【長編SS】鬼子SSスレ5【巨大AA】

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377チリチリおにこ
「チリチリおにこ」第11話、>>371-374の続きを投下しまス
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  ◇ ◇ ◇
紅葉は思案していた──おにこに何をどう教えるかを──
 さて……次は教材かしらね。
あの子が読める文字の種類が限られている以上、資料を使うとしたら、画像やイラスト主体のほうがいいだろう。
 ただ、画像のある資料は基本呪具なので、閲覧には多少力を消耗する。一方、紙媒体の場合は情報密度の割には
かさばるが、閲覧するのに体力の磨耗はない。
 指導にはどちらも一長一短で、いっそ実地だけ。という手もあるだろう。その場合、ロープだのクナイだのを
買い込んでおくというのも手ではある。
どうせ、荷物はあの式鬼……浮月鬼といったか──に、持たせるつもりだ。それくらいは協力してもらおう。
 そう考えながら、教材にするものを扱っていそうなエリアへと移動する。
入手するモノそのものがハッキリしていればどの屋台でも入手可能だが、サンプルになる陳列品をみながらの方が
イメージを確実にできる分、効率がいいのだ。
中途半端なイメージのままオーダーすると先ほどのおにこみたいに混乱するだけだ。

 まだ、足下のおぼつかないおにこを引きずるように歩き、市場と市場を繋ぐ橋の上を通りかかった時、
腰の小物入れの中にある通信符に着信があった──

  ◇ ◇ ◇
──嘘月鬼は隙を見いだした──
「……こちら紅葉……あぁ、あなたね──」
紅葉のねーちゃんに通信が入って、おにこから目が離れた。

 よっしゃぁ!こりゃチャンスってヤツだっ!

「おぃ、おにこ。おにこ。おぃって」
オレっちはおにこに耳元で話しかけた。
「ぇう?」
 なぁンかまだ、ラリってンのか?さっき、キッツい一発もらっちまったンだもんなあ。
 オレっちは隠れてた、おにこの髪の中から外に漂いだして、素早く周囲を見渡した。
 ……どうやら、ここは市場から市場へ移動する際の中継点らしい。でっけぇ、歩道橋の上だ。橋の下を走っていンのぁ、
アレだ。「倉庫列車」ってヤツだろう。ここにぁ膨大な在庫があって、それを巨大式鬼が運搬してンだ。
 それぞれ車両一つ一つが式鬼車で、ここから市場の「裏側」に乗り付けて、そっから客のオーダーした商品を
式鬼達が手早く運び出すって手ハズになってンだ。
 そんな鉄道のレールがこの橋の下に何ン十本も走っていやがんだ。丁度、オレっちらの真下にも列車がとまってて、
今にも走りだしやがりそうだ。

 荷台にブツがあるってこたぁ、これは在庫処分ンの車両かンね?こういうのぁ、リサイクルに出されるかもっと
需要のありそーな地域へ送られるらしぃが……よくわかンねぇな。だが、そンなこたぁ重要じゃねェ。
わかってンのぁ、これが、チャンスかもしんねぇって事だけだ。オレっちは素早くおにこの所に戻った。

「おにこ、おにこ。ちょっと面白れぇもンがみれっかもしんねェぞ?」

「へぅ?」
「ちっと、そこの壁ンとこ、登ってみ?」
 ちょっとした手すりでもおにこにとっちゃぁ、立派な壁だが、ナギナタを足場にすりゃ、大した手間じゃねぇ。
 本来なら、このナギナタを地面につき立てたりすりゃぁあ、たちまち切り裂いちまうんだが、今は封印されちまってる。
 つき立てたナギナタを足がかりにして、おにこはオレっちにいわれた通り、うんしょうんしょと手すりの上に
登ってきやがった。
……オレっちが巨大化して押し上げる訳にゃいかねぇ。あのねーちゃんにバレる。

「ふぅわぁぁぁ〜〜〜〜あ……」
おにこは、上に登った後、周囲の景色にびっくりしやがった。
 そりゃぁそうだろう。巨大な橋の長さいっぱいに並んで、走っている線路、その上を往来する巨大な
「倉庫列車」の数々。その景色の両脇に見える数々の屋台が放つ無数の光。さらにその向こうに見える街やビルに
ちりばめられた光……
 それらをイキナリ一望したンだかんな。驚かねーわけぁねぇ。

……が、悪りィが、そンなに観てっヒマはねぇンだ。とっととすませてもらうゼ?
378チリチリおにこ:2012/10/15(月) 19:08:01.53 ID:oFc+f9WD
 ト ン

 オレっちは、おにこを後ろから軽く押した。

「ふぇっ?」
 さっきからゲンコツのせいでふらふらだったおにこは意表をつかれ、アッサリと手すりからおっこちた。
そう、真下に停車している「倉庫列車」の上にだ。

  ボフン
 雨よけの結界を突き抜け、落下したおにこを受け止めたのぁ、ぬいぐるみの一群だった。式鬼を憑依させる目的の
ヨリシロとかじゃねぇ。ふわふわで女の子を喜ばせるためのただのおもちゃのヌイグルミだ。

周囲がパステルカラーで覆われ、おにこは、たちまち
落ちた勢いでぬいぐるみの中に沈んでいった……

 おし、そーすっと後はオレっちだけだな。後ろを一瞥すると、まぁだ、紅葉のねーちゃんは通信中みてーだな。

(へへ、悪りぃなねーちゃん。世話ンなった)

 そー腹ン中でつぶやくと、オレっちはおにこの得物をしっぽで絡め取ると、おにこの後を追い「倉庫列車」へと
ダイブした。

  ◇ ◇ ◇
──紅葉に通信が入った──
 腰につけている小物入れの中に通信符が入っている。それが半テレパシーのような感覚がその事を認識させて
いる。

通信に出る前に何となく相手が誰かは察知できる。
「こちら紅葉。あぁ、アナタね……」
いつもの騒がしい男だ。紅葉は通信符を取り出すと額に当て意識を符にシンクロさせ通信に出た。
途端、頭蓋に調子っぱずれで軽薄な声が響き渡った。
「も〜っみじっちゃ〜ん!とと、あれぇ〜?タクティカル・スーツの反応がないねぇ?」

「っ!……直だとさすがにキツいわね……」
紅葉は先ほどとは違う頭痛でこめかみを押さえる。
「へっ?一体、なになに?」
「……なんでもないわ」
 紅葉は努めて平静に返した。

「……で、何?今日はオフのはずでしょう?」
「あぁっそうだそうだ、そうだった!ソコを押してお願いしたいんだよ!どーしても引き受けて欲しい仕事がっ」

「そのうちにね。それじゃ」
 すげなくそう告げると通信を切ろうとする。
あわてて押しとどめる声が響いた。
『ちょ、ちょ、ちょっと、ちょっと!そりゃないよっ、これまで色々と便宜を図ってあげたでしょ?!』
 声にいつもの余裕がない。

「今、取り込み中よ。他の日程じゃ駄目なの?」
いつになく緊迫した様子に紅葉は訝しげに尋ねる。

『特殊研究エリアで暴走事件が発生したんだ。中型式神が制御を離れてしまってて、今だんだん力を蓄えている
 最中でさ、ヒトタビこれが一度暴走したら、一般にヒドい被害が出るって予想されるのさ。一応、結界で囲い込んで
 隔離はしているんだけど、呪力強度によっちゃアッサリと結界を破ってしまう可能性が高くてね』
 珍しく普段のオチャラけた様子もなく、深刻な内容を焦った様子でまくしたててくる。

「……そう……」
 こういった類の尻拭いは割とよくある仕事の一つだ。中型〜大型の式鬼が暴走。秘密裏に事態を処理しては
性懲りもなく同じような研究を繰り返す。
 こういう稼業だとはわかってはいても、内心ため息が出る。それだけに稼ぎがいいので、そう文句もいえないのだが。
379チリチリおにこ:2012/10/15(月) 19:09:34.31 ID:oFc+f9WD
「それで、力を溜めているっていったわね?対象は『さなぎ』状態なの?」
 すぐに返答がある。
『そうだよ。そんで、中の呪力が少しずつ上昇していってるんだ』

──『さなぎ』状態なら式鬼本体を処理するのは難しくない──

「で、羽化した場合の式鬼の予想強度と日時は?」
 『さなぎ』の状態の時点で、「羽化」した時の強さと羽化する時期はある程度予想できる。

『予想呪力強度はLv_B。予想時期は明日。だから緊急なんだって』
 呪力強度としては高い方だが、大型式鬼としては弱い方だろうか。羽化予測日が明日なら、あまり悠長に構えて
いられないのは間違いないようだ。

『だから頼むよ〜これを何とかできそうなのは紅葉ちゃんだけなんだからさ〜』
「……」
 紅葉は黙考する。その程度の式鬼ならば、今まで幾度も処理してきた。それに、もし今日中に目標地点に到達できれば
『羽化』前の式鬼を処理できる。ただ、『羽化』直前という事は、攻撃を仕掛けた場合、中途半端な状態で式鬼が
覚醒する可能性もある。それに『羽化』前の状態の式鬼は無防備だが、大抵、中型以上の式鬼には周囲を守る
『眷属』がいる。
「…………」
 そこまで考えて思い浮かんだのはあの子達だ。
もちろん、他に教えなければならない事も色々とあるが、こと『戦い』に関する能力としてはこの位を凌げられれば
合格点だろう。肝心の式鬼は紅葉自身で処理しなければならないだろうが、雑魚の眷属のつゆ払いにはなるはずだ。
この前の戦いぶりなら心配はない。

「いいわ。その忍務、引き受けましょう」
『ホントかい?そりゃ助かる!!
 それじゃあ、早速ミッションデータを転送するから。準備が整い次第出撃してちょうだい!』
 そういうと気がかわらぬうちにとばかりに通信が切れた。

「仕事が入ったわ。あなた達にも手伝ってもらうから……」
紅葉は通信符を腰の小物入れにしまい込みながら振り返ったが、言葉が途切れた。

 どこにもおにこ達がいなかったからだ。手すりの上にキューブ化した携帯食料がぽつんと取り残されていた。
380チリチリおにこ:2012/10/15(月) 19:11:27.82 ID:oFc+f9WD
という訳で、「チリチリおにこ」第11話>>377-379を投下したっ

【専門用語解説】
聖骸粉/仏舎利:せいがいふん/ぶっしゃり
 3等級以上の『聖人』の遺骸をミイラ化処理をし、粉末にしたもの。または、同等の「神聖さ」を持つように「聖別」処理された粉末。
仏舎利は、仏の遺骨を粉末にしたもので仏門系であるというだけで基本効果は同じ物。
用途は様々だが、作中では「悪霊よけ」の為、生前自らの身体に注入し、死後、遺骸を「聖別化」する事に使われていた。
比較的安価に入手できるが、まがいものも多い。