID:eI9IV4p3
「――しかし、問題があると言ったな。そしてそれが解決した?」
「はい。問題は二点ありました。リミッター調整が難航し、システム起動時の機動制御が困難であったこと、また最大稼動時の反応速度が想定
値を大幅に超えたため、それに耐えうるテストパイロットがおらず、戦闘データ収集が遅延していたことです。しかし、この度無事解決いたし
ました。リミッター組み込み作業及び動作確認が無事に完了し、一般の兵士でもリミッターで出力を制御することで簡便に使用することが可能
となりました。また、テストパイロットの目処もつきましたので、直ちに戦闘データ収集作業を再開し、システムの完全な完成を目指します」
「――最大戦速のあれを制御するだと? 誰だ。並のパイロットでは身体か精神が壊れるぞ」
「素性に関しては追ってパーソナル・データを送ります。素晴らしい逸材です。単なるテスターに留まらず、本人も研究対象になるほどの」
「…つまり局長。君はガンダム4号機を、君のシステムの他社比較サンプルにしたいわけだな?」
「そう捉えて頂いて結構です」
「できるかな? あれは旧型だが、現行のMSの常識の範疇を遥かに超えている。乗っているパイロットも筋金入りのバトル・ジャンキーだ。
システムだけが良くても他が並なら、つまらない結果に終わるかも知れんぞ」
190 :
創る名無しに見る名無し:2012/02/19(日) 00:26:11.53 ID:eI9IV4p3
「問題ありません。新システムは限界性能調査のため、現在入手可能な中で最もハイスペックなMSに搭載してあります。機密保持のため、外
装はジム・クゥエルに偽装していますが。システム起動時の戦闘能力は、こちらも現在の常識の範疇を越えるに足ると自負しています」
「最もハイスペック――ティターンズからMk‐Uでももらったか?」
「はい」
「何と」
「ただし出処は違います。ティターンズには何の貸しも作っていません」
「――というと――?」
「…0号機か」
「!? 試作型ガンダムMk‐U!?」
「なるほど。確かにあれならば勝てるかも知れん。あれも元を糾せばガンダム4号機と同じ源流から来たもの。それにニュータイプの力を付与
する新システムを搭載したとなれば」
「そうです。最強のハードに最強のソフト。そして今、それを操りうるパイロットまでもが揃いました。0でありながら全てを備え、前システ
ムの全ての欠点を克服し、閉じた真円となったもの。コード・ネームBD‐0。レストア機のガンダム・ガーベラ? 《味方殺し》のレイジス?
笑止。そのようなもの、このMSの前には恐れるに足りません」
「……いいだろう。そこまで言うのならやってみたまえ。直ちに戻って作戦書を提出せよ。追って正式に辞令を出す。追撃チームを編成してお
け」
「了解です、中将」
191 :
創る名無しに見る名無し:2012/02/19(日) 00:27:20.80 ID:eI9IV4p3
終わり無き追撃戦――にもならず、レイジス・スプリンターの逃避行はメキシコ西部、クリアカン周辺のジャングルであっけなく終わった。
「ホールド・アップだ」
「…」
「分かってんだぜ。地面に残ったビーム・ライフルの弾痕の数から計算したんだ。お前がキャリフォルニア・ベースでの大立ち回りで弾薬を殆
ど使い切っちまったってのも、ここまで来るのに無補給で推進剤もろくに残っちゃいないってのもな。無駄な抵抗どころか、そもそも抵抗がで
きねえだろ? 大人しく降伏しな」
右手は海、左手はジャングル。その間に申し訳程度に砂浜がある。ジャングルに機体を隠して野営していたレイジスは、聞こえてきた飛行音
に目を醒ましてガンダム・ガーベラに飛び乗った。しかし起動中に空からこいつら――パラシュート・ザックを装備したジムU隊が降下し、レ
イジスはあっさり三方を包囲された。
…現在の状況は、概ね先程の奴が喋った通りである。「…やっぱりカッコつけだったかな」小声で呟く。かといって、リューグ達を置いて逃
げた方が良かったとも思わないが。
「…沈黙が返答か? それでもいいが、だったらまずは武器を除装してもらおうか」
「考えてたのさ。ここで抵抗してやられるのと、捕まって本部で銃殺になるのと、どっちがいいかってな」
「強がんな。だからお前には選択の余地は無えだろっつってんだよ。ウダウダ抜かすなら抵抗してみろコラ」
「…」
192 :
創る名無しに見る名無し:2012/02/19(日) 00:28:31.97 ID:eI9IV4p3
抵抗してやってもいいんだぞコラ――と言いかけたが、さすがに飲み込んだ。分が悪いどころの話ではない。武器のエネルギーはほとんど空
だ。推進剤も底を突きかけて戦闘機動もろくにできない。詰んだ。本当なら推進剤を節約しつつ南へ落ちて、メキシコシティの引っ越し公社に
話をつけて――最悪の場合はガーベラでハイジャックをかまして――高飛びする予定だったが、スケジュールの狂いが命取りになった。こんな
凡ミスで頓挫するとは、所詮その程度の話だったのかもしれない。
「…ごめんな、ガーベラ。一生に一度のハネムーンにしちゃ、チャチだったな」
呟いた。ロング・ビーム・ライフルと盾を捨てる。SBBRを腰のラックから外し、地面に落として両手を上げた。「これでいいか?」
「ようし。そのまま立て。輸送機が近くに着陸してる。まずはそれに乗って、ウチの指揮官に会ってもらうぜ」
「死ぬ前に茶ぐらい出してくれよ。喉がカラカラだ」
「慌てなくても好きなだけ飲めるさ。何しろ大事な客分だからな」
「…あ?」
「さあ、出発だ。妙な真似すると脇の二人が撃つぜ。ゆっくり、安全運転で歩きやがれ」
「…」
先頭の一機が歩き出し、脇に控えたジムUの一機がライフルの銃口でガーベラを小突く。レイジスはペダルを浅く踏み、ガーベラを歩かせる。
ジャングルの静かな朝に、MSの歩行音が響いた。
193 :
創る名無しに見る名無し:2012/02/19(日) 00:29:39.85 ID:eI9IV4p3
「君が、レイジス・スプリンターか」
狭い輸送機の狭い一室で、レイジスはその隊の隊長らしき連邦士官服の男に引き会わされた。「…敬礼がいるんですかね」
「不要だ。かけたまえ」
言われ、狭いキャビンの椅子――は一つしかないそれを男が使用してるため、その向かいのベッドを勧められた。「…失礼します」一応言っ
て、腰を下ろす。「意外と礼儀正しいな」
「さて、少尉。私はこの部隊の指揮官を務めているドマ・ノートン大尉だ。私の任務は君と接触し、君を私の所属基地、グアダラハラへ護送し、
そこで君の乗機の整備・補給の手続きを取り、君に充分な食事と休息を与えることだ」
「……あ?」
「不敬なリアクションはひとまず置こう。無理も無い反応だ。驚いただろうが私が言っているのは嘘でも冗談でもない。君の戦いはまだ終わっ
ていないのだ」
「……何だって?」
「詳しい事情は説明しないが、私の上司は君とあのガンダムを捕らえることにあまり積極的ではない。あのMSは確かにその出自に重大な秘密
を抱えているが、それは全ての連邦軍にとって不利益なものではないと認識してほしい。私の上司はむしろ、今回の君の行動を好意的に見てい
る。ただし、手助けはしない。そこまで肩入れすると引っ込みがつかなくなるからね。用事が無ければこちらからは接触しないし、仮に君の方
からコンタクトを取っても、それは君にとって極めて不都合な結果を生むだろう」
「…手助けはしない、用事が無ければ触りもしない、ってことは」
194 :
創る名無しに見る名無し:2012/02/19(日) 00:30:49.16 ID:eI9IV4p3
レイジスはまだ整理のつかない頭で考え、時間をかけてぽつぽつと喋った。
「今回は、俺に、用事があるって事か?」
「そういうことだ。仕事を頼みたい。引き受けて無事にこの作戦が成功したなら、君が安全にこの大陸を出られるように手配しよう。行き先の
指定も可能な限りお受けする」
「うまい話には罠があるんだよな」
「普通はな。しかし君の場合は状況が違う。罠といったって想定しうるのはせいぜい、私が君をよきタイミングでジャブローに連れて行くぐら
いだ。だがそれは君も覚悟していたのだろう? 君はこの仕事を請けざるを得ない。私の機嫌を損ねたら、たちまち悪い幻想が現実になるから
だ。君に拒否権は無い」
「……」
考えた。――確かに打つ手は無い。ガーベラは奪られ、レイジス自身もキャリフォルニアでの激戦と、それからの強行軍で疲弊しきっている。
反撃できる目は無い。少なくとも今は、この状況に乗るしかない。
「……仕事の、内容は」
「もちろん、戦いだ。実は君の脱走に関連して、本部である新兵器のトライアル・プランが持ち上がっている。新兵器の能力検証に、君とガン
ダムを使おうというわけだ。しかし私の上司は、このトライアルが成功して新兵器が採用を取ろうものなら、極めて面白くない立場に立たされ
るのだ。君がやられてしまうのもよろしくない。せっかく敵に詰め腹を切らせられそうなネタが持ち上がったのに、こんなところでシボまれち
ゃ困る。だから君には是非とも勝って欲しいのだ。これさえ終われば君がその後どうなろうと知ったことではないが、この一戦だけは落として
欲しくない」
「…」
195 :
創る名無しに見る名無し:2012/02/19(日) 00:39:37.15 ID:AEeezJv9
乙!
面白かった!
196 :
創る名無しに見る名無し:2012/02/19(日) 08:58:49.66 ID:7AGjmuaI
乙!
そのシステム…ブルーディスティニー系の流れを汲んでいるのか…楽しみですw
UC500年―――
幾度の戦いを経て、地球圏はようやくにも平穏を手にする事ができたのだった。
一方で再び膨れあがる人口は300億に達し、連邦政府の財政は困窮を極めた。
予算捻出のため、政府は連邦軍の大幅な軍縮に着手するのだった。
『コロニーに一撃で致命傷を与えるレベルの兵器』 の製造、保有を厳禁とし、
連邦の主力MSであるジムmk61の主武装は小型のビームスプレーガンとなった。
そんなある日――
軍縮憲章締結100周年を記念するパーティが開催されているコロニーが、
突如飛来した謎のMSによる襲撃を受けるのだった。
応戦するジム。しかし封印された黒歴史の技術を使用する敵にはまるで歯が立たない。
これまでか、と誰もが思った瞬間――
一機の白いMSが敵を切り裂いた。
「あれは・・・ガンダム!?」
白いMSが手にするライフルからビームが放たれれば敵MSを一撃で消滅させ、さらにコロニー外壁にも大穴が空くのだった。
「間違いない・・・あのMSは黒歴史の技術で造られている。一体誰が・・・?」
破られた静謐。再び溢れ出す黒歴史の渦。
ガンダムは人類を救うのか、それともパンドラの箱を開くのか・・・
今、新しい伝説が始まる・・・
機動戦士ガンダム SAGA
今、新たな神話が紡がれる・・・
機動戦士ガンダム SAGA 第1輪 『甦る白きモビールスーツ』
???「・・・ビームメガライフル正常稼働、敵MS型一機消滅。任務を継続する」
???「『任務を継続する(キリッ』・・・じゃないわよ!アレス!あんた何コロニーに風穴空けてんの!」
アレス「悪い悪い、それはそっちで何とかしてくれよ、アフロディーテ」
アフロディテ「アドニス艦長。オケアノスの主砲であいつ撃っていいですか?」
アドニス「やめておけ・・・ミュラー。外壁の修復部隊を。・・・コロニー内部の状況はどうなっている?」
ミュラー「はい。ガンダムが敵MS型を2機撃墜。残敵は確認できるだけで4機です」
アドニス「よし。外部迷彩皮膜解除!我々は敵の造園に警戒しつつコロニーを護衛する!・・・で、よろしいですかな?エレボス司令」
エレボス「うむ。わしは旗艦アフラ・マズダに入る。・・・いよいよ極秘計画『パンドラ』が始動する時だな。」
アドニス「御意。宇宙機動艦オケアノスは、アフラ・マズダ旗下の地球連邦軍独立第31連隊として行動を開始する!」
総員「はっ!」
一方――
予想外であったガンダムの出現に謎のMS型――のパイロットは動揺していた。
一般兵「ヴァーリ隊長!今の白い奴が放ったビームはクラス2.5を越えています!連邦は憲章違反の・・・」
ヴァーリ「臆するな!・・・しかし、予想外の事態ではあるな。戦艦ヨルムンガンドのヴェルダンディ大佐に連絡だ!」
ヴェルダンディ「なんと。連邦は我らの計画を察知していたとでも言うのか?」
ヴァーリ「フリッグ2機を失いました。申し訳ございません」
ヴェルダンディ「ううむ・・・よし、私のフェンリルを準備しろ。貴公はコロニーから後退だ」
ヴァーリ「大佐自らが・・・!?」
ヴェルダンディ「私は何事も自分の目で見なければ気が済まないタチでね。ガンダム・・・見せて貰おうか、伝説になった力とやらを・・・!」
アレス「こいつら後退するのか・・・!?丁度良いさ、コロニーの外でなら遠慮無くやれる!」
ヴァーリ「それはこちらも同じ事だがな」
アレス「・・・っ!!」
ヴァーリ「なるほど、パワーだけは見事な物だ、しかし大佐のお手を煩わせるほどの相手では無いわ!フォーメーションで仕留めるぞ!」
ミュラー「ガンダム押されています。」
アフロディテ「ディオーネが使えれば・・・」
アドニス「無いものねだりをしていても仕方ない。ミュラー、ガンダムに司令を送れ」
ミュラー「まさか・・・!」
アドニス「そうだ。コード『プロメテウス』だ」
アレス「へへっ!待ってました、と。行くぜガンダム『プロメテウス』発動!」
ヴァーリ「なんだこのMS・・・!光のような物が・・・は、速い!」
アレス「これが、このガンダムの本来の力だ。強力すぎる力は災いを招く。貴様たちのようにな!」
一般兵「た、隊長!敵の動きが捕らえられません、た、隊長ーー!!」
ヴァーリ「なんと言う事だ・・・私が敵の戦力を見誤ったと言うのか」
アレス「貴様で最後だ!・・・何っ!?」
ヴェルダンディ「やれやれ、ここまでやるとはな。・・・だが、このフェンリルの力を同じだと思って貰っては困るな!」
――第2話へ続く――
>>198 乙! アレスの一見バカそうだけど何か知ってそうな言動が気になりますね
あと、主義でやってるんじゃないなら地の文をもちょっと増やしてくれ。プロメテウスが何なのかさっぱり分からんw
…ていうか、投下途中で規制されたorz
というわけで、こっから残りの分です
200 :
創る名無しに見る名無し:2012/02/20(月) 01:51:22.39 ID:TM2rAYdk
考える。つまり、連邦軍幹部の中に、ガーベラの脱走を好機と見る者がいるということだろう。そして、その者は今回の新兵器トライアルが成功して不利
益を被る者――例えば、その新兵器とは別の路線の兵器開発部門の幹部――である可能性が高い。
「具体的には、どうするんだ」
「敵はまだ動いていない。おそらく君を攻撃するための作戦企画書がまだ通っていないからだ。決裁が下りればすぐにも来る。敵がどういう作戦で来るかは
まだ見えないが、我々が最も恐れていたのは、何も知らない君が不意打ちを食らって、手も無く敵に倒されることだった。そしてその懸念は、君との接触が
成功した時点でほぼ消滅したと言っていい。後は君とあのガンダムのコンディションを万全に保ち、敵の動きが見えた時点で逆襲に転じる。君の不意を突こ
うとした敵に、同じ手を食らわせて一網打尽にするのだ」
「…敵にこっちの動きを知られたら、俺もあんたらもおしまいだな」
「そうだな。だから、これからしばらく我々と君は一蓮托生だ。共通の敵を倒すまでは、嫌でも我々に協力してもらうぞ」
「君に拒否権は無い、って続くわけだな」
「そうなる」
笑う。敵の新兵器――違う。それは連邦軍の新兵器だ。その計画を頓挫させろという。まるっきり《味方殺し》だ。自業自得だ。自分でその道を選んだ。
一時の衝動に駆られて力を振るった、そのツケがこれだ。他人に目を背けられながら、闇の中を走る道を自ら選んだ。
201 :
創る名無しに見る名無し:2012/02/20(月) 01:52:26.98 ID:TM2rAYdk
それとも――ここが死に場所なのだろうか。死ねば楽になる。ガーベラが破壊されれば、もう顔も知らない連邦軍幹部が胃痛に悩むことも無
い。新兵器の配備も軌道に乗る。いいことづくめだ。「改めて」
男が手を差し出す。
「連邦軍メキシコ方面軍グアダラハラ基地MS戦隊長、ドマ・ノートン大尉だ。これからしばらく、君は私の指揮下に置かれることになる。短
い間だが仲良く――とはいかないだろうが、協力してくれればそれなりの感謝と対応はしよう」
男の差し出す手が、悪魔の手に見えた。取れば身の破滅を招き、世界をも破滅させる闇からの誘い。
――取らなければ、どうなる?
「…」
無言で、男の手を握り返した。
生きたいのだろうか。そこまで分かっていて生きることに意味などあるのか。
そんなこと、レイジスには分からなかった。
202 :
創る名無しに見る名無し:2012/02/20(月) 01:53:32.92 ID:TM2rAYdk
メキシコ方面軍グアダラハラ基地というのは、メキシコ西部にある連邦軍の基地の一つで、東のメキシコシティ基地と並んで最も大きな拠点
だ。一年戦争時は北米のジオン軍をこれより南、ジャブローがある南米へジオンを通さないための防衛線だったそうだが、今はどこにでもある
連邦軍の基地の一つに過ぎない。――それも、かなり小規模な部類の。
『北米に敵が存在しない』状況ができてから、メキシコ方面軍も北米管区についで軍縮のあおりをまともに受けた。他の部隊ではハイザックや
マラサイの配備が徐々に進んでいると聞くが、この基地のMS戦隊の主力装備は相変わらず0085年代頃から使われている量産型MS・ジム
Uだ。頭数も多くない。
プルルルル――
部屋の電話が鳴り、俺は腕を伸ばして受話器を取った。「俺だ」
「隊長。問題が」
「どうした」
「友軍の救難信号です。発信者はメキシコシティ基地の第三MS小隊。場所はここから東へ150、イラプアト付近です」
「燃料でも切れたのか」
「所属不明機に襲われ交戦中との事です。数は確認できる限り一機。至急救援を請う、とのことです」
203 :
創る名無しに見る名無し:2012/02/20(月) 01:54:31.42 ID:TM2rAYdk
「――小隊で巡回に出たんだろう? 三機で出て、一機にやられてるのか」
「伏兵がいるのかも知れませんが――どっちにしろ無視はできません」
「分かってる。出ればいいのか?」
「はい。すみません、非番なのに。大尉にも通信で話したんですが、隊長と相談して対応しろと」
「何で俺なんだろうな。他にも小隊長はいるのに」
「階級が一番上だからとか――でなきゃ、信頼されてるんですよ」
「だといいがな」
違う気がした。俺とこの基地のMS戦隊長、ドマ・ノートン大尉は付き合いが短い。この基地の小隊長の中で、俺が一番新参なのだ。他の隊
長の方が気心は知れているはずだ。なのに、何故わざわざ俺を指名する?
――俺でなければならない?
「状況は分かった。出撃準備にかかる。他の連中にも声をかけておいてくれ」
「了解です」
受話器を置き、ベッドから起き上がる。せっかくの非番だが、勿体無いとは思わなかった。どうせ暇な基地だ。
204 :
創る名無しに見る名無し:2012/02/20(月) 01:56:00.69 ID:TM2rAYdk
俺はノーマルスーツに着替え、ヘルメットを小脇に抱えてMSハンガーに入った。
俺のMSは――無い。
「あっちです、隊長!」
庫内要員の一人が声をかけてくる。彼が指差す方――ハンガーの外、格納庫シャッター前で既に俺のジムは待機していた。丸い板か、大昔の
履物のように見える平べったい飛行機の上に四つん這いで乗っている。「もう起動も暖機も終わってます。時間が無いので、ノートン戦隊長に
《雪駄》の使用許可を取りました」
「了解だ」
走りながら話し、《雪駄》と呼ばれるMS輸送機のラダーに手を掛けた。《雪駄》はSFS《サブ・フライト・システム》とも呼ばれるMS
支援航空機の一種であり、支援爆撃機としての使用の他、今回のようにMSを上に乗せて戦域への輸送や、対空・空対空作戦への対応に使用さ
れる。――一年戦争の頃はジオンでしか使用されていなかったが、戦後技術を吸収してからは連邦軍でも積極的に利用されるようになった。「
大尉、今日はよろしく!」輸送機のパイロット、バズが声をかけてくる。気さくな男だ。「時間が無いそうだ。特急で頼む」
「了解! 振り落とされんでくださいよ!」
「落ちたら走るさ」
205 :
創る名無しに見る名無し:2012/02/20(月) 01:57:06.78 ID:TM2rAYdk
言いながら、リフトグリップでジムのコクピットへ上がる。シートに座り、ハーネスを着けながら計器を確認した。エネルギー・バイパス稼
動よし。FCS動作確認よし。モニター、計器、インターフェース群動作正常。マシン・コンディション・オール・グリーン。
「隊長! 遅かったじゃないですか!」
「そもそも今日は非番だったんだが」
「302、303は準備完了! あとは隊長の指示待ちです! ――まあ、取り立てて急ぐこともありませんが、あとでメキシテの連中にゴネ
られても困りますからね!」
「ウチの戦隊長がな」
「三小隊各機、滑走路クリア、発進準備完了です。いつでもどうぞ」
「了解。302及び303、俺に続いて離陸しろ」
「「了解!」」
二人の返事に一人頷き、俺は正面のモニターを見据えた。大丈夫。いつも通りだ。今更緊張などしない。一年戦争の頃から何度となく繰り返
してきた、いつもの仕事だ。
あの悪い予感は、きっと俺の気の迷いだ。
「――機体状況はOK。ユウ・カジマ、発進する!」
俺の声と同時に、バズの操縦する雪駄に火が入る。徐々に速度が上がり、やがて雪駄は俺のジムUを乗せたまま飛翔した。
206 :
創る名無しに見る名無し:2012/02/20(月) 01:58:30.64 ID:TM2rAYdk
一度退室したノートン大尉は、五分ほどで戻ってきた。「…電話でもしてたのか」
「ああ、基地からだ。――どうやら思ったより早く、敵が動き出したらしい」
「何だって?」
「東のメキシコシティ基地――ウチの連中は略してメキシテなんて呼んでるが――そこのMS小隊が、正体不明の敵と交戦中だそうだ。敵は一
機。状況から考えて、例の新兵器だな」
「何故そう言える? だいたい、そいつは俺を狙ってるんじゃないのか」
ふむ、とドマ・ノートンは唸り、少し考えてから口を開いた。
「慣らし運転、だろうな」
「何?」
「新兵器とそのシステムは、フルコンディションで稼動できるようになったのはつい最近だそうだ。君との本戦の前に、肩慣らしと最終調整を
しておこう、というところだろう」
「それを友軍を襲ってやる意味はあるのか? 色んな意味で、慣らし運転にはリスキー過ぎるだろ。演習なら自分の陣地でやればいい」
「生身の兵士に実戦を挑むことで、より高精度なデータを得ようと考えたのだろう。どうやら敵の開発チームにはかなりの曲者がいるな。良く
言えば妥協しない完璧主義、悪く言えば拘りが強く、我を通しすぎる」
また味方が死ぬ。自分のせいで。死に場所――そんな言葉がよぎり、レイジスは座っていたベッドから立ち上がった。「俺が行く。狙いが俺
なら、そうするのが筋だ。下ろしてくれ」
207 :
創る名無しに見る名無し:2012/02/20(月) 01:59:41.48 ID:TM2rAYdk
「却下する。ガンダムは戦える状態ではない。他の機体から武器と推進剤を借りて、というのも無しだ。戦うからには、君には絶対に勝っても
らう。万が一にも敗北は許されない。確実に勝てる状況以外で君を出撃させれば、私と上司との信用問題になる。断固却下だ」
「…」
「なに、要らぬ心配だよ。ウチのMS隊は、なかなかどうして腕利きだ。ことに救援に行かせた隊長は、もし私の上司の読みが正しければ、君
以上の適任者だよ。何しろ経験者だからね」
「…経験者?」
「ま、当てが外れれば案外死んでしまうかも知れんがね。それは仕方が無い。パイロットが戦場で死ぬのは当たり前だ。彼もそんなことは分か
っているだろう」
「…」
レイジスは継ぐべき言葉を見つけられず、腰を下ろした。確かにノートンの言う通りだ。今の自分には何も出来ない。「…経験者って何だ」
「推測の段階でものは言えないな。もし彼が生きて還ってきたら、彼に直接訊くがいい。君よりも遥かに実戦経験豊富なパイロットだ。色々と
勉強になるだろう」
「そこじゃない。その口ぶりだと、あんたらは敵のシステムについて何か知っているように聞こえる。それを教えてくれ。でないと戦えない」
「――敵の情報か。成程。確かにそれは必要だ」
そう言って、ノートンは再びレイジスの対面に腰を下ろした。「いいだろう。基地に着くまでに軽くレクチャーしよう。敵の開発した新型M
S、そしてそれに搭載されている新システムとは、即ち」
208 :
創る名無しに見る名無し:2012/02/20(月) 02:01:58.78 ID:TM2rAYdk
「お客さん、そろそろ着きますよ」
「分かってる」
バズの通信に答え、俺は短距離レーダーを確認した。――MSは確認できない。敵も、味方も。「302、303。チェック・サイト。何か
見えるか?」
「302、異状無し」
「303、同じく」
ふむ、と小さく頷き、俺は計器を確認した。ミノフスキー粒子濃度は正常。戦闘濃度――レーダーが完全に効かなくなる高さではない。
だとすると、敵はすでに撤収した――?「隊長」
「302、正面地表に異状確認。――ジムだ。やられたメキシテの奴だ」
言われて、俺は正面のモニターに向き直った。白と赤の鎧に身を包んだ人影が倒れている。この高度から視認できる以上、無論人間ではない。
MS。白と赤は一年戦争時から変わらない、連邦軍制式主力機のカラーだ。「下りてみよう」
「三小隊全機降下。雪駄は散開して周辺を警戒。敵がいたら知らせてくれ」
「了解」
次々に同じ返事が返ってくるのを聞きながら、俺は雪駄の上でジムUを立ち上がらせる。「ジョイント・ロック・オフ。同時に機首上げ」
「了解。ロック・オフ。行きますよ、隊長」
乙です。
待っていたカイがありました。スレを覗いたら投下ありはうれしい。
シリアス展開、カッコいいです。
ガンダム SAGAは、アニメの脚本っぽいですね。
神話、好きなので、名前だけで、やられました。
規制にイラッ☆しつつやってます
次で一区切り……になるといいけど
211 :
創る名無しに見る名無し:2012/02/21(火) 00:44:12.81 ID:sfKQDSsd
バズの応答と同時に、金属音がしてジムUの足を固定していたジョイントが外れる。バズの操縦する雪駄がゆっくりと機首を上げ、それがある角度に達し
た瞬間、ジムUの両脚が雪駄の上を滑り、後方の空に放り出された。姿勢制御。俺はバックパックを噴かして速度と角度を調整し、
「隊長、右だ!」
「!」
着地の瞬間、俺は盾を構えて右から奔った攻撃を防いだ。光が視界を灼く。ビーム。「何処にいた…!?」
「隊長、すぐ行きます!」
「野郎、なんてスピードだ!?」
302の呻きの通り、敵のスピードは俺の予想を遥かに超えていた。俺を撃ったビームは右から来たが、俺がレーダーを確認した時には敵はすでに俺の左
側に占位していた。盾は。計測損傷度B。もう一撃は耐えられる。俺は盾を正面に構えたまま左旋回し、
「な…!?」
驚愕した。
敵はすでにこちらへの回頭を終え、さらに俺に対して近接戦闘距離《クロスレンジ》まで距離を詰め、ビーム・サーベルを抜き放って俺の盾の上半分を斬
り飛ばしていた。
俺は敵の姿を間近で見た。知っている。俺はこの機体を知っている。俺のジムUと同じ、しかしより洗練されたゴーグル・アイ。濃紺に染められた身体。
正規のジムよりも鋭角的にデザインされたマイナーチェンジ・モデル。
212 :
創る名無しに見る名無し:2012/02/21(火) 00:45:32.55 ID:sfKQDSsd
「ジム・クゥエルだと…!?」
ハイザックが正式配備される前、ティターンズが主力として使用していたMSだ。しかし、すでに型落ちしたジムにこれほどのスピードが出
せるものなのか。仮に出来たとしても、これほどのスピードで急旋回を行えば、普通の人間は生きてはいない。それに最初の一撃。あれもこの
MSが放ったものだとしたら、ジム・クゥエルにこれほどの出力のビーム・ライフルが装備されていただろうか。
俺がそんなことを考える間に、敵のジムは盾を斬り飛ばされて隙を見せた俺のジムUに対し、ショートステップで距離を取った。「何…?」
押し切ってこない。しかしチャンスだ。俺は体勢を立て直しつつ、用を成さなくなった盾をパージしてその手にビーム・サーベルを握り、逆の
手ではビーム・ライフルを構え、
「!?」
光が、俺の網膜を直撃した。衝撃は無い。この武装も俺は知っていた。一年戦争直後のジオン残党狩りで、敵に残存していたMS‐09、ド
ムが装備していた武装。低出力のビームを拡散照射することで、敵の機体ではなくパイロットの目を攻撃する兵器。しかし、それがどうしてジ
ムに装備されている――!?
「かわせ、隊長! 左ステップ!」
「野郎ォォォォ!」
213 :
創る名無しに見る名無し:2012/02/21(火) 00:46:50.98 ID:sfKQDSsd
303の声を信じ、左に跳んだ。爆発音やMSの足音、様々な音が入り乱れる。目くらましの効果が切れ、やがて視界が回復する。敵と30
2が斬り結び、303が側面から狙う。303が放ったビームを、敵は302を押さえながら盾で防いだ。誰にでもできる反応ではない。「し
かし…!」俺が疑問に思ったのはそれを可能にするあのジムの性能だった。302は両腕で、しかもおそらくフルパワーで敵を押し斬ろうとし
ている。それを片腕で押さえながら、もう片腕でビーム弾を防いでバランスを崩さないあのジムは、俺が知るジム・クゥエルの性能を遥かに超
えている。想定を遥かに超えるスペックに、敵の意表を突くアディショナル・ウェポン。メキシテの連中も、こうやってやられたのか。
――だが、やるしかない。
口の中で呟き、俺はビーム・サーベルを抜き放った。ここから狙撃すれば302も撃ち抜いてしまう。最大戦速で踏み込む。敵はまだ俺に背
を向けている。零距離。俺はビーム・サーベルを振り下ろした。
バチィッ!
イオンが弾ける音がして、俺のサーベルは敵が背中越しに抜き放ったビーム・サーベルに防がれた。二機のジムに斬りかかられながら、たた
ら一つ踏まない。「冗談じゃねえ――隊長! 何なんですこいつは!」
「やりようはある! 303!」
「あいよ!」
303がビーム・ライフルを構えた。さすがにこの状態ではかわせまい。防ごうにも両腕を俺と302に押さえられている。俺は勝利を確信
し、
214 :
創る名無しに見る名無し:2012/02/21(火) 00:48:21.56 ID:sfKQDSsd
「…!?」
確かに見た。敵のジムの眼が赤く輝くのを。眠らせていた記憶が目を醒ます。千切れていたパーツが結び合う。一つ一つでは意味を成さなか
ったものが、互いに呼び合って一つの単語を俺に突きつける。
「そんな――お前は――!?」
それまでの時点でも俺の知識の範疇を越えていたそのジムの動きが、そこからは完全に常識をも飛び越えた。二方からの斬撃と三方目からの
ビーム弾。これに対応するべく敵が取った行動とは、俺と302のサーベルから腕を離すことだった。鍔迫り合いに活路が無ければ受け流せ。
確かに基本戦法の一つだ。しかし挟み撃ちにされている状況でそれをすれば無傷とはいかない。しかし敵は自分のサーベルを俺達のそれから離
し、そして俺達のサーベルが自分を傷つけるより速く――そう、おそらくはコンマ数秒という恐るべき速さで機体を操り、俺と302のサーベ
ルを持った腕を肘から斬り飛ばし、さらに迫った303のビーム弾をやはりサーベルで斬り捨てた。粒子が弾け、光が周囲に乱れ飛ぶ。
思わず目を閉じた俺が瞼を開いた時には、敵はすでにそこにはいなかった。「…何だよ」
「何すか、隊長、あれ?」
「…何だろうな」
「クゥエルってことは、ティターンズですかね。しかし、それにしてもあの性能は異常だ。新型か、あるいは――まさか、強化人間?」
「…確証は無い」
215 :
創る名無しに見る名無し:2012/02/21(火) 00:50:19.40 ID:sfKQDSsd
声の震えを押し隠すのに夢中で、何を答えたのかよく憶えていない。「チェック・サイト。周囲に敵影はあるか」
「302、異状無し」
「303、同じく」
「302は倒れてるジムを確認しろ。生存者がいるなら救出する。303は雪駄に連絡。敵影無ければ着陸させろ。帰り支度だ」
「「了解」」
二人から同時に返事が返ってきたのを確認して、俺は大きくため息を吐いた。今になって噴き出したように、自分の身体を伝う汗を自覚する。
悪い予感は気のせいではなかった。あの赤い眼も。俺はこのために呼ばれたのか。あの悪夢と、もう一度対峙するために。
――もしそうなら、確かにこれは俺の仕事だ。他の連中には手に余る。
今の上官、ドマ・ノートン戦隊長の面を思い出した。まずは大尉に話を聞かなければならない。蘇った恐怖と対峙しながら、俺は徐々に近づ
いてくる雪駄を見据えた。
機動戦士ガンダム・ガーベラU
1.タブー・アンド・デスティニー(1)
216 :
創る名無しに見る名無し:2012/02/21(火) 00:52:07.20 ID:sfKQDSsd
何とか規制をかいくぐりました。ここまでで一区切りです。
今やってる一年戦争の奴とかもあるので、続きは未定です。
忘れてた
今回出てきたBD−0は昔ここにいた人に「使っていいよ」って言われてた奴です。前々スレぐらい。
まだ見てるかな? 出してみたけど
保守
HOSHU
捕手
ホッシュ・アーゲ
ジアス光国軍 本土防衛部隊少佐
サイド9 (UC299〜344)
mopera規制に引っかかってます
明けたらすぐに投下します
保守ありがとう
保守
メイ=スレニテ=アーゲ
ネオ・ジアス残党軍 土星・エピメテウス基地
試作MS『フラテルニテ』 テストパイロット 少尉
(UC343〜365)
数カ月ぶりに保守。
投下してる方々、お疲れ様です。
いつも楽しい作品をありがとうございます。
今このスレは、どの世代の、どれぐらいの人が見に来てるんだろうね。
この場所のおかげで、今の親友や師匠と呼べる人と出会う事が出来たし、
リアルでもネットでも、本当にいろんな経験をさせてもらえたわ。
感謝しきれない。
226 :
創る名無しに見る名無し:2012/05/18(金) 01:58:47.85 ID:8govcn50
自分も創作しようかな…
227 :
創る名無しに見る名無し:2012/05/18(金) 04:54:31.93 ID:5FzQfJ98
設定と絵を書くのは好きだが話が作れんのだよなあ
228 :
創る名無しに見る名無し:2012/05/18(金) 18:10:22.74 ID:8govcn50
>>277 同感です
あ、ちなみに自分は226の人です
229 :
創る名無しに見る名無し:2012/05/18(金) 18:12:00.54 ID:8govcn50
>>227 同感です
あ、ちなみに自分は226の人です
す、すみません間違えました、m(_ _)m
230 :
創る名無しに見る名無し:2012/05/18(金) 20:09:11.20 ID:gm6sDnDf
機動戦士バンダイム
231 :
創る名無しに見る名無し:2012/05/19(土) 19:20:27.23 ID:G+AcJcuo
ある日、あるお店で久々にガンプラを見た。
小学校の頃、兄からガンダムを教わり、おじいちゃんがガンプラをよく買ってくれて、学校で話をして、それで友達が出来た。楽しかった。
でも時が過ぎると上級生になり友達からオタク呼ばわりされて、恥ずかしくなり、宝物を捨てるようにやめた。ガンダムの話もやめた。
そしてガンプラもやめた。
高校生になり、ぶらぶらと商店街を歩いていたら、その奥にちょっと古い感じのプラモ店があり少し寄ってみようと思った。
(たまには戦車のプラモでも作るか、)
そういって入って二階に行くとある棚に目が入った。
(ガンプラ…か)
目に入ったのはガンダムXディバイダー、これは、今亡きおじいちゃんが最初に買ってくれたガンプラなんだが、箱が違いイラストも違っていた。
それを手に取り「なんだか懐かしいな…」と僕は呟くと、
「何かありましたか?」
と急に後ろから声がしたので驚いて箱を落としそうになった。
「うわっととと、 えっと…あの…」
後ろを向くと少し白髪がある痩せた40才位の男性が立っていた。
「おっと、すみません。私はこの店の店長ですよ。それとそれは先月出たばかりの商品ですが、懐かしいというのは?」
急に質問され返事に困り、混乱して僕はこう言った。
「このガンプラください!!」
これで再びガンプラを始めることになり、ガンプラビルダーになった切っ掛けになる最初のお話
ガンプラビルダーズF(仮)
宇宙世紀0079年。
地球から最も遠く離れたスペースコロニー群サイド3は、突如地球連邦に対して戦線を布告した。
彼らは瞬く間に小惑星基地や月面都市を制圧し、その勢いに乗って別のサイドに対しても攻撃を仕掛けてきた。
当然ではあるが、地球連邦政府は早期の決着を目指して宇宙艦隊を差し向ける。
地球圏統一国家である連邦政府には、強力な宇宙軍がある。
マゼラン級宇宙戦艦、マゼラン級宇宙巡洋艦を主軸とするその艦隊は、恐るべき打撃力と破滅的な航空戦力を兼ね備えていた。
実戦経験豊富とはいかないが、弔い合戦故に士気は旺盛、正規兵のみで構成されているために練度も非常に高いレベルにある。
だが、圧倒的戦力差で敵を叩き潰すはずの彼らは、新型兵器『モビルスーツ』により甚大な損害を受け敗走。
稼働艦艇の大半を失い、司令官であるレビル将軍を捕虜に取られるという文字通りの完敗となってしまう。
大半のコロニーを奪われ、月面都市から追い出され、地球上空の制宙権まで奪われかねないという絶望的な状況下に彼らは追いやられた。
残存艦艇を必死にかき集める宇宙軍であったが、彼らが目にしたのは、悪夢のような光景であった。
ジオン公国軍は緒戦の勢いを失わず、予備兵力をつぎ込んで狂気の作戦に出た。
『コロニー落とし』
人類共有の財産である巨大なスペースコロニーを弾頭に見立て、地球へ向けて落下軌道を取らせたのだ。
連邦軍はそれを見逃すわけにはいかない。
動けば損傷艦艇や負傷兵すら動員し、軌道上に防衛線を構築。
これ以上の悲劇を何としても食い止めようと、激烈な防衛戦闘へと突入。
だが、全ては遅かった。
十分な速度を手に入れ、主に安全面の理由から頑丈に作られているスペースコロニーは、弾幕に耐えた。
耐えてしまった。
戦闘により本来の目標である南米、連邦軍司令部こそ外れたが、そんな事は結果から言えば誤差のようなものであった。
オーストラリア地区、シドニー消滅。
伝説のツァーリ・ボンバですら霞む爆発は、一瞬で大都市及びその近郊、つまり大半が民間人で占められている歴史ある大都市を消し飛ばした。
宇宙暦0079年01月28日 南米ジャブロー 地球連邦政府戦時本営 プレスルーム
なるほど!確かに彼らは勇敢なる連邦軍将兵を卑劣な奇襲で攻撃した。
我々地球連邦軍は恥というものを知っている。
起こってしまったことについては素直に認めるほか無い。
まさか同じ人類に対して、ああも残虐な行いを平然とこなせるバケモノが、この太陽系に住んでいたとは知らなかった。
勇敢なる連邦軍将兵たちは、全身を焼かれつつも守るべき民間人のために決死を承知で防衛に当たった。
その結果の敗北であり、そしてこの結果だ。
私、地球連邦政府大統領はここに正式に認めよう。
私が間違っていた。
地球連邦政府はここに正直に告白する。
地球連邦市民の皆様の尊い血税で創り上げられた人類共有の財産を、子供が積み木を崩すかのように何もかも破壊する存在がいるとは考えもしなかった。
悲しみと怒りに震える地球人類の一人としてここで懺悔しよう。
私は人間として、最後の最後まで、サイド3に住んでいた人々が、旧世紀の愚行を繰り返すこと無く対話による解決を選んでくれると信じていた。
だが、間違っていた。
親愛なる地球連邦市民の皆様。
私たちは間違っていたのだ。
あのサイド3に住むバケモノたちは、コロニーも月も地球も関係ないのだ。
奴らには人間としての心も、対話による交渉を行うという文明も、なにもないのだ。
そこにあるのは人類を支配したいという薄汚い欲望、地球人類に害意を及ぼしたいという恐るべき残虐性しか無い。
彼らは、地球人類全てに対して、明確な殺意と敵対心で虐殺行為を仕掛けてきているのだ。
私の言葉を否定したいという者がいるのであれば、今直ぐ画面の下に表示されている映像通信回線にアクセスして欲しい。
そして、自分の言葉で、顔を、正体を晒し、やってみせてくれ。
さあアクセスしてくれ。
そして教えてくれ。
どんな理由があれば、空気税をかけてまで生存空間の維持に励むコロニーに毒ガスを注入できるんだ?
コロニーの残骸から監視映像でも回収したのだろう。
全身から体液をまき散らしながら崩れ落ちていく親子。
運転手が死亡したらしく無秩序な軌道を描いて事故を起こす車両。
避難準備中だったのだろうか、体育館らしい場所で息絶えている児童たち。
連邦軍施設らしい正門に詰め寄った人々が、制止しようとする衛兵ともども絶命していく。
顔面から出血し、下腹部から体液を垂れ流し、皮膚が糜爛し、腕や足を痙攣させつつ奇妙な形に曲げていく。
どのような主張があれば、条約を取り交わしていないという根拠だけで、核兵器の大量投入を嬉々として出来るのだ?
ルウム戦役の映像が映し出される。
明らかに通常弾頭ではない閃光が地球連邦艦隊の随所で煌めく。
ドロドロに溶解したマゼラン級戦艦。
高熱や強烈な放射線で即死したらしい軍人たちのグロテスクな死体の数々。
漂う艦隊の天頂方向へ、勝ち誇るようにモビルスーツ達が上昇していく。
誰でもいいので、教えてくれ。
自分たち以外すべてに対する明確な殺意と敵対心を否定した上で、どうやればオーストラリアにコロニーを落とし、数千万人の民間人を虐殺したことを『大戦果』と誇れるんだ?
衛星軌道上から撮影したらしい、オーストラリア大陸に開いた巨大な穴。
基部を残して吹き飛んだビル。
渦巻く海、乱れる空、吹き荒れる風にまき上げられているのは、雲ではない、誰かの衣服の残骸らしい。
そこへオーバーラップするように、当時のジオン公国放送が流した大戦果と表記されている報道映像が現れる。
占領下に置かれた月市民の皆様。
撤退していった連邦艦隊から撮影された、遠ざかる月面都市。
中立を宣言しなければすぐさま虐殺されてしまうコロニー市民の皆様。
映し出されるサイド6の平和で安全な市民生活。
そして、今もなお戦火に追われ、大切な家族を、住むべき家を、母なる大地を焼かれ続けている地球市民の皆様。
衛星軌道上からも容易に観測できるオーストラリア大陸の大穴。
破壊された都市。
燃え盛る民家。
僅かな手荷物すら持てずに逃げ出していく市民たち。
難民キャンプなのだろうか、死を待つだけの、重症を負った人々。
このような悲しい現実を、私は言いたくはない。
だが、言わなければならない。
あのサイド3に住む人々は、地球起源の人類すべてに明確な別れを告げてしまったのだ。
偵察部隊が撮影したのだろうか。
最大望遠らしいフォーカスの合っていない、だがサイド3と明確に識別できる映像。
今まで敢えて避けていた表現を恐れずに使うとすれば、彼らは宇宙人。
地球を侵略する邪悪な宇宙人なのだ。
それであれば、私でも理解できる。
彼らからすれば、コロニーに毒ガスを注入して無抵抗な住民を虐殺することも、月軌道を制圧して住民に不自由を強いることも、母なる地球に嬉々としてコロニーを落とし、そこに住まう人々を皆殺しにすることも。
なんでもないのだ。
それは彼らからすれば邪魔な害虫の駆除程度のことであり、気にかける価値もないどころかあたり前のことなのだ。
地球連邦政府は、地球人類の財産であるサイド3を不法に占拠した人の心を持たない宇宙人に対して、無慈悲な鉄槌を下すことをここに宣言する。
この放送を聞く我々と同じ形をした宇宙人共に告ぐ。
私達は自由と平和を愛する地球人だ。
だが、非道な行いに対し、いつまでも黙って殺されてはいない。
親愛なる地球連邦市民の皆様、ここに一枚の書類がある。
大統領は演台に置かれていた書類を手に取る。
輝くジオン公国の紋章。
その下に記載されている文字は細かすぎて識別できない。
ここには、サイド3を不法に占拠している宇宙人から我々地球人類に対して付き付けられた休戦条約締結についてが記載されている。
彼らは人類史上最も大きな大量虐殺を行い、母なる地球に深刻な損害を与え、多くの地球人類の資産を破壊しておいて、こう言いたいのだそうだ。
もう満足したので、奴隷になるのであれば戦争を終わらせてやってもいいぞ、と。
全く呆れた話である。
私はこれほどまでに破廉恥な行いを見たことがない。
禁忌であるNBC兵器を躊躇せずに使い、人類が痛みを伴いつつも創り上げてきた何もかもを土足で荒々しく踏みにじり、その上で和平を呼びかけてきたのだ。
親愛なる地球連邦市民の皆様。
私は聞きたい、皆様はどう思っているのだろうか?
最低でも10億人を超える人々を虐殺され、算出不可能なほどの損害を負わされ、ここで膝を屈するべきだろうか?
地球人類として、殺されなかったことに感謝し、恥を忘れ、安易に目前の餌に食いつき、尻尾を振って暮らしていくべきだろうか?
彼は、空いていた手を書類にやると、躊躇せずにそれを破り去った。
そんなはずがない。
これだけのことをされて、『停戦』という名の『無条件降伏』を受け入れられるわけがない。
覚悟しろ、宇宙人。
私は正当な選挙で選ばれた地球人類の代表として、貴様ら宇宙人に対してこの場を借りて宣言する。
地球連邦政府は、戦時非常事態の宣言と、総力戦体制への移行をここに宣言する。
私達が守らなければならない地球人類の生命と財産、民主主義、平和、全てを守るため、全てを投入することを宣言する。
親愛なる地球連邦市民の皆様。
残念なことに、敵は強大で残虐である。
強力な兵器を持ち、人間を殺すことに何の躊躇もない。
彼らにとって核兵器とは大きな爆弾であり、生物化学兵器は効率的なコロニー制圧武器程度の存在だ。
そして、スペースコロニーとは彼らからすると凄い爆弾程度の存在である。
私たちは宇宙空間で、地球軌道で、あるいは武運拙く連邦首都で戦うことになるだろう。
頭上に迫る赤熱したコロニーを見上げつつ、なおもあきらめずに拳を振り上げることになるかもしれない。
だが、我々地球人類は、貴様ら宇宙人の非道な行いには最期まで屈しない。
我々が最後の一人に至るまで虐殺されてしまったとしても、貴様らが手に入れることができるのは、かつて地球と呼ばれていた燃え盛る岩塊に過ぎないだろう。
宇宙世紀0079 1月28日 地球連邦政府大統領声明
地球連邦政府の反応は、ジオン公国からすれば考えられる中でも最悪のものだった。
彼らが唱えるのは、最後の一人に至るまでの徹底抗戦。
地球住民、コロニー住民、月住民と、サイド3住民を明確に線引した上で、前者と後者を地球人類と宇宙人と区分けする事だった。
アースノイドとスペースノイドではない。
地球人類と、サイド3住民の二つに分けてしまったのだ。
そのような状況下で南極を訪れたジオン公国の交渉団は哀れだった。
彼らは連邦政府による声明を聞き、状況が想定されていた中で最も最悪なものよりもさらに悪い方向へ上回っている事を確認してた。
慌ててサイド3へ指示を乞おうとしたが、既に地球軌道には連邦の大艦隊が展開しており、強力なパラージジャミングが常時展開されている。
明確に敵の目的を妨害しようとするそれは、たかだか一隻の宇宙船に搭載されているような通信機ではどうこうしようがなかった。
覚悟を決め、軌道降下を実施した彼らだが、大気圏内に入るなり更なる悪夢が待ち受けていた。
案内役は交渉団を狭い一室に押し込めると、自由にどうぞと幾つかの主要新聞やテレビのリモコンを手渡してきた。
イギリス自治区 自治政府公共放送 特別報道番組
「我々は第二次世界大戦と同じ状況下に追い込まれているわけです。
全連邦市民は、反撃か絶滅かを選ばなければなりません。
私がどちらに属そうと考えているかは、視聴者の皆様のご想像にお任せします。
なお、私は現役復帰しなければならないため、来週からは別の人間が皆様のお相手を努めさせて頂きます」
日本自治区公共テレビジョン株式会社 報道特別番組
「…解説員のヤマダさん、ありがとうございました。
さて、只今の解説にもありましたように、私達日本自治区は地球連邦政府の方針に従い、この度の戦争に参加しなくてはなりません。
一部の有識者からは、予備役の総動員への参加と戦時体制への移行だけでは不足しているという批判も出ており、今後の自治政府の動向に注目が集まっています」
ノースアメリカ・アトランティック新聞 号外
「全地球人類に宣戦布告!
当社が政府某高官より入手した情報では、ジオン公国は地球上への全面核戦争を画策している!
全地球人類は自由と民主主義のため、今こそ全てを投げ打つ時である!」
ギャラクシー・ペーパー コロニー公社声明
「地球人類の貴重な財産であるスペースコロニーを破壊どころか武器に使用するような人々に対して、私達は一切の協力を行いません。
今後、ジオン公国およびそれに同調する勢力については、私たちは一切のサービスを停止します。
これは、私達に部品などを納入する全メーカーも同様であり、これは本日只今より、連邦政府の方針が変わるまで継続されます」
地球連邦政府放送
「ジオン公国の工作員にご注意下さい。
彼らは連邦資産の破壊、連邦軍に対する妨害工作、市街地への無差別攻撃、広域環境破壊、その他の危険なテロ活動を目的として多数潜伏しています。
連邦市民の皆様を攻撃するために、彼らは小型核兵器や生物化学兵器、あるいは銃火器などで武装している可能性があります。
怪しい人物を目撃した場合には、直ちに最寄りの連邦地上軍もしくは自治政府警察までご連絡下さい」
「捕虜の取り扱いですか?」
せめてそれだけは定めたい。
全面核戦争の容認、生物化学兵器の無制限使用宣言。
無制限通商破壊戦宣言、非武装中立地帯の否定、市街地及びコロニーに対する無制限攻撃許可の確認等、耳を覆いたくなる項目が定められていくなか、ジオン公国交渉団は縋るようにしてそれだけでも取り付けようとしていた。
地球連邦政府のスタンスは、あくまでもジオン公国とは滅ぼされなければならない人類の敵というものだった。
28億人の損害と無数のサイド、都市を破壊され、さらにモビルスーツという未知の兵器があとどれだけあるか不明という中で、地球連邦政府はそれでも屈しないという選択をしていた。
自分たちの独立戦争が、全人類の生き残りを賭けた最終決戦の引き金となった事を彼らは恐怖した。
「捕虜といいますか、私達地球連邦には、連邦基本法というものがあります。
逮捕した所属不明の生命体は、それに従って身柄を拘束しますが、まあ、当然ながら私たちは身体に危害は加えませんよ。
我々は地球人という種族でして、敵対者は皆殺しにしろなどという野蛮なドクトリンは採用していませんからね」
笑顔でそう告げた地球連邦警察の高官は、全く笑っていない目を隠そうともせずにそう告げた。
交渉団は理解した。
地球連邦政府は、ジオン公国との絶滅戦争を決意したと。
本日はここまで
238 :
創る名無しに見る名無し:2012/05/22(火) 11:41:19.28 ID:raZ3hK5w
>
>>232 良いね良いね!
そこからどう南極条約を調理するのか楽しみだわー。
保守用に。
だから、俺にガンダムAGE U 作らせろよ
以下の項目を使って、作ってみた。小説というより、あらすじ。
1.救世主 2.ガンダム 3.未知の敵
4.ステルス戦艦 5. 親子3代 6.100年戦争 7.仮面 8.宝探し ・・・海賊は分からん。
第1話 「沈黙の平和」
ナレーション
「完全なる世紀 パーフェクト・センチュリー(PC)」と名づけられた宇宙移民時代は
まさに最盛期を迎えようとしていた。しかし、その平和と繁栄は突如、砕かれた。
時、ダブルオーエイティスリー、4月1日。未知なる敵が、サイド6・サイド7に属す全コロニーを襲った。
1日を待たずして、コロニーは占領され、敵の支配下となったのである。
後に「愚者の陥落」と言われる戦いである
(ナレーションにかぶせて、戦闘場面の後、コロニーの陥落を意味する鍵の授与式が映し出される。
画面が小さく、白くなる。)
主題歌 とタイトル 『ガンダム NEW AGE』
Aパート
占領下のサイド6 19バンチコロニー
平和な朝の光景。人々は占領下で日々の暮らしを行っている。
町や住民達の様子が次々と映し出される。 住民の家の中、CGA(common grace・age)0004と書かれたカレンダーにバツをつけて PC 0087と書かれてある
どきどき軍服の占領軍がいる。
外見は人とほぼ同じ。だだし、額に色石のようなものがはめ込まれている。(人によって色が違う)
一台のエレカーの前に幼子が飛び出した。引かれそうになるのを15、6の少年が助けた。
エレカーから飛び出す軍人三人。少年(フレイ)に向かって、持っていたカバンで車が傷ついたと
難癖をつけ始める。
応戦する少年。敏捷さを活かして敢闘するが、だんだん弱ってくる。
一台のエアカーが通りかかる。急停止。降りてくる士官らしき人物
士官 「お前達、何をしている」 後姿、ストレートに近い黄金の髪。
一斉に敬礼する3人。少年は地に片ひざをつきながら見上げる。
兵士1 「は、実はこのものが、急に物を投げて来まして」
兵士2 「反逆分子ではないかと尋問をしていたところです」
確かめる士官。助けられた子供の母親が勇気をもって事実を告げる。
士官はそれを受け入れ、三人に反省を促しフレイに声をかける。
士官 「私の部下が失礼した。怪我はないか?」
ユング 「ありません」
士官 「君の勇気ある行動が、我が民の命を救った、感謝する。私の名は」
ユング「存じています。エゼル・ゴールドハート司令。司令の名とそのマスクを知らないコロニー住民
はいません」
うなずくエゼル・ゴールドハート、(ここで初めて顔が写される。マスクをしている)
エゼル「そうか。で、君の名は?」
ユング「ユング・フレイです」
Bパート
お礼を言って去る親子を見送った後
ユング(16)が友人のマッド・リズム(16)と年下の幼馴染のミリアム・ワコ(15)との会話
ミリアム 「エゼル司令って思ったより、いい人そう。王子様みたい」
ユング「ミリアムはやっぱ女の子だなー。すぐに見た目でだまされちまう」 むっとするミリアム
マッド 「エゼル・ゴールドハートはそんな甘い男じゃないね。「フール・フォール(愚者の陥落)」の
時に、連邦軍の主力艦2つ、副艦2つも単独で撃沈したんだ。僕達とおんなじ、16歳でさ」
ミリアム「ブラッディ・ウィンド(血色の風)って陰で呼ばれてるのは知ってるもん」
ユング「つか、マッド、何でお前、助太刀しなかったんだよ」
マッド「僕は頭脳派だからね。力技はお前に任せてる」
ユング「ザケンな」
マッド「13歳にして、マーシャル・アーツ学生チャンピオンを取ったお方に手助けなんておこが
ましくて」
苦い顔をするフレイ。笑いあうミリアムとマッド
ユング「やべ、早くしないと遅刻しちまう」
マッド「大変だ、僕はフレイと違って、皆勤賞狙っているからね」
じゃれあう少年二人をおいて、ミリアムが走り出す。
慌てて追う二人
場面転換 エゼルの執務室でモナミ・キス(女性)(24)との会話
エゼル「ここのところ規律がなっていないようだな」
モナミ「先ほどの件ですか」
エゼル「我らは、略奪者ではなく、統治者であらねばならん」
4年間の占領・同化政策を話す二人
ここで、環境保全のため,
地球にほとんど人はおらず、月面政府がコロニーを支配していることが
明かされる。
士官が入ってきて連邦軍がコロニー開放をかかげて、襲ってきたとの報告。
すぐに出撃命令を下すエゼル
エゼル 「ルナリアンが・・・」
カッコイイ戦闘シーンを想像してください。
PC側 戦艦1つと MS6機 CGA側 戦艦1つ MS6機
ガンダムタイプはなしで
戦闘中にエンディング曲が入る。
次回 予告
ユングたちの占領下の平和は、一人の女性の逮捕によって破られた。
女性の名はイングリット。彼女を助けるべく、ユング達は立ち上がった。
彼らは、イングリットを救えるのか
第2話 「囚われた心」
少年よ、自由の翼を手に入れろ!
242 :
創る名無しに見る名無し:2012/07/05(木) 00:42:19.60 ID:4GrWlNM5
保守
こないだガンプラビルダーズネタ書き込んだ奴は、続き書かないの?
ウイングの方じゃなくて、エックス主役の奴。
楽しみにしてるんだけどな。
244 :
創る名無しに見る名無し:2012/07/27(金) 05:09:31.05 ID:zy0qBsDt
ホシュ
245 :
創る名無しに見る名無し:2012/08/21(火) 23:51:00.53 ID:inBjPwZW
>>243 ありがとう
リクエストにお答えして、
ガンプラビルダーズF(仮)
「結局買ってしまった…」
自宅に急いで帰り、自分の部屋に入り自問自答していた。
幸い家族全員が出掛けており自分一人で助かった、兄貴にバレたら確実にからかわれる。
とりあえず作ろうか…
箱を開けると当たり前だがランナーに説明書が入っていた。
(工具は確か、押し入れに、)ゴソゴソ、
パチン、パチン、カチ パチッ
自分の手にエックス小さな手足でき上げっていく。あれこんなに小さかったかな?
そうだ思い出した。おじいちゃんが買ってくれたのは100/1だったんだ。
あのときは兄貴に組み立てを助けてくれたなぁ
パッチン…
最後の頭のパーツを取り付けて完成した。
X字のシルエット、変形するシールド(これは組み替えだけど)、そしてガンダムの象徴の顔にトリニコールカラー、
うん、かっこいい、すごくカッコいい!!
しばらく時間を忘れてポーズをとって遊んでいると、我に帰り
(そうだもう子供じゃないんだ…)
そしてエックスを箱に入れ、押し入れの奥にしまった。
休憩しようとリビングに行き、TVの電源を付け、冷蔵庫から麦茶を取りだし飲もうとすると、
ナレーター【それでは今話題のガンプラについて取材に行ってみましょう!!】
ぶふぉッ、ゲホ、ゲホ、その言葉にびっくりして麦茶を吹き出してしまった。
【それでは今回は注目のガンプラバトルに取材にいこうと思います!】
ガンプラバトル!? それを聞いてすぐ様TVの前に座り込んだ。
ガンプラバトル、それはデータで再現された世界に自分の作ったガンプラを自分が乗り操縦して戦う、夢みたいなゲームだった。その中にバトル映像に出ていた、かなり改造されたウィングガンダムの戦いぶりに興奮を覚えた。
【ここでCMです】
CM『ビギニングガンダム新登場!!フォーエバーも近日に発売予定。BANDAIのプラモデ…』
すぐさまTVの電源を消し、上の階段を駆け上がり、自分の部屋の押し入れを開けた。
…僕も戦いたい、エックスに乗りたい。
この興奮のきらめきはもう自分では止められなかった。
続く
>>245 お疲れ様です。 ウイングでビルダーズネタやってた奴です。
ウイングもですが、エックスも冷遇されてるガンダムですよねえ。
その辺もネタにしてくれれば、演出として使えると思いますよ〜。
作中で出てるウイングは、うちので出てくる奴でしょうか?
だとすれば、時期的にビギニングは出てからそこそこ経ってるので、新登場って事は無いと思うです。
別人のウイングだったらその限りではありませんが。
あと、細かい事指摘しちゃいますが、もしかして直接書き込んだりしてます?
誤字とか少し気にした方が良いと思います。
さて。
実はうちのガンプラビルダーズも、まだ完結してない状態で放置しちゃってる訳ですが……
もしお待たせしちゃってる方がおられるなら、完結に向けて書きますよ。
247 :
245:2012/08/22(水) 21:54:04.71 ID:ASSzCDbr
>>246 ウィングの本人ですか!?Σ(°△° )
あなたの作品の切っ掛けでこのガンプラビルダーズを書きました!
ありがとうございます!
実は3DSでやっているので直接しか出来ないですよ、すみませんm(_ _)m
>>247 こちらこそありがとうございます。
元々ガンダム本編には手を出さないと決めていた部分がありますんで、
ガンプラビルダーズは割と好き勝手にやりやすいネタだと感じてますね。
しかし3DSですか。
書き込むのも大変でしょうね。
とりあえず、お互い同じネタに踏み込んじゃいましたし。
そちらの続き、楽しみにしてますね。
宜しければ、またコラボとかしましょう。
249 :
247:2012/08/23(木) 00:12:39.80 ID:sgbtISuj
>>248 ぜひコラボさせてください感激です!!
ガンプラビルダーズF
発進そして大ピンチ、
そして日曜日、家族に内緒に自宅から少し離れたゲーム店にまだ墨入れもしてない真新しいエックスが入ったボックスを抱えながらそぉ〜とと入って行った。
すると店の奥にTVでみたガンプラバトル用のゲーム筐体が4っ並んでいた。
???「いらっしゃい、見ない顔だね初心者かい?」
「えっ!?」と後ろに振り返るとエプロンをした気の良さそうな男性がいた。
店員「やぁ、私はここの店員だよ。ガンプラバトルだね、よし、まず操作を教えあげるよ…」
「ち、ちょっと、なんで僕がやるて、分かったんですか!?」と少し動揺して話すと、
店員「ん、だって今にもやりたい顔してるし、君みたいに恥ずかしがる人もいるからね♪」ドヤ顔に言われ僕は口を開けて呆然とした。
それから店の奥でパイロットスーツを借りて説明を聞きながらポッドの中には入った。まるで本物コックピットだ、この子供みたいに胸のドキドキに期待するのは人生でたぶん最高潮だ。
店員「いいかい?このシュミレーターをGも再現されてるから、発進の時はあごを引いて、気をつけて、あと今回は初回プレイだからサービスだよ。じゃあその右側にあるまハロの口を開けて君のガンプラをセットするんだ!」
そう言われてエックスをハロにセットして閉じるとスキャンされステータスが前の画面に現れた。その結果は低く、自分でも驚いた。
店員「いくらステータスが低くても思いが込められばその君のエックスは最強さ、そろそろ発進準備だよ。あと今回はネットチーム戦だから味方もいるから安心戦ってくれ!」
ブオン、画面はいきなり明るく光り、目の前はカタパルトがあった、
コンピュータ【パイロット発進どうぞ】
そうか発進か、子供の頃言いたかった言葉、ディバイダーを背後にセットして足をカタパルトに乗せ叫んだ…
「ガンダムエックス・ディバイダー行きます!!」
ゴガァァァァァ 鉄のカタパルトが火花を散らして白い巨人は外に運んでいく、
バァーン!!
「どわぁ!!?」
発進というより放り出されるような形で発進された…かっちょわりぃ…
いきなりの青空にびっくりしてエックスは下に落ちていく、
急いでスラスターで上に上がるといきなり目の前に360の景色が写った。普通にビルや家、デパート、そして公園まで、とても造り物には見えない世界、そう感動していると後ろからアラーム音がなり響いた。
急いで振り替えるとそこには戦闘機、いや、MAに変形しているバウだ!
昔の僕はガンダムオタクだったから良く知っている。確か胴体が2つに分離して変形したんだよな。しかも本来色は赤なのに全身黄色に塗装されている。
ビュシュ、ビュシュ、 バウがところ構わず撃ってきた。急いで降下して回避すると、右にバウの下半身が迫ってきた。
そして両足にビームサーベルを展開して突撃してきた。これに僕は驚いた。
「バウにそんな装備ないぞ、まさか改造したやつ?!」
敵はガンプラ、設定のない改造も作り手しだいでガンプラは化ける。
しまった!と思った瞬間、下から攻撃が来てバウの下半身が撃墜された。
下を見るとビルの影に隠れたスナイパーライフルを抱えた緑のガンダムがいた。
「ガンダムデュナメス…」
知らないガンダムだが画面には名前が表示されていた。
デュナメスには味方を表すアイコンがあった。
だけど残ったバウの本体がこっちに向かって撃ってきた。
急いで回避するとバウは間近に近づいていた。
僕は急いでビームサーベルを引き抜こうとするがバウはそれより早く左腕をMS形態に変形させ、エックスの顔面左を殴った、
一旦ここまでです。
明日も書くぞー!
>>249 毎日執筆が目標ですか? がんばってください。
さて。
一応ツッコミらしき物を書いておくと、調べてみたらビギニングGの時点で、年代設定は2009年だそうです。
となると、一応拙作VSAの年代設定は2011年と言う事になりますんで、
さすがにゲームの筐体でGの再現は技術が進みすぎているなあと言う感じもしますが……
まあ、もし未来と言うことでしたら、筐体もバージョンアップしてるかもねと言うことで。
あと、味方になっているのは、同じ店舗からエントリーしているプレイヤーって事なのでしょうか?
その辺が少〜しわかりにくいかもです。
一応アニメの方やうちの作品では、事前に友軍設定する事になっているはずなので。
ごめんなさい細かい事ばかり。
主人公が危機をどう乗り越えるか、正念場ですね。
251 :
改めS,I:2012/08/23(木) 19:57:00.79 ID:sgbtISuj
ガンプラビルダーズF(仮)
やっとバトルシーン…
エックスは殴られたショックでコントールを失い、でかいデパートみたいな建物にうつ伏せのように行きよいよく屋上に墜落してしまった。
「うわぁ、!!」
それを見たバウのパイロットは、
「何だこいつ初心者か、ほっといても問題ないな、なら後回しにしてデュナメスを叩く!!」
バウはエックスから遠のくのビルの影に潜んでいるデュナメスに目標を替え、探しに飛んでっいった。
一方デュナメスのパイロットは
「くそ、やられたのか、こっちに来るな…」
と先を読んでなるべく距離をとろうとする。
「う〜、ここまで衝撃が来るとは思わなかった。」
急いで機体のチャックすると以外にもダメージが軽い。でも疑問が残る
「なんであのバウはビームサーベルを使わないんだ… 」
そうあの時ビームサーベルでとどめをさせたはず、そして気がついた。あの撃墜されたバウの下半身を、
「はっ、まさか下半身だけにビームサーベルを取り付けたから!?」
そう思って機体を起こすと、その景色に目を疑った。
「この町知っているぞ…と言うか、大船駅じゃん!!」
しかも墜落したデパートみたいのは、駅の近くにあるヤマダ電気だった。
他にもバスターミナルもあり、自分がよく知ってる町そのものだった。
「そう言えばあのバウは!?」
ヤマダ電気の上で周りを見渡すとあっちこっちも他のガンプラ達が戦っている。
すると上空に目立つ黄色の飛ぶ物体が、
ビシューン、ビュシューン、
デュナメスがライフルでバウを狙うが目標が早すぎて当たらない。
デュナメスP「俺は静かに獲物が来るのを待つタイプなのになぁ〜、て、いってる場合じゃない!」
しかも粒子残量も少なくなってきているまさにピンチ寸前。
バウは飛んできたビームを頼りにデュナメスを見つけた。
バウP「やっと見つけたぞ!」
デュナメスP「チッ見つかった、狙い打つ!」
バウP「させるか、右翼ミサイル発射ぁ!!」
狙い撃とうとするデュナメスにバウはミサイルで狙撃の邪魔をする。
バウP「よくも下半身を…だが下半身は無人機、上半身は俺が乗ってる、すなわち、簡単に行かせるか!!あの失敗はもうしない!!」
そう、このバウのパイロットは昔、ギャプランを駆っており、バトルでは初心者ばっか狙っていたのだが、とある日にで初心者を追いかけ回し、その隙に他のプレイヤーに不意打ちでやられてたのは別のお話。
その教訓なのか、今は強いのを倒し、あとから弱いプレーヤーを片付けるようになった。
ガシャ、引き金を引いてもビームがライターが切れたみたいにショボショボと出るだけだ。
デュナメス「くそ、粒子残量が…分が悪いな、ここまでか、」
バウP「トドメだー!!」
そしてバウがデュナメスを追い詰めようとしたとき、
「ハモニカ砲!!」
ドヴァァァァ、
地上から無数のビームのシャワーがバウにめがけて発射された。それに驚いたバウはそれを必死に回避するが、左翼に残ったミサイルに引火した。
バウP「まっ、まずいパージ!!」
急いでミサイルをパージし、その切り離されたミサイルは目標に当たるもなく儚く空中に爆散してしまった。
急いでビームがきた方向を見ると、
「あのエックスか!!」
とバウのパイロットは頭が来て、その憎たらしいガンダムに向かって叫んだ。
デュナメスP「たっ助かったのか…」
252 :
S,I:2012/08/23(木) 21:21:13.00 ID:sgbtISuj
>>250 ご指摘ありがとうござます
ちなみにこちらも2011年を舞台しているんですが(ディバイダー発売は2011年)そうなると、そちらのパーフェクトウィングの完成時期が重ならないボケがありました…
どうしよう…(大汗
主人公が助かる方法は敵は過去に初心者にトラウマを持つキャラがいいかなと思ったんで、アリオスアーチャを追いかけて、その隙ウィングにやられたギャプランがちょうどよかったんで使わせてもらいました。
あと敵は完全変形にこだわる性格なので、完全変形の中ではアッシマーよりとんがってるバウの方がかっこいいと思ったのでバウに、
(プラモで見ると古くなってますけどね笑)、
あとかなりうっかり屋です(ここ重要)。
ではまた明日、
253 :
S,I:2012/08/24(金) 20:02:09.65 ID:M0wJFkLl
少し訂正を、最初のTVのシーンの時期的にパーフェクトウィングが出ていないので、動きのいいノーマルウィングにします。ごめんなさい。
そこにはビルの上に立ちディバイダーを構えるエックスがいた。
(ーこっちを見たな…)と僕は確信しるとディバイダーを背中に戻し、後ろに空を飛んだ
バウP「逃がすか、エックスっ!!よくもよくも!!」と怒りにみちてバウは急いでエックスの追いかける。
デュナメス「て、俺はノーマークかよ…まぁラッキーだな、GN粒子は時間たつと増えるしな。」と独り言を言っていた。
(さぁどうする?ついてきたのはいいとして、この作戦に引っ掛かるか?)
「逃がさん、逃がさんぞ!よくも邪魔をしやがって、だから初心者は嫌なんだ!」
しかしエックスはバウの射撃を華麗に避けまくる。
「なんだよ、あいつ初心者だろ!?!どうして、」
小さい頃から兄貴によくアクションゲームを叩き込まれていたのがここに役に立つなんて…思いもよらなかった。
そして何よりここは自分よく知ってる地元のフイールド、それを逆手に物陰に隠れながら相手を翻弄する。
そろそろ、OKだ、
最後のビルの物影に隠れその準備する。
バウP「何だ、待ち伏せしてオレをやっつけようとするつもりか?」そう不思議がると、いきなりビルの左側から何かが飛び出した。
それをバウを追いかける
バウP「甘い!…ん????」
その飛び出したのはエックスではなかった、正確にはディバイダーだけ飛んでいた。
バウP「なな、何ぃ??…ハッ!!」
バウはその事の意味を気がついたが時は既に遅し、モニターの前にエックスが現れバウの真ん前をビームソードを構え、切りつける。
「うぉぉぉぉぉ!!!」と僕は叫び、バウは縦に真っ二つに分かれ、そしてエックス地面を着地した瞬間にバウは空中で爆発した。
終わった…
【戦闘終了時間まであとあと30秒です】とアナウンスがなった。
(やっと終わるのか、楽しかったなぁ)と落ち着こうとすると、
ビーッ、ビーッ
背後からアーラム音がなり振り向くと、敵のドムトローペンがこっちに向かって来ている。
まずい、まださっきの大ジャンプしたからブースターゲージが回復していないし、武装だってライフルせいで重くなるからビルの後ろに置いてきたまま、ディバイダーまさに空中散歩中だ。
残った武器はビームソードと、胸部バルカンだけでは遠距離戦には心持たない。
ドムがジャイアント・バズを構え、こっちを狙う。
急いで移動しようとするが、
ガシャン、
右足の太股のパーツが取れてしまい、倒れ混んでしまって身動きが取れない。さっきの着地のショックでパーツが緩んだのだ。
「しまった、動けない」
ドムがそれを見て、エックスから距離をおき、再びジャイアント・バズを構えロックオンする…
ピピピ、ピー
__ビシューン
ドムの頭が爆発し、だめ押しにエックスの後ろにからビームが飛ぶ。
ドムはそれをまともにくらい、爆発する…
僕は後ろに向き、ズームして見るとライフルを構えたデュナメスがいた。
【時間切れです、お疲れ様でした。】
>>251-253 本当に毎日書いてますね。 ネタ切れが心配です。
とりあえず、調べたりせずに書きますが、エックスでもビームサーベルで合ってますよね?
ビームソードって書いてるので、ちょっとビックリしました。
本編の方では他店との通信対戦とかやってなかったので、うちのでも勝手に通信対戦とか設定しましたが、
うちのとも違う設定になってるんですね〜。
うちのはね、その辺りは漫画「ブレイクエイジ」とか参考にしましたが。
というか、かなり影響は受けてますね。
あと。
VSA第八話で大活躍だったカスタムウイングですが、
あれはとても「パーフェクト」と呼べるMSでは無いですね。
作中でも書いてましたが、せいぜい「スーパー」くらいです。
パーフェクトウイングガンダム……考えようかな???
ちょいとソフトな感想でした。
255 :
S,I:2012/08/25(土) 01:21:00.77 ID:LZnIxZ48
なるほど…まだその漫画は未読なんで機会があったら読んで参考にさせてもらいます。
こちらは気軽にネット対戦でき、そちらのバトルロイヤルで腕試しできる設定になってます。
エックスのビームサーベルは通常の物と比べると威力が強いようで、プラモの表記ではソードになっていたので、そちらの方を…
小説はあまり書いたことないので…がんばります(冷汗
あと僕にとってカスタムウィングはもう化け物じみた性能でパーフェト以上かと思いますが…
絶対、僕のエックスが負けますよ…
256 :
S,I:2012/08/26(日) 11:11:52.79 ID:g+OvLqht
それでは続きを、
そうアナウンスが鳴ると画面が切り替わり、ポイントが換算される。
そして画面が暗くなり、何も映らなくなった。
「時間切れ…」
そう僕を少し残念そうに呟いた。(まだあのデュナメスにお礼を言ってないのに…)
すると目の前のハッチが静かに開き、その奥にあのプラモ屋の店員が立っていた。
「やぁ、その様子だと物足りないみたいだね。」
と店員はこっちの気持ちが分かるのか?、そう優しく言葉を掛ける。
「でも、すごいじゃないか!あそこのモニターで見ていたけど、初心者で一機撃墜なんてそうそうできないよ♪」
そう店員は店の奥の方を指差しながら声をあげ、僕はハロからエックスを取りだし、外に出て見ると、そこには本当にでかいモニターがあり、これでさっきのバトルを観戦していたようだ。
バシュン
、
もう一個の筐体の扉が開く音がし、後ろを振り向いた。
「やれやれ、今回は調子悪いなぁ…まぁ勝てたからいっか、」
と自分と同年齢ぐらいの女の子がそう言いながらヘルメットを外し、筐体から出てきた。そしてその手にはあの助けてくれたデュナメスを持っていた。て、あれっ?!
(お、女の子〜!?)
心の中で僕はかなり驚いた。
そして今回は何だか驚いた回数が多いような?と僕は今関係事を思った。
第一部 完
>>256 これで一部完結って事は、短期決戦で考えてるんですかね?
今回は戦闘が無いのでアレなんですが、描写は気を使ってくださいね。
あと。
うちのウイングに勝てないって事はないでしょう。
そちらが書く場合はエックスが主役ですから、格好良く勝たせてあげないと。
戦いようはいくらでもあると思いますよ。
258 :
S,I:2012/08/27(月) 20:15:21.34 ID:9zMfpndR
とりあえずできました…
ガンプラビルダーズF 第二部
ギューン!
暗い宇宙空間でなにか飛んでいる、人型でロボットのようだが、音を立て進んでいる。
本来、宇宙は真空で音は伝わらないはずだがそれは現実の話、ここはデータの世界なのだから、
GPB-X80 ビギニングガンダム
バンダイが発売しているガンプラで、アニメ、ゲーム、小説でも登場しない完全にオリジナルなガンプラだ。
特徴的なのは所々にある三角形のパーツ、
そしてビームに優れてるところで、ガンダム特有のV字アンテナさえがビームになっており、額のディバイスでビームバルカンの弾として打ち出すことができたり、火を吹かないスラスターなど異例なガンダムだ。
そして対するのは
ビシューン!、ビシューン!
ビームライフルを撃ちながら向かってくるのは白い機体は
RX-78-2 ガンダム
ご存じ、白い悪魔で知られている初代ガンダム。
多分、誰もが見たことがある認知度が高いガンダムである。
ファンからはファースト(最初の)ガンダムとも言われ、今でも人気は衰えない。
そのバトル映像を僕はだんまりと、自宅のパソコンで見ていた。
ガンプラバトルの記録はプレイヤーの承諾で筐体に記録され、ゲーム管理局の元で、その公式サイトでそのバトルの映像が見れるのだ。
実は僕はあの時にデュナメスの女の子から教わり、このサイトを知った。
ちなみに、今もたまに二人協力でバトルしている。 まるで、でーと…いやいやそれはないよね…僕はキモいし…
他の映像には黒いノーベルガンダムが無双しているものや、ビギニングガンダムが片手失っても逆転勝利したりなど、どれもすごい迫力のかるバトルだった。
259 :
S,I:2012/08/28(火) 18:51:07.31 ID:rc+CMorE
ガンプラビルダーズF
追記、主人公の名前はイシダ・シュウになりました。(遅
その時、ドアを開ける音がした。
ガチャリ、
「おーい、シュウいるのか〜、」
ヤバイ、この声はうちの兄貴だ!ガンプラバトルのことがバレるとまずい!!
慌てて、素早くパソコンのモニターを消した。
「お、いたいた。」
「な、何か用かい、兄貴?…」
と、恐る恐る訪ねると、
「いや、なに、これから友達と出掛けるから、留守番よろしく、ただそれだけだ。」
と言うとすぐドアを閉め、出掛けていった。
びっくりした、いや本当にびっくりした。ばれなくてよかった…
実は今日から夏休みに入り、気楽に毎日を過ごしている。
そしてあのエックスは自分なりにスミ入れ、部分塗装してパワーアップして押し入れに隠している。
(ちょうど家族も兄貴も出掛けたしガンプラバトルでもするか、)
急いで二階の押し入れからエックスを入れた箱を取りだし、家に鍵をかけて、通い慣れた大船のプラモ店にダッシュした。
バトルロイヤル
その名の通りに敵、味方も関係ないバトルの事。通常より広い専用のフィールドで大勢で戦う。
敵対するのも良し、協力して生き残るのも良し、言うなれば生き残り戦だ。
制限時間生き残れば倒した相手の数でポイントが貰える。もし負ければポイントは、パーッになる。
できるだけ相手を倒し、生き残るのか勝負の決め手とになる。
ガシューン
カタパルトから発進エックスは宇宙空間を自由に優雅に飛び回る。
あれからとことん、バトルをやり混んだお陰だ。ちなみにプレイ料金は…プライレスです…
すると直後に
ピィー、ピィー!!
荒々しく前方に警告するアラームがなり響いた。
モニター前方から急接近する青いMSは…
MS-18 ケンプファー
OVA、ポケットの中の戦争で登場したジオン軍のMSで劇中では連邦のMSを相手に無双しまくるなど、すごい活躍していて人気がある。
そして紙装甲なのに、大型のブースターで、バズーカー二丁、ショットガン等の重装備で、まるで男のロマンの塊だ。
するとケンプファーはエックスを視認で見つけると、
ドゥ!ドゥ!ドゥ!!
エックスにめがけて、バズーカーを連続で撃ちながらこっちに近づいていく。
260 :
S,I:2012/08/30(木) 23:34:52.05 ID:DU1FQaG3
エックスはそれを横移動でかわしながら左手にビームソードを構え、弧の字を描くようにケンプファーに突撃する。
ケンプファーのパイロットも右のバズーカーを捨てビームサーベルに持ち変える。
バチン! バチチッ!
両者のビームサーベルが互いに火花を
散らしながらぶつかり会う。
(く、強い でも、横っ腹がガラ空きだ!)
するとエックスは敵の右腰にめがけて、キックをした。
それに意表を突かれたケンプファーはバランスを崩す。
シュウ「いまだ!!」
そしてエックスはケンプファーから離れ、右手のビームマシンガンを構える。
ズババババッ!
銃口から細かいビームの弾が飛び、ケンプファーはそれを喰らい、鈍いたてながら爆発する。
ドッゴォ〜ン!!
その爆発をエックスは静かに見つめる。
(まず、一人!)
そして周りにもあっちこっちに爆発が起きていた。
261 :
S,I:2012/09/15(土) 20:22:00.70 ID:AIczoIO5
その頃、遠くに浮かぶ環境試験コロニーの中でもバトルは始まっていた。
その中には様々なカスタマイズされたガンプラ達が戦っている。
そこに森林に隠れた緑の色の長いライフルを構えたガンダムが、遠くにいるジムコマンドを狙う。
ビシュンッ!
放ったビームは見事に当たり、ジムコマンドは爆発する。
「よし、当たった!!」
その緑色のガンダム、デュナメスを操るパイロットはガッツポーズをとり、デュナメスを移動させる。
このパイロットの名は、ナカジマ・アヤ、男勝りな女の子だ。
彼女はガンダム00でデュナメスを知り、ガンダムの世界に入り、ガンプラビルダーになったのだ。
彼女の使うデュナメスはほとんど素組みだが、すみ入れもしっかり憤っており、完成度は高い。
「ポイントゲット、この調子なら生き残れるな♪」
と勝利を確信し、デュナメスを遠くの森林に隠し、ライフルを構える。
そのスコープに赤いMSが横切る。
その姿はまさに不死鳥みたいだが…
塗装はされず付属のシールを貼った簡単仕上げ物だった。
(シナンジュ?最近出た奴か、でも関係ないぜ!)
と、カーソルをシナンジュに合わせロックオンせず、ゆっくり引き金を引く、
ビシュン、いきよいよく発射されたがシナンジュはそれを避けた。
しかも遠くにいるデュナメスが撃った方向に向かいビームライフルを撃つ。
「どわっ!?」
予想外の反撃に焦るがなんとか避けるが、隣の木にぶつかった。
その木の揺れを見たシナンジュは背中のウィングを開きそこにダッシュする。
262 :
S,I:2012/09/18(火) 21:14:57.25 ID:GIPhVPe8
「見つかった!?」
アヤは向かってくるシナンジュを睨み付けて左手にビームサーベルを構える。
シナンジュはデュナメスを捉えると同時に長い銃芯のライフルを放つ。
ビヒューン!
デュナメスはなんとか避けるが、周りは森で思うように動けない。
(こうなったら、空中に!!)
と、その瞬間、目の前にシナンジュがモノアイを光せる。
「早、…」
ドカァ、
シナンジュにキックされ、デュナメスは激しく音を立てながら地面に落ちる。
シナンジュはデュナメス近づき、そしシールドにつけられたビームアックスがデュナメスにめがけ降り下ろそうとした時、
バババッ、バババッ、
上から細かいビームがシナンジュに降り注ぎ、シナンジュはたまらず、後ろに後退した。
アヤは上を見ると、X字のシルエットがみえた。
アヤ「ガンダムエックス…」
ガシャン、エックスはデュナメスの左隣に着地すると、
シュウ「アヤさん!大丈夫!?」
と通信が入り、アヤはびっくりする。
アヤ「シュウ、お前来てたのか!助かった!
とアヤは喜ぶ。
シュウ「いや、その、コロニーの外から中の様子見てて、デュナメスが移動してるを見たからアヤさんだなて、来てみたんだけど…」
とシュウはそう照れながら言って、平地に立つシナンジュを見る。
263 :
S,I:2012/09/22(土) 10:25:57.08 ID:/4iUVEP6
???(ふむ、ディバイダー装備のエックスか…なら!)
とシナンジュのパイロットは右手のライフルを放り投げて、アックスに持ちかえる。
それを見たシュウとアヤは、
「ライフルを捨てた!?」
「格闘に持ち込むつもりだね、でもね…」
とシュウもライフルを捨て、ディバイダーを背中に取り付け、ビームソードを両手に手にし、右手だけ逆手のニ刀流にした。
シュウ「格闘ならこっちだって!」
と睨みつけると、
シナンジュ「!、あの戦闘スタイルは! いやそれはないなよな…」それを見て独り言を呟くと、突然空中から敵が近づく。
「ニ体か、倒したらポイントもガッポリだ!!」
ガンダム00に出てくるカスタムフラッグと言う黒い量産変形機だ。
「スキあり!!」
MS形態になり、ライフルを構え叫ぶが、エックスの影でデュナメスに気づかず、アヤに狙撃され呆気なく近くの森林に墜落する。
「ギャー?!!」
ドゴ〜ン!!
下に墜落し虚しく爆発する音は、決闘のゴングとなり、白のMS、赤のMSが走り出す。
そして互いのビームサーベルが交わう。
バチチチ、バチ、
体格的にはシナンジュが有利だが、お互いに譲らず互角に戦う。
「やはりこの戦闘スタイルは…」
シナンジュのパイロットはなにか確信したようだか、エックスの攻撃を防ぐのに忙しく、相手に通信ができない。
Gジェネやってて思いついた種死アフターの掌編。
単発で終わってもいいし、続けようと思ったら続けられるようにしておきます。
『ヤマト准将、戻って来てくれ』
ヤマト准将がいなくなった。
どのヤマトかって? キラ・ヤマトに決まっている。オーブ国防軍准将、首長の義弟、
ザフトの客員士官、プラント議長の情人、フリーダムのパイロット、スーパーコーディネイター、
その他諸々の肩書に彩られたあのヤマト。ついこの間まで俺の上官でもあった男だ。
准将の失踪は、メサイア戦役後のプラントとオーブが維持してきた蜜月関係に巨大な影を落とした。
たったひとりの男が消えただけでミリタリーバランスが激変してしまうというのが
時代のグロテスクさを象徴していると俺は思う。奇形的に発展し、使い手の個人技を
反映しすぎるような兵器に、戦場の主役をキャスティングしてきたツケだ。
ヤマト准将が消えたことで、モビルスーツの枠を超えて戦略兵器と称された彼の専用機
ストライクフリーダムを操れる者はいなくなり、戦後とかく除け者にされがちだった地球連合諸派は
にわかにその息を吹き返して日に日に発言力を強めている。物量差をひっくり返す化け物が
ひとりいなくなってしまえばこんなものだ。とかく最近は情勢がきな臭い。外交下手のアスハが
また連合との折衝をミスったら、三度目の戦争があるかもしれないと軍事研究家は言う。
俺たち国防軍は有事に備えるだけだが、旧式のM1アストレイなんぞに乗って連合の物量作戦を
相手にしなけりゃならない可能性のある俺としては、祈らずにいられない。
ヤマト准将、戻って来てくれ。
あんたを嫌いな奴は何万といるが、それでもいまの世界にはあんたが必要だったんだ。
でも俺は知っている。たぶんあの人はもう戻って来ない。
俺があの人と仕事をしたのは二年だった。彼が初めて正式なオーブ軍人として配属されてきた日、
十八ぐらいのガキがいきなり准将任官だというんで呆れていた俺たちに、こう挨拶したのを覚えている。
「どうもみなさん、このたび身内人事でオーブ軍准将となりました、キラ・ヤマトです……」
そして頭を下げた。ぺこり。准将に頭下げられるってのはいい気分だったし、自分が義姉のコネと
プロパガンダで分不相応な地位に据えられたお飾りだと理解する程度の脳みそはあるようだったから、
俺はとりあえずこのうすらボケた小僧をいじめるのはやめようと決心した。
そうだ。よく覚えている。まるで昨日のことのように。
だから、失踪直前のヤマト准将が二年前に比べてどんなに追い詰められていたかも、わかる。
彼はMSに乗っていないときはシステムエンジニアのような仕事をしていて、オーブ軍における
准将という階級はあの人にとって飾り以上のものではなかった。給料はしっかり将官相当だったから
不平を言う奴も初めはいたが、彼がオーブ軍とザフトから二重取りしている莫大な給与をほとんど
戦災孤児の救済に投じていたことが知れ渡ると、その点については彼を憎む人々も口を閉じた。
ちなみに当人は、給料の使い道についてこんなことを嘯いている。
「あこぎなことをやって稼いだ金なんて、偽善のためにでも使うのが似合いじゃないですか」
孤児を救うことは偽善か、と訊いた俺に、准将はこうも言った。
「偽善よりマシなことをするには、僕の手は汚れすぎていますから」
これはやや気取った言い回しだったから、彼の本心だったかは解らない。もっとも、
あの人の本心なんてそれこそラクス・クラインにだって解らなかっただろう。だから、彼は消えた。
ただ、ヤマト准将が戦災孤児について何か思うところがあったのは確からしい。
俺は不幸なことにこのとんでもない変人の副官をやらされていて、たまの休暇には彼に連れられて
アカツキ島の児童養護施設を訪ねたりしていた。私服のセンスが壊滅的なヤマト准将はファスナーや
バックルだらけの危険な服で施設を訪問し、保育士に「そんな恰好で子供を抱こうとしないでください」と
怒られてしょんぼりするのを子供たちに笑われる。いつもそうだから一種の伝統芸能みたいになっていた。
だが何度注意されても彼は安全な服装で施設を訪れることをせず、一度俺がまともな服を
見繕ってやろうとしたら「越権行為ですよ」とか言ってズボンにチェーンをじゃらじゃらぶら下げ始めた。
この大馬鹿野郎。厳罰覚悟で殴ってやろうか、と思っているとヤマト准将は続ける。
「いいんです、これで。僕にはあの子たちを抱き上げる資格がない」
聞けば、そう思うきっかけになったのはザフトのトップガン、シン・アスカだそうだ。
「C.E.71の本土戦、覚えてるでしょう……連合の『オーブ解放作戦』。
シンはオノゴロ島で家族と避難中、流れ弾を受けて両親と妹を亡くしたそうです。
それは島のどの辺か、って訊いたら、軍港の近くだって言うんですよ。
僕が連合のブーステッドマン相手に、フリーダムで大立ち回りやってたあたり。
彼の家族を殺した流れ弾は、僕の引いたトリガーで放たれたものかもしれないんです」
シン・アスカとヤマト准将には浅からぬ因縁がある。アスカがエンジェルダウン作戦で
フリーダムを撃墜し、ザフトの英雄に祭り上げられていたのは有名な話だ。つまりは
彼こそキラ・ヤマトに最後の土をつけた人物ということになる。またアスカの想い人が連合の
強化人間で、フリーダムの武力介入によって命を落としたという噂もあるが、これは
戦場にありがちな流言蜚語の類だろうと俺は思う。ザフトレッドとエクステンデッドの恋?
いまどき陳腐すぎてドラマの脚本にもならない。
しかしヤマト准将がアスカを孤児に変え、そのアスカが准将を一度でも倒したというのは
仮定の話とはいえ因果を感じさせる話だ。准将自身もそう思ったらしい。
「もしそうなら、僕はあのときシンに殺されているべきだったのかもしれない。
復讐なんて空しい、と言ってた彼のことだから、喜びはしなかっただろうけれど……」
それは独り言のようだったから、俺は何も言わなかった。だが思えばこのとき、
彼の精神は既に背負った罪の重さで潰れ始めていたような気もする。
俺が最後にヤマト准将を見たのは失踪の二日前で、彼はピアノを弾いていた。
それまで弾いているところを見たことがなかったが、聞けば何のことはない。
スーパーコーディネイターである彼は、学習効率が常人とは違うのだ。
どの鍵盤を叩けばどんな音が出るかを理解し、楽譜の読み方を身体に覚え込ませれば、
あとは出したい音を出すように肉体が反応する。
この人は自分の出生について公表している。狂気の天才科学者、ユーレン・ヒビキが
アミノ酸を楽器に、ゲノム配列を譜面に見立てて奏で上げた窮極のハーモニー。
それがキラ・ヤマト。本人があまり勤勉な性質ではないせいで、そのポテンシャルの
大部分は発揮されなかったが、人間にできることならたいてい彼には可能なはずだった。
「この曲の作者は、ニコル・アマルフィ。僕が殺したザフトのパイロットです」
いきなり何を言い出すんだこの野郎は、と棒立ちになる俺の前で、准将の指が踊る。
「すぐれたピアノ奏者であると同時に、作曲の才能がある少年だったそうです。
この楽譜は、アスランに頼んで借りた彼の遺品。いま弾いているのは、彼が生きていれば
次のコンサートで演奏するはずだった未発表曲……」
その調べは、美しかった。静かで深い湖を思わせる旋律に、素人耳だからこそ
作曲者の非凡さが知れた。だがその響きが灰色の哀切を帯びているように
感じられたのは、准将の弾き方がそういう音を引き出していたからだと思う。
「いい曲ですよね。僕には、音楽のことはよくわからないですけど。
こういう才能の持ち主を、僕は何人殺してきたのか。それを考えながら弾いています」
俺はヤマト准将の指先を注視する。MSパイロット特有の胼胝はあるが、それだけだ。
決してピアニストの指ではないのに、鉄の子宮が与えた才能だけでこうまで弾きこなせるのか。
遺伝子の狂信者だったギルバート・デュランダルが、彼に執着したのもわかる気がする。
そして、その才能は決して彼を幸福にはしなかったと、ピアノの音が語っている。
「背負いすぎです。潰れますよ、准将」
副官としてそう言った俺に、手を止めることなく彼は返した。
「星が潰れたら、ブラックホールが残る。僕が潰れたら、何が残るんでしょうね」
ピアノの音が響く。
美しく、哀しく、虚ろに響く。
キラ・ヤマトが虚無だけを残して消え失せたのは、それからほどなくしてのことだった。
「タイトル未定」いきなりハイライトシーン
「パイロットがいない!?どう言う事だ?」
「そいつにはコクピットが存在しない」
「バカな!それじゃ奴はどうやって動いているんだ!?」
「電子頭脳と各種センサーによる完全自動制御だ。
そいつはモビルスーツじゃない。ロボットだ。」
一回ぐらい完オリでやりたいけど設定が思いつかない
ガンダムビルドファイターズが出てくるおかげで、ガンプラビルダーズネタの続きを書くの迷ってる
場合によっては完全没だなあ
一年戦争終了後から0085くらいのあいだで
地球上でMS一機を空中輸送する輸送機ってある?
0085までだとゲタ系もドダイしかない
あとはミデアとかガンペリーとかファットアンクル。でもこれも厳密に一機じゃない
しかも全部一年戦争時の旧型。0085付近ならオリ機捏造でもいいかと
273 :
創る名無しに見る名無し:2014/03/16(日) 14:32:22.19 ID:9Y6WCrCZ
:
個人でアニメは無理だからせめてマンガにしたい俺の新しいガンダムネタ。。。
タイトル「機動戦士ガンダム・シャルロット」
ISSでのスペースキャンプに参加しに引率の女性教師と世界選抜で選ばれた生徒たちが現れて1話スタート
ここからしばしスペースキャンプの色々な授業のシーン
その中で、ISSの宇宙博物館の野外スペースに展示してある老朽艦ネェル・アーガマや謎のMS「ガンダム」を目撃
(このガンダムはNT専用に開発されたらしいMSでNTが絶滅した現在では起動不能。セキュリティーが掛かっている)
そんなこんなでキャッキャウフフとキャンプを続けていると----
主人公シャルロット・ルースが同級生と宇宙遊泳している最中、ISS周辺のミノフスキー濃度が急速に上昇
それを知る教師とISSのオペレータ。同時に軍艦も第一種警戒態勢をひく
軍艦よりISSへ念のため生徒や関係者をネェル・アーガマへ避難させるよう連絡が入る
シャルロット「流れ星かな---」光り輝くものが横切るのを目撃
ISSに寄港していた軍艦がミサイルが着弾。大破
教師は生徒たちにノーマルスーツを着せて避難を開始。同時に遊泳中のシャルロットと同級生を帰還させようと奮闘するも
ISSにもミサイルが着弾し火の海に。それでもシャルロットは見を呈して同級生を帰還させる
同級生のISS帰還を助けたシャルロットは宇宙空間に放り出される
そんな火の海の中、もう死んじゃうかもってギリギリの所でガンダムの存在を思い出し、野外展示スペースへ向かう
すると、ISSの博物館に野外展示されていたガンダムが(シャルロットは生粋のアースノイドなのに)まさかの起動。シャルロット搭乗しギリギリ助かる
謎のMS部隊が現れ軍艦撃沈。教師と生徒たちは同じく野外展示されていた老朽艦ネェル・アーガマに避難
そのネェル・アーガマにも謎のMSが襲い掛かる
シャルロット、ガンダムで襲い掛かったMSと対決
「ダメぇーーーーーーー!!」とシャルロット、そのMSを掴みフルバーニアでISS外壁へ突進
外壁を押し込んだままバルカン至近距離乱射で撃破
同僚を撃破された同部隊、別のMSがシャルロットに襲い掛かろ
撃破したMSのビームサーベルでそのMSもギリギリ撃破
ネェル・アーガマに帰還したシャルロット、疲労でバタンキュ。
--------1話ここまで。
補足・主人公のシャルロットルースはアメリカはアリゾナ出身の活発な田舎娘。宇宙に憧れて猛勉強しギリギリ選抜された生徒。年齢15歳
補足・時代は宇宙世紀後の未来で当時のテクノロジーの多くが失われた世界。感覚的には現代より少し進んだ程度のテクノロジーの世界
おまけ補足・展示されていたガンダムの通称は「眠り姫」
誤字多くてごめんなさい。。。勢いでカキコしたので。。。
>>276 お髭様(∀ガンダム)が砂にしてしばらくたった世界線か…。
それともザンスカール戦争で荒廃した地球連邦軍が解体(詳しくはガイア・ギアを)した世界か…。
280 :
創る名無しに見る名無し:2015/02/22(日) 22:52:53.83 ID:m187/RQt
Gレコ見てると俺の考えた新作ガンダムの方が五倍は面白く感じてくるな。
281 :
創る名無しに見る名無し:2015/02/22(日) 23:43:53.03 ID:z7e+gZCw
は〜いアンチはアンチスレでやりましょうね〜
札幌 ビッ●カメラ
副店長 佐藤伸弦 暴行犯。
SDガンダムはSD世代(当時小学生)に、本家はガンプラ世代(当時小学生)に作らせればそれで済む話
新人類世代(当時大学生)やバブル世代(当時高校生)が企画、制作、論評やってる限りはたどり着かない
99.99%の小学生男子と00.01%の高校大学生の比率なのに、00.01%の方に向けて続編作り続けたというね
小学生みんなでアニメを見た世代がたまたまガンプラ世代という幸運を得ながら
みんなで特撮は見たしかしみんなでアニメは見なかった世代がアニメはハブラレてるというコンプレックス
持った状態で主導し続けた・・・・・特撮世代やゲーム世代でアニオタやってる奴はそうかも
知れないけど、小学生みんなでアニメを見た世代は逆にアニメ見なかった奴をハブったわけで
むしろ数の暴力のイジメっ子側だったのがガンオタたちなんだけどね、特撮世代やゲーム世代では少数派の
アニオタを、イジメてた側の種類の人間が実はそのアニメ内でも最大消費者団体だというジレンマだな
だからその圧倒的存在を認められずにファビョンするんだし、ハブられてた少数派の奴らが