【長編SS】鬼子SSスレ5【巨大AA】

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365チリチリおにこ
  ◇ ◇ ◇
──つって思ってたらあのアマぁ!あにしてくれやがンだっ!

──嘘月鬼は憤慨していた──

 ここは人の気配が全くしねェ廃寺だ。周囲にゃぁ、朽ち果てた寺や仏像がそこかしこに転がってて、かつては整然と
並べられていただろう、石畳があちこち、まくれあがって、ソコから雑草がワサワサ生えていた。

 おにこのヤツぁ、今にも死にそーな様子でナギナタによりかかってやがる。目もうつろで焦点がボヤけてらぁな。
息も絶え絶えで今にも変化が解けそーだ。深紅の目ェは黒くなったりアカくなったりして明滅を繰り返してンし、
あンだけ元気よく散ってた紅葉も途切れがちになってンし。ゼェゼェ息もあがっててメチャクチャキツそーだ。

 無理もねェ。ナギナタがちィっとも斬れねーんだかンよ。戦闘が開始と同時にあンのクソアマ、おにこのナギナタに
 よりにもよって封印呪をかけて消えやがった。今のナギナタぁ、ただのでっけぇ刃物だ。

 どうやらあのナギナタにゃぁ、”魔”が宿ってやがったらしい。そりゃそうだ。やたらと不自然な切れ味だったし、
妙な妖気放ってやがったかンな。アレでただの武器だなンて思っちゃいねーよ。当然っちゃ当然か。
だが、よりにもよって戦う直前にソレを『封印』しちまうたぁ、どーいうこった。今も霊視すっと、ナギナタの周りに
封印術式がまとわりついてンのがわかる。一時的なもンらしいが、そンだけの間ずっと不利な状況でおにこは
戦わされてた。普段なら一撃で断ち切れるザコを延々ドつき倒して弱らせ、オレっちがトドメに喰らうっつ〜
気の遠くなるよーな戦闘を延々と続けるハメになっちまった。オレっちは久しぶりに生きてる式鬼っつーゴチソウに
アリつけた訳だが、味わってるヒマぁなかった。

 はぁ、はぁ、はぁ……ゼェ、ゼェ……ェ、ゼ……ケホッカハッ……

 疲労も極まってンのか、時折せき込むよォに呼吸すっけど、こりゃぁ、そーとーキツそーだなぉぃ。おにこのヤツ。
ぶっこわれンじゃねーだろーな?

そン時、不意におにこの背後にヘビみてェな式鬼が現れやがった。
 ちンけなザコだが、ガキの腕の一本は咬みちぎれるくれェの顎をもってる。それがおにこの背後から襲いかかった。

 やべっ

 「アブねェ、おにこ!」
オレっちはいつものように石の身体でおにこを庇おうとしたが、ちぃと離れすぎてた。間に合わねェっ!
 だが、次の瞬間ンにゃぁ、クナイがソイツの額に突き刺さってやがったンだ。……ちっ、ようやくご登場かよ。
今までドコいってたンだ。

『何してるの。早くトドメを刺しなさい』
ドコからともなく、そンなかンじの冷徹な声がした。
! オレっちはハッとして振り返ったが、何ンのこたぁねぇ、例のクナイは「呪縛」の呪で式神の動きを縫い止めて
いるものの、一時的なもンだった。あと数秒もすりゃぁ、こノ式鬼ぁ元気一杯に『呪』を破り、動き出すってこった。
あくまでも、おにこにやらせるつもりらしい。
 おにこの奴ぁ、かろうじてってかンじで、ナギナタに寄りかかってつっ立っていた。

「はぁ……はぁ、……っ、ちぇ……ちぇぁあぁあぁぁああああああああっ!!!」
 やがて、残りの気力を振り絞り、おにこの奴ぁ、その式鬼に突進しやがった。

 ガキッ ドスッ バキッ ごきっ ガンッ ガンッ!!

 おにこは刃を封じられたナギナタを乱雑にやたら滅多にたたきつけやがる。まるで最初に出会った時みてェだ。
乱雑な攻撃だったが、徐々に式鬼のダメージが蓄積してンのがわかる。

 が、ヤベェ。式鬼の『呪』縛がもう少しで解けるっ!!

 あと一撃、そう、大きく武器をふりかぶった瞬間、おにこの膝がガクンと力を失ぃやがった。くそっ!よりにも
よってこんな時に!!オレっちがとっさに間に割り込ンでおにこを庇おうとした瞬間、尻尾の先端がチクっとした。
次の瞬間、ガクンと体全体の動きが『呪』縛されやがった。
 ! こりゃぁ?!……もしや?!
366チリチリおにこ:2012/10/13(土) 19:35:05.65 ID:84D5ndVQ
 動かねー身体を無理にうごかして振り返ってみっと、あンの定、オレっちの尻尾の先に『呪縛』のクナイが
突き刺さってて、オレっちの動きそのものを『呪縛』してやがった。
あンのアマ、どういうつもりだっ?!
 いや、それよか、このままじゃおにこの奴をガードできねェ!!

「ギィィイイッ!!」
 そンな感じでまごまごしてっと、背後で例の式鬼が『呪縛』を振り切って、おにこに襲いかかるのが聞こえた。

 くそっ おにこ!!
『呪』縛に逆らい、頭を無理におにこの方へ向けっと、おにこの奴ぁ、少し下がってしゃがむ様にしてナギナタに
よりかかってやがった。そのナギナタは斜めンなってて、地面に突き立っていた。
 そして、あの式鬼ンヤツぁ、おにこの頭、ほンの数センチ手前でキョーアクな顎を開いた状態で止まってやがった。
式鬼はナギナタでどタマをぶち抜かれてやがる。

「お……にこ……?」
くそっ『呪』縛のせいでなかなかうまく言葉が出ねェ。式鬼の後頭部からナギナタの刃がにょっきり出てやがった。
おにこはナギナタの柄をしっかり握って敵の式鬼を睨みつけてやが……ンだろう。こっからだと表情がよく見えねェ。

「ギ……ぎ……」
 そンな、呻きとも軋みともつかねー式鬼の声がしたと思ったら、ナギナタに貫かれた式鬼は尻尾からサラサラと
崩れ始めた。

どーやら、ギリの土壇場で、ナギナタの切れ味が復活したらしーな。ヒヤヒヤさせやがって。
式鬼が完全に『無』に還る前に、おにこの奴ぁ、気が抜けたのかゆっくりと前のめりに倒れかかった。

「おにこぉっ!」
 やぁっと『呪縛』のクナイが効力を失い、身体が動くようになったオレっちはおにこに向け、急いで飛ンでった。
 が、地面に倒れそうなおにこを抱き止めたのぁ、あンの腐れくのいちだった。おにこが地面に激突すン前に
『瞬動術』でおにこのすぐそばに現れ、おにこを受け止めた。あいかわらず早ぇ。

……けどよ。
「おい、ナギナタの事といい、今の事といい、いってぇ、どーゆーつもりだっ!?殺す気かっ?!」

 紅葉の奴ぁ、こっちをチラ見すっと、ぐったりして意識があンのかさえ怪しい状態のおにこを抱えあげた。

「甘やかしてちゃ育つものも育たない。それだけよ」
……つまり、これも訓練の一環ってか?!死ンだらどーすンだ。
「死なないように頑張る事ね」
 くっそ ……やっぱ、このねーちゃんにこの話を持ってきたのぁ、失敗だったかもしれねェ……
まあ、選択の余地なンざぁなったンだが……

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  ◇ ◇ ◇
「はあぁっ? 街へ行くだぁっ?!」
オレっちってば、まぁたスっとんきょーな声を出しちまったゼ。次から次へとあに言いやがる。このアマは。
このねーちゃんがそう言い出したのは今日の訓練が終わった後だった。

「遅かれ早かれ、いずれは街にいくことになる。なら早めにした方がてっとり早い。何を驚く?」
 いつもの携帯食を口に運びながらごく淡々とねーちゃんは尋ね返してきた。

ぐぅ……そりゃぁ……そういったケドよ……
 おにこ自身は携帯食でメシ済ませた後、さっきまで横になってたンだが、オレっちのとんきょーな声にびっくりしたのか、
起き出して近寄ってきた。そしてキョトンとした顔でオレっちらを見上げてやがる。
何のこと話してンのかぁわかってねぇよーだな。

「あー……なンだ。お次はあのキラキラでおべンきょーするってよ」
途端、パァっと表情を輝かせやがった。
「キラキラっ!街っ?!きらきら、きらきら〜っ!」
 今にも小躍りしそうっつか、実際に跳びハネながら、全身で喜びを表現してやがらぁ……あ〜ぁ……
さっきまで特訓で息も絶え絶えだったのがウソみてぇだな。まーメシはしっかり食ったけど。
367チリチリおにこ:2012/10/13(土) 19:36:15.96 ID:84D5ndVQ
「? 何、あなた達、街に行ったことがあるの?」
オレっちはあンまし思い出したくない記憶を刺激され、ぶっきらぼうに答えた。

「まァな。あンときゃえっれぇ〜散々だったゼ……」
ぶつくさ返事するオレっちと……
「キラキラ、きっらっきっら〜」
歌いながら小躍りしているおにこ。その対照的な反応にくのいちのねーちゃんもちぃっとばっかし怪訝そうだ。

「あ〜なんつーか……街にいった早々、バラバラになっちまってな……おにこの奴を連れてくっつ〜なら、気ぃつけた
 方がいいゼ、っつっとく……」

全く、あンときゃヒデー目にあったゼ。まあ、おにこの奴ぁ、いろいろ楽しかったか知ンねーけどな……
オレっちの方はロクでもねー目にしか合ってなかったモンな。

……ン?まてよ……?
 こりゃぁ、ひょっとして……巧くいきゃ、このねーちゃんを振り切れるンじゃね?
 そーだよっ!あン時ゃぁ、気ぃ付けててもオレっちとおにこの奴ぁバラバラになっちまったンだ。
なら、雑踏を利用してこのねーちゃんを撒くこともできンじゃねーかっ?!
 よしよし、そンなら、この流れに乗っかンのも悪くねーよな。このねーちゃンにサバイバルのかてーきょーしってヤツを
依頼したのァ、こーゆーチャンスが巡ってくンのをあて込ンでの事だ。しかし、こうも早く機会がくンたぁな。くひひひ……

「それじゃあ、明日に備えて『貨幣・紙幣』の使い方を覚えて貰うわ。ここにこの前の鬼退治であなたの取り分が
 あるから、それを使って有効な利用方を覚える事ね」
 そういって、紅葉のねーちゃんは懐からいくらかの紙幣と貨幣を取り出した。早速コレで予習をしようってか。

……それにしても……この前のシゴト。おにこの取り分も分けてくれるってか。律儀なこってぇ。ネコババしたり
授業料とかヌかして自分のモノにしたってぇ、おかしくねーってのに。

「見損なわないで頂戴。そんなハシタ金で誇りに泥を塗るようなシゴトはしてないつもりよ」

さよけ。そらあ結構なこって。オレっちはこっそり心の中で舌を出すと、お金の使い方の講義を始めたくのいちと
熱心に耳を傾けるおにこを尻目に、とんずらする算段を頭ン中で練りはじめた────
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  ◇ ◇ ◇
「──さて……と、だ。準備はいいか?おにこ」
オレっちはいつものちっちぇ火の玉みてーな姿でおにこの肩のトコから確認した。
「うんっ」
翌日、オレっちらはくのいちのねーちゃんに言われた時刻よりも早い時間に、準備してた。準備つっても
あんまするこたぁねェんだがよ。……おにこの奴がハシャいで、いつもよか早く目ぇ覚ましやがったんだ。
よぉっぽどタノシミにしてたらしいな。シバかれまくった昨日の今日で元気なもンだゼ。

 オレっちとしちゃ今からアタマが痛ェってのによ……まあ、上手くすっとあのねーちゃんとも今日限りで
オサラバだしな。セーゼー楽しむといいさ。つっても、そんなこたぁ、おにこの奴にぁ黙ってる。
 なンせ、おにこの奴ぁ、何故かあのねーちゃんの事ぁ信用しきっちまってンからな。素でバラされたらおしめーだ。
 そンな事をつらつら考えてっと、例によっていつの間にか、くのいちのねーちゃんが来てた。

「準備はいいようね?」
 不意に、そンな声が間近で聞こえやがる。ったく、いつもながら、接近する気配がまぁったくしやがらねェ。
さすがは忍だっつーこたぁある。

「ソッチぁ、相変わらず気配が読めねェな……あン?」
いつもの軽口を叩こうとしたオレぁ、語尾が勢いを無くしちまってた。くのいちのねーちゃんのカッコウがいつもと
違ってたかンだ。
368チリチリおにこ:2012/10/13(土) 19:37:00.39 ID:84D5ndVQ
 いつも全身をスッポリ覆ってる戦闘用スーツたぁうって変わって、胸と腰を黒い皮で覆っただけのメッチャ露出の
多い衣装と鋲を打ったレザーのジャケットを羽織ったっつー出で立ちで登場してやがったんだ。
白い肌にえれぇ目立つな。胸を覆うレザーも腰を辛うじて覆うスカートもテッカテカに黒光りしてて、同じ色の
革ジャケットはアチコチ鋲が打ってあって所々キラキラ光ってた。
腕や足、首には邪魔になんねー程度にアクセサリーが巻き付けてあったし、腰のベルトにゃぁ、いくつか小物入れが
ついてンだが……まぁ要はいつもの雰囲気と全然違ぇ。
 だが、肩に楽器ケースらしきもンを背負ってたが、ありゃ、武器のカモフラージュだな。ケース越しにも
あの刀の妖気がビンビン伝わってくらぁ。それにしても……

「へェ……ねーちゃんそンな顔してたンか……」
人間の美醜はよくわかンねェけど、人間基準ならえれェ美人に入ンじゃねェかな。キリッとした目元に引き締まった頬、
すいっと通った鼻スジにスラッとしたアゴのライン。普段は目ェしか見れねェが、見慣れた射抜くような眼光ぁ
相変わらずだ。
ヘルメットに覆われてわからなかった髪の毛ぁ肩の後ろまでストレートに垂らしている。えれー黒くて艶やかだ。
 比較的人間の美醜が分かるだろォおにこが、ぽかーんとしてっとこ見っと、オレっちの見立てもそうズレてねェ
ハズだ。

「街にいくなら、いつもの格好する訳にもいかないでしょう」
 そういうモンかねェ。オレっちにゃぁ、あのスーツ姿でも大して違わねェと思うがな……まぁ、教官のねーちゃんが
そー言うならそーなんだろうさ。教官サマの言うことにゃぁ従わねェとな──
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  ◇ ◇ ◇
──実のところ、必要とはいえ、紅葉はこの事にあまり前向きではなかった──

 さて……と。しかし、こういう時、街から遠いとメンドクサイものね。何だってこの鬼達はこんな所に拠を
構えているのかしら。ついてないわ。
 それに、必要だとは理解しているつもりだけど、まさかこんな子供の世話を見る事になるだなんて。世は一寸先は
闇ね。あの子の武器はそのままだと危険過ぎるので一応、布を巻いた上で封印を施した。
 今度はいざというときの解呪のキーワードを教えておいたので、この前みたいに抗議をされる事もなかった。
 街とはいえ、小さい子にとって危険な事もあるのだ。自分の身を自分で守るのも訓練のうちだ。
まあ、このコの腕前ならよほどの事がないと問題ないだろう。トラブルが起きないに越したことはないが。

「アナタにこれを渡しておくわ。使い方は昨日教えておいたはずよね。有効に使いなさい」
 そう告げて、例の仕事の報酬のうち、彼女の取り分の半分が入った財布を手渡した。半分とはいえ子供には
過ぎた額だ。もし、言いつけを守らず無為に使うような事があれば、もう一度言い聞かせなおさなければならない。
このコは子供にしては覚えるのが早いし、子供ゆえの素直さもある。
 それでも、お金の魔力というのは簡単に人を狂わせる。しかも、今まであらゆるものに恵まれなかった境遇もある。
思いも寄らぬ大金で正気を失ってもおかしくないだろう。……が、まあ、一度くらいそういう事で自分を見失うのも
教育の一環と考えればいい経験になるだろう。火傷は早いうちにしておくに限る。

「それじゃあ、出発するわよ。ついてらっしゃい」
浮遊する岩の塊のようになった浮月鬼の上におにこがしっかり座るのを確認した後、私は街へ向け、瞬動術で移動を
開始した──
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369チリチリおにこ:2012/10/13(土) 19:39:01.03 ID:84D5ndVQ
という訳で「チリチリおにこ」その第9話>>365-368を投下したっ

【専門用語解説】
紅葉の遭遇した事件:もみじのそうぐうしたじけん
 彼女が抜け忍になるキッカケになった事件。チリチリではなく、ひのもと鬼子と出会い、共闘したことがあった。
 詳しくは日本鬼子同人誌「おによめ」創刊号「千々に裂かれた心」参照のこと。
 このことにより、紅葉の心境に変化がおき、チリチリに対する態度に影響していることを彼女は自覚してない。