>>327-331の続きを投下します。
◇ ◇ ◇
本来なら誰もいないはずの廃ビル群。立ち入り禁止区画にあるビルの屋上。夕方。誰もいないはずのそこに
人影があった。真紅のボディスーツに一つ目を模したバイザーのヘルメット、白いプロテクターにたなびくマフラー。
紅葉だ。
といっても、忍務ではない。人気のない上、風の流れもいいこの場所は戦闘や訓練で凝り固まった神経をほぐし、
休ませるのに最適なリラックススポットだった。ここに巣くっていた式鬼はとうの昔に排除されている。
日々、刺客に狙われている身とはいえ、ここなら不穏な動きにも、早々に気づき対処できる。
そんな訳で、程良い風に身を晒し、夕日に照らされた無人の街を……誰も住んでいないビル群を眺めていた。
が、しかしそんな休息も通信が入り終わってしまった。
『も〜みっじちゃーん!新ったらしいお仕事だよ〜ん!』
軽薄な声が通信越しに届き、折角の休息がぶち壊された。
「あら、忍務失敗の報告をしたのにその事はノータッチ?」
少し皮肉げに返事を返す。
今まで紅葉の居た世界では忍務失敗は粛正……つまり命で購わされる事も珍しくなかった。
『ハハッ、まじめだな〜紅葉ちゃんはー。甚大な損害があったならともかく、たかだかちっぽけな式鬼。
しかも害があるかもわかんないヤツを一・二匹逃した位でハラキリさせたりしないって。ただちょ〜〜っと
ペナルティがあるだけさ』
「ペナルティ?」
変わらず軽薄なまま、通信の向こうの男は解説を続ける。
『そそそ。請け負って貰う仕事のランクが下がっちゃうから、実質、実入りが悪くなっちゃうのさ〜
といっても、紅葉ちゃんはとっくにエース級のお仕事をこなしてきたから巻き返すのは難しくないと思うけど〜』
「当然よ。で、次の忍務は?」
お咎めがない事に対してホッとする様子もなく、次があるならと次のスケジュールを確認する。
『おいらとのデーt』
「今まで世話になったわね。サヨウナラ」
プッ
通信を切断した。
そして、再び風に当たりながら夕日に照らされた街並みを眺めていると────
ピピッ
すぐに通信を告げる音が響いた。
『ちょ、ちょ、ちょっと!冗談!じょーだんだって!つーか、そこまで嫌う?あんまりじゃね?冗談だとしても
ちょっとショックだぞ!』
顔を見たこともないのに通信の向こうで涙目になって抗議している様がまざまざと思い起こせる声だ。
「あら、ごめんなさいね?でもあまり軽薄がすぎると本気で考えさせて貰うわよ?」
紅葉はしれっと返す。
休憩を終わらせたお返しにちょっとからかっているだけなのだが、多少は効いたようだ。少しだけまじめな態度で
応じてきた。
『ああもぅ、かなわないなあ。了ー解っと。えーと、次は多分キツい戦闘はないかな。巡回忍務だよん』
「それが、さっき言ったペナルティ?」
大抵、撃退した式鬼の強度・種類によって、追加報酬が決められている。
だからより強い式鬼を撃退すればそれだけ実入りがよくなる。逆に戦闘がないとすると、追加報酬が期待できない。
巡回ということは戦闘の可能性はあまりないという事になる。
『まーね。一応、政府の管轄を引き継いだ仕事だから、基本報酬は高いけどね。巡回先のことだけど、ここ暫くは
浄霊する必要はなくなってる。定期的に亡者がわく所だったらしいね。だから今回は障気を祓うだけでいいってさ。
その障気すらわいているか怪しいんだけどね』
少し、ひっかかる。
「定期的にわく亡者が今はわかない?逆におかしくない?」
という訳で「チリチリおにこ」第3話
>>333-336を投下しましたっ。
【専門用語解説】
リサイクル業者:
この時代の資源は基本、リサイクルに頼っている為,高レベルで資源のリサイクル率が高い。
それは人体であっても例外ではなく、『死後、荼毘に付される』事ができるのは、一部特権階級だけである。
大抵の場合、臓器等はリサイクル業者にまわされ、様々な用途の「予備の臓器」としてストックされる。
あまりにも状態の悪い臓器の場合、薬物で処理された後、式鬼を憑依させて人工臓器として使役されることもあるという。