ホラー総合スレッド 2

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210創る名無しに見る名無し:2012/08/19(日) 11:40:33.86 ID:aXXyraMB
結城優4

「優兄様、こっち」
柱の中から声が聞こえる。
いくつもの柱の中から、
留美さんの声を頼りに、
一つの柱に目を付ける。
「ここ、私はここよ、」

僕は柱を掘る。指の皮が破けても、爪が剥がれても血だらけになったその手で一心不乱に掘り続ける。

そして、泥な中から生々しい感触を探り当て、そこを目指し、優しく、彼女を傷付けないように手の平で泥を退かしていく。やがて顔が浮かび揚がる。
「留美さん..」僕は優しく問い掛ける。
「ああ、優兄様。」

掘り当てた、留美さんの顔に絶句する。

干からびていた。
まるで干物のように。
干からびている皮膚とは
違い、目は爛々と輝いていて、僕を見つめる。
「ああ、優兄様!!!」
「ああ、優兄様!!!」
「ああ、優兄様!!!」

干からびた口が僕を呼び続ける。
変わり果てた留美さんの姿に、思わず顔を背ける。
そこで夢は終わった。
211創る名無しに見る名無し:2012/08/19(日) 11:58:29.52 ID:aXXyraMB
結城優5

目が覚めて、体が動かない事に気付く。金縛りにあっている。
子供の頃から何度も経験しているので、冷静だ。

しかし
今回は自分の回りのその異様な光景に恐怖する。

何十人と言う女が僕の布団の回りを取り囲む。
朱い着物に、額の十字の印。顔はどれも蒼白で、
全員が僕を見ていた。

その中の一人がしゃがみ込み、僕の顔を睨む。
僕と彼女の顔の間には1センチも隙間がなかった。

女がその姿勢のまま僕にぼそぼそ囁く。
(トキガナイ イソゲ)

僕はもう一度目を覚ます。
もう布団の回りには誰もいない。

落ち着いて明かりを付けると、畳にもの凄い量の泥の付いた足跡があった

212創る名無しに見る名無し:2012/08/19(日) 13:39:49.22 ID:ZABJ2m/N
面白かった 次も期待します
213創る名無しに見る名無し:2012/08/20(月) 18:48:41.32 ID:EFGiPzkE
やっと第一部終了の予感です。
第二部もこのスレのお世話になると思いますのでよろしく。
214創る名無しに見る名無し:2012/08/21(火) 10:10:06.54 ID:ntZmiZZb
井塚光次1

私の家は先祖代々、九十神社を護る役目にある。

名士会筆頭としてもっとも重要な名誉ある役職である。

本日の朝早く、九十巫女の長谷川家の留美が我が家を尋ねて来た。

留美は霊感が極端なほど強く、世が世なら、ジンチュウ様選びの筆頭となっていただろう。
普段は余り顔に表情を見せないあの娘が、珍しく不安げな顔で私に会いに来たのだ。
「おじ殿、今朝恐ろしい事が。」
何かと聞くと
「今朝、水占いをしましたの」
水占いとは九十巫女独特の占いで、我が村の依荏子山の清らかな霊水を桶に入れ、その水に巫女の血を垂らし吉凶を占う物である
215創る名無しに見る名無し:2012/08/21(火) 10:28:06.85 ID:ntZmiZZb
井塚光次2

「結果が全て「凶」と出ましたの。」

留美の手を見ると十の指全てに絆創膏が貼ってあった。
「十占い、その全てが凶であったと申すか。」
何か言い知れぬ不安が過ぎる。

「それと、近々優兄様が帰って来られます。」
なんと、結城家の優が。
この村を嫌い、出て行ったあの男が。
「あの方、色々とすっきりしたようですわ。」

優か、奴も留美に勝るとも劣らずの霊力の主。
しかし、その力を忌み、自ら封印した。
世継ぎのいない私が、養子縁を申し入れたが、受け入れなかった。

216創る名無しに見る名無し:2012/08/21(火) 10:48:09.90 ID:ntZmiZZb
井塚光次3

私は九十村を三期努めている。
もっとも、選挙など名ばかりで、名士三家の中から家長の一人を選び、たらい回しにしてその任に付かせる。たまたま三期努めているだけだ。

ただし、やはり小さな村であっても村長の仕事は多く、名士会筆頭の任もあいまって、その忙しさに忙殺されるのだが。

今日も居間にて書類の整理の最中である。

そんな時の事であった。

居間の中心に娘が立っていた。

青白い顔で朱い着物、額に十字の印。

「ジンチュウ様。」

その場に座し、頭を下げる。

そのお方はゆらゆらと立ち、私を見下げる。

217創る名無しに見る名無し:2012/08/21(火) 11:05:21.21 ID:ntZmiZZb
井塚光次4

私にはいくらかの霊感があるが、ジンチュウ様の霊を見るのは六十と三の人生の中で初めてであった。
いかにジンチュウ様とは言え、その恨めしげな姿はやはり恐ろしい。

頭を下げたまま、恐ろしくて顔を見る事も出来ない。

サ ン ニ ン ニ モ ン ヲタ ク セ

その姿は徐々に明滅していく。

サ ン ニ ン ニ モ ン ヲタ ク セ....

もう一度なにか電波信号のような声で囁き、完全に消えた。

後に残ったのは泥の付いた足跡だけであった。

それを見て私はもう一度土下座する。

お告げであった。

「三人に門を託せ?」

門とは首無し牛の岬の辺りにある、ケガレの門の事であろう。

気になるのはその三人が誰かと言う事であった。

218創る名無しに見る名無し:2012/08/24(金) 00:46:47.89 ID:XcYSsh7d
この世には半妖なる者がいる。いわゆる半分人間半分妖怪の存在である。
世界は冷たい。半妖達はまともな仕事にも就けずその日暮らしを強いられていた。
そんな時、とあるコンテストが開かれる事になった。
優勝賞金300万円…しかもそのコンテストは半妖達らにとても有利ものだった。

大会当日、参加者が全国から集まって来た。
鴉天狗人間、鵺人間、朱雀人間、ジュウシマツ住職etc…
コンテスト主催者は青ざめていた。
「青ざめるのも分かります。
普段見慣れない半妖の我々がこんなに集まっているのですからね」
するとため息まじりで主催者がこう言った。

「このコンテストは距離を競うんだよ…」

219創る名無しに見る名無し:2012/08/25(土) 07:53:37.15 ID:ax6a3svu
>>218
ん?どゆこと?

ある朝、目を覚ますと、桃花はなめこに寄生されていた。


起きざまの違和感。
やおら顔に手を伸ばすと、ほの痒い感触と共に、
やわらかで華奢でぬるつるっとしたものがほろりと墜ちた。
「またあの女の仕業ね……」

寝ている間に誰かが悪戯したのだろう。
そう、誰かが。
たぶん胸がないやつが。
他愛もない悪戯だった。

白いシーツにぱら、とひとつふたつ散るなめこ。
シーツに粘液がつくのも嫌なものと、洗面所へ行って落とすことにした。

食べられないこともないかもしれない。
毒キノコではないのだろうし。


鏡に映ったほの白いシルエットを、なめこが縁取る。
落とそうとした桃花はしかし。



「!!!!!!!」


戦慄の叫びが大気を引き裂いた。
耳からなめこをもぎ落とした刹那、おぞ気が走るようなものを、彼女は目にしていた。
そう、もぎ落としたその耳に、新たななめこが2株、ちょこと顔を覗かせたのだ。

視線を落とし、ばらばらとなめこを掻き落とす。
恐る恐る顔を上げると、幸い、なめこは減ってくれていた――かに見えた。


もちろんそれは錯覚で。
今こうしている間にも、ほら、かわいいなめこがまぶたの裏から愛らしい顔を見せ始めている。
落とさなくては。
剥がさなくては。
やや感覚がにぶってきたかのように思ったが、実際には神経は過敏に反応し続けていた。


頭蓋骨の裏は脳。
そして、その骨にはいくつか通路が開いている……。





そして、桃花を見たものはいない。
221創る名無しに見る名無し:2012/08/26(日) 03:13:15.31 ID:IjDKz9Xb
ほんとに書いたwww
222創発4周年記念投下作品1/7 ◆ea7yQ8aPFFUd :2012/08/27(月) 00:27:29.21 ID:Wuz0JA35
今思えば、あの物語のきっかけは母の一言であった。

「ネズミの天ぷらが食べたい・・・。」

私が知っている上で病気・・・どころかケガひとつも負ったことの無い、まるでスーパーマンのような母。
そんな母が珍しく夏風邪を引き、数日ほど寝込んだことがあった。
ちょうど夏休みに突入していた私は、母親を知り合いの病院に連れて行ったり、お粥を作ってあげたりと母の看病に徹していたが、
母の病状は良くなるどころか日に日に悪くなっていった。
そんなある日のこと、母はつらそうな顔を見せながら、私に先程のセリフを言い放ったのであった。
「ネズミの・・・天ぷら・・・?」
私が困惑したのは言うまでも無い。

ネズミと言えば、ゴキブリレベルで台所の食品を荒らす、ドブなどの汚い場所に生息する・・・など、
簡潔に言えば汚らわしき害獣であり、スキ好んで食べるような代物では無い。
そんな動物の・・・しかも夏風邪で胃腸が弱っている状態での天ぷら・・・。

しかし、この時の私は『ついに夏風邪で妄言まで言いだす状態に・・・』と思ってしまい、したことと言えば、
母のおでこに置かれた濡れタオルをこの日から冷却材に変えた程度であった。

そして、悪夢はこの日から始まった・・・。

母への看病生活が一週間を過ぎようとしたある日の夜、私は変な胸騒ぎがし、台所へと向かった。
目的は自分を落ち着かせるために麦茶を飲みに行く・・・というのであったが、その目的は突如として打ち破られた。
台所の一部から漏れる光・・・その光源は冷蔵庫であり、その前には何かを探す母の姿があった。
「・・・うん?お母さん、体の調子はどうなの?」
寝ぼけ眼で母に声をかける私。

・・・だが、私の眼に飛び込んできたのは『母』では無かった。

「・・・!」
一瞬にして目が覚める私・・・と同時に、その体は恐怖感に包まれていた。

私の眼の前に居る存在・・・それは、体の半分は母、そしてもう半分は獣と化し、口には明日の朝食に使う予定であった油揚げが、
まるで捕えられた動物の死体のようにダラリとぶら下がっていた。
「・・・え・・・え・・・。」
声を出そうにも『え』の一言しか出ず、そのままへたり込む私。
一方の母・・・いや、獣人は私に構うことなく油揚げを丸飲みし、そして後ろの勝手口から外へと飛び出すのであった。
223創発4周年記念投下作品2/7 ◆ea7yQ8aPFFUd :2012/08/27(月) 00:30:04.10 ID:Wuz0JA35
「・・・!ま・・・待て!!」
平静を取り戻し、扉の開いた勝手口に掛け込む私。
だが、眼の前に広がっていたのは夜の闇のみであり、耳に入ってくるのは風の不気味な笑い声、
そして獣が遠吠えするような鳴き声だけであった。

次の日、病状が若干落ち着いた母を確認すると、私は図書館へと急いだ。
昨日の夜の出来事は夢じゃない・・・現に冷蔵庫から全ての油揚げが消え、
そして母の手足にはまるで四つん這いになったかのような泥汚れが付いていた・・・。

母のあれは病気じゃない・・・何かが取り憑いている!

私は図書館の中にあるいくつかの本を漁るように読んだ。
『病気』、『妄言』、『獣』、『油揚げ』・・・母の病状から思いつく限りのワードから検索をかけ、
母の病気の正体・・・いや、母に取り憑いた存在の正体を探る私。
そして数時間後、私はその正体を『妖怪辞典』と記された本から知るのであった。

「狐憑き・・・。」

本にはこう記されていた。

狐憑き・・・それは人間の体に狐の魂が宿り、その者の体や心を蝕むだけでなく周囲の人間をも混乱させ、
一族その物をこの世から抹消する怪奇現象のひとつである。
この現象を除去する方法として、取り憑いた狐の魂を一時的に外へと排出させる必要があるが、
狐は妖力を多分に含んでいるため、人間の体から切り離すのは容易ではない。
だが、狐の大好物であるネズミの天ぷら(もしくは小豆飯)を取り憑かれた人間に捧げることで狐の魂の注意は食べ物にのみ集中され、
除霊が幾分か容易となることを付け加えておく。

「ネズミの天ぷら・・・。」
私はハッとした。

あの時の母の言葉・・・それは、自身が狐憑きに取り憑かれていることへの意志表示であり、ネズミの天ぷらが解決策の提示であった。
だが・・・私はそれにまったく気付かず・・・そして・・・。

私は泣いた。
静寂な図書館の中で、大声で泣いた。
周囲に人が集まり、「どうした?」だの「静かにしろ」だの言っていたが、私は無視して泣き続け、
その涙で私の前には水たまりのような物が形成されつつあった。

・・・だが、泣いていては始まらない。
224創発4周年記念投下作品3/7 ◆ea7yQ8aPFFUd :2012/08/27(月) 00:33:10.27 ID:Wuz0JA35
まるでスイッチが入ったかのように泣き止む私。
そして、本を机の上に置きっぱなしにしたまま図書館を後にすると、一直線に近所のペットショップへと向かった。
私は知っていた。
そのペットショップではハ虫類も扱っており、その餌用として冷凍されたハツカネズミが販売されていることを・・・。

数分後、霜が浮かんだハツカネズミ数匹の入った袋を片手に、私は帰宅した・・・が、玄関に立った瞬間、
得も言えぬ胸騒ぎに襲われた。
「・・・まさか!」
勢い良く扉を開ける私。
次の瞬間、私の眼に数多くの情報・・・しかも、それは悪い情報が飛び込んできた。
玄関に散らばった多量の靴、ひっくり返された靴箱、そして玄関から居間へと続く廊下にスタンプされた足跡のような泥汚れ、
さらにトドメを挿すかのように台所から聞こえてくるまるで何かが暴れているかのような物音、
そして・・・獣人と化した母の姿であった。
「お母さん!」
おもわず叫ぶ私。
対する母はその言葉に反応した・・・が、その反応は『母』としてではなく『恐怖に震えた獣を見つけたハンター』としての反応であった。
たくましい前足と後ろ脚で飛び上がり、私の体に覆いかぶさる母。
そして、獣人と化した母の顔からは溢れんばかりのヨダレと生臭い吐息があふれていた。

母は・・・いや、母に取り憑いた狐は私を捕食しようとしている!

母の重たい体に手足を抑えつけられ、もがきながらも打開策を考える私。
だが、この状況では何もアイディアが出ず、ただただ獣人に頭を齧られるのみしかなかった。
「・・・くそっ・・・もう・・・駄目だ!!」

私があきらめかけたその時だった。
突如、私の顔の上で鼻先をフンフンと動かす獣人。
その動きは私の顔から下へと降下し、最終的には手に握られたビニール袋へと移動した。
「・・・そうだ!やい、狐憑き!!そこには、お前の大好きなネズミが・・・冷凍物とはいえ、数匹入っている!!!それを食え!!!!」
叫ぶ私・・・よりも早く、私の手から袋を奪い去る獣人。
そこには、ペットショップから自宅までの間に解凍されてしまったネズミが数匹入っており、
獣人はその中から美味そうな個体を1匹取り出すのであった。
「さあ・・・食え!お前の大好きな・・・身も心も油断してしまうネズミだ!!」
獣人と距離を取り、叫ぶ私。
一方の獣人も、私の声に反応してか否かは分からないが、そのネズミを口元へと近付け、そして果物を食べるかのように飲み込むのであった。
225創発4周年記念投下作品4/7 ◆ea7yQ8aPFFUd :2012/08/27(月) 00:37:13.29 ID:Wuz0JA35
その直後、母の体から獣人のような荒々しさが消え、そこにはいつもの母が気絶した形で倒れていた。

いつもの母を取り戻し、ホッとする私・・・であったが、もうひとつ仕事があった。
「・・・そうだ・・・これだ!」
そう言って、ズボンの後ろポケットに手を突っ込み、何かを取り出す私。

それは、冷凍ハツカネズミを買いに行った際にお寺の側を偶然通ったので、念のために買っておいた<妖怪封印のお札>であった。

「これをお母さんの額に貼って、狐憑き退治は終了だ・・・。」
そう言って立ち上がり、倒れた母の元へと近付く私。
そして、気絶した母の体を仰向けにし額を露わにさせると、お札を母の額に貼るのであった。
「さらばだ、狐憑き・・・。」
呟いた直後、光を放つお札。
その光は母の体を包み込むかのように徐々に広がっていき、そして母の体が光と化したかと思うと・・・

『母』を封印してしまった。

「・・・え?」

数分後、私は母が封印されたお札を片手にお寺に殴り込み、寺の住職の胸倉を掴んでいた。
「どういうことだ?!狐憑きではなくお母さんが封印されるなんて・・・貴様、どういうつもりであんなインチキお札を売りやがった?!?!」
「ま・・・待ってくれ・・・あのお札は・・・正真正銘、妖怪退治用のお札で・・・。」
「じゃあ、何でお母さんが?!お母さんが妖怪だとでも言うのか?!?!」
「・・・待てよ・・・お主・・・母の病状は・・・本当に狐憑き・・・なのか?」
「何を言う!貴様、俺のせいにして責任逃れするつもりか?!」
「ま・・・待て・・・お主の札の封印は・・・解除出来る・・・じゃが、その前に・・・試したいことが・・・ある・・・。」
「・・・試したいこと?」
その言葉を聞いて、住職を放す私。
「痛たたたた・・・何と乱暴な奴じゃ。ところで、お主の母は『ネズミの天ぷら』が欲しいと申していたんじゃな?」
「ああ、だからネズミをペットショップで・・・。」
考え込む住職。
そして、ひとつのアイディアを思いついたのか、私にこんな依頼をした。
「お主の手元にあるネズミ・・・それを全て天ぷらにして、また寺に来い。ワシらは封印解除の儀のための準備をしておく。」
「・・・?分かった。だが、また変なことしたら承知しないからな!」
226創発4周年記念投下作品5/7 ◆ea7yQ8aPFFUd :2012/08/27(月) 00:41:14.56 ID:Wuz0JA35
住職に暴言を吐いた私はすぐ帰宅。
そして、台所にあった残りのネズミを使い、ネズミの天ぷらを作り上げると、それをタッパに包んでお寺に再び参上するのであった。

「・・・おお、意外と遅かったのう。」
本堂の前で私を待っていた住職。
そんな住職に声をかけようとした瞬間、私は言葉を失ってしまった。
「・・・!お母さん!!」
私の眼に飛び込んできた光景・・・それは、お寺なのにもかかわらず、
本堂の中にある十字架のような拘束具に張り付けられた状態で気絶する母の姿だった。

不謹慎ではあったが、その姿はまるでSM映画のようであった。

「おい、住職!お母さんは・・・お母さんは?!」
再び住職の胸倉を掴む私。
「ま・・・待て・・・とりあえず、その・・・ネズミの天ぷらを・・・お前の母さんの前にある・・・盆に・・・。」
「・・・分かった。」
住職を放して本堂へと入り、ネズミの天ぷらが入ったタッパを母の前にある盆の上に置く私。
タッパのフタを開けると、そこからは油の匂いと肉の香ばしい香りが一気に放たれた・・・次の瞬間であった。

私の頭上で響く、獣のうめき声。
「・・・?!」
声の方向を見ると、そこにいたのは母ではなく獣人であった。
「早く、本堂の外へ!」
そう言って、私の腕を引っ張って本堂の外へと連れ出す住職。
突然の事態に再び住職の胸倉を掴もうとする私であったが、住職はこう言い放った。
「若者よ・・・お主の母は狐憑きに憑かれたのではない・・・彼女自身が狐なのじゃ。」
「・・・え?」
その直後、本堂の中から聞こえてくる、何かを引きちぎるような音。
音の方向を見ると、獣人は己の手足に巻かれていた金具をとてつもない力で破壊して自由を手に入れ、
眼の前にあるネズミの天ぷらに喰らいつこうとしていた。
獣人の口元へ一匹ずつ消えていくネズミの天ぷら。
そして、獣人が全てのネズミの天ぷらを食べ終えた瞬間、獣人の体は熱を帯び始め、
そしてその熱を莫大なエネルギーに変えて放出するのであった。

吹き飛ぶ私と住職。
また、エネルギーの凄まじさに本堂は砕け散り、その爆心地には元の姿に戻った母が不思議な顔をしながら立つ・・・という
シュールな光景が展開していた。
227創発4周年記念投下作品6/7 ◆ea7yQ8aPFFUd :2012/08/27(月) 00:45:03.53 ID:Wuz0JA35
「・・・お・・・お母さん!!」
爆発の凄さに泡を吹く住職を放置し、母の元へと駆けつける私。
そして、周りのことなど気にすること無く、母の体に抱きつき、そして胸元に顔をうずめた。
「いやねぇ・・・いつまで経っても甘えん坊さんなんだから。」
「・・・そうだ、教えてくれ。お母さん・・・あなたの正体を!」
「・・・本当は、あなたが独り立ちするまで黙っておこうと思ってたけど・・・私は人間じゃない・・・私は妖怪・・・『妖狐』なの。」
「妖・・・狐?」
「そう・・・でも、信じて。私は悪い存在じゃない・・・人間を愛しているから、あなたのお父さんと結婚し、あなたを授かったの・・・。」
「そんなこと・・・言わずもがなだよ、お母さん。僕を長い間育ててくれたお母さんに対して『悪い人間』だなんて・・・
 言えるワケ無いだろ?」
照れくさくなってしまい、ちょっとクールっぽくいう私。
そんな言葉に母はうっすらとうれし涙を浮かべていた。
「ところで・・・どうしてお母さんはあんな・・・暴走みたいなことに?」
「実は・・・どうもあれは夏風邪じゃなくて、妖怪の流行病らしくてね・・・原因はよく分からないけど、妖怪の理性を失わせ、
 闘争本能や欲望のみを活性化させるみたいなの。」
「闘争本能や欲望・・・。」
「私はあの時、油揚げや・・・あと、ちょっと恥ずかしいけど・・・野ネズミを食べて回復を図ろうとしたんだけど、
 衝動を抑えるまでは行っても治るまでには至らなくて・・・で、最終手段のネズミの天ぷらで治したってワケ。」
「つまり、ネズミの天ぷらは狐にとって『特効薬』みたいな物・・・ってこと?」
「そういうことでございます。」
「そうか・・・ははは・・・ははは・・・あっはっはっはっ!!」
おもわず笑ってしまった私。
『どんな感情か?』と言われると表現しにくいが、とりあえず言えることは、母が完治したことへの喜びであるのは確かであった。
「さあ、帰りましょう。長い間、迷惑かけちゃったし・・・今日は、あなたの大好きなハンバーグにでもしましょうか?」
「賛成!僕も手伝うよ!!」

こうして、私と母の不思議な物語は終わった・・・ハズだった。

「・・・ちょっと待てい!」
後ろから聞こえてくる叫び声・・・その声の主は住職であった。
「いくらお主の母が助かったとは言え・・・さすがに本堂の修理代は弁償してもらうぞ!!」
「・・・え?」
「・・・あ。」
228創発4周年記念投下作品7/7 ◆ea7yQ8aPFFUd :2012/08/27(月) 00:49:50.94 ID:Wuz0JA35
粉々になった本堂を前にして青ざめる親子。
だが、住職の方はニヤリと笑うと、言葉を続けた。
「じゃが、ワシも鬼じゃない。そこでじゃ、お主にはちょっとしたアルバイトをしてもらうぞ。」
そう言って、私を見る住職。
「アルバイト・・・?」
「そこの妖孤の娘よ、さっき『妖怪の流行病』の話をしておったな?」
「え・・・ええ。」
「実は、ワシの寺では冠婚葬祭の他に妖怪ハンターを生業としててな・・・時々妖怪の封印や退治を行ったりするのじゃが、
 ここ最近凶暴な妖怪が増え続けておるのじゃ。」
「・・・!まさか、流行病のせいで?!」
「確信は出来んが、可能性も否定出来ん。そこで・・・。」
「・・・って、妖怪ハンターなんてアルバイト感覚でなれる物なんですか?」
「いや、いくつか厳しい修行が必要じゃ!だが・・・かつて、京の地を守っていた安倍清明が狐の血を引いていたように、
 妖孤の血を引くお主にも強力な力が眠っているかもしれんとワシは睨んだ。どうじゃ・・・やってみるか?」
「ひとつ聞いて良いですか?」
「何じゃ?」
「・・・修行ってお寺に泊まり込みですか?それとも、自宅から通っても良いですか?」
「・・・?別に自宅通いでも構わんが・・・何故?」
「だって・・・お母さんに会えないのはつらいから・・・。」
そう言って、母の手を握る私。
「やだ、この子ったら・・・本当に甘えん坊さんなんだから!」
一方の母も嬉しかったのか、私の体を引きよせ、顔を胸に押しつけて抱き締めるのであった。

「・・・こりゃ、妖怪ハンターとしての能力を鍛える前に、マザコンを治したほうが良さそうじゃな・・・。」

こうして、本当の物語が始まった。
マザコンな私が、息子LOVEな妖孤の母に支えられながら、妖怪ハンターとしての道を進んでいくという物語が・・・。

続く・・・もんか

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以上です、お目汚し失礼しました。
創発4周年&夏なのでホラー作品に初挑戦してみた・・・のですが、ちょいファンタジーよりになってしまってすみません。
229創作大会で尻切れトンボな物を投下します。すみません:2012/08/28(火) 00:06:52.33 ID:7/2Maax1
こんな真夏の暑い日は怪談話でもして涼まないか? と友人の森田から電話が掛かって来た。
どうやら俺を含めた数人を家に招いて、怪談大会だのなんだので騒ぎたいらしい。最初は正直面倒臭いなと思った。
しかし大学は夏休みだし、バイトもやってないからどうせ暇だろ? と図星を突かれてしまった為、行かざるおえない。
まぁ、どうせ夜になってもある程度暑さは続いているだろうし、時間だけは有り余ってるから行ってやろうと考えなおす。

森田に指定された時間帯は夕方六時ごろ。築何年か分からないボロアパートの軋む階段をよっこらせと一歩づつ昇っていく。
少しだけ廊下を歩き、あいつが待っている部屋のドアノブを握る。緩々としていて今にも落ちそうなドアノブを回す。
ドアは開いていて、奥の四畳半から森田がおー待ってたぞと気さくに声を掛けてきた。森田の周囲には、既に先客がいる。
大学でいつも一緒にいるお馴染みの面子だ。新鮮味もなにも無い。お前らも暇だな。

靴を脱いでお世辞にも綺麗とは言えない玄関から廊下を抜けて居間へと着く。

「遅かったな。どこで道草食ってたんだ」

よっこいしょと座って胡坐を掻いた俺に、森田が興味深々といった表情で尋ねてきた。
俺は頭をポリポリ掻きながら誤魔化す事も無く淡々と答える。

「何となく遅れただけだ。別に理由はねえよ」
「そうか。まぁ良いや。ちゃんと怖い話持って来てんだろうな?」

正直そんなの持ってきてない。精々時間が潰せたら良いな程度で来たからな。
ま、もし俺の番が回ってきたらよくある都市伝説なり幽霊話なり適当に取り繕えば良いか。
特に深く考える事無く、俺は適当な相槌を打ちつつ答える。

「あぁ。それなりのを」
「それなりにか。楽しみにしてるぜ。じゃあ最初誰が話す?」

森田がそう言いながら周りの面子をキョロキョロと見回す。
別に期待してないがそれなりに長いのを頼むぜ。田辺、岸田、南……ん?

あれ? 俺は一寸目を擦る。あれ、顔馴染みの面子が揃っている筈だが、一人。
一人、見慣れない奴がいる。こんな夜だってのにクソ暑い中真っ黒な長袖の服を着ていて、顔が髪の毛で隠れて見れない。
誰だコイツ。森田も田辺も他二人もこいつがいるのを当り前の様にしてるが、俺、コイツを大学内で見た事も話した事も無いぞ。

「おいおい、お前ら黙ってないでトップバッター飾れよ。何の為に集まったんだよ」

何故だか怖い話を話そうとせずに田辺達は黙ったまま俯いている。
そんな田辺達にへらへらと笑い掛けている森田。んで、森田の方を向いている無言の貞子ヘアの誰か。
つうか本当に誰だよコイツ。俺はどうしても気になってしまい、森田に聞いてみる事にする。
もし本当の所会っていて俺が忘れているだけなら、謝ってすむのだが。

230創る名無しに見る名無し:2012/08/28(火) 00:07:26.90 ID:PXpgkd/t
「なぁ森田。話の腰折って悪いんだけど、この長袖着てる人を紹介し……」
「しょうがねえな。じゃあ俺から先に話してやるか」

俺の質問を遮る様に、森田が自ら率先して、怖い話を話始めようとする。
おい、ちょっと待て。お前の話を聞かない訳じゃないが、どうしても気になって参るんだよ。
悪いなと思いつつも、俺は強引に貞子ヘアが誰なのかを聞こうと声を掛ける。

「森田悪い、その話の前にこの人を紹介してくれないか?」
「数日前、俺は田辺達と一緒に肝試しに行ったんだよ。肝試しに」

な……何だお前? 森田は俺の話を遮るどころか、聞こうともせずに勝手に話し出した。
お前そんな失礼な奴だったか? 暑さのせいか俺の頭はイライラで沸騰しそうになる。
まぁ良い。良いさ。そんなに話したい内容なら話せばいいさ。俺は黙って聞いてやるよ。
だけど最後まで聞いたらちゃんと俺の質問に答えろよこの野郎。俺は両腕を組んで、不本意ながらも森田の話を聞く事にする。
つうか肝試しってお前ら俺の事誘わなかったよな。クソッ、誘えよ馬鹿野郎。

「それで心霊スポット行って、何か出るかなぁと思ったんだけど全然出てこなくてな。
 何だつまんねえって事で適当に遊べるところ行こうぜって事でその場を後にしたんだよ」

あれ、もう帰っちゃうのか? 普通そこで何か起こってるから怖い話が始まるんじゃないのか?
拍子抜けしつつも、若干先が気になる。にしてもさっきから田辺達の様子が妙だ。変に額にタラタラ汗掻いてる。
暑いは暑いけど汗掻く程じゃないだろ。俺全然汗掻いてないぞ。どうでも良いけど。

「んで、街へと向かってる最中に妙な奴を見掛けてさ。暗闇の中に紛れるみたいに真っ黒な服着てる変な奴でさ。
 気味わりいなと思いながらも通り過ぎたんだよ。それで、早く街に行きてえなと思いながら車飛ばしてたらさ」

まさかそいつがいたとか陳腐な事言うなよ。分かりやす過ぎるだろ。

「またそいつがいたんだよ。うわっ、マジかよと思いながらまた通り過ぎたんだよ」

麦茶吹いた。麦茶飲んでないけど。で、いつになったら怖い話になるんだよ森田。

「疲れてるんだろうなぁ、俺と思いつつゾーッとしてさっきに増して車飛ばしたんだよ。
 でも何度通り過ぎてもいるんだよ、そいつ。まるで俺達を待ち構えてるみたいに」

ん? 何となく空気が冷たくなってきた。茹だる様な暑さだったのに、急に空気がヒヤヒヤとしてくる。
奇妙な肌寒さに俺の全身の毛が僅かに逆立っている。一体何なんだ、この冷たさは。ふと、視線が貞子ヘアへと向く。
……奴を見た途端、俺の毛が一気に逆立った。奴は、笑っている。髪の毛の中から見える、紅い唇がニタリと笑っている。

「俺は気でもおかしくなったのかと思ったよ。隣とか後ろに座ってる田辺達も顔が青ざめててさ」

気が付けば、俺は森田の話にじっと耳を傾けている。身動きが取れないというか、身体が勝手に固まって、森田の話を聞こうとしているみたいだ。
頭の片隅でほんのりと、目の前の鬼太郎ヘアの正体が何なのかが分かって来た気がする。つまり奴の正体は……。

「もうそこからは覚えてないんだ。とにかく夢中になって全速力で家に帰ったよ。んであいつの事を忘れようとした」


231創る名無しに見る名無し:2012/08/28(火) 00:09:42.14 ID:jSHGyCmA
そうして森田は数秒ほど俯いて黙する。森田が今、どんな事を考えているのかは分からない。
分からないし、俺の中でこれ以上知ってはいけないとシグナルを出しているもう一人の自分がいる。
しかし、しかしだ。ここまで来て話の真相を聞かない訳にはいかない。もしここでストップを掛けたら、一生後悔する気がする。
だから俺は聞く。最後まで森田の話を、聞く。

「だけど忘れよう忘れようとしても頭ん中にこびり付いて離れないんだ。いつもいつも、そいつが近くにいる気がしてな。
 俺がこんな事になってるから田辺達はどうなのかと思って連絡入れたら、やっぱり俺と同じく、あいつらも奴の事が忘れられないらしくてな」

そりゃあそうだよな……何たって、肝試しに参加して無い俺でさえ、こんなにはっきりそいつの姿が見えるんだぜ。
お前らがどれだけ怖い思いしてるかひしひし分かるよ。あまりにもはっきり見え過ぎて幽霊に見えない位ハッキリ見えてるし。
もしかしたら、いや、やっぱりお前ら……憑かれてるよな。つうか俺も巻き添え食らってる気がするけど。

「でだ、ここからが本題なんだが……」

身構える。何となく、森田が俺にどんな事を聞いてくるかが予想できる。出来てしまう。
本当の事を言えば逃げ出したい。逃げ出したいが、もし今逃げ出したら、俺はある種森田達を見捨てる事になってしまうのではないか。
そう思うと、どうしても逃げ出す気になれない。こいつらは正直馬鹿だと思う。肝試しなんて事するから、こんな目に遭っちゃうんだろうがと。
だけど曲りなりにも、俺はこいつらの友達だ。もしこのニタニタ笑っている貞子ヘアが悪霊だとしても、どうにかこいつらを救いだす方法を探さなきゃいけない。

「今日、何でお前をこの怪談大会に誘ったか分かるか?」

いきなり何を言い出すんだ? 俺は首を軽く傾けつつ、答える。

「そりゃあお前、今日暑いからだろ?」
「それもあるがその、何だ……お前を誘った本当の理由を話すとな……」

そうして、森田は俺の顔をじっと見据える。見据えて、一字一句しっかりとした言葉でこう、聞いてきた。

「お前にも見えてるかってのを確認させたくてな……俺達が連れて来ちゃった何かを」

やっぱりそうか……。俺はある種安心する。ある程度覚悟していたから、ショックを受ける事は無かった。
真面目な事を言うと、何で俺を巻き込むんだという怒りの気持ちもある。こんなにハッキリと見えてる幽霊、どう考えてもヤバいに決まってるだろと。
でも何だろう、こう、不謹慎だけどワクワクしてる自分もいる。何たって目に見えてる悪霊と戦う事になるんだぜ? 普通の体験じゃないよな。

「あぁ……見えてる」
「やっぱりな……。俺や田辺達に見えてるから、お前にも見えちゃうほどヤバい奴なんだよ」
「そうだな……」

俺は再び覚悟を決める。きっと森田は指を指すなり顔を向けるなりするだろう。この貞子ヘアに。


そして森田は、人差し指を立てるとそのヤバい幽霊を指差した。
232創る名無しに見る名無し:2012/08/28(火) 00:10:49.99 ID:jSHGyCmA
「そこの窓から見てる真っ黒い人影がいるだろ? そいつが俺達についてきちまった奴でな……」




えっ!? じゃあこの貞子ヘアは何なの!?







233創る名無しに見る名無し:2012/08/28(火) 00:11:55.70 ID:jSHGyCmA
色々と失礼しました
後途中鬼太郎ヘアとなってるのを貞子ヘアに脳内変換して頂けると助かります
234創る名無しに見る名無し:2012/08/29(水) 23:40:17.91 ID:jVaGnksa
質問を振り切って怪談話が始まるあたりが強引。
ここは怪談話が始まってから、見慣れない人がひとり居ることに気付いたほうがスムーズ。

また「きっと○○だろう」と書いてしまうと、「○○じゃない可能性」に気付かれてしまうので、
「俺」に余計な思考をさせずに、さらっと流したほうがオチを守れる。
最後の一行はないほうがいい。
235創る名無しに見る名無し:2012/08/30(木) 09:48:39.47 ID:1P3xmdJt
ttp://toro.2ch.net/test/read.cgi/occult/1344389978/

おい、オカ板のほんのりスレに物凄い創作話が
投下されたんだが?
507に登場、明らかに精神病持ちだと思わせる内容だ。

メンヘラボダ女の創作話 こえーよ。
236サーバーの呪い(1):2012/09/09(日) 23:12:37.79 ID:wHy9NjkV
サーバーの呪い


 遺書

 私が死を決意した理由は、腕にできた人面瘡にある。私はこの件について、二人の霊能
者に相談した。一人目の霊媒師は、腕を切り落とすしかないと言った。恥ずべきことなの
で人面瘡ができた理由は書けないが、二人目の霊能師はその根源はWebサーバーにあり、
取り除くことは不可能だと言った。
 私には腕を切断してその後の人生を送る勇気がない。よって自ら命を絶つこととする。

                                    流川慶介

 私の右腕にはほくろがある。手の甲の側、手首と肘の中間くらいの場所だ。それがここ
最近、急激に大きくなってきたのだ。直径は2センチ近くになる。しかしもっと恐ろしい
のは、徐々に浮かび上がってきた模様である。人の顔に見えるのだ。もっとも、目を見開
いたり、口を動かしてしゃべるというものではない。一昔前に火星の人面石が話題になっ
たが、あれを彷彿とさせる。
 ネットで検索すると、左右非対称でいびつであり、境界のはっきりしないものは癌であ
るという。私は真っ青になった。まさに私のそれと一致する。恐ろしくてそれ以上調べら
れない。しかし、悪性腫瘍であれば痛みを感じるとも書いてある。私は感じない。
 癌なのか、違うのか。私は悩んだ。ほくろであれば、医者に診察してもらう必要はない。
しかし早期に診てもらった方がいいのも事実だ。
 私は小心者であり、病院に行くことができなかった。あちこちに極太の針を突き刺して
検査をし、何度もメスで切り刻み、転移しているとなれば、体中管だらけとなって死に至
る。それが私の癌に対するイメージである。ならば、いっそのこと放っておいてもらいた
い。
 さらに恐ろしいのは、それが人面の形をしているということだ。これは医者に見せる類
のものではないのではないか。私は「祈祷」や「除霊」をキーワードにして検索した。
 参考料金
 73,500円〜105,000円(交通費別途)
 ……高いな。私はいろいろなサイトを見た。
 霊視鑑定 10,000円
 除霊・浄霊 30,000円より
 これがよさそうだ。だが私は迷った。祈祷なんて、馬鹿馬鹿しい。しかし、この顔をな
んと説明するのか。やはりただごとではない。決意するのに数日かかった。

「人面瘡です」
 霊媒師の老婆――佐山さんは言った。
 私は一人暮らしだ。製薬会社に勤めており休日は少ないが、ある日曜日、申し込んでお
いた霊媒師が家にやってきたのだ。
「あの、癌なのでしょうか」
 佐山さんは少し首を傾げた。
「そういうものとは違うと思います。人面瘡は、医学的な病気ではありません」
「すると病院に行っても治らないのでしょうか」
 途端に佐山さんは怒ったような顔になった。
「医者に診せてどうなるというのです。皮膚に見えているのはほんの表層に過ぎません。
けがれは奥深くにまで浸透しています。病院に行って治すのであれば、腕を切り落とすし
かありませんよ?」
「そ、そんな。私はどうすれば……」
「なにか呪われるような心当たりがありますか?」
「いえ、特には……」
 私は小心者で、おとなしくしている。私のような人間が人に恨みを買うはずがないじゃ
ないか。
「そんなはずはありません。これは非常に悪い霊です。このままでは近いうちに大変な不
幸に見舞われますよ。大病を患ったり、大事故にあったり」
 するとどっちみち癌のような恐ろしい病気になるということか。
 一つだけ、心当たりがある。だがとてもじゃないが人には言えない。
「今表情に表れましたね。私には隠さないでください。打ち明けていただけなければ、流
川さんを助けることはできません」
237サーバーの呪い(2):2012/09/09(日) 23:14:28.63 ID:wHy9NjkV
「実は、その、とても言いにくいことなのですが」私の顔はそれこそくしゃくしゃになっ
ていただろう。「私にはリョナという性癖があるのです」
「それは何ですか?」
 猟奇的オナニーの略だが、そんな直接的表現では言えなかった。
「女性が痛めつけられる様を見て性的に興奮するのです」
「SMですか?」
「いえ、少女が腹パンチされたり、女戦士が怪物にプロレス技をかけられるのです」
「それです!」佐山さんはさらに怖い顔になった。「そんな不浄な性欲を、神仏がお許し
になるはずがありません」
「あの、私はどうすれば……」
「それはどのようにして見るのですか?」
「パソコンです。画像や、動画です」
「では、これから私がお祓いをします。それが済んだら、即刻パソコンから消してしまい
なさい」
 佐山さんは香炉の線香に火をつけた。
「アビラウンケン ソワカ」
 除霊が始まった。
「リン ビョウ トウ シャ カイ ヂン レツ ザイ ゼン」
 佐山さんは呪文を唱えながら、指を素早く動かし続けた。その行為はしばらく続いた。
「オンケンバヤ ケンバヤソワカ」佐山さんの表情がふいに柔らかくなった。「これにて
除霊を終わります。一ヶ月後にまたご連絡ください。おそらく良くなっていると思います」
 その後、私はリョナ画像や動画を全部削除した。もう二度と手に入らないものも多いだ
ろうなあ、と思いながら。

 一ヶ月後、やってきた佐山さんに私は文句を言った。少しも良くなっていなかったのだ。
すると、彼女は自分には解決できないと詫びた。なんと、パソコンに詳しい霊能者がいる
と言うのだ。佐山さんの紹介で、私は峰岸さんという霊能師を訪ねた。
「ファイルを削除したつもりでも、残っているのですよ」
 恵比須顔の男は、にこやかに言った。歳は50代だろうか。
「ハードディスクのファイルシステムから情報を消しているだけで、実データが記録され
ているクラスタはそのままの状態なのです」
「ずいぶんとお詳しいのですね」
「最近、そういうお悩みの方が多くてねえ。勉強しました」
「ではどうすれば……」
「残念ながら、あなたのパソコンはけがれに満ちています。廃棄処分するしかありません」
 え? 20万もしたのに。
「それは、メーカーに引き取ってもらえばいいのでしょうか」
「取扱い説明書に方法が載っていると思いますよ。乱数でハードディスクの内容を上書き
してしまうのです。それと、メーカーに引き取ってもらうのや、ハードオフに売るのはも
ってのほかです。部品が再利用されてしまいます。つまり、呪いが人に移ってしまうとい
うことですね」
 峰岸さんによる除霊を受けた後、私はさっそく家に帰り、彼に言われた通りにした。説
明書を読み、ハードディスクのデータを乱数で満たす。真っ青な画面に白い英語でなにや
ら書いてある。10%、20%、……。
 ああ、これからパソコンなしの生活が始まるのか。
 バーが100%になるのに、2時間ほどかかった。だが峰岸さんの指示はもっと完ぺき
を期すものだった。
 私は風呂に水を張り、ノートPCから電源ケーブルやプリンタケーブル等をすべて抜き、
水没させた。これで私のノートは完全に使い物にならなくなった。
 2時間ほど漬けた後、ボストンバッグに入れ、車をとばして山の奥深くに入っていった。
 ここなら誰にも知られることはないだろう。私はパソコンを雑木林の中に放り込んだ。

 さらに一ヶ月待った。私は再び峰岸さんの家を訪れた。精神的には憔悴しきっていた。
「パソコンは廃棄しました。周辺機器も燃えないゴミに出しました。ですが、人面瘡は消
えません。何か、他の原因があるのではないですか? 例えば、知らないうちに心霊スポ
ットを通り、憑かれてしまったとか」
「そういうふうには感じませんねえ。原因はリョナで間違いないと思います。あなた、他
の場所にアップしたのではないですか?」
 それだけは言いたくなかった。だが、大きな病気や大事故でもがき苦しみながら死ぬの
は嫌だ。背に腹はかえられない。
238サーバーの呪い(3):2012/09/09(日) 23:16:37.82 ID:wHy9NjkV
「リョナ小説を書いて、自分のサイトに載せました」
 それ専用に作ったサイトだ。他の、まともなコンテンツは、真面目なサイトとして作っ
てある。そうやってジキルを演じていると、ハイドもやってみたくなるものだ。
「そのサイトを消しても無駄です。前にも教えましたが……」
「クラスタに残っているんですよね! ええ分かっていますよ!」
 私は飛んで帰り、パソコンショップに行き、10万のノートPCを買い、光回線を契約
した。
 ネットにアクセスできる日が待ち遠しかった。各種IDやパスワードはUSBメモリに
取ってある。もちろんリョナのコンテンツは入っていない。
 工事が済んで、急いでFFFTPを起動し、自分の作ったリョナサイトを消去した。無
駄だろうとは思いながら。それでも、けがれに満ちたものを消さずにはおられなかったの
だ。

「どうしたんですか。顔が真っ青ですよ」
 と峰岸さんは言った。
 私は袖をまくり、人面瘡を見せた。
「どうしたらいいんですか」 
 私は泣きそうになりながら言った。
「うーん、サーバーに残っているんじゃ、消しようがないですね。まさか、他のサイトに
もアップしたんじゃないでしょうね」
 私ははっとした。
「2ちゃんに書きました」
「それこそどうしようもない。ですが、あきらめてはいけません。もう一度除霊をしてあ
げましょうね」
 こうして私は峰岸さんによる最後の除霊を受けた。
 家に帰り、壁に背をつけてへたりこんだ。そうしているうちに、2ちゃんでよく「あぼ
ーん」という文字を見かけることに気が付いた。
 そうだ。あれはどうやってやるんだろう。さっそく検索してみる。「荒らし」投稿や個
人情報などの不適切な投稿を「ひろゆき@どうやら管理人」「削除人」「削除屋」の判断
で削除した痕跡なのだそうだ。どうやら「自分の書き込みを消してください」という目的
では使えないらしい。
 私は絶望した。もう、手は残っていないのか。
 その日以来、私は会社に行かなくなった。電話が鳴っても出なかった。壁によりかかっ
てずっとぼんやりとしていた。時々腕を見つめ、目の前が真っ暗になった。腹が減ったら
コンビニに行き、適当なものを買って帰るだけの日々が続いた。

 遺体安置所から白衣を着た爺さんが出てきた。首つり死体を見てきたところだ。自殺な
ので、検死は行われない。だが、遺書の内容が気になるので、特別に呼ばれた皮膚科医だ。
「で、どうでした?」
 と刑事は問うた。
「ああ、人面瘡ね」爺さんは不謹慎なことに笑った。「面白い模様だが、ただのほくろで
間違いないです」


<了>
239創る名無しに見る名無し:2012/09/14(金) 19:43:10.39 ID:oq5v2r36
とりあえず上げてみる
240創る名無しに見る名無し:2012/09/20(木) 21:19:48.01 ID:60Kcoyjb
てす
241創る名無しに見る名無し:2012/10/05(金) 21:45:08.94 ID:/H1pNByf
てす
242創る名無しに見る名無し:2012/10/13(土) 09:10:04.53 ID:j3Zpz8CZ
>>25
そういえば線量計の機能が付いた携帯が出てたよね

近隣住民で測ってみたことある人は居ないのかな
243創る名無しに見る名無し:2012/10/23(火) 01:02:03.98 ID:v6ka9Q7g
>>219
鳥人間コンテスト?
244 ◆69qW4CN98k :2012/12/15(土) 21:12:37.73 ID:OZ/Dh8GQ
こんな話を聞いた



Aさんが住む近くに交差点がある
Aさんはそこを「ツジガミ」と呼んでいた
田舎道の直線と直線が交わる交差点。周りは田んぼばかりだ
見晴らしが良すぎる道なのに、事故が絶えないという
余りにも多いために、田舎には似つかわしくない信号機が設置された
だが事故は減ることは無かったという
先日、その交差点付近に落雷があって信号機が壊れたそうだ
245創る名無しに見る名無し:2012/12/15(土) 22:13:33.14 ID:NT/Y+lJX
ものの見事に神の通り道じゃないかw
246創る名無しに見る名無し:2012/12/17(月) 17:39:21.97 ID:bdEDr9Gd
http://junko717.exblog.jp/

バカ面のマニフェストの看板持ちがいる。

野田なのだ。バカボンなのだ。
247 ◆69qW4CN98k :2012/12/21(金) 21:31:49.82 ID:Fe+v0XtV
こんな話を聞いた



BさんがPCに向かっていると後ろ髪を引かれる気がした
頭を触っても何もない
そんな事が続いたある日、また同じような感触を味わった
度々続いていたために恐怖よりイライラが勝っていたBさんは
後ろ手に頭上を思い切り引っ掴んでひっぱった
手にはBさんのものとは違う髪の毛があったそうだ
248創る名無しに見る名無し:2013/01/10(木) 19:29:31.11 ID:IQUfh1YG
玄人気取りのおバカさんレビュアー AVANZSUR

wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
249創る名無しに見る名無し:2013/02/15(金) 02:23:15.34 ID:iJJkBMEh
250創る名無しに見る名無し:2013/03/23(土) 12:16:55.47 ID:Ls/RRdlt
251創る名無しに見る名無し:2013/05/18(土) 17:57:33.02 ID:9jDVJVCz
想像してください

あなたは不老不死になりました
飢えることもなく息を止めても死ぬことはありません
首を刎ねられても再生し、病魔はあなたを侵すことはありません

想像してください

親が死に友人が死に恋人が死に子が死に孫が死に周りの人が死んでいき
日本という国が終焉を迎え国家が崩壊し別の文明が興り
新しい文明が興っては滅び興っては滅び
地球が寿命を終え消滅し太陽が消滅し銀河系が消滅し
全てが無に帰そうとも、あなたは死ねません

想像してみてください
252創る名無しに見る名無し:2013/05/18(土) 21:32:07.96 ID:Oz2T6vDQ
別に苦しくないならそれこそ考えるの辞めて寝るだけかな
青空町耳嚢 第3/21話
【消火栓ボックス】

 勤務中、別のフロアの課に書類を届けに行こうとした時だった。
 廊下の奥で子供の声がした。
 うちのビルに子供がくるような業種は入っていない。
 よくよく見ると、火災報知器の下の消火栓ボックスに出入りして遊んでいるようだ。
 一人、二人、三人。小学生ぐらいの背格好の影が消火栓ボックスから順にでてくる。
 注意しようか迷っているうちに、その三つの影は階段を駆け下りて行ってしまった。
 しかたない。今度見かけたら注意しよう。
 無理に追いかけるのはあきらめて、火災報知器と消火栓ボックスがいたずらされていないかを調べに行った。
 火災報知器、異常なし。
 消火栓ボックスは、と扉をあけてみると、中にはホースが幾重にも折りたたまれてぎっちりと収納されていた。
 子供が入れそうなゆとりは、どこにもなかった。


【終】
青空町耳嚢 第4/21話
【唐傘人間】

 出張帰りで新幹線にのっていた。
 たしか静岡あたりだったと思う。
 何の気なしに窓の外をみると、進行方向の夜空がたくさんの花火に彩られていた。
 江戸川の花火大会どころではない圧倒的な数の牡丹花火。 
 このまま進めば、もっとよく見えるに違いない。
 そう思って心躍っていたところ、急に電車がとまって車内アナウンスが響いた。
「ただいま、進行方向を進む車両にトラブルが発生しました。問題解決まで、今しばらく停車いたします」
 冗談じゃない。停車している間に花火大会が終わってしまったらどうする。
 私以外にもそう思った乗客がいたようで、車内のあちこちから「かまわず進め!」という野次がとんだ。

 だが、そんな心配は無用だった。
 次第に花火のほうがこちらに近づいてきたのだ。
 どうやら、打ち上げる場所自体がだんだんと近づいてきているようだ。
 花火がどんどん大きく鮮やかになってくるにつれて、車内から別のざわめきがもれだした。
「花火大会にしちゃ、変じゃないか?」
「打ち上げ場所が移動する花火大会なんて聞いたことがない」
「それになんだか、空に風船みたいなのがたくさん浮かんでないか?」
「おい、あれ、風船じゃないぞ!」

 浮いていたのは風船ではなかった。
 無数の唐傘がひしめきあっていて、その一つ一つに黒い人影がぶら下がって、ゆうらゆうらと揺れていたのだ。
 打ち上げ花火、下から見ずに、横から見ている唐傘人間達。

 車内はパニックになった。
「停まってる場合じゃねえぞ!」
「バックだ!バックさせろ!」
「おい、どんどんこっちに来るぞ!」
 車内が恐怖と混乱のピークに達したその時、ふいに夜空一面に金色の大輪がパッとひらいた。
 花火大会の終わりによく打ちあがるあれだ。
 そのキラキラきらめく光の粒子は、花火も唐傘人間も、すべてを包み込んでいき……消え去った。
 信じられないことに、あれだけいた唐傘人間達が、かき消したようにいなくなっていたのだ。
 呆然とする車内にアナウンスが響いた。
「進行方向の車両トラブルは無事に解消しました。これより運行再開いたします」

 新幹線は、ただの平凡な地方都市を通り過ぎていった。
 そこに花火のなごりらしきものは何もなかった。


【終】

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【8/27】創作発表板五周年【50レス祭り】
詳細は↓の317あたりをごらんください。
【雑談】 スレを立てるまでもない相談・雑談スレ34
http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1361029197/
255創る名無しに見る名無し:2013/08/29(木) NY:AN:NY.AN ID:Qs+saZUb
仕事です

お前らビール

暑い中
256創る名無しに見る名無し:2013/08/31(土) NY:AN:NY.AN ID:+Vy0Feh0
257創る名無しに見る名無し:2014/02/19(水) 22:23:49.91 ID:IuGJ8fhS
 
258創る名無しに見る名無し:2014/08/02(土) 19:34:20.29 ID:7fFdiW0O
259創る名無しに見る名無し
ちんやまぺに