「チリチリおにこ」第11話、
>>371-374の続きを投下しまス
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紅葉は思案していた──おにこに何をどう教えるかを──
さて……次は教材かしらね。
あの子が読める文字の種類が限られている以上、資料を使うとしたら、画像やイラスト主体のほうがいいだろう。
ただ、画像のある資料は基本呪具なので、閲覧には多少力を消耗する。一方、紙媒体の場合は情報密度の割には
かさばるが、閲覧するのに体力の磨耗はない。
指導にはどちらも一長一短で、いっそ実地だけ。という手もあるだろう。その場合、ロープだのクナイだのを
買い込んでおくというのも手ではある。
どうせ、荷物はあの式鬼……浮月鬼といったか──に、持たせるつもりだ。それくらいは協力してもらおう。
そう考えながら、教材にするものを扱っていそうなエリアへと移動する。
入手するモノそのものがハッキリしていればどの屋台でも入手可能だが、サンプルになる陳列品をみながらの方が
イメージを確実にできる分、効率がいいのだ。
中途半端なイメージのままオーダーすると先ほどのおにこみたいに混乱するだけだ。
まだ、足下のおぼつかないおにこを引きずるように歩き、市場と市場を繋ぐ橋の上を通りかかった時、
腰の小物入れの中にある通信符に着信があった──
◇ ◇ ◇
──嘘月鬼は隙を見いだした──
「……こちら紅葉……あぁ、あなたね──」
紅葉のねーちゃんに通信が入って、おにこから目が離れた。
よっしゃぁ!こりゃチャンスってヤツだっ!
「おぃ、おにこ。おにこ。おぃって」
オレっちはおにこに耳元で話しかけた。
「ぇう?」
なぁンかまだ、ラリってンのか?さっき、キッツい一発もらっちまったンだもんなあ。
オレっちは隠れてた、おにこの髪の中から外に漂いだして、素早く周囲を見渡した。
……どうやら、ここは市場から市場へ移動する際の中継点らしい。でっけぇ、歩道橋の上だ。橋の下を走っていンのぁ、
アレだ。「倉庫列車」ってヤツだろう。ここにぁ膨大な在庫があって、それを巨大式鬼が運搬してンだ。
それぞれ車両一つ一つが式鬼車で、ここから市場の「裏側」に乗り付けて、そっから客のオーダーした商品を
式鬼達が手早く運び出すって手ハズになってンだ。
そんな鉄道のレールがこの橋の下に何ン十本も走っていやがんだ。丁度、オレっちらの真下にも列車がとまってて、
今にも走りだしやがりそうだ。
荷台にブツがあるってこたぁ、これは在庫処分ンの車両かンね?こういうのぁ、リサイクルに出されるかもっと
需要のありそーな地域へ送られるらしぃが……よくわかンねぇな。だが、そンなこたぁ重要じゃねェ。
わかってンのぁ、これが、チャンスかもしんねぇって事だけだ。オレっちは素早くおにこの所に戻った。
「おにこ、おにこ。ちょっと面白れぇもンがみれっかもしんねェぞ?」
「へぅ?」
「ちっと、そこの壁ンとこ、登ってみ?」
ちょっとした手すりでもおにこにとっちゃぁ、立派な壁だが、ナギナタを足場にすりゃ、大した手間じゃねぇ。
本来なら、このナギナタを地面につき立てたりすりゃぁあ、たちまち切り裂いちまうんだが、今は封印されちまってる。
つき立てたナギナタを足がかりにして、おにこはオレっちにいわれた通り、うんしょうんしょと手すりの上に
登ってきやがった。
……オレっちが巨大化して押し上げる訳にゃいかねぇ。あのねーちゃんにバレる。
「ふぅわぁぁぁ〜〜〜〜あ……」
おにこは、上に登った後、周囲の景色にびっくりしやがった。
そりゃぁそうだろう。巨大な橋の長さいっぱいに並んで、走っている線路、その上を往来する巨大な
「倉庫列車」の数々。その景色の両脇に見える数々の屋台が放つ無数の光。さらにその向こうに見える街やビルに
ちりばめられた光……
それらをイキナリ一望したンだかんな。驚かねーわけぁねぇ。
……が、悪りィが、そンなに観てっヒマはねぇンだ。とっととすませてもらうゼ?