313 :
チリチリおにこ:
書類申請No88234
プロジェクトOnikoを凍結。
責任者T.T.は所在不明。職員の証言と所在不明になる直前の状況から復帰は望めないと予想される。
従って、次案のプロジェクトを新規に立ち上げる準備に取りかかる。
それまで、以下項目を適時処理するよう申請。
・各人員を機密保持の為、誓約儀式にて部外秘情報を封印もしくは記憶情報を削除の後、各自適切な部署へ配属。
・該当プロジェクトの情報機密情報を消去し、プロテクト優先順位をLvSからCへ移行。
それにともない発生する余剰資金は次懸案への一時プールするものとする。
・プロジェクトOnikoを担当していた懸案を遂行可能な組織へ一時委託。達成可能であれば企業の優劣は問わない。
・従事していた式神及び施設・機材は全て廃棄。適切な再処理施設へ処理を依頼───────
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◇ ◇ ◇
そこには二つのもの以外何もかもがあり、
二つのものを含めなにもかもが無かった。
そこに存在しない二つのもの、完全なものと生命。
そこはガラクタとポンコツとシカバネが不法に遺棄されていた。
現代新・日本においてはそれらの区別に大差はない。
再利用されるか不法投棄されるかだ。シカバネの方は生前、準備していれば。もしくは運が良ければ、
「家族」に葬ってもらえるかもしれないが、ここにはそういった事に恵まれなかったものが流れ着いていた。
異国との交流を極力絶ち、「鎖国政策」をとった日本国は旧文化とともに、レアメタルと化石燃料の依存を
排除するべく、さらに古い・時代の文化を発展させた。政府はそれらを強調するため、「幕府」を立ち上げ、
旧体制を復活させた。市民の抵抗も強かったものの、日本全土が大きな災害に見舞われたこともあり、
なしくずし的に成立してしまった。
裏には災害に便乗したクーデターがあったとの噂が立ったが、噂以上の情報はでてこなかった。
また、今までの電子機器に代わり、呪術・式神等のアヤカシの技術が発展・台頭し、資源の不足を補っていた。
そして再利用技術も発展しており、旧時代に輸入したレアメタル、金属、樹脂を幾度も再利用することで
必要数を極力軽減し、足りない分は、表向き、わずかに残った他国との交流でまかなっているのが現状だ。
……ということになっている。
なので、本来はこのような廃棄場所が存在するはずはなかった。
だが、事実と構想が違う事は多々あること。優良企業の看板を掲げ、「雑な」仕事をする悪徳業者は
どこにでも存在する。
その結果、政府の目が届かない廃ビルに囲まれ、枯れ果てた川岸の一角は無法な廃棄場所と化し、廃棄物が
堆積していた。
そんな場所に今日も一台、飛来する式鬼(しき)車。旧時代のトラックに「鬼」を憑依させた式神。
本来の運転席の部分に鬼の顔が浮き上がっていたが、その表情は無表情で、永く繰り返されるこの作業に
憂んでいるようだ。あちこちに錆が浮き、廃棄物を山積している荷台からは所々、得体の知れないものが
漏れ流れ続けていた。飛行している為不要なのだろう。とうの昔にタイヤはなくなっていた。
山積している廃棄物の上空にくるとそのままひっくり返り、荷台の中のものをぶちまけると、
誰かに見られてはかなわないとばかりに、その場を速やかに離れていった。
314 :
チリチリおにこ:2012/10/05(金) 20:48:43.36 ID:biQqTnQ/
そのとき、ぶちまけられた廃棄物の山から転がり落ちたものが一つ。
培養カプセル。本来なら機能は停止しているはずだが、わずかに動力が残り機能が維持されていた。
コロコロと転がり落ちた先で岩に衝突し、大破。
中身のものをぶちまけた。中から転がりでてきたのは
小さな姿をしていた。小さな小さな幼い子供。
カプセルから飛び出した勢いで「幸運にも」近くのガラクタにぶつかった。ここは剣の様に鋭く尖ったものも
多いが、幸いにもそういった不幸には見舞われなかった。
そして、背中を強く打ち、そのショックで仮死状態から蘇生した。
「げへっ!ごぼっ!げぇええっ!」
意識が覚醒した途端、苦しげにえづき、口から大量の液体を吐き出した。カプセル内の培養液が肺の中を
満たしていたのだ。四つん這いになり、何度も何度も口から、鼻から、目からも液体を流し、吐き続ける。
……カヒュー……カヒュー………ガフッゴホッ。
その末にやっと確保した生まれて初めての呼吸。その空気は異臭と障気に満たされていたため、途端にむせた。
やがて、呼吸にも慣れてくると濡れた長い黒髪を後ろにかきあげ、黒い瞳が心細げに周囲を見回した。
頭には小さい一対のツノ。姿はまだ幼い少女だ。
「あ、……あ、あう……うぅ」
まだ、まともに言葉さえ喋れない。
どこからともなく怨念めいた唸り声が響いてくるこの地で、少女はただ一人、身体に纏うものさえなく取り残された。
カヒュー、カヒューとか細く小さな呼吸を繰り返し、少女はうずくまるようにしてまた気を失った。
そして、この場所に存在しない二つのもののうち一つ「生命」が現れた─────
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◇ ◇ ◇
──その鬼は浮かれに浮かれていた──
ひゃっほぅ!自由だ!ざまぁみやがれってんだ!
この嘘月鬼(うそつき)様をいつまでも縛ってられるかってんだ!いやーここ数ヶ月は大変だったゼ、
何ンせ大人しい小羊みてーにいわれた事をしなけりゃいけなかったからなぁ。
おまけに強引に契らされた契約で嘘をついたらいけねぇってんだ。死ヌかとおもったゼ!
ま、俺サマにかかりゃあンな古臭セー拘束呪文なんぞダマクラかすなんざ、屁でもねぇ!
おかげで俺サマをこき使った一家は見事に自滅。俺サマ自由!
後ろ暗れー事してたムカつく親父はオシメーだろな。
巻き込まれる事になっちまったカワイイお嬢ちゃんはちっと気の毒だったが、仕方ねーか。俺にゃどうしようもねぇ。
達者でいることを祈るしかねぇな。
……ま!その原因を作ったのは俺の「ちょっとした嘘とも本当ともいえないご注進」が原因だがな。ケケケッ
永かったぜぇ。ご主人の命令の穴を見つけて、それが致命的な事態につながるか見極めるまで。
普段はちっぽけな火の玉みてぇな存在だからしくじるとあっちゅう間に消されちまうしな。
まだちぃとばかり、オデコに呪縛が残ってるが、しゃーねー。いつか何ンかの役に立つだろ。
……さて、自由になったからには食い扶持を何とかしねぇとな。
ちっちぇ体でいる間は大してエネルギーを使わねェが、ゼロじゃねーし。
自由は悪かねぇが、食うモン食わンと消えちまう。
身体はねぇが、幽体を維持するにゃやっぱそれなりにエネルギーってもんが必要だ。
よわっちい浮遊霊とかじゃねぇとこっちが逆に食われちまうしな。いや、クソマジぃが障気でもいい。
とりあえず「気」の淀みそうな所を当たってみっか。なに、このクソだめみてぇな国ならいくらでもみっかるさ───
315 :
チリチリおにこ:2012/10/05(金) 20:49:34.92 ID:biQqTnQ/
◇ ◇ ◇
「────うぇぇっ、げぼっ!げぼぼっ!ごぼっ」
──少女は吐き続けていた。あれから三日。今、食べた「にく」はだめだった。食べたものによる激しい拒絶により
吐き続けた。そして体に巻き付けてる「さむくならないもの」をかき集め、吐き気からくる悪寒をごまかした。
「さむくならないもの」はボロ布だ。このまえガラクタの山で見つけそこから体を包むものをひっぱりだした。
ボロボロでイヤな臭いが染み着いたものだが、無いよりはましだ。これを見つけてからは少しの間だけは
眠れるようになった。次に襲ってきたのは耐え難い飢え。食べられそうな「にく」はいっぱいあったが、実際に
食べられるものはめったになかった。腐ったもの、食べると吐いてしまうもの、この短い間に死ぬような
思いをしたことも何度もあった。その末に身についた用心。少し臭いをかぎ、少しだけカジる。
しばらくして何ともなかったら「たべられる」
だが、「たべられるにく」であっても、中に何か仕込まれていることもあった。
そのときは何か言いしれぬ悪寒が背筋を這いあがり、瞬間、考えるより先に「にく」を放り捨てた。
だが、一瞬遅く仕込まれていた「祓魔式爆弾」が暴発し、指先を失ってしまった。今は徐々に治ってきているが、
他の傷と比べ治りが遅い。まるで「いたい葉っぱ」で切った時みたいだ。
ちなみに「いたい葉っぱ」は今も少女が手放さないで持っている。
丁度いい長さの棒だ。本来は「なぎなた」と呼ばれる長柄武器なのだが、彼女はそんな事は知らない。
少女の手には長すぎて扱えないはずだが、それは半分くらいにへし折れていた。「不完全」であるがゆえに小柄な
彼女にはピッタリとは皮肉な話だ。
ともかく、それも変なモヤモヤしたものから身体を守るのにどうしても必要だった。
あれはいつだったか。目を覚ましてから何回目だったか、薄暗い周囲がさらに暗かったから、夜なのだろう。
ガレキの山の隙間で眠っているとき、不穏な気配で目が覚めた。
「?」
ボロ布をキツく身体に巻き付け、身体を起こし、不穏な空気の気配に身構えた。が、既に彼女の周囲には何やら
モヤモヤした白いモヤのようなものが集まっていた。そして恨めしそうなうめき声とともにゾッとする声が
囁き合っていた。
「おれの身体だ」「いや、おれのものだ」「私のよ」「若い、柔らかいおんなのにく……」「わしによこせ」
それはとうの昔に死に、成仏できないでいる亡者達だった。
本能的にビクリと身を引いたが、そこまでだった。何か冷たい気配が腕に足に、背中に、まとわりつき、
口から、鼻から耳から身体のありとあらゆるところから強引に染み込んでくる。何か叫んだかもしれない、
暴れ回ったかもしれない。だが、それらの抵抗は全て無意味だった。
そして、意識が途切れようとしたその時、鋭い痛みが肩口を切り裂いた。途端、意識がはっきりし、身体から
冷たい気配が離れた。急に身体が動かせるようになり、自分を傷つけたものが何か目を凝らした。
それはガラクタの中から突き出ていた。これで肩を切ったようだ、先端に自分の血が滴っている。
肩が灼けるように痛むのもかまわず、無我夢中でそれを引き抜いた。
「もえちれー!」
自分がなにを叫んでいるのかわからないまま振り回した。
ボフッ
すると、その棒で叩かれた「もやもやの何か」は散り散りになり消え去った。
手応えがないまま、同じように、にじりよってくる「もやもや」を近寄る端から叩いた。
ボフッ ボフッ ボフンッ
次々と散らされてゆく「もやもや」達。
──気がついたら辺りの暗さは薄れ、「もやもや」はいなくなっていた。
それ以降、少女はその棒を「いたい葉っぱ」と呼び、怪我をしないように気をつけながら、片時も手から
離さなくなった。この「葉っぱ」で負った怪我はなかなか治らなかったが、身体まるごと奪われるような、
あの冷たい感覚よりはずっとましだった。
ごはんを食べ終わったら、今日も怪我をしないように、段差のある場所に「いたい葉っぱ」を横に突き刺し、
しがみついて「さむくならないもの」を身体に巻いて眠りについた──
316 :
チリチリおにこ:2012/10/05(金) 20:50:15.66 ID:biQqTnQ/
◇ ◇ ◇
バクンッ
「うひぇぃっ!」
鋭い牙がズラリと並んだ口がすぐ後ろで閉じやがった。
あっぶね!
オレっちはとっさに手近な拳大の石っころに重なって隠れた。身体だけやったらデカいウスノロ野郎はそれだけで
オレっちを見失いやがった。オレっちの存在は感じているだろう。ヒクヒク臭いを嗅いで探ってる。
だけど見つかんねー
ハッ、脳なしが。肉体を持ってねーのに視覚にダマされてやがる。ま、このデクノボウに限らず、長いこと
ニンゲンに使役されてきた奴らはどうもニンゲンのクセに影響されちまっている所がある。
壁だろうが何だろうが防霊処置されてない所なら好きにすり抜けられるって事を忘れてやがンだ。
あーあ、ヤだねぇ。そうなる前に逃げ出せてよかったゼ。
……とはいえ、この辺りもこうデカいのがウロついてちゃオチオチ「食事」もできやしねぇ。
ま、ちっとは補充できたけど、ここもダメか。なぁんか
いい方法はないもんかね。あのデカブツが諦めてこの場を去った後、
オレっチは地面に潜って別の場所を探し始めた──
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◇ ◇ ◇
ピチャピチャ……ハグムシャ……クチャクチャクチャ……
今日は運が良かった。2コ目の「にく」が食べられた。
周囲のゴミの山、うず高く積もったゴミの一つに腰掛け「にく」を貪る。
小さな彼女が探しあてた一つ目の「にく」は口に含んだ途端、ベッと吐き出した。
聖骸粉が入ってて、危うく口の中が焼け爛れるところだったのだ。だけど、都合よくごはんにありつけたとしても
早く食べ終わらないと、またあの「もやもや」がやってくる。
周囲の暗さが濃くなってきている。そうすると「もやもや」がやってきて、「いたい葉っぱ」で散らし続ける。
やがて、「もやもや」が居なくなってから眠り、お腹が空けば「にく」を探して食べる。
のどが渇けば、自分が入っていたカプセルに残っている「みず」を飲む。喉を通る感触が粘っこいが
他の「みず」に比べればいちばんましだった。
ここしばらくはそうやって過ごしていた。
そしてまた「もやもや」が湧きだしてきた頃、まだ幼い小さな戦士はボロ布を身体に巻き付けると得物を構えた。