【長編SS】鬼子SSスレ5【巨大AA】

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154おにテトの人 ◆OniTe.TFqo
てすと
155おにテトの人 ◆OniTe.TFqo :2011/12/21(水) 01:09:46.96 ID:wBwLrJsh
鬼子がUTAUになって一年ほど過ぎたのでカキコしてみる

それは一年前のことだった。
鬼子はUTAUとなったことで、どこぞの町にある事務所(実際には登録作業しかしてない)に出向くことになった。
何しろ鬼である。皆が震え上がったりとか恐れを為して逃げるとかそういうことにならないことだけを切に祈っていた。

どこからか届いた案内状に目を通して事務所の呼び鈴を押した。
「誰だ」ぶっきら棒な声がスピーカーから鳴った。
「日本鬼子です。」相手の声を聞いて鬼子はどうなるんだろうかと思いながら自分の名前を言った。
「ああ、今日だったか。入っていいよ。」
「いいんですか?」
「入っていいといってるだろうが。」柔らかい声だがどこか冷たい響きがしていた。
鬼子は扉を開いた。本当に事務所もいい所だった。
芸能事務所程の活気はないが、ここを本拠に活動することになる。その時まではそう考えていた。

紫の髪の少女が鬼子に話しかけた。
「君が日本鬼子か」
この人がさっき機械で喋っていた人ね。鬼子は操合点するとお辞儀をした。
「日本鬼子です。若輩者ですが―」

その時外で車が急停車する音がした。
目の前の少女は「やっと来たか」と呟き、奥にいる桃色の髪の毛の少女は頭を抱えた。

ドアが荒々しく開き、やはり若い娘が足音も荒々しく入ってきた。
髪は赤みがかったピンクで縦ロールのツインにしている。目も赤かった。
その目を見た時本生りの自分がこうなるような気がして嫌になる。

「来たか」紫の髪の少女が呟いた。と同時にドアが荒々しく開いた。

ドアを蹴破る勢いで開けた少女は肩で息をしていた。

「テト、また寝坊か?」紫の髪の少女が言った。

「ちがーう!ルコリツテイを叩き起こして学校に行かせて、そんでもってテイがいきなりだなー、
れんきゅんに会いたい、ってホザクもんだから無類やり学校に送還してたんだ!」

鬼子は紫の少女に尋ねた「この人は誰なんですか?」

「ああ、鬼が来ると言っていたが、君か。あたしは重音テト」少女―テトは先ほどとは打って変わった雰囲気で自己紹介をした。
「デフォ子、自己紹介はしたのか。」テトは鬼子の傍らに立っている紫の少女に言った。
「ああ、まだだ。」
[ったく。君の傍らにいるのが唄音ウタ。あそこの机で寝ているのが桃音モモだ。」
「あたし、寝ていません。」モモと呼ばれたピンクの髪の毛の少女が切り返す。

デフォ子は鬼子に手を差し伸べた。「あたしが唄音ウタだ。皆はデフォ子と呼んでいる。」
「デフォ子、さん、ですか。」鬼子は握手をした。デフォ子は思いきり力を込めて握手した。

誰もが鬼子が叫ぶものだと思っていたが、そこは鬼である。鬼子はデフォ子の手を強く握り返した。

続きます
156おにテトの人 ◆OniTe.TFqo :2011/12/21(水) 01:12:12.50 ID:wBwLrJsh
>>155の続き

デフォ子が鬼子の手を強く握りしめ、鬼子がそれに判事をするようにデフォ子の手を強く握り返すのを見てテトはデフォ子に一言言った。
「デフォ子、いい加減やめんか。」
「鬼は力持ちらしいからやってみたくなったんだ。」
二人の手がパッと離れる。
「鬼子、こいつはロボットでな。性格は、まぁ、見ての通りだ。」
「えーと、ロボットって…機械なんですか。」
「身も蓋も無い言い方だな。」デフォ子が答える。「ついでに言うとあそこにいるモモも同じだ」
「はぁ。」鬼子の要領を得ない返事。

「鬼子さんですね。先程紹介に与りました桃音モモです。」いつの間にかモモが鬼子の近くに寄っていた。
「あ、こちらこそよろしくお願いします。」鬼子が返事をする。
「えー、ところで、鬼がUTAUとかになっても大丈夫なんでしょうか。」
「大丈夫だ。問題ない。」テトが返事をした。「何しろUTAUには色んなのがいてな。兎の妖怪がいる。」
「はぁ?妖怪がもういるんですか。」
「天音ルナっていう兎の妖怪で、あれでもUTAUの初期メンバーだ。」
「はぁ、そうなんですか。」
「後はだな、怪鳥ラルゲユウスとか、キャベツとか、宇宙人とか、オカ魔族とか、果ては全高2000mの大仏までいるぞ。」
「何で大仏がいるんですか。」
「知らん。ネタに走るにも程があると思うんだが、一体何を考えているものやら。ゼントラーディー軍と戦争するつもりか。」
「テト、そのネタは古いだろ。」デフォ子がすかさず突っ込みを入れた。
「そうだな。ならクトゥルーとやり合うと言うのはどうだ。」
「やめて下さい。真面目に取られたら困ります。」モモが突っ込んだ。
「あのぅ。で、何で大仏が。」鬼子はおずおずと尋ねた。そんなものがいるとは理解の範疇を超えていた。
「だから知らないって。俺歌無能とか言うんだが、ここまで来るとネタにもなりゃしない。」
「はぁ、そうですか。あと何かいろんなものがいるとか言ってましたけど。」
「ん?そうか?何しろ大仏から宇宙人まで幅広く取りそろえているからな。あと猫娘とかコヨーテとか。」
鬼子は眩暈がして来た。そう言えばさっきこの人なんて言ったかしら。さり気に酷いことをサラッと言ったような。
「えーと、他に何がいましたっけ。」
「ん?だから、怪鳥ラルゲユウスとか」
「テト、それ誰も知らんぞ。」またしてもデフォ子の突込み。
「ああ、乙飛女クユの事だ。」
「その怪鳥なんとかって。」
「その昔ウルトラQという特撮番組に出た・・・」
「そうじゃなくって、何で怪鳥なんとかになっているんですか。」鬼子とモモが同時に突っ込んだ。
「ああ、あれね。通常は普通の女の子なんだが、興奮すると巨大な鳥に変身するんだ。」
「それでこいつ傍にいて踏みつぶされそうになったんだ。」デフォ子が茶々を入れた。
テトはデフォ子を睨みつけた。
「事実だろうが。」デフォ子は何食わぬ表情で切り返す。
「寸でで逃げました。」テトが答える。「いきなり抱きつくわ、巨鳥に変身するわで散々だったわ。」
「なんとなく分かりました。あのー、あとなんて言ってましたっけ。」鬼子が質問した。
「え?キャベツとか、オカ魔族とかがいるんだわ。」
「キャベツって、あの野菜の事ですよね。」
「うん。何故かそんなものがいる。考える気も起らん。」
「で、オカ魔族って。」
「魔族なんだが男のくせにオネェ言葉で話すのでそう言ってる。」
「あのー、魔族の尊厳とかどうなるんでしょうか。」
「本人に聞いてくれ。最早突っ込む気すら失せた。」
鬼子は苦笑した。

まだまだ続く
157おにテトの人 ◆OniTe.TFqo :2011/12/21(水) 01:13:36.13 ID:wBwLrJsh
>>156の続き

「まぁ、一々気にしてたら身が持たんぞ」デフォ子が切り出す。
「そうですか…」
「何しろこいつからして31歳の・・・グッ」
「まー、これから頑張ってくれ。」デフォ子の口を塞いだテトが大きな声で言った。
「何をする。」デフォ子の抗議。
「え?何かあった。」テトがしらばっくれる。
「喧しい。この・・・ぐぎゃああああああああ」デフォ子は最後まで喋らせてもらえなかった。

「あ、あの、デフォ子さんバラバラなんですけど」
軽機関銃を持ったテトに鬼子が話しかける。
「あ、気にすんな。直ぐに元に戻るから。」
「そうなんですか。(だ、大丈夫なのかしら)。」
「ほれ、もう再生し始めてるから」
テトは床を指さした。確かにデフォ子のパーツが自分で結合し始めていた。
「テトさん、事務所内で銃器を出さないでください。」モモが突っ込んだ。
テトは、ん、そうか、と言って機関銃を懐に仕舞った。
鬼子はこの人、どこからこんなものを出し入れしているのかと思った。
「あ、あの、テトさん。」
「何だね。」
「あの、年齢の事なんですけど。」
「ゐ゛?」
「一応存じてます。」
テトは毒気を抜かれた表情で、あ、そ、と言った。
と同時に復活したデフォ子が怒気を含んだ声で言った。
「私に対してこの仕打ち、かくなる上は」
「桃子が怒るぞ」RPGを向けられたにもかかわらずテトは平然としていた。
後ろからデフォ子の肩を叩く者がいた。デフォ子はRPG7を構えたまま後ろを向いた。
そこには不機嫌な表情をしたモモがいた。
「うん。確かに事務所でこれは拙いな。」態度をコロッと変えたデフォ子はRPG7をロッカーに仕舞った。
ロッカーの中を垣間見た鬼子は恐怖した。そこにはあらゆる銃器が収められており、まるで武器庫のようだった。

「どうかしたか。」鬼子の態度に気がついたテトが話しかけた。
「あの中一体どうなってるんですか。」名状しがたい声で鬼子は答えた。全くここは何が何だか分からない。
「ああ、あれか。デフォ子は武器フェッチなのだ。ああやってあちこちから銃器を買い集めては
あそこのロッカーとかに入れてる。」
「もう手狭でな。」RPGをロッカーに格納したデフォ子が答えた。
「まだ、あるんですか。」鬼子の声に力は無かった。呆れ果てているのだった。
「どこだっけ。M2重機関銃とかホチキスとかも手に入れたと言うが」
「テトさん、その話は止めて下さい」モモ子の苦りきった声。
「まぁ、そうかもしれんな。」テトは同意した。

鬼子はホチキスってなんだろうと思っていた。
因みにここで言っているのは第二次世界大戦で米軍が愛用した40mm機関砲の製造所だった。
当然その言葉が指しているのは同社製の機関砲のことである。
それはそれとして、鬼子はなんかとんでもない所に来たのではないかと思い始めていた。

まだ終わらない
158おにテトの人 ◆OniTe.TFqo :2011/12/21(水) 01:14:44.62 ID:wBwLrJsh
>>157から

「で、これからどうなるんでしょう。」鬼子が尋ねた。
「告知を出しますので、その後、あなたを気に行ったプロデューサーがいれば採用されるでしょう」モモの快活な声が返ってきた。
「ここが活動の中心じゃ・・・」
「ないよ」残り二人が同時に返事した。
「あくまでも登録と告知場所だからね。」テトが言葉を継いだ。
「まぁ、そこのキメラの様に運が良ければ何とかなるだろ。」デフォ子の言葉にはどこか棘があった。
「ま、そういうこと。」デフォ子の言葉に含まれたものを無視してテトが応じる。
仕方あるまい。テトは思った。デフォ子は殆ど日の目を見なかったからなぁ。
メジャーと言えるまでになるのに一年以上かかったんだっけ。

「まぁ何かきっかけがあればメジャーになるだろうしね。」テトが言った。
「きっかけですか。」鬼子は不安になった。
「でもテトはあれだろ。ネタが先にあったから。」デフォ子が言った。声がどこか冷たい。
「まぁね。まぁでも鬼子は一応きっかけ程度はあるんだし、なんとかなるんじゃないの。」
「きっかけ、ねぇ…」デフォ子は承知していない様だった。デフォ子がメジャーになったきっかけは一つの動画からだった。
それまではデフォルト音源でありながらマイナー扱いされていたのだった(多分)。
「そんなもんだろ。あれこれ心配してもしょうがないしさ。」テトはデフォ子の問いらしきものに答えた。
「そりゃお前はそう思うかも知れんが。」
「ミクだって始めから高速道路を疾走してたわけじゃないだろ。あいつだって始めは苦労してたじゃないか。」
「まあな…」デフォ子は納得のいかない様子だったが、
「まぁ、それにだ。ボカロと言っても皆が超売れっ子と言う訳ではなかろう。」
「ああ、そうだな。」デフォ子の声は沈んでいた。
「気にするなよ〜デフォ子はみんなの人気者じゃないか〜」テトはデフォ子の両肩を勢い良くゆすった。
「ぐはぁ、な、何をする。」デフォ子が声を荒げた。
「あんまり沈んでるのもらしくないと思ってな」
「喧しいわ」

デフォことテトのやり取りを見ていた鬼子はモモに尋ねた。
「あの二人はいつもああなんですか。」
「あんなもんです。何時もはデフォ子さんが主導権を握るんですか。」
「はぁ」鬼子はため息とも受け取れる返事をした。

そして新キャラが登場する
159おにテトの人 ◆OniTe.TFqo :2011/12/21(水) 01:16:02.16 ID:wBwLrJsh
>>158から

ドアが荒々しく開けられた。皆がそちらを見る。

モモと同時に入口の方を見る。和装と言うか、和風と言うかやはりミニスカを着用に及んだ少女がそこに立っていた。
「あら、マコさん。」
鬼子はマコ―和音マコに挨拶しようとしたが、マコはその儘鬼子に近づいてきた。
「本当に鬼が来たのね。と言うかどうしてきた。」
「どうしてと言われましても。」鬼子は答えた。「あ、わたくし、日本鬼子と申します。」
「礼儀正しいのね。」マコは平板な声で答えた。
「どうしたミニスカ忍者」マコが来たのに気がついたテトの声が響いた。
「それ言うな!」マコが怒号で返す。
「じゃあマコ、ルナは?」テトが切り返す。
「ああ?あの兎は鬼と聞いて速攻で逃げたわ。」
「まぁそうかもな。」テトは気にしていない様だった。「鬼は最強の妖怪と聞くし。あいつ如きじゃどうにもならんだろ。」
「そーかー?あれでも結構すばしっこいから大丈夫と思うけど。」マコは納得していない様だった。
「テトぉ、何マコと話してるんだ。」ようやく我に返ったのかデフォ子が割り込んできた。
「和音マコが鬼子に興味を持ったようです。」テトが答える。
「ルナの性癖がうつったのか」
「違ーう」デフォ子の声にマコはとっさに反応した。
「そうなのか。」どうとでもとれるデフォ子の声がした。
「まぁ、それはそれとして、何の用だ。」
「鬼が来たというから見に来ただけだ。」
「それで報告はタイキに押しつけると。」テトが返した。
「後輩の義務だわ。」マコは悪びれていない。
「よく言うよ。面倒は悉くタイキに押しつけて自分は遊んでるくせに。」
「可愛い後輩を教育するための愛の鞭と言って欲しい。」
「痛いだけだろ。」今度はデフォ子の番だった。
「まだ若いからね。多少の苦痛はやむを得ないさ。」
「親方の娘でなきゃとっくの昔に里に強制送還だろうが」テトが言う。
「まるで私が仕事をしていないみたいじゃないか。」マコは鼻で笑いながら答えた。
「仕事してたのか。」テトとデフォ子が同時に白けきった言った。
最も職業柄マコの本当の仕事なぞ誰も知らないし、UTAU関連以外詮索しないことは暗黙の了解だったから、
誰も何も知らない筈だったが、テトやデフォ子はマコの「本当の仕事」を知っていた。
そしてその仕事をさぼりまくっているからこそ、違う里からだが風歌タイキが派遣されてきたのだった。
勿論、現代において忍者は壊滅状態なのだが、残存する「里」ではそれぞれ人材を融通し合ってあれこれと仕事を請け負っていた。
無論仕事の内容は目の前の例外を除いて他に漏れることは無い。

「ええい、だからここに来たんじゃないか!」マコが怒鳴った。
それを聞いた三人娘は、ばればれだろうが(でしょ)と思ったが口には出さない。
「な、何だかよく分からないけど、お仕事頑張って下さいね。」鬼子がマコに話しかけた。
「あ、ああ、どうも」マコは答えた。

これで空気が変わった。その後は和やかな雑談の時間になった。
鬼子が驚いたのはUTAUが全世界のあちこちにいることや人数が4桁に達していたことだった。
これでは自分が日の目を見るまで時間がかかると言われたのも納得できた。
この後にも何人かのUTAUが来た。始めは鬼子を見て驚き、それから新しい仲間だと聞いて、へーとかああそうとかいう反応が返る。
鬼子の態度が柔らかいのか、皆がすぐ打ち解けた。

そしてまだ続くのだった。
160おにテトの人 ◆OniTe.TFqo :2011/12/21(水) 01:17:25.66 ID:wBwLrJsh
>>159より

「お、そろそろ時間だ」壁に掛けられた時計を見てテトが言った。
「どしたの」雪歌ユフが言う。
「テイを迎えにいかないとね。」
「一人で帰れるんじゃないの」ユフと共に来た揺歌サユが答える。
「あいつが信号機を見るとどうなるか知ってて言ってるのか。」テトが言った。
「ああ、そう言えば。」マコが答えた。「硬直するんだっけ。」
「試験の時は母親が送り迎えしたそうだ。」テトが答えた。
「えー、テトさん帰るの?」音飛女クユの抗議。
テトに会えるという理由でここに押しかけたらしい。流石にテトに会ったからと言って巨鳥にはならなかったが。
「悪いが、家にはルコとリツが戻っている筈だ。何時までも言えを開けとくわけにもいかんだろう。」
「う〜」クユの抗議を他所にテトは外に出た。

事態は急展開する
161おにテトの人 ◆OniTe.TFqo :2011/12/21(水) 01:18:16.70 ID:wBwLrJsh
>>160から

外に出たテトは鎧兜を着た青い狸と背後の黒い影と対峙していた。
「何だ、お前ら。」
「鬼子はここか。」
「その前に何の用だ。」
青い狸は軍配をテトに突き出した。「知れたこと、鬼子を斃す為だ。」
「あー、そう。」
「何だ、その言い方は。大人しく鬼子を突き出せ。さもなくば」
「その前にここの住人に挨拶なり了解なり取ったのか。」
「何を言う。我らにそんなものは必要ない。」
「ああそう。」テトは鼻白んだ。こいつらこの町の住人に断りなしでこんなことしてるんだ。「まぁ、いいけどねぇ。」
「ああ?何だ?その余裕は。痛い目を見たいのか。」
青い狸は叫んだ。

「ノイズ・ブレーカー」

少女の声とともに後ろの黒い影共が薙ぎ倒された。青い狸は、何が起きたかもわからない様子で後ろを見ていた。

「だから言ったろ?ここの住人に挨拶はしたかって。」テトの相変わらずな声がした。
そして、声をした方を見る。初音ミクのカラーリングを黒にしたような少女と、
ツインテールの銀髪を靡かせた少女よりは色の黒い背の高い女性が立っていた。二人ともスーツを着ていたが。

「どうも有難う」テトの平板な声がした。「雑音ミク」

「フン。ボクが本気を出せばこれくらいどうってことないさ。」雑音ミクと呼ばれた少女は自慢げに言った。
「まったく、あたしらに何の断りも無しに大挙して押し寄せた連中がいると思ってきたら、何だい、これ。」銀髪の女性が言った。
「ウイルス一匹にも値しないじゃないか。」

「あ、あ、何だと・・・」青い狸の呻き。
テトの背後でドアが開きUTAUの面々が外を覗き込んでいた。

「あなたたちは」モモの声がした「どうしてここに。」
「気にしなくていいよ。助けてもらったんだから。」テトが背後のモモに答えた。
「でも」
「本気ならあそこで突っ立って居ない。」

「言ってくれるねぇ。」銀髪の女性が答えた。

「くっそおー」青い狸は忌々しげにテトと女たちを見た。「かくなる上は。」
青い狸は刀を抜いた。

ほぉ、ヤル気か。見上げた根性だ。ならば少し本気で相手に、テトがそこまで考えた時に青い狸は逃走に移った。

「覚えてろー」

いつの間にか、デフォ子が大きめのランチャーを持って外に出ていた。ランチャーを構えてからミサイルを打ち出す。
「闇音アク。町の外ならば構うまい。」デフォ子は銀髪色黒の女性に尋ねた。
「撃ってから言うセリフかね。」アクは呆れた声で言った。「まぁ、いいけどね。」

少しして町の外で轟音が響いた。

でもこれで終わらないのだった。
162おにテトの人 ◆OniTe.TFqo :2011/12/21(水) 01:19:03.72 ID:wBwLrJsh
>>161の続き

闇音アクと雑音ミクは扉にいる面子を見ていた。
外に出ているの三人娘で、他は扉から顔を出している。その中に鬼子もいた。
「ま、要件も済んだことだし。何かあったら言いな。相談に乗るよ。」アクはテトに言った。
「大丈夫だろ。それに相談料だけでも高くつきそうだしねぇ。」
「へぇ、そうかい。まぁ、これだけ大きな町だから、争い事には事欠かないさね。」
そう言い残してアクはテト達から去っていった。

「何しに来たのでしょうか。」モモがテトに尋ねた。
「偵察、かな。」テトが答える。
「何のですかね。」モモの言葉には棘があった。彼女は闇音アクと雑音ミクのコンビを心底信用していないのだった。
「鬼子かも知れないね。」
「何かあるんでしょうか。」外に出た鬼子がおずおずと尋ねた。今までの展開についていけないらしい。
「さあね。基本はさっき言った通りなんだろ。連中から見たら目障りだし。あ、鬼子はあの連中誰か知ってるの。」
「青狸大将です。」鬼子の即答。
「整理対象?」テトが答えた。
「さっき整理ならしたが。」デフォ子が口を挟む。
「あ、青い狸の大将と書いてですね、青狸大将です。」鬼子が説明する。
「であの黒い影は。」テトは重ねて質問した。
「悪の手叉鬼と言います。まぁ、下っ端の戦闘員ですが、ああもあっさりと片付けるとは。」
「へぇ、そういう名前なんだ。アクが来なかったらこっちで片付ける気だったんだけどね。」
「えっと、ここはシンガーの事務所ですよね。」鬼子が尋ねる。
「そうだよ。」テトはこともなげに答えた。
「どうしてこうなるんでしょうか。」
「色々あってね。」
「色々、ですか。まぁ、あいつらも原因と言えばそうだし。」
「そうなんですか。」
「さぁて、これ以上テイを待たせるわけにもいかないから、あたしはここで帰るわ。
モモ、まだお客が来るみたいだから対応よろしく。」テトはモモにそういうと車に乗ろうとした。

でも事件はまだ終わっていなかった。
163おにテトの人 ◆OniTe.TFqo :2011/12/21(水) 01:21:03.43 ID:wBwLrJsh
>>162から

向かいの建物の屋上に影が見えたのは、その時だった。

「フフフフ。我らに気づくとは大したものだ。」
屋上にいる影はそう言い放つと颯爽と飛び降りる。どう見ても猪と狼の化けものだった。
「何ですか、これは。」モモは鬼子に尋ねた。
鬼子は口ごもった。それはそうだろう。こいつらの名前など、口に出せたものではない。

「我らを知らんとはとんだモグリだ。」オオカミが答えた。
「よく聞くが良い。我らは七つの大罪より生まれし色鬼隊(しきたい)!我が名は色鬼隊二の槍、穢狼(エロ)!」
「あ?」モモの声が変わった。
「同じく三の槍、助平牙鬼(スケベガオ)!」モモの態度の豹変に気づかず彼等は名乗りを上げた。
「エッチなのは・・・」モモが呟いた。そしてテトは車内で十字を切った。
「フフフ、このご時世にドロワーズとはいい度胸だ。とっくと―」穢狼は最後まで喋らせてもらえなかった。
「いけないと思いまぁす!」モモの声と共に箒で二人とも宙に飛ばされた。
「第一次宇宙速度には足らなかったか。」デフォ子はシレっとした声で言った。
モモは肩で息をしていた。この手の話題はモモの前では禁句なのだった。言うなれば核地雷原を全速で突っ走るようなものである。
鬼子は茫然としていた。この人たち何なの。
「うんじゃぁ、あたしゃ行くわ。」テトはそういうと車を走らせた。
「ああ。」デフォ子が答えた。
「あ、あの・・・」鬼子はデフォ子に尋ねようとした。
モモは何かブツブツ言いながら戻ってきている。
「何だ。」デフォ子が対応する。
「何なんでしょうか。」
「見ての通りだ。モモの前でエロい話は禁止な。」デフォ子は簡潔に答えた。
鬼子はモモにヤイカガシ達を会わせまいと心に堅く誓った。

そして後日談(?)。
164おにテトの人 ◆OniTe.TFqo :2011/12/21(水) 01:22:46.16 ID:wBwLrJsh
>>163の後の話

数分前。
アクとミクは街中を歩いていた。
「何か飛んで行きましたね。」雑音ミクがアクに話しかける。
「モモの箒だろ。」
「何やらかしたんだか。」
「決まってるさね。」
「ですよね。」
「まぁ、最初からいるのは解ってさね。」
「ですよね。」
「何か言いたげだね。」
「まとめて片付けても良かったんじゃないかと。」
「ああ、元々連中の面倒なんだから連中がやるってのが筋ってもんじゃないかい。」
「そうですか。」
「そうさね。」

そして街外れ。
青狸大将は体中から煙を吐いてとぼとぼ歩いていた。
一目散に逃げたまでは良かったが、あの後飛翔弾の直撃を喰らったのだった。
逃げる青狸大将に対してデフォ子はスティンガーを放ったのだった。
「畜生、畜生」目の幅で涙を流しながら青狸大将は呟いていた。
「あいつら…必ず仕返しをしてやる。」

穢狼と助平牙鬼が彼の頭上に降ってきたのはその時だった。

穢狼と助平牙鬼は自分たちが何に当たったのか理解もせずに立ち上がった。
「フッ。意外と手強かったな。」初めに喋り出したのは穢狼だった。
「なぁに、今日は小手調べ。何れ奴らの痴態を堪能できる日が来る。」助平牙鬼が余裕たっぷりに応じた。
「そうだな。それに今日は収穫が多かった。」そういうと穢狼はあちこちで盗撮した写真とビデオを取り出した。
「奴等も何れ同じ目に合わせてくれよう。」助平牙鬼が自信満々な声で言いきった。

それと同時に彼等は火に包まれた。当然「今日の収穫」は全部灰燼に帰したが、そんなことよりも誰がこんなことをしたのか
火を放ったものを見た。そこには良く見なれた青い狸がいた。
「青狸大将、いかな貴貎と言えど、今の仕打ちは―」
「きーさーまーらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」穢狼に最後まで言わせず、青狸大将の怒りに満ちた声が辺りに響く。
「どうしたのだ、落ち着かれたらどうかな。」助平牙鬼が宥めようとしたが、青狸大将は刀を振り被ると二人に斬りかかった。
「おい、待て、何があった」「話せば分かる」穢狼と助平牙鬼は口々に叫びながら逃げ惑う。
「喧しい!今日一日で受けた屈辱を貴様らの体で晴らしてくれる!」青狸大将は叫びながら二人を追いかけた。
「それは八当たりだろう」「うるさい!!」「落ち着け。我らに」「黙れ!」

それを遠くから眺めていた黒バットと守銭童子はその場をぐるぐる回りながら何かを叫んでいる3人をどうやって止めようか
(あるいは何時まで見物するか)考えていた。

お終い。