320 :
チリチリおにこ:
>>313-316続き
◇ ◇ ◇
「おっ、ここならいンじゃね?」
よっしゃぁ!とうとう見つけたぜ、オレっちのベストスポットぉ!クッソきったね〜排水路や廃墟群を抜けた先に
こぉんな不法投棄場に出くわすなんてなぁ。
辺りにゃ、雑多なゴミやらガラクタやらがわんさと積み上げられてて、ヘンな汁やらなンやらがあちこちと
ベタベタしてやがる。妙な臭いや臭気・障気が漂ってて、いかにもキタねぇゴミ溜めだ。
障気の量のワリにゃちっとばかし、霊の姿が見あたンねぇのが気になるが、オレっちが飢えて消滅する問題に
比べりゃ小せぇ小せぇ。
障気よか幽体の形を保った奴のほうがいいがゼイタクはいわねぇ。早速いただこうじゃねぇか。
つぅわけでめいっぱい障気を吸い込んだ。肺はねぇけど、胸一杯の深呼吸って奴だ──
◇ ◇ ◇
「────ふ〜……だが、これだけだと物足ンねぇよなあヤッパ」
いかンね。消滅の危険がなくなると途端にゼイタクになっちまう。式鬼として仕えていた時ゃ、食うモンだけは
旨かったもんなあ……
「……ちれ〜」
ん?今、何ンか聞こえなかったか?それにそっちの方から旨そうな気配が漂ってくる。まだ障気になっていない
幽体の匂いだ。必要な精は充分喰ったことだし。ちっとだけのぞいてみっか──
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◇ ◇ ◇
「もえちれ〜〜!」
「いたい葉っぱ」で散らしたのはどのくらいになるのだろうか。最近は壁や地形を背後にすれば、少しだけ
楽になるとわかってきた。うっかり眠りすぎて「もやもや」の襲撃を受けたときに覚えた事だった。
もっとも、たまに壁を抜け出てくる「もやもや」もあるのであまり油断できない。
それより、もう少ししたら眠れる。辺りの暗さが少し薄らいできた。そうすれば「もやもや」はまたしばらく
出てこなくなる。
そうして、いつもどおりゴミに足をとられながら、なんとか最後の一つを散らしたと思った途端、後ろから声が
かけられた。
「へぇ〜〜〜、お嬢ちゃんだったか。こいつぁおどれぇた」
「ぴゃっ?!」
気を抜いた途端、後ろから声がし、彼女は驚いた。あわてて振り返れば、今まで見たこともないものが浮いていた。
それは小石くらいの大きさで、火の玉みたいにボンヤリと光っている。
丸い形で正面には間の抜けた顔みたいに三つの穴……というか窪みがついている。
それが顔だとすれば、頭に角か耳か分からない突起が二つと、チョロリといった感じで黒いしっぽのようなものが
生えている。それが話しかけてきたのだ。
「よう、じょうちゃん」
ぼんやりと光る玉みたいなソレが喋った。
「も、もも、もえちれー!!」
思わず、ぶんぶか振り回すけど、それはチョロチョロと飛び回り、「いたい葉っぱ」をくぐり抜けてちっとも
当たらない。
「わわ、ち、ちょ、まて!まてってコラ!」
かまわず夢中で振り回していると、ガツン!と手に衝撃が伝わり、「いたい葉っぱ」を取り落としてしまった。
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321 :
チリチリおにこ:2012/10/06(土) 18:53:35.18 ID:Yu1XEoRm
◇ ◇ ◇
「びえぇぇえええぇ〜〜〜〜〜!!」
こンのガキ、ドタマを打ち抜くような声で泣きはじめやがった。
ちっきしょう。そっちのが堪えるぜ。
「あああ、悪かった。悪かったよ、お嬢ちゃん。だから、泣きやんでくれ。頼む。な?なあ。おい」
頭を振り振りなだめに入った。くそっ、ブッ叩かれたのはオレっちだってぇのに、泣く子にゃ勝てねぇよ……
さっき打たれた頭もジンジン痛ぇ。ああもう、折角集めた精を早速使っちまった。
今のオレっちはさっきの姿よか何十倍もの大きさに巨大化し、実体化していた。といっても元が小せぇから、
せいぜいこのガキよかちっとだけ大きいくれーだがな。それと表面が硬化・石化し、見かけ月って奴の表面みてぇに
なっている。
前のご主人にゃヒミツだった姿だ。
しゃあねぇ。あのままこの武器でシバかれっとオレっち消し飛ンじまうかんな。
この武器からぁ不穏な気配がビンビン伝わって来らぁ。ひょっとしたら妖刀とかいわく付きの代物なンじゃねぇの?
そンなら、こっちの姿でしばかれる方が幾分マシってもんだ。おっと、それはともかく。なんとか宥めねぇと話に
なんねぇ。あと、ひょっとしたらこのガキはとンでもねぇ拾いもんかもしンねぇしな──
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◇ ◇ ◇
「う・つ・き?うつき!うつき!うっちゃん!」
舌っ足らずの声で楽しそうに連呼してっけど間違ってンぞ。
「……嘘月鬼だつってンのに。ウ・ソ・ツ・キ!……ああっと、そ、それでいい。それでいいから!
だから泣きそうになンじゃねぇって。な?」
ガキの目にみるみる涙が溜まり始めたンで慌てて宥めた。
「で、嬢ちゃんは何てぇンだ?」
「ふぇ?」
「名前だよ。な・ま・え……って、わかンねぇのか?」
あれから散々、なだめすかしてやぁっと「もやもや」たぁ違ぇってことを納得させた。攻撃をされる心配もねぇんで、
元の小さな火の玉みてぇな小石大の姿に戻った。あの姿ぁ「精」を無駄に消費すっからシンドいンだ。
今、オレっちはこのガキの周りをふよふよと漂いながら話を続けていた。
だがよ、相手は小っちぇ子供。イマイチ要領を得ねぇ。
「んじゃ、嬢ちゃんはどっから来たのかもわかんねぇのか?」
「ん〜〜〜〜〜〜……あれ」
さんざ、頭を悩ました末、そういって指さしたのは、ブっ壊れた培養カプセルだ。なンか横に刻印されてる。
シリアルナンバーかなンかか?
「どれどれ……ん〜〜〜……Onik……No……?」
辛うじて読みとれたのはそンだけだ。
「おにこ……の?ンだってんだ」
そのガキはソレを聞いてウレシそうに連呼した。
「おにこ?……おにこ!おにこ!」
そうして、このガキの名前は「おにこ」になった。
322 :
チリチリおにこ:2012/10/06(土) 18:54:57.78 ID:Yu1XEoRm
◇ ◇ ◇
「─────ねー、うっちゃん、こえはーー?」
おにこが運んできた「にく」をおれっちのまえに置いた
「あぁ、ちっとまて……」
オレっちは目の前の「にく」を透過できねえか目の前の「にく」にチョロリと尻尾を伸ばした。
チリッ
途端、尻尾の先端が焼けた。
「アッチぃっ!だめだ。喰うんじゃねぇ。口ン中が焼けるぞ」
「ぶぅーーーっ」
その結果に「おにこ」は頬を膨らませる。
「しゃーねーだろ。オレっちが透過できねェってことは聖骸粉入りだ。食えねぇーって。
あとそれ、アブネーから『棚』ン所に放り込んでおけ」
「むぅーーーー……」
「頼むからヘソまげねェでくれ。今度は指無くす程度じゃすまねぇぞ?」
やれやれ。自由になったと思ったら、今度は子守りかっつの。ま、前のご主人の時にも時々にやらされてたがな。
しかも、今度はこの子にオレっちの生活がかかってるときた。
とりあえずはまあ、この「おにこ」ってガキにゃあ、色々教え込んで最低限生きれるように仕込ンだ。
凍えねェようにゴミの山の中からオレっちが通り抜けられねェ防霊処理されたガラクタを積み上げて、
寝場所を作ったり、着れそうな服(ボロボロだったけどな)を探し出して着方を教えたり、
護身のため「いたい葉っぱ」とやら(これ、折れたナギナタだよな?)の正しい使い方を教えたりした。
……もっとも、最初会った時にその使い方されてたら、オレっちの変身後の姿でも真っ二つにさたかもしンねぇと
知ったときゃ肝を冷やしたね。
なんだ、あの岩をもぶった斬れる業物は……
なンか教える先から吸収すっから、教え込むのはラクだったが、コイツ程、ウソの吐き甲斐のねぇガキもいやしねぇ──
「このえへい?」
「ああ、オレっちは式鬼のなかでも名家・五条家に遣える上級式鬼だったんだぜェ。
そこラ辺の下っ端人間なンざァへーこらさせっちまうくれーのな」
「へーーっ」
「あに言ってやがる。おめェもお家が潰れなかったらそこのお姫様だったんだぜぇ」
「ふぇっ?!」
「おぉ、なんてぇのかな。オレっちがオメぇを見つけるのがちっとだけ早かったらきっと、オレっちも、オメぇも
一緒にお家もろとも滅んでた所だったゼ。いやぁ、おどれーた、おどれーた」
「おにこ、おひめさま?」
「あぁ、元だがな」
「えへへへ……」
──どんなデタラメ言っても目ェキラキラさせて喜びやがんだ。
たまに嘘信じて手痛い目みたりもしたが、ふくれるのはちょっとの間だけですぐにキャッキャ笑いやがる。
……まあ、あの泣き声はドタマに響くかンな。もう、マスタードを珍しい色の甘い汁だと嘘吐くのはやンねぇよ。
323 :
チリチリおにこ:2012/10/06(土) 18:55:30.07 ID:Yu1XEoRm
◇ ◇ ◇
────あれから数日。コイツとは互いに協力して生活すンよーになってた。
コイツの食えるモンと食えねェもんをより分けてやる代わりに、夜、時々やってくる「もやもや」
……「亡者ども」を蹴散らしてオレサマがその残滓をイタダく。そんな共存関係が出来上がっていた。
「こンなもんか。おーーい。もう充分だ。帰っぞ」
「あーい」
最近だと、遠くのゴミ溜めに出かけて互いの食いもン探しすようになってきた。オレっちが喰ってるせいか、
あの場所にゃあ、もやもや──亡者どもが現れない日が増えてきたためだ。
オレっちが「変身」して「おにこ」を乗せて飛び、これはという場所で野良化した式鬼や亡者をおにこが狩る。
その残滓をオレっちが喰う。
その後、おにこの喰えそうなモン持ち帰って、そン中から食えるもンをオレっちがより分けておにこが食って寝る。
そんな毎日が続いていた。
喰う量は程々にしとかねぇとな。あんま喰いすぎて存在が大きくなっちまうと、察知されやすくなる。
そうすっと今度はオレっちがハグレ式鬼として駆除対象にされかねねぇ。本鬼を出しゃあそれなりに戦えっけど、
あれだ。たった一鬼の強さなんぞ、組織の力の前にゃ無力だ。目立つ方がヤベぇ。
それに「おにこ」を乗っけて飛ぶのも悪くねぇしな。以前お守りをした時にゃあ、この姿は秘密だったし、
飛んでいるとき「おにこ」がオレっちのツノにつかまってキャッキャハシャぐ姿を見るのはいけ好かねぇ。クソヤローを
騙くらかすのとは違った楽しみがあらぁな。
このままずっと続くのも悪かねぇと思ってた。ま、ちっとばかし、退屈だがな。
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324 :
チリチリおにこ:2012/10/06(土) 18:55:59.83 ID:Yu1XEoRm
◇ ◇ ◇
──彼女は忍務中だった──
彼女はくのいち。しかも、抜け忍。
ここは薄暗く、むき出しの柱が立ち並ぶだけの廃墟。廃ビル群の一室。さっきまでハグレ式鬼が無数に居た場所だ。
人の居なくなったこういう廃墟には人の制御を離れた式鬼が巣くう事がよくあった。
ここは昔、殺人があったとかで、気がついた時にはハグレ式鬼が大量に巣くっていた。そのため、近くを通りかかった
不幸な一般人が何人か犠牲になった。
事が表沙汰になると色々な問題が発生する為、彼女に掃除の依頼がきたのだ。今はその式鬼の大半が討滅されていた。
だが、バイザーの内側のタクティカルディスプレイにはまだ敵のマーカーが表示されている。最後の一鬼。
周囲を見回しても廃ビルの殺風景な景色しか目に入ってこない。が、彼女はずっと伝わってくるチリチリとした
殺気を感じていた。相手は雑魚だ。そんなに時間をかけてなどいられない。
彼女はスーツの偽装を解き、姿を現した。その姿はピッタリとした真紅のボディスーツに全身を包んでいた。
体の各所を白いプロテクターで最低限保護しており、頭部は一つ目を模したバイザーのヘルメットで覆われている。
そして、床まで届かんばかりの長いマフラーという出で立ちだった。
敢えてその姿を現し、抜いた刀をだらりと下ろた。そして無防備なまま歩きだす。
ヂリヂリと刀の先端が挑発するように地面を引っ掻くと、音が廃墟の中を陰々と木霊した。
そして、そのまま敵の潜んでいそうな地点を歩いて横切る。
ジャァァァアアア!
途端、凶悪な顎を持った式鬼が潜んでいた柱から抜け出し、飛びかかってきた。
が、彼女の頭を噛み砕かんと閉じられた巨大な顎はバクンと空を噛んだ。残像だ。
「こっちよ。おバカさん。アナタついてないわね」
背後から凛とした涼しげな声がかかり、次の瞬間、野良の式鬼は両断され無に還った。
ピピッ
「本部、応答せよ。作戦は終了した。次の目的地はどこ?」
本来なら、無数の火器とチームを動員しなければ達成できないミッションを彼女は単独でクリアした。
にもかかわらず、彼女は普段と変わらない。周囲を走査し、他に凶悪な式鬼らしき存在が居ないことを確認し、
ヘルメットに装備されている通信装置で本部を呼び出した。
戦いの後だというのに、息一つ切れてない。事実、彼女にとっては肩慣らしにもならなかった。
「お〜モミジちゃ〜ん、お疲れさま〜次のオペデータならこれから転送するよ〜でも、できればボクとの
デート地点に誘導したいな〜」
通信機の向こうから聞こえてきたのはひどく軽薄な声だった。今回受けた仕事のオペレーター兼エージェントだ。
仕事の契約をこの男を通して行い、ミッションのサポートも兼任している。
「おあいにくさま。私には仕事が恋人なの。さっさと次のデート(おしごと)の場所を転送して頂戴」
彼女の返事はそっけない。
「つれないな〜モミジちゃん〜 それがねぇ。その区画で感知できる野良の気配は今ので全部。
だから区画を移動してもらうことになると思うよ〜」
その言葉に少し怪訝そうに応じる。
「? これだけ? 予想概算数より大分少ないじゃない?打ち漏らしがあると後々被害が出るわよ?」
「さぁて?近々、その辺の調査依頼がくるかもね〜。とにかく、何度かスキャンしたけど、LvE以上の反応は無いね〜
それに、人的被害らしきネットワークの欠損も見あたらないし、大丈夫じゃない?」
変わらず、飄々とした様子で答えてくる。
「いいかげんね。そんなんで、本当に大丈夫なの?」
「ん、まあ多分ね。だから安心して次のブロックにいっちゃってね〜」
通信は切れた──
「…………」
325 :
チリチリおにこ:2012/10/06(土) 18:56:39.85 ID:Yu1XEoRm
彼女の名は紅葉。偽名だ。ある事件をきっかけに今の仕事をするようになった。元・忍。実際はは傭兵稼業に
近い。基本、今までやっていた事と仕事の内容が大きく変わったわけではないが、少しばかり仕事の方向性
……忍務を選ぶようになった。
おかげで実入りは悪くなったし、以前所属していた組織ともかなりゴタついた。機密を知ったまま抜けたため、
組織に付け狙われるリスクも犯している。
「気にくわない」
彼女自身、そんな理由でこのような行動に出る自分が信じられなかった。
「大儀をもって事に当たれ」
最近、頻繁に彼女の脳裏にちらつくのは師の教えだ。青臭いカビの生えた戯言と捨てたはずの言葉。
そんな前時代的な考えなど馬鹿をみる世界だと認識していたのに。
ピーッ!
思考を断ち切るように電子音が響いた。データ転送が終了した事を意味する。これだけのデータを寄越すのに
時間がかかりすぎる……と、相棒に対する彼女の評価は厳しい。
それだけ、以前のエージェントは優秀だったという事なのだろう。彼女を『道具』よばわりし、人を人とも思わぬ
冷血なエージェントではあったが。
現在の担当者は事前情報のズレなど当たり前。対応も遅く無駄口だけは人一倍。その上苦労の割に実入りは少ない。
……が、まあ。人間扱いされるのは悪い気分ではない。とも、彼女は思いはじめていた。いささか軽薄に過ぎてはいるが。
今、請け負っている仕事は対症療法的な野良鬼退治だが、多少なりとも人の役に立っているだろうと引き受けた。
ただ、もっと他にできる事があるのではないかと情報を探っている最中だが、出口は見えてこない。
「さて……次のブロックも……また廃墟ね。ゴミ掃除みたいなものだから仕方ないけど、少しは風にでも
当たりたいものね。ついてないわ」
ひとり呟くと移動を開始した。
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