THE IDOLM@STER アイドルマスター part7
>>262 別に句読点は気にならなかったよ。
個人的にはセリフだけで進んでる所がちょいと気になった感じ。
#自分だともうちょっと表情とかの描写を入れたくなる。
あと、この冬,アイドルマスターウエハースが発売予定だったはず。4ヶ月遅いわ!
意見、アドバイスありがとう御座いました。
これから書く時に心の片隅にでも留め置くようにしたいと思います。
>>263 対応というか全員にプロフィールが設定されてて、その中に出身地の項目もあるってだけなんだけどね。
まとめはテキトーにwiki辺り見てもらえれば。
ちなみにちょっと前のだからこの画像以降追加されてるアイドルも居るけど
ttp://imas.ath.cx/~imas/cgi-bin/src/imas97131.jpg なんとゆーか、最初は興味無くても人が書いてるとじゃあ自分も書いてみようかなって気になるよね。
んで業務連絡ー、業務連絡ー。
>>260まで保管庫に収録ー。いつも通り確認訂正お願いします。
今回は作者別も更新。これも自分が書いたから追加してくれって時はこちらにでも書いて頂ければ更新します。
もちろん御自分でして頂いても構いません。
で、レシP様毎度毎度申し訳ありません。今回は、
・赫い契印<Signature blood> なんですが、
最初にページ作成する時にそのまんまで作っちゃったもんですから
<>の部分が表示されないんです。(>がプラグイン扱いになるため)
んで、作者別のページのフォーマット準拠だと
・作者別のページから本文に飛べるけど該当部分だけベッコリ凹む
・作者別のページからは本文に飛べないけど表示が崩れない
の二者択一になってしまうのです。一応後者で作っておきましたが……
私で考えられる範囲の解決策としては、
・赫い契印<Signature blood>で新しいページを作る
・既に作成したページタイトルの不等号を半角から全角に変える
のどちらかなのですが、後者の方法の「既に作ったページタイトルの変更or削除」は管理人さんしか出来ないので、
管理人さん音沙汰無しの現状だとどーすればよいものやら。
勿論これらが私の知識不足、早とちりでしかない可能性もあるのでとりあえず御確認お願い致します。
これで伝わるかしら。説明下手で申し訳ありません。
それではこれにて失礼。
群馬が罰ゲーム過ぎる……
はいごめんくださいレシPです。
1本書けましたので投下します。
美希とやよいで『ゆとり指南』、タイトルでお察しかもしれませんが
落語翻案ものです。本文4レスお借りします。
ではひとつ、ばかばかしいお話にお付き合いのほど。
新しい年も明けまして、2月も半ばとなりました。こちら765プロでもアイドルの
みなが仕事に学業に精を出す今日このごろ。
「美希さん美希さん、私にゆとりを教えてくださいっ!」
「えーっと……どーゆーイミかな?」
昼下がりの事務所で、なにやら決意の瞳でそう請うのは高槻やよい、訳が
わからず首をかしげているのが星井美希。いずれもただいま絶賛売出し中の
アイドルの女の子であります。
「あっごめんなさい、わたし、昨日の番組収録ですっごく怒られちゃって」
「へえ?やよいが怒られるなんて珍しいね」
なんでもトークバラエティで張り切りすぎてしまい、他のゲストに迷惑を
かけてしまったとの由。ちょうど戻ってきたプロデューサーも苦笑しながら
解説します。
「テーマが節約術だったんだよな。俺もやよいの得意分野で目立てるって
期待してたんだが、期待以上でな」
「お笑い芸人さんがいっぱいゲストで来てたのに、わたしその人たちのお話
取っちゃったみたいで」
若手芸人の貧乏話というのは言わば様式美であります。やれ小麦粉だけで
1週間生き抜いた、アパートを追い出されて青テントから営業に出かけた、
その夜の食事にありつくためだけにナンパの腕が上がったなどなど、悲惨な話を
笑いに変えて繰り広げる話芸の見せ所と言えましょう。
「あ、わかった。やよいの話のほうがレベルが高かった?」
「ピンポン。お笑いの話はどうしてもネタ重視だろ、笑いは取るんだがその
すぐ後にやよいがためになる話をするもんだから」
「ミキはやよいのおトク情報、好きだよ?」
「そこはいいんだよ。でも情報番組じゃなくバラエティなんだから、バカな話や
失敗したネタで笑いも入れなきゃならないだろ」
収録した番組的には情報の面では充実した濃い作品になりましたが、観客を
笑わせるために呼ばれたゲストが不完全燃焼で終わったしまったのだそうです。
「それでわたし、ディレクターさんに『もっとゆとりをもって、まわりの空気を
読んでくれなきゃ』って言われちゃったんです」
「笑い混じりだったし、ニュアンス的にも怒られた感じじゃなかったんだけど、
いつまでもワガママが通用する世界じゃないしな」
「だからゆとりを勉強したい、っていうコト?」
「はいっ。美希さんっていつもおちついてて、わたしだったら収録前には絶対
はわわーってなっちゃうのに控え室で仮眠とってたり、わたしもいっぱいがんばって
美希さんみたいになりたいなーって思ったんです!スタッフさんたちからも
ゆとりがあるとかゆとりがあるいてるとか言われてて、ほんとすごいなーって!」
「えーっと……後半ほめられてないっぽいの」
「美希さん、わたし真剣なんです!どうしても美希さんのゆとりを身に着けないと、
わたしお仕事干されちゃうんですっ!」
「そ、それはオーバーだよ」
「そうなったら家にお金入れられなくなっちゃうし弟たちも小学校やめて働いて
もらわなきゃなりません!それもこれもわたしにゆとりがないからなんです、
ごめんね長介、うわあああああん」
「……やよいにナニふきこんだのハニー」
「何も言ってないよ。それにハニーと言うな」
「ともかく、今のやよいを見てたらなるほどゆとりのひとつもあった方がいい
っていうのは、さしものミキにもわかったの。いいよやよい、ミキがしっかり
ばっきり、ゆとりのゴクイを教えてあげるから!」
「ほんとですか美希さん!ありがとうございます!わたし、死んじゃうくらいの
気持ちでがんばりますっ!」
「……まず最初に肩のチカラ抜くとこから始めよっか、やよい」
とまあそんなわけで、やよいのゆとり修行が始まりました。
「みんなはミキがただ単にサボってるだけって思ってるみたいだけど、あれは
実はそうじゃないの」
「俺もただサボってるだけだと思ってた」
「ちっちっち、ハニーもまだまだだね。みんなが思ってるようなゆとりは
『駄ゆとり』といってフーリューのかけらもないんだよ」
「風流ときたか」
「うっかりすれば人さまに失礼になるものを、タイミングと空気を読みながら
可愛げのあるしぐさに変えて、しかもこちらは体を休めて精神を集中させる
という、それがミキのゆとりのシンコッチョーなんだよ」
「ふええ、美希さんすごいです!」
「正当化ここに極まれりだなオイ」
プロデューサーは渋い顔をしてみましたが思い返してみるとなるほど、
美希のあくびや昼寝は制作陣や共演者に悪くとられたことがありません。以前も
大女優との共演時にやらかしたものの、青くなるスタッフを尻目に『うふふ、
美希ちゃんってかわいいわね』などと許容の言葉を頂戴し、結果的に番組の質
まで上がったという逸話すら持っているのです。
「ふむ、まあ確かにやよいは収録に臨んで力が入りすぎる部分もあるな。今までは
まず自分の全力を出すのが最優先だったが、コミュニケーションの絡む仕事が
出てくると落ち着いて周囲を見定める余裕も欲しいとは考えてしまう」
「ゲーノー人なんだから自分が頑張るのなんか当たり前って思うけど、他の
タレントの人がいたらその人にもたっくさん目立ってもらわなきゃでしょ。
今はこの人がしゃべる番、今は自分がイケイケなとき、みたいな」
「適材適所ってことだな」
「みんなが楽しい方が番組も楽しいですよね」
「他の人の持ち場の間こそ、ゆとりの持ちどころなんだよ。リラックスする
ことで自分の出番を見極めたり、番組の流れを感じとってテキカクな話題を
振る準備したり」
「なるほど、緊張してたらそんな余裕ないもんな」
「もっと慣れてくると律子のお説教の最中に話を聞かないというスゴ技も」
「それはダメだろ」
そんなこんなで何日かが経ち、美希がやよいの師匠となって修行のほうも
だんだんと形になってまいります。今日は実地訓練ということで、番組収録の
ためにテレビ局にやってきました。
リハーサルの方はつつがなく終了いたしまして控え室に戻った一行、美希が
口火を切りました。今こそゆとりを持つときだ、と言うのです。
「じゃ、ミキがちょっとやってみるね。題して『本番収録前のゆとり』」
「はいっ」
「本当に本番収録前だし、やよいの身になりやすいかもな」
「歌でもお芝居でも、本番だからってキンチョーすることはないんだよ。それまで
やってきたレッスンやリハーサルを、そのまま出せればそれでいいんだもん」
「なるほど、そうですね」
「そう考えるとだいぶ気が楽になるでしょ、ミキはいっつもそうしてるん
だよ。たとえば……」
そう言うとソファに深く腰かけ、お茶のペットボトルを持って目を閉じます。
「もうすぐ収録、準備もオッケー、あとはスタッフの人が呼びに来るのを待つだけ
……こうやって空調の効いた控え室で、ゆっくりお茶でも飲みながら、これからの
ステージのこと考えてると、楽しみで、楽しみで……あふぅ、ならないの」
それは見事な、しかもたいそう可愛らしいあくび。固唾を呑んで見守っていた
プロデューサーたちも一瞬、軽い眠気に誘われたほどです。
「なるほどこれか。だが美希、言っとくが寝るなよ」
「いーじゃん、ハニーのケチ」
「ハニーと言うなと」
「ね?やよいもやってみなよ」
そう促され、やよいも美希に並んで腰かけました。
「は、はいっ!えっと、本番前であとはスタッフの人が呼びに来るのを待つだけ、
こうやって空調の効いた控え室で……って、スタジオが寒かったらどうしよ、
電気代ももったいないしやっぱりスイッチ切って」
「横道にそれてるよ、やよい」
「はわっ!……お、お茶ですねそうでしたね、……でもこのお茶ってテレビ局が
用意してくれるペットボトルですよね、わたしいつも飲まないで家に持って
帰ってるんですけど」
「飲んで!今日は飲んで!」
「わ、わかりましたぁ……んく、んく、ふぅ、おいしいですー。あ、なるほど、
なんだかほっとした気持ちです」
「うんうん、本筋に戻ってきたよ」
「あっでもキャップとパッケージは分別しておかないと」
「そういうのは収録後でいいの!」
「ふぇ?じゃ、じゃあ次はえっと」
「ここ一番のキモだぞ、やよい!」
「やよい、これからの収録のこと考えるんだよ」
「はっ、はいっ!そうですよね、わたしは今日のためにレッスンもいっぱい
がんばりましたし、いまのリハーサルもNG出さずにできました」
「でしょ?やよいが心配することなんか、なーんにもないんだよ」
「あとは本番で、練習の成果を思う存分出すだけです。スタッフの人が呼びに
来てくれるまで、こうやって空調の効いた控え室で」
「うんうん」
「ゆっくりお茶を飲みながら、これからの収録のこと考えると……楽しみで、
楽しみで……」
「あと一息だよ、やよい」
「楽しみで……うっうー!なんだかめらめらーってしてきました!今日は
すっごくいい番組になりそうですっ!」
「っ、えええ〜?」
ま逆のテンションになってしまったやよいに驚く間に、聞こえてきたのは
ノックの音。
「高槻さーん、巻き入りました、10分で本番です」
「あっはい、いま行きますっ!」
ADの声に、ばね仕掛けのように立ち上がりました。
「えっちょっ」
「や、やよい?」
「美希さんありがとうございます、わたしすっごくリフレッシュできました!
これなら本番も、ばばーんってうまくできそうですっ!」
言葉を失う二人に言うだけ言うと、満面の笑みで右手を高く差し上げます。
「うっうー、ハイ・ターッチ!」
ぱん、と軽やかに掌を打ち合わせ、両腕を大きく振って最敬礼。
「じゃあプロデューサー、美希さん、わたし力いっぱい頑張ってきますねっ!」
「あっはいなの」
「お、おう、思う存分やって来い」
心のゆとりなどどこへやら。
風をも切らん勢いで部屋を飛び出してゆきました。呆気にとられた二人は
完全に置き去り状態であります。
少したって、ぽつりと美希がつぶやきました。
「……ハニー、やよいにゆとりの道はやっぱりキビシーってミキ思う」
「俺も思ったわ。あとハニーって言うな」
「タチに合わないっていうか、スジが悪いっていうか、ね。やよいはあんなふうに
全身にチカラ入りまくりなのがいいんじゃないかな。こないだみたいに失敗も
あるのかもだけど、ミキ的にはそれもやよいらしいんじゃないかって思うよ」
「ああ、そうかもな」
人の個性なんてものは、一朝一夕でほいほい変わるものではありません。
美希には美希の、やよいにはやよいの十数年の成長が、彼女たちの彼女たち
らしさを形作っているのです。大先輩の鼻先であくびをかますのもそう、芸人
渾身のネタにも負けず実生活に役立つ知恵を披露するのもそう。
「前のだって怒られたんじゃないって言ってたよね?やよいはああいう子、って
みんなわかってるんでしょ?ほんとは」
美希が尋ねると、プロデューサーはばつの悪そうな顔になりました。
「やっぱりー」
「すまん。そうは言っても緊張をほぐすスキルは持ってて損はしないんで、
美希に、ちょっとだけ力を借りようと思ったんだ」
「むー、ヒドーイ」
「ごめんな。美希じゃないとできないことだったからさ」
「そんなふうに言われたら怒れないよ。ハニーってやっぱりズルイの」
そんなことを言いながらプロデューサーにしなだれかかります。負い目の
あるプロデューサーもさすがに無下にはできません。どっかりソファに腰を
下ろし、二人で控え室のモニタを見つめました。
「お、収録始まるな」
「それでね、ミキちょっと思ったんだけど」
「なんだ?」
「ハニー……やよいについてなくていいの?」
美希の言葉に応ずるごとく、部屋の扉に矢のようなノックの音。その上さらに、
先ほどのADと思しき慌て声がかぶさります。
「あ、あのっ、まだ中にいらっしゃいますかっ?さっきから『プロデューサーが
来ない』と、高槻さんが困っていらしてっ」
「……あ、やっべ」
それはそうでしょう、やよいのプロデュースに同道してきたわけですから、
ステージ脇で細かい指示を出さねば具合がよくありません。
「あはぁ」
青くなるプロデューサーに、嬉しそうに微笑む美希が言いました。
「なあんだ、ハニーの方がスジがいいの」
おそまつ
メグレスPいつもいつもおまとめ作業お疲れ様です。完全にわたくしの
個人趣味暴走してる作者ページまで補完していただき言葉もありません。
>今回は、
>・赫い契印<Signature blood> なんですが
の件につき、リンクが繋がるように修正することができました。
wikiのリンクは『[[○○>■■]]』の形式で、表示されている文字列と異なる
名称のページへジャンプさせることができます。本件では
[[赫い契印>赫い契印<Signature blood>]]
となります。
本来の管理人が現れないままの整備は困りごとも多いですがずいぶん
手をかけていただき、ありがたく思っています。
そしてあのwiki作った人、見てる〜?反応待ってるよー。
えーさて、わたくしごとですが全年齢向けSSが本作で200本となりました。
100本記念で保管庫作ってはや3年半、事情も環境もずいぶんと変わりましたが
ゲームもメディアも増え、諸論ありながらもたくさんのPが現在もアイドルたちを
育成しつつ活躍中であります。
自分に読者さんがいるかどうかはともかく、マーケットが存在することがわたくしの
脳内妄想の糧になっている部分もございまして(キャラスレの一言ネタがSSに
育ったり)、今後も拙いながらにちょっとした文章なぞ投下させていただければと
思っております。
引き続きよろしくお願いします。
ssじゃなくて台詞集みたいな感じですが、ちょっと妄想してたらにやにやしてきたので投下させていただきます。
題して『チョコ渡されるときに言われたい一言』
春香「プロデューサーさん! 私、プロデューサーさんのこと、大好きです!」
真「プロデューサー! あの、ボク……プロデューサーのこと、大好きです!」
やよい「うっうー! プロデューサー、だーいすきですー!」
響「かなさんどープロデューサー! ……うがぁぁぁ! これ、すっごい恥ずかしいさー!」
雪歩「ぷ、プロデューサー! あ、ああああの! あの! えっと、えっと……だ、だ、だ、大好きですぅ!」
真美「あ、えっとさ、にーちゃん、あの……好き、だよ?」
亜美「にーちゃんだいすきー!」
伊織「ほら、あれよ、その、えっと、少しくらいなら……す、好き、よ、あんたのこと」
貴音「お慕い申し上げております、あなた様」
千早「プロデューサー、あの、その……好き、です……」
律子「ふふっ、大好きですよ、プロデューサー殿」
あずさ「私の運命の人になっていただけませんか、プロデューサー?」
美希「はーにぃっ、大好きなの!」
脳内再生した時の美希の破壊力がやばい。
高槻やよいが自主レッスンから帰ってくると、事務所の中に朝見かけた姿はどこかへと消えていた。
祝日のことである。その日は予てから高木順二郎社長がこの日は会社丸ごとオフにする! と宣言していた日で、きょろきょろと辺りを見渡しても人っ子一人見当たらない。
やよいが今事務所の中にいるのは、朝、彼女が間違えて出勤した際にこの部屋で事務仕事をしていた『誰か』がいたからで、自主レッスンを終えて戻ってきても部屋に入ることが出来たのはその『誰か』がまだ帰っていない、ということになる。
しかし、その『誰か』の姿が見られなかった。
ぽふぽふと歩いてデスク群に近付けば、その『誰か』のデスクの上にはすっかり冷めた珈琲がマグカップの中で静かに佇んでいた。
パソコンの電源は入りっぱなし。一応スリープモードにはなっているらしく、電源ランプは気だるげに点滅していた。
買物にでも出かけたのかな、と思う。
けれど時間はお昼を大きく回り、そろそろおやつ時。昼食を買いに行くには少々遅くないかな、とも思う。
じゃあ、どこに?
やよいが思いつく場所は、一つしかなかった。
果たして、件の人物はそこにいた。
仮眠室である。
この仮眠室はかつてのボロビルから移転する際に新たに設置されたもので、他にもやよいが先程まで居たレッスン室や以前の倍程に広くなった給湯室(という名の駄弁り場。キッチン付)等が所属アイドルや事務員の要望によって備え付けられていた。
主に事務方の熱望、要望によって設置された仮眠室のドアを開けて、一番手前。八つあるベッドの一つに、こんもりと毛布の山が出来ていた。
やよいの探していた『誰か』――プロデューサーである。
プロデューサーは入口に背を向ける様に横になって、まるで電池の切れた人形の様に静かに眠っていた。
あまりに静かでまさか、との考えが一瞬やよいの頭を過ぎったが、よくよく耳を澄ませば静音になっている空調に混じって微かな鼻息が聞こえて、ほっと胸を撫で下ろす。
壁に立てかけられているパイプ椅子をベッド脇に設置して、座る。首の所までしっかりと毛布に埋まっており、後頭部しか見えなかった。
やよいはプロデューサーの後頭部をじっと見つめる。すっかり寝入っているらしく、彼はピクリとも動かない。
疲れているんだろうなぁ、とやよいは思う。当たり前だよね、とも。
竜宮小町をはじめとした総勢12名のアイドルたちは、今、それぞれに雲を得て空高く昇り始めた所だ。彼女たちの仕事が増え、それに従い人員が増え、事務所が手狭になり、こうして新しく居を構えることとなった。
まだボロビルに居た頃からの、謂わば最古参の一人である彼は、それに伴って今までのプロデュース業と事務仕事に加えて新米たちの教育にまで携わることとなった。
今日、本来ならばオフであるにもかかわらず彼がこうして出社していたのも、消しても消しても増え続ける仕事を纏めて終わらせるためであったらしい。
今を乗り越えれば――。黄昏時の事務所の中で、彼と音無小鳥、そして秋月律子の三人で目の下に物凄い隈を作りながら死んだような目で笑っているのをやよいは目にしたことがあった。
労基法何それ美味しいの? なレベルの激務に身を置く彼らの姿には一種特有の絆があり、それを少々羨ましいと思う傍らで出来るだけ無理をしてほしくないな、とも思ったのを覚えている。
小さな寝息を立てるだけの後頭部を、人差し指で軽く突く。んがぁ、と無意識の抗議が返ってきた。
やよいの脳裏にあるのは、いつかの病室で横たわるプロデューサーの姿だ。
あの時と原因こそ違えどこのままではまたあの光景を目にすることになってもおかしくはない。そしてそれはきっとやよいだけではなく、当時を知るものであれば誰もが思っているに違いない事である。
――でも、じゃあ、どうすればいいの?
突いたことによって軽く跳ねてしまった髪の毛を撫で整えながら、やよいは考える。
――私にできること。何かないかなぁ。
やよいに事務仕事を手伝うことは出来ない。精々がパソコンとにらめっこをする彼を応援したり、かっちかちに凝り固まった肩をマッサージするくらい。
でも、他の『何か』ならば。
『何か』出来ないだろうか。
『何か』ないだろうか。
静音になっている空調の吐き出す空気の音、小さな寝息、電波時計の駆動音。
そして自身の呼吸の音。そんな穏やかな世界でやよいは暫し黙考し。
ぱさぱさに荒れた髪の毛を撫でながら、不意に一つの考えに辿りついた。
あまりに大胆な考えに、一瞬音が消え、思わず呼吸までもが停止した。
あっという間に頭に血が上る。顔が熱くてたまらない。心臓が高鳴っていくのを自覚する。
ごくり、と唾を飲み込んだ音は、想像以上に大きく響いた。
――だ、だいじょうぶ、へんなきもちは、ない、よ、うん……!
心中で誰にともなく言い訳して、やよいはそっと靴を脱いだ。
お邪魔します、と小さく呟いて、毛布をそうっと持ち上げる。起こさないように、起こさないように、身長に潜り込む。
張り付いたプロデューサーの背中は、予想以上に温かくて、大きくて、汗臭くて、逞しくて、安心した。
「……たぅー……」
口から吐息ともつかない不可思議な声が漏れた。
背中から腕を腹の方に回す。額をぴったりと背中に押し付ける。
心音が背中越しにどくどくと伝わってくる。上下する胸の震動が直接感じられる。
今朝、プロデューサーはこんなことを言っていた。
――休日だというのに出勤したくなるくらい、ここがやよいにとって居心地の良い場所なら嬉しいな。
目の下に見るに堪えない隈を拵え、珈琲の入ったマグカップ片手に、若干焦点の合わない目で、どこかからかう様な、けれど本当に優しい笑顔で。
そっと目を瞑る。
心音と、寝息と、温もりに身を委ねる。
もし、もし、やよいにとってこの場所がどうしようもないくらいに愛おしく心地の良い場所なのだとしたら。
――それは、皆と……あなたが。
いつか言えたら良いな、と思いながら、やよいはゆっくりと眠りについた。
思いだしたのは、幼い頃の記憶で。
母の、父の温もりに包まれて眠った夜は、どんな悪夢も吹き飛ぶくらいに安心することが出来た――。
以上、投下終了。これだけだらだら書いてもやりたかったのはやよいのたぅーのくだりだけです。
>>260です。二作目なのでコテとトリつけてみました。
では。
あーテステス。投下します。
タイトルは「四条貴音のラーメン探訪番外編」で。
お疲れ様でした。
型通りの挨拶をスタッフと交わしてテレビ局を出る。
目の前にはすっかり見慣れた高層ビル郡……ではなくそれなりの規模の町並みと、遠くに見える山と畑。
現在、四条貴音とその担当プロデューサーである自分は地方局での仕事を終えた所である。
ただ、いつもの仕事と唯一違う点を挙げるならば何を隠そうここ山形県は自分の故郷なのだ。
散歩がてらに駅までの道のりを歩く最中、隣を歩く貴音がわざわざこっちに向き直って言った、
「さて、ここ山形県は全国でも有数のらぁめん消費地と聞きました。そしてプロデューサー殿の故郷である事も存じております」
という言葉と、
もうその後は言わずとも解っているだろうなこのまま何もせずにサッサと帰ろうなどと言おうものならたとえ神様仏様アッラーエホバその他諸々が許そうともこの四条貴音が許さぬぞだから心おきなく貴様が知る名店へと案内するが良いさあ今すぐ早く迅速に早急に
と言わんばかりに期待に満ちた視線が少々痛い。
とはいえこれはもう予想通りの事だったのでうろたえる事無く、
「ご期待に添えるかどうかはわかりませんが、それでは行くとしますか」
そう軽く冗談めかして案内を開始する。
足は繁華街へ向かうことなくそのまま駅へ。そこから電車で揺られる事大体30分、お隣の天童市へ。
天童駅で降りてから真っ直ぐ国道13号線へ向かって5分程歩くとその店は見えてきた。
看板の下で回る水車が印象的な店だ。
タイミングの良い事に昼食の時間帯は過ぎて、店内は込み過ぎず空き過ぎずの程よい混雑具合。
大木を切り出したテーブルに二人揃って座る。
席に着いたところで貴音が声を潜めて問いかけて来た。
「プロデューサー殿……ここは……お蕎麦屋さんではないのですか? 私は確かにお蕎麦も好きですがやはり……その……」
「そ。お蕎麦屋さん。だけど貴音の期待を裏切るような事は無いと思うから安心して良いよ」
貴音を安心させるようにそう言って給仕のおばちゃんに前もって決めていた注文を伝える。
「鳥中華2つで」
「鳥中華2つですね。かしこまりました。少々お待ち下さい」
注文の品を待つ間、湯呑に注がれた蕎麦茶をすする。
香ばしい香りが心地良い。
と、少々不安げな貴音が声をかけてくる。
「それで鳥中華とは一体どのような……」
「それはまあ来てからのお楽しみという事で」
「そう仰るのでしたらお品書きは見ずに待つ事にいたしましょう」
確かに品書きを見てしまえばどんな料理なのかは一発で解ってしまう。
だが、あえてそんな事をせずにこちらの子供じみた悪戯心に付き合ってくれるという。
本当にありがたい話である。
そんなやりとりをしていると程なくして、
「ハイ鳥中華お待ちどう」
そんな声と共に二人の目の前に丼が置かれる。
具は鶏肉、三つ葉、ネギ、天かす、刻み海苔。
訝しげながらもまずはつゆを一口。
「少々甘めですがお蕎麦のつゆですね。ああ、胡椒も利いています」
そして麺を持ち上げた時、貴音の表情は驚きに変わる。
「なんと……これは中華麺ではありませんか」
そう、温かいそばつゆに蕎麦ではなくラーメン用の中華麺を入れたメニュー。
それがこの店の名物鳥中華の正体である。
おそるおそるといった感じで一すすり。
目を閉じて全ての神経を味わうという一つの事に傾けている。
味、香り、歯ごたえ、喉ごし。それら全てを確認するようにして最初の一口を嚥下する。
「……ふむ」
それきり貴音は一言も無く無言で食べ進める。
何も言わないという事はそれだけ食べる事に集中している訳で、つまりはこの味が気に入ったという証拠である。
程なくして丼を空にした貴音は近くの店員を呼び止め、
「同じものをもう一つお願い致します」
とのたまった。
さて、いつまでも貴音に見惚れている訳にもいかないので自分の分にも取り掛かるとする。
麺は中太の縮れ麺でだしと麺がよく絡む。
貴音が言っていた様につゆは甘めで、それに天かすと鶏の油も加わり
少々甘味が強くなりそうな所を強めに効かせた胡椒が引き締める。
適度な弾力を返す鶏肉は生臭さなど微塵も無い。
アクセントが欲しい時は小皿に載った漬物に箸を伸ばす。ちなみに今日の漬物は青菜漬けだ。
確かに美味いが、食べて感動や感激を呼ぶような物では無い。
だが、これはそれで良い。
毎日は無理にせよそれなりに食べ続けても飽きの来ない、それでいて偶に食べると安心する。
そういう味なのだ。これは。
そんな益体も無い事を思いながらこちらが食べ終わると、ほぼ同時に二つ目の丼を空にした貴音は
「大変美味しゅうございました」
そう言って手を合わせた。
店員のおばちゃん達もその様子を見て微笑ましく思ったのか笑っている。
「この鳥中華って最初は賄いとして従業員にしか出してなかったんだけど、
ここの蕎麦って所謂田舎蕎麦だから、確かに美味しいんだけどちょっと苦手っていう人も居るんだよな。
で、そんなお客さん向けに出してみたらって常連さんが提案してみたら大ヒット。とまあこんな感じらしい」
「成程……しかし世にはこのような物があったとは……まだまだ私も勉強不足のようです」
そんな事を話しながら新しく注がれた蕎麦茶を飲んで一息ついた後、満腹になった事で店内を見回す余裕が出来た貴音は少々意外そうに呟く。
「食事をするだけかと思いましたが、色々な物を売っているのですね」
「ここは老舗だしな。土産物代わりにもなるし貴音も何か欲しいのがあったら選んできていいぞ」
そうしてレジ近くの販売コーナーを物色していた貴音は蕎麦茶を手に取り、
「大変芳しい香りでした。東京に帰ってから雪歩に煎れてもらうとしましょう」
そう言いながら更に視線を巡らせると、ある物を見つけ雷に打たれたように動きを止める。
「なんと……鳥中華もお持ち帰りが出来るというのですか」
「この店の看板メニューの一つなんだしそりゃあるさ。流石に鶏肉は付いてないけどな」
次の瞬間瞬きもせずにこっちを見据える貴音。というかこの視線に晒されるの本日二度目だな。
「プロデューサー殿。古くから伝わる年越し蕎麦という行事について私は常々思っておりました。
無論伝統とは繋げてゆかねばなりません。しかし何故らぁめんではいけないのか。どちらも同じ麺類ではないのかと。
しかし、今年からはそのような事に思い悩まずともよいのです。このお蕎麦屋さんの手で作られたらぁめんならば!!」
「あー貴音。ここちゃんと通販もやってるから。流石に10箱も持ち帰れないから」
いやそんな恨めしそうな目で見られても困る。
結局すったもんだの果てに、東京の事務所に戻ったら即座に食べられるよう3箱だけ買う事にして、
後は欲しくなったら自分で注文するという事でこの件は解決した。
今更ながらにこれは映像に残してテレビ局に売り込んだ方が良かったのかもしれないなどと思いつつ、
自分の故郷の一部分でも気に入ってくれた事は素直に嬉しかった。
こうして、僅かな時間ではあるが俺の地元案内は終わりを告げたのである。
そして帰りの新幹線の中、鳥中華の味を思い出しているのか満足げに微笑む貴音の顔を見ながらふと思う。
(……事務所で食べてる時に誰かに発見されたらどうすればいいんだろうな。特に亜美真美)
1箱3食入り。それが×3で合計9食。その時居る人数がこれ以下ならば良いがもしそれ以上だった場合……
過ぎた事はどうしようもない。俺はそれ以上深く考える事を放棄する事にした。
皆売れっ子なんだ。そうそう大人数が集まる事は無いだろう。
以上投下終了。
……店名は出してないからセーフ。セーフです。
いやまー上で「地元出身のモバマスキャラに紹介させようぜ」とか抜かした割りにはフツーに貴音さんだったんですが、
いやだってコレ他のキャラ使ったら逆に怒られますよね? とか思っちゃったんで。ええ。
年越し蕎麦云々〜の台詞はこれホントは年末に投下するつもりだったんですが、単に私の遅筆のせいでここまでズレこみました。
ちなみに色々と郷土料理調べてたら、
『どんがら汁』
などという誰かさんにピッタリのブツがあったりしたんですが、そっちは多分書かない。
>>273 あれ……なんかこの美希の後ろにのび太クンが見えるよーな……
んでwikiの件。あー。そーかそれで良かったんだよなー。何を難しく考えてたんだろう自分。
しかし200本ですか。素直に凄いとしか言えないですハイ。
>>274 そういった1レス物でも構いませんのでまた何か浮かんだらどうぞお越し下さい。
>>277 うわーうわー何コレー。2828って感じでもなくてただなんか凄い幸せな気分になるんですけどー。
それではこれにて失礼。山形県民でしたー。
おはようございますレシPです。朝の日差しも明るくなってまいりましたが
みなさまいかがお過ごしでしょうか。
さて、1本書きあがりましたので投下させていただきます。
伊織で『いちばん咲き、みつけた』、本文3レスです。
「ふう、これが噂に聞く『テッペン超え』なのね。こんな時間まで外にいる
なんてウソみたい」
「もう二度と勘弁してくれよな。中学生をこんな時間まで連れ回したとあっちゃ
世間様に顔向けができん」
仕事帰りの車の中。
生まれて初めての体験に酔いしれている私をほったらかしで、プロデューサーは
お小言モードでハンドルを握っている。
「共犯者が正論ぶったこと言ってるんじゃないわよ」
「へえへえ主犯サマ。念のため言っておくがな伊織」
赤信号で停まった隙をついて、プロデューサーはこっちに顔を向けた。
「機材トラブルと共演者全員の口裏合わせのもとで成り立ってるんだぞ?これが
バレたらお前だけじゃなく、765プロ全体の社会生命に関わるんだからな」
「私としてはあんたが不安の余りボロを出しそうで怖いくらいなんだけど」
ことと次第はこうだ。レギュラー番組の改編特番収録が、不慮の事態で22時
までに終わらなくなった。法律に縛られる窮屈な立場の私は本当なら就業を止め
なければならないが、番組的にも私の出番的にも絶対省略できないコーナーが
まだいくつも残っていた。私と共演者、そしてスタッフのみんなで目配せを
交わしあったのはその直後。
「事情は事情、責任は責任だ。お前のお父さんや新堂さんにまで片棒担がせて
申し訳ないよ、俺は」
「そんなの気にすることないわよ。パパはこういうのよく心得てるから何も
聞かずにオーケー出してくれたし、新堂なんかむしろいつも通りに運転手やり
たがって大変だったんだから」
詳しくは教えてくれないけど、パパと新堂は『もっと無茶が許されていた時代』
に、今の法律や常識からするととんでもないことをたくさんしてきたらしい。
だから規制や条例にケンカを売りながら日々を過ごしてるみたいな芸能界の
ことを内心面白いと思っているようで、表立っては何も言わないものの私が
やりたいようにやらせてくれるのだ。
「お前んちの車は目立つからな。余計な勘ぐりどんと来いになっちまう」
「『新聞記者だろうが私立探偵だろうが全て撒いて見せますぞ』って言ってたわよ」
「ならその腕前は別の機会にお願いします、って伝えておいてくれ。今夜は
カーチェイスの気分じゃなかったんでな」
かれこれ15分も走ったろうか、どうやら安心だとプロデューサーが言ったのは
住宅街の並木公園を走っている時だった。
「よもやと思っていたがついてくる車もないし、局の出口は万全だったしな。
もう2、30分で着くぞ」
「そりゃそうよね、私は後部座席で寝そべってたんだから」
「わかってくれよ、大義名分ってのは必要なもんなんだ」
まあ、頭ではわかってる。お尋ね者みたいな扱いがなんとなく気にくわなかった
だけだ。
「はいはい。ねえプロデューサー、ちょっと車止めてよ。もう人目は気に
しなくていいんでしょ?」
「うん?どうした、忘れ物でもしたか?」
いぶかしげにしながらも車のスピードを落としてくれる。ハザードランプの
カチカチという音が大きく感じるのは、周りが静かだからだろうか。
「違うわ。今日はいい仕事ができたから、余韻を楽しみたいかなって」
「余韻?疲れてないのか?」
「体力満タンってわけじゃないけど。でもほら見てよ、窓の外」
「外って……おー」
プロデューサーが首を巡らし、驚いたような声を上げる。
このあたりは歴史のある高級住宅地で、いま走っていた道は計画中断した
国道の一部。中央分離帯を拡張して公園にして、今や道路を覆うほど育った
並木は、それはそれは見事な枝葉の屋根をかざしかけていた。
「桜の木か。まだ蕾か、でも、そろそろ咲きそうだな」
「気づいてなかったの?ひょっとして」
「久しぶりの道でな、上見る余裕なかったよ」
たまらなくなり、ドアノブを引きながら言う。少し興奮していたみたいで、
ドアの隙間から夜の街に声が響いた。
「ね、ちょっと歩かない?」
「おっおい、伊織」
「もう人も全然いないし、平気でしょ?行きましょ」
かまわず外に出て、そっと深呼吸。少し気温の下がった湿った空気が、木の
香りを鼻から肺に運んだ。
私を追いかけて外に出たプロデューサーがドアをロックする音を聞きながら、
歩道側の桜の根元に立って上を見る。まだ星空が透けて見えるようなちょっぴり
寂しい景色だけれど、ところどころに膨らんだピンクの蕾のいくつかは、指で
つつけば今にも弾けそう。
「ふうっ、気持ちいい」
「味しめるなよ?不良娘」
「うるさいわね」
髪を揺らす風がくすぐったくて楽しくて、笑っていたら後ろから渋い声が
飛んできた。片手にコーヒーとオレンジジュースの缶をぶら下げている。
自販機の音には気づいていたけど、どうやらこれを買っていたらしい。
「もし私が不良になったとしたら、それはきっとこんな時間まで仕事をさせる
あんたのせいだわ」
「自分から仕事長引かせたクセに」
「ふん、私のプロデューサーなら機材トラブルくらい未然に防ぎなさいよねっ」
「無茶言うな」
自分でも無茶だと思ったけれど、まあ本気じゃないのはお互い様みたいだし。
ゆるい下り坂になっている桜並木を歩き始めると、プロデューサーも後を追って来た。
「桜の木っていいわね。華やかさが好きだわ、まだ咲いてないけど」
「俺は咲く前の桜も好きだよ。知ってるか?」
オレンジジュースの缶を手渡し、自分はコーヒーのプルタブを引っ張る。
「一番咲きに出会えると、その春は運がいいんだ」
「一番星みたいなもの?」
「植物は夜育つからな。ひょっとしたら今日、見つかるかもしれないぞ」
「ほんと?私がみつけるからあんたは目をつぶってついて来なさい」
「コケるわ」
一番咲き。
普段からいいかげんなことばっかり言う奴だけど、そのフレーズが気に入った。
ここの樹々の咲き逸る様子はまさにうってつけで、私はもう上ばかり見て
並木道を歩き始めた。
「あれは……まだね、あっちは大きいけど全然つぼみだし。んー、意外と
見つからないもんね」
「こんなにあるもんな」
「やっぱりあんたも探してよ。でも見つけそうになったら目をつぶりなさいよね」
「難易度上がってる?」
プロデューサーを従えて、二人で梢を目で追って。夜のしじまに響くのは
彼と私の弾む息。
「それは?」
「全然だな。お、伊織そっち、いい色してないか?」
「どこ?……なによ、向こうのビルの航空灯じゃない」
いつの間にか一番咲きを見つけるのが二人の目的みたいになっていて、
夢中で目を走らせた。こうして二人で同じ目標を探すのって、なんだか普段の
アイドルで活動しているのとダブってくる。
「伊織そこそこ。その隣の木の、いやもっと右寄り」
「わ、おっきい。でもまだ固そうね……ってプロデューサー、あんたの頭の上の
それは?」
二人であれこれ言い合って、あるかどうかもわからない花を探して。でも
こんな風に二人で進んでいけばきっと見つかる、そう思った。
「なあ伊織、坂の下まで着いちまうぞ」
「なに言ってるのよ、あきらめたらそこで試合終了でしょ」
「誰のセリフだよ……あ」
「えっ」
彼の視線がふわりと上がって、私がそれに釣られると……。
月光が透ける、ほのかな五弁。
「みつ――」
そのとき踏み出したブーツが、地面を捉えそこねた。
「――ふぁ」
「伊織っ!」
植え込みの縁石を踏み外したらしい。あっと思う間もなく、私に黒い影が
覆いかぶさる。私の体は水平から斜め45度の角度で、とっさに追いすがってきた
プロデューサーの両腕に支えられていた。
「大丈夫かっ?」
「あ……ありがと、大丈夫よ……って」
そう、まるでタンゴを踊るペアのように。一瞬でほっぺたが熱くなって、
私は彼を蹴り飛ばした。
「どこ触ってるのよ変態っ!」
「あ痛!ひでえ!?」
「ゆ、油断も隙もないんだからっ!」
こんな石畳で転んだら擦り傷くらいは免れない。それを身を挺してくれた
プロデューサーはほんとなら、誉められてしかるべきだろうけど。でも、こうでも
言わなきゃ私の口が感謝以上のセリフを洩らしそうだったから。
大きく息を吸って、平常心平常心と心の中で唱えてから、あらためて桜を見上げた。
「でもほら、あんたのおかげね。見つけたわ、にひひっ」
「ん、そうだな」
右手を精一杯伸ばしてみた。もちろん木の上のそれには届かないけど。
でもいつか、私もああして咲いてみせる。あの高みに立って、回りの花にさきがけて。
私はそう決めて、肺一杯に夜の空気を吸い込んだ。
「いちばん咲き、みーつけたっ!」
「わわ、伊織、時間考えろっ!しー、しーっ!」
おわり
以上でございます。ご笑覧いただければ幸い。
うちの近所でも「さくら祭り」なんて看板が目に付くようになりまして
満開が待ち遠しい一方、その前の力を溜める樹々がたたずむ
風情もなかなか見所があるものです。
鈴なりになった薄桃色の蕾の下を歩きつつ、ふとワンシーン
思いついた次第。
ではまた。みなさまよき春を。
289 :
創る名無しに見る名無し:2012/03/25(日) 13:13:48.58 ID:oXblgmro
1. 初恋ばれんたいん スペシャル
2. エーベルージュ
3. センチメンタルグラフティ2
4. Canvas 百合奈・瑠璃子先輩のSS
5. ファーランド サーガ1、2
6. MinDeaD BlooD
7. WAR OF GENESIS シヴァンシミター、クリムゾンクルセイド
SS誰か書いてくれたらそれはとってもうれしいなって
投下します
事務所に戻ると、美希がソファの上で寝ていた。
ごろんと背を向けてくぅくぅ寝息を立てているその姿は、髪の毛のボリュームも相まってともすれば金色の毛虫にも見えて少し不気味である。
少しだけ膝を曲げて、背を丸めて、シャツがめくれて素肌が見える。
「風邪引くよ」
手近なところに毛布が見当たらなかったので、着ていた上着を代わりにかぶせた。
どうせ暖房も入れるし、そろそろ少しずつ温かくなってきたおかげで普通に行動している分には問題ない。
ただ彼女みたく背中がちろりと見えていると寒いのではないだろうか、との配慮である。
あと、万が一担当アイドルに風邪引かれると私が困る。下げなくて済むなら、あまり頭は下げたくない。
「しっかしまぁ元気に寝てること」
もこもこ金髪に隠れる寝顔は、良い夢でも見ているのか満面の笑みだった。
時折口元がもごもごと動いて、何か食べているのか喋っているのか。はにぃ、と動いた気がした。はちみつだろうか。
「ほっぺたもちもち。肌すべすべ。うらやましー」
無性に腹立たしくなって頬を突く。
ぷにぷにつるつる。弾力抜群で肌触りも良好なそのほっぺは、癖になりそう。
自分が若い頃はどうだったかしらねぇ、と思いながら、無意識のうちに空いている手を自分の頬に添えていた。
かさ、っとした感触に、私は泣きそうになった。
「人が必死で駆けずりまわって仕事探してるってのに、この子はもう……」
腹立ちがエネルギーへと変換され、頬を突く速度が上がる。
ぷに、から、ぷにぷに、へ。
ぷにぷに、から、ぷにぷにぷにぷに、へ。
寝苦しそうに少しずつ顔を顰めた美希は、連打速度が高橋名人もかくや、といったところまで上がった所で、鬱陶しそうに私の手を払ってのそのそと起き上がった。
ぱさり、とかけていた上着が床に落ちた。美希はそれを気にすることもなく、眠たげに眼を擦りながら、
「……おにぎりとハニーがいないの」
「おにぎりとはちみつとはまた斬新な組み合わせね」
しかも『いない』って。アレらはいつから食い物からランクをあげたのだろう。
「あふぅ……。もうひと眠り……」
「起きたなら話したいことがあるから、寝ないでもらえると嬉しいんだけど」
「んー、なぁに?」
床に落ちた上着を叩いて埃を払い、デスクに放り投げて、鞄から書類を取り出す。
「ミキ、スーツはもう少し丁寧に扱うべきだって思うな」
「いーのよ、やすもんなんだから。それよりお話、お話」
「おもしろい話?」
「お仕事の話」
「おやすみなさいなの」
背を向けごろん、と横になった金髪の尻尾を思い切り引っ張る。
美希は、この世のものとは思えない程甲高い悲鳴を上げて飛び起きた。
「痛い痛い痛い!」
「ほぉら、ちゃんと座んないともっと痛くなるわよー」
「ヤ! 座るから、座るから放して!」
涙声の嘆願に応じて尻尾から手を放した。
何本か抜けた髪の毛は掃除の手間になるから手のひらで丸める。あとでゴミ箱に捨てるとしよう。
美希は、うぅー、と唸りながら涙目で私を睨みつけた。
「……アイドルに手を挙げるなんて、プロデューサー失格だと思うな」
「毛繕いよ。あるいはコミュニケーション。何も問題は無いわ」
「へりくつぅー……」
「律子も呼ぼうか?」
「お仕事って、なに?」
名前を出しただけで態度が改まった。神様仏様律子様である。
「またちっちゃな雑誌のグラビア?」
「そー」
「ミキ、早くテレビとかCMとかに出たいの」
「まだまだ駆け出しなんだから、ちっさいことからコツコツと。はい、読んでおいてね」
「うぅ、文字ばっかりで頭痛くなりそう……」
差し出した書類に、いやいや目を通す美希を見ながら、私はふと思う。
よくもまぁ、こんな文句ばっかり言う子をプロデュースしているものだ、と。
私と同時期に入社した彼は、菊地真、萩原雪歩、如月千早という三人を見事トップアイドルへと導いた。
アイドルを引退した後プロデューサーへと転身した秋月律子は、竜宮小町というアイドルユニットを編成し、今やテレビに舞台にライブに雑誌に引っ張りだこである。
私たちが入社するまで一手にプロダクションを支えていた先輩は言わずもがな、最近高槻やよいという少女をどこかからスカウトしてきて、既にランクCに手が届きそうだという。
それに対して、私は。
眉毛をハの字にしながら、眠たげに書面を動く美希の瞳を見つめる。
猫の様に気紛れな瞳。眠ったり笑ったり怒ったり泣いたりくるくると表情を変えるその綺麗な目。
「……そういえば、それに魅かれたんだっけ」
「何か言った?」
「何でもないわよ」
不思議そうに小首を傾げる美希に、苦笑を返した。
第一印象は最悪だった。
なんか甘えたこと言っているし、お世辞にもやる気があるとは言えないし、こちらを敬う気は微塵も見られないし。
最近の若いもんは、なんて年寄り気取ってぶちぶち文句を言いながら、それでも何とか距離を縮めようと必死に話題を振っていた時。
彼女が言った。
『ミキね、もっとキラキラ輝きたいの』
そういった時の彼女の眼が、いつもの眠たげで気だるげなものではなく、どんな煌びやかな宝石よりも美しく輝いているのを見て。
社長風に言って、ピン! ときた。
――簡潔に言えば、惚れた、のだ。彼女のその瞳に。
「……お腹空いたの」
「おにぎりあるよ。お昼の残りだけど。食べる?」
「本当!? 食べる!」
鞄からちょっと形の悪い、少し硬くなったおにぎりを取り出す。
嬉しそうに包みを開けて被りついた美希は、次の瞬間渋い表情になった。
「……これ、何が入ってるの?」
「栄養剤とかサプリメントとか」
「……ざんしんだね」
それでももぐもぐと食べる辺り、おにぎり好きは筋金入りだ。
机の上に放り出された書類を片付けながら、思う。
未だに甘ったれたこと言ってるしやる気にムラがあるし時々そこの人とか呼ばれるけれど。
いらいらしたり喧嘩したりすることもあるけれど。
ピン! ときた感覚を、私は信じる。
この子は、絶対、トップアイドルになる。
「……ねぇ、美希」
「なぁに?」
「頑張りましょうね」
美希は最後の一口をもぐもぐごっくんと飲み込んだ後、
「頑張るのはミキじゃなくってプロデューサーなの。ミキは天才だから頑張らなくてもすぐにトップに行けるし」
「てめぇこのやろう」
生意気言う美希の尻尾を引っ張りながら、思う。
早くこの子が、才能を存分に発揮できるように。
早くこの子が、キラキラ輝けるように。
頑張ろう。
頑張らなきゃ。
……頑張ろう、ね?
投下終わり。以上、美希と女性Pの話でした。やっと規制が解除された……!
上田鈴帆とPのSSを投下いたします。
SSでは鬼門な方言娘アイドルですが、ネタ要素だけじゃない
上田しゃんの魅力を感じてくれたら嬉しいです
以下注意点、苦手な人はスルーで
・モバマス準拠。登場人物は最後あたりに赤西瑛梨華、難波笑美も追加
上田鈴帆というアイドルを担当している俺は今、ある問題に直面していた。
彼女は元気で素直な良い娘で、仕事もパワフルにこなして着実にファン層を広げている。
しかし彼女にはバラエティ番組の仕事ばかり入ってきて、歌やダンス関係の仕事は一切来ない。
俺は彼女に歌って欲しくてスカウトしたのだが、未だにその目的を果たせていなかった。
原因はまだDランクに上がったばかりの頃にある。その時彼女は某テレビ番組の特番に出た。
正月番組でタレントを集めてワイワイするだけの番組だったが
鈴帆のランクを考えると、まず来ないビックネームの仕事だ。
俺はどういったアピールをするべきか迷ったが
ここはインパクトを重視して着ぐるみで出演させることにした。
正月に相応しい鏡餅の着ぐるみを来た鈴帆が登場すると、番組は笑いに湧いた。
お茶の間からの反響も大きく、あれから鈴帆の名前は一気に知れ渡った。
仕事はDランクでは考えられないほど増え、他の同期アイドルたちを差し置いて
短期間でCランク入りを果たした。
# # #
「またか……」
しかし喜んでいるのも最初だけだった。舞い込んで来る仕事は、全てバラエティー関係。
それもお笑い芸人がやりそうな内容のものばかりだ。
Bランクに一歩踏み出そうとしているレベルのアイドルなのに
あれから彼女は歌やダンスを全くと言っていいほどテレビでしていないのだ。
俺は鈴帆に一度でもいいから綺麗な衣装を着て、歌って踊ってもらいたいと思い、
歌の仕事を何とか取ろうと必死に営業をした。
しかし、彼女をアイドルとして見てくれる人間はほとんどいなかった。
俺が言うまで、音楽関係のプロデューサーですらお笑い芸人と思っていた程だ。
睡眠時間を削って何度も局に足を運んでやっともらってきた歌の仕事は、あるアイドルの代理だった。
担当プロデューサーの手違いによって同日のスケジュールに別々の仕事が重なり
急に出られなくなって困っていたという。
代わりだろうがなんだろうが、鈴帆にとってはデビュー以来久々の歌の仕事だ。
これを機に彼女がバラエティ一辺倒の人間ではない事を知ってもらおう。
「鈴帆、気合を入れていけよ!」
「ま、まかしときっ!」
しかし本番直前の鈴帆はどうもおかしかった。
底無しの元気でいつも太陽のように輝いている彼女だったが、今回に限っては表情に少し陰が差していた。
バラエティーばかりだったから感覚が鈍っていると思い、直前までボーカルとダンスのレッスンをやったのだ。
だから、少し疲れているのかもしれない。しかしこの仕事だけは外せないのだから、当然力も入る。
「行ってくるばい!」
俺は一抹の不安を抱えて、彼女を送り出した。
# # #
俺の不安は見事に的中した。
ステージに上がった鈴帆はどこかぎこちなく、時折ダンスもけつまづいて実力を半分も出せなかった。
結局、その番組は不完全燃焼に終わった。
「お疲れ様でした」
ディレクターを始めとする番組関係者の声が、むなしく耳に響いた。
何がいけなかったのか意気消沈しながら自問自答している俺の後ろで
番組プロデューサーが仲間内で何か喋っていた。
「あーあ、鈴帆ちゃんは失敗だったな」
「まあ所詮は穴埋め要員だし、期待はしてなかったけどね」
「しかし、これならもっと他に視聴率稼げるアイドルや歌手を連れてくるべきだったと思うよ
ったく……芸人は芸人らしく、笑いでも取っていればいいのに」
彼らの笑い声が俺に追撃ちをかけた。
# # #
「プロデューサーしゃん……」
「鈴帆……今日はもう帰っていいから」
「……」
俺は椅子に座り、じっと自分の手を見ながら頭をうな垂れていた。
やっと取った仕事なのに、そのチャンスを生かす事が出来なかった。
アイドルとして鈴帆と共に進んでいかなければいけないのに
歌やダンスの仕事を満足に与える事の出来ない俺は
プロデューサー失格なのではないだろうか。
「君、少しいいかね?」
そんな俺の肩を叩いた人がいた。振り返ると高木社長が立っている。
「社長……」
「これから飲みに行こうと思ってね。付き合ってくれないか。
いつもは志乃君や楓君と飲んでいるんだが、今日は早めに帰ったみたいなんだよ」
俺は社長に誘われて、駅前の居酒屋に足を運んだ。
店内の奥にある座敷で腰を下ろし、メニューを開く。
騒いでいる客もいない、ただ料理を焼いている音だけの響く割と静かな店だ。
「ここの串焼き物はどれも美味しいぞ。楓君は炙りイカが好みだそうだがね。
私のおごりだから、遠慮なく食べたまえ」
彼は慣れた口調で店員に料理を注文した。
やがて中ジョッキのビールが二杯運ばれてきて、机に置かれる。
俺は何かを忘れたいようにそのビールを仰ぐようにして飲んだ。
「いい飲みっぷりだね」と社長はカラになったジョッキを下げて、料理皿を回す。
しかし基本気がふさいでいる俺は、中々料理が喉に通らない。
酒だけを腹に詰め込んで俺の無能ぶりを忘れたかった。
「上田君が心配していたよ。君の元気がないとね」
「……」
社長の投げかけた言葉にどう返答したらいいのか困り、俺は押し黙る。
すると、彼はしばらく料理を口に運ぶのを止めて俺を諭した。
「君。アイドルはね、何も歌って踊る事だけが存在価値ではない。
この目まぐるしく変化する社会と共に、アイドルとしての在り方も多様化している」
社長は居酒屋のテレビを指差す。眼をやるとバラエティ番組が放送されていた。
芸人やタレントに混じってアイドルグループも、ワイワイと騒いでお茶の間を沸かそうと働いている。
「見たまえ。昔はバラエティ番組など、アイドルの出るものではないとされていた。
そういった仕事も少なく、出演しても周囲の理解は得にくかった。
だが今はどうだ。そのようなステレオタイプな考えは淘汰されている。
アイドルは太陽のように光り、人々を楽しませ、幸せにする才能が求められている。
そしてそれは、何も歌謡やダンスのステージだけとは限らないのだよ。
それぞれのアイドルの個性を見極め、彼女たちが最も輝く事の出来る場を逐一提供していく
それが、プロデュースする事において大切であると思っている」
「社長……」
「小鳥君に少しファンレターを見せてもらった。上田君宛てのものを、ね。
明日、君も見てみなさい。ハハハ。私は彼女がここを選んでくれて、嬉しく思ったよ」
後日、俺は小鳥さんから分類済みのファンレターの束を受け取り、一枚一枚目を通した。
『鈴帆ちゃんにはいつも元気をもらっています。
いつも怒ってばかりで不機嫌なおじいちゃんも、鈴帆ちゃんが出ている時には笑顔になります。
これからも頑張って欲しいです』
『妻と母は反りが合わないのか毎日口喧嘩の応酬を繰り広げています。
ですが鈴帆ちゃんの活躍を見てから、二人共ファンになって
それ以来共通の話題が出来た二人は以前より衝突する事も少なくなりました。
鈴帆ちゃんには感謝しています』
『学校でよく苛められている私は、時々学校に行くのがいやになります。
以前は週に2日だけ学校に行くだけでした。
でもテレビで鈴帆ちゃんが出てから、ちょっとずつ勇気と元気をもらって
今では何とか4日行けるようになりました。この前は5日間全部行ったよ。
鈴帆ちゃん、いつもありがとう。これからも頑張って下さい』
鈴帆には多くの人を一纏めに元気にする素晴らしい力があると俺は知った。
それならば、社長が言ったように、彼女がもっと輝ける場所を用意すべきだ。
気を取り直した俺が次に取って来た仕事は、鈴帆の得意分野であるバラエティ番組である。
とにかく彼女の良さが最大限に出せるように、俺は演出や流れを研究し鈴帆に助力した。
「先輩、ちょっと頼みがあるんですけど……」
別のアイドル・赤西瑛梨華を担当しているプロデューサーが仕事の件で相談に来た。
地方ラジオのMCの仕事が取れたというのだ。瑛梨華は鈴帆に似て、疲れを知らないパワフルな女の子だ。
しかし瑛梨華はまだDランク途上で、単体として売り出していくには今一つ何かが足りない。
彼女の魅力は他者との言葉の掛け合いである。それを最大限に引き出せる相方が必要だ。
そう判断した彼は、上ランクで注目度も高い鈴帆と組ませてその部分を補おうと考えた。
そしてラジオ局に同行してMCを複数にしてもらうように交渉して欲しいのだという。
「ラジオかぁ……」
「先輩の鈴帆ちゃんなら仲間内でも知名度は高いし
何より楽しいラジオ番組が出来ると思うんです。どうですか」
俺はしばらく考えていたが、新しい仕事に鈴帆をチャレンジさせるのも悪くないと思い
その頼みを呑んだ。どうせ人数を増やすならと、ツッコミ体質の難波笑美も誘おう
という事になり、彼女のプロデューサーにも声をかける。
デビューしたばかりの笑美にとっては渡りに船とばかりに彼も二つ返事で承知した。
局のトップは「ここで約束を破るのは……」と渋い顔をしたが
俺たちの粘り強い交渉によって態度を軟化させていく。
最後にはそっちの方が面白そうだという事を何とか納得してもらい、交渉は成立した。
早速鈴帆にもそれを報告する。
「嬉しかぁ! こんお仕事ば待っとったとよ!
うち、このラジオいつも聞いとったと!
まさか自分がラジオ番組を持てるなんて、夢のようばい!」
「瑛梨華と笑美も一緒なんだ。やってくれるか?」
「もちろんたい! 皆ばドカンドカンと笑わしちゃる!」
やはり鈴帆はこれくらい元気があって欲しい。
得意分野を伸ばすという社長の方針をこれからは大切にしていこう。
俺は彼女の笑顔に釣られて笑った。
「プロデューサーしゃん……」
すると、鈴帆の声が急に大人しくなり、徐々に涙声になっていく。
何かまずい事でもしたのかと不安になり、俺はその訳を聞いた。
「……プロデューサーしゃん、やっと笑っちくれたちゃ……
最近プロデューサーしゃん、ずっとつらそうな顔やったけん……」
「鈴帆……」
「うち……笑わす事は得意やけんど、真面目に歌ったりするんは正直得意じゃなか。
だけん、こん前の歌の仕事ば頑張らんと思うてたとに、失敗したけん……。
うちのせいでプロデューサーしゃんの元気がのうなったと思おと、つらかったとよ……」
あの時思い悩んでいたのは俺だけじゃなかったとここで知り、俺は鈴帆の頭をそっと撫でた。
「鈴帆……お前のせいじゃないさ。だから、泣かなくていい」
「本当……?」
目尻に溜まっていた涙滴を袖で拭い、彼女は泣き止んだ。
「うち、元気一杯と良く言われるとばい。だけんど、沈む時もあると。
お客さんが笑わなかったり、うちの事バカにしたりする時もあるたい。
そんな時、プロデューサーしゃんの笑顔を見て、元気もらっとうよ……」
「鈴帆……」
「うちにはプロデューサーしゃんが必要たい。
プロデューサーしゃんが楽しいと、うちも楽しか。
プロデューサーしゃんが笑ってくれると、なんぼでも仕事できるたい」
俺が鈴帆から元気を分けてもらっていたように、彼女も俺から力をもらっていたのだ。
知らず知らずのうちに俺たちは二人で支え合い、求め合って前進していた。
独り立ちにはまだまだだが、それはアイドルとプロデューサーの理想とも言える関係だった。
# # #
ラジオの仕事は始まるやいなや、大盛況を博した。
続けていくうちに毎日百通は余裕で越える看板番組へと変貌し
ラジオ局局長は嬉しい誤算だとニコニコしながら俺に漏らした。
「ウチの所なんか、家族全員で聞いているんだよ。
そして全員ラジオネームを考えて、はがきを送っているんだ。
瑛梨華ちゃんの番組進行も日に日に進歩しているし、何より鈴帆ちゃんとの会話が面白い事!
それだけじゃない、笑美ちゃんが拾い損ねたボケにすかさずツッコミを入れて来るから
番組も良く引き締まって余す所なく楽しいんだ。
録音してまた聞きたくなるラジオなんて久し振りで嬉しくてならないよ」
俺は局長の言葉を聞いて、体の芯に英気が充ちていくのを感じた。
「じゃあ、しっかり笑わせて来いよ!」
「おう、プロデューサーしゃん! 鈴帆に任しときっ」
控え室で、いつものように鈴帆をラジオ番組に送り出す時の事だった。
「……プロデューサーしゃん」
「んっ?」
「ちょっと目ば瞑ってほしか……」
椅子に座っていた俺は、言われた通りに目を閉じた。
(……!)
俺は頬に柔らかい感触を覚えて思わず目を開けた。
鈴帆は隣で顔を真っ赤に染めてモジモジとしていた。
「いつもウチのためにきばってくれてる、プロデューサーしゃんへの感謝の気持ちたい」
「鈴帆……」
「あっ、あはは……! ……やっぱり、ウチみたいな子供じゃ嬉しくなかと?」
俺は込み上げてくる愛おしさを抑える事が出来なかった。
彼女の小さな体を抱き寄せ、その口唇へ先ほどのキスを返す。
「あん……プロデューサー、しゃん……」
彼女の瑞々しい唇は赤々とした苺のように甘かった。
「んっ……、うち……口同士のキス、初めて……」
それを聞いて俺は罪悪感から唇を離す。
「鈴帆、これは、その……」
彼女は満面の笑みを浮かべ、俺に抱きついてきた。
「初めてのキスば大好きなプロデューサーしゃんので、ウチ、嬉しかぁ……。
顔、洗いたくなか……」
「鈴帆……!」
俺はさらに彼女に熱いキスをする。彼女はそんな俺の想いを全て口唇で受けた。
夢中になっている所を足音がして、条件反射的に顔を離した。
「鈴帆ちゃん、時間だよぉ!」
控え室の扉を開いたのは、共演者である赤西瑛梨華と難波笑美の二人だ。
「はよしぃやー、ウチらは先にスタジオで待っとるさかい」
そのどさくさ紛れに鈴帆を送り出した俺は
すんでの所で人目につかずに済み、安堵の吐息を落とした。
# # #
――収録現場――
「おいーっすっ! 今週も元気に参りますっ、『トリオでO・MA・KA・SE☆レイディオ』の時間です!
MCは私、みんなのアイドル・赤西瑛梨華と」
「おりゃー! 上田鈴帆と難波笑美の3人でお送りするけんっ! みんな笑顔で楽しんでけー!」
「はーい、それじゃ早速行ってみよー☆」
「ちょい待ちぃっっ! 鈴帆、鈴帆ぉっ! ウチのアイサツする所、代わりに言ったらあかんやないかいっ!」
「あれれれ。いやぁ……甘酒飲み過ぎたけん、ついうっかり!」
「甘酒て……、酔っ払うにしてももう4月やっちゅーねんっ!
いつまで雛祭り気分でおるねんなー、もー」
「じゃあ、笑美ちゃんもアイサツする?」
「せやな、一応言っとかんと何やぁけったいな気分になるし……
知っとると思うけど、ウチは難波笑美!
このボケたおしのラジオでもバンバンとツッコミ入れて
おもろうしてゆくさかいに、よろしゅう!」
「はいはーい! ところで鈴帆ちゃん、今日はやけに顔真っ赤だよ?
本当に甘酒、沢山飲んできたの?」
「えっ、……そ、そんな赤うなかとよ……」
「いやいやいや、充分赤いでー自分。
今日はテレビみたいに着ぐるみ着てへんねんでっ! せやのに暑がってどないすんねんっ!」
「へへへへ……」
「何か嬉しそうだね、鈴帆ちゃん。良い事でもあったの? 教えて教えて!」
「ひ、秘密たい……」
「そないニヤニヤしとったら、ウチも気になるやん。
ええからはよ言い、今日のトークはそこからやで」
以上です
>>295 乙。
自分も上田しゃんで一編考えてたんでちょっと焦ったり。
周りから芸人扱いされているって見方をしてなかったんで、この立ち位置は新鮮かも。
あと、鬼門のセリフを減らして、地の文を多くしてるように思えましたが、ナイスアイデアですね。
ただ、その地の文がちょっと固い。説明的に感じました。
特に、Pの心情なのか、ただの説明文なのかはっきりしないので、
>>299の最後の1文は『おいおい、自分で言うなよ』と感じます。
>>302ネタ扱いされる事の多い上田しゃんがフツーに可愛い。GJでした。
ところで、残り容量的にそろそろ(あと1つ2つ)次スレなんですが、テンプレどうしましょう?
追加して欲しい文章とか逆にこれはもういらないんじゃないかとか
個人的にシンデレラガールズ関連は入れた方が良いのかなとは思いますが
>>305 いや、注意書きの所に「シンデラガールズ」
を追加するぐらいかなーとかそのぐらいのつもりだったんですが……
ちなみに新しいテンプレ案ですが、
SSだけじゃなくてもいいのよ。
の部分はSSでなくとも構いませんぐらいにしておいた方がいいのかなと思います。
あとは関連リンクにシンデレラガールズのエロパロも追加ぐらいで。
あーテステス。お久しぶりです。一本投下します。
登場人物は春香と千早で、特に注意するような事は無いはずです。
308 :
Cryin':2012/05/05(土) 01:17:37.58 ID:WhWMbvE5
春香が765プロに来なくなってもう数日になる。
最初の1日目は無断欠勤だったが、次の日に御両親からしばらく休むと連絡があったそうだ。
大きなライブを終えたばかりで他に大きな仕事も無く、仕事に穴を空ける事が無かったのは不幸中の幸いと言っていいだろう。
とは言っても、765プロの皆は私も含めて誰もがその原因を知っていた。
一言で言えば失恋したのだ。
日頃の態度を見ていれば彼女が自分の担当プロデューサーにどんな感情を持っているかは容易に想像がついたし、
周囲もいつ気持ちを伝えるのかと微笑ましく見守っているような側面さえあった。
春香もドームでのライブという大きなイベントを成功させた後は最高のタイミングだと思ったのだろう。
そうして告白をして、その想いが受け入れられる事は無かった。
ただ、それだけの話。
春香が来なくなってもプロデューサーは何事も無いかのように自分の業務を続けている。
これはあの2人だけの問題で、他人が口を挟める事ではない。
告白を断ったからといって誰も彼を責める事は出来ない。
プロデューサーの方はそれでもいいが、春香の方は流石に何日も音沙汰が無いと心配になって来る。
そんな事を話していたら、何故か、私が春香の家に向かう事になった。
そもそも会ったとして何を話せばいいのだろう。
電車に長い時間揺られて、駅から更に春香の家までの道のりを徒歩で進む。
彼女の家には既に連絡を入れてある。
最初は携帯にかけたが半ば予想していた通りに春香は出なかったから、
家の方に電話をして彼女の母親にこれから行く旨を伝えた。
春香はこの道をいつも自転車で通っているらしいが私の手元に自転車は無い。
必然的に歩く事になるけれど、かえってその時間が今の私には丁度よかった。
春香の足跡を辿りながら考える。
いつも春香はどんな気持ちでこの道を通っているのだろう。
自分の想いが受け入れられなかったあの日、何を思いながらこの道を通ったのだろう。
結論の出ない考え事をしながら足を動かしているうちにいつの間にか春香の家へと着いてしまった。
ごく普通の郊外の一軒家。
インターホンを鳴らすと春香の母親が出迎えてくれた。
どこかの顔のパーツが似ているというよりも、全体的に纏う雰囲気のようなものが似ている。
やはり親子なんだな。そんなどうでもいい事を考えながら後を付いて行く。
事情は察しているのか言葉少なに春香の部屋へと案内された後、ドアをノックをして呼びかけると、ノソノソと人の動く気配がして春香が部屋から出てきた。
泣いた後なのか眼は赤く髪もボサボサで、照れ隠しなのか曖昧な笑顔を浮かべていたけれどそれ以外はいつもの春香だったので少し安心した。
部屋の中に入ると薦められるままに私は椅子に座り、春香はベッドの縁に腰掛ける。
309 :
Cryin':2012/05/05(土) 01:20:33.62 ID:WhWMbvE5
「千早ちゃんがここに来たのってやっぱり……」
「そうね。様子を見てきてと頼まれたから」
失恋のショックは大きいでしょうしと声には出さずに胸の中で呟く。
そんな事には気づかずに申し訳無さそうにこちらを覗き込みながら更に尋ねてくる。
「皆心配してた?……よね」
「無断欠勤なんて初めての事だったでしょう? 皆気にしてたわよ」
そんな風にして最初のうちは傷を避けるように、触れないようにぎこちなく他愛の無い話をした。
しばらく経った頃、春香は意を決したように大きく深呼吸をして語り始める。
「んーと……私ね、プロデューサーさんの事が好きだった」
「春香……凄く言いづらいんだけど、それは皆知ってたわ」
え? とこちらを見つめる目に話の腰を折ってしまったかと少しだけ罪悪感が浮かんでくるが、言ってしまった事はどうしようもない。
「じゃあ私が休んでる理由も」
「プロデューサーは何も言わないけど、皆大体察しているわね」
「そっか……皆知ってたんだ……」
ははは……と力なく笑ってベッドに倒れこむ。枕に顔を埋めたまま言葉を吐き出していく。
「私ね、告白してフラれた時もう全部どうでもいいやってなっちゃって、家に帰ってきてからずーっと眠り続けてこのまま何もせずに死んじゃってもいいやって思ったの」
その言葉に私は身を固くする。けれどその後に続いた言葉は、
「でも、やっぱりダメだった」
そういって自嘲気味に笑う。
「お腹は空くし、トイレには行かなきゃならないし、お風呂にも入ってないから髪もベタベタだし、
続きが気になるマンガだってあるし、いつも買ってる雑誌の今月号買って無いし、
そんな事考えたらやっぱり死ぬなんて出来ないなって思った」
特別なんて何も無いあまりにも普通の理由。
けれどその普通の積み重ねで人は生きている。
春香も、見知らぬ誰かも、私も。
言いたい事は言い切ったのか、春香は口を閉じて部屋の中には沈黙が横たわる。
どんな言葉をかければいいのかわからない。こんな時はもう少し口が回ればいいのにといつも後悔する。
何も言わないままの私達を夕日が紅く染めている。
少しだけ続いた無言の後、重くなってきた空気を散らすように少しだけわざとらしい声音で
「千早ちゃん、一つお願いしていい?」
と聞いてきたので、
「私に出来る事ならね」
と返す。その言葉を聞いた春香はにへら、と相好を崩して、
「一緒にお風呂入ろ。そして私の髪洗って?」
私は大きな溜息を1つついて数秒前の自分を呪いながら、その要求を渋々ながら受け入れる事にした。
いつもであれば即座に跳ね除けるような願い事でも聞いてしまったのは、
やはり心の何処かに傷ついているのだろうから優しくしようという心理が働いていたのだろう。
310 :
Cryin':2012/05/05(土) 01:21:47.24 ID:WhWMbvE5
2人で入ってもまだ少し余裕があるお風呂場に感心しながら春香の頭にお湯をかけていく。
積もった数日分の汚れは一度洗う程度で落ちきるはずも無く、
シャンプー3回にトリートメント2回、更にドライヤーを当てながら椿油を吹いてようやく春香の髪は普段の調子を取り戻した……と思う。
他人の髪を洗うなんて始めての事だったから上手く出来たかはわからない。
それでも、髪を乾かしている時は随分とさっぱりした顔をしていたのだからそれなりに良く出来たと言ってもいいだろう。
その後、お風呂に入ったんだしせっかくだからと勧められるまま食事も御馳走になり、
気がつけば電車の時刻も過ぎ去ってしまった事に気づいたが後の祭りで、結局そのまま泊まることになってしまった。
寝巻きであったり、布団であったり、翌朝の用意であったり、私が泊まるための準備を進める春香と彼女の母親。
互いに気遣いながらも遠慮の無いその姿は絵に描いたように暖かい家族そのもので、思わず自分の境遇に重ねてしまい少しだけ胸が痛んだが、それは今思うべき事では無いとその痛みに気づかないふりをした。
目覚ましをセットして、春香は自分のベッドに、私は床にしかれた布団に横になる。
明かりは消したが、隣ではまだ起きている気配がする。
一日中何もせずに家の中でゴロゴロしていたから当然といえば当然だけど。
「千早ちゃん」
「何?」
「有難う」
何かお礼を言われるような事をしただろうか。心当たりが無いのでそれを素直に口にする。
「私は何もしてないわよ」
「ううん。私の話を聞いてくれた」
「それだけじゃない」
「違うよ。聞いてくれる、受け止めてくれる人がいるっていうのは大事な事だもん」
視線を交わす事なく、私達の言葉だけが暗闇と月明かりの混じる部屋の中に響く。
「正直、やっぱりまだ悲しいしプロデューサーさんとどんな顔をして会えばいいのかもわからないけど、
でももう大丈夫だから。いっぱい泣いたらまた笑えるようになるから。だから、ありがとう」
ああ、きっともう私達の前ではこの事で春香が泣く事は無いだろう。
そんな確信があったから、安心して私の意識は眠りに落ちていった。
311 :
Cryin':2012/05/05(土) 01:23:06.48 ID:WhWMbvE5
翌朝、仕事や電車の時間の都合もあるからと早くに春香の家を出る。
見送りに玄関まで出てきた春香に眠たげな様子は見えなかったのを少々意外に思ったが、
考えてみれば今から私が乗る電車にいつも乗っているのだから当たり前の事だった。
「次は事務所で会いましょう」
「うん」
そんな約束を交わして歩き出そうと背を向けた私の背中に、なんでもないように春香が声をかけてくる。
「そういえば、千早ちゃんは自分のプロデューサーさんとはそういうのは無いの?」
昨日色々と吐き出したからだろうか、随分と立ち直りが早いなと少し呆れながら自分の担当プロデューサーの顔を思い浮かべる。
そうして、
「少なくとも恋愛感情は無いわね」
と切り捨てた。けれど春香はまだ納得出来なさそうな顔をしていたのでもう少しだけ言葉を探して、
「うまくは言えないけど、私達の関係に名前をつけるのならそれは戦友とか相棒とか、そんな言葉が相応しいのだとと思う」
とだけ言って私は駅に向かって歩き出した。
来る時は何を話せばいいのか迷っていた道のりも、今は足取りが軽い。
朝靄の中、まだ人通りの少ない道を歩きながら想う。
きっと、私の姿が見えなくなったらまた春香は泣くのだろう。
そうやって泣いて、そして次に私達の前に現れる時はまたあの能天気な笑顔を見せてくれる。
その時が来るのはそう遠くない。そんな予感がある。
深く息を吸う。朝の清冽な空気が肺を通過して体の中を循環する。
周囲の迷惑にならない程度の控えめな音量で、いつしか私の声はハミングを奏でていた。
いつか、私もあんな風に誰かを強く想う時が来るのだろうか。
まだその時を心待ちに出来るほどではないけれど、いつかは私にもその時が来るのだと、その事実を認められる程度には自分も変わってきているのだろう。
765の皆と出会う前ならばそんなことはありえないと拒絶していたであろう事を素直に受け入れられる程度には。
どんな人間であっても、どんな形であっても人は変わっていく。
願わくば、その変化が良いものでありますように。
願わくば、その変化を良いものにする事が出来ますように。
ほんの少しだけ、ハミングを奏でる私の声が大きくなった。
312 :
メグレス ◆gjBWM0nMpY :2012/05/05(土) 01:26:04.94 ID:WhWMbvE5
以上投下終了。今回のタイトルはJoe SatrianiのThe Extremist収録曲から。
眠たいので色々はまた後日という事で。それではこれにて一旦失礼。
で、次スレどうしましょう? テンプレを
>>305の案にするのか、現行のままで良いのかとか。