>>340-344の続きを投下します。
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──嘘月鬼は眉間にチリチリとした緊張を感じていた──
ふぅ。やっぱ、これを出すのは骨が折れンぜ。
これは一種の『烙印』みてぇなもンだ。オレっちがニンゲンに捕まって式鬼にされた時に組み込まれちまったンだ。
五浄家が滅ンじまった時ぁ、拘束力は減ンじたハズなンだが、具現化すっと、今でも影響がある。
だからまあ、あらかじめ障気なンかを吸って体力つけてねぇと、たちまち呪縛されちまうっちゅう物騒なしろもンよ。
本来制御するハズの五浄家が潰れちまっているから、呪縛されたら、どうなっちまうかわかったモンじゃねえ。
もっとも、この術式にもまだ色々使いようがあンだけどな。
──例えばこんな風に身の証しを立てる時とかよ。
「どうでぇ、これがオレっちの言う『証拠』よ──ぶぇっ!」
次の瞬ン間、頭に衝撃を受け、目の前が真っ黒になっちまった。そんで顔が地面に叩きつけられたと気が付いたのぁ
その数瞬後だ。このアマぁ。どタマが割れなかったから手加減したってこたぁ分かるが、蹴たぐるたぁどういうツモリだ。
「うっちゃん!」
おにこの狼狽えた声が聞こえた。次におにこの怒気が「むうぅ〜」と女に対して膨れ上がらせてゆくのを感じた。
やべっおにこがアイツに食ってかかっちまう。
オレっちはとっさにおにこの腕に尻尾を巻き付け、引き寄せながら起き、敢えておおげさに食ってかかった。
「このアマ、下手に出てりゃぁどうゆうこった!ポンポン好き勝手に蹴りくさりおって!」
おかげでおにこは毒気を抜かれちまったようだ。
が、当の女ぁ例の妙なバイザーを操作してなンかブツクサ呟いてやがった。あれは───
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「──本部、応答せよ」
ザッ ザザッ
『はぁ〜いっ紅っ葉ちゃぁ〜ん!待ち焦がれたよぉ〜ん!君の為ならボクは例え火の中水の中───』
「ちょっと見てもらいたいものがあるの。解析して」
紅葉は相手のいつもの長広舌を遮ってつっけんどんに用件を言った。
『なになに?一体、何を分析すればいいのかな?』
言葉を遮られたにも関わらず、特に気にした様子もなく、やる事を聞いてくる。紅葉も慣れたもので、すぐさま
地面に残っている式鬼を叩きつけた跡をバイザーでスキャンし、データを転送した。
「何かの痕跡みたいだが……解析は可能?」
紅葉はぬけぬけと尋ねた。
『ん〜こりゃ、家紋の一種かもね〜?』
「家紋……ね」
『そそそ。式鬼……しかも、名家直属の式鬼だった場合、こういったエンブレムを特殊な術式とともに組み込むことが
あるのは知っていると思うけど、どうもソレの跡みたいだね〜?』
「なら、どこの家のか割り出せる?できるだけ詳しいデータを調べておいて欲しいんだけど?」
『お安いご用さ♪紅っ葉ちゃんのたっめっなら──』
「そう、お願いね」
相手の言葉を最後まで聞かず、通信を切った。
「───貸しを作った──って訳でもねぇようだな?」
そばで通信内容を聞いていた式鬼が疑い深そうに尋ねてきた。この式鬼の家紋の映像を直接送らず、わざわざ地面の
土に型をとったもので照合しようとしてるのだ。
もう一人の小鬼はその式鬼に隠れて今にも噛みつかんばかりに睨みつけてきてる。
先ほどの屈託ない笑顔は当然のことながら消え失せていた。それでも、なんだか威嚇してくる子猫のようで緊迫感に
欠けるのだが。
「あなたたちが無害なのか。見極めないうちに報告して抹殺指令が出たら寝覚めが悪いもの。それだけよ」
そっけなく言い、冷たい瞳で見返した。場合によってはこの子を打ち殺さねばならない可能性はまだ生きている。
その子は、冷たい眼光に射すくめられ、ビクッと気圧されて式鬼の陰にひっこんだ。