「ていへんでぇ ていへんでぇっ!」
日課の修行をしている最中。如月ついなのしもべ、前鬼・後鬼が泡を食った様子で駆け込んできた。
最近観た番組──時代劇──の影響か妙に時代がかっている。
「騒がしわ!なんやねん一体」
自称、鬼退治の専門家。ハタからみたらタダの痛いコ、如月ついなは庭先で素振りしていた鉾を下ろし、
やっかいなしもべ、前鬼と後鬼の二匹の方に向き直った。
この二匹、ついなの式神ではあるのだが、びみょ〜に主を敬っていないというか、表向きは主と呼んでいるのに
主『で』遊んでいるフシがある。
それぞれ、赤いぬいぐるみと青いぬいぐるみの姿をしており、見かけは非常にコミカルだ。
「ご主人っ!そない言うたかて、そない悠長に修行しとる場合やあらへんでぇっ!」
コチラは前鬼。
「せや、せや!これがあわてずにいられますかいなっ」
それに唱和するように後鬼が後をついだ。手に手紙のようなものを持っている。
「だから、なんやねんっちゅうの!」
「鬼子から果たし状が届きましたんやっ」
「なっ!なんやてぇっ?!そりゃぁホンマなんやろうなっ!」
「嘘言うてどうしますっ ホレ、このとおり、ご主人宛の手紙にそう書かれてまっせ〜〜」
後鬼が、開封済みの手紙をピコピコ振りながら一大事を強調した。
本来ならご主人の手紙を勝手に開けたりする式神達を咎めるべきなんだろうが……
「で、ご主人、ど〜しますんや?!今まで鬼子から挑戦してくるような事などありまへんでしたやろっ?!」
ツッコむ間もなく、前鬼が畳みかけるようにたずねた。
「この手紙によりますと、日時は今週末の土曜。時刻は午前10時。彩河岸公園にて待つ。とありまっせ?」
「ご主人、今度こそ鬼子のハナをあかすチャンスでっせっ!」
その言葉についなは
「あったりまえや!うちが鬼子なんぞに遅れなぞとるもんかいっ!今度こそ鬼子のヤツの年貢の納め時やっ!」
と、再び鉾を構えて気勢を上げ、式神達は合いの手を入れる。
「「よっ ご主人っ!さすが鬼退治の専門家っ」」
……ちなみに、毎回ついなは鬼子相手に惨敗している。いっそ様式美とさえ言える返り討ちっぷりで。
毎度大敗しているのに懲りないのはある意味大したものだが。
まあ、それだけ負けが込んでもついなが大怪我もせずピンピンしているのは、鬼子に手加減するだけの余裕が
あるからなのだが、ついな当人はその事には全く考えが及んでいない。
──それはともかく。
「みとれよ鬼子ぉおぉぉっ今度こそボテくりこかしたるっ!!!」
ついなは、ご近所に迷惑な雄叫びを上げた。家の裏庭で。
当然、近所のオバちゃんにウルサイと叱られた。
── 果たし合い当日 ──
ついなは、しもべ達が用意したいくつもの鬼祓いの道具を山と背負って出立した。
「「ご主人頑張りや〜〜ファイトやで〜〜〜」」
何故かご主人の出立に同行せず、しもべ達は白いハンカチを振ってついなを見送ったのだった。
「……いきましたか?」
「……いきましたな……」
見送った式神達は意味深に顔を見合わせた。ぬいぐるみの顔はボタンの目なので、イマイチ表情がわからない。
だが、わかりづらい表情ながら笑いをこらえているように見えた。
=== 決闘場所 ===
「待たせたなっ鬼子ぉぉぉぉっこのウチに挑戦とはええ度胸やっ! 今度こそ覚悟し…ぃや…あ?」
ビシッと突きつけた指先が宙を泳ぎ、威勢のいい言葉が失速して、尻すぼみに終わった。
「お、きたきた。遅いよ〜〜ついなっち。ここそんなにわかりづらかった?」
田中が敷いたゴザの上からついなを出迎えた。
「あ、ホントにきた〜〜やほ〜〜ついな〜〜〜」
鬼子の横から小日本がこっちに向かって手を振ってきた。
「一応、場所とっておいてよかったな」
これは人の姿をとったヤイカガシ。
「まあ、小さくてもチチが増えるのはいいことだ」
いうまでもなく、人の姿をとったヒワイドリ。
「何をいう!田中さんだけではなくついなさんのような素晴らしい人まで来るなんてっ!
あぁ、今日こそわが生涯で最良の日だっ!」
青年の姿をしたチチドリだ。
「ふん。本日は花見であることを忘れていないかね。節度を忘れぬようにな」
そう、たしなめたのは人の姿をしたチチメンチョウ。
その隣には……
「いいから〜ゴチソウはまだなの〜ごちそうは〜〜」
お酒も入っていないのにできあがっているのはハンニャーだ。
めいめいがブルーシートの上にゴザを敷いて思い思いの場所に座っていた。
「……え……何やコレ……えと、うち、鬼子と決着……」
なにやら口の中でモゴモゴ呟くもついなは状況を理解できてない。
「ネネさまネネさま〜ほらね〜〜ついなちゃん、ちゃんと来てくれたでしょ〜〜〜?」
隣の鬼子の袖を引きながら、本当にうれしそうにとびハネながら小日本がはしゃいでいた。
「本当、田中さんに手紙出すように勧められた時には素直に来ていただけるか心配でしたけど、よかった……
来てもらえて……本当に」
ナニヤラ、ほっとしたように袖で目元をぬぐう鬼子。
「え、え〜〜とぉ…………」
状況がよく分からず、バツが悪くなって何とはなしに周りを見回した。
決闘の事しか頭になかったついなだが、今更ながら周囲の公園内の景色が目に入ってきた。
辺りは一面、満開の桜が咲き誇っていた──
「花見かぁぁあああああぁぁああっ?!!!」
ようやく、ついなは状況を把握した。と、同時に背負っていた荷物を地面に叩きつけた。
(あ、アイツら〜〜テキトー抜かしおって〜〜〜〜っ!!後でシバいたるっ!!)
プルプルと拳を震わせ、またもやしもべ二匹にかつがれた事を悟ったついなである。
──そのころ──
「ウププ、ご主人、今頃アワ食ってる頃でしょうなあ〜〜」
縁側に座布団を用意して、日光に当たりながら前鬼がノンビリと呟いた。
「ご主人の事やから、鬼子から花見の招待が来たかて、よう素直に行きひんやろうしな〜〜」
ぬいぐるみのクセにかたわらにお茶受けを用意して暖かいお茶をすすりながら後鬼が返事を返す。
「あ〜ぁナンてうちらはなんてご主人想いの式神なんやろうな〜」
そういいながらクスクス笑っているのは前鬼だ。
「これで意地張っていかへんかったらまた勝手に一人で落ち込んでワリ食うのはわてらやさかいなあ〜」
ヤレヤレとばかりに後鬼も応じるが声は明らかに面白がっていた。
主のいない時間を満喫している二匹である。
毎回こうやってご主人をからかって遊ぶ実に困った式神達であった。
==果たし合い場所改め花見会場==
トテテ、と小日本が駆けてきてついなの手を引いた。
「でもよかったっ!さくらはこにのしょーちょーだもんっ!みんなで仲良くおはなみできたらなって思ってたのっ」
ついなはそれを聞いてうぐ、と言葉を詰まらせた。
(い、言えへん。ホンマは鬼子と決着をつけに来たなんてとてもやないが言えへんっ)
「でも、ついな〜?覚悟って〜〜?」
(げっ、さっきの聞こえてもーてた)
途端、バツが悪くなって目が宙を泳いだ。
「え、え〜とやな〜〜その、なんや……」
小日本のまんまるで澄んだ目がついなを見上げてきた。……この目が涙でいっぱいになってはたまらない。
ふと、先ほど地面に叩きつけた荷物が目についた。
(こ、これやっ!)
荷物の中にあったモノを拾い上げた。
「しょ、勝負や鬼子!きょ、今日は花見やさかい、コイツでけちょんけちょんにしたるっ」
それは宝庵謹製ポータブルカラオケだった。
選曲ボタンを押しながらタイトルを告げるだけでその楽曲を奏でる特級品である。
鬼祓いグッズと称しながらあの式神達が用意したのはお花見グッズ一式だったのだ。
──持ち出す前に確認すべきだろう。それは。
鬼子が不敵にほほえんだ。
「──そういう事なら。喜んで受けてたちましょう」
すいっと前に立ち、いつになく真剣な表情で小型カラオケを手にした。そして──
──津軽海峡〜〜
冬景色──
マイクの余韻を残しつつ、鬼子は歌い終わった。
「……ふぅ、お粗末さま」
最後にペコリと一礼して歌い終えた。
──採点機能がつけた点数は82点だった──
パチパチパチパチ
周囲は拍手に包まれる。
「なんのっ!ウチが持ってきた道具で負けるんはありえへんっ見とれやっ!」
ついなは得意なアニソンを選択した──
……34点だった──
「なっなんやてぇっ。何かの間違いやっも一回っ!もっぺんやっ!」
「ふ、そういう事ならいくらでも受けてたちましょうっ!」
「──ひのもとさんってマイク握ると性格変わるタイプなのかナー」
田中のつぶやきはさておき……
こうして、花見ならぬ歌合戦は夜桜見物まで続けられることとなったそうな──
──結局、ついなの総合点はドベから2番だった。
ダントツ一位 ヤイカガシ「ふう、ま。こんなもんか」
ついな「なっ、なんでやぁぁぁあああああ」
──終──
>>233-236 という訳でついなちゃんを軸に鬼子達の花見SSを書いてみたっ
珍しく、式神達が主のためになる行動をした話になってしまっている(ぇ
今年は花見が流れる事が多くて鬼子キャラに花見をさせることでだいしょーこーいとしたっ
それでわっ