【シェア】みんなで世界を創るスレ8【クロス】

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19創る名無しに見る名無し
【ファンタジー作家さまの冒険  〜 ファンタジーのレベルが上がれば上がるほど、現実の自分のレベルは下がるよねw】

・・・目の前の面接官の一人が、突然話を始めた。
「では、自己紹介を始めてください。名前、出身大学とその専攻・・・」

自己紹介? 何のことだ?
それよりここはどこだ?
こんな世界をシェアした覚えはないぞ!

ファンタジー作家さまは淡々と事務的に話をする面接官の方を見た。
窓を背にこちらを向いて話す面接官・・・パリッとしたスーツと、怜悧そうな銀縁のメガネを掛けている。
その両隣に座る面接官たちも、やはりしっかりとスーツを着込み、真顔でファンタジー作家さまの方を見つめている。
一人は女性。おそらく年のころは三十台半ばといったところか。
絵に描いたようなキャリアウーマンでかなりの美人だが、まるで隙が見当たらない、きつそうな女性であった。

もう一人も同じくらいの男性で、髪をオールバックに撫で付け、ダブルのスーツを身に纏っていた。
眉をひそめた厳しい表情で、手に持っている書類とファンタジー作家さまを交互に見つめている。
その書類は、写真が貼られているところを見ると、どうやら履歴書が身上書のようだ。

みんなきちんとした社会人だ。
ファンタジー作家さんみたいに、現実逃避してるだけの冴えない人間とは偉い違いだ。

「どうしました? 自己紹介をお願いしますよ」
銀縁のメガネの男は言った。言葉遣いは丁寧だが厳しい口調だ。

「あ、あの・・・ここは一体、一体なんなんですか?」
ファンタジー作家さまは、そう尋ねた。
正直動転していた。額にうっすらと冷や汗が浮かぶのを感じる。

数秒の間が空く。その沈黙が一斉にファンタジー作家さまにのしかかる。
沈黙がここまで重いものだとは、今までファンタジー作家さまは知らなかった。

すると、女性の面接官が呆れたような口調で、
「ここは当社の採用試験の面接会場ですが・・・お忘れですか?」
と語った。やはり言葉使いは丁寧であるものの、刃のような鋭さが含まれている。

目の前の面接官たちの視線が、針のようにファンタジー作家さまを刺し貫く。
動悸が早くなり、ドキドキという鼓動が鼓膜まで伝わる。口の中はもはやカラカラ。
沈黙は更に重みを増し、ファンタジー作家さまの貧弱な精神は今にも押しつぶされそうだ。

「あ・・・あ、あの」
「どうしました? 早くお願いしますよ」
面接官はファンタジー作家さまを丁寧に促す。
だが何故だろう、その言葉の中に苛立ちが含まれているのが解った。

「な、名前は、『天才ファンタジー作家さま』です。出身大学・・・ではなく県立商業高校を卒・・・じゃなくて二年次に中退です。
専攻は・・・その・・・。趣味はアニメと漫画、それとエロゲ・・・じゃなくてゲームです。」
ファンタジー作家さまは答えた。まるで搾り出すような声で。
これは戦いだ、悪辣なモンスターとの戦いなんだ、と己に言い聞かせて。

だが、なぜだろう、こんなに恥ずかしいのは!
だが、なぜだろう、こんなに切ないのは!
おそらく彼らの手元にある履歴書は、殆ど白紙に近いはずだ。
20創る名無しに見る名無し:2011/11/18(金) 05:01:04.66 ID:6C6HVosr
「・・・そうですか。ではファンタジー作家さま、当社に入社したいと思われた動機について、語ってください」
面接官は言った。
口調は相変わらず丁寧だが、ファンタジー作家さまをあざ笑っているように聞こえるのは気のせいなのだろうか?

「動機? 動機ですか?」
そんなの知らない。というより、ここの会社が何をやっているのかすら知らないのだから。
すると、四人の視線が一斉に勇者さまに襲い掛かってきた。

それはどんなモンスターの物理攻撃よりもファンタジー作家さまにダメージを与えた。
それはどんなドラゴンのファイヤブレスよりもファンタジー作家さまを弱らせた。
それはどんな魔法使いの魔法よりも、ファンタジー作家さまを徹底的に痛めつけた・・・主にプライドを。

「御社の・・・その、御社のですね。企業活動に共感?してですね、あの・・・」
「当社の企業活動のどのあたりに、共感を覚えましたか?」
体格の良いスーツ姿の男が尋ねてきた。もう嫌がらせのように丁寧な口調だった・・・。

ファンタジー作家さまは、ここより先の記憶が無い。
どうやらファンタジー作家さまの精神は、ファンタジーの世界に現実逃避してしまったようだ・・・。


・・・憶えているのは、ふと気付くと区立公園のベンチに座って夕日を眺めていたことだ。
手には飲みかけの缶コーヒーと、不採用通知の書類。

そしてファンタジー作家さまは泣いていた。
あふれ出る涙を抑えることができなかった。

ファンタジックなシェアワールドで天才ファンタジー作家だった自分が、何故今、こんな場所にいるのだろう?
そしてなぜ、こんな屈辱的な境遇に落とされたのだろうか?

そんな悩めるファンタジー作家さまを、公園で遊んでいる子どもたちが指差して笑っていた。
「しっ、いけません。失礼でしょ!」と母親たちは、そんな子どもをたしなめる。
だがその母親たちの目にも、ファンタジー作家さまに対して明らかな侮蔑の色が浮かんでいた。

ファンタジー作家さまが我に返ったのは、夜になってからだった。
公園内の電灯に照らされ、ファンタジー作家さまは先ほどと同じ姿勢のままでベンチに座っていた。
涙はもう流れていなかった。というよりも涙は既に枯れ果ててしまっていた。

「これからどうしよう・・・」
ファンタジー作家さまはそうつぶやいた。
一円にもならないシェアワールド作品を投下し、自己満足している日々。
現実逃避のファンタジーにはまればはまるほど、現実で生き抜く能力はどんどん減じてゆく。

そして自分の絶望的な未来を思い浮かべ、その不安に恐れおののいた。
馬鹿げたファンタジーの世界に現実逃避できたあの頃に、戻れるものなら戻りたかった・・・。
21創る名無しに見る名無し:2011/11/18(金) 05:29:57.10 ID:6C6HVosr
 < 第一章 ファンタジー作家さまのお目覚め >

・・・ファンタジー作家さまは目覚めた。

全身のあちらこちらがズキズキと痛む。
それとブン殴られでもしたのだろうか?奥歯がガタガタであった。
「・・・うぐっ!」
切れた口の中の傷の痛みに、ファンタジー作家さまは思わず呻いた。

ゆっくりと目を開けると、染みだらけのコンクリートの壁が立ちはだかっているのが見えた。
そしてその壁の高い場所に、鉄格子ががっちりとはまった窓が一つ。
窓からは・・・おそらく朝なのであろう、穏やかな光が室内に差し込んでいた。

「ここは、どこだ?」
ファンタジー作家さまは痛むからだを起こしながら、そうつぶやいた。
八畳ほどの広さの部屋の中に、自分の他、五人ほどの人がいた。
壁に寄りかかってうつむいている者や、床に寝転がって寝息を立てている者などがいる。
コンクリートで囲まれた殺風景な部屋・・・さすがのファンタジー作家さまも、そこがどういう場所か解ってきた。

そう、ここは留置所だ。おそらくはここは警察署の署内だろう。

だが、ここで疑問が芽生える。
なぜ自分がここにいるか、という疑問だ。
ファンタジー作家さまは昨晩の記憶を思い返してみた。

シェアワールドを作り、そこで天才ファンタジー作家を気取っていたところ、
突如、どこかの会社の面接会場に連れてこられ、あっさりの不採用が決定。
職にありつけず金もなく途方に暮れて泣いていたところを、ヤンキーにカツアゲされてぶちのめされて・・・。

「・・・おお、お前さん目覚めたか?」
ファンタジー作家さまに、声を掛ける人物がいた。
ファンタジー作家さまはその声の主の方を振り返る。

そこにはだらしない格好をした中年男がいた。
小太りでハゲかけ、スーツはヨレヨレ。おそらく自殺防止のために没収されたのだろう、ネクタイは無かった。
ノーネクタイ姿のその中年男は、壁に背を持たれ、顔だけこちらに向けながらニヤニヤ笑っていた。

「ここは、ここはどこです?」
解りきった質問であったが、ファンタジー作家さまは思わず尋ねた。
すると中年男は、「そりゃもちろん、ここは留置所だよ」と答える。

ファンタジー作家さまは再び聞いた。
「ここはどこの警察署?」

そうなのだ。
今自分がどこに(更に言えばいつの時代に)居るのか、それがわからないのだ。
今まではヒマで冴えない中学生が妄想したようなファンタジー世界に没頭していたはず。
だがいきなり超現実的な世界にすっとばされて、仕事の当てもなく素寒貧で放り出されたのだ。
22創る名無しに見る名無し:2011/11/18(金) 05:31:00.05 ID:6C6HVosr
正規の仕事、給与、保険料、年金、源泉徴収明細票・・・
そんなものは、今まで呑気に過ごしてきたファンタジーシェアワールドには無かった。

最終学歴、今までの職歴、アルバイト先、資格、失業保険、ハローワーク・・・
次から次へと思い浮かぶ単語に、ファンタジー作家さまは慄然とした。

何だこの恐るべき言葉の数々は! 何かの呪文なのか?
そしてそれらは「現実」という色彩を帯び、一斉にファンタジー作家さまに押し寄せてきた。

「馬鹿げた夢なんて見てるんじゃねーぞ、そろそろ現実みろよ!」
それらの現実が、口々にそう叫びながらファンタジー作家さまを取り囲み、一斉にあざ笑った・・・。

「・・・ここか? ここはだな、現実社会警察署ってとこだ。お前さん、初めてかい?」
中年男はそう答えた。

「現実社会? それはどういう・・・?」
「現実社会は現実社会だよ、あんた。・・・ところであんた、名前は何て言うんだい?」
中年男が尋ねる。

「ボクの名前は、『シェアワールドでファンタジー作品を書いてるファンタジー作家さま』と言いますが」
ファンタジー作家さまは答えた。

そう、それが自分の名前のはずだ。
だがなぜだろうか。突然、今のこの自分の名前に違和感を感じた。
ファンタジー作家さま、ファンタジー作家さま・・・確かに名前としてはどこかおかしい。

すると、
「なるほどね、お前さん『ファンタジー作家さま』か・・・ここは『現実社会』なんだよ。それ以上でもそれ以下でもなく」
中年男はそういうと真顔になった。
「だから俺は、ここではただの『中年男』だよ。おそらく『汚らしい』とか『だらしない』とかキャラ属性が引っ付いてるかもしれんがね」
そう言って中年男はせせら笑った。

ファンタジー作家さまには理解ができなかった。
確かにファンタジー作家さま程度の知能と学力では無理も無い。
そりゃ、いい年してファンタジーなんかに没頭しているくらいだし。

しかしたった一つ、ファンタジー作家さまはわかったことがあった。
そしてそれは、今までの自分のアイデンティティーを否定しかねない、重大な考えであった。
それは、自分がもはや『(天才)ファンタジー作家さま』ではない、ただの人に成り下がっているという事実だ。

今まで自分は特別な人間だと、そう思い込んできた。
だから自分はファンタジー作家さまであり、今ここで自分から『ファンタジー作家さま』と名乗っていたのだ。
何せ今までは自分は主人公だったのだ。この世界において唯一、特別とも言える存在だったのだ。

しかし今は違っていた。今のファンタジー作家さまは、ただの人。いや、ただの変人に成り下がっていた。
この現実社会において、大した学歴も資格も技能もない、一円にもならないファンタジー作品を紡いでる社会的落伍者。

その事実は、今のファンタジー作家さまにはとても受け入れることができない確かな現実だった・・・。

・・・ただの無職の冴えない男。
・・・ろくな学歴も資格も無い男。
・・・お金も無く解消も無い男。

・・・そんな現実から目を背け、妄想じみたファンタジー世界に逃避している、つまらない男。
23創る名無しに見る名無し:2011/11/18(金) 16:07:56.28 ID:6C6HVosr
「将来はメキシコで作る車を北米市場に輸出することも検討しなければならない」と述べ、
円高対応には海外移転が避けられないとの見方を示した。基調講演後の質疑応答で答えた。
マツダは、メキシコで2013年度に稼働を始める新工場の建設を進めている。
http://www.yomiuri.co.jp/atcars/news/20111118-OYT8T00227.htm?from=yoltop

円高で生産シフトも=米が輸出拠点に―トヨタ社長
http://www.asahi.com/business/jiji/JJT201111180011.html

ホンダ、12年初めからカナダ工場で新型「CR―V」生産
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPJAPAN-24232620111117

スズキ、中国の合弁工場拡張=15年めど、50万台に倍増
http://www.asahi.com/business/jiji/JJT201111180032.html

パナソニックがマレーシアに太陽電池工場 500億円を投資
http://sankei.jp.msn.com/economy/news/111118/biz11111810300008-n1.htm

・・・と、このような具合に製造輸出産業が海外移転し、国内の雇用空洞化が加速している昨今。
例えば以下のような悲痛な叫びが、どこぞに残されていた。

36 名前: 名無しさん@12周年 [sage] 投稿日: 2011/11/18(金) 12:58:22.42 ID:92SIo3Ij0
田舎だと最近は土方もない時代。車の免許を持っていたとしても、そもそも求人がない。
あるのはタクシー位だけど手取りが月270時間働いて10万程度。
非正規広めないと国内の雇用が無くなると騒ぎ、企業は人件費浮かせて海外投資。
非正規労働者は薄給で蓄えもないまま簡単に切られて失職。これぞ構造改革!

そんな中・・・、

製造業派遣「原則禁止」削除…民自公が大筋合意
http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20111115-OYT1T00381.htm

そうなのだ。こうして政権与党は製造業という奴隷制度を容認せざるを得なくなったのだ。

そんな状況にも関わらず、ファンタジー作家さんは今日もファンタジーに熱を上げている。
妄想世界でのレベルが上がれば上がるほど、現実の自分のレベルはどんどん下がっていくというのに・・・。

「そうだぞ、ファンタジー作家さま。ファンタジーに興じているヒマがあるなら、何か仕事を見つけるかしなきゃなあ」
中年男は、そう言うと大きく溜め息をついた。人生にほとほと疲れ果てた、といった具合に・・・。

ファンタジー作家さまは動揺した。自分の未来に立ち込める暗澹とした絶望を、一瞬垣間見た。
だが、ファンタジー作家さまはそれを直視できなかった。

シェアワールドという現実逃避のぬるま湯の中で、甘美で虚しい夢を追い続けた日々・・・。
そんな中二病っぽい妄想を延々と書き連ねていたその時間と労力を思った。

「・・・ううっ!」
ファンタジー作家さまは唸った。そして思わず目を閉じ、顔をそむけた。

このシェアワールドの妄想ファンタジー物語を否定してしまったら、
今まで勉強も仕事もろくにせず、没頭してきた己に対する自己否定になってしまう、そのことの気付いたのだ。


   妄 想 世 界 で の レ ベ ル が 上 が れ ば 上 が る ほ ど 、
 
      現 実 の 自 分 の レ ベ ル は ど ん ど ん 下 が っ て い く・・・ああっ!

24創る名無しに見る名無し:2011/11/19(土) 17:25:36.18 ID:Cn9/mSa8

 < 第二章 シェアワールド作家さまの動揺 >


>『就活戦線もう過熱…2か月短縮の短期決戦化が逆効果、焦る学生 - 大学のサポートも前倒しされ「学業に専念」からは程遠い実情』

>再来年の春に卒業する現・大学3年生の就職活動のスタートが、今年から2か月遅い12月となった。
>学生が学業に専念できる時間を増やそうと、経団連が採用活動に関する倫理憲章を改定して申し合わせたためだ。
>ところが就職活動の短期決戦化に焦りを感じる一部学生で就活塾は以前にも増して盛況となり、
>大学のサポート活動も前倒しされるなど、かえって戦線は過熱。「学業に専念」からはほど遠いのが実情だ。
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20111116-OYT1T00622.htm

「・・・ど、どうしよう」
食卓で朝食をモグモグ食べていたシェアワールド作家さん。
ふと目にした読売新聞の当該記事を読んだ瞬間、心臓がキュッ!と締め付けられる思いがした。

そう、このシェアワールド作家さんは、現在、Fラン大学の二年生。
上記の記事によれば、いよいよ来年の今頃は就職戦線に突入するのだ。
だけど果たしてその時、シェアワールド作家さんはこの戦いに生き残れるのだろうか?
シェアワールド作家さんの中二病な脳味噌の中で、不安と恐怖がグルングルンと渦巻き始める。そして・・・、

>『大学新卒就職内定率が史上二番目の低水準』

>来春卒業予定の大学生の10月1日時点の就職内定率は59.9%で、
>前年同期に比べて2.3ポイント改善したことが18日、文部科学省と厚生労働省の調査で分かった。
>現在の方法で統計を取り始めた1996年度以降では最悪だった昨年度に次ぐ低い水準。
>2000年代前半の就職氷河期を下回り、厳しい環境が続いている。
http://www.nikkei.com/news/headline/article/g=96958A9C93819695E3E5E2E1838DE3EAE3E3E0E2E3E3E2E2E2E2E2E2?n_cid=DSGGL001

「・・・・・・。」
シェアワールド作家さんは、沈黙した。

現役で上位私大を狙うという失策をやらかし、見事に全滅したシェアワールド作家さん。
親が老後の資金にとコツコツ貯めた定期預金を解約し、数十万もする予備校の授業料を支払い、
それでもシェアワールドの妄想世界で一円にもならない書き込みを繰り返し、
貴重な時間と労力を見事に浪費し、ようやく入学したFラン大学(文系)。

周りは中学生レベルの算数はおろか、アルファベット全部書けるかすら怪しい連中ばかり(もちろんシェアワールド作家さんも)。
そんなDQNだらけのキャンパスでは、シェアワールド作家さんみたいなヲタ系キャラはヒエラルキーの最下層。

もちろんシェアワールド作家さんにも特技がある。
例えばラノベチックな近未来アクションやら魔物やら異世界ファンタジーあたりの知識や技能は結構あるのだ。
それらはシェアワールド作家さんにとっての教科書といえるラノベとアニメと漫画とエロゲから学び取ったものだ。
もちろんこんな知識など、世の中では殆ど役に立ちそうにない。
それこそ本業の作家さんになれるなら別だが・・・なれるのかな?
25創る名無しに見る名無し:2011/11/19(土) 17:28:02.34 ID:Cn9/mSa8
台所で洗い物をしている母が、お皿を洗いながら言った。
「あんたも来年就職なんだから・・・いつまでもマンガやアニメの本(※ラノベのことらしい)なんかもう止めなさい」

チクリときた。それこそ今までシェアワールド作家さんが目を背けてきた辛い現実そのものなのだから。
Fラン大学文系卒のヲタで、実社会で役に立つ知識も技能もないシェアワールド作家さま。
そんな卑小な自分から逃げるために、ますますシェアワールドという仮構の妄想に世界にはまってゆく・・・実に寂しい青春。

すると向かいの椅子に座っていた父が言った。
「そう、母さんの言うとおりだぞ。お前もそろそろ進路をちゃんと決めなきゃならない時期に来てるんだぞ」

「・・・うっせーんだよ!」
気付いたらシェアワールド作家さんは大声で叫んでしまっていた。

驚いた顔でシェアワールド作家さんの顔を見上げる父。
洗い物をしていた母もまた、突然の息子の反抗に怯えるような表情を浮かべている。
食卓は沈黙した。テレビの音だけが虚しく部屋に響いた。

「何だよ!進路とか就職とか!どうだっていいじゃんかよ!」
いつもどおり、内弁慶を大爆発させたシェアワールド作家さん。
そのまま食べかけの朝食を放り出し食卓から離れ、自室へと逃げ込むと扉をバターン!と叩きつけるように閉めた・・・。

・・・部屋の中には、シェアワールド作家さんの現実逃避の世界が広がっていた。

本棚にはラノベ・・・電撃、富士見ファンタジア、スニーカー文庫。
それらの表紙には、パンツ見えそうなミニスカの美少女キャラが、実にカラフルに描かれていた。
実は最近、ハヤカワや創元文庫まで読むようになり、SFや幻想文学にもちょっと興味津々。
シェアワールド作家さんも、ちょっとだけ大人になってきたのだ(もち間違った方向だけど。就活の本でも読めばいいのにね)。

そして童貞のシェアワールド作家さんの最高の恋人は、長いことやってるエロゲ。
パソコンには海外サイトからダウンロードしたAVが増設HDDにみっちりと詰まっている。

このように、シェアワールド作家さんは、現実逃避の王道をひた走っていた。
そう、ここは天国なのだ・・・「現実」さえ押し寄せなければ。
シェアワールド作家さんにとっては悪夢であり絶望そのものである「現実」
この、虚構に満ちた天国を打ち崩す、恐怖そのもの。

シェアワールド作家さんの心に、一瞬、激しい自己嫌悪が現れた。

「おい、お前、シェアワールドでくだらねえ妄想こいてるヒマなんかあるのかよ」
心の中にいるもう一人の自分が、そう囁いた。

シェアワールド作家さんは、思わず目を閉じた。
その表情は、苦渋に満ち溢れている(ブサイクなのは仕方ないけど)。
そのまま一分ほど、沈黙する・・・。


   妄 想 世 界 で の レ ベ ル が 上 が れ ば 上 が る ほ ど 、
 
      現 実 の 自 分 の レ ベ ル は ど ん ど ん 下 が っ て い く・・・ああっ!


・・・そして一時間後。

シェアワールド作家さんは、ベッドの上に横になってラノベを読んでいた。
今日もまた、日が暮れてゆく・・・。
26創る名無しに見る名無し:2011/11/21(月) 16:26:21.71 ID:DOb/UijS

 < 第三章 シェアワールド作家さまの絶望 >


「・・・では、こちらのグラフをご覧になってください」
Fラン大学の大教室で行われた、来年度に向けての就職ガイダンス。
大学の就職担当の職員の男が、プロジェクターで映し出されたグラフを指差した。

 >少子化なのに大学定員は増え続けてる
 >http://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6c/52/224298556ccc04d275de60146b9db0d6.jpg

Fラン大学の学生であるシェアワールド作家さんは、
プロジェクターで映し出された上記のグラフを食い入るように見る。

「ご覧のように、昭和25年以降、日本では大学の数が増加し、大学全体の定員も右肩上がりで増えています」
そう言って、就職担当の職員は、レーザーポインターでグラフに描かれた右肩上がりの曲線をなぞった。
戦後は僅か二万人ほどだった大卒者が、現在は五十万人超。これは確かに多い。

「一方、内定率についてですが、これは景気動向にも大きく作用されるので一概には言えませんが・・・」
職員はグラフの青線の部分をレーザーポインターで指し示した。
「大学生の増加にそれなりに対応してきたことはわかります。」
バブル景気が弾ける平成三年度までは、おおむね八割台で推移してきたことを説明した。

すなわち、戦後は大学および大学生の数が急増してきたものの、
戦後50年近くは日本は右肩上がりの経済成長を続けてきたので、
雇用市場はその大学生の増加に対応できだけの需要を生み出せてきたのだ。

「だけどですね・・・みなさん」
ここで職員は声を落とした。そしてほんの数秒、無言となる。
ガイダンスに参加した学生たちが、その突然の雰囲気の変化に、僅かに動揺する。
沈黙はしばらく続いた。空調の音が、大教室の中でやけに大きく響く。

シェアワールド作家さんもまた緊張した。職員が今まで話した話の、大体半分くらいは理解できた。
何せ普段からラノベとエロゲとアニメとマンガで鍛え抜かれた頭脳なのだ。
ヲタレベルという点では、自分の周りにいるFラン学生たちとはちょっと違う。

職員は、学生たちの反応を充分見計らった上で、ようやく口を開いた。
「もう、戦後の経済成長神話は終わったんです。バブル経済の終焉とともにね」
そして職員は、軽く机を叩いた。
「すなわち、今の大学生の多くは、就職市場にとっては余剰な人たちなんです」

いいですか、既に単純な右肩上がりの経済成長は終わってるんです。
さらにグローバリズム化が進んだ昨今、大企業を中心として生産拠点を人件費の安い海外へ移転させています。
特に製造業・・・人件費はじめインフラ等固定費が掛かってしまう産業は、現在積極的に海外へ事業展開してます。
つまりどういうことかというと、国内の雇用が空洞化している、ということです。
もっと解りやすく言えば、あなたがたの就職口はどんどん減っているんです。

語尾をピシリ!と叩きつけるように職員は言うと、グラフを再び指し示した。

大企業などでは大卒は原則、幹部候補生のみの採用にシフトしつつあります。
さらにグローバリズム展開を想定して、こうした幹部候補生たちも外国人を採用するケースが目立っています。

「・・・英語や中国語を話せないと、もうダメかもしれませんね」
と続けて、職員はちょっと笑って見せた。だが、学生は誰一人笑うものなどいなかった。
それはもうジョークにすらならないのだ。何せここはFラン大学なのだから。
27創る名無しに見る名無し:2011/11/21(月) 16:27:27.15 ID:DOb/UijS
そして、そんな話を聞かされているシェアワールド作家さんはというと、何故かもう呆然としていた。
就職とか結構ヤバイんだな、ということは話を聞いていて何となくわかるのだが、
それをよそに既にシェアワールド作家さんの脳内は現実逃避を始めていたのだ。

架空、仮構の世界は、現実逃避をした者たちのゆりかご。
そこはかりそめの甘い夢や、ぬるま湯のような妄想が交錯する社会的弱者たちの楽園。
現実に向き合わない、という一点において、決して揺らぎの無い世界。

非現実的な設定の数々・・・異世界、終末世界、破滅世界、基本女キャラは美少女、都合よく出てくる敵。
このシェアワールド作家さんのように他人性というものと渡り合えない弱者たちのために、過剰に守られた設定。
決して破られることのない予定調和の虚構の中では、現実と向き合うべき文学性が芽生えることなど当然なく、
現実社会から切り離された虚しい夢の中で、いつまでも醒めることの無いさらなえう夢の続きを紡ぎ続け、取り繕い・・・、

「・・・労働集約型産業、例えばですね、介護職など、具体的な資格を持つことも選択肢の一つなんです」
職員は相変わらず続けていた。最も、この種の仕事は所得は低くならざるをえないのですが、と付け加える。
周囲の学生たちは真剣な面持ちでメモをとったり、ガイダンス用に渡されたレジュメに目を通していた。

大学が増えすぎたことにより、かつては高校を卒業して就職したであろう人間すら、大学に行くようになった。
だが、先ほども申し上げたように、もう国内の労働市場ではこういった学生の受け皿はもうなくなってきているんです。
本来、高卒で就職すべき人材すら、増えすぎた大学に吸収されてしまったという現実があります。
(「うちのようなFラン大学にね」とは、さすがに言わなかった)

だが、もうそういった言葉は、シェアワールド作家さんの耳には届いていなかった。
都合のよい美少女との掛け合いが繰り返される、ぬるま湯のような物語世界へとジャンプしていたのだ。

・・・中小企業を中心とした就職ガイダンスが近々開かれます。みなさん積極的に参加してください。
実は中小企業全体の求人数を見れば、結構進路はあるんです。後は皆さんの決意と覚悟なんです。
名前だけの大企業を目指してもダメです。企業のブランド名に惑わされないでください。

そう言って中小企業就職ガイダンスのスケジュールを黒板に書き付ける職員。
くわしくはここにパンフレットがありますから、ガイダンス終了次第、とりにきてください、と告げながら。
Fラン大学ならFラン大学で、とりあえず学生たちの行く末を心配はしているのだ。

一方で・・・ツンデレやらヤンデレやらの美少女たちと、なにやらモンスターっぽい敵と戦う己がいた。
そこは実に都合の良い試練や、実に都合の良い危機が主人公に襲い掛かり、
実に都合よく苦しみながら、ついには勝利したりするのだ。そしてお決まりの、美少女キャラとの掛け合い。
それは文学でなく、商業小説にすら成り得ない、ただの下らない、瓦礫の山のごとき夢のおはなし。


   妄 想 世 界 で の レ ベ ル が 上 が れ ば 上 が る ほ ど 、
 
      現 実 の 自 分 の レ ベ ル は ど ん ど ん 下 が っ て い く・・・ああっ!


終わり無き日常を生きよ!