【長編SS】鬼子SSスレ5【巨大AA】

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333チリチリおにこ
 >>327-331の続きを投下します。
  ◇ ◇ ◇
 本来なら誰もいないはずの廃ビル群。立ち入り禁止区画にあるビルの屋上。夕方。誰もいないはずのそこに
人影があった。真紅のボディスーツに一つ目を模したバイザーのヘルメット、白いプロテクターにたなびくマフラー。
 紅葉だ。
 といっても、忍務ではない。人気のない上、風の流れもいいこの場所は戦闘や訓練で凝り固まった神経をほぐし、
休ませるのに最適なリラックススポットだった。ここに巣くっていた式鬼はとうの昔に排除されている。
 日々、刺客に狙われている身とはいえ、ここなら不穏な動きにも、早々に気づき対処できる。

 そんな訳で、程良い風に身を晒し、夕日に照らされた無人の街を……誰も住んでいないビル群を眺めていた。
が、しかしそんな休息も通信が入り終わってしまった。

『も〜みっじちゃーん!新ったらしいお仕事だよ〜ん!』
軽薄な声が通信越しに届き、折角の休息がぶち壊された。

「あら、忍務失敗の報告をしたのにその事はノータッチ?」
少し皮肉げに返事を返す。
 今まで紅葉の居た世界では忍務失敗は粛正……つまり命で購わされる事も珍しくなかった。

『ハハッ、まじめだな〜紅葉ちゃんはー。甚大な損害があったならともかく、たかだかちっぽけな式鬼。
 しかも害があるかもわかんないヤツを一・二匹逃した位でハラキリさせたりしないって。ただちょ〜〜っと
 ペナルティがあるだけさ』
「ペナルティ?」
変わらず軽薄なまま、通信の向こうの男は解説を続ける。
『そそそ。請け負って貰う仕事のランクが下がっちゃうから、実質、実入りが悪くなっちゃうのさ〜
 といっても、紅葉ちゃんはとっくにエース級のお仕事をこなしてきたから巻き返すのは難しくないと思うけど〜』

「当然よ。で、次の忍務は?」
 お咎めがない事に対してホッとする様子もなく、次があるならと次のスケジュールを確認する。

『おいらとのデーt』
「今まで世話になったわね。サヨウナラ」
  プッ
通信を切断した。
 そして、再び風に当たりながら夕日に照らされた街並みを眺めていると────
        ピピッ
 すぐに通信を告げる音が響いた。

『ちょ、ちょ、ちょっと!冗談!じょーだんだって!つーか、そこまで嫌う?あんまりじゃね?冗談だとしても
 ちょっとショックだぞ!』
 顔を見たこともないのに通信の向こうで涙目になって抗議している様がまざまざと思い起こせる声だ。

「あら、ごめんなさいね?でもあまり軽薄がすぎると本気で考えさせて貰うわよ?」
紅葉はしれっと返す。
 休憩を終わらせたお返しにちょっとからかっているだけなのだが、多少は効いたようだ。少しだけまじめな態度で
応じてきた。

『ああもぅ、かなわないなあ。了ー解っと。えーと、次は多分キツい戦闘はないかな。巡回忍務だよん』
「それが、さっき言ったペナルティ?」

 大抵、撃退した式鬼の強度・種類によって、追加報酬が決められている。
だからより強い式鬼を撃退すればそれだけ実入りがよくなる。逆に戦闘がないとすると、追加報酬が期待できない。
巡回ということは戦闘の可能性はあまりないという事になる。

『まーね。一応、政府の管轄を引き継いだ仕事だから、基本報酬は高いけどね。巡回先のことだけど、ここ暫くは
 浄霊する必要はなくなってる。定期的に亡者がわく所だったらしいね。だから今回は障気を祓うだけでいいってさ。
 その障気すらわいているか怪しいんだけどね』
少し、ひっかかる。
「定期的にわく亡者が今はわかない?逆におかしくない?」
334チリチリおにこ:2012/10/08(月) 19:04:59.17 ID:1NdQsQik
『ま、ね。政府の連中は取り締まりが効果を発揮して死体の不法投棄が減ったせいだろうって見解だけど、
 日和見すぎるよねぇ』
「────・・・・・…………」

 死体は然るべき処置をせず遺棄すれば処罰の対象となる。逆に言えば然るべき処置さえすれば葬る必要はないのだ。
その場合、普通はリサイクル業者に出さなければならない事になっている。最低でも悪鬼や悪霊に憑依されるのを
防ぐために聖別された聖水や仏舎利の粉末を注入しておく義務がある。
 これは死後、悪霊に憑かれるのを嫌う人が生前、自身に自前に施しておく場合もあるらしい。
 が、その実、貧困層の人々はその手順さえ踏めずに投棄せざるを得ない現状が問題化している。

「いいわ。忍務データを頂戴。その場所の障気を祓うだけでいいのね?」
 ヘッドマウントディスプレイを操作し、送られてきた忍務データを確認しながら、紅葉は移動を開始した。

  ◇ ◇ ◇
 ───到着した巡回先は例によって不法廃棄場だった。今まで巡ってきた所と大して変わらない場所。
到着したのは朝方にもかかわらず、光はほとんど差し込まない。廃墟ビルが立ち並ぶ常にジメッとして薄暗い所だ。
 だが、彼女は違和感を感じていた。確かに今までと違う。最初、何がおかしいのかわからなかった。
 つもり積もった不要品、ガラクタ、汚物、ボロ布、紙、樹脂、機械、すえた臭い、腐敗臭……
 その中を歩いて探索するうち、妙なことに気がついた。……歩きやすい。獣道のようだが、小道ができている。

 本来、誰もいない場所なら、道などできるはずがない。不法に廃棄物を投棄されている場所なのだ。
紅葉はともかく普通の人間にはたどり着けない場所だ。辿りつけるとしたら空を飛べる何か。
しかし、飛べる者に道は必要ない。仮に、ここへ到達できるものが居るとして、道ができるほど頻繁に来る程の
意味が考えつかない。廃棄物から再生資源を回収するなら、それこそ式鬼にでもやらせればいいのだ。
それとも、何をするにも不便そうなこの僻地を拠点にする物好きが居るのだろうか?

「───っ、」
 ふと、あることに気付くのと、それが目に止まったのは同時だった。
「? ほこら……か?」
それは一見、無秩序にガラクタを積み上げただけにみえる。だが、遠目に見るとそれは廃材を組み上げて立体的に
構成されていた。しかも、入り口らしき穴の前にも粗末な鳥居のようなものがガラクタを組み、設えてある。
もっとも、仮にこのガラクタの山がほこらだったとして、中にできるスペースは子供一人が寝そべる程度の広さしか
ないだろう。紅葉はもう一度、バイザーを引き下ろし、周囲とこの祠(?)をスキャンした。

 ──測定されたのは相変わらず低濃度の障気と、僅かながら上昇した呪力濃度。
 ちなみに、呪力濃度はどれだけのレベルの呪術が行使されているかの基準になる。また、障気濃度は呪術と
関係ない魔物や悪霊が吐く陰の気だ。それぞれ、濃度で大体の脅威を推測できる。どちらも大きければ大きいほど、
仕掛けや敵の脅威が増すと思っていい。この数値だと、せいぜい小さな魔物か式鬼しかいないことになる。

 ただ、奇妙な胸騒ぎを彼女は感じていた。こういう時は機械が当てにならない事が多いものだ。
油断せず、周囲に気を配りながら謎の祠らしきもを調べてみようとゆっくり、慎重に近づいていった。
 と、当の祠の中から何かが動いている音が聞こえてきた。
見ていると、何か黒いものがゴソゴソと這いだしてきて実に平和そうに「くあ〜〜〜」と欠伸をした。
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335チリチリおにこ:2012/10/08(月) 19:05:55.56 ID:1NdQsQik
  ◇ ◇ ◇
 やっべぇぇええええええええええ!
キッチリまいたはずだってぇのに、あンの掃除人、どうやってここを嗅ぎつけやがった?!

くそっクソっくそっ冗談じゃねぇぞ! こんなクソ貯めみてぇな所で朽ち果ててたまるかってぇんだ!
 今、あンのくのいちはアチコチをスキャンしながら周囲を探ってやがる。オレっちはある程度センサーを
誤魔化せっし、おにこの奴も大した妖力や鬼力を持ってるわけじゃねぇ。俺達が討伐対象になンのかは分かンねぇが、
判断は掃除人次第だろう。つってもンなあやふやなもンをアテにすンのもヤベぇ。

 くそっ、よりによってオレっちがメシ探しに出回ってる時に来るたぁ間が悪りぃ。
最近はあらかた喰い尽くしてしまって、メボシい障気なンざぁ近所じゃ滅多にお目にかかれねぇってのに。
つっても、最近じゃおにこの奴が寝てン間のヒマ潰しみてぇなもンだったが。

……このまま素通りしてくれりゃァ問題ねンだが……あンま期待できねェ。
今ぁこーやって、地面に潜りながら、こっそり近づいて様子をうかがうしかねぇな……
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 ◇ ◇ ◇
 ──おにこは珍しく一人で目を覚ました。寝ぼけた意識のまま、ガラクタを組み上げて作った今にも崩れ落ちそうな
天井を見上げ、コシコシと目をこすった。
いつもなら嘘月鬼があの長い尻尾でペシペシと頬を叩いて起こすのだが、今日はどこにいったのか見当たらない。
 とはいえ、お腹の空き具合から朝というヤツなんだろう。と、ボンヤリとおにこは思った。
ゴソゴソとねぐらから這いだしていつものように「くあ〜〜〜」っとあくびをした。
 そして、おにこはふと、いつだったか助けてくれた人が近くに立っていることに気が付いた。
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  ◇ ◇ ◇
 ──紅葉は思いも寄らぬ再会に当惑していた──
 ──彼女は紅葉の存在に気づくと何の邪気も感じさせない笑顔でパタパタと駆け寄ってきていた。
  ジャリッ
 紅葉は思わず身構え、半歩下がった。子供を使った残酷な爆弾テロは、今の世でも有効な不意打ちだ。
神経質だといわれても用心しすぎる事はない。たった一回の不注意で死ぬよりはマシだ。
 とはいえ、今のところセンサーには危険物の反応はない。
それでも気がかりなのはあの時、この娘を拐ったのか共に逃亡したのか分からないが一匹、式鬼が一緒に居たのを
思い出したからだ。何らかの形でこの少女を利用しているかもしれない。

 当の彼女はこちらの反応に不思議そうな顔をして立ち止まった。ピリピリした空気を感じとったんだろう。
その場で立ち止まり、両手に持っている薙刀を握ったまま、好奇心剥き出しな目で様子を窺ってきた。

 こちらもバイザーを少しだけ上げ、彼女を観察した。女の子だ。洗えば綺麗であろう髪はボサボサで、
後ろでおおざっぱに紐でまとめてある。身に纏っているボロボロの着物は真っ黒で元の模様は分からない。
 さっき祠(?)をスキャンした時は不審な反応はなかったが、彼女には小さなツノが2本、頭から生えている。
これが先天的な物なのか、アクセサリーなのか、鬼なのかそれとも鬼憑きなのかは現段階では分からない。
さっき笑顔で駆け寄ってきたときは八重歯──牙と言った方が適切か──がある事も確認した。

 どのくらいそうやって互いに観察していただろうか。やがて、彼女のお腹から『くぅ』と音がした。
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  ◇ ◇ ◇
 ──くぅ──
お腹が鳴った。
 そういえば、目を覚ましたのはお腹が空いたからだった。おにこは目の前の興味深い人から身体の訴える空腹に
意識を向けた。ついでに考える。この人もお腹が空いているんだろうか?そうに違いないと思った。
自分よりずっと強いのにおにこに対する警戒の強さはまるで怪我をした小動物のようだった。
おにこよりもずっと強いのに変だと無邪気に考えた。

 そうだ。ならゴハンを分けてあげよう。本当は残りが少なくなってきてはいるけど、この前助けてもらったし、
お腹が空くのは本当にツライし、怒りっぽくなる。それはとてもいい思いつきだ。と、おにこは考えた。
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336チリチリおにこ:2012/10/08(月) 19:06:47.90 ID:1NdQsQik
  ◇ ◇ ◇
 紅葉は怪訝な顔をして彼女(おにこ)を見送った。突然トテトテと走り出した様は逃げ出したという感じではない。
鳴いたお腹を押さえた後、眉間にシワを寄せ、考え込んだと思ったら次の瞬間、妙案でも思いついたのかパッと
顔を輝かせ走っていった。コロコロと表情がよく変わる娘だ。
 その先には何かの棚が複数設置してあった。先ほどスキャンした際には大ざっぱに『危険物』と表示されたものが
固まって表示されたものもあった。

 が、彼女が走り寄ったのはその棚より手前だった。
よく見れば、どの棚にも雨よけのつもりかボロボロの掛け布がしてあって、なにがあるのか分からない。
 あまりにちぐはぐかつバラバラで半ばガラクタに埋もれていたので、それらが意図的に分けられていたとは気が
つかなかった。

 やがて、両腕に何かを抱えながらトテトテと彼女は戻ってきた。どうやら、それを取りに行っていたらしい。
 そして、さっきの距離まで近づくと、何か投げて寄越した。紅葉はそれを思わずキャッチした。
先ほどのスキャンで危険物ではないことも分かっているし、センサーも警告を発しなかった。
そして『勘』も警鐘を鳴らさなかった。

 彼女は紅葉に『ソレ』を放り投げた後、適当な場所に腰を下ろし自分の分にとりかかった。
さっきの「棚」は彼女にとっては食料庫だったらしい。
一心不乱に「ソレ」を食べ始めた。それを見て、紅葉は自分に渡された「ソレ」をさりげなく見た。
ソレは時間が経過して変色し、茶褐色になっていたが、人体の一部───つまり、人間の屍体だった。

 ピチャピチャ……ハグムシャ…クチャクチャクチャ……

 「にく」を租借する音が耳に届いた。紅葉は思わず彼女に目を向ける。
彼女が顔を伏せて、一心に貪っているのも屍──人の肘から先の部分だった。前髪が垂れているせいで表情は見えない。
だが、彼女が屍肉に牙を突き立てるたびにダラリと垂れ下がった茶褐色の指先がユラユラと揺れている。

(食屍鬼!)
 紅葉は半ば戦慄とともにそう判断を下した。人の屍肉を漁り業を蓄積する事で濃い障気を吐き出すと言われている鬼。
 また、その不浄の魂は肉体が朽ち果てる頃には人蟲(じんこ)となり、深刻で様々な"さわり"を引き起こす。
その損害は意図的に引き起こされる『呪い』に匹敵する被害をまき散らすといわれている。
 先程この娘の祠……いや、寝ぐらを見つけた時に気がついた事……不法に投棄されている屍体の数が不自然な程
少なかった。その事にも納得がいった。ここに食糧として備蓄されていたのだ。
よく見ると例の寝ぐらにも幾つか人骨が埋め込まれ、支柱として、または壁として利用されていた。
 食屍鬼は亡者の中でも特に最優先討伐対象だ。その理由は屍肉を食らい、生者を襲うからだけではなく、浄化が困難で
濃密な障気を吐き出す事にもある。

 カチャリ

 屍肉を放り捨て、ゆっくりと抜刀した。光の届かない空間に濡れたような刃の輝きがヌラリと光った。
ふと、何か感じたのか彼女が怪訝そうに顔を上げた。口の周りは赤茶色の粘液でまみれ、黒いつぶらな瞳が
不思議そうにこちらを見上げていた。

 次の瞬間、紅葉は彼女の首に刃を打ち落とした。
337チリチリおにこ:2012/10/08(月) 19:12:24.94 ID:1NdQsQik
という訳で「チリチリおにこ」第3話 >>333-336を投下しましたっ。

【専門用語解説】
リサイクル業者:
 この時代の資源は基本、リサイクルに頼っている為,高レベルで資源のリサイクル率が高い。
それは人体であっても例外ではなく、『死後、荼毘に付される』事ができるのは、一部特権階級だけである。
大抵の場合、臓器等はリサイクル業者にまわされ、様々な用途の「予備の臓器」としてストックされる。
あまりにも状態の悪い臓器の場合、薬物で処理された後、式鬼を憑依させて人工臓器として使役されることもあるという。
338チリチリおにこ:2012/10/08(月) 19:13:57.24 ID:1NdQsQik
>>337
訂正
【誤】 第3話

【正】 第4話