「まとりょーしかってなぁに?」
幼い頃の私は、疑問に思った事、わからない事は何でもその人に尋ねていた。
それは、その人が物知りだったからという事もあるのだろうが、それよりも
何よりも、私はそうしてその人と話をする事が好きだった。
その日も、何かテレビで単語だけを聞き、いったい何の事だろうと思っていた
言葉について尋ねた私に、あの人は笑ってこう言った。
「ロシアのお人形でね、お人形の中からお人形が出てくるんだよ」
それは的確な答えで、だがしかし、それ故に幼い頃の私には、それが何か
ひどく怖いもののように思えてしまった。リカちゃん人形のようなタイプの人形
しか知らなかったその頃の私は、その人形のお腹を食い破りでもして、おぞましい
化物のような人形が出てくる、そんな情景をイメージしてしまったのだ。
幼い想像力の暴走に、私の目端にはみるみる涙が溜まっていった。
「……こわいおにんぎょーなの?」
「そんな事ないよ。まあ、無表情な感じのもあるけど、どっちかというと
可愛いんじゃないかなぁ、と僕は思うんだけどね……えっと」
そう言って、あの人は向かっていた机の上に置かれているキーボードを叩いた。
ま・と・り・ょ・ー・し・か。キーボードを叩き慣れたその指の速さに、私は思わず
見とれ、それまでの怖さも一瞬で消え失せる。
細長い指。白くて、触るとさらさらしてて――何度も手を握ってもらった事が
あった――、そしてすごく器用なその手を見いた視線をふと上げると
「ほら」
あの人の笑顔がそこにあった。
顔が何故か赤くなる。
それを見られるのも、何故か恥ずかしいと思えて、私はあの人が画面に出した
その画像へと視線を移し、顔を逸らした。
すると、そこにあったのも、また笑顔。
「……わらってる」
「どうだい? 可愛いだろ?」
その画像には、笑うマトリョーシカが写っていた。色々な種類の、大きさも形も
微妙に違う、だがそのどれもが笑っている人形達。
それはたしかに、まあその、なんというか、愛嬌はあった。可愛い、とまでは
ちょっとその当時も、今となっても思えなかったりするのだが。
その時の私は幼くて、多分、その気持ちが素直に顔に出ていたのだろう。
「うーん、ダメか。可愛くないかな? 可愛いと思うんだけどなぁ……」
あの人は、何故かひどく落胆していた。
色々と物知りで優しくて、かっこ良かったあの人だけども、美的センスだけは
どうもいまいちだったようらしい。それはこの件に限った話ではなく――いや、それは
また別の話になるのでやめておこう。
私は落胆するあの人に、なんとかしてまた笑ってもらおうと、一生懸命幼い頭で
考え、そしてやはり、思ったままを口にした。
「でも……こわくないね」
そうなのだ。愛嬌はあった。だから、怖くはなくなった。
拭っていないから、目端は少し光っていたかもしれないけれど、それでも私は
笑ってそう言えた。そして、それに釣られるように、あの人もまた笑ってくれた。
「そう、それは良かった」
その笑顔が眩しくて。
その時、初めて私は自覚したんだと思う。
ああ、私はこの人が――
「……とまあ、そんな感じ」
時は残酷にも過ぎ去り、思い出の日々は色あせて――
そんなこんなで気がつけば私ももういい歳になっていた。
いい歳になって、こんな話をするのは、ひどく恥ずかしい。まあ、罰ゲームなの
だから、恥ずかしくなくちゃ意味が無いと、そう友人は言うだろうが。
しかし、なんでこんな歳になって、女友達同士集まっての飲みで、しかもそこで
初恋トークなんぞせにゃならんのだ、という思いはどうしても残る。いかに酒が入って
いようと、冷静な部分というのは残ってしまうのだ、私の場合。いっそ、何もかも忘れて
虎になってしまえたらどんなにか楽な事か。
「……あれ?」
気づけば、まだそこまで飲んでいないはずなのに、友人たちは机に突っ伏していた。
「どったの、皆?」
「……飲んでたビールに、いつの間にか砂糖が混入されていた……」
「……辛口の日本酒のはずが、気づけば甘酒に……」
「……誰か、塩を……塩を持ってきておくれ……」
友人たちは、不可思議なうめき声をあげている。
「まあ、あんたらがそういう感じなのは、しっちゃいたけどさ……」
「まさか、小学生と高校生の頃からずっとだったとは……」
「しお うま」
……一体何がいけなかったのだろうか?
今日は親しい友人達に、あの事を報告する為にこうして飲み会を開き、その席上での
罰ゲーム――一足先に幸せになる罰だと、そう友人たちは言っていた――として、私の
初恋話を披露しただけなのだが……。
「独り身の私らにゃ、殺傷力すら発揮するわっ!」
「ねー」
「しおかとおもったらさとうだったがとくにもんだいはない」
……友人たちがどうしてダメージを負っているのか、私にはよくわからない。
わからない事があればどうすればいいか。そう――私はいつもそうしていた。
それは、今も変わらない。
「……帰ったら、あの人に聞こうっと」
「へいへい、そうしておくれ。ケッ」
「まったく、このアマ懲りちゃいませんぜ?」
「この娘割と頭いいのにさー、なんでこういう所だけ天然なのぉぅ……?」
……ますますわけがわからない。
まあ、わからない事をあまり考えすぎてもよくない。私はそう割り切る事にして、
目の前の空になったコップにお酒を注いだ。友人たちのそれにも同じく注ぐ。
「ありがとー」
「ま、幸せになれそうで良かったじゃん」
「あんたが結婚とか、最初はどうなることやらって思ったけど……」
「なんせ、歳の差十歳婚だしね」
「でも、幼馴染の、そうやってずっと好きだったお兄さんと結婚とか、なんかドラマよねぇ……」
「ホント、そこまで長いこと想ってた人とくっつくんだからさ……幸せになりなよ?」
幸せ、か。
本当に、今私は幸せが山盛り、盛り沢山だ。
あの人と結ばれ、そしてこうして友人にも祝福してもらえている。
ちょっとふざけて頬を膨らませたりしてはいるけども、友人達も皆笑顔だ。
ふと想い出すのは、あの日、あの人への想いを自覚したその時に見ていた、笑う
マトリョーシカの姿。
笑うマトリョーシカの中には、やはり笑うマトリョーシカが入っているのだろう。
そして、その中にも……さらにその中にも……。
あの笑顔は、私とあの人を繋いでくれたあの笑顔は、いつまでも、どこまでも
続いていく――それはまるで、今のこの私の幸せが、この笑顔が、いつまでも、どこまでも
続いていく事を暗示していたかのように、今となっては思える。
「じゃあ、仕切り直しでまた乾杯しよ」
「何に乾杯するのー?」
「そうねぇ……何にする?」
そう問われた私は、答えた。
「笑うマトリョーシカに、乾杯!」
おわり
768 :
「山盛り」「初恋」「マトリョーシカ」 ◆91wbDksrrE :2012/03/01(木) 06:57:39.52 ID:jtpZcMEf
ここまで投下です。
全く関係ないし、つゆほども感想にもなって無いけど、
『「ネットにひっかかってはじかれたボールに」乾杯』を思い出したw
そして恋愛系はキライじゃあないぜ。
創作文芸の三語スレは15行ってルールで(あまり守られていない)
そんなんでストーリー物が書けるかって思ってたけど、こっちはなげーなあ。
まあ原稿用紙にして十枚足らずみたいなんだけど。
――って、全然感想になっとらんな。
15行は難しいな。入れたいものが入れられず、あっさり風味になりそう。
ところで3月に入ったし、新しいお題とか(提案)
三月三日ということで
三日月
十六夜
補聴器
三日月
十六夜
補聴器
の3つですね。
あの日、何であんなことをしてしまったんだろう? 今、あの人に
もう一度会えることが出来たら、謝りたいと思う。あるいは思春期の心が
揺れる時期だと言い訳することも出来るかもしれない。そもそも自分は
何も悪くないとも言えるかもしれない。それでも謝りたいと思う。
あの日、サッカー部の練習の帰り家に帰る途中、マクドナルドに寄った。
疲れていて他人を気遣う余裕がなかった。
僕はカウンターの前に立ちチーズバーガーとコーヒーを注文した。
「モウシワケアリマセン。モウイチドオッシャッテモラエマスカ?」
僕が顔を上げると、そこには申し訳なさそうな表情の女の人がいた。
そのイントネーションから聴覚障害の人だとすぐに分かったが
僕は同じような声でもう一度注文した。
「チーズバーガーとコーヒーのM」
「スイマセン。チーズバーガートコーラデヨロシイデショウカ?」
僕の中で何かが切れた。
「じゃあいいよ! コーラで!」
隣のカウンターで注文していた客とスタッフがこっちを向いた。
家に帰る途中、僕の気持ちは苛立ち荒んでいた。月が見えた。
三日月で地平線のすぐ近くに見えた。
あれからマクドナルドで注文すると、あの聴覚障害の人を思い出すことがある。
髪に手を当てていたのはきっと補聴器をいじっていたせいだろう。
泣きそうな顔になりながらも、助けを呼びに行かなかった。自分の力で
なんとかしようとした。そこがさらに
中学生の僕をイライラさせたのかもしれない。
今日は十六夜だ。あの日、地平線近くに浮かんでいた三日月。
なんでこんなことを覚えているんだろうと今になっては思う。
少し欠けただけの月。あの日と同じ月が今日も浮かんでいる。
777 :
創る名無しに見る名無し:2012/03/13(火) 21:05:08.88 ID:aWssFPu0
>>777 いいですね。こういうのすごく好きです
補聴器が効果的に切ない小道具になっていて、驚きましたw
三日月→十六夜、というのが絡めやすいし、風情もあるし
良いお題だなあと思います
778 :
776:2012/03/16(金) 00:59:47.28 ID:l4aIbBt0
ありがとうございます。励みになります。
大学の先輩がアホすぎる。
「じゅうろくよなみだ?なにそれ、十五の夜のアンサーソング?」
と、カラオケの画面を見て言う。十六夜くらい読め、読めれ!
別の日の事、
「なんで私と話す時だけ中尾アキラの真似するんですか?」
「おいおい、高音が聞き取りにくいって言ってただろ」
確かに去年、突発性難聴になってから高音が聞き取りにくいと言ったけど、
低い声を出すのに中尾アキラの真似をする必要は無い。絶対に。
脱走した犬を探すの手伝って貰ったら、うちから5kmくらい離れた所で自分が迷子になってた事もあった。
今日は補聴器を買いに行くのに付き合ってもらい、昼ごはんおごるためににパン屋に入った。
「知ってる?クロワッサンってフランス語で三日月って意味なんだよ」
その話はもう5回聞いた。しかも4回目はおとといだ。
いくらアホでも二日前に言った事くらいおぼえていて欲しい。
まあ、そんなアホに惚れている自分も大概なんだけど。
ー終ー
アホやw
こういう職人的感覚うらやましい。
引き出しにしっかりラベルが貼ってあるタイプなんだろうな。
ワロタw
>779
「終」の両側のやつ、長音になってねーか?
「山盛り」「初恋」「笑うマトリョーシカ」でよろしゅうです。
妹がおれのアパートを訪れるたびに悪夢が起こる。
それは紛れも無い事実だ。
毎年、桜の花が咲く季節に妹はやってくる。
そして、今年も桜の花が綻びて……。
仕事から帰ってきたおれを迎えてくれたのは、台所に立つ妹だった。カレーの香りが懐かしく、炊きたてのご飯が空腹を刺激する。
妹はけして料理が苦手な子ではない。むしろ、上手い。だが、妹がここを訪ねたという事実が悪夢の始まりだった。
小さな肩に掛かったエプロンの紐、小皿のカレーを味見する後姿は妹と呼ぶより、オトナの女を思い起こさせる。
小声で「よしっ」と呟くと、妹は振り向いて恥ずかしげに舌を出す。母親から合鍵を借り、わざわざおれの部屋にやって来た妹は
エプロンの裾を摘んで、桜の花のような笑顔をおれに見せた。
「兄貴、カレーが好きだもんねっ。兄貴のことは、大体知っているからねっ」
おれはカレーライスが嫌いな日本人に出会ったことがない。例外なく、おれも大好きだ。小さい頃は何杯もおかわりした。
その記憶が妹に焼き付いていたせいか、妹は白米を山盛りに皿に乗せ、熱々のカレーをかけておれの目の前に差し出した。
しかし、か細い一人暮らしに慣れたせいか、小さい頃のように山盛りのご飯がとんと苦手になってきたのだが、妹はおれが
小さかった頃の感覚で扱ってくる。蒸らし終わった炊飯ジャーは律儀に妹の言うことを聞いていた。
「帰ってくる頃だと思ってね。ラッキー」と、妹は我が部屋のように知り尽くした台所を片付けて、おれを「夕飯にしよう」と呼んだ。
腹は減って今にも倒れそうと言うのに悪夢だ。ナイトメア・シスターはネクタイを解こうとしたおれをじっと見つめていた。
「スーツ萌えだねっ。現代日本を駆け抜ける孤高の騎士(ナイト)さま!」
「このご時世でしてな、ただの派遣社員だけどな」
「ふんふんふん。剣に魂込める傭兵(マーセナリー)ですね!でもね、スーツの似合うオトナでも、カレーライスの前では
素直なお子さまになっちゃいます!さあ!剣を置いて、よろいを脱いで!」
「おこさま扱いですか」
「いえいえ!いい稼ぎしてるんだから、豪勢にしたんだよ!食材費、ごちです!」
「今年も奢りじゃないのか」
年に一度だから、恩返し代わりには悪くは無い、とおれは妹の所業を黙認していた。
およそ、おれが生きるのに1.5日分の白米が盛られた皿に、色合い鮮やかな色と共に香辛料が鼻をくすぐる。
カレーの魔力は恐ろしい。安物の行平鍋が魔人が飛び出で来る魔法のランプのように見えてくる。
空腹さえあれば、どんな状況下の人間を飲み込んでしまうほどの力を持っている。
微妙に溶けた戸惑い多き新人の玉ねぎ、形の悪いやられ役のじゃが芋、そして曲者役者のにんじん。「おっ、予算奮発したんだね」と、
舞台の格をグンと上げる牛肉。そうだ。残り物でさえも主役の白米を食うほどの演技力を持ち合わせた野菜や肉たちが、おれの目の前で、
おれのためだけの一夜限りの舞台を見せてくれる。その気になれば、アンコールも受け付けるというサービス振り。
そして、回を重ねるほどに深みが増す芝居。それが、カレーライス。
妹の作ったカレーは一言で言えば……美味い。好きなものこそ上手くなれ、とはよく言ったもの。
とくに、カレーに関しては絶品だ。
だが、悪夢だ。
「覚えてる?兄貴との約束」
両肘付いて眺める妹の質問にカレーの山を削ってゆくおれは無言で「ああ、覚えてるけど」と答えた。
どこで買って来たのか分からない土産品。テレビを置いた家具の上にいち、にい、さん、し、と、並んでいる人形。右の人形ほど
大きくて、表情も何となく乏しい。ロシア名物・マトリョーシカ。妹はおれが一人暮らしを始める際に贈ってくれたものだった。
これを選んだ理由を尋ねても、妹は笑っているだけだった。わたしと交わす約束を守り続ければ、分かるはずだよ、と。
「そういえば、兄貴の会社……兄貴の初恋の人が働いてるんだってね?」
おれは匙を持つ手を止めた。確か三年前、妹がおれの部屋に初めてやって来た年のことだった。
そのときもカレーを妹は作っていたのを覚えている。地方の支店からおれの働く本部へと戻ってきた、可憐な年上の女性。
何という神々のいたずらか、偶然にも彼女はおれの初恋の人だった。
「兄貴のことは、大体知ってるからねっ」
妹はおれが年上派というパーソナルなフェチシズムでさえ知っているのだった。
長く顔をあわせていたからこそ分かるようなものとも言える。しかし、それは悪夢の始まりに過ぎなかった。
「そして、巡り巡って初恋の人は兄貴の直属の上司になりましたー」
それは再び桜を拝めるときのこと。そのときもまた、妹のカレーを口にしていた。
「恋することを教えてくれた人と働くって、毎日がうきうきでしょ?」
「むしろ、痛い。痛いんだ」
「果報者っ。初めて恋して、初めて振られた人じゃないの。恋のダブルチャンスですぜ、兄貴」
空になった皿と鍋、そして食器もろもろを台所で洗いながら、顔を見せるのを拒むように後姿のまま妹は笑っていた。
「こうして、来年も、また来年も、いつまでも兄貴と一緒にカレー食べられるのかな」
「どうだろう、な」
「料理するの……楽しいし、好きだし。兄貴の頑張りをわたしが叶えるって、言わせんな!恥ずかしい!」
妹の帰り際、ブーツを履きながら「わたしの計算どおり!よかった、よかった」と鼻歌交じりの妹はおれのことを
『大体』知っている。『大体』だ。だから、知らないことももちろんある。例えば、経験則では見出せない、あまりにも近い出来事……。
そんな妹は「ちゃんと約束を守ってくれていて、よかったですっ」とグーサインを見せながら、おれの部屋を出た。
妹がいなくなったことを確認したおれは、妹との約束を果たすためにマトリョーシカの元へ正座した。神仏に唱える気分だった。
口が利けず、聞く意志を持たないマトリョーシカに、口にしたくもないことを話しかけるのに躊躇いはもはやない。
(契約更新、出来ませんでした。直属の上司から言い渡されました。おれの勤務は……今年度いっぱいだそうです)
妹が訪れるたびに、悪夢がやってくる。
初恋の人から内容は違えど二度も振られてしまったようなものだ。
桜が散るまでお世話になるだろうスーツがやけに遠くに見える。妹との約束を果たそうと、左端のマトリョーシカの上半身を
持ち上げると、またまわり小さな人形が顔を見せた。右四つの人形が無表情なのに対して、一番小さな人形は春の日差しのような
笑顔を見せていた。おれの悪夢を知らない「笑うマトリョーシカ」の前ではおれは肩を落とすことしか出来なかった。
「そんなにおれの悪夢が可笑しいのかよ……、マトリョーシカさあ」
とりあえず、就活すっか。今度、マトリョーシカの人数を増やすとき、作ってくれるカレーライスさ、
とりあえず小盛りでいいからな。妹よ。ついでに、鶏肉か、肉抜きで。
おしまい。
カレーは正義!
投下はおしまい!
ナイトとかマーセナリーという言葉を出した意味がわからない。
普通の人間はまずつかわん。と思う。
そんなこと言ったら小説の人物みたいに喋る一般人なんていねーよw
790 :
創る名無しに見る名無し:2012/03/20(火) 22:01:28.15 ID:Os3vWpJg
>>785 奇しくもさっきまでカレー作ってましたw
それはともかく、乙です!
妹ちゃんの、ネット・ゲーム漬けが垣間見えるようなキャラがいいですねーw
でもたしかに、
>>788の言うように無駄な演出? と思えなくもない気が。
「マトリョーシカ」の処理がネックになるお題かと思います。
そこへ違和感なく繋げるために、妹のエキセントリック気味なキャラ作りをしたのかと思いました。
(語り手である兄も厨二病患ったまま大人になった感じだしw)
>>779 短い中に卒なくまとめてくるあたりが職人気質感じますねー
クロワッサンは初めて知りました、勉強になるなーw
GJ!
>>781 あなたのレスの2行目も、なかなか詩的でステキだと思いました///
>>778 ごめんなさい。安価間違えてましたね…
でも、伝わってくれて良かったw
これからも投下してくださいな
お題『理系女子』
「アニメ監督」
「ランダバ」
補聴器はあまり好きじゃない。
世界は音で溢れている。そんなことは胎内にいるころから知っていることだ。
けれど、一度その音のほとんどを失ってからというもの、何とも白々しく聞こえて仕方がないのだ。
それはきっと、補聴器なんて偽物に頼っているからなのだ。
ひりつく様な現実から聴覚を失って、ともするとそれを誇りに思っている自分がいるのかもしれない。
「面倒なだけだよね。言い訳しないの」
「…………」
春華はバッサリと切り捨てた。
ボクシングを辞めてから、2年。
一応定職には着けたし、生活に不便なことも特にない。
厳しい減量がない分、食べる喜びなんてものに目覚めた今日この頃でもある。
「今日は十五夜だから、じゃじゃーんお団子用意しましたぁ」
言葉は聞こえなくとも、表情と行動で大体のことは分かるものだ。
加えて同棲して5年。次に出てくる言葉も予想できる。
「このお団子を食したければ、補聴器を――」
「今夜は十六夜の月だぞ」
何かにつけて、補聴器を付けろと迫ってくるのが春華との日常である。
「いやいやいや騙されないよ。ちゃんとテレビで言ってたもん」
「お前は耳から入る情報を過信し過ぎなんだよ。ほら見ろ、どう見ても昨日の方が、月がでかかったさ」
そう、春華は過信し過ぎなのだ。
聴覚を失ってからの2年という月日を、甘く見過ぎなのだ。
2年もあれば読唇の心得くらい否応なく身に付くものなのに。
はたと話を巧妙にそらされたことに気付き、春華は寂しげに手のひらの補聴器を見つめる。
「変な眼で見ても、つけない物はつけないの」
言ってなお、春華は寂しげに、
「……それじゃあ、好きだよって言っても、ダメぢゃん」
拷問だ。
何よりタチが悪いのが、この娘はこちらが気付いてないと思っている点。
何度バラシテヤロウなんて思っただろうか。
この苦しみをお前も味わえと、赤く染まるであろう顔を想像するたびにうずうずとしてしまったものだ。
それも、今日までになるのだけれど。
「そんなに落ち込むなよ。今日が満月じゃなくたって」
「違うもん。そんなんじゃ」
「満月だろうと、三日月だろうと、新月だろうと、どーでもいいんだよ。お前の団子が食えるなら」
「……そんなにお団子好きだったっけ?」
未だに寝ぼけたことを抜かす小娘の瞳をじっと見つめる。
「な、何かな?」
「いいか、ボクサーの眼ってのは特別なんだ。耳なんか使えなくたって、おまえの髪が揺れてるのも、瞬きするのも、ダイエットに勤しんでる腹がぷにぷにしてるのも丸分かりなんだよ」
「ぷにぷにしてない! 最近すっごい引き締まってるもん」
「いいから聞け」
よほど譲れない事柄なのか、不服そうに顔を膨らませる春華。
しかしこちらだって譲るわけにはいかない。
「だからな、全部分かってんだよ。でもな、あれだろ。こーいうのは男から言うもんだろ」
未だに首を傾げている鈍ちんの眼の前に、小さな箱を差し出す。
「好きだよ。お前が今まで言えなかった分まで含めて、何百倍にもして返すから。だから――」
ランダバってランバダの間違いだよね?
797 :
創る名無しに見る名無し:2012/05/19(土) 11:00:17.76 ID:vUo/Pm8F
「快晴」
スクール水着
799 :
創る名無しに見る名無し:2012/05/20(日) 02:37:17.23 ID:khg9ek96
益荒男
抜けるような快晴の真夏日、とあるビルの屋上に、赤褌の男が遠くの空を睨みつけながら仁王立ちをしていた。
鍛え上げられた大胸筋にはじんわりと汗がにじみ、いまにも雫として垂れ落ちそうである。
「……遅い」
男は呟いた、どうやら男の言葉から伺うに、何者かを待ち構えているようである。
一滴の汗が男の頬をつたう、汗は頬骨をなぞるようにして流れ、顎で数瞬留まり、落ちた。
じわり、と地面に汗が広がる。
「やあ、待たせたね」
その声に赤褌の男が振り返る。
声の先にいたのは紺のスク水を着た長髪の優男。
「悪い悪い、遅刻してしまったよ」
そういいながら、男はパツンパツンに食い込んだなった股間を直した、どうやらチンポジが悪いようである。
「待たせすぎだぞ」
赤褌の男はそういいながら、額の汗を己の汗ばんだ腕で拭った。
「悪い悪い、どうもいいように着こなせなくてね、コレ」
そう言って優男は肩紐を軽く引っ張り、パツン、と再び肩に食い込ませた。
「……では、はじめようか」
赤褌の男が無手の構えを取る。
「……ああ、次は君にこいつを着せてあげよう」
対する優男は無体である。
「……そう来るか、いいだろう」
赤褌の男が一歩踏み出した。
……この戦いの行く末は一体どうなるのか。
その答えは、先程からみちみちと嫌な音を上げているスク水だけが知っていた。
801 :
創る名無しに見る名無し:2012/05/23(水) 23:57:36.17 ID:4/LpicBb
なんかわからんけどクソワロタwww
続き気になりすぎるw
ふと見上げた空は快晴で、群青色の暗闇がどこまでも高く突き抜けていた。
そしてもうずっと連絡をとっていない兄の事が思い出された。
兄は幼い頃から人一倍冒険心が強くて、僕はそんな兄に連れられてよく色々な場所へ探検に出かけた。
赤い頂を抱えた不気味にそびえる双子山や、底見えぬ大穴。漆黒の木々に覆われたジャングルにも足を踏み入れた。
どこも僕1人では恐ろしくて行けない危険地帯。兄は勇敢な男なのだ。
一度この世界が危機的大洪水に見舞われた時も、兄は自分の危険も省みずに溺れる僕を助けてくれた。
兄のような男を益荒男というらしい。彼は僕の自慢の兄だ。
そんな兄はいつもこの空を見上げて僕に言った。
「この空の向こうにはどんな世界があるのだろう。俺はいつかそこに行きたい」
兄の冒険心は空の果に魅せられ、そしてそれに逆らえなかった。
兄は僕を置いてこの空の遠い向こうへと旅に出てしまった。
寂しいけれど、それが兄の道であることは理解できる。兄が行きたいというなら、仕方の無いことなのだ。
だけど最近の研究では、この空は膨張してどんどん広がっているらしいと言われている。
そしてつい最近、空の裾へと旅にでた研究者の一隊が空から突き出た白いタブを発見した。そのタブには「スクール水着」と書いてあったらしい。
どういう意味なのかは解らないけれど、とても危険な言葉ではないかと研究者達は議論している。
だけどどんな危険な場所でも、兄ならきっと辿り付けるだろう。そしてまたいつかのように、僕を連れて行ってくれるに違いない。
803 :
創る名無しに見る名無し:2012/06/11(月) 11:57:02.23 ID:4292aCKT
お題いきますか。
「時効」
「海辺」
ジャンガリアン
波の打ち寄せる音が、わずかに冷えた空気に響く。
聞こえる音はそれだけだ。少し歩けば海水浴客で溢れかえる砂浜へとたどり着ける場所だとは思えない程、
そこは静寂に満ち溢れていた。
ただただ、波の音が繰り返し、繰り返し響く。その音源は遥か下方にある。
ここは崖だ。
ここが海辺で無ければ、あるいはこの静寂は完全なものになっただろうか。
例えば山の奥、ひっそりと茂った森のその先に、ここと同じような崖があったならば。
ふとそんな事を考えて、いや、とかぶりを振る。
それならば、私はきっと風の音を、木々のざわめきをもって静寂を完全な物だとは思わなかっただろう。
人というのは難儀ないきものだ。静寂を――平穏を望みながら、それが完全な物となってしまうと、それに
違和感を覚えてしまう。完全な静寂、完全な平穏を手に入れても、どこかにその完全さを崩す何かを求め、
そして見出す。そしてがっかりしながらも安堵するのだ。ああ、良かった、これも完全じゃない――と。
同じ事が、私が犯した罪にも言えた。
完全犯罪。そう口に出して言ってしまうと、まるで冗談か何かのように響くそんな行為を、私は現実に
やってのけた――そのはずだった。
だが、時効を目前にして、私の目の前には一人の男がいた。草色のコートを身に羽織り、どこか鷹を
思わせる目付きで私を見据えている。睨みつけているのではない。あくまで見据えている。ただそれだけ
だというのに、私の背中には先程から汗が吹き出し続けていた。気温は初夏相応とはいえ、こんなにも
汗をかいた経験を私は持たない。これは紛れもなく冷や汗であり、それをもたらしているのは目の前の男だ。
なるほど、確かにこの男ならば、わかる。
完全を崩す何かであると、そう認められる。
波の音以外にそれを破る物がなかった静寂を、男が口を開き、破った。
「……苦労しましたよ」
「……何に、と――」
私もまた、口を開き、そこに静寂はなくなった。
男二人の会話が、静けさに取って代わって現出する。
「――お聞きしてもよろしいかな?」
「お聞きにならずともおわかりでしょう。いやはや、なにせもう随分と昔の事件だ。時効寸前の必死の調査
と行こうにも、何もかもが風化してしまっている。証拠になる物品も、人の記憶も、ね……」
「それでも……貴方は私の目の前に現れた」
「風化した物は、消えてなくなるわけではない。忘却された物も、また同じ――あなたの古い知人から、
あなたについての情報を無差別に得た結果、辿り着いたのですよ」
「何に、とお聞きしてもよろしいかな?」
再びの問いに、男ははぐらかすことなく、応えを返した。
「――ジャンガリアン・ハムスター、ですよ」
瞬間、私の心臓はその鼓動を跳ねあげた。
動揺で? あるいは――歓喜で?
私自身にすら、それはわからない。
807 :
「時効」「海辺」「ジャンガリアン」 ◆91wbDksrrE :2012/06/14(木) 08:20:22.71 ID:N6WWAP3L
「あなたが当時それを飼っていた……いや、『溺愛』していたという事。そして、事件があってすぐに、
それが姿を見せなくなったという事。なるほど、とピンと来ましたよ。ネズミの身体ならば、あの密室も
密室たりえない」
「……馬鹿げた考えだとは、思わなかったのですか?」
「いえ、全く。ようは、あの時密室に一人でいた被害者の手に、何かを握らせ、それを持ち帰らせれば
それで事足りるわけですからね。ネズミであっても可能でしょう。ましてや、それがあなたが溺愛し、
まるで自分の子供のように可愛がり、躾けていたとても頭のいいネズミであるならば――可能性と
しては十分です」
おそらく、今現在この男が掴んでいる証拠では、私を有罪とする事は難しいだろう。
だから、男はわざわざ私に会いに来たのだ。部下も引き連れず、ただ一人で。
私が――『完全』に疲れているだろうと、そう見計らって。
男が求めているのは、私の自白だ。それがあって初めて、私の罪は裁かれる事になる。
そして私は――
「……犯人は、私ですよ」
――がっかりしながらも、安堵する道を、選んだ。
「――ご協力、感謝いたします」
男はニコリともせずに、鷹のような目を私に向けたまま、敬礼をした。
私もまた、ニコリともせずに、目礼でもってそれに応じた。
こうして――私の長い逃亡生活は終わりを告げたのだった――。
終わり
808 :
「時効」「海辺」「ジャンガリアン」 ◆91wbDksrrE :2012/06/14(木) 08:20:57.23 ID:N6WWAP3L
ここまで投下です。
インスピレーションの赴くままに
おびえながら生きるより、気が楽になる方を選んだか
失うものがあればまた違う選択だったかもしれないな
この板に来てまだ間もないうえにこれが初投下
今後も暇見つけて書いていければと思います
「というわけで」
と彼がそう言ったのでわたしは、やれやれようやくこの長広舌も終わりかと内心ホッとしたが、
「ジャンガリアンハムスターは中国のジュンガル盆地、すなわちジャンガリアで生息していることが
その名前の由来になったわけだけれども、本当のところはシベリアとかのほうが結構分布していて、
むしろシベリアンハムスターって呼ぶほうが妥当なんじゃないかって言う人もいたりするわけ」
話の着地点が思いもよらぬところに出現したので、ただただぽかんとするしかなかった。そもそも
なんでこんな話になったんだっけ、とわたしが軽く頭を抱えていると、
「あ、でもそういうことを言うのは海外の人で、日本ではやっぱりジャンガリアンハムスターって呼び方のほうが、」
わたしの様子を見て取って、彼としては親切に補足を入れたつもりなのだろうが、果たしてこれを
親切と呼んでいいものか一瞬本気で考え込んだわたしは、
「ええとね和彦、わたしが悩んでるのは別にハムスターの呼称の話じゃなくて」
「そっか、ごめん亜紀ちゃん、ぼくもこの手の話は門外漢だからうっかりしてた。ジャンガリアンハムスターの
体毛の話が抜けてたね。彼らのなかには冬になると体毛を白く変化させる個体もあって……」
いよいよ本格的に眩暈がしてきたので彼の話をしばらく完全に聞き流すことにする。
彼――青井和彦のこういうところは、昔からまったくと言っていいほど変わることがない。
寝小便で描いたお互いの世界地図を見て笑いあった頃からの腐れ縁であるわたしたちは、奇跡的と
言ってもいいだろう、幼稚園から大学まで同じ学び舎で時間を過ごしたことになる。それでも不思議と
色恋沙汰にまでは発展せず、かといって変に気まずい関係に陥ることもなく、それこそ「男女間の友情は
成立するのか?」という命題に対して決定的な証拠を突きつけるかのような、稀有な例であったのかもしれない。
かつての彼はいつも小難しい顔をしながら小難しいことを考えていて、一度口を開けば自分が喋りたいことを
喋り尽くすまで止めることをしなかった。そしてそれに唯一ずっと付き合ってきたのがわたしだった。まかり
間違っていればとっくの昔に社会不適合をこじらせた挙句、自殺していてもおかしくない性格の持ち主、
それが彼だったと言える。しかし何の因果か、今では大学の教授職で多忙を極め、マスメディアへの露出も
馴染んで久しい。本当に、人生なにが起こるかわかったものではない。
そんな彼が、このたび結婚するという。
一体どんな物好きが、という好奇心もあったが、一方で一抹の寂しさを覚えたのもまた事実だった。そして
それは、大学を卒業した後にふっつりと途絶えてしまった彼との再会を、図らずもある日のニュース番組を
見ていて果たすことになったとき以上の衝撃があった。
一言物申してやらなければ気が済まない、そんな発作的な衝動に駆られ、多忙な彼をとっ捕まえるために
八方手を尽くしてようやく今日この機会をセッティングしたことを今更ながらに思い出し、ふう、と小さくため息をついた。
あたりは夕暮れを迎えようとしている。
わたし自身は久しぶりの帰郷となったが、聞くところによると、交通の不便さを承知しつつも彼はずっと地元を
離れなかったようだ。であるならば、今わたしたちが肩を並べて歩いているこの海辺も彼にとってはさして
懐かしいものでもないのだろう。海岸線に向かって今まさに没しようとしている太陽は、昔と変わらない姿を
わたしの視界に投げかけている。
いつの間に話し終えていたのだろうか、彼の口はすでに閉ざされていて、あたりには潮騒のみが響いていた。
逡巡の末、「そういえばさ」とぶっきらぼうに切り出すわたしに、彼も「うん」とだけ短く答えた。
一緒にいた頃――学生時代に、彼からこのように相槌をもらうことなど皆無だった。彼としても、久方ぶりに
連絡を寄越してきた幼馴染に対して何か感じるものがあったのかもしれないし、あるいはそれは、彼が多少なりとも
分別のつく大人へと成長したささやかな証拠なのかもしれない。いずれにせよ、その殊勝な振る舞いが今の
わたしには、なんだか、つらかった。
「結婚」と呟いたあと、わざとらしく一息ついてみてから「するんだってね」と、とってつけたように言い添えた。
口にすればただそれだけのことを、わたしは予想以上に必要だった勇気とともにようやく吐き出したことになる。
わたしの言葉に、「ああ」と簡素に答えた彼は、唐突にその顔をあさっての方向へ向けた。そのせいで彼が今
どんな顔をしているのかはわからないけれど、そのような所作をする彼の気持ちはなんとなくわかる気がした。
このろくでなしが結婚すると聞いたとき、なんでもいいから何か言ってやらないと腹の虫が収まらない、と
思い詰めたものだったが具体的な内容は終ぞ浮かばなかった。しかし彼のその態度を見て、ようやくはっきりと、
彼への贈る言葉が見つかったように感じた。
「わたし小さい頃に、和彦にベタなお願い事したよね。覚えてる? 『大きくなったらお嫁さんにしてください』ってヤツ。
それ聞いて、和彦も嬉しそうに頷いてたなあ……懐かしいね……」
これは独り言。そう言い聞かせて、続ける。
「そんな約束とっくの昔に時効だ、って言われるかもしれないし、そもそも子どもの頃の他愛ない約束だから
守る義理もないんだけどさ、万が一にも、和彦がその約束を気に病んで心残りにしてたらと思うとこっちも
寝覚めが悪いから、一応言っておくね。――あんな約束、気にしなくていいってことを」
その言葉を聞いて、彼は一回だけ顔を拭うような仕草をし、立ち止まった。並んで歩いていたわたしは、しかし
それに構わずそのまま歩き続けた。
「結婚、おめでとう」
決して大きくない声で発したその言葉が、彼に聞こえたかどうかはわからなかった。
終(お題:時効、海辺、ジャンガリアン)
いいね
814 :
創る名無しに見る名無し:
切ない感じがいいねぇ。