【長編SS】鬼子SSスレ5【巨大AA】

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381チリチリおにこ
そんな訳で「チリチリおにこ」>>377-379の続きを投下しまスっ
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  ◇ ◇ ◇
 ガタン……
式鬼の「倉庫列車」が一度大きく揺れて動き出した。
ガタン……ゴトンガタン……
 一度走り出すと、列車は徐々に加速してゆく。その列車の一室、倉庫内。
赤、青、黄色……様々なパステルカラーに彩られている犬や猫、うさぎなどの様々なぬいぐるみの山がモゴモゴ動いた。
 「ぷはぁっ」
折り重なったぬいぐるみの下から出てきたのはおにこだ。
「おっ、ソコに居たか。おにこ、早くコレとってくれ、今にも沈んじまいそーだ」
 そう声をかけた嘘月鬼はおにこから少し離れたところで動けないでいた。
ナギナタが自重でぬいぐるみの間に沈み込みそうなのだ。嘘月鬼が尻尾を巻き付けて沈まないようにしているものの、
上から落ちてきた時の勢いでどこかに引っかかってしまったのか、今以上には持ち上げられなくなっていた。
この狭いスペースじゃ巨大化してぬいぐるみをおしのける訳にもいかない。

おにこはあわてて、ぬいぐるみをかき分けるように近づくと、一緒になってナギナタを引っ張った。

 す ぽ ん

少し間抜けな音がしてナギナタがすっぽ抜けた。
 おにこは勢い余ってふっとび、あやうく、また背後のぬいぐるみの山に埋もれる所だった。

「ふぅ。なンとか上手くいったか」
嘘月鬼は息を吐いて頭上を見上げた。「倉庫列車」はすでに走り出しており、先ほどの景色とは違う。
星空が頭上に広がり、両脇をものすごい早さで木の影や橋や建物の影が流れていく。

「もみじ?」
 おにこはキョロキョロと周囲を見回して、あのくのいちの姿を探した。まだ状況を把握できていないようだ。

「あー……ンとな。おにこ」
 嘘月鬼はどう切り出したものか言い淀んだ。生来の嘘吐きの気性がムクムクと頭をもたげてくる。適当な嘘を
吹き込んでおいて、おにこを宥めればいいではないか。脳裏をチラリとそんな考えがよぎる。だが、前回はそれで
失敗したのだ。
 しっかり事情を話さず適当に済ませたため、不用意に紅葉とおにこが遭遇してしまった。危うくおにこは首を
叩き斬られる所だったのだ。もう、同じ過ちを繰り返すのは避けたい。
「あのな。おにこよぉ……」
 嘘月鬼はその名前にもかかわらず、おにこに今回の目論見を正直に話し始めた──

  ◇ ◇ ◇
 ──嘘月鬼は今までになく困惑していた──
「倉庫列車」はじゅんちょーに走り続けている。ケドよ……

 ガタンゴトン……ガタンゴトン……

ケド、おにこの機嫌はゼンっゼンじゅんちょ〜じゃなかった。

「ぶ〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ」
おにこヤツぁメッチャふくれっツラ作ってて、これ以上ないくらい不機嫌で、しかも機嫌を直してくれなかった。

いっくらを言葉を言い含めても頬をふくらませ、ツンとそっぽを向いたまま、座りこんで動こうとしやがらねェ。

 いけねェやな、どうにも。なンだってンな事になっちまったンだ?

 プシュー……ガタン……ガタン……

やがて、「倉庫列車」減速し、揺れが緩やかになっていった。
 お、どーやらどっかにたどり着いたらしーな。
382チリチリおにこ:2012/10/16(火) 20:25:03.80 ID:cHU9gp/L
「なぁ、おい。おにこぉ。イイカゲン、機嫌直してくれよぉ。そろそろ降りねェと、式鬼どもに見つかっちまうゼ?」
 そういってもツンとそっぽを向いてガンとしてこっちを見やしねえ。
やれやれ。でも、このままだと、俺たち見つかっちまう。

「あのな、おにこ──」
そう言いかけてオレっちは言葉を飲み込ンだ。

 ……あ〜〜ぁ、ちぃっと、遅かったようだ……

 ギィッ ギィッ
  ギャッ ギャッ ギャッ

 周囲を見回すと、オレっちらは無数の式鬼に囲まれていた。あの屋台の所に居たのと同じ式鬼達だ。
……っつーことは、今、到着したのぁ、どっか別の市場か。コイツらは、新しい屋台の式鬼達だな。
商品を取りに来たってトコだろう。
……って、そンな分析をしている間にオレっちらはアッサリと、とっ捕まって「倉庫列車」からツマミ出されちまった。
 アッっちゅ〜間に持ち上げられ、手近の路上にポイっと放っぽり出された。

「ほれみろ、ヤッパ放り出されちまったじゃねーか〜」
オレっちはわざとらしく大仰にため息をついたが、おにこのヤツぁノってこねェ。
 ふくれっ面のまま、尻についたホコリを叩くとそっぽを向いて、ナギナタ抱えて無言で歩いていった。

「………………」

はぁ、コイツぁまいった。

「なぁ。おにこぉ。オレっちが悪かった。だから機嫌直してくれって。な?」
 必死に宥めンだが、ちぃーとも効果がねェ。いってぇ何ンでこンな事になっチまったンだ?
 つっても、コレ以上あのくのいちと一緒にいる訳にゃぁいくめぇ。所詮、オレっちらとあのねーちゃんは
住む世界がちげぇンだ。だったら、ちぃっと荒療治だが、今ンうちにスッパリとサヨナラしちまったほーが
いいってのぁ間違いねェ。

……とはいえ。はぁ。オレっちはこれからどーすりゃイイんだヨ……

  ◇ ◇ ◇
──紅葉は苦々しい思いでそれを見ていた──
 手すりの上にはキューブ化処理がほどこされた携帯食料──
それがポツリと忘れ去られたように残っていた。
「…………」

やられたわね──
 紅葉は不本意だがそう認めざるをえなかった。。用心していたはずだった。前回、前々回と不覚を取った相手だ。
決して気を抜いていい相手では無い。にもかかわらず、用心していたつもりがまたもや隙を突かれた。
 手すりに駆け寄ったが、ここから飛び降りたとしたら、下には「倉庫列車」があったはずだ。だとしても、
随分と前に走り去っただろう。今はレールが続いているだけだ。もっとも、こちらも手を打ってないわけではない。

 緊急の仕事が入っている。そうそう時間を無為にはできない──
 紅葉は効率的に動くべく、速やかに行動を開始した──

  ◇ ◇ ◇
 ──嘘月鬼は手もないのに頭を抱えていた──
──結局、市場の喧噪もにぎやかさも、おにこの機嫌を直す役には立たなかったのだ──
 人の波をくぐり抜けるように歩くうち、あたりは人気がだんだんと少なくなっていった。市場から離れているのだ。
周囲は少しずつ人が住む為の空間──住宅地へと向かっているようだ。
 コンクリートの建物がまばらになり、何も使われてない空き地、誰も遊んでいない公園、貯水池や誰も住んでいない
廃屋、人が住んでいるだろう長屋、神社の鳥居の前──街の中をさまよい、そんな景色が現れては通り抜けていく。
 ブロック塀やコンクリートの建物は数が減り、護符や結界で各所を補強した木造の平屋が目立ってきた。
383チリチリおにこ:2012/10/16(火) 20:25:52.16 ID:cHU9gp/L
いくつもの景色を通り抜けながら嘘月鬼はひとりごちる。
 ──おにこのヤツぁ、紅葉のねーちゃんの事ぁよっぽど好いていたンだなぁ──
 嘘月鬼は言葉にせず、嘆息した。気まずい空気はさっきよりも悪くなっていた。おにこが「帰る!」と叫んだ時、
嘘月鬼があのねぐらに戻る事を拒否したのだ。

 当然だ。折角、あのくのいちを振り払ったのだ。元の拠点に戻ってはち合わせしては意味がない。第一、現在位置が
ドコなのかわからないのだ。その事を説明し、どうせ似たような廃棄場所は他に幾らでもある。
そこに移り住もうと説得したが、ヘソを曲げたおにこには逆効果だった。

 今もおにこはプンスカ腹を立てながら、ズンズン歩いていく。嘘月鬼はその後ろをしぶしぶ飛んでいった。

 ──やれやれ、でもまー暫く歩いていればそのウチ、足が疲れて止まンだろ──
 嘘月鬼はうっそりと考える。おにこだって、いつまでもダダをこねている訳にはいかないハズだ。
 ──それに、空腹になりゃ、イヤでもなンとかせにゃならねェし、金だって、いつかは無くなっちまう──
 ──いや、その前に眠くなンのが先か。まあ、今日は諦めるとして、本格的に動くのぁ、明日から……だな──
 ──それまでにァ、ひン曲がったへそが元に戻ってりゃぁいいケドよ──

 嘘月鬼はヘソを曲げてるおにこの事をとりあえず置いといて頭の中でこれから先のことを色々と考える。

 ──まあ、あのねーちゃんの教えてくれたこたぁ、結構役に立ちそうだし、今までよか上手くできンだろ──
 ──ん〜オレっちもおにこも「食いもン」の心配は当分なさそぉだが、早めになンとかするに越したこたぁねぇしな──
 そこまで考えて何かが引っかかった。

 ──ぁん?なンだ?なぁンか重要な事ぁ忘れてねーか?
 ふと、考えている途中にどこか齟齬のようなものを感ンじる。なンか、重要な見逃しをしているかのよーな……
 気が付くと、先を歩いていたおにこが立ち止まってブスっとした顔でコッチを見てやがる。
いけね。考えごとに没頭するあまり、付いていくのを忘れちまってた。 あわてて飛んで追いつくと、おにこはプイと前を
向き、またペタペタと歩きはじめた。やぁれやれ──

 ◇ ◇ ◇
 ──気まずい時間は唐突に断ち切られた。横からかけられた聞き慣れた声によって。

「自由時間はおわりよ。気が済んだ?」
涼しげで凛とした声だった。
「紅葉!」
 おにこが振り向いた先には誰もいないコンクリートの壁しかなかった。一見した限りでは。

 ジジ……ブブブブ……パチ……パチチッ

 やがて、空間に火花が散り何もないはずの空中にノイズが走ったかと思うと、ぼんやりと人影のような
ものが浮かび上がった。そしてぼんやりとしたノイズの集まりは次第に輪郭がハッキリし、人の形を成した。

 いつものタクティカルスーツに身を包んだくのいち、紅葉だ。スーツの機能で周囲の景色にとけ込み、待ち伏せしていたのだ。

「忘れた?言ったはずよ。あなたたちがどこへ行こうともその気になれば、いつでも見つけられると──」

 紅葉の台詞は途中で遮られた。おにこが紅葉の腰にとびついたからだ。
「もみじ、もみじ、もみじ!もみじ〜〜〜!」
おにこの嬉しげな様子に逆に面食らったのは紅葉だ。
「な、なに……おにこ……?」
紅葉はおにこの反応に戸惑い気味だ。その後ろからホッとしたように嘘月鬼の声がした。

「や〜れやれ、やぁっと、機嫌直しやがった。しっかし、ずいぶんと慕われてやがンなぁ。紅葉のねーちゃん」

 笑いながら腰にしがみついてくるおにこを持て余しながら紅葉は自分がどう返事をすればいいか分からないようだった。
384チリチリおにこ:2012/10/16(火) 20:26:33.97 ID:cHU9gp/L
  ◇ ◇ ◇
「──仕事よ」
あの再会から間もなく──
 紅葉はおにこに、『仕事』の手伝いをするよう、おにこと嘘月鬼に言いつけたのだ。

 ──制御を外れ暴走した大型の式鬼を退治する──

 簡単に言えば、そんな仕事だ。
一行は手近にあった神社の階段で打ち合わせをしていた。紅葉は、入り口の鳥居の柱によりかかり、
受けた仕事の忍務データを右腕の手袋型デバイスで空中に投影していた。
 右の手のひらから光が投射され、立体映像がリアリティをもって空中に映し出されている。
おにこは石組の階段を数段上った所に座って紅葉の横顔を
ポケッと眺めている。嘘月鬼はいつもの小さな小石くらいの大きさで、おにこの肩の辺りをふよふよ漂い、話を
聞いていた。

「おいおい、オレたちゃぁ、そンなデカブツなンか相手にしたこたぁねーぞ?つーか、鬼とはいえ、年端も
 いかねぇガキにゃぁ、無茶っつーヤツじゃねーか?!」
嘘月鬼は当然ながら渋い反応をした。

「あなた達に戦力なんて期待してないわ。でも、この戦場に生き残られれば、戦闘力としては合格ね。だから生き延びなさい」
紅葉はにべもない。
 右腕の光から投影されている映像は、空中に今後『羽化』するであろう式鬼の予想された姿を立体で表示している。
どうやら巨大なヤゴを甲虫にしたような姿をしているようだ。足の代わりに六本の腕が生えている。隣に比較として
人型のスケールが表示され、一緒にくるくると回転している。隣には同時に出現すると予想されている、式鬼の分身
『眷属』も一緒に表示されていた。『眷属』は蚊とも蜂ともつかない姿をしている。
おにこ達はこの『眷属』から身を守ることができるかが今回の課題だった。陽動、もしくは囮ともいえる。
『眷属』だけならば、おにこと嘘月鬼のコンビでもしばらくは持つはずだ。
 その間に紅葉が『本体』を叩くのだ。
 が、
おにこはよくわかってない表情で、その映像を眺めていた。難しい話は嘘月鬼の担当だ。

「んで?その式鬼はドコにいやがんだ?とっとと済ませてしまおうゼ」
面倒事は早めに片づけるに限る、とばかりに嘘月鬼はざっくばらんにたずねた。
その質問に紅葉は投影し、標示されているデータ情報をそのまま読み上げた。
「火山研究エリア。元・青木ヶ原樹海」

  ◇ ◇ ◇
──青木ヶ原樹海──
 かつては緑深い森だった。が、『大災害』の際、地下火山が活性化。周囲は地獄と化した。地下のマグマが大量に
流れ出し、地表は焼き払われ、地面は隆起し、複雑な地形を形作った。
 今では複雑に『火の谷』が枝のように張り巡らされ、『火の川』がその合間を流れているという、凄まじい状態に
なっている。現在は立ち入り禁止区画に指定され、表向きは火山などを研究する施設があることになっているが、
その実、裏では表沙汰にできない研究が日々行われていた。

「──とはいっても、ここに直接人が来る事はないようね」
 身軽に体術で次々と岩を飛び越え、時にはマグマに浮いた岩さえ足がかりにして進みながら紅葉は誰にともなく
説明する。

「……で、そンな所だから、秘密裏にデカブツを育てちまって手に負えなくなって後始末に困っちまったと……
 はぁ〜〜ぁ、人間ってヤツぁいつもヤるこたぁどっかヌケてンなぁ……」
 おにこを頭にのせて、ふよふよ飛びながら嘘月鬼はあきれたように頭を左右に振った。
 おにこは、目の前の景色に圧倒されているようだ。しっかりと嘘月鬼のツノを掴み、あちらこちらに視線を
さまよわせている。

 周囲は常に赤く彩られ、赤熱した石の放つ熱と明かりで照らし出されている。その中でも比較的温度の低い
溝の中を進んでいた。
ぐねぐねと曲がりくねった溝を進むうち、やがて空間を封鎖した結界にたどり着いた。
385チリチリおにこ:2012/10/16(火) 20:27:12.16 ID:cHU9gp/L
「ここね……」
 正面には青白いオーラを放つ透明な壁が行く手を阻んでいた。よく見ると表面を複雑な術式が広がり、揺らめいている。
遠くから見たときは青白い光の柱に見えていた。
「あれか。例の式鬼を封じ込ンでいる結界ってのぁ」

紅葉は隠しから自在符を取り出した。手のひらサイズの長方形のディスプレイだ。
「入るわよ」
そう言うと、あらかじめ受け取っていたデータを自在符に転送する。すると真っ白な符の表面に文様と魔法陣が
浮き上がり、結界に対する手形となった。
 この符を手にしていれば、結界に入る事ができる。
「さあ、いらっしゃい」
 そう言うともう片方の手を差し出した。
結界を抜けるときに接触していればいっしょに通り抜けられる。
「なんでぇ、ソレがねぇと通り抜けれねぇのか」
「言っておくけど、入るときと出るときは必要なデータが違うから、変な事は考えない事ね」

「わかってるって。モウしやしねーよ」

 おにこをのっけたまま、嘘月鬼がよりそった。紅葉は式鬼の上に乗っているおにこへチラリと視線を向ける。
(この娘……今度はどこまで頑張れるかしら……)
おにこのここしばらくの伸び具合は目を見張るものがある。
 一時的な教官として教えているが、こと戦闘に関して、なかなかのセンスを感じる時がある。おにこの成長は時に
紅葉の予想を超える時があった。できうることなら、この娘と鬼子との関連性を調べてみたいし、弟子として
本格的に鍛えてみるのも面白い。

──そんな事を考えながら、紅葉は月の表面のような嘘月鬼の身体にぺたりと手をつき、結界を通り抜けた──
386チリチリおにこ:2012/10/16(火) 20:33:14.19 ID:cHU9gp/L
そんな訳で「チリチリおにこ」第12話>>381-385を投下したっ

【専門用語解説】
障気:しょうき
 式鬼が吐き出す排気ガスのようなもの。出力の高い・高性能な式鬼であればあるほど、高濃度の障気を吐き出す。

 濃度が高い程、人には悪い影響がでるため、式鬼を憑依させて動かす『人工臓器』は高性能であってもあまり推奨されていない。
常に大量の式鬼が働いている市街地では常に大量の障気が発生しているが、恒常的に障気を浄化する設備が様々な方法でもって
稼働しているが、なかなか安全値には到達しない。
また、怨霊を祓った直後にも観測されるが、因果関係は明らかになっていない。
嘘月鬼はこれを活力源として吸収できるが、普通の式鬼はそういったことはできない。
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……ところで、もうそろそろ容量が限界っぽいんでスが……(現在496KB)
この話はあと4話くらいかナー?ちょっと足りないかも……