【長編文章】鬼子SSスレ2【巨大AA】

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104歌麻呂 ◆Bsr4iViSxg
 信じられない。
 何が信じられないって、こにぽんがこんなに重かったことに決まっている。いくら私が引いても、こにぽんは一寸たりとも動かないのだ。
「おーにーぎーりーたーべーるーのー!」
 壊れたラジオカセットのように、どうしようもないことを何度も何度も繰り返し喚き続ける。周囲からの視線が気になって仕方がない。ただ歩くだけでも注目される二人組なのだから。
「ごめんね、こにぽん。今お金がないから」
「おーにーぎーりーたーべーるーのー!」
 ぶんぶんと首を横に振り、バタバタと桜の袖をはためかす。もうこうなってしまったら全く私の言うことなんて聞いてもらえない。
 空の下には大きな湖があり、それを色づいた山々が手を繋いで見下ろしている。湖畔に出来たばかりの広い公園があり、そこと湖を周回するように伸びる道に挟まれたここは、宿場町をモチーフにした店が立ち並んでいる。
 つまり、お団子や饅頭、そして例のおにぎりなどなどの露店が所狭しと並んでいるのだ。
 そりゃ、私だって食べたい。こにぽんと一緒にお団子を食べて、紅葉を眺めながら歌の一つや二つを詠いたい。
 でも、残念なことに、人間界と同様に……いや、それ以上に深刻な不況に見舞われていしまっている。神様でさえも、神社を放棄して出稼ぎに行く時代だ。天照大御神さんと菅原道真さん以外の神様はほとんどそうしているんじゃないかなと思う。
 当然、神ならざる私にお金なんてほとんど持っていない。
「おーにーぎーりー!」
 こんな場所に来なければよかった、と言いたいところだけど、この近くに鬼が潜んでいるとの噂だから仕方がない。それに、私も戦う前に何かを口にしたかった。これでは上手く祓うことが出来ず、逆にこっちが穢されてしまう。
「そこのお嬢ちゃんたちや」
 そんなとき、露店から年老いた女性の声と、なんとも食欲を誘う炭火の芳香と煙がして、私もこにぽんもその五感を刺激する方を向いた。
「鮎でもいかがかな?」
 その白い煙は屋台から伸びていて、そしてその小窓から結晶した塩と焦げの黄金比を持つ串焼きの魚が焼かれていた。
「いえ、結構です。お金、ないんです……」
 丁重に断ると、私のお腹は哀しそうにぐぅと鳴いた。隣の小さなお腹からも、ぐぅと鳴る。
「遠慮しなさんな。ほら、お金なんていらんから、好きなの選んで食べてええよ」
「やったぁ!」
 こにぽんが急に軽くなり、まるで風に飛ばされる木の葉のように、その煙の元へ吸い込まれていった。私もため息をついてからあとに続く。
 既に鮎の背中をはむりとするこにぽんは脇の長椅子に座り、足を投げ出した。
「すみません。いつか払いますから」
 出来るだけ小さくて焦げ目の多いもの選び取り、美しい銀髪のおばあさんに頭を下げる。
「いいのいいの。お嬢ちゃんたちを見て、昔を思い出せたんだからね。それで十分」
 と、私の服装を指差した。紅葉色をした、この着物を。