【長編SS】鬼子SSスレ5【巨大AA】

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347チリチリおにこ
>>340-344の続きを投下します。
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  ◇ ◇ ◇
 ──嘘月鬼は眉間にチリチリとした緊張を感じていた──
ふぅ。やっぱ、これを出すのは骨が折れンぜ。
 これは一種の『烙印』みてぇなもンだ。オレっちがニンゲンに捕まって式鬼にされた時に組み込まれちまったンだ。
五浄家が滅ンじまった時ぁ、拘束力は減ンじたハズなンだが、具現化すっと、今でも影響がある。
 だからまあ、あらかじめ障気なンかを吸って体力つけてねぇと、たちまち呪縛されちまうっちゅう物騒なしろもンよ。
 本来制御するハズの五浄家が潰れちまっているから、呪縛されたら、どうなっちまうかわかったモンじゃねえ。
もっとも、この術式にもまだ色々使いようがあンだけどな。
──例えばこんな風に身の証しを立てる時とかよ。

「どうでぇ、これがオレっちの言う『証拠』よ──ぶぇっ!」
次の瞬ン間、頭に衝撃を受け、目の前が真っ黒になっちまった。そんで顔が地面に叩きつけられたと気が付いたのぁ
その数瞬後だ。このアマぁ。どタマが割れなかったから手加減したってこたぁ分かるが、蹴たぐるたぁどういうツモリだ。
「うっちゃん!」
 おにこの狼狽えた声が聞こえた。次におにこの怒気が「むうぅ〜」と女に対して膨れ上がらせてゆくのを感じた。
 やべっおにこがアイツに食ってかかっちまう。
オレっちはとっさにおにこの腕に尻尾を巻き付け、引き寄せながら起き、敢えておおげさに食ってかかった。

「このアマ、下手に出てりゃぁどうゆうこった!ポンポン好き勝手に蹴りくさりおって!」

おかげでおにこは毒気を抜かれちまったようだ。
 が、当の女ぁ例の妙なバイザーを操作してなンかブツクサ呟いてやがった。あれは───
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  ◇ ◇ ◇
「──本部、応答せよ」
ザッ ザザッ
『はぁ〜いっ紅っ葉ちゃぁ〜ん!待ち焦がれたよぉ〜ん!君の為ならボクは例え火の中水の中───』
「ちょっと見てもらいたいものがあるの。解析して」
紅葉は相手のいつもの長広舌を遮ってつっけんどんに用件を言った。

『なになに?一体、何を分析すればいいのかな?』
言葉を遮られたにも関わらず、特に気にした様子もなく、やる事を聞いてくる。紅葉も慣れたもので、すぐさま
地面に残っている式鬼を叩きつけた跡をバイザーでスキャンし、データを転送した。
「何かの痕跡みたいだが……解析は可能?」
紅葉はぬけぬけと尋ねた。
『ん〜こりゃ、家紋の一種かもね〜?』
「家紋……ね」
『そそそ。式鬼……しかも、名家直属の式鬼だった場合、こういったエンブレムを特殊な術式とともに組み込むことが
 あるのは知っていると思うけど、どうもソレの跡みたいだね〜?』
「なら、どこの家のか割り出せる?できるだけ詳しいデータを調べておいて欲しいんだけど?」
『お安いご用さ♪紅っ葉ちゃんのたっめっなら──』
「そう、お願いね」
相手の言葉を最後まで聞かず、通信を切った。

「───貸しを作った──って訳でもねぇようだな?」
そばで通信内容を聞いていた式鬼が疑い深そうに尋ねてきた。この式鬼の家紋の映像を直接送らず、わざわざ地面の
土に型をとったもので照合しようとしてるのだ。
 もう一人の小鬼はその式鬼に隠れて今にも噛みつかんばかりに睨みつけてきてる。
先ほどの屈託ない笑顔は当然のことながら消え失せていた。それでも、なんだか威嚇してくる子猫のようで緊迫感に
欠けるのだが。

「あなたたちが無害なのか。見極めないうちに報告して抹殺指令が出たら寝覚めが悪いもの。それだけよ」
 そっけなく言い、冷たい瞳で見返した。場合によってはこの子を打ち殺さねばならない可能性はまだ生きている。

 その子は、冷たい眼光に射すくめられ、ビクッと気圧されて式鬼の陰にひっこんだ。
348チリチリおにこ:2012/10/10(水) 22:39:55.41 ID:gCWOxjwR
「おやさしいこって。そンなら、やたら殺気を振りまかねェでくンねーかな。おにこが怯えンだろ?」
「おにこ、といったわね?何でそう呼ぶのかしら?」
「おいおい、真名(まな)どころか字(あざな)も危ねェことぐれぇ、分かってンだろ?」
 重役や地位の高い身分の者は常に暗殺を目的とした『呪い』の危険に晒されているため、滅多に本当の名、真名を
明かさない。格段に式鬼が放たれる率がハネあがるからだ。
特に幼い子供は特に悪霊にも狙われやすいということで、仮の名前……字(あざな)で過ごすのが普通だ。
だがそれにしたってもおにことは……

「……まあいいわ。じゃぁ、次」
そう言うと、紅葉は「かくし」から、携帯食を二つ取り出した。うち一つを二鬼の方に放り投げた。
式鬼が尻尾でそれをキャッチする。
「その子が食屍鬼じゃないというなら、食べられるはずよね?」
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  ◇ ◇ ◇
 ──くそっ、そう来やがったか。あんな事いいつつ、ホントの目論見はオレっちとおにこの分断じゃねーのか?
 オレっちとおにこが共同生活してンのは『食生活がかみあってる』ってー事もポイントの一つだ。
 死者の肉をおにこが、霊体の部分をオレっちがイタダイテいるようなもンだかんな。もし、おにこが屍肉以外の
モンを食うようになっちゃ『狩り』の効率が減っちまう。屍者がいる所を探す必要がなくなンからな。
おにこが屍肉以外のものを口にすンようになンのはちっと困る。

 ──つっても、今ここで斬り捨てられるよかマシか。オレはおにこに、この携帯食を渡した。
おにこは、それがなンなのかわかんねェようだ。手にとってためすがめつしたり臭いを嗅いだりしていた。

「こうやって食べるの。安心なさい。毒はないわ」
そういって、女は目の前で携帯食の袋をむき出して一口、食べて見せた。
それを見て、おにこは袋をかなり苦戦して破き、中身を取り出すとクンクンと臭いを嗅ぎ、

  パクンッ

 と、カジりつく。
途端、パアァッと表情が明るくなり、次の瞬間、ガッつきだした。あ〜ぁ。

「……まずは合格ね」
なンか安堵したみてえに聞こえたのあ気のせいか?
「よお、あんま美味いもン食わせねぇでくンねぇかな。うちゃそんな恵まれた食生活ぁ送ってねぇンだ」
 ガツガツと食いモンに夢中になってるおにこにやや呆れながら文句はタレたがな。
「この携帯食程度の物なら、この辺りのガラクタの中からでも多少は見つけられるはずよ。今まで見つけたことないのかしら?」
「たまにだ。そうしょっちゅうじゃあねえよ。それに大抵傷ンじまってるしな」
つか、おにこの舌が肥えすぎンのも考えもンだから食わせたくねェよ。

「……一応言っておくと、まだあなた達が人間にとって無害だという証明が成ったわけじゃないわ。覚えておくことね」
「……へ。仕事熱心なこった。婚期を逃すタイプだな、ねーちゃん」
「余計なお世話よ」
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349チリチリおにこ:2012/10/10(水) 22:40:37.00 ID:gCWOxjwR
  ◇ ◇ ◇
 ───紅葉は信じていなかった。この式鬼はどうにも胡散臭い。この子が本当に元・人間だったとしても、この子を
いいように利用しているんじゃないかと疑っている。
場合と事情によってはこの式鬼とこの子を離してこの子を保護する事も考えていた。
昔はこんな孤児などよくある事と、感情を押し殺して忍務に邁進していたものだが……そういえば忍務と関係ない所で
誰かを救ったのもこれが初めてだったと、ふとそんな事に思い至った。
 だが犬猫ではないのだ。今のままでは本当の意味で救った事にはならない。この式鬼とこの子を引き離すだけでは
飢えて死ぬだろうし、もし本当に五浄家の姫だったとしても身の処し方が悪ければ謀殺される可能性もある。
それに、この式鬼にこの子が懐いているのもどうしたものか……
そんな事をつらつらと考えていたら、おにこがじ〜〜〜〜っと紅葉を見ていた。
視線を辿るとおにこは手元の携帯食に物欲しそうな視線を注いでいる。

「…………」

……それなりに栄養価の高いものなのだが。物足りなかったようだ。紅葉は、携帯食を無造作に放り投げた。
途端、おにこはハッシと飛びついた。あんなものだが、よっぽどおいしかったのか。早速、まぐまぐとかぶりついた。
 あきれて見守る紅葉の横であの式鬼が忌々しそうに唸っているが、紅葉は素知らぬ顔でほうっておいた。

  ピピッ
……紅葉のヘルメットに通信が届く。
『もっみっじちゃ〜〜ん!調べてきたよん〜!』
相変わらず騒がしい声が通信機を通してヘルメット内に響きわたった。
「それで?」
そっけない返事に通信向こうの男は不満そうだ。
『え〜〜折角調べてきたのに『がんばったわね』とか『ご苦労様』とか『ご褒美に抱かれてもいいわ』とか、
 もっとこ──』

「切るわよ」
 この男の戯言につきあいきれないとばかりに冷たく突っ込んだ。
『あぁ、もお、相変わらずつれないなあ。えっとね。家紋は五浄家のモノだったよん』
「五浄家──」
『そそそ、最近潰れた家だね。やり手のおっさんだったらしいけど、らしくないミスやらかしちゃったとか……
 ま、世間じゃよくある事だね。詳細はファイル送るから見てちょうだい』
 そうしてファイルを転送してきた。
「そう。それと、もう一つ聞いておきたいんだけど……」
『ん?』
「原種の鬼のゲノムデータって、公式・非公式どっちでもいいけど、ニンゲンが入手した事ってあったかしら?」
男は突飛な問いにも特に困惑せず、まじめに聞き返してきた。
『原種の鬼?ってあの鬼かい?ツノが生えてて金棒持って人を食う?』
 今の世の中、巷に鬼は溢れているが、昔から言い伝えられている鬼の事は「原種」と呼ばれている。
厳密に言えば原種の鬼以外の鬼は鬼ではなく、陰の気の集合体や、術で生み出された疑似生命体や何かほかの
妖怪である。
『ん〜紅葉ちゃんに言うのは釈迦に説法だろうけど、
 非公式ってったって、隠されているもの全てを把握するのは不可能だしねぇ。知っているかぎりで、原種の鬼が
 捕縛されたって話は今のところ聞いたことがないかな?』
「そう。ありがとう。世話をかけたわね、ご苦労様」
そう言ってあの男のおしゃべりにつきあってはいられないと通信を切った。

 そして転送されてきたデータを展開。ザッと眼を通す。
──五浄家──元々は霊的なものの浄化を得意とした名家……悪霊や悪い『気』を浄化するノウハウを飲食物にまで
広げていて、医食同源を元にし、要人の飲食物の『お清め・聖別』も担当していたようだ。
本家は……後継ぎこそいないようだが、幼い『姫』が居たようだ。が、公式記録では死亡と記録されている。
 あの式鬼の話が本当なら、この子がその『姫』という事になるが……

 が、紅葉は何か納得し難かった。式鬼はどうにもうさん臭いし、この小鬼は『姫』と呼ぶには何か違う。それと
あの事件からそれなりに時間が経過している。なのに原種の鬼に関する情報が流れていない。ということは、『彼女』の
DNAデータは何らかの理由で破棄されるなりした可能性が高い。もちろん、彼女だけが鬼じゃないだろうが今の所、
原種の鬼はツチノコや雪男に等しい存在だ。伝説の中にしか存在しない。紅葉が遭遇したのを別にすればだが。
どうにもピンとこなかった。
350チリチリおにこ:2012/10/10(水) 22:41:33.19 ID:gCWOxjwR
「おぃおぃ、無茶すんなおにこ」
ふと、式鬼の声に我に返ると、おにこが式鬼の上によじ登ろうとしていた。式鬼がツノを下げ、おにこがそれに
つかまると引き上げられるように上に這い上がった。
「あなた、なにをしているの」
この娘は自分の立場を分かっているのかといいたげに紅葉は声をかける。
「たんれんじょうにいくの」
式鬼の上に座り、両脇のツノにつかまって、彼女はそう答えた。
「鍛錬場?」
そういえば、拙いとはいえ得物の扱いはサマになっていた。
「心配すンな。どうやってオレっちらを嗅ぎつけたのかもわかんねぇってのに逃げたりゃしねぇよ。
 スグそこだかンらついてくっといいサ。今日は『狩り』の必要もなくなっちまったしな───」

 ──つまり、逃げられるなら逃げるつもりか。彼女らを補足できたのはただの偶然だったが、わざわざ言うこともない。
紅葉は無言のまま、考えを巡らせた。そして、紅葉は暫くこの珍妙なコンビの様子を見てみる事にした──
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  ◇ ◇ ◇
 ──嘘月鬼は内心、忌々しく思っていた──
 くっそ。あのねーちゃん、やっぱヤリづれぇぜ。オレっちとおにこを監視するつもり満々のよーだし、
どう撒きゃいいんだ。まあ、問答無用で滅されるよかずっとマシなんだが。
 オレっちはおにこを頭にのっけて『たんれんじょう』に向かいながら考えていた。
 だが、さっきちぃっとばかし話を振ってみたがどうやってオレっちらを追跡してンのか(当然ながら)漏らす
つもりゃぁありゃしねェようだし、どうすっかだな。

 まさかオレっちの話を全て信じ込ンじまってンなら楽なンだろぉが、おそらくソリゃあ甘めェ見通しだ。
どっちかっつーと、ありゃぁ、オレっちの嘘に綻びが見つかンねぇから斬らねェってだけに見えンぜ。
あのねーちゃんから逃げおおせるにゃどうしたらいいか情報が少なすぎる。当面は時間に猶予ができたとはいえ、
どうしたもンかね。

──とか、色々考えながら、オレとおにこは、『たんれんじょう』に着くとてきとーなガラクタを拾い集め、
床の抜けた建物の上に運ンだ。そこは昔、大型のエレベーターだったらしく、2階と3階の床がブチ抜けてて、
吹き抜けみたいになっちまってた。おにこは下の方に居る。オレっちはガラクタといっしょに上の方だ。

「おっしゃぁあ!いくぞ〜!」
 「あい!」
 オレっちはおにこに向けて尻尾を使いいろんな角度や速度でガラクタを投げ落とした。ガラクタは壁にぶつかり、
跳ね返り、時にはガラクタ同士でぶつかりながら複雑な軌道を描いておにこに降りかかる。それをおにこは迎え打った。

キンッ! ココンッ! シュカッ!ガシュッ!
 そのほとんどをおにこは打ち落とした。
……ふん、まずまずか。だんだん得物にも馴染んできやがったな。

「これが鍛錬?子供だましもいいところね」
いつの間にやら横で見ていた紅葉のねーちゃンが呆れたように呟きやがった。
「しゃーねーダロ。オレっち相手じゃ、あんま練習にゃなりゃしねェんだから。そンなんだったらねーちゃんが
 稽古でもつけてくれるってェのか?」
「…………」
 お、おぃ、まさか……
何ンか数秒間の沈黙の後、あのねーちゃんは飛び降りた。って、おいおい、ここ建物の最上階だぞ。

「っぴゃっ?!」
いきなり、人が降ってきたからだろう。おにこも驚いて動きを止めていた。
 あのねーちゃんは手近な棒っきれを拾って一振りすると。

「構えなさい。稽古をつけてあげる」
棒っきれを突きつけ、そう宣いやがった────
351チリチリおにこ:2012/10/10(水) 22:42:17.02 ID:gCWOxjwR
  ◇ ◇ ◇
────「おぃぃっ〜!いくらなんでもガキ相手にやりすぎダロぉがっ!」
 オレっちはおにこを庇うようにねーちゃんの前に岩の姿で割り込んだ。おにこの奴ぁ、後ろで地面に突っ伏してる。
唯一、地面につき立ってるナギナタを掴ンでるのガ闘志の名残だが、今はピクリとも動かねェ。
ハタから見てたがこりゃぁ、児童虐待だぜ。じどーぎゃくたい。
 信じらンねえ。おにこの得物は何ンでも斬っちまうとンでもねェ業モノだってのに、棒きれ一本で楽々とイナしちまってンだ。
文字通り赤子の手をヒネるたぁこのことだ。しかもその稽古は鬼のようなスパルタとキタ。

「脇がガラ空きよ」「斬撃が甘い」「その程度?」「遅い」「立ちなさい」「なに休んでいるの」
「死んでるわよ。それ」その度におにこは蹴り飛ばされ、棒切れでひっぱたかれた。
おにこは健気にもついていってたンだが、だんだん動きがニブくなっていってンのが傍目にも明らかだった。
 おいおい、いくら鬼ってヤツが同じくらいのヤツに比べ頑丈だからって、やりすぎンだろ。
幾度も叩きのめし、蹴り飛ばし、隙があれば容赦なく棒で叩かれ、数メートル蹴っとばされた所に見かねて割って
入った。

「邪魔よ。どきなさい」
割り込んだオレっちに息一つ乱さず、棒っきれをつきつけてきやがる。さらにオレっち越しにおにこに冷徹に
挑発の言葉をかけやがった。

「ほらほら。アナタがだらしないから、式鬼君が入ってきたわよ?アナタ達、このままじゃどうせ永くないわね?
 ならいっそ、二人ともここで終わるのもいいかもしれないわ。何なら私が始末をつけてあげる。最初はその
 式鬼君からね」
 突きつけられてるのぁ、あの妖刀と違ってただの棒っきれだ。が、オレっちは不覚にも圧倒されて言葉が出ナかった。
つか、何だ?!何でここまでする?滅する訳でもねーのに?!オカシーだろ?!

「うっちゃん。どいて」
 背後でハッキリと声が聞こえた。あン?なんだ?振り向くと、おにこがナギナタを支えに起きあがる所だった。
「おい、あンまし無茶すンじゃ……」
そこまで言いかけて、オレっちは言葉を飲ンじまった。おにこの目がまた紅く燃えてンだ。それに、体のあちこちから、
紅い光が立ち上って、黒く汚れた衣が紅く染められってた。そして、紅葉みてぇな葉っぱが周囲を舞い散ってやがる。
「たぁああぁっ!」
紅い光を曳きながら、おにこは今までと違う勢いでねーちゃんに打ちかかった。

 カッ

 乾いた音が響き、おにこの得物は初めて、受け流そうとした棒っきれごと、ねーちゃんを叩き斬った。
──と、思いきや……
「とりあえず合格ね。今の感覚、忘れない事。稽古はこれで終わり」
 あのねーちゃん、たった今斬り裂かれたと思ったンだが、次の瞬間には、おにこの背後で稽古の終わりを告げやがった。
さっき斬られたのは残像か。つくづく底が見えやしねェな、このねーちゃん。
斬ったと思ったハズのおにこも、何が起こったのか分からずキョトンとしてやがらあ。目の色も服も元に戻っちまってた。

「……で、あなたたち。普段は『狩り』と『鍛錬』以外に何をしているのかしら?」
 紅葉のねーちゃんは叩き切られて短くなった棒っきれを放り捨てながらたずねてきた。
 あン?何だ、唐突に。
「他にゃあんまねェよ。それらをこなすだけで日々精一杯だっつ〜〜の」
「そう。なら付き合いなさい。他にも聞かせてもらう事があるわ」
352チリチリおにこ:2012/10/10(水) 22:44:48.67 ID:gCWOxjwR
という訳で「チリチリおにこ」第6話>>347-351を投下しましたっ

【専門用語解説】
嘘月鬼の家紋:うそつきのかもん
 名家のいくつかはどれだけ高性能な式鬼を従えているかをステータスにしている風潮があり、その一環として家紋に
能力ブーストの術式を組み込んでいる事がある。
実の所、本来なら式鬼の排気ガスともいえる障気を活力源として吸収したり、饒舌に喋る事ができるのはこの家紋の機能に
よって実現できているものである。
 ただし、障気を吸収できるといっても、一定の濃度が必要であり、発生する端から浄化してしまう街中では必要濃度が
得られない。