東方projectバトルロワイアル 符の八

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1創る名無しに見る名無し
これは同人ゲーム東方projectのキャラによる、バトルロワイアルパロディのリレーSS企画です。
 企画上残酷な表現や死亡話、強烈な弾幕シーンが含まれる可能性があります。
 小さなお子様や、鬱、弾幕アレルギーの方はアレしてください。

 なお、この企画は上海アリス幻楽団様とは何の関係もございませんのであしからず。

 まとめWiki(過去SS、ルール、資料等)
 http://www28.atwiki.jp/touhourowa/pages/1.html

 新したらば掲示板(予約、規制対策、議論等)
 http://jbbs.livedoor.jp/otaku/13284/

 旧したらば掲示板
 http://jbbs.livedoor.jp/otaku/12456/

 過去スレ
 東方projectバトルロワイアル 符の無無
http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1281061809/

 東方projectバトルロワイアル 符の陸
http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1263709667/

 東方projectバトルロワイアル 符の伍
 http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1253970854/

 東方projectバトルロワイアル 符の四
 http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1248691156/

 東方projectバトルロワイアル 符の参
 http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1244969218/

 東方projectバトルロワイアル 符の弐
 http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1239472657/

 東方projectバトルロワイアル 符の壱
 http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1235470075/

 東方projectバトルロワイアル
 http://jbbs.livedoor.jp/otaku/9437/storage/1224569366.html

 参加者、ルールについては>>2-10辺りに。
2創る名無しに見る名無し:2011/05/13(金) 23:45:18.18 ID:XyH87zNq
 【参加者一覧】

 2/2【主人公】
   ○博麗霊夢/○霧雨魔理沙

 7/7【紅魔郷】
   ○ルーミア/○チルノ/○紅美鈴/○パチュリー・ノーレッジ/○十六夜咲夜
   ○レミリア・スカーレット/○フランドール・スカーレット

11/11【妖々夢】
   ○レティ・ホワイトロック/○橙/○アリス・マーガトロイド /○リリーホワイト/○ルナサ・プリズムリバー
   ○メルラン・プリズムリバー/ ○リリカ・プリズムリバー/○魂魄妖夢/○西行寺幽々子/○八雲藍/○八雲紫

 1/1【萃夢想】
   ○伊吹萃香

 8/8【永夜紗】
   ○リグル・ナイトバグ/○ミスティア・ローレライ/○上白沢慧音/○因幡てゐ
   ○鈴仙・優曇華院・イナバ/○八意永琳/○蓬莱山輝夜/○藤原妹紅

 5/5【花映塚】
   ○射命丸文/○メディスン・メランコリー/○風見幽香/○小野塚小町/○四季映姫・ヤマザナドゥ

 8/8【風神録】
   ○秋静葉/○秋穣子/○鍵山雛/○河城にとり/○犬走椛/○東風谷早苗
   ○八坂神奈子/○洩矢諏訪子

 2/2【緋想天】
   ○永江衣玖/○比那名居天子

 8/8【地霊殿】
   ○キスメ/○黒谷 ヤマメ/○水橋パルスィ/○星熊勇儀/○古明地さとり
   ○火焔猫燐/○霊烏路空/○古明地こいし

 1/1【香霖堂】
   ○森近霖之助

 1/1【求聞史記】
   ○稗田阿求

 【合計54名】
3創る名無しに見る名無し:2011/05/13(金) 23:45:49.17 ID:XyH87zNq
【基本ルール】
 参加者同士による殺し合いを行い、最後まで残った一人のみ生還する。
 参加者同士のやりとりは基本的に自由。
 ゲーム開始時、各参加者はMAP上にランダムに配置される。
 参加者が全滅した場合、勝者無しとして処理。

【主催者】
 ZUNを主催者と定める。

 主催者は以下に記された行動を主に行う。
 ・バトルロワイアルの開催、および進行。
 ・首輪による現在地探査、盗聴、及び必要に応じて参加者の抹殺。
 ・6時間ごとの定時放送による禁止エリアの制定、及び死亡者の発表。

【スタート時の持ち物】
 各参加者が装備していた持ち物はスペルカードを除き、全て没収される。
 (例:ミニ八卦炉、人形各種、白楼剣等)
 例外として、本人の身体と一体化している場合は没収されない 。

【スペルカード】
 上記の通り所持している。
 ただし、元々原作でもスペルカード自体には何の力も無いただの紙。
 会場ではスペルカードルールが適用されないので、カード宣言をする必要も存在しません。
 要は雰囲気を演出する飾りでしかありません。

【地図】
 http://www28.atwiki.jp/touhourowa/pages/14.html

【ステータス】
 作品を投下する時、登場参加者の状態を簡略にまとめたステータス表を記すこと。

 テンプレは以下のように

 【地名/**日目・時間】
 【参加者名】
  [状態]:ダメージの具合や精神状態について
  [装備]:所持している武器及び防具について
  [道具]:所持しているもののうち、[装備]に入らないもの全て
  [思考・状況] より細かい行動方針についての記述ほか。
         優先順位の高い順に番号をふり箇条書きにする。
  (このほか特筆すべきことはこの下に付け加える)

【首輪】
 全参加者にZUNによって取り付けられた首輪がある。
 首輪の能力は以下の3つ。
 ・条件に応じて爆発する程度の能力。
 ・生死と現在位置をZUNに伝える程度の能力。
 ・盗聴する程度の能力。

 条件に応じて爆発する程度の能力は以下の時発動する。
 ・放送で指定された禁止エリア内に進入した場合自動で発動。
 ・首輪を無理矢理はずそうとした場合自動で発動。
 ・24時間の間死亡者が0だった場合全員の首輪が自動で発動。
 ・参加者がZUNに対し不利益な行動をとった時ZUNにより手動で発動。
4創る名無しに見る名無し:2011/05/13(金) 23:46:13.14 ID:XyH87zNq
【書き手の心得】
 この企画は皆で一つの物語を綴るリレーSS企画です。
 初めて参加する人は、過去のSSとルールにしっかりと目を通しましょう。
 連投規制やホスト規制の場合は、したらば掲示板の仮投下スレに投下してください。
 SSを投稿しても、内容によっては議論や修正などが必要となります。

【予約】
 SSを書きたい場合は、名前欄にトリップをつけ、書きたいキャラを明示し、
 このスレか予約スレで、予約を宣言してください。(トリップがわからない人はググること)
 予約をしなくても投下は出来ますが、その場合すでに予約されていないかよく注意すること。
 期間は予約した時点から3日。完成が遅れる場合、延長を申請することで期限を4日延長することができます。
 つまり最長で7日の期限。
 一応7日が過ぎても、誰かが同じ面子を予約するまでに完成させれば投下できます。

【投下宣言】
 他の書き手と被らないように、投下する時はそれを宣言する。
 宣言後、被っていないのを確認してから投下を開始すること。

【参加する上での注意事項】
 今回「二次設定」の使用は禁止されている。
 よって、カップリングの使用や参加者の性格他の改変は認められない。
 書き手は一次設定のみで勝負せよ。読み手も文句言わない。
 どうしても、という時は使いどころを考えよ。
 支給品とかならセーフになるかもしれない。
 ここはあくまでも「バトルロワイアル」を行う場である。
 当然死ぬ奴もいれば、狂う奴もでる。
 だが、ここはそれを許容するもののスレッドである。
 参加するなら、キャラが死んでも壊れても、泣かない、暴れない、騒がない、ホラーイしない。
 あと、sage進行厳守。あくまでもここはアングラな場所なのを忘れずに。
 感想や雑談は、規制等の問題が無ければ、できるだけ本スレで楽しみましょう。

【作中での時間表記】(1日目は午前0時より開始)
  深夜  : 0時〜 2時
  黎明  : 2時〜 4時
  早朝  : 4時〜 6時
  朝   : 6時〜 8時
  午前  : 8時〜10時
  昼   :10時〜12時
  真昼  :12時〜14時
  午後  :14時〜16時
  夕方  :16時〜18時
  夜   :18時〜20時
  夜中  :20時〜22時
  真夜中:22時〜24時
5創る名無しに見る名無し:2011/05/14(土) 01:26:20.48 ID:/sD5eyQM
>>1
6創る名無しに見る名無し:2011/05/14(土) 03:04:35.82 ID:TNLxYDq2
乙です
7創る名無しに見る名無し:2011/05/14(土) 07:31:13.85 ID:o8o3fjI7
乙です
8創る名無しに見る名無し:2011/05/14(土) 07:50:24.75 ID:WTPRLRbL
乙!
9創る名無しに見る名無し:2011/05/18(水) 09:58:44.06 ID:7JJ5BW0S
予約来た
この組み合わせは……
10創る名無しに見る名無し:2011/05/18(水) 16:06:37.43 ID:3LmeB41y
これは期待
11創る名無しに見る名無し:2011/05/19(木) 00:00:26.79 ID:VK04WR3I
予約来てるw
12創る名無しに見る名無し:2011/05/19(木) 12:32:51.47 ID:JPc0dVPi
対主催組がついに合流なのか…?とりあえず期待
13創る名無しに見る名無し:2011/05/19(木) 23:25:32.15 ID:f9JOlDgB
てゐが何気に不安要素だね…そこも含めて期待
14創る名無しに見る名無し:2011/05/19(木) 23:56:24.25 ID:zcRev6zr
すごい所来たwww
期待が膨らむな
15創る名無しに見る名無し:2011/05/21(土) 03:33:35.45 ID:PgCFUkZu
ゆか☆さな
16創る名無しに見る名無し:2011/05/22(日) 23:03:41.08 ID:kMYTLY2o
これまたスゴいとこの予約がきた
17創る名無しに見る名無し:2011/05/23(月) 12:16:21.41 ID:KrxGRO5h
予約…!
18創る名無しに見る名無し:2011/05/23(月) 17:30:46.72 ID:dUV4EVG6
ルーミアのパートも予約来てる!!
次のターゲットは小町か。期待!!
19創る名無しに見る名無し:2011/05/23(月) 18:15:29.56 ID:VqRQHw9j
おお、本当だ
そっちも予約来てるぞw
20創る名無しに見る名無し:2011/05/24(火) 04:46:28.05 ID:8/HmzR/L
うわ、こりゃまたすげえとこがw
小町と映姫様殺したルミャとは
21創る名無しに見る名無し:2011/05/24(火) 06:59:18.89 ID:7aGwHOp/
まとめて期待せざるを得ない!
22 ◆Ok1sMSayUQ :2011/05/24(火) 21:06:46.72 ID:ScGcfhoY
 獣道、とはそこをたまたま通った動物に踏み均され、長年の時を経て視認できるほどの道になったものを言うらしい。
 博麗神社への途上もその例に漏れず、木々の間に細い路地がうねり、蛇の体のように続いている。
 月面探査車が来ることができたのは神社に連なる林道の一歩手前までで、最後は結局歩く羽目になった。
 車のキーを懐にしまい、殆ど先の見えない暗闇を懐中電灯で照らしながら八雲紫が先導する。
 東風谷早苗もそれに習い、全員に支給されたものである、紫と同じ懐中電灯のスイッチを入れて後に続いた。
 ここに来るのは三度目ではあるが、こうも先の見えない暗闇であると博麗神社に参拝客が少ない理由の一端が分かるような気がする。
 守矢の神社も同じく山に本殿を構えてはいても、参拝客に配慮して道には明かりをつけているし、整備もしている。
 博麗神社にはそういった配慮のようなものが見られない。ただぽつんと置いてあるだけでそれ以外の一切を行っていないのだ。
 一応、博麗霊夢自身は生活のために必要な金銭は妖怪退治で得ているとは聞いている。
 蓄えはないことはないだろうし、その気になれば道の整備だって行えるだろうが、どうもその気配は見られなかった。
 霊夢が参拝客への興味を失っているのかもしれなかったが、実際はどうであるかは分からない。なにぶん、早苗自身は幻想郷に来てから日が浅すぎた。
 だが他人に聞くことはできる。ふと気になっただけの疑問だったが、車を降りて以降の沈黙を紛らわせるにはいいと結論して、早苗は目の前にいる、
 金糸の長髪を揺らして歩く背中へと向かって問いかけた。

「紫さん。博麗神社って、いつからあったんでしょう?」
「いきなりね。また無駄話?」
「はい、無駄話です」

 妖怪は本質的にそうであるのか、それとも紫のひねくれた根性ゆえなのか、こちらから話を振るとどうにも小馬鹿にしたような返事が来る。
 とはいってもきちんと返事をしてくれるあたり、紫はまだ誠実な部類ではあるのかもしれない。
 ふーむ、と僅かに顎を傾けて紫は「確か……幻想郷縁起が編纂され始めたときにはもうあったかしら」と思い出すように答える。

「げんそうきょうえんぎ?」
「歴史書みたいなものよ。もっとも……編纂者は既にいないけど」
「それ、何年くらい前なんです?」
「稗田阿一からだから……ざっと千二百年くらいは前になるかしら」
「はぁ〜……そんな昔から……」

 歴史の重さだけで言えば、早苗の仕えていた二柱も同等かそれ以上ではあるが、博麗神社も由緒あるものには違いない。
 しかしそれだけ昔からあるものなら、何かしら有名な神様が奉られていそうなものだったが、博麗の神が何であるのかは聞いたことがない。
 いやそもそも千二百年の昔から存続していたことの方が驚きと言うべきで、一体何をどうすれば歴史に埋もれずにここまで続いてきたのか不思議でならない。
 幻想郷の外につい最近までいた早苗にとっては、流行り廃りはとても早いものであり、ふとした拍子に消えてしまうものという印象が強かった。

「……なんか、よく分からないですね。それだけ強固な信仰があるのに、参拝客はいないなんて」
「博麗神社はなくてはならないものだからね。幻想を生きるものにとって、結界の恩恵がなければそれは死を意味するも同然だったから」
「妖怪の信仰を得ていたってことですか?」
「信仰……というより、利用していたってところかしらね。幻想郷では貴女達が来るまでは唯一の神社だったし、神事を利用するにはうってつけだった」
「……それ、変じゃありません?」

 気がつけば、博麗神社の麓までたどり着いていた。既に石段を登り始めていた紫へと向けて、早苗は疑問を投げる。
 聞けば聞くほど、博麗神社は本来の意味を為す存在には思えなかった。
 神を奉り、畏れ敬っていたのでもなければ、博麗の神が幻想郷に安寧をもたらしてきたわけでもない。
 妖怪と博麗の人間が勝手に取り決め、お互いに力を利用して今の幻想郷を作り上げたようにしか思えなかった。
 違和感が早苗の中で急速に膨れ上がってゆく。博麗神社の歴史が、信仰の歴史ではなく、人為的に作られた歴史だとしたら。

「だって、神社を利用していたって……普通、そこの神様にお願いするものなんじゃないですか?」
「とは言ってもね。妖怪は基本的に自分よりも力が上でないと納得しないから、徳だけじゃ信仰を得るに足りなかったのよ。ただ、そこの巫女の力は強かったから……」
「それがおかしいんです! 妖怪は神を信仰しない。神も力を持たない。でも巫女の力は必要って、神社の体裁を整える理由がないですよ!」
23 ◆Ok1sMSayUQ :2011/05/24(火) 21:08:04.86 ID:ScGcfhoY
 紫の弁を遮って早苗は言っていた。神に近しい位置にいた早苗にとって、奉る神ではなく、神社でもなく、そこに仕える巫女を重要視しているかのような紫の言動が、
 矛盾を含んでいるようにしか思えなかったのだ。巫女は所詮神の代弁者、もしくは依代でしかなく、それ自体が強い力があるわけではない。
 仮に巫女の力が神よりも強いのだとしたら、その時点で神社という存在は意味を為さない。
 なぜなら、より力の強い方が取って代わり、神の座席に居座るからだ。守矢がそうであったように。

「結界だとかなんだとか、そういう専門知識だって知ってしまえばなんでもない話ですし、第一妖怪の都合のいいように動かしたいなら手元に置いておくはずです。
 要は……ええと……博麗神社があることに意味がないのに、どうして今もそこにあるんだろうって話なんです」
「それは……」

 紫が言葉に詰まる。いや、答えられないというよりは、彼女自身新たに生まれた可能性について頭を巡らせているようだった。
 気がつけばそこは博麗神社の麓の石段であり、ここを登れば境内だ。目的地まであと少し。
 だが、そこで紫と早苗は足を止めていた。これから向かう先の不可解について、いま少し手繰り寄せる必要があったのだ。

「紫さん。私達は、あることが当たり前になりすぎていて、どうしてあるのか、を考えてこなかったんじゃないでしょうか」
「……認めましょう。確かにおかしい。どうして私達は、歴代の博麗の巫女を博麗にいさせたのか」
「……もしかして、理由、忘れてたり?」
「というより」

 紫がそこで初めて早苗の方に向き直った。
 暗闇の中に照らし出された紫の表情は、若干強張っているようにも思えた。

「覚えてないのよ。何があったか、は覚えていても、どうしてそういう考えに至ったか、は覚えてない」
「それって……」
「結果だけ覚えている。過程は覚えてない。そう、分かりやすく言うなら……歴史の丸暗記ね」

 それが意味する事態。ゾッとするようなひとつの悪寒を覚えた早苗に対して、紫は自身信じられないというように両腕で体を抱え、首肯していた。
 幻想郷には、矛盾がある。その矛盾を覆い隠すために、何者かが仕掛けていた事柄。それは。

「私達は、記憶を改竄されている。もしくは……忘れさせられている」

 予想はできた言葉だったとはいえ、紫の一言が胸に突き立ち、じわりと浸透してゆくのが感じられた。
 今ある記憶が偽物であるかもしれないという可能性。こうやって考えている自分が、紛い物の記憶によって形作られているかもしれない可能性。
 我知らず胸に手を当てていた早苗は、搾り出すように反論を口にする。

「可能性のひとつ……ですよね?」
「ええ、可能性の一つには違いないわ。でも、あり得ないとは言い切れない」

 妖怪の大賢者という肩書きを持っているだけに、否定しない紫の言葉が尚更胸に突き立った。
 そう、記憶の改竄と考えればいくらか辻褄が合うことがある。
 殺し合いの始め、知らぬうちに全員が一箇所に集められていたことがそうだ。
 集められる直前までのことを早苗自身覚えていない。
 そもそも記憶の改変などを行えるのかという疑問は、こんな状況になっていること自体が答えとなる。

「だから、私達は私達の歴史を知る必要がある」

 早苗の内に生じた暗雲を振り払うように、紫は鋭い口調で言い切り、石段の途中で足を止め、顔を上げて境内の方へと向けた。
 恐らくは紫にとって……いや、幻想郷にとっての始まりであろう場所。妖怪も神も飲み込み、桃源郷の原初となった神社。
 そこにこそ秘密が隠されていると確信しているかのように、紫の声は凛として響いていた。
 大妖怪であり、賢者。肩書きを思い出し、そうなのだろうと雰囲気を以って実感した早苗はするすると不安が抜け落ちてゆくのを感じていた。
 それまで不明瞭だった道が示され、目の前を覆っていた霧が晴れてゆく感覚だった。
 のらりくらりと自分をからかっていたかと思えば、鋭い洞察力で物事を言い当てる。
 可能性の一つと釘を刺したものの、ようやく見えた可能性には違いなかった。
24創る名無しに見る名無し:2011/05/24(火) 21:08:24.49 ID:rnF2XF75
 
25 ◆Ok1sMSayUQ :2011/05/24(火) 21:09:13.14 ID:ScGcfhoY
「まあ、言い方は大袈裟だけれどね。覚えていないことを思い出せれば敵の意表をつけるかもしれないってことよ」
「というと?」
「覚えていないということは、覚えていられると不都合ってことよ」
「……つまり、幻想郷の歴史の中にこそ永琳って人の弱点があるってことですか」
「あいつが首謀者だと決まったわけでもないけど。というより、あいつはほぼ間違いなく白――」

 そこまで言ったとき、「おーい! そこの胡散臭いの、紫だろー!?」という調子っぱずれに元気のいいハスキーボイスが木霊していた。
 む、と不機嫌そうに唇を釣り上げる紫。邪魔されたのが気に入らなかったのか、それとも胡散臭いと言われたのが気に入らなかったのか。
 多分、どちらもだろうと思った早苗は苦笑しつつ、声の主の方角へと振り向いた。

「珍しいのと一緒だな? 早苗もいるのかー!? っていうかなんで私の服着てんだよ!?」

 ぶんぶんと手を振りつつ現れたのは、早苗もよく知る人間、霧雨魔理沙だった。

     *     *     *

「博麗神社に行ってみてもいいか?」

 霧雨魔理沙の発した一言に、因幡てゐは内心肝が冷える思いを味わった。
 人間の里に仲間を探しに、と目的を伝えた直後の寄り道提案。
 これだから人間というやつは、とてゐは軽く苛立ちを覚え、そしてそれ以上に因縁の場所であることに怯えを感じていた。
 まだ誰かを騙しきれると根拠もなく思っていた始まりの地。今となっては遠い昔にすら思える、パチュリー・ノーレッジを殺害してしまった場所だ。
 その博麗神社に魔理沙は行ってみたいのだという。行きたくないという抗弁を拳を握り締めることで抑え、
 てゐは「なんであんなとこに」と出来うる限り冷静な声で喋りかけた。

「そもそもまだ言ってなかった話になるんだが……霊夢が殺し合いを進める側に回ってる、って話はしたな」
「……まあ。あの能天気巫女がやってるなんて信じられないけど」
「ウソ言ったってしょーがないでしょ。実際、私と魔理沙は何度か戦ってる。友達だって……殺された」
「わ、わかってるよ。実感がないだけだって!」

 フランドール・スカーレットが重い口を開き、怒りに震えるように七色の羽を上下させる。
 気分を害せばロクなことにならないと直感したてゐは慌ててフォローに回るが、
 フランドールは溜息をひとつついただけでそれ以上何も言うことはなかった。

「続けるぞ。てゐの言う事にも一理はあるんだ。なんで霊夢がこんなことをしてるのか。私には分からん」
「分かる必要なんてないでしょ。あいつは……」
「フラン」

 魔理沙が強く名前を呼ぶと、フランドールは納得がいかない様子ながらも渋々黙り込んだ。
 どうやら想像以上に霊夢との確執は強いものになっているらしい。とんだ貧乏くじを引いたかもしれないと感じたが、
 このハズレだらけのくじを引かないという選択肢はなかったのも事実で、だったら深く突っ込まない方がいい、というのがてゐの結論だった。
 もう何もない。何も残されていない自分には、こうしてのそのそと隅にでもいるしかないのだ。

「ともかくだ。あいつは理由もなしにこんな決断をしたとは思えない。だから私は知りたいんだ。霊夢が殺し合いをするって決めた理由を」
「その理由っつーのが神社にあるって言いたいわけね」
「かもしれないってだけさ。いつもの勘だよ」
「……知ってどうするのよ。知ったところで、どうせまた霊夢とは戦うんでしょ? 説得だって無理そうじゃない」
26 ◆Ok1sMSayUQ :2011/05/24(火) 21:11:19.29 ID:ScGcfhoY
 フランドールも頷く。まさか同意を得られるとは思わなかったが、ともかくこれで反対の大義名分は立った。
 もっとも、反対の理由は自分とは違うだろうとてゐは思っていた。
 魔理沙の言うことをよく聞いているあたり、信じられない話ではあるがこの吸血鬼は魔理沙に懐いている。
 実力など天と地の差があるはずなのに、特に縛り付けているわけでもないのに、フランドールは『まるで友達のように』接している。
 内情はおおまかにしか分からないものの、恐らくは霊夢と魔理沙を接触させたくないのだろう。
 自分は違う。自らの罪状を暴き出されるのが怖く、保身を求めているだけだ。
 魔理沙のように問題を解決したいと思っているのでもなければ、フランドールのように友人を心配しているわけでもない。
 あれだけ痛い目に遭わされておきながら、事ここに至って自らの安寧しか考えていない自己中心ぶりには失笑を通り越して呆れるしかない。
 でも、とてゐは自分以外の何に報いればいいのだと誰にでもなく問いかけた。
 仲間もなく、家族もなく。全てを失くしてしまった我が身に、他者のために行動できる気力など残っているはずがなかった。
 別に見返りを求めているわけではない。見返りを求めずとも行動できる誰かがいなくなってしまったのだ。
 自分から裏切り、あるいは裏切られ。気付いたときには何もかもが灰燼に帰していた。
 やり直す気概も持てなかった。やり直すには、あまりに遅過ぎた。

「……霊夢のためじゃないかもしれない。正直に言うと、私は私のことしか考えていないのかもしれない」

 誰のためにも動けず、諦めきっているてゐに呼応するように、魔理沙はそう言っていた。
 お人よし馬鹿の魔法使い。そう思い込んでいただけに、魔理沙の言葉は意外に感じられた。
 怪訝に首を傾けたてゐに「霊夢なんて、もう説得もできないって分かってる。いやもう、したくもないってすら考え始めてる」と魔理沙は重ねた。

「よく分からないんだよ、自分でも。あいつは、香霖を殺して……でも、友達だった奴で……いい奴だったんだよ。つい昨日まで。
 昨日まで、私ら縁側で一緒にお茶飲んでたんだぜ? でも急に皆を殺し始めて、それが当然だって言い張って……
 何があったって訊いても異変だからの一点張りで……もうあいつ、化け物になっちまったんじゃないかって……」

 戸惑いと、憎しみと、信じたいという気持ちの混ざり合った声はどこか淡々としていて、しかし空気を震わせる力があった。
 つい昨日まで、普通の友達だった。この一日が長過ぎて、忘れそうになっていた事実。
 魔理沙だけではない。フランドールも、自分も……つい昨日までは、平和を謳歌し、日常を笑って過ごしていたはずだった。

「でも化け物だって認めてしまったら、もう私は霊夢を、何も感じずに殺しちまう。友達を殺すのって哀しいはずなのに、哀しいとも思わなくなって……
 そう思いたくないから、せめて理由が知りたかったんだ。なんで香霖が殺されなきゃいけなかったのか。本当に異変のためだけに犠牲になったのかをな」
「魔理沙、それって」
「……霊夢は、許すにはもう殺しすぎたよ」

 フランドールが息を飲む。てゐも、一瞬だけ見せられた冷たさに全身が総毛立っていた。
 お人よしなどではない。どこにでもいる、喜怒哀楽を併せ持ち、感情を手放しきれない、本当にありふれた人間だ。
 恨みもするし、理由なく誰かを助けたりする。そういう存在なのだと理解していた。

「でも、悔しいからって、哀しいからって……感じることをやめて、誰かに押し付けるってわけにはいかないんだ」
27創る名無しに見る名無し:2011/05/24(火) 21:11:22.11 ID:rnF2XF75
  
28創る名無しに見る名無し:2011/05/24(火) 21:12:57.53 ID:rnF2XF75

29 ◆Ok1sMSayUQ :2011/05/24(火) 21:13:12.36 ID:ScGcfhoY
 だが、普通でありながら魔理沙はやはり強かった。
 これから先、必ず訪れるであろう苦しみから目を背けず、受け止められるように精一杯足を踏ん張っている。
 それはてゐの脳裏に、あのときの藤原妹紅の姿を思い出させた。
 敢然と、勇敢に、『感じることをやめてしまった』であろう蓬莱山輝夜に立ち向かい、人間として生きようとしていたあの姿を……
 人間のくせに。ただの嫉妬心だとは分かりきっていたが、それでもてゐは魔理沙を羨まずにはいられなかった。
 吸血鬼を味方につけて、逃げ出したりもしないで。この心根が少しでもあれば、鈴仙を説得できたかもしれなかったのに。
 鈴仙・優曇華院・イナバのことを忘れられず、まだ未練を残している自分に辟易して、
 情けない我が身を再三確認したてゐは博麗神社に向かうのはもう決定事項だろうと諦めていた。
 これほどの覚悟を持った魔理沙に、口先だけの言葉が通じるわけがないし、論破されるに決まっている。
 だから言い出される前に、自分から譲歩してみせることがてゐの最後の尊厳の保ち方だった。

「わかったよ。付き合うよ、神社まで」
「私も……その、さっきは生意気言って悪かったわ」
「ばーか。まだ自暴自棄だと思ってたのかよ、お前」

 言うや、魔理沙はフランドールの頭を乱暴に撫でる。手のひらを押し付けるようにぐりぐりとされ、前傾姿勢になったフランドールが「ちょ、ちょっと!」と慌てる。
 しかし悪い気分ではないらしく、腕を跳ね除けることはせずぱたぱたと羽を動かすだけだった。
 こうしてみると友達と言うより姉と妹のような関係に見えてきて、恐ろしい吸血鬼という印象が薄れてくる。

「私の命は私だけのもんじゃないからな」
「わ、わかったから! その、もうちょっと……」
「……くく、なっさけないの」

 人間にいいようにしてやられている吸血鬼がおかしく、てゐはいつの間にか口に出してしまっていた。
 当然、言葉を聞きつけたフランドールの目がてゐに向いていた。恥ずかしい現場を見られたからなのか、陶器のように白い肌に赤みが差していた。

「笑った!」
「あ、いや、その」
「笑ったなぁ!」
「ま、魔理沙! 先行ってるから……」

 やばいと思い、逃げ出そうとしたときには手遅れだった。
 妖怪兎ごときの身体能力では為す術がなく、がー、と飛びついてきたフランドールに組み伏せられて頬をつねられていた。
 手加減はしてあるのかさほど痛くはなかったものの、これをどうにかできる術もなかった。
 魔理沙はその様子を見ながらケタケタと笑っている。助けてくれる気はないらしかった。

「仲いいなお前ら。じゃ、こっちはお先に」
「ちょ、ちょっと待って魔理沙」
「別に! あれは! ちょっと慣れてなかっただけなのよ! 分かってる!?」
「わ、わかったから! 引っ張るのやめれー!」

 笑いっぱなしの魔理沙が手を振りながら先に行く。
 餅のように伸びきりつつある頬を他人事のように見つめながら、てゐはさほどフランドールに恐ろしさを感じなくなりつつある現状を不思議に思っていた。
 つい先ほどまでは、あんなに恐れていたのに。彼女の子供のような行動を垣間見たからなのかもしれなかったが、それを含めても安心している自分の心が信じられなかった。
 無論こんなもの、一時の気まぐれにつき合わされているだけなのかもしれない。こんな遊びなど、一瞬のうちに壊れてしまうことを嫌になるほど経験もしてきた。
 なのに、それなのに。どうして安らぎを求める。どうして日常を求めようとする。
 もう戻ってくるものも、取り戻せるのもないと分かっているのに――
30創る名無しに見る名無し:2011/05/24(火) 21:14:38.33 ID:rnF2XF75
 
31 ◆Ok1sMSayUQ :2011/05/24(火) 21:14:38.06 ID:ScGcfhoY
「いだだだだだ! ギブ! ギブギブギブ!」
「ふん、分かればいいのよ分かれば。……魔理沙、追いましょ」

 てゐがタップして降参したところで、フランドールはようやく満足したのか高慢ちきにそう言うとすたすたと先を歩いていってしまう。
 こういう部分はレミリア・スカーレットの妹かと鈍い感想を結んで自分も立ち上がろうとしたところで、不意に戻ってきたフランドールが手を差し出してくる。
 立て、ということらしかった。
 何も言わず、てゐはその手を取る。フランドールも何も言わなかった。
 それで、十分だった。
 じゃれている間に魔理沙とは距離を離されてしまったらしく、フランドールと並んで小走りに森を進む。
 先ほどの出来事があったからなのか、フランドールに話しかけてみるかという気になり、てゐは思ったよりも気軽に「ねぇ」と声を発していた。

「なんで霧雨魔理沙と一緒に? 最初からいたわけじゃないんでしょ?」
「うん。でも、出会ったのも偶然で、ついていこうってことになったのも偶然だった」

 やはり最初は気まぐれだったらしい。吸血鬼がそのようなものであると知っていたてゐには当然の納得だったが、分からないのはそこからだった。

「なんで今も一緒に?」

 力が強く、プライドが高い故に、吸血鬼は同格に扱われることを嫌う。
 それはつまり、上下の関係は認めても横の関係は認められないということだ。
 魔理沙はずけずけとした物言いで踏み込んでくるから吸血鬼とは反りが合いにくいものだと思っていた。
 だからこそ不思議だったのだ。フランドールがこんなに懐いているというその事実が。

「友達だから……ってのもあるけど、今はそれだけじゃない。色々なことを知ることができるから」
「知る? そりゃまあ、あんたは引きこもりだったからそうなんだろうけど」
「そうじゃなくって……なんというか、魔理沙といると、分かり合えるんじゃないかって気になるの。感覚を共有できるというか」

 自身形にならない言葉にもやもやしているのか、フランドールは手のひらを開いたり閉じたりしながら紡ぐ。
 てゐには尚更理解の出来ない言葉ではあった。分かり合える。いい言葉ではあるが、そんなことがあるはずがないとてゐは知っている。
 差別し、いがみ合い、騙しあい、呪い合い、誰かが誰かを見下しながら続いてきた歴史は千数百年にも及ぶ。
 誰も解決しようとはしなかったし、そうしようとした者は長過ぎる時間の中で潰されるか、さもなくば支配者の立場になるだけだった。
 それだけ現在を変えることは難しい。妖怪の間に根付いた『自分は他者よりも優れている。だから自分は偉くあるべきだ』という認識と、
 高位の存在になることで得られる優越感と実利の存在は大きい。人間ごときに変えられるわけがないのだ。
 フランドールは分かっていないだけだ。この幻想郷を取り包む現実を。

「これだ! って言葉にならないのよね……でもさ、分かるんだ。自分が何をしちゃいけないとか、こういうときどんな感情が生まれるのか、みたいな」
「そりゃ、あんたが……物を知らなさ過ぎるだけだよ」
「かもしれない。でも……それでも、私には分かった。誰かが死ぬって、怖いことなんだって」

 自分ではなく、誰かが。確かにフランドールはそう言った。

「……仲間が殺されたからでしょ? 八雲藍っての」
「それもあるけど……違う。はっきり感じたのは『香霖』ってやつが殺されたとき。魔理沙の家族みたいなやつなんだけど、
 出会ったこともないし私には何の関係もないのに、そいつが殺された瞬間、怖い、って思ったの。
 誰かが死んだら、そいつを大切に思ってた誰かの、ハートから何かが抜け落ちる。いなくなる。それが怖い、って思った」

 喪失感のことを言っているのかとてゐは考えたが、そんな単純な言葉でくくれるようなものではないように感じていた。
 フランドールは恐れている。恐らくは、虚無や、暗黒に近いなにか。復讐心や悲しみといった感情でさえ塗りつぶせなくなるなにかを。
 感情にさえ置き換えられないもの――それは、てゐに死に掛けたときのことを思い出させた。
 一人寂しく死ぬという実感を覚えたときの、あらゆるものに置き去りにされた感覚。あの時は全てが消失してしまった、そんな気分だった。
32創る名無しに見る名無し:2011/05/24(火) 21:15:48.58 ID:rnF2XF75
  
33 ◆Ok1sMSayUQ :2011/05/24(火) 21:16:21.16 ID:ScGcfhoY
「だから私、そんなことしたくないんだ。誰かに怖さを押し付けるってことを。むかつくことも、ヤなこともある。
 感じるのは別にいい。感じないのは生きていない証拠だから。でも、だからってそれを押し付けていい道理はない」
「魔理沙の言葉じゃない」

 言って、てゐは笑った。――感じることをやめて、誰かに押し付けるってわけにはいかないんだ。
 結局はフランドールも魔理沙と同じ結論に辿りついていた。種族も違えば、そもそもの考え方だって違うはずなのに。
 何もかもが違うはずなのに、そうした垣根を乗り越えて同じ結論に達した。それぞれに考え、道は違いながらも。
 フランドールの言う『分かり合える』とはそういうことなのかもしれない。
 だったら、とてゐは新たに生じた身の内の疑問に耳を傾ける。
 自分も、誰かと分かり合えるのか? 感じることさえやめなければ、誰かに押し付けようと考えなければ。
 難しい話で、千年の歳月を経て身も心も汚れきった自分には困難な話なのかもしれない。
 いや、不可能なくらいだろうとてゐは思った。分かり合おうとするには、自分は誰かを裏切り過ぎた。
 不実を不実とも感じず生きてきたこの身体には、信じることですら重たすぎる。

「そうだけどさ――あ、魔理沙いた!」

 木々に囲まれた道の先。博麗神社に連なる石段の麓で、魔理沙は何事かを騒いでいた。
 誰かがいるのか? そう思ったてゐの脳裏に、嫌な予感が走る。
 唾をごくりと飲み下し、足を止めた自分に気付かず、フランドールは「魔理沙ー!」と近づいてゆく。

「ねぇねぇ、誰かいるの?」
「お? 遅いぜ吸血鬼。夜が昼なんだろ?」
「私は低血圧なの……ん、あれは……」
「あっちの胡散臭いのは分かるな? で、あっちが最近こっちにやってきた新入りの――早苗だ」

 魔理沙がここからは見えない石段の上を指差し、確かに『早苗』と言った。
 早苗。東風谷早苗? 名前から即座に姿を、そして罪をなすりつけようとした事実を、
 一度ならず二度裏切ろうとした事実を思い出したてゐの心臓が跳ね上がり、強烈なめまいにも似た感覚を起こさせていた。
 息苦しくなり、これまで目を背け続けていた『罪の清算』という言葉が、裁かれるであろう未来がむらと沸き立ち、擦り寄ってくるのを感じる。
 今度こそ、早苗は自分を許しはしないはずだ。
 先ほどの魔理沙の言葉を確認する限り、早苗の他にはあのときの面子はもういないのだろうと確信できる。
 しかもそのうちの一人は死亡をも確認している。上白沢慧音。殺し合いを否定し、なんとか皆を取りまとめようとしていた半人半獣。
 何があったのか、逃げ出したてゐには知る由もなかったが、恐らくは……瓦解したのだ。あのときの集団は。
 その結果慧音は死に、他の面子もバラバラとなった。――その誰もが、お互いにお互いを憎みながら。
 裏切られた連中が次に為すことは何か。てゐには分かりきっていることだった。
 復讐される。この一語が脳に突き立ち、殺されるという恐怖が再び身体を支配するのを感じていた。
 今はなにもしていない。何もしたくないなどという言い訳が通じるはずもない。仕返しをするのに、相手の理由や事情など知ったことではない。
 殺されるならまだいい。あっさりと、楽に死なせてくれるならまだマシだ。
 だがこの地獄に等しい一日を生き延び、憎悪を頼りにして生きているであろう早苗は、まず控えめに言っても血に飢えた獣に違いない。
 一撃で、などという生易しい話ではない。恐らくはじっくりと、恨みを晴らせるくらいには時間をかけて嬲り殺す。
 助けてくれる味方なんていない。魔理沙もフランドールも、所詮は数刻前に出会ったばかりだ。
 加えて、自分は事実という事実をひた隠しにしてきた。悪者だと知れれば味方をしてくれる道理などどこをつついても出てきやしない。
 いやだ。てゐは同情の余地もない視線に見下されながら殺される光景を想像して絶望の悲鳴を上げた。
 誰も助けてくれない。不憫にさえ思ってくれず、殺されて当然という顔しかしてくれない。
 自業自得。今まで支払いを避け続けてきたツケがここで来ただけのこと。そうだと自分でも分かりきっている。
 でも、それでも嫌なのだ。たった一人で、寂しく死ぬというのは。耐えられないことだった。
34 ◆Ok1sMSayUQ :2011/05/24(火) 21:17:46.35 ID:ScGcfhoY
「――てゐ?」

 気配が近くにないことを感じて、フランドールの赤い目がこちらに向けられる。
 赤い目。血の色をした目。自分の未来を暗示する目……!
 先ほど交わした会話も、不思議な安心感も、全て消し飛んでしまっていた。
 怖さを押し付けるなんてしたくない。そう語ってくれたのは、自分が悪を為してきた妖怪だと知らないから。
 嘘をつき、隠し、欺こうとしてきた自分を許してくれるはずなんかが、ない。
 殺される。
 制裁を、制裁を。
 そんな声が、数百年以上の昔から、自分達弱者を虐げてきた声が聞こえる。
 仕方がない。生き延びるためには仕方がなかった。虐げられないためには、先にこちらが欺くしかなかった。
 制裁を、制裁を。
 だが、それは所詮弱者の理屈。弱いから裏切っても許されるという法はない。
 いや、法があったとしても許しはしないだろう。あらゆる手段を用いて、復讐は為される。
 痛みは恨みとなり、恨みはさらに大きな痛みになる。そうしていつか、こちらに返ってくる。
 制裁を――!

「嫌だっ! わ、私は……!」

 何を言葉にしたかったのかも分からず、てゐは悲鳴にならない悲鳴を張り上げ、今来た方角を逆走し、逃げ出していた。
 自分が弱いことなど百も承知だ。その上で裏切り続けてきたことも。
 でも、死にたくなかった。たった一人で、みじめに殺されるのはいやだ。
 逃げることで、さらに一人になってしまうことを分かっていながら、それでも殺されるという未来が怖く、てゐはまた無明の闇へと戻ることを選んだ。

     *     *     *

 フランドールは、突如として脱兎の如く駆け出したてゐの行動を呆然とした面持ちで見つめていた。
 嫌だと絶叫し、化け物でも見るかのような表情を一方的に見せつけて森の奥へと消えてゆく。
 何に触れた? さっきまでは普通に会話を交わし、笑ってさえいたてゐが、どうして、いきなり。
 戸惑う魔理沙と、何が起こっているのか分からないという様子の紫と早苗を尻目に、フランドールは「待って!」と駆け出していた。
 体調は本調子に戻っている。目は若干見えは悪いものの、行動に支障を来たすレベルではない。

「何があったんですか!?」

 その背後から、早苗が息せき切って駆け下りてくる。ちらと視線を移してみると早苗の顔色はお世辞にも良さそうとはいえない。
 体調が良くないのか? 咄嗟にそう思い、続けてフランドールが思ったのはそんな状況であるのに必死になっていることだった。
 てゐと何か関係があるのではないか。直感し、フランドールは一度足を止め「てゐが逃げ出したの!」と叫んでいた。

「てゐ……? 因幡てゐさんですか!?」
「知ってるのかよ!?」

 大声で魔理沙が問い質すと「知ってるも何も」と早苗も大声で返す。

「私と一緒にいたことがあるんです! でも、その時ちょっとしたすれ違いから揉めてしまって……」
「耳が切れてるのはそれが原因かよ!?」
「耳……? いや、それは……」
「なんでもいい! とにかく、てゐはあんたといざこざがあって、それで別れたんでしょ!」
35創る名無しに見る名無し:2011/05/24(火) 21:17:46.83 ID:rnF2XF75

36創る名無しに見る名無し:2011/05/24(火) 21:18:55.98 ID:rnF2XF75
 
37 ◆Ok1sMSayUQ :2011/05/24(火) 21:19:19.14 ID:ScGcfhoY
 乱暴な物言いにも関わらず、早苗は怒ることもなく「ええ」と頷いた。
 てゐの過剰に怯えた態度。早苗のことをよく知らないフランドールからしてみれば、
 早苗が全面的に悪いのではないかと思う気持ちもあったのだが、そう思い込んでしまうのは危険だとこの一日で培った経験が言っていた。

「因幡てゐ……?」

 早苗の後に続いてやってきた紫が訝しげに語る。
 フランドールにとってはあのときの……八雲藍と森近霖之助が死んで以来の再会となる。
 正直今でも好印象を持っているとは言いがたかったが、悪い妖怪ではないという認識くらいは自分の中にもあった。
 そう、藍が身を挺して守った主が悪いとは思いたくないし、魔理沙だってそう言っていた。
 胸のわだかまりは抜けないし、気に食わなくもあるが……悪を為そうとして為すような妖怪ではない。
 だから紫と一緒にいたのであろう、この早苗という奴も敵ではないはずだ。
 この考えは正しいのか、と一度問い返してみて大丈夫だと結論付ける。
 自分は、しっかりと感じている。感情に振り回されず、分かろうとしている。
 誰かのせいにするな。感じることをやめるな。そして、誰が何をするのかを分かって、哀しくならないために行動しろ。
 いなくなってしまうのは、とても怖いことだから――

「私、てゐさんともう一度きちんと話し合いたいんです。紫さん、行かせてください」
「……あの子、何度も嘘をついてきたのでしょう? 今回逃げ出したのも、自分の命が惜しいだけなのかもしれない」
「おい紫、嘘ってなんだ?」
「かいつまんで言うと、因幡てゐは一度早苗に罪を擦り付けようとしたのよ。パチュリー・ノーレッジ殺しの罪を」
「パチュリー……!?」

 魔理沙が、そこで一度自分の方を見ていた。パチュリー、の名前を聞き、むらと熱が膨張するのを自覚していたが、
 我を見失うほどの感情はどうにか抑えることができた。
 まだ結論は出すな。許せないと思う前に、考えろ。必死に言い聞かせ、壊したくなる気持ちをこらえる。
 我慢する必要はあるのか? 歯を食いしばっている最中、何度もそんな声が聞こえたが、それでも、とフランドールは反論する。
 友達だったパチュリーがてゐに殺されたのだとしても、騙していたのだとしても。怨念返しで解決するものはない。
 一度てゐに手を差し出した瞬間。暗闇の中で、首輪の爆発からてゐを助け出した瞬間。寂しさに怯えていたようなあの顔がまやかしだと思いたくない。
 博麗霊夢のように問答無用で殺し合いを仕掛け、何も感じなくなったあの瞳とは違う。
 必ず、何かがあるはずだった。

「……大丈夫。パチュリーが死んだのは……許せない、けど……だったら、なんで、って、聞く」
「フラン……」

 だが、口に出してしまえば、やはり許せないと思ってしまう。
 恨みはそう簡単には消えてくれない。自分に、本の面白さを誇らしげに紹介してくれた魔女を奪った事実は許せるものではない。
 だから、許せなくとも納得するしかない。納得して、どうすれば哀しくならなくなるかを考えるしかない。

「えっと、あの、そっちの子は……」
「パチュリーの友達。紅魔館の、フランドール・スカーレット」

 口調から雰囲気を察したのか、不安顔で尋ねた早苗に対し、魔理沙がフォローをしてくれた。
 それだけで少しは重みが減るような感覚があった。自分にはこうして助けてくれる人がいる。
 この怒りも、魔理沙が少し請け負ってくれる。分かち合える。だから分かろうとすることができる。
 一人じゃない。その思いをもう一度温め直し、フランドールは大丈夫という視線を早苗に注いだ。
38 ◆Ok1sMSayUQ :2011/05/24(火) 21:20:31.04 ID:ScGcfhoY
「話、戻すわよ。私は因幡てゐを追うのは賛成しないわ」
「嘘つくやつは何度でもつくって言うんでしょ、あんたは」
「かもしれないわね」

 あえて紫が反対意見を言っているのは、涼しい顔をしているのを見れば明らかだった。
 だがこれも紫なりに考えて、感じた結果なのかもしれない。いたずらに労力を費やすことの意味を問い質している。
 それはそれで自分達を守るための理屈だと考えたフランドールは、しかしそれでも反論する。

「私は、嘘の回数じゃなくて理由が知りたい。それだけ」

 視線を紫に移し、はっきりと見据えてフランドールは言った。
 もう少し言いようはあるはずではあった。自分は『分かる』ための努力をしている。
 それを伝えられれば良かったはずなのだが、伝える術が見つからない。まだ自分は、『分かる』を言葉に出来ていない。
 だから今はやりたいことを示すだけで終わらせることにした。紫がそれで納得するとは、思えなかったけれど。

「……私もフランドールさんと同意見です。嘘をつくからって、それが悪であると私は信じたくないんです」
「そうでなけりゃ、嘘つきは生きてちゃいけないって理屈になるな」

 早苗の後を引き取り、魔理沙は意地悪く続けた。
 日常から茶化してくだらない嘘をついている魔理沙ならではの言葉に、紫が苦笑を漏らす。
 一本取られた、という風のどこか清々しい笑いに、フランドールは紫も変わったのか、と不意にそんなことを思っていた。
 今まであった硬質な雰囲気はなりを潜め、自分達の言葉を確かめようとしている空気がある。
 ひょっとして、最初からこうなると分かってあえて反対していた……?
 わけもない直感がフランドールを貫いた瞬間、紫がこちらを向いて笑みを深くする。

「馬鹿は伝染するものね。それもこんな短時間で」

 自分の心を見通したような発言に、やはりこの女は大妖怪だという実感が湧き、どこか怖れにも似た気分を覚えていた。
 紫を論破したつもりが、その実試されていたことに気付いたのは魔理沙もらしく、一本取られたのはこっちだ、と小声で呟く。

「……? えっと?」

 分かっていないのは早苗ただ一人らしく、きょとんとした面持ちで周囲を見回していた。

「気にしないで。賛成はしないけど、反対する理由もないだけのこと。私も行きましょう」
「いいのかよ」
「早苗のサポートが必要でしょう。足の速い貴女達二人は置いておいて、早苗は体調が万全ではないもの」
「いや、それは大丈夫で……」

 言おうとした瞬間、こほんと早苗が咳き込んだ。どうやら風邪を引いているらしい。
 人間はこういうところが不便だ。ただ、風邪を引いた人間は優しくしてもらえると聞いたことがある。
 そこは羨ましいと脈絡なく思っていると、魔理沙が肩を叩き「んじゃ、先行すっか。サポートは必要か?」と言ってきた。

「大丈夫よ、問題ないわ」
39 ◆Ok1sMSayUQ :2011/05/24(火) 21:21:41.04 ID:ScGcfhoY
 しっかりと『魔理沙の方』を見返してニヤリと不敵な笑みを返す。
 風邪は引かなくても、気にはかけてもらえる。
 いや、いつでも気にかけてもらえるなら自分は年中風邪であるのかもしれない。
 時として迷い、躊躇い、間違ったことさえさせる心は不安定で、妖怪といえども不完全にさせてしまう病気だ。
 けれども、その病気は自分の中に他者を自覚させ、他者がいてこそ形作られる自分を認識させる。
 スター。妖夢。藍。香霖。それぞれに思い出のある名前を呼び起こし、次は正しくいられるように祈る。
 霧雨魔理沙と一緒にいられるように。霧雨魔理沙のような友達をもっと作るために。

「そんじゃあ行くぜ! フラン、走るぞ! てゐをとっ捕まえるんだ!」
「あ、魔理沙さん! これ!」
「お?」

 スタートを切ろうとした魔理沙に、早苗がなにかを投げ渡す。
 片手で器用にキャッチした魔理沙の手には、人形が収まっていた。

「……アリスの、人形?」
「預かり物です」

 深く言う暇はないと知っている早苗は簡単に済ませたが、魔理沙にはそれで十分なようだった。
 もう一度空中に放り投げ、落ちてきたところを再度掴む。
 久しぶりに晴れ渡った笑顔を見せた魔理沙は、こちらまでが元気になるような笑顔で――

「アリス、『借りる』ぜ。死ぬまでな」

 恐らくは、悪友に向けて言ったその一言が、フランドールにはとても素敵なものであるように思えた。




【G-4 博麗神社の麓 一日目・夜中】


【霧雨魔理沙】
[状態]蓬莱人、帽子無し
[装備]ミニ八卦炉、MINIMI軽機関銃(55/200)、上海人形
[道具]支給品一式、ダーツボード、文々。新聞、輝夜宛の濡れた手紙(内容は御自由に)
    mp3プレイヤー、紫の調合材料表、八雲藍の帽子、森近霖之助の眼鏡
ダーツ(3本)
[思考・状況]基本方針:日常を取り返す
 0.てゐを捕まえる
 1.霊夢、輝夜、幽々子を止める。
 2.仲間探しのために人間の里へ向かう。
 ※主催者が永琳でない可能性がそれなりに高いと思っています。
※因幡てゐの経歴は把握していません。
40創る名無しに見る名無し:2011/05/24(火) 21:22:30.66 ID:rnF2XF75
 
41 ◆Ok1sMSayUQ :2011/05/24(火) 21:22:44.83 ID:ScGcfhoY

【フランドール・スカーレット】
[状態]右掌の裂傷(行動に支障はない)、魔力半分程回復、スターサファイアの能力取得
[装備]楼観剣(刀身半分)付きSPAS12銃剣 装弾数(8/8)
[道具]支給品一式 機動隊の盾、レミリアの日傘、バードショット(7発)
バックショット(8発)、大きな木の実
[思考・状況]基本方針:まともになってみる。このゲームを破壊する。
1.てゐを捕まえる
2.スターと魔理沙と共にありたい。
3.反逆する事を決意。レミリアが少し心配。
4.永琳に多少の違和感。
※3に準拠する範囲で、永琳が死ねば他の参加者も死ぬということは信じてます
※視力喪失は徐々に回復します。スターサファイアの能力の程度は後に任せます。
※因幡てゐの経歴は把握していません。



【八雲紫】
[状態]正常
[装備]クナイ(8本)
[道具]支給品一式×2、酒29本、不明アイテム(0〜2)武器は無かったと思われる
    空き瓶1本、信管、月面探査車、八意永琳のレポート、救急箱
    色々な煙草(12箱)、ライター、栞付き日記 、バードショット×1
[思考・状況]基本方針:主催者をスキマ送りにする。
 1.てゐを捕まえた後、博麗神社へ向かう
 2.八意永琳との接触
 3.ゲームの破壊
 4.幽々子の捜索
 5.自分は大妖怪であり続けなければならないと感じていることに疑問


【東風谷早苗】
[状態]:軽度の風邪(回復中)
[装備]:博麗霊夢のお払い棒、霧雨魔理沙の衣服、包丁、
[道具]:基本支給品×2、制限解除装置(少なくとも四回目の定時放送まで使用不可)、
    魔理沙の家の布団とタオル、東風谷早苗の衣服(びしょ濡れ)
    諏訪子の帽子、輝夜宛の手紙
[思考・状況] 基本行動方針:理想を信じて、生き残ってみせる
1.てゐを捕まえた後、博麗神社へ向かう
2.ルーミアを説得する。説得できなかった場合、戦うことも視野に入れる
3.人間と妖怪の中に潜む悪を退治してみせる 


【G-4 魔法の森 一日目・夜中】

【因幡てゐ】
[状態]錯乱中、手首の擦り傷(瘡蓋になった)、右耳損失(出血は止まった)
[装備]白楼剣 、ブローニング・ハイパワー(5/13)
[道具]基本支給品、輝夜のスキマ袋(基本支給品×2、ウェルロッドの予備弾×3)
    萃香のスキマ袋 (基本支給品×4、盃、防弾チョッキ、銀のナイフ×7、
リリカのキーボード、こいしの服、予備弾倉×1(13)、詳細名簿)
[基本行動方針]弱者のまま死にたくない
[思考・状況]
1.死にたくない!
※フランドール・スカーレットと霧雨魔理沙の持つ情報を一方的に取得しました。 
42 ◆Ok1sMSayUQ :2011/05/24(火) 21:23:38.39 ID:ScGcfhoY
投下は以上です。
タイトルは『消えた歴史』です
43創る名無しに見る名無し:2011/05/25(水) 00:12:18.87 ID:veTqQ0Pq
GJ

てゐは離脱したけどまあまあ順調な合流だな
紫達は主催に対して一歩コマを進めたしこれからに期待
44創る名無しに見る名無し:2011/05/25(水) 07:02:40.21 ID:80Dx2bUH


てゐはここからが正念場だな
うまくいけば対主催になれるのだが・・・・

いい面子がそろって今後が楽しみだ
45創る名無しに見る名無し:2011/05/25(水) 07:38:40.76 ID:mQmrBTGA
投下乙
対主催のメイン集団が揃ったな。
さともこ+空チルとここだけというのは心許ないけど……でもこの面子なら勝つる

あとエルシャダイネタ笑った
46創る名無しに見る名無し:2011/05/26(木) 00:43:36.87 ID:uJsE1Byb
投下乙です

確かに対主催のメインは揃った。先はまだまだ険しいけど期待してしまうな
てゐはどうなるんだろう…
さともこ+空チルと文と妖精とかまだいるけどマーダー+危険対主催の連中もまだまだ健在なんだよな……

ところで霊夢が何故マーダーしてるのかって理由はどうしよう? 書き手の領分だが考えてあるのだろうか…
理由暈したまま進められるのならこのままでもいいけど…
47創る名無しに見る名無し:2011/05/26(木) 07:06:58.32 ID:2WtsmDN3
投下乙です
やっぱりてゐは不安定なままか…なんだか嫌な予感がするけど、
チームの方針や精神が安定してるからそこに希望を持っておこう
それにしても、これほど信頼できる「大丈夫だ、問題ない」があっただろうか?

>>46
自分は読み専だけど、そこら辺は書き手の皆さんにおまかせしたいです
チャットもやるし、みんなが納得できるようなものに決まったらそれに賛成したいと思ってます
……欲を言えば理由が決まって欲しいけど、あれこれ言う権利は無いもんね
48創る名無しに見る名無し:2011/05/27(金) 07:14:33.42 ID:+3s0YCad
乙です
対主催メンバーが揃ってきたな…もう終盤か
てゐはこの後どうなっちまうんだ
49 ◆CxB4Q1Bk8I :2011/05/29(日) 20:28:22.89 ID:zo1XY7DY
投下します。
仕様のため細切れの投下になってしまうことをご容赦願います。

タイトルは「彼岸忌紅 〜Riverside Excruciating Crimson」
50創る名無しに見る名無し:2011/05/29(日) 20:32:14.57 ID:5fMhRb+S
支援
51 ◆CxB4Q1Bk8I :2011/05/29(日) 20:33:27.30 ID:zo1XY7DY

 閉ざされた部屋。
 外との繋がりを殆ど断たれた空間。
 決して明るくはない、明滅を繰り返す照明。
 視界を遮る白い靄。
 規則的に繰り返す水の音。

 彼女は一人、その中にいた。
 死と常に近く在り、死者と戯れてきた。
 今はそう、悲しい決意を胸に、その死までを心に定めて。
 眼を閉じて物思いに耽る。
 その長身を丸めて、膝を抱えるように腰掛けて、
 全ての殻を剥がし、原初に還ったかのような姿で――
52 ◆CxB4Q1Bk8I :2011/05/29(日) 20:35:52.27 ID:zo1XY7DY
(本文ではありません)

申し訳ありません。とてもこのペースで投下していられませんので仮投下スレに投下させていただきます。
53創る名無しに見る名無し:2011/05/29(日) 20:35:58.81 ID:5fMhRb+S
 
54代理:2011/05/30(月) 01:21:52.41 ID:F6AYHHIH
閉ざされた部屋。
 外との繋がりを殆ど断たれた空間。
 決して明るくはない、明滅を繰り返す照明。
 視界を遮る白い靄。
 規則的に繰り返す水の音。

 彼女は一人、その中にいた。
 死と常に近く在り、死者と戯れてきた。
 今はそう、悲しい決意を胸に、その死までを心に定めて。
 眼を閉じて物思いに耽る。
 その長身を丸めて、膝を抱えるように腰掛けて、
 全ての殻を剥がし、原初に還ったかのような姿で――
 
 
「うーん、極楽、極楽。
 死なずに極楽行けるならこんなにいいことは無いね。燗があればなおいいけど、そいつは贅沢かねぇ」

 木霊のような独り言の反響を耳に受けながら、小野塚小町は、湯船の縁に背を預けると大きく背伸びした。
 衣服の拘束から放たれた彼女の体が、久々の開放感に身を震わせる。
 普段は左右二つ結っている髪も、今は紐を解いて手拭いで纏めてある。
 弱々しい照明が、壁に彼女の起伏の大きい身体の影を映し出していた。

 
 古明地さとりと袂を別った後、小町は人里を中心に周辺の様子を調べていた。
 博麗霊夢は、いつの間にか姿を消していた。
 積極的には自分と関わらないようにしているのならば、それは構わないと、小町は彼女を自由にさせておくことにした。
 小町は彼女を評価している。博麗の巫女として、という部分では、であるが。
 凄まじいまでの幸運と直感で、彼女は独りでも生き延びるだろう。

 小町は、人里で幾つかの死体を発見した他、八意永琳と霊烏路空、チルノの交戦を遠目で確認した。
 尤も、それについては介入する理由はないと判断し、その場をすぐに立ち去った。
 八意永琳の死を以って状況が劇的に変化する可能性は考えたが、それに賭けるのは余りに分が悪いと判断したのだ。
 派手な音と弾幕を撒き散らすそこから遠ざかる途中で、小町は“それ”の存在に気付いたのであった。

 それは、銭湯であった。
 人里の外れ、殊更目を引く煙突と共にそれは在った。
 普段から多くの人が訪れたであろう、憩いと癒しの空間であり、人間には生活必需の施設。
 建てられて長くそこに在ったのだろう、古びた外観には貫禄さえあった。
 どういうからくりか不明だが――尤も、それを知る必要は全く無かったのだ――無人のまま、煙も出さずに機能し続けるそれに、
 小町は、深く考えることも無く、日常のにおいに誘われて、欲求の赴くままに身体を休めることを是としたのだ。

「ん、ん〜! あたいもトシかねぇ、なんてね。肩が凝るよ、全く」

 軽口を叩きながらもう一伸びすると、小町は改めて浴室内をぐるりと見渡した。
 石造りの古い建物で、幻想郷の妖怪達が本気を出せば容易く崩されるだろうという印象だ。
 よくまぁ、ここまで古くなるまでは持ったものだと小町は感心した。
 人里がもっと危険だった時代なら、あの高い煙突といい、“目立ちすぎる”として格好の攻撃目標になりそうなものだ。
 浴室は広く、数十人は入れるだろう。浴槽と反対の壁際には、どういう原理かわからないが、捻ればお湯の出る栓と管が並んでいる。
 大鏡が壁にかけられていた。曇らないように何か細工してあるのだろうが、それも小町にはわからない。
 ここには、河童の手が入っていると聞いたことがある。
 悔しいが、河童の持つ技術の進み方から、彼岸は一回り以上遅れているのが事実なのだ。
 壁には、幻想郷に存在しないはずの“海”の絵が描いてあった。それは小町も、外の世界の有名な画家の絵だと聞いたことがある。
 無限の距離を持つであろう水の行く末は、小野塚小町にとってある種の憧れのようなものもあった。
55代理:2011/05/30(月) 01:23:08.06 ID:F6AYHHIH
そして――ここは、“混浴”であった。
 これだけ広い浴槽を作れたのは、建物を無駄に分割する必要が無かった、というのもあるのだろう。
 男女もさることがら、ここには人妖を隔てる壁も無い。
 誰もが、それこそ暗黙のルールさえ保てば受け入れられる、数少ない場所であった。
 湯に浸かり、心を安らげる――そのような場に、生きるか、死ぬかの日常を持ち込む者は人妖問わず幻想郷にはいなかったのだ。
 小町は銭湯という場所は好きだった。
 裸の付き合いとはよく言ったもので、そこでは人間達も饒舌になるし、自分の話に付き合わない者はいない。
 こと小町については、そこに居るだけで男達の視線と興味を釘付けにしていたのだから当たり前といえばそうであったが――。
 小町は、そういう関係が、好きだった。あの理想郷に、嫌いなものなど――無かったのだ。

「だから――かねぇ」
 小町は、小さく呟く。
 死神でありながら、小野塚小町は、幻想郷の死を、何よりも恐れている。
 生きたいと願うもの達の命を刈り取る様は、正しく死神であると言うのに――。
 死者を渡す仕事では、死と縁深くても、血生臭さとは無縁であった。
 死者は語り、死神は相槌を打つ――そうであることが、本来の姿だとさえ思っていた。
 それが許される世界が、小町には全てだった。だから、それを守るため、自らを柱として沈む覚悟をした。
 冥界の管理者や地霊殿の主、博麗の巫女と言葉を交わし、迷いながらも、この道を変える無いのだろうと、小町は思う。
 それは決して、もう戻れないからではない。自分が血に汚れてしまったからでもない。
 そこに自分の姿が無くとも構わない、守りたい世界。それだけが――小町の生への未練に勝るのだから。

 小町の“生き残らせるに値する”人妖のうち、この人里では博麗霊夢と古明地さとりを確認したことになる。
 そして――四季映姫・ヤマザナドゥ。彼女とは確かに、あの場所で再会した。
 だが小町は彼女を追うことを躊躇った。彼女を守ることは義務であり責任であったが、同時にそれは恐怖であった。
 西行寺幽々子と別れた時と同じように、小町は守るべき対象に同行することのリスクを承知していた。
 故に、可能な限り接触の無い形で、四季映姫――或いはその他の賢者達を、
 ひとつきりの勝者の椅子に座らせるため、影の道を歩くことを選んだのだ。

 小野塚小町は考える。
 たとえば、この中で四季様を生かすことが出来たとしたら。
 彼女が唯一人に与えられる勝者という栄誉を手に入れたとしたら。
 彼女は幻想郷をどうするだろうか。
 勝者の栄誉に酔うことも無く、この悲劇に悲嘆することも無く、ただ何事も無かったかのように日常へと回帰するのだろうか。
 バランスを失った世界で、盛者必衰、滅び行くこともまた理として受け入れ、終わりゆく幻想郷をただ見守るだけだろうか。
 それとも、――それは彼女らしくないと思いながらも――幻想郷を維持するべく彼女の明晰な頭脳をしてそれの保護に努めるのだろうか。
 
 それは、決して小野塚小町が見ることは出来ない、このゲームの結末の先の先。
 だから、彼女の選択が誤りであったかどうかは絶対にわかりえない。
 おそらく、その結末がどうあったとしても、四季映姫は小野塚小町を“黒”とするだろう。
 生きる為でなく他者を殺める事は、世の理――法に反することなのだ。
 だから、最後、彼女と自分の二人が残ったならば――その手で裁かれることは当然だ。
 そうであってこそ、小町が彼女を残す意味であり、彼女を勝たせる意味である筈なのだから。
56代理:2011/05/30(月) 01:24:04.54 ID:F6AYHHIH
小町はぶるぶると頭を振ると、両頬を二度叩いた。
「……湯船に浸かって一人だと、色々考えちゃっていけないね。
 ちょいと話し相手でもほしいところ――」


 がらり、と戸を引く音がした。
 小町は、はっと身構える。
 立ち上がった勢いで湯が飛び散る。胸まで湯に浸かっていた身体が、急に触れた空気の冷たさに震えた。
 敵襲か。……敵? 自分の敵は一体誰だ。“幻想郷に仇なす者”か?
 自分が楽天的なことは否定しないが、突然の来訪者を無条件で味方だろうと思うほど小町の思考は微温湯に浸かってはいない。
 だが、どのような形の奇襲もありえた以上、こうしていること自体が油断そのものなのかもしれなかった。
“安らぎを与える空間で惨劇は発生し得ない”とは誰一人として決めておらず、小町もそう思っていたわけではないのだが――。
 ただ、この空間のすぐ外に誰かがいたというのに、踏み入れようとしてくるまで気付かなかったのだ、やはり気が緩んでいたのだろう。
 弛緩しきった思考に喝を入れ、小町は次の一手を考える。
 幸い、というよりは当然のことであったが、武器を入れたスキマ袋は手の届く壁際に濡れないように置いてある。
 今の場所ならば、戸よりも内側に入らなければ相手の視界には入らない。
 奇襲でない以上、小町には僅かの余裕がある。
 相手を見極め、すぐに次の動きへと移れるよう、身構えていた。

 だが、小町の想像した全ての危機的状況を覆すかのように、形だけの暖簾の向こう側から、小さな影がのそりと入ってきた。
 それは、おおよそここで起きている惨劇とは無縁であるかのような空気を纏っていたように、小町には思えた。

 未発達の――恐らく今後幾年が経とうとも発達することは無い――身体。
 眩いほどの白い肌は、しかしその無垢さとは裏腹に細かく傷ついているのがわかった。
 一糸纏わぬ姿、と最初に小町の思考は捉えたが、実際は金色の髪に結んだままのリボンが、その表現を不正確なものにしていた。
 されど、それ以外には(場所を考えればそれは当然であるのだが)何も纏わず、そしてそれを恥じて隠すことも無く、
  ――尤も、小町も同様ではあったのだが――あっけらかんといった表情で訪問者はそこに立っていた。
 小町の身体から滴り落ちる水音以外、音ひとつしない少しの時間が、向かい合った二人の間に流れる。
「あれ、他にお客さんいたんだー」
 小町の思考よりさらに弛緩しきった、間延びした少女の声が反響するのを聞いて、小町の集めた筈の気力が再度四散していくのを感じていた。
 
57代理:2011/05/30(月) 01:24:37.39 ID:F6AYHHIH
気の抜けるような邂逅の後、少女はルーミアと名乗って、屈託の無い笑顔を見せた。
 小町が名乗ると、そーなのかー、と興味ないように返した。
 湯船を指差し「入っていい?」と笑顔のまま聞くものだから、小町も「先に身体を洗ったらね」と答えざるを得なかった。
 ルーミアはそれに笑顔で頷いて、よたよたと湯の出る栓のところまで歩くと、備え付けの石鹸で体中を丁寧に洗った。
 小町は、その様子を観察する。微笑ましく子を見守る親の視線ではなく、獲物を見定める狩人の眼――死神の視線だ。
 それには気付いた様子も無く、ルーミアは体を洗い終えると飛び込むように湯船に入ってきた。
 不快な感じではなかった。彼女は日常をそのまま持ち込んでいた。
 深く物事を考えず、在るがままで在る。
 今、小町にはきっとそれは難しすぎる。嘗てそれに近くあったとはいえ、この舞台で自分に与えた役割はそれとは遠すぎるものだ。
 それは、この妖怪には簡単なことなのだろうか。
 そして、それこそが、彼女をここまで生き長らえさせたのかもしれない。
 過度に敵を作らない――いつの時代も、生き残るための基本であった。
 だが、無条件に相手を信じるな――それもまた掟であった筈ではなかろうか。
 ルーミアは、小町が自分を殺そうとする可能性なんて、微塵も考えてないのかもしれない。
 そして、自分もまた、既に、彼女が自分を殺そうとする可能性を薄らとも考えていないことに、気付いていた。
 
 ――
  ――

 取るに足らない妖怪。
 小町の感想は、そう結論付けられた。
 無論、今小町の横で湯を掬っては流すを繰り返している、実年齢こそ不明だが外見だけならば年端も行かぬ、金髪の少女のことだ。
 邂逅から僅かの間、少しの会話を交わしただけで、十分に彼女を把握できたと、小町は思う。
 その間、参加させられているこのゲームの事について一切触れなかったが、彼女もまたそれに触れることは無かった。
 小野塚小町にとって、それそのものの事や自身の抱く苦悩を、この小さな妖怪に話す気は当然無く、
 また彼女がどう考えているのかということも、小町には何の意味も為さない事だと思っていた。
 そもそも、ここまで、彼女が生き残ってきたこと自体がまるで奇跡だと思う。
 妖力も大したことはなく、警戒心も邪気も無く、無防備だ。頭が回るとも思えない。
 一人でここにいるということは、誰かの庇護の下にいたわけでもないのだろうというのに。
 賢者達はおろか、今生存する人妖の中では最も力の弱い部類に入る妖怪で、――幻想郷にとって存在意義の最も無い妖怪。

 生かす意味は無い、と小町は結論付ける一方で、しかしそれをすぐには実行に移さなかった。
“ここ”で“彼女”を殺すことに、小町は躊躇いを抱いていた。
 この場所を、小町は知っているから。
 彼女も、自分も無防備になって、いられる場所。
 戦場や煩わしいものとは一線を隔した、安寧と自由の場所。
 心のどこかで、ここを、そう思ってしまったから。
 一瞬なれど、日常に戻ってしまっていたのだから。
 自分だけがそれを振り切って、無警戒な日常に浸ったままの彼女を殺す――それを、本心で、嫌だと、思ってしまった。
 自分は甘い。博麗霊夢ならば、この場で表情ひとつ変えずに両の手で彼女の息の根を止めるくらいならばしただろう。
 しかし、自分は自分に言い訳を探す。
 そう、結果は変わらない。
 彼女を殺すことそのものに、躊躇うわけではない。そう、小町は心の中で繰り返した。
58代理:2011/05/30(月) 01:24:59.78 ID:F6AYHHIH
「あんたが羨ましいよ」
 暫しの観察の後、小町はルーミアに語りかける。
 端から小町に対して警戒もしていないルーミアは、顎まで浸かっていた顔をようやく小町に向けた。
「んー?」
 首を傾げる仕草は、どこか仔猫のように見えた。
「羨ましいのさ。お前さんは、悩んでるようにも、恐れているようにも見えない。本当にそうなら、きっと幸せだろうね」
 小町は、本心からそう言う。羨ましさはあった。それと同じものになるつもりは、まるで無かったけれども。
「えー、でも私も悩んだりするよ。怖いものもあるし」
「そうかい。うんまぁ、そりゃそうだよね」
 小町は手拭い越しに頭を掻く。
「でも、自分が正しいのわかったし、間違ってるのはみんななんだよね。
 だから上手くいくこともあるわけだし。迷っても大丈夫、悪いことじゃないわー」
 自慢げに話すルーミアの言葉の意味は、よくわからなかったが、小町の耳に心地よく入っていった。
「あとね、私、お風呂は好きなの。
 それに今はお腹一杯だもの。やっぱり、幸せかもしれない、のかなぁ?」
 にこりと笑ったルーミアを見て、小町は思わず目を逸らした。
「そ、っか。なら言うことないね」
 素っ気無く返す小野塚小町は、しかしその実、動揺していた。
 純に生き、純な幸せを享受する彼女を、見ていることができなかった。
 重りを背負い、幸せを半ば放棄した自分から見れば、それの持つ日常の匂いはまるで死に至る――。
 天井を見上げる。無機質で古めかしい灰色は、幻想とはかけ離れている。
 小町の世界はそれよりももっと、暗い色をした、行き止まりの――。

「お姉さん、美味しそうだよねぇ」
 耳元に、吐息がかかる。
 鳥肌が立つ。あわてて振り向けば、ルーミアがすぐ脇に居た。
 不気味な色気のある紅い眼を輝かせ――涎すら垂らしそうな表情で、小町を見ていた。
 彼女の視線に、ある種の悪寒を覚え――小町は後ずさる。
「あは、冗談きついねぇ」
 だが、そのような視線は、小町には経験があった。
 小町はルーミアの視線を追う。
 その先は――肩よりもやや下、
 ――自身の、肉付きの最もよい部分に、その視線は注がれていた。
「……ああ」
 なるほど。小町の全身から力が抜ける。
 人間の男達と、同じだ。尤も、欲求とは無関係にただ興味があるだけなのだろうが。
「そんなに凝視しないでほしいねぇ。あたいにゃそんな趣味ないわ」
「そんな趣味? どんな趣味?」
 まったく、と小町は頭を掻く。恐らく邪気も何も無いのだろう。
 それでも、心に不気味な悪寒を残したあの視線が、霧のように纏わりついてくるのを感じた。
 種明かしは終わったのに、違和感が頭の端で燻る。
「ま、とにかく、そんな眼で見たって何も起こらないからね」
 それを振り払うように、小町はルーミアから視線を外す。
「うん、今はわからないのは仕方ないわー。
 だから後で試させてね?」
「後でも先でも、何も無いったら無いさ。おっと、触るのもダメ」
 相変わらず意味のわからないルーミアの言葉と伸びてくる手を、小町は遮った。
 その言葉、仕草の一つ一つが、最初とは違う、絡みつくような蠢きを以って小町ににじり寄ってくるような感覚があった。
 その理由がわからないことが、小町を少しだけ苛立たせた。
 しかし、それはただ、自分が彼女を殺そうとしているから――
 在りもしない彼女の抵抗を、自分の意識の中でその中に押し込んでいるだけなのだろうと、思った。
59代理:2011/05/30(月) 01:25:56.10 ID:F6AYHHIH
 小町は、立ち上がる。
 この少女が命を終える瞬間を、自らの手で訪れさせるため、小野塚小町は長くここにいるわけにはいかない。
 情の湧くことは許されないし、殺し損ねることもあってはならない。
 ただこの僅かな日常の香りだけを血で穢さない事――それが最後の妥協点なのだ。

「もうあがるの?」
「あんまり長くいると、のぼせちゃうからね」
「そうだねー。じゃあねー。頑張ってね」

 頑張ってね、とその言葉は、酷くノイズがかかったように聞こえた。
 スキマ袋を手に取ると、小野塚小町は見送る少女に手を振った。
 手を振り返す姿は、しかし、決して小町の心を明るくはしなかった。

 
 戸の外に、更衣用のスペースがある。
 荷物を入れる棚が設置されているが、この平和な人里だ、盗難防止用の鍵など無いし、入れてあるものを隠すものも無い。
 他者と自分の荷物が混じらないように、個々に区切られた枠があるだけだ。
 小町は左側の一番上の段に脱いだ服を入れていた。
 これは小町の習慣であり、長身である小町にとっては日常的な気遣いでもあった。
 この非日常の中でも、無意識のうちにそうしていたのだろう。
 尤も、全てスキマ袋にでも入れておけばよかったのだと、今更気付いた。

 その二つ下、下から二段目の欄にルーミアは荷物を入れているようだった。
 スキマ袋と、その横に畳まれた青色の服が目に入る。
 見たところ、人里の人間の服のようだった。
 彼女の元の服は脱いでスキマ袋にでもしまったのだろうか。なんとなく、青色の服は彼女には似合わない気がした。
 それよりも、スキマ袋を置いたままとは、無用心にもほどがあると苦笑する。
 武器を持っていないだけなのかもしれないが、よく生き残ったものだと、再び感心のような感想を抱いた。

 小町は、身体を拭くと、服を着る。
 ルーミアは着替えを用意していたようだが、小町はこの服を替えるつもりは無い。
 これが正装であり、死装束であると、小町は決めていた。
 血と魂の重みを背負い――それはいずれ動けなくなるほどになるだろう。
 その重みこそが自分を迷いから脱却させるのだ。

 着替え終わると、小町はスキマ袋を取る。
 武器のマシンガンを抜き出すと、それらしく装置を確認し、再度仕舞った。
 髪を乾かしている時間は無い。軽く櫛を通すと、いつものようには結わずに、肩へと流す。
 出立の準備は整った。小町は、ちらりとルーミアの荷物へ視線を投げた。

 小町は思わず頭を掻く。どうにも、ルーミアと会ってからその仕草が多い気がした。
 この袋をどうするか――小町はそれを、全く考えてなかったのだ。
 最初は持って行こうと思ったが、流石のルーミアでもこれがなくなったら気付くだろう。
 最後まで、彼女に警戒心を与えない方がいい。
 彼女を殺すにも勿論だが――出来ることならば、彼女も幸せなまま死んだ方がいい。
 それは余りに自己満足に過ぎることを自覚していたが、結局小町はそちらを選んだ。
 無警戒のルーミアは恐らく、着替えた後には正面の戸から外に出るだろう。
 それまで、正面の民家に小町は身を潜める。
 ルーミアが出てきたら、手持ちの銃でその命を狩る。――単純に言えば、待ち伏せだ。
 三つ目の命を刈り取ることに、躊躇は無い。そう自分に言い聞かせる。
 今すぐこの戸の奥に踏み込んで彼女を撃ち殺さないのは、自分の感情のせいではあるが、
 それもまた、必ず彼女を殺せると確信しているから許されるのだ、と。
 小町はルーミアのいる戸の向こうに背を向けた。
60代理:2011/05/30(月) 01:27:02.64 ID:F6AYHHIH
日常に手を振って、非日常へと歩を進め――

 小町が外へと出ようとするとき、ぽたり、と背後で音がした。
 ただの水音であった。普段なら小町がそれを気にすることもないし、聞こえてすらいなかったのかもしれない。
 だが、小野塚小町は、気付いてしまった。
 水の中に一滴の着色液を垂らした時のような、真白な雪景色の中に一本の向日葵が咲いているかのような、
 それが空間、世界の在る姿の全てを塗り替えてしまうような、圧倒的な存在感と違和感を持つ何かが、今、ここに現れたのだと。
 小町は振り返る。おおよそ、彼女の性格から考えるに相応しくないほどの、不安感が過る。
 ルーミアのスキマ袋、半ば棚から出ているその口から、赤い液体が、ぽたり、ともう一度、落ちたのが見えた。
 簀子の板目に、紅が流れる。木に染み込んで赤黒い染みを作る。
 ぽたり、ぽたり、とその間隔は短くなっていく。
 それは、血だ。小町はそれを、最初に理解していた。
 火照った身体が急激に冷めていく。
 はっとする。小町は、武器を取り落としそうになっていた。
 駆け寄る。一瞬躊躇う。それは悪魔の手招きか。小町は、紅い涎を垂らし続ける、袋の口に手を突っ込んだ。
 
 最初に掴んだのは、布のようだった。
 構わず、それを引っ張り出す。
 紅い手拭いであった。
 ――否、白い手拭いが、その白の大部分を紅に塗り替えられていた。
 紅に浸された、というよりは、紅に染まった何かを拭き取ったような、跡があった。
 所々、白い脂分のようなものが付着して――小町は思わず眼を背けた。
 拒絶するかのように、それを投げ捨る。
 若干躊躇った後、再度袋に手を入れた。
 次に掴んだのも布であり、小町はそれが何かを見る前から理解した。
 引っ張り出すと、漆黒の衣服であった。だがその大部分に、未だ乾かずぬめりとした光沢を放つ、紅い液体が付着していた。

 小町は、半ばヒステリックに、袋を逆さにすると中のものを全て吐き出させた。
 その予感を否定するものを、その願いを肯定するものを、その中に見つけなければならなかった、から。


 ――なんだ、これは。


 世界中の色が反転したと思うほうが、自然なような気さえする。
 ここが惨劇の舞台であったことは、忘れたつもりはなかった。
 だが、確かに湯船に浸かり、小町は、その空気の支配する日常と平和に侵されていたのだ。
 そして、それが終わるのは、ただこの現実を見ればそれだけで――。
 
 視界が紅に、染まる。

 着替えたばかりの小町の服に、紅い液体が飛び散った。
 ぬるりと手が滑る。乾ききっていない足もまた、生温い液体を感じていた。
 そして――人と同じように造られていた筈の、“身体だったもの”が、小町の視線を捉えて離さなかった。
 袋から転がり出る、首、胴体、切り取られた四肢。水気の多い野菜を潰すような、粘着性の音を立てて落ちる内臓の数々。
 袋の持ち主にとっては、天からの恵み――それを食することを許された“ご馳走”。
 
 小野塚小町が最初に悟った想像は、最も望まぬことであり、紛れも無く真実でもあった。
 最初に転がり出た首の“持ち主”を、小町は誰よりも知っていた。
61代理:2011/05/30(月) 01:28:13.95 ID:F6AYHHIH
「四季様、ですかい」

 問いかけるように、震える声で言った。
 返事に期待などしていなかった。
 それが言葉を返したならば、それこそ世の理に反する事だと理解していた。
 ああ、死んだのか。
 あの四季様が。
 言葉にすればそれだけを把握した。
 守るべき存在のひとつが失われた。
 元上司がその原型さえ留めずにここに在る。
 それだけを。

 精神が逆流していく。
 色だけでなく世界そのものが反転して再構成されていく。
 死は終わりではない。重くもない。
 頭も身体もそういう世界に在った筈なのに、今目の前にあるものが先の無い終焉を表していることがわかってしまう。
 自分の目的のひとつが失われた。
 自分に最も近しかった存在の命が奪われた。
 そのどちらが重かったのだろう。それは――明らかであったが、それはわからないことにした。
 ともかく、小野塚小町は――死神は、呆然として、そして、衝動的な感覚に襲われた。

 殺さなくては。
 幻想郷の正義のためだ。死神は思った。
 殺さなくては。
 四季映姫の死体を持ち歩いていた、ルーミアを。
 四季映姫をその手で殺害したかもわからない、ルーミアを?
 否、幻想郷において残すべき人妖で無いから、それだけだ――。

 死神は、銃を手に“決して惨劇の発生しないであろう空間”に振り向いた。
 そこに血を流すことを、今の彼女は躊躇わない。
 無表情――感情の欠片も感じさせない表情で、“日常”の戸を開けた。
62代理:2011/05/30(月) 01:29:25.71 ID:F6AYHHIH
 少女は、頭を洗っていた。
 大鏡の前で、俯いて、眼をぎゅっと閉じて。
 頭髪用の石鹸の泡で、金色の髪は真白に見えた。ただ純白の穢れなき存在がそこにいるように見えた。
 赤いリボンだけが外されないままで、それは奇妙な感じであった。
 彼女が一歩、そちらに歩を進めると、ルーミアは動きをぴたりと止めた。

「お姉さん、どうしたの?」
「――いや、ちょいとね」
「私に、用なの?」
「……そうかもしれないね」
「じゃあ、待っててね」

 彼女の小さな手が、湯を出す栓を探そうと周囲を弄る。
 その様子を見ながら、死神は無言で銃を構える。
 真白な、背中に銃口を向ける。
 妖しげな色気さえ感じるうなじ、猫背気味に丸まった背中、僅かに突起の見える背骨、椅子に乗った小さな臀部――それを無感情に見つめる。
 怒りも、殺気も湧かない。哀悼の念も、ない。
 全てを、義務、役目という言葉に集約して、小野塚小町の感情を無に封じ込めることが出来たのだろうか。
 例えそれが仮初だとしても。
 死神は、日常を、小野塚小町という個を、麻痺させて、ここに立っていた。
 そうしなければ、“こうすること”の理由に、自分が狂ってしまいそうだから。

「悪く思わないで、くれよ――」
 ルーミアは振り返らない。まだ栓を探している。
 銃口は彼女の頭部を捉えていた。
 彼女もまた、ここはそれと無縁の場所だと、思ってしまっていたのだろうか。
 束の間の幸福感が、それを麻痺させてしまっていたのだろうか。
 彼女の野性を以ってしても、その殺意に気付かないのは、

 小野塚小町だけが、ここにあった日常が幻想であったと気付いてしまったから――

 ――
  ――

 金色の髪が、紅の池に沈む。
 死神は、頭を撃ち抜かれた、少女だったものを眺め、立ち尽くしていた。
 全てが終わったような、どうしようもない喪失感に襲われた。
 いっそ微塵にしてやろうか。一瞬抱いたそんな感情は、掻き消した。
 むしろ、その身を砕いて消化しかかった四季映姫の身体が出てこようものなら、自分が正気を失ってしまうかもしれないのを知っていた。
「う、う」
 呻く様な声が出た。
 叫びたかった。
 何も得ることは出来ない。
 義務感は自己満足であり、それがために自身を殺し、しかし最も望んだ結末は得ることは出来ないのだ。
 死神は――小野塚小町は、慟哭した。


 ◇
63代理:2011/05/30(月) 01:31:20.71 ID:F6AYHHIH

「四季様――」
 番台の上、首が鎮座していた。
 鎮座、という表現は首には似つかわしくないかもしれないが――
 少なくとも小町は、彼女がそこに威厳を保ったまま居て小町を見下ろしているのだと思った。
 眼を閉じて、深い物思いに耽っているような表情。
 血に汚れた首を洗い、表情を整えたのは、当然ながら小野塚小町だ。

 四季映姫の首と向かい合うようにして胡坐をかく。
 上司の目前、最初、ではないが、最後の無礼だ。笑って許してくれるとは、思っていないが。
「よいしょ、と。さてと……。
 そういや、こうやって向かい合って話するの随分久々な気がしますねぇ。
 ……四季様。三途の向こう側も、今は違って見えますかね」
 見上げるようにして、小町は語りかける。
 
「あっちへの渡し守はあたいみたいんじゃなくて、真面目で仕事熱心なヤツだといいですね。
 幻想郷担当の船頭がここにいるんじゃ、きっと誰かが代わりにやってくれると思いますよ。
 そうだ、何なら紹介しますよ。四季様とは気が合いそうなのがいましてね。真面目で働き者の死神なんて変わってるでしょう。
 まぁ、あたいみたいなサボり魔ほど変わり者じゃないですがね……。
 ――四季様。今まで色々と迷惑かけましたね。クビにもなりかけたし。ありゃさすがに参っちゃいましたよ。
 いや、もっと参ってたのは四季様ですかね、あはは。よくまぁ、説教だけで済んだと思うくらいですよ。
 あの時は、説教も勘弁してくれーって思ってましたけどね。今思えばぬる過ぎましたかね。
 ――四季様。あたいもね、もう一度くらいなら、説教くらってもいいかなって思ってるんですよ。
 まぁ、今回のことはそれこそ説教じゃ済まないでしょうがねぇ……。
 きっと四季様は、あたいを黒だと言うんでしょうね。
 もう三人になります。この手で殺してるんですよ。
 浄玻璃の鏡を覗けば、わかるでしょうけどね。
 気ままに歌ってた夜雀。守りたいものがあった神様。そして――邪気無き妖怪。
 情状酌量の余地無しでしょうよ。幻想郷のためとか言っても、あたいのやった事が変わるわけじゃないんです。
 ……四季様。あたい、黒ですよね。
 実は最初に、生き残るに値する者だけを生かさなければと考えたとき、真っ先に出てきたのは四季様でした。
 幻想郷のためだとか、本当にそれだけならば、八雲紫が最初に出てくるべきじゃないですかね。
 結局、自分やそれに近いものほど大事なんだ。嘘の中の魂魄妖夢と何が違うんです。
 どんな大言壮語を吐いたところであたいも俗な存在だ。
 ――四季様、あたいは身勝手でしょう」

 やや長い沈黙。
 ルーミアの袋から撒かれた、四季映姫――或いは他の誰かの身体の大部分が、今も近くに転がっている。
 小野塚小町は、そちらには目もくれず、四季映姫の首、そしてその閉じた瞳だけに視線を送る。

「話が出来るのもこれで、最後でしょうよ。
 あたいは極楽なんかへは行けませんからね――だから、これを最後の機会と思って。
 ――四季様。あたいを叱って下さいよ。
 情けないと。しっかりしろと。だらしないと。間違ってると。
 あたいはこの道を変えるつもりはありませんけど――四季様。あたいも迷いが無いわけじゃなかったんです。
 四季様と道を違えることになる。恐ろしかったんです。
 きっと今までに無いくらいの説教が、あたいを待ってるってね。あはは。
 それが今では、むしろ待ち遠しいくらいです。
 もし四季様と生きているうちに会っていたなら、あたいは四季様の説教と、裁きを受けて、そこで終わりだった筈です。
 この殺し合いの最後で、そうなったなら、それこそあたいの願いの叶う瞬間だったんです。
 それが、ひたすら待ち遠しかったんです。
 四季様――。

 どうして、先に逝ってしまったんですか」
64代理:2011/05/30(月) 02:01:21.66 ID:F6AYHHIH

 ――
  ――


「長く、話しすぎちまいましたかね」
 小町は立ち上がる。
 不敵な笑みを浮かべて、余裕のある表情を作った。
 これが、四季映姫に、自分が最も多く見せた表情だと、小町は思う。
 恐らく彼女が、小野塚小町はこういう存在だ、と思い描いたとき、こういう表情が浮かぶのだろう。
 苦笑する。小野塚小町は、この期に及んで未だ、そんなことを考えているのだと。
 しかし、それも終わりだ。
 ちょっとだけ出かけるときのような軽さで、笑いかけると、別れの言葉をかけた。

「まだ、一仕事……いや、たっぷりと仕事が残ってるんで、行ってきます。
 説教がないと、サボりがいもないですからね」

 銃を手に取り、小野塚小町は安らぎの空間を後にする。
 幻想郷を救う――そんな偽善の為、彼女は独り、喪失を越えて戦場へと歩を進める。
 表情に、笑顔は消えていた。
 妥協は無い。安寧を求めることも、自分の欲求の叶うことだけを願うことも無い。
 それが死者への手向けであり、自分の意志を保つために必要なことだ。

 四季映姫の首に見送られた。小野塚小町は振り返ることは無かった。


【D−4北部 銭湯 一日目・真夜中】

【小野塚小町】
[状態]万全
[装備]トンプソンM1A1改(41/50)
[道具]支給品一式、64式小銃用弾倉×2 、M1A1用ドラムマガジン×5、
    銃器カスタムセット
[基本行動方針]生き残るべきでない人妖を排除する。脱出は頭の片隅に考える程度
[思考・状況]
1.生き残るべきでない人妖を排除する
2.再会できたら霊夢と共に行動。重要度は高いが、絶対守るべき存在でもない
65代理:2011/05/30(月) 02:01:58.09 ID:F6AYHHIH




 蒼い空を漂うように、ふよふよと、少女は進む。

 次の獲物を探して。

 彼女の、意味を満たすために。 
 
 

 そこは、暗闇にも、紅霧にも包まれていない世界。
 一面の蒼。どこまでも透き通っていた水のよう。


 ――この向こうには何があるんだろう。

 ルーミアは、小さく小さく呟いた。




【ルーミア 死亡】

【残り16人】


※D−4の銭湯に以下の道具が落ちています。
  鋸、リボルバー式拳銃【S&W コンバットマグナム】0/6
  基本支給品(懐中電灯を除く)、357マグナム弾残り6発、フランドール・スカーレットの誕生日ケーキ(咲夜製)、
  妖夢の体のパーツ、四季映姫の身体の大部分

66代理:2011/05/30(月) 02:05:02.84 ID:F6AYHHIH
代理投下終わりです

これは小町は更に路線を固める事になったな……
ここであの首を見つけなくとも放送はあったがこうはならなかったかも
小町の四季への想いがこちらにも伝わってくるよ
ただ、もし生きてあの四季と出会ってたらどうなっていただろう…
67創る名無しに見る名無し:2011/05/30(月) 05:49:50.92 ID:C7C9GArt
投下乙です。

これで3ボスに続いて1ボスも全滅か……
68創る名無しに見る名無し:2011/05/30(月) 06:58:17.64 ID:fKUdrFFJ
投下乙

小町はこれからどうなるのか
ルーミアと小町の入浴シーンが見れるとは思っていなかったな
とってもいい心理描写でした、改めて乙です
69創る名無しに見る名無し:2011/05/30(月) 20:00:02.71 ID:56921789
るみゃェ・・・
数々のキャラを苦しめた割にはあっさりした最後だったな…苦しまなかったのは幸せ…というか勝ち組かもしれないなw
70創る名無しに見る名無し:2011/05/30(月) 20:06:16.79 ID:gr24WZ4Z
投下乙

るみゃ無双もついにお仕舞いか…早苗さんにもう一度会って欲しかったけど、仕方ないか
小町も辛いね
前より奉仕マーダーとしての決意は強固になったかもしれないけど、喪失感がどう影響するかな
71創る名無しに見る名無し:2011/05/30(月) 22:02:44.94 ID:nAWf5FZm
魔理沙と香霖のやつといい決別シーンは胸に来るな
小町の告別の雰囲気が良すぎる

投下乙です
72創る名無しに見る名無し:2011/05/31(火) 03:40:18.39 ID:TZ1jrIQO
俺のやりたかったことをすべてやってくれてパーフェクトと言わざるをえない作品でした
こまっちゃん……流石や……
こまっちゃんやっぱり叱って欲しかったんだよな
こまっちゃんの表面上強気で振舞っているのに内面はぐちゃぐちゃなのが上手く表現されてて素晴らしかったです

投下乙!!!
73創る名無しに見る名無し:2011/06/01(水) 17:30:06.37 ID:pKswEbjO
小町もだけどみんな終末に向かってダッシュしてるな……
魔理沙や紫らも強マーダー、それも霊夢やゆゆことか顔見知りが立ちはだかってるんだよな
74創る名無しに見る名無し:2011/06/05(日) 20:34:03.16 ID:UHUc+mlH
保守
75創る名無しに見る名無し:2011/06/11(土) 20:31:42.38 ID:aQDB3/MJ
「読み手は保守を推進しました」って言ってるように見える?
76創る名無しに見る名無し:2011/06/12(日) 18:53:18.33 ID:mrGE/vfk
そーなのかー?
77創る名無しに見る名無し:2011/06/17(金) 21:50:57.18 ID:30WyR+Vq
うーん、予約が入らなくてグギギギ……
というか、ここ最近が好況すぎたのかもしれんね
78創る名無しに見る名無し:2011/06/19(日) 19:46:44.72 ID:d+MWsqpq
書いてみたいなーというパートはあるんだけど、
なんだか先日チャットとかもやったみたいだし、今頃その輪に入っていいものかどうか悩んでる
79創る名無しに見る名無し:2011/06/20(月) 20:58:02.27 ID:zfdycPF2
過去ログ見ればいいんじゃない?
とりあえず書いてみなよ
80創る名無しに見る名無し:2011/06/22(水) 06:57:26.05 ID:FgaQW2Oa
ちょっと……この予約は……
81創る名無しに見る名無し:2011/06/22(水) 16:27:43.76 ID:/gW1dIjZ
このメンバーは波乱になりそうだな
82創る名無しに見る名無し:2011/06/23(木) 01:14:13.65 ID:lvni94eL
期待
83創る名無しに見る名無し:2011/06/23(木) 19:25:40.11 ID:9qUtmnEE
期待!
84 ◆TDCMnlpzcc :2011/06/23(木) 20:26:43.11 ID:1dJOkWAB
投下開始

前半「許容と拒絶の境界」です

85 ◆TDCMnlpzcc :2011/06/23(木) 20:28:05.91 ID:1dJOkWAB

走って、走って、走り続ける。
木の根を飛び越え、藪を抜けて、逃げ続ける。
転んでも起き上がり、走り続ける。
目的地なんかない。

「追いかけてくる」

悲鳴をこらえた喉から、絞り出すように声を出す。
後ろでは、自分を呼ぶ声が響く。

落ち着いて聞くと、後ろの声にはあまり悪意がこもっていないようにも聞こえる。
しかし、今の因幡てゐにはそれを感じ取る余裕はなかった。
とにかく、逃げ続けた。

ずいぶんと長く逃げ続けて、気づけば足が止まっていた。
足が重い。
疲れた。
もういいだろう。




足を止めると、少し夜風で頭が冷えてくる。
そして、一人でいることに気づく。

当たり前だ。とにかく皆から逃げてきたのだ。
誰かが周りにいるはずはない。

「これで逃げ切れた」

つぶやいた言葉に反応する声はない。
周りに誰もいないことは安全である証拠。
自分は逃げ切れた。
また、逃げた。
そしてまた一人になった。

本当にこれでよかったのだろうか?
86 ◆TDCMnlpzcc :2011/06/23(木) 20:29:17.55 ID:1dJOkWAB



痛いなあ。
よく見ると足にけがをしていた。
どこかで切ったのだろう。
たらたらと血が流れている。

もっとも、治療の必要はなさそうだった。
ぷんと血の匂いがあたりに広がっている。

がさがさ。遠くで茂みが揺れた。



これから私はどうするのだろう。
また逃げだすのか?
また裏切るのか?
裏切る相手もほとんど残っていないだろうに。
自分が生き残れる可能性などほとんどないだろうに。
このままだと、あの時のように、一人さびしく死んでいくだけではないか?

逃げだしたことを少し後悔した。
もしあのままあそこに残って説明して
もしあそこで誰かがかばってくれて
もし誰かが許してくれて
そうだったらよかったのに。

いや、これは逃げた後だからこそできる後悔だ。
殺される、それも少し心を許しかけた相手に。
それはきっと一人ぼっちで死ぬよりはつらいことだから。
そう思ったからこそ自分は逃げ出したのだ。

がさ、がさがさ。
今度は近くで茂みが揺れた。

「・・・にお・・・・てゐ・・・・・ち・・」
87 ◆TDCMnlpzcc :2011/06/23(木) 20:30:49.02 ID:1dJOkWAB

え?
だれか近くにいる。
どうして?
それにこの声は・・・

「てゐ?近くにいるだろ」

近くの木立から声を受けて、立ち上がろうとする。
でも足が立たず、逃げ出せなかった。
走りすぎて、動ける状態じゃない。
それにしてもなんでここがわかったのだろうか?


「見つけた!!!」

目の前にきれいな羽が現れた。
フランドール・スカーレットの手には飛び道具が握られている。
不思議と恐怖は湧かなかった。もう感情が麻痺しているだけかもしれないけれど。

「てゐさん」

今度は東風谷早苗か、みんな集まってきたわけだ。
さて、どう料理されるのか。

自分が見つかった理由はよくわかっている。
血だ、血をたどられた。

ただの人間を相手にしているのとはわけが違ったことを忘れていた。
吸血鬼。
相手に血に関するエキスパートがいることを知りながら、血のにおいを消すことを忘れていた。
もっとも、けがをしていることに気付いたのはついさっきで、対策の立てようはなかった。
その傷からはいまだに血が滴っている。
その匂いは私にも嗅ぎ取れる。
「あんまり走ると風邪をこじらせるわよ」

少し遅れて、あとの二人も到着した。
霧雨魔理沙の手には、自分が渡した銃が握られていた。
皮肉なものだ。
自分の渡した武器で殺されるかもしれないとは・・・

目の前に四人が集まった。
88 ◆TDCMnlpzcc :2011/06/23(木) 20:33:32.52 ID:1dJOkWAB



「てゐさん」

私の騙した人間、東風谷早苗がこちらに歩み寄る。
なにをされるのだろうか?
疲れ切った頭で考える。ふと、痛い死に方はいやだな、と思った。
私は死にたくなかった。しかし、死を免れるすべは見当たらない。

かちゃ。

後ろの八雲紫が警戒の目で私の手元を見つめた。
気付けば私は早苗に銃を向けていた。
恐怖に襲われた兎の無意識な抵抗。
だが、早苗はそれを気にすることなく近づく。
そして・・・・

「ケガ」
「?」
「怪我しています。止血しないと」

人間の手が、降りてきて、私の足を抑えた。
それは危害を加える手じゃなくて・・・・

「なんで怒らないの?」

早苗の手は、私の構えた銃の下で動き続ける。
布を足に巻きつける。

「私はあなたを騙したのに」

しばらく、誰もしゃべらなかった。
そして、すっと手が差し伸べられた。

「私たちはあなたがなぜ騙したのかが知りたいだけです」

手から拳銃が滑り落ち、代わりに暖かい手に包まれた。

「私は騙されたことは気にしていませんよ」

それは思いもよらない人物からの許しの言葉。
因幡てゐの心は少し、ほんの少し揺れた。
89 ◆TDCMnlpzcc :2011/06/23(木) 20:34:32.40 ID:1dJOkWAB

「てゐさんはパチェリーさんを本当に殺すつもりだったのですか?」

殺すつもりはなかった。
思い返せばあの魔女を殺してしまったのは事故だった。
言い訳をすれば、助かるかもしれない。
でも、言い訳をしたところで、また嘘をつき続けるだけかもしれない。
それに、どうせ私は東風谷早苗を殺すつもりで武器を構えたのだ。
同罪だ。殺そうと思っていなくとも、引き金を引いた指には殺意がこもっていた。

「あなた、私にも話をさせて」

フランドールが一歩前に出た。
こちらを見つめる目は、いつものように紅く染まっている。
てゐにはその眼を見つめられなかった。

「全部話して、パチェリーを殺したことから、全部、何もかも」

そして私は、口を開いた。







許してもらえるとは思っていない。
でも、目の前の四人から殺意は感じられなかった。
ここに漂っている空気は虚無感だけ。
あらためて話して思った。
こんな殺し合いがなければ、何も起きなかった。
まさか、紅魔館の魔女を、恨みもない魔女を殺すことなんかなかっただろう。
なんでこんなことになったのだろう。
90 ◆TDCMnlpzcc :2011/06/23(木) 20:35:33.96 ID:1dJOkWAB

「私はもとよりあなたと関わりはないけれど、いくつか質問してもいいかしら?」

八雲紫が無表情で尋ねてきた。
私は無言で了承する。
ほかの三人は何もしゃべらない。

「あなたが死ぬのを見届けた蓬莱山輝夜は人形だったの?」
「そんなはずはないと思うけど、月の科学力は進んでいるから」

「八意永琳にはまだ会っていないと」
「さっき話した通りだよ」

「古明地こいしは死んだのね」
「目の前で見たから、それは事実」

「今、人里に死体があるのよね・・・」
「どっちの?」
「どっちも、特にお姫様のほうかしらね。興味があるのは」

八雲紫はてゐがもう仲間であるかのように振る舞っていた。
それが仮の対応だったとしても、てゐには救いだった。
そこで、うーんとうめき声をあげて、魔理沙がこちらを見た。

「私には決められない。決めるのはフランと早苗だ」

ほらよ、と黙り込んだフランの肩を叩く。
反応がないのが不気味だった。
私は・・・と早苗が顔を上げた。

「私は、てゐさんに復讐したいとは思いません」

私は特に怪我をしませんでしたし・・・。
早苗は笑顔で付け足した。
私の心には、その笑顔が痛かった。
91 ◆TDCMnlpzcc :2011/06/23(木) 20:36:43.05 ID:1dJOkWAB

フランドールは黙りこくって、立ち尽くしている。

「・・・・」

どうすればいいのだろうか?
私は生きたいと思った。
しかし、それ以上に、許してほしいと思った。
目の前に与えられた、仲間という関係は、目の前の吸血鬼の判断次第で取り上げられる。
一人はさびしい。

「・・・・」

私はどうしたらいいの?




「ごめんなさい」

周りが、えっと声を出した。

「本当にごめんなさい」

それは、自身の行為の独白を続けてもなお、妖怪兎の口からでなかった言葉。
そして、それを口に出したのは・・・・

「守ってあげられなくてごめんね、パチェリー」

プライドの高い吸血鬼、フランドール・スカーレットだった。
92 ◆TDCMnlpzcc :2011/06/23(木) 20:43:24.38 ID:1dJOkWAB




「私はさ、お姉さまみたいに器用に怒れないよ」
「フラン、お前・・・」

唖然とした皆の前で、フランドールは頭を垂れた。

「許してね」

そして、顔を上げた。
こちらを、紅い瞳が見つめる。

「私が許すとか、許さないとかじゃないと思う。
 パチェリーが許すか許さないかだと思う。
 だからさ、私はてゐをどうしようとも思わない。
 もとから私がどうこう考えることですらないと思う」

言い切った言葉は、まっすぐだった。
はっとして思わず、私は下を向いた。
そして、周りに見えないように笑う。
自分自身を嗤った。

数千年も生きてきて、数百年しか生きていない吸血鬼に劣っていたとは。
力はともかく、それ以外で劣っていたとは。

私なんかより、こいつのほうがいい奴だよ。賢いよ。

「私は・・・・」

私がやるべきことは最初から一つしかなかった。
一つしかなかったのだ。

「ごめんなさい。本当にごめんなさい」

先ほどの、吸血鬼の言葉の丸写し。
でも、この場にはそれが一番似合った。

「ごめんなさい」

なんだか涙が出てきた。
視界がぼやけて、灰色に染まってゆく。

最後に人前で、嘘泣きでなく本気で泣いたのはいつのことだっただろうか?
久しぶりの、涙だった。
93 ◆TDCMnlpzcc :2011/06/23(木) 20:44:25.57 ID:1dJOkWAB



少し時間がたった。

「まあ、涙をふきなさい」

八雲紫の声で私は顔を上げた。

ああ、私は泣いていたのか。
その事実を思い出し、苦笑する。
年甲斐にもないことをしたものだ。

汚れた手で目をこすり、涙をぬぐう。
眼病にならないといいな、ふと思う。
しみついた健康への執着が戻っていた。

「私は何もしないけど、お姉さまはわからない」

フランドールがつぶやいた。
その通りだ。私が謝るべき相手はたくさんいる。
人里においてきた二人はどうなったのだろうか?
わからない。

「まあ、レミリアも分かってくれる。わかってくれなかったら私が分からせる」
「ありがとう」

魔理沙が力強く言った。
でも、誰かの手を煩わせるつもりはなかった。
謝って、謝り通してやる。
許してもらうまで土下座して、謝って、罪を償おう。

私は生まれ変われるかもしれない。

「ほら」

寄ってきたフランドールが、手を差し伸べる。

「えっ?」

私は思わず、竦んだ。
そんな私とフランドールを見つめる4人分の視線。

「仲直りの握手」
「フランドール・・・」
「フランでいいよ」

それはとても平和で、心地よい世界だった。
94創る名無しに見る名無し:2011/06/23(木) 20:44:56.14 ID:JQLzg6In
支援
95創る名無しに見る名無し:2011/06/23(木) 20:49:29.16 ID:A17hcXgU
支援
96創る名無しに見る名無し:2011/06/23(木) 20:53:59.47 ID:JQLzg6In

目の前のフランはとても優しくて、だから、死なせたくなくて・・・
私はフランをつかみ、地面に引きずり落とした。



そして、乾いた、汚れた、忌々しい音が鳴り響いた。

そして、音よりも早く到達した何かが・・・・


私の体を貫いた。
97創る名無しに見る名無し:2011/06/23(木) 20:55:06.68 ID:A17hcXgU
続きキタ
98代理投下:2011/06/23(木) 20:55:31.19 ID:JQLzg6In
467 : ◆TDCMnlpzcc:2011/06/23(木) 20:49:57 ID:vtj4UlZc





「あら、外れたわ」

目の前で、私、東風谷早苗の目の前で、てゐさんの体には穴が開いた。
そこから血が噴き出す。
諏訪子さまの時と同じ・・・

「「えっ」」

皆の声が、詰まる。

「おかしいわね」

だれかが後ろにいる。

「幽々子、あなた・・・」

いち早く後ろを振り向いた紫さんが絶句した。
続いて、振り向いた魔理沙さんも固まった。

振り向いた私も確認する。
西行寺幽々子、冥界のお嬢様。
あまり接点はないけれど、こんなことをする人には到底見えなかった。

その手にはごつい銃が握られていた。
小銃、アサルトライフルと分類される銃だ。
その照準はあたりを行ったり来たりしている。

「二発目」

ドンッ

次の弾は、フランさんの頭をかすめて抜けて行った。
彼女が頭をそらさなければ、弾はかすっていなかっただろう。
99創る名無しに見る名無し:2011/06/23(木) 20:57:15.69 ID:A17hcXgU
支援
100代理投下:2011/06/23(木) 20:57:25.46 ID:JQLzg6In
468 : ◆TDCMnlpzcc:2011/06/23(木) 20:51:27 ID:vtj4UlZc


「やめなさい、幽々子、やめて」

うろたえた表情で目の前の、八雲紫が割って入る。

「イ・・タイ・・」

私はその隙にてゐさんのもとに駆け寄った。
出血がひどい。

私の後ろでフランさんが銃を構えたのが分かった。

「あれはいけないものよ。駆除しないと」

「幽々子落ちつけよ。何があった?」

「あなたは私の従者?いえ、違うわ。こんな子じゃない!!!」

ドンッ

「魔理沙!!!」
「私は大丈夫だ」
「何をしているの?正気に戻りなさい」

三発目、後ろの反応で、弾は魔理沙さんをかすめた事が分かった。
遠くから狙撃されなくて本当によかった。
至近距離だからこそ、銃口の先を見てかわすことができる。
長年の間、弾幕ごっこに鍛えられた反射神経のおかげだろう。


「ゲェ・・」
吐血、肺に穴が開いている。
何とかしないと・・・

ドンッ

「ギャッ・・」

フランさんの悲鳴。

「はやく無くさないと・・・早く・・」

「動くな、撃つぞ」

後ろが騒がしくなる。

ドンッ

パパパパパッ

「早苗!!」
「私?」
101創る名無しに見る名無し:2011/06/23(木) 20:59:43.20 ID:A17hcXgU
しぇん
102代理投下:2011/06/23(木) 20:59:56.79 ID:JQLzg6In
469 : ◆TDCMnlpzcc:2011/06/23(木) 20:53:15 ID:vtj4UlZc

切羽詰まったような声を受けて顔を上げる。
目の前に立っていた。
彼女が立っていた。
西行寺幽々子が目の前で笑った。きれいな笑顔。

私の目の前十五センチには銃口。

「あなたは私の・・・」

「早苗、伏せなさい」

「従者なの?」

ドンッ





「早苗!!」

八雲紫が叫ぶと、その手から針の弾幕が飛び出し、早苗を巻き込み、幽々子を吹き飛ばした。
早苗のほうがひどくやられている気がする。
とはいえ、弾丸に貫かれるよりはましだったはずだ。
放たれた銃弾は、早苗のすぐそばを抜けて、森の中に消えて行った。

「早苗、大丈夫か?」

魔理沙が駆け寄って無事を確認する。
手が、動いた。命に別状はないらしい。

「フランも大丈夫か?」

遠くから魔理沙がフランドールの無事を確かめる。木の陰から出て、手を振っている。
肩を打たれたけれど、吸血鬼だから大したことはないのだろう。
弾も貫通したみたいだし・・・
ただ、しばらくの間は戦力にならないだろう。
自分の足元に転がる銃を回収する。
見るからに威力の高そうな銃だ。
幽々子相手に使いたくはない。
103創る名無しに見る名無し:2011/06/23(木) 21:01:06.58 ID:A17hcXgU
支援
104代理投下:2011/06/23(木) 21:01:43.34 ID:JQLzg6In
470 : ◆TDCMnlpzcc:2011/06/23(木) 20:54:04 ID:vtj4UlZc

先ほど銃弾がかすめた魔理沙にもけがは見当たらない。
ひどいのはてゐだ。体から血があふれているのがここからでもよくわかる。
早く血を止めないと。

「ねえ、私の従者は誰?どこにいるの?」

遠くで何かがゆらりと立ち上がった。
魔理沙がそれに銃口を向けてけん制する。
私もまた、銃を取り上げて構えた。
その手がかすかに震えている。

「幽々子落ち着きなさい」

「・・・・・」

幽々子の動きが止まった。
しかし、銃口は降ろさない。
狙いは東風谷早苗。
その指が引き金にかかっている。

「魔理沙撃ちなさい」
「え?」

「うふふ」

銃を構えたまま、私は命じた。

「もう、持たないわ。相手は銃を持っているの。幽々子相手に押さえつける余裕はないわ」

声が上ずっている。
これは冷静な判断だ。このままでは死人が出る。
運が悪いと全滅する。

でも・・・

「いやだ。何があったか聞かないといけない」

魔理沙は受け付けない。
そうだろう。魔理沙はそういうタイプじゃない。
私も、彼女がそう返してくるのを見越して命じたのだ。
私も彼女を、何も聞かずに撃ちたくない。殺したくない。

でも、妖怪兎を追いかける道中、二人から聞いた話が頭をよぎる。
そう、私たちは吸血鬼が匂いをたどる途中、互いに、情報を交換した。
私と違って、幽々子の力は完全に抑えられていないようだ。
死を、瞬間的に死を与える蝶に立ち向かえる者はこちらにいない。
幽々子の良心が、それを出さないことを祈るしかない。
105創る名無しに見る名無し:2011/06/23(木) 21:03:16.04 ID:A17hcXgU
良心か・・・
106代理投下:2011/06/23(木) 21:05:06.99 ID:JQLzg6In
普段の私なら、普段の私だったら、もっと冷静に動いていたかもしれない。
もっと効率よく、正解の行動をとっていた。
いや、能力さえ使えれば、狂気と正気の境界をいじるだけでよかったはずだ。
能力が使えない、力のない自分が恨めしい。

「幽々子、何があったの?」

それにしても、彼女に何があったのだろう。

いや、幽々子は元々人間で、私ほどは長生きしていない。
別離の悲しみには慣れているかもしれないが、何も感じないわけではない。
もしかしたら、仲の良かった従者の死だけで、壊れてしまったのかもしれない。

「てゐ、しっかりして」

後ろが騒がしい。
今手当を試みているのはフランドールか。
てゐはもうだめかもしれない。
本当なら、幽々子のことなど放っておいて、彼女の治療に専念すべきだったのだろう。
でも、私にはできなかった。
この殺し合いの中で私も少し変わってしまったのかもしれない。

「・・・・たくさんの従者が、従者を騙って近づいてきて、そいつらが私を騙すから・・
みんな、殺した。悪いことじゃないでしょう、紫。正しい行動よ」

目の前の幽々子が語り出す。
その言葉は支離滅裂で、何があったのかを理解するのは難しかった。
私は奥の手に頼ることにした。

「物騒な武器だけ取り上げさせてもらうわね」
「紫、どうするつもりだ?」
「手足を使えなくするだけよ。ここを出た後狂気を修正するつもり。あとできるなら気を失わせたいわね」

目の前で私と魔理沙が話していても、何も反応しない。
焦点の合っていない眼は、まさしく狂人のそれだった。


ぱたりと、幽々子の手が降りた。
小銃の先が地面へと向けられた。

突然、闘志が消えた相手に、私たちは固まった。

「理解できるなら、話が早い」

魔理沙が銃を放り、覇気を失った相手に近づいてゆく。
いつの間に、幽々子の視線は私たちを越えた向こうに向けられていた。
その視線の先に気付いて、私が叫んだ瞬間。

「魔理沙!!」

一瞬で辺りが不気味な蝶で埋め尽くされた。
反魂蝶。死を操る程度の能力。
狙いはどこでもない、ただ、あたりに漂っている。

蝶は私の鼻先をかすめるように飛んでいた。
幽々子はどこ?

蝶が触れた瞬間、力が抜けてゆくのが分かった。
これが、反魂蝶の力か・・・・
107代理投下:2011/06/23(木) 21:06:30.49 ID:JQLzg6In
472 : ◆TDCMnlpzcc:2011/06/23(木) 20:57:29 ID:vtj4UlZc





「みつけたわ」

いつの間にか、あたりが静かになっていた。
フランドール・スカーレットの前で、てゐの喉が、苦しそうに動いている。

「魔理沙?」

思いがけず近くから発せられた亡霊の声に驚き、仲間を呼ぶ。
返事がない。
恐る恐る振り返ると、そこには立っているものは誰もいなかった。
否、西行寺幽々子一人が立ち尽くしていた。
その周りを、いつかの蝶が飛びまわっている。
徐々にその群れはこちらに迫ってくる。

「あなたを殺せば、帰ってくる」

「嘘だ・・・」

私に銃が向けられた。
一人、私は一人だった。
手元には銃がない。
私の銃は・・・・八雲紫の手に握られている。

「・・・フラン、気をつけなさい・・・蝶に・・」

起き上がる力が残っていないのか、スキマ妖怪は土に顔を付け、ささやいた。
魔理沙も少し体を動かした。
二人とも生きている。

「ねえ、返しなさい」

「あなたに返すものなんて一つもないわ」
108代理投下:2011/06/23(木) 21:08:39.88 ID:JQLzg6In
473 : ◆TDCMnlpzcc:2011/06/23(木) 20:58:23 ID:vtj4UlZc

目の前の亡霊には、強く言い返すものの、打つ手がなかった。
まず、どうしてこいつは私を狙うの?
そこからわからない。
妖夢が死ぬきっかけになったから?
さすがにそれはとばっちりじゃないかな?
理由が分からないのは私が世間知らずだからじゃなくて・・・、あの八雲紫も分からないみたい。

「なんで、私を狙うの?」
「あなたが大切なものを奪ったからよ」

こいつ勘違いしているの?

「あなたの従者を殺したのはあなた自身でしょ」
「うふふ、やっぱりあなたが奪ったのね」

ちぐはぐな反応。
でも私には、亡霊が一瞬戸惑ったのが分かった。
こいつは、もしかして・・・

「嘘、ついているの?自分に?」

私がそういってみたとたん、再び銃口が向けられた。
図星だったみたい。
でも、それが分かっても何も変わらない。

せっかくてゐとも仲良くなれたのに。

「嘘?嘘をついているのはあなたよ」

自分の周りには蝶が飛び回っていて動けない。
きれいな蝶。
地下室ではこんなもの見られなかった。

でも、あの異変のあと、外で見せてもらった蝶とは違う。
これは、きれいだけど、自然のものじゃない。
無機質な、死の蝶。
これは違う。
109代理投下:2011/06/23(木) 21:10:30.87 ID:JQLzg6In
474 : ◆TDCMnlpzcc:2011/06/23(木) 20:59:36 ID:vtj4UlZc

「てゐさん」

早苗がこっちを見つめている。
そこは私の名前を呼ぶところでしょ。
そう心の中で突っ込んで、最後の抵抗をしようとした私は―――



「・・・フラン!!!」

ダッダッダッ

飛び出したてゐが、引き金を引くのを見た。
瀕死の重傷で、飛び出して、三発を撃ち終えるとうつぶせに倒れ伏した。

「てゐ!!」
「幽々子!!」

何とか起き上がったスキマ妖怪が、亡霊に駆け寄るのを片目に、私はてゐに駆け寄った。
倒れ伏したてゐの体から、蝶が一匹二匹と飛び立った。
蝶の狙いはてゐだった。

動かなくなったその体には力が入っていない。

耳を近づける。
息をしていない。
開いた瞳孔が、その死を示していた。

因幡てゐはもう死んでいた。
110代理投下:2011/06/23(木) 21:13:00.83 ID:JQLzg6In
475 : ◆TDCMnlpzcc:2011/06/23(木) 21:00:40 ID:vtj4UlZc



もう死ぬというのか?
いや、もう死んだのか?

蝶に囲まれて、てゐは思う。

フランは無事だったのか?
ほかのみんなは?

疑問に思うことはたくさんで
謝りきれてない相手もたくさんで
やり残したこともたくさんで
なんで私は死にはじめているのだろう?

――せっかくフランと仲直りできたのになあ
――まだ長生きしたかったなあ

彼女が最後に思ったのはそんなこと。





一方、八雲紫は旧友のそばに駆け寄っていた。

「幽々子?」

返事はない。
さっきの三発は致命傷になったらしい。

「しっかりしなさい」

後ろで、フランドールがてゐの死を告げた。
魔理沙と早苗が息をのむ。

「あなたには償うべきことがあるのよ」

「紫?」

ぱっと、目が開いた。

「妖夢をお願い」
「ちょっと・・・しっかりして」

幽々子は、最後まで真実を見つめずに、しかし、穏やかな死に顔で逝こうとしている。
本当に幸せな死に方なのか、私にはわからない。
真実を思い出して、修正した記憶を思い出して、苦悩するよりはよっぽど楽だったろう。
でも、私は思う。
これは、正しい死に方じゃない。
妖夢も報われない。
111代理投下:2011/06/23(木) 21:15:26.38 ID:JQLzg6In
476 : ◆TDCMnlpzcc:2011/06/23(木) 21:01:31 ID:vtj4UlZc

「あ・・・」
「え?」

まだ残っていたのか、一羽の蝶が、主のもとへと帰ってゆく。
ゆっくりと、まっすぐと、その先には幽々子がいる。

「妖夢―――」

そして蝶がその額にとまった瞬間、西行寺幽々子は逝ってしまった。
私の数少ない友人は、死ぬ前に、何か小声で言い残した。

私はそれを、妖夢に対する謝罪か、その他の皆に対する謝罪と受け取った。
都合の良いほうに解釈するのは間違っているかもしれないが、最後の幽々子の目には狂気は感じられなかった。

感じられたのは後悔だけだった。

私は最後に、彼女が正気に戻ったと信じたい。

【因幡てゐ 死亡】
【西行寺幽々子 死亡】

残り14人

【F−4 魔法の森 一日目・真夜中】

【フランドール・スカーレット】
[状態]右掌の裂傷(行動に支障はない)、右肩に銃創(重症)、魔力半分程回復、スターサファイアの能力取得
[装備]
[道具]支給品一式 機動隊の盾、レミリアの日傘、バードショット(7発)
バックショット(8発)、大きな木の実
[思考・状況]基本方針:まともになってみる。このゲームを破壊する。
1.てゐ・・・
2.スターと魔理沙と共にありたい。
3.反逆する事を決意。レミリアが少し心配。
4.永琳に多少の違和感。
※3に準拠する範囲で、永琳が死ねば他の参加者も死ぬということは信じています
※スターサファイアの能力の程度は後に任せます。
※因幡てゐと八雲紫と情報交換しました。
112代理投下:2011/06/23(木) 21:16:36.54 ID:JQLzg6In
【八雲紫】
[状態]精神的疲労
[装備]クナイ(8本) 、楼観剣(刀身半分)付きSPAS12銃剣 装弾数(8/8)
[道具]支給品一式×2、酒29本、不明アイテム(0〜2)武器は無かったと思われる
    空き瓶1本、信管、月面探査車、八意永琳のレポート、救急箱
    色々な煙草(12箱)、ライター、栞付き日記 、バードショット×1
[思考・状況]基本方針:主催者をスキマ送りにする。
 1.幽々子・・・・
 2. 二人の遺体を埋葬しないと・・・
 3. 八意永琳との接触
 4. ゲームの破壊
 5.自分は大妖怪であり続けなければならないと感じていることに疑問
※因幡てゐと霧雨魔理沙と情報交換しました。

【東風谷早苗】
[状態]:軽度の風邪(回復中)
[装備]:博麗霊夢のお払い棒、霧雨魔理沙の衣服、包丁、
[道具]:基本支給品×2、制限解除装置(少なくとも四回目の定時放送まで使用不可)、
    魔理沙の家の布団とタオル、東風谷早苗の衣服(びしょ濡れ)
    諏訪子の帽子、輝夜宛の手紙
[思考・状況] 基本行動方針:理想を信じて、生き残ってみせる
1.てゐさん・・・
2.ルーミアを説得する。説得できなかった場合、戦うことも視野に入れる
3.人間と妖怪の中に潜む悪を退治してみせる
※霧雨魔理沙と因幡てゐと情報交換しました。

【霧雨魔理沙】
[状態]蓬莱人、帽子無し 、精神的疲労
[装備]ミニ八卦炉、MINIMI軽機関銃(50/200)、上海人形
[道具]支給品一式、ダーツボード、文々。新聞、輝夜宛の濡れた手紙(内容は御自由に)
    mp3プレイヤー、紫の調合材料表、八雲藍の帽子、森近霖之助の眼鏡
ダーツ(3本)
[思考・状況]基本方針:日常を取り返す
 0.てゐ・・・
 1.霊夢、輝夜、を止める。
 2.仲間探しのために人間の里へ向かう。
 ※主催者が永琳でない可能性がそれなりに高いと思っています。
※因幡てゐと八雲紫と情報交換しました。


※二人の死体はF−4のどこかに転がっています。
※遺体のそばには
てゐのスキマ袋【基本支給品、輝夜のスキマ袋(基本支給品×2、ウェルロッドの予備弾×3)
萃香のスキマ袋 (基本支給品×4、盃、防弾チョッキ、銀のナイフ×7、
リリカのキーボード、こいしの服、予備弾倉×1(13)、詳細名簿)】
西行寺幽々子のスキマ袋【支給品一式×5(水一本使用)、藍のメモ(内容はお任せします)
八雲紫の傘、牛刀、中華包丁、魂魄妖夢の衣服(破損) 、博麗霊夢の衣服一着、
霧雨魔理沙の衣服一着、破片手榴弾×2、毒薬(少量)、永琳の書置き、64式小銃弾(20×8)
霊撃札(24枚)】
白楼剣 、ブローニング・ハイパワー(2/13)
64式小銃狙撃仕様(3/20)
が転がっています。
113 ◆TDCMnlpzcc :2011/06/23(木) 21:17:10.86 ID:1dJOkWAB




どこだかわからない世界。
西行寺幽々子は漂っていた。

ここはどこ?

――幽々子様、ご苦労様です

妖夢?

――はい。

目の前に、慣れ親しんだ顔が現れた。
魂魄妖夢、私の従者。

なにかしら?言いたいことがあった気がしたのだけれど・・・

私もぼけてきちゃったのかしら?
うふふ、と笑って、手元のお茶を飲む。
やはり何か忘れている気がする。

――何を言いたかったのですか?

何か懐かしい、でも、思い出したくない記憶。

――無理に思い出されなくても結構ですよ。それよりもお茶菓子はいかがですか?

そばから、お椀に入った菓子が差し出された。

おいしいわね。
でもお椀を持たれたままじゃ食べにくいわよ。

こういう、ちょっと抜けている妖夢がかわいらしい。
育てがいがある、鍛えがいがあるというものだ。
これから、時間をかけて育ててゆこう。

最後に覚えているのは、こちらに何かを訴えかける紫の顔。
なんだったのだろうか?

紫?

――紫様がどうかなさいましたか?

ううんなんでもないの・・・
妖夢をお願い。

ふと、口から思ってもいない言葉が飛び出す。
なんだろう、自分の言いたかった言葉の気がする。
でも、妖夢は私のすぐそばにいるのに、
こんなこと言う必要はないのに、
私たちはもう・・・・
114創る名無しに見る名無し:2011/06/23(木) 21:17:53.55 ID:JQLzg6In
代理投下終了致しました
115 ◆TDCMnlpzcc :2011/06/23(木) 21:18:19.94 ID:1dJOkWAB

――幽々子様、お疲れですか?

目の前には妖夢がいる。
でも、これは妖夢じゃない。

目の前を蝶が飛んでいる。
きれいな、無機質なのに、懐かしい蝶。

本当の妖夢はもう死んでしまった。
私が殺してしまった。
そしてその体も壊されてしまった。

妖夢、ごめんなさい、私・・・

「それ以上言わないでください。私こそお側についていられず、すみませんでした」

蝶が視界を遮る。
でも、私の目の前には妖夢がいる。見える。
先ほどとは違う。霊体としてのとしての妖夢がいる。

いや、彼女はずっとそばにいたのに、私が気付かなかっただけだ。

あなたはずっと傍にいたのね。
私が正気を失って、無様な真似をしている間もずっと・・・


ありがとう、妖夢、それからごめんなさい――――

その瞬間、額に蝶が触れ、西行寺幽々子は逝った。



※西行寺幽々子が放った反魂蝶について
健康な生者が触れるとそれなりのダメージを受ける、みたいなものを追加で考えましたが、問題ありなら修正します。
116 ◆TDCMnlpzcc :2011/06/23(木) 21:22:04.47 ID:1dJOkWAB
投下終了
規制を受けましたが、支援と代理投下で切り抜けられました
感謝します

問題点等ありましたら指摘してください
今回は特に、幽々子様の能力を拡大解釈した点がありますので・・・


題名
前半「許容と拒絶の境界」
後半「真実と妄想の境界」
分割点はスレ96の終わり、いつも編集してくださる方、お願いします
117創る名無しに見る名無し:2011/06/24(金) 00:17:34.73 ID:smTG25et
118創る名無しに見る名無し:2011/06/24(金) 00:59:02.86 ID:1mpZvk76
ゆゆさまァ……
119創る名無しに見る名無し:2011/06/24(金) 01:44:59.25 ID:nJ3LSYLV
乙ぅ…
120創る名無しに見る名無し:2011/06/24(金) 02:51:33.43 ID:9pR2mH/S
乙です
野暮なこと言うけどパチ「ェ」リーになってます
121 ◆TDCMnlpzcc :2011/06/24(金) 05:16:54.73 ID:wIYGbCvA
一応、パチュリーのところは修正

全部直していったらなんか別物になってきた気がする
人称・視点修正
描写修正
誤字修正の最中ですので少しお待ちを・・・・
122創る名無しに見る名無し:2011/06/24(金) 20:03:09.97 ID:D6ISNwl5
乙。
幽々子・・・これは、最後に救われたのかな
123創る名無しに見る名無し:2011/06/25(土) 02:27:52.69 ID:qeRM0kIb
別に修正してほしいまでは言わないが(緊急時だったし
SPAS12は紫が契約で使えないって言って魔理沙に渡した物だから
紫が持ってるのは少し違和感かな

投下乙
幽々子様がここまで狂ってしまうってどんな世界なんだろうか……
救いがあっただけでも幽々子様は恵まれていたのかな
124 ◆TDCMnlpzcc :2011/06/25(土) 08:43:34.90 ID:+zXfGDu9
修正した作品を仮投下しました

125創る名無しに見る名無し:2011/06/25(土) 13:34:27.35 ID:xfSuyptR
乙です。修正前よりわかりやすくていいと思います
126創る名無しに見る名無し:2011/06/25(土) 14:58:25.31 ID:t+c64e1C
乙です

幽々子様は妖夢を手にかけた時からもう…
さて、どんどん人が減ってきて終末が見えてきた感じがするよ
127創る名無しに見る名無し:2011/06/26(日) 19:57:21.98 ID:i3K85TOl
投下乙
てゐは長い間ずっと欲しかったものを手に入れ、それを守って逝ったか・・・
それに比べると鈴仙は悲惨だったな…自業自得というか、逃げ続けたツケもあったかもしれないが
128創る名無しに見る名無し:2011/07/01(金) 15:16:24.54 ID:yGNCL0Ex
保守がてら投下乙
ゆゆ様は最後の最後に元に戻ったみたいだけど、その時見た夢や「妖夢…」が悲しすぎる
ゆゆ様の死が紫のこれからに響かなければいいけど不安だ

それから、前の人のSSの時に言いそびれたけど
魔理沙の状態表に「輝夜を止める」ってあったけど、放送を聞きのがしたような描写はなかった気がするんだよね
ただのミスかな?
129創る名無しに見る名無し:2011/07/02(土) 15:39:38.74 ID:C0dzbFoA
輝夜の死体は偽物って情報もある上での判断なのかも
130創る名無しに見る名無し:2011/07/07(木) 02:31:57.91 ID:gc/biUDX
予約もWiki編集も今はお休み状態なのかな。今までが順調過ぎたってのもあるのかもね
131創る名無しに見る名無し:2011/07/11(月) 23:51:52.29 ID:QdxxQ7aw
おっと……再び予約が……
132創る名無しに見る名無し:2011/07/11(月) 23:59:14.21 ID:t2MhIdaj
wiki編集者も颯爽☆登場!
皆もじゃんじゃん編集しちゃっていいのよ
133創る名無しに見る名無し:2011/07/15(金) 23:35:36.76 ID:xLdIuZZj
予約二つとか胸熱
こりゃ楽しみだ
134創る名無しに見る名無し:2011/07/15(金) 23:57:28.77 ID:/jF4SFgr
あんな状態で霊夢とかピンチ杉わろえない
135創る名無しに見る名無し:2011/07/16(土) 01:09:40.75 ID:PyIAdmni
文とサニーは何とか魔理沙組と合流してほしいけども…。どうなるか気になるね
136創る名無しに見る名無し:2011/07/16(土) 15:17:26.53 ID:XSSoNl2m
この二つが投下されたら放送かな?
137創る名無しに見る名無し:2011/07/16(土) 18:35:02.55 ID:Hz3guTCH
おお!!予約来てるじゃん

いよいよ永琳のところをさばくのか、楽しみに待っています!!
138創る名無しに見る名無し:2011/07/16(土) 23:49:27.26 ID:3G8xydST
>>136
いやいや レミ咲あたりはまだ……って、前回の放送前もそうだった気がする
あそこの二人は書きづらいのかねぇ
139創る名無しに見る名無し:2011/07/17(日) 15:31:21.59 ID:K9couwyw
>>138
今さらレミ咲の対主催化は無理だろうけど、にとり・レティとの戦いで何かが胸中に生じただろうし、行く末が楽しみではある
鍵を握るのはフランかなぁ
140創る名無しに見る名無し:2011/07/17(日) 17:33:33.53 ID:c96hRnDs
>>139
いやいや、レミリアはいまも昔も対主催だろ
141創る名無しに見る名無し:2011/07/17(日) 20:32:31.35 ID:6FwOC1SK
超危険対主催
主催のみならずあらゆるものに憎悪を振りまいているぜ……
142創る名無しに見る名無し:2011/07/17(日) 22:01:47.86 ID:K9couwyw
あ、確かに対主催ではあったな
物凄く危険だけど
143創る名無しに見る名無し:2011/07/18(月) 11:20:48.51 ID:+7F8SjFS
いわゆるマーダー対主催だな
144 ◆Ok1sMSayUQ :2011/07/18(月) 18:51:08.87 ID:BniCB4Fr
 闇夜に映し出された紅の色は、かつて、ほんの少しではあったが行動を共にした、実直に過ぎる鬼の灯火だった。
 崩落していた家屋の木材という木材に燃え移り、未だ生きているのではないかとさえ思える猛々しさをもって自分達を照らしてくれている。
 この戦いに勝てと、生きて生きられなかった無念を晴らしてくれと叫んでいる。
 己を見失うな、敵を見失うなと、伊吹萃香という名の篝火が、藤原妹紅に語りかけていた。
 もう自分は見失わない。萃香の声に応じ、妹紅は真正面に映る虚無に塗りつぶされた瞳を見据えた。
 八意永琳という名の、月の賢者の皮を被った、人間としての理性すら捨ててしまった女を。
 この凄惨な事件の首謀者だと名乗る女が、なぜここをうろついているのかは知らない。
 何の目的があって、何を狙いにしているのかすらも知る由はない。
 けれども、分かる。この女が良心を捨ててしまったことが分かる。
 氷の妖精を傷つけ、古明地さとりの眷属を傷つけ、そして萃香を手にかけた。
 今と同じ、何も映していない目で良心の呵責すら覚えずに。
 妹紅は無言で、右手に新たな炎を灯す。
 一体我が身のどこにこんな力が宿っていたのか、爛々と輝く握り拳大の炎は今まで見てきたものよりも濃密な熱気があった。
 倒すべき敵がいるから? それとも、仲間を殺されたことで怒りが内奥の力を呼び覚ましたから?
 違う、と妹紅は思った。今まで自分が目を背け続けてきたことに、初めて向き合うことができたからだと思った。
 自分を信じること。自らが、連綿と続く命のひとしずくであると本当に信じられたことが自分を強くしている。
 妖怪であるとか、不死の存在であるとか、そんなものは関係ない。
 誰だって体感している時間など違う。見えているものだって違う。誰ひとりとして、同じ時間の中で生きてなどいない。
 全員が孤独。完全に共有し合えるものなどあるはずがない。
 ――だから、繋がろうとする。違い合う中で精一杯に手を伸ばし、何がしかの繋がりを持とうとする。
 少しでも同じ視点に立って、同じ感覚を持つために。
 たとえ寂しさを紛らわせるものでしかなくとも、知を持ち、血を持つ存在はひとりでは生きてはいけないのだから。
 そのために、良心がある。ほんの少しの情愛を分けるために良心は存在する。

「分かっているの、藤原妹紅」

 冷笑を含んだ永琳の声。愚かで、下賤だと見下すのを隠しもしない声だった。
 達観しているようにも聞こえる。繋がることに、何の意味があると問いかけているようにも思えた。
 そんなものは一時の慰めで、己をすり減らすだけだ。ならば最初から割り切ってしまえばいい、とも。

「貴女は死ぬ。他の下賤な連中と同じようにね。特別ではないのよ。死なないことが取り得でしかない貴女が、私に勝てるとでも?」

 利口に考えてみろ。逃げてしまえ。暗にそう語る永琳に、妹紅はやはりという感慨を抱いただけだった。
 良心など必要ないと永琳は言っている。彼女の持つ昏い目は、そうして必要なもの以外を捨ててしまったがゆえのものだった。
 確かにね、と妹紅は認めた。認めた上で、それでもと言い切り、言い返す。
 心は余計なものの固まりだ。雑多で、頑なで、変化するのに多大な時間をかける割には見返りは少ない。
 時に自己を欺瞞し、時に悪さえ為させ、時に間違いも犯させる厄介な代物。
 妹紅自身もそうだった。それゆえ自己嫌悪を起こし、自暴自棄になりもした。

「勝てる勝てないじゃない。私は、やるのよ」

 けれども、良心があるからこそ立ち直ることもできる。
 間違いを認めてやり直すこともできる。
 いつの間にか隣に並んでいたさとりが「確かに、自分を守ることは出来ます」と発する。

「他を犠牲にすれば、自分はいくらでも守ることが出来ましょう。……ですが、それは餓鬼の道というものです」
145創る名無しに見る名無し:2011/07/18(月) 18:51:47.95 ID:A6h39EO1
 
146 ◆Ok1sMSayUQ :2011/07/18(月) 18:52:19.66 ID:BniCB4Fr
 ほんの僅かに永琳が目を細めた。冷笑が消え、色を失う。
 彼女の背後で燃え盛る炎とは対極の寒々とした無表情だった。

「私は、私と繋がるものを失くさせようとした者を、間違いを為して平気でいられる心ない者を許すわけにはいきません」
「他人を見下して、自分さえ良ければという我欲に走るような奴もね。何があっても、それで誰かを犠牲にしていいって理屈はないんだよ」
「愚かなことを言うわね」

 く、と再び永琳の口元に冷笑が浮かび、それは次第に哄笑の形となって裂けた唇となった。

「私の何が分かるって言うの? 自分の都合に沿わないものを悪だと規定して、正義を為したいという気になっているだけにしか見えないわ」

 誰も誰を理解しようとはしない。自らを満足させるがため、自らを救うだけがための行動しか取ろうとしないのが我々だと断ずる哄笑だった。
 他のために、などというのはお為ごかしでしかない。所詮皆同類だと語る永琳の威圧感は凄まじく、気圧されそうになる。

「我欲に走る? そうね、そうよね。あの四季映姫でさえもそうだった。恩を与えた優曇華院も裏切った。誰も私を見ない。救おうともしない。
 だったら、最初から全部否定してしまえば良かったのよ。誰もが自分のことしか考えないのだと思ってしまえば、躊躇なんていらなくなる。
 苦しむこともない。私はただ救われていられる。こんなにも、気持ちが楽なのよ?」

 裏切られたから、裏切ってもいい――永琳が体験した絶望の一片を感じ取り、それゆえ狂気に身を浸すことで救済を選び取ったことに共感めいたものを覚えながらも、
 その奥に潜んでいる、押し殺した怯えの影をも妹紅は見逃さなかった。

「……だから、餓鬼なのよ、クソ医者」

 それゆえ生じた怒りから出た、乱暴にも過ぎる言葉にさとりがぎょっとした気配を見せたが、構うことはなかった。
 この女には貴族面する必要性もなかった。賢者だろうが、何だろうが、妹紅にとっては『その程度』の女でしかなかったからだ。

「救われたがってるだけじゃないの……! 駄々をこねるだけこねて、上手くいかなかったからヘソを曲げているだけ……
 私なんかよりも長く生きているくせに、こんなところで犯した失敗くらい何なのよ! 自分が賢いからって自分の感じたことが全て正しいと思うなっ!」

 救われたいと思うのは、妹紅とて同じだった。苦しいままでなどいたいはずがない。
 だから一度は、苦しみから逃れるために罰を求め、裁かれることで逃げようとした。
 それで本当にやってきたことの責任が取れるのかなどは考えず、己の魂を慰めるためだけに裁きに逃げ込もうとした。
 ――それでも、さとりは自分に良心があると言ってくれた。苦しむのは心があるという証拠で、捨ててしまうのは許さない、と。
 妹紅は頬を張られ、じんとした痛みが走ることでようやく気付かされた。さとりもまた、心があるから苦悩していることに。
 震える指先と、悄然と俯いた顔が、言葉にせずともさとりの苦悶を伝えていた。
 誰だって同じだ。感じる心があるからこそ、理不尽に喘ぎ、償却されない後悔にのたうつ。
 そうであるからこそ、痛みを和らげるためにほんの少しだけでもやさしさを分かち合い、ひとすくいの水を差し出すのではないのか。
 本当に救われようと思うなら、まず自分がやさしさをもって、一緒に歩こうとするべきではないのか。
 自ら歩み寄ろうとせず、なのに救われたがっているだけの永琳は、妹紅からしてみれば努力を放棄しただけの分からず屋としか思えなかった。
 ならば、分からず屋の頑固者には強烈なお仕置きが必要だった。
 話す言葉はないとばかりに、妹紅は生成した火炎弾を放り投げる。
 火の粉を吹きながら真っ直ぐに加速する弾丸は、並大抵の妖怪ならば避ける暇さえない速度だったが、永琳は少し身を反らしただけで回避する。

「……愚かな人間だわ」
147創る名無しに見る名無し:2011/07/18(月) 18:52:50.76 ID:A6h39EO1
 
148創る名無しに見る名無し:2011/07/18(月) 18:53:39.31 ID:A6h39EO1
 
149 ◆Ok1sMSayUQ :2011/07/18(月) 18:53:53.33 ID:BniCB4Fr
 一言吐き捨て、永琳が自らの左右に光弾を展開する。
 手に抱えている鉄砲は使う気がないらしい。弾幕だけで倒せるとは見くびられたものだと思い、
 懐に飛び込もうと腰を低くした瞬間、ぐいとさとりの手が妹紅を引っ張った。

「おい……!?」

 開きかけた反論の口は猛烈に射出され始めた弾幕によって中断を余儀なくされた。
 光弾が光弾をばら撒き、鼠算のように増えながら大量に押し寄せてくる。

「『使い魔』です。避けるのは無謀ですよ」
「『使い魔』……?」

 竹林に引き篭もっていた生活のせいで、幻想郷の決闘ルールにはとんと詳しくなかった。
 使い魔、という単語が意味することも分からなかったが、突っ込むのはまずいことだけは分かった。
 さとりは妹紅の手を引きながら飛翔し、建物の影に隠れて壁にしながら移動を続ける。
 瓦葺きの屋根が弾幕によって次々と破壊され、千々になった破片がぱらぱらと降り注いでくるのを器用に避けるさとりに合わせ、妹紅も必死についてゆく。
 その横顔は冷静そのものだったが、硬く一点を見据える目の光は彼女の内に宿る熱を感じさせ、
 冷めた表情になっているのは度を越してしまった怒りが無表情にさせているのかと鈍い感慨を抱かせた。
 怒って、なお自らを客観視できる彼女ならこの場を任せてもいいか、と信頼の気持ちを覚え始めた妹紅の目の前に、先回りしていた『使い魔』が現れる。

「追跡型ですか……叩きますよ!」

 言ったと同時、既に用意していたのか左右に出現していた手のひら大の薔薇がその花弁からレーザーを撃ち放つ。
 赤と青、それぞれの薔薇から撃ち出された同色のレーザーが永琳の『使い魔』に直撃し、燐光を散らしながら消滅する。
 撫で付ける風を受け止めながら「それも『使い魔』?」と妹紅は尋ねる。

「そうです。……とはいっても、八意永琳ほど自在なコントロールは出来ないのですが――」

 そう言いつつ振り返ろうとしたさとりの背後に新たな『使い魔』が飛来するのを視認した妹紅は、すかさず火炎弾を作り、撃ち込む。
 弧を描くようにして『使い魔』の右から命中した火炎弾はそのまま『使い魔』を燃焼させつつ民家に突っ込み、粉塵を吹き上げながら消滅させる。
 薔薇を向け直そうとして呆気に取られていたさとりに「なるほど、ああやって倒す」と言ってみると、
 ややげんなりした表情になったさとりが「ご覧の通り、私のは自動で照準も不可能で、感知能力もない」と嘆息を交えながら言っていた。

「数もこれが限度です。囲まれれば正直対応しかねます」
「だけど永琳は一度に多数の『使い魔』を操れる上、その精度も高いと来ている」
「各個撃破するのが一番なのですが」
「相手からすれば、そうなる前に囲んでケリをつけたい」
「包囲網は既に敷かれていると考えたほうがいいでしょう。どこかから抜けて、本体を狙わないと……」
「で、冷静沈着な指揮官殿はどう考えるの?」
150創る名無しに見る名無し:2011/07/18(月) 18:54:36.71 ID:A6h39EO1
 
151創る名無しに見る名無し:2011/07/18(月) 18:55:25.66 ID:A6h39EO1
 
152 ◆Ok1sMSayUQ :2011/07/18(月) 18:55:28.99 ID:BniCB4Fr
 嫌味を言ったつもりではなく、状況を見極める能力はさとりの方が高いと考えた上での発言だった。
 物事を真摯に受け止められるサトリほど心強いものはない。
 妹紅の心を読んだのか、それとも察したのか、苦笑交じりに「方法はあります」と頼もしい言葉を発してくれる。

「貴女、広範囲への攻撃は得意ですか」
「不得手だね。私の妖術は一対一を想定したものが多いから」
「結構。なら貴女には八意永琳に突っ込んでもらいます。露払いは私が引き受ける」

 できるの? 尋ねようと開きかけた口はすぐに閉じることになった。
 やってみせる。ここで成し遂げなければ折角助けた同胞の命も助けられなくなる。
 決然とした意志をこれでもかと放つ引き締まった顔は、サトリではなくサトラレではないかとも思え、妹紅は微笑を浮かべていた。
 心を読める妖怪にしてはあまりに実直ではないかと思ったからだった。
 どうやら、彼女に良心の存在を教えたさとりの友人とやらは余程変り種のようだ。
 そう、まるで、上白沢慧音のような――
 心のうちで慧音の姿を呼び起こしたとき、「……慧音さん?」とさとりが呟いた。

「ん、ああ。私の友達で……」
「……私の、友人でした」

 そこで妹紅は気付く。心を読んだから慧音の名前を知ったのではなく、以前から知っていたから慧音の名前に反応したのだと。
 慧音は顔が広い。さとりが友達でも不思議ではない。だが、それはさとりが『地上の』妖怪であったらという話で……

「私は慧音さんと一緒だったことがあるんです」

 先回りをするようにさとりは喋っていた。この場で、ここに来て初めて、さとりと慧音が出会ったことを。
 隠していたことを、告白するように。
 違う、偶然の一致だと妹紅は思い直す。こちらから慧音の存在を告げたことはないし、考えもしなかった。
 さとりも自分と慧音が親しい関係であるとは思いもしなかったはずだ。
 たまたま、互いが互いの友人に気付かなかっただけ。それだけであるはずなのに、なぜ、そんなに苦しそうに話す?

「それで……私の軽率な行動で……慧音さんが私を庇って、死にました」

 そのときの様子を言葉として形にできないのがたまらなく辛いというように、さとりは唇を引き締めていた。
 誰かを庇って死ぬ。いかにも慧音らしい最期だと納得する一方、
 だからこそ彼女を死なせてしまったことがさとりの罪悪となってしまったのかもしれない。

「これでは、貴女のことを許せないなんて思う資格はありませんね」

 見ていて悲しくなるくらいの穏やかな声だった。
 裁きを待ち受けていたときの自分も、こんな面持ちだったのだろうか。
 ふと考え、しかし理屈で考えるほどにはさとりに対する恨みが募っていないことに妹紅は不可思議な気持ちを覚える。
 結果だけ見れば、さとりが慧音を死なせてしまったと考えることもできる。のうのうとさとりは生き長らえ、
 あまつさえ妹を殺害したことを許せないとさえ言い張っている。自分のことを棚に上げた勝手な妖怪と思うことは簡単だった。
153創る名無しに見る名無し:2011/07/18(月) 18:56:17.68 ID:A6h39EO1
 
154 ◆Ok1sMSayUQ :2011/07/18(月) 18:56:41.86 ID:BniCB4Fr
「でも、違うよ、それは」

 頭の中に入ってこようとする理屈を押し退けて、妹紅はさとりに言い放った。
 私は知っている。そうして事実を言えるのは誰の中にも良心があるからなのだということを。
 私は知っている。自分達が持っている心を大切にできるのなら、誰だって生きていてもいいということを。
 さとり自身は、まだどこかで自分のことを最低な妖怪だと思っているのかもしれない。
 サトリという妖怪が歩んできた歴史。その内に潜む暗黒。まだ何も知らない。
 それでも、彼女は善くなろうとしている。それが分かる。
 自らの歴史の闇と向き合い、苦しくとも、己の意志で決めて少しはマシな明日を歩もうとしている。
 拒絶されるかもしれないという恐怖と向き合いながら、精一杯に手を繋ごうとする。
 ほんの少しの情愛と、ひとすくいの水を差し出すやさしさで。

「やったことはそりゃ、間違ってるのかもしれないけど……でも、あなたは私に話してくれた」

 だから、分かり合えたと思う。理屈だけで受け止めず、憎む以外の感情で受け止めることができた。
 口に出してしまうと端から溶けて消えてしまうような気がして、妹紅は心の奥底に仕舞い、代わりに記憶に残る慧音の姿を引っ張り出す。
 いつでも自分に良くしてくれた風変わりな半人半獣は、次第に目の前のサトリと重なり、内奥で生きていることを妹紅に感じさせた。
 こうして、知と血を、想いを持つ者の存在は伝わってゆくのかもしれない。
 一瞬の交差を、言葉や文字、絵画や、歌にして語り継いでゆくのかもしれない。
 だったら、私は。私は、誰と交わっているのだろう?
 ふとそんなことを思い、しかしすぐに答えを見つけ出した妹紅はふっと微笑を浮かべた。

「だから、私は赦すよ。だから……さとりも、自分を赦しなよ、ね?」

 既に自分は赦している。生きることの刻苦から絶対に逃げないと、今は本気で思えているから。
 今度は自分が、手を差し出してみようと初めて思えたから……妹紅は、さとりの名前を呼んだ。
 目を見開き、戸惑いの色を見せたのも一瞬、さとりも「妹紅……」とおずおずと口を開いた。
 ただ、名前を呼び、呼ばれただけ。ひどく遠かったようにも思え、しかしようやく当たり前の道を踏み出せたという実感もあって、
 妹紅はそれだけで十分だという気持ちになっていた。

「その、私は――」

 一方のさとりはまだ伝えきれないことがあるらしく、さらに口を開きかけたが、殺意を伴った思惟が対話の時間を終わりにした。
 民家の影に隠れていたらしい『使い魔』達が一斉に飛び出し、薬莢に似た形状の連弾で妹紅達を狙い撃つ。
 無粋な闖入者に邪魔されたのを疎ましく思いながら、妹紅とさとりは弾かれるように別々の方向へと走り出す。
 直後、一点集中で直撃した場所から凄まじい量の土煙が上がり、火の余韻を残す夜空へとたなびく。
 これが反撃の狼煙となるか、絶望へと導く暗雲となるか。今一度の賭けとしては悪くないと感想を結びながら、妹紅は無人の街中を駆けた。

     *     *     *
155創る名無しに見る名無し:2011/07/18(月) 18:56:59.81 ID:A6h39EO1
 
156創る名無しに見る名無し:2011/07/18(月) 18:58:14.00 ID:A6h39EO1
 
157 ◆Ok1sMSayUQ :2011/07/18(月) 18:59:03.90 ID:BniCB4Fr
 飛び出していった妹紅はわき目も振らず、そのまま街路をひた走ってゆく。
 話すだけ話して、一人で先に行ってしまった。まだこっちの話は終わっていなかったのにと微かな不満を抱きながらも、
 さとりは一方で話すこともないかという思いも抱いていた。
 言葉にしなくとも互いに少しは思いやれる関係が、今の自分と妹紅にはある。
 自分の名前を、さとり、と呼んでくれたのはその証拠だろうし、こちらも自然と妹紅という名前が口を突いて出た。
 先ほどまで敵意にも近しい感情を抱いていて、二人称で呼び合うことしかできなかったのに。
 永琳が放った『使い魔』の射撃を避けながら、さとりは反撃のレーザーを撃ち返し、まず一体を消滅させる。
 それでも周囲から、虚空から、新たな『使い魔』がわらわらと湧き出てくる。
 恐らくは妹紅を追尾しているものもいるはず。このまま分断させ、じわじわと物量で押し込むつもりか。
 本気になった月の賢者とやらは嘘偽りなく、参加者間でもトップクラスの実力を誇るのであろう。
 正面に集まった『使い魔』をレーザーで消し飛ばし、さらに背後に回り込もうとしていた一体を手製の中型弾で撃破する。
 気配を読むのは昔から得意だ。常に他者の目を窺い、嫌われ者であろうとも地底の主たらんと監視を行い続けてきたことがここで生かされるとは。
 何が役に立ち、不得手をカバーするのか分からないものだ。苦笑を浮かべ、だから現在に絶望するのはまだ早いと考えることができた。
 生きて、諦めずに歩いてさえいればいつかは報われるときが来るのかもしれない。
 それがいつになるかは皆目分からず、どのような形でというのも不明瞭だが、少なくとも信じられるだけの可能性はある。
 東風谷早苗を初めとする人間も、いつかは報われることを信じて歩き続けているのかもしれない。
 分かり合えないという刻苦。進歩の歴史が途絶してしまう逼塞。互いを憎み、支配することでしか救いを得られないとする悲しい信仰……
 そんな理不尽全てから解放される世界を目指して、人は歩き続けてきたのかもしれない。
 だから臆面なく踏み込める。早苗の強さはそこにあったかと鈍い納得を得て、妹紅もそうなのだろうと思うことができた。
 早苗の『それでも』という言葉、妹紅の『赦す』という言葉。
 たったひとつの勇気を振り絞るだけで、自分にも他人にも手を差し伸べることができるのに。
 本当の救いは、手を伸ばしたすぐ先にあるはずなのに。
 妖怪は――いや、私達は、それを直視しようとしない。なまじ賢いがために諦めることを覚えてしまったから。
 永琳の諦念も分からないではなかった。むしろ、理解してさえいた。
 悪意は存在する。自分もまた悪意の一部を抱えている。感情が、裏切られたという失望が、悪を為しさえする。
 でも、それだけじゃないでしょう? 物陰から現れ、小指の先ほどしかない小型弾をバラバラと吐き出す『使い魔』の弾幕をグレイズしていなしつつ、
 さとりは赤薔薇の『使い魔』のレーザーで撃ち返し、最小限の攻撃で破壊する。
 私達は雑多だ。白一色でも黒一色でもなく、様々に交じり合った色で構成されている。
 刻々と色を変える自分達は、意志しようが無意識であろうが悪を為そうとすることもあれば、意志した善で、あるいは無意識の善で優しくなることもある。
 ルーミアを、妹紅を許せないと感じた自分の姿と、それでもと良心を信じようとした二つの自分を思い浮かべて、
 さらに押し寄せる『使い魔』の群れ――他者に対する不信と敵意、そして自己愛で満ちた永琳の思惟そのものに相対する。
 絶望はしない。いや、まだ絶望するには早すぎる。狭い狭い幻想郷で、何もかもを知った気でいるのは性急に過ぎる結論だとさとりは思う。
 何百年、何千年という時間は問題ではない。知るに必要なのは、知ろうとする意志、広がろうとする意志なのだと叫んで、さとりはとっておきの弾幕で殲滅を図る。

「想起……『テリブルスーヴニール』」
158創る名無しに見る名無し:2011/07/18(月) 18:59:58.29 ID:A6h39EO1
 
159 ◆Ok1sMSayUQ :2011/07/18(月) 19:00:33.36 ID:BniCB4Fr
「想起……『テリブルスーヴニール』」

 大きく伸ばした腕を一振りすると同時、一斉に弾け飛んだ大小の光弾が四方八方に乱れ飛び、包囲しつつあった『使い魔』達に襲い掛かる。
 範囲が広いものの、さしたる弾速を持たない『テリブルスーヴニール』は普通ならば格好の回避の餌でしかなかったが、
 こと動きの遅い『使い魔』には非常に有効な攻撃手段だった。
 当たったそばから破裂を繰り返し、一様に広がる爆発染みた光景を眺めながら、さとりは残る『使い魔』の追い討ちに向かおうとして、
 唐突に爆発の向こう、まだ靄の残る白の先から一直線に伸びた思惟を感じ取っていた。
 反応することができたのは、自分がサトリであるからに他ならなかった。必死に身体を捩ったが、たたた、というやけに軽い音の方が先だった。

「ぐ……!」

 肩に掠り、痺れるような苦悶に頬を引き攣らせながらも致命傷だけは避けることのできた幸運を噛み締めつつ、
 さとりはようやく現れた思惟の主へと眼光を走らせる。
 赤と青。昼と夜。炎と氷。それらを想像させる二色の服と、縫い糸のようなきめを持つ銀色のお下げ髪。
 一撃必中を期したのであろう、未だに硝煙をたなびかせる銃を片手保持しながら姿を現した八意永琳は、想像外の自分の勘のよさに少し苛立った様子だった。
 弾幕の残滓か、それとも残るくらいには冷えた温度なのか、滞留し続ける靄の中を永琳が歩いてくる。
 応じるようにしてするすると集まってくる『使い魔』が数体。恐らくは自らの護衛用として残したものなのだろう。
 肩を押さえながら、さとりはじりと後退して距離を取ろうとする。しかしその行為もすぐに、民家の壁に当たることで不可能になってしまう。
 逃げられはしない。狙いを外さない永琳の銃口がそう語り、それとわかるほどに薄い唇が歪められた。

「一撃で仕留められなかったのは計算外だったけど、結果は変わりはしないわ。まずは貴女からよ」
「最初から私を?」
「その能力は少々厄介でね。封じておくに越したことはない」
「……それは、心を読まれると貴女には不都合だということですか」

 動揺を誘うつもりで口を開いたが、永琳は無言のまま冷ややかな視線を寄越した後、向けていた銃口をスッと変え、一発発砲した。
 永琳の視界外にいたはずのさとりの『使い魔』が破壊され、赤い花弁を散らす。
 奇襲も最初から読まれていたかと断じて、睨みつけてみたはいいものの、返ってきたのはしんと空気を冷え込ませるような、汚物でも見る目だった。
 どうやら戦略上の理由だけではなく、個人的にも気に入られていないらしい。そうだろうとさとりは思った。
 常に物事を観察し、コントロールしている立場である永琳は観察されることを極端に嫌う手合いだ。
 心を覗けるさとりは彼女にとっては不快の一語でしかないのだろう。慣れ親しんだ感触だと思い出す一方、
 そうして己の恐怖を押し付けてくることに対する怒りがむらと湧き上がり、我知らず眉根を歪めていた。

「誰が、何を感じているかなんて私は知りたくないし、知られたくもない。それは弱みを見せることでしかない。
 自分は自分しか救いたくない。他者は自らを幸福にするための道具でしかない。愛することも、愛されることも在り得ない」
160創る名無しに見る名無し:2011/07/18(月) 19:00:39.05 ID:A6h39EO1
 
161 ◆Ok1sMSayUQ :2011/07/18(月) 19:01:42.72 ID:BniCB4Fr
 全ての表情を吹き消し、感情を拭い去った声で永琳は言った。
 ゾッとするほどの穏やかな、無色透明の声色はそれもひとつの真実なのだろうと無条件に思わせた。
 突き詰めてしまえば、全てがその結論に至る。優しさも、助け合うことも、全て己を救うためのガジェットにしかなり得ることはない。
 一人ではできることが限られてしまっているから群れを成しているだけで、味方を作ろうとするのも自分のため。
 でも、そんなのは当然ではないかとさとりは思った。我が身が可愛くて、一番に考えるのは当たり前で、誰しもが持つ考えだ。
 だがそんな自己愛だけでは寂しく、疑い合い、利用し合うだけの世界も寂しいと感じるから私達は良心を持ち始めたのではないのか。
 早苗も、妹紅も、踏みとどまって理屈に逃げ出さなかった。
 それでもと良心を信じ、否と唱え、逼塞しようとする今を切り拓こうとしている。
 自分も彼女達を知った。何度も間違えそうになりながらも他人に触れて、心を読まずとも、同じように苦しみながら生きていることも知った。
 この女は妹紅の言う通り、絶望する自分が正しいと信じているだけの臆病者だ。
 胸の底がしんと冷たくなり、慧音の命を宿して生きているこの身に触れさせるわけにはいかないと決意を固めたと同時、腕が自然に振り上げられていた。

「――想起『アマテラス』!」

 道の半ばほどに差し掛かっていた永琳の頭上で、突如として夜空が太陽の如き閃光を放つ。
 さとりの『使い魔』はもう一体残っていた。青い薔薇を模した『使い魔』は事前に夜空に打ち上げておき、このスペルのための依代としたのだ。
 『アマテラス』はその名の通り夜を照らし出すほどの高密度レーザーの群れで地上に向かって砲撃を行う広範囲弾幕であり、
 さとりが民家の軒下に移動したのも逃げるためではなく『アマテラス』の直撃を避けるためだった。
 保護した霊烏路空と氷精はそれなりに頑丈な家――確か里で一番大きな寺子屋だったか――に避難させているから平気だし、
 妹紅にしても『使い魔』を移動させた意図には気付いているだろう。
 放たれた『アマテラス』のレーザー群が真っ直ぐに地上へと向かい、次々とありとあらゆるものを破壊し尽くしてゆく。
 ぽつんと永琳の周囲に浮いていた『使い魔』は瞬時に消し飛び、永琳自身も光の中に塗りつぶされてゆく。
 妖怪の天敵でさえある太陽の光。しかし恵みももたらし、守ってさえくれる、暖かな慧音の光。
 鮮烈な『アマテラス』の眩さが、周囲を押し包んだ。

     *     *     *

 それは、遠い昔に見た覚えのある光だった。
 人目を忍ぶようにして産み落とされ、薄暗い部屋の窓から眺めるしかなかった光。
 不死になってからは隠れるようにしか生きられなくなり、竹やぶや薄暗い森の中から眺めることしかできなかった光。
 幻想郷に来ていつでも見られるようになりながらも、生来の習い性で目視することを拒んでさえきた光。
 あれは、妹紅には眩しすぎるものだった。輝いているがゆえに、日陰者の自分は否定されてしまうのではないかというわけもない恐怖、
 わけもない怖れでいつも一歩が踏み出せなかった。
 けれども、いざ触れてしまえば何ということはないもので、それは忘れていた様々な記憶を妹紅に思い出させてくれた。
 肌をそよぐ気持ちのいい風と、どこまでも透き通った色を覗かせる空の青。
 様々な形を成す雪のように白い雲と、暖かく自分を覆ってくれる太陽の光……
 すっかり忘れていた。自分にもこんな時間があり、とても満たされていたということ。
 拙い手毬歌に合わせて、手拍子をしてくれた『父』という存在があったということを――
 だから、言える。藤原妹紅の人生は、全てが無為な闇に包まれていたのではないと本気で言うことができる。
 誰にだって、光はあるものだから、もう「こんな私でも生きてていいのか」なんて無様な問いはしない。
 どこまでも歩いてゆく。光の紡ぐ先、青の向こう側にある空の彼方にだって……!
162創る名無しに見る名無し:2011/07/18(月) 19:02:00.31 ID:A6h39EO1
 
163創る名無しに見る名無し:2011/07/18(月) 19:02:54.67 ID:A6h39EO1
 
164 ◆Ok1sMSayUQ :2011/07/18(月) 19:02:56.99 ID:BniCB4Fr
「永琳ッ!」

 『アマテラス』の直撃を受け、『使い魔』を失い文字通りの丸裸となった永琳へと向けて家から飛び出した妹紅が疾駆する。
 既に握りこんでいたフランベルジェに、生成した炎が走り、刀身が熱を帯びて赤く染まる。
 波打った刀身がゆらと揺れ、陽炎が起こっているようにさえ感じられる。
 ただの剣ではない。前へ前へ進む思惟を受け取った、妹紅の意志を体現した剣と化していた。
 振り返り、妹紅の突進に気付いた永琳が始めて焦りの感情を滲ませる。
 咄嗟に鉄砲で牽制しようとしたが、距離はもはや数歩分しか開いていない。
 間に合わないと判断したのか、しかし永琳は回避行動を取ることもなく、手のひらから剣を生成していた。
 驚いたのは妹紅の方で、手から突如として現れた三日月刀の形状をした黒色の剣にこいつは手品師かと慄然とする気分を味わった。
 何か仕込まれているかもしれない。退くか? と一瞬考え、それこそ永琳の思う壺だと判じてそのままフランベルジェを振りかぶる。
 呼応するように永琳も黒色剣を横に引き打ち合う構えを見せた。
 ほんの僅かな、刹那にも満たない交錯。互いの獲物が交差し、紅と黒の燐光を暗夜の花火と散らし、妹紅と永琳がすれ違う。
 確認する。お互いに傷はない。すぐさまターンし、再度妹紅は地面を駆ける。
 反転して向かってくる妹紅に応じて永琳も近接戦の続行を選ぶ。完全にインファイトとなり、互いが真っ向から勝負するブルファイトの様相を呈していた。
 ぴたりとそれぞれの目を見据え、激突。一歩も引き合わず、刀が擦れ合う度に紅の、黒の破片が散りあう。

「その黒い剣……弾幕か……! 考えたものね!」

 押し込もうとして果たせず、力を逃がされて元の鞘に収まる。
 少しずつ。少しずつ回転しながら、言葉の鍔迫り合いも始まる。

「でも、実体のない弾幕じゃ私が押し勝つ!」

 弾幕を生成する際に使う妖力を塗り固めて刃物の形状にしたものが永琳の武器。
 エネルギーを固定化させ、自在に操ってみせるのは永琳ならではの芸当だったが、
 本来拡散するだけの弾幕を無理矢理押し留めているために強度は不安定だ。だからこそ、永琳は遠距離での戦いに拘った。

「それにあんたは怯えてるだけ……! 世界で自分が一番不幸だって思ってて、だからどんな酷いことをしてもいいって、そう考えてる臆病者だ!」
「何が悪い。ずっと前から、私は一人なのよ? 自分は自分でしか救えないと分かってるから。だから、私は全部、全部、自分のためだけに使う」
「輝夜もそうだって、言いたいの!?」

 フランベルジェに送る熱をさらに増やし、刀身に押さえきれなくなった炎が拡大して火の粉を撒き始める。
 黒色剣にひびが入り、舌打ちした永琳は一旦弾いて剣を再構成するが、組み直したところでどうにかなるものではない。
 炎剣と化したフランベルジェを袈裟に振り下ろす。脳天に直撃するかと思われたそれは、永琳がすんでのところで黒色剣で受け止める。
165創る名無しに見る名無し:2011/07/18(月) 19:03:35.44 ID:A6h39EO1
 
166 ◆Ok1sMSayUQ :2011/07/18(月) 19:04:29.11 ID:BniCB4Fr
「輝夜は死んだ。もう何もできることはない。死んでしまったから、もう私の罪は償えない……!」
「罪……!?」

 硬く重たい言葉の響きに、僅かながらに永琳の本心、感情が乗せられていたような気がした。
 救われたいという彼女の言葉。自分しか愛せないという彼女の言葉。他者の良心を認めようとしない彼女の言葉。
 折り重なってゆく言動のひとつひとつが、妹紅に予感を抱かせる。
 彼女もまた同類。一歩を踏み出すことのできない、同類なのだと。

「私は、罪を清算して、救われたかったのよ。輝夜に付き従ったのもそのため。忠誠心もなにもなかった。
 輝夜もそれは分かっていた。分かっていたから……死んだのよ。私を嗤うために」
「っ……そんなの、理屈でしょう!」

 納得しかけた自分を振り払って妹紅は叫んだ。
 どこまでも立ちはだかる理屈という名の壁。
 知を持ち、考えられるからこそ辿り着いてしまうひとつの終着点。
 永琳は、真実救われたかったのだろう。自分のために輝夜に付き従い、自分のために輝夜に時間を費やした。
 ゆえに輝夜の死を了解することができなかった。己を救う希望が消えてしまったことが認められず、やがて達した結論は……

「だから……輝夜も自分を見捨てたって思うの!? 最初から救ってくれる存在じゃなかったって言いたいの!?」
「輝夜は私を嫌っていた。嫌いな私を見下すために死んだのよ」
「違う! 理不尽を人のせいにするな!」
「……あなたは、輝夜の味方がしたいの? 殺しあってたくせに?」

 乾いた哄笑が浮かぶ。それは妹紅を嘲笑い、自分が可哀想な存在だと肯定するような笑いだった。
 どこまでも悲劇のヒロイン面をして恥じない永琳に、カッと頭が熱を帯びるのが分かった。
 こいつは、主催者なんかじゃない。巻き込まれただけの……だがとびきり我が侭を言い散らす愚か者だ。

「さっきから言ってんでしょ……自分が世界で一番不幸だとか思ってんじゃないわよ! この、大馬鹿女ッ!」

 決着をつける。他者を拒絶してやまない永琳を分からせるために、妹紅は半ば防御を捨てた突きの構えを取る。
 ただ事ではないと判断したのか、永琳は黒色剣を投擲し動きを止めようとしたが、さながら猛り狂う炎となった妹紅を止められるものではなかった。
 左太腿に突き刺さり、鉄杭で打たれたような衝撃が走ったが、突きは止められない。
 剣の切っ先は正確に胸の窪みを向いている。刺さる、と確信を抱いた瞬間、永琳のスカートの影から小型の『使い魔』が現れた。
 まだいたのか!? 呆れるほど用意周到な永琳の隠し玉に、嵌ってしまったのだと妹紅は自覚した。
 フランベルジェの切っ先が『使い魔』に触れた瞬間、消滅した『使い魔』から行き場を失ったエネルギーが拡散し白い靄となって視界を覆う。
 永琳の姿がかき消える。反撃がくるかと身構えたが、違う、これは目くらましだと自分か、誰のものかも判然としない声が耳打ちした。
 そうだ。永琳は最初からさとりを狙い撃ちした。剣戟を交わしている間も空虚な言葉しか交わさず、端から問題外にしている風すらあった。
167創る名無しに見る名無し:2011/07/18(月) 19:05:26.22 ID:A6h39EO1
 
168 ◆Ok1sMSayUQ :2011/07/18(月) 19:05:37.17 ID:BniCB4Fr
 じゃあどうするんだい、とまたもや響いてきた声が問いかける。
 ……決まっている。理屈を超えるには、理屈を超えた力が必要だ。
 やってみるかい、人間? 私の萃める力、想いを伝える力、貸すよ。

 声の主の正体を、妹紅はようやく理解していた。
 伊吹萃香。いや正確には、萃香の力の残留思念とも呼ぶべきものだろうか。
 永琳との戦いで散らばりに散らばった、萃香の力の残滓が再び萃まり妹紅に語りかけている。
 気持ちすら萃める力。気持ちすら伝える力。誰もが望み、誰もが得ることのなかった、思惟を紡ぎあうための力。
 夢から醒めた面持ちで周囲を見つめる。未だに白い靄で覆われてはいるものの、妹紅には全てが見える。
 頑なに他者を拒み続ける永琳の思惟も、生硬い意志を含ませ、死を半ば覚悟して不明の状況に望むさとりの思惟も。

「死なせない……! 私の友達を、死なせるもんか!」

 絶叫して妹紅が身体を走らせたのと、永琳が銃を持ち上げたのは、同時だった。

     *     *     *

 真っ直ぐな思惟がさとりを貫いたと同時、人影が躍り出てくる。
 腰のあたりまで綺麗に伸びた長髪が目の前を舞い、華奢ながらも凛として立つ背中が眼前を埋めた。
 こんな背中を、前にも見た覚えがある。不実を自覚しながらも、なお誠実に生きようとしていた一生懸命な人を。
 済まなかったな――死の間際になってようやく語られた本音が思い出され、さとりは無意識にその背中に手を伸ばしていた。

「死なせない……! 友達だからって、そんなことはしなくていいんです!」

 服の裾を力の限りに引っ張ったその刹那、永琳の銃が火を吹き、妹紅とさとりの間を擦過した。
 二人の、心臓にも、肺にも、どの急所にも、当たることはなく。
 偶然という力学が働き、死なせまいとさせているかのようだった。
 無論無傷だったわけではない。妹紅は足を撃ち抜かれ、さとりも差し出した右手の甲を撃ち抜かれた。
 ぐっという呻きが漏れる。それが自分のものなのか妹紅のものなのか判然としなかったが、まだ自分達が生きていることは確かだった。
 ほんの一瞬目を閉じ、次に開いたときには「在り得ない……!」と二人ともを殺しきれなかった永琳が憤怒に狂った声を絞り出す。
 なぜ、と問うてさえいるような見開かれた瞳に、さとりは「それは貴女の心根がさせたことだ……!」と裂帛の叫び声を放ち、能力を全開にする。

「恥を知りなさい! 八意永琳!」

 さとりの『第三の目』が睨み、永琳の目と合い、哀れとさえ思えるほどの怯えの色に染まる。

「……やめろ」

 心を本気で読んだわけではないし、読めるはずがない。しかしそれでも、己を知られる恥辱に、恐怖に耐えられない永琳の心が拒否しようとする。

「私の中に、入ってくるなぁっ!」
169創る名無しに見る名無し:2011/07/18(月) 19:06:08.58 ID:JUZOG8mr
170創る名無しに見る名無し:2011/07/18(月) 19:06:14.42 ID:A6h39EO1
 
171創る名無しに見る名無し:2011/07/18(月) 19:06:45.00 ID:loEA8NZA
172 ◆Ok1sMSayUQ :2011/07/18(月) 19:07:05.69 ID:BniCB4Fr
 再び銃を向け、引き金を引こうとする。
 だがさとりは永琳がそうすることを読んでいた。

「想起」

 血走った目を静かに見据え、血が流れ続ける手のひらを天に掲げる。

「『金閣寺の一枚天井』ッ!」

 彼女の中に潜むトラウマを呼び覚ます弾幕。
 彼女が、本来は心の奥底では思慕しているはずの、蓬莱山輝夜の弾幕だった。
 気付いたときにはもはや遅い。崩れることさえ自覚させず落ちてくる『金閣寺の一枚天井』が脳天に直撃し、身体をゆらめかせる。
 そのまま数歩ほどあらぬ方向へとふらつき、倒れるかと思われた永琳は、しかし獣染みた咆哮を上げてさとりの方向へと突進してくる。
 良心があるはずがない。そうでなければ――
 流れ込んできた心を見つめながら、さとりはもうひとつのトラウマを呼び覚ます。

「想起『永夜返し』」

 攻撃意志に反応し、刻んできた時間に比例する弾幕を放つ『永夜返し』は、無警戒に突っ込んできただけの永琳に一発も余さずに全弾を叩き込んでいた。
 百や千という単位ではない。万、億という単位の弾幕を受け、ほぼ満身創痍の状態に陥りながらも永琳は倒れなかった。
 しかし……その視線は、あらぬ方向へ向いていた。
 いや違う。彼女の視線の先、茫洋とした視線の先に在るものは、月だった。

     +     +     +

 月を初めて見た夜だった。
 見下ろすばかりだった地上から眺めるかつての故郷は小さく、ちっぽけで、滑稽にすら映っていた。
 自分を救うため、罪を購うため、全てを捨てたのだから、もう何も感じなくなっているのかもしれない。
 欲のために蓬莱の薬を作り、何の罪もなかった輝夜を巻き込み、まだ浅ましく己のためだけに逃げ出して……
 きっと恨んでいる。穢れきった身体にした自分を憎み続けているはず。
 ただ、死ぬこともできないから全てを諦めているだけなのだ。諦めているから、自分を側に置いている。
 それでもいい。それでも……

「月って、小さいのよ? 知ってた?」
「は……」

 月にいるときとは変わった、穏やかで覇気を失った声。
 ぼんやりと空を眺めていた自分に、輝夜が声をかけてきたのだった。
173創る名無しに見る名無し:2011/07/18(月) 19:07:59.26 ID:A6h39EO1
 
174創る名無しに見る名無し:2011/07/18(月) 19:08:02.65 ID:JUZOG8mr
175 ◆Ok1sMSayUQ :2011/07/18(月) 19:08:13.77 ID:BniCB4Fr
「私はここに来たとき、初めてそれを知った。穢れだらけとか聞いてたけど、案外そうでもなかった。
 みんな精一杯で、つまらないことに血道を上げて、じたばたしてる。とっても面白くてね」
「……」
「私は、そんなこともできなくなった。でも仕方がない。なるべくしてなったことなんだもの。
 もうどうしようもないなら、諦めて受け入れるまでよ」
「……」
「でも、そこで終わりじゃない。こうなったら、せいぜいのんびり暮らしてやるわ。
 わがままに暮らし抜いて、あいつらを見返してやるのよ。こんな私でも生きてる、ってね。
 共感してくれる馬鹿な従者もいてくれるしね」

 無言で、見返す。
 相変わらずののんびりとした、凛々しさの欠片もない笑い。
 世界に絶望した、有限を失った人間の皮肉。
 当時は、そう思っていた。

 ――でも、そうではなかったとしたら?

 絶望したのではなく、一からやり直そうと決めたが故の諦めだとしたら。
 月の生活も、立場も、本人の中できれいさっぱり清算した上で、仕方がないと言ったのだとしたら。

 ――違う! そんなわけがない!

 そんな風に考えられるのだとしたら、輝夜は自分を恨んでいないということで……
 恨んでいないはずがない。こんなに、酷いことをしたのに……仕方がないの一語で、済ませるはずがないのに!

「和の心っていうのがあるそうよ、地上には」

 出し抜けに紡がれた輝夜の言葉は、妄想ではなかった。
 確かに一度、この言葉を聞いていた。
 聞いていたのに、忘れていた。言葉の中身が信じられずに忘れていたのだ。
 輝夜は自分を嫌っていなければならず、自分は自分のことしか考えていない人間でなければならなかったから。

「地上の人間は調和を尊ぶんだって。嫌なことも、いいことも受け入れて自分の中で新しくこね直す」

 手のひらの中で、なにかをこねる仕草をする。
 唐突に、永琳は生まれ変わりという言葉を思い出していた。

「素敵だわ、って思った。最初に聞いたときは信じられなかったけど、今なら信じていいって思ってるの。
 なんやかんやってあったけど……幻想郷は、いいえ、地上は、私達ですら飲み込んだから」

 別人と化してしまったかのように感じていた輝夜は、生まれ変わっていただけだった。
 絶望から生まれた諦めではなく、そうなってもいいかという諦めによって。
 だったら、私は、とんでもないことを履き違えていた……?
176創る名無しに見る名無し:2011/07/18(月) 19:08:46.00 ID:A6h39EO1
 
177創る名無しに見る名無し:2011/07/18(月) 19:09:28.12 ID:A6h39EO1
 
178創る名無しに見る名無し:2011/07/18(月) 19:09:34.23 ID:z+L+5n0F
179 ◆Ok1sMSayUQ :2011/07/18(月) 19:09:45.00 ID:BniCB4Fr
「だから、私は全部赦すわ。永琳も……自分を赦してあげて、ね?」

 そのとき、私は拒絶していた。
 理屈しか信じられなかった私は、無言で輝夜の手を振り払った。
 振り払われて、とても寂しそうな表情の輝夜しか、後には残らなかった。
 あれが本当の救いであったはずなのに、そんなことを言うはずがないという恐怖に負けて、

 ――でも、それでも、これが幻でしかなくとも。

 輝夜が、愛してくれているのだと思えるのなら。
 振り払った手で、やり直しを求めるように、永琳は、ゆっくりと、
 輝夜の手を包んだ。

     +     +     +

「申し訳ありません、姫様」

 淡々と最後にそう呟いたかと思うと、ゆらりと動いた永琳の銃が、己の頭に突きつけられた。

「っ! 待っ――!」

 薄く笑った永琳の意図に気付き、さとりが静止をかけようとしたが、遅かった。
 寸分の躊躇もなく引かれた引き金が銃弾を撃ち出し、永琳の頭に血の華を咲かせた。
 意外なほど綺麗に貫通した銃弾は頭部を砕くことなく、血飛沫を少しだけ撒き散らして彼女の生に幕を下ろした。
 何を思って永琳が自殺という選択肢を取ったのかは分からない。
 心を読まれた屈辱か、死を身を委ねたくなったのか、それとも、救われたのか……知る術はなかった。

「……なんでもいいさ。とにかく、私達が生きた……」

 そんな自分の呟きを受け取って、さとりが地面に座り込む己の姿を見下ろしてくる。
 怪我はそこまでないようにも見えるが、疲れた表情をしている。
 『金閣寺の一枚天井』と『永夜返し』を連続で撃ったのだから当然なのかもしれなかったが。

「馬鹿ですよ、妹紅は」
「何よいきなり」
「大馬鹿です。ほら、立ちなさい」
「……そっちだって……」

 命賭けてたくせに。言い出そうとして気恥ずかしくなり、心を読んでくれることを期待してみたのだが、
 さとりは仏頂面で怪我をしていない方の手を差し出してくるばかりで、読んだのかそうでないのか判然としない。
 ふと妹紅は思った。どうして手を差し出してくるのだろう、と。

「足。そんなのじゃ歩けないでしょう。肩を貸します」
「あー。そんなのすぐに治……らないか」
180創る名無しに見る名無し:2011/07/18(月) 19:10:34.51 ID:JUZOG8mr
181 ◆Ok1sMSayUQ :2011/07/18(月) 19:11:04.13 ID:BniCB4Fr
 赤いもんぺを履いているため怪我がどうなっているのか分からないが、ズキズキと痛むため治ってないのだろう。たぶん。

「治ってても肩を貸してもらいます。こっちも無事ではないので」
「なんか、物言いがズケズケしてきてない?」
「……いけません、か?」

 そこで済まなさそうに身を縮ませるものだから、憎まれ口を叩く気力が抜けてゆく。
 遠慮しているのか図々しいのか全く分からず、どう口を利いたものかと迷いに迷った挙句、
 「あーもう! ほら!」と手を差し出して有耶無耶にすることにした。
 距離感を測ることを怠っていた者同士、随分と不器用なものだと思ったが、悪い気はしないのも事実だった。
 これも一つの可能性の地平、不揃いな林檎同士でつるみ合うということだってある。今、それを証明することができた。

「ほら、行くよ! それ、わっしょいわっしょい」
「え、え? わ、わっしょいわっしょい……って、どこに?」
「寺子屋だよ。ほらほら、掛け声」

 バシバシと肩を叩き、調子っぱずれな声を響かせながら、肩を組んだ人間と妖怪が進む。
 一歩ごとに脈動する痛みが走ってはいたが、苦になるどころか気にもならない開放感があった。

「……あ」
「何、どしたの」
「……回収するべきなんでしょうか、荷物」

 死体と化した永琳の側に落ちている銃。恐らくは、幻想郷でも最強格の武器。
 持っておいて損はない代物ではある。顔を見合わせて、身体をUターンさせる。
 不器用な馬鹿ふたりの門出はこんなものかと思うと可笑しく、何をやっても面白くなりそうだという根拠もない確信が湧いてくるのを感じていた。



182創る名無しに見る名無し:2011/07/18(月) 19:11:46.89 ID:A6h39EO1
 
183 ◆Ok1sMSayUQ :2011/07/18(月) 19:12:10.53 ID:BniCB4Fr
【D-4 人里のはずれ 一日目・真夜中】


【藤原 妹紅】
[状態]腕に切り傷、左足に銃創(弾は貫通)
[装備]ウェルロッド(1/5)、フランベルジェ
[道具]基本支給品、手錠の鍵、水鉄砲、光学迷彩
[基本行動方針]ゲームの破壊、及び主催者を懲らしめる。「生きて」みる。
[思考・状況]
1.閻魔の論理は気に入らないが、誰かや自分の身を守るには殺しも厭わない。
2.萃香と紅魔館に向かい、にとり達と合流する。
3.てゐを探し出して目を覚まさせたい。

※以前のてゐとの会話から、永琳が主催者である可能性を疑い始めています。


【古明地さとり】
[状態]:肩、右手甲に銃創(弾は貫通)、妖力の酷使による能力の低下(読心範囲が狭くなっている)
[装備]:包丁、魔理沙の箒(二人乗り)
[道具]:基本支給品、にとりの工具箱
[思考・状況] 基本行動方針:殺し合いには乗らない
1.こいしと燐の死体の探索
2.西行寺幽々子の探索
3.こいしと燐を殺した者を見つけても……それでも、良心を信じてみたい
4.ルーミアを……どうするのが最善だった?
5.工具箱の持ち主であるにとりに会って首輪の解除を試みる。
[備考]
※主催者の能力を『幻想郷の生物を作り出し、能力を与える程度の能力』ではないかと思い込んでいます。
※閻魔を警戒
※明け方までに博麗神社へ向かう
※小町の心を読みました
※アサルトライフルFN SCAR(0/20)、永琳の支給品一式、ダーツ(24本)、FN SCARの予備マガジン×2は回収されました。どのように分配するかは不確定です。


【八意永琳 死亡】
184創る名無しに見る名無し:2011/07/18(月) 19:12:13.32 ID:JUZOG8mr
185創る名無しに見る名無し:2011/07/18(月) 19:12:41.99 ID:A6h39EO1
 
186 ◆Ok1sMSayUQ :2011/07/18(月) 19:13:45.12 ID:BniCB4Fr
投下は以上です。
タイトルは『空の彼方に』です
187創る名無しに見る名無し:2011/07/18(月) 21:17:29.22 ID:oam5YRlG
乙です
永琳はここで退場か。
勝って最後の意地を通してほしかったが、ここで死んでよかった気もする
しかし、幽々子といい永琳といい、道を外してしまったキャラは死でしか救われないのかな
永琳と輝夜の回想シーンが凄く印象に残った
188創る名無しに見る名無し:2011/07/18(月) 22:13:05.51 ID:coNK7baI
投下乙です。白玉楼に続いて永遠亭も全滅か…。えーりんがここで退場するのは予想外だったなー
189創る名無しに見る名無し:2011/07/18(月) 23:57:12.20 ID:9L7p1huH
なんか最近はかなり重要とか物語を引っ張ったキャラが相次いで退場したな
190創る名無しに見る名無し:2011/07/19(火) 10:09:14.95 ID:2p7Vr/no
投下乙
良くて双方全滅と思ったけど、永琳退場か
次の放送はどうなるか
191創る名無しに見る名無し:2011/07/19(火) 12:01:10.17 ID:DQ9ii9uo
救われるというのは、自分は決して救われることがないということを
その理由込みで心の底から受け入れることなのかもしれない
それが自分を赦す、ということでもあるんだろう
永琳の自殺は切なくやるせないけど、その一方でとても納得のいく行動でもありました
脳を撃ち抜く、という手段もまた、ただ単に確実な自殺というだけでなく
永琳の悲しみの深さを感じさせる
192創る名無しに見る名無し:2011/07/20(水) 18:38:13.25 ID:kYSi9OxO
投下乙です

意地を張るにしても愛する人がいなくなった彼女には無理だったと思うよ
主催に一矢もあるかもとは思ったが…
どんどん参加者が消えていく。まるで幻想郷の終わりへと向かう様に
終末は近いな…
193創る名無しに見る名無し:2011/07/23(土) 20:08:15.60 ID:iNBsKGdV
仮投下きてるな
今後の展開的に中々重要かも
194創る名無しに見る名無し:2011/07/23(土) 23:00:11.19 ID:tj0NRsOV
荒されるのは怖いがこういう場合は挙げてロワ住人に読んでもらっていいと思う
195創る名無しに見る名無し:2011/07/24(日) 00:11:39.43 ID:ln9/qXMv
いいんじゃないかと
196創る名無しに見る名無し:2011/07/24(日) 04:44:33.63 ID:uel0WswW
支援sage
197創る名無しに見る名無し:2011/07/24(日) 19:32:05.26 ID:gJe3fiY0
一日以上経ったし、そろそろ投下しちゃってもいいかねぇ
規制かかってなきゃいいんだけど・・・ってことでテスト
198創る名無しに見る名無し:2011/07/24(日) 19:35:17.31 ID:gJe3fiY0
お、規制解けてた
異議が出ないようなら8時ごろから代理投下するんで、さるさん出ないよう支援してくれたら嬉しい
199◇shCEdpbZWw氏の代理投下:2011/07/24(日) 20:03:52.99 ID:gJe3fiY0
――突然だが、ここで博麗霊夢の"ゲーム"における戦果を振り返ってみよう。

まずは黎明。
霧雨魔理沙に追われ、助けを求めてきたリグル・ナイトバグの首を跳ね飛ばした。

続いて早朝。
人里の民家で書物の検分に熱を上げていた稗田阿求を後ろから刺し殺した。
その現場を見られたルナサ・プリズムリバーには弾幕で抵抗されたが、特に問題にせずに斬り伏せた。

そして午前。
人里で交戦したアリス・マーガトロイドには、伏兵だった古明地こいしの存在を読み切って圧勝。
こいしを血祭りに上げようとした矢先、それを庇ったアリスを斬ることとなった。
どの道こいしの後で仕留めるつもりではいたが、とにもかくにもこれで4人。

最後は真昼。
魔理沙とフランドール・スカーレットと魔法の森で交戦。
その際助太刀に入るも気の迷いを見せた八雲紫に狙いを定めるも、これを庇った八雲藍を刺殺という結果に。
そして、すかさずターゲットをフランに変えるも、ここに割り込んだ森近霖之助を刺して命を奪った。

すでに6人を殺めた彼女は、度重なる戦闘でもこれといった深手を負うこともなかった。
ルナサの決死の弾幕攻撃は、かすり傷すら与えることも出来なかった。
秋穣子が自分の命を賭して仕掛けた自爆攻撃も、熱風で火傷を負わせるのが精一杯。
藤原妹紅の『フジヤマヴォルケイノ』も、アリスとこいしの連携攻撃も、霊烏路空とチルノが立てた必勝の策も……
多少なりとも彼女を慌てさせたとはいえ、決定打には成り得なかった。
河城にとりに桶を投げつけられて頭を切ったのと、フランに脇腹を一発殴られたのと……
霊夢が負ったダメージらしいダメージはそれだけであり、それらも時間の経った今では行動に影響を残しているとは言い難い状況。

その天賦の才と鋭い勘で、ここまでおよそ24時間にわたる死のゲームを渡り歩いてきた博麗の巫女。
異変の解決に向けて動き続ける彼女の行く末に待つものは果たして何なのか、この時点でそれを知る術は無い。




 *      *      *




撃墜マークを6つ並べた"エース"は人里の上空にふわりと漂っていた。
彼女が閻魔に背を向けて程なく、背後で銃声が一発だけ鳴り響いたが霊夢はそれを気に留めることはなかった。
二発目の銃声が鳴り響かなかったこと、加えて弾幕が形成されたような気配を感じなかったこと。
これらのことから、霊夢はその一発で全てが終わったことを悟った。
威嚇射撃の可能性もあったが、未だにこの場でそうした行動を取るような者に先は長くないと踏んだのだ。
自分が行かずとも他のヤル気ある者に早晩葬られる、ならばそんな相手に力は無駄遣いしない、そう決めたのだった。

空を漂いながら霊夢は改めて今後の指針について思案する。
八意永琳によって撃墜されたチルノと空にトドメを刺しに行くか。
あるいは、その永琳に向かって行って始末するか。
生きていれば伊吹萃香もこの人里のどこかに潜んでいるはずであり、それを探して改めて交戦するか。
利害関係の一致から表面上は同盟関係を結んでいる小野塚小町との合流を目指すか。
200創る名無しに見る名無し:2011/07/24(日) 20:05:18.65 ID:z4om2Ov6
支援
201◇shCEdpbZWw氏の代理投下:2011/07/24(日) 20:05:39.27 ID:gJe3fiY0
しばしの思索の後、霊夢は当てもなくゆっくりと動き始めた。
最初に目に入った者に向かって行こうと決めたのである。
戦闘を行っていた永琳をはじめ、各人がその歩を止めていない可能性があった。
捜索に出ても徒労に終わって無駄な疲労を蓄積させるくらいならば、適当に飛んで目についた者を片っ端から……
そうした考えの下に"エース"が始動する。

そんな彼女が、人里に向かってゆっくりと近づいてくる影を視界に捉えるまではさほどの時間を必要としなかった。
そういえば、さっき遠くの空で何やら戦っているような小さな影があったっけ。
そんなことを呟きながら、霊夢はその影のある方へ進路を定めたのだった。




 *      *      *




幻想郷最速を自負する天狗とて、本調子でなければそのスピードには陰りが生じるというもの。
ましてや、全身を内から、外から痛めつけられた状態では歩くことが出来るのが不思議である。
人ならざる者である彼女だからこそ、それでも動けるという道理ではあったのだが。

「……ねぇ、本当に大丈夫なの……?」

前方を歩く小柄な妖精が振り返る。
歩を進める度に、軋むような激痛が射命丸文の全身を駆け巡っていた。
レミリア・スカーレットとの死闘で負った重傷、そしてそれを押してまで放った自らの大技。
そのことで自らの身体に過度の負担をかけたのは事実だが、そこからの回復も遅いことに文は気づく。
無理をして歩いてきたことで、怪我の具合をさらに悪化させてしまっていたのだ。

同行者であるサニーミルクに心配をかけさせまいという思い、そして天狗という高位の妖怪としてのプライドにかけて。
決して苦悶の表情を浮かべぬように腐心はしたものの、それで歩調が改善されるというわけではない。

「えぇ、大丈夫ですよ」

ズキンという痛みが再びその体を貫いたが、文は笑顔を取り繕って言葉を返した。

「ほら、やっと里も見えてきたからね? もうちょっとでゆっくり休めるから」

サニーの表情は不安げなままである。
自分では取り繕っているつもりでも、もう隠しきれていないのかもしれない、そう思うまでに文は追い詰められていた。
これほどの重傷を負うことさえ滅多にないことではあるが、それでも妖怪は人間とははるかに大きな治癒力を持っていたはず。
それが遅々として癒える気配のないことにも、文は焦りを募らせていた。
ここまで痛みを引きずる経験が無かったことで、彼女の心の片隅を不安という名の病魔が巣食っていたのだった。

痛みを逸らすようにふぅっ、と一息ついた文が、何気なく空を見上げる。
……そして次の瞬間に、彼女の背中を冷たい汗が伝った。
そのまま空中の一点を見つめて固まってしまった文の様子に、サニーが気づいた。

「……? どうしたの? 何か見つけたの?」

サニーが振り返ってその方角を見やる。
そして、視界に見知った人間の姿を確認して思わず、あ……と声が漏れた。
服装こそ普段のそれとは違っていたが、その姿形は紛れもなく博麗の巫女のものであった。
伝聞だけとはいえ、その所業を聞いていたサニーの背中にも文と同じく冷たい汗が伝う。
河城にとりと伊吹萃香にその殺意を向け、阿求とルナサを手にかけたその張本人がこちらに向けて飛来してくるのだ。
202創る名無しに見る名無し:2011/07/24(日) 20:06:41.84 ID:z4om2Ov6
しえん
203◇shCEdpbZWw氏の代理投下:2011/07/24(日) 20:06:46.18 ID:gJe3fiY0
「あ……あわわ……は、早く姿を消さな……」
「無理です……もう……」

慌てて振り返ったサニーを文が声で制した。
湖の近くの森からはだいぶ離れてしまった。人里が近いとはいえこの身体ではまだいくらか時間がかかる。
なにより、こちらに向かってまっすぐ飛んでくる霊夢の様子を見て、間違いなくこちらの存在を視認していることを文は確信していた。
今更姿を隠したところで、周辺一帯を潰すように弾幕を飛ばされては逃げ切る余力もない。
余力といえば、サニーの光を屈折させる力とてここまでかなり酷使していたがために、どれほど姿を消せるかも分からなかった。

姿を隠すことは出来ない、自慢のスピードを生かして逃げることもかなわない。
霊夢と対峙しなければならないのでしょう、そう覚悟を決めた文は頭をフル回転させ、この場を生き延びる方策を練る。
レミリアとの戦闘でボロボロの自分に対して、相手はどれほどの損害を負っているか……
わざわざ向かってくるくらいなのだから、大した手傷も追っていないと見た方がいいのかもしれない、そう文は推測する。

(……もしかしたら、これは詰んでしまったのかもしれませんね)

ギリ、と悔しそうに歯噛みする。
にとりとレティの無念も晴らせぬまま、ここで散ってしまうのかと思うと、悔しさから涙を零しそうになる。
そうした思いを文はどうにかこらえ、サニーの為に痛みを押し殺したのと同じく、表情を取り繕って霊夢と対峙しようとする。
キッと強い視線を飛んでくる霊夢に向け、その場に仁王立ちした文の下へ、サニーが駆け寄ってくる。

「ねぇ……本当に大丈夫なの……?」

先刻と同じ言葉をサニーが投げかける。
その対象とニュアンスは大きく異なるとはいえ、文の返す言葉は変わらなかった。

「えぇ、大丈夫ですよ」

強がりとはいえ、こう返事をする他なかった。
天狗としての、射命丸文としての矜持をもって、目の前の脅威にどれほど抵抗できるか。
自分の背後にサニーを押しやり、文はその時を待った。




 *      *      *




人里に近づく影を目指してゆっくりと飛んでいく霊夢が、その正体をブン屋と悪戯妖精であることに気づくのにさほど時間はかからなかった。
名簿に載っていない妖精がこの場にいることに一瞬の戸惑いを覚えるも、関係なく斃してしまえばいいとすぐさま思考の隅に追いやる。
そして、同時に天狗の負っているダメージの算段に入る。
スピードをウリにしているはずの天狗が、わざわざ歩いてまで、それも妖精に先行を許してまでこちらに向かってくる理由。
妖精に先導を任せているのか、それとも妖精の歩みにすら劣るほどにダメージを負っているのか。
おそらくは後者であろうと勘を働かせた霊夢は、懐からナイフを取り出した。
その白刃が月の光に照らされ、キラリと輝きを放つ。
そのせいなのかどうか、向こうも霊夢の様子に気づいたらしく、前を歩いていた妖精が慌てて天狗の下へと駆け寄っていくのが見えた。
そして、自分を待ち受けるかのようにその場にとどまる姿を確認する。

(そうだろうとは思ったけれど、逃げるつもりはない、ってことね)

妖怪の、特に高位の妖怪が持つプライドの高さを肌で感じてきた霊夢は、半ば確信していたかのように呟いた。
鬼にしても、閻魔にしてもそうだった、プライドが高いが故にこの場でもがき、苦しみ、喘ぎ続けているではないか、と。
204◇shCEdpbZWw氏の代理投下:2011/07/24(日) 20:07:24.20 ID:gJe3fiY0
「あ……あわわ……は、早く姿を消さな……」
「無理です……もう……」

慌てて振り返ったサニーを文が声で制した。
湖の近くの森からはだいぶ離れてしまった。人里が近いとはいえこの身体ではまだいくらか時間がかかる。
なにより、こちらに向かってまっすぐ飛んでくる霊夢の様子を見て、間違いなくこちらの存在を視認していることを文は確信していた。
今更姿を隠したところで、周辺一帯を潰すように弾幕を飛ばされては逃げ切る余力もない。
余力といえば、サニーの光を屈折させる力とてここまでかなり酷使していたがために、どれほど姿を消せるかも分からなかった。

姿を隠すことは出来ない、自慢のスピードを生かして逃げることもかなわない。
霊夢と対峙しなければならないのでしょう、そう覚悟を決めた文は頭をフル回転させ、この場を生き延びる方策を練る。
レミリアとの戦闘でボロボロの自分に対して、相手はどれほどの損害を負っているか……
わざわざ向かってくるくらいなのだから、大した手傷も追っていないと見た方がいいのかもしれない、そう文は推測する。

(……もしかしたら、これは詰んでしまったのかもしれませんね)

ギリ、と悔しそうに歯噛みする。
にとりとレティの無念も晴らせぬまま、ここで散ってしまうのかと思うと、悔しさから涙を零しそうになる。
そうした思いを文はどうにかこらえ、サニーの為に痛みを押し殺したのと同じく、表情を取り繕って霊夢と対峙しようとする。
キッと強い視線を飛んでくる霊夢に向け、その場に仁王立ちした文の下へ、サニーが駆け寄ってくる。

「ねぇ……本当に大丈夫なの……?」

先刻と同じ言葉をサニーが投げかける。
その対象とニュアンスは大きく異なるとはいえ、文の返す言葉は変わらなかった。

「えぇ、大丈夫ですよ」

強がりとはいえ、こう返事をする他なかった。
天狗としての、射命丸文としての矜持をもって、目の前の脅威にどれほど抵抗できるか。
自分の背後にサニーを押しやり、文はその時を待った。




 *      *      *




人里に近づく影を目指してゆっくりと飛んでいく霊夢が、その正体をブン屋と悪戯妖精であることに気づくのにさほど時間はかからなかった。
名簿に載っていない妖精がこの場にいることに一瞬の戸惑いを覚えるも、関係なく斃してしまえばいいとすぐさま思考の隅に追いやる。
そして、同時に天狗の負っているダメージの算段に入る。
スピードをウリにしているはずの天狗が、わざわざ歩いてまで、それも妖精に先行を許してまでこちらに向かってくる理由。
妖精に先導を任せているのか、それとも妖精の歩みにすら劣るほどにダメージを負っているのか。
おそらくは後者であろうと勘を働かせた霊夢は、懐からナイフを取り出した。
その白刃が月の光に照らされ、キラリと輝きを放つ。
そのせいなのかどうか、向こうも霊夢の様子に気づいたらしく、前を歩いていた妖精が慌てて天狗の下へと駆け寄っていくのが見えた。
そして、自分を待ち受けるかのようにその場にとどまる姿を確認する。

(そうだろうとは思ったけれど、逃げるつもりはない、ってことね)

妖怪の、特に高位の妖怪が持つプライドの高さを肌で感じてきた霊夢は、半ば確信していたかのように呟いた。
鬼にしても、閻魔にしてもそうだった、プライドが高いが故にこの場でもがき、苦しみ、喘ぎ続けているではないか、と。
205創る名無しに見る名無し:2011/07/24(日) 20:07:31.46 ID:z4om2Ov6
支援
206◇shCEdpbZWw氏の代理投下:2011/07/24(日) 20:08:15.88 ID:gJe3fiY0
(何かに縛られるというものは面倒なものね)

霊夢は嘲笑にも似た笑いをわずかに浮かべながら、滑空するように二人の前方へと降り立った。

サニーが怯えるように文の背後からこちらをのぞき見ている。
文は、というと普段の飄々とした表情とは打って変わって、根城である妖怪の山に外敵が来た時に放つような敵意を込めた視線を向けていた。
そうはいっても、身体のあちこちに傷を負っていることは見た目にも明らかであり、先ほどの勘が概ね当たっていたことに霊夢は安堵する。

「……ずいぶんと珍しい取り合わせね。何か悪巧みでもしているのかしら?」

つかつかと二人の下に歩み寄りながら、霊夢が切り出した。

「悪巧みとは心外ですね……貴女こそ、博麗の巫女としての責務はどうされたのですか?」
「仕事ならしてるわよ、ボロボロのあんたと違ってね」

霊夢はなおもゆっくりと近づいてくる。
その手にナイフが握られたことを見たサニーから、思わずひっ、と小さな悲鳴が漏れる。
そして、そのまま自分の体を完全の文の背後へと隠してしまう。

「よく言いますね」

身じろぎもせずに文が返す。

「地底の異変の時だって、私たちがけしかけなければ動くことはなかったじゃないですか」
「何が言いたいのよ」

冷たい視線を霊夢が叩きつけてくる。
その姿から、にじみ出てくるような殺意を感じ取りながらも、文はなおも言の葉を継ぐ。
彼女は決して、巫女を挑発しているわけではなかった。
記者である以上、取材を通じてその真意を探り当てることを目的としたのだった。
霊夢の本心を突き止めることで、この場の突破口を得る。
弾幕も、体術も封じられた文にとって、その話術こそが残された武器でもあったのだ。

「此度の事変にしてもそうです。すでに多くの人妖の血がこの大地に流れました。それだというのに貴女は……」
「……あんたは」

遮るように霊夢が告げる。

「耳の敏い妖怪だからきっと知ってるわよね。私のしてきたこと」
「……えぇ、よく存じておりますよ」

文も負けじと続ける。
いつ攻撃が始まるのか不安で仕方ないサニーの視線が、両者の間を行ったり来たりとしていた。

「こともあろうに、率先して幻想郷を血に染め上げようとしている……違いますか?」
「それが異変の解決に繋がるとしても?」
「……どういうことですか」

文がごくりと息を飲む。
そんな文の様子を意に介するそぶりも見せずに、霊夢が続ける。

「あんたはこれが普段の異変と同じような異変だと思ってるの?」
「……まさか。スペルカードルールも無視して、露骨に人妖を殺し合わせるような異変なんて……」
「……だけど」

再び霊夢が文の言葉を遮る。
207創る名無しに見る名無し:2011/07/24(日) 20:08:58.63 ID:vXiDxU37
208◇shCEdpbZWw氏の代理投下:2011/07/24(日) 20:09:01.84 ID:gJe3fiY0
「この場ではそれがルール。スペルカードルールなんてあったもんじゃないわ。
 美しさも何も無い、ただ生き残った者が勝ち、それがここでの理」
「……それに黙って従えとでも?」
「愚問ね」

そう言うと、霊夢は果物ナイフの切っ先を文へと向けた。

「従わないなら従わせるまで。私は今までそうしてきたわ、そしてこれからもね」
「……それで、今まであなたは多くの血を流し続けてきたのですか」
「当然よ、そしてあんた達だって例外じゃないわ」

ふぅっ、と一息ついた霊夢がさらに続ける。

「全員この場から消えてもらうわ。恨みっこなしよ」
「……そんなことで異変が解決するとでも?」
「くどいわね。私以外の誰が生き残っても幻想郷は成り立たないわ。
 だったら、その他大勢には消えてもらうしかないのよ」
「その結果取り戻せた幻想郷は……あなたの望む幻想郷なのですか……っ!」

文が語気を強めて返す。
自分の愛する幻想郷を守りたい、その想いだけで彼女は博麗の巫女に立ち向かう。
仲間と酒を飲み、他愛もない話で笑いあい、時々ちょっぴりちょっかいを出してはすぐに鎮められる。
ぬるま湯ではあったけれども、それだけに居心地の良かったあの場所を取り戻したい、そうした願いを胸に。

だが、巫女の想いは別のところにある。
人間と妖怪、立場の違いもさることながら、妖怪に好かれながらも基本的には相対する巫女としての立場。
そして、彼女の持つ天性の勘の良さが、文とは違った世界を彼女の心中に映し出していた。

「私が望むも何も……」

一呼吸おいて、霊夢が言葉のナイフを突きつける。

「この姿が幻想郷の望む姿よ」
「莫迦な……そんなの、認められるわけないでしょう……っ!」

文も引き下がらない。
ペンは剣よりも強し、時として言葉というものは幾多の武器よりも大きな破壊力を持つものである。
その言葉を操るプロとしての意地もまた、彼女をこの場に立たせている原動力であった。

「あんたが認めようが、認めまいが関係ないの。さっきも言ったでしょ、従わないなら従わせるまで。
 認めないなら……認めさせるまでよ、あんたの命でね」

さらに一歩、霊夢がずいと文に近寄る。
その腕を振れば、手にした果物ナイフの刃がまた血を流すまでに二人の距離は縮まっていた。
夜の静寂が辺りを包む中、互いに視線を逸らすことは無かった。
何かの拍子に、二人の間に張りつめた緊張が解け、また一つの命が失われかねない、そういう状況になっていた。
209創る名無しに見る名無し:2011/07/24(日) 20:09:17.98 ID:LlMhUwJ2
210創る名無しに見る名無し:2011/07/24(日) 20:09:24.22 ID:z4om2Ov6
sien
211◇shCEdpbZWw氏の代理投下:2011/07/24(日) 20:09:34.21 ID:gJe3fiY0
場に一石を投じたのは、第三者……霊夢にとっては思考の埒外にある妖精の声であった。

「……何よ、どいつもこいつも……っ!」

霊夢と文は同時に視線を下に向ける。
霊夢の顔には冷笑が、そして文の顔には戸惑いが、それぞれ貼り付けられていた。
視線の先のサニーはというと……その両の瞳にうっすらと涙を浮かべていた。

「霊夢さんもあの吸血鬼とおんなじよ……! 自分が生き残りたいからって適当な理由作って並べてるだけじゃない……!」

先刻、レミリアに啖呵を切った時の勢いは見られなかった。
吸血鬼の手によって、レティ、にとりとは離れ離れになってしまったことがその最大の理由である。

サニーはサニーで、昨日までののどかな暮らしに戻りたいと願っていた。
スターサファイアや、一度は会えたけどまた離れ離れになったルナチャイルドという、いつも一緒にいる二人と……
日々悪戯に興じたり、冒険をしたり、四季折々の幻想郷を楽しんだり……
そんな日常を根こそぎ持っていかれたこの異変で、なお他者の命を散らそうという行為を見過ごすことは出来なかった。
それを覆せるだけの力も、頭脳も持たないながら、だからこそシンプルに打算抜きで感情をぶつけることがサニーには出来た。
それが、レミリアの怒りを買い、文の目を覚まさせ、レティの迷いを振り払い……直球で相手の心に何らかの影響を及ぼしたのだった。

……だが、博麗の巫女は違った。
やや精神面で脆いところがある妖怪とは違い、彼女のその堅牢な覚悟はサニーのまっすぐな言葉とて突き崩すことは困難であった。

「……ごちゃごちゃ五月蝿いのよ、毎日を暢気に遊び呆けている妖精のくせに」

小さく舌打ちをすると、ターゲットをサニーに変えて文の背後へと回ろうとする。
レミリアに啖呵を切った時と同じく、サニーの言葉に一瞬心を打たれていた文が慌てて霊夢の前に立ちはだかる。

「ま、待ちなさい! 彼女は関係ないでしょう……っ!」
「私に関係ないものなんてないの」

最早、霊夢は文に視線を合わせることさえしなかった。
文は、霊夢の目にはもう自分やサニーなど映っていないのではないか、もっと別の何かが見えているのではないか……
そうした思いに囚われそうになっていた。

ぐす、と今にも瞳に溜まった涙がこぼれそうになっていたサニーの下に近づこうとする霊夢を、どうにか押しとどめようとする文。
そんな文の背後で俯き加減になっていたサニーが、おもむろに顔を上げて再び霊夢を見据えた。
もうやめてください、これ以上彼女を刺激しないでください、そう文が口を開こうとした刹那、再びサニーの口から言葉が発せられた。

「……霊夢さん」

目の前の妖精が一瞬纏った雰囲気に、霊夢は一種の既視感を覚えた。
そして……

「……もうやめようよ……ねぇ、こんなことさ……」

一滴の涙が、サニーの瞳から零れ落ちた。
212創る名無しに見る名無し:2011/07/24(日) 20:10:06.03 ID:LlMhUwJ2
 
213◇shCEdpbZWw氏の代理投下:2011/07/24(日) 20:10:15.80 ID:gJe3fiY0
次の瞬間だった。
霊夢が強引に文を突き飛ばすようにして、道を作る。
満身創痍の文は思わずよろめき、地面に倒れ伏してしまう。

「な、何を……!」

顔を上げた文の目に映ったのは、サニーの胸ぐらをつかんで持ち上げる霊夢の姿だった。

「あ……く……苦し……」

じたばたともがくサニーに向けて、まるで害虫や害獣でも扱うかのような視線を霊夢は叩きつけていた。

「あんたに……たかが妖精ごときに私の何が分かるのよ……っ!!」

そして、そのままサニーを文のいる方とは逆に強く放り投げる。
小さな体躯の妖精は、弧を描きながら地面に叩きつけられ、苦悶の表情を浮かべた。
思わずせき込みながらも、それでも怯む様子はサニーになかった。
大粒の涙をボロボロと流しながら、なおも倒れこんだ状態で霊夢を見据えて言葉を並べる。

「分からないわよ……そんなの分かりたくもないわよ……っ!」
「やめてください……っ! もう、もう十分で……」

背後から叫ぶ文が、思わず息を飲んだ。
霊夢の周囲に光弾がいくつも浮かんでいた。

霊夢の十八番――神霊「夢想封印」。

待って、そう文が口を開くよりも早く光弾はサニーへと放たれた。

「五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿いっっっっ!!!!」

光弾と共に怒気も叩きつけるように霊夢は攻撃を仕掛ける。
その背中を見ることしかできなかった文は……どこか空しさに似た感情を覚えていた。



「わ、わわっ……」

思わず後ずさりをして回避を試みるサニーであったが、光弾は正確に彼女を追いかけていた。
目の前に迫る光弾に対して、サニーがとった行動は、その諸手を前に突き出すということだった。
パンッ、と小さな炸裂音が響き渡り、一発の光弾がサニーの手の前で散った。
かつて、八雲紫の放った光弾をも防御してのけた、彼女の光を屈折させる力である。

……しかし、ここまで力を酷使し続けた小さな妖精には、その猛攻を一度だけ食い止めるのが限界であった。
スゥッ、と自分の手から力が抜けていくのを感じたサニーは、もう自分に力が残っていないことを直感した。
慌てて地面を転がり、すんでのところで次の一発をグレイズするも、体勢の崩れたサニーにもう回避の手段は残されていなかった。
214◇shCEdpbZWw氏の代理投下:2011/07/24(日) 20:10:59.06 ID:gJe3fiY0
「きゃああぁぁっっ!!」

残る全ての光弾の直撃を受け、再びその小さな体が弧を描いて飛んでいく。
そして全身をしたたかに地面に打ち付けると、もう立ち上がることは出来なかった。

「サニーっっ!!」

文の悲痛な叫びが響く。
……だが、目を凝らして遠くで倒れ伏すサニーを見てみると、まだピクリと体が動いていた。
胸が上下する様子を見て呼吸をしていることを目で確認し、文は安堵のため息を思わず漏らした。

一方で、霊夢は歯噛みをする。
やはり、弾幕だけで命を奪うのは容易ではないということに改めて気づかされたからだ。
小さな妖精一匹の命をも奪えない現状に、乾いた笑いを漏らしそうになる。

「なんてことを……してくれたんですか……っ!」

ようやく立ち上がった文が、フラフラと霊夢の下に歩み寄る。
その様子に気づいた霊夢が、再び視線を文の方に戻してつかつかと歩み寄る。
文は、決死の覚悟で折れた短刀を振りかざした……が、霊夢はそれを問題としない。
その手を払いのけるようにして短刀を弾き飛ばすと、文を押し倒し馬乗りの状態へと持ち込んだ。

「は、離してください……っ!」

語気を荒げる文を無視し、その首筋にナイフを突きつけた。

「所詮自己中心的で、享楽的な妖怪と妖精が……今更何説教じみたことぬかすわけ……?」

首筋に冷たい金属の感触を感じながら、文はただされるがままになっていた。
必死にその表情を読み取ろうとするも、霊夢の背後に月が隠れてその全てを読み取ることは出来なかった。

「あんたやあの妖精も魔理沙や萃香と同じよ。勝手な事ばかり言ってるのはどっちよ」

感情の籠っていない、冷たい言葉だけが響き渡る。
あとは、その手を少しひねるだけ、そうすれば鴉天狗の命が潰えるところであった。




直後、霊夢の背後から強烈な光が射しこんできた。
霊夢が振り返る頃には、その光もすぐに収束して薄らいでいった。
視線の先は、人里の上空であった。

「……どうやら、まだあそこにもまだやる気のあるのがいたみたいね」

呟きながら霊夢が立ち上がる。
マウントポジションから解放された文が、その上半身だけを起こして問い詰める。

「何の……つもりですか……殺すなら……殺してみせなさい……っ!」

文に背を向けたまま、霊夢が返した。

「死にぞこないの天狗と、雑魚妖精に付き合ってる暇は生憎ないのよ」

無茶苦茶な事を言っている、文はそう思った。
サニーに光弾で攻撃を仕掛け、自分もほぼ命を取る寸前まで追い詰めておいて……
そうした思いがよぎるも、口を開くことは出来なかった。
まくしたてるように霊夢が続けたからである。
215創る名無しに見る名無し:2011/07/24(日) 20:11:02.46 ID:LlMhUwJ2
 
216創る名無しに見る名無し:2011/07/24(日) 20:11:17.93 ID:z4om2Ov6
支援
217創る名無しに見る名無し:2011/07/24(日) 20:11:19.20 ID:vXiDxU37
218創る名無しに見る名無し:2011/07/24(日) 20:11:44.26 ID:LlMhUwJ2
 
219◇shCEdpbZWw氏の代理投下:2011/07/24(日) 20:11:45.26 ID:gJe3fiY0
「あんたらみたいなのは、私がやらなくたって遅かれ早かれ誰かの手にかかるわ。
 そんなのに無駄な力を使うつもりはないの……まだまだ消さなきゃいけない奴らがわんさかいるんだから」

そう言い残し、ふわりと飛び去ろうとする。
呆然と見上げることしか出来ない文に対し、最後まで視線を向けることはなく霊夢が続けた。

「里に向かうんでしょう? せいぜい殺されないように頑張ることね。
 ……もし次に会うようなことがあったら、その時こそ私が死なせてあげるから」

そのまま、ゆっくりと人里に背を向けて霊夢は飛び立っていった。
後には、満身創痍の鴉天狗と妖精が残された。




 *      *      *




しばらく佇むことしか出来なかった文は、ゆっくりと立ち上がると倒れ伏すサニーへと歩み寄った。
光弾を受けてボロボロになったサニーは、痛さと悲しさと悔しさと恐怖に体を震わせ、ボロボロと泣き続けていた。

「……起き上がれますか?」

文の問いかけに、サニーが泣きながら頷いた。
むくりと、体を起こしたサニーを文はそっと抱きしめた。
しゃくりあげるサニーが泣き止むまでに、そこからしばらく時間を要した。

「……よく、生かしてもらえたね」

まだ涙を零しながら、一言一言を噛みしめるようにサニーが話す。
にとりや萃香、文に霊夢の所業を聞いていただけに、サニーはある程度の覚悟をしていた。
だが、実際にその脅威を目の当たりにすると百聞は一見にしかず、巫女の恐ろしさを全身で感じることとなったのだ。
全身に光弾を受け、体中に打撲を負いながらも、なお彼女は生かされた。
倒れ伏したままでその後の様子を見ることは出来なかったが、文もまたいつでも殺せたのにもかかわらず生かされた。
サニーにはそれが訳が分からなくて仕方がなかった。

「あの巫女も……気まぐれなところがありますから」

文はお茶を濁したが、彼女は半ば霊夢の奇行について確信めいた思いを持ちつつあった。
霊夢もレミリアと同じように明確な敵意を持って、文たちに接してきた。
しかし、レミリアの尖った殺意を全身に受けたばかりの文は、霊夢の放つ殺意に違和感を感じていた。
もちろん、殺意を向けてくるという意味では同じであったが、その殺意が……

(何が何やら分かりませんが……迷いがあるのでしょうか……?)

霧散しかかっていることに文は気づいた。
表情も変えずに阿求と、ルナサを手にかけた時は遠くでその表情も細かくは読み取れなかったし、言葉だって聞き取れなかった。
だが、何の気なしに普段の異変解決に臨む時の延長線上にあるような振る舞いをしていたあの時とは明らかに違っていた。

他者の犠牲の上に、望むものを得るということ。
かつては同じ思いを抱いていた文は、自分が抱えた迷いに似たようなものを霊夢が抱えているのでは、と推察した。
もちろん、推測が当たっている保証はない……が、この決定的な状況で命を取らなかったことにはサニーならずとも違和感は感じるだろう。
文はそう断じていた。
220◇shCEdpbZWw氏の代理投下:2011/07/24(日) 20:12:30.88 ID:gJe3fiY0
(ですが……巫女の脅威がなくなったというわけではありません……本質的に彼女が危険因子であることは変わらない……)

文はグッと思いを飲みこんだ。
憎きレミリアを打倒する以外にも、乗り越えるべきハードルは多い。
あの幻想郷へと帰るためにはまだまだ障害が多いことに気づかされ、文は深いため息をついたのだった。




 *      *      *




人里から離れた霧の湖。
その南のほとりに、霊夢は降り立った。
ゆっくりと湖に近づき、両手で水をすくい上げるとバシャバシャと顔を洗い始めた。
冬と春の境目、そして間もなく深夜に差し掛かるこの時間帯、湖の水は刺すような冷たさを持っていた。
そんな冷水を、霊夢は何度も何度も顔にかけ続けた。

ひとしきり洗顔を終えた霊夢の息は荒く、思わずせき込んでしまうほどであった。
その原因は飛行による疲労ではなかった。
何かに苛立ったように、霊夢はその両の掌で水面を叩く。

"エース"の心中にはイライラが募っていた。
藍と霖之助を手にかけた、魔法の森での戦いからは間もなく半日が過ぎようとしている。
しかし、その間彼女に新たな撃墜マークがつくことはなかった。
迅速に異変を解決することを目指しているにもかかわらず、遅々として上がらぬ戦果に対して、間違いなく霊夢は苛立っていた。

チャンスはいくらでもあった。
利害が一致するとはいえ、最後には敵になる小町など手を組まずにその場で手にかけることも出来た。
途中で邪魔の入った萃香や、空、チルノといったあたりはともかく、戦意を失っていた映姫を斬り伏せることなど赤子の手をひねるより楽だったはず。
そしてそれは、満身創痍であった文や、実力には大きな開きのあるサニー相手でも変わらないはずだった。

霊夢は気づいていない……いや、気付いていないことにしている"鎖"があった。
映姫に、そして文にナイフを突きつけた時に、彼女の心中にある光景がフラッシュバックしていたのだ。

(……霊夢)

霊夢本人はそのことを意地でも認めたくはなかった。
何にも縛られることのない自分が、自らの行為を悔いて心の枷としてしまうことなど認められるはずもなかった。

(やめろ。な、こんなこと……)

脳裏をよぎるのは、自分が最後に手にかけた、幼少の頃より縁のあった、誰よりも素の自分として接することの出来た半妖の最期の姿。
心のどこかでそうしたことを恐れてはいたものの、覚悟は決まっていたはずだった……なのに、どうして。

かつてアリスが最期に取った行動に僅かに動揺し、妹紅とこいしを討ち損じた時とは訳が違った。
付き合いの長い彼女が遺した鎖も、霊夢の胸をいくらか締め付けたものの、さらに付き合いの長い霖之助が遺した鎖はさらに強固であった。
霊夢は霖之助の命を奪ったことを考えないように心がけていた……が、意識しないようにすればするほど逆に意識をしてしまうのは世の常。
だが、霊夢はそれを認めない。あくまで、一時の気の迷いとして強引に片付けようとしていた。

映姫に刃を突き立てようとした時も、霖之助の最期が頭をよぎった。
薬にも害にもならない存在だ、そう理由をつけて放逐したものの、どうしてもその手をあと一捻りすることが出来なかった。
221創る名無しに見る名無し:2011/07/24(日) 20:12:38.32 ID:z4om2Ov6
しえん
222創る名無しに見る名無し:2011/07/24(日) 20:12:40.01 ID:LlMhUwJ2
 
223創る名無しに見る名無し:2011/07/24(日) 20:13:22.87 ID:LlMhUwJ2
 
224◇shCEdpbZWw氏の代理投下:2011/07/24(日) 20:13:23.24 ID:gJe3fiY0
その時点で、霊夢はまだ自分を縛り付ける存在には気付いていなかった。
思い起こさせたのは、涙を浮かべた妖精が放ったあの一言であった。
自分を縛るものの存在に気づかされ、激情に身を任せて無駄に力を使ったことも、さらに霊夢の苛立ちを加速させていた。
あくまで平静を装い、文に改めて刃を突き立てようとしたが……この時点でもう"鎖"の存在に目を背けることは出来なくなっていた。
結果、映姫と同じようにもうわずかのところで命を奪えた標的を、先刻と同じような理由をつけて放逐する羽目になったのだ。

(違う……! 違う、違う……っ! 相手に戦意が無いから、力が無いから……下手に余裕があるから妙な雑念が入るのよ……っ!)

自身にまとわりつくもやもやを振り払うかのように、頭をぶんぶんと激しく振る。
縛りを雑念として処理しようとするが、それでは今までと同じ事であった。
むしろ、時間を追えば追うほどにその残像は大きくなってくるようにさえ、霊夢には思えた。



この幻想郷を模した空間においては、誰にも等しく制限がかけられている。
それは弾幕を展開するための霊力や妖力といった力や、それぞれが兼ね備えている能力までに渡っている。
霊夢の持つ「空を飛ぶ程度の能力」とは、同時に何にも縛られないという意味も内包している。
……そこにもまた制限がかけられているとしたら?

霊夢自身、自分が幻想郷を構成する歯車の一つでしかないということは理解している。
この場においてさえ、殺し合いという目的を為すがための駒に過ぎないということを理解はしている。
だが、そうした立場とはまた別に、他者の言動や行動に縛られるということは彼女の埒外であった。
誰が何を言おうが、何をしようが、それに縛られることはなく目的を遂行できるものだと頭から信じていた。
それが出来ないとなれば、自分はいったい何者なのか、そうした思いに駆られてしまいそうになるから。



苛立ちの収まらない霊夢が顔を上げる。
視線の遠く先には、この漆黒の闇の中でもくっきりと浮かび上がる緋色の館があった。
そういえば、あそこの主とその従者にはまだ会ってなかったわね……そう霊夢は呟く。
主の性格を考えれば、己が居城を目指し、そこを根城にしていても不思議ではなかった。
そして、その主に忠実な従者もまた同じような行動をとるであろうことも容易に想像できた。

吸血鬼は夜の王。
時間を考えればまさにこれからが彼女の時間である。
先程のサニーの発言から推測して、幻想郷でも強者に分類される文にあれほどの傷を負わせたのがレミリアであることも想像に難くない。
加えて、その従者も付き従っているとするならば……相手にとって不足は無い。
自分の心を乱す雑念など感じる暇もないほどに戦闘に集中できる、霊夢はそう考えた。

この手でまた屍を作って記憶を上書きしない限り、また同じことの繰り返しになるのではないか。
ならば、その雑念の入らない環境下でそれを実行せねばなるまい。
時間、場所、相手、その条件が目の前の館には全て揃っているはずだと霊夢の勘が告げた。

ゆっくりと立ち上がった霊夢の足がわずかにふらつく。
さっきサニーに使った力のせいか、あるいは少し長く飛びすぎたか、理由はいくつか思い浮かんだが、霊夢はそれを些末なものだと断じた。
文と真っ向からぶつかったのなら、少なからずレミリアたちにも損害はあったはず、それを踏まえたうえで1対2でもどうにかなるという自信はあった。
225◇shCEdpbZWw氏の代理投下:2011/07/24(日) 20:14:13.76 ID:gJe3fiY0



自らを縛る鎖を断ち切るために、霊夢は敢えて虎穴に飛び込む覚悟を決めた。
大丈夫、私ならできる、今までそうだった、だからこれからも……
言い聞かせるように呟き、霊夢は当面の目的地をキッと見据えるのだった。


【C-3 一日目・真夜中】


【博麗霊夢】
[状態]疲労小、霊力小程度消費
[装備]果物ナイフ、魔理沙の帽子、白の和服
[道具]支給品一式×5、火薬、マッチ、メルランのトランペット、キスメの桶、賽3個
救急箱、解毒剤 痛み止め(ロキソニン錠)×6錠、賽3個、拡声器、数種類の果物、
五つの難題(レプリカ)、血塗れの巫女服、 天狗の団扇、文のカメラ(故障) 、ナズーリンペンデュラム
不明アイテム(1〜4)
[基本行動方針]力量の調節をしつつ、迅速に敵を排除し、優勝する。
[思考・状況]
1.紅魔館を目指し、いるであろうレミリアたちを排除する
2.自分にまとわりつく雑念を振り払う
3.死んだ人のことは・・・・・・考えない




 *      *      *




歩調は先程よりもさらに遅くなった。
先程まではまだ無傷だったサニーが先導していたものの、いまや彼女も満身創痍。
そんなサニーを背負う文もまた、生きているのが不思議なほどの傷を負っていたのだから、無理もない話である。

それでもなお、一歩一歩着実に人里へと近づいていく。
ひとまず、適当な建物で体を休めよう、そして同志を集めて反撃の機会を練ろう、改めて文はそう考えていた。

「しっかりしてください、もうちょっとで里に着きますから」

文の背中で無言のままサニーがこくりと頷いた。
自分自身も傷は負っているが、先ほどとは立場が逆になってしまったことに文は苦笑する。
226創る名無しに見る名無し:2011/07/24(日) 20:14:17.95 ID:z4om2Ov6
支援
227創る名無しに見る名無し:2011/07/24(日) 20:14:19.07 ID:LlMhUwJ2
 
228◇shCEdpbZWw氏の代理投下:2011/07/24(日) 20:15:01.60 ID:gJe3fiY0
(それにしても……)

歩みを進めながら文は思う。
霊夢に殺されかけたあの時、人里の方で輝いた光はあきらかに弾幕によるものであった。
そして、その弾幕の使い手は既にこの世を去っているはずであった。

(首謀者がその死を誤認した可能性は無いわけではありませんが……それは限りなく低い可能性と見ていいでしょう)

頭に浮かんだ選択肢の一つを投げ捨て、さらに文が思考する。
あれが本人による弾幕でないとして、それを模した弾幕を放つ、そうした芸当が出来る人妖……心当たりはあった。

(正当防衛の可能性は大いに考えられます……が、警戒をしておくに越したことはないでしょう)

何せ、その心当たり――古明地さとりは、その能力故に疎まれて地底に封じられた妖怪だ。
何を考えているのか、何をするのか分かったものではない。
まして、肉親も、ペットも喪った今の彼女が暴走している可能性は決して低くない、そう文は推測する。

(願わくば、彼女は避けて休むことが出来ればいいのですが……さて、どうなるでしょうかね)

なおも軋む自分の体を引きずるようにして、当面の安息の地を目指す。
その先に待つものが、安らぎなのか、はたまた喧噪か。
不気味なほどに静まり返る人里が、彼女たちを待ち受けていた。


【D-3 人里そばの平地 一日目 真夜中】


【射命丸文】
[状態]瀕死(骨折複数、内臓損傷) 、疲労中
[装備]胸ポケットに小銭をいくつか、はたてのカメラ、折れた短刀、サニーミルク(S15缶のサクマ式ドロップス所有・満身創痍)
[道具]支給品一式、小銭たくさん、さまざまな本
[思考・状況]基本方針:自分勝手なだけの妖怪にはならない
1.人里で体を休め、同志を集めてレミリア打倒を図る
2.私死なないかな?
3.皆が楽しくいられる幻想郷に帰る
4.古明地さとりは一応警戒
229創る名無しに見る名無し:2011/07/24(日) 20:15:13.61 ID:LlMhUwJ2
 
230創る名無しに見る名無し:2011/07/24(日) 20:16:07.90 ID:gJe3fiY0
代理投下終了 タイトルは「chain」だそうで
支援してくれた皆さんに感謝、そして一度だけ間違って同じ文章連投してしまって申し訳ない・・・
231創る名無しに見る名無し:2011/07/24(日) 20:16:09.51 ID:LlMhUwJ2
 
232創る名無しに見る名無し:2011/07/24(日) 20:27:18.09 ID:z4om2Ov6
代理投下乙
霊夢の霖之助殺害による動揺はここまで大きかったか…
「ミッション」を達成出来なかったという意味では初敗北だし、お嬢様主従の状態も読み違えてる(咲夜は重傷ではあるが)し、死亡フラグを重ねてる気がするな
しかし文とサニーは良くぞ生き残った
このまますんなりと妹紅・さとり(お空・チルノ)と合流出来れば良いが
233創る名無しに見る名無し:2011/07/24(日) 21:18:10.90 ID:fV3S8St0
やっと霊夢の本音が少しは見えてきたってところだなー
それでも破滅に向かって突き進んでいるとしか思えない……
霊夢も他の連中と同じく何かに絶望してるのかな
234 忍法帖【Lv=13,xxxPT】 :2011/07/25(月) 02:30:59.24 ID:i7ofDIXW
なんだろう、霊夢の本心が暴かれた時=死
って構図がパッと出てきた

それにしても、企画自体は結構長い間行われてるけど
作中の時間はまだ1日目なんだよね
それだけこのロワの密度が濃いってことなんだろうな
235 忍法帖【Lv=2,xxxP】 :2011/07/25(月) 11:30:26.33 ID:Bgazod/8
文とサニーは幸運だったな
結果として論破は出来ていなかったわけだし
さらにダメージを負ったのが気になるが

そしてここで潰し合いか・・・
マーダー同士のガチバトルってのは燃えるし、この顔合わせは燃えないわけがないんだが・・・
このロワの空気的に熱血バトルというよりは、互いに悲しみを背負ったバトルになりそう
236創る名無しに見る名無し:2011/07/25(月) 14:37:03.54 ID:Xi0gC73z
霊夢はある意味では完成された人間なんだよね
誰にも頼らず、誰にも依存しないみたいな
来る者は拒まず、去る者は追わずみたいなキャラ

だが今の霊夢は自分の心が処理しようとして出来てないというか
何かの証明の為に効率的に戦う必要のないレミリアらに自分から喧嘩を売ってる時点で揺らいでるぞ

霊夢VSレミリア+咲夜は本当に燃える戦いではなくてなんかこう…
みんな、破滅に向かって走ってるな…
237創る名無しに見る名無し:2011/07/25(月) 23:14:10.16 ID:DtIgAjhJ
確かレミリア達は射命丸を追跡しようとしてたよな。紅魔館で会わせるの難しくないか?
霊夢の精神疲労で勘が鈍ったんだと思ったんだけど…
238創る名無しに見る名無し:2011/07/26(火) 14:31:29.27 ID:G8Wd6bvA
放送前にレミリア達の行動がもう1つ残ってるよ
それ次第じゃないかな?
それともこのまま放送へ行く?
239創る名無しに見る名無し:2011/07/28(木) 18:07:55.79 ID:IlR2I1fU
マーダー側の死亡が目立ってきたね
バランス悪いと感じたからここらで処分に入ったか
240創る名無しに見る名無し:2011/07/28(木) 18:54:20.00 ID:BQVb/CxT
いよいよ大詰めかな
241創る名無しに見る名無し:2011/07/28(木) 20:16:26.03 ID:RcdskpF9
あまり放送を急ぎすぎない方がいいんじゃない?
この期に及んでZUNの描写や真意がほとんど描かれてないんだから
前回放送みたいな、ただ報告が入るだけに等しい放送じゃ、一向にクライマックス行けないぞ
242創る名無しに見る名無し:2011/07/30(土) 15:34:59.39 ID:XIHqtVDf
ZUNか霊夢、或いは両方着たらいいんだが
それとも放送か放送後にそういうのが来るのか…
243創る名無しに見る名無し:2011/08/06(土) 01:44:46.41 ID:OAJkx/7q
そういえば、作者さん同士で摺り合わせ済みなんだっけ?
(楽しみの為にあえて見ていない)

お盆に入れば話も進むと思いたい
244創る名無しに見る名無し:2011/08/10(水) 23:01:11.92 ID:zfXeKTsj
このロワってあれだけマーダーがいたのにステルスマーダーは少なかったんだなあ
策略や頭脳戦で生き延びたキャラもいない気がするし。殺し合いはブレイン(笑)

その分しっかり書かれてる各自の心理描写が好きだ
「殺し合いを終わらせる」だけで終わらない
それぞれが抱えているこだわりに関するあたりが特に
245創る名無しに見る名無し:2011/08/11(木) 07:04:03.70 ID:WVujQkwH
>>244
そういう風に書かれるとアリスが即堕ち2コマみてーだw
「絶対巫女なんかに負けたりしない!!」→「巫女には勝てなかったよ…」

運要素があったとはいえ、さとりんともこたんはよく永琳に勝てたな。
もしも永琳が諦めたり自殺しなけりゃ、金閣寺→永夜返しの後でも勝機あったかもしれん。
246創る名無しに見る名無し:2011/08/13(土) 19:29:49.60 ID:jHyZl9bY
>>244
煽るだけ煽って多数のキャラをマーダーに転向させたえーき様忘れんなw
247創る名無しに見る名無し:2011/08/14(日) 12:07:34.93 ID:CVtqEItg
なぜか長生きしてたえーきっきは原作のディキアン瑞穂に通ずるものがある
電波は幸運補正でも掛かってんのか
248創る名無しに見る名無し:2011/08/14(日) 12:44:07.87 ID:yNBW8W0q
ここってもう新作の話ってしていいんだっけ?
249創る名無しに見る名無し:2011/08/15(月) 02:28:15.02 ID:cpJovt8K
>>248
気持ちは分かるが委託販売まで待とうぜ
250創る名無しに見る名無し:2011/08/18(木) 18:58:56.14 ID:qOBFaT62
そろそろ放送?
レミリアの主従コンビがちょっと遅れているけどね

今回の放送で色々と設定が決まってしまうだろうけど誰が書くのかな?
251創る名無しに見る名無し:2011/08/21(日) 17:48:26.80 ID:ynPjaC86
その辺は書き手同士で決めるんじゃない?
反対が無ければ通るのでは
それと他の書き手への連絡の為に一度あげ
252創る名無しに見る名無し:2011/08/24(水) 20:02:42.97 ID:hs+XkxpY
wiki更新してくれた方乙です
253創る名無しに見る名無し:2011/08/25(木) 18:49:44.30 ID:mD18rtf5
仮投下きてるな
254創る名無しに見る名無し:2011/08/26(金) 12:11:29.56 ID:9PJloYgc
サルベージ
255 ◆TDCMnlpzcc :2011/08/27(土) 19:09:03.59 ID:KNfvrdZU
 悲しみに沈むものがそこにはいた。
 戦いへの闘志を燃やすものがそこにはいた。
 ただただ、狙った獲物を追いかけるものがそこにはいた。
 それらは、画面の向こうの“この世界に”いた。
 
「八意永琳が死んだか……」
 
 暗い部屋の中、もっと暗い外を眺めながら男がつぶやいた。
 部屋には誰のものかもしれない、リアルタイムの声が流れている。
 人里に仕掛けられた監視カメラの映像の中、二人の人妖が歩いてきた。
 彼女たちの後ろには、先ほどまで抗っていた八意永琳の死体が転がっているのだろう。
 八意永琳の首輪は装着者の死を報告し、脳髄と血に汚れたカメラ映像を送ってきた。

「ああ、よく頑張ったものだ。あれほどの状況からここまで生き残るとは」

 パチパチパチ。さびしい拍手が響く。
 男の見つめる外の世界、そこでまた一人が死んだ。
 男はそのことにさほどの感情は抱かず、しかし、感慨深げなため息をついて画面に向き直った。

 ワンクリック。

 映像が切り替わり、たくさんの小さな枠の中に、数えきれない量の映像が浮かび上がる。
 多くの音声がスピーカから流れだし、不協和音を作り上げる。
 そのすべてに異常がないか、ざっと見渡すと今度は首を横に向けた。
 視線の先には箱庭とたくさんの参加者の人形がある。
 ほとんど動かなくなったその人形たちの上を、悠々と飛ぶ人形がある。
 男はその人形をしばらく眺めていたが、迷いを振り捨てるように箱庭全体を見渡した。
 
―――ずいぶんと人里に集まったな。
 
 それが特に障害となるかは別の話。
 だが、首輪解除の意思を持つもの達が集まっていることは頭に止めるべきだろう。
 状況は、殺し合い初期よりもより複雑に、より捌きづらくなってきていた。
 そのもっともたるものは八意永琳の死。
 もし本当に彼女が主催をしていたならば、この回から放送は行われないはず。
 そればかりか殺し合いまで終わってしまうはずだろう。
 だが、それはまずいし、まず八意永琳は本当の主催者ではない。

 男には取るべき道が二つある。
 一つ、八意永琳の死を偽装して放送を続ける。
 先ほどの放送と同じように嘘をつけばいいだけだ。
 ただ、この放送を信じる者がどれだけいるのだろうか?
 二つ、八意永琳とは別の人物として主催者を名乗る。もしくは嘘であったことを明かす。
 一部の参加者には戸惑いを生むかもしれないが、あくまで一部だ。
 八意永琳が主催者であることには誰もが疑問を抱いているようだ。
 すんなりと受け入れられるだろう。
 ただ、主催者の言動が今後嘘ではないかと疑われ続けるのは必須である。

 手元の飲み物に手を付けながら、唸る男がそこにいた。
256 ◆TDCMnlpzcc :2011/08/27(土) 19:11:13.68 ID:KNfvrdZU
 時計は、刻一刻と放送時間が迫ってきていることを告げる。
 男は無言で今回の放送内容を練り、まとめていた。
 カチカチと進む時計の針が、いつもより早く進んでいるように感じる。
 すでに残り時間は五分を切っていた。
 とはいえ、男の顔に焦りはなく、まとめあげた原稿には今回の放送内容があらかた書き下ろされている。
 男の意識はもう放送内容より、今後の課題へと向けられていた。
 殺し合いのペースは、今回の六時間を見れば加速しているように思われる。
 だが、残っている好戦的な参加者の数を思い浮かべれば、これからの進行がスムーズにいかないであろうことが想像できた。
 男のもくろみ通りに動く参加者は少なく、いまでは博麗霊夢ただ一人といってもいい。
 本当に彼女はよくやってくれる、男はそう思い、今は空を飛ぶ彼女に思いをはせた。
 殺害人数、行動、そのどれをとっても男の思い通りで、彼女ほど男の理想を現した存在はこの会場に存在しない。

「時間だ。」

 時計の長針と短針が重なる。
 デジタルの表示が零のゾロ目を示す。
 この殺し合いが始まってから、ちょうど一日が経過した瞬間だった。
257 ◆TDCMnlpzcc :2011/08/27(土) 19:59:01.36 ID:KNfvrdZU
「それでは、放送を始める。
 まず、初めまして。僕が本当の主催者だ。
 八意永琳には悪いことをした。

 さて、時間がない。
 君たちも聞きたいことは山ほどあるだろうが、時間が押しているのでね。
 細かいことは後で話そう。
 さっそく、君たちお待ちかねの脱落者情報を読み上げる。 
一回しか言わないからよく聞くように。

 鈴仙・優曇華院・イナバ
 リリカ・プリズムリバー
 伊吹萃香
 レティ・ホワイトロック
 河城にとり
 四季映姫・ヤマザナドゥ
 ルーミア
 因幡てゐ
 西行寺幽々子
 八意永琳
       以上十人だ。これで残り人数は十三人になった。

 ずいぶんと多い数だ。
 僕もびっくりしたよ。
 この調子で頑張ってもらいたい。

 禁止エリアは三時からE-3、六時からD-2だ。
 君たちについている首輪は高性能で高威力だ。
 万が一にも禁止エリアに迷い込むようなことにはならない方がいい。
 僕も、君たちもがっかりするだけだからな。
 もちろん外してみようなどということも考えない方がいいだろうね。
 
 さて、本題に入ろうか。
 騙していてすまなかったね。
 いかにも自分は八意永琳ではない。
 君たちの中には気づいていたものも多かったようだ。
 彼女はその頭脳ゆえに少しハンデを与えられた。
 それぐらいに考えてくれ。

 さて、ここで大きなルール変更を行おうと思う。
 君たちは昨日一日、よく頑張ってくれた。
 その報いを受け取るべきだと思う。
 最初、僕は生き残った一人に生きて帰る権利を保障した。
 その保障を破ることはないと誓おう。
 でも、それに加えて一つプレゼントを上げるつもりだ。
 一回しか言わないからよく聞くといい。

 生き残った一人には、僕のできる限りの望みをかなえてあげることを約束する。

 僕にとって、君たちを幻想郷の支配者にすることなど造作もない。
 この殺し合いで死んだものたちすべての力を授けることもできる。
 もし金銀財宝がほしいなら、君らに抱えきれないほどの量を提供しよう。
 不死の命がほしいなら、簡単にくれてやる。
 さあ、少しはやる気が出てきたかな?
 これからの健闘を祈るよ」
258 ◆TDCMnlpzcc :2011/08/27(土) 20:00:34.96 ID:KNfvrdZU



 マイクの電源を切り、男はため息をついた。
 生存者たちを監視しているカメラの映像を確かめる。
 その反応は様々で、今回の放送の波紋を映し出していた。
 男は少し満足して立ち上がり、あらかじめ取り出しておいた酒に手を伸ばした。
 心地よい苦みが、冷たい泡と一緒に喉を流れた。
 
「はぁ〜〜、やっと終わった」

 手を伸ばし、足を崩す。
 男は緊張した肩を揉みほぐし、リラックスした。
 だが、どうしても休めない。
 すでに短い休みは多くとってはいたが、もう丸一日寝ていないのだ。
 そろそろ眠くなってもおかしくはない。
 やっぱり緊張しているのだと男は考えた。
 ぐい、と景気づけに酒を飲みほし、酔いに身を任せる。
 飲み干した缶ビールを部屋の端に追いやると、懐かしい紙がそこに転がっていた。

『やあやあ初めまして、八意永琳君。

 その一文から始まる手紙は、最初の夜、八意永琳へと送られたものになる。
 本来はその紙を使って八意永琳と密に連絡を取り、いざという時に備えるつもりだった。
 そのもくろみはしくじり、彼女に握り潰され、捨てられた紙は会場の端で沈黙している。
 冷静な性格としてみていた彼女の行動に、男は不意を突かれ、楽しんだ。
 せっかく作った、文字情報を同期する二枚の紙は無駄となってしまったが、想定外も余興のうちととらえ、男も気楽に構えていた。
 八意永琳を自身の身代わりとしたのも、賢すぎる彼女に枷をはめるためではない。
 周囲の不信感に縛られた彼女の活躍が見てみたかったというのが正確な理由になる。
 彼女の行動は、最後まで男を楽しませた。
 放送寸前のあっけない自殺だけは不意を突かれたものの、男はそれも一興と割り切った。
 計画を思いついて以来、男は自身の知らない意外性にも興味を持っていた。

 そもそもの発端、男が今回の計画を思いついたのはずいぶん前のことである。
 最初は、自分の知らない彼女彼らの行動を見てみたかった。
 ただそれだけだった。
 男はその好奇心を満たすためだけに、参加者をこの殺し合いに参加させた。
 今のところ男はその行動に満足している。
 後悔なんてあるわけない。

 生き残っている者達、この中の一体何人が自分たちの今いる会場に気付いているのだろうか?
 男は時にあわれに思い、時にその反応を想像して楽しんでいた。
259 ◆TDCMnlpzcc :2011/08/27(土) 20:02:02.33 ID:KNfvrdZU

 男の持つ力は幻想郷風に言えば“世界のあり方を決める程度の能力”であり、男はこの幻想郷に存在するすべての創造主であった。
 本来、男はこの幻想郷の上位世界にいるべき存在で、今この場にいることは難しい。
 ただ、男はその問題をとっくに解決していた。
 男の今いるこの殺し合いの会場は、すべてがまがい物でできている。
 そう、木々の一本からその構造まで、そして主催者たる自分に至るまで偽物だった。
 この会場が偽物であることに気付いた参加者は多い。
 男は殺し合いを円滑に進めるために、また自分の負荷を減らすために会場を本来の幻想郷とは違う形に作り直し、参加者にも細工をした。
 この会場に家が存在しないもの達の違和感を抑え、普段と違う風景になじませるために催眠術をかけた。
 しかし、その人妖の性質や経験によって、一部の洗脳は溶け始めている。
 すべて解けるのも時間の問題かもしれない。

 だが、そのために、気付かれた時のために制限が準備されているのだ。
 自身の力を使い、本気の能力を出させないように世界のルールを少し“外の世界”に近づけた。
 その出来具合には自信がある。
 この世界を作り上げた自分ならではの自信だった。

 今ここにいる男が生まれたのは、今回の計画がスタートしてすぐのことだった。
 真の創造主たる男が、自身の作り出した世界へ降りるための依り代。
 記憶、姿、すべてを完全に移され、男は生を受けた。
 
 これは単純なゲームだ。
 その真実に気付いているのは一人しかいないだろう。
 すべての参加者が主人公。
 個人の、持てるすべてを生かし、キャラクターとしての特異性を見せること。
 新しい個性を創造主たる自分に見せ、“プレイヤー”を楽しませるゲーム。

「ンフフ、ゲームクリアは近いですね」

 人気のない城の中に、笑い声が響く。
 男は再び参加者の映像を眺め、放送の反応を調べ始めた。
260 ◆TDCMnlpzcc :2011/08/27(土) 20:06:08.21 ID:KNfvrdZU
投下終了です



主催者「ZUNのコピーのようなもの」
開催目的「キャラへの好奇心」
参加者「本物、催眠術による洗脳済み」
会場「偽物、外の世界に近い性質、虫や妖精などはいない」

これでいいかな?

261創る名無しに見る名無し:2011/08/27(土) 21:43:26.42 ID:NzEtLj79
投下乙です

催眠術による洗脳がどういう物か次第ですがそれ以外はいい様な気もします
他の書き手から反論が来ていないのなら洗脳の件もいいとは思いますが…
262創る名無しに見る名無し:2011/08/28(日) 13:09:56.13 ID:61Oo8tL+
さすがに洗脳されていたからマーダー化したみたいなのは無しだな
それ以外ならおkじゃねえ?
263 ◆TDCMnlpzcc :2011/08/28(日) 13:14:53.73 ID:mpQlwa/N
洗脳は<<259の8行目にある催眠術のことです

永琳のように会場の異変に気付いた参加者がいる一方で、
元の幻想郷と区別がついていなそうな参加者もいたのでその設定を付けました
まあ、それ以外にも用途はあるかもしれませんが、私としては上記程度のつもりです
264創る名無しに見る名無し:2011/08/30(火) 03:35:49.75 ID:RO0ydCxU
ならいっそ、このZUNが作った世界自体に、「世界内の人物に違和感をもたせにくくする効力」を持たせてたことにするとか

そして投下お疲れ様です
自分の知らない幻想郷の少女達を見てみたいというのは創造主ならではの願いかと
説得力ありました
265創る名無しに見る名無し:2011/09/05(月) 19:01:43.11 ID:t2uzPRZq
wikiの編集やっちゃったけど、失敗していないか不安だな・・・
おかしなところがあったらすみません
266創る名無しに見る名無し:2011/09/08(木) 15:01:55.72 ID:KTGywXRS
予約キター
267創る名無しに見る名無し:2011/09/09(金) 19:33:58.98 ID:iMn9XLaX
この予約は期待せざるを得ない
268創る名無しに見る名無し:2011/09/11(日) 22:32:49.89 ID:EkbuxDxl
あの三人の予約が来た……
269創る名無しに見る名無し:2011/09/11(日) 23:54:58.62 ID:Gl1yl6fs
やべえ
緊張してきた
270創る名無しに見る名無し:2011/09/12(月) 17:55:20.66 ID:JxeCt+kg
仮投下来てる
271創る名無しに見る名無し:2011/09/14(水) 19:52:08.06 ID:U5KIdc8e
得に反論が来てないので代理投下します
272◇TDCMnlpzcc 代理:2011/09/14(水) 19:52:50.65 ID:U5KIdc8e
放送が、終わった。
 十六夜咲夜は明かされた事実と新たな褒賞の話に意識を向け、戸惑っていた。
 八意永琳が主犯ではない。
 ではいったい誰があの主催者なのだろうか?
 あの男はいったい何者なのだろうか?
 疑問は尽きることを知らず、次々と、まるで湧水のように噴き出し始めた。
 特に、最後の褒美の話。
 自分の主、レミリア・スカーレットはそれをどうとるのだろうか?
 馬鹿な妄言として切り捨てる……いや、単なる侮辱としてとるだろうか?
 褒美は得るものではなく奪うもの。
 今のレミリアも昔のレミリアもこの提案に乗り、主催者の言いなりになることはないのだろう。
 少し変わってしまっていても、レミリア・スカーレットは紅魔館でゆったりと紅茶を飲んでいた時と変わらず、ぶれていない。
 十六夜咲夜の目の前には、昔と変わらない主の姿があった。
 とりあえず、彼女は放送の内容を参加者名簿にまとめる。
 紙を支える机も板もない草原では、文字はのたうつミミズの絵となり、一文字書くのにも苦労する。
 しゃがみこんで書き込んでいるうちに時間はどんどん過ぎて行った。
 しばらく経って、今まで黙っていた吸血鬼が口を開く。

「あと十三人だそうだ。咲夜、ずいぶん獲物が減ってきたな」

 そして、参加者名簿にメモを取る咲夜の横で、放送に眉一つ変えなかった吸血鬼が月を見上げた。
 遠くを見つめるレミリア・スカーレットの顔には何の感情も映っていない。
 ただ、真珠のような白い顔に、放送前と変わらぬ笑顔のような表情を浮かべているだけだった。
 その顔からは、いったい何を考えているのかはうかがい知れない。
 まるで何かを宣誓するかのように高くあげられたその手は、天頂に浮かぶ城郭の天守閣に向けられており、その中の誰かに向けられた吸血鬼の紅い視線は、するどく殺気を放っていた。
 咲夜はその姿を見て、純粋に美しいと感じるとともに、その影から普段のレミリア・スカーレットの面影を見出していた。
 すっかり変わってしまったレミリアの姿から、おどけて満月に手を伸ばす普段の気さくな様子を感じ取り、咲夜は少し安心した。
 自身の知っていた主はまだそこにいる、そう感じた。
 ぱたっ、と挙げられたその手が突然降りた。
 と、同時に吸血鬼が言う。

「咲夜」

 たった一言、しかし、それは忠実な従者の意識を縛るには十分すぎる一言だった。
 咲夜は意識を放送内容から、自身の主へと移し替えた。
 その眼を見て、多少の恐怖に震えながら、この殺し合いの前と変わらない調子で言う。

「はい、お嬢様」
273◇TDCMnlpzcc 代理:2011/09/14(水) 19:53:27.37 ID:U5KIdc8e
自身のしもべの返事を聞き、吸血鬼はしばし黙る。
 その間を使い、主と従者は視線を絡ませ、相手の考えを探った。
 あたりは普段は聞こえるはずの虫の音もなく、死んだような、人工的な空気を漂わせている。
 しばらく、あたりが静まり返った。
 今彼女たちがいるのは人里外れの平地である。
 咲夜はただレミリアの望みに従い、逃がした天狗を追いかけている。
 今は夜であり、吸血鬼であるレミリアだけならもっと早く天狗を追跡し、追い付くことも可能だっただろう。
 しかし、彼女は従者の治療と療養を優先した。
 それを従者は自身の主なりの優しさか、手負いの天狗に向けた余裕の表れと受け取った。
 とにかく、その治療と休息を挟んだゆえ、彼女たちは放送に至る今もまだ、天狗の血のにおいを追い、平地を人里に向け歩き続けている。
 放送までに奇襲をかけられやすい森を抜けられたのは幸運だったのだろう。
 機動力、夜間の視力ともに優れた吸血鬼にとってもまた、平地は戦いやすい場所であり、彼女たちはここで比較的リラックスをして放送を聞き、過ごしていた。
 すぐ近くには人里が見え、そこで発生している火災が、人里もまた安全地帯ではないことを示していた。
 もっとも、この会場に安全地帯など存在しない。
 それはここにいる二人もよく理解している。
 現に、今も咲夜の左手には飛び道具を仕込んだナイフが巧妙に、遠くからは見えないように包まれている。
 
「咲夜、戦えるか?」
「もちろんです」
 レミリアの問いに咲夜は即答した。
 当たり前のことである。
 体調が万全でなくとも、命令とあれば本気を出してお嬢様のために戦い抜く。
 それが今ここでの、十六夜咲夜の生き方だった。
「武器を構えろ、咲夜」
 その言葉が咲夜の耳に届くと同時に、どさり、と何かが近くに落ちた音がした。
274◇TDCMnlpzcc 代理:2011/09/14(水) 19:54:08.48 ID:U5KIdc8e

 博麗霊夢が放送を聞き始めたとき、彼女はまだ紅魔館にいた。
 天狗と妖怪の話からこの場所をめざし、ついたときには湖の周りにも館にも人影はなかった。
 目的地を失くした霊夢は一人、テラスで月を眺めていた。
 館にはまだ少し血のにおいが残っていたものの、その雰囲気はかっての紅魔館と寸分の違いもない。
 ほこり一つ残さない、徹底された清潔さ。
 人気のない、それでいて整った空間。
 霊夢は一瞬で、十六夜咲夜がここに来たことを確信できた。
 そして、おそらく自身の追う二人はもうこの辺りにはいないだろうことも理解した。
 いまだ戦闘の絶えない人里ヘと向かったのか、あるいは射命丸文を追いかけ森に潜んでいたのか。
 少なくとも自分は行き違えてしまったのだということくらいは容易に想像できた。
 一息をつき、軽い夜食を食べていると、空に浮かぶ星々の異常さが目に飛び込む。
 自分は何をしているのだろうと、一貫してきたはずの自信の行動に疑問が生まれそうになった。
 本当に、身近な人を犠牲にして、私は何をやっているのだろう。
 けれども、自分がやらなくてはいけないこともよく理解している。
 私は、主人公だから。
 もう、引き返せないことは、かつての親友に武器を向けたときから決まっていた。
 博麗霊夢の後ろには、断崖絶壁しか残っていない。
 後ろに進むことはすなわち、死ぬこと、失敗することだった。
 さすがの自分も疲れてきているのだろうと思い、霊夢は少し頭を振った。

「何をやっているの、博麗霊夢。自分の直感を信じなさい」

 近くにある壁が震えるくらいの大声で叫ぶ。
 さらに、気合を入れるため、霊夢は自身の足は叩き、喝を入れた。
 そして、静かに獲物がいるであろう人里の方へ向き直る。

 そんな時、突如として放送が始まった。
275◇TDCMnlpzcc 代理:2011/09/14(水) 19:54:58.03 ID:U5KIdc8e
「……これからの健闘を祈るよ」

 放送が終わる。
 騒がしかった館が、突然静まり返り、自分以外誰もいなくなってしまったように感じる。
 事実誰もいないのが正しいのだ。
 あたりを歩く妖精メイドも館の主も、門番もだれ一人いない。
 やっぱりこの館は偽物だと霊夢は思い、当てもなく、蝶のようにふわりと飛び立った。
 
 放送の内容は、ほとんど頭に入れなかった。
 誰が死んで、残りが何人で、どこに入ってはいけないのか。
 その三つが分かれば困りはしない。
 この殺し合いの後に何があるのか。
 エンディングを気にして、ゲームオーバーになるわけにはいかない。
 この異変にコンティニューは存在しない。

 いったん休んだおかげか、空に浮くのも楽だった。
 重力を気にせず飛ぶ、多くの人間には許されない快楽である。
 風にあおられた袖が手を擦り、髪がなびく。
 鷹やトンビのように風に乗り、地面を凝視する。
 月を背に飛んでいた霊夢は、当てもなく飛び続け、地面に二つの人影を見つけた。
 見覚えのある服装、見覚えのある羽。
「見つけた」
 さっと、急降下した。
 そのまま降りようとして、こちらを見つめる一対の視線に気づく。
 あった視線もそのままに、霊夢の耳に鋭い声が入る。
「武器を構えろ、咲夜」
 ふわり、というほどきれいには降りられず、少し乱暴な着地となった。
 落ちた拍子によろめき、急な気圧の変化で耳が遠くなった。
 霊夢が視線を目の前へと向けたときには、すでに二人は臨戦態勢へと入っていた。
 いち早く、武器を取り出したメイド、十六夜咲夜が霊夢へナイフを向け、言う。

「奇襲、ですか?」
「私がそんなことするように見える?」
「するようにしか見えませんわ」

 無言のレミリアはじっと霊夢を見つめ、像のように動かない。
 その眼が、すっと動き、宝石のように光り、霊夢を見つめた。
「霊夢……」
 霊夢が見たその眼からは、動揺、怒り、負の感情が混ざり合ったものが飛び込んできた。
 最初に出会った時のことを思い出しながら、霊夢はレミリアへと向き直る。

「さて、妖怪退治といきましょう」
 普段のように、霊夢はおどけて、武器を向けた。
 それでも、その眼はまったく笑っていない。
 向かい合う三人のどの手にも、スペルカードは握られていない。
 突然風がやみ、ごく自然に、レミリアの手がスキマ袋へと滑り込む。

 レミリアが霧雨の剣を構えると同時に、ごう、と風が鳴いた。
276◇TDCMnlpzcc 代理:2011/09/14(水) 19:56:33.73 ID:U5KIdc8e
あ、こっちに変更してたのかw;

「……これからの健闘を祈るよ」

 放送が終わる。
 騒がしかった館が、突然静まり返り、自分以外誰もいなくなってしまったように感じる。
 事実誰もいないのが正しいのだ。
 あたりを歩く妖精メイドも館の主も、門番もだれ一人いない。
 やっぱりこの館は偽物だと霊夢は思い、当てもなく、蝶のようにふわりと飛び立った。
 
 放送の内容は、ほとんど頭に入れなかった。
 誰が死んで、残りが何人で、どこに入ってはいけないのか。
 その三つが分かれば困りはしない。
 この殺し合いの後に何があるのか。
 エンディングを気にして、ゲームオーバーになるわけにはいかない。
 この異変にコンティニューは存在しない。

 いったん休んだおかげか、空に浮くのも楽だった。
 重力を気にせず飛ぶ、多くの人間には許されない快楽である。
 風にあおられた袖が手を擦り、髪がなびく。
 鷹やトンビのように風に乗り、地面を凝視する。
 月を背に飛んでいた霊夢は、当てもなく飛び続け、地面に二つの人影を見つけた。
 見覚えのある服装、見覚えのある羽。

「見つけた」

 さっと、霊夢は急降下した。
 そのまま地面へ降りようとして、こちらを見つめる一対の視線に気づく。
 あった視線もそのままに、霊夢の耳に鋭い声が入る。
「武器を構えろ、咲夜」
 ふわり、というほどきれいには降りられず、少し乱暴な着地となった。
 落ちた拍子によろめき、急な気圧の変化で耳が遠くなった。
 霊夢が視線を目の前へと向けたときには、すでに二人は臨戦態勢へと入っていた。
 いち早く、武器を取り出したメイド、十六夜咲夜が霊夢へナイフを向け、言う。

「奇襲、ですか?」
「私がそんなことするように見える?」
「するようにしか見えませんわ」

 無言のレミリアはじっと霊夢の持つナイフを見つめ、像のように動かない。
 その眼が、すっと上へ動き、宝石のように光り、霊夢の目を捕えた。
「霊夢……」
 霊夢が見たその眼からは、動揺、怒り、負の感情が混ざり合ったものが飛び込んできた。
 最初に出会った時のことを思い出しながら、霊夢はレミリアへと向き直る。

「さて、妖怪退治といきましょう」
 普段のように、霊夢はおどけて、武器を向けた。
 それでも、その眼はまったく笑っていない。
 向かい合う三人のどの手にも、スペルカードは握られていない。
 突然風がやみ、ごく自然に、レミリアの手がスキマ袋へと滑り込む。

 レミリアが霧雨の剣を構えると同時に、ごう、と風が鳴いた。
277◇TDCMnlpzcc 代理:2011/09/14(水) 19:57:02.28 ID:U5KIdc8e
【D-3 二日目・深夜】

【博麗霊夢】
[状態]疲労小、霊力小程度消費
[装備]果物ナイフ、魔理沙の帽子、白の和服
[道具]支給品一式×5、火薬、マッチ、メルランのトランペット、キスメの桶、賽3個
救急箱、解毒剤 痛み止め(ロキソニン錠)×6錠、賽3個、拡声器、数種類の果物、
五つの難題(レプリカ)、血塗れの巫女服、 天狗の団扇、文のカメラ(故障) 、ナズーリンペンデュラム
不明アイテム(1〜4)
[基本行動方針]力量の調節をしつつ、迅速に敵を排除し、優勝する。
[思考・状況]
1.目の前の二人を排除する
2.自分にまとわりつく雑念を振り払う
3.死んだ人のことは・・・・・・考えない

【十六夜咲夜】
[状態]腹部に刺創(手当て済み)、左目失明(手当て済み)
[装備]NRS ナイフ型消音拳銃(1/1)個人用暗視装置JGVS-V8 
[道具]支給品一式*5、出店で蒐集した物、フラッシュバン(残り1個)、死神の鎌
    NRSナイフ型消音拳銃予備弾薬15 食事用ナイフ(*4)・フォーク(*5)
    ペンチ 白い携帯電話 5.56mm NATO弾(100発)
[思考・状況]お嬢様に従っていればいい
[行動方針]
1.目の前の敵を排除する
2.このケイタイはどうやって使うの?

※出店で蒐集した物の中に、刃物や特殊な効果がある道具などはない。
※食事用ナイフ・フォークは愛用銀ナイフの様な切断用には使えません、思い切り投げれば刺さる可能性は有

【レミリア・スカーレット】
[状態]背中に鈍痛、
[装備]霧雨の剣、戦闘雨具
[道具]支給品一式、キスメの遺体 (損傷あり)
[思考・状況]基本方針:威厳を回復するために支配者となる。もう誰とも組むつもりはない。最終的に城を落とす
1. ・・・・・・
2. 文とサニーを存分に嬲り殺す
3. キスメの桶を探す
4.咲夜は、道具だ

※名簿を確認していません
※霧雨の剣による天下統一は封印されています。
278◇TDCMnlpzcc 代理:2011/09/14(水) 20:00:48.82 ID:U5KIdc8e
代理投下乙です

どうなるかと思ったが出会って言葉そこそこで対決か
初戦は毒舌の応酬かなとも思ったが…普段の二人ならあり得たけど今の二人は…
特に霊夢は思いつめててるなぁ
279創る名無しに見る名無し:2011/09/14(水) 20:56:48.77 ID:RDPgJI6z
投下乙です
咲夜視点で何度も「普段通りのお嬢様」とあるのが逆に、今のレミリアの不自然を際立たせてると感じたな
それは霊夢も同じなんだけど

280創る名無しに見る名無し:2011/09/14(水) 23:55:50.44 ID:i+laQzuh

さあ胃がキリキリしてまいりました
281 ◆yk1xZX14sZb0 :2011/09/17(土) 19:38:46.45 ID:kgEPZ37J
仕事が立て込んで遅くなってしまい申し訳ありません
予約していたチルノ・お空のパートを20時半から投下致します
トリップが避難所と違ってるのは12文字以上ということなので……
過去ログ見れば◆shCEdpbZWwと同一人物であることが分かっていただけるかと……
282太陽は沈まない ◆yk1xZX14sZb0 :2011/09/17(土) 20:32:20.09 ID:kgEPZ37J
おぼろげながら残っていた記憶は、永琳の弾幕に周囲を囲まれ、滅多打ちにされたこと。
そうして、今にもトドメを刺されようとしていたところに、萃香が勇躍して助太刀に現れたこと。
その後、見知らぬ二人に抱え上げられ、どこかへ運ばれたこと。
戦場を離れ、当座の命の危険が過ぎ去ったことで緊張の糸が切れたのか、チルノはその先のことを覚えていなかった。

次に目を覚ましたのは、これまたチルノが知らぬどこかの建物の中であった。
耳には、聞いたこともない男の声が遠くから響いているのが伝わってくる。

「……さて、ここで大きなルール変更を行おうと思う。
 君たちは昨日一日……」

(誰だろ……?)

聞き覚えのない声に起こされる形になったチルノは、まだ鮮明になりきらない意識の中で五感をゆっくりと働かせる。
鼻をひくつかせると、藺草の香りと、石灰の匂いがごちゃ混ぜになって飛び込んできた。
ゆっくりと辺りを見回してみると、そこは畳張りの一室であることにチルノは気づいた。
人家の居室とは比べ物にならないくらいの広さを持つその部屋には、机が整然と並べられていた。
それぞれの机には小さな石板のようなものが設えられており、白墨も備え付けられている。

……もっとも、"寺子屋"などというものに縁のない妖精にとっては、そうしたものは全て未知のものである。
張り替えられたばかりなのか、独特の香りを放つ畳にしても、彼女の出入りするようなところではそうそうお目にかかれない代物だった。

「……さあ、少しはやる気が出てきたかな?
 これからの健闘を祈るよ」

その言葉を最後に、男の声が途切れた。
声の主が永琳でなかったこと、そして自らが永琳を騙っていたという部分を聞き逃していたこと。
これらのことから、チルノは今流れてきた声が四度目の放送であることに気づかなかった。
とはいえ、彼女が意識を取り戻した時点で死者の発表や禁止エリアの発表はすでに済んでいる。
放送であることに気づいたところで、情報の大半をすでに零していたということに変わりはなかった。

興味の対象を、未知の物体である石板に移したチルノは、おもむろにそれに手を伸ばそうとした。
……と、次の瞬間にジャラリという無機質な音と共に、その腕に重さを感じてチルノが振り返る。
視線の先には、依然として意識を取り戻さない地獄鴉の姿があった。

(そうだった、あたい、おくうと離れ離れにならないようにしたんだっけ)

ようやくはっきりしてきた意識の下で、チルノがゆっくりと空のもとへと這い寄る。
体中のあちこちに傷を作ってはいたが、まだその呼吸は安定していた。
チルノと同じく、誰かに助けられたところで気が抜けたのだろう、すぅすぅと静かな寝息を立てていた。
ふと、羽の部分に目をやると、なにやら布のようなもので処置が施されていた。
うっすらと紅に滲んではいたが、その染みがそれ以上広がる様子は見られない。
血が止まっていることに安堵したチルノは、ここでようやく自分たちが助かったということを理解したのだった。
ふぅっ、と一息ついたチルノは空を起こしてしまわないように注意しながら、もう一度机の上の石板に手を伸ばそうとした。



その時だった。



チルノの視界の片隅に、ぽぅっと淡い光を放つ物が入った。
横たわる空の傍らに整然と積まれたスキマ袋は、恐らく自分たちを運んできた誰かが置いていってくれたのだろう。
そのうちの一つの口から、さっきまでは全く発せられていなかった光が漏れだしていた。
283太陽は沈まない ◆yk1xZX14sZb0 :2011/09/17(土) 20:33:37.21 ID:kgEPZ37J
(なんだろ……?)

チルノの興味は石板から、その光を放つ袋へと移った。
幸い、空のすぐ傍に置かれていた袋に近づくのに、手錠の鎖が邪魔になることはなかった。
袋のもとへ這い寄ったチルノが、中身を探ろうと手を突っ込んでみた。
……すると、その光がみるみるうちに萎んでいってしまう。
慌ててチルノが袋から手を引き抜くと、また袋の口からは元通りに淡い光が漏れだしていた。

(どういうことなの……?)

チルノは試しに同じことを二度三度と繰り返してみたが、やはり結果は同じ。
大抵の事なら興味津々に手を出そうとする妖精でさえ、さすがに不気味さを覚えた。
空にも一緒に見てもらおう、そう思ったチルノは傷に触らないよう気を遣い、空を揺すり起こそうとするのだった。




 *      *      *




あたりまえの日常だった。
お燐が運んでくる死体を灼熱地獄に投げ込み、火力を調整するということ。
単純作業ではあったが、平和で満足のいく地底での暮らし。

山からやって来たという二人の神様に、八咫烏の力を与えられて地上の破壊を目論んだこともあった。
それもすぐに巫女と魔法使いに鎮圧され、その後は間欠泉周りでも仕事をするようになった。
とはいえ、けっして刑に処されたというわけではなく、暮らし向きに関してはそれまでとほとんど変わることが無かった。

すぐそばにお燐が立っていた。
ちょっと離れたところから、こいし様が微笑んでいる。
そして、さらに離れたところからはさとり様が私たち3人を見渡すように佇んでいた。
変わらない日常、地霊殿の大好きなみんな。
私はいつものように、みんなの下へと駆け寄ろうとした。

が、次の瞬間にお燐の姿が霧散するようにかき消えていった。
駆け出していた私は慌ててその足を止めてしまう。
戸惑ったままこいし様の方を向いてみると、こいし様も同じように、まるで最初からいなかったかのように姿を消してしまった。

「お燐!? こいし様!?」

大親友と、主の妹を同時に失った動揺から、思わず声を張り上げてしまう。
突然のことに錯乱し、自分の瞳から涙が零れ落ちるのが分かった。
くしゃくしゃの顔のまま、まさか、と思った私はさとり様の方に目を向ける。

「さとり様……?」

視界に飛び込んできたのは、お燐やこいし様と同じように、今にも霧のように消えてしまいそうなさとり様の姿だった。

「さとり様っ!? そんな、待ってくださいっ!」

半狂乱になりながら駆け出そうとしたその時だった。
284創る名無しに見る名無し:2011/09/17(土) 20:34:14.19 ID:kgEPZ37J
(……う、おくう……)

頭の中に、聞き覚えのある幼い声が響き渡ってきた。
こんな時にいったい誰? そんな思いがよぎりながらもなおも足を止めずに走ろうとする。
……が、次の声で全てが遮られることとなった。




「いつまで寝てるのよっ! 早く起きてよっ!!」

揺すり起こされた私の視界に飛び込んできたのは、さっきとはまるで違う見知らぬ天井だった。
さっきのは……夢……?
そうだ、確かあの赤青に撃ち落とされて、弾幕でボコボコにされて、それから……どうなったんだっけ?
私が覚えているのは、あの鬼が赤青に向かって行ったところまで。
弾幕の気配を感じないってことは、どこか別の場所? でも、どうやって?
まだ頭がボーっとする私だったが、もう一度揺すられた次の瞬間体に痛みが走ったことで一気に意識を引き戻された。
私を起こした声の主――チルノは、苦痛に歪んだ私の顔を見てようやく目が覚めたことに気が付いたらしい。

「あっ……ごめん」

一応気を遣っていたみたいだが、なかなか目を覚まさない私に業を煮やしたらしい。
いいよ、気にしてないからとチルノを手で制しながら、痛みが走った部位、先ほど打ち抜かれた羽に手をやる。
するとそこに、羽根とは違う何かの感触を感じた。

……傷口に布が当てられていた。
……それもただの布じゃなかった。
いくら忘れっぽい私だからって、これは忘れるわけがない。
淡い水色のこの生地は……間違いなくあの方の着ているもの。

(さとり様……さとり様……っ!)

お燐とこいし様がいなくなってしまった今、私のたった一人の身内。
さとり様が私を助けてくれたという嬉しさ。
そして、さとり様が無事であったということへの安堵。
そうした様々な感情が、私の肩を震わせる。

「おくう……? そ、そんなに痛かった……?」

気が付くと、チルノが心配そうに私の顔を覗き込んでいた。

「だから大丈……」
「でも、おくう泣いてるし」

言われて初めて、私は頬に涙が伝っているのを感じた。
あんな夢を見た後だったから、なおさらさとり様が無事であることにホッとして緊張の糸が途切れたのかもしれない。
……でも、それをチルノに見られたというのもまた気恥ずかしいものだった。

「ちっ、違うわよ! これは……そっ、そう! 汗よ、汗!」
285太陽は沈まない ◆yk1xZX14sZb0 :2011/09/17(土) 20:35:01.21 ID:kgEPZ37J
ハハッ、と笑い飛ばしながら、私はごしごしと涙を拭った。
チルノはチルノで、ふーん、と小さく呟いて、

「ま、いいや。おくうが無事ならそれでよし!」

と力強く言って、ニカッと笑いかけてきた。
その笑顔につられるようにして、私もまたニカッと笑ってやった。
そうして、今日何度目になったか、二人であははと笑い合う。



……笑い合いながら、徐々に落ち着いてきた私に、今度は悔しさという感情が押し寄せてくる。
さっきの戦いでは、巫女にも赤青にも、勝ったなんて口が裂けても言えないような結果だった。
さっきだけじゃない、メディを殺したあの女との時だって、それにお燐の時だって……
私は誰一人守ることが出来なかった。

神様がくれた、この力に不満があるというわけじゃない。
むしろ、地上に出て本物の太陽を見た時に、アレと同じ力をいただいたことを誇りに思ったくらい。
だけど、その力だけじゃ、チルノの力をプラスしても、全然足りないということが痛いほど分かった。

もちろん私……私たちは最強だ、最強なんだけど……まだまだ足りない。
力が……力がもっと欲しい。
さとり様を、チルノを守って、そしてあの女や赤青、巫女みたいなムカつく連中をぎゃふんと言わせられるような……
そんな力が欲しい。



「そーだ、おくうにちょっと見てもらいたいものがあるの」

そんな私の胸の内を知ってか知らずか、相変わらずの調子でチルノが話しかけてきた。
いざ戦いともなれば、私に負けず劣らずの威勢の良さでぶつかっていくけど、そうでない時は無邪気なものだ。

「なになに? どしたの?」

それにしても、見てもらいたいものっていったいなんだろ。
私は、湧き上がる悔しさをいったん脇へと追いやり、チルノの言う"見てもらいたいもの"に興味を移した。




 *      *      *




依然として淡い光が、詰まれた袋のうちの一つから漏れ出していた。

「チルノ……何これ?」
「分かんない」

空とチルノはお互いに顔を見合わせると、再び視線を件の袋に戻す。
286創る名無しに見る名無し:2011/09/17(土) 20:37:27.40 ID:fr9SCJKE
支援
287太陽は沈まない ◆yk1xZX14sZb0 :2011/09/17(土) 20:37:36.15 ID:kgEPZ37J
「さっきまで光ってなかったよね?」

空の問いかけに、チルノがこくりと頷く。
それでね、とチルノが呟いたかと思うと、その袋の口に手を伸ばす。

「あたいがこうやって調べようとすると、光が消えそうになっちゃうの」

チルノが何度目になったか、袋に手を突っ込むとすぅ……と光が消えかかる。
そして、チルノが手を抜くとまた元通りになるのを見て、空は首をかしげる。

「どういうこと?」
「分かんない」

二人はもう一度顔を見合わせた。

「だから、おくうにも一度見てもらおうと思って。何か分かった?」
「いや、私だって分からないわよ……」

二人でジッと謎の光を見つめる。
寺子屋の教室にしばしの沈黙が流れた。

「チルノ……あんたビビってるの?」
「なっ……ちっ、違うわよ! なんで最強のあたいがあんな光にビビらなくちゃいけないのよ!」

引きつらせた笑みと共に空が口にした言葉に、チルノが真っ赤になって返す。
分かった、分かったから、と空がチルノをなだめるが、チルノは頬をぷぅっと膨らましてなお不満そうにする。

「ビビってるわけじゃ……ないけど」
「ないけど?」
「何か……ブキミだし」
「やっぱビビってるんだ」
「だーかーらー! 違うって言ってるでしょ!?」

空がからかうと、さすがのチルノも怒ったかポカポカと空を叩く。
痛い痛い、と言いながらも笑みが零れる空が、じゃあ私も、と手錠に繋がれていない方の手を袋に伸ばした。



……光は萎まなかった。
……むしろ、その輝きを増したほどだった。



自分の時とは違う反応に、チルノが目を見張る。
そして、チルノの時とは違う反応にビックリした空が、慌てて袋から飛び退く。

「何よおくう、まさかビビったの?」
「あんたと一緒にするな!」

今度は空がムッとした表情を見せる。
そして、再びおずおずと袋に近寄り、手を差し出す。
やはり、光は萎むことなく逆に、より強く漏れ出してくる。
何が何だか分からない空は、首をかしげながらチルノの方を振り返る。
288創る名無しに見る名無し:2011/09/17(土) 20:38:27.33 ID:fr9SCJKE
 
289太陽は沈まない ◆yk1xZX14sZb0 :2011/09/17(土) 20:38:45.99 ID:kgEPZ37J
「チルノ……何か変なことしたんじゃないの?」
「何もしてないってば」

チルノはチルノで訳が分からない。
なんであたいの時は消えそうになって、おくうの時はよけいに光りだすの?
そうした疑問が頭の中をグルグルと駆け巡るが、当然のことながら答えは導き出されない。

再び沈黙が訪れた後、意を決したように空が呟く。

「取り出すよ」

チルノからの返事が無いことを肯定と受け取った空が、一つ大きく深呼吸をしてからえいやっ、と袋に手を突っ込む。
漏れ出す光がさらに輝きを増す中、空は目的のものを探り当てて引きずり出した。
引っ張り出されたそれは、漆で塗りあげられた小さな箱――つづらであった。
蓋には和紙が貼り付けられており、"東"と記されている。

「それ……確かメディの……ううん、あの猫……お燐って奴が持ってた」

チルノがポツリポツリと話すと、空も得心したかのようにああ、と呟く。

二人はメディスンが殺された後、霧の湖に向かう前にメディスンとお燐が何を持っていたのかと、スキマ袋の中身を検めていた。
その時にお燐からメディスンへと渡った袋の中に、この"東"のつづらを見つけていたのだった。
ただし、その時は錠前はうんともすんとも言わず、かと言って捨てるわけにもいかずにまた袋の中へと押し込んで……
その後は、そのつづらのことなどすっかり忘れてしまっていたのだ。

そのつづらが、あの時とは違って今は煌々と輝きを放っている。
光の正体は掴めたが、結局何故今になって強く光りだしたのか。
根本に横たわる問題は解決せず、二人は今一度首をかしげた。

「おくう……どうなってるの、それ……?」
「そんなこと私に聞かれても……」

困惑した表情でつづらを弄りながら空が言葉を返す。
……すると、カチリと小さな音がしたかと思うと、それまでビクともしなかった錠前が外れ、畳にポトリと落ちた。

「……開いたよ?」
「えっ」

呆気に取られながら空が言うと、チルノもまた同じように素っ頓狂な返事をすることしか出来なかった。
先程から分からないこと続きで、二人の頭はオーバーヒート寸前になっていた。
とはいえ、好奇心が尽きたわけではない。
訳が分からないままに空がゆっくりと蓋を開けると、二人は顔を突き合わせるようにして中を覗き込んだ。
つづらの中では……チルノも空も見たことのない小さなオブジェのようなものが強い光を放っている。
漏れ出していた光の正体はこれだったらしく、つづらが袋にあった内から漏れ出していた光は一層強まるばかり。
真夜中の寺子屋の教室を照らすその光は、行燈とは比べ物にならないほどの明るさであった。

「……何これ?」

眉を顰めながら、チルノがつづらの中身に手をかけようとする。
すると、先ほどと同じように光が急速に衰えていくのが分かった。

「わっ、わっ……ダメ、ダメっ!」

慌てて空がひったくるようにして、つづらの中身を取り出す。
掌に載せられるほどの大きさのそれは、今度は光が萎まずに空の手の中で光を放っていた。
290創る名無しに見る名無し:2011/09/17(土) 20:39:05.84 ID:fr9SCJKE
 
291太陽は沈まない ◆yk1xZX14sZb0 :2011/09/17(土) 20:39:48.20 ID:kgEPZ37J
「……何これ?」

眉を顰めながら、チルノがつづらの中身に手をかけようとする。
すると、先ほどと同じように光が急速に衰えていくのが分かった。

「わっ、わっ……ダメ、ダメっ!」

慌てて空がひったくるようにして、つづらの中身を取り出す。
掌に載せられるほどの大きさのそれは、今度は光が萎まずに空の手の中で光を放っていた。

「……何が何だか分からないけど、これはどーやら私は使えるけど、チルノじゃ使えないものみたいね」
「えー、何でおくうばっか、ズルい!」

空が出した推測に対して、チルノが口を尖らせながら噛みついてくる。

「あっはっは、そりゃー私とチルノとじゃやっぱり格が……」

もう一度軽口を叩こうとしたところで、空は何やら違和感を覚えた。
いや、違和感と言うよりは、以前にも一度感じたようなそんな不思議な感覚。
自分の中を、何かよく分からない力が満たしていく。

(……? これって……)

元々、空はしがない地獄鴉の一羽に過ぎなかった。
灼熱地獄から湧き出る怨霊を啄むことで妖怪としての力は得てはいたが、吹けば飛ぶような木端妖怪の域を出なかった。
そんな空の運命を変えたのが、山からやって来たという二人組の神様。
その神様から与えられた力こそ、空が誇りに思っている八咫烏の力である。

八咫烏の力を与えられた時も、自分の内に未知なる力が満たされていくのを感じていた。
その時に似たような感覚を、空は感じているのである。

力が漲ってくるのを感じた空ではあったが、何故いきなりそんな力を得たのかは分からない。
そして、ひとしきり考えた後で自らの手の内にあるオブジェを見やる。

(ひょっとして……これのおかげ?)

まじまじと空が見つめるそれの正体は……世間一般で言うところの"宝塔"であった。
それも、そんじょそこらの宝塔とは訳が違う。
武神や守護神と称されることもある、かの毘沙門天の力が宿る宝塔なのである。

「ちょっとおくう、格が……何だってのよ」
「……なんでもない」

チルノも空も、毘沙門天が何たるか、そして宝塔が何たるか。
そういった方面に対する知識など持ち合わせているはずもなかった。



(何が何だか分からないけど……なんか力が湧いてくる)

空がすっくと立ち上がり、それをチルノが下から見上げる格好になる。
292太陽は沈まない ◆yk1xZX14sZb0 :2011/09/17(土) 20:41:20.87 ID:kgEPZ37J
「……? どしたの、おくう?」

きょとんとした表情で問いかけるチルノに対し、空はにかっと笑いかける。

「どしたの、って……行くよ、助けに」
「へ?」

チルノが目をぱちくりさせる。

「助けに……って、誰をよ」
「決まってるじゃない、あの鬼よ。
 私たちが会った時に、もう抜け殻みたいになってたあのちっこい鬼」
「そいつがどーしたのよ」
「最強の私たちがかかっても、あの赤青とは互角だったのよ。それなのにあんな状態の鬼が勝てると思う?」

実際には互角とはお世辞にも言えないような勝負であったが、そのことは気にしない。
なおも、言葉に気合を込めながら空が続ける。

「それに、あの赤青や巫女はこの手でブッ飛ばしてやらないと気が済まないよ。
 前にも言ったでしょ? 殺し合いなんかやめてみんなで帰るの。
 それでも戦う奴は……ってね」
「……そりゃ、あの鬼を助けたいのはあたいもそうだし、巫女たちをブッ飛ばしてやりたいのもおんなじだよ」

そこまで言ってチルノが言いよどむ。
その顔色から、空はチルノが何を考えているのか大体分かった。

「でもさ……おくうは大丈夫なの? さっきまで痛い痛い、って泣いてたくせにさ」
「ちょっ……あれは泣いてないって言ってるでしょ!?」

やはりそうだ、と空は得心する。
この氷精は、口ではなんだかんだ言いながら自分のことを心配してくれているんだと。
お燐とやり合った時も、あのメディを殺したあの女の時も、湖でこいし様が死んだと知った時も、巫女や赤青と戦ってる時もそうだったと。
そうしたチルノのまっすぐな感情を、空は概ね好意的に受け取った。

(だけど……)

そうした感情を持つ半面、空は逆に自分の不甲斐なさを感じるのであった。
もっと私がしっかりしてれば、八咫烏の……核融合の力を使いこなせていれば……
お燐やメディスンを死なせることはなかった、こいし様も助けられたかもしれないし、桃帽子の女や巫女、赤青にも勝てたかもしれない、と。
最強を自負するが故に、空の心中は穏やかではなかったのだ。

(でも……今の私は違う……! 核融合の力に、この何が何だか分かんないけど湧いてくるこの力……
 これがあればもう何も怖くないんだ……!)

力を欲していたその矢先に与えられたこの力を、空は些末な疑問を投げ捨てて受け入れる覚悟を決めた。
そして、口では鬼を助ける、赤青や巫女をブッ飛ばすとしたが、それ以上の目的が空にはある。
293創る名無しに見る名無し:2011/09/17(土) 20:41:47.46 ID:fr9SCJKE
 
294太陽は沈まない ◆yk1xZX14sZb0 :2011/09/17(土) 20:42:14.77 ID:kgEPZ37J
(そして……絶対にさとり様は私が守ってみせるんだ……!)

依然として健在であり、自分を救ってくれた主。
受けた恩は返さなければいけない……今まで可愛がってくれたこと、異変を知ってなお罰を与えなかったこと、そして今……
報いるにはちょっとやそっとでは足りない大恩を、空はさとりから受けていると考えていた。
すぐにでも動き出したい、そうした焦燥感もまた空の心中を覆っていた。



「あ……そんなこと言ってもしかして……実はあの赤青や巫女にビビってるんじゃないの?」
「なっ……! そっ、そんなわけないでしょ!」
「いやぁ〜、結構あんたも臆病なんだねぇ〜。カワイイとこあるじゃない」
「違うって言ってるでしょ! あたいをバカにするな!」

あとはチルノを焚きつけるだけだった。
さっきと同じように煽ってみると、やはり同じような反応を見せたチルノが立ち上がり、また空をポカポカと叩いてきた。

「あっはっは、ごめんごめん。悪かった、悪かったからこれ以上叩かないでよ」
「むぅ〜……」

苦笑を浮かべながら謝る空に対し、チルノは不満そうな表情を見せる。
そんなチルノを、空はグイッと抱き寄せる。

「……ありがとうね、心配してくれて」

ガラリと変わった空の態度に、チルノが戸惑う。
えっ、いや、その、あれは……としどろもどろになりながら、

「……わ、分かればいいのよ」

……と、最後は照れ臭さから目線を逸らした。

「大丈夫、もう心配ないから。それより、あの鬼が心配だよ」

本音ではさとりの方が心配なのだが、嘘も方便である。
チルノもその点に関しては同意し、無言でこくりと頷く。

「よっし、それじゃいっちょ、最強の私たちが助けに参上するとしますかね」
「おうっ!」

手錠に繋がれた側の手で、気合を確かめ合うかのように二人はガシッと拳をぶつけ合った。
そして、おもむろに空が屈伸運動を始める。

「……何してるの?」
「ちょっとね……よしっ、じゃあ行くよ。チルノ、ちゃんと捕まってなよ」
「……へ?」

空が何を言っているのか分からないチルノが戸惑うのも気にせず、空がグッと下半身に力を籠める。
そのまま天井を見据えると、ハッ!と一声発して跳躍した。

「わわっ!?」

手錠でグイッと引っ張られ、チルノの小さな体躯が空に続いて宙に舞う。
そして、空は飛びだした勢いそのままに、寺子屋の天井を突き破ってしまった。
みるみるうちに眼下の建物が小さくなっていく。
跳躍力、スピードのいずれを取っても、万全の状態か、あるいはそれを上回るのではないか。
新しい力の試運転を済ませた空はそう感じ、上機嫌な表情を見せる。
295創る名無しに見る名無し:2011/09/17(土) 20:43:23.09 ID:fr9SCJKE
 
296太陽は沈まない ◆yk1xZX14sZb0 :2011/09/17(土) 20:43:34.15 ID:kgEPZ37J
「い、痛いじゃない! 飛ぶなら飛ぶって言ってよ! おくうのバカ!」

空と比べると、飛ぶことに関しては万全ではないチルノは、なんとか空にしがみついていた。

「ごめんごめん、ちょっと加減が効かなくてさ」

チルノをとりなしながらも、空は新しい力に手ごたえを感じていた。
手の内にある宝塔からは、絶え間なく力が注ぎ込まれているように思えた。
これなら行ける、そう確信した空の目が輝いた。

「よ〜し、じゃあ行くよ、チルノ」
「おーっ! ……って、どこへ?」
「知らない! とりあえずどっかで戦っているならそこに行くよ!」
「分かった!」

適当にあたりをつけて、空とチルノが飛び出した。
二人とも……特に空の目は今まで以上に強い光を宿していた。


【D-3 人里上空 二日目深夜】


【チルノ】
[状態]疲労大
[装備]手錠
[道具]支給品一式(水残り1と3/4)、ヴァイオリン、博麗神社の箒、洩矢の鉄の輪×1、
    ワルサーP38型ガスライター(ガス残量99%) 、燐のすきま袋
[思考・状況]基本方針:お空と一緒に最強になる
1.鬼を助ける。
2.メディスンを殺した奴(天子)を許さない、赤青と巫女もブッ飛ばす。
3.ここに自分達を連れてきた奴ら(主催者)を謝らせる。
4.必ず帰る。


※現状をある程度理解しました
※第四放送を聞き逃しました


【霊烏路空】
[状態] 疲労大、霊力急速に回復中
[装備] 手錠 、宝塔
[道具] 支給品一式(水残り1/4)、ノートパソコン(換えのバッテリーあり)、スキマ発生装置(二日目9時に再使用可)、 朱塗りの杖(仕込み刀)

、橙の首輪
[思考・状況]基本方針:チルノと一緒に最強になる。悪意を振りまく連中は許さない
1.さとりと鬼を助ける。
2.メディスンを殺した奴(天子)を許さない。、赤青と巫女もブッ飛ばす。
3.必ず帰る。


※現状をある程度理解しました
※第四放送を聞き逃しました


※空の左手とチルノの右手が手錠でつながれています。妹紅の持つ鍵で解除できるものと思われます。
※メディスンの持っていた燐のスキマ袋はチルノが持っています。
 中身:(首輪探知機、萃香の瓢箪、気質発現装置、萃香の分銅● 支給品一式*4 不明支給品*4)
297太陽は沈まない ◆yk1xZX14sZb0 :2011/09/17(土) 21:03:58.62 ID:kgEPZ37J
 *      *      *




"東"のつづらが今まで開かなかったこと、そして中身をチルノが使えなかったことには理由がある。


  それらつづらが宿す子は、帯に短し襷に長し。
  一つは直に産まれます、あなたの道を選びなさい。
  二つ欲しけりゃ殺しなさい、魂が乳となるでしょう。
  三つ欲しけりゃ待ちなさい、時が母となるでしょう。
                  血が父となるでしょう。
  それでも産子は未成熟。


つづらに仕込まれた紙に記された文章である。
この三つ目のつづらを開けるのに必要な条件……それは文字通り"待つ"ということ。
このバトルロワイヤルの開始から24時間が経過した今、その条件を満たしたということである。

そして、"血が父となる"という言葉の通り、もう一つの条件として定められたもの。
それが"誰か他の参加者を一人でも殺める"というものであった。
これが、このつづらを手にした犬走椛、火焔猫燐、メディスン・メランコリー、そしてチルノがつづらを開けられず、
霊烏路空だけがその中身を使いこなせる理由であった。



こうして新たな力を手にした空、そして共に戦うチルノであったが、二人は見落としていることがあった。
まず、彼女たちが助けようとしている伊吹萃香も、そして打倒を目指す八意永琳も既にこの世の者ではないということ。
どちらも、放送を聞いていなかった二人には知り得ないことであった。
メディスンを殺した比那名居天子も、その名を知らないためにやはりこの世の者でなくなっていることを二人は知らない。
まして、打倒を目指す面々で唯一生き延びている博麗霊夢が既に人里を後にしていることなど知る術もない。
空の心中にある"さとりを助ける"ことを除けば、二人の目的は全て当てが外れてしまっているのだ。



……そしてもう一つ。
空は元々が一介の地獄鴉に過ぎず、守矢の二柱から八咫烏の……核融合の力を与えられて強くなった存在である。
この時もまた絶大な力に酔い、後先考えずに力を使った空は地上からやって来た巫女と魔法使いにとっちめられたのだ。
今回もまた、新しい力を得た空は、他者を救う、叩きのめすという大義名分があるとはいえ、同じ轍を踏もうとしていた。

さらに"産子は未成熟"とある通り、この宝塔はある意味で不完全なものである。
その内に籠められた力を、対象に注げるだけ注いでしまう、タガの外れた状態なのだった。
八咫烏の力を飲み込んだ上に、毘沙門天の力が注がれている今、空のキャパシティは限界を超えようとしている。
度重なる戦闘で傷ついた空の体が、いつまで溢れんばかりのこの力を御していられるのか。
力を得て、さとり達を助けることで頭がいっぱいの空に、そこまで考えるだけの余裕は無かった。
それはまた、どうして空がいきなり元気になったのか、ハッキリとは理解していないチルノも同じこと。



様々な不安要素を抱えながら、"最強"の二人は飛び出した。
最強を一途に求めた二人の行きつく場所は果たしてどこになるのだろうか。



※宝塔の力を使える条件は、"24時間生存"し、"誰か一人でも殺める"ことです。
 現状、その条件を満たすのは博麗霊夢、レミリア・スカーレット、十六夜咲夜、小野塚小町、霊烏路空の5人です。
 ですが、これ以外の参加者も今後条件さえ満たせば宝塔を使えるようになります。
298 ◆yk1xZX14sZb0 :2011/09/17(土) 21:04:34.42 ID:kgEPZ37J
投下は以上です
最後はさるって投下が遅くなりましたことをお詫びいたします
ご支援ありがとうございました
299創る名無しに見る名無し:2011/09/17(土) 21:57:10.94 ID:jRdzcO0D
投下乙
さともこが寺子屋向かってるのにニアミスか……
そして宝塔……過ぎたる力を持つというのは使い方しだいで身を滅ぼすからなぁ
この二人らしく前向きに、しかし不安は拭えない感じで、先が楽しみです
300創る名無しに見る名無し:2011/09/17(土) 22:20:56.54 ID:Nw1wNcTC
お空気が逸ってるなー
チルノが上手く止められればいいんだけど……
でも焦る気持ちも分かるんだよなぁ
301創る名無しに見る名無し:2011/09/18(日) 06:13:18.26 ID:O94pXWYC
投下乙

お空はやっぱり対主催の鏡だな
不安な雰囲気を醸し出すいい作品でした
302創る名無しに見る名無し:2011/09/18(日) 19:33:59.91 ID:aonKGQm0
投下乙

上で言われてるとおり不安が拭い切れないんだよな
チルノはどうにかする事が出来るのだろうか…
303創る名無しに見る名無し:2011/09/19(月) 15:51:19.50 ID:GyR4UInB
投下乙
さて、宝塔はパワーアップフラグとなるか、それとも暴走フラグとなるか…
次の書き手にいい繋ぎになったんじゃないかな

連休中に次の投下が来るんじゃないかとwktkしてるのは俺だけじゃないと思う
304創る名無しに見る名無し:2011/09/20(火) 02:36:37.65 ID:J8uB0676
投下乙です
不安がぬぐいきれないって声もあるけど、それでもこの二人ならきっと何とかしてくれる…!
305 ◆Ok1sMSayUQ :2011/09/23(金) 02:59:45.63 ID:4/AhBUHM
 また、だ。
 また理不尽が生まれ、横たわっている。
 フランドール・スカーレットは骨が浮き出るほど固く拳を握り締め、因幡てゐの亡骸の横にしゃがみこんでいた。
 すぐ近くでは霧雨魔理沙が複雑な表情をして腕組みを、少し離れたところでは東風谷早苗と八雲紫が揃って西行寺幽々子の亡骸を抱えている。
 状況は非常に単純だった。魔法の森で、てゐが幽々子に撃たれ、瀕死になりながらも一矢報いて幽々子に撃ち返し、相打ちとなった。
 戦いとしてはどこにでもある、陳腐で空虚な結末のひとつに過ぎない。
 しかしてゐを知り、これからも知ろうとしていたフランドールにとって、「そんなもの」で済ませられるはずはなかった。

「何も死ぬことなんてなかったじゃない……」

 どこかホッとしたように表情を緩ませ、穏やかに目を閉じているてゐに向かってフランドールは語りかけていた。
 死んでしまえば虚無しか残らない。死んでしまえば何もかもがなくなってしまう。
 思い出も、大切な誰かの存在も。なのにどうしてこんな安らかな顔をしているのか、フランドールには分からなかった。
 同じ安堵でも、幽々子の死蝶に導かれて死んだ魂魄妖夢のものとは違う。自分を赦し、赦されたと思うことができた、救われた者の表情。
 死んで、どうして救われたと思えるのか分からない。理由を聞こうにも、もう尋ねることさえできない。
 できないから、機会を奪った幽々子に対して怒りが生まれようとして――それが空しいことであるのに気付く。
 誰かが死ぬのは怖くて、哀しいことだから、哀しくならないようにすると決めたのに……こうも変わり映えのしない己に辟易するしかない。

「きっと、さ。死にたくなんてなかったんだろうぜ、てゐも」

 よいしょ、と魔理沙が隣に腰を下ろす。声こそ落ち着いているが、顔色は優れない。
 寂しいと表現するのが合っている横顔を眺めて、フランドールは目を伏せる。

「じゃあなんで私を庇ったのよ」
「さあな。多分、てゐにも分からなかったと思うぜ。しいて言うなら……自然に、そうしようと頭が考えていたからなんじゃないかって思う」
「無意識に庇った……ってこと?」
「私はそう思う。誰にだって、誰かを助けたいって思う気持ちのひとつはあるって、私は信じてるからな」

 言われて、様々な姿が脳裏を過ぎった。身を挺して主人を守ろうとした八雲藍しかり、魔理沙を守ろうとした香霖しかり……
 いや、自分だってそうだ。この心に深く根付いている、魔理沙と一緒にいたい気持ち。助けてあげたいと思う気持ちがある。
 てゐもそれは持っていた。だが、死んでしまうかもしれないという恐怖に負け、害されるかもしれないという恐怖に屈し、自分の気持ちを捻じ曲げていた。
 だから嘘をついた。だから逃げた。今までもそうだったのかもしれない。
 不安に押し潰され、良心から背を向け、そんな自分を許せなくなってより間違った方向へと突き進んでゆく。
 それは一歩間違えれば、フランドールも……いや、誰しもが落ちてゆく餓鬼道なのかもしれなかった。
 あるいは幽々子もそうだったのかもしれない。自分自身が許せないから、周りの全てだって許せなくなる。
 従者の妖夢を死なせて自分がのうのうとしていることが許せないから、そうさせた世界そのものを憎むようになった。
 殺したから誰かが憎い、奪ったから許せない。それだけではないのだ。
 大切なものをみすみす手放した自分が一番許せなくなるから、信じることも、正しいと思えることもできなくなってしまう。
 歪んでいびつな心のまま、誰もいなくなってしまう……

「それに、お前らはお互いを許せたじゃないか。だからだ、って思うぜ、私は」

 強く確信するように魔理沙は言った。
 そう、最後にはてゐも自分を許していた。互いにかけたたったひとつの言葉で、間違いを受け入れ、やり直す自分を認めることができた。
 理不尽に痛い思いをしても尚、フランドールを庇って……それができた自分が、嬉しかったのかもしれない。
 後悔はあっても、無念はなかった。穏やかな死に顔の理由を見つけることができたフランドールは、しかしそれでもと言いたかった。

「それでも……死ぬことはなかったじゃない……」
「……そうだな」
306創る名無しに見る名無し:2011/09/23(金) 03:00:44.99 ID:8GASMpRl
 
307 ◆Ok1sMSayUQ :2011/09/23(金) 03:01:06.99 ID:4/AhBUHM
 生きているなら、死は不可避であることくらいは認めている。けれども死を了解してしまうのはフランドールには納得のいかない事柄だった。
 理由があるから死んでもいい。そんなことは絶対にないはずなのに。
 やりきれない思いを抱えたフランドールは、しかし自分自身も数刻前まではどこか緩慢に生死を考えていたことも思い出し、分からないという気分になった。
 何が正しくて、何を納得すればいいのか。これからどうすればいいのか。考えることはあまりにも多すぎた。

「だけど、死が救いになることもある……」

 聞こえた声は、八雲紫のものだった。
 両腕に抱えられているのは西行寺幽々子の亡骸だ。自分を殺そうとしていたときの狂気の残滓は全く見えず、
 てゐ同様穏やかに閉じられた瞳が、彼女もまた救われたのだと納得させる。

「自分を許すというのは、あまりに難しいこと。己の弱さを自覚しているものには、特にね。……あの子、昔から繊細だったから……」
「そっか……あんたの友達だったっけ……」

 ええ、と頷いて、紫は幽々子の少し乱れた髪を直した。
 千年以上生きている妖怪の友人なら、それなりに深い付き合いがあったのだろう。
 何度杯を酌み交わし、何度語り合ったのか。数え切れないほどの機会があり、数え切れないほどの思い出があるに違いない。
 そうであるがゆえに、今一番無力感を覚えているのは紫なのかもしれなかった。
 何百年という交友を重ねても、死でしか幽々子が救えなかったという現実を目の当たりにしているのだから。

「違うぜ、紫。死が幽々子を救ったんじゃない。お前がいたから救われたんだ」
「……魔理沙。あなたは基本的に、善意を信じすぎる傾向があるわね」
「そうさ、その通りだよ。今まで能天気に暮らしてりゃそうもなる。けどな、一つ言わせてもらうぜ。死人の気持ちなんて分からないんだよ。
 香霖のバカ野郎がなんで私を庇ったかってことも、石頭の藍がなんで飛び込んだのかも、てゐがフランを庇った本当の理由も、幽々子が私達を殺そうとしたのも、
 そんなもん今になっちゃ全部知ることなんて出来ないんだ。だから……だから、私らで都合よく考えるしかない。正しくないかもしれないさ。
 でも分からないものを追い求めて……その先にあるのが『自分を許せない』って結果にしかならないんなら……空しいだけだろ?」

 この光景は、少し前に見たことがある。
 霊夢を巡って対峙していたときも、この二人は口論を交わしていた。
 人間と妖怪の違いもあるのだろうし、性格的な反りが合わないからというのもあるのだろう。
 けれども、以前ほどの溝はないようにフランドールは感じていた。
 あの時とは違い、紫は目を反らさずに魔理沙の方を見ているし、魔理沙も魔理沙で紫の言葉も正しいと認めている。
 そう思ったから止める気にはならなかったし、早苗も無言のまま口を挟むことはなかった。

「では、聞かせてもらいましょうか。霧雨魔理沙。どうして、幽々子は救われたのだと信じられるのかしら」
「そんなの、お前ならもう分かってるだろ? でも、まあ、言ってやるか。お前はひねくれ者だからな。正直者の私が言ってやるぜ」

 どの口が言うのか。思わず小さな苦笑が漏れ、早苗もこらえきれずに口元を押さえていた。
 一瞬魔理沙はこちらへと振り返り、睨むような視線を返してきたがすぐに紫へと向き直る。

「そんな穏やかな顔して死んでる奴が救われてないわけないだろ。良かったと思ったんだ。お前に、友達に止めてもらえて良かった、って……」
308創る名無しに見る名無し:2011/09/23(金) 03:02:12.08 ID:8GASMpRl
 
309 ◆Ok1sMSayUQ :2011/09/23(金) 03:02:20.23 ID:4/AhBUHM
 全ては憶測。都合よく考え、善意を信じただけの拙い論理に過ぎない。
 魔理沙の言うように、死人の気持ちなんて真に理解なんてできない。本当は狂ったまま死んだのかもしれないし、自分達を憎んだまま死んだのかもしれない。
 でも、それでも――魔理沙のように、フランドールも幽々子が正気に戻っていたのだと信じたかった。
 てゐが自分の手を取ろうとしたときのこと。自分を庇ったときのこと。確かに他人を肯定し、自分を肯定できた因幡てゐという妖怪もいたのだから。
 紫はしばらく無言だった。ゆっくりとうつむき、何事かを思案している様子だった。
 自分を許そうとしているのかもしれなかった。幽々子を止められなかった己を悪だと規定することも、幽々子は狂ったままだと思うことは簡単だ。
 だが紫自身が語ったように失敗を犯した自分を許すのは難しい。
 魔理沙だって、自分だって、ひょっとすると早苗だって、大切な誰かの死から一歩踏み出すために多大な時間を使わなければならなかった。
 人間だろうが、悪魔だろうが、妖怪の賢者だろうがこればかりは関係のない話なのだ。

「……先、行きましょうか。紫さん、私達は最初の予定通り博麗神社で調べものをしてきます。
 考え事が終わったら来てくださいね。紫さんならすぐ来てくれるって私、信じてますから」

 多少なりとも紫を知悉している早苗が助け舟を出した。
 魔理沙の背中を叩いて押すと、いいのかという風に首を少し傾けたものの、特に逆らうこともなく歩き出す。
 ならばこちらも従わぬ道理はなく、横たわったままのてゐに「行ってくる」と言い残して立ち上がる。

「……そうだ。これ、貰ってくよ。幸運のお守りだっけ。悪魔がお守りなんて馬鹿げてるけど……友達のことは、覚えておきたいから」

 てゐの首飾り。人参を模した小さな幸運のお守りを丁寧に外して、フランドールはそれを自分の首に巻きつけた。
 いいよ、精々頑張りな――ふとそんな声が聞こえた気がして、もう一度だけてゐを見下ろすと、唇の形が僅かに苦笑しているものになっている……気がした。

     *     *     *

 博麗神社に戻る途中、放送があった。
 ここで新たに判明したことは、『放送を行っていた八意永琳』は永琳に成りすました偽者であったということ。
 どうやらルール変更があったらしく、殺し合いの最終勝者は二人になるらしいということ。
 そして、成りすまされていた本人である永琳本人も死亡してしまっていること。
 結局、再会して情報を交換することはできなかった。
 自分がなんやかんやとあって目的の場所に行けなかったからなのだが、永琳も来ることはできていたのか。
 待ち合わせている間に誰かに襲われたのか。それとも、辿り着く前に自分同様数限りない争いに巻き込まれて死んだのか……
 今となっては知る術もない。先ほど言ったように「死人は何も語ることはない」のだ。
 結果論でしかないが、永琳を見捨てた形になってしまった。生まれてくる罪悪感に言い訳はするまいと思ったが、立ち止まるわけにはいかない。
 全ては自分の選択。自分で考え、自分で決めたことだ。誤魔化したり、なかったことにしようとしてはいけない。
 良し悪しはあっても、行動そのものを否定することは、関わってきた人達も否定してしまうことになるからだ。
 ゆえに魔理沙は、心の中でだけ「すまん」と告げておくことにした。今はまだ、他に守りたいものがたくさんあるから……これで許してくれ。

「……聞くまでもないと思うけど、二人とも心変わりなんてしてないよね」

 放送を聞き終え、フランドールがそう尋ねる。
 苦笑が漏れた。本当に心変わりしているなら真実など答えるわけがないのに、変な部分で幼いというか、疑う術を知らない彼女に痛んだ心が潤される。
 無論ここで宗旨替えするつもりなどさらさらなかった。あの時紫に語った、全てが欲しいという本心に偽りはない。
 当たり前だろ、と笑って魔理沙はフランドールの髪の毛を乱暴に撫でる。「も、もう! また……!」と照れくさそうに、しかし嫌がる素振りは見せない。
310創る名無しに見る名無し:2011/09/23(金) 03:03:10.29 ID:8GASMpRl
 
311 ◆Ok1sMSayUQ :2011/09/23(金) 03:03:47.79 ID:4/AhBUHM
「なんだか、仲のいいご姉妹みたいですね。二人とも金髪だし」
「ん、そーか?」
「そうなの?」
「おい姉がいるだろお前は」
「だって……お姉様、忙しいし。偉そうだし」

 あー、と普段のレミリア・スカーレットの姿を思い出し、魔理沙はさもありなんという風に頷いた。
 レミリアはプライドの高い妖怪の権化のようなものなので、人前でなくとも誰かに優しく接している姿など想像もつかなかった。
 もっとも魔理沙自身一人っ子であるため、仲のいい姉妹と言われてもイマイチピンと来るものではなく、そういうものかと曖昧に納得するだけだった。

「兄弟姉妹ってやつは私には分からないな。一人だったし、今も一人暮らしだし」
「そうなんですか? 私も一人っ子なんです。だから兄弟とか、そういうのが羨ましくて……魔理沙さん、てっきりたくさん兄弟がいるのかと」
「なんでだよ」
「うーん、底抜けに明るいからですかねー。いっぱい友達もいらっしゃるようでしたし」
「ありゃあ勝手に私が押しかけてただけだよ。アリスもパチュリーも、『呼んでもないのに勝手に来る』ってボヤいてたしな」
「うんうん、言ってた言ってた」

 フランドールが自信満々に言う。悲しい証明だった。
 邪魔だと追い返されないだけマシだったが、アリスはともかく一人を好みそうなパチュリーが追い返さなかったのは今でも不思議だ。
 これもまた、聞く術を失ってしまったのだが。

「でも、なんか嬉しそうだったな。『傍若無人でいけ好かないヤツだけど魔法使いとしての見込みはある』って」
「……そんなこと言ってたのか?」
「え? うん」

 内心、パチュリーの魔法使いとしての知識人な部分は羨ましかっただけに、お墨付きとも取れる言葉が魔理沙の胸を突いた。
 少なくとも、実力は認めてくれていた。喜びが込み上げる一方で、そうして密かに憧れていた魔法使いはもういないという寂寥感が魔理沙の中でない交ぜになり、
 ふと気がつくと目頭に水滴が乗っていて、それが流れ出していたのだった。

「魔理沙?」

 鼻を啜り、小さく嗚咽を漏らす姿に気付き、フランドールが心配そうな声を上げたが、「違うんだ、嬉しかった」とそれだけを絞り出す。
 本当はそれだけじゃない。悲しくもあるし、後悔だってある。けれど、喜ばしいという気持ちが遙かに大きかったのは紛れもない真実だった。

「……人間って、嬉しくても泣くものなの?」
「人間だけじゃないですよ。妖怪だって、誰だって……感情が昂れば涙が出るものなんです」
「ふーん……」

 フランドールにそう教える一方で、足を完全に止めてしまっていた魔理沙を気遣ってか、先に行ってましょうか、という視線を早苗が送ってくる。

「大丈夫だよ、私は。なんか……良かった」
312創る名無しに見る名無し:2011/09/23(金) 03:04:31.17 ID:8GASMpRl
 
313 ◆Ok1sMSayUQ :2011/09/23(金) 03:05:12.63 ID:4/AhBUHM
 涙を拭い、あっけらかんと魔理沙は言う。お互い確かめてもいなかっただけで、幻想郷のみんなとはどこかでしっかりと繋がっているのかもしれない。
 種族の差。歴史の差。立場の違い、存在の重み……それらは確かに存在し、殺し合いの形として結びついてしまった事実はある。
 しかし分かり合える道だって、きっとあるはずだ。
 今まで主張してきながら、どこか自信が持てずにいた言葉。確信が持てずにいた言葉を、ようやく心の底から信じられる気がしていた。

「急ごうぜ! もたついてると紫に追いつかれてからかわれるぞ!」

 先陣を切って走り出し、博麗神社の石段を登る。
 疲れているはずなのに、駆け上がる足取りはとても軽いものだった。

「あ、待ってよ魔理沙!」
「紫さんに追いつかれて笑われるのは確かに癪ですね……ちょっと頑張りますか」

 二人の声が後に続く。
 魔理沙にとってはここからが本番なのだ。ここで先を行かずしてどうする。
 異変を解決するフックは掴んだ。後は、それを証明する材料を揃えて見せ付けてやるだけだ。
 待っていろ、楽園の素敵な神主とやら。不敵に笑う魔理沙に、もう涙の面影はなかった。

     *     *     *

「……それで、結局何を探すんです?」

 博麗神社の境内をくぐり、ようやく神社の中に入れるかというところで、早苗は魔理沙に尋ねた。
 薬が効いてきたのか、体調は大分良くなっている。弾幕戦をやれるだけの体力はある。
 深呼吸をして息を整えながら、早苗は魔理沙の言葉を待つ。
 博麗神社には本殿とは別に離れがあり、専ら霊夢はそこで暮らしている。
 今は魔理沙がその離れの玄関口に立ち、自慢のミニ八卦炉を使って鍵を無理矢理壊しているところだった。

「私はよく霊夢んち……まあここに遊びに来てたんだけどさ、霊夢のやつ、絶対入れてくれない場所があったんだ」
「秘密のお部屋?」
「そうそう。こっそり行こうとしても目ざとく見つけてきやがってさ。本気でキレそうになってたからよっぽど入られたくない場所なのかって思っててな」

 ざっくばらんで開放的な霊夢にしては珍しい。まして旧知の仲である魔理沙ならより疑問に思ったことだろう。

「開いたぜ」

 ガラガラとドアを開け、魔理沙が躊躇なく中に侵入する。フランドールもそれに続き、早苗も「お邪魔します」と付け加えて玄関を上がる。
 魔理沙もフランドールも、靴を脱いでいない。この状況下だ、礼儀作法を気にしている余裕はないのだろう。
 少し迷ったが、早苗も土足で上がりこむことにした。床を靴のまま歩くのにやや居心地の悪さを感じるが、二人はそんなことはないようだった。

「場所自体はもうわかってるんだ。こっから真っ直ぐ行ったところにあってな……」

 指差された先に、やけに重々しい扉が見える。見た目は引き戸だが、よく見れば鍵らしきものもかかっている。それも二重にだ。
 なるほど、魔理沙が興味を持とうとするのも分かる気がした。私室にしては鍵のかけ方が厳重すぎる。
 金庫かなにかでもあるのかと考えかけたが、霊夢は金銭に興味のない人間だ。金品を溜め込むようには思えない。

「……ま、そりゃ鍵がかかってるわな」

 引き戸を開けようとした魔理沙が当然というように呟く。
 再びミニ八卦炉を構え、小火力の魔法で鍵を壊そうと試みる、が……
314 ◆Ok1sMSayUQ :2011/09/23(金) 03:06:29.94 ID:4/AhBUHM
「げっ!? 魔法弾きやがった!」

 パァン、とミニ八卦炉の火が弾けて消えてしまう。……どうやら泥棒対策もしてあるらしい。
 いや魔法だけではなく、恐らく様々な呪物に対しての耐性もあるはずだった。
 早苗も破壊は得意ではなく、どうしたものかと魔理沙と頭を捻っていると、うふふと無邪気な笑い声が聞こえた。

「ここは私の出番のようね。魔理沙も早苗も下がって」

 胸を反らして誇らしげにしているのは、フランドール・スカーレットである。
 しばらくぽかんと見ていた魔理沙が「あ、あー」と思い出したように手を叩いた。

「そっか、そうだったなー、頼むぜフラン!」
「……私の能力、忘れてたんじゃないでしょうね」
「お前ならやってくれるって信じてるぜ」

 もっともらしくポンと肩を叩き、ドアの前へと押し出す。明らかに誤魔化しているのがバレバレだった。
 しかし、フランドールの能力とは一体何なのか。早苗は詳しく知らないため、「どんな能力なんです?」と小声で魔理沙に聞いてみた。
 見てみりゃ分かるぜ、と一言だけ言い返して、魔理沙は腕組みをしてフランドールを眺める。
 その本人は若干不満そうな雰囲気を漂わせつつ……鍵へと手を差し出す。

「ぎゅっとして……どっかーん!」

 フランドールが腕を前に突き出しグッと拳を作った瞬間、ピシッと鍵部分にひびが入って、直後、まるで扉が爆発したかのように吹き飛んでいた。
 爆薬を使ったようにも、弾幕で破壊したようにも見えない。にもかかわらず、まるで藁を吹き飛ばすかのように扉を千々にしてみせた。

「……これが、フランドールさんの能力……」
「そう。『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』よ」

 微笑を含ませて振り返ったフランドールの姿は、しかしその瞬間だけは確かに悪魔のように思えた。
 畏怖を感じさせながらも、媚びた視線を撥ねつけ、誰をも寄せ付けない孤高の王者。そう表現するのが相応しい。
 けれども、不思議と忌避感や恐怖は感じなかった。魔理沙に懐く無邪気な子供の側面を垣間見たからなのかもしれなかったが、
 それだけが理由ではないように思えた。近しい例を挙げるなら紫に似ている。どこが似ているというと、はっきりと言葉にはできないのだが――

「ぼーっとしてないで、行くぜ」
「えっ、あ、はい」

 既に魔理沙もフランドールも部屋に侵入し、物色を始めている。
 どうやら部屋の中は書斎のようで、所狭しと並べられた本棚にぎっしりと本が並べられている。
 いっそ埋め尽くすというのが正しい表現だろうか。ほぼ隙間なく並べられた書籍郡は固く、一冊取り出すのにも苦労しそうだ。
 本という紙の束が織り成す独特の匂いと雰囲気を肌で感じながら、早苗も書斎に何かないか探し始めた。

「……ミミズみたいな字で読めない」

 既に一冊取り出してぱらぱらと眺めていたフランドールが難しい顔で唸っていた。
 本は紙の束を紐で結い、まとめただけの簡素な作りであり、紙の色もしなびた薄黄色になっていることから、書かれた年代も古そうだ。
 ひょっとすると、古書なのかもしれない。
315創る名無しに見る名無し:2011/09/23(金) 03:06:36.20 ID:8GASMpRl
 
316 ◆Ok1sMSayUQ :2011/09/23(金) 03:08:10.73 ID:4/AhBUHM
「私もだ。日本語なのは確かなようだけど……さっぱりだぜ」

 部屋にあった小机に腰掛けていた魔理沙もお手上げというように肩を竦める。
 こちらの装丁はやや新しく、表紙が糊付けされている。紙質自体は劣化していることから、一昔前……そう、現代の古本屋で見かけるレベルの装丁だった。
 本の作りはバラバラ。ということは、古書ばかりを集めていたのではない? 気になった早苗も自ら一冊を引っ張り出して眺める。
 比較的新しいものなら読めるかもしれないと思い、見た目にも新しいものを選んでみたが……中身は見事に想像を裏切ってくれた。

「これ、手書きですね……達筆だなぁ」

 フランドール曰くの、ミミズのような文字。その通り、すらすらと筆で書き並べられた言葉は一文字一文字が美しく、
 絵画のようでありながら文字という範疇を超えているようにも思われた。

「お、読めるのか? 期待の新人が来たぜ、フラン」
「なになに? 聞かせてよ」
「いや、その……実は私もあんまり……少しは分かりますが……」
「いいから聞かせろよ。何が書いてあるんだ?」

 そう言われては受けざるを得ず、早苗はなんとか読めそうな頁を開いて内容を読んでゆく。

「え、えーっと……これは、地震……のことが書いてあります。外の世界で起こった大地震が幻想郷にも異変をもたらした……
 これ、関東大震災のことじゃないでしょうか。……あ、ほら、1923年って書いてあります!」

 関東大震災といえば、歴史の教科書にも載るほどの大災害である。
 が、二人の反応は実に淡白だった。

「って言われても、私そのとき幻想郷にいなかったから知らない」
「私は生まれてなかったな、その年じゃ」
「……」

 外国出身であろうフランドールは当然として、幻想郷生まれの魔理沙も外の世界の歴史を勉強する道理は少ない。
 やや落胆した気分になりながらも、しかし自分にも分かる歴史の出来事なら読めるだろうと思ったので読み進めることにした。

「異変についての……日記だと思います、これは。結構人間視点みたいですし。
 内容的には……地震のせいで地上が不安定になって、妖怪達が天人のいる天界に攻め込んだみたいです。
 天人も応戦して、あわや戦争の一歩直前にまでなって、博麗の巫女が仲裁に入ったようですね……」
「そんなことあったのか? 知らなかったぜ」

 上白沢慧音なら知っていたかもしれない。しかし彼女ももはやこの世になく、これが真実なのかは今は確かめようがない。
 あるいは、紫の語っていた幻想郷縁起というものになら載っているのかもしれないが……

「妖怪側はてんでバラバラに攻めていたらしいですが、天人側は一致団結していて妖怪とも互角だったらしいです。
 その天人でも優れた活躍をしていたのが……比那名居家!?」
「はぁ!? 天子の名字じゃないか! いや天子はんなこと言ってなかったし……親の方か?」
317創る名無しに見る名無し:2011/09/23(金) 03:09:04.28 ID:8GASMpRl
 
318 ◆Ok1sMSayUQ :2011/09/23(金) 03:09:14.86 ID:4/AhBUHM
 年代から考えてもそうかもしれない。
 比那名居天子本人ならこのことを吹聴しそうなものだし、これは天子の親に相当するものだと考えたほうがしっくりくる。
 本にはその後、最悪の状況は回避したものの、天人と妖怪の仲は冷えたものとなり、相互に嫌悪するようになった、とある。
 ……最後に、これは幻想郷にとって憂うべき懸念となった、と付け加えて。

「異変のことについて書いた日記なのか? ……これが、全部……?」

 魔理沙のゾッとしたような呟きに応じるかのように「そう」と涼やかな声が聞こえた。
 顔を上げると、そこには凛とした立ち姿で、戸の入り口に立つ紫の姿があった。

「これは博麗の巫女が代々書き綴ってきた異変の手記よ。……今までの私達が残してきた、醜い争いの痕跡」

 いつの間にやってきたのか。決然とした面持ちは、一つ決意したものを秘めた力強いもので……早苗は圧倒されて、何も言うことができずにいた。
 それは魔理沙もフランドールも同様であり、「……どういうことだ」と魔理沙が返すのが精一杯だった。

「私達が目を反らしてきた過去。忘れてきた過去……なのだと、思う」
「思う、って……」
「紫さんも覚えていないんです。いえ、正確には結果は覚えているけど過程は覚えていない、って」
「なによ、初耳なんだけどそれ」

 それまで黙って聞いていたフランドールが声を上げる。
 紫と彼女はどことなくぎこちない節があった。気圧されたのもつかの間、尖った声でフランドールがつっかかる。

「全てを忘れていたわけじゃない。数百年ほど昔以前の記憶が曖昧なだけ……
 でも、言い訳はしない。今から私は、ここの歴史を全て真実と断じ、全てを受け止める。そして……今度こそ霊夢を止めるわ」
「本気なの?」
「今だけは信じなさい、フランドール」
「……分かったよ」

 あまりにも即答。あまりにも直線的な受け答えに、フランドールも頷くしかなかったようだ。
 どことなく疲れていたような、何かを諦めていたような紫が、今は取り戻そうと必死にもがいている。
 手に入れられず、届かないかもしれないと感じていても、やめることだけは絶対にしないと子供のように言い張っている。
 そのように、早苗には見えた。
319 ◆Ok1sMSayUQ :2011/09/23(金) 03:10:14.26 ID:4/AhBUHM
「紫……」
「あなたの思想に心から賛同したわけじゃないのよ、魔理沙。
 ただ……もう、私はみっともなくなりたくないの。親友が最後まで信じてくれた、この私を……」
「十分だ。お前はそんくらいひねくれてるのが丁度いいんだよ」

 意地悪な魔理沙の笑みに、紫も余裕を含ませた笑みで返す。
 本当は魔理沙は安心した笑いを浮かべたいのかもしれない。紫も優しい笑みで応じたいのかもしれない。
 けれども、意地を張らずにはいられない。理屈などない。そうしたほうが楽だからという気持ちだけで意地を張り合っている。
 それが手に取るように分かり呆れる一方で、その姿こそに安心感を見出している自分を見た早苗も、結局は幻想郷の一員かと結んで苦笑した。

「だったら、お前が欲しいのはこれだな、ほれっ!」

 いつの間にか手に取っていた一冊の本を放り投げると、紫も逃さずキャッチした。
 表紙は見なくとも分かる。恐らく、あの本の著者は……霊夢だ。

「読んでくか?」
「いえ、助手席に座りながらでも読むわ」
「じょしゅせき?」

 首を捻る魔理沙とフランドールを尻目に、紫がにっこりと微笑んで早苗に視線を移していた。
 そこで紫の言わんとすることが分かり、早苗はまさか、と事態を飲み込み、ぶんぶんぶんと首を振ろうとしたが――

「車の運転よろしくね、早苗」

 ――先に言われてしまったので、どうしようもなかった。
 くるま? と単語の意味が分かっていないらしい二人の姿が、さらに絶望的だった。
320創る名無しに見る名無し:2011/09/23(金) 03:10:35.23 ID:8GASMpRl
 
321創る名無しに見る名無し:2011/09/23(金) 03:12:14.17 ID:8GASMpRl
 
322 ◆Ok1sMSayUQ :2011/09/23(金) 03:12:18.51 ID:4/AhBUHM
【G−4 博麗神社 二日目・深夜】

【フランドール・スカーレット】
[状態]右掌の裂傷(行動に支障はない)、右肩に銃創(重症)、魔力半分程回復、スターサファイアの能力取得
[装備]てゐの首飾り
[道具]支給品一式 機動隊の盾、レミリアの日傘、バードショット(7発)
バックショット(8発)、大きな木の実
[思考・状況]基本方針:まともになってみる。このゲームを破壊する。
1.スターと魔理沙と共にありたい。
2.反逆する事を決意。レミリアが少し心配。
※3に準拠する範囲で、永琳が死ねば他の参加者も死ぬということは信じています

【八雲紫】
[状態]健康
[装備]クナイ(8本)、霊夢の手記
[道具]支給品一式×2、酒29本、不明アイテム(0〜2)武器は無かったと思われる
    空き瓶1本、信管、月面探査車、八意永琳のレポート、救急箱
    色々な煙草(12箱)、ライター、栞付き日記 、バードショット×1
[思考・状況]基本方針:主催者をスキマ送りにする。
1.幽々子に恥じない自分でいるために、今度こそ霊夢を止める
2.車に乗ってる間に霊夢の手記を読む
3. ゲームの破壊

【東風谷早苗】
[状態]:健康
[装備]:博麗霊夢のお払い棒、霧雨魔理沙の衣服、包丁、
[道具]:基本支給品×2、制限解除装置(少なくとも四回目の定時放送まで使用不可)、
    魔理沙の家の布団とタオル、東風谷早苗の衣服(びしょ濡れ)
    諏訪子の帽子、輝夜宛の手紙
[思考・状況] 基本行動方針:理想を信じて、生き残ってみせる
1.ま、また私が運転するの!?
2.ルーミアを説得する。説得できなかった場合、戦うことも視野に入れる
3.人間と妖怪の中に潜む悪を退治してみせる

【霧雨魔理沙】
[状態]蓬莱人、帽子無し
[装備]ミニ八卦炉、上海人形
[道具]支給品一式、ダーツボード、文々。新聞、輝夜宛の濡れた手紙(内容は御自由に)
    mp3プレイヤー、紫の調合材料表、八雲藍の帽子、森近霖之助の眼鏡
ダーツ(3本)
[思考・状況]基本方針:日常を取り返す
1.霊夢を止める。
2.仲間探しのために人間の里へ向かう。


※現在、以下の支給品は紫がまとめて所持しています。割り振りはしていません。
てゐのスキマ袋【基本支給品、輝夜のスキマ袋(基本支給品×2、ウェルロッドの予備弾×3)
萃香のスキマ袋 (基本支給品×4、盃、防弾チョッキ、銀のナイフ×7、
リリカのキーボード、こいしの服、予備弾倉×1(13)、詳細名簿)】
西行寺幽々子のスキマ袋【支給品一式×5(水一本使用)、藍のメモ(内容はお任せします)
八雲紫の傘、牛刀、中華包丁、魂魄妖夢の衣服(破損) 、博麗霊夢の衣服一着、
霧雨魔理沙の衣服一着、破片手榴弾×2、毒薬(少量)、永琳の書置き、64式小銃弾(20×8)
霊撃札(24枚)】
白楼剣 、ブローニング・ハイパワー(0/13) 、64式小銃狙撃仕様(3/20)
楼観剣(刀身半分)付きSPAS12銃剣 装弾数(8/8)、MINIMI軽機関銃(50/200)
323創る名無しに見る名無し:2011/09/23(金) 03:12:48.51 ID:8GASMpRl
 
324 ◆Ok1sMSayUQ :2011/09/23(金) 03:13:45.14 ID:4/AhBUHM
少々遅れてしまいましたが、投下は以上となります。
タイトルは『死霊の夜桜が散るころに』です。
325創る名無しに見る名無し:2011/09/23(金) 05:27:16.76 ID:AK2Zza6f
投下乙です

また気になるキーアイテムが出てきました
さて、中には何が書いてあるのか
魔理沙はやっぱり前向きなのが似合うなあ

途中、放送で生存枠が二人になったかのような記述があるのですが、最終的な放送案では一人になっていますよ
一応気になったので指摘させてもらいました
326創る名無しに見る名無し:2011/09/23(金) 13:09:05.54 ID:M9RN23Gj
おおう、霊夢の異変記録とはまた気になるものが……。
それはともかく、早苗の行動方針でルーミアの説得が残っているみたいですが
既に放送でルーミアの死は既知の情報だと思うので更新しても良いんじゃないかな?
327 ◆Ok1sMSayUQ :2011/09/24(土) 00:07:13.56 ID:nb1UZ9bF
>>325,>>326
ご指摘ありがとうございます。
該当部分につきまして、wiki収録時に修正を反映させたいと思います。
328創る名無しに見る名無し:2011/09/25(日) 06:20:40.88 ID:U2wpMUA8
投下乙です

魔理沙、前向きなのはいいが果してそれが実を結ぶのだろうか…
気になるアイテムが出てはきたが…
329創る名無しに見る名無し:2011/09/30(金) 08:07:16.89 ID:3b5wSums
投下乙
異変記録か……そして霊夢はそのことを暗に知っていた節が……?
気になる展開だ
久々に一から読み返してみたんだが、神社にリリカの書置きがあったはずなんだよね
まぁ、風に飛ばされたかなんかしたってことでw
330創る名無しに見る名無し:2011/10/06(木) 23:10:40.04 ID:pyW25dvR
美しく残酷にこのスレを保守!
331創る名無しに見る名無し:2011/10/07(金) 10:52:40.27 ID:j3MokNXY
332創る名無しに見る名無し:2011/10/10(月) 08:26:07.57 ID:LkaefTcF
予約来たか…
333 ◆TDCMnlpzcc :2011/10/10(月) 09:20:56.87 ID:Ox3eIzgq
投下します

題名「死神による夜想曲」
334 ◆TDCMnlpzcc :2011/10/10(月) 09:21:07.56 ID:Ox3eIzgq
投下します

題名「死神による夜想曲」
335 ◆TDCMnlpzcc :2011/10/10(月) 09:22:10.71 ID:Ox3eIzgq
 放送直後の人里。
 小野塚小町の目の前には八意永琳の死体がある。
 彼女がこの死体を見つけたのは偶然ではない。
 少し前まで人里に響いていた銃声、戦闘音。
 それにつられて向かってみた先で、彼女が見つけたのがこの死体だった。

 その顔は、表情は血と髪にまみれてうかがい知ることはできない。
 真っ白だった髪は赤く染まり、流れ出た血はそれだけでは収まらず、地面に広くしみこんでいた。
 あたりにはひどい血のにおいと、火薬特有の焦げたにおいが漂っていた。
 月の頭脳と呼ばれた女は、今では力の抜けた、ただの死体でしかない。

 主催者として扱われて、彼女はいったいどのように行動したのだろうか?
 彼女は自身の主のために何をしたのだろうか?
 長い人生の終わりに、何を思ったのだろうか?
 小町には思うことがたくさんあったが、そのすべてを口に出すのは止めておいた。
 彼女のことをよく知っているわけではないが、そんなのを死者に聞くのは野暮というものだ。
 
「あたいがこいつの担当だったなら、話を聞くために三途の川をめいっぱい引き延ばしてやるところだけれど……。今のあたいはむしろ送られる側、まあ、あんたについた死神がましなやつだといいねぇ」

 閻魔でさえこんなゲームに放り込まれている今、三途の川がまともに機能しているのかは分からない。
 これから幻想郷はどうなっていくのだろう。
 膨れ上がる死者に、小町は気をやみながら、それでも真剣に八意永琳の体を扱った。
 
(頭部の側面に一発。自殺か奇襲かねぇ)

 まだ人里には古明地さとりもいるはずで、四季映姫を失っても、なお動きを止めるわけにはいけない彼女は、地霊殿の主を保護しようと動いていた。
 彼女の護衛対象で残っているのは三人。
 八雲紫、古明地さとり、博麗霊夢。
 もともと五人いたはずの対象は、たった一つの放送で三人にまで減ってしまった。
 八雲紫を除いた面子とはすでに出会えている。
 そして、彼ら個人の実力やその場の状況で護衛を行うことをやめていた。
 もしかしたらそれが失敗だったのかもしれない。
 人数は減るのに、死者は減らない。
 その点は構わないのだが、守るべき実力者までこの調子で死なれては、あと半日で詰んでしまう。
 小野塚小町は焦り始めていた。
 その足がかすかに震えている。
 普段の彼女をよく知るものなら、そこまで焦る彼女を珍しいものだと目を見張るだろう。
 
「横にいる鬼は……さとりといた奴で霊夢が相手していたはずだろ。これは霊夢がここにいたってことかな?」
336 ◆TDCMnlpzcc :2011/10/10(月) 09:23:32.46 ID:Ox3eIzgq
 今までがむしろ余裕過ぎたのかもしれない。
 特に、護衛対象が半分を切ってもなお脱落していない状況が、その余裕に拍車をかけていた。
 実際、普段の幻想郷で小町が守ろうとしている相手を倒せるものはほとんどいない。
 しいて言えば、博麗の巫女で、それ以外はよほどのことがない限り、この殺し合いの参加者では殺せないはずだ。
 しかし、それはこの殺し合いの場では関係がない。
 現に小町も、武器次第で神さえ殺せることを目の当たりにし、さらに護衛対象の実力者を銃で圧倒することができた。
 この制限が課せられた世界。
 あのスキマ妖怪なんぞ、ただの知恵が回る……一介の少女でしかないかもしれない。
 もっと前から危機感を抱くべきだったのだろう。
 たとえば、四季様の姿を捕えたとき、無理にでもついていけばよかった。
 回避できたはずのミスが、小町の精神をむしばんでいる。
 あの時、こうしておけば。
 余計な後悔こそが、次のミスにつながりかねないことが分かっても、止めるのは難しい。

 そして、さらに小町の信念を邪魔する雑念もあった。
 それは放送中からずっと、静かに彼女の中でくすぶっていた。



   ――――――――――――――――――――――――――――――――


 放送が始まる直前。
 小野塚小町は銭湯を出て、ほとんど当てもなくさまよっていた。
 風呂へ入り、あったまった体は急速に冷えてゆく。
 もう深夜、あたりはそれなりに冷え込んでいる。
 小町に行く当てがないわけではなかった。
 一応、目標は先ほどの戦闘を見に行き、何が起こったかを確かめること。
 急ぎ足で、素早く歩みを進める。
 その表情は硬く、今まで以上に余裕をなくしていた。
 自分の身を守るため、あたりの民家に目を凝らし、潜伏者がいないことを確認しつつ、さらに遠くの音へと耳を澄ませる。
 空には星が出ていたが、彼女にはそれらを見て、なごむ余裕はない。
 もし四季映姫がこの様子を見ていれば、普段の仕事とのギャップに驚き、感心したかもしれない。
 まあ、それは二度と起こりえないはずのことなのだが……
 小野塚小町は銃を握り直し、的を探して突き進む。
 そんな中、放送が始まった。


 放送の内容を、小町は最初過小評価していた。
 せいぜい前回より少しばかり多く情報が与えられる程度にしか思っていなかったのだ。
 それゆえに、放送の何か所かで彼女は驚きを隠せず、声も漏らした。


(八意永琳は主催者じゃない。まあ、あたいの方針には関係ない)


(四季様だけでなくて、西行寺のお姫様までとは……いよいよ余裕がなくなってきたな)


(十三人、このペースで死なれちゃ都合が悪いじゃないか)


(禁止エリアは三時からE-3、六時からD-2。あんな言い方をするところを見ると、誰か首輪を爆発させたのかねぇ。あたいも気を付けないと)
337 ◆TDCMnlpzcc :2011/10/10(月) 09:24:37.83 ID:Ox3eIzgq


 そして、
――生き残った一人には、僕のできる限りの望みをかなえてあげることを約束する。――
 とんでもない宣言までもが、主催者の口から飛び出した。


「え!?どういうことだい?」

 小町は驚きで口を開けた。
 もしかしたら、もともと権力のある妖怪、生き残り方に信念のある人妖は、そんな約束に興味を持たなかったかもしれない。
 しかし、自身が生き残りたいわけではなく、純粋に“願い”をかなえるために頑張っている小町には、もし本当ならありがたい話だった。


 いまさらだが、小町の方針は幻想郷の賢者、実力者を守り、幻想郷を守るのが目的だ。
 つまり……

(最悪、あたいが閻魔の力を得て、幻想郷を守ることができるってことかい。これは喜ぶべきことかねぇ)

 幻想郷でも周知の事実となっている通り、小野塚小町には野心が少ない。
 せっせとまじめに働いている死神たちとは、比べ物にならないだろう。
 彼女がここまで不真面目なのは、仕事が嫌いだからではなく、今の仕事に満足してきたからである。
 満足してしまえば、人間も死神も多くは求めない。
 小町にとって必要だったのは今までどおりに仕事を続けることだった。

(無理無理、あたいには閻魔様なんか勤まらない)

 ふと湧き出てきた、あまりにも破たんした発想に、小町は頭を横にふった。
 まず、主催者が約束を守る律義者とは限らない。
 使うだけ使って、ぽい、と捨てられるのが落ちかもしれない。

(それに、あの映姫様を見ていたら、やる気なんておきないよ)

 毎日、これでもかという数の死者をさばく閻魔。
 その難しい采配と選抜の厳しさゆえに、数は少なく、不足している。
 
(あたいは四季様にはなれない)

 そう、そしてその四季映姫は死んでしまった。
 ついさっき見た、少し脱力した、死体特有の緩んだ笑顔を浮かべた生首が脳裏に浮かびあがる。
 小町は思い出した映像を忘れようと、頭を抱えた。
 しかし、すぐに無防備な自分に気付いて飛び起きる。

「こんなんじゃ、今まで殺した皆に面目が立たないねぇ。やっぱり、もう少しがんばらないといけないな」

 普段のように軽くつぶやき、思考を違う方へ持っていく。
 夜風に当たって頭を冷やす必要を感じ、小町は視線を周囲に向けつつ立ち止まった。
 無意識に遠くを眺めていた小町は、そこで二人分の死体を見つける。

 そして、それが最初につながった。
338 ◆TDCMnlpzcc :2011/10/10(月) 09:27:24.14 ID:Ox3eIzgq

   ――――――――――――――――――――――――――――――――

 もしも自分が生き残れたら、次の閻魔を何年も待たず、幻想郷も安定させられるかもしれない。
 突飛で、めちゃくちゃな考えだが、論理的にはなんら問題はない。
 それゆえに、それは小町の心に影を落とす。

(あたいにそんな大役が務まるわけない。やめやめ、そんなことを考えても無駄だよ!)

 張りすぎた緊張は、その程度を弱めようと打開策を提示してくる。
 自身が優勝して幻想郷を治める。自信も根拠もない計画だ。
 しかし、小町は最後の手段として頭の中に収めた。
 それがこれからどう出るのかはわからない。

(今はなにがなんでも護衛対象を守らないといけないな)

 死体を前に、考える。
 
(とりあえず、積極的に護衛する方針に変えないと。気が付いたら全滅、なんてことになったらお笑い草だからねぇ)
 
 そうと決まればいくつか取りうる選択肢がある。
 その中で最も効率がいいのは、近くの誰かに接触して、護衛対象なら守り、違ったなら殺すというもの。
 要は、今までどおりにやればいい。
 ただ、ちょっとばかし必死に動く必要がある。

「自分の身はあまり気にしないぐらいに動いた方がよさそうだねぇ」

 最後の言葉は誰ともなしにつぶやいた。
 答える声はないが、自身の決意は固まった。

 小野塚小町はしばし立ち止まっていたが、すっと顔を遠くに向けると、死体に踵を返して歩き去る。
 その足には迷いはなく。
 その視線の先には、光を放つ寺小屋があった。
 


 【D−4 人里の外れ 一日目・深夜】

【小野塚小町】
[状態]万全
[装備]トンプソンM1A1改(41/50)
[道具]支給品一式、64式小銃用弾倉×2 、M1A1用ドラムマガジン×5、
    銃器カスタムセット
[基本行動方針]生き残るべきでない人妖を排除する。脱出は頭の片隅に考える程度
[思考・状況]
1.生き残るべきでない人妖を排除し、生き残るべき人妖を保護する
2.遠くの寺小屋が光ったので、様子を見に行く
3.再会できたら霊夢と共に行動。重要度は高いが、絶対守るべき存在でもない
4.最後の手段として、主催者の褒美も利用する
339 ◆TDCMnlpzcc :2011/10/10(月) 09:30:59.39 ID:Ox3eIzgq
投下終了です

問題点等、ありましたら指摘をお願いします
340創る名無しに見る名無し:2011/10/10(月) 11:16:56.41 ID:GbYiORpx
乙です
このままさとり妹紅と出会うのか
今の状態で小町を相手にするのはきつそうだな…
341創る名無しに見る名無し:2011/10/11(火) 16:58:33.63 ID:bB3qsTQr
投下乙です

確かにこのままさとり妹紅とご対面だろうか?
対決になったら…いや、ふたを開けるまでわからんか
そしてご褒美はその方法もあるが別の方法を思いついたらどうなるやら…
342創る名無しに見る名無し:2011/10/12(水) 04:10:09.66 ID:/twfdk2t
投下乙です

ちゃんと自分のことわかってるんだねこまっちゃん
変に狂ったりぶれたりしない達観したマーダーだ
さともこの二人を相手にしてもやれるかな?
343 忍法帖【Lv=3,xxxP】 :2011/10/13(木) 00:58:33.65 ID:xEbmEt5M
そんなこと言ってたらこまっちゃんとさともこ(+あやや)の予約が入ったよ(仮だけど)
これは対決の流れになるんだろうかねぇ
344創る名無しに見る名無し:2011/10/13(木) 17:35:41.48 ID:DRBs7Ui+
おおっ、面白そうなところに予約入ったな
これは期待
345 ◆TDCMnlpzcc :2011/10/17(月) 19:12:21.60 ID:pbF8aTpd
仮投下スレに作品を投下しました
いくつか踏み込んだ内容となっています
書き手の皆さんは特にチェックをお願いします
346創る名無しに見る名無し:2011/10/18(火) 21:01:10.05 ID:r1rAfIch
告知あげ
347 ◆TDCMnlpzcc :2011/10/20(木) 17:56:16.38 ID:Q5uZOtk2
反対意見など収まったようなので、投下します

題名「All things are accepted there.
   Even if it is inconsistency and poison.」
348 ◆TDCMnlpzcc :2011/10/20(木) 17:59:54.94 ID:Q5uZOtk2

 こんもりと茂った木々を抜けてゆくと、月面探査車は人気のない小道へと出た。
 瘴気のこもった魔法の森とごく普通の人里への小道、二つの間には違和感なく佇む道具屋があった。
 その中からは人間でも嗅ぎ分けられる、確実な死のにおいがただよう。
 中に入れば新たな発見もあったかもしれないが、車に乗る四人はそこで立ち止まることなく進み続けた。
 彼女たちには、さほど自由な、無駄に使える時間はなかった。
 はるか昔と思える日常、気難しい店主のいる道具屋に顔を出すことはもうできない。
 あまりに短い時間で、私たちは変わってしまったのだと、霧雨魔理沙は思い、眼を伏せた。

「紫、そっちの解読はどうだ?何かわかったのか?」
「ええ、いろいろ思いだしてきたわ。もう少し経ったら分かりやすくして話すから待っていなさい」
「少なくとも人間に分かる程度の分かりやすさにしておいてほしいな」
「これでも幻想郷の賢者よ。期待は裏切らないわよ」

 運転している東風谷早苗の横、通常の来るまでは助手席として扱われるそこで、八雲紫は食い入るように文書へ眼を落していた。
 その様子をフランドール・スカーレットが奇怪なものを見るように眺めている。

「もう神社を出て随分経つのに、良く集中力が持つのね。私だったら二回は寝ているわよ」
「・・・・・・」
「ちょっと無視することないじゃない!!」
「あんまり邪魔をするのはやめようぜ」
「うん・・・」

 むっとして口元をゆがめたフランドールを、魔理沙が止める。
 さらに何か言おうとしたフランドールは、文書を見つめる紫の真剣すぎる目を見て、思わず黙り込む。
 ほとんど付き合いのないフランドールにも、その必死さはひしひしと伝わってくる。
 集中している紫の周りは、夜とは思えない熱気を保っていた。

「魔法の森を抜けましたので、もうすぐ人里です」
「そ…そうだね」

 しらけた空気に押されて、東風谷早苗は口を開いた。
 最初こそ、ぎこちなかった運転だが、今では昔から乗っていたかのように乗りこなしている。
 運転がうまくなるのに比例して、周囲の危険を確かめ、話をすることも楽になってきていた。

 運転から意識が外れると、今度はうっすらと汗のにおいが漂う衣服が気になってくる。
 周りの三人に気付かれないように鼻を寄せ、思ったよりにおわないことに安心した。
 安心はしても早苗も乙女。
 丸一日湯船につかってないことを思い出し、つぶやく。

「人里についたらお風呂に入りたいですね」
「さすがの私も気になってきていたな。銭湯にでも行こうか?」
「銭湯?」

 頭をかしげるフランドールに、魔理沙が教えると、その目が輝いた。
 今まで聞いたこともなかったのかもしれない、好奇心に胸を躍らせている。
349 ◆TDCMnlpzcc :2011/10/20(木) 18:01:19.71 ID:Q5uZOtk2

「なにそれ、行ってみたい!!」
「フランさんの肌、白くていいなぁ。髪の毛、きれいに洗ってあげますよ」

後ろを振り返り、髪の毛を触る早苗をよけるようにしてフランドールが立ち上がった。
よけられた早苗の手が、残念そうに宙を舞う。

「吸血鬼は太陽に当たれないの。白いのはしょうがないでしょう」
「早苗の肌も大概だと思うがなあ」
「むむ、よく見たら私以外みんな金髪じゃないですか」
「早苗、よそ見運転」

 さすがの紫も顔を上げ、苦笑する。
 区切りがよかったのか、そのまま文書を閉じて袋から食べ物を取り出した。
 
「妖怪の賢者の貴重な食事シーンかな?」
「あなたたちも食べておきなさい。食べないと頭は回らないわよ」

 紫は、軽口をたたいた魔理沙に自分の袋から食べ物を押し付け、黙らせた。
 あまりおいしそうには見えないな、魔理沙は心の中で思いながら、流し込むように食らう。
 紫はそのまま、運転中の早苗にも食べ物を差し出した。
 おばあちゃんみたいなことを、と口に出したら殺されてしまいそうなことを思い、魔理沙は勝手に笑う。

「血液、ないのかな?」
「近くに二つほどあるでしょう。純粋な人間が二人」
「紫、冗談きついぜ」
「あら……」

 先ほどの仕返しとばかりに、魔理沙をフランドールに押し付ける紫。
 しかし、魔理沙の翳りのある笑顔に気付き、顔を曇らせた。
 考え直してみれば、魔理沙はもう純粋な人間ではない。
 意外と繊細なのね、と紫は思い、同時に少し、何かを思いついた。

「どうしてもというなら、私の血を差し上げましょう。現人神の高級品です」
「今はいいよ。そこまでおなかはすいていないから」
「いざという時は私を吸血鬼にしてもいいですよ。かっこよさそうですし」
「あはは、考えておくね」

 話をつづける二人に対して、紫は黙り込み、目を閉じた。
 終わりのない話を打ち切るために、魔理沙が口を出す。
 
「当座の目標は、お風呂ってところだな」
「着替えも用意できるといいですね」
「こんな機会だし、私は人里を見て回りたいな」
「まあ、行ってみてのお楽しみだぜ。それにしても、お前らは少し気楽すぎるな」
「それくらいがいいのですよ。きっと」

 はるか遠く、道の先に見えてきた人里を指して、早苗が言う。
 まったく能天気すぎるぜ、口の中でつぶやき、魔理沙は空を見上げる。
 星々のちりばめられた天空が、四人を見下ろしていた。
 ざわざわと横の茂みが鳴る。
 風のいたずらか?
 まさか今襲われたら一貫のおしまいだな、と思いながら横を警戒する。
 私もまだ死にたくはない。
 霊夢を止める仕事も残っている。
 そういえば……
350 ◆TDCMnlpzcc :2011/10/20(木) 18:02:54.11 ID:Q5uZOtk2

「レミリアの奴は何をしている?誰も情報を持っていないぜ」
「そういえば、フランさんのお姉さまはまだ生きていました。何をしているのでしょう?」
「お姉さま?」

 フランは手を頭に当てた。
 魔理沙も少し考えてみる。


 まず、生き残っている面子で、いったいどれぐらいが殺し合いに乗っている連中だ?
 さとり以外の八人みんなだったら救いようがないぜ。
 私たちの当座の目標に、情報収集も加えたほうがいいかもしれない。
 誰が敵で、味方か。
 説得をするにしても、把握しておかなければ難しい。
 少なくとも、サボタージュの死神と霊夢が黒なのはわかっている。
 だが、それだけだ。
 意外とまだ生きている人間とあまり接触していない。
まるで自分が死神だな……などと自虐的に考えてしまう。
 スマイル、スマイル。前向きに考えないと私じゃないみたいだ。

 一瞬、あたりの風が強くなり、皆が黙り込む。
 その絶好のタイミングをうかがい、紫が口を開く。

「ちょっといいかしら」
「どうした?」
「一応報告しておくべき情報があるわ。レミリア・スカーレットのことも併せて」
「急に……なに?」
「落ち着いて聞いてちょうだい」

 紫は、いくつかの断片的な情報を話し始めた。
 途中から、その難しい、歯切れの悪い、婉曲な言い方にフランがめげ、魔理沙が内容をまとめなおした。


――――――――――――――――――――――――――――――――


・リリカ・プリズムリバーは四回放送前に博麗神社を訪れている。
・レミリア・スカーレットと十六夜咲夜は殺し合いに乗っている。
・リリカ・プリズムリバーは手傷を負わされた。
・レミリア達は紅魔館周辺にいた。
 
※リリカ・プリズムリバーは第四回放送以前に亡くなっている。


――――――――――――――――――――――――――――――――
351 ◆TDCMnlpzcc :2011/10/20(木) 18:05:28.30 ID:Q5uZOtk2

「こんなところか。なんでこんな情報をお前が持っている?」
「書置きがあったのよ。神社にね」

 疑いの目を向ける魔理沙に、紫は目をそらして言う。
 本当は言わないつもりだったのよ、続けてささやく紫に、早苗が眉を曲げる。

「どうして教えてくれなかったのですか?信用されていない……」
「そんなことはないわよ。ただ、この情報は信じない方がいいわ」
「だれでも偽装できるから?」
「その通り」

 自信なさげに口を出した魔理沙の手を叩き、紫が肯定する。

「だれか恨みがある人物が、この内容を書き残したかもしれない」
「あとは主催者とか?」
「それもありうるわね。いや、それはないかしら?
とりあえずこの情報は鵜呑みにしないでちょうだい。忘れてしまっても構わないわよ。ノイズになるだけだから」
「でも、本当かもしれない」

 うなだれて、フランドールがつぶやく。
 その顔に気付き、紫がフォローする。

「これの真偽はどうでもいいわ。もともとはあなたに伝えるつもりはなかったのだけれど、
もし彼女が殺意を持って向かってきたときはあなたの力がいることになりますから」
「もしどんなことになっていようと説得すればいいだけですよ。私にまかしてください」

 力強く言う早苗とは正反対に、フランドールの顔は曇ったままだった。

「私を400年以上閉じ込めていた相手なの。言うことなんて聞くかしら」
「私の言うことには耳を貸さなくても、妹さんの言うことになら耳を貸すはずです」
「この一日でフランもだいぶ成長したからな。耳に届くはずだぜ」

 今度は運転席を離れて、早苗はフランドールの肩に両手をおいて宣言する。

「神様を信じてください。だいじょうぶですよ」
「……ありがと」

「まずは信用される運転をしてほしいものですわ」

 自由になったハンドルへと手をかけ、暴走しかけた車体を捕えた紫が笑いながらぼやく。
 その自然な笑顔に、魔理沙が驚いて目を見張る。

「成長したのはフランだけじゃなさそうだな」
「払った犠牲が大きすぎますわ」
「もう十分払った。これ以上犠牲を出す必要はないってことだな」

 そこでだ、話を区切り、魔理沙が言う。

「お前はいったい何を見つけた?教えてくれよ」
 
 気付いていたのね。
 紫は再びあいまいな笑顔に感情を隠して、驚いた。
 たかだか十数年生きた人間に自分の心が読まれるとは。
 実際、文書を見て気付いた内容はそれだけ自分にとってショックだったのかもしれない。
 プライドの高い、幻想郷の重鎮にとって、それは衝撃の内容だった。

 でも、それより前に確認しておきたいことがいくつかある。
352 ◆TDCMnlpzcc :2011/10/20(木) 18:07:44.68 ID:Q5uZOtk2

「魔理沙、あなたには蒸し返すようで悪いけれど、蓬莱の薬を飲んだのね」
「そうだ。飲まされた、という方が正確だけどな」

 わざとためて、口をつぐむ。

「効いたのよね。まあ、今あなたがここに生きているのが証拠でしょうけれど」
「おいおい、その言い方はないだろう」
「魔理沙の言っていたことを疑っているの?」

 心なしか、魔理沙をかばうように吸血鬼が口を開けた。
 そんなことはない、と伝え、再度確認する。

「効いた。死ぬだろうという傷が一瞬で治ったみたいだったぜ。それがどうした?」
「でも、八意永琳と蓬莱山輝夜は死んだ。ついでに言えば今のあなたもそれほどの再生能力がないのよね」
「何が言いたいかわかってきたぜ」
「呑み込みが早いわね」

 ぐっ、と握り拳をつきだし、自分の考えが正しいか頭を悩ませながらまとめている魔理沙を片目に、早苗は小首をかしげている。

「暗号みたいに言わないで、素直に教えてくださいよ」
「私も分からない。もっとわかりやすく!!」

 不満を上げる二人をよそに、魔理沙の考えを聞く。

「つまり、主催者は私たちの制限をわりかし自由に緩められるのか?」
「そのとおりよ」

 そのまま続ける。

「もし、常に制限がかかっているようならば、魔理沙が蓬莱の薬を飲んだとしても、大した回復能力を得られずに死んでいたはずよ。
二十秒間の驚異的な再生能力がなかった場合ね。でも、それはすぐに消えてしまった。
すでに不老不死のもの達が死んでいることからも明らかなことだけれども、今の魔理沙には死を逃れるだけの再生能力はないのよ」

 演繹的に仮説を作り出していく。

「つまり、ね。主催者は自由に個々の制限を変えられるということになるの。
もしもこれが巨大な結界、つまりこの世界を覆っているような結界で制御しているだけならば、こんな器用な真似はできないはずですわ。
つまり――――」

 口をつぐみ、三人がこちらを見ていることを確認する。
 そのまま、手元の紙に書かれた文字を三人に見せた。

『首輪さえなんとかすれば、制限は外れるはず』

 それが八雲紫の見つけた真実。
353 ◆TDCMnlpzcc :2011/10/20(木) 18:08:43.26 ID:Q5uZOtk2

「ついでに言うと、体に埋め込まれた呪詛のようなものはなかったわ」
「さすがにそんなことをされたら、気づく奴らが大勢いるだろうな」
「つまり、そのような制限を課せられる手段は、この首輪にしかないはずなのよ」

 蓬莱の薬だけが特別だとは思えない、そういったことも言いつつ、まとめる。

 仮説ではある。だが、紫の言葉は正しく聞こえた。
 だからこそ―――

「この内容、話して大丈夫なのか?」

 当然、気になることではある。
 だけれども。

「いまさら遅いわね。これだけの力がある相手よ。無駄なあがきをするのなら、細かい所は無視して、運に任せていかないといけないのよ。もっと言えば、この内容は人里につく前に話しておきたかったのよ。向こうについたら何が起こるかわからないですもの」
「もう私たちの方針なんてばれていますよね。それと、盗撮されているかもしれないから紙に書いてもあまり意味はないですし」
「まあ、本当に重要なところくらいは紙に起こしておいた方がいいかもしれないわ」
「私たちに何かあった時のため?」

 少し不安そうに、フランドールが尋ねる。
 紫は首を縦に動かすことでその疑問に答えた。
 顔をしかめて、魔理沙が言う。

「あいかわらず発想がネガティブだな」
「真の賢者は自分が失敗したときのことも考えておくものよ。覚えておくといいわ」
「私は賢者じゃなくて魔法使い希望だな。特別派手な魔法使いで頼むぜ」
「それなら勇者、早苗さんに頼んでおいた方がいいと思うわ。いや、巫女だから僧侶かしら?」
「話が脱線していませんか?」

 早苗の言葉で、本題へと復帰させる。

「最初に魔理沙さんが尋ねた、文書について教えてもらいたかったのですが……」

 それを聞いて、魔理沙も同意した。
 笑っていた顔をまじめに戻して、うなずく。

「いい加減、その文書。霊夢が何を書いていたかを教えてもらいたいな」
「私も気になる」
「いいわよ、ちょっと待ちなさい」

 手を挙げて、制す。
 もう一方の手で、手元の冊子を引き抜いた。

「かなり興味深い内容だったわよ。心臓によくない内容だわ」
「悪いが昔から心臓は丈夫でね。楽しみにしておくよ」
「なら、括目してよく聞きなさい」

「これが、真実よ」
354 ◆TDCMnlpzcc :2011/10/20(木) 18:18:12.24 ID:Q5uZOtk2




 博麗の巫女が残した文書は主に異変や事件についての項目で占められている。
 紅霧異変から始まり地霊殿での異変まで、博麗霊夢の所見と体験が書き記されていた。
 出会った妖怪、主犯とその動機、人里への影響、その他もろもろ。
 だらしない霊夢にしてはみっちりと書き込まれていることに、八雲紫は驚きを覚えた。
 書かれていることの大半はもう理解しており、ななめ読みをしながら、気になる部分を抜き出すことに努めた。

 春雪異変での主犯に対する考察と、自身に対する激烈な批判。
 永夜異変における妖怪との協力の難しさをぼやく内容。
 さすがに紫も苦笑いをしつつ、読み進めていく。
 他人の日記を見るのは意外と気恥ずかしい。
 その人間の性格、秘めた気持ちがあふれている。
 もっとも、さほど裏表のない霊夢のこと、そこにはあまり驚くべきことはなかった。

 今、この世界で殺しを続けているとは思えない、平和な異変の解決日記。
 それを見て、紫も思わず、“昔の”幻想郷を思い出して懐かしんだ。
 思い浮かべたのは最近の幻想郷だったが、気付かない間にその“最近”も遠くへ行ってしまった

 もう二度と戻らない日常へ、静かに心をはせる。
 失くしたのは親友、従者、その他たくさんの知り合い。
 多くを失いすぎてしまった。
 私だけでなく、それは霊夢も同じはずだろう。
 もし、もし仮に霊夢が生き残り、もとの幻想郷に帰ったとして、この悲劇をどのように残すのだろうか?
 今手元にある冊子には、どのような感情と、結果が書かれるのだろう。
 純粋に、気になった。
 私、八雲紫が生き残らなかった先の未来に、霊夢はどう生きていくのだろうか?
 親友も、何もかもを殺して生き残った先の未来に……
 

 永夜異変の次は、やはり大結界異変についての項目だった。
 花の異変。あの時は結界が緩んで大変だったわね。
 何気なく、読み飛ばしながら、霊夢の記述を追う。
 原因、過程、結果……報告。
 読み進めて、少し違和感を覚えた。
 ……何か。何かおかしな点がある。

 どこなのかしら?

 報告、そう、報告の部分が気になる。
 すべての異変の記録は、報告で終わっていた。
 どこに、誰に報告していたの?
 その項目を一気に読み進める。
 目当ての記述は、項目の一番後ろにあった。

『―――神主に報告した。以上を持って六十年周期の大結界異変の記述を終える。』

 そこで、次の異変の内容へと移行している。
 最後の記述には、神主とだけ記されていた。

 どこかで、どこかでこの“神主”という言葉を聞いた気がする。
 私は頭を悩ませる。
 たしか、この一日のうちで聞いた覚えが―――
355 ◆TDCMnlpzcc :2011/10/20(木) 18:19:55.41 ID:Q5uZOtk2



「楽園の素敵な神主。永琳に手紙を送った主催者のことだぜ」
「ええ、私もすぐに思い出したわ」

 話を途中で打ち切った魔理沙に、少し疲れた笑みを返した紫は、ささやくように言った。
 だいたい三十秒くらい悩んだかしら、言い訳がましくつぶやき、続ける。

「すぐに思い出せなかったのは情けなかったけれど、それまでの記述を読み飛ばしていたことの方が情けなかったわ。
もっとも、ゆっくり読む時間もなかったからしょうがないのだけれど」
「何か読み落としていたのですか?」
「つまり悪い奴が、博麗神社の神主だった、ってこと?」
「同時に聞かないでちょうだい。まあ、間違ってはいないわ」

 同時にしゃべりだした二人に手を焼きながら、うつむき、紫はつぶやいた。
 手元にあった霊夢の手記を取り出し、探る。
 そして、手に持った冊子の何ページかを開き、指で『神主』と記された部分を指した。

「ここにも、ここにも、あそこにも、たくさんの部分に記述があったわ」

 その言葉は、その異変だけに限らず、すべての異変に書き込まれていた。
 終わりに、中盤に、場合によっては文章の始めにも。

 顔をゆがめて、紫は話をつづける。




―――そうだわ、思い出した。
 主催者に仕立て上げられた八意永琳に、紙を送りつけた人物が楽園の素敵な神主だった。
 魔理沙が情報交換の時にその名前を挙げていたのはよく覚えている。
 この文書に書かれた神主と同一人物だという可能性は十分にある。

 でも、それでも。
 魔理沙の話を聞いた時からの疑問だったが、ただの神主にこんなことできるのだろうか?
 よっぽどの才能と経験があるのか、組織が後ろにあるのか。
 いや、まず、その前に考えることがあるでしょう。
 霊夢と接触があった以上、その神主は幻想郷と関わりがあるはずなのよ。

 外の人間かはともかく、そんな人間の存在を私が知らないはずはない。
 なぜ知らないの?
 いや、もしかしたら知っている?

 
 この会場に来てから、いくつか、感じているものがあった。
 スキマが自由に開けないだけではなく、何か、頭が縛られていたような……。
 
 あくまでもただの思い付き。
 真実味もなければ、違和感も今思いついたものに過ぎない。
 でも、思い出して、不審な点を洗い出すことはできた。
 そして、私は仮説を思いついた。


 私たちには洗脳か、催眠術といったたぐいの精神操作がなされているのではないか?
 
356 ◆TDCMnlpzcc :2011/10/20(木) 18:23:41.68 ID:Q5uZOtk2


 根拠はそこまでない。
 でも、私の記憶があいまいなのにはそれで説明がつく。
 記憶の混濁の理由は、精神操作か惚けか。
 流石に妖怪である自分が惚けるなどということは考えたくない。
 だとすれば、背理法で考えて、精神操作を疑うことは間違いではないでしょう。

 文書を、もう一度くまなく見ると、随所に違和感が残るのが分かる。
 自身の記憶と食い違う発言、結果。
 いや、文書に書かれていることすら、よく見れば矛盾している部分が多く見受けられる。
 最初、意識せずに読んでいた時は、それだけの大きな矛盾に、さほどの違和感すら覚えなかったらしい。
 そのこと自体が、精神操作を受けていた証拠になるのでは?

 矛盾は、ごく自然につづられていた。
 異変解決後の顛末の違い。
 かかわった者たちの名前の違い。
 文書には異変解決への幾つもの過程と、さらに、失敗した結果もまた書かれていた。
 同じ過程が、違う登場人物で、繰り返し書き込まれていた。
 まるで、同じ異変が何度も、短期間に起こったかのように。
 私の記憶からはるかに離れた異変の様子―――

―――いや、もはや自分の記憶は信用できない。
 本当に、異変が何度も起こったのかもしれない。
 連続して、解決したのにやり直して、矛盾を積み重ねながら起こってきていたのかもしれない。
 ありえないわ。
 でも、文書にはそう記されている。
 とにかく記憶を、探りましょう。

 春雪異変の時、私はなにをしていたの?
 霊夢と、魔理沙と、紅魔館のメイドの相手をしていた。
 そして……いや、本当は相手をしていない。
 だから私は優雅に、その時は冥界に出かけていただけで、何もしていない。
 おかしいわね。
 少し混乱しているようですわ。
 魔理沙と戦った記憶。
 霊夢と戦った記憶。
 紅魔館のメイドと戦った記憶。
 何もなく、平穏に終わった記憶。
 自分自身にも幾つもの異なる記憶があるように感じてしまう。

 やはり記憶は、当てにならない。
 妖怪であればこそ、よく知っている真実。
 それを、こんなところで味わうことにあるとは、思っていなかった。
 何かの妖怪に、化かされたのかしら?
357 ◆TDCMnlpzcc :2011/10/20(木) 18:25:22.43 ID:Q5uZOtk2

 思考を巡らせば、何通りもの記憶が顔を出す。
 その中からは、神主という単語もあふれ出てくる。
 どうして今まで気付かなかったのか。
 雪が解けるように、複雑で、矛盾した記憶たちが頭にあふれる。
 雪解け水の中からあふれ出した真実は、自身の記憶の否定だった。
 私が、ここにいる私がいったい何なのかですら、理解ができなくなってゆく。
 本当に、ここにいる私は八雲紫なのかしら?

 そればかりは、元から証明のしようがない、悪魔の証明。
 まず、自分は八雲紫である。
 それを前提にして考えていかなければならない。
 つまり、今ここにいる自分を、八雲紫として考える。
 そのうえで、先ほどの記憶を証明しなければ。
 まず、その記憶がもともとあったのか、植えつけられたのか?
 霊夢の文書が本物だとしたら――そうとしか考えられないのだが、そうだとしたら。
 矛盾を抱えた記憶は真であり、植えつけられたものではないといえる。
 つまり、文書も、自分の記憶も正しいということ。
 その時、その事実は、逆におかしいのが幻想郷の方であることを意味してしまう。
 それが本当ならば、幻想郷は矛盾した歴史を歩んできたことになる。
 いや、実際に歩んできたのかもしれない。





「霊夢の書いた文書には、見ている通り、何通りもの異変解決までの道筋が書いてあるわ」

 気付けば月面探査車は動きを止め、紫を除いた三人の目は、文書に書かれた字を必死に追っていた。
 一つの異変に、多くて十数個の解決までのパターンが書かれ、
おそらく三人とも、そのすべてに関する記憶を一様にもっているだろうことには間違いなかった。
 それは三人の、よりどころを求めるような視線を見れば、十分すぎるくらい理解できる。

「もし仮に、この文書が偽物だとしたら、私たちの記憶も、この文書も、幻想郷から拉致されたときに書き換えられたと判断できますわ。
逆に、これが本物だとしたら、幻想郷自体がおかしな歴史をたどってきていたと判断できます。私としては、混乱と陽動を狙った主催者が、この文書を置いておいたと信じたいところですわ」
358 ◆TDCMnlpzcc :2011/10/20(木) 18:26:19.97 ID:Q5uZOtk2

 嫌なものを思い出したかのように、言い切った紫は顔をしかめた。
 早苗が、疑問を顔に浮かべながらも、言う。

「つまり、幻想郷はおかしな時間軸で動いていて、私たちはそれに気付かなかったということですか?」
「その通りよ。あなたたちも少し記憶が戻ってきたかしら?」

 頭に手を当てながら、魔理沙がうなずく。
 フランドールは、何かおかしなことを聞いたかのように硬直している。
 少し刺激が大きすぎたかしら?紫の心に小さなとげが刺さった。

「紫の言っていることが正しいとして、だ。私たちはそんなおかしいことに気付かなかったのか?今、私も自分の記憶に矛盾を見つけ始めた。地霊殿に言ったのかいっていなかったのか、そこらへんがあいまいになってきている気がするぜ。それでもこれが……まてよ」
「魔理沙はなにか分かったの?」
「分かった。これほど強力な主催者様だ。それくらいしかねないだろうな。真実はこうだ。幻想郷はずいぶん前から、この神主とやらの手に落ちていて、異変やら何やらの記憶も、ここに来る前から変えられていたってことか。ファイナルアンサーだぜ」

 早苗も、一瞬怪訝な顔をしてから、手を打って、つぶやく。

「言いたいことは分かりましたが……それだと私たちは、もともとその神主の駒同然ということになってしまいませんか」
「ええ、その通りよ。あなたの言っている通り、駒同然だったのね。まあ、この話は頭の片隅に入れておくだけにしておきなさい。あまり考えすぎて、命を落としても意味はないわ。脱出を図るときにこそ役に立つ知識よ。それまでは頭にしまって―――」
「じゃあ、なんで今伝えたのよ」

 一人だけ置いて行かれたフランドールが、口をすぼめて疑問を口にする。

「リリカの書置きが正しければ、レミリア・スカーレットは人里周辺にいると想像できるわ。しかも人里はこの世界の中心なの。その上物資もある。相当な数の人妖が集まっているはずよ。」
「いつ戦闘になって、命を落としてもおかしくないと?」
「そうね、銭湯になんか行っている余裕はなさそうね。きっと」

 ため息をついて、紫は言い切る。
 お風呂はだめですかね、早苗はつぶやくと、何かを思いついたのか、顔を明るくさせて言った。
359創る名無しに見る名無し:2011/10/20(木) 20:15:30.28 ID:c/1wjDPz
支援
360 ◆TDCMnlpzcc :2011/10/20(木) 21:17:34.24 ID:Q5uZOtk2

「銭湯だけに……」
「それ以上言うな、寒くなる」
 
 魔理沙が全力で止めると、笑いが起きた。
 けっして無礼な雰囲気の入っていない、純粋な笑い。
 とっさにフランドールへ視線を向けた魔理沙が見たのは、笑顔の紫だった。

「銭湯だけに…クスッ…」
「ツボに入るような駄洒落じゃない。何をやっているのさ」
「しばらく……待ちなさい」




「ああ、楽になった」
「あまり長く生きるとギャグのセンスが進化するのか。覚えておくぜ」
「忘れて頂戴」

 まあそれはそれとして、紫が続ける。

「先ほどの話をまとめるわ。
間違っているかもしれないけれども、主催者につながる大切な情報よ。私たちの誰かが伝えないといけないのです」

 紫の言葉に、早苗は首をかしげて答える。

「でも、あまりネガティブに考えすぎない方がいいと思います。皆が生き残って、無事に帰るのが最初からの目的ですから」

 その能天気ともポジティブとも取れる意見を聞き、ほおを緩めて紫が言う。

「あなたにはほんとに癒されますわ。まあ、ともかく、フランのためにまとめますわね」


・もしも、残されていた霊夢の文書が本物ならば、幻想郷は同じ異変を短時間に何度も繰り返し経験しており
なおかつ、住人達はそれに気付かないように心理操作をされていることになる。
・八雲紫の記憶は、誰かに手を加えられたかのように、破たんしており、文書のように矛盾した歴史を覚えている。これはほかの参加者も同じである。
・主催者である“神主”は、ずいぶん前から竜神様に変わって、幻想郷を支配していたのではないかと推測できる。
・この推測は正しいとは限らないので、あまり考えないで、頭の奥にしまっておくべき。


「以上ですわ」
361 ◆TDCMnlpzcc :2011/10/20(木) 21:18:25.68 ID:Q5uZOtk2

 紫は四枚の紙に、それぞれ考察の内容を記すと、それぞれを皆に渡し、手元の一枚を懐に入れた。

「何かあったとき、ほかの参加者が見つけて役立ててくれるかもしれませんから」

 狭い車体の上で、集まっていた三人に、散るように手で合図する。
 まだ納得のいかない顔で、皆はもといた場所へと戻る。
 運転を始めた早苗は、前を見ながら言った。

「今の話、頭の片隅に入れておけばよかったのですよね」
「ええ、そうして頂戴」

 気だるげに、うなずく紫は、そのままあたりを見渡し始めた。
 ふう、とため息をついて、魔理沙が言う。

「思ったよりも神主とやらは強敵だぜ。大丈夫か?」
「大丈夫、とは言えないですわ。もともといくつか簡単な手を考えてはいたのだけれど、
私の全力をもってしても、一人で倒すことはできなさそうよ」
「一人ならだめでも、束になればいけるだろう」
「その可能性に賭けて、人里に向かうのですわ」

それと、と紫は続けて、小声でささやく。

「頼んでおいたものは、余裕さえあれば集めておきなさい」
「分かった。この優秀なシーフに任せておきな」

 不敵な笑みを浮かべて、魔理沙も小声でささやく。
 不安そうな紫を尻目に、今度は大声で要求を述べる。

「休む機会があったら、私もゆっくりその文書を読ませてもらうぜ」
「その機会があれば、ですわね」

 幾分か血なまぐさい人里を眺めて、紫が残念そうにつぶやいた。
 遠くで、残り火が燃えている。

 【D−4 人里 二日目・黎明】
362 ◆TDCMnlpzcc :2011/10/20(木) 21:19:23.36 ID:Q5uZOtk2

【フランドール・スカーレット】
[状態]右掌の裂傷(行動に支障はない)、右肩に銃創(重症)、魔力回復、スターサファイアの能力取得
[装備]てゐの首飾り
[道具]支給品一式 機動隊の盾、レミリアの日傘、バードショット(7発)
バックショット(8発)、大きな木の実 、紫の考察を記した紙
[思考・状況]基本方針:まともになってみる。このゲームを破壊する。
1.スターと魔理沙と共にありたい。
2.反逆する事を決意。レミリアのことを止めようと思う。
3.スキマ妖怪の考察はあっているのかな?


【八雲紫】
[状態]健康
[装備]クナイ(8本)、霊夢の手記 、紫の考察を記した紙
[道具]支給品一式×2、酒29本、不明アイテム(0〜2)武器は無かったと思われる
    空き瓶1本、信管、月面探査車、八意永琳のレポート、救急箱
    色々な煙草(12箱)、ライター、栞付き日記 、バードショット×1
[思考・状況]基本方針:主催者をスキマ送りにする。
1.幽々子に恥じない自分でいるために、今度こそ霊夢を止める
2.私たちの気づいた内容を皆に広め、ゲームを破壊する
3. 頭の中の矛盾した記憶に困惑


【東風谷早苗】
[状態]:健康
[装備]:博麗霊夢のお払い棒、霧雨魔理沙の衣服、包丁、
[道具]:基本支給品×2、制限解除装置(少なくとも四回目の定時放送まで使用不可)、
    魔理沙の家の布団とタオル、東風谷早苗の衣服(びしょ濡れ)
    諏訪子の帽子、輝夜宛の手紙 、紫の考察を記した紙
[思考・状況] 基本行動方針:理想を信じて、生き残ってみせる
1.できればお風呂に入りたい
2.人間と妖怪の中に潜む悪を退治してみせる
3.紫さんの考察が気になります

【霧雨魔理沙】
[状態]蓬莱人、帽子無し
[装備]ミニ八卦炉、上海人形
[道具]支給品一式、ダーツボード、文々。新聞、輝夜宛の濡れた手紙(内容は御自由に)
    mp3プレイヤー、紫の調合材料表、八雲藍の帽子、森近霖之助の眼鏡 、紫の考察を記した紙
ダーツ(3本)
[思考・状況]基本方針:日常を取り返す
1.霊夢を止める。
2.仲間探しのために人間の里へ向かう。
3.紫の考察を確かめるために、霊夢の文書を読んでみる。



※現在、以下の支給品は紫がまとめて所持しています。割り振りはしていません。
てゐのスキマ袋【基本支給品、輝夜のスキマ袋(基本支給品×2、ウェルロッドの予備弾×3)
萃香のスキマ袋 (基本支給品×4、盃、防弾チョッキ、銀のナイフ×7、
リリカのキーボード、こいしの服、予備弾倉×1(13)、詳細名簿)】
西行寺幽々子のスキマ袋【支給品一式×5(水一本使用)、藍のメモ(内容はお任せします)
八雲紫の傘、牛刀、中華包丁、魂魄妖夢の衣服(破損) 、博麗霊夢の衣服一着、
霧雨魔理沙の衣服一着、破片手榴弾×2、毒薬(少量)、永琳の書置き、64式小銃弾(20×8)
霊撃札(24枚)】
白楼剣 、ブローニング・ハイパワー(0/13) 、64式小銃狙撃仕様(3/20)
楼観剣(刀身半分)付きSPAS12銃剣 装弾数(8/8)、MINIMI軽機関銃(50/200)
363 ◆TDCMnlpzcc :2011/10/20(木) 21:19:56.85 ID:Q5uZOtk2
投下終了です
支援ありがとうございました
364 ◆TDCMnlpzcc :2011/10/21(金) 17:13:31.34 ID:LZpD5Wfw
wikiに収めましたので報告です

題名が長すぎたので「All things are accepted there.
          Even if it is inconsistency.」に縮めました

リリカの書置きについての記述が状態表から抜けていたので
「※四人ともリリカの書置きについて把握しました」を最後に付け足しました

365創る名無しに見る名無し:2011/10/22(土) 09:04:16.02 ID:IwpYOma1
仮投下きたね
366創る名無しに見る名無し:2011/10/22(土) 17:58:33.04 ID:soSz6fuX
投下乙です

対主催組の決意が固まったなあ…そして考察も来たがこれは…
真相ははたしていかに…
367創る名無しに見る名無し:2011/10/22(土) 21:03:14.89 ID:ZUpiWK68
新参で、現在SSを見てる途中なのですが
ttp://www28.atwiki.jp/touhourowa/pages/80.html
21 となりのリリカと紅魔館事件 の、
「そう、では一人だけ動いていた場合はどうなる?」
「簡単、動かなかったほうは向こうが動いていることを認識できるけど、動いたほうが認識できないわ」



「先に攻撃が出来るってわけね……」
「攻撃だけではなく、防御、逃走……なんでも対応できるわ」



「しかし、不利な点もいくつかあります。一つにここが紅魔館であるということ」
「主人の帰りね」
「あー。あの吸血鬼が帰ってきたら面倒だな」
「それだけでなく、貴方たち※みたに※訪れる者が多いって事です」 ←「みたに」ではなく「みたいに」じゃないでしょうか?

前に言われたのかもしれないし、新参の俺がどうこう言える問題じゃないとは思いますが、直せる人は直したほうがいいのではないでしょうか?
368 ◆27ZYfcW1SM :2011/10/22(土) 21:05:38.12 ID:jInnwWIc
あらら、俺のSSだ
直しておくよ
369創る名無しに見る名無し:2011/10/23(日) 02:21:03.96 ID:mPG5HXh4
そんな細かいとこいちいちつっこんでたらキリないだろ
370 ◆27ZYfcW1SM :2011/10/23(日) 04:53:28.12 ID:daVYUEEL
まあ自分のSSは脱字結構多いし推敲しても治ってないことがあるから正直助かるよ
本スレじゃなくてしたらばの方でならドンドン言ってくれ
371創る名無しに見る名無し:2011/10/23(日) 07:01:20.75 ID:85nv0fQa
まあ、明らかな誤字は見つけ次第直して、したらばで報告したりすればいいのではないかな?
俺は定期的に自分の作品を巡回したりして直しているけれど、良く見つかるからね
372正直者の死(1) ◆yk1xZX14sZb0 :2011/10/23(日) 22:53:46.10 ID:UYMaS4hl
先だっての戦闘で、共にそれなりの傷を負わされたということもある。
鹵獲したFN SCARの重量が、疲れ切った体には堪えるものだったということもある。

藤原妹紅と古明地さとりは人里の民家の壁に寄り掛かるようにしてその足を止めていた。
勇んで寺子屋へと向かい、保護した霊烏路空とチルノを回収しようとしていたところだったが、今はそうも言っていられない。
4回目となる放送が、辺りに響き渡っていたのがその最大の要因であった。

さとりは響き渡る声が男の声であったことに、ああやっぱり、と思うに留めた。
目の前で八意永琳の死を見届けていたことに加え、その彼女を騙った主催者の心中を読んだ経験が、彼女に冷静さを保たせていた。
放送の中ではルーミア、そして因幡てゐの二人の名もコールされた。
短い時間であったとはいえ、行動を共にした二人もまた、永琳や伊吹萃香と同様にその命を散らしていたことをさとりは知る。
とりわけ、自らが威嚇して遠ざけてしまったルーミアに対しては少なからず申し訳ないという思いを持っていた。
勿論、彼女のしでかしたことをただで許すわけにはいかなかったのだが……その行為を糺す機会も今や永久に喪われてしまった。

後ほど合流する算段を立てていた東風谷早苗、そして八雲紫の両名の生存は確からしい。
紫に依頼された永琳と西行寺幽々子の捜索に関しては満足な結果を得られはしなかったが、致し方ないでしょう、さとりはそう思う。
そして、何よりも空が一命を取り留めていたということが、さとりに喪失感よりも安堵という感情を抱かせた。
ふぅっ、と一息ついたさとりが、傍らの妹紅に目を遣る。




妹紅は愕然とした表情を浮かべていた。
3度目の放送での「輝夜が人形である」という不自然な情報から、彼女もまた永琳=主催者であるという点には疑いを持っていた。
さとりほど確証を持ってはいないことではあったが、永琳の死に立ち会ったことでこの放送で違う声が流れることに違和感は感じていない。
その声が、聞いたこともない男の声であることに少々面食らいはしたが、彼女を驚かせたのは別の情報である。

レティ・ホワイトロックと河城にとり、さらに因幡てゐが死んだ。

レティとにとりは、彼女に萃香救出を依頼したという経緯がある。
接点といえばそのことだけに過ぎない……が、妹紅は一度した約束を反故にするような人間ではない。
自らの力が及ばないことを知りながら、それでもなお萃香を自らの手で助け出したいと話した時のにとりの目を妹紅は思い出した。
あの強い意志を持ったにとりが、そして共にいたはずのレティが……既にこの世のものではない。
二人が向かうと言っていた紅魔館で何かあったのか、それとも別の要因か……妹紅にそれを知る術は無い。

てゐとの接点は先の二人以上にあった。
仇敵・蓬莱山輝夜の住まう永遠亭の住人である彼女には、一応の面識(といっても顔を知る程度だが)があった。
その輝夜の死を目の当たりにしたというてゐは不安定な精神状態のまま妹紅と接触し、そしてそのまま妹紅のもとから去っていた。
止めようと思えば止められたはずのてゐの暴走。
それをみすみす許した挙句に、その命もどこかで散らせてしまうという最悪の結果を突きつけられたのである。
373正直者の死(2) ◆yk1xZX14sZb0 :2011/10/23(日) 22:54:53.14 ID:UYMaS4hl
さとりにとっての空や早苗、紫といった存在のような、妹紅にとってはポジティブに捉えられる側面がまるでないこの放送。
呆然自失となった彼女には、放送の後半で何を語られていたのかがほとんど頭に入ってこなかった。
プレゼントだ、金銀財宝だと、低俗な人間なら真っ先に飛びつきそうな単語にも反応できない。
まともな精神状態ならば、不死の命を簡単にくれてやるというような発言に噛みつくことも出来たであろうが、それも敵わない。
自分は何をやっているんだ、結果として萃香は救えず、レティとにとりの期待に応えられず、てゐも見殺しにしてしまった。
妹紅はただただ、そうした自責の念に苛まれかかっていた。
最初に出会った猫妖怪の死体を発見した時も、アリスと共にいた少女に命を狙われた時も少なからず感じていたその感情。
それが、今はこれまでに感じたこともないほどの大きなうねりとして妹紅の心中に押し寄せていた。

「……こ……! ……紅!」

その為か、隣でさとりが大声を上げていることにさえ気づくのが遅れた。
あ、ああどうしたの、と妹紅が取り繕うが、さとりが心を読まずともこの放送で何かが起きたのは一目瞭然である。

「何があったのか……話してくれませんか」

さとりがこちらをまっすぐに見据えてくる。
わざわざ聞かなくても心を読めばいいじゃない、そうした悪態をつく空元気すら今の妹紅には無い。
ぽつり、ぽつりと一言一句を紡ぐようにして妹紅は、これまでのことを話した。
にとりとレティに萃香の救出を依頼されたこと。
萃香を捜索する道すがらにてゐと出会い、そして輝夜の死体と対面したこと。

「そこから先は……もうさっきも話したよね」
「……ええ」

互いに視線を交わそうとはしなかった。
妹紅は自らが見殺しにした多くの命に対する慙愧の念に囚われている。
そして、さとりはといえば多くの人妖が命を散らす中、己が身内の無事を確認できて安堵してしまったことを悔いていた。
お燐を、そしてこいしを喪ったと知った時に感じた喪失感を、今この瞬間にも誰かが感じているはずだというのに。

二人なら、なんでもうまくいくような気がしていた。
……でも、それは一つの戦いを切り抜けられたことで高揚感を覚えていたからではないのか?
そうした思考に陥ってしまうほどに、二人の心は沈み切ってしまった。




「……行きましょう」

切りだしたのはさとりの方であった。
それを聞いた妹紅がチラ、と視線だけをさとりに移す。

「……どんなに悔やんでも死んだ者は還ってはきません……だからこそ、これ以上犠牲は増やしたくない、そうでしょう?」

さとりはといえば、妹紅の視線に気づいていないのか、それとも気づいていて敢えて目を合わせないのか。
どこか遠くの一点を見つめながら、まるで自らに言い聞かせるかのように訥々と言葉を並べた。

(死んだ者は還ってこない、か……そういえば、いつか私もそんな事言ったっけ)

再びさとりから視線を外した妹紅が、同じように遠くの一点をぼんやりと見つめるようにして呟く。
その言葉を言った時……ほんの数時間前、まだ萃香が生きていた時だった。
今とは立場がまるで逆で、あの時は私が萃香を元気づけようとしてたんだっけ、妹紅はそう思い出す。
374正直者の死(3) ◆yk1xZX14sZb0 :2011/10/23(日) 22:56:36.05 ID:UYMaS4hl
(……まったく情けない話よね。自分が口にした言葉に、逆に励まされちゃうなんてね)

妹紅の瞳に、微かながらもまた炎のような光が灯る。

(生き残った奴らは死んだ奴らの分まで生き抜く義務がある、他の誰でもない、私が言ったことじゃない)

ふさぎこむのは後でも出来ることだ。
自分が何もせずに座して死を待つだけならば、猫妖怪に、アリスに、こいしに、にとりに、レティに、てゐに、そして萃香に。

(合わせる顔が……ないわよね)

妹紅は壁にもたれかかっていたところから、ゆっくりと体を起こした。
すると、まるで示し合わせたかのように、さとりも同時に壁に体を預けていたところから姿勢を戻した。

「さ、行きましょう。お空と妖精さんが待っているでしょうから」

そう言いながら、先刻と同じようにまた手を差し伸べてきた。
まだもんぺの下の傷からは痛みを感じるので、無理はしない方が賢明と考えた妹紅が素直にその手を取る。

「よ……っと。それじゃ、行こうか」
「ええ。あの二人もそうそう動けるような状態ではないでしょうけど……」
「じゃあ急がないとね。誰かヤル気のある奴に見つかったらマズいことになるし」

肩を組んだ二人が、再び寺子屋に向けて歩を進め始めた。
足を引きずりながら歩くその姿は、まるで過去の重荷を引きずっているかのように見えるが。
それでもしっかりと見開かれた瞳は、未来を見据えているかのように見えた。




 *      *      *




小野塚小町が寺子屋に向かったのは、そこが光を放っていたから……という理由だけではなかった。
永琳の亡骸の近くからは、足を引きずったかのような跡が寺子屋の方角にずぅっと伸びていたのだから。

慎重に足跡を辿りながら、小町は様々な方向に思索を巡らせていた。

まずは今後の護衛対象についてだ。
既にコンタクトを取った博麗霊夢、古明地さとり、そして未だ見かけてもいない八雲紫の三人である。
このうち、霊夢と紫に関しては短期的な視点で見た時に、幻想郷で欠くことの出来ない存在であることは周知の事実である。
幻想郷という閉ざされた空間が、結界というもので不安定ながらも支えられているのは紛れもなくこの二人の力によるところだ。

これに対し、さとり……さらには既に世を去った四季映姫と西行寺幽々子に関しては、中長期的な視点に立った時に幻想郷に必要な人材で

あると言えた。
死者の魂や怨霊を預かる彼女たちがいなければ、幻想郷は花が咲き乱れるどころの話では済まなくなってしまうからだ。
適切に裁きを下す者がいて、その結果として魂の向かう場所である冥界や地獄を管理する者がいる。
このシステムが機能不全に陥れば、怨霊を含めた霊魂で幻想郷は満たされ、そこに住まう人妖の精神に異常をきたすであろう。
とりわけ、既に閻魔と冥界の管理者が喪われたという事実は、幻想郷の保全を望む小町にとっては痛手であった。
375正直者の死(4) ◆yk1xZX14sZb0 :2011/10/23(日) 22:57:48.40 ID:UYMaS4hl
(今の是非曲直庁の状況からして、後任の閻魔様がすぐに遣わされるとは考えづらいしねぇ……)

自分の舟だって長いことあのオンボロを使わされてるんだし、そう愚痴りながら小町がなおも思索する。
閻魔は二交代制であるが、必定残る一人に当面は全ての責務が降り注ぐことを思うと、小町はゾッとするのであった。
幻想郷にとって幽々子が喪われたのはさらにマズいことであった。
いくらでも代えの効く自分のような死神や、その気になれば後任がいずれは現れる閻魔と、彼女は全く異質の存在である。
その才故に冥界の管理を委託されている彼女はまさにスペシャリストであり、おいそれと代わりがいるわけではないのだ。

(……ただ)

そこを埋めるピースとして浮上してくるのが、古明地さとりという存在である。
もともと地底には怨霊が渦巻いており、その管轄を任されているのが地霊殿に住まうさとりたちである。

(……もっとも、心を読めるあのお方は怨霊にも避けられてたみたいだけどね)

それでも、霊的なものの扱いにかけてはずぶの素人というわけではない。
そもそも、現状で怨霊の管理をペットに任せていたのなら、地霊殿の方はさとり不在でもどうとでもなるということなのだ。
まだ多く残っているであろうペットに灼熱地獄をある程度預けてしまい、さとりを冥界に移すというのも一つの手である、小町はそう考えた。

また、さとりの持つその能力は閻魔の代行を当面担わせるには十分すぎるものがあった。

(なにせ、黙ってても浄玻璃の鏡を持ってるようなもんだからねぇ……)

もちろん、浄玻璃の鏡ほどに全てを見通せるというわけではないのは明らかな事ではある。
それでも、隠し事が通用しないという点において裁きを下す役を任せるには十分と言ってもいいほどだ。
そして、それ以上に小町が考えていることとしては……

(何より、霊夢やスキマ妖怪じゃ、性格的に閻魔に向いているとは言えないしね)

人妖問わず対等に接する霊夢ではあるが、良くも悪くも暢気で適当な彼女に閻魔の職務が向いているとは思えず。
白黒はっきりさせる映姫とは対照的に、混沌渦巻くカオスの具現化と言ってもいい幻想郷を心から愛する紫などは論外であろう。
二人を生き残らせる方針に変更は無いが、閻魔を任せるには不安要素が大きい。

(だからこそ、あの方には生き残ってもらわなくっちゃ)

小町は、さとりに閻魔の代行、および冥界の管理を委託させよう、そう考えていたのだ。
閻魔の人事など、一介の死神に過ぎない小町にどこまで発言権があるかは分からない……が。
現場からの推薦を、まったく取り合うことなく無視することもないだろう、小町はそう考える。

とはいえ、状況は芳しくない。
さとりには二度接触しているが、良好な関係を築けているとはまず言えない。
さらに、別の方向に思索を及ぼした時にも小町は今の状況がよろしくない事を改めて悟るのであった。



別の方向とは、永琳の下手人についてであった。
先刻の戦闘の場にいたのは、伊吹萃香、藤原妹紅、博麗霊夢、四季映姫、そして古明地さとりであった。
あの戦闘の場から、永琳終焉の地まではさほど距離が離れていないことから、このうちの誰かが永琳殺害に関わった可能性は大きい。
このうち、萃香と映姫は既に命を落としていることから、この足跡の正体とは考えづらい。
小町はそう推測し、さらに思索に耽る。

さらに、小町はさとりと接触してその場を離脱してから、永琳が霊烏路空にチルノという二人と交戦しているのを見ていた。
この二人の足跡である可能性も考えたが、永琳の死体の状況からあの二人にこんな器用な真似が出来るのだろうかと疑問視している。
小町の想像するシナリオでは、チルノと空の二人と交戦する永琳に対し、横槍を入れて奇襲をかけた者がいるのではないかというものだ。
そして、チルノと空の名前が先の放送でコールされなかったことから、この二人を保護する理由のある人妖が下手人ではないかと考える。
そう推理すれば、永琳を殺害したのが霊夢である可能性はかなり低いのではないか、そう小町は結論付ける。
376正直者の死(5) ◆yk1xZX14sZb0 :2011/10/23(日) 22:58:58.95 ID:UYMaS4hl
(あの場にいなかった誰かの干渉が無かったとは言い切れないけど)

推測は所詮推測であり、事実とは異なる可能性が高い。
だが、あの場にいた面々の中にこの足跡の持ち主がいるとするのならば……

(あの方か、それとも蓬莱人のどちらかだろうねぇ)

小町はひとまず可能性を二つに絞り込み、それぞれについて対応を検討する。
前者ならば、有無を言わさずに保護をするしか選択は無い。
自らの所業を見られているが故に抵抗されるのは必至だが、足を引きずる程の怪我を負った重要人物を一人で放置はできない。
そして後者ならば……

(骸になってもらうしかないねぇ)

計算が正しければ、残りは自分を除いて12人。
このうち、護衛対象の3人を除けば残りは9人。
手元の弾薬と、自らの妖力を考慮に入れれば、自らその9人を残らず斃してしまうことも不可能ではないと小町は勘定する。
とりわけ、小町は自分のドジにより幽々子と離れ離れになってしまったがために、その命を散らせてしまったことを悔いていた。

(もう四の五の言っている場合じゃないね……もっと自分から仕掛けていかないと)

改めて、積極的に護衛するという方針を反芻し、小町はさらに歩を進めた。
慎重に辿り続けた足跡は、そのまま寺子屋の入口へと伸びている。
寺子屋から光が消え失せていたことに気づくが、足跡に気を取られているうちに何かあったのだろうと小町は推測した。
子どもたちが体を動かせるようにとの配慮からだろうか、寺子屋の正面は少々開けた広場のようになっている。

(さて、乗り込むべきか、それとも待ち伏せといくか、どちらにしようかねぇ)

しばしの間考え込んだ小町は、待ち伏せを選択した。
手持ちのトンプソンの銃身の長さから、室内での乱戦となった時に不安を感じたからだ。
小町は辺りを見回し、広場をぐるりと取り囲むように並ぶ木々に目を付けた。
そのうちの一つによじ登り、丈夫な枝に跨ってトンプソンを構えると、ジッと息を殺して寺子屋から誰かが出てくるのを待つのだった。




 *      *      *




小町が寺子屋に到着した時から遡ること数分であった。
足を引きずりながらも、どうにか目的地に辿りついたさとりと妹紅は安堵のため息を漏らした。
そのまま板張りの廊下を、これまでと同じようにえっちらおっちらと歩きながら、二人を運び込んだ部屋を目指す。

「一番広い部屋だったっけ?」
「ええ、一番奥の部屋です」

顔を見合わせてこくりと頷いた。
377正直者の死(6) ◆yk1xZX14sZb0 :2011/10/23(日) 22:59:47.86 ID:UYMaS4hl
「どうします? 二人と合流して少し休みますか?」
「ああ、そうしようか。ひとまず傷もしっかり手当てしないといけないしね」
「ただ、あくまでも小休止です。明け方までには博麗神社に向かわないといけませんから」
「……本当に紅魔館には行かないんだね?」
「貴女も諦めが悪いですね……何度も言いましたが、この傷で突撃をかけるのは無謀以外の何物でもありませんよ」

妹紅は下を向いて黙り込んでしまう。
ここに至るまでの道中で、寺子屋で二人と合流した後の行動方針について話し合っていたのだが、結論は覆らなかった。

――紅魔館は避ける

さとりが紫たちと約束を交わしていたというのが理由の一つ。
激しい戦闘を繰り返した自分たちが、ヤル気になっている誰かがいるであろう紅魔館に向かっても不利であることがもう一つであった。
にとりとレティの無念を晴らしたい妹紅は、さとりのこの提案に対して当初は拒否反応を示した。
だが、寺子屋にいる二人と合流すれば、満身創痍の人妖が四人となる。
皆がそれぞれにボロボロであり、この状況で地雷原に飛び込むことは出来なかった。

「首尾よく早苗さんや八雲紫と合流出来れば、きっと犯人を打倒する策が見つかるはずです。それまで辛抱してください」
「……分かってるよ」

諦めきれないのか妹紅が口を尖らせるのを見て、さとりは小さくため息をつく。
もっとも、呆れているとか、失望したとか、そういった意味合いは籠っていなかったのだが。

「よいしょ……っと。やれやれ、やっと着いたね」

かなりの距離に感じられた廊下を歩き続け、目的地の大教室の前に行き着くと妹紅もまたふぅっ、と息をつく。
肩にかけていた手を外し、さとりが引き戸に手をかけた。

「まだ休んでいるでしょうから……静かに入りましょう」

妹紅がこくりと頷く。
そして、極力音を立てぬように注意しながら、さとりがスーッと引き戸を開け放った。




大教室はもぬけの殻であった。
さとりが教室の隅々を見回すが、人影一つ見当たらない。
眼前の光景が異常であることには妹紅もすぐに気が付いた。

「あれ? 部屋間違えた?」
「いえ、そんなはずは……」

銃創を負った肩を押さえながら、さとりが駆け出す。
教室の奥の扉――恐らくは物入れであろう――を開けながら、ペットの名前を呼ぶ。

「お空? どこに行ったの? 出てらっしゃい?」

焦りの色を見せながら、さとりは並べられた文机の下を一つ一つ覗いていく。
そんな様子を横目にしながら、妹紅は教室の壁にもたれかかって息をついた。

(まったく……手間かけさせて……あんなボロボロでどこに行っちゃったんだか)

妹紅はため息交じりに、ふと天井を見上げてみる。
そして、天井の異変に気が付いた。
何かが落ちてきたか、逆に何かが突き破ったか、そこには大穴が開いていたのだ。
よくよく見れば、あちこちに木屑や砕けた瓦が散らばっているのが分かった。
378正直者の死(7) ◆yk1xZX14sZb0 :2011/10/23(日) 23:00:51.29 ID:UYMaS4hl
「なっ……!?」

思わず驚嘆の声を漏らした妹紅に、さとりも気づく。
そして、妹紅の見つめる先に同じく視線を合わせると、たちまち顔が青ざめ始めた。

「な、なんですか一体あれは……!?」

大穴を見つけたさとりの心中に様々な可能性が去来する。
何者かが上空から襲来し、二人に危害を加えるか、攫うかしたのではないか?
はたまた、ボロボロのはずの二人がそれでもなお立ち上がり飛び出していったのではないか?

いずれにしても、安全地帯から空がいなくなってしまったことは明らかである。
それは即ち、自らのペットが、残されたたった一匹の身内が再び命の危険に晒されていることを意味していた。
さとりに悪寒が走ったのは、天井の穴から吹き込む夜風のせいだけでは無かったのだろう。
肩から走る痛みを無視するようにして、さとりは駆け出した。
そして、教室を出ようとするところで妹紅に肩を掴まれた。

「……っ! 離してくださいっ!」

妹紅の手を振りほどこうと、さとりが体をよじる。

「どこに行くつもり!?」
「お空が! お空が危ないんですっ!」

冷静沈着だったこれまでのさとりとは打って変わって、半ば恐慌状態に陥っているのに妹紅は面食らう。
妹紅もまた、現状を見て運び込んだ二人に何かがあったことは悟っている。
そして、それを見たさとりの焦りも理解は出来ている……が、かといってそのまま放逐するわけにはいかない。

「落ち着いてってば! 貴女が取り乱してどうするのっ!」

片足を撃たれている妹紅の機動力が落ちているのは明らかである。
だが、永琳との戦いで妖力を酷使したさとりも、現状では戦闘力が格段に落ち込んでいるのも明らかなのだ。
そんな時に一人で行動させるわけにはいかない、そう思う妹紅が肩を掴む手に力を籠める。

「邪魔しないでくださいっ! お空が……お空が死んじゃうかもしれないんですっ!」

撃たれた方の肩を掴んでいれば、あるいはさとりを押しとどめることが出来ていたのかもしれない。
だが、それは体に障ると逆の肩を掴んでいた妹紅の優しさが、この場では仇となった。
じたばたともがき続けるさとりを、どうにか抑え込もうとした時に妹紅の左足からまたしても痛みが走る。

「痛っ……!」

その瞬間に妹紅の握力が僅かに緩み、その隙にさとりの体が妹紅の手を振りほどいた。

「お空っ……!」

ドタドタと大きな音を立てながら、さとりが板張りの廊下を駆け抜ける。
苦悶の表情を浮かべた妹紅は、蹲ってしまいそうになるのをどうにか堪えてその後を追う。
379正直者の死(7) ◆yk1xZX14sZb0 :2011/10/23(日) 23:01:57.40 ID:UYMaS4hl
「ま、待ちなさいよっ!」

一歩足を進めるごとに顔を歪めてしまうほどの激痛に襲われる。
それでも、追わないという選択肢は妹紅には無い。
左足を引きずりながら、不格好ではあるが妹紅もさとりの後を追って走る。
だが、両足が健在のさとりと、片足が機能不全の妹紅とでは、どんなに妹紅が頑張っても引き離されるばかり。
お空、お空、とまるでうわ言のように呟きながら、さとりは一目散に寺子屋の外へと飛び出した。

「お空っ! どこに行っちゃったのっ!?」

そうして辺りを見回そうとしたその時だった。



タタタン、という軽快なリズムが遠くで刻まれたかと思うと、さとりの足元で地面が弾けて小石と砂が舞った。
気が動転していたさとりは、これが何者かの攻撃であるということに気づくのが一瞬遅れた。
だが、不思議と追撃がやって来なかったが為に、僅かではあるが冷静さを取り戻すことが出来た。
もし自分がもう少し前に飛び出していたら……そう考えたさとりの背中に冷たい汗が伝う。

「さとりっ! 待ちなさいっ!」

さとりは背後からの声に気が付いて振り返った。
妹紅が足を引きずりながら、こちらに走ってくるのが見える。
だが、外には何者かが息を潜めて攻撃の機会をうかがっているのだ。
思わずさとりが叫ぶ。

「ダメですっ! 来ないでくださいっ!」

しかし、ここに悲しいすれ違いが生じる。
自らの手を振りほどいて駆け出したさとりのこの発言を、妹紅は「追ってこないで」、そう解釈した。
だが、待てと言われて待つ道理は今の妹紅には無い。
さとりが妹紅に危険な目に遭って欲しくないのと思うのと同じく、妹紅だってさとりに危険な目に遭って欲しくなかったのだ。

「さとりっ!」

そう叫んだ妹紅が、さとりの後を追って外に飛び出した。
そして、ほんの僅かな間を置いて、再び遠くからタタタ、とリズムが刻まれた。




 *      *      *



380正直者の死(9) ◆yk1xZX14sZb0 :2011/10/23(日) 23:04:50.79 ID:UYMaS4hl
トンプソンに取りつけたレーザーポインターから赤い光が飛ぶ。
小町はスコープに目を凝らし、寺子屋の玄関前に照準を合わせた。
狙いやすくなったのは確かだが、レーザーを飛ばすが故に正面から襲うことは標的に気づかれる危険性を孕む。
結果、小町は玄関前を横から狙うことを余儀なくされたのだった。

正面から構えていれば、真っ先に飛び出してきたのが護衛対象であったことに気づけたかもしれない。
だが、その手段が取れなかったことから、小町は人影が飛び出してきた瞬間に反射的に引き金を引いてしまった。
しまった、と思った時には既に数発の弾丸が発射された後。
思わず青ざめた小町であったが、発射された弾丸はさとりに掠ることなく地面に着弾したらしい。

(あ、危なかった……!)

この時ばかりは命中しなかったことに小町は感謝する。
追ってきた相手はどうやら護衛対象だったのかねぇ、と呟きながら、それでは保護しようかと飛び出そうとした時だった。
さとりが寺子屋の側を向いて何やら叫んでいるのが目に入った。

(……まさか、もう一人いるってのかい……!?)

小町とて、永琳の下手人が複数であることを考えていなかったわけではない。
だが、護衛対象以外全員の殺害を目指す小町にとって、目的の人物以外は邪魔でしかない。
余計な者を排除しようとしたところで、護衛対象に妨害される可能性がある。
妨害されるだけならまだしも、何らかの拍子に誤って護衛対象に危害を加える可能性だってあるのだ。

(どうしよう……ここはいったん退くべきか、それとも……)

僅かに逡巡した後、小町は再びトンプソンを構え直した。
かつて同行を躊躇ったばかりに幽々子を、そして映姫を死なせてしまったという負い目が小町にはあった。
故に、今度ばかりは同行を諦めるわけにはいかなかった。
どんな手段を使ってでも邪魔者を排除し、嫌でもさとりにはついてきてもらう。
そんな決断を小町は一瞬の間に下した。

骸を一つ積み上げることが、幻想郷の維持に繋がる、そう信じて小町は再び息を殺してその時を待つ。
そして、後を追って飛び出してきた人影に向け、再び引き金を引いた。
もう何度も聞いたタタタン、という小気味よい音、そして体に感じる銃の反動。
小町は、かつて最悪最低と断じた銃という武器が、いつしか自らの身体に馴染んできているような気がしていた。

(参ったね、すっかりこの武器に毒されちゃったのかな)

そんな雑念が籠ったからだろうか。
小町の発した弾丸は、邪魔者――藤原妹紅に傷一つ負わせることなく、さとりの時と同じように足元の砂と小石を跳ね上げるだけであった。
かつて一度仕留め損ねた相手を、再び仕損じたという結果を前にチッ、と小さく舌打ちをしながらも、小町はスコープから目を外さない。

こちらの攻撃はバレてしまい、奇襲は失敗。
寺子屋の目の前はちょっとした広場になっており、遮蔽物は無し。
381正直者の死(10) ◆yk1xZX14sZb0 :2011/10/23(日) 23:07:09.34 ID:UYMaS4hl
(……となれば、建物に逃げ込むのが定石、かねぇ)

それを許してしまえば、小町のアドバンテージもグッと少なくなってしまう。
そしてその事はターゲットたちも気づいているのか、慌てて踵を返して寺子屋に戻ろうとするのが見える。

(そうは……させないよ……っ!)

小町がぐっと力を籠めた。




 *      *      *




どこかで聞き覚えのある音が小さく聞こえた。
その刹那、自分の足元で地面が弾ける。
妹紅がそれを銃撃であることを自覚するまで、さほど時間は要しなかった。
とはいえ、妹紅にとっては完全に奇襲であったために、どこからの銃撃であったかまでは判別できない。
辺りをキョロキョロと見回し、人影が見えないかどうかを探るのが精一杯である。

「な、なに突っ立ってるんですかっ! 早く建物の中に逃げましょう!」

血相を変えたさとりが妹紅のもとへと駆け寄る。
だが、先ほどまでの我を忘れた状態とは違い、元のさとりへと戻っているように妹紅は感じ取った。

「あ、ああ。分かってる……」

黙っていれば蜂の巣にされてしまうことは妹紅も重々承知である。
まして、寺子屋の前には身を守る盾になりそうなものがまるで見当たらない。
ならば、元来た方へ戻り、襲撃者に対処せねばならない。
そう思って振り返った時に、妹紅は異変に気付いた。

寺子屋を飛び出してすぐに銃撃を受けたのだから、振り返ればそこに寺子屋があるはず。
だが、振り返った先にあるはずの玄関は3、40間は離れたところに口を開けていたのだ。

「え?」

妹紅は思わず声を漏らした。
一体何が起こったのか、それを考える間もなく、再びタタタ、と銃声が響く。
思わずその場から妹紅は飛び退くと、さっきまで自分のいたところの地面で弾が当たる音がする。
ズキズキと左足は悲鳴を上げているが、それに構っている暇はない。

「さとりっ、早く逃げ……」

そうして、さとりがいる"はず"の方を振り向く。
が、すぐそばにいたはずのさとりは、何故か十数間ほど、さらに寺子屋から離れたところにいるのだ。
さとりも異常に気づき、妹紅のもとへ駆け寄ろうとする。
しかし、またしてもタタタン、と音が聞こえたかと思うと、さとりが慌てて立ち止まる。
どうやら、襲撃者はさとりの目の前の地面を撃って助けようという動きを牽制したらしい。
382正直者の死(11) ◆yk1xZX14sZb0 :2011/10/23(日) 23:09:07.33 ID:UYMaS4hl
もっとも、襲撃者の目星はついている。
あの時、萃香と共に閻魔・四季映姫と対峙した際に、映姫の後方から霊夢と共に走って来た長身の女だ。
あの女が構えた銃から聞こえた音と、今自分たちを襲う音が全く同じじゃない、そう妹紅は気づく。
だが、その女が"距離を操る程度の能力"を以て、妹紅と寺子屋、そしてさとりとの距離を操ったことまでは知る由もなかった。
何故いきなり広場のど真ん中にいるのか、分からない事は脇に追いやり、妹紅はさらなる最悪の事態に思いを巡らす。

(くっ……あの女がいるってことは、もしかして霊夢も……?)

しかし、襲撃者は考える暇さえ与えてくれないらしい。
また軽快な音が聞こえたかと思うと、再び妹紅の周囲で小石が弾け飛ぶ。
妹紅はどうにか射線を特定して迎撃しようと考えるが、攻撃態勢にはなかなか移ることが出来ない。
少し体を動かすごとに相変わらず痛みが走る左足を庇いながら、なんとか立ち止まらぬように動き回る。
その間もタタタン、タタタン、と銃声が響き、弾が風を切るような音が聞こえる……ような気がした。

万全の足であれば、7、8秒もあれば玄関に飛び込める。
だが、足に傷を負った今の妹紅ではそうもいかず、寺子屋までの距離が妹紅には酷く遠く感じられた。
メチャクチャに動いて狙いを攪乱しようとするので、最短距離を刻めないこともその思いに拍車をかける。
何度目になったか、また銃声が聞こえてくる。
先程から、数度にわたって続けざまに自分の周辺に弾が飛んでくる気配を感じた妹紅は悟った。

(ちっ……狙いはこの私、ってことか……!)

足が不自由な事を見抜かれたか、それとも個人的な恨みでもあるのか。
襲撃者の動機など、この際妹紅にはどうでもよかったが、狙われたからと言ってはいそうですかと屈するような人間ではない。
かと言って、反撃の手段に乏しいのも事実であり、このままではジリ貧であることも妹紅は自覚していた。
どこかから発せられる、自分に向けての殺意をひしひしと感じ取りながら、何とか寺子屋に逃げ込もうと妹紅は足を進める。



……しかし、現実は非情であった。
十度目くらいの銃声が妹紅の耳に届くと同時に、今までとは別の痛みが妹紅の左足から伝わる。
足がもつれてその場に倒れこんだ妹紅は、傷ついた左足が敵の銃弾をかわし切れなかったことを瞬時に理解した。
玄関まで残り4、5間ほどのところまで辿りついていたが、ついに敵の毒牙にかかってしまったのだ。

何とか体を起こして這いずりながらも妹紅は建物を目指そうとする。
だが、次の銃弾が飛んでくるまでの時間はほぼないであろうこと、心の底では今していることが悪あがきであることは理解していた。

(くそっ……! こんなところで……こんなところで私は……っ!)

萃香、にとり、レティの無念を晴らせていない。
猫妖怪、アリス、こいし、てゐに対する罪悪感も消えていない。
何より、あの輝夜の死体に向けて切った啖呵が、妹紅の脳裏をよぎっていた。
383正直者の死(12) ◆yk1xZX14sZb0 :2011/10/23(日) 23:11:20.84 ID:UYMaS4hl
(生き続けてやる、って誓ったじゃない……! 人にも自分にも恥じない生き方をする、って誓ったじゃない……!
 このままじゃ……このままじゃ私は何一つ為すべきことを為せていないままじゃない……!)

妹紅は歯を食いしばり、体を起こして再度歩き出そうとする。
瞳に浮かぶ涙は、銃撃を受けた痛みというよりも、むしろ悔しさによるものであった。
そんな妹紅の心中などお構いなしに、その命に幕を下ろさんとして最後の銃声が鳴り響く。
これで最期か、思わず妹紅は目を瞑った。




 *      *      *




しばらく力を温存しておいた甲斐があった。
小町は心底そう思っていた。

小町は自らの能力が、この場でどこまで制限されているのか、それをあまり知らずにここまで来ていた。
基本的に弾幕に古銭を用いる彼女は、その種が無い以上弾幕を主戦力に出来なかったということもあり、妖力の消耗は最小限であった。

(能力を使ったのは……あの神様の時くらいかね)

守矢の一柱を沈めたあの戦いが小町の脳裏をよぎる。
あの時でさえ、まだ間引くべき人妖が多く残っていたこともあり小町は先々を見据えてその能力をフル活用はしていなかった。
諏訪子の進路をほんの一尺ほど弄り続けて、相手のミスを待つという戦法に出たがために、あの場では能力の制限に気づきづらかった。

建物に逃げ込まれては厄介、そして万一ターゲットから狙いが逸れて護衛対象に当たってしまっては最悪。
そう考えた小町は妹紅と寺子屋の、そして妹紅とさとりの間の距離を出来る限り操作したのだった。
結果は、それぞれ数十間離すのが精一杯であり、それだけでも小町は思わずめまいを感じたほどであった。
だが、もしここまでその能力に頼り切った戦いをしていれば、この結果も得られなかったのではないか、小町はそう考える。

(これでまずはあの蓬莱人を……仕留める……っ!)

一度ターゲットに駆け寄ろうとしたさとりに対しても銃を向ける。
もちろん、当てる気は無く、近寄らせないための牽制にすぎなかった。
彼女の性格からこれ以上介入してくることもないだろう、と小町は考える。
牽制の射撃に対して動きを止めたさとりからは視線を外し、再度妹紅に向けて照準を合わせる。

能力を使ったのが諏訪子との一戦以来でもあれば、動き回る相手を狙うのも諏訪子との一戦以来であった。
小町もこの24時間余りで銃の扱いには慣れてきたとはいえ、その程度で銃を完璧に操れるほど甘くは無い。
まして、トンプソンは決して狙って打つための銃ではない上に、ターゲットとの距離もそれなりに離れている。
こうしたことから、手負いの相手ではあったがなかなか仕留めきれずにいたため、小町は思わずギリ、と歯ぎしりする。

だが、下手な鉄砲数撃ちゃ当たる。
妹紅が寺子屋までもう数歩というところまで迫ったところで、ようやく小町の銃が妹紅の体を捉えた。
足を抑えて蹲りながらも、なお諦めずに寺子屋を目指そうとする妹紅を見て、小町は思わず感嘆の息を漏らした。
384正直者の死(13) ◆yk1xZX14sZb0 :2011/10/23(日) 23:12:23.80 ID:UYMaS4hl
(流石は蓬莱人、生への執念が半端じゃないねぇ……)

伊達にここまで生き残ってきたわけじゃないのかね、そう称賛しながらも、引き金に籠める力は緩めない。
これで1人沈めて残りは8人、そしてあの方は私の庇護のもとに置かせてもらう。
小町はそう念じながら、最後と決めた銃弾を放った。




 *      *      *




――音と同時に、二人の間に割り込む一つの影があった。




 *      *      *



今までの自分だったら理解できなかっただろう。
自分はその能力故に忌み嫌われ、地底に封じられた。
力を見込まれて地底の管理こそ任されはしたものの、この力故に自分ははみ出し者の多い地底においてでさえはみ出し者であった。
自らを避けることのない、無垢な心を持つペットとのみ心を通わすようになったのはいつからだろうか。
そのペットも怨霊の力を食らうことで力をつけた者は、自分に畏怖の念を感じていたということは知っていた。
この力故に、孤独を感じ、そして人を信じられなくなっていたのだった。

この場においても、サトリという種族は皆に疎まれる存在であることが彼女の根本に横たわっていた。
だからこそ、偽名を名乗りもしたし、自らが生き残るためには危険因子を有無を言わさずに排除することだって厭わなかった。

だが、この場での多くの人妖との触れ合いは彼女の持つ観念を大きく変えるだけのものがあった。
誰にでも悪意が潜んでいるという現実を目の当たりにし、それでもなお他者と分かり合う努力を惜しまなかったワーハクタク。
自らの心が折れて、その場を逃げ出したかったときに知ってか知らずか素直な言葉を投げかけてきた宵闇の妖怪。
己が愛する二柱を喪ってもなお、理想を曲げることなく確固たる信念のもとに動き続けている現人神。
自らの罪と向き合い、後悔の念を抱えながらもなお、良心に基づき力の限り生き抜くことを選んだ蓬莱人。

打算、計算を捨て切れたわけではない。
それでも、清濁併せ呑んで生きているのは人妖問わず変わらないことじゃないかと、彼女は気付いた。

全てに絶望し、何もかも投げ捨てようとした自分に声をかけたルーミアはどうだったか。
そのルーミアが間違いを犯し、それを断罪しようとした自分を止めた時の早苗はどうだったか。
恨まれる可能性があることを自覚しながら、訥々と自らの罪を打ち明けた時の妹紅はどうだったか。
そして何より――自分を庇って命を散らした慧音はどうだったか。
385正直者の死(14) ◆yk1xZX14sZb0 :2011/10/23(日) 23:13:26.54 ID:UYMaS4hl
なまじ心が読めるばかりに、あらゆる存在が内包する悪意に気づき、それを蔑んでいたのが過去の自分だった。
自分が忌み嫌われるのも、皆が何か後ろ暗いことを抱えているからではないか、そう思ったことだって一度や二度ではない。
そして、皆が汚れていると蔑むことは、即ち自らを綺麗なものであると思おうとしていたのではないか。

自分だって同じだ。
欲にまみれて醜くもなお生き続けるという点においては変わらないはずなのに、そこから目を背けていた。
そうして自分の暗部を受け入れた時に、初めて自分もまた悩み、もがき苦しみながらも理想を信じようとしていたことに気づけた。

少し前の自分なら、ペットがいなくなったからといっても、いつものことだとそのままにしておいたかもしれない。
自分があれほど取り乱してしまうことなど、想像もつかなかったことだった。

この24時間余り、それは妖怪にとっては短すぎる時間だが、彼女は自分の暗く閉ざされた心が優しく解きほぐされていくのを感じていた。
少しは素直に感情表現も出来るようになったということも、自分に正直になることが出来た証左なのだろう。

未知の力で、自分と妹紅が引き離された。
一度だけ、襲撃者が牽制の射撃を入れてくる。
それに少しばかり怯みはしたものの、何とかするという決意は揺るがなかった。
目の前で友が猛攻を受けていた。
すっかり標的を友に絞ったらしく、こちらに弾が飛んでくる気配は感じられない。
なんとかして友を援護するべく、彼女は再び力の限り駆け出す。
その刹那、銃撃を受けた友が地面に這いつくばる。
致命傷ではないらしく、何とか立ち上がろうとはしているが、それも時間の問題であることはすぐに見て取れた。




放っておけば自分は助かるのではないかという打算も、残された身内がどうなるのかという考えも、その瞬間は消え失せていた。
このことを問う機会があるとするならば、身体が勝手に動いていた――と答えていたかもしれない。



――友の前にその身を投げ出した少女に、無慈悲に弾丸が撃ち込まれた。




 *      *      *


386正直者の死(15) ◆yk1xZX14sZb0 :2011/10/23(日) 23:14:50.41 ID:UYMaS4hl
最期を覚悟したはずだった。
だが、顔を上げた妹紅が目にしたのは、ゆっくりとこちらに倒れてくるさとりの姿だった。
外に飛び出していきなり銃撃を受ける、何故か寺子屋とさとりから遠ざかる、妹紅にとって訳の分からないこと続きである。
その極めつけが目の前の光景である。

倒れこんでくるさとりを、どうにか妹紅は受け止めた。
その胸と腹を見ると、みるみるうちに紅に染まりつつあった。
鳴り響いた銃声、ジワリと広がり続ける血、この二つの事象が導き出す答えは一つだった。

「なんで……どうして……っ!」

さとりを抱き寄せながら、妹紅が叫ぶ。
確かに赦すとは言われたが、何故自分の妹を殺したような女の盾になってしまったのだ、と。

「さとり……っ! しっかりしなさいってば……っ!」

その必死の呼びかけに応えたのだろうか、ゲホッ、と大きくさとりが咳き込んだ。
と同時に、その口からは血が溢れだしてくる。
まだ生きているとはいえ、一刻を争う状況であることは見て取れた。

「くっ……このっ……」

痛む左足をおして立ち上がった妹紅は自らの足だけでなく、さとりも引きずるようにして目と鼻の先まで迫った寺子屋を目指す。
どういうわけか、銃声が響かなくなった。
襲撃者の気まぐれか、それとも弾切れか……いずれにせよ、妹紅にとって攻撃の手が止まったことは僥倖であった。

「しっかり……死ぬんじゃないわよ……っ!」

妹紅は絶えず言葉をかけ続ける。
力なく一度だけ、さとりが頷いたように見えた。
さとりを引きずった跡を示すかのように、真っ赤な血の痕跡も遺されている。
どこに逃げ込むかは一目瞭然である……が、逃げ込まないわけにもいかなかった。

再び寺子屋に入った妹紅は、板張りの廊下をなおもさとりを引きずりつつ進む。
そして、手近な部屋に入り込み、さとりともどもその場に倒れこんでしまった。
ゼイゼイ、と荒い息を切らす妹紅に対し、さとりの呼吸は時を追うごとに弱まる一方である。
さとりの頬を軽く叩き、意識を手放さないように妹紅が尽力する。
だが、傷の手当てに必要な手段を持ち合わせていない現状では、最期の時がやってくることを先延ばしにもできなかった。

「……妹……紅」

弱々しい言葉がさとりから漏れる。

「さとり……っ! もういい、喋らないで……っ! 無理に力を使わないで……っ!」

半ば懇願するかのように、妹紅が縋り付く。
しかし、それをやんわりと拒むかのように、さとりが首を振る。

「いいん……です。自分……の……した……ことに……な、納得は……してます……から……」

瞳から涙をボロボロと零しながら、妹紅がさとりの手を握りしめる。
その手からぬくもりを、妹紅の心を感じたさとりが、柔和な笑みを湛えた。
387正直者の死(15) ◆yk1xZX14sZb0 :2011/10/23(日) 23:16:22.73 ID:UYMaS4hl
「お願い……です……お、お空を……あの子を……頼みます……」
「そうじゃないでしょ!? さとり、あんたのペットでしょ!? あんなに会いたがっていたじゃないの!?」
「いえ……妹……紅に……貴女に……なら……任せられ……ま……す」

再び、さとりがニコリと微笑みかける。
短い付き合いとはいえ、妹紅はさとりのそんな表情を見るのが初めてであった。




そして……その笑顔を崩さぬまま、さとりはその生に幕を下ろした。
後にはさとりの手を握りしめ、涙を零して項垂れるだけの妹紅だけが遺された。

ギシ……ギシ……と廊下から足音が聞こえてくる。
その音が、殊更寺子屋に響き渡るようであった。




 *      *      *





結果はよりにもよってターゲットとの間に身を投げ出した護衛対象を撃ち抜いてしまうこととなった。

一瞬、何が起こったか分からなかったのは小町も同じであった。
妹紅を仕留めるのに集中するあまり、さとりへの注意がおろそかになっていたのは確かだ。
だが、さとりのこの動きは予想もしなかったことだ。
今出来る力の限りで距離を離したし、牽制の一発だって入れておいた。
その後、妹紅の粘りに手を焼いていたとはいえ、小町としては現状の手駒の内でやれることをやったはずだった。

小町は、自分が撃ち抜いたさとりが、スローモーションのようにゆっくりと倒れていくのを、ただ呆然と見つめていた。




あたいは何をした?

幻想郷を救うための賢者を撃ってしまった?

これで幻想郷は終わりってこと?

もう何もかもおしまいなの?




388正直者の死(17) ◆yk1xZX14sZb0 :2011/10/24(月) 00:00:07.65 ID:UYMaS4hl
小町はショックのあまりトンプソンを取り落しそうになるのを、何とかこらえた。
顔を上げると、妹紅がさとりを引きずりながら寺子屋に逃げ込もうとするのが見えた。

このままじゃ終われない、せめてあの蓬莱人は始末しておかないと……
そう思い、引き金に手をかける……が、手応えはない。
弾が出ないことに疑問を持ちながら、さらに二度、三度とせわしなくガチャガチャと引き金を引く。
やはり弾は出ず、小町の表情に焦りの色が浮かぶ。

(こ、こんな時に弾切れなんて……!)

マガジンには50発籠められるとはいえ、手持ちの銃は軽機関銃だ。
それだけ消費も早いうえに、先だって妹紅やルーミアを襲った時に多少なりとも弾を使っていた。
残りの弾数に注意を払っておらず、ここでの弾切れとなってしまったのだ。

慌ててドラムマガジンをスキマ袋から取り出し、装着しようとする。
……が、銃の扱いに熟達しているわけではない小町が、機敏なリロードなど出来る訳もない。
焦りもあって手元が覚束ない中で、どうにかマガジンを装着した時は、既に二人は寺子屋へと逃げ込んだ後だった。

もう室内での不利だなんだと言っている場合ではなかった。
小町は木から飛び降り、そのまま広場を駆け抜けて寺子屋の玄関へと向かう。
玄関前からは、さとりのものであろう血がずっと寺子屋の中に向けて残っていた。

銃を構える手に力が籠もる。
あの神様と同様に、さとりも恐らく長くは無いのだろう。
それならば、ここで是が非でも妹紅を仕留めなければ、小町のしたことは全て無駄なことになってしまう。
幻想郷のことを思えば、妹紅の命とさとりの命とでは釣り合いが取れないのだが、生かしてしまうよりはマシだった。

血の跡は板張りの廊下にも続いていた。
小町は注意深く血の跡を辿るが、床板はミシ、ミシと音を立てる。
そして、玄関から一番近い教室の中へと血の跡が伸びているのを小町は確認した。

(あの足じゃ、遠くには逃げられないはず……間違いなくこの部屋にいるはず……っ!)

そう確信した小町が慎重に教室の中を窺う。




そこには、亡骸と化したさとりの姿だけがあった。
思わず目を丸くした小町は、焦りの色をさらに濃くする。

(どういうことだい……っ!? どこに……どこに隠れた……っ!?)

血の跡は畳の上に横たわるさとりのところまで一直線に伸びていた。
廊下は一本道であり、妹紅とすれ違ったのならば気づくはずだった。
念のために廊下に目を遣るが、血の跡はこの部屋にだけ伸びている。
足を撃たれた出血がすぐに止まるとは思えず、小町は妹紅が奥へと逃げた可能性を排除した。
389正直者の死(18) ◆yk1xZX14sZb0 :2011/10/24(月) 00:01:40.32 ID:GsbHzXnW
「どこだいっ!? 出てきなよっ!?」

小町は思わず声を荒げた。
苛立ちに任せて文机を蹴り上げるが、その下に隠れている様子もない。
教室奥の物入れも開けてみたが、誰もいない。

(部屋の中にいない……? でも奥に向かったわけでもない……?)

小町はしばらくの間徹底的に、その教室を探し続けた。
畳も剥がし、床板も外してその下も含めて調べを進めたが、これといった手掛かりは見つからないままだった。
ターゲットが見つからないイライラが、徐々に小町の心中を支配し始めた。



小町が血の跡を再び外に向かって辿ったのは、室内をあらかた調べ終わってからのことだった。
一段と大きい血だまりが出来ているのは、おそらくさとりが撃たれた地点だったのだろう。
その血だまりから、点々と外に向かって血が落ちているのを見つけた時に、小町は妹紅を取り逃がしたことを悟った。
小町は怒りからトンプソンを地面に叩きつけそうになるのを抑えて、一つ思い切り地団駄を踏んだのだった。




 *      *       *




寺子屋から数町離れた人里のある角。
先程までそこに影も形もなかった少女が一人、突如として姿を現した。

妹紅が寺子屋を脱出できたのは、彼女が着込んでいたとある支給品のおかげであった。
萃香救出のためにと、にとりから託された光学迷彩である。
これを着込んで姿を消した妹紅は、小町に気取られないよう、さとりを引きずった跡を辿って自らの出血をごまかしながら逃げたのだった。

……だが、姿さえ消していれば、不意打ちで小町を仕留めることは出来たのではないだろうか?
妹紅はそれを選択しなかった。
手持ちの武器は残り1発だけのウェルロッドにフランベルジェと包丁、そしてダーツの矢。
鹵獲したばかりのFN SCARに関しては、使い方もほとんど分からない状況である。
もし不意打ちを仕掛けようとして、それを相手に悟られてしまったら?
それなりの傷を負わせることが出来るのならまだしも、仕掛ける前に見つかってしまってはたまらない。
左足に重傷を負った今の自分では、一度見抜かれたら最期、あとは死あるのみである。
そうなってしまうと、なんのためにさとりが命を張ってまで自らを生かしてくれたのかが分からなくなってしまう。

さとりの死を犬死にしないためにも、妹紅はその場では矛を収める決断を下した。
なにより、最期にペットの今後も託されており、その頼みを無碍にすることもまた、妹紅には出来なかった。
390正直者の死(19) ◆yk1xZX14sZb0 :2011/10/24(月) 00:02:19.15 ID:GsbHzXnW
涙に濡れた瞳は真っ赤に染まっている。
悔しさと悲しさから、脱ぎ捨てた光学迷彩を地面に投げつけ、拳で板塀を一発殴りつけた。
さとりに生かされ、そしてこの光学迷彩でにとりからも生かされたようなものだ。

「私は……私は何をしているんだ……!」

目の前で多くの人妖が犠牲になる様を見てきた。
数々の屍の上に、今の自分の生が成り立っているこの現状に、妹紅もまた言いようのない苛立ちを抱えていた。
ほんの少しでも死ぬことに憧れた過去の自分に対してさえ、憤りを感じるほどに自己嫌悪を覚えていた。



ふと、ザッザッと重い足取りでこちらに近づく足音が妹紅の耳に入った。
もう追いつかれたか、と一瞬慌てた妹紅が顔を上げる。
そして、驚きで目を丸くしながら言い放った。

「何で……何であんたがそいつと一緒にいるのよ」

視線の先には小さな妖精をおぶったボロボロの鴉天狗が、何が起きているのか分からないといった表情で妹紅の方を見つめていた。




【D-3 人里・北のはずれ 二日目深夜】

【藤原妹紅】
[状態]腕に切り傷、左足に銃創2ヶ所(ともに弾は貫通)
[装備]ウェルロッド(1/5)、フランベルジェ、光学迷彩
[道具]基本支給品×3、手錠の鍵、水鉄砲、包丁、魔理沙の箒(二人乗り)、にとりの工具箱、
    アサルトライフルFN SCAR(0/20)、FN SCARの予備マガジン×2、ダーツ(24本)
[基本行動方針]ゲームの破壊、及び主催者を懲らしめる。「生きて」みる。
[思考・状況]
1.閻魔の論理は気に入らないが、誰かや自分の身を守るには殺しも厭わない
2.さとりを殺した奴、にとり・レティを殺した奴を許さない
3.文が何故サニーといるのか問い詰める
4.空を捜索して合流した後、博麗神社で早苗たちとの合流を目指す


【射命丸文】
[状態]瀕死(骨折複数、内臓損傷) 、疲労中
[装備]胸ポケットに小銭をいくつか、はたてのカメラ、折れた短刀、サニーミルク(S15缶のサクマ式ドロップス所有・満身創痍)
[道具]支給品一式、小銭たくさん、さまざまな本
[思考・状況]基本方針:自分勝手なだけの妖怪にはならない
1.人里で体を休め、同志を集めてレミリア打倒を図る
2.私死なないかな?
3.皆が楽しくいられる幻想郷に帰る
4.古明地さとりは一応警戒
5.妹紅から情報を聞き出す





 *       *       *



391正直者の死(20・終) ◆yk1xZX14sZb0 :2011/10/24(月) 00:02:47.41 ID:GsbHzXnW
小町は再び寺子屋へと引き返していた。
そして、改めてさとりの死体を検分していた。

「まったく、安らかな死に顔なことで……あたいの気も知らないでさ」

何かを成し遂げたような、そんなさとりの顔を見て小町はぽつりと吐き捨てると、そのまま死体の傍に胡坐をかいた。
そして頭を掻きながら、ふーっ、と一つため息をつく。

「あたいはあんたを守りたかったんだよ? 誰の為でもない、幻想郷の為にね」

まるで語りかけるかのように小町は言葉を並べるが、当然目の前の屍からは反応が無い。
小町はまた一つ大きなため息をついた。

「これで残る賢者は二人だけ……かい」

合流を躊躇えば別のところで命を散らし、合流を目指せば自らの手で命を摘み取ってしまった。
やることなすことが裏目に出続けているような感じにさえ、小町には思えてくる。

残りは自分以外で11人。
その数も勘定に入れながら、小町の中にある思考がむくむくとその頭をもたげてくるのだった。

「信用は出来ないけど……真剣に検討した方がよさそうだね……その"ご褒美"とやらも」





【D-3 人里・寺子屋 二日目・深夜】


【小野塚小町】
[状態]万全
[装備]トンプソンM1A1改(50/50)
[道具]支給品一式、64式小銃用弾倉×2 、M1A1用ドラムマガジン×4、銃器カスタムセット
[基本行動方針]生き残るべきでない人妖を排除する。脱出は頭の片隅に考える程度
[思考・状況]
1.生き残るべきでない人妖を排除し、生き残るべき人妖を保護する
2.再会できたら霊夢と共に行動。重要度は高いが、絶対守るべき存在でもない
3.最後の手段として、主催者の褒美も利用する



【古明地さとり 死亡】

【残り12人】
392 ◆yk1xZX14sZb0 :2011/10/24(月) 00:04:17.66 ID:GsbHzXnW
案の定さるってしまいましたが、これで投下終了です
wiki収録時には(10)の場面転換のところで分割したいと思います
393創る名無しに見る名無し:2011/10/24(月) 00:58:07.10 ID:yxwK+5vt
さとりがついに逝ってしまったか……
早苗にももう一度出会って欲しかったし、妹紅とももっと話して欲しかったし、お空にも会ってほしかった。
が、それでも変わった自分を信じて行動したさとりはらしいと思えるし、妹紅もよく折れないでくれた。
よく頑張った、お疲れさま。
394創る名無しに見る名無し:2011/10/27(木) 00:22:22.58 ID:q5lYBqoo
もう投下しちゃってるから無理かもしれないが、個人的にはさとりの散り際の言葉にこいしと燐への思いも混ぜてほしかったかな…(2人の死体探しが第1目的だったし)



ともかくお疲れ様
395創る名無しに見る名無し:2011/10/28(金) 09:05:56.04 ID:5AB4j6Hh
またすごい楽しみな予約が来たぞ……
終盤に向けて一気に加速してきたな
396創る名無しに見る名無し:2011/10/30(日) 15:48:39.14 ID:5lPTE02V
遅いですが投下乙です
上で言われているがさとりは死ぬ前に会わせたかった奴が多いがこういうのもロワの物悲しさだからなあ…儚いなあ…
みんなギリギリだなあ…傷つきながらもそれでも前に進むか…

さて、新しい予約も来て嬉しいなあ
397創る名無しに見る名無し:2011/11/05(土) 00:41:49.42 ID:kMDgw5jY
そういう風に思えるのが悲しくも、それだけさとりがこのロワで築いてきたものが多かった証拠だよな
遅れちまったけど投下乙です
なんでだろうな
殺されたはずのさとりが一番満足していて
殺したものと遺されたものがやりきれない
ああ、これがロワなんだな…
398創る名無しに見る名無し:2011/11/05(土) 10:47:32.86 ID:UNR0Ks+3
今日あたり投下来るのかな
支援は任せろー(バリバリ)
399創る名無しに見る名無し:2011/11/05(土) 14:37:35.91 ID:afWhOZf4
やめ……ないで!
400創る名無しに見る名無し:2011/11/05(土) 21:49:16.11 ID:MvjFGF23
したらばに仮投下きたぞ
401創る名無しに見る名無し:2011/11/12(土) 07:30:35.88 ID:Pcf8zS52
少し展開が早すぎるな
402創る名無しに見る名無し:2011/11/14(月) 08:16:46.97 ID:b7pAjuLN
仮投下来ました
403 ◆27ZYfcW1SM :2011/11/16(水) 13:24:32.30 ID:GRlQOwWw
少し遅れましたが投下していきます
404 ◆27ZYfcW1SM :2011/11/16(水) 13:25:56.09 ID:GRlQOwWw
小野塚小町は教室の机に腰かけていた。
 残る賢者もとうとう2人まで減ってしまった。
 6時間前は5人は生き残ってたはずだ。
 しかし、今では2人、6時間程度で3人も死んだのだ。

 なぜ? という答えはすぐに出る。
 生き残っている者たちの実力が上がっているのだ。

 現に今生き残っている人物は……

 あたいはマーカー線が42本ひかれている参加名簿に眼を落した。

 博麗霊夢
 言わずとも生き残るべき存在だ。
 共闘関係はまだ続いているので見つけ次第合流しよう。

 霧雨魔理沙、チルノ、藤原妹紅、射命丸文、東風谷早苗、霊烏路空
 たとえ生きて帰っても幻想郷を救うことができない者たち。
 名の知れる実力者もいるが、半分くらいはあたいでも撃墜マークを捧げることは可能だろう。
 殺害対象。見つけ次第排除。

 十六夜咲夜、レミリア・スカーレット、フランドール・スカーレット
 おそらく殺して回る側に回っているのはこいつらだろう。
 前回の放送であれだけ脱落者を出すには実力者がチームを組んで狩っていると考えられる。
 対主催側もチームを組んでいるので単騎でのチーム殲滅は難しいからね。
 賢者たちに仲間がいたとしても撃墜マークを付ける可能性がある。
 危険。速やかに見つけ出し排除、排除、排除……

 そして最後の一人。

 八雲紫
 もう一人の賢者。
 現段階では最も重要だ。
 博麗霊夢は代わりがきく。
 今はどこで何をしているのだろうか?

 どれも異変を解決したことがあるか異変そのものを起こしたことがある者たちだ。
 むしろ異変とはほぼ無関係のあたいのほうが浮いて見えるほどだった。

 パタンと名簿を閉じる。
 反省はした。戦う相手も見つかった。
 小町は立ちあがる。トンプソンのグリップを右手に、フォアグリップを左手に。
 安全装置がかかった状態を示す『SAFE』を指したセレクタバーを確認して。
 最後に屍と化したさとりに一礼する。
 安らかそうな死に顔に小町はほほを緩ませた。
 やってやるさ。あんたの死が無駄にならない世界のために……

 教室のドアを開け外に出る。
 小町は律儀にドアを閉めた。

 その時にはもう小町の眼にやさしさはなかった。
 彼岸花のような毒々しいほどの赤。暗闇に溶けることない赤き瞳。
 狩るほうの眼だ。

「さぁ、敵はどこだ?」


405 ◆27ZYfcW1SM :2011/11/16(水) 13:31:34.69 ID:GRlQOwWw
 すでに夜もだいぶ更け、朝日が顔を出すのもそう遠くはないだろう。
 放射冷却のためか気温も夜中よりも下がったような気がする。
 人里は耳鳴りが聞こえそうなほどしんと静まり返っていた。

「よっと!」

 ジャンプと能力の飛行を組み合わせた大跳躍で寺子屋の屋根へと昇る。
 最初の殺害の時のように高いところは敵を見つけやすい。それに気分がよい。
 何とかと煙は高いところが好きってよく言うが……なるほど、煙のようにふわふわしているあたいにはぴったりの言葉だ。

 狙撃銃でないとはいえ、トンプソンだって銃だ。
 経験で20間(約35m)くらいなら数撃てば当たるだろう。
 おまけにレーザーサイトがある。先ほどの戦闘ではレーザーサイトのせいで攻撃がばれてしまったが、遠距離射撃なら力になってくれるはずだ。
 それに……奥の手だってある。


「来たね……」
 ジャリジャリと何かを転がす音。荷車かなにかの類だろうか。
 とりあえず見逃す理由はない。小町は屋根伝いに移動を開始した。


              〆


 4人を乗せた月面車は人里の中へと入っていた。
 道中は会話を弾ませていたはずなのに人里に入った途端にみんな口を閉ざし、再び開く様子はなかった。
 人里は一番血を吸っている土地である。4人ともそれぞれ違いはあれど、普通ではない経歴を持つだけあって何かの感覚でそのことを覚ったのだろう。

 人里に入る直前に武器の再分配が行われていた。
 幸い銃器が大量にあったので一人一挺持つことができた。
 防弾チョッキは早苗に渡った。一番体が弱いことが理由である。
 銀のナイフは1本を紫に、残りの6本はフランと魔理沙が3本づつ持つことになった。
 牛刀は早苗が持っていた博麗霊夢のお祓い棒の先端に救急箱に入っていた縫合糸でくくりつけられ片手でも容易に使える短槍に改造され早苗に渡された。
 手榴弾は火力不足になりやすいハンドガン、ブローニング・ハイパワ―を持っているフランドールが持つことになった。
 毒薬は紫が持つことになる。8本のクナイは金属製ではないゆえに威力は低い。しかし毒を塗れば金属製のクナイ以上の殺傷力を得るだろう。
 人間の迷いを断ち斬ることが出来る短剣、白楼剣はフランが持つ。

 他のもろもろはひとつのスキマ袋に突っ込まれ紫が継続して所持している。

 武器を持ったことによって逆に緊張感が増したようだ。更に沈黙は深まり月面車の走る音だけが耳に届いていた。
 月面車は人里の民家の間を縫って人里中央へと進んでいく。
 途中に燃えている家、爆発したようなばらばらな家、壁に穴があいた家。その他数々の弾幕や銃弾が撃ち込まれた痕。戦闘の傷が生々しく残っていた。

「思っていたより酷いですね」
 早苗が言った。
「一人二人の痕跡じゃないな、何人戦って何人生き残ってるんだ?」
「全滅ってことはないわよね……」
「……そろそろ車を降りて歩いて調べましょうか」

 早苗がそうですねと言い、ブレーキをかけようとした時だった。
「伏せろ!」
 魔理沙は誰が言ったかわからなかった。後でよく考えるとあの声の主は紫だった。
 怒声に体はビクンと反応し頭を垂れる。直後トタタタ、という音が響いた。
 銃声。
 ヒュン!カァン!ギン!ギン!
 銃弾が月面車に当たり火花を散らす。
「ひゃっ!!」
 早苗は驚いてアクセルを踏み込んだ。
 突然の加速にフランと魔理沙は悲鳴を上げる。
「ナイス、ドライブテクニック早苗。前言撤回よ、死んでも止まるんじゃないわよ」
406 ◆27ZYfcW1SM :2011/11/16(水) 13:33:33.05 ID:GRlQOwWw


 紫はライトマシンガン、ミニミのバイポットを立てを助手席のシートに置きながら言った。

 月面車はさらに加速し大きな通りへと滑り出した。
「なんか変な赤い点が追ってくるわ」
 フランが指さす方を運転する早苗を除いて全員が注目する。
 赤い光の点が地面を恐ろしいスピードで迫ってくるところだった。
 紫のほほがわずかに引きつった。
「レーザーサイト、あれに向かって銃弾が飛んでくると考えればいいわ」
「なら捕まったら終わりじゃないか」
「早苗!」

 紫は早苗の名前を呼んだ。
 レーザーサイトは相手の狙いを視覚的に表す。
 レーザーサイトにとらえられた時が銃を撃たれるタイミングだ。
 それから逃げるためには車を走らせるしかない。

 私の名前を呼ぶってことは、私を必要としてくれているってことですよね……?
 思い返せば私は何をしてきただろう?
 誰かが私を必要としてくれただろうか。
 それはわからない……
 でも、今確実に紫さんは私のことを必要としている。
 それの何とうれしいことか……

 同時に不安もある。
 私がミスすればみんなが死ぬ。狭い車だから狙われたら避けられない。
 誰かに運転を代わってもらう暇なんてない。
 私がやるしかない。私がやるしかないんだ。
 怖い、私が下手な運転で車を止めてしまったらみんな死ぬんだ。
 みんなの命が私にかかっているんだ。

 早苗は深呼吸をした。

 緊張に押しつぶされてミスするのは一番ダメだ。
 どうせやるなら自分で満足できる結果を出そう。それでだめなら相手が悪かったと思おう。

 じんわりと広がる手の汗をハンドルにしみ込ませた。

 そうだ、私だってやれるってことをこの際見せつけてやろうじゃないか。
 自身の能力を見せつけて相手を感動させるのが幻想郷流の決闘方法じゃないか。
 ネガティブなんていらない。
 たとえ虚栄でも自信を持つんだ。
 むしろ正常な時の自分の力なんてたかが知れている。
 開き直ってしまえ。逆ギレの方が強いかもしれない。
 早苗は自分に言い聞かせるように言った。
「ドライブアクションなんてまるでハリウッド映画ですね! やってやりますよ」


 トタタタタタタ! という音がした。
 上から撃たれる銃弾は地面に小さな砂柱を作りながら月面車に迫りくる。
「タイヤを撃たれないで、撃たれたら上から蜂の巣よ」
 早苗はハンドルを瞬間的にぐるぐると大きく回す。魔理沙たちは遠心力にブッ飛ばされそうになりながら必死に座席へとしがみついた。
 銃弾の列から月面車は外れる。
 魔理沙は連なる長屋の屋根をみた。
 黒い影が忍者のように走りながら銃をこっちに向けている。
 タタタタタ! 黒い影の持つ銃から閃光が走った。
「掴まっといてくださいよ!」
 早苗はブレーキを踏みながらハンドルを更に切った。
 月面探査車は細いカーブを片輪を浮かせながら曲がる。
407創る名無しに見る名無し:2011/11/16(水) 13:35:51.05 ID:YYjXvdIf

408 ◆27ZYfcW1SM :2011/11/16(水) 13:38:10.45 ID:GRlQOwWw

 されど黒い影の追跡は振り切れない。赤いレーザーの点は車を追いかける。そしてついに追いつかれた。
「伏せろフラン」
 伏せた直後銃声が鳴り響いた。

 タタタタタタ!

「このままじゃやられちゃうわ。反撃しないと」
「任せなさい」
「私も行くぜ」
 紫は助手席に固定したミニミを銃弾が飛んできた方向へと向ける。
 魔理沙も片手で座席に掴まりながら片手でSPAS12の銃口を向けた。
 ミニミはチェーン状につながれた5.56mm弾を次々と飲みこみ銃弾を発射する。
 SPAS12の最初に装填されているのはバードショットだった。
 火炎放射機のような火花が銃口から飛び出し、次の瞬間には300ほどの小さな鉄弾が面となって宙を飛んでいた。
 魔理沙は片手で撃ったことを後悔した。反動で銃が顔にぶつかったのだ。

 ミニミの十数発の5.56mm弾と、面となって襲い来る12ゲージバードショットに黒い影の足が止まる。
 黒い影はすっと屋根の奥に隠れてしまう。
 瓦が何十枚と割れる音が聞こえた。

 それを境に銃声は止んだ。
 強力な武器を持っていたことに恐れをなしたのか、はたまた別の理由か……
 とりあえず、フランは赤い光が追ってこないことにひとまず胸をなでおろした。
 早苗も今はだいぶスピードを落として月面車を進めていた。
「魔理沙」
 紫はミニミの残弾を調べながら言った。魔理沙はなんだ? とSPAS12が直撃した鼻をさすりながら聞き返す。
「もうすぐ行ったら霧雨店、寺子屋だったかしら?」
 魔理沙は霧雨店という言葉にばつの悪そうな顔を浮かべながらああ、と肯定する。
 紫はそれを聞いてうんうんと頷いた。
「何かあるんですか?」
 早苗の質問に紫は手で口元を隠した。
「ちょっとお買い物にね。魔理沙、ちょっと荷物持ちになりなさい」
 魔理沙はあきれたながら小声で「なんで自分の店に買い物に行かなきゃならないんだ?」と呟いた。

「さっきのやつ追ってくるかな?」
 フランが後ろを眺めながら言った。
「ん?」
 フランは見つける。遠くで光る赤い点を……
「うわっ」
 魔理沙は驚きに声を荒げた。胸の位置に赤い点が突如として浮かび上がったのだ。

 タン!
 一発の銃声。逃げる暇などない。
「魔理沙!!」


「間に合った……わ」
 魔理沙に辿り着くはずの弾が超々ジュラルミン製の盾によって防がれていた。
 フランがハンドガンを持っている理由はただ一つだ。
 フランの身体能力ならショットガンを使うのも悪くない。だがそれだとハンドガンを持つ者装備が一番貧弱になる。
 そこでフランが持っていた機動隊の盾だ。この中で片手で大盾を振り回せるのはフランだけだ。そして片手で扱うことのできる銃がハンドガンだ。

「サ、サンキューフラン。命拾いしたぜ」

 ペタンと魔理沙は尻もちをついた。顔がひどく青ざめている。
 フランはキッと銃声がした方を睨み、ブローニングを向け、闇雲に撃ち放った。
「無駄撃ちはやめなさい。弾はそれだけしかないのよ」
 ブローニングに残っていたマガジンは今装填されているのが最後の一つだ。
 9mmパラベラム弾を使用する銃なので同口径の銃を見つけることができれば補充することはできる。
409創る名無しに見る名無し:2011/11/16(水) 13:40:07.36 ID:YYjXvdIf

410 ◆27ZYfcW1SM :2011/11/16(水) 13:40:54.55 ID:GRlQOwWw

 しかし、今ある銃の使用弾はそれぞれ5.56mmNAOT、7.62mmNATO、そしてショットガンの12ゲージだけだ。
 どれも銃口に合わず、補充はできない。
 弾薬を撃ち切ったら銃はただの鉄塊だ。
「でも撃ち返さないと腹の虫がおさまらないわ!」

 会話を遮るように銃声が聞こえた。
 再びフランの持つ盾に銃弾が当たる。

「ど、どんどん撃たれてますよ! 反撃してくださいよ」
 早苗が泣きそうな声で叫ぶ。
「下手な鉄砲……って言うほど弾が有るわけじゃないのよ。
 敵はどこから撃ってるかわかってるの?
 300m以上離れているわ」

「300!?」
 魔理沙と早苗は聞き間違いかと思った。

 銃の知識がほとんど無いとはいえ300の数字は大きかった。
 彼女らが得意とする弾幕でも300mもの遠くの人に狙うのは至難の業だ。

 バトルライフルの上に狙撃改造されている64式なら攻撃できないこともないが、銃をさわって数時間の初心者が狙って当たる距離ではない。

「となると相手は……」
「小野塚小町」


              〆


 距離を操る程度の能力
 これほど狙撃に向いた能力はない。

 スナイパーは距離はあきらめるしかないから一番の障害を「風」と答える。
 だが狙撃の一番の障害は「距離」だ。
 距離ゆえに風や重力や気温、気圧、湿度……それらの影響を受ける。

 距離を限りなくゼロに近づけられたら命中率はゼロ距離の時と限りなく近くなる。

 有効射程50mの銃で300m狙撃を可能にするカラクリがこれだ。
 しかし制限された能力を使うのは身体に負担をかける。
 故にトンプソンという連射機能が主の銃であるにもかかわらず、単発でしか銃弾を撃てなかった。

 それに能力を使うにも制限のためか、いつもみたく意のままにということができない。
 短い距離ならまだしも、300mの距離は距離のぶれがひどかった。
 300mの距離を縮めたいのに250mだったり、350mだったり……

 ぴたりと300mの距離を縮めるのには時間がかかった。
 だから走りながらとかとっさにとかの何かをしながら、時間が短いときはできない戦術だった。

 今はちゃんとぶれを修正する時間がある。そして能力を発動させるための力をもう出し惜しみする必要はない。
 能力発動させるための力をすべて出し切った時はもうゲームは終わっているか私は死んでいるだろう。


 小町は屋根瓦に背を預けて空を眺めていた。群青色のキャンバスに星と月が輝いている。
 能力を発動させるだけの力が溜まるまで銃弾を撃つことができない。相手も銃を持っている以上下手に顔を出しすことはできない。
 それに顔を出していたとしても相手の姿はよく見えないのだ。
 小町の眼は死神の眼であるが、視力がよくなるわけではない。暗いところにいる相手は暗く見える。
 狙撃距離を縮めることができても、見ることができる距離までは変わらない。
 トンプソンにスコープが付いていれば完璧であったのだが、生憎トンプソンにスコープをつける改造は通常の運用法を考えるならナンセンスだ。
411創る名無しに見る名無し:2011/11/16(水) 13:41:47.85 ID:YYjXvdIf

412 ◆27ZYfcW1SM :2011/11/16(水) 13:42:47.02 ID:GRlQOwWw


 能力を使う力が溜まり、3度目の狙撃を行おうと小町は屋根から身を乗り出した。
 眼下に広がる光景に小町は面食らう。

 先ほどまで逃げ惑っていた月面車が今度は自分がいる民家へ向かって真っすぐ走って来ていた。
(狙撃のカラクリがばれたか)

 小町式狙撃は距離は関係ない。距離による命中率は変わらないからだ。
 なら逃げるだけ距離によって命中率が下がる普通の銃のほうが不利だ。

 小町はフルオートでトンプソンを撃ちまくる。


              〆


「ぐえっ! ごほっごほっ、痛すぎる! 当りましたよ」
「死なせはしないぜ、突撃」
「それにしても『ぐえっ!』って……女の子が出す声じゃないわね」
「なら代わってくださいよ! ぐえぇっ!」
「わー、盾にもガンガン当たって腕がしびれる」

 早苗は防弾チョッキを着けている。胴体の守備は万全だ。
 そしてフランの持つ超々ジュラルミンの盾は敵の.45ACP弾を貫通させない防壁だ。
 早苗の頭を守りつつ視界をのぞき窓で確保し、その後ろに3人が隠れる。
 小町も想像にしなかった捨て身の奇策だった。

 しかしこの奇策、功を奏する。
 小町は狙撃をするという遠距離戦闘の思考から中距離戦闘をするという思考に切り替えるのが遅れた。
 狙いはただ撃つだけ。タイヤを撃つという最善の答えが出せなかった。
 ドラムマガジンにたっぷりと込められた弾幕弾の嵐が途切れると同時にトンプソンがカチンと音を立てた。
 弾切れだ。


「私たちのターンよ」
 紫はここぞとばかりに盾から身を乗り出しながら言った。
 すでに小町との距離は50m以内へと入っている。

「紫、ちょっと借りるぜ」
 魔理沙はミニミのトリガーを引いた。

 パパパパパパパパパ!

 ライトマシンガンの弾幕が小町に向かって殺到する。
 盾も貫通できないようなサブマシンガンの比でない力強い弾幕が小町の潜む民家の柱という柱を食い破る。

「そこよ!」

 紫が持っていたのは64式小銃。
 民家の薄い屋根など容易に貫通する銃弾を放つバトルライフルだ。
 紫は引き金を絞る。
 セミオートにセレクタをあわされていた64式がダァンダァンダァンと3回銃声を鳴らした。

「きゃん!」
 屋根の裏から短い悲鳴とドサッと落ちる音が聞こえ、静かになった。


              〆
413創る名無しに見る名無し:2011/11/16(水) 13:43:12.49 ID:YYjXvdIf

414 ◆27ZYfcW1SM :2011/11/16(水) 13:44:33.53 ID:GRlQOwWw


 魔理沙は落ちていた金属製の太い円柱の箱を拾った。
 それはかすかに熱を持っている。トンプソンのドラムマガジンだった。
 中身は空であり、さっきのフルオートで撃ち切ったマガジンをそのまま捨てて行ったのだと安易に予想がついた。

 地面には5cmほどの血だまりがあり、そこからぽつぽつと血のしずくが続いている。

 魔理沙たちは車から降り、小町が落ちたと思われる地点を調べていた。
 小町の姿はそこになく、代わりに空のマガジンと血の跡だけが残されていた。
 フランがポイントマンとなり盾を構えながら血の跡を追いかける。
 血の跡は寺子屋の方へと続いていた。

「中にいるわ。正確な位置はわかんないけど」
 スターサファイアの能力を使ったのだろう。
「マガジンが落ちてたってことはまだ敵の銃弾は尽きてないわ」
 紫はミニミをスキマにしまい、クナイを取り出していた。ミニミは狭い室内では長すぎる。

「行きましょう」
 早苗の声を合図に魔理沙たちは寺子屋の扉を開けた。
 寺子屋の中は暗く不気味なほど静かであった。

 自分の呼吸がひどくうるさく感じる。

 魔理沙とフランが先頭に立って進む。
 フランの盾は小町の持つトンプソンを無力化できるし、魔理沙の持つSPAS12は室内戦では無類の強さを誇る。

 廊下には相変わらず血の跡がある。しかし血の量が倍かそれ以上に増えていて、その血は少し固まり始めていた。
「ここも戦闘があったのでしょうか……」
 早苗は声を殺して言った。
「だろうな、里の参事を見てここだけ被害がないのもおかしいし」
「すごい血の量ね……これじゃ生きていられないでしょうに」
「うーん、3人分の血の匂いがするわ」
「流石吸血鬼ですね。やっぱりかっこいいな」
「血の匂いが分かるくらいで憧れるなよ……」

 突如フランが足を止める。
「この部屋からすごい血のにおいがする」

 そこは玄関からみて一番近い教室だった。おびただしい量の血の跡もその教室へと続いていた。
 教室の扉はわずかに開いており、何となくだが人の気配を感じる。
 魔理沙と早苗、フランと紫と扉の左右に分かれる。

 魔理沙は扉に手をかけて一気に扉を開いた。

 魔理沙たちを迎えたのはトタタタタという銃声だった。
「くそっ、やっぱり待ち伏せか」
 魔理沙はサッと扉の陰に身を隠す。
 何発かはフランの持つ盾に当たってガンガンと銅鑼を叩くような音を立てている。
 魔理沙は教室の中央で立って銃を撃つ黒い影を見ていた。おそらく小町だろう。

 銃の連射の間をついて魔理沙は滑り出す。
 どんっと重い音。SPAS12が火を噴いた。

 黒い人影はくの字に体を折り曲げながら後ろに吹っ飛び、窓にぶつかった。
 ガラスが一斉に割れた。耳をふさぎたくなるような音とともに月明かりを反射したガラスがダイヤモンドダストのように教室を舞った。


「殺したんですか?」
「ああ、たぶんな」
415創る名無しに見る名無し:2011/11/16(水) 13:45:08.37 ID:YYjXvdIf

416 ◆27ZYfcW1SM :2011/11/16(水) 13:48:46.27 ID:GRlQOwWw

 早苗は何も言わなかった。今更襲ってくる者を殺したって咎める者はいなかった。
 魔理沙は2発ほど減ったSPAS12に12ゲージ弾を追加する。

 魔理沙の悲しみと怒りは霊夢に香霖を殺された時点ですでに限界に達していた。
 何度も行った自問自答でふわふわと漂っていたその思いは塊となり、もう殺しに躊躇はなかった。
 ただ殺した後にこんなもんかと思ったのと、殺しを平然とやってのけた自分に驚きと悲しみが込み上げたのだった。

「とりあえずこれで人里の敵はいなくなったかもな。紫、行くところがあるんだろ?
 それに早苗は銭湯に行きたいって言ってたよな。ちょうど近くに有るぞ。
 お、そうだ。小町が使ってたマシンガンはフランが使えよ」

 魔理沙はトンプソンを取りに死体へと近づいた。

「!?」
 魔理沙は驚きに言葉を忘れた。
 死んでいると思った体が突如上半身を起こしたのだ。
(生きていたのか!)

 SPAS12を向け、急いで引き金を引き絞った。

 SPAS12の銃口から激しくマズルフラッシュが光った。
 SPAS12から発射された散弾は首へと密集した。距離でいうと1,2メートルの距離だ。
 散弾は発射されたばかりで拡散などほとんどせず首の組織を吹っ飛ばした。

 頭が勢いよく回転しながら吹っ飛ぶ。
 魔理沙は見ていた。
 マズルフラッシュで照らされた一瞬……
 その体は古明地さとりだった。

(こいつ、さとりを盾にしやがったのか)

 小町はさとりの体の後ろから飛び出す。
 魔理沙とほかの三人は完全に意表を突かれた。体が膠着し、動けない。
 それは小町の思惑通りだった。
 小町の右側の髪留めは壊れたのか左側だけが縛ってあるという歪な髪型だった。そして、右側のこめかみのところから出血している。
 小町は魔理沙の持つSPAS12をつかんだ。
 魔理沙はとっさに引き金を引く。小町は予想していたのかSPAS12の銃口を地面へと下げていた。
 木製の床がばらばらにはじけ飛ぶ。
(くそっ!)
 SPAS12を持つ手を払いのけようと魔理沙はSPAS12を引こうとする。が、妖怪の小町の力にSPAS12はびくともしない。
 小町はもうSPAS12を持つ手とは逆の手をふるった。
 その手にはトンプソンの銃身をもっており、巨大なハンマーのようであった。
 トンプソンが側頭部に叩き込まれる。
 魔理沙の体が空中で一回転して吹っ飛ばされる。

 4人の内の1人が戦闘不能へと陥る。

「魔理沙ぁ!」
 ぱんと音がした。
 フランがブローニングを発射したのだ。引き金を痙攣したように引き続ける。
 小町は横飛びで射線から逃げると魔理沙から奪ったSPAS12をくるんと一回転させグリップに右手を寄せると間髪をいれずに発砲した。

 とっさに盾でガードする。しかしトンプソンとは違い、面で襲い来る散弾だ。
 散弾の貫通力は弱いものの、数のパワーはすさまじい。
 フランの小さな体ではエネルギーを抑えきれず盾ごと吹っ飛ばされる。

 4人の内の2人目だ。

 小町は銃剣が装着されていることに気がつくとSPAS12を持って紫へと一気に接近した。
417創る名無しに見る名無し:2011/11/16(水) 13:49:29.75 ID:YYjXvdIf

418 ◆27ZYfcW1SM :2011/11/16(水) 13:51:51.59 ID:GRlQOwWw

 紫はクナイを投擲するが小町はそれをよけない。
 腕と肩にクナイが深々と突き刺さるが小町は特攻をやめない。

 紫はナイフを抜いた。
 金属と金属がぶつかる甲高い音が響いた。
 ギリギリと銃剣とナイフがぶつかり合う。

 銃剣とナイフではリーチが致命的に違う。
 それに加えて小町は長物の扱いに慣れていた。
 死神の鎌を普段から使っているだけはある。

 小町にとって紫のナイフさばきは甘く見えた。
 小町は銃剣でナイフを弾く。
 紫は何とかナイフを手放さなかったものの、ガードが甘くなった。

 小町は左手を銃から放し、紫の手をつかむと流れるような動作で紫の背後に回った。

 3人目……

「うっ……」
「暴れると関節外れるよ」

 カランと音を立てて銀のナイフは床へと落ちた。
 紫の体の構造は人間と大差ない。
 関節の回る限界も同じだった。

 小町に腕を取られ関節技を掛けられた紫に抵抗手段はなかった。
「紫さん」

 早苗は64式小銃を小町へと向ける。
 しかし引き金は引けなかった。

「そうだ、撃てない。あたいもその銃は知ってるよ」
 小町は64式小銃を眺めながら言った。
「その銃はあのトンプソンよりずっと強い弾を撃つんだ。体を貫通するくらいね」

 小町は紫の体を引きずり教室の壁へと移動した。
 近くにいるフランはぐったりと壁に背を向けて座っていた。
 体の上には盾が重なっており、その小さな体をすっぽりと覆っている。
 恐らく後頭部を打って気絶してしまったのだろう。

 近くにはハンドガンのブローニングが落ちていた。
 吹っ飛ばされた拍子に落としたのだ。

 小町は重いSPAS12を投げ捨てるとブローニングを拾って紫の脇へと押し当てた。
「もう引き金に手を掛けてるよ。あたいが死んだら拍子に撃っちゃうかもね」
「くっ……卑怯な……」

 早苗は銃を構えながらも無力感に襲われる。
「あたいは1人、4人も殺るには人質くらい取らないとね。卑怯ついでにもう一つ要求だ」
 小町の目つきが一段と鋭くなった。
「誰か一人殺せ」

「な!」
 早苗の顔色が一気に青くなった。
 早苗は周りを見渡す。
 小町の攻撃で気絶した魔理沙とフランが転がっている。
 このうちの誰か一人を……
「殺す? できるわけないじゃないですか!」
419創る名無しに見る名無し:2011/11/16(水) 13:52:17.51 ID:YYjXvdIf

420創る名無しに見る名無し:2011/11/16(水) 13:56:50.58 ID:YYjXvdIf

421 ◆27ZYfcW1SM :2011/11/16(水) 13:57:50.73 ID:GRlQOwWw


 ぱんと銃声が早苗の耳に響いた。
 ブローニングから細く白い煙がすーと上がっている。
「できるできないじゃなく、やるんだよ。それしか生きる道はないよ。お前も、紫も」
 小町はブローニングを紫の側頭部へと押し付ける。
 発射したばかりの熱い銃口を押し付けられ紫はうめき声をあげた。

 小町は紫を盾にすれば早苗たちは撃てないことをいいことに一方的に攻撃することができる。
 しかし、一人でも小町の手で殺されれば冷静を忘れて何をしでかすか分からない。
 下手をすれば生かす予定の紫ごと撃つかもしれない。おまけに銃で魔理沙とフランを殺して回っているうちに紫が拘束から逃げる可能性が十分あった。
 銃は常に紫にも使える状態にしておかないと拘束の意味はなさない。
 だから人数減らしを早苗にさせたのだ。
 小町は最初から全滅狙いじゃない。
 あくまで戦力を削ることだ。
 一人を殺し、一人の心を殺せば十分だった。

――そもそも、小町が紫を襲った理由は紫がいたからだ。

 小町は紫に生き残ってほしい。
 その方法が優勝することなら、優勝するように動いてほしい。

 紫が何を考えているか分からないが、仲間とつるんでいるだけじゃ未来はない。
 保身ばかり優先しても時間が過ぎるだけだ。

 紫が本気を出せばそこらの妖怪には負けないくらい強いはずだ。優勝だって十分狙える大妖怪だ。
 紫が優勝を目指さないのはその仲間が何かをしているか、もしくは紫が仲間がいることによって脱出できると考えているからか。

 仲間がいれば脱出の手順でも考え付くと思っているのだろうか?

 兎に角、仲間がいなければ殺しあいに乗ってくれるかもしれない。
 さとりのときだってそうだ。
 もう仲間を護衛代わりに付けさせるよりも攻めに出てもらった方が優勝させやすいのだ。


              〆


 紫は言えなかった。
「撃ちなさい! 私ごと撃ちなさい」
 と言えなかった。

 自分の命が惜しいなどという下種な感情からではない。
 ただ居合わせただけという関係であるが、仲間を殺して自分が生き残るということは紫にとっては屈辱だ。

 紫はゲーム破壊の手段をまだだれにも話していない。
 今、紫が死んだらもうゲームを破壊する手段を持つ者はいなくなってしまうだろう。

 だから何としても今の状況から生き延びねばならない。

 しかし、小町は銃を持ち紫に押し付けている以上紫に抵抗手段はなかった。
 この場にいる3人の、いや、小町の命も合わせて4人の命は早苗の判断でどうにでもなる状況だ。

 早苗は64式小銃のグリップをギュッと握りながらきょろきょろと戸惑う。
「殺さないのかい?」
「こ、殺せるわけないじゃないですか。紫さんも魔理沙さんもフランさんもみんな仲間なんですよ」
 早苗は震える声で叫ぶ。対照的に小町は冷めた声で言った。
「殺せばあたいは皆殺しにはしないって言ってるんだよ」
 小町は気絶している魔理沙に銃口を向けた。
「やめてください!」
422創る名無しに見る名無し:2011/11/16(水) 13:58:36.41 ID:YYjXvdIf

423 ◆27ZYfcW1SM :2011/11/16(水) 14:00:54.09 ID:GRlQOwWw

 早苗は64式小銃を小町へと向ける。
「そら、どうした? 銃口を向ける相手が違うよ。あたいが撃てば魔理沙は死ぬ。そしてお前さんが撃てばあたいと紫も死ぬ。死体が1つから3つに増えるだけだよ」
「あなたは死ぬのが怖くないのですか」
 はっ! と小町は鼻で笑った。
「顔見知りを殺して回って得る命なんかに興味はないね。あたいはすでに命を捨てる覚悟さ」

 小町はにやにやとさもうれしそうに言った。

「10秒だ。10秒で殺したら見逃してやるよ」

「そんな……」
「…………」
 早苗は魔理沙とフランを交互に見つめた。
 二人とも気絶をしているのかピクリとも動かない。
 早苗は深く息を吸うと、目を閉じた。

「10……一応聞くけど誰を殺すんだい?」
「そうですね」
 先ほどのヒステリックな声ではなかった。
 早苗は64式小銃のマガジンリリースボタンを押した。
 マガジンがスッと小銃から落ちる。
 早苗はそれをつかむと小町に向けて投げつけた。

 マガジンは小町の頭に当たった。
「これが私の答えです」

 マガジンがカランと床を滑る。

「……やるね、小娘」
「やめ」
 紫の制止の声は銃声によってかき消された。
 パンっという軽い音が何度も響く。

 早苗の体が銃声のたびに不自然なダンスを踊る。

「早苗!」
「最初からこうしておけばよかったんだ」
 小町は銃を魔理沙に向ける。
 すでに半分は気絶しているんだ。
 安全策で早苗に殺させようとしたが早苗さえ殺すことができれば問題はクリアだ。

 後は気絶している二人を片付け、逃げるだけだ。
 そしたら生き残っている大きなグループは紅魔館の吸血鬼を残すのみ。
 紫も脱出を諦めて優勝を狙ってくれるだろう。

 小町は人差し指に力を込めた……

 その時、小町の視界に緑色の髪の毛が映った。
「!」
 小町はそれを目で追う。銃を向ける。
 小町はそれに向けて引き金を引いた。
 銃弾が発射される、しかしそれに銃弾が当たるも、血は一滴も出なかった。

 胴体はダメだ。小町は頭に銃口を合わせる。
 その時気がつく。銃のスライドが下がりきったまま止まっていた。
 また、弾切れだと!?

424創る名無しに見る名無し:2011/11/16(水) 14:01:49.34 ID:YYjXvdIf

425 ◆27ZYfcW1SM :2011/11/16(水) 14:04:11.46 ID:GRlQOwWw
 銃声が鳴り響く。
 小町の銃を持つ腕が一瞬で赤く染まり、彼女の手からブローニングが放り出された。
「ぐぅあぁあ!」

 すぅーと銃口から昇る白煙。
 小町の腕にぴったりと押し付けられた64式小銃。
 はぁはぁと息を切らせた早苗だ。


 小町はマガジンを捨てた銃を脅威から外したのが一つの理由。
 銃はマガジンを外しても弾を発射することができる。
 銃はマガジンに弾を込めるがそこから直接銃口へ向かうのではなく、チャンバーと呼ばれる所に一発だけ銃弾を送り込み、そこで実包の火薬を燃焼させて銃口から弾は出るからだ。
 チャンバーに銃弾が残された状態でマガジンが外されても、チャンバーの中の弾までは取り外されない。
 その状態で引き金を引けば1発だけだが撃つことができる。

 そして、早く全員殺そうとして早苗が死んだことを確認しなかったのがもう一つの理由。
 最後の一つは小町は防弾チョッキの存在を知らなかったこと。

 気づくことができる要素はいくつかあった。しかし、小町はそのすべてを見逃していた。
 彼女は歴代の戦士でも名探偵でもない。ただの死神なのだから。


 小町を襲った痛みは紫の拘束を解かせた。
「ッ! しまった」

 紫はクルリと振りかえると小町の足を蹴り上げた。
 足を取られ小町の体は倒れこむ。

「――チェックメイト」

 尻もちをついた小町の喉元に銃剣が押し付けられる。
 紫は満足げに銃剣がつけられたSPAS12をさらに押し付けた。


              〆


「わかったわかった、あたいの負けだよ。その刃を押し当てるのはやめてくれよ」

 小町は左手の傷をギュッと抑えながら胡坐をかいて座った。
 どうやら降参したらしい。

 紫はSPAS12の銃剣を押し当てるのはやめたが銃口はそのまま小町を狙い続ける。
 早苗はマガジンを拾うと64式小銃にセットしてコッキングレバーを引いた。
 これでまたフルオート、セミオートで銃を撃つことができる。

「早苗は魔理沙たちを起こしてきなさい」
「……分かりました」

 早苗はフランの隣にしゃがみ込むとフランの肩を揺すった。
 その間に紫は小町に話しかけた。

「確か……ゲームに乗っている理由は……」
 紫の話を切って小町は言った。
「そう、あんたを優勝させるのが目的さ。何だ、やっぱり知ってたのかい」
 小町はやれやれと大げさに手を広げた。
「早苗からね。でもさとりのときは護衛として生かしたそうじゃない」
「あの時はまだ生き残りが多かったからね。今はどうだい? もう十数人しか残ってない。
 優勝狙いのやつらが本格的に動き始める時期だと思わないか?」
426 ◆27ZYfcW1SM :2011/11/16(水) 14:07:18.81 ID:GRlQOwWw
 紫は銃剣を床につきたてた。
「悪いけど私は優勝なんかよりもっといい方法を知ってるのよ」
「脱出かい? 無理に決まってる」
「確かに、私の計画は100%で成功しないわ。たぶん30%かそれ以下か……」
「70%以上の確率で幻想郷を滅ぼすつもりかい?」
「確率なんて当てにならないわよ。100%の時も失敗するし0%の時だって成功するわ」
 小町は「無茶苦茶だ」とぼやいた。

「無茶ついでに私を手伝ってみない?」
「は?」「え?」
 小町と更にフランを起こしていた早苗まで声を漏らした。
 早苗は立ちあがりながら言った。
「何言ってるんですか?」
 早苗はつかつかと紫に近づいた。
「今の今まで私たちを殺そうとしていたんですよ」
「私は殺さないらしいわ」
「私達はどうするんですか? 私たちは襲われてもいいって言うんですか?」
「どうなの?」
 紫は小町に尋ねる。
「早く死んだ方が世の中のためになるよ」
「ほら! やっぱり危険じゃないですか」
 紫は困ったような顔を浮かべる。
「これからの作業は少し人手がいるのよ。例え今の状態の霊夢や吸血鬼だって協力してほしいくらいなのよ」
「裏切られるリスクを考慮してもですか」
「yes……ほしいのは戦力じゃなくて人手。私ひとりじゃゲームは壊せない」

 早苗はハァとため息をついてくるっと後ろを向いた。
「勝手にしてください。どうせ私は紫さんについていくしか無いんですから」
(……やけに素直ね)

 紫はわざとらしく手をたたいた。
「よかったわね小町。許しが出たわよ」
 小町は気の抜けた顔をする。
「そもそもあたいは力を貸すなんて言ってないんだけどな……」

「――お願いします」
 紫は頭を小町に下げた。
「何か? お化けでも見たような表情をして……」
 小町は戸惑いながら言った。
「い、いや。まさか紫様から頭を下げられるとは思ってなかったからさ。どうしたんだい?」
「頭一つ下げるだけで条件が満たされるなら私は何度でも頭を下げるわ」

 小町は目を伏せながら言った。
「あんたの頭はそんなに安くないだろう……あたいみたいなのに下げる頭じゃいよ」
「………」
「あ――」
 小町の視線は宙をさまよう。
「じゃあこの怪我の手当てをしてくれ、そしたら少しだけあんたらの仲間になってやるよ」
「少しなんですね」
 早苗が言った。
 小町は口を閉ざした。

「少しでも手伝ってくれるなら大助かりよ。よろしく」
「ああ”少しの間”だけど約束は守るよ」

 紫は握手代わりに包帯を小町の腕に巻き始めるのだった。


              〆
427創る名無しに見る名無し:2011/11/16(水) 14:09:03.04 ID:YYjXvdIf

428創る名無しに見る名無し:2011/11/16(水) 14:09:20.34 ID:YYjXvdIf

429 ◆27ZYfcW1SM :2011/11/16(水) 14:13:17.58 ID:GRlQOwWw


 ぺちぺちと紫は魔理沙の頬をはたいた。
「う……うーん……はっ」
「おはよう魔理沙」
 魔理沙はがばっと起き上がると小町に身構える。
「別に何もしやしないよ」
 小町は両手を挙げ降参のポーズをとった。
 小町の左腕には赤く血の滲む包帯が巻かれている。

 魔理沙は紫が何かしたのだろうとあたりをつけ、小町にあれこれ言うのをやめた。


「うーん……」
 フランも魔理沙と起きてからの動作は同じだった。
 小町はまたかと言いつつ降参のポーズをとった。

「そうだ、さとりだ」
「さとりさん?」
 魔理沙はどたどたと自分が見た一瞬を見間違いだと信じながら薄暗い教室の中に転がる死体へ近づいた。
 木でできた床にぐったりと倒れる死体。
 腹に撃ちこまれたショットガンの散弾は腹に大きな穴をあけ、そこから血がドロドロとあふれ出ていた。
 穴から覗く消化器官の色に魔理沙は目をそむけた。

 しかし、着ている服は血の色に染まっているということを除けば完全に魔理沙の記憶に一致した。
「さっきの放送では呼ばれてなかったのに……」
 こうして死体を目の前にしているのに現実感が沸いてこなかった。

 早苗の悲鳴が教室中に響いた。
 早苗はふらっと足をもつれさせ、尻もちをついた。

 早苗の足元にはショットガンで吹き飛ばされた早苗の頭部が転がっていた。
 紫はフランもそれが誰だかを認識する。
 紫と同じくリーダーとなって仲間を集め、このゲームをどうにかできないかと模索していた妖怪、古明地さとりだ。

「亡くなっていたの……!?」
 紫さえ信じられないという顔をしていた。
 紫は声を荒げて言った。
「あなたが殺したの?」

 小町は言った。
「――あぁ」

「ど、どうして。なんでですか!」
 早苗は泣いて小町に詰め寄り、胸倉につかみかかった。
 小町は抵抗しなかった。
 小町は妹紅を殺そうとして誤ってさとりを撃ったことをぽつりぽつりと話し始めた。


「…………」
 早苗は腕をふるわせた。
 小町もさとりと早苗が一緒に行動していたことを知っている。
 何かしらさとりと早苗が親しくなる機会があったのは予想がついた。
 早苗が小町につかみかかる理由は正当だ。
 小町は『ゲームなんだから殺して当たり前』などと自分の罪をゲームになすりつけることはしなかった。
 小町だってさとりの死は完全に自分のミスだった。

 この場にさとりが死んで喜ぶものは一人もいなかった。
 小町の喉元の苦しさがすっとなくなった。
430 ◆27ZYfcW1SM :2011/11/16(水) 14:14:02.84 ID:GRlQOwWw

「…………」
 早苗は涙を袖で拭うと無言でさとりの頭を拾い上げ、体の首があった場所に置いた。
 その姿は痛ましかった。

「小町……さん、私たちに力を貸してください。このゲームを終わらせるため……
 約束を守らないなら紫さんが何と言おうと……私にだって考えがあります」

 小町はすぅと細く息を吸ってから言った。
「この罪が許されるなら……」
 一言だけ小町は言うと口を閉じた。
「――なら……ゴホンゴホン、この件はひとまず保留です」
 早苗は小町の方を見ずに明るい声で言った。


              〆


「話を変えるわ。霊夢の姿を見てない?」
 紫はさとりの死から頭を切り替えた。

「霊夢、博麗の巫女か……さっきまで一緒だったよ」
 小町は飄々と答える。すると魔理沙が声をあげた。
「一緒だと?」
「ああ、殺して回るゲームに乗った者同士のつながりさ。もっとも、お互いのことはこれっぽっちも信用してなかったけど」
 フランはあたりを見回した。
「でも今は居ないじゃない」
「鬼と蓬莱人に会ったのさ。もちろん私と霊夢は殺しにかかったよ。だけど鬼が逃げるからそれを追って霊夢は行っちまったのさ」
「それは何時のこと?」
「確か三回目の放送が始まってからしばらくした時だったかな? ずいぶん前さ」
「さっきじゃないじゃないか……それくらい前となると追うのは難しいな」
 魔理沙はあきれた表情を浮かべた。これだから妖怪は……
「霊夢に関する情報は白紙ね」

「――あっ、のさ……」
 小町はよそよそしく言った。
「あんたたちはこれから何をするんだい?」
「ちょっとお買い物に」「霊夢を探しに」「お風呂に入りたいですね」「魔理沙についていくっ!」
 4人同時に言った。
「霊夢を探しにってどこによ」「お風呂ってそればっかりだな」
「いいじゃないですか! ボディに銃弾何発も撃ちこまれた乙女を少しくらい労わったって」
「お姉さまは今頃何をしているのかな……」
 はぁと小町はため息をついた。
「買い物と銭湯なら今のうちに行ってきた方がいいよ。たぶん今里にいるのはあたいたちだけだから。
 霊夢を探しに行くのはそのあとでもいいんじゃないか? 魔理沙についていく? 勝手にすればいいよ」

 小町の言葉にそうだなと4人は納得するのだった。
「ならまずは銭湯ですね! やったー!」
 早苗は隣のフランの手を取りぶんぶんと振る。

「本当に近くに敵はいないのよね」
 紫は小町に確認をとる。
「あたいは何時間もここに滞在してるからね。お風呂の時間くらいで近づける所にはたぶん居ないよ」
「たぶんね……まあいいわ、それを信じて私もお湯をいただこうかしら」

「早く行きましょうよ」
 早苗はすでに教室から出て銭湯に向かっていた。
「わーい、待って早苗」
 フランもでかい盾を振りながら早苗を追って出ていく。
「やれやれ」「だぜ」
431創る名無しに見る名無し:2011/11/16(水) 14:14:31.05 ID:YYjXvdIf

432 ◆27ZYfcW1SM :2011/11/16(水) 14:16:43.96 ID:GRlQOwWw

 魔理沙と紫も歩いて教室の外へと出て行った。

 教室に残ったのは小町だけだ。
 あんなことがあった後だ、能天気な小町もすぐには笑うことができなかった。表情は曇ったままだ。
 逆にすぐに笑っていた早苗に小町は違和感を覚えるほどだった。

 紫に協力をするのは小町の方針に沿っているが、魔理沙、フラン、早苗は殺害対象だ。
 仮に残りが自分を含めた5人になったら3人とき、小町は3人を殺しにかかる。
 のちに殺すとわかっていて小町は仲良くなりたくはなかった。
 小町は死神であるが機械ではない。心を持ってちゃんと生きている。

 情が移ればその分だけ体を鈍らせるのはわかっている。
 心を傷つけるのはわかっている。心を空っぽにすることができないのはわかっている。

 情が移った相手を殺すのはどれほど辛いか想像したくない。
 ひょっとしたら小町が最初から諦めて殺して回る側に回ったのは仲間が死んでいくのが嫌だったからではないか?
 霊夢と仲間になろうと思ったのは、霊夢が幻想郷で1,2を争う実力者で死ぬ確率がとても低かったからでは?

 無意識にそう考えて選択肢を選ばれていたのではないかと小町は疑うも当然答えは出なかった。

 現に四季映姫・ヤマザナドゥという親密な関係であった彼女の死以外、小町は悲しみを知らずにゲームで戦うことができた。

「そうか……あたいは結局逃げてたのか……」
 重要な立場から逃げ、責任から逃げ、仕事から逃げ、上司から逃げ、最後には自分からも逃げるようになったか、あたいは……

 殺すたびに感じていた違和感、誰かを殺すたびに叱ってほしいと望んだ理由。

 それは自分を裏切ったことに対する痛みだ。
 あたいは自分のことなど何一つ分かっていなかった。

 あたいは賢者を生き残らせるというもっともらしい理由をつけて逃げていただけだった。
 幻想郷も賢者も考えずただ自分の心を傷つけないようにするためだけに。


 自分を見つめるのが怖い。リアリストぶってる方が何倍も楽だ。逃げたい、仮面をかぶっている方が怖くない。
 言うんだ。「自分に素直になれ」と言うんだ。
 そうすれば本当の自分になれる。仮面は割れる。

「――無理だよ……あたしには……」

 怖い、怖い、怖い。
 自分をだましている方が楽だ。楽すぎる。強力に、圧倒的に……! 楽に傷つかないまま死ねる。

 小町は銃を手放すことはできなかった。


 小町は教室を出ようと扉に向かって歩き出した。
 足取りは重く引きずるように。


              〆


「さぁ、お風呂です」
「お風呂―」
 早苗は勢いよく銭湯の中へと入った。
「キャー!」
 直後悲鳴が響いた。
「何だ! 敵か?」
433創る名無しに見る名無し:2011/11/16(水) 14:17:59.12 ID:YYjXvdIf

434 ◆27ZYfcW1SM :2011/11/16(水) 14:20:19.88 ID:GRlQOwWw

 魔理沙と紫が駆け付ける。

「あ、あれ……」
 早苗が震える指で指したのは血の池でおぼれる死体だった。さらに番台の上には生首が鎮座している。

「四季映姫・ヤマザナドゥ……前回の放送で呼ばれていたわね」
「あっちのはルーミアじゃないか?」
「ということはどっちもすでに死んでいるわね。放送を信じるなら……だけど」

 紫は血に濡れる死体へと近づいた。
 洗髪中に後ろから銃で撃たれたのだろう。
 美しい金髪は血を吸って赤くなった泡に包まれていた。

 泡があるおかげで頭の中身を見なくて済んだと紫は思った。
 紫の隣には早苗が来ていた。
「ルーミアさん……こんなところで亡くなっていたんですね」
「諏訪子を撃たれ、慧音を殺られたのでしたっけ?」
「そうです。この子は何も分からずにここに連れてこられ、何も分からずに戦い続けてたんです」
 早苗の中に諏訪子に向かって引き金を引くルーミアの姿、慧音を殺され逆上したさとりがルーミアに向かっていく姿。
 ルーミアと一緒に行動した時の光景がフラッシュバックした。

「間に合いませんでした……止められませんでした……」
 また世界は早苗に顔に暗い影を落とした。

 あんな人の恨みを買うことばかりをしていれば早死にするのは目に見えていた。
 早苗に後で自分が怖くなるほどの殺意を覚えさせるようなことを平然と何の悪ぶる気持ちを持たずに彼女はやるのだ。
 普段温和な性格の人妖に襲われても仕方がない。

 早苗はそれをやめさせようとルーミアを追っていたのだ。

「早苗のせいじゃないよ」
「すみません、フランさん……」
 フランはこういうときどんな声をかければいいか分からなかったが、早苗はその様子で自分を慰めようとしていることを理解する。
「こちらの女子を殺ったのも貴方で?」
「――あぁ、それもあたいが殺した奴さ」
 暖簾から赤い髪がひょこっと出てくる。小町だ。
「やっぱりね……あんなところに首が飾ってあるところを見るともしやと思ったけど……」
 紫はぼそりと小町に聞こえないように言った。

「…………」
 早苗は無言で小町を見つめた。
 その視線に小町はぞくりと背筋に冷たい汗が流れた。
 小町はあわてて話を無理やり変えた。
「死体があるのを言わなかったのは悪かったよ。ごめん。でもここは混浴だから風呂はひとつしかないんだよ。諦めてくれないか」

 早苗の顔が無表情から急に花が咲いたように笑顔に変わった。
「――せっかくの気分が台無しです。で、でもまあ混浴? なんて入るのこの機会逃したら一生なさそうですしラッキーです」
 つられて魔理沙の表情も戻った。
「なんで顔赤いんだよ!」
「気のせいですよ。小便小僧の像とかあるのでしょうか?」
「なんで小便小僧……」

 紫はずるずるとルーミアの死体を引きずって番台の隣の陰へと持って行った。
 死体と一緒に風呂に入るのは流石に嫌だったのだろう。
 その時、着物を入れる籠の中にスキマ袋が放置されているのに気がついた。


              〆
435創る名無しに見る名無し:2011/11/16(水) 14:21:11.60 ID:YYjXvdIf

436 ◆27ZYfcW1SM :2011/11/16(水) 14:22:35.35 ID:GRlQOwWw


 早苗は相変わらずそわそわしながら服のボタンを一つ一つ上から外していく。
 早苗よりも小さい霧雨魔理沙の服を借りていたため、体を服に押さえつけられていた。
 その解放感から早苗はふぅと息を漏らした。
 息を吸う。その時に感じたことを早苗はそのまま言った。
「なんか心なしか妙な香りがするような気がしませんか?」
 紫、魔理沙、フランも衣服を少しずつ脱ぎながら言った。
「別にしないわよ」
「しないな」
「なんか木のにおいがする」
「そうですかね? こう漢―! って感じがしませんか?」
 ぽっと早苗は頬を赤らめながら言った。
 つられて魔理沙まで赤くなる。
「早苗、混浴って言葉に興奮しすぎだろ」
「だって混浴ですよ! 未知の領域ですよ」
 魔理沙は苦笑いを浮かべるしかなかった。


「そうだ、あたいこんなもの持ってるんだ」
 小町は銃器カスタムセットを見せながら言った。
「銃器カスタムセット……? 改造できるのか」
 魔理沙はブラとドローワーズだけの姿になりながら小町が持つ箱に書かれている文字を読んだ。
「おぉ、ここにきてパワーアップとは」
 早苗もしましまのストライプで統一された下着姿でカスタムという響きに感動を覚えていた。
「このピストルも強くなるの?」
 フランはすでに上半身裸で残る城壁は純白のドローワーズだけの姿で尋ねた。
「ブローニングはすでに完成された銃だから改造点はあまりないんじゃないかしら?」
 紫はセクシーなレースのついた下着姿でミニミ軽機関銃を持ちあげた。
「これなら改造点有るんじゃない?」
「ミニミ……これかな? あるよ改造しておこうか?」
「小町は風呂に入らないのか?」
「あたいはさっき入ったよ。安心して入ってきな。あたいが見ておいてやるから」
「では改造よろしく頼むわ。他に改造しておいてほしい銃は預けておきましょうか」

「銃を全部預けるのは怖くないか? いつか裏切ることをこいつ公言してるんだぜ」
 それにルーミアの死体が洗髪中に殺されたものであったのも要因だ。
 乙女の入浴中にも危険はついて回る。

 小町はばつが悪そうな顔をした。
 小町は最初ルーミアを見逃そうと思っていたのだ。
 しかし、小町にとってやってはいけないことをルーミアはした。及び、していた。
 そのことに気がついた瞬間本気の殺意を抱いた。
 死神としての仕事の殺意ではなく別の殺意だ。
 あの時の殺意を小町は思い出したくなかった。

 彼女は三途の水先案内人だが、死神の仕事としては人気の低い物だ。
 死神の本領は命を刈り取ること。殺して回る方だ。
 仕事故に死神に殺人の罪は着せられない。
 しかし個人の理由で殺せば罪だ。

 怒りにまかせて殺したため、今まで無意識だったがその罪は確実に小町にのしかかっていた。
 そのため二重の意味で小町は魔理沙に弁解することはできなかった。

「この64式小銃もお願いしますね。すでにだいぶ改造されているように見えますけど」
「おい、早苗」
 早苗は小町に押し付けるように64式小銃を押し付けた。
 小町はあわてて受け取る。
「大丈夫です。今は小町さんは仲間なんですから」
 早苗はねっ! と小町にウインクを送った。
437創る名無しに見る名無し:2011/11/16(水) 14:23:18.87 ID:YYjXvdIf

438 ◆27ZYfcW1SM :2011/11/16(水) 14:24:27.11 ID:GRlQOwWw

「――そうだね」
「私のブローニングも一応お願い」
「お、おいフラン」
 フランはホールドオープンした状態のブローニングを渡した。
 どうせ弾はもう入っていないのだからっという軽い気持ちだった。
「あいよ、全部しっかりやっておくよ」
 小町は細い笑みを浮かべながら受け取った。
「警戒心無さ過ぎだぜ…… はぁ、仕方ない。SPAS12を最初に改造してくれ。風呂の中に持っていくから」
 魔理沙はガッションガッションとSPAS12から弾を全部排出すると小町に渡した。
 小町はあいよと返事をするとSPAS12の改造を始めた。
「あちゃー、SPAS12の弾はハズレだってさ」
「なんだと!!」


 カラカラカラ……
 アルミでできた軽い扉が開かれる。
「あはっ、ここが銭湯? すごい、蛇口がいっぱいあるわ」
「小便小僧の像無いですね……」
「いやだから……懐かしいな、子供の時来た以来だぜ」
 温泉の湯気がうっすら立ち上る中、4人は濡れたタイルの上に足を踏み出した。
 一日中茂みをかき分け、砂地の上を跳ねまわったため、知らず知らずのうちにできた生傷と汚れ。
 それらが白い肌に浮かんでいる。
 その肌を隠すものは薄い一枚の手ぬぐいだけだった。
「あら? 魔理沙は誰に連れてきてもらったの? いるわよね小さな女の子がパパと一緒に湯に入っているの」
 紫は手元を口に寄せぷーくすくすと擬音を浮かべながら魔理沙を細い目で見つめた。
 かぁっと魔理沙の頬が赤く染まる。
「ば、馬鹿! 違う。誰があんな奴と一緒に……! 私は子供のころの話をだな……ってあれ?」
 紫の姿はすでになかった。
「魔理沙、時間は限られているわ。早く体を洗いなさい」
 どうやって移動したのか紫はすでに洗面所に移動して黄色い洗面器にカランからお湯と水を貯めていた。
「ああもう! 背中を流してやるぜ紫姉さん! あいた!」
 どてんと転ぶ魔理沙。魔理沙の額に石鹸がめり込んでいた。
「あざといのよ」
「理不尽だぜ……」
 魔理沙の持っていたタオルがひらりと空中を漂った。
「魔理沙さんってまだ生えて……」
 早苗はじーっと魔理沙の足の付け根あたりを眺めた。
「ななななななにいってるんだぜ!?」
 ばっと魔理沙はそこを手で隠すがすでに遅い。早苗の記憶のフィルムに焼きつけられた後だった。
「早く隠しなさいよ。はい、タオル」
 またいつの間にか紫が魔理沙の隣に移動していた。
 紫はすでに隠すつもりないのかタオルで豊満な胸や陰部を覆うことはしていなかった。
「生えるって何が?」
 魔理沙はつるつるな下腹部をジト目で見て言った。
「フラン……お前にはきっとあと100年くらい関係ない話さ」

「フランさん、約束通り髪をきれいに洗ってあげますよ」
「ありがとう早苗、やって、やって」
 早苗はシャンプーを手に取るとフランの細い金の髪に垂らした。
 早苗が指で擦ると泡がぶくぶくと立ちフランの髪を覆った。
「かゆいところはないですか?」
「大丈夫。すごく気持ちいいよ」
「ふふふ……こうやってると諏訪子様の髪を洗った時のことを思い出します。
 喰らえ、スペルカード発動! 秘術「現人神流洗髪術」 おりゃりゃりゃりゃ」

 早苗の指がフランの頭部をやさしく撫でる。そしてその指は少しずつ、だが確実に早くなっていく。
「あっ、だめだよ早苗、そんなにしたら……」
「ほら……だんだん気持ち良くなってきたでしょう?」
「あうぅ……なんかっ……変な気分……」
439 ◆27ZYfcW1SM :2011/11/16(水) 14:25:43.80 ID:GRlQOwWw

 フランの目がとろんととろけ、その端にうっすらと涙が浮かぶ。
 最初は激しかった抵抗も次第に弱くなっていた。
「ふふっ……フランさんの一番気持ちのいいところはどこでしょうねぇ」
「やぁ……っ! や、ぁあ……」
 指がフランの頭部を何度も上下に撫で、あるところでフランは甘い声を発した。
「ここが気持ちいいんですね……」
「だめぇっ!」
 早苗はフランの耳もとに唇を寄せる。
「私はただきれいにしてあげているだけですよ……そんな声だしてどうしたんですか?」
「だって早苗が……」
「人の厚意を無にする人はこうですよ」
 早苗はフランが反応したところを重点的に指で擦る。
「ん、んっく……ぁ、ふ、んっ……んくっ……! ひ、あ……っ!」
 フランは限界に近い声をあげ、身を震わせた。
 早苗は指の腹を強く押しこみ、フランの頭皮を強めに擦る。
 シャンプーを指に纏わりつかせ、髪の毛一本一本をその手ですく。
 強く、それでいて執拗に激しく。
「やっ、やっ……やっ、だ、んんっ……――――――っ!」
 小さな体が震え、甘い声をあげながらフランは己の意志とは関係なく全身の力を抜いた。


「はい、流しますね。目をつぶってください」
「はーい」
「お前は普通に洗えんのか?」
 隣で見ていた魔理沙は顔が真っ赤であった。
 さらに隣の紫が魔理沙の方へにゅっと出てくる。
「魔理沙もやってほしかったりするの? お姉さんがやってあげましょうか?」
「遠慮しておくぜ……紫に任せたらいろんなものを無くしそうだ」


 洗髪も済ませ、4人は湯船へと浸かっていた。
「丁度いい湯加減だぜ――」
「ひっ、し、しみるぅ」
 緑色の湯につかる時に早苗は悲鳴をあげていた。
「ただの打撲でしょ? フランなんて肩に穴があいているというのに」
「フラン、傷によくないから肩はお湯につけるなよ」
「分かったわ」
 フランは元気よく手をあげると肩に注意しながらお湯へと浸かっていた。
 フランの肩には銃で撃たれた傷がある。弾は貫通しているため大事にはならず、吸血鬼の治癒力のおかげかすでに血は止まっている。
「ただの打撲って、私も銃で撃たれたんですよ」
 早苗は涙をほろりと流しながら抗議する。
 しかし3人の反応は冷やかなものだ。
「防弾チョッキの上からな」
「うう……体張ったのにあんまりです」

 一応言うが防弾チョッキの上から撃たれた時の衝撃はボクサーが殴った時くらいの痛みが来る。
 早苗くらいの年ごろの女子なら痛みにもだえ苦しむところだ。
 並みの精神力がなければ耐えられない。

「まあまあ、あなたの運転はクレイジーでナイスだったわ」
「クレイジーって……乙女の体にこんなにいっぱい青あざつける代償にしてはやっぱりあんまりです。おっぱいのところなんて血が滲んでますよ」
 早苗の真っ白な胸部から腹部にかけては青あざだらけであった。5から10はあるのではないか?
 マンストッピングパワーの強い.45ACP弾が大多数であり、至近距離から9mmパラベラム弾の傷が血をにじませたものだろう。
「どれどれ、ん―――」
 魔理沙がスーッと湯船を移動して早苗の前に来る。さっきの仕返しをしようとしていた。
「ほら、ここですよ」
 早苗は恥ずかしがることもなく胸を突き出した。
 青あざやうっ血が見られるものの、その胸はやはり白く、平均よりもだいぶ大きく膨らんでいた。
440創る名無しに見る名無し:2011/11/16(水) 14:26:12.63 ID:YYjXvdIf

441 ◆27ZYfcW1SM :2011/11/16(水) 14:27:07.71 ID:GRlQOwWw
 突き出した衝撃で胸はふるんと緩やかに揺れていた。柔らかさも一級品なのであろう。
 そして胸の中心にある胸の先端はつんと上を向いており、張りの強さも窺えた。
「うらやましくなんてないもん」
 魔理沙は自分のそれと見比べると一瞬で撃沈し、湯船へとぶくぶくと沈んでいった。
「魔理沙さん?」
「魔理沙、安心しなさい。数年後は8等身まで身長が伸びて悩ましボディになると予想しておいてあげるから」
「どこからそんな毒電波拾ってきたんだ?」
 ざばぁ! と海坊主のように魔理沙はお湯の中から飛び出した。湯あたりのせいか他の理由か顔はやはり真っ赤だった。
 魔理沙の脳裏に一瞬自分の今の身長+30センチの優雅な白黒のドレスに白黒の帽子をかぶった令嬢がウインクをしている姿が浮かんだ。
 ぽんと魔理沙の肩に手を置かれる。
 魔理沙は振り返った。その手の主はフランであった。
「魔理沙、あきらめちゃだめだよ」
 30年働き続けたサラリーマンのような目をしたフランが全てを知り尽くした者のような口調で言った。
「フランは何時の間にそんな悟った目をするようになったんだ!?」
「説明しよう、秘術「現人神流洗髪術」を喰らったものは一時間ほど賢者モー……」
「なんて技を掛けてるんだよお前!!」


 最初はワイワイ騒ぎながら入っていた風呂も体が温まるにつれて会話は減っていた。
 魔理沙はリボルバー拳銃をくるくる回して手遊びをしてる紫を見つけた。
「その銃は?」
「脱衣所にルーミアの死体があったでしょ。たぶん彼女のよ。一応警戒のために持ってきたの。必要なさそうだけどね」
 紫はリボルバーのレンコン状のシリンダーを開いた。
 6つの穴には全て.357マグナム弾が入っている。ルーミアが持っていた銃弾の最後の弾薬たちだ。
「不思議だと思わない?」
 ゆかりは言った。
「この武器たちは主催者から渡されたもの。まだ使い始めて1日も経っていないのよ。なのに、この銃からはあの子の感覚がするの」
「感覚?」
「オーラというか残留思念というかその類よ」
「なるほどね……確かに分からないでもないな」
 魔理沙は風呂桶の縁に立てかけてあったSPAS12を持ち上げる。
「こいつからは香霖の気配がする気がする」
 直接手渡された物ではないが、魔理沙には霖之助の遺留品はすでに眼鏡とこの銃のみだ。
 かけがえのない物に思え、銃の後ろには霖之助のあきれたような表情が浮かんで見えた。

『やれやれ、僕をこんな湿気の強いところに持ってこないでくれよ。火薬が湿気ってしまうだろう』
「うるせぇ、ちゃんと私を守りやがれ」
『待ってくれ、僕は魔理沙を守れるほど強く無いさ』
「どこの口がそれを言う。さとりを吹っ飛ばしておいて……後で謝っておけよ。私も一緒に謝るからさ」
『…………』
「どうした?」
『いや、魔理沙の口から謝るなんて単語が飛び出すとは思ってなかったから驚いただけだよ』
「私だって悪いと思ってるんだ……」
『魔理沙にも……くすくす……可愛いところがあるんだな……』
「……あれ?」
 魔理沙はギギギギギと油の切れたロボットのように首を横に向けた。

「霖之助、ここが混浴でよかったわね」
『ああ、全くだよ。でなければ今頃僕は外に蹴りだされていたからね』
 紫は一人で声色を変えながら会話をしていた。
 魔理沙はぽーと白い塊が口から出ていく感覚を味わった。


 こうして4人は1日ぶりのお風呂に疲れを癒すのだった。

「いい湯だったぜ」
「最高にリフレッシュです」
「そいつはよかった。銃の改造は終わってるよ」
 着替えは用意できなかったから紫とフランはもともと着ていた服をそのまま着用している。
442創る名無しに見る名無し:2011/11/16(水) 14:27:48.06 ID:YYjXvdIf

443 ◆27ZYfcW1SM :2011/11/16(水) 14:28:27.33 ID:GRlQOwWw
 しかし、魔理沙と早苗は幽々子のスキマに入っていた魔理沙と霊夢の衣服一式を着用することができた。
 当然魔理沙は自分の服を、早苗は霊夢の服を着る。
 着るときに早苗は少し胸元が苦しいですと言って魔理沙を歯噛みさせた。

「改造の説明は面倒だから自分で感じ取りな。あたいだって専門じゃないから説明できないし」
 ずらりと床に改造された銃が並べられていた。
 3人はそれぞれ使っていた銃を拾う。

「まだ銃あったのかい? 早く言ってくれればいいのに」
 紫の持っているリボルバーを見て小町は言った。
「あ――、その銃の改造は無いみたいだね。弾だけ渡しておくよ。後、おまけのホルスターだ」

 カスタムセットの箱から銃弾が納められた紙箱とホルスターがぽいぽいと投げて紫に渡された。
「では遠慮なくもらっておくわ」
 紫は銀色のリボルバーを受け取とり、ホルスターを体に装着した。

「次はお買い物だったかい?」
「ええ、霧雨店にね」


              〆


 月面車に乗って4人に小町を足した5人は霧雨魔理沙の実家である霧雨店へと向かっていた。
「遠くて見えなかったけどこんなのに乗ってたんだね。なかなかいい乗り物じゃないか。後で運転させてくれよ」
 小町は早苗の後ろに立って興味深そうに早苗の操縦を眺めていた。
「あはは……今は代わってあげませんよ」
「あんなに嫌がってたのに、今はどういう心境?」
 紫が尋ねるが早苗は「秘密です」とウインクをしながら言った。
(あたいはあのウインクはあんまり好きになれないね……どうしてだろう)
 小町は「ま、いいか」と考えるのをやめた。

「魔理沙、どうしたの?」
「いや……昔のことを思い出してたんだ」
 誰もいないとわかっていても魔理沙の顔は霧雨店に近づくたびに硬くなっていった。
 魔理沙にとってこんな機会で自分の家に帰るとは思ってもみなかっただろう。

「さて、これからやることだけど」
 紫は皆の視線を集めた。
「これからこの紙に書いてあるものを集めて来てほしいの。できるだけ早く」

 紫はペンを動かして3枚の紙を配った。それは魔理沙に紫が渡したのと同じ内容だった。

【硝酸アンモニウム】(重要)
【軽油】【木炭】【硫黄】【アルミニウム粉末】
【硝酸カリウム】【硝酸ナトリウム】【マグネシウム粉末】

「半分くらい見たことない薬品ですね」
「あたいはこれ(木炭)とこれ(硫黄)とこれ(アルミニウム)しか知らないね」
 小町は指をさしながら言う。
 フランも似たようなものだった。
「この材料ならほとんどあの店で手に入ると思うぜ」
「それはよかったわ。特にこれ(硝酸アンモニウム)は一番大切だから里中を探し回ってでも手に入れる予定だから」

 紫が言い終わるとほぼ同時に車は霧雨店に到着した。

 大きな門口が広がっており、黒い暖簾に白い字で霧雨と書かれていた。

「すごい大きなお店……魔理沙さんって実はお金持ちのお嬢様なんですか?」
444創る名無しに見る名無し:2011/11/16(水) 14:29:50.41 ID:YYjXvdIf

445 ◆27ZYfcW1SM :2011/11/16(水) 14:29:54.08 ID:GRlQOwWw
「今は勘当されてるけどな」
(否定はしないんですね……)

 店の中に入るときれいに整頓されており、一流の道具屋である雰囲気を4人は感じる。
「パチュリーの図書館よりは少ないけど埃が溜まってないわ」
「霖之助の店がいかに異常が思い知らされるわね」
「お、綺麗な簪だ。あたいもこんなのがほしいね」
「電化製品は流石に売ってませんよね……」
 みんなの顔が自然と綻んだ。戦中であってもお買い物の楽しさは変わらないようだ。

 紫は思い出したかのように言った。
「魔理沙、肥料はどこにあるの?」
「ああ、こっちだぜ」
 魔理沙は商品の棚を縫うように奥へとどんどん進んでいく。
 物心つくまでは生活していただけあって家の構造や商品の置き場は把握している。

 しばらくすると庭に出た。庭の端に立派な倉があった。
 魔理沙は倉の扉に手を掛ける。そこには黒い南京錠がかかっていた。
「鍵がかかってるな。壊すから離れてろ」
 魔理沙はショットガンを取り出し鍵に銃口を合わせた。
 どんっと銃声と同時に南京錠はばらばらになりながら吹き飛ぶ。
 紫はシーフというより強盗ねと心の中で言った。

 倉の中に魔理沙が言った通り肥料が山のように備蓄されていた。
 それのほとんどが明治時代の有機肥料である。しかし中には近代的なゴシック体の文字で書かれた袋もあった。
 農業は常に発展する。苗の品種改良、農具の進化。そして肥料の効率化だ。
 明治時代に取り残された幻想郷でも命をつなぐ農作物の発展は健在だった。

「あったわ」
 紫は指をさす。
 硝安と書かれた袋が山積みになっていた。
 硝安又の名を硝酸アンモニウム。
 アンモニア性窒素と硝酸性窒素を同量ずつ含む物質であり、畑や水田に使われる肥料だ。

「運び出すわよ。手伝ってちょうだい」
 紫は袋をつかむとスキマの中にずるずると引きずりいれていく。
 魔理沙はこのスキマはでかい物でも入れられるんだなと改めて認識した。

 紫と魔理沙は手分けして倉中の硝安を片っ端からスキマ袋に詰めていく。
 一袋25kgの硝安が入っているから……
 100kg、いや200kgに達しただろうか?

「よいしょっと……これで最後のやつだな」
 倉の中に大量にあった硝安の袋が綺麗に全部無くなった。
「これだけあれば十分だわ。他の物質を探しましょう」

 魔理沙と紫は玄関口に戻る。すると店の奥から早苗が出てきた。
「あ、魔理沙さん、紫さん、ありましたよ」
 赤いポリタンクを重そうに持っていた。
 中からとぷんと液体が流れる音がする。
「なんだそれ? 外の物か?」
「そうですね。今のこっちの技術じゃ河童くらいしか持ってないんじゃないですか?」
「霖之助あたりなら持ってるかもしれないわね」
 魔理沙がふたを開けて匂いをかぐ。すぐに悲鳴に近いうめき声をあげた。
「何だこれ……鼻が刺されたみたいだ」
「この匂いがいいんじゃないですか。昔はガソリンスタンドの匂い好きでした……」
 そう、このタンクに入った物は軽油である。
 ディーゼルエンジンの燃料であり、非常によく燃える。

446創る名無しに見る名無し:2011/11/16(水) 14:31:10.35 ID:YYjXvdIf

447 ◆27ZYfcW1SM :2011/11/16(水) 14:31:42.87 ID:GRlQOwWw
 小町とフランも棚の陰から出てきた。
「アルミニウムだよ。そんなに量はなかったけどね」
 小町とフランの二人がかりでアルミニウム粉末が入ったケースを両手に抱えていた。
 アルミニウム粉末はアルミをただ粉にしただけだが、アルミニウムの固体とではまるで危険性が違う。
 アルミニウム粉末は酸化しやすく粉塵爆発を起こしやすい。
 さらに爆薬に混ぜることによって威力を上げるのだ。


 硝安、軽油、そしてアルミニウム粉末。
 そろった材料に紫は縦に首を振った。

「車に乗って。一度寺子屋に帰りましょう」


              〆



 魔理沙と紫は集まった材料を教室の一面に並べた。
 大量の硝安、軽油がポリタンク一つ、そしてアルミニウム粉末。

「まず一つおもしろい実験をしましょう」
 そう言って紫がとりだしたのは支給品が入れられるスキマ袋だった。
 幽々子かてゐのスキマの袋だろう。
 紫はリボルバーをスキマ袋に突っ込むと引き金を引いた。

 銃弾はスキマ袋を貫通すると教室の床に小さな穴をあける。
「これでこの袋はなんでも入れられるという機能が壊れるのよ」
 紫はスキマ袋に手を押し込むが肘くらいで底に着いたらしく紫の手を飲みこむことをやめた。
「まあ袋を盾にしないようにするための制限だろうな」
「その通り、この袋は攻撃されたら壊れてしまうって所が重要よ」

 ここから紫は筆談に切り替えた。
『袋が正常に機能していたら重さは感じない。壊れたら中の空間は元の空間に戻る。最高の爆弾の容器よ』

 やはり爆弾か……

 紫が作ろうとしているのはアンフォ(ANFO)爆薬だ。別名肥料爆弾。
 硝酸アンモニウム94%に軽油などの油を6%の割合で混ぜるだけで作ることのできる爆薬。
 材料がとても入手しやすく、製造するのも難しくないためテロに用いられることもある爆薬だ。

 材料からするに300kgのアンフォ爆薬を作ることが可能だろう。
 300kgもの爆薬が一気に爆発したらどうなるか分かったものではない。
 爆心地から20mは全て吹き飛ぶんじゃないだろうか?

 300kgなんてばかげた重量だがそれをスキマ袋に入れることによって解決する。
 何て言ったって重さを無視して運ぶことができるからだ。

 そして爆発するとき、300kgの火薬は一発のリボルバーの銃弾なんかよりもはるかに大きなエネルギーだ。
 スキマの無限空間を一瞬でズタズタに破壊するだろう。
 そしてエネルギーはすべてスキマの外へ放出される。300kgの爆薬がそこにあると同じように。

 敵の本拠地は城であるが規模はそこまで大きくない。
 このばかげた量の爆薬なら木端微塵に吹き飛ばしてもおかしくはなかった。所詮木造建築物だし。

 魔理沙も流石にこの会話はやばいと思ったらしく筆記用具を取り出した。
『起爆装置はあるのか?』
 この量なら遠隔で起爆させるかタイマーがなければ逃げ遅れることは必至である。
 まさか自爆特攻とか言わないよな。
448創る名無しに見る名無し:2011/11/16(水) 14:32:55.10 ID:YYjXvdIf

449 ◆27ZYfcW1SM :2011/11/16(水) 14:33:32.08 ID:GRlQOwWw

『ちゃんと考えてあるわ』
 紫は別の紙を取り出した。そこには絵が描かれてあった。
 その大部分は魔理沙が持っていたMP3プレイヤーであった。

 ブルートゥース機能が付いたイヤホンからケーブルが伸び、それが円柱状の鉛筆の芯のようなものにつながっている。
 これが信管だ。爆弾に接続する。
 そしてMP3プレイヤー本体がリモコン。

 音楽を再生するということはつまり電気がスピーカーに向かって流れるということである。
 この信管はその電気を拾って発動するようになっている。
 MP3プレイヤーの再生ボタンがそのまま爆弾の起爆スイッチとなるのだ。

 ブルートゥースは10メートルから100メートルくらいまで信号を飛ばすことができる。
 10メートルはさすがに巻き込まれるだろうが100メートル離れれば死にはしない。

 魔理沙はこの遠隔爆破装置を即興で考えた紫の発想に舌を巻いた。
 伊達にゲームを破壊する手段があると公言していたわけではないみたいだ。

『よし、わかった。爆弾を作り始めようじゃないか』
 魔理沙は紙を紫に見せると硝安の袋を開けた。
 でかいことをやっている。その気持ちが魔理沙をわくわくさせた。
 300kgの火薬なんて魔理沙は作ったことがなかった。
 作っても弾幕ごっこに使うくらいな色と光を出せば十分な花火だった。

 魔理沙は魔女だがやってること科学者に近い。
 作った物質がどんな反応を起こすかそれが楽しみで過程など苦痛にならない。

 紫の人選はどうやら最高の人材を引き当てたようだ。
 火薬の危険性を知りつつ的確に手を動かしてくれる人物。

 300kgという量を作るには人手が必要であるが、素人をが作る場合は指導する必要がある。
 でなければ暴発して全員死亡もあり得るからだ。火薬の作成はつねに暴発の危険が付きまとう。
 紫も知識として爆薬の作り方は知っていても、実際には作ったことはない。
 紫には足りなかった技術を魔理沙は補ってくれるだろう。

 紫も魔理沙の指示を仰ぎながら爆薬の試作を作り始めた。


              〆


 小町と早苗とフランは寺子屋の屋根の上に登っていた。
 正確には小町が登っていたところに早苗とフランがやってきたのだ。

「もうすぐ夜が明けますね」
「私、本来ならもうすぐ寝る時間よね」
「眠たいのですか?」
「分かんない。眠たいのかもしれないけど眼は覚めてる」
「あはは、私もです。丸々1日ずっと起きてたことないのに」

「それなら寝れるうちに寝ておきな。子供のうちに寝ないとロクな大人にはならないよ」
 小町は屋根に寝そべりながら言った。
「寝すぎな小町さんが言っても説得力ないですよ」
「そんなことないさ、あたいだって寝ないで真面目にやってた頃だってあったのさ。ま、だから今はその分寝てるんだけど……」

 その後会話は続かなかった。
 早苗とフランは屋根の上からボーっと遠くを眺めている。

 小町は空を見ながら考えていた。
450 ◆27ZYfcW1SM :2011/11/16(水) 14:34:12.40 ID:GRlQOwWw
 紫は自分を利用するつもりなのだろうか? ということ……

 これから考えるのは2つの道だ。
 まず一つ。まっすぐ進むだけの何の苦労もない道。

 殺しを続ける道だ。
 捕まったという立場の悪さと紫からの頼みということで仲間になっているが、紫が焦っているように、自分にも残されている時間はそんなに多くはない。

 紫の近くにいれば紫に襲い来る危険は排除できる。
 問題はその後だ。
 しかし、時間が経てば恐らく殺しに乗っている吸血鬼と確実に乗っている巫女以外は全部紫の仲間に入ってしまうだろう。
 4人ならまだ隙をつくことは可能であったが、これ以上増えれば確実に一人では対処ができないほどの力になる。

 自分の制御が利くうちに片付けなければならない。
 ……というのがこのまま殺しを続ける場合の思考だ。

 しかし、もう気が付いている。
 もう一つの道があったことを……

 その道は具体的なことはない。
 ただ今やってる殺しをやめるだけの道だ。
 紫についていってもいい。
 ゲームのタイムアップになること、ゲームに乗った者が殺しに来ることで訪れる自分の死を待つだけでもいい。

 殺して回るより楽でもあるし、逆に辛くもある。

 前の小町なら迷う必要はない。
 だけど自分の裏側を見てしまった小町は初めてゲームで自分の在り方について考え始めたのだ。

 小町は視線を移した。
 早苗とフランの長い髪は夜風に吹かれてさらさらと流れていた。
 この二人はどんなふうに思って今の状態になったのだろう。

 小町ははぁと大きくため息をついた。
 情を抱いたら辛いのは分かっている。そう自分が言っていた。
 相手を知れば知るほど自分がつらくなる。
 それはどっちの道を選んでも変わらないことだ。

 いっそのこと今死んでくれたら悲しみは殆ど無いだろう。

――紫の契約はすでに達しただろうか?
 銃を改造したし、紫が欲する物も手に入った。
 その後の話は聞いていないが、まだ人手を欲しているのだろうか?

 いや、紫が欲した物を手に入れた時点でもう『少しの間』は過ぎ去ったのではないか?
 小町はじっと早苗とフランを見つめた。
 無防備な背中だった。小町はぼそっと呟くように言った。
「やっぱり殺しておくか……」
 小町は自分で言ったことに驚く。
「え?」
 フランが振りかえる。
「い、いや。なんでもないよ」
 小町はあわててごまかした。
 フランは「そう」と言って再び夜風を楽しみ始める。

 契約が成立したなら小町は自由の身であり、紫への恩も無くなる。
 紫のグループを襲ってもなんら問題ない。

 見たところ早苗の方は64式小銃を持っていないし、フランの方は手ぶらだ。
 今ならいともたやすく殺れる。
451創る名無しに見る名無し:2011/11/16(水) 14:34:29.40 ID:YYjXvdIf

452創る名無しに見る名無し:2011/11/16(水) 14:34:45.79 ID:YYjXvdIf

453 ◆27ZYfcW1SM :2011/11/16(水) 14:34:58.17 ID:GRlQOwWw

 自分が辛い思いをしないように殺しておくなんてなんて歪んだ思考だ。
 だが確かにそれは魅力的な答えだった。

 小町はトンプソンのセーフティを外した。
 かちりと小さな音が響いた。
「小町さん」
(聞かれたか!?)
「なんだい?」
 小町は可能な限り平常心で答えた。
「自分のことを悪い妖怪だと思いますか?」
「え……?」
「私は……あなたは悪い妖怪だと思います」
 早苗は振りかえる。
 手にはブローニングハイパワーが握られていた。
「っ!」
 小町は反応できない。
 ブローニングは改造されレーザーサイトが装着されている。
 赤い点が小町の額に灯った。

 早苗がにこっと笑いながら言った。
「思ったより早くて私は助かりました」
「早く……?」
「約束が……『少しの間』が終わるのがです」
 早苗はウインクを小町に送った。

 小町の背筋に冷たい汗が流れる。
 まさか銃をすでに用意とは予想していなかった。
 まさか裏切るタイミングを予想されているとは思ってもみなかった。

 あのウインクは最初からこの状況にすることを計画していたサインだったのか。
 ピンと張りつめた空気が流れる。

「小町さん……やりませんか?」


「弾幕ごっこ」

 ブローニングを下げつつ早苗は絵柄が書かれたカードを袖の中から取り出した。


【D−4 人里 二日目・黎明】


【フランドール・スカーレット】
[状態]右掌の裂傷(治癒)、右肩に銃創(治療済み)、スターサファイアの能力取得
[装備]てゐの首飾り、機動隊の盾、白楼剣、銀のナイフ(3)、破片手榴弾(2)
[道具]支給品一式 レミリアの日傘、、大きな木の実 、紫の考察を記した紙
    ブローニング・ハイパワーマガジン(1個)
[思考・状況]基本方針:まともになってみる。このゲームを破壊する。
1.スターと魔理沙と共にありたい。
2.反逆する事を決意。レミリアのことを止めようと思う。
3.スキマ妖怪の考察はあっているのかな?

454 ◆27ZYfcW1SM :2011/11/16(水) 14:35:24.48 ID:GRlQOwWw

【八雲紫】
[状態]健康
[装備]MINIMI軽機関銃改(200/200)、コンバットマグナム(5/6)、クナイ(6本)
    毒薬、霊夢の手記、銀のナイフ、紫の考察を記した紙
[道具]支給品一式×2、酒29本、不明アイテム(0〜2)武器は無かったと思われる
    空き瓶1本、月面探査車、八意永琳のレポート、救急箱
    色々な煙草(12箱)、ライター、栞付き日記、バードショット×1
    ミニミ用5.56mmNATO弾(20発)、.357マグナム(18発)
    mp3プレイヤー、信管
[思考・状況]基本方針:主催者をスキマ送りにする。
1.爆薬を作る
2.幽々子に恥じない自分でいるために、今度こそ霊夢を止める
3.私たちの気づいた内容を皆に広め、ゲームを破壊する
4.頭の中の矛盾した記憶に困惑


【東風谷早苗】
[状態]:銃弾による打撲
[装備]:防弾チョッキ、ブローニング改(13/13)、64式小銃改(16/20)、短槍、博麗霊夢の衣服、包丁
[道具]:基本支給品×2、制限解除装置、
    魔理沙の家の布団とタオル、東風谷早苗の衣服(びしょ濡れ)
    諏訪子の帽子、輝夜宛の手紙、紫の考察を記した紙
    64式小銃弾(20*10)
[思考・状況] 基本行動方針:理想を信じて、生き残ってみせる
1.負けません
2.人間と妖怪の中に潜む悪を退治してみせる
3.紫さんの考察が気になります

【霧雨魔理沙】
[状態]蓬莱人、右頬打撲
[装備]ミニ八卦炉、上海人形、銀のナイフ(3)、SPAS12改(7/8)
[道具]支給品一式、ダーツボード、文々。新聞、輝夜宛の濡れた手紙(内容は御自由に)
    八雲藍の帽子、森近霖之助の眼鏡、
    紫の考察を記した紙、バードショット(6発)バックショット(5発)ゴム弾(12発)、ダーツ(3本)
[思考・状況]基本方針:日常を取り返す
1.爆薬を作る
2.霊夢を止める。
3.紫の考察を確かめるために、霊夢の文書を読んでみる。


【小野塚小町】
[状態]右髪留め破損、右頭部、手、肩裂傷、左手銃創(治療済み)
[装備]トンプソンM1A1改(23/50)
[道具]支給品一式、M1A1用ドラムマガジン×3、
    銃器カスタムセット
[基本行動方針]生き残るべきでない人妖を排除する。脱出は頭の片隅に考える程度
[思考・状況]
1.生き残るべきでない人妖を排除し、生き残るべき人妖を保護する?
2.再会できたら霊夢と共に行動。重要度は高いが、絶対守るべき存在でもない
3.最後の手段として、主催者の褒美も利用する

455 ◆27ZYfcW1SM :2011/11/16(水) 14:35:45.50 ID:GRlQOwWw

※現在、以下の支給品は紫がまとめて所持しています。割り振りはしていません。
スキマ袋×3、基本支給品×12、ウェルロッドの予備弾×3、盃、
リリカのキーボード、こいしの服、詳細名簿、藍のメモ(内容はお任せします)
八雲紫の傘、中華包丁、魂魄妖夢の衣服(破損)、永琳の書置き、霊撃札(24枚)

※ブローニング改
ブローニング・ハイパワーにサプレッサー(減音器)とレーザーサイト、フラッシュライトをつけた物。
照準には蛍光塗料が塗られた物に変えられて暗闇でもサイトが見やすくなった。

※64式小銃改
スコープを暗視スコープとサーマルスコープの2種類に変更され、銃剣がつけられた。

※SPAS12改
フラッシュライトが装着された。ハズレで追加の銃弾がゴム弾1ダースだった。

※MINIMI軽機関銃改
ダットサイトが装着された。

※コンバットマグナム
銃自体に変更はない。
弾と脇の下に吊るすショルダーホルスターが付属していた。

※アンフォ爆薬の材料は教室に置かれています。
456創る名無しに見る名無し:2011/11/16(水) 14:35:48.20 ID:YYjXvdIf

457 ◆27ZYfcW1SM :2011/11/16(水) 14:41:10.64 ID:GRlQOwWw
以上です。
修正点は
・小町は紫を知っていて襲った
・教室内の戦術の変更
・入浴シーンの追加
・入浴シーンの追加
・あんふぉの起爆装置を設計した段階に
・あんふぉはガソリンでもできたと思うけどやっぱり軽油で作ることにした
・さとりに対する早苗の気持ちは次に託すためにいろいろ保留しました
・小町の迷いをもっと具体的にしてみました

というところかな……
タイトルは今から忙しくなるのでそれが終わってから考えます
458創る名無しに見る名無し:2011/11/16(水) 18:43:04.46 ID:o+xEsd+s
投下乙です!!

戦闘シーンの充実っぷりがすごいですね
教室での戦闘が断然変わってよくなったと思います
たくさんの変更、ご苦労様です
入浴シーンの拡張もありがとうございました

459創る名無しに見る名無し:2011/11/16(水) 21:38:26.30 ID:wPOHHIsR
>>・入浴シーンの追加
>>・入浴シーンの追加
大事なことなので二回言いまs(ry

いやもう、色々無茶を言ってしまったけど尽く応えてもらったようでありがとうごぜいます
うん、凄く良くなっていると個人的には思う
戦闘の流れも、早苗・紫・小町の思考の変移も、あと入浴シーンm(ry
一点、>>429で『さとり』の頭部が『早苗』の頭部になっているみたいだね


仕上がりには大満足で、本当に感謝感激雨霰って感じです
長い修正作業お疲れ様でした
これからも期待しておりますです
460創る名無しに見る名無し:2011/11/16(水) 22:35:18.37 ID:DSf59OMk
投下乙
仮投下よりもさらによくなってるね。特に入y(ry
461 ◆27ZYfcW1SM :2011/11/17(木) 00:41:29.93 ID:EmkZvxSY
タイトル色々考えたんですが3つもいいのが思いつかなかったので
映画のタイトルを借りて【A History of Violence 】でお願いします
たくさんの感想ありがとうございました
462創る名無しに見る名無し:2011/11/17(木) 02:18:23.90 ID:0Z2MC3FB
今更だけど乙w
463創る名無しに見る名無し:2011/11/17(木) 06:59:51.52 ID:mz9/SRRZ
投下乙
小町はこのまま一緒に行動するのだろうか、それとも…
とりあえず入浴シーn(rk
464創る名無しに見る名無し:2011/11/17(木) 14:33:27.97 ID:wyBgx5jx
これはいい修正! お疲れさまです
465創る名無しに見る名無し:2011/11/17(木) 23:55:49.28 ID:OQ85uSwJ
乙!
戦闘シーンが凄く良かった
小町が追われる側になって、戦場が寺子屋に移った時はすげえハラハラしたよ
小町はギリギリまで紫達を追い詰めてたな。4対1で相手は装備も充実してたのに強すぎるww

早苗と小町の弾幕ごっこも楽しみだな
早苗は弾幕ごっこで小町に何かを伝えるつもりなのか気になるところだぜ
466創る名無しに見る名無し:2011/11/18(金) 00:50:42.22 ID:b+sWaqrZ
しかし東方ロワは絶対に書き手が切れないからいいなw
ネタの鮮度を保てる
467 ◆CxB4Q1Bk8I :2011/11/20(日) 20:40:42.95 ID:9/cAxTLQ
仮投下分を本投下します。
細部に若干の表現を修正していますが、特に影響はないと思います。

タイトルは「"Berserker" of Scarlets」
468 ◆CxB4Q1Bk8I :2011/11/20(日) 20:42:33.77 ID:9/cAxTLQ

 月は――氷のようだった。
 刺すような月光に照らされる3つの影は、その氷の産み落とした三滴の雫。
 永遠に紅い幼き月。十六夜に咲く月。夢と戯れる幻想之月――深く黒く、そこに在る。
 冷え切った身体。冷め切った意志。水も流れぬ凍った世界。
 ただ心の奥に燻る感情だけが温度を持っていて、命ある彼女たちを駆り立てる。

 夜を統べる吸血鬼とその従者、そして博麗の巫女は、滾る殺気の結界の中、静かに視線を戦わせている。
 究極に目指すものは全く異なりながら、ただ目の前の相手を排除せんとする意思だけはいずれも変わりない。
 
 十六夜咲夜が先ず、すっと一歩前に出た。
 レミリアは何も言わない。そして動かない。無言で咲夜の先行を認め、促す。
“お前は掃除係だ。私の進む道に首一つ残すな、十六夜咲夜”
 背後にその存在を感じながら、咲夜は正面を見据える。

 ――何故戦うのだ、とは誰も問わない。

 小さなナイフを不恰好に構えている霊夢に、潰れていない右目で刺すような視線を送る。
 傍目、霊夢の構えは素人そのものであり、隙が大きすぎるように見える。
 握り、呼吸、視線の位置――どれも全く経験の無いもののそれだ。
 しかし、霊夢はおそらくそれでも武器を使いこなすのだろうと、咲夜は確信していた。
 その身体能力と、抜群の勘、与えられた天性の才。創造主というものがおわすならば、彼女はそれに愛された存在だ。
 そして幻想郷で戦ったときとは違う、本気で命を刈り取りに来るであろうという意志。
 経験と技能の差は、それを以って有利と言うには小さすぎるだろう。


「あんた、何のために戦っているのよ」
 霊夢が咲夜に問いかける。疑問に思ったというよりは、話のネタを探したというところだろう。
 奇襲じみた遭遇だというのに、幻想郷の弾幕ごっこと同じように言葉遊びでもするつもりなのだろうか。

「あえて理由を申し上げるならば、お嬢様がそう望まれたから、と」
 咲夜にそれに乗る理由はあまり無い。だが乗らない理由もあまり無い。
 あの冬妖怪の時と違うのは、主が後ろにいるということだ。

「どうして、あいつの望むとおりにする必要が有るのよ」
「それこそが私が十六夜咲夜である証左だから、では駄目かしら」

 散々自問を繰り返してきても、結局それだけしか思いつかなかった、というのが正しい。
 本来もっていた彼女自身の感情は、分厚い霧の向こう側にあるようで、自分でもそのかたちが、わからない。
 だから、紅魔の従者であることは、世界のルールよりも優先される本質。
 主に身を預けたそのときから、白銀の身は紅に染まった。

「なるほどね、じゃあ私も博麗霊夢だからあんたらを殺すわ。文句ないでしょ」
 ――そして、博麗霊夢は永遠に無色透明な存在なのだろう。

 正義は博麗の巫女にある。それは幻想郷の不文律でもあった。
 それ故に、博麗霊夢は決して自身の価値観を揺らがせない。だから、今まで一度も迷ったことは無いはずだ。
 そして、悪魔の従者は、主に従うことが少なくとも自身の価値観に対して善であるから、今まで一度も迷ったことは無い。無いのだ。
 だというのに――何か違和感を感じる。止まった時の中で風が吹くような、肌をざわめかせる違和感だ。
 博麗霊夢は本当に、自身の価値観に対して正しく在るのだろうか。
 十六夜咲夜は本当に、自身の価値観に対して正しく在るのだろうか。
469創る名無しに見る名無し:2011/11/20(日) 20:43:30.71 ID:jENvmLAD
 
470 ◆CxB4Q1Bk8I :2011/11/20(日) 20:44:37.22 ID:9/cAxTLQ

 ……いいや、十六夜咲夜が正しく在る必要は無い。
 喜びと畏怖と、総ての混在する主への忠誠だけが、十六夜咲夜の持ち得る全てなのだ。
 レミリアと共に有ることが最も安寧を得ることが出来、最も恐怖から遠くいられる。
 そう考えなければ疑問も湧く。そして疑問はいずれ、十六夜咲夜というここにいる自身を飲み込んで闇へ引きずり込んでしまう。
 感情を動かしてはいけない。疑問は封じなければならない。十六夜咲夜はレミリア・スカーレットを絶対と仰ぐのだ。
 それが、咲夜が自身と、自身の世界と交わした契約だ。

「咲夜、無駄話している時間は無い」
 レミリアが若干苛ついた声を上げる。
 お前が動かないのなら私が前に出るぞ、と声色だけで咲夜に圧力をかける。
 それは、当てにならぬ、貴様は用済みだと言われるに等しく、咲夜の存在を否定するということだ。
「申し訳ありません、お嬢様」
 咲夜はなるべく機械的に、そう言った。
 感情に恐怖を含めてはいけない。今、自分には片付けなくてはならない敵がいる。
「無駄話、ねぇ。ま、あんたに同感だけど」
 霊夢は相変わらず能天気に言い、肩をすくめる。
 レミリアがふんと鼻を鳴らす。支配者となるべき身を“あんた”呼ばわりされたのが気に触ったらしい。
 咲夜は、霊夢には本当に恐怖など無いのかもしれないと、思った。


「それでは」
 ナイフを握る左腕を、スッと上げる。
 地面と平行に、霊夢に向かって突き出された鈍い輝きを放つナイフは、その先にいるお前を殺す、と言いたげだ。
「参ります」
 抑揚の無い声で告げると、咲夜は地面を蹴る。

 弾幕用のナイフが無いのは痛い。魔力や能力で弾幕を生成することにおいて、咲夜では分が悪い。
 つまり、今、遠距離戦では不利だということだ。
 だが、相手の懐に飛び込んでしまえば条件は同じ。
 弾幕戦なら幾度となく経験がある相手だ。武器はお互いにナイフであり、差はない。
 死神の鎌では、身軽な霊夢相手には遅れを取るだろう。霊夢相手では得意武器が揃っていても互角だ。
 勝負を決するとすれば――戦況を変える要素の介入か、場の流れを変えることの出来る道具の存在が最も気にかかる。
 霊夢は手の内を明かしていない。よもやナイフだけを頼りに宣戦を布告したわけではないだろう。
 咲夜の能力発動にかかる負荷を勘案すれば、霊夢も易々とは夢想封印の類の必殺のスペルを使うことは出来ない筈だ。
 とすると、やはり必殺の武器を別に隠しているのではないか。例えば――このナイフのように、一度きりの切り札を。
 
 それを頭の隅に置きつつ、咲夜はナイフを振りかざす。
 一撃必殺の刺突ではない。咲夜が寸分違わずにそれを為しえても、博麗霊夢相手ならば通用しまい。
 大振りのナイフの軌道と、霊夢の翳したナイフの軌道が交わる。

「ッ……」

 霊夢の口から僅か、息が洩れる。
 霊夢はその一撃を、自身への攻撃から身を守り反撃へ繋げる為にナイフで受けたのだろう。
 だが、咲夜は、端から“ナイフに当てるため”に振り抜いたのだ。
 予測と違う感覚に、霊夢の腕、ナイフの動きが鈍る。
 緩んだ動きの合間、咲夜の振り上げた右膝が霊夢の腹を抉る。
 いや、抉りかけた。咲夜の受けた感覚は、人の肉を抉ったものではなかった。
 その一瞬の間に、霊夢は防護結界を小さいながらも発動させていたのである。
 霊夢は声を漏らさずに大きく後ろへと飛び退く。さすがに無衝撃というわけにはいかなかったのだろう、その表情は僅かに歪んだ。
471 ◆CxB4Q1Bk8I :2011/11/20(日) 20:47:51.63 ID:9/cAxTLQ

 一度小さく後方に跳ねて離脱した咲夜の顔を、何とか体勢を保った霊夢の視線が追う。
 咲夜は、霊夢の腹部から衝撃が引く前にと、そこから距離を一気につめて追撃をかける。
 一度、二度、ナイフとナイフが互いを折らんと鈍い音を立ててぶつかる。
 霊夢も二度同じ手は喰らわぬと、ナイフを右手で強く握り咲夜の斬撃を受け止める。
 
 三度目の斬撃、横に薙ぐ刃を大きく飛び退いてかわすと、霊夢は大きく左腕を前に突き出した。
 放たれたアミュレット状の弾幕が咲夜を襲う。広く拡散し、相手の動きを制限させる厄介な弾幕だ。
 咲夜は、敢えてそれに突っ込んでいく。
 弾を拡散させれば、当然ひとつひとつの威力は低下し、グレイズさえすれば無視できうるレベルになる。
 カリカリと耳障りだが心地よい音が鳴る。咲夜の服に僅かずつ裂け目が入るが、咲夜は意に介さない。
 飛び退いた霊夢の軌道をなぞる様に、咲夜は霊夢に追撃を仕掛けた。
 刃が月明かりに、光る。

 次の瞬間、咲夜の視界が真っ赤に染まる。
 顔面に、べちゃりと不快な何かが張り付く。
 それが血のついた何かだと、咲夜はすぐに気付いた。よく慣れた匂いであった。
 霊夢が地面を蹴る音がする。この隙を突いて咲夜を仕留めよう、ということだろう。
 咲夜は落ち着いて“時間を止める”。休息の間に、また能力が使用できる程度には霊力が回復していた。
 大きく後方に跳躍すると、顔についた何かを掴んだ。
 それは、今はほぼ紅一色となった、巫女の衣装であった。
 そして、時は動き出す。止まっていた時間は咲夜の感覚で僅か一秒もなかった。
 霊夢は咲夜が離れたと見るや、突撃を仕掛けようとしていた脚で思い切り地面を削って前に出ようとする身体を止めた。


「貴女の服ね、これ。きっと洗濯しても落ちないわ」
 咲夜はそれを後ろに投げ捨てると、咲夜は顔についた赤いものを、自分の袖で拭き取る。
 拭いきれなかった残渣が、頬にべっとりとついて不快な気持ちになる。
「――そうね」
 霊夢の表情が一瞬、何か悲しみのような感情を映し出す。
 その意味を咲夜は探ろうとしたが、一瞬の後には元の無表情に戻っていた。
「ま、お喋りはいいわ。あんたの主も持て余してるでしょ」
 レミリアは咲夜の遠く後方から、相も変らぬ表情で二人を見ていた。
“咲夜、私は芝居を見ているわけじゃない。さっさとそれを片付けなさい”
 咲夜の背中に、言葉無く投げかけられる。咲夜にはそれがはっきりと聞こえた気がした。

 咲夜は、霊夢を再度睨みつける。
「さっさと決着つけましょ、どうせ私が勝つけどね」
 余裕ぶる霊夢に、その余裕はいつまで持つかしら、とばかりに攻めかかる。
 霊夢の細い身体を貫くため、ナイフ片手に咲夜は突貫する。
 霊夢は、全く動かない――
472 ◆CxB4Q1Bk8I :2011/11/20(日) 20:49:37.37 ID:9/cAxTLQ

「……っ!」
 霊夢まであとわずか、というところで、咲夜はそれに気付いた。
 霊夢が近接戦で多用するそれに対して、今まで無警戒でいたのは咲夜の失態であるとも言えた。
 前に出ようと動いていた身体を、踵で地面を削り無理矢理に止める。
 そのまま、地面を蹴って大きく後退した。

 霊夢の足下で、獲物を逃した青色の結界が悔しそうに消えていった。
 常置陣。トラップのように設置され、触れるものを攻撃し拘束する霊夢の得意技だ。
 咲夜が突っ込んでそれに触れてしまっていたら、霊夢に一撃必殺の機会を与えてしまっていただろう。

「案外と冷静ね、残念」
 霊夢が、全く残念そうに無い表情で言った。
 咲夜を冷静と評する霊夢には、緊張感すら無い。彼女はいつもどおりに振舞っている。
 余裕ぶったのも、挑発だったのか。自分の軽率さが、苛立たしい。

 咲夜は腹部を押さえる。
 傷が疼く。腹部に鈍い痛みがある。
 無理な動きをしたせいか、腹部の処置済みの傷から、また若干出血しているようだ。
 動きに支障は無いが、僅かでも神経をそちらに取られてしまう事は拙い。咲夜は唇を噛む。


 その様子を見てか、攻守交替、と言わんばかりに、次は霊夢が攻めに転じる。
 霊夢はまず、広く弾幕を展開した。霊夢を起点に扇状にそれが広がっていく。
 拡散し、まるで赤色の蟲の群れのように自分に向かってくるそれを、咲夜はグレイズする以外に避ける方法を知らない。
 だがそれでは霊夢の思う壺だろう。グレイズしながら突っ込んでいくのは当然霊夢は承知済みで、警醒陣や常置陣で迎え撃つに違いない。
 ならば――どうするべきなのか。ひとまず後方に下がるべきか、咲夜は一瞬、判断を迷う。
 
 その迷いをついてか否か、霊夢は自ら咲夜へと突撃してきた。
 咲夜は息を呑み、判断を保留したまま大きく後方に跳ね飛んだ
 それと同時に、霊夢のナイフが今まで咲夜のいた位置を薙ぐ。
 攻撃を外したが、それも霊夢は予測済みだったように、そのままの体勢でさらに大きく前方へ踏み込む。
 次の瞬間には、飛んだまま着地していない咲夜の落下予測地点に結界を飛ばした。

(馬鹿な……そんなに早くっ!)

 動きの速さで、霊夢に負けている。その事実は咲夜を焦らせる。
 実際には霊夢の動きが速くなったわけではなく、咲夜に蓄積した疲労と喪失した血液のツケが、ここで回ってきているのだ。
 着地点で待ち受ける結界を避けるため、着地できずに空中を滑るようにさらに後ろに下がる。
 追撃とばかりに突っ込んできた霊夢の斬撃を、2、3撃切り払う。
 執拗に咲夜の左側に回り込もうとする霊夢から強引に距離を取るように飛び、膝を突いて着地した。
 息が、少しあがっている。心臓が霊夢にまで聞こえそうな脈動を繰り返す。

 霊夢に普段使っている大幣のようなリーチが無いため、近距離ではまだ戦えている。
 だが、有利ではない。常置陣のようなトラップを絡ませてくる相手だ、単純なナイフ戦ではない。
 だからと言って遠距離の弾幕戦をするわけにはいかない。それこそ霊夢の得意分野であり、投げナイフの無い咲夜には圧倒的不利だ。
 それに、左目だ。片目の喪失は、ナイフ使いにとって重要な距離感を狂わせてしまう。
 また当然、それは盲点の拡大に等しい。彼女が本来捉えてきた動きの何割かを、今は捉えられない。
 この戦いの中で、それが異常なほどに自分を不利にさせていると気付いている。
 恐らく、霊夢もそれに気付いているだろう。
473 ◆CxB4Q1Bk8I :2011/11/20(日) 20:51:39.14 ID:9/cAxTLQ

 ここにきて、と咲夜は唇を強く噛む。慣れた味が舌を刺激する。
 優位に戦えた筈の冬妖怪相手に取った一瞬の不覚が、いや、冬妖怪の命を賭けた一撃が、この難敵相手に致命的な一打となっている。
 焦りが十六夜咲夜を支配していく。後ろで見ている筈の主のじりじりとした感情が、肌を焼くように感じる。
 敗北はあってはならない。敗北は死を意味する。紅魔の従者、十六夜咲夜の死だ。

 ナイフの柄に指をかける。たった一枚の切り札を切る、そのタイミングを逃してはならない。
 咲夜は“冷静に”霊夢を睨みつける。攻めに転じていながら一度も隙を与えなかった彼女に、憎々しいと言えるまでに感情が蠢いた。

「疲れているみたいね、随分苦しそうじゃない」
「冗談を。毎日あの屋敷の家事を片付けることに比べれば、なんてことないわ」

 息が上がって、その言葉すら一息で言えない自分に腹が立つ。
 完全で瀟洒な従者とは誰の名づけた二つ名だったか、今はそれが重荷にしか思えない。
 紅魔館は帰る場所ではなくなった。レミリア・スカーレットそのものが自分の居場所となった。
 それは、或いは自分を追いつめていくのかもしれない。


 咲夜は、再度霊夢への突撃を試みる。
 何度やっても同じこと、と霊夢は肩をすくめると、右手を翳して正方形のアミュレットを放つ。
 敵を追尾するそれらを、咲夜は辛うじてかわしながら霊夢に肉薄する。
 霊夢は面倒くさそうに、咲夜の斬撃をかわす。

 大きく飛び退く霊夢に密着するように咲夜は動きを合わせて飛び込んでいく。
 幾度も離れようとするその度に、同じように距離をつめる。
 霊夢に常置陣のような小細工をさせる時間を与えないように。
 そしてこの根競べに負けて一瞬でも隙を見せようものなら、その命を刈り取るために。

 引き離そうとする霊夢と離れまいと飛び跳ねる咲夜のダンスは暫し続いた。

「しつっこいわね、怪我人のくせに」
 息一つ切らしていないものの、霊夢の声には苛立ちが篭る。
 一方の咲夜は息を切らす。既に腹部の出血は痛みを伴っている。
 それでも、“冷静に”霊夢の一瞬の隙を、切り札を切るその瞬間を狙う。


 ――だが、先に限界を感じたのもまた、咲夜であった。
 腹部の痛みは増し、僅かずつとはいえ、思考力も運動力も、時間とともに低下の一途を辿っている。
 神経を集中させ続けても、事態が好転する可能性が低すぎる。
 端から消耗戦になっては分が悪かったのだと悟り、咲夜は今更ながらに自分に腹が立った。

 咲夜は、強引にチャンスを引き寄せるため、バックステップで霊夢から一度距離を取った。
「これはどうっ!?」
 そして、袋に手を突っ込むと、ありったけの食事用ナイフやフォークを抜き出し、僅か一振りで全て霊夢に投げつけた。
 少しずつ軌道の逸れたそれは、“エターナルミーク”さながらに、抜け道のない弾幕となって霊夢を襲う。
 さしもの霊夢も、全てを避けることは適わず、そのうち2、3本が霊夢の腕に、腿に、刺さるとはいかぬまでも傷を作っていく。
 霊夢の表情が僅かに歪んだ。

 その、霊夢の意識が自身の周辺の加害するものたちに移る一瞬の隙を、咲夜は狙ったのだ。
 咲夜は意識を集中させ、“冷静に”時間を止める。瞳が紅く変わり、その後に、世界が動きを止める。
 咲夜は銃口を霊夢の胸部に向け、ナイフのグリップを握った。
 発射される弾丸は、時が動き出すのとほぼタイムラグ無しで霊夢を貫くだろう。
 彼女がその刹那にどんな結界を張ろうとしても、無意味だ。
 咲夜は、勝利を確信する。

 そして、時は動き出す――
474 ◆CxB4Q1Bk8I :2011/11/20(日) 20:55:16.60 ID:9/cAxTLQ

 咲夜には、何が起こったのか把握し切れなかった。
 発射した弾丸は、霊夢に届かなかった。
 ――いや、霊夢は、僅かな空間の歪みだけを残して、そこから姿を消していた。

 咲夜は、一瞬呆けた後に、悟る。霊夢は、最初からこちらの切り札を出させるために隙を見せたのだと。
 そして、天性の勘を以って、こちらが切り札を切る絶妙のタイミングで“亜空穴”を発動させていたのだ。
 空間を歪め、瞬間移動を可能にする。時間を止めるよりも奇怪な、霊夢の“タネ無し手品”だ。
 時を止めていられる時間が短いことに焦っていた咲夜には、それを発動する兆候である空間の歪みを覚れなかったのだ。
 二度、だ。焦りがあったとはいえ、相手の挑発に二度も乗ってしまった咲夜の不覚に揺るぎは無い。

 背後で、霊夢が地面を蹴る音が聞こえた。
 咲夜の動きが一瞬遅れるその隙に、霊夢は咲夜の懐に切り込んだ。
 慌てて時を止めようとする。――が、とまらない。僅かな休息で得られた霊力は早くも枯渇していた。

「っああッ!」
 思わず翳した、ナイフを握っていない咲夜の右腕の肘の辺りに、霊夢の刃が食い込む。
 駆け抜ける痛覚が咲夜の思考を支配する。霊夢が素早く刃を引き抜き、血液がその穴から噴き出した。
 声は上げたがなんとか怯まず、咲夜は左腕でナイフを大きく左右に振り回す。
 霊夢は大きく後方に跳躍し、やけくそとも言える斬撃を軽々とかわした。

「残念ね、誘いに乗ったあんたの負けよ。
 強引に距離を取ったときから、私には全てわかったわ。あとはあんたが能力を発動させる兆候を出すのを待つだけだった。
 切り札を出すには早すぎたわね」

 ぼたり、ぼたりと血が滴る。
 ぎり、と歯を食いしばる咲夜の足下で、乾いた大地が血液を美味そうにその身に染み込ませていた。
 眩暈が咲夜を襲う。真正面の、月明かりに照らされた霊夢の顔が歪んで見える。
 この数刻の間に、血を失いすぎたのだ。

 この状態では、いずれ参ってしまう。
 切り札を喪失し、今まさに命を削って立っていても、咲夜の勝機は既に無いに等しい。

「せめて、1ボムでもッ……!」
 咲夜は、もう届かないだろう刃を手に、防御を捨てて霊夢に突撃する。

「諦めなさい」
 咲夜が次々と繰り出す斬撃は悉くかわされ、その身体に二つ、三つと傷が増えていく。
 吹き出ることは無いが、確実に咲夜の身体から血が失われていく。
 そして幾度目かの斬撃、ついに握力を失った右腕が、霊夢の打突に耐え切れず、ナイフを放した。
 カランと音を立てたて落ちたそれを、すばやく霊夢が拾い上げる。
 武器を失った。手の触覚・視覚・聴覚で捉えたその事実を行動に結びつけるまで、僅かなタイムラグが生じる。

「くっ……!」
 素早く――少なくとも本人はそのつもりであった――腰に括り付けてあったスキマ袋に左手を伸ばした。
 だがそこから何かを掴み取るより先に、霊夢の右足がその腕を蹴り上げた。
 昇天脚。敵を突き上げるように蹴りを繰り出すそれは、霊夢の数少ない肉弾戦の得意技だ。
 咲夜の腕が制御を失うと同時に、スキマ袋までもが宙を飛ぶ。
 高く上がったそれを手にしたのは、咲夜が動くより速く、“亜空穴”で移動した霊夢であった。
 
 咲夜の正面に着地する霊夢を、咲夜は絶望的な表情で眺めた。
 武器は無い。能力は使えない。これ以上咲夜に何をし得るのか。
 敗北。咲夜の心にその二文字が重く重く、圧し掛かる。
 紅魔の従者として、仕事を果たせなかった。悔しさと、これではお嬢様に見捨てられるのではないかという恐怖が、心の中に渦巻く。
475 ◆CxB4Q1Bk8I :2011/11/20(日) 20:57:11.26 ID:9/cAxTLQ

「さ、あんたもここまでね」
 思わず両膝をついた咲夜を見下ろし、ナイフを向けてそう霊夢は告げた。
 奪ったナイフを左腕に持ち、咲夜のものだったスキマ袋は腰に結わえ付けてあった。 

「お嬢、様……」
 思わず咲夜の声が漏れる。
 何故主の存在を呟いたのか、自分でもわからない。
 逃げて下さい? まさか。
 助けて下さい? ありえない。
 申し訳ありません? それを言って何になるのか。

 咲夜が自らすら困惑したその言葉に、霊夢は敏感に反応して慌てて背後を振り返った。
 レミリア・スカーレットに背中を向けていた、その不覚に今、ようやく気付いたのだ。
 霊夢は、霧雨魔理沙との戦いにおいて、フランドール・スカーレットの奇襲で敗北に等しい結果を得た。
 ここでもまた、十六夜咲夜に対して優位に戦闘を進めても、そして勝利を掴むその直前であっても、
 それをレミリアの介入によって覆される可能性があったことを、この瞬間まで忘れていたのであった。
 
 だが、霊夢の一瞬の焦燥とは無関係に、レミリア・スカーレットは、ゆったりとした歩調で霊夢へと向かっていた。

 咲夜は顔を上げ、レミリアの表情を伺う。
 遠く、月を背負った彼女の表情は、咲夜からでは影になってよく見えないが――
 その眼に映るのは氷の世界でないか、と咲夜には思えた。
 霊夢の背後で息を切らす咲夜、傷ついた咲夜、それでもなお、主への忠誠を誓い戦った咲夜に――何も、感じていない。 
 レミリア・スカーレットが近づいてくるのは、決して“十六夜咲夜を助ける目的”ではない。

「ふん、やっぱり人間は使えないわね」
 レミリアがそう呟くのが、咲夜にも聞こえた。

「あんたが手助けすれば、もうちょっとまともに戦えたかもしれないわよ?」
「本気で言っているのか、この私がメイド風情を助けると?」
「……そうね、まぁ、そう言うだろうと思ったわ」
「下らない。咲夜は敗者だ。そこに如何な言い訳も不要だろう。
 そしてお前が勝者だ。だが、お前は私に殺され、支配されるのだ。世の理は変わらないし、運命は動じないわ。
 お前の相手は私が直々にしてやる。手加減など無いと思え」
「そう。まぁ何れにしろ、あんたには死んでもらうけど」

 レミリアと霊夢が一触即発の空気の中で会話する、その後ろで咲夜は惨めさに震えていた。
 見せたくない相手に、見せたくない姿を晒してしまっている。
 どうしたらいいのかわからない。そんな初めて抱く感情が咲夜を襲う。
476 ◆CxB4Q1Bk8I :2011/11/20(日) 20:59:53.18 ID:9/cAxTLQ

 今のお嬢様は、敗者に情けをかけるようなことは決して、しないだろう。
 弾幕ごっこで勝敗を競う遊戯とは、わけが違う。
 圧倒的な戦闘で敵を捻じ伏せる事を望む今のお嬢様は――

 ――咲夜が敗者になってなお、その元に置いてくれるのだろうか?

 そんな、疑問を抱いてしまった。あとは、それがただ不安として膨れ上がっていく。

“でも、それでも……お嬢様がいなくなってしまったら、私の時間は止まるしかない!
 そんな惨めな時間に……私は戻りたくないから……例え先に何もなかったとしても、お嬢様だけが私の拠り所なのよ!”

 誰かの声が、頭の中で反響する。
 その言葉は、紛れも無く十六夜咲夜自身が放ったものだ。
 用済みだと言われてしまえば、咲夜にはもう、行くところが無い。
 自身の不安と恐怖、それはただ一つの方向だけを指している。

 だから。

 ――十六夜咲夜という人間が、紅魔の従者として、まだ出来ること。
 
 咲夜は、“冷静に”考え、それに行き当たった。

 その瞬間、咲夜は犬が唸る様な声を上げていた。
 レミリアに気をとられ背中を向けていた霊夢の肩が、びくりと跳ねる。 
 だが彼女が振り返るよりも早く、咲夜は立ち上がり、霊夢に飛び掛ると彼女を後ろから羽交い絞めにした。

「くっ……離しなさい!」
 霊夢が呻く。拘束を解こうともがく。だが突然のことに対応しきれていない。
 その背中で、咲夜は、決して離すまいと力を入れる。
 どこにそんな体力が残っていたのかと、霊夢も、咲夜自身も信じられない気持ちであった。

「さぁ、お嬢様ッ!」

 自分の声で無いかのような、しゃがれた汚い声が出た。
 全身の筋肉、全ての精神力を以って、霊夢の身体を拘束する。
 両肩に腕を絡め、長身である咲夜の体重の全てを霊夢の身体にかける。
 武器を失い、体力を失いつつある咲夜が、今考えられる最良の選択だと、少なくとも本人は考えた。
 霊夢の白装束が咲夜の身体から出る血で染まっていく。

「さぁ、お嬢様ッ!私ごと霊夢をその剣でッ!」

 ただ一つ。主のために生きる、それが自分の存在意義だ。
 それ以外の全ての疑問を封じる。それをついさっき誓ったからこそ、自分はここにいるのだ。
 それこそが、不安と恐怖と取り除いてくれるのだから。
 敗北してなお、例え死が自分を襲おうとも、私は紅魔の従者でなくてはならないのだ――

 近づいてくるレミリアの足が、ぴたりと止まった。
 その手に握る剣先は、ぶらりと地面を指した。
 レミリアは、咲夜に送る視線に、何一つの感情を込めていない。
 そして、



 ――その表情は、怒りと侮蔑の混じったものに変わる。
477 ◆CxB4Q1Bk8I :2011/11/20(日) 21:01:50.53 ID:9/cAxTLQ


「――思い上がりも程々にしろ、咲夜」

 レミリアの声は、冷たく、苛立ちと怒りが強く篭っていた。
 咲夜は、その言葉の意味を一瞬理解できずに呆ける。
 拘束が緩んだその隙を突き、霊夢は咲夜を振り払って大きく咲夜の左側に飛び退いた。
 咲夜は、それを追えない。レミリアが視線を、自分に突き刺して動かさせない。
 霊夢は、動けない咲夜とにじり寄るレミリアの動向を見極めようと、構えを解かぬまま息を整えていた。

「その身を捨てて王に尽くす――騎士(ナイト)を気取るとは勘違いも甚だしいわ」
 王たるレミリアの声は、取り繕うことも無く重く、憎々しげだった。
 それは、あの河童の骸に投げた声と同じものに、咲夜には聞こえた。

「言ったはずだ、お前は紅魔のメイドで、掃除係。それを弁えろ。
 役目を果たせぬならそれを詫び、畏まって面前から去れ。私の戦場に出しゃばるな」
 咲夜は言葉を返せない。忠誠は畏怖と同じくして、絶対である主への申し開きなどを出来るはずも無い。

「その醜悪な振る舞いは、スカーレットの名を汚すものと知れ。
 本来ならばこの場で貴様の命を亡いものにしてやるところだぞ。
 ――だが、まさか尚も醜態を晒しスカーレットの名までも貶めるのは流石に望まないな?
 浅はかさを恥じ、私の視界から去ね。頭を冷やすまで帰ってくるな。
 ……そうだな、あの小生意気な天狗と妖精は私が殺すが、それ以外の輩の首の一つでも狩って来い」

 重々しく低く響く声。主が従者に対して発した、叱責よりも重い言葉。
 咲夜は絶望に近い気持ちを、一瞬なれど、抱く。
 咲夜は、形は歪であれど忠誠を誓う従者であれば、自分にはその場所が与えられると思っていた。
 それを失うのが怖くて、そう、いつしか、命を失うよりも怖くなって、その位置を保つために身を削っても構わないと思うようになっていた。
 だというのに、レミリアにとっては結局、従者とて歯牙にもかけぬ存在であり、彼女は決して、共に闘う部下など望んでなどいなかったのだろう。

 ――申し訳ありません、お嬢様。咲夜は、お嬢様のお気持ちを履き違えておりました――

 だが、敬愛と畏怖を同時に抱く主の言葉に逆らうことは適わない。
 咲夜は、鉛のように重い足取りで、一歩、二歩と、その場から後ずさる。
 霊夢が襲ってきても対処できる距離まで下がると、くるりと向きを変えて、自身の主の“戦場”から走り去った。


――
  ――
478 ◆CxB4Q1Bk8I :2011/11/20(日) 21:03:12.32 ID:9/cAxTLQ


「さて」
 レミリアは、霊夢に向き直った。
 霊夢は、咲夜を追うのを既に諦めていた。レミリアは、片手間で戦える相手ではない。
 終始優勢だったとはいえ、あの十六夜咲夜と全力で戦った後である。
 レミリアと戦い、勝利を得るために、余裕は僅かにも無いのだ。

「あれを敗走せしめたお前なら、私の牙にかける価値もあろう。
 お前は決して我が軍門に下るまい。だからここで私が蹂躙して殺す。
 ――霊夢、紅魔の贄となれ」
 レミリアの口端が、にぃ、と上がる。
 それは、“あの”博麗の巫女を蹂躙し、自らが勝者になる事への、悦びに他ならない。

「お断りよ、吸血鬼。あんたこそ、さっさとやられちゃいなさい」
 うんざりするほど強者と渡り合ってきた霊夢には、相手が夜の帝王であっても一切の怖気が無い。
 それが命を懸けた死闘だとしてもなお、霊夢は“博麗の巫女”であった。

「ふん。例え紛い物だとしても、誂え向きの月夜じゃない。でも残念、あの時のようにはいかないわ。
 こんなにも月が紅いから、本気で殺すわよ」
 レミリアの眼が見開かれ、淀んだ血のような紅から炎のような緋へと色を変える。塗り替えたのは闘争心だ。
 “本気”に嘘など無く、“殺す”に偽りなど無い、その瞳がそう語っている。

「こんなに月も紅いのに」
 霊夢は右手に果物ナイフを持ち、左手には咲夜から奪ったナイフを握る。
 二刀流――だ。不思議と、霊夢は懐かしい気持ちにすら、なった。

 吸血鬼は、今にも飛び掛らんと剣を構えている。
 霊夢は、咲夜がそうしたように、右腕を上げて刃先をレミリアに向けた。月光は血を照らし、臙脂色の鈍い輝きを放つ。
 どちらからとも言わず、しかしそれは台本通りであるかのように、二人は同時に声を発した。

「――楽しい夜になりそうね」
「――永い夜になりそうね」

479 ◆CxB4Q1Bk8I :2011/11/20(日) 21:04:26.41 ID:9/cAxTLQ

【D-3 二日目・深夜】

【博麗霊夢】
[状態]疲労小、霊力中程度消費、腕と腿に軽度の切傷
[装備]果物ナイフ、魔理沙の帽子、白の和服、NRS ナイフ型消音拳銃(0/1)
[道具]支給品一式×5、火薬、マッチ、メルランのトランペット、キスメの桶、賽3個
救急箱、解毒剤 痛み止め(ロキソニン錠)×6錠、賽3個、拡声器、数種類の果物、
五つの難題(レプリカ)、天狗の団扇、文のカメラ(故障) 、ナズーリンペンデュラム
支給品一式*5、咲夜が出店で蒐集した物、フラッシュバン(残り1個)、死神の鎌
NRSナイフ型消音拳銃予備弾薬15、ペンチ 白い携帯電話 5.56mm NATO弾(100発)
不明アイテム(1〜4)
[基本行動方針]力量の調節をしつつ、迅速に敵を排除し、優勝する。
[思考・状況]
1.レミリアを排除する
2.自分にまとわりつく雑念を振り払う
3.死んだ人のことは・・・・・・考えない

※咲夜が出店で蒐集した物の中に、刃物や特殊な効果がある道具などはない。



【レミリア・スカーレット】
[状態]背中に鈍痛
[装備]霧雨の剣、戦闘雨具
[道具]支給品一式、キスメの遺体 (損傷あり)
[思考・状況]基本方針:威厳を回復するために支配者となる。もう誰とも組むつもりはない。最終的に城を落とす
1. ・・・・・・
2. 霊夢を蹂躙して殺す
3. 文とサニーを存分に嬲り殺す
4. キスメの桶を探す
5. 咲夜は、道具だ

※名簿を確認していません
※霧雨の剣による天下統一は封印されています。


※周囲に落ちている道具:食事用ナイフ(*4)・フォーク(*5)、血塗れの巫女服






 ――
  ――
480創る名無しに見る名無し:2011/11/20(日) 21:04:39.40 ID:XPevy3wl
SIEN
481創る名無しに見る名無し:2011/11/20(日) 21:05:03.02 ID:jENvmLAD
482 ◆CxB4Q1Bk8I :2011/11/20(日) 21:05:31.05 ID:9/cAxTLQ
 完全で瀟洒な従者、十六夜咲夜は、決して揺るがない。
 彼女は、主に突き放されるようにその元を去っても、決して主を恨まない。
 動揺しても狂わず、取り乱しても瀟洒で、彼女は“冷静”であった。

 レミリアと霊夢の元を逃げるように去って数分、月明かりを遮る木の下に座り込むと、傷に手当てを施した。
 膝上までのエプロンドレスも、紅白にまだらに染められて、明かりに照らせば不気味に呪われた、いわく付の呪術飾具にさえ見える。
「お嬢様に賜ったものだけど――こんなにしてしまうなんて」
 その境界から伸びる細く白い二本の脚も、細かな傷だらけではあったが、咲夜の興味はそちらには向かない。
 失われた血は還らない。いくらか休めば霊力同様に復活するだろうが、それよりも優先されるべきことが、十六夜咲夜には存在する。

 手当てが終わると、咲夜は立ち上がり、歩き出す。
 目標は無いが、目的は明確だ。足取りは軽くはないが、足を止めることは決して無い。

 咲夜は、ほんの一時だけ絶望を抱いたが、決して悲観などしていない。
 咲夜は、紅魔の従者という位置を失ったわけではないのだ。

 確かにお嬢様はあの時、お怒りになった。
 私の浅慮により、お嬢様の望まぬことをしてしまった、ということを今、“冷静に”理解している。

 だが、その前――私を労った言葉には、嘘はなかったのだと信じている。
 お嬢様は、少なくともその時、私の身をその下に置く事を、許してくださっていた。
“だが、お前は勝った。たった一人で、屈せずに支配した。そこは評価してやってもいいわ。
 私に支配される者だけが、勝利を得る。ねえ、咲夜?”
 それを私の拠り所とする限り、私はお嬢様の全てを信じ、従わなくてはならない。
 支配され、勝利し、評価されるという無比の存在価値を、守らなくてはならない。

 それ故に、咲夜は“冷静”に、こう考える。
 そう、あくまで前向きに捉えるならば。
 お嬢様はただお怒りになった、というだけではなく。
 レミリアお嬢様は、私を“死なせないように”“逃がしてくれた”のかもしれない。
 私に、“次の指令をこなせ、さすれば元の居場所を与えてやってもよい”と、そう言っているのだ。
 私を、少なくとも、失うには惜しいと思ってくれているのだ。

 咲夜の歩みが速くなる。
 スカーレットの家名を汚すことは出来ない。汚名は濯ぐためにある。

 体中の痛みは、咲夜の行動を否定する理由としては余りに小さい。
 武器がその手に無いことも、真に“冷静”な彼女にとって、大きな意味を成さないことだ。
 夜霧の幻影殺人鬼は、あらゆる手段でその敵の命を刈り取ることを考えなくてはならない。
 或いは――自身にそれのできる方法があるかは未だわからないが、冬妖怪のように自らの身体を失うことによって手に入る武器が有るかもしれない。

 主に加勢する事も、霊夢の隙をついて殺すことも、紅魔の従者の選択肢には無い。
 いずれにしても、だ。咲夜は極めて聡明で忠実な従者であり、また極めて“冷静”あるから、その結論は恐らく、揺らぐことは無い。

「――仰せのままに、首を一つ狩って参ります。それまでお待ちくださいませ、お嬢様」


【D-3 二日目・深夜】

【十六夜咲夜】
[状態]腹部に刺創(手当て済み)、左目失明(手当て済み)、右肘に刺創(処置済み)全身に軽度の切傷
[装備]個人用暗視装置JGVS-V8 
[道具]なし
[思考・状況]お嬢様に従っていればいい
[行動方針]
1.お嬢様の命により、首を一つ狩ってくる
483 ◆CxB4Q1Bk8I :2011/11/20(日) 21:07:32.64 ID:9/cAxTLQ
以上で投下終了です。

……霊夢の道具欄、もう少し整理しておけばよかったと思います。
484創る名無しに見る名無し:2011/11/20(日) 21:46:38.38 ID:j1vyGvXb
咲夜さんの葛藤というか、内包する恐怖の表現がすごくいい
一度悪いほうへ想像し出すと止まらないからな……
レミリアは冷たく追い払ったけど、本文で言われてる通り逃がしたかもしれないんだよね
霊夢がそこのところをどう見るか……
485創る名無しに見る名無し:2011/11/20(日) 23:31:17.22 ID:XPevy3wl
そういえばもう優勝狙いのマーダーは霊夢一人だけなのか
ほかは一応対主催だし
486創る名無しに見る名無し:2011/11/21(月) 07:51:31.06 ID:O3WjPDiw
ゴミリアすぐる
487創る名無しに見る名無し:2011/11/21(月) 20:10:06.62 ID:s1a/ywK6
妖怪は精神攻撃に弱いからね。しかたないね。
488創る名無しに見る名無し:2011/11/23(水) 20:34:53.86 ID:JnWwZW9j
投下乙です
489創る名無しに見る名無し:2011/11/27(日) 01:51:52.83 ID:7v8aqcL8
咲夜さん、これから色々抱えそうだな
冷静に振る舞おうとしている所が不安
溜まって溜まっていつか爆発しちゃうんじゃないだろうか……
490創る名無しに見る名無し:2011/11/27(日) 10:24:00.38 ID:apfjG7RK
容量的にそろそろ次スレだなー
491創る名無しに見る名無し:2011/11/28(月) 07:40:59.14 ID:RYflWvqQ
予約来た!
492創る名無しに見る名無し:2011/12/04(日) 00:04:09.85 ID:I422Hp0p
次スレ立てるよ
493創る名無しに見る名無し:2011/12/04(日) 00:09:08.64 ID:I422Hp0p
東方projectバトルロワイアル 符の九
http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1322924884/
494創る名無しに見る名無し