【鬼子たんの】鬼子Lovers【二次創作です】

このエントリーをはてなブックマークに追加
332創る名無しに見る名無し
───なにかおかしい。
鬼の娘ひのもとおにこはそう感じていた。最近できた人間の友人、田中 匠(たなか たくみ)の様子が変なのだ。
・・・ひょっとして、また何らかの心の鬼に憑かれたのか?と、疑いもしたが、彼女の放つ気配は至って正常
──何をもって正常とするかは省くとして───だった。
 それでも、時々目が遠くをみていて、何か迷っているようにみえる。話しかけてみると、はっと我に返ることも
多々あった。しかも最近になってますますその頻度が増えてきている。彼女はしょっちゅう学業以外にも創作活動を
続けていて、「ネタ」なるものに苦慮しているときなどよくそういう状態に陥る。だとしても、今回のはまた妙に
長引いている。あまりにも頻繁なのでそれとなく聞いてみたこともあった。
「田中さん、最近おかしいですよ?何か困った事でもあったんですか?」
 と。
 その時は
「アハハ。いやだなあ。ひのもとさん。そんな訳ないじゃん。考えすぎだって。
 ここの所、仕上げなきゃいけない原稿が多くってさー」
と、うやむやにされてしまったのだが・・・
・・・私はそんなに頼りないのかしら。確かに心の鬼を祓う事しか能がない。だけど、今まで色々と悩みや愚痴を
相談してくれていたのに。こういう時、田中さんと私の住む世界が違うんじゃないかと、一人置いていかれた様な
うすら寒い孤独感にさらされてしまう。
 田中さんの感じている悩みを理解しきれていないのではないかと。
「ねねさま?」
膝の上の小日本が怪訝そうに問いかけ、ハッと我に返った。いけない。私まで同じようになってはこの子にも
心配をかけてしまう。
「あ、ううん。えぇと、『よし、オレたちもケンカってやつをしてみようじゃないか。アカオニはいいました』」
読みかけの絵本を再び読み始めた。
───そういえば、田中さんとはケンカしたこと、なかった。やっぱり、色々とガマンしていた事があったの
だろうか?愛想をつかされてしまったのではないだろうか?
 絵本を読んでこにを寝かしつけた後、天気がいいので洗濯物を干しながら、つらつらとそんな事を考えていた。
なんだか、考えれば考えるほど心の奥のモヤモヤが大きくなってくる。
 「わんこ」
 指示を出す時の声音でわんこに話しかけた。彼は今、ぶすっとした顔で、それでも家事を手伝ってくれている。
「おう」
 こう言うとき、いつもはぐだぐだグチグチ言う時と違って素直に指示を聞いてくれる。
「田中さんを見張ってて。何かあったらすぐ知らせて」
「はぁ?何かって何だよ?もうちっと詳しくいってくれよ。そんだけじゃ何に気ぃつけりゃいいかわかんねーぞ」
 思いがけず、いつもとは違う反応が返ってきた。無理もない。私もよくわからないのだ。
「ま、いいけどよ。何かあったら知らせりゃいいんだな」
 私が口ごもっている間に、そう返事し、洗濯物の入ったカゴをその場に置いて、わんこは姿を消した。
===================================================
───数日が経過した。わんこの報告は毎度あまり代わり映えしなかった。たまに捕まってモフられたとボヤいた
こともあったが、聞く限りは普段と変わりなかった。
 「ねねさま、ねねさま〜今、欲しいものな〜に〜?」
こにが、無邪気に話しかけてきた。私は田中さんの事に気を取られたのもあり、繕い物の手を止めずにぼんやりと
「そうねえ。そろそろ冬も近い事だし、炭の備蓄が心配ね」
と、答えていた。そうだそろそろ冬支度も考えないと。少し早いかもしれないが白狐様の所に顔を出しておこう───
333創る名無しに見る名無し:2011/11/01(火) 19:39:29.95 ID:YGiqoU01
 「こんにちは」
 私は白狐様の稲荷神社を訪れた。声を掛けたのは、鳥居の下ではき掃除をしていた見習い狐のシロちゃんだ。
巫女さんの格好をして、いつも境内の掃除などをしている。
一応、人間界にも、人間向けの神社があるらしいが、こちら側は狐の一族が営んでいる神社だ。そのため、私たちは
様々なモノをこの神社を通じて用立てて貰っている。
「ひゃわわわわっ?!お、お、お、鬼子さん?!」
「?」
潜在力はあるのに、ちょっとあわてんぼさんで、気苦労が絶えないと白狐様は苦笑しながら語ってらしたっけ。
それにしても、不意の訪問とはいえ、驚きすぎではないかしら?いつもは明るい笑顔で出迎えてくれるのに・・・
なんだか動きもぎこちない。あわてた様子でパタパタと駆けていって・・・コケた。
 金色の稲穂を思わせる髪の毛から狐の耳が、腰からは狐の尻尾がぴょこんと飛び出して動揺っぷりが見て取れる。
何だか大慌てで白狐様を呼ぶ声が響いているのだが・・・
 私、何かしたかしら?
シロちゃんの慌てっぷりを諫める声が奥の方で聞こえた後、白狐様が落ち着いた様子ででてきた。
私はいつもどおりに挨拶をし、今日の用件を申し上げた上で、一体何事かと尋ねてみた。
「なに、不肖の孫がまた仕方のない勘違いをしただけじゃ。それより、冬支度の事だったの。事前に用意して
 あるから、後で若いものに届けさせよう」
「? ありがとうございます」
珍しい。こういった手続きを白狐様じきじきになされるなんて。いつもはシロちゃんを通じてお願いするのに。
・・・そういえば、あれ以降、シロちゃんは引っ込んだまま、顔を見せていない。ひょっとして私、避けられてる?
「あぁ、シロの奴は先程遣いにやった。今日は遅くまで帰らぬじゃろう。スマンな。せっかく来て貰ったのに」
私の表情から読みとったのか、すかさずそんな事をおっしゃった。
「あ、い、いえ」
 なんだか釈然としないまま、神社を辞した。
===================================================
───田中さんが私に告げる。
「ごめん。やっぱり鬼は気持ち悪いや」
───シロちゃんが嫌悪の眼差しをむける。
「鬼は怖いです近づかないで欲しいです」
───わんこが愛想が尽きたとばかりに吐き捨てる。
「けっ、なんでこんなのを主に選んだんだ、俺」
───ヒワイドリとヤイカガシさえ、何故こんなのを付け回していたのかと責め立てた。
───胸に深々と矛が突き立てられた。
「けっ、汚らわしい鬼なんぞ、とっとと消えてまいな。明日からウチの天下やっ!げひゃひゃひゃっ!」
角張った面を着け、ドリルのようなお下げをした女の子が底意地く哄笑した。
「!!!!!っ!」
334創る名無しに見る名無し:2011/11/01(火) 19:40:07.16 ID:YGiqoU01
 がばっ!と、身を起こした。周囲は真っ暗だが、外から朝の気配が伝わってくる。もう少ししたら明るく
なるだろうか。誰かどこかでたき火でもしているのか・・・遠く竹が火で破ぜるような音や犬が吠える声が聞こえる。
「ゆ、夢?」
部屋は底冷えがするような寒さに満たされているにもかかわらず、全身に嫌な汗をかいていた。
 ここ永いこと見ていなかった、ひさしぶりの悪夢だった。
───そうだ。かつて私はヒトリだった。それが今はこにが居る。わんこという居候も増えた。白狐様は良くして
下さってるし、田中さんは人間で初めてのお友達だ。他にもいろんなヒトタチに良くして貰っている。
私はいつの間にかこんなに恵まれていたのだ。元々は得られると思いもしなかった諸々のもの・・・
・・・わかってる。どんなに永く続いても、必ず終わりがある。それでも、私はただこの『今』を大切にしたい。
その気持ちですべて受け入れよう。一日一日、一秒一秒を大切にして。例え友達に別れを告げられる事になろうとも。
 そして、わんこが『田中が大切な用があるから来いってさ』と、呼びに来たのはその日の夕方だった───
===================================================
──そして、私はこの戸の前に居る。大分、夜もふけた。わんこに山道を案内され、見慣れない獣道を通って、
ここにやってきた。方向感覚には自信があったが、あちこち振り回されてここがどこなのかいまいち分からない。
 途中からはわんこに手を引かれての山道を移動していた。目の前にある戸は見たことがあるようなないような・・・
だが、いざ戸の向こうに友人が居ると思うと、やはり足がすくんでしまう。
目の前の戸からは・・・いや、建物からは鬼子の心を写したように一切、灯りが漏れてこない。
 ああ、覚悟したつもりでもやはり怖い。

 嫌われていたらどうしよう。
 怖がられていてらどうしよう。
 愛想をつかされていたらどうしよう。

 そう、思いながらも、ここ暫く会えなかった友人の声を欲する心が、手を先に伸ばした。

 ガラッ
335創る名無しに見る名無し:2011/11/01(火) 19:40:22.88 ID:YGiqoU01
  パンッ パパン! パパパパパ〜〜〜ン!!!
「?!?!」
 一斉に目と耳から激しい刺激──音と光が襲いかかり、何が起こったか分からなかった。

 『「『「お誕生日おめでとう〜〜〜〜〜〜〜〜!!」』」』
「へっ?」

 その時の私は呆けていたと思う。さっきまで真っ暗だった室内はやけに煌びやかに飾り立てられていた。
中には様々なえぇと、田中さんの「まんが」の中でしか見なかった色んな扮装をした・・・・いろんな人達が
紙吹雪と紙テープをまき散らした円錐状のモノを手に笑っている。

「いやぁ〜〜実はさ、鬼子さんの誕生日、わかんないっていうから、今度みんなでコッソリ準備して、
 ひのもとさんを驚かせようって事になっちゃってさ〜〜」
みんなの真ん中で三角帽子をかぶって、何故か鼻メガネをつけた田中さんが仮装の向こう側からいたづらっぽい目で
事情を説明してきたが、私はまだよくわかってなかった。
「で、まあ、折角だからアタシとひのもとさんが出会った今日って事にしようかなって。だけど、ひのもとさんって、
 無欲なタチだからね〜プレゼントをどうしようか、バレずに会場用意するのはどこがいいかって色々ハードル
 高くてさ〜」
ゆっくりと、本当にゆっくりと、状況が頭に入ってくる。ここ、白狐様の神社にある建物の一つだ。
「そしたら、結局、白狐様の手を煩わせるまでになっちゃってね〜思いがけず、大げさになっちゃった。
 しまいには境内にある建物まで借りることになっちゃって、本当に申し訳ないっス」
「なになに、この子の友人の頼みじゃ。これくらいでいいのかと申し訳ない位じゃ」
何と、白狐様まで、あの三角帽子をかぶって、微笑んでいる。同じように横で微笑んでいるのはシロちゃんだ。
「本当にあの時はビックリしましたよ。まさか準備の真っ最中に当の鬼子さんがやってくるんですもの」
「だけど、方向幻惑の結界に闇の結界。いくら何でも奮発しすぎだろうが。ジジィ。このニンゲンはそこまで
 大層なモンまで計画してたわけじゃねぇだろ」
わんこだ。
「ま、ええやないの?そんだけ意表を突けたみたいやし。ほれ見てみい。鬼子のヤツ、鳩が水鉄砲食らったような
 顔しとるやないか」
そう言って笑っているのはついなちゃん。
「豆鉄砲」誰かが突っ込んだ。「やかましっ!」

「こにはね〜さっきまで知らなかったんだよ〜このまえ、わんこに鬼子の欲しいもの聞いてくれって言われた時も
 わかんなかったんだもん!いってくれたら、こにも何か準備したのに!」
「こにに話したら全てバラしてしまうでゲス」ヤイカだ。
「そうそう。だから直前まで伏せるしかなかった。許せ」ヒワイドリまで。

状況が徐々に頭に染みこんできた壁にかけられた「鬼子ちゃんお誕生日おめでとう」の垂れ幕。
そうか、これは私の為に用意されたものなんだ。───わたしだけのために

「ひ、ひのもとさんっ?!」
 田中さんのうろたえた声が響き、ざわ、と会場全体がざわめいた。
いけない。ホントはこの空気を壊したくないのに、この温かい空気を湿らせたくないのに
目から次々に留められないものが溢れ出ていた─────

336創る名無しに見る名無し:2011/11/01(火) 19:40:47.23 ID:YGiqoU01
──無礼講だった。最初思わず泣いてしまったけど、後はものっすごい馬鹿騒ぎ。まるでさっきの湿っぽさを
吹き飛ばそうとしたかのように。まわりはもう、シッチャカメッチャカだ。
「やーみんなエネルギーが有り余ってたね〜」
疲れたって感じで田中さんが横でグッタリしている。・・・ニンゲンの田中さんが何であの騒ぎで生き残れたのか
今でも疑問だ。みんな普通のニンゲンとは一段違う所で大騒ぎしていた。きっと白狐様が守ってくださったんだろう。
さっきまでの嵐のような大騒ぎは夢かと思ったが、手元に残ったみんなからの贈り物が夢でないと保証して
くれている。今はもう、みんな引き上げて、ほんの少しの間、田中さんと私だけになった。
「あ、じゃあ、さっき渡しそびれたから。はい。私から」
そういって田中さんがかわいらしくリボンで飾ったプレゼントをくれた。
「わあ、ありがとうございます。・・・これは・・・」
「うん。カイロ。ひのもとさん所って、炭火があるんだよね?冬は寒いそうだから、コレの中に火のついた炭を
 入れておけばあったかいかなって」
そのカイロを入れておくカイロ入れはクマさんをあしらっていた。きっと田中さんが手作りしてくれたんだ。
 それだけでじんわりと胸の奥があったかくなってきた。あと、目の奥も。
「ありがとうございます。大切に。大切にします」
新たに増えた大切な御守をきゅっと握りしめ噛み締めるように呟いた。
「アハハ。これだけ喜んでもらえたら、作った甲斐があったな〜ってね」
田中さんはポリポリと頭をかき、照れくさそうに微笑んだ。
遠くから私たちを呼ぶこにぽんの声が聞こえてきた。
「お、そろそろ二次会の準備ができたようだね?さ、いこ!ひのもとさん!」
「え、あれだけ騒いでまだやるんですか?!」
「もっちろん!さいくよ!立ったたった!」
そうして私たちは、次の大騒ぎの場所へ田中さんに引っ張られるカタチでこの会場を後にした──

                                 ──終──
337鬼子の誕生日:2011/11/01(火) 19:43:55.80 ID:YGiqoU01
>>332-336
という訳で、一周年記念で『鬼子の誕生日』SSを創らせていただきました。
 急ごしらえで色々読みづらい所はご容赦を〜
作中では「田中さんと鬼子が出会った日」を誕生日にして祝ってしまえ!というノリでこんな話になりました。
描写にない面子も実は色々と参加しておりますが〜書いていたらもっと長くなっちゃうのでそれぞれ脳内補完よろしくです。
それでは〜〜