「チリチリおにこ」
>>347-351の続きを投下しまス
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紅葉はガラクタの山積している中からいくつか目的のモノを見つけだした。次いでガラクタの山から同じく
引っ張り出したズダ袋に入れ、準備を済ませる。そして、二人の鬼を廃棄場から連れ出した。
行き先は近くの、山の中にある廃工場だった。
「んで、いってぇ何でぇ。ンな所へ呼び出しやがって」
嘘月鬼は気楽に尋ねた。抹殺するつもりならとうに抹殺されている。そのため、ここまで呼び出される意味が
わからずとも変に警戒する必要もないと考えているのだ。
嘘月鬼は岩石の頭をフリフリ、周囲を見回した。廃工場といっても中はほとんど残っていなかった。あるのは
製造ラインを設置する為に用意された凹凸と、そこに入り込んだ雨水が貯まってできた大きな水たまりだけだ。
その水たまりも淀んで油汚れや塵芥が無数に浮いている。
紅葉は何もいわず窓の外を見た。ガラスの類はとうの昔に無くなってる。その向こうは暗闇でうっすらとした
月明かりが殺風景な山の景色を浮かび上がらせている。
「死にたくなかったら窓から離れてなさい。いいわね」
一方的に言い捨てると姿を消した。数秒後、ドーンという破壊音とともに、真っ赤に灼けた岩石が飛び込んで来た。
「?! 何だ、なンだっ?!何事だっ?!」
その岩は、おにこを乗せて飛ぶときの嘘月鬼より二周りも大きかった。
前後の状況から紅葉の仕業に違いなかったが、どうやってやったのかはわからない。
その赤熱した岩石が水たまりの中に落ち、途端に水を
沸き立たせた。たちまち水しぶきがまき散らされ、水蒸気が周囲に立ちこめる。
「ひゃわわっ?!」
おにこも目をまん丸にしてこの異様な景色に見入っていた。その湯気の中、いつのまにやら紅葉は水辺で何か
作業を進めていた。例のズダ袋からいくつかの筒状の入れ物をとり出し、ボゴボゴと沸き立つ汚れた湯に浸した。
そして簡単な印を結び、呪を唱えるとその中に湯の中のゴミが集まり始めた。
それは一般的な浄水術だ。この浄水筒は簡単な印と言葉で起動し、水の中にある不浄物を吸い集めるように
できている。もちろん捨てられていた物であるから、何らかの不具合があるのだろう。
が、複数の物と併用すれば当面の目的は果たすことができる。やがて、時間の経過とともに湯のなかの汚物やゴミは
すべて浄水筒の中に吸い込まれた。熱すぎる湯もその頃には適度な水温に程良く冷めていた。
「───さて、それじゃ、お風呂にするわよ」
汚物の詰まった浄水筒を湯のなかから引き上げると、紅葉はおにこ達にそう告げた。
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「──へぇ。シノビが風呂好きたぁ知ンなかったな」
サッカーボールサイズの岩石になった嘘月鬼が物珍しそうに湯面を尻尾でつつきながら言った。風呂の事は知っては
いたが、自身で入った事はない。必要がないのだ。
「敵に気配を察知されない術の一環よ」
そっけなく、紅葉は答える。
「ひゃっひゃっひゃ。違げェねェ。うまく隠れてても臭っちまったらおしめ〜だもンな」
何がウケたのか大笑いする嘘月鬼。
実際に気配を消すには食餌制限で体臭を消すところから始める訳だが、それをここで言っても意味がない。
「ほら、いつまで飲んでいるの。こっちを向きなさい」
そう言って、おにこの手を引き、頭からお湯をかぶせた。さっきまで水面に顔を突っ伏してお湯を飲み続けていたのだ。
なにせ、今までゴミ廃棄場に降り注いだ濁った雨水しか口にしたことがなかった。鬼の身だけに死にこそしなかった
ものの、ここまで綺麗でおいしい水はじめてだったのだ。
「っっぷわっ」
当然、頭からお湯をかぶる事もこれが初めてだ。
おにこは今、何も着ていない。あのボロ布とも着物ともつかないものは別の水たまりに浸して、浄水術を用いて洗い
終わっていた。今は程良く冷めてきた岩の余熱でもって乾かしている最中だ。
頭から何度も湯をかぶされ、たまらず犬みたいにブルブルと頭を振ってお湯をはじき飛ばした。
「それじゃ、次はこれで身体を洗ってみなさい。間違っても食べるんじゃないわよ」
そう言うと、石鹸のついた手ぬぐいで軽く身体をこする仕草を見せてから、おにこに手渡した。
おにこはじっとそれを見ていたが、しばらくするとゴシゴシとおぼつかない手つきで身体を洗い始めた。
という訳で、「チリチリおにこ」第7話
>>354-357を投下しましたっ
【専門用語解説】
ライフライン:らいふらいん
前の時代の「大災害」により、各水道・ガス・電気・下水等のネットワークは寸断されている。その代わり、式鬼を用いて
排水・水道などのライフラインは維持されている。
方法として綿密に制御される式鬼が毎回大量に水や下水の入ったタンクをバケツリレー方式で運ぶのが常である。
なお、処理された下水は作物工場に堆肥として運び込まれることになる。
一般では、浄水筒による雨水を浄化する方式もまだ残っており、コチラの方が企業と契約するより安上がりに済むことが多い。
情報ネットワークに関してはインターネットはほぼ壊滅しているが、脳波を利用したネットワークが構築されており、
脳組織の一部をネットワークの一部として解放する事を条件にネットワークに加入できる。
(なお、脳組織を解放するには脳内に特定ソフトのインストールが必須)
それ以外でネットワークを利用する場合は有料端末を利用するか、式鬼を憑かせた人工脳でネットワークにアクセスできる。
ただし、人工脳でのアクセスは他の利用者に悪影響が出るとされ、違法であることが多い。