様々なジャンルのゲームキャラを用いた、バトルロワイアルのクロスオーバー企画、
『ゲームキャラ・バトルロワイアル』のスレへようこそ。
【使用上のご注意】
『ゲームキャラ・バトルロワイアル』には、版権キャラクターの暴力シーンやグロテスクな表現が含まれています。
CEROで言えばD辺りに相当するかもしれません。
この作品は『バトルロワイアルパロディ』です。
苦手な方が読むと、後々の嫌悪感の原因となったり、
心や体などに悪い影響を与えたりすることがありますので、絶対におやめください。
☆前スレ
ttp://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1281674889/ ☆まとめwiki
ttp://www29.atwiki.jp/gamerowa/ ☆したらば
ttp://jbbs.livedoor.jp/otaku/13051/ 参加者名簿
7/7【東方project】○霧雨魔理沙/○博麗霊夢/○十六夜咲夜/○レミリア・スカーレット/○アリス・マーガトロイド/○風見幽香/○東風谷早苗
5/7【ポケットモンスターシリーズ】○レッド/●グリーン/○キョウ/○サカキ/●シルバー(金銀ライバル)/○アカギ/●タケシ
6/6【ファイナルファンタジーW】○セシル・ハーヴィ/○カイン・ハイウィンド/●リディア/●バルバリシア/○ルビカンテ/○ゴルベーザ
5/5【メタルギアシリーズ】●ソリッド・スネーク/○ハル・エメリッヒ/●サイボーグ忍者(グレイ・フォックス)/○リボルバー・オセロット/○雷電
5/5【ペルソナ4】○主人公/○花村陽介/○里中千枝/○天城雪子/○足立透
4/4【星のカービィ】○カービィ/●メタナイト/●デデデ大王/○アドレーヌ
3/3【ファイアーエムブレム 蒼炎の軌跡】●アイク/○漆黒の騎士/○アシュナード
【27/37】
【基本ルール】
全員で殺し合いをしてもらい、最後まで生き残った一人が勝者となる
生き残った一人だけが、元の世界に帰る+ひとつだけ願いを叶えてもらえる
ゲームに参加するプレイヤー間でのやりとりに反則はない
ゲーム開始時、プレイヤーはスタート地点からテレポートさせられMAP上にバラバラに配置される
プレイヤー全員が死亡した場合、ゲームオーバー(勝者なし)となる
【スタート時の持ち物】
プレイヤーがあらかじめ所有していた武器、装備品、所持品は全て没収
(義手など体と一体化している武器、装置はその限りではない)
また、衣服とポケットに入るくらいの雑貨(武器は除く)は持ち込みを許される
「ランダムアイテム」は作者が「エントリー作品中のアイテム」と「現実の日常品」の中から自由に選択
必ずしもデイパックに入るサイズである必要はなし
また、イベントのバランスを著しく崩してしまうようなトンデモアイテムは企画頓挫の火種、注意
【「首輪」と禁止エリアについて】
ゲーム開始前からプレイヤーは全員、「首輪」を填められている。
首輪が爆発すると、そのプレイヤーは死ぬ
(例外はなし。不死の怪物であろうと、何であろうと死亡)
開催者側は、いつでも自由に首輪を爆発させることができる
この首輪はプレイヤーの生死を常に判断し、開催者側へプレイヤーの生死と現在位置のデータを送っている
24時間死者が出ない場合は全員の首輪が発動し、全員が死ぬ
「首輪」を外すことは専門的な知識がないと難しい
(下手に無理やり取り去ろうとすると、首輪が自動的に爆発し死ぬことになる)
プレイヤーには説明はされないが、実は盗聴機能があり音声は開催者側に筒抜けである
(実際に盗聴されているかどうかは、各企画の任意で
具体的な方法や、その他の監視の有無などは各企画で判断)
開催者側が一定時間毎に指定する禁止エリア内にいると、首輪が自動的に爆発する
【放送について】
放送は六時間ごとに行われる。
放送内容
「禁止エリアの場所と指定される時間」
→出来るだけ離れた地点を二〜三指定。放送から二時間前後で進入禁止に
「前回の放送から今回の放送までに死んだキャラ名」
→死んだ順番、もしくは名簿順に読み上げ
「残りの人数」
→現在生き残っている人数。
「管理者(黒幕の場合も?)の気まぐれなお話」
→内容は書き手の裁量で
【状態表について】
SSの最後には必ず状態表を入れ、今どんな状況なのかをはっきりさせる。
【場所/何日目/時刻】
【キャラ名@作品名】
[状態]:健康とか怪我の具合とか色々
[装備]:武器とか防具とか
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3
(支給品を確認したら支給品の名前@作品名を記入。現実世界から出す場合は@現実で)
[思考]
基本方針:ゲームに乗るかどうか等そのキャラが行動する元になる考え
1:
2:1から優先順位が高い順番に行動方針を記入。4とか5とか作っても大丈夫だし減らしてもおk
3:
【使用例】
【A-1/一日目/深夜】
【霧雨魔理沙@東方project】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ポーション×3@FFシリーズ、金属バット@ペルソナ4
[思考]
基本方針:ゲームを止める
1:アリス達と合流する
2:やばそうな相手には自分から関わらない
支給品解説
【ポーション@FFシリーズ】
HPを小回復する液体。
【金属バット@ペルソナ4】
主人公専用の武器だが、他の人でも扱うことは可能かと思われる。
クリティカル率がやや上昇する。
【予約について】
予約はしたらば(
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/13051/1254284744/)で行います。
予約する人はトリップをつけて「○○(キャラ名)と××を予約します」と書き込んで下さい。
予約期間はは原則として3日です。事情があったりするときは追加の延長(2日程)もできます。
延長したい場合は、再び予約時と同じトリップをつけて延長を申請して下さい。
が、延長を連発するのは避けて下さい。
何らかの理由で破棄する場合も同様です。キャラ追加予約も可能です。
予約期限を過ぎても投下されなかった場合、その予約は一旦破棄されます。
その時点で他の人がそのキャラを予約する事が出来るようになります。
また、前予約者も投下は可能ですが、新たな予約が入った場合はそちらが優先されます。
【荒らしについて】
荒らしや煽りは徹底スルーで。どうしても目にとまるのなら
専用ブラウザを導入してNG登録すること。
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「…………………。」
10人が急にこの世から居なくなるのはなんという非現実なんだろうか。そうだ。ここは現実と非現実の狭間。殺し合いを強いられて、人を殺し、殺される関係を持たなければならない。
それを拒否したから、グリーンは死んだのだろうし、タケシも死んでいった。人が死ぬのは悲しい。だが、ここで自分が死ぬのはもっと悲しい。
「………………….。」
死ぬわけにはいかない。あの少年、――――と戦う為にはまだ死ぬわけにはいかない。その為に殺す。研究所内にあった金属の良く分からない物を集める。
デイパックに放り込む。鈍器にはなるだろう。お腹にまた拳銃を隠す。お腹が冷えるがそんな事は気にしない。
「………………………あと27人」
気が付いたらその言葉を口に出す。別に出すつもりはなかった。
その時だった。物音。窓から外を静かに伺う。外にいたのは、あの時、殺しそこなった巫女、それと、
「…………….……。」
そこにあのロケット団の首領、サカキが居た。ロケット団を解体した後、行方不明になったがこんな所で遭遇するとは。
あの後、改心したと聞いたが、そうか。巫女を守りながら行動しているのか。きっとサカキも主催に反抗している側だろう。
……しかし、なぜ二人揃って小指がなくなっているのか。小指を集めるのが趣味の参加者がいるのだろうか?
まぁどうせ殺すのだ。そんな事は関係ない。
……どうやらあの巫女は外で待つらしい。サカキが銀色に輝く剣を取り出し、研究所に入ってきた。
☆ ☆ ☆
「……何者かによって荒らされてるな。それに、このスパコン。壊す理由があったのか、それとも最初から壊されていたのか」
三階もやはり水浸しであり、歩くたびに音を発する。窓から太陽の光が差し、目を覆いたくなる。
計算室にはスパコンがあるが、ディスプレイが壊れており役にはたたない。
ただ力任せに壊される所を見ても壊す理由が見当たらない。ただ単純に、感情的になって壊した、と言う点も考えられる。それ以上追求する気にもなれない。
液晶が地面に散らばっており、踏む度に小気味良い音がなる。あまり踏みたくは無いので避けながら部屋を退出する。
さて、この部屋は調べ終わった。残るは、一番奥にある……
「…………なんだあの光は」
廊下からでもわかる。太陽光ではない、何か神々しい光。それがその部屋から漏れてくる。ただ、その光に、誘われる。
気がつくと脚が動く。ゆっくりとその部屋に向けて。やがて部屋の目の前に立つ。そこから見えるのはどの宝石よりも、美しく高貴で、それを見るだけで心地よい背徳感が湧き出る。
そしてその部屋に向けて、足を一歩―――――――やめた。
「…………………」
足元の水溜りに脚を置くと、円形の波が現れる。雨の日や風呂場では有り触れた光景だが、それは自分の他に、二つできていた。この壁の先に隠れている――――
剣を輝くそれに向ける。それを傾け、剣先を鏡の代わりにする。それはそこに居た。剣を横薙ぎに回す。しかし辛うじて避けられた。
「……………………!」
「私が警戒していないとでも……レッド!?」
そこに居たのはシルフカンパニーで煮え湯を飲まされた少年。そして彼が実験で硝子瓶を固定する台、ロート台を自分に向けている。
レッドの右手はわけの分からない方向を向いている。戦闘で遣られたものだろうが、もしやこんな少年も殺し合いに乗っているのか?
「……いやはや、驚いた。まさかレッド、君が私を殺そうとするとは。……それで、続きをするか?ん?」
だが、所詮は子供。この鋼の剣を見せ付ければ驚いてたじろぐだろう。それにその右手で戦闘する事は難しい筈だ。
しかし、予想と反し、ただ虚ろな目でこちらを見ていた。そして、どの予想でもない、また訳のわからない言葉を発する。
「………………本当に、サカキ?」
サカキにとっては訳のわからない言葉だったが、レッド自身もこのサカキの違和感に気付き、訳が分からなくなる。
クリスタルを囮にし、不意打ちを狙う作戦が破られた事に驚いた。だが驚くべき点はそこではない。
僕の目の前にいる人物、こいつは本当にサカキなのか?
あの時の自分に負けたサカキはシルフカンパニーで初めて出会った時の胸糞悪さは完全に消えうせ、優しい大人、という印象しか与えなかった。
しかし、この目の前にいるサカキは違う。シルフカンパニーの時のサカキだ。喋るだけで吐き気を催し、そして野望を叶えてやる、という傲慢な雰囲気。
それが目の前にいる。こいつには、このときのサカキに関わっては駄目だ。そう体が警告する。
そしてサカキは僕が一番言われたくない言葉を発した。
「……逆に聞くが、君は本当にレッドか?」
サカキも気付く。シルフカンパニーの時のレッドではない。世界の汚さを知らない少年だからこその正義感、ポケモンと友達という訳の分からない根性。
そしてポケモンマスターになろうと決意した目。しかし目の前にいるのは違う。どこか大人びていてそして、死んだ魚の様な目をしている。
元の世界で関わりあい、そして敵同士だったこそわかる違和感。こいつは自分の知っている奴とは違う。
「……ロケット団は解体したのに、改心するって言ってたじゃん」
「いつ私がそんな事を言ったのだ?」
「…………僕に負けたとき」
レッドはロート台をサカキに向け、またサカキも鋼の剣をレッドに向ける。
緊張体勢は崩せない。霊夢を呼びに行きたいがレッドは隙を与えてくれない。
「私が負けた時?いつ、私が負けたというのだ?」
「…………ほら、証拠。」
すると、レッドは古ぼけた手帳を胸ポケットから取り出す。それはバッチ入れだった。年季が入っているが、角が剥げたりしても直さない所を見るとお気に入りってわけではないらしい。
そして手帳を開け、バッチを見せる。そこにあったのはカントー地方のジムのバッチ、そこには…………
「………なん、だと?」
「サカキ。君はさ、負けてるんだよ。このバッチが証拠」
8つのうちの一つ、自分のバッチがそこにあった。
シルフカンパニーの時、レッドと初めて会ったときに感じたこと、それはよく考え行動する子、というのは印象的だった。
誰もが、彼は人見知りだから口数が少ないとか、実は何も考えて居ない木偶の坊だ、とか口々に言ったが、本当は違う。
考えてから発言するタイプなのだ。だから口数は本来、少なくはない筈。だから彼が沢山の言葉を紡ぐ事は、予想できた。
「きっと、僕とサカキの間には時間的な矛盾がある。だからこそサカキは負けた事実を知らない。君は知らないんだ。君はきっとシルフカンパニーで僕と接触してから、
そしてトキワジムで僕に負ける前、の時間のどこかから呼ばれたと思う。うん、そうとしか思えない。どうやったかは説明はできるよ。可能性の話だけど、
僕がこの殺し合いに呼ばれたのは殿堂入りを果たしてから三年後。三年も立てば、新種のポケモンも沢山発見されてるんだ。
それで君はどうやって時間軸の違う人間を拉致したのかわからないでしょ?不可能じゃない。可能なんだ。最近発見された新種のポケモンなら。
『ディアルガ』『パルキア』。じかんポケモンとくうかんポケモンさ。そのポケモンの力があれば時間軸の違う僕らも造作なく拉致できるだろうね」
そこまで言うとレッドはにやりと自分を見てきた。
まるで『どや?』と言う勢いで。
しかし、自分にとってはどうでもいいことばかりであった。最初の『負けた』以外は。
「それで、レッド。君は何が言いたいんだ?」
「…………………?」
「やはり、まだ君は子供だ。そこまでわかるなら、私が危険人物だとわかっているのに逃げない。そして私が知らない世界情勢やポケモンを綺麗に教えてくれた。
まるで最近覚えた言葉を連発し、母親に教え、使いたくなる中学生じゃないか。それに、レッド、君がポケモンバトルで私に勝ったとしても、この殺し合いじゃあ、勝てない」
「……………………サカキ、君はわかってないよ。僕がなにを言いたいかを」
「なんだと?」
もはや思考は正しく動いていなかった。ただ、『自分が負けた』という言葉がグルグルと頭を駆け巡る。
この先、レッドに負けた、とすれば私は、私のアイデンティティーは、完全に消え去るだろう。
レッドに向けたこの言葉はもはや虚勢であった。動揺を隠そうとしても、隠れない。だから、ここで負ける訳にはいかない。
レッドは次の言葉を紡ぐ。その言葉は完全に自分を馬鹿にした言葉だった。
「サカキ、君は勝てないよ。ポケモンバトルでも、この殺し合いでも。僕にはね。だって僕に負けてるんだもん。だからこの先、僕に勝てないのも運命さ」
「…………大人をここまで馬鹿にするとは、レッド、君は完全に怖いもの知らずだな。ここまで虚仮にされたのは始めてだよ」
精一杯の笑顔を作る。だが内心は腸わたが煮えくり返る程の怒りが埋め尽くす。
だいたい、こんな餓鬼にこの先負けること自体プライドが許さない。さらにここまで馬鹿にされたのだ。
もう、この鋼の剣を振り下ろしてしまおう。怒りに身を任せて、殺してしまおう。もう戯言を聞く時間はない。
「僕は宣言するよ。サカキ、君は勝てない。何故なら、この状況で僕が長々と喋ることに、何の疑問も感じていないんだもん」
そうレッドが言い、またニヤリとしてこちらを見る。
ああ、むかつく餓鬼じゃないか。もう、殺してしまおう。こいつは…………!?
まて、こいつは今、なんて言った!!?先ほど自分が言った言葉と――――
「…………きさまっ!?」
レッドがロート台をおもいっきり引く動作を見せる。
そして、そこに本来無かった棚が自分に覆いかぶさる。自分はレッドに気を取られすぎて本棚がそこにあることを疑問には思わなかった。
「ぐぁ!?」
「………………ずっと用意してたんだ。このクリスタルを囮にして、さらには自分を囮にして。このロート台にワイヤーを巻きつけて、本棚を用意して。
特に本棚は重かった。ここまで運ぶの一人で大変だったんだ。途中で車輪の付いた台を見つけてたから楽だったけど。
この手口は下の階の惨状と同じ手口だよ。僕が殺した訳じゃないけど、ヒントにさせて貰った」
そういうとレッドはクリスタルをデイパックに仕舞いこむ。
「じゃあね。僕はもう行くよ、あの巫女は来たら勝ち目ないしね」
自分の手から鋼の剣を奪い、腰に挿す。そして自分から遠ざかる。
「まっ!待て!!私を殺さないのか!?」
「………………………。」
口元を歪ませるが何も言わず、レッドは完全に見えなくなった。
☆ ☆ ☆
正面入り口とは逆の非常階段を降りる。鉄製なので音を出さないように気を使って。
たしか正面入り口に巫女はいた筈だ。ここで遭遇したら勝ち目はない。なにしろあの八卦炉を持っているのだ。
「…….………………。」
正直、危なかった。自分は生きている。息もしている。それに武器も手に入った。なんて運がいいのだろうか。
階段を完全に降り切ることが出来た。巫女には気付かれていない。(なぜ3年前のサカキにあの巫女が仕えているのだろうか?)
動悸がまだ激しい。よかった。上手くいった。まだ死んでない。
…………それにしても、サカキ。なんであの時のサカキが連れてこられてるかはわからない。
もしかしたら僕の他の人物は『あの時』の人なのかもしれない。それなら、僕は断然に有利だ。
今、僕が殺し合いに乗っていると知っているのはあの巫女とサカキだけだ。ならサカキと巫女にこの傷を遣られた事にすれば、僕は完全に疑われることはなくなるだろう。
だからサカキは殺さなかったし、悲鳴なんて聞かれて巫女が駆けつければ僕は完全に負けていたはずだ。
この先、こんな危ない橋を渡ることは避けたい。なら殺し合いに乗っていない振りをして守ってもらえば確実に勝てる。
「………………………。」
『……逆に聞くが、君は本当にレッドか?』
サカキが言った言葉が心の奥でずっと蠢いている。そうだ。あの時の僕はもうここにはいない。ここで死ぬわけにはいかない。――――と再戦するまで死んではいけない。
だから僕はもう何を言われても動じないようにしなければならないんだ。最後の一人になるまで修羅になると決めたのだから。
【A-3 テトラ研究所 一階の小部屋/一日目/早朝】
【レッド@ポケットモンスター】
[状態]:右手首損傷、右肩脱臼(右腕は使い物にならないレベル)、精神疲労少、精神的安堵感および高揚感、痛覚麻痺、帽子無し。
[装備]:はがねの剣、コルトパイソン(5/6、服の下に隠している)
[道具]:基本支給品一式、極細ワイヤー10m(残り5m)、はがねの剣@FE、コルトパイソン(5/6)@現実、クリスタル
[思考]
基本方針:生きて帰り、少年と再戦する
1:殺し合いに勝ち残り優勝する
2:巫女(霊夢)とサカキの悪評を言い回す
3:誰かに守ってもらいながら行動をする
4:クリスタルは誰にも渡さない
※どこに向かうかは次に書き手にお任せします
※サカキを『3年前のサカキ』と認識しました。
☆ ☆ ☆
「っく……」
レッドが立ち去ってから数分後。本棚から早急に出なければならない。こんな無様な姿を霊夢に見せる訳にはいかない。
そしてやっとの事で本棚から抜け出す。
思えばレッドは自分の事を挑発していた。そして動揺を誘っていたのだ。
そうだ。レッドは頭が良い。シルフカンパニーの時も、(手加減していたとはいえ)彼は瞬時に使うべきポケモン、技を見極め、私から勝利をもぎ取った。
だからこそ、この様な作戦を考えられるだろうし、先の話だが、殿堂入りもできたのだろう。
この事を考えると、この先、レッドに私が負けるのは当然なのかもしれない。
「……(だが、レッド、まだ私は負けていないのだ。ポケモンバトルでも、この殺し合いでも。)」
レッド、君はまだ子供だ。なにせ私が負ける事を教えてくれたのだ。こんな有益な情報を敵に話す馬鹿がどこに居る。
それならその事実を、運命を変えてやろうじゃないか。その時が来るまで準備をしてやろうじゃないか。
お前に敗北を教えてやろうじゃないか。
それと、もう一つ、あの宝石、クリスタル。この殺し合いで最も重要なアイテムの筈だ。
なんとしてもクリスタルの秘密を暴かなければならない。主催からこちら側への数少ない干渉。この干渉行為を利用すれば主催よりも優位に立てるだろう。
正門からでると八卦炉を構えた霊夢がこちらを見てくる。
「あ、サカキ様!……その服装どうしたんですか!?」
「襲われた。……裏口から出て行ったらしい。お前が正門側しか見張って無いから逃げられた」
「え!?…っす、すいま、申し訳ございません!!」
「そう気にするな。次からは気をつけろ」
何を言っても謝られるだろうから最初から怒る気にもなれない。だいたい自分はヘマを起こしたのだから霊夢だけを怒る訳にもいかない
レッドは自分を殺さなかった。きっとこれからただ単に殺し合いをすることは難しいと判断したのか。
この先、我々を誣いて言い、守ってもらう為だろう。
「……霊夢、我々には敵が居る。私もその敵に遣られた。驚くな、霊夢、お前よりも若い男の子だ」
「…………もしかしてその人って赤い帽子を被ってた人でしょうか」
「なぜ知っている?」
「お、襲って来た人です」
バカ、なぜそれを早く言わない。それを言えば先ほどの結果も何か変わっていたかもしれないのに。
しかし。襲って来たというのなら好都合。
「あの少年はレッドという。あいつこそが我々の敵。それだけは覚えておけ。あいつはきっと我々の悪評を言い振り回すだろう」
「えっ、それなら早く止めないと……」
「止める必要は無い。我々にとって悪評などどうでもいい。我々には目的が出来た。」
「目的、ですか?」
そう。目的だ。レッドが自分達の悪評を言い振り回すことなどどうでもいい。
まずは施設を回り、他にもあのクリスタルがないかを探すことが先決だ。あのクリスタルは確実に役に立つだろう。
「残念ながらこの施設には治療道具は無かった。だが興味を持てるものがあった」
「興味のもてる物……?」
霊夢はあまり興味の持てるものなどなかった。欲があまりないというか。ゆっくりと日々を過ごしていくのが当たり前だったせいでサカキが言った『興味の持てる物』を予想する事が出来なかった。
「それを探す。そうすれば、私も、お前も、納得のいく結果をだせるのだ」
今は、他の参加者と遭遇するのは避けたい。今はあのクリスタルを探すことが目的。
主催がこちらに落としてきた釣り針。それを思いっきり引っ張ってやり、わからせてやるのだ。真の支配者が何かを。
【サカキ@ポットモンスター】
[状態]:健康、脛に軽傷 左小指欠損(治療済み) 服が埃だらけ
[装備]:M1911A1の予備弾(21/21)
[道具]:基本支給品一式、モンスターボール(ナッシー)@ポケットモンスター
[思考]
基本方針:脱出方法を模索しながらも、殺し合いには乗る、
1: 他のクリスタルを探す為に施設を回る。
2:クリスタルを見つけるまで他の参加者と遭遇は避けたい。(自分達の悪評が回ってる可能性がある為)
2:博麗霊夢の理想の神でいる
3:利用できる者は利用する。
4: 魔法に関する情報を得る。
5:魔理沙は見つけ次第殺す
6:レッドの事は保留。
※参戦時期は、少なくともトキワジムでレッドに負ける前です。
※この殺し合いが魔法を軸に動いていると考えています
※この場所が博麗大結界に似た何かで形作られているのではないかと考えています。しかし、あくまでも仮説の一つであり、それに拘るつもりはありません。
※クリスタルを重要視していますが、何を意味するかは知りません。
※霊夢から幻想郷や、参加者達の詳細な情報を聞きました。
【博麗霊夢@東方project】
[状態]右足の太ももに銃創(貫通傷、治療済み)、左小指と薬指欠損(治療済み)、精神疲労大、袖が破けている 妄信状態?
[装備]ミニ八卦炉
[道具]基本支給品一式、ミニ八卦炉@東方project、デデデ大王のハンマー@星のカービィ、Ipad@現実
[思考]
基本方針:全てはサカキのために
0:興味の持てる物……?
1:恐怖を克服する
2:知り合いと再開しても、サカキが気に入らなければ……
3:レッドを警戒
※これを異変だと思っています。
なお、参戦時期は永夜抄の異変解決後あまりたってないので
東風谷早苗を知りません。
※マルクの裏に黒幕がいると思っています。
※金属板(Ipad)は山小屋で拾ったものです。霊夢は使い方がまったくわかりません。
※刃物に対して一種のトラウマを感じています。
投下乙
レッドがやけに沢山喋ってる!新鮮!武器ウマー
サカキさんそいつを子供扱いしちゃダメですよ。腐ってもラスボスなんだから
早くもカリスマブレイクの兆候が…
霊夢は完全に自分で考える事を放棄してるなあ。
サカキに依存しちゃってる
てか生き残ってるポケモン勢、キョウ以外ろくなのがいない件について
人格的にろくでもない奴らばっかが残ったってだけで、
サカキ、レッドといいアカギといい、見てるこっちは楽しみな連中ばかりでもあるんだがなw
そして新スレ&投下乙
確かに『あのレッドが饒舌』ってのは、何かあると疑わないといけねえよなw
流石は隠しボスにしてポケモンマスターか。ディアルガとかの名前も出てにやり
そして、負ける運命を最大の情報としちまうサカキ様もただじゃ終わりそうにないな
はてさあてどうなるか、投下乙
そろそろ某作品のキャラも退場してほしいなー。なんて(チラチラ
参加者、北と南にうまいこと分かれてるんだな
またもや予約越えorz
ホント、駄目だな俺。
大変申し訳ありませんでした。これより投下します
放送が終わり、しばらく経っても瀬多は呆然としていた。
「……誰も、死んでない」
自分の仲間は誰一人死んでいなかった。
正直に言って、瀬多は覚悟していた。少なくとも一人。酷ければ三人共既に死んでいてもおかしくないと考えていた。
しかしそれも当然。何故なら今自分が生きていることが、瀬多には不思議なくらいなのだから。
あの四人の急襲。さすがにあれは運が悪かったとしか言いようがないが、それでもこの殺し合いの中で命というものがどれほど軽いものかを実感させられた。
だからこそ、瀬多は自分の仲間が誰も死んでいないことに喜びを覚える前に、冗談なのではないかと疑ってしまったのだ。
「瀬多さん。よかったですね。みんな生きてますよ」
自分のことのように喜んでくれるアドレーヌ。それを見て、ようやく瀬多は純粋な喜びが湧き出てくるのを感じることができた。
瀬多は思わずその場にへたり込んだ。
「よかった。……本当に、よかった」
それは、心の底からの安堵だった。
結局、四人の知人で死んだ人間は、メタナイトとデデデだけだった。
それが喜ぶべきことなのか、悲しむべきことなのか、瀬多には判断のしようがなかった。
とにかく今は自分達が生きることを考えなければならない。
今は幽香が見張りをしてくれているので、安心して考え事に集中することができる。
「……瀬多さんは、すごいですね」
アドレーヌがぼそりと呟いた。
「弱い人の気持ちになってあげることができて。それでいてとても強くて。さっきの戦いだって、瀬多さんがいなかったら、きっとみんなやられてました」
「……俺は強くない。セシルとの戦いだってほとんど一方的だった。皆がいてくれたから、俺達は生き残れた。ただそれだけだ」
しかし、アドレーヌは首を振った。
「瀬多さんの強さは、力じゃないです。もっと奥にある……心の強さ、みたいなものがあると思います」
買いかぶり過ぎだ、と言おうとして止めた。
アドレーヌの自嘲めいた笑みは、おそらく彼女自身に向けられたものだと感じたからだ。瀬多総司を褒めることで、何もできない自分を非難しているのだ。
相手の心の機微を計るのは、大勢の人間とコミュニティを形成してきた瀬多には得意なことだった。
ふいに瀬多は、アドレーヌの眼前に手を突き出した。
「どうしたんですか?」
首を傾げるアドレーヌに少しだけ微笑みかける。
左手の指が……
右手に移動した!
「わ! すごいすごい!! どうやったの!?」
純粋に喜んでくれているようだ。
この手品をやってひどく興奮していた菜々子のことを思い出す。
「俺、実は魔法使いなんだ」
「あはは! 瀬多さんって、ほんとは面白い人だったんですね」
場が良い感じに和んだところで、瀬多は自分のデイバックから一つのビンを取り出した。
中には透明の液体が入っている。
「それは?」
「さっき幽香から受け取った。腐毒っていうらしい。無味無臭の猛毒だそうだ」
その言葉に、アドレーヌは少しだけ身を引いた。
「本当は捨ててしまおうかとも思っていたんだが、いつどんな時に何が使えるか分からない。だから持っておこうと思って」
「そうなんですか」
アドレーヌに異論はないようだった。
自分よりも頭の良い瀬多が出した結論なら、それに反論する気はないということだろう。
「俺は、アドレーヌに持っていて欲しいと思う」
「え!? 私にですか!?」
「俺が持っていてもいいんだが、やはりこれは一番殺し合いに乗る可能性が低い人間が持っていた方が良いと思うんだ」
もしも仲間が死んだら。菜々子や、他の友人達を主催者に人質に取られたら。
そうなれば、自分でもどんな行動を取るか分からない。
「俺自身、今後絶対に殺し合いに乗らないとは言い切れない。けど、アドレーヌなら信じられる。アドレーヌは、俺に良心を忘れさせないでいてくれる大切な存在だ。俺は、レミリアや幽香と同じくらい、アドレーヌを頼りにしている」
アドレーヌは目を見開いて瀬多を見つめ、それからビンを見つめた。
「……瀬多さんは、本当に優しい人ですね」
そう言って、そっとそれを受け取った。
「任せて下さい。私が責任を持って、保管しておきます」
アドレーヌはそう言って満面の笑みを浮かべた。
瀬多は、アドレーヌとの距離が少し縮まったような気がした。
「私、幽香さんの様子を見に行ってきますね」
「あ、じゃあもう少ししたらまたここに集まってくれるように言っておいてくれ。レミリアが起きたらクリスタルを探しに行きたい」
攻略本は既に目を通してある。
四つあるクリスタルの内の一つがここにあるということも、既に瀬多は知っている。
考えるべきことは他にも色々と積もっているが、当分はクリスタルを優先していかなければならない。
瀬多は血の契約を交わしているのだ。とにかく今は、契約違反にならないように積極的に行動しなければならない。
「はい。わかりました」
そう言って駆けていくアドレーヌを見送る。
その様子から、やはりアドレーヌにとって幽香は大切な存在なのだと感じることが出来た。
瀬多は立ち上がり、ソファですやすやと眠っているレミリアの様子を窺った。
本当によく眠っている。傷も少しずつだが癒えているようだった。
普通に行動する分にはもう十分回復しているだろう。本当ならすぐに起こしたいところだが、子供のように熟睡しているレミリアを起こすのは忍ばれた。
そっと、顔にかかっている髪をのけてやる。
「こんな寝顔で吸血鬼だなんて言われても、誰も信じないだろうな」
花村や千枝、雪子に紹介したら、皆どんな顔をするだろう。
(レミリアのキャラに、きっとたじたじになるだろうな)
そんなことを考えて苦笑する。
「随分と鼻の下伸ばしてたわね」
眠っていたはずのレミリアの声が聞こえた。
「なっ!? お前、起きてたのか!?」
「この分だと、結構な数の女にちょっかいだしてるんじゃないの?」
そう言って、レミリアはこちらに顔を向ける。どこか意地の悪い笑みだ。
レミリアの言っていることはまさに図星だった。
思わず目を逸らす。
「やっぱり。道理で女の扱いがうまいと思ったわ」
「人をプレイボーイみたいに言うな! い、一応深い理由があって……」
「ふーん。どんな理由か聞きたいところね」
瀬多はレミリアにコミュニティのことを話して聞かせた。ついでに、レミリアが気絶していた時に皆に告げたイゴールとのことも。
「へぇ。なるほどね」
「そういうわけだ。だから俺達は一刻も早くイゴールを見つけて倒さないといけない」
「話を逸らしたわね」
「ぐっ…!」
「ふふ。まあいいわ。いじめるのはこのくらいにしてあげる」
くすくすと笑うレミリアを見て、瀬多はため息をついた。
子供っぽいと思ったら自分よりも遥かに年上のような態度を取る。レミリア・スカーレットという女性はどうにも両極端で、瀬多もどう扱っていいものか迷うところがあった。
「ソファなんかでずっと寝てたから身体が痛いな。瀬多。ちょっとおんぶして」
「……はいはい」
両手を伸ばすレミリアに背を向けると、すぐにぴょんと飛び乗って来た。
そんな元気があるのなら一人で歩いてもらいたいところだ。
「向こうにベッドがあったでしょ? そこまで連れて行きなさい」
「おい。もうそろそろクリスタルを探そうと──」
「つべこべ言うな。吸うぞ?」
吸血鬼にそんなことを言われれば、従わざるを得ない。
瀬多はもう一度ため息をついてベッドルームへと足を進めた。どうせすぐに幽香達が来る。それまでの間は、我儘に付き合ってやろう。
ベッドルームに辿り着き、一人で寝るには大きすぎるベッドにレミリアを預ける。
「感謝しなさい。私をおんぶできる人間なんて咲夜とあなたくらいのものよ」
「確か、レミリアのメイドだったか?」
「ええ。優秀な人間よ。……あ、そうだ。なんならあんた、副メイド長にしてあげようか?」
「止めてくれ。変な想像をしてしまう」
自分がメイド服を着ている姿が頭に浮かんできて、慌ててそのイメージを消し去る。
「でも、あんた器用そうだしね。けっこう面白い思いつきかもしれないわ。咲夜が鍛えればきっと良いメイドになれるわ」
「だから止めてくれって」
「あんた可愛い顔してるし、メイド服も案外似合うかもよ」
レミリアが面白がってるのは明明白白だ。
こうなっては単純に止めろと言っても聞かないだろう。瀬多は逆の方法を試みることにした。曰く、押して駄目なら引いてみろというやつだ。
「……なら、ついでにカチューシャとストッキングも頼む」
「任せなさい」
「ナチュラルに返さないでくれ!」
そこはツッコミをいれてほしかった。
くすくすと笑うレミリア。どうやらわざとだったらしい。
「……なぁレミリア」
「何?」
「まだ言ってなかったと思ってな。……その、ありがとう」
「何がだ?」
その何でも見透かしていそうな笑みを見たところ、きっと瀬多の言わんとすることも理解しているのだろう。しかし、それでも瀬多の口から言わせたいようだった。
「……俺がアシュナード達を説得できなかった時だよ。お前の言葉がなかったら、俺はあそこで諦めていた。たぶん、こうして笑うこともできなかった。だから──」
「部下を導くのは主として当然だろう?」
いつから部下になったんだ、という疑問はもう浮かばなかった。
レミリアが主で、瀬多が部下。その関係が、二人にとって一番馴染む関係だと、瀬多はどこかで感じていた。
「お前が迷ったら、私が導いてやる。だからお前も忘れるなよ。妖怪に誇りがあるように、悪魔に誇りがあるように、人間にだって誇りがある。自分を貫く信念と誇りさえあれば、たとえ肉体的には雑魚であろうと、そいつは我々と対等の存在だ」
妖怪。悪魔。瀬多は未だ、その種族を完全には理解していない。
だが、彼女達には彼女達のルールがあり、それを守る為に生きていることは理解できた。
命よりも誇りを大切にする種族。瀬多は、その生き様に本物の気高さを見た気がした。
「最近は若い男と話す機会なんてなかったから、なかなか新鮮だな」
「幻想郷に男はいないのか?」
「いるにはいるけど……。あまり楽しくない奴ばっかり。基本的に、弱い人間は相手にしない主義なの」
吸血鬼なんていう種族なのだから、普通はそうなのだろう。
そんなことを思っていると、いきなり胸倉を掴まれ、ぐいと引き寄せられた。
幼いがきめ細かく、美人といっても差し支えないレミリアの顔が瀬多の間近にある。
自分の耳が恥ずかしさで赤くなるのがわかった。
まさか押し倒すではなく、引き倒すという方法で迫られるとは思ってもみなかった。
「ねえ、少しだけ血を飲ませてくれないかしら。久しぶりに男の味を楽しみたいの」
「ご、誤解されそうなことを平然と口にするな! 断る!」
この現場をもしも警官に押さえられたらこっちが一方的に逮捕されてしまう。
慌ててレミリアの上からどこうとするが、彼女の怪力は自分の力でどうこうできるものではない。
「あら、もしかして怖いの? 大丈夫よ。優しくするから」
「だ、だからそういうことを……」
ふと、誰かの視線に気づく。
そこには顔を真っ赤にするアドレーヌとあきれ顔の幽香がいた。
「……言っておくが、公序良俗違反なのはレミリアの方だからな」
言っても無駄だとは思ったが、一応言っておいた。
「ロリコン」
幽香の冷めた口調は、余計に胸に刺さった。
「だ、だから違う! ちゃんと話を聞いてくれ!!」
「ロリコン」
レミリアがにやにやしながら言った。
「お前が言うな!!」
瀬多のツッコミは、屋敷内で虚しく響いた。
「わ、私なにも見てません!! 何も見てませんから!!」
「ま、待て待て! 本当にそんなんじゃないんだ!!」
「ひどい男だな、瀬多総司。なかったことにするなんて。責任の一つも取れないのか?」
「レミリアは少し黙っててくれ!!」
アドレーヌ相手に必死に弁明を続けるが、当のアドレーヌは両手で顔を覆い、耳まで顔を真っ赤にして何も聞いてくれない。
「幽香もアドレーヌに言って聞かせてくれ!」
「嫌よ。何で私がロリコンの肩を持たなくちゃいけないの?」
そう言って、幽香はアドレーヌには見えない位置で、にやりとサディスティックな笑みを浮かべた。
(やばい。レミリアも幽香も、この状況を心底楽しんでる。このままじゃ本当にロリコンになってしまうぞ! どうする瀬多総司!!)
この状況をどうにかしようと必死で考える。
「よ、よし分かった! アドレーヌ!! 分かったからこっちを見てくれ!」
言いながら、瀬多はデイバックから輪ゴムを一つ取り出した。
指と指の隙間から、アドレーヌは瀬多のすることを見ている。
輪ゴムを、人差し指と中指に通した…
アドレーヌに見えない位置で、薬指と小指にも引っかける…
「何やってんの? あんた」
軽く握っていた手を広げると…
輪ゴムが人差し指と中指からはずれ、一瞬にして薬指と小指に移動する!
……ネタが見えるどころか、輪ゴムは飛んでいってしまった。
「わわ! 飛んだ!! 飛んで行った!!」
だがアドレーヌは、「すごいすごい!」とひどく興奮していた。
手品には失敗したが、誤魔化しには成功したようだ。
ふぅ、と額の汗をぬぐった。
「……こんなしょうもない手で逃げ切るとは、つくづく人間は理解不能だわ」
幽香は呆れたように言った。
妖怪や悪魔にとっては、確かにしょうもない手品だろう。人間サイドでも決して凄いものではない。
「……おい瀬多。さっきのどうやったんだ? 私にだけこっそり教えろ」
が、レミリアはかなり興味深々なようだった。
「み、みなさん! ベッドの下!! ベッドの下、見てください!」
飛んでいった輪ゴムの行方を探していたアドレーヌが突然叫んだ。
訝しく思いながらも、三人共言われた通り、ベッドの下を覗き込んでみた。
そこには、隠し扉と言うのもおこがましい、重厚な扉が隠されていた。
金属性のそれは、どう見ても屋敷の様相とは不似合いだ。
「地下への扉か」
「見るからに怪しいわね」
確かにその通りだ。が、クリスタルがこの施設のどこかにある以上、ここが一番可能性の高そうな場所だった。
「悩んでいても仕方がない。入ってみれば分かることだ」
罠だとしてもそれは主催者によるものだ。おそらく殺傷性は皆無だろう。
だからといって油断できるものではないが、入るのを拒む理由にはならない。
ベッドはかなりの大きさだったが、幽香は片手でそれをひっくり返してみせた。もはやそれを驚くこともなかったが。
とにかく瀬多は、その曝け出された隠し扉を開けてみる。
かなりの重さだ。なんとか扉を開けることに成功すると、視界に地下へと続く階段が飛び込んできた。少し薄暗いが辺りが見えない程ではない。奥にはさらに扉があり、堅く閉ざされている。
少しだけ中に入ってみる。
(……暖かい。そういう作りなのか。それとも地下だけ暖房が完備されているのか。どっちにせよ、奇妙なことに変わりはないか)
「瀬多」
突然、幽香に呼ばれた。
「どうした? 何か問題が?」
幽香はこくりと小さく頷いた。
「微かだけど、さっき誰かがドアを開ける音が聞こえた。来客よ」
来客は二人だった。そして、その内の一人は瀬多の知人。
正直に言えば、一番会いたくない人物だった。
「足立……」
「……誰、だっけ?」
「とぼけるな」
「と、とぼけてない! 本当なんだ!! 僕は君を知らないはずだ! どうして僕の名前を知ってるんだ!?」
その白々しい演技に、瀬多は思わず首を振った。
「止めろ、足立。そんな小細工をしたところでもう終わりだ」
瀬多は自分のペルソナ、イザナギを出現させる。
「な、なんだよこれ。映画か何かか?」
「お前を再起不能にする。安心しろ。殺しはしない」
ひぃ、と短い悲鳴が聞こえる。
「お、おい止めろ! 足立は知らないって言ってるじゃないか!」
「魔理沙といったな。そいつは連続殺人犯だ。警察官でありながら、人を殺した悪人だ」
「嘘つくなよ! 足立はあたしを励ましてくれた! そんな奴が人殺しなんかするか!」
瀬多は考える。
このまま強行的に足立を攻撃するか、それとも説得を試みるか。もしも強行に走ったところで、おそらくレミリア達三人は瀬多の言う事を全面的に信じてくれるだろう。
しかし魔理沙はそうはいかない。どうにかして足立が悪党だと信じてもらわなければ彼女との仲違いは一生直せない。
瀬多はペルソナをしまった。
「……俺が経験した事件を語ろう」
瀬多はマヨナカテレビの事件を、掻い摘んで、しかし全容が見えるように説明した。自分達がどうにかして事件を解決しようとしていたこと。足立が連続殺人犯だったこと。その全てを。
「これで納得できたか?」
「……嘘だ」
瀬多は思わずため息が漏れそうになるのを必死でこらえた。
「こんな大それた事件を、俺が即席で考えたっていうのか? もしそんなことが出来たとしても、どうして俺が見ず知らずの足立透を陥れないといけないんだ。いや、そもそも俺が足立の名前を知っている時点で足立は嘘をついていることになる。それだけで疑うには十分過ぎる」
「……参加者のプロフィールが分かる支給品があったのかもしれない。事件の話は、……お前、頭良さそうだしすぐに考えつくだろ。元々考えてあったのかもしれないしな。足立を陥れたのは、あたしのことを知ってるレミリア達がいたからだ」
見当違いも甚だしいが、事実として瀬多は参加者のプロフィールが分かる本を持っている。真実がどうであれ、それはこちらの言い分を不利にしかしないものだ。
「……よく考えろ。俺は足立だけじゃなく、他の参加者の名前を口にしている。そいつらに確認を取ればすぐにでも調べはつく話だ。そんなすぐにばれる嘘をつくメリットが俺にはない」
「どうだかな。そいつらを全員お前が殺してたらばれる心配なんてない」
「せ、瀬多さんはそんなことしません!!」
アドレーヌが叫ぶが、瀬多は魔理沙の言う事も一理あると考えていた。
普段なら魔理沙もここまで瀬多を疑わなかっただろう。だがここは殺し合いの場だ。せっかく出会えた信頼できる人間を頭ごなしに否定されて、血が昇らない人間は少ない。
理で考えて怪しくても、人間は感情で人を簡単に信じてしまう。
その事実を瀬多は軽視し過ぎていた。
瀬多は早くも、最初の接触の仕方を後悔していた。
ふいに、レミリアがため息をついた。
「まったくもってどうでもいい話だな。おい瀬多。とりあえずこいつの両手、折っておこうか?」
「ひいぃ!」
「おいレミリア! お前、こんな男のこと信じるのか!」
「自分の部下が言っていることを信じるのは、主として当然だろう?」
「ふざけんな! こいつはな。咲夜を死んだと勘違いしてて、今回の放送聞いて涙流して安堵してたんだぞ! そんな奴が殺し合いなんて乗るわけないだろ!!」
レミリアの瞳が大きく開かれるのがわかった。
瀬多が慌てて止めようとするが、払われる。
ずかずかと足立の前まで歩いて行き、胸倉を掴む。
「おい。何故咲夜が死んだなんて言った? 殺し合いに乗ってるお前が、どうして咲夜が死んだと?」
レミリアも足立が殺し合いに乗っていると考えている。ならば咲夜が死んだなどという嘘をつく理由は一つしか思いつかない。
「お前、私の部下を襲ったな?」
みるみるうちに足立の身体が宙に浮く。
レミリアはその殺気を押さえようともしない。
「ぐ、ぐるしい……」
「おい! 足立を離せ!!」
走り寄ろうとする魔理沙を幽香が前を塞ぐ。
「お前もか! 幽香!!」
「ええ。少なくとも、今のあなたより瀬多は信用できるわ」
魔理沙は幽香を睨みつけるが、動こうとはしない。まともに戦って勝てる相手ではないことは、魔理沙も分かっているのだ。
「ま、待てレミリア!! 気を静めてくれ!! これ以上は駄目だ!!」
「何故止める? お前がこいつを黒と言ったんだぞ」
「確かにそうだ。今でもそれは変わらない。だが、こいつを再起不能にするのはまだ先だ。魔理沙の誤解が解けてからでないと、いらない確執を生むだけだ」
「悠長だな。こんな分からず屋にかかずらわっている暇が私達にあるのか?」
あるのかないのかと言われれば……ない。そんな余裕などある訳がない。しかし、それでもこの殺し合いで誤解は致命的だ。
ここをないがしろにはできない。
「……それでもだ。主として、俺をたててくれる気があるのなら、ここは手を離してくれ。頼む」
しばらく、レミリアは動かなかった。
が、やがてその腕から足立を離した。
「げほっ! げほっ!!」
「足立! 大丈夫か!?」
せき込む足立。駆け寄る魔理沙。
それを背にレミリアはこちらへと歩いてきた。
「……すまない。レミリア」
「私の判断だ。いちいち謝るな。馬鹿」
レミリアが、自分の怒りを抑えていることは、誰の目にも明白だった。
「これは本来保留するべき問題じゃない。今すぐにでも解決しなければならないものだ。だが、この状況でこれ以上の進展があるとも思えない。だから、妥協案を提案する」
瀬多は、足立を追放することを諦めた。しかしそれは永久にではない。魔理沙をどうにか説得する方法を見つけるまでだ。
「とりあえず、情報交換だ。どうせばれることだから言うが、俺は全員のプロフィールやこの殺し合いについての詳細を知っている」
「ほら見ろ! これで足立に関する情報を知ってた理由もわかった。やっぱりお前は嘘つきだ!」
「いいから聞いてくれ。今俺が言いたいのは、そっちが嘘の情報を持って来ても、俺にはそれが分かるということだ。俺がどれほどの情報を持っているか分からない以上、ぼろがでないためにも魔理沙達は真実を語るしかない。この理屈、分かるな?」
「……不平等だ。お前らは情報の成否を確認出来るけど、あたし達は出来ない」
「こっちの情報源を見せてやってもいいが、それでもお前は信用しないだろ? どうとでも改ざんが出来るとか何とか言ってな。だからこっちも譲歩は出来ない」
しかし、魔理沙達からすれば、この条件は飲む他ない。足立の悪評が流されていると知った以上、魔理沙にとって瀬多達と別行動を取るというのは論外なのだ。戦力的にも劣っているこちら側からすれば、どうしても瀬多達に従わざるを得ないところがあった。
瀬多にとっても、こうなった以上別れればどんな噂を吹聴されるか分からない。足立の問題を抜きにしても、魔理沙達と離れることはかなりのリスクがあった。それになにより、魔理沙の命が一気に危険に曝される。それだけは避けたかった。
「……手を縛れ」
「……何?」
「手を縛れって言ってんだよ。それで一応は信用してやる」
「あなた、少しふざけてるんじゃないの? 手なんか縛ったら襲撃の時どう対処しろって言うのよ」
「それくらいの危険は冒せって言ってるんだ。それで初めてこっちと同等になる」
「あんたねぇ……」
文句を言おうとするレミリアを瀬多は制した。
「いや、いいんだレミリア。魔理沙の言う通りにしよう。ただし、手を縛るのは俺だけだ。それで異論はないな?」
魔理沙は何も言わずに頷いた。
ロープはカーテンを適当に切ったものを代用することにした。
魔理沙が瀬多の腕を縛る。瀬多は少しだけ腕を動かしてみるがぴくりともしない。
自分だけの力でこれをどうにかするのは至難の技だ。
(後ろ手にされてないだけマシか)
アドレーヌが泣きそうな顔で瀬多を見つめていたが、瀬多は「大丈夫だ」と言って微笑んだ。
「瀬多」
幽香が静かに言った。
「奴はあたしが見てる。下手なことしようとしたら迷わず殺すから」
魔理沙がキッと幽香を睨む。瀬多は何も言えなかったが、心の中で感謝した。
「足立。お前がどう思っているかは知らないが、この殺し合いは異常だ。俺達の力を遥かに上回る奴らで溢れかえっている。分かるな? 俺達は協力すべきだ。そうしないと、俺も、お前も、生き残れない」
足立は一瞬、ほんの一瞬だけ、逡巡するような顔を見せた。
「まだ言ってるのか! 足立はそんな奴じゃない!!」
「ただの保険でしょ。こっち側の主張は『足立が殺し合いに乗っている』なんだから、これくらいのこと許容範囲でしょうに。いちいちがなりたてないで頂戴。耳に響くわ」
そういった駆け引きを、魔理沙は一切する気がない。彼女の言い分は、足立は良い奴。足立を悪とする瀬多は悪い奴。
その主張を一切譲る気がないのだ。なまじ頭が働くためにかえって厄介といえる。
「じゃあ、情報交換を始めるぞ」
こうして、最悪な空気の中で情報交換は始まった。
瀬多としては、足立に喋らせる機会を設けることでどうにかぼろを出しはしないかと期待していたのだが、実際はそんな楽観的なことにはならなかった。
足立の話に無理はなかったし、攻略本から得た知識と照らし合わせても、どこにも矛盾はなかった。当然、足立が善良な警官だということを除けば、だが。
(タケシを殺したのは足立で間違いない。温泉でも、他の二人と共闘、もしくは混戦になって咲夜を襲ったと見てまず間違いないだろう。だが、それを立証することはできるのか? 現段階でそれができる方法といったら、咲夜とコンタクトを取ることくらいしかない)
しかしその咲夜も、おそらくは重傷を負っているに違いない。足立が死を確信したくらいだ。無傷ということはないだろう。そうなると、ぎりぎり放送は迎えられたが、それからすぐに死んでしまったという可能性も否定できない。
ちらりとレミリアを見る。が、彼女は堂々と腕を組んで立っていた。
(俺をたたせる、か)
言葉はない。しかしそれでも、瀬多はレミリアからの信頼を肌で感じ取っていた。
あのレミリアが、自分の意思を曲げてまで付き合ってくれている。ならばこんなところで諦める訳にはいかない。
(発想の転換が必要なのか? 理詰めではなく、どうにか感情論で足立を悪としてしまえば──)
「シャンハイ」
考え事をしていると、瀬多の眼前に奇妙な人形が映った。
思わず仰け反りそうになる。が、彼女が意思を持っているという魔理沙の説明を受けてどうにか納得する。
上海人形が慌ただしそうにジェスチャーを繰り返す。自分に何かを伝えたいのだということが何とか分かった。
「……霊夢が、サカキに洗脳されたんだ」
魔理沙がぼそりと呟いた。
「霊夢って、あの霊夢か」
レミリア達から話は聞いている。イゴールの存在がなければ、この殺し合いの中でも最重要人物だといえるだろう。
「洗脳? どういうことだ?」
レミリアが尋ねるも魔理沙は首を振った。
「あたしも詳しくは知らない。ここに来る前にサカキを探したけど……見つからなかった」
「詳しい状況を聞かせてくれ。霊夢は最初どんな感じだった?」
瀬多は上海人形にだけ集中し、少しずつだが情報を集めていく。
少し時間はかかったが、おおよその状況を把握できた瀬多は、思わずため息をついた。
上海人形が紙を掲げる。助けて、と汚い字で書かれてあった。
「……霊夢は、……今は助けない」
「シャ、シャンハーイ!」
「なんでだよ! 霊夢は今も苦しんでるかもしれないんだぞ!!」
「サカキといったな。そいつは……危険過ぎる。この殺し合いの中で、俺が考え得る最も危険なタイプの人間だ。
人を扇動し、自分を祭り上げるだけの何かを奴は持っている。それはつまり、この殺し合いの中でも組織を作れるだけの技量を持っているということだ。
この殺し合いは、乗った人間でもチームを組んでいる奴が目立つ。全体の流れとしてそうなれば、必然他の奴もチームを作る。そんな状況の中でサカキのような奴がいれば、どれほどの戦力をもつか分かったものじゃない。奴の最も危険な素質。それは……カリスマだ」
幽香とレミリアがぴくりと反応する。
「カリスマは時に、人を恐ろしいほどに魅了する。戦力が揃っているとはいえ、俺達には荷が重い相手だ。もう何人か他に部下を揃えているかもしれない」
「ふん。私に比べれば、その男のカリスマなんて薄っぺらなものだろうがな」
レミリアが鼻で笑う。
しかし、瀬多からすればその逆だ。レミリアよりも、サカキの方が人の上に立つという意味では優秀な存在だと瀬多は考えていた。
レミリアのカリスマに自分が惹かれていることは事実だ。しかし、それでもそこには種族として決定的な差がある。元来妖怪や悪魔は一人で生き、一人で死ぬ種族だ。吸血鬼ともなれば主従関係を結ぶことも多いだろうが、それでも人間のように社会で生きているわけではない。
サカキは人間だ。社会という常に優劣を比べられ、能力のある者が伸し上がる資本主義の中で生きてきた人間だ。
カリスマとは単純な主従関係ではない。組織を作り、その全てを統率する意思と力がカリスマなのだ。
レミリアにそれがないとは言わない。だが、組織を束ねる力はサカキの方が圧倒的に上なのは間違いない。
「……とにかく、俺はそのサカキとは停戦する形が妥当だと思う。聞けばなかなか頭が回るようだし、おそらくは短絡的に優勝を狙っているわけでもないだろう。こちらが脱出の目途さえつければ、向こうも乗って来るに違いない。霊夢はその時に助け出せばいい」
「そんな悠長な考え方で霊夢が助け出せるとは思えない。今すぐどうにかするべきだ!」
「そう言うが、サカキのいる場所が見つからなかったからこっちに来たんだろう? まずどうやってサカキを見つけ出す気だ?」
「そ、それは……」
瀬多の正論に、魔理沙も言葉を濁した。
「奴が霊夢を生かしたのは、部下が欲しかったこともあるだろうが、彼女を脱出の鍵とみているからだ。だから殺さない。いや、殺せない。
カルト宗教の真似事も、奴にとっては一種の賭けだったんだろう。自分を敵対視するが殺せない人間。それをどうにか黙らせる必要があった。サカキがとった苦肉の策はうまくはまったが、もしも失敗すれば彼女は殺されていただろう」
殺されていた。その一言に魔理沙も上海人形も肩を震わせた。
「……言い方が悪かった。とにかく、霊夢が現段階で殺されていないということは、サカキに彼女を生かす意思があるということだ。魔理沙。気持ちは分かるが、あまり短絡的に物を考えるな。死期を早めるだけだぞ。こういう時こそ落ち着いて──」
「おいレミリア! それに幽香も! お前ら霊夢とは仲が良かっただろ! 一緒に来て助け出してくれよ!!」
「興味ないな」
「同じく」
「なっ!」
二人の返答はあまりにも冷めたものだった。
「自分の尻も拭えない奴を助けに行く義理はない。それに、サカキとかいう奴の犬にされているんだろ? そんな奴に助け出す価値があるとは思えないな」
「私も概ねそこの吸血鬼と同感よ。まあそれに、こいつらを守ってやるっていう一応の理由もあるしね」
「ああ、私もだ。それ、私も」
「真似しないでよ」
「そっちこそ」
「いい加減にしろ!!」
喧嘩に発展しそうになったところを魔理沙が一喝した。
「価値があるとかないとか、そんな簡単に決めんなよ! 命だぞ!? 人一人の命がかかってんだぞ! どうしてそんな冷酷でいられるんだ!!」
「魔理沙。落ち着け。その二人は何も間違っていない。ただ、俺達と価値観が違うだけだ。俺達よりも遥かに長く生きているんだから、命そのものに執着が薄くなるのは仕方がない」
人と違い、一人でも生きていくことが可能な二人。それは当然、自分以外の生命を軽んじることに繋がる。
未だ短い付き合いだが、瀬多はそのことを感覚的に理解していた。彼女達は冷酷なわけではない。ただ他人に興味がない。それだけだ。
「ふん。幻想郷に住むお前なんかより、よっぽどよく分かってるじゃないか」
「ま、理解力があることは認めるわ」
「素直に欲しいと言ったらどうだ? まぁ、あげないけど」
「主ごっこなんてするほど子供じゃないって何回言えばわかるのかしら?」
再び喧嘩が始まった。
魔理沙も、もう止める気すら起きないようだった。
「魔理沙。全員が生きてここから脱出するための提案だ。霊夢のことは──」
「お前に指図されるいわれはない!」
魔理沙はぴしゃりと言い放った。
「……本当に、なんとかならないんですか?」
今まで黙っていたアドレーヌが、瀬多の袖を引っ張って言った。
「アドレーヌ……」
「サカキさんを倒すことはできなくても、どうにか霊夢さんだけでも取り返すことはできないんでしょうか」
「無理とは言わない。だが、危険過ぎる。霊夢は本気でサカキを神だと思っているんだろう。なら、いくらこっちが理を説いても、彼女はおそらく乗ってこない。
……ただの人質なら、俺だって諦めようなんて言わない。だが、こちらに対し、本気で殺しにかかってくる人間を捕獲しようってなれば、必ず死傷者が出る。それだけは避けたい」
アドレーヌはそれで黙ってしまった。自分が戦うわけじゃないのだ。無責任にそれでも救い出しましょうなんて言えるわけがない。
「魔理沙ちゃん。あの──」
足立の鼻先すれすれに幽香の蹴りが飛ぶ。その蹴りは壁を突き抜けていた。
「喋るな」
「お、おい幽香!!」
「あら、ごめんなさい。ゴキブリがいたものだから」
「今あきらかに喋るなって言っただろうが!! 次やったら許さないからな!」
「……許さない? 許さないから何だって言うの? まさか、あんた私を倒せるとか思ってる訳? はっ。笑っちゃうわね」
魔理沙は見るからに歯噛みしている。
悪い傾向だ。ますますこちらとの溝が深まる。
「幽香。挑発は止めてくれ。これ以上関係が悪くなるのは双方の為にならない」
「相手の為になる必要なんて私にはないんだけどね。……まあいいわ。仕切りはあんたの役目だし」
そう言って幽香は大人しく引き下がる。
だが、そのこと自体が魔理沙には気に入らない。
「……なんなんだ。幽香もレミリアも、どうしてこんな奴の言う事を真に受けて、あたしを信じてくれないんだ」
同じ幻想郷の住人同士、どこか通じ合うところがあると信じていた。なのに、レミリア達は瀬多にばかり肩を持つ。
苛々するなと言う方が無理な話だ。
「お前ら、そんな奴らじゃなかったろ。大した力もない人間なんて、どうとも考えないような奴らだったじゃんか。まともに相手してる人間なんて霊夢くらいのもんだったろ!? なのにどうしてそんな奴を信じるんだよ!」
「そろそろ鬱陶しいわよ、霧雨魔理沙。あなたの勝手な解釈で私を縛らないで頂戴」
それは魔理沙にとって、決別を決定的なものにさせる一言だった。
(こいつら妖怪なんて所詮そんなもんだ。結局誰が死のうが知ったことじゃないんだ。信じれるわけがない。こんな奴らに信用されてる瀬多もだ。
そうだ。こいつは信用できない。こいつは……あまりにも冷静過ぎる。落ち着き過ぎている。こいつの話が正しいなら、こいつの仲間は今もどこかで危険に曝されているかもしれないってことじゃないか。
なのにどうだ? こいつの余裕は。あたしはずっと気が気じゃなかったっていうのに。今もこんなに焦ってるのに。全然そんな素振りを見せない。
焦るのが普通じゃないのか。仲間が、本当に仲間がピンチなら、焦ってすぐにでも助けに行こうとするのが普通じゃないか。こんな奴が信用できるはずがない!)
「魔理沙。俺を信じろとは言わない。だが、いい加減冷静になってくれ。ここでいがみ合っていてもなんにもならない」
「あたしに指図するなって言ってるだろ! お前は冷血漢だ。卑劣で、仲間なんて何とも思ってない悪魔だ! そうやって足立を貶めて、今度はあたしも──」
「訂正してください!!」
アドレーヌが一際大きな声で叫んだ。彼女らしからぬ、怒気さえ含んだ叫びだった。
「瀬多さんはそんな人じゃありません! お友達が殺されてないってわかって、本当に安心んしてたんです。こんな、何もできない私のことだって心配してくれたんです。
そんな人を、そんな優しい人を疑うなんてもう止めてください! 瀬多さんはみんなを助けようと必死なんです!」
「……アドレーヌ。もういい。もういいから」
「こんな私でも、できることがあるって。一緒にいてほしいって本気で言ってくれたんです。みんなの気持ちになって、一緒になって悩んでくれる本当に優しい人なんです。
なのにどうして信じられないんですか! 瀬多さんは、あなただって救おうとしてるんですよ!?」
アドレーヌの必死な訴えに、さすがの魔理沙も目を背けざるを得なかった。
「……アドレーヌ。少し落ち着きなさい」
懸命に涙を堪えていたアドレーヌの肩に幽香は優しく触れる。
途端に、涙が止め処なく溢れてきた。
「……どうして、みんな仲良くできないんですか。私たちは、みんな同じ気持ちなのに。……なのに、なんで……、なんで疑い合わなきゃいけないんですか」
アドレーヌは、まるで子供のようにむせび泣いた。
(……あたしだって、泣きたい気分だよ)
魔理沙は心の中で呟いた。
足立が何か言おうと口を開きかけたが、幽香の人を殺しかねない睨みに一蹴された。
結局、情報収集では何の進展もなかった。
瀬多がイゴールについて話し、殺し合いは攻略できると強く主張したが、それは魔理沙の「信用できない」という言葉で一蹴された。
足立は足立で、何を考えているのか瀬多には読めなかったが、大した変化はないように思えた。
二つのグループの険悪感は変わらず、状況も何も変わらず、今はただ沈黙だけが流れていた。
ドクン
突然、瀬多の右腕が脈打った。
「ぐ……!」
「瀬多。どうかしたか?」
右手の紋章がじくじくと痛み出したのだ。
どうやらさっさと行動しろと急かしているらしい。こんな状況で動き回るのは得策ではないが、こうなっては仕方がなかった。
「紋章がうずき出した。もう少しお互いの気持ちを整理してからにしたかったが、仕方がない。今からクリスタルを回収する」
瀬多はそう言って立ち上がる。
「魔理沙。……それに足立。悪いがお前達にも同行してもらう」
足立はもとより反論するつもりはないらしく、大人しく頷いた。それを見て、魔理沙も渋々ながら頷いた。
「おい瀬多。おんぶ」
行動時はおんぶしてもらうということが定着しているのだろうか。レミリアは恥ずかし気もなく言った。
「……この手でそんなことが出来る筈ないだろ。それに、もう十分回復しているように見える」
「関係ない。私がやれと言ったなら、素直に実行するのが部下の務めだろう?」
「そう言うがな。無理なものは無理なんだ」
「無理を押し通すのが私の部下だ。やらないと私を襲おうとしたこと全員にばらすぞ、ロリコン」
「襲ってない! あれはお前が──」
「私が何?」
瀬多は言葉を濁し、大きく空咳をする。
まさか襲われたのが自分だとも言えない。
「まぁ何も言えないわよねぇ。欲情していたのは事実だし」
(おいレミリア! いい加減にその話題は止めてくれ! ただでさえ魔理沙に疑われてるっていうのに、余計に不審感が強くなる)
そろそろ視線が痛くなってくる頃だ。
「あーはいはい。止めてあげるわよ、しょうがないわね。じゃあ、はい」
「何だその手は」
「おんぶ。まさか何の対価もなしに自分の要求だけ通そうなんて思ってないわよね?」
「…………」
瀬多は大きくため息をつき、レミリアに背中を貸してやった。
地下への扉を潜り、六人は階段を降りて行った。幽香とアドレーヌはしんがりを務め、レミリアを担いだ瀬多が前を歩く。
魔理沙は、瀬多達が冗談を言ったり言われたりしているのを見て、彼らが本物の信頼関係を築いているのだと感じた。
(……ふざけんな。瀬多の奴がいったい何をして信頼を得たのか知らないが、あたしがそれを認めるわけにはいかない)
階段を降り、扉を開ける。
そこには数十メートルほどの通路があり、その奥に三つ目の扉が立ち塞がっていた。
今までのものよりも一層頑丈なようで、扉の厚さも先程までのものと比べると倍以上ある。
「この奥に一つ目のクリスタルがあるんですか?」
「おそらくは」
「蒸し暑いな。もう水もないってのに」
魔理沙がぶつぶつと独り言を呟く。
瀬多は、奥の扉へと近づき、それを開けようと力を入れた。
…………
開かない。
扉はびくともしなかった。
「どういうこと? 何かこの扉を開ける方法があるわけ?」
「そんなもの攻略本には載ってなかったが……。何らかのアイテムが必要なのか?」
調べると中央にモニターがあることが分かる。しかし用途は不明。
(……これは明らかに通信手段の一つとして設置されている。どこか他の施設と連絡を取り合えるということか? それとも……)
レミリアが瀬多の背中から降り、扉に手をかける。
「……僅かながら魔力を感じる。恐らくは結界のようなものが張ってあるんだろう」
「どうにかできないのか?」
「そういうデリケートな魔力操作は不得意だ。私も、そっちの自称最強の妖怪もな」
そう言われれば妙に納得するところがある。レミリアも幽香も、性格的にも能力的にもパワータイプだ。そういうことに関して門外漢の瀬多でも、彼女達は結界を作ったり解除したりするには向いていないと感じる。
しばらくの間、押したり引いたりと扉を入念に調べていたが、結界を破壊できる方法は見つからなかった。
三十分ほど調べ、さてどうしようかという話になった時だった。
グゥ〜〜
奇妙な音が通路に木霊し、魔理沙が顔を赤くする。
それを見て、瀬多はふっと微笑んだ。
「そういえば、色々とごたついていて朝食もまだだったな。ここで少し食事を取るか」
「契約の方はだいじょうぶなんですか?」
「ああ。地下に入ってからは落ち着いている。しばらくは大丈夫そうだ」
瀬多の提案に魔理沙が反対できる訳もなく、それはすぐに可決された。
食事時だけという条件の元、瀬多の腕も一時の自由を得て、それぞれ支給されたパンを取り出した。
「……まず。なんだよこりゃ」
魔理沙の呟きに呼応して、瀬多も一口食べてみる。
……確かに味気のないパンだった。
「この私にこんなものを食べさせようなんて、主催者はやっぱり殺さなくちゃいけないわね」
まさかそんな理由で殺意を向けられるとは主催者も思っていなかっただろう。
「街に行ったら材料くらいはありそうですよね」
「肝心の作る奴がいないけど」
「料理なら得意だ」
「へぇ。瀬多さんってなんでもできるんですね」
「知ってるぞ、瀬多。そういうのをそっちの世界で番長と言うんだろう?」
「言わない」
「番長ですか。かっこいいですね」
「いや、言わないんだって」
「照れることないじゃない」
「照れてない! 本当に言わないんだ!」
「ロリコン番長」
「いい加減その話題から離れてくれ!!」
四人揃って雑談に花を咲かせている。あの幽香でさえもその輪の中に入っていた。
その輪の中心にいるのは、間違いなく瀬多総司だった。
(……わかってたんだ。本当は、あいつが悪い奴じゃないってことくらいは。けど、あたしが霊夢のことが心配で浮足たってるってのに、大して年齢も離れていないあいつは落ち着き払ってた。冷静で、自分が何をすべきかを全部分かってた。
……あたしは、焦ってたのかもしれない。足立を罵倒されて、変な対抗意識を燃やしてたのかもしれない。
よくよく考えれば、足立よりも瀬多の方が理屈に合ってる。足立が嘘をついてると考えた方が自然だ。……でも、それでもあたしは信じたい。足立を信じたいんだ)
この場所は本当に喉が渇く。
魔理沙が、自分のペットボトルに少しでも水は入っていないかと飲み口を下に向ける。だが、そこからは一滴も水は流れてこなかった。
魔理沙は思わずため息をついた。
「よければやろうか?」
その一部始終を見ていた瀬多が、魔理沙に声をかけた。
「……別にいらない」
「ちょうど開封していないやつが余っていたんだ。こんなところで意地張って、肝心な時に調子崩したら元も子もないぞ」
そう言って、瀬多はペットボトルを投げ渡す。
「……なんで余ってんだよ」
それを片手で受け止めながら、そう返した。どうしても険のある言い方になってしまう。
「……大勢、死んだからな」
魔理沙は、そう言って目を逸らす瀬多を見て、ようやく理解した。
瀬多は、強くなければいけなかったんだ。遠くの仲間よりも、目の前の仲間を優先しないといけないほど、追い詰められた状況にいたんだ。
魔理沙は思った。このクリスタルを手に入れたら、少し冷静になって考えてみよう。足立の行動、言動、それらをもう少し客観的に見てみよう。
そう思い、ペットボトルの蓋を開け、口にしようとした時だった。
「待て」
制止の声がかかり、魔理沙は口元まで近づけたペットボトルを止めた。
「なんだよいきなり」
「開封した時の音がしなかった」
「あぁ?」
「キャップとリングの接合部分が千切れる音がしなかった。俺はそのペットボトルには口をつけてない。元の持ち主もだ」
「……その元の持ち主がお前の気付かないところで飲んでたんじゃないか?」
「よく見ろ。水は減ってない」
全員が、その異様な空気にしんと静まりかえっていた。
「……飲もうと思って開けたんだけど、飲まなかった……とか」
魔理沙の言葉を半ば無視して、瀬多は彼女に渡したペットボトルを回収した。
「俺には、むしろ水かさが増えているような気さえする」
タプンタプンと揺れる水を凝視する。
ちょうど、隅に鼠がいることを確認すると、瀬多はそこに水を流した。
鼠が寄って来て、それを一口舐める。
途端、そのネズミは身体を痙攣させ動かなくなった。
四人揃って雑談に花を咲かせている。あの幽香でさえもその輪の中に入っていた。
その輪の中心にいるのは、間違いなく瀬多総司だった。
(……わかってたんだ。本当は、あいつが悪い奴じゃないってことくらいは。けど、あたしが霊夢のことが心配で浮足たってるってのに、大して年齢も離れていないあいつは落ち着き払ってた。冷静で、自分が何をすべきかを全部分かってた。
……あたしは、焦ってたのかもしれない。足立を罵倒されて、変な対抗意識を燃やしてたのかもしれない。
よくよく考えれば、足立よりも瀬多の方が理屈に合ってる。足立が嘘をついてると考えた方が自然だ。……でも、それでもあたしは信じたい。足立を信じたいんだ)
この場所は本当に喉が渇く。
魔理沙が、自分のペットボトルに少しでも水は入っていないかと飲み口を下に向ける。だが、そこからは一滴も水は流れてこなかった。
魔理沙は思わずため息をついた。
「よければやろうか?」
その一部始終を見ていた瀬多が、魔理沙に声をかけた。
「……別にいらない」
「ちょうど開封していないやつが余っていたんだ。こんなところで意地張って、肝心な時に調子崩したら元も子もないぞ」
そう言って、瀬多はペットボトルを投げ渡す。
「……なんで余ってんだよ」
それを片手で受け止めながら、そう返した。どうしても険のある言い方になってしまう。
「……大勢、死んだからな」
魔理沙は、そう言って目を逸らす瀬多を見て、ようやく理解した。
瀬多は、強くなければいけなかったんだ。遠くの仲間よりも、目の前の仲間を優先しないといけないほど、追い詰められた状況にいたんだ。
魔理沙は思った。このクリスタルを手に入れたら、少し冷静になって考えてみよう。足立の行動、言動、それらをもう少し客観的に見てみよう。
そう思い、ペットボトルの蓋を開け、口にしようとした時だった。
「待て」
制止の声がかかり、魔理沙は口元まで近づけたペットボトルを止めた。
「なんだよいきなり」
「開封した時の音がしなかった」
「あぁ?」
「キャップとリングの接合部分が千切れる音がしなかった。俺はそのペットボトルには口をつけてない。元の持ち主もだ」
「……その元の持ち主がお前の気付かないところで飲んでたんじゃないか?」
「よく見ろ。水は減ってない」
全員が、その異様な空気にしんと静まりかえっていた。
「……飲もうと思って開けたんだけど、飲まなかった……とか」
魔理沙の言葉を半ば無視して、瀬多は彼女に渡したペットボトルを回収した。
「俺には、むしろ水かさが増えているような気さえする」
タプンタプンと揺れる水を凝視する。
ちょうど、隅に鼠がいることを確認すると、瀬多はそこに水を流した。
鼠が寄って来て、それを一口舐める。
途端、そのネズミは身体を痙攣させ動かなくなった。
「ひっ!」
「全員距離を置いてその場を動くな!! いいな! 全員だぞ!」
皆が皆、動揺や訝しさを隠せずにいた。
「幽香」
その一言で幽香は察した。首を横に振る。
「……一切目を離してなかったわ。小細工する時間なんてなかった」
「魔理沙! 足立から離れろ!! アドレーヌと幽香もだ!!」
戸惑いながらも、全員が瀬多の言う通りに動く。
「どういうことだ、瀬多。説明しろ」
「俺にも分からない。だが確かなことは、この中に毒を入れた犯人がいるってことだ。それが分かるまで誰とも接触するな」
努めて冷静に、瀬多は言った。しかしその内心は困惑とパニックで一杯だった。
(何だ。何がどうなっている。この状況でこんなことが起こるなんて、有り得ないはずなのに)
足立がこの段階で事を起こすなんて考えられない。ただでさえ自分が疑われている状態で、さらに自分の立場を危うくするようなことをするはずがない。
魔理沙もそうだ。毒を入れておいて、自分でその水を飲もうとするはずがない。
(となると、……犯人は、俺達の中にいるということになる)
俺達。それは、瀬多、レミリア、幽香、アドレーヌ。この四人だ。
有り得ない。
それだけは有り得ない。
状況的には確かに出来ただろう。誰にでも毒を入れる機会はあったように思える。
毒を持っていたアドレーヌは無論そうだし、幽香やレミリアだってバックからこっそりと取り出して毒を入れることは可能だ。
しかし、それは有り得ない。そう思えるだけの信頼関係がある。
あの窮地を共に脱したという信頼関係は、限りなく強固なものだ。多少の疑心ならともかく、毒を入れるなどという離反行為をこの四人の誰かがするはずない。
(くそっ! 考えがまとまらない。どういう風に考えればいいのかも見当がつかない!)
足立も魔理沙も毒を入れることはまず不可能。
かといって、アドレーヌやレミリア、幽香も毒を入れるなんて考えられない。
しかしどこかに犯人はいるはずなのだ。有り得ないなどと言っていられない。何故なら、実際にそれは起こったのだ。
「……お前だな、瀬多」
魔理沙の声だ。しかし、瀬多は片手を額に添え、地面を睨みつけるだけだ。
「このペットボトルはお前があたしに渡した。お前以外に誰が毒を入れれるんだ!」
「私の部下を疑うことは、私を疑うことと同義だぞ。霧雨魔理沙。それに、瀬多が入れたのならわざわざ止める必要もない。今頃お前はあの鼠のように転がっていたはずだ」
「途中で思いなおしたのかもしれない。あのまま殺してたらボロが出るって考えたのかも。そうだよ。きっとそうだ!!」
「ち、違います! 瀬多さんはそんなことしません!」
「じゃあ誰が毒なんて入れたんだよ!!」
一瞬ひるみ、しかしすぐに口を開ける。
瀬多はアドレーヌが言わんとすることを理解し、思わず顔をあげた。
「よせ!! アドレーヌそれは──」
「わ、私が毒を持ってました。だから、一番に疑われるべきは私です!」
再び、静まり返る。
瀬多は思わず自分を殴りたくなった。
最悪の状況だ。これが最悪といわずして何と言う。
「……お、お前が殺したのかよ。無害そうな顔して、なんて奴だ……」
足立がアドレーヌから離れるために後ずさる。
「ち、違います! 私は……」
「違うって、何が違うんだよ。魔理沙ちゃんを殺そうとしておいてよくそんな──」
突然、幽香がつかつかと足立に向かって歩き出した。
「ま、待て幽香!! 早まるな!!」
瀬多の制止も聞かず、幽香は足立の胸倉を掴み、そのまま壁に叩きつける。
「がぁ!!」
「もう一度言ってみろ糞餓鬼」
「足立を離せ! 人殺し!!」
魔理沙の指先に光が収束する。それが魔理沙の攻撃だと理解するのに時間はいらなかった。
「魔理沙!! 止めろ!!」
「幽香さん!! 私はだいじょうぶだから! だから落ち着いてください!!」
止められない。
言葉を紡いだところで止められるものではない。
レミリアも幽香や魔理沙を止める気はないようだった。
当然だ。レミリアからすれば犯人でないと確信できるのは自分とその部下である瀬多総司。他の四人は等しく毒を入れた可能性があるのだ。ならばどちらに加勢することもできない。ただ黙って成り行きを見守るだけだ。
(ここで魔理沙に幽香を攻撃させる訳にはいかない!)
幽香との決別が確実となれば、待っているのは惨劇だけだ。
瀬多はとっさに走り出していた。
魔理沙の指から、弾幕が発射された。
「……瀬多」
魔理沙と幽香、その間に割り込んだ瀬多が倒れていた。
「……はっ。はっはっは。ああ、そうか。魔理沙。お前、そんなに……殺 さ れ た い の か」
紅く光る槍が形作られ、レミリアの手に収まる。
それを見て思わず退く魔理沙に何の躊躇もなく、その槍先を向ける。
ぎらつく瞳は、明らかな殺意を魔理沙に対して向けていた。
「私はもう部下を殺させないと誓った。それは契約だ。分かるな? 魔理沙。悪魔にとって契約は命よりも大事なものだ。貴様は私の吸血鬼としての尊厳を穢した。万死に値する」
その槍が投擲されようとする時だった。
「……て。……ま、て。レミリア」
ぴたりとレミリアの動きが止まる。
ごほっ、ごほっ、とせき込みながらも、瀬多はよろよろと立ち上がった。
「俺は……生きてる。だから、魔理沙に手を出すのは待ってくれ」
瀬多が生きているのは幸運故だった。保険として腹にナガンを仕舞っておいたのが、うまく弾幕に当たって衝撃を吸収してくれたのだ。
おかげでナガンは使いものにならなくなったが、瀬多は軽い打撲程度で事なきを得た。
「あ……」
「命拾いしたとでも思ってるのか? 霧雨魔理沙」
レミリアの槍が魔理沙の喉元をかすめる。
「貴様が私の部下に手を出した事実は変わらない。このまま縊り殺してやってもいいんだぞ」
その白い腕を魔理沙の首へと伸ばす。が、それは瀬多の手によって防がれた。
「レミリア頼む。俺の言う事を聞いてくれ」
これ以上事を荒立てる訳にはいかない。
レミリアの殺意さえ秘めた睨みに一瞬怯むも、それでも目を離さずにじっと見つめる。
「これ以上いざこざを起こす必要はない。誰も得をしない、何の意味もない行為だ。俺は生きてる。それで十分だろ」
レミリアは瀬多の腕を払いのけると、そのまま魔理沙から少し離れたところで腕を組んだ。
「全員俺の言う事を聞けッ!! 幽香もその手を離すんだ!」
「お前の指示に従う義理はない」
瀬多はイザナギを出現させ、幽香の足元に雷を放つ。
攻撃を当てるつもりはない。ただの牽制だ。
幽香が瀬多を睨みつける。
「……何のつもり?」
「いい加減冷静になれって言ってるんだ! ここで戦闘になったら、お前でもアドレーヌを守りきれるか分からないぞ!!」
全員を見回し、瀬多はあらん限りの声で叫ぶ。
「全員だ! 全員離れろ! 相手の攻撃範囲から離れた場所に移動するんだ!!」
幽香は舌打ちすると、足立から手を離してそのまま距離を取った。
「げほっ。げほっ。……ったく、冗談じゃないよ。こんな──」
「それ以上喋ったら殺す」
幽香の鋭い恫喝に、足立は黙り込んだ。
全員がそれぞれ離れた場所に移動した。しかしそれは冷静な判断があったからかといわれるとそうではない。全員が全員疑心暗鬼に捉われている。
だがここで乱闘を起こすことは誰にとっても得策ではなかった。いつ誰が襲ってくるか分からない状況。その中で瀬多の言い分が自分達の目的と重なったから実行しただけ。殺されたくない。ただそれだけの理由。
「皆、とりあえず落ち着いてくれ。このままだと本当に死人が出る」
「そ、そんなこと言って……お前が犯人なのは、わ、分かってるんだ」
がたがたと震えながら魔理沙が言う。
「いいから落ち着くんだ。俺はなんともない。大丈夫だった。仮に俺が犯人じゃなかったとしても、お前を恨んだりなんてしない。だから、短絡的にならないでくれ」
魔理沙は人を撃った。下手をすればそれは死んでいてもおかしくなかった。魔理沙に人間を殺した経験などあるはずもない。だったらその攻撃に正当性を持たせようとするのは必然だ。魔理沙は既に、瀬多総司が悪だという妄想に捉われていた。
「嘘だッ! そんなの嘘だ!! お、お前が……あたしを殺そうと……」
埒があかない。
瀬多は何とかこの場を収め、犯人探しに尽力したかった。だが、魔理沙が自分を犯人だと決めつけてしまっている今、自分がこの場を取り仕切るのは無理があった。
「あ、あたしはお前の言う事なんか聞かない! いつまた寝首をかかれるかわかったもんじゃない! あ、あたしは……あたしは……」
「分かった」
そう言葉を発したのは瀬多ではなく、レミリア・スカーレットだった。
「お前がそれほど言うのなら、ここは私が取り仕切る。全員その場を一ミリたりとも動いてみろ。この私が直々に地獄へ招待してやる」
槍を掲げ、自らの力をアピールするように笑う。
それは取り仕切るというにはあまりに乱暴な発想だが、それ故に強制力が高いものだった。
「霧雨魔理沙と足立透。貴様らは毒を入れる機会がなかった。そうなれば我々四人の中の誰かが犯人だということになる」
滔々とレミリアは語る。
「が、私は、風見幽香は犯人ではないと確信している。奴は私と同類だ。毒なんていうふざけたもので誰かを殺めたりすれば、妖怪としての品位を下げることになる。それは我々にとって命よりも大切なことだ。よって、奴は犯人じゃない。
……おい瀬多総司。お前は犯人じゃないんだな?」
「……ああ。誓って犯人なんかじゃない」
「ならばそれも信じよう。部下の言う事を信じるのは主として当然の事だからな。……となれば、私の中で犯人は一人しかいなくなってしまう」
思わず、アドレーヌは身を縮こまらせた。
それを見てレミリアはにやりと笑う。
「そう怖がるなよアドレーヌ。だからといって、短絡的にお前を犯人だと決めつけ、殺しにかかるなんてことはしない。そもそも、風見幽香からしたら私と同じ理屈で犯人を瀬多総司に絞っているはずだからな」
レミリアの言う通りなのだろう。幽香はじっと瀬多を見つめていた。
「ならばここでクエスチョンだ。一体誰が犯人なのか。幽香は私とアドレーヌは犯人ではないと確信しているし、私は瀬多総司と幽香は犯人ではないと確信している。
おそらくアドレーヌは犯人を私に絞っているだろうし、瀬多は……まぁ、どうせ混乱してるんだろう? 甘ちゃんのお前らしいよ」
クックと、まるで今のこの状況を楽しんでるかのように笑った。
「というわけで、私は探偵役を降りる。誰もかれも犯人では有り得ないと考えられるのなら、そこから犯人を割り出すのは……まぁ、はっきり言ってめんどくさい。だからここは私の一押し、ワトソン君に解決してもらおうじゃないか。誰とは言わんがな」
「瀬多なんかに任せてられるわけないだろ! また何かしでかしてくるに決まってる!!」
「む? 何故瀬多だと気付いた?」
あれで気づかれないと思っていたのか。冗談で言ってるのか本気で言ってるのか、まったく分からない。
「……まあいいか。いちいち了解を取る必要もないことだしな。というわけだ、瀬多。ワトソン役として、見事この謎を解き明かしてみろ」
結局はそこに辿り着くのか。瀬多は頭を抱えたくなった。
「ふざけるな!! あたしはあいつが犯人だと思ってるんだぞ! こんな奴に──」
「ならばお前がそれを立証してみせればいい。今この場を仕切っているのは私だ。その私が、瀬多総司に探偵役をバトンタッチした。これに意義を唱えるのは、この私に盾突いていることと同義だぞ」
めちゃくちゃな発想だ。だが、魔理沙は何も言えない。この場でレミリアを敵に回すのが自殺行為だということを魔理沙は理解しているのだ。
魔理沙だけではない。足立も、幽香も、それを理解している。
図らずも、この場は戦力的に拮抗していた。幽香が自身の直感を信じて瀬多に攻撃を仕掛ければ、レミリアがそれを迎撃する。逆もまたしかりだ。だが、それは二人にとって最も避けたい出来事だ。
レミリアに、先程までのおちゃらけた言動や表情は消えた。じっと瀬多を見つめるその真摯な瞳は、彼女の本気の心が確かにあった。
「瀬多。しっかりしろ。誰も死なせたくないのなら、お前がこの事件を解決するんだ。……信用してるぞ」
それっきり、レミリアは黙ってしまった。全員の一挙手一投足を観察し、本当に一ミリでも動いた人間がいれば牽制にかかるつもりなのだろう。
……信用している。そんなことを言われれば、本気を出すしかない。
瀬多は自分の頬をぴしゃりと叩き、精神を統一する。
(……惑わされるな。事実だけを見るんだ)
天井を見上げ大きく深呼吸する。
どんなふざけた結末でも、信じ難い事実でも、それでも解決しなければ、待っているのはより血生臭い最悪の未来だ。
正真正銘、本物の殺し合いだ。
(それだけはあってはならない。絶対に!)
瀬多は、この事件の真相を解明すべく、頭を働かせた。いるはずのない犯人を探して。
まず、事実だけを見て考えよう。心証まで挟み込んだらキリがない。
毒が入れられてあったのは瀬多総司の持つペットボトル。その毒は腐毒といわれる致死性の非情に高いもので、アドレーヌが所持していた。
(……ああ、くそ。あんなもの捨てていたらよかったんだ。変に欲を見せずにさっさと処分していたらこんなことには……)
しかし、そう言っていても始まらない。後悔なら後でいくらでもできる。再び頭を切り替える。
「全員、自分の食糧をよく調べてくれ。他にも毒を入れられてるものがあるかもしれない」
またいざこざがあるかと身構えたが、皆素直に瀬多に従った。当然といえば当然だ。誰だって死にたくはない。
全員確認を終える。毒が入ったものはなかった。
(つまり、犯人は俺のペットボトルにだけ毒を入れたということか。……それは偶然か? それとも故意か?)
おそらくは故意だろう。波乱が犯人の目的だったとしてもこのグループでイニシアチブを取っていた瀬多総司を狙うのは理に適っている。だが、そんなものを望む奴なんて……。
思わず瀬多は首を振った。
(まただ。発想がずれてるぞ、瀬多総司! 今は事実確認に集中しろ!)
「……支給品を確認したい。魔理沙、足立。武器は携帯してくれていい。支給品を見せてくれないか?」
「ふざけんな! そんなもん認められるわけないだろ!!」
「……どうしてもか?」
「当たり前──」
そこで魔理沙を制止したのは、意外にも足立透だった。
「魔理沙ちゃん。いいじゃないか。ここで支給品を見せて、身の潔白を証明しよう」
「けどな足立! 支給品はあたし達にとって──」
「わかってるよ。でも、ここで駄々を捏ねてても始まらない。彼……瀬多君に全てを託そう」
「あいつはあたしを殺そうとしたんだぞ!!」
「……僕は違うと思う。彼はそんなことをする人じゃないよ」
(……なんだ? 足立は何を企んでいる? まだしらを切るつもりでいるのか? それとも……)
瀬多には一つ、足立に関する仮説をたてていた。それは、『マヨナカテレビ事件が起こる前に足立がここに連れて来られた』というものだ。ここにいる足立は正確には自分の知る足立ではない。その仮説が成り立てば、先程からの発言も納得できるものがある。
だが、瀬多はその可能性は限りなく低いだろうと判断していた。何故なら、そんな手の込んだことをしても、主催者側は何も面白くないからだ。誰も殺してない、清廉潔白な足立透をこの殺し合いに放り込んでも、何も面白くない。
人を騙し、ペルソナを使って参加者を皆殺しにしようと考える足立透と、正義に燃える一介の警察官である足立透。どちらが殺し合いをより面白いものにするかというと、間違いなく前者だ。
つまり、足立には別の理由があった。ここで瀬多総司を味方する理由が足立にはあった。
なんということはない。足立が犯人でないのなら、この状況は面白いはずがない。
ただでさえパワーバランスはこちらが上回っているというのに、こんなところで本物のバトルロイヤルでも開始すれば、まず足立は死亡する。現段階でそれなりに発言権を持つ瀬多総司に犯人を見つけ出させる。それが足立の目的に一番適う方法なのだ。
(癪ではある。だが、ここは乗らせてもらうぞ。足立)
足立の説得があり、魔理沙は渋々自分の支給品を見せた。
首輪探知器に拡声器。攻略本に載っていたモンスターボールに帽子。
どれもこの事件と関わりがあるとは思えない。
足立の持ち物もそういう点では変わりなかった。
銃に大剣、それに『あなぬけのヒモ』という脱出アイテム。
「アドレーヌ。悪いが君もだ」
アドレーヌが怖々と頷く。これからどうなるのか、不安で堪らないのだろう。
(……くそ。彼女を疑わなければならないのが一番辛い)
絶対に殺し合いに乗らない。そう信じて託した毒薬が、今彼女を苦しめている。
瀬多にとって、それは後悔してもし足りないことだった。
アドレーヌのデイバックを漁ると、すぐに瓶が手に触れた。自分にしか見えないように、バックの外には取り出さず中身を確認する。
瓶は空だった。
分かっていたこととはいえ、それは瀬多にとってショックなことだった。
「瀬多君、だったよね。中身、見せてくれないかな?」
足立の猫なで声が、非情に癪に障る。が、こんなところで冷静さを失っている場合ではない。
「……これは俺が彼女に渡したものだ。それを──」
「瀬多。余計な口を挟むな」
レミリアがぴしゃりと言い放つ。
そう言われれば、瀬多はもうなにも言えない。
レミリアはこう言いたいのだ。先入観を捨てて犯人を探せと。
瀬多は逡巡したものの、結局その空の瓶を全員に見せた。
「これで決まりだな」
足立の声が通路全体に響き渡った。
「いや、まだだ」
すぐさま瀬多は反論する。
「アドレーヌのバックから誰かが盗んだ可能性がまだ捨て切れてない。だからまだだ」
「それ、今から立証するわけ? どっちにしたって確かな証拠なんて見つかりっこないんだからさ。無駄だってそんなことしても。疑わしきは罰せよって言葉知ってる?」
随分と強気だ。幽香が襲いかかってもなんら不思議ではない。
それでも足立がここまで言うのは、おそらくレミリアの牽制を期待してのことだ。アドレーヌが真犯人という流れに持っていき、幽香とレミリアを潰し合わせたいのだろう。
忌々しい。忌々しいが、実に理に適った行動だ。魔理沙と違い、やはり足立は悪知恵が働く。
(誰がどんな思惑をたてていようが、今は忘れろ。今はただ真犯人を見つけ出すことだけを考えるんだ)
犯人がこの状況を作り出す上でしなければならないこと。それは、アドレーヌのバックから毒を取り出し、瀬多総司のバックにあるペットボトルにそれを混入し、再び瓶をアドレーヌのバックへと戻すという一連の動作だ。
魔理沙との一件で、瀬多は両手を封じられていた。その上レミリアをおんぶしなければならないということになり、デイバックはアドレーヌに預けていた。
(そう。預けたんだ。つまり、魔理沙と遭遇してからはずっとアドレーヌがデイバックを管理していた)
アドレーヌはいつも幽香の側にいたが、幽香は足立を見張っていたために彼女に対してはあまり気を張っていなかったはずだ。見張りという役目上、幽香は皆よりも後ろの方を陣取っていた。必然的に、アドレーヌに近づけた者は幽香くらいしかいなくなる。
しかし、開かない扉を調べていた時、アドレーヌは立ち位置としては一番後ろだった。要するに、全員の行動を確認できる立場にあったということだ。
瀬多達が入って来た扉は、全員が通路に入ってからすぐに閉めたし、扉を調べている間、四人のバックを管理していたのもアドレーヌだ。この段階でバックに触れることができたのはアドレーヌだけ。
つまり、もしも幽香が犯人で、魔理沙と遭遇してから犯行に及んだとするならば、その機会は地下へと向かう道中だけということになる。
(だが、その時はアドレーヌもバックを担いでいた。もしも幽香が毒を入れたのなら、いくらなんでもアドレーヌが気付くはずだ。つまり、毒を入れたのが魔理沙達に出会った後ならば、犯人はアドレーヌしか有り得ない)
ならば魔理沙達と出会う前はどうだろう。それならば全員が毒を入れる可能性があった。
基本的にデイバックは全員分をまとめて地面に置いてあったのだから当然だ。
(……いや、待て。レミリアはずっと眠っていたのだからそんな暇はなかった。それに幽香も、放送が終わってからはずっと見張りをしていた。
デイバックに触れる時間なんてあっただろうか。それに、俺はずっとデイバックの近くにいた。不審な動きがあれば気付いたはずだ)
瀬多は額に手を当てて懸命に記憶を探る。
一番最後に毒を見たのはアドレーヌに託したあの時だ。その時は確かに毒は瓶の中に存在していた。それをアドレーヌに渡し、自分のデイバックに入れる。それから彼女はすぐに幽香の元へと行ったはずだ。
しばらくして俺はレミリアと少し話をした。その時は確かにデイバックは誰の監視下にも置かれていなかった。だがその時は、アドレーヌも幽香といたし、俺もレミリアといた。犯行の時間なんてなかった。
(……待てよ)
そもそも、犯人の狙いは何だったんだ?
俺を狙った……にしては少しおかしい。俺がいつも飲む水は自分に支給された分。既にかなり消費されたものだ。もしも俺を狙うつもりがあったのなら、いつも飲んでいるペットボトルに入れればいい。
他の人間ならいざ知らず、この三人なら俺がどのペットボトルを飲んでいるかくらいは把握しているはずだ。毒を入れて殺そうなんて考えているのなら尚更。
(犯人はわざわざ開封されていないペットボトルを選んで毒を入れた。その結果ばれることになったというのに、何でわざわざそんなことを? ……もしかして、そこに何か理由があるのか?)
開封されていないペットボトル。それに毒を入れる理由。
ハッとする。
(そうか……。犯人の狙いは魔理沙だったんだ)
魔理沙は地下に入り、その蒸し暑さから愚痴っていた。その時にわざわざ自分が水を持ってないことを自白していた。それを犯人が聞いていないはずがない。
扉はなかなか開かない。暑さは水分を奪っていく。そんな状況で、魔理沙が水が欲しいと願ったとすれば、どうなる?
(必要以上に水を所持している人間が分けてやる。……俺がそうしたように)
開封されていないペットボトルは一つだった。俺の持っているペットボトルを所持していた人物は全員男。ならば気を利かして開封されていないものを渡すのは当然だ。
そして、この三人なら、……とある人物なら、俺がそういう気遣いをする人間だということを知っている。
──瀬多さんは、本当に優しい人ですね──
アドレーヌは魔理沙に疑惑を感じていた。必要以上に俺を罵倒する魔理沙に、アドレーヌにしては珍しく怒りを表していた。
アドレーヌなら動機がある。アドレーヌならそう考える。アドレーヌなら実行できる。
アドレーヌなら……。アドレーヌなら……。
瀬多にはもう、一つの答えしか浮かび上がってはこなかった。
(嘘だろ……。アドレーヌに限って……そんな……)
有り得ない。こんなこと有り得ない。
自分で出した結論を、瀬多はどうしても否定したかった。
(信じたくない! こんなこと信じたくない! こんなものを信じるくらいなら、……自分が知らない内に毒を入れたと考えた方が何百倍もマシだ!! ああそうだ。もう一人の自分が知らぬ間に皆を殺そうとしたと考えた方がよっぽど……)
もう一人の……自分?
瀬多の心臓が一気に高鳴った。
……まさか。
「おい、もういいだろ! この女が犯人だ!! さっさとけじめをつけさせろ」
「糞餓鬼。今度無責任な言葉を吐いたら本気で殺すぞ」
「だってよ、吸血鬼さん。どうすんの?」
「……幽香。少し黙ってろ」
「誰に向かって口を聞いてるの? 小娘は黙ってなさい」
皆が言い争いをしている。しかし瀬多にはそんなもの聞こえない。
ドクン、ドクンと高鳴る心臓の音しか聞こえない。
歩いて行き、不安そうに皆を見守るアドレーヌの傍までやって来る。
「……瀬多、さん?」
上目づかいで、瀬多の様子にどこか恐怖すら感じているようだった。
「お前のせいだ。アドレーヌ」
「……え?」
言い争いはいつの間にか止まっていた。瀬多と、アドレーヌのただならぬ気配を感じ取っていたのだ。
「大勢が死んだ。大勢がだ。皆が皆、自分を優先して動いていれば助かった。なのに皆死んでいった。何故だと思う?」
「……わ、わた、し。……わからな……」
「お前を守ろうとしたからだ。力がないってのは、こういう時有利だよな。皆が守ってくれる。大して役にたってなくても、隣でただむせび泣いてるだけでも、皆が自分を守ってくれる。何でお前は生きているんだ? 有能な人間が死んでいって、どうして無能なお前は生きている?」
「……やめ、て……」
「おい、瀬多!! あなた何を……!!」
怒りをあらわに止めようとする幽香の腕を、レミリアが掴んだ。
「今回限りだ。……頼む。今は瀬多を信じてやってくれ」
見る人が見なければ分からない。だが、確かにレミリアは頭を下げていた。
幽香は、歯噛みし、しかしそれでも足を止めた。
「そうやって誰かに縋るのは楽だよな。皆自分を守ってくれるんだ。何もしなくても、誰かが自分を守ってくれる。何でお前は誰かと一緒にいるんだ? 誰かと一緒にいることで、そいつが危険に曝されると分かって、何で一緒にいられる?」
「もうやめて。……もう、もう……」
「魔理沙が俺のことを冷血漢だと言ったな。悪魔だとも言った。だが、お前はどうだ。お前こそ冷血だ。悪魔だ! お前がいれば、皆が不幸になる。お前は、皆の足を引っ張るだけの人間なんだ!!」
「いやああああああ!!!!」
途端、瀬多の首に手が巻きつかれた。
信じられない力だ。到底引き剥がせるものではない。
「信じてたのに!! あなたのこと、信じてたのに!!!」
目の前にいるアドレーヌは今まで見たこともない程に鬼気迫っている。
気道が塞がり、息ができない。
「ぺ……ル……」
心の中で叫び、カードを出現させる。それを握り潰した時、まるで守護霊のように瀬多の背後にイザナギが現れた。
大剣が振り回され、それはアドレーヌに直撃した。その勢いで壁に叩きつけられる。
常人ならばしばらくは蹲っていてもおかしくない力だった。だが、彼女はすぐに起き上がった。
「信じてたのに!! 信じてたのに!!」
彼女は叫ぶ。まるで心の悲鳴のように。
「……げほっ。……ようやく、引きずり出したぞ。真犯人」
「……なにが……どうなってるの?」
その場にいる全員が唖然とする。
アドレーヌが、二人いた。
へたり込み、ガタガタと身体を震わせるだけのアドレーヌ。瀬多に対し、あらん限りの殺意を向けるアドレーヌ。
目の錯覚などではない。この空間にアドレーヌは二人いるのだ。
「ジオ!!」
瀬多に襲いかからんとしていたアドレーヌに雷が直撃し、甲高い悲鳴をあげる。
そのままそのアドレーヌは消えてしまった。
「あ……あ……」
「アドレーヌ。いいかよく聞け。あれはお前の本当の意思じゃない。こんなことは誰も望んじゃいなかった。避けられなかったことなんだ」
「……私が。……私が、毒を……」
「違う!! あれはアドレーヌの意思じゃない!! 俺が言ったことは気にするな。アドレーヌにはアドレーヌにしか出来ないことがある。それを忘れちゃ駄目だ」
「いい加減に説明しなさい! あれは何なの!?」
悲鳴のような幽香の叫び。
瀬多は静かに、その答えを告げた。
「……あれは、『シャドウ』だ。アドレーヌの抑圧された心」
「どういうことだ? アドレーヌが心の底で望んでいたということか?」
びくりとアドレーヌが震える。
「……正直、俺もよく分からない。だが、おそらく違う。彼女のシャドウは俺が見てきた中でもかなり特殊だ」
そう。彼女のシャドウは瀬多の知っているシャドウとは少し違う。
「何も出来ない自分。皆の足を引っ張っている自分。このままでいいはずがない。だけど何も出来ない。
皆の優しさに甘えていると感じていても、それをどうすることも出来ない。たとえここから姿を消しても、きっと皆は探しに来てくれる。そうなれば結局足を引っ張るだけ。
……彼女は、自分を認めてる。弱い自分を認めて、だからこそ悩み苦しんでいる」
シャドウは認められない自分がいて初めて出現する。しかし、彼女の場合はそうではない。
アドレーヌの場合は、瀬多が経験したシャドウとはまったく逆。認めているからこそ、その気持ちを抑え込んでいる。それがアドレーヌのシャドウだった。
何も出来ない自分。それでも出来ることがあるはず。その出来ることをしなければならない。アドレーヌにとって魔理沙は、自分達を危険に曝す人物だと映っていた。
ただそれだけ。ただそれだけの認識の為に、アドレーヌのシャドウは魔理沙を狙ったのだ。そこに善悪の区別などない。人を殺すということに対する忌避感もない。
「あれで終わりか? もうシャドウとやらは出てこない。そういうことか? 瀬多」
「……いや。彼女が自分自身を解き放たないと、おそらく何度でも現れるだろう」
普段のシャドウなら簡単だ。自分を認めればそれでいい。だが、アドレーヌの場合は違う。恐らくは、自分の弱さを乗り越えないといけない。
何も出来ない自分を乗り越える。何も出来ないと考えているアドレーヌの認識を覆す。
殺し合いという場所で友人を目の前で殺され、無力さを噛み締めている彼女に、それを求めるのは酷なものがあった。
「もう……いいです。私がいけないんだ。ずっと甘えてきた私が。……だから、……私、みんなと別れます」
いつまたこんなことがあるとも限らない。
そうするのが、全員の為だった。
「なんとかしなさい! あなた、番長でしょう!?」
「俺はカール・ロジャーズじゃない! カウンセラーの真似なんて出来る訳ないだろ!」
このままアドレーヌを一人放り出して解決する問題じゃない。そんなことは瀬多にだってわかってる。
何とかしたい。
してやりたい。
しかし、どれだけ願ったところで、打開策などあるわけがないのだ。
アドレーヌ自身の問題だ。アドレーヌが解決しなければならないのだ。
「いい? アドレーヌ、よく聞きなさい」
蹲り、下を向いて涙を流すアドレーヌの肩を抱き、幽香は言った。
「シャドウなんて気にしなくていい。そんなもの忘れてしまいなさい。私が見ててあげる。ずっとあなたを見ててあげる。私があなたを守ってあげるから。だから……」
「駄目……です。私、幽香さんに……迷惑かけちゃう」
「馬鹿ね、あなたは。私を誰だと思ってるの? 最強の妖怪、風見幽香よ。たかが影ごとき、眠ってても撃退できるわ」
そう言って微笑んでみせた幽香の顔は、これまでに見せたことがないほどに優しさに包まれていた。
「ゆう……か……さん」
「ほら、泣かないの。私は、絶対にあなたを見放したりしないから」
その言葉は、少なからず周囲の者を驚かせた。
あの風見幽香が。最強の妖怪として名を馳せ、人間に等しく恐れられる幽香が、アドレーヌに対して優しい言葉をかけている。
(……そうだ。妖怪だとか、悪魔だとか、そんなもの関係ない。彼女達も人間と変わらない。情もある。善悪もある。俺達人間は、彼女達と共存できるんだ)
ここに連れて来られて初めて出会った悪魔や妖怪という種族。確かに人間とは違う価値観で生きている種族だが、それでも根本は同じだ。
『いやはや。まるでお母さんみたいだねぇ』
その言葉に、瀬多は何故か凍りついた。
『本当はさ。無粋だと思ったんだよ? わざわざこっちからコンタクトをとるなんて、ゲームマスターとして失格だ。けど、一言くらい褒めてあげないと可哀そうかなぁって思ってね。子供を褒めて伸ばすって発想、結構的を得てると思うんだよね、俺は』
言ってることは小悪党と変わらない。しかし、その言葉が織りなす空気が、この男を只者ではないと感じさせた。
振り返ると、扉の中央に設置されていたモニターに男が映っていた。
赤い制服。
まるで、ガソリンスタンドの定員のような。
『素晴らしいよ瀬多君。やはり俺が見込んだだけのことはある。あの状況で、まさか一人も死人を出さないなんてね』
パチパチと拍手する男。
それをバックミュージックに、瀬多はとある疑問を思い出していた。
そう、それはある種の違和感といってもいい。
足立透が真犯人として捕まり、町に平和が戻ったと誰もが確信したあの時。瀬多は確かな違和感を感じていた。それが何なのか、結局分からずじまいだったが、今はっきりとその正体を理解した。
(何故俺だけがペルソナを使えたのか。当時はイゴールとの邂逅がきっかけだと考えていたが)
瀬多はこの男を知っている。モニターに映る、まるで正体の掴めないこの男を知っている。
──君、高校生?──
そうだ。確かあの時……
──うち、今バイト募集してんだ。ぜひ考えといてよ──
あの時、あの定員と握手をして、途端に……
『お? なんだよ、もう気付いたの? ちょっとは空気読んで欲しいなぁ。ほら、こういうのには演出ってもんがあってね──』
「御託はいい。……お前か? お前が、あの事件の本当の黒幕」
男は愉快そうに笑った。
『黒幕って、そんな大層なもんじゃないって。ただ、俺はきっかけを与えただけ。人が何を望み、何を求めるのか。それは人が決めることであって、俺は何も強要していない。俺はただの傍観者。そして、君達人間の望みを叶える良き神さ』
神、だと?
『君は今、一つの真実を追求し、見事それを見つけ出した。しかし、それは本当に正しい行いだったのかな? あそこで足立透を真犯人だと言い包め、彼に罪を着せれば君が抱える問題は全て解決した。
一つ教えておこう。真実なんて虚構だ。君達が真実だと判断したこと。それこそが真実なのさ』
詭弁だ。空論だ。
そう思うも、耳を澄ませて言葉を拾ってしまう。この男の喋りにはどこか人を惹きつける魅力のようなものがあった。
『事実、君の解き明かした真実は、彼女をより一層苦しめる結果に終わった。ただそれだけ。本当にただそれだけなんだよ、君がしたことは。そうまでして真実を求める必要がどこにある? それは君のエゴなんじゃないか?』
「おい、貴様」
レミリアが口を挟んだ。
「神だとか言ったが、人の言葉も理解できないのか? 瀬多はお前にこう言った。御託はいい、とな。お前は私達の質問に答えればそれでいい。アドレーヌからシャドウとやらを出現させたのはお前の仕業か?」
『随分と高慢だねぇ。ま、悪魔が神に従うってのも変な図式だし、それもいいか。質問に答えろって話だったね。いいよ。君の質問に対する答えは“イエス”だ』
一気に頭に血が上った。
こんな男のために。神などという下らない存在のために、アドレーヌはこれから一生苦しまなければならないのか。
『本当は、ここに到着した参加者にちょっとした激励を送るだけだったんだよ。俺じゃなくて、このゲームの登場人物が決まった言葉を喋るだけ』
おそらくはマルクのことだろう。主催者サイドで姿を現した者、つまり登場人物はマルクだけだ。
『だけど、君達のグループは少し安定し過ぎてたからねぇ。条件も揃ってたし、自分で言うのもなんだけど、なかなか面白いアイデアだと思ったからさ。少しくらい起爆剤を混ぜたっていいだろ? これも、ゲームを面白くするためだ』
ゲームを面白くするため。
ただそれだけの理由か。
それだけの理由で、アドレーヌを泣かせたのか……!
瞬間、まるで地響きのような振動が通路を襲った。
幽香が地面を蹴った時のもの。そして、モニターに拳を突き出した時のものだ。
しかし、モニターはひびが入っただけで破壊には至らなかった。
「お前だけは、絶対に私の手で殺してやる」
『はっはっは。こりゃまいったね。短気は損気だぜ、風見幽香。ま、もういいんだけどね』
もういい? 一体何を言って……
「……魔理沙達が、いない」
魔理沙と足立がこの場からいなくなっていた。
すぐに瀬多は察した。
「しまった!!」
なんということだ。絶対に目を離してはいけなかったのに。イレギュラーの存在にすっかり気を取られていた。
「すぐに魔理沙達を追うんだ!! 早くしないと取り返しのつかないことになる!」
「何を慌てている。あんな奴ら、幽香ならすぐに──」
「魔理沙は拡声器を持っていた!! あれを使われたら大変なことになる!! 俺達の悪評が一気に広まるぞ!!」
それを聞いてからの幽香の判断は早かった。すぐさま扉から離れ、地上への階段を駆けて行く。
続いて瀬多も走るが、すぐに止まった。
「……お前、名前は何ていうんだ?」
『俺かい? 俺はイザナミ。君達の生みの親さ』
「そうか。……イザナミ。これだけは覚えておけ。俺は絶対にお前を許さない。必ずお前を引きずり降ろす。そのふざけた観客席からな」
『楽しみにしてるよ』
モニターに槍が突き刺さる。言うまでもなく、レミリアのものだ。
「これ以上こいつから聞くこともないだろう。余計な会話をしていちいち撹乱されることもない」
まるでそれを皮切りにしたかのように、今までびくともしなかった扉が音をたてて開いた。
「まったく、糞忌々しいな。あいつのご高説を聞かないと開かない仕組みになっていたか」
「レミリア。クリスタルもそうだが、アドレーヌのことも頼む。俺は幽香を追いかける。……なんだか、胸騒ぎがするんだ」
「私は子守りなんて……っておい! 瀬多!」
レミリアの返答も聞かず、瀬多は階段を駆け上って行った。
「ったく。人の話くらい聞け」
開いた扉のすぐ傍に浮遊していたクリスタルを回収し、忌々しげにレミリアは愚痴った。
クリスタルをデイバックに仕舞うと、途端に蒸し暑さが消え失せた。どうやらクリスタルの効果だったようだ。
すぐ傍には蹲って何も喋らないアドレーヌがいた。
「……あー、とりあえず、だな。シャドウのことは気にするな。あんなものにやられる私ではない。だから……まぁ、そういうことだ」
「…………」
アドレーヌはずっと俯いたままだ。それを励ます術などレミリアは知らない。
どうしたものかと迷っていると、アドレーヌの肩からひょっこりと何かが現れた。
「お前……確か人形使いの」
上海人形は自分の洋服を使ってせっせとアドレーヌの涙を拭いてやっていた。
「……慰めている、のか?」
「シャンハイ!」
言葉は分からない。だが、その行動を見れば、上海人形の意思は確かにレミリアの言った通りのものだと誰もが思うだろう。
「ありがとう……」
か細い声で、しかしアドレーヌはお礼を言った。
とりあえず、自分は大してお守りをしなくて済みそうだ。レミリアはそう思い、安堵のため息を漏らした。
【レミリア・スカーレット@東方project】
[状態]疲労(中) 額に裂傷 腹に裂傷 右手損傷 左膝損傷(全て回復中)
[装備]なし
[道具]基本支給品一式 クリスタル
[思考]基本方針:主催者を倒し、どちらが支配者かを思い知らせる
1. お守りをしながら瀬多を待つ
2. 足立を殺したいが、今は我慢する
3. 手下を作って脱出する。邪魔立てする奴は殺す
4. さっさと傷を治して、これ以上部下を殺させないようにする
※時間さえかければ傷は治癒しますが、休息を取らなければ疲労感は回復しません
※弾幕を撃つのに溜めが必要。威力も制限されています
【アドレーヌ@星のカービィ】
[状態]深い悲しみと強い罪悪感
[装備]なし
[道具]基本支給品一式
[思考]基本方針:ゲームには乗らない。できれば人も殺したくない
1. みんなと離れた方が……
2. カーくんを見つけ出し、みんなで脱出する
3. もう人が死ぬのは見たくない
※アドレーヌはメダリオンを見落としていました。よって、メダリオンのことはアドレーヌしか知りません
※シャドウについて
アドレーヌが負の感情を抱いたものに対し過剰に反応する。善悪の区別がないので、本人の意思に関わらず行動する。
魔理沙も足立も、瀬多達を完全に敵対関係だと見做したようだ。それは上海人形にもわかった。
確かに、上海人形は瀬多のことがあまり好きではない。瀬多は霊夢の救出を先送りにすべきだと言った。それは、そのことを自分の生きるうえで最も重要なことだと考える上海人形にとっては怒りすら覚えることだ。
だが同時に、上海人形は瀬多の言い分も理解していた。ちゃんとしたことはわからないが、それでも瀬多には霊夢を助ける意思があることは理解していた。
魔理沙が正しいのか瀬多が正しいのか。それは上海人形にはまったくもって分からない。
だが、霊夢の話が出た時に、何とか助け出そうと、どうにかできないかと言ってくれたのはアドレーヌだけだった。あの時のアドレーヌは見ず知らずの霊夢のことを本当に心配してくれていた。
皆が言い争いをしていた内容も上海人形にはよく分からなかったが、それでも、今アドレーヌが落ち込んでいることだけは分かった。
アドレーヌは自分と同じだ。無力な、何も出来ない自分に腹を立て、それでも他人に頼ることしかできない。一人でも霊夢を助けに行きたい。それでも霊夢を助け出す力がない上海人形と同じだ。
上海人形の目的は霊夢を助け出すことだ。しかし、上海人形はアドレーヌを見捨てることもまたできなかった。魔理沙と足立が『あなぬけのヒモ』でここから脱出する時、こっそりと抜け出したのは、そのためだった。
アドレーヌは自分と同じだ。だから困っていたら助けてあげたい。泣いていたら慰めてあげたい。そう、上海人形は思ったのだ。
それが、人間でいうところの、情というものだということを、上海人形はまだ知らない。
【上海人形】
[状態]背中に大きな裂傷 (かなり荒い治療済み。汚い布と汚い糸でこれでもかと汚く縫われている。)
[思考]
1:アドレーヌを慰める
3:霊夢を助けに行く
2:アリスにちゃんとした裁縫をしてもらいたい。
※サカキと霊夢の会話は全て聞いていました。
またその事を魔理沙と足立には簡潔にしか伝えていません
※羽が無い為、空を飛べません。
私はいつも疑問に思っていた。
どうして私はこんなに強いんだろうかと。どうして、これほどまでに強くなくてはいけなかったんだろうかと。
若気の至り。それは確かにそう呼ばれるものだったに違いない。
自分の存在意義を、自分の強さの意味を、そんなものを見出そうとするなんて、まるで人間のようだ。いつしかそう思うようになって、そんな馬鹿なことを考えるのを止めた。
止めて、何百年と経った今、ようやくその答えが出た。
地上へと続く金属性の扉が閉まっていた。だが、幽香にとってそんなことはどうでもいい。
ぐっと右手こぶしに力をいれる。
一切スピードを緩めることなく、幽香は拳を突き出してその扉を粉砕した。
アドレーヌが泣く姿を見たら、心臓が締め付けられそうになるのは何故だろう。
アドレーヌが笑っていたら、こちらもつられて笑いそうになるのは何故だろう。
私は見つけた。
自分の強さの意味を。自分の存在意義を。
アドレーヌ。あなたは私が守ってあげる。絶対に、絶対に守ってやる。
『みんな聞いてくれ! 瀬多総司は殺し合いに乗ってる! 口八丁で誤魔化そうとしてくるけど、絶対に信じちゃ駄目だ! レミリアや幽香、悪魔や妖怪も従えて、あたし達だけちゃ手が出せない! 特にアドレーヌは要注意だ! 分身みたいな技を使ってくる!』
自分を罵倒されてもさして怒りは湧いてこない。自分の悪評など、流したければ流せばいい。だが、アドレーヌの悪評だけは許せない。あの子を悪魔だとかのたまう輩には我慢がならない。
入口まで行く時間が惜しい。
幽香は体当たりで壁を突き抜け、そのまま全力で走って行く。
瀬多のやり方は甘すぎる。だからこんな事態になった。
私なら、もっとうまくやれる。私なら……
自分でも興奮しているのがよくわかる。それが怒りによるものか、それとも別の何かによるものか、幽香には分からなかった。
瀬多総司は重大なミスを犯していた。毒の混入。それに注意を向け過ぎていた。瀬多は、全員のデイバックを確認するべきだった。毒だけではなく、他にも何か細工がされていないか確認すべきだったのだ。
そう。幽香は知らない。イザナミの本当の狙いが自分にあったことなど。
アドレーヌのシャドウが、毒を入れる前に、ある道具を幽香のバックに入れていたことなど。
先程の論争で、溜まりに溜まった負の感情。それを抱えるメダルが、自分のデイバックに入っていることなど。
幽香は、何も知らない。
【風見幽香@東方project】
[状態]疲労(中) 顔を中心とした打撲 足の指損傷
[装備]なし
[道具]基本支給品一式 メダリオン@ファイアーエムブレム 蒼炎の軌跡
[思考]基本方針:向かって来る敵は排除する。自分から殺し合いにはいかない。
1. 魔理沙達に追いついて……
2. アドレーヌを守る
3. 絵の具と筆を探す。
4. イザナミは絶対に殺す
「くそ。幽香の奴、本気だな」
粉々に砕かれた扉と壁。それを見れば、幽香がかなり頭にきていることが容易に分かる。
しかし、普段ならそれは焦るどころか頼もしく思うところだ。今の魔理沙達は一刻も早く止めなくてはならない。幽香なら誰よりも早くそれを止めることができる。
幽香は冷静だ。レミリアと比べても、遥かに自制心がある。だが、瀬多は不安でならなかった。
(今回の事件で、幽香はあまりにも熱が入り過ぎていた。いくらアドレーヌを大事に思っていると言っても、あの状況がどれほど繊細なものだったか気付いていなかった筈がない)
レミリアと幽香を同士討ちさせる。それが足立の目的なのだと、幽香ならすぐに勘付いてもおかしくなかった。なのに、足立の挑発にまんまとはまり、挙句本当にレミリアといがみ合うところだった。
瀬多が真相に気付くのにもう少し手間取っていたなら、おそらくは最悪の状況になっていただろう。
(それにあいつ、イザナミの言葉も気になる。あいつは妙に俺を褒め称えていた)
確かにイザナミは瀬多を褒めていた。だが、あれは本当に感心していたのではない。自分よりも遥か下にいる存在を舐め切った称賛だ。
こんなことも気づかない。
こんなミスをして良い気になっている。
そんな、人を舐め切った褒め方だった。
(……何かある。イザナミが産み落とした災厄は、まだ)
幽香の異変、イザナミの行動。それらが瀬多を不安にさせる。これ以上の悪夢が起こりそうな予感が、瀬多の心を逸らせる。
妖怪や悪魔にも情がある。情があるということは、誰かを誰かよりも大切に思うということである。それは時に、取り返しのつかないことをしてしまう原因ともなり得るのだ。
(お願いだ、幽香。下手なことはしないでくれよ!)
瀬多は走る。ただただ走る。
今の瀬多に出来るのは、ただそれだけ。
【瀬多総司@ペルソナ4】
[状態]疲労(中)
[装備]
[道具]基本支給品一式×5 攻略本 トンプソンM1921(30/30) どせいさんの像@カービィSDX レミントンデリンジャー(2/2) 銃の弾(残り15発) 緋想の剣 お祓い棒@東方project
[思考]基本方針:レミリアを手伝いながら、仲間と合流し殺し合いを脱出する
1. 魔理沙達に追いつき、誤解を解く
2. イゴールを見つけ出し真実を問いただす。
3. 魔理沙を説得し、足立を再起不能にする
4. 半信半疑だが、攻略本に書いてある『クリスタル』を探してみる。
5. 死んでいった者のためにも、誇りをもって生きる
6. イザナミは絶対に許さない
※ペルソナ4の主人公です
※使えるペルソナはイザナギのみです
※真ENDルート、イザナミと出会う前からの参戦です
※イゴールと『血の契約』を交わしました。瀬多は「イゴールを探索する」という目的を最優先しなければなりません。なお、瀬多が死ねば契約を知る者に契約権が譲渡されます。誰になるかはランダムです
危なかった。本当に危なかった。
あのまま騙されていたら殺されていた。
あそこは悪魔の巣窟だ。足立がいなかったら、絶対にあそこを抜け出せなかった。
やっぱり足立は頭が良い。随分と前からあいつらの茶番劇を見破っていたようだ。だからこそあのイザナミとかいう奴が出て来た段階で、『あなぬけのヒモ』を使って逃げるなんて発想が出たんだ。
そう、なにもかもが茶番だ。思えばおかしなところが多過ぎる。イゴールとかいう奴の話だって、何の立証も出来てない。本当にそんな奴が存在するのかも疑わしい。
シャドウだって? 抑圧された心? そんなもんであんな化け物が現れるわけない。全部嘘っぱちだ。適当にあたし達参加者を釣る餌を捲いてるだけだ。
あいつらは、ああやってあたし達が怯えるのを楽しんでるんだ。犯人なんて最初からいない。いや、あの四人全員が犯人なんだ。
もっと疑うべきだったんだ。悪魔や妖怪が人間相手に楽しく過ごしてるなんてあるわけない。逆に考えれば、すぐに想像がつく。人間に合わせることを妖怪たちがしないなら、人間の方が妖怪たちに近いんだって。
大勢死んだ? ふざけるな。お前達が殺したんだろ。
そうだ。きっと、お前達の腹の中は……。
……気持ち悪い。もう何も考えたくない。
『みんな聞いてくれ!!』
拡声器を持って、あらん限りの声を出して叫ぶ。
足立の手を強く握って、一緒に走る。
あたし達がやらなきゃいけないことは逃げることだ。でもそれだけじゃない。このことをみんなに知らせないといけない。あたし達みたいに善良な参加者に、知らせないといけない。
足立。お前がいてくれて本当によかった。お前がいてくれなかったら、あたしはあそこで死んでいた。
奴らの思惑も足立は全部見抜いていた。これだけ頭の良い足立だ。きっとこの先も大丈夫。
あたしは一人じゃない。足立が一緒にいてくれる。
足立、お前と一緒なら……あたしは……。
『みんな騙されるな!! あいつらは悪魔だ。いや、それ以下だ! 絶対に惑わされちゃ駄目だ!! みんなで生きて帰ろう。あんな奴らに負けちゃいけない! 全員で、ここから脱出するんだ!!』
【霧雨魔理沙@東方project】
[状態]:疲労中、両足パンパン、衣服が汗まみれ、悲しみ、確かな希望
[装備]:防弾チョッキ@現実、上海人形
[道具]:基本支給品一式(飲料水を完全消費)、
首輪探知機@現実、拡声器@現実、マスターボール@ポケモン、レッドの帽子、上海人形
[思考]
基本方針:足立と共に主催者を倒しゲームを止める
1:瀬多達の悪評を振りまく
2:霊夢をサカキから助ける。
3:「殺し合いの開催理由」と「脱出方法」を考える。
※弾幕を撃つのに溜めが必要、という制限がかかっています。威力は変わりません。
また空が飛べないことに気付きました。
※会場が鏡写しにループしていることに気付きました。
※参戦時期は東風谷早苗と知り合ってから、明確な時期は不明。
※モンスターボールの使い方がわかりません。
※マスターボールの事は足立に話していません。
本当に甘ちゃんだよなぁ、魔理沙ちゃん。瀬多の野郎の何十倍も甘ちゃんだ。
適当に吹いたホラを完全に真に受けて。こうも簡単に言う通りに動いてくれるなんて思ってもみなかった。
まさか真犯人がシャドウとは、さすがの俺も考えちゃいなかったが、まぁ結果オーライか。同士討ちは無理だったけど、ここで悪評を広めたら修復は難しいだろ。瀬多はともかく、あの妙に強いオーラ出してる二人は社会性なさそうだしな。
にしても、拡声器なんて危ないもん、よく使う気になったもんだ。ちょっと匂わせただけですぐに飛びついてくれるんだからなぁ。ピカチュウなんかよりもよっぽど利用価値がある。
ま、せいぜい助けを呼ぶがいいさ。幽香かレミリアが飛んでくるだろうが、俺なんかよりも魔理沙を止める方を優先するだろうしな。そうなったら、俺はさっさとこいつを切り捨てて雲隠れすりゃあいい。
あの強固な四人グループはこれで信頼性ゼロだし、魔理沙の声に釣られた馬鹿な善良者がいれば、魔理沙の代わりをさせればいい。
くぅ〜、やっぱ俺って天才だな。どこにも隙がない。最高の作戦だ。
瀬多、お前は言ったよな。この殺し合いは異常だってよ。ああそうさ。異常だよ。有り得ない。でも、だからこそ良いんだよ。阿鼻叫喚がこんな間近で見れるんだ。マヨナカテレビなんかより何万倍も素晴らしい場所だよここは。
イゴールについての情報はありがたくもらっとくよ。そのじじいは真っ先に殺す。瀬多も殺す。魔理沙も殺す。ここにいる奴は全員誰であろうとぶっ殺す。
あそこで俺を殺さなかったこと。後悔させてやるよ、瀬多総司。
【足立透@ペルソナ4】
[状態]:疲労中、SP消費、冷静、右足脚に貫通傷(治療済み)
[装備]:M1911A1(6/7)
[道具]:基本支給品一式、M1911A1(6/7)@メタルギアソリッド
タケシの穴あきデイパック(基本支給品一式、魔剣グルグラント@ファイアーエムブレム 蒼炎の軌跡)
[思考]
基本方針:ゲームを楽しむ
1:瀬多達の悪評を振りまく
2:霧雨魔理沙を最高のタイミングで裏切る
3:イゴールも、自分を知っている者も、全員皆殺しにする
※十六夜咲夜、漆黒の騎士、リボルバー・オセロットは死んだと思っています。
※作品からの参戦時期は真ENDルート突入前、ペルソナはマガツイザナギ固定です。
※魔理沙と情報交換をしましたが、自分の情報(マヨナカテレビやペルソナ能力)は何も話していません。
※普通の警察官で正義感が強い、という役作りをしています。
またこれまでの行動は『タケシ少年と遭遇した後、何者かに襲われ、デイパックを託され、逃して貰う
その後、戦闘音が聞こえた為、旅館に向かった所、十六夜咲夜と遭遇。しかしそこでもソリッドスネーク、漆黒の騎士に襲われ、善戦するも咲夜を守れず一人生き残る』
という設定になっており、魔理沙にはそう説明をしました。
代理投下終了です。
投下乙です。
誰が犯人なのか分からず、ずっとドキドキしながら読んでました。
あと現在位置の記載がないのですが、どのあたりでしょうか?
すいません。素で忘れてました。
とりあえずD-4で
細かいところはwikiの方に記載します
投下乙
アドレーヌうううう!
シャドウなんて気にすんな(´・ω・`)上海優しいな
瀬多さんマジかっけー。
幽香は本当に母親みたいになったな。変なフラグも立ってるけど…
マジカリスマなおぜうと比べて魔理沙ェ…
つか予約大人数すぐるw
たしかイザナミの声優って主人公と同じ浪川大輔だっけ?
しかし予約人数多いすなーwこれは血の雨が降るかもしれん
いやでも書き手さんみんな本当にすごい
瀬多チームはほんと忙しいなぁ
これからもう一波乱ありそうだし
こ、これはめちゃくちゃ本格的な疑心暗鬼話だな!
バトルとはまた違う意味でわくわくした!
推理パートもちゃんと考えられていて見事
しかし犯人予想つくかー!w
足立はいい感じでゲスだし、魔理沙は道化だし、主催者きたし、瀬多チームは絆強固になりながらもどんどんやばなってくし
本当に面白かったです!
予約破棄しちゃったけど、俺はいつでも待ってます
書き手さん、ゆっくり書いてね
てす
よっし、規制解けてる!これでかつる!
いまからゆっくり等価します
十六夜咲夜 、 ハル・エメリッヒ 、 里中千枝 、 リボルバー・オセロット、 漆黒の騎士
カイン・ハイウィンド 、 セシル・ハーヴィ、 アシュナード 、アリス・マーガトロイド
天城雪子 、 カービィ 、 キョウ 、 ゴルベーザ
印付きという呪いを永遠に受け続けた。それ故に存在意義を決め付けられた。
戦を望むことが存在意義になってしまった。そして、酷い夢を見た。自分の存在意義がなくなる夢を。
そんな事はあってはならない。あの様な事を繰り返してはならない。だから戦うことしか自分には無い。
そうだ。愛などない。そんな物は一種のアルコールみたいなものだ。
そうだ。言葉など要らない。ただ剣を交えればそれでいいのだ
そうだ。情は少しだけでいい。敗北の念を味あわせない様にすぐ止めをさせばいい。
自分は孤独だ。だからこそ『賢者』に偽りの忠誠を誓ったのだ。だからこそここで漆黒の鎧を捨て、――――――を、―――――――。
だというのに、自分のこの振り上げた剣はどこに下ろせばいいのだ。
『アイク、グリーン、タケシ……』
放送が行われる。死者の名前が順に呼ばれていく。戦はもはや会場の隅まで行われている。ならば自分も戦わなければいけない。
戦わなければいけない。叩かなければいけない。闘わねなけばいけない!!
この振り上げた剣は―――-----
「……私は」
漆黒の騎士を覆っていた鎧は棄ててしまった。崩れてしまったのだから。思い出など残す物ではない。
もはや自分が望んでいたアイクとの一騎打ちは叶わぬものになってしまった。だが我が恩師の息子であっても死んだのならそれまでの事。
いや、違う。恩師の息子だからこそ強く育ち、私を打ち倒したのだ。
そしてそれを倒した者はさらに強き者だと確信できた。もはや旅館で生き残った者共などどうでもいいっ!
だからこそ歩む事をやめることはできない。兵はどこだ。強者はどこだ。我が怨敵がどこだ!?
☆ ☆ ☆
「……10人も死んだのか。ククク。それにガウェインの息子も……興冷めだな」
ため息をつき、頬を掻く。太陽が自分を完全に照らす。その広場にあった時計は朝8時を指す。
それと同時に朝の始まりを告げるチャイムがその広場に鳴り響き、楽しむ為のライドマシンの電源が順に入っていく。
そしてこの殺し合いには似合わない軽快で子供向けの行進曲が流れ始める。それに少し驚くが、気にはならなかった。だいたい乗り方などわからない。
狂王は歩きながら思考する。ガウェインの息子が死んだのか。ククク、ここで死んでしまうならそこまでだったんだろう。
なんて面白いんだ。しかし、如何せん人数が少ない。37とかいう雀の涙の様な人数ではなく、国取り合戦の余蘊な人数でも無く、
――――そうだな100人ほどの人数が丁度いいだろう。この殺し合いが終わったら自分が自ら殺し合いを開催するのも面白いかもしれない。
もっともそれを行うにはこの首輪をとっとと外す事を先にしなければならない。クリスタルは、見つけたら貰っておけばいいだろう。もっとも探す気はないが。
「……しかし、酷く疲れた。少し休息でも取ろうか」
丁度近くにあったゴンドラ状の乗り物になりこみ、横になった。
なに、獲物は逃げるが、この戦は逃げない。ククク……
☆ ☆ ☆
「……なんだと!?」
ソリッド・スネークが死んだ。あのスネークが、あのスネークが!?
なぜ死んだっ!?なぜ殺されたっ!?誰が殴殺したのだっ!?誰が撲殺したのだっ!?
どうやってソリッド・スネークを全てを鏖殺したのだっ!?面白いっ!面白いっ!面白いっ!!!
「クハハハハ、ハハハッハハハっ!!!!!」
死んだ!皆死んだ!腹が捩れる程おかしいじゃないか。……しかし、あのメイド、そして漆黒の騎士、警察官の名前は呼ばれていない。
随分しぶとい奴共だ。戻って止めを指しに行きたいが、あの様子じゃか勝手にくたばるだろう。ならば自分は新しい獲物を探しに行こうじゃないか。
脚を早めに進ませる。獲物は逃げるものだ。ならば早く仕留めてやろうじゃないか!
全てを撃ち抜いて殺してしまおう。そして新しい秩序を再編させようじゃないか。
☆ ☆ ☆
「……スネークが死、んだ?グレイフォックスも……?」
「よかったじゃない。厄介な友達が死んで」
「……アンタって無神経よね。取り消しなさいよ」
無表情でその言葉を吐き出した咲夜に怒る千枝だが、咲夜はそんなことどうでもよかった。オタコンが落胆しようが自分には関係ない。
ソリッドスネークは死んだ。確かに死んだが、危険人物が二人生きている。
とんでもない戦闘狂の漆黒の騎士、ゼルギウス。
芝居上手の足立透。
前者はまだ良心的で話がわかる奴(それでも強者と戦いを望む奴)だが、後者は危険だ。
私が死んでないとわかったのだから、もしかしたら私の悪評を広め始めているかもしれない。
ならばどうするか、早めに息の根を止めるのが先決だ。ではここに留まる必要は無い。
「……咲夜」
唐突に、オタコンが自分の名前を口に出す。知り合いの名前が呼ばれているが、彼の動揺は少ない。
もっともあんな男が死んだのだ。動揺が無いのは当たり前なのだろう。
「何かしら?告白の次はベッドに誘うお言葉でも?」
「ちょっ!そんなストレートに!」
またしても顔を真っ赤にした千枝がツッコミを入れる。一々五月蝿い子だ。
こういうタイプの女の子は幻想卿には居るには居る。だがこの子は幻想卿の常識を知らない。
だからこそこんなに苛々するのか。幻想卿の常識はこの殺し合いじゃ通じない。
それでも自分の考え方を押し通してもいいだろう。だから千枝に何を言われても訂正はしない。というよりしたくない。
「別にそれでもいいけど、そんな事より情報交換をしよう。ほら、僕達まだロクに話してもいないでしょ?」
「……そうね。ちょっと口五月蝿い女の子がいるけど、仕様が無いから情報交換しましょうか」
「……………。」
千枝はもうその言葉に反論するのも面倒になってしまった。なんなんだこの銀髪和服は。
そんなに五月蝿くしている覚えはない。
……それにしてもよかった。知り合いが誰も死んでいない。それでも10人という人物が死んでいった。オタコンの話していたソリッドスネークも。
知り合いが死ぬというのはどういう気分なのだろうか。ふと陽介の事を思い出す。先輩が死んだとき、どんな気持ちだったのだろうか。
まだ自分は戦闘という行為はこの会場でしていないが、10人という人数からして殺し合いに乗った人物は多いだろう。
これ以上、死者を出す事はしてはいけない。とっとと乗った人物をやっつけて自分の家に帰ろう。絶対に。
☆ ☆ ☆
「メタナイト、デデデ大王……」
「グリーンにタケシ……なんということでござるか」
キョウとカービィは放送で呼ばれた名前を次は自分の口で紡ぐ。それを聞いていたアリスと雪子は何もすることができなかった。
アリスも知り合いが呼ばれたが、もっとも自分を殺そうとしてきた人物(子供だが、それでも殺人未遂犯だ)だから悲しむことはなかった。
励ます気はあったが、ここで下手に励ましては落ち込ませる事になるかもしれない。だからこそ二人はかける言葉を捜す。
アリスはもっとも言葉を捜す気はなかったが、自分が人間だった頃を思い出すとその行為は自分の信頼とか評価を落とす事になるだろう。
それに元は人間だったから人が死ぬというのは悲しい事だと痛いほどわかっていた。
やがて自分がかける言葉を見つけることができた。しかしそれを言おうとした瞬間、カービィとキョウが言った。
「……行こう!こんな所に居たらもっと人が死んじゃう!」
「……そうしよう。拙者もこんな所で落ち込んでいる暇は無いでござる」
……どうやら励ます必要はなかったみたいだ。自分が関わったこの二人はどうやら予想以上に精神的に強かった。
そうだ。こんな所で落ち込んでる暇はない。とっととあのマルクをやっつけて異変を解決しようじゃないか。
だから自分は知り合いが死んだとき、悲しむ事はしないようにしよう。もっともそれがその時がきて実行できるかはわからないけど。
「そうですね、……でもカービィちゃん。どこに向かうの?」
「……あ、そうだね。決めてなかった」
「拙者もその事を失念していた」
だが、少し頭が悪いらしい。どうしてそこまで考えていないのか。……もっとも私もどこに向かえばいいのかわからなかった。
そこで自分はある事に思い出す。
「ねぇ、私さ、遊園地に行ってみたいんだけど」
外の世界にあるというとても楽しい場所。それは弾幕遊びの何倍も、何十倍も楽しいらしい。
だからこそ自分はそこに行ってみたかった。どんな所なのだろうか?弾幕遊びの何十倍も楽しいのだから弾幕がいつもの十倍襲ってきたりするのか。
「む、アリス殿。それは短絡的な考えでござるぞ?」
「あら?じゃあキョウの意見を聞こうかしら?」
「んぐ……」
やはりどこに向かうかキョウは決めていなかった。確かに短絡的な考えだが、ここでボーッとしているよりはマシだろう。
「雪子、貴方もそれでいい?」
「え?……確かに移動することはいい事ですけど、やっぱりアリスさんの考えはキョウさんの言うとおり短絡的だと思います」
「でもこの町には人気が無いわよ。私、色々回ったけど貴方の知り合いらしき人はいなかったし」
「……アリスさんそんなに遊園地行きたいんですか?」
「僕も遊園地行きたい!」
雪子が飽きれ顔でそう言うと次はカービィがそう言った。これでもう決定だ。半ば私が無理やりきめたものだが。
本当はこういう決め方はしたくはなかったが、少し人間ぽく考えてみた結果である。
「ねぇ、それと雪子、次から私に敬語は無しね。敬語って苦手なの。あとさん付けもやめてね」
そうえば外の世界で敬語が常識だと聞いたことがある。まったく外の世界って面倒なのね。よく考えたら幻想卿はとても住み心地のいい場所らしい。
問題はその事に今まで気付かなかった私である。ああ、とっととこの異変を解決して暖かい家に帰ろう。
「敬語駄目なんですか?……これでいい?」
「うん。それでいいわ、うーん……遊園地にはちょっと距離があるわね……」
雪子に敬語を禁止させたと同時に気付く。ここからでは。距離があることにどうすればいいか、と思考しているときにキョウが言った。
「先ほどそこに軽トラがあったでござるぞ」
「「「軽トラ?」」」
三人は思い思いの想像をする。
アリス(軽トラ?トラ?なんだその危なっかしい名前は。生き物?)←虎と勘違いしている
雪子(軽トラってトラックのことよね?でもトラックって二人しか乗れないわよね?……まさか荷台?でも中って真っ暗よね?)←トラックは知ってるが軽トラは知らない
カービィ(軽ドラ?軽いドラ焼き?でもなんでドラ焼きの話に?嬉しいけど……)←もはや全てを間違っている
「……もしや皆の衆、軽トラを存じぬのか?」
一同が一斉に頷いた。それを見たキョウは目が点になった。
☆ ☆ ☆
「ってことはつまり私を襲ったのはソリッドスネークではないってことね」
「君が言うソリッドスネークの外見上からそういうことになるよ。もっとも……」
「もっとも……?」
――――放送で嘘を言うメリットはないからスネークは本当に死んだ。
そう口に出そうと思ったが、上手く口が動かなかった。こういう仕事柄、人が死ぬ事は慣れている筈なのに。
きっと彼が任務で必ず成功してきた為だろう。だから彼が死なないことが当たり前になってしまった。
なぜか腹の奥底で何かが蠢きまわり吐き気を催す。
冷静に考えてスネークがこんなナンセンスなゲームを楽しむことは可能性的に著しく低い。
ならばそれはスネークの名を騙った者の仕業と推理した。スネークに恨みを持つ者(正直、恨みではないが)は名簿に一つ。
『リボルバーオセロット』ただ一人だ。グレイフォックスがスネークの名を騙る確立も低い。つまり自動的に彼の仕業になるだろう。
気をつけなければならない。この殺し合いは異常だ。死人が歩き、そして死に、そして英雄までもが死んだ。
悲しむ暇はない。任務を優先させなければならない。自分は冷血漢ではないが、このように思考しなければ悲しみで自分を保つ事ができないだろう。
「それにしても驚きよね。アンタが足立と、漆黒の騎士とオセロットだっけ?三人に一斉に襲われたなんて」
「鼻に文鎮突っ込まれた時が一番死ぬかと思ったわ……それと、私は咲夜って読んで頂戴。餓鬼にアンタなんて言われたくない」
「アンタも充分餓鬼でしょ!......ねぇ咲夜。鼻に文鎮の下りは聞いて無いわ」
もやは何度目かわからないこの喧嘩を尻目に考える。確かに鼻に文鎮の話は気になるが、他に話すべき所があるだろう。
情報交換は一通り終わった。ペルソナの次は幻想卿、吸血鬼に鼻の妖怪、魔法使い。ファンタジーな話だが、マルクの件があるから信じざるを得ない。
「......それで咲夜、これは僕の推測なんだけど、まさか足立の息の根を止める為に旅館の方向に行く気かい?」
「あら、なんでわかったの?」
「君や千枝ちゃんの話を聞くと足立は狡賢く頭が良い。僕と同じ理系の人間だろうね。そしてそういう性格だから咲夜の悪評を言い振り回しているかもしれない。だから早く息の根を止めたい、でしょ?」
放送の内容からきっとこれから一人で行動すると言い始めるだろう。この子を一人で行かせるわけにはいかないし、こちらも人数が多い方がいい。
だからここで彼女を引き止める為の理由付けを行わなければならなかった。
「でも、足立が君の悪評を言い振り回す可能性は低いよ。僕なら咲夜を仲間だったってことにする」
「なぜ?」
「最初に『自分は無害だ、ここから逃げよう』と言ってきたんだろう?
だからその行動を次に接触する人物にする可能性は高い。
そして信用を得る為に嘘はあまり言いたくない。ならばその旅館で殺し合いに唯一乗っていなかった咲夜を仲間に仕立てれば信用はあがる。しかもその咲夜が死んだっていうなら矛盾は生じなくなる」
「......すっご」
自分がそう推理すると千枝がそう呟いた。やっぱりオタコンは頭が回るのだなと千枝は思った。
「それで今頃、偽りの仲間と放送を聴いて泣いて喜んでるだろうね。咲夜が生きていた、って。」
「胸糞悪い話だけど、そんなに私をここに留めたいの?それに、足立に騙されてる奴がいるのもちょっと困るわ」
だが、咲夜は図星を突いてきた。確かにここに留めたいのだが、他にも理由がある。
「……まだ話してないが、聞いてくれ。この首輪を外す方法だ。それと僕だったらその騙した奴はすぐには殺さないし、利用してから殺すだろうね」
殺す、という言葉に千枝が反応するが例えばの話だったのでツッコミを入れることはしなかった。
まだ首輪を外してくれるゲーム機の話を咲夜にはしていなかった。彼女が危険人物という可能性があった為である。
「首輪を外す方法?」
「これを見てくれ。こいつをどう思う?」
「……無駄にデカイ携帯ね。」
咲夜はそのゲーム機を見たことがない。といよりか携帯ゲーム機なんか幻想卿には存在しない。だからこそ幻想卿でも比較的知っている人が多い携帯と勘違いしたのだ。
もっとも幻想卿で携帯の使用方法を知っているひとは居ないに等しいが。
「……本当に幻想卿ってあるんだ」
千枝だってこのゲーム機は見たことがある。だから歳が近い咲夜がこのゲーム機を「携帯」を勘違いしたのに驚いた。
幻想卿という異世界の話を聞いた時が驚いたけど、マヨナカテレビの件があるのだから信じるのに時間はかからなかった。そしてそれは咲夜の反応で確信にかわった。
「……まぁ説明はあとにしよう。これに触ってくれ」
「……?別にいいけど……」
咲夜がゲーム機に触る。そしてゲーム画面に咲夜によく似たキャラ(もっとも和服ではなく、メイド服だが)が画面上に現れる。それをみて咲夜は驚いた。
「とりあえず、僕らには当たり前の話なんだけど、とりあえず説明をしよう。これはゲーム機っていってね、娯楽目的の為に開発されたものだ」
「娯楽目的にしちゃ凄い手間がかかってる物ね」
咲夜は何処ぞの河童を思い出した。あの河童なら、これを見てもきっと驚かないだろう。
「だけど、これは主催から僕らへの挑戦状みたいなものだ。このゲームをクリアすると……」
「首輪は外れる?」
「……結構、勘が鋭いね」
「あら、勘が鋭いんじゃなくて推理したのよ。それにさっき言ってたじゃないの」
ああ、そういえば自分で首輪を外す方法を話す、と言っていた。やはり自分はスネークが死んで動揺している事を痛感した。
「このゲームはゲーム機には触った人物が動かせるようになっている」
オタコンは咲夜から目を逸らし、画面に目を移す。それと同時に咲夜も千枝も画面に見入る。
先ほど言った通り、一人増えただけで時間はかかったが難なくクリアした。
「おぉー!やっぱオタコン凄いじゃん!」
「……あら、この数値は強さを表すの?……よかった。こんな餓鬼には負けてない」
「もう反論する気にもなれんわ!それと、私は千枝って名前があるの!」
「このゲームに出てる千枝は小さくて蟻みたいね。すばしっこくて……ありんこ千枝ちゃん」
「じゃりんこちえみたいに言うな!」
『クリアおめでとうなのサ!……なんてね』
咲夜がまた千枝の神経を軽く逆撫でしたその時だった。画面にマルクではなく、一人の男(女?)が映し出された。
その姿はガソリンスタンドの店員の様な格好をしていた。千枝はその人をどこかで見た気がするが、思い出せない。
『こんにちわ、ハル・エメリッヒ。この殺し合いの参加者の中で君は頭の良い方だね。それとお二方』
「……誰よ貴方?」
『ハル・エメリッヒ。君は頭がいいから俺に質問する事が無意味って事はわかるよね?この画面上の俺に質問するのはお地蔵さんに話しかける行為に等しいよ』
「……これ壊していいかしら?」
咲夜がオタコンに許可を取ろうとするが、勿論許可は下りない。それも当然か。いや、それ以前にオタコンは画面に集中しており、周りの音などなにも聞こえない。
『これはゲーム機。だからこそプログラムされた質問しか返せない。本当はここであの道化師が激励の言葉を言うんだけど、俺が書き換えちゃった』
するとその店員の下にメッセージウィンドがわざとらしく現れる。
『あと三面クリアしたら首輪を解除できる。でも、その道は険しい。だから俺はここで君たちにご褒美を与えて、やる気を出させようと思う』
彼がそういうとメッセージウィンドに文字が表示される。
┏━━━━━━━━━━━━━━┓
ニア 主催の正体を教えて欲しい
殺し合いを開催した理由
参加者全員の現在情報
┗━━━━━━━━━━━━━━┛
『情報こそがこの殺し合いを操る為の最大の攻略方法さ。好きなのを選びなよ。あと次のステージをクリアしてもに俺は登場しないからじっくり選びなよ』
☆ ☆ ☆
「10人も死んだのか。あと27人だ、セシル。」
「そうだな。あと27人殺すことで僕らの目的は達成される」
あと27人を殺せば、全ては無かったことにされる。そうだ、ローザだって生き返るし、先ほどの血みどろの戦いだって無かったことになる。
悲しみはなくなる。先ほど流した涙もなかったことになる。この殺し合いがなかったことになればハッピーエンドだ。
目指すのは二人きりになること。
しかし、心配事があった。
「なぁ、カイン、あのバルバリシアが死んだ。もしかしたら二人になるのは困難な道なのかもしれない」
「だからこそゴルベーザを仲間にしようとさっきから何度も言っているじゃないか」
ああ、しまった。この話題は上手いこと逸らしていたつもりだったが……。そういう訳にもいかない。ゴルベーザにはちゃんと自分の道を進んで欲しいのだ。だからといって自分は自分の道を進まなければいけないのだ。
「……ああ、そうだな」
だが自分はどうしてもそれをカインに言う出すことができなかった。
「しかし、問題はゴルベーザがどこにいるか……おい!セシル!あれを見てみろ!」
カインが何かを指差す。
あれは……なんだ?
「三人ほど乗っていた。追うぞ!」
カインが駆け出すがそれは早く、追いつかない。なんて速さだ。あの乗り物はなんなんだ?
「おい、セシル!行くぞ!」
「あ、すまない、行こう」
それに追いつく為に走る。追いつくのは難しいが、地図を広げるとどこに向かっているかはわかった。『バンクル遊園地』。
☆ ☆ ☆
「……マヨナカテレビに、ペルソナ、ねぇ。地上にもそういう魔法の類があったなんて」
「私は幻想卿があること自体驚きました」
「敬語」
「あ!……ごめん!」
「幻想卿ってプププランドに似てるね!」
「異世界、なんとも面妖な……」
アリス、カービィ、雪子の三人で軽トラックの荷台で和気藹々と会話する。キョウは運転しているが会話に無理に混じり、運転は覚束ない。
情報交換は一通り終わってもう雑談が始まっていた。
「確かに幻想卿に似てるわね。妖怪とか吸血鬼とか煩わしい存在はいないけど」
「毎日が平和なんだぁ!でもマルクみたいなのがたまに悪戯するけど」
「……カービィちゃん、これって悪戯ってレベルじゃないけど?」
「うん。それが凄い不思議なんだ。こんな度が過ぎた事をするとは思わなかったし」
カービィが不思議そうに言う。星を丸ごと自分の物にするというレベルは悪戯にしては度が過ぎているが、この件でマルクは懲りて小さな悪戯しかしないようになったらしい。
だが、その後の事件がこれか。事件というより、陰謀レベルの事件じゃないか。
「ねぇ、キョウ、アンタの世界のポケモンってどんな生き物なの?火を吹いたり、空を飛ぶのって妖怪そっくりよ」
「む、確かに幻想卿の妖怪に似ている点はある。だがポケモンは一体一体の個性が強く、同じ種類でも強さや見た目が違うでござる。拙者も一体、支給されている」
「え?キョウさんポケモン持っているんですか?見せてください!」
それを言った瞬間に気付いた。キョウは正直しまった、と思った。コイキングは見せたくない……!
「……皆の衆、着いたでござるぞ」
そう思考していると看板が見えた。『バンクル遊園地へようこそなのサ!営業時間8:00〜21:00』
目の前には、何をモチーフにしたのかよくわからない小さいお城(あのテーマパークにあるアレとは何十倍も小さい)が立っており、軽快な音楽がエントランスのスピーカーから流れているが、スタッフは誰一人おらず、全体的に寂しい。
それでも雪子は興奮していた。
「ここが遊園地……初めて来た」
「……これが遊園地?趣味の悪い建物ね。期待はずれもいいとこよ」
そう不満を漏らしたのはアリス。どうやらイメージと大幅に違っていたらしい。どんな物をイメージしていたかカービィにはわからなかった。
「雪子殿、アリス殿、一応言っておくが、これは観光ではないでござる……」
「わかってるわよ。とりあえずは周辺を捜索ね。時間かかりそうだし、二手に分かれる?」
「うむ、少々危険だが、その方が時間はかからないでござる」
「どうやって組み分けする?」
「ジャンケンは嫌だよ!」
カービィが急に声を荒げる。カービィをみると、ああ、なるほど、そうか。そういうことか。じゃあジャンケンは駄目だな。うん。
「……籤引きできめよ」
「そうしよう」
アリスが基本支給品のメモ帳を手で千切り、丸と三角のマークをつける。それを折りたたむ。
それを4人一斉に引き、組はきまった。
「……女の子チームと男チームね」
「問題はないと思うが、女子だけで大丈夫でござるか?」
「大丈夫、問題ないわよ。きっと。雪子けっこう強いし」
「え、ちょっと、アリス戦わないの?」
「うん」
……正直心配だったが、キョウは突っ込まないようにした。
もっともキョウは、アリスと雪子を二人きりにする気は無かった。二人は自分の娘と同じぐらいの年齢だ。だからこそ守ってやらなければいけないと思ったが。
二人のマヨナカテレビの話と幻想卿の話を聞いた所、彼女らはかなりの手垂れと感じ、二人きりにさせても大丈夫かと思った。過信かもしれないが。
……もっともこの籤引きはアリスが何か仕組んでいたので無意味な物だ。本人はバレてないと思っているだろうが、指摘はしないことにしよう。
「キョウは僕と一緒だね。……あ!」
またもや急にカービィが突拍子に声を上げる。
「どうしたでござるか?」
「ポケモン見せてよ!」
話を逸らしたつもりだったが……!これはみせたくないでござる……!
「そうそう、火噴いたり、空を飛んだりするんでしょ?」
「キョウさん、私にも見せて!」
だが、現実は非情……!話は逸れない……!
「……むう。しょうがない、でござる」
もはや逃げられないと感じ、モンスターボールをデイパックから取り出す。
そして地面に向かって投げつけると、コイキングが現れた。
その様子を見た三人は興奮する。ずっと小さいボールからかなり大きめのコイキングが現れたのだ。
それも規格外の。キョウはこのコイキングを自分で取り出して確認していなかったためその大きさに自分も驚いた。
もしやこの大きさでギャラドスに進化したらどれだけの暴れん坊になるのだろうか。
……だがそれは進化した話だ。これぐらい大きくても、コイキングはコイキング……!
キョウさん!これが火を噴いたりするんですね!」
「いや、これはコイキングといって……」
「早くわざを見せないよ。『そらをとぶ』とか」
「いや、これは水ポケモンだから……」
「キョウ〜!はやく見せてよ〜!」
キョウは自分がポケモンを万能の様に説明したのを後悔した。
「………コイキング!!『はねる』でござる!!!」
その様子を見た3人は勿論悪い意味で目が点になった。
☆ ☆ ☆
「ちょっと!アンタ何者よ!」
「無駄だよ千枝ちゃん。これはプログラムされてる。この選択肢以外の質問は答えてはくれない」
「早く決めちゃえばいいじゃない。私は『参加者の現在情報』が知りたいわ」
「そういうわけにもいかない。今、僕達が今一番欲しい情報は常に変動している。……どうやらこの画面を保留できないみたいだ。この選択肢を選ばないと次のステージには進めない」
咲夜と接触したことによりこの戦況はかなり変わったと言えるが、その途端にこれだ。
正直オタコンはこの選択肢を選びたくは無かった。この選択肢にある情報は全て等価値だ。
だからこそ何を選んでもよい。だが何を選んでもいいからこそ、罠の可能性があった。
「(……このゲームを主催した人物は僕らに何をさせたいんだ?)」
娯楽の為にこれを主催したと思えば、首輪を外せるチャンスを与え、その次は自らの情報を与えようとしてくる。
わけがわからない。
「(……二重スパイか?つまり主催を相手にした愉快犯?)」
そう分析するも情報が少なすぎる。この男(やはり女か?)はそれがわかっているからこの選択肢を出してきたのだろう。
「ねぇ、オタコン、これって全部、同じ価値のある情報なんでしょ。なら適当に選べばいいじゃない」
千枝がそういう。確かに適当に選べば次のステップに進める。そうすれば情報も手に入るし首輪を外すことが出来るまでの時間は短くなるだろう。
「……保留だ。この質問を選ぶわけには行かない」
オタコンはゲーム機を折りたたみデイパックに入れなおした。
「これを選ぶのは他の参加者とコンタクトをとってからにしよう。君たちは僕の事を慎重すぎないかって思ってると思う。だけど慎重すぎるぐらいが丁度いいんだ。戦場ではね」
そうだ。スネークも慎重に物事を進めていき、いつも難題を解決してきた。だからこそスネークを模倣し、そして自分の頭脳を最大限に活用しなければならない。
「(……スネーク。君は悪いと思うけど、悲しむのは後にする。この事件を解決したら君の事をみんなに伝えるよ)」
「随分賢い頭をお持ちだこと。……あら?あれはなに?」
「え?……あれ!?ねえオタコンあれを見て!」
急に咲夜と千枝が声を荒げる。この状況でこんなに大きな声を上げるのは危険だ。
だが、声を荒げる理由がわかった。ここから見える観覧車が回り始めたのだ。
「……誰かがテーマパーク内の電源をいれたのかな。無意味な行動には変わりないけど。……参加者をおびき寄せる罠かもしれない」
「……あんなに大きなものを動かすなんて。地上って結構凄いのね」
「ねえオタコン、あれさ、罠だとしたら、どうなるの?」
今度は千枝が質問をしてきた。
「……君が予想している通りだよ」
だがそれは質問よりも、確認の意味合いが強かった。知らない情報を知るための質問ではなく、テストの答えあわせのように千枝はオタコンにその質問を投げつけた。
だからオタコンはその質問に対してそう答えたのだ。
「……あら、もしかしてくだらない正義感をかざして、あの車輪に向かおうって訳?」
「だとしたらなにさ、どうせアンタは私の事を止めないでしょ?」
少しぐらいは仲良くしたらどうなんだ、とオタコンは思う。同じ事を千枝も思っているだろう。
「千枝ちゃん、危険だ。もう少し冷静に考えようよ。放送で呼ばれた名前は10。だから……」
「10人も死んでるんだからそいつを殺した奴を倒さなきゃいけないじゃん!」
「返り討ちにされたらどうするんだっ!?」
「……っ!」
予期せぬオタコンの激昂。千枝はオタコンが温厚なイメージ(実際温厚なのだが)しか見ていなかったのでそれに驚く。
咲夜もオタコンが急に声を張り上げたのに驚いた。この男はどうやら根性も持ち合わせているらしい。
「……それでも、行くよ私は!例え返り討ちにされても!」
咲夜は千枝が言った言葉に更に驚いた。もしやこの餓鬼は偽善ではなく、大真面目に人助けでもしたいとでも言うのか。
これが地上の人間?聞いてるのと違うじゃない。あのソリッドスネー、ではなかったリボルバー・オセロットの様に腐った奴ばかりだと思っていたが、どうやら違うらしい。
それでも愚かで自分勝手なのは間違いない。それでこそ光るものもある。幻想卿にはこのような人物は居ない。
「……わかった、君の我儘に付き合うのはこれっきりだ。次からは僕の指示に従ってもらう。……咲夜。君はどうする?」
「あら、まるで私が行くのが嫌みたいじゃない。勿論行くに決まってるわ。千枝がどうやって戦うのかみたいしね」
オタコンは彼女の真意は知らないが、きっと善意なのだろう。やはりこの子は優しさを持っていることが確信できた。
ぐぅ〜
「……あら、かっこいい事を言っときながらお腹の音を綺麗に鳴らすなんて芸当もできるのね」
その音と共に千枝が顔を真っ赤にする。確かに自分達はこのゲームが始まってから何も口にしていなかった。
「……食事しながら移動しよう。今は時間を無駄にしたくはない」
☆ ☆ ☆
「……それ、本当?……ぷぷ」
「どこに笑う要素があったのよ」
聳え立つ観覧車の真下。それをアリスと雪子が見上げる。稼動しており、雪子はそれに乗りたかったが、口には出さなかった。
アリスも少し乗りたいという気持ちもあったが、高い所は別に珍しいものではないと認識していたのでその気持ちはすぐに失せた。
アリスは幻想卿であった異変や住人の話をしているだけなのに雪子が笑う理由がわからなかった。
確かに紅魔館の門番が鯰を退治する話やまその湖に住む氷の妖精の話はおかしな話だが、別に笑えるような話ではない。
どうやらこの子は笑いのツボがどこかおかしいらしい。話相手だけ楽しいのは気に食わない。
もっとも雪子の話はちょっと常軌を逸脱していて、例えば町からでたことがないとかの内容は幻想卿に住まうものなら理解しがたい話であった。
「まぁ妖精は妖精でも、結構強いのよ……どうしたの?」
「なんかアリス、千枝に似てるなぁ」
「千枝って貴方の親友だって子、……ちょっと?」
とかの他愛ない話をなんどか続けていると、雪子が泣いているのに気付いた。口も目も顔も全て笑っているのに雪子の涙が頬をつたっていく。そして雪子が立ち止まった。
「……あれ、なんでだろ……涙が……」
「……雪子、大丈夫?」
急に涙を流す雪子に驚く。元人間のアリスでもその涙の理由はわからないし、幻想卿に急に涙を流す人なんて居るわけがなった。
「……千枝、元気かな」
「大丈夫にきまってるでしょ。さっき放送で名前も呼ばれてないし」
「でも!……襲われてるかもしれない」
涙目で自分に訴えてくる。確かにその可能性は完全に拭うことができない。だが今は人の事を気にしている場合ではない。
もっとも自分らしくない行動が長続きしている自分がそれをフォローするのは難しい。
「……いい、雪子。いま私達がすべき行動はこの遊園地の捜索。お友達の心配は別にしてもいいけど、貴方の泣き言をここで立ち止まって聞いてる場合じゃないの」
だから自分は話題を逸らすことしかできなかった。先ほどキョウがコイキングを頑なに見せなかったように。これが良い選択とは思えなかったが。
「この殺し合いは異常。まったくもって異常。だから幻想卿の住人だろうが日本の稲羽市の住人だろうがプププランド住人だろうが、均等に異常。だから貴方だけが知り合いの心配をしてる訳じゃない。私だって心配よ。でも心配した所で今は何も出来ない」
「……ごめん」
「あら、なんで謝るの?だから今はここを捜索するわよ」
本当は雪子が謝った理由は元人間だから知っていた。だが今は知らないふりをしておけば面倒は起きない事をしっていたので知らないふりをしたのだ。これはきっと間違った選択だと思うけど。
「(……やっぱり人間って面倒。この子の気持ちがわかればいいんだけど)」
元人間だから、この子の気持ちはわかる。わかるにはわかるが、それは細かな所まで渡るわけではない。
『こう言ったら怒るだろうな』とか『これを言うと悲しむから言わない様にしよう』程度だ。だからこの子の事を細かく知りたかったから一緒に行動する様に仕向けたのだ。
先ほどの籤引きは自分が細工して雪子と行動するようにつくったのだ。魔法使いだから種無し手品ぐらいはできる。(もっとも今は種無し手品程度の魔法しかできない)
キョウはそれに気付いてたみたいだが、何も言われなかったのでよしとしよう。
「……幻想卿っていいですね」
ふと、雪子が言った。
「あと、プププランド。平和で、退屈もしなくて、そして人間関係の柵が一切ない。私、そういう所に生まれたかった」
「……急にどうしたの?そんなにいいところじゃないわよ。あれじゃないの?『隣の芝は凄い』とかいう諺」
「『隣の芝は青い』だよ、アリス。……この面倒な事が終わったら幻想卿に遊びに行きたいな」
地上の人間がたまに幻想卿に迷い込むときがある。大抵は帰りたいと言うが、幻想卿が地上より良い所だとわかると途端に帰りたくない、ここに居住する、とか言うのも稀にいる。
それで、後者の方と雪子があまりにも一致していたので色々な理由でアリスは困ってしまった。
「是非来なさい。それで私の人形を手土産にして ち ゃ ん と 帰りなさい」
とりあえずその部分だけを強調しておいた。……しかし、雪子を招いておいて自分は訪れないのか、というのが凄く失礼なんじゃないか。
「……そうね。じゃあ私も稲羽市に遊びに行こうかしら。貴方の旅館に止まる一泊二日の旅。そのあとにキョウの世界にいってちゃんとしたポケモンを見ないとね」
「本当?じゃあ精一杯の御持て成しをしないと!……キョウさんのポケモン、悪い意味で想像の範囲外だったから、こんどこそ火を吐くポケモンを……あ」
そう、にこやかに雪子が言うと、雪子の笑顔が威嚇に変わる。そして指を刺した。振り返るとそこにいたのは、竜の鎧を模った戦士。
「……カイン・ハイウィンド、ね。セシルを唆した人で、セシルの仲間」
アリスはカインに質問をする。
「……セシルさんはどこにいったの?」
続いて雪子が質問をする。だが、カインはその質問に答えるそぶりも見せない。槍を二人向け戦闘態勢を取る。
「……戦う気が満々って訳ね」
アリスがデイパックから釘打ち機を装備する。これはショッピングモールで調達してきたものだ。
拳銃の方は雪子に持たせた。彼女のペルソナが無効化されたときの為に装備させたものだ。いつ襲われてもいいように準備は怠らなかった。
続いて雪子もタロットカードを壊し、コノハナサクヤをその場に呼ぶ。
そして戦が始まった。
☆ ☆ ☆
「『――――汝の敵を愛し、汝らを責むる者のために祈れ』。なかなか面白い物を拾ったものだ」
アシュナードは読書しながらそう呟いた。そのような機会、いつ訪れるのか。
この言葉の意味は、敵や仇などを恨むな。その者の裁きが神が行うから、汝は汚れるな。きっとそういうような意味なのだろう、とアシュナードは決め付けた。
だが自分は敵を恨んだことはない。もしや恨むなどという発想はなかった。恨まれることはあるが。
気がつくと、このゴンドラはかなり高い位置に移動していた。それでもまだ半分ぐらいでまだ高いところにいくのだろう。
ふと、下を見るとこの遊園地内に参加者が多数いるのに気付いた。
だが、心底面白くない状態だった。多数いても、戦は始まっていない。
いや、始まったには始まったが……
「……誰かと思えば槍使いの戦士じゃないか。女二人に全力を尽くすか」
それはそれはつまらない戦。片方は武器にたより幽香のように強くない。もう片方は瀬多と同じ戦法で新鮮味に欠けている。
しかし、もう片方はどこにいったのか。
「……あんなところにいたか」
セシルがやっと遊園地のエントランスに辿りつくのが見えた。
きっとこの遊園地内をかき回してくれるだろう。
―――――それにはもうすこし時間がかかるだろうから自分は読書でもしていようか。戦場が血みどろの戦いになったら、我は、横から殴りつけてやろうじゃないか。
戦に身を投じるのが楽しみだ。くくく……
☆ ☆ ☆
「……やはり心配でござる」
「大丈夫だって。雪子もアリスも結構強いもん」
後悔なんやら、なんて単語が頭をぐるぐると駆け巡る。
アリスが籤に細工をして雪子とペアになったときは大丈夫だろうと思っていたが、時間が立つにつれ過ちだったという認識に変わっていく。
自分の娘に歳が近いせいか、守りたい気持ちも強い。だが、娘というのは親を嫌うものだ。そういうお年頃だった娘の事を思い出すと、女子というのは干渉されるのは嫌いらしい。
だからこそ籤に細工をしたアリスには何も言わないようにしたのだ。こういうお年頃の娘はヤンチャをしたい時期なのだろう。
「だが、やはり失敗だった」
「『だが?』って?」
「二人にしたのが失敗だったってことでござる!」
「でも大丈夫だって。雪子もアリスも強いし」
「そういう問題ではない!」
ピシャリ、とキョウがカービィに言った。カービィはキョウが何を言いたいのかわからず、不思議そうに首をかしげる。
二人が居る場所はお化け屋敷の前。この場所だけは軽快な音楽ではなく、おどろおどろとした音楽が流れる。しかし天気がいいので怖さは半減だった。
「……カービィ。気付いているか?」
「え、なにが?」
「…………何者かが拙者達を見ているでござる。気配からして三人ほど」
そういうがキョウは顔色は変えない。気付いていること気付かれては駄目だ、とわかっているのだろう。カービィにはそれがちゃんと理解できた。
だから、
「……どうした、カービィ?」
「『無』の顔 ―_― 」
自分もそれを悟られないように努力してみた。
……なにをしているんだこやつは。遊んでいる暇はない。
「……危険人物は三人。こちらは二人。数からして勝つのは難しいでござる」
「危険人物だってなんでわかるの? ―_― 」
「危険人物じゃなければこちらと接触をする筈。しかしこの気配は数十分前から感じるでござる。まだ接触してこない点を考えると拙者たちを襲う機会を狙っているかもしれん」
なるほど、キョウもキョウなりに考えているのだな、ってカービィは思った。もしかしたらキョウも結構強いのかもしれない。
「じゃあどうするの? ―_― 」
「戦略的後退でござる。一、二の三、で全速力で逃げるでござるぞ」
「戦略的後退、なんかかっこいいねそのことば ―_― 」
カービィが無表情っぽい顔でその言葉に答える。この子は一体なにを考えているのかキョウにはわからなかった。
「では、征くぞ―――――一、二の
「動かないで」
その時だった。目の前に和服の女性が現れ、拳銃を突きつけてきた。
カービィは目の前に、それも急に和服の女性が現れたのに驚いたが、キョウはまったく驚かなかった。
「……何者でござるか?くノ一か?」
「あら、私の能力を見たのにまったく驚かないなんて」
「異世界の存在を知った今、何があってもいいように覚悟はできてるでござる」
「……どうやら悪い奴じゃないようね。そっちの妖怪は……」
「 ―_― 」
「……まぁ無害っちゃ無害ね。いいわ、二人とも出てきて」
女性がそう言うと草むらの方から男性が、すぐ近くにある自動販売機の方から少女が現れた。
「うわ!近くで見るとやっぱり可愛い!」
「ぺぽ?」
少女がカービィを抱き上げる。ピカチュウみたい、と言葉に付け加える。
「すまない。一応言うけど、僕達は無害だ。……その格好って『NINJA』?」
「よかったわ。どっかの戦闘狂と違った優しそうなオジサマで」
少女が拳銃を下げる。
「僕の名前はハル・エメリッヒ。こっちの和服が十六夜咲夜。それでそこの緑のジャージが里中千枝。君たちを尾行して悪いと思っている。君たちが無害なのか些か判断が難しくてね」
テス
「……む?もしやアリス殿と雪子殿の知り合いでござるか?」
「え?雪子に会ったの!?どこにいた!?」
緑のジャージの少女、千枝が声を荒げる。この様子をみるとやはり知り合いらしい。
「拙者たちは二手に分かれてこの付近を捜索している。雪子殿とアリス殿はきっと今頃観覧車あたりでござる」
「……とりあえずこの付近には僕達しかいない。情報交換しながらそっちの方へ向かおう。それで君たちの名前は?」
「拙者の名前はキョウ。セキチクシティで……いや、言ってもわからんだろうから名前だけにしておく」
カービィが千枝の手をすり抜ける。
「僕の名前はカービィ!……一応言うけど、妖怪でもポケモンでもないからね!」
どうやら危険人物では無い事がわかったのでオタコンは安堵した。
慎重すぎるぐらいが丁度良いのはわかるが、時間を無駄にしたくはない。この遊園地のマスターブレーカーを上げた人物とは接触はしたくはない。
だからこの二人にその趣旨を伝えておく。
「……しまった。やはり二人きりにしたのは失敗だったでござる」
「私、雪子の事すっごい心配なってきた」
最初から心配してたじゃないの、と咲夜は言いたかったがまた噛み付かれるのは嫌だったので言わないようにした。
しかしあの人形使いが多人数で行動しているとは信じられない話だ。
「(……まあアイツもわかったのかしらね。この場で一人で行動するのは危険だってこと)」
幻想卿の常識はここでは通じない。だからこそ幻想卿の住人は自分の常識を他人に押し付けたくなるのだ。
それが間違いだって気付いた私は運が良い方なのだろう。だからと言って千枝の様な正義を翳す気にはなれないが。
まぁいいか、アリスとはあまり仲が良い訳ではないが、やっと知り合いと再開できる―――――
刹那。銃声。
「がっ!、、、あ」
「咲夜!?だ、大丈夫!?」
咲夜が胸を押さえて倒れる。そしてそれに千枝が近づき介抱する。
「……何者でござるか?」
「戦場で質問に答える馬鹿がいるか!?」
男性の声と同時にまたもや銃声。アスファルトで舗装された地面に銃創ができる。
「オタコン!咲夜を物陰に連れてって!」
千枝がそういうが、すでにオタコンは咲夜を物陰に連れて行った。
和服を脱がすと防弾チョッキがでてきた。どうやら防弾チョッキのお陰で直接的なダメージは無い。圧迫が酷いので呼吸は難しいだろう。
だがこの銃創を見ると大口径の銃弾を喰らっていることがわかる。それ以前に喰らった銃創と同じ、と言うことは今我々を襲ってきているのはリボルバーオセロット、ということになる。
危険だ。これは逃げた方がいい。しかし、咲夜を背負って逃げるのは不可能だ。では、戦闘でどうにかしてオセロットを撤退させなければならない。
「咲夜、君の防弾チョッキはもう使い物にならない。凹んでるしこれをきたら肺を圧迫する」
「……知ってるわよ、自分で、ゴホゴホ、脱ぐわ。下着つけてないから、あっち、向いていて」
咲夜は咳き込みながら防弾チョッキを脱ぐ。オタコンは目を逸らす。
目を逸らした先に戦闘態勢ととる千枝と、まだろくに情報交換をしていないキョウと、UMAのカービィがいた。
「拙者も加勢するでござる!」
「僕も!」
「よっし!やるわよ!」
千枝がタロットカードを踏みつけると同時にトモエが現れる。
そしてカービィが虹の剣を、キョウがラグネルを構えた。
しかし、敵は現れない。それも当然だ。光学迷彩。千枝はそれの存在を知っていたがここまで完璧にわからないものとは予想していなかった。
だからこそ三人とも動かない。動けない。だがその状況でキョウは目を閉じていた。それに千枝とカービィは気付く暇はない。
「、、そこか!」
前触れも無くキョウがラグネルを、投げた。
この状況で、武器を投げつける行為というのは酷く滑稽でおかしなものだ、本当にあの男はNINJAなのか、とキョウは思った。
そもそも自分はNINJAを過大評価しすぎているのでは、と。
しかし、それも間違った認識であった事がすぐにわかった。
「なんだと!?」
ラグネルはお化け屋敷の飛び出している屋根を支える柱に刺さる。オセロットの声の驚嘆の声があたりに響いた。
それが折れると瓦がバラバラと落ちていく。そして、千枝はそこに、なにか揺らいでいるものが見えた。
「そこか!いけトモエ!暴れまくれ!」
そこにトモエが突っ込み、攻撃を加えまくる。手ごたえはある。土煙から逃げ出すように老人が飛び出してくる。
それをカービィは見逃さない。虹の剣を彼の手にあった拳銃に振り下ろした。これでオセロットには攻撃する手段がなくなった。
「ぐあ!?」
「チェックメイト!」
オタコンはその状態を驚いた。一瞬で戦況が逆転した。なにが起きたのか自分でもよくわからなかった。
カービィが虹の剣をオセロットに向ける。そして千枝もトモエを戦闘体勢のままだ。
キョウが折れた柱に刺さったラグネルを引っこ抜く。そしてキョウもラグネルをオセロットに向けた。
「お主、何者でござるか?」
「貴様こそ何者だっ!?光学迷彩を見破るとは」
「見破ったわけではない。気配がしただけでござる。お主はその『こうがくめいさい』に頼りすぎていて気配を完全には消すことはできなかった」
そして急に、そこに咲夜が現れた。オセロットを思いっきり殴りぬける。
オタコンはそれに驚き、咲夜がいた方向に視線を戻すと、やはりなにもいなかった。ため息をつき自分のオセロットの近くに移動する。
「ゴホゴホ……よくもやってくれたわね」
「ぐは、はは、ハハハハハっ!今の時代は女も子供も戦うのかっ!!ハハハっ!ジェンダーフリーもここまできた ゴフっ!?」
今度は咲夜の膝が入った。この際、和服の下の部分、つまり下の下着を着けて居ないのをこの老害に見られるのも気にしない様にした。どうせ枯れてるだろうし。
「その減らず口を、いや、喉を潰してやりたいわ。私にあんな酷いことをしたんですもの」
「フハハハハハ!それで、どうするのだっ!?私を殺すのかっ!?」
「ええ勿論」
「ちょっ!咲夜?!殺すってどういう意味よ!?」
「拘束だけでいいんじゃないかな」
千枝が声を荒げる。やっつけることはするが、殺すことはしたくはない。
オタコンは拘束を提案したが、咲夜にはスルーされる。
「そうか、そうか。で、私を殺すことの前にまだやることがあるんじゃないかっ!?後ろを見てみろ!」
オセロットがそう言うも千枝もキョウもオタコンもオセロットから目を離さなかった。
これは自分達を油断させて隙あらば逃げる気なのだろう。その可能性があったので見ることは出来なかった。
しかし、一人だけ違った。カービィは馬鹿正直に後ろを振り向いた。
そしてそこにいたのは暗黒騎士だった。そしてカービィは声に出してその名前を呼ぶ。
「……セシル?」
「……カービィ。」
その声に気付き、千枝も、咲夜もそちらの方向を見てしまった。キョウとオタコンは見ることはしなかったものの、意識がそちらにいってしまった。
それをオセロットは見逃さなかった。
「ぐぅ!?」
無言でキョウの鳩尾に蹴りを入れる。キョウは呼吸が一瞬できなくなる。
「がっ!?」
続いてオタコンも顎に拳を入れられた。口の中に血の味が広がった。
咲夜も視線をすぐにオセロットの方向に戻し、時間を止めようとするが、先ほどのダメージが強かったのか頭がクラクラして能力が発動しない。それに短時間にそんな乱発できない。
結果的にオセロットを逃がしてしまった。
「アイツゥ!私、アイツの事追うわ!」
「…ゴホ、もう無駄でござる。あの者、老いていながら体付きは素晴らしく、日々鍛錬しているのだろう。千枝殿かどれだけ脚が早かろうともう追いつかぬ。今は、それよりすることがある」
オセロットが逃げた場所から視線を移し、セシルの方へ持っていく。
セシルは剣を構えた。だが5人には何を言っているかはわからなかった。
「ねぇ、セシル。本当に殺し合いに乗ったの?」
カービィがその言葉を、子供が素朴な疑問を母親にぶつける様に、セシルに言った。
答えは返ってこないかの様に見えた。だが、セシルは以外にもその質問を返してくれたのだ。
「……ああ。僕はこの殺し合いに乗っている」
「ローザが死んだから?」
「ローザが死んだからじゃない。僕は『無』だ。仲間も失って、今は何もない。カインだって僕の本当の本心なんて知らない」
セシルはそういうと剣をこちらに向けながら後退していく。
5対1では勝てないこと理解しているのだろう。
「カービィ。君には悪いけど、僕は人を殺す。この遊戯が終わるまで」
ふと、セシルが何かを呟く。
カービィ以外の4人はなんていったのかはわからなかった。
その時だった。
轟音が遊園地内に響く。それは耳を塞ぎたくなるほどの大きさだった。
「……なにかの冗談かい、あれは?」
オタコンがふと、そして自然に口に出した。
オタコンがそういうとセシルを含めた全員が空を見上げた。
「…………っく!」
それを見たセシルは、観覧車に向かって走り出した。
それをみた千枝とキョウとカービィも走り出す。
「カービィ、千枝、キョウさん、危険だ!」
オタコンが引きとめようと声を張り上げる。
「あんなの見過ごしてられっか!」
「拙者、あれは倒さなければいけない存在と認識したでござる!」
「あんなの放っておいたら大変なことになるよ!」
だが、止まってくれるはずは無かった。正義感の塊みたいな三人だ。止めても無駄だとはわかっていたが。
「まぁ、行くしかないでしょ。こうなってしまったんですもの」
咲夜がこちらに苦笑いながら言った。そりゃそうだろう。あんなもの、笑うしかない存在だ。たとえ幻想卿の住人でも。
「……はぁ、僕はインドア派なんだ。あまり急げない」
「私だって肺を痛めてるから急ぐことはしないわ。ゆっくり行きましょう」
咲夜はそういうものの、駆け足で三人の後を追った。どこかゆっくりなのか。
「(……スネークが死んだのは本当だったのか。あんなのが居たら死ぬのも無理ないな。スネークも今頃天国で苦笑いしてるだろうね)」
そう心の中で冗談をいった。もっとも自分にとってはそれが最上級の皮肉で、ブラックジョークともとれるものだ。余計惨めになるが、ジョークを言わなきゃやっていけないだろう。
少なくともこの殺し合いで、あれはジョークみたいな存在なのだから。
☆ ☆ ☆
「はぁ、はぁ、アンタ、訳分からない、のよ。チョコマカと、避けてばっかで、」
「はぁはぁ、アリス、結構、この人強、い」
「はぁ、はぁ、わかって、るわよ」
アリスと雪子はもう完全に疲労が襲ってきていた。服は槍で破れ、リボンが地面に落ちる。
雪子の赤いカーディガンは流血によりどす黒くなっていた。それは自分の服にしてもいえることだ。
アリスは弾幕を使えないので、持っている釘打ち機や、またショッピングモールで調達した花火やガス缶などで攻撃するがまともに当たることはなかった。
雪子もコノハナサクヤのアギラオやマハラギダインで攻撃を試みるも、まったくと言っていいほど当たらない。
まるで、ペルソナ使いの攻撃はもう見破ったかのように。そして雪子のSPもかなり消費していった。
そして、カインは驚くことに、まだ本気をだしていなかった。攻撃をしてこないのだ。
「……………。」
カインが喋らない理由はこの二人に情が移らないようにしていたからだ。
きっとこの女二人組はリディアと同じぐらいの歳だろう。だからこそ情が移らないように一撃で、だ。
だが、この二人組みは自分を近づかせてくれなかった。針を打ち込んできたり、また鉄製の爆弾を投げたりと抵抗してくるのだ。
だから槍は刺さるものの、殺すことはできなかった。これでは一撃で葬ることができない。
............いや、一撃で殺す必要性があるのか?否、無いはずだ。
リディアと歳が近いから一撃で。なにを言っているんだ俺は。リディアを一撃で仕留め損ねたじゃないか。
それに、殺したって、生き返るのだ。なかったことになる。
「......遊びは終わりだ」
「はぁ、はぁ、やっと喋ったかと思ったら、遊び、ですって、?、こんなの、遊びにもなり、はしないわ」
「はぁはぁ、アイク、さんの仇をとるまでは、死ねな、いのよ!」
久しく喉を動かしていなかったせいか、その声が自分の物ではないと感じた。
いや、いつだって敵を殺すときはこの感覚に襲われるのだ。自分が自分ではない感覚。
だからどうした、という話なのだが。
この二人はもうまともに動くことも不可能だろう。
自分のジャンプによるの攻撃を槍をやっとのことで何度も避け続けたのだ。
もうジャンプで攻撃せずとも、必ず当たる筈だ。
槍を構える。狙うは金髪の喉元。覚悟を決めたのか、目を逸らそうともしなかった。
「おや、無抵抗の女性に槍を突きつけるとは、竜騎士にあるまじき問題じゃないか」
「......!」
槍を金髪に向けることをやめ、その声がした方向に向けなおす。
そこにいたのは、セシル・ハーヴィの兄、ゴルベーザ。そして彼は紅白の玉を持っていた。
「......ゴルベーザ」
「アリ、ス、いくわ、よ」
黒髪が金髪の肩を支え歩きその場から逃げる。
「追うな。お前の相手は私だ。」
「......驚いたな。もしやゴルベーザが人助けとは」
「人助け?何を言うか。これは殺し合いだ。私と、お前の」
そう言うと、ゴルベーザは紅白の玉を地面に投げる。
すると淡い光と同時にグロテスクな生き物が現れた。ベトベトンであった。
「時に、カインよ。セシルを唆したのはお前か?」
「唆した?それは違う。セシルは自分の意思で殺し合いに乗った。逆に質問するが、なぜあの二人を助けた?」
「セシルを思う者だからだ。お前と同類だよ。悪い意味でだが」
「弟思いが酷いじゃないか。本当にセシルの事を思っているなら殺し合いに加担したらどうだ?」
「断る。お前は私の手で引導を渡してやろう。私や、お前の様な闇に近き者が生きていたら、世界はどうしようもなく負の方向に進むものだ」
「はぁ、はぁ、アリス、大丈夫?」
自分でも何を言っているかはわからない。
この傷だ。もう助からないかもしれない。ゴルベーザが助けに入ってきた理由はわからないが、これは運がいい。早く合流せねば。
「......もう、無理かも」
「馬鹿言って、ないで!」
アリスの顔を見ると涙と血でぐちゃぐちゃだった。綺麗な顔が台無しだ。
「死なせ、ないわよ!幻想卿に、遊びに、行くまで、!!」
「はぁ、はぁ、その話は、忘れて、」
雪子が泣き言をいうと自分も泣きそうになってくる。実際自分も涙目であった。まだだ。死ねない。この子を死なせるわけにはいかない。
「いい、や、忘れ、ないわ、アリスのが、人形を、手土産にして......」
「雪子......」
「なに、?」
「ありがとう」
「......アリス?ちょっと冗談やめてよね」
ふふふ、とアリスが笑う。まるでもう死ぬみたいじゃないか。やめてほしい。
そのときだった。轟音が鳴り響く。
「......なんの、音よ?」
その場に居た者が上を見上げる。
「くくく、ハハハ、ゲハアハハハハっっっ!!!!!!我もその戦に混ぜろっっっ!!!!!」
死が、舞い降りてくる。
☆ ☆ ☆
「......アシュナード。気でも狂ったか......間違った。元から狂ってたじゃないかあの王は」
つまりあの王の今の状態は一周回って、平穏な状態なのだろうが、あまりの異常な出来事に口に出してしまう。
あの、ゴンドラを自らの拳で接合部を何度も何度も殴りぬける。笑いながら。やがてあのゴンドラは地面に激突するだろう。
予想通り、小気味良い音を立てて、堕ちていく。普通なら助からないだろう。普通なら、の話だが。
しかし、なぜあのような場所にいるのか。どうやってあそこまで登ったのか気になるところだ。
「向かわない訳にはいかないな......む」
そのt時だった。目の前を数人が通り過ぎる。遅れて、和服の少女と眼鏡の男性が。
「......咲夜殿じゃないか。あの惨事の中でよく無傷で居られたものだな」
そういえばあの旅館で戦闘はあったものの、死人はソリッド・スネークのみだった。
ディープスロートの名前が呼ばれていないということは、偽名だったのだろう。
しかし、偽名だろうが関係ない。自分も二つ名、通り名で名簿に載っているのだ。名前など関係ない。ただ、戦えれば良い。
その前に、あの王が、戦好きの狂王が造作も無く死人を出すのは腹立たしい。
脚を進め、あの狂王の息の根を止めてやろう。
☆ ☆ ☆
「う、わ、あ」
「......冗談じゃ、ないわよ」
口が上手く動かない。思考もストップしたままだ。
このままではあれの下敷きになるだろう。
なのになんで私の足は動いてくれないのだろう。
私はアリスを死なせないんじゃなかったのか。
こんな事を思うのは自分らしくはない。それでも、絶対に死なせたくない。
だから、動いてよ。恐怖で脚が竦んで、心臓の鼓動も酷く耳障りになってくる。早く動かなきゃ。吐き気を催す。
嫌だ。こんな所で、
ガキン
「あ」
遂に、あれが、悪夢が堕ちてくる。
このままじゃ二人もろとも、
「.動いてよっ!」
「」
刹那と虚空の狭間で、アリスが呟いた。だが、それはあまりにも小さくて弱々しい声でなにも聞こえないに等しかった。
ドン
「え?ちょっ、」
アリスが自分を振りほどき、自分に体当たりをする。
これで自分はあれの射程範囲外だろう。自分だけ。
「なんでよ、ちょっと!アリス!約束はっ!?どうするの!?」
雪子が叫ぶのが聞こえる。もう何も見えない。血を流しすぎたのか酷く眠い。
この場を助かっても致命傷の自分は後に死んでしまうだろう。それなら致命傷にはまだ至ってない雪子を助けた方が利益はある筈だ。
「……ごめんなさい。雪子。約束、守れないや」
そう呟き、雪子に詫びを入れる。もはや自分は死ぬことしか考えていなかった。もしや遊園地にきたのは間違いだったか。
あーあ、自分がこんな所で死ぬなんて、本当、人生って何が起こるかわからないわね。死んだらあの閻魔のところか。あいつなら口五月蝿いのよね。
まぁいいか。悔いは無いはずだ。……あ、完全自立稼動の人形を作る目標、叶わなくなっちゃったか。そういえば上海人形と蓬莱人形と……
ぐしゃり。
またもや轟音。そして土煙。酷い匂いが立ち込める。
「......もう一度言う。我も、その、戦に、混ぜろ」
我国、観覧車ナリ、狂王、出陣ス。
「あ、あ、」
雪子は言葉もままならない。
指を、カインに、ベトベトンに、ゴルベーザに指す。もはや雪子の事は眼中にはなかった。
弱者はこのままの垂れ死ぬ運命なのだから雪子の事もアリスを殺したこともどうでもよかった。
「時に、槍の戦士よ。提案だ。我の部下になれ」
「何戯言を言っている」
「戯言か?お前にとって我は完全なる利益になるぞ。その鎧の男を倒すのは一人じゃ辛いだろう?」
アシュナードは剣を構える。確かに自分ひとりではゴルベーザを倒すことは困難だ。
もっとも倒す気はなく仲間にしたい気持ちがあったがゴルベーザが自分に攻撃を仕掛けてきたのだ。
セシルには悪いが、これは打ち倒さなければならないだろう。
「……一度だけ協定を結ぼう」
「用心棒って訳か。ククク……いいだろう」
「……話は終わりか?」
ゴルベーザが二人の話に痺れを切らし、言葉を刺す。
「なんだ、お前も早く戦いたいのか。揃いも揃って戦闘狂か。いいだろう、いいだろう!戦おう!さぁ戦の時間だ!」
カインが槍をゴルベーザに向けなおす。
だが、そこに水を差す者がいた。銃声。そしてアシュナードの鎧に凹みができる。
「……なんだ、女。我の楽しみの邪魔するとは」
「はぁ、はぁ、貴方、最低、な男ね、」
もう一発。今度は頬にあたる。右頬から左頬に貫通傷ができる。
血がするすると垂れ、その顔は苦痛に満ちる筈、だったのに、この男はニタニタと笑いながら、それを抜く。この男には苦痛がないのか?
「五月蝿い羽虫はやはり殺しておくべきだな。仇を取る奴に限って身の程を弁えていない馬鹿が多い」
そういうと雪子に近づき、ヴァーグ・カティを振り上げる。
それでも雪子は拳銃をアシュナードに打つのをやめなかった。
雪子は致命傷には至って居ないものの血を流しすぎて、冷静な判断ができなかった。
こいつはアリスを殺した。だからこいつは殺さなければならない。
それだけを考える。たとえ自分が死んでも。
皮肉な事に雪子を助けたアリスの考えや願いは、雪子には伝わらなかった。
「サンダガ!」
「な!?」
アシュナードの持っている剣に落雷が落ちる。
アシュナードはその場に崩れ落ちる。体の言うことがきかなくなった。
「お前の敵は、私だ。……雪子よ。おとなしく、引け。お前はここで死ぬわけにはいかない」
「い、や。」
「召喚魔法も使えぬほどに消耗しているのだ。ここは引け」
「ゴルベーザ!俺がいることを忘れるな!」
カインが槍を持ち、ジャンプする。狙いはゴルベーザ。この高さならあの鎧を突き破ることが出来る。
「ベトベトン、カインに『ヘドロこうげき』だ」
ベトベトンが割って入りカインにヘドロを投げつける。その匂いに溜まらず、攻撃することができなかった。
負けじとカインはまたゴルベーザに攻撃をしかけるが鎧を突き抜けることができず、さらには、この巨体からは予想できない身のこなしでかわされていく。
「ぐぅおおおおお!」
そのときだった。アシュナードが、サンダガを受けたにも関わらず、無理やり立ち上がる。なんだあの男は?
「……ククク、今のは効いたぞ。見たことのない魔法を使うじゃないか。だが我を殺すにはこの倍は必要だ。む?」
気付くと、雪子は脚を引きずりながらゆっくりと移動をしていた。ああ、自分だけ攻撃して、その後は逃げるのか。なるほど、なるほど。
「我を馬鹿にしてるにしか見えないなぁ、女よ!」
「お前の敵は私だ。ブリザガ!」
アシュナードを雪子の所に行かせぬようにブリザガをアシュナードに向けて放つ。
それが悪かったのか、カインの隙を突いてきた。ベトベトンの攻撃を華麗に交わし、ゴルベーザに一閃。
「貰った!」
「ぐっ!ベトベトン!どくどく!」
ゴルベーザの鎧に亀裂が走る。これ以上はやらせたくはないので、ベトベトンにまた攻撃の指示を出す。
しかし、どくどくのよる攻撃は簡単に避けられた。
「甘い攻撃だっ!我には通用せんぞっ!」
そしてブリザガもアシュナードは避けてしまう。結果としてこちらはダメージを受けただけである。
一人では二人を相手するのはやはり難しかった。このままでは雪子を死なせてしまう。
これ以上、主催に反抗する者を減らしたくはない。
「では、女。失せろ」
この距離では今、魔法を撃っても間に合わない。カインの処理だけで精一杯だ。
「……っく!」
そして、アシュナードが剣を下ろし、雪子の頭がかち割れる筈だった。
だが、それはなぜか行われなかった
「……なん、だとっ!?」
「え?」
死を覚悟していた雪子は不思議な感覚だった。目を開けると……
「千枝!」
「雪子!よかった!」
しえん
支援
支援
千枝の腕の中に居た。私は、助かったのか。
私が助けたんだけどね、と咲夜が心の中で呟く。しかし疲労が酷い。これ以上は時間をとめるのが難しいだろう。
しかし、なんなのだあれは、化け物じみた男は。幻想卿にあんな妖怪は存在しない。もっとも花の妖怪が本気を出せばあんな感じなのだろうか。
「天誅でござる!」
「悪い奴は僕がやっつけるよ!」
続いて、カービィとキョウがアシュナードに向けて戦闘態勢を取る。
「千枝ちゃん、君には悪いと思うけど、雪子の解放が僕がする。君も戦闘に入ってくれ」
「わかった。雪子、もうちょっとだから頑張れ!」
血塗れの私に、いつも通りの反応をした千枝はきっと内心この私の状態に驚いているのだろうが、何も反応しないのは、きっと千枝の優しさだろう。
その証拠に、千枝の目には涙が溜まっていた。
「動かないで。応急処置だけする」
咲夜から返してもらった(本人は寒いらしいが、結構厚着だと思う。和服ってのはあんなに嵩張ってるのに通気性は良いらしい)コートを破り、包帯代わりにする。
まだ歳もいってない少女に戦闘に混じってもらうのはどうかと自分でも思ったが、ここはそういう場所だ。
あれを倒すには戦闘を経験した者が居なければどうにもならないだろう。
自分は完全なるインドア派で戦闘など殆ど経験したことがなかった。逆に言えば今の状況は自分よりずっと年下の子供に守ってもらっている状況である。
「ゴホゴホ……戦えない自分が歯痒いかしら?」
「……今までそんなこと思ったことないな。今は自分が戦えない事実を痛感しているよ」
咲夜が咳き込みながら自分に問いかけてきた。彼女の能力の時間止めはかなりの体力をつかうらしく、戦闘をしていない状態であってもフラフラとしていた。
……今まで自分はサポートに徹していた訳で、自分は戦闘の前線にいた事は無い。それ以前に戦場や任務先に自らいくことはほぼないと言える。
「大丈夫よ。貴方は貴方だけにしかできないことがある」
「……そうかい」
彼女なりの優しさ、って所なのだろうか。そんな事を言われると余計惨めになった。
今は、彼らの戦いを見守ることしかできない。
「カイン!どういうことだ!?」
「何をそんなに怒る必要があるセシル。ゴルベーザは敵だ。ならば殺す事しかできないじゃないか」
「……セシル」
セシルはその光景に唖然とした。カインがゴルベーザに槍を向けていた。
ゴルベーザはそんなものはどうでもいいとばかりにセシルの方を見る。
「なぜ、お前は乗った?この下らぬ遊戯に。なんて醜い様だ。苦労してまで手に入れた聖騎士の鎧はどこにいった?もはや、お前は敵だ。私の」
「……兄さん、いやゴルベーザ」
こうなることは当に理解できている。その瞬間がこんなにも早く来るなんてセシルには予想できなかった。
「……お願いがある。無理に叶えて貰わなくてもいい」
暗黒に包まれた鎧から覗き出たのは悲痛な願いだった。
「……僕が、兄さんに負けたら、兄さんは、光の
「言うな。その願いは聞き入られない。私は、お前を打ち倒すしかないのだ。ベトベトン!『どくどく』!」
ベトベトンがカインに攻撃を加えると同時に、ゴルベーザが浮遊し、セシルの懐に向かう。
同じ世界に住まう者たちの二度目の戦いが始まる。
「…………」
「…………」
「……う、そ、で、しょ?」
オタコンと咲夜と雪子の三人はもう体の器官の全てを絶望で埋め尽くした顔でそれを見ていた。
あれは強い。強すぎる。
カービィも倒れ、千枝も息が絶え々え、キョウも体に裂傷だらけである。
「……私も、ごほごほ、戦闘に混じる」
咲夜がそういうとアシュナードの方へ向かう。その体で、無茶だ、なんて言おうと思ったが、いえなかった。
もはやあれを戦うのは自殺するようなものだ。なにせ観覧車の一番高い位置から落ちて無傷なのだ。
だが、それでも送り出すことしかできない。こいつは倒さなければならない、という念が自分を埋め尽くしているのだから。
実に奇妙な心境だ。これから死に行くのに、自分はまだ生きたがっている。
そういえば、昔、日本に神風特攻隊なんていうのが居たらしいけど、その隊に所属していた人たちはどんな気分だったのだろうか。
きっと自分と同じ心境だと思った。咲夜は戦えなくなったら、自分も戦うことにしよう。
「揃いも揃って小物ぞろい!興ざめじゃないかっ!もっと戦火を!もっと狂気を!」
自分を感情を昂ぶらせるものは戦だけ。剣の弾く音。家の燃える熱さ。焼ける肉の匂いと血を血で洗う戦場。
なのに、なんだこれは、
「ぐう……」
「……いった…」
「……はぁ、はぁ」
弱い、弱すぎる。なんなのだこれは。なんなのだこれは。
「弱者だらけじゃないか。あの幽香の様な者はいないのか、我を楽しませるものはいないのか!?」
「ここにいる」
そのときだった。一人の男が唐突に現れる。咲夜はその声を聞いて、またかと思った。
「……ほう、お前もいたのか」
「漆黒の騎士、強者の気配がして、ここに参った」
「……それで、お前は、我を楽しませる、のか。面白い冗談じゃないか」
「閣下、いや、アシュナード。お前は生きてはいけない存在だ。私が、打ち倒す」
「ククク......ガウェインの息子が死んだからお前は叱責の念に噛まれてると思っていたが…...」
言葉を切り、漆黒の騎士が剣を抜く。
「変わってないじゃないか。言葉より剣を、だから孤独なのだ」
漆黒の騎士がアシュナードの懐に飛び込む。
「......ここにいちゃ、危険ね、ごほごほ」
どうやらこの遊園地は乗った者通しで潰しあいしてるらしい。あの黒い鎧(漆黒の騎士じゃないほう。もっとも鎧なんて殆ど無いけど)はわからないけど。
ならば脱出を目指す者がここにいる理由はない。
カービィを頭に載せ、キョウを左肩に、千枝も右肩に、器用に運んでみせる。
オタコンもここにいるのが無意味だとわかったのか雪子を背負って移動する。
「ごめん、咲夜」
「だからくだらない正義感を振り翳すのはやめろっていったのよ。......まぁ貴方の戦いぶりは見事だったわ」
その言葉を聞いた千枝は、――――ありがとう、というと気絶した。千枝は目立った外傷は無く、打撲だけ、といったところか。剣の攻撃を喰らわなかったなんて運が良いらしい。
だが問題はキョウとカービィだ。
二人ともとっくの前に戦闘不能で気絶。カービィは切り傷だらけ。特にキョウは酷い。
左手の指が殆ど欠損しており、右瞼が切れて眼球が見える状態だ。その眼球もどす黒いものが出てきて一生使い物にはならないだろう。
やっとのことで三人をベンチに座らせる。彼らの戦闘が見えない所で少し心配だが、巻き込まれる事は無いはずだ。レーヴァテインでも支給されてないかぎり。
「.酷いな.....治療道具があれば......」
オタコンが三人の様態を見てつい口に出した。確かにこれは酷い状況だ。
「......おじ、さん......」
そこで黒髪の子、雪子が言う。おじさん、か。まだ自分はわかいほうだと思うけど。
「アリスの、デイパックに、治療道具、が」
「............人形使いの?」
その彼女がここにいない、そしてあのゴンドラの下に広がる血溜まりがあるということは、彼女は死んだのだろう。
貴重な幻想卿の人材で、脱出の要にもなる人物が死ぬなんて。
それにいつも宴会で飲みあったりする子だ。だからこの訳のわからない『悲しみ』とかいう情が生まれるのだろう。
「アリスのデイパックね。とってくる。オタコンは4人を頼むわ」
とりあえず、自分はあの乳繰り合ってる場所に戻ることにした。
「......毒、か」
「ベトベトン、『ちいさくなる』だ」
カインがベトベトンに槍を振るおうとも、それはことごとく外れる。
それも当然だ。ベトベトンはかなり小さくなっており、槍が刺さらない。
なのに攻撃の威力はそのままで、そこにどくによる攻撃。付け加えてゴルベーザがたったいま命令した『ちいさくなる』により殆ど勝ち目がなくなってしまった。
ならばどうするか。ここは引くしかない。
「……セシル!ここは一旦
「引かせないぞ。『ヘドロ攻撃』」
ゴルベーザはカインに背を向けながらも、セシルと戦っていた。ベトベトンの扱いも慣れてきたのか先ほどよりキレのある攻撃を見せる。
セシルもゴルベーザの魔法を避けながらゴルベーザに剣を振り上げ落とす。
それはゴルベーザも同じこと。
「ゴルベーザ、お願いだ、僕は闇の道へ進んだ。だから、」
「なんだ、まるで自分を倒してくれと言ってるようなものじゃないか」
「違う!」
剣が、魔法が止まる。ベトベトンは相変わらずヘドロ攻撃をカインに続けている。
「ゴルベーザには、自分の道を進んでもらいたいんだ」
「…………まるで、私が自分の道へ進んでいないみたいな言い草じゃないか」
「ああ!ゴルベーザ!君は進んでない!闇の道なんて望んでもいない道に進むなんてことをもうさせたくないっ!!」
暗黒騎士の優しさ。それはなんとも奇妙で、不思議なものなのか。
ふと、気付くとカインはベトベトンに攻撃をやめていた。
そしてベトベトンも主からの命令が無い為、待機していた。
「だから、僕がここで負けたら光の道へ進んでくれ」
遂に出るセシルの本音。カインはここで初めてセシルの本音を聞くことになる。
「…...なんだ。お前は馬鹿か。私はお前に光の道へ進んで欲しいのに、お前は闇の道へ進むというのか。そんな横暴、聞き入れられない」
しかし、ゴルベーザの願いは相反してセシルの望まぬ道になっていた。そしてその逆もしかり。
「でも、僕は負ける気はない......!?」
それは唐突すぎた。
「っく!」
「ククク......楽しいじゃないか。お前、こんなに強かったのか?」
セシルが戦う地点に漆黒の騎士とアシュナードが乱入してきた。
いや、漆黒の騎士が押されてここまできてしまったのだ。
その台詞はこちらのものだ、と漆黒の騎士は言いたかったが、それを言う暇もない。
おかしい、こいつはもう以前のこいつではない。明らかに強くなっている。前からよかった技のキレもかなり良い。
さらにはスキル『再生』の速さ。頬からでていた血はもう既に止まっていた。
「我が拾ってやったというのに、恩を仇で返すか」
「最初から仇を貰っていたのだから当然の事だ」
「俺達の邪魔をするな!」
カインがジャンプをして、アシュナードに向けて槍を向ける。そして落下。
「邪魔をしているのはどっちの方だ?竜騎士よ。協定は取りやめか。ククク。」
後方に下がり、漆黒の騎士の剣が届かない場所に移動する。そしてカインを迎え撃つ構えをした。
「......僕らの邪魔はさせない」
続いて、セシルが漆黒の騎士に向けて言葉を放つ。
「ほう、私とも戦うのか。いいだろう」
「私を忘れるな。セシル、引導を渡してやる」
ゴルベーザもそこに加わる。先ほどより酷くなった戦場を咲夜は遠目で見ていた。
「......どんな状況よ」
しえん
そこで行われているのは人外を含む戦い。決して幻想卿では見られない戦いだ。
こんなのに巻き込まれたらひとたまりも無い。
とっととアリスのデイパックを回収してみんなの場所に戻らなければ。
そこから数歩歩いたところに、拉げたゴンドラがあった。そしてそこに広がっているのは血溜まり。
そして、
「......うっ」
それをみた瞬間吐き気を催した。正直、こんなに酷いとは思わなかった。瞳孔が開いたアリスの白濁の目がこちらを見てくる。そして頭部から灰色の何かが飛び出している。
見るに耐えないので、瞼だけを閉ざしてあげた。そのアリスだったものを跨いでいくとデイパックがあった。
しかし挟まっていてデイパックを取り出すのは難しいので、中身だけを取り出すことにする。
「......あ、下着なんて支給されて。つくづく運がないのね貴方」
デイパックからそれがでてきた時につい冗談を言ってしまう。だが、それを言ったことにすぐ後悔した。
これはアリスじゃない。アリスだったものだ。だから倫理的な問題で、さらに吐き気を催した。
お目当ての緑色の大きめの瓶(メガポーションと書いてある)を取り出す。スコップも入っていたが、引っかかっており、とりだせなかった。
そして、また『アリス』を跨ぐ。それでアリスを見る。その姿は見るに耐えない物の、安らかな顔をしていた。
それをみた瞬間に酷い怒りを覚えた。あの男は笑いながら、虫を踏み潰すように、あいつはアリスを殺した。なんて酷い事をしたのだ。
だが、今の自分では、あの男には勝てないだろう。だが、ちょっとした攻撃ぐらいは出来るはずだ。
足元に拳銃によく似た物が落ちている事に気付いた。それを持ち上げ、近くにある板を売ってみるとそこに釘が生えた。
これで一発やりかえしてやろう。
☆ ☆ ☆
「......遅いな」
自分ではそういうものの、まだ数分もたってはいない。時間の感覚が狂うのは極度の緊張からくるものなのだろうか。
時計を見るとまだ30分ほどしか立って居ないことがわかる。なんて濃い時間を過ごしたのだろうか。
「オタコンさん…...千枝は......」
「......ふう。よかった。まだ喋る体力はあるんだね。千枝ちゃんは大丈夫」
「......そう」
喋る元気はあったものの、体を動かす元気はない。
ふとよこを見るとカービィとキョウを挟んで千枝がいた。その寝顔はかなり穏やかなもの。
ああ、よかった。千枝は生きてる。そして私も生きてる。
......でも、アリスは死んだ。アイクさんも死んだ。なんで私は生きてるいるんだ。ただ生き延びただけだ。運よく。
「......う、え、」
「......雪子ちゃん?」
それを考えると涙が堪らなく溢れてきた。だけど、泣いたって何も解決しないことは自分でもわかっている。
いまは千枝が居る。アリスの分も、アイクさんの分も生き延びなければならない。
「......え、うぇ...大丈夫、気にしないで」
「......そう、それならいい」
その涙を見たオタコンは下手に喋りかけるのはやめることにした。
この子は強い子だと千枝から聞いているので。
「(しかし、こちらに向かうのはやはり失敗だった)」
千枝の正義感に負けて遊園地に来たらキョウやカービィ(UMA?)などの心強い対主催に接触できたのはよかった。
だが、こうやって殆どが息絶え絶えの状態に追い込まれてしまった。
「(......冷静な判断ができなくなってるのは、やはり君のせいだよ)」
三人に背を向け、心の中でスネークを呼ぶ。
――――おいおい、なんでもかんでも人のせいにするなよ
そう脳内のスネークが僕に反論する。もっともこの脳内スネークは僕の想像するまやかしであり、スネークが死んだ悲しみを紛らわす為に作ったものだ。
スネーク、君が死んだせいで僕は動揺している。
――――オタコン、お前は俺の事を吸血鬼かなにかと勘違いしてるんじゃないか?正真正銘、俺は人間だ。
次はきっとこうやって反論するんだろうな。しかしなんだ自分は。どうやら思った以上に煩労しているらしい。このままは精神病院行きだ。
――――安心しろ。お前が精神病院に入ることはないぞ。もっと酷い奴を――
「......ん?」
肩を何者かに叩かれる。雪子か?
その時にある重大な事に気付く。それと同時に脳内スネークを強制シャットダウンする。
リボルバー・オセロット。あいつはまだ生きている。
確か光学迷彩を使っていたはずだ。武器はあるものの、まにあわな――――
「がっ!!」
倒れこんでしまう。そういえばこいつの武器はカービィが破壊していた。だから素手なのだろう。痛いのに変わりないが。
「だ、れ、よ、あな、た」
「フハハハハハハハっ!戦場で壁を向くのは自殺行為だぞっ!」
「......リボルバー・オセロット」
老人、にしてはかなり良い体つきをしている。そして、こいつはオタコンを殴り飛ばしたのだから危険人物にはかわり無い。
丸腰のオタコンを守らなければならない。だが、体が動かない。念じてもタロットカードが現れない。
虫みたいに転げまわるオタコンを見たオセロットは笑う。
自分を先ほど苦渋を味あわせてくれた三人がこんな状態にされてるとは。
遠くを見ると数人が戦闘をしている。あれに突っ込む気は無いほどの酷い戦いだ。
それにこの中では強敵の妙な手品を使うメイドはいない。なんて幸運だ。これは私に新しい秩序をつくれという神からのおぼめしかもしれない。
「武器がないから絞殺しかできないが.....死ぬまで.少し楽しもうじゃないか」
「っく......!?、ぐああああああああっ!」
うつ伏せのオタコンにオセロットが乗り、爪を剥がし始めた。
悲鳴が響く。こいつは異常だ。異常すぎる。あの時の足立よりもおかしい。悲鳴を聞いてニヤニヤしている。
このままじゃみんな死ぬ。あの和服美人はまだ戻ってこない。なんてヤバイ状況だ。
「拷問の素晴らしさ、お前は知っているかっ!?」
「っぐぅ!あああああっ!」
二枚目の爪を剥がされる。確かスネークも電撃を流された拷問をされたんじゃなかったか。咲夜が戻ってくるまで、ここは持ちこたえなければならない。
「......ほうっ?その怪我で立ち上がるかっ!?」
「......はぁ、はぁ、そこから、離れてっ!」
やっとのことで立ち上がり、拳銃をその男に向ける。だがその瞬間に酷い頭痛と腹痛に襲われる。
「......うぉえ」
ビチャビチャと音を立てて、自分の足元に黒い液体が広がる。
「そんな体で、私と戦う気かっ!面白いじゃないか。......それでセーフティは外したか?アモは積めたのか?」
「......え」
セーフティ?アモ?拳銃を使う方法なんて雪子には知らない。ただ引き金を引けばいいと思っているだけだった。
それをオセロットは知っていた。この女はただの日本人。咲夜の様に知識は疎いだろう。
だが引き金を引く方法はしっているので、専門用語を出して怯ませる。これで拳銃を使う気にはなれない筈だ。
「ぐぅ......」
オセロットがオタコンの上から移動する。オタコンは痛みのあまり立ち上がることができない。というよりか、オタコンはもう気絶していた。
「が」
「そんな体じゃ、アドレナリンも止まっていないことだ。拷問してもつまらん。死ねっ!」
首をつかまれ締めてくる。息が出来ない。顔が熱くなり破裂する感覚が襲う。
死ぬ。ここで死ぬ。私は
『あのマルクとかいう奴を倒せたら、飯をおごってもらうってのは…どうだ?」』
『是非来なさい。それで私の人形を手土産にして ち ゃ ん と 帰りなさい』
いやだ、まだ死ねない。私はアイクさんに食事を奢るのだ。墓に供えるのだ。
まだ幻想卿に遊びにも行ってない。アリスさんの人形を土産に貰ってもいない。
ここは自分にとっての正念場だ。ここで死んでしまったら、千枝もキョウさんもカービィもオタコンさンも死んじゃう。和服美人さんももしかしたら。
「.........守って、」
「ん?なんだっ?」
タロットカードが雪子とオセロットの間に舞い降りる。
そして、それは、自然に、ぐしゃぐしゃに砕けた。ペルソナ使いにとっては完全なイレギュラーが発生した。
「コナハナサクヤ!」
「......!?あの警察官と同じものかっ!?」
コノハナサクヤが現れ、オセロットにアギダインを放つ。
「があああ!熱い、熱いぃぃぃぃっ!」
オセロットがその場で火を振り払う。それをみた雪子はなんて滑稽な姿なんだろうか、と嘲笑した。この炎は簡単には消えないのだ。
支援だ
「くそ、あがああああああああ!!!」
必死で振り払うも消えることはない。
ここで死ぬわけにはいかない。だが火炎が消えてくれない。なんだ、これは。
こんな子供に自分は殺される?自分が死んだらビックボスはどうなる?
くそ、くそ、くそ、熱い、熱い。熱い、新しい秩序は、あ、? ! !
『子供相手に慢心した結果だ。戦場じゃあ、なにが起こるかわからないことを一番理解してるお前がこんな結果を出すとは。やはりお前は詰めが甘いな』
なんだか、懐かしい声が聞こえた気がする。それは自分の怨敵で、尊敬をする人の。
「がぁあああああああああああああああああああ!!!!!!!死ねんんんんんんんんあああああああああああ、あ、、あああ、ああああ、」
気がついたら自分の目の前に黒焦げの死体が、あった。
これで、大丈夫。千枝も、キョウさんも、オタコンさんも、カービィちゃんも。
あとはみんなと合流して、この殺し合いを打破して、その後は事件の真犯人を追い詰めて、アイクさんの墓にオムライスを供えて、幻想卿に、アリスの、人形を......
☆ ☆ ☆
「っっっしいいいいいいいいいいいいいいいっ!!!!!」
「っく!」
剣の
ぶつかり合う金属音が観覧車の下を埋め尽くす。
ベトベトンがアシュナードにヘドロ攻撃を繰り返し、ゴルベーザはカインも攻撃を弾き返す。
セシルは漆黒の騎士の攻撃を捌きながら、カインを巻き添えにしないように気をくばる。
「暗黒」
「月光」
技と技のぶつかりあい。二人は弾き飛ばされる。
そして弾きとばされた先にいたのは別の敵。
「印付きのお前にとってはここは素晴らしい所なのだろうな」
「お前は私の何倍も楽しい癖に」
漆黒の騎士はいつもつかう『貴殿』や『閣下』をアシュナードには使わない。こいつにはもう敬称など必要ない。
「孤独に身を寄せ、死人の影を追うお前がこの殺し合いで一人になったら望むものはなんだっ!?」
「なにもない。私は全てを打ち倒すのみだっ!」
「ではなぜ今になって己の姿を晒す?隠れ、孤独に、卑怯に、生きてきたお前がっ!?本心はなんだっ!?」
また剣のぶつかる音。
「し、ね!」
「そんな温い技じゃ、私を倒すことはできん」
カインが槍を一突き、二突きと、攻撃をする。それをするするとゴルベーザは避ける。
そしてまた攻撃魔法をセシルに放ち、ベトベトンに攻撃を指示する。
「はぁ、はぁ」
それを間一髪で避けたセシルの呼吸がさらに荒くなる。
ここにいるほぼ全員が体力の限界に近づいていた。そう、アシュナード以外は。
「なんだ?、お前ら、スピードが落ちてきたな?」
アシュナードがニヤニヤとしながら言う。
このままでは不味い。アシュナードの一人勝ちになってしまうだろう。
だからこそ皆の攻撃はアシュナードよりになっていった。
もっともアシュナードが殺したい相手はこの場に二人しかいない。漆黒の騎士とゴルベーザだ。
この二人は扱うのが無理だと察する。忠誠を誓わせる前に殺してしまうほうが早い。
カインとセシルは絶対に部下にする。絶対に。
「それで、決めたのか?我の部下になることは? 扱いは悪くはせんぞ?」
「断る」
「お前は今我々が倒す」
「ククク......ならば力ずくに......」
またもや剣をセシルとカインに向ける。
「......なんだ?」
「......私と同じ匂いがする。悲しき、闇の道へ辿る匂いだ。」
ゴルベーザは心底漆黒の騎士に同情した。そして漆黒の騎士もゴルベーザに同情した。兄弟と戦うなんて悲しいことだろう。
「セシルが駄目ならば、お前に光の道へ進んで欲しいな」
ゴルベーザはそういうが、攻撃魔法の準備を整える。こんなことを言っても無駄だとわかっているからだ。
「光への道など生まれたときから閉ざされている」
「奇遇だな、私もだ」
今度は魔法と剣が交差した。
一方、こちらはセシルとカインの戦い。
「おとなしく我の部下になればいいものの......」
「あ、あ、あ、」
カインとセシルは殆ど敗北していた。これではもう戦うことも困難だ。
二人とも武器を地面に落とす。こいつには勝てない。
「ククク......拷問はあまりしたくないのでな。今すぐ、『はい』か『いいえ』で答えろ。我の部下になれ。安心しろ、クリスタルは瀬多がなんとかする」
その時だった。アシュナードが剣を降ろした。アシュナードはこの行動をあまり重大視していなかった。
それに絶対的な自身があった。この状態で、例えば『一矢報われる』されても、捌くことはできる自身があったのだ。
だが、ここは異世界交わる殺し合いの会場。アシュナードの知らない戦法だってあるのだ。それを失念していたアシュナードは後に後悔することになる。
例えば、十六夜咲夜の『時を操る程度の能力』。
支援
「!?」
声もでない。なにせ急に目の前に女性が現れるのだから。
「一発ぐらい、喰らいなさいよ。あんた殆ど攻撃受け付けないみたいだし」
ピスッ
と発射音。そして悲鳴。
「ぐあああああああああああああああっっっっ」
咲夜は考えた。幾ら体が強固だとしても弱い部分はある筈だと。眼球ほど体の露出している器官で柔らかい部分はそこしか知らなかった。
余りの痛みに剣を適当に振り回す。だが、アシュナードの左の眼球にはやはり釘が刺さっているので当たることはない。
「セシル!撤退だっ」
「ああっ!」
逃げる機会が与えられたのでセシルとカインはそこから一目散に逃げる。
ゴルベーザもそれが機会だと踏んだのか来た所を戻っていった。
「っっああああああああっ!」
アシュナードも地面を蹴り、遊園地と向こう側を隔てる壁を突き破り、どこかに消えていった。
そしてその場にいるのは、十六夜咲夜と漆黒の騎士のみ。
「......なぜ邪魔をした?」
「あの男に一発きついのをお見舞いしたかっただけよ。でも貴方の戦闘を結果的に邪魔したことは謝るわ。...ごほごほ。」
どうやら時間止めと多用しすぎたみたいだ。また頭痛と吐き気が自分を襲う。だが、今は回復剤があるので、気にしない。
「......約束したとおり、ここで咲夜殿と手合わせをしたいが、二人とも万全の状態ではないので、ここで戦うことは遠慮しておこう」
「素敵なご提案をありがと」
なんだかこの男は紳士的な振る舞いが好きらしい。花の妖怪の男Verといった所か。相手を重んじて騎士道精神ばりばりの戦闘狂を除けばの話だが。
「それで、気になることがあるんだけど」
「なんだ?」
「......貴方、賞品の願いを狙ってるでしょ?」
「......!」
漆黒の騎士はそのことに驚く。だが外面にでることはない。この女性は自分の思っているより頭脳を使うらしい。
「さっきの男との会話を聞くかぎり、そうとしか思えないの。『今頃になって鎧を脱ぐ』とか、だっけ?貴方の事情や生い立ちは知らないけど。」
「......咲夜殿。それは違う」
漆黒の騎士は否定するも、それは違わない事実だ。
「たとえそれを狙ってなくとも、『あわよくば』なんて思ってるのね。可哀想な人。最初から潔く言えばいいじゃないの」
「......なぜ、脱出を目指す咲夜殿が殺し合いを乗った私を諭すのだ?」
「ただ単にぐだぐだ言って、物事に理由をつける人が嫌いなのよ」
――――だから人間は嫌いだ。そう呟くと咲夜は歩み、どこかに消えていく。
『ではなぜ今になって己の姿を晒す?隠れ、孤独に、卑怯に、生きてきたお前がっ!?本心はなんだっ!?』
咲夜の言葉と同時に先ほどアシュナードが言った言葉が頭をグルグルと駆け巡った。
そうだ。自分は何年も体を隠し、生きてきた。なのに今は体を隠そうともせずに戦闘を繰り返す。
だから印付きなのか。なぜ印付きなのか。という疑問もぐるぐると頭を駆け巡り始める。
そして最終的にたどり着いたのはあの言葉。自分の好敵手であり、恩人であり、そして倒すべき相手の言葉。
その言葉のせいで、自分は強者との戦いにとらわれているのだろうか。
否、違う。自分は自分の意思で戦いを望んでいるのだ。
だからこれからも自分は、戦い続ける。人殺しではない、騎士として。
しかし、自分の本心はなんなんだろうか。
本当に自分は優勝賞品の『願いを叶える』事を目的にしているのではないだろうか。
自分は無意識のうちに大事な鎧を棄てているのではないのだろうか。
あの時のディープスロート殿の攻撃も避けれたかもしれない。凹んだ兜を棄てた本当の理由があるかもしれない。
そして、私が願っていることが――――なのかも、しれない。
本当は知っていることだが、それが確かな願いなのかを知りたい。
――――くだらん戯言だ。なにを考えているのだ私は。強者との戦いが全て。それが存在意義なのだ。
自分は戦わなければならないのだ。全てを打ち倒すのだ。参加者も、主催者も、全て。
『みんな聞いてくれ! 瀬多総司は殺し合いに乗ってる! 口八丁で誤魔化そうとしてくるけど、絶対に信じちゃ駄目だ! レミリアや幽香、悪魔や妖怪も従えて、あたし達だけちゃ手が出せない! 特にアドレーヌは要注意だ! 分身みたいな技を使ってくる!
みんな騙されるな!! あいつらは悪魔だ。いや、それ以下だ! 絶対に惑わされちゃ駄目だ!! みんなで生きて帰ろう。あんな奴らに負けちゃいけない! 全員で、ここから脱出するんだ!!』
少女の声が聞こえる。瀬多総司。たしかアシュナードが口走っていた名前じゃないか。そういえば『クリスタル』が何かと言っていた。
何かクリスタルというものに秘密があるかもしれない。それに、悪魔や妖怪。気になるフレーズじゃないか。
全てと戦おう。だが、今は声が聞こえた方へ向かう気にはなれなった。休息をしてから向かうことにしよう。
【E-3/ バンクル遊園地観覧車近く/朝】
【漆黒の騎士@ファイアーエムブレム 蒼炎の軌跡】
[状態]:疲労大、四肢に貫通傷(スキルで治癒中)
[装備]:神剣エタルド
[道具]:基本支給品一式、神剣エタルド@ファイアーエムブレム 蒼炎の軌跡
[思考]
基本方針:強者と戦いたい
0:本当に、自分は優勝賞品を狙っているのか?(実は答えは知っている)
1:休む場所を探す。
2:休んだら声が聞こえた方へ向かい、妖怪や悪魔と戦いたい
3:アシュナードは打ち倒す
※名簿確認しました。
※参戦時期はナドゥス城の戦い後です。
※サイボーグ忍者(グレイ・フォックス)の正式名称は知りません。
またリボルバー・オセロットの名前をソリッド・スネークだと思ってます。
※アシュナードが口走ったクリスタルが気になります。
※魔理沙の拡声器による呼びかけを聞きました。
支援
☆ ☆ ☆
「......少し、取り乱してしまった。思えばあれは予想範囲内だった」
眼球に釘が刺さってる状態で呟く。釘は完全に埋まっており、引き抜くことは不可能だ。
普通なら眼球を突き抜けて脳に達して死に至るのだが、メダリオンを使用した状態のアシュナードを死に至らせるには及ばなかった。精々痛いだけ。
釘は板に打ち付けたように、鉄の頭の部分がでていた。もう痛覚はない。だが視覚という戦いに重要な物を失ったのは痛手だ。
「ククク......それにしてもこの殺し合い、やはり退屈はしない。あの女、どうやって瞬間的に移動したのか気になるところだ」
自分を驚かせる戦法、そして道具、魔法。面白い、だから戦は止められないのだ。
『みんな聞いてくれ!』
そのときだった。ノイズ交じりに少女の声が聞こえる。その内容はアシュナードをかなり楽しませる内容だった。
「......む?……これは面白いことになってるじゃないか。瀬多よ。これからどう動くが見物だな」
自分も向かいたいが、今の状態で向かっては戦を存分に楽しめないだろう。
「……さて、あいつはやはり忠誠なんか誓っていなかったか」
自分の部下の事を思い出す。自分に刃を向けてきたのだ。あいつは死刑。過去の英雄になんていつまでも取り付かれては前には進めないのに、奴はいつまでもわからないのだ。
まぁ、それを指摘する義理は自分にはない。今は休んで、次の戦の為の準備をしよう。
【D-3/ バンクル遊園地 真裏/朝】
【アシュナード@ファイアーエムブレム 蒼炎の軌跡】
[状態]メダリオン使用状態 疲労(大) 全身に切り傷、頬に貫通傷(全て回復中) 右目眼球に釘(回復不能)
[装備]ヴァーグ・カティ@ファイアーエムブレム 蒼炎の軌跡
[道具]支給品一式 書店で取った本を何冊か
[思考]基本方針:戦を楽しむ
1:寝る
2. 幽香を妃にする
3. 瀬多を軍師として起用し、鎧の二人(セシルとカイン)も部下にする
4. 上記二つを叶えるため、脱出方法も一応考える。しかしほとんど瀬多頼り
5. 弱者は滅する
6. イゴールを見つけたら殺す
※参戦時期は最終章でメダリオンを使用した直後。
※メダリオン使用していますが制限が掛かっています。
※鎧は爆発の影響でボロボロの状態です
※マルクが自分の考えに賛同してると思ってます。
※瀬多達との戦いでの傷は全て回復しました。
※魔理沙の拡声器による呼びかけを聞きました。
☆ ☆ ☆
しえん
108 :
創る名無しに見る名無し:2011/02/26(土) 00:25:18.94 ID:Yi8WhjP3
支援
「.……げほ。げほ、」
「カイン!?大丈夫か!?」
カインはセシルの問いに答えることができなかった。吐き気、腹痛、そして傷口が痛む。
きっとベトベトンのもうどくのせいだろう。だが運がいいことにセシルはどくけしをもっていた。
「はぁ、はぁ、セシル、ありがとう」
「いいんだ。困ったときはお互い様だ」
吐き気が収まったカインはセシルに例をいう。この光景はやはり赤き翼の正しい姿であり、ずっと続いてきた。
「……セシル、お前は辛くないのか?ゴルベーザと戦うことを、」
「……カイン。君はもう僕の本心を知っているだろう」
カインはセシルとゴルベーザとの戦いで話していた事を全て聞いていた。
「ああ。俺はセシルがゴルベーザに自分の道を進んでほしいことを願っていることを知っている。だが、セシル、お前も自分の願いは絶対に譲らないことも知っている」
「……カイン」
「俺はいつまでもお前の味方だ。それを一緒に願ってやる」
――――二人は知らない。それは歪んだ愛だということを。
『みんな聞いてくれ!』
そこに魔理沙の悲痛な拡声器からのが流れる。
「……内部に離反者でもいたのかな?」
「これを言ってる奴は勘違いしてるのに間違いないが、俺達には好都合だ」
カインがそういうと横になる。
「今の戦いで酷く疲労が溜まった。セシル、悪いが俺は寝る。交代に休んで、見張りを頼む」
そういうとカインはすぐに寝てしまった。
「……ゴルベーザ」
自分の愛しい敵の名を呟く。こんなに悲しいことはない。自分の道を進んで欲しいのに、なぜゴルベーザは自身の事ではなく自分のことばかり考えるのだろうか。
「わからないな」
思えばこれは矛盾している意見だ。なのにカインは自分の事を思い、気使ってくれる。その優しさが針の様に痛かった。
【D-3/ バンクル遊園地 近く/朝】
【チーム 赤き翼】
【セシル・ハーヴィ@ファイナルファンタジーW】
[状態]疲労(大) 暗黒騎士 、戦士に裂傷
[装備]銀の大剣@ファイアーエムブレム 蒼炎の奇跡、キラーボウ
[道具]支給品一式×4 キラーボウ(13/15) 不明支給品1~2
[思考]基本方針:カインを優勝させ、ローザを含む全ての参加者を救済する
0:見張る
1. カインと共に参加者を一掃する。特に瀬多は優先して殺す
2. ゴルベーザには、自分の道を……
3:少女の放送は保留
※魔理沙の拡声器による呼びかけを聞きました。
【カイン・ハイウィンド@ファイナルファンタジーW】
[状態]疲労(極大) 胸に軽度の火傷、全身に裂傷
[装備]グングニル@ファイナルファンタジーW
[道具]支給品一式
[思考]基本方針:優勝し、ローザを含む全ての参加者を救済する
0:休む
1. セシルとの約束を果たし、この殺し合いを共に勝ち進む
2. ゴルベーザには仲間になってもらい、戦力強化を計りたい
3:少女の放送は保留
※魔理沙の拡声器による呼びかけを聞きました。
☆ ☆ ☆
支援
「なによこれ」
咲夜が戻ってきて、それを見た時、唖然とした。
誰だかわからない焼死体が転がっており、そして、先ほどまで生きていたはずの黒髪の子、かなり安らかな寝顔で『天城雪子』が息絶えていた。
そして近くに転がっているのはオタコン。指の爪を全て剥がされている。
なにがあったのだ。疑問しか浮かばない。この短時間でこんなことになっているとは、どうなっている。
せっかく有益な情報を手に入れたのに。(もっともクリスタルという単語だけだが)
「ねぇ、オタコン!」
まだ息があり、事情を一番知ってそうな奴を起こす。が、中々起きない。蹴飛ばしてやろうか。
「……あれ?」
そのときだった。視界が歪む。そして自分も倒れた。この感覚はあれだ。漆黒の騎士に文鎮を突っ込まれる前の感覚。
「おえっ」
倒れながら胃に入ってたものを吐き出す。だが自分はなにも食べていないのでどす黒い液体がでてきただけだった。どうやら能力を使いすぎたみたいだ。
確か胃潰瘍って血を吐く病気らしいけど、その血は胃酸で溶かされて真っ黒なんだっけ……?
あー、意識が遠のく……
咲夜のデイパックからモンスターボールが転がりおちた。
そして壁に追突。その衝撃でモンスターボールが開き、ピカチュウが現れる。
もはや咲夜の物ではあったが、これは最終兵器として使おうととっておいたのだ。もっとも咲夜は存在を忘れてただけかもしれないが。
「……ピカ?」
ピカチュウは唖然とした、なんだこれは。
「ピカピ?」
咲夜は黒い物を吐いて気絶しているし、千枝もなんだか具合が悪そう。オタコンは爪がない。
それで、多分同じポケモンだろと思われるピンク玉も切り傷だらけ。
セキチクジムで戦った見知ったキョウがいるけど、キョウは黒い涙を流してる。
「ピカ……」
それを見た瞬間、なんだか怖くなった。なにこれ。
「ピカアアアアアアア!」
大変だ。助けをよばないと……
誰か来てよ……みんなが死にそうだよ….…
「ピカ!」(あ!ベトベトン!)
「ベトベトン〜!」(ん?あんたどっかでみたことがあるな)
僕の願いが通じたのか、どこかで見たことのあるベトベトンがこちらに向かって這いながら移動してきた。
「ピカピカピカ!」(助けて!大変なことになってるよ!)
「ベトベトン〜」(俺には無理だが、俺の主ならなんとかできる筈さ。……ん?そこにいるのは俺の元持ち主じゃねえか)
事情を説明するとすると返事が来た。どうやらキョウが持ち主らしい。もっとも今は違う。僕の事をいまレッドが所持していないように。
そういうとベトベトンを追うように鎧の男がこちらに向かってきた。
「ケアルガ」
その鎧の男がその言葉を放つとすぐに後ろに振り返る。不思議なことにその場にいた全員の傷が癒えていった。
「ベトベトン〜」(どうやら行くみたいだ。キョウには宜しくいっといてくれ)
「ピカピカ!」(ありがとう!ベトベトンと鎧の人!)
ベトベトンがモンスターボールの光に吸い込まれていく。
そしてその男はゆっくりと歩き、やがて見えなくなった。誰だか知らないけど、とても優しい人なんだろうな。
『みんな聞いてくれ!』
「ピカピ?」
鎧の男が立ち去って数分後。女の子の大きな声が自分の耳をつつく。
その放送に耳をよく傾け、話の粗筋を頭に詰め込んだ。きっと大事な内容だから。……でも咲夜や他のみんなにそれを伝える術なんか自分にはないからどうしよう。
みんなよく寝ている。だけど、そこに黒こげの死体や女の人の死体。なんてこんなところでみんな寝ているのだろうか。
この状態で敵に、足立の様な奴に襲われたらひとたまりも無い。だけどみんな疲れているだろうし、自分が守ってやらなければならない。
ふと、自分の持ち主について思う。レッドがもし死んでいたら?それが堪らなく怖い。でも頭はいいんだ。だからずっと負けることは無かったんだと思う。
だから、どうか、レッドも、みんなも、生きていて。
雪子はよく頑張った…
【E-3/ バンクル遊園地 ジェットコースター乗り場前/朝】
【ピカチュウ】
[状態]PP消費、精神的不安
[思考]
0:みんなを守る
1: レッドに会いたい
2:ベトベトンの事をキョウに伝えておく
※レッドのピカチュウです。覚えてる技は「かみなり」「十万ボルト」「ボルテッカー」とあと一つです
※レッドと同じ時期につれてこられてます
※魔理沙の拡声器による呼びかけを聞きました。
【ハル・エメリッヒ@メタルギアシリーズ】
[状態]:気絶中、疲労(小)、両手の爪全て欠損
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、携帯型ゲーム機 確認済み支給品0〜2 (武器はある)
[思考]
基本方針:マルクの見極めと計画の阻止
0:???
※MGS2エンディング後、MGS4本編開始前からの参戦
※ゲームを2面をクリアしました。また選択肢は保留中
【里中千枝@ペルソナ4】
[状態]:気絶中、疲労(小)、SP消費(極大)、腹部に痣
[装備]:アメリカ製のライター
[道具]:基本支給品一式、万能薬×2@ファイナルファンタジー4
[思考]
基本方針:この事件を解決する
0:???
※真ENDルート、イザナミと出会う前からの参戦です。
※ペルソナはトモエです。
【十六夜咲夜@東方project】
[状態]疲労(小)、胸骨にヒビ、鼻の骨の陥没(治療済み、衝撃を与えるとまた陥没する恐れあり)、腹部に痣、下 着 を つ け て い な い
[装備]和服、釘打ち機
[道具]支給品一式(食糧はなし)、ピカチュウ@ポケモンシリーズ、自分の衣服(濡れている)、完全に凹んだ防弾チョッキ、下着、釘打ち機、メガポーション@FF4
[思考・状況]基本方針;ピエロを倒して異変解決。油断はしない。幻想卿の常識は捨てる。
0:???
※漆黒の騎士の名前を聞きました。
※FE世界の事を聞きましたが、信じてません。
※クリスタルという単語を聞きましたが、何を示すかわかりません。
【カービィ@星のカービィ】
[状態]ソードカービィ、気絶中、疲労(小)、全身に裂傷、強い決意
[装備]虹の剣
[道具]虹の剣@星のカービィ
[思考]基本方針:ゲームには乗らない。困った人は助けたい
0:???
※名簿、支給品は確認済みです
※銀河に願いをクリア〜の時期での参戦です
※アリス、キョウ、雪子と少しだけ情報交換しました。
※セシルが殺し合いに乗っていることを知りました。
※まだオタコンたちと情報交換をしていません。
【キョウ@ポケットモンスターシリーズ】
[状態]:疲労(小)、全身に裂傷、左手の指ほぼ欠損、左目損傷
[装備]:神剣ラグネル
[道具]:基本支給品一式、
アドレーヌの絵描き道具一式@星のカービィ、 コイキング@ポケモン 、神剣ラグネル@FE蒼炎
[思考]
基本方針:マルクに天誅。
0:???
※アリス、雪子、カービィと少しだけ情報交換しました。
※まだオタコンたちと情報交換をしていません。
☆ ☆ ☆
「…………セシル。やはり悪の道へ進んだか」
召喚士リディアは死んだ。彼らの仲間だ。
それに自分の部下、バルバリシアも。
これで遂にセシルを思うものは自分だけになってしまった。
この会場によばれていないセシルの仲間たちが今のセシルを見たらどう思うのだろうか。きっと悲しみ嘆くだろう。
しかし、セシルの願い。『自分の道を選んで欲しい』だと?
お前は何を言っているんだ。これは最初から決まった運命だ。お前は聖なる道を進み、私は闇の道へ進むのだ。
なのに今頃になって立場を交換だと?馬鹿馬鹿しい願いだ。聖なる光への道を自らやめる者がどこにいるのだ。
ああ、なんて悲劇だ。これは悲劇だ。そして私にとって喜劇だ。笑える。
兄弟揃って殺し合いなど、なんて悲しいことだ。こんな悲しいことがあってたまるか。ゼムスに洗脳された私をお前は哀れんだ。
哀れんだからこそ、私を打ち倒し、救ったというのに、お前は哀れんでもないのに、闇の道へ進み、私の期待を裏切った。
いいだろう。それでは私も裏切ろう。お前は兄さんを私を呼んでくれた。それは堪らなく嬉しいことだ。
だが私はお前を弟とは言わないことにする。もはやお前は敵だ。ゼムスから私を救ってくれた恩を、私はお前を打ち倒す事でその恩を仇で返すことにしよう。
闇の道に進むのは私だけ充分だ。そうだろう、セシル。
【E-3/ バンクル遊園地のどこか/朝】
【ゴルベーザ@ファイナルファンタジー4】
[状態]:疲労(小)、鎧に少し焦げ目、鎧に傷、魔力消費(大)
[装備]:ベトベトン
[道具]:基本支給品一式、ベトベトン@ポケモン、不明支給品(1〜2)
[思考]
基本方針:殺し合いにあえて乗り、殺し合いに抗う者たちの結束を固める
1:殺し合いに抗う者たちと戦う。
2:殺し合いに乗っている者達も抗う者達に有利になるように力を削ぐ
3:セシルに引導を渡す
※エンディング後からの参戦です
※ベトベトンはキョウが持ち主です。覚えてる技は『ヘドロこうげき』『どくどく』『ちいさくなる』とあとひとつです。
【アリス・マーガトロイド@東方project 死亡】
【天城雪子@ペルソナ4 死亡】
【リボルバー・オセロット@メタルギアシリーズ 死亡】
【残り25人】
※ステルス迷彩は焼けて壊れました
※天城雪子の死体の手にシングル・アクション・アーミー(5/6)@メタルギアシリーズが握られています
※観覧車の真下にゴンドラが落ちており、そこにアリス・マーガトロイドの死体があります。
※遊園地は誰かが電源を入れたわけではなく、会場のギミックです。8:00~21:00の間だけアトラクションが稼動します
※遊園地エントランス前に軽トラックが放置されています
☆ ☆ ☆
支援
支援
会場のどこか。どかどかと廊下を歩く音が聞こえる。そしてドアをおもいっきり開ける音が彼の耳に響いた。
「……どういうことよ?」
「ああ、君達のゲーム機のプログラムのことかい?」
「知ってたのね。私達がアレを支給品に仕込んだことを」
「大丈夫、アイツには言ってない。言う気もない。それにどちらかと言えば俺は君達寄りのポジションさ」
ガソリンスタンドの男、イザナミはニヤニヤしながら彼女の言葉を聞く。
「ふざけないで。一番この惨事を楽しんでるのは貴方じゃないのよっ!!」
「えーりん!落ち着くのサ!」
「ふふ、俺は楽しい方向に進ませてるだけ。でもこれ以上やったら俺の命も危ない」
「……自分自身の命もどうでもいいと思ってる癖に、」
「大丈夫、これ以上梃入れはやらないように努力はする」
「あの選択の回答を知ったって参加者には殆ど無意味の情報よ。貴方のせいでゲームが進まなくなった」
「早く首輪を解かれても困るんだ。だからああいうプログラムを仕組んだ。でもあの『ハル・エメリッヒ』がプレイしてる事もあるし、すぐに無意味な選択だと気付かれるかもしれないから、難易度も上げておいた」
「っく!貴方って人はっ!?」
歯軋りをして、くってかかろうとする。だがその光景を見たマルクはすぐに永琳を押さえつける。
「えーりん!僕らがこいつに勝てる訳ないのサ!」
「おおう、怖い怖い、月の頭脳を怒らせたらどうなるか見物だねぇ。じゃ、俺は忙しいから早く出てって」
イザナミはもう興味は無い、と言いたげそうに回転イスを何かを映す画面に方向を戻した。こうなっては完全に自分を相手にしてくれないだろう。その部屋をあとにするしか二人にはできなかった。
「……はぁ」
「…………えーりん。」
「……大丈夫。まだ負けた訳じゃない。でもアイツのせいで運否天賦の賭けになった」
小さな声でマルクに言う、この廊下にも盗聴器があるのでこうやって話すしかなかった。
「……神に祈るしかないのサ」
「祈ったって意味は無いのよマルク。だからもっと決定的で、アイツにもばれない作戦を考えなければいけない」
泣き言を言うマルクに自分なりに励ました。
そうだ、神は居るには居る。それも沢山。だが祈ったって神は自分達の事に興味はもたない。精々私達の愚痴を宴会の肴にするだけだ。
だが、ゲーム機以上にいい作戦が思い浮かぶことは在りえない事だと自分でも分かっている。だから今は、神に祈る訳ではない。ただ運に頼るしかないのだ。
ハル・エメリッヒがその質問を意味の無い事に気付き、そしてイザナミが上げたという難易度が所謂『鬼畜』ではないことを祈るしかない。
私の裏をかいてきたイザナミの裏をかいてきた私の裏を……。正直、今はいたちごっこの状態だ。
最初からいたちごっこにならないような作戦、例えば、一撃必殺の様な攻撃を。
全てが終わるまで、私は考え続けなければならない。全てを救う為に。
投下終了
支援してくださった方ありがとうございます。本当に助かりました。
修正です。【残り24人】でした。
修正点があるのでここで修正します。
・キョウは左目損傷ではなく右目損傷
・カインの状態表の方針の2を削除
・三点リーダを……に直します。
wiki収録するときに直します
少しだけ矛盾が気になったので指摘を。
漆黒の騎士が印付きだって事やその素顔を、アシュナードは生涯知りませんでした。
だからそれを今になって彼が知れば、確実に反応は変わるはずです。
ましてや漆黒の騎士は敵国の総司令官と全く同じ顔。正体に気付けば、
「自分が漆黒の騎士に踊らされていた」事にすら勘付くでしょう。
あと、漆黒の騎士の公式の場でのアシュナードの呼び方は
「陛下」または「王」です。細々とした指摘でも申し訳ありません。
>>121 >漆黒の騎士が印付きだって事やその素顔を、アシュナードは生涯知りませんでした。
だからそれを今になって彼が知れば、確実に反応は変わるはずです。
ましてや漆黒の騎士は敵国の総司令官と全く同じ顔。正体に気付けば、
「自分が漆黒の騎士に踊らされていた」事にすら勘付くでしょう。
うわ、やってしまった……
前半部分は私の完全なミスです。よく考えたらおかしい部分他にもありますね……
後半部分は……その描写を書いたつもりだったんですが、書いてなかった……
すいません。ちょっといまから書き直して、修正して避難所に投下します
あと
>あと、漆黒の騎士の公式の場でのアシュナードの呼び方は
「陛下」または「王」です。細々とした指摘でも申し訳ありません。
の部分は以前に『忠誠を誓っておらず、居ないところでは呼び捨てだから陛下と呼ばれるのはおかしい』
という指摘を受けたのでアシュナードと呼び捨てにさせてるのですが、こちらも修正したほうがよろしいでしょうか?
書店で手に入れた書物で漆黒の騎士がゼルギウスだと知る という描写を書いたつもりでした。
締め切りがあれで焦ってかいた点もあり、推敲もせずに投下したので酷い描写なども沢山ありますので、修正時間をください。
混乱させて申し訳ないです
うおお!!!投下乙です!!
アリスと雪子……お前らは頑張ったよ……オセロットざまぁぁぁ
ゴルベーザは良い人
確かに矛盾は気になったけど修正してもらえるなら矛盾なんて誰も気にせんよ 書き手さんゆっくり修正してね
投下乙
雪子ぉ。
なんとなく終盤まで生き延びるかと思ってただけにショック
だけど最後で意地を見せてくれてよかった。安らかに眠ってくれ
ついでに指摘
アシュナードはクリスタルのこと知らないと思うんですが。
イゴールの存在を知ってるだけで
避難所に修正案を上げました。まだ問題があるようでしたらご指摘お願いします
問題がなさそうなのでWIKIに収録しました
収録した後で言うのもなんだけど、ゴルベーザは白魔法使えないんじゃなかった?
リメイクだか裏設定だかで、人を傷つける力しか使えないから、ゼムスにつけこまれた
とかいう話があった気がする。続編である月の帰還でも、黒魔法(攻撃魔法のみ)
しか覚えなかった筈だし。
あれ?使えませんでしたっけ? 使えた記憶があるのですが…… 確認してきます
やはり私の思い違いでした。wiki内で修正して、修正箇所を避難所であげます。
というよりか、修正箇所が多すぎて皆さん混乱させすぎて申し訳ないです。
RPG系は確認し辛いし、記憶が曖昧なところが出ちゃうのは仕方ないことなのでお気になさらずに
気付いたところがあったら、私たちでこれからも指摘させていただきますのでw
そういって貰いますと助かりますw
これからも是非お願いします
予約いっぱいでオラ幸せだあ
ツンデレ組と早苗さん組が空気で辛い
ネタ的にはトップ2と言っても過言じゃないけどな!
投下くるまでキャラの動向まとめようぜ。
じゃあ俺はスタンス別にまとめるわ
レッド 優勝狙い 僕より強い奴に会いに行く!
セシル 優勝狙いの暗黒、セシル・ハーヴィ
カイン 優勝狙いの竜騎士、カイン・ハイウィンド
「「二人はプリキュア」」
漆黒 優勝… 優勝狙ってるよ…多分…それより強い奴に…うん…
アシュ 脱出? 優勝とか対主催とか関係ねえ! 幽香と瀬多とプリキュア欲しい!
サカキ 脱出狙い 私は新世界の神になる!
アカギ 脱出狙い 私は新世界の神になる!
「「キャラ被った」」
霊夢 奉仕 対主催?マーダー?それはなんでしたっけ?
魔理沙 対主催 拡声器使って色々大変だー!
咲夜 対主催 そろそろボスケテお嬢様
レミリア 対主催 ガキのお守り困った…
早苗さん 対主催 常識に囚われない彼女に功徳の(ry
幽香 対主催 変なやつにラブコールされて困る
キョウ 対主催 汚いな流石主催者きたない
オタコン 対主催 スネーク死んだマジでどうしよう。
雷電 対主催 早苗さんが電波すぎる件について。
瀬多 対主催 いつのまにか対主催の旗頭になっちまった!
花村 対主催 ツンデレのルビカンテに愛でられて夜も眠れない。
里中 対主催 咲夜のバーカ!
カービィ 対主催 キミの食料はボクのもの、ボクの食料はボクのもの。
アドレーヌ 対主催 あばばばばばば
ゴルベーザ ステルス対主催 俺の弟が優勝狙いなわけがない。
ルビカンテ ツンデレ 花村を弟子にしたけど嬉しくなんてないんだからねッ!
足立 愉快犯 楽しもうぜヒャッハァー!
マルク 主催者 主催者だけど対主催なのサ! ニコでもピエモンがやってたのサ!
永琳 主催者 主催者だけど対主催。参加者を助けたいけどイザナミが邪魔すぎる。
イザナミ 主催者 主催者だけど実は俺は対主催なんだよハハハ。ゲームは楽しむけどね!
イゴール 主催? 真実はまたの機会に。
なんという事でしょう
まともな優勝狙いがレッド少年だけで、あとは自己暗示で戦うプリキュアと漆黒しかいないのです。
アシュナードもサカキもアカギも足立も優勝(笑)だなんて考えているのです
それどころか主催者が現段階で全員、対主催主催を明言しているのです
アシュナードのプリキュアほしいに吹いたww
ツンデレはスタンスじゃないぞwww きっと……
「「キャラ被った」」が地味にツボにwww
142 :
創る名無しに見る名無し:2011/03/07(月) 19:04:53.02 ID:P8lUO9Ng
仮投下に長編が来てる!!
原作が原作だから仕方ないんだが、
魔理沙は初登場SSでは頭脳派キャラだったのに、作者さんが変わったら
やはりというか、いっきに馬鹿キャラに変貌したりとほとんど別人と化してるな
(原作は)キャラの口調とか安定しないもんな
いつの間にか盛り返してたんだなこのスレ
この調子で早いとこ終わらせて、今度こそまともなキャラ選で2ndやりたいな
今回みたいな微妙な名簿じゃなくてさ
魔里沙は最初から最後まで頭脳派だっただろ
精神的に追い込まれてたから判断間違えただけだし、霊夢と当然然り
修正しなくても良いようなのでこっちに
さるさん防止にゆっくり投下します
あまりにも広い空間。神の奇跡によって作られた塔。
その場所で、刃と刃が交じりあっていた。
一撃を放つ度に空気が震え、風が押し寄せる。鎧で身をまとった男は、それでもその風を感じ取り、嬉々としていた。
敵の想像以上の成長。そして、その剣筋から分かる師の技。
楽しい。本当に楽しい。この一時のために自分は生き、そして死ぬのだ。
そんなことを、何の疑問も持たずに信じられるくらいに満たされていた。
気付いた時、自分は地面に腰をおろしていた。もう立てない。剣を振るう気力もない。
自分の中に高揚感だけが残る。素晴らしい戦いだった。これほどの戦いを終えることができたのなら、もう悔いはない。
「俺は、あんたの剣に親父の剣を見ていた」
敵は言った。
自分の中にある師の剣。それをただひたすらに見つめ、昇りつめたのが敵の剣だった。
「あんたは親父の仇。そして、俺の師だ」
なんと嬉しい言葉だろうか。戦いで殉じる私に、親の仇である私に、騎士としての死を送ろうと言うのだ。
道が違えば、あと少し道が違えば、この男と共に戦場に立ち、背中を預けられる仲になっただろうか。
そんな有り得ない想像は、とても暖かく自分の身を包み、その精神すらも天上させるもので……
そこで私は目を覚ました。
目を覚まし、辺りを見回し、そして自嘲した。
自分の人生に、自分の立場に、そして、自分の不甲斐なさに。
「馬鹿な。ガウェインの息子はもう死んだんだ」
死んだ。そう、死んだのだ。もう剣を交えることもない。師であるガウェインの剣は、もはやもう見ることもない。
先程の夢について考える。もしかしたら、私は死にたがっているのかもしれない。
誰か、正真正銘の騎士に殺されたがっているのかもしれない。
だが、そんな考えこそ馬鹿げたことだ。
私には主君がいる。命を投げ出して仕えるべき主君がいる。しかし……
「しかし、ならば何故貴様はここにいる」
何者かの声。しかし、殺気は感じられない。
横目で確認し、その男がここにいることに疑問を抱くが、すぐにそれは消える。先程の男の問いかけが、自分の頭の中を駆け巡っていたからだ。
「貴様は知っているはずだ。道化の仕業に見せかけようと、この殺し合いの中心にいるのはきっとあの方だと。だが、それならば何故貴様は何も告げられていない?」
一言。ただ一言、死ねと仰るのならば、喜んでこの身を投げ出した。殺し合いに参加しろと言うのなら、幾千もの殺し合いの渦中に入り、優勝してみせた。
しかし、あの方は何も言わなかった。私にただの一言も告げなかった。
気付いた時には、男はいなかった。まるで幻覚か何かのように、姿を消していた。
「……何故なのですか。私は、それほどまでに信用に値しないのですか」
よろりと立ち上がる。体力は回復した。足を進めるのは、先程の声が聞こえた場所。
我が主の思惑も、その上にいる女神の思惑も、私にはわからない。
だが、迷ってはいられない。迷いは死に直結する。私は、この無念を切り捨てて、騎士として殺し合いに乗るのだ。
◇◇◇
あるところに、おじいさんとおばあさんが住んでいました。おじいさんとおばあさんは、それはそれは心の優しい人でした。
ある時、おじいさんが山へ芝刈りに出掛けると、滝のほとりでとても美しい女の子と出会いました。大きなお月さまが水面に浮かぶ滝のほとり。女の子はこの世のものとは思えない着物を着て、水浸しでたおれていました。
まるで、水面の月から現れたお姫様のようでした。
優しいおじいさんはさっそくその子を連れて帰り、看病することにしました。おばあさんに事情を説明すると、快く彼女を介抱することに承諾し、二人で目を覚まさぬ女の子の世話をしました。
数日もした頃、ようやく女の子は目を覚ましました。
おじいさんとおばあさんは、おかゆを作って食べさせてやり、ゆっくりと話を聞くことにしました。
「お父さんとお母さんは?」
「いったいどこから来たの?」
しかし、女の子は首を振るばかりでした。女の子は、記憶を失っていたのです。
おじいさんとおばあさんは相談し、彼女を娘として育てることにしました。おじいさんとおばあさんは、子宝に恵まれずに過ごしてきました。だから、二人はその女の子を大層可愛がってやりました。
女の子は不思議な力をもっていました。芽の出たばかりの花を咲かせたり、作物が腐るのを遅らせたりすることができたのです。
どうしてそんなことができるのか。それは女の子にもわからないことでした。
それを村の子供たちに見せると、途端にいじめられるようになりました。鬼の子と揶揄され、ひどい時は顔に痣をつくって家に帰って来ました。
それでも女の子は幸せでした。おじいさんとおばあさんが女の子を本当に可愛がってくれたからです。
猫舌の女の子のために、いつもふうふうと息を吹きかけておかゆを冷ましてくれたのはおばあさんでした。怪我をした時、傷薬を塗ってくれて、いじめた子供を叱ってくれたのはおじいさんでした。
女の子は幸せでした。この二人がいてくれればなにもいらない。そう思っていました。
ある日のことです。
村人たちがおじいさんとおばあさんの家に押し寄せてきました。
彼らのねらいは、女の子が着ていた美しい着物でした。おじいさんとおばあさんは、ずっとそれを棚にしまって、けっして人前に出したりはしませんでしたが、ある日女の子がしゃべってしまったのでした。
山奥の村はとても貧乏でした。だから美しい着物を売ろうと村人たちが押し寄せて来たのです。
おじいさんとおばあさんは抵抗しました。
あの着物は女の子の身分を唯一証明できるものでした。もしかしたら、いつか記憶が戻るかもしれない。本当の両親がやって来るかもしれない。その時に、再びあの着物を着せて帰してやりたかったのです。
しかし、村人たちはそうは思いませんでした。おじいさんたちが着物を一人占めしようとしていると考えたのです。
村人たちは怒りました。老い先短い老人が、自分達よりも長生きしようとしている。そう言って憤慨しました。
村人たちは手に持っていた武器を振り上げました。鉈、鎌、斧、それは振り上げられては振り下ろされ、振り上げられては振り下ろされ、おじいさんとおばあさんを切り刻んでいきました。
女の子はその様子を襖の隙間からじっと見つめていました。
傷薬の入った棚に血が飛び散るのを見つめていました。
いつもおかゆが入っていた鍋に肉塊が入るのを見つめていました。自分の過ごしてきた家が赤く染まる様子を、女の子はただじっと見つめていました。
女の子はおぼろげながら理解していました。
自分が着物のことを話したからこんなことになったんだと。自分が鬼の子で、おじいさんたちの子じゃなかったからこうなったんだと。
しかし、女の子は思いました。どうしておじいさんたちは抵抗なんかしたのだろう。どうして、村人たちに着物のことを話さなかったんだろう。
おじいさんもおばあさんも、本当は私なんてどうでもよかったんじゃないか。ただ、私が着ていた服を取っておきたかったんじゃないか。老い先短い老人が、長生きしたいために村人たちを、自分を騙していたんじゃないか。
とつぜん、襖が開けられました。村人たちは女の子を鬼のような目で睨んでいました。
しかし女の子は、すでに頭がぐるぐるで、まったく動くことができませんでした。
女の子はけられました。なぐられました。子供たちになぐられるよりもずっとずっと苦しくて痛いものでした。
女の子ははじめて恐怖しました。ぎらりと光る鎌や斧が、本当に怖いと感じました。
数人が家を荒らし、他の村人はみんなで女の子を囲んでいました。
なにかもっとおそろしいことがはじまる。女の子は直感しました。もっともっとおぞましいなにかがはじまる。
にげないと。にげないと。にげないと。
心臓はばくばく音をたてていました。呼吸をするたびに、隠し持っていた銀のナイフが背中に当たりました。
それは、女の子の宝物でした。
自分が拾われたあの日、自分と共に捨てられていたナイフ。おじいさんは、それを女の子のものだと言い、毎日研いだり磨いたりしてくれていたものでした。
女の子の、たったひとつの宝物でした。
きっと、これを使えば村人たちもおじいさんたちみたいになる。女の子はそう思いました。
村人たちがいっせいに女の子に襲いかかろうとしたとき、そのナイフを振り回しました。
十秒、二十秒、三十秒。手が痛くなるまで振り続け、ようやくナイフを取り落とした時、異変に気付きました。
だれも動いてない。人だけじゃない。取り落としたナイフが、地面に突き刺さる直前で止まっていました。
ナイフを振り回す時、自分の心で唱えた魔法の呪文を思い出しました。
時よ、止まれ
女の子の願いは実現しました。
とつぜん生温かいものが全身に降りかかりました。
女の子の周りに立っていた村人たちは、みんな真っ赤になってたおれていました。
女の子は立ち上がり、その様子を見下ろしました。
そして、ようやく自分が何をしたのかを悟りました。女の子は、はじめて人を殺しました。
異変に気付いた他の村人が女の子に向かって走って来ました。
今度はさっきよりも簡単に時間が止まりました。
そして、もっと簡単にナイフを振るいました。
女の子は村人を全員殺し、そのまま村を出ました。ふと、女の子は夜空に浮かぶ月を見つめました。飛び散った血が目に入ったのか、その月は真っ赤に染まっているように見えました。
女の子は思いました。
人間なんて──
「信じない」
そう言葉にした時、ようやく自分が目を覚ましたことに気がついた。
思わず舌打ちし、鬱陶しい日光を遮断するために目を腕で覆った。
「ほんっと、嫌な夢」
まるで子供のように泣きじゃくる千枝を、咲夜は平然と見下ろしていた。
「嘘だよ。こんなの嘘だ……。せっかく。せっかく会えたのに……。せ、せっかく……」
そう言ったかと思うとまたぼろぼろと涙を流す。
鬱陶しくて仕方がない。と、いつもなら思うだろうが、今はそうは思わなかった。先程の夢が影響しているのかもしれない。
(どうしてあの時、私は泣かなかったのかしら……)
自分は冷たい人間なんだろう。涙なんて、初めから枯れてしまっていたのだろう。
きっと自分は、お嬢様が死んだとしても泣いたりはしない。だというのに、里中千枝は外聞も捨てて泣き喚いている。
一瞬だけ。
ほんの一瞬だけ。
咲夜はそのことを羨ましいと思ってしまった。
「……千枝。そろそろ話、始めるわよ」
全員が疲労困憊ながらも起きていた。
千枝は雪子の亡骸を抱いて泣き止むことはなかったが、それでもその音量は幾分かましになった。
「ピカチュウのおかげで判明した拡声器の声。内容を簡潔に言うと、『瀬多、レミリア、幽香、アドレーヌの四人が殺し合いに乗っている』というものだ。そうだね? ピカチュウ」
ピカチュウはこくこくと頷いた。
「声の主も分かっている。霧雨魔理沙。咲夜の話ではまず殺し合いに乗るような人間じゃないらしい。そしてそれは殺し合いに乗っているはずの他の四人も」
「ええ。私がいる以上、お嬢様が殺し合いに乗るなんて有り得ない。そもそも、何かに乗せられるのが大嫌いな方だし、それは花の妖怪だって同じはずよ」
「アドレーヌが殺し合いなんてするわけない! ぜったい何かの間違いだよ」
「瀬多総司も殺し合いに乗るような人間じゃない。そうだね?」
オタコンの言葉に、千枝は力なく頷いた。
「それは……どういうわけなんでござるか?」
キョウが疑問に思うのも当然だ。全員が殺し合いに乗るような人間じゃない。だというのに、内容は明らかな内部分裂を意味している。
「普通に考えて、大人数で優勝を狙うチームというのは少し現実味に欠ける。優勝者一人を決める殺し合いで、仲間を多く作っても最終的に殺し合う敵が増えるだけだからね。
それに聞いた様子だと、少なくともレミリアや幽香がチームを組んで殺し合いに乗っているとは少し考えられない」
この二人はそれぞれ十分な強者だ。殺し合いに乗る可能性はありそうだが、能力的にも性格的にもチームは組まないだろう。
「だとするなら……魔理沙が乗っている可能性が高い、か」
咲夜の発言は確かに的を得たものだ。しかし、魔理沙が殺し合いに乗っている可能性は低いと言ったのは咲夜だ。なのに咲夜は、自分の主張をいとも簡単に撤回した。
「君は魔理沙を信用してたんじゃないのかい?」
オタコンの言葉に、咲夜は冷笑で返した。
「人間って、そんなに信用できるもの?」
オタコンには、できると即答できなかった。何故なら、咲夜の瞳の奥に、確かな孤独を見たからだ。
「できる!」
「拙者も!」
カービィとキョウが一斉に叫ぶ。しかし咲夜に無視され、二人はしょぼくれた。
「……君達二人、ボロボロなのによくそんな元気がでるね」
オタコンの皮肉に、二人は照れ笑いで返した。
本当に元気なものだ。オタコンはため息をついた。
「……行こう」
突然、千枝がすっくと立ち上がった。
「もう嫌だ。もう誰も死んでほしくない。瀬多君には……絶対死んでほしくない。だから行こう」
涙を腕で吹きながら、千枝は言った。
オタコンとしては、その提案に乗るのもありだと考えていた。
可能性は低いながら、魔理沙が単純に四人を誤解したという可能性も捨て切れないからだ。一体どうしてそれほどまでに誤解を広げる結果となったのかは甚だ疑問だが、それでもそういう可能性がある以上、同志と接触するのは悪いことじゃない。
それになにより、レミリアや幽香、瀬多とは早く合流したいという気持ちが強かった。
「……僕達は満身創痍と言ってもいい。そして、これから行くところにはおそらく、さらなる戦いの火種があるだろう。反論があるなら聞くよ」
オタコンが全員に問いかける。が、全員が首を振った。
「やれやれ。君達はほんと疲れ知らずだね」
オタコンが盛大なため息をついて、立ち上がった。
「なら行こう。きっと、僕達にも出来ることがあるはずだ」
ごめんね、雪子。お墓も作らないで行くことになるけど……。でも、あんたは恨まないよね。誰かを助けるためだって知ったら、きっとあんたはわかってくれる。そう信じられるんだ。
私たち、ずっと一緒だったよね。マヨナカテレビのことがあった後も、ずっと仲良しでいられた。本当の親友だった。
……あんたの爆笑癖がもう見られないのが辛い。あんたのまずい料理が食べられないのが、本当に辛い。
でも、私はもう振り向かないよ。雪子の分も生きる。そう決めた。生きて生きて生き抜いて、きっとあんたの墓を作ってあげる。
天城旅館のすぐ傍で、こんな殺し合いなんて無縁な、平和なあの町に。
全員が移動を始めた時、咲夜は一人、黒焦げになった男を見つめていた。
殺し合いが始まり最初に出会った戦闘狂。行くところ行くところ現れて、執拗にこちらを狙ってきた鬱陶しい男。
「本当に、ストーカーかと思うくらいにしつこいオジサマだったわね。まあでも、その凄惨な死に様を見れば、少しは気が晴れたわ」
そう呟き、皆と合流しようとした時だった。
──し……ん……──
声が聞こえた。
聞こえるはずのない場所から。
死んだはずの人間から。
思わず、咲夜振り向いた。
「でなあああああい!!!」
ぎょろりと見開かれた瞳が咲夜を射抜き、まっ黒になった手が伸びてその足を掴む。
思わず転び、助けを求めて声を出そうとするが、驚きのあまり何も言えない。
(と、時を止めないと! 時を……)
「どしたの?」
言われて、ハッとする。
自分の目の前にあるのは、まっ黒になった男の死体だった。
こちらを睨んだりしていない。
足を掴まれてもいない。
「……幻覚、か」
そう呟くも、何となく嫌な感覚が払拭できず、咲夜は逃げるようにその場を後にした。
◇◇◇
『みんな聞いてくれ!! あいつらは殺し合いに乗ってる!! 絶対に言い包められちゃ駄目だ!!』
走りながら、それでも魔理沙は叫び続ける。
少しでも多くの人間に聞いてもらえるように。少しでも自分達と同じ良心のある参加者を突き動かすために。
だがそれも長くは続かなかった。
『瀬多もレミリアも幽香もアドレーヌも! 全員が殺し──
襟首を掴まれる感触。身体が浮遊する感覚。
かと思うと、目の前に地面が広がる。
「ぐえっ!!」
拡声器を思わず手放す。幽香はそれを蹴って、魔理沙から引き離す。
「さて。もう余興は終わりよ。ここには瀬多もアドレーヌもいない。あんたを煮るなり焼くなり、私の好きなようにできる」
ごきりと指を鳴らす。
どれだけ暴れようと魔理沙を押さえつける腕は一切力が衰えることがない。
「あ、足立! 足立、助けてくれ!!」
叫びながら足立の方を見て……愕然とする。
足立は逃げていた。
徹頭徹尾逃げていた。
こっちを振り向きもしない。声をかけもしない。
ただ幽香から逃げていた。
「ちっ。あいつも殴り殺してやろうと思ってたのに」
嘘だ。足立があたしを置いて逃げるなんて嘘だ。
首を振り、現実を否定するかのように嘘だ嘘だと魔理沙は呟く。
「嘘? 何を言っているの。これは現実よ。その証拠に──」
ボキッ
何かが折れる音がした。
「がああああ!!!」
「ほら。痛いでしょ? 目が覚めたかしら」
腕があらぬ方向に曲がっている。
痛い。痛い!
涙を流しながら呻き声をあげる魔理沙を無視して、幽香は胸倉を掴んで持ち上げる。
「お前はやってはいけないことをした。人間の脆弱な精神なんて知ったことじゃないけどね。それに巻き込まれるのだけは我慢ならないの。何の罪もないあの子が巻き込まれるのは特に……ね!!」
木に叩きつけられ、一瞬息ができなくなる。
「ねえ。あなたはどうやったらあの子を傷つけないでいてくれるのかしら。その舌を引っこ抜けばいいの? それとも四肢を切断したら大人しくなる? どうなのよ。何とか言ってみなさい!!」
魔理沙の目に映る幽香は、まさに妖怪だった。
理解不能。
絶対的な力。
言葉一つ一つに圧倒される。蒼く禍々しいオーラが幽香の周りに漂っている気さえしてくる。
死にたくない。殺されたくない。
「待て幽香!!」
突然、声が聞こえた。
足立だ。そんな希望的観測を持ってそちらを見ると、そこには瀬多総司が立っていた。
瀬多は魔理沙の様子を見て、それから幽香を見た。
「どういうつもりだ?」
「どうもこうもないわ。これ以上馬鹿な真似をしないように少し調教していただけよ」
「いくらなんでもやり過ぎだ。足立が逃げた時点で、魔理沙との誤解は解ける。痛めつける必要なんてない」
「だから? それはあんたの考えであって私の考えじゃない。便宜上あんたがリーダーみたいな役回りだったけど、ここにきて私がそれに従う必要なんてない」
「……確かにそうだ。だから俺は理屈で喋っている。これ以上、誰かを傷つけるのは無意味だ。お前にとっても。アドレーヌにとっても」
幽香がぴくりと反応する。
「今のお前を見て、アドレーヌが喜ぶとでも思ってるのか? 頭を冷やせ幽香。いつものお前らしくない」
「……何よそれ。いつもの私って一体何? あなたは私の何を知ってるっていうの? なんでも見透かしているような言い方は止めてくれないかしら。本当に……うざったい!!」
半歩だけ、瀬多は下がった。
下がらざるを得なかった。
妖怪の本気の殺意をまともに受ければ、誰でも下がる。その中でも半歩で済んだ瀬多は相当意思の強い部類だろう。
その時、ようやく瀬多は、毒々しく輝く蒼いオーラが幽香の周りを蠢いているのを見て取った。
(……なんだ、あれは?)
瀬多は知っている。
このオーラの正体を瀬多は知っている。
(……まさかッ!)
内心の焦燥を押さえ、瀬多は極力冷静さを装って口を開いた。
「……幽香。デイバックを見せてくれないか? 今回の件は全面的に俺が悪かった。だからデイバックを見せ……いや、渡してくれ。それで俺は引き下がる」
「良い心がけね。けど、さっき言った言葉をもう忘れたの? あなたの命令を聞く義理なんて──」
「いいから渡せ!!」
瀬多の焦りさえ感じさせる怒声に、幽香は目を細めた。
「決して開けるな。バックの中を開けずに、俺に渡すんだ。ゆっくりと、慎重に」
いくら頭に血が昇っていても、瀬多の慌てぶりが異常だということはわかる。
幽香は大人しくそれに従うことにする。どうせ支給品など自分にはいらない。
肩からバックを降ろし、それを放り投げる。
その一連の動作の最中、一瞬だけ手が緩んだ。
魔理沙を持ち上げていた手の力が。
「うわああああ!!!」
好機とばかりに魔理沙が弾幕を発射する。手が塞がっていた幽香は、咄嗟にバックでそれをガードした。
「や、止めろ!!」
バックが破れ、中の物が飛散する。
地図、コンパス、食料……そして、蒼白く光る一つのメダルが。
「幽香!! それに触るな!! 一瞬でも触れたら駄目だ!!!」
瀬多は思わず駆け出した。だが、もはやどうにもならないことだった。宙に飛んだメダルは虚空を舞い、そのまま──
幽香の手に触れた。
瀬多に突風が襲いかかり、思わず腕でガードする。それでも吹き飛ばされそうになるほどの風。前を見ていられない。そちらに近づくことさえ出来ない。
途端、眩しいほどの光が辺りを包む。
それらが収まった時、その中心にいたのは、……最強の妖怪だった。
心なしか肌の色が黒ずみ、服もどこかおどろおどろしい碧に変わっている。
これはもはや幽香ではない。本物の化け物だ。
だが、幽香はじっとしていた。
放心状態なのか、今はただ地面を見つめているだけだ。
銅像のようにまったく動かない。
このままずっと立ち尽くしているだけな気さえしてくる。
(だが、あれが俺の知っているメダリオンなら……、事態はそんな簡単なものじゃない)
そう。今瀬多は最大のピンチを迎えていた。
放送前の、四人の襲撃者などよりも遥かに危険な場面を迎えていた。
「あ、……あ……」
幽香の手は既に魔理沙から離れている。今なら逃げ出すことも可能だ。だが、魔理沙は腰が抜けているのか動こうとしない。
「……魔理沙。ゆっくりでいい。ゆっくりでいいから、俺のところへ来るんだ」
できるだけ刺激しないように。瀬多自身もじりじりと魔理沙に近づく。
魔理沙が地面に手をつけたその時。
ぴくりと幽香の指が動いた。
思わず動きを止める。
瀬多の心臓はこれでもかというくらいのスピードで高鳴っている。
「……大丈夫。大丈夫だ。魔理沙。こっちに──」
幽香の腕が動いた。魔理沙のすぐ後ろにある木を片手で掴む。人間の胴体を優に超える太さのそれを片手で持つのは物理的に不可能だ。
しかし幽香は、その指を幹に食い込ませ、まるで大根でも引っこ抜いているかのような気軽さで、ずぶずぶと音をたててその根を日の元へ曝す。
「魔理沙。来い。はやくこっちに来い!!」
もう怯えてなどいられない。瀬多は、魔理沙は、幽香が何をしようとしているのかを直感的に理解した。
瀬多が走る。
魔理沙が地面に膝をつけたままその場から離れようとする。
狂気を感じさせる笑みを幽香は浮かべる。その血走った瞳は、明らかに常軌を逸したものだった。
引き抜かれた大木を大きく掲げる。その先にいるのは魔理沙だ。
「手を伸ばせ!! 魔理沙!!!」
声にならない声をあげ、魔理沙は必死に手を伸ばす。
瀬多も走りながら手を伸ばす。
瀬多の手が、魔理沙の手を掴むその瞬間。
ぐしゃ
魔理沙の頭は、まるで卵か何かのように大木に押しつぶされた。
魔理沙の血が瀬多の頬に飛び散る。
一瞬の思考停止。
その状態を、幽香は嬉々として見つめていた。
「……ああ、そうか。そういうことか、イザナミ」
込み上げて来るのは、笑い。しかしその胸の内は、張り裂けんばかりの怒りでいっぱいだった。
「これがお前の狙いかあああああああああああああ!!!」
「拡声器の声が止んだな」
「……」
「そろそろ戻って来ても良い頃合いなんだがな」
「……」
「……ちっ。こんなことなら、瀬多からあの手品について学んでおけばよかった」
体育座りで蹲るアドレーヌの周りをうろつきながら、レミリアは一人呟いた。
別に気を遣う必要なんてない。いくら落ち込んでいようが知ったことではない。
だが、たった二人でいる時に、こうも見るからにしょぼくれられていてはどうにも気分が悪い。
かといって、下手な慰めをしても効果がないのだ。必然的にやるせない苛立ちが募ってくる。
「シャンハイ!!」
「ん? 何だお前。……外? 馬鹿を言うな。私が外に出たら……駄目だろう。吸血鬼的に」
「シャンハイ!!」
「違う? 何が言いたいんだ、まったく……」
レミリアが腹立たしそうに舌打ちする。
基本的に我儘で堪え性のないレミリアが、上海人形の難解なコミュニケーション方法に付き合える訳がない。
「……瀬多さんの、声」
「ん?」
アドレーヌがか細い声で言った。
「瀬多さんの声が聞こえるって、言いたいんじゃないでしょうか」
「ああ、そういうことか。お前、なかなか理解力があるな」
レミリアなりの元気づけるための言葉も、アドレーヌは無反応だった。
再び舌打ち。
「……で? 瀬多の声が聞こえたからなんなんだ?」
「それは……」
「シャンハイ……」
「…………」
レミリアはつくづく思った。
この三人に、考え事は似合わないと。
支援
しえん
(俺が幽香に勝てる可能性は万に一つもない)
幽香と対峙した瀬多は、勤めて冷静に考える。
(かといって、手がないわけじゃない)
そう。魔理沙が使っていた拡声器だ。あれを使えば、レミリアに助けを呼べる。
しかし、それは今の瀬多からすればあまりにも遠過ぎる位置にある。
あれを取りに行くのに五秒はかかる。自分が百回くらい殺されてもお釣りがくるほどの時間だ。
それはあまりにも大きな五秒。
(問題はどうやって時間を稼ぐか。そして、どうやってあそこに近づくか)
幽香に理性はない。それは幽香の様子を見ればよくわかる。
幽香はもはや言葉も通じない化け物になっていた。
ゆっくりとポケットを弄り、小型銃を取り出す。
幽香は魔理沙を壊すことに夢中で、こちらに気付いてさえいない。だが、気付かれた時は終わりだ。
魔理沙のように一瞬で死ぬ。
じりじりと目的のそれまで近づく。
銃口を幽香に向けながらも、じりじりじりじりと。
ぴたりと、幽香の動きが止まり、ぎらりとこちらを見る。
躊躇いは一切なかった。瀬多は銃弾を発射させた。
腕を狙ったのだが、図らずもそれは顔に命中した。
(しまった!)
さすがの幽香といえども顔に弾丸を撃ち込まれたら致命傷だろう。なんとか正気を取り戻させたい瀬多は、心の中で悔いた。
が、それはすぐに無用なものだったと知ることになる。
顔を仰け反らせるようにしていた幽香が、こちらを見つめる。
歯と歯の間に、一つの鉛弾を咥えて。
「冗談……だろ」
ばきり、と音をたてて弾をかみ砕く。
瀬多はもはやその姿を見ていなかった。
もう考えてなどいられない。すぐに目標のそれへと急ぐ。
「あった! 拡声器!!」
それを掴んだ瞬間、瀬多の第六感が大音量で警報をあげた。
視認すらしている暇はない。
「ラクカジャ!!」
咄嗟に防御力をあげるスキルを発動させる。その瞬間、瀬多の腹に大木が命中した。
「ごふっ!!」
何メートルと宙を飛び、そのまま地面に叩きつけられる。
「ラクカジャをかけて……この威力……か」
しかも幽香はまるきり遊んでいるような様子。そもそも、本気で殺すつもりなら片手で攻撃したりしない。
瀬多はそっと腹をなぞった。あばらが数本折れている。内臓が無事だったのは奇跡的だった。
(これじゃあ、助けを呼んでる時間もない)
しかし、諦める訳にはいかない。
バックから連射可能なトンプソンを取り出し、瀬多は迷うことなく銃口を引いた。
「うおおおおおっ!!!」
雨あられと飛ぶ弾丸を、しかし幽香は避けようとさえしない。まるで鋼鉄でできているかのように、その身体は傷一つついている様子がなかった。
(正真正銘の化け物だ。こんなの……どう足掻いても倒せない!!)
すぐに弾は切れた。カチカチとトリガーを引いても何も出てこない。
幽香は瀬多の目の前まで近づくと、そのまま銃の先端を掴み、握り潰す。
これで武器はもうなくなった。
万事休すだ。
思わず膝を折る。
目の前に幽香が迫る。
「……幽香、聞け」
無反応。
「俺だ。瀬多総司だ。わかるだろ。番長だなんだって、みんなから散々からかわれてた奴だ」
笑みを絶やさず、その大木を瀬多に向ける。
「お前がどう思ってたのかは知らないけどな。……俺は。俺は三人といて……楽しかった。こんなところに放り込まれたけど、三人に会えて……良かったって……。畜生。何言ってるんだ俺は……」
我慢できなかった。泣いてる場合なんかじゃない。そう分かっていても、止められなかった。
幽香がその手に力を入れるのがわかった。もう何秒もしないうちに、この大木は自分を貫く。そう分かっていても、瀬多は逃げることもなく叫んだ。
「いい加減目を覚ませよ!! イザナミなんかの思い通りになって悔しくないのかよ!! お前は、アドレーヌのことも忘れちまったのか!!!」
止まらない。幽香の狂気は止まらない。
幽香の大木が、真っすぐ瀬多へと走った。
瞬間、トラックが突っ込んできた。
幽香は吹き飛び、そのまま地面に叩きつけられ、死体のようにごろごろと転がる。
何が起きたのか、一瞬理解できなかった。
「瀬多君! 大丈夫!?」
トラックから千枝が降りて来る。他にも三人。眼鏡をかけた男と、和服の女性、丸くて桃色の奇妙な生物。
千枝以外の人間は初対面だ。しかし、彼らが自分の味方だということはすぐにわかった。
千枝に手を借り、立ち上がる。
「……助かった。ありがとう、千枝」
涙を拭い、瀬多は言った。
そうだ。今は悲嘆している場合じゃない。この状態をどうにかしたかったら、戦うしかないんだ。戦って、戦って、そして、正気を取り戻させるしかない。
思わぬところで出会えた仲間。だが喜びを分かち合っている暇はない。
遠く飛ばされ倒れ伏していた幽香がむくりと起き上がる。
「ちょ、ちょっと! トラックで吹っ飛ばされて、なんであんなに元気なのよ!」
「……任せるでござる。さすがに全速力ならば堪える筈!!」
トラックのタイヤが急速に回転する。その瞬間、凄まじいスピードで幽香へと突進する。
幽香は笑っている。ただただ笑い、その拳を構えた。
その様子に、瀬多はぞっとする。
「ま、待て! トラックから……っ!!」
聞こえていない。ただ叫んだだけでは聞こえるはずがない。
瀬多は全速力で駆けて行き、落ちていた拡声器を掴んで叫んだ。
『トラックから降りろ!! 危険だ!!!』
瀬多の声が響き、すぐにトラックのドアからキョウが転がり落ちてきた。
瀬多はほっと胸を撫で下ろす。キョウが素直な人間でよかった。
だが、撫で下ろしたはずの胸は、すぐに凍りつくことになる。
突進するトラック。
それに合わせるようにカウンターを放つ幽香。
轟音。
トラックが紙細工のように粉砕され、宙を飛ぶ。
上空十数メートルというところで、トラックはガソリンが引火して爆発した。
まるで手打ち花火。バラバラと残骸が降り落ちるにも関わらず、全員が愕然として空を見上げていた。
「すうううぅぅぅう!!」
瀬多達に降り注ぐ小さな残骸が、一所に集まる。炎を纏った残骸が集まってできた大きなゴミを、カービィは一気に飲み込んだ。
「ファイアーカービィ参上!!」
突然、真っ赤な身体になったカービィがポーズを決める。
そのシュールな様子を見て、ようやく全員が我に返った。
「……この中で、あの化け物とまともに戦える自信のある奴はいるか?」
瀬多の言葉に誰もが口を閉ざしていた。
それで瀬多は理解した。レミリアクラスの参加者はこの中にいない。
「よし。なら──」
「待ってくれ。状況を教えてくれないか? 僕達は君の悪評を聞いて来たんだ」
「悪いが今は信用してくれとしか言えない。目の前の敵に対処したい。協力してくれ」
幽香はぐるぐると腕を回す。まるで、準備運動は済んだとでも言わんばかりだ。
「ねえ。これって……現実?」
「現実だ。あいつには銃だって効かない。……戦える人間はなんとか幽香の足を止めてくれ。スピードはあまり速くない。が、力と耐久力は次元が違う。まともに相手しようとは思うな」
「どうするつもり? あれ、花の妖怪でしょ」
「知ってるのか。なら、今の状況がどういうものかわかるだろ」
「少なくとも、血の池地獄に足を突っ込んでしまったってことは分かるわ。けど、あれは本当に風見幽香? まるで──」
「暴走だ。その通り。俺達と幽香は仲間だった。今はあのメダルのせいでおかしくなってる」
「メダル?」
幽香の手に握られたメダルを瀬多が指差す。
「あれを引き剥がすのは、今の俺達じゃ不可能だ。だから助っ人を呼ぶ。その間、幽香の相手をしていてくれ」
咲夜は一瞬だけ迷った。
その言い分を受けるということは、要は瀬多だけが安全圏に避難し、こちらで幽香を取り押さえろということだからだ。
「優しいな」
突然の瀬多の言葉に、咲夜は思わずはぁ?と呟いてしまった。
「俺を疑うということは、お前にとって、それだけ他の四人が大切だということだ」
「……はっ。とんだ甘ちゃんのセリフね。私はただ人を信用してないだけよ」
「誰かを信用しないことで、誰かを守れることもある。それは優しさだ」
ふいに先程の夢を思い浮かべる。
おじいさんとおばあさんは、どうして村人たちに着物の話をしなかったのだろうか。あの当時は、やましいことを考えていたからだと決めつけていた。それは今でも変わらない。
(……信用しない……優しさ)
おじいさんたちが村人を信用しなかったのは……、もしかしたら……
そこまで考えて、ぶんぶんと頭を振った。今考えるべきはそんなことじゃない。
「頼んだぞ。咲夜」
「は? ちょ、ちょっと、どうして私の名前を……」
「レミリアから聞いてる。なんとなく、そんな感じがしたんだ」
お嬢様がいる。
もっとよく聞こうと詰め寄るよりも先に、瀬多は後ろに下がって拡声器のスイッチをオンにした。
化け物。言い得て妙だとオタコンは思った。
オタコンはシングルアクションアーミーを連射し、キョウは釘打ち機。咲夜のピカチュウと千枝、そしてファイアーカービィ(本人命名)は遠距離攻撃で敵を翻弄する。
が、敵はまったくダメージなしだ。それどころか何もないかのようにまっすぐこちらに向かって来る。
サイボーグ忍者に襲われた時だってこれほどの恐怖はなかった。一度彼女に捕まれば、一瞬でその命が尽きる。
「はああ!!」
気合の声と共にカービィが幽香に詰め寄り、炎を纏った剣を振るう。
その力は千枝のタルカジャによって上げられている。だがまともに斬り合うのではない。あくまでも相手を吹き飛ばす攻撃。こちらは時間さえ稼げればいいのだ。
そういう意味では、まったくガードも避けもしない幽香はやりやすい相手ともいえた。
銃弾の嵐の中、幽香は再び大木を引き抜いた。
「あ、あれはまずい!!」
何の躊躇もなく、それを横なぎに振り払う。カービィが体当たりするようにしてそれを受け止めようとする。
だが、止まらない。カービィの力では、止めることができない。
そのまま全員を巻き込んで大木は大きな円を描いた。
幽香がきょとんとする。
全員を一気に叩きつぶす攻撃だったのに、全員が無事だったからだ。
「はぁ、はぁ。……まったく、同情するわ。私が時を止めることができるってことも、完全に忘れてしまっているようね」
ぎりぎりのところで時を止め、足払いで木と地面の間にできた小さな隙間に全員を非難させたのだ。
なんとか全滅は免れた。だが、その大木は未だ幽香の手にある。もう一度同じ攻撃をされたら、避けられる自信はない。
(まずいわね。これで均衡も崩れた。幽香が直接襲ってきたら、一溜まりも……)
その時だった。一本の槍が、幽香の足元に刺さった。
それは、咲夜のよく知る、紅く光る槍だった。
「……お嬢様」
『いいぞ! 位置はぴったりだ!! ありったけの弾幕で敵を押しつぶしてくれ!!』
◇◇◇
瀬多の声が聞こえ、屋敷の壁向こうからレミリアはため息をついた。
「おいアドレーヌ。お前は外に出ておけ。瀬多がこれほどに言う相手だ。生半可な奴じゃないだろう」
アドレーヌは戸惑いがちに頷くと、屋敷の外へ出て行った。
「さて。姿も見えない敵を相手に、一つ本気を出そうじゃないか」
両手に魔力を溜め、槍を形成する。
何の躊躇もない。
何の遠慮もない。
レミリアは、瀬多に言われた通り、あらん限りの弾幕を、壁の向こうの敵に放った。
それはまるで流星群のようだった。
無数の槍が幽香めがけて放たれる。
地面が抉れ、隆起し、それでも留まることを知らない。
さしもの幽香も、これには防御するしかない。大木を前に掲げ、槍の猛襲を最小限に抑えている。
「よし! 押してるぞ!」
「……あなた、随分お嬢様に気に入られてるようね。なかなか気難しい方なのに」
普通に考えて、姿も見えない相手に全力で攻撃しろなどと言われ、簡単に頷く者はまずいない。この殺し合いの中、魔力の枯渇は誰にとっても死活問題だからだ。
よほどの信頼関係がない限りできない芸当。
「俺はあいつの部下だからな。レミリア曰く、主が部下の言う事を信じないわけにはいかない、だそうだ」
「なるほどね」
主従ごっこが好きなお嬢様らしい言い分だ。咲夜は一人そう思った。
「倒せる、の? あいつ、あれで倒せるかな」
「決めつけるのは早い。だが、今の俺達にできることはない。……念の為、草むらに隠れておこう」
銃弾さえものともしない幽香だ。生半可な攻撃などでは意識を逸らすこともままならない。それに、レミリアは日光の下に出て来ることはできないのだ。
幽香がレミリアに集中し、その場から動かないこの状況でないと、レミリアはまともに戦えない。
下手な攻撃でこちらにターゲットを絞られるのは、愚策以外の何物でもないのだ。
キョウとカービィには、アドレーヌを迎えに行ってもらうように指示し、他の四人は離れた所に位置する茂みに身を隠した。
このまま物量で倒れてくれれば願ったり叶ったりだが、瀬多の心の中は不安でいっぱいだった。
「瀬多君。君に少し聞きたいことがある」
おもむろに、オタコンが言った。
「今じゃないと駄目なのか?」
オタコンは何も言わず、黙ってゲーム機を取り出した。
「……なんだそれは?」
「支給品のゲーム機だよ。この殺し合いの黒幕と思われる人物の介入があった。三つの情報を僕達に教えてくれるんだそうだ」
そう言って画面を見せる。
主催の正体。殺し合いを開催した理由 。ここがどこの島なのか。その三つの選択肢が画面に大きく映し出されている。
「……イザナミか」
「知ってるの!?」
「ああ。人を作り、世界を作った造物主。そして、マヨナカテレビ事件の主犯格だ。もっとも、俺もついさっき知ったばかりだが」
千枝がもっと詳しく聞こうと瀬多に詰め寄る前に、咲夜が止める。こういうことはオタコンに任せた方がいい。
「その口ぶりからして、君達の方にも介入があったようだね」
「今の惨状は、ほとんどあいつが作り出したようなものだ。俺が甘かったばっかりに、決定的な隙を作ってしまった」
それは悔いても悔い切れないもの。あの毒物事件の時、全員のデイバックを検めていればこういうことにはならなかったのだ。
「……ゲーム機が支給されたと言ったな」
オタコンが黙って頷く。
「それはおそらく、最重要アイテムだ。イザナミの介入っていうのは気になるが、それ自体おそらくフェイク」
「やはり僕の考えている通りか……」
「ちょ、ちょっと待って! 二人で納得してないで私達にもちゃんと説明してよ!」
「要するに、主催側も一枚岩じゃないってことだよ」
千枝の問いかけに、オタコンは簡単に答えた。
「俺はどんな支給品があるのか、全てを把握できる本を持っている。そこにこんなゲーム機なんて存在しなかった。つまり、本を作った人物と支給品を用意した人物との間に何らかの齟齬が発生したということだ。
ここまで入念な殺し合いに、こんな初歩的なミスがあるとは考えづらい。それなら、支給品を用意した人物が敢えて秘密裏にこのアイテムを忍ばせたと考えた方が納得がいく。要するに、俺達を貶めようとする奴と、それとは逆に──」
「私達に味方してくれてる人がいるってこと!?」
「最高に希望的に見れば、だけどな」
オタコンは常々疑問に思っていた。今回の殺し合いが、どうにも一つの目的に集約していないように感じていたのだ。
だが、主催側の意思が複数あったと考えればそれも納得できる。
殺し合いを強要する意思。自分達を縛る首輪を簡易にし、こちらが抵抗する余地を残す意思。そして、脱出のかけ橋となるアイテムを支給する意思。
これらは要するに、様々な思惑が錯綜した結果なのだ。
「じゃあ、このイザナミって奴は何なの? こいつはあたし達を貶めようとする奴なんだよね」
ゲーム機がこちらに有利なものとするならば、イザナミがこうして出てくるのは不自然だ。マヨナカテレビ事件を引き起こすような神が、こちらの味方をしてくれるとは思えない。
「……あくまでもこちらに都合の良い仮説だが、もしもそのゲーム機が俺達に味方してくれる誰かからの支給品だったとする。
ならそれは、殺し合い事態を危うくする非常に厄介なものだ。当然殺し合いを進めたい者、イザナミからすれば破壊したいと考えないか?」
「まあそうよね。ほっといたら何が起こるか分からないんだし」
「なのに破壊しない。その時点で矛盾してる。……おそらくイザナミは、あまりこの殺し合いに介入したくないと考えているんじゃないか?」
「これだけ好き勝手やっといてって気がするんだけど……」
「千枝の言い分も分からないわけじゃないが、少なくともあいつはその姿を俺達の前に現してはいない。
いつも必ず傍観者として観客席に座ってる。そこから少し助言をしたり、声援をあげた程度に過ぎないんだ。それは時にゲームを動かす時もあるが、けっきょくは間接的なものだ。自分の思い通りに事を運ばせることができるわけじゃない。
あいつにも限度というものがある。それはつまり、あいつが一人で動いているわけじゃないっていう証拠だ」
「……神は他にもいるってわけね」
その言葉はひどく重いものだった。
神などという自分達よりも遥かに優れた生物が、他にもいるというのだから。
「仮説の一つだがな」
ついていけず、頭に手を乗せて唸っている千枝の肩にオタコンは手を乗せた。
「要するに、支給品を破壊するような直接的な介入はイザナミにも出来なかったというわけさ。そこで講じたのが褒美というブラフ。
おそらく、イザナミにもこのゲーム機にプログラムされた何らかの因子を破壊することは出来なかったということだろう。それだけ強固なプロテクトが掛けられていた」
「そうなると、私達の味方はなかなか頭のキレる奴ってわけね。それは助かるわ」
一瞬、自分の知っている中で一番の天才を想像する。飄々として、隙がなくて、何でも出来る力を持ちながら決して本気を出さない。ウサギ達に囲まれた薬屋。
「あくまでも仮説だ。固執し過ぎるのは良くないと俺は思う。それにおそらくそのゲーム、難易度がかなり上げられているだろう。いずれにせよ、全てはゲームをクリアしてからだ」
味方からの支給品かもしれない。しかし、そうではないかもしれない。
後者であった場合の危険性も考えたうえでの発言だ。
イザナミに煮え湯を飲まされたばかりの瀬多からすれば、それくらい慎重なのも当然である。
支援
「……瀬多君。君はこのゲームに何が施されていると思う?」
瀬多は黙った。
「なんだかんだと言ったところで、これはただのゲーム機だ。せいぜい映像を映したり、音を聞かせたり、文字を浮かび上がらせるだけ。そんな低スペックの機械で、どうやってこの殺し合いから抜け出せるんだろうか」
オタコンの疑問はもっともだ。人智を超えた殺し合いで、ただのゲーム機がどう影響を及ぼすというのだろうか。
「僕達に味方する何者かは頭がキレる。神と呼ばれるイザナミにだって対抗できる頭脳の持ち主だ。
そんな人物なら、このゲーム機に入っている脱出の鍵ってやつは、正真正銘僕達にとって希望の光になるはずなんだ。情報でここから抜け出せる? そんなにここは、簡単に攻略できる場所なのかな?」
思わず、瀬多はオタコンを見つめた。
そして直感する。オタコンもここがどこなのか、だいたいの見当をつけている。自分と同じように。
「……一番可能性の高そうなのは、『呪歌』だな」
「呪歌?」
「あの邪神が封印されている、メダリオンと同じ世界のものだ。ガルドル。鷺という民族が使う歌だそうだ。正気を失った魂を解放したり、死んだ森を蘇らせたりすることができる。言ってみればただの音なんだから、そのゲーム機に録音することもできるだろう」
オタコンはじっと地面を見つめて考えこんだ。
「魂を解放ってどゆこと? 魂を自由にできるってこと?」
「俺にも分からない。そんなに詳しくは載ってなかった」
「あ! わかった!! きっと私達の魂を、こう……抜きとって、別の身体に移し替えるんじゃないの!? この会場の外にある肉体にさ」
「面白い発想だが、どうだろうな。そもそも代わりの肉体をどこで調達するんだっていう話になるし……」
「少し聞きたいんだけど──」
オタコンの言葉は途中で、止まった。
先程まで防御に徹し、動くことのなかった幽香が攻撃の体勢に入ったからだ。
何本もの大木を地面に突き刺し、槍を防ぐための壁を作り出す。
メダリオンを口に咥えると、近くに生えている大木を片手に一本ずつ抜き取る。
一切の躊躇もなく、幽香はそれを槍のように屋敷へ向かって投げつけた。
しかしそれは途中で砕け散る。槍の数に圧倒されているのだ。
が、幽香は構わずもう一本、もう一本と投げつける。
だんだんスピードが速くなる。槍の圧倒的な物量に、徐々に追いついていく。
この大木は、もはや幽香にとっての弾幕だった。
槍と相殺する形でぶつかり合い、相殺し合う。
最初こそ均衡を保っていたそれは、徐々に幽香が優勢になっていった。
◇◇◇
(くっ。溜めが鬱陶しい!!)
レミリアは普段のように弾幕が撃てない。制限が成されているのだ。
その制限が今回は仇となった。スピード勝負の弾幕のぶつけ合いでは、あまりにも不利な要素だった。
一メートルも離れていない大木を槍で相殺。
しかしすぐに新しい木が弾丸のように襲いかかる。
もう槍を投擲している時間はない。手に持ったまま、大木を切り裂く。
が、その瞬間には、他の大木がレミリアの目の前に迫っていた。
槍で受ける時間はない。避ける時間もない。それはレミリアに直撃した。
◇◇◇
既に槍は姿を見せない。だがそれでも幽香の投擲は終わることを知らなかった。
次々と屋敷に木々が突き刺さる。ただでさえ古ぼけた屋敷は、その猛攻に耐えられない。
一際大きな木が突き刺さり、とうとう屋敷は崩れ落ちていった。
瀬多達は、それをただ呆然と眺めることしかできなかった。
「レミ……リア」
ようやく、瀬多はそれだけ呟くことができた。
途端、一気に不安の波が押し寄せる。
「レミリア!!!」
思わず屋敷に向かって走ろうとするところを、咲夜が肩を掴んで妨害する。
「離せ! レミリアが──」
「お嬢様はそんなに弱くない」
凛とした口調だった。
「あれじゃ太陽光が漏れてしまう! そうなったら……」
「言ったでしょ。お嬢様は弱くない。お嬢様が死ぬなんて、私が死ぬ次の次くらいに有り得ないことだわ」
その咲夜の傲慢なセリフが、何故か瀬多を落ち着かせた。
レミリアがもしもここにいれば、似たようなことを言っていた。そんな気がしたからだ。
「……悪かった」
「分かればいいわ」
「そ、それでどうするの? あいつをあのまま放っておく気?」
「現段階で唯一勝機のある味方が負けた。これはもはや敗北宣言を出すべき事態だね」
「だが、向こうはそんなもの聞いちゃくれない。なんとかあのメダリオンを引き剥がすことができれば……」
そんなことを言っている間に、幽香は動きだす。
ゆっくりとではあるが、屋敷に向かって真っすぐ歩いていた。
「ま、まずいって! あいつ、止めを刺しに行く気だ!!」
慌てて飛び出そうとする千枝を今度は瀬多が止める。
「待て! 今の俺達じゃ足止めだってできない!」
「でも! 黙って見てるなんてできない!! 私は雪子と約束したんだ。もう誰も死なせないって!!」
その言葉に、瀬多は直感した。直感してしまった。
雪子がもうこの世にいないことを。もう一緒に話をすることもできないことを。
「……っ! それでも! 自分が死んでもいい理由にはならない!! せめて何か策を考えてから──」
「手はあるわ」
思わず、三人が咲夜を見つめる。
咲夜は黙って立ち上がった。
皆の視線に気づき、咲夜は薄く笑う。
「ああ。安心して。私一人で十分だから」
「だ、大丈夫なのかい? 危険は?」
「かなり際どい。失敗したら100%死ぬわね」
思わず、オタコンが叫んだ。
「そんなもの認められない! 僕達は全員生きてここから脱出するんだ! 君の言ってることは、千枝ちゃんと大差ない!」
「ごめんなさいね、オタコン。でも、お嬢様の危機にはちょっと黙っていられないの」
咲夜は瀬多のバックに入っていた剣を取り出し、「これ、ちょっと借りるわよ」と言ってそのまま幽香の方へと身体を向けた。
「瀬多って言ったわね。お嬢様のこと任せるわ。我儘ばっかり言うかもしれないけど、少しは大目に見てあげて」
「お、おい咲夜。お前、何を考えて……」
「千枝。あんたは最初から最後まで五月蠅くて本当に鬱陶しい奴だったわ。……でも、まあそれもいいかもって最近思ってきた。あんたは強い。私よりもよっぽどね。だから、それを誇りに生きればいい。そうすれば、きっと良い女になれるわ」
「咲……夜?」
「そして、オタコン。……いきなり告白なんかして、本当に馬鹿みたいだと最初は思った。……けど、まあ、結構嬉しかったかも。最初で最後だったしね。誰かに告白されるなんて」
「ま、待って……。待つんだ咲夜!!」
思わずその手を掴むオタコン。そんな彼を、咲夜は寂しい瞳で見つめた。
「……さようなら」
オタコンの手を振り払い、咲夜は走り去った。
◇◇◇
ゆっくりと歩く怪物。その進む先は、寸分違わず屋敷に向かっていた。この怪物は、強者の臭いを嗅いでいる。ただただ戦いを求めている。
ならば戦おう。
ならば戦闘の謳歌を謳わせよう。
「待ちなさい」
幽香はゆっくりとこちらを向いた。
「お嬢様はやらせない。私が相手になってやるわ。来なさい、化け物」
試しに剣を振るってみる。斬れ味は良さそうだ。これならうまくいくかもしれない。
……いや、うまくいかせなければならない。いかせてやる。絶対に。
「こいつは……私がここで食い止める!」
その言葉を皮切りに、幽香がこちらに突進してきた。
「ピカチュウ!! ボルテッカー!!」
あらかじめ配置させていたピカチュウが、あらぬ方向から自らに電気を纏った体当たりを食らわせる。
幽香の姿勢が少しだけ崩れる。
その瞬間を見極め、咲夜が幽香との距離を詰める。
(できるだけ近づく。勝負はそれから!)
幽香の拳の届く範囲に入る。それでもその距離を詰めていく。
心臓がバクバクと音をたてる。それを落ち着けるために目を瞑る。
タイミングは遅ければ遅い方が良い。ぎりぎりまで引きつけて、……倒す。
あの時と同じだ。
あの、初めて死を感じた時と同じ。
幽香の拳が放たれる。その風圧で髪が舞う。
咲夜は、心の中で唱えた。
自分にしか使えない、魔法の呪文を
時よ、止まれ
途端、世界が制止した。
目の前に幽香の拳があった。その別の手に、メダリオンは握られていた。
「これさえ、落とせれば……!」
腕、いや指でいい。一本でも斬り落とせたなら、きっとメダリオンは幽香から離れる。
(時間はたったの二秒しかない。その間にこの剣で……叩き切る!!)
極めてシンプルな作戦。だが、それ故に効果のある攻撃だ。
大きく剣を振り被り、深呼吸。ぎゅっと剣を握り、力を溜める。
渾身の一撃。手加減など一切しない。
失敗した時のことは考えない。既に遺言は残した。
たとえ死んでも悔いはない。死への恐れはもはやない。
咲夜は、そのメダルめがけて思い切り剣を振り下ろした。
パキイイィン
小気味良い音と共に、空中を何かが舞う。
それは途中でぴたりと止まり、その正体を現す。
剣だ。
正確には、剣先。
幽香にぶつけたところから、ぽっきりとそれは折れていた。
咲夜の一撃は、指を落とすどころか、切り傷一つつけることができなかった。
「嘘……でしょ」
慌てて剣を捨て、メダルを触らないように指を広げさせようと力をいれる。
が、動かない。
時が止まった世界で、自分だけの世界の中で、できないことなど何一つなかったというのに。
「何でよ! ほんの少し指を動かすだけ。それだけなのに……。どうしてそんなことも出来ないの!!」
ガクンと、腰が落ちる。
瞬間、咲夜の世界は終わりを告げた。
咲夜の頭、少し上を幽香の拳が通る。だがもはやそれ以上を避けることはできなかった。次の一撃がすぐに来る。引かれた腕が咲夜の胴体を狙っているのがわかる。
これで終わりか。
なんとも情けない終わり方だ。
けっきょく何も出来なかった。
けっきょく……お嬢様を守れなかった。
でも、それもいいかもしれない。自分には願いを叶える資格などない。
あの時、村人たちを殺したあの時、その運命は既に決まっていた。
悲しみの中で死ぬ運命。幸福とはかけ離れた場所で死ぬ運命。
それを、お嬢様が少し曲げてくれていただけだ。
(一匹狼には……相応しい死に場所か)
咲夜は目を瞑った。
ドパン! という、何かが破裂するような音が、ひどく鮮明に耳に残った。
支援
支援
◇◇◇
咲夜が行ってしまった。何をしようとしているのかもだいたい想像がつく。
でも、いやだからこそ、僕は止めることができなかった。
彼女は孤独だ。だからこそ、彼女は自分の主に全てを捧げているのだろう。
他には何もないから。
自分の存在意義が、レミリア・スカーレットに仕えることだから。
それは、傍から見れば美しいものかもしれない。けれど、やはりそれは寂しい生き方だ。
彼女には優しさがある。誰かを想う心がある。
ならきっと、そんな悲しい生き方をしなくても済む方法があるはずだ。
でも僕に何ができる? いつも大事なものを守れず、ただ眺めていることしかできなかった僕に、一体何ができるんだ。
スナイパーウルフは僕の目の前で死んだ。妹のエマが死んだ時も、僕は何もできなかった。
無力だ。どうしようもなく無力。
……だけど僕は、無力な僕から卒業するために、彼女を仲間に引き入れたんだ。
気付いたら僕は走っていた。彼女の後を追っていた。
後方支援としては失格の行動だ。
でも、何故か今はそれが正しい行動だと信じることができた。
幽香の拳が彼女を襲う。一撃目はなんとか避けれたが、二撃目は無理だ。
彼女に避けることはできない。
僕にできることはなんだ? 僕にできることは……
咄嗟に、僕は彼女を突き飛ばしていた。
──この身を挺して、君を守ることだ──
「オ……タ……コン」
「は……は。身体が……勝手に……動いちゃ……った」
オタコンの胴体から手が生えていた。
ずぼっという音と共に引きぬかれ、オタコンはその場に倒れ伏す。
「オタコン! オタコン、しっかりしなさい!!」
ごふっ、とオタコンは口から血を吐き出した。誰が見ても、もう手遅れだ。そんなの当たり前だ。身体に風穴が開いて、生きていられる人間なんていない。
「ジオ!!」
「ブフーラ!!」
瀬多と千枝が、幽香の気を逸らそうと攻撃する。それは成功したようで、ゆっくりと幽香は瀬多達の方へ向かって行った。
「どうして……。どうして私なんか助けたの! 私は、あそこで死んでもよかった。一匹狼にはお似合いの死に方だった! なのに……」
「……一匹狼は……若い、狼が……自分の群れを……作る……為……に……な…る」
オタコンがせき込む。その度に血が噴出し、咲夜の服にかかった。
「もういい! 喋らなくていいから!! 黙ってなさい!!」
支給品だったメガポーションをオタコンに無理やり飲ませる。
しかし、効果があるのかはよくわからなかった。それほど、オタコンの傷は深いのだ。
「一匹狼は……成長し、……一人立ちできる……狼を…言う……ごほっ! 君は……立派な……大人……だ。一人で……、自分の群れを……作ることが……でき…る。
君の人生は、……孤独な……人生…なんかじゃ……ない。悲…しい……人生なんかじゃ……ない。……君は、……自分で……孤独な人生を…壊すことが……できるんだ。
……君は…気高い……狼だ。…けど、……狼だって……誰かと一緒にいても……いいんだ。…だから……ごほっ!! ごほっ!!」
「オタ、コン……」
「自分を……大事に…思っていい。……誰かを……大切に……思ったって…いいんだ。……君は優しい、……立派な……女性……だよ」
「……馬鹿。あなた、大馬鹿よ。そんなこと言う為に、わざわざ……」
オタコンの顔に、水滴が落ちた。
消えゆく命の中、オタコンはその冷たくも暖かい液体を感じることができた。
「泣いて……くれるの……かい?」
涙なんて出さない。涙なんて枯れている。
ずっとそう思っていた。
「なによ……こんなに……出るんじゃない」
私は馬鹿だ。大馬鹿だ。
こんな大事なことにも、今まで気付かなかった。
私は泣ける。
泣けるんだ。
「咲夜!! そこから逃げろ!!」
言われてハッとする。
幽香がこちらに向かって来ていた。
まずい。そう思うも、身体が動かない。オタコンをこのままにしておけない。
そんなことを考えていた時だった。
突然、幽香の動きが止まった。
ぐるりと幽香が後ろを振り向く。
そこには、一人の騎士がいた。
「ゼル……ギウス」
「なるほど。これが妖怪か」
何の感慨もなく漆黒の騎士は呟いた。
幽香の反応と、その佇まいを見ればわかる。この男は、紛れもなく強者だ。
「ゼルギウス……と言うのか? 誰だか知らないが、とにかく助かっ──」
「勘違いするな」
漆黒の騎士がすっとその剣を瀬多に向ける。
「私は殺し合いに乗っている。いずれ、貴殿の命も貰い受けよう。……が」
瀬多に向けていたそれを、そのまま幽香へと向けた。
「今は、この者を倒すことを優先すべきだな」
「……乗っていようがなんだろうが構わない。この化け物を止められるならな」
「化け物か。ならば、私が倒そう。化け物は、……化け物が倒す」
そう口に出した漆黒の騎士に、一切の躊躇はなかった。
オタコンは、死の淵にいながらも、未だにその命を繋ぎ止めていた。
咲夜が半ばやけくそ気味に飲ませたメガポーションが効いていたのかもしれない。
新たな人間が参入したらしいということがわかった。
ふと、その声が小さいながら聞こえて来る。
化け物が、……化け物を倒す?
……なら神は、……神は……誰が……
意識が消えゆく中、オタコンの脳裏にいくつものフレーズが過る。
ゲーム機。頭のキレる味方。メダリオン。邪神。鷺の民。呪歌。魂の解放。……解放。
それらが繋ぎ合い、一つの答えを導き出す。
……そうか。そういうことか。
どうしてイザナミが介入したのか。その意味がようやくわかった。二回の介入。そのどちらも、ただの嫌がらせじゃない。意味のあることだったんだ。
「メダ……リオン……」
「え?」
咲夜の服を引っ張り、懸命に口を動かす。
「鍵、だ……。あれ……が、……鍵……。全て……フェイク……。メダ……こそ……が……」
駄目だ。もう喋れない。意識がなくなる。
これを伝えないと駄目なのに。瀬多君に伝えなくてはならないのに。
しかし、そんな不安は一気に消えた。
咲夜の顔を見れば、そんなものは消え失せた。
「わかったわ。メダリオンが鍵なのね。わかった。必ず瀬多に伝える」
(……その顔だ。その決意した顔。みんなを守る為に、強くあろうとするその覚悟。君なら……きっと……)
オタコンの目がゆっくりと閉じられる。
その最後の最後、オタコンは笑って逝くことができた。
支援
◇◇◇
相手は女性。しかし漆黒の騎士に躊躇はない。
無手の幽香に対し剣を振り上げる。
音をたてて何かにぶつかる。
幽香の拳だ。何の防具もつけていない拳が、漆黒の騎士の剣と交わったのだ。
「なんだと……!? 剣を拳で……」
漆黒の騎士の驚きは、しかしすぐに引っ込める。そんなことを考えている暇などない。
すぐに次の拳が飛んでくる。
「くっ!」
大剣を振るっているとは思えないスピードで、幽香の拳をずらすようにいなす。しかしそれでも間に合わない。
幽香の拳は二つ。漆黒の剣は一つだ。
受け切れるものではない。
とうとう漆黒の騎士に幽香の拳が直撃する。
咄嗟に剣で防御した。
そのはずなのに自分の身体が宙を浮いている。
大木にぶつかり、しかしそれをへし折ってもう一本の木にぶつかる。
「がはっ」
防御したとは思えない威力。まさに規格外だ。先程戦ったアシュナードがただの雑兵に思えるような力。
ハッとする。
幽香の拳が目の前に迫っていた。
慌てて頭をずらすと、漆黒の騎士の顔があった場所に巨大な穴が開いた。木が、自身の重さに耐えきれずに倒れる。幽香はそれが倒れ伏す前に手で掴むと、そのまま引き千切って振り回す。
再び剣で防御するが、それでも身体は吹き飛んだ。
地面に叩きつけられ、ゴロゴロと地面を転がる。
自分の頭が影に隠れ、一瞬で状況を理解しすぐに飛び起きる。
先程まで漆黒の騎士の頭部があった地面に、巨大な穴が開く。
幽香がただ踏みつけただけで、まるで泥か何かのように地面が抉れる。
(強いなんてものじゃない!!)
規格外。その言葉がこれほど似合う生物もいないだろう。ベオクのスペックを越えている。それどころか、ラグズの王だってこれほどの力は持っていないだろう。
(竜鱗族並み。いや、既にそれすら越えている…!)
幽香と剣を交えて数分。それでも漆黒は肩で息をしていた。
一瞬だけ過る、勝てないという予感。
(……いや! そんなことはない!! 私は、誰よりも強くならなくてはならないんだ!!)
「……ふぅー」
呼吸を整える。ひゅんひゅんと剣を交差するように片手で振り回す。そして、ぴたりと上方で止めた。
「来い」
幽香は嬉々として、漆黒に突進した。
「月光!!!」
渾身の力を込めた一撃を、漆黒は放った。
◇◇◇
「咲夜。怪我はないか?」
「……ええ。私は全然」
息絶えたオタコンを見つめながら、咲夜は呟いた。
千枝は、瞳を潤ませながらも泣く事はなかった。
きっと決意したのだろう。もう泣かない。後ろを向かないと。
「……良い、人だった。頭良くて、……いつも冷静で、……皆の…お兄さんみたいな…人で……」
それ以上、千枝は言葉を紡がなかった。我慢できなくなる。そう思ったのだろう。
「……咲夜。辛いだろうが今は……」
「わかってる」
咲夜は、そっとオタコンの手を組ませると立ち上がった。
自分はオタコンに生かされた。なら、オタコンの分まで生きなければならない。
「あいつなら幽香を倒せるか?」
あいつ、というのは漆黒の騎士のことだ。おそらくはレミリアレベルの強者。
「無理ね。はっきり言って、ここにいるどの参加者にも、あの化け物を倒すことは不可能だと思う」
瀬多も同感だった。あれをどうにかできる人間なんているわけがない。
「一人じゃまず勝てない。なら、数で叩くしかないな」
「そうね。でも、半端な奴を集めても無意味よ」
もはや幽香を放って逃げるという選択肢は存在しない。あんなものが大暴れすれば、参加者全員が根絶やしにされる。
「なら、半端じゃない攻撃にすればいい。でしょ? 瀬多君」
千枝がどこか自信ありげに言った。
「……“あれ”か。確かに効果はあるだろうが……」
「なによあれって。何か策があるの?」
「ああ。堅い敵を一気に潰す時に、よく千枝が使っていた技がある。タルカジャで強化して、いつも以上に溜めの時間をかければあるいは……」
だが、その溜めの時間。それが一番の問題だった。
溜めている間は完全な無防備状態を曝していなければならない。
幽香と相対しても決定的な隙を見せ続けることになる。
そんなこと、自殺行為以外の何物でもない。
「……ここにいる最大戦力。レミリアお嬢様とゼルギウス。あの二人の力で幽香を足止めして時間稼ぎすれば、どう?」
……確かに、それならばうまくいけるかもしれない。
「だが、ゼルギウスを説得できるのか? あいつは殺し合いに乗っているんだろう?」
頭は良さそうだが融通の利かないところがありそうだった。少なくとも、こちらの提案に乗ってくれるような雰囲気は感じられなかった。
「無理でもする。それしか方法がない」
「自信あり、か?」
「あるわけないでしょ。そもそも、説得なんて私に一番向いてないことだわ」
それでもやるしかない。
そう咲夜が決意するのなら、瀬多もそれに乗ることに躊躇はなかった。
「もう一つ問題がある。レミリアがこの日光の中、全力を出せるかどうか。それに、さっきの攻防でかなり傷ついているはずだ」
「レミリアお嬢様の凄いところはね」
咲夜は薄く笑って言った。
「不可能を可能にするところよ」
運命を変える能力。敗北の運命を、勝利に変える能力。自分でコントロールすることすらできない力。
今はそれに頼るしかないのか。
理詰めで考える瀬多にとって、そんな不確定要素に頼ること自体、躊躇することだった。
瀬多はため息をついた。
「滅茶苦茶だな。賭けもいいとこだ」
「それでも、やるしかない」
千枝の決意の言葉。それに、二人が頷いた。
◇◇◇
「キョウさん! どうするの!?」
「どうと言われても……でござる」
二人の任務はアドレーヌの保護だ。
しかし、その途中で大木の雨が屋敷に降り注ぎ、屋敷は崩壊してしまった。
聞いた話では、屋敷にいたのは吸血鬼だという。日光が弱点だという吸血鬼。
どう考えても大ピンチだ。しかし自分達はアドレーヌを保護するように言われた。
どっちを助けるか。それが二人を悩ませたのだ。
「やっぱり別れて行動した方が……」
「でも、オタコンさんは絶対二人でいろって言ってたよ」
「むぅ……」
二人ともすでに満身創痍だ。だからこその命令で、それは絶対に守ってくれと堅く言われている。
どうしようかと考えていると、突然声が響き渡った。
『アドレーヌ! キョウ! それにカービィ!』
自分達の名前が呼ばれ、思わず声がした方を見つめる。
『全員レミリアの救出に向かってくれ! 今は屋敷の辺りは無事なはずだ!! 今すぐ俺もそっちに行く!』
キョウとカービィは顔を見合わせた。
やることは決まった。なら
「突撃あるのみ!」
「おおーー!!」
満身創痍とは思えない元気で、屋敷に向かって走って行った。
◇◇◇
「馬鹿、な……」
本気だった。本気の本気だった。
自分の出せる全ての力を乗せて、月光を放った。
確かに相手はまともに食らった。だがどうだ。相手を見てみろ。
幽香についた傷は……薄皮一つ斬れた程度だった。
頬が裂けるのではないかと思うくらいの笑みを浮かべる幽香。明らかに、ダメージなんてない。
「勝て……ない」
思わず呟いた言葉だった。
自分の剣が通用しない。
まったくダメージを受け付けない。
まるで女神の加護を受けた敵に、鉄の剣で挑んでいるような圧倒的力量差。
勝てない。勝てるわけがない。
岸壁を背にし、ほとんど放心状態で立ち尽くす。しかし、相手がそんな漆黒の騎士の心情を汲み取ってくれる訳がない。
手に持っていた大木を掲げ、振りかぶる。それは、寸分違わずゼルギウスに向かって飛……
ぶ前に、何かが接近する気配を感じ取り、その方向へ手を伸ばす。
ぱし、という音と共にお祓い棒が幽香の手に収まった。
これを投げた者がいるはずなのにどこにもいない。
力を籠め、お祓い棒を握り潰すと、幽香は再び漆黒の騎士へと顔を向ける。
漆黒の騎士の姿が消えていた。
その代わりに、小さなどせいさんの銅像がちょこんと置かれていた。
幽香はただ、首を傾げるだけだった。
「何故、私を助けた」
「あなたが必要だからよ。あなたの力がね」
幽香と距離を取るために走りながら咲夜は言った。
森の中なら、少し距離を取っただけでも相手は見失うはずだ。今はできるだけ幽香と離れ、うまく漆黒の騎士とレミリアを合流させなければならない。
漆黒の騎士は咲夜の言葉を聞き、立ち止った。
「どうしたの? さっさと来て。時間がないの」
「私は殺し合いに乗っている。それは先程も言ったはずだ」
「……だから? 幽香……あの化け物を倒さなくちゃいけないのはあなたも私も同じでしょ」
「まったく違う」
漆黒の騎士はにべもなくそう断言した。
「咲夜殿。私は一人で戦うことを決めたんだ。だから……」
「なによそれ。騎士としてのこだわりってやつ? 理解に苦しむわ」
「生きるためのこだわりだ」
まっすぐに咲夜を見つめ、漆黒の騎士はそう言った。
咲夜はレミリアと出会うまで、ずっと一人で生きてきた。
誰も信じず、誰とも馴れ合うことはなかった。
人間を嫌い、遠ざけることは、咲夜にとって生きるために必要なことだった。
そんな咲夜だからこそ、漆黒の騎士の気持ちが痛いほどに分かった。
だからこそ、何も言えなかった。
「私と貴殿は似ている。抱えているものは違えど、その本質は似通っている。……貴殿なら私を止めることが無意味だということも理解しているはずだ」
「……全然違うじゃない。戦闘狂なところも。その鼻につく騎士道精神も」
そう言いながら、咲夜はまったく逆に考えていた。
その通りだ。自分は漆黒の騎士と似ている。同じだと言っても良い。
人間に愛想を尽かし、世界を憎み、今の自分を保てるのはたった一人の主に仕える時だけ。
十六夜咲夜として生きていられるのは、レミリア・スカーレットの前だけだ。
自分に名前をくれた、あの小さな吸血鬼の前だけ。
漆黒の騎士も……ゼルギウスも、まったく同じだ。
「咲夜殿は先程、理解に苦しむと言ったが、それは私も同じだ。貴殿は何故殺し合いに乗らない? 何故一人でいない? 貴殿は孤独な人生を強要された。なのに何故、今更になって人と共にいる? 私と同じ。一人で生き、一人で死ぬべき貴殿が」
──一匹狼は若い狼が自分の群れを作る為になる──
まるで、耳元でささやかれているように、オタコンの臨終した時の言葉が甦る。
「私はもはや主に捨てられた男だ。私にはもう、騎士として生き、そして死ぬ以外にない。一人孤独にな」
──君の人生は、孤独な人生なんかじゃない。悲しい人生なんかじゃない。君は自分で、孤独な人生を壊すことができるんだ──
そうだ。
あの時、おじいさんたちが村人に抵抗したのは……。
それはきっと……。
そう考えた時、咲夜は思わずゼルギウスの胸倉を掴んでいた。
「あなたはいつだってそうね。そうやって諦観して、何もかも運命か何かのせいにして。あなたはそんなに死にたいの? 騎士として死んで、それで満足? ふざけんじゃないわよ!!」
オタコンは死んだ。自分のせいで死んだ。
けど、それは無意味なんかじゃない。それを今、私自身が証明しなくてはいけない。
この男の言葉を受け入れたら、きっとオタコンの死は無意味になる。
それだけは、絶対にしちゃいけない。
「ええそうよ。人間は薄汚いわ。自分も同じ人間だと思うだけで吐き気がする。けどね。それでも私は人間なの。
どれだけ凄惨なものを見ようが、どれだけの人を殺そうが、悪魔の犬に成り下がろうが、それでも私は人間だ! 誇りだってある! 自分自身に、言って聞かせるだけのプライドだって持ってる!
あなたはどうなのよ! 騎士だとかなんとか言って、自分の存在に自信も持てないわけ!?」
胸倉を掴んでいた手が、ゼルギウスに取られ、そのまま地面に押し倒された。
「貴殿に何が分かる!! 印付きの現状を知っているのか!? 差別というものがどういうものか、貴殿は知っているというのか!?
歳をとらないというだけで気味悪がられ、迫害され、毎日が死と隣り合わせ。やっと安住の地を見つけたと思ったら追い出される。一人森に入って、ようやく同じような仲間を見つけたと思ったら存在自体を否定されて。
……貴殿には分かるまい。目の前で希望が砕け散る瞬間。何百年と続く孤独。その絶望と悲嘆が、貴殿に分かるはずがない!!」
その叫びは、初めて引っ張り出したゼルギウスの本音だった。
だが、咲夜だって負けてない。負けられない。
この悲しみに負けたら、オタコンに顔向けできない。
額と額をぶつける勢いで、咲夜は身体を起こして叫んだ。
「分かるわけないでしょ!! あなたの気持ちなんて、この世の誰にもわかるわけない!! 悲しみなんて、恐怖なんて、誰かと比べるものなんかじゃない!! たとえどれほど叫びたくても、誰かに訴えたくても、それを振りかざして優劣なんて決めるものじゃない!!
あなただって分からないでしょ。幸せな毎日が突然終わる絶望。人を信じられなくなる恐怖。同じ人間でありながら、その人間から離れないと生きていけない苦しみ。分かるわけない! あなたにも、誰にだって分かるわけない!!
でも、だからこそ私なんだ。この悲しみも、苦しみも、私が私である証拠よ。私は十六夜咲夜。私は、誰でもない自分自身の為に生きる!! それが私の生き方だ!
あなたは言えるの!? これが自分の生き方だって。孤独な人生が自分の全てだって、言えるのなら言ってみなさい!!」
ゼルギウスは、初めて躊躇した。
孤独が全てだなどと、そんなことどうしても言えなかった。
何故なら、ゼルギウスは望んでいたのだ。
この殺し合いで優勝し、普通の人として生きることを。
「……言えるわけない。そんなこと、言えるわけないわ。どんな生き方をしてたって、誰も一人で生きていたいなんて思えない。
孤独が全てだって受け入れて、それでも求めてしまうのが人間なのよ。幸せになるために生きてるんだって。そう思ってしまうのが人間なのよ」
「……幸せなんて、……そんなものとうに捨てた!!」
「捨てる必要なんてない! 私にも、あなたにも、誰にだって幸せになる権利がある!! 誰かと一緒に生きる権利がある! 私は……それを教えてもらった」
一瞬だけ目を瞑る。涙が流れそうになるのを止める。
キッと、ゼルギウスを睨みつけた。
「悲しいだけの人生なんて、寂しいだけの人生なんて、そんなもの認めない! あなたも私も人よ。どこにでもいる、ただの人よ!」
ベオクとラグズの混血で、印付きとして生きてきたゼルギウス。ベオクにも、ラグズにも認められない異端の生き物として生きてきたゼルギウス。それを、咲夜は人と呼んだ。
誰にも……主にも、言われたことのない、救いの言葉。
「あなたは、あなたの思う通りに生きていい。自分のために生きていい。幸せになっていい!! 人を殺そうが、人から拒絶されようが、それでも人は、幸せになっていいのよ!!」
自分もゼルギウスも、悲しみを背負っていた。孤独の中で、ただ一人悲しみを背負っていた。
それしか自分の生きる道はないと思っていた。
でも、それは違う。違ったんだ。
レミリアと出会って、傲慢な気高さを学んだ。幻想郷に来て、何にも囚われない生き方を学んだ。そして今、自分の生き方を肯定することを学んだ。
咲夜の言葉は、自分自身にも向けられた言葉だった。自分と違う生き方をする悪魔、魔法使い、妖怪。
彼女達に合わせ、ずっと悪魔の犬として生き、それでも捨てられない人間としての感情。
ずっと押し隠してきた感情。それを今、吐きだした。
孤独な人生も、悲しみだけの人生も幻想だ。自分が作り出した幻想だ。
ゼルギウスを通して、自分自身にそのことを言い聞かせた。
オタコンの言葉は真実だと。
人は……誰かと一緒にいてもいいのだと。
支援
支援
支援
ふと、咲夜が異変に気付く。
ちょうど空を眺める恰好になっていた咲夜の目に何かが映った。
「……え?」
雨。それはあまりにも大き過ぎる雨粒。
木々の雨がこちらに向かって降り注ぐ瞬間だった。
「避け……!!」
られない。その雨はあまりにも広範囲で、たとえ時を止めたとしても回避できるものではない。
無数の木が、轟音とともに地面に突き刺さった。
終わった。
思わず咲夜は目を瞑った。
その瞬間、まるで何かが爆ぜたように、木々が吹き飛んだ。
恐る恐る目を開ける。
「……月光」
咲夜を庇うように、ゼルギウスは立っていた。
「私には、やはり貴殿の言っていたことを受け入れることはできない。……だが、貴殿はここで死んではいけない。貴殿を死なす訳にはいかない。それが、自分の正直な心で、それを受け入れることはできる。
……私は、貴殿のように生きられないかもしれない。しかし、貴殿の為にできることならある。貴殿がそのように生きるというのなら、それを手助けすることはできる」
誰もが知らない未来。ゼルギウスは、とある少女を守るためにその剣を振るっていた。
主の命令があったとはいえ、自分と同じ境遇で、それでも懸命に生き、皆に受け入れられていく少女の幸せを願っていた。
その時のゼルギウスは、主君の命令を越え、その少女のために剣を振るっていた。
「ゼルギウス……」
「違う」
その少女に、ゼルギウスは自分の名前を言わなかった。それは、身分を明かせないという事情以上に、騎士としてその者の命をこの身を賭けて守ろうという意思があったからだ。
ゼルギウスは、幽香と対峙して、言った。
「私は……漆黒の騎士だ」
支援
「お膳立てはわかった。だが、共に戦うという奴の顔すら私は知らない。そんな奴とどうやって一緒に戦えって言うんだ?」
屋敷跡に、瀬多、レミリア、アドレーヌ、キョウ、カービィが集まっていた。
千枝はこれからの攻撃を準備しているため、ここにはいない。ピカチュウが千枝の周りを巡回し、危険があれば拡声器で仲間を呼ぶ手筈となっている。
青空の下での話し合いということで、レミリアの周りは崩壊した屋敷の残骸を使って三角状の避暑地を設けてある。
レミリアはそこで、アドレーヌにチューブから出るクリームを塗ってもらっていた。
それは、キョウが持っていたアドレーヌの絵の具によって具現化した、強力な日焼け止めクリームである。それを塗ること自体、本人はひどく嫌がっていたが、瀬多が無理やり黙らせた。
キョウとカービィとで助け出されたレミリアは意外にもケロリとしていた。といっても、今まで気絶していたようだが、それでもまだまだ戦えるらしい。
彼女のタフさはやはり凄まじいものがある。
「協力といっても、連携を取ってくれと言ってるんじゃない。時間がくるまで足止めし、それから幽香を所定の位置まで移動させて欲しいと言ってるんだ。そう難しい話じゃないだろ?」
「はっきり言うぞ。めちゃくちゃ難しい。あの幽香を止めようと考えているならな」
プライドの高いレミリアらしからぬ発言だ。それだけ無茶な事をしようとしているということだろう。
「幽香さん……」
思わず呟き、作業を止める。
ぎゅっと拳を固めるアドレーヌの手を、そっと瀬多が握ってやる。
だが、慰めている時間はない。一刻も早く、幽香を止めなければならない。
「難しくてもやってくれ。それしか方法はないんだ。……全員、自分の役割は理解したな? 必ずこの作戦に従って動いてくれ。これは全員が生き残る為の最善の作戦だ。決して軽はずみな行動は起こさないこと。いいな?」
全員が頷く。
この中で、一体何人が生き残れるのか。そんなことを一瞬考えて、瀬多は頭を振った。
「レミリア。手加減しろとは言わない。だが……」
「そのメダルを引き剥がせってことだろ。理解してるよ。出来るかどうかは分からないけど」
顔にクリームを塗ってもらい、何とも言えない渋面を作りながらレミリアは言った。
「アドレーヌ。絵の実体化はだいたい何分くらいで解除されそうだ?」
「た、たぶん……三十分くらい」
「いけるな? レミリア」
「ま、十分でしょ。作戦通りに事が運ぶならね」
瀬多は頷いた。
全員を見回し、口を開く。
「俺達はかなり無謀なことをしようとしている。だが、今の幽香を放っておくわけにはいかない。少しでも勝機があるのなら、今ここでなんとかしなくちゃいけない。……勝つぞ。幽香も、俺達も、全員生き残って、またここで会おう」
「「「おう!!」」」
元気な声が三つ。
当然レミリアはそっぽを向いているし、アドレーヌにそんな元気はない。
「だいじょうぶだよ! 幽香って人も、ぜったいに助かる!」
カービィの明るい声に、アドレーヌは少しだけ微笑んで頷いた。
そうだ。絶対に助けてやる。こんなところで、アドレーヌと死に別れなんて、そんなこと絶対にさせない。
「……いくぞ。作戦開始だ」
◇◇◇
『お嬢様!! こちらは準備が整いました! 今はゼルギウスが足止めしています!! すぐに駆けつけ──って、あら』
「わざわざそんなもの使う必要ないわ。咲夜」
いつの間にここまで来たのか。まったく認知できなかった。吸血鬼の身体能力は健在といったところか。
「ま、大した怪我もないようで安心したわ」
「そちらも。まず大丈夫だとは思っていましたが」
「そうね。私もそう思ってた。咲夜が死ぬなんて私が死ぬ次の次くらいに有り得ないわ」
「ええ。お嬢様が死ぬなんて、私が死ぬ次の次の次くらいに有り得ないことです」
「減らず口を」
「そちらも」
ふっと、どちらからともなく笑う。
「さて、そろそろ行くとするか。もたもたしてると瀬多が五月蠅いからな」
「あの男はなかなか使い勝手が良さそうですね」
「まったくだ。副メイド長にしてやれば、お前の苦労も減るんじゃないか?」
「それは楽しみです。精神が摩耗するまでこき使ってやりましょう」
いつも通りだ。いつも紅魔館で繰り返す他愛のない会話。
「……お嬢様」
「あん?」
「ありがとうございます。私に名前をくださったこと。居場所をくださったこと。……口には出しませんでしたが、ずっと感謝しておりました。こんな生意気な私でも、今まで召し仕えて下さった」
「……ふん。当然だろ。お前は私のメイドなんだ。昔も今も、そしてこれからもな」
不敵にレミリアは笑ってみせる。
咲夜もつられて笑った。
レミリアが、すっと拳を出す。
「任せたぞ」
咲夜も、その拳を突き合わせる。
「任されました」
その言葉を最後に、レミリアは木々を飛び移るようにして、最大速度で林の中に入って行った。
◇◇◇
「月光!!」
拳と剣がぶつかり、互いにその衝撃で後ろへ滑る。
片や息を切らしながら剣を構える騎士。片やまったく笑みを崩さずに立つ怪物。
誰がどう見ても、どちらが優勢かは明白だった。
もう一度斬り結ぼうとゼルギウスが向かった時、幽香の頭上に少女がいた。
「バッドレディスクランブル」
途端、まるで竜巻のような紅い渦が少女を取り巻き、そのまま凄まじい勢いで幽香へと落下した。
その隕石のような攻撃を、しかし幽香は後ろに大きく跳躍することで回避していた。
「ふぅ。なんだ。けっこう俊敏じゃないか」
「貴殿がレミリア・スカーレットか?」
「そういうお前はゼルギウス?」
「いや。私は漆黒の騎士だ」
「はぁ? ……まぁ、名前なんてどうでもいいか」
漆黒の騎士が剣を構え、レミリアも槍を生成して構える。
「体力はあまり消耗しないように、というのが作戦ではなかったか?」
咲夜から聞いた瀬多の作戦では、漆黒の騎士もレミリアも、あくまで時間稼ぎが目的だ。
ならば、できるだけ力は温存しておくべきだと考えるのが当たり前で、事実咲夜にもそう言われた。
「何を抜けたことを言っている。主役の登場は派手なものだと相場が決まっているのよ」
……どうやらあまり頭を使うタイプではないらしい。
漆黒の騎士は頭を切り替えた。
「では行くぞ。レミリア・スカーレット」
「言っとくけど、発言権は私の方が強いんだ。その辺、勘違いするなよ。……というわけで、行くぞ漆黒」
「……了解した」
二人は、幽香に向けて突進した。
「おおおおおっ!!!」
幽香の弾丸のような拳を剣で逸らす。
たった一人でまともに幽香の猛攻に耐えれる時間は五秒が限度だ。その限界間近で足払いをかける。
当然避けられるも、猛攻が一瞬だけ止む。
その隙を見て、大きく振り被り、幽香に迫る。それを相手取ろうと幽香が一歩足を踏み出した時
「相手は漆黒だけじゃないぞ」
真後ろからレミリアの槍が迫る。
完全な挟み撃ちが決まった。
衝撃派で大気が震える。
だが幽香に傷はない。
漆黒の騎士とレミリア、それぞれの攻撃を幽香は片手で受け止めていた。
「なっ!」
「くっ!」
身体を回転させ、二人を吹き飛ばす。レミリアはその小さな身体を活かしてくるくると回転し、遠くの方で着地する。
しかし、漆黒の騎士は元々が巨体で、しかも大剣を振るっていることもあり、決定的な隙ができる。
「かみなり!!」
が、突如現れた落雷により、幽香の攻撃はキャンセルされる。
その隙に後ろへ下がり、体勢を立て直す。
「助かった」
「お互い様よ」
かみなりをまともに受けたにも関わらず、幽香にはまったくダメージがない。増えて行く得物。誰を先に殺そうか。まるで品定めをしているかのようだ。
「咲夜殿は下がっていてくれ。かなり疲労が溜まっているはずだ。戦いはその黄色いねずみに任せて休まれよ」
「そうもいかないわ。ピカチュウがここにいる以上、絶対に幽香を足止めしておかないと瀬多の作戦が崩れる」
瀬多が駆けつけるまで、千枝は完全に無防備状態だ。千枝に近づかないように、幽香をここに留まらせておく必要がある。
そしてそれには、少しでも戦力が必要なのだ。
「しかし……私は咲夜殿を守ると誓った。貴殿を危険に曝すわけには……」
「……気持ちだけ受け取っておく」
「おいこら!!」
なんだか良い雰囲気になりつつある二人に向かって罵声が飛んだ。レミリアだ。
「ちょっと漆黒! あんた咲夜に手ぇ出そうなんて考えてるんじゃないでしょうね! 咲夜は私のものよ。下手なことしたら、一滴残らずその血を吸い尽くすぞ!!」
その言葉を契機に、幽香は得物を決めたようだ。
一番活きの良さそうな得物。当然、レミリア・スカーレットだ。
地面を抉ってスタートダッシュを切ると、そのまま一瞬でレミリアとの距離を詰める。
「っ!! お嬢様!!」
大砲のような拳がレミリアの顔を掠める。
「大振りなのは相変わらず、ね!!」
小さな身体を滑り込ませる。
「ドラキュラクレイドル!!!」
再び紅の竜巻となり、幽香を上方へと押し上げる。
「駄目押しにもう一発!! スカーレットデビル!!!!」
魔力の奔流。
空へと駆ける紅い十字架は幽香を呑みこみ、その身体を上空へと吹き飛ばす。
「はぁ。はぁ。……どうだ。……漆黒などより……よっぽど……強いだろうが」
確かに、漆黒の騎士は驚いていた。
その小さな身体のどこにこんな力が隠されているのか。そう思うくらいに、レミリアは強かった。
だが、それよりももっと強い者がここにはいた。
「上だ!!」
漆黒の騎士の言葉に反応するも、一足遅れた。
幽香がレミリアの頭を掴み地面に叩き付ける。大地が割れ、鮮血と共に飛び散る。
さすがにあれほどの攻撃を直撃させれば、少しは効いているだろう。そんな甘い幻想を一気に吹き飛ばす一撃だった。
「くそっ!!!」
再びレミリアに拳を浴びせようとしていた幽香に、慌てて漆黒の騎士が横なぎの剣を振るう。
攻撃は中断されたが、最初の一撃はまともに食らった。
ただの人間なら魔理沙のように潰れている。
「お嬢様!! しっかりしてください!!」
だが、血を滴らせながらも、レミリアはなんとか無事だった。意識は飛んでしまっているが、それでも生きている。
「咲夜殿!! レミリアを連れて下がれ!!」
斬り結びながら、ゼルギウスが叫ぶ。
拳が脇を掠める。
まったく力が衰えている様子はない。
(レミリアがやられるのが早すぎる! 一人で足止めできるか!?)
そんな思いを巡らせたその時だった。
『準備完了だ!! こっちに誘導してくれ!!』
拡声器を介した瀬多の声。
それは待ちに待った言葉だった。
「こっちだ化け物!!」
漆黒の騎士が背を向けて森の中へと駆けて行く。
幽香は強者に反応する。ならばこの状況、必ずこちらを追いかけて来るはずだ。
漆黒の騎士の読みはずばり的中した。
455 :狂乱劇 第三幕 ─一人の重みと八人の重み─ ◆dGUiIvN2Nw:2011/03/07(月) 08:20:41 ID:cbrmXwWc0
「はっ、はっ、はぁ、……ぐおっ!!」
全速力で走る漆黒の騎士。迫って来るのは幽香……ではなく、大木の弾幕。
常人ならその光景を見るだけで足が竦む状況に、下から上までどっぷり浸かりながら、漆黒の騎士は走る。
(こんな緊張感のある徒競争があるとはな…!)
心の中で冗談を言う。余裕があるからではない。そうしないと心が保てないのだ。
一騎当千の漆黒の騎士でも、幽香の弾幕によって木々が粉砕する中を走るのは恐怖以外の何物でもなかった。
「はっ、はっ、はっ、はっ」
足元に弾幕が突き刺さる瞬間に飛びのく。胴体を貫通しようと迫る大木を、身体を逸らすことで避ける。
もはや身体中が傷だらけだ。それでも屈み、跳躍し、転がり、弾幕から逃げる。
後ろを見ている暇はない。全て直感で避けている。
一つ間違えたら即死の徒競争。
光が見える。
ゴールだ。
瞬間、ぞっとする。
第六感が凄まじい警報を鳴らす。
轟音などという単語で表すことの出来ない凄まじい音。
竜巻がそのまま突っ込んで来るような音。
幽香は、一際大きな大木を、ブーメランのように投げつけたのだ。
渾身の力で、他の木々を巻き込んで。
瀬多はこの戦いで何度となく有り得ない光景を見てきた。だが、今ほど驚愕したことはなかった。
森がそのまま襲いかかって来るような光景だった。
理屈では理解できる。おそらく幽香は、大木を回転させながら投げつけたのだろう。
だが、実際に引き起こしている現象。その光景は凄まじいものだった。
嵐。森そのものが嵐となって襲いかかる。そんな状況。
回転する大木だけでなく、巻き込まれた他の木々さえも幽香の意思に従っているかのように、森から抜け出して来た漆黒の騎士に迫る。
「月光!!!」
居合のような形で、振り向き様に必殺の一撃を繰り出す。
それは強大な嵐を一瞬だけ押し返すも、しかしすぐに呑みこまれた。
滅茶苦茶に襲いかかる木々に埋もれ、もはや漆黒の騎士の姿は一切見えなかった。
だが漆黒の騎士を心配する時間もない。
ゆっくりと、幽香がその姿を現した。
瀬多は黙って前に出る。
その後ろには、薄い光を纏い、精神統一する千枝。
「……来い、幽香。それとも、取るに足らない弱者は相手にしない主義か?」
オタコンのバックから入手した一本の剣を取り出す。
「タルカジャ」
自分の力が増幅される。
「ジオ!!」
強化された雷が幽香に飛ぶ。
が、幽香は構わず突っ込んだ。
まともに攻撃を受ける。
しかし怯みもしない。
瀬多は渾身の力を込めて剣を振るった。
剣は虚空を切り、地面に突き刺さる。
瀬多は、尻もちをつき、目前の幽香を見つめる。
幽香がゆっくりとその腕を振り上げる。
一撃で人を絶命することができる拳だ。
「デカルジャ」
手を幽香に掲げ、そう呟いた。
この状況で何をしているのか、理性のない幽香でさえ首を傾げる。
「長かったが、これで終わりだ」
その言葉を理解したのかしていないのか、幽香は拳を放った。
「今だああああああああああ!!!!」
千枝の目がかっと開かれ、攻撃モーションに入る。しかしそこに幽香はいない。
拳は瀬多に迫る。
瞬間、
時が止まった。
この時ばかりは五月蠅かった戦場も音がしない。
トン、と咲夜は幽香を押した。幽香の身体は、ちょうど千枝の攻撃圏内へと入った。
「食らいなさい。私達弱者の、渾身の一撃よ」
時が動きだす。
何故か身体のバランスが崩れている幽香。だがその程度のことで幽香が驚くことなどない。しかし、目の前に繰り出された千枝の攻撃を見て、……余裕の表情が消えた。
「霧 雨 昇 天 撃 !!!」
大地が割れる。地面が揺れる。
止まることのない轟音が響き渡る。
幽香はトモエの斬撃をまともに食らい、倒れ伏した。
「はぁ……はぁ……。瀬多君の…タルカジャ……三重掛け。…アンド、……いつもの三倍、……溜めに…溜めたチャージ。……正真正銘……一撃必殺の…霧雨昇天撃よ。……これで、……ちったぁ、食らったでしょ」
倒れそうになるのを瀬多が受け止める。
「大丈夫か。……悪いな。無理させ過ぎた」
「……なあに、……これくらい……へっちゃらだって」
見るからに消耗している姿で、それでも力なく笑ってみせた。
「咲夜。レミリアの状態は?」
少し離れたところで、頭から血を流してぐったりとしているレミリアを見て瀬多は言った。
「大丈夫。気絶してるだけよ」
瀬多はそれを聞いて安堵のため息をついた。
「私、漆黒を見て来る」
内心の焦りを抑えながら、咲夜は立ち上がり駆けて行った。
「……ねえ、瀬多君。……雪子の……ことだけど」
「今は言わなくていい。もう少し落ち着いてから、千枝の心の整理が出来てから、聞かせてくれ」
「……うん」
千枝は、薄く微笑んだ。
瀬多は何も変わっていない。誰にも優しくて、頼られて。そのせいでいつも苦労をしている。いつ見ても誰かと一緒にいて、その人の苦しみや悲しみを少しでも和らげてあげようとしていた。
(本当はさ。雪子と瀬多君が……くっついてくれたらって思ってたんだ)
そんなことを考えて、溢れてきそうな涙をぐっと堪える。
「……でも……これで、ようやく終わりだね」
そう。終わった。最小限の被害で、あの化け物を倒すことができた。
だから今は、泣く時じゃなく、喜ぶ時なのだ。
「……千枝」
「なあに?」
瀬多に凭れかかりながら、呂律も回らない言葉で千枝は聞いた。
「一人で歩けるか?」
「ちょっと無理かも……」
「無理でもなんでも、歩いてくれ。できるだけここから離れろ」
「……瀬多、君?」
千枝は今、瀬多に凭れかかるようにして立っている。この位置からでは幽香は見えない。
……悪い予感しかしなかった。
「どうやら、俺達は現状をきちんと理解していなかったらしい。あれだけ化け物だなんだと言っておきながら、それでも俺達は、風見幽香を過小評価していたみたいだ」
瀬多の目に映る幽香は、確かに地面に手を置いて起き上がっていた。
攻撃は効いている。肩から腹にかけて、確かに一文字の傷ができ、血を滴らせている。
が、それだけだ。
こきこきと首を鳴らし、ぐるぐると腕を回す。幽香の瞳は、闘争心で溢れていた。
千枝はそれを確認し、そして呟いた。
「……勝てない。勝てる……訳ない。元々、……無理な戦いだったんだよ」
あの咲夜でさえ立ち尽くし、震えている。
ここにいる全員に、共通の感情が芽生えた。
恐怖。
紛れもない恐怖。決して太刀打ちできない、その異常なまでの力の差。
これが妖怪。
これが、最強の妖怪の力。
「……だが」
瀬多の肩に力なく手が置かれる。それはレミリア・スカーレットのものだった。
「諦めるつもりなど毛頭ない。そうだろう?」
遅れて、瀬多が頷く。続いて咲夜。そして千枝も、ぐっと意思の籠った瞳で幽香を睨みつける。
「千枝はもう休むんだ。これ以上無理をしたら本当に死んでしまう」
「でも……」
「任せろ。絶対に勝ってみせる!」
瀬多の言葉が皮切りだった。
「ピカチュウ!! 十万ボルト!!」
幽香は避ける気すらない。そして、その攻撃は足止めにすらならない。
レミリアの手に、紅く光る槍が形成される。
「ラクンダ!!」
瀬多の叫びと共に投擲。直撃したそれは幽香を下がらせることに成功する。
「ボルテッカー!!」
雷の弾丸となったピカチュウが幽香にぶつかる。
その時、確かに幽香の身体はよろめいた。
「効いてる。効いてるぞ!!」
以前まではどんな攻撃をしてもダメージがあるとは思えなかった幽香。
それが確かに今、こうして手応えというものを感じさせている。
「ラクンダ!!」
全員の攻撃で怯んでいるところに、さらに瀬多が防御力を低下させるスキルを掛けていく。
いける。
そんな希望が見えかけたとき、幽香が反撃に出た。
近くの大木を引っこ抜き、それを水平に構える。
「っ!! 全員避けろっ!!」
ブーメランのようにそれを思い切り投擲した。
咄嗟にレミリアが前に出る。だが、その攻撃は止められず、そのまま全員を巻き込んだ。
吹き飛ばされ、地面に叩きつけられる。
そのたった一撃で、全員が地に伏し、立ち上がれない。
「……くっ。レミリアと……千枝がやばい。…誰か…援護に……」
レミリアが庇ってくれたおかげで威力が軽減されているとはいえ、その当の本人は大ダメージだし、元々満身創痍だった千枝には致命的な攻撃だ。
レミリアも千枝も、完全に意識を失っている。だが、危険なのは意識を保っている二人も同じ。
幽香が目をつけたのは千枝だった。
再び近くにあった大木を引っこ抜き、その先端を千枝の顔に狙いを定める。
「や……めなさい……」
咲夜の身体は動こうとしても動かない。がくがくと痙攣し、どうしても立ち上がることができない。
ピカチュウも、もはや満身創痍で動くことができない。
「千枝……。千枝をやらせるわけには……。絶対に、……守らないと……」
瀬多も咲夜と同じだ。
身体が言う事を聞かない。それでも無理やり立とうと踏ん張る。
しかし、その試みはあまりにも時間の掛かるものだった。
幽香はそれを待ってくれない。
無情にも、狙いを定めたその大木は、まるで鐘をつくような気軽さで後ろに引かれ、そして大砲のような威力をもって、発射……
「ぬおおおっ!!!」
支援
上空で声がした。それと同時に、巨大な剣が、幽香の肩に直撃した。血は出ない。おそらく痣にもなっていない。だが、幽香の攻撃は止まった。
「……キョウ」
そう。それはキョウだった。カービィと共に、アドレーヌの護衛をするようにと指示をしておいたキョウだった。
ただでさえ満身創痍で、漆黒の騎士ほどの力を持たない彼らを戦いの渦中に出せば一溜まりもないと瀬多が判断したのだ。
「ば、馬鹿!! 何で来た! これじゃあ……」
瀬多の恐れていたことが起きた。
大木はそのまま横なぎに払われ、キョウの横腹を直撃した。
「ごはっ!!」
吐血するキョウをまったく頓着せず、幽香は遠心力を利用してキョウもろとも大木を回転させる。
威力をのせたそれを、幽香はそのまま地面へと振り下ろした。
ボキボキ、と嫌な音が響いた。
「うがあああ!!!」
「キョウ!!!」
続いてカービィが突撃し、虹の剣でその腕を切りつける。が、手を添えただけでそれは止められ、軽く足蹴にされただけで吹き飛ばされた。
「なんで……。なんでだ!! 作戦通りに動くようにあれほど言ったのに。死にに来るようなものなのに……! 勝てるわけがないのに!!」
瀕死のキョウは、瀬多の悲鳴のような叫びを聞き、薄く笑った。
「ふぉ……ふぉ。…勝たなきゃ……いけない……だから…戦う。……それが……男というものでござるよ」
それが、キョウの最後の言葉だった。
ぐしゃり
そんな音をたてて潰れるキョウを、瀬多は見ていることができなかった。
(これじゃあ、あの時と何も変わってない。何で俺は……いざという時に限って無力なんだ!!)
再び幽香が千枝へと狙いを済ませる。
もう駄目だ。誰もこの化け物を倒せない。このまま、死ぬしかない。
このまま……
「月光!!!」
瞬間、瀬多の後方で何かが爆ぜた。
残骸と化した木々が宙を舞い、木々に呑みこまれたはずの漆黒の騎士がそこにはいた。
「……受け取った。その想い、確かに受け取ったぞ。キョウとやら」
瀬多が思わず振り向いた。咲夜も、そして、もはや意識が途切れがちなカービィもそちらを見ていた。
立っていた。
ボロボロの身体で、ところどころに木片が刺さりながらも、漆黒の騎士が、二の足を使ってそこに立っていた。
「そうだ。私は、私達は、勝つために戦っている。勝てるからじゃない。ただ、勝つために戦っているんだ。……もう終わりだ。人生も、戦いも、負けるのは、……諦めるのは、もうここで終わりだ」
ふらふらの足取りで、しかし水平に掲げられた剣は寸分違わず幽香に向けられていた。
「もう誰も殺させん。さっきの男が、私の目を覚ましてくれた。私の中の、最後の力を奮い立たせてくれた。
私は騎士だ。誇り高き騎士だ! もう誰にも罵倒はさせん。倒れたりはしない! 印付きでもなんでもない。私は……漆黒の騎士だ!!!」
漆黒の騎士が地面を弾く。千枝、レミリア、カービィ、咲夜、瀬多、誰よりも前に出て、幽香へと肉薄する。
幽香の大木が漆黒の騎士に放たれる。だが、
「うおおおおおおっっ!!!!」
それを一撃のもとに両断する。幽香は躊躇なくそれを捨て、肉弾戦へと移行する。
右の拳と剣がぶつかる。
左拳を構える。が、咄嗟に漆黒の騎士は身体を乗り出し、相手の額に頭突きを食らわせる。
全体重を乗せたそれは、幽香を仰け反らせることに成功する。
袈裟懸けに剣を振るう。堅い皮膚はそれでは斬れない。
だが構わない。
一撃、二撃、三撃と相手に攻撃を咥える暇を与えない。
が、それでも無理やり攻撃してくる。
拳が漆黒の騎士に直撃する瞬間、がくりと幽香の膝が折れ、その拳は空を切る。
カービィが幽香の片足を剣で叩いたのだ。
「たおして!!」
カービィはそれだけ言い残し、幽香の裏拳で吹き飛ばされる。
漆黒の騎士の手に、さらに力が入る。顔面めがけて剣を振るう。
ガキイィン
凄まじい音が響き渡る。幽香はその歯で剣を受け止めていた。
音をたてて互いに押し合う。
幽香はその状態のまま漆黒の騎士を殴り付けようとする。
だが、それは突然現れた魔力の鎖によって阻まれる。
「ミゼラブル……フェイト」
レミリアだ。
漆黒の騎士は剣を引き、幽香の口による束縛から解放されると、そのまま思い切り振り下ろす。
幽香はたたらを踏んで後ろに下がる。
「……さっさと……やれ……」
レミリアはそれだけ言ってそのまま崩れ落ちる。
漆黒の騎士は歯を食いしばる。気力が上がっていくのを肌で感じ取る。
幽香の突風のようなラッシュ。無理やり剣を振り回し、拳とぶつけ合わせる。
ぶつかる度に大気が震える。
その圧倒的な力に押され、身体が下がりそうになる。
しかし、気合で前へと乗り出す。
下がれない。
ここで下がればまた誰かが犠牲になる。
「「タルカジャ!」」
漆黒の騎士に、力が宿る。
一撃が幽香と互角になり、それ以上になる。
何十回目のぶつかり合いで、とうとう幽香が下がる。
「月光!!」
その隙に、必殺の一撃。
幽香はさらに後ろへ下がるも、その闘争心は未だ健在。
身体も未だに限界はきていない。
「頑張って……。私達の……分まで」
「倒せ! 漆黒!!」
意識を回復した千枝を瀬多が支え、希望に燃えた目を漆黒の騎士にぶつける。
不思議と、呼吸が整っていく。状況認識能力が高まり、周りがいつも以上によく見える。
幽香が持ち直し、弾丸のような拳が飛ぶ。
ゼルギウスの額を掠り、血が飛び出る。
だがゼルギウスは気にせず攻撃の手を緩めない。
上方へと斬り上げ、伸びた両手を空へと押し上げる。
隙だらけになった腹にバッドの如く剣を叩きつける。
くの字に曲がる幽香の身体に、さらに攻撃を繰り出す。
上へ下へ、左へ右へ。
力の限り剣を振り回し、その体力を蝕んでいく。
途端、今までで一番速い拳の弾丸が飛んでくる。
それはゼルギウスの左頬を掠り、ただそれだけで頬骨が折れる。
怯んだゼルギウスの脳天を狙った拳。
ゼルギウスは咄嗟に地面を転がりそれを回避。
ふと、傍に大剣エタルドが置かれていることに気付く。アイクの剣。自分と凌ぎを削った、共にガウェインの元で剣を学んだ者。
理屈はなかった。ただ直感的にそれを掴み、両手で巨大な二本の剣を振るう。
その双剣を扱う姿は、人類を滅ぼしかけた邪神を封印したかつての英雄、オルティナそのものだった。
支援
支援
したらば緊急メンテはいったぞ。という報告兼支援
剣一本に腕二本。
数で勝っていた幽香だったが、既に数は互角。
右をいなし、左をいなし、腹に蹴りをいれて怯んだところで、たんと地面を蹴って軽く宙を飛ぶ。身体を横に回転しながら二本の剣を振り下ろす。
寸分違わず同じ場所に落とされた斬撃にさすがの幽香もたたらを踏む。
先程の攻撃がアイクの必殺技である天空の簡易バージョンであることに遅ればせながら気付く。
あれはガウェインの剣の集大成だった。ならば、私にも同じ技ができるはず。
斬撃の数で幽香を押しながら漆黒の騎士は考える。
いや違う。同じじゃない。私だけの技だ。私だけの……私の過去、修練の集大成。
胸元に突きをいれ、幽香の身体がよろめく。
瞬間、幽香がその身体を踏ん張って、漆黒の騎士に頭突きを食らわす。額が裂け、血が飛び散る。
思わず後ろに下がり、蔦に足を取られる。
まずい。
そう思った時には、何故か体勢は立ち直っていた。
弱冠、先程までいた位置とずれている。こんな芸当が出来るのは一人しかいない。
「しっかりしなさい。……あなただけが頼りなのよ」
咲夜の言葉にはっとし、剣を交差させて幽香の攻撃を防御する。
重い一撃。だが、今の漆黒の騎士には、軽過ぎるとさえ感じた。
「行きなさい。あなたなら出来る」
漆黒の騎士は双剣を振り回し、幽香を圧倒する。
そうだ。私は一人じゃない。
幽香の一撃は、一人分の重みしかない。だが自分は、ここまで幽香を追い詰めた自分の重みは、一人分ではない。
キョウの言葉があったから立ち上がれた。カービィの一撃のおかげで今も立っていられる。レミリアが攻撃を防いでくれたからあれだけのダメージを与えられた。瀬多と千枝のスキルがなければ、ここまで幽香と肉迫することはできなかった。
そして今、
自分を信じて、その命を託してくれる者がいる。
ベグニオンの将として、幾度も戦いの地に駆り出された。どんな窮地も、自分にとっては楽に捌けるものだった。仲間は大勢いたが、どれも上辺だけの関係だった。
だが、今は違う。本物の戦いで、本物の仲間がいる。
私は一人じゃない。
一人じゃないから、ここまで来れた。
(皆の想いに……応えてみせる!!)
突然幽香が回転したかと思うと、後ろ回し蹴りを漆黒の騎士の頭部目掛けて放った。今まで使ってこなかった足技。しかし、それを漆黒の騎士はぎりぎりで避けることができた。幽香は体勢を崩す。
その隙を、漆黒の騎士が逃す道理はない。
まるで龍を形作るかのように、二本の剣を構える。
「ふぅー……」
呼吸を整え、意識を集中する。この世の全ての生命を感じ取ることができるような、そんな不思議な心持ちだ。空を舞う雀から、地面に潜む鈴虫まで、その生命の全てを感じ取る。
自分が、命を生み出す地上そのものになった感覚が、漆黒の騎士の身体全体を占めていた。
その危険性を直感で感じ取り、幽香は今まで以上に素早い拳を繰り出した。
「幽香さん!!」
その声は、暴走を始めた幽香が、初めて聞いた声だった。
戦場にいるはずのない声。瀬多が空へと雷を放ち、この土壇場で呼んだ最後の切り札。唯一、幽香を止められるかもしれない人物。
拳が漆黒の騎士に迫る。その距離を詰める。……しかし、その拳は、漆黒の騎士にぶつかる前に止まった。
「「「「「いけええええええええええ!!!!」」」」」
くるりと回転する。その回転は非常に緩慢なもの。
そっと、幽香の肌に剣が添えられた。
「大 地」
瞬間、音もない閃光が走った。前を向いていた漆黒の騎士が、後ろを向いていた。
それを幽香が視認した時、その身体に何かが爆発したかのような衝撃が襲った。
音速の剣。無音の回転斬り。まったく同じ箇所に、渾身の二撃を加える攻撃特化型の必殺技。
それは確かに、幽香を倒れ伏すに足る傷を与え、メダリオンをその手から放させることに成功した。
「漆黒。あなた、その腕大丈夫?」
膝をつき、剣から手を離している漆黒の騎士に咲夜は聞いた。
見れば、その両腕は小刻みに震えており、見るからに真っ赤に腫れていた。
「……筋を、かなり痛めたようだ。しばらくは…剣を持つことも、適わないだろうな」
風見幽香に加えた一撃、その威力を見れば、それも納得といったところだ。
「……あなたのおかげよ。あなたのおかげで、被害は最小限に抑えられた。幽香も生きている。もっと自分を誇りなさいよ。誰にもできないことをあなたはやってのけたんだから」
漆黒の騎士は苦笑する。
人にこの身を案じてもらったのはいつ以来だろうか。褒められたのは、……もしかしたら初めてかもしれない。
「だが、案外いいものだな」
「え?」
「何でもない。咲夜殿は無事か?」
「ええ。……けど、その殿って止めてくれない? なんだか馬鹿にされてる気分」
「……一応、敬称なんだがな。まあ、咲夜殿……咲夜が止めろと言うのなら異論はない」
「その堅っ苦しい喋り方もできれば止めて欲しいところだけどね」
咲夜はそう言って薄く笑った。
「それよりも、今は君の主の心配をした方がいい」
「ああ。お嬢様なら──」
「お前に心配してもらう必要なんてない」
瀬多に介抱してもらいながら、レミリアはむすっとした表情で言った。
「言っとくがな。今回は花をもたせてやっただけだ。やろうと思えば、私だってあれくらい……、いたたた! おい瀬多! もっと優しくしろ!!」
「今回のMVPは誰がどう見てもゼルギウスだ。そういう言い方はあまり良いとはいえないな」
いらない布を千切って作った包帯を頭に巻いてやりながら、瀬多は言った。
「ふん。女の前で良い恰好したかっただけだろ。男という奴は外面を良く見せることだけは長けてるからな」
そう言ってレミリアはそっぽを向いてしまった。
「咲夜。レミリアは何をそんなに怒ってるんだ?」
「どうやら、私とゼルギウスの仲を疑ってらしてるようね。誤解も甚だしいけれど」
「……咲夜は私の娘みたいなものだ。私が納得するような男じゃないと絶対やらん」
レミリアはふてくされたように言った。
「どっちかと言うと、母親を取られそうな子供っていう感じが……、いや、何でもない」
レミリアの睨みに気付いて、瀬多は発言を取り消した。
「ははは。瀬多君、たじたじじゃん」
千枝の笑い声。瀬多の罰の悪そうな空咳。
漆黒の騎士は、それを見て微笑んだ。
自分には無縁だった暖かい空気。今、自分もその中にいる。
ずっと張り詰めていた気持ちが和らいでいくのを感じた。
(ガウェインの息子……アイクも、きっとこのような環境で過ごしたのだろうな)
信頼関係で結ばれた仲間。その中で互いの剣を学び、互いに強くなっていく環境。そんな下地があったからこそ、アイクはあそこまで急激に強くなれたのだろう。
ふいに茂みの中からカービィが顔を出した。
「なんだか楽しそうだね。ぼくも混ぜてよ」
「カービィ。その……キョウは……」
「……うん。ちゃんと埋めてきたよ。いただきますもした」
「い、いただきます!? 食べちゃったの!?」
「あ、間違えた。お悔やみもうしあげます……だっけ?」
「……びっくりさせるわー」
どうやらこのカービィという少年(?)は、かなりの天然らしい。
「……すまない。私がもっとはやく倒せていれば」
「終わったことをクヨクヨしてても仕方ないよ! それより笑顔笑顔! 笑ってる方がキョウだって喜んでくれるよ」
瀬多がカービィと会うのは初めてだ。
攻略本の記述でしかその活躍を知らないが、今こうして目の前にいるカービィを見て、確かにカービィにはなにかやってくれそうな、そんな気持ちにさせる風格があった。
頭が冴えるわけでも、決して頼りになりそうなタイプでもないのに、何故かヒーローとしての素質を持っているような気がした。
「じゃあぼく、アドレーヌを見てくるね」
そう言って、カービィはテテテと走って行った。
◇◇◇
「……アドレーヌ」
仰向けに倒れている幽香の手当てをしていたアドレーヌはその手を止めた。
「……私、何人殺した?」
その血塗られた手を見つめ、幽香は言った。
自分が何をしたのかはだいたい理解している。だが、正確な記憶がなかった。
「……そんなこと、考えないでください」
「……あいつらの仲間、何人殺った?」
幽香から少しだけ離れたところで腰を落ち着けている瀬多達を見て、幽香は言った。
「幽香さん、言いましたよね。シャドウなんて気にするな。私が守ってやるって。私にそう言ってくれましたよね。みんなを殺そうとした私を……幽香さんは許してくれた。
だから私も……。私も、幽香さんを許したい。みんなが幽香さんを悪者だって言っても、私だけは幽香さんの味方です。だから……、だからもう、自分を傷つけないで」
零れてくる涙を必死に拭きながら、アドレーヌは手当てを再開する。
「私が悔しいのは、自分で自分を律せなかったこと。私が悲しいのは、こうしてあなたを泣かせてしまっていること。……何が、最強の妖怪よ。私は、自分自身すら面倒を見切れない、ただの戦闘狂……」
「違う! 幽香さんはそんな人じゃない。幽香さんはずっと一緒にいてくれた。ずっと私を助けてくれた!」
幽香が共にいてくれて、どれだけ心強かったか。幽香の言葉が、どれだけアドレーヌを慰めたか。
アドレーヌは弱い。何も出来ない。
だけど、ずっと自分を守ってくれた人が苦しんでいるというのなら、助けてあげたい。その悲しみを、少しでも和らげてあげたい。
何も出来ない自分でも、幽香に何かをしてあげたい。
「ぼくもそう思うな」
ひょっこりと、カービィが顔を出した。
「幽香は優しい人だよ。落ち込むことなんてないって」
「……私は、あなたの友人を殺したのよ」
「うーん……。そうなんだけどさ。……でも、キョウだってきっと幽香を良い人だって言ってくれるよ。だって、ずっとアドレーヌを守ってくれたんでしょ? そんな人が悪い人なわけないよ」
「カーくん……」
カービィの裏表のない言葉に、幽香は思わず目を逸らした。
「……馬鹿よ。あなたは」
「はは。よく言われる」
アドレーヌは、ぎゅっと幽香の手を握った。
「幽香さん。私は、……私はずっと──」
「暗黒」
突然、アドレーヌの目の前に暗闇が襲った。
「……いみじくも、あの時と同じ状況というわけか」
二人を庇うよう咄嗟に前へ出たカービィが、その場で倒れた。
「カーくん!!」
「カービィ!!」
アドレーヌと幽香が声を荒げる。
全員が予期せぬ来客に驚愕している。
だが、誰もが満身創痍の状態。声を出すのが精一杯だ。
「アイクもそうやってお前を守った。そして殺された。僕達の手によって」
カービィを踏みつけ、セシルがその剣をカービィに向ける。
「……さて。こうすればお前はどうする? ゴルベーザ」
ガキイン
と金属がぶつかる音が聞こえ、森の中からカインがその姿を現した。
「でかしたぞセシル! 奴の攻撃が止まった!」
カインと斬り結んでいたのはゴルベーザが歯噛みしながら剣を構えている。
ゴルベーザは、休息を取っていたセシル達を見つけ、ここまで追い詰めて来たのだ。
それがまさかこんな形で逆転されるとは、ゴルベーザ自身も思っていなかった。
「貴様ッ!」
「動かないか。お前はもはや、我々とは相いれない存在というわけだな、ゴルベーザ」
「その者を離せ。その者は、お前を心の底から想っていた。お前の安否を心配し、お前が殺し合いに乗ったと分かっても、止めようとしていた」
セシルは心の中で微笑んだ。
やはり君は光の者だ。その言葉は、正義を翳す人間にしか言えない言葉だ。
セシルは見つけた。言う事を聞かず、決して闇の道から出ようとしないゴルベーザに、光の道へと進ませる方法を。
セシルは叫んだ。この場にいる全員に聞こえるように。
「下らない正義感を振りかざすのは止めておけゴルベーザ! 貴様もここで倒れている者と同じだ。矮小で、一人では何も出来ない。そうやって地べたを這いずることでしか自分の価値を見いだせない」
そこにいるカイン以外の全員が悔しさに身を震わせる。
今、ゴルベーザと彼らの心は一致した。悪を憎む心。悪を打ち倒す正義の心。
「よし、セシル。こいつを人質に取ってこのまま逃げよう。絶好の機会を逃すことになるがここは仕方ない」
カインが、セシルにしか聞こえないように小声で言う。しかし、セシルは無言だ。
支援
「止めろ、セシル!! ……人質が欲しいなら、俺がなってやる」
「せ、瀬多君!?」
「瀬多! 何を勝手なことをぬかしている!」
「カービィはこのまま死なせちゃいけない!」
瀬多を見つめるセシルの目は、ひどく冷たいものだった。
「セシル。俺を殺したいんだろう。お前、そう言ってたよな。お望み通り殺されてやる。だからカービィを離せ」
「ふざけるな!」
ようやく上半身だけ起こし、幽香が叫ぶ。
「誰かが死ぬというなら、私が死ぬべきよ。それくらいの覚悟はできてる。
……あんた達。まさか私の顔を忘れたわけじゃないでしょうね。アシュナードと殴り合いをしてる時見かけたわよ。体力さえ回復したら、あんた達なんて一瞬で塵にしてやれる。
けど、その子を離すっていうなら、私の命、あんた達にくれてやる」
「い、いやだ! いやだよ!! 瀬多さんも幽香さんも死んじゃいやだ!!」
「このままじゃカービィが死ぬのよ! あの子を守れて死ぬのなら私だって本望。私には、お似合いの最後……」
「幽香! お前はアドレーヌと約束しただろ! アドレーヌにはお前が必要なんだ! 俺の方が一番──」
「滅多なことを言うな!!」
突然、ゴルベーザが瀬多を一喝した。
「勇気と蛮勇を吐きちがえるな。……私にだって分かっている。この者の強い正義の心。何かを成し遂げるだけの気概。お前達が感じたものと同じものを、私もこの者に感じた。
……だが、それはここにいる全員に言えることだ。誰も欠けてはならない。だから、そのようなことを言うな」
セシルは思わず目を瞑り、感涙にむせぶのを堪えた。
ああ。それこそが君の進むべき道だ。それこそが、本当の君だ。
君が何と言おうと、これでようやく君は光の道へ足をかけることができたのだ。
……だが、まだ足りない。
「茶番だな」
全員の怒りの視線が突き刺さる。痛くも痒くもない。
僕は無だ。もう何も持っていない。だから、何も痛くない。
一つだけ残った欠片も、今自分の手で捨てる。
たった一人の肉親を、今、切り離す。
これで儀式は終了だ。
これで君は、晴れて光の者になる。
弟が殺し合いに乗り、それを止めようと扮装し、悪を憎む。これでこそ正義を成す者だ。
だから切り離そう。君の中の弟という存在を。
悪を憎み、悪を滅する正義の人間に、悪に対する憐憫も情もいらないのだ。
セシルは剣を掲げた。
君のためなら、僕は喜んで悪役になろう。
「……おい、セシル。お前、何を──」
一切躊躇せずにセシルはそれを振り下ろした。
「セシルウウウウウウゥゥゥ!!!!!」
怒りの声と共に振り下ろされた剣を受け止める。
強い。鋭い。
これが正義の力だ。
剣を組んだ状態で、それでもその力に押され、背中に木がぶつかる。
「貴様だけは許さん!! 貴様のような悪は、私が滅ぼしてやる!!」
「ふん。ならばやってみるがいい。お前如きに負ける我々ではないがな」
ゴルベーザを蹴り飛ばし、剣を水平に構える。狙うは衰弱しきった正義の集団。
「暗……」
「させん!!」
咄嗟に飛び出すゴルベーザ。
「そんなに奴らが大事か?」
その隙だらけな身体に、横なぎの斬撃。
「ぐおっ!!」
鎧が砕け、思わず膝を折る。
暗黒を放つと思わせたフェイクの攻撃。ゴルベーザが、身を挺して彼らを守ったという既成事実を作るための奇襲。
当然、致命傷とは至らない。
「ジオ!!」
「十万ボルト!!」
二つの雷を飛んで避ける。
「少しでも身体が動く奴! ゴルベーザを守れ!!」
その言葉は、セシルが待ちに待った言葉だった。
ゴルベーザは光の者に認められた。
満足だ。今回は、もうこれで満足だ。
(お膳立てはもういらないな。……僕の手で殺されるその僅かな時間を、君は正義の者として生きてくれ)
悲痛な願い。しかし、叶えられたその願い。
何もない自分が唯一できた兄への孝行。
これだけ抱いて、僕はカインを優勝させよう。
「来るな! 私なら心配ない!!」
再びゴルベーザがセシルと斬り結ぶ。その力はやはり強大だ。一人では逃げるだけでもままならない。
「カイン!! ここは退くぞ。手伝ってくれ!!」
返事がなかった。
「カイン、どうした! ゴルベーザを引き離してくれ!!」
カインは、ただじっとセシルを見つめていた。
しかし、まったく動く気配がない。
「どうしたカイン! 僕の言っていることが分からないのか!?」
セシルの待望を知りながら、それでもカインは後ろを向いた。
「……カイ……ン?」
「すまない」
「な、何を謝っている。早くゴルベーザを──」
「もう、お前にはついて行けない」
セシルの中の何かが決壊した。
「どう……いう、ことだ?」
「それはこちらのセリフだ。人質を取って、こちらが優勢だったはずなのに、それをあっさり切り捨てて。お前は、ゴルベーザに固執し過ぎだ。もうついて行けない。今回の件で、それがようやくわかった」
「ま、待て。待ってくれ! 僕は君を──」
「俺は優勝する。ゴルベーザも殺すし、お前も殺す。……これ以上は一緒にいられない。お前にとって、ゴルベーザが一番大切だというのなら、俺はもうお前とはいられない」
これからも度々ゴルベーザと戦うことになるだろう。
だが、背中を預ける人間がゴルベーザに情を持っていれば、いつこちらを裏切るか分からない。裏切らないとしても、その甘さから致命的なミスをすれば、それはこちらの生死に関わる。
カインは、黙って歩いて行った。大勢の得物も放っておく。
今は……セシルの声を聞きたくない。
「ご、誤解だ!! 行かないでくれ!! 僕には君しかいないんだ!! 何もない僕には──」
「隙だらけだぞ!!」
横腹にゴルベーザの蹴りが直撃する。思わず剣を離し、ごろごろと転がる。
「カイン……。カイン!! 僕の話を聞いてくれ!! カイン!! カイン!!!!」
カインはもう、こちらを見ることすらなかった。森の中へと入っていき、やがてその姿は消えた。
それは、セシルにとっての死を意味していた。
「みじめだな、セシル」
ゴルベーザの言葉は、もはやセシルには聞こえていなかった。
「お前は生かしてはおけない。ならば、せめて兄の手で葬ってやる」
剣を振り上げ、ぴたりと止める。
セシルは完全に無防備状態だった。
カインが消えた方をただ見つめるだけだ。
「遺言を聞こう」
セシルは何も言わなかった。その瞳には、何も映っていなかった。
そこで初めて、ゴルベーザは気付いた。
まるで魂が抜けてしまったかのように呆けているセシル。
その姿は、まるで死人も同然だった。
「……止めた」
ゴルベーザはばさりとマントを翻し、背を向けた。
「その様子では、誰かを殺すこともないだろう。もう、お前を殺す意味はない」
こんなセシルは見たくなかったと思うやるせなさと、弟を殺さないで済んだという安堵。
それらがゴルベーザの中を渦巻いていた。
「助かった。ゴルベーザ」
「…………」
ゴルベーザは何も言わなかった。
「……何を考えているかはだいたいわかる。だが、それでも一緒に──」
「断る」
にべもなく瀬多の提案を遮断する。
ゴルベーザは、集団の中に漆黒の騎士がいることを確認すると、誰にもわからないように薄く笑った。
よかったじゃないか。お前は、悪の道から逸れることが出来たんだ。
「ゴルベーザ、と言ったな」
漆黒の騎士が言う。
「先程の戦いで少しばかり相まみえた。私はその時、貴殿を自分と同じだと感じた。私を見てくれ。私はこうしてここにいる。貴殿にも、それが出来るはずだ」
咲夜に一喝され、こうして誰かの為に剣を振るうことが出来るようになった。
そんな漆黒の騎士だからこそ、咲夜が自分の道を開いてくれたように、今度は自分がゴルベーザの道を開いてやらねばならない。
そんな義務感のようなものが漆黒の騎士にはあった。
「私は反対だな」
だが、レミリアは冷酷にもそう言った。
「瀬多。さっきお前は助かったと言った。だが、あいつらはこいつが連れて来たようなものじゃないか。礼を言う筋合いなんてない。
それに、さっきまでこいつは咲夜達と共にいたんだろう? だというのに、一番大変な時に姿を消し、全てが終わってからこうしてひょこひょこ戻って来た」
「レミリア。それは──」
「私が言いたいのはな。こいつは救える命を幾つも捨ててきたってことだ。おいゴルベーザ。お前、ここに来て何人の救うべき人間に出会った? 何人の参加者を保護せずに放置した? 言ってみろ」
ゴルベーザは周りを見回す。ここにはカービィの死体しかないが、一緒にいたはずのキョウとオタコンの姿がない。
この少女の静かな怒りを見れば、どうなったかは明白だ。
「……ここにいる人間を除けば、六人の正義の道に進む者と出会った」
アイク、雪子、アリス、キョウ、オタコン、そしてカービィ。全員ゴルベーザに認められた者で、全員が死んだ。
「その中で、使える人間は何人いた? お前と同じくらいの力を持った者。傷を癒せる者。何人いた?」
「二人だ。それぞれ一人ずつ。アイクという者と、そして雪子」
レミリアは舌打ちした。
千枝は、親友の名前を聞いて目を見開いた。
「……待ってよ。……ちょっと待って。……なに? あんた……雪子を救えたの?」
「最初に出会ったのがアイクと雪子だった。その時から共にいれば、あるいは──」
「ふざけんな!! なんだそれ……。ふざけてんじゃないわよ!!!」
満足に歩けないというのに、千枝がゴルベーザに食ってかかろうとする。
「止めろ千枝! そんな身体で無理をするな!」
「それだけの力があってどうして! ……どうし……て……」
後半は、涙声で聞きとれなかった。
支援
「正直、私もお嬢様の意見に賛成だわ。さっきのを見たところ、カービィが殺された大きな原因はあなたにあったみたい──」
「咲夜!! それはただの結果論だ!!!」
突然の瀬多の叫びに、思わず咲夜が怪訝な顔をした。
無理もない。咲夜達にはアドレーヌのシャドウについて話していないのだ。
瀬多はアドレーヌの元へ行くと、軽く背中を擦ってやった。
「大丈夫だ。心を落ち着けて。何か楽しいことを考えるんだ。ほら、幽香の手を握って」
身体を震わせながらこくこくと頷くアドレーヌ。瀬多が彼女を慰めることで、ゴルベーザを擁護する人間は漆黒の騎士ただ一人となった。
「お前の価値感で生きるべき人間を決められ、そうでない者は屠られる。生きるべきだと判断されても、勝手な正義を押し付けられてその場で放置。たとえそいつがどれだけ弱者であってもな。はっ。なんだそれは」
「待ってくれ、レミリア・スカーレット! 私とゴルベーザは同じ──」
「いいんだ」
ゴルベーザが漆黒の騎士をそう言って制止した。
「お前がどれほど言葉を紡いでくれようと、元々私にそのような気持ちはない。それに、確かにその娘の言った通りだ。私が正義と判断した者は、いずれも死んでいった」
「とんだ疫病神だな」
レミリアの言葉に、漆黒の騎士が食ってかかる。
「それこそ瀬多の言った通り結果論だ! それに、ならば私はどうなんだ! 誰かを守るどころか、殺し合いに乗っていた私は!!」
「お前はいい」
「何故だ! ゴルベーザと私に、どれほどの違いがあると言うんだ!」
レミリアはため息をつき、口を開いた。
「こいつの精神は濁ってるんだよ」
それは、漆黒の騎士からすれば、まったく想像していなかった言葉だった。
「悪の道にその身を置いて尚、正義を行う。それが正義と分かっていて、それでも悪の道から足を踏み出すことはない。
ふざけた信念じゃないか。悪だろうが正義だろうが、私にはどうでもいいことだが、こいつの自分を律する信念は拭いようのない矛盾からきている。
半端者なんだよ。それでいて、こいつには迷いがない。それが自分の進む道だと信じてる。惰弱な精神などよりもよっぽど見るに堪えない。吐き気がする。こういう輩は生理的に受けつけん」
精神という概念は、人間にとってよく理解できないものだ。
悪魔や妖怪といった、自分の命よりもその精神力を重要視する彼女達だからこそ分かる概念。
精神の強さが肉体の強さと比例する彼女達にとって、信念というものは何よりも重要な意味を持つ。
そうなれば当然、他の生物に対する見方も、その信念というもので推しはかろうとする。
レミリアにとって、ゴルベーザの信念はもはや信念と呼べるものではなかった。
何か行動をする時、誰もが自分だけの価値感で動く。それはレミリアもそうだし、ここにいる全員がそうだ。だがその中でも、やはりゴルベーザは異質だった。
正しいと信じる、自分の価値感に沿った行為を罪の意識から敢えて曲げ、自らを悪としようとしている。その歪んだ信念を、レミリアは嫌ったのだ。
悪だと分かっていながら、自分の想う正義を行うカインとゴルベーザはまったく同じ。ただ少しベクトルが違うだけだ。
以前、レミリアはカインをキチ○イだと称した。その意味は、別に愛などという下らない幻想のために生きているからじゃない。自分の為に誰かを殺しているからでもない。
善悪という、信念の根幹を差すものが決定的なまでにずれていたからだ。
ローザを救うことに、自分の欲を満たす以上の付加価値を求めていたからだ。
殺し合いに乗ることが、彼女を救うことになると信じている。
悪を行い、それを自覚しながら、心のどこかで正義を確信している。
その矛盾を、レミリアはキチ○イという言葉で指摘したのだ。
レミリアも幽香も、他者への表面的な態度と内心の評価は必ずしも一致しない。レミリアはよく幽香と口喧嘩をするが、互いにその実力と精神に敬意を持っている。
漆黒の騎士に対しても同様だ。多少くよくよしていたところはあっても、自分を理解し弁えているその態度と、芯にある強さと誇りを認めている。
ただその評価を言語化しないだけで、レミリアと共にいるのは、基本的にレミリアに認められた者達だ。
レミリアが一人の生命体として敬意を払うに足る存在だと感じた者達だ。
だからこそ、ゴルベーザの同行は認められない。強い弱いなど関係なく、レミリアはゴルベーザ自身を認めることができないのだ。
レミリアにとって殺し合いに乗っていたかどうかは重要じゃない。誰かを殺していようが、自分の部下でないのならまったく意に介さない。
ただその信念が敬意を表するに足るものであるのかどうかが問題なのだ。
口にはしないが、妖怪である幽香もレミリアと同じ気持ちだった。
支援
支援
「騎士よ。お前の想い、ありがたく受け取っておく。できるなら、お前には生き残って欲しいものだ」
漆黒の騎士に向かってそう言うと、ゴルベーザは背を向けた。
漆黒の騎士は再び説得を試みようと口を開くが、……けっきょく何も言葉は出てこなかった。
「瀬多といったな。セシルのことは任せる。あの様子ではもう何も心配はないとは思うが、……殺すべきだと考えるなら、それでもいい」
「……ゴルベーザ。それは無責任だ。お前にはセシルを改心させる義務がある」
卑怯な言い方だと、瀬多自身思った。無理やり家族を繋ぎ合わせ、できるなら二人とも正義の道を歩んで欲しいだなんて。
彼らと無関係の立場だからこそ思える、無責任な考えだ。
「止めてくれ。私にそんなことが出来る訳がない。私は悪の道を進む者だ。悪しか知らぬ者が、正義を教えることなど出来る訳がない」
瀬多は黙った。誰も声をあげる者はいなかった。
「私はカインを追う。奴は殺さなくてはならない。こいつは餞別だ。くれてやる」
懐から取り出したモンスターボールを放り、ゴルベーザはその場を去って行った。
「……ああするしか、なかったのか。なにか、もっと良い方法が……」
「……元々、あいつは群れるような人間じゃないわ。自分を諦めた者に、誰かが何かをしてやれるなんて、そんな馬鹿な話があるわけない」
それは漆黒の騎士とゴルベーザの決定的な違いだった。
漆黒の騎士は悲嘆しながらも、懸命に自分と向き合おうとしていた。ゴルベーザは、それすらもう諦めている。そんな者を一体誰が救えるというのか。
モンスターボールの中身は、ベトベトンという毒ポケモンだった。キョウのポケモン。
それをピカチュウの身ぶりで理解した時、誰もが何も言えなかった。
ベトベトンの流す涙を止められる者はいなかった。
こうして戦いは終わった。
それぞれに、それぞれの想いを乗せて。
魔理沙が死に、オタコンが死に、キョウが死に、カービィが死んだ。もっとうまくできなかったのか。もう少しうまく動いていたら、一人くらい救えたんじゃないか。
そんな、瀬多の後悔を乗せて……
(……待て。俺は、何かを忘れて──)
一瞬で瀬多の脳裏を過る。魔理沙の支給品に、もう一つ無視できないアイテムがあったことを。
「お前今こう思ったよなぁ。一度奇襲されたんだから二度目はないってさぁ」
背筋が凍りついた。
支援
「ペル──」
「遅えよ」
瀬多の顎に蹴りがまともに入る。ぐらりと視界が揺れ、地面を転がる。
「おっと、逃がすか」
あばらの折れた箇所を、何の躊躇もなく足で踏みつける。
「があああっ!!!」
「はぁっはっはっは!! おいおいなんだよ。これくらい我慢しろよなぁ。男の子だろぉ?」
足立透。この男が残っていた。
瀬多は完全に失念していた。
「いやあ、助かったよホント。万が一の為にあの馬鹿女から盗んどいて正解だった」
首輪探知器をぽんぽんと手の中で転がす。
足立はこの首輪探知器を使って、ずっと瀬多達を監視していたのだ。あくまでも戦闘には参加せず、遠目から状況を確認し、ずっと機会を狙っていた。
何の抵抗も出来ないカモを一掃するこの機会を。
「あの鬱陶しい鎧野郎もいなくなった。残ってるのは雑魚共だけ。こんな最高のシチュエーション。逃す訳にはいかねえよなぁ」
そう言って、足立はクックと笑う。
「……くそ。やっぱり疫病神じゃないか。あいつは」
「ピカチュウ!! 十万──」
「ジオダイン!!!」
雷が咲夜を襲う。
声すらあげることなく、咲夜は地面に倒れた。
ピカチュウの命令は中断された。だがコントロール権限は未だ咲夜にある。ピカチュウは咲夜の意図を汲み、命令を実行しようと動く。
が、一歩遅かった。
足立は素早くモンスターボールを奪うと、ベトベトンとピカチュウをボールにしまった。
「ふぅ。まったくひやひやしたぜ」
すたすたと咲夜の前に行き、そのまま足蹴にする。
「雑魚のくせにいきがった真似してんじゃねえよ!! このっ! このっ!」
「あぐっ!! ごほ!!」
みぞおちに蹴りが突き刺さる。思わずうめいて、地面を転がる。
怒りのためか、肩で息をしていた足立が呼吸を落ち着ける。
「けど残念でしたーーー!!! お前らの悪運もここで終わりでーっす!!」
聞き苦しい笑い声が響き渡る。
「……にしても、お前ほんとに生きてたんだな。おかげであの馬鹿女の相手すんの大変だったんだぜ? 嘘泣きもけっこう疲れるんだからさ」
頭を踏みつけ、にやにやと笑う。咲夜は手をぴくぴくと動かすことしかできない。
「下らない演技をさせた糞餓鬼にはぁ、罰を与えたいと思いまーっす!! はーい! 皆さんちゅうもーく!!」
咲夜の髪を乱暴に掴み、中腰にさせる。
「おら、何のびてんだよ。これから解体ショーが始まるんだぜ。お前にはとびっきりの悲鳴をあげてもらわないとなぁ」
マガツイザナギを出現させ、その薙刀が咲夜の肌に添えられる。
「さぁて。ど・こ・に・し・よ・う・か──」
「その手を離せ。貴様如きが、咲夜に触れるな」
支援
「あぁ?」
遊びを中断され、苛立つ足立の前に、漆黒の騎士がふらふらと立ち上がる。
剣を持つこともできない。両手を挙げることもできない。それでも立ち上がる。
「なに? 騎士のくせに剣も持てないでやんの。そんなんで俺に勝てるつもり? 笑っちゃうなぁ」
「黙れ」
「おーい。分が悪くなったらそれかい? まったく、これだから知能の低い輩は──」
「黙れと言っている!!!」
その威圧に、足立は思わず後ろじさった。
それは、足立が今まで見たことのない気迫。大陸一の国家、その将軍にまで登り詰めた男の気概。
それに、一瞬足立は恐怖した。
その隙を見逃さない。
アドレーヌが咄嗟に走る。その先には、咲夜のデイバック。あそこには拡声器が入っている。
(あれを使えば、ゴルベーザさんを呼べる!!)
あともう少しで届く。そう思った時、身体に衝撃が走った。
「あうっ!」
その体当たりで地面に倒れ、足立にバックを奪われる。中から拡声器を取り出すと、足立はそれを地面に放り、ペルソナを使って粉砕する。
「危ない危ない。やっぱこういう時は便利だよなぁ。ポケモンっていう道具はさ」
歯噛みして、涙さえ溜めて、ピカチュウはアドレーヌを睨んでいた。
これはピカチュウの意思じゃない。アドレーヌには痛いほどよく分かった。
「……だいじょうぶだよ。必ず、私が助けてあげるから」
自然と、そんな言葉が漏れていた。
もうみんなボロボロだ。幽香さんだって動けない。
だから……、だから、私がみんなを守るんだ。
「アドレーヌ……。逃げ、なさい……!」
「にげない。私は……戦う!!」
スネークは言った。希望を託そうと。
メタナイトは言った。お前がいてくれるから戦えるのだと。
シルバーは言った。希望を信じたいと。
デデデは言った。生きてくれと。
みんな死んだ。キョウも、カービィも、みんなを守って死んでいった。
(私は死にたくない。……でも、みんなを守りたい!)
自分の目の前で死んでいった人達のように。誰かを守りたい。
自分の命より大切なものをアドレーヌは知っている。
「もう誰も殺させない。ぜったい、私が守るんだ!!」
アドレーヌは走った。足立に向かって、全速力で。
「おいおい。本気で俺に勝てるとか考えてるわけ? ……ホント、こういう勘違いした奴を見るのは腹が立つ!!」
再び、足立の背後に薙刀を持つ巨大な男が現れる。
「はっ! 丸焦げになりなぁ!! ジオダイン!!!」
その巨大な雷の塊は、真っすぐアドレーヌに向かっていく。
しかし、それは掠めるだけにとどまった。
足立の腕を何かが体当たりしてずらしたからだ。
「シャンハイ!!」
上海人形だ。
足立は忌々しげにそれを叩き落とす。
足立は自分の攻撃で確実にアドレーヌを殺せると考えていた。当然、ピカチュウには何の命令もしていない。
「あああああっ!!!」
結果、アドレーヌの体当たりをまともに食らうことになった。
尻もちをつく足立。
「っく!! 雑魚の癖にいいい!!」
しかし、その苛立ちも、すぐに焦りとなる。
アドレーヌの手には、モンスターボールがあったのだ。
「ピカチュウお願い!! かみなり!!!」
「ピイイイイィイィィィ…………カアアアアアアァァァァ!!!!!!」
全力全開のピカチュウの一撃が、足立を襲った。
支援
「そん……な……」
絶望がアドレーヌの膝を折った。
ピカチュウを放心させた。
有り得ない光景だった。
足立が生きている。
足立の目の前に消し墨になったベトベトンがいる。
その意味が、理解できなかった。
「おーおー。ほんとに危なっかしいぜ。咄嗟にモンスターボールを頭上に放り投げてなかったら、俺がこうなってたかもな。いや、マジで危なかった」
スタスタと歩いてくる。しかし、もう抵抗できる気力はなかった。
「お前らが殺したんだぜ? 抵抗しなけりゃ、こんなことにはならなかった。あーあ。ほんっと罪深い奴らだなぁ。なんせ、仲間を殺しちゃったんだもんなぁ」
「う……そ」
「嘘じゃないって。ほら、こいつ見てみろよ」
どかっと軽く蹴ると、そのまま隅になったベトベトンが崩壊した。
「ありゃりゃ。靴が汚れちゃったよ」
「う……そ…だ……」
アドレーヌの脳裏に、ベトベトンの姿が思い出される。主人が死に、悲しみで泣いていたベトベトン。
それを……自分が殺した。
アドレーヌの身体からうす暗く蒼い光が放出する。
「おっと。そういやこいつシャドウを買ってるんだったな。この中じゃ一番危険だし、さっさと殺して──」
「足立、よくもおおおお!!!」
食ってかかろうとした千枝に容赦ない蹴りが入る。
「ぐごっ!!」
「死にぞこないは黙って見てなよ」
「……っ! ピカ……チュウ!! アドレーヌを…守れ!! 今は……悔いてる時間なんてない!!」
瀬多の言葉にハッとし、ピカチュウが行動を移そうとした時には、既に足立のマガツイザナギが目の前にいた。
瞬間、ピカチュウの小さな身体は吹き飛び、木に叩きつけられる。
「「舐めるなああああ!!!」」
漆黒の騎士が走る。レミリアが走る。
だが
「マハガルダイン」
衝撃派に、アドレーヌ以外の全員が吹き飛ばされる。
もはや立てる者は一人もいなかった。
「てめえは、俺の手で殺してやるよ」
大剣を手に足立が笑う。
アドレーヌはそれを見ていない。地面を見つめ、ただ項垂れている。
「アドレーヌ!! 何をやってる馬鹿!! さっさと逃げろ!!!」
レミリアが叫ぶも、その身体は立つことすらできない。魔力は既に完全に切れている。
「ジ……オ!!」
か細い雷もマガツイザナギに阻まれる。
「狙うなら私を狙え!! 貴様如き、今ここで斬り伏せてくれる!!」
「慌てんなよ騎士さん。お前はこいつの次に始末してやる」
大剣を振り被る。
「避けろ!! アドレーヌ!!!」
瀬多の叫びにもアドレーヌは動かず、足立の剣はそのまま振り下ろされた。
支援
仲間を殺した。
何も出来ない自分が、何かをしようとした結果が、これだ。
もういい。
私はもう何も望まない。
何も望めない。
このまま死んでも……
「大……丈夫?」
聞き慣れた声に、思わず顔をあげた。
「幽香……さん?」
幽香は微笑んでいた。
え?
どうして幽香さんがいるの?
だって……私は今……
放心した状態で、それでもアドレーヌは幽香の背中を触る。
ぬるりとした感触。その手には血がべっとりとついていた。
「言ったでしょ。あんたは、私が守るって」
遅ればせながら気付く。
今がどういう状況か。
幽香が、一体何をしているのか。
駄目だ。こんなの駄目だ。
何も出来ない私を守って、また誰かが……幽香さんが死ぬなんて。
「へぇ。そんなに死にたいのかよ。じゃ、望み通り殺してやるよ!!」
振り下ろされる大剣。アドレーヌの位置からでも分かるほどに大量の血が空を過った。
「いや……。いや!! やめてよ幽香さん!! 私から離れて!!!」
慌てて幽香から離れようとするが、その身体を幽香が包み込んだ。
「大丈夫。私が守ってあげる。絶対、絶対守るから」
振り下ろされる剣。肉の抉れる音。
しかし、その優しく強い抱擁は、一切緩まなかった。
「やだ!! 離してよ!!! 幽香さん!! 守らなくていいから…だから離して!!」
無理やり引き剥がそうと暴れるが、それでも力は緩まない。
「いやだ……。幽香さん。死んじゃいやだよぉ……」
何度も何度も大剣は振り下ろされる。
血が地面を汚し、幽香の背中は、既に骨が見えるほどに抉られていた。
支援
死を感じる。
最強であった自分には、決して訪れることのなかった死の感覚が、幽香を支配する。
アドレーヌの泣き声が、だんだんと聞こえなくなる。
伝えたい言葉がある。なのに、口が開かない。
もう痛みも感じない。まるで生ぬるい湯船にでも浸かっているようだ。
身体に力が入らない。
でも、やり残したことがある。
あと少しだけ。たった一言でいい。この子に、伝えてあげないと……。
「……ょ…ぃ」
それは、一種の奇跡だった。
妖怪とはいえ、何度も振り下ろされる大剣で、もはや背中は無残の一言。
血は既に流れ尽くし、絶命は免れない傷。
だが、それでも、幽香は喋った。
ただ、伝えたいがために。
ただ、彼女に伝えたいがために。
「あ……なた……つ……よ……い。……わ……たし……の……じまん…………」
一際強い一撃が、幽香を襲った。
うっすらと開いていた瞳が、閉ざされる。
弱々しく抱擁していた腕が、解かれる。
それでも、幽香は口を開く。
幽香は妖怪だ。家族も、これという友人もいない。花と共に一人で生きる、最強の妖怪だ。
だけど、教えられた。
一人でいることが強さではないと。
誰かと共にいることが弱さではないと。
笑って、ただ傍にいてくれる。それだけで、自分がどれだけ救われたか。
最後の最後、たった一人でも、自分を想ってくれる人がいる。
自分は一人じゃない。そう思って死ねる。
ただそれだけで、幽香にとってはかけがえのない救いだ。
だから
この言葉を
最後の言葉を
彼女に送ろう。
「いっ……しょに……いて……くれ……て、………」
ありがとう
支援
支援
幽香は、その身体をアドレーヌに預けた。
「幽香さん……。幽香さん。幽香さん!!! 返事して!! 返事してよ!!! ……へ、返事……を……」
「はぁ。ようやく死にやがった。ったく。雑魚のくせに耐久力だけは一級品だな」
まるで、ゴキブリを殺したような言い方。
自分の罪を嘆いていた幽香。カービィを守ろうとその命すら投げ出そうとしていた幽香。
一度戦った相手。死闘を繰り広げた相手。
だがそれでも、ここにいる全員が幽香を認めていた。仲間を殺されても、幽香を認めていた。
足立の幽香の罵倒する言葉。
その言葉に、ここにいる全員が、キレた。
「うおおおおおおおおおおおっっ!!!!」
途端、瀬多の獣のような咆哮が聞こえる。
「ああああああああああああっっ!!!」
途端、レミリアの魔物のような咆哮が聞こえる。
立ち上がる。
二人は、ボロボロの二人は、それでも立ち上がる。
二人は並び、足立と対峙する。
「お前はっ!!!」
瀬多に過るのは、確かな優しさを持ってアドレーヌと接していた幽香。
「絶対にっ!!!」
レミリアに過るのは、不屈の精神でアシュナード相手に闘争を繰り広げていた幽香。
「「許さないっ!!!!」」
フラフラで、これ以上歩くこともできない。
そんな身体で、しかし二人はあらん限りの力で叫んだ。
「……は、はっ。なんだよそりゃ。許さないからなんだっての?」
「ぬおおおおおっ!!」
漆黒の騎士も、足を引きずりながら前に出る。咲夜も、千枝も、お互いを支え合って立ち上がる。
「ま、マハガルダイン!」
再び衝撃派。
だが、今度は誰もが地に膝をつけることはない。
全員が踏ん張る。
その想いの強さで、気力で、立ち続ける。
「俺達は……絶対に負けない!! 来い!! 足立ぃ!!!」
「……そ、そんなに死にたいなら今すぐ殺してやるよ。ただし、こいつを殺してからなぁ!!」
もう一度、幽香とアドレーヌに向けて剣を振り上げる。幽香もろともアドレーヌを斬り伏せる気だ。
立つことはできたが、歩くことはままならない。
足を動かすことだって難しい。
(諦めるな。絶対に諦めるな! 限界でもなんでもいい。身体が壊れようが知ったことじゃない! アドレーヌを助けるんだ。幽香が助けた命を……絶対に殺させちゃいけない!!!)
瀬多の想いに反し、無情にも足立の手が振り下ろされる。
支援
その瞬間だった。
血液の奔流。
それとともに地面に突き刺さる大剣。
その持ち手には、足立の両手があった。
「ぐああああああああああああああ!!!!!」
死のダンスでも踊るように、足立はその場でのたうち回る。
その後ろには、ここにいる全員が知る姿があった。
この殺し合いで、文句なく最強クラスの存在。
狂王、アシュナード。
アシュナードは幽香の亡骸を見つめ、満身創痍の瀬多達を見つめる。
何も言わない。何も喋らない。いつもの饒舌なそれは一向に閉じたまま。それが、逆に不気味だった。
「があああああ!!! くそがああああ!!! よくも、よくもおおおおお!!!」
「うるさいぞ餓鬼」
たった一睨みで、足立を黙らせた。
アシュナードの瞳には、今までにない圧倒的な殺意が籠っていた。
「これは我の剣だ。よもやこんなところにあるとはな」
くっくと笑う。
足立の二の腕をゴミのように引き離し、自らの愛剣を振るう。
「うむ。やはり馴染むな」
ヴァーグ・カティを捨て、自らの剣、グルグラントを両手で握る。
「……さて、糞餓鬼。一つ質問だ。貴様、何をやっていた? まさか、我の妃を殺したなどとは言わんよなぁ」
足立は咄嗟に直感する。自分は最も怒らせてはいけない人間を怒らせてしまったのだと。
「あ……あ……、そん……なわけ、ないじゃないですかぁ。あ、あれっすよ。この人を殺した奴を追っ払っ──」
足立の頭からその下まで、まるで機械で調整されたかのような綺麗な直線が入った。
「言い訳はいらん。元より、貴様以外に下手人がいないことは知っている」
ずるりと身体がずれる。そのまま、どちゃどちゃと音をたてて、二つになった足立は地面に転がった。
再び、アシュナードは幽香を見つめた。
瀬多はその時、確かに、アシュナードの中に悲しみを見た。
「なんとままならないものか……。このような格下に、お前のような強者が殺されるとは」
今までに聞いたことのないような、弱々しい声。これがアシュナードの言葉だとは思えないほどだ。
「瀬多。お前の言う通りだったようだな。この殺し合いは……下種以下だ」
近くに落ちていた首輪探知器を拾う。
その様子を、瀬多は一瞬たりとも気を抜かずに観察する。
「世界の成り立ちに疑問を抱いたことはないか?」
そう、アシュナードは瀬多に言った。
「……どういう意味だ?」
「どのように力をもって生まれようと、出自が悪ければ生涯それに振り回される。生まれに恵まれなかった者は、それを呪いながら生きてゆくしか道はない」
アシュナードが近くにあった大木に拳をぶつける。メキメキと音をたてて、木は崩れ落ちた。
「違うだろう! そんなものが理であるものか! 力ある者が力を行使する。それこそが真の公平だ!! 世界のあるべき姿だ!!」
アシュナードは親族すら殺してその身分を手に入れた。兄弟も親もすべて殺して、王という座を手にした。
アシュナードは王族でありながら、最も王から遠い存在だった。
力を持つ者が力を行使する。
そんな極端な実力主義は、どうやって彼の心に身についたのか。
一番身分の低い身で、どういう王宮生活を過ごしたのか。
それは、アシュナードにしか分からない。
アシュナードは世界を創造しようとしている。実力のある者が認められる世界を。身分など関係なく、差別など関係なく、強い者が強いとされる世界を作ろうとしている。
この男は狂王だ。戦闘を至福とし、人を屠ることを良しとする狂王だ。
しかしその実、アシュナードの考える力というのは、純粋なものだった。
強い者、強くあろうとする者、そんな者達にチャンスを与える世界をアシュナードは望んでいた。
歪んではいても、狂ってはいても、それでもアシュナードは王だった。王として、理想の国を作ろうとしている。人の住む理想の世界を作ろうとしている。
きっとこの男は、たとえ敵国であろうと捕虜を無碍に殺したり、降伏した民から必要以上に物資を強奪するようなことはしないだろう。この男には、この男なりの理想があり、それを目指す為に手段を選ばない。ただ、それだけなのだ。
アシュナードも漆黒の騎士と同じだ。世界によって歪み、世界によって狂わされた。
瀬多は初めて、この狂王に同情した。
しえん
「……俺達を、殺すのか?」
瀬多の疑問に、アシュナードは答えなかった。
途端、グルグランドの剣先がアドレーヌの首に添えられる。
「貴様を殺してやりたい。心底な。……が、止める。そうなれば、幽香が無駄死にしたことになる。それだけは駄目だ。あのような強者が、ただ無為に死に行くだけだなど、そんなふざけた現実を受け入れる訳にはいかん」
アドレーヌは涙を溜め、キッとアシュナードを睨みつける。
「……ふん。少しは良い顔ができるじゃないか。幽香は貴様を強者にするために死んだ。それを一時たりとも忘れるな」
アシュナードはそう言って、剣をしまった。
「瀬多。脱出の鍵は手に入れただろうな?」
瀬多は黙った。
「これだけ時間があったんだ。何の収穫もないとなれば、我も少し考えねばなるまい」
そう言って、千枝と咲夜の方へと歩いて行く。
「この二人を殺す」
「ま、待て!! ……レミリアのバックに……クリスタルが入ってる」
ぴたりとアシュナードの動きが止まる。
「瀬多!」
「ほお。興味深いな。何だ? そのクリスタルとやらは」
瀬多はアシュナードに説明した。イゴールの言う褒美と、攻略本に載る褒美。そのまったく同じ内容から、何か関係があるのではと推測したことを。
「イザナミは、わざわざクリスタル奪取を妨害しようとした。これが脱出の鍵であることは間違いない」
これは嘘だ。
イザナミの目的が幽香の暴走であったと瀬多は見ている。
だが、そう言っておいた方がアシュナードの受けが良いだろうと瀬多が判断した。
「なるほど。よくわかった。ククク。やはりお前を起用したのは正解だったな」
レミリアのバックからクリスタルを奪い取り、アシュナードは薄く笑う。
「ほぉ。確かに奇妙な力を感じる。ありがたくもらっておこう」
瀬多は歯噛みした。
あれほど苦労して手に入れたクリスタルが、こうも容易く奪われるのだ。
自分のバックにそれを入れ、アシュナードは薄く笑う。
「本来なら、アドレーヌと瀬多以外の全員はここで始末するところだが、どうにも今は気分じゃない。殺し合いは貴様らが充分回復してからということにしよう」
そう言って、アシュナードは首輪探知器を瀬多に見せる。
「見えるな? 全員がここから撤退している。しばらくはここも安全だろう」
「……そんなことを教えて、一体どういうつもりだ」
「なあに。ただの褒美だ。クリスタルを献上した貴様に対する、な」
それだけ言って、アシュナードは背を向ける。
一瞬だけ、漆黒の騎士と目が合った。
「……ククク。楽しみだ。今の貴様なら、我を倒せるかもしれんな」
瞬時に漆黒の騎士の変化を察知し、アシュナードは笑う。
「……そうだな。次に会う時は、決着をつけてやる」
「そうか。楽しみにしているぞ。漆黒よ」
アシュナードは、そう言って去って行った。
数分間の沈黙が流れ、誰からと言わずに全員が地面にその身を投げた。
支援
支援
「……何人、残った?」
咲夜の言葉に、自然と空気が重くなる。
「六人、だな」
最初に比べ、三分の一以上の人間が死んだことになる。
なんてザマだ。
そう、瀬多は自分を罵倒したくなった。
「……六人?」
瀬多は辺りを見回した。
レミリア、アドレーヌ、千枝、咲夜、漆黒の騎士。自分も入れれば確かに六人だ。
だがもう一人いた。確かにもう一人いたはずだ。
「……セシルはどこに行った?」
セシル・ハーヴィがいない。ゴルベーザに託された彼がどこにもいない。
「あいつのことはいいだろ。あの様子じゃ、鼠だって殺せやしないさ」
「確かにそうだが──」
「ああっ!!」
突然、咲夜が叫んだ。
「鍵はどこ!? あの……なんとかってメダル! あれが鍵なのよ! オタコンがそう言ってた!!」
「咲夜、少し落ち着け。最初から順に教えてくれ」
咲夜は、オタコンの臨終の言葉を瀬多に伝えた。
「メダリオンが、鍵? それはつまり、主催者側にいる俺達を助けようとする誰かが、こいつを用意したということか?」
それはあまりにも考えづらいことだ。メダリオンのおかげでこちらは甚大な被害を被った。
「私だってよくわからないわ。でも、確かにオタコンはそう言っていた。あ、あと……フェイクがどうとか言ってたわ」
(フェイク? 何がフェイクだというんだ? ゲーム機が重要なアイテムであることは間違いない。……アイテムがフェイクという意味ではなく、その有用性自体がフェイク……。そういうことか?)
あくまでもゲーム機はサブ。あるアイテムを作動させるプログラムが組まれているだけ。そう考えれば、確かに意味は通る。
(その作動するアイテムというのがメダリオンで、それこそが俺達にとっての脱出の鍵。ゲーム機はメダリオンを作動させるためのものに過ぎないということか?
だが、何をどう作動させるっていうんだ? あんな危険なアイテムに一体どういう活用方法が……、駄目だ。考えがまとまらない)
疲れた頭では無理だと判断し、とりあえずその話題は置いておこうとした時だった。
「……なるほど。そういうことか」
漆黒の騎士が、意味あり気に呟いた。
「漆黒さん、何か知ってるの?」
千枝の言葉に、漆黒の騎士は逡巡するも、すぐに口を開いた。
「話すべきかどうか迷っていた。だが、懸命に生き、互いに絆を深め合う君達を見て考えが変わった。……聞いて欲しい。おそらくは、この殺し合いの根幹に関わることだ」
全員が漆黒の騎士に注目した。
殺し合いの根幹。それは誰にとっても聞き捨てならないものだった。
「話そう。私の主と、そして女神アスタルテのことを」
支援
247 :
こーんぽたーじゅ:2011/03/08(火) 22:21:04.65 ID:8HtAiECc
支援でござる
あげんなks
【D-4 一日目 午前】
【瀬多総司@ペルソナ4】
[状態]疲労(極大) あばら骨折 SP消費(中)、全身打撲
[装備] エクスカリバー@ファイナルファンタジー4
[道具]基本支給品一式 攻略本 銃の弾(残り15発)不明支給品0~1
[思考]基本方針:レミリアを手伝いながら、仲間と合流し殺し合いを脱出する
1. 漆黒の騎士の話を聞く
2. イゴールを見つけ出し真実を問いただす。
3. 半信半疑だが、攻略本に書いてある『クリスタル』を探してみる。
4. 死んでいった者のためにも、誇りをもって生きる
5. イザナミは絶対に許さない
※イゴールと『血の契約』を交わしました。瀬多は「イゴールを探索する」という目的を最優先しなければなりません。なお、瀬多が死ねば契約を知る者に契約権が譲渡されます。誰になるかはランダムです
※殺し合い会場について、何らかの推察をしています
【レミリア・スカーレット@東方project】
[状態]疲労(極大) 魔力ゼロ 額に酷い裂傷 全身打撲、腹に裂傷 右手損傷 左膝損傷(全て回復中)
[装備]なし
[道具]基本支給品一式
[思考]基本方針:主催者を倒し、どちらが支配者かを思い知らせる
1. 漆黒の騎士の話を聞く
2. 手下を作って脱出する。邪魔立てする奴は殺す
3. これ以上部下は殺させない
4. 咲夜は私のもの。反論は許さない
5, ゴルベーザを嫌悪
※時間さえかければ傷は治癒しますが、休息を取らなければ疲労感は回復しません
※弾幕を撃つのに溜めが必要。威力も制限されています
【アドレーヌ@星のカービィ】
[状態]疲労(中)、深い悲しみと強い罪悪感、 腹に打撲
[装備]ピカチュウのモンスターボール@ポケモンシリーズ
[道具]基本支給品一式、アドレーヌの絵描き道具一式
[思考]基本方針:ゲームには乗らない。できれば人も殺したくない
1. 幽香さん……
2. みんなと離れた方が……
3. みんなで脱出する
4, もう人が死ぬのは見たくない
【漆黒の騎士@ファイアーエムブレム 蒼炎の軌跡】
[状態]:疲労極大、両腕に腫れ(ものを持てないレベル)、額に大きな裂傷、頬骨あばら骨折、全身打撲、全身裂傷、四肢に貫通傷(全てスキルで治癒中)
[装備]:神剣エタルド 神剣ラグネル
[道具]:基本支給品一式
[思考]
基本方針:咲夜を守りながら、自分自身を認めた生き方をする
1:女神と主について話す
2:仲間か……。いいものだな
3:アシュナードは打ち倒す
※参戦時期はナドゥス城の戦い後です。
支援
【里中千枝@ペルソナ4】
[状態]:疲労(極大)、SP消費(中)、腹部に痣、全身打撲
[装備]:アメリカ製のライター
[道具]:基本支給品一式、万能薬×2@ファイナルファンタジー4
[思考]
基本方針:この事件を解決する
1, 漆黒の騎士の話を聞く
2:, 雪子のような人を出さないために戦う
※真ENDルート、イザナミと出会う前からの参戦です。
※ペルソナはトモエです。
【十六夜咲夜@東方project】
[状態]疲労(極大)、弱冠の痺れ、胸骨にヒビ、鼻の骨の陥没(治療済み、衝撃を与えるとまた陥没する恐れあり)、腹部に痣、顔に痣、全身打撲、下 着 を つ け て い な い
[装備]和服
[道具]支給品一式(食糧はなし)、自分の衣服(濡れている)、凹んだ防弾チョッキ、下着
[思考・状況]基本方針;ピエロを倒して異変解決。油断はしない。幻想卿の常識は捨てる。
1, 漆黒の騎士の話を聞く
2, 瀬多が紅魔館に来てくれたら楽できていいのになぁ
3. 漆黒の騎士に共感。自分の幸せのために生きて欲しい
※漆黒の騎士の名前を聞きました。
【上海人形】
[状態]背中に大きな裂傷 (かなり荒い治療済み。汚い布と汚い糸でこれでもかと汚く縫われている。)
[思考]
1:アドレーヌが心配
2:霊夢を助ける
2:アリスにちゃんとした裁縫をしてもらいたい。
※サカキと霊夢の会話は全て聞いていました。
※羽が無い為、空を飛べません。
【ピカチュウ】
[状態]疲労(極大)、全身打撲、PP消費(極大)、精神的不安
[思考]
1, ベトベトン……
2, レッドに会いたい
※レッドのピカチュウです。覚えてる技は「かみなり」「十万ボルト」「ボルテッカー」とあと一つです
※レッドと同じ時期につれてこられてます
※セシル、魔理沙、足立、カービィのデイバックが近くに置かれています。なお、キョウの支給品はカービィのバックの中に入っています。
【D-4 森の中 一日目・午前】
【ゴルベーザ@ファイナルファンタジー4】
[状態]:疲労(大)、鎧に少し焦げ目、鎧大きく損傷、魔力消費(極大)
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、不明支給品(0〜1)
[思考]
基本方針:殺し合いにあえて乗り、殺し合いに抗う者たちの結束を固める
1:殺し合いに抗う者たちと戦う。
2:殺し合いに乗っている者達も抗う者達に有利になるように力を削ぐ
3:カインを殺す
※エンディング後からの参戦です
支援
支援
「いーちにーち一本♪ みーっかっで三本♪」
「……その変な歌、止めてくれない?」
「ん? ちょっと時代錯誤だった?」
イザナミはそう言って、今度は別の歌を歌い始めた。
「神様気分の俺様〜♪ 俺様気分も逆様〜♪」
「だから変な歌を歌うなと……」
「わかったのサ! バンプオブチキン!!」
「ピンポンピンポーン!! 大正解!!」
永琳は静かにため息をついた。
この場所に呼ばれ、既に三十分は経過した。
しかし、待ち人は一向に来る気配がない。
そんなかなり退屈な時間を、イザナミは奇妙な歌を熱唱することで潰していた。
「駅前TSUTAYAさんで♪ 僕はビートルズを借りた♪ セックスピストルズを借りた♪ ロックンロールというやつだ♪ しかし……何がいいんだか全然わかりませんんん!!!」
「神聖かまってちゃん!!」
「お、よくわかったね〜」
もはやツッコミをいれるのも面倒だ。
円卓に用意された席の一つに座り、永琳は考える。
何故いきなり招集されたのか。疑問なのはその一点だ。
今回、対主催側は大きく一歩前進したと言ってもいい。
だがそれは情報面だけであり、実質的には未だ何も行動を起こしていない。
それにそもそも、イザナミは事を荒立てる気はないはずだ。
だからこそこちらを大した束縛もせずに放置している。なのに、殺し合い自体には無干渉を決め込んでいた神々を呼び寄せる必要がどこにあるのか。
イザナミを相手に、どこか浮足たっているマルク。しかし、浮かれたい気持ちも分からないではない。
ゲームの難易度が分からないという無視できない要素があるとはいえ、対主催チームがこちらの切り札に気付いてくれたのだから。
だが、ここで気を抜く訳にはいかない。やろうと思えば、イザナミにはいくらでも対処法があることを忘れてはならない。
「心のまま♪ 声をあげて♪ この歌にのせてえええ!!」
永琳からすれば、比較的まともな歌だった。
「うーん。……ちょっとわからないのサ。何て曲?」
「VOICEって曲」
「歌手は誰?」
「薬師るり」
「聞いたこともないのサ。有名な人?」
「んー、どうだろうね。俺もOVAから入ったくちだから」
「オーブイエー?」
「良い子のみんなはググったりしたら駄目だよ! お兄さんとの約束だ!」
意味不明なことを言って、あらぬ方向にサムズアップしてみせる。
やはり、この男の考えていることだけはどうしても読めそうにない。
支援
瞬間、空気が変わった。先程まで空席だったいくつもの椅子の全てに何者かが座っている。
お出ましか。
永琳は舌打ちしたい気分だった。
「やっと揃ったね。じゃあ始めるとしようか。円卓会議」
何が面白いのか、にこにこと笑いながらイザナミは言った。
「この件についてはそなたに一任していたはず。わざわざ私を呼ぶ必要などない。問題が発生したのならば、そなたが解決すればよい」
開口一番、彼女がそう言った。
イザナミを除いたこの集団の中で、唯一世界を創造した経験を持つ女神。
人に絶望し、完全な生物、完全な世界を求める女神。
「はっはっは。そりゃないんじゃないの? こっちはあんたらのためにあくせく働いてるってのにさ」
──イザナミ。確かにあなたのおかげで計画はここまで順調に始動した。立案者もあなただ。全面的に協力したいところではあるが、何の説明もなく緊急招集というのは些か性急ではないか?──
頭の中に直接響く声。テレパシーだ。
遺伝子操作されたポケモンから生まれたポケモン。自らを実験体とした人間を憎み、ポケモンだけの世界を求めるポケモン。
「訳を言え。さすれば、こちらも悪いようにはせん」
蒼き星の人間を皆殺しにしようと企み、同族から封印された月の民。彼もまた、自らの野望と意思が正しいことを示すために世界を求めている。
永琳の出自である月とはまた別の月から来た男。
「……なあに、創造者を目指すあんた方に吉報をと思っただけだよ」
イザナミは言葉を切り、意味あり気に言った。
「参加者が過半数を切った。君達が世界の主となれる日も近い」
全員が押し黙った。
それは、彼らが待ちに待ったものだった。
「私はそんなものになるつもりはないのだけれどね」
皮肉をこめて、永琳は言う。
「君も資格はあると思うよ。神と呼ばれる者には相応の身分が必要だ。世界の主くらいの肩書きは持っとくべきじゃない?」
永琳だけでなく、マルクにもその資格があるとイザナミは言った。そして、それは永琳も同感だ。
今回の計画の肝を握っているのはマルクだと言っても過言ではない。計画が順調に進んだなら、世界を創世するのはマルク自身なのだから。
それもこれも、マルクが肝である“入れ物”にロックをし、自分でないと扱えないようにしてしまったから。
だからこそここに呼ばれ、こうして神の仲間入りをさせられている。
永琳にはそれが可哀そうでならなかった。
彼はただ、友を守ろうとしただけだ。それなのに、こうして悪の一端を担わされている。参加者の憎悪を一身に受ける立場にある。
──気に入らんな。他の者はともかく、ここには人間が混じっているではないか。下等な人間が──
「まあまあそう言わないでよ。俺は彼のこと、けっこう評価してるんだぜ? なにせ、俺には考えつかなかった概念で神を確立した存在だ。世界を支配し、新たな秩序を生み出した。
正直言って、この中で一番創造主という名前に相応しい存在さ。ま、俺とそこの女神ちゃんを除いてだけど」
「実際の神にそうまで言われるとは光栄の極みだ。しかし、私自身はそのような認識はない。創造主というものには興味あるがね」
この中で一番気をつけなければいけないのがこの男だと永琳は考えている。
何だかんだと言って、イザナミ以外の神は皆どこか慢心している。
女神は元からそういう性格だし、他の二名は予期せぬ幸運で世界を作ろうとする存在、神となったのだ。自分の立場に浮かれ、力に溺れた愚か者など、永琳の敵ではない。
だがこの男は違う。この男は人間だ。止むことのない野望を持った人間。
自分を神として認識していないから、妙なプライドで足元を掬われることもない。ただひたすら実直に、目的の為に動いている。こういう人間は厄介だ。
「で、話は終わりか? イザナミ」
「いや〜、そろそろ君達にも準備してもらおうと思ってさ。君達の思う、理想の世界作りの為にね」
支援
支援
けっきょく、円卓会議によって全員の逗留が決まった。それは永琳にとって不愉快以外の何物でもなかった。
(これを嫌がらせでしてるっていうなら、イザナミは正真正銘の外道だわ)
一人廊下を歩きながら、心の中で愚痴る。
「心外だな〜。そんな風に思われるのは」
いつの間にいたのか。振り向くとイザナミが立っていた。
「勝手に人の心の内を想像しないで頂戴」
「俺はあんたを守ってやったんだぜ? 感謝の一つくらい欲しいもんだけどなぁ」
「あら。一体いつ守ってくれたのかしら」
「メダリオンのこと。ゲーム機のこと。前に言った通りちゃんと黙ってたろ? 女神ちゃんに喋ってたらきっとあんた、殺されてたぜ」
「……それはそれは。大変感謝致しております。ついでに大量の敵を連れて来てくださりありがとうございます」
「それほどでも〜。ラスボスは多いに越したことないしね。……まあそれはいいや。でさ、ここらでちゃっちゃと教えてくんないかな?」
「あら、何を?」
「あんたが打った本当の仕掛けさ」
永琳は表情を変えずに黙り込んだ。
「まさかメダリオンだけなわけないよなぁ。いくら“アイツ”の力を借りようと、会場からこっちに来るのは少し厄介だ。どうしたって“かけ橋”が必要になる」
「……あなたなら全てお見通しなんじゃない?」
「どうだろうねぇ。会場内は隈なく探したけど、大した成果はなかったし。けど、あそこはあんたが作ったと言っても過言じゃない。誰にも分からない秘密の抜け穴があってもおかしくない」
「さあ。どうでしょうね」
イザナミは永琳の周りをぐるぐる回る。
その瞳は、永琳の表情を読み取ろうと一切緩まず彼女を見つめる。
「クリスタルが怪しいんだけどなぁ。でもそれじゃ少し安直過ぎる。かといって、あんたからすれば無視できるもんじゃないよな。俺の腹心に繋がる扉の入り口だもん」
「案外、無視してるんじゃないかしら。どうしたって回避できないなら、いっそ開き直るかもしれないわよ」
「なるほどぉ。俺みたいに?」
「……それ、どういうこと?」
「月の頭脳さんとまともに頭脳戦なんて愚の骨頂でしょ。それなら場を掻き回して、大前提を崩してやればいい」
「今回のように?」
「今回のように」
「そううまくいくかしら。監視組が何の為にいるのか分かって?」
「参加者を見張るという名目で、俺への干渉を妨げる。ははは。人間の考えつきそうなことだよな」
「けれど、それ故にあなたには痛手のはずよ。あのゼロって男、なかなか侮れないわ」
「俺にとっての敵は、目下君だけなんだけどね」
おもむろに永琳の顎を取る。
彼女はそれを振り払おうともしなかった。
「私にとっても、敵は目下あなただけよ」
「そりゃ光栄だ」
「……あなたの目的は何?」
「キス一つで少しだけ答えてあげてもいい」
指を使って、『少し』というのをアピールしながら、イザナミは言った。
「あら、それはリーズナブルね」
躊躇はなかった。
一瞬だけ触れる唇。
そこにはムードも何もない。あるのは策謀と、相手を出し抜こうとする意思だけ。
「……知ってる? 神って色情魔なんだぜ」
「あなたは、でしょ」
イザナミはにっと笑って、ポケットから携帯を取り出した。
「誰から?」
「恋人からのラブコールだ」
「……キスした相手の前でそういうことを言うのは、少し失礼じゃないかしら」
「俺はいつだって人間の味方さ。神様ってのはそういうもんだろ?」
それが先程の約束の答えだということを理解するのに、時間はいらなかった。
携帯を耳に当て、イザナミは手を振りながら去って行った。
支援
「あ! いたいた。えーりんどこに行ってたのサ。ここって一人じゃ怖いから、あまり置いてかないでほしいのサ。……あれ? どうしたの? 口をゴシゴシして。何か変なものでも食べた?」
「そうね。気持ちの悪いものを押しつけられたってところかしら」
イザナミがどこまで気付いているのか。今回の会話でだいたい分かった。
わざわざ神々を招集したのも、全ては参加者がこっちに来た時の為だ。
何だかんだと言いながら、イザナミはこちらの仕掛けに対し手が出せない状態。
……いや、手を出すつもりが感じられない。だからこそ神を招集した。
目を増やせばそれだけ自分が動きにくくなるだけだ。
(元々動く気がないのか。……もしかして、殺し合いを放棄することを考えてる? でも、それは……)
今回の目的を全て無に帰すのと同じだ。これだけ苦労をして何故?
「ねえねえ。イザナミとなに話してたのサ。また何か目的があってのこと?」
言おうか言うまいか一瞬迷うも、けっきょく喋ることにした。
どうしたってマルクの協力が不可欠だということを思い出したからだ。
「過剰反応」
「え?」
「何か隠したいものがある時、必要以上に慎重になることがある。たとえば、やらなくていいことをして、何も隠してないと主張する」
「ほ〜」
感嘆の言葉を漏らす。が、どこかわざとらしい言い方からしておそらくあまりきちんと理解はしていないようだ。
「マルク。瀬多総司を見張って頂戴。監視組にお友達がいたでしょ? 少しあからさまでもいいから、その人にお願いして会場を見てて欲しいの」
以前から疑問だったが、今回のことで明らかになった。
イザナミは男の姿で男口調。だが、その実、イザナミは女性だ。イザナギの伴侶であり、彼と共に大陸を作った。
マヨナカテレビの事件は既に周知のことだが、それを聞いた時から感じていた。
何故、外から来た瀬多総司のペルソナがイザナギなのか。イザナミにとって最重要人物である瀬多総司が何故イザナギを使うのか。
偶然?
ただの気まぐれ?
そんな筈ない。それならば、あそこで自分にキスなんかしなかった。
まるで、自分が男であるように勘違いさせようとしているような作為的な行動。
これは、瀬多総司……イザナギに執着している自分に気付かせないためだ。
ここにきて、イザナミが決定的なミスを犯した。この意味は大きい。
「わかった! じゃあボスにお願いしてみる!! たぶんカロリーメイトでOKしてくれるのサ!」
そう言って、マルクは元気に走って行った。
瀬多総司がマヨナカテレビ事件の際、外からやって来たという重要なポジションであったように、この殺し合いでも何らかの役割を担っている可能性がある。
思えば、瀬多総司はどこか優遇が過ぎる。
わざわざ理知的な考察ができる瀬多に攻略本なんていう重要アイテムを支給するように手配したり、
参加者内でも強者に分類され安定して対主催となる参加者、リディア、メタナイト、アイク、そしてそこそこ聞き分けの良いレミリア・スカーレットを近くに配置したり。
どちらにせよ、瀬多総司はイザナミを出し抜く上でのキーパーソンになり得る。
間接的でもなんでも、とにかく接触方法を考える必要がある。
「人間の味方……か」
ふと思い出すのはイザナミの言っていたその言葉。
どういう意味だろうと考える。だが、やはり納得のいく答えは出てこなかった。
やはりあいつの考えを読むのは至難の業。
だが、今回は一歩先んじた。
慢心はしない。こういう状況が一番足を掬われやすいことを経験で知っている。
最後の最後、最悪の作戦を取らずに済むよう、くれぐれも慎重に行動しなければならない。
支援
支援
◇◇◇
カインの足取りは重かった。
必要な離反だった。
確かにそうだが、それでも何も感じないでていられるわけがない。
自分は、たった一人の親友を裏切ったのだ。
(……くよくよしてもいられないか。セシルが抜けたことで、戦力は著しく低下した)
この殺し合いで戦うには、やはり一人では駄目だ。
かといって、他に信用できる者など……
「なんだ。わざわざ来てみれば、貴様だったか」
ぎょっとして後ろを振り向く。
狂王アシュナード。
今一番会いたくない人間だ。
慌てて戦闘態勢を取る。
「そう怖がらずともよい。今は小休止だ」
そう言って、わざわざ剣を仕舞う。拍子抜けだ。今までのアシュナードと少し違う。
「相方はどうした?」
「……お前には関係ない」
「ふん。言わずとも分かる。離反したのだろう?」
図星だ。しかし、そんなことおくびにも出さず、カインは叫ぶ。
「戦うつもりがないなら去れ! 貴様の戯言に付き合ってる暇など──」
「あるだろう。なにせ、お前は今かなり焦っているはずだからな。しばらく殺しは中止。そんなことを考えていたのではないか?」
その通りだった。
セシルが抜けた穴をどうにかして埋めるまで、しばらく戦いから遠ざかるつもりでいた。
この男の言う事はいちいち図星を突いてくる。それが堪らなく腹立たしかった。
「お前はこの殺し合いで何を求める?」
「……生き返らせたい人間がいる」
アシュナードは笑った。
「そんなにおかしいか。誰かを想うことが間違っていると?」
「いいや。間違ってなどいないさ。別に貴様を嘲笑っていたわけではない。それどころか、我はますますお前を見直した」
「何?」
「お前は世界の過ちを知っている。世界の不公平を知っている。強者でありながら不幸を背負う、こんな世の中に反旗を翻そうとしている」
これは本当にアシュナードなのか。そんな疑問が浮かぶ。
狂王としての面影はなく、野心に輝く瞳は、こちらを惹きつけて止まない。
「叶えてやろうか? その願い」
「…………」
「我の願いは、強者が強者として生きる世界だ。マルク……いや、イザナミだったか。まあいい。とにかく主催者なんぞに願いを叶えてもらう気など毛頭ないが、貴様が望むのなら奴らに頼んでやってもいいぞ」
「まるで優勝するのは自分だと決まっているかのような言い草じゃないか」
「まあ、それしか手がないのなら優勝する。だが、瀬多の奴が少しずつではあるが脱出に向けて動いているのでな。
奴の言う通り、殺し合いという呪縛から解放されるには主催者を皆殺しにする必要がある。お前もそれに一枚噛ませてやってもよいと我は言っているんだ。主催者を殺す時にでも、その願いを叶えさせればよい」
願ってもない話だ。内容だけならすぐにでも飛び付く話。
だが、相手は狂王だ。戦闘狂のアシュナードだ。弱者を屠り、戦闘に愉悦を感じる異常者だ。
しかし、今のアシュナードは信じられる気がした。少なくとも、この男に取り捲いているのが狂気だけでないことは確かだ。
何かがアシュナードを心変わりさせたのか。
……いや、元々こういう男だったのかもしれない。
ただ、その狂気の部分が目立っていただけで、確かにアシュナードは理知的だった。
だからこそ瀬多を生かしている。こうして脱出の算段さえも講じている。
「我のところへ来い。カイン」
そう言うと、アシュナードは徐に手を伸ばした。まるで泥沼から引き上げてやろうとでも言わんばかりに、カインに手を差し伸べた。
支援
支援
その手を握ることはない。その代わりに、カインは膝を折っていた。
「クックック。思った以上に素直じゃないか」
別に忠誠を誓ったわけではない。
だが、この男は利用価値がある。利用できるものは利用しようじゃないか。そして、どうせ利用するなら最大限に活用してやる。
そのためなら、いくらでも頭を垂れよう。それで少しでもこの男が喜び、こちらの目的のために動いてくれるというのなら、これ以上のことはない。
「……俺は、あなたに従うことを約束します」
「言葉はいらん。忠誠を誓う必要もない。我は実力主義だ。腹に一物を抱えていようが、強者なら起用する。それが我の信条だ」
アシュナードはそう言って背を向けた。カインも、何も言わずに付いて行く。
主従関係などない。しかし、確かに二人の利害は一致していた。
【アシュナード@ファイアーエムブレム 蒼炎の軌跡】
[状態]メダリオン使用状態 頬に貫通傷(全て回復中) 弱冠のやりきれなさ 左目眼球に釘(回復不能)
[装備]魔剣グルグラント@ファイアーエンブレム 蒼炎の軌跡
[道具]支給品一式 書店で取った本を何冊か、首輪探知器
[思考]基本方針:戦を楽しみ、理想の世界を創造するために動く
1:カインと共に弱者を一掃する(裏切りも想定)
2. 次に会ったらアドレーヌも殺す。
3. 瀬多を軍師として起用する
4. 脱出方法も一応考える。しかしほとんど瀬多頼り
5.ゼルギウスは殺す。イゴールも見つけたら殺す
※参戦時期は最終章でメダリオンを使用した直後。
※鎧は爆発の影響でボロボロの状態です
※少しナイーブ状態ですが、すぐに回復します
【カイン・ハイウィンド@ファイナルファンタジーW】
[状態]疲労(大) 胸に軽度の火傷 、全身に裂傷
[装備]グングニル@ファイナルファンタジーW
[道具]支給品一式
[思考]基本方針:優勝し、ローザを含む全ての参加者を救済する
1:とりあえずアシュナードに忠誠を誓い、ついていく。裏切ることも想定
2:セシル……
支援
気が付けば歩いていた。目的地もない、意味のない行為。
自分のデイバックすら置いて、それでもフラフラとセシルは歩いていた。
カインがいなくなり、ゴルベーザと完全に離反し、自分を保つものは全て消えた。
自分が全てを失って繋ごうとした願いも、けっきょく叶うことはなかった。
それなのに、何故僕は生きてる?
どうして僕はここにいる?
一体何を間違えた?
光の道に進んで欲しいという要望に対し、ゴルベーザはまったく聞き入れてくれなかった。カインが休息し、見張りをしている時、自分はそのことばかり思い悩んでいた。
そんな時、あの男が妙案を提示してくれた。
あの男の助言を聞いたのがいけなかったのか?
だが、確かにそれはうまくいった。
ゴルベーザの頑なな心がなければ、あれでうまくいっていた。
(……どっちにせよ。僕はカインに裏切られることになったんだから、意味のない話か)
なら、自分はどうすればよかったのだ。兄に正義を知って欲しい。そんな気持ちすら、抱いてはいけなかったというのか。
答えのない疑問が渦巻き、それすらもどうでもよくなる。
もう、いい。
もう、何もかもがどうでもいい。
ふいに、何かを蹴った。
何故、森の中にこんなものがあるのか。
そんな疑問よりも先に、セシルは直感する。これを手に取れば全てを忘れられる。これを手にすれば、全ての苦痛が消える。世界から、拒絶される。
セシルは求めた。セシルは、死を求めた。
だからこそ、それを手に取った。
光がセシルを包みこむ。
薄黒い、碧の甲冑。漲る力。多少あった傷も全て回復する。
しかし、……セシルは正常だった。狂ってなどいなかった。
「……はは」
乾いた笑み。
「なんだ……。僕を狂わせてはくれないのか」
なんだこれは。
全てを忘れられるんじゃなかったのか。
「はははははは!!!!」
セシルは笑った。息が続かなくて、苦しくて。それでも笑い続けた。
ああ、もういいさ。そういうことならもういい。
誰も僕を止めてくれないというのなら、誰も僕を楽にしてくれないというのなら、僕は狂人になろう。
狂って、狂って、狂いまくって、全てを忘れ、快楽の道へと逃げよう。
「……僕は死んだ。今、ここで」
狂人に相応しい行動はなんだ? 人殺しだ。皆殺しだ。血肉を浴び、死者を貪るように猛進し、惨殺する。それが狂人だ。
美しい小鳥が、セシルの前を過る。羽根をばたつかせ、まるでセシルから逃げるように羽ばたく。
セシルは傍に落ちてあった剣を拾い、徐に地面に突き刺した。
「暗黒」
感慨もなくそう呟く。
地面が黒に染まった。まるで闇が大地を浸食するように、セシルを中心に暗黒の円ができる。
瞬間、天にまで届くかと思われる勢いで、闇が駆け上った。
セシルの立っている地点を残し、円上に抉られた地面。何本も生え茂っていた木は、跡形もなく消滅していた。
セシルの前に羽根が落ちてくる。血で染まったそれをセシルは踏みしめ、歩き出す。
全てを殺すために。
支援
支援
【セシル・ハーヴィ@ファイナルファンタジーW】
[状態]メダリオン使用状態、暗黒騎士
[装備]ヴァーグ・カティ@ファイアーエムブレム 蒼炎の軌跡、メダリオン@ファイアーエムブレム 蒼炎の軌跡
[道具]なし
[思考]基本方針:全てを破壊する
1. 狂人として殺し合う。優勝も度外視
※メダリオンを使用しましたが正気です。が、本人は狂人として生を全うするつもりでいます
【霧雨魔理沙@東方project 死亡】
【ハル・エメリッヒ@メタルギアシリーズ 死亡】
【キョウ@ポケットモンスター 死亡】
【カービィ@星のカービィ 死亡】
【風見幽香@東方project 死亡】
【足立透@ペルソナ4 死亡】
【ベトベトン@ポケットモンスター 死亡】
【残り18人】
支援
バイブレーションがポケットで作動する。
男は、そのポケットに手を突っ込み、携帯電話を取り出すと、通話ボタンを押した。
「……はい。あなたの言っていた通りにしましたよ。これで彼は、晴れて正義の仲間入りです。
……礼など必要ありません。確かに私は彼とあなたを決別するように仕向けました。
が、自分の道を選んだのは彼自身。そこに私もあなたも何の介入もしようがありません。
……どうしてもというのなら受け取りますが、あなたには彼を救ってくれた恩があります。だからこれで貸し借りなしです。
それで、彼はどうですか?
……え? 隣で葉巻を吸っている? ……フ。いやなに、彼らしいと思ったまでです。
……ええ。誰も私が生きているとは思っていないようです。
少々勘付いた者もいますが……まあ、放っておいても真相に気付くことはないでしょう。
……身体の方は順調ですよ。いささか化け物じみていて、性には合いませんがね。まさか黒墨になっても生きていられるとは。
……ああ、彼がそんなことを。しかしそれは酷い言い様ですな。あなたの術と、私の自己暗示で、ああいう行動を取るようにインプットされていたのですから。
……ええ。これからも監視を続けますよ。内と外から監視すれば、あの捉えどころのない神も下手は打てんでしょう。……ええ。それではまた」
男は電話を終え、さらに番号をプッシュした。
「……ああ、繋がりましたか。ええ。任務は順調ですよ。しかし、あなたもさらりと難しいことを言う。
わざわざ危険を冒して奴を仄めかし、仲違いを引き起こして最重要アイテムを守護するモンスターを作る。
あの大乱戦の中、事をうまく運ばせるのはさすがの私も肝が冷えた。
ですが、これであなたの望む結果に添えることができるでしょう。彼ならなかなか良い障害になりそうです。
それで? 放送組はどうです? ……ほぉ。うまく勘違いしてくれたと? これで放送組の切り札は一か所に集まる可能性が高くなったわけですね。
それに無理をして瀬多総司と接触しようとしてくれるかもしれない。そうなれば向こうの手の内も俄然読みやすくなる。こちらからすれば最高のシチュエーションというわけですか。
……なるほど。この程度で浮足たってくれるような相手ではないと。
しかし、月の頭脳といえど所詮は使役される研究者。力を使用し、策謀を張り巡らせることはできても、敵の意を汲み裏をかくのは苦手と見えますね。
……ああ。それも結局分からずじまいですか。
しかしそんなまどろっこしいことをせずとも人質を使えば……。……そうですか。私には、その傍観者という意味は理解しかねますが。
……それならば問題ありません。監視組としても放送組……というより八意永琳ですな。
彼女は少々薄気味悪いらしく、共同戦線を張ろうなどという話題すら出ませんよ。
……フフフ。まさか自分達の切り札がスパイだとは、彼らとて思ってもみないでしょう。
……ええ。安心してください。奴らは声までは拾っていません。あくまであなたの監視が目的ですから。
支援
3スレめでまさかの400KB超え
投下乙です
キョウゥゥゥゥゥゥゥゥ!!
カービィィィィィィィィ!!
幽香ァァァァァァァァァ!!
対主催ヤバいマジヤバい
そして、足立の最期がすごい「ざまぁw」だった
凹みながらも、最期の漆黒の基本方針2に和んだよ…
……と思ったら、まだ続いてたごめんなさいorz
……ええ。私の姿は誰にも見えない。
監視組にさえも、その行動を認知できない。あなたに対する迷彩が、まさか自分達の為の迷彩だとは夢にも思わないでしょう。
……クリスタル? 調べろと言われれば調べますが、それよりもゲーム機を破壊した方が……。
……分かりました。何か確信がおありのようだ。あなたの指示に従いましょう。
調べるだけで、極力不干渉を決め込めばいいのでしょう?
……いえ。それでしたら、あなたの動向がおかしいとかなんとか、その都度言い訳を考えれば問題ありません。
私はこれで今日まで生きてきました。
たとえビックボスであろうと、騙し通せる自信があります。
しかし少々厄介なことになりかねません。
失敗しても恨み事はなしの方向で。
……ええ。それではまたあとで」
男は携帯を仕舞い、レーダーを取り出す。
居場所だけでなくどの参加者かも分かる優れもの。
厄介なことに、クリスタルを持つアシュナードはカインと同盟を組んだようだ。
「……まあいい。未だ放置されているクリスタルもある。少し調べて戻しておけば、誰も異変には気付かんだろうしな」
これは任務だ。私情を挟む余地のない任務。
これが終わるまでは、私は束縛されようじゃないか。
任務という呪縛に。
世界という幻想に。
男は消えた。まるで、存在すらなかったかのように。
慢心はない。感情も排除する。これは任務だ。
老いた山猫の、最後の任務。
大作投下お疲れ様です 死者の数凄いなおい……
そしてついに現れた主催側ktkr
はい。これで投下終了です
なげええええよ!!! というツッコミはなしの方向で
途中少し修正したりしました。描写を加えた程度ですが
あと、アシュナードの持ち物にクリスタルをいれるの忘れてた。wikiに載った時に直しときます
支援してくださった方、ありがとうございます
大変遅くなってすみませんでした。
では今より投下します。
◆
「十人か……」
想像以上に死んだな。
それほど血気盛んな奴らが多いということか。
もっとも、加害者の一人はこの私なのだが。
最初の放送で呼ばれた死者の内、私が知る人物はバルバリシアのみだった。
残りは27人。
殺し合いはまだ始まったばかり、序盤戦が終わったに過ぎない。
残りの参加者も曲者揃いだろう。
最初に出会った吸血鬼、レミリア・スカーレットもまだ生きている。
あの女は私を殺すつもりだったのだろうか。
それとも何か他の目的があったのか。
いずれにしろ、奴も放送で私がまだ生きていることを知ったはずだ、何をしでかすか分からないな。
乱入してきた少年はどうだろう?
彼も生きているとしたら、私は二人の人物に顔を知られていることになる。
特別不利になるわけではないが少し心配だな。
ポケモンチャンピオンのレッド(?)もまだ生きている。
チャンピオンになったほどの少年だ、その能力は高いだろう。
そしてサカキ。
サカキ――カントー地方のトキワシティのジムリーダーだった男。
しかしその正体は、悪名高いロケット団の首領であると耳にしたことがある。
カントーを中心に悪行を重ねる集団、ロケット団。
つまり、同じ穴のむじな、か。
勿論、顔を合わせたことなど無いが、おそらく向こうも少なからず感づいてはいるはずだ。
目的は不明だが、危険人物であることは確実。
接触は危険か。
あとはタケシ、彼はもう既に死んでいるが確かカントー地方のジムリーダーにそんな名前があった気がしたが――まあいい。
既にこの島には陽の光が燦々と降り注いでいる。
殺し合いをするには不似合いなほどに明るく。
辺りの様子がすっかり視界に入るようになった。
闇に潜んだ参加者が姿を見せ、殺し合いは更に加速するだろう。
視界の先、西の方には、幾重にも連なる木々が樹林となって現れ、その先には重厚でそして高大な山脈がそびえ立っている。
地図を取り出し、あそこがノーム・マウンテンであることを確認するが、私の目的地はそこではない。
今は仲間と情報の確保が最優先事項だ。
もしこれが私に課せられた『試練』なのだとしたら、絶対に死ぬわけにはいかない。
あと少しで野望を達成するところだったのだ。
こんな所で命を落としてなるものか。
逆に言えば、この『試練』を突破したら私の野望は達成されるということだ。
この殺し合いが伝説のポケモンによるものだという確証はない。
だがこんなことができるのはあの二匹のポケモン以外には考えられない。
多くの人間を、しかも世界も違うとされる人々を一つの場所に呼びよせるなんてことができるのは。
シンオウ地方に伝わる時空伝説、時間と空間を司る伝説のポケモン。
時間ポケモン、ディアルガ。
空間ポケモン、パルキア。
ディアルガの力を使えば、時間の流れを自在に操り、過去や未来へ移動することができる。
パルキアの力を使えば、空間の繋がりを自在に操り、遠くの世界や異空間へ移動することができる。
この二匹の力を使えば全ての説明はつく。
だが理由は何だ?
もしこれが全て伝説のポケモンによる試練だとしたら、殺し合いさせることに何の意味があるというのだ?
私の力を試しているのか?
それともさんざん好き勝手暴れた人間への罰か?もしくはただの神の悪戯とでもいうのか?
――いや違う、もう一つの可能性。
もしディアルガとパルキアが第三者に利用されているとしたら―――――。
その可能性も否定できない。
ディアルガとパルキアを手中に収め、私利私欲のために何者かが利用した……。
ならば、この事件の発端はディアルガとパルキアの存在する世界の住人、いわばポケモンの存在する世界の住人の仕業ということか?
いや、そもそもディアルガとパルキアは時間と空間を自在に操る事ができるのだから、世界がどうのこうのは関係ない。
マルクか?奴も伝説のポケモン?それとも奴も傀儡でしかないのか?理由は?
今は考えがまとまらないな……。
伝説のポケモンによる『試練』か、他者によるそれ以外の『何か』か。
事の発端が何であるかは想像もつかないが、私にできるのは有益な情報と、強力な道具を集めることだ。
カードが揃えば何かが見えてくるかもしれない。
さて、そろそろ動くとしよう。
今は仲間の確保が最優先事項だ。
情報の交換もしておきたい。
優秀な手足に成りうるかどうか私が直々に判断してやろう。
しえん
投下ラッシュ支援
しえん
◆
「スネークが死んだ……!?」
放送でソリッド・スネークの名が呼ばれた。
放送で名前を呼ばれるということ、それは即ちその者の死を意味している。
ソリッド・スネークが死んだという事実、雷電はその事実に驚きを隠せなかった。
幾つもの戦場を駆け抜け、銃火の中、死をも厭わず己の為、人の為に自らを犠牲にし全てを尽くした男、ソリッド・スネーク。
ビッグ・シェルのときも何度も助けてくれたあの男が本当に死んだのか?
たちの悪い冗談だ、悪い夢でも見ているに違いない。
勿論、これは夢でもないし、冗談でもない。
それは雷電も分かっていた。
だが否定したかった。
戦場に身を置く柄、死は別に珍しくも何ともない。
それでもスネークは、ソリッドスネークはどんなに危険で困難と思われる戦場でも決して死にはしなかった。
銃弾を浴びようとも、刃に傷つけられようとも決して。
その彼が死んだ。
「くそッ……!」
雷電は右の拳で思い切り地面を殴った。
疲労と傷が残る体に痛みが広がったが、雷電は気にしない素振りで、そのまま何度かまた地面を殴った。
拳の跡がついた地面に膝を立て、首を下げる。
その顔には悔しさと悲しみ、そして怒りの色がはっきりとにじみ出ていた。
空から降り注ぐ陽の光が嫌なほど眩しかった。
「許しません!雷電さんの知り合いを襲うなんて!これも全部妖怪のせいです!雷電さん安心して下さい!妖怪はこの私が全部まとめて退治してあげます!」
相変わらず自信たっぷりに言う早苗に、雷電はほんの少し救われた気がした。
出会ってまもない彼女のことはまだよく分からないが、彼女の行動の全ては善意で行われていることは確かだ。
時折、見ていて不安になるが。
「……ありがとう早苗。だがまさかスネークが、しかもこんなに早く……それに―――――」
放送で呼ばれた名の一つに「サイボーグ忍者」とあった。
サイボーグ忍者。
雷電は二人のサイボーグ忍者を知っている。
一人、グレイ・フォックス。
過去にソリッド・スネークも所属していた組織FOXHOUNDに在籍時、隊における最高位であるFOXのコードネームを与えられた伝説の傭兵。
既にシャドー・モセス島事件において死亡したはず。
一人、オルガ・ゴルルゴビッチ。
雷電自身も大きく関わるビッグ・シェル占拠事件という名の大規模演習において、アメリカを裏から支配する組織「愛国者達」に子供を人質にされ、サイボーグ忍者として演習の調整役を強要されていた人物。
演習の成功が子供を助けることに繋がるため、何度も雷電を助けてくれたが、彼女も事件で既に死亡したはずだ。
どういうことだ?既に死んだ者が何故ここに?
殺し合いに巻き込まれてから中々落ちつく暇がなかったので、気にする余裕もなかった。
参加者が二人のどちらかなのかは分からないが、すでにサイボーグ忍者は死んでいる。
今は確認の仕様がない。
雷電は複雑な感情を押し殺して頭を上げ、デイパックの中から名簿と地図を取り出した。
放送で呼ばれた名と、指定された禁止エリアに斜線を引いていく。
ソリッド・スネークとサイボーグ忍者の名に斜線を引くのは躊躇いがあったが、少し惜しむように、そしてそのまま引いた。
指定された禁止エリアは今いるB-3エリアには直接影響は無かった。
また放送で大切な仲間の一人であるオタコンことハル・エメリッヒが無事なことが分かったので、それに関してはほっと胸をなで下ろした。
彼ほど優秀な発明家ならすでに何か行動に起こしているかもしれない。早くオタコンと合流して情報を集めなければ。
だが、悪いことにリボルバー・オセロットもまだ生きている。
掴みづらい性格、考えの持ち主だが、少なくともこと殺し合いにおいて極めて危険な人物であることは言うまでもない。
それからあの風の使い手、妖怪?はまだ生きているのか?
少年を手にかけたことは絶対に許してはおけない。彼が犠牲になったのは全て俺の責任だ。
今もその手を血に染めているかもしれない。早く仕留めなければまた犠牲者が増えることになる。
必ず仇は取る。
そう言えば…、ローズ、ローズは今頃どうしているだろうか……。
雷電の脳裏に恋人の名がよぎった。
ローズマリー。
彼女は今では雷電の恋人だが、もともとは「愛国者達」の命を受けて雷電に接近していた下級工作員であった。
冷静になって考えてみれば、俺はいつここに連れてこられたんだ?
ニューヨークでソリダス・スネークを倒したあと、彼女と、ローズと共に生活を始めた。
ここまでは覚えている。
だが、それ以降の記憶がほとんどない……。
ローズと生活して――、そう、彼女の作る料理はお世辞にも美味しいとは言えなかったが、それでも温かかった。それは覚えている。
迷惑もかけた。ビッグ・シェル事件以降、俺は自身の忘れていた記憶を思い出し、そのショックの影響でローズを度々傷つけた。それも覚えている。
それぐらいしか分からない。
自分がここに来るまでの経緯が全く思い出せない。
気が付いたら、あの部屋にいた。何者かに突然連れてこられたのだ。
ローズは無事なのか?彼女は、ローズは今どうしている?
そもそも今回の事件にも「愛国者達」が絡んでいるんじゃないのか?
もしそうだとしたら何の為だ?最初の道化もただのホログラムか?
―――――クソッ!
とにかく、とにかく今は絶対に生きぬくことだ。
俺が死んだらローズと、オルガの子が死ぬ。
ローズとオルガの子の体内には「愛国者達」により、ナノマシンが埋め込まれており、雷電が死亡すると彼女らも死ぬようになっている。
俺が生きていれば彼女たちは死なない。
こんな訳の分からない所で死ぬわけにはいかないんだ。
しえん
思考の整理を終え、雷電は早苗のほうを見上げる。
早苗は何か妖怪への不満や怒りをぶつぶつと呟いていた。
ある意味、彼女はここまでずっと落ちついた状態である。何か悲しんだり、落ち込んだりというようなことは一切無かった。
時折少し不安になるが、真面目で笑みを絶やさずそしていつも自信たっぷりな彼女。
雷電自身、彼女がいなければ生きてはいられなかっただろう。既に命を落としていたに違いない。
命の恩人である彼女に出会えたことは、雷電にとって最大の幸運だったと言える。
実際、彼女に出会って雷電は色々な意味で救われた。
雷電は少年グリーンを救えなかったことに責任を感じていた。か弱い少年をしなせてしまったことに。
だが早苗に助けられ彼女と行動を共にして以来、彼女の発言や態度、放つ雰囲気が自然と気を紛らわさせてくれた。
少し行きすぎたところも見られるが、それでも雷電は彼女を悪くは思わなかった。
だが雷電は思った。
もしかして彼女は俺を励まそうと無理しているんじゃないだろうか?俺に気を遣って必死になっているんじゃないか?
自分を元気づけようとする為に。
彼女は見かけは明るく振る舞っているが、内心疲れているのかもしれない。
もしそうなら心配だ。
雷電は早苗に声をかけた。
「早苗、大丈夫か?」
「何がですか?」
「いや、少し疲れたりはしてないか?」
心配そうな表情を浮かべる雷電に、早苗はにっこりと笑った。
雷電が自分のことを気遣ってくれたことが分かり嬉しかったのだ。
「大丈夫です、この通りピンピンです!雷電さん優しいんですね。ありがとうございます!」
相変わらず自信たっぷりで満面の笑みをこちらに向ける早苗を見て、雷電の表情も自然と穏やかになった。
雷電も微笑んで答える。
「そうか。ならいいんだ」
「しっかりして下さいよもうー」
男女が仲睦まじく会話を交わすほのぼのとした光景。
ここが殺し合いが行われているような場所とはとても思えない程、それは不似合いに映った。
そんな時だった。
二人の前に予期せぬ来訪者が現れたのは。
そういやそんな設定あったなー支援
◆
雷電は視界の先を目にした瞬間、すぐさま腰のナイフを抜き、構えた。
早苗は硬直した体を少し後ろに下げた。
男はそれでもゆっくりとこちらに歩み寄って来る。
視線が交錯する。
三人の間に張り詰めた空気が広がった。
「待て、私は殺し合いには乗っていない。落ち着け」
二人の前に現れた男が静かに言った。
「私の名はアカギ。もう一度言う。私は殺し合いには乗っていない」
アカギはそう言って両手を上げ、自分に敵意がなく友好的であることを表した。
それでも雷電は頑なにナイフを向け続ける。
「簡単に信じられると思うか?この状況で。アカギと言ったな。目的は、俺たちに近づいた目的はなんだ?」
状況が状況である。
いくら自分は安全だと言おうとも、おいそれと信じることなどできるはずもなく、疑わないわけにはいかなかった。
雷電はナイフを構えたままアカギを睨み続ける。
だが突然、隣にいた早苗が想定外のことを言い出した。その長い髪を揺らせて。
「大丈夫ですよ。私はこの通りです。安心してこちらに来て下さい。そして私の信仰を受けるのです!」
突然、無防備な笑顔で訳の分からないことを言う早苗に雷電は驚嘆した。
「おい馬鹿何を言っている!?」
早苗の無防備な発言に、雷電は何を言っているんだこいつはと驚嘆した。
こんな状況でよくそんなことが言えるなと。
「馬鹿とは何ですか、馬鹿とは!」
いきなり理由も無く馬鹿と言われ早苗はむっとする。
二人のやり取りは無視し、アカギは冷静に言葉を続けた。
「仲間を作る為にここに来た。この殺し合いを打開する為のね(正確には駒だがな)」
アカギは胸の内で軽々とそう呟いた。
彼にとっては自分以外の人間は全て自分の道具でしかないのだろうか。
緊張感が漂う中、彼らは互いに相手を観察することは忘れなかった。
相手の放つ雰囲気や口調、外見から予測できる身体能力など把握可能な情報は全て確認しようとした。
物静かな、しかし堂々とした佇まい。
容姿や体型は一般的、特別鍛えているようには見えない。
言葉や態度にも焦りや動揺の色はない。
だが、少し落ちつきすぎているところがどこか怪しく感じられる。
雷電はアカギをそう評した。
「何故俺たちが安全だと思った?」
「放送が終わってから、君たちを少し遠くから観察していた。様子や雰囲気で君たちが安全で信用できる人物だと思った。だから近づいた」
(焚き火をしていたのはお前たちだろう?接触すべきかどうか迷ったが私もゆっくりしてはいられない。実際、男の方は見るからに強そうな人物だ。仲間にすれば便利な他ない)
本当にこいつの言うことを信じていいのか。俺たちを騙そうとしている可能性は?今は殺し合いが行われているんだぞ。
疑心暗鬼に捕らわれ、なかなか口を開かない雷電を見かねてアカギは言った。
「安心しろ。私は君たちを襲うつもりは一切ない。それに私は文字通り普通の人間だよ。超能力だとか化け物じみた力なんてこれっぽっちもない普通のね」
「……分かった。まずは肩のデイパックを下せ。何か衣服に着けているのならばそれもだ。それから手を上げたままゆっくりとこちらへ来い」
アカギはデイパックを地面に置き、ゆっくりとこちらに歩を進める。
超能力、化け物という単語に雷電は気になった。
既にそのような参加者に遭遇しているのか?
「よし、両手はあげたままでいろ。今からボディチェックをする。もしお前がこちらに危害を加えるつもりなら生死の保障はないと思え」
「どうぞ」
アカギは特に抵抗することなく素直に体を差し出した。
雷電は、アカギが自分の身体や衣服に何か隠していないかどうか調べた。
両手を使って念入りに調べたが特に何も隠していない。
その際、衣服越しに身体に触れたがいたって普通の肉体であることが分かった。
なんかエロいな支援
「次だ。荷物の中身も確認させてもらう」
依然としてアカギは落ちついたそぶりで頷く。
何の躊躇も見られない。本当に信用していいのか?
アカギの荷物を確認すると、中には基本支給品が一式と栄養ドリンク、救急セットが見られた。
そしてその隣、地面に置かれたデイパックの横に見慣れない球体が二つそこにはあった。
見たことの無いものだった。
手の平に収まるぐらいの大きさ、赤と白の二色で構成され、中央にはボタンがついている。
球体以外の全ては、一つ一つ念入りに調べたがどれも特別怪しくは感じられない。
だがこの球体だけは何なのか雷電には想像がつかなかった。
手榴弾か?スタングレネードや催涙弾?そのどれとも異なる形状。迂闊に触るのは危険だ。
「この球体は何だ?」
雷電の問いにアカギはにやりと笑い、やはりなと呟く。
何がやはりなのかは雷電にも早苗にも理解できなかった。
「この球体はモンスターボールと言う。これ自体に害は無い。どうやら二人とも知らないようだ。今から詳しく説明するが、どうかな。もう信用してくれただろうか?それ以外にも色々と話したいことがあるのだが」
真っすぐ見据えてアカギは尋ねる。
その目も態度も嘘を言っているようには見えない。
今のところ危険な感じはないが……。
話を聞くぐらいなら大丈夫か?
だが……。
しばらく考え抜いた結果、結局、雷電はアカギの話を聞くことにした。
「いいだろう。話を聞こう」
「信用してくれて助かる。私の名はアカギだ。」
「雷電だ」
「私は東風屋早苗、現人神です。妖怪には負けませんよ!」
早苗はいつものように自信たっぷりに答えた。
「妖怪?すると私がさきほど出会った彼女も妖怪なのかもしれない」
「彼女?」
「ん、ああ。先程研究所を探索中に遭遇してね。風を操るという文字通り化け物みたいな奴だ。名は確かバルバリシアといったか」
「バルバリシア?放送で呼ばれた名前。ん?風を操る女性……!?まさか、あの女のことか!?そいつを知っているのか!?よく無事だったな、いやまさかお前が――」
「そうだ私が殺した」
アカギはただ淡々と答えた。
雷電の目が見開いた。
アカギのような一般人があの化け物を倒したこともそうだが、何より当たり前のように殺人を犯したことを告白したことに驚いた。
こいつは本当に普通の人間なのか?
「奴は私を見るなりいきなり襲ってきてね。仕方が無いので正当防衛に出ることにした」
「そうか……。いや実は俺も奴に遭遇したんだ。奴に襲われていた少年を助けようとしたんだが返り討ちにあった……。結局その少年は救えなかった……。そうかお前が倒してくれたのか。礼を言う」
「いや気にするな」
「しかし、一体どうやって奴を?本当にただの一般人なのか?」
「こいつだ」
そう言ってアカギはふところから先程の球体、モンスターボール取り出し、手の平にかざして見せた。
「手榴弾か?それとも地雷か?」
「そんな物騒な物ではない」
「では早速、モンスターボールについて説明しよう。出てこいケーシィ」
突然赤い光を発するモンスターボールに雷電は驚き、飛び退いたが、アカギは大丈夫だ、とだけ答えた。
光が消えるとそこには一匹の生物が地面に伏せていた。
「なんだこの生き物は!?」
「これはポケモンと言って――」
驚きを見せる雷電に、アカギは相変わらず落ちついてその問いに答えた。
否、答えようとした瞬間だった。
先程まで静かにしていた彼女が激高の声を上げたのは。
「妖怪!!あなたやっぱり敵だったんですね!」
早苗が突然大声をあげた。とても出会った瞬間に信仰を受けろといった人間の台詞とは思えない。
それほど彼女の様子が一変した。
怒りで震えているのが分かる。
「何を言っている?これは妖怪では――」
「問答無用です!グレイソーマタージ!!」
「待て落ちつけ!」
アカギを無視し早苗は星型の弾幕を妖怪、否、ポケモンのケーシィに向けて放ち、アカギもろとも仕留めようとする。
こいつも化け物なのか?アカギは突然のアクシデントに対応しようと距離を取り、そしてケーシィに命令を下した。
「ケーシィ、リフレクター!」
ケーシィが両手を構えると、一瞬のうちにそこには一枚の透明な壁が現れた。
早苗の放った弾幕がその壁に当たると、それは全て反対の方向に弾かれ、勢いよく早苗に向かって飛んでいく。
「え?」
一瞬、何が起きたのか早苗には分からかった。
相手に向けて放った弾幕がそっくりそのままこちらに向かってきている。
何で?
想定外の出来事に戸惑うことしかできず、当然為す術は無く――。
「きゃあッ!」
早苗の放った弾幕は全弾全て彼女のもとへとはね返った。
「早苗!!」
「おい雷電!こいつをどうにかしてくれ!」
「今何をしたんだ…!早苗は!?」
突然の攻防に対応できず驚く雷電は見もせず、アカギは巻きあがった煙の一点を見つめていた。
煙の中からゆっくりと影が浮き出てくる。
「許しません……許しませんよ……!妖怪ーーーーーーーーーー!!」
早苗はアカギの方へと走りながら、再びグレイソーマタージを発動させようとする。
あれをくらったら流石に危ない!
危険を察知したアカギはケーシィに次の命令を下す。
支援
しえん
「ち、仕方がない。ケーシィ、ばくれつパンチ!」
ケーシィが勢いよく早苗に迫る。
一方、彼女のほうはまだ攻撃の準備が終わっていなかった。
そんなことはお構いなしに容赦なくケーシィは攻撃を与えた。
「え?きゃあーーーッ!」
ばくれつパンチが早苗の腹に炸裂した。
「うう……」
一瞬だけ悲鳴をあげ、よだれを垂らしながら早苗はそのまま横たえた。
その様子を見て、雷電はアカギに激昂した。
「彼女に何をした!?」
「落ち着け、力は弱めてある」
「何をしたと言っているんだ!?」
「落ちつけといったはずだが。何を言っても無駄なら、無理矢理黙らせるほかないだろう?大丈夫だ彼女は死んではいまい。すぐに目を覚ます」
「生き死にの問題じゃない!」
やれやれといった表情でアカギは雷電に表情を送る。
それと隣で疲れ果てた様子で佇むケーシィに気づくと、それをモンスターボールに戻した。
少し無理しすぎたか。このケーシィ相当疲れているな。
そもそもケーシィは一日に18時間眠るそうだ。こいつはここに来て8時間近くほとんど休みなしで働いている。
ゆうに活動時間は越えている。
だが、そろそろ進化してもいい頃合いだろう。
そうなれば、睡眠の制限は無くなり、また私の力は強くなる。
それから思い出したように雷電に返事をした。
「ちゃんと息もしているだろう。それより彼女は何なんだ?さっきの力といい、妖怪、幻想郷……」
「俺も詳しいことは知らない。だが少なくとも悪ではない、と思う。しかしやりすぎじゃないか!?」
「……そうか。まあいい、ちょうどいい機会だ。彼女が目覚め次第、私たちの現状について、そしてこれからのことを話そう――」
◆
「うーん」
早苗は不快そうな声を上げながら、けだる気な様子で瞳を開けた。
降り注ぐ太陽の光が眩しく顔を背ける。
朧な目つきで視線を動かすと、すぐ先に二人の人間の話声が聞こえた。
そのうちの一人は早苗が起きたことに気づくと、彼女のほうへと歩を進めてきた。
「起きたようだな」
アカギは淡々と口に出した。
「……あなたは先ほどの妖怪使い……!」
アカギを見た瞬間、早苗は先程まで自分が何をしていたのか思い出した。
目の前の男は妖怪を使役する悪逆非道だ。
絶対に許さない、許してなるものか。
きりっとした目つきで思い切り敵意をむける。
そのとき早苗は初めて気づいた
自分の身体の上半身にロープが巻かれていることに。固く縛られ身動きが取れない。
無理矢理外そうと体を動かすが、ぜんぜん
ところが次の瞬間、その表情が一気に青ざめたものに変わっていく。
「う、うう……うっ…」
「どうした早苗!?」
異変に気づくと、雷電は急いで傍にかけよる。
早苗はとても苦しそうにして呻いている。
綺麗な顔が醜く歪む。
そして―――――。
支援
「うう…、う…うう、うっ!?ぐぇーーーーー!」
早苗は青白くなった表情で口から一気に吐瀉物を吐きだした。
地面が汚物で染まる。
ロープの巻かれていない下半身の衣服にも少し飛び散った。
「早苗!?大丈夫か!?」
どう見てもこの原因は先程のアカギの攻撃によるものだ。
あの生物は一体早苗に何をしたんだ!?
雷電がアカギに尋ねる。
「おい大丈夫なのか!?早苗はどうしたんだ!?」
「先程のばくれつパンチの影響だろう。ばくれつパンチには相手を混乱状態にさせる効果がある。それで気分が悪くなったのだろう。なに、すぐに良くなる」
「はぁーはぁーはぁー……。私に……何をしたん、ですか…?それに…な、何ですかこのロープは…?んー!んー!外して下さいー!」
口元の汚物を拭いながら早苗は苦しそうに、アカギを睨みつけた。
「静かにしろ。今からお前に色々と説明をする」
「せ、説明?そんなことより早くロープを外して下さい!」
体調と落ちつきを取り戻してきたのか、早苗はアカギに大声を出し始めた。
早苗の様子に見かねた雷電はアカギに頼み込む。
「おいアカギ、もういいだろう!いくら何でもやりすぎだ!外してやってくれないか!?」
「……東風屋早苗君。まず初めに誤解を解いておくが、私は妖怪使いなどではないし、さっきのあれも妖怪ではないのだよ。本当だ。それについても今からちゃんと説明する。
私の言うことを信じ、大人しく聞いてくれるのならすぐにでもロープを外してあげよう」
懇願する早苗に、ゆっくり冷静に、極めて紳士的な態度でアカギは答える。
だが次の一言でそんな様子が一変した。
支援
「だがもし、もしもこの私に君が危害を加えるようなつもりなら私もその時は手段は問わない」
早苗はぞっとした。
アカギの瞳が突き刺すように早苗を睨みつける。
太陽を背にし影に隠れたその顔の、瞳の部分だけがカミソリのように鋭く光るのを見て、早苗は戦慄を覚えた。
どうしようもない恐怖。
早苗がここにきて始めて抱いた感情である。
アカギに圧倒され、早苗は静かに返答した。
「わ、わかりました……」
「雷電、外してやって結構だ」
ロープを外そうと早苗の身体に触れると、その体をガタガタと震わせていた。
アカギに対してはっきりと恐怖を抱いているのが分かる。
ナイフでロープを切断し、雷電は早苗に声をかける。
「大丈夫か早苗?」
「大、丈夫です……」
とても大丈夫とは思えない態度を雷電は心配した。
予期せぬ来客の出現により雷電と早苗の状況は激変した。
だがこの島の情景は特に変化を見せない。
空に浮かぶ太陽も、周りの草原も、奥に構える山や森の様子も何も変わってはいない。
朝の日差しが煌々と三人を照らす。
一人の男が、二人の男女を見下ろしている。
二人の様子を確認すると、アカギは語り出した。
「落ちついたかな?さて、じゃあまずは君が妖怪と勘違いしたポケモンから説明しよう」
「ポケモン?」
「先程のはケーシィと言うのだが、あのような生物のことをポケットモンスター、縮めてポケモンという。定義的には、このモンスターボールに入ることのできる生物をポケモンと指す。
非常に多くの種類がいて、それぞれが個性的な特徴を持つ。我々人間の世界においてごく当たり前のように存在している。
ポケモンは様々な用途で用いられ、多くはペットや家畜のように飼育されていたり、トレーナー同士が互いのポケモンを戦わせる競技などにつかわれている。
しかし、ポケモンはその高い戦闘能力ゆえ、一旦服従させれば人間にとって非常に有益な生物であり、ポケモンが犯罪に利用されたり、戦争やテロリズムにおける兵器として用いられることも少なくない」
アカギによる丁寧な説明が二人になされる。
だが彼らはアカギが何を言っているのか全く理解できなかった。
いきなりポケモンだの何だの訳の分からないことを言い出すのだ。
雷電はクエスチョンマークをつけるばかりで、早苗に至っては聞く耳持たずといった様子である。
アカギ企んでることはともかく行動に非はない(パンチ以外)のにw支援
支援
「ごく当たり前?あの生物が?俺はそんなの一度も見たことないが?」
「騙そうとしたって無駄ですよ!どうみても妖怪にしか見えません!」
雷電と早苗はアカギに反論を重ねる。
相変わらず、早苗はポケモンを妖怪妖怪と信じようともしない。
そんな二人にアカギは無表情のまま答える。
「やはりな」
「何がやはりなんだ?」
「私の常識の中では、ポケモンを知らない者などまず存在しない。つまり人類にとってポケモンとはごく当たり前のものなのだよ」
常識?当たり前?馬鹿な?
雷電はアカギが何を言っているのかさっぱり分からなかった。
疑問が解決できないまま、アカギは更に続けた。
「さて、ここからが本題だ」
アカギがより一層真剣な眼差しを二人に送る。
「まず君たち、今は西暦何年だか分かるかね?君たちの世界の時代は今、西暦何年だ?」
一瞬、訳が分からなかった。
君たちの世界?突然何を言い出すんだこいつはと雷電は不思議だったが、とりあえず答える。
「西暦2009年じゃないのか?」
「西暦?分かりません!」
何故早苗は分からないのに自信ありげに言うのだろう。
雷電は隣で頭を悩ませ、こいつ本物の阿呆か?とアカギも内心呆れ果てた。
「ところがだ、私は西暦2007年だと把握している」
「え?」
「おかしいだろう?我々三人、いや実質二人には僅かだが時間の感覚にズレが生じているのだ」
どういうことだ?
俺の記憶違いか?いやそんなことは無い。ビッグ・シェルの事件は2009年の出来事。それは確かだ。
だとしたらアカギが間違っているんじゃ?
支援
「馬鹿な。間違いじゃないのか?」
雷電の思考に影が覆い始める。
アカギは続けた。
「次に、我々は互いの世界観、常識、知識の食い違いを感じている」
そう。
「ポケモン、モンスターボール、幻想郷、化け物じみた数々の力。私たちは互いに初めて目にする情報に困惑している」
図星だった。
早苗はどうだか知らないが、少なくとも雷電は薄々だが何かがおかしいと気づいていた。
ここに来てから常に何かひっかかる。
戦場で見るようなそれとは明らかに異なる強大な力。
何も無い手の平から風を出したり、強烈な光を放つ弾幕状の球体を出すなど、今まで一度も見たことは無かったし、他人が見たり聞いたりしても冗談にしか思わないだろう。何か仕掛けがあるに決まっていると。
だが、彼女らの力はそうでは無かったのだ。
「そこで私はある仮説に辿り着いた……。単刀直入に言おう。この情報の齟齬が示すことは只一つ」
アカギは言った。
「つまり我々は異なる時間軸、異なる空間からここに来ている、パラレルワールドの住人なのではないか、と」
一瞬、雷電の思考が真っ白になった。
異なる時間?異なる空間?パラレルワールド?
さっきから何を言っている?
そんなことを信じろというのか?
突然そんなことを言われて、はいそうですかと簡単に信じられると思うか?
「そんな馬鹿な話が……」
「ああ私にもにわかには信じがたいことだ。だがそうとしか思えない事実がいくつもあるのも確かだ。驚くのも無理はない。私もこの仮説に至ったとき馬鹿なと思ったよ。だが君も心のどこかで何かがおかしいと思っていた、違うか?」
言い返せなかった。
ここに来てからおかしなことが多すぎる。
初めて見るポケモン。初めて見る超常現象の数々。
何が何だか分からなかった。
支援
「ぱられるわーるど?」
アカギが語る衝撃の仮説を前に、一人間抜けな声を出す早苗。
「パラレルワールド。簡単に言えば、自分たちの住む現実とは別に、もう1つの現実が存在するということだ」
「本当ですか!?へぇ〜」
本当に理解しているのだろうか。相変わらずはっきりしない声で早苗は答えた。
「続けよう。もしこの事実が本当なら、恐らくここには最低でも二つの世界の住人がいる。ポケモンの存在する世界と存在しない世界だ。だが、実際はそれより多いはずだ。東風谷君の住む幻想郷の存在する異世界もそうだろう」
ポケモンの存在する世界と存在しない世界。
つまり、アカギの住む世界と、雷電・早苗の住む世界の二つの世界が最低でもあるということである。
早苗の住む幻想郷も異次元にある世界なら、三つだ。
「なら一体どうやって無数の異なる世界の人々を連れてきたのか?すまないがそれは私には皆目見当もつかない。だがおそらく主催者のマルクがそのような力を持っていると考えるのが妥当な所だ」
主催者マルク。
今回の事件の張本人。
この殺し合いはあの道化の手により始まったのだ。
なら、奴がそのような力を持っていると考えるのは当然だろう。
「私の話は以上で全てだ。今話したことは全て仮定の話でしかない。信じるかどうかは君たち次第だ」
アカギの話を聞き、二人は唖然とした表情をしていた。
パラレルワールド。異次元の世界。
全てフィクションの中で語られることだ。
とても現実的とは思えなかった。
「今は気持ちの整理がつかないだろう。だがこれは全て仮説でしかないということは忘れないでくれたまえ。可能性は著しく高いがな」
アカギの語る事が全て真実だとは限らない。
だが証拠だけは確実に揃っている。
「さて。私はこれから島の施設を巡ろうと考えている。今は何でもいいから少しでも情報がほしい。無駄足だと分かっていたとしてもね。」
「何か手掛かりはあるのか?」
「いやない。だがここでじっともしていられない。危険は承知だ。そこでだ、私としては君たちと是非行動を共にしたいと考えている。その方がお互い都合がいいと思うが?」
支援
雷電も早苗も答えない。
無言でアカギを見つめるだけである。
明らかに不信を抱いているのが分かる。
「まだ君たちは私のことをあまり信用していないようだ。表情を見れば分かる。実際自分でも少しやりすぎたことをしたと思っているよ。だが信じてくれ、私は本当にこの殺し合いを阻止するために動いているということを」
アカギは真摯に態度で言ったが、どうしてもそれを簡単には信じられなかった。
「俺たちがお前と行動することに何かメリットはあるか?」
「言い得て妙だな。だが見るからに君はボロボロだ。バルバリシアにやられた傷だろう?そんな体でこの先一人で彼女を守れるのか?私のポケモンを見ただろう。十分君たちの力になると思うのだが」
アカギに指摘されたとおり、もう雷電の身体は傷だらけの状態で満身創痍だった。
今後、自分一人で早苗を守るのは難しい。
だがアカギと合流すれば、彼女は無事でいられる。
なら仕方がない。
別にアカギという男が必ずしも危険というわけではないのだから。
「……そのとおりだ。俺一人ではこの先、早苗を危険に曝してしまうかもしれない。だが正直に言ってお前の話は簡単には信じられない。だが可能性がそれしかないのなら、俺はそれに従うしかないな……」
「東風谷君はどうする?」
「私もまだアカギさんを、ポケモンを全部信じたわけではありません。でも――雷電さんが行くなら、もちろん私も着いて行きます!」
「決まりだな。ではこれからの行動方針は、島の施設を巡り、情報を集める。これで異論はないな?」
「ああ」
「はい!」
支援
いつの間にかアカギがこの集団のリーダーになっていた。
別に話し合いをしてリーダーを決めたわけではない。
だが二人はアカギの言うことに自然と耳を貸していた。
勿論、二人がその心に何を思っているのかは分からない。
アカギを怪しんでいるのかもしれない。
それでも、彼と共に行動をすることにしたのは事実だ。
ギンガ団という大きな組織を束ね、その手腕を存分に発揮し、目的の達成にまで近づいた男アカギ。
人をまとめるという才能に秀でた彼には訳無いのだろう。
アカギは彼らを駒としか考えていない。
彼らは気づいているのだろうか。自分たちがこの男の駒に使われていることに。
既に気づいているのかもしれない。いや気づいていないのかもしれない。
どちらにしろ、彼らの利害が一致したうえでの合流である。
でこぼこな三角形を描く彼らの行方は誰にも分からない。
支援
◆
ククク。
いい駒を手に入れたぞ。
若干、性格に難ありだが二人ともその力に関しては申し分ない。
どうやら向こうも私のことを信じていないようだが問題ない。
その時が来たなら捨てればいいのだ。代わりの駒などいくらでもいる。
十中八九、今回の事件にディアルガとパルキアが関わっていることは間違いない。
この世界を形作るのは、時間と空間の二重螺旋。
彼ら以外には考えられない。
この事実を奴らには言わないでいいだろう。
メリットがあるとも思えないし、逆にデメリットが生まれるだろう。
他の参加者と遭遇したときに言いふらされても困る。
駒は駒らしく私の指示に従えばいいのだ。
これで試練の突破にまた少し近づける。
究極な世界。
完全な世界を作るために。
ククククククク……、フハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!
【B-3/一日目/朝】
【アカギ@ポケットモンスターシリーズ】
[状態]:疲労(少) 、頬に貫通傷(治療済み)、全身に痣
[装備]:モンスターボール×2(ケーシィ、リザードン)
[道具]:基本支給品一式、モンスターボール(ケーシィ)、モンスターボール(リザードン)、リポビタンD、治療道具一式
[思考]
基本方針:もとの世界に戻り、野望を達成する。自己保身優先。手段は問わない。施設を回り情報を集める。
0:いい駒が手に入ったフハハハハ!
1:殺し合いに乗っていないように振舞い、仲間と情報を集める。
2:伝説のポケモンによって試されているのか?それとも……
3:主催者に反抗するか、殺し合いに乗るかは明確に決めていない(決めない)。
※ここが異世界であることを、なんとなく認識しはじめました。
※ケーシィは疲れています。
※リザードンを完璧に使いこなせません
※どこに向かうかは次の書き手にお任せします
支援
◆
パラレルワールド。
フィクションでしか無かったことが現実に成りつつあるのか。
オタコンもこの事実に気づいているかもしれないな。
しかし……。
アカギ。
この男は危険だ。
少なくとも殺し合いに乗っているようには思えない。
だが奴にはそれ以外に何か目的があるように見える。
心の奥に何か隠しているような気がした。
目的の為なら殺しも厭わないような奴だ。簡単に信用してはいけない。ましてやこの状況だ。
こいつと一緒にいて本当に平気なのか?
こいつを早苗と一緒にいさせていいのだろうか?
奴が目的のために早苗を手にかけることだってあるんじゃないか?
早苗、お前は俺が絶対に守る。
こんな所で絶対に死んでなるものか。
死んでいった二人のためにも。
ローズとオルガの子のためにも。
早苗のためにも――。
【雷電@メタルギアシリーズ】
[状態]:ダメージ(大)疲労(中)全身に裂傷
[装備]:強化外骨格、スローイング・ナイフ(2/3)
[道具]:基本支給品一式、確認済み支給品1〜2、グリーンの全支給品一式(未確認)
[思考]
基本方針:妖怪退治をしながら仲間探し。施設を回り情報を集める。ハル・エメリッヒとの合流。
1:アカギ、こいつは危険だ
2:ハル・エメリッヒとの合流
3:グリーンのためにも自分の出来ることをする
4:リボルバー・オセロットを警戒
※MGS2エンディング後、MGS4本編開始前からの参戦
◆
アカギさん。
正直に言って怖いです。
でも……。
でも本当にポケモンは妖怪じゃないんですか?
結局うやむやなまま、何も解決していません!
呼ばれ方が違うだけで、結局は同じなんじゃないですか?
いや、そうに決まってます!
ならば妖怪は私が一人残らず退治しなければいけませんね!
でも……、アカギさんが怖くて……。
いいえ、頑張るのよ早苗!妖怪は悪。それ鉄則です!
そうです!だからこの私が頑張らないと―――――やっぱり怖いですー!
【東風谷早苗@東方Project】
[状態]:気分が悪い。アカギに対する恐怖。
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、支給品(0〜3、すべて未確認)
[思考]
基本方針:神奈子様の仰るとおりに。施設を回り情報を集める。
0:アカギさん怖いです
1:ポケモン?妖怪じゃないんですか?
2:妖怪退治をしながら仲間探し
3:雷電に妖怪退治の何たるかを教える
4:ゴムボールの妖怪(メタナイト)と次に合う時は逃がさない
5:ピエロの妖怪を退治して、元の世界に帰る
支援
ん?投下終了? なら投下乙!
アカギ危険な男だぜおい
早苗さんもはやギャグ。霊夢みたいにならなければいいけど……
投下乙
アカギまじでサカキ様と被ってるなww
でもなんとなくアカギの方が冷静で頭良いイメージ
そして早苗さんww
いろんな意味で危険すぎるww
変なことしてアカギに目ぇつけられるなよ
投下終了です。
たくさんの支援ありがとうございました。
また、投下期限をオーバーしてしまい、本当にすみませんでした。次は気をつけます。
いくつか訂正箇所がございます。
1、
>>310のアカギの台詞「ところがだ、私は西暦2007年だと把握している」→「ところがだ、私は西暦2006年だと把握している」
理由は、アカギのいる世界の時代設定を2006年にしたのは、原作ポケモンダイヤモンド&パールの発売年が2006年だからです。
2、
>>316 地の文、アカギは真摯に態度で言ったが、どうしてもそれを簡単には信じられなかった。→アカギは真摯な態度で言ったが、どうしてもそれを簡単には信じられなかった。
以上です。
何か他に訂正箇所や矛盾などありましたら、お願いします。
ちなみにタイトルは、銀河に集う星たち、です。
ポケモン世界に西暦ってあるの?
>>329 転載で悪いのですが、以下のサイトにこのような記述がありましたので抜粋します。
ttp://www.natio-radio.com/mono/nr_m_history.html 年代について
1996年発売の攻略本「ポケットモンスター図鑑」(アスペクト)から、ポケモン世界でも西暦が使用されていることが確認できます。
また、「赤・緑」から「金・銀」までの期間が、現実世界でも物語の設定上でも共通して3年となっています。
これらを根拠に、ゲーム本編での年代は、現実世界での西暦に基づくものとします。
また、主人公が起こす、または遭遇する出来事は、すべてそのゲームの発売年に起こったこととします。つまり、「赤・緑」の舞台は1996年、「金・銀」の舞台は1999年となります。
とありましたので、そちらを参考にしました。
投下乙です!
咲夜さん終了かと思ったらまさかの展開にウルっときた
オタコンは仲間への影響的にも知識的にも対主催への希望を繋いでくれたな
メタルギアは確実に苦手なシステムなのにプレイしたくなってきた
幽香の死に際のセリフも良かった、けどアドの精神状況が危ねえええ!!
カービィもデデデもすぐ近くで死んで幽香まで死んで、シャドウもいるのにこれはヤバイ
誰かこの子を助けてあげてくれええええ
アカギは対主催方針だと心強い気がするな
セリフ見てると本人には戦闘能力ないのにカリスマがパネェ
早苗さんは通常運営の暴走っぷりで安心したw
もう妖怪っぽいキャラはいなくね?と思ったが
この調子だとペルソナでも反応しそうだな…厄介な子だww
しかしセシルはプリキュア改め暗黒騎士せしる☆マギカ状態だな
親友と離れた挙句に何もかもどうでもよくなっちゃったか…
ゴルベーザさん マジ死神
両書き手投下乙です。
あっけない、あまりにもあっけない魔理沙の死。だがそれがいい。
足立のせいで色んな奴が死んだが、足立も良いキャラだった。
早苗は相変わらずで雷電も大変なのに、
そこにアカギが合流とか、危険なパーティーだ。
参加者も半分を切ったし、この先どうなるのか色々楽しみです。
投下乙!
強いとはこういうものだと言わんばかりの幽香無双は楽しませてもらいました
そしてその強者に立ち向かう心つよきものたち
瀬田組と千枝組の共同戦線は、出会ったばっかりなんだけど、それぞれ知り合いが多かったこともあって違和感なく燃えた!
レミ瀬田の相変わらずの信頼関係に安心し、アド幽香の絆に泣き、キョウと漆黒と咲夜さんとオタコンの影響のしあいにもうるっときた
そしてカービィーのファイヤーへのみんなの反応に吹いたw
だからこそ時にはあっけなく、時には不意に、時には燃え尽きての皆の死はどれもこれも叫びたくなったぜ
要らないやつは一人もいなかった
足立でさえ、最高にいい意味で小悪党やってたし
アシュナードや漆黒といった今まで化物性や虚無感ばかり取り上げられていたやつの内面が垣間見えたのもいいな
カインは案の定裏切ったけど、その前後も相まってセシルはせつねえ
ゴルベーザの歪みを指摘するレミリアマジカリスマ
ってかほんと、お前、ぼろぼろなレミリアらほってくなよ
主宰陣も色々動いたし、本当に面白かったです!
かと思えば新たにもう一つチーム結成!?
互いに腹に抱えるものや迷いや疑惑の入り交じったこいつらの行く先にも期待
>>332 しかし、今度ばかりは満身創痍でカインとアシュナード倒しに行く
ゴルベーザに死神が降りてくるような気がしてならない
そしてまた予約…だと…!?
そっくりさんが出会ってどう転ぶか期待!
自作をwikiに収録しました。
また、その際アカギの状態表にロープを追加したことを報告します。
キョウ、カービィ、幽香の最後に拍手を。あっぱれ
そして狂王カッコいいなぁオイ
アドレーヌはカービィ粋で早々にただ一人になったか
言っちゃあなんだが意外だw
>>323 タwwwwwケwwwwシwwwwww
どんだけ影薄いんだお前はw最初っから笑ったわw
そしてアカギ。BWのゲーチスがでてくるまでポケモン界最強の
電波(キチ○イ)と一部から言われてただけはあるな
こいつはなんだかんだで仲間内には義理人情派なサカキと違って
完全に自分中心、それ以外は目的のための駒として見てるからな
・・・・・というかもう残り20人切ってんのかw
少人数ロワだけにテンポ良いのね
その割には主催陣が割と無理ゲーメンツなのがもうねwww
皆さん地震大丈夫ですか?
こんな状況ですが〆切を大幅に過ぎている為、今から投下します。
ルビカンテ、レッド、花村陽介 投下
あの頃は必死に何かを追い求めていた。
ポケモンマスターになるのが僕の夢だった。しかし夢というもの、それは何とも儚い物で、叶えた瞬間消えうせるものだ。
達成感。そして数日間に及ぶ高揚感。しかし日にちを追う事にそれは消えうせていく。
気分転換にチャンピオンロードを回ったり、またジョウト地方やシンオウ地方への遠出。
それでもこの燃え尽き症候群(バーンアウト)をどうにかすることができなかった。
ふと、親友であり、嘗てライバルだったグリーンに相談をしてみた。なぜ『嘗て』だったという表現をつけたかは、彼では僕のライバルをもう務める事はできなくなったからだ。
彼はもう弱くなっていた。いや、僕が強くなりすぎたのかもしれない。
だけど彼は僕の事をよく思い、奇妙な信頼関係が生まれていた。だからこそトキワジムのジムリーダーになれたのかもしれない。
彼は『シロガネ山に行ってみたらどうだ?』と僕に言ってきた。
シロガネ山だって?冗談じゃない。あそこは人間が入ってはいけない場所だ。完全にポケモンしかおらず、尚、そのポケモンもとても強い。
だけど、グリーンの目を見ると……どうやら冗談ではないらしい。これをどうにかするにはそこに向かうしかないらしい。
自身は無いけれど……。
でも、僕の不安な気持ちはすぐになくなった。旅を続け、戦い続けた僕は、もはやシロガネ山のポケモンでさえ相手にならなくなった。
これで、僕の相手はいない。完全な無。シロガネ山の最深部で寝転がる。
ふと、昔の剣豪、宮本武蔵を思い出す。彼みたいにポケモンの五輪の書でも書こうか。
……馬鹿馬鹿しい。僕はまだそんなに歳をとっていない。
僕は目を閉じる。
そんなシロガネ山を何日、何ヶ月、そして3年と少し。彼が、――――が僕の事を尋ねる数日前。
僕はなんだか懐かしい夢を見た。まだポケモンがいない世界、人間もいない世界。そんな世界を僕は歩く。そして目の前に、彼が現れた。
「……っ!」
僕はその痛みに溜まらず目を開けた。
ここは森のど真ん中。寝返りを右に向けて打ってしまったらしい。痛覚は鈍っているが、自分の右手に体重をかけてしまったのは間違いだったらしい。
サカキとの戦いで少し疲れていて、休息をとっていた所だ。……この様子を見ると自分はどうやら夢を見ていたらしい。それも昔の。
ああ、しかし昔のことなんて思い出すなんてなんとも奇妙なことだ。
シロガネ山の夢。今の自分には酷く皮肉なものだ。なぜこんな夢をみたのだろう。
ぐぅ〜
「……………。」
……そういえば自分は食事を一度も取っていなかった。この状態で戦闘に巻き込まれたりしたら問題だろう。
もっとも万全の状態でも僕はかなり弱いから意味ないと思うけど。
デイパックから取り出したのはプラスチックの袋に入ったメロンパンみたいなパン。
テカテカと光沢している以前に、包装されたプラスチックに成分表も何もかかれていないのを見ると、ちょっと安心できない。
それでもお腹がすいているのにはかわらない。なので意を決してそのパンを一口噛んだ。
――――なんだこれ。口の中、パッサパサじゃん。パッサパサだよマルク!お口の中、パッサパサだよ!
しかも喉に詰まる。無駄に詰まる。仕様が無いのでペットボトルの水で流し込む。
というよりか、味が無い。この光沢の部分は砂糖が塗られているのかと思ったけど、そんなことはなかった。
サファリパークで間違えて食べたコイキング用の餌を思い出す。確かこんな味だった。うん。
だけどこんな味でも食料には変わりない。黙って口に押し込んでいく。完食。
正直酷い朝ごはんだった。デイパックを除くとまだパンが数個入っている。……食べたくない。
無言でデイパックを閉じ、立ち上がる。……が、やめた。
デイパックの中で光っているものが気になり、取り出す。クリスタル。その光が美しくて、抱きしめる。
これはいったいなんなのだろうか。なぜあの研究所に隠されていたのだろうか?
「……!」
正直、その考えが浮かんだ時にはもう遅かった。これを餌にして他の参加者との交渉ができるじゃないか。
なんでこんな簡単なことが思いつかなかったのだろうか。……いや、仕様が無いことだろう。これはそれを忘れさせるぐらい美しいのだから。
だが、問題点がある。このクリスタルの活用方法だ。
はい、今日、ご紹介する商品はクリスタルでーす。なんとこれ、鑑賞の他に鈍器に使えます!、とでも?酷くつまらない話じゃないか。
それに隠す必要があるというのはこれは重要なものなのではないのか?
今の自分には情報が少なすぎる。それ以前に出会った人物も少ない。タケシ、サカキ、そして巫女。
たった三人。しかも話が通じる相手でもなかった。他二名はこれをもっていなかった為に普通に襲撃して終わりになってしまった。
僕はもう少し他の参加者と接触しなければならない。それも自分を守ってももらえるような屈強な戦士がいい。
ポケモンの様に感情があるなら僕も楽だ。……もっとも人を利用することなんてこれが最初で最後なのかもしれないけど。
「……!」
その時だった。違和感が急に僕を襲った。……この感じは……彼だ。
☆ ☆ ☆
「なぁ、ルビカンテ、すっげぇ気になるんだけどさ、そのマントの下って、服着てるのか?もしかしてすっぽんぽん?」
「マントの中、見せてやろうか……?」
「……いや、遠慮しておきます。はい」
放送数分前。ルビカンテと陽介は歩きながら放送をいまかいまかと待ち構えていた。
だが、まだ放送は流れない。陽介は(まだかよ……凄い気まずいんだよこの空気……)とか思いながら少し前のルビカンテに視線を伸ばす。
……やっぱりすっぽんぽんなのか?でもすっぽんぽんで、見せてくれたらただの変態じゃないか。俺も、こいつも。
「なぁ、お前、趣味は?」
「強者との正々堂々なる戦いだ」
……会話が続かない。だが、奇妙で面白い。そして切ない。なんだこの某RPGみたいな……。まぁとりあえず自分はこうやって無駄な会話を続けていた。
情報交換もロクにせずに。情報交換よりルビカンテに質問しているほうが面白い、という理由でだ。
「……お前ってそんなんなんだ。好きなアーティストと女優とか居ないの?りせちーとかも知らない?」
「……アーティストか?若い頃はよく音楽をよく聞いていたな。私のオススメは『超絶美人静寂狂乱殺戮破壊性欲天……
「まった!んだそのアーティスト!?」
会話が弾まない。否、会話が噛みあわない。このよくわからない話を楽しんでいたのだが。
「(……んー、まさかとは思うが……)」
情報交換をしていない理由は他にもあった。マヨナカテレビより面倒な事を増やしたくは無い、という理由からだ。
だが、それは聞かずにはいられない。
「……なぁ、ツンデレのルビカンテ」
「なんだツンデレ見習いの花村よ」
気がついたら自分はツンデレ見習いにされていた。まぁいいか。それより大事な事が聞きたかった。
「……もしかしてー、異世界出身だったりしますかー?」
☆ ☆ ☆
「………………いるんでしょ?」
そう、そこにいる何かに声をかける。だけど、返ってはこない。当然だろう。あのポケモンは人の目の前に現れる事は、まずない。
何年か前に一度だけお目にかかれたのを思い出す。それ以降、僕はそのポケモンに付きまとわれているが、僕の目の前に現れることは無かった。
近くにはいる、だけど、見えない。シロガネ山に篭ってた時はずっとそうだ。もしやここにも付いてきているとは予想もしていなかった。
「なんで僕の事を付きまとうの?」
返事はない。彼だからこそ。だからこうやって時間を戻すのも容易いのだろう。
だが、僕は彼を心底嫌っていた。僕は、ポケモンを道具扱いにしていた。なのに、このポケモンはずっと僕を見てきている。
まるで、ママの様に優しく。僕を見守っているのだ。少なくとも僕が殿堂入りしたあたりから。
「君にはこんなことをしてもメリットはない。でも君はずっと僕を見ている」
―――悲しみが、僕を覆う。これは僕の感情ではない。僕を見ている彼の感情だ。
彼はテレパシーで僕に疎通を行う。だけど、正直にいうと彼は鬱陶しい。僕の事を嘲笑しているようにも感じ、ママのような優しさを匂わせる。
「…………僕にもう付きまとわないで」
僕はその場からデイパックを肩に掛け、走り出す。そのポケモンから逃げる様に。
――――大丈夫。君は、きっと、思い出すよ。君はやさしいから。
☆ ☆ ☆
「……ふむ、十人も逝ったか。我が戦友、バルバリシアとリディアも。野蛮であったが、バルバリシアはとても強かった。リディアも優しい召喚士であり、彼女の召喚魔法には梃子摺らされた。彼女達は素晴らしい戦士だった。言うなれば、『ツンデレ』だ」
「……そうかい」
もはや『ツンデレ』に突っ込む理由はない。ツンデレとは敬意ある戦士に送る言葉、ということにしておけば面倒事は起きない。
だが、それはどうでもいい。
「……10人も死んだ」
「ああ、戦って死んだ者もいれば、造作なく死んでいった者もいるだろうな」
「過程なんてどうでもいい。俺は」
結果として10は死んだ。これはこの狂った遊戯に乗った人物が多いということだ。
「俺は、助けたい。死んじまった奴らに申し訳ない。だから……」
その言葉の意図が理解できたルビカンテはため息をつき、花村に言葉を突きつけた。
「私は、お前の様に勇気あるものが好きだ。……だが、そういった感情に振り回される人間が……残念だが強くはなれない」
「俺は!そこにあるものが守れれば別に強くなくたっていい!生きたいように生きて、それが弾みで死んじまっても、それが本望だ!」
ルビカンテが言うのを花村は遮り強く言う。
そうだ。俺は、そして皆は生きなければならない。そうしなければ今日を生きられなかった先輩にも申し訳ない。
俺は精一杯生きるんだ。
「……そうか」
だが、反応があっけないもの。えっなにこれ。反応それだけ?てか、よく考えると、この台詞臭くね?
……なんだか凄い恥ずかしくなってきた気がする。人は死なせたくないんだけど、なにこれ恥ずかしい。
「……なんか反応薄いんだけど」
「……すまんな。死ぬ前を思い出してた」
「ああ、そう。…………は?」
おい、なにそれ、いま言う事か。
「お前によく似た忍者を知っている。奴も強い戦士だ。彼もツンデ……」
「ちょっまて。なにそれ。……ごめん。俺が悪かったから……情報交換をしよう」
花村は思った。わけわかんねー、と。死ぬ前?忍者?
ってか、まだ情報交換していなかったわけで。
☆ ☆ ☆
「……ん?」
「……どうしたのよ?」
モニターが何個も並ぶ部屋でイザナミが突拍子もなく声を上げる。いまマルクがこの部屋にはおらず休憩室でジュースでも飲んでいるのだろう。
入れ替わりにイザナミがやってきて永琳をため息をついた。
この部屋は殆どこの部屋ではあまり喋りたくないのが本音であり、イザナミがこの部屋にきても『ああ、そう』とか『へぇー』とかのあっけない返事を繰り返していて、結果としてイザナミも一言も喋らず、事務的な事をこなすだけになった。
イザナミはどうやら一番忙しいらしく色々は部屋を行き来している。まずはこのモニタールーム。なにを制御しているかわからないボイラー室。同じく用途不明の電源室。そして、……人質の部屋。
忙しい、忙しいと口に出すが、彼自身が望んだことだ。まぁ別に声をかけるきにもならなかった。
だが、今回のそれは先ほどの様子とは違った。驚嘆の意だった。
「ここ、見て」
イザナミが指を刺す。幾つもあるモニターの中で一番目を弾く、赤と青と黄のサイケデリックなモニター。
つまりサーモグラフィーを指差す。永琳は管轄外の仕事だ、と一言呟こうとしたが、イザナミと同様の反応を見せた。
「……この周辺にいる参加者は?」
「……えっと、まってね〜かわいこちゃん〜。……サカキ、博麗霊夢、東風谷早苗、雷電、アカギ、……『unknown』、レッド、ルビカンテ、花村陽介、だな。……ふーん、面白い反応だね」
「……『unknown』?」
永琳は歯軋りした。このタイミングで訳の分からない反応。機械の故障?
「……普通のカメラの映像は?」
「おいおい、これは俺の仕事さ。ただ単に気になっただけさ。君がそうやって反応をしてくれるのは嬉しいことだけど、この謎は俺が解明する」
それに、普通のカメラは設置していない、と付け加えるとは、自分を突っぱね、部屋を出て行った。モニターごと。代わりにマルクが戻ってきた。
「……あれ?イザナミが珍しく焦ってたのサ」
「私だって焦ってるわ。会場で参加者以外の人物がいるとしたら、ね。機械の故障だといいけど」
その一言を言うとマルクの顔はみるみる青くなっていく。自分もそれを見てさらに狼狽した。私達側と参加者以外が会場に降り立ってはいけない。
降り立ってしまったら私達も、参加者も最後だ。イザナミも最後の時を迎えるだろうが、自身の命なんてどうでもいいと思っている輩だ。
つまり実質的な被害を受けるのは、私達。ああ、困った。ここまで頑張ってこんな所で呆気無い最後というのは望んでは、いない……
一方、イザナミ。自分専用の部屋に戻り、モニターを設置、そしてデータ解析。データ解析、という芸当は先ほどまでできなかったが、できるように学んだ。
データを照合し、レッドが二人いる事実を調べる。なぜいるのか。まばたきをせずに、その二つ、レッドの点を見つめる。
「……あららら、これは凄いもん見つけた。面白くは無い展開だ。……でも放って置いても問題はないか」
自分の思いすぎだったみたいだ。なに、ただ全知全能の神様が趣味の悪いストーカーをしているだけ。
レッド以外は誰も気付かないだろう。
自分もたまたま気付けただけだ。結果として永琳も気付いたが、彼女の心配事を増やしただけだった。それもそれで問題はない。
「まぁ、俺ならこいつにぎりぎり勝てそうな感じだね。他の奴らにゃ無理だ。……お前、そんなにそいつが愛しいのかい」
レッドを示す点の近くに『unknown』と表示された点を見つめる。正直、こいつが自分達に干渉することはないだろう。
そして、参加者にも。否、干渉がほぼ不能だ。つまりこの画面に映るのは意識体だけであり、肉体は存在しない。
まぁ放っておいてもきっとこの催しに支障はないだろうし。
しかし、どこから彼は湧き出たのだろう。これは個人的に調べようかな。
☆ ☆ ☆
「……魔法?月の民?......わからん」
「落ち着け。陽介よ。冷静に考えてみろ。戦士なら考える力も必要だぞ」
「ありえねー!ぜってーありえねえって!。ってかなんでお前はペルソナ使いについてはツッコミなしかよっ!?」
陽介が叫ぶ。ルビカンテは頭をポリポリと掻き、陽介を諭す。だが意味は成さない。
だが、きっと陽介は自分でもわかっている。これはありえない内容だと。
「……陽介。私達にはいま目的がない。お前の言う襲った連中も見当たらなかった」
「じゃあどうするんだ?俺タウロスタウンに行きたいんだけど……」
「そうしよう。そこなら他の参加者がいるかもしれない」
陽介の言っていたペルソナ使いとも一戦できるかもしれない。(日本という世界は滑稽な話で信じられないがペルソナは信じられた)
それに、今の自分はまだ戦闘という戦闘はしていなかった。カインの時も逃してしまった。
……あの時は、カインに幻滅していたところである。次に会ったときは、倒す。……否、殺す。
「そうと決まれば、行くか!」
「よし、ゆくぞ陽介」
そして二人は立ち上がる。
が、立ち上がるときに、陽介はルビカンテのマントを踏んでしまい転ぶ。
「えっ」
「なっ」
そして、なぜか、ルビカンテは陽介に覆いかぶさる様に倒れる。
「ああ、すまぬ」
「いってーな!……まぁいいか。早くそこをどけ!なんだこの体勢!?」
マントだけ(見えるかぎり)で素足をチラチラさせる存在は異質であり、この体勢は危ない。
どこかの後輩を思い出すが……いや、あれはシャドウだったな。それを想像しないようにルビカンテにどいて貰おうと……
「む?」
「早くどけよっ!なにが『む?』だよっ!………え?」
視線を感じた。そしてその視線の先にいたのは黒髪の少年。片方の腕はわけのわからない方向を向いていて、こちらをみて呆然を立っていた。
「……その怪我は大丈夫か?少年。一人じゃ寂しいだろう。我々に混ざらないか?」
ルビカンテは少年のその怪我を見て、身を案じた。この殺し合い、まさかこんな少年が巻き込まれているとは想像もできなかった。
こんな陰惨な殺し合いに巻き込まれて声も出せないぐらいに怯えているじゃないか。保護しなければならない。
「…………おい、ルビカンテ。考えて物を言えよテメエ!!!」
だが、陽介がかなり怒る。なぜだ。こんな少年を保護しないとは……幻滅だ。こんな奴を弟子にした覚えはないぞ。
弱者は救うのが当たり前だというのに……。
ルビカンテが軽蔑の視線を送られている陽介は思った。おい、この体勢でその台詞を言うのは不味いだろう。混ざるじゃなくて他にも言い回しがあっただろう……
いや本当に。なにこれ、ほら、少年が震えてるジャン……
「…………ホモの変態カップルだあああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」
「いやっ、違うんだよ少年Aよっ!!これはただ転んだだけであってっ!」
「む?どこにその変態がいるのだ?」
「おめえーだ馬鹿っ!おい、少年Aよ、俺達は無害……」
「ホモの変態カップルだあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」
【レッド@ポケットモンスター】
[状態]:生足の変態のせいで 忘れちゃった
[装備]:はがねの剣、コルトパイソン(5/6、服の下に隠している)
[道具]:基本支給品一式、極細ワイヤー10m(残り5m)、はがねの剣@FE、コルトパイソン(5/6)@現実、クリスタル
[思考]
基本方針:生きて帰り、少年と再戦する
0:へんたいだあああああああああああああああああああ!!!
1:変態を滅する
【花村陽介@ペルソナ4】
[状態]変態。ツンデレ見習い、ルビカンテとカップル
[装備]熟練スパナ@ペルソナ4
[道具]基本支給品一式、ランダム支給品×1(武器にはならない)、スタンドマイク@星のカービィ
[思考]
基本方針:殺し合いはしない。まず仲間達と合流、その後行動方針を決める
0:まてって!誤解なんだって!本当だって信じろって!しばいたろか少年Aよ!
1:おい、ルビカンテ、そこをどけ!いつまでそこにいるつもりなんだおめえーは!?
【ルビカンテ@ファイナルファンタジー4】
[状態]ツンデレのルビカンテ、変態のルビカンテ、生足のルビカンテ。そして彼は伝説になった……
[装備]なし
[道具]基本支給品一式、ランダム支給品未確認×2
基本方針:ゴルべーザ様を探し、指示に従う。強者との戦いを望む。
0:変態はどこだ?
1:落ち着け陽介よ。少し下着が食い込んできて迂闊に体勢を崩せないのだ……
☆ ☆ ☆
「永琳。残念だが、機械の故障だった」
「残念なのは貴方でしょう」
そうイザナミに言うも、心臓の鼓動はずっと高鳴ったままだった。安心してしまい、大きくため息をつく。
それをイザナミに見られて、しまった、と思う。また何か面倒な言い回しで私達の精神状態を削り始めるのか。
だが、想像とは違ってイザナミは黙ってこちらの目を見てくる。
「俺も心底嬉しいよ。参加者とこちら側、そして意思を持った支給品、ポケモンとか人形とか以外がこの会場に降り立ってしまったらこの計画は全て水の泡だ」
「確かに大変だったわね」
その言葉をイザナミに言うがそれは空っぽの言葉であり永琳にとっては一番願っていることだったのでこう返すしかなかった。
さあ、原因を伝えたのだから早くこの部屋から出て行ってくれ。
「そういえば、支給品のポケモンってなんであんなに強いのサ?」
「殆どシロガネ山から連れてきたようなポケモンだからね。あの山には『ひんし』なんて状態はないよ。人間は勿論、人間も一撃で死ぬような強さだからね」
だが、マルクが素朴な疑問をイザナミにぶつける。それを予測していたかの様にイザナミはすぐに応答をする。
確かにそのことについては疑問に思っていたが、こいつに聞くのは癪だったので聞くことはしなかった、がマルクはそんなことは全然気にしないらしい。
「そして、そのポケモンがゴロゴロしている山で3年も過ごした少年がレッド。彼は強いよ〜。頭も良いし、皆無だった戦闘センスはいま急激に上がってる。そしてポケモンの知識は半端ない量を持っている。きっとポケモン世界一さ。..」
「あら、急に参加者の話になったわね。私以外はまったく興味がないと思ってたわ」
「ハハハ、違う違う、トトカルチョでやらないっていう話を……」
「断るわ」
「自分もいいのサ」
マルクはこのときばかりはしっかりと否定してくれた。ああ、やはりこの子は良い子だ。
それをみたイザナミはムスッとした表情で自分達に背を向けて歌を口ずさみながら出口に足を進める。
「Now I face out I hold out〜♪」
「んー?イザナミ、なんの曲なのサ?」
「……誰だったけな。お気に入りなのに忘れちゃったぞ。まぁいいか。じゃ、俺は戻るよ。……あっ!忘れてた。あとで上司的な方々と会議的な物をするから会議室的な部屋来てね〜」
マルクにも後ろを向いたまま応答し、そして部屋からでていった。
「……会議。あの怖いお姉さんとかおじさんとかポケモンとかまた会うのは勘弁なのサ、ね、えーりん」
「(……この事はまだ話すべきじゃないわね)」
「……えーりん?」
霧雨魔理沙の運よく拾われたモンスターボール。あれの中身は私以外だれも知らない。
あれは元々隠れボーナスアイテムであり海に漂うように設定されている。(他にも海に漂う隠しアイテムがある。主に参加者を催したフィギュア)
しかし少し細工をしてあそこのエリアに現れるように設定をしたのだ。
気がつかずに拾われない可能性もあったが、彼女が注意力が高いこと知能が高いことで会場の鏡写しのループにも気付いてくれる大きな収穫もあった。
……もっとも今は精神的にも肉体的にも危ない所を付け込まれ、足立透とかいう奴に騙されており、結果として今は完全に足立の操り人形と化していた。
それの重要性に気付いているのは瀬多総司だけだ。彼に早くそれが行き届くのを願いたい。
「えーりん?」
「ああ、ごめんなさい。ちょっと考え事」
「会議あるらしいのサ……」
「……そうね、首括りましょうか」
「永琳は死なないし、僕には首がないのサ」
ああ、そうだった。
しかし、ポケモンというのは不思議な生き物だ。人間に追従しながらも信頼関係を築く。このような関係をもつのは幻想卿じゃ先ず無い。
モンスターボールの中身とはどうなっているのだろうか。あんな狭い場所で息を潜めたくは無い。
ああ、その事を考えると彼に申し訳ない気持ちが浮かぶ。……まてよ。
「(……まさか、『unknown』は彼?……つまりイザナミにバレた?……いや、攻略本には載っているけど中身は私がすり替えたのだから気付いてない筈。彼はゲーム機のプログラム変えるのにで精一杯だったはずだ)」
……大丈夫。彼の事はバレてはいない。攻略本に書いてある『マスターボール』の欄には
『海に漂う隠しアイテム!中身はファイアーで、全てを焼き尽くすポケモンだ!クリスタルを全て集めた御褒美に全ての参加者を焼き尽くせ!』
だとかの趣味の悪い記述がしてあるのだ。中身はファイアーではなく、彼が入っている。……もしや彼がこうやって意識だけを送りこんで会場内に現れる事をするのは予想外だったが。
やはり彼は万能なポケモンらしい。自分でも彼を味方につけることができてよかったと思う。
「(……ボールの中身を挿げ替えたのはバレてはないにせよ、彼の仕業だってことは勘付かれてる)」
......大丈夫。確信は突かれてはいない。ならばこのまま突っ切るしかない。知らないふりをして。
「(......それにしても、彼は本当にレッドがお気に入りみたいね)」
「えーりんー!会議室行く前に休憩室行くのサ」
あなたって休憩ばっかしてるじゃないの、と言おうと思ったがマルクの笑顔を見ているとどうでもよくなった。
☆ ☆ ☆
「……………………………」
「というわけなんだよ。信じてくれ!」
「むー、そうか、その発想があったか。大丈夫だ陽介よ。私は男に色情沙汰なんて…………」
「だー!お前は黙ってろっての!やっぱツンデレ剥奪すっぞ!」
なぜそこでツンデレという単語がでるのか不思議だったが、まぁどうでもいい。
彼らに取り入って守ってもらうことにしよう。
「………………………………………………僕が誤解してたみたい。僕の名前はレッド」
「……あー、よかった。やっと誤解が解けた。俺の名前は花村陽介。陽介って読んでくれ。別に『先輩』とかつけなくていいからな」
そこまで言う必要があるのか、こいつは馬鹿なんじゃないか。そう思うが口には出さない。
いつか足元を掬われるタイプだ。逆にこちらも掬われないように気をつけなければ。
「私の名前はルビカンテ。ツンデレのルビカンテと呼んでくれ」
こっちは馬鹿にしてるのか、という態度を取ってくる。マントから生足が出ているということはマント以外になにもつけていないのだろうか。
いや、それ以前にツンデレのルビカンテって………………やっぱり変態だ。しかもホモだ。こいつに襲われないように気をつけなければいけない。ああいう意味で。
「それで、レッド。その傷はどうしたんだ?」
「………………………………………….これは、サカキっていう男に襲われたんだ」
本来の目的はこいつらに守ってもらいながらサカキとあの巫女の悪評を回すことだ。
こいつらは頃合を見て裏切ればいい。クリスタルの事は……話すべきかどうか。クリスタルは、一撃必殺技の様なものだ。まだ話すべきではないかもしれない。
――そんな事を考えていると、また彼が悲しい感情を僕に送り込んできた。
………………なぜ彼は僕に付きまとうのだろう。鬱陶しくてしかたがなかった。
【朝/B-2/1日目】
【レッド@ポケットモンスター】
[状態]:右手首損傷、右肩脱臼(右腕は使い物にならないレベル)、精神疲労少、精神的安堵感および高揚感、痛覚麻痺、帽子無し。
[装備]:はがねの剣、コルトパイソン(5/6、服の下に隠している)
[道具]:基本支給品一式、極細ワイヤー10m(残り5m)、はがねの剣@FE、コルトパイソン(5/6)@現実、クリスタル
[思考]
基本方針:生きて帰り、少年と再戦する
1:陽介とルビカンテに守ってもらう。頃合が来たら裏切る
2:巫女(霊夢)とサカキの悪評を言い回す
3:『彼』が鬱陶しい
4:ルビカンテを警戒(ホモかもしれないので)
5:クリスタルは誰にも渡さない。
※サカキを『3年前のサカキ』と認識しました。
【花村陽介@ペルソナ4】
[状態]健康
[装備]熟練スパナ@ペルソナ4
[道具]基本支給品一式、ランダム支給品×1(武器にはならない)、スタンドマイク@星のカービィ
[思考]
基本方針:殺し合いはしない。まず仲間達と合流、その後行動方針を決める
0:よかったー、誤解解けた。
1:レッドとの情報交換
2:瀬多総司、里中千枝、天城雪子を探す為にタウロスタウンに行ってみる。
2:ルビカンテと行動を共にする
3:カインを警戒。
※カインの名前はルビカンテがカインと呼ぶのを聞いています。
※作中からの登場時期に関しては真ルート突入前、ペルソナはジライヤ
足立に関しては頼りない刑事の印象です。
※雷電と早苗を危険人物と判断しました。
【ルビカンテ@ファイナルファンタジー4】
[状態]ツンデレのルビカンテ
[装備]なし
[道具]基本支給品一式、ランダム支給品未確認×2
基本方針:ゴルべーザ様を探し、指示に従う。強者との戦いを望む。
1:レッドとの情報交換
2:花村と行動を共にする。戦いを通じて自分の技を教える。
3:強者との戦いの為、町へ向かう
※作中からの登場時期はカインと面識がある以降、時期不明としておきます。
※花村が自分の弟子になりたいと思っていると勘違いしています。また、ツンデレという言葉を敬意ある戦士に送る言葉だと思っています。
※花村から雷電と早苗の容姿を聞きました。
大丈夫、大丈夫。君は、僕らの事を一番よくわかってるから。
君が最後の時を迎える時まで、君を見守る。
僕がついてるから、安心して。
353 :
◆S33wK..9RQ :2011/03/11(金) 22:40:14.89 ID:MzicyP+e
すいません。テレビに釘付けなってしまって投下終了宣言するのを忘れてました。
投下終了です。問題あったら指摘お願いします
あげてしまってましたね。
みんな大丈夫ですか?生きてますか?凄い心配です。
投下乙であります。
ツンデレのルビカンテが、さらにランクアップしている…。
なんてこったいw
356 :
褒め殺しネタ:2011/03/13(日) 15:36:25.58 ID:LU5lDtpx
ゲームロワR
ゲームロワRといえばやはりツンデレであろう。
これはルビカンテがツンデレキャラであり、花村陽介にゾッコンという可愛らしい女の子の一面を持っている。
ルビカンテは原作でも主人公に猛アタックするという恋愛シミュレーションジャンキーの方なら心擽る展開だ。
ツンデレというジャンルを確立したのがFF4であり、今後発売された恋愛ゲームはこれに習っているのは常識だ。
そんなツンデレの元祖といわれるルビカンテが参加するゲームロワR。
他にも雷電がロワ中に宗教を信仰し始めたり、アシュナードが戦闘狂であったり、レッドが廃人だったりするが
やはり見所はルビカンテのツンデレが発揮する場面である。
更には東方Projectやペルソナ4の様に女性が沢山参加しているが、生足を曝け出したりとお色気シーンを最初にやったのがルビカンテである。
え?十六夜咲夜がお風呂入ったって? いや、だって胸がg
【褒め殺し@現実 死亡】死因:ナイフメッタ刺し
投下乙です。
レッドがいつ本性を現すかが怖い。
ルビカンテはたぶん参加者内でもトップクラスの力を持っているだろうに、役割がツンデレw
そんな二人に挟まれる陽介…。
北の方も盛り上がって来ましたね。
私は南関東在住ですので今のところは大丈夫です。
わっ 誉め殺しネタが投下されてる
FF4は恋愛ゲームじゃないww
.dR氏の無事が確認できてよかったです。dGu氏もしたらば見るかぎり大丈夫らしいです。
他の書き手や読んでくれている方々が心配だ……無事を祈ろう
安心しろ、多分褒め殺しさんはわざとやってうはずさw>恋愛じゃない
しかしついにうちにも褒め殺しネタが投下されたか
ちょっとうれしいな
wikiを狂うように更新してて気付いたんだけど
次スレたてなきゃ不味くないか?
いっきに色々減った!
咲夜 「そろそろ過労死しますわ あと変なフラグも立ちましたわ」
レミリア 「昼間に活動しすぎだろ吸血鬼的に考えて ゴルベーザまじうぜえ」
瀬田 「どうしてこうなった!?」
千枝 「とりあえず漆黒の話を聞きましょう」
アドレーヌ 「絵の具来た! でも勝てない!」
漆黒 「レミリアがなんか怖い」
ゴル兄 「レミリアに完☆全☆論☆破されて生きるのが辛い」
セシル 「せしる☆マギカ もう何も痛くない やっぱりガリが裏切った」
カイン 「かいん☆マギカ もう何も怖くない おれはしょうきにもどった」
アシュ 「失恋するとは思ってもいませんでした、フラれるとも思わなかったです」
早苗 「信仰!ミコ娘 〜うーんアカギ先生のご指導だ〜」
雷電 「ここもしかして危ない奴しかいないのか?」
アカギ 「ここもしかしてバカしかいないのか?」
レッド 「ホモの変態カップルだああああああああああああああ!!!!!!!」
ツンデレ 「そこの少年も 混 ざ ら な い か」
陽介 「そこの少年よ、俺はホモじゃない」
サカキ 「出番がない気がする」
霊夢 「出番がないです」
新しいスタンス表きてるww
カインは確かに原作通りwww アシュナードの事も裏切りそうだしwww
ルビカンテさんはどうしてこうなった
各ロワ月報 1/16-3/15
ロワ/話数(前期比)/生存者(前期比)/生存率(前期比)
DQFF R. 84話(+48) 109/134 (-14) 81.3 (-10.4)
ホラー 80話(+20) 33/50 (- 5) 66.0 (-10.0)
葉鍵4. 98話(+18) 88/120 (- 7) 73.3 (- 5.8)
ロワロワ 46話(+15) 47/54 (- 2) 87.0 (- 3.7)
ゲーキャラR. 46話(+13) 18/37 (- 9) 48.6 (-24.3)
ベスト5入りおめでとう!
wiki更新&スタンス表乙!
wikiのキャラ追跡
レミリア見てまじ笑ったww
休ませてやれよww
作者のドSっぷりがよくわかるw
スタンス表
アドレーヌはかなり悲惨なはずなのにこれだけ見ると笑えるww
そして月報ベスト5きたぜ!
やったぜすごいぜ!
大丈夫そうなので投下します
「霊夢。真の支配者とは何だと思う?」
「え? ……それは、どういう意味でしょう」
突然の問いかけに、霊夢は戸惑いながらも聞いた。
「ただの言葉遊びだ。お前の世界ではよくするんだろう? そういう遊びを」
「……まぁ、そうですが」
「だったら答えてみろ。いつも通りの答えでいい」
「……で、でも…もしかしたら機嫌を損ねられるかも…」
「いいから」
躊躇しながらも、霊夢は口を開いた。
「……私に、倒されるべき相手です。何にも縛られないのが、主義ですから」
「フフフ。なるほど。なかなか面白い」
「きょ、恐縮です」
慌てて頭を下げる。
サカキにまともに褒められたのは初めてのことだった。
「真の支配者とはな。一人で生きられない人間を言うんだよ」
「え? そうなのですか?」
支配者というからには、花の妖怪のような強者をイメージしていた霊夢には少し意外だった。
「一人では生きられない。だから支配する必要がある。人間というのは、いつもそうやって生きる生物なんだ。数多もの個の中から、一人突出する者こそが支配者で、全員がそれを祭り上げる。そうして世界を築き、頂点に君臨する。それこそが真の支配者だ」
「……それが、サカキ様の目指すもの、ですか?」
「そうだ。……霊夢。神は信仰がなければ死ぬと言っていたな」
信仰のない神はその力を行使できない。それはつまり、神にとっての死を意味する。
霊夢はそうサカキに話していた。
「それは支配者とて同じことだ。支配される側に、支配者だと認識されなければ、その人物は支配者足り得ない。人がいて、その力を認めさせて、初めてそいつは支配者になれる。……分かるか? この理屈」
「……ええ。おぼろげながら」
「良い支配者は、時にカリスマだけでなく理解してやることが必要なのだ。その人物がどういう人物か。どう動けば、自分の思い通りになるのか。
私はずっとお前を見ている。お前の忠誠を、信仰を、私は常に試している。よく理解しておけ。私という人間は、そういう考え方をする人間で、お前の神はそういう男だ」
「……はい。サカキ様」
雷電が彼らに出会ったのは、アカギと共に行動すると決めて数十分程経ってからだった。
中年くらいの男と、早苗と同じくらいの歳の女性。
どちらも、雷電の同行者達とどこか似通っていた。
女性の方は早苗の様な巫女の服を着ていたし、アカギとその男とは雰囲気が何となく似ている。
そう。雰囲気が似ている。それだけで、雷電には要注意人物だ。
そしてそれは、早苗に似ている女性もそう。明らかな敵意をこちらに向けている。
「二人とも動くな。数ではこちらが勝っている。下手な行動は慎んだ方がいい。お前達は殺し合いに乗っているのか?」
ナイフを構え、できるだけ威圧的に雷電は言った。
「……脅しなど必要ない。それに二人で行動しているというだけで、殺し合いには否定的だという証明にはなるだろう?」
あくまでも冷静に、男はそう言った。
信用するべきか?
いや、それはあまりに甘過ぎる。
雷電がさらに口を開こうとした時だった。
「霊夢さん!!」
早苗が突然叫んだのだ。
「無事だったのですね! よかった、心配してましたよ」
嬉しそうに早苗は言う。
霊夢という女性のことは早苗から良く聞いている。
しかし、これが本当に博麗霊夢か? 伝聞でしか知り得ないといっても、あまりに雰囲気が違い過ぎる。
「……誰?」
霊夢の言葉に、早苗は一瞬固まった。
「や、やだなぁ。忘れちゃったんですか? 早苗ですよ。東風谷早苗。ほら、妖怪の山の神社で巫女をやってる──」
「知らないわね。そもそも、妖怪の山に神社なんてない。……そんな見え透いた嘘をついて、どういうつもりかしら?」
明らかな敵意を持って霊夢は早苗を睨む。
早苗は思わず身を引いた。
「どういうことだ? 霊夢」
「どうもこうもありません。私の言った通りです。こいつは……敵です」
すっと、八卦炉を早苗に向ける。
まずい。
雷電が本能でその道具の危険性を察知する。
「早苗! 避けろ!!」
しかし早苗は動かない。いや動けない。状況の変化についていけない。
雷電が無理やり早苗をその場から離れさせようとした時、早苗の前にケーシィが現れた。
「リフレクター!」
瞬間、八卦炉が光を放った。その光の束はまっすぐ早苗へと突進し、しかしすぐに反射される。
「えっ!?」
「ちっ!」
間一髪。霊夢にそれが直撃する瞬間、サカキが彼女を抱きかかえるようにして横へ跳んだ。
土で汚れる二人。ケーシィは、その二人に向かって突進する。
「ま、待って下さい! 霊夢さんは私の──」
「待てない! 奴は問答無用で攻撃してきた。こいつらは敵だ!!」
早苗にしたように、ばくれつパンチをお見舞いしようと拳を構える。
が、アカギはそれが直撃する前にストップをかけた。
サカキが、霊夢を庇うようにして立っていたからだ。
「……どういうつもりだ」
「どういうつもり? その言葉の意味はよく理解できんが……少しくらい話をさせてくれてもいいだろう? こちらから攻撃を仕掛けたのは悪かった。その件も含めて話し合いたい。こんなところで争ってもお互いの得にはならんと思うが?」
アカギはその言葉に熟考する。
サカキの思惑を計りかねているのだ。
「アカギ。ここは彼らの話を聞こう。俺達の目的は殺し合うことじゃない。そうだろ?」
雷電にそう言われればアカギも首肯せざるを得なかった。
「霊夢。お前は見回りをしていてくれ。彼らを配下にしなければならないからな。その時間が欲しい」
「危険です! 私がサカキ様をお守りして──」
「気持ちはありがたく受け取っておく。しかし言う事を聞いてくれ。心配せずとも、ここでやられたりはしない」
霊夢はそれでも納得がいかないようだったが、渋々と同意した。何かあればすぐにでも駆けつけると言い残し、霊夢はその場から離れて行った。
「さて。どこから話すべきか……」
「まずは霊夢さんについて聞かせて下さい! どうして彼女は私を忘れているんですか!? それに、あの態度……」
早苗の知る霊夢と、今の霊夢はあまりにも違い過ぎる。彼女は他人に対して敬語など使う人間ではなかった。ましてや人を様付けで呼ぶなど有り得ない。
自分に問答無用で攻撃してきたこともそうだ。あれは、下手をすれば死んでいてもおかしくない攻撃だった。
「……彼女は、病気なんだ」
「病気? 精神病ということか?」
「おそらくな。私もそういうものに詳しい訳じゃないから素人判断になるが……かなり厄介なものだと思う。
私が初めて出会った時、既に彼女はおかしくなっていた。どうやら殺人鬼に襲われたらしい。レッドという……私の世界ではかなり有名な人間によってな」
私の世界。その言い回しに、雷電はサカキがパラレルワールドの存在に気が付いていることを知った。
「自我を……保てなかったんだろう。私を見るなり神だなんだと言って、……ずっとあの調子だ。言葉も通じるし理性もあるが、さっきみたいに私の敵だと判断した人間にはどういう対応をするかわからない。記憶障害も、おそらくは副次的な症状の一つだろう」
「そんな……」
早苗は絶句した。
ようやく出会えた仲間がこんな状態になっていたなんて。そんな思いが渦巻き、早苗は絶望に震えた。
「……彼女は、他にも人を襲ったのか?」
雷電は躊躇しながらも聞いた。早苗には辛いかもしれないが、やはり聞いておくべきことだと判断したのだ。
「いや。良識ある参加者に会ったのは君達が初めてだ。だから私も、まさかいきなり襲いかかるとは思ってなかった」
二人は思わずほっとする。
彼女が危険な状況であることには変わりないが、それでも誰かを殺したりはしていないという事実は、二人を安心させるに足る情報だった。
「……すまなかった。許してもらえるとは思わないが、どうか彼女を責めないでやってくれ。この通りだ」
そう言って、サカキは深々と頭を下げた。
「誰も責めてなんかいない。だから顔を上げてくれ」
「そうですよ! むしろ、今まで霊夢さんを守っていてくれたことを感謝したいくらいです」
頑なに頭を下げるサカキに二人は慌ててそう言った。
「……何故サカキは彼女と共に行動しているんだ?」
今まで黙っていたアカギが口を開いた。
その言葉に、サカキは心外だとでも言わんばかりに驚いた表情を向ける。
「当然、彼女を放っておくことができなかったからだ。あの状況では何をするのか分からなかったし、なにより別行動なんて取ったら彼女自身が壊れてしまう。ならば私が彼女を支え、何かあれば私が止めようと、そう思った」
その熱意ある喋り方は確かに真に迫るものがある。
……が、
「信用できんな」
アカギはこの男の正体を知っている。
だからサカキの弁解が真実でないことは容易に理解できた。
先程の霊夢という巫女。その従順ぶりはまるでポケモンのようだったではないか。そんな彼女を、サカキがそのような考えで傍に置いているわけがない。ポケモンを道具としか思っていないこの男には。
「雷電。この男は少し危険な気がする。ここは──」
「信じよう」
雷電の意外な言葉に、アカギは驚きを隠せなかった。
「彼を信用するというのか!? いくらなんでも人が良すぎるぞ! お前はもう少し頭の働く奴だと思っていたが……」
呆れたような物言い。
しかし、雷電はその決定を変えるつもりはなかった。
「サカキは霊夢を庇った。あの行動は本物だ。サカキは、自分が怪我をすることも顧みず動いていた。本気で彼女を心配していた。……俺も、彼の気持ちが分かる」
もしも早苗が同じような状況になったら。ローザやオルガの子のこともあるが、それでも条件反射で身体が動いていただろう。
サカキがどういう人間か、雷電にはよくわからない。しかし、サカキが霊夢を想う気持ちに偽りはないと雷電は考えていた。
「サカキの彼女に対する優しさは本心からのものだ。俺はそれを信じる」
「私もサカキさんは信用できると思います。あの、改めてありがとうございます。霊夢さんを保護してくれて」
「いや、礼なんて……。君には申し訳ない気持ちでいっぱいなんだ。もっと早く彼女を止めることができれば、君を怖がらせずにすんだのに」
「大丈夫です! 私は何と言っても現人神ですからね! あれくらい……全然大丈夫!!」
無理に明るく振る舞っているのは誰が見ても明らかだった。
ようやく出会った知り合いに殺されかけたのだ。何も思わないはずがない。
「……彼女は私の言う事は絶対に聞いてくれる。君達に危害を加えないことを約束させれば、おそらく安全だろう。……その、だからというわけではないのだが……」
「同行したいと言うんだろう? もちろんだ。俺も彼女の病気を治すために尽力させてくれ」
「雷電! 勝手に決めるな! こいつは危険人物なんだぞ!!」
「……アカギ。お前がそこまで言う根拠は何だ?」
アカギはそこで躊躇した。
アカギはサカキの正体を知っている。ロケット団を結成し、世界を震撼させた男。
しかし、そのことを話せば、サカキが自分のことも喋るかもしれない。ギンガ団のリーダーで、神を目指す自分のことを。
サカキが知らない可能性もある。だがその可能性に賭けるにはあまりにもリスクが高過ぎる。
図らずも、今は均衡状態を保っていた。
「ただの印象でしかないのなら、この話はここで終わりだ。それとも、俺達と別れて行動するか?」
そうまで言われたら、アカギには何も言えない。
(馬鹿共が! こんな爆弾のような女を自ら抱え込むお人好しがいるわけないだろう!)
が、それは口には出さない。もはやそれを言ったところで自分の印象が悪くなるだけだ。
ここに来て、早苗相手に強行な手段を取ったツケが出てきた。雷電は元々アカギのことが気に入らなかったようだし、早苗は当然だ。
サカキに対する信頼は、そういうアカギに対する反発心も少なからず影響していた。
だからこそ、ここは何も言わずに退くのがベスト。
「アカギといったか。君が信用できないのもわかる。だが、彼女だけは何とか助けてもらえないだろうか。彼女はか弱い女の子だ。誰かが守ってやらねばならないんだ」
真実を知る人間からすればかなり頭にくる言動だが、アカギは既に冷静さを取り戻していた。
いいだろう、サカキ。お前がそういう態度でくるのならこちらも甘んじてそれに乗っかろう。
「……そうだな。すまなかった。殺し合いの場だからといって、少し神経質になりすぎていたようだ」
「いや。分かってくれればいいんだ。……じゃあ、正式に仲間となったところで」
そう言って、サカキはすっと手を差し出した。
怪訝な表情のアカギ。そんな彼に、サカキはにこりと笑った。
「握手だよ。仲直りの印だ。これからよろしく頼む、アカギ」
アカギは思い出していた。サカキはロケット団のリーダーだったが、それと同時にトキワジムのリーダーだった。
ジムリーダーというのは世間的な知名度も高い上に、その町の看板のようなものだ。当然、町の催しなどにも顔として出席することが多い。サカキにとって、表と裏の顔を使い分けるのは容易いことなのだ。
そのまったく自然な笑顔に、アカギはこの上ない強敵の証を見た。
「……そうだな。こちらこそ、よろしく」
ぎゅっと堅く握られた手。それが友好の証でないことは、何より二人が良く分かっていた。
スレがたてられない……だと……!?
すみません。誰か頼みます
重複してしまいました。すいません。確認すべきでした
時間の早いほうを使用でしたっけ?遅い方でしたっけ?
【予約について】
予約はしたらば(
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/13051/1254284744/)で行います。
予約する人はトリップをつけて「○○(キャラ名)と××を予約します」と書き込んで下さい。
予約期間はは原則として5日です。事情があったりするときは追加の延長(2日程)もできます。
延長したい場合は、再び予約時と同じトリップをつけて延長を申請して下さい。
が、延長を連発するのは避けて下さい。
何らかの理由で破棄する場合も同様です。キャラ追加予約も可能です。
予約期限を過ぎても投下されなかった場合、その予約は一旦破棄されます。
その時点で他の人がそのキャラを予約する事が出来るようになります。
また、前予約者も投下は可能ですが、新たな予約が入った場合はそちらが優先されます。
【荒らしについて】
荒らしや煽りは徹底スルーで。どうしても目にとまるのなら
専用ブラウザを導入してNG登録すること。
とりあえず、後の方にテンプレ投下されてるので、そちらを使用ということでよろしいですか?
自分の立てたほうは削除依頼を出してこようと思いますが。
テンプレ間違えてこちらに投下しちゃったよ……
あら本当だ重複しちゃってる。この場合はどうすればいいんだ?
重複の削除依頼は本スレに誘導必要だから注意してね
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ume
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(戻)382/382:創る名無しに見る名無し[sage]
2011/03/22(火) 18:50:42.43 ID:ak0J5v39(3)
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(戻)382/382:創る名無しに見る名無し[sage]
2011/03/22(火) 18:50:42.43 ID:ak0J5v39(3)
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