「ま、真帆! 勝手に昴さんの私物触っちゃダメだよ!」
どうにも真帆を止められない俺の意を汲んで、智花が注意をしてくれる。
智花、ナイスアシスト!
毎日一緒に練習しているだけあって、俺と智花の無言の意思疎通はもはやお手のものだ。
「もっかんだって、毎日すばるんのいない間にベッドの下とか押入れの中とかいろいろ調べてるくせに!」
「そんなことしてませんしてませんしてません…!」
あろうことか今度は智花が濡れ衣を着せられてしまっている。
これは真帆に教育的指導だ!と思ったのだが…、真帆は絶対に触れてはいけないアレを手にしてしまった…!
「うわっ!? ま、真帆! それは開けちゃダメだ!!!」
「えーなんで? すばるんだってあたしのテスト無理やり見たくせにー!」
「ぐっ…それは、そうだけど…でもこれだけはダメだっっ!」
俺はバスケの時よりも俊敏な動きで、真帆から厳封された袋をスティールすることに成功した。
「ちょーあやしい!! あたしが見つけたんだからあたしのもんだ! 返せー!」
何という無茶苦茶な理論だ!
……と言いたいところなのだが、実を言うとこの中身は、男子高校生の部屋には本来存在しえない、“真帆が身につけているべき物”なのだ。
もちろん、俺はそれらを望んで保管している訳では断じてない。
そういえば、前にも似たようなことがあったような。あれは夏休みの最終日で…って、そんなことを考えている場合じゃない!
とにかく、今ここでアレを真帆に直接返す訳にはいかない!
とりあえず真帆の動きを止めるよう、智花にアイコンタクトを送る。
しかし、その智花すら真帆の言葉に翻弄され、何か考え込んでしまっている。
「もっかんも知りたいよね? すばるんの隠してるあやしーモノ」
「ふぇぇぇっ!? わ、私はそんなこと…ふぁぁ……」
一瞬のスキを突き、俺に迫る真帆。
壁際に追い詰められる俺。もう逃げ場はない。
かくして、俺の人生に終止符が打たれ…
「昴さんっ! パスです!!」
「おっ智花! ナイス!!」
間一髪。智花が両手を広げてパスを要求してきたので、すがるような思いでそれに従う。
さすが我がエース。
チームの危機を救ってくれるだけでなく、俺の命の危機すら救ってくれる、まさに恩人である。
「よーしもっかん! その袋開けちゃえ」
「えっ、でも…」
「だいじょびだって。すばるんからもっかんへのプレゼントだってきっと」
袋が智花に渡ってすっかり安心した俺は、ふぅと息を漏らして、真帆の興味をどうやってあの袋から逸らせるかを考えていた。
名案は浮かばなかったが、ふと時計を見ると、もう少しで智花たちも俺も学校に行かなければならない時間だ。
しめた。あとは智花が数分の時間稼ぎさえしてくれれば。
……あれ?
ビリビリ…。
時間が止まるという表現は、まさに今この瞬間のために作られたような気さえする、そんな大惨事が起きていた。
……あろうことか、他でもない智花が、袋を開封しようとしていた……!
「ちょ、、とも、、か、、?」
「あ…ごごごごめんなさいっっっ! つい出来心で! あの、何とお詫びをしたらよいか…ほらっ、真帆も!」
「うぇー、もっかんが開けたのになんであたしが謝るんだよー!?」
いわゆる絶望の眼差しで智花を凝視すると、俺の視線に気づいた智花が慌てて袋に再度封をしようと試みる。
そして土下座して、さらに真帆にも土下座をさせて俺に謝り始めた。
ええと、この際智花の謀反はどうでもいい。問題は、中身を見られたかどうかだ。
「あ、あの、昴さんの大事な物、勝手に開けてしまって、その、私、本当に申し訳ありませんっ!」
「そそそんなに謝らなくて大丈夫だから! と、とにかく顔上げて!」
智花を落ち着かせてから、遠回しに中身を見たかどうか尋ねてみたところ、どうやら“ふんわりしたもの”という程度しか認識していないようだった。
はあ、よかった。一時はどうなるかと思ったけれど、すっかり安心できた。
「ちぇー。修学旅行で無くなったあたしのパンツでも出てきたら面白かったのに」
「っ!!!!!」
心臓が飛び出た。いや、本当に飛び出たわけじゃないけど、表現としてはきっと間違っていないレベルだった。
もしや…バレてる!? しかも、本人に!?
「真帆っ! 昴さんに失礼だよっっ!!」
「あはは、ジョーダンだってもっかん。そんな怒んなくてもいいじゃん…」
どうやら冗談らしい。はあ、よかったよかった、本当によかった。
ただ、俺を信頼してくれているためか、智花は珍しく鬼の形相で真帆を叱っていた。
ごめんな智花、その信頼に応えられなくて、と内心で詫びる。
口が裂けても声には出さないが。
こんな具合で、真帆がこの部屋にいるのは危険すぎる。
一刻も早く追い出すことしか頭になかった俺は、通学カバンに例の袋を突っ込んだまま家を飛び出てしまったことを、学校に着いてから思い出した。
バカか俺は。今、教室の俺の席に置かれているカバンの中には真帆のパンツが存在しているのだ。
袋に包まれてカバンに入っているので、そう簡単に人にバレることなんてないのだが、言うまでもなく今日はいつもの練習の何倍も汗をかいた。冷や汗を。
これで荷物検査でもあったら今度こそ本当に人生終了速報が流れるところだった。
まったく、どこの国に女子小学生のパンツを学校に持参する男子高校生がいるって言うんだよ…。
ちょっと今回少ないですが、きりが良いのでここまでです。
原作にも、同じようなネタが出たので思いっきり被ってます(汗)
次回:算数のテスト、勝ったのは真帆か、紗季か?
乙ANDあけましておめでとうございまっほー!
続きいきます
最近、ロウきゅーぶの原作を読んでないので、
ラノベとアニメで微妙に違ってる部分(時系列とか)や、
人名の漢字とかが思い出せなくて困ってますw
くいなさんとかみほしとか毎回忘れるorz
人生最大の危機を乗り越えてからの俺は、なんとかこれまでと同じ生活をすることができた。
朝、智花と一緒に練習するのも、いつもの日課である。
真帆との対決を今週末に控えた智花は、普段より早く俺の家に来て、シュート練習をするようになった。
なんだか懐かしい光景だった。
智花が50本連続でシュートを成功させたらコーチ継続、という賭けをしたこともあったものだ。
あのときは、他の4人も智花に頼りきりだったと言って過言ではないが、今ではそれぞれが、重要な戦力になっているのだ。
「調子はどう、智花?」
「はい、とっても良いです!」
そんな会話を交わしつつ、天使の翼が生えたようなフォームでシュートを放つ智花に見惚れていると、あっという間に時間が経ってしまう。
この時間がいつまでも続くといいなと心から思った。
それにしても、わずか数日の間に、一体何球のボールがゴールに吸い込まれたのだろうか。
毎日の長時間の練習による智花の疲労も気になるところだが、本人はいたって元気そうなので、練習量については智花に任せることにした。
「俺は見に行けないんだけど、真帆との対決、健闘を祈ってるよ」
「はい、ありがとうございます!」
「よし、それじゃあ今日はこのくらいにしようか」
俺が片付けを始めると、智花が急にうつむきながら、
「あ、あの、昴さん…」
と消え入りそうな声で話しかけてきた。
先ほどまでの元気はどうしたのだろうか。気になった俺はすぐさま言葉を返した。
「どうしたの、智花?」
「いえ、あの、その…、昴さんにお願いしたいことがありまして…」
この様子だと少し言いにくいことなのかもしれないので、
「いいよ、なんでも言ってごらん」
とやさしく聞き返した。
「わ、私が真帆に勝ったら、その…、私のお話を聞いてほしいんですっ!」
思わず“そんな簡単なことで良いの?”とか“お話ならいつもしてるじゃないか”とか聞き返しそうになったが、
智花が懸命に伝えてくれたお願いなのだから、余計なことを言わず「了解」とだけ答えた。
「ありがとうございます。私、がんばります!」
とはいえ、お話というのが何なのか気にはなる。
いろいろと思考を巡らせた結果、おそらく、負けた方は罰ゲームという取り決めを真帆としていて、俺にそのヘルプを頼むということだろうと、俺の中で勝手に結論付けた。
☆ここから語り手は智花視点になります
真帆ったら、昴さんに告白なんて…。
数日前、真帆が冗談めかして言った言葉が頭から離れない。
気にするまいと思えば思うほど、気になって仕方がない。
真帆は、それをどういう意味で言ったんだろう。
もし、冗談ではないのなら、真帆は昴さんのことが――
私は昴さんに、「真帆に勝ったらお話を聞いてほしい」と勢いで言ってしまった。
「お話」って何なんだろう、なんて何度も自問自答するが、それが「告白」を意味するということ位、自分でも分かっている。
恥ずかしくて告白なんてできるはずもないのに、昴さんには、真帆に勝ったら告白しますと暗に約束したようなものだった。
私は何で、こんなことを言ってしまったのだろうか。
――やっぱり、私も…。
昴さんの背中を流したり、昴さんのベッドで寝たり、恥ずかしかったことがたくさん浮かんできた。
でも、真帆はいつも、どんなことも恥ずかしがることなくやってしまう。
だから、もし私が負けてしまったら…。
そう思うと、決心は早かった。真帆に勝つ。絶対に。
そしてもう一つ、自分へ条件をつけた。
それは、昴さんが褒めてくださったシュートしか使わないということ。
いつものジャンプシュートだけで、真帆に挑むことにした。
真帆は大切な親友だけど、バスケでも負けるなんて、絶対に嫌だから。
☆ここから語り手は紗季視点
「そんな…」
おかしい。あり得ない。そして、すごく悔しい。
決して侮っていた訳ではないけれど、真帆が算数で私よりいい点を取るなんて。
まさか、カンニング!? いや、いくら真帆でも、そんな非常識なことはしないはずよね。
事の発端は、真帆の家に長谷川さんが泊まったという日の翌日、みーたんが目の下にクマを作って、明らかに寝不足という酷い顔で私たちの教室に現れたときに遡る。
「ぎゃははっ! みーたんひっでー顔!」
「コラ真帆っ! 失礼でしょ!」
真帆を咎めながらも、私も内心笑いを堪えていたりした。というか、クラスのみんながそんな感じだった。
でも、みーたんの次の一言で、クラス全体が凍りついてしまった。
「みんな、本当に申し訳ないが…、これから慧心学園一斉テストを始める。算数だけ、来週に行う」
慧心学園では年に一回、全校一斉で学力検査を行う。
検査日程は教師のみが把握し、生徒には一切告知せず抜き打ちで行われる。
みーたんは算数のテストの制作を任されていたけど、すっかり忘れていたらしい。
前日の職員会議で指摘されて思い出し、徹夜でテストを作ったのだけど、結局間に合わなかったという。
その反面、いつも難しいみーたんの算数のテストだけ1週間延期されたのは私たちには好都合だった。
今日は算数を含めた、全てのテストの返却日。
結果が返却されて、クラス内が一斉に騒がしくなり始めた。
どのテストもまずまず自信があったのだけど、その結果には予想と異なることが二つあった。
一つは得意の国語でミスをして100点を惜しくも逃してしまったこと。
もう一つは…。
「93点! ま、真帆ちゃんすごい! こんな点数取っちゃうなんて。私、計算が遅くて時間が足りなくなっちゃったよ」
「真帆って前回の算数のテスト酷かったって言ってたよね? すごく勉強したんだね。私も頑張らないと」
「おー。まほ、おりこうさん(ナデナデ)。ひなの点数、まほのはんぶんくらいしかない。むねん」
真帆に、算数のテストで負けるなんて、生涯で初めての屈辱だった。
「で、サキはどーだった? 算数のテスト」
真帆が私の答案を覗き込もうとしたので、慌てて机の中に隠した。
「なんだよー! 自分だけ見せないなんてずるいぞー!! もしかして学級委員のサキさんともあろうお方が赤点!?」
他の教科では全部、私が真帆より圧倒的に上だったのに、何故?
でも、さすがに赤点なんて噂を流されては困る。
「はぁ。赤点ではないけど。ほら、91点」
「うおーーーっ! サキに勝ったぜーーい!!」
あまり良い気分ではない私は、真帆に少し突っかかり気味に言った。
「それで。あんなに勉強嫌いの真帆が、算数だけこんなにいい点なのは、どういうカラクリ?」
「むっか〜! カラクリってなんだよー! 一生懸命頑張った結果じゃんか!」
「そ、そうだよ紗季ちゃん。何かその言い方だと、真帆ちゃんが悪いことしたように聞こえるよ」
私は、本気で怒りだした真帆に思わずたじろいだ。
その上、普段控えめな愛莉に間に入られて、私がただの負け惜しみを真帆にぶつけているだけだと気づかされた。
ここは潔く、負けを認めるしかない。
「…真帆、愛莉、ごめんなさい。そんなつもりじゃなかったの。今回は私の負けだわ。
でも、次は負けないから。真帆、また勝負しましょう」
「おう! 望むところだ!」
悔しい事には変わりないけれど、真帆の頑張りが長続きさえしてくれれば次のテストでも面白い勝負ができそうだわ。
ふふ、見てなさい真帆。
「そんなことより! みんなにお知らせがありまーす!」
あっという間にテストから興味を逸らして、真帆が何やら発表を始める。
「今週の土曜日に、あたしともっかんでフリースロー対決をしますっ! みんな見に来てねっ」
私とテストで勝負したと思ったら、今度はトモとバスケで勝負とは。相変わらず落ち着きがない。
「トモと真帆がねぇ。真帆、勝算でもあるの?」
「はっはっは! 勝つ自信があるからフリースローにしたのだ!」
これまでの練習を見てきた限りでは、トモに勝てるほどのフリースローの精度を、真帆が持ち合わせているとは思えない。
それでも真帆から感じられる自信は一体…?
どうも最近、真帆は何事にも全力で取り組むようになった気がする。
一つのことに集中できずにすぐ飽きていた真帆をよく知る私としては、少し複雑な心境。
でも、それだけ真帆が成長してくれているなら、私も嬉しいのだけど。
それと、看過できないもう一つの変化。
真帆は修学旅行以来、長谷川さんに…。
私の考えすぎだとは思うんだけど―――
「そんでさ、勝った方はすばるんにコクハクするんだ!」
―――えっ?? これって…。
『ええぇっっっ!!??』
みんながみんな、声を揃えて仰天してしまう。
「おー、おにーちゃんにこくはく? おもしろそう」
「と、智花ちゃん、本当なのっ…!?」
「ふぇぇぇっ!? わ、私はっ…こ、こ、告白なんて…そんなこと……ふぁぁ…」
「ちょ、ちょっと真帆! アンタ何てこと考えてるのよ!」
もちろん、真帆お得意のいつもの冗談だと思った、いや、冗談であって欲しかった。
でも、
「ほえ? サキさんチョー必死ですなー。」
「…っ!? そ、そんなことは…」
「心配しなくたって、もっかんが勝つに決まってんじゃん! あはは!!」
「さっきと言ってることが違うじゃない!」
笑ってごまかされたけれど、真帆の口から「冗談」という言葉は出てこなかった。
長年付き合ってきた仲なのだから、真帆の気持ちはよく分かっていたつもり。
修学旅行の帰りの新幹線で、長谷川さんのことを話す真帆は明らかにいつもと様子が違っていた。
でも、それをもっと問いただしたとき、真帆はいわゆる“おこちゃま”で、恋愛なんて興味なしだとわかった…はずだったのに。
じゃあ、さっきの真帆は? トモをからかっているだけなの?
もしもそういう気持ちがあるのだとすれば、もはやこれはトモだけの問題じゃない。
トモには失礼だけど、順当にトモが勝っても、きっと極度の緊張で告白なんかできないと思う。
でも仮に、万が一、何かの間違いで、もし真帆が勝つような下剋上が起きてしまったら…。
□
真帆とトモが対決をするという土曜日になった。
長谷川さん以外、女バス6年組が真帆の家のバスケットコートに勢ぞろい。
5人でいることはいつも通りなのに、いつもとは違う異様な雰囲気が漂っていた。
なぜなら、対決が予想以上に本格的だから。
最初に5人で話し合って、ルールと役割を決める。
本来は5人全員で対戦をしたいところだけど、今回は真帆の強い希望により、トモと真帆の一騎討ちのみとなった。
私と愛莉は審判、ひなは自ら望んで久井奈さんと応援兼ボール拾いを買って出た。
☆湊 智花vs三沢 真帆 フリースロー対決特別ルール
・フリースローは各シューターが1投ずつ交互に行う。
・両シューターとも5投を終えた時点で、ポイントが多い方を当該セットの勝者とする。
・両シューターとも5投を終えた時点で同点の場合、以降は同数のシュートで一方が他方の得点を上回る状況になるまで1投ずつ延長し、上回った方を当該セットの勝者とする(サドンデス方式)。
・最大3セット実施し、2セットを先取した方を勝者とする。
・シュート時の動作に特に制限は無いが、シュート動作に入ってから、シュートを途中で止めることはできない。
・シュートは、審判からボールを受け取って5秒以内に打たなければならない。
・反則(バイオレーション)を犯したシューターは、そのターンのシュートを失敗したものとみなす。
今日はここまでです。
ただの自己満SSに付き合ってくださる方、本当にありがとうございます!
どうでもいいですが、私の好きなキャラトップ3は
1位 まほまほ
2位 もっかん
3位 ひなたちゃん
です。真帆の抱き枕、今でもお世話になってます。冬はあったか♪
次回:いよいよ始まるフリースロー対決。絶対に負けられない戦いが、そこにはある。
つづきです
前半、地の文多めです。
いわゆるサッカーのPK戦のようなスタイル。
高度な集中力、精度、精神力が要求される、決して「自信がある」だけでは勝てないルール。
真帆の自信とトモの技術、勝つのは――。
「もっかん、あたしぜってー勝つから!」
「私だって負けないよ!」
さっきまでわいわい談笑していた2人はお互い挨拶を交わすと、眼つきを変えた。
闘志全開の真帆と、控えめに真帆を見つめるトモ。
この点では真帆に軍配が上がるけど、いざ勝負が始まれば人が変わったようになるのがトモだ。
勝負がどうなるかなんて、誰にもわからない。
じゃんけんの結果、先攻は真帆となった。
第1セット。
真帆は審判である私からボールを受け取ると、そのままジャンプしてボールを放った。
トモのジャンプシュートを模倣して編み出したフォームには、トモのようなしなやかさはないけれど、しっかりと芯が通ったムダのない動きでゴールを射抜いた。
「おー、まほかっこいい」
思わず声を出したひなに軽く自慢げな笑みを返す真帆。
次は、トモの番。
こちらも、お得意のジャンプシュートだった。
ふんわりと、でも力強く、羽根が生えたようなしなやかなジャンプでリングの中央を射抜いた。
すごい…!
やはり、トモのシュートは盤石だった。
3投目、真帆がバランスを崩したが、そのシュートは辛うじてリングを通過した。
それ以降、どちらも外さずあっという間に5本連続のシュートを決めた。
2人ともシュートの精度は抜群だった。
早くも9投目に突入。
土のコートのせいか、徐々に足場を気にし始める真帆。
自分の家の敷地なのだから、真帆には若干の地の利があると思ったのだけれど、さすがに考えすぎだったらしい。
そんな中、真帆は足元を気にしながらも、なお抜群の精度でシュートを決めた。
自信がある、と言っていたのは少なくとも嘘ではないようだ。
特に、真帆が先攻になったことで、その精度をトモに見せつけ、プレッシャーを与えるには十分だった。
それに、トモのバスケは性格に反して攻撃的。
そんなトモが、シュートをひたすら決めるだけという我慢比べのような戦いに、平常心でいられるかどうか。
案外この勝負、真帆に勝機があるかもしれない。
見てるよ!
シュートを決めるたび軽く笑顔とガッツポーズを見せる真帆と、真剣な表情を一切崩さず黙々とシュートを放つトモ。
2人の表情に違いはあれど、どちらも一向にシュートを外さない。
そんな中、局面は急展開を迎える。
真帆の12投目。
私から受けたボールをキャッチしそこなった。汗で滑ったのかもしれない。
ルール上は問題ないので普通にシュートを打てばいいのだけど、真帆はかなり焦って強引にシュートを打った。
その結果、ボールはリングに嫌われた。
悔しさを露に、拳を握って唇を噛む真帆。
落ち着いていれば何でもないことなのに、真帆の弱い部分が出てしまったようだ。
続いてトモの番。決めればこのセット、トモの勝利となる。
全員の視線を集める中、やはり表情ひとつ変えずにフリースローラインに立つトモ。そして。
「第1セット、トモの勝ち」
打った瞬間入ると分かるような、言葉で表現しきれない芸術的なシュートを決めて見せた。
その瞬間、真帆を一瞥したトモの表情がほんの僅かだけ緩んでいた。
コート中を掻き回してゴールを奪い取るような戦いができないこの対決で、トモが唯一見せた真帆への“挑発”だったようにも見えた。
それは真帆にも伝わったようだった。真帆の表情が険しくなる。
相手チームに挑発されて暴走してしまうのが真帆の悪い癖。
いつもは仲の良いチームメイトだけど、今はライバルであるトモの控えめな“攻撃”は、見た目以上に効果抜群だったみたい。
こんな時、決まって声を掛けていた私も、今は審判。
真帆だけにアドバイスしては公平性が失われるので、とにかく今は職務を全うしよう。
第2セット。
それは、あっけない幕切れだった。
真帆の1投目。
フォームだけは崩れず第1セットと同様にジャンプシュートを放った。でも。
「あ…」
先ほどのミスを引きずっているのか、ボールは、第1セットの精度が嘘のようにすっぽ抜けてゴールネット下方をカスっただけ。
えも言われぬ大失投だった。
「ぐっ……」
でも、まだ勝負は決していない。
5投目までに、トモがシュートを外す可能性だってあるのに、真帆は深くうな垂れてしまった。
「ま、真帆ちゃん…」
愛莉が真帆に声を掛けようとしたので、私が制止した。
愛莉の気持ちは分かるのだけど、ここは仕方ない。
愛莉も私の制止に理解を示し、そのままトモにボールを投げた。
トモの1投目。
ここで決めれば、これまでの精度から考えて、圧倒的にトモが有利になる。
トモは相変わらず表情を変えずに、飛び上がった。
綺麗な弧を描いたボールは――
「ぁ…」
――リング上を2周グルグルと回った末に、リングを通過することなく落ちていったのだった。
トモがこの対決で初めてシュートを外したのを見て最も驚いたのは、真帆だった。
「…え、もっかん…?」
「真帆、早く投げないと5秒経つよ?」
「へ? あっ! おりゃー!!」
驚いて固まっていた真帆にトモが笑顔で指摘すると、真帆は慌ててシュートを打った。
フォームも無茶苦茶だったけど、どうにかゴールに収まった。
トモったら…。
本人は隠そうとしていたけど、トモの“フェイク”はバレバレだった。
もちろん、バスケにおいてトモのフェイクはなかなか見破れないけど、“嘘をつく演技”という意味での“フェイク”はトモの最も苦手としていること。
いかにも、偶然シュートが外れたように装っているが、トモは間違いなく、“外れるシュート”を狙って打った。
その違和感は、真帆もはっきりと感じていた様子だった。
もっとも、リング上を2周回ったこともトモの計算の内なのか、定かではないけれど。
もしそこまで狙っていたのだとしたら、さすがに凄すぎる…。
こうして、1投目は両者失敗、それ以降は両者とも一度も失敗することなく5投を終えた。
あのトモの失敗が無ければ、トモが勝っていたことになる。
トモはなぜそんな行動をとったのか。
たとえ相手が長谷川さんであっても、ハンデを極度に嫌うほど負けん気が強い。
それなのに、この真剣勝負の中、1投目で失敗した真帆を不憫に思った?
それとも、真帆ともっと対決をしたかった?
いや、ただ単にトモの優しさなのかしら。
対決は一転、持久戦となった。
依然としてリングの中央を一寸の狂いなくズバッと射抜くトモに対して、真帆のシュートは徐々に軌道がブレ始めた。
トモが奇跡的に失敗しない限り、真帆が負けるのは時間の問題だと思われた。
しかし、決着の時は一向に訪れない。
そんな2人のシュートに魅了されて時間が経つのをほとんど忘れていた私たち。
…気づけばもう51投目を終えたところだった。
女バスメンバーではトモですら難しいと言われた、長谷川さんを引き留めた伝説の50本連続のシュートを、二人揃って成功させたのだ。
ここまでくれば、私も愛莉もほぼ審判という職を忘れて、2人を応援していた。
もちろん、ひなも、久井奈さんも。
トモは表情を変えないのではっきりとしないけど、まだ余裕があるようで、一方の真帆はいっぱいいっぱいという感じ。
「ジャンプを滑らかに、膝を使って…、おりゃー!!」
でも決して気を抜かない。
52投目、真帆は与えられる5秒を精一杯使って、独り言のようにフォームを確認しながらシュートを放つ。
これも決まる。
続くトモ。依然として綺麗なシュートを放った。
「っ…!」
と、突如トモから声にならない声が漏れる。
私から見たところ、シュートはこれまで通り綺麗に決まったように見えたのだけど。
「トモ、何かあった?」
「ううん、大丈夫だよ…」
本人が大丈夫と言ったので、私は中断せず真帆にボールを渡した。
53投目。
真帆は力を振り絞るためか、先ほどより大きな声で、何やら叫びながらシュートする。
「やーんばるーーーーーっっ!」
このシュートも決まった。
私たちは真帆の叫びに思わず吹き出したけど、トモは真剣な表情を貫いていた。
「っっ……!!」
続くトモは、またしてもしかめっ面で声を上げる。
真帆の叫びに笑いを堪えている…訳ではないようだ。
トモの表情が、どんどん険しくなる。
54投目。
「すーーーーばるーんっっ!」
真帆が今度は長谷川さんの名前を叫びシュートを決めた。
続くトモは顔をさらにしかめながらシュートを放った。
至って綺麗に決まったけど、シュートの後しきりに右手のひらを気にしていた。
「智花ちゃん…?」
「ご、ごめん、何でもない」
今度は愛莉が心配そうに声をかけるが、トモはそれを制止する。
さきほどから何かおかしい。トモは何かを隠している…?
55投目。
「みーたぁーーーーーんーぐあっ!!」
ここで真帆が見事に…
すっ転んだ。
それでも転ぶ直前までしっかりゴールを見据え、指の力だけでボールを放る。
ボールはリング前方にぶつかり上方に跳ね上がって――
「くっ………」
――そのままゴールの手前に落ちた。
あとはトモが決めるだけ。
これでトモの勝利が決まった。誰もがそう思ったのだけど。
トモの表情が酷いことになっていた。まさに“絶望的”、な表情だった。
トモが申告してこないので、対決を中断することもできない。
心配で目を潤ませる愛莉からボールを受け取ったトモは、その瞬間にまた顔をしかめた。
するとトモはそのままジャンプの体勢に入……らず、ワンステップ後ろに下がった。
え、ジャンプシュートをしない?
それからトモは左手を大きく突き上げた。
「スクープ…ショット…!?」
トモの手を離れたボールは大きな弧を描き、
ゴールに吸い込まれた。勝負あり。
□
☆ガールズトーク〜三沢家 真帆の部屋・おやつを食べながら〜
真帆「あはは、やっぱもっかんは強いなー、あたしなんかぜんぜんダメだったー」
智花「そんなことないよ、真帆だってとっても強かったよ! もうちょっとで負けちゃうところだった」
紗季「そうね。まさか真帆があんなに連続でシュートを決めるなんて、これっぽっちも思わなかったわ」
真帆「むっき〜! なんだよそのいーかた!」
紗季「それよりトモ、なんで右手の豆がつぶれたこと隠してたの?」
智花「だって、真帆があんなに頑張ってるのに、豆が潰れたくらいで諦めちゃったら、真帆に申し訳ないと思って」
愛莉「でも、智花ちゃんのスクープショット、とってもかっこよかったよ」
ひなた「おー、ともかのひっさつわざ、すごかった」
智花「そ、そうかな…? ありがとうね、愛莉、ひなた」
真帆「そだ、ねえもっかん、………」
智花「うん? なあに真帆?」
真帆「…いや、なんでもない! ささ、もっとたくさんお菓子とかケーキとかあるからどんどん食べて!」
ひなた「おー、真帆、ふとっぱら。いただきます!」
紗季「ひな、あんまり甘いもの食べ過ぎると体に良くないわよ」
愛莉「たしかに、甘いもの食べすぎたら太っちゃうかも…」
智花「え…それは嫌だなぁ…」
真帆「だいじょびだって! あたしたち、それだけウンドーしてるんだしっ!」
紗季「確かにそうね。次の大会に向けて、もっともっと練習しないといけないし」
智花「そうだね。みんな、がんばろうね!」
みんな『おー!』
>>343 どうもです
今日はここまで。
運動なんかまるでダメな私が書いたので、
バスケで「そんなことありえねー」みたいな内容があったらお詫びします
次回:敗れた真帆。その胸中を紗季にだけ明かす…。
ちょっと間が空きましたが、続き投下です。
自分のを読み返すと文章も語彙も稚拙で、
やっぱり小説家やラノベ作家の方って、表現の仕方が巧いなぁと感じる今日この頃です。
「はぁ…」
「何ため息なんてついてんのよ?」
「にょわっ!! さ、サキ、なんでいんの!? 帰ったんじゃ!?」
トモと真帆の対決を見ておやつをたくさんご馳走になった私たちは、また学校で会おうと挨拶して解散した。ただ、私はいろんな意味で真帆のことが気になったので、ちょっとだけのつもりで、真帆の行動を観察してみた。
すると真帆は、中庭の芝生に大の字になってため息をついていた。
「ふふ、トモに負けて落ち込んでるかと思って」
「そ、そりゃチョー悔しいけどさー、やっぱりもっかんってすごいなーって」
今回の勝負、客観的に見て、真帆が完全に劣っていたとは言い切れない。
あのトモにあそこまで太刀打ちできた真帆には、尊敬すら覚える。
私も真帆に負けていられないと心から思ったけれども、今聞きたいのはそんなことじゃない。
「それで、どうするの? 長谷川さんのこと」
ちょっと単刀直入すぎたかも、と思ったけど、真帆は質問の意味がよくわかっていないような呆けた表情で答えた。
「ほえ? すばるんのことって何?」
真帆の本心が知りたかったので、今度は丁寧に聞き返した。
「真帆は、長谷川さんのことどう思ってるの? ほら、この前のSNSで、私たちには聞いたのに、真帆だけ答えてないじゃない」
「あはは、だってすばるんにキーボードをゴーダツされちゃったからさー」
長谷川さんのことを聞かれても表情を変えずに淡々と話す真帆。
「それで、どうなの?」
「うーん、すばるんは、あたしたちを強くしてくれたんだし、すんげーかっこいいと思ってる! だからすばるんのことちょー好きだぜ!」
「…それは、トモとケンカしてでも、独り占めしたいくらいに?」
「だからなんでそーゆー話になるのさ? あたしもすばるんが好きだし、もっかんもすばるんが好き。そんなの今まで通りじゃん!」
私がかつて、真帆にチャットで聞いたのと全く同じ質問に、全く同じ答えを返した。
だから、あのときとは違う質問をぶつけてみる。
「じゃあ、トモと対決したのは何でなの?」
真帆の顔が、一瞬、本当に一瞬だけ、険しい表情になったような、そんな、気がした。
「だって、もっかんに勝てる位強くなれたら、次の大会でもアッショーできるじゃん! だから腕試しって感じ?」
単純に、真帆はトモに憧れている。
トモのバスケに惹かれて、自ら進んで部員を集めて部活まで作った。
だからこそ、圧倒的なバスケの技術を誇るトモより強くなりたいと純粋に思っている。
それは紛れもない事実だと思う。でも。
「本当に、それだけの理由?」
「へ? どゆこと? サキだって強くなりたいでしょ?」
「本当にそれだけの理由なら、なんで、長谷川さんへの告白を賭けたりしたの? 本当は、トモを倒して、長谷川さんに告白しようって、そんなふうに思ったんじゃないの?」
「っ……」
私は、真帆の目が少し泳いだ瞬間を見逃さなかった。
「そのためにシュート練習も増やして、いつも以上に頑張って、本気でトモに勝ってやろうって、思ったんじゃないの? 長谷川さんに抱きついたり、泊まりに来ていただいたり、真帆は最近長谷川さんに甘え過ぎだと思うわ」
何だか止まらなくなってしまった私は、これまで溜まっていたものを吐き出すように、真帆の話す隙も与えないほど早口で言い放った。
真帆は何も言わず、ただ空を見つめていた。
しばらくののち、真帆は消え入りそうな声で言った。
「そんなこと…サキだって、おんなじじゃん」
「えっっ!? ちょ、それどういう…」
真帆は体を起して、今度は強い口調で答える。
「サキだって、すばるんと一緒にいるとき、とっても楽しそうだし、とってもシアワセそうだし、それとおんなじ」
「っ……!?」
真帆の返答に、私は声が出なくなってしまう。
確かに、長谷川さんはいつも私たちに優しく指導をしてくださって、私たちのことを常に一番に考えてくださる。
だから、もっとバスケの練習をして、長谷川さんに認めていただける選手になれたら、それはとても嬉しいに違いない。
「あたし、みんなといる時もちょー楽しいけど、すばるんといるときもちょー楽しい。でも、もっかんみたいに毎日すばるんには会えないからさ、もっとすばるんと一緒にいたいなーって思うんだ。だから、ほんと言うともっかんがうらやましい」
自分から言うには割と恥ずかしいセリフを口にしているのに、これっぽっちも照れる仕草を見せずに素直な心の内を披露してくれた真帆を、少しだけうらやましく思った。だから。
「たしかに、私もそうなのかも」
私も素直に認めることにした。
きっと、愛莉もひなたも、この場にいたら同じことを言うと思う。
トモにはちょっとだけ、かわいそうだけど。
「それで、トモにはリベンジするの?」
「もっちろん! 今度はもっともっと練習して、フリースローじゃなくて1on1で勝負する! そんで、もっかんをテッテーテキに倒すっ!」
「ふふ、それはいいけど、ライバルはトモだけじゃないのよ。まずは次の大会で絶対優勝しましょう!」
「あったり前じゃん!」
こうして、私も真帆も、大会に向けてさらに老練することを誓ったのだった。
「あっ…」
「え、どうしたの真帆?」
不意に、真帆が何か思い出したように声をあげたと思うと、何だかとても小さい声で喋った。
「もっかんはすばるんにコクハクしちゃうのかなー…」
それを考えるの、今更過ぎるわ。
「ふふ、真帆ってそんなに長谷川さんに“愛の告白”をしたかったの?」
「うえぇっっっ!? い、いや、そそそんなんじゃないって! ただ、勝ったもっかんがどうすんのか気になっただけで……!」
あの真帆が、珍しく顔面を真っ赤にして否定する。
いつもトモを弄ってニヤニヤしている側なのが真帆なのに、今日は何だか新鮮。
「別にいいわよ、隠さなくって。そんなの真帆らしくないわ」
「別に隠してなんかないし! っていうかサキだって、すばるんにコクハクしたいんだろーっ?」
「えっっっ!? そ、そんなことないわよっっ!!」
ものすごく慌てた様子で聞き返してくる真帆に、私も何だか大慌てで答えた。
もう、私が取り乱してどうするのよ…!
「あ、そーだった! きしし、あたし知ってるぜ! サキとすばるんが、スポーツショップで手をつないでデートしてたこと!」
「うぶっっ!! ちょ、ちょっと真帆!! なんでそれ知ってんのよ!!??」
「さあ? どうしてでしょうねー? ぷくく」
「ま、雅美ね! 雅美から聞いたのね!! もうっ、あの写真は削除してもらったはずなのに、何で…!? でも違うわ! あれはトモの誕生日プレゼントを…」
「ぷくく、サキ顔まっかじゃん!」
「ま、真帆にだけは言われたくないわ!」
こんな会話も、楽しいことに変わりない。
長谷川さんがいて、トモがいて、真帆がいて、愛莉がいて、ひながいて。
この場所にいるのがとても幸せなことに変わりない。
だから、今を精一杯楽しめばいい。
今更ながらそんなことを、真帆に教わったような気がした。
久しぶりの真帆と二人きりの時間。
少し喋りすぎて、空は暮れかかっていた。私もそろそろ家に帰らないと。
最後に、一つだけ真帆に聞いてみた。
「もし真帆が勝ってたら、本当に告白したの?」
「まーー、勝てばね…」
少し残念そうに答える真帆を見て、それが本気だったことがより明確になった。
「じゃあ良かったわ、トモが勝ってくれて」
「へ?」
「きっと、緊張しちゃってできないわ、トモなら」
真帆には緊張とか、恥ずかしさとか、そんな感覚はなさそうだし。
「くふふ、そっかー! うーん、でもなー…」
「でも?」
「あたしでもキンチョーするかも。すばるんのこと話してると、なんかドキドキするっていうか、落ち着かないっていうか…」
聞けば聞くほど、真帆は重症というか、べた惚れというか、そんな感じだった。
とはいえこれで、真帆の長谷川さんへの想いは、本物であることが証明された。
ふふ、これで面白くなったわ。ライバルは多ければ多いほど燃えるもの。バスケも、そして、恋もね。
トモと真帆だけ先に行くなんて、私が食い止める!
短いですが、ここまでです。次は今夜か明日の夜にでも。
相変わらずアイリーンとひなたちゃんの出番少なくてすみません
次回:勝った智花、いつものように昴の家に朝練へ出かける。告白は…!?
GJ!2828が止まらないぜ
>>351で紗季視点なのに「ひなた」って書いてる。「ひな」に訂正。
では続き行きます。
(4)外接円の半径R…変数はcircumradius
a / sinA = 2R
R = a / (2 * sinA)
なので、プログラムでの計算式は
circumradius = lab / (2 * sin(theta));
>>356 ごめんなさい!!
思いっきり誤爆したwww
お許しを
☆ここから昴視点に戻ります。
「すごい…」
俺は、智花と真帆の真剣勝負を見ながら、良い意味で絶句した。
どんな歴史的な試合にも勝るのでは、という教え子たちの奮闘に、言葉も出せないまま、画面を食い入るように見つめていた。
テレビ画面に「停止」の文字が表示されてからもしばらく画面を見つめたまま余韻に浸り、動けなかった程である。
おそらく、久井奈さんがこのDVDを届けてくれたのだろう。
智花と真帆の対戦をノーカットで収録してあった。
ひたすらシュートを見守っていたせいか、智花と真帆のシュートシーンが勝手に脳内リピート再生されて落ち着かない。
表情ひとつ変えず勝負に徹した智花は、俺を虜にさせたあのシュートで真帆を追い込んでいった。
だが2セット終盤で、どうやら豆が潰れたのを隠したまま勝負を続けたようだった。
全てのスローをジャンプシュートで決めてきた中で、最後のスクープショットは痛む手を隠して勝負を決める苦肉の策だった。
そんな中でもシュートを決めた智花は、さすが、エースという感じだ。
明日の朝練は軽い運動にして、精一杯褒めてあげることにしよう。
一方の真帆も、俺の教えをしっかり実践して智花に食らいついていた。
そして、限界を超えた身体を奮い立たせるように、智花にはない“元気の良さ”で最後の力を振り絞った。
惜しかったな真帆。智花にスクープショットを教えていなければ、あのセットは真帆のものだったかもしれない。
こちらもしっかり褒めてあげなければならない。
さて、プレーヤーからディスクを取り出し、ケースに戻そうとしたところ、何やら見覚えのある筆跡の紙切れが入っていることに気づいた。
この元気の良い筆跡は、真帆のものだ。
すばるんへ
話したいことがあるので、明日の昼ごろ公園にぜーーーーったい来ること!!
まほまほより☆
真帆から呼び出しを受けてしまった。
ん? おかしいな。
以前勝手に妄想した罰ゲーム制度があるとすれば、勝った智花からお話があるはずだ。
なぜ真帆から…?
まあ、深いことは考えず、明日は真帆の呼び出しに応じることにしよう。
ただ、「昼ごろ」とは随分曖昧で困る。
せっかく昼に外出するのであれば朝練のときに智花も誘って、3人でフードコートで外食をしてもいいな。
翌日。いつも通り智花が俺の家に来たのだが…。
「おはよう智花」
「あ、あのあの、おは…」
「ええと、智花?」
何だか挙動不審な智花。
「す、しば、しゅばる…さん、どうもおはよう…ございま……すか?」
「と、智花? なんか日本語が……変…」
「ふぇぇぇっっ!? ごごごごめんなさいっっっ」
何というか、とにかく、智花がおかしい。
言葉でどう表していいのか分からないが、緊張にガクガク震えながら言葉もカミカミだ。
いつもは礼儀正しく挨拶をする智花を、むしろ年上の俺の方が見習わなければならないほどなのに、どうしてこうなった。
「あの、智花。体調が悪いなら無理しなくても…」
「い、いえっ!! 体調はとても良いんです!! だから、その、ええと…、私、しゅばる…、昴さんに、お、お話…したいことがその…ええと…」
あ、例の罰ゲーム制度かな? やはりものすごく言いにくいことらしい。
とりあえず、一旦落ち着いてもらいたい。
何か良い話題は無いだろうか…と考え、心配なことを思い出したので聞いてみた。
「そういえば、手の豆が潰れたんだよね? 今日はボール触るのやめておこうか?」
「あっ………そ、そ、そ、そうなんですっ。どうしてそれをご存じなんですか…?」
なんとなく、智花が一瞬がっかりしたような表情にも見えたけど、俺の気のせいだろう。
「昨日の真帆との対決、久井奈さんがDVDにして持ってきてくれたんだ。ずっとジャンプシュートをしていた智花が最後だけしなかったから変に思ってさ」
「そ、そうだったんですか!? さ、さすがです昴さん。映像だけでそこまでわかっちゃうなんて」
そして、2セット目でわざと外したシュートについて尋ねようと思ったけど、これは気づいていないフリをしておいた方がいいのかもしれないと考え、言葉を飲み込んだ。
「真帆との対戦、どうだった?」
「えっと、真帆は私が予想した以上にシュートがうまくなっていて、あとは運みたいなものでした。でも、どうしても負けられない理由があったので。」
痛む手で放つジャンプシュートと、もう一方の手で放つスクープショット。
成功する確率を考えた結果、後者にしたということだろうか。
智花の場合、普通に左手でも対応できそうだけど。
ところで。
「どうしても負けられない理由って?」
「ふぇぇぇぇっっ!? そ、それは…言えましぇん! いくらしゅば…昴さんの頼みでも、それだけは言えませんっ!」
ものすごい威圧感で拒否された。
いくら俺でも、そこまで拒絶されてはさすがにヘコむのだが。
それに、今日は何度も「しゅばるさん」と呼ばれている。
いくら噛んだだけだと言っても、こう何度も間違えられるといい気分ではないなぁ…。
とはいえ、別に智花が悪いわけではないのだし、まだ昨日の健闘を称えていないから、しっかり褒めてあげなければ。
俺は智花の頭に手を置いて、ナデナデさせてもらった。
「智花のシュート、相変わらず魅力的だったよ。きっとこれからも、チームを救ってくれるのは智花だ」
「ふぇぇぇっ!? み、魅力的なんて…そ、そんな…ふぁぅ…」
想いのままを智花に伝えると、噴火しそうなほど顔を真っ赤にしてうつむいてしまった。
まあ、今日のカミカミ全開の智花よりは見慣れている表情なので、わずかに安堵したのだが…。
「あ、あの…それで、しゅば…」
「はは、智花、今日はカミカミだなぁ」
またしても智花は「しゅばるさん」と言いそうになったので、さすがに堪え切れず笑いを漏らしてしまう。
いっそのこと「はしぇがわしゅばる」に改名してしまいたい。
「はぅ…、ご、ごめんなさい」
「いいよ、気にしないで。それより、何か言いたいことでも?」
「ええと、そ…その…私………その、あの…あぅぅぅ……」
智花はまたしても言いにくそうに、言葉を途切れ途切れに発する。
「わ、私、その…昴さんの、ことが…その…す、す…」
うん、今度はちゃんと「昴さん」と言ってくれた。少し安心。
「す、す、す…昴さんのことが、その、す、す、昴さんのことがその、す、す、す……昴さんの……あぅぅ………」
そしてこの無限ループである。
俺が一体どうしたというのだろうか。
もしかして、また俺は無意識の内に智花を傷つけてしまったのだろうか。
「やっぱり無理ですっっっ!!!」
え…、ちょっと待ってくれ智花。俺のことが無理ってどういうことだ!?
やはり、俺は何か智花に対して愚行を働いたようだ。
心当たりは無いが、これは早いところ謝罪をしないと取り返しのつかないことになる。
「あっっっ! その、決して昴さんのことを『無理』と言ったんじゃないですっ! ごめんなさいっっ!」
と、先に智花が弁解を図ってくれたので、俺の早とちりだったことが分かり安堵した。
でも、それならば智花はなぜこんなにも、緊張しているのだろうか。
その後何度尋ねてみても、智花は顔を赤くしたまま黙秘してしまった。
何だかぎこちない朝食をとった後、俺はふと思い出して智花に聞いてみる。
「そうだ智花。今日はこのあと用事ある?」
「このあとですか? えっと、特には…」
「実は俺、昼に真帆に会いに行くんだけど、せっかくだから智花も一緒に昼食でもどうかなと思って」
「えっ真帆にっ…!? あ、あ、あの、私そういえば、昼からお茶のお稽古があったのを思い出したので、残念ですがお二人でどうぞ…!」
「そ、そう? まあ、それなら仕方ないか」
何とも焦った表情で断られたのが少し気にかかるが、お茶の稽古ならば無理に誘うわけにもいかないだろう。
ただ、昼からという割に智花は妙に慌てて俺の家を飛び出して行ってしまった。
いくらなんでも、今日の智花は不自然極まりない。
もし悩みでもあるなら、今度さりげなく聞いてみることにしようか。
☆ここから第三者視点。
自分でもよく分からない間に長谷川家を飛び出した智花は、しばらく当てもなくウロウロした。
本当は稽古なんて無かったから、もう少し昴の家にいるつもりだったのに体が勝手に逃げてきてしまった。
恥ずかしさと、真帆という単語にいろいろな想いがこみ上げてきて、結局どうにも落ち着かず、公園のブランコに一人腰をおろすことにした。
ぼんやりと先ほどの昴とのやりとりを回想しつつ、時間が経つのを待った。
「はうぅぅ…恥ずかしいよぅ………まだ、心臓が…」
ドキドキと心臓が鳴いていた次の瞬間。
「あれー、もっかんじゃん! なにやってんのこんなとこで!」
「ひゃうっ!? ま、真帆っ!?」
不意に後ろから声をかけられて心臓が止まりそうになった。
しかも、そこにいたのは真帆。今はできれば会いたくない人物だった。
なぜ会いたくないのかは、智花自身もよく分からない。
「び、びっくりしたぁ…。ま、真帆こそどうしたの?」
「あたしはすばるんと待ち合わせ!」
「や、やっぱりそうなんだ…」
「どしたのもっかん、元気ないなー!」
いつもとはどことなく様子の違う智花を見て、真帆は何かを察したように尋ねた。
「あはは、もしかしてもっかん、すばるんにコクハクしたの?」
「ふぇぇぇっっ!? そ、そんなおこがましいこと……………、」
“できなかった”と言いかけると、ほとんど食い気味に真帆が言った。
「やっぱそっかー、それでキンチョーしちゃって逃げてきちゃったんだな!」
「あぅ…」
完全に図星を突かれ、ようやく落ち着いてきたはずの心臓の鼓動が、再び激しくなる。
「あの、その、真帆は…?」
「ほえ? あたしがどうかした?」
「だから、その、昴さんと待ち合わせしてる理由。こ、こ、告…白…とか…?」
「なにいってんのさもっかん! あたし負けたんだからそんな権利無いじゃん! 今日は、あたしがサキに算数のテストで勝ったから、すばるんからゴホービもらうだけっ!」
「な、なんだぁ…」
顔中に「よかったー」というような安堵の表情が広がった智花を見た真帆は“むぅー”とふくれっ面になった。
そして、ほんのちょっとだけ智花をからかおうと企てる。
「そだ、もっかん。じゃじゃーん! これ見て!」
「ん…?」
真帆が差し出したのは携帯電話。
智花は不思議に思いながらもそのディスプレイを見る。
「ぶっっっ!!」
その瞬間、顔面を真っ赤にして噴き出す。
「どうどう? カメラマンまほまほが撮影した、すばるんのお宝写真! すばるんたらなかなか眠ってくれなくてさー、こっそり撮るの大変だったんだから!」
そこには、紛れもなく昴の……“寝顔”が写っていた。
「きしし、もっかんの携帯にも送ってあげよっか、この写真」
「っ…!! わ、わ、私はっ、そんなの…いらない…わけじゃないけど…その…昴さんにバレたら怒られちゃうよぅ…」
「あっそ、いらないんだったら消しちゃおっかな〜?」
「っっっ!!!! せ、せっかく撮ったんだから消さなくていいっ! …あ、私、別に欲しいわけじゃなくて…あぅぅ」
「あはは、もっかんも素直じゃないなー。まあでも、もっかんがモタモタしてくれたら、あたしにもチャンスがあるしっ!」
「へ…? それはどういう…?」
意味深な真帆の言葉に智花は少し動揺しつつ尋ねた。
「ほえ? もっかんがモタモタしてる間に、もっと練習してうまくなって、あたしが正真正銘の女バスのエースになるって意味!」
「あ、バスケの話だったんだ…」
苦笑しながら真帆の話を聞く智花の瞳は、最初こそ不安げだったが、次第に、実に楽しそうなそれへと変わっていった。
今日はここまでです。
>>356は完全無視でお願いしますw
いよいよ次回ラストです。別に感動シーンとかはありません。
次回:真帆、昴とドキドキ(?)デート!?
何か最近重いですね
というか2ch全体がよく落ちますね…
しばらく様子見で続きは数日後に。
楽しみに待ってます
マダかなーマダかなー
どうも、お待たせしました。
最近ただ単に忙しくて時間が無かったんです、本当です。
では、続き(最終回)です。
「ねぇねぇ、これからもっかんも一緒に行こっ! すばるんとデート♪」
「へ? で、デート!? でもお邪魔なんじゃ…」
「何で邪魔なのさ! すばるんだって、もっかんがいた方が嬉しいに決まってんじゃん!」
「で、でも、私…」
「あー、もっかんのことだから、昼から稽古があるとか言ってごまかしてきたんだなー?」
「っ…!! な、なんでそこまで分かるの…!?」
親友の心はお見通し、と言わんばかりのどや顔で笑う真帆を見て、智花は少し困惑した。
でも、真帆の方から誘ってくれたら断る理由もないので、
「じゃ、じゃあ、私も行こうかな…」
と応じた。
それから二人はしばらく談笑した。
バスケの話や修学旅行の思い出話、そして昴の話。
おおかた、昴の悪口を言う真帆を智花がやんわりと叱るという構図で。
そうしてしばらくの後、突然真帆が両手を大きく振りながら大声で叫び出した。
「すばる〜〜ん、こっちこっちー!」
見ると、ちょうど昴が公園の反対側の道路を、こちら側へ向いて歩いているところだった。
「あ、真帆、それに智花も!」
智花は、ここに自分がいることを昴にどう説明すべきか悩んでいたが、昴は特にそのことについて追及しなかった。
それどころか、今日の智花は様子が変だったから心配したけど、この感じなら大丈夫だな、と声を掛けてくれた。
昴の優しさが心に染みて、少しだけ涙が出てきてしまった。
なにはともあれ、これから楽しい一日が始まると思うと智花はワクワクで一杯になった。
「もーすばるん、おそーーい!」
「はは…、ごめんごめん」
文句を言いつつ、昴に走り寄るやいなや、一切の遠慮もなく左腕に抱きつく真帆。
それを見た智花は緊張しつつも、勇気を振り絞ってそっと昴の右手に触れた。
すると昴は優しく握り返してくれた。
この幸せな時間がいつまでも続くといいな、そう思いながら3人仲良く、街に繰り出すのだった。
☆ここから昴視点に戻ります
真帆の呼び出しに応じた俺は、罰ゲーム制度なんて無かったという事実を二人に聞かされてに少し驚きつつ、真帆が紗季にテストで勝ったという事実にまた驚いた。
真帆の言葉を疑ったわけではないけど、智花も証人になっていた。
今回の真帆からの呼び出しは、ご褒美のおねだりだったということだ。
真帆から「デートしよっ」と言われた時は少し固まったが、とりあえず「お買いもの」とか「遊びに行く」という意味で捉えておこう。
まずは昼食ということで、最初に行ったのが全国チェーンの牛丼屋である木公屋。
もともと真帆のお願いを聞いてあげる名目のため、俺が奢るつもりだったのだが、俺も普通の高校生。
お小遣いがあまり残っていなかったので、安く済ませるためにやむを得ず、安価でかつ真帆の好物であるはずの牛丼を選んだ。
大富豪三沢家のお嬢様のお口には合わないのではという俺の危惧は、良い意味で大外れ。
超特盛りの牛丼にこれまた超特盛りの七味をかけて、目をお星様のようにきらきらさせながらさぞ美味しそうに頬張っていた。
これには、俺と智花のみならず、店員さんや他のお客さんもドン引きしていた。
その一方で、智花は俺の財布に遠慮したのか、一番小さい「小盛りハーフ」という名前の牛丼を注文。
いくら女の子だとは言っても、小盛りのさらに半分という少ない量で小学6年生の智花のお腹はふくれたのかどうか気になった俺は、自分の丼を智花に差し出した。
「俺のも食べる?」
「ふぇぇぇぇっっ!?」
「い、いや、智花の牛丼、さすがに少ないかなと思って…」
しかし。
「あれ、すばるんもういらないの? じゃああたしにちょうだいっ!!」
とまあ、誰の許可も得ずに、隣の真帆ライオンがご飯粒ひとつ残らず食い荒らしてしまったのだが。
このときの智花が若干不機嫌に見えたのは、やっぱり、まだお腹は満足していなかったからなのかもしれない。
うむ、次に真帆と木公屋に来るときは、20分以内に完食できれば無料という「ウルトラデラックステラ盛り牛丼スペシャル」を勧めることにしよう。
その後、女子たちの長〜い買い物に付き合ってヘトヘトになった、とは口が裂けても言えないなぁ。
そんな中、新鮮だったのは、真帆がバッティングセンターに行きたいと言い出したので少しだけ立ち寄ったとき。
女子小学生のバッティングフォームは見たことがないが、なかなか豪快なスイングだった。
まあ、最初は空振りを連発していたのだが。
俺は、野球の知識はあまりないけれど、少しばかり教えてやろうと思い立った。
真帆ならきっとすぐに上達することだろう。
「右足に体重を乗せたら、脇を締めて、腰を使って振ってごらん。手だけで打とうとしないで」
後ろから真帆を抱きこむようにして手首を掴んで、フォームの確認をする。
「こう? おりゃーー!」
「そうそう、その調子!」
そんな感じで真帆に心身ともに“密着”して野球の指導をしていると、背後に何やら殺気を感じた。
振り返ると、ベンチで見ているだけだった智花が、少し不気味な視線を俺たちに向けていた。
「ごめん、手を痛めている智花にはちょっと退屈だったかな…? もうすぐ終わるから」
「い、いえっ、決して退屈では…」
言葉ではそう言っているが、真帆と俺をじーーと見つめる、いや、睨むような視線が本当に怖かった…。
まあ20球で終わりだから、あと少し我慢。
そんな事態があったことも知らない真帆はいつも通りの元気の良さで、スイングを続けた。
すると、カキーンと痛快な金属音が響いた。
打球は小さな“ホームランゾーン”という的に直撃した。
「すごいぞ真帆! ホームランだ!」
「おっしゃーー」
なんと、俺でも打ったことのないホームランを早速達成し、賞品のソフトクリーム(1個)無料券をゲットしたのだった。
「はい、すばるん」
「ん?」
「だから、すばるん先に食べて」
「え? どう言う意味?」
賞品として貰ってきたソフトクリームを俺に差し出した真帆は言った。
「すばるんのおかげでホームラン打てたんだし、先に食べていいよ」
「い、いや、それは真帆があてたんだから、俺は自分で買うよ」
「でもすばるんお金無いんでしょー、だからこれを3人で分けるの!」
「い、いや、でも…」
「早く食べないと溶けちゃうじゃん! ほらほら」
そして、無理やり俺の口をこじ開けてソフトクリームを突っ込む真帆。
さすがに冷たいソフトクリームを無理に食べさせられると頭がツーンと…。
「はい次、もっかん」
「ふぇぇっ!? わ、私?」
俺が食べ終えると、今度は智花にそのソフトクリームを渡す真帆。
つい先ほどまで俺が口をつけていたクリームを。
「あ、え、うぅ、これって…昴さんと…間接キ…」
「んもー何で二人とも早く食べないの!? 溶けるから早くっ!」
そういうと今度は、智花にまたしても無理やり食べさせようとする。
「じ、自分で食べるから…」
そう言うと智花はややぎこちない手つきで、クリームを口に運んだ。
「あ、おいしい…」
おかしいことに、バッティングはしていないにもかかわらず、智花は全身から汗を噴き出し、顔を真っ赤にして食べた。
あー、もしかして、俺の食べかけを食べるのには抵抗があったのかも…。
俺ももう少し注意を払うべきだった、と反省しかけたのだが、
「ちょっともっかん! そんなに食べたらあたしの分無くなっちゃうじゃんか!」
「あ、ごめんっ! おいしかったからつい…」
という会話の通り、智花がものすごい勢いで食べ始めたので、どうも、嫌々ながら食べたわけではなさそうだった。
顔はまだ真っ赤だけど。
最後、コーンの下の方でクリームもあまり入ってない部分を、冗談半分でブツブツと文句を言いながら食べる真帆に、智花がしきりに謝っていた。
楽しい一日が終わり、寂しさ募る帰路である。
2人が何やらヒソヒソと話し始めた。
「さっきはごめんね、真帆」
「まったく! すばるんと間接キスできてそんなに嬉しかったのかー」
「ちょ、何言ってるの!? そんなつもりじゃっ…!」
「ふーん…、それよりもっかん、今がチャーンス!」
「へ? チャンスって何?」
「だから、すばるんにコクハクするチャンスだってこと!」
「ふぇっっ、む、無理だよぅ…」
「ダイジョーブだって! あたしが手伝ってあげるから」
何を話していたのかは分からないが、一通り話が済んだと思うと智花は慌てた様子で、真帆はきらきらと目を輝かせて俺を見つめてきた。
「え、えーと、何…かな…?」
「ねーすばるん! もっかんがすばるんに言いたいことがあるって!」
「っ!!!! 」
真帆の発した言葉にさらに慌て始めた智花を見て俺は心配になった。
「ど、どうしたの、智花?」
「ふぇぇぇっ!? いや、あの、何でもないですっっっ!」
とても不自然な慌て方だった。
前々から感じていたが、智花には何か言いづらい悩みがあるのかもしれない。
「悩みがあるなら言ってごらん。俺にできることなら何でもするよ」
「な、何でも…!?」
「すばるん違うって! もっかんはすばるんのことが大すk…もがっ!!」
真帆の口を封じた智花がものすごい剣幕で迫った。
「ちょ、ちょっと真帆、言っちゃダメ!!」
「えーーなんでさー、自分じゃ言えないんならあたしが代わりに」
「ダメっ! こ、こういうことは自分で言うから…」
先ほどまでヒソヒソと話していたのに、この会話は丸聞こえだったのだが、よかったのか…?
それに、智花が途中で遮った真帆の言葉も、もうほとんど聞き取れた。
さすがに聞かなかったふりをするのも心苦しいので。
「…ふぇ…??? え、あああああの、えええ!?」
すると、お次は真帆が目を少女漫画のように潤ませてこちらを見つめてきたので、少し気恥ずかしいが、俺の気持ちを全て打ち明けることにした。
「もちろん、真帆のことも大好きだよ」
「うぇっ!? すばるん…?」
「それから、愛莉、紗季、ひなたちゃんのこともね。みんな、大切な仲間だから。」
こうして、自分の気持ちをはっきりと伝え、実に清らかな気分になったのに、2人はなんだか浮かない顔をしていた。
何でだろう、おかしいな。
昼の公園で2人と別れるまで、何だか空気が重かった上に、別れ際、智花が小声で発した言葉に驚いた。
「昴さんの…ばか…」
えっ…今なんて…? あの智花が「ばか」などという汚い言葉を使うなんてありえないはずだ。
うん、俺の耳がそろそろ寿命なのかもしれない…。
翌日。
「あの、昴さん、昨日はありがとうございました。とても、とても楽しかったです」
朝練を終えた俺は部屋で智花と談笑していると、丁寧に正座して昨日のお礼を言われた。
昨日の帰り道での悪夢のような出来事は、そっと心の奥に留めておいた。
おそらく、きっと、たぶん、本当に夢だったんだろう。
智花もそれについて言及しないばかりか、いつも以上にご機嫌だったのでとりあえず安心した。
「うん、俺も楽しかったよ。それにしても、真帆があんなに牛丼を食べるとは思わなかった…」
「確かに、あれは食べすぎですよね…はは」
そんな風に昨日のことを思い出していると、
「あ、真帆からメールです!」
智花が真帆から届いたメールを読み上げてくれた。
「きのうはありがとう、と。昴さんによろしくだそうです。あ、あと添付ファイルが………ひゃぁぁっ!?」
「と、智花!? どうしたっ!?」
突然、智花が悲鳴(?)を上げたので、驚いた俺は智花の携帯を覗き込もうとした。
「だっ、ダメです! これは見ちゃダメですっっ!!」
智花が顔面どころか全身を真っ赤にして俺から逃げて行ってしまった。
一体どうしたと言うのだろうか。
まあ、そのあと落ち着いた智花が「真帆、写真ありがとう」と返信していたのを横から見て、何か大変な事態が起きたわけでもないということが分かった。
でも、智花が恥ずかしがる写真ってなんだろう…?
「あの、昴さん。いつも私たちのために時間を割いていただいてありがとうございます。昴さんに認めていただけるよう、これからももっと頑張ります。だから、その、これからもずっと、昴さんのそばにいさせてくださいっ!」
「うん、こちらこそ、お願いします」
「は、はいっ! えへへ」
これからの決意を述べた智花は少し照れくさそうだったが、とても輝かしい笑顔を浮かべていた。
その笑顔があまりにも眩しすぎて、こちらまで照れくさくなってきてしまったけど、これからもこの笑顔の近くにいられることに喜びを感じながら、俺はずっと智花を見つめていた。
>>370 超重要な一文が抜けてましたww
なので370の冒頭からその部分だけ再投稿
「悩みがあるなら言ってごらん。俺にできることなら何でもするよ」
「な、何でも…!?」
「すばるん違うって! もっかんはすばるんのことが大すk…もがっ!!」
真帆の口を封じた智花がものすごい剣幕で迫った。
「ちょ、ちょっと真帆、言っちゃダメ!!」
「えーーなんでさー、自分じゃ言えないんならあたしが代わりに」
「ダメっ! こ、こういうことは自分で言うから…」
先ほどまでヒソヒソと話していたのに、この会話は丸聞こえだったのだが、よかったのか…?
それに、智花が途中で遮った真帆の言葉も、もうほとんど聞き取れた。
さすがに聞かなかったふりをするのも心苦しいので。
「俺も智花のこと、大好きだよ」
以下同じです。
>>371に続きます
>>370 超重要な一文が抜けてましたww
なので370の冒頭からその部分だけ再投稿
「悩みがあるなら言ってごらん。俺にできることなら何でもするよ」
「な、何でも…!?」
「すばるん違うって! もっかんはすばるんのことが大すk…もがっ!!」
真帆の口を封じた智花がものすごい剣幕で迫った。
「ちょ、ちょっと真帆、言っちゃダメ!!」
「えーーなんでさー、自分じゃ言えないんならあたしが代わりに」
「ダメっ! こ、こういうことは自分で言うから…」
先ほどまでヒソヒソと話していたのに、この会話は丸聞こえだったのだが、よかったのか…?
それに、智花が途中で遮った真帆の言葉も、もうほとんど聞き取れた。
さすがに聞かなかったふりをするのも心苦しいので。
「俺も智花のこと、大好きだよ」
以下同じです。
>>371に続きます
SNS Log Data
「みんな〜、きいてくれー! あたしホームランうったんだぜー まほまほ」
「おー、まほかっこいい ひなた」
「わーすごいなぁ、私なんてボールが怖くて打てないよ あいり」
「すばるんにちょびーっとおしえてもらったら、すぐうてるよーになった! さすがまほまほ、じがじさん! まほまほ」
「はいはいすごいすごい 紗季」
「ん? それほめてるよーにきこえないんだけどっ! まほまほ」
「べつに真帆が凄いんじゃなくて、長谷川さんが凄いんだと思うわ 紗季」
「なんだよちょーむかつく! そんならサキもやってみろよ! まほまほ」
「わ、私はいいわよ…。でも、真帆って野球のルール知ってるの? 紗季」
「んー? ホームランうてばかちで、さんしんしたらまけじゃないの? まほまほ」
「そんないい加減だから夏陽とも喧嘩しちゃうのよ。 紗季」
「それはいまカンケーないだろー!? まほまほ」
「まあまあ、二人とも落ち着いて… 湊 智花」
「よーしもっかん、今度はホームラン競争やろっか? まほまほ」
「まったく、たかがホームラン打ったくらいですぐ調子に乗るんだから 紗季」
「わ、私はいいよぉ…。それに、真帆とはまたバスケで勝負したいな 湊 智花」
「ジョーダンだってば! あたしだってもっかんにはバスケで勝ちたいし! まほまほ」
「『バスケで』ねぇ… 紗季」
「な、なんだよー!? まほまほ」
「ねぇ?トモ 紗季」
「え…私っ? あ、ええと…? 湊 智花」
「真帆ったら、長谷川さんのこと話してるとドキドキするとか、幸せとか言ってたのよ 紗季」
「ちょ、サキっ!! まほまほ」
「長谷川さんと毎日練習できるトモが羨ましいって。トモが告白するかどうか心配でとっても焦ってたし 紗季」
「こらサキ、それ以上言うなー! まほまほ」
「あはは、実はかなり前から知ってるよ、昴さんといるとき、真帆はとっても楽しそうだもんね… 湊 智花」
「うぇっ、もっかんまでっっ!? まほまほ」
「…私だって、真帆が羨ましいけどなぁ。なんでも緊張せずに平常心でできるってすごいことだと思うよ 湊 智花」
「いや、緊張しないわけじゃないし! この間すばるんと一緒のベッドで寝た時はシンゾーが壊れるかと思ったし まほまほ」
「…え? 湊 智花」
「…え? 紗季」
「…え? あいり」
見てるよ〜
二重投稿すみませんでした
連投規制食らってましたorz
残りあと少しなのに…
以下、
>>373の続き
「あれ、このこと話してなかったっけ? まほまほ」
「昴さんが真帆の家に泊まったってことしか知らないよ…? 湊 智花」
「あぅぅ、長谷川さんと真帆ちゃんが…? あいり」
「ちょっと! いくらなんでもそれはやりすぎでしょ! 紗季」
「おー? ひなもおにーちゃんといっしょに寝たことあるよ? ひなた」
「もーいーじゃん、すんだことだしさ まほまほ」
「よくないっっ!! 湊 智花」
「よくないっっ!! 紗希」
「あぅあぅ、さすがにそれは… あいり」
「おー? なんでひなは怒られないで、真帆だけ怒られてるの? ひなた」
「うんうん、みんなすばるんがすきってことだろー! それでいいじゃん。もっかんはあいかわらずコクハクできなかったけど まほまほ」
「……言えたもん 湊 智花」
「…え? まほまほ」
「…え? 紗季」
「…え? あいり」
「おー、ともか、大胆 ひなた」
「今日の朝練で、ちゃんと自分の気持ちは言ったよ…? う、嘘じゃないよ…? 湊 智花」
「えええちょっともっかんそれはどゆこと!? マジで!? まほまほ」
「… 湊 智花」
「ちょ、もっかん、ジョーダンだよねっ? ね? まほまほ」
「…… 湊 智花」
「もっかんってば! まほまほ」
「……… 湊 智花」
「こらーなんかいえー まほまほ」
「………… 湊 智花」
「真帆、必死すぎ 紗希」
「智花ちゃんが真帆ちゃんをからかうっていつもと逆だね あいり」
「べつにからかってるつもりは…。 湊 智花」
「えーなんでみんなそんなにはんのーうすいんだよっ? まほまほ」
「だって、まだはっきりと分からないし… 紗季」
「おー、ともか。おにーちゃんのおへんじは? ひなた」
「へ? えーとたしか『こちらこそ、お願いします』って… 湊 智花」
**この日のログデータは、容量の関係でこれ以上読み込めませんでした。**
*おしまい*
>>371は安価ミス&二重投稿です。
てなわけで完結です。
拙い文章ですが、お付き合いいただきありがとうございました
デートシーンもうちょっと長く書きたかったけど、ネタが思い浮かばないのでお許しを。
真帆×昴を書きたかったという自己満は達成できましたw
ただ、もう少し巧く書きたかったなぁ。
感想いただけるとめちゃくちゃ嬉しいです。
それでは、機会があればまた。
乙